JP2006071573A - 磁気共鳴装置における高周波磁場強度測定法 - Google Patents

磁気共鳴装置における高周波磁場強度測定法 Download PDF

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Abstract

【課題】交流位相検波を用いた磁気共鳴装置において、変調方式の異なる2種類の磁気共鳴信号を比較することによって、スピン磁化が飽和状態に至らない程度の小さな高周波磁場の強度H1を評価する方法を提供する。
【解決手段】交流位相検波を用いた定常法磁気共鳴装置における高周波磁場強度測定法であって、異なる2つの変調方法で測定した磁気共鳴信号の信号強度比から、高周波磁場強度を評価する。
【選択図】図9

Description

磁気共鳴法を用いた装置における高周波磁場強度測定法に関する。
磁気共鳴法は、静磁場発生装置と高周波磁場発生装置を組み合わせて、対象となる電子スピンや核スピンを磁気共鳴状態に励起する手法である。その手法には、パルス高周波磁界で試料中のスピンを励起させるパルス磁気共鳴法と、定常波の高周波磁界で試料中のスピンを励起させるcw(continuous wave)磁気共鳴法とがある。以下、cw磁気共鳴法を定常法磁気共鳴法と呼ぶことにする。
磁気共鳴法を用いた装置の特徴としては、
(1)スピン位置の局所的な磁場強度を精度良く検出できる。
(2)対象を1H核や13C核といったさまざまな核のスピンとして選択可能である。
という特徴が挙げられる。
応用例としては、1mG以下の高分解能を持つ磁場精密測定装置、原子分子レベルの構造解析装置、また検体に対して非接触・非破壊で三次元画像や断面図が得られるMRI装置など、さまざまな分野に及ぶ。以下では、本発明を実際に適用した磁気共鳴力顕微鏡を一例として、磁気共鳴法を用いた装置について説明する。
磁気共鳴力顕微鏡(MRFM:Magnetic Resonance Force Microscopy)は、核磁気共鳴法を用いた画像処理装置である磁気共鳴イメージング装置(MRI:Magnetic Resonance Imaging)と、試料表面の原子像を観察する原子間力顕微鏡(AFM:Atomic Force Microscopy)の技術を融合させた、原子レベルの空間分解能が期待されるMRI装置である。現在、いくつかのグループがその開発を行なっている開発途上の装置であり、現時点での到達空間分解能は、20nmと言われている。この装置の目的の1つは、単一の遺伝子、単一の蛋白質、単一の生体分子など、極微小試料に対して、その立体構造を画像化し、解析することである。
図1に、MRFMの基本原理を示す。AFMの要素技術は、光ファイバー1、カンチレバー2、試料台3、および図示しないレーザー装置であり、MRIの要素技術は、高周波(RF)コイル4、カンチレバー2の先端に装着された磁気チップ5、および図示しない静磁場発生装置である。尚、図1の例では、カンチレバー2側に磁気チップ5、試料台3側に試料6が取り付けられた構成となっているが、これは、逆に、カンチレバー2側に試料6、試料台3側に磁気チップ5が取り付けられた構成であっても良い。このような構成において、MRIに必須な勾配磁場は、高透磁率磁性材料(永久磁石を含む)で作られた磁気チップ5により、空間均一性のきわめて悪い磁場として与えられる。
MRFMの動作は、次の通りである。MRFMにおける磁気共鳴現象は、外部の静磁場発生装置により与えられた静磁場と、磁気チップ5が発生する勾配磁場との和で定義される試料内静磁場と、RFコイル4により照射される高周波磁場の周波数との一意的関係によって決まる共鳴条件が成立したときに発生する。
共鳴条件が成立していない場合、カンチレバー2は、上記静磁場によって分極された試料の磁化と、磁気チップ5により発生された勾配磁場の積で与えられる磁気力を感じて、磁化と勾配磁場が存在しないときに定義される熱平衡状態の位置から撓んでいる。共鳴条件が成立すると、減少した分極磁化によって磁気力が弱められ、カンチレバー2が熱平衡状態時の位置方向へと戻る。この際に発生する磁気力の変化を磁気共鳴力と呼ぶ。
MRFMにおける測定量は、このカンチレバー振幅変位量であり、光干渉法や光てこ法を用いて変位量を測定する。磁気チップ5を試料6の上で走査することにより、試料6上の各位置における磁気共鳴力強度分布を得ることができる。この磁気共鳴力強度分布を、既知の磁場分布および勾配磁場分布を考慮しながらコンピュータ処理を施すことで、実空間像を再現する。
MRFMを代表として上記に挙げた磁気共鳴装置における高周波磁場の役割について、簡単に述べる。本発明では、その高周波磁場強度の評価方法を提案する。磁気共鳴装置を用いるにあたり、その構成要素である静磁場と高周波磁場の2つの特徴を熟知する必要がある。本発明において、定量的な測定方法を提案する高周波磁場強度H1は、その中でも、重要な変数の1つである。以下に、H1の3つの役割を挙げる。
・H1は、磁気共鳴信号から試料に含まれるスピンの数を導出するために必要不可欠な量である。
・磁気共鳴信号を感度良く測定するには、H1の値を評価し、H1を適切な値に調整する必要がある。
・MRFMにおいて、測定した磁気共鳴力強度分布をコンピュータ処理し、イメージングを行なう際に、装置関数が必要となる。装置関数の計算には、H1の値が不可欠であり、誤った値では、出力像がぼやけたり、正確な像が得られなかったりする。
このようなH1を評価するために、従来の方法では、H1の増加に対して、いわゆるスピン磁化の飽和条件を捜すことが行なわれてきた。以下に、一般的な交流位相検波を用いた定常法磁気共鳴装置を取り上げて、その作業が行なわれる装置構成と装置の動作について説明する。
高周波磁場H1の評価に必要な装置の構成は、
・試料、
・試料に静磁場Hを与えるための静磁場発生装置、
・試料に高周波磁場H1を与えるための高周波電力源と送信装置、
・試料中のスピンの運動を捉えるための受信装置、
の4つから成る。一例として、磁場変調法を用いた定常法磁気共鳴装置のブロック図を図2に示す。図中、点線で囲う丸印の1、丸印の2、丸印の3、および、丸印の4の領域は、それぞれ、試料、静磁場発生装置、高周波源、および、受信器を示す。
図2に示す各構成要素の原理や役割、また、これら4つを組み合わせた定常法磁気共鳴装置を用い、磁気共鳴信号を検出する手法は周知であり、例えば、非特許文献3や非特許文献4に記載されている。以下、要点のみを列挙する。
・静磁場発生装置では、静磁場Hを発生する磁石装置(Magnet)の他、試料に変調磁場を与える磁場変調器(Field Modulator)を設置する。変調磁場は、試料の磁化Mを変調させることができる。
・高周波電力源と送信装置について、ここでは、高周波電源で作られた高周波電力を高周波磁場に変換し、試料に与える装置を送信装置と呼ぶ。図3には、高周波コイルを用いた送信装置の例を示している。コイルに高周波電流を流すと、コイルの内部で高周波磁場が最も強く発生する。また、コイルを作る導線の直径を太くすることで、大電力にも耐えられるようにすることができる。このことから、送信装置としてコイルを用いることで、効率良く大きな高周波磁場を試料に与えることができる。高周波の周波数が高い場合には、空胴共振器を用いた送信装置が用いられる。空胴共振器においても、試料を空胴内部に設置することが可能であり、効率良く大きな高周波磁場を試料に与えることができる。
・受信装置では、試料が磁気共鳴を起こした結果、角振動数ωで最差運動する磁化によって高周波コイルに発生した誘導起電力を、受信器(Receiver)で受信し、検波器(Detector)で検波する。検波出力からは、磁場変調器で変調された成分のみが、位相検波器(Lock-in)によって取り出される。取り出された値は、スピン磁化Mの値に比例する量である。
次に、定常法磁気共鳴装置の動作について説明する。定常法電子スピン共鳴法や定常法核磁気共鳴法では、電子スピンや核スピンの磁化Mを測定する。試料に定常的な静磁場Hや高周波磁場H1が存在するとき、試料の磁化Mは、Blochの方程式に従って運動を行なう。この方程式の解のうち、定常解は、以下の式(1)で記述される。
Figure 2006071573
ここで、ωは、高周波磁場の角振動数、γは、スピン磁気回転比、TおよびTは、それぞれ縦および横スピン緩和時間である。χは、単位スピン当たりのスピン磁化率を意味し、常磁性材料の場合、
Figure 2006071573
で与えられる。ここで、プランク定数をhとすると、
Figure 2006071573
である。また、Sは、電子スピン、または、核スピンの全角運動量、kは、ボルツマン定数、Tは、試料の温度を意味する。ω、γ、T、T、χは、いずれも既知の定数である。また、磁気共鳴を起こしたスピン数Nは、未知の定数である。
高周波磁場強度H1は、コイルから高周波磁場が与えられる場合、コイルに流れる高周波電流の実効値をIrfとすると、
1=aIrf
として与えられる。このとき、比例定数aが、未知の定数になる。よって、式の右辺において、未知数は、Nとaの2つである。
図4に、式(1)から得られる磁気共鳴状態(H=ω/γ)における単位スピン当たりの磁化Mを、高周波磁場強度H1で対数プロットしたグラフを示す。実際の作業では、高周波コイルに流す電力を横軸に、高周波コイルに発生する誘導起電力を縦軸に取って、測定データをプロットする。H1 *=√(γ212−1を定義したとき、小さなH1(H1<H1 *)の範囲では、H1に対して、M∝H1 2のように単調に振る舞うため、測定データを計算式(1)でフィットしても、2つの未知数を決めることは難しい。H1 *を超える大きなH1までの測定が可能になれば、H1〜H1 *近傍で、曲線の折れ曲がりが観測される。H1がH1 *を超え、Mが急激に小さくなる現象は、飽和現象と呼ばれる。仮に、H1 *よりも大きなH1を発生させることが可能であれば、H1に対してMは非単調に振る舞い、計算式(1)で観測データをフィットすることにより、2つの未知数を決めることができるようになる。
このように、定常法磁気共鳴法においては、スピン磁化の飽和現象を探すことで、高周波コイルから試料に作られる高周波磁場強度H1が評価される。
米国特許第5266896号公報。
特公平7−69280号公報。
日本応用磁気学会誌、第22巻、第1号、19頁 (1998) Journal of Applied Physics, Vol. 79, p. 1881 (1996) A. Abragam,「The Principles of Nuclear Magnetism」, Oxford University, Clarendon Press, pp. 78〜85 (1962) 安岡弘志、本河光博編「丸善実験物理学講座7、磁気測定2、共鳴型磁気測定」、 丸善株式会社、51〜53頁 (2000)
高周波磁場を定常的に発生させ、磁気共鳴技術からスピン磁化を観測する装置において、従来の方法では、H1を増し、共鳴信号の飽和現象が観測される特徴的なH1を探して、H1の評価を行なってきた。しかしながら、スピンの飽和現象に達するまでの大きなH1を発生させることが困難な場合がある。MRFMがその一例である。
図1で示したMRFMでは、試料の周りに、磁気チップが載ったカンチレバー、および、カンチレバーの振動を受信する干渉計が設置されている。また、試料、あるいは磁気チップが載ったカンチレバーは、相対的に走査される。このような周りの物理的障害のため、試料をコイルの中に、または、試料をコイルに接近させて置くことができない。また、コイルに流す電流に対して、小さな試料(直径〜数十μm)に効率良く強い磁場を発生させるためには、細い導線で作製された小さな径のコイルが適するが、細い導線では、大きな電力を扱うことができない。
本発明の目的は、上述した点に鑑み、交流位相検波を用いた磁気共鳴装置において、変調方式の異なる2種類の磁気共鳴信号を比較することによって、スピン磁化が飽和状態に至らない程度の小さな高周波磁場の強度H1を評価する方法を提供することにある。
この目的を達成するため、本発明にかかる磁気共鳴装置における高周波磁場強度測定法は、交流位相検波を用いた定常法磁気共鳴装置における高周波磁場強度測定法であって、異なる2つの変調方法で測定した磁気共鳴信号の信号強度比から、高周波磁場強度を評価することを特徴としている。
また、前記定常法磁気共鳴装置は、電子スピン共鳴装置、または、核磁気共鳴装置であることを特徴としている。
また、前記変調方法は、静磁場強度、高周波磁場強度、高周波角振動数の内から選ばれる2つの量を単独で変調する方法であることを特徴としている。
また、前記定常法磁気共鳴装置は、磁気共鳴力顕微鏡であることを特徴としている。
また、前記変調方法は、高周波磁場強度と静磁場強度を同時に変調する非調和法、および、高周波角振動数と静磁場強度を同時に変調する非調和法であり、それらの2つの変調周波数の和や差の値が、磁気共鳴力顕微鏡を構成するカンチレバーの共振周波数の値と等しくなるように設定されていることを特徴としている。
本発明によれば、交流位相検波を用いた定常法磁気共鳴装置における高周波磁場強度測定法であって、異なる2つの変調方法で測定した磁気共鳴信号の信号強度比から、高周波磁場強度を評価するので、スピン磁化が飽和状態に至らない程度の小さな高周波磁場の強度H1を評価することができる。
本発明にかかる磁気共鳴装置における高周波磁場強度測定法について説明する。
まず、式(1)で与えられる磁化Mの測定方法として、交流位相検波を用いた定常法磁気共鳴法、例えば、定常法電子スピン共鳴法や定常法核磁気共鳴法を用いる。試料の磁化Mは、試料が入った高周波コイルから、高周波コイルに発生する誘導起電力として検出される。交流位相検波に用いる構成要素は、観測する物理量を変調させる変調器、ならびに、位相検波器から成る。
図2中、丸印の2で表わされる装置に含まれる磁場変調器(Field Modulator)は、静磁場を変調させる役割を担う。これにより、磁化Mが変調される。また、図2中、丸印の3で表わされる装置に含まれる高周波発生器(r. f. Generator)で高周波磁場強度H1や高周波角振動数ωを変調させることによって、同様に、磁化Mを変調させることができる。ここで、静磁場の変調を[HM]、H1の変調を[AM]、ωの変調を[FM]と略記する。また、[HM]を用いた際の磁場の変調量をHZ mod、[AM]を用いた際のH1の変調率をR、そして、[FM]を用いた際の角振動数変調量をΩと置く。図2中、丸印の4で表わされる装置に含まれる位相検波器(Lock-in)は、変調された信号を検波する。
本発明の目的であるH1の評価は、[AM]を用いて得た磁気共鳴信号と、[FM]を用いて得た磁気共鳴信号の、両者の信号を比較することによって行なう。
磁場掃引によって得られる信号波形の計算結果を図5に示す。図5は、[AM]を用いた結果、並びに、[FM]を用いた結果を示す。
検波信号O(HZ)は、式(1)で計算した磁化Mを用い、次式で導出した。
Figure 2006071573
Cは積分時定数、frefおよびφrefは、それぞれ検出における参照信号の周波数および位相を意味する。また、磁化率χを1とした。また、H1を0.5Gと設定した。計算に用いた定数を図6に示す。
図7は、[AM]で得た誘導起電力信号の最大値と、[FM]で得た誘導起電力信号の最大値の比fで、H1を計算した結果である。誘導起電力信号の最大値は、図5中、“Max”の文字で定義される値である。図7は、比fに対して、H1が単調減少として振る舞うことを示す。つまり、2種の信号強度比fを測定できれば、H1 *(=1.1G)以下でも、H1を評価することが可能になる。
1測定に当たっての分解能δH1は、δH1=|2αf|(|δV/V|)で与えられる。ここで、αは、図7に示すグラフの勾配(α=δH1/δf)、|δV/V|は、検出信号の比分解能を意味する。
1に対する係数2αfの振る舞いを図8に示す。例えば、|δV/V|=0.05の測定が行なえたとする。このとき、H1=0.5Gにおいて、図8より2αf=−2.2Gと読み取れ、分解能δH1=0.11Gが算出される。
本実施例の要点は、式(1)で表わされる単一の変調法を用いて測定された信号強度は、2つの未知数、つまり、スピン数Nと、H1もしくは高周波コイルに流す電流とH1の比例定数を含むのに対して、異なる2つの変調法を用いて得た信号強度の比は、未知数としてH1のみを含むことを利用した点である。
補足として、[AM]の信号波形と[HM]の信号波形とを比較することについて、説明を加える。[AM]の信号波形と[HM]の信号波形は、共鳴条件Ω=γHZ modが成り立つときに一致する。よって、[AM]の信号波形と[HM]の信号波形の比較方法も、同様に、[FM]の記述を共鳴条件を考慮して[HM]に置き換えることで可能となる。
次に、MRFMにおいて、構成要素の1つである高周波磁場の磁場強度H1を測定する方法を示す。試料近傍の様子を図9に示す。試料6は、カンチレバー2の先端に取り付けられる。試料6の周囲に磁気チップ5、および、高周波コイル4が設置される。磁気チップ5は、試料6に静磁場H、または静磁場Hの一部と、磁場勾配Gを与える役割を担う。磁気チップ4は、図示しない走査ステージの上に取り付けられる。尚、MRFMでは、試料6と磁気チップ5の間に働く相互作用が測定量となる。よって、カンチレバー2の先端に磁気チップ5を取り付け、走査ステージ側に試料を設置する構成も可能である。
高周波コイル4は、試料6に一様な高周波磁場を照射し、外部磁場(静磁場H、または静磁場Hの一部と、磁場勾配Gとの和)が印加された試料6の中で、共鳴磁場領域にある部分を共鳴状態に励起する役割を担う。
試料6の磁化Mは、試料6と磁気チップ5との間に働く磁気力F=−MGという形で検出される。磁気力の検出は、Cyclic Saturation Techniqueを用いた方法を仮定する。Cyclic Saturation Techniqueについては、D. Rugar, C. S. Yannoni, and J. A. Sidles,「Mechanical Detection of Magnetic Resonance」,6404 (1992), pp. 563-566に詳細が記述されている。この方法によるスピン磁化の検出は、交流位相検波を用いた定常法磁気共鳴測定法の範疇に属する。
Cyclic Saturation Techniqueは、カンチレバー2の共振現象を用い、カンチレバー2にかかる磁気力を感度良く測定することができる方法である。まず、試料6に印加される磁場強度、高周波磁場強度、もしくは、高周波角振動数を変調させ(それぞれ[HM]、[AM]、もしくは、[FM]と呼ぶ)、磁化を変動させる。このとき、磁気力が変動し、カンチレバー2が振動する。さらに、変調周波数をカンチレバー2の機械的共振周波数に一致させることで、カンチレバー2が力学的に共振し、カンチレバー2の振動振幅が増幅される。
この実施例では、上記に挙げたMRFMの構成を前提とする。高周波コイル4が試料6に与える一様な高周波磁場強度H1を評価するために、Cyclic Saturation Techniqueを用いて、2種類のMRFM信号を測定しておく。ただし、[HM]のみ、[AM]のみ、もしくは、[FM]のみを用いた力検出法は、それぞれ磁気チップ5とカンチレバー2、また、高周波コイル4とカンチレバー2との間に、付加的な力が働くことが知られ、目的である磁気チップ5と試料6との間に働く本質的な力と区別できない。可能な方法としては、[AM]と[HM]を2つ同時に行なう、いわゆる非調和法(以下、[AM+HM]と略記する)が知られている。非調和法については、K. J. Bruland, J. Krzystek, J. L. Garbibi, and J. A. Sidles, 「Anharmonic Modulation for Noise Reduction in Magnetic Resonance Force Microscopy」, Review of Scientific Instruments, 66 (4), (1995), pp. 2853-2856に詳細が記述されている。この方法では、2つの変調の変調周波数の和や差が、カンチレバー2の共振周波数に等しくなるように設定する。また、[FM]と[HM]を同時に行なう非調和法(以下、[FM+HM]と略記する)も可能である。
磁気チップ5を走査することによって得られるMRFM信号の計算結果を図10に示す。MRFM信号O(R)(ここで、Rは、位置ベクトルRを意味するものとする)は、磁気チップ5がRの位置にあるときに、磁気チップ5と試料6との間に働く磁気力を意味し、以下の式を用いて導出した。
Figure 2006071573
ここで、rは試料の位置を、Rは磁気チップの位置を示す。m(r-R)は、式(1)をNで除算したもの、つまり、スピン1個当たりの磁化を意味する。m(r-R)は、スピン位置に発生する磁場によって決まり、磁場強度は試料と磁気チップの相対位置r-Rで記述される。n(r)は、位置rにおけるスピン密度を意味する。走査方向は、図9に示すz方向である。横軸は、磁気チップが試料に与える磁場が、共鳴磁場に一致する磁気チップの位置を原点に取り、そこからの移動量をΔZで表わす。また、Tcは、積分時定数、frefおよびφrefは、それぞれ検出における参照信号の周波数および位相を意味する。更に、磁化率χを1、高周波磁場強度H1を0.5Gと設定した。
計算に用いた定数を図11に示す。図11において、fAM、fFM、fHMは、それぞれ[AM]、[FM]、[HM]の変調周波数である。また、frは、カンチレバーの共振周波数である。また、図10を得るに当たって、スピン密度n(r)の空間分布について、質点を仮定した。
図12は、高周波磁場強度H1を[AM+HM]で得た磁気力の最大値と、[FM+HM]で得た磁気力の最大値の比の関数として計算した結果を示す。最大値は、図10中、“Max”の文字で定義する値である。図12は、比に対して、H1が単調減少関数であることを示す。よって、2種の信号強度比を測定することができれば、H1 *(=1.1G)以下でも、H1を評価することが可能になる。
1測定に当たっての分解能δH1は、δH1=|2αf|(|δV/V|)で与えられる。ここで、αは、図10に示すグラフの勾配(α=δH1/δf)、|δV/V|は、MRFM信号の比分解能を意味する。H1に対する係数2αfの振る舞いを、図13に示す。例えば、|δV/V|=0.05の測定が行なえたとする。このとき、H1=0.5Gにおいて、図13より2αf=−1.9Gと読み取れ、分解能δH1=0.095Gが算出される。
本実施例の要点は、式(1)で表わされる単一の変調法を用いて測定された信号強度は、2つの未知数、すなわち、質点に存在するスピン数Nと、高周波磁場強度H1もしくはコイルに流す電流とH1の比例定数とを含むのに対し、異なる2つの変調法を用いて得た信号強度の比は、未知数としてH1のみを含むことを利用した点である。
補足として、スピン密度n(r)の広がりを質点と仮定したことについて、説明を加える。式(3)に含まれる未知数には、H1以外にスピン密度n(r)がある。以下に挙げる2つの手法によって、n(r)を既知とし、H1のみを未知数とすることができる。
(1)MRFM装置を用いて、スピン密度n(r)の情報を得る。試料を用意し、磁気チップを試料に対して3次元走査し、[AM+HM]を用いて、式(3)で与えられる3次元MRFM信号O(r)を測定する。そして、イメージング処理によって、3次元マップO(r)を3次元スピン密度マップn(r)に変換する。次に、同じ試料を用い、[FM+HM]を用いて、式(3)で与えられる3次元MRFM信号O(r)を測定する。そして、イメージング処理によって、3次元マップO(r)を3次元スピン密度マップn(r)に変換する。イメージング処理には、H1を未知数として含む。これら[AM+HM]と[FM+HM]の2つの手法で得た3次元スピン密度マップn(r)が一致するように、H1を決定する。
(2)試料が質点と見なせるように設定する。具体的には、磁気チップの磁場勾配を小さくし、観測対称である共鳴磁場領域を試料の大きさと同等もしくは大きくする。この条件は、磁気チップが試料に与える磁場勾配Gと試料サイズdを用いて、d≦δH/Gと書ける。ここで、δHは、装置に現れる線幅を意味する。線幅の原因としては、1.スピンの揺らぎに起因する項(δH〜1/γT2)、2.変調磁場の大きさ(δH〜HZ mod)、3.変調周波数の大きさ(δH〜Ω/γ)などがある。例えば、図11に示す状況で測定をした場合、3.の項が主になり、δH=7G程度になる。このとき、試料は、d=4.4μmより小さな試料であれば質点と見なせ、磁気チップをz方向の1次元で走査し、[AM+HM]で得た1次元検出結果O(r)と、[FM+HM]で得た1次元検出結果O(r)とを比較することにより、H1を決定することができる。
実施例2では、設定および観測が容易な(2)を用いた手順について説明した。
図14と図15は、実施例2に述べた手順に則り、MRFM装置を用いて、実際に高周波磁場強度を観測した結果である。観測に当たって、磁場勾配の小さな磁気チップ(磁場勾配G=1.6G/μm)と、小さな試料(一辺d〜4μmの立方体)を用いた。
図14の○や□は、高周波コイルにある値の電流を流し、MRFM信号を[AM+HM]と[FM+HM]の2つの手法で測定した結果である。図14では、2つの信号の最大値を比較するだけでなく、波形フィッティングで、MRFM信号の形まで比較した結果を示す。[FM+HM]の波形を式(3)および式(1)を用いてフィットし、試料に含まれるスピン数をN=2.9×1011個と評価した。図14に、さまざまなH1における計算結果を実線で示す。観測データと計算結果との比較から、[AM+HM]の波形を最適にフィットできるH1として、H1=0.62Gが決定された。
図15は、高周波コイルに流す電流値を減衰させ、2種のMRFM波形を観測した結果である。実線は、図14で得たスピン数を仮定し、電流値の減衰量に応じて、H1を0.78G(−6dB)、0.62G(−8dB)、0.49G(−10dB)、0.39G(−12dBと変化させ、波形を計算した結果である。いずれのデータも、式(3)および式(1)を用いて、良くフィットさせることができた。
磁気共鳴装置に広く利用できる。
磁気共鳴力顕微鏡の基本原理を示す図である。 磁場変調法を用いた定常法磁気共鳴装置のブロック図である。 高周波コイルを用いた送信装置の例を示す図である。 磁化Mを、高周波磁場強度H1で対数プロットした図である。 磁場掃引によって得られる信号波形の計算結果を示す図である。 図4及び図5の計算に用いたパラメータの表である。 [AM]で得た誘導起電力信号の最大値と、[FM]で得た誘導起電力信号の最大値の比fで、H1を計算した結果を示す図である。 1と2αfとの関係を示す図である。 磁気共鳴力顕微鏡の試料近傍を示す図である。 磁気チップを走査することによって得られるMRFM信号の計算結果を示す図である。 図10の計算に用いたパラメータの表である。 1を[AM+HM]で得た磁気力の最大値と、[FM+HM]で得た磁気力の最大値の比の関数として計算した結果を示す図である。 1と2αfとの関係を示す図である。 磁気共鳴力顕微鏡を用いて磁気共鳴力を観測した結果を示す図である。 磁気共鳴力顕微鏡を用いて磁気共鳴力を観測した結果を示す図である。
符号の説明
1:光ファイバー、2:カンチレバー、3:試料台、4:高周波コイル、5:磁気チップ、6:試料、7:磁場変調コイル

Claims (5)

  1. 交流位相検波を用いた定常法磁気共鳴装置における高周波磁場強度測定法であって、異なる2つの変調方法で測定した磁気共鳴信号の信号強度比から、高周波磁場強度を評価することを特徴とする磁気共鳴装置における高周波磁場強度測定法。
  2. 前記定常法磁気共鳴装置は、電子スピン共鳴装置、または、核磁気共鳴装置であることを特徴とする請求項1記載の磁気共鳴装置における高周波磁場強度測定法。
  3. 前記変調方法は、静磁場強度、高周波磁場強度、高周波角振動数の内から選ばれる2つの量を単独で変調する方法であることを特徴とする請求項2記載の磁気共鳴装置における高周波磁場強度測定法。
  4. 前記定常法磁気共鳴装置は、磁気共鳴力顕微鏡であることを特徴とする請求項1記載の磁気共鳴装置における高周波磁場強度測定法。
  5. 前記変調方法は、高周波磁場強度と静磁場強度を同時に変調する非調和法、および、高周波角振動数と静磁場強度を同時に変調する非調和法であり、それらの2つの変調周波数の和や差の値が、磁気共鳴力顕微鏡を構成するカンチレバーの共振周波数の値と等しくなるように設定されていることを特徴とする請求項4記載の磁気共鳴装置における高周波磁場強度測定法。
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