JP2005342412A - ポリスルホン系選択透過性中空糸膜 - Google Patents

ポリスルホン系選択透過性中空糸膜 Download PDF

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Abstract

【課題】 安全性や性能の安定性が高く、かつモジュール組み立て性に優れており、放射線滅菌に対する耐久性を有し、慢性腎不全の治療に用いる高透水性能を有する血液浄化器用として好適であるポリスルホン系中空糸膜を提供する。
【解決手段】 本発明は、親水性高分子を含有するポリスルホン系中空糸膜において、中空糸膜よりの親水性高分子の溶出量が10ppm以下であり、かつ中空糸膜内表面の最表層の親水性高分子の含有量が20〜40質量%であり、かつ内表面の表面近傍層の親水性高分子の含有量が5〜20質量%であり、かつ外表面の最表層の親水性高分子の含有量が25〜50質量%であり、かつ内表面の最表層の親水性高分子の含有量の1.1倍以上であり、該中空糸膜に40kGy線量のγ線を照射した後の中空糸膜の破断強度が、γ線照射前の中空糸膜の破断強度に対して80%以上であることを特徴とするポリスルホン系中空糸膜である。
【選択図】 なし

Description

本発明は、安全性や性能の安定性が高く、かつモジュール組み立て性に優れ、放射線滅菌に対する耐久性を有し、特に血液浄化器用に適したポリスルホン系選択透過性中空糸膜、それの血液浄化器としての用法、およびその製造方法に関する。
腎不全治療などにおける血液浄化療法では、血液中の尿毒素、老廃物を除去する目的で、天然素材であるセルロース、またその誘導体であるセルロースジアセテート、セルローストリアセテート、合成高分子としてはポリスルホン、ポリメチルメタクリレート、ポリアクリロニトリルなどの高分子を用いた透析膜や限外濾過膜を分離材として用いた血液透析器、血液濾過器あるいは血液透析濾過器などのモジュールが広く使用されている。特に中空糸型の膜を分離材として用いたモジュールは体外循環血液量の低減、血中の物質除去効率の高さ、さらにモジュール生産時の生産性などの利点から透析器分野での重要度が高い。
上記した膜素材の中で透析技術の進歩に最も合致したものとして透水性能が高いポリスルホン系樹脂が注目されている。しかし、ポリスルホン単体で半透膜を作った場合は、ポリスルホン系樹脂が疎水性であるために血液との親和性に乏しく、エアロック現象を起こしてしまうため、そのまま血液処理用などに用いることはできない。
上記した課題の解決方法として、ポリスルホン系樹脂に親水性高分子を配合し製膜し、膜に親水性を付与する方法が提案されている。例えば、ポリエチレングリコール等の多価アルコールを配合する方法が開示されている(例えば、特許文献1,2参照)。
特開昭61−232860号公報 特開昭58−114702号公報
また、ポリビニルピロリドンを配合する方法が開示されている(例えば、特許文献3,4参照)。
特公平5−54373号公報 特公平6−75667号公報
上記した方法により上記した課題は解決される。しかしながら、親水性高分子を配合することによる親水性化技術に於いては、血液と接触する膜内面および反対面の膜外面に存在する親水性高分子の濃度により中空糸膜の膜性能が大きく影響し、その最適化が重要となる。例えば、膜内面の親水性高分子濃度を高めることにより血液適合性を確保できるが、該表面濃度が高くなりすぎると該親水性高分子の血液への溶出量が増加し、この溶出する親水性高分子の蓄積により長期透析時の副作用や合併症が起こるので好ましくない。
一方、反対面の膜外面に存在する親水性高分子の濃度が高すぎると、透析液に含まれる親水性の高いエンドトキシン(内毒素)が血液側へ浸入する可能性が高まり、発熱等の副作用を引き起こすことに繋がるとか、膜を乾燥させた時に膜外表面に存在する親水性高分子が介在し中空糸膜同士がくっつき(固着し)、モジュール組み立て性が悪化する等の新たな課題が引き起こされる。逆に、膜の外表面に存在する親水性高分子量を低くすることは、エンドトキシンの血液側への浸入を抑える点では好ましいことであるが、外表面の親水性が低くなるため、モジュール組み立て後に組み立てのために乾燥した中空糸膜束を湿潤状態に戻す際に、湿潤のために用いる生理食塩水との馴染みが低くなるので、該湿潤操作の折の空気の追い出し性であるプライミング性が低下すると言う課題の発生に繋がるので好ましくない。
上記した課題解決の方策として、中空糸膜の内表面の緻密層に存在する親水性高分子の濃度を特定範囲とし、かつ内表面の上記緻密層に存在する親水性高分子の質量比率が外表面層に存在する親水性高分子の質量比率の少なくとも1.1倍以上にする方法が開示されている(特許文献5参照)。すなわち、上記技術は内表面の緻密層表面に存在する親水性高分子の質量比率を高め血液適合性を改善し、逆に外表面に存在する親水性高分子の質量比率を低くし、膜を乾燥させた時に発生する中空糸膜同士の固着の発生を抑える思想の技術である。該技術により該課題に加え、上記した課題の一つである透析液に含まれるエンドトキシン(内毒系)が血液側へ浸入する課題も改善されるが、外表面に存在する親水性高分子の質量比率が低く過ぎるために前記したもう一つの課題であるプライミング性が低下すると言う課題の発生に繋がるという問題が残されておりその改善が必要である。
特開平6−165926号公報
また、均一膜構造の中空糸膜であるが、赤外線吸収法で定量された表面近傍の親水性高分子の中空糸膜の内表面、外表面および膜中間部における親水性高分子の含有量が特定化することにより、前記した課題の一つである透析液に含まれるエンドトキシン(内毒素)が血液側へ浸入する課題を改善する方法が開示されている(例えば、特許文献6参照)。該技術により上記課題の一つは改善されるが、例えば、前記技術と同様に、プライミング性が低下すると言う課題が解決されないし、また、中空糸膜外表面の開孔径が大きいため、耐圧性が不足するなど、特に血液透析ろ過等の従来よりも流体圧力を高める治療に用いた場合、中空糸膜が破損する心配がある。
特開2001−38170号公報
さらに、中空糸膜の内表面の親水性高分子の表面含有量を特定化することにより、血液適合性と親水性高分子の血液への溶出量を改善する方法が開示されている(例えば、特許文献7〜9参照)。
特開平6−296686号公報 特開平11−309355号公報 特開2000−157852号公報
上記技術は、いずれもが中空糸膜の反対面の外表面の親水性高分子の存在比率に関しては全く言及されておらず、前記した外表面の親水性高分子の存在比率による課題の全てを改善できてはいない。
上記した課題の内、エンドトキシン(内毒素)が血液側へ浸入する課題に関しては、エンドトキシンが、その分子中に疎水性部分を有しており、疎水性材料へ吸着しやすいという特性を利用した方法が開示されている(例えば、特許文献10参照)。すなわち、中空糸膜の外表面における疎水性高分子に対する親水性高分子の比率を5〜25%にすることにより達成できる。確かに、該方法はエンドトキシンの血液側への浸入を抑える方法としては好ましい方法ではあるが、この特性を付与するには、膜の外表面に存在する親水性高分子を洗浄で除去する必要があり、この洗浄に多大の処理時間を要し、経済的に不利である。例えば、上記した特許の実施例では、60℃の温水によるシャワー洗浄および110℃の熱水での洗浄をそれぞれ1時間づつ掛けて行われている。
特開2000−254222号公報
また、膜の外表面に存在する親水性高分子量を低くすることは、エンドトキシンの血液側への浸入を抑える点では好ましいことであるが、外表面の親水性が低くなるため、モジュール組み立て後に組み立てのために乾燥した中空糸膜束を湿潤状態に戻す際に、湿潤のために用いる生理食塩水との馴染みが低くなるので、該湿潤操作の折の空気の追い出し性であるプライミング性が低下すると言う課題の発生に繋がるので好ましくない。この点を改良する方法として、例えばグリセリン等の親水性化合物を配合する方法が開示されている(例えば、特許文献11、12参照)。しかし、該方法は親水性化合物が透析時の異物として働き、かつ該親水性化合物は酸化劣化等の劣化を受けやすいため、モジュールの保存安定性等に悪影響をおよぼす等の課題に繋がる。また、モジュール組み立てにおいて中空糸膜束をモジュールに固定する時の接着剤の接着阻害を引き起こすという課題もある。
特開2001−190934号公報 特許第3193262号公報
上記したもう一つの課題である中空糸膜同士の固着を回避する方法としては、膜の外表面の開孔率を25%以上にする方法が開示されている(例えば、前掲特許文献6および特許文献13参照)。確かに、該方法は固着を回避する方法としては好ましい方法であるが、開孔率が高いために膜強度が低くなり血液リーク等の課題に繋がるという問題を有している。
特開7−289863号公報
一方、膜の外表面の開孔率や孔面積を特定値化した方法が開示されている(例えば、特許文献14参照)。
特開2000−140589号公報
血液浄化器は、その医療器具としての要件から、滅菌に供されることが必要である。本願発明の血液浄化用中空糸膜は、ポリスルホン系樹脂からなる中空糸膜を部材とし、放射線滅菌を施される血液浄化器をその発明対象としている。
ポリスルホン系樹脂は、p-フェニレンの主構造がスルホン基、エーテル基などを介して高分子を形成する基本構造を有する。これらの構造に由来して、エンジニアリングプラスチックとしての高強力性、耐熱性、耐薬品性、耐加水分解性などの高度な耐久性を持つことが知られている。また溶液からの製膜に関しての非常に優れた特性も有していおり、水溶性極性溶媒への溶解のし易さ、溶液からの液−液相分離法による細孔形成に優れる点などが、膜分野で広く使用されてる背景である。これらの点は、いずれも医療用途としてもポリスルホン系樹脂の利点となっている。また前述のごとく医療機器に施される滅菌処理についても、薬剤による滅菌(エチレンオキサイドガス、ホルマリンなど)、熱による滅菌(高圧蒸気滅菌など)への耐久性をポリスルホン樹脂は有している。
しかしながら、非接触型、非侵蝕型の滅菌法として極めて有効な放射線滅菌(主にγ線滅菌)に対しては、ポリスルホン系樹脂の耐性は、満足するのもではない。ポリスルホン系樹脂におけるジフェニルスルホン構造は、放射線に対しての弱点を有することが知られている。(非特許文献1参照)。ここでは非酸化系での反応において、強度の放射線照射によりSO2ガスを伴う分解を起こすことが報告されており、従って、放射線暴露環境での部材としてポリスホン系樹脂を使用するのは適切ではないとされている。
「高機能芳香族系高分子材料」、2.3章、耐放射線性高分子の分子設計、高分子学会編、丸善
これらの背景から、ポリスホン系中空糸膜を用いた血液浄化器を放射線滅菌するには、滅菌保証としての線量の確保と部材劣化のバランスのもとに、ある程度のポリスルホン樹脂の劣化を容認した上での、放射線滅菌処理が施されている。すはなち、製品安全性の上ではマイナス要因を含んだ生産形態が取られているのが実状である。
放射線滅菌は、ポリスルホン系樹脂に限らず、被滅菌対象となる部材への特性変化の影響を有している。特にラジカル発生を伴う酸化反応が危惧されており、これを抑制する方策として、滅菌処理時に酸素の存在を低減、あるいは無酸素雰囲気にさせる方法が開示されている。中空糸膜の周囲が気体状態の場合(例えば、特許文献15、16)、液体の場合(例えば、特許文献17)などに応じて、放射線による過剰な部材の劣化を防止することが知られている。しかしながら、これらの先行技術は、γ滅菌照射時点における、高分子部材の表面における酸化劣化抑制の一般的な対処法を提示しており、γ線エネルギーが透過力を有する高分子固体の内部まで十分な劣化防止にはならない。また酸化劣化に主眼を置いているため、γ線エネルギーでの直接的な反応抑制への効果は期待できない。
特開平6−285162号公報 特開平3−10343号公報 特開平4−338223号公報
本発明は、安全性や性能の安定性が高く、かつモジュール組み立て性に優れ、特に血液浄化器用に適したポリスルホン系選択透過性中空糸膜を提供することにある。
本発明は、上記技術課題を解決するために鋭意検討した結果、ポリスルホン系樹脂および親水性高分子を主成分としてなるポリスルホン系中空糸膜において、
(イ)ポリスルホン系中空糸膜における内表面最表層の親水性高分子の含有量が該内表面近傍層の親水性高分子の含有量に対して1.1倍以上である。
(ロ)ポリスルホン系中空糸膜における外表面最表層の親水性高分子の含有量が、内表面最表層の親水性高分子の含有量に対して1.1倍以上である。
(ハ)該中空糸膜に、40kGy線量のγ線を照射した後の中空糸膜の破断強度が、γ線照射前の中空糸膜の破断強度に対して80%以上である。
ことを特徴とするポリスルホン系選択透過性中空糸膜とすることにより、上記課題を解決することができたものである。
詳細な実施態様としては、該内表面最表層の親水性高分子の含有量は、通常5〜60質量%、適性には10〜50質量%、より好ましくは20〜40質量%である。それと隣接する表面近傍層の親水性高分子の含有量の範囲は、通常約2〜37質量%程度であり、最適には5〜20質量%程度である。さらに、外表面最表層の親水性高分子の含有量を、内表面最表層の親水性高分子の含有量に対して、1.1倍以上であるから、親水性高分子の中空糸膜の外表面における含有量が25〜50質量%程度あれば足りる。これら各層の適正な含有量の配分は、親水性高分子の中空糸膜よりの溶出が10ppm以下にするという点も考慮して決めることができる。
本発明のポリスルホン系中空糸膜は、安全性や性能の安定性が高く、かつモジュール組み立て性に優れており、慢性腎不全の治療に用いる高透水性能を有する血液透析法中空糸型血液浄化器用として好適であるいう利点がある。
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明に用いる中空糸膜は、親水性高分子を含有するポリスルホン系樹脂で構成されているところに特徴を有する。本発明におけるポリスルホン系樹脂とは、スルホン結合を有する樹脂の総称であり特に限定されないが、例を挙げると化1、化2で示される繰り返し単位をもつポリスルホン樹脂やポリエーテルスルホン樹脂がポリスルホン系樹脂として広く市販されており、入手も容易なため好ましい。
Figure 2005342412
Figure 2005342412
本発明における親水性高分子とはポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシメチルセルロース、ポリプロピレングリコール、グリセリン、デンプンおよびその誘導体などの素材であるが、安全性や経済性よりポリビニルピロリドンを用いるのが好ましい実施態様である。ポリビニルピロリドンの分子量としては重量平均分子量10,000〜1,500,000のものを用いることができる。具体的には、BASF社より市販されている分子量9,000のもの(K17)、以下同様に45,000(K30)、450,000(K60)、900,000(K80)、1,200,000(K90)を用いるのが好ましく、目的とする用途、特性、構造を得るために、それぞれ単独で用いてもよく、分子量の異なる同一の2種類の樹脂を、または異なる種類の樹脂を適宜2種以上を組み合わせて用いても良い。
本発明において、上記(イ)ポリスルホン系中空糸膜における内表面の最表層の親水性高分子の含有量を同内表面の表面近傍層の親水性高分子の含有量の1.1倍以上とするということは、最表面の親水性高分子の含有量を表面近傍層より多くすることと最表層の親水性高分子の含有量を最適な20〜40質量%とすることは、それと隣接する表面近傍層の親水性高分子の含有量の範囲は、約2〜37質量%程度の範囲に存在させることが必要である。実際には表面近傍層の親水性高分子の適正な含有量を5〜20質量%程度としていることはこの理由に基づく。ということは、最高10倍程度まで許容できるが、較差の倍率がそれ以上にあまり大きくなると、親水性高分子の拡散移動が最表層から表面近傍へと逆に移るようなことも有り得るし、又そのような構造の中空糸膜の製造が難しくなるという事情もある。内表面の最表層その表面近傍層の親水性高分子の適正な含有量は、表面近傍層の親水性高分子の適正な含有量である5〜20質量%をもとに、その数値(5〜20質量%)に対する単純な1.1〜10倍程度の乗数とする計算により算定することによって、内表面の最表層の親水性高分子の含有量を最適な20〜40質量%とすることが可能であるということを意味する。その比は、普通1.1〜5倍程度、場合によっては、最適には1.2〜3倍程度の較差で親水性高分子を存在させることが好ましい。実際には、その倍率は中空糸膜の性能を考慮して任意に決めることができる。例えば、表面近傍層の親水性高分子の含有量を最下値の5質量%とすると、その最表層の親水性高分子の含有量は4〜8倍に相当する適量の20〜40質量%の範囲内で取り得るということにもなる。
本発明において上記(ロ)ポリスルホン系中空糸膜における外表面の最表層の親水性高分子の含有量を、内表面の最表層の親水性高分子の含有量に対して、1.1倍以上とすることは、上記した親水性高分子の中空糸膜の外表面における含有量が25〜50質量%程度あれば足り、かつ内表面の最表層の親水性高分子の含有量の1.1倍以上であるのが好ましい。外表面の親水性高分子の含有量が少なすぎると、中空糸膜の支持層部分への血中タンパクの吸着量が増えるため血液適合性や透過性能の低下が起こる可能性がある。逆に、外表面の親水性高分子の含有量が多すぎると、透析液に含まれるエンドトキシン(内毒素)が血液側へ浸入する可能性が高まり、発熱等の副作用を引き起こすことに繋がるとか、膜を乾燥させた時に膜外表面に存在する親水性高分子が介在し中空糸膜同士が固着しモジュール組み立て性が悪化する等の課題を引き起こす可能性がある。
本発明において、上記(ハ)ポリスルホン系中空糸膜に、40kGy線量でγ線を照射した後の中空糸膜の破断強度が、γ線照射前の中空糸膜の破断強度に対して80%以上であることは、ポリスルホン系樹脂および親水性高分子を主成分としてなるポリスルホン系中空糸膜において、γ線による中空糸膜の劣化が、軽微に抑制されていることを示すものである。本発明の中空糸膜は、ポリスルホン系樹脂と親水性高分子のアロイ成分から形成されるが、糸としての強度保持の主体はポリスルホン系樹脂が担うものであり、99〜80重量%がポリスルホン系樹脂からなる中空糸膜である。また、特に中空糸膜のような多孔質体の形成においては、高分子溶液からの高ドラフトによる製膜紡糸を行うことによる分子配向などの繊維の高強力性を発現させるような紡糸ができず、多孔質中空糸膜は、分子集合構造としては、ほぼアモルファス状態のまま固定されている。糸の破断強度は、糸の伸張に対して、高分子鎖の分子レベルでの相互作用に基づく伸張応力を担う部分の糸あたりの総量を示す値と考える事ができるが、本願発明のような中空糸膜では、相互作用の総量自体が少なく、構成高分子の部分的な劣化、分解などの変化が膜の強度に現れ易くなり、特に血液浄化療法に使用した場合、深刻な欠点となりうる。また、前述のような中空糸膜の低配向の性質上、糸の長さ方向の劣化状態は、膜の膜厚方向の劣化状態(バースト圧などの耐圧性)にも反映すると考えられる。さらに近年、ポリスルホン系樹脂を用いた血液透析膜は、高度な物質除去性能の獲得のために、多孔質度、空孔率が高くなる一方、膜厚を上げることができないということから、糸としての強力は、非常に弱いものとなってきており、この点も耐久性の低下につながっている。
本発明におけるポリスルホン系樹脂に対する親水性高分子の膜中の構成割合は、中空糸膜に十分な親水性や、高い含水率を付与できる範囲であれば特に限定されず任意に設定することができるが、ポリスルホン系樹脂80〜99質量%に対する親水性高分子の質量割合で1〜20質量%が好ましく、3〜15質量%がより好ましい。1質量%未満では、膜の親水性付与効果が不足する可能性がある。一方、20質量%を超えると、親水性付与効果が飽和し、かつ親水性高分子の膜からの溶出量が増大し、後述の親水性高分子の膜からの溶出量が10ppmを超える可能性がある。
前記の本発明に関する好ましい態様について技術的要件に基づいて詳細に説明すると、親水性高分子を含有するポリスルホン系中空糸膜において、下記特性を同時に満足することを特徴とするポリスルホン系選択透過性中空糸膜というものになる。
(1)上記親水性高分子の中空糸膜よりの溶出が10ppm以下である。
(2)上記ポリスルホン系中空糸膜における内表面の最表層の親水性高分子の含有量が20〜40質量%である。
(3)上記ポリスルホン系中空糸膜における内表面の表面近傍層の親水性高分子の含有量が5〜20質量%である。
(4)上記ポリスルホン系中空糸膜における外表面の最表層の親水性高分子の含有量が25〜50質量%であり、かつ内表面の最表層の親水性高分子の含有量の1.1倍以上である。
(5)上記ポリスルホン系中空糸膜をγ線による放射線処理を施した際に、40kGy線量での中空糸膜の破断強度の値が、γ線処理前の中空糸膜の破断強度に対して80%以上である。
本発明においては、前記のとおり(1)親水性高分子の中空糸膜よりの溶出量が10ppm以下であるのが好ましい(要件1)。該溶出量が10ppmを超えた場合は、この溶出する親水性高分子による長期透析による副作用や合併症が起こる可能性がある。該特性を満足させる方法は、例えば、疎水性高分子に対する親水性高分子の構成割合を上記の範囲にしたり、中空糸膜の製膜条件を最適化する等により達成できる。
本発明においては、前記のとおり(2)ポリスルホン系中空糸膜における内表面の最表層の親水性高分子の含有量が20〜40質量%であることが好ましい(要件2)。一応、ポリスルホン系中空糸膜における内表面の最表層の親水性高分子の含有量が5〜60質量%というような、例えば10〜50質量%のように広範囲に任意に設定できるが、本発明の効果を適性に達成するための最適な含有量は、ポリスルホン系樹脂60〜80質量%および親水性高分子20〜40質量%を主成分とするものが好ましい。20質量%未満では、血液と接触する中空糸膜表面の親水性が低く血液適合性が悪化し中空糸膜表面で血液の凝固が発生しやすくなり、該凝固した血栓による中空糸膜の閉塞が発生し中空糸膜の分離性能が低下したり、血液透析に使用した後の残血が増えたりすることがある。中空糸膜内表面の最表層の親水性高分子の含有量は21重量%以上がより好ましく、22質量%以上がさらに好ましく、23質量%以上がよりさらに好ましい。一方、40質量%を越えた場合は、血液に溶出する親水性高分子が増大し、該溶出した親水性高分子による長期透析による副作用や合併症が起こる可能性がある。中空糸膜内表面の最表層の親水性高分子の含有量は39質量%以下がより好ましく、38質量%以下がさらに好ましく、37質量%以下がよりさらに好ましい。
本発明においては、前記のとおり(3)ポリスルホン系中空糸膜における内表面の表面近傍層の親水性高分子の含有量が5〜20質量%であることが好ましい(要件3)。本発明の上記ポリスルホン系中空糸膜における内表面の表面近傍層の親水性高分子の含有量はポリスルホン系樹脂60〜99質量%および親水性高分子1〜40質量%の範囲を主成分とするものが任意に設定できるが、適正な親水性高分子の含有量は5〜20質量%であることが好ましい。普通には7〜18質量%がより好ましい。上記のとおりポリスルホン系中空糸膜における内表面の最表層の親水性高分子の含有量は、血液適合性の点より高い方が好ましいが、該含有量が増加すると血液への親水性高分子の溶出量が増大するという二律背反の現象となるために、その適正な範囲を考慮して20〜40質量%程度に決めることになる。
一方、中空糸膜内表面近傍層の親水性高分子の含有量は、1〜40質量%と比較的広範囲に取り得るが、最表層より多い、例えば最表層30質量%、表面近傍層35質量%とすると、親水性高分子の最表層への拡散移動が活発になり、最表層の親水性高分子の含有量が、所定の設計値より多く蓄積することになり、好ましくない。要するに、最表層における親水性高分子の消耗分だけ拡散移動などにより供給するという機構を考えれば、表面近傍層における親水性高分子の含有量は最表面層より比較的低い値である、一応19質量%以下がより好ましく、18質量%以下がさらに好ましい。また、中空糸膜内表面近傍の親水性高分子の含有量が少なすぎると最表層への親水性高分子の供給が行われないため、溶質除去性能や血液適合性の経時安定性が低下する可能性がある。したがって、中空糸膜内表面近傍の親水性高分子の含有量は、最適量として6質量%以上がより好ましく、7質量%以上がさらに好ましい。この表面近傍層の親水性高分子の含有量は、本発明の中空糸膜を構成するポリスルホン系高分子80〜99質量%と親水性高分子1〜20質量%からなる平均含有量より、やや高いということが一般的である。
この要件3は、上記した二律背反の現象を打破し上記現象の最適化を従来技術で到達できなかった高度なレベルで達成するための要因であり、本発明の新規な特徴の一つである。すなわち、血液適合性を支配する中空糸膜の最表層の親水性高分子の含有量を血液適合性が発現できる最低のレベルに設定した。ただし、該最表層の含有量では、初期の血液適合性は満足できるが長期透析をすると該最表層に存在する親水性高分子が少しずつであるが血液に溶出していき、透析の経過とともに段々と血液適合性が低下していくという課題が発生する。この血液適合性の持続性を上記ポリスルホン系中空糸膜における内表面の表面近傍層の親水性高分子の含有量を特定化することで改善したものである。表面近傍層の親水性高分子の含有量を特定化することにより、透析の進行による血液への最表層の親水性高分子の溶出による最表層の親水性高分子の含有量の低下による血液適合性が経時的に悪化するという血液適合性の持続性低下を表面近傍層に存在する親水性高分子の最表層への移動により確保するという技術思想により完成したものである。従って、内表面の表面近傍層の親水性高分子の含有量が5質量%未満では血液適合性の持続性の低下を抑えることが不十分となる可能性がある。一方、20質量%を超えた場合は、血液に溶出する親水性高分子の量が増大し長期透析による副作用や合併症が起こる可能性がある。従来、この中空糸膜の表面近傍層および表面近傍層における親水性高分子の適正な含有量およびその構造に基づく材料挙動を解明した例がなく、本件発明者等のまさに新規な知見に基づくものである。
本発明においては、前記のとおり(4)ポリスルホン系中空糸膜における外表面の最表層の親水性高分子の含有量が25〜50質量%であり、かつ内表面の最表層の親水性高分子の含有量の1.1倍以上であるのが好ましい(要件4)。外表面の親水性高分子の含有量が少なすぎると、中空糸膜の支持層部分への血中タンパクの吸着量が増えるため血液適合性や透過性能の低下が起こる可能性がある。一応ポリスルホン系樹脂90〜40質量%および親水性高分子10〜60質量%を主成分とするものからなることがありうるが、実際には外表面の親水性高分子の含有量は27質量%以上がより好ましく、29質量%以上がさらに好ましい。また乾燥膜の場合、プライミング性が悪化することがある。逆に、外表面の親水性高分子の含有量が多すぎると、透析液に含まれるエンドトキシン(内毒素)が血液側へ浸入する可能性が高まり、発熱等の副作用を引き起こすことに繋がるとか、膜を乾燥させた時に膜外表面に存在する親水性高分子が介在し中空糸膜同士が固着しモジュール組み立て性が悪化する等の課題を引き起こす可能性がある。中空糸膜外表面における親水性高分子の含有量は43質量%以下がより好ましく、40質量%以下がさらに好ましい。
また、要件4の1つとして、外表面最表層の親水性高分子の含有量は、内表面最表層の親水性高分子の含有量の1.1倍以上であることが好ましい。親水性高分子の含有量は、製膜後の中空糸膜の収縮率に影響を与える。すなわち、親水性高分子の含有量が高くなるに従い、中空糸膜の収縮率は大きくなる。例えば、内表面最表層の親水性高分子の含有量が外表面最表層の親水性高分子の含有量よりも高い場合、内表面側と外表面側の収縮率の違いにより、内表面側にミクロな皺が寄ったり、中空糸膜が破断することがある。内表面側に皺が入ると、例えば、血液透析に使用した場合、血液を流したときに血中タンパク質等が膜面に堆積しやすくなるため、経時的に透過性能が低下するなどの問題に繋がる可能性がある。このような理由から、外表面側の親水性高分子の含有量を高くするのが好ましい。さらに、本発明の中空糸膜は、内表面に緻密層を有し、外表面に向かって次第に孔径が拡大する構造を有している。すなわち、内表面側に比較して外表面側の方が空隙率が高いため、より外表面側の収縮率が大きくなる特性を有している。そのあたりの影響も加味すると、外表面最表層の親水性高分子の含有量は、内表面最表層の親水性高分子の含有量の1.1倍以上であることが好ましい。より好ましくは、1.2倍以上、さらに好ましくは1.3倍以上である。
前記理由により、外表面最表層の親水性高分子の含有量は高い方が好ましいが、2.0倍を超えるとポリスルホン系高分子高分子に対する親水性高分子の含量が高くなりすぎ、強度不足や中空糸膜同士の固着、血液透析使用時のエンドトキシンの逆流入、親水性高分子溶出などの問題を引き起こす可能性がある。より好ましくは1.9倍以下、さらに好ましくは1.8倍以下、よりさらに好ましくは1.7倍以下である。
本発明においては、前記のとおり(5)ポリスルホン系中空糸膜がγ線による放射線処理を施した際に、40kGy線量での中空糸膜の破断強度の値が、γ線処理前の中空糸膜の破断強度に対して80%以上であることが好ましい。(要件5)。要件5は、γ滅菌後のポリスルホン系中空糸膜が血液浄化器として使用される際の高い安全性を有することを示す。要件5においては、40kGyのγ線照射に伴う破断強度の未照射からの変化に対し、80%以上保持するとしている。これは、医療用具として通常行なわれるコバルト60線源による滅菌量の値での耐久性を示している。現在の医療用具の滅菌線量は、標準的な付着菌を用いたバリデーションから十分な滅菌保証の線量レベルとして20〜25kGyの線量で実施されており、本願に示す40kGyでの線量設定は、ほぼこの倍線量の安全係数をみたものである。γ線の照射対象への吸収線量は、線源の強さに応じ、これに被照射時間を乗することにより制御される。通常の医療用具の滅菌に使われるγ照射装置は、線源の周辺をコンベヤーなどに積載した被照射対象がある時間、移動しながら置かれるという装置となっている。したがって照射装置の運転状況、線源の強度変化、材料の形態や複合素材、梱包状態、他の照射物との混載による干渉などにより滅菌線量は、精緻には制御しにくい。上記の線量レベルは、これらのことから最低線量として設定されることが通常である。従って、ある程度の高い吸収線量を想定しての安全性への配慮は必要である。
滅菌製品の滅菌後品質の確認は、滅菌を破瓜した上での使用段階での破壊検査しか確認できないが、80%以上の安定性があると見なせれば、滅菌後の製品においても、滅菌前の製造工程における中空糸膜のハンドリング性(耐衝撃性、耐圧性など)と同様の耐久性を持っていると見ることができる。従って、γ滅菌後に病院などに流通し、保管されて、治療に供されるまでの製品の安定性の保証ができることを意味する。破断強度が低下するなどの劣化を生じていると、使用時の糸からの血液リークなどの大きな治療のトラブルを生じる可能性があり、これを防止することが可能となり、製品の安全性の信頼度は向上する。血液透析器は、製品の性質上、振動や落下といった日常の衝撃が加わる可能性があり、ある規格化された条件でのこれらの耐性は抜取りでの製品検査としては実施は可能である。しかしながら、前述のごとくポリスルホン系樹脂からなる高性能な血液浄化用分離膜は、必ずしも高い強度を有した分離膜とは言えない。これに加えγ線滅菌による低下が起きることは、安全性上のリスクの拡大になる。これらの課題より、要件5に示す、ポリスホン系樹脂からなる中空糸膜において40kGyのγ線照射に伴う破断強度の未照射からの変化に対し、80%以上保持が必要となる。また安全性の更なる確保には、より好ましくは85%以上であり、さらに好ましくは90%以上である。
さらに、親水性高分子を架橋することにより不溶化することが好ましい実施態様である。架橋方法や架橋度合い等の限定無く任意である。例えば、架橋方法としては、γ線、電子線、熱、化学的架橋などが挙げられるが、中でも、開始剤などの残留物が残らず、材料浸透性が高い点で、γ線や電子線による架橋が好ましい。ポリスルホン系樹脂と共に中空糸膜を形成する親水性高分子は、γ線のエネルギーにより架橋反応を起こす場合がある。特に膜が水中にある場合に、この挙動は顕著となる。これは、親水性高分子の分子鎖の一部が水中に遊離した状態で存在し、比較的自由な分子運動性をもち、γ線により形成されたラジカル等による架橋点が他の分子と反応を起こせるポテンシャルの距離に接近できるためであると推定される。また、水分子自体がγ線によりヒドロキシラジカルを生じ、このラジカルが高分子への架橋反応の開始を誘導することになると推定される。親水性高分子を主体とする架橋反応自体は、上記要件5のγ線照射後の中空糸膜の破断強度の保持との関係は、明確ではないが、要件1の親水性高分子の溶出については有効な実施様態である。
さらに、親水性高分子を架橋することにより不溶化することが好ましい実施態様である。架橋方法や架橋度合い等の限定無く任意である。例えば、架橋方法としては、γ線、電子線、熱、化学的架橋などが挙げられるが、中でも、開始剤などの残留物が残らず、材料浸透性が高い点で、γ線や電子線による架橋が好ましい。
本発明における不溶化とは、架橋後の膜におけるジメチルホルムアミドに対する溶解性をいう。すなわち、架橋後の膜1.0gを取り、100mlのジメチルホルムアミドに溶解し不溶分の有無を目視観察し判定される。モジュールに液が充填されたモジュールの場合は、まず充填液を抜き、つぎに透析液側流路に純水を500mL/minで5分間流した後、血液側流路に同じように純水を200mL/minで5分間流す。最後に血液側から透析液側に膜を透過するように200mL/minの純水を通液し洗浄処理を終了する。得られたモジュールより中空糸膜を取り出し、フリーズドライしたものを不要成分測定用サンプルとする。乾燥中空糸膜モジュールの場合も、同様の洗浄処理を行い測定用サンプルとする。
次に、内表面最表層と中空糸膜内表面近傍層に関する詳細には、その二層の違いをみると、親水性高分子の濃度差による二層構造であり、中空糸膜は一般に、内表面の緻密層から外表面に向かうに従い孔径が拡大する傾向にあるから、最表層部分と表面近傍部分で密度差のある二層構造となることもある。この各層の厚みおよびその境界線は、中空糸膜の製造条件により任意に変わるものであり、又、その層の構造は性能にも多少なりとも影響する。そうすると、中空糸膜の凝固による製造工程から推測しても、最表層と表面近傍層がほとんど同時に、しかも両層が隣接して製造されている事情からすれば、一応二層が形成されることは認識できても、境界は鮮明に線引きできるようなものではなく、二層にまたがる親水性高分子の含有量の分布曲線をみるなら、連続線でつながるような場合が多く、親水性高分子の含有量の違いに起因する二層に濃度差がありうる。一般には、二層の境界において親水性高分子の含有量の分布曲線に断層ができるために、材料挙動の違う不連続な2つの層ができると仮定することは技術的に無理があろう、親水性高分子の含有量を最表層で20〜40質量%、表面近傍層のそれを5〜20質量%ということが最適範囲として一応規定しているが、親水性高分子が、表面近傍層から、最表層へと拡散移動するという機構からすれば、例えば最表層が40質量%で表面近傍層が5質量%というような設計では機能上十分に作用しないこともあると思われる。要するに二層に存在する単純な親水性高分子の含有量の較差に着目して設計することも重要である。その適正な較差値としては、両者の親水性高分子の含有量に表わす質量%で示す数値を算定の根拠にして、例えば、最表面と表面近傍層からなる二層間に、1.1倍以上ということを、二層間の親水性高分子の含有量の質量%の差で換算して算定すれば、二層の親水性高分子の含有量の単純な差を、1〜35質量%程度に、最適には5〜25質量%程度の差の違いがあれば、親水性高分子が表面近傍層から最表層へと拡散移動が円滑にできるものといえる。例えば、最表層を32質量%とすると、表面近傍層は、7〜27質量%程度の範囲にあることになり、これは1.1〜10倍という程度の要件を満たすことになる。
なお、上記した親水性高分子の中空糸膜の最表層の含有量は、後述のごとくESCA法で測定し算出したものであり、中空糸膜の最表層(表層からの深さ数Å〜数十Å)の含有量の絶対値を求めたものである。通常は、ESCA法(最表層)では血液接触表面より深さが10nm(100Å)程度までの親水性高分子(PVP)含有量を測定可能である。また、表面近傍層の親水性高分子の含有量は、数百nmに相当する深度までの範囲に存在する割合の絶対値を評価したものであり、ATR法(表面近傍層)では血液接触表面より深さ1000〜1500nm(1〜1.5μm)程度までの親水性高分子含有量を測定可能である。
内表面および外表面の親水性高分子の含有量は、親水性高分子の分子量にも関係することがある。例えば、分子量120万程度という高い分子量のポリビニルピロリドンを使用した場合より、分子量45万程度の低い分子量のポリビニルピロリドンを使用すると、凝固において、ポリビニルピロリドンの溶解性や溶出量が大きいことや、拡散移動が大きいという理由などにおいて、ポリスルホン系高分子に対する親水性高分子の平均質量割合1〜20質量%という含有量に比較して、最表層部分20〜40質量%および表面近傍層部分5〜20質量%というように、相対的に比較的高い親水性高分子の濃度のものが製造できるという傾向にある。例えば、ポリスルホン系樹脂80質量%に、分子量90万のポリビニルピロリドン15質量%および分子量4.5万程度のポリビニルピロリドン5質量%という分子量の異なるものを併用して製造する中空糸膜も、その二層のポリビニルピロリドンの含有量および性能に影響することもあり、この観点から中空糸膜を設計することも本発明の範疇に属する。
本発明における上記要件2および3、4を達成する方法としては、例えば、疎水性高分子に対する親水性高分子の構成割合を前記した範囲にしたり、中空糸膜の製膜条件を最適化する等により達成できる。具体的には、中空糸膜内表面側に形成される緻密層において最表層部分と表面近傍部分で密度差のある2層構造とするのが好ましい。すなわち、詳細な理由はわからないが、紡糸原液中のポリスルホン系高分子と親水性高分子の質量割合および内部凝固液濃度と温度を後述するような範囲にすることにより、中空糸膜内表面の最表層部分と表面近傍部分の凝固速度および/または相分離速度に差が生じ、かつポリスルホン系高分子と親水性高分子の溶媒/水への溶解性の違いが要件2および3のような特性を発現するのではないかと考える。また、要件4に対しては乾燥条件の適正化が重要なポイントである。すなわち、湿潤状態の中空糸膜を乾燥する際、水に溶解している親水性高分子は水の移動に伴い、中空膜内部より表面側に移動する。ここで、後述するような乾燥条件を用いることにより、水の移動にある程度の速度を持たせ、かつ中空糸膜全体で移動速度を均一にすることができ、中空糸膜内部の親水性高分子は斑なく速やかに両表面側に移動する。膜面からの水の蒸発は中空糸膜内表面側よりも外表面側からの方がより多くなるので、したがって外表面側に移動する親水性高分子の量が多くなり本願発明の中空糸膜の特徴である要件4を達成できるものと推測する。
また要件5を達成する手段として、本願発明者らはジフェニルスルホン構造のγ線の高エネルギーに対して安定化に寄与するものが有効との観点から鋭意検討したところ、2価イオンが、この構造の耐γ滅菌性に寄与している知見を得た。このメカニズムは詳細には不明であるが、ポリスルホン系樹脂の末端基に由来する放射線での分解性を減じる効果を2価イオンが有しているのかもしれない。ポリスルホン系樹脂は、ほとんどが重合のモノマーとしてジクロロジフェニルスルホンと両末端フェノール性基を持つユニット(ジヒドキシジフェニルスルホン、ビスフェノールAなど)を構成成分として縮重合される。この方法では、必ず末端基に塩素を有するクロロフェニル構造またはフェノール性末端が存在する。これらの末端基に由来する放射線での分解性を減じる効果を2価イオンが有している可能性がある。また2価イオンとスルホン基とのイオン的な保護作用、ないしは2価イオン性物質を介してのスルホン基と他の基との分子間、あるいは分子内のイオン架橋的な構造形成が保護に作用している可能性も推定される。このような性質は、他の化学物質においても、例えば硫酸エステル基を有する高分子が、2価イオン物質の存在で耐熱性が向上するなどの挙動との類似性があるのかもしれない。しかし2価イオンの残留量としては、痕跡程度のもので効果があることから、前者の末端基への効果が有力であろうと考えられる。
本発明のポリスルホン樹脂に対しての2価イオンの添加は、(1)紡糸原液状態、(2)中空糸への成形後の状態、いずれかの方策が考えられる。直接ポリスルホン樹脂に作用させるには前者の方法が有利であり、中空糸膜への十分な残留効果を得るには後者が有利であるが、本願発明では、中空糸を洗浄処理により、最適な親水性高分子の分布状態とすることをその目的としている。このことから、後処理でのポリスルホン樹脂への十分な2価イオンの処理は制御が難しく、前者の処理が、確実な手法と考えられる。また、2価イオン成分を中空糸の製造工程で添加しなくとも、あらかじめ使用原料がこれを含有するものを用いても同様の効果は期待できる。
樹脂に作用させる2価イオンの種類は、カルシウム、マグネシウムなどアルカリ土類金属イオンが適している。重金属イオンを用いた場合は、逆に重金属による分解触媒作用が現れる可能性が危惧され好ましくない。上記イオンの添加は、紡糸原液、中空糸と接する水などへの溶解性を有する塩として添加する方法が挙げられる。
添加濃度は、ポリスルホン系樹脂の重量あたりに、どの程度のイオンが総量として接触し得るかで決定できる。紡糸原液への添加が最も見積もり易い方策である。本発明では、ポリスホン系樹脂1kgに対して、数mg〜数10mgの作用により効果を得るものである。
紡糸原液への添加については、好ましくは、ポリスルホン系樹脂1kgに対してイオン原子として1mg以上である。添加が少ないと十分な効果が得られない。更に好ましくは、5mg以上である。また、上限については、溶解性の問題もあり、過剰の添加は好ましくない。
従って、より好ましくは100mg以下である。さらに好ましくは50mg以下である。
ドープ中のポリスルホン系高分子に対する親水性高分子の質量比は0.1〜0.6が好ましい。ドープ中PVP含量が少なすぎると、膜中PVP存在比を要件2、3、4の範囲にコントロールすることが困難な場合がある。したがって、ドープ中親水性高分子/ポリスルホン系高分子は、0.15以上がより好ましく、0.2以上がさらに好ましく、0.25以上がよりさらに好ましく、特に0.3以上が好ましい。また、ドープ中PVP含量が多すぎると、膜中PVP量も多くなるため製膜後の洗浄を強化する必要がありコストアップに繋がる可能性がある。したがって、ドープ中PVP比は、0.57以下がより好ましく、0.55以下がさらに好ましい。
内部凝固液としては、15〜70質量%のジメチルアセトアミド(DMAc)水溶液が好ましい。内部凝固液濃度が低すぎると、内表面の凝固速度が速くなるため内表面近傍の親水性高分子の含有量のコントロールがしにくくなることがある。したがって、内部凝固液濃度は20質量%以上がより好ましく、25質量%以上がさらに好ましく、30質量%以上がよりさらに好ましい。また内部凝固液濃度が高すぎると、内表面の凝固速度が遅くなり、最表面の親水性高分子の含有量をコントロールしにくくなることがある。したがって、内部凝固液濃度は、60質量%以下がより好ましく、55質量%以下がさらに好ましく、50質量%以下がよりさらに好ましい。さらに、内部凝固液温度を−20〜30℃にコントロールするのが好ましい。内部凝固液温度が低すぎると、ノズル吐出直後に最表面が凝固してしまい内表面近傍の親水性高分子の含有量をコントロールしにくくなることがある。内部凝固液温度は、−10℃以上がより好ましく、0℃以上がさらに好ましく、10℃以上がよりさらに好ましい。また、内部凝固液温度が高すぎると、内表面最表層と表面近傍の膜構造(疎密)の差が大きくなりすぎるため、最表面と表面近傍の親水性高分子の含有量をコントロールしにくくなることがある。内部凝固液温度は25℃以下がより好ましく、20℃以下がさらに好ましい。また、内部凝固液温度を前記範囲に設定することにより、内部凝固液をノズルより吐出した際、溶け込んでいた溶存気体が気泡となって発生するのを抑制できる。すなわち、内部凝固液中の溶存気体の気泡化を抑制することにより、ノズル直下での糸切れや、ノブの発生を抑えるという副次効果も有する。内部凝固液温度を前記範囲にコントロールする手段としては、内部凝固液タンクからノズルまでの配管に熱交換器を設けるのが好ましい。
湿潤中空糸膜の乾燥方法の具体例としては、湿潤状態の中空糸膜束をマイクロ波乾燥機に入れ、20kPa以下の減圧下で出力0.1〜20kWのマイクロ波を照射して乾燥するのが好ましい実施態様である。乾燥時間短縮を考慮するとマイクロ波の出力は高い方が好ましいが、例えば親水性高分子を含有する中空糸膜では過乾燥や過加熱による親水性高分子の劣化・分解が起こったり、使用時の濡れ性低下が起こるなどの問題があるため、出力はあまり上げ過ぎないのが好ましい。したがって、マイクロ波の出力は18kW以下がより好ましく、16kW以下がさらに好ましく、14kW以下がよりさらに好ましい。また0.1kW未満の出力でも中空糸膜束を乾燥することは可能であるが、乾燥時間が伸びることによる処理量低下の問題が起こる可能性がある。マイクロ波の出力は0.15kW以上がより好ましく、0.2kW以上がさらに好ましい。前記出力に組み合わせる減圧度としては、乾燥前の中空糸膜束の含水率にもよるが、15kPa以下がより好ましく、10kPa以下がさらに好ましい。減圧度は低い方が、乾燥速度が速まるため好ましいが、系の密閉度を上げるためのコストアップを考慮すると0.1kPaを下限とするのが好ましい。より好ましくは0.2kPa以上、さらに好ましくは0.3kPa以上である。マイクロ波出力および減圧度の組合せの最適値は、中空糸膜束の含水率および中空糸膜束の処理本数により異なるので、実験により適宜設定値を求めるのが好ましい。
例えば、本発明の乾燥条件を実施する一応の目安として、中空糸膜1本当たり50gの水分を有する中空糸膜束を20本乾燥した場合、総水分含量は50g×20本=1,000gとなり、この時のマイクロ波の出力は1.5kW、減圧度は5kPaが適当である。
マイクロ波の照射周波数は、中空糸膜束への照射斑の抑制や、細孔内の水を細孔より押出す効果などを考慮すると1,000〜5,000MHzが好ましい。より好ましくは1,500〜4,500MHz、さらに好ましくは2,000〜4,000MHzである。
該マイクロ波照射による乾燥は中空糸膜束を均一に加熱し乾燥することが重要である。上記したマイクロ波乾燥においては、マイクロ波の発生時に付随発生する反射波による不均一加熱が発生するので、該反射波による不均一加熱を低減する手段を取る事が重要である。該方策は限定されず任意であるが、例えば、特開2000−340356号公報において開示されているオーブン中に反射板を設けて反射波を反射させ加熱の均一化を行う方法が好ましい実施態様の一つである。
上記組合せにより、中空糸膜は5時間以内で乾燥することが好ましい。乾燥時間が長すぎると、中空糸膜中の水の移動速度が遅いため、水に溶解している親水性高分子の移動にも影響を与えることがある。その結果、中空糸膜中の目的とする層まで親水性高分子を移動させることができなくなったり、或いは、移動斑が生じやすくなったりすることにより、各部の親水性高分子の含有量をコントロールできなくなる可能性がある。したがって、中空糸膜の乾燥時間は4時間以内がより好ましく、3時間以内がさらに好ましい。また、乾燥時間は短い方が親水性高分子の移動が少なく好ましいが、発熱による親水性高分子の劣化・分解の抑制、乾燥斑の低減の観点よりマイクロ波周波数、出力、減圧度の組合わせを選択すると5分以上の乾燥時間をとることが好ましく、10分以上がより好ましく、15分以上がさらに好ましい。
また、乾燥時の中空糸膜束の最高到達温度は80℃以下が好ましい。温度が上がりすぎると、親水性高分子の劣化・分解を招くおそれがあるため、乾燥時の中空糸膜の温度は75℃以下がより好ましく、70℃以下がさらに好ましい。しかし、温度が低すぎると乾燥時間が長くなるため、先述したように中空糸膜各部の親水性高分子量をコントロールできなくなる可能性がある。したがって、乾燥時の温度は20℃以上が好ましく、30℃以上がより好ましく、40℃以上がさらに好ましい。
さらに、中空糸膜は絶乾しないのが好ましい。絶乾してしまうと、使用時の再湿潤化において濡れ性が低下したり、親水性高分子が吸水しにくくなるため中空糸膜から溶出しやすくなる可能性がある。乾燥後の中空糸膜の含水率は1重量%以上が好ましく、1.5重量%以上がより好ましい。中空糸膜の含水率が高すぎると、保存時菌が増殖しやすくなったり、中空糸膜の自重により糸潰れが発生したりする可能性があるため、中空糸膜の含水率は5重量%以下が好ましく、より好ましくは4重量%以下、さらに好ましくは3重量%以下である。なお、本発明の含水率(%)とは、乾燥前の中空糸膜束の質量(a)乾燥後の中空糸膜束の質量(b)を測定し、含水率(%)=(a−b)/b×100により容易に算定できる。
また、本発明においては、中空糸膜外表面の開孔率が8〜25%であることや、中空糸膜外表面における開孔部の平均孔面積が0.3〜1.0μm2であることが前記した特性を付与するために有効であり、好ましい実施態様である。開孔率が8%未満や平均孔面積は0.3μm2未満の場合には、透水率が低下する可能性がある。また、膜を乾燥させた時に膜外表面に存在する親水性高分子が介在し中空糸膜同士が固着し、モジュール組み立て性が悪化する等の課題を引き起こすことがある。そのため、開孔率は9%以上がより好ましく、10%以上がさらに好ましい。平均孔面積は0.4μm2以上がより好ましく、0.5μm2以上がさらに好ましく、0.6μm2以上がよりさらに好ましい。逆に開孔率が25%を超えたり、平均孔面積が1.0μm2を超える場合には、バースト圧が低下することがある。そのため、開孔率は23%以下がより好ましく、20%以下がさらに好ましく、17%以下がよりさらに好ましく、特に好ましくは15%以下である。平均孔面積は0.95μm2以下がより好ましく、0.90μm2以下がさらに好ましい。
中空糸膜の外表面における親水性高分子の含有量を上記した範囲にする方法および中空糸膜外表面の開口率を上記範囲にする方法として、先述した紡糸原液中のポリスルホン系高分子に対する親水性高分子の質量割合の調整や、中空糸膜の乾燥条件の最適化のほかに、製膜された中空糸膜の洗浄において洗浄条件を適正化することも有効な方法である。製膜条件としては、ノズル出口のエアーギャップ部の温湿度調整、延伸条件、外部凝固浴の温度・組成等の最適化が、また、洗浄方法としては、温水洗浄、アルコール洗浄および遠心洗浄等が有効である。該方法の中で、製膜条件としては、エアギャップ部の湿度および外部凝固液中の溶媒と非溶媒との組成比の最適化が、洗浄方法としてはアルコール洗浄が特に有効である。
エアギャップ部は外気を遮断するための部材で囲むのが好ましく、エアギャップ内部の湿度は、紡糸原液組成とノズル温度、エアギャップ長、外部凝固浴の温度・組成により調整するのが好ましい。例えば、ポリエーテルスルホン/ポリビニルピロリドン/ジメチルアセトアミド/水=10〜25/0.5〜12.5/52.5〜89.5/0〜10.0からなる紡糸原液を30〜60℃のノズルから吐出し、100〜1000mmのエアギャップを通過し、濃度0〜70質量%、温度50〜80℃の外部凝固浴に導く場合、エアギャップ部の絶対湿度は0.01〜0.3kg/kg乾燥空気となる。エアギャップ部の湿度をこのような範囲に調整することで、外表面開孔率および外表面平均孔面積、外表面親水性高分子含有率を適正な範囲にコントロールすることが可能となる。
外部凝固液は0〜50質量%のDMAc水溶液を使用するのが好ましい。外部凝固液濃度が高すぎる場合は、外表面開孔率および外表面平均孔面積が大きくなりすぎ、透析使用時エンドトキシンの血液側への逆流入の増大を起こす可能性がある。したがって、外部凝固液濃度は、より好ましくは40質量%以下、さらに好ましくは30質量%以下、よりさらに好ましくは25質量%以下である。また、外部凝固液濃度が低すぎる場合には、紡糸原液から持ち込まれる溶媒を希釈するために大量の水を使用する必要があり、また廃液処理のためのコストが増大する。そのため、外部凝固液濃度の下限はより好ましくは5質量%以上である。
本発明の中空糸膜の製造において、完全に中空糸膜構造が固定される以前に実質的に延伸をかけないことが好ましい。実質的に延伸を掛けないとは、ノズルから吐出された紡糸原液に弛みや過度の緊張が生じないように紡糸工程中のローラー速度をコントロールすることを意味する。吐出線速度/凝固浴第一ローラー速度比(ドラフト比)は0.7〜1.8が好ましい範囲である。前記比が0.7未満では、走行する中空糸膜に弛みが生じることがあり生産性の低下に繋がり、1.8を超える場合には中空糸膜の緻密層が裂けるなど膜構造が破壊されることがある。より好ましくは0.85〜1.7、さらに好ましくは0.9〜1.6、特に好ましくは1.0〜1.5である。ドラフト比をこの範囲に調整することにより細孔の変形や破壊を防ぐことができ、膜孔への血中タンパクの目詰まりを防ぎ経時的な性能安定性やシャープな分画特性を発現することが可能となる。
水洗浴を通過した中空糸膜は、湿潤状態のまま綛に巻き取り、3,000〜20,000本の束にする。ついで、得られた中空糸膜束を洗浄し、過剰の溶媒、親水性高分子を除去する。中空糸膜束の洗浄方法として、本発明では、70〜130℃の熱水、または室温〜50℃、10〜40vol%のエタノールまたはイソプロパノール水溶液に中空糸膜束を浸漬して処理するのが好ましい。
(1)熱水洗浄の場合は、中空糸膜束を過剰の水に浸漬し70〜90℃で15〜60分処理した後、中空糸膜束を取り出し遠心脱水を行う。この操作を水を更新しながら3、4回繰り返して洗浄処理を行う。
(2)加圧容器内の過剰の水に浸漬した中空糸膜束を121℃で2時間程度処理する方法をとることもできる。
(3)エタノールまたはイソプロパノール水溶液を使用する場合も、(1)と同様の操作を繰り返すのが好ましい。
(4)遠心洗浄器に中空糸膜束を放射状に配列し、回転中心から40℃〜90℃の洗浄水をシャワー状に吹きつけながら30分〜5時間遠心洗浄することも好ましい洗浄方法である。
前記洗浄方法を2つ以上組み合わせて行ってもよい。いずれの方法においても、処理温度が低すぎる場合には、洗浄回数を増やす等が必要になりコストアップに繋がることがある。また、処理温度が高すぎると親水性高分子の分解が加速し、逆に洗浄効率が低下することがある。上記洗浄を行うことにより、外表面親水性高分子の存在率の適正化を行い、固着抑制や溶出物の量を減ずることが可能となる。
本発明においては、上記した要件1〜5を同時に満たすことが重要である。該要件の同時達成により前記した特性の全てを満足することができるようになる。
本発明の中空糸膜束は、前記したごとく特性を有しているので血液浄化器用に用いるのが好ましい実施態様である。
上記した血液浄化器用として用いる場合は、バースト圧が0.5MPa以上の中空糸膜よりなる血液浄化器であり、該血液浄化器の透水率が150ml/m2/hr/mmHg以上であることが好ましい。
本発明におけるバースト圧とは、中空糸をモジュールにしてからの中空糸膜の耐圧性能の指標で、中空糸内側を空気で加圧し、加圧圧力を徐々に上げたときの、中空糸が内部圧に耐えられずに破裂(バースト)する圧力である。バースト圧は高いほど使用時の中空糸膜の切断やピンホールの発生に繋がる潜在欠陥が少ないため、0.5MPa以上が好ましく、0.7MPa以上がさらに好ましく、1.0MPa以上が特に好ましい。バースト圧が0.5MPa未満では後述するような血液リークに繋がる潜在的な欠陥を検知することができなくなる可能性がある。また、バースト圧は高いほど好ましいが、バースト圧を高めることに主眼を置き、膜厚を上げたり、空隙率を下げすぎると所望の膜性能を得ることができなくなることがある。したがって、血液透析膜として仕上げる場合には、バースト圧は2.0MPa未満が好ましい。より好ましくは、1.7MPa未満、さらに好ましくは1.5MPa未満、特に好ましくは1.3MPa未満である。
また、透水率が150ml/m2/hr/mmHg未満では溶質透過性が低下することがある。溶質透過性を上げるためには細孔径を大きくしたり、細孔数を増やしたりするが、そうすると膜強度が低下したり欠陥ができるといった問題が生じやすくなる。しかし本発明の中空糸膜では、外表面の孔径を最適化することにより支持層部分の空隙率を最適化し、溶質透過抵抗の低減と膜強度の向上をバランスさせたものである。より好ましい透水率の範囲は200ml/m2/hr/mmHg以上、さらに好ましくは300ml/m2/hr/mmHg以上、よりさらに好ましくは400ml/m2/hr/mmHg以上、特に好ましくは500ml/m2/hr/mmHg以上である。また、透水率が高すぎる場合、血液透析時の除水コントロールがしにくくなるため、2000ml/m2/hr/mmHg以下が好ましい。より好ましくは1800ml/m2/hr/mmHg以下、さらに好ましくは1500ml/m2/hr/mmHg以下、よりさらに好ましくは1300ml/m2/hr/mmHg以下、特に好ましくは1000ml/m2/hr/mmHg以下である。
通常、血液浄化に用いるモジュールは、製品となる最終段階で、中空糸やモジュールの欠陥を確認するため、中空糸内部あるいは外部をエアによって加圧するリークテストを行う。加圧エアによってリークが検出されたときには、モジュールは不良品として、廃棄あるいは、欠陥を修復する作業がなされる。このリークテストのエア圧力は血液透析器の保証耐圧(通常500mmHg)の数倍であることが多い。しかしながら、特に高い透水性を持つ中空糸型血液浄化膜の場合、通常の加圧リークテストで検出できない中空糸の微小な傷、つぶれ、裂け目などが、リークテスト後の製造工程(主に滅菌や梱包)、輸送工程、あるいは臨床現場での取り扱い(開梱や、プライミングなど)時に、中空糸の切断やピンホールの発生につながり、ひいては治療時に血液がリークするトラブルの元になるので改善が必要である。該トラブルはバースト圧を前記特性にすることで回避ができる。
また、中空糸膜の偏肉度が、上記した潜在的な欠陥の発生抑制に対して有効である。中空糸膜モジュール中の100本の中空糸膜断面を観察した際の膜厚の偏りであり、最大値と最小値の比で示す偏肉度が高いことが好ましい実施態様である。100本あたりの中空糸膜の偏肉度は0.6以上であるのが好ましい。100本の中空糸膜に1本でも偏肉度0.6未満の中空糸膜が含まれると、その中空糸膜が臨床使用時のリーク原因となる潜在欠点が発生し易くなることがあるので、本発明の偏肉度は平均値でなく、100本の最小値を表す。偏肉度は高い方が、膜の均一性が増し、潜在欠陥の発生が抑えられバースト圧が向上するので、より好ましくは0.65以上、さらに好ましくは0.7以上、よりさらに好ましくは0.75以上である。0.6未満では、潜在欠陥が発生しやすく、前記バースト圧が低くなり、血液リークの原因に繋がる可能性がある。
該偏肉度を0.6以上にするためには、例えば、製膜溶液の吐出口であるノズルのスリット幅を厳密に均一にすることが好ましい。中空糸膜の紡糸ノズルは、一般的に、紡糸原液を吐出する環状部と、その内側に中空形成剤となる芯液吐出孔を有するチューブインオリフィス型ノズルが用いられるが、スリット幅とは、前記紡糸原液を吐出する環状部の幅をさす。このスリット幅のバラツキを小さくすることで、紡糸された中空糸膜の偏肉を減らすことができる。具体的にはスリット幅の最大値と最小値の比が1.00以上1.11以下とし、最大値と最小値の差を10μm以下とすることが好ましく、5μm以下とすることがより好ましい。また、ノズル温度を最適化する、製膜時の内液の吐出斑を低減する、延伸倍率を最適化する等の方法も有効である。
さらに、バースト圧を高くする方策として、中空糸膜表面の傷や異物および気泡の混入を少なくし潜在的な欠陥を低減するのも有効な方法である。傷発生を低減させる方法としては、中空糸膜の製造工程のローラーやガイドの材質や表面粗度を最適化する、モジュールの組み立て時に中空糸膜束をモジュール容器に挿入する時に容器と中空糸膜との接触あるいは中空糸膜同士のこすれが少なくなるような工夫をする等が有効である。本発明では、使用するローラーは中空糸膜がスリップして中空糸膜表面に傷が付くのを防止するため、表面が鏡面加工されたものを使用するのが好ましい。また、ガイドは中空糸膜との接触抵抗をできるだけ避ける意味で、表面が梨地加工されたものやローレット加工されたものを使用するのが好ましい。中空糸膜束をモジュール容器に挿入する際には、中空糸膜束を直接モジュール容器に挿入するのではなく、中空糸膜との接触面が、例えば、梨地加工されたフィルムを中空糸膜束に巻いたものをモジュール容器に挿入し、挿入した後、フィルムのみモジュール容器から抜き取る方法を用いるのが好ましい。
中空糸膜への異物の混入を抑える方法としては、異物の少ない原料を用いる、製膜用の紡糸原液をろ過し異物を低減する方法等が有効である。本発明では、中空糸膜の膜厚よりも小さな孔径のフィルターを用いて紡糸原液をろ過するのが好ましく、具体的には均一溶解した紡糸原液を溶解タンクからノズルまで導く間に設けられた孔径10〜50μmの焼結フィルターを通過させる。ろ過処理は少なくとも1回行えば良いが、ろ過処理を何段階かにわけて行う場合は後段になるに従いフィルターの孔径を小さくしていくのがろ過効率およびフィルター寿命を延ばす意味で好ましい。フィルターの孔径は10〜45μmがより好ましく、10〜40μmがさらに好ましい。フィルター孔径が小さすぎると背圧が上昇し、定量性が落ちることがある。
また、気泡混入を抑える方法としては、製膜用のポリマー溶液の脱泡を行うのが有効である。紡糸原液の粘度にもよるが、静置脱泡や減圧脱泡を用いることができる。具体的には、溶解タンク内を−100〜−760mmHgに減圧した後、タンク内を密閉し5分〜30分間静置する。この操作を数回繰り返し脱泡処理を行う。減圧度が低すぎる場合には、脱泡の回数を増やす必要があるため処理に長時間を要することがある。また減圧度が高すぎると、系の密閉度を上げるためのコストが高くなることがある。トータルの処理時間は5分〜5時間とするのが好ましい。処理時間が長すぎると、減圧の効果により親水性高分子が劣化・分解することがある。処理時間が短すぎると脱泡の効果が不十分になることがある。
以下、本発明の有効性を実施例を挙げて説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、以下の実施例における物性の評価方法は以下の通りである。
1、透水率の測定
透析器の血液出口部回路(圧力測定点よりも出口側)を鉗子により流れを止め全ろ過とする。37℃に保温した純水を加圧タンクに入れ、レギュレーターにより圧力を制御しながら、37℃恒温槽で保温した透析器へ純水を送り、透析液側から流出したろ液量をメスシリンダーで測定する。膜間圧力差(TMP)は
TMP=(Pi+Po)/2
とする。ここで、Piは透析器入り口側圧力、Poは透析器出口側圧力である。TMPを4点変化させ濾過流量を測定し、それらの関係の傾きから透水性(mL/hr/mmHg)を算出する。このときTMPと濾過流量の相関係数は0.999以上でなくてはならない。また回路による圧力損失誤差を少なくするために、TMPは100mmHg以下の範囲で測定する。中空糸膜の透水性は膜面積と透析器の透水性から算出する。
UFR(H)=UFR(D)/A
ここでUFR(H)は中空糸膜の透水性(mL/m2/hr/mmHg)、UFR(D)は透析器の透水性(mL/hr/mmHg)、Aは透析器の膜面積(m2)である。
2、膜面積の計算
透析器の膜面積は中空糸の内径基準として求める。
A=n×π×d×L
ここで、nは透析器内の中空糸本数、πは円周率、dは中空糸の内径(m)、Lは透析器内の中空糸の有効長(m)である。
3、バースト圧
約10,000本の中空糸膜よりなるモジュールの透析液側を水で満たし栓をする。血液側から室温で乾燥空気または窒素を送り込み1分間に0.5MPaの割合で加圧していく。圧力を上昇させ、中空糸膜が加圧空気によって破裂(バースト)し、透析液側に満たした液に気泡が発生した時の空気圧をバースト圧とする。
4、偏肉度
中空糸100本の断面を200倍の投影機で観察する。一視野中、最も膜厚差がある一本の糸断面について、最も厚い部分と最も薄い部分の厚さを測定する。
偏肉度=最薄部/最厚部
偏肉度=1で膜厚が完璧に均一となる。
5、親水性高分子の溶出量
親水性高分子としてポリビニルピロリドンを用いた場合の測定法を例示する。
<乾燥中空糸膜モジュール>
モジュールの透析液側流路に生理食塩水を500mL/minで5分間通液し、ついで血液側流路に200mL/minで通液した。その後血液側から透析液側に200mL/minでろ過をかけながら3分間通液した。
<湿潤中空糸膜モジュール>
モジュール充填液を抜き出した後、乾燥中空糸膜モジュールと同じ処理操作を行った。
上記プライミング処理を行った中空糸膜モジュールを用いて、透析型人工腎臓装置製造承認基準に定められた方法で抽出し、該抽出液中のポリビニルピロリドンを比色法で定量した。
すなわち、中空糸膜1gに純粋100mlを加え、70℃で1時間抽出する。得られた抽出液2.5ml、0.2モルクエン酸水溶液1.25ml、0.006規定のヨウ素水溶液0.5mlをよく混合し、室温で10分間放置した、後に470nmでの吸光度を測定した。定量は標品のポリビニルピロリドンを用いて上記方法に従い測定することにより求めた検量線にて行った。
6、親水性高分子の内外表面の最表層における含有量
親水性高分子の含有量は、X線光電子分光法(ESCA法)で求めた。親水性高分子としてポリビニルピロリドン(PVP)を用いた場合の測定法を例示する。
中空糸膜1本を内表面の一部が露出するようにカミソリで斜めに切断し、内外表面が測定できるように試料台にはりつけてESCAで測定を行った。測定条件は次に示す通りである。
測定装置:アルバック・ファイ ESCA5800
励起X線:MgKα線
X線出力:14kV,25mA
光電子脱出角度:45°
分析径:400μmφ
パスエネルギー:29.35eV
分解能:0.125eV/step
真空度:約10-7Pa以下
窒素の測定値(N)と硫黄の測定値(S)から、次の式により表面でのPVP含有比率を算出した。
<PVP添加PES(ポリエーテルスルホン)膜の場合>
PVP含有比率(Hpvp)[%]
=100×(N×111)/(N×111+S×232)
<PVP添加PSf(ポリスルホン)膜の場合>
PVP含有比率(Hpvp)[%]
=100×(N×111)/(N×111+S×442)
7、中空糸膜全体での親水性高分子含有率の測定方法
親水性高分子としてPVPを用いた場合の測定法を例示する。サンプルを、真空乾燥器を用いて、80℃で48時間乾燥させ、その10mgをCHNコーダー(ヤナコ分析工業社製、MT−6型)で分析し、窒素含有量からPVPの質量割合を下記式で計算し求めた。
PVPの質量割合(質量%)=窒素含有量(質量%)×111/14
8、中空糸膜の血液接触面の表面近傍層での親水性高分子の含有量
親水性高分子としてPVPを用いた場合の測定法を例示する。測定は赤外線吸収法分析で行った。上記6と同様の方法で準備した測定サンプルを使用し、表面近傍の測定はATR法、膜全体の測定は透過法で行った。ATR法は、内部反射エレメントとしてダイヤモンド45°を使用した方法により赤外吸収スペクトルを測定した。測定にはSPECTRA TECH社製IRμs/SIRMを使用した。赤外吸収スペクトルにおける1675cm-1付近のPVPのC=Oに由来するピークの吸収強度Apと1580cm-1付近のポリスルホン系高分子に由来するピークの吸収強度Asの比Ap/Asを求めた。ATR法においては吸収強度が測定波数に依存しているため、補正値としてポリスルホン系高分子のピーク位置υsおよびPVPのピーク位置υp(波数)の比υp/υsを実測値にかけた。次の式で、血液接触表面近傍層のPVPの含有量を算出した。
表面近傍層での親水性高分子の含有量(質量%)=Cav×Ap/As×υp/υs
ただし、Cavは前記中空糸膜全体での親水性高分子含有率の測定方法で求めたPVP質量割合である。
9、中空糸膜外表面の開孔率
中空糸膜外表面を10,000倍の電子顕微鏡で観察し写真(SEM写真)を撮影する。その画像を画像解析処理ソフトで処理して中空糸膜外表面の開孔率を求めた。画像解析処理ソフトは、例えばImage PRO Plus (Media Cybernetics,Inc.)を使用して測定する。とり込んだ画像を孔部と閉塞部が識別されるように強調・フィルタ操作を実施する。その後、孔部をカウントし、孔内部に下層のポリマー鎖が見て取れる場合には孔を結合して一孔とみなしてカウントする。測定範囲の面積(A)、および測定範囲内の孔の面積の累計(B)を求めて開孔率(%)=B/A×100で求めた。これを10視野実施してその平均を求めた。初期操作としてスケール設定を実施するものとし、また、カウント時には測定範囲境界上の孔は除外しないものとする。
10、中空糸膜外表面の開孔部の平均孔面積
前項と同様にカウントし、各孔の面積を求めた。また、カウント時には測定範囲境界上の孔は除外した。これを10視野実施してすべての孔面積の平均を求めた。
11、中空糸膜の偏肉度
中空糸100本の断面を200倍の投影機で観察する。一視野中、最も膜厚差がある一本の糸断面について、最も厚い部分と最も薄い部分の厚みを測定した。
偏肉度=最薄部/最厚部
偏肉度=1で膜厚が完璧に均一となる。
12、血液リークテスト
クエン酸を添加し、凝固を抑制した37℃の牛血液を、血液浄化器に200mL/minで送液し、10mL/min・m2の割合で血液をろ過する。このとき、ろ液は血液に戻し、循環系とする。60分間後に血液浄化器のろ液を採取し、赤血球のリークに起因する赤色を目視で観察する。この血液リーク試験を各実施例、比較例ともに30本の血液浄化器を用い、血液リークしたモジュール数を調べる。
13、中空糸膜の固着性
中空糸約10,000本を束ね、30mmφ〜35mmφのモジュールケースに装てんし、2液系ポリウレタン樹脂にて封止してモジュールを作成した。各水準5本リークテストを実施し、ウレタン樹脂封止不良に起因してリーク発生となったモジュールの本数をカウントした。
14、中空糸膜の残血性
膜面積1.5m2のモジュールの透析液側を生理食塩水で満たし、健康人から採取したヘパリン加血200mlを血液バッグに詰め、血液バッグとモジュールをチューブで連結し、37℃で血液流速100ml/min、1時間循環する。循環開始前と循環60分との血液をサンプリングし、白血球数、血小板数を測定する。測定した値はヘマトクリットの値で補正する。
補正値=測定値(60分)×ヘマトクリット(0分)/ヘマトクリット(60分)
補正値から白血球と血小板の変化率を算出する。
変化率=補正値(60分)/循環開始前値×100
60分循環終了後、生理食塩水で返血し、残血している糸の本数を数えた。残血している糸の本数が10本以下を○、11本以上30本以下を△、31本以上を×として評価を実施した。
15、プライミング性
モジュールの透析液側ポートに蓋をした状態で、血液側入口ポートから200mL/minで注射用蒸留水を流し、出口ポートに注射用蒸留水が到達した時点から10秒経過するまでの間にモジュールケースを鉗子で5回軽くたたいて脱泡した後、1分間の気泡の通過個数を目視にて確認した。判定は以下の基準で行った。
10個/分以下:○
11個/分以上30個/分未満:△
30個/分以上:×
16、糸の破断強度の測定
有効試料長10cmの中空糸試験片を用い、テンシロン(東洋ボールドウィン製UTM11)を用い、クロスヘッドスピード10cm条件で引張り試験を行ない、破断点を測定した。サンプルは30本を測定し、平均値を結果とする。測定は、20±5℃、60±10%RHの温湿度環境下で実施した。中空糸が湿潤状態のものは、測定環境下で24hrの放置を行ない実質的に乾燥状態となったもので実施した。
(実施例1)
ポリエーテルスルホン(住化ケムテックス社製、スミカエクセル(R)4800P)17.6質量%、ポリビニルピロリドン(BASF社製コリドン(R)K−90)4.8質量%、ジメチルアセトアミド(DMAc)74.6質量%、RO水3.0質量%の組成からなる紡糸原液に対して、塩化マグネシウムをマグネシウム量がポリエーテルスルホンの20ppm相当量添加し、50℃で均一に溶解し、ついで真空ポンプを用いて系内を−500mmHgまで減圧した後、溶媒等が蒸発して製膜溶液組成が変化しないように直ぐに系内を密閉し15分間放置した。この操作を3回繰り返して製膜溶液の脱泡を行った。製膜溶液を30μm、15μmの2段の焼結フィルターに順に通した後、60℃に加温したチューブインオリフィスノズルの外側スリットより吐出すると同時に、内部凝固液として予め−700mmHgで60分間脱気処理した20℃の46質量%DMAc水溶液を内液吐出孔より吐出し、紡糸管により外気と遮断された450mmの乾式部を通過後、60℃のDMAc20質量%水溶液中で凝固させ、湿潤状態のまま綛に捲き上げた。この時の巻取り速度は75m/minであった。使用したチューブインオリフィスノズルのノズルスリット幅は、平均60μmであり、最大61μm最小59μm、スリット幅の最大値、最小値の比は1.03、製膜溶液のドラフト比は1.04であった。
該中空糸膜約10,000本の束の周りに中空糸束側表面が梨地加工されたポリエチレン製のフィルムを巻きつけた後27cmの長さに切断しバンドルとした。このバンドルを80℃熱水中で30分間×4回洗浄した。得られた湿潤バンドルを600rpm×5min間遠心脱液し、乾燥装置内の回転テーブルに12本×2段に中空糸膜束をセットし、オーブン中に反射板を設置し均一加熱ができるような構造を有したマイクロ波発生装置により初期1.5kWのマイクロ波を照射するとともに真空ポンプにより前記乾燥装置内を7kPaに減圧し28分間乾燥処理を行った。続いてマイクロ波出力0.5kW、減圧度7kPaにて12分間乾燥処理を行った。さらにマイクロ波出力を0.2kWに落として同様に8分間乾燥処理を行い終了した。また、同時に遠赤外線照射を併用した。この時の中空糸膜束表面の最高到達温度は65℃で、乾燥後の中空糸膜の水分率は平均2.2質量%であった。得られた中空糸膜の内径は199.9μm、膜厚は29.5μmであった。紡糸工程中、中空糸膜が接触するローラーは表面が鏡面加工されたもの、ガイドはすべて表面が梨地加工されたものを使用した。
このようにして得られた中空糸膜を用いて血液浄化器を組み立て、リークテストを行った結果、中空糸同士の固着に起因するような接着不良は認められなかった。
該血液浄化器内にRO水を充填し25kGy線量でγ線滅菌処理を行った。γ線照射後の血液浄化器より中空糸膜を切り出し、溶出物試験に供したところ、PVP溶出量は4ppmであり問題ないレベルであった。また、血液浄化器より取り出した中空糸膜の外表面を顕微鏡にて観察したところ傷等の欠陥は観察されなかった。
また、クエン酸加新鮮牛血を血液流量200mL/min、ろ過速度10mL/min・m2で血液浄化器に流したが、血球リークはみられなかった。中空糸外側から中空糸内側にろ過されたエンドトキシンは検出限界以下であり、問題ないレベルであった。その他の分析結果を表1に示した。
同様に作製した、血液浄化モジュールを用いて、該血液浄化器内にRO水を充填し40kGy線量でγ線滅菌処理を行った。γ線照射の前後での血液浄化器より中空糸膜を切り出し、破断強度の測定を行なった。γ線照射前の強度は、14.3gであり、40kGyのγ線照後の強度は、13.4gであり、十分は強度を保持していた。
Figure 2005342412
(比較例1)
紡糸原液をポリビニルピロリドン(BASF社製コリドン(R)K−90)2.4質量%、DMAc77質量%に変更し、乾式部長さを650mmに変更した以外は実施例1と同様にして湿潤中空糸膜を得た。得られた中空糸膜は実施例1と同様にして洗浄処理を行い、60℃の温風乾燥器中で乾燥処理を行った。得られた中空糸膜の含水率は3.3質量%、内径は199.8μm、膜厚は29.7μmであった。実施例1と同様な評価サンプルから得られた中空糸膜束および血液浄化器の特性を表1に示す。比較例1の中空糸膜は残血性が悪かったが、これは内表面の表面近傍のPVP含有量が低いためと推測する。
(比較例2)
実施例1において、PVP(BASF社製コリドン(R)K−90)の仕込み量を12.0質量%、DMAcを67.4質量%とした以外は実施例1と同様にして紡糸原液を得た。また、中空形成剤の温度コントロールを行わなかったことと、洗浄処理を行わなかったこと、中空糸膜束の乾燥処理を比較例1と同様にした以外は、実施例1と同様にして中空糸膜束および血液浄化器を得た。得られた中空糸膜束および血液浄化器の特性を表1に示す。本比較例で得られた中空糸膜は、内表面の最表層のPVP含有量が高くPVPの溶出量が高かった。また、中空糸膜外表面のPVP含有量が多いためエンドトキシンの血液側への透過がみられた。
(比較例3)
比較例2において、熱水洗浄回数を8回に変更する以外は、比較例2と同様にして中空糸膜束および血液浄化器を得た。得られた中空糸膜束および血液浄化器の特性を表1に示す。本比較例で得られた中空糸膜束は、外表面の最表層のPVP含有量が低く、外表面の親水性が低いためプライミング性が劣っていた。
(実施例2)
ポリエーテルスルホン(住化ケムテックス社製、スミカエクセル(R)4800P)19.0質量%、ポリビニルピロリドン(BASF社製コリドン(R)K−90)5.0質量%、DMAc72.0質量%、水4質量%の組成からなる紡糸原液に対して、塩化マグネシウムをマグネシウム量がポリエーテルスルホンの10ppm相当量添加し、50℃で溶解し、ついで真空ポンプを用いて系内を−700mmHgまで減圧した後、溶媒等が揮発して製膜溶液組成が変化しないように直ぐに系内を密閉し10分間放置した。この操作を3回繰り返して製膜溶液の脱泡を行った。得られた製膜溶液を15μm、15μmの2段のフィルターに通した後、70℃に加温したチューブインオリフィスノズルの外側スリットより吐出すると同時に、内部凝固液として予め−700mmHgで2時間脱気処理した15℃の55質量%DMAc水溶液を内液吐出孔より吐出し、紡糸管により外気と遮断された450mmのエアギャップ部を通過後、60℃の水中で凝固させた。使用したチューブインオリフィスノズルのノズルスリット幅は、平均45μmであり、最大45.5、最小44.5μm、スリット幅の最大値、最小値の比は1.02、ドラフト比は1.06、乾式部の絶対湿度は0.12kg/kg乾燥空気であった。凝固浴から引き揚げられた中空糸膜は90℃の水洗槽を30秒間通過させ溶媒と過剰の親水性高分子を除去した後巻き上げた。該中空糸膜約10,000本の束の周りに実施例1と同様のポリエチレン製のフィルムを巻きつけた後、30℃の40vol%イソプロパノール水溶液で30分×2回浸漬洗浄し、水に置換した。
得られた湿潤状態の中空糸膜束を600rpm×5min間遠心脱液を行い、乾燥装置内の回転テーブルに48本×2段にセットし、初期7kWのマイクロ波を照射するとともに乾燥装置内を5kPaに減圧し65分間乾燥処理を行った。続いてマイクロ波出力3.5kW、減圧度5kPaにて50分間乾燥処理を行った。さらにマイクロ波出力を2.5kWに落として同様に10分間乾燥処理を行い終了した。乾燥処理中の中空糸膜束表面の最高到達温度は65℃で含水率は平均2.5質量%であった。紡糸工程中の糸道変更のためのローラーは表面が鏡面加工されたものを使用し、固定ガイドは表面が梨地処理されたものを使用した。得られた中空糸膜の内径は200.3μm、膜厚は29.9μmであった。
このようにして得られた中空糸膜を用いて血液浄化器を組み立て、リークテストを行った結果、中空糸同士の固着に起因するような接着不良は認められなかった。
該血液浄化器は、アルミ薄/PET積層フィルムより作製した袋に入れ、窒素置換を数回繰返し内部雰囲気を窒素にした後完全にシールした。この後γ線25kGyでの滅菌処理を実施した。血液浄化器より中空糸膜を切り出し、実施例1と同様の試験を実施した。
牛血液を用いた血液リークテストでは血球リークはみられなかった。また、エンドトキシン透過試験の結果、中空糸外側から中空糸内側にろ過されたエンドトキシンは検出限界以下であり、問題ないレベルであった。その他の分析結果を表1に示した。
同様に作製した、血液浄化モジュールを用いて、アルミ薄/PET積層フィルムより作製した袋に入れ、窒素置換を数回繰返し内部雰囲気を窒素にした後完全にシールした。この後γ線40kGyでの滅菌処理を実施した。γ線照射の前後での血液浄化器より中空糸膜を切り出し、破断強度の測定を行なった。γ線照射前の強度は、16.4gであり、40kGyのγ線照射後の強度は、14.3gであり十分は強度を保持していた。
(実施例3)
実施例2において、紡糸原液に対して、塩化カルシウムをカルシウム量がポリエーテルスルホンの30ppm相当量添加に変更する以外は、実施例2と同様にして中空糸膜束および血液浄化器を得た。γ線滅菌処理は実施例2と同様に行った。得られた中空糸膜束および血液浄化器の特性を表1に示す。本実施例で得られた中空糸膜束は、γ線照射前の強度は、16.6gであり、40kGyのγ線照射後の強度は、14.2gであり十分な強度を保持していた。
(比較例4)
実施例1において、紡糸原液へのマグネシウム添加の実施を行なわない以外は、同様にして中空糸膜束および血液浄化器を得た。得られた中空糸膜束および血液浄化器の特性を表1に示す。本比較例で得られた中空糸膜束は、γ線照射前の強度は、14.2gであり、40kGyのγ線照射後の強度は、10.4gであり強度保持は十分ではなかった。
(比較例5)
実施例2において、紡糸原液へのマグネシウム添加の実施を行なわない以外は、同様にして中空糸膜束および血液浄化器を得た。得られた中空糸膜束および血液浄化器の特性を表1に示す。本比較例で得られた中空糸膜束は、γ線照射前の強度は、16.5gであり、40kGyのγ線照射後の強度は、11.0gであり強度保持は十分ではなかった。
(実施例4)
ポリスルホン(アモコ社製P-1700)17質量%、ポリビニルピロリドン(BASF社製K-60)4.8質量%、DMAc73.7質量%、水4.5質量%とし、塩化マグネシウムをマグネシウム量がポリスルホンの20ppm相当量添加し、50℃で溶解し、ついで真空ポンプを用いて系内を−400mmHgまで減圧した後、溶媒等が揮発して製膜溶液組成が変化しないように直ぐに系内を密閉し30分間放置した。この操作を3回繰り返して製膜溶液の脱泡を行った。得られた製膜溶液を15μm、15μmの2段のフィルターに通した後、40℃に加温したチューブインオリフィスノズルの外側スリットから吐出すると同時に、内部凝固液として減圧脱気された0℃の40質量%DMAc水溶液をチューブインオリフィスノズルの内側吐出孔より吐出し、紡糸管により外気と遮断された600mmのエアギャップ部を通過後、50℃の水中で凝固させた。使用したチューブインオリフィスノズルのノズルスリット幅は、平均60μmであり、最大61μm、最小59μm、スリット幅の最大値、最小値の比は1.03、ドラフト比は1.01、乾式部の絶対湿度は0.07kg/kg乾燥空気であった。凝固浴から引き揚げられた中空糸膜は85℃の水洗槽を45秒間通過させ溶媒と過剰の親水性高分子を除去した後巻き上げた。該中空糸膜10,700本の束を純水に浸漬し、121℃×1時間オートクレーブにて洗浄処理を行った。洗浄後の中空糸膜束の周りにポリエチレン製のフィルムを巻きつけた後、実施例2と同様にして乾燥した。紡糸工程中の糸道変更のためのローラーは表面が鏡面加工されたものを使用し、固定ガイドは表面が梨地処理されたものを使用した。得られた中空糸膜の内径は203.5μm、膜厚は40.8μmであった。
このようにして得られた中空糸膜を用いて血液浄化器を組み立て、リークテストを行った結果、中空糸同士の固着に起因するような接着不良は認められなかった。該血液浄化器内にRO水を充填し25kGyの吸収線量でγ線を照射し架橋処理を行った。
γ線照射後の血液浄化器より中空糸膜を切り出し、溶出物試験に供したところ、PVP溶出量4ppmであり問題ないレベルであった。また、外表面を顕微鏡にて観察したところ傷等の欠陥は観察されなかった。
クエン酸加新鮮牛血を血液流量200mL/min、ろ過速度10mL/minで血液浄化器に流したが、血球リークはみられなかった。また、中空糸外側から中空糸内側にろ過されたエンドトキシンは検出限界以下であり、問題ないレベルであった。その他の分析結果を表1に示した。
同様に作製した、血液浄化モジュールを用いて、該血液浄化器内にRO水を充填し40kGy線量でγ線滅菌処理を行った。γ線照射の前後での血液浄化器より中空糸膜を切り出し、破断強度の測定を行なった。γ線照射前の強度は、16.8gであり、40kGyのγ線照射後の強度は、15.3gであり、十分は強度を保持していた。
(比較例6)
実施例4において、紡糸原液へのマグネシウム添加の実施を行なわない以外は、同様にして中空糸膜束および血液浄化器を得た。得られた中空糸膜束および血液浄化器の特性を表1に示す。本比較例で得られた中空糸膜束は、γ線照射前の強度は、16.6gであり、40kGyのγ線照射後の強度は、12.3gであり強度保持は十分ではなかった。
本発明のポリスルホン系中空糸膜は、安全性や性能の安定性が高く、かつモジュール組み立て性に優れており、放射線滅菌に対する耐久性を有し、慢性腎不全の治療に用いる高透水性能を有する中空糸型血液浄化器用として好適であり産業界に寄与することが大である。

Claims (9)

  1. ポリスルホン系樹脂および親水性高分子を主成分としてなるポリスルホン系選択透過性中空糸膜において、下記(イ)〜(ハ)を同時に満たすことを特徴とするポリスルホン系選択透過性中空糸膜。
    (イ)該中空糸膜における内表面最表層の親水性高分子の含有量が、該内表面の表面近傍層の親水性高分子の含有量に対して1.1倍以上である。
    (ロ)該中空糸膜における外表面最表層の親水性高分子の含有量が、内表面最表層の親水性高分子の含有量に対して1.1倍以上である。
    (ハ)該中空糸膜に、40kGy線量のγ線を照射した後の中空糸膜の破断強度が、γ線照射前の中空糸膜の破断強度に対して80%以上である。
  2. 該ポリスルホン系選択透過性中空糸膜における内表面最表層とは内表面より深さが10nmまでの層を対象とし、表面近傍層とは内表面より深さが1000〜1500nm(1〜1.5μm)までの層を対象とすることを特徴とする請求項1に記載のポリスルホン系選択透過性中空糸膜。
  3. 該ポリスルホン系選択透過性中空糸膜における親水性高分子の含有量が内表面最表層で20〜40質量%、表面近傍層で5〜20質量%、および外表面最表層で25〜50質量%であることを特徴とする請求項1あるいは2に記載のポリスルホン系選択透過性中空糸膜。
  4. ポリスルホン系樹脂99〜80質量%および親水性高分子1〜20質量%を主成分とすることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のポリスルホン系選択透過性中空糸膜。
  5. 親水性高分子がポリビニルピロリドンであることを特徴とする請求項1〜4いずれかに記載のポリスルホン系選択透過性中空糸膜。
  6. 親水性高分子の中空糸膜よりの溶出量が10ppm以下であることを特徴とする請求項1〜5いずれかに記載のポリスルホン系選択透過性中空糸膜。
  7. 中空糸膜外表面の開孔率が8%以上25%未満であることを特徴とする請求項1〜6いずれかに記載のポリスルホン系選択透過性中空糸膜。
  8. 前記親水性高分子は架橋され水に不溶化していることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載のポリスルホン系選択透過性中空糸膜。
  9. 血液浄化器用に用いることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載のポリスルホン系選択透過性中空糸膜。
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EP3141296A4 (en) * 2014-05-08 2018-01-03 Toray Industries, Inc. Hollow fiber membrane module and manufacturing method thereof

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