以下、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。
始めに、図1を参照して、本出願において用いられる用語について説明する。図1は、電波反射減衰体1に入射した電波が、電波反射減衰体1によって反射される様子を表している。入射波2と反射波3とを含む面を入射面4と言う。電波反射減衰体1の電波到来側の面における入射波2の入射点で、その面に立てた法線を入射法線5と言う。入射法線5と入射波2の進行方向とがなす角度を入射角度θiと言い、入射法線5と出射波3の進行方向とがなす角度を反射角度θrという。反射減衰体1の電波到来側の面が平面である場合には、入射角度θiと反射角度θrは等しい。
また、電界が入射面に垂直な電波をTE波と言い、磁界が入射面に垂直な電波をTM波と言う。図1において、符号11はTE波の電界ベクトルを表し、符号12はTM波の電界ベクトルを表している。これらTE波およびTM波の電界ベクトルの大きさは、周波数に依存し時間変化に伴って変化している。また、電界ベクトルが周波数に依存し時間変化に伴って回転している電波を円偏波と言う。円偏波には、電界ベクトルが右回転する右旋偏波13と、電界ベクトルが左回転する左旋偏波14とがある。
[第1の実施の形態]
次に、本発明の第1の実施の形態に係る円偏波用電波反射減衰体の設計方法および電波反射減衰体について説明する。
本実施の形態に係る設計方法は、円偏波の電波に対して所望の反射減衰特性を有する円偏波用電波反射減衰体を設計する方法であって、TE波に対する電波反射減衰体の複素反射係数ΓTE *(*は複素数であることを表す。)とTM波に対する電波反射減衰体の複素反射係数ΓTM *との平均の絶対値|(ΓTE *+ΓTM *)/2|が所望の値A以下になるように、各複素反射係数ΓTE *、ΓTM *を変化させるパラメータの値を決定するものである。複素反射係数ΓTE *、ΓTM *を変化させるパラメータは、例えば電波反射減衰体が電波吸収体の場合には、電波吸収体を構成する1以上の層の電磁気的な定数(複素比誘電率、複素比透磁率)や厚さ等である。
上記の|(ΓTE *+ΓTM *)/2|は、円偏波に対する電波反射減衰体の複素反射係数ΓCP *の絶対値となる。従って、本実施の形態に係る設計方法は、以下の式(1)を満たすように、複素反射係数ΓTE *、ΓTM *を変化させるパラメータの値を決定するものである。
|ΓCP *|=|(ΓTE *+ΓTM *)/2|≦A …(1)
円偏波に対する電波反射減衰体の反射減衰量Sは、−20log|ΓCP *|(単位はdB)と表される。従って、本実施の形態に係る設計方法は、以下の式(2)を満たすように、複素反射係数ΓTE *、ΓTM *を変化させるパラメータの値を決定すると言うこともできる。
S=−20log|ΓCP *|
=−20log|(ΓTE *+ΓTM *)/2|≧−20logA …(2)
本実施の形態に係る設計方法では、所望の周波数範囲および所望の入射角度範囲において、上記式(1)または式(2)を満たすように、複素反射係数ΓTE *、ΓTM *を変化させるパラメータの値を決定する。
なお、本実施の形態において、円偏波とは、完全な円偏波のみでなく、概ね円偏波とみなせる楕円偏波も含む。本実施の形態において、概ね円偏波とみなせる楕円偏波とは、軸比(楕円偏波率)が1.1以下の楕円偏波を言う。
また、電波反射減衰体は、電波の反射を抑制するものであればよく、代表的な例としては電波吸収体があるが、電波吸収体に限られるものではない。図2ないし図4は、電波吸収体以外の電波反射減衰体の例を示したものである。
図2は、位相調整型の電波反射減衰体21を示している。この電波反射減衰体21は電波を反射する材料によって構成され、段差を有する2種類の反射面21a,21bを有している。電波反射減衰体21に入射した電波20は反射面21a,21bで反射される。反射面21aで反射された電波と反射面21bで反射された電波との間には位相差が生じ、この位相差により、2つの反射波が重なった後の電波が減衰される。
図3、図4は、それぞれ、電波散乱型の電波反射減衰体22,23を示している。これらの電波反射減衰体22,23は電波を反射する材料によって構成されている。電波反射減衰体22は多角錘形状または楔形状の反射面を有している。電波反射減衰体23は波形の反射面を有している。電波反射減衰体22,23に入射した電波20は反射面で反射、散乱され、反射波が減衰される。
例えば図2ないし図4に示したような電波反射減衰体であっても、TE波、TM波それぞれに対する電波反射減衰体の複素反射係数を計算することにより、円偏波に対する電波反射減衰体の複素反射係数の絶対値を計算することができ、これにより、電波反射減衰体の設計が可能になる。
ここまでは、円偏波の電波に対して所望の反射減衰特性を有する円偏波用電波反射減衰体を設計する方法について説明してきたが、本実施の形態に係る設計方法は、楕円偏波の電波に対して所望の反射減衰特性を有する電波反射減衰体を設計する場合にも応用することができる。
以下、楕円偏波の電波に対して所望の反射減衰特性を有する電波反射減衰体を設計する方法について説明する。まず、図5に示したように、電波の入射面と平行な方向をx方向とし、入射面と垂直な方向をy方向とする。また、楕円偏波の入射電波のx方向の電界Exの大きさの最大値をX=|Ex|とし、入射電波のy方向の電界Eyの大きさの最大値をY=|Ey|とする。楕円偏波の電波に対して所望の反射減衰特性を有する電波反射減衰体を設計するには、以下の式(3)で表されるように、楕円偏波に対する電波反射減衰体の複素反射係数ΓEP *の絶対値が所望の値A以下になるように、複素反射係数ΓTE *、ΓTM *を変化させるパラメータの値を決定すればよい。
|ΓEP *|=|[{Y/(X+Y)}ΓTE *+{X/(X+Y)}ΓTM *)]|≦A …(3)
楕円偏波に対する電波反射減衰体を設計する場合には、入射電波のx方向の電界の大きさの最大値Xとy方向の電界の大きさの最大値Yとが異なるので、電波反射減衰体に対して入射面を固定する必要がある。すなわち、電波の到来方向と電波反射減衰体の設置位置との関係を固定する必要がある。なお、電波反射減衰体が、TE波、TM波の両直線偏波に対して良好な電波吸収特性を有する電波吸収体の場合には、電波反射減衰体の反射減衰特性は、電波の到来方向と電波反射減衰体の設置位置との関係に依存しない。
以下、電波反射減衰体として電波吸収体を用いる場合を例にとって、本実施の形態に係る設計方法について更に詳しく説明する。
電波反射減衰体としての電波吸収体は、抵抗体(導電体)によって裏打されていてもよい。抵抗体(導電体)としては、金属板や、導電性メッシュや、透光性もしくは透明性を有する抵抗膜等を用いることができる。抵抗体(導電体)が、導電性メッシュや透光性もしくは透明性を有する抵抗膜である場合には、それが電波反射体として機能すべく、その面抵抗値が0Ω□〜50Ω□以下であることが好ましい。
また、電波吸収体は誘電体からなる層(以下、誘電体層と言う。)を含んでいてもよい。誘電体層としては、空気層や、有機材質や無機材質の誘電体の層や、有機材質や無機材質の誘電体の発泡材からなる層や、有機材質や無機材質の誘電体の基材に誘電損失体の紛粒や誘電損失体の繊維を混合したものからなる層や、有機材質や無機材質の誘電体の発泡材に誘電損失体の紛粒や誘電損失体の繊維を混合したものからなる層等を用いることができる。
次に、円偏波用電波反射減衰体としての電波吸収体およびその設計方法の3つの実施例について説明する。
[第1の実施例]
第1の実施例は、抵抗体(導電体)および1層の誘電体層からなる電波吸収体およびその設計方法の例である。
図6は、抵抗体(導電体)31および1層の誘電体層32からなる電波吸収体30の構成およびその電気的等価回路を示している。この電波吸収体30では、誘電体層32が電波到来側に配置される。この電波吸収体30において、抵抗体(導電体)31を第1層とし、誘電体層32を第2層とする。
また、自由空間(空気)の特性インピーダンスをZ0とし、自由空間における電波の波長をλ0とし、電波吸収体30の表面への電波の入射角度をθとし、第k層の複素比誘電率をεrk *とし、第k層の複素比透磁率をμrk *とし、第k層の厚さをdkとし、第k層の特性インピーダンスをZCk *とし、第k−1層の電波到来側表面から見込んだインピーダンスをZink-1 *とし、第k層の伝搬定数をγk *(=j・(2π/λ0)√(εrk *μrk *−sin2θ))とする。
第k層が抵抗体(導電体)以外の場合、すなわち、本実施例においてk=2の場合には、第k層の電波到来側表面から見込んだインピーダンスZink *は、次の式(4)で表される。
Zink *=ZCk *(Zink-1 *+ZCk *tanhγk *dk)/(ZCk *+Zink-1 *tanhγk *dk) …(4)
ここで、入射電波がTE波の場合には、ZCk *=Z0μrk */√(εrk *μrk *−sin2θ)であり、入射電波がTM波の場合には、ZCk *=Z0√(μrk *εrk *−sin2θ)/εrk *である。
次に、第k層が抵抗体(導電体)の場合、すなわち、本実施例においてk=1の場合には、第k層の電波到来側表面から見込んだインピーダンスZink *は、次の式(5)で表される。
Zink *=Rk・Zink-1 */(Rk+Zink-1 *) …(5)
ここで、Rkは第k層の面抵抗値(単位はΩ□)である。
以上の漸化式(4)、(5)より、電波吸収体30の電波到来側表面から見込んだインピーダンスZinN *が求められる。なお、本実施例ではN=2である。
上記インピーダンスZinN *より、TE波に対する複素反射係数ΓTE *と、TM波に対する複素反射係数ΓTM *は、以下の式によって求められる。
ΓTE *={ZinN *−(Z0/cosθ)}/{ZinN *+(Z0/cosθ)}
ΓTM *=(ZinN *−Z0cosθ)/(ZinN *+Z0cosθ)
また、円偏波に対する電波吸収体30の反射減衰係数の絶対値|ΓCP *|は、以下の式によって求められる。
|ΓCP *|=|(ΓTE *+ΓTM *)/2|
更に、円偏波に対する電波吸収体30の反射減衰量S(単位はdB)は、以下の式によって求められる。
S=−20log|ΓCP *|=−20log|(ΓTE *+ΓTM *)/2|
ここで、例えば、円偏波に対する電波吸収体30の反射減衰係数の絶対値|ΓCP *|、すなわち|(ΓTE *+ΓTM *)/2|が0.1以下になるように設計すれば、円偏波に対する電波吸収体30の反射減衰量Sは20dB以上となる。
なお、抵抗体(導電体)31が金属板である場合、すなわちRk=0である場合には、Zink-1 *によらず、Zink *=0である。このことは、金属板が存在した場合には、この層より小さい番号の層、すなわち電波進行方向の層についてインピーダンスの計算を行う必要がないことを示している。
本実施例において抵抗体(導電体)31が金属板である場合には、Zin1 *=0となるので、Zin2 *は、以下の式のようになる。
Zin2 *=ZC2 *(Zin1 *+ZC2 *tanhγ2 *d2)/(ZC2 *+Zin1 *tanhγ2 *d2)=ZC2 *tanhγ2 *d2
次に、本実施例における電波吸収体30の設計の一例と、設計された電波吸収体30について計算によって求めた特性を示す。この設計では、周波数f=5.8(GHz)、R1=0(Ω□)、εr2 *=1.9−j・1.1(5.8GHzにおいて)、μr2 *=1−j・0、d2=11(mm)とした。電波吸収体30に対する電波の入射角度が0度〜70度の場合において、設計された電波吸収体30について計算によって求めた特性、すなわちTE波、TM波および円偏波のそれぞれについての入射角度と反射減衰量との関係を図7に示す。
図7において、0度〜50度の入射角度範囲に着目する。TE波の場合にはこの入射角度範囲内において15dB以上の反射減衰量を有しているが、TM波の場合には入射角度が約36度以上になると反射減衰量が15dB未満となっている。ところが、円偏波に対しては、この入射角度範囲内において、15dB以上の反射減衰量を有している。このことは、所望の入射角度範囲で円偏波に対して15dB以上の反射減衰量を有する電波吸収体が、必ずしもTE波およびTM波の両直線偏波に対して15dB以上の反射減衰量を有する必要がないことを示している。
図7に示した特性の電波吸収体は、50度の電波入射角度において、TE波に対する反射減衰量とTM波に対する反射減衰量の一方は15dB未満であり、円偏波に対する反射減衰量は15dB以上である電波反射減衰体となる。また、図7に示した特性の電波吸収体では、0度〜50度の電波入射角度範囲内の全域において、円偏波に対する反射減衰量は15dB以上である。
[第2の実施例]
第2の実施例は、抵抗体(導電体)および3層の誘電体層からなる電波吸収体およびその設計方法の例である。
図8は、抵抗体(導電体)41と、この抵抗体(導電体)41側から順に配置された誘電体層42,43,44からなる電波吸収体40の構成およびその電気的等価回路を示している。この電波吸収体40では、誘電体層44が電波到来側に配置される。この電波吸収体40において、抵抗体(導電体)41を第1層とし、誘電体層42を第2層とし、誘電体層43を第3層とし、誘電体層44を第4層とする。
本実施例においても、第1層に対しては第1の実施例で示した漸化式(5)を用い、第2層、第3層、第4層に対しては第1の実施例で示した漸化式(4)を用いることによって、円偏波用電波反射減衰体としての電波吸収体40の設計が可能である。
次に、本実施例における電波吸収体40の設計の一例と、設計された電波吸収体40について計算によって求めた特性を示す。この設計では、周波数f=5.8(GHz)、R1=0(Ω□)、εr2 *=1.9−j・1.1(5.8GHzにおいて)、μr2 *=1−j・0、d2=27(mm)、εr3 *=1.54−j・0.32(5.8GHzにおいて)、μr3 *=1−j・0、d3=3.5(mm)、εr4 *=2.8−j・0.02(5.8GHzにおいて)、μr4 *=1−j・0、d4=1(mm)とした。電波吸収体40に対する電波の入射角度が0度〜70度の場合において、設計された電波吸収体40について計算によって求めた特性、すなわちTE波、TM波および円偏波のそれぞれについての入射角度と反射減衰量との関係を図9に示す。
図9において、0度〜40度の入射角度範囲に着目する。TM波の場合にはこの入射角度範囲内において20dB以上の反射減衰量を有しているが、TE波の場合には入射角度が約38度以上になると反射減衰量が20dB未満となっている。ところが、円偏波に対しては、この入射角度範囲内において、20dB以上の反射減衰量を有している。このことは、所望の入射角度範囲で円偏波に対して20dB以上の反射減衰量を有する電波吸収体が、必ずしもTE波およびTM波の両直線偏波に対して20dB以上の反射減衰量を有する必要がないことを示している。
図9に示した特性の電波吸収体は、40度の電波入射角度において、TE波に対する反射減衰量とTM波に対する反射減衰量の一方は20dB未満であり、円偏波に対する反射減衰量は20dB以上である電波反射減衰体となる。また、図9に示した特性の電波吸収体では、0度〜40度の電波入射角度範囲内の全域において、円偏波に対する反射減衰量は20dB以上である。
また、図9において、0度〜50度の入射角度範囲に着目する。TM波の場合にはこの入射角度範囲内において15dB以上の反射減衰量を有しているが、TE波の場合には入射角度が約49度以上になると反射減衰量が15dB未満となっている。ところが、円偏波に対しては、この入射角度範囲内において、15dB以上の反射減衰量を有している。このことは、所望の入射角度範囲で円偏波に対して15dB以上の反射減衰量を有する電波吸収体が、必ずしもTE波およびTM波の両直線偏波に対して15dB以上の反射減衰量を有する必要がないことを示している。
図9に示した特性の電波吸収体は、50度の電波入射角度において、TE波に対する反射減衰量とTM波に対する反射減衰量の一方は15dB未満であり、円偏波に対する反射減衰量は15dB以上である電波反射減衰体となる。また、図9に示した特性の電波吸収体では、0度〜50度の電波入射角度範囲内の全域において、円偏波に対する反射減衰量は15dB以上である。
次に、図9に示した設計例の電波吸収体40について、入射角度が0度〜70度の場合において、計算によって求めた複素反射係数の特性、すなわちTE波、TM波および円偏波のそれぞれについての入射角度と複素反射係数との関係を図10および図11に示す。図10は入射角度と複素反射係数の実部との関係を示し、図11は入射角度と複素反射係数の虚部との関係を示している。
図10に示した複素反射係数の実部に着目すると、TE波の場合には入射角度が大きくなるにつれて複素反射係数の実部は負側に大きくなり、TM波の場合には入射角度が大きくなるにつれて複素反射係数の実部は正側に大きくなっている。しかしながら、円偏波の場合における複素反射係数の実部は、TE波の場合における複素反射係数の実部とTM波の場合における複素反射係数の実部との平均となるために、入射角度が大きくなっても入射角度0度における値を概ね維持している。
また、図11に示した複素反射係数の虚部に着目すると、円偏波の場合における複素反射係数の虚部は、TE波の場合における複素反射係数の虚部とTM波の場合における複素反射係数の虚部との平均となるために、その複素反射係数の虚部の絶対値は、TE波の場合における複素反射係数の虚部の絶対値とTM波の場合における複素反射係数の虚部の絶対値のうちの大きい方の値よりも小さくなっている。
以上のことから分かるように、円偏波に対して良好な反射減衰特性(電波吸収特性)を有する電波吸収体を設計する場合には、TE波およびTM波の両直線偏波に対して良好な反射減衰特性(電波吸収特性)を有するように設計する必要はなく、TE波の場合における複素反射係数とTM波の場合における複素反射係数との平均値が、実部、虚部共に0に近づくように設計することが必要である。
ところで、TE波、TM波および円偏波のそれぞれについて、電波吸収体の電波到来側表面から見込んだインピーダンスが、ZinTE *、ZinTM *およびZinCP *とすると、(ZinTE *)2+(ZinTM *)2−2ZinTE *・ZinTM *=0を満たす範囲においては、ZinCP *=(ZinTE *+ZinTM *)/2が成り立っている。
次に、本実施例における電波吸収体40の設計の他の例と、設計された電波吸収体40について計算によって求めた特性を示す。この設計では、周波数f=5.8(GHz)、R1=0(Ω□)、εr2 *=1.9−j・1.1(5.8GHzにおいて)、μr2 *=1−j・0、d2=27(mm)、εr3 *=1.54−j・0.32(5.8GHzにおいて)、μr3 *=1−j・0、d3=5(mm)、εr4 *=2.8−j・0.02(5.8GHzにおいて)、μr4 *=1−j・0、d4=1(mm)とした。電波吸収体40に対する電波の入射角度が0度〜70度の場合において、設計された電波吸収体40について計算によって求めた特性、すなわちTE波、TM波および円偏波のそれぞれについての入射角度と反射減衰量との関係を図12に示す。
図12において、0度〜50度の入射角度範囲に着目する。TM波の場合にはこの入射角度範囲内において20dB以上の反射減衰量を有しているが、TE波の場合には入射角度が約45度以上になると反射減衰量が20dB未満となっている。ところが、円偏波に対しては、この入射角度範囲内において、20dB以上の反射減衰量を有している。このことは、所望の入射角度範囲で円偏波に対して20dB以上の反射減衰量を有する電波吸収体が、必ずしもTE波およびTM波の両直線偏波に対して20dB以上の反射減衰量を有する必要がないことを示している。
ところで、本実施の形態に係る円偏波用電波吸収体の設計方法において、電波吸収体は磁性体からなる層(以下、磁性体層と言う。)を含んでいてもよい。磁性体層では、複素比透磁率μr *が1−j・0ではなくなる。磁性体層としては、焼結フェライトからなる層や、有機材質や無機材質の誘電体の基材に磁性体の紛粒を混合したものからなる層や、有機材質や無機材質の誘電体の発泡材に磁性体の紛粒を混合したものからなる層等を用いることができる。また、磁性体層には、複素比誘電率を調整すべく、誘電体の粉粒もしくは誘電損失体の粉粒や誘電損失体の繊維を混合してもよい。
また、本実施例では、3層の誘電体層を有する電波吸収体を示したが、より多くの層を含む電波吸収体も、第1の実施例で示した漸化式を用いることにより設計可能である。また、電波吸収体は、誘電体層のみが積層されてなるものや、複数の磁性体層のみが積層されてなるものに限らず、誘電体層および磁性体層が積層されてなるものでもよい。
また、電波吸収体は、後述する第3の実施例のように、抵抗体からなる層(膜)を含んでいてもよい。抵抗体(導電体)からなる層(膜)は、透光性もしくは透明性を有する膜であってもよい。透光性を有する膜としては、例えば、透明な誘電体(有機高分子、ガラス等)の上に金属酸化物、金属窒化物または金属を蒸着、スパッタリング、イオンプレーティング、塗布等の方法によって形成された透明な膜を用いることができる。また、抵抗体(導電体)からなる層(膜)の面抵抗値(単位はΩ□)は、周波数分散性もしくは周波数選択性を有していてもよい。また、抵抗体(導電体)からなる層(膜)の面抵抗値(単位はΩ□)は、異方性もしくは偏波選択性を有していてもよい。
[第3の実施例]
第3の実施例は、2層の抵抗体(導電体)および3層の誘電体層からなる電波吸収体およびその設計方法の例である。
図13は、順に配置された誘電体層51、抵抗体(導電体)52、誘電体層53、抵抗体(導電体)54および誘電体層55からなる電波吸収体50の構成およびその電気的等価回路を示している。この電波吸収体50では、誘電体層55が電波到来側に配置される。この電波吸収体50において、誘電体層51を第1層とし、抵抗体(導電体)52を第2層とし、誘電体層53を第3層とし、抵抗体(導電体)54を第4層とし、誘電体層55を第5層とする。
本実施例においても、第1層、第3層、第5層に対しては第1の実施例で示した漸化式(4)を用い、第2層、第4層に対しては第1の実施例で示した漸化式(5)を用いることによって、円偏波用電波反射減衰体としての電波吸収体50の設計が可能である。
次に、本実施例における電波吸収体50の設計の一例と、設計された電波吸収体50について計算によって求めた特性を示す。この設計では、周波数f=2.45(GHz)、R2=10(Ω□)、R4=405(Ω□)、εr1 *=εr3 *=εr5 *=2.7−j・0.03(2.45GHzにおいて)、μr1 *=μr3 *=μr5 *=1−j・0、d1=1(mm)、d3=18.4(mm)、d5=1(mm)とした。電波吸収体50に対する電波の入射角度が0度〜70度の場合において、設計された電波吸収体50について計算によって求めた特性、すなわちTE波、TM波および円偏波のそれぞれについての入射角度と反射減衰量との関係を図14に示す。
図14において、0度〜40度の入射角度範囲に着目する。TE波、TM波の場合には共に入射角度が約35度以上になると反射減衰量が20dB未満となっている。ところが、円偏波に対しては、この入射角度範囲内において、20dB以上の反射減衰量を有している。このことは、所望の入射角度範囲で円偏波に対して20dB以上の反射減衰量を有する電波吸収体が、必ずしもTE波およびTM波の両直線偏波に対して20dB以上の反射減衰量を有する必要がないことを示している。
図14に示した特性の電波吸収体は、40度の電波入射角度において、TE波に対する反射減衰量とTM波に対する反射減衰量は共に20dB未満であり、円偏波に対する反射減衰量は20dB以上である電波反射減衰体となる。また、図14に示した特性の電波吸収体では、0度〜40度の電波入射角度範囲内の全域において、円偏波に対する反射減衰量は20dB以上である。
また、図14において、0度〜50度の入射角度範囲に着目する。TE波、TM波の場合には共に入射角度が約45度以上になると反射減衰量が15dB未満となっている。ところが、円偏波に対しては、この入射角度範囲内において、15dB以上の反射減衰量を有している。このことは、所望の入射角度範囲で円偏波に対して15dB以上の反射減衰量を有する電波吸収体が、必ずしもTE波およびTM波の両直線偏波に対して15dB以上の反射減衰量を有する必要がないことを示している。
図14に示した特性の電波吸収体は、50度の電波入射角度において、TE波に対する反射減衰量とTM波に対する反射減衰量は共に15dB未満であり、円偏波に対する反射減衰量は15dB以上である電波反射減衰体となる。また、図14に示した特性の電波吸収体では、0度〜50度の電波入射角度範囲内の全域において、円偏波に対する反射減衰量は15dB以上である。
電波吸収体50において、抵抗体(導電体)と隣り合う層は、誘電体層であってもよいし、磁性体層であってもよい。
また、電波吸収体50において、全ての層を透明性もしくは透光性を有する層で構成してもよい。この場合には、電波吸収体50も透明性もしくは透光性を有することになる。
また、電波吸収体50において抵抗体(導電体)52を金属板とした場合には、電波吸収体50は、透明性もしくは透光性は有さないが、λ/4型構造の電波吸収体となる。
また、電波吸収体50において、隣り合う層間は、両面テープもしくは接着材によって接着されていてもよい。この場合には、両面テープもしくは接着材による層の数分だけ、誘電体層の数が増える。
なお、電波反射減衰体としての電波吸収体の形状は、平板形状であってもよいし、その他の形状であってもよい。その他の形状としては、多角錐形状、楔形状または多波形状でもよいし、中空の多角錐形状、楔形状または多波形状でもよいし、平板形状の部分の電波到来方向に多角錐形状、楔形状または多波形状の部分が追加された形状等でもよい。電波吸収体の形状を平板形状以外の形状とする場合には、電波吸収体の各部分が空間に占める比率を考慮して平面多層電波吸収体に近似することによって、電波吸収体を設計することができる。
また、本実施の形態では、3つの実施例によって、3種類の構造の電波吸収体を示し、それらの設計方法について説明したが、本実施の形態に係る円偏波用電波吸収体の設計方法は、実施例で示した構造の電波吸収体を設計する場合に限定されるわけではない。すなわち、誘電体層(空気層も含む)、磁性体層(誘電体と磁性体の混合された層を含む)、抵抗体(導電体)が、如何ように積層された構造の電波吸収体であっても設計可能である。
ここで、円偏波において、電波障害対策に必要とされる20dBないし15dBの反射減衰量を有する電波吸収体を実現しようとした場合について考える。0度〜20度程度の小さな入射角度においては、通常、垂直入射において必要とされる反射減衰量を十分に有していれば、20度までの入射角度においても、偏波によらず必要とされる反射減衰量を実現できる。
しかしながら、20度以上の入射角度範囲においては、TE波およびTM波に対する電波吸収特性と円偏波に対する電波吸収特性が異なってくる。そこで、広い入射角度範囲において20dBないし15dBの反射減衰量を有する円偏波用の電波吸収体を実現しようとした場合には、40度および50度付近での複素反射係数の制御が重要となる。
ただし、第2の実施例において示した複素反射係数の入射角度に対する変化の様子から分かるように、60度以上の大きな入射角度においては、電波吸収体の複素反射係数の実部は、TE波の場合には負側に大きくなり、TM波の場合には正側に大きくなっている。また、円偏波に対する反射係数は、TE波に対する反射係数とTM波に対する反射係数との平均となることから、60度以上の大きな入射角度においては、円偏波に対する電波吸収体の電波吸収特性は、TE波およびTM波に対する電波吸収特性よりも優れた特性を有することは当然である。
以上説明したように、本実施の形態に係る円偏波用電波反射減衰体の設計方法では、TE波とTM波の両直線偏波に対して良好な反射減衰特性を有するように電波反射減衰体を設計するのではなく、TE波に対する複素反射係数とTM波に対する複素反射係数との平均の絶対値が所望の値以下になるように電波反射減衰体を設計するようにしている。従って、本実施の形態によれば、円偏波の電波の反射を抑制するための円偏波用電波反射減衰体を、容易に且つ適切に実現することが可能になる。
ところで、本実施の形態に係る電波反射減衰体には、以下の第1ないし第4の電波反射減衰体が含まれる。
第1の電波反射減衰体は、図9に示した特性の電波吸収体のように、40度の電波入射角度において、TE波に対する反射減衰量とTM波に対する反射減衰量の一方は20dB未満であり、円偏波に対する反射減衰量は20dB以上であるものである。この第1の電波反射減衰体において、0度〜40度の電波入射角度範囲内の全域において、円偏波に対する反射減衰量は20dB以上であってもよい。
第2の電波反射減衰体は、図14に示した特性の電波吸収体のように、40度の電波入射角度において、TE波に対する反射減衰量とTM波に対する反射減衰量は共に20dB未満であり、円偏波に対する反射減衰量は20dB以上であるものである。この第2の電波反射減衰体において、0度〜40度の電波入射角度範囲内の全域において、円偏波に対する反射減衰量は20dB以上であってもよい。
第3の電波反射減衰体は、図7に示した特性の電波吸収体や図9に示した特性の電波吸収体のように、50度の電波入射角度において、TE波に対する反射減衰量とTM波に対する反射減衰量の一方は15dB未満であり、円偏波に対する反射減衰量は15dB以上であるものである。この第3の電波反射減衰体において、0度〜50度の電波入射角度範囲内の全域において、円偏波に対する反射減衰量は15dB以上であってもよい。
第4の電波反射減衰体は、図14に示した特性の電波吸収体のように、50度の電波入射角度において、TE波に対する反射減衰量とTM波に対する反射減衰量は共に15dB未満であり、円偏波に対する反射減衰量は15dB以上であるものである。この第4の電波反射減衰体において、0度〜50度の電波入射角度範囲内の全域において、円偏波に対する反射減衰量は15dB以上であってもよい。
このような本実施の形態に係る電波反射減衰体によれば、TE波とTM波の両直線偏波に対しては円偏波の電波に対する場合と同等の反射減衰特性を有する必要がないので、円偏波の電波に対して所望の反射減衰特性を有する電波反射減衰体を、容易に且つ適切に実現することが可能になる。
[第2の実施の形態]
次に、本発明の第2の実施の形態に係る円偏波用電波反射減衰体の評価方法および電波反射減衰体評価装置について説明する。
本実施の形態に係る評価方法は、円偏波の電波の反射を抑制するための円偏波用電波反射減衰体を評価する方法であって、TE波に対する電波反射減衰体の複素反射係数ΓTE *とTM波に対する電波反射減衰体の複素反射係数ΓTM *とをそれぞれ独立に測定する手順と、円偏波に対する電波反射減衰体の複素反射係数の絶対値|ΓCP *|として、測定された2つの複素反射係数の平均の絶対値|(ΓTE *+ΓTM *)/2|を求める手順と、求められた円偏波に対する複素反射係数の絶対値を用いて電波反射減衰体の評価を行う手順とを備えている。
評価は、具体的には、第1の実施の形態で説明した式(1)、またはこれと同等の式(2)を満足するか否かを判断することによって行われる。
図15は、本実施の形態に係る電波反射減衰体評価装置の構成を示す説明図である。この評価装置は、電波の反射を抑制するための電波反射減衰体の円偏波に対する反射減衰特性を評価するために用いられる装置であり、特に本実施の形態に係る評価方法を実現するのに適した装置である。この評価装置は、電波反射減衰体1に対して直線偏波の電波を放射する送信アンテナ61と、この送信アンテナ61より放射されて、電波反射減衰体1で反射された直線偏波の電波を受信する受信する受信アンテナ62と、送信アンテナ61および受信アンテナ62に接続されたネットワークアナライザー63と、このネットワークアナライザー63に接続された制御用コンピューター64とを備えている。
送信アンテナ61と受信アンテナ62は、直線偏波用のアンテナであり、ダイポールアンテナ、ループアンテナ、ホーンアンテナ、対数周期アンテナ、アレーアンテナ、バイコニカルアンテナ、八木・宇多アンテナ等が用いられる。また、送信アンテナ61と受信アンテナ62は、向きを変えることによって、TE波の送受信とTM波の送受信とが可能になっている。
ネットワークアナライザー63は、送信アンテナ61に与える信号と受信アンテナ62より得られる信号とに基づいて、電波反射減衰体1のインピーダンス等の特性を測定する。
制御用コンピューター64は、制御用のプログラムを実行することにより、ネットワークアナライザー63を制御すると共に、ネットワークアナライザー63の測定結果を取得し、その取得した測定結果に基づいて、所望の演算等を行い、演算の基礎となる測定結果や演算結果、それらをグラフ化した内容、および評価対象となる電波反射減衰体1が所望の電波減衰特性を満足しているかの判定結果等をディスプレイに表示したり、制御用コンピューター64に接続されたプリンターにそれらの結果を出力できるようになっている。これによって、測定者はそれらの結果を把握することが可能となる。
また、制御用コンピューター64は、前記した結果を制御用コンピューター64に内蔵されたハードディスク等の固定記録媒体や、磁気ディスク、光ディスク、光磁気ディスクおよび電子的メモリー等の取り外し可能な記録媒体等に、電子データとして保存することが可能である。また、制御用コンピューター64は、ローカルエリアネットワーク(LAN)、広域ネットワーク(WAN)等のネットワークによって接続された他のコンピューターに前記した結果を転送することが可能である。また、上述のようにして保存されたデータや転送されたデータを用いて、追加の演算処理や複数の電波反射減衰体の測定結果を集合的に演算処理することも可能である。
上記した制御用コンピューター64の機能は、ネットワークアナライザー63に内蔵されていればネットワークアナライザー63のみで実行可能であり、必要な機器がネットワークアナライザー63に接続されていれば、ネットワークアナライザー63およびそれに接続された機器のみで実行可能である。
本実施の形態では特に、制御用コンピューター64は、ネットワークアナライザー63の測定結果に基づいて、TE波に対する電波反射減衰体1の複素反射係数とTM波に対する電波反射減衰体1の複素反射係数とを求め、更に、円偏波に対する電波反射減衰体1の複素反射係数の絶対値として、測定された2つの複素反射係数の平均の絶対値を求める。
送信アンテナ61、受信アンテナ62、ネットワークアナライザー63および制御用コンピューター64は本発明における測定手段に対応し、制御用コンピューター64は本発明における演算手段に対応する。
なお、本実施の形態における評価対象となる電波反射減衰体1は、第1の実施の形態と同様に、電波吸収体に限らず、例えば図2ないし図4に示したような、電波吸収体以外の電波反射減衰体であってもよい。本実施の形態では、どのような形態の電波反射減衰体1であっても、TE波、TM波それぞれに対する複素反射係数を独立に測定することにより、円偏波に対する複素反射係数の絶対値を計算することができ、これにより、電波反射減衰体1の評価が可能になる。
次に、本実施の形態に係る評価方法の妥当性について検証した結果について説明する。ここでは、第1の実施の形態における第2の実施例で示した構成の電波吸収体40を試作し、その反射減衰特性(電波吸収特性)を測定、評価した結果を示す。ただし、試作した電波吸収体40における第3層の厚みd3は5mmとした。また、試作した電波吸収体40の材料定数、すなわち複素比誘電率は、第2の実施例で示した値とは異なっている。
電波吸収体40の反射減衰特性の測定は電波暗室内で行った。また、円偏波に対する反射減衰特性の測定の際には円偏波用のアンテナを用い、TE波およびTM波に対する反射減衰特性の測定の際には直線偏波用のアンテナを用いた。
図16は、周波数範囲4GHz〜7GHz、入射角度40度における、試作した電波吸収体40の電波反射減衰特性、すなわち周波数と反射減衰量との関係を示している。図16において、TE波、TM波および円偏波に対する特性は測定によって得られたものである。また、図16において、“計算値”とは、TE波およびTM波の各複素反射係数の測定値より計算によって求めた、円偏波に対する反射減衰量を表している。
すなわち、TE波およびTM波に対する各複素反射係数の測定値を、それぞれΓmeasTE * およびΓmeasTM *で表すと、円偏波に対する反射減衰量の計算値ScalCP(単位はdB)は、以下の式で求められる。
ScalCP=−20log|(ΓmeasTE *+ΓmeasTM *)/2|
また、円偏波に対する複素反射係数の実部および虚部の計算値は、それぞれ以下の式におけるGおよびBである。
(ΓmeasTE *+ΓmeasTM *)/2=G+jB
図16より、円偏波に対する測定値と計算値は、それらの差の大きさが0dB〜3.3dB程度であり、概ね一致しているのが分かる。特に、測定誤差が小さい、反射減衰量が30dB以下の領域においては、測定値と計算値の差の大きさは0dB〜1.4dB程度であり、測定値と計算値が良好に一致している。
この結果より、TE波に対する複素反射係数をΓTE *とし、TM波に対する複素反射係数をΓTM *とし、円偏波に対する複素反射係数をΓCP *としたとき、以下の等式が成り立っていることが分かる。
|ΓCP *|=|(ΓTE *+ΓTM *)/2|
図17は、周波数範囲4GHz〜7GHz、入射角度40度における、試作した電波吸収体40の複素反射係数の測定値および計算値を示している。図17より、反射減衰量の場合と同様に、電波吸収体40の複素反射係数においても測定値と計算値は概ね一致していることが分かる。
図18は、周波数範囲4GHz〜7GHz、入射角度0度(実際には1.7度)における、試作した電波吸収体40の反射減衰量の測定値を示している。図18より、垂直入射においては、直線偏波に対する反射減衰量と円偏波に対する反射減衰量は、それらの差の大きさが0.2dB〜1.8dB程度であり、測定誤差を有するものの、概ね一致していることが分かる。
以上説明したように、本実施の形態に係る円偏波用電波反射減衰体の評価方法および電波反射減衰体評価装置では、TE波とTM波の両直線偏波に対して良好な反射減衰特性を有するか否かによって電波反射減衰体を評価するのではなく、円偏波に対する複素反射係数の絶対値を用いて電波反射減衰体の評価を行うようにしている。従って、本実施の形態によれば、円偏波の電波の反射を抑制するための円偏波用電波反射減衰体を、容易に且つ適切に評価することが可能になる。
[第3の実施の形態]
次に、本発明の第3の実施の形態に係る円偏波用電波反射減衰体の評価方法および電波反射減衰体評価装置について説明する。
本実施の形態に係る評価方法は、円偏波の電波の反射を抑制するための円偏波用電波反射減衰体を評価する方法であって、電波反射減衰体に対して円偏波の電波を放射し、電波反射減衰体で反射されて、放射された電波とは逆旋となる円偏波の電波を受信して、円偏波に対する電波反射減衰体の反射減衰量を求める手順と、求められた反射減衰量を用いて電波反射減衰体の評価を行う手順とを備えている。評価は、具体的には、求められた反射減衰量が所望の値以上か否かを判断することによって行われる。本実施の形態では、特に、後述するように電波暗箱を用いて、簡便な評価を可能としている。
図19は、本実施の形態に係る電波反射減衰体評価装置の構成を示す説明図である。この評価装置は、電波の反射を抑制するための電波反射減衰体の円偏波に対する反射減衰特性を評価するために用いられる装置であり、特に本実施の形態に係る評価方法を実現するのに適した装置である。
本実施の形態に係る評価装置70は、内壁の少なくとも一部に不要反射抑制用の電波吸収体73が配置された筐体72を有する電波暗箱71と、電波暗箱71内に設けられ、評価対象の電波反射減衰体74が設置される設置部75と、電波暗箱71内に設置され、電波反射減衰体74に対して円偏波の電波を放射する送信手段としての送信アンテナ76と、電波暗箱71内に設置され、円偏波に対する電波反射減衰体74の反射減衰量を求めるために、電波反射減衰体74で反射されて、送信アンテナ76より放射された電波とは逆旋となる円偏波の電波を受信する受信手段としての受信アンテナ77とを備えている。
筐体72は、金属板によって、直方体形状に形成されている。筐体72のうち、直方体の1つの面に対応する部分は扉72Aになっている。この扉72Aの内面に設置部75が設けられている。このように設置部75を扉72Aの内面に設けることにより、電波反射減衰体74の交換が容易になる。
設置部75に対向する筐体72の内面の近傍には、アンテナ支持具170が設けられている。送信アンテナ76および受信アンテナ77は、このアンテナ支持具170に取り付けられている。アンテナ支持具170は、電波反射量が極めて小さい素材からなることが好ましい。また、アンテナ支持具170は、アンテナ76,77を支持するための機械的強度を有する必要がある。また、アンテナ支持具170の電波反射量を低減すべく、アンテナ支持具170に電波吸収体175を取り付けてもよい。
設置部75から電波反射減衰体74を取り外した状態では、送信アンテナ76および受信アンテナ77は、扉72Aの内面である金属面に対向するようになる。また、電波吸収体73は、扉72Aの内面を除く、筐体72の内面に配置されている。
送信アンテナ76および受信アンテナ77は、互いに逆旋の円偏波用のアンテナになっている。円偏波用のアンテナとしては、ヘリカルアンテナ、スパイラルアンテナ、円偏波用パッチアンテナ、円偏波用パラボラアンテナ等を用いることができる。
また、送信アンテナ76は、同軸線ケーブル171を介して、筐体72に取り付けられたコネクタ172に着脱自在に接続されている。同様に、受信アンテナ77は、同軸線ケーブル173を介して、筐体72に取り付けられたコネクタ174に着脱自在に接続されている。そのため、送信アンテナ76および受信アンテナ77は、取り外しが可能であり、周波数帯の異なるアンテナや偏波の異なるアンテナに変更することができるようになっている。コネクタ172,174には、それぞれ同軸線ケーブル78,79が接続されている。
評価装置70を含む評価システムは、送信アンテナ76および受信アンテナ77に、それぞれ同軸線ケーブル171,173、コネクタ172,174および同軸線ケーブル78,79を介して接続されたネットワークアナライザー80と、このネットワークアナライザー80に接続された制御用コンピューター81とを備えている。ネットワークアナライザー80および制御用コンピューター81の基本的な機能は、それぞれ第2の実施の形態におけるネットワークアナライザー63および制御用コンピューター64と同様である。
図20は、評価装置70を示す斜視図である。図20に示したように、筐体72のうち、扉72Aに対向する面の部分、すなわち送信アンテナ76および受信アンテナ77が取り付けられる部分72Bは、ビス82またはボルト等によって、筐体72の他の部分に対して着脱可能になっている。また、この送信アンテナ76および受信アンテナ77が取り付けられる部分72Bは扉としてもよい。この場合には、送信アンテナ76および受信アンテナ77の設置および交換が容易になる。
図21は、扉72Aを示す説明図である。図21において、(a)は扉72Aの上面図、(b)は電波到来側から見た扉72Aの正面図、(c)は扉72Aの側断面図、(d)は(a)に示した扉72Aの上面図の一部を拡大して示した図である。図21に示したように、扉72Aの内面に設けられた設置部75は、評価対象の電波反射減衰体74を着脱自在に保持する保持部材83を有している。保持部材83は、矩形の電波反射減衰体74の左右の各端部および下端部に対応する位置に設けられている。従って、これらの保持部材83によって囲まれた部分に対して、上方より電波反射減衰体74を出し入れすることができるようになっている。電波反射減衰体74は、左右の保持部材83によって案内されて、設置部75に対して設置され、また、設置部75より取り外されるようになっている。
図21中の(d)に示したように、保持部材83は、例えば、扉72Aに対して両面テープ86によって接着され、更にビス84およびナット85によって扉72Aに固定されている。
このように、電波反射減衰体74を着脱自在に保持する保持部材83を設けることにより、電波反射減衰体74の交換が容易になる。また、保持部材83を扉72Aに設けた場合には、電波反射減衰体74の交換がさらに容易になる。
保持部材83は、電波反射量が極めて小さい素材からなることが好ましい。また、保持部材83は、電波反射減衰体74を保持するための機械的強度を有する必要もある。保持部材83を構成する素材としては、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ABS樹脂、アクリル、テフロン(登録商標)、塩化ビニール等の誘電体材料(有機高分子)を用いることができる。
ただし、電波到来方向から見て、保持部材83が電波暗箱71内の不要反射抑制用の電波吸収体73に隠れる場合には、保持部材83による反射波は存在しないため、保持部材83は特に電波反射量が極めて小さい素材からなる必要はない。
なお、図19ないし図21に示した電波暗箱71は、扉72Aの外周部一円が筐体72の他の部分に電気的に接続された場合には、電磁的遮蔽性能を有する。扉72Aを筐体72の他の部分に電気的に接続する手段としては、フィンガーコンタクトや導電性メッシュ等を用いることができる。
次に、評価装置70を含む評価システムの作用について説明する。評価装置70では、電波暗箱71内の設置部75に設置された電波反射減衰体74に対して、送信アンテナ76によって円偏波の電波が放射され、電波反射減衰体74で反射されて、送信アンテナ76より放射された電波とは逆旋となる円偏波の電波が受信アンテナ77によって受信される。ネットワークアナライザー80は、受信アンテナ77より得られる信号に基づいて、電波反射減衰体74における電波反射量を測定する。
また、本実施の形態では、電波反射減衰体74の代りに、電波反射減衰体74と同面積の金属平面を有する金属板を、その金属平面が電波反射減衰体74の電波到来側表面と同位置となるように設置した状態で、送信アンテナ76から電波を放射させ、金属板の金属平面で反射された電波を受信アンテナ77によって受信し、ネットワークアナライザー80によって、金属平面における電波反射量も測定する。そして、制御用コンピューター81によって、金属平面における電波反射量と電波反射減衰体74における電波反射量とを比較することによって、電波反射減衰体74の反射減衰量を求め、この反射減衰量が所望の値以上か否かを判断することによって、電波反射減衰体74の評価を行う。ただし、電波反射減衰体74が厚い場合等においては、電波反射減衰体74と同じ厚さの金属板を用いる必要はなく、電波反射減衰体74と同じ厚さとなるように厚さを調整すべく、薄い金属板の電波到来側とは反対側の面に発泡体等を設置してなる積層板を用いてもよい。
また、本実施の形態では、扉72Aの内面である金属面を上記金属板の金属平面の代りに用いることも可能である。すなわち、設置部75から電波反射減衰体74を取り外した状態で、送信アンテナ76から電波を放射させ、扉72Aの内面である金属面で反射された電波を受信アンテナ77によって受信し、ネットワークアナライザー80によって、金属面における電波反射量を測定することも可能である。この場合には、扉72Aの内面である金属面の複素反射係数が、金属平面が電波反射減衰体74の電波到来側表面と同位置となるように設置された状態における金属平面の複素反射係数と等しくなるように、制御用コンピューター81によって、電波反射減衰体74の厚み分の位相補正演算を行うようにする。
ところで、図19に示したように、評価装置70において、測定すべき電波は、送信アンテナ76より放射され、途中で電波吸収体73によって反射されることなく電波反射減衰体74に達し、この電波反射減衰体74によって反射され、途中で電波吸収体73によって反射されることなく受信アンテナ77に到達する電波である。以下、この電波の経路を経路R1と言う。受信アンテナ77に到達する電波には、経路R1を経由した電波の他に、例えば、図19に示したような経路R2や経路R3を経由した電波もある。経路R2を経由した電波は、送信アンテナ76より放射され、途中で1回、電波吸収体73によって反射されてから電波反射減衰体74に達し、この電波反射減衰体74によって反射され、途中で電波吸収体73によって反射されることなく受信アンテナ77に到達した電波である。経路R3を経由した電波は、送信アンテナ76より放射され、途中で1回、電波吸収体73によって反射されてから電波反射減衰体74に達し、この電波反射減衰体74によって反射され、途中で1回、電波吸収体73によって反射されてから受信アンテナ77に到達した電波である。
本実施の形態では、送信アンテナ76と受信アンテナ77が互いに逆旋の円偏波用のアンテナになっていることから、経路R2や経路R3を経由した不要な電波の影響を低減することができる。以下、これについて説明する。ここでは、例えば、送信アンテナ76は右旋円偏波の電波を放射し、受信アンテナ77は左旋円偏波の電波を受信するものとする。経路R1の場合には、送信アンテナ76より放射された右旋円偏波の電波は、電波反射減衰体74によって反射されて左旋円偏波の電波となり、受信アンテナ77によって受信される。経路R2の場合には、受信アンテナ77に到達する電波は、途中で1回、電波吸収体73によって反射されていることから、右旋円偏波となっている。従って、経路R2を経由した電波は、ほとんど受信アンテナ77によって受信されない。また、経路R3の場合には、受信アンテナ77に到達する電波は、途中で2回、電波吸収体73によって反射されていることから、左旋円偏波となっている。従って、経路R2を経由した電波は、受信アンテナ77によって受信されるが、途中で2回、電波吸収体73によって電波吸収されていることから、経路R1を経由した電波に比べて極めて低い受信(電界)レベルとなるために、測定結果に与える影響は少ない。
このように、本実施の形態に係る評価装置70によれば、電波暗箱71内の不要反射が測定対象である電波反射減衰体74の反射減衰特性の測定結果に与える影響を低減することができる。しかしながら、評価対象の電波反射減衰体74の反射減衰特性が極めて良好であり、非常に低い受信(電界)レベルで電波反射減衰体74の評価を行う場合や、金属面または評価対象の電波反射減衰体74と、送信アンテナ76および受信アンテナ77との間における多重反射による受信(電界)レベルの誤差が大きい場合には、電波暗箱71内の不要反射が、測定対象である電波反射減衰体74の反射減衰特性の測定結果に与える誤差が大きくなる。このような場合には、ネットワークアナライザー79のタイムドメイン機能(タイムゲート処理)により、評価対象の電波反射減衰体74および電波反射量の基準となる金属面からの反射波のみを抽出することによって、タイムドメイン機能を用いない場合よりも高精度な反射減衰特性の測定および評価が可能となる。
ところで、評価される電波反射減衰体が、0度〜X度(X:要求最大入射角度)の入射角度範囲において、要求反射減衰量AdB以上であるか否かを評価する場合において、評価される電波反射減衰体の設計特性が、0度〜X度の入射角度範囲において反射減衰量がAdB以上であり、且つ入射角度X度における反射減衰量CdBが、入射角度0度における反射減衰量BdBよりも大きい場合には、以下のような簡便な方法で電波反射減衰体の評価を行うことが可能である。すなわち、上記の場合には、垂直入射における電波反射減衰体の反射減衰量を測定し、この反射減衰量が要求反射減衰量AdB以上であれば、0度〜X度の要求入射角度範囲において、電波反射減衰体の反射減衰量が要求反射減衰量AdB以上であると推定することが可能である。ここで垂直入射とは、厳密な垂直入射だけではなく、斜入射角度が5度以下で、ほぼ垂直入射とみなせる場合も含む。
上記の簡便な評価方法を適用できる例としては、例えば、図12に示した特性の電波吸収体において、X=40、A=20dB(程度)とした場合がある。
このようなことから、電波反射減衰体の最終製品では、要求される入射角度範囲における反射減衰特性を測定すべきであるが、電波反射減衰体の中間製品に対する中間検査等では、図19に示したような垂直入射における電波反射減衰体の反射減衰量を測定する評価装置の利用が有用である。ここで、中間製品とは、電波反射減衰体としての構造は最終製品と同様もしくは最終製品を模擬したものを言う。また、最終製品とは、電波反射減衰体としての基本的構造は中間製品と同様であるが、設置または施工を行えるように設置手段または施工手段を備えたものを言い、電波吸収パネル等を指す。
図22は、本実施の形態に係る評価装置70の他の構成例を示す説明図である。この例では、設置部75に対向する筐体72の内面の近傍にアンテナ支持具170が設けられている。このアンテナ支持具170には、2組の送信アンテナおよび受信アンテナが設置されている。送信アンテナ76Aと受信アンテナ77Aは、電波反射減衰体74に対して0度に近い所定の第1の入射角度で電波を入射させ、且つ反射した電波を受信する位置に配置されている。送信アンテナ76Bと受信アンテナ77Bは、電波反射減衰体74に対して、第1の入射角度よりも大きな所定の第2の入射角度で電波を入射させ、且つ反射した電波を受信する位置に配置されている。アンテナ支持具170には電波吸収体175が取り付けられていてもよい。
送信アンテナ76A,76Bは、同軸線ケーブル171A,171Bを介して、筐体72に取り付けられたコネクタ172A,172Bに着脱自在に接続されている。同様に、受信アンテナ77A,77Bは、同軸線ケーブル173A,173Bを介して、筐体72に取り付けられたコネクタ174A,174Bに着脱自在に接続されている。コネクタ172A,172B,174A,174Bには、それぞれ同軸線ケーブル78A,78B,79A,79Bが接続されている。
送信アンテナ76A,76Bは、それぞれ同軸線ケーブル171A,171B、コネクタ172A,172B、および同軸線ケーブル78A,78Bを介して信号線切換機87に接続されている。信号線切換機87はネットワークアナライザー80に接続されている。信号線切換機87は、送信アンテナ76A,76Bの一方を選択的にネットワークアナライザー80に接続する。同様に、受信アンテナ77A,77Bは、それぞれ同軸線ケーブル173A,173B、コネクタ174A,174B、および同軸線ケーブル79A,79Bを介して信号線切換機88に接続されている。信号線切換機88はネットワークアナライザー80に接続されている。信号線切換機88は、信号線切換機87による送信アンテナ76A,76Bの選択に対応させて、受信アンテナ77A,77Bの一方を選択的にネットワークアナライザー80に接続する。
また、図22に示した例では、筐体72において、アンテナ支持具170を介して送信アンテナ76A,76Bおよび受信アンテナ77A,77Bが取り付けられる部分は、平板状ではなく、屋根形に形成されている。図22に示した評価装置70のその他の構成は、図19に示した評価装置70と同様である。
図22に示した構成によれば、信号線切換機87,88によって、使用する送信アンテナと受信アンテナの組を切り換えることができ、電波暗箱71内においても複数の入射角度に対して電波反射減衰体74の反射減衰特性を測定することができる。
なお、本実施の形態において、図22に示した例のように、電波暗箱71の形状は、直方体に限定されない。また、電波暗箱71を構成する面は曲面であってもよい。
図23ないし図25は、本実施の形態に係る評価装置70の更に他の構成例を示す説明図である。図23は、この例における評価装置70の斜視図である。図24は、図23に示した評価装置70の側面に平行な断面を示す断面図である。図25は、図23に示した評価装置70の正面に平行な断面を示す断面図である。
この例では、評価装置70は、内壁の少なくとも一部に不要反射抑制用の電波吸収体203が配置された筐体202を有する電波暗箱201を備えている。電波暗箱201は、正面、背面および両側面に配置された4つの壁部211〜214と、天井部215と、底部216とを有している。両側面に配置された壁部213,214は、それぞれ開口213A,214Aを有している。開口213A,214Aは、壁部213,214の高さ方向の途中の位置から底部216にかけて形成されている。開口213A,214Aは、電波暗箱201外から電波暗箱201内へ評価対象の電波反射減衰体225を挿入可能とする。開口213A,214Aは、本発明における挿入部に対応する。
評価装置70は、更に、開口213A,214Aを貫通するように、底部216に配置された2本のレール221と、このレール221に沿って移動する可動台222とを備えている。可動台222は、レール221上を走行するキャスター223を有している。可動台222の上には、評価対象の電波反射減衰体225が設置されるようになっている。また、レール221の両端部には、可動台222の移動範囲を制限するためのストッパー224が設けられている。電波反射減衰体225は、例えばパネル化された電波吸収体であってもよい。
可動台222は、評価対象の電波反射減衰体225によって電波的に隠れる場合には金属によって形成されていてもよい。可動台222が、電波の回折等によって、評価に対して電波的な影響を与える場合には、図24および図25に示したように、可動台222の脚部や構造的な支持部に電波吸収体226を取り付けてもよい。
電波暗箱201内には、アーチ状のアンテナ支持具230が設けられている。アンテナ支持具230は、天井部215に固定されている。アンテナ支持具230は、電波反射量が極めて小さい素材からなることが好ましい。また、アンテナ支持具230は、後述するアンテナを支持するための機械的強度を有する必要がある。また、アンテナ支持具230の電波反射量を低減すべく、図24に示したように、アンテナ支持具230に電波吸収体239を取り付けてもよい。
アンテナ支持具230には、送信手段としての4つの送信アンテナ231A〜231Dと、受信手段としての4つの受信アンテナ241A〜241Dが取り付けられている。
送信アンテナ231A〜231Dは円偏波の電波を放射する。受信アンテナ241A〜241Dは、円偏波に対する電波反射減衰体225の反射減衰量を求めるために、電波反射減衰体225で反射されて、送信アンテナ231A〜231Dより放射された電波とは逆旋となる円偏波の電波を受信する。
送信アンテナ231Aと受信アンテナ241Aは、電波反射減衰体225に対して0度に近い所定の第1の入射角度で電波を入射させ、且つ反射した電波を受信する位置に配置されている。送信アンテナ231Bと受信アンテナ241Bは、電波反射減衰体225に対して、第1の入射角度よりも大きな所定の第2の入射角度で電波を入射させ、且つ反射した電波を受信する位置に配置されている。送信アンテナ231Cと受信アンテナ241Cは、電波反射減衰体225に対して、第2の入射角度よりも大きな所定の第3の入射角度で電波を入射させ、且つ反射した電波を受信する位置に配置されている。送信アンテナ231Dと受信アンテナ241Dは、電波反射減衰体225に対して、第3の入射角度よりも大きな所定の第4の入射角度で電波を入射させ、且つ反射した電波を受信する位置に配置されている。
送信アンテナ231A〜231Dは、それぞれ、同軸線ケーブル232A〜232Dと、筐体202に取り付けられたコネクタ233A〜233Dと、同軸線ケーブル234A〜234Dとを介して、信号線切換機235に接続されている。信号線切換機235は、高周波用アンプ236を介して、ネットワークアナライザー250に接続されている。信号線切換機235は、送信アンテナ231A〜231Dのうちのいずれかを選択的に高周波用アンプ236に接続する。
受信アンテナ241A〜241Dは、それぞれ、同軸線ケーブル242A〜242Dと、筐体202に取り付けられたコネクタ243A〜243Dと、同軸線ケーブル244A〜244Dとを介して、信号線切換機245に接続されている。信号線切換機245はネットワークアナライザー250に接続されている。信号線切換機245は、信号線切換機235による送信アンテナ231A〜231Dの選択に対応させて、受信アンテナ241A〜241Dのうちのいずれかを選択的にネットワークアナライザー250に接続する。
ネットワークアナライザー250は制御用コンピューター251に接続されている。制御用コンピューター251には、評価結果等の印刷に用いられるプリンタ252が接続されている。ネットワークアナライザー250および制御用コンピューター251の基本的な機能は、それぞれ第2の実施の形態におけるネットワークアナライザー63および制御用コンピューター64と同様である。また、高周波用アンプ236を、ネットワークアナライザー250と送信側の信号線切換機235との間に挿入することにより、ネットワークアナライザー250からの出力を高周波用アンプ236で増幅して、送信アンテナ231A〜231Dに送出することが可能になる。
図23ないし図25に示した例によれば、信号線切換機235,245によって、使用する送信アンテナと受信アンテナの組を切り換えることができ、電波暗箱201内においても複数の入射角度に対して電波反射減衰体225の反射減衰特性を測定することができる。
また、図23ないし図25に示した例では、電波暗箱201は開口213A,214Aを有している。従って、この開口213A,214Aより、評価対象の電波反射減衰体225を電波暗箱201内に挿入することによって、電波反射減衰体225の反射減衰特性の評価を行うことが可能になる。また、この例では、図25に示したように、開口213A,214Aは、電波暗箱201の両側面に設けられている。従って、電波暗箱201の両側面から、評価対象の電波反射減衰体225を電波暗箱201内に挿入することができる。なお、電波暗箱201に設けられる開口は、1つであってもよい。
また、この例では、評価対象の電波反射減衰体225を、可動台222に載せて、電波暗箱201内に挿入するようにしている。従って、評価対象の電波反射減衰体225の重量が大きい場合でも、電波反射減衰体225を容易に電波暗箱201内に挿入することが可能である。また、この例では、可動台222は、電波暗箱201の底部216に配置されたレール221に沿って移動する。従って、電波暗箱201内の的確な位置に電波反射減衰体225を挿入することが可能である。また、この例では、レール221の端部にストッパー224を設けている。従って、可動台222がレール221から落ちることを防止することができる。
また、開口213A,214Bが電波暗箱201の両側面に設けられている場合には、電波暗箱201内を通過するように、可動台222を移動させることが可能になる。この場合、更に、可動台222を自走および自動制御可能にすれば、電波反射減衰体225の連続生産ラインにおける検査に好適となる。
筐体202の内壁、可動台222およびアンテナ支持具230に取り付けられる電波吸収体203,226,239は、マジックファスナー(登録商標)や両面テープによって取り付けられるようにしてもよい。これにより、電波吸収体203,226,239の脱着が可能となる。この場合には、電波吸収性能の異なる電波吸収体との交換が容易になり、また電波暗箱201の移設等も容易に行うことが可能となる。
以上説明したように、本実施の形態に係る円偏波用電波反射減衰体の評価方法および電波反射減衰体評価装置では、TE波とTM波の両直線偏波に対して良好な反射減衰特性を有するか否かによって電波反射減衰体を評価するのではなく、円偏波に対する反射減衰量を用いて電波反射減衰体の評価を行うようにしている。従って、本実施の形態によれば、円偏波の電波の反射を抑制するための円偏波用電波反射減衰体を、容易に且つ適切に評価することが可能になる。また、これにより、円偏波の電波に対して所望の反射減衰特性を有する電波反射減衰体を容易に且つ適切に実現することが可能になる。
[第4の実施の形態]
次に、本発明の第4の実施の形態に係る円偏波用電波反射減衰体の評価方法および電波反射減衰体評価装置について説明する。
本実施の形態に係る評価方法は、電波暗箱を用いずに電波暗室を用いて電波反射減衰体の反射減衰量の測定を行う点を除いて、第3の実施の形態に係る評価方法と同様である。
図26は、本実施の形態に係る電波反射減衰体評価装置の構成を示す説明図である。この評価装置は、電波の反射を抑制するための電波反射減衰体の円偏波に対する反射減衰特性を評価するために用いられる装置であり、特に本実施の形態に係る評価方法を実現するのに適した装置である。
本実施の形態に係る評価装置は、電波暗室90内に設置されたアーチ状のアンテナ支持具92を備えている。電波暗室90の天井、壁および床には電波吸収体91が設置されている。評価対象の電波反射減衰体100は、例えば台99を介して、電波暗室90の床上に配置されるようになっている。台99は、発泡スチロール等の電波透過体に近い材料によって形成されている。
本実施の形態に係る評価装置は、更に、アンテナ支持具92に取り付けられ、電波反射減衰体100に対して円偏波の電波を放射する送信手段としての送信アンテナ93と、アンテナ支持具92に取り付けられ、円偏波に対する電波反射減衰体100の反射減衰量を求めるために、電波反射減衰体100で反射されて、送信アンテナ93より放射された電波とは逆旋となる円偏波の電波を受信する受信手段としての受信アンテナ94とを備えている。
送信アンテナ93と受信アンテナ94は、アンテナ支持具92に対して移動可能に取り付けられている。
評価装置を含む評価システムは、送信アンテナ93および受信アンテナ94に、それぞれ同軸線ケーブル95,96を介して接続されたネットワークアナライザー97と、このネットワークアナライザー97に接続された制御用コンピューター98とを備えている。ネットワークアナライザー97および制御用コンピューター98の基本的な機能は、それぞれ第2の実施の形態におけるネットワークアナライザー63および制御用コンピューター64と同様である。
次に、本実施の形態に係る評価装置を含む評価システムの作用について説明する。この評価システムでは、電波反射減衰体100に対して、送信アンテナ93によって円偏波の電波が放射され、電波反射減衰体100で反射されて、送信アンテナ93より放射された電波とは逆旋となる円偏波の電波が受信アンテナ94によって受信される。ネットワークアナライザー97は、受信アンテナ94より得られる信号に基づいて、電波反射減衰体100における電波反射量を測定する。また、本実施の形態では、電波反射減衰体100の代りに金属板を設置した状態で、送信アンテナ93から電波を放射させ、金属面で反射された電波を受信アンテナ94によって受信し、ネットワークアナライザー97によって金属面における電波反射量も測定する。そして、制御用コンピューター98によって、金属面における電波反射量と電波反射減衰体100における電波反射量とを比較することによって、電波反射減衰体100の反射減衰量を求め、この反射減衰量が所望の値以上か否かを判断することによって、電波反射減衰体100の評価を行う。
本実施の形態では、送信アンテナ93および受信アンテナ94を移動させることにより、斜入射における電波反射減衰体100の反射減衰特性を測定することができる。
本実施の形態において、アンテナ支持具92は、電波透過体に近い材料で形成されていることが好ましい。このアンテナ支持具92における電波の反射が問題になる場合には、アンテナ支持具92にも電波吸収体を取り付けることによって、アンテナ支持具92における電波の反射によって生じる測定誤差を低減することができる。
また、本実施の形態において、アンテナ93,94の移動を自動制御化してもよい。これにより、測定の効率化を図ることができる。
本実施の形態におけるその他の構成、作用および効果は第3の実施の形態と同様である。
[第5の実施の形態]
次に、本発明の第5の実施の形態に係る電波反射減衰体評価装置について説明する。
図27は、本実施の形態に係る電波反射減衰体評価装置の構成を示す説明図である。この評価装置は、第4の実施の形態におけるアンテナ支持具92、送信アンテナ93および受信アンテナ94の代りに、電波暗室90内に設置されたアンテナ支持具101と、このアンテナ支持具101に取り付けられた3組の送信アンテナ93A〜93Cおよび受信アンテナ94A〜94Cを備えている。送信アンテナ93A〜93Cは円偏波の電波を放射し、受信アンテナ94A〜94Cは送信アンテナ93A〜93Cより放射された電波とは逆旋となる円偏波の電波を受信する。
送信アンテナ93Aと受信アンテナ94Aは、電波反射減衰体100に対して0度に近い所定の第1の入射角度で電波を入射させ、且つ反射した電波を受信する位置に配置されている。送信アンテナ93Bと受信アンテナ94Bは、電波反射減衰体100に対して、第1の入射角度よりも大きな所定の第2の入射角度で電波を入射させ、且つ反射した電波を受信する位置に配置されている。送信アンテナ93Cと受信アンテナ94Cは、電波反射減衰体100に対して、第2の入射角度よりも大きな所定の第3の入射角度で電波を入射させ、且つ反射した電波を受信する位置に配置されている。
送信アンテナ93A〜93Cは、それぞれ同軸線ケーブルを介して信号線切換機102に接続されている。信号線切換機102はネットワークアナライザー97に接続されている。信号線切換機102は、送信アンテナ93A〜93Cのうちのいずれかを選択的にネットワークアナライザー97に接続する。同様に、受信アンテナ94A〜94Cは、それぞれ同軸線ケーブルを介して信号線切換機103に接続されている。信号線切換機103はネットワークアナライザー97に接続されている。信号線切換機103は、信号線切換機102による送信アンテナ93A〜93Cの選択に対応させて、受信アンテナ94A〜94Cのうちのいずれかを選択的にネットワークアナライザー97に接続する。
本実施の形態では、使用する送信アンテナおよび受信アンテナを選択することにより、複数の入射角度における電波反射減衰体100の反射減衰特性を測定することができる。
本実施の形態において、アンテナ支持具101は、電波透過体に近い材料で形成されていることが好ましい。このアンテナ支持具101における電波の反射が問題になる場合には、アンテナ支持具101にも電波吸収体を取り付けることによって、アンテナ支持具101における電波の反射によって生じる測定誤差を低減することができる。
また、本実施の形態において、信号線切換機102,103によるアンテナの選択を自動制御化してもよい。これにより、測定の効率化を図ることができる。
本実施の形態では、送信アンテナおよび受信アンテナを3組設けたが、送信アンテナおよび受信アンテナは、2組でもよいし、4組以上でもよい。
本実施の形態におけるその他の構成、作用および効果は第4の実施の形態と同様である。
[第6の実施の形態]
次に、本発明の第6の実施の形態に係る構造物について説明する。本実施の形態に係る構造物は、第1の実施の形態に係る電波反射減衰体を含むものである。第1の実施の形態に係る電波反射減衰体には、前述のように、第1ないし第4の電波反射減衰体が含まれる。
本実施の形態に係る構造物は、例えば、電波暗室、ビルあるいはその一部(外壁やオフィスルームの壁や窓等)、架橋、高架、電信柱、アンテナ支持柱、ゲート、路面、トンネル、ガードレール、鉄道ホーム等の建築物であってもよい。また、構造物は、飛行機、船舶、自動車、鉄道車両等の輸送機であってもよい。また、構造物は、コンピュータ、ディプレイ、ゲーム機、アミューズメント機等の電子機器や、携帯電話等の携帯型電子機器や、MRI(磁気共鳴画像)装置等の医療電子機器や、電波暗箱等の電磁的評価装置や、アンテナ等の電波送受信装置等であってもよい。
また、本実施の形態に係る構造物は、電波反射減衰体を含まない状態で所定の機能を発揮する構造物本体の少なくとも一部に電波反射減衰体が設置されたものでもよい。この場合、構造物に対する電波反射減衰体の設置形態、設置個所および設置面積は、特に限定されず、構造物の特質や、電波反射減衰体を設置する目的等に応じて適宜選択可能である。
また、本実施の形態に係る構造物は、電波反射減衰体が構造物の一部を兼ねたものでもよい。この場合も、構造物中における電波反射減衰体の設置形態、設置個所および設置面積は、特に限定されず、構造物の特質や、電波反射減衰体を設置する目的等に応じて適宜選択可能である。
また、本実施の形態に係る構造物は、全体が電波反射減衰体によって構成されたものでもよい。
本実施の形態に係る構造物の一例としては、図19や図22に示した電波暗箱70において、電波吸収体73として、第1の実施の形態に係る電波反射減衰体としての電波吸収体を用いた構造の電波暗箱がある。また、本実施の形態に係る構造物の他の例としては、図26や図27に示した電波暗室90において、電波吸収体91として、第1の実施の形態に係る電波反射減衰体としての電波吸収体を用いた構造の電波暗室がある。
以下、図28ないし図32を参照して、本実施の形態に係る構造物のその他のいくつかの例について説明する。
図28は、ビルの外壁等を本実施の形態に係る構造物とした例を示す説明図である。図28には、円偏波の電波を用いた航空機レーダシステムが示されている。このような航空機レーダシステムにおいては、送信用レーダアンテナ111から円偏波の電波113を送信し、航空機116で反射されて、送信された電波113とは逆旋となる円偏波の電波114を、受信用レーダアンテナ112で受信して、航空機116の位置を探知する。しかしながら、レーダの探索方向にビル115が存在すると、送信用レーダアンテナ111から送信された電波113は、ビル115によって反射され、本来探知すべき方向とは異なった方向を探知してしまい、その異なった方向に航空機116が存在した場合には、あたかも本来探知すべき方向に航空機116が存在しているように見えてしまう。すなわち、本来探知すべき方向に、航空機116の偽像116Pが見えてしまう。このようなレーダ偽像現象を解決する手段として、ビル115の外壁やガラス窓を電波反射減衰体によって構成する方法が有用である。
このようなレーダ偽像現象は、ビルだけでなく高架、電信柱等によっても起こり得る。また、船舶レーダシステム等においては、架橋がレーダ偽像現象の原因となり得る。また、自動車用の衝突防止レーダシステム等においては、トンネルの内壁やガードレールがレーダ偽像現象の原因となり得、とりわけコーナー部においてレーダ偽像現象が起こり得る。従って、これらのレーダシステムにおいても、電波反射減衰体を含む本実施の形態に係る構造物を用いることが有用となる。
図29は、オフィスルームの天井、床、壁および窓を本実施の形態に係る構造物とした例を示す説明図である。図29には、オフィスルームにおける無線LANシステムが示されている。この無線LANシステムでは、オフィスルーム121の天井等に設置された無線LAN用アンテナ122とコンピュータ123等に設置された無線LAN用アンテナ124とを用いて、電波125によって通信を行うようになっている。このシステムにおいて、電波125が円偏波の電波である場合には、本来は、途中でオフィスルームの天井等で反射せずにアンテナ122,124を行き来する電波125によって通信が行われる。しかしながら、アンテナ122,124間で、オフィスルーム121内の天井、床、壁、窓の面によって偶数回反射された電波126は、電波125と同旋の円偏波となるため、アンテナ122,124によって受信される。このような電波126による信号は、本来の通信に用いられる信号よりも時間的に遅延している。このような遅延した信号は、本来の通信に悪影響を与え、データ通信速度の低下を引き起こす可能性がある。このようなデータ通信速度の低下を防止する手段として、オフィスルーム121内の天井、床、壁、窓の面に電波反射減衰体を設置したり、オフィスルーム121内の天井、床、壁、窓の面を電波反射減衰体によって構成する方法が有用である。
図30は、ゲート、路面、トンネル、アンテナ支持柱および自動車を本実施の形態に係る構造物とした例を示す説明図である。図30には、自動料金収受システムが示されている。この自動料金収受システムでは、路側の機器、例えばアンテナ130と、通信領域133内に存在する自動車131側の機器との間で、円偏波の電波を用いた通信が行われるようになっている。このシステムにおいて、本来は、途中で反射せずにアンテナ130と自動車131側の機器とを行き来する電波136によって通信が行われる。しかしながら、アンテナ130と通信領域133内の自動車131とが通信を行っているときには、自動車131の屋根等とゲート屋根134で合計2回反射された電波137によって、非通信領域に存在する自動車132とアンテナ130との間でも、誤った通信が行われてしまう可能性がある。課金システムの処理方法に依存するが、このような誤った通信によって、自動車132は二重に課金されるか、あるいは課金されないという問題が発生する可能性がある。このような問題を解決するためには、ゲート屋根134の下部に電波反射減衰体を設置する方法が有用である。また、自動車の屋根等に電波反射減衰体を設置することによってもこのような問題を解決可能である。
ここで、自動車131が存在しない場合においても、路面とゲート屋根134で合計2回反射された電波によって、非通信領域に存在する自動車132とアンテナ130との間で誤った通信が行われてしまう可能性がある。このような場合には、自動車の屋根等に電波反射減衰体を設置していても、問題は解決できない。このような問題を解決するためには、路面に電波反射減衰体を設置する方法が有用である。
また、アンテナ130より送信され、アンテナ支持柱135等によって1回だけ反射された電波138は、自動車131が受信すべき電波とは逆旋となるため、自動車131によっては受信されない。しかしながら、アンテナ支持柱135等によって反射された電波が、更に路面や自動車131やゲート屋根134等で反射されることによって、誤った通信を引き起こす可能性や通信品質(通信速度)を低下させる可能性がある。このような問題を解決するためには、アンテナ支持柱135等にも電波反射減衰体を設置することが有用である。
図31は、電子機器、携帯型電子機器または医療電子機器を本実施の形態に係る構造物とした例を示す説明図である。コンピューター等の電子機器141は、筺体に囲まれ、その内部に電子基盤142,143を有している。電子基盤142,143には高周波電流が流れている。そのため、電子基盤142,143の信号線のパターンによっては、その高周波電流によって電子基盤142,143から円偏波の電波が放射される可能性がある。この電波は、他の電子基盤142,143の信号に悪影響を与えたり、筐体内面等によって反射されることによって、自らの電子基盤142,143に悪影響を与える可能性がある。このような問題を解決するためには、電子基盤142,143のLSI(大規模集積回路)チップ等の上に電波反射減衰体を設置したり、筐体内面に電波反射減衰体を設置することが有用である。
このような問題は、コンピューターのみの問題でなく、電子基盤を搭載するディスプレイ、ゲーム機、アミューズメント機等の電子機器や、携帯電話等の携帯型電子機器や、MRI(磁気共鳴画像)装置等の医療電子機器でも起こり得る。液晶ディスプレイ等においては、液晶パネルからの電波の放射も問題となり得る。従って、これらの機器においても、電波反射減衰体を設置することが有用となる。
図32は、アンテナを本実施の形態に係る構造物とした例を示す説明図である。図32には、複数の円偏波アンテナ素子152が配列された円偏波用のアレーアンテナ151が示されている。このようなアレーアンテナ151において、電波送受信方向とは反対の面に電波反射減衰体を設置することにより、アンテナパターンにおけるフロントバック比を変更することができる。このように、アンテナのアンテナパターンの改善に電波反射減衰体を用いることも可能である。
以上説明したように、本実施の形態に係る構造物によれば、この構造物が含む電波反射減衰体において、TE波とTM波の両直線偏波に対しては円偏波の電波に対する場合と同等の反射減衰特性を有する必要がないので、円偏波の電波に対して所望の反射減衰特性を有する電波反射減衰体を容易に且つ適切に実現することが可能になる。その結果、本実施の形態によれば、円偏波の電波に対して所望の反射減衰特性を有する電波反射減衰体を含む構造物を容易に且つ適切に実現することが可能になる。
なお、本発明は、上記各実施の形態に限定されず、種々の変更が可能である。例えば、実施の形態において挙げた電波吸収体の構造や設計例は一例であり、これに限定されるものではない。