この特許文献1に記載された従来技術では、ワイヤチャックを予めワイヤに固定する他物に連結した状態で、ワイヤに固定すべき位置を越えてワイヤが差込まれた場合に、1人で他物の位置を正確に、かつ短時間で下方に調整すること(下方調整)ができない。
即ち、ワイヤのある高さにワイヤチャックで他物を支持させた状態から他物を落下させることなくその位置を下方に移動させるために、一方の手で他物を支持しながら他方の手でつまみ(ストッパ部材)を下方に押し下げてチャック機能が解除された状態を保持しなければならないのであり、1人の作業者ではこの他にワイヤを緊張させるという作業ができず、ワイヤの緩みのために正確な下方調整をすることが困難である。
又、そのため、徒に下方調整と上方調整とを繰返すことになり、作業時間が長くなる一方、下方調整を正確に行うために、ワイヤを下から引っ張って緊張させるための他の作業者を使うと、労賃が高くなる。
ところで、この種のワイヤチャックには、係止部材をスプリングで押えているため、振動により係止部材が異径孔の内径が大きくなる方向に移動し、ワイヤへの固定が緩んだり、解除されたりして固定位置がずれることや、最悪の場合にはワイヤから脱落することがあるという致命的な課題がある。
前記特許文献1では、スリーブに螺合したつまみ(ストッパ部材)を螺締することにより、ボディに対して係止部材及びスリーブを固定することによりこの課題を解決しているが、この従来技術の構成では、ワイヤに対するワイヤチャックの位置を調整した後、ワイヤをワイヤチャックに固定するために、つまみ(ストッパ部材)をネジ回す必要があり、手間と時間がかかる。
次に、前記特許文献1に記載された従来技術においては、スリーブのボディから突出する部分に螺合するつまみが必要であり、部品点数が増加するという問題や、スリーブのボディから突出する部分につまみを螺合するための雄ねじを形成すると共に、つまみの内周に雌ねじを形成する必要があり、加工工数が増加するという問題があり、又、これらの問題が相乗して製造コストが高くなるという問題がある。
ところで、例えば震災に遭遇した場合、特許文献1に開示されている従来技術によれば、ワイヤが係止部材で挟まれている1箇所で摩擦により係止されているに過ぎないので、一定以上の強力な衝撃が加わるとワイヤが滑ってワイヤクランプの位置がずれることがあり、この場合には、ワイヤクランプの位置を修正する必要がある。
ところが、前記従来技術の構成によれば、ワイヤに対して固定されているワイヤチャックを移動できるようにするためには、つまみ(ストッパ部材)をネジ戻す必要があり、手間と時間がかかる。しかも、位置調整や調整された位置にワイヤチャックを固定する作業は、上述したように、一人の作業者で行うのが困難である上、手間と時間がかかる。
そこで、本発明においては、ワイヤに固定される他物が予めワイヤチャックに固定されている状態でも、1人の作業者によって短時間で、容易に、かつ正確にワイヤチャックの位置調整が行えるのであり、又、位置を調整したワイヤチャックを短時間で、簡単に、かつ確実にワイヤに固定することができると共に、ワイヤの滑りや抜け外れが生じない安全性の極めて高い、しかも、安価な抜き通し型ワイヤチャックを提供することを目的とするものである。
本発明に係る抜き通し型ワイヤチャックにおいては、前記目的を達成するために、中心軸心に沿って貫通する異径孔を有するボディと、この異径孔に当該異径孔の軸心方向に進退可能に挿入されている中空軸状のスリーブと、このスリーブに当該スリーブの軸心と直交する方向に移動可能に支持させた少なくとも1個の係止部材と、前記異径孔内に配置され、且つ前記スリーブを付勢して前記係止部材を前記異径孔の異径部と前記スリーブに挿通されているワイヤとに押圧するスプリングとを備え、前記スリーブの押圧方向と反対側の一端部を前記ボディ外に突出させ、このスリーブの一端部の前記ボディから所定の距離を置いた位置に当該スリーブに挿通された前記ワイヤにかしめ付けられるかしめ部分が設けられることを特徴とする、との技術的手段を採用する。
即ち、本発明によれば、予め前記異径孔の大径部を下にして本発明を他物に連結した後、ワイヤを本発明の上から下に抜き通しておけば、片手で他物及びワイヤチャックの重量を支えながら、その片手の他の指でスリーブの一端部を引っ張ってワイヤチャックのチャック機能を解除することができるのであり、又、もう一方の手でワイヤを下に引っ張りながら他物及びワイヤチャックの高さを調整することができるので、予め他物が連結されているワイヤチャックを固定する位置を1人の作業者で短時間に、正確に、かつ容易に調整することができ、その結果、工期を短縮できるのである。
又、本発明において、ワイヤチャックの位置調節を行った後、例えばペンチ、やっとこ、プライヤなどの身近な工具を用いてかしめ部分をワイヤにかしめ付けるという、いわばワンタッチの作業で前記スリーブをワイヤに固定することができるので、簡単な作業で、短時間に、ワイヤクランプをワイヤに固定できる。
しかも、前記スリーブをワイヤにかしめ付けることによりスリーブがワイヤに固定されるので、係止部材をワイヤに押付けることによりスリーブをワイヤに対して固定する場合よりもワイヤの滑りが起こり難く、確実にワイヤチャックをワイヤに固定することができる上、このかしめに加えて係止部材によってもワイヤチャックがワイヤに固定されるので、耐震性能がすこぶる高くなるのである。
加えて、従来のスリーブをボディの異径孔の大径部側で、即ち、スプリングによりスリーブを付勢する方向と反対方向で、当該ボディの外側に突出させるだけの簡単な構成であり、ストップ部材を省略して部品点数を削減できる上、スリーブ及びストップ部材のネジ加工などが不要になり、加工工数及び加工時間を大幅に削減できるので、コストダウンして廉価に製造できるのである。
本発明に係る抜き通し型ワイヤチャックについて更に詳細に説明すれば、以下の通りである。
本発明において、ボディは、通常、例えば天井、壁、柱、床などの建築物の構造部材、配管、配線、照明ランプなどの灯具、スピーカ、集音器、マイクロフォンなどの音響機器、ビデオカメラ、ディスプレイパネル、スクリーンなどの映像機器、棚、ハンガーなどの種々の他物に固定したり、他物を吊持したりする連結構造を備える。
具体的には、例えば蛍光灯ランプの灯具をワイヤにより天井に吊下げるために灯具に固定されるボディとしては、特に限定されるものではないが、例えば外周にネジを形成した縦軸の脚と、その上端に連続する頭とを備える有頭ネジからなり、灯具の上板に形成した取付け孔に脚を上から挿通し、前記上板の下側に突出する脚に下側からナットを締付けることにより前記上板に固定される構成を備えるものを用いる。
このボディに形成される異径孔は、例えば円孔からなる大径部と円孔からなる小径部とこれらを連結するテーパ孔からなる異径部とを備えていればよい。又、これら大径部と小径部とは互いに他方に対して偏心させてあってもよいが、異径孔の加工工程数及び加工時間を削減すると共に、ボディの軸心周りの方向性をなくして組立作業性を高めるために、これら大径部と小径部とは同軸心状に配置することが好ましい。
もっとも、前記係止部材がくさび形、球形などのくさび作用を発揮できる形状に形成されている場合には、大径部と小径部とを円環状平面(段付面)からなる異径部で接続することも可能である。
又、前記大径部は、異径部の反対側で後述するスリーブ又はワイヤが進退可能に挿通されるバネ受座により閉塞され、このバネ受座に後述するスプリングの一端が受止められる。
もちろん、前記ボディの材質は特に限定されないが、一般には、鉄、鋼、銅、真鍮、青銅、ジュラルミンを含むアルミニューム合金、チタン合金等の金属、熱硬化性合成樹脂、熱可塑性合成樹脂などの合成樹脂が用いられる。
前記スリーブは、前記異径孔の大径部ないし異径部にわたって進退可能に挿入される大径軸部又は前記異径孔の異径部に対応するテーパ軸部を備え、この大径軸部又はテーパ軸部の前記バネ受座に対向する面に前記スプリングの他端を受止めるバネ受面が形成されている。
又、前記スリーブは、前記大径軸部又はテーパ軸部に連続して、前記ボディのバネ受座側端部からボディ外に延出される小径軸部、即ち、前記バネ受座に進退可能に挿通されてボディ外に突出する小径軸部を備える。
ここで、前記スリーブは、大径軸部又はテーパ軸部と小径軸部を別体に形成した後、捩じ込み、スナップ嵌合、圧入などにより連結することにより形成することも可能であるが、部品点数、組立工数、コストなど削減するために、一体の棒部材などからなる一部材を切削、研削、転造などの機械加工した一体物であることが好ましい。
又、前記大径軸部又はテーパ軸部の軸心とこの小径軸部の軸心は互いに他方に対して偏心させてもよいが、加工工程数及び加工時間を削減すると共に、スリーブの軸心周りの方向性をなくして組立作業性を高めるために、同軸心にすることが好ましい。
更に、前記スリーブには当該スリーブを軸方向に貫通するワイヤ挿通孔が形成される。
前記係止部材としては、円球体(ボール)、楕円球体、樽形体、円柱体などを用いることができるが、これらの他に、中空軸を周方向に複数に分割した割軸形状のシューを採用することが可能であり、このシューの外周面は、錐形面、例えば円錐面や、筒形面、例えば円筒面など、ボディの異径孔の内周面に倣う形状に形成することが好ましい。
前記スリーブに前記係止部材を当該スリーブの軸心と直交する方向に進退可能に支持する構造としては公知の構造が採用されるのであり、例えば前記係止部材が球体(ボール)で構成されている場合には、前記テーパ軸部や大径軸部を有するスリーブを用い、このテーパ軸部又は大径軸部にワイヤ挿通孔から該テーパ軸部又は大径軸部の外周面に貫通する横孔を形成し、この横孔に係止部材を進退自在に挿入する構造が採用される。
前記スプリングは、前記ボディに設けたバネ受座に一端が受止められ、他端が前記スリーブのバネ受面に受止められるばねであれば、特に限定されず、例えば筍ばね、皿ばね等を用いることも可能であるが、一般には、前記スリーブの小径部が挿通されるコイルバネが用いられる。
以上のように構成することにより、ボディに異径孔の小径部からワイヤを差込んで、ワイヤの先端をスリーブのワイヤ挿通孔に入れ、ワイヤのコシ(剛直性)を利用して引続き係止部材を押し下げながらその間隔を開き、更に係止部材の間を通ってワイヤ挿通孔の反対側に抜き通すことができるようになる。
そして、片手を前記他物の下にあてがってその重量を支えながら、本発明の下方に引出されているワイヤを反対側の手でつかんで適当にワイヤを緊張させた状態で、前記他物を所定の高さまで持上げるが、このようにして他物及び本発明を上昇させている間は、係止部材がスプリングの力によりワイヤの表面に密着しているので、他物を所定の位置まで持上げて手放すと、瞬時に、スプリングの力に他物の重量が加わった力で係止部材がワイヤの表面に押付けられ、ワイヤにワイヤチャックが固定される。
ワイヤに固定された他物及びワイヤチャックの高さは、これにより少なくとも大まかに調整することができ、熟練すると高精度に調整できるが、本発明によれば、更に、片手で前記他物の重量を支えると共に反対側の手でワイヤに適度の緊張を与えながら、前記片手の指でボディの下側に突出たスリーブの下端部をつまんで下に引下げることにより、ワイヤに係止部材を押圧する力を一部又は全部解除し、ワイヤに対して他物及び本発明を自由に上下に移動させて正確に他物及び本発明の高さを調整することができる。
この際、特にスリーブの引下げ具合を加減して、ワイヤに係止部材を押圧する力を部分的に解除するようにすると、他物及び本発明の昇降に対してブレーキを掛けて、他物及び本発明の上昇速度又は下降速度を微速に抑え、他物及び本発明の高さをすこぶる高精度に合わせることができる。
ところで、本発明においては、係止部材をスプリングで押えているため、振動により係止部材が異径孔の内径が大きくなる方向に移動し、ワイヤへの固定が緩んだり、解除されたりして固定位置がずれることや、最悪の場合にはワイヤから脱落することがあるという課題が内在している。
そこで、本発明においては、前記ボディ外に突出している前記スリーブの一端部に前記ボディから所定の距離を置いた位置で該スリーブに挿通された前記ワイヤにかしめ付けられるかしめ部分が設けられる。
これにより、上述のようにワイヤに対する他物及び本発明の高さを調整した後、たとえばペンチ、やっとこ、プライヤ等の一般的な工具を用いてかしめ部分をワイヤにかしめ付けると、ワイヤを係止部材で挟圧してスリーブをワイヤに固定する従来の構成よりも強固に、かつ直接的にスリーブをワイヤに固定することができる。
つまり、かしめという、いわばワンタッチの作業で、短時間に、簡単に、かつ、確実に本発明をワイヤに固定できるのである。
又、この構成によれば、前記スリーブがワイヤにかしめ付けられることにより、前記スリーブ及び前記係止部材のワイヤに対する位置が一定に保持されるので、前記スリーブが振動してチャック機能が一時的に緩和ないし解除されることがあっても、振動が収まればボディ及び他物のワイヤに対する位置がボディ及び他物の重量とスプリングにより復元され、ワイヤチャック及び他物の固定位置がずれたり、ワイヤチャック及び他物がワイヤから脱落したりするおそれがなくなる。
ここで、かしめ部分の前記ボディからの距離は、ボディの外側でスリーブをワイヤにかしめ付けることができる距離であれば特に限定されず、例えば前記ボディの端面にペンチ、やっとこ、プライヤなどの工具が擦り当たりながらかしめられるようなボディから至近の位置にかしめ部分を設定することも可能である。
しかし、本発明においては、本発明の請求項2に記載しているように、前記ボディとかしめ部分の間に、前記かしめ部分と同等以上の長さの余長部分と、該スリーブをワイヤにかしめ付けた後、前記かしめ部分と余長部分の間で切断工具によりスリーブ及びワイヤを切断するために要する長さの切断代が設けられていることが好ましい。
この構成によれば、例えば震災などによりワイヤに対する他物及び本発明の位置が下方にずれた場合や、他物が破損した場合には、前記スリーブを切断代で切断することにより、ボディから余長部分だけ長いワイヤを残して短時間で他物及び本発明を撤去することができる。
このようにスリーブの切断部でスリーブとワイヤを切断すると、廃却される本発明又は本発明と他物を撤去した後、他物に固定された新しい本発明に、残されたワイヤを挿通して、他物及び本発明の高さを所定の高さに調整すると、スリーブのボディから突出した部分においては少なくとも余長部分にワイヤが挿通されることになるので、この余長部分をワイヤにかしめ付けることにより、他物を所定の高さに支持することにワイヤを再利用できるのである。これにより、何らかの理由で他物が破損した時の交換費用を節約できるばかりではなく、震災地における復興工事など資材が不足勝ちになる場合には特に有用である。
ところで、本発明においては、本発明の請求項3に記載しているように、前記スリーブの一端部、即ち、ボディから突出する部分の周囲につまみを形成し、前記スリーブの一端部をつまみ易くすることが好ましい。
このつまみは、前記スリーブのボディ外に延出された一端部の外周に設けられることから、少なくとも前記小径軸部よりも大径に形成される。しかし、このつまみの軸方向の位置は、ボディ外に延出されたスリーブの一端部であれば特に限定されず、前記ボディの間近に形成しても、前記スリーブの一端に形成してもよいのである。
又、このつまみはスリーブと別体に形成された後、スリーブの周囲に、溶接、捩じ込み、接着などの手法により固定されるものであってもよいが、本発明においては、部品点数、組立工程数、組立工程時間などの増加と、これらの増加によるコストアップをなくすために、本発明の請求項4に記載しているように、スリーブと前記つまみが一体物であることが好ましい。
このつまみの軸方向から見た輪郭形状は特に限定されず、例えば円形、楕円形、小判形、4角形、6角形など任意の形状に形成してもよいのであり、又、軸方向に直角な方向から見たつまみの形状も特に限定されるものではなく、例えば長方形、円形、楕円形、小判形、4角形、6角形等、任意の形状に形成してもよいのである。
本発明においては、特に限定されないが、つまみを手指でつまんで引張り易くするために、本発明の請求項4に記載しているように、前記つまみと前記ボディとの間に所定の隙間が形成されていることが好ましい。
この隙間はつまみ全体にわたって一様な隙間であってもよく、又、角取り、R面取り、逆R面取りなどにより形成される中心側で狭くなる隙間であってもよいのである。
又、本発明においては、つまみをつまんだ指先からつまみが滑り抜けることを防止して操作性を良くするために、本発明の請求項5に記載しているように、前記つまみの外周面に滑り止め加工が施されていることが好ましい。
この滑り止め加工としては、ローレット加工、セレーション加工、、ネジ加工などの転造加工、切削加工等を採用すれば良いが、この他に樹脂コーティング、滑り止め塗装などを採用したり、ゴム、合成樹脂などを被冠する方法などを採用したりすることが可能である。
なお、つまみをボディの間近に設ける場合には、ボディから突出する前記スリーブの部分、即ち、一端部をボディ内の部分に連続してつまみを形成した部分と、この部分から分割された管状の部分とに分割して形成し、この分割された管状の部分にかしめ部分を設けたり、又、この分割された管状の部分に、必要に応じて、余長部分や切断部分を設けるように構成してもよい。
本発明において、スリーブは、例えばワイヤに圧着、熱圧着、接着などにより固定可能な合成樹脂で形成したり、鉄、鋼、銅、真鍮、アルミなどのかしめに適した金属で形成したりすることが好ましい。
以上に説明したように、本発明によれば、予め前記異径孔の大径部を下にして他物に連結し、ワイヤを前記ボディ及びスリーブに抜き通しておけば、片手で他物及びワイヤチャックの重量を支えながら、その片手の指でスリーブを引っ張って本発明のチャック機能を解除することができる上、もう一方の手でワイヤを下に引っ張りながら他物及びワイヤチャックの高さを調整することができるので、予め他物が連結されているワイヤチャックを固定する位置を1人の作業者が短時間で、容易に、かつ正確に調整することができ、工期を短縮できる上、工費を廉価にできるなどの効果を得ることができる。
又、本発明に係る抜き通し型ワイヤチャックおいては、ワイヤに対する本発明の高さを調整した後、スリーブに設けたかしめ部分をペンチなどの一般的な工具でワイヤにかしめ付けることにより、スリーブをワイヤに固定できるので、短時間で、簡単に、かつ容易にスリーブをワイヤに固定できる上、従来よりも強固にスリーブをワイヤに固定することができるなどの効果を得ることができる。
更に、本発明に係る抜き通し型ワイヤチャックは、従来のスリーブの形状を変更するだけの簡単な構成であり、ストップ部材を省略して部品点数や組立工程数を削減したり、スリーブ及びストップ部材のネジ加工工程を省略したりすることができ、その結果、大幅にコストダウンして安価に製造できる効果も得ることができる。
もちろん、本発明のかしめ部分はスリーブの一部を構成するものであるから、紛失するおそれはなく、又、ワイヤから強力な張力を受けてもボディに対する位置がずれたりするおそれはない。
以下、本発明を実施するための最良の形態を図面に基づいて詳細に且つ具体的に説明する。
図1は、本発明に係る抜き通し型ワイヤチャックの縦断面図であり、この図1に示すように、このワイヤチャック1は、ボディ2と、このボディ2の中心軸心に沿って貫通させた異径孔3に当該異径孔3の軸心方向に進退可能に挿入されている中空軸状のスリーブ4と、このスリーブ4に当該スリーブ4の軸心と直交する方向に移動可能に支持させた複数個の鋼球からなる係止部材5と、前記異径孔3内に配置され、前記スリーブ4を付勢して前記係止部材5を前記異径孔3の異径部6と、前記スリーブ4に挿通されているワイヤ7とに押圧するスプリング8とを備えている。
前記ボディ2は、外周面にネジが形成された脚部9と、この脚部9の下端に連設され、当該脚部9よりも大径に形成された頭部10とを備える有頭ボルト(六角ボルト)からなり、前記異径孔3は、上細りの前記異径部6と、これの下側に連続する大径部11と、必要に応じて、前記異径部6の上側に連続する小径部12とを備え、前記大径部11の下端が、その中央部を除いてバネ受座13により閉塞されている。なお、図示例では、小径部12の上端部がワイヤ7の挿入を容易にするために外方に向かってラッパ状に拡大されているが、これに代えて、小径部12の径が一定になるように直線状に形成しても良いのである。
前記スリーブ4は、例えば丸棒材から旋盤加工などの切削加工により形成された一体物であり、上端部が前記異径部6に対応するテーパ軸になっている大径軸部14と、この大径軸部14の下端に連続し、又、前記バネ受座13の中央に形成されたスリーブ挿通孔15に進退可能に挿通され、更に、前記ボディ2の外側まで延長された小径軸部16とを備えている。
この小径軸部16のボディ2の外に突出させた下端部には、前記ボディ2の間近で前記脚部9とほぼ同径に拡径されたつまみ17と、このつまみ17に順に連続する余長部分18、切断部分19及びかしめ部分20が設けられている。
又、上記スリーブ4には、その軸心に沿って上端面から下端面まで貫通するワイヤ挿通孔21が形成され、前記かしめ部分20はこのワイヤ挿通孔21に挿通されたワイヤ7にかしめ付けるために変形されるスリーブの部分である。
前記切断部分19は、かしめにより互いに固定されたスリーブ4及びワイヤ7を切断するために、例えばワイヤカッタ、チェーンカッタなどの切断工具(利器)で切断するために必要な部分であり、例えば切断する面を挟んで切断工具の刃厚程度の幅を備えている。
前記余長部分18は、かしめ部分20と同等以上の長さを備え、再使用ワイヤの下端部にかしめ付けられる。
もっとも、前記余長部分18と切断部分19の境界、前記切断部分19とかしめ部分20との境界は、例えばスリーブ4の下端から10mm程度までの範囲がかしめ部分20とされ、切断部分19はかしめ部分20の上から更に10mm程度上までの範囲に設定されるが、実際にはつまみ17の下に例えば10mm程度以上の余長部分19を残してスリーブ4及びワイヤ7が切断できるようにしてあれば、その境界を厳格に守る必要はないのである。
前記つまみ17の形状は、軸方向から見て異径部6、大径部11及び小径部12と同軸心の円筒形に形成され、又、手指でつかみ易くするために、つまみ17とボディ2の頭部10との間には適当な隙間が形成されている。
更に、前記つまみ17の外周面22には、必要に応じて、ネジ加工、ローレット加工などによる滑り止め加工が施されている。
前記スリーブ4の大径軸部14には前記ワイヤ挿通孔21から外周面に貫通する複数のボール保持孔23が形成され、この各ボール保持孔23にそれぞれ1個の係止部材5が進退可能に、かつ回転自在に挿入されている。
なお、図示されていないが、平面視において、前記ボール保持孔23は、ワイヤ7が前記ボディ2及びスリーブ4の中心軸心に挿通されるように、前記スリーブ4及び前記ワイヤ挿通孔21の軸心を中心にして等角度置きに、例えば120°置きの3箇所に放射状に配置されている。
前記スプリング8は、前記大径部11内に配置され、その一端が前記バネ受座13に、他端が前記大径軸部14と小径軸部16とを繋ぐ段付面24にそれぞれ受止められる1本のコイルバネからなる。なお、荷重条件によっては、スプリング8はコイルバネに代えて1枚又は複数枚の皿バネで構成してもよいのである。
ところで、例えば天井から吊下げる蛍光灯などの灯具の天板25には前記ボディ2の脚部9が挿通される取付け孔26が形成され、この取付け孔26に下側から脚部9を挿通させ、平座金27とバネ座金28とを挟んで、脚部9の上側からナット29を締付けることにより、前記ワイヤチャック1が前記天板25に固定される。
なお、前記平座金27とバネ座金28との一方又は両方は省略してもよい。
この後、例えば天井の吊塚から懸垂させた前記ワイヤ7を前記小径部12からワイヤ挿通孔21に挿通する。前記灯具を片手で持ち、前記ワイヤ7の下端を前記係止部材5に当接させて当該係止部材5及び前記スリーブ4を下方に押し込むと、係止部材5が外側に押し退けられ、ワイヤ7の先端は簡単にワイヤ挿通孔21の下方に通り抜ける。
ワイヤチャック1を通り抜けたワイヤ7の下端を片手で下方に引っ張って緊張させながら、灯具を所定の高さまで持上げて手放すと、ワイヤ7と異径部6とに当接している係止部材5がワイヤ7に連れて当該ワイヤ7と異径部6との間に食い込み、係止部材5、スリーブ4、ボディ2及び天板25がワイヤ7に対して位置決めされる。
ここで、天板25の位置が予め設計された位置よりも低い場合には、ワイヤ7の下端を片手で下方に引っ張って緊張させながら、天板25を所定の高さまで持上げた後に手放すという手順で天板25の高さが上方調整される。
反対に、天板25の位置が予め設計された位置よりも高い場合には、一方の手でワイヤ7を引っ張って緊張させながら、他方の手で天板25の前記ワイヤチャック1の近くを支え、つまみ17をこの他方の手の、例えば親指と人差し指の2本の指で挟んで下方に引っ張ることによりワイヤチャック1のチャック機能を解除し、このチャック機能を解除させた状態で天板25を所定の高さまで下げてつまみ17を手放すという簡単な手順で天板25の高さが下方調整される。
もっとも、片方の手で天板25の前記ワイヤチャック1の近くを支え、つまみ17をこの片方の手の、例えば親指と人差し指の2本の指で挟んで下方につまみ17を加減しながら下方に引っ張ることによりワイヤチャック1のチャック機能を部分的に解除し、灯具の重量でワイヤ7を緊張させるとともに、ワイヤチャック1及び天板25の下降にブレーキをかけながら天板25を所定の高さまで下げてつまみ17を手放すという手順で天板25の高さを下方調整することもできる。
下方調整のいずれの手順においても、高さ調整の終期において、つまみ17を加減しながら下方に引っ張り、ワイヤチャック1及び天板25の下降にブレーキをかけながら天板25の高さを調整すると、当該天板25の高さ調整の精度を高めることができる。
天板25の高さを予め設計された高さに調整してつまみ17を手放すと、ワイヤチャック1のチャック機能が即座に回復され、天板25は手で支えられている高さでワイヤ7に固定されるから、すこぶる正確に、かつ確実に短時間で天板25の高さ調整ができる。
なお、特に高精度の高さ調整、例えばサブミリメートル以上の高精度が求められている場合には、前述のように、天板25の高さ調整を行った後、前記ナット24の締め加減を調整することにより天板25の高さを、例えばバネ座金27の変形範囲内で、微調整することが可能である。
ところで、前述のようにして天板25の高さを調整した後、前記かしめ部分20を例えばペンチを用いてワイヤ7にかしめ付けることにより、ワイヤ7にスリーブ4が、簡単に、いわばワンタッチの瞬間に、ワイヤ7に固定される。又、このかしめによる固定は、係止部材5による固定に比べて強力であり、係止部材5による固定ではワイヤ7の滑りが生じる程度に強烈な衝撃に対してもワイヤ7の滑りを防止することができる。しかも、前記スリーブ4は、このかしめと、係止部材5とによりワイヤ7に固定されるので、すこぶる強固にワイヤ7に固定されることになるのである。
ここで、前記かしめ部分20は、一体物であるスリーブ4の一部分を構成するので、このワイヤチャック1によれば、従来技術のストッパ部材を用いずにスリーブ4をワイヤ7に固定でき、部品点数を削減することができる。
さて、このように構成された抜き通し型ワイヤチャック1によれば、前述したように、予め天板25に固定されたワイヤチャック1が設計された高さよりも高く位置する場合には、一方の手でワイヤ7を緊張させ、他方の手で天板25を支えながら前記つまみ17を引下げた状態で天板25を設計高さまで下げて前記つまみ17を放すという、極めて簡単な手順で、短時間に、かつ正確に天板25の高さ調整ができる結果、工期を短縮することができる。
又、このワイヤチャック1によれば、実質的にはスリーブ4の形状を変更しただけの簡単な構成であるばかりではなく、ストップ部材を省略して部品点数を削減することによりコストダウンができ、極めて経済的に実施できる。
更に、前記スリーブ4のかしめ部分20をワイヤ7にかしめ付けることにより、ワイヤ7に対するスリーブ4及び係止部材5の位置を確実に保持することができるのであり、又、前記スプリング8の弾力により地震などの振動に伴う衝撃を緩衝してワイヤ7が切断されることを防止できる上、地震などの振動により一時的に係止部材5によるチャック機能が緩んだり、解消されたりすることがあっても、かしめ部分20のかしめ付けによるチャック機能が解消されることはないので、振動が沈静して前記スプリング8により係止部材5によるチャック機能が回復される時にはボディ2及び灯具(天板25)が確実に元の高さに支持され、ワイヤチャック1及び灯具の位置がずれたり、ワイヤチャック1及び灯具がワイヤ7から抜け落ちたりするおそれはなくなるのである。
震災などにより灯具が損傷ないし破損した場合には、灯具を交換するために、前記スリーブ4の切断部分19を例えばペンチのワイヤカッタ部分で挟んで切断すると、かしめ部分20とこれがかしめ付けられているワイヤ7の部分が切り離され、取り外すことができるのである。そして、つまみ17をつまんで下方に引下げることにより係止部材5によるチャック機能を解除すると、例えば吊塚から垂下ったワイヤ7からワイヤチャック1の残部と灯具を容易に引き抜くことができ、短時間でワイヤチャック1と灯具を撤去することができる。
ここで、例えば吊塚に垂下って残っているワイヤ7は、設計された高さに固定されたワイヤチャック1の少なくとも余長部分18の中まで垂下る長さを持っている。従って、新しい灯具に取付けられた新しいワイヤチャック1の上方から残されたワイヤ7を差込み、高さ調整をし、前記余長部分をワイヤ7にかしめ付けることにより、係止部材5によるチャック機能とスリーブ4のワイヤ7へのかしめによるチャック機能によりスリーブ4をワイヤ7に固定することができる上、ワイヤ7を再利用できるのである。又、切断部以下が廃棄されたワイヤチャック1も再利用することができる。このワイヤ7及びワイヤチャック1の再利用は、何らかの理由で破損した他物の交換費用の節約になるばかりでなく、例えば震災地など資材の供給が制約され勝ちな所における資材の確保に大きく寄与するものである。
図2は、本発明の他の実施例に係る抜き通し型ワイヤチャックの縦断側面図である。
この図2に示す実施例では、抜き通し型ワイヤチャック1において、ボディ2の頭部10が脚部9の上端に連設され、前記天板25の上側から脚部9を取付け孔23に挿通し、この脚部9の下側からナット26を螺定してワイヤチャック1を天板25に固定し得るように構成されている。
この実施例のその他の構成、作用ないし効果は前記本発明の一実施例のそれらと同様であるので、重複説明を避けるため省略する。
図3は、本発明の又他の実施例に係る抜き通し型ワイヤチャックの縦断側面図であり、このワイヤチャック1のつまみ17は、前記ボディ2外に突出させた前記小径軸部16の下端部に所定の範囲で摺動可能に、かつ、回転自在に外嵌させた袋ナットで構成されている。
このつまみ17は、ワイヤ7に対する天板25及びワイヤチャック1の高さ調整をした後、前記ボディ2の頭部10から下方に連出されたネジ軸30に螺合され、前記スリーブ4を係止部材5がワイヤ7を締付ける方向に押し込んで、振動により係止部材5のチャック機能の弛緩ないし解除が生じないように構成している。
又、前記スリーブ4の余長部分18、切断部分19及びかしめ部分20は、ボディ2に締付けたつまみ17よりも下方に突出する小径軸部16の部分に設けられている。
この実施例によれば、ワイヤ7に対してボディ2及び天板25は上下両方向に遊びの無い状態で固定され、ワイヤチャック1は係止部材5とかしめとにより非常に強固にワイヤ7に固定される。
この実施例のその他の構成、作用ないし効果は、上記本発明の一実施例におけるそれらと同様であるので、重複説明を避けるため省略する。
なお、この実施例では、つまみ17をボディ2にネジ止めし得る袋ナットで構成しているが、ボディ2のネジ軸30に代えて、例えば周溝を有する延長軸を頭部10の下側に連出し、つまみ17を、上に開放された穴を有し、且つ前記延長軸に下方から嵌脱されるキャップで構成し、このつまみ17の内周面に前記周溝に対応する突条を形成して、つまみ17をボディ2の延長軸に外嵌すると、前記集溝と突条が噛合ってつまみ17がボディ2に保持されるように構成してもよいのである。
この場合、ワイヤ7の太さの種類に対応するには、軸方向に複数の周溝を形成しておけばよいのである。
図4は本発明の又更に他の実施例に係る抜き通し型ワイヤチャックの縦断側面図であり、このワイヤチャック1のつまみ17は、前記ボディ2外に突出させた前記小径軸部16の下端部に形成される。又、前記余長部分18、切断部分19及びかしめ部分20は、前記ボディ2とこのつまみ17の間に設けられる。
この実施例のその他の構成、作用ないし効果は、上記本発明の一実施例におけるそれらと同様であるので、重複説明を避けるため省略する。
図5は、前例、即ち、本発明の又更に他の実施例に係るワイヤチャック1の構成に、前記ボディ2に捩じ込むことにより前記係止部材5をワイヤ7に締付ける栓31を加えたものである。
この実施例によれば、ワイヤ7に対する天板25及びワイヤチャック1の高さ調整をした後、前記栓31をボディ2の頭部10に捩じ込めて、前記係止部材5を当該係止部材5がワイヤ7を締付ける位置に保持することにより、振動により係止部材5のチャック機能の弛緩ないし解除が生じることが防止される。
なお、この実施例においては、図6に示すように、前記栓31に代えて、袋ナット32を用いてもよい。この袋ナット32はボディ2の頭部10から下方に連出されたネジ軸30に螺合されている。
図7は、本発明の以上の実施例に係る抜き通し型ワイヤチャック1の縦断側面図であり、この実施例ではつまみ17を省略することにより、一層大幅にコストダウンを図ることができるのである。
又、この実施例のその他の構成、作用ないし効果は、上記本発明の一実施例におけるそれらと同様であるので、重複説明を避けるため省略する。