JP2006129847A - 内胚葉の形成に不可欠な新規遺伝子およびその利用 - Google Patents

内胚葉の形成に不可欠な新規遺伝子およびその利用 Download PDF

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Abstract

【課題】 発生段階において内胚葉の形成に不可欠な遺伝子を同定すること。
【解決手段】 カタユウレイボヤ(背索動物:Ciona intestinalis)卵の胚発生に於いて、内胚葉の形成に不可欠なポリペプチドであって、(a)特定の配列を持つ五つのポリペプチド;または、(b)上記五つのアミノ酸配列において、1個もしくは数個のアミノ酸が欠失、挿入、置換、もしくは付加されたアミノ酸配列からなることを特徴とするポリペプチドを提供する。
【選択図】 なし

Description

本発明は、ホヤの発生段階において内胚葉の形成に不可欠な新規遺伝子群、およびその各遺伝子がコードするタンパク質、ならびにそれらの利用に関する。
近年、生物の発生についての研究は急速に進んでおり、種々の生物材料がその研究に使用されている。また、分子生物学の発展に伴い、生物の発生についての研究は、主に遺伝子を解析することによって行われている。そのような遺伝子の解析のうち、とりわけ、脊椎動物(例えば、ヒト)と尾索動物(例えば、ホヤなど)とを含む脊索動物の発生段階において発現する遺伝子についてその機能を解析することは、単なる発生のメカニズムの解明だけでなく、細胞の増殖、分化、および/または再生のメカニズムの解明などにも貢献する。また、上記のような解析によって得られた知見は、医学上および産業上への応用も期待されており、具体的には、発生段階の異常に起因する種々の遺伝子疾患の発症メカニズムの詳細な解明、およびその診断法または治療法の開発などに貢献することが期待されている。
また、発生段階において発現する遺伝子の中には、特定の組織または細胞において特異的に発現する遺伝子が存在することが知られており、その1つとして、神経系(中枢神経系または末梢神経系)において特異的に発現する遺伝子がある。このような遺伝子は、その特異的に発現する組織または器官の形成に何らかの役割を担っているものと考えられている。
ところで、発生についての研究対象となっている生物の1つとして、ホヤが挙げられる。ホヤは、世界中の海に広く分布しており、岩やブイに付着して生活する生物である。ホヤの成体は、入水口および出水口という2つの開口部を有している。この開口部を通過する海水から、ホヤは栄養物を濾過摂食する。ホヤは、すべて雌雄同体であり、ホヤの受精卵は、比較的短時間に胞胚、嚢胚、神経胚、尾芽胚を経て、オタマジャクシ型幼生へと変態する。ホヤの幼生は、しばらく遊泳したのち変態して成体となる。ホヤの形態形成パターンは、予定神経細胞が巻きあがって神経管を形成するなど、脊椎動物の発生様式とよく似ている。
ホヤは、尾索動物群に属する動物であって、頭索動物(例えば、ナメクジウオ)および脊椎動物(例えば、カエル、ヒトなど)とともに、脊索動物門を構成する。尾索動物は、尾に脊索を持つ。頭索動物は、脊索が頭部の先端まで延びている。脊椎動物は、発生にともなって、脊索が椎骨に置き換わっている。これらの3つの動物群には、脊索、その背側の中空の神経管、咽頭の裂け目である鰓裂などといった、いくつかの共通した形質がみられる。脊索動物は、今から約5億年以上昔に、上述した脊索動物に特有の性質を獲得することによって、新口動物の共通の祖先から進化してきたものと考えられている。新口動物とは、脊索動物、半索動物、および棘皮動物を含む動物群である。半索動物の例としてはギボシムシが、棘皮動物の例としては、ウニ、ヒトデなどが挙げられる。
ホヤのオタマジャクシ型幼生の体制(ボディプラン)は、両生類のオタマジャクシ型幼生のミニチュア版ともいうべきものであり、脊椎動物を含む脊索動物の体制の最も単純な型(原型)を表している。つまり、オタマジャクシ型幼生の体制(ボディプラン)は、脊椎動物の体制の最も単純な型(原型)に近いものと考えられている。そのため、脊椎動物の体制を研究する上で、ホヤのオタマジャクシ型幼生の体制を調べることは、極めて重要である。また、ホヤの受精卵がどのように分裂し、胚を構成する各割球がどのような位置を占め、最終的に何個のどのような細胞を生みだすのかというホヤの細胞系譜は、ほぼ完全に調べられている。
ここで、ホヤの細胞について、簡単に説明する。ホヤのオタマジャクシ型幼生を構成する細胞の数は少なく、2650個に満たない。しかし、これらの細胞は、表皮、中枢神経系、内胚葉(消化器系)、間充織、筋肉、および脊索などの組織または器官を構成しており、このホヤのオタマジャクシ型幼生の体制は、我々ヒトの体における初期の発生段階の基本的な体制と全く同一である。
ホヤのオタマジャクシ型幼生は頭部と尾部とからなり、頭部の背側には中枢神経系が存在する。その中枢神経系は、耳に相当する平衡器と、眼に相当する眼点とを含んでいる。この中枢神経系を構成する細胞数は約350個であり、そのうち神経細胞は約80個と見積もられている。また、幼生の体全体には末梢神経細胞が散在する。そして、頭部の腹側には、消化器系をつくりだす内胚葉(細胞数約500)が存在する。さらに、首の部分には、間充織(細胞数約900)が存在する。間充織は、主として成体の中胚葉を形成する。
一方、ホヤのオタマジャクシ型幼生の尾部では、その中央に40個の細胞からなる脊索が、その両側には単核で横紋を有する筋肉が、また背側にはグリア細胞からなる神経索が、腹側には内胚葉索が存在する。また、幼生全体を1層の表皮が覆っている。
脊索は、脊索動物の個体発生において重要な役割を果たしている。脊索は、内胚葉の誘導作用を受けて形成される。その形成された脊索は、その背側の外胚葉に働きかけて神経系形成を誘導するばかりでなく、脊索動物の個体発生(例えば、脊索の両側における筋肉のパターン形成、および消化器系の形成)においても重要な働きをする。
本発明者は、以前、カタユウレイボヤの尾芽胚における遺伝子発現プロファイルを報告している(例えば、非特許文献1を参照のこと)。
また、本発明者らは、カタユウレイボヤ(Ciona intestinalis)の受精卵、卵割期胚、尾芽胚、幼生、幼若体または精巣で発現する遺伝子のmRNAに対して、3’側76,920および5’側76,250のEST(expressed sequence tag:発現配列タグ)解析を行い、これらの中から約5,000の遺伝子を選んでその発現をin situハイブリダイゼーションによって調べ、約500の遺伝子がホヤの尾芽胚、幼生、または幼若体の組織あるいは器官において特異的に発現することを見出し、さらにそれらの中から261の遺伝子のmRNA(cDNA)の全塩基配列を決定した(例えば、特許文献1を参照のこと)。
さらに本発明者は、カタユウレイボヤの尾芽胚および幼生で発現する遺伝子のmRNAに対して、3’側約23,000および5’側約23,000のEST解析を行い、これらの中から約3,000の遺伝子を選んでその発現をin situハイブリダイゼーションによって調べ、約200の遺伝子が、ホヤの神経系(中枢神経系または末梢神経系)で発現することを見出し、さらにそれらの中から108の遺伝子のmRNA(cDNA)の全塩基配列を決定した(例えば、特許文献2を参照のこと)。
特開2004−57129公報(平成16年2月26日公開) 特開2004−57127公報(平成16年2月26日公開) Development 128,2893−2904(2001)
上述のように、脊索動物または脊椎動物などの発生段階において発現する遺伝子(発生遺伝子)の解析が、急速に進められている。しかし、脊椎動物における発生遺伝子の機能解析には、次の問題点がある。
脊椎動物は、進化にともなって、ゲノムレベルで2回の遺伝子重複が起こったと考えられている。そして、脊椎動物の遺伝子には、遺伝子重複による遺伝子機能のリダンダンシー(冗長性)が存在している。そのリダンダンシーの存在のために、脊椎動物における遺伝子機能の解析は難しいという問題点がある。最近の研究では、脊索動物の共通の祖先から脊椎動物への進化のルートをたどった動物は、その進化の間に、遺伝子の全体的な重複が2回おこったことが明らかになっている。上記のように進化の間に遺伝子の全体的な重複が2回起こり、無脊椎動物の遺伝子数を約1.5万と仮定する。そのとき、ヒトを含む脊椎動物の遺伝子数は、6万程度存在することになる。
一般的に、Aという親遺伝子が重複してA+A’になった場合、Aはもともとの機能を保持し、A’にはAと異なった新しい機能が付加されると考えられている。しかし、脊椎動物の進化時におこった発生遺伝子の重複は、その一般的なものとは違う側面がある。つまり、脊椎動物においては、AがA+A’+A’’+A’’’となっても、4つの遺伝子の機能は基本的に同じであるけれども、微妙にその空間的・時間的発現パターンを変えている。このことによって、原型的な脊索動物には認められないような量的にも質的にも異なった器官および組織をつくり出し、巧妙な遺伝子の相互作用によって機能を増し、現存する非常に複雑な体制を脊椎動物は得たと考えられている。このように、遺伝子重複による遺伝子機能のリダンダンシー(冗長性)が存在しているため、脊椎動物における遺伝子機能の解析は難しいという問題点がある。
一方、最近の研究では、ハエ、線虫、カエル、哺乳類などの様々な動物の体づくりは、基本的には同じ遺伝子や分子を使ってなされているということが明らかになっている。このような体づくりに関与している遺伝子としては、例えば、体の前後軸の確立にたずさわるホメオボックス遺伝子群、心臓の発生に関与するtinman遺伝子、動物の目の発生に関与しているPax6遺伝子などが挙げられる。
脊索動物であるホヤの遺伝子には、脊椎動物のような遺伝子の重複がなく、遺伝子重複前の脊索動物の基本型を保っている。また、ホヤのオタマジャクシ型幼生の体制は、脊索動物の体制の最も単純な型(原型)を表している。したがって、脊索動物であるホヤは、ヒトを含む脊椎動物全般の発生メカニズムの解明に最適のモデル動物である。
また、ホヤにおいて発生段階に発現する遺伝子、特に、発生段階において神経系の形成に関与する遺伝子は、発生の研究と神経系の研究とを進める上において重要である。さらに、遺伝子治療および再生医療などの医療分野、さらには環境分野、食品分野などの種々の分野に、それら遺伝子は応用できると期待されている。
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、ホヤの発生段階において重要な機能を発揮する新規遺伝子群、および各遺伝子がコードするタンパク質、ならびにそれらの利用方法を提供することにある。
本発明に係るポリペプチドは、内胚葉の形成に不可欠であり、以下の(a)または(b):
(a)配列番号2、4、6、8もしくは10に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチド;または
(b)配列番号2、4、6、8もしくは10に示されるアミノ酸配列において、1個もしくは数個のアミノ酸が欠失、挿入、置換、もしくは付加されたアミノ酸配列、
からなることを特徴とするポリペプチド
に記載のポリペプチドであることを特徴としている。
本発明に係るポリヌクレオチドは、上記ポリペプチドををコードすることを特徴としている。
本発明に係るポリヌクレオチドは、内胚葉の形成に不可欠なポリペプチドをコードし、以下の(a)または(b):
(a)配列番号1、3、5、7もしくは9に示される塩基配列からなるポリヌクレオチド;または
(b)配列番号1、3、5、7もしくは9に示される塩基配列において、1個もしくは数個の塩基が欠失、挿入、置換、もしくは付加された塩基配列からなるポリヌクレオチド
に記載のポリヌクレオチドであることを特徴としている。
本発明に係るポリヌクレオチドは、内胚葉の形成に不可欠なポリペプチドをコードし、以下の(a)または(b):
(a)配列番号1、3、5、7もしくは9に示される塩基配列からなるポリヌクレオチド;または
(b)配列番号1、3、5、7もしくは9に示される塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチド
に記載のポリヌクレオチドであることを特徴としている。
本発明に係るポリヌクレオチドは、内胚葉の形成に不可欠なポリペプチドをコードし、以下の(a)または(b):
(a)配列番号1、3、5、7もしくは9に示される塩基配列からなるポリヌクレオチド;または
(b)配列番号1、3、5、7もしくは9に示される塩基配列と相補的な塩基配列と少なくとも80%同一である塩基配列からなるポリヌクレオチド
に記載のポリヌクレオチドであることを特徴としている。
本発明に係るオリゴヌクレオチドは、上記のポリヌクレオチドのフラグメントまたはその相補配列からなることを特徴としている。
本発明に係るオリゴヌクレオチドは、上記のポリペプチドの発現を抑制することが好ましい。
本発明に係る形質転換体は、上記のポリヌクレオチドが導入されていることを特徴としている。
本発明に係るβ−カテニンの過剰発現に起因する内胚葉形成不全胚において内胚葉を正常に形成させるためのキットは、上記のオリゴヌクレオチドを備えることを特徴としている。
本発明に係るβ−カテニンの過剰発現に起因する内胚葉形成不全胚において内胚葉を正常に形成させる方法は、上記のポリヌクレオチドを内胚葉形成不全胚に導入する工程を包含することを特徴としている。
本発明を用いれば、動物の胚発生過程で重要な働きをしていることが知られてβ−カテニンを介するシグナル伝達経路を解明し、当該経路に関連して生じる疾患などに対する医薬を開発することができる。また、本発明を用いれば、内胚葉形成不全を生じている胚を救助する、すなわち、内胚葉を正常に形成させることができる。
上述したように、本発明者らは、ホヤにおいて組織特異的または発生段階特異的に発現する多数の遺伝子を見出し、配列決定した。
これらの多くの遺伝子について個体レベルでの機能解析を行なうために、カタユウレイボヤの未受精卵にこれらの遺伝子のアンチセンスオリゴヌクレオチド(モルフォリノオリゴヌクレオチド)を注入し、当該卵を精子と受精させた後発生させた。その結果、モルフォリノオリゴヌクレオチド(MO)を注入したカタユウレイボヤの胚において、β−カテニンの機能を阻害した胚と類似した表現型を示すものを5つ見出し、その結果、本発明を完成した。また、本発明者らは、これら5つの遺伝子をvegetal hemisphere defective(vhd)1〜5と名付けた。
(1:β−カテニンを介するシグナル伝達経路)
β−カテニンはヒトを含む様々な動物において保存されるタンパク質であり、細胞間接着因子としてだけではなく、細胞の分化、胚の軸形成、細胞の癌化などに関与することが知られている。β−カテニンは、別のタンパク質であるTCF1と複合体を形成し、核において標的下流遺伝子の転写を活性化する。β−カテニンによる下流遺伝子の転写活性化には複数のシグナル伝達分子の働きによってβ−カテニンが安定化することが必要であることが示されている。本明細書中で使用される場合、このようなβ−カテニンが関与するシグナル伝達経路を「β−カテニンを介するシグナル伝達経路」と称する。β−カテニンを介するシグナル伝達経路は、動物の胚発生過程で重要な働きをしていることが知られており、例えば,ホヤの胚発生においては、β−カテニンは、内胚葉の運命を決定する最初の段階で機能している(Imai, K., Takada, N., Satoh, N. and Satou, Y.: b-catenin mediates the specification of endoderm cells in ascidian embryos. Development 127, 3009-3020 (2000)、およびSatou, Y., Imai, K. S. and Satoh, N.: Early embryonic expression of a LIM-homeobox gene Cs-lhx3 is downstream of b-catenin and responsible for the endoderm differentiation in Ciona savignyi embryos. Development 128, 3559-3570 (2001)を参照のこと)。しかし、β−カテニンを介するシグナル伝達経路の構成要素がこれまで多数同定されているにもかかわらず、その全容は未だに明らかでない。
β−カテニンを介するシグナル伝達経路の解析は、β−カテニンの機能を調節する仕組みの理解、および/またはβ−カテニンの機能を制御する方法の研究に欠くことができない。β−カテニンを介するシグナル伝達経路に関与する因子を明らかにすることは、上記解析の重要な目標の1つである。しかし、β−カテニンを介するシグナル伝達経路に関与する因子は、まだ同定されていないものが多数存在していると考えられており、そうした因子の発見がβ−カテニン研究における課題となっている。そこで、本発明者らは、上記5つの遺伝子によってコードされるタンパク質がβ−カテニンを介するシグナル伝達経路を制御する因子であるか否かを詳細に検討した。
以下、本発明に係るポリペプチド、当該ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、およびこれらの利用について詳述する。
(2:ポリペプチド)
本発明者らは、本発明に係るポリペプチドが、発生段階におけるβ−カテニンを介するシグナル伝達経路に関与することを見出し、本発明を完成するに至った。
本明細書中で使用される場合、用語「ポリペプチド」は、「ペプチド」または「タンパク質」と交換可能に使用される。また、ポリペプチドの「フラグメント」は、当該ポリペプチドの部分断片が意図される。本発明に係るポリペプチドはまた、天然供給源より単離されても、化学合成されてもよい。
用語「単離された」ポリペプチドまたはタンパク質は、その天然の環境から取り出されたポリペプチドまたはタンパク質が意図される。例えば、宿主細胞中で発現された組換え産生されたポリペプチドおよびタンパク質は、任意の適切な技術によって実質的に精製されている天然または組換えのポリペプチドおよびタンパク質と同様に、単離されていると考えられる。
本発明に係るポリペプチドは、天然の精製産物、化学合成手順の産物、および原核生物宿主または真核生物宿主(例えば、細菌細胞、酵母細胞、高等植物細胞、昆虫細胞、および哺乳動物細胞を含む)から組換え技術によって産生された産物を含む。組換え産生手順において用いられる宿主に依存して、本発明に係るポリペプチドは、グリコシル化され得るか、または非グリコシル化され得る。さらに、本発明に係るポリペプチドはまた、いくつかの場合、宿主媒介プロセスの結果として、開始の改変メチオニン残基を含み得る。
1つの局面において、本発明は、vhd活性を有するポリペプチドを提供する。本明細書中で使用される場合、「vhd活性を有するポリペプチド」は、内胚葉の形成に不可欠なポリペプチドが意図される。
一実施形態において、本発明に係るポリペプチドは、配列番号2、4、6、8または10に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドが好ましい。
別の実施形態において、本発明に係るポリペプチドは、配列番号2、4、6、8または10に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドの変異体でありかつvhd活性を有するポリペプチドが好ましい。
本明細書中で使用される場合、「配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチド」は、配列番号1に示される塩基配列からなるポリヌクレオチドによってコードされるアミノ酸配列であり得る。
このような変異体としては、欠失、挿入、逆転、反復、およびタイプ置換(例えば、親水性の残基の別の残基への置換、しかし通常は強く親水性の残基を強く疎水性の残基には置換しない)を含む変異体が挙げられる。特に、ポリペプチドにおける「中性」アミノ酸置換は、一般的にそのポリペプチドの活性にほとんど影響しない。
ポリペプチドのアミノ酸配列中のいくつかのアミノ酸が、このポリペプチドの構造または機能に有意に影響することなく容易に改変され得ることは、当該分野において周知である。さらに、人為的に改変させるだけではく、天然のタンパク質において、当該タンパク質の構造または機能を有意に変化させない変異体が存在することもまた周知である。
当業者は、周知技術を使用してポリペプチドのアミノ酸配列において1または数個のアミノ酸を容易に変異させることができる。例えば、公知の点変異導入法に従えば、ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの任意の塩基を変異させることができる。また、ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの任意の部位に対応するプライマーを設計して欠失変異体または付加変異体を作製することができる。さらに、本明細書中に記載される方法を用いれば、作製した変異体が所望のvhd活性を有するか否かを容易に決定し得る。
好ましい変異体は、保存性もしくは非保存性アミノ酸置換、欠失、または添加を有する。好ましくは、サイレント置換、添加、および欠失であり、特に好ましくは、保存性置換である。これらは、本発明に係るポリペプチドのvhd活性を変化させない。
代表的に保存性置換と見られるのは、脂肪族アミノ酸Ala、Val、Leu、およびIleの中での1つのアミノ酸の別のアミノ酸への置換;ヒドロキシル残基SerおよびThrの交換、酸性残基AspおよびGluの交換、アミド残基AsnおよびGlnの間の置換、塩基性残基LysおよびArgの交換、ならびに芳香族残基Phe、Tyrの間の置換である。
上記に詳細に示されるように、どのアミノ酸の変化が表現型的にサイレントでありそうか(すなわち、機能に対して有意に有害な効果を有しそうにないか)に関するさらなるガイダンスは、Bowie, J.U.ら「Deciphering the Message in Protein Sequences: Tolerance to Amino Acid Substitutions」,Science 247:1306−1310 (1990)(本明細書中に参考として援用される)に見出され得る。
当業者は、周知技術を使用してポリペプチドのアミノ酸配列において1または数個のアミノ酸を容易に変異させることができる。例えば、公知の点変異導入法(変異誘発法)に従えば、ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの任意の塩基を変異させることができる。また、ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの任意の部位に対応するプライマーを設計して欠失変異体または付加変異体を作製することができる。さらに、本明細書中に記載される方法を用いれば、作製した変異体が所望のvhd活性を有するか否かを容易に決定し得る。
本実施形態に係るポリペプチドは、vhd活性を有するポリペプチドであって、配列番号2、4、6、8もしくは10に示されるアミノ酸配列において、1個もしくは数個のアミノ酸が欠失、挿入、置換、もしくは付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチドであることが好ましい。このような変異ポリペプチドは、上述したように、公知の変異ポリペプチド作製法により人為的に導入された変異を有するポリペプチドに限定されるものではなく、天然に存在するポリペプチドを単離精製したものであってもよい。
他の局面において、本実施形態に係るポリペプチドは、vhd活性を有するポリペプチドであって、
(a)配列番号1、3、5、7もしくは9に示される塩基配列からなるポリヌクレオチド;または
(b)配列番号1、3、5、7もしくは9に示される塩基配列において、1個もしくは数個の塩基が欠失、挿入、置換、もしくは付加された塩基配列からなるポリヌクレオチド
によってコードされることが好ましい。
別の局面において、本実施形態に係るポリペプチドは、vhd活性を有するポリペプチドであって、
(a)配列番号1、3、5、7もしくは9に示される塩基配列からなるポリヌクレオチド;または
(b)配列番号1、3、5、7もしくは9に示される塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチド
によってコードされることが好ましい。
ハイブリダイゼーションは、Sambrookら、Molecular Cloning,A Laboratory Manual,2d Ed.,Cold Spring Harbor Laboratory(1989)に記載されている方法のような周知の方法で行うことができる。通常、温度が高いほど、塩濃度が低いほどストリンジェンシーは高くなり(ハイブリダイズし難くなる)、より相同なポリヌクレオチドを取得することができる。適切なハイブリダイゼーション温度は、塩基配列やその塩基配列の長さによって異なり、例えば、アミノ酸6個をコードする18塩基からなるDNAフラグメントをプローブとして用いる場合、50℃以下の温度が好ましい。
本明細書中で使用される場合、用語「ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件」は、ハイブリダイゼーション溶液(50%ホルムアミド、5×SSC(150mMのNaCl、15mMのクエン酸三ナトリウム)、50mMのリン酸ナトリウム(pH7.6)、5×デンハート液、10%硫酸デキストラン、および20μg/mlの変性剪断サケ精子DNAを含む)中にて42℃で一晩インキュベーションした後、約65℃にて0.1×SSC中でフィルターを洗浄することが意図される。ポリヌクレオチドの「一部」にハイブリダイズするポリヌクレオチドによって、参照のポリヌクレオチドの少なくとも約15ヌクレオチド(nt)、そしてより好ましくは少なくとも約20nt、さらにより好ましくは少なくとも約30nt、そしてさらにより好ましくは約30ntより長いポリヌクレオチドにハイブリダイズするポリヌクレオチド(DNAまたはRNAのいずれか)が意図される。このようなポリヌクレオチドの「一部」にハイブリダイズするポリヌクレオチド(オリゴヌクレオチド)は、本明細書中においてより詳細に考察されるような検出用プローブとしても有用である。
さらに別の局面において、本実施形態に係るポリペプチドは、vhd活性を有するポリペプチドであって、
(a)配列番号1、3、5、7もしくは9に示される塩基配列からなるポリヌクレオチド;または
(b)配列番号1、3、5、7もしくは9に示される塩基配列と相補的な塩基配列と少なくとも80%同一、より好ましくは少なくとも85%、90%、92%、95%、96%、97%、98%または99%同一である塩基配列からなるポリヌクレオチド
によってコードされることが好ましい。
例えば、「本発明に係るポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの参照(QUERY)塩基配列に少なくとも95%同一の塩基配列からなるポリヌクレオチド」によって、対象塩基配列が、本発明に係るポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの参照塩基配列の100ヌクレオチチド(塩基)あたり5つまでの不一致(mismatch)を含み得ることを除いて、参照配列に同一である、ということが意図される。換言すれば、参照塩基配列に少なくとも95%同一の塩基配列からなるポリヌクレオチドを得るために、参照配列における塩基の5%までが、欠失され得るかまたは別の塩基で置換され得るか、あるいは参照配列における全塩基の5%までの多くの塩基が、参照配列に挿入され得る。参照配列のこれらの不一致は、参照塩基配列の5’または3’末端位置または参照配列における塩基中で個々にかまたは参照配列内の1以上の隣接した群においてのいずれかで分散されて、これらの末端部分の間のどこでも起こり得る。この参照配列は、本明細書中で記載されるように、配列番号12に示されるアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチド、改変体、誘導体またはアナログであり得る。
任意の特定の核酸分子が、例えば、配列番号1に示される塩基配列に対して、少なくとも80%、85%、90%、92%、95%、96%、97%、98%、または99%同一であるか否かは、公知のコンピュータープログラム(例えば、Bestfit program(Wisconsin Sequence Analysis Package,Version 8 for Unix(登録商標),Genetics Computer Group,University Research Park,575 Science Drive,Madison,WI 53711)を使用して決定され得る。Bestfitは、SmithおよびWatermanの局所的相同性アルゴリズムを用いて、2つの配列間の最も良好な相同性セグメントを見出す(Advances in Applied Mathematics 2:482〜489(1981))。Bestfitまたは任意の他の配列整列プログラムを用いて、特定の配列が、本発明に従う参照配列に対して、例えば、95%同一であるか否かを決定する場合は、同一性のパーセントが参照塩基配列の全長にわたって計算され、そして参照配列におけるヌクレオチド数全体の5%までの相同性におけるギャップが許容されるように、パラメーターが設定される。
特定の実施形態では、参照(QUERY)配列(本発明に係る配列)と対象配列との間の同一性(全体的な配列整列ともいわれる)は、Brutlagらのアルゴリズム(Comp.App.Biosci.6:237〜245(1990))に基づくFASTDBコンピュータープログラムを使用して決定される。%同一性を計算するために、DNA配列のFASTDB整列において使用される好ましいパラメーターは:Matrix=Unitary、k−tuple=4、Mismatch Penalty=1、Joining Penalty=30、Randomization Group Length=0、Cutoff Score=1、Gap Penalty=5、Gap Size Penalty=0.05、Window Size=500または対象塩基配列の長さ(どちらかより短い方)である。この実施形態に従って、対象配列が、5’または3’欠失に起因して(内部の欠失が理由ではなく)QUERY配列よりも短い場合、FASTDBプログラムが、同一性パーセントを算定する場合に、対象配列の5’短縮化および3’短縮化を考慮しないという事実を考慮して、手動の補正が結果に対してなされる。QUERY配列と比較して5’末端または3’末端が短縮化された対象配列については、同一性パーセントは、一致/整列していない、対象配列の5’および3’であるQUERY配列の塩基数を、QUERY配列の総塩基のパーセントとして計算することにより補正される。ヌクレオチドが一致/整列しているか否かの決定は、FASTDB配列整列の結果によって決定される。次いで、このパーセントが、指定されたパラメーターを使用する上記のFASTDBプログラムによって計算された同一性パーセントから差し引かれ、最終的な同一性パーセントスコアに到達する。この補正されたスコアが、本実施形態の目的で使用されるものである。QUERY配列と一致/整列していない対象配列の5’塩基および3’塩基の外側の塩基のみが、FASTDB整列に示されるように、同一性パーセントスコアを手動で調整する目的で計算される。例えば、90塩基の対象配列が、同一性パーセントを決定するために100塩基のQUERY配列と整列される。その欠失は、対象配列の5’末端で生じ、従ってFASTDB整列は、5’末端の最初の10塩基の一致/整列を示さない。10個の不対合塩基は、配列の10%(整合していない5’末端および3’末端での塩基の数/QUERY配列中の塩基の総数)を表し、そのため10%が、FASTDBプログラムによって計算される同一性パーセントのスコアから差し引かれる。残りの90残基が完全に整合する場合、最終的な同一性パーセントは90%である。別の例において、90残基の対象配列が、100塩基のQUERY配列と比較される。この場合、その欠失は内部欠失であり、そのためQUERY配列と整合/整列しない対象配列の5’末端または3’末端の塩基は存在しない。この場合、FASTDBによって算定される同一性パーセントは、手動で補正されない。再度、QUERY配列と整合/整列しない対象配列の5’末端および3’末端の塩基のみが手動で補正される。他の手動の補正は、本実施形態の目的のためにはなされない。
本発明に係るポリペプチドは、アミノ酸がペプチド結合しているポリペプチドであればよいが、これに限定されるものではなく、ポリペプチド以外の構造を含む複合ポリペプチドであってもよい。本明細書中で使用される場合、「ポリペプチド以外の構造」としては、糖鎖およびイソプレノイド基等を挙げることができるが、特に限定されない。
また、本発明に係るポリペプチドは、付加的なポリペプチドを含むものであってもよい。付加的なポリペプチドとしては、例えば、His、Myc、Flag等のエピトープ標識ポリペプチドが挙げられる。
また、本発明に係るポリペプチドは、本発明に係るポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを宿主細胞に導入して、そのポリペプチドを細胞内発現させた状態であってもよいし、細胞、組織などから単離精製されてもよい。また、本発明に係るポリペプチドは、化学合成されてもよい。
他の実施形態において、本発明に係るポリペプチドは、融合タンパク質のような改変された形態で組換え発現され得る。例えば、本発明に係るポリペプチドの付加的なアミノ酸、特に荷電性アミノ酸の領域が、宿主細胞内での、精製の間または引き続く操作および保存の間の安定性および持続性を改善するために、ポリペプチドのN末端またはC末端に付加され得る。
本実施形態に係るポリペプチドは、例えば、融合されたポリペプチドの精製を容易にするペプチドをコードする配列であるタグ標識(タグ配列またはマーカー配列)にN末端またはC末端へ付加され得る。このような配列は、ポリペプチドの最終調製の前に除去され得る。本発明のこの局面の特定の好ましい実施態様において、タグアミノ酸配列は、ヘキサ−ヒスチジンペプチド(例えば、pQEベクター(Qiagen,Inc.)において提供されるタグ)であり、他の中では、それらの多くは公的および/または商業的に入手可能である。例えば、Gentzら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 86:821−824(1989)(本明細書中に参考として援用される)において記載されるように、ヘキサヒスチジンは、融合タンパク質の簡便な精製を提供する。「HA」タグは、インフルエンザ赤血球凝集素(HA)タンパク質由来のエピトープに対応する精製のために有用な別のペプチドであり、それは、Wilsonら、Cell 37:767(1984)(本明細書中に参考として援用される)によって記載されている。他のそのような融合タンパク質は、NまたはC末端にてFcに融合される本実施形態に係るポリペプチドまたはそのフラグメントを含む。
別の実施形態において、本発明に係るポリペプチドは、下記で詳述されるように組換え生成されても、化学合成されてもよい。
組換え生成は、当該分野において周知の方法を使用して行なうことができ、例えば、以下に詳述されるようなベクターおよび細胞を用いて行なうことができる。
合成ペプチドは、化学合成の公知の方法を使用して合成され得る。例えば、Houghtenは、4週間未満で調製されそして特徴付けられたHA1ポリペプチドセグメントの単一アミノ酸改変体を示す10〜20mgの248の異なる13残基ペプチドのような多数のペプチドの合成のための簡単な方法を記載している。Houghten,R.A.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 82:5131−5135(1985)を参照のこと。この「Simultaneous Multiple Peptide Synthesis(SMPS)」プロセスは、さらにHoughtenら(1986)の米国特許第4,631,211号に記載される。この手順において、種々のペプチドの固相合成のための個々の樹脂は、別々の溶媒透過性パケットに含まれ、固相法に関連する多くの同一の反復工程の最適な使用を可能にする。完全なマニュアル手順は、500〜1000以上の合成が同時に行われるのを可能にする(Houghtenら、前出、5134)。これらの文献は、本明細書中に参考として援用される。
このように、本発明に係るポリペプチドは、少なくとも、配列番号2、4、6、8または10に示されるアミノ酸配列を含むかまたはその活性を保持した変異体であればよいといえる。すなわち、上記ポリペプチドと特定の機能(例えば、タグ)を有する任意のアミノ酸配列とが連結されたポリペプチドも本発明に含まれることに留意すべきである。また、上記ポリペプチドと特定の機能(例えば、タグ)を有する任意のアミノ酸配列とは、それぞれの機能を阻害しないように適切なリンカーペプチドで連結されていてもよい。
つまり、本発明の目的は、vhd活性を有するポリペプチドを提供することにあるのであって、本明細書中に具体的に記載したポリペプチド作製方法等に存するのではない。したがって、上記各方法以外によって取得されるvhd活性を有するポリペプチドも本発明の技術的範囲に属することに留意しなければならない。
(3:ポリヌクレオチド)
1つの局面において、本発明は、vhd活性を有する本発明に係るポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを提供する。本明細書中で使用される場合、用語「ポリヌクレオチド」は、「遺伝子」、「核酸」または「核酸分子」と交換可能に使用され、ヌクレオチドの重合体が意図される。本明細書中で使用される場合、用語「塩基配列」は、「核酸配列」または「ヌクレオチド配列」と交換可能に使用され、デオキシリボヌクレオチド(A、G、CおよびTと省略される)の配列として示される。また、「配列番号1に示される塩基配列を含むポリヌクレオチドまたはそのフラグメント」とは、配列番号1の各デオキシヌクレオチドA、G、Cおよび/またはTによって示される配列を含むポリヌクレオチドまたはその断片部分が意図される。
本発明に係るポリヌクレオチドは、RNA(例えば、mRNA)の形態、またはDNAの形態(例えば、cDNAまたはゲノムDNA)で存在し得る。DNAは、二本鎖または一本鎖であり得る。一本鎖DNAまたはRNAは、コード鎖(センス鎖としても知られる)であり得るか、または、非コード鎖(アンチセンス鎖としても知られる)であり得る。
本明細書中で使用される場合、用語「オリゴヌクレオチド」は、ヌクレオチドが数個ないし数十個結合したものが意図され、「ポリヌクレオチド」と交換可能に使用される。オリゴヌクレオチドは、短いものはジヌクレオチド(二量体)、トリヌクレオチド(三量体)といわれ、長いものは30マーまたは100マーというように重合しているヌクレオチドの数で表される。オリゴヌクレオチドは、より長いポリヌクレオチドのフラグメントとして生成されても、化合合成されてもよい。
本発明に係るポリヌクレオチドのフラグメントは、少なくとも12nt(ヌクレオチド)、好ましくは約15nt、そしてより好ましくは少なくとも約20nt、なおより好ましくは少なくとも約30nt、そしてさらにより好ましくは少なくとも約40ntの長さのフラグメントが意図される。少なくとも20ntの長さのフラグメントによって、例えば、配列番号1に示される塩基配列からの20以上の連続した塩基を含むフラグメントが意図される。本明細書を参照すれば配列番号1に示される塩基配列が提供されるので、当業者は,配列番号1に基づくDNAフラグメントを容易に作製することができる。例えば、制限エンドヌクレアーゼ切断または超音波による剪断は、種々のサイズのフラグメントを作製するために容易に使用され得る。あるいは、このようなフラグメントは、合成的に作製され得る。適切なフラグメント(オリゴヌクレオチド)が、Applied Biosystems Incorporated(ABI,850 Lincoln Center Dr.,Foster City,CA 94404)392型シンセサイザーなどによって合成される。
また本発明に係るポリヌクレオチドは、その5’側または3’側で上述のタグ標識(タグ配列またはマーカー配列)をコードするポリヌクレオチドに融合され得る。
一実施形態において、本発明に係るポリヌクレオチドは、vhd活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドであることが好ましい。
別の局面において、本発明は、vhd活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの変異体を提供する。「変異体」は、天然の対立遺伝子変異体のように、天然に生じ得る。「対立遺伝子変異体」によって、生物の染色体上の所定の遺伝子座を占める遺伝子のいくつかの交換可能な形態の1つが意図される。天然に存在しない変異体は、例えば当該分野で周知の変異誘発技術を用いて生成され得る。
一実施形態において、本発明に係るポリヌクレオチドは、vhd活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの塩基配列において1または数個の塩基が欠失、挿入、置換、または付加された変異体が好ましい。変異体は、コードもしくは非コード領域、またはその両方において変異され得る。コード領域における変異は、保存的または非保存的なアミノ酸の欠失、挿入、置換、または付加を生成し得る。
本実施形態において、本発明に係るポリヌクレオチドは、vhd活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドであり、
(a)配列番号1、3、5、7もしくは9に示される塩基配列からなるポリヌクレオチド;または
(b)配列番号1、3、5、7もしくは9に示される塩基配列において、1個もしくは数個の塩基が欠失、挿入、置換、もしくは付加された塩基配列からなるポリヌクレオチド
のいずれかであることが好ましい。
他の実施形態において、本発明に係るポリヌクレオチドは、ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下で、vhd活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドまたは当該ポリヌクレオチドにハイブリダイズするポリヌクレオチドを含む、単離したポリヌクレオチドが好ましい。
本実施形態において、本発明に係るポリヌクレオチドは、vhd活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドであって、以下:
(a)配列番号1、3、5、7もしくは9に示される塩基配列からなるポリヌクレオチド;または
(b)配列番号1、3、5、7もしくは9に示される塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチド、
のいずれかであることが好ましい。
さらなる実施形態において、本発明は、配列番号1、3、5、7または9に示される塩基配列と少なくとも80%同一、より好ましくは少なくとも85%、90%、92%、95%、96%、97%、98%または99%同一である塩基配列からなるポリヌクレオチドを提供する。
本実施形態において、本発明に係るポリヌクレオチドは、vhd活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドであって、以下:
(a)配列番号1、3、5、7もしくは9に示される塩基配列からなるポリヌクレオチド;または
(b)配列番号1、3、5、7もしくは9に示される塩基配列と少なくとも80%同一である塩基配列からなるポリヌクレオチド、
のいずれかであることが好ましい。
別の局面において、本発明は、上記ポリヌクレオチドのフラグメントまたはその相補配列からなるオリゴヌクレオチドを提供する。
本発明に係るオリゴヌクレオチドが本発明に係るポリペプチドをコードしない場合でさえ、当業者は、本発明に係るポリヌクレオチドが、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)のプライマーとして本発明に係るポリペプチドを作製するために使用され得ることを容易に理解する。本発明に係るポリペプチドをコードしない本発明に係るオリゴヌクレオチドの他の用途としては、以下が挙げられる:(1)cDNAライブラリー中のvhd遺伝子またはその対立遺伝子もしくはスプライシング改変体の単離;(2)vhd遺伝子の正確な染色体位置を提供するための、分裂中期染色体スプレッドへのインサイチュハイブリダイゼーション(例えば、「FISH」)(Vermaら,Human Chromosomes:A Manual of Basic Techniques,Pergamon Press,New York(1988)に記載される);および(3)特定の組織におけるvhdのmRNA発現を検出するためのノーザンブロット分析。
本発明に係るオリゴヌクレオチドは、2本鎖DNAのみならず、それを構成するセンス鎖およびアンチセンス鎖といった1本鎖のDNAまたはRNAを包含する。本発明に係るオリゴヌクレオチドは、アンチセンスRNAメカニズムによる遺伝子発現操作のためのツール(例えば、モルフォリノオリゴヌクレオチド)として使用することができる。アンチセンスRNA技術によって、内因性遺伝子に由来する遺伝子産物の減少が観察される。本発明に係るオリゴヌクレオチドを導入することによって、vhd活性を有するポリペプチドの含量を低下させ得、その結果、本発明に係るオリゴヌクレオチドは、過剰発現した安定型β−カテニンに起因する内胚葉形成不全を生じている胚を救助する、すなわち、内胚葉を正常に形成させることができる。本発明に係るオリゴヌクレオチドは、非翻訳領域(UTR)の配列やベクター配列(発現ベクター配列を含む)などの配列を含むものであってもよい。
一実施形態において、本発明に係るオリゴヌクレオチドは、配列番号11〜15に示される塩基配列からなることが好ましい。
本発明に係るポリヌクレオチドまたはオリゴヌクレオチドを取得する方法としては、本発明に係るポリヌクレオチドまたはオリゴヌクレオチドを含むDNA断片を単離する種々の公知の方法が挙げられる。例えば、本発明に係るポリヌクレオチドの塩基配列の一部と特異的にハイブリダイズするプローブを調製して、ゲノムDNAライブラリーまたはcDNAライブラリーをスクリーニングすれば、本発明に係るポリヌクレオチドまたはオリゴヌクレオチドを取得することができる。このようなプローブとしては、本発明に係るポリヌクレオチドの塩基配列またはその相補配列の少なくとも一部に特異的にハイブリダイズするポリヌクレオチド(オリゴヌクレオチド)であればよい。
このようなハイブリダイゼーションによって選択されるポリヌクレオチドとしては、天然のポリヌクレオチド(例えば、ホヤ由来のポリヌクレオチド)が挙げられるが、ホヤ以外に由来するポリヌクレオチドであってもよい。
本発明に係るポリヌクレオチドまたはオリゴヌクレオチドを取得する別の方法として、PCRを用いる方法が挙げられる。このPCR増幅方法は、例えば、本発明に係るポリヌクレオチドのcDNAの5’側および/または3’側の配列(またはその相補配列)を利用してプライマーを調製する工程、これらのプライマーを用いてゲノムDNA(またはcDNA)等をテンプレートにしてPCR増幅する工程を包含することを特徴としており、本方法を使用すれば、本発明に係るポリヌクレオチドを含むDNA断片を大量に取得することができる。
本発明に係るポリヌクレオチドを取得するための供給源としては、特に限定されないが、ヒトまたはマウスなどの諸器官のような生物材料であることが好ましい。本明細書中で使用される場合、用語「生物材料」は、生物学的サンプル(生物体から得られた組織サンプルまたは細胞サンプル)が意図される。下述する実施例においては、ホヤ胚を用いているが、これに限定されない。
本発明に係るオリゴヌクレオチドは、vhd活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを検出するハイブリダイゼーションプローブまたは当該ポリヌクレオチドを増幅するためのプライマーとして利用することによって、vhd活性を有するポリペプチドを発現する生物または組織を容易に検出することができる。なおさらに、上記オリゴヌクレオチドをアンチセンスオリゴヌクレオチド(モルフォリノオリゴヌクレオチド)として使用して、上記生物体またはその組織もしくは細胞におけるvhd活性を有するポリペプチドの発現を抑制することができる。
本発明の目的は、vhd活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、および当該ポリヌクレオチドとハイブリダイズするオリゴヌクレオチドを提供することにあるのであって、本明細書中に具体的に記載したポリヌクレオチドおよびオリゴヌクレオチドの作製方法等に存するのではない。したがって、上記各方法以外によって取得されるvhd活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドまたはそのフラグメントからなるオリゴヌクレオチドもまた本発明の技術的範囲に属することに留意しなければならない。
(4:本発明に係るポリペプチドまたはポリヌクレオチドの利用)
本発明はさらに、本発明に係るポリペプチドまたはポリヌクレオチドもしくはオリゴヌクレオチドを用いることによって内胚葉を正常に形成させるための方法およびキットを提供する。
(4−1:ベクター)
本発明は、vhd活性を有するポリペプチドを生成するために使用されるベクターを提供する。本発明に係るベクターは、インビトロ翻訳に用いるベクターであっても組換え発現に用いるベクターであってもよい。
本発明に係るベクターは、上述した本発明に係るポリヌクレオチドを含むものであれば、特に限定されない。例えば、vhd活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドのcDNAが挿入された組換え発現ベクターなどが挙げられる。組換え発現ベクターの作製方法としては、プラスミド、ファージ、またはコスミドなどを用いる方法が挙げられるが特に限定されない。
ベクターの具体的な種類は特に限定されず、宿主細胞中で発現可能なベクターが適宜選択され得る。すなわち、宿主細胞の種類に応じて、確実に本発明に係るポリヌクレオチドを発現させるために適宜プロモーター配列を選択し、これと本発明に係るポリヌクレオチドを各種プラスミド等に組み込んだベクターを発現ベクターとして用いればよい。
本発明に係る発現ベクターは、導入されるべき宿主の種類に依存して、発現制御領域(例えば、プロモーター、ターミネーター、および/または複製起点等)を含有する。細菌用発現ベクターのプロモーターとしては、慣用的なプロモーター(例えば、trcプロモーター、tacプロモーター、lacプロモーター等)が使用され、酵母用プロモーターとしては、例えば、グリセルアルデヒド3リン酸デヒドロゲナーゼプロモーター、PH05プロモーター等が挙げられ、糸状菌用プロモーターとしては、例えば、アミラーゼ、trpC等が挙げられる。また動物細胞宿主用プロモーターとしては、ウイルス性プロモーター(例えば、SV40初期プロモーター、SV40後期プロモーター等)が挙げられる。発現ベクターの作製は、制限酵素および/またはリガーゼ等を用いる慣用的な手法に従って行うことができる。発現ベクターによる宿主の形質転換もまた、慣用的な手法に従って行うことができる。
上記発現ベクターを用いて形質転換された宿主を、培養、栽培または飼育した後、培養物等から慣用的な手法(例えば、濾過、遠心分離、細胞の破砕、ゲル濾過クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー等)に従って、目的タンパク質を回収、精製することができる。
発現ベクターは、少なくとも1つの選択マーカーを含むことが好ましい。このようなマーカーとしては、真核生物細胞培養についてはジヒドロ葉酸レダクターゼまたはネオマイシン耐性、およびE.coliおよび他の細菌における培養についてはテトラサイクリン耐性遺伝子またはアンピシリン耐性遺伝子が挙げられる。
上記選択マーカーを用いれば、本発明に係るポリヌクレオチドが宿主細胞に導入されたか否か、さらには宿主細胞中で確実に発現しているか否かを確認することができる。あるいは、本発明に係るポリペプチドを融合ポリペプチドとして発現させてもよく、例えば、オワンクラゲ由来の緑色蛍光ポリペプチドGFP(Green Fluorescent Protein)をマーカーとして用い、本発明に係るポリペプチドをGFP融合ポリペプチドとして発現させてもよい。
上記の宿主細胞は、特に限定されるものではなく、従来公知の各種細胞を好適に用いることができる。具体的には、例えば、大腸菌(Escherichia coli)等の細菌、酵母(出芽酵母Saccharomyces cerevisiae、分裂酵母Schizosaccharomyces pombe)、線虫(Caenorhabditis elegans)、アフリカツメガエル(Xenopus laevis)の卵母細胞等を挙げることができるが、特に限定されない。上記の宿主細胞のための適切な培養培地および条件は当分野で周知である。
上記発現ベクターを宿主細胞に導入する方法、すなわち形質転換法も特に限定されるものではなく、電気穿孔法、リン酸カルシウム法、リポソーム法、DEAEデキストラン法等の従来公知の方法を好適に用いることができる。また、例えば、本発明に係るポリペプチドを昆虫で転移発現させる場合には、バキュロウイルスを用いた発現系を用いればよい。
本発明に係るベクターを使用すれば、上記ポリヌクレオチドを生物または細胞に導入すれば、当該生物または細胞中にvhd活性を有するポリペプチドを発現させることができる。さらに、本発明に係るベクターを無細胞タンパク質合成系に用いれば、vhd活性を有するポリペプチドを合成することができる。
このように、本発明に係るベクターは、少なくとも、本発明に係るポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含めばよいといえる。すなわち、発現ベクター以外のベクターも、本発明の技術的範囲に含まれる点に留意すべきである。
つまり、本発明の目的は、本発明に係るポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含有するベクターを提供することにあるのであって、本明細書中に具体的に記載した個々のベクター種および細胞種、ならびにベクター作製方法および細胞導入方法に存するのではない。したがって、上記以外のベクター種およびベクター作製方法を用いて取得したベクターも本発明の技術的範囲に属することに留意しなければならない。
(4−2:形質転換体)
本発明は、上述したvhd活性を有するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドが導入された形質転換体を提供する。本明細書中で使用される場合、用語「形質転換体」は、細胞、組織または器官だけでなく、生物個体をも含むことが意図される。
本発明に係る形質転換体は、上述したvhd活性を有するポリペプチドが発現されていることを特徴とする。本発明に係る形質転換体は、vhd活性を有するポリペプチドが安定的に発現することが好ましい。
一実施形態において、本発明に係る形質転換体は、本発明に係るポリヌクレオチドを含む組換えベクターを、当該ポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチドが発現され得るように生物中に導入することによって取得される。本実施形態に係る形質転換体は、原核生物であっても真核生物であってもよい。
(4−3:内胚葉を正常に形成させるための方法、組成物およびキット)
本発明は、本発明に係るオリゴヌクレオチドを含む、内胚葉を正常に形成させるための組成物を提供する。本発明に係る組成物は、上述したオリゴヌクレオチド以外の試薬などを含んでもよい。
本発明に係るオリゴヌクレオチドを含む組成物は、内胚葉を正常に形成させるために、特に、β−カテニンの過剰発現に起因する内胚葉形成不全胚をレスキューするために使用されることが好ましい。
本発明は、本発明に係るオリゴヌクレオチドを含む、内胚葉を正常に形成させるためのキットを提供する。本発明に係るキットは、上述したオリゴヌクレオチド以外の試薬を含んでもよい。
本発明に係るオリゴヌクレオチドを備えるキットは、内胚葉を正常に形成させるために、特に、β−カテニンの過剰発現に起因する内胚葉形成不全胚をレスキューするために使用されることが好ましい。
本発明はさらに、本発明に係るオリゴヌクレオチドを用いる、内胚葉を正常に形成させるための方法を提供する。一実施形態において、本発明に係る培養方法は、本発明に係るオリゴヌクレオチドをβ−カテニンの過剰発現に起因する内胚葉形成不全胚に導入する工程を包含する。本発明に係る方法は、上述した工程以外の工程を包含してもよい。
本発明に係るオリゴヌクレオチドを用いる方法は、内胚葉を正常に形成させるために、特に、β−カテニンの過剰発現に起因する内胚葉形成不全胚をレスキューするために使用されることが好ましい。
本発明は、以下の実施例によってさらに詳細に説明されるが、これに限定されるべきではない。
(実施例1:材料およびツールの調製、ならびに実験手順)
〔1.一般的な分子生物学的操作〕
DNA調製、制限酵素によるDNAの切断、ライゲーション反応、PCR反応を、一般的なプロトコルに従って行った(バイオ実験イラストレイテッド1〜3巻、秀潤社)。
〔2.カタユウレイボヤの入手〕
カタユウレイボヤCiona intestinalisとして、京都大学フィールド科学教育研究センター舞鶴水産実験所、東京大学海洋研究所国際沿岸海洋研究センターおよび広島大学大学院理学研究科付属臨海実験所の周辺の海に自生するものを採取して使用した。
〔3.モルフォリノオリゴヌクレオチドの購入と使用〕
モルフォリノオリゴヌクレオチド(MO)の原理は、以下の通りである。
MOは、標的遺伝子のmRNAの5’末端から開始コドンの下流25塩基までの範囲内の部位に対して相補的な配列を持つように設計される。このようなMOは、mRNAへのリボソームのエントリーを妨げ、その結果、mRNAからタンパク質への翻訳を効果的に阻害し、遺伝子の機能阻害を引き起こす。MO実験において、発生中のMO注入胚内ではMOが標的遺伝子の翻訳を抑制する。標的遺伝子が発生に必要なタンパク質をコードする場合、MO注入胚は異常を呈するようになる。すなわち、MO実験によって確認される胚の表現型の変化は、タンパク質生成阻害の効果を示すものである。よって、タンパク質を分離・精製するまでもなく、MO実験は、標的遺伝子によってコードされるタンパク質の存在を実際に確認している実験であるということを、当業者は容易に理解する。
実際のMOの設計および作製を、米国のGeneTools社に依頼した。MO乾燥標品を滅菌蒸留水に溶解してストック溶液とした。ストック溶液の一部を滅菌蒸留水でさらに希釈した後、注入確認用の色素(Fast Green)を添加して、実験用のMO溶液を得た。実験の目的に応じて溶液中のMO濃度を変化させた。標的遺伝子の機能を可能な限り阻害するためにMOを使用する場合、MOの濃度を0.5mMとした。Fast Greenの濃度は常に5mg/mlである。以前にクローニングした、ホヤにおいて発生段階初期に発現する遺伝子について、そのcDNA配列に基づいてMOを作製した。
〔4.顕微注入のための注入針の調製〕
顕微注入のために用いる注射針を以下のように調整した。
A.ガラス管(Narishige社)をプラー(Narishige杜)により引き、徐々に先細となり先端が閉じている形状の注入針を作製する。
B.顕微注入する溶液(MOまたはmRNAと注入確認用の色素とを含む溶液)を、注入針の先端に約0.5μl充填する。続いてシリコンオイルを注入針全体に充填する。
C.注入針をマイクロマニュピレーター(Narishige杜)に取り付ける。注入針の先端をシャーレの縁に接触させて、先端の穴の直径が5μm以下になるように折る。
〔5.顕微注入のためのカタユウレイボヤ卵の調製〕
カタユウレイボヤ卵の調製を以下のように行った。
A.作業を全て18℃の室温の部屋で行った。成熟した卵と精子を有するカタユウレイボヤ(雌雄同体である)の被嚢と筋膜体とを鋏で切り裂き、輸卵管と輸精管を剥きだしにした。輸卵管に穴を開け、卵をMFSW(ミリポアフィルター(millipore杜)で濾過し、50mg/mlの濃度でアンピシリンを加えた海水で満たした直径5cmのプラスチックシャーレ(FALCON社)に移した。輸精管に穴を開け、バスツールピペットを用いて精子をエッペンドルフチューブに移した。
B.シャーレ中の卵を約8mlのMFSWと共にガラス製の10mlスピッツ管に移し、卵が底に沈むまでスピッツ管を静置した。
C.スピッツ管のMFSWを破棄し、約10mlのコリオン除去液をスピッツ管に加えた。スピッツ管を約4分間静置したのち、駒込ピペットで卵を含むコリオン除去液を撹拝した。撹拌を約90%の卵のコリオンが除去されるまで続け、次いで、卵が底に沈むまでスピッツ管を静置した。
D.スピッツ管の溶液を破棄し、約10mlのMFSWをスピッツ管に加えた。卵が底に沈むまでスピッツ管を静置した。これを5回繰り返した。
E.スビッツ管の底に沈んだ卵を駒込ピペットでMFSWと共に吸い、MFSWを満たした寒天コートシャーレ(0.9%になるようMFSWに寒天を加え電子レンジで溶解させたものを直径5cmのブラスチックシャーレの底に約2mmの厚さになるよう流し込み固めたもの)に移した。
〔6.カタユウレイボヤ卵に対するMO顕微注入〕
以下の手順に従って、MOを顕微注入用のガラス針に充填し、マイクロマニュピレーターを用いてカタユウレイボヤの未受精卵に実体顕微鏡下で注入した。
A.作業を全て18℃の室温の部屋で行った。実体顕微鏡下で、MFSWを満たした寒天コートシャーレにコリオンを除去したカタユウレイボヤ卵を並べた。
B.マイクロマニュビレーターを用いて注入針の先端を卵に挿入した。シリンジを押して溶液を卵内に穏やかに注入した。注入した溶液の液滴の直径が卵の直径の4分の1になるまで注入した。注入されたMOの卵内での最終濃度が、MOによる標的遺伝子の翻訳阻害が効率よく起こるのに十分な濃度とされている約8μMになるように、MO溶液を卵内に注入した。注入針の先端を卵から抜いた。
C.注入後、MFSWを満たした寒天コートシャーレに卵を移した。別個の固体由来の精子で卵を受精させ、MFSWを満たした寒天コートシャーレ中で発生させた。発生した注入胚を適宜固定し、以後の解析(組織化学染色法やホールマウント・インシチュ・ハイブリダイゼーション法など)に用いた。
〔7.遺伝子特異的DIG標識アンチセンスRNAプローブの調製〕
一般的なプロトコルに従って行った(脱アイソトープ実験ブロトコル、秀潤杜)。ブローブ作製に使用した遺伝子ごとのcDNAクローンは以下の通りである:Ci−Epi1(cilv030p03;Chiba et al.,1998)、Ci−ETR(citb028e11;Satou et al.,2001)、Ci−talin(cilv003P23;Satou et al.,2001)、Ci−AKR1a(ciad005j06;Tokuoka et al.,2004)、Ci−lhx3(cilv006c13;Imai et al.,2004)、Ci−Otx(cicl045e03;Imai et al.,2004)、Ci−FoxD(citb008o13;Imai et al.,2004)、Fgf9/16/20(citb007k01;Imai et al.,2004)、vhd1(DDBJ/GenBank/EMBLアクセッション番号:AK116772)、vhd2(DDBJ/GenBank/EMBLアクセッション番号:AK114193)、vhd3(DDBJ/GenBank/EMBLアクセッション番号:AK115978)、vhd4(DDBJ/GenBank/EMBLアクセッション番号:AK112925)、vhd5(DDBJ/GenBank/EMBLアクセッション番号:AK113651)。
〔8.安定型β−カテニン mRNAの調製〕
以下の手順に従って、安定型β−カテニン mRNAを調製した。
β−カテニンのcDNAクローン(DDBJ/GenBank/EMBLアクセッション番号:AB031543)からcDNA部分を制限酵素BamHIおよびXhoIを用いて切り出し、得られたDNA断片をpBluescriptRN3(mRNA合成用ベクター;Lemaire et al.,1995)のNotI認識配列の隣(EcoRI認識配列とは反対側)にXhoI認識配列を付加したものを制限酵素BglIIとXhoIで切断したDNAに連結して、β−カテニンcDNAをmRNA合成用ベクターに挿入した構築物を作製した(pBluescriptRN3/β−カテニン)。
次いで、β−カテニンのcDNAクローンのDNAを鋳型として、プライマー(Invitrogen社のカスタムプライマー:配列は、TTGCCCGGGATGATAAGTGGGGCAAGC(配列番号16)およびCAAAAGTAGGTTATGCAG(配列番号17))を用いてPCR反応を行い、β−カテニンを安定化させるために除去すべきタンバク質のN末端に相当する領域を除いたcDNAの一部を増幅した。このPCR産物を制限酵素SmaIおよびEcoRIで切断して得たDNA断片をpBluescriptRN3/β−カテニンを制限酵素SmaIとEcoRIで切断したDNAに連結して、安定型β−カテニンcDNAをmRNA合成用ベクターに挿入した構築物を作製した。この構築物のDNAを鋳型として用いて、mMESSAGEmMACHINEキット(Ambion杜)を使ってmRNAを合成した(方法はキット添付のプロトコルによる)。合成したmRNAを、MOおよび注入確認用の色素(FastGreen)を含む溶液とした(mRNAの濃度は2μg/mlとした。MOの濃度は0.5mMとした。FastGreenの濃度は常に5mg/ml)。この溶液を顕微注入実験に用いた(この場合、注入されたmRNAの卵内での最終濃度は約32ng/μlとなる)。
〔9.ホールマウント・インシチュ・ハイブリダイゼーション〕
以下の手順に従って、ホールマウント・インシチュ・ハイブリダイゼーションを行った。
1.胚を固定した。シャーレ中の胚を10〜20μlの海水と共にピペットで吸い、1.5mlのエッペンドルフチューブに移した。1mlの固定液(4%パラホルムアルデヒド、0.1M MOPS(pH8.0)、0.5M NaCl)を加え、チューブを4℃で16時間静置した。
2.チューブ内の液を除き、30%EtOHを1ml加え、胚が沈むまでチューブを静置した。チューブ内の液を除き、50%EtOHを1ml加え、胚が沈むまでチューブを静置した。チューブ内の液を除き、80%EtOHを1ml加えた。−30℃で以下の工程を開始するまでこの状態で保存した。
3.チューブ内の液を除き、50%EtOHを200μl加え、胚が沈むまでチューブを静置した。チューブ内の液を除き、30%EtOHを200μl加えた。胚が沈むまでチューブを静置した。
4.チューブ内の液を除き、PBSTを200μl加え、胚が沈むまでチューブを静置した。これを3回繰り返した。
5.チューブ内の液を除き、5μg/mlプロテーナーゼKを含むPBSTを200μl加え、チューブを37℃で15分間静置した。
6.チューブ内の液を除き、4%パラホルムアルデヒドを含むPBSTを200μl加え、チューブを室温(20〜25℃)で1時間静置した。
7.チューブ内の液を除き、PBSTを200μl加え、胚が沈むまでチューブを静置した。これを2回繰り返した。
8.チューブ内の液を除き、プレハイブリダイゼーション液(5×SSC、50%ホルマリン、1%SDS、5×Denhardt’s solution、100μg/ml tRNA)を200μl加え、チューブを50℃で1時間静置した。
9.チューブ内の液を除き、0.5ng/μlの遺伝子特異的DIG標識アンチセンスRNAプローブを含むプレハイブリダイゼーション液を200μl加え、チューブを50℃で16時間静置した。
10.チューブ内の液を除き、ブローブ洗浄液1(5×SSC、50%ホルマリン、1%SDS)を200μl加え、チューブを50℃で20分静置した。これを2回繰り返した。
11.チューブ内の液を除き、プローブ洗浄液2(2×SSC、50%ホルマリン、1%SDS)を200μl加え、チューブを37℃で20分静置した。これを2回繰り返した。
12.チューブ内の液を除き、2×SSCTを200μl加え、胚が沈むまでチューブを静置した。これを3回繰り返した。
13.チューブ内の液を除き、20μg/ml RNaseAを含む2×SSCTを200μl加えた。37℃で20分間静置した。
14.チューブ内の液を除き、2×SSCTを200μl加え、胚が沈むまでチューブを静置した。これを3回繰り返した。
15.チューブ内の液を除き、2×SSCTを200μl加え、チューブを50℃で20分静置した。これを2回繰り返した。
16.チューブ内の液を除き、0.2×SSCTを200μl加え、チューブを37℃で20分静置した。
17.チューブ内の液を除き、PBSTを200μl加え、胚が沈むまでチューブを静置した。
18.チューブ内の液を除き、ブロッキング液(0.5% blocking reagent(Roche社)、100mM Tris−Cl(pH8.0)、150mM NaCl)を200μl加え、チューブを室温で1時間静置した。
19.チューブ内の液を除き、抗体液(anti−DIG−antibody(Roche社)をブロッキング液で1/2000倍に希釈したもの)を200μl加え、チューブを4℃で16時間静置した。
20.チューブ内の液を除き、PBSTを200μl加え、チューブを室温で20分静置した。これを4回繰り返した。
21.チューブ内の液を除き、APバッファー(100mM Tris−Cl(pH8.0)100mM NaCl、50mM MgCl)を200μl加え、チューブを室温で10分静置した。これを3回繰り返した。
22.チューブ内の液を取り除き、発色液(100mM Tris−Cl(pH8.0)、100mM NaCl、50mM MgCl、0.175mg/ml BCIP、0.45mg/ml NBT)を200μl加えた。チューブを室温で静置し、発色するまで(24〜72時問)反応させた。
23.チューブ内の液を除き、PBSTを200μl加え、胚が沈むまでチューブを静置した。これを3回繰り返した。実体顕微鏡の下で染色の様子を観察した。
〔10.カタユウレイボヤ胚におけるアルカリ・フォスファターゼの活性染色〕
以下の手順に従ってカタユウレイボヤ胚に対するアルカリ・フォスファターゼの活性染色を行った。
1.胚を固定した。シャーレ中の胚を10〜20μlの海水と共にピペットで吸い、1.5mlのエッペンドルフチューブに移した。200μlの固定液(4%パラホルムアルデヒド、0.1M MOPS(pH8.0)、0.5M NaCl)を加え、チューブを室温(20〜25℃)で30分静置した。
2.チューブ内の液を取り除き、発色液(100mM Tris−Cl(pH9.5)、100mM NaCl、50mM MgCl、0.175mg/ml BCIP、0.45mg/ml NBT)を200μl加え、胚が沈むまでチューブを静置した。これを4回繰り返した。
3.室温で発色させた(反応時間は30分間〜1時間)。
4.チューブ内の液を取り除き、PBSTを500μl加えて、反応を停止させた。胚が沈むまでチューブを静置した。これを3回繰り返した。実体顕微鏡下で染色の様子を観察した。
〔11.カタユウレイボヤ胚におけるアセチルコリン・エステラーゼの活性染色〕
以下の手順に従ってカタユウレイボヤ胚に対するアセチルコリン・エステラーゼの活性染色を行った。
1.胚を固定した。シャーレ中の胚を10〜20μlの海水と共にピペットで吸い、1.5mlのエッペンドルフチューブに移した。200μlの固定液(4%パラホルムアルデヒド、0.1M MOPS(pH8.0)、0.5M NaCl)を加え、チューブを室温(20〜25℃)で30分静置した。
2.チューブ内の液を除き、発色液(0.65M リン酸緩衝液(pH6.0)、5mM クエン酸ナトリウム、3mM 硫酸銅、0.5mM フェリシアン化カリウム、0.05%ヨウ化アセチルコリン)を200μl加え、胚が沈むまでチューブを静置した。これを3回繰り返した。
3.室温で発色させた(反応時間は1時問〜2時間)。
4.チューブ内の液を取り除き、PBSTを500μl加えて、反応を停止させた。胚が沈むまでチューブを静置した。これを3回繰り返した。実体顕微鏡下で染色の様子を観察した。
(実施例2:発生段階初期に発現する遺伝子に対するMO実験)
ホヤの発生段階初期に発現する遺伝子について個体レベルでの機能解析を行なうために、実施例1に記載の手順に従って、カタユウレイボヤの未受精卵にこれらの遺伝子のアンチセンスオリゴヌクレオチド(モルフォリノオリゴヌクレオチド)を注入し、受精後に発生した胚の表現型を調べた。
その結果、モルフォリノオリゴヌクレオチド(MO)を注入したカタユウレイボヤの胚において、β−カテニンの機能を阻害した胚と類似した表現型を示すものを5つ見出し、vegetal hemisphere defective(vhd)1〜5と名付けた(各々の塩基配列およびアミノ酸配列を、配列番号1および2(vhd1)、配列番号3および4(vhd2)、配列番号5および6(vhd3)、配列番号7および8(vhd4)、配列番号9および10(vhd5)に示す)。
具体的には、各vhd遺伝子のMOを注入したカタユウレイボヤの胚は,β−カテニンの機能を阻害した胚と同様に、内胚葉および脊索の消失、ならびに表皮領域の拡大が見られた。しかし、この5つの遺伝子(vhd1〜5)は、β−カテニンと配列相同性を有さなかった。また、各vhd遺伝子に対するMOは全て開始コドンを含む領域が標的配列であった(配列番号11〜15)。
(実施例3:vhd遺伝子に対するMOを注入したカタユウレイボヤ胚における組織特異的文化マーカー発現の検出)
本発明者らは、vhd遺伝子の機能を調べるために、実施例1に記載の手順に従って、vhd遺伝子に対するMOの注入がカタユウレイボヤ胚の組織分化に与える影響を調べた。
カタユウレイボヤ胚を構成する6つの主要な組織(内胚葉、筋肉、間充織、脊索、表皮、神経系)について、MO注入胚における組織特異的分化マーカーの発現を調べた。内胚葉の分化マーカーには内胚葉特異的に発現する酵素であるアルカリ・フォスファターゼを用いた。アルカリ・フォスファターゼの発現は、その酵素活性を組織化学染色法で可視化することにより検出した。筋肉の分化マーカーには筋肉特異的に発現する酵素であるアセチルコリン・エステラーゼを用いた。アセチルコリン・エステラーゼの発現は、その酵素活性を組織化学染色法で可視化することにより検出した。間充織、脊索、表皮、神経系の分化マーカーにはそれぞれ遺伝子Ci−AKR1a、Ci−talin、Ci−Epi1、Ci−ETRを用いた。各遺伝子の発現は、そのmRNAをホールマウント・インシチュ・ハイブリダイゼーション法で可視化することにより検出した。発現領域の消失、減少もしくは拡大が起きているかどうかは、実体顕微鏡での観察により判断した。各vhd遺伝子に対するMO(卵内の最終濃度8μM)を未受精卵に顕微注入し、受精後、尾芽胚まで培養し、上記の方法によりそれぞれの組織特異的分化マーカーの発現を調べた。
その結果、全てのvhd遺伝子に共通して、MO注入胚では内胚葉分化マーカーの発現領域の消失または著しい減少(MO注入胚の100%で起こった)、脊索分化マーカーの発現領域の消失または著しい減少(MO注入胚の100%で起こった)、表皮分化マーカーの発現領域の拡大(MO注入胚の100%で起こった)が見られた。これらの特徴は過去の論文により報告されているβ−カテニンに対するMOを注入した胚における組織分化の特徴と一致した。これらの結果は、β−カテニンと各vhd遺伝子の機能阻害によって類似した異常がカタユウレイボヤ胚に引き起こされることを示す。このことは、各vhd遺伝子がカタユウレイボヤ胚の組織分化過程でβ−カテニンと機能的に関係している可能性を示唆する。
(実施例4:vhd遺伝子に対するMOを注入したカタユウレイボヤ胚におけるβ−カテニン下流遺伝子の発現の検出)
過去の論文報告において、カタユウレイボヤの卵割期胚においてβ−カテニンの働きにより転写が活性化される遺伝子(β−カテニン下流遺伝子と称する)が複数明らかにされている。これらのβ−カテニン下流遺伝子は、β−カテニンに対するMOを注入した胚において発現が消失もしくは著しく減少する。もしも各vhd遺伝子の機能がβ−カテニンの機能に必要であれば、各vhd遺伝子の機能阻害によりβ−カテニン下流遺伝子の発現が消失もしくは減少する可能性が考えられる。そこで、各vhd遺伝子に対するMOを顕微注入したカタユウレイボヤ胚における4つのβ−カテニン下流遺伝子(Ci一FoxD、Ci−lhx3、Ci−Otx、Ci−Fgf9/16/20)の32細胞期における発現を、実施例1に記載の手順に従って、ホールマウント・インシチュ・ハイブリダイゼーション法で調べた。
その結果、全てのvhd遺伝子に共通して、MO注入胚では4つのβ−カテニン下流遺伝子全ての発現が消失または著しく減少していた(全ての組み合わせについてMO注入胚の100%で起こった)。これらの結果は、4つのβ−カテニン下流遺伝子が各vhd遺伝子の下流にも位置することを示す。このことは、各vhd遺伝子の機能がβ−カテニンによる下流遺伝子の転写活性化に必要であるという可能性を示唆する。
(実施例5:β−カテニンと各vhd遺伝子の間における量依存的な相互作用の検出)
MOについて、細胞内でのMO濃度に依存してMOによる翻訳抑制の効率(およびMO注入胚に起こる異常の頻度や程度)が変化することが知られている。例えば、翻訳阻害が効率よく起こるために十分な濃度のMOは、標的遺伝子のタンバク質の量の大幅な低下を招き、標的遺伝子の機能阻害に伴う異常を胚に引き起こす。MO濃度が低すぎる場合、翻訳はほとんど阻害されず胚は異常を示さない。一方、両者の中間のMO濃度では、MOは翻訳をある程度は阻害し、標的遺伝子のタンパク質の量を低下させるが、タンパク質が正常発生に必要な量に保たれていれば胚はやはり異常を示さない。
実施例2において、十分な濃度のMO(卵内の最終濃度8μM)を用いた場合、各vhd遺伝子に対するMOを注入した胚とβ−カテニンに対するMOを注入した胚とが類似した表現型(内胚葉分化の異常)を示した。一般に、あるシグナル伝達経路の出力の強さは、経路中の各因子の活性の強さの総和を反映すると考えられる。したがって、もし各vhd遺伝子がβ−カテニンを介するシグナル伝達経路に関与しているならば(各vhd遺伝子とβ−カテニンが同一の経路で働いているならば)、各vhd遺伝子のタンパク質の量が低下した状態の胚は、β−カテニンのタンパク質の量の低下に対して正常胚よりも感受性が高くなる可能性がある。言い換えれば、内胚葉分化の異常を引き起こさないような中間濃度のMOにより各vhd遺伝子のタンパク質の量が低下した状態で、さらに同様の中間濃度のMOによりβ−カテニンのタンパク質の量を低下させれば、それぞれのMOを単独で作用させた時には見られない内胚葉分化の異常が起こる可能性がある。
このような考えに基づき、各vhd遺伝子とβ−カテニンに対するMOについて、まず注入するMOの濃度を変化させてMO注入実験をし、それぞれの遺伝子について内胚葉分化マーカーの発現の消失が低頻度でしか起こらない最大のMO濃度を決定した(vhd1の場合は0.25mM;vhd2の場合は0.25mM;vhd3の場合は0.0625mM;vhd4の場合は0.25mM;vhd5の場合は0.0625mM;β−カテニンの場合は0.125mM;マーカー発現の消失の頻度は下記参照)。
次いで、各vhd遺伝子とβ−カテニンの中から2つの遺伝子を選び、それぞれに対するMOを上記濃度になるよう混合して卵に注入した(共注入実験)。
その結果、全てのvhd遺伝子用MOについて、β−カテニン用MOと組み合わせたときには内胚葉分化マーカーの発現が消失することがわかった(vhd1の場合は単独のMOで注入胚の29%でマーカー発現の消失が起こるのに対しβ−カテニン用MOと組み合わせたときには注入胚の92%でマーカー発現が消失する;vhd2の場合は単独のMOで注入胚の21%でマーカー発現が消失するのに対しβ−カテニン用MOと組み合わせたときには注入胚の97%でマーカー発現が消失する;vhd3の場合は単独のMOで注入胚の0%でマーカー発現が消失するのに対しβ−カテニン用MOと組み合わせたときには注入胚の74%でマーカー発現が消失する;vhd4の場合は単独のMOで注入胚の12%でマーカー発現が消失するのに対しβ−カテニン用MOと組み合わせたときには注入胚の89%でマーカー発現が消失する;vhd5の場合は単独のM0で注入胚の0%でマーカー発現が消失するのに対しβ−カテニン用MOと組み合わせたときには注入胚の75%でマーカー発現が消失する;β−カテニン用MO単独の場合には注入胚の3%でマーカー発現が消失する)。
すなわち、各vhd遺伝子とβ−カテニンの間には、互いのタンパク質の量の低下に依存して胚内での必要なタンバク質の量が決まるような関係があることが示された。この実験結果は、各vhd遺伝子がβ−カテニンを介するシグナル伝達経路に関与している可能性を支持するデータの1つである。
また、各vhd遺伝子のMOを注入したカタユウレイボヤの胚に安定型β−カテニンのmRNAを過剰発現させると、vhd1〜vhd4の各遺伝子のMO注入胚における内胚葉形成が回復したが、vhd5遺伝子のMO注入胚では回復しなかった。
以上の結果は、ホヤ胚の初期発生においてvhd遺伝子群が胚発生に必須であり、特に、β−カテニンを介するシグナル伝達経路において必須であること、このシグナル伝達経路においてvhd1〜vhd4の遺伝子はβ−カテニンの上流で機能するが、vhd5遺伝子は下流で機能することを示す。
(実施例6:vhd遺伝子に対するMOを注入したカタユウレイボヤ胚における内胚葉分化異常の安定型β−カテニンの過剰発現による回復)
β−カテニンを介するシグナル伝達経路について、以下のことが知られている。β−カテニンを介するシグナル伝達経路が機能していない場合、β−カテニンのN末端領域にあるアミノ酸がリン酸化され、β−カテニンは高効率で分解されてしまう。このためβ−カテニンは十分な量が核に移行できず、β−カテニン下流遺伝子の転写活性化は起こらない。一方、β−カテニンを介するシグナル伝達経路が機能すると、β−カテニンのリン酸化に働く酵素の活性が抑制されるため、β−カテニンは安定に細胞内に存在することができる。この場合、β−カテニンは十分な量が核に移行できるので、β−カテニン下流遺伝子の転写活性化が起こる。また、N末端領域を人為的に欠損させたβ−カテニンは、β−カテニンを介するシグナル伝達経路の機能の有無にかかわらず安定型として振る舞うことも知られている。そのためβ−カテニンを介するシグナル伝達経路の機能が阻害された状態であっても、N末端領域を欠損させた安定型β−カテニンを過剰発現することによりβ−カテニン下流遺伝子の転写活性化を引き起こすことができる。
実施例2〜5の結果は、各vhd遺伝子の機能がβ−カテニンによる下流遺伝子の転写活性化とそれに引き続く内胚葉または脊索の分化に必要である可能性を示している。この可能性をさらに拡大すると、各vhd遺伝子の機能がβ−カテニンを介するシグナル伝達経路の機能(すなわち、β−カテニンの安定化)に必要であると考えられる。この可能性が正しければ、N末端領域を欠損させた安定型β−カテニンの過剰発現により、各vhd遺伝子の機能阻害によって引き起こされる発生異常が救助されるはずである。
このことを検討するために、実施例1に記載の手順に従って、カタユウレイボヤのβ−カテニンを用いて安定型β−カテニンのmRNAを調製し、これと各vhd遺伝子に対するMOとを混合して卵に注入し、その結果を各vhd遺伝子に対するMOのみを注入したときと比較した(β−カテニンによるレスキュー実験:注入液中のMOの濃度は0.5mM、mRNAの濃度は2μg/μl)。
その結果、各vhd遺伝子に対するMOのみを注入した場合には前述のように内胚葉分化マーカーの発現領域の消失または著しい減少が注入胚において起こった(100%)。これに対して、安定型β−カテニンmRNAと各vhd遺伝子に対するMOとを混合して卵に注入した場合には、全てのvhd遺伝子について正常胚と同程度の範囲またはMO単独の場合より顕著に広い範囲に内胚葉分化マーカーの発現が見られた(全てのvhd遺伝子について注入胚の100%で起こった)。
これらの結果は、安定型β−カテニンの過剰発現により、各vhd遺伝子の機能阻害によって引き起こされた内胚葉分化の異常が救助されたことを示す。このことは、各vhd遺伝子の機能がβ−カテニンを介するシグナル伝達経路の働き(β−カテニンの安定化)に必要である可能性を支持する。
(実施例7:各vhd遺伝子の胚発生における発現パターンの解析)
カタユウレイボヤ胚において、β−カテニンのmRNAは母性に卵に供給されている。各vhd遺伝子がβ−カテニンを介するシグナル伝達経路の働き(β−カテニンの安定化)に必要であるならば、各vhd遺伝子のmRNAも同様に母性に卵に供給されているはずである。
このことを検討するために、カタユウレイボヤ胚における各vhd遺伝子のmRNAの発現パターンを、実施例1に記載の手順に従って、ホールマウント・インシチュ・ハイブリダイゼーション法で調べた。
その結果、全てのvhd遺伝子についてmRNAが卵内に検出され、各vhd遺伝子のmRNAが母性に卵に供給されていることが示された。
以上の結果から、各vhd遺伝子がβ−カテニンを介するシグナル伝達経路に必要な新規の遺伝子であることが示された。
本発明に係るポリペプチドおよびポリヌクレオチドは、ホヤの発生段階に特異的に発現する遺伝子および遺伝子産物であり、各組織および器官の形成ならびに機能に重要な役割を担っている。特に、本発明に係るポリペプチドおよびポリヌクレオチドは、内胚葉形成不全の胚を回復させることができる。それゆえ、本発明は、特に内胚葉の発生機構の解明に極めて有用である。さらに、本発明は、このような研究を通じて、医学上および産業上への応用、具体的には、発生段階の異常に起因する種々の遺伝子疾患の原因究明、さらにはその診断法や治療法の開発に有用である。

Claims (10)

  1. 内胚葉の形成に不可欠なポリペプチドであって、以下の(a)または(b)に記載のポリペプチド:
    (a)配列番号2、4、6、8もしくは10に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチド;または
    (b)配列番号2、4、6、8もしくは10に示されるアミノ酸配列において、1個もしくは数個のアミノ酸が欠失、挿入、置換、もしくは付加されたアミノ酸配列、
    からなることを特徴とするポリペプチド。
  2. 請求項1に記載のポリペプチドをコードすることを特徴とするポリヌクレオチド。
  3. 内胚葉の形成に不可欠なポリペプチドをコードするポリヌクレオチドであって、以下の(a)または(b)に記載のポリヌクレオチド:
    (a)配列番号1、3、5、7もしくは9に示される塩基配列からなるポリヌクレオチド;または
    (b)配列番号1、3、5、7もしくは9に示される塩基配列において、1個もしくは数個の塩基が欠失、挿入、置換、もしくは付加された塩基配列からなるポリヌクレオチド。
  4. 内胚葉の形成に不可欠なポリペプチドをコードするポリヌクレオチドであって、以下の(a)または(b)に記載のポリヌクレオチド:
    (a)配列番号1、3、5、7もしくは9に示される塩基配列からなるポリヌクレオチド;または
    (b)配列番号1、3、5、7もしくは9に示される塩基配列と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチド。
  5. 内胚葉の形成に不可欠なポリペプチドをコードするポリヌクレオチドであって、以下の(a)または(b)に記載のポリヌクレオチド:
    (a)配列番号1、3、5、7もしくは9に示される塩基配列からなるポリヌクレオチド;または
    (b)配列番号1、3、5、7もしくは9に示される塩基配列と相補的な塩基配列と少なくとも80%同一である塩基配列からなるポリヌクレオチド。
  6. 請求項2〜5のいずれか1項に記載のポリヌクレオチドのフラグメントまたはその相補配列からなることを特徴とするオリゴヌクレオチド。
  7. 請求項1に記載のポリペプチドの発現を抑制することを特徴とする請求項6に記載のオリゴヌクレオチド。
  8. 請求項2〜5のいずれか1項に記載のポリヌクレオチドが導入されていることを特徴とする形質転換体。
  9. 請求項7に記載のオリゴヌクレオチドを備える、β−カテニンの過剰発現に起因する内胚葉形成不全胚において内胚葉を正常に形成させるためのキット。
  10. 請求項7に記載のオリゴヌクレオチドを内胚葉形成不全胚に導入する工程を包含する、β−カテニンの過剰発現に起因する内胚葉形成不全胚において内胚葉を正常に形成させる方法。
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