本発明は、衣類などのプレス仕上げに使用するアイロンに関する。
従来のアイロンとして特許文献1に開示されるようなものがある。この種のアイロンについて、図17に基づき説明すると、1はアイロン本体であり、このアイロン本体1は加熱手段としてのヒータを埋設したベース3を備えている。また、8はベース3の上部に設けられたカバーであり、9はカバー8の上方に設けられたハンドルであり、ハンドル9の前方には、水タンクに相当する容器たるカセットタンク10がアイロン本体1に対し、着脱可能に設けられる。
前記ハンドル9は、把持部に相当する取手部35の他に、この取手部35の下方に位置するアイロン本体1の腹部36と取手部35との間に、手を差し入れるための空洞37を形成してある。ハンドル9の上部には、ベース3の設定温度を変えるための設定釦39が配設されており、取手部35の上部に配置されるカセットタンク10の一部に配設された温度表示部41のLED40によって、設定釦39で設定した現在の設定温度を表示する。アイロン本体1を図示しない載置台に載置した時においては、ベース3の温度が設定温度付近の適温範囲にあるときには、当該設定温度に対応する温度表示部41のLED40を点灯状態にし、かつブザーなどによる報知を行なう。
アイロンの温度設定には、低温を意味する「低」、中程度の温度を意味する「中」、及び高温を意味する「高」などがあり、衣類の繊維に応じて、当該温度設定を変更しながらアイロン掛けを行なう。設定釦39を1回押動操作する毎に、各設定モードが、「切」→「低」→「中」→「高」→「切」の順に、一段ずつ高い温度設定に切換わるようになっている。ただし、高温に設定されている場合は、設定釦39を操作すると切状態の設定モードになる。
アイロンを使用する際には、電源を入れて設定釦39の操作を行なうことで、布地に合わせた温度に調節し、その温度に適するように前記ヒータによりベース3が加熱され、適温となったらアイロン掛けを始める。そして、アイロン掛け作業が終わると、電源を切り、ベース3の温度が常温に下がるまで放置し、常温まで下がったら押入れ等に収納することで、片付けを行なう。
特開2003−265898号公報
しかし、上記従来のアイロンでは、各設定温度でスチームを発生させる為、「低」の温度でも100℃以上であり、例えばアクリルなどの温度にデリケートな繊維(耐熱温度100℃以下)については、そのままアイロン掛けができず、あて布をする必要があった。
また、アイロン使用後に、ベース3の温度が十分下がったかどうか使用者に分からないという問題があった。ベース3の温度が設定釦39で設定した温度になっているかどうかは、温度表示部41に設けられたLED40やブザーにより報知されるが、ベースの温度が常温に下がったかどうかに対しては、そのような報知機能はなく、実際ベースに触れてみないと分からない。そのため、誤って高温のベースに触れてしまう虞があった。
そこで本発明は上記問題点に鑑み、温度にデリケートな繊維でも、そのままアイロン掛け可能なアイロンを提供することを第一の目的とする。
また、ベースに触れなくとも温度が確認できるアイロンを提供することを第二の目的とする。
本発明の請求項1では、ベースの温度が所定値以下となるよう加熱手段を制御する温域設定手段を設けているため、温度にデリケートな繊維でも、あて布等をせずに、そのままアイロン掛けをすることができる。
本発明の請求項2では、温度を表示する機構によりベースの温度が目視により容易に確認できるので、アイロン収容時に手で触れて確認する必要がなく、安全である。また、アイロン本体の腹部に前記機構を設けているので、見易い。
本発明の請求項3では、請求項2の構成に加え、応動部の形状変化を利用して、温度表示を行なう構成としているので、電力供給を必要とせず、アイロンの電源を切っても温度を表示することができると共に、簡単かつ安価な構成とすることができる。
本発明の請求項4では、請求項2又は請求項3の構成に加え、温度を表示する機構とベースとを伝達部で接続しているため、前記機構がベースから離れた場所に位置していても、ベースの熱を良好に伝達することができる。
本発明の請求項1によると、温度にデリケートな繊維でも、繊維を傷めず、そのままアイロン掛けができるため、利便性が向上する。
本発明の請求項2によると、ベースの温度が見易く、目視により容易に確認できるので、アイロン収容時に手で触れて確認する必要がなく、安全である。
本発明の請求項3によると、請求項2の効果に加え、温度を表示する機構に電力供給を行なう必要がなく、アイロンの電源を切っても温度を表示することができると共に、簡単かつ安価な構成とすることができる。
本発明の請求項4によると、請求項2又は請求項3の効果に加え、温度を表示する機構に対して、ベースの熱を良好に伝達することができるため、前記機構をベースから離れた場所に配置することができる。
以下、添付図面を参照しながら、本発明におけるアイロンの好ましい各実施例を説明する。なお、これらの実施例において、従来例と同一箇所には同一符号を付し、共通する部分の説明は重複するため極力省略する。
まず、全体構成を図1乃至図4に基づき説明すると、1はアイロン本体であり、このアイロン本体1は加熱手段としてのヒータ2を埋設したベース3を下部に備えている。ベース3の底面には、ネジ4にて固定され、着脱可能なベース裏板5が備えてある。ベース3の内部には、ヒータ2の近傍に位置して蒸気室すなわち気化室6が形成され、この気化室6に連通する噴出孔7がベース3の下面に設けられる。気化室6は、ベースに形成されず別体であってもよい。また、8はベース3の上部に設けられたカバーであり、9はカバー8の上方に設けられたハンドルであり、ハンドル9の前方には、水タンクに相当する容器たるカセットタンク10がアイロン本体1に対し、着脱可能に設けられる。
カセットタンク10は、例えば合成樹脂で形成され、上面から見た形状が略U字状で、その両側がハンドル9の前端部側から後端部側の両端にかけて跨るように配置されている。11は、カセットタンク10の前部に設けられた開閉自在な注水口蓋であり、ここからカセットタンク10内に水を収容し、かつ、カセットタンク10内の不用水を廃棄できるようになっている。また、カセットタンク10のロック機構として、ハンドル9の一側面にやや突出して、タンクロック釦12が設けられており、このタンクロック釦12を操作することにより上下動する昇降体13が、弾性部材たるスプリング14により常時下方に付勢されている。そして、昇降体13の下部に突設したロック部15が、カセットタンク10の傾斜する上面に形成した凹部16に係止する構成になっている。
カセットタンク10の内部には、弁装置17が設けられており、この弁装置17の下部には、気化室6に連通する導水路たる通水継手18が設けられている。弁装置17は、支持体19により、直立状態かつ摺動自在に支持されたスチーム開閉体たるスチーム開閉棒20と、支持体19の凹底面上に設けられたパッキン21と、このパッキン21を常時、支持体19の凹底面側に付勢して、密着状態を保護する付勢部材としてのスプリング22とを備え、スチーム開閉棒20の下端部に形成した弾性を有する弁体66は、カセットタンク10の底面に形成した流出孔23の中心部に臨んで設けられている。また、通水継手18とベース3との間には、ベース3からの熱を遮断する遮熱板24が介在している。この遮熱板24の下方には、気化室6の上部開口部を覆うようにして、蓋体25が設けられる。26は、通水継手18の途中に設けられたノズルであり、このノズル26を開閉する開閉弁27が、前記遮熱板24及び蓋体25に共通して設けられた開口部32より、ベース3の凹部33に向けて下方に突出している。このベース3の凹部33には、感熱応動体に相当する反転式のバイメタル34が収容されており、凹部33の近傍にある気化室6が所定の温度に達すると、バイメタル34が凹部33の内部で反転し、スプリング30の付勢に抗して開閉弁27を押し上げることにより、ノズル26を開くよう構成されている。
前記ハンドル9は、把持部に相当する取手部35の他に、この取手部35の下方に位置するアイロン本体1の腹部36と取手部35との間に、手を差し入れるための空洞37を形成してある。なお、ここでいう腹部とは、カセットタンク10の両側を除く取手部35に対向したアイロン本体1の平坦状の中央上面部を指すものである。
ハンドル9の上部には、ベース3の設定温度を変えるための設定釦39が配設されており、ハンドル9の内部には、ヒータ2を適宜通断電することにより、ベース3を所定の温度に制御する温度制御装置42が設けられる。この温度制御装置42は、具体的には、前記設定釦39のスイッチ部43や複数の発光ダイオードすなわちLED40の他に、温度設定の切替時や不適温状態を使用者に報知する報知手段としてのブザー44や、現在の設定温度を記憶保持し、設定釦39の受付けを可能にする二次電池あるいはコンデンサなどの蓄電装置45などを、基板46の上面に実装して構成される。LED40の光は、取手部35を透過し、取手部35の上部に配置されるカセットタンク10の一部に配設された温度表示部41によって、現在の設定温度を表示する。47は、基板46の後方に形成された基板支持部であり、この基板支持部47に支持されて、別の基板48がアイロン本体1内の後方に設けられている。また、49はアイロン本体1の後部外郭をなす後カバーであり、後カバー49の下側に形成した凹部50には、アイロン本体1に電力を供給する一対の給電端子51が突出した状態で取付けられている。
一方、52は、アイロン本体1の載置可能な載置台であり、これは上面が一方向の傾斜した載置部53の傾斜下端側に受部54が突設される。受部54には、給電端子51に対応して、板バネ状の電源接点55が設けられており、アイロン本体1を載置台52の載置部53に載置すると、給電端子51が電源接点55に当接して、コンセント(図示せず)に接続した電源コード56からアイロン本体1内に、必要に応じて電源供給が行なわれるようになっている。
次に、図5に基づき電気的な構成を説明する。温度制御装置42は、具体的には、例えばマイクロコンピュータなどで構成され、当該マイクロコンピュータの記憶装置(図示せず)に記憶されたプログラムの制御シーケンスに従って、一連の動作を行うように構成されている。温度制御装置42の入力側には、設定釦39の他に、ベース3の温度を検知する例えばサーミスタなどの温度検知手段57と、アイロン本体1が載置台52に載置されたか否かを判断するアイロン載置検知手段58などが各々接続される。
また、温度制御装置42の出力側には、ヒータ2,温度表示部41,ブザー44などが接続される。温度制御装置42は、アイロン本体1が載置台52に載置されているか否かに拘らず、設定釦39からの操作信号を受けて、ベース3の設定温度を、例えばアクリルなどの温度にデリケートな繊維(耐熱温度100℃以下)のための温度を意味する「デリケート」、低温を意味する「低」、中程度の温度を意味する「中」、及び高温を意味する「高」の4段階に切換え設定する温度設定手段59と、同じくアイロン本体1が載置台52に載置されているか否かに拘らず、設定釦39からの操作信号を受け付けて、アイロン本体1を切状態に設定する切状態設定手段60とを備えている。そして、本実施例では、設定釦39を1回押動操作する毎に、温度設定手段59または切状態設定手段60における各設定モードが、「切」→「デリケート」→「低」→「中」→「高」→「切」の順に、一段ずつ高い温度設定に切換わるようになっている。ただし、高温に設定されている場合は、設定釦39を操作すると切状態の設定モードになる。なお、本実施例のように、ベース3の設定温度を段階的ではなく、連続的に可変設定できるように温度設定手段59を構成してもよい。この場合、操作手段は押釦式のものではなく、例えばスライド式のスイッチなどを用いてもよい。また、ベース3の設定温度を切換える設定手段と、離脱中も、操作手段からの操作信号を受付けて、ベース3の設定温度を切換え設定できるような温度設定手段59を温度制御装置42に備えてあればよい。温度設定手段59または切状態設定手段60により、一旦設定された前記設定モードは、アイロン本体1の離脱中にバックアップ用の蓄電装置45により、所定時間保持記憶されるようになっている。温度制御装置42は、アイロン載置検知手段58により、アイロン本体1が、載置台52に載置されていることを検知すると、温度検知手段57で検知されるベース3の温度が、温度設定手段59で設定された設定温度に一致するように、加熱手段であるヒータ2を通断電制御する。また、温度制御装置42は、温度表示部41およびブザー44を制御する報知・表示制御手段61を備えており、アイロン本体1の載置時において、温度検知手段57で検知されるベース3の温度が、設定温度付近の適温範囲にあるときには、当該設定温度に対応する温度表示部41のLED40を点灯状態にし、かつブザー44による報知を行なう一方、ベース3の温度が前記適温範囲以外にあるときには、設定温度に対応する温度表示部41のLED40を点滅状態にし、ブザーによる報知は行なわないように構成されている。
一方、アイロン本体1が載置台52から離脱すると、載置台52からアイロン本体1側への電源供給が遮断されることにより、ヒータ2は断電状態となる。このとき、温度制御装置42は、蓄電装置45からの給電により、引き続き動作し、温度検知手段57により検知されるベース3の温度を監視するとともに、設定釦39による操作信号を受付ける。そして、このベース3の温度が、温度設定手段59で設定された設定温度付近の適温範囲よりも下がったとき、或いは、設定釦39を操作して、温度設定手段59における設定温度がそれまでよりも高温に切換えたときに、報知・表示制御手段61がブザー44或いは温度表示部41のLED40を利用して、アイロン本体1の載置台52への載置を促す給電放置または表示を行なうように構成している。
ここで、本実施例におけるカセットタンク10の構造について、図1乃至図4、及び図6を参照して詳述する。カセットタンク10の内部には、このカセットタンク10から気化室6に対し、一時的に多量の水を圧送するためのポンプ装置62が設けられる。ポンプ装置62は、支持体19の後方寄りに形成した円筒状のシリンダー63と、このシリンダー63内の垂直方向に沿って摺動自在に設けられたピストン64と、ピストン64を手動で操作するための操作釦65とで概ね構成され、気化室6に連通する噴出孔7から通常のスチーム若しくは増量スチームを噴出するようになっている。操作釦65は、操作パネル38の上面より突出して押動操作可能に設けられており、カセットタンク10から気化室6に至る通水路中に設けた弁体66を、操作釦65の操作に応じて開閉する開閉制御部としての回転子67と、この回転子67の下方にあってスチーム開閉棒20の上部に連結し、操作釦65の押動位置に応じて、カセットタンク10の内部で上下動する継手68とを備えている。
回転子67は下面が開口した凹状に形成され、当該凹部に、ピストン64の上部に形成した棒体80が挿入し、その上端が当接している。ピストン64の下部に形成したフランジ部81は、シリンダ63の内周面に密着状態で当接しており、シリンダ63の底面および内周面と、ピストン64の下面とにより囲まれた水導入室82内に、ピストン64を上方に付勢するピストン付勢体としてのスプリング69が配設される。また、シリンダ63の上面と継手68との間にも、継手68ひいてはスチーム開閉捧20を上方に付勢する継手付勢体としてのスプリング70が設けられる。回転子67は、操作釦65と連動して操作釦65の押動力をピストンに伝達するとともに、操作釦65をその動作下端にまで押し下げると、カセットタンク10内に形成した係合部(図示せず)に係合してロック状態となり、操作釦65ひいてはピストン64をその位置に保持するように構成している。このとき、継手68および継手68に連結するスチーム開閉棒20は、スプリング70の付勢に抗して下方に移動し、スチーム開閉棒20の下端部にある弁体66が流出孔23を閉塞して、カセットタンク10から気化室6への水の供給を遮断する。一方、回転子67がロックした状態から、操作釦65をさらに下方へ押込むと、回転子67とカセットタンク10内の係合部との係合状態は解除され、シリンダ63内にあるスプリング69の弾性反発力により、ピストン64ひいては回転子67および操作釦65が押し上げられ、元の位置に復帰する。当該動作の途中で、スプリング70の弾性反発力も作用して、継手68が押し上げられ、スチーム開閉棒20の下端部にある弁体66が、流出孔23を開放して、カセットタンク10から気化室6への水の供給を可能にする。このように、操作釦65の押動操作によって、弁体66による流出孔23の開閉すなわちドライとスチームの切換えを行なうように構成している。
ポンプ装置62の下方には、それぞれ水導入室82に連通する流入口83と流出口84が形成される。カセットタンク10内の水をシリンダ63内に取り入れる流入口83内には、スプリング付きの逆止弁71が設けられるとともに、シリンダ63から気化室6に水を送り出す流出口84内にも、別のスプリング付きの逆止弁85が設けられる。そして、回転子67がロック状態とならない範囲内で、操作釦65を途中まで押込むと、流入口83内の逆止弁71が閉じる代わりに、流出口84内の逆止弁85が開いて、水導入室82内の水が流出口84から気化室6に吐き出される一方、操作釦65から指を離すと、スプリング69の弾性反発力が作用して、ピストン64ひいては回転子67および操作釦65が押し上げられ、流出口84内の逆止弁85が閉じる代わりに、流入口83内の逆止弁71が開いて、カセットタンク10内の水が流入口83を介して水導入室82内に収容される。このように、回転子67がロック状態とならない範囲で操作釦65を操作する間は、ポンプ装置62を利用して、一時的に気化室6に多量の水を送り出す所謂増量スチームができるように構成されている。なお、前記スプリング70は、増量スチームとと通常のスチーム・ドライ切換との誤動作をなくすため、スプリング68よりも荷重を大きく設定してある。なおここでは、アイロン本体1を水平状態にして使用するだけでなく、ハンガーなどに掛けたスーツなどの衣類に対し、アイロン本体1を略垂直にして、ポンプ装置62により衣類に増量スチームを噴射する使い方もある。
次に、図10のフローチャートに基づいて、上記構成のスチームアイロンにおける動作の説明をする。予め注水口蓋11から水をカセットタンク10内に収容するとともに、このカセットタンク10をハンドル9の前部から差し込むと、カセットタンク10の上面がスプリング14に抗してロック部15を押し上げ、最終的に凹部16にロック部が係止することで、カセットタンク10がアイロン本体1の所定位置にセットされる。次いで、ステップS1において、アイロン本体1を載置台52に載置した状態で、電源コード56をコンセント(図示せず)に差し込むと、載置台52の電源接点55からアイロン本体1内の温度制御装置42および蓄電装置45に電源が供給される。温度制御装置42においては、初期状態として切状態設定手段60による切状態の設定モードが先ず設定され、報知・表示制御手段61によって操作パネル38の「切」に対応するLED40が点灯する。なお、この切状態では、安全のためにヒータ2への通電は行なわない。その後、ステップS2において、設定釦39を押動操作すると、設定モードは「切」から「デリケート」,「低」,「中」,「高」の順に切換わり、これに対応するLED40が点灯する。そして、ステップS3にて、「切」以外の温度設定手段59の設定モードに切換わると、温度制御装置42によりヒータが通電される。以下、設定モードを「デリケート」に設定した場合について説明する。
温度制御装置42は、次のステップS4において、アイロン本体1が載置中であるか離脱中であるかをアイロン載置検知手段58により検知する。アイロン本体1が引き続き載置台52に載置される状態では、ベース3が温度設定手段59にて設定した温度に達するまで、ヒータ2によるベース3への加熱が行なわれる。「デリケート」設定は、耐熱温度100℃以下の繊維を対象としているため、当該ベース3の設定温度を100℃とし、温度検知手段57からの検知出力が100℃を超えている場合は、ヒータ2による加熱を停止する。このとき、温度制御装置42は、ベース3が設定温度100℃に近い適温範囲内であるか否かを、温度検知手段57からの検知出力により判断する(ステップS5)。そして、ベース3の温度が適温範囲を外れているときは、次のステップ6に移行して、設定温度に対応する温度表示部41のLED40を点滅状態にし、ブザー44による報知は行なわないようにして、ベース3が不適温状態であることを使用者に知らせる。一方、前記ステップS5において、ベース3の温度が適温範囲内にあるときには、ステップS7に移行して、設定温度に対応する温度表示部41のLED40を点灯状態にするとともに、ブザー44を一定時間鳴動させて、使用者にアイロン掛けが可能なことを報知する。そして、温度制御装置42は、アイロン本体1が載置台52に載置されている限り、ベース3の温度が適温範囲内に維持されるように、ヒータ2を通断電制御するとともに、ベース3の温度が適温か不適温であるかに拘らず、前述のステップS4の手順に戻る。
その後、ステップS4において、アイロン掛けのためにアイロン本体1を載置台52から離脱すると、載置台52からアイロン本体1側への電源供給が遮断され、ヒータ2は断電状態となる。温度制御装置42は、蓄電装置45からの給電により引き続き動作するが、次のステップS8において、ベース3の温度が適温範囲よりも下がったとき、或いは、設定釦39を操作することにより、温度設定手段59におけるそれまでよりも高温に切換わったときに、ブザー44或いはLED40を利用して、アイロン本体1の載置台52への載置を促す給電報知または表示を行なう。そして、その後はステップS4の手順に再び戻る。
アイロン掛けを行なう場合、アイロン本体1の空洞37から手を差し入れた後、ハンドル9の取手部35を掌で抱えるようにして握る。この際取手部35の後端部の幅を略中央部より徐々に広げるとともに、高さを下げることによりアイロン掛け最中に、アイロン本体1が手から抜け出ないようにしてある。また、ベース3の先端部に対する目視を良好にするために、カセットタンク10の前端面は、アイロン本体1の後方側に向けて比較的大きく倒れるように傾斜させてあるが、本実施例におけるカセットタンク10の両側は、十分な水量を収容できるだけの高さを確保してあるので、従来のような水タンクの容量不足を解消することが可能になる。
アイロン掛け中にドライ動作を行うには、図7に示すように、スプリング69,70の弾性に抗して、カセットタンク10内の係合部に回転子67が係合する位置まで、操作パネル38にある操作釦65を押し下げる。すると、操作釦65の動作下端で回転子67によりロックされ、他の回転子67,継手68およびピストン64なども操作釦65により押込まれた位置に保持される。この操作釦65を押し下げる動作中に、回転子67の下部に継手68が接して、継手68が下方に移動すると、継手68に連結するスチーム開閉棒20も下方に移動し、スチーム開閉棒20の下端部にある弁体66の下端が流出孔23を閉塞するとともに、弁体66の外周面が流出孔23より放射状に広がる円錐面を密着状態で閉塞する。これにより、カセットタンク10から弁装置17を経て気化室6に供給する水の通路が確実に遮断される。また、回転子67により操作釦65がロックされると、カセットタンク10内にあるピストン64も動かなくなるので、ポンプ装置62による気化室6への水の供給も遮断される。こうして、カセットタンク10から気化室6への水の供給が全て遮断され、噴出孔7からはスチームが噴出しないドライ動作となる。
一方、ドライ動作から通常のスチーム動作への切換えを行なうには、再度、操作釦65を押し下げて、回転子67による操作釦65のロック状態を解除する。こうすると、図8に示すようにシリンダ63内にあるスプリング69の弾性反発力が作用して、ピストン64が押し上げられるとともに、回転子67や操作釦65も同時に押し上げられる。回転子67によるロック状態の解除と連動して、継手68の下方にあるスプリング70が継手68を持ち上げ、流出孔23を開く方向に弁体66およびスチーム開閉棒20を操作する。これにより、ポンプ装置62は作動しないものの、カセットタンク10から弁装置17を経て気化室6に供給する水の通路が確保され、ヒータ2により気化室6で加熱された水が、噴出孔7からスチームとして噴出する。このときのスチーム量は、弁装置17による水の通過量で規定された通常のものとなる。
また、通常よりも多量のスチームを噴出孔7から一時的に噴出する増量スチーム動作は、図9に示すように、回転子67がロック状態とならない範囲内で操作釦65により、回転子67を介して、ピストン64をシリンダ63内でスプリング69の弾性反発力を利用して、摺動自在に操作することで行なわれる。具体的には、回転子67がロック状態とならない範囲内で、操作釦65を途中まで押込むと、流入口83内の逆止弁71が閉じるとともに、流出口84から気化室6に吐き出される。その後、操作釦65から指を離すと、スプリング69の弾性反発力が作用して、ピストン64ひいては回転子67および操作釦65が押し上げられ、流出口84内の逆止弁85が閉じる代わりに、流入口83内の逆止弁71が開いて、カセットタンク10内の水が流入口83を介して、水導入室82内に収容される。この操作釦65の操作を繰り返せば、ポンプ装置62を利用して、一時的に気化室6に多量の水を送り出すことができる。
以上のように本実施例では、アイロン本体1の下部に設けられた加熱手段たるヒータ2を有するベース3と、設定温度に応じて、ヒータ2を制御する制御部としての温度制御装置42とを備えたアイロンにおいて、温度制御装置42は、ベース3の温度が100℃以下となるようヒータ2を制御する低温域制御手段としての「デリケート」を備えている。
このようにすると、ベース3の温度が100℃以下となるようヒータ2を制御する「デリケート」設定手段を設けているため、温度にデリケートな繊維でも、あて布等をせずに、そのままアイロン掛けをすることができる。従って、温度にデリケートな繊維でも、繊維を傷めず、そのままアイロン掛けができるため、利便性が向上する。
まず、全体構成を図11乃至図13に基づき説明すると、3はアルミニウムダイカスト加工により形成されたベースで、このベース3にヒータ2が埋設されているとともに、ベース3の上面に気化室6が形成され、この気化室6に連通してベース3の下面に噴出孔7が設けられている。そして、前記気化室6の上面に蓋体25が取り付けられている。
前記ベース3上に遮熱板24が取り付けられ、この遮熱板24上にカバー8が設けられ、前記カバー8の上にハンドル9が結合され、このハンドル9に着脱自在なカセットタンク10が形成されている。
また、前記カセットタンク10の下部に、上記気化室6に臨ませたノズル26が取り付けられ、このノズル26を開閉する開閉弁27が、前記遮熱板24に設けられた開口部32より、ベース3の凹部33に向けて下方に突出している。このベース3の凹部33には、感熱応動体に相当する反転式のバイメタル34が収容されており、凹部33の近傍にある気化室6が所定の温度に達すると、バイメタル34が凹部33の内部で反転し、スプリング30の付勢に抗して開閉弁27を押し上げることにより、ノズル26を開くよう構成されている。
また、前記ベース3上にヒータ2によるベース3の温度を制御する自動温度調節器100が取り付けられ、この自動温度調節器100の可動調節部に、前記カセットタンク10から水密的に隔離された空間を貫通して上下自在に設けた操作杆101の下端が連結されている。
さらに、この自動温度調節器100は、前記ヒータ2の通電回路を開閉する接点開閉機構102と、この接点開閉機構102を連動させる上下動可能な調節棒103とを備えている。一方、前記ハンドル9の上部の取手部35には、使用者により操作される温度調節カム104が左右動自在に設けられており、この温度調節カム104の左右動に連動して調節棒103が上下動するようになっている。そして、この調節棒103の上下動に応じて前記接点開閉機構102が開閉し、この開閉動作によりヒータ2の通電が制御され、この制御によりベース3の温度が前記温度調節カム104で選択された設定温度に保たれるようになっている。
前記ハンドル9はU字状になっていて、空洞37を有しており、これによりアイロン本体1の上部前後方向に延びて位置する握り部としての取手部35を形成するものである。空洞37は、取手部35の下方に位置するアイロン本体1の腹部36と取手部35との間に、手を差し入れるためのものである。なお、ここでいう腹部とは、カセットタンク10の両側を除く取手部35に対向したアイロン本体1の平坦状の中央上面部を指すものである。
前記ハンドル9の前側に位置して、カバー8上には、水タンクに相当する容器であるカセットタンク10がアイロン本体1に対して着脱自在に設けられ、このカセットタンク10は例えば合成樹脂で成形され、上面からみた形状がほぼU字状で、その両側がハンドル9の前端部側から後端部側の両端に掛けて跨るように配設されている。また、カセットタンク10の前部には注水口11aが開口形成されているとともに、この注水口11aを開閉自在に塞ぐ注水口蓋11が取り付けられている。そして、注水口11aからカセットタンク10内に水を収容し、かつ、カセットタンク10内の不用水を廃棄できるようになっている。また、カセットタンク10をアイロン本体1に係止するロック機構として、カセットタンク10の側面にやや突出してタンクロック釦12が設けられており、このタンクロック釦12を操作することにより上下動する昇降体13がカセットタンク10内の後部に設けられている。この昇降体13は、第1実施例とは異なり、弾性部材であるスプリング14により常時上方へ付勢されている。そして、昇降体13の上部に突設されたロック部15が、ハンドル9の傾斜した下面に形成された凹部16に係合する構成になっている。
次に、本発明における特徴部について説明する。
110は、ベース3の温度を表示するための温度表示機構であり、当該温度を視認可能とする温度表示板111と、コイルスプリング112と、熱が加えられると縮むように構成された例えば形状記憶合金からなる感熱応動部113とからなり、アイロン本体1の腹部36に配置されている。温度表示板111は、図14に示すように、ベース3の温度が常温であることを示す青色に着色された常温表示部111aと、ベース3の温度が加熱時(高温)であることを示す赤色に着色された高温表示部111bとに色分けされている。温度表示板111を、本実施例とは別の色で色分けしてもよいことは言うまでもない。温度表示板111の高温表示部111b側には、コイルスプリング112の一端が取り付けられ、一方、常温表示部111a側には、感熱応動部113の一端が取り付けられる。コイルスプリング112の他端は、腹部36の内側からネジ120で固着され、感熱応動部113の他端には、熱伝導性の良い部材で形成された熱伝達部としてのリード板114の上端がネジ121で取り付けられている。感熱応動部113の他端から垂下するように設けられた該リード板114は、ベース3の熱を感熱応動部113に伝達するものであり、当該下端がベース3に設けられたボス(図示せず)に図示しないネジで固着されている。本実施例におけるリード板114は、例えば銅やアルミなどからなる金属板により構成しているが、リード板114の代わりにヒートパイプなどでベース3の熱を伝達するように構成してもよい。
また、温度表示機構110の上部は、温度表示板111の一部が露出するように開口部が形成されており、透明部材で構成された表示窓115が該開口部に嵌め込まれている。なお、感熱応動部113は、例えばバイメタルなどといった、熱に応じて形状変化するものであればどんなものでもよく、形状も限定されない。また、温度表示板111を使用せず、感熱応動部113の形状そのものでベース3の温度を表示するようにしてもよい。
次に、上記温度表示機構110の構成につき、その作用を説明する。
温度表示板111は、ベース3の温度が常温の時は、図15に示すように、コイルスプリング112によりアイロン本体1の後方向に付勢され、感熱応動部113が引っ張られ伸びきった状態となる。このとき、表示窓115からは、常温であることを示す常温表示部111aが露出している。即ち、表示窓115は、ベース3の温度が常温であることを示す「青」を表示する。一方、アイロンの電源を入れ、ベース3が加熱されると、コイルスプリング112の付勢力によって伸びきっていた感熱応動部113は、ベース3と連結されたリード板114から伝達される熱により形状復帰し、縮み始める。ヒータ2による加熱が進み、ベース3の温度が高温となると、図16に示すように、感熱応動部113の引っ張り力がコイルスプリング112の付勢力に勝ることで、温度表示板111をアイロン本体1の前方へ引っ張る。このとき、表示窓115からは、高温であることを示す高温表示部111bが露出している。即ち、表示窓115は、ベース3の温度が高温であることを示す「赤」を表示する。このようにして、使用者は、表示窓115からベース3の温度を目視で確認することができる。しかも、本実施例における温度表示機構110は、電力供給を必要としないため、アイロンの電源を切っても、問題なく機能する。温度表示機構110を、第1実施例で示した、温度検知手段57,温度制御装置42を利用して、LEDなどでベース3の温度を表示するように構成してもよいが、この場合、電力供給を必要とするため、アイロンの電源断時のバックアップ電源として例えば蓄電器などを設ける必要があり、少なくとも、ベース3が自然冷却により常温になるまでの時間動作するように、当該蓄電器の容量を選定しなければならない。
以上のように本実施例では、アイロン本体1の下部に設けられた加熱手段たるヒータ2を有するベース3を備えたアイロンにおいて、前記ベース3の温度を表示する温度表示機構110を、アイロン本体1の腹部36に備えている。
このようにすると、温度表示機構110によりベース3の温度が目視により容易に確認できるので、アイロン収容時に手で触れて確認する必要がなく、安全である。また、アイロン本体1の腹部36に温度表示機構110を設けているので、見易い。
また本実施例では、温度表示機構110は、熱に応じて形状が変化する感熱応動部113を備えている。
このようにすると、感熱応動部113の形状変化を利用して、温度表示を行なう構成としているので、電力供給を必要とせず、アイロンの電源を切っても温度を表示することができると共に、簡単かつ安価な構成とすることができる。
さらに本実施例では、温度表示機構110とベース3とを熱伝達部たるリード板114で接続している。
このようにすると、温度表示機構110とベース3とをリード板114で接続しているため、温度表示機構110がベース3から離れた場所に位置していても、ベース3の熱を良好に伝達することができる。
なお、本発明は、上記各実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で変更可能である。着脱式のカセットタンク10に限らず、上記ロック機構を備えていない固定式の水タンクであってもよい。また、水タンクを備えないドライ専用のアイロンであってもよい。また、コードレスアイロンに限らず、コード付きのアイロンであってもよい。
本発明の第1実施例におけるアイロン本体の縦断面図である。
同上、アイロン本体を載置台に載置した状態の縦断面図である。
同上、アイロン本体の側面図である。
同上、アイロン本体の平面図である。
同上、電気的構成を示すブロック図である。
同上、アイロン本体の要部を示す縦断面図である。
同上、ドライ設定時におけるアイロン本体の要部を示す縦断面図である。
同上、スチーム設定時におけるアイロン本体の要部を示す縦断面図である。
同上、増量スチーム設定時におけるアイロン本体の要部を示す縦断面図である。
同上、動作手順を示すフロー図である。
本発明の第2実施例におけるアイロン本体の側面図である。
同上、アイロン本体の平面図である。
同上、アイロン本体の要部を示す縦断面図である。
同上、温度表示機構を構成する温度表示板の平面図である。
同上、ベース温度が常温時の温度表示機構の平面図である。
同上、ベース温度が高温時の温度表示機構の平面図である。
従来例におけるアイロン本体の側面図である。
符号の説明
1 アイロン本体(本体)
2 ヒータ(加熱手段)
3 ベース
36 腹部
42 温度制御装置(制御部)
110 温度表示機構(機構)
113 感熱応動部(応動部)
114 リード板(伝達部)