以下、本発明についてより詳細に説明する。最初に、本発明の各態様に共通する、磁気記録媒体および磁気記録装置の構成について説明する。
本発明に係る磁気記録媒体の概略的な構造を説明する。本発明の各態様に係る磁気記録媒体は、非磁性基板と磁気記録層との間に、各種のベース層および/またはスイッチング層および/または機能層を設けた構造を有する。熱アシスト磁気記録を行う場合には、温度によって磁気特性が変化する、ベース層、スイッチング層または機能層が用いられる。なお、必要に応じて、記録層などの性能を制御するための下地層を設けてもよい。また、必要に応じて、記録層上にカーボン、SiO2などからなる保護層を設けてもよい。
基板は通常円形(ディスク)で硬質の材料からなる。基板の材料としては、金属、ガラス、セラミックスなどを用いることができる。
記録層としては、例えば磁性粒子が非磁性体中に分散された構造を有するものが用いられる。記録層に用いられる磁性粒子の材料は、飽和磁化Isが大きくかつ磁気異方性が大きいものが適している。この観点から、磁性金属材料として、Co、FeおよびNiからなる群より選択される磁性元素と、Pt、Sm、Cr、Mn、BiおよびAlからなる群より選択される金属との合金を用いることが好ましい。結晶磁気異方性の大きいCo基合金、特にCoPt、SmCo、CoCrをベースとしたものや、FePt、CoPtなどの規則合金がより好ましい。具体的には、Co−Cr、Co−Pt、Co−Cr−Ta、Co−Cr−Pt、Co−Cr−Ta−Pt、Fe50Pt50、Fe50Pd50、Co3Pt1などが挙げられる。また、磁性材料として、Tb−Fe、Tb−Fe−Co、Tb−Co、Gd−Tb−Fe−Co、Gd−Dy−Fe−Co、Nd−Fe−Co、Nd−Tb−Fe−Coなどの希土類(RE)−遷移金属(TM)合金、磁性層と貴金属層との多層膜(Co/Pt、Co/Pdなど)、PtMnSbなどの半金属、Coフェライト、Baフェライトなどの磁性酸化物などを用いることもできる。さらに、上述した磁性材料の磁気磁性を向上させるために、例えばCr、Nb、V、Ta、Ti、W、Hf、V、In、Si、Bなど、またはこれらの元素と、酸素、窒素、炭素、水素の中から選ばれる少なくとも1種の元素との化合物を添加してもよい。磁性粒子の磁気異方性に関しては、従来のHDDで用いられてきた面内磁気異方性でも、光磁気記録で用いられてきた垂直磁気異方性でも、両者が混合されたものでも構わない。
磁性粒子を非磁性体で分断する方法は特に限定されない。例えば、磁性材料に非磁性元素を添加して成膜し、磁性粒子の粒間にCr,Ta,B,酸化物(SiO2など)、窒化物などの非磁性体を析出させる方法を用いてもよい。また、リソグラフィー技術を利用して非磁性体に微細な孔を形成し、孔に磁性粒子を埋め込む方法を用いてもよい。PS−PMMAなどのジブロックコポリマーを自己組織化させて一方のポリマーを除去し、他方のポリマーをマスクとして非磁性体に微細な孔を形成し、孔に磁性粒子を埋め込む方法を用いてもよい。また、粒子線照射によって加工する方法を用いてもよい。
記録層の厚さは特に制限されないが、高密度記録を考慮すると100nm以下が好ましく、50nm以下がより好ましく、20nm以下がさらに好ましい。ただし、記録層の厚さを0.1nm以下にしようとすると膜を形成するのが困難になるので好ましくない。
必要に応じて設けられる下地層は、磁性体でも非磁性体でもよい。下地層の厚さは特に限定されないが、500nmよりも厚いと製造コストが増加するので好ましくない。
磁性体からなる下地層は、記録層における記録/再生を効率的に行えるように、記録層中の磁区や記録/再生ヘッドと交換相互作用・静磁気相互作用を介して磁気的に結合されることが好ましい。例えば、記録層として垂直磁化膜を用いる場合、下地層として軟磁性膜を用い、単磁極ヘッドで記録することにより、高密度記録が可能になる。また、記録層として面内磁化膜を用いる場合、記録層の上または下に軟磁性層を設け、再生時に軟磁性層を飽和させる強度の磁界を印加することによって、高密度の記録が可能となり、また熱揺らぎ耐性も向上する。
非磁性体からなる下地層は、記録層の磁性体または非磁性体の結晶構造を制御する目的、または基板からの不純物の混入を防ぐ目的で設けられる。例えば、磁性体の所望の結晶配向の格子間隔に近い格子間隔を持つ下地層を用いれば、磁性体の結晶配向を制御することができる。また、適切な表面エネルギーを有するアモルファス下地層を用いることにより、記録層の磁性体または非磁性体の結晶性またはアモルファス性を制御することもできる。下地層の下にさらに別の機能を有する下地層を設けてもよい。この場合、2つの下地層で機能を分担できるので、所望の効果の制御が容易になる。たとえば、記録層の結晶粒を小さくする目的で、基板上に粒径の小さいシード層を設け、その上に記録層の結晶性を制御する下地層を設ける手法が知られている。基板からの不純物の混入を防ぐためには、下地層として格子間隔が小さいかまたは緻密な薄膜を用いることが好ましい。
さらに、下地層は上述した機能を兼ね備えていてもよい。例えば、磁性下地層が記録層の磁性体の結晶性を制御する機能を有していてもよい。この場合、記録/再生特性上の効果と結晶性上の効果とが相乗されるので、単独の機能のみを有する下地層の場合よりも好ましい。また、下地層として、イオンプレーティング、雰囲気ガス中でのドープ、中性子線照射などによって生じた基板の表面改質層を用いてもよい。この場合、薄膜を堆積するプロセスを省略できるので、媒体作製上好ましい。
本発明に係る、熱アシスト磁気記録を行う磁気記録装置は、磁気記録媒体を加熱する手段と、磁気記録媒体に磁界を印加する手段とを有する。一方、本発明に係る、熱アシスト磁気記録を行わない磁気記録装置は、磁気記録媒体に磁界を印加する手段を有するが、磁気記録媒体を加熱する手段を有していない。
磁気記録媒体を加熱する手段は、記録温度に達する部分が局所的であれば、ディスク全面を均一に加熱するものでもよいし、局所的に加熱するものでもよい。一般に、記録保持特性(アーカイブ特性)や使用電力を考慮すると、媒体の一部を局所的に加熱し、媒体の大部分を室温以下の温度に保つことが好ましい。高速かつ局所的な加熱が可能な加熱手段としては、レーザー、誘導加熱手段、媒体面との距離が可変に保持された、電熱線などで加熱されるプローブ、または電子線放出プローブなどが考えられる。また、より局所的な加熱を行うためには、レーザー光をレンズなどにより媒体面状で絞りこむ方式、レーザー光を微小開口やソリッドイマージョンレンズ(SIL)を用いて近接場光とする方式、プローブ先端に微細なアンテナを形成して誘導加熱を行う方式、加熱プローブの媒体対向部の形状をできる限り先鋭化するか媒体面との距離を短くする方法、電子線放出プローブの媒体対向部の形状をできる限り先鋭化する方法などが挙げられる。加熱手段は媒体の記録層側に設置してもいいし、その反対側に設置してもよい。
磁気記録媒体に磁界を印加する手段は、通常のHDDで用いられているような浮上スライダーの端面に誘導コイルと磁極からなる磁気回路を有するものでもよいし、永久磁石を設置してもよいし、媒体に磁性層を追加して温度分布または光照射によって磁化分布を生じさせ瞬間的・局所的な磁界を発生させてもよいし、情報の記録を行う磁性層自身から発生する漏洩磁界を利用してもよい。永久磁石を設置する場合には、媒体との距離を可変にするか、磁石を微細化するなどの工夫によって、高速・高密度の磁界印加ができるようになる。
次に、本発明の第1の態様に係る磁気記録媒体、この媒体を用いる磁気記録装置、およびこの媒体に対する磁気記録方法について説明する。第1の態様に係る磁気記録媒体は、少なくとも、非磁性基板と、磁性体からなるベース層と、非磁性体からなるスイッチング層と、複数の磁性粒子及びそれら磁性粒子間を埋める非磁性体壁を有する構造を有する記録層とを有する。
図1に、第1の態様に係る磁気記録媒体と磁界印加手段と加熱手段を示す。図1の磁気記録媒体は、基板11上に、下地層12、磁性体を含むベース層13、非磁性体を含むスイッチング層14、記録層15、および保護層16を形成した構造を有する。この磁気記録媒体の基板11としてはガラスなどの透明基板が用いられており、基板11側に加熱手段としてレーザー21が設けられている。なお、レーザー21と基板11との間にレンズ(図示せず)を設けてもよい。この磁気記録媒体上に磁界印加手段としての記録ヘッド22が設置されている。媒体は回転されて、例えば矢印で示すように右から左へ移動する。レーザー21による局所的な加熱と、記録ヘッド22による局所的な磁界印加により記録層15に微細な磁化反転を形成することができる。図示されていない残りの部分は概ね従来のHDD装置と同様である。なお、レーザー21は記録ヘッド22と一体化して磁気記録媒体上に設置してもよい。
スイッチング層14は非磁性体であり、室温において記録層15とベース層13との交換結合相互作用を切断する機能を有する。この層は後述するように温度に応じて記録層−ベース層間に交換結合相互作用が働かない状態と働く状態とを切り換えられるという意味でスイッチング層と呼んでいる。スイッチング層14の形態は特に限定されない。たとえば連続薄膜の形態でなくとも、界面の物質混合や界面効果などによって交換結合相互作用を切断する効果が得られる場合もある。スイッチング層14の膜厚はたとえば5nm以下に設定される。その厚さの下限は特に限定されないが、0.3nm以下では実質的に界面を形成することができないので好ましくない。スイッチング層14は、下地層の機能を併せ持ち、記録層15の磁気特性を制御できるものであってもよい。
ベース層13は、磁性体であれば特に限定されない。その厚さも特に制限されないが、1000nm以上では作製に時間がかかり、また膜応力による特性劣化や剥離が発生しやすくなるので好ましくない。1nm以下になると膜を形成するのが困難になるので好ましくない。
本発明者らは、薄い非磁性体で分断されたベース層と記録層との間に作用する交換結合の温度依存性を詳細に調べた。その結果、温度によりベース層−記録層間の交換結合の有無を調整できることを見出した。そこで、上記の非磁性層をスイッチング層と呼んでいる。
図2に、記録層とベース層との間に作用する交換結合相互作用の強度(磁界換算)Hexgおよび記録層界面からベース層に向かって交換結合が及ぶ距離Lexgの温度依存性を模式的に示す。この図において、tswはスイッチング層の厚さ、Tswはtsw=Lexgとなり、記録層とベース層とが交換結合相互作用を及ぼし始める温度、Taは室温、Twは記録温度(すなわち局所的に加熱された記録層への記録温度)、TcBはベース層のキュリー温度である。なお、車載用のHDDを考慮して、80℃程度の温度になることがあり得る自動車室内でも記録磁化が再反転することがないように、Twは100℃以上に設定される。図2に示されるように、記録層の温度がTswより高温になると、交換結合が及ぶ距離Lexgがスイッチング層の厚さtswより大きくなり、ベース層−記録層間に交換結合相互作用が働くようになる。本発明者らは、このことを利用して、熱揺らぎのために困難であった磁気記録の高密度化を実現できることを見出した。その詳細を以下に説明する。
上述したように、熱揺らぎ限界を打破するために磁性粒子の持つ磁気異方性エネルギーKuを大きくすると記録保磁力Hcwが増加する。しかし、磁気異方性エネルギーは温度とともに減少する特性があるので、記録時に媒体を加熱すれば、現行のヘッドでも記録できる程度にHcwを下げることができる。これが、熱アシスト磁気記録の基本的な考え方である。しかし、従来から検討されていた熱アシスト磁気記録では、記録直後の熱揺らぎ劣化およびクロスイレーズの問題があった。これは、記録直後は媒体が加熱された状態であるため熱揺らぎ劣化がより起こりやすいためである。すなわち、ヘッド磁界で反転磁区を形成できても、ヘッドが通り過ぎて磁界が印加されなくなった直後に、熱揺らぎにより磁区が崩壊すると記録ができない。また、加熱手段によって必ず温度分布が生じるので、記録動作時には隣接するトラックも同時に加熱され、室温では熱揺らぎを起こさないようにKu、Vaが調整されていても、昇温によって熱揺らぎ現象が加速されて劣化が起こる。
以下、第1の態様によれば、これらの問題を解決できることを説明する。熱揺らぎの程度は磁気異方性エネルギーの大きさ(=Ku×Va)と熱揺らぎエネルギーとの比によって決まり、KuVaが小さいほど上記の磁区の再反転が起こりやすくなる。本発明者らは、新たに記録時磁気異方性エネルギー密度Kuwという量を導入しその温度依存性に着目した。Kuの値自体は磁性体の本質的な物理量であり、磁界の変化の仕方で変わる量ではない。一般的に、Kuを見積もるには、VSMなどによる磁化反転過程を利用することが多く、そのときに見積もられるHcなどの物理量より算出される。この見積りには熱揺らぎの影響が加わっており、特にKuVaが小さい材料ではその影響が大きい。しかし、この影響を正確に見積もることは困難である。そこで、熱揺らぎがないとして見積もったHcを用いてKuを導く方法がよく取られる。この方法を用いると、Kuの値は磁界の反転速度によって変化することになる。ここでの説明は便宜上、こうして見積もったKuをKuwとする。このKuwは、記録動作時の高速な磁界変化に対抗する記録保磁力Hcwと概ね比例関係にある。
第1の態様では、図2に示すLexgとHexgの温度依存性を満足するように、磁気記録媒体の構造が調整され、加熱および磁界印加が行われる。図3に、磁気記録媒体のKuw、VaおよびKuwVaの温度依存性を示す。
図3に示されるように、媒体温度がTswを超えると、記録層とベース層が交換結合するので磁化反転ユニットの大きさVaが急峻に増大し、これに伴ってKuwVaが増大する。したがって、記録温度Tw近傍でもKuwVaは磁化再反転を起こさない程度に十分に大きな値を持つことができる。一方、この時の保磁力Hcwは小さいままであり、容易に記録できる。したがって、熱アシスト磁気記録を行っても熱揺らぎによる磁化再反転が起こらず、高密度の磁気記録が達成できる。また、クロスイレーズも抑制できる。すなわち、隣接トラックにおいて、温度上昇が小さいときにはKuVaの低下が小さいため熱揺らぎ劣化は起こらず、温度上昇が大きいときにはVa増加の効果でやはり熱揺らぎ劣化は起こらない。
上記の説明はベース層のキュリー温度TcBが記録温度Twよりも高いことを前提としているが、TcBはTwより低くても構わない。図4に、TcB<Twの場合について、磁気記録媒体のKuw、VaおよびKuwVaの温度依存性を示す。図4に示されるように、Tswより高温でVaの増加によりKuwVaはいったん増加するが、TcBよりも高温で再びKuwVaは小さくなる。記録は、KuwVaが非常に小さくなっている状態で行なわれるが、記録直後の冷却過程においてVaが大きくなるために磁化再反転は抑制される。クロスイレーズを抑制する作用は上記と同じである。この場合、記録時のVaが小さいことから記録分解能を向上させることができ、より高密度の記録ができるという利点がある。ただし、TcBに対して記録温度を調整するマージンが狭いという欠点がある。したがって、TcBとTwの関係は、その媒体を用いるシステムの要求に応じて設定すればよい。
第1の態様の磁気記録媒体においては、ベース層としてフェリ磁性体を好適に用いることができる。ベース層がフェリ磁性体であれば室温または任意の温度で磁化をほぼセロにすることができ、再生時にベース層からの信号がノイズとして検出されることがないため好ましい。また、フェリ磁性体としてアモルファスの希土類−遷移金属(RE−TM)合金を用いれば、アモルファスであるために記録層の磁性粒子サイズのばらつきに依存せずに、記録層とベース層が交換結合できるため好ましい。また、RE−TM合金では、希土類と遷移金属の比率によって室温での磁化の値を容易に制御でき、設計・製造が容易になるため好ましい。また、光磁気記録媒体に用いられているRE−TM合金、例えばTbFeCo、GdTbFeCo、DyTbFeCoなどは、FeとCoの比率によってキュリー温度を容易に制御できる点でも好ましい。
第1の態様においては、記録層の磁性粒子間を分断する非磁性体の部分の長さd[nm]が、スイッチング層の厚さtswの1/2よりも大きいことが好ましい。この場合、媒体温度がTswより高温になりLexgが大きくなったときに、磁性粒子間では交換結合が働かないため転移ノイズの少ない磁化転移を作ることができる。ただし、磁性粒子間の距離が大きくなりすぎると磁化量が減り、信号が小さくなる欠点がある。磁性粒子間距離とスイッチング層厚との関係は、磁気記録装置のシステムの要求に応じて設定することが好ましい。
次に、本発明の第2の態様に係る磁気記録媒体、この媒体を用いる磁気記録装置、およびこの媒体に対する磁気記録方法について説明する。第2の態様に係る磁気記録媒体は、少なくとも非磁性基板と、使用環境下で非磁性であり強磁性への転移を示す材料を含むベース層と、複数の磁性粒子及びそれら磁性粒子間を埋める非磁性体壁を有する構造を有する記録層とを有する。
図5に、本発明の第2の態様に係る磁気記録媒体と磁界印加手段と加熱手段を模式的に示す。図5の磁気記録媒体は、基板11上に、下地層12、使用環境下(通常は室温)で非磁性であり加熱されたときに強磁性への転移を示す材料を含むベース層13、記録層15、および保護層16を形成した構造を有する。この磁気記録媒体の基板側に加熱手段としてのレーザー21が、磁気記録媒体上に磁界印加手段としての記録ヘッド22がそれぞれ設置されている。なお、レーザー21は記録ヘッド22と一体化して磁気記録媒体上に設置してもよい。
第2の態様に係る磁気記録媒体において、ベース層13以外の各層の満たすべき条件は、第1の態様に係る磁気記録媒体と同様である。
第2の態様に係る磁気記録媒体において、ベース層13の材料は、室温で非磁性であり、かつ加熱されたときに強磁性への転移を示す材料であれば特に限定されない。ベース層13の膜厚は特に限定されないが、1000nm以上であると作製に時間がかかり、また膜応力による特性劣化や剥離が発生しやすくなるので好ましくない。一方、1nm以下になると膜を形成するのが困難になるので好ましくない。
本発明者らの調査した範囲では、室温で非磁性でありかつ加熱されたときに強磁性への転移を示す単独の材料は見出せなかったが、鋭意研究の結果、複合材料であればこの特性を発現できることを見出した。例えば、室温で超常磁性を示す大きさの複数の磁性粒子及びそれら磁性粒子間を埋める非磁性体壁を有する構造を有する薄膜が挙げられる。このような薄膜では、高温下(ただしキュリー温度よりも低い温度)において、強磁性粒子間の間隔が、図2に示したようにLexgよりも小さくなるように設定されていれば、Lexgが温度とともに大きくなることを利用できる。このような薄膜からなるベース層は、室温では強磁性粒子が小さいために磁気異方性エネルギーが完全に熱揺らぎエネルギーよりも小さくなって全体として常磁性であるが、温度が上がりLexgが磁性粒子間隔よりも大きくなると活性化体積(Va)が大きくなる効果によって強磁性が発現する。
このようなベース層を用いた磁気記録媒体の作用は、ベース層/スイッチング層/記録層の積層構造を有する第1の態様の磁気記録媒体の場合と同様に説明できる。すなわち、図2〜図4において、TswをTf(ベース層の常磁性から強磁性への転移温度)に置き換えれば、記述した説明を適用できる。記録方法などの他の条件も、第1の態様に係る方法と同じである。
第2の態様に係る磁気記録媒体では、記録層への記録温度をTw、ベース層の非磁性から強磁性への転移温度をTfとするとき、Tw>Tfを満たすように、ベース層および記録層の構造が調整されている。この場合も、車載用のHDDを考慮して、Twを100℃以上に設定することが好ましい。ベース層を形成する磁性粒子間の平均間隔は5nm以下であることが好ましい。上記の間隔が5nmよりも大きいと、キュリー温度以下の温度において十分な交換結合が生じるほどLexgが増加しないため好ましくない。一方、上記の間隔が0.5nmより小さいと実質的に連続膜となるため好ましくない。
第2の態様に係る磁気記録媒体においてベース層に用いられる材料についてより具体的に説明する。磁性粒子の材料は特に限定されないが、作製の容易さを考慮すれば、記録層に使用される強磁性材料を用いることが好ましい。非磁性材料も特に限定されないが、磁性粒子を取り囲む母材構造を形成しやすいアモルファス材料が好ましい。このような非磁性材料としては、例えば一般式M−Gで表される物質が挙げられる。ここで、MはSi、Al、Zr、Ti、In、SnおよびBからなる群より選択される少なくとも1種、Gは酸素、窒素および炭素からなる群より選択される少なくとも1種である。具体的には、Si−O、Al−O、Zr−O、Ti−O、Si−N、Al−N、Zr−N、Ti−N、B−N、Si−C、Ti−C、B−C、SiAl−ON、Si−ON、AlTi−OC、In−Sn−Oなどが好ましい。また、炭素の同素体、具体的にはダイヤモンド、アモルファスカーボン、ダイヤモンドライクカーボンも適している。
なお、ベース層/スイッチング層/記録層の積層構造を有する第1の態様の磁気記録媒体におけるスイッチング層として、第2の磁気記録媒体におけるベース層に相当する材料を用いることもできる。
次に、本発明の第3の態様に係る磁気記録媒体、この媒体を用いる磁気記録装置、およびこの媒体に対する磁気記録方法について説明する。第3の態様に係る磁気記録媒体は、少なくとも非磁性基板と、磁性体を含むベース層と、複数の磁性粒子及びそれら磁性粒子間を埋める非磁性体壁を有する構造を有する記録層とを有し、ベース層と記録層とが交換結合相互作用を及ぼすように積層されている。
第3の態様に係る磁気記録媒体は、図5に示した第2の態様に係る磁気記録媒体と同様な積層構造を有する。
記録層の磁気異方性は、膜面に対して垂直方向でも面内方向でもよい。記録層の厚さに関しては、第1の態様の磁気記録媒体に関連して説明したのと同様である。
ベース層は磁性体であれば特に限定されない。ベース層の磁気異方性は面内方向でも垂直方向でもよい。ただし、垂直磁気異方性を示すベース層は、Kuの大きな変化が得られやすいので好ましい。ベース層の厚さに関しては、第1の態様の磁気記録媒体に関連して説明したのと同様である。
ベース層と記録層とが交換結合相互作用を及ぼすようにするには、真空を破ることなくこれらの層を連続的に成膜する方法が用いられる。理論的には、1nm程度の間隔があっても交換相互作用が及ぶので、ベース層と記録層との間に非磁性層や表面改質層が存在していてもよい。また、ベース層と記録層との間に別の磁性層を入れることによっても交換結合力を制御できるので、ベース層と記録層との間に複数の磁性層が存在していてもよい。
第3の態様に係る磁気記録媒体では、ベース層のキュリー温度に着目しているので、この点について説明する。磁性体のキュリー温度Tcは、磁化Mまたは保磁力Hcの温度依存性によって調べることができる。ただし、VSMなどによって磁気特性を測定する場合には測定に時間がかかり、短くても10分程度は加熱状態を保つ必要がある。これに加えて昇温のための時間を短くすることもできないので、測定の際には概ね1時間程度は加熱状態に保持されることになる。薄膜磁性体の場合、長時間にわたる高温保持によって、不可逆な微細構造変化が起こり、磁気特性を正確に評価できない可能性がある。光磁気記録媒体として用いられているアモルファス希土類−遷移金属合金の場合には、このような変化は比較的起こりにくい。しかし、HDD媒体として用いられているCoCrPt系磁性合金では、微細構造の変化が200℃程度で起こる場合もある。ただし、この場合でも、室温またはそれ以下の温度から構造変化が起こる温度までの磁気特性の変化を高温側へ外挿すれば、Tcの推定は可能である。第3の態様に係る磁気記録媒体におけるベース層のTcは、実質的にKuが小さくなっている温度であればよく、その温度でたとえばMやHcの値が室温の値の1/5程度以下、好ましくは1/20程度以下であればよい。
図6に、第3の態様に係る磁気記録媒体における記録層の磁気異方性KuRおよびベース層の磁気異方性KuBの温度依存性を示す。記録層とベース層は交換結合しているので、全体としての磁気異方性は図中Kutotalとして示したように変化する(図示したKuの大きさに定量性はない)。すなわち、記録層およびベース層が熱揺らぎを受けない大きさの磁化反転ユニットの体積を有しているのであれば、Kutotalは両者の磁気特性に応じて加重平均された値を示す。また、たとえば記録層の磁性粒子が小さく、ある程度の熱揺らぎを受けている場合には、磁化反転ユニット体積の増加のためにKutotalは加重平均値よりも大きな値となる。温度が上昇し、ベース層のキュリー温度TcBに達するとベース層は磁性を失い、上記の交換結合の効果はなくなる。この時点でKutotalは急減に低下する。この温度においてもなお記録層が熱揺らぎの影響を受けない大きさの磁化反転ユニットの体積を有しているのであれば、Kutotalは本来の記録層単層でのKu値に減少する。記録層が熱揺らぎの影響を受けているのであれば、Kutotalはより一層減少する。いずれの場合でもTcB近傍において、記録層単層では得られない、Kuの急激な変化が得られる。また、TcBよりも少し低温においては交換結合の作用によりKutotalは大きな値を持つ。
上記のKutotalの変化の仕方を利用し、ベース層のキュリー温度TcBと記録温度Twの差を小さく設定することにより、熱アシスト磁気記録における課題であったクロスイレーズと記録直後の磁区消滅の問題を解決できる。すなわち、記録トラックに隣接するトラックにおいて、例えば図6にTnextで示した程度の温度上昇があっても、Kutotalは十分に大きいので熱揺らぎによる記録の劣化は起こらない。また、比較的高温においてもKutotalが大きいため、記録直後のKutotalの回復速度が速い。このため、記録後の熱揺らぎ劣化も抑えられる。
本発明者らは、種々の条件で第3の態様に係る磁気記録媒体への記録実験を行った結果、|TcB−Tw|<100Kという条件を満たす場合に上記の作用および効果が生じることを確認した。また、マージンを広く取り、媒体や装置の製造条件に余裕を持たせ、より高密度の記録を行うためには、|TcB−Tw|<50Kがより好ましく、|TcB−Tw|<20Kがさらに好ましい。
上記の説明はベース層のキュリー温度TcBが記録温度Twよりも低いことを前提としているが、TcBはTwより高くても構わない。これは、キュリー温度近傍ではKuBが非常に小さいため、上記の説明と同じ作用・効果が得られるためである。また、図6では記録層のキュリー温度TcRがTwより高くなっているが、TcR<Twであっても構わない。これは、記録層が磁化を失っている状態であっても、ヘッドからの記録磁界印加中に磁化が立ち上がるため、記録(磁化反転)が可能になるからである。TcR、TcBおよびTwは、システムの要求および使用される媒体材料などに応じて適宜設定される。
次に、本発明の第4の態様に係る磁気記録媒体、この媒体を用いる磁気記録装置、およびこの媒体に対する磁気記録方法について説明する。第4の態様に係る磁気記録媒体は、少なくとも基板と、磁性体を含むベース層と、磁性体を含むスイッチング層と、複数の磁性粒子及びそれら磁性粒子間を埋める非磁性体壁を有する構造を有する記録層とを有し、ベース層とスイッチング層と記録層とが交換結合相互作用を及ぼすように積層されている。
第4の態様に係る磁気記録媒体は、図1に示した第1の態様に係る磁気記録媒体と同様な積層構造を有する。ただし、第4の態様に係る磁気記録媒体においては記録層として室温で実質的に垂直に磁化するものが用いられ、ベース層およびスイッチング層の機能も第1の態様に係る磁気記録媒体のものとは異なる。また、第4の態様に係る磁気記録媒体は、第3の態様に係る磁気記録媒体のベース層と記録層との間に、スイッチング層を介在させた構造を有する。スイッチング層のキュリー温度TcSはベース層のキュリー温度TcBよりも低く設定されている。記録層とスイッチング層とベース層とが交換結合相互作用を及ぼすための要件は、第3の態様に係る磁気記録媒体に関連して説明したのと同様である。
図7に、第4の態様に係る磁気記録媒体における記録層の磁気異方性KuR、スイッチング層の磁気異方性KuS、およびベース層の磁気異方性KuBの温度依存性を示す。記録層とスイッチング層とベース層は交換結合しているので、全体としての磁気異方性は図中Kutotalとして示したように変化する(図示したKuの大きさに定量性はない)。すなわち、記録層、スイッチング層、ベース層が熱揺らぎを受けない大きさの磁化反転ユニットの体積を有しているのであれば、Kutotalは3層の磁気特性に応じて加重平均された値を示す。また、たとえば記録層の磁性粒子が小さく、ある程度の熱揺らぎを受けている場合には、磁化反転ユニット体積の増加のためにKutotalは加重平均値よりも大きな値となる。温度が上昇し、スイッチング層のキュリー温度TcSに達するとスイッチング層は磁性を失い、記録層とベース層との交換結合はなくなる。この時点でKutotalは急減に低下する。この温度においても、記録層が熱揺らぎの影響を受けない大きさの磁化反転ユニットの体積を有しているのであれば、Kutotalは本来の記録層単層でのKu値に減少する。記録層が熱揺らぎの影響を受けているのであれば、Kutotalはより一層減少する。いずれの場合でもTcS近傍において、記録層単層では得られない、急激なKuの変化が得られる。また、TcSよりも少し低温においては交換結合の作用によりKutotalは大きな値を持つ。
第4の態様の磁気記録媒体においては、スイッチング層のキュリー温度TcSと記録温度Twの差を小さく設定することにより、熱アシスト磁気記録における課題であったクロスイレーズと記録直後の磁区消滅の問題を解決できる。その作用は、第3の態様の磁気記録媒体に関連して図6を参照して説明したのと同様である。ただし、Tw>TcSを満たす必要がある。これは、スイッチング層の磁性が残っている限り、記録層−ベース層の交換結合が存在し、Kuの急激な低下が得られないためである。また、TcB>TcSを満たしていないと、媒体温度がTcSに到達したときにKuの急激な変化は得られない。TcBとTcRの関係は任意であるが、媒体の製造マージンを上げるか、記録条件のマージンを確保するには、TcB>TcRである方が好ましい。
本発明者らは、種々の条件で第4の態様の磁気記録媒体への記録実験を行った結果、0<Tw−TcS<100Kという条件を満たす場合に上記の作用および効果が生じることを確認した。また、マージンを広く取り、媒体や装置の製造条件に余裕を持たせ、より高密度の記録を行うためには、0<Tw−TcS<50Kがより好ましく、0<Tw−TcS<20Kがさらに好ましい。
第4の態様に係る磁気記録媒体においては、スイッチング層がアモルファス希土類(RE)−遷移金属(TM)合金薄膜であることが好ましい。REとしてはTb,Gd,Ho,Nd,Dyからなる群より選択される少なくとも1種、TMとしてはFe,Co,Niからなる群より選択される少なくとも1種が用いられる。アモルファス希土類−遷移金属合金薄膜は光磁気記録媒体に広く用いられており、角形比1の垂直磁化膜を容易に得られるという利点がある。また、REとTMの比で飽和磁化Msと保磁力Hcの温度依存性を制御でき、ベース層と記録層の交換結合の状態(ある温度における各層の反転磁界など)の制御が容易である。また、TMとして少なくともFeとCoを含む合金では、Coに対するFeの量によってキュリー温度を任意に設定でき、スイッチング温度の制御が容易になるという利点がある。
第3および第4の態様に係る磁気記録媒体においては、ベース層がアモルファス希土類(RE)−遷移金属(TM)合金薄膜であることが好ましい。この場合も上記と同様な効果が得られる。
第3の態様に係る磁気記録媒体においては、ベース層は複数の磁性粒子及びそれら磁性粒子間を埋める非磁性体壁を有する構造を有することが好ましい。このようなベース層は記録層と同様の微細構造を有するため、記録層の結晶性の向上、モフォロジーの制御の容易さという利点が得られる。また、製造方法によっては、ベース層と記録層の結晶粒サイズをほぼ同じにすることができる。この場合、磁化転移位置でのベース層からの交換結合力のON/OFFを、1〜数個分の粒子に相当する分解能で切り替えることができるようになり、より高密度の記録が可能になる。
図8に上記の構造を有する磁気記録媒体における記録動作を示す。この図は、記録層15とベース層13における磁化の反転を模式的に示したものである。51は磁性粒子であり、その中の矢印は磁化の向きを表わし、矢印の大きさは磁化の大きさを模式的に表わす。52は磁性粒子間の非磁性体である。図48に記録層15の平面図を示す。この図に示されるように、記録層15の表面においては、磁性粒子51が非磁性体52中に分散されている。初期状態としてすべての磁性粒子51の磁化が下向きに設定されている。この媒体に熱アシスト磁気記録を行って、矢印53で示した位置に磁化転移を形成する。媒体は図の右から左へ移動している。したがって、矢印53よりも右側の磁性粒子が反転する。図8の(a)→(f)の順に時間が進行し、記録が行われる。
(a)は媒体温度Tが室温Taである状態を示す。ここでは、例えば粒子2個分に集光したレーザー光を連続照射し、レーザー光の照射位置に対応して配置された磁気ヘッドに上向きの磁界を発生させて記録を行う場合について説明する。(b)は加熱部分の媒体温度Tがベース層13のキュリー温度TcBを超えているが、記録温度Twよりはわずかに低い状態である。ベース層13では磁化が消失している。記録層15ではKuの低下により磁化および記録保磁力が低下しているが磁化は消失しておらず、まだ記録はできない。(c)は媒体温度Tが記録温度Twに達し、ヘッド磁界が印加された直後の状態である。記録層15のKuはさらに小さくなってヘッド磁界で記録できる程度まで記録保磁力が低下しているため、記録層15の磁化が上向きに反転する。この時点で矢印53の位置に磁化転移が形成される。もしベース層13がなければ、レーザー光が通り過ぎた後の徐冷過程で熱揺らぎが起こり、一度反転した磁化が再反転するか磁化転移が揺らぐことになる。ところが、(d)に示すように、記録直後で加熱部分の媒体温度TがTcBより低くなった時点でベース層13の磁化が発生する。このとき、記録層15からの交換磁界により、ベース層13の磁化は上に向く。また、同時にKutotalおよび、膜全体としての活性化体積Vaが急激に増加するため、この時点で熱揺らぎ現象は起こらない。(e)はさらに冷却が進み、媒体温度TがTcBよりかなり低くなった状態である。ベース層13の磁性結晶粒子の大きさが記録層15と同程度であるため、磁化転移位置はほとんど動かず、磁化はそのまま室温で安定した状態になる。(f)は記録後の状態である。以上のように、記録層15およびベース層13における磁性粒子の大きさ程度の分解能で、磁化転移が形成される。
なお、上記では便宜上TcB<Tw<TcRとして説明しているが、既に述べたようにこの関係に限定されるものではない。また、記録層15およびベース層13の磁性粒子の大きさおよび配列も、図8に示したような関係である必要はない。
第4の態様に係る磁気記録媒体においては、ベース層に加えて、スイッチング層も複数の磁性粒子及びそれら磁性粒子間を埋める非磁性体壁を有する構造を有することが好ましい。この場合も上記のような作用・効果が得られる。
次に、本発明の第5の態様に係る磁気記録媒体、この媒体を用いる磁気記録装置、およびこの媒体に対する磁気記録方法について説明する。第5の態様に係る磁気記録媒体は、少なくとも非磁性基板と、反強磁性体またはフェリ磁性体を含む機能層と、複数の磁性粒子及びそれら磁性粒子間を埋める非磁性体壁を有する構造を有する記録層とを具備し、機能層と記録層とは使用環境下(通常は室温)で交換結合相互作用を及ぼすように積層されている。
図9に、本発明の第5の態様に係る磁気記録媒体と磁界印加手段と加熱手段を模式的に示す。図9の磁気記録媒体は、基板61上に、下地層62、反強磁性体またはフェリ磁性体を含む機能層63、記録層64、および保護層65を形成した構造を有する。この磁気記録媒体の基板側に加熱手段としてのレーザー21が、磁気記録媒体上に磁界印加手段としての記録ヘッド22がそれぞれ設置されている。なお、レーザー21は記録ヘッド22と一体化して磁気記録媒体上に設置してもよい。
機能層63は、反強磁性またはフェリ磁性を示すものであれば特に限定されない。機能層63の磁気異方性は、面内磁気異方性でも、垂直磁気異方性でも、両者が混合されたものでも構わない。機能層63の厚さは特に制限されないが、1000nmを超えると作製に時間がかかり、また膜応力による特性劣化や剥離が発生しやすくなるので好ましくない。機能層63の厚さを0.1nm未満に使用とすると実質的に膜を形成できないので好ましくない。
反強磁性を示す機能層としては、ネール温度が室温よりも高い反強磁性体の薄膜を用いることができる。具体的には、Mn−Ni、Mn−Pd、Mn−Pt、Cr−Pd、Cu−Mn、Au−Mn、Au−Cr、Cr−Mn、Cr−Re、Cr−Ru、Fe−Mn、Co−Mn、Fe−Ni−Mn、Co−Mn−Fe、Ir−Mnなどが挙げられる。また、規則合金、具体的には、AuMn、ZnMn、FeRh、FeRhIr、Au2Mn、Au5Mn12、Au4Cr、NiMn、PdMn、PtMn、PtCr、PtMn3、RhMn3などを用いることができる。これらのほかにも、Mn3Pt−N、CrMnPt、PdPtMn、NiO、CoOなどを用いることもできる。
フェリ磁性を示す機能層としては、フェリ磁性体の薄膜を用いることができる。具体的には、Tb−Fe、Tb−Fe−Co、Tb−Co、Gd−Tb−Fe−Co、Gd−Dy−Fe−Co、Nd−Fe−Co、Nd−Tb−Fe−Coなどのアモルファス希土類(RE)−遷移金属(TM)合金薄膜や、CrPt3のような規則合金が挙げられる。
また、後に詳細に説明するように、機能層として反強磁性またはフェリ磁性を示す多層膜を用いることもできる。例えば、磁性層(Co、Ni、Feまたはこれらの合金)と非磁性層(例えば、Ru、Re、Rh、Ir、Tc、Au、Ag、Cu、Mn、Si、Crもしくはこれらの合金、またはこれらの酸化物)との多層膜であって、非磁性層の厚さが5nmより薄く、好ましくは1nmより薄いものが挙げられる。このような多層膜は、磁性体間に反強磁性方向に交換結合相互作用が働き、全体として反強磁性体として振舞うことが知られている。また、このような多層膜は、各磁性層の厚さやモーメントが異なる場合には、フェリ磁性体として振舞うことが知られている。
機能層63と記録層64とが交換結合相互作用を及ぼすようにするには、スパッタリングなどによる一般的な媒体製造工程において、真空を破ることなくこれらの層を連続的に成膜する方法が用いられる。理論的には、機能層63と記録層64とが数nmはなれていても交換相互作用が及ぶので、機能層63と記録層64との間に非磁性層や表面改質層が存在していてもよい。また、機能層63と記録層64との間に別の磁性層を入れることによっても交換結合力を制御できるので、機能層63と記録層64との間に複数の磁性層が存在していてもよい。
機能層63と記録層64との交換結合相互作用がなくなる温度TcEは、VSMなどを用いたヒステリシスループの温度依存性により調べることができる。
機能層63がフェリ磁性を示す場合には、機能層63からの磁化をVSMにより検出できる。TcEよりも低い温度では、ヒステリシスループは、見かけ上単層磁性層の磁気特性のように一段のループを示すか、多段のループを示す。多段のループを示した場合には、各段でマイナーループを調べると、マイナーループは印加磁界H=0の点からH軸の方向へシフトする。このシフトは機能層63と記録層64との交換結合によるものであり、シフト量は交換磁界Hexgである。TcEよりも高い温度では、機能層63と記録層64の保磁力が同じ場合を除き、ヒステリシスループは多段になる。しかし、TcE以下の温度の場合と異なり、マイナーループを調べてもH軸方向へのシフトは観察されない。これは、ループが各層の単純な重ね合わせになるためである。したがって、保磁力の温度依存性を調べると、TcEの前後で不連続な変化を示すので、TcEを見積もることができる。
機能層63が反強磁性を示す場合には、多段のヒステリシスループは現れない。機能層63が比較的大きな磁気異方性を有する場合には、TcEより低い温度で上記の多段の場合と同様なヒステリシスループのH軸方向へのシフトが起こり、Hexgを見積もることができる。Hexgを温度に対してプロットすれば、Hexg=0になる温度の実測または外挿によりTcEを見積もることができる。機能層63の磁気異方性が小さい場合には、TcE以下の温度では機能層63は記録層64と同時に磁化反転を起こし、特徴的なヒステリシスループは得られない。しかし、機能層63の存在により、TcE以下の温度では記録層64が本来持っている保磁力よりも小さい磁界で磁化反転し、TcEより高い温度では記録層64単層の保磁力に等しい磁界で磁化反転する。したがって、保磁力の温度依存性を調べると、TcEの前後で不連続な変化を示すので、TcEを見積もることができる。
ただし、必ずしもTcEの値を正確に知る必要はない。第5の態様に係る磁気記録媒体では、Hexgの値が室温の値の1/20程度であれば、実効的にTcEを超えているとみなすことができる。また、記録層64のキュリー温度Tcの評価と同様に、低温測定の結果を高温側へ外挿してTcEを見積もってもよい。
図10に第5の態様に係る磁気記録媒体における記録動作を示す。この図は、機能層63と記録層64における磁化の反転を模式的に示したものである。記録層64中の71は磁性粒子であり、その中の矢印は磁化の向きを表わし、矢印の大きさは磁化の大きさを模式的に表わす。72は磁性粒子間の非磁性体である。この図では機能層63も記録層64と同様に磁性粒子とそれを分断する非磁性体とからなる構造を有しているが、これは説明の便宜を考慮したためである。したがって、機能層63は他の形態、例えば連続膜や(3次元)グラニュラー構造などの形態を有するものであってもよい。また、この図では簡単のために垂直磁気記録媒体を例として説明する。ただし、ここでの説明は、面内媒体、または垂直媒体と面内媒体との中間の媒体にもそのまま適用できる。
初期状態では記録層64の磁性粒子71の磁化は全て下向きに設定されている。一方、機能層63の磁化は記録層64とは逆向きに設定されている。これらは、機能層63のスピンのうち、記録層64のスピンと反強磁性結合する部分を示している。例えば、機能層63と記録層64とが強磁性結合していて機能層63がフェリ磁性を示す場合、機能層63の矢印はマイナーなスピンの向き(例えば機能層63がアモルファス希土類−遷移金属合金の場合には希土類元素のスピンの向き)である。また、機能層63と記録層64とが反強磁性結合していて機能層63が反強磁性を示し、膜厚方向に各原子レイヤー毎にスピンの向きが逆転する構造を持つ物質の場合、記録層64に最も近い原子レイヤーのスピンの向きである。
この媒体に熱アシスト磁気記録を行う。すなわち、図10の74で示される範囲を加熱した状態で記録ヘッドより上向きの磁界を印加して、上向きスピンを持つ記録磁区を形成する。磁化転移は73で示した位置に形成される。媒体は図の右から左へ移動している。したがって、矢印73よりも右側の磁性粒子が反転する。図10の(a)→(f)の順に時間が進行し、記録が行われる。
(a)は媒体温度Tが室温Taである状態を示す。(b)は加熱部分の媒体温度Tが室温より高いが、交換結合がなくなる温度TcEより低い状態である。この状態では、機能層63も記録層64もKuの低下により磁化が減少する。(c)は加熱部分の媒体温度TがTcEに達した状態である。機能層63と記録層64との交換結合が消失したことを示すために、機能層63の磁化がなくなったように図示しているが、機能層63の磁気モーメントは必ずしも消失する必要はない。例えば、機能層63と記録層64との間隙が、機能層63の原子間距離(または反強磁性結合しているモーメント間の距離)よりも長い場合、機能層63内のモーメント間の結合が切れるよりも低い温度で、機能層63と記録層64との層間結合が切れる。この場合には、機能層63も記録層64も磁化(モーメント)を持っているが、両者に交換結合相互作用は生じない。また、多少の交換結合相互作用があるが、実用上は相互作用がないとみなせる状態もある。例えば、記録磁界や記録層64の保磁力が100Oeのオーダーにある場合、交換結合力Hexgが0.1Oeのオーダーであるならば、この程度の交換結合力は無視できる。(d)は加熱部分の媒体温度Tが記録温度Twに達し、かつ記録ヘッドによって上向きの磁界が印加された状態である。記録層64の記録保磁力(概ねKuに比例する)が低下し、その結果、記録層64の磁化が上向きに反転する。この時点で図10の73の位置に磁化転移が形成される。もし機能層63がなければ、レーザー光が通り過ぎた後の徐冷過程で熱揺らぎが起こり、一度反転した磁化が再反転するか磁化転移が揺らぐことになる。ところが、(e)に示すように、記録直後に加熱部分の媒体温度TがTcEより低くなった時点で、機能層63と記録層64との交換結合相互作用が復活する。このとき、記録層64からの交換磁界により、機能層63の磁化は下向きになる。この時点で、磁化反転ユニットの体積Vaが記録層64と機能層63との合計体積になるので、熱揺らぎ安定指数KuV/kBTが急激に増加し、熱揺らぎ現象を低く抑えることができる。さらに冷却が進んでも磁化転移位置はほとんど動かない。(f)は記録後の状態である。以上のように、記録層64の磁性粒子の大きさ程度の分解能で磁化転移が形成される。
図11に上記の記録過程における、磁気異方性エネルギー密度Kuと磁化反転ユニットの体積Vaの温度に対する変化を模式的に示す。この図において、KuRは記録層の磁気異方性エネルギー密度、KuFは機能層の磁気異方性エネルギー密度、KuVa|totalは媒体全体の見かけ上のKuVaの大きさである。この図に示されるように、TcE前後でのVaの不連続かつ急激な変化のために、KuVa|totalも急激な変化を示す。
以上の作用により、熱アシスト磁気記録における課題であったクロスイレーズと記録直後の磁区消滅の問題を解決できる。すなわち、記録トラックに隣接するトラックにおいて、例えば図11にTnextで示した程度の温度上昇があっても、KuVa|totalは十分に大きいので熱揺らぎによる記録の劣化は起こらない。また、記録直後にKuVa|totalが急増するため、記録後の熱揺らぎ劣化も抑えられる。
本発明者らは、交換結合二層膜に対して種々の条件で記録実験を行った結果、|TcE−Tw|<100Kという条件を満たして入れば、上記の作用・効果が得られることを確認した。また、マージンを広く取り、媒体や装置の製造条件に余裕を持たせ、より高密度の記録を行うためには、|TcB−Tw|<50Kがより好ましく、|TcB−Tw|<20Kがさらに好ましい。
なお、図10を参照して説明した磁気記録過程は機能層が強磁性を示す場合にも起こり得る。しかし、機能層のトータルの磁化が大きいと大きな漏洩磁界が発生して記録密度の向上を妨げるため、好ましくない。例えば、面内磁気記録の場合には、磁化転移で大きな反磁界が発生し、転移の拡大が起こる。また、垂直磁気記録の場合には、記録磁区中央部での反磁界が大きくなって逆磁区が発生し、媒体ノイズが増加する。
次に、本発明の第6の態様に係る磁気記録媒体、この媒体を用いる磁気記録装置、およびこの媒体に対する磁気記録方法について説明する。第6の態様に係る磁気記録媒体は、少なくとも非磁性基板と、反強磁性体またはフェリ磁性体を含む機能層と、複数の磁性粒子及びそれら磁性粒子間を埋める非磁性体壁を有する構造を有する記録層とを具備し、機能層と記録層とは使用環境下(通常は室温)で交換結合相互作用を及ぼすように積層されている。したがって、第6の態様に係る磁気記録媒体の構造は、図9を参照して説明した第5の態様に係る磁気記録媒体と同様であるが、記録層のキュリー温度TcRがTcEより小さい点で、第5の態様に係る磁気記録媒体とは異なる。
図12に第6の態様に係る磁気記録媒体における記録動作を示す。図12中の符号は、図10の符号と同一の意味を表わす。
(a)は媒体温度Tが室温Taである状態を示す。(b)は加熱部分の媒体温度Tが室温より高いが、記録温度Twより低い状態である。この状態では、機能層63も記録層64もKuの低下により磁化が減少する。(c)は加熱部分の媒体温度TがTwよりわずかに低い温度にある状態である。記録層64のKuの低下が大きく、ヘッド磁界で記録できる程度の大きさになっている。この時点でも機能層63と記録層64の交換結合は存在している。(d)は加熱部分の媒体温度Tが記録温度Twに達し、かつ記録ヘッドによって上向きの磁界が印加された状態である。記録層64の磁化は上向きに反転し、交換結合している機能層63の磁化も同時に反転する。この時点で図12の73の位置に磁化転移が形成される。もし機能層63がなければ、レーザー光が通り過ぎた後の徐冷過程で熱揺らぎが起こり、一度反転した磁化が再反転するか磁化転移が揺らぐことになる。ところが、磁化反転ユニットの体積Vaは記録層64と機能層63との合計体積になるので、熱揺らぎ安定指数KuV/kBTは十分に大きく、熱揺らぎ現象を低く抑えることができる。さらに冷却が進んでも磁化転移位置はほとんど動かない。(e)は記録後の状態である。以上のように、記録層64の磁性粒子の大きさ程度の分解能で磁化転移が形成される。
以上の作用により、第5の態様の磁気記録装置と同様に、熱アシスト磁気記録における課題であったクロスイレーズと記録直後の磁区消滅の問題を解決できる。
以上の作用・効果はTcR<TcEという条件を満たすだけで得られる。したがって、記録温度Twに関する制限は特になく、記録ヘッドの能力に応じてTwを設定すればよい。例えば、ヘッドの書き込み能力が劣る場合には、TcR近傍(例えば30K以内)にTwを設定すればよいが、熱揺らぎは大きくなる。逆にヘッドの書き込み能力が高いか、または室温でのKuをそれほど大きくしなくてよい比較的低密度の磁気記録装置の場合には、TwをTcRよりも数百K低い温度に設定しても記録できる場合がある。そのような場合には、熱揺らぎ加速の影響が小さくなるので好ましい。
次に、本発明の第7の態様に係る磁気記録媒体、この媒体を用いる磁気記録装置、およびこの媒体に対する磁気記録方法について説明する。第7の態様に係る磁気記録媒体は、少なくとも、非磁性基板と、反強磁性体またはフェリ磁性体を含む機能層と、磁性体を含むスイッチング層と、複数の磁性粒子及びそれら磁性粒子間を埋める非磁性体壁を有する構造を有する記録層とを有し、機能層とスイッチング層と記録層とは使用環境下(通常は室温)で交換結合相互作用を及ぼすように積層されている。
図13に、本発明の第7の態様に係る磁気記録媒体と磁界印加手段と加熱手段を模式的に示す。図13の磁気記録媒体は、基板61上に、下地層62、反強磁性体またはフェリ磁性体を含む機能層63、磁性体を含むスイッチング層66、記録層64、および保護層65を形成した構造を有する。この磁気記録媒体の基板側に加熱手段としてのレーザー21が、磁気記録媒体上に磁界印加手段としての記録ヘッド22がそれぞれ設置されている。なお、レーザー21は記録ヘッド22と一体化して磁気記録媒体上に設置してもよい。
スイッチング層66以外の部材が満たすべき要件は上述したのと同様である。スイッチング層66は、機能層63と記録層64との交換結合のON/OFFのみに関与する。スイッチング層66の厚さは特に制限されないが、機能層63と記録層64との交換結合を確実に切るには、1nm以上であればよい。厚さの上限は特にないが、コストの面から薄い方が好ましく、50nm以下、好ましくは10nm以下、より好ましくは5nm以下である。
図14に第7の態様に係る磁気記録媒体における記録動作を示す。図14に示されるように、機能層63と記録層64との間にはスイッチング層66が挟まれている。その他の図14中の符号は、図10の符号と同一の意味を表わす。
(a)は媒体温度Tが室温Taである状態を示す。この図ではスイッチング層66のモーメントは記録層64と強磁性結合し、機能層63と反強磁性結合しているが、結合の組み合わせはどのようなものであっても構わない。機能層63と記録層64との交換結合が保たれるのであれば、スイッチング層66の磁気異方性の向きも任意である。(b)は加熱部分の媒体温度Tが室温より高いが、スイッチング層66と記録層64との交換結合がなくなる温度TcEより低い状態である。この状態では、機能層63、スイッチング層66および記録層64のいずれもKuの低下により磁化が減少する。(c)は加熱部分の媒体温度TがTcEに達した状態である。スイッチング層66と記録層64との交換結合が消失したことを示すために、スイッチング層66の磁化がなくなったように図示しているが、スイッチング層66の磁気モーメントは必ずしも消失する必要はない。例えば、スイッチング層66と記録層64との間隙が、スイッチング層66の原子間距離(または反強磁性結合しているモーメント間の距離)よりも長い場合、スイッチング層66内のモーメント間の結合が切れるよりも低い温度で、スイッチング層66と記録層64との層間結合が切れる。この場合には、スイッチング層66も記録層64も磁化(モーメント)を持っているが、両者に交換結合相互作用は生じない。また、多少の交換結合相互作用があるが、実用上は相互作用がないとみなせる状態もある。例えば、記録磁界や記録層64の保磁力が100Oeのオーダーにある場合、交換結合力Hexgが0.1Oeのオーダーであるならば、この程度の交換結合力は無視できる。(d)は加熱部分の媒体温度Tが記録温度Twに達し、かつ記録ヘッドによって上向きの磁界が印加された状態である。記録層64の記録保磁力(概ねKuに比例する)が低下し、その結果、記録層64の磁化が上向きに反転する。この時点で図12の73の位置に磁化転移が形成される。もしスイッチング層66および機能層63がなければ、レーザー光が通り過ぎた後の徐冷過程で熱揺らぎが起こり、一度反転した磁化が再反転するか磁化転移が揺らぐことになる。ところが、(e)に示すように、記録直後に加熱部分の媒体温度TがTcEより低くなった時点で、記録層64とスイッチング層66、さらには機能層63との交換結合相互作用が復活する。このとき、記録層64からの交換磁界により、スイッチング層66の磁化は上向きに、機能層63の磁化は下向きになる。この時点で、磁化反転ユニットの体積Vaが記録層64、スイッチング層66および機能層63の合計体積になるので、熱揺らぎ安定指数KuV/kBTが急激に増加し、熱揺らぎ現象を低く抑えることができる。さらに冷却が進んでも磁化転移位置はほとんど動かない。(f)は記録後の状態である。以上のように、記録層64の磁性粒子の大きさ程度の分解能で磁化転移が形成される。
図15に上記の記録過程における、磁気異方性エネルギー密度Kuと磁化反転ユニットの体積Vaの温度に対する変化を模式的に示す。この図において、KuSはスイッチング層の磁気異方性エネルギー密度であり、その他の符号は図11と同一である。この図に示されるように、TcE前後でのVaの不連続かつ急激な変化のために、KuVa|totalも急激な変化を示す。
図13では図9よりも層構造が複雑になるが、機能層63の磁気特性を任意に設定でき材料選択の自由度が増加するので好ましい。また、Vaの変化すなわちKuVa|totalの変化幅を大きくすることもでき、より安定度の高い熱アシスト磁気記録が可能になる。
以上の作用により、熱アシスト磁気記録における課題であったクロスイレーズと記録直後の磁区消滅の問題を解決できる。すなわち、記録トラックに隣接するトラックにおいて、例えば図15にTnextで示した程度の温度上昇があっても、KuVa|totalは十分に大きいので熱揺らぎによる記録の劣化は起こらない。また、記録直後にKuVa|totalが急増するため、記録後の熱揺らぎ劣化も抑えられる。
本発明者らは、交換結合二層膜に対して種々の条件で記録実験を行った結果、|TcE−Tw|<100Kという条件を満たして入れば、上記の作用・効果が得られることを確認した。また、マージンを広く取り、媒体や装置の製造条件に余裕を持たせ、より高密度の記録を行うためには、|TcB−Tw|<50Kがより好ましく、|TcB−Tw|<20Kがさらに好ましい。
なお、図14を参照して説明した磁気記録過程は機能層が強磁性を示す場合にも起こり得る。しかし、機能層のトータルの磁化が大きいと大きな漏洩磁界が発生して記録密度の向上を妨げるため、好ましくない。例えば、面内磁気記録の場合には、磁化転移で大きな反磁界が発生し、転移の拡大が起こる。また、垂直磁気記録の場合には、記録磁区中央部での反磁界が大きくなって逆磁区が発生し、媒体ノイズが増加する。
上述したように、磁性層どうしを数nm以下の間隔を隔てて積層した多層膜では磁性層間に反強磁性結合が起こることが知られており、第5〜第7の態様の磁気記録媒体において機能層としてこのような多層膜を採用することができる。磁性層は磁性体の連続膜でもよいし、磁性体とそれ以外の材料との複合膜でもよい。磁気異方性の大きい磁性層を用いると異方性の大きい反強磁性膜が得られ、磁気異方性の小さい磁性層を用いると異方性の小さい反強磁性膜が得られる。
図10、図12および図14を参照して説明した記録過程においては、記録層が反転した後、機能層もそれに応じて反転する。したがって、機能層の反転磁界(保磁力)は小さい方が好ましいといえる。しかし、磁気異方性が大きく、異方性磁界Hk(保磁力Hcに概ね比例する)が大きい機能層でも、以下に述べる理由により、用いることができる。
いま、A層およびB層の2層が交換結合していると仮定する。ここで、tA:A層の膜厚、MsA:A層の飽和磁化、HcA:A層の保磁力、tB:B層の膜厚、MsB:B層の飽和磁化、HcB:B層の保磁力、σw:界面磁壁エネルギー密度とする。また、HcA>HcB、すなわちA層の方がB層よりも磁気異方性が大きいものとする。このとき、A層およびB層の反転磁界HrAおよびHrBは、それぞれ、以下の式で表される。
HrA=HcA−σw/2/MsA/tA
HrB=HcB+σw/2/MsB/tB
HrA=HrB(界面磁壁ができない場合)。
すなわち、上記反転磁界は、HcAとHcBの間で、MsAtAとMsBtBの大小関係で決まる比率で分配された値となる。したがって、異方性の大きい機能膜であっても、記録層との兼ね合いでMstの値を調整すれば所望の性質を示すことができる。
多層膜に含まれる磁性層はCo、Ni、Feまたはこれらの合金からなり、同一でも異なっていてもよい。磁化の値が異なる磁性層を含む多層膜は、全体として差分の磁化を有しフェリ磁性を示す。磁性層の厚さは特に限定されないが、0.2nmよりも薄くしようとすると膜を形成することが困難になるため好ましくない。一方、磁性層の厚さが100nmを超えると媒体コストが上昇するため好ましくない。
多層膜に含まれる非磁性層は特に限定されないが、Ru、Re、Rh、Ir、Tc、Au、Ag、Cu、Mn、Si、Crもしくはこれらの合金、またはこれらの酸化物から選択される少なくとも1種を用いることが好ましい。非磁性層の厚さは、多層膜が反強磁性結合を起こすか否か、および結合の強さに強く関わる重要なパラメータである。しかし、多層膜における反強磁性結合は、材料、微細構造、成膜状態、強磁性層の状態によっても影響を受けるので、非磁性層の好適な厚さを明確に規定することはできない。なお、非磁性層の厚さが5nmより厚いと、磁性層間の結合が極めて弱くなるので実用的ではない。非磁性層の厚さは1nmより薄いことが好ましい。
図16〜図20を参照して、多層構造を有する機能層の例を説明する。
図16に示す機能層83は磁性層81と非磁性層82の1つのユニットからなっており、この機能層83上に記録層64が形成されている。図16の場合、非磁性層82を適切に設計することにより、磁性層81と記録層64とを反強磁性結合させることができる。この場合、機能層83は記録層64の一部と結合してフェリ磁性を示す。
図17に示す機能層84は磁性層81と非磁性層82のユニット(図16の機能層83に相当する)が複数回繰り返して積層されたものであり、この機能層84上に記録層64が形成されている。図17の場合、磁性層81と非磁性層82のユニットが複数回積層された機能層84自体を反強磁性体またはフェリ磁性体とみなすことができる。磁性層81と非磁性層82のユニットの積層回数は特に制限されないが、30回を超えると製造コストが高くなるだけである。
図18に示す機能層83は磁性層81と非磁性層82の1つのユニットからなっている。この機能層85上にユニットを形成するのと同じ磁性層81を挟んで非磁性層82なしに記録層64が形成されている。図18の場合、記録層64とこれに接している磁性層81は強磁性結合するので、この磁性層81は記録層64の一部とみなすことができる。この場合、機能層83と記録層64との結合は、積層ユニットを形成する磁性層81間の結合となる。したがって、図16の場合と比較して層数が増加するが、図16よりも設計や製造条件が容易になるという利点がある。
図19に示す機能層84は磁性層81と非磁性層82のユニットが複数回繰り返して積層されたものであり、この機能層84上に磁性層81を挟んで記録層64が形成されている。図19の場合、機能層84が満たすべき要件は図17の場合と同様である。
図20に示す機能層は、磁性層81と非磁性層82の積層ユニットが複数回繰り返して積層された第1機能層84と、反強磁性体またはフェリ磁性体を含む第2機能層91を有し、第1機能層84と第2機能層91が室温で交換結合を及ぼすように積層されている。図20では、第2機能層91、第1機能層84および記録層64がこの順に形成されているが、第1機能層84、第2機能層91および記録層64の順に形成してもよい。
上述したように、多層構造を有する機能層において磁気異方性エネルギーを大きくしたい場合には異方性の大きい磁性層を用いることが考えられるが、図20に示したように反強磁性体を含む第2機能層91との交換結合を利用してもよい。第2機能層91を形成する反強磁性体の満たすべき要件は、機能層に関連して説明した要件と同様である。例えば、NiOなどの反強磁性体はある結晶軸方向に異方性を持つ。したがって、その結晶軸を任意の方向に配向できれば、その方向に異方性軸を持つ機能層を得ることができる。
上記の各態様に係る熱アシスト磁気記録を行う磁気記録装置では、磁気記録媒体と磁気記録媒体に磁界を印加する手段との距離が100nmより小さい条件で磁界が印加される。本発明による磁気記録装置が従来にHDD装置に比べて優位性を示すのは、線密度の大きな例えば100Gb/in2の記録密度を担う場合である。そのような密度の分解能を得るには、記録媒体との距離が100nmよりも小さいことが好ましい。より好ましくは、上記距離が50nm以下、さらに好ましくは30nm以下である。
次に、本発明の第8の態様に係る磁気記録媒体、およびこの媒体を用いる磁気記録装置について説明する。
第8の態様に係る磁気記録媒体は、少なくとも、非磁性基板と、磁性体を含む機能層と、該機能層上に形成された、複数の磁性粒子及びそれら磁性粒子間を埋める非磁性体壁を有する構造を有する記録層とを有する。
なお、記録層は、磁性層と非磁性層(PtおよびPdからなる群より選択される少なくとも1種の元素を含み、厚さが2nm以下である)とを交互に積層した多層構造を有するものでもよい。
図21に、第8の態様に係る磁気記録媒体と磁界印加手段を示す。図21の磁気記録媒体は、基板101上に、下地層102、磁性体を含む機能層103、記録層104、および保護層105を形成した構造を有する。この磁気記録媒体上に磁界印加手段としての記録ヘッド22が設置されている。
機能層103と記録層104とは使用環境下で強磁性交換相互作用を及ぼすように積層されている。また、記録層104の磁気異方性エネルギー密度KuRLは5×106erg/cc以上であり、機能層103の磁気異方性エネルギー密度KuFLよりも大きい。
機能層103は、強磁性、反強磁性、フェリ磁性のいずれであってもよい。機能層63の磁気異方性は、面内磁気異方性でも、垂直磁気異方性でも、両者が混合されたものでも構わない。機能層103の厚さは特に制限されないが、1000nmを超えると作製に時間がかかり、また膜応力による特性劣化や剥離が発生しやすくなるので好ましくない。機能層103の厚さを0.1nm未満にしようとすると実質的に膜を形成できないので好ましくない。
強磁性を示す機能層としては、記録層と同様のものを用いることができる。ただし、機能層を情報の記録に利用しない場合には、磁気異方性および磁化の大きさは記録層より小さくてよく、材料の選択の幅が大きい。また、強磁性を示す機能層は、磁性粒子とそれを取り囲む非磁性体からなる構造になっていなくてもよい。
反強磁性を示す機能層としては、ネール温度が室温よりも高い反強磁性体の薄膜を用いることができる。フェリ磁性を示す機能層としては、フェリ磁性体の薄膜を用いることができる。また、機能層として反強磁性またはフェリ磁性を示す多層膜を用いることもできる。これらの反強磁性またはフェリ磁性を示す機能層の材料としては、図9に示した第5の態様に係る磁気記録媒体の機能層63に関連して説明したものと同様のものが挙げられる。
第8の態様の磁気記録媒体では、機能層103と記録層104とは使用環境下で強磁性交換相互作用を及ぼすように積層されている。機能層103と記録層104とが交換結合相互作用を及ぼすようにするには、スパッタリングなどによる一般的な媒体製造工程において、真空を破ることなくこれらの層を連続的に成膜する方法が用いられる。
機能層と記録層との間には、厚さが5nm以下であれば、実質的な非磁性層が存在していてもよい。実質的な非磁性体とは、単独で存在する場合には非磁性であるが磁性体と積層すると界面または膜中に磁性が誘起されるような性質も示す材料(例えば、Cr、Mn、Pd、Ptなど)でもないことを意味する。実質的な非磁性体でない場合には、その間隙は、強磁性交換相互作用が本発明における作用をもたらす範囲であれば、特に限定されない。また、機能層と記録層との間に別の磁性層を入れることによっても交換結合力を制御できる。したがって、機能層と記録層との間に複数の磁性層および非磁性層が存在していてもよい。機能層と記録層との間隙は膜の形態である必要はなく、欠陥、ボイド、部分的な酸化膜/粒子、または表面改質部分であってもよい。
以下、第8の態様の磁気記録媒体についてより詳細に説明する。
図22は図21の機能層103と記録層104の部分のみを取り出し、モーメント(スピン)Sの向きを模式的に示したものである。ここでは、理解を容易にするために、機能層103および記録層104が垂直磁化膜である場合を示す。強磁性交換結合相互作用とは、この図に示すようにスピンの向きが同じであるときに最もエネルギーが低く安定となるような交換結合相互作用を意味する。
図22のような交換結合二層膜の磁化反転(ヒステリシスループ)についてはすでに多数の研究がなされている。例えば、 Japanese Journal of Applied Physics, Vol.20, No.11, 1981, pp.2089-2095 においては、交換結合した二層の垂直磁化膜について磁化反転の解析がなされている。この文献には、交換結合エネルギー面密度σと各層の磁気特性に応じてヒステリシスループの形が変わることが開示されている。
ここで、図23に示す2つの層(層1および層2)からなる交換結合二層膜を考える。この図に示すように、各層の磁気異方性エネルギー密度、飽和磁化および膜厚を、それぞれ、層1についてKu1、Ms1、t1、層2についてKu2、Ms2、t2と表す。第8の態様の磁気記録媒体では、Ku1>Ku2となっている。
いま、各層のMsが同じであるとすれば、理想的な系では、保磁力Hc=2Ku・Msは、層1の方が層2よりも大きくなる。このとき、交換結合エネルギーは各層のスピンを揃える作用を示す。その作用は、各層に交換磁界Hw=σ/2Mstが印加されたのと等価である。ここで、各層のHcがHwよりも大きければ、両層のスピンが対向してエネルギー的に安定となる状態(準安定状態)が生じる。
このような媒体は、図24のようなヒステリシスループを示す。図24のようなヒステリシスループが得られる場合、上記で開示した交換結合二層膜の理論によれば、磁化の変化点HR1、HR2を以下の(1)式および(2)式に従って解析的に求めることができる。
HR1=Hc1−Hw1=Hc1−σ/2Ms1t1 (1)
HR2=Hc2+Hw2=Hc2+σ/2Ms2t2 (2)
すなわち、σを介して、保磁力の大きい層1は保磁力の小さい層2より保磁力を下げる作用を受け、逆に層2は層1より保磁力を増加させる作用を受ける。
一方、Hc1<Hw1である場合、図24のHR2に相当する磁界で層2が磁化反転しようとするときに、交換力が大きいため、層2と同時に層1も反転する。このような媒体は、図25のような通常の単層膜と同様なヒステリシスループを示す。この場合の、反転磁界HR3は下記(3)式で求められる。
HR3=(Ms2t2Hc2+Ms1t1Hc1)/(Ms2t2+Ms1t1) (3)
この反転磁界HR3は、Hc1とHc2の中間の値を有する。つまり、高Kuの層と低Kuの層が強磁性交換結合した二層膜の保磁力は、高Kuの単独膜の保磁力よりも低くなる。
本発明者らは、上記の理論を利用し、熱揺らぎ耐性の強い高Kuの層を低Kuの層と強磁性交換結合させることにより、現状の磁気ヘッドで記録できる程度の保磁力にまで下げられる可能性があることを見出した。なお、上記の理論自体は公知であるが、この理論を磁気記録媒体の熱揺らぎ問題に適用するという着想はこれまで知られていない。ただし、従来の磁気記録媒体の常識から考えると、交換結合二層膜のトータルの保磁力が下がると、熱揺らぎに対抗する磁気異方性エネルギーも低下することが予想された。
これに対して、本発明者らは検討を重ねた結果、交換結合二層膜においては、熱揺らぎ耐性としての磁気異方性エネルギーすなわち単層の磁性膜におけるKuVで表される物理量が低下せず、むしろ増加することを見出した。さらに、その効果は特に層1と層2が同時に反転するような状況下でより大きくなることを見出し、本発明を完成させた。以下、この点について、より詳細に説明する。
ここで、図23に示した交換結合二層膜中の層1におけるエネルギーポテンシャルを考える。ここでは、垂直磁化膜を想定している。このエネルギーポテンシャルの深さは、層1を記録層とする磁気記録媒体が熱揺らぎエネルギーkBTに対抗するエネルギーに相当する。エネルギーポテンシャルの谷の「頂上」では、層1が反転する直前で、そのエネルギーが最も高い状態にある。このとき、図26に示すように、外力により層1のスピンのみを膜面方向に向けた状態である。層1のスピンが膜面方向に向いていると、交換結合によって層2のスピンも角度θだけ回転する。この角度θは以下のようにして求められる。
層2の全エネルギー(面密度)σ2は下記(4)式で表される。
σ2=t2Ku2sin2θ−σcos(90−θ) (4)
このσ2を最小にするθを求める。dσ2/dθ=0を解くと、
sinθ=σ/(2t2Ku2) σ/(2t2Ku2)<1の場合、または
θ=90° σ/(2t2Ku2)>1の場合
となる。したがって、層2の全エネルギーはσ/(2t2Ku2)<1の場合、
σ2=−σ2/(4t2Ku2) (5)
である。一方、図22に示す最低エネルギー状態では層2の全エネルギーは(4)式にθ=0を代入して
σ2=−σ (6)
となる。((5)−(6))の値が、図22の状態から図26の状態へ遷移するのに必要なポテンシャルである。したがって、層2のポテンシャルは
σ−σ2/(4t2Ku2) (7)
となる。
二層膜全体のポテンシャルσECDLは、(7)式と、層1の磁気異方性エネルギーによるポテンシャルt1Ku1との和であるので、
σECDL=t1Ku1+σ−σ2/(4t2Ku2) (8)
となる。一方、σ/(2t2Ku2)>1の場合、二層膜全体のポテンシャルは、θ=90°を代入して、
σECDL=t1Ku1+t2Ku2 (9)
となる。
磁気記録媒体では、磁性膜は膜厚方向に伸びた円柱状の磁性粒子から構成されている。この場合、上記のエネルギー面密度は磁性粒子の底面積sを乗じるとエネルギー量となる。つまりσECDL×sがKuVに相当する熱揺らぎエネルギーに対抗する物理量となる。
したがって、層1と層2とが同時に反転する場合には、(9)式で表されるようにKu1V1+Ku2V2、すなわち二層のKuVの和が熱揺らぎ耐性となる。また、図24のように二段のヒステリシスループを示す媒体では、Ku1V1+(σ−σ2/(4t2Ku2))sが熱揺らぎ耐性となる。いずれの場合でも、エネルギー量はKu1V1よりも大きく、交換結合二層膜では熱揺らぎ耐性が向上することがわかる。また、層1と層2とが同時反転する場合には熱揺らぎ耐性がより向上することがわかる。以上の知見は従来全く知られておらず、本発明者らが初めて明らかにしたものである。
本発明の第8の態様に係る磁気記録媒体では、磁気異方性エネルギー密度KuRLが5×106erg/cc以上である記録層を用い、KuRLより小さい磁気異方性エネルギー密度KuFLを有する機能層と強磁性交換結合させる。上記のような高い磁気異方性エネルギー密度KuRLを有する記録層は熱揺らぎ耐性が十分にあるが、記録層単独の場合には現状の磁気ヘッドでは記録が困難である。しかし、記録層と機能層を強磁性交換結合させた二層膜とすることにより、全体の保磁力を低下させることができ、現行の磁気ヘッドでも記録できる磁気記録媒体を得ることができる。ここで、機能層のKuFLが記録層のKuRLよりも大きいと全体の保磁力が低下しないので、現行の磁気ヘッドによる記録はできない。
KuFLとKuRLの差は特に限定されない。両者の差が小さいと、全体のHc低減効果は小さいが、機能層の厚さを薄くしても大きなKuVを得ることができる。一方、両者の差が大きいと、Hc低減効果は大きいが、機能層の厚さを厚くしないと同時反転の条件を得るのが困難になる。したがって、両者の差は媒体を用いるシステムに応じて決定される。一般的な使用においては、KuRL/KuFLの値は3以上であることが好ましく、5以上がより好ましく、10以上がさらに好ましい。
本発明の第8の態様に係る磁気記録媒体では、記録層は微細な磁性粒子を非磁性体で分断した構造を有し、磁性粒子どうしが互いに交換結合を及ぼさないようにして高密度記録を可能にしている。一方、機能層の形態は特に限定されない。機能層が記録層と同じモフォロジーの多粒子構造を有する場合には、機能層を記録層の一部として用いて記録することもでき、大きな出力が得られる利点がある。また、下地層、機能層および記録層を成膜する際に、記録層の結晶性および微細構造の制御が容易になるという利点がある。
機能層が多粒子構造を有するが磁性粒子の大きさが記録層より小さい場合、機能層が多粒子構造を有するが磁性粒子間の間隙が交換結合を完全に遮断するほど大きくない場合、または機能層が面内で磁気的に連続した磁性薄膜となっている場合には、機能層に磁壁が形成されるか、機能層と記録層との界面に磁気的な不連続が生じるか、または機能層と記録層との界面に磁壁が生じる。この場合、磁気的安定性(熱揺らぎ耐性)が減少する。ただし、このときの熱揺らぎ耐性の減少度合は機能層のKuに依存する。記録層のKuは機能層のKuに対して数倍〜10倍程度であるので、磁気記録媒体全体では機能層のKuの影響は小さい。逆に、機能層と記録層との構造的な連続性により、記録層の活性化体積Vを増加させる効果が大きくなる利点が得られることもある。したがって、機能層の微細構造は、その媒体を用いるシステムの要求に依存して決定される。
次に、交換結合二層膜の保磁力をシミュレーションにより検討した結果を説明する。上記の(1)〜(3)式は、各層におけるモーメントの傾きを考慮していない近似式である。また、(4)式は反転前後のエネルギーの差をとっただけの値であり、交換結合エネルギーが無限大である場合の近似式となっている。現実的な解は、記録層と機能層のモーメントを独立に少しずつ回転させ、エネルギーが最も安定になる条件を探す、いわゆる Energy Minimum の手法を採用するのが妥当である。
図21に示す構造を有する磁気記録媒体をシミュレーションの対象とした。記録層と機能層は強磁性交換結合しており、例えば記録層および機能層が垂直磁化膜である場合、各層のスピンの向きは図22に示すようなものとなる。図26に示したように、強磁性交換結合した二層膜に反転方向の磁界を加え、エネルギーが最も小さくなる角度θを求める計算を行い反転磁界を計算した。図27にその結果を示す。
図27において、Hcの上限はHcRL−HwRLの破線で表され、Hcの下限はHcFL+HwFLの破線で表される。また、KuRL:記録層のKu、KuFL:機能層のKu、HcRL:記録層のHc、HcFL:機能層のHc、HwRL:記録層の感じる交換磁界、HwFL:機能層の感じる交換磁界、σ:交換結合エネルギー(面密度次元)、HR3:(3)式で算出される反転磁界、tRL:記録層の膜厚、tFL:機能層の膜厚である。計算に用いたパラメータは、KuRL:107erg/cc、KuFL:106erg/cc、tRL:10nm、記録層のMs(MsRL):500emu/cc、機能層のMs(MsFL):500emu/cc(したがって、HcRL:40kOe、HcFL:4kOe)、σ:5erg/cm2である。白丸プロットは記録層部分の反転磁界、黒丸は機能層部分の反転磁界であり、両者が重なっている領域は二層が同時に反転していることを意味する。
図27から明らかなように、交換結合二層膜は(3)式で得られる反転磁界HR3よりも小さな磁界で反転することがわかった。これは従来の理論からは予測できない効果である。従来の理論では、大きなtFLにおいてはHcRL−HwRLとHcRL+HwRLとに分かれた二段ループを示し、tFLを小さくして図中に縦実線で示したHcRL=HwRLとなる膜厚になったときに反転磁界HR3の曲線になると予想される。ところが、シミュレーションの結果は上記の予想とは異なり、HcRL=HwRLとなる厚さよりもtFLが薄い領域で同時反転に移行し、また、二段ループから同時反転への移行も緩やかである。これは、おそらく各層のモーメントのチルトによってエネルギーが緩和されることによるものと思われる。このような挙動は、シミュレーションによって初めて明らかになったことである。図27から、記録層が107erg/ccという高Ku(保磁力:40kOe)を有するにもかかわらず、交換結合二層膜全体の保磁力は16kOe程度まで低減できることがわかる。
さらに、各層の磁気特性を変化させて同様な計算を行った結果を示す図28〜図33に示す。これらの図においても、Hcの上限はHcRL−HwRLの破線で表され、Hcの下限はHcFL+HwFLの破線で表される。
図28に機能層の飽和磁化を変化させた場合の結果を示す。図28から明らかなように、機能層の飽和磁化を増やすと、保磁力低減効果が得られる機能層の膜厚を薄くでき、かつ保磁力をさらに低減できることがわかる。ただし、飽和磁化が増えると反磁界が大きくなり、面内媒体の場合には記録分解能の低下、垂直媒体の場合には逆磁区の生成によるノイズの増加という問題点も生ずる。したがって、機能層の飽和磁化をどの程度の値にするかは、システムの要求によって決定される。
図29に記録層の飽和磁化を変化させた場合の結果を示す。図29から明らかなように、記録層の飽和磁化が大きいほど保磁力低減効果がより大きくなることがわかる。ただし、保磁力低減効果が得られる機能層の膜厚が増えるため、製造コストが高くなる問題点も生ずる。したがって、記録層の飽和磁化をどの程度の値にするかは、システムの要求によって決定される。
図30に機能層の磁気異方性エネルギーを変化させた場合の結果を示す。図30から明らかなように、機能層の磁気異方性エネルギー密度が小さいほど保磁力低減効果がより大きくなることがわかる。保磁力低減効果が得られる機能層の膜厚はあまり変化しないこともわかる。ただし、全体の熱揺らぎ耐性KuVはあまり大きくならないため、熱揺らぎ耐性の向上度合が小さいという問題点も生ずる。したがって、機能層の磁気異方性エネルギーをどの程度の値にするかは、システムの要求によって決定される。
図31に記録層の磁気異方性エネルギー密度を変化させた場合の結果を示す。図31から明らかなように、記録層の磁気異方性エネルギーによらず保磁力が低減している。このため、システムの要求する仕様値に沿って最もKuが大きく熱安定性の高い記録層を選定することができる。また、記録層の磁気異方性エネルギー密度が大きいほど、保磁力低減効果が得られる機能層の膜厚が小さくなる利点もある。ただし、全体の保磁力は大きくなってしまうため、無制限に記録層のKuを大きくすることはできない。したがって、記録層の磁気異方性エネルギー密度をどの程度の値にするかは、システムの要求によって決定される。
図32に交換結合エネルギー面密度を変化させた場合の結果を示す。図32から明らかなように、交換結合エネルギー面密度が大きいほど保磁力低減効果がより大きくなることがわかる。ただし、保磁力低減効果が得られる機能層の膜厚が増えるために、製造コストが高くなる問題点も生ずる。したがって、交換結合エネルギー面密度をどの程度の値にするかは、システムの要求によって決定される。
図33に記録層の膜厚を変化させた場合の結果を示す。図33から明らかなように、記録層の膜厚が小さいほど保磁力低減効果がより大きくなることがわかる。ただし、保磁力低減効果が得られる機能層の膜厚が増えるために、製造コストが高くなる問題点も生ずる。したがって、記録層の膜厚をどの程度にするかは、システムの要求によって決定される。
以上の計算において、保磁力低減効果が得られたのは、記録層のKuよりも機能層のKuが小さい場合においてのみである。このように保磁力低減効果を得るためには、機能層の磁気異方性エネルギー密度KuFLが記録層の磁気異方性エネルギー密度KuRLよりも小さいことが必要である。
以上で得られた知見は、記録層のKuと機能層のKuが平均化されて、tRL+tFLだけの膜厚を持った磁性層による結果と等価である可能性があるが、このことを検証するには詳細な解析が必要であり、現状では解析不可能である。ただし、この仮定の通りであったとしても、第8の態様の磁気記録媒体は以下に述べる利点を有する。
(1)任意のKuを持つ材料を得るのは一般に困難である。これは、磁気記録媒体では粒径および結晶性の制御が必要になるが、これらの制御は材料に強く依存するからである。一方、第8の態様の磁気記録媒体では、磁気特性を確実に制御できる高Ku材料と低Ku材料を用い、各層の膜厚・交換結合エネルギー・飽和磁化(例えば材料の添加元素による希釈で制御できる)などのパラメータ調整によって任意のKuVと反転磁界を得ることができる。
(2)一般に、多粒子系磁気記録媒体において、同一材料の膜厚を増していくと粒径が粗大化する傾向がある。これは、膜厚増大による応力緩和または応力発生によるものと思われる。これに対して、第8の態様の磁気記録媒体では、機能層の膜成長に伴って粒が粗大化する前に記録層が成膜されるので、応力緩和または応力発生を抑えることができ、粒径の粗大化を防ぐことができる。機能層/記録層を複数回繰り返して積層し、各層の厚さを実効的に減らすことによって、この効果をより大きくすることもできる。
また、上記のシミュレーションにおいて反磁界は考慮していない。このことは、このシミュレーションが面内媒体を前提としていることを意味するが、このシミュレーションは垂直媒体にも適用できる。反磁界係数をNとすると、反磁界はN×4Msで表される。垂直媒体の場合、連続磁性膜であればN=1であるが、実際的な多粒子媒体の場合にはNの値を決定するのは困難である。しかし、いずれにしても反磁界はKuを低減する方向に作用するので、反磁界を含めてKuを考慮すれば、上記のシミュレーションは垂直媒体に対しても妥当である。また、一般的に媒体のKuを評価する場合、Kuは媒体固有の反磁界を含んだ形で求まる。このため、上記のシミュレーションにおけるKuとして、純粋なKuではなく現実的に求められる実効的なKuを用いれば同じ効果が得られる。
図28〜図33の結果から、各パラメータの好ましい範囲を次のような推測することができる。ここで、基本となるパラメータをKuRL=107erg/cc、KuFL=106erg/cc、tRL=10nm、MsRL=500emu/cc、MsFL=500emu/cc、σFL=5erg/cm2とする。そして、例えばMsRL、KuRL、σFLまたはtRLを調整する場合について考える。このとき、機能層の膜厚tFLを図34(A)〜(D)に示される白丸プロットと黒丸プロットとの間に設定すれば、良好な特性が得られる。これらの図に示されるtFLの範囲は、従来の理論では予測できず、しかも大きな保磁力低減効果が得られる。このときのKuは、上述したように、反磁界を考慮した実効的なKuを用いればよいことはいうまでもない。もちろん、設計上またはシステム上、反磁界の影響が小さい場合には、本質的(intrinsic)なKuの値を用いてもよい。
第8の態様に係る磁気記録媒体では、記録層が磁性人工格子からなっていてもよい。磁性人工格子は、Coなどの強磁性薄膜が非磁性層(PdやPt)を介して数回〜数十回積層されたものであり、107erg/cc以上の磁気異方性エネルギーが得られ、かつ異方性の軸が膜面に垂直であることが知られている。この材料を記録層として用いることにより、第8の態様に係る磁気記録媒体と同様な効果を得ることができる。107erg/cc以上の磁気異方性エネルギーが得られる条件は、非磁性層がPt、Pdまたはこれらの元素を主成分とする合金であり、かつその厚さが2nm以下である場合である。
第8の態様の磁気記録媒体において、機能層および記録層が垂直磁化膜どうしである場合、これらを交換結合相互作用が生じるように積層すると、異方性の軸が揃っているので交換結合エネルギーを大きくすることができる。第8の態様の磁気記録媒体では、交換結合エネルギーが大きいほど保磁力低減効果が大きいので、記録層としてよりKuの高い材料を用いることができる。なお、記録層および機能層ともに面内にヒステリシスが出ない完全な垂直磁化膜である必要はない。もちろん、完全な垂直磁化膜が好ましいが、実質的には残留磁化が垂直成分にもあるような条件であれば、交換結合エネルギーを大きくする効果が得られる。
第8の態様の磁気記録媒体においては、記録層と機能層が交互に積層された多層膜を用いてもよい。特に、機能層/記録層/機能層となっている領域が存在すると、二層膜の場合と比較して、記録層に作用する交換磁界が2倍になる。これは交換結合エネルギーが2倍に増加したのと等価であり、高Ku材料のHcを低減する効果を高めることができる。なお、このような領域は、磁気記録媒体中に複数存在していてもよい。
第8の態様の磁気記録媒体においては、機能層が複数の磁性層を含み、これらの複数の磁性層が反強磁性方向に交換結合するように積層されている部分を有する場合、その実効的な飽和磁化を小さくすることができ、場合によっては完全にゼロにすることができる。この場合、磁気記録媒体全体としての磁化量を小さくすることができる。このため、面内媒体の場合には反磁界による記録分解能低減を抑えることができる。また、垂直媒体の場合には逆磁区発生による媒体ノイズの増加を抑える効果が得られる。このような機能層としては、既述した材料および構造を有するものを用いることができる。
第8の態様の磁気記録媒体においては、記録層として50at%以下のCuが添加された、Fe−Pt、Fe−Pd、Co−PtおよびCo−Pdからなる群より選択される磁性体を用い、機能層として無添加または50at%以下のAgおよび/またはAlが添加された、Fe−Pt、Fe−Pd、Co−PtおよびCo−Pdからなる群より選択される磁性体を用いることが好ましい。
Fe−Pt、Fe−Pd、Co−Pt、Co−Pdなどの規則相合金は高Kuの磁性体である。これらの規則相合金では、磁性金属と貴金属との組成比が概ね1:1である場合に最も大きなKuが得られるが、1:3〜3:1の範囲でも高Kuが得られる。これらの規則相は、スパッタリングにより成膜したまま(as-deposited)では得られず、アニールすることにより形成される。一般に、このときのアニール温度は500〜600℃に設定されるが、適切な添加元素を用いることによりアニール温度を低減できることがわかった。アニール温度の低減に最も効果的な添加元素がCuであり、AgやAlなどの添加元素ではアニール温度の低減効果は得られない。したがって、記録層として50at%以下のCuを添加した規則相合金を用い、機能層として無添加または50at%以下のAgおよび/またはAlを添加した規則相合金を用い、アニール温度を記録層は規則化するが機能層は規則化しない領域に設定すると、記録層のみのKuを大きくすることができる。また、機能層および記録層が同系の材料であるので、下地層およびプロセスの調整により機能層だけでなく記録層についても結晶配向性および粒径を容易に制御できる。
(実施例1)
図1に示す構造を有する第1の態様に係る磁気記録媒体を作製した。2.5インチ径のガラス基板上に、厚さ50nmのSiNからなる下地層、厚さ25nmのTb0.19(Fe0.75Co0.25)からなるベース層、厚さ2nmのSiNからなるスイッチング層、厚さ20nmのCoPtCr−Oからなる記録層、厚さ3nmのCからなる保護層を順次スパッタ法にて積層し、その後潤滑剤を塗布した。
この際、SiN下地層にRF100W、1分のスパッタエッチング処理を施した後、真空を破らずにベース層を積層した。このことによりSiN下地層およびベース層およびその界面における浮遊酸素を取り除くことができ、ベース層の耐候性を向上させることができる。ベース層単独の磁気特性は、室温での保磁力HcがVSMの測定限界(15kOe)を超えており、いわゆる補償組成であることを示していた。ベース層のキュリー温度は350℃であった。
記録層の微細構造をTEMにより調べたところ、CoPtCrからなる柱状の磁性結晶粒子(直径約7nm)が、アモルファスのCo−Oと微量のCrを含む非磁性体により2nm間隔で分断された構造となっていた。記録層単独の磁気特性は、垂直方向に磁化容易軸を有し、VSMで測定した室温での保磁力Hcは4.5kOeであった。ΔM法などの静的な評価と微細磁区のMFM測定の結果から、磁性粒子間の交換結合相互作用はほとんどないことが確認された。
ベース層/スイッチング層/記録層を積層した状態での磁気特性の温度依存性を調べた。室温から150℃までは図35に模式的に示すような磁気特性を示した。すなわち、ベース層と記録層とは交換結合しておらず、それぞれ独立にヒステリシスを示し、HcBとHcRで示したように、それぞれの層のHcは異なった。しかし、150℃を超えたあたりから図35のようなヒステリシスの分断は起こらなくなり、HcBとHcRは一致した。これは、150℃から両層に交換結合相互作用が働き始めたためであると思われる。この積層膜の場合、層間に界面磁壁が形成されないと、ヒステリシスループから交換力Hexgを直接調べることはできない。また、Lexgの変化も直接知ることはできない。そこで、温度を変化させながらVSMのtime waiting測定を行うことにより、活性化モーメントVIsBの温度変化を調べて、活性化体積(=磁化反転ユニットの体積Va)の温度依存性を推定することを試みた。その結果、Vaは図3に模式的に示したのと類似の温度変化を示し、ヒステリシスループの変化からの推定と同じく、交換結合が作用し始める温度Tswは150℃であると見積もれた。
上記の磁気記録媒体の動特性をHDDの記録/再生評価装置により評価した。記録媒体の回転数は4500rpmとした。記録ヘッドとして記録ギャップが200nmのものを用い、再生ヘッドとしてGMR素子を有し再生ギャップが110nmのものを用いた。浮上量と潤滑剤の厚さから磁気スペーシングは10nmと推定された。一方、基板の裏面に波長633nmのレーザーおよび外部低浮上レンズを配置した。外部低浮上レンズと基板の両方でSILレンズとなるように設計して、ベース層/スイッチング層/記録層の部分でレーザービームが焦点を結ぶようにした。レーザースポットの直径がFWHMで約500nmとなるように調節して局所加熱した。この際、精密なピエゾ素子によりヘッドを駆動させ、光の照射位置と記録ヘッドのギャップ位置とを一致させた。
まずレーザービームを照射しないで磁気記録を試みた。再生信号はノイズがほとんどであり、十分な記録ができていないことがわかった。このことは記録層の保磁力と記録ヘッドの記録能力から判断して当然の結果である。
次に、レーザーを照射しながら記録を行った。別の実験とシミュレーションにより、あらかじめ照射パワーと媒体の温度上昇の関係を求めておき、照射するレーザーパワーから再生信号のCN比(CNR)の媒体温度依存性を調べた。
400kfciの単一周波数記録をおこなった結果を図36に模式的に示す。媒体温度がTsw以下の場合にも記録は可能であり、最初は媒体温度の上昇とともにCNRが増加する結果が得られた。これは、媒体温度の上昇によりHcが低下し、ヘッドの発生磁界でも記録ができるようになってきつつあるためである。しかし、SN比は低く、さらに媒体温度を上げていくと逆にCNRは低下し始めた。これは、上述したように、保磁力が低下して媒体の磁化反転が容易になる一方で、媒体加熱による熱揺らぎの加速によって磁化が再反転しているためであると推測される。ところがTswを超えたところから、CNRは再び増加し始め、ベース層のキュリー温度TcB=250℃よりも低い温度で最大のCNRを得ることができた。上述したように、ベース層と記録層との交換結合作用によりVaが増加したため、磁化再反転が起こらなくなったためと思われる。このようにして得られた最適記録温度(パワー)で記録周波数依存性を調べた。周波数依存性曲線は通常の磁気記録システムと同様の特性を持っており、記録層の高Ku特性を反映して、1000kfciまで記録できることが確認された。
(比較例1)
SiNスイッチング層の厚さを6nmとした以外は実施例1と同様にして磁気記録媒体を作製した。実施例1と同様な動特性評価を行った結果を図37に模式的に示す。図37では図36の場合のようなCNRの増加がなく、CNRは媒体温度とともに低下した。これは、ベース層と記録層との間に交換結合が起こらなかったために、媒体加熱による熱揺らぎの加速によって磁化再反転しているためであると推測される。
(実施例2)
SiNスイッチング層の厚さtswを0.5から6nmまで変化させた以外は実施例1と同様にして磁気記録媒体を作製した。これらの磁気記録媒体のTswを調べたところ、図38に示す結果が得られた。tswが1nm以下では室温でも交換結合しVaが大きい状態になるが、システムが要求する記録分解能を有するのであれば本発明による磁気記録媒体として用いることができる。このようにtswの下限は磁気記録媒体のシステム設計・要求によって異なる。tsw=6nm近傍ではTswの評価は困難になる。これは、Tswが高温となり、VSMを用いた静的な評価では記録層が構造変化を起こしてうまく測定できないためである。そこで、記録特性からTwを推定した。tswが6nmを超えると、Twとしては500℃をはるかに超える温度が必要となる。このことは磁気記録装置の消費電力や発熱を考えると好ましくない。
(実施例3)
図1に模式的に示した構造を有する磁気記録媒体を作製した。2.5インチのガラス基板上に、5nmのNiAl/50nmのCrからなる下地層、75nmのFeCrからなるベース層、1.5nmのRuからなるスイッチング層、20nmのCoPt−SiO2からなる記録層、3nmのカーボンからなる保護層を順次スパッタ法にて積層し、その後潤滑剤を塗布して磁気記録媒体を作製した。CoPt−SiO2はいわゆるグラニュラー媒体であって、CoPt磁性粒子がSiO2母材中に分散した微細構造を持つ。CoPtのSiO2に対する体積比率は45vol%であった。このような媒体は、たとえば、複合ターゲットを用いるか、またはCoPtとSiO2の同時スパッタで、基板にバイアスを印加しながら成膜すると作製できる。FeCrベース層は、単層での磁気特性評価でフェロ磁性を示した。
記録層の微細構造をTEMを用いて調べたところ、CoPtからなる柱状の磁性結晶粒子(直径約6nm)がアモルファスのSiO2母材中で分断されている構造となっていた。磁気特性は、垂直方向に磁化容易軸を有し、室温でVSMで測定した保磁力Hcは6kOeであった。磁性粒子間の距離(磁性粒子間に介在する非磁性体部分の長さ)は2nmであった。ΔM法などの静的な評価と微細磁区のMFM測定の結果から、磁性粒子間の交換結合相互作用はほとんどないことが確認された。ベース層は、記録層と同様な多結晶構造を有している。NiAl/Cr下地層の効果で結晶粒径は7nmと小さい。結晶粒子のモフォロジーはRuスイッチング層を介してほぼ記録層に保持されている。このベース層の室温での磁気特性は、Hcが1kOe、キュリー温度が150℃であった。実施例1と同様の評価を行った結果、Tswは120℃であった。
上記の磁気記録媒体に対し実施例1と同様の記録/再生評価を行った。評価装置の諸元は実施例1と同じである。400kfciの単一周波数記録を行った結果は図36に模式的に示すものと類似していた。ただし、シミュレーションの結果から、TwがTcBを超える200℃においても十分大きなCNRを得ることができた。これは、記録後の冷却過程中にベース層と記録層との交換結合作用によりVaが増加する効果によって、磁化再反転が起こらなくなったためであると思われる。記録温度(パワー)を変えて、Tw=200℃と140℃とで記録周波数依存性を比較した。DCに対して出力が1/2になる周波数の値は、Tw=200℃の条件の方が大きくなった。これは、記録時にVaが小さくなっていることによって記録分解能が向上したためであると思われる。
(実施例4)
Ruスイッチング層の厚さを変化させるとともに、記録層作製時にCoPtターゲットとSiO2ターゲットの投入電力の比を変えてCoPrとSiO2の体積比率の異なる記録層を形成した以外は実施例3と同様にして磁気記録媒体を作製した。CoPt磁性粒子を分断するSiO2非磁性部分の距離は各試料のTEM観察から求めた。このようにして、磁性粒子を磁気的に分断する非磁性部分の距離d[nm]とtswの比の異なる試料を作製し、最適レーザーパワーで記録した100kfciの信号における媒体ノイズの比較を行った。その結果を模式的に図39に示す。図39において、縦軸は任意目盛りのノイズパワー、横軸はtsw/dである。この図に示されるように、tsw/d=2を境にして、媒体ノイズの急激な増加が認められた。これは、媒体の加熱によってLexgが増加して記録層とベース層とが交換結合する前に、記録層内の磁性粒子間が交換結合して大きな磁気クラスターを形成して磁化転移の乱れが大きくなり媒体ノイズとなったためであると思われる。
なお、tsw/d=1から媒体ノイズの増加が見られないのは、磁性粒子間の結合位置が平均すると「点」接触であるのに対して、記録層−ベース層間のそれは「面」接触であり、同じようなLexgの増加に対しては記録層−ベース層間の方がより強く交換結合を起こすためであると思われる。また、上述のように、ベース層−スイッチング層−記録層とモフォロジーがほぼ保たれており、層間の界面は非常に急峻かつ面接触に近い条件が実現できていることも理由の一つとして挙げられる。
(実施例5)
図5に示す構造を有する第2の態様に係る磁気記録媒体を作製した。2.5インチのガラス基板上に、5nmのNiAl/50nmのCrからなる下地層、75nmのCo−SiO2グラニュラー膜からなるベース層、20nmのCoPt−SiO2からなる記録層、3nmのカーボンからなる保護層を順次スパッタ法にて積層し、その後潤滑剤を塗布して磁気記録媒体を作製した。
記録層は実施例3と同様な構造となるように調整した。ベース層としてのCo−SiO2グラニュラー膜において、CoのSiO2に対する体積比率は50vol%とした。また、基板バイアス電力を調整することによって、Co粒子の直径を平均で3.5nmとした。このCoの体積では、室温で熱揺らぎによって超常磁性を示す。Co−SiO2単独の磁気特性の温度変化を調べた結果、130℃以上で強磁性となることがわかった(Tf=130℃)。その理由は、Lexgが温度とともに増加し、Co粒子の間隔よりも大きくなるとCo粒子どうしが交換結合して活性化体積が増加し、磁気異方性エネルギーが熱揺らぎエネルギーよりも大きくなって強磁性へと転化するためである。
この場合、図3のtsw=Tf=130℃とすれば、スイッチング層がなくとも実施例3と同様の効果を持つ磁気記録媒体を得ることができる。すなわち、媒体が加熱されてTsw以上になるとベース層が強磁性となると同時に、交換結合している記録層の磁性粒子のVaが図3に示すように増加する。このため、磁化再反転を抑えることができる。この場合のベース層の記録温度とTwとの大小関係は既に述べたように、特に制限はない。
上記の磁気記録媒体に対し、実施例1と同様の記録/再生評価を行った。評価装置の諸元は実施例1と同じである。400kfciの単一周波数記録をおこなった結果は図36に模式的に示すものと類似のものになった。最適記録温度(パワー)で記録周波数依存性を調べたところ、1000kfciまで記録できることが確認された。
(実施例6)
図5に示す構造を有する第3の態様に係る磁気記録媒体を作製した。2.5インチ径のガラス基板上に、50nmのSiNからなる下地層、25nmのTb0.18(Fe0.9Co0.1)からなるベース層、20nmの(Co0.75Pt0.2Cr0.05)−Oからなる記録層、3nmのカーボンからなる保護層を順次スパッタ法にて積層し、その後潤滑剤を塗布した。
この際、SiN下地層にRF100W、1分のスパッタエッチング処理を施した後、真空を破らずにベース層を積層した。このことによりSiN下地層およびベース層およびその界面における浮遊酸素を取り除くことができ、ベース層単独の耐候性を向上させることができる。ベース層単独の磁気特性は、室温での保磁力Hcが5kOe、キュリー温度が200℃であった。
記録層の微細構造をTEMにより調べたところ、CoPtCrからなる柱状の磁性結晶粒子(直径約7nm)が、アモルファスのCo−Oと微量のCrを含む非磁性体により2nm間隔で分断された構造となっていた。記録層単独の磁気特性は、垂直方向に磁化容易軸を有し、VSMで測定した室温での保磁力Hcは4.5kOeと推定された。ΔM法などの静的な評価と微細磁区のMFM測定の結果から、磁性粒子間の交換結合相互作用はほとんどないことが確認された。キュリー温度は膜構造の変化のために同定できなかったが、200℃までの温度変化から外挿して概ね250℃と推定された。この記録層は、磁性粒子の粒径が小さいため、熱揺らぎの影響が大きくなっているものと思われる。
上記の磁気記録媒体の動特性をHDDの記録/再生評価装置により評価した。記録媒体の回転数は4500rpmとした。記録ヘッドとして記録ギャップが200nmのものを用い、再生ヘッドとしてGMR素子を有し再生ギャップが110nmのものを用いた。浮上量と潤滑剤の厚さから磁気スペーシングは10nmと推定された。一方、基板の裏面に波長633nmのレーザーおよび外部低浮上レンズを配置した。外部低浮上レンズと基板の両方でSILレンズとなるように設計して、ベース層/スイッチング層/記録層の部分でレーザービームが焦点を結ぶようにした。レーザースポットの直径がFWHMで約500nmとなるように調節して局所加熱した。この際、精密なピエゾ素子によりヘッドを駆動させ、光の照射位置と記録ヘッドのギャップ位置とを一致させた。
まずレーザービームを照射しないで磁気記録を試みた。再生信号はノイズがほとんどであり、十分な記録ができていないことがわかった。このことは記録層の保磁力と記録ヘッドの記録能力から判断して当然の結果である。
次に、レーザービームを照射しながら記録を行った。別の実験とシミュレーションにより、あらかじめ照射パワーと媒体の温度上昇の関係を求めておき、照射するレーザーパワーから再生信号のCN比(CNR)の媒体温度依存性を調べた。
図40に400kfciの単一周波数で記録した結果を示す。この図から、Tw=100〜300℃の範囲で記録が可能であることがわかる。記録可能限界でのCNRは約10dBと低く、実際のHDDシステムに用いることはできないが、本発明による記録方法の原理を確認するには十分な値である。また、記録周波数を低くするか、記録層の磁気特性を調整することによって、CNRを改善することは十分に可能である。
同様な実験をベース層のFe:Coの比を変化させた試料を用いて行った。その結果を図41に示す。この図において、横軸はTcB−Twの絶対値(K)で、縦軸はその条件で得られた最大のCNRである。この図より、|TcB−Tw|<100Kであれば20dB程度のCNRが期待でき、50K未満であれば40〜50dB、30K未満であれば50〜60dBのCNRが得られる。図41から明らかなように、|TcB−Tw|<100Kであれば、TcB>Twの条件で同様な記録ができる。また、Twを変化させた図40の実験より、TcB<Twとなっても同様に記録が可能であることもわかった。
ベース層の組成を変えてTb0.22(Fe0.9Co0.1)とした。このベース層はキュリー温度は上記と同じであるが、いわゆるREリッチの組成を有し補償温度が100℃近傍になる。このベース層を用いても図40と同様な記録特性が得られた。
下地層を50nmのバナジウム、ベース層を30nmの(Co0.8Pt0.2)−SiO2とした媒体を作製し、同様な記録試験を行った。断面TEM観察を行ったところ、ベース層はCoPtからなる柱状の磁性結晶粒子(直径約10nm)がアモルファスのSiO2からなる非磁性部分で分断されている構造となっていた。また、記録層の磁性粒子は概ねCoPtの粒子の上に成長していた。この媒体での結果は図40と同様であったが、媒体ノイズが低下した結果、CNRは3〜5dB増加した。これは、記録後の磁化転移の変化が小さいため、ジッタが少なくなったことに起因するものと思われる。
下地層を50nmのZnO、ベース層を10nmの(Co0.75Pt0.2Cr0.05)−SiO2/1nmのRh/10nmの(Co0.75Pt0.2Cr0.05)−SiO2の多層膜とし媒体を作製し、同様な記録試験を行った。断面TEM観察を行ったところ、ベース層はCoPtCrからなる柱状の磁性結晶粒子(直径約7nm)がアモルファスのSiO2からなる非磁性部分で分断されている構造となっていた。また、磁性粒子は記録層までほぼ連続した柱状構造をとっていた。この媒体での結果は図40と同様であったが、媒体ノイズが低下した結果、CNRは5〜7dB増加した。これは、記録後の磁化転移の変化が小さいため、ジッタが少なくなったことに起因するものと思われる。
(実施例7)
図1に示す構造を有する第4の態様に係る磁気記録媒体を作製した。2.5インチ径のガラス基板上に、50nmのSiNからなる下地層、25nmのTb0.18(Fe0.75Co0.25)からなるベース層、10nmの(Gd0.5Tb0.5)0.18(Fe0.98Co0.02)からなるスイッチング層、20nmの(Fe0.49Pt0.49Ta0.02)−SiNからなる記録層、3nmのカーボンからなる保護層を順次スパッタ法にて積層し、その後潤滑剤を塗布した。
この際、SiN下地層にRF100W、1分のスパッタエッチング処理を施した後、真空を破らずにベース層を積層した。このことによりSiN下地層およびベース層およびその界面における浮遊酸素を取り除くことができ、ベース層単独の耐候性を向上させることができる。ベース層単独の磁気特性は、室温での保磁力Hcが5.5kOe、キュリー温度が400℃であった。スイッチング層単独の磁気特性は、室温での保磁力Hcが3kOe、キュリー温度が150℃であった。
記録層の微細構造をTEMにより調べたところ、大部分がFePt規則相からなる磁性結晶粒子(直径約6nm)が、アモルファスのSiNからなる非磁性体により2nm間隔で分断された構造となっていた。記録層単独の磁気特性は、垂直方向に磁化容易軸を有し、VSMで測定した室温での保磁力Hcは8kOeと推定された。ΔM法などの静的な評価と微細磁区のMFM測定の結果から、磁性粒子間の交換結合相互作用はほとんどないことが確認された。キュリー温度は膜構造の変化のために同定できなかったが、200℃までの温度変化から外挿して概ね300℃と推定された。
この媒体に対して実施例6と同様な動特性評価を行った。レーザーの照射パワーを変えてTwとCNRとの関係を調べた結果を図42に示す。図40と同様な結果が得られているが、Tw<TcSではノイズの大幅な増加のためにCNRは低い値を示した。その理由は、記録層/スイッチング層/ベース層の3層が交換結合し、かつ、全体のKuまたは記録保磁力が十分な記録を行える状態にないためであると思われる。図42から、Tw=150〜250℃の範囲で記録が可能であることがわかる。記録可能限界でのCNRは約10dBと低く、実際のHDDシステムに用いることはできないが、本発明による記録方法の原理を確認するには十分な値である。また、記録周波数を低くするか、記録層の磁気特性を調整することによって、CNRを改善することは十分に可能である。
同様な実験をベース層のFe:Coの比を変化させた試料を用いて行った。その結果を図43に示す。この図において、横軸はTw−TcSの値(K)で、縦軸はその条件で得られた最大のCNRである。Tw<TcSの場合については調べていない。この図より、Tw−TcS<100Kであれば20dB程度のCNRが期待でき、50K未満であれば40〜50dB、30K未満であれば50〜60dBのCNRが得られる。
ベース層の組成を変えてTb0.22(Fe0.9Co0.1)とした。このベース層はキュリー温度は上記と同じであるが、いわゆるREリッチの組成を有し補償温度が100℃近傍になる。このベース層を用いても図42と同様な記録特性が得られた。
スイッチング層の組成を変えて(Gd0.5Tb0.5)0.22(Fe0.98Co0.02)とした。このスイッチング層はキュリー温度は上記と同じであるが、いわゆるREリッチの組成を有し補償温度が100℃近傍になる。このスイッチング層を用いても図42と同様な記録特性が得られた。
これらの結果は、本実施例の磁気記録媒体の作用がスイッチング層を介したベース層−記録層の交換結合によるので、原理的にベース層やスイッチング層のRE組成が無関係であることによる。
下地層を50nmのCr、ベース層を30nmの(Co0.8Pt0.2)−SiO2とした媒体を作製し、同様な記録試験を行った。ベース層を成膜する際に、基板に200WのRFパワーを印加し、RFバイアススパッタリングを行った。断面TEM観察を行ったところ、ベース層はCoPtからなる柱状の磁性結晶粒子(直径約10nm)がアモルファスのSiO2からなる非磁性部分で分断されている構造となっていた。スイッチング層がアモルファスRE−TMなので、ベース層と記録層の結晶性の連続性は見られなかった。この媒体でも図42と同様の結果が得られた。
スイッチング層を10nmの((Co0.8Pt0.2)Cr0.14)−SiO2とした。このスイッチング層はベース層と同様の組成を有するが、Crの添加によりキュリー温度は低下して130℃となった。ベース層の成膜の際にRFバイアス印加は行わなかった。断面TEM観察を行ったところ、下地層の一部−ベース層−スイッチング層−記録層と結晶粒界(直径約5nm)が連続していることが確認された。この媒体を用いても図42と同様の記録特性が得られたが、媒体ノイズが低下した結果、CNRは約5dB増加した。これは、記録後の磁化転移の変化が小さいため、ジッタが少なくなったことに起因するものと思われる。この媒体に関しては、600kfciによるCNR評価も行った。その結果、約5dBのCNRの低下があったものの、図42と同様な結果が得られた。これは、ベース層の多粒子化により、記録層の転移位置が記録動作中に変動せず、高密度の記録が達成できたためであると思われる。
本実施例においては、(ベース層、スイッチング層)の組み合わせが(RE−TM、RE−TM)、(多粒子膜−RE−TM)、および(多粒子膜、多粒子膜)であったが、本実施例の磁気記録媒体の動作原理、作用から考えて、(RE−TM、多粒子膜)の組み合わせでも同様の効果が得られることは自明である。
(実施例8)
図9に示す構造を有する第5の態様に係る磁気記録媒体を作製した。2.5インチのガラス基板上に、50nmのCrからなる下地層、25nmのIrMn反強磁性体からなる機能層、20nmのCoPtCr−Oからなる記録層、3nmのカーボンからなる保護層を順次スパッタ法にて積層し、その後潤滑剤を塗布して磁気記録媒体を作製した。
記録層の微細構造をTEMにより調べたところ、CoPtCrからなる柱状の磁性結晶粒子(直径約7nm)が、アモルファスのCo−Oと微量のCrからなる非磁性体により分断された構造となっていた。記録層単独の磁気特性は、面内方向に磁化容易軸を有し、VSMで測定した室温での保磁力Hcは約5kOeであると推定される。膜構造の塑性変化のため、キュリー温度の正確な同定はできなかったが、200℃までの温度依存性から外挿すると、概ね300℃と推定された。磁性粒子の粒径が小さいため、熱揺らぎの影響が大きくなっているものと思われる。機能層と記録層とを積層した試料のMHループをVSMで測定した結果、TcEは約200℃であった。
上記の磁気記録媒体の動特性をHDDの記録/再生評価装置により評価した。記録媒体の回転数は4500rpmとした。記録ヘッドとして記録ギャップが200nmのものを用い、再生ヘッドとしてGMR素子を有し再生ギャップが110nmのものを用いた。浮上量と潤滑剤の厚さから磁気スペーシングは30nmと推定された。一方、基板の裏面に波長633nmのレーザーおよび外部低浮上レンズを配置した。外部低浮上レンズと基板の両方でSILレンズとなるように設計して、機能層/記録層の部分でレーザービームが焦点を結ぶようにした。レーザースポットの直径がFWHMで約500nmとなるように調節して局所加熱した。この際、精密なピエゾ素子によりヘッドを駆動させ、光の照射位置と記録ヘッドのギャップ位置とを一致させた。
まずレーザービームを照射しないで磁気記録を試みた。再生信号はノイズがほとんどであり、十分な記録ができていないことがわかった。このことは記録層の保磁力と記録ヘッドの記録能力から判断して当然の結果である。
次に、レーザーを照射しながら記録を行った。別の実験とシミュレーションにより、あらかじめレーザーパワーを変化させて媒体の温度上昇を求め、レーザーパワーと記録温度Twとの関係を調べた。レーザーパワーを変化させて記録を行った後に再生することにより、記録温度Twと再生信号のCN比(CNR)との関係を調べた。
400kfciの単一周波数記録をおこなった結果を図44に模式的に示す。図44に示されるように、Tw=100℃〜300℃の範囲で記録が可能であることがわかった。記録可能な限界条件でのCNRはほぼ10dBと低すぎるので、実際のHDDシステムで用いることはできないが、第5の態様に係る磁気記録の原理を確認するには十分である。また、記録周波数を低くするか、または媒体の磁気特性を調整することにより、CNRを改善することは可能である。
次に、種々の成膜条件で成膜された種々の材料からなる機能層を用いて図9と同様な構造を有する磁気記録媒体を作製した。具体的には、機能層材料としてFeMn(TcE:130〜180℃)、IrMn(TcE:150〜250℃)、CrMnPt(TcE:230〜420℃)を用いた。これらの磁気記録媒体を用いて上記と同様な実験を行った。その結果をまとめて図45に示す。図45の横軸はTcE−Twの絶対値(K)、縦軸はその条件で得られた最大のCNRである。この図から、|TcE−Tw|の値が100K未満ではCNR約20dB、50K未満では約30dB、30K未満では約40dBが得られることがわかる。図45から明らかなように、|TcE−Tw|<100Kであれば、TcE>Twの条件で記録可能である。また、図44から、TcE<Twの条件でも記録可能である。
(実施例9)
図9に概略的に示した構造を有する第6の態様に係る磁気記録媒体を作製した。2.5インチのガラス基板上に、50nmのFeTaCからなる軟磁性下地層、5nmのTi遮断層、10nmのPt下地層、18.8nmの積層機能層、15nmの積層記録層、3nmのカーボンからなる保護層を順次スパッタ法にて積層し、その後潤滑剤を塗布して磁気記録媒体を作製した。
積層機能層は、図17に概略的に示したように、[Co2nm/Ru0.8nm]のユニットを7回繰り返した構造を有する。この積層機能層の各Co層は反強磁性結合している。機能層単独ではCo1層分の磁化を持つフェリ磁性を示す。また、機能層と記録層とは反強磁性結合を示す。
積層記録層は、[Co0.3nm/Pd1.8nm]のユニットを7回繰り返した構造を有する。記録層の微細構造をTEMにより調べたところ、Co磁性結晶粒子(直径約7nm)が、CoOと想定されるアモルファス非磁性体により分断された構造となっていた。記録層単独の磁気特性は、垂直方向に磁化容易軸を有し、VSMで測定した室温での保磁力Hcは約8kOeであった。VSMによる測定から、記録層のキュリー温度TcRは概ね300℃と推定された。
機能層と記録層とを積層した試料のMHループをVSMで測定した結果、TcEは記録層のキュリー温度より高いことがわかった。
上記の磁気記録媒体に対し実施例8と同様の記録/再生評価を行った。レーザーパワーを変化させて記録を行った後に再生することにより、記録温度Twと再生信号のCN比(CNR)との関係を調べた。その結果、図39と類似した傾向を示した。しかし、CNRがピークを示す記録温度TwとTcRまたはTcEとの関連性は認められなかった。この結果は、単純に次の組み合わせによるものと考えられる。[A]温度を上げるほど記録層の保磁力が下がることによって相対的に記録能力が高まり、CNRが増加する。[B]温度を上げるほど熱揺らぎが加速されてCNRが低下する。
(実施例10)
図13に概略的に示した構造を有する第7の態様に係る磁気記録媒体を作製した。2.5インチ径のガラス基板上に、50nmのCrからなる下地層、15nmのFeMn反強磁性体からなる第2機能層、18.8nmの積層構造を有する第1機能層、10nmの(Gd0.5Dy0.5)0.22(Fe0.98Co0.02)からなるスイッチング層、17nmのCoCrPtTaBからなる記録層、厚さ3nmのCからなる保護層を順次スパッタ法にて積層し、その後潤滑剤を塗布した。
第1機能層は、図17に概略的に示したように、[Co2nm/Ru0.8nm]のユニットを7回繰り返した構造を有する。この第1機能層の各Co層は反強磁性結合している。第1機能層単独ではCo1層分の磁化を持つフェリ磁性を示す。また、第1機能層と記録層とは反強磁性結合を示す。第1機能層は第2機能層と交換結合しているので、異方性は面内方向にある。この試料においてヒステリシスループのシフト量は300Oeであった。
スイッチング層はアモルファスの面内磁化膜である。この層単独のキュリー温度は150℃であった。
記録層の微細構造をTEMにより調べたところ、CoPtCrからなる柱状の磁性結晶粒子(直径約7nm)が、アモルファスのCo、B、Crを含むと想定される非磁性体により分断された構造となっていた。記録層単独の磁気特性は、面内方向に磁化容易軸を有し、VSMで測定した室温での保磁力Hcは約6kOeであると推定される。膜構造の塑性変化のため、キュリー温度の正確な同定はできなかったが、200℃までの温度依存性から外挿すると、概ね350℃と推定された。
機能層とスイッチング層と記録層とを積層した試料のMHループをVSMで測定した結果、TcEは約150℃であった。
上記の磁気記録媒体に対し実施例8と同様の記録/再生評価を行った。レーザーパワーを変化させて記録を行った後に再生することにより、記録温度Twと再生信号のCN比(CNR)との関係を調べた。その結果を図46に示す。概ねT>TcEを満たす領域で大きなCNRが得られた。この理由は、スイッチング層のキュリー温度を越えた領域で、機能層と記録層との交換結合が効果的に切れたためであると考えられる。しかし、TcEよりも100K低い温度でもCNRは10dB程度であるが記録は可能であった。したがって、Tw=150℃〜250℃の範囲で記録可能であることがわかった。記録可能な限界条件でのCNRはほぼ10dBと低すぎるので、実際のHDDシステムで用いることはできないが、第7の態様に係る磁気記録の原理を確認するには十分である。また、記録周波数を低くするか、または媒体の磁気特性を調整することにより、CNRを改善することは可能である。特に、Tw<TcEの領域では熱揺らぎの影響が少ないので、低CNRを許容できるシステムまたは環境条件の厳しいシステムに適した条件であると考えられる。
次に、種々のFe:Coの組成比を有するスイッチング層を用いて図13と様な構造を有する磁気記録媒体を作製した。これらのスイッチング層はキュリー温度が異なるのでTcEを変化させることができる。これらの磁気記録媒体を用いて上記と同様な実験を行った。その結果をまとめて図47に示す。図47の横軸はTw−TcEの値(K)、縦軸はその条件で得られた最大のCNRである。Tw<TcEの場合については調べていない。この図から、Tw−TcEの値が100K未満ではCNR約20dB、50K未満では約40〜50dB、30K未満では約50〜60dBが得られることがわかる。
(実施例11)
図21に示す構造を有する磁気記録媒体を作製した。3.5インチのガラス基板上に、厚さ5nmのTiからなるシード層および厚さ50nmのRuからなる下地層を堆積した後、厚さ15nmのCo78Cr19Pt3からなる機能層、厚さ10nmの(Fe55Pt45)Cu10からなる記録層、厚さ3nmのカーボンからなる保護層をスパッタリングにより積層し、さらに潤滑剤を塗布した。スパッタリング時には基板を250℃に加熱した。
記録層は、垂直成分にも残留磁化があるが、3次元的にランダムな方向に磁気異方性の分布を持つ磁気特性を示した。FePtCu記録層のKuRLは3×107erg/ccであった。これは、スパッタリング時の基板加熱により記録層中にFe50Pt50規則相が形成されたためである。CoCrPt機能層のKuFLは2×106erg/ccであった。
FePtCu記録層単独では保磁力が15kOeを超えるため、記録を行うことは困難である。しかし、本実施例の媒体では、CoCrPt機能層とFePtCu記録層とが強磁性交換結合しているため、全体の保磁力は8kOeとなり、通常の磁気ヘッドでも十分に記録が可能であった。この媒体は、図25のような1段のヒステリシスループを示した。記録層中の磁性粒子の直径は約6nmであった。この媒体のKuV/kBTは約200であり、熱安定性も十分であった。
上記の保磁力の値は、計算から求められた値よりも小さかった。この理由として、反磁界の影響、磁気異方性のランダムな分布、初期層の形成、粒間相互作用、膜中の不純物の影響などが考えられる。しかし、計算に基づき、高Kuを有する記録層材料を用いて、熱安定性が高く、かつ保磁力の小さい磁気記録媒体を得ることができた。
(実施例12)
図21に示す構造を有する面内磁気記録媒体を作製した。3.5インチのガラス基板上に、厚さ5nmのNiAlからなるシード層および厚さ50nmのCrMoからなる下地層を堆積した後、厚さ10nmのCo83Cr12Ta8からなる機能層、厚さ15nmのCo74Cr22Ta4からなる記録層、厚さ3nmのカーボンからなる保護層をスパッタリングにより積層し、さらに潤滑剤を塗布した。機能層および記録層はいずれも面内磁化膜であり、長手記録媒体が得られた。
Co74Cr22Ta4記録層のKuRLは3×107erg/ccであり、Co83Cr12Ta8機能層のKuFLは1×106erg/ccであった。
Co74Cr22Ta4記録層単独では保磁力が8kOeと大きく、通常の長手用磁気ヘッドで記録ができない。しかし、本実施例の媒体では、Co74Cr22Ta4記録層とCo83Cr12Ta8機能層とが強磁性交換結合しているため、全体の保磁力は4kOeとなり、通常の磁気ヘッドでも十分に記録が可能であった。この媒体は、図25のような1段のヒステリシスループを示した。記録層中の磁性粒子の直径は約8nmであった。この媒体のKuV/kBTは約150であり、熱安定性も十分であった。
(実施例13)
図21に示す構造を有する垂直磁気記録媒体を作製した。2.5インチのガラス基板上に、厚さ50nmのCrからなる下地層を堆積した後、厚さ15nmのCo77Cr20Ta3からなる機能層、厚さ15nmの(Co80Pt20)−(SiO2)からなる記録層、厚さ3nmのカーボンからなる保護層をスパッタリングにより積層し、さらに潤滑剤を塗布した。記録層の成膜時には基板にRFバイアスを印加した。
記録層はSiO2母材中に高KuのCoPt磁性粒子が分散した、いわゆるグラニュラー媒体であり、CoPtとSiO2の体積比は50:50であった。記録層および機能層のいずれも垂直方向に大きな残留磁化を示す垂直磁化膜であった。
(Co80Pt20)−(SiO2)記録層のKuRLは7×106erg/ccであり、Co77Cr20Ta3機能層のKuFLは6×105erg/ccであった。
(Co80Pt20)−(SiO2)記録層単独では保磁力が6kOeと大きく、記録が困難であった。しかし、本実施例の媒体では、(Co80Pt20)−(SiO2)記録層とCo77Cr20Ta3機能層とが強磁性交換結合しているため、全体の保磁力は3kOeとなり、通常の磁気ヘッドでも十分に記録が可能であった。垂直磁化膜どうしの交換結合であるために、交換結合エネルギーが大きく、より大きな保磁力低減効果が得られた。この媒体は、図25のような1段のヒステリシスループを示した。記録層中の磁性粒子の直径は約10nmであった。この媒体のKuV/kBTは約200であり、熱安定性も十分であった。
(実施例14)
実施例11と同様にして、厚さ8nmのCo78Cr19Pt3機能層、厚さ10nmの(Fe55Pt45)Cu10記録層、および厚さ7nmのCo78Cr19Pt3機能層の三層構造を有する磁気記録媒体を作製した。
この磁気記録媒体では全体の保磁力が5kOeとなり、実施例11と比較して保磁力をさらに低減することができた。
(実施例15)
図21に示す構造を有し、磁性人工格子からなる記録層を有する磁気記録媒体を作製した。2.5インチのガラス基板上に、厚さ50nmのCrからなる下地層を堆積した後、厚さ15nmのCo77Cr20Ta3からなる機能層、厚さ10nmの[Co(0.3nm)/Pd(0.7nm)]10からなる機能層、厚さ3nmのカーボンからなる保護層3nmをスパッタリングにより積層し、さらに潤滑剤を塗布した。
記録層および機能層のいずれも垂直方向に大きな残留磁化を示す垂直磁化膜であった。記録層はCo(0.3nm)/Pd(0.7nm)の周期を10回繰り返した磁性人工格子であり、KuRLは1×107erg/ccであった。また、Co77Cr20Ta3機能層のKuFLは6×105erg/ccであった。
磁性人工格子記録層単独では保磁力が9kOeと大きく、記録が困難であった。しかし、本実施例の媒体では、磁性人工格子記録層とCo77Cr20Ta3機能層とが強磁性交換結合しているため、全体の保磁力は4kOeとなり、通常の磁気ヘッドでも十分に記録が可能であった。この媒体は、図25のような1段のヒステリシスループを示した。
次に、厚さ30nmのPtからなる下地層および[Co(0.7nm)/Pd(0.7nm)]8という磁性人工格子からなる機能層を用いた以外は上記と同様な構造を有する磁気記録媒体を作製した。
この磁気記録媒体は、上記の磁気記録媒体と比較して、垂直配向性が高く、磁化転移の乱れが少なく、より高密度の記録が可能であった。この理由は、機能層と記録層が同様のモフォロジーを有するため、Pt下地層による結晶性制御および粒径制御が機能層だけでなく記録層にまで及んだためであると思われる。また、機能層および記録層のいずれもCoターゲットおよびPdターゲットを用いて形成できるので、製造コストを低減することができた。
この磁気記録媒体では全体の保磁力が3kOeとなり、上記の媒体よりも大きな保磁力低減効果が得られた。
(実施例16)
機能層としてCo78Cr19Pt3(8nm)/Ru(0.8nm)/Co78Cr19Pt3(3nm)を用いた以外は、実施例11と同様な磁気記録媒体を作製した。この機能層は、Ru層を挟む2つの磁性層が反強磁性結合した、いわゆる積層フェリ膜である。機能層のうち記録層側のCo78Cr19Pt3層と記録層とが強磁性交換結合している。
この磁気記録媒体では全体の保磁力が6kOeとなり、実施例11よりも保磁力低減効果が増大した。この結果は、図28の計算結果とも定性的に一致する。この磁気記録媒体を用いると、実施例11の場合に比べて、より高分解能(高密度)の磁気記録ができるようになった。これは、機能層の磁気モーメント量が実効的に減少したためであると考えられる。
(実施例17)
図21に示す構造を有する磁気記録媒体を作製した。2.5インチのガラス基板上に、厚さ50nmのMgOからなる下地層を堆積した後、厚さ8nmの(Fe55Pt45)Al10からなる機能層、厚さ10nmの(Fe55Pt45)Cu10からなる記録層、厚さ3nmのカーボンからなる保護層をスパッタリングにより積層し、さらに潤滑剤を塗布した。スパッタリング時には基板を250℃に加熱した。
下地層をMgOとし、かつスパッタリング時に基板を加熱したことにより、実施例11の場合と異なり、記録層および機能層のいずれも垂直方向に大きな残留磁化を示す垂直磁化膜となった。記録層中にはFe50Pt50規則相が形成されるが、機能層には規則相が形成されない。これは、記録層への添加元素がCuであり、機能層への添加元素がAlであるという違いによる。記録層のKuRLは3×107erg/cc、機能層のKuFLは5×105erg/ccであった。
FePtCu記録層単独では保磁力が15kOeを超えるため、記録を行うことは困難である。しかし、本実施例の媒体では、FePtAl機能層とFePtCu記録層とが強磁性交換結合しているため、全体の保磁力は5kOeとなり、通常の磁気ヘッドでも十分に記録が可能であった。垂直磁化膜どうしの交換結合であるために、交換結合エネルギーが大きく、より大きな保磁力低減効果が得られた。この媒体は、図25のような1段のヒステリシスループを示した。
11…基板、12…下地層、13…ベース層、14…スイッチング層、15…記録層、16…保護層、21…レーザー、22…記録ヘッド、31…磁性粒子、32…非磁性体、61…基板、62…下地層、63…機能層、64…記録層、65…保護層、66…スイッチング層、71…磁性粒子、72…非磁性体、81…磁性層、82…非磁性層、83、84…機能層、91…第2機能層、101…基板、102…下地層、103…機能層、104…記録層、105…保護層。