次に本発明の各実施例などを下記の項目に別けて説明する。
A.蛍光体ならびに蛍光体組成物。
B.蛍光体組成物の印刷方法ならびに潜像形成部材。
C.光学読取装置ならびに光学読取システム。
1.[蛍光体ならびに蛍光体組成物]
蛍光体組成物例1
光学活性元素として少なくともネオジウム(Nd)を含む有機金属化合物、好ましくはネオジウム(Nd)とイッテルビウム(Yb)を含む有機金属化合物である。
この有機金属化合物中の有機物はカルボン酸類、ケトン類、エーテル類、アミン類のグループから選択された少なくとも1種の有機物である。
より具体的には、前記有機金属化合物として、桂皮酸ネオジム、桂皮酸ネオジム・イッテルビウム複合塩、安息酸ネオジム・イッテルビウム複合塩、ナフトエ酸ネオジム、ナフトエ酸ネオジム・イッテルビウム複合塩のグループから選択された少なくとも1種の有機金属化合物である。なかでも桂皮酸とNdおよびYbからなるカルボン酸複合塩が好適である。
NdとYbの含有モル分率は、後述する図2の結果からNd:Yb=9.5:5〜3:7の範囲で適宜選択され、特に発光強度の点から9:1〜5:5の範囲が好ましい。
この蛍光体は、如何なる方法により合成してもよいが、M.D.Taylorらが報告した水溶液中でのイオン交換反応[J.Inorg.Nucl.Chem.,30,1503−1511(1968)]、あるいはP.N.Kapoorらが報告した非極性溶媒中でのイソプロポキシドの離脱反応[Synth.React.Inorg.Met.−Org.Chem.,Vol.17,507−523(1987)]により合成するとよい。
この蛍光体は無機蛍光体とは異なり、分子中に例えばカルボン酸、β−ジケトン、環状エーテル、環状アミンなどの有機物を有しており、特にカルボン酸の一種である桂皮酸が化学的安定性に優れているとともに、発光出力が他のものよりも大きいため好適である。
またこの蛍光体の平均一次粒子サイズは、好都合なことに励起光である赤外線の最高強度波長(810nm)のおおよそ80%以下、その蛍光体から発する光の最高強度波長(980nm)のおおよそ70%以下である。この蛍光体は、無機蛍光体のような凝固な一次粒子を形成しているのではなく、蛍光体の結晶に損傷を与えることがないので、粉砕も容易であり、バインダとの分散時により細かくなる。そしてインクジェットプリンタ用のインクを作る際に、バインダ中に安定して分散し沈降することがなく、ノズル詰まりや液滴の噴射性が低下するようなこともない。
蛍光体の具体的な製造例を示せば次の通りである。
桂皮酸1.24g(8.37mol)と水酸化ナトリウム0.37g(8.37mol)を各々120mlのイオン交換水に撹拌しながら加えて桂皮酸ナトリウム水溶液を得て、この水溶液を0.1N水酸ナトリウム水溶液でpH10に調整する。
これとは別に塩化ネオジウム6水和物0.50g(1.39mol)と塩化イッテルビウム6水和物0.54g(1.39mol)とを、50mlのイオン交換水に完全に溶解させる。この水溶液を前記桂皮酸ナトリウム水溶液に室温で撹拌しながら添加していくと沈澱生成物が得られる。
その後、0.1Nの塩酸で反応液をpH5になるように調整し、2時間撹拌して、得られた沈澱生成物をろ過、洗浄した後に120℃で5時間乾燥し、桂皮酸ネオジウム・イッテルビウム(1/1)複合塩が得られる。収量は1.62g(収率:93.1%)であった。
図1はGaAlAs発光ダイオードを励起源とした桂皮酸ネオジウム・イッテルビウム(1/1)複合塩の発光スペクトル図で、980nm付近で最大ピークを示している。
図2はNd/Ybのモル比と発光強度との関係を示す特性図で、同図に示すようにNd/Ybのモル比は9.5/5〜3/7、好ましくは9/1〜5/5で高い発光出力を有する。
桂皮酸ネオジウム・イッテルビウム複合塩の平均粒子サイズは0.2μmで、励起光の最高強度波長(0.81μm)の約25%、発する蛍光の最高強度波長(0.98μm)の約20%であり、励起光の最高強度波長ならびに蛍光の最高強度波長よりも非常に小さい。
前記製造例において桂皮酸を安息香酸に変えた以外は同様の方法で安息香ネオジウム・イッテルビウム(1/1)複合塩を作ることもでき、この蛍光体の平均粒子サイズも励起光の最高強度波長ならびに発する蛍光の最高強度波長よりも小さい。
また他に、桂皮酸ネオジム、ナフトエ酸ネオジム、ナフトエ酸ネオジム・イッテムビウム複合塩、安息酸ネオジムなどの有機金属化合物からなる極微粒子状の蛍光体も同様に使用できる。
これらの蛍光体の励起光の最高強度波長ならびに蛍光の最高強度波長はおおよそ0.8μm(800nm)を越えているから、平均粒子サイズが0.8μm以下の蛍光体を使用すると、励起光の進入ならびに蛍光の放出が効果的に行われる。
図3は、励起光の照射状態と蛍光体の発光状態とを示す特性図である。図中の(a)はGaAlAs発光ダイオードの照射状態を示しており、2000μsecの間隔で断続的に励起光を照射している。
同図(b)は前述の製造例で得られた桂皮酸ネオジウム・イッテルビウム(1/1)複合塩の発光状態を示しており、励起光の照射を開始して発光強度が最高発光強度の90%に達するまでの立ち上がり時間tu が約100μsecである。また、励起光の照射を停止して残光の発光強度が最高発光強度から80%減衰するまでの立ち下がり時間td が約50μsecであり、結局、立ち上がり時間tu ならびに立ち下がり時間td がともに200μsec以内で、非常に応答性に優れている。
同図(b)は蛍光体がLiNd0.5 Yb0.5 P4 O12の場合の発光状態を示しており、立ち上がり時間tu が約1300μsecで、立ち下がり時間td が約1000μsecで、立ち上がり時間tu ならびに立ち下がり時間td がともに200μsecを大幅に越えている。
前述のように蛍光体の立ち上がり時間tu が200μsec以内であると、励起光を照射して受光素子が蛍光を受光するまでの時間が非常短く、従って蛍光体による潜像の読み取りが高速にできる。
また図4に示すように、蛍光体を用いてバーコードなどの印刷層18を形成した潜像形成部材10を搬送しながら光学読取装置25で前記コード情報を読み取る際、光学読取装置25中の発光素子から照射された励起光60で印刷層18中の蛍光体を活性化せしめ、その印刷層18から発した蛍光61を光学読取装置25中の受光素子で受光して、前記コード情報の読み取りができる。
なお32はスリット部材で、後で詳しく説明するように所定の印刷層18のみに励起光60を照射して、それからの蛍光61のみを受光するために光路上に設けられている。
このときの潜像形成部材10の搬送速度をv、スリット部材32におけるスリット32aの搬送方向の長さをd、蛍光体の立ち上がり時間をtu としたとき、 tu ≦d/v
の関係が成立するように構成すれば、搬送中の印刷層18の情報がスリット32aと対向している間に確実に読み取ることができる。
もし、蛍光体の立ち上がり時間tu がd/vよりも長いと、印刷層18が十分な発光強度になっていないままスリット32aの下を通過することになり、従って受光素子の出力が弱く、信頼性に問題がある。その点、前述の式が成立するような立ち上がり時間tu を有する蛍光体を使用すれば、情報の読み取りが確実である。また前にも述べたが立ち上がり時間tu の短い蛍光体を使用することにより、潜像形成部材10の搬送速度vを上げて読み取りの高速化を図ることもできる。
さらに同図に示すように潜像形成部材10の搬送方向における印刷層18(例えばバー)の間隔をL、蛍光体の立ち下がり時間をtd としたとき、
td ≦L/v
の関係が成立するように構成すれば、コード情報の適正な読み取りが可能となる。もし立ち下がり時間td が比較的長い蛍光体、換言すれば残光時間の比較的長い蛍光体を使用すると、搬送されて通過した1つ前の印刷層18からの残光も読み取ることになり、そのためコード情報の適正な読み取りができない。
これに対して蛍光体の立ち下がり時間td が図3(b)のように極めて短い蛍光体を使用すると、前述のような弊害はなく、コード情報の適正な読み取りが可能となり、しかもバーの間隔Lを短くして、潜像形成領域を狭くすることも可能である。
この蛍光体の密度(ρ1)との間で、ρ1/ρ2≦1.8の関係を満たす密度(ρ2)をもつ有機バインダを使用することにより、インク中での蛍光体微粒子の沈降が少なく、印刷層を形成した場合でも蛍光体微粒子がバインダの被膜の奥深くに隠れてしまい、励起光が容易に到達しないという問題が排除できる。
印刷層中におけるバインダの含有率は、5重量%以上必要である。それよりも少ないと蛍光体粒子の脱落があり、そのためにバーコードなどの印刷が不完全となり、適正な情報保持ができなくなる。このようなことから、バインダの含有率は5重量%以上必要である。
水溶性有機バインダとしては、例えばアクリル系樹脂および側鎖にエステル基またはポリエーテルを含有するアクリル樹脂などが使用される。この他、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシメチルセルロース、デンプン、ナフタレンスルホン酸塩のホルマリン縮合物、ポリスチレンスルホン酸塩なども使用できる。
非水溶性有機バインダとしては、例えばノボラック型フェノール、レゾール型フェノール、ロジン変性フェノール、アルキル変性フェノールなどのフェノール樹脂、水添化ロジン、およびそのポリエチレングリコールエステル、多価アルコールエステル、ロジングリセリンエステルなどのロジン樹脂などがある。
溶剤としては水、アルコール、ケトン、エステル、エーテル、芳香族炭化水素系溶剤、脂肪族炭化水素系溶剤などが単独あるいは混合して用いられる。
また、導電性付与剤としての電解質にはLiNO3 、LiCl、KCl、NaCl、KNO3 などが使用される。
安定化剤としては、アルキルフタレート(例えばジオクチルフタレート、ジブチルフタレートなど)、アリルフタレート、グリコール(エチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなど)、グリコールエステルなどが単独もしくは混合して使用される。
消泡剤としては、シリコン系、シリカ・シリコン系、金属石鹸、アマイド系、ポリエーテル系などが使用される。
染料を併用することもできる。染料としては、ダイレクトブラックGW、キャパミンブラックESA、ローダミンB、ローダミン7G、メチレンブルー、ダイレクトファーストオレンジ、コンプランチングリーンG、ミーリングイエローO、カチオンピンクFGなどがある。
インクジェットプリンタ用インクの具体的な組成例を示せば次の通りである。
桂皮酸ネオジウム・イッテルビウム複合塩(平均粒子サイズ0.2μm)
80重量部
フタロシアニンブルー 1重量部
カチオン系アクリル樹脂 20重量部
ポリエチレングリコール 1重量部
ジオクチルフタレート 0.5重量部
KCl 0.5重量部
消泡剤 0.4重量部
水 100重量部
エタノール 20重量部
この組成物をサンドミルで1時間混合分散して、インクジェットプリンタ用インクを作成し、これを用いてインクジェットプリンタで紙上に印字した。印字の状態を観察したところ、インクの滲み出しは見られず、高精度の青色の印字であった。
この印字を光学的に検出するため、波長970nm付近に最高強度波長を有する光を照射して励起し、シリコンフォトダイオード検出器で蛍光を受光して、読み取り速度4m/secで読み取り試験を100回行ったところ、100回とも印字情報を確実に検出することができた。
前記インク組成において、必要に応じてフタロシアニンブルー、ポリエチレングリコール、ジオクチルフタレート、水、エタノールなどの添加量を増減したり、省略したりすることができる。
前記組成表にも記載されているように、溶剤に水を使用する場合に水ならびにそれと相溶性のある例えばアルコールなどの易揮発性有機液体を併用すると、蛍光体組成物の乾燥が速く、例えば紙などの上に蛍光体組成物を印刷するとき、それも特にインクジェットプリントのように溶剤量が多いときに効果的である。
前記インク組成において、カチオン系アクリル樹脂の添加量を種々変えて粘度の異なる多種類のインクを調整し、そのインクの粘度と、液滴の大きさの変化率ならびに印字した蛍光層の相対的な発光出力との関係を調べて、その結果を図5に示した。
この図から明らかなように、インクジェットプリンタ用インクの粘度が2〜25cps、好ましくは10〜20cpsの範囲にあると、液滴の大きさの変化率が10%以下で均一な液滴が得られて印刷性に優れ、しかも十分な発光出力が得られる。なお、インクジェットプリンタ用インクの粘度が25cpsを超えると、印字ノズルの詰まりなどが発生して、印字がしにくくなる。
前記インク組成において、エタノールの添加量を種々変えて表面張力の異なる多種類のインクを調整し、そのインクの表面張力と液滴の大きさの変化率との関係を調べて、その結果を図6に示した。
この図から明らかなように、インクジェットプリンタ用インクの表面張力が23〜40dyne/cm、好ましくは26〜37dyne/cmの範囲にあると、液滴の大きさの変化率が小さく、インクジェットプリンタに必要な均一な液滴が得られて印刷性に優れている。
前記インク組成において、電解質(KCl)の添加量を種々変えて比抵抗の異なる多種類のインクを調整し、そのインクの比抵抗と液滴の大きさの変化率との関係を調べて、その結果を図7に示した。
この図から明らかなように、インクジェットプリンタ用インクの比抵抗が2000Ωcm以下、好ましくは1500Ωcm以下の範囲にあると、液滴の大きさの変化率が小さく、インクジェットプリンタに必要な均一な液滴が得られて印刷性に優れている。なお、インクジェットプリンタ用インクの比抵抗が2000Ωcmを超えると、特に荷電偏向印字方式の場合には液滴の偏向制御が困難となり、印字が欠けたり、曲がったりして、印字品質の低下をきたす。
前記インク組成において、KClの他にKOHの添加し、その添加量を種々変えてpHの異なる多種類のインクを調整して、そのインクのpHと分散安定性との関係を調べて、その結果を図8に示した。なお、分散安定性は、得られたインクジェットプリンタ用インクを一週間放置した後の上澄みのできかたを全体に対する割合で表した。
この図から明らかなように、インクジェットプリンタ用インクのpHが4.5〜10、好ましくは5〜7の範囲にあると、インクの分散性ならびにその後の安定性が非常に良好である。なお、インクジェットプリンタ用インクのpHが4.5未満であったり、あるいは10を超えると、インク中の顔料などが凝集する傾向にある。
このように本発明のインクジェットプリンタ用インクは、粘度を2〜25cps、表面張力を23〜40dyne/cm、比抵抗を2000Ωcm以下、pHを4.5〜10に規制することにより、分散安定性が良好で、印刷時の滲み出しがなく、印刷性に優れ、発光出力の大きいものが得られる。
蛍光体組成物例2
Nd,Yb,Erのいずれか1種以上の元素を含む含酸素酸塩化合物からなる蛍光体。この含酸素酸塩化合物としては、具体的にはバナジン酸塩化合物、リン酸塩化合物、ホウ酸塩化合物、モリブデン酸塩化合物ならびにタングステン酸塩化合物などがあるが、その中でも特にリン酸塩化合物は耐薬品性に優れているため賞用できる。
より具体的には下記の一般式(1)、(2)を有するリン酸塩からなる赤外発光蛍光体がある。
一般式(1)
LnX A1-X PO4
式中LnはNd,Yb,Erのグループから選択された少なくとも1種の元素、
AはY,La,Gd,Bi,Ce,Lu,In,Tbのグループから選択された少なくとも1種の元素、
Xは0.01〜0.99の範囲の数値。
一般式(2)
DE1-X LnX PY OZ
式中 DはLi,Na,K,Rb,Csのグループから選択された少なくとも1種の元素、
EはY,La,Gd,Bi,Ce,Lu,In,Tbのグループから選択された少なくとも1種の元素、
LnはNd,Yb,Erのグループから選択された少なくとも1種の元素、
Xは0.01〜0.99の範囲の数値、
Yは1〜5の範囲の数値、
Zは4〜14の範囲の数値。
なお、一般式(2)のDは必ずしも必要ではない。また、一般式(2)中のX,Y,Zの値は現在のところ明確には把握されておらず、おおよそ前述の範囲であると推測される。
これら蛍光体の具体的な製造例(試料1〜14)ならびに比較例(試料15)における仕込み原料の割合と焼成時間、それによって製造された赤外発光蛍光体の組成および粒子サイズを図9ないし図12に示す。
図9、10に示す仕込み原料は各温度で2時間焼成した後、熱水ならびに1モルの硝酸で処理して未反応物質を除去することにより赤外発光蛍光体を得た。
図11、12から明らかなように本発明の実施例で得られた蛍光体の粒子は比較例のもの(6μm)に比較して小さく4μm以下であり、中には1μm以下の極小の微粒子のものもあり、前述のように励起光の最高強度波長ならびに(あるいは)発する蛍光の最高強度波長よりも小さい物もある。
また蛍光体粒子を走査型電子顕微鏡で観察してみると、粒子の形状ならびに大きさが全体的に揃っており、粒子形状は針状ではなく、河原の石ころのような形状をしている。
本発明の実施例に係る試料1、試料7ならびに比較例である試料15の発光スペクトルをそれぞれ図13、図14、図15に示す。図13に示す試料1の場合は励起波長は0.81μm(810nm)、蛍光波長は0.98μm(980nm)であるのに対して、平均粒子サイズは0.6μmであるから、励起波長ならびに蛍光波長よりも小さい極小の微粒子である。図14に示す試料7の場合は蛍光波長は1.59μmであるのに対して、平均粒子サイズは1.0μmであるから、蛍光波長よりも小さい極小の微粒子である。
蛍光体組成物を構成する他の例えばバインダーや溶剤などは蛍光体組成物1で述べたものと同様であるので、それらの説明は省略する。
蛍光体組成物3
光学活性元素としてFeおよびErを含有し、他にSc,Ga,Al,In,Y,Bi,Ce,Gd,Lu,Laのグループから選択された少なくとも1種の元素を含有した蛍光体を使用する。
より具体的には、下記の一般式(3)〜(5)を有する赤外発光蛍光体を使用する。
一般式(3) G3 J5 O12
一般式(4) GJO3
一般式(5) G2 J4 O12
但し式中GはY,Bi,Ce,Gd,Lu,Laのグループから選択された少なくとも1種の元素と、Erからなり、
JはSc,Ga,Al,Inのグループから選択された少なくとも1種の元素と、Feからなる。
前記一般式(3)〜(5)を有する蛍光体が単独で、または混合物の形で使用される。
さらに具体的には、下記のような赤外発光蛍光体である。
(a)Er0.2 Y2.8 Fe1.5 Al3.5 O12
(b)Er0.5 Y2.5 Fe1.5 Ga3.5 O12
(c)Er0.2 Lu2.8 Fe2.5 Al3.5 O12
(d)Er0.05La0.95Fe0.3 Al0.7 O3
(e)Er0.02La0.98Fe0.1 Ga0.9 O3
つぎにこれら蛍光体の具体的な製造例について説明する。
図16に示す重量(g)の仕込み原料を乳鉢で十分に混合した後、図中の条件で焼成し、その後に熱水と2モルの硝酸により未反応物を取り除いて各々の赤外発光蛍光体を得た。
前記試料16である(ErY)3 (FeAl)5 O12の発光スペクトルを図17に示す。また、Geフォトダイオードの分光感度特性を図18に、InGaAsフォトダイオードの分光感度特性を図19に、それぞれ示す。
図17に示すようにErを含有した蛍光体の発光スペクトルのピークは約1540nmにあり、これに対して図18に示すGeフォトダイオードならびに図19に示すInGaAsフォトダイオードは、波長1400〜1600nmの範囲で高い感度を有するから、この種の受光素子として好適であり、読取速度を高速にしてもバーコードパターンのような微細なマークの読み取りが確実であるという特長を備えている。
なお、その他にPbSフォトダイオード(受光感度;約600〜1800nm),PbSeフォトダイオード(受光感度;約1000〜4500nm)なども使用可能である。
前述のような吸収ならびに発光スペクトル特性は、光学活性元素としてFeおよびErを含有した他の赤外発光蛍光体においても同様に得られる。
蛍光体組成物4
光学活性元素としてYbを含有しており、この光学活性元素の他にSc,Ga,Al,In,Y,Bi,Ce,Gd,Lu,Laのグループから選択された少なくとも1種の元素を含くんだ蛍光体を使用する。
更に詳細には、下記の一般式(6)〜(8)を有する蛍光体を使用する。
一般式(6) L3 M5 O12
一般式(7) LMO3
一般式(8) L2 M4 O12
但し式中LはY,Bi,Ce,Gd,Lu,Laのグループから選択された少なくとも1種の元素と、Ybからなり、
MはSc,Ga,Al,Inのグループから選択された少なくとも1種の元素からなる。
前記一般式(6)〜(8)を有する蛍光体が単独で、または混合物の形で使用される。
さらに具体的には、下記のような赤外発光蛍光体である。
(a)Yb0.3 Y2.7 Al5 O12 (試料21)
(b)Yb0.2 Gd2.8 Ga0.5 Al4.5 O12(試料22)
(c)Yb0.4 Y2.6 Ga5 O12(試料23)
(d)Yb0.1 La0.9 AlO3 (試料24)
(e)Yb0.05La0.95Ga0.1 Al0.9 O3 (試料25)
図20に示す重量(g)の仕込み原料を乳鉢で十分に混合した後、図中の条件で焼成し、その後に熱水と2モルの硝酸により未反応物を取り除いて各々の赤外発光蛍光体を得た。
前記試料21であるYb0.3 Y2.7 Al5 O12の吸収発光スペクトルを図21に示す。
この図から明らかなようにこの蛍光体は、910〜950nm付近で光吸収ピークを有し、その付近の波長を有する光を照射することにより、蛍光体が励起され、約1030nm付近にピークを有する蛍光を放出する。
図22は、蛍光体YbX Y1-X Al5 O12中のYbのモル分率(X)の値を種々変えた場合の蛍光体の発光強度の変化を測定した図である。
この図から明らかなように、蛍光体YbX Y1-X Al5 O12中のYbのモル分率Xが0.7を超えると発光強度は弱くなる傾向にあるから、モル分率Xは0.05〜0.7、好ましくは0.1〜0.5、さらに好ましくは0.2〜0.45の範囲に規制すると、高い発光強度が得られることが分かる。
前記Yb0.3 Y2.7 Al5 O12の粒子の表面状態は走査型電子顕微鏡で観察してみるとギザギザがなく滑らかで、極端に大きい物や小さい物がなく形状ならびに大きさがほぼ揃っており、丸みを有し果実状をしている。そして粒子サイズが1〜3μmのものが全体の60重量%以上(約80重量%)の粒度分布を有し、蛍光体粒子の平均形状比率(短軸/長軸)が2.0以下であって、極端に細長い針状のものはなく丸みのある物が多く、バインダー中での分散性が良好である。
蛍光体組成物例5
例えば波長が700〜1000nmの範囲の赤外線に対して吸収特性を有する有機物を担持させた、Nb,Yb、Erのグループから選択された1種以上の希土類含有有機物からなる蛍光体を使用する。
具体的には前記有機物は、ポリメチン系、アントラキノン系、ジチオ−ル金属系、フタロシアニン系、インドフェノ−ル系、アゾ系色素のグループから選択された1種以上の有機物である。
より具体的には、前記ポリメチン系色素としては、例えばコダック・ラボラトリ−ズ・ケミカルズ社製の商品名IR−125、IR−140、日本化薬社製の商品名IR−820Bなどがある。アントラキノン系色素としては、例えば日本化薬社製の商品名IR750などがある。ジチオ−ル金属塩系色素としては、例えば三井東圧社製の商品名テトラブチルホソホニウムビス(1、2−ベンゼンチオラ−ト)ニコレ−ト(III)などがある。
フタロシアニン系色素としては、例えばZn−ナフタロシアニンなどがあり、他にインドフェノ−ル系色素やアゾ系色素が挙げられる。これらの中でも、単位重量当りの発光強度が大きい点から前記商品名IR125、IR140、IR750およびIR820Bを用いるのがより好ましい。
このような赤外領域の光に対して吸収特性を有する有機物を前記希土類に担持させることにより、高速読み取り時の発光強度を希土類単体よりさらに増加できる理由は以下によるものと考えられる。
即ち、赤外領域の光に対して吸収特性を持つ有機物が吸収したエネルギ−を基底状態に戻す過程で、Nb,YbおよびErから選ばれた1種以上の希土類含有有機物にトランスファ−することにより、これら希土類の蛍光作用を増感するために起きる現象と考えられる。
この増感作用を有する有機物を担持することができる蛍光体としては、Nb,YbおよびErのグループから選ばれた1種以上の希土類を有していれば良く、他の元素が添加されてもなんら問題ない。
また、Nb,YbおよびErのグループから選ばれた1種以上の希土類含有有機物は、有機物として希土類と錯体あるいは塩を形成するものであれば如何なるものでもよい。例えば安息香酸、アニス酸、トルイル酸、桂皮酸、ラウリン酸等の有機カルボン酸、ベンゾトリフルオロアセトン、テノイルトリフルオロアセトン等のβ−ジケトン、15−クラウン−5、18−クラウン−6等の環状エ−テル等が列挙できる。
これら中でも、担持させる有機物は殆ど芳香環あるいは複素環を有しており、Nb,YbおよびErのグループから選ばれた1種以上の希土類含有有機物中の有機物が芳香族カルボン酸であれば、その有機物とNb,Yb,Erから選ばれた1種以上の希土類との相互作用がより強くなり、担持能力が一層増加する。
この希土類含有有機物の合成方法は、特に限定されるものではないが、例えばNb,Yb,Erから選ばれた1種以上の希土類含有芳香族カルボン酸の合成は、前述したM.D.Taylorらが既に報告した水溶液中でのイオン交換反応あるいはP.N.Kapoorらが報告した非極性溶媒中でのイソプロポキシドの離脱反応により合成することが可能である。
赤外領域の光に対して吸収特性を持つ有機物のNb,Yb,Erから選ばれた1種以上の希土類含有有機物に対する量は、特に限定されないが0.001〜10重量%が好ましい。有機物の含有率が0.001重量%より少なければ励起光源の吸収率が低く、その結果、希土類含有有機物の発光が弱くなる。一方、有機物の含有率が10重量%より多ければ、赤外領域の範囲に吸収特性を持つ有機物の濃度が高くなり、有機物どうしでエネルギ−の交換を行うこととなり、その結果、希土類含有有機物の発光が弱くなる。
この有機物を担持した赤外蛍光体をインクとして用いる場合、バインダーとしては一般に使用するものを用いることができるが、有機物の担持性の観点から、特にポリビニルアルコ−ル(PVA)またはアクリル樹脂が好ましい。
溶媒は必要に応じて使用しても良く、使用できる溶剤としては水、アルコ−ル類、ケトン類、エステル類、エ−テル類、芳香族炭化水素類、脂肪族炭化水素類が単独もしくは混合して用いられる。
赤外蛍光体インク組成物を種々の印刷方式で適用する場合に応じて、分散剤、消泡剤、界面活性剤、保湿剤および電導性付与剤等を用いても良い。さらに必要に応じて、各種整色染料、蛍光染料等を併用しても良い。
蛍光体の具体的な製造例を示せば次の通りである。
(実施例1)
桂皮酸ネオジム・イッテルビウム複合塩1重量部を水20重量部に懸濁させ、撹拌しながら、0.005重量部のアントラキノン系色素(日本化薬社製 商品名IR750 吸収波長のピ−ク:750nm)をDMF1重量部に溶かした溶液を滴加し、1時間撹拌後に濾過、乾燥して赤外発光蛍光体を得た。
(実施例2)
桂皮酸イッテルビウム1重量部を水20重量部に懸濁させ、撹拌しながら、 0.003重量部のポリメチン系色素(日本化薬社製 商品名IR−820B 吸収波長のピ−ク:820nm)をDMF1重量部に溶かした溶液を滴加し、1時間撹拌後に濾過、乾燥して赤外発光蛍光体を得た。
(実施例3)
安息香酸イッテルビウム1重量部を水20重量部に懸濁させ、撹拌しながら、0.003重量部のポリメチン系色素(日本化薬社製 商品名IR820B 吸収波長のピ−ク:820nm)をDMF1重量部に溶かした溶液を滴加し、1時間撹拌後に濾過、乾燥して赤外発光蛍光体を得た。
(比較例1)
LiNd0.5 Yb0.5 P4 O12をボ−ルミルで粉砕して赤外発光蛍光体を得た。
(比較例2)
前記実施例1でアントラキノン系色素(商品名 IR750)を使用しなかった以外は、実施例1と同様にして赤外発光蛍光体を得た。
《高速読取試験》
前記実施例1〜3および比較例1、2で得られた赤外発光蛍光体を、各々直径5mm、厚み2mmの円盤状に成形した。高速読取試験方法は、試料を8m/secの速度で走査して、市販品のGaAlAs発光ダイオ−ドで、実施例1〜3の蛍光体については使用した有機物の励起波長に対応させて波長の異なる励起光を照射し、970nmの発光を検知するSi−PIN光検出器で検出した。なお、検出器の前に光学フィルタ−(富士写真フィルム社製 商品名IR−94)を置いた。この高速読取試験の結果、次に表1に示す。
次に、蛍光体とバインダーを用いて常法により、インクを作製した。
(実施例4)
桂皮酸ネオジム・イッテルビウム複合塩 1重量部
アントラキノン系色素(商品名 IR750) 0.005重量部
PVA 4重量部
水/EtOH(8/2) 20重量部
この組成のものをボ−ルミルで24時間分散してインクを作製し、これをインクジェットプリンタ−に装填して潜像を印刷により形成した。
(比較例3)
前記実施例4において桂皮酸ネオジム・イッテルビウム複合塩を使用しない以外は同様の方法で潜像を形成した。
(比較例4)
前記実施例4においてアントラキノン系色素(商品名 IR750)を使用しない以外は同様の方法で潜像を形成した。但し、励起波長を760nmの場合を(a)、800nmの場合を(b)とした。
(実施例5)
桂皮酸イッテルビウム 1重量部
ポリメチン系色素(商品名 IR820) 0.003重量部
PVA 4重量部
水/EtOH(8/2) 20重量部
この組成のものをボ−ルミルで24時間分散してインクを作製し、これをインクジェットプリンタ−に装填して潜像を印刷により形成した。
(比較例5)
前記実施例5においてポリメチン系色素(商品名 IR820)を使用しない以外は同様の方法で潜像を形成した。
(比較例6)
前記実施例5において桂皮酸イッテルビウムを使用しない以外は同様の方法で潜像を形成した。
(実施例6)
安息香酸イッテルビウム 1重量部
ポリメチン系色素(商品名 IR820) 0.005重量部
PVA 4重量部
水/EtOH(8/2) 20重量部
この組成のものをボ−ルミルで24時間分散してインクを作製し、これをインクジェットプリンタ−に装填して潜像を印刷により形成した。
(比較例7)
前記実施例6においてポリメチン系色素(商品名 IR820)を使用しない以外は同様の方法で潜像を形成した。
(比較例8)
前記実施例6において安息香酸イッテルビウムを使用しない以外は同様の方法で潜像を形成した。
《高速読取試験》
前記実施例4〜6および比較例3〜7で得られた印刷物の高速読取試験を行った。高速読取試験方法は、各試料を8m/secの速度で走査して、市販品のGaAlAs発光ダイオ−ドで、実施例4〜6、比較例3、6及び8の印刷物については使用した有機物の励起波長に対応させて波長の異なる励起光を照射し、970nmの発光を検知するSi−PIN光検出器で検出した。但し、検出器の前に光学フィルタ−(富士写真フィルム製 商品名IR−94)を置いた。その高速読取試験の結果を次の表2に示す。
前記表1ならびに表2から明かなように、実施例1〜3で得られた蛍光体は、比較例1、2で得られた蛍光体に比較し、高速読み取りにおいて充分な発光出力が得られる。また、実施例1〜3で得られた蛍光体は、様々な励起波長により発光することができる。
前記実施例4〜6で得られたインクは、インクジェットプリンター用に好適である。
蛍光体組成物例6
光学活性元素としてNdまたはYbの少なくとも1種と、MoまたはWの少なくとも1種の酸化物と、アルカリ土類金属とで構成された塩を母体材料とすることにより、蛍光体の耐水性を高めたものである。
MoまたはWの少なくとも1種の酸化物に対する光学活性元素の原子比率sは0<s≦2とするのが好ましく、また前記酸化物に対するアルカリ土類金属の原子比率tは0<t≦3であることが望ましい。
より具体的には、その蛍光体は次の一般式(9)を有する化合物である。
一般式(9)
(Nd1-X Ybx )Y QZ (RO4 )
式中QはCa,Mg,Sr,Baのグループから選択された少なくとも1種の元素、
RはMo,Wのグループから選択された少なくとも1種の元素、
Xは0〜1の範囲の数値、
Yは0を超え1未満の数値、
Zは0を超え1以下の数値。
またはその蛍光体は、次の一般式(10)を有する化合物である。
一般式(10)
(Nd1-X YbX )2YQ8-3Y(RO4 )8
式中QはCa,Mg,Sr,Baのグループから選択された少なくとも1種の元素、
RはMo,Wのグループから選択された少なくとも1種の元素、
Xは0〜1の範囲の数値、
Yは0を超え8/3の範囲の数値。
なお式中のX及びYの値は、それぞれ0.02≦X≦0.6及び1/3≦Y≦5/3の範囲とするのが望ましい。Xの値が0.02未満では発光を担う発光中心のYb濃度が低くなり、Xの値が0.6を超えると励起光を吸収する増感材のNd濃度が低くなり、何れも発光強度が低下する場合がある。
また、Yの値が1/3未満では光学活性元素であるるNd,Yb濃度が低くなり、Yの値が5/3を超えるとNd,Yb濃度が高くなり濃度消光を起こし、発光強度が低下する場合もある。
アルカリ土類金属としてはCa,Mg,Sr,Baが挙げられるが、中でも
Caが望ましい。このアルカリ金属元素の含有率は、10原子%以下に規制するのが望ましい。また、式中のRとして特にMoを用いることが望ましい。
この蛍光体の製造にあたっては、NdまたはYbの少なくとも1種の光学活性元素と、MoまたはWの少なくとも1種の酸化物と、アルカリ土類金属とを混合し、これをT2 RO4 ・nH2 O(ただしTはLi,Na,Kのグループから選択された少なくとも1種の元素、RはMo,Wのグループから選択された少なくとも1種の元素、nは0以上の数値)で示される塩を含むフラックス材料に入れて、これを焼成した後にフラックス材料を溶剤で溶解して除去することにより、粒子サイズを極微細化することができる。
フラックス材料のTとしてはとりわけNaが、またフラックス材料のRとしてはMoが望ましい。
フラックス材料の蛍光体材料に対する混合モル比は1以上10以下とすればよい。混合モル比が1未満ではフラックス材料としての効果が低く、赤外発光蛍光体の粒径を微細化しにくいし、逆に混合モル比が10を超えると材料費やるつぼの大きさなどで、コストが高くなる。
この方法で得られた蛍光体は、平均粒子サイズが1μm以下の極微細粒子で、インクジェットプリンターやインクリボン等の印刷法にも適する。
この蛍光体の特質としては、励起光の照射を止めた後の残光が発光出力の10%になるまでの時間が500μsec以内であり、1msec周期のパルス光励起で発光を識別したり、0.5m/sec以上の走行速度で発光を識別するシステムに好適である。
またこの蛍光体は、水に20時間浸漬した時の水に対する溶解度が2重量%以下であるという優れた耐水性を有している。
このような蛍光体は、これを分散、保持する透明なバインダーに分散させたインクをテープ状基材に塗布することによって、容易に熱転写インクリボンにすることもでき、またインクジェットプリンター用のインクとして用いることもできる。さらにこの蛍光体は優れた耐水性を有することから、塗料として利用することもできる。
前記バインダーとしては、ワックス、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリエステル、ポリウレタン、カ−ボネ−ト等の樹脂が使用できる。また、必要に応じて可塑剤、界面活性剤などを適宜添加してもよい。
この蛍光体の耐水性について本発明者らが実験によって確認したところによれば、例えば母体材料のアニオンがMoO4 2- である場合、従来品のようにカチオンをアルカリ金属であるNa+ とした母材Na2 MoO4 に希土類元素を付活した蛍光体と、本発明のようにカチオンをアルカリ土類金属であるCa2;とした母材CaMoO4 に希土類元素を付活した蛍光体とで、水に対する溶解度を比較すると、従来品ではわずか20時間程度水に浸漬させただけで蛍光体の約10重量%が溶解するのに対して、本発明品では500時間浸漬後もほとんど溶解しないという優れた耐水性を有している。
次に具体例について説明する。
(1)粉末原料の作製
次に示す要領で10種類の蛍光体を作製し、粉末の粒子の形態、平均粒子サイズ(平均粒径)、蛍光体の発光波長、励起光を止めた後の残光が発光出力の10%になるまでの残光時間、及び蛍光体100重量部を水に浸漬し500時間経過後に取り出して乾燥したときの重量を図り百分率で表した回収率について測定し、その結果を後の表3に示す。
(実施例7)
Nd2 O3 を0.9モル、Yb2 O3 を0.1モル、CaCO3 を5モル、MoO3 を8モル採取して、これを充分に混合粉砕し、アルミナ製るつぼに移して電気炉に入れ、約180℃/hrの昇温速度で750℃に昇温し、750℃で2時間焼成した。焼成終了後冷却し、乳鉢で粉砕して、蛍光体Nd1.8 Yb0.2 Ca5 (MoO4 )8 を得た。
(実施例8)
Nd2 O3 を0.9モル、Yb2 O3 を0.1モル、CaCO3 を21モル、MoO3 を24モル採取して、これを充分に混合粉砕し、アルミナ製るつぼに移して電気炉に入れ、約180℃/hrの昇温速度で750℃に昇温し、750℃で2時間焼成した。焼成終了後冷却し、乳鉢で粉砕して、蛍光体Nd1.8Yb0.2 Ca21(MoO4 )24を得た。
(実施例9)
Nd2 O3 を4.5モル、Yb2 O3 を0.5モル、CaCO3 を9モル、MoO3 を24モル採取して、これを充分に混合粉砕し、アルミナ製るつぼに移して電気炉に入れ、約180℃/hrの昇温速度で750℃に昇温し、750℃で2時間焼成した。焼成終了後冷却し、乳鉢で粉砕して蛍光体Nd9 YbCa9 (MoO4 )24を得た。
(実施例10)
Nd2 O3 を4.5モル、Yb2 O3 を0.5モル、CaCO3 を9モル、WO3 を24モル採取して、これを充分に混合粉砕し、アルミナ製るつぼに移して電気炉に入れ、約250℃/hrの昇温速度で1000℃に昇温し、1000℃で2時間焼成した。焼成終了後冷却し、乳鉢で粉砕して赤外発光蛍光体Nd9YbCa9 (WO4 )24を得た。
(実施例11)
Nd2 O3 を1モル、CaCO3 を21モル、MoO3 を24モルを採取して、これを充分に混合粉砕し、アルミナ製るつぼに移して電気炉に入れ、約180℃/hrの昇温速度で750℃に昇温し、750℃で2時間焼成した。焼成終了後冷却し、乳鉢で粉砕して蛍光体Nd2 Ca21(MoO4 )24を得た。
(実施例12)
Nd2 O3 を0.9モル、Yb2 O3 を0.1モル、CaCO3 を5モル、MoO3 を8モル採取して、これに粉末フラックス原料としてNa2 MoO4 ・2H2 Oをモル比1:8で充分に混合粉砕し、アルミナ製るつぼに移して電気炉に入れ、約180℃/hrの昇温速度で750℃に昇温し、750℃で2時間焼成した。焼成終了後冷却し、純水中で1時間超音波洗浄をしてフラックス材料を除去し、120℃で2時間乾燥させて蛍光体Nd1.8 Yb0.2 Ca5 (MoO4 )8 を得た。
この蛍光体の発光スペクトルを図23に、パルス光励起に対する応答波形を図24に、この蛍光体の粒子構造の写真を図25にそれぞれ示す。
また蛍光体100重量部を水に浸漬し500時間経過後に取り出して乾燥した蛍光体の発光強度、応答速度及び粒子形状に変化はなかった。さらにこの蛍光体を1NのNaOH及びCH3 COOHに24時間浸漬した時の溶解度は0.9重量%であり、浸漬液から取り出して乾燥した蛍光体の発光強度、応答速度及び粒子形状に変化はなかった。
(実施例13)
Nd3 O3 を0.9モル、Yb3 O3 を0.1モル、CaCO3 を5モル、MoO3 を8モル採取して、これに粉末フラックス原料としてNa2 WO4 ・2H2 Oをモル比1:6で充分に混合粉砕し、アルミナ製るつぼに移して電気炉に入れ、約180℃/hrの昇温速度で750℃に昇温し、750℃で2時間焼成した。焼成終了後冷却し、純水中で1時間超音波洗浄をしてフラックス材料を除去し、120℃で2時間乾燥させて蛍光体Nd1.8 Yb0.2 Ca5 (MoO4 )8 を得た。
(実施例14)
Nd2 O3 を0.9モル、Yb2 O3 を0.1モル、CaCO3 を5モル、MoO3 を8モル採取して、これに粉末フラックス原料としてK2 WO4 をモル比1:6で充分に混合粉砕し、アルミナ製るつぼに移して電気炉に入れ、約180℃/hrの昇温速度で750℃に昇温し、750℃で2時間焼成した。焼成終了後冷却し、純水中で1時間超音波洗浄をしてフラックス材料を除去し、120℃で2時間乾燥させて蛍光体Nd1.8 Yb0.2 Ca5 (MoO4 )8 を得た。
(比較例9)
Nd2 O3 を0.9モル、Yb2 O3 を0.1モル、Na2 CO3 を5モル、MoO3 を8モル採取して、これを充分に混合粉砕し、アルミナ製るつぼに移して電気炉に入れ、約160℃/hrの昇温速度で650℃に昇温し、650℃で2時間焼成した。焼成終了後冷却し、乳鉢で粉砕して蛍光体Nd0.9 Yb0.1Na5 (MoO4 )4 を得た。
(比較例10)
Nd
2 O
3 を0.2モル、Yb
2 O
3 を0.2モル、Y
2 O
3 を0.6モル、LiH
2 PO
4 を12モル採取して、これを充分に混合粉砕し、アルミナ製るつぼに移して電気炉に入れ、700℃で2時間焼成した。焼成終了後冷却し、1NのHNO
3 で酸洗し、さらに純水で水洗した後、乾燥させて蛍光体Nd
X Yb
Y Y
1-X-Y PO
4 を得た。
この表3より明らかなように、従来の蛍光体では応答速度が遅く、短パルス光励起、高速スキャンなどの高速読み取りには適さなかったが、本発明の蛍光体は応答速度が速く、短パルス光励起、高速スキャンなどの高速読み取りが可能で、しかも耐久性が高く、特に実施例12〜14のものは各種印刷に適した粒径1μm以下の超微粒子状の蛍光体が得られることが分かる。
また、実施例12と比較例9の蛍光体を純水に浸漬させたときの回収率の経時変化を図26に示す。これは蛍光体100重量部を水に浸漬し、一定時間経過後に取り出して乾燥したときの重量比を測定し百分率で表したものである。
この図から分かるように、比較例9では10重量%以上の蛍光体が溶出するのに対して、実施例12ではほとんど溶出しせず耐水性に優れている。なお、本発明の他の実施例で得られた蛍光体も同様に耐水性に優れていることが確認されている。
この実施例12で作製した蛍光体75重量部を、ワックス15重量部、ポリエステル5重量部、ポリウレタン5重量部の混合物である透明バインダーに分散させ、蛍光体を印刷するインクを作製した。そしてこのインクを、厚み50μm、幅1cmのテープ状のポリエチレンテレフタレートに乾燥厚みが5μmになるように塗布して、熱転写印刷用のインクリボンを作製した。
このインクリボンを用いて10桁の数値を表すバ−コ−ドを印字し、これを0.8msec周期の波長810nmのパルス赤外光で励起させ、0.9m/secの走行速度で残光を識別するシステムにかけたところ、バ−コ−ドで印字された10桁の数値情報を確実に読み取ることができた。
2.[蛍光体組成物の印刷方法ならびに潜像マーク形成部材]
前述した各蛍光体組成物の印刷方法としては、インクジェット記録方式が高速印刷に適している。このインクジェット記録方式としては、例えば
(a)静電誘引力を利用してインクを吐出させる電界制御方式、
(b)ピエゾ素子の波動圧力を利用してインクを吐出させるドロップ・オン・デマンド方式(圧力パルス方式)、
(c)高熱によって気泡を形成して、成長させることによって生じる圧力を利用してインクを吐出させるバブルジェット方式などが適用可能である。
図27は、前記電界制御方式を説明するための原理説明図である。この電界制御方式は、印刷すべきマークや文字などをドットマトリックスに画素分割し、各画素がもつ位置情報に比例した電圧でインク粒子を帯電させ、その後静電場で偏向して、被検出体に印刷する方式である。
この電界制御方式の原理を図27とともに説明する。インクボトル1に貯えられたインク2は供給ポンプ3で加圧され、調圧弁4で一定圧力に調整されて、ノズル5から噴出される。
このノズル5内に設置されている電歪素子6は、励振源7によって一定の周波数で振動している。ノズル5より液柱となって噴出したインクは、前記電歪素子6の振動周期に同期して一定の大きさのインク粒子となる。
インクを粒子化する位置に設けられた帯電電極8に、記録すべき情報信号に応じた電圧が印加され、粒子化のタイミングに合わせてインク粒子1個毎の帯電量が制御される。
このインク粒子は、所定の電圧が印加されている偏向電極9、9間を通過するとき、帯電量に応じた偏向を受けて、印刷されるべき部材に到達する。前記偏向と、ノズル5と部材間の相対移動速度によって決められた大きさの潜像(マーク)が部材の表面にドット状に印刷されて潜像形成部材10となる。
印刷に使用されなかったインクは、偏向を受けずにガター11によって捕集されて回収ポンプ12で前記インクボトル1に回収される。
前述の蛍光体組成物が印刷される部材としては例えば証券、伝票類、カード類、書籍類、各種部品、各種製品など何でも適用可能である。
印刷層中における蛍光体粒子の含有率について種々検討した結果、蛍光体粒子の含有率が1重量%以下であると所望の発光強度が得られない。蛍光体粒子の含有率が増すに従って発光強度は除々に大きくなるが、50重量%以上になると蛍光体粒子の凝集、重なり合いが実質的に多くなり、発光強度はさほど大きくならず、むしろ蛍光体粒子の含有率が30重量%を超すと印刷層の存在が目立つとともに、特に無機化合物からなる比較的粒径の大きい蛍光体粒子を使用した場合には、インクジェットプリントやスクリーン印刷などの印刷性が低下する。
従って、印刷層中における蛍光体粒子の含有率を1重量%を超えて30重量%未満に規制することにより、所望の発光強度を維持し、しかも印刷層の存在が目立たず、そのために潜像形成部材の外観を損ねたりすることがなく、印刷性が良好である。特に前述のように平均粒子サイズが4μm以下、さらに好ましくは2μm以下の蛍光体微粒子を使用するものにおいて好適な含有率である。
また印刷層の厚さと使用する蛍光体粒子の大きさとの関係について検討した結果、印刷層の厚さは使用する蛍光体粒子の平均粒子サイズの35倍以内、好ましくは25倍以内に規制する方が、印刷層の存在が手触りなどによっても殆ど分からず(目立たず)、そのために潜像形成部材の外観を損ねたりすることがない。従って蛍光体粒子の平均粒子サイズが4μmの場合は印刷層の厚さを140μm以下に、平均粒子サイズが2μmの場合は印刷層の厚さを70μm以下にすればよい。
蛍光体微粒子を分散、保持するためのバインダの光透過率について検討した結果、励起光ならびに蛍光に対する光透過率が80%以上、好ましくは90%以上のものを使用すると、印刷層への励起光の進入ならびに印刷層内で発した蛍光の外部への放射が効率的に行われ、そのため発光出力が大となり、潜像の検出が確実であることが判明した。
次に本発明者らは、印刷層の表面状態について検討した。蛍光体微粒子を含有した塗料を合成樹脂フィルム上に塗布して印刷層を形成した場合と、同様の組成の塗料を紙の上に塗布して印刷層を形成した場合とで発光出力の比較を行ったところ、紙の上に塗布した方が出力が大であった。
前述の合成樹脂フィルム上に塗布して形成した印刷層の表面状態を観察してみると非常に平滑であるのに対して、紙の上に塗布した印刷層は表面に微細な凹凸がある。この微細な凹凸のために照射した励起光が正反射せずに、蛍光体の活性化に関与して大きな発光出力が得られるものと考えられる。特に蛍光体粒子の平均サイズが紙を構成する繊維の径よりも小さい(例えば平均サイズが0.2μm程度)場合、不規則無方向状に絡みあった繊維の表面に蛍光体粒子が色々な角度で付着するから、蛍光体の励起効率が高い。
後述するように印刷層を例えば郵便物や宅配便などの配達物、あるいはプリペイドカードや通行カードなどのカード上に形成する場合、印刷層は外観上目立たない方がよい。目立たない印刷層にするためには、前述のように印刷層の厚さなどを制限する手段もあるが、印刷層の可視光吸収率を制限する方法もある。
印刷層の主成分はバインダと蛍光体粒子であり、これらの材質として可視光吸収率の小さいものを使用して、結果的に印刷層の可視光吸収率を20%以下、好ましくは10%以下に規制することにより、印刷層はほとんど無色、透明に近くなり、そのために潜像形成部材の外観を損ねないことが分かった。
また本発明の実施例に係る潜像形成部材は、電子写真法によって複写しても印刷層の部分が転写紙上に複写されないかあるいは殆ど目立たないから、印刷層の形成によって転写紙表面が汚れたりする心配はない。
郵便物に蛍光体組成物からなる潜像を形成した具体例を図28に示す。
同図に示すように例えば封書、葉書、郵便小包などの郵便物13の表面には切手14が貼着され、郵便番号15が記入され、送先住所16ならびに宛名17が記載されているが、これらの他に例えば送先住所に関するバーコード情報が所定の位置にイングジェット記録方式によって印刷されて印刷層18が形成されている。なお、このバーコード情報は潜像であるため、郵便物13の外観を損ねる心配はない。
図29は郵便物13の他の例を示す図で、この例の場合は送先住所が予め決まっており、送先住所に関するバーコード情報が前記蛍光体組成物によって印刷されたラベル19を発送人が保持している。そして郵便物13を発送する際に、前記ラベル19を郵便物13の所定位置に貼着して、郵便局に提出する。なお、ラベル19の貼着位置は郵便物13毎に異なっては情報の読み取りに支障をきたすため、郵便物13の表面にラベル貼着位置が印刷されており、その位置にラベル19を貼着するようになっている。
この例では郵便物について説明したが、宅配便、社内のメール便など他の配達物にも適用可能である。
またこの例では送先住所に関する情報を前記蛍光体組成物によって印刷しているが、他に送先名、送り元住所、送り元名、あるいは他の必要な情報なども印刷可能である。
図30は、前記バーコード情報の付与と、その情報の読み取りの工程を説明するためのフローチャートである。
郵便局に集められる郵便物13はまず方向揃え装置20に投入されて、その方向が揃えられる。そして郵便物13には前記ラベル19が貼着されているものとそうでないものとが混在しているから、選別装置21によりラベル19が貼着されているものとそうでないものとに選別される。この郵便物13の選別は、ラベル19が貼着されている個所に所定の波長領域の赤外線を照射して、蛍光を発すればラベル19が貼着されている郵便物13であると判断され、蛍光を受光しなければラベル19が貼着されていない郵便物13であると判断されて、両者の選別が行われる。
ラベル19が貼着されていない郵便物13はOCR22に送られて郵便物13上に記載されている郵便番号15ならびに送先住所16が光学的に読み取られ、この読み取られた情報に基づいて、インクジェットプリンタ(IJP)23によって送先住所に関するバーコード情報が郵便物13の所定位置に印刷される。
このようにして印刷された郵便物13はバーコード区分け装置24に送られ、バーコード情報を光学的に読み取って、そのバーコード情報に基づいて郵便物13を自動的に区分けする。
ラベル19を貼着した郵便物13はバーコード情報を印刷する必要がないから、直接にバーコード区分け装置24に送られて、郵便物13の区分けが行われる。
前記バーコード区分け装置24は、バーコード情報を光学的に読み取る読取装置と、読み取られたバーコード情報に基づいて郵便物13を区分けする区分け装置とから主に構成されている。
(光学読取装置の実施例1)
図31は、その読取装置25の概略構成を示す図である。読取装置25はリーダ光学系と読取り回路とから主に構成されている。
そしてリーダ光学系は半導体レーザ駆動回路26と、半導体レーザ27と、レンズ28と、全反射のミラー29と、平凸レンズ30,31と、スリット32と、フィルタ33と、フォトダイオード34とから構成されている。
前記半導体レーザ27から照射された励起光60はレンズ28で直径約1mmに集束され、図31ならびに図32に示すようにミラー29の中央に開設された直径が約2mmの透孔35を通り、レンズ30を介して潜像形成部材10である郵便物13の平面に対して垂直に照射される。
励起光60を集束しないでミラー29側に出射すると励起光60の一部が前記透孔35の外周部によってカットされ、そのために郵便物13側に到達する励起光60の光量(励起エネルギー)が実質的に減少し、結果的には発光出力が小さくなるから、励起光60を集束径を前記透孔35の直径以下に規制する必要がある。本実施例では部品取付位置の誤差などを考慮して、透孔35の直径が2mmに対して励起光60の集束径を1mmにしている。
この郵便物13は例えば4m/secの高速で矢印方向に搬送され、その間にバー状の印刷層18を照射し、蛍光体を励起して、蛍光を第1平凸レンズ30で受光する。受光された光はミラー29で反射されて、第2平凸レンズ31で集束され、スリット部材32ならびにフィルタ33を透過して、フォトダイオード34で受光される。
前記読取り回路は、増幅回路とフィルタ回路を備えた検出回路36と、二値化処理回路37と、デコード回路38と、シリアルインタフェイス39と、データ処理用のパーソナルコンピュータ40とから構成されている。
前記ミラー29の代わりにハーフミラーを使用することもできるが、ハーフミラーであれば励起光のうち半分しか郵便物13側に照射することができず、また蛍光のうち半分しかフォトダイオード34側に反射することができず、そのために出力が低減する。本発明では反射光量の増大を図り、郵便物13のバーコード情報を高速でかつ正確に読み取るために、微細な透孔35を形成した反射率が50%を超える高反射率のミラー29を使用している。本実施例でのミラー29は、ガラスの表面にアルミニウムなどを蒸着して形成した前鏡面ミラーを使用している。
また、郵便物13には色々な厚さのものがあり、また搬送系の光軸方向に対する揺れなどがある。それに対応するためミラー29を通過した光は郵便物13の平面に対してほぼ垂直に入射している。このようにすれば郵便物13の厚さが変動したり、搬送系の光軸方向に対する揺れなどがあっても、それらにほとんど影響されずにバーコード情報を読み取ることができる。
図33は、前記スリット部材32の働きと問題点を説明するための図である。この例では第1平凸レンズ30の前方にスリット部材32が配置されており、郵便物13(潜像形成部材10)の印刷層18から発した蛍光61はスリット部材32のスリット32aを通って第1平凸レンズ30側に導かれる。
同図において実線で示しているように印刷層18がスリット32aと対向したときに発した蛍光61はスリット部材32を通して受光するが、郵便物13(潜像形成部材10)の搬送によってスリット32aの下を通過した印刷層18から発した蛍光61(点線で表示)はカットするように、スリット部材32が設けられている。このようにスリット32aと対向した印刷層18からの蛍光61のみを選択するために、スリット部材32は郵便物13(潜像形成部材10)の搬送手段62に可及的に近ずけて配置されている。
そのため厚い郵便物13が搬送されてくると、郵便物13の先端部がスリット部材32に当たって停止したり、スリット部材32が損傷を受けるなどの弊害を生じていた。
そのため本発明は図31に示すように、スリット部材32を郵便物13の搬送路上から外して、第2平凸レンズ31と受光素子34の間に配置した。このようにすることにより、スリット部材32の機能を備えながら、搬送手段62と第1平凸レンズ30との間が大きくとれ、厚い郵便物13も通過が可能となる。
図34、35は、半導体レーザから出力されるレーザ光の放射パターンと、バーコードパターンの関係を説明するための図である。半導体チップ41は図34に示すように、Al電極42、p−電極43、p−GaAs基板44、n−GaAsからなる電流閉じ込め層45、p−Ga1-X AlX Asからなるクラッド層46、p−Ga1-Y AlY Asからなる活性層47、n−Ga1-X AlX Asからなるクラッド層48、n−GaAsからなるキャップ層49、n−電極50の積層体から構成されている。
そしてこの半導体チップ41から出力されるレーザ光の放射パターン51は楕円形をしている。従来はこの楕円形の放射パターン51を円形に成形してバーコードの検出に使用していたが、本発明では図35に示すように潜像形成部材に印刷されたバーコード状の印刷層18の長手方向が前記放射パターン51の長手方向に向くように、印刷層18に対して照射される。
このようにすれば、円形の放射パターンを使用するものよりも印刷層18に対する照射面積が増大し、その結果大きな出力が得られ、高速読み取りに適している。
郵便物13は例えばガイド付きのベルトコンベアなどからなる搬送手段62で搬送されながら光学読取装置の下を通過する訳であるが、ガイドがあっても郵便物13は最高で10度程度傾斜する場合がある。
図36は郵便物13が傾斜したとき(傾斜角度:約7度)の極細の印刷層18と放射パターン51との対向状態を示した図であり、このとき放射パターン51の短軸64が余り長いと隣の印刷層18も読み取る場合がある。本発明者らの諸種の検討結果、放射パターン51の長軸63に対する短軸64の比(長軸/短軸)が15を越えると前述のように相対的に傾斜した際に隣の印刷層18の情報までも読み取ることがあるから、放射パターン51の長軸63に対する短軸64の比(長軸/短軸)は15以下に規制するとよいことを解明した。
(光学読取装置の実施例2)
図37ならびに図38は、ミラーならびにそれを用いた光学読取装置の実施例2を示す図である。
この例の場合は図37に示すように、反射率が50%を越す高反射率ミラー29の周辺部にスリット53が形成されている。そして図38に示すようにこのスリット53を通して半導体レーザ27からの励起光60が郵便物13の印刷層18に照射される訳であるが、前記スリット53を通して郵便物13上に投影される放射パターンの長手方向が印刷層18のバーコードの長手方向を向いている。そうすることにより、前述の楕円形の放射パターンと同様にバーコードの長手方向の殆どの部分を照射でき、大きな出力が得られる。
(光学読取装置の実施例3)
図39ならびに図40は、赤外発光蛍光体の他の使用例を示す図である。図39に示すように、有価証券55の所定位置には3つの印刷層18a,18b,18cが設けられ、各印刷層18a〜18cは互いに異なる発光スペクトルを有する蛍光体をそれぞれ含有している。
そして各印刷層18a〜18cに対して、それぞれ所定の励起光を照射する半導体レーザ27a,27b,27cと、各印刷層18a〜18cから発せられる蛍光を受光するフォトダイオード34a,34b,34cとが対になって配置されている。
前述の異なる発光スペクトルを有する蛍光体としては、例えば図13に示す発光スペクトルを有するNd0.1 Yb0.1 Y 0.8PO4 ,図14に示す発光スペクトルを有するYb0.1 Y 0.9PO4 ならびに図17に示す発光スペクトルを有するEr0.2 Y2.8 Fe1.5 Al3.5 O12などが適宜選択して用いられる。
従って前記印刷層18a〜18cに前述の蛍光体を使用した場合、それぞれの蛍光を前記フォトダイオード34a,34b,34cで受光することによって、その有価証券55が真正のものであると判断される。もし、フォトダイオード34a,34b,34cのうち1つでも受光しないフォトダイオード34があれば、その有価証券55が真正のものでないと判断される。
図39の例では発光スペクトルの異なる蛍光体を個別に使用した場合を示したが、図40に示すように発光スペクトルの異なる蛍光体を混合して印刷層18を形成することも可能である。
この場合、その印刷層18に対して半導体レーザ27a,27b,27cから励起光が照射され、印刷層18から発せられる蛍光をフォトダイオード34a,34b,34cでそれぞれ受光される。なお、図39、40において各フォトダイオード34a,34b,34cの受光面には、受光しょうとする光成分を透過して他の波長の光は遮断する光学フィルタが取り付けられている。
(光学読取装置の実施例4)
図3の(c)に立ち下がり時間td の長い蛍光体の発光強度特性を示したが、このような特性を有する蛍光体は残光を利用した情報の検出に好適である。
図41は、残光を利用した情報検出時の発光素子の発光タイミングならびに受光素子の出力の状態を示すタイミングチャートである。
同図(a)に示すように発光素子は、点灯時間T1 および消灯時間T2 がほぼ等しい時間間隔でオン、オフ動作し、印刷層に対して間欠的に励起光を照射する。図中のS1 は発光素子の点灯信号を示している。
発光素子からの光の照射で印刷層中の蛍光体が励起され、同図(b)に示すように発光素子からの照射が終了するまでは出力が増大する。そして発光素子からの照射が停止しても、印刷層から放出される残光を受光素子が受光する。この残光は時間とともに減少するため、予め基準値Vsを設定しておき、この基準値Vsと比較することにより、発光素子からの照射が停止した後に矩形信号S3 が得られる。
従って、微小時間毎に発光素子の点灯、消灯を繰り返すことにより、バーコードパターンのコード情報を光学的に読み取ることができる。
このように蛍光体の残光を利用する検出方法は、情報を読み取る際には発光素子は消灯しているから反射光がなく、そのために高価な光学フィルタを使用しなくても蛍光を検出することができ、小型でかつ低価格の光学読取装置を提供することができる。
図42、43はこの残光検知に好適な光学読取装置を説明するための図である。図42に示すように光学読取装置は、照射パルス周波数選択スイッチ70、パルス発振回路71、トランジスタ(Tr)72、レーザ駆動電流制限用抵抗(R)73、オートマチックパワーコントロール(APC)機能を有する駆動回路74、半導体レーザダイオード75、集光レンズ76、受光回路77、レーザ出力調整用ボリューム(VR)78、ホールド回路79などを備えている。
次にこの光学読取装置の動作について説明する。まず、照射パルス周波数選択スイッチ70によって適当な照射パルス周波数を選択し、それに相当するパルスをパルス発振回路71で作り、クロック(CLK)信号として出力する。
このCLK信号でトランジスタ(Tr)72をオン/オフし、APC駆動回路74から出力されるレーザ駆動電流Ioutの半導体レーザダイオード75への供給を制御する。レーザ駆動電流Ioutは、レーザ駆動電流制限用抵抗(R)73にてトランジスタ(Tr)72や半導体レーザダイオード75を破壊しないように制限する。
半導体レーザダイオード75からパルス状に出力された励起光60は、集光レンズ76を通って、潜像形成部材10上の印刷層18を照射し、半導体レーザダイオード75のオフ時に印刷層18から発せられた蛍光61(残光)は、受光回路77にて検出される。
所定の間隔で一定のパルス状励起光を半導体レーザダイオード75から得るため、APC駆動回路74で半導体レーザダイオード75のモニタ光を検出して、レーザ駆動電流Ioutにフィードバック制御をかけている。
このモニタ光の検出ばモニタ電流Iinとして半導体レーザダイオード75から得られ、半導体レーザダイオード75のオン時のモニタ電流Iinをホールド回路79にてピーク検知あるいはサンプリングして、半導体レーザダイオード75のオフ時にその状態をホールドすることで、次の半導体レーザダイオード75のオン時に蛍光体の励起がスムーズに行えるように、半導体レーザダイオード75の励起光を制御する。なお、蛍光体の励起に必要な半導体レーザダイオード75の出力は、前記レーザ出力調整用ボリューム(VR)78で予め調整しておく。
図43は前記半導体レーザダイオード75の構成を示す図で、励起光を出力する半導体レーザ80と、その半導体レーザ80から出力された励起光を受光するモニタ用フォトダイオード81とから構成されている。
励起光の光源としてLEDを使用して、トランジスタによるスイッチングでパルス状の励起光を出力すると、集光レンズを用いて励起光を絞っても検出時に十分な発光強度を得るのが難しく、情報読み取りのための光路長が制限される。
これに対して図42、43の読取装置では、励起用光源として集光性、指向性の優れた半導体レーザダイオードを使用しているため、読取装置の光路長を長くしても検出時に十分な発光強度が得られる。
またAPC機能を有する半導体レーザダイオードの駆動回路を用いることにより、励起光の温度変化による影響を軽減もしくは無くすことができ、読み取りの信頼性が向上する。
さらに半導体レーザダイオードのオン時のモニタ電流をホールドして、その値に基づいて半導体レーザダイオードの駆動回路をフィードバック制御することにより、パルス周波数変動やデューティ比に関係なくAPC機能が発揮され、蛍光体の励起がスムーズに行え、読み取りの信頼性が向上する。
(光学読取装置の実施例5)
次に実施例5に係る光学読取装置について説明する。
例えばキャッシュカードなどのカード80は、図44に示す如く、基材81として例えば白色のポリエステルフィルムを使用して、その基材81の上面側に、予め反射率を調整した任意の意匠の下地層82を印刷形成し、下面側に磁性塗料を塗布することにより主情報を書き換え可能に記録する磁性層83を形成している。更に、上面側の下地層82上に蛍光体を含有したマーク84を印刷形成し、これによってセキュリティ用の副情報を固定的に記録する。
前記マーク84は、例えば赤外線領域の照射光85の照射に対応して、それの中心波長とは異なる波長の蛍光86を発生する蛍光体で構成される不可視状態の、すなわち潜像であって、カード80の長手方向と直交する細いバーコード状をしている。このマーク14の形成で、カード発行店コードあるいは暗証番号などの所定のセキュリティ用の副情報がカード80上に記録されることになる。
マーク84として形成されるバーコードは、図45(d)に例示する従来のバーコードにおける地模様部87と複数本のバー88により構成されるデータ部89bとを、同図(a)のように反転させたものであって、少なくとも各バー88間に設けた間隙90およびデータ部89の走査方向前後を挟む導入部91、91aを蛍光体層により形成している。
かかる構成をとることにより、データ部89をどちらの方向から走査しても、その前後において必ず、データ部89を構成する各バー88および間隙90の幅より十分長く持続する導入部91を通過させ、データ部89の位置を容易に検知できるようにする。また、データ部89の全域におけるコントラストの均一化を図り、走査開始位置における最初のバー88aの太さを誤って検出するのを防止する。
なおマーク84を構成する蛍光体としては、前記各種蛍光体ならびにネオジウム(Nd)、イッテルビウム(Yb)、ユーロビウム(Eu)、ツリウム(Tm)、プラセオジウム(Pr)、ジスプロシウム(Dy)などの希土類元素単体、もしくはそれらの混合物を光学活性元素とし、その光学活性元素が燐酸塩、モリブデン酸塩、タングステン酸塩等の酸化物が母体に含まれる化合物が用いられる。しかし、任意波長の光を照射することにより、残光性を有する蛍光86を発生するものであれば、その材料を適宜変更して実施できる。
本実施例では、Li (Nd0.9 Yb0.1 )P4 O12のような蛍光体を含む蛍光塗料を印刷してマーク84を形成し、波長が800nm付近の近赤外領域の励起光を照射した時、1000nm付近の波長でピーク値を持つ赤外領域の蛍光86を発生し、励起光の照射を停止した際に光強度が10%に減衰するまでの時間が400〜600μsec程度の残光特性を有している。
本実施例に係る光学読取置は図46に示す如く、前記カード80の走行部92と、その走行部92によって搬送されるカード80に対する光照射部93と、光が照射された位置から放出される光94を取り込んで電気信号に変換する光電変換部95と、変換された電気信号中からマーク84の形成位置に対応したマーク信号S4を検出するマーク検出部96と、検出したマーク信号S4からカード80上のデータ内容を判定するデータ処理部97とを備えている。
前記走行部92は、カード80の挿入時期に対応してモータ駆動回路98で回転駆動されるローラ99によってカード80の両側縁を支持しながら、例えば毎秒200〜400mm程度の一定速度で搬送させることにより、カード80の上面側に形成されたバーコード状のマーク84が、光照射部93と光電変換部95の下方位置を通過する。このモータ駆動回路98の動作時期に関するデータはデータ処理部97に対して送られ、マーク内容を判定するためのデータ処理の必要時期を知らせる。
光照射部93は、マーク84の検出時期に対応して所定の直流電圧を出力する発光源駆動電源100と、その発光源駆動電源100の通電により所定の光85を発生する発光源101から構成される。
発光源101は、発光中心波長が800nm付近の近赤外線を発生する発光ダイオードなどの発光素子102の光放出部分に、図34に示す如くグラスファイバー製の光ガイド103が取り付けられている。この光ガイド103の先端を、カード80の表面に対して2mmあるいはそれ以下の距離にまで接近させるとともに、光ガイド103の全体をマーク84の移行方向と直交する面上で且つ水平方向から45〜60゜の傾斜角(θ1)を設けて配置している。
このカード80上における光照射位置から放出される光94を電気信号に変換する光電変換部95は、入射した光を電流に変換する検出器104と、電流を電圧に変換したのち増幅する交流増幅回路105から構成される。
検出器104は図44に示すように、赤外域に受光感度を有するフォトセルやフォトダイオードのような受光素子106の受光面に、マーク84から発生される蛍光86の波長の光を選択的に通す光学フィルタ107を介して、発光源101側と略同様な光ガイド108が固定されている。
検出器104側の光ガイド108の先端を前記光ガイド103の先端に接近させ、マーク84の移行方向と直交する面上で且つ例えば105〜115゜程度の傾斜角(θ2)を設けることにより、マーク84の表面に対する照射光85の照射位置から発せられる反射光109と蛍光86を含む光94を入射光として内部に取り込む。この取り込まれた光94は、受光素子106で入射光の強度に比例した図47(b)に例示するような電圧に変換するとともに、交流増幅回路105で所定の電圧値に増幅した後、その信号S5をマーク検出部96に入力し、マーク位置に対応した信号を取り出す。
マーク検出部96は、マーク形成位置に対応した図47(c)のようなマーク信号S4を出力する比較回路110と、その比較回路110における比較値Vcを設定する比較値設定回路111と、マーク84中のデータ部89を判定するデータ部判定回路112から構成される。
比較値設定回路111は、光電変換部95から送られる電気信号S5におけるマーク84の導入部91に対応する部分を検出し、その導入部91におけるレベルに比例させて比較値Vcを決定して比較回路110に入力する。それと同時にデータ部判定回路112に向けて所定の信号S6を送り、データ部89の検出を開始したことを知らせる。
データ部判定回路112は、比較回路110に対して比較値Vcと入力信号S5の比較時期を知らせるもので、前記比較値設定回路40から送られるスタート信号S6によりデータ部89の走査開始を検出する一方、比較回路110から出力される信号S4によりデータ部89の終了を検知し、信号S7を比較回路110に入力する。
比較回路110は、光電変換部95から送られる信号S5のレベルが設定値Vcを下回る時期に対応して、図47(c)のように矩形波状の信号S4を出力するもので、この出力信号S4はデータ処理部97に順次送られ、信号S4のパルス幅とパルス間隔を測定することにより、マーク84のデータ部89内容を解析する。
次にマーク検出部96の動作を図48のフローチャートとともに説明する。まずステップ120で動作をスタートさせると、ステップ121で初期設定を行ない、ステップ122から始まる比較値設定工程に入る。
比較値設定工程では、光電変換部95から送られる入力信号S5を微分するなどして、信号レベルが急激に立ち上がる時期をステップ122で常時監視する。ここで図47における時刻t1に立ち上がりが検知されると、ステップ123でタイマーを始動して計時を開始し、ステップ124で入力信号の立ち下がりが検出されるのを待つ。
信号レベルの立ち下がりが認められると、更にステップ125でタイマーの経過時間を調べる。その時、経過時間が予め設定した時間を下回っていることが判定されると、ノイズなどの不要な信号入力と判断してステップ122の前段に戻る。
しかし、時刻t2に検出された信号レベルの立ち下がり時に、ステップ125で設定時間の経過が認められると、例えば立ち上がりから立ち下がりまでの信号レベルの平均値Vmを予め設定した割合で分圧した電圧値をステップ126で比較値Vcとして決定し、比較回路110に入力する。それと同時に、ステップ127でデータ部判定回路112を介して比較回路110に信号S7を送り、比較動作開始を指示する。
比較回路110では、ステップ128の比較処理工程において、入力信号S5のレベルが設定値Vcを下回る期間に対応して「H」レベルの信号を、また上回る期間に対応して「L」レベルの信号を各々出力することにより、本来のデータである蛍光体層が形成されていない箇所に対応した矩形波状のマーク信号S4が出力される。
このマーク信号S4は、同時にステップ129において「L」レベルの持続時間が検知され、かかる時間が予め設定した時間を超えることが判定されると、マーク84のデータ部89を過ぎてもう一方の導入部91aに入ったことを比較回路110に知らせ、比較処理工程を終了させる。
なお、前述した図45(a)のように従来のコードマークの全体を反転させるのに代えて、図45(b)のような反転したデータ部89あるいは図45(c)のような反転しないデータ部89aの前後を導入部91,91aで挟んでもよい。またマーク84の走査方向が一定であるなら、導入部91は走査の開始位置に対応させて1か所のみ設けることで足りる。また導入部91の形状も矩形状に限らず、データ部89との区別が可能な形状であれば、任意に変更可能である。
またマーク検出部96は、光電変換部95から送られる信号S5を上記の如く順次にデータ処理していくのに代えて、一連の入力波形の変化をサンプリングしながら一旦記憶し、そのデータを上記の手順あるいは類似の手順を利用して、マーク84の形成位置を検出することも可能である。
更に、前述のように照射光85を連続的に照射して蛍光86を検出する場合に限らず、照射光85を断続させることにより、蛍光86の残光を検出してマーク84の形成位置を判定する場合にも利用でき、蛍光86の検出方法は限定されない。
更にまた、光学読取装置側を固定してマーク84を移行させるのに代えて、例えば光照射部93と光電変換部95を一体にした携帯型のプローブ形状とし、マーク84側を固定して光学読取装置側を手動あるいは自動的に移行させるようにしてもよい。また、照射光85を所定の角度をもって走査させ、その走査位置から放出される光を検出器104で検出するようにしてもよい。これらのことは、他の光学読取装置においても同様である。
(光学読取装置の実施例6)
次に光学読取装置の実施例6を説明する。この実施例で使用されるカード80ならびにマーク84の構成などは、前記実施例5と同様であるから、それらの説明は省略する。
この実施例に係る光学読取装置は、図49にその概略的な構成を示す如く、マーク16に対してその強さが略一定の光85を所定周期をもって断続的に照射する光照射手段151と、光85の照射位置から放出される入射光94を取り込んで電気信号に変換する光電変換手段153と、前記光照射手段151における照射光85の照射タイミングと同期させ、照射開始直前に対応する最低値と、照射停止直前に対応する最大値と、照射停止直後の検出値157とを個別に検知可能な波形検出手段154と、前記最大値と最低値の差を分圧した比較値158と前記検出値157とを比べて検出値157が比較値158を超えるとマーク84の形成位置と判定するマーク判定手段155とを備えている。
さらに前記光電変換手段153の入力側に、入射光94から蛍光86と同一波長の光成分を選択的に取り込む光学的濾波手段152を設け、前記波形検出手段154を、所定のタイミングをもって入力波形の値をサンプリングしてその値を次のサンプリング時まで維持し、その波形検出手段154から出力される前記最高値が有意な値か否かを判定する信号入力判定手段156を備えている。その信号入力判定手段156が最高値を有為な値と判定した期間においてのみ、マーク判定手段155が比較動作を行なうように構成されている。
より具体的に説明するとこの光学読取装置は、図50にその全体の構成を示す如く、走行部92と、光照射部93と、光電変換部94と、マーク検出部95と、データ処理部36と、各種の制御信号を発生する信号発生部130を備えている。
信号発生部130は、少なくとも光照射部93で使用する駆動信号S8と、マーク検出部96で使用する3種類のタイミング信号S9,S10,S11を作成するもので、クロック信号S12の発生回路131と、そのクロック信号S12から各種の制御信号を作成する制御信号発生回路132から構成される。
クロック信号発生回路131は図52(a)の如く、例えば100μsec程度の一定時間間隔をもってパルス状のクロック信号S12を連続して発生する。制御信号発生回路132では、5個のクロック信号S12が入力される毎にその信号レベルを切り換えることにより、図52(b)に示すような、約500μsecの時間間隔をもってそのレベルが変わる矩形波状の駆動信号S8が形成される。また制御信号発生回路132では、駆動信号S8の立ち上がり時から、例えば4、6および9番目のクロック信号S12が入力されるのと連動してパルス信号を出力させることにより、図52(c)〜(e)のような駆動信号S8と同期した3種類のタイミング信号S9〜S11が形成される。
マーク検出部96は、図52(f)に示す光電変換部95からの信号S13の変化を測定するサンプルホールド回路133と、第1ないし第3比較回路134,135,136と、第1および第2表示回路137,138とから構成される。
サンプルホールド回路133は図50に例示する如く、OPアンプを使用した電圧バッファ回路139の入力側に、入力電圧値を保持するコンデンサ140と、前記信号発生部130から送られるタイミング信号S9〜S11の入力でオンするアナログスイッチ141を備えたものを1組のサンプリング回路142とし、それを3組分備えている。
このサンプルホールド回路133は、前記光電変換部95から送られる図52(f)で例示するような入射光94の強度に対応した一連の電圧変化信号S13を、複数の時点で個別的且つ周期的にサンプリングするとともに、その各検出値を次のサンプリング時まで保持する。
本実施例では図52(c)に示すタイミング信号S9を第1サンプリング回路142a(図51参照)に印加し、光85の照射を停止する直前の電圧値によって、図52(g)の太線で示す入射光94の最大値Vmを検出する。また、図52(d)で示すタイミング信号S10を第2サンプリング回路142bに印加し、光照射を停止した直後の電圧値によって、図52(g)の破線で示す残光の強度を電圧値Vdとして検出する。
さらに図52(e)で示すタイミング信号S11を第3サンプリング回路142cに印加し、光85の照射を再開する直前の電圧値Vlによって、図52(g)の細線で示す入射光94の最小値を個別に検出する。このようにして、入射光94の波形の変化を電圧値の変化として求め、全体に占める残光強度の割合が判るようにしている。
前記各検出値の値を判定する第1比較回路134にはOPアンプが使用され、そのマイナス側入力端に前記第2サンプリング回路142bから取り出された残光の電圧値Vdをそのまま検出値として入力する。一方、第1および第3サンプリング回路142a,142cから取り出した電圧値の差を可変抵抗器143で分圧し、その電圧値Vcを図52(g)において一点鎖線により示す比較値として入力することにより、検出値Vdが比較値Vcを超えると所定の信号S14が第3比較回路136に出力される。
ここで第2比較回路134は、第1サンプリング回路142aから出力される最高値Vmを所定の設定値と比較し、最高値Vmが設定値を下回る期間は所定の信号S15を出力しているが、最高値Vmが設定値を超えると信号S15の出力を停止するものであって、その出力端を順方向に繋いだダイオード144を介して第1比較回路134の出力側と並列接続し、第3比較回路136に対して信号入力するようにしている。
第3比較回路136は、第1比較回路134および第2比較回路135からの出力をOPアンプのマイナス側入力端に印加して設定値と比較し、出力側に備えたFETによるスイッチング素子145をオンオフ規制する。第1および第2比較回路134,135からの出力電圧がともに設定値を下回る期間は、マーク84の検出に対応する「1」信号をデータ処理部97に出力しているが、少なくともどちらか一方の比較回路134,135から「H」レベルの信号出力があると、データ処理部97に送られる信号S16がマーク84の不検出を示す「0」になる。
従って、入射光94の強度が低いために第1比較回路134からの出力信号S14が不定となる期間においては、第2比較回路135から「H」レベルの信号S15が第3比較回路136のマイナス側入力端に印加される結果、第3比較回路136の出力を強制的に「0」状態にしてマーク84が検出されていないことをデータ処理部97に知らせる。
逆に、入射光94の強度が一定値以上あってマーク検出が正常に行われる状態では、第2比較回路135からの出力が「L」レベルに下がることにより、第1比較回路134からの出力レベルの変化、すなわち、蛍光成分の検知に対応して第3比較回路136は作動し、図52(h)に示すようにマーク検出の有無が判定される。
第3比較回路136による判定可能時期については、第2比較回路135の出力側に備えた第1表示回路137のLED146を発光させて表示する。更に、マーク84の検出時期については、第3比較回路136の出力側に備えた第2表示回路138のLED147を発光させる。
サンプルホールド回路133の入力側に備えたコンデンサ140と抵抗148および、第3比較回路136の入力側に備えたコンデンサ149と抵抗150は、ともに積分回路が構成されており、パルス性のノイズの入力によって入力レベルが瞬間的に上昇して誤動作するのを防止している。
また本実施例における駆動信号S8の周期は約1msecで、マーク84を構成する蛍光体の残光時間の約2倍に設定しているが、周期および残光時間共にその値を適宜変更できる。
またサンプル信号S9〜S11の送出時間タイミングも、蛍光86の発光特性に対応させて、照射光85の点滅タイミングのより直近に設定することで、蛍光86と反射光109の分離がより正確にできる。その場合、残光を検出することなく、光の照射開始直後と照射停止直前における電圧値から、蛍光86の値を検出することが可能となる。
更に、各検出値の比較動作も、前述のようにOPアンプを用いたアナログ式のものに代えて、マイクロプロセッサを使用したデジタル式のものでもよい。その場合、入力波形の特徴部分における電圧値を選択的にサンプリングするのに代えあるいは加えて、波形の全体形状を検出して、その変化をデジタル処理して求めることもできる。
(光学読取装置の実施例7)
次に光学読取装置の実施例7について説明する。この実施例の場合もカード80ならびにマーク84の構成などは、前記実施例5と同様であるからそれらの説明は省略する。
この実施例に係る光学読取装置は、図53にその概略的な構成を示す如く、略一定の時間間隔で周期的に断続しながら光85を放出する光照射手段160と、光85の照射位置から放出される入射光94を入力して電気信号に変換する光電変換手段162と、前記入射光94のうちから蛍光86を選択的に取り込む光学的濾波手段161と、前記光照射手段160の光85の照射期間と90度位相がずれたタイミングで同期をとりながら、前記光電変換手段162からの出力信号の半分を反転増幅する波形整形手段163と、その波形整形手段163の出力信号から直流成分を選択的に取り出す低域通過型濾波手段164、その濾波手段164から出力される検出電圧を比較電圧と比較して、検出電圧が比較電圧を超えると所定のマーク信号を出力する比較手段165を備えている。
この光学読取装置を具体的に説明すると図54に示す如く、カード80の走行部166と、カード80上のマーク84に対する光照射部167と、光85が照射されたマーク84上の位置から放出される光94を電気信号に変換する光電変換部168と、変換された電気信号中からマーク84の形成位置に対応したマーク信号S28を出力するマーク検出部169と、検出したマーク信号S28からカード80上のデータ内容を判定するデータ処理部170とから構成される。
前記カード走行部166は、カード80の挿入時期に対応してモータ駆動回路171で回転駆動されるローラ172によってカード80の両側縁を支持しながら、例えば毎秒200〜400mm程度の一定速度で水平移行させることにより、カード80の上面側に蛍光体をもって形成されたバーコード状のマーク84が、光照射部167と光電変換部168の下方位置を通過する。このモータ駆動回路171の動作時期に関するデータは、データ処理部170に対して送られ、マーク内容を判定するためのデータ処理の必要時期を知らせる。
光照射部167は、図56(a)で例示するクロック信号S20を発生する発振回路173と、このクロック信号S20にタイミングを合わせて駆動信号S21と2種類の制御信号S22,S23とを個別に形成する信号発生回路174と、駆動信号S21を電力増幅する発光源駆動回路175と、その発光源駆動回路175により光85を発生する発光源176とから構成される。
発振回路173は図56(a)に示す如く、例えば250μsec程度の一定時間間隔をもってパルス状のクロック信号S20を連続して発生する。
信号発生回路174は図55に示す如く、2つのD型フリップフロップ177,178を備え、両者のクロック信号入力端179,180を互いに発振回路173の出力端と並列に接続する。第1フリップフロップ177のデータ入力端181と第2フリップフロップ178の反転出力端182との間、第1フリップフロップ177の非反転出力端42と第2フリップフロップ178のデータ入力端184とを互いに直結している。
かかる構成により、第1フリップフロップ177の非反転出力端183からは、クロック信号S20が2つ入力される毎に、約500μsecの時間間隔でその出力レベルが反転する矩形波状の駆動信号S21が出力される。更に第2フリップフロップ178の非反転出力端184からは駆動信号S21と周波数が等しく且つ位相が90度遅れた第1制御信号S22が、反転出力端182からは駆動信号S21と周波数が等しく且つ位相が90度進んだ第2制御信号S23が各々出力される。
発光源駆動回路175は駆動信号S21の入力と連動してオンされるトランジスタスイッチ45であって、エミッタ・ベース間にツェナーダイオード186を接続してベース電圧を制限する一方、コレクタと直列に発光素子187を繋いでいる。
発光源176は、発光中心波長が800nm付近の近赤外線を発生する発光ダイオードの様な発光素子187における光放出部分に、グラスファイバー製の光ガイドを取り付けたものである。この光ガイドの先端を、カード80の表面に対して2mmあるいはそれ以下の距離にまで接近させるとともに、光ガイドの全体をマーク84の移行方向と直交する面上で且つ水平方向から45〜60゜の傾斜角を設けて配置している(図44参照)。
前記光電変換部168は、入射した光を電流の変化に変換する検出器188と、電流を電圧に変換したのち所定大きさに増幅する交流増幅回路189とから構成される。
検出器188は、赤外域に受光感度を有するフォトダイオードやフォトセルのような受光素子の受光面上に、マーク84から発生される蛍光86を選択的に通す光学フィルタを介し、発光源176側と略同様な光ガイドを固定している。
検出器188側の光ガイドの先端を、発光源176側の光ガイドの先端に隣接させ、マーク84の移行方向と直交する面上で且つ例えば105〜115゜程度の傾斜角を設けることにより、マーク84の表面に対する照射光85の照射位置から発せられる光94を取り込む。この取り込まれた光94は、光学フィルタで蛍光86の波長成分以外の反射光109や外部光190(図53参照)を可及的に減衰させたのち、受光素子で入射光の強度に比例した電流に変換される。
更に交流増幅回路189で所定の電圧値に増幅されたあと、図56(e)で例示する検出信号S24としてマーク検出部169に入力され、マーク形成位置に対応した信号S28が選択して取り出される。
この実施例はマーク検出部169の構成に特徴を有し、図54および図55に示す如く、第1および第2制御信号S22,S23を利用して、検出信号S24を図56(f)で例示する所定の信号S25に整形する同期整流回路191と、信号S25から交流成分を取り除いて蛍光86の検知に対応して増減する信号S26を出力する低域通過型濾波回路192と、有為な信号S26の入力が判断されるとマーク信号S28を出力する比較回路193とから構成される。
前記同期整流回路191は、OPアンプ194を使用した差動増幅回路195における2つの入力端196,197を並列に接続して検知信号S24を入力して、各入力端196,197と直列にアナログスイッチ198,199を介挿し、更に各アナログスイッチ198,199を個別に制御信号S22,S23を使用してオンオフ制御する。
すなわち、OPアンプ194のプラス側入力端196に接続されたアナログスイッチ198を第1制御信号S22における「H」レベルの期間に対応してオンさせる一方、マイナス側入力端197に接続されたアナログスイッチ199を第2制御信号S23における「H」レベルの期間に対応してオンさせる。
ここで、第1制御信号S22における「H」レベルの期間は発光素子による光85の照射期間と90度位相が遅れた期間であるのに対し、第2制御信号S23における「H」レベルの期間は90度位相が進んだ期間である。従って、同期整流回路191に入力された検知信号S24のうち、光照射された後半時期と光照射が停止された前半期間とがアナログスイッチ198を介してプラス側入力端196に、光照射が停止された後半期間と光照射された前半期間とがマイナス側入力端197に各々分離されて入力される。
その結果、同期整流回路191の出力側からは、図56(f)で示す如く、検知信号S24のプラス側入力端196に対する入力期間は非反転増幅されてプラス電圧の変化として、マイナス側入力端197に対する入力期間は反転増幅されてマイナス電圧の変化として信号S25が取り出される。
ところで、検知信号S24の変化は、マーク84上に光85が照射されていない期間においては、マーク84およびそのカード80からの反射光109のみであるから、図56(e)の一点鎖線で示すように矩形波状になる。従って、同期整流回路191からの出力信号も図56(f)中の斜線部分のように、反射光成分の前半部分が反転、後半部分が非反転され、プラス側とマイナス側の値が相等しい信号として取り出される。
一方、照射光85がマーク84上を走査すると、蛍光86の残光性に起因して、図56(e)において実線で示すように、光照射時から指数関数的に蛍光成分が増加し、光照射を停止時から指数関数的に蛍光成分が減少する。従って、同期整流回路191からの出力信号S25も蛍光成分が大きい期間が選択的に非反転増幅され、小さい期間が反転増幅される結果、プラス側の方がマイナス側より十分に大きい信号として取り出される。
そこで本実施例にあっては、同期整流回路191からの出力信号S25を更に低域通過型濾波回路192を通して交流成分を除去することにより、直流成分のみを取り出す。すなわち、図56(e)および(f)の一点鎖線で示すようにマーク84上を走査していないときには、プラス側とマイナス側とが等量であるために両者がキャンセルされ、濾波回路192からの出力はない。
しかし、図56(e)の実線で示すマーク84上を走査しているときは、外部光190および反射光109はキャンセルされるが、蛍光94はプラス側の方が圧倒的に大きい。従って、濾波回路192からはプラスの直流電圧として信号S26が取り出される。
この信号S26は更に、OPアンプ200を使用した比較回路193に入力され、定電圧ダイオード201で安定化した電圧を可変抵抗器202で分圧した比較電圧S27とその大きさが比較され、比較電圧S27を上回る有為な信号S26が入力されると、その出力電圧を「H」レベル状態にし、マーク位置の検出を特定するマーク信号S28を出力する。
なお、この実施例では駆動信号S21の周期は約1msecで、マーク84を構成する蛍光体における残光時間の約2倍に設定しているが、周期および残光時間共にその値を適宜変更することもできる。
(光学読取装置の実施例8)
実施例8の光学読取装置を説明するに先立ち、マークの一例を図57に基づいて説明する。同図に示すようにバーコード状のマーク210は、例えばカードなどのワーク211の上に印刷によって形成され、その表面は接着剤層212を介して保護シート213で覆われている。
マーク210は、例えば赤外線の照射によって励起される蛍光体微粒子を透明なバインダ中に分散、保持してなる透明インクをもって形成される。蛍光体微粒子としては、例えば染料名ローダミン6G,チオフラビン,エオシン等の有機化合物、或いはNdP5 O14,LiNdP4 O12,Al3 Nd( BO3 ) 4 等の無機化合物などがある。
バインダとしては、例えばワックス,塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体,エチレン−酢酸ビニル共重合体,ポリエステル,ポリウレタン,カーボネート,それにこれらの混合物などが使用される。なお、必要に応じて可塑剤や界面活性剤などが適量添加される。
印刷形成方法としては、透明インクをベースリボン上に均一に塗布してなるインクリボンをサーマルヘッドに装着し、物品の表面に熱転写する方法、或いは液状の透明インクを物品の表面にスクリーン印刷する方法等がある。
接着剤層212を形成する接着剤としては、マーク210の膨潤あるいは溶解による変形を防止するため、例えばホットメルト接着剤等の非溶剤系の接着剤が用いられる。ホットメルト接着剤としては、エチレン−酢酸ビニル共重合体系,ポリエチレン系,ポリアミド系,ポリエステル系など各種のものを用いることができる。
保護シート213としては、例えば塩化ビニル系,ポリエステル系などの透明樹脂シートが用いられる。マーク210の下地には、光の反射率を高めて、マーク210から検出される信号の信号レベルを高めるため、白色層を形成することもできる。
同図に示すように、使用する蛍光体の励起波長に合った中心波長を有する赤外線214をマーク210に向けて照射すると、蛍光体微粒子は赤外線214を受けて励起され、赤外線214の中心波長とは異なる特定波長の蛍光215を発っする。この蛍光215を受光器にて受光して電気信号に変換し、2値化すれば、マーク210のバーコードパターンに対応する2値化信号が得られ、マーク210が有している情報を読み取ることができる。
図58は実施例に係る光学読取装置の構成図で、同図に示すように光学読取装置は、投光部216と、受光部217と、光学フィルタ218と、増幅部219と、増幅部219の増幅率を最大にする第1の増幅率設定部220と、増幅率を中位にする第2の増幅率設定部221と、増幅率を最小にする第3の増幅率設定部222と、信号検出部223と、信号検出部223に駆動クロックを与えるクロック信号発生器224を備えている。
前記信号検出部223は、アナログ再生信号aをデジタル信号に変換するA/D変換部225と、A/D変換部225により得られた2値化信号からバーコード信号を解析するCPU226と、プログラムメモリや作業メモリ等からなるメモリ装置227と、入出力を制御するI/Oポート228などから構成されている。
A/D変換部225に取り込まれたアナログ再生信号aの状態から好ましい増幅率を割り出し、CPU226からの指令に基づいて、増幅率設定部220,221,222のいずれかを選択する信号を、I/Oポート228から出力する。また、信号検出部223は、メモリ装置227に格納されたプログラムに基づいてアナログ再生信号aからバーコード信号を再生し、I/Oポート228から出力する。
この光学読取装置229は図59に示すように、ワーク21の通過経路230に対向して配置される。この通過経路230を介して、光学読取装置229に搭載された投光部216及び受光部217と対向する部分には、反射体231が配置される。この投光部216と受光部217と反射体231とは、投光部216から投光された赤外線が反射体231によって反射され、その反射光が受光部217に入射して、受光部217の出力信号レベルが飽和レベルになるように調整される。
次にこの装置におけるマークの読み取り手順を、図60〜図62に基づいて説明する。
装置が起動されると、CPU226からの指令に基づいて第1の増幅率設定部220が選択されて、増幅部219の初期増幅率が設定され(240)、しかる後に241に移行し、ワーク211の通過待ちになる。
ワーク211の通過待ち段階、即ち投光部216からは赤外線の照射が開始されているが、投光部216及び受光部217と反射体231との間にワーク211が存在しない段階では、投光部216から照射された赤外線が反射体231で反射され、その反射光が受光部217に入射するため、図61(a)のA領域のように、アナログ再生信号aは飽和レベルVref となる。
投光部216及び受光部217と反射体231との間をワーク211が通過すると、まず、ワーク211のマーク210が印刷されていない部分(いわゆる下地)に赤外線が照射され、その反射光が受光部217に受光される。一般に、ワーク211の反射率は、反射体231の反射率よりも低いので、図61(a)のB領域のようにアナログ再生信号aのレベルは低下する。
この段階で、CPU226による処理は242に移行し、アナログ再生信号aのレベルを判定する。下地部分のアナログ再生信号aのレベルが、ゲイン切り換え判定レベルVth以上であると判定された場合[図61(a)の下地(1),(2)に対応する場合]は、CPU226からの指令により第2の増幅率設定部221が選択され、増幅部219の増幅率が中位まで下がる(243)。これにより下地(1),(2)のアナログ再生信号aのレベルは、図60(a)に破線で示すように、ゲイン切り換え判定レベルVth以下に低下する。
242で下地部分のアナログ再生信号aのレベルがゲイン切り換え判定レベルVth以下であると判定された場合[図61の下地(3),(4)に対応する場合]、及び243で増幅部219の増幅率が低下された後は244に移行し、マーク210の到来を待つ。マーク210が到来してそれに赤外線が照射されると、マーク210中の蛍光体が励起されて蛍光を発するため、アナログ再生信号aのレベルが上昇する。
この段階でCPU226による処理は245に移行し、アナログ再生信号aのレベルを判定する。マーク210のバーコード部分におけるアナログ再生信号aのピーク値が、ゲイン切り換え判定レベルVth以上であると判定された場合(図61(b)の下地(1),(2)に対応する場合)は、CPU226からの指令により第3の増幅率設定部222が選択され、増幅部219の増幅率が最低値まで下がる(246)。これにより下地(1),(2)のアナログ再生信号aのピーク値は、図60(b)に破線で示すように、ゲイン切り換え判定レベルVth以下に低下する。
245で、バーコード部分におけるアナログ再生信号aのピーク値がゲイン切り換え判定レベルVth以下であると判定された場合〔図61(a)の下地(4),(4)に対応する場合〕、及び246で増幅部219の増幅率が低下された後は、247に移行し、マーク210の最終バーまで2値化する。
図62に受光部217の出力信号波形と、増幅部219から出力されるアナログ再生信号波形と、信号検出部223より出力される2値化信号とを示す。同図(a)は受光部217の出力信号波形図、同図(c)は信号検出部223より出力される2値化信号図、同図(b)は第1の増幅率設定部220が選択された場合のアナログ再生信号波形図、同図(b´)は第2の増幅率設定部221が選択された場合のアナログ再生信号波形図、同図(b´´)は第3の増幅率設定部222が選択された場合のアナログ再生信号波形を示す図である。
この図62から明らかなように、アナログ再生信号のレベル及び振幅に応じて適宜増幅部219の増幅率を切り換え、アナログ再生信号のレベル及び振幅を所定の値に揃えると、予め設定された特定レベルのスライス信号VT でアナログ再生信号をスライスすることにより2値化信号を得ることができる。
本実施例の光学読取装置は、アナログ再生信号aのレベル及び振幅に応じて増幅器219の増幅率を3段階に切り換え、アナログ再生信号aを予め設定された特定レベルのスライス信号VT に常に合致させるようにしたので、ワーク211の物性の相違によってマークからの信号の読み取りが不正確になったり不可能になるということがなく、汎用性及び信頼性に優れる。また、1つのスライス信号VT でアナログ再生信号aをスライスして2値化信号を得るので、信号検出部223の構成を簡単にすることができる。
本実施例では、アナログ再生信号aのレベル及び振幅、即ちワーク211からの反射光成分及びマーク210からの蛍光に応じて増幅器219の増幅率を3段階に切り換えたが、2段階又は4段階以上の多段階に切り換えることもできる。さらに、増幅率設定部として例えば電子ボリュームなどを用いることにより、増幅器219の増幅率を無段階に変更することもできる。
本実施例では、アナログ再生信号aのワーク211からの反射光成分及びマーク210からの蛍光に応じて増幅器219の増幅率を切り換えたが、ワーク211からの反射光成分のみに応じて増幅器219の増幅率を切り換えることもできる。
(光学読取装置の実施例9)
前記実施例では投光部216及び受光部217と対向に反射体231を配置したが、反射体231に代えて図63に示すように、投光部216から照射される光を吸収する吸収体249を配置することもできる。
この場合はワーク211の通過待ち段階において、投光部216から照射された赤外線が吸収体249により吸収され、受光部217にほとんど光が入射しないため、図64(a)のA領域のように、アナログ再生信号aはほぼグランドレベルAGND となる。
投光部216と吸収体249の間にワーク211が通過すると、ワーク211からの反射光が受光部217に入射するため、図64(a)のB領域のように、アナログ再生信号aが上昇する。
さらに、マーク210が到来し、赤外線がマーク210に照射されると、それを構成する蛍光体からの蛍光が併せて受光部217に入射するため、図64(a)のC領域のように、アナログ再生信号aがさらに上昇する。従って、B領域のアナログ再生信号レベルが予め設定されたゲイン切り換え判定レベルVthを超えているか否かを判定し、超えている場合には増幅部219の増幅率を下げることによって、実施例8と同様の信号再生を実施できる。
(光学読取装置の実施例10)
図65に実施例10に係る光学読取装置の増幅部及び信号検出部の構成を示す。同図に示すようにこの実施例の光学読取装置は、第1のオペアンプ250と第1〜第3の抵抗器R1 ,R2 ,R3 とからなる第1の差動増幅器251と、第2のオペアンプ252と第4〜第6の抵抗器R4 ,R5 ,R6 とからなる第2の差動増幅器253と、第1のオペアンプ251に接続された第1のコンパレータ254と、その第1のコンパレータ254のスライスレベルを設定する第1の可変抵抗器VR1 と、第2のオペアンプ253に接続された第2のコンパレータ255と、その第2のコンパレータ255のスライスレベルを設定する第2の可変抵抗器VR2 と、前記第1のコンパレータ254の出力信号fをトリガとして、トリガごとに所定幅のパルスを発生するワンショットマルチバイブレータ256と、そのワンショットマルチバイブレータ256の出力信号を反転するインバータ257と、前記第2のコンパレータ255の出力信号gと前記インバータ257の出力信号hとの論理積をとるアンドゲート258と、そのアンドゲート258の出力信号iと前記第1のコンパレータ254の出力信号fとの論理和をとるオアゲート259を備えている。
この実施例では、第1の差動増幅器251の増幅率が低く、第2の差動増幅器253の増幅率が高く調整され、かつ第1のコンパレータ254のスライスレベルと第2のコンパレータ255のスライスレベルとが同一の値に設定されている。また、ワンショットマルチバイブレータ256より出力されるパルスのパルス幅は、マーク(バーコード)を構成するバーとバーとの間の最も隙間が短い部分を投光でスキャンさせたときに要する時間と同一に調整されている。
次にこの光学読取装置の動作について説明する。
図66は、第1の差動増幅器251から出力される第1のアナログ再生信号a1 を示している。同図のAは、ワーク(下地)からの反射光レベルが小さく、マークからの蛍光レベルが大きい場合の信号を示しており、Bはワークからの反射光レベル及びマークからの蛍光レベルが共に小さい場合の信号を示しており、Cはワークからの反射光レベルが大きく、マークからの蛍光レベルが小さい場合の信号を示している。この第1のアナログ再生信号a1 を第1のコンパレータ254で2値化すると、図68(a)の2値化信号fが得られる。
図67は、第2の差動増幅器253から出力される第2のアナログ再生信号a2 を示している。同図のA´は図66のAに対応し、B´は図66のBに対応し、C´は図66のCに対応する。この第2のアナログ再生信号a2 を第2のコンパレータ255で2値化すると、図68(b)の2値化信号gが得られる。
インバータ257の出力信号hは、ワンショットマルチバイブレータ256より出力されるパルスのパルス幅が、マーク(バーコード)を構成する各バーとバーとの間の最も隙間が短い部分を投光でスキャンさせたときに要する時間と同一に調整されているので、図68(c)のようになる。
従って、前記第2のコンパレータ255の出力信号gと前記インバータ257の出力信号hとの論理積をアンドゲート258でとると、その出力信号iは図68(d)のようになる。このアンドゲート258の出力信号iと前記第1のコンパレータ254の出力信号fとの論理和をオアゲート259でとると、その出力信号jは図68(e)のようになり、これによってバーコード信号が検出される。
本実施例では、高レベルの検出信号に対応する第1の2値化信号fと低レベルの検出信号に対応する第2の2値化信号gとを別個に生成し、それらの信号の論理積及び論理和をとることにより全体のアナログ再生信号に対応する2値化信号を得るようにしたので、1つのワーク上に形成された一連のマークから検出される検出信号が部分的にレベル変動を伴う場合であっても、正確な情報を確実に読み取れる。
本実施例にでは、2つのコンパレータ254,255のスライスレベルを一定にしたが、必要に応じてスライスレベルを互いに異なる値に設定することもできる。
(光学読取装置の実施例11)
本実施例は、図65に示す光学読取装置において、2つの差動増幅器251,253の増幅率を同一に設定すると共に、2つのコンパレータ254,255のスライスレベルを互いに異なる値に設定している。
本実施例の場合は図69に示すように、第1の差動増幅器251及び第2の差動増幅器253から出力されるアナログ再生信号aが同一レベルになり、このアナログ再生信号aが第1のコンパレータ254に設定された第1のスライス信号S1 と第2のコンパレータ255に設定された第2のスライス信号S2 とでスライスされる。
第1のスライス信号S1 は、アナログ再生信号aの高レベル部分A及びCをスライスし、図68(a)に対応する2値化信号fを生成する。一方、第2のスライス信号S2 は、アナログ再生信号aのうちの低レベル部分Bをスライスし、図68(d)に対応する2値化信号gを生成する。従って、これら第1のコンパレータ254の出力信号fと第2のコンパレータ255の出力信号gとの論理和をオアゲート258でとることにより図68(e)の出力信号jを得ることができ、部分的にレベル変動を伴う検出信号からマーク情報を確実に読み取れる。
なお、前記実施例では、差動増幅器とコンパレータとを2つずつ備えた場合について説明したが、これら差動増幅器及びコンパレータをもっと多くすることもできる。差動増幅器とコンパレータの数量を多くすれば、より複雑な検出信号又はアナログ再生信号からも正確な情報の読み取りが可能になる。
本発明の光学読取システムは、前述の他に次のような用途ならびに特徴も有している。
1.ファクトリーオートメーション(FA)関係
自動車などの組み立て時の管理、すなわち車種別、輸出先国別、製造年月日や製造ロット別などを潜像マークを用いて、外観を損ねることなく管理できる。
2.従来の反射型のバーコードでは読み取れなかった、例えばタイヤなどのような黒い物、あるいはガラスや合成樹脂などの透明な物へマーキングしても、そのマークの読み取りが可能である。
3.潜像マークの上に文字やデザインを印刷しても潜像マークを読み取ることができるから、情報保持の重畳化が可能で、商品の値札や商品タグなどの狭いスペースが有効に利用できる。
4.前記1.ならびに3.と同じ理由から、化粧品や薬などデザインも重視する商品、あるいは高級感が要求される各種の化粧箱やパッケージへの利用が有効である。
5.工場や現場などでは油やホコリで汚れるため従来の反射型のバーコードでは使用できなかった環境下においても、潜像マークでは読み取りが可能である。
6.前記1.ならびに3.と同じ理由から、顧客への納品伝票(通常、納品伝票は顧客の指定する用紙、フォーマットで顧客が必要な情報しか記入されない)に、隠しコードとしてメーカ側の管理情報をもたせることができる。
7.カード状のものに隠しコードとして情報を入れ、ゲームカード(バーコードゲーム)として使用可能である。
8.前記1.ならびに3.と同じ理由から、書籍の管理、図書の管理、図面の管理などに用いれば、デザインを損なうことがない。
9.偽造、変造、改ざんが極めて困難であるから、入退室管理、出退勤管理、ホテルの如きキーカードなどに適用できる。
10.学生証、IDカードなどの偽造、変造、改ざんが防止できるとともに、小型化、省スペース化が可能である。
11.スタンプカードやポイントカードなどの偽造、変造、改ざんが防止できるとともに、小型化、省スペース化が可能である。
12.パチンコの景品交換システムに導入して、偽造、変造、改ざんが防止できる。