JP2005297075A - 難削材の高速切削加工で硬質被覆層がすぐれた耐摩耗性を発揮する表面被覆サーメット製切削工具 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】表面被覆サーメット製切削工具が、炭化タングステン基サーメット基体または炭窒化チタン系サーメット基体の表面に、AlとTiとBの複合窒化物からなる素地に、窒化クロム相が、オージェ分光分析装置による断面分析で0.3〜10面積%の割合で分散分布した組織を有し、さらに、前記素地が、層厚方向にそって、Ti最高及び最低含有点とが所定間隔をおいて交互に繰り返し存在し、かつ前記Ti最高から最低含有点、また逆方向へもAlおよびTiの含有割合が連続的に変化する成分濃度分布構造を有すると共に、前記Ti最高及び最低含有点が、特定な組成式をそれぞれ満足し、かつ隣り合う上記Ti最高含有点とTi最低含有点の間隔が、0.01〜0.1μmである硬質被覆層を1〜15μmの平均層厚で物理蒸着してなる。
【選択図】図1
Description
(a)例えば原料粉末として、上記の従来(Al,Ti,B)N層の形成にカソード電極(蒸発源)として用いられたAl−Ti−B合金の組成に相当する組成を有する相対的にTi含有量の高いAl−Ti−B合金粉末と、前記Al−Ti−B合金粉末に比して相対的にTi含有量の低いAl−Ti−B合金粉末と、さらに窒化クロム(以下、CrNで示す)粉末を用い、これら原料粉末を所定の配合割合に配合し、混合した後、圧粉体にプレス成形し、この圧粉体を、通常の条件、例えば真空雰囲気中、500〜600℃の範囲内の所定の温度に所定時間保持の条件で焼結して、相対的にTi含有量の高いAl−Ti−B合金の素地にCrN相が分散分布した組織を有する高Ti含有Al系合金焼結体と、相対的にTi含有量の低いAl−Ti−B合金の素地にCrN相が分散分布した組織を有する低Ti含有Al系合金焼結体を形成し、さらに、例えば図1(a)に概略平面図で、同(b)に概略正面図で示される構造、すなわち装置中央部にサーメット基体装着用回転テーブルを設けた構造のアークイオンプレーティング装置を用い、前記回転テーブルを挟んで、一方側に上記の高Ti含有Al系合金焼結体、他方側に上記の低Ti含有Al系合金焼結体をいずれもカソード電極(蒸発源)として対向配置し、この装置の前記回転テーブル上の中心軸から半径方向に所定距離離れた位置に外周部に沿って複数のサーメット基体をリング状に装着し、この状態で装置内雰囲気を窒素雰囲気として前記回転テーブルを回転させると共に、蒸着形成される硬質被覆層の層厚均一化を図る目的でサーメット基体自体も自転させながら、前記の両側のカソード電極(蒸発源)とアノード電極との間にアーク放電を発生させて、前記サーメット基体の表面に硬質被覆層を形成すると、この結果の硬質被覆層は、AlとTiとBの複合窒化物[以下、(Al−Ti,B)Nで示す]からなる素地にCrN相が分散分布した組織を有し、かつ、上記の図2に示されるアークイオンプレーティング装置を用いて形成された従来被覆サーメット工具の硬質被覆層を構成する(Al,Ti,B)Nは、層厚全体に亘って実質的に均一な組成を有し、したがって均質な高温硬さと耐熱性、さらに均質な高温強度を有するが、前記(Al−Ti,B)Nの素地においては、回転テーブル上にリング状に配置された前記サーメット基体が上記の一方側の高Ti含有Al系合金焼結体のカソード電極(蒸発源)に最も接近した時点で素地中にTi最高含有点が形成され、また前記サーメット基体が上記の他方側の低Ti含有Al系合金焼結体のカソード電極に最も接近した時点で素地中にTi最低含有点が形成され、上記回転テーブルの回転によって素地中には層厚方向にそって前記Ti最高含有点とTi最低含有点が所定間隔をもって交互に繰り返し現れると共に、前記Ti最高含有点から前記Ti最低含有点、前記Ti最低含有点から前記Ti最高含有点へAlおよびTiの含有割合が連続的に変化する成分濃度分布構造をもつようになること。
上記Ti最高含有点が、組成式:(Al1-(M+Z)TiM BZ)N(ただし、原子比で、Mは0.35〜0.55、Z:0.01〜0.10を示す)、
上記Ti最低含有点が、組成式:(Al1-(X+Z)TiX BZ)N(ただし、原子比で、Xは0.05〜0.25、Z:0.01〜0.10を示す)、
をそれぞれ満足し、かつ隣り合う上記Ti最高含有点とTi最低含有点の厚さ方向の間隔を0.01〜0.1μmとすると共に、
上記素地に分散分布するCrN相の割合をオージェ分光分析装置による断面分析で0.3〜10面積%とすると、この結果の硬質被覆層の前記素地における上記Ti最低含有点部分では、上記の従来(Al,Ti,B)N層に比してAl含有量が相対的に高くなることから、B成分による高温硬さ向上効果と相俟って、より一段とすぐれた高温硬さと耐熱性を示し、一方上記Ti最高含有点部分は、前記従来(Al,Ti,B)N層と同等の組成、すなわち前記Ti最低含有点部分に比して相対的にAl含有量が低く、Ti含有量の高い組成をもつので、相対的に高い高温強度を保持し、かつこれらTi最高含有点とTi最低含有点の間隔をきわめて小さくしたことから、層全体の特性として高い高温強度を保持した状態で一段とすぐれた高温硬さと耐熱性を具備するようになると共に、前記素地に分散分布するCrN相によってすぐれた表面潤滑性を保持するようになり、したがって、かかる構成の硬質被覆層を物理蒸着してなる被覆サーメット工具は、特にステンレス鋼や軟鋼などの粘性の高い難削材の切削でも切粉が切刃に溶着することがなく、これはさらに一段と高い発熱を伴う高速切削加工でも変わらず、この結果切刃にチッピングの発生がなくなり、長期に亘ってすぐれた耐摩耗性を発揮するようになること。
以上(a)および(b)に示される研究結果を得たのである。
さらに、上記(Al−Ti,B)Nからなる素地が、層厚方向にそって、Ti最高含有点とTi最低含有点とが所定間隔をおいて交互に繰り返し存在し、かつ前記Ti最高含有点から前記Ti最低含有点、前記Ti最低含有点から前記Ti最高含有点へAlおよびTiの含有割合が連続的に変化する成分濃度分布構造を有し、
上記Ti最高含有点が、組成式:(Al1-(M+Z)TiM BZ)N(ただし、原子比で、Mは0.35〜0.55、Z:0.01〜0.10を示す)、
上記Ti最低含有点が、組成式:(Al1-(X+Z)TiX BZ)N(ただし、原子比で、Xは0.05〜0.25、Z:0.01〜0.10を示す)、
をそれぞれ満足し、かつ隣り合う上記Ti最高含有点とTi最低含有点の間隔が、0.01〜0.1μmである、
難削材の高速切削加工で硬質被覆層がすぐれた耐摩耗性を発揮する被覆サーメット工具に特徴を有するものである。
(a)素地のTi最低含有点の組成
硬質被覆層の素地を構成する(Al−Ti,B)NにおけるTi最低含有点のAl成分は高温硬さおよび耐熱性を向上させ、さらに同B成分は一段と高温硬さを向上させ、一方同Ti成分には、高温強度を向上させる作用があるので、前記Ti最低含有点では相対的にTi含有量を低くし、Al含有量を高くして、高熱発生を伴う高速切削条件に適応するすぐれた高温硬さと耐熱性を具備せしめたものであるが、Tiの割合を示すX値がAlとBの合量に占める割合(原子比)で0.05未満になると、相対的にAlの割合が多くなり過ぎて、相対的に高い高温強度を有するTi最高含有点が隣接して存在しても層自体の高温強度の低下は避けられず、この結果チッピングなどが発生し易くなり、一方Tiの割合を示すX値が同0.25を越えると、相対的にAlの割合が少なくなり過ぎて、高速切削に要求されるすぐれた高温硬さと耐熱性を確保することができなくなるものであり、またBの割合を示すZ値がAlとTiの合量に占める割合(原子比)で0.01未満では所定の高温硬さ向上効果が得られず、さらに同Z値が0.10を超えると、高温強度が急激に低下するようになることから、X値を0.05〜0.25、Zを0.01〜0.10とそれぞれ定めた。
上記の通りTi最低含有点は高温硬さと耐熱性のすぐれたものであるが、反面高温強度の劣るものであるため、このTi最低含有点の高温強度不足を補う目的で、上記の従来(Al,Ti,B)N層と同等の組成、すなわち相対的にTi含有割合が高く、一方Al含有量が低く、これによって相対的に高い高温強度を有するようになるTi最高含有点を厚さ方向に交互に介在させるものであり、したがってTiの割合を示すM値がAlおよびB成分との合量に占める割合(原子比)で0.35未満では、所望のすぐれた高温強度を確保することができず、一方同M値が0.55を越えると、Alに対するTiの割合が多くなり過ぎて、Ti最高含有点の高温硬さと耐熱性が不十分となり、摩耗促進の原因となることから、Ti最高含有点でのTiの割合を示すM値を0.35〜0.55と定めた。
また、Ti最高含有点におけるB成分は、上記の通りAl成分との共存で高温硬さを一段と向上させ、高熱発生を伴う高速切削で有用な効果を発揮するものであり、したがってZ値が0.01未満では所定の高温硬さ向上効果が得られず、一方Z値が0.10を越えるとTi最高含有点での高温強度に低下傾向が現れるようになることから、Z値を0.01〜0.10と定めた。
その間隔が0.01μm未満ではそれぞれの点を上記の組成で明確に形成することが困難であり、この結果硬質被覆層に所望の高温硬さと耐熱性、および高温強度を確保することができなくなり、またその間隔が0.1μmを越えるとそれぞれの点がもつ欠点、すなわちTi最低含有点であれば高温強度不足、Ti最高含有点であれば高温硬さおよび耐熱性不足が層内に局部的に現れ、これが原因で切刃にチッピングが発生し易くなったり、摩耗進行が促進されるようになることから、その間隔を0.01〜0.1μmと定めた。
硬質被覆層の素地に分散分布するCrN相は、上記の通り硬質被覆層にすぐれた表面潤滑性を付与し、特に高い発熱を伴なうステンレス鋼や軟鋼などの粘性の高い難削材の高速切削でも切粉が切刃に溶着するのを著しく抑制する作用をもつが、硬質被覆層におけるCrN相の割合が、オージェ分光分析装置による断面分析で0.3面積%未満では前記作用に所望の効果が得られず、一方同割合が10面積%を超えると素地によってもたらされる高温強度が急激に低下し、切刃にチッピングが発生し易くなることから、CrN相の硬質被覆層における割合を0.3〜10面積%と定めた。
その層厚が1μm未満では、所望の耐摩耗性を確保することができず、一方その平均層厚が15μmを越えると、切刃にチッピングが発生し易くなることから、その平均層厚を1〜15μmと定めた。
被削材:JIS・SUS316の丸棒、
切削速度:240m/min.、
切り込み:1.5mm、
送り:0.25mm/rev.、
切削時間:10分、
の条件(切削条件A)でのステンレス鋼の乾式連続高速切削加工試験(通常の切削速度は160m/min.)、
被削材:JIS・SUS304の丸棒、
切削速度:250m/min.、
切り込み:2mm、
送り:0.3mm/rev.、
切削時間:8分、
の条件(切削条件B)でのステンレス鋼の乾式連続高速切削加工試験(通常の切削速度は170m/min.)、
被削材:JIS・S15Cの丸棒、
切削速度:300m/min.、
切り込み:3mm、
送り:0.35mm/rev.、
切削時間:10分、
の条件(切削条件C)での軟鋼の乾式連続高速切削加工試験(通常の切削速度は200m/min.)、を行い、いずれの切削加工試験でも切刃の逃げ面摩耗幅を測定した。この測定結果を表6に示した。
被削材:平面寸法:100mm×250mm、厚さ:50mmのJIS・SUS304の板材、
切削速度:100m/min.、
溝深さ(切り込み):1mm、
テーブル送り:300mm/分、
の条件でのステンレス鋼の乾式高速溝切削加工試験(通常の切削速度は30m/min.)、本発明被覆エンドミル4〜6および従来被覆エンドミル4〜6については、
被削材:平面寸法:100mm×250mm、厚さ:50mmのJIS・S10Cの板材、
切削速度:200m/min.、
溝深さ(切り込み):3mm、
テーブル送り:800mm/分、
の条件での軟鋼の乾式高速溝切削加工試験(通常の切削速度は120m/min.)、本発明被覆エンドミル7,8および従来被覆エンドミル7,8については、
被削材:平面寸法:100mm×250mm、厚さ:50mmのJIS・SUS316の板材、
切削速度:90m/min.、
溝深さ(切り込み):2mm、
テーブル送り:150mm/分、
の条件でのステンレス鋼の乾式高速溝切削加工試験(通常の切削速度は30m/min.)をそれぞれ行い、いずれの溝切削加工試験でも切刃部の外周刃の逃げ面摩耗幅が使用寿命の目安とされる0.1mmに至るまでの切削溝長を測定した。この測定結果を表8,9にそれぞれ示した。
被削材:平面寸法:100mm×250mm、厚さ:50mmのJIS・SUS316の板材、
切削速度:80m/min.、
送り:0.15mm/rev、
穴深さ:6mm、
の条件でのステンレス鋼の湿式高速穴あけ切削加工試験(通常の切削速度は35m/min.)、本発明被覆ドリル4〜6および従来被覆ドリル4〜6については、
被削材:平面寸法:100mm×250mm、厚さ:50mmのJIS・S10Cの板材、
切削速度:140m/min.、
送り:0.3mm/rev、
穴深さ:12mm、
の条件でのステンレス鋼の湿式高速穴あけ切削加工試験(通常の切削速度は80m/min.)、本発明被覆ドリル7,8および従来被覆ドリル7,8については、
被削材:平面寸法:100mm×250mm、厚さ:50mmのJIS・SUS304の板材、
切削速度:85m/min.、
送り:0.25mm/rev、
穴深さ:28mm、
の条件でのステンレス鋼の湿式高速穴あけ切削加工試験(通常の切削速度は35m/min.)、をそれぞれ行い、いずれの湿式高速穴あけ切削加工試験(水溶性切削油使用)でも先端切刃面の逃げ面摩耗幅が0.3mmに至るまでの穴あけ加工数を測定した。この測定結果を表10、11にそれぞれ示した。
一方前記従来被覆サーメット工具の硬質被覆層では厚さ方向に沿って組成変化が見られず、かつ目標組成と実質的に同じ組成および目標層厚と実質的に同じ平均層厚を示すことが確認された。
上述のように、この発明の被覆サーメット工具は、各種の鋼や鋳鉄などの通常の条件での切削加工は勿論のこと、特に粘性が高く、切粉が切刃表面に溶着し易いステンレス鋼や軟鋼などの難削材の高速切削加工でも、耐摩耗性にすぐれ、切粉に対してすぐれた表面潤滑性を保持した状態で、すぐれた耐摩耗性を長期に亘って発揮するものであるから、切削加工の省力化および省エネ化、さらに低コスト化に十分満足に対応できるものである。
Claims (1)
- 炭化タングステン基サーメット基体または炭窒化チタン系サーメット基体の表面に、AlとTiとB(ボロン)の複合窒化物からなる素地に、窒化クロム相が、オージェ分光分析装置による断面分析で0.3〜10面積%の割合で分散分布した組織を有する硬質被覆層を1〜15μmの平均層厚で物理蒸着してなり、
さらに、上記AlとTiとBの複合窒化物からなる素地が、層厚方向にそって、Ti最高含有点とTi最低含有点とが所定間隔をおいて交互に繰り返し存在し、かつ前記Ti最高含有点から前記Ti最低含有点、前記Ti最低含有点から前記Ti最高含有点へAlおよびTiの含有割合が連続的に変化する成分濃度分布構造を有し、
上記Ti最高含有点が、組成式:(Al1-(M+Z)TiM BZ)N(ただし、原子比で、Mは0.35〜0.55、Z:0.01〜0.10を示す)、
上記Ti最低含有点が、組成式:(Al1-(X+Z)TiX BZ)N(ただし、原子比で、Xは0.05〜0.25、Z:0.01〜0.10を示す)、
をそれぞれ満足し、かつ隣り合う上記Ti最高含有点とTi最低含有点の間隔が、0.01〜0.1μmであること、
を特徴とする難削材の高速切削加工で硬質被覆層がすぐれた耐摩耗性を発揮する表面被覆サーメット製切削工具。
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JP2004112077A JP2005297075A (ja) | 2004-04-06 | 2004-04-06 | 難削材の高速切削加工で硬質被覆層がすぐれた耐摩耗性を発揮する表面被覆サーメット製切削工具 |
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JP2793696B2 (ja) * | 1990-05-17 | 1998-09-03 | 神鋼コベルコツール株式会社 | 耐摩耗性皮膜 |
JP2002096206A (ja) * | 2000-09-19 | 2002-04-02 | Hitachi Tool Engineering Ltd | 硬質皮膜被覆工具 |
JP2003001504A (ja) * | 2001-06-21 | 2003-01-08 | Mmc Kobelco Tool Kk | 高速切削加工ですぐれた耐チッピング性を発揮する表面被覆超硬合金製切削工具 |
JP2003211304A (ja) * | 2002-01-21 | 2003-07-29 | Mitsubishi Materials Kobe Tools Corp | 高速切削加工で硬質被覆層がすぐれた耐摩耗性を発揮する表面被覆超硬合金製切削工具 |
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2004
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