プロファイリング手段を適用した社会シミュレーション・システム
本発明は、社会または市場の動きを予測または計算する社会シミュレーション・システムに関するものである。
ここでは、本発明に関係する、社会シミュレーション技術、個人情報を活用する技術、個人情報を収集する技術、の3つの側面から従来技術を整理する。
社会シミュレーションは、社会や市場の動きを予測または計算するものである。社会シミュレーションには、マクロ・モデル、ミクロ・モデル、システム・ダイナミクス、セル・オートマトン、エージェントベース社会シミュレーションなどの手法を用いたものが挙げられる。このうち本発明が対象とするのは、現実社会における個人や組織等の社会主体に相当する、内部状態を持ち、相互作用を伴う複数のエージェントやモジュールを、シミュレーション世界に複数配置し、時間的経過に伴う各エージェントやモジュール、および全体の状態変化を計算することを特徴とする社会シミュレーションであり、セル・オートマトンやエージェントベース社会シミュレーションなどの手法を用いたものが含まれる。社会や市場の構造が多様化、複雑化したことにより、政策やマーケティング戦略の効果を予測することが難しくなってきた状況のなかで、信頼性のある社会シミュレーションの実施を可能とする技術を活用することは、適切な意思決定を行ううえで非常に重要である。しかしながら、マクロ・モデルを利用した比較的単純な統計的手法による最も伝統的な計算手法では、代表的な関数で表現することのできる単純な社会構造を取り扱うことはできたとしても、現在のように多様でかつ複雑な社会構造のなかで進行する社会現象を適切な形態で取り扱うことができないという重大な制約があった。
これに対し、現象を因果関係としてとらえ分析するシステム・ダイナミクス手法は、システムの構成要素のインプットとアウトプットを体系的に捉え、因果関係を差分方程式によって記述し、時間的経過を辿るシミュレーションを実施することにより、より複雑な社会構造をシミュレーション対象として取り扱うことができるため、マクロ・モデルを利用した計算手法では取り扱うことのできなかった社会現象を取り扱うことができる。例えば、システム・ダイナミクスを用いた社会シミュレーションとして有名なWORLDモデルは衝撃的な計算結果提示することにより、地球環境問題や資源問題の深刻性を世界に知らしめ、その後の政策形成や社会の発展に大きく寄与した(例えば、非特許文献1など)。しかし、この方法では社会を構成する個体間の相互作用を伴うさらに複雑な社会構造や、個体の多様性によって発生する現象などを取り扱うことはできないという制約がある。
これに対し、セル・オートマトンやエージェントベース・モデルの手法を用いた社会シミュレーションは、個体間の相互作用、個体の多様性、個体の内部状態の変化などを計算の対象として取り扱うことができるため、モデルの自由度が大きく、より複雑な社会構造を取り扱うことができる。特にエージェントベース社会シミュレーションは、個体の多様性を取り扱うことができる点、個体間の動的な関係性を取り扱うことができる点、個体の動きと全体の動きの両方を併せて検討することができる点、複雑な論理構造を取り扱うことができる点などのアドバンテージから、表計算ソフトなどを用いた比較的単純な計算手法よりも高精度の予測や分析を行うことが可能であると期待されてきた。しかしながら、エージェントベース社会シミュレーション手法も含め、従来の社会シミュレーション技術を用いたシミュレーション・システムにおいては、モデルの抽象的なものであるか、具体的であっても現実世界の現象とシミュレーションの計算結果との乖離があまりにも大きいため、実用的なアプリケーションを構築することが困難であるという問題は依然として存在している。例えば企業のマーケティング戦略の策定などの具体的な目的において実用的なアプリケーションの構築に成功した事例はいまだに存在しない。現在までに構築または提案されてきた社会シミュレーションの多くは、社会科学分野における理論的研究のために活用されてきたものであるが、こうした場合には現実世界の現象とシミュレーション世界の現象との具体的な対応関係が不明瞭であることは必ずしも致命的ではない(例えば、非特許文献2など)。しかし、アプリケーションの構築を目指す場合には、このことは致命的な問題となる。そのため、現実世界とシミュレーション世界の乖離を抑制する技術を開発することは、当該技術分野の大きな課題である。
この改善策として、現実世界で生活する個人に対し、紙媒体やウェブページ、携帯電話などを利用したアンケートを実施し、これによって収集された個人情報をシミュレーション世界に反映することによって、現実世界の社会主体の行動原則をシミュレーション世界のエージェントの行動原則に反映し、現実世界との乖離を抑制しようという社会シミュレーション手法が提案された(例えば、非特許文献3など)。しかし、この方法では、実用的なアプリケーションを構築するために有効な社会シミュレーションの実施に必要である、正確で詳細な個人情報を得ることは必ずしも可能ではない。なぜならば、アンケートを実施する際、アンケート回答者に対し何らかの形態で報酬を提供することによって、回答すること自体へのインセンティブを働かせることはできたとしても、正しく回答することへのインセンティブを働かせることはできないためである。そのため、シミュレーション世界と現実世界との乖離を十分に小さくすることはできないという問題は依然として残った。また、個人情報を個人との対応関係が失われた情報へ加工した上でシミュレーション世界へ適用されたため、シミュレーションによって得られた情報を、個人情報を提供した個人や該個人と関わりを持つ者に還元することができず、そのためシミュレーションを活用する用途も制限された。
一方、個人情報を産業的に活用していく方法は、既に様々な形態で行われている。個人情報を用いて社会構造や市場構造を分析する最も伝統的な方法の一つは、単純集計やクロス集計(複数の質問項目の関係が明らかになるように各項目に軸を設け併せて集計すること)、多次元クロス集計(クロス集計を多次元で行うもの)、階層集計(「大計」、「中計」、「小計」などのようにある項目を別の項目別に集計すること)、グループ集計(「400円」や「455円」を「400円台」とする場合などのように、フィールドのアイテムをグループ化して集約して集計すること)、統合集計(複数の表を統合して集計すること)など、伝統的な社会調査結果の分析方法や比較的単純な表計算ソフト、統計処理言語等を用いた方法などを用いたものである。しかしながら、この方法では、構築可能な論理構造の複雑さという点において制約があり、社会主体間の相互作用や社会主体の内部状態の変移などをそのまま計算材料として扱うことができず、人間行動を含む社会や市場についての複雑な動態についての予測や分析を行ううえで充分な精度を得るのは困難であった。
個人情報の比較的新しい活用方法の一つは、膨大な個人情報のなかから意味のある相関関係やパターンを発見するデータマイニング技術を用いたものである。データマイニングでは、商品購入実績、クレジットカード利用履歴、コミュニケーション履歴、アクセス履歴、アンケート回答などの個人情報を、知識工学、ニューラルネットワーク、フラクタル、パターン認識、ファジー理論、統計解析などの手法を用いることにより、意味のある相関関係やパターンを抽出する。従来の統計解析手法が仮説の検証に重きを置かれていたことに対し、データマイニングでは仮説を発見することに重きが置かれる。データマイニングによって抽出された情報は、例えば、潜在顧客の選別による商品プロモーション・ターゲットの絞り込みといった顧客のセグメンテーションやターゲット・マーケティング、クレジットカードの不正使用の発見や自動車保険料算定材料の算出といったリスクマネジメント、などに用いられている。データマイニングは、人間の頭脳で処理しきれない大量の情報を処理し、有効に活用することを可能とする有益なアプローチである。しかし、データマイニングの分析は、あくまでも個々の静的なデータを対象としたものであり、社会的な動態によってもたらされる影響を計算することは目標とされておらず、そうした計算を実施することはできない。
もうひとつ、近年浸透している個人情報の活用方法として挙げられるは、顧客とのコミュニケーションによって得られた個人情報を適切な方法で管理し、その後のコミュニケーションやサービスの提供などを効率化するCRM技術を用いたものである。これは、一度関係を持った顧客とのコミュニケーションや取引の内容を、その都度データベースに記録し、新しいコミュニケーションや取引の際にこれを参照することのできるシステムを構築し、これを関係者の間で共有するというものである。これにより、例え担当者が変わったとしても、一度確認した情報はシステム上で確認することができるため、二度同じ情報を確認しなくても済む。例えば、出前サービス業者やタクシー配車業者は、一度取引をした顧客から電話を受ける際に、着信番号の情報を手掛かりに、データベースのなかから顧客情報を参照し、住所や名前を確認することができるため、顧客はこれらの情報を再び伝える必要がなくなる。メーカーは、一度コミュニケーションを取った顧客の利用する製品の機種やコミュニケーションの内容などの情報を記録しておくことにより、顧客は顧客番号さえ伝えれば、利用する機種や過去のやり取りをいちいち説明しなくても済む。販売店は、一度取引した顧客の情報を記録しておくことにより、届け先や請求書の宛先などの情報を毎回確認しなくても済む。過去の取引の履歴などの情報により、新しい商品を提案することなども可能となる。しかしながら、CRMは、顧客とのコミュニケーションの効率化や顧客を対象とした効果的なマーケティングの実現を目的としたもので、CRMで管理される個人情報を社会シミュレーションに用いることは想定されてこなかった。
この他にも、個人情報の産業的な活用方法としては、個人の過去の振る舞いや現在の状況に関する個人情報をデータベースに集積し、情報の記録、検索、参照などの手段を備えることにより、個人の信用や評価を確認する方法、個人を特定する情報と個人がユニークに有する性質または情報に関する情報をデータベースに集積し、登録、参照などの手段を提供することにより、個人を識別または認証する方法、個人の嗜好や過去の行動、行動のパターンなどに関する個人情報をデータベースに記録し、該個人情報に基づいて、該個人に提供するサービスや情報の内容をカスタマイズする方法、など様々なものが挙げられる。
このように、個人情報を産業的に活用して行く方法については、近年飛躍的に発展してきた。しかしながら、現実世界で活動する個人の個人情報を、集計などの方法で加工するのではなく、そのまま個人情報として用いた分析を行うことにより、社会主体間の直接的または間接的な相互作用を伴う社会的な動態の過程を計算する技術は、過去には実現されていない。
他方、個人情報を収集する技術においても、近年飛躍的な発展がみられる。第一に、個人のインターネット・ウェブサイトへのアクセス履歴を収集するシステムが挙げられる。これは、クッキーと呼ばれる技術を用いることにより、アクセス者を特定するための識別情報をクライアント側の装置に書き込み、通信が行われるごとにその識別情報によって識別されるアクセス者のアクセス情報を記録するしくみである。アクセス者が、いつ、どのページを、どのくらいの時間参照したか、どの情報をクリックしたが、どの情報が提示されたか、何を入力したか、何を購入したか、といった詳細な情報を自動的に記録することができる。さらに、米大手広告代理店のダブルクリック社は、複数のウェブ・サイトに渡り同じ識別情報を用いてアクセス者を識別することにより、数多くのウェブ・サイトでアクセス者がどういう行動を取ったかについての情報を一元的に獲得する技術を開発した。収集された情報は、主としてデータマイニングやデータベース・マーケティングに用いられ、社会シミュレーションに用いることは想定されてこなかった。
第二に、お客様相談室、コールセンターもしくはコンタクトセンターを通じて集められた個人情報を管理するシステムが挙げられる。これは、直接対話、電話、メールなどを通じた顧客とのコミュニケーションの内容に応じた情報を、担当者がデジタル情報として記録するしくみである。収集された情報は、主として顧客とのコミュニケーションの円滑化や顧客の嗜好や購買傾向を分析することによる商品提案などに用いられ、社会シミュレーションに用いることは想定されてこなかった。
第三に、アカウントにログインした状態で、利用されたサービスの内容、提供された情報、入力された内容などの個人情報を記録するシステムが挙げられる。これは、個人にアカウントを交付し、自らに交付されたIDとパスワードを入力することによりアカウントにログインした状態の個人に対して何らかのサービスや情報などを提供するシステムにおいて、個人が該システムにログインした状態で該サービスを利用するまたは該情報を参照する過程において、該個人が該システムに入力する情報や該システムが該個人に提示する情報の一部、それらの情報を特定する情報、または、それらの情報から生み出された情報を該個人の個人情報としてデータベースに記録する機能を有するというものである。収集された情報は、データマイニング、CRM、カスタマイズなどに用いられ、社会シミュレーションに用いることは想定されてこなかった。
第四に、個人がカードまたはICを利用する過程において、個人の取った行動、個人に提供されたサービスなどの個人情報を記録するシステムが挙げられる。これは、個人にカードまたはICを交付し、自らに交付されたカードまたはICを提示する個人に対して何らかのサービスや情報などを提供するシステムにおいて、個人が該システムにカードまたはICを提示した状態で該サービスを利用するまたは該情報を参照する過程において個人の取った行動や個人に提供されたサービスに関する情報を、該個人の個人情報としてデータベースに記録する機能を有するというものである。個人が実社会の中で様々なサービスを利用する手段として、ICやカードの利用が進んでいる。プラスティックの磁気カードは金融機関の発行するキャッシュカードやクレジットカードや会員向けサービスを提供する企業の発行する会員証などに古くから利用されてきた。近年ではソニー株式会社の開発したフェリカなど、ICを搭載したカードも広く浸透している。ICは、記録可能なメモリ容量の拡大、安全性の高い暗号化、非接触通信などを可能とし、従来のプラスティックカードの担ってきた機能を大きく拡張する。小型であるため、携帯電話に埋め込むことや、ICタグとして様々なものに埋め込むことが可能となっている。これらのカードやICは、様々な個人情報を記録することができる。また個人を識別する個人識別情報を記録し、該個人識別情報を用いて遠隔個人情報管理サーバから該個人識別情報に対応する詳細な個人情報を引き出すことも可能である。こうした形態で管理される個人情報のなかには、登録時に身分証明書などにより確認されるなどのプロセスを経られた信頼性の高いもの、本人が該ICや該カードを利用する際にリアルタイムに更新または追加された最新のもの、利用内容がそのまま記録された正確なものなどが含まれる。こうした個人情報は、ICやカードを利用者が保持することにより利用可能となるサービスそのものを提供することに利用されるほか、POSシステムのように在庫や売り上げの管理に用いられることや、データマイニング手法によって売れ筋商品や消費傾向の把握に用いられること、個人の属性に応じた広告や商品情報の提供などのターゲット・マーケティングに用いられることも多い。こうした利用形態において、社会または市場の動きを予測または計算することは既に行われている。しかし、これらは個人情報が伝統的な集計手法、特殊な検索手法、またはニューラル・コンピューティングなどの特殊なアルゴリズムを用いて行われるのが通常であり、個人情報を反映したデータ、プログラム、またはその両方を動的に制御することによって、予測または計算を行う社会シミュレーション・システムは実現していない。
第五に、個人の意思決定や行動を支援または代行するエージェント・プログラムにおいて個人情報を獲得する方法が挙げられる。これは、個人の意思決定や行動を支援または代行するエージェント・プログラムが、本人、本人以外の人間、または他の装置から、個人のポリシー、現在の状態、過去の行動履歴などに関する個人情報の入力を受け付ける手段を備え、該手段によって獲得された個人情報を用いて、個人の意思決定や行動を支援または代行するための動作を決定するというものである。例えば、本人に代わって情報収集を代行してくれるエージェント・プログラム、本人に代わって金融情勢を察知し金融取引を代行してくれるエージェント・プログラムなどの実用例が挙げられる。これらのエージェント・プログラムには、エージェント・プログラムの利用者によって、本人の行動原則をはじめとした正確で詳細な個人情報が必要に応じて入力される。なぜならば、本人がエージェント・プログラムを思い通りに使いこなすために、正確で詳細な情報を入力することが必要であるためである。例えば、情報収集を代行してくれるエージェント・プログラムには、本人の関心、即ちどのような情報を求めているか、についての情報を入力され、金融取引を代行してくれるエージェント・プログラムには、本人の金融取引についての行動原則、例えば自分の保持する金融資産の相場が幾らになればどの程度売るか、についての情報が入力される。これらは、通常アンケートなどの方法で入力される個人情報よりも精度の高い個人情報である。しかし、これまで、エージェントベース社会シミュレーションにおけるエージェントと、個人の意思決定や行動を支援または代行するエージェント・プログラムが、効果的に結び付けられることはなかった。
ドネラ・H・メドウズほか『成長の限界ローマ・クラブ「人類の危機」レポート』ダイヤモンド社、1979年 和泉潔『人工市場−市場分析の複雑系アプローチ』森北出版、2003年7月 島広樹『プロファイリング・テクノロジーの応用−多様化、複雑化する社会と人々の生活を支える技術』(FIF Special Report No.9)フジタ未来経営研究所、2004年3月
当発明が解決しようとする主たる課題は次の二点である。第一は、社会もしくは市場の動態を予測または計算するための社会シミュレーション・システムにおいて、シミュレーション世界と現実世界との乖離を抑制し、実用的なアプリケーションの構築を可能とすることである。第二は、該シミュレーション・システムで得られた計算結果または計算過程において得られた情報を、シミュレーションの実行に協力した現実世界の個人の活動または該個人にかかわる任意の社会主体の活動に有益な形態で、現実世界に還元することである。
現在までに構築または提案されている社会シミュレーションは、モデルの抽象性の度合いが高く、また現実世界の社会主体や事物とシミュレーション世界のエージェントやモジュールとの対応関係が不明瞭であるか、不十分であるか、或いは想定されていなかったため、現実世界の社会主体の存在やその振る舞い、或いは社会主体同士の関係が、個々のレベルにおいて、シミュレーション世界のエージェントの存在やその動作、或いはエージェント同士の関係と、一致または近似せず、乖離していた。
特に社会シミュレーションの予測の信頼性が得られない要因のひとつは、社会シミュレーションにおいてシミュレーションの結果がパラメータの設定に大きく依存することである。しかしながら、従来の社会シミュレーションにおいては、的確なパラメータを設定するための決定的な方法が存在しなかった。例えば、従来のシミュレーションにおいては、シミュレーション世界のエージェントの好みや嗜好などに関するパラメータ大部分を乱数によって決めるなどの処理を行ってきたが、この方法では現実世界の対象とシミュレーション世界の対象の動きが乖離せざるを得ない。
その乖離した状態を前提として実行された社会シミュレーションにおいては、少なくとも個々のレベルにおいて、そして多くの場合は全体的なレベルにおいても、現実世界の現象とシミュレーション世界の現象が一致または近似すると期待することはできない。そのため、その一致または近似が期待されることを前提とした実用的なアプリケーションを実現することは不可能であった。
本発明では、現実世界の個人の個人情報を収集または管理する具体的なシステムによって取り扱われる個人情報を用いてシミュレーション世界におけるエージェントを定義することにより、現実世界の個人行動原則をシミュレーション世界に反映し、これによって現実世界との乖離を抑制した実用的なアプリケーションを構築することを可能とする。
請求項1〜4に記載された社会シミュレーション・システムまたは社会シミュレーションを実行する方法では、社会シミュレーション・サーバが個人情報収集管理クライアントから、現実世界で活動する個人の個人情報を受信し、これをシミュレーション世界で動作するエージェントに反映している(図1、図2を参照)。
請求項5に記載された社会シミュレーション・システムまたは社会シミュレーションを実行する方法では、社会シミュレーション・サーバと個人情報収集管理クライアントの間の通信を個人情報管理サーバが仲介することにより、個人情報の効率的な獲得を可能としている(図3を参照)。
請求項6に記載された社会シミュレーション・システムまたは社会シミュレーションを実行する方法では、社会シミュレーション・サーバが、社会シミュレーションを実施するために必要な個人情報を個人情報管理サーバまたは個人情報収集管理クライアントに要求する機能を備えることにより、社会シミュレーションの実施に用いる個人情報の獲得を円滑化している(図4を参照)。
請求項7に記載された社会シミュレーション・システムまたは社会シミュレーションを実行する方法では、個人情報収集管理クライアントまたは個人情報管理サーバにおいて、社会シミュレーション・サーバに送信する個人情報を暗号化または一部を識別不能な状態に加工する手段を有することにより、個人情報提供者のプライバシーの保護を図っている(図5参照)。
請求項8に記載された社会シミュレーション・システムまたは社会シミュレーションを実行する方法では、個人情報収集管理クライアントから社会シミュレーション・サーバに送信される個人情報を、社会シミュレーション実施者または個人情報提供者にとって望ましい形態に変換している(図6参照)。
請求項9に記載された社会シミュレーション・システムまたは社会シミュレーションを実行する方法では、個人情報収集管理クライアントとして、個人の意思決定または行動を支援または代行する機能を有し自律的に動作するエージェント・プログラムを利用している。
請求項10に記載された社会シミュレーション・システムまたは社会シミュレーションを実行する方法では、個人情報収集管理クライアントとして、個人情報を記録したICまたはカードから個人情報を読み取る機能を備えた、ICスキャナまたはカード・スキャナを利用している。
請求項11に記載された社会シミュレーション・システムまたは社会シミュレーションを実行する方法では、個人情報収集管理クライアントとして、紙などのアンケート回答内容記録媒体から個人情報を読み取る個人情報読み取り手段と、該個人情報読み取り手段によって読み取った個人情報をデジタル情報として記録する個人情報記録手段と、該個人情報に記録された個人情報を読み取り社会シミュレーション・サーバに直接的にまたは間接的に送信する個人情報送信手段と、を備えたアンケート・スキャナを利用している。
請求項12に記載された社会シミュレーション・システムまたは社会シミュレーションを実行する方法では、個人情報収集管理クライアントとして、質問をアレンジする、人間または知的判断機構を備えたコンピュータと、質問に回答する調査対象者との相互作用を伴うインタビューのプロセスにおけるインタビューの回答内容を、デジタル情報として自動的に記録する機能、または、社会シミュレーション・サーバまたは個人情報管理サーバまたは自らの内部において調査対象者について既に保持されている個人情報を参照し、社会シミュレーションを実行する上でさらに要求される情報項目を割り出しながら、何を質問するかについて質問者に指示を出し、質問者が回答者から引き出した回答内容を、自動的にまたは質問者の入力に応じて、デジタル情報として記録する機能、を有する、インタビュー回答記録装置を利用している。
請求項13に記載された社会シミュレーション・システムまたは社会シミュレーションを実行する方法では、個人情報収集管理クライアントとして、任意の環境において利用者または利用者の利用する交通手段の進路を導く機能を有する、ナビゲーション・システムまたはナビゲーション装置を利用している。
請求項14に記載された社会シミュレーション・システムまたは社会シミュレーションを実行する方法では、個人情報収集管理クライアントとして、社会シミュレーションに用いるための個人情報を収集する機能以外の主要な機能を有する任意のソフトウェアを利用している。
請求項15に記載された社会シミュレーション・システムまたは社会シミュレーションを実行する方法では、個人情報収集管理クライアントとして、任意の環境において周囲の状況を観測する手段と、観測内容をデジタル情報に変換する手段とを有し、該デジタル情報を記録する記録手段または該デジタル情報を他の装置に伝達する伝達手段のうちひとつ以上とを有する、センサもしくはセンサを備えた測定装置を利用している。
請求項16に記載された社会シミュレーション・システムまたは社会シミュレーションを実行する方法では、個人情報収集管理クライアントにおいて、個人識別情報を記録した個人識別情報記録手段から個人識別情報を読み出す手段と、該個人識別情報を、個人情報を管理する機能を有する、該個人情報収集管理クライアントとネットワーク接続された遠隔個人情報管理サーバに送信する手段と、該遠隔個人情報管理サーバから送信された、該個人識別情報に対応する個人情報を受信する手段とを備え、該遠隔個人情報管理サーバにおいて、該個人情報収集管理クライアントから該個人識別情報を受信する手段と、自身が保持するかアクセス可能であるデータベースから該個人情報識別情報に対応する個人情報を引き出す手段と、該個人情報を元の個人情報収集管理クライアントに送信する手段とを備えることにより、ネットワーク上で管理される詳細な個人情報の活用を可能としている。
請求項17に記載された社会シミュレーション・システムまたは社会シミュレーションを実行する方法では、個人情報収集管理クライアントとして、個人情報提供者がデジタル情報を閲覧または視聴する装置に入力する情報を用いて、該装置を通じて該個人に提示される情報を操作する手段と、該装置を通じて該個人に提示される情報に埋め込まれた、該情報または該情報と密接な関係にある要素を識別することのできる識別情報、または、該情報に反応して個人が該装置を通じて入力する情報、または、この両方、を用いて、該装置を利用する個人のデジタル情報の閲覧行為または視聴行為に関する個人情報を、記録する、または、該装置とネットワーク接続された別の装置に送信する、手段を備えた、人間デジタル情報行動監視システムを利用している。
請求項18に記載された社会シミュレーション・システムまたは社会シミュレーションを実行する方法では、シミュレーションの方法として、エージェントベース社会シミュレーションを適用することにより、現実世界と同様の社会構造をシミュレーション世界で扱うことを可能としている。
請求項19に記載された社会シミュレーション・システムまたは社会シミュレーションを実行する方法では、個人情報収集管理クライアントにおいて、個人情報提供者が購入または利用した商品またはサービスに関する個人情報を、該商品またはサービスを特定することのできる商品サービス識別情報を用いて記録する手段と、該個人情報を直接的または間接的に社会シミュレーション・サーバまたは個人情報管理サーバに送信する手段とを備え、該社会シミュレーション・サーバまたは該個人情報管理サーバにおいて、該個人情報を受信する手段と、該個人情報を構成する、該個人情報提供者が購入または利用した商品またはサービスを特定する商品サービス識別情報を、遠隔商品サービス情報管理サーバに送信する手段と、該遠隔商品サービス情報管理サーバから送信された、該商品サービス識別情報に対応する商品またはサービスの詳細な内容を示す情報を受信する手段を備え、該遠隔商品サーピス情報管理サーバにおいて、該社会シミュレーション・サーバまたは該個人情報管理サーバから送信された該商品サービス識別情報を受信する手段と、自身が保有する、または、自身がアクセス可能な、商品サービス識別情報とこれに対応する商品またはサービスの詳細な情報とを保持するデータベースから、該商品サービス識別情報に対応する商品またはサービスの詳細な情報を引き出す手段と、該商品またはサービスの詳細な情報を元の社会シミュレーション・サーバまたは個人情報管理サーバに送信する手段とを備えることにより、個人の行動に関するより詳細な情報を活用することができる。
請求項20に記載された社会シミュレーション・システムまたは社会シミュレーションを実行する方法では、個人情報収集管理クライアント、個人情報を提供した個人が保持する任意の装置、または個人情報を提供した個人が利用可能な任意のプログラムにおいて、社会シミュレーションの実施者または社会シミュレーションの実施により直接的に恩恵を受ける者から直接的または間接的に提供される、経済的価値を有する電子的な記録、クーポン、ポイント、または電子マネーを受け取る手段を備えることにより、個人情報提供者に個人情報提供の対価を還元することを可能としている。
請求項21に記載された社会シミュレーション・システムまたは社会シミュレーションを実行する方法では、社会シミュレーション・サーバにネットワーク接続することが可能な任意の装置において、特定の特徴を持つ商品、サービス、人、デザイン、または方法に関する情報をデジタル・データとして定義する手段またはステップと、該デジタル・データを個人情報提供者に提示する手段またはステップと、個人情報提供者が該デジタル・データの内容に評価を与える手段またはステップと、該評価の内容を示す情報を社会シミュレーション・サーバに直接的にまたは間接的に送信する手段またはステップを加えている。
請求項22に記載された社会シミュレーション・システムまたは社会シミュレーションを実行する方法では、該社会シミュレーション・サーバにネットワーク接続することが可能な任意の装置において、特定の特徴を持つ商品、サービス、人、デザイン、または方法に関する情報をデジタル・データとして定義する手段またはステップと、該デジタル・データを個人情報提供者の使用するエージェント・プログラムに提示する手段またはステップと、該エージェント・プログラムが、自らのコントロール下にある記録媒体または自らがアクセス可能な記録媒体において保持されている本人の個人情報または必要に応じて新たに確認された個人情報またはこの両方を用いて、該デジタル・データの内容に評価を与える手段またはステップと、該評価の内容を示す情報を社会シミュレーション・サーバに直接的にまたは間接的に送信する手段またはステップを加ええている。
請求項23に記載された社会シミュレーション・システムまたは社会シミュレーションを実行する方法では、個人情報収集管理クライアント、個人情報管理サーバ、社会シミュレーション・サーバのいずれかが備える個人情報記録手段において、社会シミュレーション目的のものとして管理される、本人または他者の個人情報を用いて、社会シミュレーション・サーバが保持するプログラム、または社会シミュレーションにおいて保持されている任意のモデルと同様の計算を行うことのできるプログラムによって、個人に満足される可能性の高い商品またはサービスを推測する計算を実施する手段またはステップと、該手段またはステップによって求められた計算結果を用いて、個人に対して助言または提案を行うコンサルティング・サービスを提供する手段またはステップとを加えている。
請求項24に記載された社会シミュレーション・システムまたは社会シミュレーションを実行する方法では、個人情報収集管理クライアント、個人情報管理サーバ、または社会シミュレーション・サーバにおける個人情報記録手段において管理される、本人の個人情報に基づき、個人に対して電子的に制御可能な広告を提示する任意の手段またはステップを加えている。
請求項25に記載された社会シミュレーション・システムまたは社会シミュレーションを実行する方法では、個人情報提供者が、特定の商品またはサービスについて、助言、提案、紹介、または情報提示、を受ける手段またはステップと、該個人情報提供者が当該商品またはサービスを予約、契約、または購入する任意の手段またはステップとを加えている。
請求項26に記載された社会シミュレーション・システムまたは社会シミュレーションを実行する方法では、個人を人間以外の個体に置き換え、個人情報を個体情報に置き換え、個人情報収集管理クライアントを個体情報収集管理クライアントに置き換え、個人識別情報を個体識別情報に置き換え、遠隔個人情報管理サーバを遠隔個体情報管理サーバに置き換えることにより、人間以外の生命体や人間を取り囲む環境についての情報をシミュレーション世界に反映することにより、シミュレーション世界の現象と現実世界の現象との乖離の抑制を図っている。
請求項27に記載された個人情報収集管理クライアントは、個人情報を収集または管理する手段と、該個人情報を直接的にまたは間接的に社会シミュレーションを実行する社会シミュレーション・サーバに送信する手段とを備えている。
請求項28に記載された社会シミュレーション・サーバは、ひとつ以上の個人情報収集管理クライアントによって収集または管理される個人情報を直接的にまたは間接的に受信し、該個人情報を用いてシミュレーション世界のエージェントまたはモジュールの動作規則を定義または更新し、該エージェントまたはモジュールの時間的変化を辿ることにより現実世界の社会または市場の動きを予測または計算する。
請求項29に記載された個人情報管理サーバは、ひとつまたは複数の個人情報収集管理クライアントまたは他の個人情報管理サーバから送信された個人情報を受信する個人情報受信手段と、該個人情報受信手段によって受信した個人情報を記録する個人情報記録手段と、該個人情報記録手段から読み出した情報を社会シミュレーション・サーバまたは他の個人情報管理サーバに送信する個人情報手段とを備え、個人情報収集管理クライアントと社会シミュレーション・サーバを直接的にまたは間接的に中継する。
請求項30に記載されたエージェント・プログラムは、個人情報を収集または管理する手段と、該個人情報を直接的にまたは間接的に社会シミュレーション・サーバに送信する手段とを備えることにより、個人情報収集管理クライアントとしての機能が与えられている。
請求項1〜4に記載された社会シミュレーション・システムまたは社会シミュレーションを実行する方法の効果は、シミュレーション世界のエージェントの論理構造の定義またはパラメータの設定において、現実世界で活動する個人情報提供者の信頼性のある個人情報の記録を反映することにより、現実世界の個人情報提供者の行動原則を反映した的確なパラメータ設定を行うことが可能となることである。これにより、現実世界の現象とシミュレーション世界の現象との乖離を抑制することが可能となる。
また、収集した個人情報を、伝統的な社会調査結果の分析方法や単純な集計ソフトを用いて分析する方法においては、個々の社会主体間の相互作用、個々の社会主体とマクロな環境との相互作用、個々の社会主体のレベルでの状態遷移の順序など、が社会的動態を左右する鍵を握る場合において、適切な予測または計算を行うことができないが、個票のまま現実世界の社会主体のモデルを有するエージェントの論理構造の定義またはパラメータの設定に用いた社会シミュレーションを実施する方法においては、上記場合においても、シミュレーション世界において同様の状態変化のプロセスを再現することができるため、該状態変化の影響を考慮した、高精度の予測や分析を行うことが可能になる。
請求項5、請求項29等に記載された個人情報管理サーバは、個人情報収集管理クライアントと社会シミュレーション・サーバとの間で通信を中継し、通信の効率化を図ることができる。個人情報管理サーバが一人の個人の個人情報を扱うものである場合、該個人情報管理サーバが、自身と通信可能な個人情報収集管理クライアントの一覧及び各クライアントの特徴に関する情報を保持していれば、社会シミュレーション・サーバから特定の情報に関する要求があった場合、該個人情報管理サーバは、要求された情報を獲得するのに最適な個人情報収集管理クライアントを特定し、これに対し、該情報を必要に応じて収集のうえ報告するよう指示を出すことができる。個人情報収集管理サーバが複数の個人の個人情報を扱うものである場合、該個人情報管理サーバが、個人情報提供者として登録する人の一覧及び提供者を区分するために用いる属性等の基本的な情報を保持していれば、特定された個人の個人情報を扱う、別の個人情報管理サーバまたは個人情報収集管理クライアントに対し、該情報を必要に応じて収集のうえ報告するよう指示を出すことができる。
請求項6に記載された「必要な個人情報の提供を依頼または要求する手段またはステップ」を社会シミュレーション・サーバにおいて有することにより、社会シミュレーション・サーバは、社会シミュレーションを実施するうえで必要な個人情報の項目を、個人情報を提供する個人情報管理サーバ及び個人情報収集管理クライアントに伝達することができ、個人情報を提供する個人情報管理サーバ及び個人情報収集管理クライアントは、必要な情報のみを社会シミュレーション・サーバに伝達することができる。また、継続的な社会シミュレーションを実施する社会シミュレーション・サーバにおいて、社会シミュレーションの実施過程においてモデルの一部または全てが更新された際には、新たに必要となる個人情報項目と不要となる個人情報項目を、その時点で個人情報を提供する個人情報管理サーバ及び個人情報収集管理クライアントに伝達することにより、モデルの動的な変化に対応することが可能となる。
請求項7に記載された「暗号化するまたは個人情報の一部を識別不能な状態に加工する手段またはステップ」は、第一に、個人情報収集管理クライアントと社会シミュレーション・サーバとの間の全てまたは一部の通信を暗号化し、通信過程における情報流出を防止することを可能とする。第二に、社会シミュレーション実施者に必要以上の個人情報が提示されないようにすることで、プライバシーを保護することを可能とする。特に個人情報管理サーバがこの手段またはステップを提供する場合、プライバシーを保護しながら、社会シミュレーション・サーバと個人情報収集管理クライアントとの相互通信を実現することが可能となる。
請求項8に記載された社会シミュレーション・システムにおいて、個人情報を加工する手段またはステップを有することにより、個人情報収集管理クライアントから社会シミュレーション・サーバに送信される個人情報を、社会シミュレーション実施者または個人情報提供者にとって望ましい形態に変換することができる。例えば、加工の内容が規格化である場合、多様な個人情報収集管理クライアントから送信された、異なるフォーマットにおいて記録された個人情報を、同じ社会シミュレーション・サーバで取り扱うことができるよう、統一された規格に変換することができる。加工の内容が匿名情報化である場合、個人情報提供者の提供する個人情報を、社会シミュレーション実施者にとって誰の個人情報であるか分からない形態に変換することにより、個人情報提供者のプライバシーを保護することができる。加工の内容が補足である場合、個人情報収集管理クライアントから提示された個人情報が不完全なものである際に、個人情報管理サーバが保持している本人及び別人の個人情報、該個人情報から計算された情報、また外部から受信した情報などをもとに、不完全部分を推測し、これを補うことにより、社会シミュレーション・サーバの要求を満たす情報に変換することができる。加工の内容が組織化である場合、多様な個人情報収集管理クライアントから離散的な時間ステップにおいて提供された断片的な個人情報を統合することにより、社会シミュレーション・サーバの要求を満たす情報に変換することができる。
請求項9、請求項30等に記載されたエージェント・プログラムを用いた社会シミュレーション・システムを利用する効果は、現実世界において個人の意思決定または行動を支援または代行するエージェント・プログラムの動作と、シミュレーション世界において活動するエージェントの動作を対応づけ、該エージェント・プログラムと該エージェントの動作をほぼ一致させることが可能となる点である(図20参照)。該エージェント・プログラムが利用者の意思決定または行動を支援する場合には、該エージェント・プログラムは利用者の意思決定または行動に大きな影響を与えることや利用者の意思決定または行動を把握することが可能であり、そのため該エージェント・プログラムの保持する利用者の個人情報を用いてシミュレーション世界のエージェントを定義または更新することは、該エージェントは、該エージェント・プログラムの利用者と同じ意思決定や行動の履歴を有し、相関関係の高い意思決定や行動の原則を有することができる。また、該エージェント・プログラムが利用者の意思決定または行動を代行するものである場合には、該エージェント・プログラムの意思決定や行動は該利用者の意思決定や行動そのものとして捉えることができ、該エージェント・プログラムの保持する利用者の個人情報を用いてシミュレーション世界のエージェントを定義または更新することは、該エージェントが個人の意思決定や行動と全く同じ挙動を示すことが可能であるため、この方法を用いた社会シミュレーションの精度は極めて高くなる。いずれにせよ、特に後者の場合には、シミュレーション世界の現象と現実世界の現象との乖離を抑制する手段としては、決定的なものとなる効果が期待される。さらに、従来型のアンケートによって収集された個人情報を用いてエージェントの行動原則を定義する社会シミュレーション・システムとの比較では、当該方法を用いることにより回答者から正確な情報を引き出すための直接的なインセンティブが与えられる点にある。従来型のアンケートを用いた場合、例えば現金や金券、ポイント等の形態で実質的な謝礼が準備された場合であっても、この謝礼はただアンケートに回答するためのインセンティブとして機能するのみで、自らの回答によってサービスや商品のクオリティが上昇しそれによって自分自身も恩恵を受けるといった間接的なインセンティブは働いたとしても、正しく回答することによって直接メリットを受けることはなかった。これに対し、当該発明による方法を用いた場合、自分の行動を支援するエージェント・プログラムに正しい情報を提供することは、該エージェント・プログラムから効果的な支援または代行を引き出すために求められる行為であり、正確で詳細な情報を提示するための直接的なインセンティブを付与することができる。真実性の高い情報を用いることは、社会または市場の振る舞いを予測または計算する際に、その精度を高めるうえで大変重要なことであり、産業上の利用においても非常に大きな効果が期待される。また、社会シミュレーション・サーバで実施されたシミュレーションの結果を該エージェント・プログラムにフィードバックし、該エージェント・プログラムが利用者の意思決定または行動をより的確に支援または代行することが可能となる。例えば、該エージェント・プログラムの意思決定プロセスと同様の意思決定プロセスを辿るシミュレーション世界のエージェントが、他のエージェントとの相互作用や環境変化の推移の結果、ある意思決定によって将来災いに遭遇することが予測される場合、該エージェント・プログラムが該意思決定を行うことに警告を発し、現実世界において将来の災いを回避することができるしくみを構築することも可能である。
請求項10に記載された、ICスキャナまたはカード・スキャナは、個人が携帯するICまたはカードにおいて保持されている個人情報を獲得することができる。ICやカードは、会員証や決済手段として幅広く利用されており、個人がICまたはカードを提示することにより何らかのサービスを利用するごとに、サービスの利用履歴などの情報をリアルタイムに記録することができる。またICやカードの多くは、それ自体または利用者を識別する機能を有するため、この識別に必要な情報が記録されている。特に近年は、ICやカードの記録容量は大きくなっており、利用者の属性やなど、利用者に関するある程度詳細な個人情報を保持することができるようになった。またICやカードにおいて、個人情報を暗号化するしくみを利用すれば、利用者本人によるプライパシーのコントロールをある程度柔軟に行うことができる。
請求項11に記載されたアンケート・スキャナを適用することの効果は、紙などのアンケート回答記録媒体に記載された個人情報を自動的に獲得し、社会シミュレーションに活用することが可能となることである。アンケートは個人の考え方や行動原則を確認する最もプリミティブで基本的な方法であり、多様な場面で柔軟に個人情報を得ることができる。この回答を自動的に読み取り、社会シミュレーション・サーバに送信することは、現実世界の情報を社会シミュレーションに反映する上で大きなメリットとなる。また、アンケートは、単に個人の嗜好や行動原則などの個人情報を獲得するだけでなく、現実世界の社会主体を取り巻く環境を構成する様々な要素の状態や性質を特定する情報を獲得し、シミュレーション世界に反映することができる。特に、食べ物のおいしさや雰囲気の良さなどを数値によって示すことが求められる場合など、客観的な情報に基づく定義を与えることが困難で、人間の感受性によって恣意的な判断を与えることしかできない要素を定義する場合には有効な手段として機能する。
請求項12に記載されたインタビュー回答記録装置を適用する効果としては、以下のものが挙げられる。第一に、インタビューは、調査対象者の回答に応じて調査実施者が質問を組み立てながら、対話形式で質問を繰り返し、調査実施者にとってプライオリティの高い情報に焦点を絞って聞き出すことが可能な個人情報調査方法であるため、該インタビュー回答記録装置を適用することにより、社会シミュレーションで必要とされている個人情報、例えばシミュレーション世界のエージェントの行動原則を特定するうえで欠落している個人情報、を効率的に獲得することが可能となる。第二に、インタビューは、回答内容が、選択肢形式においても、数量的または論理的に表現可能な形式においても、規定されていない質問への回答を柔軟に引き出すことが可能な個人情報調査方法であるため、調査対象者の嗜好や行動原則について、シミュレーション世界のエージェントが保持する可能性のあるモデルとしてはまだ定義されていない、新たな論理構造を準備するために利用することができる。
請求項13に記載された、ナビゲーション・システムまたはナビゲーション装置は、本人の所在及び移動状況等に関する個人情報を記録することができる。ナビゲーション装置として、GPS等の位置測定システムが実装されたものを利用する場合、該位置測定システムを利用することにより、過去または現在の本人の所在や移動履歴に関する個人情報を得ることができる。また、該ナビゲーション装置において、目的地や到着目標時間などを入力する機能を通じて入力する機能を有する場合、将来予定されている本人の所在や移動スケジュールに関する個人情報を得ることができる。これらの個人情報は、現実世界の地理的分布を計算材料として扱うことを特徴とする社会シミュレーションの実施において、シミュレーション世界の各エージェントの所在や移動スケジュールを特定するための情報として利用可能である。
請求項14に記載されたソフトウェアを適用することにより、社会シミュレーションに用いるための個人情報を収集する以外の目的においてソフトウェアが利用される際に入力される様々な個人情報を、社会シミュレーションに活用することが可能となる。個人情報提供者となることに同意した個人が、自らの目的においてソフトウェアを利用するプロセスの中で、該個人情報提供者の個人情報を収集することが可能であり、社会シミュレーションを実施するための個人情報を収集するための特別な作業を、個人情報提供者に求める必要がないため、個人情報提供者に負荷をかけることがなく、より詳細な情報を多くの個人情報提供者から収集することが可能になると期待される。また、収集対象とする個人情報の内容やソフトウェアの用い方次第では、明示的な形態でアンケートを実施するよりもはるかに正確な個人情報を収集することが可能となる。ソフトウェアとしてゲーム・ソフトを適用する場合は、ゲーム・ソフトを利用するプレイヤーが、純粋にゲームを楽しむことを追求することにより、該プレイヤーのますます詳細かつ正確な個人情報の入力が得られるしくみを構築することができる。ソフトウェアとして教育ソフトを適用する場合は、教育ソフトの利用者が、何かを熱心に学習しようとするほど、該利用者の能力を的確に捉えた個人情報の入力が得られるしくみを構築することができる。ソフトウェアとして個人情報管理ソフト(PIM)を利用する場合は、個人情報管理ソフトの利用者が、自身を取り巻く情報の管理において該個人情報管理ソフトに依存するほど、該利用者の交流相手やスケジュールに関する緻密な個人情報を獲得することのできるしくみを構築することができる。ソフトウェアとして家計簿ソフトを適用する場合は、家計簿ソフトの利用者が、自身の収入、支出、資産等の管理において該家計簿ソフトに依存すればするほど、収入、支出、資産等に関する該利用者の正確で詳細な個人情報を獲得することのできるしくみを構築することができる。また、該家計簿ソフトが、様々な決算の際に提示される各種カードやIC、或いは各種口座との間で、自動的に情報をやり取りする機能を備えることにより、該利用者が家計簿ソフトにおいてより詳細な情報を管理し、該家計簿ソフトへの依存度を高めるのを促進することが可能となり、その結果社会シミュレーション・サーバに提供される個人情報もさらに充実することが期待される。
請求項15に記載されたセンサを適用することにより、個人の所在や動作に関する個人情報を逐一詳細に記録することができる。センサで観測された情報を処理することにより得られた、個人の所在や動作に関する情報には、精度の高いものも低いものも含まれているが、精度の低い情報であっても、センサの搭載された様々な装置や、また他の様々な情報を併せて計算することにより、個人の所在や動作を特定するか、または絞り込むことができる。また、この情報を社会シミュレーション・サーバにリアルタイムに送信すれば、社会シミュレーション・サーバは、社会シミュレーションの前提条件となる個人情報を常に更新しながら計算内容を調整するモデルを適用することができる。
請求項16に記載された、遠隔個人情報管理サーバから個人識別情報に対応する個人情報を引き出す手段を備えた装置の適用は、ICやカードだけでは管理することのできない、詳細な個人情報を引き出すことを可能とする。また、利用するICまたはカードを選択するか、本人の指定により特定するか、またはその他何らかの方法を用いることにより、遠隔個人情報管理サーバで管理される個人情報の一部のみを指定し、その情報のみを提供するシステムを利用すれば、必要な情報のみを提供することが可能となり、個人情報提供者のプライバシーを保護することができる。
請求項17に記載された、人間デジタル情報行動監視システム、を適用することの効果は、個人情報提供者に特別な負荷をかけることなく、個人情報提供者が自己の目的を達成するための自然な動作を実行するだけで、デジタル情報空間における個人情報提供者の情報行動に関し、個人情報提供者の実際の情報行動に基づく、詳細かつ正確な個人情報を収集し、これを社会シミュレーションに活用することが可能となることである。これによって得られた個人情報は、現実世界の個人に対応するシミュレーション世界のエージェントを定義したり、状態を更新したりするうえで、例えば次のような目的において活用することができる。個人情報提供者がデジタル情報空間において接触した情報のリストや接触情報に関する個人情報は、本人に対応するシミュレーション世界のエージェントが意思決定の際の判断材料として利用することのできる情報を特定するための情報として活用することができる。本人がある商品の詳細を閲覧していれば、本人は該商品の情報をある程度知っていて、該商品は本人が商品を選ぶ際の選択肢となる存在であり、本人に対応するシミュレーション世界のエージェントと該商品に対応するシミュレーション世界における要素との関係においても、これと同じ状態とすることが可能となる。また、個人情報提供者の情報行動のパターンに関する個人情報は、本人に対応するシミュレーション世界のエージェントの情報行動のパターンを定義するための情報として活用することができる。例えば、本人が黄色いバナー広告を必ずクリックするという情報行動のパターンを有していれば、本人に対応するシミュレーション世界のエージェントにもこれと同じ情報行動のパターンを与えることが可能となる。
請求項18に記載された、エージェントベース社会シミュレーションを適用することは、利用者の行動を代行または支援するエージェント・プログラムとシミュレーション世界のエージェントとを直接リンクさせることにより、シミュレーション世界のエージェントの動作と現実世界の個人情報提供者の動作を一致または近似させることができることである。過去に提案または実施された、社会シミュレーションのためのアンケート方法においては、何らかの形態で報酬を出すことにより回答すること自体へのインセンティブを働かせることはあったとしても、正しく回答することへのインセンティブを働かせることは容易でない場合が多く、そのため獲得される情報が正しいものであると期待される根拠は必ずしも充分でないことが多かった。本発明に記載された、利用者の行動を代行または支援するエージェント・プログラムとシミュレーション世界のエージェントとを直接リンクさせる方法を用いれば、エージェント・プログラムが正しく振舞うためのものとして情報を求めることにより、正しく詳細な情報を入力するための充分なインセンティブと機会を提供することが可能となる。正しく詳細な情報であると期待される個人情報をシミュレーション世界のエージェントの動作原則に反映することにより、シミュレーション世界のエージェントの動作と現実世界の個人情報提供者の動作を一致または近似させることが可能となる。
請求項19に記載された、遠隔商品サービス情報管理サーバを利用した社会シミュレーション・システムは、個人情報のなかに含まれる、個人が購入した商品またはサービスの詳細な情報の管理を効率化することを可能とする。個人が購入した商品またはサービスの一つひとつに関し、その特徴などを示す詳細な情報を保持するのはデータの通信及び記録、管理の観点がら考えると、必ずしも効率的であるとはいえない。商品やサービスは、通常は同様の特徴が与えられる商品が数多く存在することが多く、この場合には、商品やサービスの特徴などを示す詳細な情報は遠隔商品サービス情報管理サーバにおいて管理し、個人情報のなかでは商品やサービスに関する情報を商品やサービスを識別する識別情報を用いて記述し、詳細な情報は必要に応じて遠隔商品サービス情報管理サーバの保持する情報を参照することが効率的である。一方、商品やサービスのなかには、一つひとつがカスタマイズされ、同じものがいくつも存在しないものも含まれており、この場合には、個人が購入または利用した商品またはサービスに関する詳細な情報を個人情報のなかに保持することが妥当な方法である。ただし、この場合においても、商品やサービスが他の商品やサービスとある程度の特徴を共有する場合には、その標準的な要素を整理して、これを遠隔商品サービス情報管理サーバにおいて管理し、一つひとつの商品やサービスの特徴を特定する際には、標準的な要素を整理したもののうち最も近いものを指定する識別情報を示した上で、各商品やサービスの特徴と標準的な要素を整理したものとの差異を明記した差分データを与え、これによって商品やサービスの特徴を特定する方法を取ることが可能であり、その場合、一つひとつの商品やサービスに関する全ての特徴を記載するのに比べ、データの通信及び記録、管理の面での効率は高められる。
請求項20に記載された、「経済的価値を有する電子的な記録、クーポン、ポイント、または電子マネーを受け取る手段」を備えた、「個人情報収集管理クライアント、個人情報を提供した個人が保持する任意の装置、または個人情報を提供した個人が利用可能な任意のプログラム」は、個人情報提供者が、提供した個人情報の対価を受け取ること、即ち個人が自分自身の個人情報を実質的に販売することを可能とする。マーケティング戦略の策定やマーケティング活動そのものにおいて有用な個人情報は、企業にとって価値のある情報である。一方、個人にとって自身の個人情報が収集されることはプライバシーの侵害として認識されるため、不必要な個人情報の提供は回避したいと考える人や、個人情報が自分の意識しないところで収集されることに警戒心を持つ人が多い。しかし、請求項20に記載に手段を用いることにより、個人情報を提供することに対する正当な対価が支払われるしくみを適用すれば、個人に対して個人情報を提供するインセンティブを付与することができ、より多くの人から、自発的に、精度の高い個人情報の提供を受けることが可能になると期待される。これにより、精度の高い社会シミュレーションを実施することが可能となる社会シミュレーション実施者にとっても、提供した個人情報の正当な対価を受け取ることのできる個人情報提供者にとっても、望ましい状況が導かれる。さらに、提供する個人情報の範囲を柔軟に指定することのできるしくみと併用すれば、社会シミュレーション実施者は提供される個人情報の範囲に応じた対価の還元が可能となり、個人情報提供者にとっては、提供される対価に応じた個人情報の提供が可能となる。従って、請求項20に記載した手段を用いることにより、社会シミュレーションをめぐる個人情報の売買市場を整備することが可能となる。
請求項21、請求項22に記載された、社会シミュレーション・システムまたは社会シミュレーションを実行する方法は、次のような効果を有する。第一に、シミュレーション世界におけるエージェントの、デジタル情報として定義された評価基準によって評価することが困難な対象を取り扱う社会シミュレーションを実施する場合、該対象を表現した情報を現実世界の個人情報提供者に提示し、それに対する評価を確認することによって、各エージェントの該対象に対する評価として扱うことを可能とする。これにより、デジタル情報として定義された評価基準によって評価することが困難な対象であってもシミュレーション世界で取り扱うことを可能とし、市場への投入を検討している商品に関して、シミュレーション世界における精度の高いテスト・マーケティングを実施することを可能とする。第二に、プライバシー保護などの理由により、個人情報提供者が、一部の個人情報、例えば本人の評価基準を示す情報、を直接社会シミュレーション・サーバに提供したくない場合において、当該請求項に記載されたシステムまたは方法を用いることにより、提供したくない個人情報を直接提供することなく、社会シミュレーションを機能させることができる。例えば、評価基準に関する個人情報は提供したくないが、特定対象に対する評価結果に関する個人情報は提供しても構わないという場合、社会シミュレーション・サーバは評価対象に関する情報を、個人情報提供者または該個人情報提供者の使用する個人情報収集管理クライアントにこれを送信し、該個人情報提供者または該個人情報収集管理クライアントは該評価対象を評価し、社会シミュレーション・サーバが該評価を各エージェントの意思決定プロセスに組み込むことにより、社会シミュレーション・サーバは判断基準に関する情報の提供を受けることなく、該判断基準に関する情報の提供を受けた場合と同じ計算結果を導くことができる。第三に、個人情報の一部であって、社会シミュレーションにおいてアクセスされる確率や頻度が十分に少ないと予測された個人情報、頻繁に更新される個人情報、新たに設置された項目に該当する個人情報など、社会シミュレーション・サーバが保持しない個人情報を用いて、加工または評価しなければならない情報が発生した場合、当該請求項に記載されたシステムまたは方法により、加工または評価しなければならない該情報を、個人または個人の利用する個人情報収集管理クライアントに送信し、該個人または該個人情報収集管理クライアントは、該情報を、本人の個人情報を用いて加工または評価し、該加工または評価によって得られた情報を社会シミュレーション・サーバに送信し、社会シミュレーション・サーバはこの情報を、計算プロセスに組み込むことができる。第四に、シミュレーション世界において各エージェントにとって好ましい結果が得られた場合、現実世界においてこれと同じ結果が実現されるのをサポートすることができる。例えば、人や組織の間の関係構築のプロセスを取り扱う社会シミュレーションにおいて、シミュレーション世界で人や組織として振る舞う複数のエージェントの間で好ましい関係構築が実現される可能性が高いと計算された場合、各エージェントに対応する現実世界の人や組織に、それぞれの相手の情報を提示し、この情報に対する反応を確認し、実際の人や組織がお互いの情報に好印象を持つ反応を示した場合に、システムは複数の人や組織を引き合わせることができる。また、例えば、商品やサービスの市場を扱う社会シミュレーションにおいて、シミュレーション世界における各エージェントが高い満足を持つと計算された商品やサービスに関する情報を、該エージェントに対応する現実世界の個人情報提供者に提示し、該商品やサービスを推薦することができる。これにより、シミュレーション世界で得られた好ましい計算結果を、現実世界において実現するよう働きかけることができ、社会シミュレーションの実施に協力した現実世界の情報提供者に利益を還元することができる。また、現実世界の情報提供者が社会シミュレーション・サーバの働きかけに応じた場合、シミュレーション世界の現象と現実世界の現象が一致するため、シミュレーション世界と現実世界の乖離を抑制することができる。
さらに、請求項22に記載された、社会シミュレーション・システムまたは社会シミュレーションを実行する方法を適用する場合には、次の効果が期待される。社会シミュレーションの実施において必要であって社会シミュレーション・サーバが保持しない個人情報を、社会シミュレーション・サーバが必要に応じて獲得するプロセスの多くを、社会シミュレーション・サーバと、該個人情報提供者の利用するエージェント・プログラムとの、直接的または間接的なやり取りにより、必ずしも該個人情報提供者の操作を介在させることなく、或いは、該個人情報提供者の操作を最小限に留め、自動的にまたは半自動的に処理することが可能となる。このしくみを積極的に活用し、シミュレーション世界における各エージェントが担当する計算プロセスを、社会シミュレーション・サーバにおいて処理するのではなく、全て現実世界の個人情報提供者が利用するエージェント・プログラムにおいて処理する方法を適用した場合には、社会シミュレーション・サーバに、評価基準に関する個人情報をそのまま伝達するのではなく、評価基準によって計算された結果に関する個人情報を伝達するだけで社会シミュレーションを実施することができるため、個人情報提供者のプライバシー侵害のリスクを低く抑えることができ、より多くの個人情報提供者の社会シミュレーションへの参加を期待することができる。さらに、社会シミュレーションの実施に用いる個人情報が頻繁に更新される個人情報である場合であっても、常にエージェント・プログラムが有する最新の個人情報を用いることが可能であり、社会シミュレーションを実施している最中に更新された個人情報であっても、その更新を社会シミュレーションにリアルタイムに反映することができる。
請求項23に記載された、社会シミュレーション・システムの効果としては、以下のものが挙げられる。第一に、本人の嗜好や状況を示す個人情報に基づき個人の意思決定を支援する場合、本人がその提案を受け入れれば、シミュレーション世界における予測または計算の結果と実際の本人の行動を一致させることができるため、シミュレーション世界と現実世界の乖離を抑制することができる。また本人がその提案を受け入れなければ、システムは本人の嗜好や行動原則について学習することにより、シミュレーション世界と現実世界の乖離を抑制することができる。第二に、他者の個人情報に基づき個人の意思決定を支援する場合、第一の利点に加え、本人とその特性において何らかの相関関係を有する個人やグループの間で高い評価が与えられると計算された商品やサービスを提案することにより、商品やサービスの選択における本人の視野を広げることができる。また、シミュレーション世界において高い評価の与えられる商品やサービスの現実世界における市場を広げることができる。第三に、助言、提案、または広告の対象とする個人の数を調整することにより、マーケットのゆるやかな管理が可能となる。例えば、ある商品やサービスの供給可能な量が限られているとき、その商品やサービスを最も必要としていると推測される、ある一定数の個人に対してその商品やサービスを利用するよう提案することにより、その商品やサービスを、提供可能な量に合わせて、最も満足してもらえる利用者に提供することができる。具体的な利用例としては、外食店に同じ時間に入ることのできる人数は限られているが、そのとき最もその店を利用するニーズが高いと推測される利用者に利用してもらえるよう推奨することができる。さらに、社会シミュレーション・サーバにおいて商品やサービスの利用量に関する予測を行い、その結果を活用することによりマーケットの管理の精度を高めることもできる。
請求項24に記載された、社会シミュレーション・システムの効果としては、以下のものが挙げられる。第一に、社会シミュレーションのために収集または管理される精度の高い個人情報を活用して広告対象者を絞り込み、また該個人情報に応じて広告内容の調整を行うことにより、効果的なパーソナル・マーケティングが可能となる。第二に、現実世界の特定個人と、該特定個人に対応するシミュレーション世界のエージェントに、同じ広告情報を提供することにより、該エージェントが接触する広告情報と該特定個人が実際に接触する広告情報を一致させ、該エージェントと該特定個人が意思決定の際の判断材料として利用することのできる情報を一致させることができるため、シミュレーション世界と現実世界の乖離を抑制することができる。また提示された広告情報に対する本人の反応を社会シミュレーション・サーバにフィードバックさせることにより、該エージェントの意思決定原則を本人の意思決定原則に近づけるための材料として活用することができる。第三に、請求項23の発明の効果に記載された第三の効果と同様に、広告の対象とする個人の数を調整することにより、マーケットの緩やかな管理が可能となる。第四に、カスタマイズすることが可能な特定品目商品の市場に関する社会シミュレーションにおいて、最も嗜好に適合する状態にカスタマイズされた特定品目商品の情報をエージェントに提供し、該エージェントが該特定品目商品を選んだ場合に、該エージェントに対応する現実世界の個人情報提供者に対し、カスタマイズされた該特定品目商品の情報を、該特定品目商品に関する広告として現実世界の個人情報者に提供する場合には、個人情報提供者の嗜好に最も適合する状態にカスタマイズされた特定品目商品の情報を、該特定品目商品を購入する可能性が高いと考えられる個人情報提供者に対して、提供することが可能となり、広告コミュニケーションの効率を高める効果が期待される。さらに、個人情報提供者が、広告情報の提供を受けた商品を予約、契約または購入する手段を併せて備えた場合には、個人情報提供者が該商品を購入した際に、該特定品目商品を提供する事業者は、該個人情報提供者に、該特定品目商品を、カスタマイズされた状態で提供することが可能となり、流通効率と顧客満足を向上させる効果が期待される。
請求項25に記載された、社会シミュレーション・システムの効果としては次のものが挙げられる。第一に、商品やサービスの予約、契約、または購入の数を社会シミュレーション・サーバに送信し、シミュレーションの前提条件を随時更新することにより、シミュレーション世界と現実世界の乖離を抑制し、シミュレーションの精度を高めることができる。第二に、請求項23及び請求項24の第三の実施例において、助言や提案を行う対象とする個人または広告を提供する対象とする個人の数を調整することにより、マーケットのゆるやかな管理が可能となることは既述の通りであるが、これに予約、契約、または購入する手段またはステップを加えることにより、マーケットの管理をさらに厳密に行うことができる。第三に、企画段階の商品、サービス等の情報を扱う場合には、当該する商品やサービス等が実際に提供された場合にその商品やサービスを利用するという予約や契約を行うことによって、商品やサービスの提供者はマーケットの大きさを推定することができるため、企画された商品やサービス等を実際に開発し、販売することが合理的であるかどうかを決定する上で大変有意義である。一方、個人利用者は企画された商品やサービス等が実現した場合に、どんなに人気が出て品薄になっても必ず入手することができる。また、自分の求める商品やサービス等が実際に提供されるよう、自分がそれを求めているという姿勢を提供者に示し、その商品やサービス等の実現を促すことができる。企業等がどの商品を開発するかについての意思決定に参加するという点においては、利用者として一票を投じるのと同様の効用を得ることができる。
請求項26に記載された、社会シミュレーション・システムを利用する効果としては、以下のものが挙げられる。第1に、該システムまたは方法を、個人ではなく人間以外の生命体である個体に適用することにより、人間以外の生命体による社会的動態についての社会シミュレーションを実施するうえで、シミュレーション世界と現実世界の乖離を抑制するために利用可能な人間以外の生命体である個体の個体情報を獲得することができる。第2に、該システムまたは方法を、個人ではなく物品である個体に適用することにより、人間社会についての社会シミュレーションを実施するうえで、現実世界の人間を取り囲む環境と、シミュレーション世界のエージェントを取り囲む環境とを対応づけることにより、シミュレーション世界と現実世界との乖離を抑制することができる。このような適用は、人間の行動がある程度分かっているか、個々の人間の性質や状態がそれほど重要ではなく、それよりも、個々の人間を取り囲む環境要因による影響が大きい社会的動態についての社会シミュレーションを実施する場合に有効である。第3に、請求項1〜25等に記載された社会シミュレーション・システムまたは社会シミュレーションを実行する方法と、請求項26に記載された社会シミュレーション・システムまたは社会シミュレーションを実行する方法とを、同じ社会シミュレーションにおいて併せて用いれば、前者のシステムまたは方法により、現実世界の人間の個人情報をシミュレーション世界のエージェントに反映し、後者のシステムまたは方法により、現実世界の人間を取り囲む様々な要素に関する情報をシミュレーション世界のエージェントを取り囲む環境を構成する様々な要素に反映することが可能となり、現実世界とシミュレーション世界の乖離をさらに抑制することが可能となる。
請求項27等に記載された、個人情報収集管理クライアントは、本発明に記載の社会シミュレーション・システムまたは社会シミュレーションを実行する方法において、社会シミュレーションを実行する上で必要な個人情報を効率的に収集し、直接的または間接的に社会シミュレーション・サーバに送信することができる。個人情報提供者本人の周辺において、本人の利用する製品やサービスに付随して入力される情報、本人の直接入力する情報、または本人の行動を観測することにより得られた情報を利用するため、個人情報提供者に関するより正確で詳細な個人情報を、効率的に獲得することができる。また、一人の個人の個人情報を獲得するために、複数の個人情報収集管理クライアントを組み合わせて用いることが可能であり、この場合には、目標とする個人情報の性質に応じ、個人情報を構成する各要素の入手方法を複数の個人情報収集管理クライアントに分散することにより、複合的な方法で個人情報を獲得することが可能となる。正確で詳細な個人情報を社会シミュレーションに用いることにより、社会シミュレーションのシミュレーション世界の現象と現実世界の現象との乖離を抑制することが可能となる。
請求項28に記載された、社会シミュレーション・サーバは、現実世界で活動する個人の行動原則や状態を示す個人情報を、シミュレーション世界で動作するエージェントに反映させることにより、該個人と該エージェントの動作を一致または近似させ、これによって、シミュレーション世界の現象と現実世界の現象の乖離を抑制することができる。
請求項1〜4に記載された社会シミュレーション・システムまたは社会シミュレーションを実行する方法の実施例は、あるオフィス街における昼食市場をシミュレートする、エージェントベース社会シミュレーションを実施するものである。これは、現実世界のオフィス街における昼食市場において活動する社会主体のモデルを有するシミュレーション世界のエージェントまたはモジュールの時間的変化を辿ることにより社会または市場の動きを予測または計算する社会シミュレーション・システムであって、該昼食市場において活動する昼食消費者の個人情報を収集または管理する手段を有する個人情報収集管理クライアントにおいて、個人情報収集手段によって収集された個人情報または個人情報管理手段によって管理される個人情報を直接的にまたは間接的に社会シミュレーション・サーバに送信する個人情報送信手段と、社会シミュレーション・サーバにおいて、複数の個人情報収集管理クライアントから送信された該個人情報を直接的にまたは間接的に受信する個人情報受信手段と、該個人情報受信手段によって受信された個人情報を記録する個人情報記録手段と、該個人情報記録手段から読み出した個人情報を用いて、該昼食市場において活動する昼食消費者のモデルを有するエージェントまたはモジュールの、状態遷移または動作の原則を規定するデータまたは論理構造を、定義または更新する手段と、該手段によって定義または更新された複数のエージェント、モジュール、またはその両方を動的に制御することによって、社会または市場の動きを予測または計算する社会シミュレーション手段と、を有する社会シミュレーション・システムである。社会シミュレーション・サーバにおいては、社会シミュレーションを実施する手段として、次のようなプログラムが実装される。
シミュレーションを実行するプログラムは、オブジェクト指向プログラミング言語によって設計され、主に、シミュレーションの実行を制御するA部分と、シミュレーションの利用者にシミュレーションの実行状況等を伝達する表示機能とシミュレーションを実行する際の条件などを該利用者が入力する設定機能を有してヒューマン・インタフェースとしての役割を担うB部分と、シミュレーション世界の状況を管理するC部分と、によって構成される。これらの各部分は一つまたは複数のオブジェクトとして与えられ、各オブジェクトはその構成要素として下位のオブジェクトを保持することや、他のオブジェクトとの間で相互作用を行うことができる。なお、社会シミュレーション用のプログラムは、JAVAを始めとしたオブジェクト指向プログラミング言語を用いて作成することが望ましいが、それ以外のプログラミング言語を用いて作成することもできる。
シミュレーションを実行する際には、最初にシミュレーションの実行を制御するA部分が呼び出される。該A部分は、ヒューマン・インタフェースとしての役割を担うB部分を呼び出し、B部分はシミュレーションの実行にあたって必要な設定に関する入力を受け付ける画面をシミュレーション実行者に提示し、入力を待つ。設定内容の入力が終了すると、B部分はA部分に設定内容を渡し、A部分はその内容に応じて、最初のシミュレーションを実行する条件を示すデータに基づいてシミュレーション世界の構成と初期条件を定義することにより、シミュレーション世界の状況を管理するC部分を準備し、シミュレーションの実行を開始するシグナルをC部分に与え、シミュレーションの実行が終了するのを待つ。一度のシミュレーションの実行が終了すると、シミュレーションの実行のなかで発生したデータのうち、該設定において指定された記録が必要なデータを記録する。繰り返しの回数が指定されている場合や、一部のエージェントについて変数の値を調整しながら実行の結果を比較する場合など、必要に応じて、次のシミュレーションを実行する条件を示すデータを準備し、以下同様に進め、必要なだけシミュレーションの実行を繰り返す。全てのシミュレーションが終了すると、A部分は、必要に応じて既に保存されたデータを加工し、これを保存した上で、シミュレーションの実行を終了させる。このとき、シミュレーションの実行結果に関する情報をシミュレーションの実行者に適切な方法で提示するプロセスを組み入れることもできる。また、保存されたシミュレーションの実行結果は、適切なアプリケーションを用いて参照することができ、シミュレーションの実行者はこれによって実行の結果を確認することもできる。
ヒューマン・インタフェースとしての役割を担うB部分は、主に、シミュレーションの実行にあたって必要な設定に関する入力を受け付ける部分、シミュレーションの実行を管理するための操作手段を提供する部分、シミュレーションの実行状況を表示する部分、シミュレーションの実行結果を表示する部分、によって構成される。第一に、シミュレーションの実行にあたって必要な設定に関する入力を受け付ける部分では、シミュレーションに関する設定内容を入力するためのインタフェースを実装する。入力することのできる設定内容としては、シミュレーションの対象とする地域の指定、シミュレーション世界に配置する各種エージェントの数、エージェントを準備する際にその元となる個人情報提供者の属性による絞り込み、シミュレーション世界に組み入れる各種変数やパターンの調整、シミュレーションの終了時間、記録する変数や集計データの指定、シミュレーションの繰り返し回数、シミュレーションに利用する擬似乱数のシード値などが考えられる。また、一部のエージェントについて変数の値を調整しながら、変数の値ごとにシミュレーション実行結果の比較を行いたい場合には、当該エージェントを特定し、調整の対象とする一つまたは複数の変数と各変数に与える値の一覧を入力するか、その内容を記述した設定ファイルを指定する、設定画面を提示する。設定事項の量と内容に応じては、設定画面を複数に分割することも考えられる。さらに、シミュレーション実行者に対しシミュレーション・サービスの提供者がシミュレーション実行の都度課金する場合には、この設定を行う際にシミュレーション世界で機能させるエージェントの数やシミュレーションの内容などに応じた料金を提示し、契約を結ぶプロセスを組み込むこともできる。第二に、シミュレーションの実行を管理するための操作手段を提供する部分では、シミュレーションの実行を開始する処理、シミュレーションの実行を一時停止する処理、一時停止されたシミュレーションを一定時間先まで進める処理、一時停止されたシミュレーションを一定時間前まで戻す処理、現在進めているシミュレーションを終了して次のシミュレーションを開始する処理、シミュレーションをリセットする処理、シミュレーションを終了する処理、などの操作を可能とするインタフェースを実装する。第三に、シミュレーションの実行状況を表示する部分では、現在進められているシミュレーションの任意の変数または任意のエージェントのステイタスや推移を示す情報を、グラフ、表、テキスト、図などを用いて表示するインタフェースを実装する。タグやボタン、ツリー構造を示すしくみなどを用いて、どの情報を表示するかについて切り替えすることのできるようにしておく。また、シミュレーション世界において既に存在する変数を表示するのみならず、シミュレーション世界に存在する変数を用いた数式によって独自の変数を定義し、この変数のステイタスや推移を確認することを可能とするしくみを実装することもできる。さらに、表示された情報の一部について、数値やグラフの形状などを変化させることにより、シミュレーション世界のステイタスを修正し、そのうえでシミュレーションを継続させることのできるインタフェースを実装することもできる。なお、シミュレーションの実行状況を表示する部分は、シミュレーションの実行を管理するための操作手段を提供する部分と組み合わせて用いるのが効果的である。第四に、シミュレーションの実行結果を表示する部分では、シミュレーションの実行結果、シミュレーションの実行結果が記録された情報、またはシミュレーションの実行結果が加工された上で記録された情報を、グラフ、表、テキスト、図などを用いて表示するインタフェースを実装する。タグやボタン、ツリー構造を示すしくみなどを用いて、どの情報を表示するかについて切り替えすることのできるようにしておく。また、シミュレーションの実行結果を分析することのできるツールを追加して備えることも可能である。なお、このインタフェースは、独自のインタフェースを準備しても構わないし、既存のブラウザーなどのプラットフォームの上に準備しても構わない。
シミュレーション世界の状況を管理するC部分は、主に、シミュレーション世界全体の状況を制御する部分と、シミュレーション世界のマクロな環境の状況を保持する部分と、シミュレーション世界で活動するエージェント、によって構成される。シミュレーション世界で活動するエージェントには、現実世界で活動する昼食消費者のモデルを有する昼食消費者エージェントと、現実世界で活動する昼食提供者のモデルを有する昼食供給者エージェントの、二種類のエージェントが存在し、C部分は複数の昼食消費者エージェントと複数の昼食供給者エージェントを管理する。
昼食供給者エージェントは、外食店であるかどうかの状態を示す変数と弁当屋であるかどうかの状態を示す変数を保持する。また、昼食提供者エージェントは、自身が提供することのできる昼食アイテムの一覧と、それぞれのアイテムの詳細な情報、例えば、アイテムの分類や、アイテムに含まれる飲食品目、各品目の量やバランス、味付けの特徴、その他の特徴、一日に提供することのできるアイテム数、値段などを示す情報、を保持する。さらに、外食店であることを示す値が当該変数に与えられている場合には、一度に収容することのできる客の数、客が入店してから食事を終えて退出するまでに要する平均時間、を示す変数値を保持し、弁当屋であることを示す値が当該変数に与えられている場合には、販売を担当する店員の数、一人の店員がひとりの客を裁くことのできる平均時間、を示す情報を保持する。各昼食提供者エージェントは、シミュレーションの対象とするオフィス街において実際に昼食を提供している飲食店や弁当屋、コンビニ、などの実態を把握するデータをもとに、定義または更新される。
昼食提供者エージェントは、自身が提供する昼食アイテムを昼食消費者エージェントが求めた際に以下のような動作を行う。昼食提供者エージェントが外食店である場合には、店内の席数に余裕があれば、1つの昼食消費者エージェントあたりに1つの席を割り当て、客が入店してから退出するまでに要する平均時間が経過するまでその状態を保持し、該時間が経過した時点で割り当てた席を解放する。店内の席数に余裕がない場合には、該昼食消費者エージェントを列に並ばせ、席が解放されるたびに、順に席を割り当てて行く。このとき、昼食消費者エージェントが3人連れであれば4席を割り当てるなど、店内のテーブルの形状とその運用方針に応じたカウントのルールを定めておくこともできる。昼食提供者エージェントが弁当屋である場合には、昼食消費者エージェントを列に並ばせ、順に昼食アイテムを提供する。1つの昼食消費者エージェントに対し昼食アイテムを提供するのには、1人の店員が1人の客を裁くことのできる平均時間を要し、店員が複数いる場合には、該複数倍のスピードでこれを提供することができる。
昼食アイテムが保持する情報の形式としては、例えば次のような形式が考えられる。まず、アイテムの分類については、分類を記録するC00からC99までの100の変数を準備し、それぞれの変数に、寿司、ラーメン、北京料理、四川料理、イタリアン、フレンチなどの料理分類が割り当てられ、該当する変数に1を、それ以外の変数に0を与えるようにする。アイテムに含まれる飲食品目については、各飲食品目を示すM000からM999までの1000の変数を準備して、含まれていなければ0を、含まれていれば正の数値を与えるようにする。各品目の量やバランスは、各飲食品目を示す変数に与える正の数値の大きさ及びそれぞれの比率によって表現するようにする。味付けの特徴は、塩分の濃さ、しょうゆの濃さ、甘さ、ピリ辛度、などを記録する変数を準備し、それぞれの変数について、各料理の標準的な味付けを0としたうえで、当該アイテムにおけるそれぞれの味付けの特徴を標準的な味付けからの差異によって与え、それよりも強ければプラスの数値、弱ければマイナスの数値を与える。その他の特徴についても同様の方法にて定義する。一日に提供することのできるアイテム数は、単純に正の数値またはゼロとして表されるが、当該アイテムを提供する昼食提供者エージェントによって、売れ行きに応じて柔軟に書き換えられることができる。値段を示す情報も単純に正の数値にて表される。
昼食消費者エージェントは、原則として、平日のうちは毎日一つの昼食アイテムを選択し、消費するという一連の動作を実行する。昼食エージェントは、予め準備された選択パターンのいずれかのプロセスを辿ることによって昼食アイテムを選択する。選択パターンとしては、様々なものが考えられるが、例えば次のものが考えられる。昼食提供者エージェントのなかから、ランダムに一つを選択し、該昼食提供者エージェントの提供する昼食アイテムのなかから、ランダムに一つを選択するP1パターン。過去に利用した昼食提供者エージェントの提供する昼食アイテムうち最も満足度の高かった昼食提供者エージェントの提供する昼食アイテムのなかから、ランダムに一つを選択するP2パターン。過去に利用した昼食提供者エージェントの提供する昼食アイテムうち一定の値以上に満足度の高かった昼食アイテムのなかから、ランダムに一つを選択するP3パターン。過去に利用した昼食アイテムのなかから、それぞれの満足度の高さに応じて割り振られた確率で、どれか一つの昼食アイテムを選択するP4パターン。ある確率でP1パターンを、別のある確率でP2パターンを、さらに別のある確率でP3パターンを適用し、それぞれの手順で昼食アイテムを選択するP5パターン。過去1週間以内に利用したことのある昼食アイテムを除外したうえで、P4パターンを適用して昼食アイテムを選択するP6パターン。外食店であることを示す変数値が与えられている昼食提供者エージェントの提供する昼食アイテムのなかから、特定品目を含む昼食アイテムを抽出し、そのあとでP5パターンを適用することにより昼食アイテムを選択するP7パターン。一定以上混雑していたり、行列ができていたりする昼食提供者エージェントの提供する昼食アイテムを除外したうえで、P4パターンを適用して昼食アイテムを選択するP8パターン。過去に利用した昼食エージェントに対し、そこで最も満足度が高かった昼食アイテムの満足度に応じて得点を与え、食事を共にする他の昼食消費者エージェントの与えた得点との合計が最大の昼食提供者を選択し、その昼食エージェントの提供するなかから何らかのパターンを用いて一つの昼食アイテムを選択するP9パターン、など。ここに挙げた以外にも、多様なパターンやその組み合わせが考えられる。各昼食消費者エージェントがどのようなパターンで昼食アイテムを選択するかは、該昼食消費者エージェントに対応する現実世界の個人情報提供者から提供された、昼食の選び方を示す個人情報に沿って定義される。
各昼食消費者エージェントは、昼食を取ることのできる昼休みの時間帯を示す情報と自身の仕事場から昼食提供者エージェントの存在する昼食街まで到着するのに必要な時間を示す情報を保持している。ただし、昼休みの時間帯は一定の規則に従って変動することも可能であり、また昼食街を複数想定する場合には昼食街ごとに移動に必要な時間が異なることも可能である(なお、昼食街を複数想定する場合には、最初にどの昼食街を選ぶかを決定するプロセスが必要になるが、このプロセスの実施例の記述は省略する)。各昼食消費者エージェントは、昼休みが始まる時間に至ることを示すシグナルを受け取れば、昼食街に移動する行動を開始し、昼食街まで移動するのに必要な時間が経過するのを待つ。該時間が経過すれば、昼食アイテムを消費するための意思決定プロセスを開始する。意思決定プロセスにおいては、上記パターンのいずれかにより示される一定の原則に基づいて即決で昼食提供者エージェントや昼食アイテムの選択を行うこともできるが、迷いながら意思決定を進めることもできる。迷いながら意思決定を進める場合には、店の混雑の度合い(即ち余剰席数や列の長さ)やメニューを示す情報を参照したりすることができるが、1つの昼食提供者エージェントを検討するごとに、一定時間の経過を要するものとする。意思決定プロセスが終了した時点で、それに従った昼食アイテムを求める行為を実行する。原則として、各昼食消費者エージェントは、1日に1食の昼食アイテムを消費し、それ以上の昼食アイテムは消費しない。
各昼食消費者エージェントは、昼食アイテムに対する好みを特定する情報を保持していて、昼食アイテムを利用した際には、昼食アイテムの属性情報と自身の好みを示す情報とによって該昼食消費者エージェントの該昼食アイテムに対する満足度が計算される。昼食アイテムに対する好みを特定する情報の形式としては、例えば次のような形式が考えられる。アイテムの分類、アイテムに含まれる飲食品目、味付けの特徴については、昼食アイテムが保持する情報と概ね同様のデータ構造を与える。ただし、アイテムの分類については、それぞれの変数に、各分類への総合的な好みの度合いに応じて、0から1までの小数値が与えられる。アイテムに含まれる飲食品目についても、それぞれの変数に、各品目への平均的な好みの度合いに応じて、0から1までの小数値が与えられる。味付けの特徴については、各味付け尺度における、各料理の標準的な味付けと該昼食消費者エージェントの好みとの差異によって与え、当該味付けの特徴への好みを示す変数に、好みの味付けが標準的なものよりも強いものであればその強さの程度に応じた大きさのプラスの数値を与え、好みの味付けが標準的な味付けよりも弱いものであればその弱さの程度に応じたマイナスの数値を与える。
該昼食消費者エージェントの該昼食アイテムに対する満足度の計算方法としては、例えば次のような計算方法が考えられる。昼食消費者エージェントの昼食アイテムに対する満足度は、アイテムの分類への充足度、アイテムに含まれる飲食品目への充足度、及び味付けの特徴への充足度の積によって求める。アイテムの分類への充足度については、該昼食アイテムの分類を記録する変数と該昼食消費者エージェントの昼食アイテムの分類に関する好みを示す変数のうち、それぞれ対応するものを乗じて100の数値を求め、このうちゼロでない数値の平均値を算出し、これをアイテムの分類への充足度とする。アイテムに含まれる飲食品目への充足度については、該昼食アイテムに含まれる飲食品目を示す変数と該昼食消費者エージェントの飲食品目に関する好みを示す変数のうち、それぞれ対応するものを乗じて1000の数値を求め、これらの数値の和を算出し、これをアイテムに含まれる飲食品目の充足度とする。味付けの特徴への充足度については、該昼食アイテムの味付けの特徴を示す変数と、該昼食消費者エージェントの味付けの特徴への好みを示す変数のうち、それぞれ対応するものの差の絶対値を求め、求められた全ての数値の和に一定数値を加算し、その加算して求められた数値の逆数を算出し、これを味付けの特徴への充足度とする。昼食消費者エージェントの昼食アイテムに対する満足度は、その3つの数値の積を計算することによって求められる。
ただし、上記昼食アイテムが保持する情報のデータ構造、上記昼食消費者エージェントの昼食アイテムへの好みを示す情報のデータ構造、及び上記満足度の計算方法は、一例であり、その他の計算方法によって求めることも可能である。昼食消費者エージェントは、選択した昼食アイテムの属性情報を参照することができ、この情報の一部を、該昼食アイテムに対する満足度を示す情報とともに、継続的に保持し、次回以降の昼食メニュー選択の意思決定の材料として用いることができる。
シミュレーション世界全体の状況を制御する部分の中心的な動作は次の通りである。シミュレーションの実行を開始するシグナルを受けると、シミュレーション世界の時間を進行させる。シミュレーション世界の時間は単位時間ごとに進められ、この情報はシミュレーション世界のマクロな環境の状況を保持する部分に記録される。単位時間は、例えば1分などとして設定される。1日あたり11時から開始されて、15時まで進められ、これが毎日繰り返される。ただし、オフィス街の休日にはこのプロセスはスキップされる。シミュレーション世界全体の状況を制御する部分は、単位時間が経過するごとに全ての昼食消費者エージェントと昼食提供者エージェントに時間の経過を伝達するシグナルを送信する。各エージェントは、何らかの動作が予定されている時刻に達するシグナルを受け取ると、予定された動作を実行するが、そうでない時刻に達するシグナルを受け取った場合には何の動作も実行しない。同時刻の動作として複数のエージェントの処理を進める場合には、何らかのルールを設けて順に処理する。例えば、その都度ランダムに順序を決定してその順に処理を進めるというルールや、エージェントごとに俊敏さの度合いを示すデータを持たせておいて、その俊敏さの度合いの高い順に処理を進めるというルールなどが可能である。シミュレーション世界全体の状況を制御する部分は、シミュレーションの終了時間に達するまで、或いは何らかの終了条件を満たすまで、これを繰り返す。シミュレーションを終了する際には、その旨を伝達するシグナルを、シミュレーションの実行を制御するA部分に与える。
各エージェントの動作原則や状態は、シミュレーションの対象とする現実世界の特定地域で活動する、実際の人物の個人情報や店舗の店舗情報をもとに、定義または更新される。昼食提供者エージェントを定義または更新するために用いる情報は、現実世界の昼食を提供する店舗に対する取材による調査やアンケートによる調査によって収集することもできるが、各店舗が販売管理や宣伝広告など、何らかのマーケティング上の便宜のために登録しているデータをそのまま活用するか、各店舗が社会シミュレーション以外の目的においても利用できるものとして自ら入力したものを活用することにより獲得するのが効率的である。なお、獲得する店舗情報は、シミュレーション世界の昼食提供者エージェントを定義または更新するのに必要な項目についてであり、具体的な項目としては、自身が提供することのできる昼食アイテムの一覧と、各アイテムの詳細な情報などが挙げられる。昼食アイテムについては、各店舗が実際に提供している各メニューの内容に合わせ、その詳細な情報を獲得する。
昼食消費者エージェントを定義または更新するために用いる情報は、現実世界のオフィス街に勤務し、日々の昼食を該特定地域で調達する個人の利用する個人情報収集管理クライアントで収集または管理される個人情報を用いる。該個人情報収集管理クライアントの例としては、請求項9〜17または該請求項の実施例のいずれかに記載された方法を用いることができる。ここに、最適な例を一つ挙げるとすれば、個人の毎日の昼食の選択を支援または代行する機能を有するエージェント・プログラムを用いることである。該エージェント・プログラムは、選択可能な昼食提供店舗及び昼食の一覧とその内容についての詳細情報を、場合によっては、各店舗の混み具合や各メニューの売り切れ状況、日替わりメニューの内容、各店舗や各メニューに対する評価などの情報を、参照する手段を備え、該エージェント・プログラムの利用者の食生活の好みや過去の食生活履歴、意思決定のパターンについての情報を、場合によっては、健康状況、医師やコンサルタントの助言、運動状況、該利用者のリクエストなどを示す情報を、管理し、これらの情報に基づいて、利用者に対して毎日最適なメニューを提案する機能を有する。さらに、該エージェント・プログラムは、利用者を店舗にナビゲートする機能や、到着予定時間に入店できるよう席を予約する機能、入店してすぐに食事を始められるよう予め食事を発注しておくのを代行する機能、などを有することができる。個人情報収集管理クライアントとして、該エージェント・プログラムを用いることにより、個人の意思決定プロセスと個人に対応するシミュレーション世界の昼食消費者エージェントの意思決定とを直接関係づけることが可能となり、シミュレーション世界の現象と現実世界の現象の乖離を抑制する効果が期待される。なお、獲得する個人情報は、シミュレーション世界の昼食消費者エージェントを定義または更新するのに必要な項目についてであり、具体的な項目としては、昼食を取ることのできる昼休みの時間帯を示す情報、自身のデスクから昼食提供者エージェントの存在する昼食街まで到着するのに必要な時間を示す情報、昼食アイテムに対する好みを特定する情報などが挙げられる。
さらに、ここではモデルの詳細の記述を省略するが、昼食提供者エージェントが昼食消費者エージェントに対し、何らかのクーポン券を発行するプロセス、何らかの広告情報を提供するプロセス、昼食消費者エージェント同士が昼食提供者エージェントや昼食アイテムに関する情報交換を行うプロセスなどを追加することもできる。
なお、ここでは、シミュレーションの実施例をなるべくシンプルに記述するため、市場のモデルを比較的単純に捉えることのできる、特定地域の昼食市場に特化した社会シミュレーションの実施例を記述したが、より広範囲の地域の市場を対象とするシミュレーションや、昼食に限らず食生活全般に渡る市場を対象とするシミュレーションなどを構築することも可能である。
請求項5、請求項29等に記載された個人情報管理サーバは、ひとつの個人情報管理サーバにおいて、一人の個人の個人情報を取り扱うこともできれば、複数の個人の個人情報を取り扱うこともできる。
請求項5、請求項29等に記載された個人情報管理サーバの第一の実施例は、ひとつの個人情報管理サーバにおいて一人の個人の個人情報を取り扱うもので、当該個人の住居に設置するなどの方法で、住居内にテレビや冷蔵庫等の形態で存在するひとつまたは複数の個人情報収集管理クライアントから本人の個人情報を収集するなどの形態が考えられる。この場合、該個人情報収集管理クライアントと該個人情報管理サーバは、有線または無線の通信手段により個人情報その他の情報に関する通信を行う。この場合、該個人情報管理サーバは、携帯電話やパーソナル・コンピュータなどの装置に組み込まれた形態で存在することもあれば、単体のハードウェアの形態で存在することもできる。なお、個人情報管理サーバとして、携帯電話を適用した場合には、どこへでも本人に携帯されることにより、あらゆる生活空間に配置される様々な装置と無線あるいは赤外線などの通信手段により、本人に関連する多様な情報を収隼し、該情報を公衆回線等の通信手段を通じて、個人情報管理サーバまたは社会シミュレーション・サーバに送信することができる。
請求項5、請求項29等に記載された個人情報管理サーバの第二の実施例は、ひとつの個人情報管理サーバにおいて複数の個人の個人情報を取り扱うもので、インターネット関連サービス事業者がネットワーク上に設置したサーバにおいて、各個人の個人情報を収集または管理する個人情報収集管理クライアントまたは個人情報管理サーバから、ネットワークを介して個人情報を受信し、該個人情報をそのまままたは加工したうえで社会シミュレーション・サーバに送信するなどの形態が考えられる。この場合、該インターネット関連サービス事業者は、個人情報の収集、管理、社会シミュレーション・サーバへの送信などの事項について、個人情報を提供する個人と何らかの形で契約を結ぶことができる。例えば、個人情報を提供する対価を個人に還元することや、提供された個人情報に応じて個人に対して何らかのサービスを提供すること、個人は不正確な個人情報を提供してはならないこと、などについての契約が可能である。
請求項6に記載された「必要な個人情報の提供を依頼または要求する手段またはステップ」を社会シミュレーション・サーバの実施例は、個人情報収集管理クライアントから社会シミュレーション・サーバに送信される個人情報の内容を動的に調整するというものである。継続的に社会シミュレーションを実施する社会シミュレーション・サーバにおいて、モデルの一部または全てが更新されたときに、新しいモデルにおいて個人情報の獲得が不要となった個人情報項目と、新しいモデルにおいて新しく必要となった個人情報項目の一覧を、該社会シミュレーション・サーバが個人情報の提供を受ける、個人情報管理サーバ及び個人情報収集管理クライアントに送信するというものである。該一覧を受け取った個人情報管理サーバは、必要に応じて、該一覧の全てまたは一部の情報を、該個人情報管理サーバが個人情報の提供を受ける別の個人情報管理サーバまたは個人情報収集管理クライアントに送信する。該一覧の全てまたは一部の情報を受け取った個人情報収集管理クライアントは、それ以降に不要となる個人情報と新たに必要となる個人情報を認知し、それ以降に必要とされる個人情報を、社会シミュレーション・サーバまたは個人情報管理サーバに送信する。それ以降に必要とされる個人情報を受け取った個人情報管理サーバは、受け取った情報を社会シミュレーション・サーバに送信する。このとき、新しいモデルにおいて新しく必要となった個人情報項目の一覧を受け取った個人情報管理サーバまたは個人情報収集管理クライアントは、該項目に対応する個人情報を社会シミュレーション・サーバに送信するかを、新たに個人情報提供者に確認する手段、自身が保持する方針によって判断する手段、及び、新たに提供する個人情報の内容及びそれに対する対価について社会シミュレーション・サーバと交渉する手段、のうち、一つ以上を有することができる。なお、上記実施例は、個人情報収集管理クライアントから社会シミュレーション・サーバに送信される個人情報の内容を動的に調整するものであるが、該個人情報の内容を動的に調整せず、社会シミュレーションを実施する最初のステップのみにおいて、社会シミュレーションが扱うモデルにおいて必要な個人情報項目の一覧を送信する形態も考えられる。
請求項7に記載された社会シミュレーション・システムの実施例は、公開キー暗号化のプロトコルを用いたもので、個人情報収集管理クライアントにおいて、社会シミュレーション・サーバが提供した公開キーAを用いて、個人情報を暗号化する手段を備え、社会シミュレーション・サーバにおいて、該手段によって暗号化された個人情報を、該サーバが保持する、公開キーAに対応する秘密キーを用いて、複合化する手段を備えたものである。同様に、社会シミュレーション・サーバにおいて、個人情報収集管理クライアントが提供した公開キーBを用いて、個人情報収集管理クライアントに送信する情報を暗号化する手段を備え、個人情報収集管理クライアントにおいて、該手段によって暗号化された情報を、該クライアントが保持する、公開キーBに対応する秘密キーを用いて、複合化する手段を備えることもできる。
請求項8に記載された社会シミュレーション・システムの実施例としては、個人情報の規格化、匿名情報化、補足、組織化、などの加工を実現するものが挙げられる。
請求項8に記載された社会シミュレーション・システムの第一の実施例は、多様な個人情報収集管理クライアントから送信された、異なるフォーマットにおいて記録された個人情報を、同じ社会シミュレーション・サーバで取り扱うことができるよう、統一された規格に変換するというものである。例えば、個人のある嗜好を示す情報を、ある社会シミュレーションにおいてA、B、C、Dの4つの軸で定義するが、ある個人情報収集管理クライアントにおいては、A1、A2、B、C、Dの5つの軸で定義するといった場合、Aの値をA1、A2の値から適切な式により推定することが可能であることがわかっていれば、個人情報管理サーバにおいて、A1、A2、B、C、Dの5つの軸で定義された情報を、A、B、C、Dの4つの軸で定義された情報に変換することができる。また例えば、個人のある性質を特定する尺度の値を、社会シミュレーション・サーバでは0〜1の範囲の値で特定するが、個人情報収集管理クライアントにおいて、−1〜1の範囲の値で特定されるという場合、適切な変換式によって、−1〜1の値で特定される情報を0〜1の値で表現された情報に変換することができる。なお、上記例では、最も単純な水準のローマット変換方法のみに言及したが、個人情報収集管理クライアントや社会シミュレーション・サーバで取り扱われるフォーマットはさらに複雑なものが適用される可能性が高く、その変換方法は、それぞれのフォーマットに応じて相応しいものを用いることが求められる。
請求項8に記載された社会シミュレーション・システムの第二の実施例は、個人情報提供者の提供する個人情報を、社会シミュレーション実施者にとって誰の個人情報であるか分からない形態に変換するというものである。例えば、個人情報収集管理クライアントから直接的にまたは間接的に個人情報を受信し、社会シミュレーション・サーバに対し直接的にまたは間接的に個人情報を送信する機能を有する、個人情報管理サーバにおいて、特定個人を識別することのできる任意の情報と、社会シミュレーション・サーバが匿名のまま個人を一意に識別することのできる匿名識別情報とを対照する個人匿名識別対照情報を保持し、個人情報を社会シミュレーション・サーバに送信する際には、送信する個人情報から個人情報提供者を特定することが可能な一切の情報を削除する代わりに、個人匿名識別対照情報で保持される該個人情報提供者に対応する匿名識別情報を個人情報に添付し、これを社会シミュレーション・サーバに送信するというものである。社会シミュレーション・サーバから特定個人情報提供者に対して情報が提示される場合には、社会シミュレーション・サーバは該匿名識別情報が添付された情報を個人情報管理サーバに送信し、個人情報管理サーバは、個人匿名識別対照情報から特定個人情報提供者を割り出し、本人に向けて情報を提示する手順を経る。この際、個人情報管理サーバが保持する個人匿名識別対照情報が、第三者に開示されなければ、個人情報提供者の匿名性を維持したまま、本発明に記載された、個人情報を用いた社会シミュレーション・システムを実現することができ、個人情報提供者のプライバシー保護に支援することができる。
請求項8に記載された社会シミュレーション・システムの第三の実施例は、個人情報収集管理クライアントから提示された個人情報が不完全なものである際に、個人情報管理サーバが保持している本人及び他人の個人情報、該個人情報から計算された情報、また外部から受信した情報などをもとに、不完全部分を推測し、これを補うというものである。個人情報収集管理クライアントから送信される情報は、社会シミュレーション・サーバの求める要件がいつも完全に満たすものであるとは限らないが、個人情報管理サーバは、自身が獲得することのできる別の情報を用いてこれを補うことができる。例えば、個人情報管理サーバが特定個人の個人情報を継続的に取り扱うものであれば、過去に提示された本人の個人情報を元に不足部分の情報を推定し、これを埋めることができる。また、個人情報管理サーバが複数の個人情報提供者の個人情報を取り扱うものであれば、他人の個人情報を元に不足部分の個人情報を推定し、これを埋めることができる。この場合、本人の属性など、既に明確な個人情報を元に、何らかの方法で個人情報提供者のクラスタリングを行い、同じクラスタに属する他者の個人情報を元にして推測を行うのが効果的である。
請求項8に記載された社会シミュレーション・システムの第四の実施例は、多様な個人情報収集管理クライアントから提供された断片的な個人情報を統合するものである。例えば、本人が一定期間に接触した広告情報の一覧を調査したい場合は次の方法を用いることが考えられる。まず、テレビやラジオで流れる広告情報については、本人が利用したテレビやラジオ等の装置が、それによって放送されたチャンネルや時間帯を記録し、この情報を、放送される広告情報の内容と時間帯が明記された番組編成スケジュールまたは放送記録に照らし合わせ、本人に提示された可能性の高い広告情報を特定する情報を、個人情報管理サーバに送信する。或いは、デジタル放送の本格化が進むなどすれば、放送に組み込まれた情報から、放送された広告情報を特定する情報を直接得ることができれば、それを個人情報管理サーバに送信することが可能である。またビデオであれば、早送りされた部分に含まれていた広告情報は除外して処理するなどの措置も可能である。次に、インターネットを通じて接触した広告情報については、本人が利用したパーソナル・コンピュータや携帯情報端末などが、本人に提示した情報に埋め込まれていたタグを読み取るなどの方法で把握し、本人に提示された広告情報を特定する情報を、個人情報管理サーバに送信する。また、街頭広告については、本人が利用した、位置測定システムを搭載した装置(例えば、携帯情報端末やナビゲーション装置等)が、本人の位置情報を時間軸に沿って測定し、この情報を、街頭広告情報を特定する情報がプロットされた地理情報システムに照らし合わせ、本人の通過した場所にその時点で存在した広告情報を特定し、これを本人が接触した可能性の高い情報として、個人情報管理サーバに送信する。この場合、本人の移動の方向や広告の向きにより、接触した可能性の低い情報を除外するなどの処理が可能である。また、その時点及びその場所での天候情報と併せて計算すれば、例えば、雨の日には、また、日傘を指す人であれば日差しの強い日には、高い位置にある街頭広告情報に接触する可能性が低くなるといった処理を加えることが可能である。個人情報管理サーバは、こうして集められた断片的な情報を統合し、本人が接触した可能性の高い広告情報の一覧を作成する。なお、上記の例では、本人が一定期間に接触した可能性の高い情報の一覧を作成する例であるが、他に、様々な店舗において利用されるPOSシステムから、或いは複数のポイント・カードやクレジットカードから、或いはポイント・カードやクレジットカードが利用された際の記録を残す複数の装置から、本人が、いつ、どこで、どんな商品またはサービスにお金を支払ったかについての情報を受け取り、これを統合するしくみも考えられる。
なお、離散的時間ステップにおいて提示された個人情報を統合する場合、個人情報加工手段を備えた装置は、提供された情報内容や個人の特性等によって、情報の鮮度を評価する手段を有することができる。この場合、情報の鮮度に関する一定の基準を満たすもののみを統合する情報として用いることも可能である。また、組織化される情報項目の確からしさに応じて、統合された情報の信頼性を評価し、一定基準を満たす情報のみを、有効な個人情報として、社会シミュレーション・サーバに送信することや、社会シミュレーション・サーバに送信される個人情報に信頼性の評価を示す情報を添えるなどの措置を施すことができる。
請求項9、請求項30等に記載された、エージェント・プログラムの実施例としては、次のものが挙げられる。
請求項9、請求項30等に記載された、エージェント・プログラムの第一の実施例は、個人やその他の社会主体(以下、個人等)に代わって、個人等の所有する金融資産の取引を代行する、金融取引エージェント・プログラムである。該金融取引エージェント・プログラムは、個人等が所有する金融資産に関する情報を保持する手段、または、個人等が所有する金融資産に関する情報を管理する金融口座にアクセスする手段を備え、個人等が所有する金融資産を個人等が売買する際のルールを記録する手段と、ネットワーク接続されたサーバから現実世界の金融資産市場における相場の動きに関する相場情報を受信する手段と、該相場情報を該ルールによって処理した結果に基づき個人等が所有する金融資産を売買する手段と、該売買の内容を、該金融資産に関する情報を保持する手段または該金融資産に関する情報を管理する金融口座に、書き込む手段と、該売買の内容を個人に提示する手段、とを備える、個人情報収集管理クライアントである。該個人等が所有する金融資産を個人等が売買する際のルールは、例えば次のように与えられる。金融商品銘柄Aの相場が、X1に達すればY1口購入し、X2に達すればY2口購入し、X3に達すればY3口購入し、X4に達すればY4口購入する。ただし、X1〜X4は、絶対値を取ることも、特定時点を基準とした増減値を取ることもでき、Y1〜Y4は、マイナスの値を取ることもできる。Y1〜Y4がマイナスの値を取った場合には、その分の金融資産を売却することを意味する。また例えば、金融商品銘柄Aと金融商品銘柄Bを直接または一時的な現金化を通じて交換する際の比率が、V1に達すればW1口の金融商品銘柄Aの資産を金融資産銘柄Bの資産に交換し、V2に達すればW2口の金融商品銘柄Aの資産を金融資産銘柄Bの資産に交換する。なお、上記は比較的単純なルールの例であるが、該エージェント・プログラムが参照することのできる多様な情報を用いた、もっと複雑なルールを設定することも可能である。例えば、その時点で保有する現金の量や、平均株価、公定歩合、為替相場、別の特定金融商品の価格、或いは、天候、天気、湿度に関する情報、政府発表資料、統計データ、世論調査結果、特定調査の集計結果、選挙結果に関する情報、その日のニュースに特定の文字列が含まれているかどうかを示す情報、プレスリリースの有無を示す情報、特定のリソースより提供される特定対象に対する評価情報等、数値または論理形式で示される各種情報を条件式または売買数の定義に用いたもの等が考えられる。また、該ルールは、該エージェント・プログラムを利用する個人等がいつでも更新することが可能である。また、個人等が自主的に該ルールを設定せず、第三者であるコンサルタントやアドバイザーから提供されるルールをそのまままたは加工した上で提供することもできる。或いは、特定の目的において複数の金融取引エージェントが同期を取りながら特定金融取引を仕掛ける機能を実現するために、該ルールを定義するための情報として、他のエージェント・プログラムからの指示や行動に関する情報、または複数のエージェント・プログラムに対して特定のメッセージを持った情報を送信するサーバから発信された該メッセージに関する情報を用いることもできる。現実世界の金融商品市場を取り扱う社会シミュレーションを実施する社会シミュレーション・サーバは、該エージェント・プログラムが有する、金融取引に関する該個人等の情報をリアルタイムに受信し、該個人等の情報を用いて、現実世界において金融取引を行う個人等に対応する、シミュレーション世界において金融取引を行うエージェントを定義し、または、該エージェントの定義を更新し、現実世界の金融商品市場のシミュレーションを実施する。該社会シミュレーション・サーバは、現実世界の金融市場を取り巻く各種要因がどのように変化すれば、該金融市場がどのように動くかをシミュレートすることができる。本実施例に記載のシステムまたは方法を用いれば、現実市場において金融取引を代行するエージェント・プログラムと、これに対応するシミュレーション世界のエージェントの振る舞いは完全に一致するため、当該請求項に記載された社会シミュレーション・システムは、現実世界とシミュレーション世界の乖離を抑制する決定的なシステムとして機能する。仮に、全ての金融取引がこのようなエージェント・プログラムによって行われ、エージェント・プログラムの保持する全ての情報が社会シミュレーション・サーバに提供されれば、金融市場を取り巻く全ての要件の値を特定したある条件が満たしたときに、金融市場がどのように動くかを正確に予測することができる。実際は、金融市場を取り巻く要因には不確定要素が多く、これには多様なアクターの活動が関与しているため、また全ての金融取引がこのようなエージェント・プログラムによって行われるという条件や、エージェント・プログラムの保持する全ての情報が社会シミュレーション・サーバに提供されるという条件を、満たすことは必ずしも容易でないため、従って、シミュレーション世界と現実世界の現象を完全に一致させることができるわけではないが、多くの金融取引がエージェント・プログラムによって行われ、エージェント・プログラムの保持する情報の多くが社会シミュレーション・サーバに提供されるようになるにつれ、シミュレーション世界と現実世界の乖離を抑制することが可能となる。これにより、現実世界の様々なアクターは、現実世界における自身のアクションが市場にどのような影響を与えるかということを、予め検討することができる。例えば、中央銀行は、円ドル為替相場への市場介入が株価にどのような影響を与えるかを事前に検討することができる。或いは、企業はプレスリリースをどのタイミングで行うのが株価に好影響をもたらすかを事前に検討することができる。
請求項9、請求項30等に記載された、エージェント・プログラムの第二の実施例は、飲食物への嗜好、食生活のパターン、過去の栄養摂取状況、健康状況、アドバイザーの助言、スケジュール、食事に費やすことのできる予算、飲食に関するポリシー、などの個人情報を用いて、個人の食生活を支援するエージェント・プログラムである。個人の食生活を支援する該エージェント・プログラムとしては、次のようなプログラムが想定される。該エージェント・プログラムは、該エージェント・プログラムの利用者の、飲食物への嗜好、食生活のパターン、過去の栄養摂取状況、健康状況、アドバイザーの助言、スケジュール、食事に費やすことのできる予算、飲食に関するポリシー、などの個人情報を管理する機能を有する。該個人情報は、該エージェント・プログラムが有する、本人に質問を表示し、該質問に対する本人入力による回答を獲得する手段、センサなどを通じて本人の行動を特定する情報を獲得する手段、本人の個人情報を保有する他の装置からネットワークを通じて該個人情報を獲得する手段、獲得された情報を自身が有する情報処理手順に従って計算または分析することによって新たな個人情報を獲得する手段、のいずれかによって、定義または更新される。該エージェント・プログラムは、遠隔飲食メニュー管理サーバにおいて管理される飲食メニュー情報を参照しながら、該エージェント・プログラムは、自身が管理する本人の個人情報に基づき、本人のスケジュールや予算の制約の許す範囲において、本人の過去の栄養摂取状況、本人の健康状況、本人に向けたアドバイザーの助言などの情報に応じて推奨され、なおかつ、本人の飲食物への嗜好や食生活のパターンに適合する、毎食の最適な飲食メニューの候補を計算し、これを本人に提案し、本人が提案を受け入れたかどうかを確認し、受け入れない場合にはさらに別の候補を提案し、これを繰り返すことのできる機能を有する。また、該エージェント・プログラムは、本人の入力により、本人の飲食メニューの選択に関する何らかのポリシーを獲得し、これを保持することができる。この場合には、該エージェント・プログラムは該ポリシーに記載された方針に従って飲食メニューをの候補を選択する。ただし、該遠隔飲食メニュー管理サーバは、飲食メニュー情報を管理するデータベースを管理し、該エージェント・プログラムからの要求に応じて、これらの飲食メニュー情報を該エージェント・プログラムに送信する機能を有する、遠隔サーバを指すものとする。また、飲食メニュー情報とは、該エージェント・プログラムの利用者が飲食をする場所として選択することのできる飲食店のリスト、各飲食店の場所と営業時間、各飲食店で飲食することのできる飲食物品目のリスト、各飲食物品目の味付けや香りや量などの特徴を示す情報、各飲食物品目のカロリーや栄養価や塩分などを示す情報、各飲食物品目の価格、などの情報を指すものとする。該飲食メニュー情報には、該エージェント・プログラムの利用者が飲食物を購入することのできる飲食物販売店のリスト、各飲食物販売店の場所と営業時間、各飲食物販売店で購入することのできる飲食物品目のリスト、各飲食物品目の味付けや香りや量などの特徴を示す情報、各飲食物品目のカロリーや栄養価や塩分などを示す情報、各飲食物品目の価格、さらに、該エージェント・プログラムの利用者のために準備されることが可能な家庭料理のリスト、各飲食物品目の味付けや香りや量などの特徴を示す情報、各飲食物品目のカロリーや栄養価や塩分などを示す情報、各飲食物品目の準備に必要な材料の一覧とそれに要する費用、などの情報を含めることもできるものとする。現実世界の飲食店における飲食市場を取り扱う社会シミュレーションを実施する社会シミュレーション・サーバは、該エージェント・プログラムの有する個人情報提供者の個人情報を受信し、該個人情報を用いて、現実世界の飲食市場において消費活動を行う個人に対応する、シミュレーション世界において消費活動を行うエージェントを定義し、または、該エージェントの定義を更新し、現実世界の飲食市場のシミュレーションを実施する。また、社会シミュレーション・サーバは、現実世界の飲食市場において飲食することのできる飲食メニュー情報を用いて、現実世界の飲食市場において消費される飲食メニューに対応する、シミュレーション世界において消費される飲食メニューを定義し、現実世界の飲食市場に対応するシミュレーション世界の飲食市場環境を設定する。なお、該シミュレーション世界における飲食メニュー情報としては、先の遠隔飲食メニュー管理サーバで保持されている飲食メニュー情報と同様のものを扱うことができる。シミュレーション世界のエージェントは、該エージェントに対応する現実世界の個人情報提供者の利用するエージェント・プログラムと、同様の情報を保持し、同様の計算プロセスを辿り、意思決定を行うことができる。これにより、個人情報提供者が該エージェント・プログラムの最初の提案を受け入れる確率が高まれば、そのぶん現実世界で個人情報提供者が行う意思決定と、シミュレーション世界のエージェントが行う意思決定とが一致し、現実世界とシミュレーション世界の乖離が小さくなる。該個人情報提供者が該エージェント・プログラムの最初の提案を受け入れない場合には、該エージェント・プログラムは、実際に受け入れた提案の情報を社会シミュレーション・サーバに送信し、この情報を用いて、該エージェントの実際の行動履歴を修正し、シミュレーション世界のエージェントのステイタスを現実世界の個人情報提供者のステイタスに近づけ、これにより現実世界とシミュレーション世界の乖離を抑制することが可能となる。さらに、実際に受け入れられた提案の情報を用いて、個人情報提供者の実際の選択原則について、シミュレーション世界の該エージェントが学習すること、または、現実世界の該エージェント・プログラムが学習して、この効果をシミュレーション世界のエージェントに反映すること、によって、該エージェントの選択原則と該個人情報提供者の選択原則との乖離を小さくし、これをもって現実世界とシミュレーション世界の乖離を抑制することが可能となる。
請求項9、請求項30等に記載された、エージェント・プログラムの第三の実施例は、インターネット情報空間において利用者の求める情報を自動的に収集し、本人に提示する機能を有する情報収集エージェント・プログラムである。該エージェント・プログラムは、インターネット情報空間へのアクセス手段及び利用者とのインタラクションが可能なインタフェースを備えており、利用者の保持する装置またはインターネット上のサーバのいずれかにおいて実装される。利用者は、自身が求める情報について、目標とする情報のカテゴリ、目標とする情報が含むべきキーワード、目標とする情報が含まるべきでないキーワード、探索の対象とするインターネット・アドレス空間、特定のタグの中に含まれるべき内容等の条件を特定し、該エージェント・プログラムはこれを保持する。該エージェント・プログラムは、予め登録されたインターネット・アドレスにおいて存在する情報及び自身がアクセスした情報に含まれるインターネット・アドレスまたはハイパーリンクのリンク先において存在する情報にアクセスしながら、該条件を満たす情報を探索し、目標とする情報を選定のうえ収集し、これを整理して保持する。該エージェント・プログラムは、予め設定されたスケジュールに従って、或いは、利用者の求めに応じて、この情報を利用者に提示する。該エージェント・プログラムは、さらに、情報を選定する際に該条件を満たす度合いをスコアリングしたうえで上位のスコアのものを抽出する機能、シソーラスを用いて指定されたキーワードの類似語を割り当てることにより該条件と同等の条件の範囲を計算する機能、収集した情報のうち類似する情報の重複内容を割愛する機能、収集した情報を与えられた規則に従って整理分類する機能、収集した情報のうち広告など不必要な部分を削除する機能、既に利用者に提示した情報を記録し同じ情報が何度も提示されることがないように制御する機能、収集した情報のなかに該情報を特定するIDが埋め込まれている場合には該IDを用いて利用者に提示する情報を管理する機能、利用者に提示した情報が利用者にとって有益であったかについての情報を受信し有益であった情報と無益であった情報の特徴を抽出したうえでこれを探索の条件に反映する機能、などを備えることができる。現実世界の任意の現象を取り扱う社会シミュレーションを実施し、エージェントの情報獲得プロセス或いは獲得された情報に基づく意思決定プロセスを取り扱う、社会シミュレーション・サーバは、該エージェント・プログラムが有する、情報探索条件に関する個人情報、または、本人に提示された情報の一覧に関する個人情報、または、この両方を受信し、該個人情報を用いて、シミュレーション世界におけるエージェントの、情報収集原則、または、参照経験のある情報、を定義または更新する。情報獲得のプロセスや保持する情報に基づく意思決定のプロセスは、市場取引行動、投票行動、情報交換行動などを取り扱う、多様な社会シミュレーションにおいて、エージェントに与えられる基本的動作プロセスであり、この方法を用いることにより、情報行動に関して、現実世界の当該エージェント・プログラムの利用者とシミュレーション世界のエージェントを対応づけることができ、現実世界とシミュレーション世界の乖離の抑制を図るうえで有意義に機能すると期待される。
請求項10に記載された、ICスキャナまたはカード・スキャナの実施例としては、以下のものが考えられる。
請求項10に記載された、ICスキャナまたはカード・スキャナの第一の実施例は、多くの飲食店で共通に利用することができて、各店舗を利用した際に、利用店舗、支払金額、注文メニューなどの飲食店利用履歴情報を保持する機能と、各店舗で利用することのできる一つ以上のクーポン情報を保持する機能とを有するポイント・カードにおいて記録された個人情報を読み出し、記録する機能を備えたICスキャナまたはカード・スキャナである。このうち、飲食店利用履歴に関する個人情報は、シミュレーション世界における各エージェントの消費成句に冠するパラメータ、例えば飲食店の利用頻度、飲食店の嗜好、一度飲食店を利用する際の平均的な予算、メニューの好みといったパラメータ、の値を特定するために用いることができる。
請求項10に記載された、ICスキャナまたはカード・スキャナの第二の実施例は、保持される個人情報を暗号化して記録する機能を備えた利用し、本人が許可した範囲の個人情報のみを獲得することにより、本人による柔軟なプライバシー・コントロールを可能とするしくみである。ICまたはカードは以下のとおりの構造で情報を保持する(図21参照)。キーA、キーB、キーCは、それぞれ情報群A(情報A1、情報A2、情報A3、以下同様)、情報群B、情報群Cをそれぞれ管理する。即ち、例えば情報群Aに属する一切の情報は、キーAによって暗号化されているものとする。また、キーCは情報群Cの一部として、情報群D、情報群Eをそれぞれ管理する、キーD、キーEを管理するものとする。また、キーMは自身が管理する情報群Mの一部として、キーA、キーB、キーCを管理するものとする。以上の構造で暗号化された情報を、ICまたはカードにおいて保持することにより、例えばキーDを利用することにより情報群Dのみに、キーCを利用することにより情報群C、情報群D、情報群Eに、キーMを利用することにより保持されている全ての情報、即ち情報群M、情報群A、情報群B、情報群C、情報群D、情報群Eに、それぞれアクセスすることが可能となる。この構造を利用すれば、利用者は許可した情報のみを柔軟に開示することができる。例えば、上記第一の実施例における、飲食店利用履歴を情報群Dにおいて、保持するクーポン情報の一覧を情報群Eにおいて、飲食店利用に関する自身の嗜好についての情報を情報群Cにおいて、自身を識別する情報を情報群Aにおいて、それぞれ管理しておけば、キーDを提示することにより飲食店利用履歴のみについて、キーCを提示すれば飲食店利用に関する一切について、本人の匿名性を維持したままで提示することができる。また、キーMを用いれば、保持されている一切の情報を管理することができる。これにより、ICまたはカードの利用者は、個人情報の一部のみを切り売りするなど、個人情報の柔軟な開示が可能となる。キーA〜Eが必要な際には、本人が直接入力するなどの方法で提示しても構わないし、記憶するのが困難であれば、何らかのキー管理システムを利用することも可能である。なお、上記の情報構造は一例であるが、情報の階層構造や各情報群にどの情報を保持するかについては様々なバリエーションが考えられるし、これを利用者が自由に設定、編集することができるようにすることも可能である。
請求項11に記載されたアンケート・スキャナの実施例としては、個人の行動原則、判断基準、価値尺度、スケジュール等に関する個人情報を質問するアンケートに対する回答がマークシート方式で記載された回答用紙から、該質問への回答として提示された個人情報を読み取り、デジタル情報として、記録する、または、ネットワーク接続された別の装置に転送する、手段を備えた、アンケート・スキャナが挙げられる。例えば、飲食店で食べた料理の味や量、満足度、或いは、雰囲気や接客の好感度などを評価するアンケートを実施する場合、個人情報提供者は、テーブルの上に備えられたアンケート回答用紙に回答を記入の上、料金清算時に、回答が記入されたアンケート回答用紙をレジの横のアンケート・スキャナに通す。アンケートに回答するインセンティブを与えるために、回答に協力した人には、料金の1%を割り引くなどの措置を取ってもいいだろう。店員に対する顧客のプライバシーを保持する場合には、アンケート・スキャナはアンケート回答者が挿入したアンケート回答用紙を店員に提示することなく、そのまま回収するようにすればよい。回収された回答用紙は、密閉された状態でアンケート・スキャナが保持し、後日アンケート実施業者が回収に来て処理しても構わないし、アンケート・スキャナがシュレッダ機能を備え、これを用いて回答が読み取られた段階ですぐに裁断処理してしまっても構わない。該アンケートへの回答として得られた個人情報は、個人情報提供者の嗜好を特定する情報として、また飲食店や各メニューの評価を特定するための情報として、社会シミュレーション・サーバに直接的にまたは間接的に送信され、社会シミュレーションに利用される。さらにこの情報は、現実世界において、個人情報提供者本人の行動または意思決定を支援または代行するためのエージェント・プログラムに送信し、個人の嗜好を把握するための材料として活用することや、集計した上で店舗経営者に送信し、店舗のメニューやサービスなどを改善するための判断材料として活用すること、クーポン券や広告の発行業者に送信し、クーポン券や店舗広告を発行する対象者を選定する際の情報として活用することも可能である。こうしたアンケート回答情報の複数の活用プロセスを併用することにより、アンケートの実施によって得られた個人情報を有効活用することが可能となり、またそれぞれのサービスの相乗効果を期待することもできる。
請求項12に記載されたインタビュー回答記録装置の実施例としては、以下のものを挙げることができる。
請求項12に記載されたインタビュー回答記録装置の第一の実施例は、個人情報提供者について社会シミュレーション・サーバにおいて保持されていない個人情報のうち、社会シミュレーションを実施するうえで必要な個人情報の項目を動的に確認しながら、効果的な順序で質問を構成する機能と、該機能によって準備された質問を個人情報提供者に提示する機能と、該機能の動作による個人情報提供者の反応をデジタル情報として記録する機能とを有する、インタビュー回答記録装置を用いたものである。例えば、以下のような実装例を考えることができる。社会シミュレーション・サーバは、社会シミュレーションを実施する目的において、次のようなエージェントのモデルを保持していたとする。エージェントは、それぞれ異なる論理構造によって意思決定を行う。まず、各エージェントは、論理構造の異なる意思決定モデルA、B、C、Dのうちの1つを有し、このうちAを有する場合には、さらにサブモデルA1、A2、A3、A4のうちの1つを有し、このうちA1を有する場合には、さらに変数A1a、A1b、A1c、A1dのそれぞれの値を有する必要がある。意思決定モデルB、C、Dを有する場合においても、他のサブモデルにおいても同様であるか、さらに複雑な階層構造を有する。個人情報提供者の個人情報をシミュレーション世界の各エージェントに適用するには、これらの情報を本人に確認する必要がある。インタビュー回答記録装置は、社会シミュレーションを実施するうえでどのような個人情報が必要であるかを確認した上で、調査対象とする個人情報提供者の個人情報のうち、社会シミュレーション・サーバにおいて保持されているものを社会シミュレーション・サーバに問い合わせる。該個人情報提供者が意思決定モデルA〜Dのうちどれに相当するかについての情報が保持されていないことを確認したインタビュー回答記録装置は、該個人情報提供者に対し、「あなたの意思決定のプロセスは、A〜Dのうちどれに該当しますか?」といった質問を投げかけ、A〜Dのうち1つの回答、を引き出す。回答がAである場合、次に、該インタビュー回答記録装置は、Aのサブモデルについて該個人情報提供者がどれに該当するかについての情報を保持しているかどうかを、社会シミュレーション・サーバに確認する。保持していない場合、該インタビュー回答記録装置は、同様に、該個人情報提供者がサブモデルA1、A2、A3、A4のどれに該当するかを確認する。これが仮にA1である場合、該インタビュー回答記録装置は、A1a〜A1dの変数の値について該個人情報提供者の情報を保持しているかどうかを、社会シミュレーション・サーバに確認する。A1a及びA1dの値が既に保持されている場合、該インタビュー回答記録装置は、A1b及びA1cの情報を特定する質問を該個人情報提供者に対して実施し、回答を引き出す。該インタビュー回答記録装置は、該個人情報提供者から引き出した情報を社会シミュレーション・サーバに送信し、社会シミュレーション・サーバはこの情報を記録する。
請求項12に記載されたインタビュー回答記録装置の第二の実施例は、回答内容が、選択肢形式においても、数量的または論理的に表現可能な形式においても、規定されていない質問への回答を柔軟に引き出すことにより、調査対象者の嗜好や行動原則について、シミュレーション世界のエージェントが保持する可能性のあるモデルとしてはまだ定義されていない、新たな論理構造を構築するものである。例えば、次のような実施例を考えることができる。インタビュー回答記録装置は、社会シミュレーション・サーバに、シミュレーション世界のエージェントのモデルとして既に準備されているものを確認し、エージェントは特定状況においてA、B、C、Dの4つの選択肢のうちの1つを選ぶと定義されていることを確認する。該インタビュー回答記録装置は、個人情報提供者が特定状況においてA、B、C、Dの4つの選択肢のうちのどの選択肢を選ぶかを確認しようと試みるよう、インタビュー実施者に指示を出す。インタビュー実施者は、該個人情報提供者への質問により、該個人情報提供者がこのうちのどれに該当しようとするかを確認しようとする。該個人情報提供者が単純に、このうちの1つを選んだ場合には、該インタビュー回答記録装置は、該インタビュー実施者の入力により、この情報を記録し、社会シミュレーション・サーバに報告する。社会シミュレーション・サーバは、既に準備されたモデルとこの報告された情報とを用いて、該個人情報提供者に対応するシミュレーション世界のエージェントを定義する。一方、同じ質問に対し、個人情報提供者は、A、B、C、Dの4つの選択肢のうちの1つを答えるのではなく、「時と場合による」と答えた場合、インタビュー実施者は、この情報を何らかの入力により該インタビュー回答記録装置に伝達する。該インタビュー回答記録装置は、インタビュー実施者に対し、さらに該個人情報提供者にインタビューを実施することにより、どういう条件において、どの選択肢を選ぶかの一覧を作成するよう指示を出し、インタビュー回答記録装置において論理構造を構築するためのツールとして提供されるエディタ・インタフェースをインタビュー実施者に提示する。インタビュー実施者は、該個人情報提供者との対話を繰り返すことにより、該個人情報提供者が、条件1においては選択肢Aを、条件2においては選択肢Bを、条件3においては選択肢Cを選ぶことを確認し、この内容を、新たな論理構造として、該エディタ・インタフェースを用いて、インタビュー回答記録装置に記録する。条件1、条件2、条件3が、既に社会シミュレーション・サーバが保持する任意のモデルにおいて定義することのできるものであるならば、該インタビュー記録装置は、既にモデルを構成する要素を参照しながら各条件を定義するようインタビュー実施者に促すことが可能であり、この場合は、インタビュー回答記録装置は入力された情報を社会シミュレーション・サーバに送信し、社会シミュレーション・サーバは、これをモデルとしてそのままシミュレーション世界においてそのまま機能させることも可能である。また、条件1が社会シミュレーションを構成する複数の要素の組み合わせによって定義される可能性がある場合には、インタビュー回答記録装置は、条件1の詳細を確認するため、さらに何度か質問を繰り返すよう、インタビュー実施者に指示を出し、その回答を用いて論理構造を構築することが可能であるかどうかを判断するしくみも考えられる。また、条件1、条件2、条件3が、既に社会シミュレーション・サーバが保持するモデルにおいて定義することのできないものであれば、インタビュー回答記録装置に記録された情報は、モデル構築の担当者に送信され、該担当者は、報告された論理構造を社会シミュレーションにおいて適用することが効果的であるかどうかを判断の上、適用する場合には既存のモデルと整合性を整える処理を経た上でモデルを動作させるという手順を経る。
請求項13に記載された、ナビゲーション・システムまたはナビゲーション装置の実施例としては、自分のいる場所から自動車で目的地に到着するまでの道案内をしてくれるカー・ナビゲーション機能、または、自分のいる場所から歩行や公共交通機関などを利用して目的地に到着するまでの道案内をしてくれる歩行者ナビゲーション機能、を有する、ナビゲーション装置を挙げることができる。カー・ナビゲーション機能を有するナビゲーション装置は自動車に設置されたものを利用することができ、歩行者ナビゲーション機能を有するナビゲーション装置は携帯電話などに実装されたものを利用することができる。ナビゲーション装置において、該装置の位置情報を確認する手段と、利用者が該装置を利用していることを確認する手段と、前記2手段によって得られた情報をもとにして利用者の所在を確認する手段と、該手段によって得られた利用者の所在の情報を記録する手段と、前記手段において記録された情報をもとに、利用者の現在または過去の所在および移動履歴に関する個人情報を社会シミュレーション・サーバに送信する手段とを有するものを挙げることができる。また、ナビゲーション装置において、利用者が目的地や到着目標時間を入力する手段と、該手段により入力された情報を記録する手段と、該手段により記録された情報を用いて利用者の将来の移動スケジュールに関する個人情報を社会シミュレーション・サーバに送信する手段とを有するものを挙げることができる。なお、上記実施例は、位置測定手段を備えたナビゲーション装置の実施例であるが、その他にも、公共交通機関の乗り換え案内サービスを提供する機能を有する乗り換え案内システムを用いて、移動スケジュールに関する個人情報を獲得する方法も考えられる。
請求項14に記載されたソフトウェアの実施例としては、ゲーム・ソフト、教育ソフト、個人情報管理ソフト(PIM)、家計簿ソフトなどを適用したものが挙げられる。
請求項14に記載されたソフトウェアとしてゲーム・ソフトを適用した場合の実施例としては、以下のものが考えられる。第一の例は、ゲーム世界における一定の状況において、複数の選択肢がゲームのプレイヤーに提示されたとき、該プレイヤーがどの選択肢を選ぶかを記録することによって、該プレイヤーの意思決定の原則または確率等の個人情報を得るというものである。第二の例は、ゲーム世界において、ゲームのプレイヤーの操作する主体が一定状況においてどのように振舞うかを指定する設定内容を記録することによって、該プレイヤーの意思決定の原則または確率等の個人情報を得るというものである。第三の例は、社会シミュレーション・サーバにおいて実施されるシミュレーションのシミュレーション世界における事象の一部または該事象とかかわりのある事象を、ゲームのプレイヤーが実行するゲーム・ソフト上で展開されるゲーム世界において再現し、これに対する該プレイヤーの反応を記録することによって、該事象に対する該プレイヤーの反応に関する個人情報を得るというものである。
請求項14に記載されたソフトウェアとして教育ソフトを利用した場合の実施例としては、以下のものが考えられる。第一の例は、利用者の能力を測定するテスト機能を備えた教育ソフトを適用したもので、該ソフトにおいて測定された利用者の能力についての個人情報を獲得するというものである。この情報は、例えば、社会シミュレーション・サーバにおいて実施されるシミュレーションのシミュレーション世界における各エージェントの能力を設定するために利用することができる。第二の例は、教育ソフトとして、利用者が社会シミュレーションを操作することによって現実社会のありかたを学習する機能を提供する教育ソフトを適用したもので、該ソフトにおいて社会シミュレーションを動作させるために利用者が本人の思想、考え方等を表現したデータまたはプログラムの情報を、社会シミュレーション・サーバに送信する個人情報として記録するというものである。この情報は、例えば、社会シミュレーション・サーバにおいて実施される社会シミュレーションのシミュレーション世界における各エージェントの思想、考え方等を設定するために利用することができる。
請求項14に記載されたソフトウェアとして個人情報管理ソフト(PIM)を利用した場合の実施例としては、以下のものが考えられる。個人情報管理ソフトに記録された、利用者の交流相手の連絡先、該連絡先の分類、交流の頻度等についての個人情報を獲得するというものである。この情報は、例えば、社会シミュレーション・サーバにおいて実施されるシミュレーションのシミュレーション世界における各エージェントの情報交換の相手や各相手との親密である度合いを設定するために利用することができる。第二の例は、個人情報管理ソフトに記録された利用者のスケジュールや行動記録を獲得するというものである。この情報は、例えば、社会シミュレーション・サーバにおいて実施されるシミュレーションの社会シミュレーション世界における各エージェントの行動範囲、行動パターン等を設定するために利用することができる。
請求項14に記載されたソフトウェアとして家計簿ソフトを利用した場合の実施例としては、以下のものが考えられる。第一の例は、家計簿ソフトに記録された利用者の資金残高についての個人情報を獲得するというものである。この情報は、例えば、社会シミュレーション・サーバにおいて実施されるシミュレーションのシミュレーション世界における各エージェントの所有資産または消費能力を特定するために利用することができる。第二の例は、家計簿ソフトに記録された利用者の消費内容についての個人情報を獲得するというものである。この情報は、例えば、社会シミュレーション・サーバにおいて実施されるシミュレーションの社会シミュレーション世界における各エージェントの消費傾向を特定するために利用することができる。
請求項15に記載されたセンサの実施例としては、以下のようなものが挙げられる。
請求項15に記載されたセンサの第一の実施例は、振動センサを備え、該センサの観測する情報を元に、利用者が歩行または走行する際の歩数や移動距離を推定する万歩計機能を備えた装置である。この装置を利用することにより、本人の歩数や移動距離に関する個人情報を記録することができる。
請求項15に記載されたセンサの第二の実施例は、赤外線センサを備えた装置である。赤外線センサは、温度を持つ物体から放射される赤外線を観測することにより、センサ周辺の人間の存在や特定行動を観測し、それが備えられた装置を自動的に動作させる目的などにおいて利用される。この装置を利用することにより、個人が、いつ、何処で、何をしていたかを推測することにより得られる個人情報を記録することができる。
請求項15に記載されたセンサの第三の実施例は、GPSにおいて複数の衛星から発信される電磁波を観測し、地球上でのほぼ正確な位置を特定する機能を有し、利用者に携帯されることを特徴とする装置である。この装置を利用することにより、本人の一夜移動履歴に関する個人情報を記録することができる。
請求項15に記載されたセンサについては、上記実施例以外にも、個人の指紋や顔などを識別するイメージ・センサ、IC等に記録された情報を読み取る情報センサ、或いは個人を取り巻く環境に関する様々な要素を測定することのできる、温度センサ、湿度センサ、光センサ、ハイパー・スペクトラム・センサ、圧力センサ、加速度センサ、磁気センサ、化学成分測定センサ、等、様々なセンサを利用することが考えられる。また、上記実施例では、センサで観測された情報を比較的単純な形態で利用するものであるが、センサは現実世界で機能する様々な装置で利用されており、複数種類のセンサを備えた装置を適用すれば、さらに複合的な方法で個人情報を得ることができる。また、センサを搭載した多様な装置で観測される情報を併せて処理することにより、より網羅的な個人情報を得ることができる。
請求項16に記載された、遠隔個人情報管理サーバから個人識別情報に対応する個人情報を引き出す手段を備えた装置の実施例としては、以下のものが挙げられる。
請求項16に記載された、遠隔個人情報管理サーバから個人識別情報に対応する個人情報を引き出す手段を備えた装置の第一の実施例は、ICまたはカードに記録された個人識別情報を用いて遠隔個人情報管理サーバから個人情報を引き出すものである。ICまたはカードに記録された個人情報を読み取る機能を備えたICスキャナまたはカード・スキャナは、ICまたはカードに記録された個人識別情報を読み取り、該個人識別情報を遠隔個人情報管理サーバに送信し、遠隔個人情報管理サーバは、該遠隔個人情報管理サーバが個人識別情報を用いて管理する複数の個人の個人情報を記録したデータベースの中から、受信した該個人識別情報に対応する個人情報を引き出し、該個人情報を元のICスキャナまたはカード・スキャナに送信し、元のICスキャナまたはカード・スキャナは、該個人情報を受信し、これを社会シミュレーション・サーバに送信する。
請求項16に記載された、遠隔個人情報管理サーバから個人識別情報に対応する個人情報を引き出す手段を備えた装置の第二の実施例は、ICまたはカードに記録された個人識別情報と、ICまたはカードに記録されたICまたはカード自体を識別するカード等識別情報と、を用いて遠隔個人情報管理サーバから個人情報を引き出すものである。ICまたはカードに記録された個人情報を読み取る機能を備えたICスキャナまたはカード・スキャナにおいて、ICまたはカードに記録された個人識別情報とカード等識別情報とを読み取り、該個人識別情報及び該カード等識別情報を、個人識別情報と、1つの個人識別情報あたり1つ以上のカード等識別情報と、を用いて個人情報を管理し、個人識別情報とカード等識別情報の組み合わせにより、管理する個人情報の各要素へのアクセス権限を設定する機能を有する遠隔個人情報管理サーバに送信し、該遠隔個人情報管理サーバにおいて、該ICスキャナまたは該カード・スキャナから送信された該個人識別情報及び該カード等識別情報を受信し、該遠隔個人情報管理サーバが管理する複数の個人の個人情報を記録したデータベースの中から、受信した該個人識別情報と該カード等識別情報の組み合わせによりアクセス可能であると設定された個人情報を引き出し、該個人情報を元のICスキャナまたはカード・スキャナに送信し、該ICスキャナまたはカード・スキャナにおいて、該個人情報を受け取り、これを社会シミュレーション・サーバに送信する。
請求項16に記載された、遠隔個人情報管理サーバから個人識別情報に対応する個人情報を引き出す手段を備えた装置の第三の実施例は、個人は1つの個人識別情報を管理するICまたはカードを有し、パスワード等の本人認証情報を含む本人の入力情報によりアクセスが許可された個人情報を、遠隔個人情報管理サーバから引き出すものである。ICスキャナまたはカード・スキャナにおいて、ICまたはカードに記録された個人識別情報を読み取り、パスワード等の本人認証情報を含む本人の入力する本人入力情報を受け付け、該個人識別情報及び該本人入力情報を、遠隔個人情報管理サーバに送信し、該遠隔個人情報管理サーバにおいて、該個人識別情報及び該本人入力情報を受信し、該本人入力情報のうちの本人認証情報を用いて該ICまたはカードを提示したのが本人であることを確認した上で、本人の入力した情報によりアクセス可能な個人情報の範囲を特定し、該遠隔個人情報管理サーバが管理する複数の個人の個人情報を記録したデータベースの中から、受信した該個人識別情報で特定される個人情報のうち、該範囲に属する本人の個人情報を引き出し、該個人情報を元のICスキャナまたはカード・スキャナに送信し、該ICスキャナまたはカード・スキャナにおいて、該個人情報を受け取り、これを社会シミュレーション・サーバに送信する。なお、本人の入力した情報によりアクセス可能な個人情報の範囲を特定する方法としては、認証のための入力とアクセス可能な個人情報の範囲を特定するための入力とを別に受け付ける方法と、個人が認証用のパスワードをいくつか保持し、どのパスワードを入力するかによってアクセス可能な個人情報の範囲が異なるようにする方法とが考えられる。また、本人認証情報は、パスワード入力のように本人の能動的な入力と、虹彩認証のように本人の反射的な反応による入力の両方が可能であるものとする。例えば、認証手段として、指紋を利用する場合、右手の親指も、人差し指も、中指も、本人を認証するという意味においては、同様の役割を果たすことができるが、どの指を提示するかによって、アクセスが可能となる個人情報の範囲が異なるという形態を考えることもできる。
請求項17に記載された人間デジタル情報行動監視システムの実施例は、インターネット上のウェブ・サーバが、該ウェブ・サーバにアクセスするウェブ・ブラウザを通じて、訪問者のコンピュータのハードディスクに、一時的に情報を書き込んでおくことのできるクッキー機能を利用して、個人のインターネットにおけるウェブページ上でのアクセス履歴を管理するシステムを用いたものである。具体的なシステム構成の例としては、次のものが考えられる。個人の情報行動を監視する機能を有するウェブ・サーバにおいて、該ウェブ・サーバにアクセスするウェブ・ブラウザに対して提供する情報のなかに、該情報を構成する各情報要素を識別することのできる情報要素識別情報を埋め込む手段と、該情報要素識別情報を、該ウェブ・ブラウザを有するクライアントの保持する記録媒体に記録する手段と、該記録媒体に記録された情報要素識別情報を読み取る手段を有するシステムを挙げることができる。これにより、ウェブ・ブラウザを通じて本人に提示された情報要素の一覧を把握することができる。さらに、各情報要素が提示された頻度や日時、提示された状況などを示すデータを記録する際に添付しておくようにすれば、さらに詳細な情報行動を管理することが可能となる。或いは、ウェブ・ブラウザを有するクライアントには、該クライアントまたは該クライアントを利用する個人を識別することのできる識別情報だけを記録し、個人の情報行動を監視する機能を有するウェブ・サーバに対して該クライアントからのアクセスがあった際には、該識別情報を読み取り、該識別情報が保持されていない場合には識別情報を新たに書き込み、該識別情報の識別対象であるクライアントまたは個人によって該サーバに送信される情報、および、該サーバから該クライアントまたは該個人に送信される情報を、該サーバにおいて記録するという方法も考えられる。さらに、単独のウェブ・サーバにおいてこれを行うのではなく、複数のウェブ・サーバにおいて実施し、同じ個人の情方法行動について得られた情報を合わせることにより、複数のウェブ・サイトにおける本人の情報行動を追跡することができる。また、複数のウェブ・サーバで得られた情報を単純に合わせるという方法ではなく、複数のウェブ・サーバにおいて提供される目的情報のなかに、これとは別の単独のウェブ・サーバに対して情報要素の送信を要求するリクエストを実行するためのリクエスト情報を埋め込み、該目的情報を参照するウェブ・ブラウザを有するクライアントの記録媒体において、該リクエスト情報で指定されたウェブ・サーバに情報要素の送信を要求し、この要求を受けたウェブ・サーバは、該クライアントの保持する識別情報を参照し、該識別情報がない場合には識別情報を新たに記録し、何らかの方法で該クライアントに送信する情報を選定し、これを該クライアントに送信し、この内容を該要求を受けたウェブ・サーバのアクセス可能な記録媒体に保持する、システムも考えられる。この方法を用いることにより、複数のウェブ・サイトにおける個人の情報行動を、単独のウェブ・サーバにおいて管理することが可能となる。
請求項18に記載された、エージェントベース社会シミュレーションを適用したものの実施例は、実施例1において請求項1〜4に記載された社会シミュレーション・システムまたは社会シミュレーションを実行する方法の実施例として記載されたものである。他にも、請求項5〜26の実施例において、エージェントベース社会シミュレーションが適用されたものを挙げることができる。
請求項19に記載された、遠隔商品サービス情報管理サーバを利用した社会シミュレーション・システムの実施例は、次の通りである。小売店に備えられた、個人情報収集管理クライアント機能を有する、会計用レジスターにおいて、個人情報提供者の購入する商品やサービスを会計時に捕捉し、該商品やサービスのリストを各商品やサービスを識別することのできる商品サービス識別情報を用いて、個人の購入した商品やサービスに関する個人情報を整理し、該個人情報を社会シミュレーション・サーバに送信し、社会シミュレーション・サーバにおいて、該個人情報を受信し、該個人情報から個人が購入した商品やサービスを識別する商品サービス識別情報を抽出し、該商品サービス識別情報を、該商品やサービスに関する詳細な情報を管理する遠隔商品サービス情報管理サーバに送信し、該遠隔商品サービス情報管理サーバから、該商品やサービスに関する詳細な情報を受け取る。該遠隔商品サービス情報管理サーバは、様々な商品やサービスの商品サービス識別情報と、商品やサービスの詳細な情報と、両者の関係と、をデータベースにおいて管理し、商品やサービスの情報を提供するサービスの対象となる装置から、商品やサービスの識別情報を受信したときには、該データベースから該識別情報に対応する商品の詳細な情報を検索し、該商品の詳細な情報を該装置に送信する。社会シミュレーション・サーバは、遠隔商品サービス情報管理サーバから受信した商品やサービスの詳細な情報のなかから社会シミュレーションのモデルで取り扱う対象とされるデータを抽出し、或いは、遠隔商品サービス情報管理サーバから受信した商品やサービスの詳細な情報をもとに社会シミュレーションのモデルで取り扱われる形式のデータを作成し、これを現実世界の該個人情報提供者に対応するシミュレーション世界のエージェントに反映し、シミュレーション世界と現実世界とのリンクを図る。例えば、個人が飲食店で食事をする場合、個人が食する食事は飲食店のIDとメニューの商品番号の組み合わせによって識別することができるので、個人情報収集管理クライアント機能を有するレジスターは、料金の精算処理をする際に、個人情報提供者の食した食事に関する情報を、店のIDとメニューの商品番号及び飲食した日時や場所など状況を示すデータによって記述し、これを該個人情報提供者の食生活に関する個人情報として社会シミュレーション・サーバに送信する。社会シミュレーション・サーバは、該個人情報から店のIDと商品番号を抽出し、これを遠隔商品サービス情報管理サーバに送信する。該遠隔商品サービス情報管理サーバは、該食事についての、品目や素材、味付け、栄養価、価格などの詳細な情報を社会シミュレーション・サーバに送信する。該社会シミュレーション・サーバは、該遠隔商品サービス情報管理サーバから該情報を受信し、自身が実施する社会シミュレーションのモデルに合わせてこれを変換する。例えば、受信した詳細な情報のうち、栄養価はモデルで扱わないので省略する、或いは、価格はそのままの数字ではなくA〜Jの10段階の値に置き換える、といった具合である。
請求項20に記載された、「経済的価値を有する電子的な記録、クーポン、ポイント、または電子マネーを受け取る手段」の実施例としては、以下のものが挙げられる。
請求項20に記載された、「経済的価値を有する電子的な記録、クーポン、ポイント、または電子マネーを受け取る手段」の第一の実施例は、社会シミュレーション実施者の管理する、社会シミュレーション・サーバまたは個人情報管理サーバにおいて、個人情報提供者から社会シミュレーション・サーバに提供された個人情報を評価し、社会シミュレーション実施者等が定めた個人情報価格表、または、個人情報の需要と供給や取り扱いの規則によって左右される個人情報価格相場、または、その他の何らかの基準に応じて、提供された個人情報の対価額を算出し、その対価に相当する経済価値を有する電子的な記録、クーポン、ポイント、または電子マネーを、個人情報提供者の利用する、デジタル情報として表現された貨幣価値を保持し、何らかの決済手段を有する、電子マネー媒体に、入金または記録するというものである。電子マネー媒体としては、遠隔または近距離の装置と通信する通信手段と、電子マネーを保持するコンピュータ・プログラム及び貨幣価値情報を記録する記録手段とを備えた、IC、カード、携帯情報端末、パーソナル・コンピュータ等の装置、或いは、キャッシュカードやクレジットカード等で管理される遠隔サーバにおける個人金融資産管理口座、などを適用することができる。
請求項20に記載された、「経済的価値を有する電子的な記録、クーポン、ポイント、または電子マネーを受け取る手段」の第二の実施例は、個人の利用するエージェント・プログラムが、個人または個人の利用するエージェント・プログラムが定めた、個人情報提供方針を保持し、社会シミュレーション・サーバから送信される、一定条件において個人情報の提供を求める要求を受信し、この要求に応じて、該条件を該個人情報提供方針と照らし合わせ、社会シミュレーション・サーバの指定する条件が該個人情報提供方針の許す範囲であれば、指定された個人情報を提供し、そうでなければ個人情報の提供を拒絶するというものである。個人情報提供方針としては、どの範囲の個人情報であれば幾らの対価で提供するかのみを定めた方針や、何らかの交渉プロセスを含む方針などが考えられる。交渉プロセスを含む方針の単純な例としては、最初に提示する価格と後から提示する価格を保持し、最初に提示する価格で個人情報提供の取引が成立しなかった場合に、後から提示する価格で再度取引の成立を試みる、などの方針を挙げることができる。上記以外にも、交渉プロセスの例としては、提供する個人情報の範囲を調整するものや、個人情報を独占的に提供する契約に関して調整するものなどのプロセスが可能である。
請求項21に記載された、社会シミュレーション・システムの実施例としては、以下のものが挙げられる。
請求項21に記載された、社会シミュレーション・システムの第一の実施例は、シミュレーション世界におけるエージェントが、デザインや人間の顔など、デジタル情報として定義される評価基準によって評価することができない対象を評価するプロセスを含む、社会シミュレーション・システムであって、該対象を表現した情報を、各エージェントに対応する現実世界の個人情報提供者に提示し、それに対する評価を確認することによって、各エージェントの該対象に対する評価として扱うことを可能とする、社会シミュレーション・システムである。特定品目商品市場のシミュレーションを扱う社会シミュレーション・サーバの実施する市場シミュレーションにおいて、各特定品目商品の特徴を、原則として10のパラメータによって、ただしデザインが大きな特徴を持つものについては10の該パラメータにデザイン情報を加えたものによって、定義し、シミュレーション世界の各エージェントはこれを評価し、自身の購買行動を決定する。各エージェントの有する評価基準は、現実世界の個人情報提供者の評価基準に関する個人情報をもとに定義され、各エージェントは10のパラメータの組み合わせを評価する手段を有する。しかし、各エージェントは、写真や3Dデータなどで定義されるデザイン情報を評価する手段を持たない。デザインに対する評価は感性的なものであり、その評価基準をデジタル情報化することが困難であるためである。各エージェントは、デザインをどの程度重視するかを示すパラメータのみを保持することができる。そこで、社会シミュレーション・サーバは、デザイン情報の付与された特定品目商品が定義された際に、デザインを重視するかを示すパラメータにおいて一定値を上回る値を有するエージェントについて、各エージェントがデザインも考慮した的確な評価を与えることができるよう、各エージェントを定義するために用いた個人情報を提供した個人情報提供者の利用する個人情報収集管理クライアントに該デザイン情報を送信し、該個人情報提供者はこれに対し評価を与え、該個人情報収集管理クライアントは、該評価に関する個人情報を社会シミュレーション・サーバに送信する。社会シミュレーション・サーバは、該評価に関する個人情報を受け取り、必要に応じて、各エージェントの、該特定品目商品に対し評価を与えるプロセスに反映する。これによって、各エージェントは、デジタル情報として定義される評価基準によって評価することのできない側面を的確に評価する手段を有することが可能となり、シミュレーションの精度の向上が期待される。
請求項21に記載された、社会シミュレーション・システムの第二の実施例は、現実世界の労働市場を取り扱う社会シミュレーションにおいて、労働者エージェントと雇用者エージェントのマッチングによって、両者にとって好ましい契約が結べると計算された、それぞれの相手のデータを両者に送信し、その評価を確認することを通じ、実際の労働市場におけるマッチングを促進するというものである。労働市場を取り扱う社会シミュレーションを実施するうえで、次のようなモデルを適用したとする。シミュレーション世界では、労働者と雇用者の二種類のエージェントが存在し、労働者エージェントは自身が希望する条件をなるべく高水準で満たす雇用条件を提示してくれる1つの雇用者エージェントを求め、雇用者エージェントは自身の求める能力をなるべく高水準で備えた適当数の労働者エージェントを求め、シミュレーション世界において両種類のエージェントがマッチングされることにより、ある労働者エージェントとある雇用者エージェントがともに同意したときに、両者は契約を結ぶ。労働者エージェントの能力は、スキル、資質、性格などの個人の能力を示す1000のパラメータに与えられる数値の組み合わせによって定義され、雇用者エージェントは、自身が求める労働者の能力の範囲を1000の該パラメータの範囲を特定することによって定義し、各労働者エージェントに与える評価を求めるための該パラメータを用いた計算式を保持する。同様に、雇用者エージェントの提示する雇用条件は、雇用条件を示す100のパラメータに与えられる数値の組み合わせによって定義され、労働者エージェントは、自身の許容できる雇用者エージェントの雇用条件の範囲を100の該パラメータの範囲を特定することによって定義し、各雇用者エージェントに与える評価を求めるための該パラメータを用いた計算式を保持する。ただし、雇用条件の定義において、雇用対象となる労働者エージェントの能力を示す1000のパラメータを参照し、そのパラメータに応じた条件式を用いることも可能であるものとする。労働者エージェントは、自身の許容できる雇用条件を満たした上で、自身の基準において少しでも高い評価を与えることのできる雇用者エージェントと契約を結ぼうとし、雇用者エージェントは自身の求める労働者エージェントの能力の範囲を満たした上で、自身の基準において少しでも高い評価を与えることのできる労働者エージェントと契約を結ぼうとする。労働者エージェントは1つの雇用者エージェントとしか契約を結ぶことができず、雇用者エージェントは適当数の労働者エージェントと契約を結ぶことができるが、適当数を越えた数の労働者エージェントと契約を結ぶことはできない。労働者エージェントと雇用者エージェントは、一度契約を結べば両者の関係は当面維持されるが、労働者エージェントは、自身が有する一定の条件が満たされたときに一方的に契約を解消することができる。このなかには、雇用者エージェントによる自身への待遇が悪化することや、現在の雇用者エージェントをある程度上回る好条件を示す他の雇用者エージェントからのオファーがあること、雇用以外の面での個人的事情によるもの、などが含まれる。雇用者エージェントが同様に労働者エージェントとの契約を解消することを可能とするかどうかは、シミュレーションの対象となる現実世界の労働市場における制度によるが、通常何らかの方法で特定の労働者エージェントへの待遇を悪化させ、契約解消に追い込む手段を有することはできる。シミュレーション世界の各労働者エージェントの定義は、何らかの方法、例えば能力テスト、アンケート、第三者評価情報の獲得等の方法、により入手された現実世界の労働者の個人情報を用いて行い、各雇用者エージェントの定義は、何らかの方法、例えばアンケート、求人情報広告の監視、人事評価基準の参照等の方法、により入手された現実世界の雇用者の雇用ニーズ情報を用いて行い、さらに各労働者エージェントと各雇用者エージェントの実際の契約関係等については、両者のエージェントを定義するための方法で収集された情報や必要に応じ別の方法により集められた情報により特定し、シミュレーションの初期状態を設定する。社会シミュレーション・サーバは、このようなモデルを用いた労働市場の社会シミュレーションを実施し、シミュレーション世界における雇用者エージェントと労働者エージェントのマッチングが成立した際に、両者のお互いに対する評価が高かった場合、該雇用者エージェントの情報を該労働者エージェントに対応する現実世界の個人情報提供者の利用する個人情報収集管理クライアントを通じて該個人情報提供者に提示し、該労働者エージェントの情報を該雇用者エージェントに対応する現実世界の雇用者に何らかの手段を通じて提示し、それに対するそれぞれの評価を確認したうえで、実際にお互いに高い評価が与えられれば、現実世界において両者を引き合わせる措置を取る。これにより、シミュレーションの結果を現実世界に還元し、社会シミュレーションのために情報を提供したものの実益に寄与することができる。また、シミュレーション世界の現象と現実世界の現象とを一致させ、シミュレーション世界と現実世界の乖離を抑制する。そして、実際にはそれほど高い評価が与えられていなければ、この情報を用いてシミュレーション世界の各エージェントの定義を更新し、各エージェントの判断基準を、各エージェントに対応する現実世界の社会主体の判断基準に近づけ、シミュレーション世界と現実世界の乖離を抑制する。
請求項21に記載された、社会シミュレーション・システムの第三の実施例は、現実世界の男女または複数の人間の出会いをシミュレートする社会シミュレーションにおいて、現実世界の個人の個人情報を元として定義された複数のエージェントのマッチングがシミュレーション世界においてうまくいったときに、各エージェントに対応する個人情報提供者に他のエージェントの情報を提示し、その情報に対する各個人情報提供者の評価を確認することにより、現実世界の出会いもうまくいく見通しが立てられたときに、各個人情報提供者を引き合わせるというものである。人間の出会いを取り扱う社会シミュレーションを実施する社会シミュレーション・サーバにおいて、男女交際、取引、サービス提供、趣味などを目的とした何らかの出会いを求める個人から本人登録または個人情報収集管理クライアントを通じた手段などで個人情報の提供を受け、これを元にシミュレーション世界のエージェントを定義する。提供を受ける個人情報には、個人情報提供者自身の特徴を示すもの、希望する出会いの内容を示すもの、出会う相手に求める条件や相手を評価する基準を示すもの等が含まれている。各エージェントは、「希望する出会いの内容」を示す個人情報をもとに設定された目的に沿って、シミュレーション世界において出会いを求める活動を行う。各エージェントは、自らが関係を結ぶ相手の候補に出会った際、お互いの「希望する出会いの内容」が整合性の取れるものであるかどうかを調べ、整合性が取れれば次の評価プロセスに進む。評価プロセスにおいて、各エージェントは、お互いに相手のエージェントの特徴、即ち「個人情報提供者自身の特徴」を示す個人情報をもとに与えられたエージェントの特徴が、自身の相手に求める条件、即ち「出会う相手に求める条件」を示す個人情報をもとに与えられた条件を満たすものであるかを判断し、満たしていれば、自身の相手を評価する基準、即ち「相手を評価する基準」を示す個人情報をもとに与えられた評価基準が、相手エージェントの特徴に与える評価を求める。次に、各エージェントは、過去に出会ったエージェントに対する評価と比較するなどの処理により、相手エージェントと関係を結んでもよいかどうかを判断する。各エージェントは、お互いに関係を結んでもよいと判断した場合に関係を結ぶ。こうした出会いのシミュレーションを実施するシミュレーション・システムにおいて、個人情報提供者の特徴を示す個人情報をもとに定義されたエージェントの特徴のうち、デジタル情報によって定義される評価基準によっては評価することのできない特徴がある場合、または、デジタル情報によって定義される評価基準によって評価することは可能であるが評価する側のエージェントがそれに対応する評価基準を保持していない特徴がある場合、社会シミュレーション・サーバは、該エージェントを定義するために用いられた個人情報を提供した個人情報提供者の利用する個人情報収集管理クライアントに、該特徴を示す情報を送信し、個人情報提供者は該特長に対して評価を与え、該個人情報収集管理クライアントは、該評価に関する情報を該社会シミュレーション・サーバに送信する。該社会シミュレーション・サーバは該評価に関する情報を各エージェントの評価プロセスに組み込み、各エージェントは該評価に関する情報を用いて相手に対する評価を決定する。これによって、各エージェントは、デジタル情報として定義される評価基準によって評価することのできない側面を的確に評価する手段を有することが可能となり、シミュレーションの精度の向上が期待される。また、実施例2と同様に、シミュレーション世界においてお互いに好ましい関係が結べると計算された、それぞれの相手のデータを両者に送信し、その評価を確認することを通じ、実際の労働市場におけるマッチングを促進するというものも考えられる。この場合は、シミュレーション世界において良好な関係を構築できると計算された場合、実際に本人が各相手のデータに対し高い評価が与えられることを確認した上で、現実世界において両者を引き合わせる措置を取ることにより、シミュレーション世界の現象と現実世界の現象とを一致させ、シミュレーション世界と現実世界の乖離を抑制することが可能となる。
なお、請求項21に記載された、社会シミュレーション・システムの第二の実施例、第三の実施例で示されたシミュレーションは、単に各エージェントがお互いに高い評価を与える組み合わせを求める計算を行うのではなく、各エージェントが出会うまでのプロセスや、各エージェントが出会った後のプロセスをシミュレートすることもできる。例えば、エージェントがお互いに出会って関係を結んだ後、一方のエージェントにとってさらによい相手が見つかって、相手との関係を切ったり修正したりする可能性がどの程度であるかといった点も計算することができる。この場合、さらによい相手が見つかった場合にどのような行動をとるか、現在の相手に対する評価をどの程度上回れば相手を変更するか、その場合現在の相手との関係をどのように修正するか、といった点での方針を示す個人情報を収集し、各エージェントに反映させる。各エージェントはこの方針に従って、現在の相手よりも高い評価を与えることのできるエージェントと出会った際の行動を決定する。現実世界において出会いをめぐる各主体の状況や関係は時間とともに推移するため、出会った瞬間に相互に高い評価を示す好ましい関係を構築することができたとしても、この関係が継続するとは限らない。単に個人情報提供者の提供する個人情報を直接用いてその組み合わせを評価するマッチング処理ではこうした推移を取り扱うことができないのに対し、本実施例においては時間的推移によって関係がどのように推移するかをシミュレートすることができるため、その関係を築くのが長期に渡って望ましいことであるかについての見通しを立てることが可能となる。
請求項22に記載された社会シミュレーション・システムの実施例としては、以下のものが挙げられる。
請求項22に記載された社会シミュレーション・システムの第一の実施例は、現実世界の特定品目商品の市場を扱う社会シミュレーションであって、新規商品を市場に投入した場合にどれだけの消費者に受け入れられるかをシミュレートする際に、社会シミュレーション・サーバが保持するだけの情報ではシミュレーション世界の各エージェントがその商品を的確に評価することができない場合などに、各エージェントに対応する個人情報提供者の利用するエージェント・プログラムに対し、新規商品を定義する情報を提示し、該新規商品に対する評価を得ることによって、シミュレーション世界における該エージェントの振る舞いを決定することを可能とする市場シミュレーション・システムである。社会シミュレーション・サーバは、現実世界の特定品目商品の市場において消費者として振る舞う個人情報提供者の提供した個人情報を用いて定義された消費者エージェントを有する。シミュレーション世界において、特定品目商品は20の価値尺度の値の組み合わせによって定義され、各エージェントは20の価値尺度の値の組み合わせを評価する価値観を有し、該価値観によって高い評価が与えられる商品を購入する。通常の商品は20の価値尺度の値の組み合わせによって定義されるが、従来商品にない新たな価値を有する新規商品など、20の価値尺度の値だけではその本質的な特徴を捉えきれない商品を取り扱う必要が生じた場合、新たな価値尺度を定義し、21の価値尺度の値の組み合わせによって該新規商品を定義する。しかし、各エージェントの価値観においては21番目の新しい価値尺度を用いて商品を評価する基準が定義されていないため、各エージェントは該新規商品を評価することができない。そこで、該新規商品を定義する情報を、各エージェントに対応する現実世界の個人情報を提供した個人情報提供者の利用する、個人情報収集管理クライアントとしての機能を有する、エージェント・プログラムに対して送信し、これに対する評価を求める。該エージェント・プログラムは、21番目の価値尺度における利用者の嗜好を既に保持している場合、本人の予め設定したポリシーや本人と社会シミュレーション事業者との個人情報提供に関する契約に従って新たな情報を社会シミュレーション・サーバに送信するかどうかを判断し、ポリシーがこれを認める場合や契約によって規定されている場合には、21の価値尺度の値の組み合わせに対する価値観によって該新規商品を評価し、該評価の情報を社会シミュレーション・サーバに送信する。社会シミュレーション・サーバは、各個人情報提供者から提供された該新規商品に対する評価の情報を各エージェントの意思決定プロセスに組み込み、新規商品が投入された場合の市場をシミュレートする。なお、エージェント・プログラムから社会シミュレーション・サーバに該新規商品に対する評価の情報を送信する代わりに、本人の予め設定したポリシーが許す場合や本人と社会シミュレーション事業者との個人情報提供に関する契約に規定されている場合には、21番目の価値尺度への態度を含む新たな個人情報を提供することも可能である。
請求項22に記載された社会シミュレーション・システムの第二の実施例は、社会シミュレーションを実施する際に、シミュレーション世界における各エージェントが担当する計算プロセスを、社会シミュレーション・サーバにおいて処理するのではなく、現実世界の個人情報提供者が利用するエージェント・プログラムにおいて処理するというものである。社会シミュレーション・サーバは、個人情報を提供することに同意した個人情報提供者の利用するエージェント・プログラム機能を有する計算機または情報端末に、社会シミュレーションを実施するプロセスのうち各エージェントが担当する計算プロセスを処理するシミュレーティング・エージェント・プログラムを送信し、該個人情報提供者は自身の操作によって、該エージェント・プログラム機能を有する計算機または情報端末に、該シミュレーティング・エージェント・プログラムをインストールする。このとき、該エージェント・プログラムは、該個人情報提供者の設定したポリシーによっては、該シミュレーティング・エージェント・プログラムを自動的にインストールするよう、設計することもできる。該シミュレーティング・エージェント・プログラムには、社会シミュレーション・サーバから送信される情報を受信する機能、シミュレーションの実行プロセスにおいてエージェントが記憶すべき情報を保持する機能、社会シミュレーション・サーバから受信した情報および自身が保持する情報を用いて何らかの判断または意思決定のプロセスを処理する機能、判断または意思決定のプロセスの処理する機能によって得られた情報を社会シミュレーション・サーバに送信する機能、判断または意思決定のプロセスの処理する機能によって得られた情報によって自身が保持する情報を更新する機能、シミュレーション世界の時間進行の速度に関する規定等のシミュレーション世界の枠組みを規定する情報及びエージェントの基本的動作を定義する情報を保持しこれによって自身の動作を制御する機能、直接的にまたは社会シミュレーション・サーバを通じて、他の個人情報提供者の利用するエージェント・プログラムにおいて存在し、同じシミュレーション世界に参加する別のエージェントと情報交換をする機能、等が実装される。例えば、個人が定期的に利用する特定品目商品の市場を扱う社会シミュレーションを実施する場合、個人情報提供者の利用するエージェント・プログラムは、予めインストールされたシミュレーティング・エージェント・プログラムの有する機能を用いて次のような処理を行う。最初に、エージェント・プログラムは、社会シミュレーション・サーバから、シミュレーションを開始するシグナルと、最初にエージェントが保持するシミュレーション世界に対する知識、例えばシミュレーション世界において取引される特定品目商品の一部に関してエージェントが最初から知っているべき知識、に関する情報を受け取る。エージェント・プログラムは、自身の有する個人情報提供者の個人情報に基づいて、シミュレーティング・エージェント・プログラムの保持する情報やモデル構成を調整する。エージェント・プログラムは、個人情報提供者の個人情報に基づき調整された特定品目商品の購入頻度に応じて、シミュレーション世界の時間が適当なだけ進むたびに、個人情報提供者の個人情報に基づき調整された特定品目商品に対する評価基準によって、エージェントがその時点までに入手した情報の範囲で特定品目商品を評価し、そのうちの1つを選択し購入する意思決定を下す。エージェント・プログラムは、シミュレーション世界において該エージェントが該特定品目商品を購入する際に必要な処理、例えば、ある時点で該特定品目商品を購入したことの記録、該特定品目商品を購入したことを社会シミュレーション・サーバに伝達する処理、購入した該特定品目商品に対するより正確で詳細な情報を獲得し記録する処理、購入した該特定品目商品に対する満足度を算出し記録する処理、などを、実行する。エージェント・プログラムは、該特定品目商品を購入しない間にも、社会シミュレーション・サーバから提供される特定品目商品に関する新たな情報を獲得したり、同じシミュレーション世界に参加する他のエージェント・プログラムと特定品目商品に関する情報やそれに対する評価に関して情報交換を行ったりする。こうしたプロセスは、社会シミュレーション・サーバから、直接的または間接的に、社会シミュレーションの終了のシグナルを受け取るか、予め設定されたシミュレーションの実施時間が終了するか、エラーが発生するなど何らかの理由で社会シミュレーション・サーバとのあいだで社会シミュレーションの進行に必要な正しい通信が不可能になるか、いずれかの状況が発生するまで継続される。このような社会シミュレーションの方法を適用することにより、次のような利点がある。第一に、社会シミュレーション・サーバに、評価基準に関する個人情報をそのまま伝達するのではなく、評価基準によって計算された結果に関する個人情報を伝達するだけで社会シミュレーションを実施することができるため、個人情報提供者のプライバシー侵害のリスクを低く抑えることができ、より多くの個人情報提供者の社会シミュレーションへの参加を期待することができる。第二に、社会シミュレーションの実施に用いる個人情報が頻繁に更新される個人情報である場合、常にエージェント・プログラムが有する最新の個人情報を用いることが可能であり、社会シミュレーションを実施している最中に更新された個人情報であっても、その更新を社会シミュレーションにリアルタイムに反映することができる。該エージェント・プログラムは、該個人情報提供者の設定したポリシーに基づいて、社会シミュレーション・サーバとの間で契約を交わし、該契約に沿う形で社会シミュレーションを実施する際にシミュレーション世界のエージェントとしての役割を果たすよう、設計することもできる。該エージェント・プログラムは、社会シミュレーションが終了した際に、最初にインストールしたシミュレーティング・エージェント・プログラムを自動的に削除する機能を有することもできる。なお、請求項20に記載された、個人情報提供者が個人情報収集管理クライアントを通じて、社会シミュレーションの実施者より、個人情報の提供に対する対価を受け取るしくみを併用すれば、個人情報提供者は、一度の社会シミュレーションに参加するたびに、いくらかの対価を受け取ることができる。
請求項23に記載された社会シミュレーション・システムの実施例としては、下記のものが挙げられる。
請求項23に記載された社会シミュレーション・システムの第一の実施例は、本人の嗜好や状況を示す個人情報およびアクセス可能な各種情報に基づき最適と思われる商品やサービス等を検索し、購買行動に関する意思決定を支援するものである。現実世界の特定品目商品の市場を取り扱う社会シミュレーションを実施する社会シミュレーション・サーバにおいて、特定品目商品の一覧及び各商品の特徴に関する情報と、特定品目商品を定期的に購買する個人の一覧及び該個人の特定品目商品に対する嗜好を示す個人情報とを保持し、各特定品目商品の特徴を10の特徴尺度の値の組み合わせによって表現し、各利用者の嗜好をそれぞれ該特徴尺度に対応する10の嗜好尺度の組み合わせによって表現し、各利用者エージェントが各特定品目商品を利用した際に得られる満足の度合いは、それぞれ対応する該商品の特徴尺度と該エージェントの嗜好尺度を乗算して得られる10の値の和によって計算されるというモデルを有している。社会シミュレーション・サーバは、これと同様の計算プロセスにより、社会シミュレーション・サーバが保持する本人の嗜好を示す情報と、特定品目商品の一覧及び各特定品目商品の特徴を示す情報とを用いて、個人が最も高い満足の得られる特定品目商品を計算し、これを、個人情報収集管理クライアント等を通じて、本人に提案する。本人がその提案を受け入れれば、シミュレーション世界における予測または計算の結果を実際の本人の行動と一致させることができ、シミュレーション世界と現実世界の乖離を抑制することができる。また、本人がその提案を受け入れない場合には、社会シミュレーション・システムは、その情報を何らかの方法で社会シミュレーション・サーバにフィードバックさせ、システムは本人の入力に応じて、個人情報提供者の嗜好や行動原則について学習する機能を有することができる。この機能を適用することにより、社会シミュレーション・サーバは、個人情報提供者の嗜好や行動原則をより正確に特定する情報を獲得し、これをシミュレーション世界のエージェントに反映することが可能となり、シミュレーション世界と現実世界の乖離を抑制することができる。
請求項23に記載された社会シミュレーション・システムの第二の実施例は、他者の個人情報およびアクセス可能な各種情報に基づき最適と思われる商品やサービス等を検索し、購買行動に関する意思決定を支援するものである。第一の実施例と同様の社会シミュレーション・システムであって、社会シミュレーション・サーバは、特定品目商品を定期的に購買する各個人について、性別、年代、その他の属性情報を保持しているものとする。社会シミュレーション・サーバは、性別、年代、その他の属性情報を用いて、特定品目商品に対する各個人の嗜好の特徴を整理するうえで意味のある個人のグループを算出または保持し、該グループに属する各個人の個人情報を用いて、該グループにおける特定品目商品に対する嗜好の平均または典型を示す嗜好情報を算出し、社会シミュレーションにおいて保持されるのと同様の計算プロセスにより、この平均または典型を示す嗜好情報と、特定品目商品の一覧及び各特定品目商品の特徴を示す情報とを用いて、該グループに属す個人が最も高い満足の得られる特定品目商品を計算し、これを、個人情報収集管理クライアント等を通じて、本人に提案する。第一の実施例と同様の効果があるのに加え、特定条件において人気が高いと計算される商品やサービスを抽出することにより、本人のおかれている条件における流行の商品やサービスを提案することや、任意の基準において本人と同様の特性を示す個人やグループ、または本人とその特性において任意の相関関係のある個人やグループの情報を利用することにより、本人が好むと考えられる商品やサービスを提案することが可能となる。これにより、商品やサービスの選択における本人の視野を広げ、より大きな満足が得られる状況を導くとともに、シミュレーション世界において高い評価の与えられる商品やサービスの現実世界における市場を広げることができる。
請求項23に記載された社会シミュレーション・システムの第三の実施例は、助言、提案、または広告の対象とする個人の数を調整することにより、マーケットのゆるやかな管理を行うものである。例えば、ある商品やサービスの供給可能な量が限られているとき、その商品やサービスを最も必要としていると推測される、適当数の個人に対してその商品やサービスを利用するよう提案するものが考えられる。具体的な利用例は以下のとおりである。現実世界のある電化製品のマーケットを取り扱う社会シミュレーションを実施する社会シミュレーション・サーバにおいて、電化製品の一覧及び各電化製品の特徴に関する情報と、今後三ヶ月以内にその電化製品をひとつだけ購入することを決意している個人の一覧及び各個人のその電化製品に対する嗜好を整理した個人情報とを保持し、各電化製品の特徴を10の特徴尺度の値の組み合わせによって表現し、各個人の嗜好をそれぞれ該特徴尺度に対応する10の嗜好尺度の組み合わせによって表現し、各個人が各電化製品を購入した際に得られる満足の度合いは、それぞれ対応する特徴尺度と嗜好尺度を乗算して得られる10の値の和によって計算されるというモデルを有している。そこで、現実世界で新たに投入される新規商品であって、最初の月の出荷台数が需要と比較して少ないため、既存商品ではなく該商品を購入することにより最大の満足が得られると予測される全ての個人が、該新規商品を購入することができない場合、社会シミュレーション・サーバは、既存商品を購入することにより得られる満足との比較において計算された該新規商品を購入することにより得られる満足の度合いが、最も大きいと予測される順に、該新規商品の出荷台数と同じ数の個人に対し、該新規商品の購入を提案する。これにより、該新規商品の販売業者は、該新規商品を最も高く評価してくれると期待される個人に対して最初に該新規商品を提供することが可能となる。そのため、同じ出荷台数を販売する場合であっても、ある程度しか評価してくれない個人に対して該新規商品を提供する場合と比較すると、より高い消費者満足を提供することができ、より高い社会的評判を獲得することができると期待される。上記以外の利用例としては、同じ時間に入ることのできる利用客の人数が限られた外食店について、社会シミュレーション・サーバに伝達される、個人の外食店に対する嗜好を示す個人情報、及び、個人の食生活の実績やパターン、その日のスケジュール、そのときの居場所等を示す個人情報を利用して、そのとき最もその店を利用するニーズが高いと推測される利用者に利用してもらえるよう推奨するしくみが考えられる。また、社会シミュレーション・サーバにおいて商品やサービスの利用量に関する予測を行い、その結果を活用して、推奨の対象とする個人の数を調整することによりマーケットの管理の精度を高めることもできる。
請求項24に記載された社会シミュレーション・システムの実施例としては、以下のものを挙げることができる。
請求項24に記載された社会シミュレーション・システムの第一の実施例は、社会シミュレーションのために収集または管理される精度の高い個人情報を活用して広告対象者を絞り込み、また該個人情報に応じて広告内容の調整を行うことにより、効果的なパーソナル・マーケティングを可能とするものである。具体的な利用例は次の通りである。現実世界の特定品目商品のマーケットを扱う市場シミュレーションを想定する。多様な事業者の提供する多様な特定品目商品の情報を、シミュレーション世界で規定されたモデルに従ってデジタル情報化する。例えば、各特定品目商品の特徴を10の特徴尺度の値の組み合わせによって表現し、各利用者の嗜好をそれぞれ該特徴尺度に対応する10の嗜好尺度の組み合わせによって表現し、各利用者(エージェント)が各特定品目商品を利用した際に得られる満足の度合いは、それぞれ対応する特徴尺度と嗜好尺度を乗算して得られる10の値の和によって計算される、というモデルを有していたとすれば、現実世界の多様な特定品目商品の情報を10の該特徴尺度の値の組み合わせによって定義する。各特定品目商品の広告情報を定義する際には、10の特徴尺度の値の組み合わせによって定義された特定品目商品情報の全てまたは一部に加え、ファッショナブルな度合い、人気の高い度合い、割安感を示す度合い等を示す評価を添えることができる。該評価の値の特定においては、現実世界の、各特定品目商品を提供する事業者、該事業者と契約を結ぶ広告代理店、第三者的な立場にあるオーソリティ、或いは消費者コミュニティ等が関与することができるが、現実世界の広告情報に埋め込まれた印象と同等またはこれに近い評価が与えられるしくみを適用する。シミュレーション世界で広告情報を受け取るエージェントは、該評価の値を認識し、10の該特徴尺度の値の全てまたは一部の情報と併せて、現実世界の個人情報提供者の個人情報を元に定義された、自身の有する原則に沿って、該広告情報を評価し、いつ、どの商品を購入するかについての意思決定を行う。社会シミュレーション・サーバは、シミュレーション世界において定義された多様な特定品目商品の広告情報を、実験的に各エージェントに提示し、各エージェントの反応を確認するシミュレーションを繰り返すことにより、どの広告情報が提供されたときに、各エージェントがその商品を購入すると予測されるかまたは購入の確率が高くなるかを計算し、各エージェントの購買行動に最も結びつくと計算された広告情報を、該エージェントを定義するための個人情報を提供した現実世界の個人情報提供者に提供する広告情報として採用し、該広告情報を該個人情報提供者に、該個人情報提供者の利用する個人情報収集管理クライアントを通じて、または、個人に対して電子的に制御可能な広告を提示する任意の手段を通じて、提示する。この方法を用いることにより、例えば個人情報提供者との契約や、広告効果を高める目的などにおける必要性から、個人情報提供者に提供することのできる広告情報の量が制限される場合、たくさんの広告情報の中から、本人に提供した際に最も大きな効果を挙げることが期待される広告情報を抽出し、これを本人に提供するといったオペレーションが可能となる。広告情報を提供する事業者にとっては、広告が購買に結びついた際に成功報酬を受け取ることを定めた広告主との契約を結ぶ場合などにおいて、限られた対個人広告枠を効果的に活用する場合などにおいて有意義な成果を挙げることが可能になると期待される。
請求項24に記載された社会シミュレーション・システムの第二の実施例は、現実世界における個人情報提供者と、シミュレーション世界における該個人情報提供者に対応するエージェントに、同じか同等の内容を含む広告情報を提供することにより、該エージェントが接触する広告情報と実際に本人が接触する広告情報を一致させるまたは対応付けるというものである。第一の実施例と同様の社会シミュレーション・システムを想定する。ただし、社会シミュレーション・サーバは、「シミュレーション世界において定義された多様な特定品目商品の広告情報を、実験的に各エージェントに提示し、各エージェントの反応を確認するシミュレーションを繰り返す」のではなく、現実世界における各個人情報提供者に提示される広告情報が既に決まっていて、シミュレーション世界において、該広告情報に対応する広告情報を、各個人情報提供者に対応するエージェントに提示するという操作を行う。これにより、シミュレーション世界において該エージェントが意思決定の際の判断材料として利用可能な情報と、現実世界において本人が意思決定の際の判断材料として利用可能な情報を、一致させることができるため、シミュレーション世界と現実世界の乖離を抑制することができる。また提示された広告情報に対する本人の反応を社会シミュレーション・サーバにフィードバックさせ、現実世界の個人情報提供者の該広告情報に対する反応と、シミュレーション世界におけるエージェントの該広告情報に対する反応が、一致するかどうかを確認する。これにより、現実世界とシミュレーション世界の一致する度合いを評価することができる。さらに、両者の反応が一致しない場合には、該エージェントが保持するパラメータや論理構造を調整しながらシミュレーションを繰り返し、同じ結果が得られるパラメータや論理構造の組み合わせを求め、該エージェントの行動を定義する新しいパラメータや論理構造の組み合わせの候補を抽出する。該候補は、過去の事例への適用や、将来のシチュエーションでの機会での試験的な適用を繰り返すことにより、各候補の信頼性を評価し、十分な信頼性が認められる基準に達した際に、該エージェントが保持する新しいパラメータや論理構造の組み合わせとして適用する。この場合、各エージェントは自身の行動を制御するパラメータや論理構造の組み合わせ以外に、常に別のパラメータや論理構造の組み合わせの候補を保持することとなる。これにより、個人情報提供者の広告情報への反応を、該エージェントの意思決定原則を本人の意思決定原則に近づけるための材料として活用することができる。なお、第一の実施例と第二の実施例とを併用することにより、さらに効果的な活用が可能となる。
なお、請求項24に記載された社会シミュレーション・システムの第三の実施例としては、請求項23に記載された第三の実施例と同様のものが挙げられる。繰り返しとなるため、ここでは詳細を割愛する。
請求項24に記載された社会シミュレーション・システムの第四の実施例は、カスタマイズすることが可能な特定品目商品の市場に関する社会シミュレーションにおいて、社会シミュレーション・サーバで保持される個人情報に基づき、該個人情報を提供した個人情報提供者の嗜好に最も適合すると予測または計算される状態にカスタマイズされた特定品目商品の情報を、該個人情報提供者に対応するシミュレーション世界のエージェントに提供し、該エージェントが、シミュレーション世界の特定品目商品市場で取引される他の商品との比較のうえで、カスタマイズされた該特定品目商品を選んだ場合、該エージェントに対応する現実世界の個人情報提供者に対し、カスタマイズされた該特定品目商品の情報を、該特定品目商品に関する広告として現実世界の個人情報者に提供するというものである。また、シミュレーションを繰り返し行う場合には、該広告を提供する対象となる個人情報提供者を、カスタマイズされた該特定品目商品を選ぶ確率、或いは、各個人情報提供者が、カスタマイズされた該特定品目商品に満足する度合い、が高いと計算または予測されたエージェントに対応する、現実世界の個人情報提供者とすることも可能である。これにより、社会シミュレーションの実施者は、カスタマイズすることが可能な特定品目商品の市場において、個人情報提供者の嗜好に最も適合する状態にカスタマイズされた特定品目商品の情報を、該特定品目商品を購入する可能性が高いと考えられる個人情報提供者に対して、提供することが可能となる。これは、広告発信者が無駄な広告コストを抑制することと、広告受信者が無駄な広告情報を受け取るのを回避することの両方を可能とし、広告コミュニケーションの効率を高める効果が期待される。さらに、社会シミュレーション・システムが、請求項25に記載された、個人情報提供者が、広告情報の提供を受けた商品を予約、契約または購入する手段を備えた場合、個人情報提供者が該商品を購入した際に、該特定品目商品を提供する事業者は、該個人情報提供者に、該特定品目商品を、カスタマイズされた状態で提供することが可能となる。これは、該事業者と該個人情報提供者の両者にとってカスタマイズにかかる負荷を抑制しながら、該個人情報提供者の満足度の高い商品を提供することが可能となり、流通効率と顧客満足を向上させる効果が期待される。
請求項25に記載された社会シミュレーション・システムの実施例としては、以下のものを挙げることができる。
請求項25に記載された社会シミュレーション・システムの第一の実施例は、個人情報提供者による商品やサービスの予約、契約、または購入の内容や数に関する個人情報を社会シミュレーション・サーバに送信し、シミュレーションの前提条件を随時更新するというものである。特定品目商品市場を取り扱う社会シミュレーションを実施する社会シミュレーション・システムにおいて、シミュレーション世界で各エージェントがある商品を購入することにより高い満足を得た場合、或いは、シミュレーション世界で各エージェントが、高い満足が得られることが期待され、購入する候補となる、1つまたは複数の商品に接触した場合、社会シミュレーション・サーバは、該エージェントを定義するための個人情報を提供した個人情報提供者の利用する個人情報収集管理クライアントに、1つまたは複数の該商品に関する情報を送信する。該個人情報収集管理クライアントは、該商品に関する情報を該個人情報提供者に提示し、該個人情報提供者が該商品を予約、契約、または購入することのできる手段を提供する。該個人情報提供者は、情報が提示された商品のなかから任意の商品を購入することができる。該商品は、個人情報提供者自身の行動原則や価値観に関する個人情報を元に作成された、シミュレーション世界のエージェントが、購入して満足を得たもの、または、購入の候補として期待を寄せているものであり、自身にとっても満足できるものである可能性が大きい商品であると、期待することができる。該個人情報提供者が情報提供を受けた商品のうち任意の商品を予約、契約、または購入する手続きを取った場合、該個人情報収集管理クライアントは、現実世界において該商品の予約、契約、または購入の手続きを進めるサービスを提供する、該個人情報収集管理クライアントとネットワーク接続されたサーバに、直接的または間接的に、該商品の予約、契約、または購入を進めるために必要な情報を送信するほか、該商品の予約、契約、または購入が実行されたことを示す情報を、社会シミュレーション・サーバに送信する。社会シミュレーション・サーバは、該情報をシミュレーション世界に反映させる。これにより、社会シミュレーション・サーバは、本人が恐らく該商品を購入するであろう、という不確実な予測、または、本人が、ある確率である商品を、別の確率で別の商品を、選ぶであろう、という不確実な予測、を前提として、シミュレーション世界を次のステップに進めるのではなく、本人が該商品を予約、契約、または購入したことを確定要素として取り扱い、シミュレーション世界を次のステップに進めることができる。このことは、現実世界における本人の行動と、シミュレーション世界における本人に対応したエージェントの行動を一致させることを可能とし、シミュレーション世界と現実世界の乖離を抑制するために有効な手段となる。
請求項25に記載された社会シミュレーション・システムの第二の実施例は、個人情報及び社会シミュレーション・サーバが保持するプログラムを用いた計算結果に基づき、個人情報提供者に助言、提案、または広告を提供する機能を有する社会シミュレーション・システムにおいて、予約、契約、または購入する手段またはステップを加えることにより、マーケットの管理を行うものである。例えば、ある商品やサービスの供給可能な量が限られている場合に、その商品やサービスを最も必要としていると推測される、ある一定数の個人に対してその商品やサービスを利用するよう提案し、予約、契約、または購入を取り付けることによってマーケティング計画を調整すること、や、あらかじめ商品やサービスの生産や提供の計画を立てておきたい場合に、その商品やサービスを購入または利用するであろうと予測される個人に対しその商品やサービスの情報を提供し、予約、契約、または購入の機会を設けることにより、商品やサービスの生産や提供の計画を立てることなどを可能とする。具体的な利用例は以下のとおりである。請求項23の第三の実施例に記載されたものと同様の社会シミュレーション・システムを想定する。社会シミュレーション・サーバは、品薄状態が予測される特定の新規商品の情報を、該新規商品を購入することにより得られる満足の度合いが、最も大きいと予測される順に、該新規商品の出荷台数と同じ数の個人情報提供者に提示し、該新規商品の購入または予約を提案する。ただし、該新規商品の購入を勧める提案には有効期間が設けられていて、その間であれば、該個人情報提供者は該新規商品を優先的に購入または予約することができる。しかし、有効期間が経過して、購入または予約が実行されない場合には、該個人情報提供者に提示された該提案は無効となり、社会シミュレーション・サーバは、該商品の生産台数から、購入または予約が実行された数を差し引いた数の、該新規商品を購入することにより得られる満足の度合いが次に大きい個人情報提供者に、該新規商品の情報を提示し、購入または予約を提案する。このプロセスを繰り返すことにより、購入や予約の台数を準備することが可能な台数に接近させる。該新規商品の情報を提示し、購入や予約を提案する対象となる個人情報提供者の数は、過去に購入や予約のプロセスを通じて当該品目商品を購入または予約した人の割合や、提案を受けた人の中で実際に購入または予約する人の割合、等に関する経験的なデータをもとに、実際に準備することが可能な商品の台数とは異なる数を取ることも可能である。或いは、別の利用例として、供給可能な台数に制約はないが、実際に販売することのできる数と同程度の数だけの商品を準備したいという場合、新規商品の情報を提供し、購入または予約を提案する対象となる個人情報提供者の数を制限せず、該新規商品を購入することにより得られる満足の度合いが十分に大きいと予測される全ての個人情報提供者に該新規商品の情報を提供し、購入または予約を提案し、それに対する購入や予約等の反応を確認することによって、販売可能な商品数を推定し、生産数を確定するというものも考えられる。
請求項25に記載された社会シミュレーション・システムの第三の実施例は、企画段階にある商品、サービス等の情報を扱うもので、社会シミュレーション・サーバにおいて、該商品、サービス等を好むと予測される個人情報提供者を推定し、該個人情報提供者に、該商品、サービス等の情報と、該商品、サービス等に関する条件付きの予約、契約、または購入を実行する機会を提供し、その反応を確認することにより、企画段階にある該商品、サービス等の開発、販売の是非を検討するためのシステムである。現実世界の市場において投入することを前提として開発されている、企画段階にある商品、サービス等の特徴をデジタル情報として定義し、シミュレーション世界においてこれを購入する可能性の高いエージェントを予測し、該エージェントに対応する現実世界の個人情報提供者の利用する個人情報収集管理クライアントに、該商品、サービス等の情報を伝達する。該個人情報収集管理クライアントは、該商品、サービス等の情報を受信し、該情報を該個人情報提供者に提示し、該個人情報提供者が該商品等に関する、条件付きの、予約、契約、または購入を実行する手段を提供する。該個人情報提供者は、該商品、サービス等が自身の嗜好に適合するものであれば、企画段階にある該商品、サービス等が実現されることを条件に、該商品、サービス等に関する、予約、契約、または購入を実行することができる。予約、契約、または購入が実行された場合には、該商品、サービス等に関する予約、契約、または購入を実行するサービスを提供する、該個人情報収集管理クライアントとネットワーク接続されたサーバに、該商品、サービス等に関する予約、契約、または購入を実行するために必要な情報を送信するほか、該商品、サービス等に関する予約、契約、または購入の内容を、社会シミュレーション・サーバまたは社会シミュレーションを実施する事業者の管理するサーバに送信する。これにより、社会シミュレーションを実施する事業者は、該商品、サービス等を実際に開発して販売することが合理的であるかどうかを判断することができる。また、該個人情報収集管理クライアントは、単に提示された商品、サービス等の仕様を受け入れるだけでなく、該個人情報提供者に、該商品、サービス等の情報を提示する際に、該個人情報提供者が、該商品、サービス等の特徴の一部について修正要求を入力する手段、該手段によって入力された修正要求を社会シミュレーション・サーバに送信する手段と、修正要求がある場合には、該修正要求が満たされることを条件とした、条件付きの予約、契約、または購入を実行する手続きを進める手段と、を有することができる。これにより、社会シミュレーションを実施する事業者は、該商品、サービス等の仕様に関する修正の必要性や合理性を判断することができる。新しい商品、サービスに関する企画が複数ある場合には、各商品、サービスについてこれを行い、最も見込みの高い商品、サービスを開発するという使い方もできる。具体的なシステム構成の例としては、現実世界の特定品目商品の市場を扱う社会シミュレーションを実施する社会シミュレーション・サーバにおいて、現実世界における特定品目商品の市場において売り出すことを前提として開発している企画段階商品の特徴をデジタル情報として定義する手段と、該デジタル情報によって特徴が定義される商品を、シミュレーション世界における該特定品目商品市場に投入した場合に、該商品を選択する可能性、または、該商品を購入することによって満足する度合い、が高いと計算されるエージェントを推定する手段と、該エージェントに対応する現実世界の個人情報提供者の利用する個人情報収集管理クライアントに、該企画段階商品の特徴を定義した情報を送信する手段と、を備え、該個人情報収集管理クライアントは、該個人情報提供者が、該企画段階商品を、条件付で、予約、契約、または購入できる手段と、該予約、契約、または購入の内容を示す情報を、社会シミュレーション・サーバに送信する手段と、を備えたもの、が考えられる。
請求項26に記載された社会シミュレーション・システムの実施例としては、以下のものが挙げられる。
請求項26に記載された社会シミュレーション・システムの第一の実施例は、人間以外の生命体である個体に対してアンケート調査を実施し、アンケート調査に対する回答を該個体の個体情報として自動的に記録し、この情報を直接的または間接的に社会シミュレーション・サーバに送信する装置を利用したものである。生命体の個体に関する情報を収集するアンケート調査の実施形態としては、例えば次のようなものが考えられる。複数の視覚的情報が提示されたときに最も気に入ったものに向かって突進してくる性質を持った獣がいたとする。複数の紙製の写真を掲載したとき、調査対象である獣が最も気に入った写真に突進し、必ずそのうちの1つの写真が破られることを可能とする、迷路のように分岐した通路であって、分岐点毎に前にしか進めない加工を施したもの、を備えた対獣アンケート装置、を用いることにより、個体に対しアンケート調査を実施する方法が考えられる。この場合、破られる可能性のある複数の写真が本件記載の「紙などのアンケート回答内容記録媒体」として機能し、そこから自動的に情報を読み取る手段が「アンケート・スキャナ」として機能する。飼育されている犬などを調査対象とする場合には、個体毎にこの装置に対面させる方法で調査を行うことが可能である。野生の猪などの獣を調査対象とする場合には、この装置を該獣の生息地帯に配置し、餌を配置する等の形態でインセンティブを付与することによりアンケートへの回答を促し、有効回答数に達するのを待つ。何らかの方法で既に回答した個体を自動的に識別し、同一個体が何度も回答するのを防止するしくみを追加するなどの工夫を加えることも可能である。この場合、個体を識別する方法としては、既に回答した個体に適当な手段でマークをつけておく方法や、個体毎に異なるパターンを有する性質を持つ身体部位を用いた情報を読み取る方法が考えられる。このような、生命体に対するアンケート調査の実施形態は、調査目標とする生命体の性質に応じて様々な形態が考えられる。これにより、現実世界の生命個体の特徴をシミュレーション世界に投影することができるため、シミュレーション世界と現実世界の乖離を抑制することができる。
請求項26に記載された社会シミュレーション・システムの第二の実施例は、人間以外の生命体である個体の個体情報を、管理目的において調査対象個体の体内に埋め込まれた非接触ICタグから、ICスキャナを用いて読み取り、得られた個体情報を直接的または間接的に社会シミュレーション・サーバに送信する装置を利用したものである。該ICタグから読み取られた個体情報が個体識別情報である場合、該ICスキャナ、社会シミュレーション・サーバ、またはこの間を中継する個体情報管理サーバにおいて、該個体識別情報を、該個体のより詳細な個体情報を管理する遠隔個体情報管理サーバに送信し、送信者または送信装置について設定されたアクセス権限に応じて、必要な個体情報を引き出す機能を有することが考えられる。これにより、現実世界の生命個体の特徴をシミュレーション世界に投影することができるため、シミュレーション世界と現実世界の乖離を抑制することができる。
請求項26に記載された社会シミュレーション・システムの第三の実施例は、非接触通信可能なICタグを保持する物品のトレイサビリティを実現するしくみにおいて、ICタグを用いて管理される物品の個体情報をシミュレーション世界に反映するというものである。物品に、埋め込まれた、または、添付された、ICタグに記録された、物品の個体情報を、ICスキャナにおいて読み取り、得られた個体情報を直接的または間接的に社会シミュレーション・サーバに送信する。該ICタグから読み取られた個体情報が個体識別情報である場合、該ICスキャナ、社会シミュレーション・サーバ、またはこの間を中継する個体情報管理サーバにおいて、該個体識別情報を、個体のより詳細な個体情報を管理する遠隔個体情報管理サーバに送信し、送信者または送信装置について設定されたアクセス権限に応じて、必要な個体情報を引き出す機能を有することが考えられる。これにより、現実世界の物品の分布や物流をシミュレーション世界に投影することができるため、シミュレーション世界と現実世界の乖離を抑制することができる。
請求項26に記載された社会シミュレーション・システムの第四の実施例は、請求項1〜25等に記載された社会シミュレーション・システムまたは社会シミュレーションを実行する方法と、請求項26に記載された社会シミュレーション・システムまたは社会シミュレーションを実行する方法とを、同じ社会シミュレーションにおいて併せて用いるものである。具体的な実施例としては、次のようなものが考えられる。現実世界の特定商店における特定品目農作物の売買の取引を取り扱う社会シミュレーションを実施する社会シミュレーション・サーバにおいて、定期的に来店する顧客のリスト、及び、該リストに含まれる各顧客の個人情報を獲得する。各顧客の個人情報になかには、状況及び条件毎に該特定品目農作物を購入する可能性、農作物の産地に関する嗜好、どの産地のものであれば幾らまでの価格で購入するかのリスト、購入の候補に挙がった複数の産地の農作物の中から実際に購入するものを選択する際の基準、などの情報が含まれる。該個人情報を獲得する方法の例は、該特定店舗または他店における該個人の購買行動を記録する手段を有するポイント・カード等のカードを用いて管理される情報を獲得する方法、或いは、本人に対して実施するアンケートによって獲得する方法、などが考えられる。シミュレーション世界のエージェントは、該個人情報をもとに定義または更新される。ポイント・カードなど、継続的に個人情報を獲得する方法を用いる場合には、社会シミュレーション・サーバにおいて保持される個人情報を随時新しいものに更新し、シミュレーション世界のエージェントの定義を随時新しいものに更新することができる。さらに、該社会シミュレーション・サーバにおいて、現実世界の該特定商店において取り扱う特定品目農作物に関する個体情報を獲得する。該個体情報のなかには、該特定品目農作物の産地別及び品種別種類のリスト、及び、該リストに含まれる各産地の該特定品目農作物の流通のステイタス、スケジュール、入荷予定数量、品質、などの情報が含まれる。該個体情報を獲得する方法の例は、該特定品目農作物の物流プロセスにおいて、該特定品目農作物の運搬容器に備えられたICタグや、物流施設や運送車などに備えられた該ICタグの情報を読み書きするICタグ・スキャナなどを用いることにより、農作物のトレイサビリティを実現するシステムによって、各流通ステップにおいて獲得される情報をリアルタイムに社会シミュレーション・サーバに送信する方法、或いは、該特定品目農作物の売買契約をサポートする情報システムによって獲得される情報を社会シミュレーション・サーバに送信する方法、などが考えられる。シミュレーション世界において、該特定品目農作物が入荷する量やスケジュール、産地や品種などの情報は、該個体情報をもとに設定または更新される。現実世界の特定商店における特定品目農作物の売買取引を行う消費者の個人情報をシミュレーション世界のエージェントに反映し、該特定品目農作物の流通状況に関する個体情報をシミュレーション世界の流通状況の設定に反映することにより、消費者及び商品の両面から現実世界とシミュレーション世界の乖離を抑制することが可能となる。例えば、毎日の農作物の価格をどのように設定するのがちょうどいいか、そのベストな組み合わせを算出するために利用するなどの目的において用いることができる。
請求項27等に記載された、個人情報収集管理クライアントの実施例としては、請求項9〜16の実施例として記載されたものが挙げられる。なお、個人情報収集管理クライアントは、請求項に記載された要件を満たすものであれば、請求項9〜16に記載されたもの以外でも実装することができる。例えば、パーソナル・コンピュータ、携帯電話、PHS、PDA、テレビや冷蔵庫等の家電製品など形態において、実装することも可能である。また、ひとつの個人情報収集管理クライアントにおいて一人の個人の個人情報を収集または管理する機能を担うこともできれば、ひとつの個人情報収集管理クライアントにおいて複数の個人の個人情報を収集または管理する機能を担うことや、複数の個人情報収集管理クライアントにおいて一人の個人の個人情報を収集または管理する機能を担うこともできる。
請求項28に記載された、社会シミュレーション・サーバの実施例としては、請求項1〜26の実施例に記載された社会シミュレーションを実施する社会シミュレーション・サーバを挙げることができる。
本発明は、各請求項の実施例においても記載したとおり、企業のマーケティング、企業に対するコンサルティング、個人情報提供者に対するアドバイシングなど、様々な用途で利用することができる。例えば、マーケティング部門において、検討している新しい商品等の候補の特徴を抽出し、コンサルティング部門において、該特徴をデジタル・データとして定義し、シミュレーションの条件を設定し、社会シミュレーション・サーバにおいて社会シミュレーションを実施し、該社会シミュレーションの結果をコンサルティング部門において分析し、該分析の結果をマーケティング部門に提供し、マーケティング部門において該結果を吟味することにより、マーケティング戦略を決定するという手順が考えられる(図22を参照)。
プロファイリング手段を適用した社会シミュレーション・システム
個人情報のエージェントへの適用
個人情報管理サーバを仲介させたもの
社会シミュレーション・サーバが個人情報要求機能を備えたもの
個人情報収集管理クライアントが個人情報暗号化手段を備えたもの
個人情報収集管理クライアントが個人情報加工手段を備えたもの
シミュレーション世界のエージェントと個人を代理または支援するエージェント・プログラムとの対応
ICまたはカードに暗号化された状態で保持される情報の情報構造
コンサルティングにおける社会シミュレーションの活用ステップの例
符号の説明
1 社会シミュレーション・サーバ
3 個人情報収集管理クライアント
4 個人情報管理サーバ
5 個人情報
11 個人情報受信手段
12 個人情報記録手段
13 エージェントまたはモジュールの状態遷移または動作の原則を規定するデータまたは論理構造を定義または更新する手段
14 社会シミュレーション手段
15 現実世界の社会主体のモデルを有するシミュレーション世界のエージェントまたはモジュール
16 社会シミュレーションを実施するのに必要な個人情報の項目の一覧を保持する手段
17 自身が通信することのできる個人情報管理サーバまたは個人情報収集管理クライアントまたはこの両方の一覧を保持する手段
31 個人情報を収集する手段または個人情報を管理する手段
32 個人情報送信手段
33 個人情報を暗号化する、または個人情報の一部を識別不能な状態に加工する手段
34 個人情報を加工する手段
41 個人情報受信手段
42 個人情報記録手段
43 個人情報送信手段
51 暗号化された、または一部が識別不能な状態に加工された個人情報
52 個人情報加工データ
用語説明
なお、本発明において使用する用語のうち、下記にある用語の定義は下記の説明に従うものとする。
本発明における「エージェント」は、コンピュータ・サイエンスの分野において用いられる下記のエージェント概念に準拠するものである。コンピュータ・サイエンスの分野における「エージェント」とは、内部構造に基づいて行動や状態を制御する自律性、他のエージェントや人間とのあいだで相互作用する社会性、外部環境を認識し外部環境に働きかける反応性、受動的反応だけでなく能動的動作を起こす自発性、などの特徴を有するコンピュータ・プログラム、または該プログラムを実装した装置を意味する。エージェントは抽象的な概念であり、コンピュータ・サイエンスの分野においてもいくつかの意味において用いられる。本発明において、エージェント概念は2つの意味において用いている。
第1は、利用者の意思決定または行動を代行または支援する、自律的に動作するコンピュータ・プログラム、または該プログラムを実装した装置である。例えば、携帯電話をはじめとした個人用携帯端末やパーソナル・コンピュータ、ネットワーク接続されたサーバなど、個人の利用する装置において実装され、情報収集や金融取引など様々な活動において、個人の意思決定または行動を代行または支援する。個人ではなく、組織や団体など他の社会主体をその利用者とすることもできる。
第2は、「エージェントベース社会シミュレーション」と呼ばれるシミュレーション手法において、人間などの社会主体の役割を果たすモジュールである。社会シミュレーション環境において存在し、自身の振る舞いの規則を定めるコンピュータ・プログラムで表現されたモデルと自身の内部状態を特定するデータとを有し、環境および該モデルの規則に従って動作し、他のエージェントとの間で社会的関係を構築する。エージェントは社会を構成する主体性を持つ個人または個体に相当するシミュレーション世界の存在である。社会シミュレーションは、複数のエージェントの時間的変化を辿ることによって実行され、各エージェントはそれぞれ異なる内部状態を保持することや異なる環境におくことが可能である。エージェントは、他のエージェントおよび環境のうち、少なくとも一方と相互作用を行う。多くの場合、エージェントは、現実社会を構成する社会主体のモデルを有するが、現実とは異なる空想の社会主体のモデルを有することもできる。また、エージェントは、自身の動作を制御するコンピュータ・プログラムにおいて、記憶機構、学習機構、情報収集機構、コミュニケーション機構、意思決定機構などの追加機構を有することができる。
なお、社会シミュレーションで扱う場合、コンピュータ・プログラムではないデータとして存在するものであっても、シミュレーション・システムの設計によってはプログラムとして存在するエージェントと同等に扱うことができるため、単なるデータであってもシミュレーション世界におけるエージェントとしての機能を有するものはエージェントとして扱う。
どちらもエージェントと呼ばれるが、本発明においては、第一のものを「エージェント・プログラム」と表記し、第二のものを「シミュレーション世界におけるエージェント」または「エージェント」と表記し、この両者を使い分ける。また、エージェントは主体性をもつ存在として認識されることから、「エージェントが評価を与える」など、エージェントの振る舞いを人間の行動と同様の言葉使いで表現することができるものとする。
「プロファイリング手段」とは、個人情報を収集または管理するための手段であり、本発明においては、個人情報をデジタル情報として収集または管理する機能と、該個人情報を直接的にまたは間接的に社会シミュレーション・サーバに送信する機能とを有し、これを実現するためのメモリ、プロセッサ、記録ディスク、通信インタフェースなどを備えた、コンピュータ、モバイル情報端末などのデジタル・デバイスを指すものである。本発明において、これらのデバイスは「個人情報収集管理クライアント」と呼ぶ。個人情報収集管理クライアントは、単独のものとして存在することもできるが、他の主たる機能を有する装置と一体のものとして、或いは他の主たる機能を有する装置に、個人情報収集管理クライアントとしての機能を果たすうえで必要なハードウェア、ソフトウェア、或いはこの両方が組み込まれた形態として存在することもできる。
「社会または市場の動き」とは、それぞれ意思または性質を有し、状態を保持しながら、何らかの相互作用または経済的行為を行う複数主体によって構成される任意のグループに関し、グループ全体、サブグループ、及びグループを構成する各主体の動きを指すものとする。
「社会シミュレーション」とは、社会や市場の動きを、これと同様の法則を表現したコンピュータ・プログラムによって、予測または計算するものである。利用目的は、(A)現実世界の特定の現象を論理的・数学的に理解すること、(B)現実世界の動きを予測し、対策を練ること、(C)現実世界の何かについて、計画を立てたり、設計したりすること、(D)人間の行動を把握したり、人間を訓練したりすること、などである。社会シミュレーションには、マクロ・モデル、ミクロ・モデル、システム・ダイナミクス、セル・オートマトン、エージェントベース社会シミュレーションなどの手法を用いたものが挙げられる。このうち本発明が対象とする「現実世界の社会主体のモデルを有するシミュレーション世界のエージェントまたはモジュールの時間的変化を辿ることにより社会または市場の動きを予測または計算する社会シミュレーション」とは、現実社会の社会主体に相当する、内部状態を持ち、相互作用を伴うエージェントまたはモジュールをシミュレーション世界に複数配置または配備し、時間的経過を辿ることにより各エージェントや全体の状態変化を計算することを特徴とする社会シミュレーションであり、セル・オートマトンを用いた社会シミュレーションやエージェントベース社会シミュレーションが含まれる。また、社会シミュレーションの中でも、特に市場を扱ったものを「市場シミュレーション」とし、市場シミュレーションも上記特徴を持つものであれば、本発明の対象範囲に含まれるものとする。
「社会シミュレーション・サーバ」とは、社会シミュレーションを実行する環境を提供する、ネットワーク接続可能なコンピュータを指すものとする。一つのコンピュータにおいて処理することにより該環境を提供する場合と、複数のコンピュータに処理を分散することにより該環境を提供する場合の両方が含まれるものとする。
「個人情報収集管理クライアント」とは、現実世界の社会主体のモデルを有するシミュレーション世界のエージェントまたはモジュールの時間的変化を辿ることにより社会または市場の動きを予測または計算する社会シミュレーションに用いる個人の個人情報を収集または管理し、これを直接的にまたは間接的に社会シミュレーション・サーバに送信する機能を備えた装置を指すものとする。多くの場合、本来別の機能を有する装置に、個人情報収集管理クライアントとしての機能を持たせた形態にて実装される。
「個人情報管理サーバ」とは、現実世界の社会主体のモデルを有するシミュレーション世界のエージェントまたはモジュールの時間的変化を辿ることにより社会または市場の動きを予測または計算する社会シミュレーションを実行するシステムまたは方法において、個人情報収集管理クライアントと社会シミュレーション・サーバとの間の通信を中継する機能を有する装置を指すものとする。個人情報管理サーバは、ひとつまたは複数の個人情報収集管理クライアントから送信された個人情報を、直接的にまたは間接的に受信する個人情報受信手段と、該個人情報受信手段によって受信した個人情報を記録する個人情報記録手段と、該個人情報記録手段から読み出したデータを、直接的にまたは間接的に社会シミュレーション・サーバに送信する個人情報送信手段とを備え、該個人情報記録手段から読み出した情報を加工する個人情報加工手段など、その他様々な追加機能を備えることができる。
本発明において、「個人情報」とは、個人の性質を特定したり、個人を識別したり、個人に接触したりするための、個人に関するあらゆる情報のうち、デジタル情報処理可能な形態のものを指すものとする。具体的には、健康に関する個人情報(運動履歴、視力、聴力、歯の状態、肥満度、毛髪状況、睡眠履歴など)、カルテに記載されるべき個人情報(医療診断歴、病歴など)、飲食履歴に関する個人情報(食事履歴、栄養摂取状況、摂取カロリー、栄養バランスなど)、身体特性に関する個人情報(身長、体調、顔情報、身体情報など)、バイオメトリック認証を可能とする個人情報(指紋、虹彩、筆跡、声紋、癖、DNA、歯形、手相、歩きかた、毛髪、顔面など)、嗜好に関する個人情報(好きな食べもの、好きな飲みもの、好きなお店、好きなアーティスト、好きな歌曲、よく買う商品など)、能力に関する個人情報(習得言語、特定分野の専門能力、スキル、資格、その他職業上利用される能力、特技など)、趣味に関する個人情報(好きなスポーツ、好きな音楽、コレクション、自由時間の主な使途など)、ステイタスに関する個人情報(所持品、職業、健康状態、年齢、使用品、所持金、やろうとしていることのリスト、目標など)、希望に関する個人情報(会いたい人、やりたいこと、なりたいもの、ほしいもの、行きたいところなど)、情報源に関する個人情報(購読新聞、購読雑誌、よく観るテレビ番組、よく訪問するインターネット・ウェブサイトなど)、接触した情報に関する個人情報(接触したCM、ウェブページへのアクセス履歴など)、知識に関する個人情報(テストで計測する知識、その他あらゆる知識など)、人間関係に関する個人情報(家族、恋人、上司、部下、同僚、師匠、弟子、メール相手、電話相手、直接対面相手、交流履歴、尊敬する人、その他の人間関係など)、個人に対する評価に関する個人情報(信用情報、学校などの成績、会社などの人事評価など)、個人の利用する情報端末に関する個人情報(利用している機器、利用しているソフト、利用しているサービスなど)、経歴に関する個人情報(学歴、職歴など)、経験に関する個人情報(恋愛経験、その他の人生経験など)、個人の間接的な経験に関する個人情報(読書履歴、映画鑑賞履歴、演劇等鑑賞履歴、ビデオ鑑賞履歴、音楽鑑賞履歴、ゲーム遊戯履歴など)、個人の行動原則に関する個人情報(よく行くお店、行動範囲と頻度、移動履歴、スケジュールなど)、思考原理に関する個人情報(思想、主義、主張、信念、宗教、支持政党、大切にしていること、性格など)、住居に関する個人情報(同居人、広さ、間取り、施設など)、個人の背景に関するに関する個人情報(民族、親、先祖、文化、母語、生地、生年月日など)、資産に関する個人情報(預貯金、住居、保険、株等金融資産、自動車、借金、その他あらゆる財産など)、カード類等に関する個人情報(マイレージカード、ポイント・カード、フィットネス会員券、クレジットカード、プリペイドカード、定期券、銀行口座など)、収支に関する個人情報(年収/月収、その他の収入、主な支出、家計簿情報、収支バランス、クレジットカード履歴など)、個人の作品に関する個人情報(著作物、芸術作品など)、装着品に関する個人情報(衣類、アクセサリー、化粧品、カツラ、入れ歯、コンタクトレンズ、メガネ、その他あらゆる装着品など)、IDに関する個人情報(氏名、住所、電話番号、メールアドレス、ID、パスワード、ニックネーム、ペンネームなど)、身分に関する個人情報(学校、勤務先、その他の所属、あらゆる身分など)、その他の個人情報(他の対象に関する感想、短期的目標、中・長期的目標、所在、他様々な項目の個人履歴など)、等の情報が含まれる。また、これらの情報を加工することによって得られる情報のうち、本人が保持するものまたは本人と関係付けることのできる情報も含まれるものとする。
「個人識別情報」とは、個人を識別するために利用することが可能な情報であって、「個人情報」に含まれる。会員番号、パスポート番号、運転免許証番号、クレジットカード番号、Eメールアドレス、ログイン名、携帯電話番号など、特定の個人を識別することが可能なIDの一切を含むものとする。
「個人情報加工データ」とは、複数または単数の個人の個人情報に対し、集計、匿名化、その他の措置を施すことによって得られる、元の個人情報とは異なる情報を指すものとする。個人情報加工データのうち、個人情報の要件を満たすものは個人情報にも含まれる。
「モジュール」とは、システムを構成する、コンピュータ・プログラム、データ、またはこの両方であって、一定の機能を担うことのできる、ひとまとまりの存在として取り扱うことが可能なもの。システム全体の挙動は、システムの外部からの入力または操作と、システムを構成するモジュールの相互作用によって導出される。モジュールには、それがないとシステムが全く機能しないものから、システム全体の挙動にはほとんど影響を与えることがないものまで、様々なレベルのものが存在する。
「エージェントベース社会シミュレーション」とは、社会を構成する個々の社会主体の直接的または間接的な相互作用の過程をシミュレーション世界で再現することにより社会的動態を予測または計算する社会シミュレーションであって、実際のまたは仮想の個人または集団の行動原則及び内部状態を表現したプログラム、データ、またはその両方(即ち、エージェント)の単位で、エージェント及びシミュレーション環境の有する動作原則に従い、繰り返し何らかの処理を行うことを特徴とする社会シミュレーションを指すものとする。エージェントは、エージェントが存在するシミュレーション世界における環境と他のエージェントとのうち、少なくとも一方と相互作用を行う。
「社会シミュレーション環境」とは、社会シミュレーションにおけるシミュレーション世界において、個々のエージェントやモジュールを取り囲むマクロな環境を指すものとする。社会シミュレーション環境は、個々のエージェントやモジュールにとっての時間の流れ方や、全体的な状況変化、エージェントやモジュールのアクセスすることのできる様々なリソースを管理する。社会シミュレーション環境は個々のエージェントやモジュールの内部状態をスキャンして、任意の変数について集計するなど、何らかのマクロ指標を算出する機能を有することができる。社会シミュレーション環境によって算出されたマクロ指標の一部は、エージェントやモジュールが参照し、自らの動作の決定や状態の変化に反映することができる。また、社会シミュレーション環境によって算出されたマクロ指標は、実行ログに残すなどの方法により、社会シミュレーション実施者等に参照可能な状態とする機能を有することができる。社会シミュレーション環境には、現実世界のある社会的現象をモデル化したものを扱うものと、現実世界の現象とは切り離された仮想のモデルを扱うものとの両方が含まれる。
「社会主体」とは、社会のなかでひとまとまりのものとして主体性を持って振る舞うと認識される存在であり、人間や組織などがこれに該当する。社会主体は他の社会主体との間で相互作用を行う。
シミュレーション世界のエージェントと現実世界の社会主体との「対応」関係は、シミュレーション世界のエージェントが現実世界の特定の社会主体に関する情報をもとに定義または更新され、定義または更新された後も現実世界の特定の社会主体の情報をもとに定義されたものであることを示す情報が任意の場所において引き続き保持されている状態にある関係であるものとする。
「モデル」とは、現実世界の任意の対象について観測された要素のなかで本質的なものを抽出し、比較的単純な構造として、論理的または数学的に表現したもの、または、仮想世界を構成する任意の要素を論理的または数学的に表現したもの、を指すものとする。
「PIM」とは、パーソナル・インフォメーション・マネージャの頭文字を取ったもので、利用者が自分の交流相手の連絡先や自分のスケジュールなどの個人情報を管理するための機能を提供するソフトウェアを指すものとする。コンピュータや携帯電話などのハードウェアにインストールして利用することができる。
「ICタグ」とは、情報を電子的に記憶する機能と、非接触通信により他の装置と交信する機能とを有する、ICを備えた、形態容易な小型装置を指すものとする。
「ICスキャナ」とは、ICに記録されたデジタル情報を読み出す機能を有する装置を指すものとする。
「カード・スキャナ」とは、カードに記録されたデジタル情報を読み出す機能を有する装置を指すものとする。
「デジタル情報」とは、コンピュータ処理可能な電子的情報を指すものとする。
「特定品目商品」とは、テレビ、自動車、コーヒー豆、歯磨き粉など、同じ品目の商品を指すものとし、A社製のXXX、B社製のYYY、といった個別の製品を指すものではないものとする。従って、例えば特定商品がテレビである場合、「特定商品市場」はテレビの市場を指すものであって、そこではA社製テレビXXXやB社製テレビYYYなど、色々な製品が取引されるものとする。なお、本発明に記載の特定品目商品市場は、発明内容を記載するために用いる社会シミュレーションのモデルを単純化するために用いるものであり、実際に構築する社会シミュレーションの設計においては、たくさんの特定品目商品の取引を扱う複合市場をシミュレーションの対象とすることも視野に入るものである。
「遠隔個人情報管理サーバ」とは、本発明に記載の「個人情報管理サーバ」と別のものであることを明示するために設けた用語であるが、個人識別情報を含む情報が記録されたICまたはカードが提示された際に読み取られるなどの方法により確認された個人識別情報を用いて、ネットワーク接続された別の装置から該個人情報識別情報に対応する個人情報を読み出すことのできるシステムにおいて、個人情報を管理し、他の装置からの要求に応じ、個人識別情報に対応する個人情報を提供するサービスを提供する装置を指すものとする。
「個体」とは、ひとまとまりの存在として認識される個々の物品、または個々の生命体を指すものとする。
請求項3、請求項4などにある、「直接的にまたは間接的に」「送信する」または「受信する」という記述について、直接的に送信するとは、送信側の装置が送信した情報を受信側の装置が直接受信することを指すものとし、間接的に送信することは、送信側の装置が送信した情報を中継装置が受け取り、中継装置が該情報をそのままの形態または加工された形態で受信側の装置に送信することを指すものとする。後者のプロセスにおいては、送信側の装置から送信された情報を受信側の装置が受信するまでの間に、ひとつまたは複数の中継装置を介在させることができる。
「予測」とは、未知の情報を予め推測することである。