この発明は、地下水などの被処理水に含まれる懸濁物質や微生物を中空糸分離膜により除去し、清浄な処理水を得るための膜ろ過装置に関する。
近年、百貨店,スーパーマーケット,ホテル,病院,学校および興行場などの施設において、水道料金削減や天災発生時の給水ライフラインの確保を目的として、地下水を浄化する膜ろ過装置を設置し、その処理水を飲料水や施設用水として利用する事例が増加している。前記膜ろ過装置には、地下水に含まれる懸濁物質や微生物を厚生労働省令第101号に規定された水質基準に適合するレベルまで除去するため、精密ろ過膜(MF膜)や限外ろ過膜(UF膜)に代表される分離膜が組み込まれている。
前記分離膜は、単位体積あたりのろ過面積が大きく取れ、前記膜ろ過装置を小型化できる利点があることから、多数の細孔を有する中空糸膜をモジュール化した中空糸膜モジュールが広く使用されている。この中空糸膜モジュールは、地下水がクリプトスポリジウムや病原性大腸菌O−157のような有害微生物で汚染されている場合でも、これらの微生物を除去してより安全な処理水を得ることができる利点を有している。
ところで、前記中空糸膜モジュールを長期間使用すると、劣化や詰まりなどの原因によって前記中空糸膜が損傷したり、破断したりする場合がある。前記中空糸膜が損傷や破断すると、処理水中へ懸濁物質が混入して水質を悪化させるばかりでなく、有害微生物によって感染症を引き起こすおそれが高くなる。このため、より安全性に優れた膜ろ過装置の実現が望まれている。
たとえば、特許文献1には、処理容器内に中空糸膜エレメント,すなわち中空糸膜モジュールを収容するとともに、この中空糸膜モジュールの下流側にフィルタ部材を配置した膜ろ過装置が記載されている。この装置では、中空糸膜が損傷や破断した場合でも、処理水中へ漏洩した懸濁物質や有害微生物を前記フィルタ部材で一時的に阻止することができる。しかし、前記中空糸膜が損傷や破断した状態で運転を継続すると、懸濁物質とともに有害微生物が前記フィルタ部材に堆積し、処理水中へ漏洩する危険性が高まる。このため、前記中空糸膜の損傷や破断を検出し、前記中空糸膜モジュールを速やかに交換することが必要となる。
そこで、特許文献1に係る膜ろ過装置では、前記中空糸膜モジュールと前記フィルタ部材の間の圧力上昇を測定し、前記フィルタ部材の閉塞状態から前記中空糸膜の損傷や破断を検出するように構成している。しかしながら、前記中空糸膜モジュールへの供給水が比較的清浄な場合や、前記中空糸膜の破断数が少ない場合には、前記フィルタ部材が閉塞しにくく、前記中空糸膜の損傷や破断を早期に発見することが困難である。
また、地下水には、しばしば高濃度の鉄,マンガン,有機物,色度成分,臭気成分などの不純物が含まれていることが多いが、これらの不純物を前記中空糸膜モジュールのみで除去することは実質的に不可能である。したがって、不純物を含む水を飲料水や施設用水として利用するためには、懸濁物質や有害微生物と同時に、その他の不純物をも前記水質基準に適合するレベルまで除去し、高度処理された処理水を得る必要がある。
この発明が解決しようとする課題は、中空糸膜が損傷や破断しても有害微生物が処理水へ混入することを防止しながら、中空糸膜の損傷や破断を早期に発見することである。
また、この発明が解決しようとする他の課題は、鉄,マンガン,有機物,色度成分,臭気成分などの不純物も水質基準まで除去し、飲料水や施設用水に適した水質の処理水を得ることである。
この発明は、前記課題を解決するためになされたもので、請求項1に記載の発明は、水中の懸濁物質および微生物を除去する中空糸分離膜部を備えた膜ろ過装置であって、前記中空糸分離膜部の透過水が供給されるフィルタ部と、前記中空糸分離膜部へ気体を供給する気体供給部と、前記中空糸分離膜部の圧力変化を検出する圧力検出部とを備えたことを特徴としている。
請求項1の発明によれば、地下水に含まれる懸濁物質および有害微生物は、通常、前記中空糸分離膜部で除去される。ここで、前記中空糸分離膜部における中空糸膜の一部が損傷,あるいは破断した場合、前記中空糸分離膜部の透過水中へ漏洩した懸濁物質や有害微生物は、前記フィルタ部で阻止される。また、前記中空糸分離膜部へは、前記気体供給部から気体が供給されるようになっており、この気体が供給された前記中空糸分離膜部の圧力変化が前記圧力検出部により検出される。そして、検出された圧力変化に基づいて、前記中空糸膜の損傷や破断が判定される。
さらに、請求項2に記載の発明は、請求項1において、前段に除鉄除マンガン装置および/または活性炭ろ過装置を備えていることを特徴としている。
請求項2の発明によれば、地下水に含まれる鉄,マンガンなどの不純物は、前記除鉄除マンガン装置で除去される。また、地下水に含まれる有機物,色度成分,臭気成分などの不純物は、前記活性炭ろ過装置で除去される。この結果、前記中空糸分離膜部へは、鉄,マンガン,有機物,色度成分,臭気成分などの不純物が予め除去された水が供給される。
この発明によれば、中空糸膜が損傷や破断しても有害微生物が処理水へ混入することを防止しながら、中空糸膜の損傷や破断を早期に発見することができる。さらに、懸濁物質や有害微生物に加えて、鉄,マンガン,有機物,色度成分,臭気成分などの不純物も水質基準まで除去され、飲料水や施設用水に適した水質の処理水を得ることができる。この結果、安全,かつ高度処理された水を継続して供給することができる。
つぎに、この発明の実施の形態について説明する。この発明に係る膜ろ過装置は、中空糸分離膜部と、フィルタ部と、気体供給部と、圧力検出部とを主に備えている。
前記中空糸分離膜部は、水中に含まれる懸濁物質および有害微生物を除去するものであり、中空糸膜モジュールをステンレス材などで形成された耐圧容器内に収容して構成されている。この中空糸分離膜部において、前記中空糸膜モジュールの数量は、所望の処理能力が得られるように設定されている。そして、この中空糸分離膜部には、被処理水供給ラインと透過水採取ラインとがそれぞれ接続されている。
前記中空糸膜モジュールは、通水可能に形成した樹脂製の外筒内に約10,000〜4
0,000本の中空糸膜を収容し、各中空糸膜の開口端側を封止材で固定して形成されている。前記中空糸膜モジュールは、前記外筒内における前記各中空糸膜の配置状態の観点から、両側固定型と片側固定型とに分類されるが、いずれの形状を採用してもよい。前者は、前記外筒内に軸方向へ沿って前記各中空糸膜を配置し、この各中空糸膜の両端部を前記外筒の両端側でそれぞれ封止して形成されている。一方、後者は、前記外筒内で前記各中空糸膜をU字状に配置し、この各中空糸膜の両端部を前記外筒の一端側でまとめて封止して形成されている。すなわち、いずれの型も前記各中空糸膜が給水側と採水側との隔膜として作用するように形成されている。
また、前記中空糸膜モジュールは、前記各中空糸膜に対する通水方向の観点から、外部灌流方式と内部灌流方式に分類されるが、いずれの方式を採用してもよい。前者は、前記各中空糸膜の外側へ被処理水を供給し、内側から透過水を回収する。すなわち、被処理水中の懸濁物質や有害微生物を前記各中空糸膜の外周面で阻止するように使用され、被処理水の全量を透過水として回収することを特徴としている。一方、後者は、被処理水を循環させながら、前記各中空糸膜の内側へ被処理水を供給し、外側から透過水を回収する。すなわち、被処理水中の懸濁物質や有害微生物を前記各中空糸膜の内周面で阻止するように使用され、被処理水の一部を透過水として回収することを特徴としている。
前記中空糸膜は、高分子材料で形成された多孔質膜であり、たとえばポリスルホン,ポリエーテルスルホン,ポリエチレン,ポリアクリロニトリル,フッ素系樹脂などで形成されたものを使用することができる。さらに、前記中空糸膜が疎水性の材料の場合、その表面は、必要に応じて親水化処理されていてもよい。一般に、表面が親水化処理された中空糸膜は、透過流束に優れるために、ろ過に必要な膜面積や供給圧力を低減させることができる。このような中空糸膜を用いた中空糸膜モジュールの水道水,もしくは純水に対する透過流束は、通常、温度25℃,供給圧力0.1〜0.2MPaにおいて、1〜3m3/(m2・日)の範囲である。
また、前記中空糸膜は、被処理水を効率的にろ過する観点から、通常、細孔の孔径が0.02〜1μmの範囲に設定されていることが好ましく、0.1〜1μmの範囲に設定されていることがさらに好ましい。前記孔径が0.02μm未満の場合、水の透過流束を下げる必要があり、所望の処理流量が得られなくなる可能性がある。一方、前記孔径が1μmを超える場合、被処理水中の有害微生物が透過水中へ漏洩しやすくなるおそれがある。ちなみに、クリプトスポリジウムは5μm前後の大きさであり、病原性大腸菌O−157は1μm前後の大きさである。ここにおいて、前記孔径は、たとえば水銀圧入法やバブルポイント法で測定した値,もしくは所定粒径のラテックス粒子に対するろ過精度を測定した値である。
ここにおいて、前記中空糸膜モジュールは、水道用途に使用する場合、膜分離技術振興協会により、同協会の「AMST−001;水道用精密ろ過膜モジュール及び限外ろ過膜モジュール規格」に基づく認定を受けている必要がある。この規格は、通水能力,濁度除去性能,細菌除去性能,浸出性および耐圧性の5項目について基準を設けており、前記中空糸膜モジュールの性能,品質,衛生性などを判断する際の指標となる。
前記フィルタ部は、前記中空糸分離膜部を通過した透過水中の懸濁物質および有害微生物を阻止するものであり、フィルタエレメントをステンレス材などで形成された耐圧容器内へ収容して構成されている。このフィルタ部において、前記フィルタエレメントの数量は、所望の処理能力が得られるように設定されている。そして、このフィルタ部には、前記透過水採取ラインと処理水採取ラインとがそれぞれ接続されている。
前記フィルタエレメントは、通水可能に形成した樹脂製の外筒内に側面をプリーツ状に
成形した円筒形のろ過膜を収容し、このろ過膜の一端側を封止するともに、他端側を前記外筒の一端側に固定して形成されている。すなわち、前記ろ過膜は、前記外筒内に袋状に保持されている。前記フィルタエレメントは、通常、前記ろ過膜の一方の面側へ前記中空糸分離膜部からの透過水を供給し、他方の面側から処理水を回収する。すなわち、前記中空糸分離膜部から漏洩した懸濁物質や有害微生物を前記ろ過膜のいずれか一方の面で阻止するように使用される。
前記ろ過膜は、前記中空糸膜と同様、高分子材料で形成された多孔質膜であり、たとえば残留塩素に対して耐性を有するポリスルホンなどで形成されたものを使用することができる。また、前記中空糸分離膜部からの透過水は、通常、懸濁物質や有害微生物が大幅に低減された水質になっているため、前記ろ過膜の透過流束を前記中空糸膜の透過流束よりも大きく設定することが可能である。このようなろ過膜を用いたフィルタエレメントの水道水,もしくは純水に対する透過流束は、通常、温度25℃,供給圧0.1〜0.2MPaにおいて、40m3/(m2・日)以上に設定されていることが好ましい。この透過流束が40m3/(m2・日)未満の場合、所望の処理流量を得るため、加圧ポンプの設置,あるいは前記フィルタエレメントの数量増加で対応する。
また、前記ろ過膜は、前記中空糸分離膜部からの透過水中に漏洩した有害微生物を効果的に阻止する観点から、細孔の孔径が0.1〜1μmの範囲に設定されていることが好ましく、0.1〜0.45μmの範囲に設定されていることがさらに好ましい。前記孔径が0.1μm未満の場合、水の透過流束を下げる必要があり、所望の処理流量が得られなくなる可能性がある。一方、前記孔径が1μmを超える場合、漏洩した有害微生物を効果的に阻止できない可能性がある。ここにおいて、前記孔径は、たとえば水銀圧入法やバブルポイント法で測定した値,もしくは所定粒径のラテックス粒子に対するろ過精度を測定した値である。
前記気体供給部は、前記中空糸分離膜部へ気体を供給するものであり、前記透過水採取ラインまたは前記被処理水供給ラインのいずれか一方と気体供給ラインを介して接続されている。すなわち、前記気体供給部からは、前記中空糸膜の内部空間,もしくは前記中空糸膜の外部空間へ気体を供給できるように構成されている。また、前記気体供給ライン中と前記透過水採取ラインの下流側(もしくは、前記被処理水供給ラインの上流側)には、それぞれ開閉弁が設けられている。このため、前記気体供給部から前記中空糸膜の内部空間(もしくは、前記中空糸膜の外部空間)へ所定圧力まで気体を供給したのち、気体の供給側を密閉状態に保持できるようになっている。
前記気体供給部から供給される気体は、前記膜ろ過装置が使用される環境において非凝縮性であり,かつ前記中空糸膜を劣化させない性質であればとくに制限はないが、たとえば空気や各種の不活性ガス(窒素ガス,炭酸ガス,アルゴンガスなど)を例示することができる。気体が空気である場合、前記気体供給部には、圧縮空気を供給するエアコンプレッサを使用することができ、このエアコンプレッサは、ミストセパレータやエアフィルタを備えていることが好ましい。また、気体が不活性ガスである場合、圧力調整器を備えたガスボンベを使用することができる。
前記圧力検出部は、前記中空糸分離膜部の圧力変化,具体的には前記中空糸分離膜部へ供給された気体の圧力変化を検出するものであり、前記気体供給ラインに設けられている。この圧力検出部は、圧力を電流や電圧に変換して出力できるものであり、たとえば半導体圧力センサなどの各種圧力センサを使用することができる。また、前記圧力センサの測定レンジは、前記中空糸膜のバブルポイント(加圧気体を通さない上限圧力)未満の検出が可能であればよく、通常、0.5MPa程度までの圧力を検出できるものが好ましい。
ところで、前記膜ろ過装置は、前記中空糸分離膜部の前段,すなわち前記被処理水供給ラインに除鉄除マンガン装置および/または活性炭ろ過装置を備えることができる。
前記除鉄除マンガン装置は、被処理水中に含まれる鉄およびマンガンをろ材で物理的,あるいは化学的に除去するものであり、このろ材が充填されたろ過塔を備えている。前記ろ材は、通常、粒子状のマンガンシャモットやマンガンゼオライトが使用される。また、この装置は、被処理水中に含まれる鉄およびマンガンを酸化してから除去するため、前記ろ過塔の上流側に酸化剤,たとえば次亜塩素酸ナトリウムを供給する薬液供給装置を備えている。具体的には、被処理水中の鉄は、前記酸化剤の作用により酸化され、不溶性の水酸化第一鉄を経て水酸化第二鉄へと変わり、前記ろ材でろ過される。一方、被処理水中のマンガンは、前記酸化剤の作用により前記ろ材と接触したときに酸化が進行し、このろ材へ化学吸着する。
一方、前記活性炭ろ過装置は、被処理水中に含まれる有機物,色度成分,臭気成分などの不純物を吸着材で除去するものであり、この吸着材が充填されたろ過塔を備えている。前記吸着材は、通常、粒子状または繊維状の活性炭が使用される。ここで、前記活性炭ろ過装置は、前記除鉄除マンガン装置と併用する場合、後段に配置するのが好ましい。前記活性炭ろ過装置を前記除鉄除マンガン装置の後段に配置すると、この除鉄除マンガン装置を通過した前記酸化剤由来の残留塩素を分解できるため、前記中空糸膜の酸化劣化を防止する上で有効に作用する。
以下、前記膜ろ過装置による水処理について説明する。まず、被処理水が前記被処理水供給ラインを介して前記除鉄除マンガン装置へ供給される。被処理水は、通常、鉄,マンガン,有機物,色度成分,臭気成分,懸濁物質,有害微生物などの各種の不純物を含んでいる。前記除鉄除マンガン装置の上流側では、前記薬液供給装置から前記酸化剤が被処理水へ供給され、被処理水中の鉄およびマンガンが酸化される。そして、この酸化された鉄およびマンガンは、前記除鉄除マンガン装置において、前記ろ材によってろ過,あるいは化学吸着して除去される。この結果、被処理水中の鉄およびマンガンが厚生労働省令第101号に規定される水質基準に適合するように処理され、これらの物質に由来する色や不快な味が低減される。
前記除鉄除マンガン装置を通過した被処理水は、続いて下流側の前記被処理水供給ラインを介して前記活性炭ろ過装置へ供給される。被処理水中の有機物,色度成分,臭気成分などは、この活性炭ろ過装置において、前記吸着材へ吸着して除去される。この結果、被処理水の有機物,色度成分,臭気成分などが前記水質基準に適合するように処理され、これらの物質に由来する色,不快な臭い,あるいは不快な味が低減される。
前記活性炭ろ過装置を通過した被処理水は、続いて下流側の前記被処理水供給ラインを流れ、前記中空糸分離膜部へ供給される。被処理水中の懸濁物質や有害微生物は、前記中空糸分離膜部において、前記中空糸膜でろ過される。この結果、前記透過水採取ラインを流れる透過水は、懸濁物質に由来する濁度や有害微生物による汚染度が前記水質基準に適合するように処理される。したがって、前記除鉄除マンガン装置,前記活性炭ろ過装置および前記中空糸分離膜部で連続的に処理された透過水は、通常、鉄,マンガン,有機物,色度成分,臭気成分,懸濁物質,有害微生物などの各種の不純物が高度に除去され、飲料水や施設用水に適した水質となっているとともに、有害微生物による汚染の少ない安全な水質となっている。
ところで、前記中空糸膜モジュールは、長期間使用していると、前記中空糸膜のろ過面が懸濁物質や有害微生物に由来する汚れにより次第に閉塞し、所定の処理流量が得られなくなる。このため、前記中空糸膜の透過水の採取側に対して前記気体供給部から気体を供
給し、透過水による前記ろ過面の押出し洗浄を行う。一方、前記中空糸膜の被処理水の供給側に対して前記気体供給部から気体を供給し、前記ろ過面のバブリング洗浄を行う。これらの洗浄操作は、通常、所定時間もしくは所定量の通水を行った間隔で定期的に行われる。しかしながら、前記ろ過面に汚れが強固に付着した場合、圧力損失が増加し、結果的に前記中空糸膜に損傷や破断を生じることがある。さらに、前記中空糸膜が劣化した場合、前記中空糸膜の損傷や破断は、より起こりやすくなる。
万一、前記中空糸膜が損傷や破断を起こした場合、透過水中へは懸濁物質のみならず、有害微生物も漏洩することになる。とくに、被処理水がクリプトスポリジウムや病原性大腸菌O−157で汚染されていると、人体に対して深刻な感染症を引き起こすおそれがある。前記膜ろ過装置においては、前記フィルタ部を備えており、懸濁物質や有害微生物が漏洩した透過水が供給されたときには、前記ろ過膜で阻止される。この結果、前記処理水採取ラインを介して得られる処理水は、有害微生物に対する安全が確保された水質となる。
つぎに、前記中空糸膜の損傷や破断に対する漏洩検出操作について説明する。この操作は、たとえば前記洗浄操作の終了後や運転を停止している夜間において行うことができる。まず、前記気体供給部から前記気体供給ラインを介して前記中空糸膜の内部空間,もしくは前記中空糸膜の外部空間へ気体を連続的に供給する。この際、前記圧力検出部によって気体の加圧状態を検出する。気体が所定圧力まで供給されると、前記各開閉弁を閉じ、気体の供給側を密閉状態に保持する。ここにおいて、気体の圧力は、前記中空糸膜のバブルポイント(加圧気体を通さない上限圧力)未満に設定される。
気体の供給側を密閉状態に保持したのち、前記中空糸膜に対して供給された気体の圧力変化を連続的に検出し、この圧力変化に基づいて前記中空糸膜の損傷や破断を判定する。すなわち、前記中空糸膜が損傷や破断していないときは、気体が漏洩することはなく、圧力はほぼ一定値に保持される。一方、前記中空糸膜が損傷や破断しているときは、気体が漏洩して圧力が経時的に降下する。つまり、気体圧力の降下度合いを予め設定した値と比較することにより、前記中空糸膜の損傷や破断を判定することが可能になる。たとえば、気体の供給側を密閉状態に保持してから所定時間後の圧力を検出し、この圧力が予め設定された値よりも低いとき、前記中空糸膜が損傷や破断していると判定することができる。また、たとえば単位時間あたりの圧力変化,すなわち圧力勾配を連続的に求め、この圧力勾配が予め設定された値よりも大きいとき、前記中空糸膜が損傷や破断していると判定することもできる。
ここにおいて、検出された気体圧力の降下度合いと比較する設定値は、前記中空糸膜モジュールの数量に対応して選択することが好ましい。たとえば、前記中空糸膜モジュール単位につき規定本数の中空糸膜が破断したことを判定しようとする場合には、使用する前記中空糸膜モジュールの数量が多くなるほど、判定対象となる中空糸膜の本数が多くなる。すなわち、単位時間あたりの気体の漏洩量が大きくなるため、圧力の降下時間がより短くなるとともに、圧力勾配がより大きくなるからである。この場合、前記圧力検出部には、応答性に優れた圧力センサを使用することが望ましい。
以上説明したように、この発明の実施の形態によれば、膜ろ過装置における中空糸膜が損傷や破断しても有害微生物が処理水へ混入することを防止しながら、中空糸膜の損傷や破断を早期に発見することができる。さらに、懸濁物質や有害微生物に加えて、鉄,マンガン,有機物,色度成分,臭気成分などの不純物も水質基準まで除去され、飲料水や施設用水に適した水質の処理水を得ることができる。この結果、安全,かつ高度処理された水を継続して供給することができる。
以下、この発明の具体的実施例を図面に基づいて詳細に説明する。図1は、この発明に係る膜ろ過装置の概略構成図を示している。この膜ろ過装置は、井戸から汲み上げた地下水を処理し、飲料水や施設用水として得るために利用され、複数の中空糸分離膜部1,1,1と、フィルタ部2と、除鉄除マンガン装置3と、活性炭ろ過装置4とを備えている。
前記各中空糸分離膜部1は、中空糸膜モジュール5,5,5を耐圧性のベッセル6,6,6に収容し、キャップ部材7,7,7で封鎖して組み立てられている。前記各中空糸膜モジュール5は、通水可能に形成した樹脂製の外筒(図示省略)内に約10,000〜40,000本の中空糸膜(図示省略)をU字状に懸架し、各中空糸膜の両端部を前記外筒の一端側で封止して形成されており、この封止した側が前記各キャップ部材7の内側と連通するように装着される。すなわち、前記各中空糸分離膜部1を組み立てた状態では、前記各ベッセル6内と前記各キャップ部材7内は、前記各中空糸膜で隔てられている。したがって、前記各ベッセル6内へ被処理水を供給すると、前記各中空糸膜の外側から内側へ向かってろ過が進み、前記各キャップ部材7内で透過水が採取されるようになっている。ここで用いられる前記各中空糸膜は、細孔の孔径が0.02〜0.1μmに設定されている。
前記各ベッセル5の底部には、井戸8から配設された被処理水供給ライン9がそれぞれ接続されている。この被処理水供給ライン9中には、上流側から順に汲上げポンプ10,前記除鉄除マンガン装置3および前記活性炭ろ過装置4が配置されている。この被処理水供給ライン9は、前記活性炭ろ過装置4の下流側において、前記各中空糸分離膜部1の数に応じて分岐しており、この分岐部の上流側に第一開閉弁11を備えている。
ここで、前記除鉄除マンガン装置3および前記活性炭ろ過装置4は、前者がろ材であるマンガンシャモットまたはマンガンゼオライト(図示省略)をろ過塔に充填した装置であり、また後者が吸着材である活性炭(図示省略)をろ過塔に充填した装置であって、定期的にろ材層または吸着材層を逆洗して、堆積物を排出するようにそれぞれ運転される。
前記除鉄除マンガン装置3の上流側には、酸化剤供給装置12および凝集剤供給装置13が設けられている。前記酸化剤供給装置12は、前記被処理水供給ライン9と酸化剤供給ライン14で接続されており、貯蔵している次亜塩素酸ナトリウム溶液を被処理水へ供給可能になっている。一方、前記凝集剤供給装置13は、前記被処理水供給ライン9と凝集剤供給ライン15で接続されており、貯蔵しているポリ塩化アルミニウム(PAC)溶液を被処理水へ供給可能になっている。
また、前記各キャップ部材7には、それぞれ透過水採取ライン16が接続されている。この透過水採取ライン16は、下流側で集合しており、この集合部よりも下流側に第二開閉弁17を備えている。この第二開閉弁17の下流側において、前記透過水採取ライン16は、前記フィルタ部2と接続している。そして、このフィルタ部2は、処理水タンク18と処理水採取ライン19で接続されている。
前記フィルタ部2は、フィルタエレメント(図示省略)の複数本を耐圧容器に収容して構成されている。前記フィルタエレメントは、通水可能に形成した樹脂製の外筒内に側面をプリーツ状に成形した円筒形のろ過膜を収容し、このろ過膜の一端側を封止するともに、他端側を前記外筒の一端側に固定して形成されており、前記耐圧容器内において、前記ろ過膜が隔膜として作用するように装着されている。ここで用いられる前記ろ過膜は、細孔の孔径が0.2〜0.45μmに設定されている。
前記の構成に加えて、この発明に係る膜ろ過装置は、気体供給部20を備えている。こ
の実施例では、前記気体供給部20は、エアコンプレッサを使用している。この気体供給部20は、前記第一開閉弁11の下流側において、前記被処理水供給ライン9と第一気体供給ライン21で接続されている。この第一気体供給ライン21には、第三開閉弁22が設けられている。また、前記気体供給部20は、前記第二開閉弁17の上流側において、前記透過水採取ライン16と第二気体供給ライン23で接続されている。この第二気体供給ライン23には、前記気体供給部20側から順に第四開閉弁24と圧力検出部25が設けられている。前記圧力検出部25は、この実施例では0.3MPa以下の圧力を検出可能な圧力センサを使用しており、検出した圧力に対応する電流値または電圧値を制御器(図示省略)へ出力可能になっている。
さらに、前記各中空糸分離膜部1と接続している前記被処理水供給ライン9には、排水ライン26が接続されており、この排水ライン26に第五開閉弁27を備えている。そして、前記各中空糸分離膜部1と接続している前記透過水採取ライン16には、圧力調節ライン28が接続されており、この圧力調節ライン28に第六開閉弁29を備えている。
さて、ここでこの実施例に係る膜ろ過装置を使用した水処理について説明する。まず、前記第一開閉弁11および前記第二開閉弁17を開状態にするとともに、前記第三開閉弁22,前記第四開閉弁24,前記第五開閉弁27および前記第六開閉弁29を閉状態にする。そして、前記汲上げポンプ10,前記酸化剤供給装置12および前記凝集剤供給装置13をそれぞれ作動させる。すると、前記井戸8から地下水(以下、被処理水と云う。)が汲み上げられ、この被処理水が前記被処理水供給ライン9を介して前記除鉄除マンガン装置3へ供給される。このとき、被処理水に対して前記酸化剤供給装置12および前記凝集剤供給装置13から次亜塩素酸ナトリウムおよびポリ塩化アルミニウムがそれぞれ供給される。ここにおいて、被処理水中の鉄やマンガンは、次亜塩素酸ナトリウムの作用により酸化され、とくに鉄は不溶性の水酸化第一鉄を経て水酸化第二鉄へ変わる。また、被処理水中の懸濁物質で負の表面電荷を有するもの(たとえば、有機物などのコロイド状物質)は、ポリ塩化アルミニウムの荷電中和作用により凝集物になる。
前記除鉄除マンガン装置3では、被処理水が前記ろ材層を通過する際、水酸化第二鉄および凝集物がろ過される。同時に、マンガンが次亜塩素酸ナトリウムの作用により酸化され、前記ろ材へ化学吸着される。すなわち、前記除鉄除マンガン装置3は、被処理水中から鉄,マンガンおよび凝集物を除去するように作用する。そして、前記除鉄除マンガン装置3を通過した被処理水は、前記被処理水供給ライン9を介して前記活性炭ろ過装置4へ供給される。
前記活性炭ろ過装置4では、被処理水が前記吸着材層を通過する際、有機物,色度成分,臭気成分などの不純物が前記吸着材へ吸着する。すなわち、前記活性炭ろ過装置4は、被処理水中から有機物,色度成分,臭気成分などの各種の不純物を除去するように作用する。そして、前記活性炭ろ過装置4を通過した被処理水は、前記被処理水供給ライン9を介して前記各中空糸分離膜部1へそれぞれ供給される。
前記各中空糸分離膜部1では、前記各中空糸膜モジュール5を構成する中空糸膜の外側から内側へ向かって被処理水が供給される。被処理水が有害微生物で汚染されている場合、この有害微生物は、前記中空糸膜の外側表面で阻止される。また、被処理水が前記除鉄除マンガン装置3で除去できなかった懸濁物質(たとえば、正の表面電荷を有する藻類など)を含む場合、この懸濁物質は、前記中空糸膜の外側表面で阻止される。すなわち、前記各中空糸分離膜部1は、被処理水中から有害微生物や懸濁物質を物理的に除去するように作用する。この結果、被処理水は、各種の不純物が除去された清浄な透過水となって前記中空糸膜の内側へ流出する。そして、前記各中空糸分離膜部1を通過した透過水は、前記透過水採取ライン16で合流し、前記フィルタ部2へ供給される。
前記フィルタ部2では、前記各フィルタエレメントを構成するろ過膜の一側から他側へ向かって透過水が供給される。前記フィルタ部2へ供給される透過水は、通常、有害微生物や懸濁物質などの不純物を含まないが、もし前記各中空糸膜が損傷や破断していたときには、汚染された透過水が供給されることになる。そして、透過水が有害微生物や懸濁物質で汚染されている場合、これらの不純物は、前記ろ過膜の透過水供給側表面で阻止される。すなわち、前記フィルタ部2は、前記各中空糸分離膜部1と同様、被処理水中から有害微生物や懸濁物質を物理的に除去するように作用する。この結果、前記ろ過膜を通過する透過水は、前記中空糸膜が損傷や破断しているか否かに関わらず、清浄,かつ安全な処理水となる。そして、前記フィルタ部2を通過した処理水は、前記処理水採取ライン19を介して前記処理水タンク18内へ送られたのち、飲料水や施設用水として使用される。
ここにおいて、前記汲上げポンプ10は、前記処理水タンク18内の貯水量を水位センサなど(図示省略)により検出し、この貯水量に応じて作動と停止を行うように運転される。この際、前記汲上げポンプ10の作動と停止に連動して、前記第一開閉弁11または前記第二開閉弁17を開閉制御してもよい。すなわち、前記汲上げポンプ10が作動中のときは、前記第一開閉弁11および前記第二開閉弁17がいずれも開状態となるように制御する。一方、前記汲上げポンプ10が停止中のときは、前記第一開閉弁11および前記第二開閉弁17のいずれかが閉状態となるように制御する。
ところで、前記各中空糸分離膜部1に対して長時間通水を行うと、阻止された有害微生物や懸濁物質が堆積し、次第に所望の処理流量が得られなくなる。このため、この実施例に係る膜ろ過装置では、定期的に前記各中空糸膜モジュール5の洗浄操作を行う。この操作は、たとえば所定時間または所定量の通水処理を行ったときに行うように運転される。また、前記中空糸膜が損傷や破断したときには、早期に前記各中空糸膜モジュール5の交換を行う必要があるため、前記洗浄操作のタイミングに合わせて、漏洩検出操作を行う。
前記洗浄操作では、押出し洗浄工程,バブリング洗浄工程,排水工程を順に行うようになっている。まず、前記押出し洗浄工程は、前記第四開閉弁24を開状態にするとともに、前記第一開閉弁11,前記第二開閉弁17,前記第三開閉弁22,前記第五開閉弁27および前記第六開閉弁29を閉状態にする。そして、前記気体供給部20から空気を所定の圧力(たとえば、0.2MPa)で供給する。供給された空気は、前記第二気体供給ライン23を介して、前記透過水採取ライン16および前記各キャップ部材7内に残留している透過水を加圧する。すると、前記各中空糸膜の内側に残留している透過水が外側へ向かって押し出され、前記中空糸膜の外側表面から堆積物が押し流される。以上の押出し洗浄を所定時間(たとえば、5秒〜1分)実施すると、続いて前記バブリング洗浄工程を行う。
前記バブリング洗浄工程では、前記第三開閉弁22を開状態にするとともに、前記第一開閉弁11,前記第二開閉弁17,前記第四開閉弁24,前記第五開閉弁27および前記第六開閉弁29を閉状態にする。そして、前記気体供給部20から空気を所定の圧力(たとえば、0.2MPa)で供給する。供給された空気は、前記第一気体供給ライン21および前記被処理水供給ライン9を介して、前記各ベッセル6の底部へ送られる。この各ベッセル6内では、散気管(図示省略)を通じて多数の気泡を発生させることにより、前記各中空糸膜を揺動させる。この操作により、前記押出し工程で押し流された堆積物が剥離し、分散する。以上のバブリング洗浄工程を所定時間(たとえば、5〜30分)実施すると、続いて前記排水工程を行う。
前記排水工程では、前記第五開閉弁27を開状態にするとともに、前記第一開閉弁11,前記第二開閉弁17,前記第三開閉弁22,前記第四開閉弁24および前記第六開閉弁
29を閉状態にする。そして、前記各ベッセル6内に残留している被処理水を洗浄で除去された堆積物とともに、前記排水ライン26を介して系外へ排出する。以上の排水工程を所定時間(たとえば、5〜10分)実施すると、引き続いて前記漏洩検出操作を行う。
前記漏洩検出操作では、前記第四開閉弁24,前記第五開閉弁27および前記第六開閉弁29を開状態にするとともに、前記第一開閉弁11,前記第二開閉弁17および前記第三開閉弁22を閉状態にする。そして、前記気体供給部20から空気を所定圧力P1(たとえば、中空糸膜のバブルポイント未満の0.2MPa)で供給する。供給された空気は、前記第二気体供給ライン24および前記透過水採取ライン16を介して、前記各キャップ部材7内へ送られる。このとき、供給される空気の圧力を前記圧力検出部25で連続的に監視する。空気の供給開始時点では、前記透過水採取ライン16および前記各キャップ部材7内に透過水が残留しているため、検出圧力は安定しないが、残留している透過水が前記圧力調節ライン28を介して系外へ排出されると、検出圧力がほぼ一定となる。検出圧力が空気の供給圧力付近で安定すると、前記第四開閉弁24および前記第六開閉弁29を閉状態にし、前記各キャップ部材7内を密閉状態に保持する。
前記中空糸膜が損傷や破断したことの判定は、つぎのように行う。まず、前記各キャップ部材7内を密閉状態にして圧力P1に保持した時点から、前記圧力検出部25で連続的に圧力変化を監視するとともに、前記制御器内のタイマカウンタで経過時間を積算する。図2のA線で示すように、積算された経過時間が設定値T(たとえば、30秒)に達したとき、検出圧力が圧力P1よりも低い設定圧力P2(たとえば、0.15MPa)以下まで降下していれば、前記各中空糸膜が異常であると判定し、その旨を表示器やランプなど(図示省略)で報知する。一方、図2のB線で示すように、積算された経過時間が設定値Tに達したとき、検出圧力が設定圧力P2を超えていれば、前記各中空糸膜が正常であると判定する。
前記各設定値T,P2は、前記各中空糸膜の異常を早期に判定するため、前記各中空糸膜モジュール5を構成する約10,000〜40,000本の中空糸膜のうち、数本〜十数本(たとえば、3〜15本程度)の中空糸膜が破断した状態を基準に設定されている。ここにおいて、図2のC線で示すように、約10,000〜40,000本の中空糸膜のうち、たとえば1〜2本が破断した状態では、気体の漏洩速度,すなわち圧力変化が非常に小さい。そこで、短時間で効率よく判定を実施するため、この状態では前記各中空糸膜がほぼ正常とみなす正常に準じる判定,いわゆる準正常と判定し、異常の報知を行わないようにしている。ちなみに、約10,000〜40,000本の中空糸膜のうち、1〜2本が破断した状態で使用しても、前記各中空糸分離膜部1の下流側には前記フィルタ部2が設けられているので、有害微生物などで汚染された処理水が供給されることが防止される。
前記漏洩検出操作が終了すると、前記各ベッセル6内,前記各キャップ部材7内,前記被処理水供給ライン9,前記透過水採取ライン16などのエア抜きおよび水張りを実施する。そののち、前記第一開閉弁11および前記第二開閉弁17を開状態に戻すとともに、前記第五開閉弁27を閉状態に戻して運転開始に備える。
この発明の実施例に係るろ過膜装置の概略構成図。
この発明の実施例に係る漏洩検出操作時の圧力変化を示す説明図。
符号の説明
1 中空糸分離膜部
2 フィルタ部
3 除鉄除マンガン装置
4 活性炭ろ過装置
20 気体供給部
25 圧力検出部