前述のようにパワーオンアップシフトの時には、変速中のアクセル戻し操作に対応して係合中の摩擦係合要素へ供給される油圧を低下させる制御が行われることがあるが、作動油の粘度が高い場合には、油圧の低下速度が遅くなる。一方、特許文献1では、なまし制御によるなましの程度は定数kによって定まる一定値とされ、その定数kは、油圧制御装置の構成や油圧制御の特性に応じて決定されるとされている。従って、作動油の粘度や温度が異なっていたとしても、同一のなまし制御が行われる。
そのため、パワーオンアップシフト変速中にアクセルの戻し操作が行われた場合において、特許文献1の技術を適用したとしても、作動油の粘度または温度が低い場合には、なまし制御の程度が不十分となって、依然として変速ショックが生じる恐れがあった。
本発明は以上の事情を背景として為されたもので、その目的とするところは、パワーオンアップシフト変速中にアクセルが戻されたときに、より変速ショックを抑制することができる車両の制御装置を提供することにある。
上記目的を達成するための第1発明は、(a)アクセル操作に基づいて出力が制御される動力源に連結され、複数の油圧式摩擦係合装置が選択的に係合させられることにより複数の変速段が成立させられる自動変速機と、(b)パワーオンアップシフト変速中にアクセルが戻されたときには、アクセルの操作量に対応して、前記油圧式摩擦係合装置へ供給する作動油の油圧を低下させる油圧制御手段とを備えた車両の制御装置であって、(c)パワーオンアップシフト変速中にアクセルが戻されたときには、アクセル操作に対する動力源の出力低下をアクセルが戻されたときから所定時間が経過するまで抑制する抑制手段と、(d)作動油の粘度が高いほど前記所定時間が長くなるなるように設定する制御時間設定手段と、を備えたことを特徴とする。
また、上記目的を達成するための第2発明は、(a)アクセル操作に基づいて出力が制御される動力源に連結され、複数の油圧式摩擦係合装置が選択的に係合させられることにより複数の変速段が成立させられる自動変速機と、(b)パワーオンアップシフト変速中にアクセルが戻されたときには、アクセルの操作量に対応して、前記油圧式摩擦係合装置へ供給する作動油の油圧を低下させる油圧制御手段とを備えた車両の制御装置であって、(c)パワーオンアップシフト変速中にアクセルが戻されたときには、アクセル操作に対する動力源の出力低下をアクセルが戻されたときから所定時間が経過するまで抑制する抑制手段と、(d)作動油の温度が低いほど前記所定時間が長くなるなるように設定する制御時間設定手段と、を備えたことを特徴とする。
また、上記目的を達成するための第3発明は、(a)アクセル操作に基づいて出力が制御される動力源に連結され、複数の油圧式摩擦係合装置が選択的に係合させられることにより複数の変速段が成立させられる自動変速機と、(b)パワーオンアップシフト変速中にアクセルが戻されたときには、アクセルの操作量に対応して、前記油圧式摩擦係合装置へ供給する作動油の油圧を低下させる油圧制御手段とを備えた車両の制御装置であって、(c)パワーオンアップシフト変速中にアクセルが戻されたときには、動力源の出力を、アクセル戻し時の動力源の出力とアクセル戻し後のアクセル開度に基づいて定まる動力源の出力との間で漸減させる制御を実行する出力制御手段と、(d)その出力制御手段による動力源の出力低下速度を、作動油の粘度が高いほど遅くする出力低下速度設定手段とを備えたことを特徴とする。
また、上記目的を達成するための第4発明は、第3発明の車両の制御装置において、作動油の粘度が高いほど制御時間が長くなる予め定められた関係、および、実際に測定した作動油の粘度に基づいて、前記出力制御手段による制御時間を決定する制御時間設定手段をさらに備えたことを特徴とする。
また、上記目的を達成するための第5発明は、第3発明の車両の制御装置において、前記出力制御手段は、前記摩擦係合装置の油圧がアクセル開度に基づいて定まる制御終了油圧まで低下したことに基づいて、制御を終了するものであることを特徴とする。
また、上記目的を達成するための第6発明は、(a)アクセル操作に基づいて出力が制御される動力源に連結され、複数の油圧式摩擦係合装置が選択的に係合させられることにより複数の変速段が成立させられる自動変速機と、(b)パワーオンアップシフト変速中にアクセルが戻されたときには、アクセルの操作量に対応して、前記油圧式摩擦係合装置へ供給する作動油の油圧を低下させる油圧制御手段とを備えた車両の制御装置であって、(c)パワーオンアップシフト変速中にアクセルが戻されたときには、動力源の出力を、アクセル戻し時の動力源の出力とアクセル戻し後のアクセル開度に基づいて定まる動力源の出力との間で漸減させる制御を実行する出力制御手段と、(d)前記油圧制御手段による作動油圧の低下過程で前記油圧式摩擦係合装置に供給される作動油圧の変化に基づいて、前記出力制御手段による動力源の出力低下速度を設定する出力低下速度設定手段とを備えたことを特徴とする。
第1発明によれば、パワーオンアップシフト変速中にアクセルの戻し操作が行われた場合には、油圧制御手段により、アクセル操作量に対応して油圧低下制御が行われるが、それとともに、抑制手段により、アクセル操作に対する動力源の出力低下がそのアクセルの戻し操作が行われたときから所定時間抑制され、且つ、制御時間設定手段により、その所定時間が作動油の粘度が高いほど長くされる。従って、高粘度であるほど遅くなる作動油圧の低下速度に対応して動力源の出力低下が抑制されることになるので、作動油圧の低下遅れに起因する変速ショックを防止することができる。
第2発明によれば、パワーオンアップシフト変速中にアクセルの戻し操作が行われた場合には、油圧制御手段により、そのアクセル操作量に対応して油圧低下制御が行われるが、それとともに、抑制手段により、アクセル操作に対する動力源の出力低下がそのアクセルの戻し操作が行われたときから所定時間抑制され、且つ、制御時間設定手段により、その所定時間が作動油の温度が低いほど長くされる。従って、低温であるほど遅くなる作動油圧の低下速度に対応して動力源の出力低下が抑制されることになるので、作動油圧の低下遅れに起因する変速ショックを防止することができる。
第3発明によれば、パワーオンアップシフト変速中にアクセルの戻し操作が行われた場合には、油圧制御手段により、そのアクセル操作量に対応して油圧低下制御が行われる。また、それとともに、出力制御手段により、動力源の出力が、アクセル戻し時の動力源の出力とアクセル戻し後のアクセル開度に基づいて定まる動力源の出力との間で漸減制御され、且つ、出力低下速度設定手段により、その出力制御手段による動力源の出力低下速度が作動油の粘度が高いほど遅く設定される。従って、高粘度であるほど遅くなる作動油圧の低下速度に対応して動力源の出力低下速度も遅くされることになるので、作動油圧の低下遅れに起因する変速ショックを防止することができる。
第4発明によれば、作動油の粘度に基づいて出力制御手段による動力源の出力低下速度が設定されることに加えて、その動力源の出力低下時間も作動油の粘度に基づいて設定されるので、動力源の出力低下を、一層、作動油圧の低下に対応させることが可能となり、その結果、作動油圧の低下遅れに起因する変速ショックを一層精度良く防止することが可能となる。
第5発明によれば、作動油の粘度に基づいて出力制御手段による動力源の出力低下速度が設定されることに加えて、その出力制御手段による制御が、摩擦係合装置の油圧がアクセル開度に基づいて定まる制御終了油圧に低下するまで継続されるので、動力源の出力低下を、一層、作動油圧の低下に対応させることが可能となり、その結果、作動油圧の低下遅れに起因する変速ショックを一層精度良く防止することが可能となる。
第6発明によれば、パワーオンアップシフト変速中にアクセルの戻し操作が行われた場合には、油圧制御手段により、そのアクセル操作量に対応して油圧低下制御が行われる。また、それとともに、出力制御手段により、動力源の出力が、アクセル戻し時の動力源の出力とアクセル戻し後のアクセル開度に基づいて定まる動力源の出力との間で漸減制御され、且つ、出力低下速度設定手段により、その出力制御手段による動力源の出力低下速度が実際の作動油圧の変化に基づいて設定される。従って、粘度が高いために作動油圧の低下速度が遅い場合であっても、それに対応して動力源の出力低下速度も遅く設定されることになるので、作動油圧の低下遅れに起因する変速ショックを防止することができる。
次に、本発明を図面に基づいてより具体的に説明する。図1は、本発明が適用された車両用動力伝達装置10の骨子図である。この動力伝達装置10において、動力源であるエンジン12により発生させられた駆動力は、流体式伝動装置であるトルクコンバータ14、前輪駆動用の自動変速機16、差動歯車装置18を経て図示しない駆動輪(前輪)へ伝達されるようになっている。上記エンジン12は、気筒内噴射される燃料の燃焼によって駆動力を発生させるガソリンエンジン等の内燃機関である。また、上記トルクコンバータ14は、上記エンジン12のクランク軸20と連結されているポンプ翼車22と、上記自動変速機16の入力軸24に連結されたタービン翼車26と、一方向クラッチ28を介して非回転部材であるハウジング30に固定されたステータ翼車32と、図示しないダンパを介して上記入力軸24に連結されたロックアップクラッチ34とを備えている。
上記自動変速機16は、上記入力軸24上に同軸に配設されるとともにキャリアとリングギヤとがそれぞれ相互に連結されることにより所謂CR−CR結合の遊星歯車機構を構成するシングルピニオン型の一対の第1遊星歯車装置36及び第2遊星歯車装置38と、上記入力軸24と平行なカウンタ軸40上に同軸に配置された1組の第3遊星歯車装置42と、そのカウンタ軸40の軸端に固定されて上記差動歯車装置18と噛み合う出力ギヤ44とを備えている。上記第1遊星歯車装置36、第2遊星歯車装置38、及び第3遊星歯車装置42の各構成要素であるサンギヤ、リングギヤ、及びそれらに噛み合う遊星ギヤを回転可能に支持するキャリアは、4つのクラッチC0、C1、C2、及びC3によって互いに選択的に連結され、或いは3つのブレーキB1、B2、及びB3によって非回転部材であるハウジング30に選択的に連結されるようになっている。また、2つの一方向クラッチF1及びF2によって相互間の或いは上記ハウジング30との間の所定方向の相対回転が阻止されるようになっている。なお、上記差動歯車装置18は軸線(車軸)に対して対称的に構成されているため、下側を省略して示してある。
前記入力軸24上に配設された一対の第1遊星歯車装置36、第2遊星歯車装置38、クラッチC0、C1、C2、ブレーキB1、B2、及び一方向クラッチF1により前進4段且つ後進1段の主変速部46が構成され、上記カウンタ軸40上に配設された1組の遊星歯車装置42、クラッチC3、ブレーキB3、及び一方向クラッチF2によって副変速部(アンダードライブ部)48が構成されている。上記主変速部46では、前記入力軸24は、クラッチC0を介して上記第2遊星歯車装置38のキャリアK2に、クラッチC1を介して上記第1遊星歯車装置36のサンギヤS1に、クラッチC2を介して上記第2遊星歯車装置38のサンギヤS2にそれぞれ連結されている。上記第1遊星歯車装置36のリングギヤR1と第2遊星歯車装置38のキャリアK2との間、第1遊星歯車装置36のキャリアK1と第2遊星歯車装置38のリングギヤR2との間はそれぞれ連結されており、第2遊星歯車装置38のサンギヤS2はブレーキB1を介して、第1遊星歯車装置36のリングギヤR1はブレーキB2を介して非回転部材であるハウジング30に連結されている。また、上記第2遊星歯車装置38のキャリアK2と非回転部材であるハウジング30との間には、所定方向の相対回転を阻止するための一方向クラッチF1が設けられている。そして、上記第1遊星歯車装置36のキャリアK1に固定された第1カウンタギヤ50と第3遊星歯車装置42のリングギヤR3に固定された第2カウンタギヤ52とは相互に噛み合わされている。上記副変速部48では、上記第3遊星歯車装置42のキャリアK3とサンギヤS3とがクラッチC3を介して相互に連結され、そのサンギヤS3と非回転部材であるハウジング30との間には、ブレーキB3と一方向クラッチF2とが並列に設けられている。
図2は、前記自動変速機16の各変速段を成立させるためのクラッチ及びブレーキの係合作動を説明する係合表である。前記クラッチC0、C1、C2、C3及びブレーキB1、B2、B3は、何れも油圧アクチュエータによって係合制御される多板式のクラッチやバンドブレーキ等の油圧式摩擦係合装置であり、前記自動変速機16では、図2に示すように、前記クラッチC0、C1、C2、C3及びブレーキB1、B2、B3が選択的に係合させられることにより、前進5段・後退1段のうちの何れかの変速段が成立させられる。この図2における「○」は係合を、「△」は駆動時のみにおける係合を、「×」は解放を意味している。例えば、第1速ギヤ段から第2速ギヤ段へのアップシフトではブレーキB1が係合させられる。また、第2速ギヤ段から第3速ギヤ段へのアップシフトではクラッチC0が係合させられるとともにブレーキB1が解放させられる。また、第3速ギヤ段から第4速ギヤ段へのアップシフトではクラッチC1が解放させられるとともにブレーキB1が係合させられる。また、第4速ギヤ段から第5速ギヤ段へのアップシフトではクラッチC3が係合させられるとともにブレーキB3が解放させられる。このように、本実施例の自動変速16の場合、1速段のアップシフトでは、いずれか1つの摩擦係合装置を係合させる作動を含んでいる。
図3は、前記動力伝達装置10を制御するために車両に設けられた電気系統を説明するブロック線図である。この図3に示すように、前記エンジン12の吸気配管には、スロットルアクチュエータ54によって駆動操作されるスロットル弁56と、そのスロットル弁56と並列な状態で設けられてアイドル時のエンジン回転速度NE を制御するためのアイドル回転数制御弁(ISC弁)58とが設けられている。また、アクセルペダル60の操作量(すなわちアクセル開度)ACCは、アクセル操作量センサ62により検出されて電子制御装置64へ供給されるようになっており、上記スロットル弁56の開度θTHは、基本的にはそのアクセル開度ACC(%)に応じて増加させられる。なお、スロットル弁56およびISC弁58は、エンジン12の出力を制御する出力制御装置として機能するものであり、エンジントルクは、スロットル弁56およびISC弁58の開度に対応して変化する。
上記電子制御装置64は、CPU、RAM、ROM、及び入出力インターフェース等を備えた所謂マイクロコンピュータであって、そのCPUによりRAMの一時記憶機能を利用しつつ予めROMに記憶されたプログラムに従って入力信号を処理し、前記エンジン12の駆動制御や前記自動変速機16の変速制御等の基本的な制御を実行する。前記エンジン12の駆動制御では、例えば、燃料噴射量制御のために燃料噴射弁66を制御し、点火時期制御のためにイグナイタ68を制御し、図4に示す予め記憶された関係から実際のアクセル開度ACCに基づきその増加に応じて上記スロットル弁56の開度θTHが増加させられるように制御する。また、アイドルスピード制御或いはエンジン回転速度NE を所定量持ち上げるために上記ISC弁58を制御する。前記自動変速機16の変速制御では、例えば、図5に示す予め記憶された変速線図から実際のスロットル弁開度θTH及び車速Vに基づいて前記自動変速機16のギヤ段や前記ロックアップクラッチ34の変速判断を実行し、判断されたギヤ段及び係合状態が得られるように油圧制御回路70に配設された各電磁制御弁装置すなわちソレノイド弁S4、SR及びリニヤソレノイド弁SLT、SL1、SL2、SL3等の駆動を制御する。
図6は、前記電子制御装置64の入力信号及び出力信号を説明する図である。前記動力伝達装置10には、前記エンジン12の回転速度を検出するエンジン回転速度センサ、車速を検出する車速センサ、前記エンジン12の吸入空気の温度を検出する吸入空気温度センサ、そのエンジン12の冷却水温度を検出するエンジン水温センサ、シフトレバーの操作位置を検出するシフトポジションセンサ、前記自動変速機16の作動油温度を検出するAT油温センサ、前記スロットル弁56の開度を検出するスロットル開度センサ、フットブレーキの作動を検出するブレーキスイッチ、前記入力軸24の回転速度に対応する前記タービン翼車26の回転速度を検出するタービン回転速度センサ、前記第2カウンタギヤ52の回転速度を検出するカウンタ回転速度センサ、前記ISC弁58の開度を検出するISC開度センサ等が設けられており、それらのセンサ及びスイッチから、エンジン回転速度NE 、車速V、吸入空気温度TA 、エンジン水温TW 、シフトポジションPSH、AT油温TAT、スロットル開度θTH、ブレーキの作動状態BK、タービン回転速度NT 、カウンタ回転速度NC 、及びISC弁開度等を表す信号が前記電子制御装置64へ供給されるようになっている。
図7は、前記油圧制御回路70の要部を簡単に示す図である。この図7において、ソレノイド弁SRは、前記電子制御装置64からの指令に従ってその出力圧を比較的長い油路72を介して2−3シフト弁74に作用させてその2−3シフト弁74を1速乃至2速側と3速乃至5速側とに択一的に切り換える。ソレノイド弁S4は、前記電子制御装置64からの指令に従ってその出力圧を3速乃至5速側に切換られた上記2−3シフト弁74を介して4−5シフト弁76に作用させ、その4−5シフト弁76を1速乃至4速側と5速側とに択一的に切り換える。すなわち、上記4−5シフト弁76が1速乃至4速側に切換られているときにはライン圧PL がブレーキB3へ供給され、5速側に切換られているときにはDレンジ圧PD がクラッチC3及びアキュムレータAC3へ供給される。リニヤソレノイド弁SLTは、前記電子制御装置64からの指令に従ってその出力圧を背圧コントロール弁78に供給し、その出力圧に対応する背圧を発生させて上記アキュムレータAC3の背圧ポートへ供給させる。
リニヤソレノイド弁SL1は、前記電子制御装置64からの指令に従ってその出力圧をB1コントロール弁80に供給し、その出力圧に対応する係合圧PB1を発生及び調圧させてブレーキB1及びそのアキュムレータAB1へ供給する。リニヤソレノイド弁SL2は、前記電子制御装置64からの指令に従ってその出力圧をソレノイド弁SRにより切り換えられる上記2−3シフト弁74を介してC0コントロール弁82へ供給し、その出力圧に対応する係合圧PC0を発生及び調圧させてクラッチC0及びそのアキュムレータAC0へ供給する。リニヤソレノイド弁SL3は、前記電子制御装置64からの指令に従ってその出力圧をC1コントロール弁84へ供給し、その出力圧に対応する係合圧PC1を発生及び調圧させてクラッチC1及びそのアキュムレータAC1へ供給する。上記クラッチC0の係合圧PC0及びクラッチC1の係合圧PC1は、その係合圧PC1によって切換られるクラッチ圧供給制御弁86を介してクラッチC0及びクラッチC1へ供給される。
図8は、前記電子制御装置64の制御機能のうち、パワーオンアップシフト変速中に実行する制御機能の要部を説明するフローチャートである。なお、このフローチャートであり、数msec乃至数十msec程度の極めて短いサイクルタイムで繰り返し実行されるものである。
図8において、まず、ステップ(以下、ステップを省略する)SA1では、アクセルペダル60の戻し操作が行われたか否かを判断する。このSA1の判断が否定された場合には、本ルーチンを一旦終了する。一方、この判断が肯定された場合には、続いて、油圧制御手段に相当するSA2において、アクセルペダル60の戻し操作後のアクセル開度ACCに基づいて係合中の摩擦係合装置の油圧低下指示値を決定し、その決定した指示値を、係合中の摩擦係合装置の油圧を調圧する所定のリニアソレノイド弁SLに出力する。
続くSA3では、作動油温すなわちAT油温TATを読み込む。そして、続くSA4では、AT油温TATと作動油粘度ρとの間の予め定められた関係(この関係は実験に基づいて決定される)を用いて、上記SA3にて読み込んだAT油温TATから、作動油粘度ρを算出する。
続くSA5では、上記SA4で算出した作動油粘度ρが、後述するエンジントルク低下抑制制御を実行する必要がある粘度の下限値として設定された下限粘度ρ0よりも高いか否かを判断する。この判断が否定された場合には、本ルーチンを一旦終了する。
一方、この判断が肯定された場合には、続いて、出力低下速度設定手段に相当するSA6において、作動油粘度ρが高くなるほど低下速度が遅くなる予め記憶された関係を用い、上記SA4にて算出した作動油粘度ρから、スロットル開度θTHの低下速度を設定する。続くSA7は制御時間設定手段に相当し、作動油粘度ρが高くなるほど所定時間が長くなる予め記憶された関係を用い、上記SA4にて算出した作動油粘度ρから、スロットル開度θTHの低下制御を実行する時間を設定する。
続くSA8では、上記SA6にて設定した条件でエンジントルク低下抑制制御を開始する。すなわち、本実施例におけるエンジントルク低下抑制制御は、スロットル開度θTHの低下を抑制することによりエンジントルク(すなわち動力源の出力)の低下を抑制する制御であり、通常であれば、アクセルペダル60の戻し操作に対応して即座にスロットル開度θTHを低下させるところを、上記SA6にて設定した低下速度にてスロットル開度θTHを低下させるのである。
続くSA9では、上記SA8にて制御を開始してからの経過時間が、前記SA7にて設定した所定時間を経過したか否かを判断する。この判断が否定された場合には、このSA9の判断を繰り返し実行するとともに、スロットル開度θTHの低下制御を継続する。一方、SA9の判断が肯定された場合には、スロットル開度θTHの低下制御を終了して、スロットル開度θTHを、前記図4の関係を用いてアクセル開度ACCに基づいて定まるスロットル開度θTHとする。本実施例では、エンジントルク低下制御を行うか否かを判定する上記SA3乃至SA5、および実際にエンジントルク低下制御を実行するSA8乃至SA10が出力制御手段すなわち抑制手段に相当し、上記SA8乃至SA10が実行されることにより、スロットル開度θTHが、前記図4の関係を用いてアクセル開度ACCに基づいて定まるスロットル開度θTHまで漸減させられる。
図9は、図8の制御を実行した場合におけるエンジン回転速度NE、クラッチ油圧、アクセル開度ACC、スロットル開度θTH、および自動変速機16のアウトプットトルクの変化を示すタイムチャートである。なお、図9において、図8の制御を実行した場合における変化は実線で示してあり、比較のために、併せて、二点差線にて、作動油温が通常(すなわち作動油粘度が通常)の場合のタイムチャートを示し、破線にて、作動油温が低温であるが、図8のSA3以降を実施しない場合のタイムチャートを示し、一点鎖線にて、パワーオンアップシフトではあるが変速中にアクセルペダル60の戻しがない場合のタイムチャートを示してある。
図9に示されるように、t0時点においてパワーオンアップシフト制御が開始されると、所定の摩擦係合装置(ここではクラッチだが、ブレーキでもよい)の油圧の上昇制御が開始される。そして、クラッチ油圧の上昇によってt1時点においてイナーシャ相が開始される。図9の例は、イナーシャ相の開始後のt2時点においてアクセルペダル60が戻されれてアクセル開度ACCが全閉とされた例である。このt2時点においてアクセルペダル60の戻し操作がなかった場合には、一点鎖線に示すように、t2時点の前後にけるエンジン回転速度NEの低下は直線的になる。一方、t2時点でアクセル開度ACCが全閉とされると、クラッチに対して入力トルクが伝わらないような油圧が指示され、クラッチ油圧は低下を開始する。
ここで、作動油温が通常の場合には、二点差線で示されるように、クラッチ油圧は迅速に低下し、それに対応して、アウトプットトルクも低下する。しかし、上記二点差線の場合よりも著しく作動油温が低い(すなわち作動油粘度が高い)場合には、クラッチ油圧の低下速度は、二点差線の場合に比較して相当適度遅くなる。このとき、破線で示されるように、スロットル開度θTHをアクセル開度ACCに対応させて迅速に低下させてしまうと、クラッチに掛かるトルクとクラッチ油圧とのバランスが崩れ、クラッチ油圧が相対的に高くなり、そのために、クラッチが急係合して、それによってエンジン回転速度NEが急低下させられる。そして、そのことによって、アウトプットトルクの破線に示されるように、ショックが生じてしまう。一方、本発明が実施されることにより、スロットル開度θTHが一時的にアクセル開度ACCと非対応とされて、そのスロットル開度θTHがアクセル開度ACCに基づいて定まる値まで漸減させられる場合には、クラッチ油圧低下中も、クラッチに掛かるトルクとクラッチ油圧とがバランスし、ショックを生じることが防止されている。
以上、説明したように、本実施例によれば、パワーオンアップシフト変速中にアクセルペダル60の戻し操作が行われた場合には、SA2(油圧制御手段)において、アクセル開度ACCに対応して油圧低下制御が行われる。また、それとともに、SA3乃至SA5、SA8乃至SA10(出力制御手段)において、スロットル開度θTHが、アクセル戻し時の値とアクセル戻し後のアクセル開度ACCに基づいて定まる値との間で漸減制御され、且つ、SA6(出力低下速度設定手段)において、スロットル開度θTHの低下速度が作動油の粘度が高いほど遅く設定される。従って、高粘度であるほど遅くなる作動油圧の低下速度に対応してエンジントルクの低下速度が遅くされることになるので、作動油圧の低下遅れに起因する変速ショックを防止することができる。
また、本実施例によれば、作動油の粘度に基づいてスロットル開度θTHの低下速度が設定されることに加えて、そのスロットル開度θTHの低下時間も作動油の粘度に基づいて設定されるので、エンジントルクの低下を、一層、作動油圧の低下に対応させることが可能となり、その結果、作動油圧の低下遅れに起因する変速ショックを一層精度良く防止することが可能となる。
次に、本発明の第2実施例を説明する。第2実施例が前述の第1の実施例と異なる点は、摩擦係合装置に供給される作動油の油圧を検出する油圧センサ88をさらに備えている点、および、図8のSA7乃至SA10に代えて、図11のSB7乃至SB10を実行する点であり、他の構成は第1の実施例と同一である。なお、以下の説明において、第1の実施例と同一の部分には同一の符号を付して説明を省略する。
図10は、第2実施例において、図8の油圧制御回路70に追加して設けられる構成を示す図である。図10に示すように、本実施例では、クラッチC0、C1、C2、C3に供給される作動油の油圧を検出する油圧センサ88a、88b、88c、88d、および、ブレーキB1、B2、B3に供給される作動油の油圧を検出する油圧センサ88e、88f、88gを備えており、それら油圧センサ88a〜88gにより検出された油圧を表す信号は、ECU64に供給される。
図11は、図8と同様に、前記電子制御装置64の制御機能のうち、パワーオンアップシフト変速中に実行する制御機能の要部を説明するフローチャートであり、SB1乃至SB6は、図8のSA1乃至SA6と同様の内容である。従って、SB2は、油圧制御手段に相当する。
そして、SB7では、SB8において開始するエンジントルク低下抑制制御の終了を判定するために用いる摩擦係合装置の油圧である制御終了油圧PEを、そのエンジントルク低下抑制制御の開始に先立って設定する。この制御終了油圧PEは、アクセル戻し後のアクセル開度ACCに基づいて設定されるものであり、アクセル開度ACCが小さいほど低い値に設定される。たとえば、アクセル戻し後のアクセル開度ACCが0(%)のときは、係合中の摩擦係合装置の伝達トルクが0になるような油圧に設定される。
続くSB8では、SB6にて設定した条件でエンジントルク低下抑制制御を開始する。そして、続くSB9では、油圧センサ88により検出された係合中の摩擦係合装置の油圧が、上記SB7で設定した油圧まで低下したか否かを判断する。この判断が否定された場合には、このSB9の判断を繰り返し実行するとともに、スロットル開度θTHの低下制御を継続する。一方、SB9の判断が肯定された場合には、スロットル開度θTHの低下制御を終了して、スロットル開度θTHを、前記図4の関係を用いてアクセル開度ACCに基づいて定まるスロットル開度θTHとする。なお、本実施例では、SB3乃至SB5、およびSB8乃至SB10が出力制御手段すなわち抑制手段に相当する。
この第2実施例の場合にも、パワーオンアップシフト変速中にアクセルペダル60の戻し操作が行われた場合には、SB2(油圧制御手段)において、アクセル開度ACCに対応して油圧低下制御が行われる。また、それとともに、SB3乃至SB5、SB8乃至SB10(出力制御手段)において、スロットル開度θTHが、アクセル戻し時の値とアクセル戻し後のアクセル開度ACCに基づいて定まる値との間で漸減制御され、且つ、SB6(出力低下速度設定手段)において、スロットル開度θTHの低下速度が作動油の粘度が高いほど遅く設定される。従って、高粘度であるほど遅くなる作動油圧の低下速度に対応してエンジントルクの低下速度が遅くされることになるので、作動油圧の低下遅れに起因する変速ショックを防止することができる。
また、本実施例によれば、作動油の粘度に基づいてスロットル開度θTHの低下速度が設定されることに加えて、そのスロットル開度θTHの低下制御が、摩擦係合装置の油圧がアクセル開度ACCに基づいて定まる制御終了油圧PEまで低下するまで継続されるので、エンジントルクの低下を、一層、作動油圧の低下に対応させることが可能となり、その結果、作動油圧の低下遅れに起因する変速ショックを一層精度良く防止することが可能となる。
以上、本発明の好適な実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、更に別の態様においても実施される。
たとえば、前述の第1実施例では、スロットル開度θTHの低下速度を作動油粘度ρに基づいて設定しており、また、その作動油粘度ρは、AT油温TATから算出していたが、作動油粘度ρに代えてAT油温TATを直接的に用いてスロットル開度θTHの低下速度を設定してもよい。なお、この場合には、AT油温TATが低くなるほど低下速度が遅くなる予め記憶された関係を用いる。また、前述の第1実施例では、エンジントルク低下抑制制御の要否を作動油粘度ρに基づいて判断していたが、これもAT油温TATから判断してもよい。
また、前述の実施例では、アクセルの戻し操作が行われた場合には、アクセル戻し量に拘わらず図8のSA1の判断が肯定されていたが、戻し量が所定の基準値を超えた場合にそのSA1の判断が肯定されるようになっていてもよい。
また、前述の第2実施例では、制御終了を係合中の摩擦係合装置の油圧から判断していたが、摩擦係合装置の油圧とその摩擦係合装置の伝達トルクとは1対1に対応するので、摩擦係合装置の伝達トルクを用いて間接的に油圧を判断してもよい。なお、この伝達トルクは、たとえば、よく知られたトルクセンサなどにより検出される。
また、前述の実施例では、作動油粘度ρが高くなるほど低下速度が遅くなる予め記憶された関係を用い、実際に求めた作動油粘度ρからスロットル開度θTHの低下速度を設定していた。これは、作動油粘度ρから作動油圧の低下速度を推定してその低下速度に対応させてスロットル開度θTHの低下速度を設定していることになるが、第2実施例のように、各摩擦係合装置の油圧を検出する油圧センサ88を備えている場合には、実際の作動油圧の低下速度を検出することができる。そこで、図11のSB6において、実際に検出した作動油圧に基づいてその低下速度を決定し、その決定した低下速度に基づいて、エンジントルクの低下速度を設定してもよい。この場合は、このSB6が出力減少速度設定手段に相当する。このようにすれば、パワーオンアップシフト変速中にアクセルペダル60の戻し操作が行われた場合には、SB2(油圧制御手段)において、アクセル開度ACCに対応して油圧低下制御が行われ、また、それとともに、SB3乃至SB5、SB8乃至SB10(出力制御手段)において、スロットル開度θTHが、アクセル戻し時のスロットル開度θTHとアクセル戻し後のアクセル開度ACCに基づいて定まるスロットル開度θTHとの間で漸減制御され、且つ、SB6(出力低下速度設定手段)において、スロットル開度θTHの低下速度が実際の作動油圧の変化に基づいて設定される。従って、粘度ρが高いために作動油圧の低下速度が遅い場合であっても、それに対応してスロットル開度θTHの低下速度も遅く設定されることになるので、作動油圧の低下遅れに起因する変速ショックを防止することができる。
また、前述の実施例では、出力制御手段におけるエンジントルク低下抑制制御は、スロットル開度θTHを制御することにより行っていたが、スロットル開度θTHに代えて、ISC弁の開度を制御することによりエンジントルク低下抑制制御を行ってもよい。
その他、一々例示はしないが、本発明はその趣旨を逸脱しない範囲内において、種々の変更が加えられて実施されるものである。