JP2005224103A - Dnaアレイ、それを用いた遺伝子発現解析方法及び有用遺伝子探索方法 - Google Patents

Dnaアレイ、それを用いた遺伝子発現解析方法及び有用遺伝子探索方法 Download PDF

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Abstract

【課題】本発明は塩基配列情報に乏しい生物を対象とした安価で効率的なDNAアレイによる網羅的遺伝子発現解析及び有用遺伝子の探索方法を課題とする。
【解決手段】ランダムに切断したゲノムDNA断片より調整したゲノムライブラリーを個々に識別し対応付けを可能とする基板に直接固定することにより、遺伝子配列情報量に一切の制限を受けることなく網羅的遺伝子発現解析を可能とする。さらに、作成したランダムゲノムDNAアレイにより検出したプラスミドをより短いDNAに断片化して基板上に固定したサブDNAアレイを作製して遺伝子発現を解析し、有用遺伝子を探索する。
【選択図】図5

Description

本発明は、生物、特に微生物を対象としたDNAアレイ、また、そのアレイを用いた網羅的な遺伝子発現解析を行う方法、また、有用遺伝子を探索する方法に関する。
高密度DNAアレイの使用は網羅的な遺伝子発現解析を可能とし、特定の表現系における遺伝子発現様式の解析に有効である。一般に高密度アレイはcDNA配列あるいはオリゴヌクレオチドをプローブとして基板上に固定することによって得られる。従来のDNAアレイの作成フローの例を図1を用いて説明する。オリゴアレイの作製には、mRNAより合成したcDNAライブラリーの塩基配列解析あるいはゲノムDNAの塩基配列解析を行う。続いて、得られた塩基配列からの遺伝子配列予測、並びに特異的配列の検索を行い、この配列情報を元に合成したオリゴヌクレオチドをプローブとして基板に固定する。cDNAアレイの作製はゲノム解析により得られた全遺伝子予測配列を元に個々の遺伝子について、特異的に増幅するプライマーの合成、PCRによる増幅及び確認後、精製した増幅DNAをプローブとして基板に固定する。
一方、近年ランダムゲノムライブラリーを利用したDNAアレイの利用について報告がなされた(非特許文献1、非特許文献2)。これらは、作製したゲノムライブラリーからPCRによって基板に固定するDNA断片を調製し、DNAアレイを作製するものである。
なお、従来の複数の遺伝子候補からの発現変動遺伝子探索フローの例を、図3に示す。従来は、1.DNAアレイで発現変動が確認されたDNA断片の塩基配列解析、2.遺伝子の予測、3.ノーザンブロットあるいはRT-PCRによる予測された遺伝子個々の発現解析、といった連続する複数の解析が必要であった。
Zaigler et al., Mol. Microbiol. 48:1089-1105, 2003、
Parro et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 100:7883-7888
cDNA配列のプローブ化には各々の遺伝子配列情報及びそれらの遺伝子配列を有するDNA断片の単離を必要とする。またオリゴヌクレオチドプローブはその設計にORF配列情報、あるいはEST配列情報、より望ましくはゲノム配列情報を必要とする。これらの配列情報の取得には大きなコストが必要であるため、高密度アレイを利用可能な生物種は限られている。
真核生物ではそのmRNAは3’端にpoly A構造を共通して保持する特徴を利用して個々の遺伝子配列に対応するcDNAクローンを回収することが可能であり、また一般にEST解析と呼ばれる手法により個々の遺伝子配列の少なくとも一部を解析することが可能である。しかし、大腸菌をはじめとする原核生物のmRNAはpoly Aのような共通構造を持たない為EST解析は困難であり、真核生物にて用いられるようなcDNAクローンをプローブとする高密度DNAアレイは作製されていない。
高密度アレイは非常に多くの遺伝子について発現解析を行えるという特徴から高い網羅性を望む場合が多い。しかし、従来の高密度アレイでは全ゲノム配列情報を元に作製した場合であっても1.タンパク質に翻訳されるORF領域を検出する遺伝子配列予測プログラムが不完全、2.タンパク質に翻訳されないnon-coding RNAは予測不能、であることから重要な遺伝子配列を見落とす危険性がある。
また、上記非特許文献1、2の方法では、PCRはその増幅対象となるDNA配列によって反応結果が不安定であり、増幅が見られない場合、あるいは目的とする断片以外の余分なDNA断片増幅、が観察される。そのため、PCR後に増幅産物の確認作業が必須であり、DNAアレイの作製にあたって塩基配列情報は必要なくなったものの依然その作製工程は猥雑である。
上記課題は以下の構成とすることによって、解決される。
(1)アレイ、及びアレイの作成方法について、有用遺伝子探索のフローを表わした図5の上段部や、ランダムゲノムDNAアレイ作成フローを表わした図2に示すとおり、ランダムゲノムライブラリーを構築し、配列解析を行うことなく各々のゲノムDNA断片を基板上に固定する。即ち、ランダムゲノムライブラリーから抽出したクローンをそのまま基板上に固定するのである。固定するDNA断片の調製にPCRを用いないことにより、基版に固定するDNA断片長をより長くすることが可能となり、任意のDNA断片長を固定したDNAアレイの作製が可能となった。
これにより、塩基配列のみからの遺伝子配列予測は未だ不完全であることから、従来技術では、重要な遺伝子を見落とす可能性があったが、この見落としを解消できると共に、多数の変動遺伝子候補個々について個別に確認する猥雑な作業を行わなくて済む。
(2)また、発現解析方法については、図5の中段に示した通りである。即ち、上記(1)にて作成したランダムゲノムDNAアレイに、RNAを逆転写した蛍光標識されたcDNAなど、サンプルを供給し、ハイブリダイゼーション反応させて、発現解析を行う。このサンプルは、例えばコントロールと特定の刺激を与えるなど培養条件を変えた2種類以上のRNAを準備し、競合反応させてもよい。
(3)また、基板に固定するDNA断片を長くする場合には、ひとつの固定DNA断片に複数の遺伝子種が含まれる可能性が高くなり、真に発現が変動する遺伝子の特定が困難となる。即ち、図3のように、複数の遺伝子を含むDNA断片の塩基配列から始まる複雑な遺伝子発現解析を個々の遺伝子について実施する必要がある。詳細には以下の通りである。
基板上に固定するゲノムDNA断片長は、本来、ひとつの遺伝子あるいはひとつのエクソン以下であると期待される500 bp程度の短いものが望ましい。短いゲノムDNA断片はより安定したPCR結果、及び、より正確な発現解析結果が期待されるためである。しかし、網羅的な発現解析を目的とするためには、短いDNA断片長を選択した場合には長い断片長を選択した場合よりも多くのDNA断片調製を必要とし、調製する断片数の増加はDNAアレイ作製コストの増加につながる。ゲノムサイズが4.6 M bpからなる大腸菌を例にとって計算してみれば、DNA断片長を500 bpとした場合に網羅的な発現解析に最低限必要な冗長度=1の達成には9200(4.6 M bp/500 bp)のDNA断片調製が必要となるのに対し、DNA断片長を2,000 bpとした場合には2300(4.6 M bp/2,000 bp)であり、低コストでDNAアレイ作製が可能となる。よりゲノムサイズが大きくまたエクソン/イントロン構造を持つ真菌類(〜30 M)について安価にDNAアレイを作製する場合には、5〜10 k bpのDNA断片長の固定が効果的であると思われるが、このような長さでしかもその塩基配列が未知のDNA断片を効率的に安定して増幅するのはさらに困難となる。つまり、DNA断片の調製にPCRを用いることは基板上に固定するDNA断片長に制限を受けるため、DNAアレイ作製コスト低減の妨げとなっている。
そこで、本発明では、図5下部の通り、発現変動クローンDNAを断片化して固定したサブDNAアレイを作製する。詳細には、図4の通り、作製されたランダムゲノムDNAアレイにおいて発現変動が確認されたDNA断片をさらに短いゲノム断片に分割、具体的には1遺伝子あるいは1エクソン長より短いと想定される500 bp程度、あるいはそれ以下の断片に分割し、再度DNAアレイを作製して発現解析を行うことにより、真に発現変動する遺伝子を網羅的に解析する。短いDNA断片を固定化することにより、塩基配列解析によって容易に真に発現が変動する遺伝子を特定可能となる。
なお、ランダムゲノムDNAアレイでの解析結果に基づき、分析対象を絞り込み、コストを低減下させたアレイを作成してさらなる解析を行うこともできる。その場合には、分析対象として選抜したゲノムDNA断片をランダムゲノムDNAアレイに固定し、ゲノムDNA断片のスポット数を減らしたアレイを作成し、再度解析を行う。また、分析対象として選抜したゲノムDNA断片について塩基配列を解析しておき、この塩基配列を持つ核酸分子を調製してアレイに固定させてもよい。さらに、ランダムゲノムDNAアレイでの解析結果に基づき、分析対象として選抜したゲノムDNA断片について塩基配列を解析しておき、この塩基配列を持つ核酸分子をプライマーとして調製し、このプライマーを用いてサンプルに対してPCRを行って、遺伝子発現解析を行ってもよい。
生物種、遺伝子配列情報の有無に関わらず安価に、簡便な工程で網羅的発現解析DNAアレイが作成可能となる。また、DNAアレイで得られた結果をもとにサブDNAアレイを作製することにより、有用な遺伝子を網羅的に探索できる。
本発明では、基板上に固定するDNA断片をゲノム由来のDNA断片とすることにより網羅的な遺伝子発現解析を可能とし、また、固定するDNA断片の配列解析を行わないこと及びクローンを直接固定することにより、DNAアレイ作製工程の簡略化と低コスト化を実現させた。
加えてクローンを直接固定化することにより、PCR増幅可能な長さに制限されていたDNA断片長を発現解析の目的に応じて数 kbp〜数十 kbpあるいはそれ以上の長さに自由に選択可能とした。網羅的な発現解析を行うには同一基板上に全遺伝子種のDNA断片が固定されていることが望まれるが、固定する分子の種類は解析対象とする生物のゲノムサイズと固定するDNA断片の長さ、同一基板に固定可能なDNA断片数、基板作製のコストにより決定される。ゲノムサイズが大きい場合や、基板に固定可能なDNA断片数が少ない場合、作製コストを低くしたい場合には、固定するDNA断片長を長くすることが効果的である。
DNAアレイは多数のDNA断片を固定した基板を複製可能であるため、遺伝子発現解析結果を相互に比較可能である。個々の遺伝子配列情報に由来するDNA断片を固定した通常のDNAアレイでは、発現解析の比較結果は各々の遺伝子種の発現変化として認識される。一方、本発明のランダムゲノムDNAアレイでは、固定した分子は複数の遺伝子種を含んでいるため、検出される発現の変化は固定された遺伝子種の変化の総和となる。ランダムゲノムDNAアレイにおいて検出される変化は解析対象とする生物で発現しているmRNAの変化に由来するため、遺伝子種の特定に頼らずとも対象とする生物の状態を解析することが可能である。このような観点の解析は微生物を用いた発酵により製品を生産する現場の工程管理において特に有用である。またこの解析では、エキソン領域予測やORF(open reading frame)予測のための一般的な解析プログラムによっても抽出できない塩基配列領域、例えばアミノ酸配列をコードしない塩基配列領域であるnon-coding領域をも検出対象とすることができる。
本発明のランダムゲノムDNAアレイを用いて予め行う分析の結果に基づいて、アレイに固定する分子を選別し、解析対象をより特化した第2のランダムゲノムDNAアレイを作製することもできる。すなわち、本ランダムゲノムDNAアレイは、解析そのものに用いることも、解析対象のスクリーニングに用いることも可能である。
次に本発明では、先に作製されたDNAアレイにおいて発現変動が確認されたDNA断片をさらに短いゲノム断片に分割、具体的には1遺伝子あるいは1エクソン長より短いと想定される500 bp程度の断片に分割し、再度DNAアレイ(サブDNAアレイ)を作製して発現解析を行うことにより、真に発現変動する遺伝子を網羅的に解析することを特徴とする。
先に記述したように、本発明により作製されるDNAアレイは複数の遺伝子種を含むDNA断片を固定するため、検出される発現の変化は固定された遺伝子種の変化の総和となる。複数の遺伝子を含むDNA断片から個別の遺伝子の発現変動を解析するには、I)DNAアレイで発現変動が確認されたDNA断片の塩基配列解析、II)遺伝子の予測、III)ノーザンブロットあるいはRT-PCRによる予測された遺伝子個々の発現解析、といった連続する複数の解析が必要となることが多い(図3)。
しかし、本発明で作製するDNAアレイを用いた網羅的発現解析の結果により確認された複数のDNA断片についてこれらの解析を行うのは煩雑な場合がある。
そこで本発明においては、発現変動DNA断片をより短い断片に分割し基板上に固定化したサブDNAアレイを作製し、発現が変動する遺伝子の特定をさらに行う(図4)。固定するDNA断片長を500 bp程度、あるいはそれ以下の大きさにすることにより、固定されるDNA断片に含まれる遺伝子あるいはエキソンの種類は1以下であると推定される。そのため、本サブDNAアレイを使用して得られる発現解析の変化は、真に発現が変化する遺伝子個々の正確な発現変化であると期待される。また、サブDNAアレイに固定するDNA断片の調製に遺伝子予測といった不正確と成り得る工程を含まないことにより、原核生物のみならず、遺伝子予測の困難な真核生物に対しても網羅的な発現遺伝子の探索を可能とする方法である。
本発明全体の概要を図5にまとめた。ゲノムライブラリーを直接基板に固定したランダムDNAアレイのみによる発現解析、およびサブDNAアレイのみによる遺伝子探索も可能であるが、これらを組み合わせて使用することにより、あらゆる生物種において、網羅的な遺伝子発現解析と遺伝子探索を迅速で安価に達成可能である。
本発明においてゲノムDNA断片を結合させる基板として、ポリリジン処理を行ったスライドガラスを使用し、スポッティング法によってDNA断片を固定したが、ゲノムDNA断片を固定しうるものであれば使用する基板に特に制限はなく、またその固定方法も制限を受けない。
DNAアレイ、サブDNAアレイにハイブリダイズさせるプローブcDNAとしては、目的に応じて種々のものを用いることができる。例えば、種々の培養条件から得られたmRNAに由来するcDNA、ランダムゲノムライブラリーの作製材料とした生物の遺伝子変異系統株に由来するcDNA、ランダムゲノムライブラリーの作製材料とした生物の類縁系統株に由来するcDNAをアイソトープあるいは蛍光標識したプローブ等である。
遺伝子の発現量は、プローブをDNAアレイあるいはサブDNAアレイにハイブリダイゼーションさせ、結合したプローブの量を、プローブに結合させた標識を指標として測定器で計測することができる。遺伝子発現の変化は、例えば比較使用とする2種のcDNAをそれぞれCy3及びCy5といった2種の蛍光物質で標識し、同一の基板上で同時に競合ハイブリダイゼーションさせることにより直接検出可能である。またあるいは、別の基板上で行った発現解析の結果と比較することも可能である。
なお、DNAの切断、連結、大腸菌の形質転換、遺伝子の塩基配列決定、cDNAの標識等一般の遺伝子解析に必要な方法は、一般的に用いられる方法によってしたがって行うことができる。
以下に、本発明を実施例によってさらに詳しく説明する。なお、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
(実施例1 ランダムゲノムDNAアレイの作製)
大腸菌JM-109株よりCTAB法によりゲノムDNAの抽出を行った。
抽出したゲノムDNAを制限酵素Taq αIにより部分分解し、約2 k bpの切断DNA断片群をアガロースゲルより回収した。
切断DNA断片を連結するベクター(pUC19)は制限酵素 ACC Iにより切断し、さらに修飾酵素 CIAPによって末端の脱リン酸化を行った。
酵素処理済のpUC19を大腸菌より回収した切断ゲノムDNA断片と混合し、ライゲースにより連結し、大腸菌 XLI-Blue MRF'株のコンピテントセルに導入を行った。
寒天培地上より任意の3000コロニーのプラスミド導入大腸菌よりアルカリ-SDS法によりプラスミドを回収し、ランダムゲノムライブラリーをプラスミド3000クローンとして得た。このプラスミドライブラリーはそれぞれ約 2 k bpのゲノム切断断片を含むので、3000クローンでは6 M bp (2 k bp×3000クローン)のゲノム断片からなり、ゲノムサイズ4.2 M bpの大腸菌ゲノムを約1.4の冗長度で保有すると想定された。
回収したプラスミド3000クローンをスポッターSP-Bio(日立ソフト社製)によりスライドグラス上にスポッティングし、80℃処理により固定した。
ランダムゲノムDNAアレイによる発現解析の精度評価を目的としてOD600=1.0 まで37℃のLB液体培地で培養した大腸菌JM-109株より total RNAを抽出した。
抽出したtotal RNAをランダム6 merをプライマーとして逆転写酵素によりcDNA化した。合成したcDNAを2つに分け、それぞれをCy3あるいはCy5で標識し、同一のランダムゲノムDNAアレイ上にて競合ハイブリダイセーションを行った。得られたシグナル値をプロットした結果を図6に示した。アレイ上に固定したスポットは2倍発現変化内に分布しており、この結果は発現比較実験により得られる2倍以上の変化を示すクローンは発現に差があるものと推察される。
次に温度刺激による遺伝子発現変化の解析を目的として3種の異なる温度条件下で大腸菌を培養した。使用した培養条件は、OD600=1.0まで37℃のLB液体培地で培養した大腸菌JM-109株を(1)引き続き37℃で培養したもの、(2)50℃のLB培地で7分間培養したもの、(3)16度のLB培地で60分培養したもの、でありそれぞれの大腸菌よりtotal RNAを抽出した。
3種のtotal RNAをランダム6 merをプライマーとして逆転写酵素によりcDNA化した後、高温刺激による遺伝子発現変化の解析では37℃培養大腸菌に由来するcDNAをCy3で標識し、50℃培養大腸菌に由来するcDNAをCy5で標識を行い、同一のランダムゲノムDNAアレイ上にて競合ハイブリダイセーションを行った。図7のAは高温刺激の解析結果であり、横軸に50℃培養に由来するシグナル値、縦軸に37℃培養に由来するシグナル値をプロットしたものである。
一方、低温刺激による遺伝子発現変化の解析では37℃培養大腸菌に由来するcDNAをCy3で標識し、16℃培養大腸菌に由来するcDNAをCy5で標識を行い、同一のランダムゲノムDNAアレイ上にて競合ハイブリダイセーションを行った。図7のBは低温刺激の解析結果であり、横軸に16℃培養に由来するシグナル値、縦軸に37℃培養に由来するシグナル値をプロットしたものである。
いずれの解析においてもグラフ中に赤破線で示した2倍発現変動を超える値を示した複数の固定DNA断片が確認され、培養条件による遺伝子発現の差を本発明により作製したランダムゲノムDNAアレイにより検出可能であることが確かめられた。
上記の温度刺激による発現変動解析をそれぞれ3回繰り返して行い、さらにそれらの結果をクラスター解析した結果が図8である。図8の画像データに見られるように本ランダムゲノムアレイの解析は高い再現性を示した。さらに、スポット全体の発現強度を指標として各アレイ間のクラスタリングを行うと、図8上部に示されるように、各培養温度条件がクラスター化された。この結果は、あらかじめ理想的な生育条件等代表的な発現データを所持しておけば、発現解析結果をクラスタリングすることにより容易に現在の生物の生育状態を判定することが可能であることを示している。このような発現解析による培養条件の推察は、特に発酵法により有機物、あるいは食品を生産している現場において非常に有用であると推察される。
次に、発現変化の妥当性について検証を行った。高温温度刺激により発現が誘導された、あるいは抑制されたクローンについて塩基配列の解析を行った。得られた塩基配列をNCBI(National Center for Biotechnology Information (http://www.ncbi.nlm.nih.gov/))の大腸菌K-12株ゲノムデータに対して相同性検索を行った。結果の代表例を図9に示した。図9のAは50℃処理で発現増加が見られたプラスミド(plasmid01)の塩基配列を解析し、相同性検索を行ったものである。3種の遺伝子(yjeH, mopB, mopA)の存在が確認されたが、これらの遺伝子はいずれも非特許文献3において高温で培養した大腸菌で発現増加が報告されている。また図9のBは16℃処理で発現増加が見られたプラスミド(plasmid02)の塩基配列を解析し、相同性検索を行ったものである。2種の遺伝子(infB, nusA)の存在が確認されたが、これらの遺伝子はいずれも非特許文献4において低温で培養した大腸菌で発現増加が報告されている。
この結果は、本発明により作製したアレイにより得られる網羅的発現解析の結果は信頼できるものであることを示している。
(実施例2 サブDNAアレイの作製)
サブDNAアレイ作製の概要図を図10に示した。ランダムゲノムDNAアレイにより検出された発現変動プラスミド個々をそれぞれ制限酵素あるいは物理せん断により500 bp程度の断片に分割後、プラスミドベクターに連結し、プラスミドライブラリーを得る。回収するコロニーの数は切断前の発現変動プラスミドに挿入されていたゲノムDNA断片長に依存して変動するが、網羅性を保持するためには冗長度5以上となる数を得るのが好ましい。
得られたプラスミドライブラリーをスポッターSP-Bio(日立ソフト社製)によりポリリジン処理したスライドグラス上にスポッティングし、80℃処理によりサブDNAアレイを得る。
標識したcDNAを用いたハイブリダイゼーションを行って個々のスポットについて発現変動を解析する。
発現変動が見られたクローンについて塩基配列を解析し、塩基配列からの遺伝子予測及びNCBI等のデータベースを対象とした相同性検索により遺伝子機能予測を行う。
本サブDNAアレイ上に固定されているゲノムDNA断片は500 bp程度と充分に短いため、単一の遺伝子のみを含むと推察され、塩基配列解析により容易に真に発現が変動する遺伝子についても同定可能である。
本方法では、複数の遺伝子を含みうるゲノム断片を固定した核酸アレイから、真に発現が変動する遺伝子を効率的に特定可能である。本発明のランダムゲノムDNAアレイでは、固定した分子は複数の遺伝子種を含みうるため、遺伝子種の特定に頼らずとも対象とする生物の状態を大局的に解析することが可能である。このような観点の解析は、条件によって各々成育状況が異なる微生物の参照株・類縁株、または微生物の参照株・変異株に対して、その存在および動向を解析するときに有用である。また、本発明のサブゲノムDNAアレイでは、ゲノムDNA断片をプローブとしながらも、短断片化により単一の遺伝子のみを含むと推察される。よって、塩基配列解析と合わせることにより、容易に真に発現が変動する遺伝子について同定可能である。ランダムゲノムDNAアレイとサブゲノムDNAアレイとを組み合わせて使用することにより、ゲノムDNAの塩基配列が十分に解明されていない生物由来の核酸についても、事前の塩基配列解析せずとも、発現が変動する遺伝子を同定することができる。すなわち、過去の研究の蓄積がいかに小さくとも、網羅的な発現解析に引き続き効率的な遺伝子解析を可能とするものであり生物の遺伝的育種等の研究において特に有用である。
(実施例3 変異株の発現比較及び類縁株の発現解析)
参照株に対し異なる表現形を与える変異株を有する場合、参照株あるいは変異株のゲノムDNAライブラリーより作製したショットガンゲノムアレイ、もしくはそれぞれの株のゲノムライブラリーを同一基板上に固定したアレイを用いて、それぞれの株の発現解析を行うことが可能である。本解析によって得られる遺伝子発現の違いは株間の表現系の違いに関係すると推察される。
例えば標準株(α株)に対し、生産性の高い変異株(β株)、生産性の低い変異株(γ株)の発現比較を行うことにより、生産性の向上に寄与する遺伝子及び生産性の低下に寄与する遺伝子を検出可能である。生産性を改変する遺伝子は、遺伝子組換え等の生物育種に利用可能であり、産業応用において非常に重要である。
尚、類縁株の解析も同様の手法で解析可能である。
(実施例4 ランダムゲノムアレイ解析結果の利用)
ランダムゲノムアレイは高い網羅性を達成するために、基板上に多くのDNA断片を固定している。しかし、発現解析の結果により注目すべきDNA断片が決定された場合は、ランダムゲノムアレイの網羅性を維持する必要はないと思われる。
ランダムゲノムアレイ解析結果の利用においては(1)ランダムゲノムアレイより任意の数の固定プローブを選抜し、それらを固定したランダムゲノムアレイを作製する、(2)ランダムゲノムアレイより任意の数の固定プローブを選抜し、それらの固定プローブの塩基配列を元に調製した核酸分子を固定したアレイを作製する、(3)ランダムゲノムアレイより任意の数の固定プローブを選抜し、それらの固定プローブの塩基配列を元にしたプライマーを用いたPCRにより遺伝子発現解析を行う、等の方法が考えられる。これら(1)〜(3)の解析によりランダムゲノムアレイ解析結果の利用はさらに効率的に達成される。
Richmond et al., (1999) Nucleic Acid Research 27:3821-3835 Bae et al., (2000) Proc Natl Acad Sci USA. 97:7784-7789
従来のDNAアレイの作成フローの例。 ランダムゲノムDNAアレイ作成フローの例。 従来の複数の遺伝子候補からの発現変動遺伝子探索フローの例。 サブDNAアレイによる発現変動遺伝子探索フローの例。 有用遺伝子探索のフロー図。 ランダムゲノムDNAアレイを用いて得られたシグナル値をプロットした結果の例。 温度刺激による遺伝子の発現変動の例。 クラスター解析した結果の例。 大腸菌K-12株ゲノムデータに対して相同性検索を行った結果例。 サブDNAアレイ作製の概要図。

Claims (10)

  1. 任意の細胞由来のゲノムDNAの断片を含む、プラスミドを表面に固定化した核酸アレイ。
  2. 任意の細胞からゲノムDNAを抽出する工程と、
    前記ゲノムDNAを断片化して得られるゲノムDNA断片を含むプラスミドを作製する工程と、
    前記ゲノムDNA断片を含むプラスミドを基板に固定化する工程とを有することを特徴とする核酸アレイ作製方法。
  3. 任意の細胞からゲノムDNAを抽出する工程と、
    前記ゲノムDNAを断片化して得られるゲノムDNA断片を含むプラスミドを作製する工程と、
    前記ゲノムDNA断片を含むプラスミドを固定化した第1の基板を用いて、前記ゲノムDNA断片を含むプラスミドから任意のプラスミドを選択する工程と、
    前記任意のプラスミドを断片化して得られる任意プラスミド断片を含むプラスミドを作製する工程と、
    前記任意プラスミド断片を含むプラスミドを第2の基板に固定化する工程とを有することを特徴とする核酸アレイ作成方法。
  4. ゲノムDNAの少なくとも一部から作成されたゲノムライブラリーを用いて、前記ゲノムDNAの塩基配列の少なくとも一部を含む第1の核酸分子群を調整する工程と、
    前記第1の核酸分子群を第1の基板に固定化する工程と、
    前記第1の基板に分析対象核酸を供給し、前記第1の核酸分子群と前記分析対象核酸とのハイブリダイズの結果を解析する工程とを有することを特徴とする核酸分析方法。
  5. 前記ハイブリダイズの結果の解析に基づいて、前記第1の核酸分子群のうちの任意の核酸分子の塩基配列を選択する工程と、
    前記任意の核酸分子を断片化し、短断片群からなるサブゲノムライブラリーを作成する工程と、
    前記サブゲノムライブラリーを用いて、前記任意の核酸分子の塩基配列の少なくとも一部を含む第2の核酸分子群を調整する工程と、
    前記第2の核酸分子群を第2の基板に固定化する工程と、
    前記第2の基板に前記分析対象核酸を供給し、前記第2の核酸分子群と前記分析対象核酸とのハイブリダイズの結果を解析する工程とをさらに有することを特徴とする請求項4に記載の核酸分析方法。
  6. 前記分析対象核酸は、前記ゲノムDNAをゲノムDNAとして保持する生物より得るmRNAを鋳型として調整したcDNAであることを特徴とする請求項4に記載の核酸分析方法。
  7. 前記任意の核酸分子の塩基配列を選択する工程では、前記任意の核酸分子の塩基配列について相同性検索を行い、前記任意の核酸分子が含む遺伝子の解析を行うことを特徴とする請求項5に記載の核酸分析方法。
  8. 前記短断片群の断片長は、前記ゲノムDNAが原核生物由来の場合には予想される遺伝子長、前記ゲノムDNAが真核生物の場合にはエクソン長以下のDNA断片であることを特徴とする請求項5に記載の核酸分析方法。
  9. 前記ゲノムDNAは培養条件変化の前の細胞に由来したものであり、前記分析対象核酸は前記培養条件変化の後の細胞に由来したものであり、前記第1の核酸分子群と前記分析対象核酸とのハイブリダイズの結果を解析する工程では、前記培養条件変化の前後での遺伝子発現について分析することを特徴とする請求項4に記載の核酸分析方法。
  10. 前記ハイブリダイズの結果の解析に基づき、前記第1の核酸分子群から任意の核酸分子を選択して第3の基板に固定化する工程と、前記第3の基板に前記分析対象核酸を供給し、前記任意の核酸分子と前記分析対象核酸とのハイブリダイズの結果を解析する工程とをさらに有することを特徴とする請求項4に記載の核酸分析方法。
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