JP2006143919A - 高効率蛍光体の製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】安全且つ簡便な、高効率蛍光体の製造方法を提供する。
【解決手段】(i)基材と、(ii)金属化合物及び/又は(iii)5B族もしくは6B族元素化合物を有機溶媒に加え、低温で反応させることを特徴とする。本発明の方法によれば、発光効率が向上した蛍光体を得ることができる。
【選択図】 なし

Description

本発明は、発光効率が向上した蛍光体の製造方法に関する。
II〜IV半導体(CdX:XはS、Se又はTe)のナノ結晶は、量子ドット(QDot:Quantum Dot)として知られ、そのサイズに依存したオプトエレクトロニクス特性及び光ルミネセンス(PL:photoluminescence)特性を有することから、技術的応用が期待されている(例えば非特許文献1)。発光性量子ドットにおいて、非飽和結合を有する表面原子は、電子及び孔に対する非発光性再結合トラップ(nonradiative recombination trap)としてはたらく。表面に捕捉された電子及び孔は、初期励起状態にまで熱活性化されて遅延励起子を生じるか、又はさらに熱活性化されて最終的には微弱な深い捕捉状態からの発光を生じる(例えば非特許文献2)。この複雑な崩壊のダイナミクスは、低い発光効率を引き起こし、量子ドットの発光デバイスへの適用を阻むものである。
量子ドットから完全な励起子PLを生じるには、最適な表面構造が必要である。最適な表面構造を得るために、コア及びコア/シェル量子ドット合成における温度と同様、前駆物質の特性及び濃度、ならびに配位性有機溶媒の選択について注目が集まっている。また、発光効率を高める方法として、量子ドットの表面に保護層(シェル)を形成することが知られている(例えば、非特許文献3)。
従来のシェルを形成する方法では、TOPとTOPOの混合溶媒に溶解させたコア量子ドットに、シェルを合成するための前駆体を加えていた。TOPOの融点が50℃付近であることから、反応の際、通常100〜260℃程度の高温にまで加熱することが通例であった。
この様な背景から、TOPO以外の有機溶媒を用い、室温程度の低温で基材(コア)である量子ドット表面に保護層を合成することによって、良好な表面構造を作ることは、まだ行われていない。
S.V. Gopenenko, Optical Properties of Semiconducting Nanocrystals 1998, Cambridge University Press, Cambridge. M. G. Bawendi et al., J. Chem. Phys. 1992, 96, 946. B.O.Dabbousi et al., J. Phys. Chem. B. 1997, 101, 9463-9475 小田 勝他, 高分子論文集, Vol.61, No.1, Jan, 2004, 63-74
本発明は、(i)基材と、(ii)金属化合物及び/又は(iii)5B族もしくは6B族元素化合物を有機溶媒に加え、0〜50℃程度の低温で反応させることを特徴とする、発光効率が向上した蛍光体(高効率蛍光体)の製造方法を提供することを主な目的とする。
本発明者らは、室温にて、金属化合物及び/又は5B族もしくは6B族元素化合物を含み、不活性ガスで飽和されたクロロホルム、ヘキサン及び1−ブタノール等の有機溶媒中で非精製CdX量子ドットを12時間静置したところ、1)発光効率の増加、2)粒子の成長及び3)サイズ分布の集束が起きることを見出し、本発明を完成するに至った。
本発明は、以下の高効率蛍光体の製造方法を提供するものである。
項1.基材と、金属化合物、5B族元素化合物及び6B族元素化合物からなる群より選択される少なくとも1種を有機溶媒の存在下に、反応温度0〜50℃にて反応させ、基材の表面に金属、5B族及び6B族からなる群より選択される少なくとも1種の元素を含む化合物の保護層を形成することを特徴とする、基材の表面に保護層を有する蛍光体の製造方法。
項2.反応温度が10〜30℃である、項1に記載の蛍光体の製造方法。
項3.基材が、ナノ粒子である項1又は2に記載の蛍光体の製造方法。
項4.基材が、CdSe又はCdTeである項1〜3に記載の蛍光体の製造方法。
項5.ナノ粒子の平均粒子径が、1〜30nmである、項1〜4に記載の蛍光体の製造方法。
項6.金属化合物が、金属塩又は金属酸化物である、項1〜5に記載される蛍光体の製造方法。
項7.(ii)の金属化合物において、金属元素がGa又はInであり、5B族元素が、P、As及びSbからなる群より選択される少なくとも1種である、項1〜6に記載の蛍光体の製造方法。
項8.(ii)の金属化合物において、金属元素がCd又はZnであり、6B族元素が、S、Se及びTeからなる群より選択される少なくとも1種である、項1〜6に記載の蛍光体の製造方法。
項9.有機溶媒が、クロロホルム、ヘキサン及び1−ブタノールからなる群より選択される少なくとも1種である項1〜8に記載の蛍光体の製造方法。
項10.得られるナノ粒子が示す発光スペクトルにおいて、半値幅が40nm以下であることを特徴とする、項1〜9に記載の蛍光体の製造方法。
本発明の蛍光体の製造方法では、基材として量子ドット、金属イオンの供給源として金属化合物及び/又は5B族/6B族原子の供給源として5B族/6B族元素化合物化合物を使用する。
[基材]
本発明において、基材は、従来公知のナノ粒子からなる量子ドットの製造方法に従って得ることができ、例えば、配位性有機溶媒に溶解させた金属化合物と、5B族元素化合物又は6B族元素化合物の供給源となる液体化合物を、約100〜200℃、好ましくは約110〜150℃で不活性ガス雰囲気下にて反応させることによって得られる。
(1)金属化合物:金属化合物の金属としては、例えば、2B〜3B族原子があげられる。この様な金属としては、例えば、ZnおよびCd(2B族);GaおよびIn(3B族)があげられる。
金属化合物としては、例えば、金属酸化物または金属塩化合物があげられる。金属酸化物としては、各金属における種々の酸化状態の酸化物が広く使用できる。
金属塩化合物としては、各金属の有機酸塩(例えば酢酸塩、プロピオン酸塩等のモノカルボン酸塩、グリコール酸塩、乳酸塩等のヒドロキシカルボン酸塩、コハク酸塩等のジカルボン酸塩、クエン酸塩等のポリカルボン酸塩、メタンスルホン酸塩、トルエンスルホン酸塩等の脂肪族又は芳香族のスルホン酸塩、炭酸塩、炭酸水素塩等)、硝酸塩、硫酸塩、塩酸塩、臭化水素酸塩、フッ酸塩、過塩素酸塩、リン酸塩等の無機酸塩があげられる。
(2)配位性有機溶媒:配位性有機溶媒としては、例えば、トリ−n−オクチルホスフィン(TOP)、酸化トリ−n−オクチルホスフィン(TOPO)等があげられ、これらの混合溶液を用いることもできる。また、金属化合物の溶解を助けるため、配位性有機溶媒に、例えば、ステアリン酸等の脂肪酸、ヘキサデシルアミン(HDA)等のアミン類を添加してもよい。
配位性溶媒に金属化合物を溶解させる場合、例えばカドミウムの場合、酢酸カドミウム二水和物(0.5〜2g程度、好ましくは1〜1.5g程度)を、100〜260℃程度、好ましくは110〜180℃程度に加熱したTOP(1〜4ml程度、好ましくは1〜3ml程度)及びTOPO(1〜4g程度、好ましくは1〜3g程度)の混合溶液に、不活性ガス雰囲気下で溶解させることができる。
(3)5B族元素化合物又は6B族元素化合物:5B族元素化合物又は6B族元素化合物の供給源となる化合物は、固体状態である場合、5B族元素化合物又は6B族元素化合物を、前述の配位性有機溶媒に不活性ガス雰囲気下にて、溶解させ、その後、室温まで冷却して用いることが好ましい。
5B族原子(P、As、Sb等)の供給源である化合物としては、例えば、{(R)3Si}2X(Xは5B族原子を示し、Rは同一または異なったC1〜C20のアルキル基またはフェニル基を示す)で表されるシリル基を含む化合物を使用することができる。この様な化合物としては、トリス(トリメチルシリル)ホスファイド(P(TMS)3)、トリス(トリメチルシリル)アルセナイド(As(TMS)3)、トリス(トリメチルシリル)アンチモナイド(Sb(TMS)3)等を用いることが好ましい。
6B族原子(S、Se、Te等)の供給源である化合物としては、例えば、(R’)3PX’(X’は、6B族原子を示し、R’は同一または異なってC1〜C20のアルキル基またはフェニル基を示す)で表されるホスフィン化合物を使用することができる。このような化合物として、セレン化トリブチルホスフィン、セレン化トリオクチルホスフィン、硫黄化トリブチルホスフィン、硫黄化トリオクチルホスフィン、テルル化トリブチルホスフィン、テルル化トリオクチルホスフィン等を用いることが好ましい。
さらに、他の6B族原子の供給源の化合物として、例えば、{(R’’)3Si}3X’’(X’’は6B族原子を示し、R’’は同一または異なったC1〜C20のアルキル基またはフェニル基を示す)で表されるシリル基を含む化合物を使用することができる。この様な化合物としては、ビス(トリメチルシリル)サルファイド(S(TMS)2)、ビス(トリメチルシリル)セレナイド(Se(TMS)2)、ビス(トリメチルシリル)テルライド(Te(TMS)2)等を用いることが好ましい。
(4)不活性ガス:不活性ガスとしては、例えば、Ar、Kr、Xe等を用いることができる。この反応では、トリオクチルホスフィンの酸化を防ぐために空気中の酸素を除くこと、すなわち脱空気を行うことが好ましい。例えば、最も簡単な方法として、はじめにアルゴンを三方フラスコに流入させて空気を追出し、一旦空気を追出した後は、三方フラスコの1端に取り付けたガス溜め用のゴム風船をアルゴンで満たす。この状態でアルゴンの供給を停止し、フラスコ内部を空気から遮断する。アルゴンの比重は空気よりも大きいため、フラスコを静止しておけば空気が浸入する可能性は極めて小さいものと考えられる。
(5)金属化合物と5B族元素化合物又は6B族元素化合物の組み合わせ:金属化合物の金属として2B族原子、好ましくはCd又はZnから選ばれた少なくとも1種を使用する場合、6B族原子として、好ましくはS、Se及びTeの中から選ばれた少なくとも1種から構成される供給源の化合物が好ましく使用できる。
金属化合物の金属として3B族原子、好ましくはGaおよびInの中から選ばれた少なくとも1種を使用する場合、5B族原子として、好ましくはP、AsおよびSbの中から選ばれた少なくとも1種から構成される化合物を好ましく使用できる。
例えば、セレン化トリオクチルホスフィン(TOPSe)の場合、セレンペレットをアルゴン雰囲気下において、好ましくは100〜200℃、より好ましくは150℃にて、好ましくは30分〜3時間、より好ましくは2(実施例1参照)時間、強く攪拌しながら、トリオクチルホスフィンに溶解することによって製造することができる。該溶解温度は、セレンペレットがトリオクチルホスフィンに溶解する温度であれば特に限定されない。
(6)平均粒子径:量子ドットの平均粒子径は、約1〜30nm、好ましくは約2〜10nmであることが望ましい。量子ドットの粒子径の計測には、例えば、透過型電子顕微鏡の画像等を用いた画像解析法、動的光散乱法、レーザ回折/散乱式測定方等を使用することができる。好ましい測定方法としては、透過型電子顕微鏡の画像による画像解析法があげられる。
この様にして得られる量子ドットの表面は、発光を阻害するような欠陥が存在する。発光を阻害するような欠陥とは、発光性量子ドットの表面に存在する非飽和結合を有する原子を指す。この様な表面原子は、電子及び孔に対する非発光性再結合トラップ(nonradiative recombination trap)として作用する。表面に存在するトラップに捕捉された電子及び孔は、初期励起状態にまで熱活性化されて遅延された励起子PLを生じるか、又はさらに熱活性化されて最終的にはより低いエネルギーのトラップに捕捉され、そこから微弱な発光を生じる。
[保護層の形成]
有機溶媒に溶解した金属化合物イオン及び5B族又は6B族元素のイオンは、飽和溶液からの単結晶の成長と同様に、基材である量子ドットの表面を被覆する。これにより、基材表面に存在する発光を阻害するような欠陥が除去され、発光効率が向上すると考えられている。本発明では、基材となる量子ドットの表面を覆う層を、保護層と呼ぶ。
上記の方法で得られたナノ粒子を基材(コア)とし、金属化合物及び/又は5B族又は6B族元素化合物と共に有機溶媒中にて低温で反応させる、すなわち、基材表面にシェルを形成することで、発光効率が高められた蛍光体を得ることができる。
金属化合物及び5B族又は6B族元素化合物としては、上記(1)及び(3)に記載されるものを使用することができる。これらの化合物が固体である場合には、トリオクチルホスフィン(TOP)等の保護層形成時の反応温度において液体である配位性有機溶媒に溶解させて用いることが好ましい。また、金属化合物あるいは、5B族又は6B族元素化
合物のいずれか1種を用いて保護層を形成することが可能であるが、金属化合物と5B族又は6B族元素化合物のいずれか1種を組み合わせて用いた方が、発光効率が高く、好ましい。
本発明の高効率蛍光体は、基材に金属化合物及び/又は5B族又は6B族元素化合物によって保護層を形成することによって得られるが、該保護層は、基材となる化合物と同一の化合物でもよく、あるいは異なる化合物で形成されていてもよい。本発明において、コアとなる基材と同じ化合物でシェルを形成した場合の保護層形成を、ホモエピタキシー(homoepitaxy)、基材を形成する化合物とシェルとなる化合物が異なる場合の保護層形成を、ヘテロエピタキシー(heteroepitaxy)と呼ぶことがある。
保護層における金属化合物と5B族又は6B族元素化合物の組み合わせのとして、例えば、金属化合物の金属元素にGa及びInの中から選ばれた少なくとも1種と、5B族元素にP及びAsから選ばれた少なくとも1種を用いる場合;金属化合物の金属元素にCd及びZnから選ばれた少なくとも1種、6B族元素にS、Se及びTeから選ばれた少なくとも1種を用いる場合があげられる。
また、有機溶媒としては、メタノール、エタノール、1−プロパノール、イソプロパノール、1−ブタノール、イソブタノール、エチレングリコール、ベンジルアルコール等のアルコール類;ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、イソオクタン、ノルマルデカン等のアルカン類;CCl4、CHCl3、CH2Cl2、CH3Cl等のハロゲン化炭素;ベンゼン、トルエン、キシレン、クロルベンゼン、エチルベンゼン、メチルナフタレン等の芳香族炭化水素等を使用することができ、好ましくは、CHCl3、ヘキサン及び1−ブタノールである。有機溶媒は、例えば、Ar、Kr、Xe等不活性ガスによって飽和されていることが好ましい。
保護層の形成において低温とは、温度0〜50℃程度、好ましくは5〜49℃程度、より好ましくは10〜30℃程度、さらに好ましくは20〜25℃程度を指し、有機溶媒の沸点以下になるように調整することが好ましい。
この温度にて、有機溶媒中で6〜15時間程度、好ましくは12時間程度、基材、金属化合物及び/又は5B族又は6B族元素化合物を反応させ、基材表面に保護層を形成させる。低温(特に、室温:23℃程度)での合成は、反応混合物中の温度勾配を排除すると考えられるため、好ましい。また、反応の間は、静置することが好ましく、紫外線等による影響を避けるため、暗闇であることが好ましい。
保護層の形成方法としては、例えば、1ブタノール中でCdSeの基材にCdSeの保護層を形成する場合であれば、1ブタノールを10mL使用するとして、基材としてCdSeナノ粒子を1〜10μmol程度、好ましくは5.0μmol程度に対し、金属化合物として(CH3COO)2Cd・2H2O(分子量266.4)を0.01〜0.5g程度、好ましくは0.05g程度及び6B族元素化合物の供給源としてTOPSe(分子量448.96、比重1.25)を10〜1000L程度、好ましくは500L程度用いる。有機溶媒としては、クロロホルムをはじめ上記の有機溶媒を使用することができる。
溶液中でナノ粒子のCdSeは2原子分子としての“CdSe”として存在しているのではなく、ナノ粒子として分散している。従って、上記のCdSeナノ粒子のモル数は、2原子分子あるいは原子としての“CdSe”のモル数(分子あるいは原子の数)ではなく、“ナノ粒子”としてのモル数(粒子の数)で表される。一般に、1個のナノ粒子には、そのサイズに依存して数100〜数万のCdおよびSe原子が含まれている。
各反応物質の混合は、ガラス容器に反応物質および有機溶媒を入れて超音波で分散させた。
保護層は、単独の基材の表面を覆うことが好ましいが、ナノサイズであって発光するものであれば、数個の基材が凝集/接近し、その表面に保護層が形成されていてもよい。
例えば、1−ブタノールを有機溶媒として使用する場合、(CH3COO)2Cdは、1−ブタノールに対して溶解度が低いため、あらかじめTOP又はエタノール等に溶解させて用いるとよい。他の化合物を用いて本発明の高効率蛍光体を形成する場合には、上記のCdSeの例を参考にして行うことができる。
保護層が粒子の表面に形成されていることは、吸収スペクトルのシフト、発光スペクトルの赤方偏移又は発光効率増加を測定することによって間接的に確認される。保護層が形成された場合、保護層形成前に比べ、発光スペクトルは極大値が約2nm以上赤方偏移し、吸収スペクトルは、約2nm以上赤方偏移する。また、発光効率は、保護層形成前に比べ約1.2倍以上増加する。
保護層形成後の平均粒子径は、約2〜4nm、好ましくは約2.4〜3.0nmである。本発明の方法によれば、粒子径分布が狭いため、単色の蛍光体を得ることができる。基材表面に形成される保護層の膜厚は、保護層を構成する元素がCd又はSeであれば、その原子サイズで1〜3層程度であることが好ましい。また、基材:保護層の重量比は、約24:1〜20:1の範囲であることが好ましい。
本発明の他の実施態様として、Cd、Se、Te等の基材表面の保護層形成に必要なイオンの供給源として、TOPO、TOP等に溶解された金属化合物及び/又は5B族又は6B族元素化合物の混合溶液を用いてもよい。該混合溶液の調製は、上記[基材]において記載される方法に従えばよい。
TOPO、TOP等の配位性有機溶媒には、金属化合物の溶解を助けるため、例えば、ステアリン酸等の脂肪酸、ヘキサデシルアミン(HDA)等のアミン類を添加してもよい。
また、基材となる量子ドットは、1−ブタノール、メタノール、メタノール、エタノール、1−プロパノール、イソプロパノール、1−ブタノール、イソブタノール、エチレングリコール、ベンジルアルコール等のアルコール類又はこれらの混合溶液で精製したものを使用してもよいが、非精製のものを用いてもよい。非精製の量子ドットには、TOPおよびTOPOに加え、基材形成の際に反応しなかったイオン(Cdイオン、Seイオン、Teイオン等)が含まれていることから、Cd、Se、Te等の金属イオンを新たに添加しなくても基材表面に保護層を形成することが可能である。
保護層が形成され、基材表面の欠陥が修復されたナノ粒子の発光効率は、金属化合物イオン、5B族又は6B族イオンを別々に添加した場合は、保護層形成前のものに比べて1.2倍程度以上、好ましくは2倍程度以上になることが望ましい。また、金属化合物イオン及び5B族又は6B族イオンを両方添加した場合は、保護層形成前のものに比べて2倍程度以上、好ましくは4倍程度以上になることが望ましい。
また、本発明の方法によってえられた高効率蛍光体は、その発光スペクトルにおいて、半値幅が、約60nm以下、好ましくは約50nm以下、より好ましくは約40nm以下であることが望ましい。量子ドットは、サイズに依存してその発光色を系統的に変えることが可能である。発光スペクトルの幅が狭いと、異なるサイズの量子ドットを用いて異なる生体分子を標識し、その発光色の違いによって、例えば細胞内等において生体分子を区別することができる。さらに、本発明の方法に従ってナノ粒子表面に保護層を形成した場合、その発光特性は、極めて安定であり、約6ヶ月、好ましくは約2ヶ月経過しても発光効率に変化がないことを特徴とする。
本発明によれば、量子ドットを基材とし、その表面に保護層を形成することによって、発光効率の高い蛍光体を得ることができる。保護層形成のため、高温で反応させることが必要であった従来の方法と異なり、本発明の蛍光体の製造方法は、室温程度の低温にて静置するという、極めて簡易且つ安全な方法で量子ドットの表面に保護層を形成することが可能である。
また、本発明の方法によって得られる蛍光体は、狭い粒子径分布を示し、これにより単色の蛍光を発光する。さらに、本発明の方法によって得られる蛍光体は、極めて安定であり、長期間にわたって高い発光率を維持することができる。
以下、実施例をあげて詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。また、実施例においてXはSe又はTeを表す。
[CdX量子ドットの合成]
Se(0.7896g)又はTe(1.276g)ペレットをTOP(7.4g)に、150℃にてアルゴン雰囲気下で2時間溶解させ、その後TOP溶液を室温まで冷却することによって、トリ−n−オクチルホスフィンセレニウム(TOPSe)及びトリ−n−オクチルホスフィンテルリウム(TOPTe)のストック溶液を調製した。
(CH3COO)2Cd(1g)を、三方丸底フラスコ中で、120℃でアルゴン雰囲気下にて、TOP(〜2ml)及びTOPO(〜2g)の混合溶液に溶解した。TOPSe(〜4ml)又はTOPTe(〜4ml)を、120℃に保たれた(CH3COO)2Cd/TOP/TOPO溶液に注入し、CdSe及びCdTe量子ドットをそれぞれ製造した。反応を、120℃にて30分間継続させ、PL(Photoluminescece)スペクトルの極大値が、CdSeで〜550nm、CdTeで〜600nmの単分散CdX量子ドットを合成した。
[発光効率に対する影響]
反応溶液を室温まで冷却した後、Cdイオン、Seイオン、Teイオン又は酸素のどの因子が発光効率に必須であるかを見出すため、非精製CdX量子ドットを、アルゴン及び酸素で飽和したクロロホルム、ヘキサン又は1−ブタノール中にそれぞれ溶解し、静置した。さらに、精製する又は精製しないことによる発光効率に対する影響を比較するため、上記のように調製されたCdX量子ドットを、1−ブタノール及びメタノールを用いて精製した。
Cdイオン、Seイオン、Teイオン又は酸素のどの因子が発光効率の増強に必須であるかを見出すため、精製されたCdSe量子ドットを、アルゴン又は酸素で飽和された有機溶媒に溶解し、12時間静置した。CdX量子ドットのルミネセンス特性に対する静置の影響は、UV−Vis吸収(日立U−4100分光光度計)及びPLスペクトロメーター(日立F−4500蛍光分光光度計)を使用して調べた。
上記の様に調製され、静置した量子ドットの発光効率を、試料のスペクトルの積分強度(面積)を、発光効率が既知の標準物質の積分強度(面積)と比較することによって測定した。
CdSeの発光効率の評価にクマリン540(エタノール中にて発光効率0.62)、CdTeの発光効率の評価にローダミンB(エタノール中にて発光効率0.65)を、それぞれ参照試料として使用した。
[非精製CdX量子ドットにおける保護層形成]
CdXコア量子ドット上におけるCdイオン及びSeイオン又はTeイオンによる保護層形成を、精製CdX量子ドットの1−ブタノール溶液中へのCdイオン及びSeイオン又はTeイオンの添加によって同定した。
各イオンを添加することのPL及び精製したCdX量子ドットの吸収特性に対する影響を比較するため、3つの試料を調製した。アルゴンで飽和された1−ブタノール溶液(10mL)中に精製したCdSe量子ドット(5.1μmol)を含む各試料を、アルゴン雰囲気下にてガラスボトルに調製した。以下、CdSeの場合について、1つ目のボトルには、TOPSe(500μL)のみ、2つ目のボトルには(CH3COO)2Cd・2H2O(0.05g)のみを加え、5分間、超音波で分散させた。3つ目のボトルには、TOPSe(500μL)及び(CH3COO)2Cd・2H2O(0.05g)を加え、超音波で分散させた。1−ブタノールに対する(CH3COO)2Cd・2H2Oの溶解度が低いため、1−ブタノールに溶解させる前に、(CH3COO)2Cd・2H2OをTOP又はメタノールに溶解した。全ての試料について、室温にて12時間、暗闇で静置した。
図1及び図2は、室温にて、アルゴンで飽和された有機溶媒中で12時間静置した後の非精製CdSe及びCdTe量子ドットのPLスペクトル及び吸収スペクトルにおける変化を示す。
PLスペクトル及び吸収スペクトルの両方の赤方偏移(red shift)、PLスペクトルの半価幅(fwhm)の減少ならびにクロロホルム中で0.11から0.27及び1−ブタノール中で0.05から0.12のCdSe効率の増強;ならびにヘキサン中で0.15から0.41、クロロホルム中で0.08から0.30及び1−ブタノール中で0.05から0.14のCdTeの発光効率の増強が見られた。
アルゴン又は酸素で飽和された有機溶媒中で静置された試料では、PLスペクトル及び吸収スペクトルにおいて変化は観察されなかった。また、発光効率においても変化は観察されなかった。PLスペクトル及び吸収スペクトルにおいて観察された赤方偏移は、CdX量子ドットの成長にのみ起因し得る。CdX量子ドットの成長の源は、非精製CdX量子ドット中に残された未反応Cdイオン及びXイオンであろう。TOPO及びTOPによって配位されたCdイオン及びXイオンは、直ちにクロロホルム、ヘキサン及び1−ブタノール中に溶解する。これらの有機溶媒に溶解したCdイオン及びXイオンは、飽和溶液からの単結晶の成長と同様の方法で、CdX量子ドットの表面の原子状態を被覆した。
表面の原子状態を被覆することは、表面トラップを除去する。これは、発光効率を増強する可能性のある作用である。
CdXの成長及び表面の保護層形成に加え、CdX集合における粒子サイズ分布の基準であるスペクトルfwhmも、静置する時間に伴って減少した。集合におけるサイズ分布の減少は、集束(focusing)として知られている。成長と分解の間の平衡状態で規定される量子ドットの臨界的サイズは、あらゆる前駆物質凝集(precursor concentration)の成長するコロイド溶液に存在する。コロイド溶液中の粒子の本質的な多分散性は、より小さな粒子を犠牲にした、臨界的サイズよりも大きい粒子の成長に由来する。この成長は、オストワルトライプニング(Ostwald ripening)と呼ばれ、このオストワルトライプニングの間、より大きな粒子は正の成長率を有し、より小さな粒子は負の成長率を有する。この相反する作用は、集合内での分散(defocusing)と呼ばれるサイズ分布の拡大を生じる。特に、該溶液中に存在するナノ結晶の初期サイズが、臨界的サイズよりもわずかに大きい場合には、成長コロイド溶液中でさえも、サイズ分布の集束が起きる。サイズ分布の集束及び分散は、現在のところ、高温(>180℃)におけるナノ結晶の成長においてのみ観察されており、室温でオスワルトライプニング及びサイズ分布の集束については、報告されていなかった。
Cdイオン及びSeイオン又はTeイオンの結晶成長に対する影響を調べる前に、CdイオンあるいはSeイオン又はTeイオンを添加せずに、クロロホルム、ヘキサン又は1−ブタノール中における精製CdX量子ドットの12時間静置に対するコントロール試験を行った。
アルゴン又は酸素で飽和された試料において、PLスペクトル及び吸収スペクトルの赤方偏移ならびにPLスペクトルのfwhmにおける変化は見られなかった。発光効率は、12時間静置した後の試料において〜1.2倍の増強を示した。しかし、この増強は、非精製CdX量子ドットのものよりも小さかった(図1及び図2参照)。この小さな増強は、おそらく、有機溶媒中における表面原子構造の転位又は緩和によるものである。さらに重要なことには、12時間の静置の前及び後において、アルゴン又は酸素で飽和された試料間で、精製CdX量子ドットの発光効率における変化は見られなかった。
添加されたCdイオン及びSeイオン又はTeイオンの存在下で、CdX量子ドットに保護層が形成されるというアイデアを確認するため、Cdイオン及びSeイオン又はTeイオンを、有機溶媒中の精製量子ドットに異なる濃度で加えた。
図3は、CdSeの場合の結果である。アルゴンで飽和された1−ブタノール中で12時間静置し、Cdイオン又はSeイオンあるいは、Cd及びSeの両方のイオンを添加した、CdSe量子ドットのPLスペクトル及び吸収スペクトル(挿入図)を示す。静置は、常に、アルゴンで飽和された1−ブタノール中で実施されたが、発光効率は、1−ブタノール又はクロロホルム中で計測された。
Seイオンの添加は、1−ブタノール中で0.05から0.07、クロロホルム中で0.11から0.14の発光効率の増強を引き起こした。PLスペクトル最高値及びfwhmにおける変化は、観察されなかった。Seイオンの添加に伴う発光効率の増強は、何もイオンを添加しないで処理されたものと同程度であった。また、Cdイオンの添加は、1−ブタノール中で0.05から0.13、クロロホルム中で0.11から0.18の発光効率の増強を引き起こした。この増強は、Seイオンを添加された試料よりも大きい。Cdイオンの添加に伴う発光効率の増強は、励起子フリー電子相互作用による。この場合も、PLスペクトル最高値及びfwhmにおける変化は観察されなかった。
より幅広いバンドギャップ材料を用いた、報告されている全ての表面保護層形成の方法において、サイズ分布は増加するが、Cdイオン又はSeイオンのみを用いた静置においては、サイズ分布の増加は観察されない。さらに重要なことには、Cdイオン及びSeイオンの両方の添加は、PLスペクトル及び吸収スペクトルの赤方偏移に加え、1−ブタノール中で0.05から0.20、クロロホルム中で0.11から0.27の発光効率のさらなる増強を示した。しかし、原因は不明であるが、PLスペクトルのfwhmは、図1及び図2における観察に反して変化しなかった。PLスペクトル及び吸収スペクトルの赤方偏移は、1−ブタノール中におけるCdSe粒子の成長による。発光効率の増強は、表面の被覆による。
増強された発光効率は、12時間静置した後も安定であった。吸収スペクトル及びPLスペクトル、また発光効率における変化は、2ヶ月後でも観察されなかった。
1−ブタノール中へのCdイオン及びSeイオン又はTeイオンの添加は、CdXコア量子ドット上のCdX層(保護層)の蓄積を導く。この蓄積は、同じタイプの基体上のエピタキシャル薄膜の成長に類似する。この様な理由から、これをホモエピタキシー(homoepitaxy)と呼ぶ。
CdX量子ドットにおいて、報告されているコア/シェル構造としては、CdS/Cd(OH)2、CdS/HgS、CdSe/PbS、CdSe/CdS、CdSe/ZnS及びCdSe/ZnSeがあげられる。それらは、全て発光効率の増強、PL安定性の増強及び発光寿命の減少を示した。しかし、格子定数における不整合から生じる不均一なコア/シェル接合部分での歪みは、最終発光効率における主要な役割を果たすと推測される。一方、エピタキシャル層が同一材料上に形成される、ホモエピタキシーは、コア/シェル接合部分での格子歪みを回避する、半導体産業において公知の方法である。以上の結果は、CdX量子ドットのホモエピタキシャルな保護層形成についての初めての報告である。
CdX量子ドットの発光効率は、室温での有機溶媒中における静置による成長及びサイズ分布の集束に伴って増強される。本実施例より、発光効率増強ならびに溶液中のCdイオン及びSeイオン又はTeイオン濃度間に、明確な関係があることが見出された。また、Cdイオン及びSeイオン又はTeイオンによる保護層形成は、クロロホルム、ヘキサン、1−ブタノール等の有機溶媒中において室温で、CdX量子ドットの成長を導く。さらに、ホモエピタキシャルな保護層を形成されたCdX量子ドットは、安定なPLを示す。
有機溶媒中における室温でのCdX量子ドットの表面保護層形成は、安全且つ環境に優しい表面保護層形成を提供するものである。
発光効率の増強、粒子の成長及びサイズ分布の集束を表す、12時間の静置の前と後における非精製CdSe量子ドットのPLスペクトルにおける変化を示す。Aはアルゴンで飽和されたクロロホルム中、Bはアルゴンで飽和された1−ブタノール中に静置した結果を示す。全てのPLスペクトルは、400nmの励起を用いて記録した。12時間の静置の後、PL最高値は、クロロホルム中において〜542nmから〜547nmにシフトし、1−ブタノール中において〜542nmから〜558nmにシフトした。fwhmは、12時間の静置の後、クロロホルム及び1−ブタノールの両方において、〜33nmから〜29nmに減少した。縦軸は、相対発光効率;横軸は、波長を示す。また、挿入図におけるトレースは、PLスペクトルに対応する吸収スペクトルを示す。 発光効率の増強、粒子の成長及びサイズ分布の集束を表す、12時間の静置の前と後における非精製CdTe量子ドットのPLスペクトルにおける変化を示す。Aはアルゴンで飽和されたクロロホルム中、Bはアルゴンで飽和された1−ブタノール中における静置の結果を示す。全てのPLスペクトルは、480nmの励起を用いて記録した。12時間の静置の後、PL極大値は、クロロホルム中において〜590nmから〜597nmにシフトし、1−ブタノール中において〜590nmから〜608nmにシフトした。fwhmは、12時間の静置の後、クロロホルム及び1−ブタノールの両方において、〜33nmから〜30nmに減少した。縦軸は、相対発光効率;横軸は、波長を示す。また、挿入図におけるトレースは、PLスペクトルに対応する吸収スペクトルを示す。 12時間静置した後に、Ceイオン及びSeイオンの添加をしなかった場合、ならびに異なる濃度のCdイオン又はSeイオンを添加した場合、そしてCdイオンとSeイオン両方を添加した場合について、アルゴンで飽和された1−ブタノール中(10mL)での、精製されたCdSe量子ドットのPLスペクトルの変化を示す。PL最高値(〜542nm)もfwhm(〜30nm)も、Cdイオン又はSeイオン単独で添加した場合には、変化しなかった。これに対し、Cdイオン及びSeイオンの両方の添加によって、PL最高極大値は、〜546nmから〜553nmにシフトした。しかし、fwhm(〜30nm)は、変化しなかった。縦軸は、相対発光効率;横軸は、波長を示す。また、挿入図におけるトレースは、PLスペクトルに対応する吸収スペクトルを示す。

Claims (10)

  1. 基材と、金属化合物、5B族元素化合物及び6B族元素化合物からなる群より選択される少なくとも1種を有機溶媒の存在下に、反応温度0〜50℃にて反応させ、基材の表面に金属、5B族及び6B族からなる群より選択される少なくとも1種の元素を含む化合物の保護層を形成することを特徴とする、基材の表面に保護層を有する蛍光体の製造方法。
  2. 反応温度が10〜30℃である、請求項1に記載の蛍光体の製造方法。
  3. 基材が、ナノ粒子である請求項1又は2に記載の蛍光体の製造方法。
  4. 基材が、CdSe又はCdTeである請求項1〜3に記載の蛍光体の製造方法。
  5. ナノ粒子の平均粒子径が、1〜30nmである、請求項1〜4に記載の蛍光体の製造方法。
  6. 金属化合物が、金属塩又は金属酸化物である、請求項1〜5に記載される蛍光体の製造方法。
  7. (ii)の金属化合物において、金属元素がGa又はInであり、5B族元素が、P、As及びSbからなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1〜6に記載の蛍光体の製造方法。
  8. (ii)の金属化合物において、金属元素がCd又はZnであり、6B族元素が、S、Se及びTeからなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1〜6に記載の蛍光体の製造方法。
  9. 有機溶媒が、クロロホルム、ヘキサン及び1−ブタノールからなる群より選択される少なくとも1種である請求項1〜8に記載の蛍光体の製造方法。
  10. 得られるナノ粒子が示す発光スペクトルにおいて、半値幅が40nm以下であることを特徴とする、請求項1〜9に記載の蛍光体の製造方法。



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