JP2005218445A - 培養皮膚細胞とこれを原料として用いた移植用材及び遺伝子解析用材並びに培養皮膚細胞の製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】皮膚解剖などのバイオプシーを要せず、疾患発症の有無に関わりなく万人を対象とすることができ、精製された培養皮膚幹細胞又は皮膚幹細胞を含む培養皮膚細胞を製造する方法の確立、及びこのようなヒトの培養皮膚幹細胞又は培養皮膚細胞を提供する。また、移植拒絶反応のない、オーダーメイド再生医療用に適する移植用材を提供する。
【解決手段】培養皮膚細胞は、ヒトの毛包を培養することによって得られ、上皮系細胞及び/又は色素系細胞に分化可能な皮膚幹細胞を含んで成る。
【選択図】図1

Description

本発明は培養皮膚細胞及びその用途とその製造方法に係り、特に、オーダーメイド再生医療用、遺伝子診断用などの材料又は原料となるヒトの毛包幹細胞を含む培養皮膚細胞、及びその製造方法に関する。
皮膚附属器とよばれる毛包は生体で最小の組織であり上皮系細胞、色素系細胞および間葉系細胞の3系統の細胞から構成されており、上皮系細胞と色素系細胞には、幹細胞が存在することが明らかにされている。このような幹細胞は生体内では通常slow cyclingであることに着目し、新生仔マウスの体毛を用いてH−チミジンなどによるlabeling testを行いlabel retaining cellが毛球部ではなくバルジに局在することが見いだされた。またコロニー形成能のある細胞の95%がバルジ、5%が毛球部に認められた。これらの結果から、毛包内の幹細胞はバルジに局在することが推測され、さらに実験によりバルジに局在する幹細胞は表皮、脂腺、毛包のすべての層を形成する多分化能細胞であることが証明されている。
I. Moll,Journal of Investigative Dermatology, Vol 105, 14−21,(1995). EMI K. NISHIMURA et al、 Nature 416, 854−860 (2002). Fuchs E, Raghavan S.、Nat. Rev. Genet. 2002 Mar;3(3):199−209.
また、培養皮膚移植分野においては、古くから培養表皮の研究が行われ、放射線照射によりその増殖能を欠失させたマウス3T3細胞をフィーダーに用い繊維芽細胞の増殖を抑えることで、表皮細胞のコロニー形成能を確保できることが報告された(非特許文献4参照)。以来、さらに広く開発研究が進み、MCDB培地にウシ下垂体抽出物(BPE:Bovine Pituitary Extract)を添加することでフィーダーなしに無血清培地による表皮細胞の培養が可能であることが示され(非特許文献5参照)、現在では培養表皮シートとしての移植用材が実用化、臨床に適用されている。
Rheinwald,J.G. & Green,H., Cell 6,331−343(1975). Boyce,S.T.,Ham,R.G., Journal of Investigative Dermatology,81,33s−40s(1983).
培養真皮の場合には、培養繊維芽細胞だけでは間質が不充分となることから、細胞外マトリックスを要し、このマトリックスとしてコラーゲン以外にも、例えば、アテロコラーゲンや生体吸収性の合成高分子等を用い繊維芽細胞を播種して培養する移植用材が実用化されている(非特許文献6、7、8等参照)。また、真皮由来のコラーゲンI型溶液と繊維芽細胞とを混合ゲル化し培養した表面上に、表皮細胞を播種、培養した皮膚移植用材がある(非特許文献9参照)。さらに、三次元構造を有するように上皮系細胞を播種、表面が空気中に暴露した状態で培養することで培養皮膚ともいえるような皮膚移植用材を製造できることが報告されている(非特許文献10参照)。
山下理絵ら、「日形会誌」,14,554−564(1994). 山下理絵ら、「熱傷」,22,177−184(1996). Gentzkow,G.D. et al,Diabetes Care,19,350−354 (1996). Bell,E.et al,Science,211,1052−1054(1981). Tsunenaga,M.;Jpn.J.Cancer Res.,85,238−244 (1994).
一方、近年全世界的にアレルギー疾患の増加が報告され、日本においても昭和30年代には数%と報告されていた羅患率が、現在では40%に達し、21世紀末には50%以上に達すると推定されている。このような急激な増加は遺伝子の突然変異では説明不可能であり、環境要因の関与が強く示唆されている。またアレルギー疾患は非常に多岐にわたり、しかも症状が進行性ではなく増悪寛解が見られる。今日の分子生物学の目覚しい発展にもかかわらず、こうした障害によって、アレルギー疾患は、強い遺伝素因の存在が知られながら、その遺伝子本体や、いったい環境要因と遺伝子がどのようにかかわりあって発症、寛解しているのかという疑問にまったく手掛かりがなかった。
そのアレルギー成立の分子機構が本発明者らの内1名の参加した英国、Oxford大学のグループによって初めて扉が開かれた。すなわち、1989年、大規模な家系調査を行って、IgEや特異IgE抗体を産生するアトピー素因に関与する遺伝子の本体について第11染色体にアトピー遺伝子の存在を予告したのがきっかけで(非特許文献11参照)、アレルギー遺伝学が形成され今日大きく発展した。1996年には同じくOxford大学のグループが全ゲノムの解析を行い(非特許文献12)、候補遺伝子座を特定して以来10に上る研究が行なわれ、喘息、アトピー性皮膚炎などの候補遺伝子が特定されつつある。本発明者らが10年間にわたり様々な文献検索と共同研究者からの報告を基に60以上の遺伝子を候補遺伝子として検索し、喘息をはじめとするアレルギー疾患との関連を明らかにするとともに、理化学研究所においてミレニアム計画の一端として全ゲノム遺伝子解析を行っている。
白川太郎,「最新医学」,58,199−200(2003). Hopkin,J.M.and Shirakawa,T.;Genetics of Asthma.In Allergy(3rd edition). Mosby (2002).
しかしながら、非特許文献1〜3を含め、ヒトの毛包から皮膚幹細胞を培養、単離した報告はなく、アトピー性皮膚炎などアレルギー性疾患の患者毛包由来の皮膚幹細胞についての例もない。また、培養皮膚移植分野において非特許文献4〜10のような培養表皮シート、培養真皮や培養皮膚などの皮膚移植用材が実用化、皮膚創傷治療などに利用可能となっているが、移植拒絶反応の面では問題が残っており、さらに、表皮細胞や真皮繊維芽細胞のようなヒトの皮膚細胞を得るためには、皮膚のバイオプシーが必要でありオーダーメイド再生医療の移植用材料としては適用できないものであった。非特許文献11及び12に示されるようにアレルギー性疾患の原因となる候補遺伝子の探索や、全ゲノム遺伝子解析が進みつつあるが、このような研究を加速し、その確度を上げるためにもより多くの対象者からの解析用材料収集が望まれている。
したがって、本発明は以上のような問題に鑑みてなされたものであり、皮膚解剖などのバイオプシーを要せず、疾患発症の有無に関わりなく万人を対象とすることができ、精製された培養皮膚幹細胞又は皮膚幹細胞を含む培養皮膚細胞を製造する方法の確立、及びこのようなヒトの培養皮膚幹細胞又は培養皮膚細胞を提供することを目的とするものである。また、他の目的は、移植拒絶反応のない、オーダーメイド再生医療用に適する移植用材、又はアレルギー性疾患などの原因遺伝子探索や全ゲノム遺伝子解析に適する遺伝子解析用材料等を提供することにある。
上記目的を達成するため、本発明による培養皮膚細胞は、ヒトの毛包を培養することによって得られ、上皮系細胞及び/又は色素系細胞に分化可能な皮膚幹細胞を含んで成ることを特徴とする。上記培養皮膚細胞においては、ヒトの毛包が頭皮由来であることが好適であり、ヒトの毛包が少なくともアレルギー性疾患を発症していない健常者由来の毛包であっても良く、また、ヒトの毛包が少なくともアトピー性皮膚炎及び/又は気管支喘息及び/又はアレルギー性鼻炎を発症していない健常者由来の毛包であっても良い。さらには、ヒトの毛包がアレルギー性疾患を発症した患者由来の毛包であることが好ましく、また、アトピー性皮膚炎を発症した患者由来の毛包、気管支喘息を発症した患者由来の毛包、アレルギー性鼻炎を発症した患者由来の毛包のいずれであっても良い。
上記のような培養皮膚細胞において、皮膚幹細胞が単離された未分化の上皮系幹細胞であることが好ましく、また、皮膚幹細胞が単離された未分化の色素系幹細胞であっても良い。そして、培養皮膚細胞は、以上に記載のような培養皮膚細胞における皮膚幹細胞から分化誘導された上皮系細胞及び/又は色素系細胞を含んで成るものとすることもできる。
また、上記目的を達成するため、本発明による移植用材は、以上に記載のような培養皮膚細胞を原料として用いヒト体表へ移植可能に構成されたことを特徴とする。この移植用材において、培養皮膚細胞が、移植される自己由来であることが好適である。そして、上記目的を達成するため、本発明による遺伝子解析用材は、以上に記載のような培養皮膚細胞を原料として用いアレルギー性疾患原因遺伝子の解析に適用可能に処理されたことを特徴とする。この遺伝子解析用材において、アレルギー性疾患原因遺伝子が、アトピー性皮膚疾患、又は気管支喘息、又はアレルギー性鼻炎の原因遺伝子であることが好ましく、また、アレルギー性疾患原因遺伝子の解析が、その候補遺伝子解析、連鎖解析法に基く全ゲノム解析(physical mapping)、全ゲノムSNP(一塩基多型:Single Nucleotide Polymorphism)解析のいずれであっても良い。
さらに、上記目的を達成するため、本発明による培養皮膚細胞の製造方法は、上皮系細胞及び/又は色素系細胞に分化可能な皮膚幹細胞を含んで成る培養皮膚細胞を得るようにヒトの毛包を培養することを特徴とする。この培養皮膚細胞の製造方法において、ヒトの毛包が頭皮由来であることが好ましく、また、ヒトの毛包が、引き抜いた毛髪1本に付着したものであることが好適である。そして、ヒトの毛包が少なくともアレルギー性疾患を発症していない健常者由来の毛包であっても良く、また、ヒトの毛包が少なくともアトピー性皮膚炎及び/又は気管支喘息及び/又はアレルギー性鼻炎を発症していない健常者由来の毛包であっても良い。さらには、ヒトの毛包がアレルギー性疾患を発症した患者由来の毛包であることが好ましく、また、アトピー性皮膚炎を発症した患者由来の毛包、気管支喘息を発症した患者由来の毛包、アレルギー性鼻炎を発症した患者由来の毛包のいずれであっても良い。
以上に記載のような培養皮膚細胞の製造方法においては、ヒトの毛包の培養を;Ca2+濃度が0.1mM未満であり、BPE不含の無血清培地を初代培養及び継代培養ともに用いて行い;皮膚幹細胞が単離された未分化の上皮系幹細胞であることが好適であり、また、ヒトの毛包の培養を;Ca2+濃度が0.1mM未満の無血清培地を初代培養に用いて行い;Ca2+濃度が0.1mM未満の無血清培地を用いた継代培養途中の細胞が対数増殖期にある期間内において、Ca2+濃度が0.2〜2.2mMの無血清培地に変更し、培養を続けることができる。そして、ヒトの毛包を、無血清培地に浸漬した後、ディスパーゼ溶液に浸して酵素処理し、低細胞濃度又は単一細胞とした状態から初代培養を開始することが良く、さらには、初代培養により得られた敷石状形態の細胞を洗浄液でリンスした後、0.025重量%以上0.1重量%未満のトリプシン/EDTA溶液を用いて少なくとも1回処理することによって培養容器から剥がし;剥がれた細胞を遠心管に回収、無血清培地に分散させてこれを培養ディッシュに播種し継代培養を行うことが好ましい。
本発明の培養皮膚細胞は、移植拒絶反応のない移植用材や、アレルギー性疾患等の原因遺伝子解析用材などの原料として有用である外、凍結することによって長期間安定に維持保存が可能である。また、本発明の移植用材は、移植拒絶反応がなくオーダーメード再生医療に用いることができる外、遺伝子治療用にも利用できる。本発明の遺伝子解析用材は、アレルギー性疾患などの原因遺伝子解析に有用であり、本発明の培養皮膚細胞管理サービスによれば、疾患の有無に関わり無く広範な対象者の培養皮膚細胞からセルバンクを構成することができる。さらに、本発明による培養皮膚細胞の製造方法によれば、バイオプシーを要せず、疾患発症の有無に関わりなく万人を対象として自己由来の皮膚幹細胞又は皮膚幹細胞を含んで成る培養皮膚細胞を得ることができる。また、単離、精製された皮膚幹細胞とすることができる。
以下、本発明による培養皮膚細胞及びその用途とその製造方法を実施するための最良の形態について詳細に説明する。
〔第1実施形態〕
本実施形態における培養皮膚細胞は、ヒトの毛包を培養することによって得られ、上皮系細胞(ケラチノサイト)及び/又は色素系細胞(メラノサイト)に分化可能な皮膚幹細胞を含んでなる。毛包としては、ヒト皮膚体毛の毛包であれば如何なる毛包であっても使用できる。より容易に多量の毛包を採取可能である点で、頭皮由来の毛包が好適に使用できる。本実施形態では、頭皮由来の毛包を用いた例により説明する。毛髪を引き抜き、引き抜かれた毛髪に付着した毛包を毛幹毎そのまま用いることができ、又は、引き抜かれた毛髪に付着した毛包について顕微解剖などによりによりバルジ領域の毛包を採取し用いても良い。毛髪を引き抜く頭皮、毛髪部分は、70%アルコール脱脂綿などを使用して、充分に消毒、殺菌し、以降無菌的に操作することが好ましい。本実施形態における毛包提供者として、少なくともアレルギー性疾患を発症していない健常者、及びアトピー性皮膚炎を発症した患者の場合について説明するが、万人を対象とすることができる。
採取した毛包は、初代培養に先立ち、無血清培地に浸漬した後、ディスパーゼ溶液に浸して酵素処理することが好ましい。ここで無血清培地としては、初代培養に使用する無血清培地と同様のものを用いることもできる。また、例えば、Dulbecco’s MEMなどが好適に使用できる。ディスパーゼ溶液は無血清培地中に、毛包の細胞間結合を穏やかとする適当な活性を有するよう調製すれば良く、例えば、初代培養に用いる無血清培地中に400〜600PU/mLの活性を有するようにディスパーゼを溶解して用いることができる。本実施形態では、このように酵素処理した毛包を1毛包毎に初代培養を行った。初代培養における培地としては、単一細胞からの培養が可能である点で、Ca2+濃度が0.1mM未満であり、BPE(ウシ下垂体抽出物)不含の無血清培地が好適に使用でき、このような培地には、例えば、Defined Keratinocyte−SFM(商品名);GIBCO社製がある。
このような無血清培地にはインスリン、EGF、FGFのようなホルモン、成長因子を添加することもできる。なお、細胞培養に通常使用される培地であればいずれも用いることができ、例えば、上記無血清培地の外、MCDB153、Medium199、DMEM(Dulbecco′s MEM)、RPMI 1640、F−10、F−12、MMEM、Keratinocyte SFM; GIBCO, 17005−042、EpiLife; Cascade社製, M−EPIcf−500、Dulbecco′s MEM+10% FBS等がある。添加物としても、上記の外、ヒドロコルチゾン、トランスフェリン、プロゲステロン、エタノールアミン等を含んでいても良い。なお、本実施形態では、1毛包毎にウェルに植え込み初代培養を開始したが、ウェル当り1個の細胞となるように培地で稀釈した細胞分散液を調製して培養することもできる。
以上のような初代培養により得られた敷石状形態の細胞は、例えば、N−[2−[Bis(carboxymethyl)amino]− ethyl]−N−(2−hydroxyethyl) glycine tri−sodium]溶液又はHepes緩衝液のような洗浄液でリンスすることができる。なお、リンスには、EDTA−4ナトリウムの溶液も使用できる。次に、本実施形態では、0.025重量%以上0.1重量%未満のトリプシン/EDTA溶液を用いて少なくとも1回処理することによって細胞を培養容器から剥がすことができる。トリプシン/EDTA溶液におけるトリプシン濃度は、0.04〜0.06重量%がより好ましい。剥がれた細胞を回収、無血清培地に分散させてこれを培養ディッシュに播種し継代培養を行う。継代培養の培地としては、初代培養において使用した培地と同様の培地を用いることが好ましく、これにより、上皮系細胞に分化可能な皮膚幹細胞を得ることができる。また、色素系細胞に分化可能な皮膚幹細胞についても得ることが可能となる。これらの皮膚幹細胞は、上皮系細胞又は色素系細胞に分化誘導することができる。また、ヒトの毛包の培養を、Ca2+濃度が0.1mM未満の無血清培地を初代培養に用いて行い、Ca2+濃度が0.1mM未満の無血清培地を用いた継代培養途中の細胞が対数増殖期にある期間内において、Ca2+ 濃度が0.2〜2.2mMの無血清培地に変更し、培養を続けることも可能である。これにより継代培養途中の細胞を角質細胞に分化誘導(角化誘導)することができる。本実施形態において、継代培養途中の細胞が対数増殖期にある期間としては、例えば、継代数2〜6、継代後1日〜5日とすることができ、継代数3〜5、継代後2日〜4日がより好適である。分化誘導に用いる無血清培地のCa2+ 濃度としては、0.5〜1.9mMがより好ましく、0.8〜1.6mMがさらに好ましく、1.0〜1.4mMの範囲が最も好適である。
以上から、請求項1に係る発明の培養皮膚細胞は、ヒトの毛包を培養することによって得られ、上皮系細胞及び/又は色素系細胞に分化可能な皮膚幹細胞を含んで成る。請求項2に係る発明は請求項1の発明であって、ヒトの毛包が頭皮由来である。請求項3に係る発明は請求項1又は2の発明であって、ヒトの毛包が少なくともアレルギー性疾患を発症していない健常者由来の毛包である。請求項4に係る発明は請求項1又は2の発明であって、ヒトの毛包が少なくともアトピー性皮膚炎及び/又は気管支喘息及び/又はアレルギー性鼻炎を発症していない健常者由来の毛包である。請求項5に係る発明は請求項1又は2の発明であって、ヒトの毛包がアレルギー性疾患を発症した患者由来の毛包である。請求項6に係る発明は請求項1又は2の発明であって、ヒトの毛包がアトピー性皮膚炎を発症した患者由来の毛包である。請求項7に係る発明は請求項1又は2の発明であって、ヒトの毛包が気管支喘息を発症した患者由来の毛包である。請求項8に係る発明は請求項1又は2の発明であって、ヒトの毛包がアレルギー性鼻炎を発症した患者由来の毛包である。請求項9に係る発明は請求項1乃至8のいずれかの発明であって、皮膚幹細胞が単離された未分化の上皮系幹細胞である。請求項10に係る発明は請求項1乃至8のいずれかの発明であって、皮膚幹細胞が単離された未分化の色素系幹細胞である。請求項11に係る発明は請求項1乃至10のいずれかの培養皮膚細胞における皮膚幹細胞から分化誘導された上皮系細胞及び/又は色素系細胞を含んで成る。
また、以上から、請求項19に係る発明の培養皮膚細胞の製造方法は、上皮系細胞及び/又は色素系細胞に分化可能な皮膚幹細胞を含んで成る培養皮膚細胞を得るようにヒトの毛包を培養する。請求項20に係る発明は請求項19の発明であって、ヒトの毛包が頭皮由来である。請求項21に係る発明は請求項19又は20の発明であって、ヒトの毛包が、引き抜いた毛髪1本に付着したものである。請求項22に係る発明は請求項19乃至21のいずれかの発明であって、ヒトの毛包が少なくともアレルギー性疾患を発症していない健常者由来の毛包である。請求項23に係る発明は請求項19乃至21のいずれかの発明であって、ヒトの毛包が少なくともアトピー性皮膚炎及び/又は気管支喘息及び/又はアレルギー性鼻炎を発症していない健常者由来の毛包である。請求項24に係る発明は請求19乃至21のいずれかの発明であって、ヒトの毛包が少なくともアレルギー性疾患を発症した患者由来の毛包である。請求項25に係る発明は請求項19乃至21のいずれかの発明であって、ヒトの毛包がアトピー性皮膚炎を発症した患者由来の毛包である。請求項26に係る発明は請求項19乃至21のいずれかの発明であって、ヒトの毛包が気管支喘息を発症した患者由来の毛包である。請求項27に係る発明は請求項19乃至21のいずれかの発明であって、ヒトの毛包がアレルギー性鼻炎を発症した患者由来の毛包である。請求項28に係る発明は請求項19乃至27のいずれかの発明であって、ヒトの毛包の培養を、Ca2+濃度が0.1mM未満の無血清培地を初代培養及び継代培養ともに用いて行う。請求項29に係る発明は請求項19乃至28のいずれかの発明であって、皮膚幹細胞が未分化の上皮系幹細胞である。請求項30に係る発明は請求項19乃至27のいずれかの発明であって、ヒトの毛包の培養を、Ca2+濃度が0.1mM未満の無血清培地を初代培養に用いて行い、Ca2+濃度が0.1mM未満の無血清培地を用いた継代培養途中の細胞が対数増殖期にある期間内において、Ca2+濃度が0.2〜2.2mMの無血清培地に変更し、培養を続ける。請求項31に係る発明は請求項28乃至30のいずれかの発明であって、ヒトの毛包を、前記無血清培地に浸漬した後、ディスパーゼ溶液に浸して酵素処理し、低細胞濃度又は単一細胞とした状態から前記初代培養を開始する。請求項32に係る発明は請求項28乃至31のいずれかの発明であって、初代培養により得られた敷石状形態の細胞を洗浄液でリンスした後、0.025重量%以上0.1重量%未満のトリプシン/EDTA溶液を用いて少なくとも1回処理することによって培養容器から剥がし、剥がれた細胞を回収、前記無血清培地に分散させてこれを培養ディッシュに播種し継代培養を行う。
〔第2実施形態〕
第1実施形態において得られた皮膚幹細胞又は皮膚幹細胞を含んで成る培養皮膚細胞は、培養表皮、培養真皮、及び重層化された培養皮膚などの移植用材の原料として用いることができる。移植用材の製造方法としては、公知の如何なる製造方法をも適用することが可能であり、従来から用いられているバイオプシーなどから得ていた原料としての上皮系細胞(ケラチノサイト)を、本実施形態によって得た皮膚幹細胞又は皮膚幹細胞を含んでなる培養皮膚細胞に置き替えるだけで良い。例えば、真皮由来のコラーゲンI型溶液と繊維芽細胞とを混合ゲル化し培養した表面上に、表皮細胞を播種、培養する非特許文献9に記載の製造方法や、三次元構造を有するように上皮系細胞を播種、表面が空気中に暴露した状態で培養する非特許文献10の製造方法などにも適用できる。得られた移植用材は、自己由来であり移植した場合にも拒絶反応がなく、オーダーメイド再生医療を可能とする外、例えば、アトピー性皮膚炎などアレルギー性疾患の原因遺伝子の発現を抑制するような遺伝子操作を加えた自己の皮膚幹細胞を用いた遺伝子治療も期待できる。
以上から、請求項12に係る発明の移植用材は、請求項1乃至11のいずれかの培養皮膚細胞を原料として用いヒト体表へ移植可能に構成されている。請求項13に係る発明は請求項12の発明であって、培養皮膚細胞が、移植される自己由来である。
〔第3実施形態〕
本実施形態による遺伝子解析用材は、第1実施形態により得られた皮膚幹細胞又は皮膚幹細胞を含んで成る培養皮膚細胞を原料として用い、アレルギー性疾患原因遺伝子の解析に適用可能に処理される。その処理方法や原因遺伝子解析の手法、解析対象事項などについては、次のような公知文献、本発明者らにより現在までに得られている知見等に準じて行うことができる。
〔侯補遺伝子解析〕 [高親和性IgEレセプターβ鎖(FcεRIβ鎖)遺伝子多型とアトピー性疾患]
アトピー性疾患の病態生理を考える上で、肥満細胞・好塩基球上に発現する高親和性IgE受容体が何らかの役割を果たしていることが予想されてきた〔Shirakawa T et al,Prediction and Prevention of childhood Allergy,Churchill Livingstone,Osaka.1995,p29−31〕。1989年に世界で初めて本発明者らの内の1名が加わったグループが11番染色体長腕(11q13)とアレルギー性喘息との連鎖を報告して以来〔非特許文献11〕、本発明者らの内の1名は、この領域にある遺伝子をスクリーニングし、FcεRIβ鎖遺伝子を候補遺伝子として特定し、その解析を進めてきた。さらに世界の先陣を切ってこの分子の変異検索(10個以上の変異を同定)と人種間におけるアレルギー疾患との関連を研究してきた〔Shirakawa T et al ,Nature Genet.1994;7,125−130、 Daniels SE and Shirakawa T,Hum.Mol.Genet.1994;3,213, Shirakawa T et al ,Hum.Mol.Genet.;1996;5:1129−1130、 Shirakawa T et al,Lanset1996;347:394−395、 Mao X−Q et al,Hum.Heredity1997;47:178−180〕。初期には他のグループが遺伝子解析の手法をよく理解せず、否定的な報告が見られたが、今日では人種に関わりなくこの遺伝子がアトピーの重要な分子であることが示されている。
アミノ酸変異を伴う2つの変異がいわゆる母系遺伝すること〔Cookson WOCM et al,Lanset1992;340:381−384、 Shirakawa T et al ,Nature Genet.1994;7,125−130〕,第5イントロンの変異が重要な役割を果たしていると考えられることなどを示してきた〔Mao X−Q et al,Hum.Heredity1997;47:178−180〕。さらにGly237Glu変異は,人種を越えて様々なアトピー性疾患との関連が確認されており(日本人、オーストラリア人、南アフリカの白人・黒人)[Shirakawa T et al,Hum.Mol.Genet.;1996;5:1129−1130],FcεRIβ鎖遺伝子多型がアトピー性疾患発症のメカニズムにどのように影響するのか機能解析が進められている。現在までにFcεRIβ鎖が,α鎖及びγ鎖のシグナル伝達を増幅すること,またFcεRI複合体の細胞表面の発現量を増加させることが報告されており[Shirakawa T et al ,Prediction and Prevention of childhood Allergy,Churchill Livingstone,Osaka.1995,p29−31],FcεRIβ鎖の存在によってIgEを介した反応が増強されることはアトピーの説明に極めて合理性を与える結果であると考えられている。
[IL−4,IL−13遺伝子と喘息]
気管支喘息は気流制限や気道過敏性の亢進を伴う慢性の気道炎症であると定義される。さまざまな解析によりCD4+T細胞が喘息発症において重要な役割を果たしていることが示され、その病態においてTH2免疫反応に偏位していることにほぼ合意が得られている〔Shirakawa T et al,Immunol.Today2000;21:60−65〕。IL−4は喘息の発症に関わる主要なTH2型サイトカインで、T細胞およびマスト細胞から産生され、クラススイッチを誘導することによりB細胞からIgEの分泌を誘導し、好酸球の遊走性や接着性にも増強させる〔Izuhara K et al,Arch.Immunol.Therap.Exp.2000;48:505−12〕。一方、IL−4のこれら多くの生物活性はIL−13も共有することが証明されている。これは両サイトカインが機能的受容体のコンポーネントであるIL−4レセプターα鎖(IL−4Rα)とその下流に位置する転写因子のSTAT6を共有しているためである。そしてこれらのシグナル伝達経路に関係した遺伝子欠損マウスでは全くアレルギー症状が現れないことが判明しており、この経路がアレルギー反応において必須の経路であることがわかる。したがってIL−4,IL−13シグナル伝達経路関連遺伝子群は最も重要な候補遺伝子群であり、実際の症例においてこの経路の遺伝子に疾患と関連した変異があるか否かの検討が最優先の課題と思われる。
これまでの報告ではIL−4の第2イントロンに存在している機能的有意な多型が、血清総IgEレベルの上昇と関連することが示されている。またアメリカ人集団におけるIL−4プロモーターに−590C/T変異が検出され、T−590多型は血清IgE高値およびそれに影響を及ぼした転写活性との関連が発見されている。さらに日本人でもこの変異体と総IgEとの関連が見られた。最近IL−4プロモーター領域で新しい多型+33C/Tと総IgEの増加との関連が示され(+33C/Tは日本人では100%−590C/Tと連鎖不平衡にある)、そして総IgE値の増加と5q31のマーカーとの遺伝的連鎖あるいは関連も証明された。しかしながら、全ての研究がこの位置での連鎖あるいは関連を認めているわけではない。本発明者らの内の一名が加わったグループでは、日本人集団、英国人集団でいずれもこの多型と喘息との関連を示せなかった。その理由は長く不明であったが、最近極めてユニークな論文が相次いで発表された。
すなわちマウスIL−4遺伝子は、両親の遺伝子を双方とも発現(co−dominant)するのではなく、いずれか一方のみ(mono−allellic)の遺伝子を発現するというのである〔Reviere I, et al,Immunity1998;2:217−228〕。これは免疫グロブリン遺伝子など非常に少数の遺伝子のみに見られた現象であるが、マウスではIL−4のみならずIL−2遺伝子もこの発現様式を取るとのことであり、免疫系では多くの遺伝子がこの形式の発現をとる可能性が示されたことになる。これは、アレルギーや免疫系の遺伝子変異による原因遺伝子探索を考える上では極めて深刻な問題を生じることになる。これまでの関連遺伝子解析では、両親のアレル(alleles)は両方とも発現されているということを前提としていくつかのallelesが病気と関係するかを統計計算してきたのであるが、この原則が当てはまらず、患者の血液中のTH2細胞を1つ1つ数えてどちらのalleleの発現が多いかを決定する必要があるからである。これまでのIL−4に関係した多くの報告は再考せざるを得ないのである。そのためにはヒトでマウスと同じくIL−4遺伝子がmono−allellicな発現をしているか否かを決定しなければならない。
そこで本発明者らの内の1名が加わったグループは、IL−4遺伝子内でmRNA内に生じると思われる多型、+33C/Tに注目し、この変異がヘテロになっている対象者を選定し、ヒト抗IL−4/CD4モノクローナル抗体で末梢血リンパ球を二重染色し、FACSを用いて陽性細胞を抽出した後、1つ1つの細胞ごとにsingle cell RT−PCRを行い、世界で初めてヒトIL−4遺伝子がmono−allelicな発現様式をとることを証明した〔 Noguchi E, et al ,N.Eng.J.Med.(in revise)〕。なお後述するIL−13遺伝子はIL−4遺伝子のすぐ上流25Kbに位置するが,この遺伝子発現形式をとらないことがわかっており、IL−4特異的な発現様式制御機構が存在することが示唆される。ヒト遺伝子でこの発現形式をsingle cell RT−PCRレベルで証明したのは世界で初めてである。さらに興味深いことに母親のアトピーの有無が児のIL−4遺伝子において、どちらのalleleを多く発現するかに影響を与える可能性が示唆されるデータを得ており、先に示したFcεRIβ鎖など、なぜ一部の遺伝子が母系遺伝形式をとるのかという疑問を説明できる可能性が出てきたといえる。
一方、喘息患者の病変組織においてIL−13の発現が増強され、モデルマウスにおいてIL−13を気道組織に発現させるだけで喘息病態を示すことから、喘息の発症機序においてIL−13が重要な役割を果たしていると考えられる〔Shirakawa T. et al,Immunol.Today(2000);21:60−65〕。IL−13はTH細胞;マスト細胞、好塩基球などより分泌される分子量約12kDaのサイトカインである。IL−13はIL−4とIL−4Rαを共有し、IgEクラススイッチに重要な働きをするだけでなく、気道組織に直接作用し、気道過敏性を惹起・進展させていることも知られている〔Izuhara K et al,Arch.Immunol.Therap.Exp.2000;48:505−12〕。本発明者らの内の1名が加わったグループは、ヒトIL−13にアミノ酸変異Gln110Argを見つけ、日本と英国両方の症例−対照相関解析で、IgEレベルよりむしろ喘息と関連することを示した〔Heizmann A、et al,Hum.Mol.Genet.2000;9:549−559〕。その後相次いで我々の見出したIL−13の遺伝子変異が喘息やアトピーの発症に重要な役割を果たす可能性が発表されている。
最近、IL−13プロモーターにおけるもう一つの変異−1055C/Tがアレルギー性喘息に関与し、その原因はIL−13産生制御とこの領域での核たんぱく質結合の増加であることがオランダ人集団で示されたが、我々の英国人と日本人の集団ではアトピー及び喘息との関連が認められなかった〔Shirakawa T et al,Immunol.Today(2000);21:60−65〕。なおコンピューターモデリング解析を用いて第110番目のアミノ酸ArgからGlnへ変化すると、IL−13内で静電気的な相互作用により、IL−13の立体構造が変化し受容体との結合力が変化する可能性が示唆された。そこで共同研究者である出原らはArg110とGln110の両タイプのrecombinant IL−13を作成しその作用を比較した結果、有意な差異を認めていた〔Arima K,et al,J.Allergy Clin.Immunol(2002);109:980−987〕。
このことからなぜGln110がヒトにおいて喘息を誘導するかが明らかになりつつある。今後、更なる研究によりこれらの多型と喘息の病態との関係が明らかになり、個人に応じた喘息発症の予防法や治療方法の選択および薬剤の選定に利用されていくことが期待される。また、STAT6はIL−4/IL−13の情報伝達における重要な役割を果たすので注目すべきである。この遺伝子を破壊すると抗原による気道過敏性と胚細胞化性がみられなくなって、TH2機能とIgE産生の抑制とがみられる。最近、日本人集団における、STAT6の3′−UTRの変異が軽症アトピー性喘息との関連が認められたので[Gao P−S, et al,J.Med.Genet.2000;37:380−382]、STAT6の他の変異をみつけることは重要であろうと思われる。
[IL−4,IL−13受容体遺伝子と喘息]
IL−4とIL−13の受容体ではIL−4Rα鎖が共有されるため、IL−4とIL−13の作用が重複している。IL−4はIL−4Rα鎖と共通γ鎖(γc)との二量体に、さらにIL−4とIL−13はIL−4Rα鎖とIL−13Rα1鎖との二量体に結合する。IL−4Rα鎖とIL−13Rα1鎖で構成したレセプターを介して、IgEクラススイッチの誘導、CD23の誘導、気道中の好酸球の活性化、粘液の分泌や平滑筋活性化など、IL−4とIL−13の共通の生物活性に関わるシグナル伝達経路が明らかにされた〔Shirakawa T et al,Immunol.Today2000;21:60−65, Izuhara K et al,Arch.Immunol.Therap.Exp.2000;48:505−12〕。さらに、この共通の経路において伝達因子(STAT6,GATA−3など)が活性化されTH2反応が起こることが明らかにされた。
こうした分子の異なった多型の組み合せがアレルギー疾患の感受性あるいは疾患の重症度や慢性化の程度に影響すると示唆される。IL−4Rα遺伝子は、16p11.2−12.1上に位置し825アミノ酸から構成される膜貫通型タンパク質である。また、このレセプターには細胞外部分がスプライスを受けた可溶性IL−4Rα(sIL−4Rα)も存在する。この遺伝子には、これまでアミノ酸の変異を起こす一塩基多型(SNP)が9個所同定されている〔Shirakawa T et al,Immunol.Today2000;21:60−65〕。本発明者らのグループは、細胞外の変異Ile50Valを発見し、日本人集団においてアトピー喘息と関連したことを証明した。ヒトとマウスB細胞株へのcDNAのトランスフェクションに基づく機能解析を用いて、Ile50がレセプターのIL−4に対して反応を増強させるため、STAT6活性が増強され、TH2細胞分泌およびIgE産生も増加されることが示唆された〔Mitsuyasu H,et al,J.Immunol.1999;162:1227−1231, Mitsuyasu H,et al,Nature Genet.1998;19:119−120〕。
そこでこの結果を確認するために、国立相模原病院柳原博士と遺伝子タイピングをしてすでにIle50ホモとVa150ホモであることがわかっている正常者から末梢血のBリンパ球を採取し、IL−4にて培養を行い、in vitroでのIgE産生量を測定してみた。その結果、Ile50ホモでは約倍程度にIgE産生が増加することがわかった。19世紀にレアギンが発見されてから100年近く、石坂夫妻がIgEの本体を突き止めて以来、30年目にしてようやくアトピーを決定する遺伝子変異の最初の1つが人類の歴史で初めて同定されたことになる。また、この変異は現在までに知られた多くの変異の中で日本人ではIgE産生に最大の影響を及ぼす変異であることがわかっている。このようにIL−4Rα遺伝子はアレルギー疾患において遺伝統計学的にも機能的にも関連遺伝子の一つであることが証明された初めての例である。また生活習慣関連疾患に関わる変異で疾患との関連が証明された初めての変異でもあり、多因子疾患の遺伝子解析におけるモデルとして重要であると考えられる。IL−4Rのγc鎖はIL−2R,IL−9RおよびIL−15Rの必須成分である。γc遺伝子の突然変異が重篤X連鎖免疫不欠乏症(XSCIDl)の原因であるが、我々は英国人集団におけるイントロン内の変異が総IgEにある程度関連することを示した〔Shirakawa T et al,Immunol.Today2000;21:60−65〕。したがって、γc鎖がアトピーの感受性に関係するか否か研究する余地がある。
以上のようにIle50Valとアトピー喘息の関連が日本人には見られ、その機能的な意味も証明されたのであるが、白人集団ではこの変異が日本人よりも多いにも関わらず、別の変異との関連が見られた。Gln551ArgはSTAT6の結合領域に位置し、この変異がIL−4のシグナル伝達を増強させ、喘息とも関連する。本発明者らの内の1名はドイツのグループと共同でもう一つ細胞内多型Ser478Proが、IL−4Rモチーフに位置し、Gln551Argと強く連鎖不均衡になっており、受容体の構造を変え、シグナル因子のリン酸化パターンを変更して、低IgEレベルを促すことがドイツ人集団で示された〔Shirakawa T et al,Immunol.Today2000;21:60−65〕。さらに、最近アメリカの喘息共同研究チーム(CSGA)は、隔離された集団やアメリカの白人、黒人、ヒスパニック集団でIL−4Rα遺伝子の7個のアミノ酸置換変異を調査し、すべての集団でアトピーや喘息と有意に関連することを確認した。これらの結果は本発明者らの内の1名が加わったグループでも確認しており、IL−4,IL−13のシグナル伝達経路遺伝子内にある変異の頻度に人種差があり、その結果IgE産生に及ぼす影響が異なることを示すものであり、1つの経路のシグナル伝達が人種により異なることにより疾患の発症が異なること〔Bottini N,et al,Allergy2002;57:suppl 72;10−12, Bottini N,et al,Clin.Genet.2003;63:228−231, Bottini N,et al,Clin.Genet.2002;61:288−292〕、すなわち、heterogeneityを示すことが本発明者らの内の1名が加わったグループにより証明された初めてのケースでもあり、多遺伝子疾患の病態の解明に重要な示唆を与えるものであると考えられる。
一方、IL−13の二つのレセプター遺伝子α1とα2はヒトX染色体のq13領域に存在する。したがって、喘息で見られた母親からの強い遺伝素因の影響との関連がこれで説明可能かもしれない。本発明者らの内の1名が加わったグループは、IL−13Rα1遺伝子コドン領域で変異を見出し、この変異が高IgEレベルと有意に関連することを示した〔Heizmann A、et al,Hum.Mol.Genet.2000;9:549−559〕。英国人集団ではこの変異とIgE値との関連が女性より男性のほうが強かった。しかしこの関連はアミノ酸が変化しない変異であるので、IL−13Rα1で連鎖不均衡になっている別の変異が、アレルギー応答に機能的な影響を与えるかもしれない。IL−13α2はIL−13によってのみ強く誘導されることが知られており、この分子の発現調節機構が喘息の発症に重要であると考えられる。また喘息の発症にはIL−13が決定的であるのでこれらの抗体を中和抗体として治療に使おうという戦略が考えられる。以上のように、IL−4,IL−13およびその受容体遺伝子は喘息・アトピーの候補遺伝子のなかでは、本発明者らの内の1名が加わったグループにより、人種ごとの詳細な変異の検討がなされており、機能との関係も明らかになりつつある最も重要な遺伝子群である。今後、更なる研究によりこれらの多型と喘息病態・重症度との相関が明らかになり、オーダーメイド医療および薬剤の選定に利用されていくことが期待される〔Izuhara K,et al,Emerging Therapeutic Targetting1999;3:381−389, Izuhara K,et al,Int.J.Mol.Med.1999;3:3−10〕。
〔全ゲノム遺伝子解析〕
[家系を用いた連鎖解析法の結果とその限界]
全ゲノム解析とは連鎖解析法に基づく染色体の候補遺伝子座の決定を全染色体レベルで行う手法である.連鎖解析とは複数の遺伝子座間の連鎖を利用して特定の表現型に関係する染色体上での遺伝子領域を調べる方法である。アレルギーなどの多遺伝子疾患においてしばしば用いられている手法が、兄弟発症症例を用いた羅患同胞対解析である。この解析に用いるゲノム全領域の多型マーカー(CA)nがキットで販売されているのでゲノム全領域から候補領域を挙げることができる。しかし、この解析手段としているノンパラメトリック解析では遺伝子の相同的組替えの情報が入っていないため、この方法で絞り込める候補領域は10−20cM(センチモルガン)と考えられている。
1996年に初めてOxford大学のグループが喘息における全ゲノム遺伝子解析を行って以来[非特許文献12]、今日まで喘息で小10グループ、皮膚炎で3グループ、鼻炎で1グループが家系サンプルを(CA)nマーカーで解析する全ゲノム解析(physical mapping)を行ってきた。したがって喘息に関する研究が最も進んでおり、人種を超えて喘息に関する原因遺伝子座として認められているのは5番、11番、12番染色体の連鎖である。しかし最初の報告以来すでに7年以上が経過したが、この方法論で最終原因遺伝子に到達したのは僅かに1つ〔Van Eerdewegh P,et al,Nature2002;418:426−430〕(adam−33遺伝子と英国人、米国人の喘息)であり、しかもこの遺伝子座は染色体20pに存在し、その他の全ゲノム解析では連鎖が認められなかった領域に存在する。我々は理化学研究所における約1000例のサンプルを用いてこのadam−33遺伝子と喘息の関連について調査したが、全く関連を認めることはできなかった。また英国人サンプルにおいても関連を認めなかった。
以上の点から現時点で家系を用いたphysical mapping法は第一段階として連鎖を確定するには非常に強力な手段であり、必須であると考えられるが、解析に使用する家系の連鎖についての解析を慎重に行わないと、喘息などのアレルギー疾患の原因遺伝子を同定できる可能性がきわめて低くなるという問題が上げられる。また最近発表されたアトピー性皮膚炎を対象とした羅患同胞対解析によると、感受性遺伝子の候補領域は1q21,3q21,17q25,19p,20pであり、このうち、1q,3q,17q,20pは慢性炎症皮膚疾患である乾癬における解析においても連鎖が認められる。原因が異なる疾患の遺伝子が同じ遺伝子座にあると考えるより、炎症の悪化に関わる共通な遺伝子があると考える方が妥当であると思われる。以上のような点から考えると本当に家系を用いた全ゲノム解析によって最終的な原因遺伝子変異が特定されるのかという疑問が当然生じるものであり、これに代わって何らかの網羅的な原因遺伝子検索方法が望まれており、本発明者らの内1名が理化学研究所で取り組んでいる全ゲノムSNP(Single Nucleotide Polmorphism)解析はその代替案として登場してきたものであり、世界でこの方法を用いて全ゲノム検索を行っているチームは現在まではこのグループのみである。
[全ゲノムSNP解析]
SNPとは人口の1%以上の頻度で存在している一塩基多型と定義され、数百〜千塩基対に一個所程度に存在し、これらの遺伝情報の差が身長や性格等の個性を作り出していると考えられている。この遺伝子多型SNPが遺伝子発現に影響するのは集団内でのある共通の遺伝子変異が一因である可能性が高い”というcommon disease−common variant仮説に基づき、疾患群と非疾患群とでアレル頻度の差を統計学的に検定する方法により行われる。関連解析には候補遺伝子アプローチと連鎖不平衡マッピングの2通りの方法がある。既知の情報から喘息やアトピーなどの病態に関連すると予測される候補遺伝子を選択し、疾患感受性に直接影響を及ぼしていると思われるSNPの頻度を疾患群、非疾患群で比較を行うのが候補遺伝子アプローチである。実際この方法により、喘息、アトピーに関与するような数多くの遺伝子が同定されてきた。一方、機能的な候補を想定することなく、連鎖不平衡の強さから疾患感受性遺伝子の存在する領域を狭めていく方法が連鎖不平衡マッピングである。これまでのSNPのタイピングには高額なコストや煩雑な実験操作、一度に処理できるサンプル数が少ない等の問題があり、主に前者が研究の主流であった。全ゲノム領域にわたり、連鎖不平衡マッピングを行うためには、膨大な数のSNPを、早く、安価に、正確に行うタイピング手法を選択しなくてはならない。最近、一度にゲノム上の多数の領域を増幅するMultiplex PCR法と、高感度にSNPをタイピングするInvader法とを組み合わせたSNPタイピング技術が確立された。理化学研究所遺伝子多型センターではこのMultiplex PCR−Invader法を用いて、日本人の標準SNPのタイピングを行い、大規模かつ体系的に、Common diseaseの病態に関わる遺伝子の同定を試みており、これまでに心筋梗塞や慢性関節リウマチに関連する遺伝子が次々と明らかとなっている〔Ozaki K,et al,Nat.Genet.2003;33:107, Suzuki A,et al,Nat.Genet.2003;34:395−402〕。
[日本人集団における全ゲノム領域のSNPデータベースの構築] SNPを用いて前述した全ゲノム領域における体系的関連解析を行うためには、まずタイピングを行うSNPを見つけていく作業が必要となる。このようなSNPのデータベースの構築を行うプロジェクトは欧米でも行われ、製薬会社により構成されているSNPコンソーシアムでは、全ゲノム領域からまんべんなく、無作為にSNPを収集するという考えのもとにデータベースの構築が行われている(http://snp.cshl.org)。しかし、遺伝子多型は、その有無や頻度が人種によってかなり異なることがあり、欧米の人種を対象としたSNPコンソーシアムに登録されている多型が、必ずしも日本人集団では認められないこともある。日本においては、東京大学医科学研究所ヒトゲノム解析センターおよび科学技術振興事業団(JST)との共同で、日本人の標準SNPsを同定するプロジェクトが2000年4月より開始された。日本では遺伝子の機能に密接な関連のある領域(エクソンとその近傍のイントロン、および発現調節プロモータ領域)を中心にSNPを単離しようという方針のもとプロジェクトが行われている。これまでに20万個以上のSNPが同定され、それらの情報はhttp://snp.ims.u−tokyo.ac.jpにおいて公表されている。
[高速大量SNPタイピング(Multiplex PCR−Invader法)]
これらの標準SNPsを用いて大規模かつ体系的なタイピングを行うためには工程数が少なく安価で正確な方法が望ましい。Invader法はアレル特異的オリゴと鋳型をハイブリダイゼーションさせることによりタイピングする方法である。Invader法はSNP特異的なハイブリダイゼーションを利用し、SNPと相補的なアレルプローブのフラップ部分がFlap endonuclease(cleavage)により切断されるという現象を利用している。切断されたフラップ部分はFRETプローブとハイブリダイゼーションがおこり、ここではフラップ部分がインベーダープローブの役割を果たし、蛍光色素とクエンチャーとの間でcleavageにより切断が起こる。蛍光色素が遊離することにより、クエンチャーの影響をうけなくなり、蛍光が発せられる。実際のSNPのタイピングには2種類のアレルを同定するため、2種類の蛍光を用いる。この反応は65℃の温度下で繰り返し起こるため、非常に感度が高く、タイピング自体にPCR法を用いることなく、直接ゲノムDNAからタイピングすることも可能である。しかし直接ゲノムDNAからタイピングを行うためには、1SNPあたり数ng〜数十ngのゲノムDNA量が必要となり、全ゲノム領域にわたる10万SNPをタイピングするには数mgのDNAが必要となる。しかし、一度にゲノム上の複数(実際には96カ所)領域をPCRで増幅するMultiplex PCR法とInvader法を組み合わせた方法が開発され、わずか0.05ng〜0.1ngのゲノムDNAでSNPをタイピングすることが可能となった。この高速大量タイピングの手法が確立されたことにより、現在、理化学研究所のタイピング支援チームでは450000SNPs/日(2002年1月現在)のタイピングが行われている。
さらに、この方法には様々な工夫が盛り込まれている。まず、96個所のPCRを一度にMultiplex PCRを行うことにより、必要なゲノムDNA量の節約のみならず、高価なTaq polymeraseの節約が行われている。また蛍光のついたFRETプローブは全SNPのタイピングに共通であり、高価な蛍光プローブの作り直しがない。さらに、すべての行程は384プレートで行われることにより、必要な試薬量の削減が計られている。全行程はバーコード管理され、人為的なミスの防止も行われている。また、Invader法は反応時間がわずか15分、蛍光色素強度によりタイピングを行うのに要する時間は384プレート1枚あたり2分であり、この時間の短さも大量処理に貢献している。
[SNPタイピング結果の情報解析] タイピング支援チームにより同定された膨大なタイピングの情報は、遺伝子多型センターの遺伝子多型情報解析チームにおいて、解析され、各疾患関連遺伝子研究チームに開示されている。実際に解析を行う各疾患の症例数は94例(188 アレル)であり、一つの疾患の結果とその他の疾患群(一般集団と考える)とのアレル頻度の差がχ2乗検定され、その結果が各疾患の研究チームに報告されている。各チームはこの情報をもとに、さらに症例数を増やし、コントロールもそれぞれの非疾患群を用い、ハプロタイプ解析をはじめとする詳細な検討を行う。一方、情報解析チームはケースコントロール解析のみならず、日本人集団における全ゲノム領域の連鎖不平衡マッピングも行っており、これらの情報は今後、日本人集団を対象とした、様々な遺伝解析により得られた疾患候補領域からの疾患関連遺伝子の同定に多大な貢献をすると考えられる。
[最終的なアレルギー疾患候補遺伝子SNP]
大規模な体系的関連解析の結果は、94症例の気管支喘息から得られた情報であり、さらに詳細な検討が必要となる。100000のSNPの関連解析の情報から、どのようなSNPに注目して解析を進めているのかについては、まず、喘息の感受性遺伝子については、全ゲノム領域の関連解析にてコントロール群とアレル頻度に、大きな有意差が見られたSNPについて、本発明者らの内の1名が加わったグループは症例数を増やし(1504サンプルを用いている)、詳細に検討を行っている。このようにして最終的に37個のSNPを最終的な候補SNPとして抽出した。すでに述べたようにSNPを基に患者対照研究により、アレルギー分野で全ゲノムレベルで原因遺伝子群を特定した世界で最初の研究となる。この方法の利点は先に述べた家系を用い、(CA)nを使用する方法に比較して、最終的な原因遺伝子を絞り込む作業が著しく簡便である。本発明者らの内1名が加わっているグループの計算によれば全ゲノムレベルでピークを示すSNPの連絡不平衡は20Kb以下であり、前者では10cMであり桁違いに狭い範囲に絞り込まれている。これらのSNPの一部は連鎖不平衡を示すクラスターを形成しており、さらに数を絞り込める可能性もある。また約半数は既知遺伝子であるがその他は未知遺伝子であり、この研究の本来の目的である未知遺伝子の探索が可能であったことを示している。
しかし、この方法では、小児の喘息の検体を基礎としているために、成人での喘息に関係したSNPを網羅的に取り上げることは不可能である。実際37個のSNPの中で、成人喘息に関連したものはごく少数である。このことから逆に、成人喘息と小児喘息では発症に関連した原因SNP群が異なることが示唆される。以前より、臨床サイドでは、これらは異なる症候群であるとの議論がされていたが、実際に遺伝的な背景が異なることが確認されたことになり、これまでの議論にある程度の結論が出せた意義は大きい。またこれまで多因子疾患でいったい、どの程度の数の遺伝子が発症に関連するのか、これまで具体的な数値を上げた者はいなかったが、喘息では、少なくとも100個という莫大な数ではなくせいぜい数十個、重要なものは10数個である可能性が示された意義はさらに大きいといえる。この程度の数であれば、後述するような遺伝子相互間の研究も可能であり、100,000人規模の集団での調査で最終的に予知が可能な研究を行えることになる。
このように大規模な関連解析の結果、統計上、有意差のみられるSNPは有意水準をp<0.001としても、100000SNPの解析では約100個のSNPが疾患関連SNPの候補として得られる。そこで、国立成育医療センター研究所、免疫アレルギー研究部との共同研究で、マイクロアレイ、DNAチップを用いた発現情報を参考に、SNP解析の優先順位を決定している。マイクロアレイ法は、解析したい細胞のmRNAを用い、1回のハイブリダイゼーションで数万種類の遺伝子発現情報が得られる手法であり、肥満細胞や好酸球、リンパ球等の炎症細胞で、どのような遺伝子が発現しているのか、また様々なサイトカインやIgE刺激により、どのような遺伝子の発現が増加または減少するのかの情報が得られる。これらの情報と染色体の位置情報等、すべてを統合し、病態に強く関連すると考えられるSNPについては、周辺のSNPについても関連解析を行い、ハプロタイプ解析、連鎖不平衡マッピングおよび機能解析を行っている。
〔遺伝子相互作用の解析〕 [喘息におけるSNP間相互作用の検出方法の確立]
喘息などのアレルギー疾患は多因子遺伝子病であり、1つの遺伝子を調べただけではその発症した理由を説明することは出来ず、複数ある疾患感受性遺伝子とその相互作用がどうなっているのか統合的に考えなければならない。喘息は環境要因、生活習慣などの要素も発症に大きく関わるため、遺伝子を調べ尽くしても、それだけでは喘息が発症するかどうか100%予測することは不可能であろう。しかし遺伝的な要因があるのは間違いなく、見つかってきた疾患感受性遺伝子(多型)のどれがより重要であり、最終的に遺伝子の多型からどの程度まで発症との関係が説明できるのか検討することは意義があると思われる。これをどのようにすべきかどうか、現在、確立した方法は無いと思われる。喘息の候補遺伝子多型を個人ごとに多数個調べ、多変量解析の手法を用い、複数の遺伝子多型の集合から疾患感受性が表現出来るかどうか検討している。多変量解析の手法であるロジエスティツク回帰(LR)とニューラルネットワーク(Artificial Neural Network:ANN)は、候補遺伝子の多型から、喘息のなり易さ、疾患の有無を推定する手法として有用であると思われる。そこでこの手法を用いて生活習慣関連疾患で初めて2つの人種で各々関連遺伝子解析によって絞り込まれたSNPを用いて多遺伝子間の相互作用を求めるモデルを作成することに成功した。
高血圧のように、連続的な値をとる形質ではなく、先天奇形などの発症の有る無しを説明する遺伝学的モデルで最も一般的なものは易羅患度(libability)・閥値(threshold)モデルである。易罹患度は遺伝的な要素と環境的要素を含んだ病気になりやすさの概念的尺度であり、このモデルでは、易罹患度がある閥値を越えたものが病気を発症していると考える。このモデルは、唇裂口蓋裂などの発症をよく説明できることがわかっているが、個々の症例について遺伝子多型を多数調べ、その特定の人がどの程度病気になりやすいかを評価することには向いていない。易罹患度はすべての遺伝要因と環境要因がわからないと決定できない値だからである。まだ発展途上にある遺伝子多型のデータと環境要因が不確定な状態では、個人の病気の発症を確率論的にしか表現できないのは明らかであろう。そこで我々は、独自にモデルを考え現在あるSNPのデータから個々人の疾患発症リスクを表現することを検討している。個々の遺伝子多型はそれぞれに固有の発症のリスク(発症の確率)を持ちそれらの総和で、病気のなり易さがきまるというモデルである。このモデルでは、後述するSNP相互作用も同様に組み込むことができ、決められた遺伝子多型のデータから個々人の疾患発症の確率が計算できる。
モデルを表現する数学的手法として、本発明者らの内の1名は東北大学小児科鈴木講師との共同研究を行ない、LRを用いた。LRは目的変量が比率pになっているとき目的変量pを一度ロジェスティツク変換してから線形モデルで表したもので、病気の発症に利用する場合pは病気になる確率に相当する。SNPを表現する場合は、0か1を取る2つの説明変数(x)に割り当てる。 多変量解析のもう一つの方法で目的変数が病気の有り無しという場合に使えるものに、ANNがある。本発明者らの内の1名は名古屋大学工学部本多助教授、小林教授と共同研究をおこなった。これは、神経回路をモデル化し、神経細胞がある閾値をこえた刺激を受け取ったときに興奮し次に信号を伝達するという構造によって、入力した情報と結果を関係付けようという手法である。LRは連続した関数による回帰(広義の線形回帰)であるが、ANNは非線形回帰の一種であり後者のほうが現実の結果を説明できる理想的な回帰が行なえる可能性が高い。多因子疾患では、線形解析の説明変数の評価に使われるP値だけでは精度の高いモデルはできないため2SNPsの相互作用をχ2乗検定で検索しモデリングに組み込む方法が提案されている。しかし、SNP数が膨大になると解析できない。ANNは、SNPがたとえ数百にまで多くなろうとも最適な組み合わせを自動的に探索できるところが大きな特徴である。こういう観念で解析している研究はこれまで皆無といってよく、遺伝子群の組み合わせの探索に重点を置いたツールも本手法のみである。欠点はANNの回帰にとって重要な個々の変数の意味付け回帰式の中身の理解が困難であることである。
[2SNPs間での相互作用の検討] これまで喘息、アトピーに関連する遺伝子の相互作用としていくつかの研究が発表されてきた。一つは遺伝子座の相互作用をaffected−sib−pair two−locus analysisという手法で推定したものであり、総IgE値についての遺伝子相互作用も報告されている。また、IL−4,IL−4受容体,FcεRIについての相互作用を検討したが、関係は認められなかったと報告されているものもある。さらに最近IL−4受容体のSer478ProとIL−13のプロモータ部の−1055C/T多型の喘息発症に対する相乗作用が見出されている。しかし多数の遺伝子を対象として、網羅的に疾患発症に関するSNP相互の相乗作用の有無を検討した例まだ報告はまだ無い。本発明者らの内1名が加わったグループは候補遺伝子のタイピングデータのテーブルから2つのSNPを取り上げ、1つのSNPで層化した後、他方のSNPと疾患の相関の検定と、SNPでの層化前後のSNP2遺伝型対失陥の相関テーブルの適合度の2つの統計量を計算し、これを全ての可能なSNPペアについて自動的に行うプログラムを開発し、多数SNP間の相互作用の検出を試みている。英国人では、56のSNPからの結果であり、56C2×2=3080の多数の検定を行っているため相互作用の有意性の解釈には注意を要する。厳密な修正をしてもなお有意と思われる関係はIL−4受容体遺伝子の2つのSNPに見られ、これはある程度連鎖不平衡にあるSNP同士が形成するハプロタイプに喘息への高いリスクが存在していることを示唆している。異なった遺伝子間のSNP同士の関係では、日本人小児の検討で補体C5のSNPとITK(Inducible T−cell kinase)のSNPの相互作用が見つかった。異なった遺伝子間での相互作用の検出はあくまでスクリーニングであり、このような相互作用が真実であるかどうかは別のサンプルでの再現性の検討、実験的な裏付けが必要である。
[ロジェスティック回帰とANNによる多数のSNP間の相互作用の検討]
喘息と相関をある程度示す候補遺伝子のSNP(χ2乗検定のP値が0.3以下)と前項で説明した方法で示唆された遺伝子相互作用を加えて回帰式をつくり疾患の発症をどの程度説明できるかを検討した。英国人成人喘息では22の単独SNPと10のSNP相互作用の項でLR式をつくり、それによって、個人ごとの疾患の予測値を計算し、その大小によって、10グループに分けて、実際の患者、コントロールの数を分けてヒストグラム化することができる。最も予測値の高いグループ(グループ10)では、一人を除いて全員実際に患者であるのに対し、最も予測値の低いグループ(グループ1)では、全ての人が正常であった。また、予測値の中間のグループではほぼ半数が患者となっている。英国人では、疾患発症予測値の大小と実際の疾患になり易さがよく関連しているといえる。LRには回帰式に有用な変数を選択する機能があり、変数は単独SNPが6個と相互作用8個に減っているが、疾患の予測結果はあまり変わらない。このことは、LRによって、疾患発症に重要なSNPを選び出すことが可能であることを示している。 日本人小児喘息と日本人成人喘息での変数選択を行った後の結果では、日本人では、英国人ほど有効なSNPが多く見つかっていないため英国人に比べやや見劣りがする結果となっている。
病気の起こる確率ではなく罹患か非罹患かのどちらかの診断をLRで行った。サンプルを半分に分け、一方の群(Sグループ)で回帰式をつくり、それ自身と残りの群のサンプル(Uグループ)にその回帰式を当てはめた場合の成績から診断できる。LRの解析で用いた場合と同じデータをANNを用いて行った。診断の正解率はUグループでのそれが良好であることが望まれる。LRでは、SNP相互作用を考慮したほうが成績がよい。喘息発症にはSNP同士が完全に独立して関わっているのではなく相互作用が関与している可能性があることを示唆する。また、診断成績は、SNPやSNP相互作用の項が少ないほうがよい。これは、変数が多いほど回帰式がSグループに、過剰に至適化してしまう傾向があることを示唆している。英国人では、6SNPと8SNP相互作用の回帰(モデルE)が最も成績がよく69%の正解率となったが、日本人小児、成人喘息の成績は英国人のモデルEに相当する変数選択後の成績で、Uグループにおける成績は60%ほどである。
ANNでも、変数を絞り込む方法があり、10SNPまでは、Uグループにおける成績はむしろ多少改善することがわかった。英国人成人、日本人小児、日本人成人喘息の正解率はSグループにおいて93%以上を示し、与えられたサンプル内ではほぼ完璧に予想が可能となる.Uグループにおいてはやはりその成績は80%以下となってしまうが、それでも各疾患群ともLRの成績と比べてその優位性は明らかである。LRはあくまでも個々の変数の重みが掛け算で積み重なって疾患の発症確率を変化させるというモデルであるが、ANNはとにかくSNPから診断の正解率を上げるために神経回路を構築しているというモデルの構造の違いが、この差を生んでいると思われる。LRで重要な項目として残ったSNPに関しては、生物学的な意義がオッヅ比としてその理解できるが、ANNでは意味付けが難しい。しかし病態と関わることが明らかなSNPが絞り込まれてきた段階で同じSNPを用いた場合はANNがLRを上回る成績を示すと思われる.今後さらにn数を増やして予測値を上げる工夫が望まれている。
〔原因遺伝子の機能解析〕
〔松本健治ら、最新医学 2003;58:223−229〕 [網羅的遺伝子発現解析] 網羅的なGeneChip解析手法 現在までに比較的よく用いられている遺伝子の網羅的な発現解析法はノーザンハイブリダイゼーション、ディフアレンシャルディスプレイ、Serial analysis of gene expression(SAGE)、DNAチップ(マイクロアレイ)、Gene Chip(Affymetrix)などであるが、ヒトゲノムプロジェクトによってヒトのゲノムの配列が明らかになり、現在入手可能なGene Chip U133Aおよび133Bの2枚のGene Chipで約3万8千種類の遭伝子を網羅していることを考えると、一部の重複や漏れはあるにしても、ほとんど「網羅的な」解析がGene Chipでも行えると考えられる。そのような前提に立って、国立成育センターの斉藤グループ、大阪府立成人病センター瀬谷グループと共同研究を行なってきた。理化学研究所では全ゲノムSNP解析を行なっており、それとは独立に斉藤グループでは、アレルギー患者と正常対象者から血液サンプルを採取し、幹細胞から肥満細胞を誘導するなどして、免疫細胞ごとにパネルを作成し、抗原などの刺激前後で動く遺伝子をマイクロアレイ法で抽出している。
また瀬谷グループではマクロフアージ細胞のスクリーニングを行なっており現在気道上皮細胞にも取り組んでいる。これら独立に抽出された遺伝子情報をつき合わせ候補遺伝子の機能がアレルギーで疑われるものをさらに検索するという戦略である。このような手法により、我々は肥満細胞や好塩基球に発現する遺伝子が候補遺伝子として浮かび上がりつつある。この方法では好塩基球に発現される分子の中でHTm4分子がこの細胞で強く発現しておりこの遺伝子内のSNPがIgE抗体産生レベルと相関することが示された。このような共同研究は世界的にも例がなく極めて短時間で候補遺伝子変異機能を確定でき、大幅な時間とコストの軽減を図れる可能性があり今後多用されると思われる。
[網羅的Protein Chip解析]
網羅的なマイクロアレイ法であってもmRNAレベルの発現であり、蛋白レベルの発現は確認できない。実際マイクロアレイ法で抽出された遺伝子の中でかなりの数が蛋白レベルで差異を検出できない。蛋白レベルプロティンチップシステムはタンパク質の発現、相互作用、翻訳後修飾などの機能解析や、目的タンパク質の精製・同定などを効率的に行うことを目的として開発されたシステムであり、タンパク質解析に適した様々な化学的性質を表面に持たせたプロティンチップと、測定に用いられるプロティンチップリーダー(飛行時間型質量分析計)及び測定・解析に使用するソフトウェアをインストールしたコンピューターから構成されている。ラベルやタグを使わずチップ上で簡便にタンパク質の解析ができ少量のサンプルから短時間に結果を得ることができる。
以上のことから、請求項14に係る発明の遺伝子解析用材は請求項1乃至11のいずれかの培養皮膚細胞を原料として用いアレルギー性疾患原因遺伝子の解析に適用可能に処理されている。請求項15に係る発明は請求項14の発明であって、アレルギー性疾患原因遺伝子が、アトピー性皮膚疾患、又は気管支喘息、又はアレルギー性鼻炎の原因遺伝子である。請求項16に係る発明は請求項14又は15の発明であって、アレルギー性疾患原因遺伝子の解析が、その候補遺伝子解析である。請求項17に係る発明は請求項14又は15の発明であって、アレルギー性疾患原因遺伝子の解析が、連鎖解析法に基く全ゲノム解析(physical mapping)である。請求項18に係る発明は請求項14又は15の発明であって、アレルギー性疾患原因遺伝子の解析が、全ゲノムSNP(一塩基多型:Single Nucleotide Polymorphism)解析である。
以下、本発明による培養皮膚細胞及びその用途とその製造方法について、実施例を示して具体的に説明するが、これによって本発明を限定するものではない。
〔実施例1〕:(健常者及びアトピー性皮膚炎患者毛包からの皮膚幹細胞培養)
(1−1)毛包試料採取及び初代培養:
被験者の側頭部を70%エタノール脱脂綿を用いて十分に殺菌し、コッヘルで毛髪をつかみ、一気に引き抜くことで無菌的に毛包を採取した。引き抜いた毛髪の余分な毛幹(hair shaft)を切断した後、いったん無血清培地D−KSFM[Defined Keratinocyte−SFM(商品名); GIBCO, #10744−019:Ca2+濃度0.1mM未満]に浸漬し、十分な毛包が付いているサンプルのみを選んでD−KSFM中に500PU/mlに調整したディスパーゼ(Dispase; GIBCO, #17105−041、合同酒精株式会社製)溶液に浸し、5分間、37℃で酵素処理した。その後、D−KSFMを300μLずつ入れたマルチウェル(MULTIWELL 12 Well; BECTON DICKINSON, #35−3046)に毛包を1毛包/ウェル(well)で植え込み、37℃、5%COインキュベーター内で培養を開始した。以降、毎日培地の交換を行った。
(1−2)分散方法;継代培養:
培養開始から7〜10日後に継代培養を行った。細胞分散方法としては2種類の分散法により実施した。
[分散法A.]ウェルより培地を吸引除去した後、Hepes緩衝液(KURABO、 #HK−3320)で1回リンスし、 0.025重量%Trypsin/0.01重量%EDTA(KURABO、 #HK−3120)を1mL加え、30秒間室温で処理した後、ピペットで0.025%Trypsin/0.01%EDTAを除去し、再びそれを1滴だけ添加した。5分間37℃でインキュベートした後、さらに室温で残り5〜10分間インキュベートし、倒立顕微鏡下で観察して細胞が8割くらい剥がれたところでTrypsin/EDTA中和液(KURABO、 #HK−3220)を2mL加え、軽くピペッティングして懸濁液を15mLの遠心管に移した。そして再びウェルにTrypsin/EDTA中和液(KURABO, #HK−3220)を2mL加えて強めにピペッティングし、剥がれた細胞を回収し遠心管に移した。800rpmで5分間遠心し上清を除き、細胞を1.2〜2.0×10 cells /cmで35mm培養ディッシュに播種した。なお、継代2代目は60mm Tissue Culture Dish; BECTON DICKINSON, #35−3002、3代目以降は100mm Cell Culture Dish; Corning, #430167に播種した。
[分散法B.]ウェルより培地を吸引除去した後、N−[2−[Bis(carboxymethyl)amino]− ethyl]−N−(2−hydroxyethyl) glycine tri−sodium]溶液(Versene;商品名、GIBCO, #15040−066)4mLで1回リンスし、0.05%Trypsin(Difco, PBS(−)で溶解)/0.53mM EDTA(SIGMA)溶液を1mL加え30秒間室温で処理した。その後、0.05%Trypsin/0.53mM EDTAをピペットで除去し、再びそれを1滴だけ添加した。37℃で5分間インキュベートした後、さらに室温で3〜7分間静置し、以降の操作は分散方法Aの場合と同様に行った。
なお、継代培養における培地の交換は週2回行い、ディッシュ面が細胞で70〜80%ほど覆われた状態になったところで植え継ぎを行った。分散方法は初代培養の方法に準じた。
(1−3)ケラチン(keratin)遺伝子の発現:
細胞よりIsogen(和光純薬; 311−02501)を用いてTotal RNAを抽出した。Total RNA 10μgよりoligo d(T)をprimerとしてcDNA合成キット(Amersham; 27−9261−01)を用いてキットのプロトコールに従いcDNAを合成した。合成したcDNAはエタノール沈殿を水に再懸濁(resuspend)し、1/50量を用いてPCRを行った。Keratin 5、Keratin14遺伝子はnested PCRにより検出した。ここでは、Keratin5はf2とr1でIst. PCRを、f1とr2でIInd. PCRを行った。Keratin14はf1とr2でIst. PCRを、f2とr1でIInd. PCRを行った。使用した各プライマー(primer)の塩基配列は表1に示すとおりである〔配列番号:1(Krt5.f1)、配列番号:2(Krt5.r1)、配列番号:3(Krt5.f2)、配列番号:4(Krt5.r2)、配列番号:5(Krt14.f1)、配列番号:6(Krt14.r1)、配列番号:7(Krt14.f2)、配列番号:8(Krt14.r2)〕。
実施例1による健常者及びアトピー性皮膚炎患者毛包からの皮膚幹細胞培養の結果、初代培養において、ウェルに移植後7日経つと敷き石状の細胞が得られた(図1)。ディスパーゼ処理を行った場合、細胞が生え増殖する確率は40〜60%であった。最初に細胞が生えてくるのは、バルジに相当する毛包の突起の部分であり、その後、遊走し毛包全体に広がることが確認された。また、健常者毛包とアトピー性皮膚炎患者毛包からの初代培養における細胞の形態、増殖確率に顕著な差異は認められなかった。なお、細胞などの観察は、倒立顕微鏡(CK300型、オリンパス社製)、写真撮影は倒立顕微鏡写真撮影システム(TE300−HM−2型、ニコン社製)を用いて行った(後述の実施例2についても同様)。
継代培養において、細胞分散法Bを用いた場合には最大5×10の細胞数が得られた(図2)。継代は少なくとも5回可能であった。細胞分散法Aを用いた場合には細胞をディッシュから回収できにくく、細胞収率は分散法Bの方が2倍高いことが確認された。分散方法により細胞形態の差は認められなかった(図3)。また、健常者毛包及びアトピー性皮膚炎患者毛包からの継代培養における増殖した細胞の形態、増殖率に顕著な差異は認められなかった。
細胞のケラチン遺伝子発現においては、 Exp. 1と2(図2)で得られた細胞をプールしてRT−PCRを行った。継代数4で継代してから9日目でセミコンフルエント(semiconfluent)の状態の細胞をハーベスト(harvest)した。Keratin 5、Keratin14遺伝子の発現を認めた。この2つのKeratin遺伝子は皮膚基底層のケラチノサイトに発現していると報告されている(Molecullar and Cellular Biology,1988 ,Jan.;8(1);486−493)ことより、得られた毛包細胞は皮膚基底層ケラチノサイトと同様の遺伝子発現を示したと考えられた。
引き抜いた毛包をディスパーゼ溶液に浸し酵素処理することは、毛包の細胞間結合を緩やかにし細胞がディッシュ面へ接着しやすくするため有効であった。また、この処理時間を延長し毛包をsingle cellにして培養することも可能である。D−KSFM培地で培養した培養細胞は他の培地(Keratinocyte SFM; GIBCO,#17005−042、EpiLife; Cascade, M−EPIcf−500、Dulbecco′s MEM+10% FBS等)と比較して形態が小さくかつ細胞間が密のコロニーを形成するのが特徴的である。低濃度で細胞を播種すると(1.2〜2.0×10 cells /cm)、single cellから増殖したと思われる数百の細胞からなるコロニーが独立的にあちこちに散在するようになる。つまり、D−KSFM培地はsingle cell培養が可能であり、このことから限界希釈法による培養の可能性が高い。
以上から、10〜20cells/mLの密度に希釈した細胞分散溶液を作り、96ウェルのマルチウェルプレートに100μLずつ分注することでウェルあたり1個の細胞が入ったウェルを準備し、この1個の細胞が極めて高い増殖能を示したことから、毛包幹細胞(上皮系幹細胞)を単離することも可能と判断される。さらに、例えば、ウェル内の細胞を定法によりHチミジンを用いてラベリングしてから取り出してヌードマウスに移植し、その細胞が皮膚や皮脂腺、内毛根鞘、外毛根鞘等に分化することを確認することで、幹細胞の性質である多分化能を証明できる。
〔実施例2〕:
(健常者及びアトピー性皮膚炎患者毛包からの皮膚幹細胞培養、角化誘導)
(2−1)毛包試料採取、対照細胞:
健常者(60代及び40代男性、50代女性ボランティア)及びアトピー性皮膚炎患者(30代及び20代男性ボランティア)の毛髪から、それぞれ実施例1の場合と同様にして毛髪に付着した毛包試料を採取した。毛包試料の採取にはボランティアよりインフォームドコンセントを得て行った。対照試験用(対照細胞)として、ヒト新生児由来包皮ケラチノサイト(HEK−n: Cascade Biologics社製、又は、NHEK(F):Kurabo社製)を使用した。
(2−2)初代培養:
実施例1の場合と同様に、抜去した毛髪が乾燥しないよう無血清培地D−KSFMに浸漬して置き、倒立顕微鏡下で十分な毛包細胞が付着している毛髪サンプルをのみを選別した。選別した毛髪サンプルを室温下、5分間ディスパーゼ溶液に浸し酵素処理した。無血清培地D−KSFMを、125、150、175μLずつ24マルチウェルプレート(Becton Dickinson社製、又は、Tissue Culture Plate 24well;FALCON社製)に注入し、ディスパーゼ溶液処理後の毛包サンプルを1ウェルに1本ずつ静置した。37℃、5%COインキュベーター内で培養を開始し、継代するまで毎日、培地の交換を行った。このような24マルチウェルプレートの他、タイプIVコラーゲンコート或いはラミニンコートされた24マルチウェルプレート(collagen type IV coated MULTIWELL 24well、或いはlaminin coated MULTIWELL 24well;Becton Dickinson社製)を用いて同様に初代培養条件を検討した。
(2−3)継代培養:
初代培養開始後、7〜12日の間に、細胞数が2〜3×10個程度になったところで初回の継代を行った。初代培養1ウェルから分散で得られたすべての細胞を1つの60mmディッシュ(Becton Dickinson社製)に播種し、以降の継代では分散された細胞を100mmディッシュ(Corning社製)に5×10cells/ディッシュの細胞濃度で播種した。細胞分散方法については、実施例1の場合と同様の分散法A及び分散法Bを用いて検討を行った。
(2−4)対照試験用細胞の培養:
ヒト新生児由来包皮ケラチノサイト(HEK−n、又はNHEK(F))凍結バイアルを解凍し、100mm ディッシュ(Corning社製)に5×10cells/ディッシュの細胞濃度で播種した。細胞分散の方法は分散法Bに従い、以降の継代では、100mmディッシュ(Corning)に5×10/ディッシュの細胞濃度で播種した。
(2−5)Ca2+ 添加による角化誘導:
継代培養中、対数増殖期にある細胞として、本実施例においては、継代数4、継代後3日の細胞について、CaCl (大塚製薬社製)水溶液を用いCa2+を1.1mM濃度増加させた無血清培地D−KSFMにて継代培養を続けることにより角化誘導(角質細胞への分化誘導)を行った。なお、CaCl 添加前におけるD−KSFMのCa2+濃度は0.1mM未満とされており、添加後のCa2+濃度は1.1mM以上、1.2mM未満となっている。この1.1mM Ca2+添加無血清培地D−KSFMを用い、2日おきに培地交換を行った。
(2−6)分化マーカー遺伝子の発現:
実施例1の場合と同様にIsogen(和光純薬社製)を用いてTotal RNAを抽出した。Total RNA 10μgよりoligo d(T)12−18をプライマーとして、cDNA合成キット(Amersham社製)を用いてcDNAを合成した。合成したcDNAはエタノール沈殿した後、50μLのHOに再懸濁し、その2μLを用いてRT−PCRにより、ケラチン5(Krt5)、ケラチン14(Krt14)、ケラチン1(Krt1)、ケラチン10(Krt10)、RBP−J((DNA−binding protein) Recombination signal binding protein−J)等の遺伝子発現を検索した。本実施例のRT−PCRにおいて使用するプライマーとしては、Krt5及びKrt14については、それぞれ、実施例1の場合におけるKrt5.f2(配列番号3)とKrt5.r1(配列番号2)、及びKrt14.f1(配列番号5)とKrt14.r2(配列番号8)を用い、それぞれ、63℃、30サイクル、及び65℃、30サイクルの条件でRT−PCRを行った。Krt1及びKrt10については、Krt1.f(配列番号9)とKrt1.r(配列番号10)、及びKrt10.f(配列番号11)とKrt10.r(配列番号12)を用い、それぞれ、62℃、33サイクル、及び65℃、33サイクルの条件でRT−PCRを行った。また、RBP−Jについては、RBP−J.f(配列番号13)とRBP−J.r(配列番号14)を用い、65℃、33サイクルの条件でRT−PCRを行った。なお、RNAの発現量の比較を目的とした内部コントロールに、GAPDH(Glyceraldehyde−3−phosphate dehydrogenese)遺伝子を使用した。GAPDHについては、プライマーにGAPDH.f(配列番号15)とGAPDH.r(配列番号16)を用い、64℃、30サイクルの条件でRT−PCRを行った。
実施例2による毛包試料採取及び初代培養の検討結果は、図5にウェル中における毛髪(毛包)の接地状態を示すとおり、24マルチウェルプレートを用いる場合には、1ウェルあたり150μlの培地を加えると、プレート底面に毛包が接着し、かつ細胞の生存に影響を与えない程度に乾燥を抑えられ、初代培養に成功する確率が高く、最も好ましい条件であることが確認された。また、実施例1のように、12マルチウェルプレートを用いる場合には、1ウェルあたり300μlの培地を加えることが適当な条件であることが再確認された。なお、24マルチウェルプレートを用いる場合には、125μLであると致命的な乾燥を引き起こし、175μLであると毛包が安定して接着しないため、初代培養は成功しなかった。また、カバーグラスで毛包を押さえ付けて毛包の浮遊を防止しても初代培養の成功率の変化はなく、操作が煩雑になるため、以降は150μL/ウェル(カバーグラス無し)の条件を用いて初代培養を行うこととした。
本実施例による初代培養の結果、実施例1における図1と同様に、初代培養開始から平均2〜3日でバルジ付近より細胞がディッシュ表面にひろがって生着するプライマリーアウトグロース(primary outgrowth:初代外部生育)が観察された。しかし、早いものは初代培養開始の翌日に、遅いものは5日以上経ってprimary outgrowthがみられるケースもあった。培養開始7日目で得られた細胞数は10cells前後であるが、毛包のディッシュへの付着程度により異なった。一度primary outgrowthが得られると、細胞は安定して増殖し必ず継代培養を行うことができた。また、タイプIVコラーゲンでコートしたプレートを用いた場合、primary outgrowthが得られる率に大差はないが、細胞の接着がより強固となるため細胞分散操作の処理時間がノンコートのプレートで培養した場合の2倍以上になり、継代後の細胞生存率が低下することがあり、コラーゲンやラミニンなどでコートされていないプレートがより好ましいことが確認された。初代培養開始に際し、顕微鏡下で毛包細胞の付着が確認できた毛包からprimary outgrowthが得られる割合を検討した結果は、表2に示すとおりであり、ボランティアのアトピー性皮膚炎発症の有無、年齢、性別による顕著な差は認められず、primary outgrowthが得られるか否かは、むしろ毛髪試料採取(毛髪抜去)手技の熟達度によると考えられた。なお、表2において( )内は、primary outgrowthが得られた毛包数/培養した毛包数を示す。また、毛髪を抜去した後、震盪機で3時間あるいは6時間震盪した場合でも培養可能であった。
primary outgrowthからの分散、及び継代時の細胞分散方法を比較検討した結果は、図6に、継代数3までの細胞増殖の状態を総細胞数として示したとおりであり、primary outgrrowthはディッシュへの接着が強固で、以降の継代時よりも細胞がディッシュより剥がれにくかったため、分散法の良否が以降の細胞増殖に影響した。実施例1の場合と同様、増殖、回収率ともに分散法Bが良好であり、また、分散法の違いで細胞形態に差は認められず、本実施例においても継代には分散法Bを用いることとした。
本実施例、(2−3)による継代培養(分散法B)の結果は、1毛包に由来する細胞の増殖曲線を図7に示すとおり、最小で継代7代、細胞数の総計は1×1010個、最大で継代9代、細胞数の総計は7.2×1012個であった。なお、継代5代以降になると、小型で厚みのある細胞と大型で扁平な細胞が混在し細胞集団のヘテロ性が顕著にあらわれた。継代9代目(ほとんどの細胞が大型・扁平で分裂能がほぼない)までにおよそ50日間を要した。本実施例、(2−5)Ca2+ 添加による角化誘導の結果は、対照細胞における細胞形態と共に、それぞれCa2+ 添加及び無添加の場合の各毛包由来細胞の形態について、1日目、7日目、及び10日目における顕微鏡写真を図8〜図10に示したとおり、対照細胞と毛包由来細胞のいずれの細胞もほぼ同時に扁平化、重層化が認められた。また、Ca2+ 添加による角化誘導した毛包由来細胞における本実施例、(2−6)分化マーカー遺伝子の発現についての試験結果は、Ca2+ 無添加のコントロールの場合と共に、それぞれ1日目、3日目、5日目、7日目、10日目におけるRT−PCRサンプルの電気泳動像を図11に、また、各分化マーカー遺伝子の発現量の変動を測定、GAPDHで補正し、0日の発現量を1として相対発現比(Relative expression)を求めたグラフを図12に示した。Ca2+添加により基底細胞マーカーであるKrt5(K5)、Krt14(K14)は10日目にはそれぞれ0日の0.35倍、0.6倍に減少した。有棘細胞マーカーであるKrt1(K1)、Krt10(K10)は3日目から発現が誘導され5日目にはそれぞれ0日の4.8倍、5.8倍に上昇した。一般にCa2+ 無添加の場合においてもコンフルエントな培養状態になると培養ケラチノサイトは分化し始め、Krt1、Krt10の発現が認められるようになるが、Ca2+添加により4〜5日早くKrt1、Krt10の発現が観察された。
以上、本実施例2における結果は、基本的に実施例1を支持するものであり、ウェル当たりの培地量が多過ぎると毛包が培地に浮かび易くなり、培地交換の都度プレートから離れる状態では、primary outgrowthは得られず、初代培養における毛包のディッシュへの確実な接着が培養の成否を決めることが確認された。また、初代培養開始から平均して2〜3日でバルジ付近よりprimary outgrowthがみられ、その後、約2日ごとに細胞数が倍加した。得られた細胞は敷石状の形態を示し、これは表皮ケラチノサイトと同様の細胞形態である。さらに本実施例では、毛包からの初代培養の成功率は25%以上であり今回試みた全例で培養に成功した。2〜3本の抜去毛髪から1本の毛包の付着がある毛髪が得られ、これが4〜5本あれば確実にケラチノサイトが10個以上得られることとなる。毛髪1本から培養細胞を得られることが示されたが、これは1988年、Kuwanaらの1つの35mmディッシュ(NUNC)あたり10〜20本の抜去毛包を静置することで初代培養を得ている報告を凌駕する技術であり、試料提供者の負担を少なくすることができる。そして、いったんprimary outgrowthが得られると、細胞は安定して増殖し7代までは必ず次の継代を行うことができた。これにより毛包からの上皮細胞の培養法はほぼ確立され、再現性のある試験、解析を遂行できるだけの細胞数を得ることが可能である。
また、得られた細胞は、表皮基底層のケラチノサイト特異的なKrt5、Krt14遺伝子を発現し、このことから、表皮基底層ケラチノサイトと同様の分化度を持つ細胞が得られたものと判断される。対数増殖期にある継代4代目の細胞にCa2+を添加するとKrt1、Krt10遺伝子の発現が添加3日目から誘導され、5日目には約5倍に上昇した。この時期は細胞の扁平化、重層化がみられ、表皮基底層ケラチノサイトが有棘細胞層へ分化することによりKrt1、Krt10の発現が誘導されるという報告と一致し、得られた細胞は表皮ケラチノサイトと同様の分化能を持っているものと考えられた。なお、1つの毛包に含まれるバルジ幹細胞の数は不明であるがDNAを標識した細胞が分裂せず長くとどまることを利用して観察されるlabel−retaining cellを数えるとせいぜい10〜20個までではないかと考えられる。一方、幹細胞は24回以上分裂すると推測されており、したがって1毛包に由来するケラチノサイトは最小で10倍、最大で7×1011倍に増殖したことになり、分裂回数に直すと30回から39回に相当する。したがってバルジ幹細胞に由来するケラチノサイトが培養されたものと判断された。
本発明の培養皮膚細胞及び移植用材は、オーダーメイド再生医療、アレルギー性疾患の遺伝子治療以外に、例えばホルモンや成長因子の分泌不全、糖尿病などに対する遺伝子治療への適用、ゲノム創薬などにも適用が期待できる。
本発明による毛包からの初代培養7日後において、敷石状細胞が得られた状態の一例を示す顕微鏡写真である(拡大倍率100倍)。 同、実施例1による1本の毛包から生えた細胞の増殖曲線を示すグラフであり、Exp. 6〜12は分散法AすなわちHepes緩衝液と0.025%Trypsin/EDTA(KURABO)を用いた方法、Exp. 1〜5は分散法BすなわちVerseneと0.05%Trypsin/0.53mM EDTAを用いた方法で継代培養を行った場合の増殖曲線である。 同、実施例1における分散法Aを用いた場合の培養細胞の形態の一例を示す顕微鏡写真である(passage III day3;拡大倍率200倍)。 同、実施例1における分散法Bを用いた場合の培養細胞の形態の一例を示す顕微鏡写真である(passage III day3;拡大倍率200倍)。 同、実施例2においてウェル中における毛髪(毛包)の接地状態例を示す顕微鏡写真である。 同、実施例2におけるprimary outgrowthからの分散、及び継代時の細胞分散方法を比較検討した結果について、継代数3までの細胞増殖の状態を総細胞数として示したグラフである。 同、実施例2の継代培養(分散法B)による、1毛包に由来する細胞の増殖曲線である。 同、実施例2のCa2+ 添加による角化誘導における1日目の細胞形態の一例を示す顕微鏡写真である。 同、実施例2のCa2+ 添加による角化誘導における7日目の細胞形態の一例を示す顕微鏡写真である。 同、実施例2のCa2+ 添加による角化誘導における10日目の細胞形態の一例を示す顕微鏡写真である。 同、実施例2のCa2+ 添加による角化誘導における各分化マーカー遺伝子の発現変動を示す電気泳動像である。 同、実施例2のCa2+ 添加による角化誘導における各分化マーカー遺伝子の発現量の変動を示すグラフである。

Claims (32)

  1. ヒトの毛包を培養することによって得られ、上皮系細胞及び/又は色素系細胞に分化可能な皮膚幹細胞を含んで成ることを特徴とする培養皮膚細胞。
  2. 前記ヒトの毛包が頭皮由来であることを特徴とする請求項1に記載の培養皮膚細胞。
  3. 前記ヒトの毛包が少なくともアレルギー性疾患を発症していない健常者由来の毛包であることを特徴とする請求項1又は2に記載の培養皮膚細胞。
  4. 前記ヒトの毛包が少なくともアトピー性皮膚炎及び/又は気管支喘息及び/又はアレルギー性鼻炎を発症していない健常者由来の毛包であることを特徴とする請求項1又は2に記載の培養皮膚細胞。
  5. 前記ヒトの毛包がアレルギー性疾患を発症した患者由来の毛包であることを特徴とする請求項1又は2に記載の培養皮膚細胞。
  6. 前記ヒトの毛包がアトピー性皮膚炎を発症した患者由来の毛包であることを特徴とする請求項1又は2に記載の培養皮膚細胞。
  7. 前記ヒトの毛包が気管支喘息を発症した患者由来の毛包であることを特徴とする請求項1又は2に記載の培養皮膚細胞。
  8. 前記ヒトの毛包がアレルギー性鼻炎を発症した患者由来の毛包であることを特徴とする請求項1又は2に記載の培養皮膚細胞。
  9. 前記皮膚幹細胞が単離された未分化の上皮系幹細胞であることを特徴とする請求項1乃至8のいずれかに記載の培養皮膚細胞。
  10. 前記皮膚幹細胞が単離された未分化の色素系幹細胞であることを特徴とする請求項1乃至8のいずれかに記載の培養皮膚細胞。
  11. 請求項1乃至10のいずれかに記載の培養皮膚細胞における前記皮膚幹細胞から分化誘導された上皮系細胞及び/又は色素系細胞を含んで成ることを特徴とする培養皮膚細胞。
  12. 請求項1乃至11のいずれかに記載の培養皮膚細胞を原料として用いたヒト体表へ移植可能に構成された移植用材。
  13. 前記培養皮膚細胞が、移植される自己由来であることを特徴とする請求項12に記載の移植用材。
  14. 請求項1乃至11のいずれかに記載の培養皮膚細胞を原料として用いアレルギー性疾患原因遺伝子の解析に適用可能に処理された遺伝子解析用材。
  15. 前記アレルギー性疾患原因遺伝子が、アトピー性皮膚疾患、又は気管支喘息、又はアレルギー性鼻炎の原因遺伝子であることを特徴とする請求項14に記載の遺伝子解析用材。
  16. 前記アレルギー性疾患原因遺伝子の解析が、その候補遺伝子解析であることを特徴とする請求項14又は15に記載の遺伝子解析用材。
  17. 前記アレルギー性疾患原因遺伝子の解析が、連鎖解析法に基く全ゲノム解析(physical mapping)であることを特徴とする請求項14又は15に記載の遺伝子解析用材。
  18. 前記アレルギー性疾患原因遺伝子の解析が、全ゲノムSNP(一塩基多型:Single Nucleotide Polymorphism)解析であることを特徴とする請求項14又は15に記載の遺伝子解析用材。
  19. 上皮系細胞及び/又は色素系細胞に分化可能な皮膚幹細胞を含んで成る培養皮膚細胞を得るようにヒトの毛包を培養することを特徴とする培養皮膚細胞の製造方法。
  20. 前記ヒトの毛包が頭皮由来であることを特徴とする請求項19に記載の培養皮膚細胞の製造方法。
  21. 前記ヒトの毛包が、引き抜いた毛髪1本に付着したものであることを特徴とする請求項19又は20に記載の培養皮膚細胞の製造方法。
  22. 前記ヒトの毛包が少なくともアレルギー性疾患を発症していない健常者由来の毛包であることを特徴とする請求項19乃至21のいずれかに記載の培養皮膚細胞の製造方法。
  23. 前記ヒトの毛包が少なくともアトピー性皮膚炎及び/又は気管支喘息及び/又はアレルギー性鼻炎を発症していない健常者由来の毛包であることを特徴とする請求項19乃至21のいずれかに記載の培養皮膚細胞の製造方法。
  24. 前記ヒトの毛包が少なくともアレルギー性疾患を発症した患者由来の毛包であることを特徴とする請求項19乃至21のいずれかに記載の培養皮膚細胞の製造方法。
  25. 前記ヒトの毛包がアトピー性皮膚炎を発症した患者由来の毛包であることを特徴とする請求項19乃至21のいずれかに記載の培養皮膚細胞の製造方法。
  26. 前記ヒトの毛包が気管支喘息を発症した患者由来の毛包であることを特徴とする請求項19乃至21のいずれかに記載の培養皮膚細胞の製造方法。
  27. 前記ヒトの毛包がアレルギー性鼻炎を発症した患者由来の毛包であることを特徴とする請求項19乃至21のいずれかに記載の培養皮膚細胞の製造方法。
  28. 前記ヒトの毛包の培養を、
    Ca2+濃度が0.1mM未満の無血清培地を初代培養及び継代培養ともに用いて行うことを特徴とする請求項19乃至27のいずれかに記載の培養皮膚細胞の製造方法。
  29. 前記皮膚幹細胞が未分化の上皮系幹細胞であることを特徴とする請求項19乃至28のいずれかに記載の培養皮膚細胞の製造方法。
  30. 前記ヒトの毛包の培養を、
    Ca2+濃度が0.1mM未満の無血清培地を初代培養に用いて行い、
    Ca2+濃度が0.1mM未満の無血清培地を用いた継代培養途中の細胞が対数増殖期にある期間内において、Ca2+ 濃度が0.2〜2.2mMの無血清培地に変更し、培養を続けることを特徴とする請求項19乃至27のいずれかに記載の培養皮膚細胞の製造方法。
  31. 前記ヒトの毛包を、前記無血清培地に浸漬した後、ディスパーゼ溶液に浸して酵素処理し、低細胞濃度又は単一細胞とした状態から前記初代培養を開始することを特徴とする請求項28乃至30のいずれかに記載の培養皮膚細胞の製造方法。
  32. 前記初代培養により得られた敷石状形態の細胞を洗浄液でリンスした後、0.025重量%以上0.1重量%未満のトリプシン/EDTA溶液を用いて少なくとも1回処理することによって培養容器から剥がし、
    剥がれた細胞を回収、前記無血清培地に分散させてこれを培養ディッシュに播種し継代培養を行うことを特徴とする請求項28乃至31のいずれかに記載の培養皮膚細胞の製造方法。
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