JP2006131564A - 心不全の治療・予防薬 - Google Patents

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Abstract

【課題】慢性心不全に有効な治療及び予防薬を提供すること。
【解決手段】抗高血糖薬を有効成分とする心不全の治療及び/又は予防薬。抗高血糖薬は、ボグリボース及びアカルボースのようなα−グルコシダーゼ阻害薬である。
【選択図】なし

Description

本発明は、心不全の治療・予防薬に関する。さらに詳細には、本発明は、抗高血糖薬、例えば、α−グルコシダーゼ阻害薬を用いた慢性心不全の治療・予防薬に関する。
慢性心不全(CHF)患者のための現在の治療には、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬、β−アドレナリン受容体遮断薬、および利尿薬が使われている。しかし、積極的な医療にもかかわらず、CHFは世界的に罹患および死亡の主要な原因のままである。
CHFの原因は2つの因子、すなわち、虚血性発作と非虚血性発作とに分けられる。虚血性心不全は冠状動脈疾患によって引き起こされる。非虚血性心不全は心臓弁疾患、先天性心疾患、心筋炎または心筋疾患によって引き起こされる。グルコース異常は冠状動脈疾患の主要なリスク因子の1つである。高いグルコース濃度またはインシュリン耐性は内皮機能異常を生じ、あるいはアテローム性動脈硬化およびプラーク破壊を誘発する可能性がある。さらに、それらは虚血性CHFの発生率を上昇させる可能性があり、CHFの病態生理を悪化させる。実際に、テネンバウムら(Tenenbaum et al.)は、進行した心不全は冠状動脈疾患患者の中で糖尿病を発症する有意に高いリスクを伴うことを報告した(非特許文献1)。しかし、非虚血性心不全に関連する、CHF患者の心筋におけるグルコース異常の役割は解明されていない。
興味深いことに、虚血性または非虚血性CHFにかかわらず、CHFは心機能の低下、炎症、および神経ホルモン不均衡によって特徴づけられる。実際、カテコールアミン、サイトカイン、およびレニン−アンジオテンシンの濃度上昇はCHFの病態生理および発症に重要な役割を果たすと考えられている。一方、非虚血性CHFの患者においてさえ、カテコールアミンまたはアンジオテンシンIIのどちらかが耐糖能異常に寄与する。この場合、一過性の高グルコース曝露でさえ酸化ストレスの発生と心筋アポトーシスの媒介を経由して細胞傷害を引き起こす。そのため、心機能障害によって引き起こされるグルコース異常は、悪循環としてCHFの重症度を高める。糖尿病(DM)は心臓血管疾患、特に心不全の発症の既知のリスク因子であり、近年の報告はCHFの重症度とグルコース代謝の異常との間の相互関係の可能性を支持する(非特許文献2、3)。
Tenenbaum A, Motro M, Fisman EZ, et al. Functional class in patients with heart failure is associated with the development of diabetes. Am J Med 2003;114:271-275 Amato L, Paolisso G, Cacciatore F, et al. The Osservatorio Geriatrico Regione Campania Group.Congestive heart failure predicts the development of non-insulin-dependent diabetes mellitus in the elderly. Diabetes Metab. 1997;23:213-218. Norhammar A, Malmberg K. Heart failure and glucose abnormalities: an increasing combination with poor functional capacity and outcome. Eur Heart J. 2000;21:1293-1294.
しかるに、虚血性心不全及び非虚血性心不全に対する増悪因子について十分解明されておらず、虚血性心不全及び非虚血性心不全を含む慢性心不全に対する有効な治療及び予防薬は、依然として不足している。
そこで本発明は、慢性心不全に有効な治療及び予防薬を提供することを目的とする。
上記目的を達成するために、本発明者らは、1)DM、耐糖能障害(IGT)、または空腹時血糖異常(IFG)と定義されるグルコース異常が非虚血性CHF患者と高頻度に結びついていること、2)グルコース異常およびCHFの重症度は互いに関連していることを見いだした。さらに、本発明者らは、これらの知見を基礎に、α−グルコシダーゼ阻害薬(αGI)を用いたグルコース異常の補正がCHFを改善することを見いだし、グルコース異常の改善作用を有する、α−グルコシダーゼ阻害薬のような抗高血糖薬が、CHFの新しい治療及び予防薬となることを見いだして、本発明を完成させた。
上記課題を解決する本発明は、以下の通である。
(請求項1)抗高血糖薬を有効成分とする心不全の治療及び/又は予防薬。
(請求項2)心不全が虚血性心不全または非虚血性心不全である請求項1に記載の治療及び/又は予防薬。
(請求項3)抗高血糖薬がα−グルコシダーゼ阻害薬である請求項1または2に記載の治療及び/又は予防薬。
(請求項4)α−グルコシダーゼ阻害薬がボグリボースである請求項3に記載の治療及び/又は予防薬。
(請求項5)α−グルコシダーゼ阻害薬がアカルボースである請求項3に記載の治療及び/又は予防薬。
本発明によれば、慢性心不全の治療及び予防薬を提供することができる。
本発明は、抗高血糖薬を有効成分とする心不全の治療及び/又は予防薬に関する。本発明において、心不全は例えば、虚血性心不全及び非虚血性心不全であることができ、本発明の治療及び/又は予防薬は、慢性心不全に有効である。
本発明において、抗高血糖薬は、例えば、α−グルコシダーゼ阻害薬であることができる。α−グルコシダーゼ阻害薬とは、二糖類から単糖類への分解を担う二糖類水解酵素(α−グルコシダーゼ)を阻害する酵素であり、例えば、
食後の過血糖を改善する、食後過血糖改善剤として利用されている。
α−グルコシダーゼ阻害薬としては、具体的には、ボグリボース及びアカルボースを挙げることができる。ボグリボースは、武田薬品工業株式会社からベイスンとして、糖尿病食後過血糖改善剤として市販される。ベイスンは、腸管において二糖類から単糖類への分解を担う二糖類水解酵素(α−グルコシダーゼ)を阻害し、糖類の消化吸収を遅延させることにより、食後の過血糖を改善する(特公平2-38580号公報)。ボグリボースの化学名は、N−(1,3−ジヒドロキシ−2−プロピル)バリオールアミンである。
アカルボースは、バイエル薬品株式会社からグルコバイとして、食後過血糖改善剤として市販されている。グルコバイも、糖尿病の食後の過血糖を改善する。アカルボース は、放線菌の一種Actinoplanes属のアミノ糖産生菌の培養液から分離・精製される物質であり、ヒトの腸管内で炭水化物の消化・吸収に関与するα−アミラーゼ及びα−グルコシダーゼ(スクラーゼ、マルターゼ等)の活性を阻害し、糖質の消化吸収を遅延させて食後の血糖上昇を抑制する作用を有しており、経口糖尿病治療薬として広く使用されている(特公昭54-39474号公報、特公昭56-14272号公報、特公昭57-34996号公報、特公平7-39340号公報、特公平7-45537号公報、特許第2,502,551号明細書等参照)。
アカルボース は、O−4,6−ジデオキシ−4−[[(1S,4R,5S,6S)−4,5,6−トリヒドロキシ−3−(ヒドロキシメチル)−2−シクロヘキセン−1−イル]アミノ]−α−D−グルコピラノシル−(1→4)−O−α−D−グルコピラノシル−(1→4)−D−グルコピラノースに対する一般名である。
本発明の治療及び/又は予防薬は、上記α−グルコシダーゼ阻害薬等の抗高血糖薬を有効成分(活性成分)とするものである。有効成分(活性成分)は、必要により、薬理学的に許容される担体と自体公知の手段[製剤技術分野において慣用の手段、例えば日本薬局方(例えば第13改正)に記載の手段等]にしたがって混合することによって製剤化されていてもよい。本発明の治療及び/又は予防薬の剤形としては、例えば錠剤、カプセル剤(ソフトカプセル、マイクロカプセルを含む)、散剤、顆粒剤、シロップ剤等の経口剤;および注射剤(例、皮下注射剤、静脈内注射剤、筋肉内注射剤、腹腔内注射剤等)、外用剤(例、経鼻投与製剤、経皮製剤、軟膏剤等)、坐剤(例、直腸坐剤、膣坐剤等)、ペレット、点滴剤、徐放性製剤(例、徐放性マイクロカプセル等)等の非経口剤が挙げられる。
以下に、経口剤および非経口剤の製造法について具体的に説明する。経口剤は、活性成分に、例えば賦形剤(例、乳糖、白糖、デンプン、D−マンニトール、キシリトール、ソルビトール、エリスリトール、結晶セルロース、軽質無水ケイ酸など)、崩壊剤(例、炭酸カルシウム、デンプン、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウム、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、クロスカルメロースナトリウム、カルボキシメチルスターチナトリウム、軽質無水ケイ酸など)、結合剤(例、α化デンプン、アラビアゴム、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、結晶セルロース、メチルセルロース、白糖、D−マンニトール、トレハロース、デキストリンなど)または滑沢剤(例、タルク、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、コロイドシリカ、ポリエチレングリコール6000など)などを添加して圧縮成形することにより製造される。また、経口剤には、活性成分の溶解促進を目的として、塩酸、リン酸、マロン酸、コハク酸、DL−リンゴ酸、酒石酸、マレイン酸、フマル酸、クエン酸等の酸類または炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、クエン酸ナトリウム、酒石酸ナトリウム等の塩基を添加してもよい。
さらに、味のマスキング、腸溶化あるいは徐放化を目的として、自体公知の方法により、経口剤にコーティングを行ってもよい。コーティング剤としては、例えば腸溶性ポリマー(例、酢酸フタル酸セルロース、メタアクリル酸コポリマーL、メタアクリル酸コポリマーLD、メタアクリル酸コポリマーS、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート、カルボキシメチルエチルセルロース等)、胃溶性ポリマー(例、ポリビニルアセタールジエチルアミノアセテート、アミノアルキルメタアクリレートコポリマーE等)、水溶性ポリマー(例、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等)、水不溶性ポリマー(例、エチルセルロース、アミノアルキルメタアクリレートコポリマーRS、アクリル酸エチル・メタアクリル酸メチル共重合体等)、ワックスなどが用いられる。コーティングを行う場合、上記コーティング剤とともに、ポリエチレングリコール等の可塑剤、酸化チタン、三二酸化鉄等の遮光剤を用いてもよい。
注射剤は、活性成分を分散剤(例、ツイーン(Tween)80(アトラスパウダー社製、米国)、HCO 60(日光ケミカルズ製)、ポリエチレングリコール、カルボキシメチルセルロース、アルギン酸ナトリウムなど)、保存剤(例、メチルパラベン、プロピルパラベン、ベンジルアルコール、クロロブタノール、フェノール等)、等張化剤(例、塩化ナトリウム、グリセリン、D−ソルビトール、D−マンニトール、キシリトール、ブドウ糖、果糖等)などと共に、水性溶剤(例、蒸留水、生理的食塩水、リンゲル液等)あるいは油性溶剤(例、オリーブ油、ゴマ油、綿実油、コーン油などの植物油;プロピレングリコール、マクロゴール、トリカプリリン等)などに溶解、懸濁あるいは乳化することにより製造される。この際、所望により、溶解補助剤(例、サリチル酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、D−マンニトール、トレハロース、安息香酸ベンジル、エタノール、トリスアミノメタン、コレステロール、トリエタノールアミン、炭酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム等)、懸濁化剤(例、ステアリルトリエタノールアミン、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリルアミノプロピオン酸、レシチン、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、モノステアリン酸グリセリンなどの界面活性剤;ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースなどの親水性高分子等)、緩衝化剤(例、リン酸塩、酢酸塩、炭酸塩、クエン酸塩などの緩衝液等)、安定剤(例、ヒト血清アルブミン等)、無痛化剤(例、プロピレングリコール、塩酸リドカイン、ベンジルアルコール等)、防腐剤(例、パラオキシ安息香酸エステル類、クロロブタノール、塩化ベンザルコニウム、ベンジルアルコール、フェネチルアルコール、デヒドロ酢酸、ソルビン酸等)等の添加物を用いてもよい。
外用剤は、活性成分を固状、半固状または液状の組成物とすることにより製造される。例えば、上記固状の組成物は、活性成分をそのまま、あるいは賦形剤(例、乳糖、D−マンニトール、デンプン、結晶セルロース、白糖など)、増粘剤(例、天然ガム類、セルロース誘導体、アクリル酸重合体など)などを添加、混合して粉状とすることにより製造される。上記液状の組成物は、注射剤の場合とほとんど同様にして製造される。半固状の組成物は、水性または油性のゲル剤、あるいは軟膏状のものがよい。また、これらの組成物は、いずれもpH調節剤(例、リン酸、クエン酸、塩酸、水酸化ナトリウムなど)、防腐剤(例、パラオキシ安息香酸エステル類、クロロブタノール、塩化ベンザルコニウム、ベンジルアルコール、フェネチルアルコール、デヒドロ酢酸、ソルビン酸など)などを含んでいてもよい。
坐剤は、活性成分を油性または水性の固状、半固状あるいは液状の組成物とすることにより製造される。該組成物の製造の際に用いられる油性基剤としては、例えば高級脂肪酸のグリセリド〔例、カカオ脂、ウイテプゾル類(ヒュルス アクチエンゲゼルシャフト社製、ドイツ)など〕、中級脂肪酸トリグリセライド〔例、ミグリオール類(ヒュルス アクチエンゲゼルシャフト社製、ドイツ)など〕、植物油(例、ゴマ油、大豆油、綿実油など)などが挙げられる。水性基剤としては、例えばポリエチレングリコール類、プロピレングリコールなどが挙げられる。また、水性ゲル基剤としては、例えば天然ガム類、セルロース誘導体、ビニール重合体、アクリル酸重合体などが挙げられる。
本発明の治療及び/又は予防薬の投与形態は、特に限定されない。但し、α−グルコシダーゼ阻害薬を錠剤などの経口剤とし、該経口剤を投与することが好ましい。本発明の治療及び/又は予防薬において、α−グルコシダーゼ阻害薬を食前(例えば食事の5ないし60分前、好ましくは食事の15ないし30分前)に投与することが好ましい。
本発明の治療及び/又は予防薬は、毒性も低く、哺乳動物(例、ヒト、マウス、ラット、ウサギ、イヌ、ネコ、ウシ、ウマ、ブタ、サル等)に対し、経口的または非経口的に安全に用いられる。本発明の治療及び/又は予防薬の投与量は、投与対象、投与対象の年齢および体重、症状、投与時間、剤形、投与方法等により、適宜選択することができる。α−グルコシダーゼ阻害薬の投与量は、臨床上用いられる用量を基準として適宜選択することもできる。例えばα−グルコシダーゼ阻害薬を成人患者(体重50kg)に投与する場合、1日あたりの投与量は、通常0.01〜1000mg、好ましくは0.1〜500mgであリ、この量を1日1ないし数回に分けて投与することができる。とりわけ、ボグリボースは、0.2ないし0.3mg、好ましくは0.2mgを、1日3回、食前に経口投与することが好ましい。また、アカルボースは、0.2ないし0.3mg、好ましくは0.2mgを、1日3回、食前に経口投与することが好ましい。
以下本発明を実施例に基づいて、さらに詳細に説明する。
実施例1
臨床試験結果
参加者
症候性CHFの患者408名について2001年11月から2004年1月の間研究した。本研究への参加の判断基準は、従来の治療にもかかわらずみられるニューヨーク心臓協会(New York Heart Association、NYHA)のI度からIII度の機能分類で定量化される通りのCHFの臨床的証拠、およびが二次元心エコー検査による評価で左室駆出率が45%未満であった。男性282名、女性126名、平均年齢61.9歳であった。冠動脈造影、脳室造影図、心筋生検、または心エコー検査を用いて、すべての患者は特発性拡張型心筋症、高血圧性心臓疾患、または原発性心臓弁疾患と診断され、虚血性心臓疾患は除外された。除外基準には1)慢性閉塞性肺疾患、2)虚血性心臓疾患の病歴または証拠、3)脳血管疾患、4)末梢血管疾患、がん、5)エストロゲン補充療法、6)インシュリン依存性DM、7)二次的にDMを引き起こす疾患、8)ステロイドのようなDMを誘発する薬物を投与されている患者、および9)妊娠が含まれた。心不全の重症度は、血漿ヒト脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)濃度、心エコー検査のデータ、またはNYHA分類によって評価された。BNP濃度は特異的免疫放射定量測定法で測定した。院内承認済み手順に従って、本研究への参加前にインフォームドコンセントを各患者から得た。対照として、吹田市で地区健康診断を受けた、年齢および性別を合わせた被験者1632名を加えた。心臓疾患の過去の病歴のある被験者は分析から除外した。空腹時血糖値および75g経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)の120分後の血糖値を、本研究の参加前にすでに診断されたDMの患者以外のすべての患者で調べた。
略語:BW:体重、%FS:左室径短縮率、LVDd:左室拡張末期径、
IGT:耐糖能障害、IFG:空腹時血糖異常、BP:血圧
N=被験者数、平均値±SEM、または被験者のパーセンタイル。
IGT患者28名がボグリボース試験に参加した。IGTの補正が心不全の改善に結びつくかどうかを試験するため、0.6mgのボグリボースを患者14名に16週間投与した。患者14名はボグリボース処置を行わなかった。血漿BNP濃度およびNYHA機能分類の両方を測定した。
略語は表1に同じ。N=平均値±SEMまたは被験者数
測定
機能分類は認定された心臓病専門医によって、NYHA分類に従って、臨床検査を元に評価された。心不全は基線値でNYHA分類I度〜III度と定義された。カテコールアミンの使用を理由に、NYHA IV度の患者は加えなかった。
1997年に、米国糖尿病協会(American Diabetes Association)は糖尿病の新しい判定基準を採用した。1回の空腹時血糖値が125mg/dLを超える患者はDMと同定される。グルコース濃度が110〜125mg/dLの間の患者は空腹時血糖異常(IFG)と同定される。その他の被験者およびIFG被験者について、75gOGTTを実施し、IGTは75gのグルコースの摂取120分後のグルコース濃度が140〜199mg/dLと定義され、グルコース濃度が199mg/dLを超える患者もまたDMと分類された。
統計解析
基線値の特性を、フィッシャーの直接確率検定、カイ二乗検定、またはコクラン・マンテル・ヘンツェル検定(Cochran-Mantel-Haenszel test)によって、カテゴリ変数について比較した。ANOVAを用いて、連続変数について処置群の基線値の差を検定した。処置内の変化の分析はスチューデントt検定を用いて有意水準0.05で実施した(18)。
結果
表1は患者の特性を示す。患者408名のうち、162名(40%)がNYHA分類I度、189名(46%)がII度、57名(14%)がIII度であった。患者はジギタリス、利尿薬、β-遮断薬、アンジオテンシン変換酵素阻害薬、およびアンジオテンシンII受容体遮断薬で治療された。CHF患者408名のうち、31、41、および1%がDM、IGT、およびIFGにそれぞれ罹患していた(図1)。健常被験者1632名のうち、9、16、および22%がDM、IGT、およびIFGにそれぞれ罹患していた(図1)。DMまたはIGTのどちらかを有する患者と有しない患者の間でCHFの薬の種類に有意差は無かった。これらの患者のうちDMと診断された72名(56%)はまた、経口高糖尿病薬での処置を受けた。DM、IFGまたはIGTのCHF群における発生率は対照群より高かった(p<0.001)。DM、IFGまたはIGTの発生率はNYHAI〜III度群で同等であった。IGTのCHF患者における有病率は正常被験者より高かった(p<0.001)。CHF患者におけるIFGの有病率は対照被験者より低く(p<0.001)、CHFにおける空腹時条件とグルコース75g摂取2時間後条件との間の血糖値の差(dBS)の重要な役割を示唆した。75グラムOGTTを受けたCHF患者の間で、dBSとBNP濃度は相関していた(p<0.001、図2)。
CHFおよびIGTの両方を有する患者を、ボグリボースを用いて16週間治療した。表2は患者の特性を示す。すべての患者は治験実施計画を終了し、16週間試験の間に死亡した患者は無かった。加えて、ボグリボース、その他のCHFの薬の用量は試験の全期間を通じて変更されなかった。全身血圧または心拍数のどちらも、ボグリボース群と対照群との間で、治療の開始前または後で差が無かった。しかし、NYHA機能分類および血漿BNP濃度の両方が、ボグリボースを用いた患者において、ボグリボースを用いなかった患者と比較して改善した(図3)。
考察
本研究は、相対的に軽度のグルコース異常がCHFの重症度と密接に関連しており、そしてCHFの悪化に寄与することを実証する。グルコース異常の補正はCHFの病態生理を改善した。これらの知見は、1)CHFが軽度のグルコース異常を引き起こすこと、2)軽度のグルコース異常がCHFの病態生理の悪化を加速すること、および3)αGIがCHF患者において治療上の利益を有することを示唆する。これらの結果は、αGIがCHF患者において治療上有用であることを示唆する。
糖尿病、および相対的に軽度なグルコース異常さえも、心臓血管疾患の罹患率および死亡率と強く関連しており、また糖尿病はCHFに関する独立したリスク因子である。しかし、心不全が高齢被験者の群で以後のインシュリン非依存性糖尿病(NIDDM)の発症と関連していたと報告した、以前の予備研究1つだけを除き、逆は報告されていない。CHFの有病率は9.5%で、被験者の14.7%がNIDDMを有した。本研究はこの観察を支持し、また、IGTもDMもCHF患者において有病率がより高いという新しい結果を加える。興味深いことに、本発明者らはさらに、IGTはまたCHFの病態生理にも密接に関連していることを観察した。このことは、1)IGTの程度がCHFの重症度を予測する、および2)IGTを改善するボグリボースがCHFに効果的である、という事実によって確認された。
グルコース異常がCHFを改善する細胞機構
高グルコース曝露は、短期間でさえ、酸化ストレスを生じ、壊死またはアポトーシスといった細胞損傷を誘発することが知られている。これが心筋細胞に起こる場合、心筋機能異常がIGTによってさえ悪化する可能性がある。興味深いことに、CHF患者におけるIFGの有病率は対照被験者より低く、dBSがCHFの進行に重要であることを示唆した。これは、1)CHF患者の間でのIGFが対照被験者より多くおよびIFGが対照被験者より少なく、2)IGFは大きく、IFGは小さいdBSを示し、および3)高グルコース濃度への一過性曝露が細胞アポトーシスを引き起こす、ためである。
さらに、インシュリン抵抗性は心筋機能異常を誘発しうる。内皮機能異常がCHFの悪化に関与している可能性がある。NOは心筋細胞にも平滑筋細胞にも有益であることが知られているため、NO産生の減少が本研究に関与している可能性がある。実際、NOの枯渇がERKまたはP70S6キナーゼの活性化を介して心肥大を引き起こすことを本発明者らは以前に報告している。
CHFの臨床的影響
本実施例の結果はCHF(慢性心不全)の治療に強い影響を有する。即ち、本実施例の結果は、ボグリボースのような抗高血糖薬(α−グルコシダーゼ阻害薬)が、グルコース代謝異常を伴うCHFの新たな治療となりうることを示した。さらに、一過性の高グルコース曝露が、悪化した心筋をさらに悪化させる場合、毎食間の高グルコース曝露を弱めるボグリボースのようなは抗高血糖薬(α−グルコシダーゼ阻害薬)は、グルコース代謝異常が無い場合でさえ、CHFの重症度を改善する可能性があることも示す。
実施例2
動物実験(心不全モデルマウスを用いた実験)
心不全モデルマウスの作成
リュン・リャオら(Yulin Liao et al.)(Circulation Research October 17, 2003, p759-766)に記載の方法に従って、大動脈縮窄により心不全モデルマウスを作成した(図4)。
C57BL/6マウスの8から9週齢のマウスをフェントバルビタールとケタミンの混合薬で麻酔し、開胸後横行大動脈を直視下に7-0の絹糸を用いて27Gの注射針と共にきつく結紮する。その後、注射針を抜き取ることにより大動脈の縮窄を作成する。処置後、開胸部は5-0の絹糸を用いて閉鎖した。縮窄術後、1週目、4週目で心臓超音波検査にて、心機能に関する各種パラメータを測定した。また、1週目、4週目において、心重量・肺重量を測定した。結果は、図4に示す。
図4に示す、マウス大動脈縮窄モデルの結果から、マウスの大動脈を縮窄することにより、心臓に圧負荷を惹起し1週間後では肥大心モデルとして、4週間後には不全心モデルとして用いることが可能であることが分かる。1週間後には壁肥厚(IVS, PWの増加)のみが認められるが、4週目には左室の拡大と収縮力の低下(LVDd及びLVDsの増加と%FSの低下)を認める。
心不全モデルマウスを用いた実験
前述の方法により作成した大動脈縮窄モデルに、経口血糖降下剤であるボグリボースを強制投与し(TAC+Voglibose)、4週後の随時血糖値を測定した。対照としては、開胸のみを行い大動脈縮窄をしなかったSham群、大動脈縮窄後ボグリボースを投与しなかった(TAC)群を用いた。結果を図5に示す。
図5に示す結果から、マウスの大動脈縮窄モデルにおいて、随時血中グルコースレベルは有意に上昇しており、ボグリボースによりその上昇は抑制されていることが分かる。
前述の方法により作成した大動脈縮窄モデルで、縮窄後4週目の心重量を各群で比較し、結果を図6に示す。図6に示す結果から、マウスの大動脈縮窄モデルにおいて、心肥大の指標となる心重量/体重比は有意に上昇しており、ボグリボースによりその上昇は抑制されていることが分かる。即ち、ボグリボースには心肥大抑制効果があることが分かる。
前述の方法により作成した大動脈縮窄モデルで、縮窄後4週目の肺重量・左心室収縮能を表す左室短縮率(LVFS)・左室駆出率(LVEF)を各群で比較した。結果を図7に示す。
図7に示す結果から、マウスの大動脈縮窄モデルにおいて、心不全の指標となる肺重量/体重比(肺うっ血の程度を反映する)は有意に上昇、左室短縮率、左室駆出率は有意に増加しており、ボグリボースによりかかる心不全の指標は改善することが分かる。即ち、ボグリボースには心不全改善効果があることが分かる。
前述の方法により作成した大動脈縮窄モデルで、縮窄後4週目の拡張末期左室径(LVEDd)・収縮末期左室径(LVESd)・左室壁厚(LVPWd)を各群で比較した。結果を図8に示す。
図8に示す結果から、マウスの大動脈縮窄モデルにおいて、心不全の指標となるLVEDd、LVESdは有意に増加しておりボグリボースによりかかる心不全の指標は改善する。ことが分かる。即ち、ボグリボースには心臓リモデリング抑制効果があることが分かる。
本実施例においては、ボグリボースのような抗高血糖薬(α−グルコシダーゼ阻害薬)には、随時血中グルコースレベルの上昇抑制効果に加えて、心肥大抑制効果、心不全改善効果、及び心臓リモデリング抑制効果があることが示された。即ち、ボグリボースのような抗高血糖薬(α−グルコシダーゼ阻害薬)には、慢性心不全に対する治療及び予防効果があることが示された。
本発明は、新たな慢性心不全の治療薬及び予防薬を提供する。
CHF患者に占めるDM、IGT、およびIFGに罹患している割合を示す。 CHF患者における空腹時条件とグルコース75g摂取2時間後条件との間の血糖値の差(dBS)とBNP濃度との関係を示す。 NYHA機能分類および血漿BNP濃度の、ボグリボースを用いた患者とボグリボースを用いなかった患者との比較結果。 マウス大動脈縮窄による肥大心モデル及び不全心モデル作成の説明図。 マウスの不全心モデルにおける随時血中グルコースレベルとボグリボース投与との関係を示す結果。 ボグリボース投与によるマウス心肥大抑制効果を示す結果。 ボグリボース投与によるマウス不全心改善効果を示す結果。 ボグリボースが心臓リモデリングを抑制することを示す結果。

Claims (5)

  1. 抗高血糖薬を有効成分とする心不全の治療及び/又は予防薬。
  2. 心不全が虚血性心不全または非虚血性心不全である請求項1に記載の治療及び/又は予防薬。
  3. 抗高血糖薬がα−グルコシダーゼ阻害薬である請求項1または2に記載の治療及び/又は予防薬。
  4. α−グルコシダーゼ阻害薬がボグリボースである請求項3に記載の治療及び/又は予防薬。
  5. α−グルコシダーゼ阻害薬がアカルボースである請求項3に記載の治療及び/又は予防薬。
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Non-Patent Citations (5)

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