JP2006067935A - 新規ポリペプチドとその製造方法、及びポリエステル繊維改質剤 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】 本発明のポリペプチドは、フザリウム・ソラニ(Fusarium solani)から得られた、リパーゼ活性を有する新規ポリペプチドである。このポリペプチドをポリエステルを含む繊維に接触させることによって、帯電性及び吸水性が改善される。
【選択図】 なし
Description
しかし、この方法ではポリエステル分解物を含む大量の高濃度の苛性ソーダ廃液が生じ、この廃液処理が大きな問題となっている。また、この方法では、ポリエステル繊維の吸水性が低いことによる「べとつき感」や、帯電性が高いことによる「まとわりつき」といった性質が改善されない。
この中で、リパーゼは、脂質(トリアシルグリセロール)を加水分解する酵素であり、食品の香味改良、油脂の精製や改質等に使用できることが知られており、プロテアーゼと並んで洗剤の材料にも利用されている。このリパーゼは、現在は食品分野、化学分野において特に重要な働きを示す酵素であるが、脂質を含んだ排水や廃棄物の処理のような環境分野での利用も考えられ、今後ますます産業上の有用性が期待される酵素である。
リパーゼを用いてポリエステルを加工処理する技術としては、シュードモナス属由来のリパーゼを用いて脂肪族ポリエステルを分解する技術が知られている(例えば、特許文献2参照)。
なお、微生物が産生する公知のリパーゼとしては、フザリウム・ソラニのNhL1タンパク及びフザリウム・ヘテロスポラム(Fusarium heterosporum)のトリアシルグリセロールリパーゼ等があるが、これらのリパーゼによるポリエステル繊維の改質特性については何ら報告されていない。
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、ポリエステル繊維を改質する特性に優れたポリペプチド及びその製造方法を提供することを目的とする。
また、本発明のさらなる目的は、ポリエステル繊維を改質できる改質剤及び改質方法を提供することを目的とする。
1. 以下の(a)から(c)のいずれかのポリペプチド。
(a)配列番号1若しくは3で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド。
(b)配列番号1若しくは3で表されるアミノ酸配列の33番目から333番目のアミノ酸からなるアミノ酸配列を含むポリペプチド。
(c)配列番号1若しくは3で表されるアミノ酸配列において、1若しくは複数のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、ポリエステル繊維を改質する特性のあるリパーゼ活性を有するポリペプチド。
2. 配列番号1若しくは3で表されるアミノ酸配列が、配列番号3で表されるアミノ酸配列であることを特徴とする上記1に記載のポリペプチド。
3. 上記1又は2に記載のポリペプチドをコードするDNA。
4. 以下の(A)又は(B)のDNA。
(A)配列番号2若しくは4で表される塩基配列からなるDNA。
(B)配列番号2若しくは4で表される塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつポリエステル繊維を改質する特性のあるリパーゼ活性を有するポリペプチドをコードするDNA。
5. 上記3又は4に記載のDNAを含む組換えベクター。
6. 上記5に記載の組換えベクターで形質転換された形質転換体。
7. 上記6に記載の形質転換体を培養し、ポリエステルを含む繊維を改質する特性のあるリパーゼ活性を有するポリペプチドを生成、蓄積させる工程、及び、前記ポリペプチドを培養物から採取する工程を含む、ポリペプチドの製造方法。
8. フザリウム属の糸状菌由来のリパーゼを含む、ポリエステル繊維改質剤。
9. フザリウム属の糸状菌由来のリパーゼを、ポリエステルを含む繊維に接触させる工程を含む、ポリエステルを含む繊維の改質方法。
10. 改質が、ポリエステルを含む繊維の帯電性の低減及び/又は吸水性の増加である、上記9記載の改質方法。
さらに、この新規な微生物の18SrRNA遺伝子に基づく分子生物学的分析により、フザリウム・ソラニと99.3%の相同性が認められ、この微生物はフザリウム・ソラニの一種であると同定された。この同定された菌株をF. solani 5112株と命名した。
本発明の新規ポリペプチドLipCは、以下の(a1)から(c1)のいずれかのポリペプチドである。
(a1)配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド。
(b1)配列番号1で表されるアミノ酸配列において、33番目から333番目のアミノ酸配列を含むポリペプチド。
(c1)配列番号1で表されるアミノ酸配列において、1若しくは複数のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつポリエステル繊維を改質する特性のあるリパーゼ活性を有するポリペプチド。
(a2)配列番号3で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド、
(b2)配列番号3で表されるアミノ酸配列において、33番目から333番目のアミノ酸配列を含むポリペプチド。
(c2)配列番号3で表されるアミノ酸配列において、1若しくは複数のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列をからなり、かつポリエステル繊維を改質する特性のあるリパーゼ活性を有するポリペプチド。
本発明において「ポリエステル繊維を改質する特性のあるポリペプチド」とは、ポリペプチドをポリエステル繊維に20℃にて1時間以上作用させた場合に、ポリエステル繊維の表面に電子顕微鏡にて観察可能な凹凸が形成されるものをいう。ポリエステル繊維表面の凹凸は、0.3μm以上であることが好ましい。また、ポリエステル繊維は、芳香族、脂肪族、脂環式ポリエステルのいずれでもよく、好ましくは芳香族ポリエステルを含むものである。上記のような特性を有する本発明のポリペプチドは、ポリエステルを含む繊維の帯電性、吸水性、染色性等の特性を改善することができる。
また、本発明のポリペプチドは、ポリエステルを分解可能であってもよく、その結果として上記のポリエステル繊維の改質特性を示すものでもよい。「ポリエステルを分解可能である」とは、ポリエステル中のエステル結合の少なくとも一部をエステル分解できることをいう。
配列番号1のアミノ酸配列において置換されるアミノ酸の個数は、1〜6個であることが好ましく、1〜4個であることがより好ましく、1〜2個であることがさらに好ましい。
また、配列番号3のアミノ酸配列において置換されるアミノ酸の個数は、1〜12個であることが好ましく、1〜6個であることが好ましく、1〜3個であることがさらに好ましい。
LipCをコードするDNAとしては、上記(a1)から(c1)のいずれかのポリペプチドのアミノ酸配列をコードするものであればいかなるものでもよい。目的のポリペプチドをコードするDNAを調製する方法としては、当業界で公知の方法あるいはそれに準じる方法に従って行うことができ、例えばハイブリダイゼーション技術を利用する方法が挙げられる。
このようなDNAとしては、以下の(A1)又は(B1)のDNAが挙げられる。
(A1)配列番号2で表される塩基配列からなるDNA。
(B1)配列番号2で表される塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつポリエステル繊維を改質する特性のあるリパーゼ活性を有するポリペプチドをコードするDNA。
このようなDNAとしては、以下の(A2)又は(B2)のDNAが挙げられる。
(A2)配列番号4で表される塩基配列からなるDNA。
(B2)配列番号4で表される塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつポリエステル繊維を改質する特性のあるリパーゼ活性を有するポリペプチドをコードするDNA。
ハイブリダイゼーションは、モレキュラー・クローニング、ア・ラボラトリー・マニュアル((Molecular cloning、A Laboratory Manual、 T.マニアティス(T.Maniatis)他著、コールド スプリング ハーバー ラボラトリー(Cold Spring Harbor Laboratory)、1989年発行)等に記載されている方法に準じて行うことができる。ハイブリダイズ可能なDNAとして具体的には、BLAST (National Center for Biotechnology Information)を用いて計算したときに、配列番号2又は4で表される塩基配列と少なくとも60%以上、好ましくは80%以上、さらに好ましくは95%以上の相同性を有するDNAを挙げることができる。なお、本発明における相同性は、BLASTのパラメータをWord size:3、Matrix:BLOSOM62、Gap Costs:Existence:11、Extension:1に設定したときの数値を表す。
フザリウム属に属する微生物としては、フザリウム・ソラニ、フザリウム・ヘテロスポラム、フザリウム・オキシスポラム、フザリウム・モリニフォルメ等を挙げることができる。その中でも、特に、フザリウム・ソラニに由来するものが好ましい。
PCRによって得られたDNA断片中に、合成したオリゴヌクレオチドプライマーの配列以外に本発明のポリペプチドの部分アミノ酸配列に対応する塩基配列が見出された場合、得られたDNA断片をプローブとして更にハイブリダイゼーション法等を行うことによって本発明のポリペプチド全長をコードするDNAをクローニングすることができる。
また、本発明は、本発明のDNAを含む組換えベクター及び本発明のDNAを含む組換えベクターを保持する形質転換体を提供する。本発明の組換えベクター及び形質転換体は、本発明のポリペプチドやそれをコードするDNAの発現に有用である。
動物細胞としては、昆虫細胞、例えばカイコの細胞、哺乳類培養細胞、例えばCOS細胞等が挙げられる。
宿主細胞としては、微生物を用いることが好ましく、アスペルギルス(Aspergillus)属、フミコーラ(Humicola)属の糸状菌を用いることがより好ましい。特に、アスペルギルス(Aspergillus)属の糸状菌(例えば、麹菌等)は、人間にとって無害でタンパク質の分泌能力に優れることから、目的のポリペプチドを安全かつ大量に産生させることができるため、好ましい。
宿主細胞が微生物である場合、発現ベクターとしては、例えば、pBluescript (STRATAGENE社製)、pUC18 (タカラバイオ社製)、pUC118 (タカラバイオ社製)、pUC19 (タカラバイオ社製)、pUC119 (タカラバイオ社製)等を例示することができる。
プロモーターとしては、大腸菌、糸状菌等の宿主細胞中で発現できるものであればいかなるものでもよい。例えば、trpプロモーター(Ptrp)、lacプロモーター(Plac)等の、大腸菌やファージ等に由来するプロモーター、タカアミラーゼ遺伝子プロモーター、TEF1遺伝子プロモーター等の麹菌等に由来するプロモーター等を挙げることができる。また、人為的に設計改変されたプロモーター等も用いることができる。
組換えベクターの導入方法としては、上記宿主細胞へDNAを導入する方法であればいずれも用いることができ、例えば、カルシウムイオンを用いる方法〔Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 69, 2110 (1972) 〕等を挙げることができる。
プロモーターとしては、酵母菌株中で発現できるものであればいかなるものでもよい。例えば、解糖系酵素遺伝子プロモーター、Galプロモーター等のプロモーターを挙げることができる。
組換えベクターの導入方法としては、酵母にDNAを導入する方法であればいずれも用いることができ、例えば、エレクトロポレーション法〔Methods. Enzymol., 194, 182 (1990)〕、スフェロプラスト法〔Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 84, 1929 (1978) 〕、酢酸リチウム法〔ジャーナル・オブ・バクテリオロジー(J. Bacteriol.)、153, 163 (1983)〕等を挙げることができる。
炭素源としては、ポテトデキストロース、グルコース、スクロース、可溶性デンプン、グリセリン、デキストリン、糖蜜、有機酸等を用いることができる。窒素源としては、硫酸アンモニウム、炭酸アンモニウム、リン酸アンモニウム、酢酸アンモニウム等の無機塩若しくは有機酸のアンモニウム塩その他の窒素化合物、ペプトン、酵母エキス、コーンスティープリカー、カゼイン加水分解物、肉エキスを用いることができる。無機塩類としては、リン酸第一カリウム、リン酸第二カリウム、リン酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化ナトリウム、硫酸第一鉄、硫酸マンガン、硫酸銅、炭酸カルシウム等を用いることができる。
例えば、本発明のポリペプチドが、細胞内に溶解状態で発現した場合には、培養終了後、細胞を遠心分離により回収し緩衝液に懸濁して、超音波破砕機、フレンチプレス等により細胞を破砕することによって、無細胞抽出液を得る。さらに、該無細胞抽出液を遠心分離することにより得られた上清から、通常の酵素の単離精製法で用いられる手法により精製したポリペプチドを得ることができる。この手法としては、溶媒抽出法、硫安等による塩析法、脱塩法、有機溶媒による沈殿法、陰イオン交換クロマトグラフィー法、陽イオン交換クロマトグラフィー法、疎水性クロマトグラフィー法、ゲルろ過法、アフィニティークロマトグラフィー法、クロマトフォーカシング法、等電点電気泳動等の電気泳動法等が挙げられ、これらは単独で、あるいは組み合わせて用いることができる。
本発明のポリペプチドあるいはその糖修飾体等の誘導体が細胞外に分泌された場合には、培養上清に該ポリペプチドあるいはその誘導体を回収することができる。即ち、培養物を上記と同様の遠心分離等の手法により処理することにより可溶性画分を取得し、可溶性画分から、上記と同様の単離精製法を用いることにより、精製ポリペプチドを得ることができる。
また、上記方法により発現させたポリペプチドを、Fmoc法(フルオレニルメチルオキシカルボニル法)、tBoc法(t-ブチルオキシカルボニル法)等の化学合成法によっても製造することができる。また、市販のペプチド合成機を利用し合成することもできる。
スクリーニングによって得られた微生物の培養は、通常行われる条件で行えばよく、液体培養でも固体培養でもよい。大量に培養するには、液体培地を用いて、振とう培養又は通気撹拌培養により好気的条件下で行うことが望ましい。培地及び培養条件等は、前記形質転換体において記載したものと同様とすることができる。
培地のpHは、例えば約2.0〜12.0、好ましくは約4.0〜8.0程度に調整するのがよい。培養温度は、例えば約20〜40℃、好ましくは約30℃程度であり、培養期間は、5〜20日間、好ましくは10〜15日間程度である。
本発明のポリペプチドに対する抗体を用いて発現を確認する場合は、本発明のポリペプチドまたは該ポリペプチドの部分断片ポリペプチドの精製標品、あるいは本発明のポリペプチドの一部のアミノ酸配列を有するペプチドを抗原として用いることにより、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体等、本発明のポリペプチドを認識する抗体を作製することができる。
また、リパーゼ活性の測定は、上記で得られた発現産物にp−ニトロフェニルブチレートを作用させ、p−ニトロフェノールを遊離させた後、反応液の400nmにおける吸光度の変化を測定することによって行うことができる。
本発明のポリエステル繊維改質剤は、フザリウム属の糸状菌由来のリパーゼを含むものである。本発明のポリエステル繊維改質剤に含まれるリパーゼは、フザリウム属の糸状菌由来であれば特に限定されないが、上記の本発明のポリペプチド(a1)から(c1)、(a2)から(c2)のいずれかであることが好ましい。リパーゼは、適当な溶媒に溶解させてもよい。溶媒としては特に限定されず、例えば水を用いることができる。本発明のポリエステル繊維改質剤には、リパーゼを0.02〜2.0unit/mlの範囲で含有していることが好ましい(なお、p−ニトロフェニルブチレートから1分間に1μmolのp−ニトロフェノールを遊離させる酵素量を1unitとする。)。また、本発明のポリエステル繊維改質剤は、安定化剤、界面活性剤、緩衝液、防腐剤等の添加剤を含有していてもよい。
改質時の条件については、リパーゼが失活しない限り特に限定されない。具体的には、リパーゼ濃度0.02〜2.0unit/ml、pH6.0〜10.0、温度20〜50℃において、反応時間10〜40時間で行うのが好ましい。
本発明の改質剤及び改質方法によれば、ポリエステルを含む繊維の帯電性を低減し、吸水性の増加させることができる。特に芳香族ポリエステルを含む繊維に対して、これらの性質を改善することが可能である。
愛知県内で採取した土壌試料約1gを0.01% Tween80溶液10mlに懸濁後、懸濁液100μlを1%オリーブオイル、0.5%ポリビニルアルコール(重合度約2000)、0.25% Triton x-100及び0.01%ブリリアントグリーンを添加したLB(ポリペプトン1%、酵母エキス0.5%、NaCl 1%)寒天培地に塗抹した。30℃で一週間培養後、コロニーの周りに緑色のハロー形成が認められる菌株を0.01% Tween80溶液10mlに懸濁し、懸濁液100μlを1%オリーブオイル、0.5%ポリビニルアルコール(重合度約2000)、0.25% Triton x-100及び0.01%ブリリアントグリーンを添加したLB寒天培地に塗抹した。
上記(1)で選択された16菌株の培養液1mlにJIS L0803準拠のPET布帛1cm2を浸し、40℃、22時間反応させた後、蒸留水でPET布帛を洗浄し、走査型電子顕微鏡により表面変化を観察した。PET布帛の表面観察は、イオンスパッタリング装置JFC-1100E(日本電子(株)製)により白金コーティングした後、走査型電子顕微鏡JSM-820(日本電子(株)製)を用いて加速電圧10kVで行った。16株中5株の培養液について、PET繊維表面にひび割れや穴の発生が観察された。
さらに、5株のリパーゼ活性を以下の方法で測定した。すなわち450μlの2.5mmol/L pーニトロフェニルブチレート/ブリトンロビンソン広域緩衝液(pH 7.0)に培養液50μlを加え、35℃、10分間反応させた後、500μlのエタノールを加えて反応を停止後、400nmにおける吸光度の変化を測定した。その結果、この5株はすべてリパーゼ活性を有していることがわかった。
上記(2)で選択された5菌株を1%オリーブオイル添加LB培地で30℃、7日間振とう培養して得られた培養上清40mlに対し、JIS L0803準拠のPET布帛30cm2を浸し、40℃、22時間反応後、蒸留水で洗浄、自然乾燥して、布帛の吸水性及び帯電特性の評価を行った。なお、比較として、未処理のもの及び従来の方法でアルカリ処理を施したものを用いた。
吸水性は、JIS L1907A法に規定されている滴下法で評価した。具体的には、試料表面に水滴を滴下し、水滴が特別な反射をしなくなるまでの(試料が水滴を吸収して鏡面反射が消えるまで)時間を測定した。
帯電特性は、スタチックオネストメータH-1100(シシド静電気製)を用い、織物及び編物の帯電性試験方法(JIS L1094A法)で評価した。ただし、相対湿度については65%とした。半減期とは、試料に1万ボルトを印加し、印加を止めた後試料の帯電圧が半分に減衰するまでの時間のことである。
評価の結果、未処理のもの及びアルカリ処理したものと比較して5菌株すべてにおいて吸水性及び帯電性が改善されていた。また、5菌のうちの1つである5112株において最も吸水性が改善していることがわかった(表1)。
最も吸水性の改善効果の高い5112株について、形態学的観察及び遺伝子的同定を次のように行った。すなわち、5112株を、ポテトデキストロース寒天(PDA)、オートミール寒天(OA)及び2%麦芽寒天(MEA)の各プレートに接種し、25℃で最長12週間の培養を行った。培養後の形態学的観察において、大型分生子が三日月形であること、気中菌糸が輪(ring)を形成しないこと、小型分生子を形成すること等より、5112株はフザリウム属と推定された。
また、5112株のrRNA遺伝子の塩基配列を次のように調べた。すなわち、Readerらの方法(U. Reader and P. Broda, Lett. Appl. Microb.,1, 17-20(1985))に従って調製したF. solani 5112株の染色体DNA約0.1μgを鋳型DNAとして、PCRプロトコール(PCR Protocols、ミカエル(Michael)A.Iら編集、アカデミックプレス社(Academic Press)1990年発行)第38章に記載の方法に準じて、5112株のPCR反応を30サイクル行った。その結果、18SrRNA遺伝子より23SrRNA遺伝子上流までの2304bpのDNA断片が特異的に増幅された。
増幅されたDNA断片の塩基配列をThermo Sequnase蛍光シーケンサー用サイクルシーケンシングキット(アマシャムバイオサイエンス製)及びDNAシーケンサーModel 4000LS(LI-COR製)を使用して決定した。このDNA断片の塩基配列を配列番号5に示す。(なお、以後の塩基配列決定はすべて同様の方法を用いた。)この配列番号5に記載の塩基配列について塩基配列データベースで検索したところ、既知の塩基配列と重複する1407bpの領域を有していることが判明し、この領域において99.3%の相同性でフザリウム・ソラニ(P. Leeflang, E. Smit, D. Glandorf, E. van Hannen, K. Wernars, Soil Biol. Biochem. 34, 1021-1025 (2002))と一致していることがわかった。
公開されているフザリウム・ヘテロスポラムのリパーゼ遺伝子のアミノ酸配列(T. Nagao, Y. Shimada, A. Sugihara, Y. Tominaga, J. Biochem. 116, 536-540 (1994))よりP1プライマー及びP2プライマーを設計した。
P1プライマー:5'-TCATGCATCTCATCCTATCTATTCTTTCCAT-3'(配列番号6)
P2プライマー:5'-CCGTCGACCTAAGTCATCTGCTTAACAAATTCC-3'(配列番号7)
5112株の染色体DNA約0.1μgを鋳型DNAとして、P1プライマー及びP2プライマーを用い、PCR反応を30サイクル行った。その結果、1132bpのDNA断片が特異的に増幅された。増幅されたDNA断片をpUC119のHincII部位に連結し、E. coli DH5α株の形質転換及びサブクローニングを行った。PCR増幅DNA断片を有する12株の大腸菌形質転換株からプラスミドを調製し、クローニングしたDNA断片の塩基配列を解析した。塩基配列を解析した結果、2種類のDNA断片が見出され、その塩基配列を配列表の配列番号2及び配列番号4と決定した。配列番号2のDNA断片がクローニングされたプラスミドをpFLipC、配列番号4のDNA断片がクローニングされたプラスミドをpFLipDと命名した。
プラスミドpFLipCを保持する大腸菌及びプラスミドpFLipDを保持する大腸菌をそれぞれE. coli DH5α/pFLipC及びE. coli DH5α/pFLipDと命名し、平成16年7月30日に、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター(〒305−8566茨城県つくば市東1−1−1中央第6)に、それぞれ受託番号FERM P-20149及びFERM P-20150として寄託した。
麹菌(アスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae)、以下A. oryzae)のpyrG遺伝子(北本則行、吉野庄子、醤研、25, 21-26 (1999))の塩基配列からPyrGMFプライマー及びPyrGMRプライマーを作製した。
PyrGMFプライマー:5'-GGAGGGATGGGACGCTTACCTGAAGCGT-3' (配列番号8)
PyrGMRプライマー:5'-ACGCTTCAGGTAAGCGTCCCATCCCTCC-3' (配列番号9)
次に、このプラスミドpYRG100を鋳型DNAとしてPyrGFプライマー及びPyrGMRプライマーを使用して、PCR反応を30サイクル行った。また、プラスミドpYRG100を鋳型DNAとしてPyrGRプライマー及びPyrGMFプライマーを使用して、PCR反応を30サイクル行った。さらに、10倍希釈した2種類のPCR反応液を鋳型DNAとしてPyrGFプライマー及びPyrGRプライマーを使用して、再度PCR反応を30サイクル行った。
なお、制限酵素SalI、HindIII、EcoRI及びSacIは、タカラバイオ社より購入した。
taaG3T3:5'-CCGTCGACTGAAGGGTGGAGAGTATATGATG-3' (配列番号10)
taaG3T4:5'-AGCTCGAGCTATCTGGGCATTAGTAAGTG-3' (配列番号11)
配列番号2のDNAを制限酵素EcoT22I及びSacIで消化した後、制限酵素EcoT22I及びSacIで消化したpYRMTA200に組み込み、LipC遺伝子高発現ベクターpTAFLipC205を作製した。pTAFLipC205でA.oryzae KBN616-PA48株(pyrG欠損株)(Mol. Gen. Genet., 210:460-461(1987)に従い、上記A. oryzae KBN616株を親株として5−フルオロロチン酸の耐性菌を分離してウリジン要求性変異株を得ることで容易に取得できる)を形質転換して、LipC遺伝子高生産麹菌A.oryzae FLC001株を得ることができた。
同様に、配列番号4のDNAを制限酵素EcoT22I及びSacIで消化した後、制限酵素EcoT22I及びSacIで消化したpYRMTA200に組み込み、LipD遺伝子高発現ベクターpTAFLipD210を作製した。pTAFLipD210でA.oryzae KBN616-PA48株を形質転換して、LipD遺伝子高生産麹菌A.oryzae FLD011株を得ることができた。
A.oryzae FLC001株及びA.oryzae FLD011株をスターチペプトン(SP)培地(可溶性デンプン2%、ポリペプトン1%、KH2PO4 0.5%、NaNO3 0.1%、MgSO4 0.05%)50mlで30℃、10日間振とう培養を行ったところ、培養上清中にそれぞれ0.24units/ml及び0.28units/mlのリパーゼ活性を検出した。
なお、制限酵素EcoT22I及びXhoIは、タカラバイオ社より購入した。
A.oryzae FLC001株の培養上清を凍結乾燥後、10mmol/Lリン酸カリウム緩衝液(pH 7.0)に溶解し、10mmol/Lリン酸カリウム緩衝液(pH 7.0)中で一晩透析し粗酵素液とした。粗酵素液中のタンパク質をそれぞれQ-Sepharose FF(アマシャムバイオサイエンス製)に吸着させ、0mol/Lから0.4mol/LまでのNaClの濃度勾配で吸着タンパク質を溶出させた。リパーゼ活性画分を集めて、10mmol/Lリン酸カリウム緩衝液(pH 7.0)中で一晩透析した後、Q-Sepharose FF(アマシャムバイオサイエンス製)に吸着させ、0mol/Lから0.4mol/LまでのNaClの濃度勾配で吸着タンパク質を溶出させた。リパーゼ活性画分を集めて、10mmol/Lリン酸カリウム緩衝液(pH 7.0)中で一晩透析し、Superdex200 pgカラム(アマシャムバイオサイエンス製)中を通過させた。リパーゼ活性画分を集めて、1.33mol/Lの硫酸ナトリウムを含む20mmol/Lリン酸カリウム緩衝液(pH 9.0)中で一晩透析した後、Phenyl Sepharose 6 FF(high sub)(アマシャムバイオサイエンス製)に吸着させ、1.33mol/Lから0mol/Lまでの硫酸ナトリウムの濃度勾配で吸着タンパク質を溶出させた。リパーゼ活性画分を集めて、10mmol/Lリン酸カリウム緩衝液(pH 7.0)中で一晩透析を行い、精製したポリペプチドLipCを得た。A.oryzae FLD011株の培養上清からも同様の操作によって、精製したポリペプチドLipDを得た。
このLipC及びLipDの一部をSDSポリアクリルアミドゲル電気泳動に供試し、クマシーブリリアントブルーR250染色によるタンパク質の検出を行った。LipC及びLipDはいずれも単一バンドを示し、実質的に純粋であることが確認された(図2)。
以下に示す方法によって、上記(7)で得られたLipC及びLipDの諸性質を評価した。
反応温度を20、25、30、35、40、45、50、55、60、65℃の各温度に変化させ、リパーゼ活性を測定することによってLipC及びLipDの至適温度を測定した(図3)。また、酵素溶液を20、25、30、35、40、45、50、55、60、65℃の各温度で10分間保温後、リパーゼ活性を測定することによってLipC及びLipDの熱安定性を測定した(図4)。
その結果、LipC及びLipDの至適温度はいずれも35℃であった。また、LipC及びLipDはいずれも50℃までは安定であったが、55℃以上で急激に失活した。
その結果、LipC及びLipDはステアリン酸エチルを最も加水分解した。また、テレフタル酸ジエチルに対してラウリン酸ビニルと同等の加水分解活性を有していた。一方、EDBに対しての加水分解活性では、LipCはLipDに比較して約3倍の加水分解活性を有していた。
以下に示す方法によって、上記(7)で得られたLipC及びLipDによるPET布帛改質効果を評価した。
0.20units/mlのLipC溶液1ml、あるいは、LipD溶液1mlに、JIS L0803準拠のPET布帛1cm2を浸し、35℃、20時間反応させた後、蒸留水でPET布帛を洗浄し、走査型電子顕微鏡により表面変化を観察した(図7)。その結果、LipC及びLipDで処理したPET布帛には、どちらも表面に穴が生じる変化が見られた。
0.24units/mlのLipC溶液50ml、あるいは、LipD溶液50mlにJIS L0803準拠のPET布帛50cm2を浸し、30℃、20時間処理した。処理布帛の吸水性の変化をJIS L1907A法で評価した。さらに帯電性の変化をJIS L1094A法で評価した。この結果を表3に示す。表3より、LipDで処理したPET布帛は、LipCで処理したPET布帛より帯電性において高い改質効果が得られることがわかった。
なお、Candida rugosa由来のリパーゼAY「アマノ」30G、Rhizopus oryzae由来のリパーゼF−AP15、Rhizopus niveus由来のニュラーゼF3G、Aspergillus niger由来のリパーゼA「アマノ」6(いずれも天野エンザイム社より購入)を用いて、上記と同様にPET布帛の吸水性及び帯電性の変化を観察したところ、これらの改質効果は全く見られなかった。
Claims (10)
- 以下の(a)から(c)のいずれかのポリペプチド。
(a)配列番号1若しくは3で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド。
(b)配列番号1若しくは3で表されるアミノ酸配列の33番目から333番目のアミノ酸からなるアミノ酸配列を含むポリペプチド。
(c)配列番号1若しくは3で表されるアミノ酸配列において、1若しくは複数のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、ポリエステル繊維を改質する特性のあるリパーゼ活性を有するポリペプチド。 - 配列番号1若しくは3で表されるアミノ酸配列が、配列番号3で表されるアミノ酸配列であることを特徴とする請求項1に記載のポリペプチド。
- 請求項1又は2に記載のポリペプチドをコードするDNA。
- 以下の(A)又は(B)のDNA。
(A)配列番号2若しくは4で表される塩基配列からなるDNA。
(B)配列番号2若しくは4で表される塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつポリエステル繊維を改質する特性のあるリパーゼ活性を有するポリペプチドをコードするDNA。 - 請求項3又は4に記載のDNAを含む組換えベクター。
- 請求項5に記載の組換えベクターで形質転換された形質転換体。
- 請求項6に記載の形質転換体を培養し、ポリエステルを含む繊維を改質する特性のあるリパーゼ活性を有するポリペプチドを生成、蓄積させる工程、及び、前記ポリペプチドを培養物から採取する工程を含む、ポリペプチドの製造方法。
- フザリウム属の糸状菌由来のリパーゼを含む、ポリエステル繊維改質剤。
- フザリウム属の糸状菌由来のリパーゼを、ポリエステルを含む繊維に接触させる工程を含む、ポリエステルを含む繊維の改質方法。
- 改質が、ポリエステルを含む繊維の帯電性の低減及び/又は吸水性の増加である、請求項9に記載の改質方法。
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