JP2006158223A - 高活性アーミング酵母の製造方法及び高活性アーミング酵母 - Google Patents
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Abstract
【課題】 酵素の活性が高く、通常の酵素の至適温度以上の温度でも高い酵素活性が維持されるアーミング酵母の製造方法及びかかる製造方法により得られるアーミング酵母の提供。
【解決手段】 酵素を細胞表層に有するピキア属(Pichia)酵母を、生菌のまま、酵素の至適温度を超えて変性温度未満の温度でインキュベートすることを特徴とする高活性アーミング酵母の製造方法;及びかかる製造方法により得られる高活性アーミング酵母。
【選択図】 なし
【解決手段】 酵素を細胞表層に有するピキア属(Pichia)酵母を、生菌のまま、酵素の至適温度を超えて変性温度未満の温度でインキュベートすることを特徴とする高活性アーミング酵母の製造方法;及びかかる製造方法により得られる高活性アーミング酵母。
【選択図】 なし
Description
本発明は、高活性アーミング酵母の製造方法、さらに詳しくは、表層に当該酵母が産生しない酵素を固定化した、高活性のアーミング酵母の製造方法、及びかかる方法により得られるアーミング酵母に関する。
細胞表層に酵素を固定化させたアーミング酵母の創製技術により、本来酵母が有していない分泌型酵素、例えばアミラーゼ、リパーゼ、セルラーゼなどを表層に固定化することにより、これまで酵母が分解、利用できなかった炭素源等基質が利用できるようになった。このため、アルコール生産やバイオディーゼル燃料の生産などにおいて生産効率が大きく向上した。このアーミング酵母は、酵素が酵母細胞表層に自発的に固定化され酵母自体が固定化担体としての役割を果たすため、通常の固定化酵素の製造過程で行われる分離、精製、固定化のプロセスを経ることなく、目的の酵素を担体に固定化した状態(固定化酵素剤)として回収することが可能である。このため、発酵母体としての利用のみならず、固定化酵素としての利用も注目されている。
このように優れた利用価値を有するアーミング酵母であるが、酵素活性の点では従来の酵素と大きな差異はなかった。たとえば、最も一般的な酵母であるサッカロミセス(Saccharomyces)属酵母の表層に固定化された酵素では多少の活性の増加が見られるが、十分とはいえなかった。
また、通常の酵素は、至適温度以上の高温に長時間晒されると、酵素活性が著しく低下してしまう。上記サッカロミセス属酵母の表層に固定化された酵素では多少の改善が見られるが、そのレベルは低いものである。このため、エステル合成反応やセルロース分解反応等のように、高温条件が望ましい反応にアーミング酵母を固定化酵素として使用する場合、耐熱性の改善が強く望まれる。
また、通常の酵素は、至適温度以上の高温に長時間晒されると、酵素活性が著しく低下してしまう。上記サッカロミセス属酵母の表層に固定化された酵素では多少の改善が見られるが、そのレベルは低いものである。このため、エステル合成反応やセルロース分解反応等のように、高温条件が望ましい反応にアーミング酵母を固定化酵素として使用する場合、耐熱性の改善が強く望まれる。
したがって、本発明は、酵素の活性が高く、通常の酵素の至適温度以上の温度でも高い酵素活性が維持されるアーミング酵母の製造方法を提供することを目的とする。
また、本発明は、かかる製造方法により得られるアーミング酵母を提供することを目的とする。
また、本発明は、かかる製造方法により得られるアーミング酵母を提供することを目的とする。
本発明者らは、酵素の活性発現にとって望ましい酵母の細胞表層の立体構造、酵素の生産性や活性発現について検討した結果、ピキア属(Pichia)の酵母、なかでもピキア・パストリス(Pichia pastoris)に着目した。そして、かかるピキア属酵母の表層に酵素を有するアーミング酵母を、生菌のまま、該酵素の至適温度を超えて変性温度未満の温度でインキュベート(以下、かかる処理を「前処理」という)したアーミング酵母は、前処理をしていないアーミング酵母の表層に固定化された酵素よりも任意の温度で高い活性を示すこと、また、前処理をしていないアーミング酵母の表層に固定化された酵素が至適温度で示す酵素活性より、該酵素の至適温度を超えて変性温度未満の温度で高い酵素活性を示すことを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、酵素を細胞表層に有するピキア属酵母を、生菌のまま、酵素の至適温度を超えて変性温度未満の温度でインキュベートすることを特徴とする高活性アーミング酵母の製造方法を提供する。
また、本発明は、かかる製造方法により得られる高活性アーミング酵母を提供する。
また、本発明は、かかる製造方法により得られる高活性アーミング酵母を提供する。
本発明の製造方法を用いれば、従来より酵素活性の高いアーミング酵母を得ることができ、回収の容易性、固定化酵素としての利用性等優れた特性を有するアーミング酵母の有用性をさらに向上させることができる。また、本発明の製造方法を用いれば、前処理をしていないアーミング酵母の表層に固定化された酵素が至適温度で示す酵素活性より、該酵素の至適温度を超えて変性温度未満の温度で高い酵素活性を示すため、エステル合成反応やセルロース分解反応等のように、高温条件が望ましい反応に用いることができるアーミング酵母を得ることができる。
(アーミング酵母)
本発明において、アーミング酵母とは細胞表層局在タンパク質と種々の機能性タンパク質(酵素・抗原・抗体・レポータータンパク質など)やペプチドを融合させ、細胞表層にディスプレイさせることにより、通常の酵母では有していない新しい機能を有する、あるいは元来有している機能を増強した酵母細胞のことをいう。また、細胞表層とは細胞膜・細胞壁ならびにその間の空間であるペリプラズムのことであり、これらの層を利用し上記の様な要件を満たす酵母細胞をアーミング酵母という。
本発明において、アーミング酵母とは細胞表層局在タンパク質と種々の機能性タンパク質(酵素・抗原・抗体・レポータータンパク質など)やペプチドを融合させ、細胞表層にディスプレイさせることにより、通常の酵母では有していない新しい機能を有する、あるいは元来有している機能を増強した酵母細胞のことをいう。また、細胞表層とは細胞膜・細胞壁ならびにその間の空間であるペリプラズムのことであり、これらの層を利用し上記の様な要件を満たす酵母細胞をアーミング酵母という。
本発明におけるアーミング酵母の創製は、公開特許公報(特開平11-290078、WO02/085935)を基に行われた。
本発明における酵素および該酵素の配列に関しては次に説明する通りである。
(分泌型酵素)
本発明において、分泌型酵素とは、リパーゼ、アミラーゼ類、セルラーゼ類などが挙げられる。
リパーゼとは、油脂から脂肪酸を遊離させ得る活性を有する酵素であり、その起源については特に限定されないが、リゾプス・オリゼア(Rhizopus oryzae)などのカビ由来のリパーゼが好適に用いられる。
アミラーゼ類とはデンプンを加水分解し得る酵素をいう。代表的にはグルコアミラーゼ、α―アミラーゼ、β―アミラーゼなどが挙げられる。アミラーゼ類の酵素についてもその起源は特に限定されない。
セルラーゼ類とは一般的にエンドβ1,4−グルカナーゼをいうが、本発明においては、β1,4−グルコシド結合を切断し、セルロースからグルコースを生産する一群の酵素を称してセルラーゼという。例えば、β1,4−グルカナーゼ、β―グルコシダーゼ、カルボキシメチルセルラーゼなどが挙げられ、その起源については限定されない。
本発明における酵素および該酵素の配列に関しては次に説明する通りである。
(分泌型酵素)
本発明において、分泌型酵素とは、リパーゼ、アミラーゼ類、セルラーゼ類などが挙げられる。
リパーゼとは、油脂から脂肪酸を遊離させ得る活性を有する酵素であり、その起源については特に限定されないが、リゾプス・オリゼア(Rhizopus oryzae)などのカビ由来のリパーゼが好適に用いられる。
アミラーゼ類とはデンプンを加水分解し得る酵素をいう。代表的にはグルコアミラーゼ、α―アミラーゼ、β―アミラーゼなどが挙げられる。アミラーゼ類の酵素についてもその起源は特に限定されない。
セルラーゼ類とは一般的にエンドβ1,4−グルカナーゼをいうが、本発明においては、β1,4−グルコシド結合を切断し、セルロースからグルコースを生産する一群の酵素を称してセルラーゼという。例えば、β1,4−グルカナーゼ、β―グルコシダーゼ、カルボキシメチルセルラーゼなどが挙げられ、その起源については限定されない。
(細胞表層局在タンパク質)
本発明において、細胞表層局在タンパク質とは、酵母の細胞表層に固定され、細胞表層に存在するタンパク質をいう。例えば、凝集性タンパク質であるα―またはa−アグルチニン、FLOタンパク質などが挙げられる。一般に細胞表層局在タンパク質はN末端側に分泌シグナル配列およびC末端側にGPIアンカー付着認識シグナルを有している。分泌シグナルを有する点では分泌性タンパク質と共通しているが、細胞表層局在タンパク質はGPIアンカーを介して細胞膜に固定されて輸送される点が分泌性タンパク質と異なる。細胞表層局在タンパク質は細胞膜通過の際、GPIアンカー付着認識シグナル配列が選択的に切断され、新たに突出したC末端部分でGPIアンカーと結合して細胞膜に固定される。その後ホスファチジルイノシトール依存性ホスホリパーゼC(PI−PLC)によりGPIアンカーの根元部分が切断される。ついで、細胞膜から切り離されたタンパク質は細胞壁に組み込まれて細胞表層に固定され、細胞表層に局在する。
本発明において、細胞表層局在タンパク質とは、酵母の細胞表層に固定され、細胞表層に存在するタンパク質をいう。例えば、凝集性タンパク質であるα―またはa−アグルチニン、FLOタンパク質などが挙げられる。一般に細胞表層局在タンパク質はN末端側に分泌シグナル配列およびC末端側にGPIアンカー付着認識シグナルを有している。分泌シグナルを有する点では分泌性タンパク質と共通しているが、細胞表層局在タンパク質はGPIアンカーを介して細胞膜に固定されて輸送される点が分泌性タンパク質と異なる。細胞表層局在タンパク質は細胞膜通過の際、GPIアンカー付着認識シグナル配列が選択的に切断され、新たに突出したC末端部分でGPIアンカーと結合して細胞膜に固定される。その後ホスファチジルイノシトール依存性ホスホリパーゼC(PI−PLC)によりGPIアンカーの根元部分が切断される。ついで、細胞膜から切り離されたタンパク質は細胞壁に組み込まれて細胞表層に固定され、細胞表層に局在する。
(分泌シグナル配列)
本発明において、分泌シグナル配列とは、一般に細胞外に分泌されるタンパク質のN−末端に結合している、疎水性に富んだアミノ酸を多く含むアミノ酸配列であり、通常、分泌性タンパク質が細胞内から細胞膜を通して細胞外(ペリプラズムも含む)へ分泌される際に除去される。分泌シグナル配列であれば、どのような分泌シグナル配列でも用いることができ、その起源は問わない。分泌シグナルとしてはグルコアミラーゼの分泌シグナル配列、酵母のα―またはa―アグルチニンのシグナル配列、リパーゼの分泌シグナル配列などが好適に用いられている。また、該酵素の活性に影響を与えないのであれば、分泌シグナルの一部または全部が酵素のN−末端側に残ってもよい。(特開平11-290078、WO02/085935参照)
本発明において、分泌シグナル配列とは、一般に細胞外に分泌されるタンパク質のN−末端に結合している、疎水性に富んだアミノ酸を多く含むアミノ酸配列であり、通常、分泌性タンパク質が細胞内から細胞膜を通して細胞外(ペリプラズムも含む)へ分泌される際に除去される。分泌シグナル配列であれば、どのような分泌シグナル配列でも用いることができ、その起源は問わない。分泌シグナルとしてはグルコアミラーゼの分泌シグナル配列、酵母のα―またはa―アグルチニンのシグナル配列、リパーゼの分泌シグナル配列などが好適に用いられている。また、該酵素の活性に影響を与えないのであれば、分泌シグナルの一部または全部が酵素のN−末端側に残ってもよい。(特開平11-290078、WO02/085935参照)
(GPIアンカーおよびGPIアンカリングドメイン)
GPIアンカーとはグリコシルホスファチジルイノシトール(GPI)と呼ばれるエタノールアミンリン酸―6マンノースα1−2マンノースα1−6マンノースα1−4グルコサミンα1−6イノシトールリン脂質を基本構造とする糖脂質をいう。
GPIアンカリングドメインは、通常、細胞表層局在タンパク質のC末端あるいはその近傍に位置する。例えば、α―アグルチニンのC末端から320アミノ酸の配列をコードする配列がこれに相当し、この配列には、GPIアンカーが細胞表層局在タンパク質と結合する際に認識される配列であるGPIアンカー認識付着シグナル配列の他に、4カ所の糖鎖結合部位がある。GPIアンカーの根元部分がPI−PLCにより切断された後、これらの糖鎖結合部位に結合した糖鎖と細胞壁を構成する多糖類とが共有結合することで、α―アグルチニンのC末端配列部分が細胞壁と結合し、α―アグルチニンは細胞表層に保持される。
GPIアンカーとはグリコシルホスファチジルイノシトール(GPI)と呼ばれるエタノールアミンリン酸―6マンノースα1−2マンノースα1−6マンノースα1−4グルコサミンα1−6イノシトールリン脂質を基本構造とする糖脂質をいう。
GPIアンカリングドメインは、通常、細胞表層局在タンパク質のC末端あるいはその近傍に位置する。例えば、α―アグルチニンのC末端から320アミノ酸の配列をコードする配列がこれに相当し、この配列には、GPIアンカーが細胞表層局在タンパク質と結合する際に認識される配列であるGPIアンカー認識付着シグナル配列の他に、4カ所の糖鎖結合部位がある。GPIアンカーの根元部分がPI−PLCにより切断された後、これらの糖鎖結合部位に結合した糖鎖と細胞壁を構成する多糖類とが共有結合することで、α―アグルチニンのC末端配列部分が細胞壁と結合し、α―アグルチニンは細胞表層に保持される。
(糖鎖結合タンパク質ドメイン)
本発明において、糖鎖結合タンパク質ドメインとは、複数の糖鎖を有し、この糖鎖が、細胞壁中の糖鎖と相互作用または絡み合うことによって、細胞表層に留まることのできるドメインをいう。例えば、レクチンなどの糖鎖結合部位や、α―アグルチニン、a―アグルチニン、FLOタンパク質などの凝集タンパク質の凝集機能ドメインなどが挙げられる。
本発明において、糖鎖結合タンパク質ドメインとは、複数の糖鎖を有し、この糖鎖が、細胞壁中の糖鎖と相互作用または絡み合うことによって、細胞表層に留まることのできるドメインをいう。例えば、レクチンなどの糖鎖結合部位や、α―アグルチニン、a―アグルチニン、FLOタンパク質などの凝集タンパク質の凝集機能ドメインなどが挙げられる。
(凝集機能ドメイン)
細胞表層局在タンパク質の凝集機能ドメインとはGPIアンカリングドメインよりもN末端側にあり、複数の糖鎖を有し、凝集に関与していると考えられているドメインをいう。
細胞表層局在タンパク質の凝集機能ドメインとはGPIアンカリングドメインよりもN末端側にあり、複数の糖鎖を有し、凝集に関与していると考えられているドメインをいう。
本発明において、酵素を細胞表層に発現させるDNAは、以下の配列を有するDNAであることが好ましい。
(1)シグナル配列、酵素の構造遺伝子配列、細胞表層局在タンパク質の一部をコードする配列及びGPIアンカリングドメインをコードする配列をこの順で有するDNA
(2)分泌シグナル配列、酵素の構造遺伝子配列、糖鎖結合タンパク質ドメインをコードする配列をこの順で有するDNA
(3)分泌シグナル配列、糖鎖結合タンパク質ドメインをコードする配列、酵素の構造遺伝子配列をこの順で有するDNA
(4)分泌シグナル配列、酵素の構造遺伝子配列、GPIアンカリングドメインをコードする配列をこの順で有するDNA
(1)シグナル配列、酵素の構造遺伝子配列、細胞表層局在タンパク質の一部をコードする配列及びGPIアンカリングドメインをコードする配列をこの順で有するDNA
(2)分泌シグナル配列、酵素の構造遺伝子配列、糖鎖結合タンパク質ドメインをコードする配列をこの順で有するDNA
(3)分泌シグナル配列、糖鎖結合タンパク質ドメインをコードする配列、酵素の構造遺伝子配列をこの順で有するDNA
(4)分泌シグナル配列、酵素の構造遺伝子配列、GPIアンカリングドメインをコードする配列をこの順で有するDNA
なお、上記(2)、(3)の場合は、糖鎖結合タンパク質ドメインが、少なくとも細胞表層局在タンパク質の凝集機能ドメインを含む部分であることが好ましい。
上記(1)〜(4)のDNAは、周知の技術を用いて合成することができる。たとえば(1)のDNAの場合、分泌シグナルと酵素の構造遺伝子との結合は、部位特異的突然変異法を用いて行うことができ、正確な分泌シグナルの切断と活性な酵素が発現できる。さらに、この配列と細胞表層局在タンパク質の一部をコードする配列及びGPIアンカー付着シグナル配列とを結合すればよい。結合は、適切な制限酵素、リンカー等を用いて行うことかできる。
また、かかるDNAは、プラスミドの形態でも、宿主となるピキア酵母の遺伝子に組み込まれた形態でも、いずれでもよい。
アーミング酵母は、かかるDNAをピキア属酵母に導入することにより得ることができる。
また、かかるDNAは、プラスミドの形態でも、宿主となるピキア酵母の遺伝子に組み込まれた形態でも、いずれでもよい。
アーミング酵母は、かかるDNAをピキア属酵母に導入することにより得ることができる。
(前処理)
本発明における高活性アーミング酵母の製造方法の特徴は、前処理にあり、この前処理とは、先に示すように、ピキア属酵母、好ましくはピキア・パストリスの表層に酵素を有するアーミング酵母を、生菌のまま、該酵素の至適温度を超えて変性温度未満の温度でインキュベートすることである。なお、ここで至適温度とは、酵母の表層に結合した酵素の至適温度ではなく、同じ酵素の遊離の状態での至適温度である。また、変性温度とは、酵素が実質的に活性を示さなくなる温度いう。
本発明における高活性アーミング酵母の製造方法の特徴は、前処理にあり、この前処理とは、先に示すように、ピキア属酵母、好ましくはピキア・パストリスの表層に酵素を有するアーミング酵母を、生菌のまま、該酵素の至適温度を超えて変性温度未満の温度でインキュベートすることである。なお、ここで至適温度とは、酵母の表層に結合した酵素の至適温度ではなく、同じ酵素の遊離の状態での至適温度である。また、変性温度とは、酵素が実質的に活性を示さなくなる温度いう。
第一に、前処理の際、凍結乾燥などの乾燥処理を施したアーミング酵母では高活性アーミング酵母を得ることが難しく、培養したアーミング酵母を集菌後、生きている状態でインキュベートすることが望ましい。
第二に、培養したアーミング酵母を集菌せずに、培養液ごとインキュベートすることもできるが、この場合、タンパク質分解酵素などの影響を受け、アーミング酵母の酵素活性が著しく低下することがあるので、集菌し、菌体を水または適当な緩衝液に懸濁した後、インキュベートすることが望ましい。この際の緩衝液には特に限定はないが、アーミング酵母の細胞表層に固定化された酵素に応じて緩衝液の種類、濃度、pHを選択することが好ましい。例えば、リゾプス・オリゼア由来のリパーゼを細胞表層に固定化したアーミング酵母の場合には、10〜200mMリン酸緩衝液(pH6〜8)が適当である。
インキュベートするpHは、細胞表層に固定化されていない酵素の至適pHより、0.5〜1.5低いpHでインキュベートすることが好ましい。例えば、酵母がリゾプス・オリゼア由来のリパーゼの場合、通常のリゾプス・オリゼア由来リパーゼの至適pHが7.5であれば、6〜7程度でインキュベートすることが好ましい。
第二に、培養したアーミング酵母を集菌せずに、培養液ごとインキュベートすることもできるが、この場合、タンパク質分解酵素などの影響を受け、アーミング酵母の酵素活性が著しく低下することがあるので、集菌し、菌体を水または適当な緩衝液に懸濁した後、インキュベートすることが望ましい。この際の緩衝液には特に限定はないが、アーミング酵母の細胞表層に固定化された酵素に応じて緩衝液の種類、濃度、pHを選択することが好ましい。例えば、リゾプス・オリゼア由来のリパーゼを細胞表層に固定化したアーミング酵母の場合には、10〜200mMリン酸緩衝液(pH6〜8)が適当である。
インキュベートするpHは、細胞表層に固定化されていない酵素の至適pHより、0.5〜1.5低いpHでインキュベートすることが好ましい。例えば、酵母がリゾプス・オリゼア由来のリパーゼの場合、通常のリゾプス・オリゼア由来リパーゼの至適pHが7.5であれば、6〜7程度でインキュベートすることが好ましい。
第三に、インキュベートする温度は、該酵素の至適温度を超えて変性温度未満であることが必要である。アーミング酵母の細胞表層に固定化された酵素により至適温度、変性温度が異なる為、一概に具体的な温度を示すことができないが、リゾプス・オリゼア由来のリパーゼの場合、至適温度は40℃であるのに対し、高活性アーミング酵母を得るためには好ましくは45℃以上、より好ましくは50℃以上、特に好ましくは約60℃でインキュベートする。
第四に、インキュベートする時間は、アーミング酵母の細胞表層に固定化された酵素により最適時間が異なり、一概に具体的な時間を示すことができない。酵素によってはインキュベート時間が12時間を超えると、徐々にアーミング酵母の酵素活性が低下することがある。リゾプス・オリゼア由来のリパーゼの場合、インキュベート時間は5から8時間が望ましい。
インキュベートする際のアーミング酵母の濃度は、満遍なく加温される濃度が望ましい。
インキュベートには、温度が保つことができればどのような機材を用いてもよいが、アーミング酵母が満遍なく加温されることが望ましい。
第四に、インキュベートする時間は、アーミング酵母の細胞表層に固定化された酵素により最適時間が異なり、一概に具体的な時間を示すことができない。酵素によってはインキュベート時間が12時間を超えると、徐々にアーミング酵母の酵素活性が低下することがある。リゾプス・オリゼア由来のリパーゼの場合、インキュベート時間は5から8時間が望ましい。
インキュベートする際のアーミング酵母の濃度は、満遍なく加温される濃度が望ましい。
インキュベートには、温度が保つことができればどのような機材を用いてもよいが、アーミング酵母が満遍なく加温されることが望ましい。
至適温度を超えて変性温度未満でインキュベートすると、なぜピキア属酵母、特にピキア・パストリスを用いて得られたアーミング酵母の活性が高くなるかは明確ではないが、次のような理由ではないかと推測される。すなわち、ピキアアーミング酵母の表層に固定化された酵素は、細胞表層に存在する多糖類等の構造体に守られるとともに、酵素のコンフォメーション変化の自由度が少なく、変性を受けにくくなるため、と考えられる。
このようにして得られるアーミング酵母は、従来のアーミング酵母に比べて高い活性を有し、より有用性の高い酵母である。また、かかるアーミング酵母は、前処理をしていないアーミング酵母の表層に固定化された酵素が至適温度で示す酵素活性より、該酵素の至適温度を超えて変性温度未満で高い酵素活性を示す。
以下、実施例、比較例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこの実施例によって限定されるものではない。
以下、実施例、比較例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこの実施例によって限定されるものではない。
(参考例1)
(リゾプス・オリゼア由来のリパーゼ(ROL)をピキア酵母に導入したアーミング酵母の作成)
A( short型Flo1の遺伝子の取得)
次のようにしてshort型FLO1の遺伝子を取得した。pWIFS (T. Matsumotoら、Appl. Environ. Microbiol., 68:4517 (2002))をテンプレートとし、プライマー(DNA合成装置にて合成)として配列番号1および配列番号2に記載のヌクレオチド配列を用いてPCR増幅し、BglIIおよびBamHIで切断して、約3300bpの長さのBglII-BamHI断片(BglII-BamHI FLO3300bp断片)を得た。この3300bpの断片は、FLO1の5’側の配列(分泌シグナル配列およびFLO1凝集機能ドメイン)を有していると思われる。
B(リパーゼ遺伝子の取得)
次のようにしてRhizopus orezae由来リパーゼの遺伝子を取得した。PWIFSproROL (T. Matsumotoら、Appl. Environ. Microbiol., 68:4517 (2002))をテンプレートとし、プライマーとして配列番号3および配列番号4に記載のヌクレオチド配列を用いてPCR増幅を行い、BamHIおよびEcoRIで切断して、約1100bpの長さのBamHI-EcoRI断片(BamHI-EcoRIリパーゼ断片)を得た。このリパーゼ断片は、リパーゼのプロ配列および成熟タンパク質配列を有している。
C( short型Flo1およびプロリパーゼの構造遺伝子をこの順で有するプラスミドの作製)
目的のDNAを有するプラスミドは、上記Aで得られたshort型FLO1遺伝子と上記Bで得られたプロリパーゼ遺伝子を接続することにより得られる。FLO1誘導体とリパーゼとの融合タンパク質を作成するために、以下の操作を行った。作成の模式図を、図1に示す。
まず、インテグレーション型プラスミドpPIC3.5K(Invitrogen Corporation, Carlsbad, CA)をBamHIで切断し、脱リン酸化後、上記Aで得られたBglII-BamHI FLO3300bp断片を挿入して、プラスミドpPIC3.5KFSを得た。次いで、このプラスミドpPIC3.5KFSを、BamHIおよびEcoRIで切断し、上記Bで得られたBamHI-EcoRIリパーゼ断片を挿入して、pPIC3.5KFSproROLを得た。このプラスミドpPIC3.5KFSproROLに挿入された遺伝子から発現されるタンパク質はshort型FLO1リパーゼ(特開平 11-290078、WO02/085935)と同等のものである。
D(ピキア酵母への遺伝子の導入)
上記Cで得られたプラスミドpPIC3.5KFSproROLをBglIIで切断後、Pichia EasyComp Kit (Invitrogen Corporation, Carlsbad, CA)を用いてPichia pastoris GS115 (his4) (Invitrogen Corporation, Carlsbad, CA)ゲノム上へ導入した。これをRD寒天培地(1M ソルビトール、2%グルコース、1.34% Yeast Nitrogen Base with Ammonium Sulfate without amino acids、4×10-5% ビオチン、0.005% L-グルタミン酸、0.005% L-メチオニン、0.005% L-リシン、0.005% L-ロイシン、0.005% L-イソロイシン)を用いて培養した。生育した酵母を選択し、short型FLO1リパーゼを発現するアーミング酵母、すなわちPichia pastoris GS115/FSproROLアーミング酵母を得た。
(リゾプス・オリゼア由来のリパーゼ(ROL)をピキア酵母に導入したアーミング酵母の作成)
A( short型Flo1の遺伝子の取得)
次のようにしてshort型FLO1の遺伝子を取得した。pWIFS (T. Matsumotoら、Appl. Environ. Microbiol., 68:4517 (2002))をテンプレートとし、プライマー(DNA合成装置にて合成)として配列番号1および配列番号2に記載のヌクレオチド配列を用いてPCR増幅し、BglIIおよびBamHIで切断して、約3300bpの長さのBglII-BamHI断片(BglII-BamHI FLO3300bp断片)を得た。この3300bpの断片は、FLO1の5’側の配列(分泌シグナル配列およびFLO1凝集機能ドメイン)を有していると思われる。
B(リパーゼ遺伝子の取得)
次のようにしてRhizopus orezae由来リパーゼの遺伝子を取得した。PWIFSproROL (T. Matsumotoら、Appl. Environ. Microbiol., 68:4517 (2002))をテンプレートとし、プライマーとして配列番号3および配列番号4に記載のヌクレオチド配列を用いてPCR増幅を行い、BamHIおよびEcoRIで切断して、約1100bpの長さのBamHI-EcoRI断片(BamHI-EcoRIリパーゼ断片)を得た。このリパーゼ断片は、リパーゼのプロ配列および成熟タンパク質配列を有している。
C( short型Flo1およびプロリパーゼの構造遺伝子をこの順で有するプラスミドの作製)
目的のDNAを有するプラスミドは、上記Aで得られたshort型FLO1遺伝子と上記Bで得られたプロリパーゼ遺伝子を接続することにより得られる。FLO1誘導体とリパーゼとの融合タンパク質を作成するために、以下の操作を行った。作成の模式図を、図1に示す。
まず、インテグレーション型プラスミドpPIC3.5K(Invitrogen Corporation, Carlsbad, CA)をBamHIで切断し、脱リン酸化後、上記Aで得られたBglII-BamHI FLO3300bp断片を挿入して、プラスミドpPIC3.5KFSを得た。次いで、このプラスミドpPIC3.5KFSを、BamHIおよびEcoRIで切断し、上記Bで得られたBamHI-EcoRIリパーゼ断片を挿入して、pPIC3.5KFSproROLを得た。このプラスミドpPIC3.5KFSproROLに挿入された遺伝子から発現されるタンパク質はshort型FLO1リパーゼ(特開平 11-290078、WO02/085935)と同等のものである。
D(ピキア酵母への遺伝子の導入)
上記Cで得られたプラスミドpPIC3.5KFSproROLをBglIIで切断後、Pichia EasyComp Kit (Invitrogen Corporation, Carlsbad, CA)を用いてPichia pastoris GS115 (his4) (Invitrogen Corporation, Carlsbad, CA)ゲノム上へ導入した。これをRD寒天培地(1M ソルビトール、2%グルコース、1.34% Yeast Nitrogen Base with Ammonium Sulfate without amino acids、4×10-5% ビオチン、0.005% L-グルタミン酸、0.005% L-メチオニン、0.005% L-リシン、0.005% L-ロイシン、0.005% L-イソロイシン)を用いて培養した。生育した酵母を選択し、short型FLO1リパーゼを発現するアーミング酵母、すなわちPichia pastoris GS115/FSproROLアーミング酵母を得た。
(参考例2)
(ピキア−ROLアーミング酵母の調整)
上記参考例1で創製したPichia pastoris GS115/FSproROLアーミング酵母をBMGY液体培地(酵母エキス 1%、ペプトン 2%、グリセロール 1%、ビオチン4ppm、yeast nitrogen base w/o amino acid 1.34%、100mMリン酸カリウム緩衝液pH6.0)に植菌し、30℃で振盪培養した。生育が定常期に入った時点で、培養液にメタノールを、最終濃度が0.5%となるように添加し、ROLの発現を促した。メタノール添加開始より5日間培地中のメタノール濃度を維持するよう添加を続け、6日目に培養を終了した。その間計時的に培養液をサンプリングし、遠心分離により培地と菌体に分離し、菌体のリパーゼ活性(30℃)を市販のキット(リパーゼキットS:大日本製薬製)で確認した(データは示さず)。培養終了した培養液を遠心分離により培地と菌体とに分離した。得られた菌体をピキア―ROLアーミング酵母とした。
(ピキア−ROLアーミング酵母の調整)
上記参考例1で創製したPichia pastoris GS115/FSproROLアーミング酵母をBMGY液体培地(酵母エキス 1%、ペプトン 2%、グリセロール 1%、ビオチン4ppm、yeast nitrogen base w/o amino acid 1.34%、100mMリン酸カリウム緩衝液pH6.0)に植菌し、30℃で振盪培養した。生育が定常期に入った時点で、培養液にメタノールを、最終濃度が0.5%となるように添加し、ROLの発現を促した。メタノール添加開始より5日間培地中のメタノール濃度を維持するよう添加を続け、6日目に培養を終了した。その間計時的に培養液をサンプリングし、遠心分離により培地と菌体に分離し、菌体のリパーゼ活性(30℃)を市販のキット(リパーゼキットS:大日本製薬製)で確認した(データは示さず)。培養終了した培養液を遠心分離により培地と菌体とに分離した。得られた菌体をピキア―ROLアーミング酵母とした。
(ピキア酵母細胞表層に固定化したリパーゼの高活性化:前処理)
上記参考例2で得られたピキア−ROLアーミング酵母を50mMリン酸緩衝液(pH7.0)に懸濁し、40℃、50℃、60℃条件下にて振盪しながらインキュベートした。定期的に菌体懸濁液をサンプリングし、遠心分離により菌体と上清に分離した。得られた菌体を再び50mMリン酸緩衝液に懸濁し、リパーゼ活性測定に供した。リパーゼ活性(30℃)の測定は市販のキット(リパーゼキットS(大日本製薬製))を用いて行った。この結果を図2に示す。
菌体のリパーゼ活性は、菌体懸濁液のインキュベート開始から2〜3時間後より徐々に上昇した。この活性の上昇はインキュベート温度に依存しており、40℃、50℃、60℃と上昇するほど活性の増加も大きかった。60℃でインキュベートした場合、リパーゼ活性は12時間後に当初の約2倍にまで達した。リパーゼ活性の増加が始まるまでに2〜3時間かかったのは、菌体懸濁液が所定の温度に達するまで時間がかかったためではないかと推察される。
上記参考例2で得られたピキア−ROLアーミング酵母を50mMリン酸緩衝液(pH7.0)に懸濁し、40℃、50℃、60℃条件下にて振盪しながらインキュベートした。定期的に菌体懸濁液をサンプリングし、遠心分離により菌体と上清に分離した。得られた菌体を再び50mMリン酸緩衝液に懸濁し、リパーゼ活性測定に供した。リパーゼ活性(30℃)の測定は市販のキット(リパーゼキットS(大日本製薬製))を用いて行った。この結果を図2に示す。
菌体のリパーゼ活性は、菌体懸濁液のインキュベート開始から2〜3時間後より徐々に上昇した。この活性の上昇はインキュベート温度に依存しており、40℃、50℃、60℃と上昇するほど活性の増加も大きかった。60℃でインキュベートした場合、リパーゼ活性は12時間後に当初の約2倍にまで達した。リパーゼ活性の増加が始まるまでに2〜3時間かかったのは、菌体懸濁液が所定の温度に達するまで時間がかかったためではないかと推察される。
(高活性化に適した温度)
上記参考例2で得られたピキア−ROLアーミング酵母を50mMリン酸緩衝液(pH7.0)に懸濁し、40℃、50℃、55℃、60℃、65℃、70℃条件下にて振盪しながら5時間インキュベートした。5時間後に各懸濁液を遠心分離により菌体と上清に分離した。得られた菌体を再び50mMリン酸緩衝液に懸濁し、リパーゼ活性測定(30℃)に供した。リパーゼ活性の測定は市販のキット(リパーゼキットS(大日本製薬製))を用いて行った。この結果を図3に示す。
リゾプス・オリゼアのリパーゼ(ROL)の反応至適温度は40℃であり、50℃では約50%に活性が低下することが知られている。これに対し、ピキア−ROLアーミング酵母の場合、40℃でインキュベートすると、インキュベート前とほぼ同等のリパーゼ活性を示したが、インキュベート温度を上昇するに従ってリパーゼ活性も上昇し、60℃でインキュベートすると、インキュベート前の約1.7倍の活性を示した。さらにインキュベート温度を上昇させるとリパーゼ活性はほぼ完全に消失した。この活性の消失はROLの変性によるものと考えられる。
従って、ROLを表層に固定化したピキア−ROLアーミング酵母の場合には60℃でインキュベートすることが望ましく、ROLの至適温度である40℃でインキュベートするよりも遥かに高活性なアーミング酵母を得ることができた。
上記参考例2で得られたピキア−ROLアーミング酵母を50mMリン酸緩衝液(pH7.0)に懸濁し、40℃、50℃、55℃、60℃、65℃、70℃条件下にて振盪しながら5時間インキュベートした。5時間後に各懸濁液を遠心分離により菌体と上清に分離した。得られた菌体を再び50mMリン酸緩衝液に懸濁し、リパーゼ活性測定(30℃)に供した。リパーゼ活性の測定は市販のキット(リパーゼキットS(大日本製薬製))を用いて行った。この結果を図3に示す。
リゾプス・オリゼアのリパーゼ(ROL)の反応至適温度は40℃であり、50℃では約50%に活性が低下することが知られている。これに対し、ピキア−ROLアーミング酵母の場合、40℃でインキュベートすると、インキュベート前とほぼ同等のリパーゼ活性を示したが、インキュベート温度を上昇するに従ってリパーゼ活性も上昇し、60℃でインキュベートすると、インキュベート前の約1.7倍の活性を示した。さらにインキュベート温度を上昇させるとリパーゼ活性はほぼ完全に消失した。この活性の消失はROLの変性によるものと考えられる。
従って、ROLを表層に固定化したピキア−ROLアーミング酵母の場合には60℃でインキュベートすることが望ましく、ROLの至適温度である40℃でインキュベートするよりも遥かに高活性なアーミング酵母を得ることができた。
(高活性化に適したpH)
上記参考例2で得られたピキア−ROLアーミング酵母を様々なpHの緩衝液に懸濁し、60℃にて振盪しながら5時間インキュベートした。5時間後に各懸濁液を遠心分離により菌体と上清に分離した。得られた菌体を50mMリン酸緩衝液に懸濁し、リパーゼ活性測定(30℃)に供した。リパーゼ活性の測定は市販のキット(リパーゼキットS(大日本製薬製))を用いて行った。
用いた緩衝液は50mMクエン酸緩衝液(CIT)pH4、pH5、およびpH6、50mMリン酸緩衝液(PPB)pH6、pH7、およびpH8、50mMトリス塩酸緩衝液(TRIS)pH8、およびpH9である。この結果を図4に示す。なお、インキュベート前のリパーゼ活性は、pH7で128.9IU/Lであった。
リゾプス・オリゼアのリパーゼ(ROL)の至適pHは7から7.5であり、pH6では約80%の活性を示すことが知られている。これに対し、ピキア−ROLアーミング酵母の場合、pH7でインキュベートすると、インキュベート前の約2倍のリパーゼ活性を示したが、pH6でインキュベートすると、更にリパーゼ活性が高まり、インキュベート前の約3倍にもなることがわかった。
従って、ROLを表層に固定化したピキア−ROLアーミング酵母の場合にはpH6でインキュベートすることが望ましく、ROLの至適pHであるpH7でインキュベートするよりも遥かに高活性なアーミング酵母を得ることができた。
上記参考例2で得られたピキア−ROLアーミング酵母を様々なpHの緩衝液に懸濁し、60℃にて振盪しながら5時間インキュベートした。5時間後に各懸濁液を遠心分離により菌体と上清に分離した。得られた菌体を50mMリン酸緩衝液に懸濁し、リパーゼ活性測定(30℃)に供した。リパーゼ活性の測定は市販のキット(リパーゼキットS(大日本製薬製))を用いて行った。
用いた緩衝液は50mMクエン酸緩衝液(CIT)pH4、pH5、およびpH6、50mMリン酸緩衝液(PPB)pH6、pH7、およびpH8、50mMトリス塩酸緩衝液(TRIS)pH8、およびpH9である。この結果を図4に示す。なお、インキュベート前のリパーゼ活性は、pH7で128.9IU/Lであった。
リゾプス・オリゼアのリパーゼ(ROL)の至適pHは7から7.5であり、pH6では約80%の活性を示すことが知られている。これに対し、ピキア−ROLアーミング酵母の場合、pH7でインキュベートすると、インキュベート前の約2倍のリパーゼ活性を示したが、pH6でインキュベートすると、更にリパーゼ活性が高まり、インキュベート前の約3倍にもなることがわかった。
従って、ROLを表層に固定化したピキア−ROLアーミング酵母の場合にはpH6でインキュベートすることが望ましく、ROLの至適pHであるpH7でインキュベートするよりも遥かに高活性なアーミング酵母を得ることができた。
(実施例4:前処理アーミング酵母の耐熱性)
上記参考例2で得られたピキア−ROLアーミング酵母を50mMリン酸緩衝液(pH6.0)に懸濁し、前処理(60℃で6時間インキュベート)した。その後遠心分離により菌体を回収し、再び50mMリン酸緩衝液(pH6.0)に懸濁し、凍結乾燥した。得られた凍結乾燥菌体のリパーゼ活性を60℃にて測定した。リパーゼ活性は市販のキット(リパーゼキットS(大日本製薬製))を用いて行った。なお、対照として参考例2で得られたピキア−ROLアーミング酵母を前処理せず、50mMリン酸緩衝液(pH6.0)に懸濁し、凍結乾燥したのみの菌体を用いた。この結果を図5に示す。
前処理を行わず、凍結乾燥したのみのピキア−ROLアーミング酵母は、60℃の反応条件ではリパーゼ活性を示さなかった。これに対して前処理(60℃、6時間インキュベート)し、凍結乾燥したピキア−ROLアーミング酵母では酵母濃度に依存してリパーゼ活性が認められた。この結果は、前処理によりピキア−ROLアーミング酵母が耐熱性を獲得することを示唆するものである。
上記参考例2で得られたピキア−ROLアーミング酵母を50mMリン酸緩衝液(pH6.0)に懸濁し、前処理(60℃で6時間インキュベート)した。その後遠心分離により菌体を回収し、再び50mMリン酸緩衝液(pH6.0)に懸濁し、凍結乾燥した。得られた凍結乾燥菌体のリパーゼ活性を60℃にて測定した。リパーゼ活性は市販のキット(リパーゼキットS(大日本製薬製))を用いて行った。なお、対照として参考例2で得られたピキア−ROLアーミング酵母を前処理せず、50mMリン酸緩衝液(pH6.0)に懸濁し、凍結乾燥したのみの菌体を用いた。この結果を図5に示す。
前処理を行わず、凍結乾燥したのみのピキア−ROLアーミング酵母は、60℃の反応条件ではリパーゼ活性を示さなかった。これに対して前処理(60℃、6時間インキュベート)し、凍結乾燥したピキア−ROLアーミング酵母では酵母濃度に依存してリパーゼ活性が認められた。この結果は、前処理によりピキア−ROLアーミング酵母が耐熱性を獲得することを示唆するものである。
(比較参考例1)
(リゾプス・オリゼア由来のリパーゼ(ROL)をサッカロミセス酵母に導入したアーミング酵母の作成)
細胞表層局在たんぱく質であるFLO1 [J.Watariら、Agric. Biol. Chem., 55:1547(1991), G.G.Stewartら、 Can. J. Microbiol., 23:441(1977), I. Russellら、J. Inst. Brew., 86:120(1980), C. W.Lewisら、 J.Inst.Brew., 82:158(1976)]]
の5‘側配列(BamHI-BglII 約3300bp断片:分泌シグナル配列およびFLO1凝集機能ドメインを含む)と、リゾプス・オリゼアのリパーゼのプロ配列および成熟タンパク質配列を有しているリパーゼ断片(BamHI-SalI 約1100bp)を、マルチコピー型プラスミドpWI3に挿入してpWIFSpmROLを得た。詳細なる作成方法はWO02/085935実施例に記載されている。この得られたプラスミドpWIFSpmROLをWO02/085935実施例に従い、Saccharomyces cerevisiae MT8-1(MATa ade his3 leu2 trp1 ura3)(Tajimaら Yeast, 1:67-77, 1985)に導入し、Saccharomyces cerevisiae(MT-8)−ROLアーミング酵母を得た。
(リゾプス・オリゼア由来のリパーゼ(ROL)をサッカロミセス酵母に導入したアーミング酵母の作成)
細胞表層局在たんぱく質であるFLO1 [J.Watariら、Agric. Biol. Chem., 55:1547(1991), G.G.Stewartら、 Can. J. Microbiol., 23:441(1977), I. Russellら、J. Inst. Brew., 86:120(1980), C. W.Lewisら、 J.Inst.Brew., 82:158(1976)]]
の5‘側配列(BamHI-BglII 約3300bp断片:分泌シグナル配列およびFLO1凝集機能ドメインを含む)と、リゾプス・オリゼアのリパーゼのプロ配列および成熟タンパク質配列を有しているリパーゼ断片(BamHI-SalI 約1100bp)を、マルチコピー型プラスミドpWI3に挿入してpWIFSpmROLを得た。詳細なる作成方法はWO02/085935実施例に記載されている。この得られたプラスミドpWIFSpmROLをWO02/085935実施例に従い、Saccharomyces cerevisiae MT8-1(MATa ade his3 leu2 trp1 ura3)(Tajimaら Yeast, 1:67-77, 1985)に導入し、Saccharomyces cerevisiae(MT-8)−ROLアーミング酵母を得た。
(比較参考例2)
(サッカロミセス−ROLアーミング酵母の調整)
上記比較参考例1で得られたSaccharomyces cerevisiae(MT-8)−ROLアーミング酵母をSDC液体培地(yeast nitrogen base w/o amino acid 0.67%、カザミノ酸2%、グルコース0.5%)へアデニン0.002%、ウラシル0.008%、L-ヒスチジン0.008%、L-ロイシン0.04%を加えた液体培地に植菌し、30℃で振盪培養した。培地中のグルコース量を消費し、増殖が緩やかになった時点から更に7日間培養を継続し、8日目に培養を終了した。この間計時的に培養液をサンプリングし、遠心分離により培地と菌体に分離し、菌体のリパーゼ活性(30℃)を市販のキット(リパーゼキットS:大日本製薬製)で確認した(データを示さず)。培養終了した培養液遠心分離により培地と菌体とに分離した。得られた菌体をサッカロミセス―ROLアーミング酵母とした。
(サッカロミセス−ROLアーミング酵母の調整)
上記比較参考例1で得られたSaccharomyces cerevisiae(MT-8)−ROLアーミング酵母をSDC液体培地(yeast nitrogen base w/o amino acid 0.67%、カザミノ酸2%、グルコース0.5%)へアデニン0.002%、ウラシル0.008%、L-ヒスチジン0.008%、L-ロイシン0.04%を加えた液体培地に植菌し、30℃で振盪培養した。培地中のグルコース量を消費し、増殖が緩やかになった時点から更に7日間培養を継続し、8日目に培養を終了した。この間計時的に培養液をサンプリングし、遠心分離により培地と菌体に分離し、菌体のリパーゼ活性(30℃)を市販のキット(リパーゼキットS:大日本製薬製)で確認した(データを示さず)。培養終了した培養液遠心分離により培地と菌体とに分離した。得られた菌体をサッカロミセス―ROLアーミング酵母とした。
(比較例1)
(サッカロミセス酵母細胞表層に固定化したリパーゼの耐熱性)
上記比較参考例2で得られたサッカロミセス−ROLアーミング酵母を50mMリン酸緩衝液(pH7.0)に懸濁し、40℃、50℃、60℃条件下にて振盪しながらインキュベートした。定期的に菌体懸濁液をサンプリングし、遠心分離により菌体と上清に分離した。得られた菌体を再び50mMリン酸緩衝液に懸濁し、リパーゼ活性測定に供した。リパーゼ活性の測定(30℃)は市販のキット(リパーゼキットS(大日本製薬製))を用いて行った。この結果を図6に示す。
菌体のリパーゼ活性は、40℃でインキュベートした場合4時間は当初の活性を維持していたが、その後徐々に活性が低下し12時間後には20%にまで低下した。この活性の低下はインキュベート温度が高い程、急激に現れ、60℃インキュベートした場合、1時間後にはほとんど活性が認められなかった。
このように宿主となる酵母がサッカロミセスであるアーミング酵母、サッカロミセス−ROLアーミング酵母では60℃でインキュベートすると急激にリパーゼ活性が低下してしまうのに対して、宿主となる酵母がピキアであるアーミング酵母、ピキア−ROLアーミング酵母の場合、酵母の細胞表層に固定化されている酵素が同一であるにもかかわらず、実施例1に示すように、60℃でインキュベートすると、リパーゼ活性の大幅な増大が見られた。
ピキアアーミング酵母とサッカロミセスアーミング酵母でのリパーゼ活性の挙動の違いは明確になっていないが、ピキアアーミング酵母及びサッカロミセスアーミング酵母における、アーミングされた酵素への糖鎖付加の違いも一因と考える。
例えば、サッカロミセス−ROLアーミング酵母、およびピキア−ROLアーミング酵母を適当な緩衝液に懸濁し、ガラスビーズ等で菌体を破砕し、各アーミング酵母より不溶性画分を回収した。これらにSDS抽出用緩衝液を加え、95℃で5分間加熱することで細胞表層画分を得ることができる。各細胞表層画分をウサギ由来の抗ROL抗体を用いたウエスタンブロティング法により分析すると、ピキア−ROLアーミング酵母から得られた細胞表層画分の方がサッカロミセス−ROLアーミング酵母から得られた細胞表層画分より分子量が大きいところにバンドが検出された(データは示さず)。このことは、ピキア−ROLアーミング酵母の細胞表層に提示されたROLの方が、サッカロミセス−ROLアーミング酵母の細胞表層に提示されたROLよりも、多くの糖鎖付加による翻訳後修飾を受けていることを示唆している。また、ピキア−ROLアーミング酵母より得られた細胞表層画分をN−グルコシダーゼFで処理した後、上記ウエスタンブロッティング方により解析すると、多少は分子量の低下がみられるが、タンパク質として予想される分子量よりも遙かに大きい分子量のバンドが検出された(データは示さず)。このことは、N−グルコシダーゼFでN―型糖鎖を除去しても依然としてタンパク質は糖鎖の修飾を受けていることを示唆するものであり、多くのO―型糖鎖での修飾を受けているものと推定される。O―型糖鎖は分子構造をリジットにするという報告があり(N.Jentoftら Trends Biochem. Sci., 15, 291 (1990))、このことが本発明における酵素活性増大の一因ではないかと考えている。
(サッカロミセス酵母細胞表層に固定化したリパーゼの耐熱性)
上記比較参考例2で得られたサッカロミセス−ROLアーミング酵母を50mMリン酸緩衝液(pH7.0)に懸濁し、40℃、50℃、60℃条件下にて振盪しながらインキュベートした。定期的に菌体懸濁液をサンプリングし、遠心分離により菌体と上清に分離した。得られた菌体を再び50mMリン酸緩衝液に懸濁し、リパーゼ活性測定に供した。リパーゼ活性の測定(30℃)は市販のキット(リパーゼキットS(大日本製薬製))を用いて行った。この結果を図6に示す。
菌体のリパーゼ活性は、40℃でインキュベートした場合4時間は当初の活性を維持していたが、その後徐々に活性が低下し12時間後には20%にまで低下した。この活性の低下はインキュベート温度が高い程、急激に現れ、60℃インキュベートした場合、1時間後にはほとんど活性が認められなかった。
このように宿主となる酵母がサッカロミセスであるアーミング酵母、サッカロミセス−ROLアーミング酵母では60℃でインキュベートすると急激にリパーゼ活性が低下してしまうのに対して、宿主となる酵母がピキアであるアーミング酵母、ピキア−ROLアーミング酵母の場合、酵母の細胞表層に固定化されている酵素が同一であるにもかかわらず、実施例1に示すように、60℃でインキュベートすると、リパーゼ活性の大幅な増大が見られた。
ピキアアーミング酵母とサッカロミセスアーミング酵母でのリパーゼ活性の挙動の違いは明確になっていないが、ピキアアーミング酵母及びサッカロミセスアーミング酵母における、アーミングされた酵素への糖鎖付加の違いも一因と考える。
例えば、サッカロミセス−ROLアーミング酵母、およびピキア−ROLアーミング酵母を適当な緩衝液に懸濁し、ガラスビーズ等で菌体を破砕し、各アーミング酵母より不溶性画分を回収した。これらにSDS抽出用緩衝液を加え、95℃で5分間加熱することで細胞表層画分を得ることができる。各細胞表層画分をウサギ由来の抗ROL抗体を用いたウエスタンブロティング法により分析すると、ピキア−ROLアーミング酵母から得られた細胞表層画分の方がサッカロミセス−ROLアーミング酵母から得られた細胞表層画分より分子量が大きいところにバンドが検出された(データは示さず)。このことは、ピキア−ROLアーミング酵母の細胞表層に提示されたROLの方が、サッカロミセス−ROLアーミング酵母の細胞表層に提示されたROLよりも、多くの糖鎖付加による翻訳後修飾を受けていることを示唆している。また、ピキア−ROLアーミング酵母より得られた細胞表層画分をN−グルコシダーゼFで処理した後、上記ウエスタンブロッティング方により解析すると、多少は分子量の低下がみられるが、タンパク質として予想される分子量よりも遙かに大きい分子量のバンドが検出された(データは示さず)。このことは、N−グルコシダーゼFでN―型糖鎖を除去しても依然としてタンパク質は糖鎖の修飾を受けていることを示唆するものであり、多くのO―型糖鎖での修飾を受けているものと推定される。O―型糖鎖は分子構造をリジットにするという報告があり(N.Jentoftら Trends Biochem. Sci., 15, 291 (1990))、このことが本発明における酵素活性増大の一因ではないかと考えている。
本発明の製造方法は、高活性の酵素を製造するのに有用である。また、本発明のアーミング酵母は、グリーン・サステイナブル・ケミストリーへの活用が大いに期待できる。
Claims (9)
- 酵素を細胞表層に有するピキア属(Pichia)酵母を、生菌のまま、酵素の至適温度を超えて変性温度未満の温度でインキュベートすることを特徴とする高活性アーミング酵母の製造方法。
- 酵素が分泌型酵素である請求項1に記載の高活性アーミング酵母の製造方法。
- 酵素が、リゾプス・オリゼア(Rhizopus oryzae)由来のリパーゼである請求項1又は2に記載の高活性アーミング酵母の製造方法。
- 酵素が、分泌シグナル配列、酵素の構造遺伝子配列、細胞表層局在タンパク質の一部をコードする配列及びGPIアンカリングドメインをコードする配列をこの順で有するDNAによって細胞表層に発現されるものである請求項1〜3のいずれか1項に記載の高活性アーミング酵母の製造方法。
- 酵素が、分泌シグナル配列、酵素の構造遺伝子配列、糖鎖結合タンパク質ドメインをコードする配列をこの順で、あるいは分泌シグナル配列、糖鎖結合タンパク質ドメインをコードする配列、酵素の構造遺伝子配列をこの順で有するDNAによって細胞表層に発現されるものである請求項1〜3のいずれか1項に記載の高活性アーミング酵母の製造方法。
- 請求項5の糖鎖結合タンパク質ドメインが、少なくとも細胞表層局在タンパク質の凝集機能ドメインを含む部分である、請求項5に記載の高活性アーミング酵母の製造方法。
- 酵素が、分泌シグナル配列、酵素の構造遺伝子配列、GPIアンカリングドメインをコードする配列をこの順で有するDNAによって細胞表層に発現されるものである請求項1〜3のいずれか1項に記載の高活性アーミング酵母の製造方法。
- 細胞表層に固定化されていない酵素の至適pHより、0.5〜1.5低いpHでインキュベートするものである請求項1〜7のいずれか1項に記載の高活性アーミング酵母の製造方法。
- 請求項1〜8のいずれか1項に記載の製造方法により得られる高活性アーミング酵母。
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