JP2006067935A - 新規ポリペプチドとその製造方法、及びポリエステル繊維改質剤 - Google Patents

新規ポリペプチドとその製造方法、及びポリエステル繊維改質剤 Download PDF

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Abstract

【課題】 ポリエステル、特に芳香族ポリエステルを含む繊維の帯電性や吸水性等を改質する特性に優れたポリペプチド及びその製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】 本発明のポリペプチドは、フザリウム・ソラニ(Fusarium solani)から得られた、リパーゼ活性を有する新規ポリペプチドである。このポリペプチドをポリエステルを含む繊維に接触させることによって、帯電性及び吸水性が改善される。
【選択図】 なし

Description

本発明は、ポリエステル繊維を改質する特性を有し、かつリパーゼ活性を有するポリペプチドとその製造方法、及びポリエステル繊維改質剤に関する。
世界で生産される合成繊維の約70%を占めるポリエステル繊維は、風合い加工、凸凹加工、吸湿加工、帯電防止加工等、様々な機能を改善する改質処理が行われている。ポリエステル繊維の改質処理においては、所望の特性を付与するための種々の仕上加工剤が用いられる。例えば、帯電防止加工は、帯電防止剤を樹脂等とともに繊維表面に付与することによって行われる。しかし、従来の仕上加工剤を用いて改質されたポリエステル繊維は、洗濯等に対する耐久性に乏しく、一時的な改質方法に過ぎなかった。
また、ポリエステル繊維の改質処理としては、苛性ソーダ等によるアルカリ減量加工もよく知られている。この方法は、濃厚な苛性ソーダ溶液を用い、ポリエステル繊維を最高約30%まで減量することによりドレープ性を出し、ポリエステル繊維に絹のような風合いを付与するものである。
しかし、この方法ではポリエステル分解物を含む大量の高濃度の苛性ソーダ廃液が生じ、この廃液処理が大きな問題となっている。また、この方法では、ポリエステル繊維の吸水性が低いことによる「べとつき感」や、帯電性が高いことによる「まとわりつき」といった性質が改善されない。
一方、生物によって産生される酵素を用いて、永続的に繊維を改質する技術が開発されている。例えば、ポリエステル繊維等をペクチナーゼ類、セルラーゼ類、プロテアーゼ類、リパーゼ類又はこれの混合物で処理する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
この中で、リパーゼは、脂質(トリアシルグリセロール)を加水分解する酵素であり、食品の香味改良、油脂の精製や改質等に使用できることが知られており、プロテアーゼと並んで洗剤の材料にも利用されている。このリパーゼは、現在は食品分野、化学分野において特に重要な働きを示す酵素であるが、脂質を含んだ排水や廃棄物の処理のような環境分野での利用も考えられ、今後ますます産業上の有用性が期待される酵素である。
リパーゼを用いてポリエステルを加工処理する技術としては、シュードモナス属由来のリパーゼを用いて脂肪族ポリエステルを分解する技術が知られている(例えば、特許文献2参照)。
特表2001−502014号公報 特開平5−344897号公報
しかし、上記特許文献2に記載のリパーゼを用いたポリエステル加工技術では、ポリエチレンテレフタレート(PET)のような芳香族ポリエステルに対しては、エステル分解が困難であり、100%芳香族ポリエステル、又はその混紡の改質には適さないという問題があった。
なお、微生物が産生する公知のリパーゼとしては、フザリウム・ソラニのNhL1タンパク及びフザリウム・ヘテロスポラム(Fusarium heterosporum)のトリアシルグリセロールリパーゼ等があるが、これらのリパーゼによるポリエステル繊維の改質特性については何ら報告されていない。
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、ポリエステル繊維を改質する特性に優れたポリペプチド及びその製造方法を提供することを目的とする。
また、本発明のさらなる目的は、ポリエステル繊維を改質できる改質剤及び改質方法を提供することを目的とする。
本発明者らは、上記課題を解決するために、土壌試料を用いてポリエステルを含む繊維を改質させる特性とリパーゼ活性とを指標にスクリーニングを行った。その結果、フザリウム・ソラニ(Fusarium solani)の一種である新規の微生物が、芳香族ポリエステルを含む繊維の帯電性や吸水性等を改質する特性を有していたことから、この微生物のリパーゼ遺伝子をクローニングした。さらに、これらの遺伝子をそれぞれ宿主細胞で導入してポリペプチドを発現させ、発現させた2種類のポリペプチドが、いずれもリパーゼ活性を有し、かつ、ポリエステル繊維の分解活性を有することを確認し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は以下のとおりである。
1. 以下の(a)から(c)のいずれかのポリペプチド。
(a)配列番号1若しくは3で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド。
(b)配列番号1若しくは3で表されるアミノ酸配列の33番目から333番目のアミノ酸からなるアミノ酸配列を含むポリペプチド。
(c)配列番号1若しくは3で表されるアミノ酸配列において、1若しくは複数のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、ポリエステル繊維を改質する特性のあるリパーゼ活性を有するポリペプチド。
2. 配列番号1若しくは3で表されるアミノ酸配列が、配列番号3で表されるアミノ酸配列であることを特徴とする上記1に記載のポリペプチド。
3. 上記1又は2に記載のポリペプチドをコードするDNA。
4. 以下の(A)又は(B)のDNA。
(A)配列番号2若しくは4で表される塩基配列からなるDNA。
(B)配列番号2若しくは4で表される塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつポリエステル繊維を改質する特性のあるリパーゼ活性を有するポリペプチドをコードするDNA。
5. 上記3又は4に記載のDNAを含む組換えベクター。
6. 上記5に記載の組換えベクターで形質転換された形質転換体。
7. 上記6に記載の形質転換体を培養し、ポリエステルを含む繊維を改質する特性のあるリパーゼ活性を有するポリペプチドを生成、蓄積させる工程、及び、前記ポリペプチドを培養物から採取する工程を含む、ポリペプチドの製造方法。
8. フザリウム属の糸状菌由来のリパーゼを含む、ポリエステル繊維改質剤。
9. フザリウム属の糸状菌由来のリパーゼを、ポリエステルを含む繊維に接触させる工程を含む、ポリエステルを含む繊維の改質方法。
10. 改質が、ポリエステルを含む繊維の帯電性の低減及び/又は吸水性の増加である、上記9記載の改質方法。
本発明によれば、フザリウム・ソラニ由来の新規のポリペプチド、前記ポリペプチドをコードするDNA、前記ポリペプチドの製造方法、前記ポリペプチドを含むポリエステル繊維改質剤、及び、前記ポリペプチドによるポリエステル繊維の改質方法を提供することができる。また、本発明の新規のポリペプチドは、リパーゼ活性を有し、かつ、ポリエステル繊維を改質する特性を有しており、特にPET等の芳香族ポリエステルを含むポリエステル繊維の帯電防止、吸水性向上等の改質に有効である。従って、本発明はポリエステル製布帛の減量加工処理の他、エステル結合を有する生分解性プラスチックの分解促進剤等の環境浄化にも利用可能である。
本発明のポリペプチドは、愛知県内の土壌から見出された新規な微生物の培養産物として見出された。新規な微生物は、ポテトデキストロース寒天(PDA)、オートミール寒天(OA)及び2%麦芽寒天(MEA)の各プレートに接種し、25℃で最長12週間の培養を行った形態学的観察により、大型分生子が三日月であること、気中菌糸が輪(ring)を形成しないこと、小型分生子を形成することを示したことから、フザリウム属糸状菌と推定された。
さらに、この新規な微生物の18SrRNA遺伝子に基づく分子生物学的分析により、フザリウム・ソラニと99.3%の相同性が認められ、この微生物はフザリウム・ソラニの一種であると同定された。この同定された菌株をF. solani 5112株と命名した。
本発明において、上記F. solani 5112株のDNAから、2種類の新規ポリペプチドLipC及びLipDを得た。
本発明の新規ポリペプチドLipCは、以下の(a1)から(c1)のいずれかのポリペプチドである。
(a1)配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド。
(b1)配列番号1で表されるアミノ酸配列において、33番目から333番目のアミノ酸配列を含むポリペプチド。
(c1)配列番号1で表されるアミノ酸配列において、1若しくは複数のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつポリエステル繊維を改質する特性のあるリパーゼ活性を有するポリペプチド。
また、本発明のもう1つの新規ポリペプチドLipDは、以下の(a2)から(c2)のいずれかのポリペプチドである。
(a2)配列番号3で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド、
(b2)配列番号3で表されるアミノ酸配列において、33番目から333番目のアミノ酸配列を含むポリペプチド。
(c2)配列番号3で表されるアミノ酸配列において、1若しくは複数のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列をからなり、かつポリエステル繊維を改質する特性のあるリパーゼ活性を有するポリペプチド。
配列番号1及び3のアミノ酸配列からなるポリペプチドは、333アミノ酸からなり、分子量は、36.2kDaである。1番目から32番目のアミノ酸は、シグナルペプチドである。
本発明において「ポリエステル繊維を改質する特性のあるポリペプチド」とは、ポリペプチドをポリエステル繊維に20℃にて1時間以上作用させた場合に、ポリエステル繊維の表面に電子顕微鏡にて観察可能な凹凸が形成されるものをいう。ポリエステル繊維表面の凹凸は、0.3μm以上であることが好ましい。また、ポリエステル繊維は、芳香族、脂肪族、脂環式ポリエステルのいずれでもよく、好ましくは芳香族ポリエステルを含むものである。上記のような特性を有する本発明のポリペプチドは、ポリエステルを含む繊維の帯電性、吸水性、染色性等の特性を改善することができる。
また、本発明のポリペプチドは、ポリエステルを分解可能であってもよく、その結果として上記のポリエステル繊維の改質特性を示すものでもよい。「ポリエステルを分解可能である」とは、ポリエステル中のエステル結合の少なくとも一部をエステル分解できることをいう。
また、「配列番号1若しくは3で表されるアミノ酸配列において、1若しくは複数のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列」とは、配列番号1若しくは3で表されるアミノ酸配列に、ポリエステル繊維を改質する特性のあるリパーゼ活性を有する程度の変異が導入されたものを指す。
配列番号1のアミノ酸配列において置換されるアミノ酸の個数は、1〜6個であることが好ましく、1〜4個であることがより好ましく、1〜2個であることがさらに好ましい。
また、配列番号3のアミノ酸配列において置換されるアミノ酸の個数は、1〜12個であることが好ましく、1〜6個であることが好ましく、1〜3個であることがさらに好ましい。
配列番号1及び3のアミノ酸配列からなるポリペプチドに対する変異は、自然界において生じる変異のほかに、人為的な変異も含む。人為的に変異させる手段としては、配列番号1及び3のポリペプチドをコードするDNAを用いて、ランダム変異あるいは部位特異的変異を導入し、遺伝子工学的に目的のポリペプチドを発現させることにより、アミノ酸配列中に、1又は複数のアミノ酸残基が欠失、置換、付加の少なくとも1つがなされているポリペプチドを得る方法が挙げられる。これにより、ポリエステル繊維の改質特性及びリパーゼ活性の至適温度、熱安定性、至適pH、pH安定性、基質特異性等の性質が異なったポリペプチドを得ることが可能となる。また、アミノ酸配列を変異させる手段としては、配列番号1又は3のアミノ酸配列からなるポリペプチド自体に対して、化学的手法によりアミノ酸の欠失、置換又は付加を行う方法を用いてもよい。
また、本発明によって提供されるDNAは、少なくとも、本発明のポリペプチドLipC及びLipDをそれぞれコードする塩基配列を含むものである。
LipCをコードするDNAとしては、上記(a1)から(c1)のいずれかのポリペプチドのアミノ酸配列をコードするものであればいかなるものでもよい。目的のポリペプチドをコードするDNAを調製する方法としては、当業界で公知の方法あるいはそれに準じる方法に従って行うことができ、例えばハイブリダイゼーション技術を利用する方法が挙げられる。
このようなDNAとしては、以下の(A1)又は(B1)のDNAが挙げられる。
(A1)配列番号2で表される塩基配列からなるDNA。
(B1)配列番号2で表される塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつポリエステル繊維を改質する特性のあるリパーゼ活性を有するポリペプチドをコードするDNA。
また、LipDをコードするDNAとしては、上記(A2)又は(B2)のポリペプチドのアミノ酸配列をコードするものであれば、いかなるものでもよい。
このようなDNAとしては、以下の(A2)又は(B2)のDNAが挙げられる。
(A2)配列番号4で表される塩基配列からなるDNA。
(B2)配列番号4で表される塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつポリエステル繊維を改質する特性のあるリパーゼ活性を有するポリペプチドをコードするDNA。
なお、タンパク質の生合成においては、遺伝暗号とアミノ酸は必ずしも1対1とはなっておらず、同一のアミノ酸が異なる遺伝暗号に対応することがある。従って、例示した配列番号2又は4の塩基配列以外の、同一アミノ酸配列に対応する他の遺伝暗号を含むDNAも、結果的に同一の本発明のポリペプチドを得るために利用可能であり、本発明のDNAに含まれる。
また、「ストリンジェントな条件下」とは、配列番号2又は4で表される塩基配列を有するDNAの一部又は全部をプローブとして、ハイブリダイズを使用する手法(例えば、コロニー・ハイブリダイゼーション法、プラーク・ハイブリダイゼーション法、サザンブロットハイブリダイゼーション法等)を用いることにより得られるDNAを意味する。具体的には、0.5mol/lの塩化ナトリウム存在下、55℃でハイブリダイゼーションを行った後、2倍濃度のSSC溶液(1倍濃度のSSC溶液の組成は、150mM NaCl、15mM クエン酸ナトリウム、pH7.0よりなる)を用いる場合が例示される。
ハイブリダイゼーションは、モレキュラー・クローニング、ア・ラボラトリー・マニュアル((Molecular cloning、A Laboratory Manual、 T.マニアティス(T.Maniatis)他著、コールド スプリング ハーバー ラボラトリー(Cold Spring Harbor Laboratory)、1989年発行)等に記載されている方法に準じて行うことができる。ハイブリダイズ可能なDNAとして具体的には、BLAST (National Center for Biotechnology Information)を用いて計算したときに、配列番号2又は4で表される塩基配列と少なくとも60%以上、好ましくは80%以上、さらに好ましくは95%以上の相同性を有するDNAを挙げることができる。なお、本発明における相同性は、BLASTのパラメータをWord size:3、Matrix:BLOSOM62、Gap Costs:Existence:11、Extension:1に設定したときの数値を表す。
本発明のDNAとしては、微生物由来のDNAが好適であり、フザリウム属に属する微生物に由来するDNAであることがより好適である。
フザリウム属に属する微生物としては、フザリウム・ソラニ、フザリウム・ヘテロスポラム、フザリウム・オキシスポラム、フザリウム・モリニフォルメ等を挙げることができる。その中でも、特に、フザリウム・ソラニに由来するものが好ましい。
また、本発明のDNAは、部分アミノ酸配列の情報を基にデザインした合成ヌクレオチドプライマーを用いて、例えば微生物のゲノムDNAを鋳型としてPCR(ポリメラーゼ連鎖反応)法を行い、増幅・単離することも可能である。PCR法は、PCRテクノロジー(PCR Technology、エルリッヒ(Erlich)HA編集、ストックトンプレス社(Stockton press)、1989年発行)に記載の方法に準じて行うことができる。
PCRによって得られたDNA断片中に、合成したオリゴヌクレオチドプライマーの配列以外に本発明のポリペプチドの部分アミノ酸配列に対応する塩基配列が見出された場合、得られたDNA断片をプローブとして更にハイブリダイゼーション法等を行うことによって本発明のポリペプチド全長をコードするDNAをクローニングすることができる。
さらに、本発明のDNAは、配列番号2及び配列番号4に記載の塩基配列の情報を基にして、化学合成によって得ることもできる。この方法は、ジーン(Gene)、第60(1)巻、第115-127頁(1987)の記載を参照して行うことができる。
本発明のポリペプチドを製造するには、上記のようにしてクローニングしたDNAを発現ベクターに導入して、このベクターを用いて宿主細胞の形質転換を行い、次いで、この形質転換体を通常用いられる条件で培養することによって行うことができる。
また、本発明は、本発明のDNAを含む組換えベクター及び本発明のDNAを含む組換えベクターを保持する形質転換体を提供する。本発明の組換えベクター及び形質転換体は、本発明のポリペプチドやそれをコードするDNAの発現に有用である。
宿主細胞としては、微生物、動物細胞、植物細胞等を用いることができる。微生物としては、大腸菌、バチルス(Bacillus)属、ストレプトマイセス(Streptomyces)属、ラクトコッカス(Lactococcus)属等の細菌、サッカロマイセス(Saccharomyces)属、ピキア(Pichia)属、クリベロマイセス(Kluyveromyces)属等の酵母、アスペルギルス(Aspergillus)属、ペニシリウム(Penicillium)属、トリコデルマ(Trichoderma)属、リゾプス(Rhizopus)属、フミコーラ(Humicola)属等の糸状菌が挙げられる。
動物細胞としては、昆虫細胞、例えばカイコの細胞、哺乳類培養細胞、例えばCOS細胞等が挙げられる。
宿主細胞としては、微生物を用いることが好ましく、アスペルギルス(Aspergillus)属、フミコーラ(Humicola)属の糸状菌を用いることがより好ましい。特に、アスペルギルス(Aspergillus)属の糸状菌(例えば、麹菌等)は、人間にとって無害でタンパク質の分泌能力に優れることから、目的のポリペプチドを安全かつ大量に産生させることができるため、好ましい。
発現ベクターとしては、宿主細胞において自立複製可能ないしは染色体中への組込みが可能で、本発明のDNAを転写できる位置にプロモーターを含有しているものが用いられる。
宿主細胞が微生物である場合、発現ベクターとしては、例えば、pBluescript (STRATAGENE社製)、pUC18 (タカラバイオ社製)、pUC118 (タカラバイオ社製)、pUC19 (タカラバイオ社製)、pUC119 (タカラバイオ社製)等を例示することができる。
プロモーターとしては、大腸菌、糸状菌等の宿主細胞中で発現できるものであればいかなるものでもよい。例えば、trpプロモーター(Ptrp)、lacプロモーター(Plac)等の、大腸菌やファージ等に由来するプロモーター、タカアミラーゼ遺伝子プロモーター、TEF1遺伝子プロモーター等の麹菌等に由来するプロモーター等を挙げることができる。また、人為的に設計改変されたプロモーター等も用いることができる。
組換えベクターの導入方法としては、上記宿主細胞へDNAを導入する方法であればいずれも用いることができ、例えば、カルシウムイオンを用いる方法〔Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 69, 2110 (1972) 〕等を挙げることができる。
酵母菌株が宿主細胞である場合には、発現ベクターとして、例えば、pAUR101(タカラバイオ社製)、pAUR112 (タカラバイオ社製)、pI-RED1(東洋紡績社製)等を例示することができる。
プロモーターとしては、酵母菌株中で発現できるものであればいかなるものでもよい。例えば、解糖系酵素遺伝子プロモーター、Galプロモーター等のプロモーターを挙げることができる。
組換えベクターの導入方法としては、酵母にDNAを導入する方法であればいずれも用いることができ、例えば、エレクトロポレーション法〔Methods. Enzymol., 194, 182 (1990)〕、スフェロプラスト法〔Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 84, 1929 (1978) 〕、酢酸リチウム法〔ジャーナル・オブ・バクテリオロジー(J. Bacteriol.)、153, 163 (1983)〕等を挙げることができる。
宿主細胞の培地、培養条件については、公知の方法に従って適宜選択することが可能である。微生物を宿主細胞とする場合、得られた形質転換体を培養する培地は、該微生物が資化しうる炭素源、窒素源、無機塩類等を含有し、形質転換体の培養を効率的に行える培地であれば、天然培地、合成培地のいずれを用いてもよい。
炭素源としては、ポテトデキストロース、グルコース、スクロース、可溶性デンプン、グリセリン、デキストリン、糖蜜、有機酸等を用いることができる。窒素源としては、硫酸アンモニウム、炭酸アンモニウム、リン酸アンモニウム、酢酸アンモニウム等の無機塩若しくは有機酸のアンモニウム塩その他の窒素化合物、ペプトン、酵母エキス、コーンスティープリカー、カゼイン加水分解物、肉エキスを用いることができる。無機塩類としては、リン酸第一カリウム、リン酸第二カリウム、リン酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化ナトリウム、硫酸第一鉄、硫酸マンガン、硫酸銅、炭酸カルシウム等を用いることができる。
また、誘導性のプロモーターを用いた発現ベクターを導入した形質転換体を培養する場合には、必要に応じてインデューサーを培地に添加してもよい。例えば、lacプロモーターを用いた場合はイソプロピル−β−D−チオガラクトピラノシド等を、trpプロモーターを用いた場合はインドールアクリル酸等を培地に添加することができる。
本発明のポリペプチドを形質転換体の培養物から単離精製するには、公知の酵素の単離、精製法を用いればよい。
例えば、本発明のポリペプチドが、細胞内に溶解状態で発現した場合には、培養終了後、細胞を遠心分離により回収し緩衝液に懸濁して、超音波破砕機、フレンチプレス等により細胞を破砕することによって、無細胞抽出液を得る。さらに、該無細胞抽出液を遠心分離することにより得られた上清から、通常の酵素の単離精製法で用いられる手法により精製したポリペプチドを得ることができる。この手法としては、溶媒抽出法、硫安等による塩析法、脱塩法、有機溶媒による沈殿法、陰イオン交換クロマトグラフィー法、陽イオン交換クロマトグラフィー法、疎水性クロマトグラフィー法、ゲルろ過法、アフィニティークロマトグラフィー法、クロマトフォーカシング法、等電点電気泳動等の電気泳動法等が挙げられ、これらは単独で、あるいは組み合わせて用いることができる。
また、本発明のポリペプチドが細胞内に不溶状態で発現した場合は、上記と同様に細胞を破砕後、遠心分離を行うことにより得られた沈殿画分より、通常の方法によりポリペプチドを回収する。さらに、得られたポリペプチドの不溶体を変性剤で可溶化し、希薄溶液に希釈あるいは透析した後、上記と同様の単離精製法により精製ポリペプチドを得ることができる。
本発明のポリペプチドあるいはその糖修飾体等の誘導体が細胞外に分泌された場合には、培養上清に該ポリペプチドあるいはその誘導体を回収することができる。即ち、培養物を上記と同様の遠心分離等の手法により処理することにより可溶性画分を取得し、可溶性画分から、上記と同様の単離精製法を用いることにより、精製ポリペプチドを得ることができる。
なお、本発明のポリペプチドの発現方法としては、直接発現以外に、モレキュラー・クローニング 第2版に記載されている方法等に準じて、分泌生産、融合タンパク質発現等を行うことができる。
また、上記方法により発現させたポリペプチドを、Fmoc法(フルオレニルメチルオキシカルボニル法)、tBoc法(t-ブチルオキシカルボニル法)等の化学合成法によっても製造することができる。また、市販のペプチド合成機を利用し合成することもできる。
また、上記のようにポリペプチドを発現させるほかに、本発明のポリペプチドを産生する微生物を天然からスクリーニングして、その培養物から天然ポリペプチドを分離、回収することによって、本発明のポリペプチドを取得することもできる。
スクリーニングによって得られた微生物の培養は、通常行われる条件で行えばよく、液体培養でも固体培養でもよい。大量に培養するには、液体培地を用いて、振とう培養又は通気撹拌培養により好気的条件下で行うことが望ましい。培地及び培養条件等は、前記形質転換体において記載したものと同様とすることができる。
培地のpHは、例えば約2.0〜12.0、好ましくは約4.0〜8.0程度に調整するのがよい。培養温度は、例えば約20〜40℃、好ましくは約30℃程度であり、培養期間は、5〜20日間、好ましくは10〜15日間程度である。
微生物の培養物から本発明のポリペプチドを回収するには、公知の方法で行うことができ、例えば、培養物の遠心分離、ろ過等により粗酵素液を容易に得ることができる。得られた粗酵素液をさらに公知の精製方法により精製することができる。精製方法としては、塩析、有機溶媒による分別沈殿、ゲルろ過クロマトグラフィー、陰イオン交換クロマトグラフィー、陽イオン交換クロマトグラフィー、その他の各種クロマトグラフィー、電気泳動等を例示でき、これらを単独であるいは組み合わせて用いることができる。
また、発現の確認や発現産物の確認は、本発明のポリペプチドに対する抗体を用いて行うことが簡便であるが、リパーゼ活性を測定することにより発現の確認を行うこともできる。
本発明のポリペプチドに対する抗体を用いて発現を確認する場合は、本発明のポリペプチドまたは該ポリペプチドの部分断片ポリペプチドの精製標品、あるいは本発明のポリペプチドの一部のアミノ酸配列を有するペプチドを抗原として用いることにより、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体等、本発明のポリペプチドを認識する抗体を作製することができる。
また、リパーゼ活性の測定は、上記で得られた発現産物にp−ニトロフェニルブチレートを作用させ、p−ニトロフェノールを遊離させた後、反応液の400nmにおける吸光度の変化を測定することによって行うことができる。
次に、本発明のポリエステル繊維改質剤及びポリエステルを含む繊維の改質方法について説明する。
本発明のポリエステル繊維改質剤は、フザリウム属の糸状菌由来のリパーゼを含むものである。本発明のポリエステル繊維改質剤に含まれるリパーゼは、フザリウム属の糸状菌由来であれば特に限定されないが、上記の本発明のポリペプチド(a1)から(c1)、(a2)から(c2)のいずれかであることが好ましい。リパーゼは、適当な溶媒に溶解させてもよい。溶媒としては特に限定されず、例えば水を用いることができる。本発明のポリエステル繊維改質剤には、リパーゼを0.02〜2.0unit/mlの範囲で含有していることが好ましい(なお、p−ニトロフェニルブチレートから1分間に1μmolのp−ニトロフェノールを遊離させる酵素量を1unitとする。)。また、本発明のポリエステル繊維改質剤は、安定化剤、界面活性剤、緩衝液、防腐剤等の添加剤を含有していてもよい。
本発明のポリエステルを含む繊維の改質方法を実施するには、例えば、本発明のポリペプチドを適当な溶媒に溶解した後、ポリエステルを含む繊維をポリペプチドを含む溶液に浸漬する等して、本発明のポリペプチドに接触させることにより行うことができる。
改質時の条件については、リパーゼが失活しない限り特に限定されない。具体的には、リパーゼ濃度0.02〜2.0unit/ml、pH6.0〜10.0、温度20〜50℃において、反応時間10〜40時間で行うのが好ましい。
本発明の改質剤及び改質方法の対象となる繊維としては、ポリエステルを含む繊維であれば特に限定されず、芳香族、脂肪族、脂環式ポリエステル等を対象とすることができる。これらの化合物は、微生物によって産生されたものであってもよいし、化学合成されたものであってもよい。特に、PET(ポリエチレンテレフタレート)、PTT(ポリトリメチレンテレフタレート)、PBT(ポリブチレンテレフタレート)等の芳香族ポリエステルを含む繊維に対して有効である。
本発明の改質剤及び改質方法によれば、ポリエステルを含む繊維の帯電性を低減し、吸水性の増加させることができる。特に芳香族ポリエステルを含む繊維に対して、これらの性質を改善することが可能である。
以下、実施例により本発明についてさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
(1)リパーゼ生産菌の分離
愛知県内で採取した土壌試料約1gを0.01% Tween80溶液10mlに懸濁後、懸濁液100μlを1%オリーブオイル、0.5%ポリビニルアルコール(重合度約2000)、0.25% Triton x-100及び0.01%ブリリアントグリーンを添加したLB(ポリペプトン1%、酵母エキス0.5%、NaCl 1%)寒天培地に塗抹した。30℃で一週間培養後、コロニーの周りに緑色のハロー形成が認められる菌株を0.01% Tween80溶液10mlに懸濁し、懸濁液100μlを1%オリーブオイル、0.5%ポリビニルアルコール(重合度約2000)、0.25% Triton x-100及び0.01%ブリリアントグリーンを添加したLB寒天培地に塗抹した。
上記の処理を72ヶ所の土壌試料に行い、コロニーの形態の異なる43株を分離した。得られた43株を1%オリーブオイルを添加したLB培地中で30℃、7日間振とう培養した後、培養液中のリパーゼのエチレングリコールジベンゾエート(EDB)分解活性を測定した。その結果、43株中16株の培養液にEDB分解活性が認められた。なお、EDB分解活性は以下の方法で測定した。すなわち、培養液0.98mlに0.02mlの0.5mol/LEDB/エタノール溶液を加え、40℃、24時間反応させた後、EDBとその分解産物である安息香酸(BA)をエーテル100μlを用いて抽出し、そのうち10μlを薄層クロマトグラフ(シリカゲル60 F254、展開溶媒 ベンゼン:メタノール:酢酸=97:2:1)により展開し、安息香酸のスポットを生じるものをEDB分解活性ありとした(図1)。
(2)PET分解活性のあるリパーゼ生産菌の選択
上記(1)で選択された16菌株の培養液1mlにJIS L0803準拠のPET布帛1cm2を浸し、40℃、22時間反応させた後、蒸留水でPET布帛を洗浄し、走査型電子顕微鏡により表面変化を観察した。PET布帛の表面観察は、イオンスパッタリング装置JFC-1100E(日本電子(株)製)により白金コーティングした後、走査型電子顕微鏡JSM-820(日本電子(株)製)を用いて加速電圧10kVで行った。16株中5株の培養液について、PET繊維表面にひび割れや穴の発生が観察された。
さらに、5株のリパーゼ活性を以下の方法で測定した。すなわち450μlの2.5mmol/L pーニトロフェニルブチレート/ブリトンロビンソン広域緩衝液(pH 7.0)に培養液50μlを加え、35℃、10分間反応させた後、500μlのエタノールを加えて反応を停止後、400nmにおける吸光度の変化を測定した。その結果、この5株はすべてリパーゼ活性を有していることがわかった。
(3)PET布帛改質効果の評価
上記(2)で選択された5菌株を1%オリーブオイル添加LB培地で30℃、7日間振とう培養して得られた培養上清40mlに対し、JIS L0803準拠のPET布帛30cm2を浸し、40℃、22時間反応後、蒸留水で洗浄、自然乾燥して、布帛の吸水性及び帯電特性の評価を行った。なお、比較として、未処理のもの及び従来の方法でアルカリ処理を施したものを用いた。
吸水性は、JIS L1907A法に規定されている滴下法で評価した。具体的には、試料表面に水滴を滴下し、水滴が特別な反射をしなくなるまでの(試料が水滴を吸収して鏡面反射が消えるまで)時間を測定した。
帯電特性は、スタチックオネストメータH-1100(シシド静電気製)を用い、織物及び編物の帯電性試験方法(JIS L1094A法)で評価した。ただし、相対湿度については65%とした。半減期とは、試料に1万ボルトを印加し、印加を止めた後試料の帯電圧が半分に減衰するまでの時間のことである。
評価の結果、未処理のもの及びアルカリ処理したものと比較して5菌株すべてにおいて吸水性及び帯電性が改善されていた。また、5菌のうちの1つである5112株において最も吸水性が改善していることがわかった(表1)。
(4)菌株の同定
最も吸水性の改善効果の高い5112株について、形態学的観察及び遺伝子的同定を次のように行った。すなわち、5112株を、ポテトデキストロース寒天(PDA)、オートミール寒天(OA)及び2%麦芽寒天(MEA)の各プレートに接種し、25℃で最長12週間の培養を行った。培養後の形態学的観察において、大型分生子が三日月形であること、気中菌糸が輪(ring)を形成しないこと、小型分生子を形成すること等より、5112株はフザリウム属と推定された。
また、5112株のrRNA遺伝子の塩基配列を次のように調べた。すなわち、Readerらの方法(U. Reader and P. Broda, Lett. Appl. Microb.,1, 17-20(1985))に従って調製したF. solani 5112株の染色体DNA約0.1μgを鋳型DNAとして、PCRプロトコール(PCR Protocols、ミカエル(Michael)A.Iら編集、アカデミックプレス社(Academic Press)1990年発行)第38章に記載の方法に準じて、5112株のPCR反応を30サイクル行った。その結果、18SrRNA遺伝子より23SrRNA遺伝子上流までの2304bpのDNA断片が特異的に増幅された。
増幅されたDNA断片の塩基配列をThermo Sequnase蛍光シーケンサー用サイクルシーケンシングキット(アマシャムバイオサイエンス製)及びDNAシーケンサーModel 4000LS(LI-COR製)を使用して決定した。このDNA断片の塩基配列を配列番号5に示す。(なお、以後の塩基配列決定はすべて同様の方法を用いた。)この配列番号5に記載の塩基配列について塩基配列データベースで検索したところ、既知の塩基配列と重複する1407bpの領域を有していることが判明し、この領域において99.3%の相同性でフザリウム・ソラニ(P. Leeflang, E. Smit, D. Glandorf, E. van Hannen, K. Wernars, Soil Biol. Biochem. 34, 1021-1025 (2002))と一致していることがわかった。
(5)リパーゼ遺伝子の増幅
公開されているフザリウム・ヘテロスポラムのリパーゼ遺伝子のアミノ酸配列(T. Nagao, Y. Shimada, A. Sugihara, Y. Tominaga, J. Biochem. 116, 536-540 (1994))よりP1プライマー及びP2プライマーを設計した。
P1プライマー:5'-TCATGCATCTCATCCTATCTATTCTTTCCAT-3'(配列番号6)
P2プライマー:5'-CCGTCGACCTAAGTCATCTGCTTAACAAATTCC-3'(配列番号7)
5112株の染色体DNA約0.1μgを鋳型DNAとして、P1プライマー及びP2プライマーを用い、PCR反応を30サイクル行った。その結果、1132bpのDNA断片が特異的に増幅された。増幅されたDNA断片をpUC119のHincII部位に連結し、E. coli DH5α株の形質転換及びサブクローニングを行った。PCR増幅DNA断片を有する12株の大腸菌形質転換株からプラスミドを調製し、クローニングしたDNA断片の塩基配列を解析した。塩基配列を解析した結果、2種類のDNA断片が見出され、その塩基配列を配列表の配列番号2及び配列番号4と決定した。配列番号2のDNA断片がクローニングされたプラスミドをpFLipC、配列番号4のDNA断片がクローニングされたプラスミドをpFLipDと命名した。
プラスミドpFLipCを保持する大腸菌及びプラスミドpFLipDを保持する大腸菌をそれぞれE. coli DH5α/pFLipC及びE. coli DH5α/pFLipDと命名し、平成16年7月30日に、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター(〒305−8566茨城県つくば市東1−1−1中央第6)に、それぞれ受託番号FERM P-20149及びFERM P-20150として寄託した。
(6)LipC及びLipDの麹菌での発現
麹菌(アスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae)、以下A. oryzae)のpyrG遺伝子(北本則行、吉野庄子、醤研、25, 21-26 (1999))の塩基配列からPyrGMFプライマー及びPyrGMRプライマーを作製した。
PyrGMFプライマー:5'-GGAGGGATGGGACGCTTACCTGAAGCGT-3' (配列番号8)
PyrGMRプライマー:5'-ACGCTTCAGGTAAGCGTCCCATCCCTCC-3' (配列番号9)
まず、プラスミドpYRG100を以下のように作製した。PyrGFプライマー(北本則行、吉野庄子、醤研、25, 21-26 (1999))及びPyrGRプライマー(北本則行、吉野庄子、醤研、25, 21-26 (1999))を用いて、A. oryzae KBN616株(N. Kitamoto, T. Kimura, Y. Kito, K. Ohmiya, N. Tsukagoshi, FEMS Microbiol. Lett., 111, 37-42(1993))の染色体DNAを鋳型としてPCR反応を行い、約1.9kbのDNA断片を得た。得られたDNA断片をSalIとHindIIIで切断して得られる約1.9kbのDNA断片をpUC119のSalIとHindIIIで切り出されるプラスミドDNAへ挿入してpYRG100を作製した。
次に、このプラスミドpYRG100を鋳型DNAとしてPyrGFプライマー及びPyrGMRプライマーを使用して、PCR反応を30サイクル行った。また、プラスミドpYRG100を鋳型DNAとしてPyrGRプライマー及びPyrGMFプライマーを使用して、PCR反応を30サイクル行った。さらに、10倍希釈した2種類のPCR反応液を鋳型DNAとしてPyrGFプライマー及びPyrGRプライマーを使用して、再度PCR反応を30サイクル行った。
そして、増幅された1871bpのDNA断片をpUC118にサブクローニングして、pYRM100を作製した。pTAP200(N. Kitamoto, M. Go, T. Shibayama, T. Kimura, Y. Kito, K. Ohmiya, N. Tsukagoshi, Appl. Microbiol. Biotechnol., 46, 538-544(1996))を制限酵素EcoRI及びSacIで消化することによって切り出したタカアミラーゼ遺伝子プロモーター(N. Tsukagoshi, M. Furukawa, H. Nagaba, N. Kirita, A. Tsuboi, S. Udaka, Gene, 84, 319-327(1989))を、制限酵素EcoRI及びSacIで消化したpYRM100に組み込んで、麹菌用発現ベクター、pYRMTA100を作製した。
なお、制限酵素SalI、HindIII、EcoRI及びSacIは、タカラバイオ社より購入した。
次に、A. oryzaeのamy3遺伝子の塩基配列(S. Wirsel, A. Lachmund, G. Wildhardt, E. Ruttkowski, Mol. Microbiol., 3(1), 3-14(1989))からtaaG3T3プライマー及びtaaG3T4プライマーを作製した。
taaG3T3:5'-CCGTCGACTGAAGGGTGGAGAGTATATGATG-3' (配列番号10)
taaG3T4:5'-AGCTCGAGCTATCTGGGCATTAGTAAGTG-3' (配列番号11)
A. oryzae KBN6217株(北本則行、松井淳子、安田庄子、愛知県産業技術研究所報告、No.2, 12-13(2003))の染色体DNAを鋳型としてtaaG3T3プライマー及びtaaG3T4プライマーを使用して、PCR反応を30サイクル行った。その結果増幅された433bpのDNA断片を制限酵素SalI及びXhoIで消化した後、制限酵素Salで消化したpYRMTA100に組み込んで、麹菌用発現ベクター、pYRMTA200を作製した。
配列番号2のDNAを制限酵素EcoT22I及びSacIで消化した後、制限酵素EcoT22I及びSacIで消化したpYRMTA200に組み込み、LipC遺伝子高発現ベクターpTAFLipC205を作製した。pTAFLipC205でA.oryzae KBN616-PA48株(pyrG欠損株)(Mol. Gen. Genet., 210:460-461(1987)に従い、上記A. oryzae KBN616株を親株として5−フルオロロチン酸の耐性菌を分離してウリジン要求性変異株を得ることで容易に取得できる)を形質転換して、LipC遺伝子高生産麹菌A.oryzae FLC001株を得ることができた。
同様に、配列番号4のDNAを制限酵素EcoT22I及びSacIで消化した後、制限酵素EcoT22I及びSacIで消化したpYRMTA200に組み込み、LipD遺伝子高発現ベクターpTAFLipD210を作製した。pTAFLipD210でA.oryzae KBN616-PA48株を形質転換して、LipD遺伝子高生産麹菌A.oryzae FLD011株を得ることができた。
A.oryzae FLC001株及びA.oryzae FLD011株をスターチペプトン(SP)培地(可溶性デンプン2%、ポリペプトン1%、KH2PO4 0.5%、NaNO3 0.1%、MgSO4 0.05%)50mlで30℃、10日間振とう培養を行ったところ、培養上清中にそれぞれ0.24units/ml及び0.28units/mlのリパーゼ活性を検出した。
なお、制限酵素EcoT22I及びXhoIは、タカラバイオ社より購入した。
(7)ポリペプチドの精製
A.oryzae FLC001株の培養上清を凍結乾燥後、10mmol/Lリン酸カリウム緩衝液(pH 7.0)に溶解し、10mmol/Lリン酸カリウム緩衝液(pH 7.0)中で一晩透析し粗酵素液とした。粗酵素液中のタンパク質をそれぞれQ-Sepharose FF(アマシャムバイオサイエンス製)に吸着させ、0mol/Lから0.4mol/LまでのNaClの濃度勾配で吸着タンパク質を溶出させた。リパーゼ活性画分を集めて、10mmol/Lリン酸カリウム緩衝液(pH 7.0)中で一晩透析した後、Q-Sepharose FF(アマシャムバイオサイエンス製)に吸着させ、0mol/Lから0.4mol/LまでのNaClの濃度勾配で吸着タンパク質を溶出させた。リパーゼ活性画分を集めて、10mmol/Lリン酸カリウム緩衝液(pH 7.0)中で一晩透析し、Superdex200 pgカラム(アマシャムバイオサイエンス製)中を通過させた。リパーゼ活性画分を集めて、1.33mol/Lの硫酸ナトリウムを含む20mmol/Lリン酸カリウム緩衝液(pH 9.0)中で一晩透析した後、Phenyl Sepharose 6 FF(high sub)(アマシャムバイオサイエンス製)に吸着させ、1.33mol/Lから0mol/Lまでの硫酸ナトリウムの濃度勾配で吸着タンパク質を溶出させた。リパーゼ活性画分を集めて、10mmol/Lリン酸カリウム緩衝液(pH 7.0)中で一晩透析を行い、精製したポリペプチドLipCを得た。A.oryzae FLD011株の培養上清からも同様の操作によって、精製したポリペプチドLipDを得た。
このLipC及びLipDの一部をSDSポリアクリルアミドゲル電気泳動に供試し、クマシーブリリアントブルーR250染色によるタンパク質の検出を行った。LipC及びLipDはいずれも単一バンドを示し、実質的に純粋であることが確認された(図2)。
(8)LipC及びLipDの諸性質の評価
以下に示す方法によって、上記(7)で得られたLipC及びLipDの諸性質を評価した。
反応温度を20、25、30、35、40、45、50、55、60、65℃の各温度に変化させ、リパーゼ活性を測定することによってLipC及びLipDの至適温度を測定した(図3)。また、酵素溶液を20、25、30、35、40、45、50、55、60、65℃の各温度で10分間保温後、リパーゼ活性を測定することによってLipC及びLipDの熱安定性を測定した(図4)。
その結果、LipC及びLipDの至適温度はいずれも35℃であった。また、LipC及びLipDはいずれも50℃までは安定であったが、55℃以上で急激に失活した。
pH4、5、6、7、8、9、10のブリトンロビンソン広域緩衝液を用いてリパーゼ活性を測定することによってLipC及びLipDの至適pHを測定した(図5)。また、酵素液をpH4、5、6、7、8、9、10、11、12のブリトンロビンソン広域緩衝液に希釈し、4℃で24時間保温後、リパーゼ活性を測定することによってLipC及びLipDのpH安定性を測定した(図6)。その結果、LipC及びLipDの至適pHはいずれもpH9であった。また、LipCはpH5以上で80%以上の残存活性があり、LipDはpH6からpH8で80%以上の残存活性があった。
LipC及びLipDの基質特異性を以下の方法で測定した。基質としては、ラウリン酸ビニル、乳酸エチル、カプリル酸エチル、ラウリン酸エチル、ミリスチン酸エチル、パルミチン酸エチル、ステアリン酸エチル、オレイン酸エチル、リノール酸エチル、テレフタル酸ジエチル、EDBを用い、3mlの200μmol基質/ブリトンロビンソン広域緩衝液(pH 7.0)に1unitのLipC及びLipDを加え、300rpmで撹拌しつつ30℃、30分間反応させた後、0.01N水酸化ナトリウム水溶液で滴定することで加水分解活性を測定した。ラウリル酸ビニルでの活性を100とし各基質での活性を相対的に表した(表2)。
その結果、LipC及びLipDはステアリン酸エチルを最も加水分解した。また、テレフタル酸ジエチルに対してラウリン酸ビニルと同等の加水分解活性を有していた。一方、EDBに対しての加水分解活性では、LipCはLipDに比較して約3倍の加水分解活性を有していた。
(9)LipC及びLipDのPET布帛改質
以下に示す方法によって、上記(7)で得られたLipC及びLipDによるPET布帛改質効果を評価した。
0.20units/mlのLipC溶液1ml、あるいは、LipD溶液1mlに、JIS L0803準拠のPET布帛1cm2を浸し、35℃、20時間反応させた後、蒸留水でPET布帛を洗浄し、走査型電子顕微鏡により表面変化を観察した(図7)。その結果、LipC及びLipDで処理したPET布帛には、どちらも表面に穴が生じる変化が見られた。
0.24units/mlのLipC溶液50ml、あるいは、LipD溶液50mlにJIS L0803準拠のPET布帛50cm2を浸し、30℃、20時間処理した。処理布帛の吸水性の変化をJIS L1907A法で評価した。さらに帯電性の変化をJIS L1094A法で評価した。この結果を表3に示す。表3より、LipDで処理したPET布帛は、LipCで処理したPET布帛より帯電性において高い改質効果が得られることがわかった。
なお、Candida rugosa由来のリパーゼAY「アマノ」30G、Rhizopus oryzae由来のリパーゼF−AP15、Rhizopus niveus由来のニュラーゼF3G、Aspergillus niger由来のリパーゼA「アマノ」6(いずれも天野エンザイム社より購入)を用いて、上記と同様にPET布帛の吸水性及び帯電性の変化を観察したところ、これらの改質効果は全く見られなかった。
エチレングリコールジベンゾエート分解活性検出を示す図である。 本発明のLipC及びLipDのSDS-PAGEによる泳動パターンを示す図である。 本発明のリパーゼの至適温度範囲を示す図である。 本発明のリパーゼの熱安定性範囲を示す図である。 本発明のリパーゼの至適pH範囲を示す図である。 本発明のリパーゼの安定pH範囲を示す図である。 本発明のリパーゼにより処理をしたポリエステルの電子顕微鏡写真である。

Claims (10)

  1. 以下の(a)から(c)のいずれかのポリペプチド。
    (a)配列番号1若しくは3で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド。
    (b)配列番号1若しくは3で表されるアミノ酸配列の33番目から333番目のアミノ酸からなるアミノ酸配列を含むポリペプチド。
    (c)配列番号1若しくは3で表されるアミノ酸配列において、1若しくは複数のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、ポリエステル繊維を改質する特性のあるリパーゼ活性を有するポリペプチド。
  2. 配列番号1若しくは3で表されるアミノ酸配列が、配列番号3で表されるアミノ酸配列であることを特徴とする請求項1に記載のポリペプチド。
  3. 請求項1又は2に記載のポリペプチドをコードするDNA。
  4. 以下の(A)又は(B)のDNA。
    (A)配列番号2若しくは4で表される塩基配列からなるDNA。
    (B)配列番号2若しくは4で表される塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつポリエステル繊維を改質する特性のあるリパーゼ活性を有するポリペプチドをコードするDNA。
  5. 請求項3又は4に記載のDNAを含む組換えベクター。
  6. 請求項5に記載の組換えベクターで形質転換された形質転換体。
  7. 請求項6に記載の形質転換体を培養し、ポリエステルを含む繊維を改質する特性のあるリパーゼ活性を有するポリペプチドを生成、蓄積させる工程、及び、前記ポリペプチドを培養物から採取する工程を含む、ポリペプチドの製造方法。
  8. フザリウム属の糸状菌由来のリパーゼを含む、ポリエステル繊維改質剤。
  9. フザリウム属の糸状菌由来のリパーゼを、ポリエステルを含む繊維に接触させる工程を含む、ポリエステルを含む繊維の改質方法。
  10. 改質が、ポリエステルを含む繊維の帯電性の低減及び/又は吸水性の増加である、請求項9に記載の改質方法。
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