JP2006141321A - Clast6ノックアウト動物、並びに免疫機能調節用組成物及びそのスクリーニング方法 - Google Patents

Clast6ノックアウト動物、並びに免疫機能調節用組成物及びそのスクリーニング方法 Download PDF

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Abstract

【課題】Clast6遺伝子の機能解析に有用な手段、並びに新規医薬・試薬、およびそれらの開発に有用な手段などを提供すること。
【解決手段】Clast6遺伝子の機能的欠損を含む非ヒト動物、およびその製造方法;Clast6遺伝子の機能的欠損を含む動物細胞、およびその製造方法;Clast6遺伝子の相同組換えを誘導し得るターゲティングベクター、およびその製造方法;免疫機能調節用組成物;免疫機能を調節し得る物質のスクリーニング方法;免疫機能の調節能の変化をもたらすClast6遺伝子多型の同定方法;動物における免疫疾患の発症または発症リスクの判定方法;免疫疾患の発症または発症リスクの診断剤など。
【選択図】なし

Description

本発明は、新規動物、新規動物細胞、新規ターゲティングベクター、及びこれらの製造方法、並びに新規組成物、新規スクリーニング方法、新規同定方法、新規判定方法、および新規診断剤などを提供する。
近年、世界的なレベルで様々な生物のゲノム配列の解明とその解析が進められており、例えば、ヒトやマウスでは、ゲノム全配列の解析が終了している。ゲノム情報は、創薬において非常に重要な意義を有すると考えられるものの、単にゲノム配列が決定されただけでは、遺伝子の機能が明らかになり創薬標的蛋白質が見出されるわけではない。
遺伝子の機能を解明する手法の一つとして、遺伝子ノックアウト技術が知られている。遺伝子ノックアウト技術によれば、ゲノム配列解析のみでは得られない重要な情報が得られ、新規の創薬標的蛋白質を発見することが可能である。
Clast6(CD40 ligand activated specific transcript-6)は、E3またはLAPTM5(Lysosome-associated protein, transmembrame-5)とも呼ばれる、CD40によりその発現が制御される遺伝子である(例えば、GenBankアクセッション番号:AF364050参照)。Clast6遺伝子は、リンパ節、脾臓、胸腺、骨髄等の免疫系組織、B細胞(特に、成熟B細胞、GC B細胞)等の免疫細胞で発現していることが知られている(非特許文献1参照)。
現在までに、Clast6遺伝子と疾患との関係について幾つかの報告がある。
例えば、非特許文献1には、Clast6遺伝子がBリンパ腫に関与する可能性があることが記載されている。
非特許文献2には、Clast6遺伝子の発現の低下が、ヒト多発性骨髄腫の進行に重要な役割を果たし得ることが示唆されている。
しかしながら、Clast6遺伝子と免疫不全疾患との関係については、全く知られていない。
Seimiya et al., International Journal of Oncology 22: 301-304 (2003) Hayami et al., Leukemia 17: 1650-1657 (2003)
遺伝子の機能解析は、種々の疾患に対する新たな作用機序を有する医薬、または試薬の開発などにつながる。本発明は、Clast6遺伝子の機能解析により得られた知見に基づき、種々の疾患に対し新たな作用機序を有する医薬、または試薬を提供すること、並びに医薬または試薬の開発などに有用な手段を提供することを目的とする。また、本発明は、Clast6遺伝子の機能解析自体に有用な手段を提供することを目的とする。
本発明者は、Clast6ノックアウト(KO)マウスを作製し、その形質を解析したところ、当該マウスでは、免疫細胞数が増加等していることを見出した。従って、Clast6遺伝子は、免疫機能に重要な役割を果たし得ると考えられる。また、Clast6遺伝子の機能を欠損する動物および細胞は、免疫疾患等の疾患に対する医薬および研究用試薬の開発、並びにClast6遺伝子又は免疫機能調節機構の解析等の研究用途などに有用であり得ると考えられる。
以上に基づき、本発明者らは、本発明を完成するに至った。即ち、本発明は下記の通りである:
〔1〕Clast6遺伝子の機能的欠損を含む非ヒト動物;
〔2〕トランスジェニック動物である、上記〔1〕の動物;
〔3〕免疫細胞数が増加している、上記〔1〕の動物;
〔4〕免疫細胞がリンパ球系細胞である、上記〔3〕の動物;
〔5〕リンパ球系細胞がB細胞である、上記〔4〕の動物;
〔6〕免疫機能の亢進を伴う疾患のモデル動物である、上記〔1〕の動物;
〔7〕免疫機能の亢進を伴う疾患が自己免疫疾患またはアレルギー疾患である、上記〔6〕の動物;
〔8〕下記の工程(a)〜(c)を含む、Clast6遺伝子の機能的欠損を含む非ヒトキメラ動物の製造方法:
(a)Clast6遺伝子の機能的欠損を含む胚性幹細胞を提供する工程;
(b)該胚性幹細胞を胚に導入し、キメラ胚を得る工程;
(c)該キメラ胚を動物に移植し、キメラ動物を得る工程;
〔9〕下記の工程(a)〜(d)を含む、Clast6遺伝子の機能的欠損を含む非ヒトトランスジェニック動物の製造方法:
(a)Clast6遺伝子の機能的欠損を含む胚性幹細胞を提供する工程;
(b)該胚性幹細胞を胚に導入し、キメラ胚を得る工程;
(c)該キメラ胚を動物に移植し、キメラ動物を得る工程;
(d)該キメラ動物を交配させ、Clast6遺伝子欠損ヘテロ接合体を得る工程;
〔10〕Clast6遺伝子欠損ヘテロ接合体を交配させ、Clast6遺伝子欠損ホモ接合体を得る工程をさらに含む、上記〔9〕の方法;
〔11〕Clast6遺伝子の機能的欠損を含む動物細胞;
〔12〕トランスジェニック細胞である、上記〔11〕の動物細胞;
〔13〕Clast6遺伝子の機能的欠損を含む非ヒトトランスジェニック動物に由来する細胞である、上記〔12〕の動物細胞;
〔14〕胚性幹細胞である、上記〔11〕の動物細胞;
〔15〕免疫細胞である、上記〔11〕の動物細胞;
〔16〕免疫細胞がリンパ球系細胞である、上記〔15〕の動物細胞;
〔17〕リンパ球細胞がB細胞である、上記〔16〕の動物細胞;
〔18〕下記の工程(a)〜(c)を含む、Clast6遺伝子の機能的欠損を含む動物細胞の製造方法:
(a)Clast6遺伝子の相同組換えを誘導し得るターゲティングベクターを提供する工程;
(b)該ターゲティングベクターを動物細胞に導入する工程;
(c)該ターゲティングベクターを導入した動物細胞から、相同組換えを生じた細胞を選別する工程;
〔19〕Clast6遺伝子の機能的欠損を含む非ヒトトランスジェニック動物から細胞を単離する工程を含む、Clast6遺伝子の機能的欠損を含む動物細胞の製造方法;
〔20〕Clast6遺伝子に相同な第一のポリヌクレオチド及び第二のポリヌクレオチド、並びに選択マーカーを含む、Clast6遺伝子の相同組換えを誘導し得るターゲティングベクター;
〔21〕Clast6遺伝子に相同な第一のポリヌクレオチド及び第二のポリヌクレオチド、並びに選択マーカーをベクターに挿入することを含む、Clast6遺伝子の相同組換えを誘導し得るターゲティングベクターの製造方法;
〔22〕Clast6遺伝子の発現または機能を調節する物質を含有してなる、免疫機能調節用組成物;
〔23〕免疫細胞数の調節剤である、上記〔20〕の組成物;
〔24〕免疫細胞がリンパ球系細胞である、上記〔23〕の組成物;
〔25〕リンパ球系細胞がB細胞である、上記〔24〕の組成物;
〔26〕Clast6遺伝子の発現または機能を促進する物質を含有してなる、上記〔22〕の組成物;
〔27〕Clast6遺伝子の発現または機能を促進する物質が、Clast6蛋白質、またはClast6蛋白質をコードする核酸を含む発現ベクターである、上記〔26〕の組成物;
〔28〕Clast6遺伝子の発現または機能を抑制する物質を含有してなる、上記〔22〕の組成物;
〔29〕Clast6遺伝子の発現または機能を抑制する物質が、以下(i)、(ii)のいずれかである、上記〔28〕の組成物:
(i)アンチセンス核酸、リボザイム又はRNAi誘導性核酸分子、あるいはこれらを含む発現ベクター;
(ii)抗体又はドミナントネガティブ変異体、あるいはこれらをコードする核酸を含む発現ベクター;
〔30〕医薬である、上記〔22〕の組成物;
〔31〕免疫機能の亢進を伴う疾患の予防・治療剤である、上記〔30〕の組成物;
〔32〕免疫機能の亢進を伴う疾患が自己免疫疾患またはアレルギー疾患である、上記〔31〕の組成物;
〔33〕被験物質がClast6遺伝子の発現または機能を調節し得るか否かを評価することを含む、免疫機能を調節し得る物質のスクリーニング方法;
〔34〕免疫機能を調節し得る物質が免疫細胞数を調節し得る物質である、上記〔33〕の方法;
〔35〕免疫細胞がリンパ球系細胞である、上記〔34〕の方法;
〔36〕リンパ球系細胞がB細胞である、上記〔35〕の方法;
〔37〕被験物質がClast6遺伝子の発現または機能を促進し得るか否かを評価することを含む、上記〔33〕の方法;
〔38〕被験物質がClast6遺伝子の発現または機能を抑制し得るか否かを評価することを含む、上記〔33〕の方法;
〔39〕下記の工程(a)〜(c)を含む、上記〔33〕の方法:
(a)被験物質とClast6遺伝子の発現を測定可能な細胞とを接触させる工程;
(b)被験物質を接触させた細胞におけるClast6遺伝子の発現量を測定し、該発現量を被験物質を接触させない対照細胞におけるClast6遺伝子の発現量と比較する工程;
(c)上記(b)の比較結果に基づいて、Clast6遺伝子の発現量を調節する被験物質を選択する工程;
〔40〕下記の工程(a)〜(c)を含む、上記〔33〕の方法:
(a)被験物質をClast6蛋白質に接触させる工程;
(b)被験物質のClast6蛋白質に対する結合能を測定する工程;
(c)上記(b)の結果に基づいて、Clast6蛋白質に結合能を有する被験物質を選択する工程;
〔41〕医薬のスクリーニング方法である、上記〔33〕の方法;
〔42〕免疫機能の亢進を伴う疾患の予防・治療剤のスクリーニング方法である、上記〔41〕の方法;
〔43〕免疫機能の亢進を伴う疾患が自己免疫疾患またはアレルギー疾患である、上記〔42〕の方法;
〔44〕Clast6遺伝子の特定の多型が免疫機能の調節能の変化をもたらすか否かを解析する工程を含む、免疫機能の調節能の変化をもたらすClast6遺伝子多型の同定方法;
〔45〕動物の生体試料を用いてClast6遺伝子の発現量を測定することを含む、動物における免疫疾患の発症または発症リスクの判定方法;
〔46〕Clast6遺伝子の発現量の測定用試薬を含む、免疫疾患の発症または発症リスクの診断剤;
〔47〕動物の生体試料を用いてClast6遺伝子の多型を測定することを含む、動物における免疫疾患の発症リスクの判定方法;
〔48〕Clast6遺伝子の多型の測定用試薬を含む、免疫疾患の発症リスクの診断剤。
本発明の動物及び細胞は、自己免疫疾患またはアレルギー疾患のモデル動物および細胞として、並びにClast6遺伝子および免疫機能調節機構の解析などに有用である。本発明のターゲティングベクターは、本発明の動物および動物細胞の作製などに有用である。本発明の組成物は、自己免疫疾患、アレルギー疾患、免疫不全疾患等の免疫疾患に対する医薬および研究用試薬などとして有用である。本発明のスクリーニング方法は、免疫疾患に対する医薬および研究用試薬の開発などに有用である。本発明の判定方法および診断剤は、免疫疾患の発症または発症リスクの評価に有用である。
(1.動物)
本発明は、Clast6遺伝子の機能的欠損を含む非ヒト動物を提供する。
本発明の動物の種は、ヒトを除く動物である限り特に限定されないが、哺乳動物および鳥類が好ましい。哺乳動物としては、例えば、マウス、ラット、ハムスター、モルモット、ウサギ等の実験動物、ブタ、ウシ、ヤギ、ウマ、ヒツジ等の家畜、イヌ、ネコ等のペット、サル、オランウータン、チンパンジー等の霊長類が挙げられる。鳥類としては、例えばニワトリが挙げられる。
Clast6遺伝子の機能的欠損とは、Clast6遺伝子が本来有する正常な機能が十分に発揮できない状態をいい、例えば、Clast6遺伝子が全く発現していない状態、またはClast6遺伝子が本来有する正常な機能が発揮できない程度にその発現量が低下している状態、あるいはClast6遺伝子産物の機能が完全に喪失した状態、またはClast6遺伝子が本来有する正常な機能が発揮できない程度にClast6遺伝子産物の機能が低下した状態が挙げられる。
本明細書中で使用される場合、免疫細胞とは、生体内における免疫(例えば、液性免疫、細胞性免疫)機能を担う細胞又はその前駆細胞をいう。免疫細胞としては、例えば、B細胞、T細胞、NKT細胞等のリンパ球系細胞(lymphoid cell)の他、マクロファージなどが挙げられるが、リンパ球系細胞が好ましく、なかでもB細胞がより好ましい。B細胞は、任意のB細胞系列の細胞(B-lineage cell)であり得、例えば、分化段階に応じて、骨髄中に見出されるプロB細胞、プレB細胞、未熟(immature)B細胞、並びに脾臓中に見出される成熟(mature)B細胞、GC(germinal center)B細胞、並びにその性質からメモリーB細胞、形質(plasma)細胞などに分類できる。各細胞に特異的な細胞マーカーは公知であるので、当業者であれば、免疫学的手法により免疫細胞の種類を同定することが可能であり、また、FACS等の細胞ソーティング法を用いることで、免疫細胞をその種類に応じて選別することが可能である。例えば、マウスでは、各細胞マーカーは以下の通りである:B細胞(B220);T細胞(CD3)、NK細胞(NK1.1)、NKT細胞(TCR、NK1.1);マクロファージ(Mac1);プロB細胞(B220、CD43、IgM)、プレB細胞(B220、CD43、IgM);未熟B細胞(B220、CD43、IgM);成熟B細胞(B220、PNA);GC B細胞(B220、PNA)。
本発明の動物は、Clast6遺伝子の機能的欠損に伴う種々の特徴を有する。例えば、本発明の動物は、野生型動物に比し、生体内、例えば、骨髄および/または脾臓中の免疫細胞数が増加し得る。
本発明の動物はまた、野生型動物由来の免疫細胞に比し、抗原刺激に対する増殖応答性が亢進した免疫細胞を有し得る。本明細書で使用される場合、抗原とは、免疫細胞に対して抗原または抗原ミミックとして作用し得る物質(例えば、外因性物質、内因性物質)を意味し、例えば、免疫細胞に対して抗原として作用し得る物質としては、生体高分子(例えば、ポリペプチド)、微生物(例えば、細菌、真菌)などが挙げられ、免疫細胞に対して抗原ミミックとして作用し得る物質としては、抗IgM抗体などが挙げられる。免疫細胞の増殖応答性は、例えば、[H]チミジンの取り込みを評価することにより測定できる(例えば、後述の参考例2を参照)。
本発明の動物はさらに、野生型動物由来の免疫細胞に比し、生存率が上昇した免疫細胞を有し得る。免疫細胞の生存率の上昇は、無刺激下の免疫細胞、抗原刺激後の免疫細胞のいずれでも観察され得る。免疫細胞の生存率の上昇は、アポトーシスの抑制に起因し得る。免疫細胞の生存率は、例えば、細胞周期アッセイ、ヨウ化プロピジウム染色により測定できる(例えば、後述の参考例3、4を参照)。
一実施形態では、本発明の動物は、ゲノムDNAの改変を伴う動物、いわゆるトランスジェニック動物であり得る。本発明のトランスジェニック動物は、Clast6遺伝子欠損ヘテロ接合体、又はClast6遺伝子欠損ホモ接合体であり得る。
本発明のトランスジェニック動物はまた、細胞特異的なClast6遺伝子の機能的欠損を含む動物であり得る。このような動物としては、少なくとも免疫細胞におけるClast6遺伝子の機能的欠損を含むものが好ましい。かかる動物は、その免疫細胞において上述した形質を示し得る。
本発明のトランスジェニック動物は、自体公知の方法により製造できる。先ず、本発明のトランスジェニック動物の作製に有用なキメラ動物の作製法について説明する。なお、本発明の動物は、本発明のトランスジェニック動物の作製に有用なキメラ動物をも含む。
本発明のキメラ動物は、例えば下記の工程(a)〜(c)を含む方法により製造できる。
(a)Clast6遺伝子の機能的欠損を含む胚性幹細胞を提供する工程;
(b)該胚性幹細胞を胚に導入し、キメラ胚を得る工程;
(c)該キメラ胚を動物に移植し、キメラ動物を得る工程;
上記方法の工程(a)では、Clast6遺伝子の機能的欠損を含む胚性幹細胞(ES細胞)は、例えば、後述の方法にて作製されたものを使用できる。
上記方法の工程(b)では、胚が由来する動物種は、本発明のトランスジェニック動物種と同様であり得、また、導入される胚性幹細胞が由来する動物種と同一であることが好ましい。胚としては、例えば胚盤胞、8細胞期胚などが挙げられる。胚はホルモン剤(例えばFSH様作用を有するPMSGおよびLH作用を有するhCGを使用)等により過排卵処理を施した雌動物を、雄動物と交配させること等により得ることができる。胚性幹細胞を胚に導入する方法としては、マイクロマニピュレーション法、凝集法などが挙げられる。
上記方法の工程(c)では、キメラ胚が動物の子宮に移入され得る。キメラ胚が移植される動物は好ましくは偽妊娠動物である。偽妊娠動物は、正常性周期の雌動物を、精管結紮等により去勢した雄動物と交配することにより得ることができる。キメラ胚が導入された動物は、妊娠し、キメラ動物を出産する。
次いで、出生した動物がキメラ動物か否かが確認される。出生した動物がキメラ動物であるか否かは自体公知の方法により確認でき、例えば、体色や被毛色で判別できる。また、判別のために、体の一部からDNAを抽出し、サザンブロット解析やPCRを行ってもよい。
本発明のトランスジェニック動物は、例えば下記の工程(a)〜(d)を含む方法により製造できる:
(a)Clast6遺伝子の機能的欠損を含む胚性幹細胞を提供する工程;
(b)該胚性幹細胞を胚に導入し、キメラ胚を得る工程;
(c)該キメラ胚を動物に移植し、キメラ動物を得る工程;
(d)該キメラ動物を交配させ、Clast6遺伝子欠損ヘテロ接合体を得る工程。
上記方法の工程(a)〜(c)は、上述したキメラ動物の作製方法と同様にして行うことができる。
上記方法の工程(d)では、工程(c)で得られたキメラ動物が成熟した後に交配させる。交配は好ましくは、野生型動物とキメラ動物との間で、又はキメラ動物同士で行われ得る。Clast6遺伝子欠損が、キメラ動物の生殖系列細胞へ導入され、Clast6遺伝子欠損ヘテロ接合体子孫が得られたか否かは、自体公知の方法により種々の形質を指標として確認でき、例えば、子孫動物の体色や被毛色により判別できる。また、判別のために、体の一部からDNAを抽出し、サザンブロット解析やPCRアッセイを行ってもよい。さらに、このようにして得られたClast6遺伝子欠損ヘテロ接合体同士を交配させることにより、Clast6遺伝子欠損ホモ接合体を作製できる。
一般的に、トランスジェニック動物の作製の過程では、胚性幹細胞に由来する遺伝子と、交配に用いた動物に由来する遺伝子とが交雑した遺伝子型を有する子孫動物が得られるため、結果としてClast6遺伝子が欠損することのみによる特有の効果を調べることが困難となってしまう場合がある。そこで、Clast6遺伝子欠損特有の効果のみをより適切に抽出するために、得られたClast6遺伝子欠損動物(ヘテロ接合体またはホモ接合体)を純系の動物系統と、5世代〜8世代程度にわたり戻し交配することが好ましい。また、自然交配のみにより戻し交配を行うと長い年月がかかる場合があるので、世代交代を早めたい場合には体外受精技術を適宜用いることもできる。
また、本発明のトランスジェニック動物が、細胞特異的なClast6遺伝子の機能的欠損を含むトランスジェニック動物である場合、かかる動物は、例えば、リコンビナーゼ標的配列を含む所定のターゲティングベクター(後述)の使用により作製された動物と、少なくとも免疫細胞においてリコンビナーゼを発現するトランスジェニック動物(例えば、免疫細胞特異的にリコンビナーゼを発現するトランスジェニック動物)を交配させることで作製できる。免疫細胞特異的にリコンビナーゼを発現するトランスジェニック動物としては、例えば、CD19−Creトランスジェニックマウスが報告されている(例えば、Rickert et al., Nucleic Acid Res. 25: 1317-1318 (1997) 参照)。また、リコンビナーゼ標的配列を含むターゲティングベクター(後述)の使用により作製された動物の免疫細胞に対し、リコンビナーゼ、又はリコンビナーゼ発現ベクターを作用させてもよい。例えば、B細胞に対してリコンビナーゼを作用させる方法、あるいは該細胞に特異的にリコンビナーゼを作用させる方法としては、B細胞特異的プロモーター(例えば、CD19プロモーター)を含む発現ベクターを使用する方法、エプスタイン・バー・ウイルスを発現ベクターとして使用する方法、B細胞で特異的に発現する細胞表面分子に対する抗体が組み込まれたリポソームを使用する方法が挙げられる。
別の実施形態では、本発明の動物は、ゲノムDNAの改変を伴わない動物であり得る。かかる動物は、例えば、後述するClast6遺伝子の発現または機能を抑制する物質(例えば、アンチセンス核酸、RNAi誘導性核酸)の動物での強制発現により作製できる。投与は、例えば、リポソーム等の適切な送達手段を使用して行われ得る。また、細胞特異的なClast6遺伝子の機能的欠損を達成することも可能である。例えば、免疫細胞のうちB細胞特異的なClast6遺伝子の機能的欠損を達成するためには、B細胞に特異的にリコンビナーゼを作用させる方法と同様の方法を使用できる。
本発明の動物は、例えば、自己免疫疾患又はアレルギー疾患等の免疫疾患モデルとして有用である。本発明の動物がモデルとなり得る自己免疫疾患又はアレルギー疾患は、免疫機能の亢進を伴う疾患、例えば、液性又は細胞性免疫機能の亢進を伴う疾患であり得る。液性免疫機能の亢進を伴う疾患は、B細胞数の増加、及び/又はB細胞の過剰な活性化により引き起こされ得る疾患であり得る。一方、細胞性免疫機能の亢進を伴う疾患は、T細胞数の増加、及び/又はT細胞の過剰な活性化により引き起こされ得る疾患であり得る。液性免疫機能の亢進を伴う自己免疫疾患としては、例えば、全身性エリテマトーデス、慢性関節リウマチ、強直性脊椎炎、多発性硬化症、自己免疫性甲状腺炎、橋本病、自己免疫性溶血性貧血、悪性貧血、自己免疫性血小板減少症、自己免疫性血球減少症、重症筋無力症、強皮症、多発性筋炎、続発性アディソン病、不妊症、自己免疫性糸球体腎炎、シェーグレン病、脈管炎が挙げられる。細胞性免疫機能の亢進を伴う自己免疫疾患としては、例えば、自己免疫性脊髄炎、インスリン依存性糖尿病、潰瘍性大腸炎、クローン病などが挙げられる。一方、液性免疫機能の亢進を伴うアレルギー疾患としては、例えば、I型アレルギー疾患(例えば、気管支喘息、アレルギー性鼻炎、じんま疹、アトピー性皮膚炎)、II型アレルギー疾患(例えば、橋本病(慢性甲状腺炎)、グッドパスチャー症候群、臓器移植拒絶反応)、III型アレルギー疾患(例えば、全身性血管炎、クリオグロブリン血症、糸球体腎炎)が挙げられる。細胞性性免疫機能の亢進を伴うアレルギー疾患としては、例えば、IV型アレルギー疾患(例えば、接触性皮膚炎、各種臓器移植拒絶反応)が挙げられる。
本発明の動物はまた、Clast6遺伝子および免疫機能調節機構の解析、並びに免疫機能調節薬の開発などに有用である。例えば、本発明の動物における遺伝子発現を網羅的に解析することで、免疫機能調節に関与する他の遺伝子(例えば、Clats6遺伝子の発現様式と連動する発現様式を示す遺伝子)の同定が可能となる。この場合、例えば、本発明の動物において、遺伝子発現の網羅的解析を可能にする手段(例えば、マイクロアレイ)により遺伝子発現プロフィールが測定され、野生型動物又は他の免疫疾患モデル動物等のコントロール動物(同種又は異種動物)の遺伝子発現プロフィールと比較される。また、本発明の動物の遺伝子発現プロフィールを経時的に追跡し、病態の発現、進行と遺伝子発現プロフィールの変化との連動性を評価することもできる。
(2.動物細胞)
本発明はまた、Clast6遺伝子の機能的欠損を含む動物細胞を提供する。
本発明の動物細胞は、ヒトを含む任意の動物に由来する細胞であり得るが、哺乳動物または鳥類に由来する細胞が好ましい。本発明の動物細胞が由来する哺乳動物種としては、例えば、マウス、ラット、ハムスター、モルモット、ウサギ等の実験動物、ブタ、ウシ、ヤギ、ウマ、ヒツジ等の家畜、イヌ、ネコ等のペット、サル、オランウータン、チンパンジー、ヒト等の霊長類が挙げられる。鳥類としては、例えばニワトリが挙げられる。
本発明の動物細胞はまた、任意の組織に由来する細胞であり得、例えば、Clast6遺伝子が発現している体細胞(例えば、免疫細胞)、精原細胞、精子、卵子等の生殖系列細胞、並びに胚性幹細胞などが挙げられる。また、本発明の動物細胞は、初代培養細胞、細胞株のいずれであってもよい。
本発明の動物細胞が免疫細胞である場合、免疫細胞は、本発明のトランスジェニック動物の免疫細胞と同様の種々の形質を示し得る。例えば、本発明の免疫細胞は、野生型動物由来の免疫細胞に比し、抗原刺激に対する増殖応答性が亢進し得る。免疫細胞の増殖応答性は、例えば、[H]チミジンの取り込みを評価することにより測定できる(例えば、後述の参考例2を参照)。
また、本発明の免疫細胞は、野生型動物由来の免疫細胞に比し、生存率が上昇し得る。免疫細胞の生存率の上昇は、無刺激下の免疫細胞、抗原刺激後の免疫細胞のいずれでも観察され得る。免疫細胞の生存率の上昇は、アポトーシスの抑制に起因し得る。免疫細胞の生存率は、例えば、細胞周期アッセイ、ヨウ化プロピジウム染色により測定できる(例えば、後述の参考例3、4を参照)。
一実施形態では、本発明の動物細胞は、ゲノムDNAの改変を伴う細胞、いわゆるトランスジェニック細胞であり得る。本発明のトランスジェニック細胞は、例えば、Clast6遺伝子欠損ホモ接合体、又はClast6遺伝子欠損ヘテロ接合体であり得る。
本発明のトランスジェニック細胞は、自体公知の方法により製造できる。例えば、本発明の動物細胞は、下記の工程(a)〜(c)を含む方法により製造できる。
(a)Clast6遺伝子の相同組換えを誘導し得るターゲティングベクターを提供する工程;
(b)該ターゲティングベクターを動物細胞に導入する工程;
(c)該ターゲティングベクターを導入した細胞から、相同組換えを生じた細胞を選別する工程。
上記方法の工程(a)では、Clast6遺伝子の相同組換えを誘導し得るターゲティングベクターとして、例えば、本発明のターゲティングベクター(後述)を使用できる。
上記方法の工程(b)では、ターゲティングベクターが動物細胞中に導入される。ターゲティングベクターを動物細胞に導入する方法としては、例えば、リン酸カルシウム法、リポフェクション法/リポソーム法、エレクトロポレーション法などが挙げられる。ターゲティングベクターが動物細胞中に導入されると、当該動物細胞中でClast6遺伝子を含むゲノムDNAの相同組換えが生じる。
ターゲティングベクターが導入される動物細胞としては、自体公知の方法で作製したもの、あるいは市販のもの、又は所定の機関より入手可能なものを使用できる。
例えば、ターゲティングベクターが導入される動物細胞として胚性幹細胞を使用する場合、胚性幹細胞は、任意の動物の胚盤胞から分離した内部細胞塊をフィーダー細胞上で培養することにより樹立してもよいが、市販または所定の機関より既存の胚性幹細胞を入手できる。既存のマウス胚性幹細胞としては、例えば、ES−D3細胞、ES−E14TG2a細胞、SCC−PSA1細胞、TT2細胞、AB−1細胞、J1細胞、R1細胞、E14.1細胞、RW−4細胞などが挙げられる。また、胚性幹細胞としては、現時点で、マウス胚性幹細胞以外に、ヒト、ミンク、ハムスター、ブタ、ウシ、マーモセット、アカゲザル等の哺乳動物由来のものなどが樹立されているので、これらを用いることもできる。
また、ターゲティングベクターが導入される動物細胞として免疫細胞等の体細胞を使用する場合、ターゲティングベクターが導入される体細胞は、初代培養細胞、細胞株のいずれでもよい。初代培養細胞および細胞株は、自体公知の方法により作製できる(例えば、Current Protocols in Cell Biology, John Wiley & Sons, Inc.(2001);機能細胞の分離と培養,丸善書店 (1987) 参照)。
上記方法の工程(c)では、Clast6遺伝子を含むゲノムDNAで相同組換えが生じた動物細胞を選別するため、ターゲティングベクター導入後の動物細胞がスクリーニングされる。例えば、ポジティブ選別、ネガティブ選別等により選別を行った後に、遺伝子型に基づくスクリーニング(例えば、PCR法、サザンブロットハイブリダイゼーション法)を行う。
動物細胞が胚性幹細胞である場合には、好ましくは、組換え胚性幹細胞の核型分析がさらに行なわれる。核型分析では、選別された組換え胚性幹細胞において染色体異常がないことが確認される。核型分析は、自体公知の方法により行うことができる。なお、胚性幹細胞の核型は、ターゲティングベクターの導入前に予め確認しておくことが好ましい。
本発明のトランスジェニック細胞はまた、本発明のトランスジェニック動物から単離できる。本発明のトランスジェニック動物はClast6遺伝子の機能的欠損を含むので、本発明のトランスジェニック動物から単離されたトランスジェニック細胞もまた、Clast6遺伝子の機能的欠損を含む。さらに、本発明のトランスジェニック動物から単離された細胞を、遺伝子工学的手法等の方法により改変してもよい。細胞の単離および改変は、自体公知の方法により行うことができる(例えば、Current Protocols in Cell Biology, John Wiley & Sons, Inc.(2001);機能細胞の分離と培養,丸善書店 (1987) 参照)。
別の実施形態では、本発明の動物細胞は、ゲノムDNAの改変を伴わない細胞であり得る。かかる細胞は、例えば、後述するClast6遺伝子の発現または機能を抑制する物質(例えば、アンチセンス核酸、RNAi誘導性核酸)の細胞への導入により作製できる。Clast6遺伝子の発現または機能を抑制する物質の細胞への導入は、自体公知の方法により行うことができ、例えば、Clast6遺伝子の発現または機能を抑制する物質が核酸分子又はそれを含む発現ベクターである場合、リン酸カルシウム法、リポフェクション法/リポソーム法、エレクトロポレーション法などが用いられ得る。
本発明の動物細胞は、Clast6遺伝子、免疫機能調節機構および免疫疾患の解析、並びに免疫機能調節薬の開発などに有用である。
(3.ターゲティングベクター)
本発明は、Clast6遺伝子に相同な第一のポリヌクレオチド及び第二のポリヌクレオチド、並びに選択マーカーを含む、Clast6遺伝子の相同組換えを誘導し得るターゲティングベクターを提供する。
第一及び第二のポリヌクレオチドは、Clast6遺伝子を含むゲノムDNAに対して、相同組換えを生じるのに十分な程度の配列同一性および長さを有するポリヌクレオチドである。第一及び第二のポリヌクレオチドはそれぞれ、Clast6遺伝子を含むゲノムDNAの異なる領域に対応する。
また、第一及び第二のポリヌクレオチドは、相同組換えにより、Clast6遺伝子の機能的欠損を引き起こすように選択される。即ち、第一及び第二のポリヌクレオチドは、Clast6遺伝子を含むゲノムDNAにおいて、第一及び第二のポリヌクレオチドに対して相同な2つの領域の間に存在するゲノムDNA部分領域が欠失すると、Clast6遺伝子の機能的欠損がもたらされるように選択される。かかる領域は、当業者であれば適宜決定できるが、例えば、1以上のエクソン(例えば、エクソン3〜5)、あるいはプロモーター領域またはエンハンサー領域を少なくとも欠失するように第一及び第二のポリヌクレオチドが選択される。
例えば、マウスでは、Clast6遺伝子の各エクソンは、配列番号1で示されるヌクレオチド配列の下記の位置に対応する:
エクソン1:1番目〜122番目
エクソン2:12792番目〜12885番目
エクソン3:13458番目〜13534番目
エクソン4:15325番目〜15450番目
エクソン5:16108番目〜16229番目
エクソン6:17458番目〜17553番目
エクソン7:18704番目〜18796番目
エクソン8(ラストエクソン):21148番目〜22826番目
Clast6遺伝子を含むゲノムDNAに対する第一及び第二のポリヌクレオチドの同一性の程度は、相同組換えを可能とする限り特に限定されない。例えば、相同組換えを可能とする同一性の程度は、ポリヌクレオチドの長さによっても異なるが、例えば少なくとも約80%以上、好ましくは少なくとも約85%以上、より好ましくは少なくとも約90%以上、最も好ましくは約95〜100%であり得る。同一性%は、自体公知の方法により決定でき、例えば、NCBIホームページで利用可能なBLASTNを初期 (default) 設定で用いることにより決定できる。同一性%はまた、Smith-Watermanのアルゴリズムを使用して、ギャップ・オープン・ペナルティー(gap open penalty):12、ギャップ・エクステンション・ペナルティー(gap extension penalty):1によりアフィン・ギャップ検索(affine gap search)を行うことにより決定してもよい。
第一及び第二のポリヌクレオチドの長さは、ゲノムDNAの相同組換えが生じる長さである限り特に限定されない。しかしながら、一般論として、ターゲティングベクターによってゲノムDNAの相同組換えが効率よく起こるためには、相同領域が長いほどよい。一方、ターゲティングベクターの種類によって、挿入可能なDNAの長さは一定に制限される。従って、これらを考慮すると、第一のポリヌクレオチド、第二のポリヌクレオチドの長さは、例えば0.5kb−20kb、好ましくは1kb−10kbであり得る。
一実施形態では、Clast6遺伝子に相同な第一のポリヌクレオチドと、第二のポリヌクレオチドとの間(換言すれば、内側)に選択マーカーが含まれる。この場合、選択マーカーとしては、ポジティブ選択マーカーが好ましい。ポジティブ選択マーカーは、その遺伝子を有する細胞のみを所定の条件下で生存及び/又は増殖可能にする産物をコードする遺伝子であり、例えば、ネオマイシン耐性遺伝子、ハイグロマイシンBホスホトランスフェラーゼ(BPH)遺伝子、ブラスティシジンSデアミナーゼ遺伝子、ピューロマイシン耐性遺伝子などが挙げられる。
別の実施形態では、Clast6遺伝子に相同な第一のポリヌクレオチドと、第二のポリヌクレオチドとの外側に選択マーカーが含まれる。この場合、選択マーカーとしては、ネガティブ選択マーカーが好ましい。ネガティブ選択マーカーは、非ターゲティング染色体部位に組み込まれたDNA挿入物を有する細胞に対して毒性に作用する遺伝子であり、例えば、単純ヘルペスウイルス(HSV)のチミジンキナーゼ(tk)遺伝子、ジフテリア毒素Aフラグメント(DTA)遺伝子などが挙げられる。
本発明のターゲティングベクターは、ポジティブ選択マーカー、ネガティブ選択マーカーのいずれか一方、好ましくは両方を含むことができる。
本発明のターゲティングベクターの基本骨格となるベクターは特に限定されず、形質転換を行う細胞(例えば、大腸菌)中で自己複製可能なものであればよい。例えば、市販のpBluscript(Stratagene社製)、pZErO 1.1(Invitrogen社)、pGEM−1(Promega社)等が使用可能である。
本発明のターゲティングベクターはまた、2以上のリコンビナーゼ標的配列を含んでいてもよい。2以上のリコンビナーゼ標的配列は、同一または反対の配向性 (orientation) で配置できる。2以上のリコンビナーゼ標的配列は、Clast6遺伝子に相同な第一のポリヌクレオチドと第二のポリヌクレオチドとの間(換言すれば、内側)に配置される。このようなターゲティングベクターは、いわゆるコンディショナルノックアウトを可能にする。
リコンビナーゼ標的配列としては、当該分野で公知の配列、例えば、バクテリオファージP1由来のCre/loxPシステムで用いられるloxP配列、酵母由来のFLP/FRTシステムで用いられるFRT配列を使用できる。
一実施形態では、2つのリコンビナーゼ標的配列の間(換言すれば、内側)に、Clast6遺伝子を含むゲノムDNA中の部分領域、あるいは当該領域およびポジティブ選択マーカーが配置される。具体的には、リコンビナーゼ標的配列−Clast6遺伝子を含むゲノムDNA中の部分領域(およびポジティブ選択マーカー)−リコンビナーゼ標的配列の様式で、リコンビナーゼ標的配列が配置される。
別の実施形態では、3つのリコンビナーゼ標的配列の間に、Clast6遺伝子を含むゲノムDNA中の部分領域およびポジティブ選択マーカーが個別に配置される。具体的には、リコンビナーゼ標的配列−Clast6遺伝子を含むゲノムDNA中の部分領域−リコンビナーゼ標的配列−ポジティブ選択マーカー−リコンビナーゼ標的配列の様式で、リコンビナーゼ標的配列が配置される。
2以上のリコンビナーゼ標的配列の間に含まれるゲノムDNA中の部分領域は、リコンビナーゼ作用下での当該領域の欠失により、Clast6遺伝子の機能的欠損がもたらされる領域である。かかる領域は、当業者であれば適宜決定でき、例えば、少なくとも1つのエクソン、あるいはプロモーター領域またはエンハンサー領域を含む領域であり得る。
本発明のターゲティングベクターは、自体公知の方法により製造できる。例えば、本発明のターゲティングベクターは、Clast6遺伝子に相同な第一のポリヌクレオチド及び第二のポリヌクレオチド並びに該選択マーカーをベクターに挿入することにより製造できる。なお、このようなターゲティングベクターを作製するにあたっては、最初に、Clast6遺伝子を含むゲノムDNA断片を単離する必要があるが、ゲノムDNA断片は、相同組換えの際に効率良く組換えが生じるよう、作製しようとするES細胞が由来する動物種と同一の動物種から単離することが好ましい。また、相同組換えの効率をさらに上げるために、ES細胞が由来する同一種の動物のうち同じ系統の動物から、ゲノムDNAを単離することがより好ましい。
本発明のターゲティングベクターは、例えば、本発明の動物および動物細胞の作製などに有用である。
本発明の動物、動物細胞、ターゲティングベクターの作製の詳細については、例えば、下記文献を参照のこと。
1.別冊 実験医学 ザ・プロトコールシリーズ 「ジーンターデティングの最新技術」(2000年、羊土社)コンディショナルターゲティング法p.115-120
2.バイオマニュアルシリーズ8 「ジーンターゲティング」−ES細胞を用いた変異マウスの作製(1995年、羊土社)p.71-77
3.Sambrookら, Molecular Cloning: A LABORATORY MANUAL, 第3版, COLD SPRING HARBO
R LABORATORY PRESS, 2001年, 4. 82-4.85
4.Robertson E. J. in Teratocarcinomas and embryonic stem cells-a practical approach, ed. Robertson, E. J. (IRL Press, Oxford), 1987: pp.108-112
5.Dynecki, S. M.ら, Gene Targeting -a practical approach, 2nd edition, ed. Joyner, A.L. (Oxford Univ. Press), 2000: pp.68-73
6.Dynecki, S. M. ら, Gene Targeting -a practical approach, 2nd edition, ed. Joyner, A. L. (Oxford Univ. Press), 2000: pp.75-81
(4.免疫機能調節用組成物)
本発明はまた、Clast6遺伝子の発現または機能を調節する物質を含有してなる、免疫機能調節用組成物を提供する。
一実施形態では、Clast6遺伝子の発現または機能を調節する物質は、Clast6遺伝子の発現を促進する物質であり得る。
Clast6遺伝子の発現とは、Clast6遺伝子からの翻訳産物(即ち、蛋白質)が産生され且つ機能的な状態でその作用部位に局在することをいう。従って、Clast6遺伝子の発現を促進する物質は、Clast6遺伝子の転写、転写後調節、翻訳、翻訳後修飾、局在化及び蛋白質フォールディング等の、いかなる段階で作用するものであってもよい。なお、本明細書で使用される場合、Clast6遺伝子の発現の促進としては、Clast6蛋白質の補充をも含むものとする。
Clast6遺伝子の発現を促進する物質の例は、Clast6蛋白質、またはClast6遺伝子をコードする核酸を含む発現ベクターであり得る。
別の実施形態では、Clast6遺伝子の発現または機能を調節する物質は、Clast6遺伝子の発現を抑制する物質であり得る。Clast6遺伝子の発現を抑制する物質は、Clast6遺伝子の転写、転写後調節、翻訳、翻訳後修飾、局在化及び蛋白質フォールディング等の、いかなる段階で作用するものであってもよい。
Clast6遺伝子の発現を抑制する物質の例は、Clast6遺伝子の転写産物、詳細にはmRNAもしくは初期転写産物に対するアンチセンス核酸である。アンチセンス核酸とは、標的mRNA(初期転写産物)を発現する細胞の生理的条件下で該標的mRNA(初期転写産物)とハイブリダイズし得る塩基配列からなり、且つハイブリダイズした状態で該標的mRNA(初期転写産物)にコードされるポリペプチドの翻訳を阻害し得る核酸をいう。アンチセンス核酸の種類はDNAであってもRNAであってもよいし、あるいはDNA/RNAキメラであってもよい。また、天然型のアンチセンス核酸は、細胞中に存在する核酸分解酵素によってそのリン酸ジエステル結合が容易に分解されるので、本発明のアンチセンス核酸は、分解酵素に安定なチオリン酸型(リン酸結合のP=OをP=Sに置換)や2’-O-メチル型等の修飾ヌクレオチドを用いて合成もできる。アンチセンス核酸の設計に重要な他の要素として、水溶性及び細胞膜透過性を高めること等が挙げられるが、これらはリポソームやマイクロスフェアを使用するなどの剤形の工夫によっても克服できる。
アンチセンス核酸の長さは、Clast6遺伝子の転写産物と特異的にハイブリダイズし得る限り特に制限はなく、短いもので約15塩基程度、長いものでmRNA(初期転写産物)の全配列に相補的な配列を含むような配列であってもよい。合成の容易さや抗原性の問題等から、例えば約15塩基以上、好ましくは約15〜約30塩基からなるオリゴヌクレオチドが例示される。
アンチセンス核酸の標的配列は、アンチセンス核酸がハイブリダイズすることにより、Clast6遺伝子もしくはその機能的断片の翻訳が阻害される配列であれば特に制限はなく、mRNAの全配列であっても部分配列であってもよいし、あるいは初期転写産物のイントロン部分であってもよいが、アンチセンス核酸としてオリゴヌクレオチドを使用する場合は、標的配列はClast6遺伝子のmRNAの5’末端からコード領域のC末端までに位置することが望ましい。
さらに、アンチセンス核酸は、Clast6遺伝子の転写産物とハイブリダイズして翻訳を阻害するだけでなく、二本鎖DNAと結合して三重鎖(トリプレックス)を形成し、mRNAへの転写を阻害し得るものであってもよい。
Clast6遺伝子の発現を抑制する物質の別の例は、Clast6遺伝子の転写産物、詳細にはmRNAもしくは初期転写産物を、コード領域の内部(初期転写産物の場合はイントロン部分を含む)で特異的に切断し得るリボザイムである。リボザイムとは核酸を切断する酵素活性を有するRNAをいうが、最近では当該酵素活性部位の塩基配列を有するオリゴDNAも同様に核酸切断活性を有することが明らかになっているので、本発明では配列特異的な核酸切断活性を有する限りDNAをも包含する概念として用いるものとする。リボザイムとして最も汎用性の高いものとしては、ウイロイドやウイルソイド等の感染性RNAに見られるセルフスプライシングRNAがあり、ハンマーヘッド型やヘアピン型等が知られている。また、リボザイムを、それをコードするDNAを含む発現ベクターの形態で使用する場合には、細胞質への移行を促進するために、tRNAを改変した配列をさらに連結したハイブリッドリボザイムとすることもできる[Nucleic Acids Res., 29(13): 2780-2788 (2001)]。
Clast6遺伝子の発現を抑制する物質のさらに別の例は、RNAi誘導性核酸である。RNAi誘導性核酸とは、細胞内に導入されることにより、RNAi効果を誘導し得る核酸をいい、好ましくはRNAである。RNAi効果とは、mRNAと同一のヌクレオチド配列(又はその部分配列)を含む2本鎖構造のRNAが、当該mRNAの発現を抑制する現象をいう。RNAi効果を得るには、例えば、少なくとも20以上の連続する標的mRNAと同一のヌクレオチド配列(又はその部分配列)を有する2本鎖構造のRNAを用いることが好ましい。2本鎖構造は、異なるストランドで構成されていてもよいし、一つのRNAのステムループ構造によって与えられる2本鎖であってもよい。RNAi誘導性核酸としては、たとえばsiRNA、stRNA、miRNAなどが挙げられる。RNAi誘導性核酸としては、後述の通り自ら合成したものを使用できるが、市販のものを用いてもよい(例えば、ステルスRNAi(インビトロジェン社製、カタログ番号:10620-310)。
アンチセンスオリゴヌクレオチド及びリボザイムは、例えば、Clast6遺伝子のcDNA配列もしくはゲノミックDNA配列に基づいてClast6遺伝子の転写産物、詳細にはmRNAもしくは初期転写産物の標的配列を決定し、市販のDNA/RNA自動合成機(アプライド・バイオシステムズ社、ベックマン社等)を用いて、これに相補的な配列を合成することにより調製できる。デコイ核酸、RNAi誘導性核酸は、例えば、センス鎖及びアンチセンス鎖をDNA/RNA自動合成機でそれぞれ合成し、適当なアニーリング緩衝液中、約90〜約95℃で約1分程度変性させた後、約30〜約70℃で約1〜約8時間アニーリングさせることにより調製できる。また、相補的なオリゴヌクレオチド鎖を交互にオーバーラップするように合成して、これらをアニーリングさせた後リガーゼでライゲーションすることにより、より長い二本鎖ポリヌクレオチドを調製することもできる。
Clast6遺伝子の発現を抑制する物質の別の例は、Clast6蛋白質に対する抗体である。該抗体は、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体のいずれであってもよく、周知の免疫学的手法により作製できる。また、該抗体は、抗体のフラグメント(例えば、Fab、F(ab’)2)、組換え抗体(例えば、単鎖抗体)であってもよい。さらに、該抗体をコードする核酸(プロモーター活性を有する核酸に機能可能に連結されたもの)もまた、Clast6遺伝子の発現を抑制する物質として好ましい。
例えば、ポリクローナル抗体は、Clast6蛋白質あるいはそのフラグメント(必要に応じて、ウシ血清アルブミン、KLH(Keyhole Limpet Hemocyanin)等のキャリア蛋白質に架橋した複合体とすることもできる)を抗原として、市販のアジュバント(例えば、完全または不完全フロイントアジュバント)とともに、動物の皮下あるいは腹腔内に2〜3週間おきに2〜4回程度投与し(部分採血した血清の抗体価を公知の抗原抗体反応により測定し、その上昇を確認しておく)、最終免疫から約3〜約10日後に全血を採取して抗血清を精製することにより取得できる。抗原を投与する動物としては、ラット、マウス、ウサギ、ヤギ、モルモット、ハムスターなどの哺乳動物が挙げられる。
また、モノクローナル抗体は、細胞融合法(例えば、渡邊武、細胞融合法の原理とモノクローナル抗体の作成、谷内昭、高橋利忠編、「モノクローナル抗体とがん―基礎と臨床―」、第2-14頁、サイエンスフォーラム出版、1985年)により作成することができる。例えば、マウスに該因子を市販のアジュバントと共に2〜4回皮下あるいは腹腔内に投与し、最終投与の約3日後に脾臓あるいはリンパ節を採取し、白血球を採取する。この白血球と骨髄腫細胞(例えば、NS-1, P3X63Ag8など)を細胞融合して該因子に対するモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを得る。細胞融合はPEG法[J. Immunol. Methods,81(2): 223-228 (1985)]でも電圧パルス法[Hybridoma, 7(6): 627-633 (1988)]であってもよい。所望のモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマは、周知のEIAまたはRIA法等を用いて抗原と特異的に結合する抗体を、培養上清中から検出することにより選択できる。モノクローナル抗体を産生するハイブリドーマの培養は、インビトロ、またはマウスもしくはラット、好ましくはマウス腹水中等のインビボで行うことができ、抗体はそれぞれハイブリドーマの培養上清および動物の腹水から取得できる。
しかしながら、ヒトにおける治療効果と安全性を考慮すると、本発明の抗体は、キメラ抗体、ヒト化又はヒト型抗体であってもよい。キメラ抗体は、例えば「実験医学(臨時増刊号), Vol.6, No.10, 1988」、特公平3-73280号公報等を、ヒト化抗体は、例えば特表平4-506458号公報、特開昭62-296890号公報等を、ヒト抗体は、例えば「Nature Genetics, Vol.15, p.146-156, 1997」、「Nature Genetics, Vol.7, p.13-21, 1994」、特表平4-504365号公報、国際出願公開WO94/25585号公報、「日経サイエンス、6月号、第40〜第50頁、1995年」、「Nature, Vol.368, p.856-859, 1994」、特表平6-500233号公報等を参考にそれぞれ作製することができる。
さらに別の実施形態では、Clast6遺伝子の発現又は機能を調節する物質は、Clast6遺伝子の機能を抑制する物質であり得る。Clast6遺伝子の機能を抑制する物質としては、Clast6蛋白質の作用を妨げ得る物質である限り特に限定されないが、Clast6蛋白質のドミナントネガティブ変異体、該変異体をコードする核酸を含む発現ベクターが例示される。
Clast6蛋白質のドミナントネガティブ変異体とは、Clast6蛋白質に対する変異の導入によりその活性が低減したものをいう。該ドミナントネガティブ変異体は、天然のClast6蛋白質と競合することで間接的にその活性を阻害することができる。該ドミナントネガティブ変異体は、Clast6遺伝子をコードする核酸に変異を導入することによって作製することができる。変異としては、例えば、機能性部位における、当該部位が担う機能の低下をもたらすようなアミノ酸の変異(例えば、1以上のアミノ酸の欠失、置換、付加)が挙げられる。ドミナントネガティブ変異体は、PCRや公知のキットを用いる自体公知の方法により作製できる。
Clast6遺伝子の発現または機能を調節する物質が、核酸分子または蛋白質分子である場合、本発明の組成物は、核酸分子または蛋白質分子をコードする核酸分子を含む発現ベクターを有効成分とすることもできる。当該発現ベクターは、上記の核酸分子をコードするオリゴヌクレオチドもしくはポリヌクレオチドが、投与対象である哺乳動物の細胞内でプロモーター活性を発揮し得るプロモーターに機能的に連結されていなければならない。使用されるプロモーターは、投与対象である哺乳動物で機能し得るものであれば特に制限されず、例えば、SV40由来初期プロモーター、サイトメガロウイルスLTR、ラウス肉腫ウイルスLTR、MoMuLV由来LTR、アデノウイルス由来初期プロモーター等のウイルスプロモーター、並びにβ−アクチン遺伝子プロモーター、PGK遺伝子プロモーター、トランスフェリン遺伝子プロモーター等の哺乳動物の構成蛋白質遺伝子プロモーターなどが挙げられる。
発現ベクターは、好ましくは核酸分子をコードするオリゴ(ポリ)ヌクレオチドの下流に転写終結シグナル、すなわちターミネーター領域を含有する。さらに、形質転換細胞選択のための選択マーカー遺伝子(テトラサイクリン、アンピシリン、カナマイシン、ハイグロマイシン、ホスフィノスリシン等の薬剤に対する抵抗性を付与する遺伝子、栄養要求性変異を相補する遺伝子等)をさらに含有することもできる。
発現ベクターとして使用される基本骨格のベクター、プラスミドまたはウイルスベクターであり得るが、ヒト等の哺乳動物への投与に好適なベクターとしては、アデノウイルス、レトロウイルス、アデノ随伴ウイルス、ヘルペスウイルス、ワクシニアウイルス、ポックスウイルス、ポリオウイルス、シンドビスウイルス、センダイウイルス、エプスタイン・バー・ウイルス等のウイルスベクターが挙げられる。
本発明の組成物は、所定の免疫細胞(例えば、B細胞)特異的に作用させても、非特異的に作用させてもよい。例えば、Clast6遺伝子の発現または機能を調節する物質を発現ベクターの形態で用いる場合には、核酸分子を免疫細胞特異的プロモーターに連結したベクターを利用することで、免疫細胞特異的に作用させることができる(例えば、「(1.動物)」の項を参照)。
本発明の組成物は、Clast6遺伝子の発現又は機能を調節する物質に加え、任意の担体、例えば医薬上許容され得る担体を含むことができる。
医薬上許容され得る担体としては、例えば、ショ糖、デンプン、マンニット、ソルビット、乳糖、グルコース、セルロース、タルク、リン酸カルシウム、炭酸カルシウム等の賦形剤、セルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリプロピルピロリドン、ゼラチン、アラビアゴム、ポリエチレングリコール、ショ糖、デンプン等の結合剤、デンプン、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルスターチ、ナトリウム−グリコール−スターチ、炭酸水素ナトリウム、リン酸カルシウム、クエン酸カルシウム等の崩壊剤、ステアリン酸マグネシウム、エアロジル、タルク、ラウリル硫酸ナトリウム等の滑剤、クエン酸、メントール、グリシルリシン・アンモニウム塩、グリシン、オレンジ粉等の芳香剤、安息香酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、メチルパラベン、プロピルパラベン等の保存剤、クエン酸、クエン酸ナトリウム、酢酸等の安定剤、メチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ステアリン酸アルミニウム等の懸濁剤、界面活性剤等の分散剤、水、生理食塩水、オレンジジュース等の希釈剤、カカオ脂、ポリエチレングリコール、白灯油等のベースワックスなどが挙げられるが、それらに限定されるものではない。
経口投与に好適な製剤は、水、生理食塩水のような希釈液に有効量の物質を溶解させた液剤、有効量の物質を固体や顆粒として含んでいるカプセル剤、サッシェ剤または錠剤、適当な分散媒中に有効量の物質を懸濁させた懸濁液剤、有効量の物質を溶解させた溶液を適当な分散媒中に分散させ乳化させた乳剤等である。
非経口的な投与(例えば、皮下注射、筋肉注射、局所注入、腹腔内投与など)に好適な製剤としては、水性および非水性の等張な無菌の注射液剤があり、これには抗酸化剤、緩衝液、制菌剤、等張化剤等が含まれていてもよい。また、水性および非水性の無菌の懸濁液剤が挙げられ、これには懸濁剤、可溶化剤、増粘剤、安定化剤、防腐剤等が含まれていてもよい。当該製剤は、アンプルやバイアルのように単位投与量あるいは複数回投与量ずつ容器に封入することができる。また、有効成分および医薬上許容され得る担体を凍結乾燥し、使用直前に適当な無菌のビヒクルに溶解または懸濁すればよい状態で保存することもできる。
本発明の組成物の投与量は、有効成分の活性や種類、病気の重篤度、投与対象となる動物種、投与対象の薬物受容性、体重、年齢等によって異なり一概に云えないが、通常、成人1日あたり有効成分量として約0.001〜約500mg/kgである。
本発明の組成物は、例えば、医薬または研究用試薬として有用である。例えば、本発明の組成物が医薬組成物である場合、自己免疫疾患、アレルギー疾患、免疫不全疾患等の免疫疾患の予防・治療剤として使用され得る。
詳細には、本発明の医薬組成物が、有効成分としてClast6遺伝子の発現または機能を促進する物質を含有する場合、例えば、自己免疫疾患又はアレルギー疾患として、免疫機能の亢進を伴う疾患、例えば、液性又は細胞性免疫機能の亢進を伴う疾患の予防・治療に使用され得る。液性又は細胞性免疫機能の亢進を伴う疾患(例えば、自己免疫疾患、アレルギー)は、上述の通りである(例えば、「(1.動物)」の項を参照)。
また、本発明の医薬組成物が、有効成分としてClast6遺伝子の発現または機能を抑制する物質を含有する場合、例えば、免疫不全疾患として、免疫機能の抑制を伴う疾患、例えば、液性又は細胞性免疫機能の抑制を伴う疾患の予防・治療に使用され得る。液性免疫機能の抑制を伴う疾患は、B細胞数の低下、及び/又はB細胞の不活性化により引き起こされ得る疾患であり得る。一方、細胞性免疫機能の抑制を伴う疾患は、T細胞数の低下、及び/又はB細胞の不活性化により引き起こされ得る疾患であり得る。液性免疫機能の抑制を伴う免疫不全疾患としては、例えば、抗体産生能の低下を伴う疾患(例えば、無γグロブリン症、BLNK欠損症)が挙げられる。一方、液性免疫機能の抑制を伴う免疫不全疾患としては、例えば、ディ・ジョージ症候群、クラスII MHC欠損症、T細胞減少・欠損症(例えば、特発性CD4T細胞減少症)が挙げられる。
さらに、本発明の組成物が研究用試薬である場合、例えば、実験動物における免疫疾患の誘発剤として使用され得る。詳細には、本発明の研究用試薬が、有効成分としてClast6遺伝子の発現または機能を促進する物質を含有する場合、例えば、免疫不全疾患の誘発に使用され得る。本発明の研究用試薬が、有効成分としてClast6遺伝子の発現または機能を抑制する物質を含有する場合、例えば、自己免疫疾患又はアレルギー疾患の誘発に使用され得る。
本発明の組成物はまた、免疫細胞数の調節剤として有用である。詳細には、本発明の調節剤が、有効成分としてClast6遺伝子の発現または機能を促進する物質を含有する場合、免疫細胞数の低下に使用され得る。また、本発明の調節剤が、有効成分としてClast6遺伝子の発現または機能を抑制する物質を含有する場合、免疫細胞数の増加に使用され得る。本発明の調節剤が免疫細胞数の増加を意図して使用される場合、免疫細胞に対する抗原刺激により細胞数がより増加し得る。従って、この場合、本発明の調節剤は、Clast6遺伝子の発現または機能を抑制する物質と、免疫細胞に対する抗原とを併有していてもよく、双方が一緒になった形態(例えば、同一容器に格納)、あるいは互いに隔離された形態(例えば、異なる容器に格納)で提供され得る。なお、本発明の調節剤は、インビボまたはインビトロで使用され得る。
(5.免疫機能を調節し得る物質のスクリーニング方法)
本発明はまた、被験物質がClast6遺伝子の発現または機能を調節し得るか否かを評価することを含む、免疫機能を調節し得る物質のスクリーニング方法、ならびに当該スクリーニング方法により得られる物質、および当該物質を含有してなる免疫機能調節用組成物を提供する。
スクリーニング方法に供される被験物質は、いかなる公知化合物及び新規化合物であってもよく、例えば、核酸、糖質、脂質、蛋白質、ペプチド、有機低分子化合物、コンビナトリアルケミストリー技術を用いて作製された化合物ライブラリー、固相合成やファージディスプレイ法により作製されたランダムペプチドライブラリー、あるいは微生物、動植物、海洋生物等由来の天然成分等が挙げられる。
一実施形態では、本発明のスクリーニング方法は、下記の工程(a)〜(c)を含む:
(a)被験物質とClast6遺伝子の発現を測定可能な細胞とを接触させる工程;
(b)被験物質を接触させた細胞におけるClast6遺伝子の発現量を測定し、該発現量を被験物質を接触させない対照細胞におけるClast6遺伝子の発現量と比較する工程;
(c)上記(b)の比較結果に基づいて、Clast6遺伝子の発現量を調節する被験物質を選択する工程。
上記方法の工程(a)では、被験物質がClast6遺伝子の発現を測定可能な細胞と接触条件下におかれる。Clast6遺伝子の発現を測定可能な細胞に対する被験物質の接触は、培養培地中で行われ得る。
Clast6遺伝子の発現を測定可能な細胞とは、Clast6遺伝子の産物、例えば、転写産物、翻訳産物の発現レベルを直接的又は間接的に評価可能な細胞をいう。Clast6遺伝子の産物の発現レベルを直接的に評価可能な細胞は、Clast6遺伝子を天然で発現可能な細胞であり得、一方、Clast6遺伝子の産物の発現レベルを間接的に評価可能な細胞は、Clast6遺伝子転写調節領域についてレポーターアッセイを可能とする細胞であり得る。Clast6遺伝子の発現を測定可能な細胞は、動物細胞、例えばマウス、ラット、ハムスター、モルモット、ウサギ、イヌ、サル、ヒト等の哺乳動物細胞であり得る。
Clast6遺伝子を天然で発現可能な細胞は、Clast6遺伝子を潜在的に発現するものである限り特に限定されない。かかる細胞は、当業者であれば容易に同定でき、初代培養細胞、当該初代培養細胞から誘導された細胞株、市販の細胞株、セルバンクより入手可能な細胞株などを使用できる。Clast6遺伝子が発現している細胞株としては、例えば、WEHI231、WEHI279などが挙げられる。なお、Clast6遺伝子は、上述の組織または細胞で発現していることが知られているので、このような組織または細胞(例えば、B細胞)由来の細胞または細胞株を使用してもよい。
Clast6遺伝子転写調節領域についてレポーターアッセイを可能とする細胞は、Clast6遺伝子転写調節領域、当該領域に機能可能に連結されたレポーター遺伝子を含む細胞である。Clast6遺伝子転写調節領域、レポーター遺伝子は、発現ベクター中に挿入され得る。Clast6遺伝子転写調節領域は、Clast6遺伝子の発現を制御し得る領域である限り特に限定されないが、例えば、転写開始点から上流約2kbpまでの領域、あるいは該領域の塩基配列において1以上の塩基が欠失、置換若しくは付加された塩基配列からなり、且つClast6遺伝子の転写を制御する能力を有する領域などが挙げられる。レポーター遺伝子は、検出可能な蛋白質又は検出可能な物質を生成する酵素をコードする遺伝子であればよく、例えばGFP(緑色蛍光蛋白質)遺伝子、GUS(β−グルクロニダーゼ)遺伝子、LUC(ルシフェラーゼ)遺伝子、CAT(クロラムフェニコルアセチルトランスフェラーゼ)遺伝子等が挙げられる。
Clast6遺伝子転写調節領域、当該領域に機能可能に連結されたレポーター遺伝子が導入される細胞は、Clast6遺伝子転写調節機能を評価できる限り、即ち、該レポーター遺伝子の発現量が定量的に解析可能である限り特に限定されない。しかしながら、Clast6遺伝子に対する生理的な転写調節因子を発現し、Clast6遺伝子の発現調節の評価により適切であると考えられることから、該導入される細胞としては、Clast6遺伝子を天然で発現可能な細胞が好ましい。
被験物質とClast6遺伝子の発現を測定可能な細胞とが接触される培養培地は、用いられる細胞の種類などに応じて適宜選択されるが、例えば、約5〜20%のウシ胎仔血清を含む最少必須培地(MEM)、ダルベッコ改変最少必須培地(DMEM)、RPMI1640培地、199培地などである。培養条件もまた、用いられる細胞の種類などに応じて適宜決定されるが、例えば、培地のpHは約6〜約8であり、培養温度は通常約30〜約40℃であり、培養時間は約12〜約72時間である。
上記方法の工程(b)では、先ず、被験物質を接触させた細胞におけるClast6遺伝子の発現量が測定される。発現量の測定は、用いた細胞の種類などを考慮し、自体公知の方法により行われ得る。例えば、Clast6遺伝子の発現を測定可能な細胞として、Clast6遺伝子を天然で発現可能な細胞を用いた場合、発現量は、Clast6遺伝子の産物、例えば、転写産物又は翻訳産物を対象として自体公知の方法により測定できる。例えば、転写産物の発現量は、細胞からtotal RNAを調製し、RT−PCR、ノザンブロッティング等により測定され得る。また、翻訳産物の発現量は、細胞から抽出液を調製し、免疫学的手法により測定され得る。免疫学的手法としては、放射性同位元素免疫測定法(RIA法)、ELISA法(Methods in Enzymol. 70: 419-439 (1980))、蛍光抗体法などが使用できる。一方、Clast6遺伝子の発現を測定可能な細胞として、Clast6遺伝子転写調節領域についてレポーターアッセイを可能とする細胞を用いた場合、発現量は、レポーターのシグナル強度に基づき測定され得る。
次いで、被験物質を接触させた細胞におけるClast6遺伝子の発現量が、被験物質を接触させない対照細胞におけるClast6遺伝子の発現量と比較される。発現量の比較は、好ましくは、有意差の有無に基づいて行なわれる。被験物質を接触させない対照細胞におけるClast6遺伝子の発現量は、被験物質を接触させた細胞におけるClast6遺伝子の発現量の測定に対し、事前に測定した発現量であっても、同時に測定した発現量であってもよいが、実験の精度、再現性の観点から同時に測定した発現量であることが好ましい。
上記方法の工程(c)では、Clast6遺伝子の発現量を調節する被験物質が選択される。Clast6遺伝子の発現量の調節は、発現量の増加または減少であり得る。例えば、Clast6遺伝子の発現量を増加させる(発現を促進する)被験物質は、免疫機能を抑制する作用を有し得、自己免疫疾患又はアレルギー疾患の予防・治療薬となり得る。一方、Clast6遺伝子の発現量を減少させる(発現を抑制する)被験物質は、免疫機能を促進する作用を有し得、免疫不全疾患の予防・治療薬となり得る。従って、Clast6遺伝子の発現量を指標として、免疫疾患の予防・治療剤等の医薬、または研究用試薬のための候補物質を選択することが可能となる。
別の実施形態では、本発明のスクリーニング方法は、下記の工程(a)〜(c)を含む:
(a)被験物質をClast6蛋白質に接触させる工程;
(b)被験物質のClast6蛋白質に対する結合能を測定する工程;
(c)上記(b)の結果に基づいて、Clast6蛋白質に結合能を有する被験物質を選択する工程。
上記方法の工程(a)では、被験物質がClast6蛋白質と接触条件下におかれる。被験物質の該蛋白質に対する接触は、溶液中での被験物質とClast6蛋白質との混合により行われ得る。
Clast6蛋白質は自体公知の方法により調製できる。例えば、上述したClast6遺伝子の発現組織からClast6蛋白質を単離・精製できる。しかしながら、迅速、容易かつ大量にClast6蛋白質を調製し、また、ヒトClast6蛋白質を調製するためには、遺伝子組換え技術により組換え蛋白質を調製するのが好ましい。組換え蛋白質は、細胞系、無細胞系のいずれで調製したものでもよい。
上記方法の工程(b)では、Clast6蛋白質に対する被験物質の結合能が測定される。結合能の測定は、自体公知の方法、例えば、バインディングアッセイ、表面プラズモン共鳴を利用する方法(例えば、Biacore(登録商標)の使用)により行われ得る。Clast6蛋白質に対する被験物質の結合能はまた、Clast6蛋白質に対する拮抗体(例えば、Clast6蛋白質の共役因子)の存在下で測定してもよい。この場合、例えば、Clast6蛋白質に対する拮抗体の結合量の変化を指標に、Clast6蛋白質に対する被験物質の結合能が測定され得る。
上記方法の工程(c)では、Clast6蛋白質に結合能を有する被験物質が選択される。Clast6蛋白質に結合能を有する被験物質は、Clast6遺伝子の機能を調節(例えば、促進または抑制)し得る物質となる可能性がある。従って、本方法論は、例えば、Clast6遺伝子の機能を調節し得る物質の1stスクリーニングとして有用であり得る。
本発明のスクリーニング方法はまた、被験物質の動物への投与により行われ得る。該動物としては、例えば、マウス、ラット、ハムスター、モルモット、ウサギ、イヌ、サル等の哺乳動物、又は本発明の動物が挙げられる。動物を用いて本発明のスクリーニング方法が行われる場合、例えば、Clast6遺伝子の発現量を調節する被験物質が選択され得る。
本発明のスクリーニング方法は、免疫機能を調節し得る物質のスクリーニングを可能とする。本発明のスクリーニング方法は、上述の医薬又は研究用試薬、あるいは上述した免疫細胞数の調節剤の開発などに有用である。
(6.免疫機能の調節能の変化をもたらすClast6遺伝子多型の同定方法)
本発明はまた、Clast6遺伝子の特定の多型が免疫機能の調節能の変化をもたらすか否かを解析する工程を含む、免疫機能の調節能の変化をもたらすClast6遺伝子多型の同定方法、当該方法により同定される免疫機能の調節能の変化をもたらすClast6遺伝子多型を含むタンパク質・核酸分子を提供する。
Clast6遺伝子の多型とは、ある母集団において、Clast6遺伝子を含むゲノムDNAに一定頻度で見出されるヌクレオチド配列の変異を意味し、Clast6遺伝子を含むゲノムDNAにおける1以上のDNAの置換、欠失、付加(例えば、SNP、ハプロタイプ)、並びに該ゲノムDNA中の部分領域の反復、逆位、転座などであり得る。本発明の方法により同定されるClast6遺伝子の多型のタイプは、Clast6遺伝子における全てのタイプの多型のうち、免疫疾患に罹患した動物と罹患していない動物との間で頻度が異なるヌクレオチド配列の変異であり、例えば、Clast6遺伝子の発現または機能の変化をもたらすものであり得る。なお、Clast6遺伝子多型の解析対象となる動物は上述の通り特に限定されないが、ヒトが好ましい。
解析工程は、連鎖解析等の自体公知の方法により行われ得る。免疫疾患の有無により特定の遺伝子多型の保有頻度に有意差が認められたとき、そのタイプの遺伝子多型を保有する対象は、保有しない対象よりも該疾患の発症リスクが相対的に高い又は低いと判定される。
本発明の同定方法は、哺乳動物由来の生体試料から調製されたDNAサンプルをシークエンシング (sequencing) に供し、Clast6多型の新たなタイプを決定する工程をさらに含むこともできる。生体試料は、Clast6遺伝子の発現組織又は細胞(例えば、B細胞)を含む試料(例えば、血液)のみならず、毛髪、爪、皮膚、粘膜等のゲノムDNAを含む任意の組織も使用できる。入手の容易性、人体への負担等を考慮すれば、生体試料は、毛髪、爪、皮膚、粘膜、血液、血漿、血清、唾液などが好ましい。遺伝子多型の決定は、由来が異なる生体試料に含まれるゲノム又は転写産物のヌクレオチド配列を多数解析し、決定されたヌクレオチド配列中に一定頻度で見出される変異を同定することで行われ得る。
本発明の同定方法および当該方法により決定された免疫機能の調節能の変化をもたらすClast6遺伝子多型は、免疫疾患の発症リスクの判定に有用である。
(7.免疫疾患の判定方法および診断剤)
(7.1.発現量の測定に基づく判定方法および診断剤)
本発明は、動物の生体試料を用いてClast6遺伝子の発現量を測定することを含む、動物における免疫疾患の発症または発症リスクの判定方法を提供する。
一実施形態では、本発明の判定方法は、以下の工程(a)、(b)を含む:
(a)動物から採取した生体試料においてClast6遺伝子の発現量を測定する工程;
(b)Clast6遺伝子の発現量に基づき免疫疾患の発症または発症可能性を評価する工程。
上記方法の工程(a)では、動物から採取した生体試料においてClast6遺伝子の発現量が測定される。動物は上述の通り特に限定されないが、ヒトが好ましい。生体試料は、Clast6遺伝子の発現組織又は細胞(例えば、免疫細胞)を含む試料(例えば、血液)、あるいは該試料から分離された細胞であり得る。また、Clast6遺伝子の発現量の測定は、本発明のスクリーニング方法の工程(b)と同様に行われ得る。
上記方法の工程(b)では、Clast6遺伝子の発現量に基づき、動物が免疫疾患に罹患しているか否か、あるいは将来的に罹患する可能性が高いか低いかが評価される。詳細には、先ず、測定されたClast6遺伝子の発現量が、免疫疾患に罹患していない動物(例えば、正常動物)におけるClast6遺伝子の発現量と比較される。発現量の比較は、好ましくは、有意差の有無に基づいて行われる。免疫疾患に罹患していない動物におけるClast6遺伝子の発現量は、自体公知の方法により決定できる。
次いで、Clast6遺伝子の発現量の比較結果より、動物が免疫疾患に罹患している可能性があるか否か、あるいは将来的に罹患する可能性が高いか低いかが判断される。特定の疾患を発症した動物では、当該疾患に関連する遺伝子の発現の変化がしばしば観察されることが知られている。また、特定の疾患の発症前に、特定の遺伝子の発現の変化がしばしば観察されることが知られている。実際、自己免疫疾患又はアレルギー疾患モデルであり得る本発明の動物は、Clast6遺伝子の発現が低下している。また、本明細書中に開示された知見より、Clast6遺伝子の発現が増加している場合には、免疫不全疾患に罹患している可能性、又は将来的に罹患する可能性が相対的に高いと考えられる。従って、Clast6遺伝子の発現量の解析より、免疫疾患の発症あるいは発症リスクを判定することが可能である。
本発明はまた、Clast6遺伝子の発現量の測定用試薬を含む、免疫疾患の発症または発症リスクの診断剤を提供する。
Clast6遺伝子の発現量の測定用試薬は、Clast6遺伝子の発現を定量可能である限り特に限定されないが、例えば、Clast6蛋白質に対する抗体(上述)、Clast6遺伝子転写産物に対する核酸プローブ、またはClast6遺伝子転写産物を増幅可能な複数のプライマーを含むものであり得る。これらは、標識用物質で標識されていても標識されていなくともよい。標識用物質で標識されていない場合、本発明の診断剤は、該標識用物質をさらに含むこともできる。標識用物質としては、例えば、FITC、FAM等の蛍光物質、ルミノール、ルシフェリン、ルシゲニン等の発光物質、H、14C、32P、35S、123I等の放射性同位体、ビオチン、ストレプトアビジン等の親和性物質などが挙げられる。
Clast6遺伝子転写産物に対する核酸プローブは、DNA、RNAのいずれでもよいが、安定性等を考慮するとDNAが好ましい。また、該プローブは、1本鎖又は2本鎖のいずれであってもよい。該プローブのサイズは、Clast6遺伝子の転写産物を検出可能である限り特に限定されないが、好ましくは約15〜1000bp、より好ましくは約50〜500bpである。該プローブは、マイクロアレイのように基板上に固定された形態で提供されてもよい。
Clast6遺伝子を増幅可能な複数のプライマー(例えば、プライマー対)は、検出可能なサイズのヌクレオチド断片が増幅されるように選択される。検出可能なサイズのヌクレオチド断片は、例えば約100bp以上、好ましくは約200bp以上、より好ましくは約400bp以上の長さを有し得る。プライマーのサイズは、Clast6遺伝子を増幅可能な限り特に限定されないが、好ましくは約15〜100bp、より好ましくは約18〜50bp、さらにより好ましくは約20〜30bpであり得る。Clast6遺伝子転写産物を定量可能な手段がプライマーである場合、本発明の診断剤は、逆転写酵素をさらに含むことができる。
本発明の上記判定方法及び診断剤は、免疫疾患の有無、あるいは該疾患に罹患する可能性の判定を可能とする。従って、本発明は、例えば、免疫疾患の容易且つ早期の発見などに有用である。
(7.2.多型の測定に基づく判定方法および診断剤)
本発明は、動物の生体試料を用いてClast6遺伝子の多型を測定することを含む、動物における免疫疾患の発症リスクの判定方法を提供する。
一実施形態では、本発明の判定方法は、以下の工程(a)、(b)を含む:
(a)動物から採取した生体試料においてClast6遺伝子の多型を測定する工程;
(b)多型のタイプに基づき免疫疾患の発症可能性を評価する工程。
上記方法の工程(a)では、動物から採取された生体試料においてClast6遺伝子の多型のタイプが測定される。動物は上述の通りである。生体試料は、本発明の同定方法で上述したものと同様であり得る。
多型のタイプの測定は、自体公知の方法により行われ得る。例えば、RFLP(制限酵素切断断片長多型)法、PCR−SSCP(一本鎖DNA高次構造多型解析)法、ASO(Allele Specific Oligonucleotide)ハイブリダイゼーション法、ダイレクトシークエンス法、ARMS(Amplification Refracting Mutation System)法、変性濃度勾配ゲル電気泳動(Denaturing Gradient Gel Electrophoresis)法、RNaseA切断法、DOL(Dye-labeled Oligonucleotide Ligation)法、TaqMan PCR法、インベーダー法などが使用できる。
上記方法の工程(b)では、多型のタイプに基づき、動物が免疫疾患に罹患する可能性が高いか低いかが評価される。特定の疾患を発症しやすい動物では、当該疾患に関連する遺伝子に特定のタイプの多型をしばしば有することが知られている。実際、自己免疫疾患又はアレルギー疾患モデルであり得る本発明の動物は、Clast6遺伝子の発現が低下している。従って、Clast6遺伝子の機能を低下させるような多型を含む動物は、自己免疫疾患又はアレルギー疾患を発症する可能性が相対的に高いと考えられる。同様に、Clast6遺伝子の機能を増強させるような多型を含む動物は、免疫不全疾患を発症する可能性が相対的に高いと考えられる。従って、多型の解析より、免疫疾患の発症可能性を判断することが可能である。なお、本工程で測定対象となる多型のタイプは、例えば、本発明の同定方法により得られたものであり得る。
本発明はまた、Clast6遺伝子の多型の測定用試薬を含む、免疫疾患の発症リスクの診断剤を提供する。
Clast6遺伝子の多型の測定用試薬は、Clast6遺伝子の多型を決定可能である限り特に限定されない。該手段は、標識用物質で標識されていてもよい。また、該手段が標識用物質で標識されていない場合、本キットは、該標識用物質をさらに含むこともできる。
詳細には、Clast6遺伝子の多型の測定用試薬は、特定のタイプの多型を有するClast6遺伝子を特異的に測定可能である核酸プローブ、あるいは特定のタイプの多型を有するClast6遺伝子を特異的に増幅可能である複数のプライマーを含むものであり得る。核酸プローブ、プライマーは、Clast6遺伝子を含むゲノムDNAまたはClast6遺伝子転写産物に対するものであり得る。核酸プローブ、プライマーは、転写産物またはゲノムDNAの抽出用試薬とともに提供されてもよい。
特定のタイプの多型を有するClast6遺伝子を特異的に測定可能である核酸プローブは、特定のタイプの多型を有するClast6遺伝子を選別可能である限り特に限定されない。該プローブはDNA、RNAのいずれでもよいが、安定性等を考慮するとDNAが好ましい。また、該プローブは、1本鎖又は2本鎖のいずれであってもよい。該プローブのサイズは、特定のタイプの多型を有するClast6遺伝子を選別可能とするため短ければ短いほどよく、例えば、約15〜30bpのサイズであり得る。該プローブは、マイクロアレイのように基板上に固定された形態で提供されてもよい。該プローブにより、例えばASO(Allele Specific Oligonucleotide)ハイブリダイゼーション法が可能となる。
特定のタイプの多型を有するClast6遺伝子を特異的に増幅可能である複数のプライマー(例えば、プライマー対)は、測定可能なサイズのヌクレオチド断片が増幅されるように選択される。このような複数のプライマーは、例えば、いずれか一方のプライマーの3’末端に多型部位を含むように設計される。測定可能なサイズのヌクレオチド断片は、例えば約100bp以上、好ましくは約200bp以上、より好ましくは約400bp以上の長さを有し得る。プライマーのサイズは、Clast6遺伝子を増幅可能な限り特に限定されないが、好ましくは約15〜100bp、より好ましくは約18〜50bp、さらにより好ましくは約20〜30bpであり得る。Clast6遺伝子の多型を測定し得る手段がClast6遺伝子転写産物に対するプライマー対である場合、判定キットは、逆転写酵素をさらに含むことができる。
また、Clast6遺伝子の多型の測定用試薬として、特定のタイプの多型部位を認識する制限酵素を含むものを挙げることもできる。このような試薬によれば、RFLPによる多型解析が可能となる。
本発明の上記判定方法及び診断剤は、免疫疾患の発症リスクの判定を可能とする。従って、本発明の判定方法及び診断剤は、免疫疾患の予防を目的とする生活習慣改善の契機などを提供するため有用である。
本明細書中で挙げられた特許および特許出願明細書を含む全ての刊行物に記載された内容は、本明細書での引用により、その全てが明示されたと同程度に本明細書に組み込まれるものである。
以下に実施例を挙げ、本発明を更に詳しく説明するが、本発明は下記実施例等に何ら制約されるものではない。
実施例1:Clast6欠損マウスの作出
1.1.ターゲティングベクターの構築
ターゲティングベクターはClast6遺伝子のエクソン2の途中からエクソン5までの領域をネオマイシン耐性遺伝子に置き換わるように構築した。先ず、Genbankアクセッション番号:AF364050に記載のマウスClast6遺伝子の塩基配列を基に、約1.1kb塩基長のプローブを作製し、129SVJ由来のマウスゲノムライブラリー(λFIXII)から、Clast6遺伝子の一部を含むファージDNAクローンを単離した。次いで、ファージDNAクローンをpBluescriptにサブクローニングし、大量培養によりゲノムDNAを調整した。Clast6ゲノムDNAをSphIとSacIIで切断し、5’側の相同領域(3.9kb)とした。同様に、HindIIIとEcoRIで切断することでの3’側の相同領域(2.3kb)を得た。pBluescript SKに5’側の相同領域、ネオマイシン耐性遺伝子、3’側の相同領域の順に導入することで最終的にターゲティングベクターを作製した。
1.2.Clast6欠失ES細胞の作製
作製したターゲティングベクターをPvuIで切断して直鎖状のDNA(1mg/ml)とした。直鎖ターゲッテイングベクター(30μg/30μl)を、エレクトロポレーション(260V、500μF、室温)によりマウスES細胞(5x10cells/400μl)にトランスフェクトし、培養2日後よりG418(400μg/ml)を含んだ培地で7日間培養した。生じたES細胞コロニーの一部からDNAを抽出し、相同組み換えのみが生じたクローンをPCRにより同定した。また、ターゲッテイングベクターに含まれない5’側部分のゲノムDNAをプローブとして、サザンブロット解析を行ったところ、野生型の5.4kbに対して、相同組換えでは6.7kbのDNA断片を検出することができた。以上より、Clast6欠失ES細胞が得られたことが確認された。
1.3.Clast6欠失ES細胞からのClast6欠損マウスの作製
雌マウスに、妊馬血清性生殖腺刺激ホルモン(pregnant mare's serum gonadotropin, PMSG:セロトロピン: 帝国臓器, 東京)5国際単位とヒト絨毛性生殖腺刺激ホルモン(human chorionic gonadotropin, hCG:ゴナトロピン:帝国臓器,東京)2.5国際単位をそれぞれ腹腔内投与して、受精2.5日目に卵管―子宮還流法により8細胞期胚を得た。培養皿に小さな窪みを作製し、得られた8細胞期胚とES細胞の塊(8−20個の細胞を含む)を窪みの中で27時間混合培養した。精管結紮雄マウスと正常雌マウスと交配させて偽妊娠マウスを作成し、混合培養後の細胞を偽妊娠マウスの採卵管に移植した。偽妊娠マウスを50mg/kg体重のペントバルビタールナトリウム(Nembutal:Abbott Laboratories)にて全身麻酔を行い、両けん部を約1cm切開して卵巣および卵管を露出し、実体顕微鏡下で卵巣嚢をピンセットで切開し卵管采を露出させ、次いで卵管あたり約20個の操作卵を卵管采に送り込んだ。その後、卵管および卵巣を腹腔に戻し両切開部を縫合した。操作卵を移植し妊娠したマウスより、体毛色がアグーチの100%キメラマウスを出産させた。得られた100%キメラマウスをC57BL/6と交配することによってヘテロマウスを得て、ヘテロマウス同士の交配によってClast6 KOマウスを得た。
次いで、得られたマウスの遺伝子型を、PCRによって生じるDNA断片のサイズにより確認した。先ず、マウスの尾を5mm程度切り、プロテイナーゼK(0.25mg/ml)によって消化(55℃、一晩)した。ゲノムDNAを常法に従って抽出し、蒸留水100−200μlにて溶解してPCRテンプレートとした。Neo遺伝子に含まれる配列(Neo/s:5’−TCGCCTTCTATCGCCTTCTT−3’:配列番号2、およびNeo/as:5’−ATAGCCGAATAGCCTCTCCA−3’:配列番号3)と、Clast6遺伝子の2つの部位(s2:5’−TTCTCAGGACCCCATACTTC−3’:配列番号4、および(as2:5’−CCTTGAGGAACATCTTGGAG−3’:配列番号5)に対するプライマーを設計し、PCRを行った。変異を生じた遺伝子はそれぞれ4.6kbおよび3.3kbのPCR産物を生じる。実際、予測した通りのPCR産物が生じ、Clast6 KOマウスが得られたことを確認した。
実施例2:Clast6欠損マウスからのClast6欠損脾臓B細胞の精製
B細胞の精製は、市販のB細胞濃縮キット(ベクトンディッキンソン社製、カタログ番号:557792)を使用して行った。先ず、Clast6欠損マウス脾臓から脾細胞を採取し、B細胞以外の細胞を認識するビオチン化抗体(抗CD4抗体、抗CD43抗体および抗TER119抗体)と反応させた。ビオチン化抗体が結合した細胞を、アビジン磁気ビーズを用いて除去し、次いで、試験管中に残存する抗体未結合細胞を回収することにより、Clast6欠損脾臓B細胞を精製した。Clast6欠損脾臓B細胞の精製度は95%以上であった。
参考例1:Clast6欠損マウスでは、骨髄および脾臓の総細胞数およびB細胞数が増加する
12〜20週齢のClast6欠損マウスの骨髄、脾臓から細胞を回収した。回収した細胞の懸濁液を、適宜希釈し、血球計算版を使用して骨髄、脾臓中の総細胞数、B細胞(B220陽性)数を算出した。算出は、8匹の各マウスについてそれぞれ行った。
その結果、解析した全てのClast6欠損マウスの骨髄、脾臓では、総細胞数、B細胞数のいずれもが増加していた(図2)。骨髄、脾臓中の総細胞数(及びB細胞数)は、免疫細胞の分化・増殖の異常の有無を表す一つの指標となる。例えば、免疫細胞数が増加すれば、通常、免疫細胞の増殖能の亢進あるいは異常な分化促進が示される。
以上より、Clast6欠損動物は、免疫細胞の増殖能の亢進あるいは異常な分化促進を原因とする免疫疾患のモデル動物となることが示唆された。
参考例2:Clast6欠損脾臓B細胞は、抗原刺激に対する増殖応答性が亢進する
B細胞の性質を計る重要な指標として、抗原に対する増殖応答性が挙げられる。通常、抗原、又は抗原を模倣(mimic)する刺激(例えば、抗IgM抗体による刺激)に対する応答性が亢進すれば、B細胞が活性化され易い状態にあることを意味する。逆に、抗原刺激に対する応答性が低下すれば、活性化され難い状態にあることを意味する。そこで、参考例1の結果を踏まえ、Clast6欠損マウスの免疫細胞としてB細胞を取り上げ、抗原刺激に対する増殖応答性をより詳細に検討した。
先ず、実施例2記載の方法に従い、Clast6欠損マウスから脾臓B細胞を精製した。次いで、精製細胞を、抗IgM抗体(Fab)(2μg/ml、及び0−30μg/mlの各用量)の存在下で48時間培養した。培養の終了6時間前に[H]標識チミジンを培養液に加え、培養細胞に取り込まれた[H]カウント数に基づき、Clast6欠損B細胞の増殖応答性を評価した。なお、抗IgM抗体のコントロールとしては、CD40L(B細胞増殖誘導能を有する因子:2μg/ml)、CD40L(2μg/ml)+抗CD8抗体(抗CD8抗体はCD40L刺激を増強する:2μg/ml)、LPS(2μg/ml)を用いた。また、野生型マウスから精製した正常(normal)B細胞を同様の処理に付し、Clast6欠損B細胞及び正常B細胞の増殖応答性を比較した。
その結果、Clast6欠損B細胞は、正常B細胞に比し、抗IgM抗体に対する増殖応答性が特異的に亢進していた(図3(A)、(B))。このことは、Clast6欠損マウスが、外来抗原に強く反応し、過剰な免疫応答を原因とする疾患(例えば、自己免疫疾患又はアレルギー疾患)を引き起こし得ることを示す。
以上より、Clast6欠損動物は、過剰な免疫応答を原因とする疾患の動物モデルとなることが示された。
参考例3:Clast6欠損脾臓B細胞は、無刺激下および抗原刺激後での生存率が上昇する
参考例2で確認された、抗原刺激に対するClast6欠損B細胞の増殖応答性の亢進の一因は、細胞の生存率上昇に起因する可能性が考えられた。そこで、無刺激下および抗原刺激後のClast6欠損B細胞について、細胞の生存率が上昇するか否かを検討した。
先ず、参考例2と同様に、Clast6欠損B細胞を、無刺激及び抗IgM抗体(2μg/ml)、CD40L(2μg/ml)、LPS(2μg/ml)下で48時間培養した。培養後、細胞をヨウ化プロビジウムで染色し、染色された細胞(即ち、死細胞)の割合をFACSで解析した。
その結果、Clast6欠損B細胞では、正常B細胞に比し、無刺激下および抗原刺激後の死細胞の割合が低かった(図4)。一方、CD40LやLPS刺激(コントロール)では、Clast6欠損B細胞、正常B細胞の細胞生存率に差異は認められなかった。(図4)。
以上より、Clast6欠損B細胞は無刺激および抗原刺激後での生存率が特異的に上昇することが示された。
参考例4:Clast6欠損B脾臓細胞は、無刺激下および抗原刺激後でのアポトーシスが抑制される
参考例2で確認された、抗原刺激に対するClast6欠損B細胞の増殖応答性の亢進はまた、生存率の上昇以外にも、細胞周期の進行促進に起因する可能性が考えられた。そこで、Clast6欠損B細胞について、細胞周期の進行状態を検討した。
先ず、参考例2と同様に、Clast6欠損B細胞を、無刺激下、並びに抗IgM抗体(2μg/ml、10μg/ml)、CD40L(2μg/ml)、LPS(2μg/ml)刺激下で48時間培養した。培養細胞を、界面活性剤で処理後、RNaseでRNAを分解した。次いで、細胞内DNAをヨウ化プロビジウムで染色することにより、細胞内DNA含量を測定した。通常、静止期の細胞のDNA量は2Nであり、分裂期になるとDNA含量が4N(2倍)に増える。また、アポトーシスに陥っている細胞のDNA含量は2N以下に減少するので、本アッセイにより、細胞周期の状態ならびにアポトーシス細胞の割合を解析できる。野生型マウスから精製した正常B細胞についても同様の処理に付し、Clast6欠損B細胞及び正常B細胞の増殖応答性を比較した。
その結果、抗IgM抗体刺激したClast6欠損B細胞では、正常B細胞に比し、分裂期(SおよびG2/M)の細胞が増加し、さらにアポトーシス細胞(subG1)の割合が減少していた(図5)。なお、この現象は、CD40LやLPS刺激では観察されなかった(図5)。
以上より、Clast6欠損B細胞は、無刺激下および抗原刺激に対してその生存や増殖応答性が特異的に亢進していることが示された。
本発明の動物及び細胞は、自己免疫疾患又はアレルギー疾患等の免疫疾患のモデル動物および細胞として利用でき、また、Clast6遺伝子および免疫機能調節機構の解析などを可能とする。本発明のターゲティングベクターは、本発明の動物および動物細胞の作製などを可能とする。本発明の組成物は、自己免疫疾患、アレルギー疾患、免疫不全疾患等の免疫疾患に対する医薬および研究用試薬などとして使用できる。本発明のスクリーニング方法は、免疫疾患に対する医薬および研究用試薬の開発などを可能とする。本発明の判定方法および診断剤は、免疫疾患の発症または発症リスクの評価などを可能とする。
ターゲティングベクター構築のストラテジーを示す図である。略号はそれぞれ以下の通りである:TK:チミジンキナーゼNeo:ネオマイシンNeo/s:配列番号2で示されるヌクレオチド配列からなるプライマーNeo/as:配列番号3で示されるヌクレオチド配列からなるプライマーs2:配列番号4で示されるヌクレオチド配列からなるプライマーas2:配列番号5で示されるヌクレオチド配列からなるプライマー Clast6欠損マウスの骨髄および脾臓における総細胞数およびB220細胞数を示す図である。測定は8回の独立した試行にて行い、平均を算出した。各試行の結果を8種の記号でそれぞれ示し、平均を水平線で示す。 抗原刺激に対するClast6欠損脾臓B細胞の応答性を示す図である。(A)は、抗IgM抗体、並びにCD40L(±抗CD8抗体)、LPSに対するClast6欠損脾臓B細胞の増殖応答性を示す図である。(B)は、抗IgM抗体刺激に対するClast6欠損脾臓B細胞の用量応答性を示す図である。 無刺激下(−)、並びに抗IgM抗体、CD40LおよびLPS刺激後におけるClast6欠損脾臓B細胞の細胞死の程度を示す図である。 細胞周期の各フェーズにおける、無刺激下(−)、並びに抗IgM抗体、CD40L、およびLPS刺激後のClast6欠損脾臓B細胞の割合を示す図である。

Claims (48)

  1. Clast6遺伝子の機能的欠損を含む非ヒト動物。
  2. トランスジェニック動物である、請求項1記載の動物。
  3. 免疫細胞数が増加している、請求項1記載の動物。
  4. 免疫細胞がリンパ球系細胞である、請求項3記載の動物。
  5. リンパ球系細胞がB細胞である、請求項4記載の動物。
  6. 免疫機能の亢進を伴う疾患のモデル動物である、請求項1記載の動物。
  7. 免疫機能の亢進を伴う疾患が自己免疫疾患またはアレルギー疾患である、請求項6記載の動物。
  8. 下記の工程(a)〜(c)を含む、Clast6遺伝子の機能的欠損を含む非ヒトキメラ動物の製造方法:
    (a)Clast6遺伝子の機能的欠損を含む胚性幹細胞を提供する工程;
    (b)該胚性幹細胞を胚に導入し、キメラ胚を得る工程;
    (c)該キメラ胚を動物に移植し、キメラ動物を得る工程。
  9. 下記の工程(a)〜(d)を含む、Clast6遺伝子の機能的欠損を含む非ヒトトランスジェニック動物の製造方法:
    (a)Clast6遺伝子の機能的欠損を含む胚性幹細胞を提供する工程;
    (b)該胚性幹細胞を胚に導入し、キメラ胚を得る工程;
    (c)該キメラ胚を動物に移植し、キメラ動物を得る工程;
    (d)該キメラ動物を交配させ、Clast6遺伝子欠損ヘテロ接合体を得る工程。
  10. Clast6遺伝子欠損ヘテロ接合体を交配させ、Clast6遺伝子欠損ホモ接合体を得る工程をさらに含む、請求項9記載の方法。
  11. Clast6遺伝子の機能的欠損を含む動物細胞。
  12. トランスジェニック細胞である、請求項11記載の動物細胞。
  13. Clast6遺伝子の機能的欠損を含む非ヒトトランスジェニック動物に由来する細胞である、請求項12記載の動物細胞。
  14. 胚性幹細胞である、請求項11記載の動物細胞。
  15. 免疫細胞である、請求項11記載の動物細胞。
  16. 免疫細胞がリンパ球系細胞である、請求項15記載の動物細胞。
  17. リンパ球細胞がB細胞である、請求項16記載の動物細胞。
  18. 下記の工程(a)〜(c)を含む、Clast6遺伝子の機能的欠損を含む動物細胞の製造方法:
    (a)Clast6遺伝子の相同組換えを誘導し得るターゲティングベクターを提供する工程;
    (b)該ターゲティングベクターを動物細胞に導入する工程;
    (c)該ターゲティングベクターを導入した動物細胞から、相同組換えを生じた細胞を選別する工程。
  19. Clast6遺伝子の機能的欠損を含む非ヒトトランスジェニック動物から細胞を単離する工程を含む、Clast6遺伝子の機能的欠損を含む動物細胞の製造方法。
  20. Clast6遺伝子に相同な第一のポリヌクレオチド及び第二のポリヌクレオチド、並びに選択マーカーを含む、Clast6遺伝子の相同組換えを誘導し得るターゲティングベクター。
  21. Clast6遺伝子に相同な第一のポリヌクレオチド及び第二のポリヌクレオチド、並びに選択マーカーをベクターに挿入することを含む、Clast6遺伝子の相同組換えを誘導し得るターゲティングベクターの製造方法。
  22. Clast6遺伝子の発現または機能を調節する物質を含有してなる、免疫機能調節用組成物。
  23. 免疫細胞数の調節剤である、請求項20記載の組成物。
  24. 免疫細胞がリンパ球系細胞である、請求項23記載の組成物。
  25. リンパ球系細胞がB細胞である、請求項24記載の組成物。
  26. Clast6遺伝子の発現または機能を促進する物質を含有してなる、請求項22記載の組成物。
  27. Clast6遺伝子の発現または機能を促進する物質が、Clast6蛋白質、またはClast6蛋白質をコードする核酸を含む発現ベクターである、請求項26記載の組成物。
  28. Clast6遺伝子の発現または機能を抑制する物質を含有してなる、請求項22記載の組成物。
  29. Clast6遺伝子の発現または機能を抑制する物質が、以下(i)、(ii)のいずれかである、請求項28記載の組成物:
    (i)アンチセンス核酸、リボザイム又はRNAi誘導性核酸分子、あるいはこれらを含む発現ベクター;
    (ii)抗体又はドミナントネガティブ変異体、あるいはこれらをコードする核酸を含む発現ベクター。
  30. 医薬である、請求項22記載の組成物。
  31. 免疫機能の亢進を伴う疾患の予防・治療剤である、請求項30記載の組成物
  32. 免疫機能の亢進を伴う疾患が自己免疫疾患またはアレルギー疾患である、請求項31記載の組成物。
  33. 被験物質がClast6遺伝子の発現または機能を調節し得るか否かを評価することを含む、免疫機能を調節し得る物質のスクリーニング方法。
  34. 免疫機能を調節し得る物質が免疫細胞数を調節し得る物質である、請求項33記載の方法。
  35. 免疫細胞がリンパ球系細胞である、請求項34記載の方法。
  36. リンパ球系細胞がB細胞である、請求項35記載の方法。
  37. 被験物質がClast6遺伝子の発現または機能を促進し得るか否かを評価することを含む、請求項33記載の方法。
  38. 被験物質がClast6遺伝子の発現または機能を抑制し得るか否かを評価することを含む、請求項33記載の方法。
  39. 下記の工程(a)〜(c)を含む、請求項33記載の方法:
    (a)被験物質とClast6遺伝子の発現を測定可能な細胞とを接触させる工程;
    (b)被験物質を接触させた細胞におけるClast6遺伝子の発現量を測定し、該発現量を被験物質を接触させない対照細胞におけるClast6遺伝子の発現量と比較する工程;
    (c)上記(b)の比較結果に基づいて、Clast6遺伝子の発現量を調節する被験物質を選択する工程。
  40. 下記の工程(a)〜(c)を含む、請求項33記載の方法:
    (a)被験物質をClast6蛋白質に接触させる工程;
    (b)被験物質のClast6蛋白質に対する結合能を測定する工程;
    (c)上記(b)の結果に基づいて、Clast6蛋白質に結合能を有する被験物質を選択する工程。
  41. 医薬のスクリーニング方法である、請求項33記載の方法。
  42. 免疫機能の亢進を伴う疾患の予防・治療剤のスクリーニング方法である、請求項41記載の方法。
  43. 免疫機能の亢進を伴う疾患が自己免疫疾患またはアレルギー疾患である、請求項42記載の方法。
  44. Clast6遺伝子の特定の多型が免疫機能の調節能の変化をもたらすか否かを解析する工程を含む、免疫機能の調節能の変化をもたらすClast6遺伝子多型の同定方法。
  45. 動物の生体試料を用いてClast6遺伝子の発現量を測定することを含む、動物における免疫疾患の発症または発症リスクの判定方法。
  46. Clast6遺伝子の発現量の測定用試薬を含む、免疫疾患の発症または発症リスクの診断剤。
  47. 動物の生体試料を用いてClast6遺伝子の多型を測定することを含む、動物における免疫疾患の発症リスクの判定方法。
  48. Clast6遺伝子の多型の測定用試薬を含む、免疫疾患の発症リスクの診断剤。
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