JP2005274630A - 全固体型調光ミラー光スイッチ - Google Patents

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Abstract

【課題】 全固体型調光ミラー光スイッチ及びその製造方法等を提供する。
【解決手段】 透明な基材に多層薄膜を形成した調光ミラー光スイッチ素子であって、基材の上に、イオンストレージ層、固体電解質層、プロトン注入層、及びマグネシウム・ニッケル系合金薄膜を用いた調光ミラー層を形成したことを特徴とする全固体型調光ミラー光スイッチ素子、透明な基材に多層薄膜を形成した調光ミラー光素子を製造する方法であって、基材の上に、イオンストレージ層、固体電解質層、プロトン注入層、及びマグネシウム・ニッケル系調光ミラー層を積層することを特徴とする全固体型調光ミラー光スイッチ素子の製造方法、及びその応用製品。
【効果】 光ファイバー通信用の高性能光スイッチ素子を提供できる。
【選択図】なし

Description

本発明は、マグネシウム薄膜を用いた全固体型調光ミラー光スイッチに関するものであり、更に詳しくは、電気信号によりガラス表面を鏡状態から透過状態へ可逆的に変化させることで信号光の経路を変化させる新規な光スイッチに関するものである。本発明は、例えば、光通信ネットワークに欠かせない光スイッチの技術分野において、従来の機械式、MEMSベースの光スイッチは、信頼性の低下につながる可動部があることから、可動部のない方式の開発が望まれていたことや、導波路型光スイッチは、信号減衰量が大きい、偏波依存性が高い等があり、その改善が望まれていたこと等の問題点があったことを踏まえて、それらの諸問題を解決することが可能な新しい全固体型調光ミラー光スイッチ素子とその応用製品を提供することを可能とするものであり、特に光通信や次世代の光コンピューターにおける光スイッチとして有用である。
インターネットの普及等により、情報の伝送容量ニーズは、5年で、10〜100倍の増加をしている。しかし、いまのネットワークのままでは、高速化や大容量化、低コスト化に限界があるため、電気信号による処理を一切行わない「オール光ネットワーク」への期待が高まっている。ネットワークの全光化に欠かせないのが、光ファイバーを通ってきた光信号の行き先を、そのまま電気信号に変換することなく切り替えられる「光スイッチ素子」である。光スイッチの利点としては、設備コストが大幅に削減できるほか、消費電力の増大や設置場所の確保といった問題を解決できることであり、更に、電気信号であると、半導体技術などによる制約が大きい信号処理速度の上限をなくすことにもつながる。
基幹線・市内(メトロ系)・家庭(アクセス系/FTTH:Fiber to the home )の全ての部分において、光スイッチは、重要な素子となり、今後の発展が期待されるものである。このような光の経路をコントロールする機能を有する光スイッチには、いくつかの種類があり、例えば、機械式光スイッチ、MEMS(Micro-Electro Mechanical System) ベースの光スイッチ、及び導波路型光スイッチなどがある。
10年以上の歴史のある機械式光スイッチには、プリズムの位置を変化させることにより光路を切り替える1×2光スイッチや、ミラーや光ファイバーを機械的に移動させるタイプなどがある。これらの光スイッチは、スイッチング速度は数ms以上と遅いものの、構造が単純で、低損失、低漏話であるため、各種のものが開発され、光ファイバー通信システムで使用されている。
近年、著しい成長が見込まれるMEMSベースの光スイッチは、半導体微細加工技術をベースにしたマイクロマシン技術を応用したものであり、光ファイバー断面サイズの微少な可動ミラーを作製し、光ファイバーからの光を微少ミラーの角度を変化させることで任意の光ファイバーに反射させることができるものである。しかし、この光スイッチには、光ファイバーの軸あわせとミラー角度の制御に関して高い精度が要求されことや、機械式光スイッチ同様、信頼性の低下につながる可動部があるという欠点がある。
一方、導波路型光スイッチは、石英基板上に光ファイバー製造技術と半導体微細技術を組み合わせた平面光路回路技術で作製される光導波路方式のものであり、熱、光、電気などの外部入力による屈折率の変化と導波路構造とを組み合わせて動作させるものである。このスイッチには、応答速度が速い、小型化が容易等の特長があるが、信号減衰量が大きい、偏波依存性が高い等の問題点がある。これらの問題点をなくすためには、電気信号によりガラス表面を鏡状態と透過状態との間で可逆的に変化させることで、光の進行方向を変える方式が望まれていた。
このような、鏡の状態と透明な状態で変化する材料は、長らく見つかっていなかったが、1996年にオランダのグループにより、イットリウムやランタンなどの希土類の水素化物が、水素により鏡の状態と透明な状態に変化することが発見され、このような材料について調光ミラーと命名された(非特許文献1参照)。これらの希土類水素化物は、透過率の変化が大きく、調光ミラー特性に優れている。しかし、この調光ミラーは、材料として、希土類元素を用いるため、光スイッチなどに用いる場合、資源やコストに問題があった。
その後、2001年に、アメリカのグループにより、マグネシウム・ニッケル合金のMg2 Niが新たな調光ミラー材料として発見された(非特許文献2参照)。この材料は、使用する元素がマグネシウムとニッケルであり、希土類元素に比べて、資源的にもコスト的にも優位である。したがって、この材料は、より光スイッチに適した材料として期待される。ただし、この材料は、鏡の状態のときの反射率は高いが、透明状態になったときの光学透過率が低く(文献で20%)、実用的な材料とするためには、この透明時の透過率を上げる必要があった。
本発明者等は、このマグネシウム・ニッケル合金薄膜の調光ミラー特性の改善に取り組み、マグネシウムに富んだマグネシウム・ニッケル合金薄膜が良好な調光特性を有することを見いだし、マグネシウム・ニッケル合金薄膜を用いた調光ミラーガラスを開発した(特許文献1参照)。これまで、イットリウムやランタン等の希土類金属の水素化物、希土類金属とマグネシウムもしくはガドリニウム合金の水素化物、及びマグネシウム・ニッケル合金の水素化物等が知られている。この中で、可視光領域から赤外領域にいたる波長における透過率及び反射率の変化の大きさからは、マグネシウムに富んだマグネシウム・ニッケル合金薄膜が最も適している。
上記のマグネシウムに富んだマグネシウム・ニッケル合金薄膜は、透明時の可視光透過率が約50%であり、従来報告されているMg2 Niの可視光透過率20%に比べて大きく向上しており、水素ガスと酸素ガスを交互に曝すガスクロミック方式や、塩基性の電解液を用いるエレクトロクロミック方式などにより良好なスイッチング特性を示す。しかし、この調光ミラー素子を光スイッチ等として用いるためには、ガスや溶液を用いず調光できる全固体型のエレクトロクロミック方式が強く望まれていた。
特開2003−335553号公報 J.N.Huiberts,R.Griessen,J.H.Rector,R.J.Wijngaarden,J.P.Dekker,D.G.de Groot,N.J.Koeman,Nature 380(1996)231 T.J.Richardson,J.L.Slack,R.D.Armitage,R.Kostecki,B.Farangis,and M.D.Rubin,Appl.Phys.Lett.78(2001)3047
このような状況の中で、本発明者等は、上記従来の問題点を踏まえ、それらの諸問題を抜本的に解決することが可能な新しいタイプの光スイッチを開発することを課題として鋭意研究を積み重ねた結果、透明な基材に特定の多層薄膜を形成して作製した調光ミラー光スイッチ素子が所期の特性を発揮することを見出し、更に研究を重ねて、本発明を完成するに至った。本発明は、調光ミラー特性を有するマグネシウム・ニッケル系合金薄膜等を用い、ガスや電解液を用いない全固体型とするために、イオンストレージ層、固体電解質層、プロトン注入層及び調光層を積層した、多層構造を有し、電気信号によりガラス表面を鏡状態から透過状態へ可逆的に変化させることで信号光の経路を変化させることができる全固体型調光ミラー光スイッチを提供することを目的とするものである。
上記課題を解決するための本発明は、以下の技術的手段から構成される。
(1)透明な基材に多層薄膜を形成した調光ミラー光スイッチ素子であって、基材の上に、イオンストレージ層、固体電解質層、プロトン注入層、及びマグネシウム・ニッケル系合金薄膜を用いた調光ミラー層を形成したことを特徴とする全固体型調光ミラー光スイッチ素子。
(2)前記イオンストレージ層と調光ミラー層間に、電圧を印加もしくは電流を流すことことにより、電気的に光の反射及び透過をコントロールする機能を有する前記(1)に記載の光スイッチ素子。
(3)透明な基材の上に、イオンストレージ層として、遷移金属酸化物薄膜を形成する前記(1)に記載の光スイッチ素子。
(4)固体電解質層として、イオンストレージ層の上に、透明酸化物薄膜を形成する前記(1)に記載の光スイッチ素子。
(5)プロトン注入層として、固体電解質層の上に、パラジウムもしくは白金を含む層を形成する前記(1)に記載の光スイッチ素子。
(6)調光ミラー層として、プロトン注入層の上に、マグネシウム・ニッケル系合金薄膜を形成する前記(1)に記載の光スイッチ素子。
(7)マグネシウム・ニッケル系合金が、Mgx Ni(0.1<x<0.3)である前記(6)に記載の光スイッチ素子。
(8)作製時にイオンストレージ層もしくは調光ミラー層のいずれかを水素化したことを特徴とする前記(1)に記載の光スイッチ素子。
(9)透明な基材とイオンストレージ層の間に、透明導電膜及び金属膜のいずれかを有する前記(1)に記載の光スイッチ素子。
(10)透明導電膜又は金属膜が、パターニングされている前記(9)に記載の光スイッチ素子。
(11)調光ミラー層の上に、透明導電膜及び金属膜のいずれかを有する前記(1)に記載の光スイッチ素子。
(12)透明導電膜及び金属膜が、パターニングされている前記(11)に記載の光スイッチ素子。
(13)透明な基材に多層薄膜を形成した調光ミラー光素子を製造する方法であって、基材の上に、イオンストレージ層、固体電解質層、プロトン注入層、及びマグネシウム・ニッケル系調光ミラー層を積層することを特徴とする全固体型調光ミラー光スイッチ素子の製造方法。
(14)前記(1)から(12)のいずれかに記載の光スイッチ素子を構成要素として含むことを特徴とする光ファイバー用光スイッチ部材。
(15)前記(14)に記載の光スイッチ部材を光スイッチとして使用したことを特徴とする光ファイバー通信システム。
次に、本発明について更に詳細に説明する。
本発明は、全固体であって、電気信号で反射型クロミック特性を示す光スイッチ素子に係るものであり、この光スイッチ素子は、透明な材料にイオンストレージ層、固体電解質層、プロトン注入層、及びマグネシウム・ニッケル系合金薄膜を用いた調光ミラー層の多層構造より構成されることを特徴とするものである。これらの各層を構成する薄膜は、例えば、スパッタリング法、真空蒸着法、電子ビーム蒸着法、化学気相蒸着法(CVD)、めっき法等により作製することができる。しかし、これらの方法に制限されるものではない。これらの各層の成膜は、好適には、例えば、上記マグネトロンスパッタ装置等を利用して行われる。
上記イオンストレージ層としては、プロトン(H+ )を貯蔵、取り出しを可逆的に行うことができ、更に、プロトンを取り出したときに透明になる特性を有する材料が用いられる。この材料としては、遷移金属化合物薄膜、好適には、例えば、酸化タングステン薄膜、酸化ニオブ薄膜等が用いられる。これらの酸化タングステンや酸化ニオブは、水素化すると濃い青色に着色するため、調光ミラー層が鏡状態の時の透過率が下がり、透明状態と鏡状態における透過率のコントラスト比を高める働きもしている。しかし、薄膜材料としては、これらに限定されるものではなく、これらと同効のもの、あるいはこれらに他の成分を加えた改質材料であれば同様に使用することができる。このイオンストレージ層は、好適には、例えば、透明な材料に、透明導電膜及び金属膜のいずれかをコーティングした基板上に、約500nm程度成膜して形成される。しかし、イオンストレージ層の形成方法及びその形態は、特に制限されるものではない。
また、上記透明な基材としては、好適には、例えば、アクリル、ポリエチレン、プラスティック、透明シート、ガラスなどが例示される。しかし、これらに限らず、これらと同効のものであれば同様に使用することができる。
また、上記固体電解質層としては、透明で電圧及び電流によってプロトンが容易に移動できる特性を有する材料が用いられる。この材料としては、透明酸化物薄膜、好適には、例えば、酸化タンタル薄膜、酸化ジルコニウム薄膜等が用いられる。しかし、これらに限定されるものではなく、これらと同効のもの、あるいはこれらに他の成分を加えた改質材料であれば同様に使用することができる。この固体電解質層は、上記イオンストレージ層の薄膜表面上に約500nm程度成膜して形成される。しかし、固体電解質層の形成方法及びその形態は、特に制限されない。
また、上記プロトン注入層は、下層の固体電解質層と上層の調光ミラー層におけるプロトンの出入りを促進させるための層であり、好適には、例えば、パラジウムもしくは白金を全部又は一部に含む層が用いられる。しかし、これらに限定されるものではなく、これらと同効のもの、あるいはこれらに他の成分を加えた改質材料であれば同様に使用することができる。このプロトン注入層は、上記固体電解質層の薄膜表面上に0.5nm−10nm成膜して形成される。また、このプロトン注入層は、調光ミラー層が固体電解質層と直接接触するのを防ぐ役割も担っている。
次に、上記調光ミラー層としては、マグネシウム・ニッケル系合金薄膜等が用いられる。この調光ミラー層は、好適には、マグネシウム・ニッケル系合金薄膜を約40nm程度成膜することにより形成される。マグネシウム・ニッケル系合金としては、好適には、例えば、Mgx Ni(0.1<x<0.3)が例示されるが、これに限らず、これらと同効のものであれば、Mg−Ni合金に他の任意の成分を加えた改質材料も同様に使用することができる。
上記光スイッチ素子では、スイッチング特性を発現させるために、上記イオンストレージ層もしくは上記調光層のどちらか一方が、成膜時において水素化されていることを特徴とする。水素化の方法としては、好適には、例えば、水素ガスに曝露するガスクロミック方式、もしくは電解液を用いるエレクトロクロミック方式などがあげられる。しかし、水素化の方法及びどちらを水素化するかは、特に制限されない。
更に、透明な基材とイオンストレージ層間及び調光ミラー層の上に透明導電膜又は金属膜を形成することができるが、これらの材料としては、透明導電膜としては、好適には、例えば、スズをドープした酸化インジウム、フッ素をドープした酸化スズ、膜厚10nm以下の非常に薄い金などが例示され、金属膜としては、好適には、例えば、金、銀、銅やその合金などが例示される。しかし、これらに限らず、これらと同効のもの、あるいはその改質材料であれば同様に使用することができる。
上記透明導電膜及び金属膜は、透過率を向上させるために、パターニングされることが望ましい。しかし、その形態は、特に限定されるものではなく、これらと同効のものであれば同様に使用することができる。
全固体型調光ミラー光スイッチ素子の調光方法は、イオンストレージ層と透明な基材との間の電極と調光ミラ−層の上の電極に電圧を印加もしくは電流を流すことによって行う。すなわち、例えば、スイッチ素子が鏡状態にある時、調光ミラー層側の電極に正の電圧を印加すると透明状態に、逆にスイッチ素子が透明状態にある時、調光ミラー層側の電極に負の電圧を印加すると鏡状態に戻る。
本発明により、1)全固体型調光ミラー光スイッチ素子を提供することができる、2)この光スイッチ素子により、物性変換を応用して、反射から透過へと可逆的に光の進行方向を変えることができる、3)ネットワークの全光化に欠かせない高性能の光スイッチ素子を提供できる、4)オール光ネットワーク化を可能とする新規光スイッチ素子を提供できる、という格別の効果が奏される。
次に、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
まず、図1を参照して、本発明の実施例について説明する。本発明では、図1に示す光スイッチ素子を作製した。以下に、その作製方法について具体的に説明する。透明導電膜であるスズドープした酸化インジウムをコーティングした厚さ1mmのガラス板を基板として用い、これを洗浄後、真空装置の中にセットして真空排気を行った。前記基板上に酸化タングステン薄膜の蒸着をマグネトロンスパッタ装置で行った。成膜は、アルゴンと酸素の混合雰囲気中で金属タングステンターゲットをスパッタリングする反応性スパッタリング法を用いることによって行った。混合雰囲気は、アルゴンガスと酸素ガスの流量を制御することより制御された。アルゴンガスと酸素ガスの流量比は1.4:1であり、真空槽内の圧力は1Paとして、直流スパッタ法によりタングステンに60Wのパワーを加えてスパッタを行った。作製された酸化タングステン薄膜の膜厚は、約500nmであった。
上記酸化タングステン薄膜上に、酸化タンタル薄膜をRFスパッタ法により作製した。成膜はアルゴンと酸素の混合雰囲気中で酸化タンタルターゲットをスパッタリングすることにより行った。混合雰囲気は、アルゴンガスと酸素ガスの流量を制御することより制御された。アルゴンガスと酸素ガスの流量比は1.4:6であり、真空槽内の圧力は10Paとして、RFスパッタ法により酸化タンタルに50Wのパワーを加えてスパッタを行った。作製された酸化タンタル薄膜の膜厚は、約500nmであった。
得られた膜とフッ素ドープした酸化スズをコーティングしたガラス板を用いて、図2に示すようなセルを作製し、その中に1Nの硫酸水溶液を入れ、得られた膜側に−3Vの電圧を印加して酸化タングステン薄膜中にプロトンを貯蔵させた。この際、酸化タングステン薄膜にプロトンが貯蔵されるに従って膜は濃紺に着色していった。そのときの光学透過率の変化を波長670nmの半導体レーザーとシリコンフォトダイオードを組み合わせた測定システムで測定した。
濃紺に着色した酸化タングステン/酸化タンタル2層膜を、洗浄後、再び真空装置の中にセットして真空排気を行った。前記2層膜の表面に、マグネシウム・ニッケル合金薄膜調光層の蒸着を、3連のマグネトロンスパッタ装置で行った。3つのスパッタ銃に、ターゲットとして、それぞれ、金属マグネシウム、金属ニッケル、それに金属パラジウムをセットした。成膜にあたっては、まず、パラジウムをスパッタしてプロトン注入層であるパラジウム薄膜を約4nm蒸着した。スパッタ中のアルゴンガス圧は、0.4Paであり、直流スパッタ法によりパラジウムに40Wのパワーを加えてスパッタを行った。その後、アルゴンガス圧を、0.2Paとして、マグネシウムに40W、ニッケルに8Wのパワーを加えてマグネシウム・ニッケル合金を約40nm蒸着した。このときのマグネシウムとニッケルの組成は約MgNi0.2 であった。更に、マグネシウム薄膜に、インジウムで電極をとった。このスイッチ素子は、初期状態は鏡状態であった。
得られた多層膜を、図3に示すような評価装置にとりつけ、その光学的なスイッチング特性を調べた。前記スズドープした酸化インジウムと前記インジウムの間に±6Vの電圧を印加し、そのときの光学透過率の変化を波長670nmの半導体レーザーとシリコンフォトダイオードを組み合わせた測定システムで測定した。
作製直後の多層膜は、調光層であるマグネシウム・ニッケル合金薄膜が金属光沢を持つため、光をよく反射し、イオンストレージ層である酸化タングステン薄膜が濃紺に着色しているため、透過率は極めて低い(光学透過率:〜0.01%)。この多層膜に、インジウム電極側に−6Vの電圧を印加すると、電場の影響で酸化タングステン薄膜中のプロトンが抜けて、固体電解質中を伝導し、プロトン注入層からマグネシウム・ニッケル合金薄膜中に導入される。この結果、酸化タングステン薄膜は、透明になり、マグネシウム・ニッケル合金薄膜も水素化が起こり、透明化した(光学透過率:〜48%)。このときの光学透過率の時間変化を図4に示す。図4では、この変化に約10000秒(約3時間)程度掛かっている。しかし、電場が強い電極の近傍では10分程度で変化した。逆に、インジウム電極側に+6Vを印加すると急速に透過率は減少し、鏡状態に戻った。これにより、本素子は、印加電圧の極性を変化させることによって鏡状態と透明状態へ、可逆的に変化させることが可能であることがわかった。また、このときの変化の様子を示した写真を図5に示す。図5(a)に見るように、この試料は、金属状態では、光を良く反射する鏡状態であるが、これにインジウム電極側に−6Vの電圧を印加すると、同(b)に見るように、向こう側が透けて見える状態に変化している。
次に、図6を参照して、本発明の他の実施例について説明する。本発明では、図6に示す光スイッチ素子を作製した。以下に、その作製方法について具体的に説明する。透明導電膜であるスズドープした酸化インジウムをコーティングした厚さ1mmのガラス板を基板として用い、これを洗浄後、真空装置の中にセットして真空排気を行った。前記基板上に、酸化タングステン薄膜の蒸着をマグネトロンスパッタ装置で行った。成膜は、アルゴンと酸素の混合雰囲気中で金属タングステンターゲットをスパッタリングする反応性スパッタリング法を用いることによって行った。混合雰囲気は、アルゴンガスと酸素ガスの流量を制御することより制御された。アルゴンガスと酸素ガスの流量比は1.4:1であり、真空槽内の圧力は1Paとして、直流スパッタ法によりタングステンに60Wのパワーを加えてスパッタを行った。作製された酸化タングステン薄膜の膜厚は、約500nmであった。
上記酸化タングステン薄膜上に、酸化タンタル薄膜をRFスパッタ法により作製した。成膜は、アルゴンと酸素の混合雰囲気中で酸化タンタルターゲットをスパッタリングすることにより行った。混合雰囲気は、アルゴンガスと酸素ガスの流量を制御することより制御された。アルゴンガスと酸素ガスの流量比は1.4:6であり、真空槽内の圧力は10Paとして、RFスパッタ法により酸化タンタルに50Wのパワーを加えてスパッタを行った。作製された酸化タンタル薄膜の膜厚は、約500nmであった。
透明である酸化タングステン/酸化タンタル2層膜の表面に、マグネシウム薄膜調光層の成膜を、3連のマグネトロンスパッタ装置で行った。3つのスパッタ銃に、ターゲットとして、それぞれ、金属マグネシウム、金属ニッケル、それに金属パラジウムをセットした。成膜にあたっては、まず、パラジウムをスパッタしてプロトン注入層であるパラジウム薄膜を約4nm蒸着した。スパッタ中のアルゴンガス圧は、0.4Paであり、直流スパッタ法によりパラジウムに40Wのパワーを加えてスパッタを行った。
プロトン注入層蒸着後、水素雰囲気にできる真空槽に搬送し、1気圧の水素に曝した。このとき、作製された多層膜には変化が見られなかった。その後、再び、3連のマグネトロンスパッタ装置の真空槽内に搬送し、アルゴンガス圧を、0.2Paとして、マグネシウムに40W、ニッケルに8Wのパワーを加えてマグネシウム・ニッケル合金を約40nm蒸着した。このときのマグネシウムとニッケルの組成は約MgNi0.2 であった。
調光層蒸着後、再度水素雰囲気にできる真空槽に搬送し、1気圧の水素に曝した。このとき、調光層であるマグネシウム・ニッケル合金薄膜が水素化し、透明状態となり、素子全体が透明となった。このスイッチ素子では実施例1の場合と逆で、初期状態が透明状態になるが調光層側にマイナスの電圧をかけると鏡の状態に変化した。
次に、本発明の他の実施例について説明する。本実施例では、図7に示すようなパターニングされた透明導電膜及び金属膜のいずれかを用いて光スイッチ素子を作製した。材質は、透明導電膜としては、スズドープした酸化インジウム、フッ素ドープした酸化スズ、膜厚10nm以下の非常に薄い金、銀、また、金属膜としては、金、銀、銅やその合金を用いた。以下に、その作製方法について具体的に説明する。厚さ1mmのガラス板を基板として用い、これを洗浄後、真空装置の中にセットして真空排気を行った。前記基板上に、図7(b)の櫛形にパターニングされた金をスパッタリングで約200nm程度蒸着し、下部電極とした。スパッタ中のアルゴンガス圧は、0.1Paであり、直流スパッタ法により金ターゲットに50Wのパワーを加えてスパッタを行った。この電極の上に、酸化タングステン薄膜の蒸着をマグネトロンスパッタ装置で行った。成膜は、アルゴンと酸素の混合雰囲気中で金属タングステンターゲットをスパッタリングする反応性スパッタリング法を用いることによって行った。混合雰囲気は、アルゴンガスと酸素ガスの流量を制御することより制御された。アルゴンガスと酸素ガスの流量比は1.4:1であり、真空槽内の圧力は1Paとして、直流スパッタ法によりタングステンに60Wのパワーを加えてスパッタを行った。作製された酸化タングステン薄膜の膜厚は、約500nmであった。
上記酸化タングステン薄膜上に、酸化タンタル薄膜をRFスパッタ法により作製した。成膜は、アルゴンと酸素の混合雰囲気中で酸化タンタルターゲットをスパッタリングすることにより行った。混合雰囲気は、アルゴンガスと酸素ガスの流量を制御することより制御された。アルゴンガスと酸素ガスの流量比は1.4:6であり、真空槽内の圧力は10Paとして、RFスパッタ法により酸化タンタルに50Wのパワーを加えてスパッタを行った。作製された酸化タンタル薄膜の膜厚は、約500nmであった。
透明である酸化タングステン/酸化タンタル2層膜の表面に、マグネシウム薄膜調光層の成膜を、3連のマグネトロンスパッタ装置で行った。3つのスパッタ銃に、ターゲットとして、それぞれ、金属マグネシウム、金属ニッケル、それに金属パラジウムをセットした。成膜にあたっては、まず、パラジウムをスパッタしてプロトン注入層であるパラジウム薄膜を約4nm蒸着した。スパッタ中のアルゴンガス圧は、0.4Paであり、直流スパッタ法によりパラジウムに40Wのパワーを加えてスパッタを行った。
プロトン注入層蒸着後、水素雰囲気にできる真空槽に搬送し、1気圧の水素に曝した。このとき、作製された多層膜には変化が見られなかった。その後、再び、3連のマグネトロンスパッタ装置の真空槽内に搬送し、アルゴンガス圧を、0.2Paとして、マグネシウムに40W、ニッケルに8Wのパワーを加えてマグネシウム・ニッケル合金を約40nm蒸着した。このときのマグネシウムとニッケルの組成は約MgNi0.2 であった。
調光層蒸着後、再度水素雰囲気にできる真空槽に搬送し、1気圧の水素に曝した。このとき、調光層であるマグネシウム・ニッケル合金薄膜が水素化し、透明状態となり、素子全体が透明となった。透明状態である調光層の上に、上記櫛形電極を下部電極と重なり合わないように蒸着し、上部電極とした。このスイッチ素子は、初期状態は透明状態である。
得られた多層膜を、図3に示すような評価装置にとりつけ、そのスイッチング特性を調べた。前記下部電極と上部電極の間に±6Vの電圧を印加し、そのときの光学透過率の変化を波長670nmの半導体レーザーとシリコンフォトダイオードを組み合わせた測定システムで測定した。
作製直後の多層膜は調光層であるマグネシウム・ニッケル合金薄膜が水素化しているため、光を透過し、イオンストレージ層である酸化タングステン薄膜も透明であるため、透過率は、高い(光学透過率:〜53%)。この多層膜に、下部電極側に−6Vの電圧を印加すると、電場の影響でマグネシウム・ニッケル合金薄膜中のプロトンが抜けて、固体電解質中を伝導し、酸化タングステン薄膜中に導入される。この結果、マグネシウム・ニッケル合金薄膜は金属状態になり、酸化タングステン薄膜は水素化が起こり、濃紺に着色したため、透過率は、極めて低くなった(光学透過率:〜0.4%)。このときの光学透過率の時間変化を図8に示す。図8では、この変化に約2500秒(約40分)程度掛かっている。しかし、電場が強い電極の近傍では5分程度で変化した。逆に、下部電極に+6Vを印加すると急速に透過率は減少し、鏡状態に戻った。これにより、本材料は、印加電圧の極性を変化させることによって鏡状態と透明状態へ、可逆的に変化させることが可能であることがわかった。
以上詳述したように、本発明は、全固体型調光ミラー光スイッチに係るものであり、本発明により、調光ミラー特性に優れたマグネシウム・ニッケル系合金薄膜材料を用いた全固体型の光スイッチを提供することができる。本発明の全固体型調光ミラー光スイッチ素子は、機械式やMEMS方式のスイッチのような信頼性の低下につながる可動部がなく、また、光導波路方式の屈折率を変化させることことでもなく、物性変換を応用して、反射から透過へと可逆的に光の進行方向を変えることができるので、非常に有利である。本発明は、オール光ネットワークを実現する優れた特性を有する光スイッチを提供するものとして有用である。
図1は、全固体型調光ミラー光スイッチ素子の概略図を示す。 図2は、酸化タングステン薄膜を着色するためのセルの概略図を示す。 図3は、全固体型調光ミラー光スイッチ素子の調光特性評価装置の概略図を示す。 図4は、全固体型調光ミラー光スイッチ素子のスイッチング特性(波長670nmにおける光学透過率の変化) 図5は、全固体型調光ミラー光スイッチ素子の調光の様子((a):鏡状態、(b):透明状態)を示す。 図6は、全固体型調光ミラー光スイッチ素子の概略図を示す。 図7は、パターニングされた上部電極及び下部電極の概略図を示す。 図8は、全固体型調光ミラー光スイッチ素子のスイッチング特性(波長670nmにおける光学透過率の変化)を示す。

Claims (15)

  1. 透明な基材に多層薄膜を形成した調光ミラー光スイッチ素子であって、基材の上に、イオンストレージ層、固体電解質層、プロトン注入層、及びマグネシウム・ニッケル系合金薄膜を用いた調光ミラー層を形成したことを特徴とする全固体型調光ミラー光スイッチ素子。
  2. 前記イオンストレージ層と調光ミラー層間に、電圧を印加もしくは電流を流すことことにより、電気的に光の反射及び透過をコントロールする機能を有する請求項1に記載の光スイッチ素子。
  3. 透明な基材の上に、イオンストレージ層として、遷移金属酸化物薄膜を形成する請求項1に記載の光スイッチ素子。
  4. 固体電解質層として、イオンストレージ層の上に、透明酸化物薄膜を形成する請求項1に記載の光スイッチ素子。
  5. プロトン注入層として、固体電解質層の上に、パラジウムもしくは白金を含む層を形成する請求項1に記載の光スイッチ素子。
  6. 調光ミラー層として、プロトン注入層の上に、マグネシウム・ニッケル系合金薄膜を形成する請求項1に記載の光スイッチ素子。
  7. マグネシウム・ニッケル系合金が、Mgx Ni(0.1<x<0.3)である請求項6に記載の光スイッチ素子。
  8. 作製時にイオンストレージ層もしくは調光ミラー層のいずれかを水素化したことを特徴とする請求項1に記載の光スイッチ素子。
  9. 透明な基材とイオンストレージ層の間に、透明導電膜及び金属膜のいずれかを有する請求項1に記載の光スイッチ素子。
  10. 透明導電膜又は金属膜が、パターニングされている請求項9に記載の光スイッチ素子。
  11. 調光ミラー層の上に、透明導電膜及び金属膜のいずれかを有する請求項1に記載の光スイッチ素子。
  12. 透明導電膜及び金属膜が、パターニングされている請求項11に記載の光スイッチ素子。
  13. 透明な基材に多層薄膜を形成した調光ミラー光素子を製造する方法であって、基材の上に、イオンストレージ層、固体電解質層、プロトン注入層、及びマグネシウム・ニッケル系調光ミラー層を積層することを特徴とする全固体型調光ミラー光スイッチ素子の製造方法。
  14. 請求項1から12のいずれかに記載の光スイッチ素子を構成要素として含むことを特徴とする光ファイバー用光スイッチ部材。
  15. 請求項14に記載の光スイッチ部材を光スイッチとして使用したことを特徴とする光ファイバー通信システム。
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