図面の詳細な説明
本発明は、氷と材料との間の界面へのDCバイアスの付与により、金属および半導体、などの材料への氷付着強度を変えるシステムおよび方法を含む。従って、本発明は、そのような材料への氷の付着を低減し、そして場合によっては、無くすために用いることができる。
ある特定の実施形態では、本発明は、氷と金属との間の結合を形成する静電相互作用を変える。この相互作用は、氷と金属との間にわずかなDC(直流)バイアスを付与することにより効果的に変えられる(低減または強化される)。
実験および理論計算により、氷表面が10−2C/m2〜3・10−2C/m2の高密度電荷を有することが分かっている。Petrenkoら、Generation of Electric Fields in Ice and Snow Friction、J.Appl. Phys.、77(9): 4518-21 (1995)、Petrenko、A Study of the Surface ofIce, Ice/Solid and Ice/Liquid Interfaces with Scanning Force Microscopy、J.Phys. Chem. B、101、6276 (1997)、およびDoschら、Surface Science 366、43 (1996)を参照されたい。本明細書において、上記文献の各々を参考として援用する。この電荷密度は、氷表面下層の水分子の強い分極から生じる。これらの現象は、図1にさらに示される。
図1A〜図1Dは、分子分極Pと、空間電荷密度ρとの間の関係を、氷−空気界面(図1A〜図1C)または氷−金属界面(図1D)からの距離の関数として示す。図1Dでは、金属に誘導される電荷は、氷の電荷と大きさが等しく、符号が反対である。図1の横軸10は、遮蔽長としての「L」に対する距離xを示す。図1Aはまた、表面付近の水分子分極Pを(縦軸12aに沿って)示し、図1Bは、遮蔽を伴わない場合の分極電荷ρ(x)=−dP/dxの電荷密度ρを(縦軸12bに沿って)示す。図1Cは、分極Pの電荷密度ρを(縦軸12cに沿って)示すが、これは、小数の電荷キャリアによる追加の遮蔽を伴う場合である。図1Dは、氷−金属界面付近の氷中の電荷密度ρ(データ14a)と、同じ界面付近の金属または誘電材料中の電荷密度ρ(データ14b)とを(縦軸12dに沿って)グラフで示す。
氷表面電荷と、固体に誘導される電荷との間の相互作用が、氷−固体界面の強度に影響を及ぼす。概算では、2つの平面電荷(plane surface charges)の静電誘引(負圧Pel)は、以下の式で表される。
ここで、ε
0は、真空の誘電率であり、Eは、電荷間の空間での電場強度である。図1Dに示される電荷分布により、2つの材料の接触電位V
cが決まるため、Eを、V
c/Lであると推定することができる。ここで、Lは、氷および固体中にある平面電荷(plane charge)間の距離である。氷−金属界面のV
cは、十分の数ボルトから約1Vの範囲にわたる。Buserら、
ChargeSeparation by Collision of Ice Particles on Metal: Electronic Surface States、Journalof Glaciology、21(85): 547-57 (1987)を参照されたい。本明細書において、上記文献を参考として援用する。
L ≫1nm(上記ドープされた氷の例示の主遮蔽長)、ε=3.2(氷の高周波数誘電率)、およびVc=0.5V(接触電位の典型的な大きさ)であるとすると、式(1)により、Pel≫3.3Mpaが得られる。この値は、1.5Mpaでの氷のマクロ(macroscopic)引っ張り強度に匹敵するがこれを越える大きさである。Schulsonら、ABrittle to Ductile Transition in Ice Under Tension、Phil. Mag.、49、353-63(1984)を参照されたい。本明細書において、上記文献を参考として援用する。
実際の空間−電荷分布および電荷緩和計算を用いた、氷表面電荷と金属との間の静電相互作用エネルギーのより高度な計算が、以下に示される。具体的には、この相互作用エネルギーが、−10℃で0.01〜0.5J/m2であることが、以下に示される。下限である0.01J/m2は、純粋な氷に対応し、上限値である0.5J/m2は、強濃度のドープに対応する。これらの値は、走査力顕微鏡(scanning force microscopy)(「SFM」)を使用した、以下に示されるその他の実験結果に匹敵する。SFMの結果により、静電相互作用エネルギーは0.08±0.012J/m2であると判定されたが、氷/金属付着のその静電部分に関して、氷/水銀界面での実験では、0.150+/−0.015J/m2に戻る。
静電相互作用が氷付着に寄与するため、氷と導電材料(例えば、金属または半導体)との間の付着強度は、氷−材料界面に付与される外部DCバイアスにより変えられる。
DCバイアスが氷付着に与える影響を判定するために、界面を、固体−固体界面ではなく、液体−固体界面としてモデル化した。実際に、付着を決定する界面エネルギーは、水−金属の場合と同様に、一方の材料が液体で他方が固体であるときの接触角実験で確実に測定される。従って、金属が液相である場合、氷−金属界面に、同様の技術が用いられる。例えば、−38.83℃の融点と、低い化学活性とを有し、且つ、清浄な表面を作りやすい水銀は、このモデルを証明するのに非常に適している。わずかなDCバイアスが水銀への氷の付着に与える影響が、図2A〜図2Cに示される。
図2Aは、水銀18の氷20への初期付着を示し、付着強度は、Θ0で表される。従って、Θ0は、印加電圧がない状態(即ち、V=0)での付着強度を表す。一方、図2Bは、DC電圧源22により供給される−1.75Vを印加したときに起こる、結果として得られる付着強度Θ1を示す。電圧源22は、例えば、バッテリであってもよく、当該分野において公知のその他の電圧源であってもよい。配線24は、電圧源22を、水銀18および氷20に接続し、回路を完成する。図2Cは、電圧源22により提供される−5Vの印加電圧の結果として生じる別の付着強度Θ2を示す。注目すべきは、印加電圧が0V(図2A)から−1.75V(図2B)に、そして−5V(図2C)に変わるとしても、Θ2<Θ0<Θ1であることであり、小さい範囲の負電圧差による付着強度の大幅な変化を示す。付着強度Θ1は、Θ2と比べて、または、Θ0と比べても、比較的「弱い」付着を示す。一方、付着強度Θ2は、Θ1およびΘ0と比べて、比較的「強い」。
図2の氷−水銀界面16の表面張力を測定するために、氷マノメータ26(図3に概略的に図示)を用いた。図2の電源22に、DC電源22’を用いた。電流の流れを測定するために、マノメータ回路26にDC電流計28を配置した。電源22’は、回路内で、水銀18’と、氷20’に接続された網状電極30とに接続する。従って、回路26は、水銀18’および氷20’を通る電流の流れにより完成される。水銀18’は、選択された直径の小型毛管32を通して、氷20’と流体連通している。DCバイアスが変わると、水銀18’と氷20’との間の氷付着が変わり、重力による力により、氷20’内(即ち、氷20’内に上方向に延びる毛管32内)での水銀18’の高さ「h」が調節される。
具体的には、毛管32内での水銀18’の平衡位置hは、以下の通りである。
ここで、gは重力加速度であり、rは毛管半径であり、ρは水銀の密度であり、W
i/aは氷−空気界面の表面エネルギーであり、W
i/Hgは氷−Hg界面の表面エネルギーである。hが測定されると、式(2)を用いてW
i/Hgを計算し、そしてそれにより、液体金属(水銀)への氷の付着強度を計算する。図3では、毛管の半径rは、試験中、0.25または0.5mmであった。
図2および図3の構成内などでの追加実験は、99.9998%の純粋な電子グレードの水銀および多結晶氷を含む。この多結晶氷は、非常に純粋な脱イオン水、蒸留水、未処理の水道水、および、低濃度のNaClまたはKOHまたはHFがドープされた脱イオン水からできたものである。実験は、−20℃〜−5℃、±2℃の温度範囲の低温の部屋内で行われた(ほとんどの試験は、−10℃および89〜91%の相対湿度で実施された)。ドープされた氷の場合、DCバイアスが氷−水銀界面エネルギーに強い影響を及ぼしたことが分かった。エネルギー変化Δ(Wi/a−Wi/Hg)の大きさおよび符号は、バイアスの極性および大きさと、ドーパントの種類および濃度とに依存する。例えば、図4は、0.5%のNaClがドープされた氷について、T=−10℃で測定されたΔ(Wi/a−Wi/Hg)対バイアスVを示す。示されるように、バイアスは、水銀への氷の付着を低減または強化し得る。約−1.75Vで最小付着強度に達したが、−2Vから−6Vまで、付着強度は増加した。界面エネルギーの影響は、0.05%よりも高いNaCl濃度の場合に、より顕著である。
より低濃度のNaClの場合、または、水道水からできた氷の場合、低いDCバイアスを付与したとき、付着強度はほとんど変わらず、再現性は弱かった。一方、0.5%のNaClがドープされた氷の場合、水銀は、電圧バイアスが付与されるとすぐに移動し、その影響は、完全に可逆的であった。即ち、バイアスを遮断した後、Wi/Hgが回復された。これらの結果は、再現可能であり、容易に観察される。毛管半径r=0.25mmの場合、hの最大変化は、12mmであった。
電流−電圧特性の測定はまた、上述の付着強度の変化を引き起こすのが、電流ではなく、電圧であることを示す。例えば、典型的な実験では、数十μAの電流強度を生成し、推定温度変化レートは、10−6℃/s未満であった。KOHまたはHFがドープされた氷では、DCバイアスの付与は、Wi/Hgの近対称の減少を引き起こした。この減少の大きさは、NaClがドープされた氷で見られた減少に匹敵するものであった。40Vまでの振幅および10Hz〜10kHzの周波数範囲のAC電圧の印加では、Wi/Hgにいかなる顕著な変化も起こらなかった。純粋な脱イオン水または蒸留水の場合も、40VまでのDCバイアスの付与では、Wi/Hgに顕著な変化は起こらなかった。従って、非常に純粋な氷の金属への付着を変えるためには、1kV〜3kVが必要である。純粋な氷およびドープされた氷のDCバイアスに対する反応が異なるのは、これらの氷の遮蔽長および電気緩和時間が異なることに起因すると考えられる。
上記実験により、氷−金属界面上の電気二重層が氷付着において果たす重要な役割が確認される。Wi/Hgの大きさの絶対値は、固体水銀の場合にはわずかに異なり得るが、静電相互作用は、両方(液体Hgおよび固体Hg)の場合に本質的に同じである。金属への氷付着が、氷と金属との間へのわずかな電位差の付与により効率的に変えられることも、実験により示された。付着強度の変動はまた、DCバイアスが、異なる不純物を含む氷に付与される場合、異なる固体金属に付与される場合、および異なる温度で付与される場合にも起こる。
発明者はまた、氷の表面上の陽子電荷キャリアの表面準位の存在に基づく氷付着の静電モデルについても研究してきた。1分子間距離よりも大きい距離では、モデルは、付着エネルギーについて、化学結合エネルギーおよびファンデルワールス力のいずれよりもかなり大きい大きさのオーダを与える。このモデルはまた、氷の付着特性と水の付着特性との違い、氷とその他の固体との間の結合の物理的機構、ならびに、氷と様々な固体との間の分子結合の性質および強度を説明する、時間依存性および温度依存性の現象の理解を与える。
結合機構を、共有または化学結合機構、電磁相互作用(ファンデルワールス力)の分散もしくは変動(fluctuation)、または直接静電相互作用、という3つのグループの1つに分類することが妥当である。例えば、Israelachvili、Intermolecularand Surface Forces、2nd ed.、Academic Press: London、Ch. 2 (1991)を参照されたい。本明細書において、上記文献を参考として援用する。最初の機構は、化学反応と、界面化合物の形成とに対応する。共有または化学結合では、付着エネルギーは、相互作用する固体の波動関数の重なりに起因する、系の量子力学エネルギーの低下の結果として起こる。そのような相互作用は、0.1〜0.2nmのオーダの距離でのみ不可欠である。さらに、このタイプの付着は、付着固体の化学的性質に非常に敏感である。完全な接触では、化学結合機構は、≦0.5J/m2の付着エネルギーを提供し得る。この値は、化学結合機構の付着エネルギーの最も低い値であると考えられる。
化学結合とは異なり、ファンデルワールス力は、長距離(long-range)であり、すべての物質間で作用する。この力は、固体のマクロ特性(異なる周波数での誘電関数)によってのみ規定され、この理由のため、この力は、実験条件にかなり鈍感である。例えば、Mahantyら、DispersionForces、Academic Press、London、Chapter 9 (1976);Barashら、The DielectricFunction of Condensed Systems、Keldyshら編、Elsiever Science、Amsterdam、Chapter9 (1989)を参照されたい。本明細書において、上記文献の各々を参考として援用する。
補償されないまたは空間的に分離される電荷を含む2つの固体はまた、化学結合および分散力に加えて、静電力も発生する。この静電力の重要性および付着に対する重要性が、近年、再発見された。Stonehamら、J. Phys. C: Solid State Physics, 18、L543 (1985)、およびHays、Fundamentalsof Adhesion、Lee, Lee編、Prenum Press、New York、Chapter 8 (1991)を参照されたい。本明細書において、上記文献の各々を参考として援用する。
氷の付着特性のモデル
次に、氷の表面の電気特性を示すために、モデルを作る。このモデルは、氷付着と氷のその他の特性との間の関連を明らかにする。このモデルを、ファンデルワールス力、化学結合機構、および実験結果と比較する。
以下に説明されるモデルの主な結論は、静電相互作用が、氷付着において主要な役割ではないにしても、有意な役割を果たすということである。モデルにおける1つの重要なパラメータは、氷−固体界面に隣接する水分子の配列のパラメータである。即ち、言い換えれば、陽子電荷キャリアの表面準位の出現のパラメータである。これにより、問題点は、固体表面での水分子挙動をシミュレートする問題点になる。しかし、以下の説明では、陽子点欠陥により占有され得る表面準位が存在すると仮定する。この表面準位の占有は、捕獲された電荷キャリアのクーロンエネルギーと、表面準位のエネルギー深度との間の相互作用により規定される。次いで、表面準位の占有係数(非平衡の場合)または表面準位のエネルギー深度のいずれかが、パラメータとして考慮される。
氷は、氷の誘電率とは異なる誘電率を有するいかなる固体基質(substrate)とも強く相互作用する極性水分子を含む。さらに、氷における表面電荷の存在については、理論的および実験的証明がある。この表面電荷もまた、基質と相互作用し得る。ここで、表面電荷が、氷表面による陽子電荷キャリアの捕獲から生じると仮定する。捕獲された欠陥は、おそらく、D欠陥、H3O+イオン、または、陽子である。陽イオンのサイズは、陰イオンよりも小さい。なぜなら、陽イオンは、より少ない電子を有しているか、または、電子を全く有しておらず、陽子として存在するからである。従って、短距離については、鏡像電荷理論を用いることができる。ここでは、電荷のポテンシャルエネルギーおよびその鏡像(image)は、氷内の電荷エネルギー未満であり得る。より大きいサイズの陰イオンは、これに、より達しにくい。熱平衡では、表面準位の占有は、完全ではない。なぜなら、捕獲された電荷キャリアに起因するエネルギーのゲインが、静電エネルギーの上昇により補償されるからである。しかし、静電エネルギー自体は、(誘導された電荷による)基質内部の電荷再分布により大幅に低減され得る。これは、表面準位の完全な占有と、かなり高い付着エネルギー(静電エネルギーに近い)とにつながり得る。
氷の表面下層における電荷キャリアの空間分布が、以下に説明される。ポアソンの式の第1積分は、以下の形で表すことができる。
ここで、EおよびVはそれぞれ、電場強度および静電位であり(これらはともに、空間座標zの関数である)、σ
0=e
B・λ・Nであり、e
Bは、ビエルム欠陥の有効電荷であり、Nは、水分子の濃度であり、
εおよびε
0はそれぞれ、氷(≫3.2)および真空の誘電率であり、kおよびTはそれぞれ、ボルツマン定数および温度である。関数f(V)は、以下の式で規定される。
ここでは、ビエルム欠陥を、表面準位で捕獲される電荷キャリアとして用いている。式(3)は、氷晶のいずれの点にも当てはまる。この式を氷表面に適用すると、表面電荷密度σ
Sと、表面電位V
sとの間の関係σ
S=σ
0f(V
s)が得られる。
次に、式(3)〜(6)を用いて、氷の付着エネルギーへの静電の寄与を計算することができる。まず、表面電位の関数としての、氷の遮蔽層の静電エネルギーを計算する。なぜなら、この静電エネルギーが、付着エネルギーの上限を与えるからである。静電エネルギーの定義と、式(3)とを用いると、以下の式が得られる。
W
e対V
sのグラフが図5に示される。ビエルムD欠陥、陽イオン欠陥H
3O
+、または、陽子による完全な占有はそれぞれ、表面電位V
s≫1.47V、2.50V、および5.13Vの値を与える。図5によれば、H
3O
+イオン、ビエルム欠陥、および陽子による表面準位の完全な占有はそれぞれ、付着エネルギーの上限0.8J/m
2、0.32J/m
2、および1.35J/m
2に対応する。それよりも小さい値は、不完全な占有の場合である。表面電荷密度と表面電位との間の関係を用いて、エネルギー対表面電荷密度が計算される。
次に、氷表面から距離dだけ離れた金属プレートについて考える。氷中の不均一な電荷分布は、金属上の表面電荷を誘導し、従って、氷と金属プレートとの間に電場を誘導する。単位面積あたりの系の総静電エネルギーは、以下の形で表すことができる。
ただし、式(8)のVは、距離dの各値についてエネルギーの最小化から得なければならない氷の表面電位である。表面電荷密度は、おそらく間違いなく表面準位の非平衡占有に対応する定数であると考えることができる。W
e(d,V)についての最小化手順を行えば、dの関数としての単位面積あたりの付着エネルギーが得られる。
W
a(d)=W
min(d)−W
min(∞) (9)
ビエルムD欠陥、陽イオン欠陥H
3O
+、および陽子による完全占有の同じ場合について、この関数が図6に示される。ビエルムD欠陥、陽イオン欠陥H
3O
+、および陽子による完全占有が、それぞれデータ曲線1、2および3として示される。
平衡条件下では、氷の表面電荷密度は、距離dの減少とともに増加する。これは、金属プレート上の誘導された電荷が氷表面電荷を遮蔽するためである。実際に、この場合、捕獲された電荷キャリアのクーロンエネルギーは減少し、従って、より高い占有が可能になる。この場合を考えるときには、まず、静電エネルギーと、表面準位の占有に起因するエネルギーゲインと、表面欠陥のエントロピー寄与とを合計しなければならない。
ここで、E
0は、表面準位のエネルギーであり(E
0=−0.5eVであるとする)、σ
m=e/Sであり、Sは、1水分子の表面積である。次いで、自由エネルギーFを、Vおよびσに対して最小にする。この手順ではまた、氷バルク(ice bulk)の化学ポテンシャルが一定に保たれ、且つ、ゼロに等しいと仮定する。dのすべての値についてそのようにすることにより、距離または平衡付着エネルギーの関数としての平衡自由エネルギーが得られる。これも、図6に示される(曲線4、陽子の場合)。
同様の手順により、表面準位のエネルギーE0または温度の関数としての、氷の表面準位または表面電位の平衡占有を得ることが可能になる。金属プレートが氷表面から無限に遠く離れていると仮定する。そして、式(8)の最初の正の要素を最小にするために、σ=σ0f(V)であると仮定する。この場合、Fは、Vまたはσのいずれか1つのパラメータだけの関数になる。Vに対する最終的な最小化を行う方が幾らか簡単であるが、結果は、σとして再計算され得る。プロットされたD欠陥での表面準位の占有係数対表面準位のエネルギーが、図7に示される。表面準位のエネルギー準位は、バルク中のD欠陥の化学ポテンシャルに関して測定される。
図5〜図7の結果から分かるように、付着エネルギーの典型的な値は、電荷キャリアの種類と、その表面準位のエネルギーとに依存して、1.3J/m2と0.08J/m2との間にある。この大きさは、−20℃で実験測定された氷−金属界面の付着エネルギーに匹敵するか、または、それよりも高い。実際には、付着エネルギーは、化学結合機構と同じくらい高いが、後者の場合とは異なり、静電機構は、より大きい距離(約10・rOO、rOO=0.276nm)まで有意なままである。従って、rOOよりも大きい距離では、静電機構は、化学結合機構よりも極めて重要である。従って、rOOよりも大きい距離では、Hamaker定数が3・10−20Jに等しければ、静電エネルギーは、ファンデルワールス力の静電エネルギーを越える。尚、最後の推定は、氷−氷(または、水−水)界面に関するものであって、図6の曲線1、2、3および4のように氷−金属界面に関するものではない。同様に長距離である、氷と金属との間のファンデルワールス相互作用についても、考えることができる。
従って、付着エネルギーは、最大表面電荷密度の場合、z ≫90・rOOでも0.01J/m2に等しく、長距離特性を示す。非平衡分離実験の場合の付着エネルギーは、付着実験の場合よりも高い値であるべきである。後者は、氷と金属とが接しているときの金属プレートによる静電エネルギーの効率的な遮蔽により説明できる。従って、平衡実験における、距離による付着エネルギーの挙動は、容易に理解される。小さい距離では、金属プレートが静電エネルギーを遮蔽し、高い付着エネルギーがある。なぜなら、表面準位の占有が大きいからである。しかし、距離が増加すると、静電エネルギーも増加し、より低い占有係数およびより低い表面電荷密度につながる。例示として、図6の曲線3、2および1を比較する。これらの曲線は、一定の占有の場合と比べて、自由エネルギーが距離とともにより急速に減衰することに等しい。
表面準位のエネルギーESの関数としての占有係数(D欠陥に関する表面準位のモデルの場合)の挙動についても考える。占有係数は、図7のES≫0.1eVであるとき、ゼロに近い。電荷キャリアが正エネルギーの表面準位に捕獲される1つの理由は、自由エネルギーのエントロピーゲインに関係がある。同じ理由で、氷バルクに欠陥が存在する。尚、バルクD欠陥の場合、「形成エネルギー(creationenergy)」は、欠陥1個あたり0.34eVに等しく、このエネルギーは、0.1eVよりもかなり大きい。最終的に、これは、バルク状態の場合、3・10−7のオーダの「占有係数」につながる。
時間依存性の現象はまた、氷付着に関連し得、この現象は、上記モデルにおいて固有のものである。表面準位に入るまたは表面準位から出るためには、欠陥は、何らかの静電バリアを克服しなければならず、これは、非平衡状態および時間依存性の現象につながる。
このモデルの1つの重要な要素は、氷表面電荷と金属において誘導される電荷との間の静電誘引である。これは、誘導される電荷の大きさが異なることを除いて、氷−絶縁体界面にも当てはまる機構である。氷表面上の電荷qは、金属において「鏡像電荷」−qを誘導するが、同じ電荷qは、絶縁体では、以下の関係に従って、より小さい「鏡像」電荷q’を誘導する。
ここで、εは、絶縁体の誘電率である。ほとんどの固体誘電体では、εは、1よりもはるかに大きく、誘導される電荷は、金属において誘導される電荷に匹敵する。εがより小さければ、静電に関連する付着は、より小さい。例示として、テフロン(登録商標)は、誘電率ε=2.04を有しており、氷への付着が低いことが周知である。
氷が水よりも高い付着性を有する理由を考えることが有用である。水の電荷キャリアの濃度がより高いため、水の表面電荷(存在する場合)の遮蔽は、氷よりも有効である(対応する初期静電エネルギーは、氷よりもはるかに小さい)。従って、基質による電場の遮蔽では、エネルギーを大幅に低下させることができない。尚、氷の融点に近い温度では、氷−固体界面に、薄い液体層が現れ得る。Dashら、Rep. Prog. Phys. 58、115 (1995)を参照されたい。本明細書において、上記文献を参考として援用する。従って、モデルは、表面を予め融解させることが氷付着に与える影響を含むように更新され得る。
氷付着の上記静電モデルは、氷の表面の電気特性と、氷付着との間の関係を示す。このモデルは、付着エネルギーの大きさの正しいオーダを与える。氷と金属との間の静電相互作用は、分子間距離よりも大きい距離で、化学結合エネルギーおよびファンデルワールス力よりもかなり高いエネルギーを供給する。このモデルはまた、氷および水の付着特性の差を説明する助けとなる時間依存性および温度依存性の現象を理解する直観的な方法を提供する。
DCバイアスがステンレス鋼への氷付着に与える影響
次に、DCバイアスが固体金属への氷付着に与える影響について考える。実験目的のために、図8に示されるシステム50を用いた。鋼管52間の空間を、0.5%のNaCl水溶液で満たし、次いで、システム50を、−10℃の温度の冷蔵室に入れた。多数のシステム50もまた、塩水で満たした。この水の塩度は、普通の海水の塩度に近かった。試験前、すべてのサンプルを、冷蔵室の中に3時間入れたままにした。この時間は、水が凍り、且つ、形成された氷の内部応力が緩和するのに十分な時間である。サンプルに(力58を付与し、ロードセル56を介して)100μm/分の一定の歪みレートで荷重を付与したとき、氷−鋼界面54の最大剪断強度が測定された。荷重付与の初めに、ステンレス鋼管52の間に−21V〜+21Vの範囲のDCバイアスを付与し、これを維持した。テフロン(登録商標)キャップ60により、氷に対する内側管52aの移動を可能にした。実験中、DC電源63により、DCバイアスを提供した。プラットフォーム64により、システム50を支持した。絶縁ボール66により、ロードセル56を、システム50の残りから熱的および電気的に切り離した。
機械試験中、電流、荷重および温度を、コンピュータハードドライブに記録した。データ記録には、データ収集ボードDAS-1800およびLab Viewソフトウェアを用いた。
氷付着は、塩濃度に非常に敏感であるため、この濃度を、試験後のサンプルの融解物において測定した。前後に、ステンレス鋼管52の表面を穏やかな研磨剤を含む洗浄装置で洗浄し、まず蒸留水、メタノールですすぎ、そして再び蒸留水ですすいだ。清浄手順と、塩濃度の制御とは、データ再現性のために重要である。
電源63からのDC電力の付与が氷温度の変化を引き起こすかどうかを判定するために、数回の試験において、鋼管52の間の氷62に熱電対(図示せず)を配置した。これらの試験の精度内(±0.05℃)では、温度変化は見られなかった。
図9は、ゼロDCバイアス下で氷−鋼界面を試験した場合の典型的な荷重対時間図の結果を示す。荷重が、最大値に達し、次いで、界面が壊れると低下していることが分かる。一定の歪みレートに対するサンプルの残留抵抗は、塩分を含む氷上での鋼の粘性摺動によるものである。依然として、DCバイアスの付与は、界面の最大強度と、氷−鋼試料の残留抵抗との両方を大幅に変え得る。
図10は、内側(可動)管52aに+6.6Vを付与した場合の、氷−鋼界面で行われた典型的な機械試験の結果を示す。図11は、可動電極に−1.0Vを付与した場合の、図10と同様の結果を示す。DCバイアスが界面強度に与える影響を示すために、図9および図10を合わせて図12に示している。そのような試験の結果を、以下の表1にまとめている。表1は、試験した電圧に関して、τmaxの大幅な減少が観察されたことを示す。この影響は、V=+6.6ボルトの場合に特に大きい。
表1:0.5%NaClがドープされた氷でT=−10℃での
氷−鋼界面の最大界面強度τmaxおよび残留剪断強度τres
最近のほとんどの試験において、図12Aおよび図12Bに示されるように、電極にV=−21Vを印加すると、氷/鋼界面の相対強度の大きさがほぼ1オーダだけ低減され得ることが分かった。σ
0は、V=0での界面強度であり、σは、V≠0に対応する。氷付着のそのような劇的な低下を説明するためには、静電相互作用以外の因子が必要である。即ち、DC電流が氷を通って流れると、氷の電気分解のため、水素ガス(H
2)および酸素ガス(O
2)が、小さい気泡の形態で、氷/鋼界面にたまる。図12Cに示されるように、これらの気泡67は、(氷69と金属71との間の)界面に荷重が付与されると現れる界面クラックの発生において役割を果たし、最大界面強度を低減する。
水銀への氷の付着に関する追加試験と注釈
以前に説明されたように、図1および図2は、小さいDCバイアス(−6V〜+6V)が水銀への氷付着に与える強い可逆的な影響を示す。この影響は、KOH、HFおよびNaClがドープされた氷において観察され、脱イオン水からできた非常に純粋な氷には、この影響はなかった。40VまでのAC電圧は、氷付着にいかなる顕著な変化も引き起こさなかった。
この章では、氷−Hg界面に付与される低DCバイアスが、界面エネルギーと付着の仕事とに与える影響についてさらに述べる。この章では、長距離静電相互作用による氷−金属界面エネルギーの部分(fraction)についても述べる。
上記のように、固体−固体界面の代わりに、液体−固体界面を用いた。実際には、付着を決定する界面エネルギーは、水−金属の場合のように、一方の材料が液体で他方の材料が固体である場合に、接触角実験において高い信頼性で測定される。金属が液相である場合、氷−金属界面に同様の技術を使用することができる。融点が−38.83℃であり、化学活性が低く、そして清浄な表面が容易に調製される水銀は、そのような実験に非常に適している。
電子グレードの99.9998%の純粋な水銀を用いるとともに、1)非常に純粋な脱イオン水、2)蒸留水、3)未処理の水道水、または4)低濃度の研究室グレードのNaCl、KOHまたはHFがドープされた脱イオン水からできた多結晶氷を用いた。ほとんどの実験は、T=−10℃および相対湿度89%〜91%の大きい冷凍室で行った。幾つかの実験は、−5℃、−15℃および−20℃の温度で行った。温度制御は、±0.2℃であった。
氷−水銀界面の表面張力を測定するために、2つの技術を用いた。実証の目的で、第1の技術は、図2に概略的に示されるような、平坦で滑らかな氷表面上の水銀液滴を用いる従来の接触角法である。接触角測定を行う前に、氷表面を、ミクロトーム機で平滑化し、光学的に平滑な石英プレート上で研磨した。
第2の技術は、氷−水銀界面の場合にはより高精度で再現性が高い図3のマノメータシステムを用いた。純水またはドープされた水を石英管31に入れ、T=−10℃の冷凍室で凍らせた。石英管31は、10mmの内径を有し、ステンレス鋼の円筒形網状電極30と、管の軸に沿って伸ばした細いステンレス鋼ワイヤとを含むものであった。水を凍らせた後、ワイヤを慎重に取り出して、非常に平滑な壁を有する細い円形毛管33を作った。毛管の半径rは、0.5mmまたは0.25mmのいずれかであった。表面張力測定の前に、水銀タンク19からの液体水銀で毛管を満たした。測定中に新しい水銀表面で作業を行うために、水銀18’を定期的に水銀タンク19に引き戻し、次いで、毛管33に押し下げた。前進および後退する水銀フロントについて、毛管内およびタンク内での水銀の液面高さの差hを測定した。2つの主要な因子が、この技術の精度を制限している。第1に、付着のヒステリシスのため、新しい水銀表面の場合であっても、前進および後退するフロントについて測定したhに、わずかな差Δh≫±0.5mmが見られた。第2に、典型的な粒子サイズが1mmである氷の粒状構造のため、毛管内での水銀の像は鮮明でなかった。これは、約0.2mm〜約0.3mmの追加誤差をもたらす。結果として得られる誤差は、図および本文中に示されており、本出願人が行った試験の標準偏差に一致する。
平衡状態では、水銀の液面高さの差hは、(再度)式(2)で与えられる。hが測定された場合、式2はまた、Wi/a−Wi/Hgを計算するために用いられる。従って、液体金属への氷付着の仕事WAは、以下のように表される。
WA=(Wi/a−Wi/Hg)+WHg/a (12)
ここで、WHg/aは、Hg/空気界面のエネルギーである。−10℃では、WHg/a=493mJm−2である。Jasper、J. Phys. Chem. Ref. Data、1,841(1972)を参照されたい。氷に対する水銀の接触角θは、これらの実験データから、およびDCバイアスの関数として、以下のように計算することができる。
θ=acos((Wi/a−Wi/Hg)/WHg/a) (13)
実験結果
ドープされた氷では、小さいDCバイアスは、氷−水銀界面エネルギーに強い影響を与えた。エネルギー変化Δ(Wi/a−Wi/Hg)の大きさおよび符号は、バイアスの極性および大きさと、ドーパントの種類および濃度に依存する。異なるバイアスが、NaClがドープされた氷上の水銀液滴の形状に与える影響は、図1に概略的に示される。表2は、異なる不純物がドープされた氷20’について、水銀と網状電極との間に異なるDCバイアスを付与した場合のθを式(13)を用いて計算した値を示す。
表2:水銀と網状電極との間に異なるDCバイアスを付与した場合の、
異なるドーパントを含む水からできた氷上の水銀の接触角θ;
正電圧は、水銀上の正電位に対応する。
図13は、0.5%NaClがドープされた水からできた氷についてT=−10℃で図3の「マノメータ」により測定した、付着の仕事の変化ΔWA=Δ(Wi/a−Wi/Hg)対バイアスVをグラフで示す。示されるように、バイアスは、水銀に対する氷の付着を低下または強化させることができる。バイアスが6Vを越えないとき、影響は、約0.05%を上回るNaCl濃度について非常に顕著になる。正バイアスは、水銀上の正電位に対応する。2V以下の負電位が付与された後−1.75Vで見られるWA(V)依存性の最小値のため、水銀柱はまず下降し、次いで上昇する。
より低いNaCl濃度(<0.05%)、または、水道水からできた水では、影響はより小さいが、0.5%NaClがドープされた氷では、水銀は、バイアス付与直後に移動し始める。脱イオン水からできた最も純粋な氷では、40VまでのDCバイアスは、水銀への氷付着にいかなる顕著な変化も引き起こさなかった。ドープされた氷を用いた場合、影響は完全に可逆性であった。即ち、Wi/Hgは、バイアス遮断後に回復した。それでも、場合によっては、上記のように、水銀の動きにヒステリシスが観察された。観察されたhの最大変化は、r=0.25mmの場合の12mmであった。図14および図15はそれぞれ、DCバイアスが、HFおよびKOHがドープされた氷のΔWAに与える影響を示す。
DCバイアスが、ドープされた氷の水銀への付着に与える影響を、−5℃、−15℃および−20℃でも観察したが、ほとんどの測定は−10℃で行った。この理由は、−5℃のドープされた氷は、多くの小さい液体混在物(inclusions)を含み、−20℃の氷には、装置内でクラックができることが多いからである。
電流−電圧特性の測定は、氷付着の変化を引き起こしたのが電流ではなく電圧であったことを示している(図13〜図15参照)。例えば、20のファクタだけ異なる導電率を有する氷サンプルにおいて、ΔWAは、同じ電圧の位置にある同じ大きさの最小値を通る。電気加熱も、影響において役割を果たさなかった。なぜなら、氷電気分解のしきい値(±2V)よりも低い電圧の場合、電流が数μAおよび数十μAで測定され、推定温度変化レートが10−6℃/s未満であったからである。従って、電気加熱の影響については、無視した。
固体の氷中のすべての不純物の低溶解度のため、水に溶解されたドーパントは、成長している氷フロントにより追い出され、最終的に粒子境界内および氷表面上に集められ、その導電性を増加する。この章の結果では、測定されたDC電流は、バルク電流、表面電流、および粒子境界電流の和である。
電気化学では、バイアスが「オン」および「オフ」であったときの図16に示される電流ピークは通常、電解質/金属界面での電気二重層の蓄積および減衰に関して説明される。|V|>2の場合に用いた大きい電流(≧1mA)は、安定してはいなかったが、時間とともに着実に減衰した。これらの電流を電圧に対してプロットするために、バイアスが「オン」に切り換えられてから20秒後に電流を測定した。電極の分極の蓄積を防ぐために、バイアスの極性を毎回逆にした。従って、+0.2V、−0.2V、+0.4V、−0.4V、などの順で測定を行った。
40Vまでの振幅で10Hz〜10kHzの周波数範囲のAC電圧の印加は、WAにいかなる顕著な変化も引き起こさなかった。上記のように、純粋な脱イオン水では、40VまでのDCバイアスの付与は、Wi/Hgに顕著な変化を引き起こさなかった。非常に純粋な氷の金属への付着を変えるためには、1kV〜3kVが必要である。純粋な氷およびドープされた氷のDCバイアスへの異なる反応は、これらの氷の導電率の差に起因すると考えられる。従って、本発明のある特定の実施形態では、電気「フィードバック」を利用して、氷の導電率をリアルタイムで測定し、そして、この測定値に基づいてDCバイアスを選択し、所定の氷−材料界面の付着強度を最小にする。当業者は、望ましい場合には、付着強度をリアルタイムで、および、同じフィードバックに基づいて増大することもでき、リアルタイムで且つ同じフィードバックに基づいて増大することもできることを認識するはずである。
氷がNaClまたはHFがドープされたものであり、DCバイアスが、水銀上に正電位がある場合の電気分解しきい値を越えると、黄色がかった酸化膜が、水銀表面上に現れた。この膜は、バイアスを逆にしてから数秒後に消えた。しかし、水銀に負電位が付与された場合、ステンレス鋼の網状電極には顕著な色変化がなかった。この水銀表面の電食は、図13および図14に示されるΔWA対V依存性の非対称の原因であり得る。0.2%のKOHがドープされた氷の場合も、電食に関連する氷/Hg界面に顕著な色変化がなかった。
データ中の異常については、その他の可能性がある。例えば、ステンレス鋼−ドープされた氷−水銀のサンドイッチ構造は、弱いバッテリとして挙動し、水銀上に負電位がある場合に小さい起電力(EMF)を発生する。このEMFは、0.5%NaClがドープされた氷では−0.18Vであり、0.2%のKOHがドープされた氷では−0.3Vであった。その他の物理機構もまた、上述の影響、即ち、1)氷−金属界面の電気二重層中の電荷の静電相互作用、2)金属表面の電気酸化および電気還元(酸化還元)、および3)氷の電気分解で放出されたガスにより引き起こされる氷/金属界面の剥離、に寄与し得る。これらを、以下に簡単に説明する。
静電相互作用
酸化還元のため、金属電極と電解質(イオン導電体)との間には常に電位差VCがある。従って、水銀の標準電位V0は、25℃で+0.7958Vである。水銀電極と特定の電解質との間の実際の電位は、電解質のpHに依存し、酸性の強い溶液での約+0.9Vから、アルカリ性の強い溶液での約+0.2Vにわたる。Oldham、Fundamentals of Electrochemical Science、Academic Press、NewYork、pp. 309-355(1994)を参照されたい。この接触電位VCに関連する界面上の電気二重層は、水銀上にある密度+λの原子的に薄い正電荷と、電解質の表面下層内にあるイオン空間電荷−λとからなる。界面電場のエネルギーは、以下の式で表される。
ここで、C(V)は、それ自体がV
Cに依存する「見かけ」界面キャパシタンスである。この場合、付着の仕事の静電部分は、以下の式で表される。
界面に外部バイアスVが付与される場合、W’
Aは、以下の式で表される。
この式は、V=−V
CでのW’
Aの最小値を予測する。このタイプの依存性は、図15、図13の左側(V<0)、および図14の−3V<V<0の部分に見られる。W’
Aの絶対値は、式(16)の予測値および実験観察値と比較され得る。Cを推定するためには、時定数τ≫10sが用いられる。図16では、この時定数で電流が上昇および減衰する。
ここで、Rは、鋼/氷/水銀サンドイッチ構造の抵抗であり、R ≫1V/50μA=2・10
5Ωであり、Sは、氷−Hg界面の面積である。これらの2つのファクタは、氷−Hg界面と同一であると仮定されるステンレス鋼/氷界面が存在するために現れる。これは、大きさのオーダの概算推定を与える。
式(17)は、0.4F/m2の近似値でCを計算する。この値は、金属が濃縮電解質に浸漬される場合の電極キャパシタンスに非常に典型的な値である。C≫0.4F/m2と水銀標準電位VC ≫0.8Vとを式(16)に代入すると、以下のW’Aの最小値が得られる。
この結果は、上記結果(ΔW
A=100−150mJ/m
2)に匹敵する。式(16)からの実験結果のずれは、本明細書で説明されるその他の影響に起因し得る。
WAの最小値の位置は、HFがドープされた氷およびNaClがドープされた氷の場合、−1.75Vであり、これは、酸性電解質中のHgの予測VC値の約二倍である。しかし、付与バイアスVは、氷−ステンレス鋼界面、氷−バルク界面、および氷−Hg界面の間で共有される。氷電解分解のしきい値よりも小さい値で、Vが2つの界面間でほぼ等しく共有されると、観察される最小値は、−2VC≫−1.8Vで、ちょうど適切な位置にある。尚、冷凍時、NaClはCl−およびH+として氷内に入り、Na+およびOH−を氷の外側に残すため、NaClドーピングはHClドーピングと同様になる。水銀のVCはアルカリ性電解質中ではより小さいため、KOHがドープされた氷の場合のWAの最小値は、より低い負電圧でなければならず、また、実際にそうである(図15参照)。
酸化および還元
上記のように、酸性(HFおよびNaClがドープされた)氷に接する水銀に正電位を付与した場合、酸化水銀(バルクで赤色である)とともに、黄色がかった膜が観察された。おそらくは、この膜が、式(16)により予測されるとともに、KOHがドープされた氷について図15に見られるWA(V)依存性の見事な対称性を壊している。
電気分解で放出されるガス
|V|≧2Vの場合のガス放出は、氷−金属界面の剥離を引き起こし得、従って、付着の仕事WAを減少させ得る。そのような減少は、1mAの電流が大気圧で約0.15mm3/sの(H2+O2)を発生させても、図13〜図15には見られない(ただし、図14にはV<−2Vで幾らか減少があり得る)。おそらく、これらのガスは、氷−水銀界面に沿って容易に上方向に逃げたと思われる。それでも、氷−固体金属界面の場合、氷の電気分解により発生されるガスは、界面にクラックを生じさせ得、それにより、氷付着強度を低減する。
その他の相互作用
WA(V)の最小値で、金属上にある空間電荷と氷上にある空間電荷との間の静電相互作用がゼロであるとすると、その残りであるWA(0)−ΔWminは、アルカリ性氷/Hg界面の場合は190±25mJ/m2に等しく、NaClがドープされた氷/Hg界面の場合は290±10mJ/m2に等しい。この場合、残されるものは、リフシュッツ−ファンデルワールスおよび極性ルイス酸−塩基相互作用に起因すると考えられ得る。
比較的小さいDCバイアス(−6V<V<+6V)が、水銀への氷付着に与える影響は、このようにして実証される。バイアスの極性および大きさに依存して、付着の仕事は、37〜42%だけ低減され得るか、または70%まで増加され得る。この小さいバイアス範囲では、非常に純粋な氷に対して、またはAC電圧下では、影響は観察されなかった。界面電気二重層中の電荷の静電相互作用は、電気分解によるガス放出および金属酸化の幾らかの寄与を有する、この現象の一番もっともらしい主要機構である。
図17(および断面図17A)は、本発明に従って構成されるシステム100を示す。システム100は、材料104の表面104a上に形成された氷102の付着を低減するよう動作する。システム100は、材料104と、導電グリッド106(グリッド上の例示的な点「A」〜「F」を含む)と、電源109とを含む回路を形成する。グリッド106は、グリッド106が材料104から絶縁されたままになるよう、表面104aの上で浮遊される。
本発明の好適な実施形態では、表面104aの上でのグリッド106の浮遊は、グリッド106と表面104aとの間に配置される絶縁グリッド108の使用により得られる。図17Aは、グリッド108をより詳細に示す。図17Aの断面図は、絶縁グリッド108と導電グリッド106との関係を示すために一定の縮尺で示されているわけではない。実際には、グリッド106、108の(図17Aの次元での)厚さは、1インチよりもはるかに小さい値(0.010〜0.020インチという小さい値でも)であり得、「コーティング」として考えることができる。例示として、グリッド108は、絶縁塗料の薄いコーティングからなっていてもよく、グリッド106は、導電塗料の薄いコーティングからなっていてもよい。グリッド106は、単一の電極として機能するように接続される。従って、材料104は、システム100の第1の電極になり、グリッド106は、回路の第2の電極になる。
グリッド106、108はまた、柔軟で表面104aの上に形成可能であってもよい。平坦な表面104aが示されているが、表面104aは、いかなる形状をも表し得る。例示として、材料104は、航空機の翼、または車のフロントガラスを表してもよく、グリッド106、108は、構成材料104と共形(conformal)である。
氷102が表面104a上にできると、(上記のように)氷102が半導体として動作するため、システム100の回路が完成される。回路が完成されると、電源109は、氷102と材料104との間の界面にDCバイアスを提供する。このバイアスは、典型的には数ボルト未満である。従って、バッテリが、電源109として機能し得る。
バイアスの大きさは、所望の応用に依存する。自動車のフロントガラスまたは航空機の翼の場合、バイアスは、最小の(または最小に近い)氷付着になるように選択され、それにより、材料104からの氷102の除去を容易にする。
しかし、例えば、長靴のかかとの場合(即ち、表面104aが靴底の底面である場合)、氷102は、かかとの下の氷を表し、バイアスは、氷とかかととの間の通常の氷付着強度を増加させるように選択され、それにより、靴との間の摩擦を増加し、おそらく氷上での滑りを防ぐ。
電圧調整器サブシステム112はまた、好ましくは、回路内でシステム100に接続される。以下により詳細に説明されるように、電圧調整器サブシステム112は、DCバイアスを最適な態様で減少または増加するように、回路および電源109とともにフィードバックで動作する。例示として、サブシステムは、回路からのデータを測定するため、および、氷102の導電率(および/または温度)を判定するために、回路およびマイクロプロセッサ112aを含み得る。そのような測定は次に、サブシステム112により用いられ、回路に付与されるDCバイアス量を効果的に変える信号が生成される。具体的には、1つの実施形態では、電源109は、この信号に応答して、氷−材料界面で適切な電圧を生成する。DCバイアスの値は、例えばルックアップテーブルを介して、および、実験データに基づいて、サブシステム112内のメモリ112bに格納され得る。例えば、導電率「Y」(所定の応用の場合、システム100が材料104とともに設置されるため、アプリオリに知られる)の材料104に接する導電率「X」(サブシステムにより、好ましくはリアルタイムで測定される)の氷は、メモリ112b内のルックアップテーブルを介して用いられ、氷−材料界面にどの電圧を印加すべきであるかが判定される。
グリッド電極106は、好ましくは、表面104a上にできる氷102が、グリッド106の少なくとも幾らかの部分に接することを(できるだけ)確実にするように間隔が開けられる。例えば、図17を参照して、氷102は、点「C」〜「E」を含む、グリッド106の幾つかの領域と接触する。従って、システム100の回路は、氷102がグリッドの少なくとも1部分を材料電極106、104にそれぞれ「短絡」するため完成される。
例えば図17の領域114などの、グリッド106の導電領域間の間隔の実際の大きさは、特定の応用に合わせた大きさにされるべきである。例示として、表面104aが航空機の翼の表面であれば、間隔は比較的大きく、例えば、1平方フィートよりも大きい。しかし、車のフロントガラスの場合、フロントガラス(フロントガラスの角など)上のより小さい氷堆積物がグリッド106に短絡しやすいように、領域114は、望ましい場合には、より小さい領域であるべきである。
図18は、本発明に従って構成されるシステム130を示す。サブシステム130の1つの電極は、航空機の翼132である。航空機の翼132は、接地134に電気的に結合される。DC電源136は、DC電流計138に電気的に結合される。DC電流計138は、誘導子140に電気的に結合される。誘導子140は、配線141を介して、導電塗料142(または、その他の翼と共形の導電性等価物)に電気的に結合される。導電塗料142は、航空機の翼132上に固定された絶縁層144に付与される。
絶縁層144および塗料142は、好ましくは、図17に関して説明され且つ図19にさらに示されるようなグリッドパターンとして構成される。図19では、翼132’上の導電層142’と、絶縁層144’(ここでは、絶縁ラッカーとして示される)とが、グリッドパターン145を形成する。従って、電源136’は、導電塗料142’に接続するとともに、翼電極132’を介して接地に接続する。翼132’上に氷ができると、回路は氷により短絡され、氷付着を低減し且つ氷除去を容易にするように、氷−翼界面にDCバイアスが付与される。
好ましくは、絶縁ラッカー144’で覆われる合計面積は、翼132’の前縁部132a’の約1%を越えない。グリッドパターン145は、サイズが変えられ得、そして、図示されるように前縁部132a’の上、または、翼132’全体の上、または、設計の選択事項としてのその他の何らかの領域の上に配置され得る。従って、特定の翼および航空機の場合の典型的な氷堆積物に関する過去のまたはその他のデータを有する翼または航空機製造業者は、望ましい場合には、その特定の領域の上にのみグリッド145を付与することができる。
図18および図19のそれぞれの翼132と132’との間に印加される電圧は概して、1ボルトと6ボルトとの間に調節され、それに対応する電流は、グリッド面積1平方メートルあたり1Aである。
当業者は、市販で入手可能な様々な絶縁ラッカー144’および導電塗料142があること、および、着氷シミュレーションの試験後に特定のブランドが選択されるべきであることを認識するはずである。さらに、グリッド145の最適な間隔(即ち、図17の領域114のサイズを決定するため)はまた、経験的に、または、特定の設計についての分析により、決定されるべきである。
図18をさらに参照して、DC電流計138はさらに、フィードバックサブシステム150にさらに結合し得る。次に、フィードバックサブシステム150は、DC電源136に電気的に結合し、氷の導電率および温度などの特性に依存して、翼−氷界面に付与されるDCバイアスを「制御」する。従って、温度センサ152はまた、好ましくは回路130に接続し、氷154の温度を測定する。
システム130の別の特徴は、AC電流計158に電気的に結合されるAC電源156(約10kHzと約100kHzとの間で動作する)を含み得る。次に、AC電流計158は、導電塗料142に電気的に結合する。電流比較器160は、AC電流計158およびDC電流計138の両方に電気的に結合される。
着氷アラームサブシステム162もまた、システム130とともに含まれ得る。電流比較器160は例えば、以下に説明されるようなある特定の事象を開始するように、着氷アラームサブシステム144およびフィードバックサブシステム150に結合し得る。
DC電流計は、回路130のDC導電率を測定するために使用され得る。DC導電率信号測定値は、フィードバックサブシステム150と、電流比較器160とに提供される。次に、フィードバックサブシステム150は、DC電源136により供給される電流を調整する。
AC電流計は、例えば10〜100kHzの付与周波数範囲内で回路130のAC導電率を測定するために使用され得る。AC導電率信号測定値は、電流比較器160に(および、A/Dおよびデータ処理のために、任意にフィードバック150に)提供される。AC導電率とDC導電率との比較は、システム130により、ともに回路を「短絡」して完成させる水と氷とを区別するために用いられる。具体的には、AC導電率のDC導電率に対する比は、氷の場合、水と比べて2〜3オーダの大きさだけ大きいため、水に対して氷を容易に区別する信号測定値を提供する。
従って、翼132上に氷ができると、電流比較器160は、フィードバックサブシステム150に信号を送り、次にフィードバックサブシステム150が、DC電源136に、氷−翼界面のDCバイアスを増加または減少させるよう命令する。DCバイアスは、翼132上での氷154の氷付着強度を最小にするような大きさ(概して、1ボルトと6ボルトとの間)で選択される。
翼132を除氷すると、電流比較器160が受け取った信号差は、プリセット値よりも小さい値に低下し、電流比較器160は、着氷アラーム162を不活性化する。それと同時に、電流比較器160は、フィードバックサブシステム150に信号を送り、次にフィードバックサブシステム150が、DC電源136に、バイアスを初期レベルに減少させるよう命令する。
つまり、電流計138および158は、グリッド電極142と翼132との間で短絡する材料の導電率を判定するために用いられる。示されるように、その材料は氷154である。このように、システム130は、自動的に氷と水とを区別する。誘導子140は、氷付着強度を変えるために正確に制御されるべき部分である回路の「DC」部に、AC電圧が入るのを防ぐ。フィードバックサブシステム150は、氷の温度および氷の導電率(および/または氷の純度)などのフィードバックデータに基づいて最適に近いDCバイアスで電源136を命令および制御するために、マイクロプロセッサおよびメモリを含んでいてもよく、好ましくは、これらを含む。フィードバック回路は、好ましくは、サブシステム162から氷アラーム信号を受け取った後、約0.1mA/cm2の密度(または、氷−翼界面で約1mA/in2の電流密度)を提供するレベルでDCバイアス電圧を増加または減少させる。従って、約10A〜約30Aの電流の場合、典型的な大型飛行機には、約100ワット〜約500ワットの合計エネルギー消費量が必要とされる。
従って、図18の回路の「DC」部は主として、氷−翼界面にDCバイアスを提供するように動作し、第2に(望ましい場合)、氷154のDC導電率を測定するように動作する。従って、図18の回路の「AC」部は主として、AC導電率を測定するように動作する。従って、図18の回路の残りの部分は、(a)DC部とAC部との間の信号結合を防ぐための誘導子と、(b)(水と比較した)氷の検出、および/または、氷の温度および導電率などの測定フィードバックパラメータに基づいて、付与DCバイアスを制御するためのフィードバックおよび測定および制御回路とを提供する。
図20は、航空機の翼202を除氷するために用いられる1つの他のシステム200である。DC電源201は、第1の電極としての役割を果たす翼202(翼202は、導電性であるか、または、金属箔もしくは導電塗料でコーティングされる)と、翼202から電気的に絶縁される導電グリッド204とに、DCバイアスを供給する。グリッド204は、翼202とグリッド204との間に配置される絶縁膜206により、翼202から絶縁される。グリッド204は、図20の回路において第2の電極としての役割を果たす。翼202上に氷210ができると、氷210が回路を架橋し、翼202と氷210との間の界面にDCバイアスが付与される。
図21は、自動車のタイヤ252と道路256上の氷254との間の摩擦を増加するために用いられるシステム250を示す。示されるように、タイヤ252は、電流を伝えるために(ヨウ素などを用いて)導電的にドープされる複数のストリップ252aを含む。DC電源258は、ケーブル配線260を介してストリップ252aに接続し、接地262に対するDCバイアスを生成する。電源258により生成されたDC電圧差は、約5Vと約1000Vとの間である(通常は、10V〜100Vの範囲である)。DC電源はまた、氷254(または雪)の導電率を決定するため、および、それに応じてDCバイアスを調節するために、(上記のような)電圧調整回路およびフィードバックサブシステムを含んでいてもよい。当業者に公知のように氷温度を遠隔でサンプリングして、温度もフィードバックパラメータとして使用できるようにするために、非接触温度センサ(図示せず)もまた使用され得る。
電圧は、電気制御レバー266を介してストリップ252aに印加される。所定の電圧範囲について最も高い付着を得るために、望ましい場合には、交互のストリップ252aを、電源258を介してプラスまたはマイナス電位で駆動してもよい。システム250が(電気機械コントローラなどにより)使用されていないとき、レバー266は、邪魔にならない所に上方向に動かされてもよい。電源258をホイールアクスル270に接続することにより、レバー266と電流源との間に一定の距離が維持される。
当業者は、ストリップ252aを既存のタイヤ(またはタイヤ材料)上に溶接してもよいこと、および、より少ないまたはより多くのストリップ252aを使用してもよいことを認識するはずである。実際に、タイヤ252は、導電性になるよう完全にドープされてもよい。この場合、ストリップは必要とされない。
当業者は、図21のタイヤシステムに、図18に示されるような回路を使用してもよいことを認識するはずである。ただし、そのような実施形態のDCおよびAC電圧は、これら2つの信号を切り離すために、隣接するストリップ252a(それぞれ+および−として示される)に印加される。ストリップ252a間に印加されるDC電圧は、氷アラームを受け取る前は小さいが(約10V)、その信号後には100V〜1000Vの高電圧に切り換えられる。
図22は、自動車のタイヤ302と凍結道路304との間の摩擦を増加するシステム300である。タイヤ302は、電流がタイヤ302のゴムを通って流れ得るようにドープまたは製造される。AC電源306は、自動車308内に収容され、適切な配線309を介してタイヤ302に接続される(この配線は、アクスルを介する接続などにより、車輪の回転を妨害していない。)AC電源306は、タイヤ302に高周波数(10〜1000kHz)で高電圧の信号を付与し、その信号が、タイヤ302と道路304との間に、実質的にDCの電圧を与える。その電圧は、好ましくは、氷310とタイヤ302との間の摩擦を増加する大きさの電圧である。
図23は、回路内でDC源404に接続される車のウィンドウ402を含むシステム400を示す。ウィンドウ材料は、システム400の一方の導電電極になるように(ITOまたはフッ化物がドープされたSiO2などで)ドープされる。他方の電極は、ウィンドウ402上に配置される透明の導電ストリップにより形成されるグリッド406であり、グリッド406とウィンドウ402との間の絶縁グリッド(図示せず)により電気的に絶縁される。好ましくは、上記のような電圧調整器サブシステム408は、氷の導電率および温度などのファクタをモニタして、氷がグリッド406とウィンドウ402との間の間隙を架橋するときを(水と比較して)判定し、さらに、氷とウィンドウとの間の界面に印加されるDC電圧を、最小に近い氷付着の点にバイアスする。例えば、図4を参照されたい。グリッド406の下の絶縁グリッドは、図19の層144’と同様である。
尚、グリッド406は、好ましくはグリッド406上の各点が一定の電位になるように接続される。
別のウィンドウグリッドおよび電極パターンが、図23Aに示される。このパターンは、(第1のグリッドに結合される)第1の電極452と、第1のグリッドと交互配置される第2のグリッドに結合される第2の電極454とに接続されるDC源450を含む。図23Aのシステムは、図23と比べると、別の実施形態であり、本明細書に示されるような追加の回路および制御を含んでいてもよい。
図23および図23Aの防氷グリッドは、好ましくは、LCD技術および太陽電池技術で一般的な導電性透明コーティングからなる。ウィンドウ上の導電性の透明電極の櫛状グリッドには、典型的には、1〜2VのDC電圧が印加される。所望のバイアスは、電極材料および製造業者に依存し得る。電極は、フロントガラス上に塗布されてもよく、蒸着されてもよい。
本明細書に示されるように、自動車のフロントガラスは、許容可能な半導体(透明度を含む)になるように、例えばITOまたはフッ化物がドープされたSiO2でドープされてもよいことが理解されるはずである。別の透明コーティングには、ドープされたポリアニリンなどがある。リチウムイオン導電ガラスを用いてもよい。自動車のタイヤの場合、電気を伝えるように、ゴム内にコポリマー−炭素堆積物を用いてもよい。ヨウ素を用いてもよい。オーストラリアのCSIROが開発したゴム薄膜を、本発明とともに用いてもよい。
図24は、本発明に従って構成される送電線氷制御システム500を示す。このシステムは、配線504によりドープされた送電線配線506に接続される電力制御モジュール502(本明細書に記載されるような、DC電源、好ましくは、電圧調整、ならびに、DCおよびAC氷検出および測定、などの機能を含む)を含む。配線506は、図24Aの例示的な断面図に示される(ただし、一定の縮尺ではない)。このように、配線506は、主送電線508と、絶縁層510とを含む。主送電線508および絶縁層510はいずれも、当業者に公知である。ドープされた外側層512は、絶縁層510を囲み、回路内でモジュール502に氷制御DCバイアスを提供する。導電グリッド514は、配線506の長さに沿って軸方向に延び(任意の周囲配線を有する)、グリッド514と層512との間の絶縁グリッド516(同様に軸方向に配置される)により、層512から電気的に絶縁される。配線506上に氷520ができると、氷520が回路を短絡し、層512と氷との間の界面にDCバイアスが付与される。バイアスを正しい大きさに調整することにより、配線506からの氷520の除去が容易にされる。
図25は、スキー602上の氷付着を変えて、スキーと雪/氷との摩擦を選択的に増加または減少させるための、本発明に従って構成されるシステム600を示す。システム600は、スキー602の底面602aの図とともに示される。底面602a上には、システム600の回路の部分として、グリッド604(例示的に示されたものであり、本明細書に示されるような、絶縁グリッドにより底面602aから間隔があけられる導電グリッドを含む)が設けられる。バッテリ606は、グリッド604と底面602aとに接続し、回路にDCバイアスを提供する。コントローラ608は、氷の導電率(および、任意に温度)を検知し、バッテリ606により生成されるバイアスを調整する。スキー底面602aは、半導体材料からなるか、または、ドープされるか、または、導電ストリップでラッカーが付与される。雪または氷と接触して、コントローラは、印加電圧を制御し、それにより、スキー602と雪および氷との間の摩擦を制御する。
当業者は、コントローラ(および/またはバッテリ)が、図25に点線で例示的に示されることを認識するはずである。これらの物理的な位置は、設計の選択事項であり、スキーの上面にあってもよく、スキー靴のパック(pack)またはビンディングにあってもよい。さらに、コントローラは、ユーザ入力に応答して、摩擦をリアルタイムで変えるようにされてもよい。例えば、(クロスカントリーなどで)斜面を登っているスキーヤは、「摩擦増加」を選択することができ、システム600は、それに応答して摩擦増加を行う。ユーザはまた、「摩擦減少」を選択することもでき、コントローラは、底面602aへの氷/雪の氷付着強度を最小にするバイアスを命令する。
図26は、靴699の底に接する氷/雪の氷付着強度を変えるための、本発明のさらに別の実施形態を示す。具体的には、図26は、バッテリ702を含むシステム700を示す。単なる例示の目的で、2つの別の電極設計を説明するために示される2つのバッテリ702がある。第1の設計では、かかと699a(本明細書に示される当業者に公知の技術により導電性にされる)で、バッテリ702aは、本明細書に示されるような(そして、導電性のかかと699aから間隔があけられる)導電グリッド704に接続する。雪または氷に接すると、雪または氷が回路を架橋し、氷−かかと界面にDCバイアスが付与され、摩擦を増加する。
図26の他方の設計は、靴699などの小さい表面には実際にはグリッド電極が必要とされないという点で、例示的に示される。むしろ、単一の電極706で十分であり得る(尚、上の場合と同様に、電極706は、絶縁層706aにより靴底から間隔があけられる)。ここでは、靴底は導電性であり(または、ドーピングにより導電性にされ)、雪または氷が電極706に接すると、回路が完成され、靴の牽引力を増加するようバッテリ702bから最適なDCバイアスが付与される。
図27は、送電線700から氷を低減または除去するのに適した、本発明の1つの好適な実施形態を示す。図27の挿入図は、本発明に従って構成される送電線700の断面図を示す。当該分野において公知であるように、通常の送電線702は、60Hzの電力を生成するが、10,000ボルト/インチなどの非常に高い電場を有する。本発明によれば、線702の上には、厚さ「t」のコーティング704が付与される。
1つの実施形態では、コーティング704は、当該分野において公知であるように、強磁性材料である。強磁性材料は本質的に、ある特定の条件では非常に高い誘電率(例えば、10,000)と非常に高い誘電損失(例えば、tanδ@10)とを示し、その他の条件では比較的低い誘電率(3〜5)と小さい誘電損失とを示すセラミックである。誘電率を変えることができる1つの条件は、温度である。好適な局面では、材料は、凝固点よりも高い温度では誘電率が低く、凝固点よりも低い温度では誘電率が高くなるように選択される。周囲温度が凝固点よりも低くなると、高い誘電率および誘電損失のため、コーティングは、AC電場により強く加熱される。
当業者は、上記の実施形態が、自己調整により、コーティング温度を融点に近い(または融点よりわずかに高い)温度に維持するものであってもよいことを認識するはずである。送電線の電場によりコーティングが過度に加熱されると、コーティングは自動的に、強磁性から標準状態への相変態を受け、この時点で、コーティングは、電場エネルギーの吸収を停止する。従って、相転移温度を選択することにより、コーティング温度を、ユーザの要求ごと、および局所領域の環境条件ごとに調節できる。
コーティング704は、線702により発生されるようなAC電場の存在下で熱を発生する。具体的には、コーティング704は、ACサイクルにわたって熱を発生するヒステリシスを示し、従ってコーティングは、線702の振動電場のため、熱を発生する。
厚さ「t」は、典型的には、1インチの1/100のオーダであるが、コーティング材料と所望の加熱とに依存して、その他の厚さを付与してもよい。例えば、厚さを変えることにより、表面704aの温度は、1〜10度またはそれ以上増加され得る。厚さ「t」は、所望の熱量(即ち、線700の表面704a上で氷および雪を全体的に溶かすのに十分な熱)が発生されるように選択される。
コーティングが低い誘電率および誘電損失を示す場合(即ち、コーティングが「凝固点」またはその他の何らかの所望の温度よりも高い場合)、はるかに少ない熱がコーティング704により発生され、それにより、はるかに少ないエネルギーが線702により費やされる。
コーティング704はまた、同じまたは同様の影響を有する強磁性材料により構成されてもよい。この場合、コーティングは、送電線が発生する磁場のエネルギーを吸収する。
具体的には、強磁性材料を振動電場(AC)に置くと、この材料は、誘電損失のため、電場により加熱される。1立方メートルあたりの加熱電力は、以下のように表される。
ここで、ε’は、比誘電率であり(通常、ε’は、典型的な強誘電体の場合、約10
4である)、ε
0は、自由空間の誘電率であり(ε
0=8.85E−12F/m)、ωは、AC電場の角周波数である(ω=2πfであり、ここで、fは、送電線の通常周波数であり、例えば、保存形(conservative)送電線では60Hzである)、tanδは、誘電損失の正接であり、(E
2)は、電場の二乗の平均である。
強誘電体は、いわゆるキュリー温度Tcよりも低い温度ではε’およびtanδが非常に大きい値であり、Tcよりも高い温度ではε’およびtanδが小さいことを特徴とする。従って、誘電損失(または、AC電場の加熱電力)は、Tcよりも低くTcに近い温度で非常に高く、その温度よりも高い温度では、大きいファクタ(例えば、106)だけ低下する。これにより、融解温度に近いかまたは融解温度のすぐ上のTcを有する強誘電体は、上記のようなコーティング704の最適な選択となる。そのようなコーティングは、外部温度が融点Tmよりも低くなると電力を吸収し、電場によりTmよりも高い温度に加熱され、そのため、コーティングは、再び通常の絶縁体に変わる(即ち、有意な量の電場を吸収しなくなる)。
従って、そのようなコーティングをAC電場に置くと、強誘電性材料は、Tcに近く且つTmのすぐ上の一定温度を維持する。着氷を防止するためのこの自己調節機構は、非常に経済的である。即ち、コーティング厚を変えることにより、および/または、コーティングに中性(強誘電性でない)絶縁塗料またはプラスチックを付加することにより、送電線1メートルあたりの、または、保護される任意の表面1m2あたりの最大加熱電力を増加または減少させることができる。本発明による適切な強誘電材料の例には、以下のものがある。
例示として、Pb3MgNb2Ogについての加熱電力計算を考える。この例では、V2=10kVおよびワイヤ径1cm=2*半径である中距離(middle range)送電線を考える。ワイヤ表面上の電場強度は、
であるか、または、3kV/cmである。ここで、Lは、ワイヤ間の距離(L=1m)である。上記の通り代入すると、即ち、E
2=3E5V/m、ω=2π
*60Hz、ε’=104、およびtanδ=10を代入すると、W(1mm、60Hz)=4.5E5ワット/m
3となる。従って、例えば、膜厚1mmの膜は、450ワット/m
2を生成する。この値は、典型的な氷融解に十分な値よりも大きい。
送電線に適用する場合、コーティング内で放散され得る最大電力は、ワイヤ間のキャパシタンスC2により制限される。
太さ2cmのワイヤで、ワイヤ間の距離が1mの場合、C
2 @1.21E−11F/mである。V=350kVの送電線の場合、W
max@300ワット/mである。この値は、長さ1mのケーブルを無氷状態に維持するのに十分なエネルギーである。
強誘電体に加えて、ほどんどどの半導体コーティングでも、同様の効果を提供する。式(21)の最大の成果に達するためには、コーティングの誘電導電率(dielectric conductivity)σは、以下の条件を満たさなければならない。
ここで、εは、コーティングの誘電率であり、ε
0は、自由空間の誘電率である。60Hzの線で、ε ≫10である場合、σ ≫3.4E−8(ohm.m)
−1である。そのような導電率は、多くのドープされていない半導体および低品質の絶縁体に非常に典型的な値である。このように、そのようなコーティングは高価でない(ある特定の塗料は、これらのコーティングにふさわしい)。さらに、上記の同じ温度「調整」は、半導体材料の導電率の強い温度依存性(例えば、指数関数的依存性)のため達成され得る。従って、式(22)による最適な条件は、コーティングが氷を溶かし、それ以外にはほとんど電力を消費しない狭い温度間隔、例えば−10℃≦T≦10℃、でのみ満たされる。
当業者は、本明細書に示されるようなその他の表面を、これらのコーティングで処理してもよいことを認識するはずである。例えば、そのようなコーティングを飛行機の翼に付与する場合、コーティングをACに曝すことにより、特に、そのACを上記式(19)のように増加することにより、融解能力が提供される。例示として、Pb3MgNb2Ogの場合、100kHzの周波数は、厚さ1mmのコーティングをW(1mm、100kHz、3E5V/m)=750kワット/m2に加熱する。
図28は、そのようなコーティングを使用して非活性表面(即ち、内部AC電場を持たない表面)を除氷する、本発明の実施形態を示す。図28では、強誘電コーティング800は、構造802(例えば、航空機の翼)に付与される。箔電極804a、804bは、構造802へのAC電力の付与を提供する。AC電力は、標準AC電源806から得られる。構造802とともに回路内にある氷検出システム808(例えば、図18の検出システム)は、好ましくは、電源806に、構造802上に氷があることを知らせる。その後、AC電力が付与される。AC周波数およびコーティング厚は、(例えば、航空機の翼で着氷が起こらないようにするために)所望の熱量を発生するように選択される。
このように、本発明は、以上の説明から明らかである目的のなかで、上記の目的を達成する。本発明の精神から逸脱することなく、上記装置および方法に、ある特定の変更がなされ得るため、上記説明に含まれるか、または、添付の図面に示されるすべての事項は例示として解釈され、限定的な意味で解釈されないことが意図される。
例えば、当業者は、図17に関して説明されたようなグリッド電極を、住宅の屋根、油送管、私道、および氷がたまりやすいその他の領域、などの表面に適用してもよいことを認識するはずである。
上記に鑑みて、以下を請求する。