JP2005272989A - パルスレーザ表面処理方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】金属からなる被表面処理部材に対してパルスレーザを照射することにより表面処理を行うパルスレーザ表面処理方法において、被表面処理部材の極表面層を除く内部の固さおよび残留応力などの材料特性を調整して耐久性を高め、部材の寿命延長を図る。
【解決手段】表面処理を施される被表面処理部材1を液体2雰囲気中に置き、前記被表面処理部材1の表面にパルスレーザ3を照射し、前記パルスレーザ3の照射条件を制御して被表面処理部材1表面層の所望の深さまでの材料特性を調整する
【選択図】図1

Description

本発明は、高速度鋼(ハイス)、金型鋼、浸炭鋼、窒化鋼、軸受鋼、超硬合金などからなる部材の表面にパルスレーザを照射することにより、極表面層を除く部材内部の硬さおよび残留応力などの材料特性を調整するパルスレーザ表面処理方法に関する。
工具、金型、軸受などの機械要素や部材は、摩擦、応力、衝撃など、厳しい使用条件に晒されるため、耐熱性、耐衝撃性、耐摩耗性、耐塑性変形性、耐欠損性、耐チッピング性など、高い耐久性能が要求される。
ところが、硬い材料は脆いため、耐摩耗性や耐塑性変形性を向上させると、耐欠損性や耐チッピング性が低下するという二律背反の問題がある。
表面処理技術は、部材とは異なる材料特性を部材表面に付与することができるため、このような二律背反の技術的問題点を解決することとができる。
例えば、塗装やメッキによる鋼材の防錆、ショットピーニングによる疲労強度の向上や応力腐食割れ(SCC)の予防なども、表面処理技術の適用例である。
部材表面にTiN膜、TiC膜、TiCN膜、TiAlN膜などをコーティングすると、部材の耐摩耗性、耐焼付き性、耐食性などが飛躍的に向上するため、工具や金型を始めとして多くの工業製品に応用されている。
これらのコーティングは、物理的手法によるPVD(Physical Vapor Deposition)法、あるいは化学反応を利用したCVD(Chemical Vapor Deposition)法によって成膜されることが多く、ビッカース硬さ(Hv)にして2,000〜3,000という高い硬度が得られるため、硬質膜と呼ばれている。
硬質膜は、600℃程度の比較的低温で成膜することが可能であるが、硬質膜と部材との熱膨張差によって、成膜後には高い圧縮残留応力が硬質膜に内在する。
硬質膜をコーティングした工具や金型において、この圧縮残留応力が大きいと、耐欠損性や耐熱衝撃性においても優れた性能を発揮することが知られている。
しかしながら、硬質膜に内在する圧縮残留応力が限度を超えて高過ぎる場合には、使用中の応力に硬質膜が耐えられずに破壊を起こし、硬質膜が剥離する場合がある。
その結果、それらの工具や金型は部材表面が露出してしまい、耐摩耗性、耐溶着性、耐熱衝撃性などの性能が損なわれるばかりか、それらの工具や金型を使って製作した製品の不良品の量産や、工具および金型の破損、破損して飛散した破断片の噛み込みによる製造装置の破損や製造ラインの停止といった二次的被害を招くことも予想される。
そのため、剥離を生じさせない範囲にコーティングの条件を調整しているが、現状では、コーティングロットのバラツキや部材の形状、及び表面状態などの影響で、剥離を完全に抑制するまでには到っていない。
また、剥離が発生しにくいように、コーティング膜の膜厚を薄くする手法をとる場合もあるが、その場合には膜厚が薄いため損耗によって寿命が制限されるほか、工具および金型としての性能が低下する傾向にあり、満足のいくものは得られていなかった。
また、TiN膜を始めとする硬質膜のビッカース硬さ(Hv)は2,000〜3,000と大きいが、部材のビッカース硬さ(Hv)は1,000以下であるため、外力による変形においても硬質膜と部材との界面でミスマッチが生じ、鋭利な他の部材との接触を繰り返すような場合には界面で剥離が生じやすいという欠点があった。
また、部材表面の耐久性を向上させるものとして、拡散浸透法、表面焼入れ法、機械的衝撃法などにより部材表面の高硬度化を図る手段も実用化されている。
これらの場合、コーティング法の硬質膜と部材界面におけるほどの明確な材料特性ミスマッチは生じないが、使用条件によっては同様に基材から硬度の高い表面層が剥離するという問題があった。
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、異なる表面特性を有するような部材に対し、部材の表面を損傷することなく、部材から表面層が剥離したり、き裂が生じたりするのを防ぎ、部材に要求される耐摩耗性、耐溶着性、耐衝撃性などの耐久性能を向上させ、部材の寿命延長を図ることのできるパルスレーザ表面処理方法を提供することを目的とする。
以上の目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、液体雰囲気中に配置された被表面処理部材の表面にパルスレーザを照射し、前記パルスレーザの照射条件を制御して被表面処理部材表面層の所望の深さまでの材料特性を調整する。
本発明のパルスレーザ表面処理方法によれば、異なる表面特性を有するような部材に対し、部材の表面を損傷することなく、部材から表面層が剥離したり、き裂が生じたりするのを防ぎ、部材に要求される耐摩耗性、耐溶着性、耐衝撃性などの耐久性能を向上させ、部材の寿命延長を図ることができる。
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
図1は本発明の第1の実施の形態によるパルスレーザ表面処理方法を示す図で、1は表面処理を施される金属からなる被表面処理部材(以下単に被処理部材と称する)で、図示しない容器内に満たされた水などの液体2の中に置かれている。
3は図示しないレーザ発振器から発振されたパルスレーザで、焦点レンズのような光学集光装置4を介して前記液体雰囲気中の被処理部材1の表面に照射されている。
このようなパルスレーザ表面処理方法において、パルスレーザ3のピーク出力密度が被処理部材1のプラズマ発生閾値(金属の場合概ね0.1〜10TW/m2)を超えると、パルスレーザ3が照射された被処理部材1の極表層(1μm以下)が瞬時に蒸発し、表面にプラズマ5が発生する。
液体2中では、液体2の慣性が瞬間的に強く働くため、プラズマ5はほとんど膨張することができず、狭い領域にパルスレーザ3のエネルギーが集中する。このため、プラズマ5の圧力は大気中や真空中と比較して十〜百倍にも達する。
また、被処理部材1に照射されるパルスレーザ3のピーク出力密度をI(TW/m2)とすると、発生するプラズマ5の圧力P(GPa)は概ね、P=(0.2×I)0.5で求めることができる。
従って、パルスレーザ3のピーク出力密度が1〜100TW/m2であれば、プラズマ5の圧力は概ね450MPa〜4.5GPaとなり、パルスレーザ3の照射によって被処理部材1表面を塑性変形させて材料特性を調整することができる。
本発明における液体雰囲気としてはパルスレーザ3に対して透明な性質を有するものが好ましく、前記した水の他に、油、アルコール、アンモニア水、ホウ酸水など、水以外の液体を用いることができる。その場合には、次の係数kを使用してP=(0.2×I×k)0.5により、プラズマ5の圧力を求めることができる。
k=(液体の音響インピーダンス)/(水の音響インピーダンス)
ここで、液体の音響インピーダンスは、(液体の密度)×(液体中の音速)であるため、前記した液体であれば、結果は水の場合と大きくは変わらない。
図1に示すパルスレーザ表面処理方法で発生した高圧のプラズマ5は、被処理部材1の表面を瞬間的に圧縮し、圧縮による被処理部材1表面の変位は衝撃波6となって被処理部材1の深さ方向に伝播する。
このとき、衝撃波6の圧力が被処理部材1の降伏応力を上回ると、局所的な塑性変形が生じ、結果として残留応力および硬さなどの材料特性が変化する。
ここで、どの部位(深さ)が塑性変形を受けるかは、被処理部材1における材料特性(降伏応力)の分布と衝撃波6の伝播(減衰)の様子によって決まる。
図2は、縦軸に被処理部材1に加わる衝撃波6の圧力(P1)、および被処理部材1の降伏応力(S)を、横軸に塑性変形が及ぶ範囲(D1)を含む被処理部材1の深さ(D)との関係を示した説明図である。
図2に示すように、一定の初期降伏応力(Sb)を持つ被処理部材1を衝撃波6が伝播する場合、塑性変形は被処理部材1の最表面から、衝撃波6の圧力(P1)が被処理部材1の降伏応力(Sb)を下回る深さまでの範囲(D1)に及ぶ。
図3は、表面が硬質膜でコーティングされた被処理部材1を例にとり、降伏応力(S)が一定でない場合について、衝撃波6の圧力(P1)、被処理部材1の降伏応力(S)、塑性変形が及ぶ範囲(D1)の関係を示した説明図である。
ここで、硬質膜の降伏応力をSc、被処理部材1の降伏応力をSbとし、衝撃波6の圧力P1が、Sc>P1>Sbなる関係を満足する場合、硬質膜は衝撃波6の圧力(P1)によって塑性変形を受けず、被処理部材1のみが塑性変形による材料特性の調整を受けることになる。
すなわち、このような条件では、被処理部材1表面の硬質膜には何の特性変化も与えずに、表面直下の被処理部材1にのみ深さ(D1)の範囲で特性変化を与えることができる。
なお、より正確には、パルスレーザ3の照射によって被処理部材1の表面が塑性変形を受け、加工硬化が進むため、図2および図3における降伏応力(S)の分布はパルスレーザの照射毎に変化していく。
従って、被処理部材1の一箇所に照射するパルスレーザ3の数を制御することによって、被処理部材1内部の特性変化を調整することができる。
図4および図5は、本発明によるパルスレーザ表面処理方法の具体例として、パルスエネルギー200mJのパルスレーザ3をスポット径0.8mmに集光し、水中のオーステナイトステンレス鋼(SUS304)に照射したときの被処理部材1の深さ(D)と残留応力および硬さとの変化を示した図である。
使用したパルスレーザのパルス幅は8nsであり、ピーク出力密度は50TW/m2である。前述の式に従えばプラズマ5の圧力Pは約3GPaとなり、オーステナイトステンレス鋼(SUS304)の降伏応力(数百MPa)を十分に上回っている。
なお、この例では、部材表面の20mm×20mmの領域にパルスレーザを一様に照射しているが、材料の表面一箇所あたりには18パルスが照射されている。
図4および図5に示すとおり、パルスレーザ照射前の残留応力分布7および硬さ分布8に比べパルスレーザの照射後の残留応力分布9および硬さ分布10は深さ約1mmまで圧縮残留応力が形成され、硬さは表面から約0.7mmまで上昇している。
なお、被処理部材表面の残留応力はX線回折法により求め、その深さ分布は電解研磨と残留応力測定を繰り返すことにより求めた。
また、硬さ分布は被処理部材の断面を研磨し、マイクロビッカース硬度計で測定した。
次に、拡散浸透法による窒化処理によって予め表面層の硬さを上昇させた被処理部材に対して、パルスレーザを照射して材料特性を調整するパルスレーザ表面処理方法について説明する。
図6は、熱間金型工具鋼(SKD61)の焼入れ−焼戻し材に軟窒化処理を施した被処理部材について、パルスレーザ照射前と後の被処理部材の深さ(D)とビッカース硬さ(Hv)の分布11、12を示した説明図である。
パルスレーザの照射条件は、パルスエネルギー200mJ、スポット径0.6mmであり、水中で一箇所あたり28パルスの照射を行った。なお、パルスレーザを照射した面積は20mm×20mmである。
図6に示すように、パルスレーザ照射前の軟窒化処理材のビッカース硬さ分布11は、表面から約0.1mmの範囲でビッカース硬さ(Hv)が1,000を超え、被処理部材の基材の硬さ(Hv=400〜500)と極端な差が生じていることが分かる。
一方、パルスレーザ照射後の軟窒化処理材のビッカース硬さ分布12は表面から0.1〜0.6mmの範囲で硬さが上昇してなだらかな曲線となっている。
これにより、パルスレーザ照射によって材料特性の一つである硬さ分布の調整が可能であることが分かる。
材料特性(硬度分布)調整の効果を確認するため、パルスレーザ照射を行った軟窒化処理材とパルスレーザ未照射のものについて、熱疲労試験を行った。
その結果、パルスレーザ未照射の部材では約16,000ショットで表層部の剥離が始まったが、パルスレーザ照射を行った部材では30,000ショットを超えても表層部の剥離やき裂は発生せず、硬度分布の調整によって軟窒化処理材の耐久性能の向上が可能なことを確認した。
次に、機械的衝撃法の一つであるショットピーニング処理によって予め表面層の硬度を上昇させた被処理部材に対して、パルスレーザを照射して材料特性を調整するパルスレーザ表面処理方法について説明する。
図7は、歯車用浸炭焼入れ鋼(SNCM420H)にショットピーニング処理を施した被処理部材について、パルスレーザ照射前と後の被処理部材の深さ(D)と残留応力(MPa)の分布13、14、15を示した説明図である。
パルスレーザの照射条件は次の二つの条件で行った。すなわち、(1)パルスエネルギー80mJ、スポット径0.8mmであり、水中で一箇所あたり50パルス照射、(2)パルスエネルギー200mJ、スポット径0.8mmであり、水中で一箇所あたり50パルス照射、の2条件である。なお、パルスレーザを照射した面積は何れも20mm×20mmである。
図7に示すように、パルスレーザ照射前の歯車用浸炭焼入れ鋼(SNCM420H)の残留応力分布13は、表面から約0.2mmの範囲で高い圧縮残留応力を示し、0.2mmより深い位置の残留応力値はほぼ0であるため、応力値に極端な差が生じている。
一方、条件(1)でパルスレーザを照射した歯車用浸炭焼入れ鋼(SNCM420H)の残留応力分布15は、表面から約0.6mmの範囲で残留応力が圧縮側に推移している。
また、条件(2)でパルスレーザを照射した歯車用浸炭焼入れ鋼(SNCM420H)の残留応力分布14は、表面から約1.0mmの範囲で残留応力が圧縮側に推移している。
これにより、パルスレーザの照射により、両条件とも深さ0.2mm近辺の急激な圧縮残留応力値の低下が改善され、材料特性の一つである残留応力分布の調整が可能であることが分かった。
なお、硬さ分布については図示していないが、残留応力分布と同様の傾向にあり、パルスレーザ照射によって硬さ分布もよりなだらかな曲線となることが分かった。
材料特性(残留応力および硬さ分布)の調整効果を確認するため、パルスレーザ照射を実施したショットピーニング処理材と、パルスレーザ未照射のものについてチッピング試験を行った。
その結果、パルスレーザ未照射の部材では約380回の衝撃荷重でチッピングが始まったが、条件(1)でパルスレーザを照射した被処理部材では約1,900回、条件(2)の場合には約3,200回の衝撃荷重までチッピングは起こらず、残留応力および硬さ分布の調整によってショットピーニング処理材の耐久性能の向上が可能なことを確認した。
なお、表面焼入れ法によって表面の硬度上昇を図った被処理部材についても、前述の軟窒化処理材(拡散浸透法)およびショットピーニング処理材(機械的衝撃法)と同様の傾向を示す結果が得られている。
すなわち、パルスレーザ照射によって表面焼入れ材の材料特性を調整することができ、耐久性能の向上が可能なことを確認している。
次に、コーティング法の一つであるPVD法によって表面にTiN硬質膜を形成し、予め表面硬度を上昇させた被処理部材に対して、パルスレーザを照射して材料特性を調整するパルスレーザ表面処理方法について説明する。
高速度工具鋼(SKH51)の表面に、アークイオンプレーティングにより約2μm厚さのTiNをコーティングし、パルスレーザを照射した。
コーティング時の被処理部材(サブストレート)温度は300℃であり、コーティング後に被処理部材を室温まで冷却すると、コーティング材(TiN)と被処理部材(SKH51)の熱膨張係数の差によって、コーティング材(TiN)には大きな圧縮応力が生じる。
X線回折によって応力測定を行った結果、コーティング材(TiN)には約1GPaの圧縮応力が生じていた。
一方、被処理部材は、コーティング材(TiN)と比較して極端に厚いため、残留応力値はほぼ0であり、硬質膜と被処理部材との界面に大きな残留応力のミスマッチが生じていた。
図8は、TiNコーティングを施した高速度工具鋼(SKH51)について、パルスレーザ照射前と後の硬質膜(TiN)の残留応力16、17、18、被処理部材(SKH51)の深さ(D)と残留応力(MPa)の分布19、20、21を示した説明図である。
パルスレーザの照射は次の二つの条件で行った。すなわち、(1)パルスエネルギー15mJ、スポット径0.4mmであり、水中で一箇所あたり13パルス照射、(2)パルスエネルギー50mJ、スポット径0.4mmであり、水中で一箇所あたり13パルス照射、の2条件である。なお、パルスレーザを照射した面積は何れも20mm×20mmである。
図8に示すとおり、パルスレーザ照射前の残留応力は、硬質膜16−被処理部材19界面に約1GPaにも及ぶミスマッチが生じていた。
しかしながら、条件(1)でパルスレーザを照射することにより、残留応力は硬質膜17および被処理部材20の界面とも約300MPaの圧縮応力17となり、硬質膜−被処理部材界面の残留応力のミスマッチは、ほぼ解消され、残留応力分布20を示した。
一方、条件(2)でパルスレーザを照射したものは、硬質膜の残留応力18が約400MPaの引張りとなり、被処理部材の残留応力21は界面で約700MPaの圧縮応力を示した。
これは前述のとおり、硬質膜は硬度が高く衝撃波の圧力では塑性変形を受けず、硬質膜直下の被処理部材が面内方向に塑性変形を受けた結果、被処理部材は圧縮応力に、その反作用として硬質膜は引張応力となったものと考えられる。
条件(1)の場合には、パルスレーザ照射前の残留応力のミスマッチを解消するのに適切な条件であったが、条件(2)では被処理部材の塑性変形がさらに進んだ結果と考えられる。
これらの結果から、パルスレーザの照射条件を制御することによって、硬質膜−被処理部材界面近傍の材料特性(残留応力)の調整が可能であることが分かった。
材料特性(残留応力)調整の効果を確認するため、TiNによる硬質膜コーティングを施した高速度工具鋼(SKH51)に対して、パルスレーザ照射を行ったものと未照射のものを準備してTiNの剥離性を評価した。
被膜の密着性はスクラッチ試験により評価するのが一般的であるが、ここではロックウェル硬さ試験機を使用して1,000Nの負荷を与えた後、圧痕の内部および周囲における被膜の剥離や割れを観察して評価を行った。
その結果、パルスレーザ未照射のものについては、圧痕の周囲に微小な割れが多数観察された。
一方、パルスレーザ照射を行ったものについては、圧痕の周囲に剥離や割れは観察できなかった。これは、条件(1)ではパルスレーザ照射によって硬質膜−被処理部材界面における残留応力のミスマッチが解消されたためと考えられる。
また、条件(2)ではパルスレーザ照射による被処理部材の塑性変形によって被処理部材の硬度が上昇し、ロックウェル硬さ試験機による硬球押付け時の変形が少なくなったことが主な要因と考えられる。
以上より、パルスレーザを照射して被処理部材の材料特性を調整することにより、TiNコーティング膜およびコーティング部材の耐久性能が向上することを確認した。
次に、液体雰囲気として、水、油、アルコール、アンモニア水、ホウ酸水中で被処理部材にパルスレーザを照射した場合について説明する。
前述のとおり、液体雰囲気中でパルスレーザ3を照射すると、被処理部材1の極表層が瞬時に蒸発してプラズマ5が発生する。
液体2は密度が高いため、プラズマ5は液体分子と瞬時に衝突する。その結果、プラズマ5の発生とほぼ同時に一部の液体分子は活性なプラズマとなり、被処理部材1の表面と反応する。
更に、被処理部材1の極表層(数μm)はプラズマ5からの熱輻射によって加熱され、被処理部材内部への原子の拡散が促進される。
実験では、鉄を主成分とする被処理部材1に水中でパルスレーザを照射すると、鉄と水が分解して生じた酸素が反応し、大気中では形成が難しい四三酸化鉄(Fe3O4)の緻密な表面層が厚さ数μmにわたって形成されることが分かった。
四三酸化鉄(Fe3O4)の形成は表面の不活性化に有効であり、熱間金型工具鋼(SKD61)の表面に数μmの厚さで四三酸化鉄(Fe3O4)を形成すると、浸食、腐食、焼付きなどによる溶損が桁違いに小さくなることが分かった。
同様に、鉄を主成分とする被処理部材1の表面に油またはアルコール中でパルスレーザ3を照射すると、油またはアルコール分子を構成する炭素原子が部材表面に取り込まれ、浸炭層が形成されることが分かった。
アンモニア水中でパルスレーザ3の照射を行うと、アンモニア分子を構成する窒素原子が被処理部材1表面と反応し、窒化鉄(Fe4N)を主成分とする表面層が形成されることが分かった。
また、ホウ酸水中でパルスレーザ3の照射を行うと、ホウ素原子が被処理部材1表面と反応し、ホウ化鉄(Fe2BおよびFeB)を主成分とする表面層が形成されることが分かった。
これらの四三酸化鉄(Fe3O4)、浸炭層、窒化鉄(Fe4N)、ホウ化鉄(Fe2BおよびFeB)を被処理部材1表面に形成すると、被処理部材1の耐久性能が向上することが知られているが、通常は熱化学的な平衡状態を利用した拡散浸透法により形成されるため、数百度から一千度を超える処理温度が必要となり、バッチ処理とならざるを得ない。
また、このような高温処理を行うと、金属組織の粗粒化を初めとする悪影響が生じることが多く、好ましくない。
以上のように本発明によるパルスレーザの照射による表面処理方法によれば、高温容器が不要で、連続処理も可能なため、機械要素や部材の耐久性能の向上、寿命の延長に寄与するところが大きい。
本発明の第1の実施の形態によるパルスレーザ表面処理方法を説明するための正面図。 本発明の第1の実施の形態によるパルスレーザ表面処理方法における衝撃波の圧力、被処理部材の降伏応力、塑性変形が及ぶ範囲の関係を示す説明図。 本発明の第1の実施の形態によるパルスレーザ表面処理方法における部材の降伏応力が一定でない場合の塑性変形範囲を示す説明図。 本発明の他の実施の形態におけるSUS304に水中でパルスレーザを照射したときの残留応力の変化を示す説明図。 本発明の他の実施の形態におけるSUS304に水中でパルスレーザを照射したときの硬さの変化を示す説明図。 本発明の他の実施の形態におけるSKD61軟窒化処理材に水中でパルスレーザを照射したときの硬さの変化を示す説明図。 本発明の他の実施の形態におけるSNCM420Hショットピーニング材に水中でパルスレーザを照射したときの残留応力変化を示す説明図。 本発明の他の実施の形態におけるSKH51のTiNコーティング材に水中でパルスレーザを照射したときの残留応力変化を示す説明図。
符号の説明
1…部材、2…液体、3…パルスレーザ、4…光学集光装置、5…プラズマ、6…衝撃波、7…レーザ照射前の残留応力分布(SUS304)、8…レーザ照射前の硬さ分布(SUS304)、9…レーザ照射後の残留応力分布(SUS304)、10…レーザ照射後の硬さ分布(SUS304)、11…レーザ照射前の硬さ分布(SKD61)、12…レーザ照射後の硬さ分布(SKD61)、13…レーザ照射前の残留応力分布(SNCM420H)、14…レーザ照射後の残留応力分布(SNCM420H、条件(1))、15…レーザ照射後の残留応力分布(SNCM420H、条件(2))、16…レーザ照射前の残留応力(TiN)、17…レーザ照射後の残留応力(TiN、条件(1))、18…レーザ照射後の残留応力(TiN、条件(2))、19…レーザ照射前の残留応力分布(SKH51)、20…レーザ照射後の残留応力分布(SKH51、条件(1))、21…レーザ照射後の残留応力分布(SKH51、条件(2))。

Claims (8)

  1. 液体雰囲気中に配置された被表面処理部材の表面にパルスレーザを照射し、前記パルスレーザの照射条件を制御して被表面処理部材表面層の所望の深さまでの材料特性を調整することを特徴とするパルスレーザ表面処理方法。
  2. 前記被表面処理部材は、拡散浸透法により、予め表面層の硬度上昇がなされていることを特徴とする請求項1に記載のパルスレーザ表面処理方法。
  3. 前記被表面処理部材は、表面焼入法により、予め前記表面層の硬度上昇がなされていることを特徴とする請求項1に記載のパルスレーザ表面処理方法。
  4. 前記被表面処理部材は、機械的衝撃法により、予め前記表面層の硬度上昇がなされていることを特徴とする請求項1に記載のパルスレーザ表面処理方法。
  5. 前記被表面処理部材は、コーティング法により、予め硬質膜で被膜されていることを特徴とする請求項1に記載のパルスレーザ表面処理方法。
  6. 前記液体雰囲気が、水、油、アルコール、アンモニア水、ホウ酸水の少なくともいずれか一つにより形成されていることを特徴とする請求項1に記載のパルスレーザ表面処理方法。
  7. 前記被表面処理部材に照射される前記パルスレーザのピーク出力密度が1〜100TW/m2であることを特徴とする請求項1に記載のパルスレーザ表面処理方法。
  8. 前記パルスレーザのピーク出力密度I(TW/m2)が、前記被表面処理部材表面の降伏応力Sc(GPa)および前記被表面処理部材内部の降伏応力Sb(GPa)と概ね Sc>(0.2×I)0.5>Sb の関係を満たすようにしたことを特徴とする請求項1に記載のパルスレーザ表面処理方法。

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