JP2006043596A - 超微粒子の製造方法 - Google Patents

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正邦 松岡
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Abstract

【課題】特殊な装置や設備を必要とせず、常圧・常温条件下で、容易にナノオーダー・サイズの高純度な超微粒子を製造することができる超微粒子の製造方法を提供する。
【解決手段】溶媒に目的成分を溶解した溶液に、当該溶媒に溶解する第2成分を添加して、局所的な目的成分の過飽和領域を形成させ、目的成分を析出させる。
【選択図】 なし。

Description

本発明は、超微粒子の製造法に関し、詳しくは、相平衡関係に基づいた多成分溶液系からの超微粒子製造法に関する。
数ミクロン・オーダーからナノメーター・オーダーの粒径を有する超微粒子は、通常の大きさの粒子(粒径が数十μm以上)と性質(例えば、融点、溶解度、溶解速度など)が異なるために、医薬品をはじめとするファイン工業では着目され、その製造法が研究されている。現在、機械的なエネルギーを加えて微粒子化する破砕・粉砕法や、溶液中あるいは気相中での化学反応を応用して難溶性物質を合成し超微粒子を得る沈殿法などが主流である。また、近年、ナノメーター・オーダーの超微粒子を製造する技術として、RESS法などの超臨界流体技術も特に注目されている(非特許文献1参照)。
(1)機械的な微粒子化方法としては、目的物質を所定の液体に分散させ、この溶液に強い衝撃力やせん断力を加えることにより微粒子化を行う方法っている。また、このほかにも、複数の破砕工程を組み合わせることにより粒子の微粒子化を行う方法(例えば特許文献1〜2)や、複数の破砕工程を組み合わせることにより粒子の微粒子化を行う方法(例えば特許文献3〜4)等がある。これらの方法は、非常に大きな機械的応力と摩擦や加圧によって発生する高温に晒されるため、機械的・熱的に弱い有機物の場合には、目的物質が変質や劣化などの問題を生じる。また、摩擦によって発生する熱や静電気により、微粒子同士が凝集するといった問題も生じるため、凝集を防ぐための工夫や処方が必要となる。
(2)気相からの超微粒子製造には、スパッタリング法や気相反応法が用いられている(例えば特許文献5〜6)。これらの方法はスパッタリングにより気化させたターゲットを回収、あるいは反応によって、ターゲットの微粒子を製造するもので、特に金属の微粒子の製造に用いられるが、スパッタリングが困難である化合物には適応できないといった根本的な問題点を含む。また、スパッタリング時にかける電圧や電流、真空度等を制御することにより微粒子の生成速度をある程度制御することができるが、均一な粒径・粒形の微粒子を製造するのは非常に困難である。そのため、幅の狭い粒形分布を持つ微粒子を得るためには、更なる工夫が必要となる。
(3)超臨界流体技術による微粒子化は、二酸化炭素や水などを加圧・加熱して超臨界流体とし、これを溶媒あるいは貧溶媒(目的物質を溶解しない溶媒)として利用する方法であり、特にこの方法では、溶液系に比べて急速に高過飽和度を形成することができるため、ナノメーター・オーダーの微粒子が得られる技術として注目を浴びている。例えば、超臨界状態あるいは亜臨界状態の水を用いて水熱合成を行い超微粒子を得る方法(例えば特許文献7〜8)や、超臨界状態にある二酸化炭素に目的物質を溶解し、超臨界状態から大気圧まで急激に減圧し、急速膨張させることにより粒子を製造するRESS(Rapid Expansion of Supercritical Solutions)法を改良することにより超微粒子を得る方法も多く提案されている(例えば特許文献9〜11)。
しかしながら、超臨界流体を用いた微粒子製造法は、高圧条件を保つ必要があり、装置は非常に複雑なものになる。また、超臨界流体として用いられる物質は水や二酸化炭素が主であり、前者は超臨界状態では非常に高い反応性を有するため、化学反応を伴う微粒子製造には適しているが、再結晶のみを目的とした場合には不向きである。また、後者は液体溶媒であるn-ヘキサンと同等の溶解特性を持つため、n-ヘキサンに溶解しない物質は、超臨界二酸化炭素にも溶解しにくいといった問題点がある。
(4)溶液からの微粒子製造法には、化学反応を利用する方法(反応晶析法;例えば特許文献12)、溶液を噴霧し乾燥する方法(噴霧乾燥法;例えば特許文献13〜15)、溶液中に貧溶媒を添加して微粒子を製造する貧溶媒添加法(例えば特許文献16〜17)などがある。溶液からの微粒子製造の場合には、目的物質に適した溶媒や操作条件を選択できるため、上述の技術よりも条件的な制限は緩やかである。しかしながら、最適条件の探索に膨大な時間とコストを要すること、また、結晶の核化・成長の推進力である過飽和度を十分に制御する必要があるが、工業規模でこれを実現することは非常に難しい。溶液内が均一でない場合、生成した微粒子が凝集したり、さらに大きく成長したりすることにより、大粒径かつ幅広い粒径分布を持つ微粒子群となってしまう。そのため、凝集を起こさない操作条件の探索がさらに必要となる。
技術情報協会「ナノ微粒子の調製および分散・凝集コントロールとその評価」東京、2003 特開平7−88347号公報 特開平7-330333号公報 特開平8−134368号公報 特開2000−91859号公報 特開2003−41305号公報 特開2003−261329号公報 特開平10−151339号公報 特開平9−94473号公報 特開平5−293352号公報 特開平9−94473号公報 特開2002−248333号公報 特開2001−48546号公報 特開8−67505号公報 特開2001−220136号公報 特開2002−249512号公報 特開平6−256529号公報 特開2004−91560号公報
本発明は、上記のような実情に鑑みなされたものであり、その目的は、特殊な装置や設備を必要とせず、常圧・常温条件下で、容易にナノオーダー・サイズの高純度な超微粒子を製造する方法を提供しようとするものである。
すなわち、本発明の要旨は、溶媒中に固体の目的成分を溶解した溶液に、当該溶媒に溶解する固体の第2成分を添加して、局所的な目的成分の過飽和領域を形成させることを特徴とする超微粒子の製造方法にある。
本発明によれば、高圧や高温といった厳しい条件にすることなく、常圧・常温下の溶液系から超微粒子を得ることができる。また、得られる製品は結晶状態であるため、高純度な超微粒子が得られる。さらに、特殊な装置や設備を必要とせず、既存の晶析槽の利用により容易に行える操作であり、低エネルギー・低コストでの超微粒子製造法として、各種の化合物への適用が可能である。
以下、本発明を詳細に説明する。本発明に係る超微粒子の製造方法は、溶媒に固体の目的成分を溶解した溶液に、当該溶媒に溶解する固体の第2成分を添加して、目的成分の超微粒子を析出させる方法である。そして、当該溶液に第2成分を添加することにより、局所的な目的成分の過飽和領域を形成させることを特徴とする。
溶媒としては、目的成分を溶解できるものであれば特に限定されず、溶質である目的成分に応じて適宜選ばれる。その具体例としては、例えば、目的成分がイオン結晶などの水溶性の材料の場合には、水、水−アルコール等の水系混合溶媒などが、非水溶性の有機材料の場合は、極性または非極性の各種の有機溶媒が使用できる。斯かる有機溶媒の具体例としては、例えば、メタノールやエタノールなどのアルコール類、アセトン、テトラヒドロフラン等の極性溶媒、ベンゼンやn-ヘキサン、トルエン、四塩化炭素、シクロヘキサン等の無極性溶媒などが挙げられる。
超微粒子とする目的成分は、イオン結晶などの水溶性の物質、例えば、食塩やKClなどの無機塩類、アミノ酸やたんぱく質などの有機化合物や、インドメタシン、カフェイン、マンデル酸、ラクトース等の医薬品に用いられる様々な水溶性有機化合物などが挙げられる。また、有機溶媒に可溶な非水溶性の材料としては、例えば、ナフタレンやアントラセン等の芳香族系化合物や、直鎖脂肪酸、アスピリン、フェノバルビタール、ビタミンBやE等の医薬品に用いられる様々な難水溶性・非水溶性有機化合物などが挙げられる。
本発明においては、所定の溶媒に目的成分を溶解した溶液を使用する。溶解する目的成分の形体は、特に限定されないが、微粉末のものが溶解し易いので好ましい。目的成分の濃度は、特に限定されないが、目的成分の超微粒子を効率的に得るためには、出来るだけ飽和溶解度に近いことが望ましく、実質的に操作条件下での目的成分の飽和溶液であることが好ましい。目的成分の飽和溶液の調製は、所定の温度に保たれた溶媒に、飽和濃度から計算した目的物質の理論量を添加して攪拌し、目的物質を完全に溶解して飽和溶液とする方法や、所定温度に保たれた溶媒に、過剰の目的物質を添加して攪拌し、溶液濃度が飽和に達した時点で固液分離を行い、目的成分の飽和溶液を得る方法等により行われる。
本発明においては、上記の溶液に、当該溶媒に溶解する第2の固体成分を添加することにより、局所的な目的成分の過飽和領域を形成させる。第2成分としては、目的成分以外の前記した目的成分と同じものが例示され、特に、目的成分の同族体や異性体など目的成分に類似した物質であることが好ましい。添加する第2成分は、溶解速度が速い粒径が小さい粉体が好ましく、ナノオーダー・サイズの超微粒子を得るためには100μm以下であることが好ましい。第2成分の添加量は、多ければ多いほど溶液中の多くの箇所で高過飽和度領域を形成することができるが、添加量が多すぎると第2成分が溶け残る、あるいは、攪拌が不十分になるなどの問題が生じるという理由から、添加量は溶液の初期濃度と溶液量に基づいて決めるのが好ましい。多くの場合、当該溶液の容積1mlに対して10mg以下とするのが好ましい。
本発明の方法は、目的成分−第2成分−溶媒という多成分系の相平衡に関する情報に基づき、超微粒子を得るものであるから、予め、関連する物質の固液相平衡を示す図を作成しておくのが好ましい。相平衡図の作成は、次のような手順で作成すると良い。
所定の温度に保たれた一定量の溶媒に、一定量の目的成分あるいは第2成分を加えて、十分に攪拌し、溶液を作成する。この溶液に、もう一方の成分(溶液に目的成分が含まれている場合には、第2成分となる)を過剰量加えて攪拌する。溶液内が十分に平衡に達するまで攪拌した後、固液分離を行い、溶液の組成分析を行い、溶液内の各成分の組成を決定する。この操作により、相平衡図上の1点を決定することができる。溶媒に加える成分の量や種類を変化させ、溶液中の溶媒・目的成分・第2成分の組成を明らかにすることにより、三成分系相平衡図を得ることができる。
ここに示した手法は、一例であって、これに限定するものではない。また溶液の組成分析には液体クロマトグラフィーやガスクロマトグラフィー、原子吸光光度計等、測定する物質にあわせて種々の分析装置を用いることができる。さらに同方法では、過剰に加えた成分の残存量から、物質収支により溶液組成を決定することもできる。
また、本発明が適用される相平衡図は、少なくとも目的成分と第2成分となる2種類の固相と、溶媒である1種類の液相からなる、三成分系以上の相平衡図である。以下、本発明の概略を、適用される相平衡図を基に説明する。図1は、三成分系を例に示した相平衡図である。これらの相平衡図は正三角形で記述されているが、二等辺直角三角形等で記述することも可能である。
図1Aは2種類の物質間で化合物を作らない場合の相平衡図である。NaCl−KCl−水系や、ラセミ混合物であるL-スレオニン−D-スレオニン−水系など、多くの三成分系においてこのような相平衡図が得られる。図1Bは固相をなす2種類の物質間で固体化合物を形成する場合に得られる相平衡図である。このような相平衡図を示す三成分系には、硝酸アンモニウム−硝酸銀−水系や、ラセミ化合物を形成するL-マンデル酸−D-マンデル酸−水系のような光学異性体を含んだ系などがある。このような場合、目的成分が固相1あるいは固相2であり、固相をなす2種類の物質間で形成される固体化合物を第2成分とすることが考えられる。また、その逆、つまり、化合物を目的成分、固相1あるいは2を第2成分とすることも可能である。
いずれの場合も、図2に示すように、溶媒に対して目的成分および第2成分からなる共晶点組成(E点)が、目的成分の溶液(飽和溶液であれば溶液組成は点Dに相当)と第2成分100%の点を結ぶ直線(線DC)よりも、溶媒100%を示す頂点A側に位置しなければならない。このような相平衡図であれば、目的成分の溶液に第2成分の結晶を添加することにより、第2成分の溶解が生じ、第2成分の結晶表面近傍における溶液組成は線DG上を点Gに向かって変化し、目的成分に対して過飽和状態となる。点Gは第2成分の溶解度曲線の延長線と線CDの交点であり、この点を超えると第2成分についても過飽和状態となる。第2成分の結晶の溶解が進み溶液組成が点Gに到達すると、目的成分に対する過飽和度は最も高くなり、この局所的な過飽和状態の溶液において目的成分が核化する。
このように、本発明で適用可能な相平衡関係は、目的成分の溶液に第2成分が溶解することによって目的成分が過飽和状態となる平衡関係を持つことが必要となる。第2成分の添加により、結晶表面および近傍での高過飽和領域を瞬時に形成するために、局所的な高過飽和領域形成し、目的成分の超微粒子が析出する。
ここで、図3を参照して、より具体的に説明する。図3は塩化カリウム−塩化ナトリウム−水系の固液相平衡を示す模式図である。まず、目的物質である塩化カリウムと水を用いて、組成が点Aとなるように塩化カリウムの飽和水溶液を作製する。この溶液に塩化ナトリウム結晶を入れると、初期の溶液組成点Aは塩化ナトリウムに関して未飽和な領域であるため、塩化ナトリウム結晶が溶解する。
その結果、初期の溶液組成点Aと塩化ナトリウムの組成が100重量%の点を結んだ直線3と塩化ナトリウムの擬溶解度曲線2との交点Bが、溶解している塩化ナトリウム表面の液組成として与えられる。この点Bは塩化カリウムに関して過飽和な領域であるため、塩化カリウムの析出が生じる。この析出の推進力は、点Bと塩化カリウム100重量%の点を結んだ直線4と塩化カリウムの溶解度曲線1との交点Cの差として得られる過飽和であって、塩化カリウムが塩化ナトリウム結晶の表面近傍で核化するものである。
晶析操作は、常圧・常温下に限定するものではなく、対象としている物質によってその条件(装置の大きさ、操作温度、操作圧力、溶液濃度など)を種々に選択することができる。また、添加する結晶の粒径や添加量を調整することにより、得られる超微粒子の粒径を容易に制御することができる。装置の形状や容量および飽和水溶液の量は、要求されている収量にあわせたものを使用するのが好ましい。
溶液を均一にするために、プロペラ型、パドル型、スクリュー型などの攪拌翼あるいはその他の攪拌方式を採用して、溶液の撹拌を行う。また攪拌速度もこれに限定するものではない。晶析時に十分に良好な攪拌状態が得られることが必要である。次いで、溶液の固液分離を行い生成した目的成分の超微粒子を捕集する。固液分離には、メンブレンフィルター等を用いたろ過や、遠心分離法などを適用する。
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
実施例1
3枚のプロペラ型攪拌翼を有する容量約100mLのジャケット付き晶析槽内に操作温度(5℃)での塩化カリウム飽和水溶液50mLを入れた。次いで、溶液内に平均粒径54μmの塩化ナトリウム結晶を0.05g添加した。10分間攪拌をした後、メンブレンフィルターを用いて溶液の固液分離を行い、生成した塩化カリウムの微粒子を捕集した。得られた結晶は走査型電子顕微鏡を用いて観察を行い、得られた電子顕微鏡写真を基に粒径分布の測定を行った。粒径分布の測定には画像解析法を用い、結晶の粒径はフェレー(Feret)径とした。得られた微粒子の平均粒径は689nmであり、粒径分布の広がりを表すCV値は35%であった。
実施例2
実施例1において、平均粒径76μmの塩化ナトリウム結晶を使用した他は、実施例1と同様にして、塩化カリウムの超微粒子を得た。得られた微粒子の平均粒径は533nmであり、CV値は31%であった。
三成分系を例に示す本発明が適用される相平衡図である。図1Aは2種類の物質間で化合物を作らない場合の相平衡図であり、図1Bは固相をなす2種類の物質間で固体化合物を形成する場合に得られる相平衡図である。 三成分系の相図上での実験操作における溶液組成の変化を示す図である。 塩化カリウム−塩化ナトリウム−水系の固液相平衡図により本発明の基本的概念を説明するための模式図である。
符号の説明
1:塩化カリウムの飽和溶解度曲線
2:塩化ナトリウムの擬溶解度曲線
3:点Aと塩化ナトリウムが100重量%の点を結んだ直線
4:点Bと塩化カリウムが100重量%の点を結んだ直線


Claims (5)

  1. 溶媒中に固体の目的成分を溶解した溶液に、当該溶媒に溶解する固体の第2成分を添加して、局所的な目的成分の過飽和領域を形成させることを特徴とする超微粒子の製造方法。
  2. 目的成分を溶解した溶液が実質的に目的成分の飽和溶液である請求項1に記載の方法。
  3. 第2成分が粒径100μm以下の粉体である請求項1又は2に記載の方法。
  4. 第2成分の添加量が当該溶液の容積1mlに対して10mg以下である請求項1乃至3の何れかに記載の方法。
  5. 得られる超微粒子の平均粒径が1μm以下である請求項1乃至4の何れかに記載の方法。

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* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
CN115777906A (zh) * 2021-09-10 2023-03-14 吉林大学 氯化钠纳微米粒子及其制备方法和应用

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