図1および図2は本発明に係るエンジンの始動装置を有する4サイクル火花点火式エンジンの概略構成を示している。このエンジンは、車両に搭載された図外の自動変速機に動力を伝達するものであり、シリンダヘッド10およびシリンダブロック11を有するエンジン本体1と、エンジン制御用のECU2とを備えている。上記エンジン本体1には、4つの気筒12A〜12Dが設けられるとともに、各気筒12A〜12Dの内部には、クランク軸3に連結されたピストン13が嵌挿されることにより、その上方に燃焼室14が形成されている。
なお、当実施形態において、エンジンの停止時に圧縮行程となる気筒を圧縮行程気筒、膨脹行程となる気筒を膨脹行程気筒と称する(同様に吸気行程となる気筒を吸気行程気筒、排気行程となる気筒を排気行程気筒と称する)。当実施形態においては、気筒12Aが膨張行程気筒、気筒12Bが排気行程気筒、気筒12Cが圧縮行程気筒、気筒12Dが吸気行程気筒となる。
シリンダヘッド10には、上記各気筒12A〜12Dの燃焼室14毎に点火プラグ15が固定されている。各点火プラグ15は、その先端が対応する燃焼室14の内部に頂部から臨むように設置されている。また、上記燃焼室14の側方には、燃焼室14内に燃料を直接噴射する燃料噴射弁16が設けられている。この燃料噴射弁16は、図外のニードル弁およびソレノイドを内蔵し、上記ECU2から入力されたパルス信号のパルス幅に対応する時間だけ駆動されて開弁し、その開弁時間に応じた量の燃料を上記点火プラグ15の電極付近に向けて噴射するように構成されている。
上記各気筒12A〜12Dの燃焼室14の上部には、燃焼室14に向かって開口する吸気ポート17および排気ポート18が設けられるとともに、これらのポート17、18に、吸気弁19および排気弁20がそれぞれ装備されている。
本実施形態における上記吸気弁19および排気弁20は、電磁弁式の可変バルブタイミングシステム(VVTS:Variable Valve Timing System)112(図2参照)によって、クランク軸3の位相に拘わらず開閉タイミングを変更可能に構成されている。この可変バルブタイミングシステム112が各気筒12A〜12Dの吸気弁19、排気弁20を駆動して吸気ポート17、排気ポート18を開閉するタイミングは、ECU2により制御されるようになっている。
上記吸気ポート17および排気ポート18には、吸気通路21および排気通路22が接続されている。上記吸気ポート17に近い吸気通路21の下流側は、図2に示すように、各気筒12A〜12Dに対応して独立した分岐吸気通路21aとされ、この各分岐吸気通路21aの上流端がそれぞれサージタンク21b(図1)に連通している。このサージタンク21bよりも上流側には共通吸気通路21cが設けられるとともに、この共通吸気通路21cには、アクチュエータ24により駆動されるスロットル弁23が配設されている。このスロットル弁23の上流側および下流側には、それぞれ吸気流量を検出するエアフローセンサ25と、吸気圧力(負圧)を検出する吸気圧センサ26とが配設されている。
さらに、共通吸気通路21cの当該スロットル弁23よりも下流側には、EGR通路124に設けられたEGR弁125が接続されている。
また、上記エンジン本体1には、タイミングベルト等によりクランク軸3に連結されたオルタネータ(発電機)28が付設されている。このオルタネータ28は、図示を省略したロータの回転を制御して出力電圧を調節することにより目標発電電流Geを調整するレギュレータ回路28aを内蔵し、このレギュレータ回路28aに入力される上記ECU2からの制御信号に基づき、通常時に車両の電気負荷および車載バッテリーの電圧等に対応した目標発電電流Geの制御が実行されるように構成されている。
さらに、上記エンジンには、クランク軸3の回転角を検出する2つのクランク角センサ30、31が設けられ、一方のクランク角センサ30(回転速度検出手段)から出力される検出信号に基づいてエンジンの回転速度が検出されるとともに、後述するように上記両クランク角センサ30、31から出力される位相のずれた検出信号に基づいてクランク軸3の回転方向および回転角度が検出されるようになっている。
上記ECU2には、カムシャフトに設けられた気筒識別用の特定回転位置を検出するカム角センサ32と、エンジンの冷却水温度を検出する水温センサ33と、運転者のアクセル操作量に対応したアクセル開度を検出するアクセルセンサ34と、運転者がブレーキ操作を行ったことを検出するブレーキセンサ35からそれぞれ出力される各検出信号が入力されるようになっている。
ECU2は、回転速度検出手段、行程検出手段としての各センサ30、31が検出した回転速度、並びに各気筒の行程に基づいて、エンジン停止時において、何れかの気筒が最終の上死点を迎えるタイミングを把握する最終上死点把握手段を機能的に構成している。
そして、ECU2は、上記各センサ25、26、30〜35からの検出信号を受け、燃料噴射弁16に対して燃料の噴射量および噴射時期を制御するための制御信号を出力するとともに、点火プラグ15に付設された点火装置27に対して点火時期を制御するため制御信号を出力し、かつ上記スロットル弁23のアクチュエータ24に対してスロットル開度を制御するための制御信号を出力するように構成されている。また、後述するように、予め設定されたエンジンの自動停止条件が成立したときに各気筒12A〜12Dへの燃料噴射を所定のタイミングで停止(燃料カット)して、エンジンを自動的に停止させるとともに、その後に運転者によるアクセル操作が行われる等により再始動条件が成立したときにエンジンを自動的に再始動させる制御が実行されるようになっている。
具体的には、エンジンの自動停止時に圧縮行程気筒12Cで初回の燃焼を行なわせることにより、そのピストン13を押し下げてクランク軸3を少しだけ逆転させる。これによって膨張行程気筒12Aのピストン13を一旦上昇させ、その気筒12A内の混合気を圧縮した状態で、この混合気に点火して燃焼させることにより、クランク軸3に正転方向の駆動トルクを与えてエンジンを再始動させるように構成されている。
上記のようにして原則的に再始動モータ等を使用することなく、特定の気筒に噴射された燃料に点火するだけでエンジンを適正に再始動させるためには、上記膨張行程気筒12Aの混合気を燃焼させることにより得られるエネルギーを充分に確保し、圧縮行程気筒12Cがその圧縮反力に打ち勝って圧縮上死点を超えるようにしなければならない。そのためには、混合気を燃焼させる際に、当該膨張行程気筒12A内に充分な空気量を確保しておく必要がある。
このメカニズムについて、図3(a)、(b)を参照しながら説明する。同図(a)、(b)に示すように、エンジンの停止時点で膨張行程気筒12Aおよび圧縮行程気筒12Cでは、それぞれ位相が180°CAだけずれているため、各ピストン13が互いに逆方向に作動し、膨張行程気筒12Aのピストン13が行程中央よりも下死点側に位置していれば、その気筒の空気量が多くなって燃焼によるエネルギーが充分に得られる。しかし、上記膨張行程気筒12Aのピストン13が極端に下死点側に位置した状態となると、図3(b)に示すように、圧縮行程気筒12C内の空気量が少なくなり過ぎて、初回の燃焼時に、クランク軸3を逆転させるためのエネルギーが充分に得られなくなる。
これに対して上記膨張行程気筒12Aの行程中央、つまり圧縮上死点を0°CAとしたときのクランク角が90°CAとなる位置よりもやや下死点側の所定範囲(例えば圧縮上死点から100°CA〜120°CAとなる範囲。以下、適正範囲Rという)内にピストン13を停止させることができれば、膨張行程気筒12A内に多くの空気量を確保することができるとともに、圧縮行程気筒12C内にも所定量の空気が確保されるので、クランク軸3を少しだけ逆転させ得る程度のエネルギーをも得ることが可能になり、その後の膨張行程気筒12Aでのエネルギーも充分に高くなり、エンジンを確実に再始動させることが可能となる。
そこで、上記ECU2に機能的に設けられた自動停止制御手段により、図4に示すピストンの停止位置制御を行なう。この制御では、エンジンの自動停止条件が成立したタイミングt0で、エンジンの目標回転速度を通常のアイドル回転速度よりも高い値に設定して安定させるステップを最初に実行する。例えば、通常のアイドル回転速度が650rpm(自動変速機がドライブレンジ)に設定されたエンジンでは、上記目標回転速度(自動停止条件成立時のアイドル回転速度)を、810rpm程度(自動変速機はニュートラルレンジ)に設定し、エンジンの回転速度Neが目標回転速度で安定したタイミングt1で燃料噴射を停止させてエンジンの回転速度Neを低下させるように設定されている。
また、ECU2は、上記燃料噴射の停止タイミングt1で、通常のアイドル時における吸気流量(エンジン運転を継続させるために必要な最小限の吸気流量。例えば気筒内の空燃比が、空気過剰率λ=1に設定されている)よりも吸気流量が多くなるように上記可変バルブタイミングシステム112を開くように制御してエンジンの気筒12A〜12Dに吸入される吸気流量を充分に確保できるように設定されている。
次に、オルタネータ28を制御するタイミングについて説明する。
当実施形態のECU2は、上記燃料の噴射を停止するタイミングt1で、オルタネータ28の目標発電電流Geを予め設定されている初期値よりも低下させる制御条件が記憶されている。これにより、クランク軸3の回転抵抗が低減し、上記ピストン13を適正位置に停止させる制御が可能な速度にエンジンの回転速度Neを維持することが可能になる。当実施形態では、上記燃料噴射の停止タイミングt1で設定されるオルタネータ28の目標発電電流Geが例えば0に設定される。
またECU2には、オルタネータ28の目標発電電流Geを一時的に上記初期値よりも増大させるタイミングt2と、オルタネータ28の目標発電電流Geをエンジン回転速度Neの低下度合に対応させて調節するタイミングt3とが設定されている。タイミングt2は、上記のタイミングt1で燃焼噴射を停止した後、エンジンの回転速度Neが、予め設定された基準速度(例えば760rpm)N2以下に低下したことが検出された時点に設定されている。また、タイミングt3は、タイミングt2の経過後、エンジンの上死点回転速度neが所定範囲内となったタイミングに設定されている。このタイミングt3で、予め行った実験結果等に基づいて設定された基準ラインに沿ってオルタネータ28の目標発電電流Geを調整することにより、エンジンに負荷をかけ、回転速度Neを低下させることが可能になる。
タイミングt3は、エンジンが停止状態となるタイミングから4番目前の圧縮上死点を通過した状態にあるタイミングであり、具体的には、減速しているエンジンの上死点回転速度neを検出し、この上死点回転速度neが、例えば480rpm〜540rpm内にあることが判定されることにより、決定される。
図5は、エンジンの回転速度に応じてオルタネータの目標発電電流を設定するために、エンジンの上死点回転速度neが高い程、目標発電電流Geが大きな値に設定されたマップである。ECU2は、タイミングt3において、図5のマップから上死点回転速度neの検出値に対応した目標発電電流Geを読み出し、この値に対応したオルタネータ28の目標発電電流Geするように構成されている。
なお、タイミングt2でオルタネータ28の目標発電電流Geを上昇させる際の初期値は、上記マップから読み出される目標発電電流Geの最大値よりも大きな値に設定されている。例えば、図5に示すマップから読み出される目標発電電流Geが0〜50Aに設定されている場合には、その最大値である50Aよりも高い値、例えば60Aに上記初期値が設定されている。そして、上記タイミングt2で目標発電電流Geが60Aに設定された後、上記タイミングt3でマップから読み出された値に基づいて上記目標発電電流Geの低下量が設定され、この値に基づいてオルタネータ28の目標発電電流を低下させる制御が実行されるよう設定されている。
また、ECU2には、タイミングt3を経過した後、上死点回転速度neが所定範囲に減速したことを検出することによって、エンジン停止前の2番目の圧縮上死点をタイミングt4として把握できるように構成されている。
上記のようにしてオルタネータ28の発電電流の制御が実行されることにより、タイミングt4で、クランク軸3、フライホイール、ピストン13およびコネクティングロッド等が有する運動エネルギーや圧縮行程気筒12Cで圧縮された空気が有する位置エネルギー等が、その後に作用する摩擦抵抗損失等と見合うものとなり、エンジンの停止状態で膨張行程となる気筒12Aのピストン13をエンジンの再始動に適した範囲R内に停止させることが可能になる。
上記のようにエンジンを自動停止させる過程では、燃料噴射の停止タイミングt1から、クランク軸3やフライホイール等が有する運動エネルギーが摩擦抵抗による機械的な損失や、各気筒12A〜12Dのポンプ仕事によって消費されることにより、エンジンのクランク軸3は惰性で数回転し、4気筒4サイクルのエンジンでは10回前後の圧縮上死点を迎えた後に停止する。具体的には、図4に示すように、上記各気筒12A〜12Dが圧縮上死点を迎える度にエンジンの回転速度Neが一時的に落ち込んだ後に、圧縮上死点を超えた時点で再び上昇するというアップダウンを繰り返しながらエンジン回転速度Neが次第に低下する。
なお、図4に示すクランク角CAのタイムチャートは、実線が第1気筒12A(膨張行程気筒12A)および第3気筒12C(圧縮行程気筒12C)の上死点(TDC)を圧縮上死点として0°CAとし、一点鎖線が第2気筒12B(排気行程気筒)および第4気筒12D(吸気行程気筒)の上死点を0°CAとしたクランク角を示している。4気筒4サイクルのエンジンでは、上記実線で示す気筒12A、12Cと、一点鎖線で示す気筒12B、12Cとの間に180°CAの位相ずれがあるため、180°CA毎に何れかの気筒が圧縮上死点を迎えることが上記タイムチャートにより表されている。
そして、最後の圧縮上死点(以下、最終圧縮上死点という)を通過したタイミングt5の後に圧縮行程を迎える圧縮行程気筒12Cは、慣性力によるピストン13の上昇に伴って空気圧が高まり、その圧縮反力によりピストン13が押し返されてクランク軸3が逆転する。このクランク軸3の逆転によって膨張行程気筒12Aの空気圧が上昇するため、その圧縮反力に応じて膨張行程気筒12Aのピストン13が下死点側に押し返されてクランク軸3が再び正転し始め、このクランク軸3の逆転と正転とが数回繰り返されてピストン13が往復作動した後に停止することになる。このピストン13の停止位置は、上記圧縮行程気筒12Cおよび膨張行程気筒12Aにおける圧縮反力のバランスにより略決定されるとともに、エンジンの摩擦抵抗等の影響を受け、上記最終圧縮上死点を超えたタイミングt5のエンジンの回転慣性、つまりエンジン回転速度Neの高低によっても変化する。
当実施形態においては、最終上死点回転速度neが検出された時点で、可変バルブタイミングシステム112を制御し、圧縮行程気筒12Cのポートを一定の開弁時間Tclsだけ開くように設定されている(図4のVTT3)。この制御により、圧縮行程気筒12Cは、その圧縮反力が低減するので、当該圧縮行程気筒12Cのピストン13は、行程中央部分、すなわち、90°付近よりも上死点側で停止することになる。
この点について、図6および図7を参照しながら、詳細に説明すると、通常、上述したように、タイミングt0から燃料噴射を停止し、オルタネータ28を駆動してエンジンに負荷をかけながら制動すると、各気筒は、概ね行程中央90°付近のところで停止することになる。しかしながら、上述したように、いわゆる自動再スタートを行なうためには、図3(a)で説明したように、圧縮行程気筒12Cが膨張行程気筒12Aよりも僅かに上死点のところにある状態、すなわち、両気筒のピストンが図3(b)のRの範囲内で停止することが好ましい。
そして、エンジンが自動停止する際に膨張行程となる膨張行程気筒12Aのピストン13を再始動に適した上記適正範囲R内に停止させるためには、まず上記膨張行程気筒12Aおよび圧縮行程気筒12Cの圧縮反力がそれぞれ充分に大きくなり、かつ膨張行程気筒12Aの圧縮反力が圧縮行程気筒12Cの圧縮反力よりも所定値以上大きくなるように、両気筒12A、12Cに対する吸気流量を調節する必要がある。そこで、本実施形態では、可変バルブタイミングシステム112の制御により、圧縮行程気筒12Cの圧縮反力を低減し、当該圧縮行程気筒12Cのピストン13を行程中央部分付近よりも上死点側で停止するようにしているのである。
ただし、実際のエンジンでは、スロットル弁23、吸気ポート17および分岐吸気通路21a等の形状に個体差があることにより、それらを流通する空気の挙動が変化するため、エンジンの自動停止期間中に各気筒12A〜12Dに吸入される吸気流量にバラツキが生じる。また、エンジンの個体差およびエンジン温度の高低によってもエンジンの摩擦抵抗に差が生じて、上記のように可変バルブタイミングシステム112を制御しても、エンジンの停止時点で膨張行程にある気筒12Aおよび圧縮行程にある気筒12Cのピストン停止位置を適正範囲R内に納めることができない場合がある。
この点につき、本発明では、エンジンの自動停止期間中において最終上死点回転速度neと、膨張行程気筒12Aのピストン停止位置との間に明確な相関関係があることに着目した。
図7は、上記のようにエンジンの回転速度Neが所定速度となったタイミングt1で燃料噴射を停止し、その後の所定期間に亘り可変バルブタイミングシステム112で各気筒を開弁状態に維持するようにして、惰性により回転するエンジンの各気筒12A〜12Dに設けられたピストン13が停止直前の最終圧縮上死点を通過する際の上死点回転速度(最終上死点回転速度)neを計測するとともに、エンジンの停止時点における膨張行程気筒12Aのピストン位置を調べ、このピストン位置を縦軸に取るとともに、上記エンジンの上死点回転速度neを横軸に取って、両者の関係をグラフ化したものである。この作業を繰り返してエンジンの停止動作期間中における上記最終上死点回転速度neと、膨張行程気筒12Aにおけるピストン停止位置との相関関係を調べたところ、以下の結果を得ることができた。すなわち、上記最終上死点回転速度neは、260rpm以下の範囲内にあるとともに、約180rpmを境にしてそれ以下の低回転側では、上記最終上死点回転速度neが低下するのに伴ってピストン停止位置が徐々に上死点寄りに変化している。一方、上記最終上死点回転速度neが180rpm以上の高回転側では、その値に拘わらず、ピストン13の停止位置が概ね一定になり、適正範囲Rから僅かに下死点側に分布している。
上記のような特徴的な分布傾向が見られるのは、エンジンの最終上死点回転速度neが180rpm以上の高回転側にあると、エンジン停止時の膨張行程気筒12Aおよび圧縮行程気筒12Cにそれぞれ充分な量の空気が充填され、この空気の圧縮反力によってピストン停止位置が行程の中央寄りに集中するためであると考えられる。なお、上記180rpm以下の低回転側でピストン停止位置が左下がりの分布状態となるのは、各気筒内12A〜12Dで往復動するピストン13が最終上死点を越えた後、摩擦抵抗等により減速されて行程中央まで達することができずに停止するためであると考えられる。
そこで、当実施形態では、最終上死点回転速度neの値に応じて、上記可変バルブタイミングシステム112による開弁時間を調整するように設定されている。具体的には、図8で示すマップをECU2に記憶しておき、最終上死点回転速度neが180rpm未満であれば、その値に反比例して開弁時間を長くするように設定されている。
他方、最終上死点回転速度neが180rpm以上の領域では、圧縮行程気筒12Cの開弁によって、膨張行程気筒12Aのピストン13が下死点側に下がる傾向が生じる。そこで、当実施形態では、図4、図6に示すように、最終上死点回転速度を経過した後、当該最終上死点回転速度が所定以上の速さ(すなわち180rpm)以上であるときには、膨張行程気筒12Aの可変バルブタイミングシステム112を制御して、所定の開弁時間Topenだけ、膨張行程気筒12Aを開いて、膨張行程気筒12Aの空気を抜くように設定されている(図4のVTT1で表示)。この制御により、膨張行程気筒12Aのピストン停止位置は、僅かに上死点側に移行し、最終的に所望の位置で停止させることが可能になる。
上記ECU2の自動停止制御手段によりエンジンを自動停止させる際の制御動作を、図9〜図11に示すフローチャートに基づいて説明する。
この制御動作がスタートすると、エンジンの自動停止制御を実行することが可能な運転状態にあるか否かを判定する自動停止許可フラグFがONになるのを待機する(ステップS1)。この自動停止許可フラグFは、車速が所定値(例えば10km/h)以上、操舵角が所定値以下、バッテリー電圧が基準値以上、かつエアコンがOFF状態にある等の条件が満たされている場合に、ON状態となるように設定されている。
上記ステップS1でYESと判定された場合、ECU2は、アクセルセンサ34がOFF状態であり、かつブレーキセンサ35がON状態であるAND条件が成立するまで待機する(ステップS2)。YESと判定して車両が減速状態にあることが確認した場合、ECU2は、エンジン回転速度Neが、予め1100rpm程度に設定された減速時燃料カット用の判断基準値であるF/C実行回転数よりも大きいか否かを判定し(ステップS3)、NOと判定した場合には、下記ステップS7に移行する。
他方、上記ステップS3でYESと判定した場合、ECU2は、減速時の燃料カット(FC)を実行する(ステップS4)。次いで、エンジン回転速度Neが、予め900rpm程度に設定された燃料復帰用の判断基準値であるF/C停止回転数以下に低下するのを待機し(ステップS5)、YESと判定された時点で、上記減速時の燃料カット(FC)を終了して通常の燃料噴射状態に復帰する(ステップS6)。
次いで、エンジンの目標回転速度を例えば800rpm程度に設定して、この速度を維持する(ステップS7)。その後、アクセルセンサ34がON状態であり、かつブレーキセンサ35がOFF状態であるか否かが判定され(ステップS8)、YESと判定された場合には、ステップS1に戻って、車両が減速状態になるのを待機するとともに、ステップS8において、Noと判定され、車両が減速状態にあることが確認された場合には、図10に示すエンジン制御動作に移行する。
図10を参照して、ステップS8において、車両が減速状態にあることが確認された場合には、車速が0になって、自動停止条件が成立するのを待機する(ステップS11)。
このステップS11で自動停止条件が成立すると、ECU2は、目標回転速度を860rpmに設定する。これにより、エンジンの回転速度Neは、アイドル回転速度(650rpm)よりも所定量だけ高い値に設定されることになる。また、これと同時に、EGR弁125を閉じて、排気還流を停止するとともに、シフトレンジがニュートラルに切り換えられ、エンジンを無負荷状態にする(ステップS12)。
上記のようにステップS1で車速が10km/hよりも大きい走行時にあってエンジンの自動停止許可フラグFがON状態にあることが確認されるとともに、ステップS2で車両が減速状態(ブレーキセンサ35がON状態)にあることが確認された場合に、エンジンの目標回転速度N1をエンジンの燃焼状態に対応した所定値として安定させる制御を実行するように構成したため、エンジン回転速度Neが通常のアイドル回転速度(650rpm)に低下する前に、エンジンの自動停止制御を実行することができる。従って、通常のアイドル回転速度まで一旦、低下したエンジン回転速度Neを、上記目標回転速度N1まで上昇させるように構成した場合のように、エンジン回転速度Neの上昇に伴う不快感が運転者に与えられたり、エンジンを自動停止させるまでの時間が必要以上に長くなったりする等の弊害が生じるのを防止することができる。
さらに、上記ステップS11でエンジンの自動停止条件が成立したことが確認されたタイミングt0で、上記ステップS12においてエンジンの目標回転速度N1が所定値に設定されるとともに、自動変速機のシフトレンジがドライブ状態(Dレンジ)からニュートラル状態(Nレンジ)にシフトされることにより、自動変速機の負荷が軽減されるため、図4に示されるように、エンジン回転速度Neが、自動停止条件の成立タイミングt0からやや上昇することになる。
次いで、ECU2は、上記タイミングt0の後に、予め1sec(秒)程度に設定された所定時間が経過するのを待機する(ステップS13)。このステップS13でYESと判定された時点で、ECU2は、燃料噴射の停止条件(FC条件)が成立するのを待機する(ステップS14)。このステップS14では、具体的にはエンジン回転速度Neが目標回転速度N1となり、かつブースト圧Btが所定の目標圧となるAND条件が成立することが待機される。これにより、車速が0となった直後に、走行状態に移行するような場合に、不適切なエンジンの自動停止が行われるのを防止することができる。
そして、上記ステップS14でYESと判定され、エンジン回転速度Neおよびブースト圧Btが安定した状態となったことが確認された時点(図4および図6のタイミングt1)で、燃料噴射を停止させた後(ステップS15)、オルタネータ28の目標発電電流Geを0に設定して発電を停止させるとともに(ステップS16)、可変バルブタイミングシステム112を操作して、各気筒のバルブを開く(ステップS17)。
次に、図11を参照して、ステップS17の後、ECU2は、タイミングt1からタイミングt2になるのを待機し(ステップS18)、YESと判定された時点で上記点火装置27による点火を停止させる(ステップS19)。このステップS19により、燃料停止後に筒内に残った燃料を燃焼させることができるとともに、停止直前に噴射された燃料が燃焼するのを防止することが可能になる。
次いで、エンジンの回転速度Neが予め760rpm程度に設定された基準速度N2以下となるのを待機する(ステップS20)。このステップS20は、タイミングt3をカウントするためのものである。
ステップS20において、YESと判定されたタイミング(すなわちタイミングt3)で、オルタネータ28の目標発電電流Geを初期値(60A程度)に設定し(ステップS21)、オルタネータ28を作動させる(ステップS22)。すなわち、図5に示すように、エンジンの上死点回転速度neが高い程、目標発電電流Geが大きな値に設定されたマップから上死点回転速度neに対応した目標発電電流Geを読み出し、この値に基づいてオルタネータ28の目標発電電流Geを上記初期値(60A)から、上記マップから読み出された値に低下させる制御を実行する。
次いで、上死点回転速度neが所定範囲内に減速するのを待機する(ステップS23)。このステップS23は、タイミングt4を検出するためのものであり、上記所定範囲は、例えば260rpm〜400rpmの範囲内に設定される。ステップS23でYESと判定されるとそのタイミングにおいて、エンジン停止前の2番目の圧縮上死点を通過したことが確認される。
ステップS23において、YESと判定されたタイミング(すなわちタイミングt4)で、図外のマップから、エンジンの停止時に圧縮行程となる気筒12Cに対する燃料噴射量を設定し、この気筒12Cの圧縮行程後半で燃料噴射を行なう(ステップS24)。このマップには、エンジンの上死点回転速度neが高い程、燃料噴射量が大きな値になるように設定されたものであり、ECU2に予め記憶されているものである。この気筒12Cに噴射された燃料が気化することによって気筒内温度が低下し、その内部圧力の上昇が抑制されることになる。
次いで、エンジンの上死点回転速度neが所定値N以下に減速するのを待機する(ステップS25)。このステップS25は、タイミングt5を検出するためのものであり、所定値Nは、例えば260rpm程度に設定されている。
タイミングt5が検出されると、当実施形態においては、その検出直後に可変バルブタイミングシステム112を制御し、圧縮行程気筒12Cの吸気ポート17および排気ポート18を開く(ステップS26)。この制御では、停止時に、圧縮行程気筒12Cの空気量が低減し、圧縮反力が低下するので、NVH(エンジンの振動)を抑制しつつ停止することができる。なお、当実施形態の態様としては、圧縮行程気筒12Cがタイミングt4で吸気行程に遷移した際、吸気ポート17を引き続き、開放状態に維持する制御であってもよい。
特に、当実施形態では、最終上死点回転速度neが判定された際、直ちに圧縮行程気筒12Cの吸気ポート17および排気ポート18を開くこととしているので、停止時に圧縮行程気筒12Cが最初に圧縮を始めるところで気筒内の圧力が低下する結果、当該圧縮行程気筒12Cのピストンが受ける圧縮反力が小さくなり、エンジン停止時のNVH(エンジンの振動)をより抑制した状態で所望のストロークにピストンを中央寄りに停止させることができる。
次に、ECU2は、可変バルブタイミングシステム112が圧縮行程気筒12Cを開放する時間Tclsを演算し、閉止タイミングを算出する(ステップS27)。この演算では、上述した図8のテーブルに基づき、開弁時間Tclsが決定される。
次いで、ECU2は、演算された開弁時間Tclsを計測し(ステップS28)、開弁時間Tclsを経過したタイミングで圧縮行程気筒12Cの吸気ポート17および排気ポート18を閉じる(ステップS29)。
次に、図12を参照して、ECU2は、膨張行程気筒12Aの開弁タイミングを演算する(ステップS30)。具体的には、クランク角センサ30、31により検出されるクランク角と、クランク角センサ30から出力される回転速度に基づき、膨張行程気筒12Aの開弁時間Topenを決定する。
Topenが決定されると、ECU2は、最終上死点回転速度を経過した後、最初に正転から逆転にエンジンが転じるタイミングt6を待機する(ステップS31)。このタイミングt6が検出されると、ECU2は、ステップS30で演算された開弁時間Topenが0を越えるかどうか判別し(ステップS32)、0を越えている場合には、その時間だけ膨張行程気筒12Aの吸気ポート17および排気ポート18を開く(ステップS33〜S35)とともに、0以下の場合には、膨張行程気筒12Aの開弁を省略することとしている。
開弁時間Topenは、最終上死点回転速度neに依存している。上述したように、最終上死点回転速度neが180rpmを下回る時には、膨張行程気筒12Aのピストンが上死点側に偏る傾向がある。他方、最終上死点回転速度neが180rpm以上であるときには、膨張行程気筒12Aにも相当量の空気が入っているため、これを抜く必要がある。このような観点から、ステップS30では、図略のマップに基づき、最終上死点回転速度neに基づいて、開弁時間Topenを決定し、最終上死点回転速度neが180rpm以上であるときには、ステップS32〜S35を実行して、膨張行程気筒12Aの空気を抜き、当該膨張行程気筒12Aのピストンを上死点側に移動させるとともに、最終上死点回転速度neが180rpmに満たない場合には、専らステップS26〜S29による圧縮行程気筒12Cの開弁制御によって、ピストンの停止位置を制御し、膨張行程気筒12Aは、開かないこととしている。
次いで、エンジンが停止状態になるタイミングt7を待機し(ステップS36)、YESと判定された時点で、自動変速機のシフトレンジをニュートラル状態からドライブ状態(Dレンジ)に復帰させるとともに(ステップS37)、自動停止許可フラグFをOFFとした後に(ステップS38)、制御動作を終了する。
次に、上述した自動停止制御が実行されている間に、エンジンを再始動させる要求があった場合の割り込み制御について、図13および図14を参照しながら、説明する。
図13を参照して、ECU2は、自動停止制御(図9から図12で示したフローチャートに示す制御)の全過程で、再始動要求がないかどうかモニタしており、割り込み要求を判定するために、エンジンが停止動作に入っており(ステップS40)、かつ、ブレーキがOFFまたはアクセルONであることが検出される(ステップS41)場合に、再始動要求があると判定するように設定されている。
これらの要件(ステップS40、S41)を満たす場合、ECU2は、再始動要求のあったタイミングがt5を経過しているか否かを判定する(ステップS42)。上述したように、タイミングt5は、各気筒が最終圧縮上死点を経過するポイントであり、エンジン回転速度が約280rpm以下に落ちている。
仮にエンジンがタイミングt5を過ぎている場合、ECU2はクランク軸が最初の正転であるか否かを判別する(ステップS43)。仮に、最初の正転である場合、さらに、ECU2は、圧縮上死点通過直後であるか否かを判別する(ステップS44)。仮に通過直後であれば、ECU2は、膨張行程気筒12Aに燃料を噴射し(ステップS45)、その後、直ちに膨張行程気筒12Aに点火する(ステップS46)。これにより、正転しながら減速していたエンジンが、当該膨張行程気筒12Aの燃焼によるエネルギーによって加勢されるので、その後は、通常の制御に移行する(ステップS47)。なお当実施形態では、このステップS47において、エンジンが急激に加速するのを防止するため、イグニションタイミングを後述する再始動時の制御と同様にリタードさせている。
他方、ステップS42において、再始動要求がタイミングt5を経過する以前であった場合、ECU2は、さらに、圧縮上死点を通過直後であるか否かを判別する(ステップS48)。このステップS48において、圧縮上死点を通過した直後であれば、フローをステップS45に戻す一方、圧縮上死点通過直後でなければ、圧縮行程にある気筒に燃料を噴射し(ステップS49)、この気筒が圧縮上死点を越えるのを待機する(ステップS50)。そして、圧縮行程にある気筒が上死点を越えたタイミングで、(すなわち、燃料が噴射された気筒が膨張行程に移行した時点で)この気筒(燃料を噴射した気筒)に点火し(ステップS51)、その後は、ステップS47に移行する。
次に、ステップS43、ステップS44において、それぞれ条件が合わなかった場合について、図14を参照しながら説明する。
同図に示すように、再始動要求が、タイミングt5を経過した後にあって、クランク軸3が最初の正回転動作にあるとき(ステップS43の判定がYesで、ステップS44の判定がNOの場合)、ECU2は、圧縮行程気筒12Cの吸気ポート17および排気ポート18を閉じ(ステップS60)、この状態でクランク軸3が逆回転するのを待機する(ステップS61)。そして、クランク軸3が逆回転したときに、閉塞した膨張行程気筒12Aに燃料を噴射し(ステップS62)、クランク軸3が正回転するのを待機する(ステップS63)。このステップS60からステップS63のタイミングは、上述した自動停止制御が実行されている場合には、圧縮行程気筒12Cが開弁され、次いで、膨張行程気筒12Aが開弁されるタイミングであるが、再始動要求があった場合には、これら圧縮行程気筒12Cおよび膨張行程気筒12Aの開弁動作が禁止される。
次いで、クランク軸が正回転すると、ECU2は、膨張行程気筒12Aに点火し(ステップS64)、その後、ステップS47に移行する。これにより、膨張行程で停止しつつある気筒内で燃焼を起し、そのエネルギーでトルクを高めることが可能になる。
次に、再始動要求が、タイミングt5を経過した後にあって、クランク軸3が最初の正回転動作にないとき(ステップS43の判定がNOの場合)、ECU2は、当該再始動要求が、クランク軸3の1回目の逆回転時であるか否かを判別する(ステップS65)。このステップS65で、クランク軸3が1回目の逆回転であることが判別された場合には、上述したステップS30〜S35の制御に拘わらず、膨張行程気筒12Aの吸気ポート17および排気ポート18を閉じて当該膨張行程気筒12A内の空気を確保し(ステップS66)、その後はステップS62に移行する。他方、ステップS65において、最初の逆回転ではない場合には、もはやエンジンを再起動できるだけのトルクが残っていないと考えられるので、その場合には、エンジンの停止を待ってから再起動することとしている。
次にエンジンを再始動させる際の制御動作を図15〜図17に示すフローチャートと、図18および図19に示すタイムチャートとに基づいて説明する。まず、所定のエンジン再始動条件が成立したか否かを判定する(ステップS101)。この判定では、例えば、停車状態から発進のためのアクセル操作等が行われた場合、バッテリー電圧が低下した場合、あるいはエアコンが作動した場合等が、再始動条件の成立要因として設定されている。ステップ101でYESと判定された場合、ECU2は、エンジン水温、自動停止からの経過時間、吸気温度等に基づいて筒内温度を推定する(ステップS102)。
そして、エンジンの自動停止時に検出されたピストン13の停止位置に基づき、ECU2は、圧縮行程気筒12Cおよび膨張行程気筒12A内の空気量を算出する(ステップS103)。つまり、上記ピストン13の停止位置から圧縮行程気筒12Cおよび膨張行程気筒12Aの燃焼室容積が求められる。なお、エンジンの自動停止時には、燃料噴射の停止後にエンジンが数回転してから停止するので膨張行程気筒12Aも新気で満たされた状態にあり、かつ、エンジン停止中に圧縮行程気筒12Cおよび膨張行程気筒12Aの内部が略大気圧となっているので、上記燃焼室容積から新気量が求められることになる。
次に、上記クランク角センサ30、31の出力信号に応じて検出されたピストン停止位置が、圧縮行程気筒12Cにおける適正停止範囲R(上死点前BTDC60〜80°CA)のうち、下死点BDC寄りにあるか否かを判定する(ステップS104)。このステップS104でYESと判定され、圧縮行程気筒12C内の空気量が比較的多いことが確認された場合には、上記ステップS103で算出された圧縮行程気筒12Cの空気量に対し、λ(空気過剰率)>1なる空燃比(例えば空燃比=20程度)となるように1回目の燃料噴射を行なう(ステップS105)。この空燃比は、ピストン13の停止位置に応じて予め設定された圧縮行程気筒12Cの1回目用第1空燃比マップM1から求められ、λ>1というリーン空燃比に設定される。これにより、圧縮行程気筒12C内の空気量が比較的多いときであっても、逆転のための燃焼によるエネルギーが過多となることが防止される。
一方、上記ステップS104でNOと判定され、圧縮行程気筒12C内の空気量が比較的に少ないときは、上記ステップS103で算出された圧縮行程気筒12Cの空気量に対してλ≦1なる空燃比となるように1回目の燃料噴射を行なう(ステップS106)。この空燃比は、ピストン13の停止位置に応じて予め設定された圧縮行程気筒12Cの1回目用第2空燃比マップM2から求められ、λ≦1(理論空燃比ないしはそれよりリッチ空燃比)に設定されることにより、圧縮行程気筒12C内の空気量が少ないときであっても、逆転のための燃焼によるエネルギーが充分に得られるようになっている。
次に、圧縮行程気筒12Cへの1回目燃料噴射から気化時間を考慮して設定した所定時間の経過後に、当該気筒12Cに対して点火を行なう(ステップS107)。そして、点火後の一定時間内にクランク角センサ30、31のエッジ、つまりクランク角信号の立ち上がり又は立ち下がりが検出されたか否かにより、ピストン13が動いたか否かを判定し(ステップS108)、NOと判定されて失火によりピストン13が動かなかったことが確認された場合には、圧縮行程気筒12Cに対して再点火を行なう(ステップS109)。
上記ステップS108でYESと判定されてピストン13が動いたことが確認されると、ピストン停止位置および上記ステップS102で推定した筒内温度に基づいて、膨張行程気筒12Aに対する分割燃料噴射の分割比(1回目の前段噴射と2回目の後段噴射との比率)を算出する(ステップS121)。上記後段の噴射比率は、膨張行程気筒12Aにおけるピストン停止位置が下死点寄りであるほど、また筒内温度が高いほど大きな値に設定される。
次に、上記ステップS103で算出した膨張行程気筒12Aの空気量に対して所定の空燃比(λ≦1)となるように燃料噴射量を算出する(ステップS122)。この際の空燃比は、ピストン13の停止位置に応じて予め設定された膨張行程気筒12A用の空燃比マップM3から求められる。また、ステップS122で算出された膨張行程気筒12Aへの燃料噴射量とステップS121で算出された分割比とによって、膨張行程気筒12Aに対する前段(1回目)の燃料噴射量を算出し、噴射する(ステップS123)。
次に、上記ステップS102で推定された筒内温度に基づき、膨張行程気筒12Aに対する後段(2回目)の燃料噴射時期を算出する(ステップS124)。この2回目の噴射時期は、ピストン13が上死点側への移動(エンジンの逆転)を開始した後の、気筒内の空気が圧縮されている時期であるとともに、噴射燃料の気化潜熱が圧縮圧力を効果的に減少させるように、つまりピストン13を上死点へ近づけるように設定され、かつこの2回目の噴射燃料が点火時期までに気化する時間が可及的に長くなるように設定される。
次に、ステップS122で算出された膨張行程気筒12Aへの燃料噴射量とステップS121で算出された分割比とによって、膨張行程気筒12Aに対する後段(2回目)の燃料噴射量を算出し(ステップS125)、上記ステップS124で算出された2回目の噴射時期に噴射する(ステップS126)。
上記膨張行程気筒12Aへの2回目の燃料噴射後に、所定のディレイ時間が経過した時点で点火する(ステップS127)。このディレイ時間は、ピストン13の停止位置に応じて予め設定された膨張行程気筒12A用の点火マップM4から求められる。上記点火による膨張行程気筒12Aでの初回燃焼により、エンジンは逆転から正転に転ずる。従って、圧縮行程気筒12Cのピストン13が上死点側に移動し、気筒内のガス(上記ステップS107の点火によって燃焼した既燃ガス)を圧縮し始める。
次に、燃料の気化時間を考慮に入れ、圧縮行程気筒12Cに2回目の燃料を噴射する(ステップS128)。この際の燃料噴射量は、1回目の噴射量とを合計した噴射量に基づく全体の空燃比が可燃空燃比(下限は7〜8)よりもさらにリッチ(例えば6程度)になるように、ピストン13の停止位置に応じて予め設定された圧縮行程気筒12Cの2回目用空燃比マップM5から求められる。この圧縮行程気筒12Cにおける2回目の噴射燃料による気化潜熱に応じて、圧縮行程気筒12Cの圧縮上死点付近における圧縮圧力が低減されることにより、当該圧縮上死点を容易に越えることが可能となる。
なお、上記圧縮行程気筒12Cへの2回目の燃料噴射は、専ら筒内の圧縮圧力を低減させるためになされるものであって、これに対する点火、燃焼は行われず、可燃空燃比よりもリッチなために自着火も起こらず、この不燃燃料は、その後に排気通路22の排気ガス浄化触媒に吸蔵されている酸素と反応して、無害化される。
上記のように圧縮行程気筒12Cにおいて2回目に噴射された燃料は燃焼しないので、膨張行程気筒12Aでの最初の燃焼に続く次の燃焼は、図19に示すように、吸気行程気筒12D、つまり停止時に吸気行程にあった第4気筒での最初の燃焼となる。この吸気行程気筒12Dのピストン13が圧縮上死点を越えるためのエネルギーとしては、膨張行程気筒12Aにおける初回燃焼のエネルギーの一部が充てられ、上記膨張行程気筒12Aにおける初回燃焼のエネルギーが、圧縮行程気筒12Cが圧縮上死点を乗り超えるためと吸気行程気筒12Dが圧縮上死点を越えるためとの両方に供される。
従って、円滑な始動のためには吸気行程気筒12Dが圧縮上死点を越えるためのエネルギーが小さいことが望ましく、このために上記気筒12D内の空気密度を推定し、その推定値から吸気行程気筒12Dの空気量を算定した後(ステップS140)、上記ステップS102で推定した筒内温度に基づいて、自着火を防止するための空燃比補正値を算出する(ステップS141)。すなわち自着火が起こると、その燃焼によって圧縮上死点に至る前にピストン13を下死点側に押し戻す力(逆トルク)が発生し、その分だけ圧縮上死点を越えるためのエネルギーが多く消費されるので望ましくない。そこで上記逆トルクを抑制するために空燃比をリーン側に補正し、圧縮自己着火が起こらないようにしている。
次に、上記ステップS140で算定した吸気行程気筒12Dの空気量と、上記ステップS141で算出した空燃比補正値を考慮した空燃比とに基づき、吸気行程気筒12Dへの燃料噴射量を算出する(ステップS142)。そして、上記吸気行程気筒12Dに対する燃料噴射を行なうが、この燃料噴射は、その気化潜熱によって圧縮圧力が低減されるように、つまり圧縮上死点を越えるための必要エネルギーが低減されるように、圧縮行程の後期まで遅延され(ステップS143)、その遅延量は、エンジンの自動停止期間、吸気温度、エンジン水温等に基づいて算出される。
また、上記逆トルクの発生を抑制するため、点火時期を上死点以降に遅延して点火する(ステップS144)。以上の制御が実行されることにより、吸気行程気筒12Dにおいて、圧縮上死点まではその圧縮圧力が小さくなって上死点を越え易くなり、上死点を過ぎた時点で燃焼によるエネルギーによる正転方向のトルクが発生することになる。
上記ステップS144の後、通常の制御状態に移行してもよいが、当実施形態では、さらにエンジン回転速度の吹上がりを抑制する制御を行っている。このエンジン回転速度の吹上がりとは、吸気行程気筒12Dでの初回燃焼以降、エンジン回転速度が必要以上に急上昇することをいい、加速ショックが発生したり、運転者に違和感が与えられたりする原因となるので望ましくない。上記エンジン回転速度の吹上がりは、自動停止期間中の吸気圧力(スロットル弁23より下流の圧力)が略大気圧となっているために、始動直後(吸気行程気筒12Dでの初回燃焼以降)の各気筒12A〜12Dでの燃焼によるエネルギーが通常のアイドル運転時の燃焼によるエネルギーに比べて一時的に大きくなることにより発生する。このために下記のステップS145〜S158で、上記エンジン回転速度の吹上がりを抑制する制御を行っている。
まず、オルタネータ28の目標電流値を通常より高めに設定して発電を開始し(ステップS145)、このオルタネータ28の発電によってクランクシャフト3の回転抵抗(エンジンの外部負荷)を増大させてエンジン回転速度の吹上がりを抑制する。
次に、吸気圧センサ26によって検出された吸気圧力が、エンジンの自動停止を行なわない場合の通常のアイドル時における吸気圧力より高いか否かを判定し(ステップS150)、YESと判定されると、エンジン回転速度の吹上がりが起こり易い状態となっているので、スロットル弁23の開度を通常のアイドル運転時におけるスロットル開度よりもさらに小さくすることにより(ステップS151)、燃焼によるエネルギーの発生量を抑制する。
そして、排気通路22に設けられた排ガス浄化触媒の温度が活性温度以下であるか否かを判定し(ステップS152)、YESと判定された場合には、気筒内の目標空燃比をλ≦1なるリッチ空燃比に設定するとともに(ステップS153)、点火時期を上死点以降に遅延させる(ステップS154)。これにより、上記触媒の温度上昇が促進されるとともに、点火時期の遅延によって燃焼によるエネルギーの発生量が抑制される。
一方、上記ステップS152でNOと判定されて排気ガス浄化触媒の温度が活性温度よりも高いことが確認された場合には、気筒内の目標空燃比をλ>1のリーン空燃比に設定して成層リーンの燃焼状態とする(ステップS158)。このリーン燃焼によって燃料の消費が抑制されつつ、燃焼によるエネルギーの発生量が抑制されることになる。
上記ステップS154またはステップS158を経てステップS150に戻り、このステップS150でNOと判定されてエンジンの自動停止を行なわない場合の通常のアイドル時よりも吸気圧力が低下したことが確認されるまで、上記制御動作が繰り返される。このステップS150でNOと判定されると、もはやエンジン回転速度の吹上がりが生じる虞がないので、オルタネータ28の発電電流も含めて通常の制御状態に移行する(ステップS160)。
上記の再始動制御が実行されることにより、図18および図19に示すように、先ず圧縮行程気筒12C(第3気筒)において1回目の燃料噴射J3が行われ、その点火によって燃焼(図18中の(1))が行われる。この燃焼(1)による燃焼圧(図19中のa部分)で、圧縮行程気筒12Cのピストン13が下死点側に押し下げられてエンジンが逆転方向に駆動される。ここで、圧縮行程気筒12Cの1回目の燃料噴射J3が、比較的空気量の多いときにはリーン空燃比(λ>1)、少ないときには理論空燃比ないしはそれよりリッチ空燃比(λ≦1)となるように噴射されるので、エンジン逆転のための適度な燃焼によるエネルギー、すなわち膨張行程気筒12A内の空気を充分圧縮しつつ、その圧縮上死点を超えて逆転し過ぎることのない程度の燃焼によるエネルギーを得ることができる。
上記エンジンの逆回転開始に伴って膨張行程気筒12A(第1気筒)のピストン13が上死点方向に動き始める。また、その直後に膨張行程気筒12Aでの1回目(前段)の燃料噴射J1が行われ、気化し始める。そして、膨張行程気筒12Aのピストン13が上死点側(望ましくは行程中央より上死点寄り)に移動し、上記気筒12A内の空気が圧縮された時点で2回目(後段)の燃料噴射J2が行われる。この噴射燃料の気化潜熱によって圧縮圧力が低減し、ピストン13がより上死点に近づくので圧縮空気(混合気)の密度が増大する(図19中のb部分)。
上記膨張行程気筒12Aのピストン13が上死点に充分に近づいた時点で当該気筒12Aに対する点火が行われて、気化が促進された1回目の噴射燃料(J1)と2回目の噴射燃料(J2)とが燃焼し(図18中の(2))、その燃焼圧(図19中のc部分)によりエンジンが正転方向に駆動される。
また、圧縮行程気筒12Cに対して適当なタイミングで可燃空燃比よりもリッチな燃料が噴射(J4)されることにより(図18中の(3))、この圧縮行程気筒12Cでは燃焼させないものの、燃料噴射による気化潜熱によって上記圧縮行程気筒12Cの圧縮圧力が低減され(図19中のd部分)、これに応じて当該圧縮上死点(始動開始から最初の圧縮上死点)を超えるために消費される膨張行程気筒12Aの最初の燃焼によるエネルギーが低減されることになる。
さらに、次の燃焼気筒である吸気行程気筒12Dにおける燃料噴射(J5)の時期を、燃料の気化潜熱によって気筒内の温度、および圧縮圧力を低下させる適正なタイミング(図18中の(4)に示すように、例えば圧縮行程の中期以降)に設定しているため、上記吸気行程気筒12Dの圧縮行程で圧縮上死点前に自着火することが防止される。また、上記吸気行程気筒12Dの点火時期が圧縮上死点以降に設定されていることも相俟って、圧縮上死点前での燃焼が防止される(図19中のe部分)。つまり燃料噴射(J5)による圧縮圧力の低減と圧縮上死点前の燃焼を行なわないことにより、膨張行程気筒12Aにおける初回燃焼のエネルギーが上記圧縮上死点(エンジン始動開始時点から2番目の圧縮上死点)を超えるために消費されるのを抑制することができる。
このようにして膨張行程気筒12Aにおける初回燃焼(図18中の(2))のエネルギーにより、再始動開始後の最初の圧縮上死点(図18中の(3))と、2番目の圧縮上死点(図18中の(4))とを超えることが可能となり、円滑で確実な始動性を確保することができ、それ以降(図18中の(5)、(6)・・・)は、触媒の温度に応じて空燃比をリーン(λ>1)にしたり、点火時期を遅延させたりして、吹上がりを防止しつつ通常運転に移行する。
上記のように予め設定されたエンジンの自動停止条件が成立したときに、エンジンの運転を継続させる燃料噴射を停止してエンジンを自動的に停止させるとともに、自動停止状態にあるエンジンの再始動条件が成立したときに、少なくとも膨張行程で停止状態にある気筒12Aに燃料を噴射して点火、燃焼を行なわせることによりエンジンを再始動させるように構成されたエンジンの始動装置において、エンジンにより駆動されるオルタネータ28と、エンジンを自動停止させる際に、オルタネータ28の目標発電電流Geを予め大きな値に設定された初期値に上昇させた後に低下させる自動停止制御手段とを設け、上記目標発電電流Geの低下量を燃料噴射の停止後に生じたエンジン回転速度Neの低下状態に対応した値に設定するように構成したため、クランク軸3の回転抵抗をエンジン回転速度Neの低下状態に対応した値に調節することにより、エンジンの停止時点で膨張行程となる気筒12Aのピストン13をエンジンの再始動に適した範囲R内、つまり行程中央よりもやや下死点側に片寄った位置に停止させることができる。
すなわち、上記オルタネータ28は、目標発電電流Geを例えば0Aから60A程度までの任意の値に調節することにより、クランク軸3の回転抵抗を広範囲において正確に調節することができるとともに、図20に示すように、目標発電電流Geを例えば10A程度の小さな電流値から60A程度の大きな電流値に設定して発電電流を上昇させる場合に、0.1sec(秒)程度の時間を要することが知られている。これに対し、オルタネータ28の目標発電電流Geを、例えば60A程度の大きな電流値から10A程度の小さな電流値に設定して発電電流を下降させる場合には、瞬時に発電電流を変化させることができる。
従って、上記エンジンを自動停止させる動作の初期に、オルタネータ28の目標発電電流Geを初期値に上昇させることにより、オルタネータ28の発電機能を充分に発揮し得る状態とした後に、ピストン13が圧縮上死点を通過するときのエンジンの上死点回転速度neを検出し、この上死点回転速度neが低い場合に、高い場合に比べて目標発電電流Geの低下量を大きな値に設定することにより、エンジン回転速度Neの低下状態に対応してクランク軸3の回転抵抗を調節する制御を迅速かつ正確に実行することができるため、エンジンの停止時点で膨張行程となる気筒12Aのピストン13をエンジンの再始動に適した位置に停止させることができる。
以上説明したように、当実施形態によれば、最終の圧縮上死点において、圧縮行程気筒12Cの空気量を低減し、圧縮反力を低下することができるので、NVH(エンジンの振動)を抑制しつつ停止することができる。従って、当実施形態によれば、簡単な構成でエンジンの自動停止時にNVH(エンジンの振動)を抑制しつつ、ピストン13を適正位置に停止させてエンジンを確実に再始動させることができるという顕著な効果を奏する。
特に当実施形態では、各気筒が最終の上死点を越えた直後に、停止時に圧縮行程となる気筒のポートを開くように可変バルブタイミングシステムを制御するものであることから、停止時に圧縮行程気筒12Cが最初に圧縮を始めるところで気筒内の圧力が低下するので、当該気筒のピストン13が受ける圧縮反力が小さくなり、エンジン停止時のNVH(エンジンの振動)をより抑制した状態で所望のストロークにピストン13を中央寄りに停止させることができるので、ピストン13の停止時の位置精度が向上する。
また、当実施形態は、各気筒が最終の上死点を越えた後、エンジンが逆回転動作を行なった後に、上記最終の上死点時のエンジン回転速度が所定の値よりも高い場合には、膨張行程気筒12Aのポートを開くものであるから、エンジンの個体差や最終の圧縮上死点を通過するときの回転速度のばらつきによって、圧縮行程を迎える気筒に係るピストン13の制動にばらつきが生じても、このばらつきを膨張行程を迎える気筒によって吸収することが可能になり、より精度の高い制動制御が可能になる。
また、当実施形態によれば、自動停止制御を実行してから最終圧縮上死点(タイミングt5)を通過した後にエンジンの再始動条件が成立した場合には、ECU2による可変バルブタイミングシステム112の開弁動作を禁止するとともに、図13〜図14で説明したような再始動可能条件が成立した場合には、膨張行程気筒12Aに対し、エンジンの回転が逆転から正転に復帰したタイミングで燃料を噴射し、その後、エンジンが逆転から正転に変わったタイミングで当該気筒に点火することにより、停止直前のエンジンの逆転動作を有効利用し、直ちにエンジンを再始動させることが可能になるので、より迅速にエンジンを再始動することが可能になる。