しかしながら、このような判断装置にあっては、次のような課題がある。
すなわち、その判断対象となる音源が、特に図14に例示するように一部に開口部(排紙口、排気口など)03が形成された外装カバー02で覆われているとともに発生原因が不明な複数種の音源を有する画像形成装置等の機械装置01である場合に、その開口部03が存在するカバー部分02Aにマイクロフォン05をむけて設置して収音したうえで音の発生原因の判別を行うときには比較的正確な判別ができるのに対し、その開口部03が存在しないカバー部分02Bにマイクロフォン05をむけて設置して収音したうえで音の発生原因の判別を行うときにはその判別精度が低下してしまうという課題がある。
このように判別精度が低下するのは、開口部03が存在しないカバー部分02B側に対面して収音する際には、その機械装置01の内部側において発生する音が、マイクロフォン05に達して収音されるまでの間に、その音の発生原因となる要素(可動部品など)の周辺近傍に設置される他の構成部品(周辺構造物)04に加えて外装カバー(開口部が形成されていないカバー部分)02も通過することとなり、その通過の際に反射、吸音、残響等の現象が起こり、それが伝達特性として音の特性に加わることとなるため、その分、その音本来の特性(例えば時間波形、周波数波形)が変化することに主な原因であると考えられる。
また、この音特性の変化は、その周辺構造物(支持フレームなども含む)04や外装カバー02の種類などが変更された場合にそれに相応して異なった結果を示すようになる。特に吸音材の使用等により低騒音対策を施しているような画像形成装置などでは、その吸音材等の影響を受けて音の高周波成分部分が数dBから数十dBほど低減する結果を示すようになる。
そして、このように外装カバーなどを通過して音特性が変化した状態でマイクロフォンにより収音された音は、その収音結果である音響信号に基づいて距離測度を求め、その距離測度を同じ判別用の閾値と比較したときには、かかる特性の変化の影響により距離測度も変化するためその閾値で正確に判別されないことがあり、異なった発生原因の音源であると誤って判別されてしまうことがある。この点、外装カバーの開口部が存在するカバー部分02A側に対面して収音する音は、特に外装カバーの存在により発生する反射、吸音、残響等の現象に起因した音特性の変化が少なくなるため、少なくとも同じ閾値によって正確に判別されるようになる。
図15は、複数種の擬似音(X音,Y音,Z音)の収音場所とその各音の平均距離測度との関係を概念的に示すものである。収音場所は、上記各音を発生する音発生器(スピーカなど)を機械装置の外部(外装カバーの外:outer)に設置し、その音発生器にマイクロフォンを直接むけて収音した場合、その音発生器を機械装置の内部に設置して外装カバーのうち開口部が存在するカバー部分にむけて収音した場合、同じくその開口部が存在しないカバー部分にむけて収音した場合のいずれかである。平均距離測度は、機械装置の外部で発生させた上記各音を複数回収音したときの音響信号のデータを基準空間として求めて平均したものである。
この図15に示されるように、上記各音のうちY音およびZ音を開口部が存在しないカバー部分を通して収音したときの距離測度は、その音を開口部が存在するカバー部分を通して収音したときの距離測度を基準にして見ると大幅に変化していることがわかる。そして、図中において符号TH01はY音であることを判別するための閾値、TH02はZ音であることを判別するための閾値であるが、このような閾値TH01,TH02で音源の判別をする場合には機械の内部中央付近で発生する音であるY音およびZ音の判別が正確にできないことがある。すなわち、図15に例示されるように、Y音については閾値TH01により「Y音」であると判別することができない(X音との識別ができない)ことがある。また、Z音については、閾値TH02により「Z音」であると正確に判別できないときがある(つまり閾値と近い値は誤って判別されることがある)。
なお、上述した判別精度の低下に対する対策としては、たとえばその判別用の閾値を経験的に変更することで対処する方法が考えられる。
しかし、この対処法では、その判定基準に個人差があることはもとより、音の特性に影響を与える周辺構造物をはじめ外装カバーの条件が機械装置の種類等によって異なることから、その違いに適合した閾値を選定することが難しく適切な対処を安定して行うことができない。
たとえば外装カバーを例にして説明すれば、一般に低速機と称されるような画像形成装置における外装カバーではその厚さが比較的薄く、遮音や吸音等による音の変化がほとんどないのに対し、中高速機と称されるような画像形成装置における外装カバーではその厚さが比較的厚く、遮音や吸音等による音の変化が大きいという違いがあるが、このような違いを的確に把握すること自体が難しいため、その状況のなかで適切な閾値を経験による感覚だけに基づいて正しく選定することには無理がある。この他、その閾値について開口部のないカバー部分側で収音したときの音源判別に適した値に経験的に変更した場合、その変更した閾値では、開口部のあるカバー部分側で収音して音源判別をするときに必ずしも適切な閾値にならないということが発生し、その判別を誤ってしまうおそれがある。
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、その主な目的とするところは、一部に開口部が形成された外装カバーで覆われているとともに発生原因が不明な複数種の音を発する機械装置に対する音源の判別を、その外装カバーの条件(開口部の有無や、音の特性に影響を与える厚さ、構造、吸音処理等の要素の違いなど)等が異なることがあっても正確かつ簡便に行うことができる音源判別装置および音源判別方法を提供することにある。
本発明の音源判別装置は、一部に開口部が形成された外装カバーで覆われているとともに発生原因が不明な複数種の音源を有する機械装置からの音を、マイクロフォンにより収音して音響信号として取り込む収音部と、その取り込んだ音響信号から判別対象となる音部分の音響信号を切り出す音切り出し部と、その切り出した音響信号について、予め発生原因が明らかな複数種の音を発生する音源からの音を前記収音部に取り込んだ音響信号のデータからなる基準空間との距離測度を算出する距離測度演算部と、その算出された距離測度を、前記発生原因が明らかな音源からの複数種の音に関する距離測度に基づいて設定された音源判別用の閾値と比較して音の発生原因を判断する判断部とを有する音源判別装置であって、前記外装カバーのうち少なくとも開口部が存在するカバー部分に向けて前記マイクロフォンを配置して収音する際に、その開口部が存在するカバー部分とマイクロフォンとの間に介在させるように設置する板状部材を備えたことを特徴とするものである。
ここで、上記収音部は、基本的に、所定の音源から発せられる音を収音して電気信号からなる音響信号として捕捉することが可能なマイクロフォンで構成されるが、そのマイクロフォンと、マイクロフォンで取り込んだ音響信号を記憶・格納することが可能なデータ記憶部とを組み合わせて構成してもよい。このデータ記憶部を含めた場合には、音の収録だけを先に実施し、その後で収録した音響波形の分析や演算を一括してオフライン処理することができる。データ記憶部としては、音響信号をアナログ/デジタル(A/D)変換器にて変換してデジタル信号として記憶保持することが可能なDAT(Digital Audio Tape recorder)やHD(Hard Disc)レコーダなどを採用するとよい。
マイクロフォンで収音する音は、判断対象となる発生原因が不明な音源や、発生原因が明らかな音源から発せられる音である。また、マイクロフォンで収音した音を上記データ記憶部に一旦格納することなく、後述する音切り出し部、距離測度演算部、判別部等を構成するPC(パーソナルコンピュータ)に直接取り込む場合には、そのPC内にアナログ/デジタル変換器を装備させておけばよい。マイクロフォンは、機械装置のうち少なくとも音源判別をしたい音(騒音)が発生していると思われる部位に概略むけて設置される。また、マイクロフォンとしては、通常、単一指向性を示すものを使用することができる。マイクロフォンの設置条件(収音位置、高さなど)については、音源判別に十分なレベル(たとえばSN比が十分に高いレベル)の音響信号が得られる条件等に基づいて適宜設定される。
上記音切り出し部は、収音部で取り込んだ音響信号から判別対象となる音部分の音響信号を切り出すが、その切り出しは音響信号における波形の立ち上がり部や振幅最大部などとなる時間軸上の特徴的な波形部分を基準に設定される所定の範囲に対して行われる。このような切り出しを行う音切り出し部は、例えば、PCに取り込む音響解析用ソフトウェアや、トリガー機能を備えたデータロガーなどにて構成できる。判別対象の音部分は、本発明による判別方式により発生原因の判別ができるものであればよく、主に衝撃音である。衝撃音としては、その音響持続時間が1秒(sec)以下、好ましくは100m秒以下となる音である。
また、この音切り出し部は、取り込んだ音響信号または切り出した音響信号を所定の補正フィルタにより聴感補正する聴感補正部を備えたものでもよい。その補正フィルタとしては、低周波の暗騒音成分を除去するためのハイパスフィルタや、他の独自に定める特性フィルタを使用することもできるが、一般的な騒音計で使用され、人の聴覚に近いといわれているA特性フィルタを用いることが好ましい。さらに、切り出した音響信号については、その時間波形や周波数波形の振幅の最大値または最小値が所定の大きさとなるように振幅を基準化するように構成するとよい。このような基準化を行った場合には、収音部のマイクロフォンと音源との離間距離の違いが原因で生じる音の大小差をその音源の発生原因の判断要素として含んでしまって誤った判断を行ってしまうという不具合が発生することを回避することができる。
上記距離測度演算部は、音切り出し部で切り出した音響信号の基準空間に対する距離測度(空間距離)を算出するが、その距離測度としては統計学上の判別分析やクラスター分析で用いられる一般的な距離測度、例えば、ユークリッドの距離、標準化ユークリッドの距離、ミンコフスキーの距離、マハラノビスの距離等を用いることができる。マハラノビスの距離を採用した場合には、変数間の相関状態も含めて音源の発生原因について総合的に判断することが可能となる。また、マハラノビスの距離を採用する場合、その距離測度を算出するために、収音して得る各音響信号のデータについての平均、分散、共分散、標準偏差などを予め求めることになる。
この距離測度の基準空間を得るための発生原因が明らかな音源としては、例えば、強制的に衝突または打撃させることによりほぼ一定の音が発生するような部材(例えばプラスチック球と金属板)、判別対象の音源から発する音に似ているような音(擬似音)を再生して発生させることができる音発生器や、判別対象となる音源(発生原因が不明な音源)を構成する部品の一部でありその部品を単独で稼動させることができるものとその関連部品などが挙げられる。このような音源の音は、発生原因が不明な音源のように音の特性に影響を与える周辺構造物や外装カバー等が存在する発生空間とは異なる発生空間、好ましくはその周辺構造物や外装カバー等がない空間条件(半無響音室等の自由音場空間)で収音される。この発生原因が明らかな音源から得た音響信号のデータを基準空間とする。
上記判断部では、判断対象の音源から発する音の発生原因を判断する前処理として、予め発生原因が明らかな音源からの複数種の音について距離測度(の平均値)をそれぞれ求め、その各距離測度に基づいて発生原因が何れの原因群に含まれるかを推定して判別するための閾値の設定とその閾値の蓄積(記憶保持)とが行われる。閾値の設定は、たとえば、発生原因が明らかな複数種の音からそれぞれ求めた距離測度の各平均値のうち互いに隣り合うものどうしの差分に所定の係数k(0<k<1。好ましくはk=0.5〜0.7である)を乗じて得た値を、その隣り合う平均値の小さい方の平均値に加えて得た値を閾値にすることができる。
上記機械装置としては、前記したように開口部が形成された外装カバーで覆われ、しかも発生原因が不明な複数種の音源を有するものであればよく、たとえば、複写機、プリンタ、複合機等の画像形成装置が挙げられる。
機械装置における複数種の音源は、通常、その発生原因の判別が困難な音源を含むものであるが、機械装置の動作音を発するような構成部品に限らずその機械動作に使用される物などが係わって音を発するものも含むものとする。機械装置のおける外装カバーは、通常、開口部が存在するカバー部分(面部)と開口部が存在しないカバー部分(面部)とを適宜数組み合わせて構成されるものであるが、必ずしもこの構成に限定されない。また、外装カバーは、少なくとも一部が機械装置本体から取り外すことができる構造のものである。外装カバーに形成される開口部は、機械装置の使用時において開口した状態にあり、しかも音漏れの要因になる程度の開口面積からなる大きさのものである。機械装置が画像形成装置である場合においてその画像形成装置における外装カバーに形成される開口部としては、排紙口、排気口、手差しトレイ用の給紙口などが主に挙げられる。
上記板状部材は、平板をはじめ、曲面部や段差部や突起部などを有する板状の形態からなるものであればよく、その全体の形態については特に限定されるものではない。
この板状部材の大きさ(外形の大きさ)は適宜選定される。たとえば、外装カバーを取り外さない状態で機械装置から発生する音を収音して音源判別を行う場合に、その外装カバーのうち開口部が存在するカバー部分にマイクロフォンをむけて収音するときには、その開口部の開口面積よりも少し広めの大きさにするか、またはその開口部が存在するカバー部分の外形面積とほぼ同じかもしくは少し広めの大きさにするとよい。板状部材の材質や厚さなどについても特に制約されるものではないが、たとえば機械装置に使用されている外装カバーの材質や厚さと同じかまたは近似した材質や厚さに設定することができる。このうち厚さについては、画像形成装置を基準にしてみた場合、好ましくは低速機で用いられる外装カバーのように1mm程度の薄めの厚さでなく、中高速機で用いられる外装カバーのように厚め(たとえば1〜3mm程度)の厚さにするとよい。
また、この板状部材の設置する位置(外装カバーとマイクロフォンとの間の位置)は、機械装置から発せられる音の収音が可能であって、板状部材の設置による効果が得られるのであれば特に制約されないが、好ましくは開口部が存在するカバー部分に接近した位置であり、より好ましくは少なくともその開口部を塞ぐような位置である。また、外装カバーの開口部を塞がない状態で設置するときの板状部材の大きさは、正確な判別を可能にする等の観点から、その開口部から漏れ出た音がその板状部材から回り込んでマイクロフォンに収音されない(板状部材により遮音や吸音が発生する)程度の大きさにすることが望ましい。なお、外装カバーのうち開口部が存在しないカバー部分にマイクロフォンをむけて設置して収音する場合には、そのカバー部分とマイクロフォンとの間には板状部材を設置しなくてもよい。
また、上記音源判別装置においては、その外装カバーのうち少なくとも開口部が存在するカバー部分を取り外し、その取り外したカバー部分の機械音源における装着部位に向けてマイクロフォンを設置して収音する際に、その取り外したカバー部分の装着部位とマイクロフォンとの間に上記板状部材を介在させるように設置するとよい。
この場合は、開口部が存在するカバー部分の装着部位とマイクロフォンとの間に設置する板状部材は、その大きさがそのカバー部分の外形面積と同じかもしくは少し広めの大きさのものであることが好ましい。また、このときの板状部材に関する全体の形態や設置位置などについては、前述した板状部材の場合と同様である。このときの板状部材は、結局のところ、取り外すカバー部分の代わりにその装着部位とマイクロフォンとの間に設置されることとなる。
なお、この開口部が存在するカバー部分を取り外して収音を行う場合には、その開口部が存在しないカバー部分(の全部または一部)も機械装置から併せて取り外し、その取り外した開口部のないカバー部分の装着部位にマイクロフォンをむけて設置するとともにその装着部位とマイクロフォンとの間に上記板状部材を介在させるように設置して収音するとよい。
この場合、その開口部が存在しないカバー部分の装着部位とマイクロフォンとの間に設置する板状部材としては、開口部が存在するカバー部分の装着部位とマイクロフォンとの間に設置する板状部材を共通して使用することが好ましい。これにより、各マイクロフォンで収音される音は、外装カバーに違い(開口部の有無や、カバーの形態等の違いなど)の影響を受けて伝達特性が変わって音特性が変化する程度も減少するため、より正確な音源判別を行うことが可能となる。
また、その共通して使用する板状部材としては、たとえば、その取り外した開口部のないカバー部分の1つを使いまわすようにしてよい。これにより、板状部材として別途用意する必要がなくなり、経済的であるとともに板状部材の保管などが不要となって便利である。
一方、本発明の音源判別方法は、一部に開口部が形成された外装カバーで覆われているとともに発生原因が不明な複数種の音源を有する機械装置からの音を、マイクロフォンにより収音して音響信号として取り込む収音工程と、その取り込んだ音響信号から判別対象となる音部分の音響信号を切り出す音切り出し工程と、その切り出した音響信号について、予め発生原因が明らかな複数種の音を発生する音源からの音を前記収音部に取り込んだ音響信号のデータからなる基準空間との距離測度を算出する距離測度演算工程と、その算出された距離測度を、前記発生原因が明らかな音源からの複数種の音に関する距離測度に基づいて設定された音源判別用の閾値と比較して音の発生原因を判断する判断工程とを有する音源判別方法であって、前記外装カバーのうち少なくとも開口部が存在する側に向けて前記マイクロフォンを設置して収音する際に、その開口部が存在するカバー部分とマイクロフォンとの間に板状部材を介在させるように設置して当該収音を行うことを特徴とするものである。
この判別方法における各工程は、前記した音源判別装置における各機能部分(収音部、音切り取り部、距離測度演算部、判別部)の動作によって実現される。
また、この判別方法においても、前記した音源判別装置の場合と同様に、その外装カバーのうち少なくとも開口部が存在するカバー部分を取り外し、その取り外したカバー部分の機械音源における装着部位に向けてマイクロフォンを設置して収音する際に、その取り外したカバー部分の装着部位とマイクロフォンとの間に前記板状部材を介在させるように設置して当該収音を行うとよい。この場合における板状部材および取り外し外装カバー部分等に関する構成については、前記した判別装置の場合における構成と同様である。
本発明の音源判別装置および音源判別方法によれば、前記したような外装カバーで覆われ、しかも発生原因が不明な複数種の音を発する機械装置(画像形成装置など)から発せられる音(騒音)の音源判別を行う場合、その外装カバーのうち少なくとも開口部が存在するカバー部分に向けてマイクロフォンを設置して収音する際に、そのカバー部分とマイクロフォンとの間に板状部材を介在させるように設置して当該収音を行うようにしたので、その外装カバーの条件等が異なることがあっても、収音される音の特性が大幅に変化することがなくなってほぼ揃うようになり、この結果、その音源の発生原因を正確に判別することができるようになる。このような正確な判別は、単に板状部材を上述したように設置して収音を行うことで実現できるため、きわめて簡便に行うことが可能である。
たとえば、開口部のあるカバー部分側で収音したときの音(Y音,Z音)の平均距離測度は、上記板状部材の設置により、前掲の図15に括弧書き内に点線の丸および三角で示すような値として得られる。この値は、開口部のないカバー部分側で収音したときの音(Y音,Z音)の平均距離測度に近似した値になる。これにより、Y音とZ音についても、外装カバーの開口部のあるカバー部分側で収音した場合とその開口部のないカバー部分側で収音した場合のいずれであっても、それぞれ同じ所定の閾値TH01,TH02で正確に判別されるようになる。
[実施の形態1]
図1は、本発明の実施形態1に係る音源判別システム100の構成を説明するものである。この音源判別システム100が判別する対象とする音源は、複写機200から放射される騒音である。そして、この判別システム100は、その騒音の原因が原因(1):金属部材の打撃音、原因(2):記録用紙の搬送方向先端部の衝突音、原因(3):記録用紙の搬送方向後端部の跳ね音、のいずれであるかを判断するものである。
<判別システムの基本的な構成>
音源判断システム100の全体は、複写機200からの騒音を収音する単一指向性のマクロフォン1と、マイクロフォン1に接続されるDAT2と、DAT2に接続されるパーソナルコンピュータシステムCと、その騒音の収音時に設置して使用される板材7とから構成される。パーソナルコンピュータシステムCは、コンピュータ本体3と、入力手段としてのキーボード4a、マウス4b、出力手段としてのディスプレイ装置5などを備えている。
このコンピュータ本体3内のハードウェア資源としては、演算制御手段としてのCPU、主記憶手段としてのRAM、補助記憶手段としてのハードディスク、入出力制御装置など(いずれも図示せず)を有し、コンピュータ本体3内のソフトウェア資源としては、オペレーティングシステム、音響波形解析ソフトウェア、数値解析ソフトウェアなど(いずれも図示せず)を有している。このハードウェア資源とソフトウェア資源との共同作業により、次の図2に示す波形切り出し部30、距離測度演算部40および判断部50の各機能を実現している。
図2は、この判別システム100の基本的な機能ブロック図である。この判別システム100における基本的な機能は、処理の流れに沿って順に、マイクロフォン1とDATレコーダ2で構成される収音部10と、DATレコーダ2で構成されるデータ記憶部20と、コンピュータ本体3で構成される波形切り出し部30、距離測度演算部40および判断部50と、ディスプレイ装置5で構成される表示部60とである。これらの機能ブロックどうしで入出力される信号は、アナログ電気信号AS、デジタル信号DS、判断結果Rである。
このうち波形切り出し部30は、収音された音響信号の聴感補正を行う聴感補正処理部31と、その補正後の音響信号から判断対象とする音部分の切り出しを行う切り出し部32と、その切り出した音を演算処理に必要な音特性を示す波形データ(時間波形データ、周波数波形データなど)に変換する波形変換部33とを備えている。
距離測度演算部40は、波形切り出し部30で切り出した音響信号の基準空間に対する距離測度(空間距離)としてマハラノビスの距離を算出する。また、演算部40では、その算出前に、収音した各音響信号のデータについての平均、分散、共分散、標準偏差などを予め求める。
判断部50は、判別対象の音に関して演算部40で演算した距離測度と、予め用意して記憶されている判別用の閾値との比較を行い、どの発生原因の音源であるか否かを判断する。閾値は、予め発生原因が明らかな音源から発生原因別に収音した各音響信号の距離測度(の平均値)をそれぞれ求め、その互いに隣り合う距離測度の平均値(平均距離測度)どうしの中間値などを判別用閾値として適宜設定され、判断部50(の記憶部)に記憶保持されている。
<判別用閾値の設定>
この判別システム100では、上記距離測度演算部40において基準空間を構成する音響信号に用いる発生原因が明らかな音源として、プラスチック球による金属片打撃音、用紙先端部のプラスチック板に衝突する音(用紙先端衝突音)、および用紙後端部の跳ねる音(用紙後端跳ね音)を採用した。
プラスチック球としては、ポリプロピレンからなる直径が16mm、26mmの2種類の球を用意した。一方、金属片としては、ステンレス(SUS)からなる板サイズが20×30×1mm、30×40×1mmの2種類の金属板を用意した。プラスチック板としては、ABS樹脂からなる板サイズが20×30×1mm、30×40×1mmの2種類のプラスチック板を用意した。また、この金属板とプラスチック板は、石定盤に両面テープにより貼り付けて支持固定する場合と、30×40×1mmの1枚のゴム板を挟んだ状態で両面テープにより貼り付けて支持固定する場合という2種の支持状態でそれぞれ設置した。このプラスチック球または板や金属板の各材質については、複写機等の画像形成装置内の各構成部品を構成する材料として一般的に用いられている材料の材質とほぼ同様のものにするという観点で選択している。
金属片打撃音の採取は、上記2種のプラスチック球を、支持状態が異なる2種の金属片のうえに高さ5cmの上方からそれぞれ自然落下させたときに発生する計4タイプの打撃音をマイクロフォン1により収音することで行った。このときの収音は、前記金属片を貼り付けた石定盤を半無響音室(自由音場空間)に設置するとともに、その定盤上の金属片の中心から0.6mの距離だけ離れた位置にマイクロフォン1を設置して行った。また、このときの収音は、必要なデータサンプル数(i)が得られるように行う。
また、用紙先端衝突音の採取は、複写用A4版サイズの用紙の長辺および短辺を上記プラスチック板にそれぞれ衝突させ、そのときに発生する各衝突音をマイクロフォン1により同様にして収音することで行った。さらに、用紙後端跳ね音の採取は、上記用紙の後部が段差を乗り越えるように移動して動かし、そのときに発生する跳ね音をマイクロフォン1により同様に収音することで行った。
このようにしてマイクロフォン1で収音した音響信号は、後述する波形切り出し部30の動作工程を同様に経ることにより基準空間のデータとして算出される。具体的には、マイクロフォン1で収音された音響信号が、DAT2に内蔵されているA/D変換回路により例えば1秒間に48000点のサンプリングデータ(デジタル信号)として得られ、そのデジタル信号のうちから最大振幅値を中心とする前後64点が音響信号(時間波形データ)として切り出される。続いて、その切り出された音響信号が高速フーリエ変換により周波数分析されて32点の周波数波形データとして得られる。これを必要なデータ数(i)である前記各音ごとで100音ずつ、全体では計300音分だけ得る。かかる基準空間のデータは、以下に示すような32点の周波数波形からなる100ケース分(i=1〜100)のベクトルyとして得られる。
y=(yi1,yi2,・・・,yi32)
次に、閾値を算出するため、予め発生原因が明らかな音源の複数種の音が収音され、その各音響信号の上記基準空間との距離測度が求められる。
はじめに、基準空間の波形データy(=yi1,yi2,・・・,yi32)(i=1〜100)と同様に、判別対象の各音源の波形データy´(=yi1´,yi2´,・・・,yi32)(i=101〜)の正規化を行う。正規化は以下の式1に基づいて行う。式中、j=1〜32の整数、σは標準偏差を示す。
続いて、相関係数行列Aの算出と、その相関係数行列Aの逆行列R-1の算出を行う。相関係数行列を求めるために、相関係数rを算出する。相関係数rは以下の式2により算出した。式中において、上付きバーで表示したyはyの平均値、p、qはいずれも1〜32の整数を示す。
相関係数行列Aは、以下の式3により求めた。式中においてaは逆行列の計算により求めた要素、kは1〜32の整数を示す。
そして、マハラノビスの距離D2は以下の式4に基づいて算出した。
このように演算される距離測度(マハラノビス距離)は、各音源ごとで100音の距離測度として得られ、その各音源ごとの平均値(平均距離測度)が算出される。
このようにして得られた前記発生原因が明らかな各音源の平均距離測度のうち、互いに隣り合う(大小関係にある)音源の平均距離測度どうしの差分に対して0.7倍を乗じた値をその小さい方の音源の平均距離測度に加えて得た値を閾値:THとした。この例では、発生原因が明らかな音源として3種(原因(1)〜(3))のものを用いるため、それらの平均距離測度を大小関係で分けると2種の差分が生じることにより、最終的に2つの閾値(たとえば、その相対的に小さい方の閾値を第一の閾値THa、その相対的に大きいほうの閾値を第二の閾値THb)が求められることとなる。この閾値は、判断部50で使用されるように所定の記憶部に保存される。
このように設定される閾値THa、THbを用いる判断部50では、判別対象の音に関する距離測度が第一の閾値THaよりも小さい値になったときには前記3種の音源のうち最も小さい平均距離測度を示す音源であると判断し、その判別対象の距離測度が第二の閾値THbよりも大きい値になったときには前記3種の音源のうち最も大きい平均距離測度を示す音源であると判断し、その判別対象の距離測度が第一の閾値THaから第二の閾値THbの間の値になったときには前記3種の音源のうち中間の平均距離測度を示す音源であると判断することになる。
<基本的な音源判別動作>
そして、この音源判別システム100による基本的な音源判別は、次のようにして行われる。
はじめに、音源判別システム100では、図3に示すように、その実際の判別を行う前に予め前処理が行われる(ステップS1)。この前処理では前述したように判断部50で使用する閾値の設定が行われる。
一方、この閾値の設定が終了した後には、マイクロフォン1により、判断対象となる(発生原因の不明な)音源を複数有する複写機200から発せられる騒音の収音が行われる(ステップS2)。この収音は、後述するように複写機200とマイクロフォン1との間に必要に応じて板材7を設置した状態で行うこともある。また、このような収音は、少なくとも複写機200の1サイクルのコピー動作が1回実行されるときに発生する音を収音するように行われる。マイクロフォン1で収音される音は、電気信号に変換されてアナログの音響信号としてDAT2に取り込まれる。
アナログ信号は、DAT2に内蔵されているA/D変換回路によりデジタル信号に変換される(ステップS3)。このときのデジタル信号はDAT2のカセット式磁気テープに一旦記録される。図4は、このDAT2に記録されたデジタル信号を示すグラフである。この例ではDAT2のA/D変換回路の分解能(サンプリング周波数)は48kHzであるため、得られるデジタル信号は1秒間に48000点のサンプリングデータとして得られる。ここで、複写機のような画像形成装置を収音する場合、そのサンプリング周波数としては、少なくとも10kHz以上、好ましくは20kHz以上のものを適用することが望ましい。
次に、波形切り取り部30において、DAT2に記録されたデジタル信号がパーソナルコンピュータCの本体3(ハードディスク)に対して取り込まれた後、判別対象となる音部分(衝撃音)の切り出しが行われる(ステップS4)。
まず、音切り出し部30における聴感補正部31により、取り込んだデジタル信号の聴感補正を行う。この例では、暗騒音に多く含まれる数10Hz以下の低周波数成分の信号をカットするため人の聴感に近いA特性フィルタにより補正を行った。この聴感補正を行わないデジタル信号は、切り出し部32に直接出力される。
続いて、この聴感補正された新たなデジタル信号は、切り出し部32により、判別対象となる衝撃音の時間波形データが切り出される。この例では、そのデジタル信号のうちから衝撃波を含む信号部分が0.2秒間程度切り出された後、その最大振幅(音圧)値を中心とする前後の計64点の時間波形データを100サンプル分切り出した。図5は、その切り出された時間波形データからなるデジタル信号を示すグラフである。
続いて、この切り出された64点の時間波形データは、波形変換部33により、所定の波形データに変換される(ステップS4)。この例では、切り出した波形データに所定のハニング窓関数処理を施した後、高速フーリエ変換を用いて周波数分析を行うことにより、図6に示すような周波数波形データが得られる。ここでは、周波数分解能が例えば750Hz(=48000/64)である周波数バンドごとの計32点のパワースペクトルを得る。
次に、このようにして切り出されたデジタル信号は距離測度演算部40に出力され(図2)、その演算部40において基準空間との距離測度であるマハラノビスの距離が演算される(ステップS5)。マハラノビスの距離は、前記した基準空間データの算出時と同様にして算出される。また、この演算された距離測度(マハラノビス距離)は、その距離測度の平均値(平均距離測度)として判別部50に出力される。
この判断部50において、距離測度演算部40から出力された判別対象の音源に関する平均距離測度を、前述したように予め設定される閾値THaおよび第2閾値THbと比較する処理が行われる。この比較結果により、判別対象の音源が前記した3つの発生原因(1)〜(3)のいずれに該当するものであるかが判別される。その判別された結果が、判断対象となる音源の発生原因に関する判断結果Rとなって得られる(ステップS6)。
このようにして得られる原因判断結果Rは、最後にディスプレイ装置5により表示される(図3のステップS7)。例えば、判断対象となる音源は、前記原因(1)の「金属片打撃音」である場合には、その判別結果の内容がディスプレイ装置5の画面に表示される(図2参照)。しかる後、次の音源判別が必要であれば上記工程(S2〜S7)が同様に繰り返されるが、その後の音源判別がなければ終了する(ステップS8)。
<収音に関する構成>
また、この音源判別システム100では、複写機200のような判別対象となる機械装置の特性を考慮し、以下のごとき板材7を必要に応じて使用した収音を行うようになっている。
まず、判別対象である複写機200は、図1や図7に示すように、基本的に、複写対象の原稿を自動原稿送り装置215から画像入力部(原稿読取部)210に送ってその原稿にある情報を読み取った後、画像出力部(作像部)220においてその原稿の情報に基づくトナー像を形成し、最終的にそのトナー像を給紙部230から搬送する記録用紙に転写して定着させることで原稿の複写を行う機能を備えたものである。
そして、この複写機200は、その画像入力部210、画像出力部220および給紙部230がいずれも支持フレームに対して多数の構成部品を密集させた状態で配置して構成されており、その複写時になると、稼動する複数の構成部品(たとえば金属製の可動部品)等から発せられる音や記録用紙の搬送移動により発せられる音などが複雑に交じり合った騒音が発生するという特性を有している。図中の符号216は原稿を載せる原稿トレイ、225は複写後に排出される記録用紙を収容する排紙トレイ、235は記録用紙をそのサイズや搬送向きの違い等に応じて収容し、複写機の正面側に引き出し可能に取り付けられている給紙カセット(トレイ)である。
また、複写機200は、図7や図8等に示すように、その自動原稿送り装置215のある上面部と給紙部230の底面部および給紙カセット235の装着部分を除き、一部に開口部が形成された外装カバー250によって覆われて全体の外観がほぼ長方形体に似た立体形状をなす構造を有している。この外装カバー250は、画像出力部220の正面側となる部位に開閉可能に取り付けられる正面カバー250Aと、画像出力部220および給紙部230の左右側面側となる部位に固定されてまたは開閉可能に取り付けられる左右の側面カバー(250B)250Cと、画像出力部220および給紙部230の背面側となる部位に固定されて取り付けられる背面カバー(250D)とで主に構成されている。外装カバー250は、主にABS樹脂等のプラスチックスにより平均の厚さが1〜2mm程度のほぼ平板状に成形されたものである。また、この外装カバー250はいずれの面のものも、複写機本体(本体フレーム)から取り外すことができるようになっている。
また、外装カバーのうち右側面カバー250Cには、複写後の記録用紙が排紙トレイ225に収容される際に排出される、水平方向に細長い長方形からなる排紙口260が形成されている。また、背面カバー250Dに排気口(265)が形成されている。この他にも、右側面カバー250Cには紙詰まりした記録用紙などを取り除くジャム処理作業を行うためのジャム処理用扉が形成され、左側面カバー250Bには記録用紙を画像出力部に供給する手差しトレイが開閉可能に形成されている。290は外装カバー250の内部側において密集した状態で配置されている複写機の各構成部品を一まとめにして概念的に示したものである。
このような排紙口260等の開口部が形成された外装カバー部分を装備する複写機200に対する収音は、たとえば図7に示すように、その複写機200の4つの側面(正面カバー、左右の側面カバーおよび背面カバーがそれぞれ装着される各部位)にマイクロフォン1をそれぞれむけて行うことができる。この場合、外装カバー250を取り付けた状態のままで収音することが可能であるが、特に排気口260等の開口部が存在する右側面カバー250Cや背面カバー250Dにマイクロフォン1をむけて収音するときには、図1、図7に示すように、たとえばその右側面カバー250Cの排紙口260とマイクロフォン1との間に板材7を介在させるような状態で設置して収音する。一方、開口部が存在しない正面カバー250Aや左側面カバー250Bにマイクロフォン1をむけて収容する場合には、板状7を設置しないで収音する。
上記板材7としては、その排紙口260の開口面積よりも大きい平面積を有する平板形状からなるABS樹脂製のプラスチック板(厚さ2mm)71を使用し、それを右側面カバー250Cの排紙口260を塞ぐ状態で設置するようにした。プラスチック板71は右側面カバー250Cに直接貼り付けるようにして設置したが、複写動作を行って収音するときには、複写後に排出される記録用紙を排紙口260から実際に外部に出す必要があるため、所定の板材7を側面カバー250Cから少し離した状態で設置する。これにより、複写後の記録用紙が側面カバー250Cと板材7との間(隙間)を通して外部に排出されるようになる。このように離した状態で設置する場合の板材7としては、その右側面カバ−250Cと同じ面積を有する大きさのものが使用される。
マイクロフォン1については、板材7を排紙口260を塞いた状態で設置してなる右側面カバー250Cにむけて配置するとともに、その収音性能(特性)などを参考にしながら判別に必要な音圧レベルで収音できる設置位置を探したうえで設置する。また、排紙口260等の開口部のないカバー部分(250A,250B)にマイクロフォン1をむけて収容するときは、その板材7は設置しないで収音する。
<収音の構成による効果の違い>
次に、板材7を設置した収音を行うことによる効果を確認するため、以下のような試験を行った。
上記複写機200の4つの位置に音発生器としてのスピーカ6をそれぞれ設置し(図8参照)、その各スピーカ6から前記閾値の設定時に収音した3つの音(金属片打撃音、用紙先端衝突音および用紙後端跳ね音)を各音について20回ずつ再生するようにした。上記4つの位置とは、排紙口260近傍の内部位置(p1)、排気口265近傍の内部位置(p2)、左側面寄りの内部位置(p3)および正面寄りの内部位置(p4)とした。その各内部位置はいずれも該当する部位の空きスペースであり、その各空きスペースにおいてスピーカ6をその近傍にある外装カバー部分にむけた状態で設置する。スピーカ6は、コンピュータ本体3と接続されており、DAT2またはハードディスクに予め記録されている上記3つの音をコンピュータ本体3内のサウンド発生回路機構を介して再生する。
一方、マイクロフォン1は、上記4つの位置に対応する外装カバー部分(250A〜D)にむけて同じ条件でそれぞれ設置した。また、排紙口260のある右側面カバー260Cと排気口265のある背面カバー250Dに対する収音時には、その排気口260と排気口265を塞ぐ状態で板材7としてのプラスチック板71をそれぞれ配置して(取り付けて)収音をした。
また比較のために、図9に例示するように、スピーカ6を外装カバー250の外部(複写機の上面部:outer)に設置し、そのスピーカ6から前記3つの音を同様に再生してマイクロフォン1で収音した。また、排紙口260のある右側面カバー260Cと排気口265のある背面カバー250Dに対する収音時に、前記したプラスチック板71を設置しない状態で収音もした。
そして、このような収音した各音データに基づいて前記したような音源判別のプロセスを実行し、最終的に距離測度演算部40において各音(20個分)ごとの基準空間との距離測度(マハラノビス距離)をそれぞれ求めるとともに、その各距離測度の平均値(平均距離測度)を求めた。このときの結果を図10に示す。
図10の結果から、特に排紙口260や排気口265のある右側面カバー250Cや背面カバー250Dにマイクロフォン1をむけて収音した場合(P1,P2)でも、プラスチック板71を設置して収音することにより、その排紙口等の開口部のないカバー部分(250B,250A)にマイクロフォン1をむけて収音した場合(P3,P4)における平均距離速度と近い平均距離測度が得られることがわかる。
これに対し、同じ右側面カバー250Cや背面カバー250Dにマイクロフォン1をむけて収音した場合(P1,P2)でも、プラスチック板71を設置しない状態で収音したときには、その平均距離測度は図10中に点線の丸および三角の記号で示すような結果(P3,P4での値よりも小さい値)となる。また、排紙口等の開口部のないカバー部分(250B,250A)で収音した場合(P3,P4)であっても、そのカバー部分250B,250Aの構成(種類、厚さ、構造など)が異なっていたり、あるいは構成部品の配置状態(構成部品の種類、その配置条件など)などが異なっていることにより、その互いの平均距離測度が異なってしまう(ばらつく)ことがある。
また、図10に示される結果が得られることにより、次のような閾値(予め設定する前記の閾値とは異なる)に基づく音源判別を行うことができる。
まず、この場合における閾値は、金属打撃音と用紙先端衝突音との平均距離測度が隣り合う関係にあるため、その両者の差分(ここではP4の位置における平均距離速度どうしの差分)に0.7倍を乗じた値を金属打撃音の平均距離測度に加えて得た値を第一の閾値THa(具体的には1600)とした。また、用紙先端衝突音と用紙後端跳ね音との平均距離測度が隣り合う関係にあるため、その両者の差分(ここではP4の位置における平均距離速度どうしの差分)に0.7倍を乗じた値を用紙先端衝突音の平均距離測度に加えて得た値を第二の閾値THb(具体的には3000)とした。
このような閾値THa、THbに基づいて上記各位置(P1〜P3の位置。P4位置は閾値算出用に用いため効果検証の対象からは除く)における平均距離測度の判別を行うと、その判別対象の音の平均距離測度が第一の閾値THaよりも小さい値になったときには「金属打撃音である」と判断し、その判別対象の平均距離測度が第二の閾値THbよりも大きい値になったときには「用紙後端跳ね音である」と判断し、その判別対象の平均距離測度が第一の閾値THaから第二の閾値THbの間の値になったときには「用紙先端衝突音である」と判断される。
以上のことから上記各位置(P1〜P4)で発生する音を収音して得られる平均距離測度は、その位置の違いにかかわらず、上記2つの閾値THa、THbに基づいて正確に判別することができる。これに対し、特に上記2つの位置(P1,P2)においてプラスチック板71を設置しないで収音した場合には、上記閾値THa、THbに基づいて判別をすると、正しくは用紙先端衝突の音であるところを誤って金属打撃の音であると判別してしまうことになる。
そして、この音源判別システム100およびその判別方法により、複写機200による複写動作したときに実際に発せられる騒音について上記のように収音して音源判別を行ったところ、その外装カバーの条件(特に開口部の有無)等が異なることがあっても、収音される音の特性である平均距離測度がほぼ揃った値となり、この結果、その騒音に含まれる各音源のうち上記発生原因が明らかな3つの音のいずれかであるかを正確に判別することができるようになる。
この際、排紙口260のある右側面カバー250Cに設置するプラスチック板71は、その排紙口260からの記録用紙の排出を可能にするためその排紙口260と少し離して設置することになるため、その右側面カバー250C全体とほぼ同じ大きさのものを使用する。
[実施の形態2]
図11および図12は、実施の形態2に係る音源判別システムおよびその判別方法を示すものである。この音源判別システム100およびその判別方法は、開口部のある外装カバー部分を装備する複写機を判別対象とする場合、その収音に関する構成が以下のように一部異なること以外は、実施形態1に係る音源判別システム100およびその判別方法と同じ構成からなるものである。
すなわち、その収音に際しては、複写機200の外装カバー250の全部または一部を取り外し、その取り外したカバー部分の装着部位とマイクロフォン1との間に板材7を介在させるように設置して収音するようにしている。たとえば、外装カバー250の全部(正面カバー250A、左右の側面カバー250B,Cおよび背面カバー250D)を取り外した場合には、その全カバーの各装着部位(250Ap,250Bp,250Cp,250Dp)とその各部位にむけて配置するマイクロフォン1との間に板材7をそれぞれ設置した状態で収音する。
このときの板材7としては、その各カバー部分(250A〜D)の外観全体よりも少し大きい面積を有する平板形状からなるABS樹脂製のプラスチック板(厚さ2mm)72、73を使用し、それを各カバー部分の装置部位(250Ap,250Bp,250Cp,250Dp)の近傍に設置する。
そして、この実施の形態2に係る音源判別システム100では、上記のように収音した後に、実施の形態1の場合における音源判別プロセスを同様に実行して、複写機200から発せられる騒音に対する音源判別を行うことができる。
なお、この判別システム100やその判別方法においては、開口部が形成されていないカバー部分を板材7として使用し、そのカバー部分を各装着位置にそれぞれ設置して使いまわすようにすることも可能である。また、取り外す外装カバーは、その一部(たとえば排紙口等の開口部のあるカバー250C、250D)だけでもよく、この場合には、取り外さない外装カバー部分(250A、250B)にマイクロフォン1をむけて収音する際に板材7を設置する必要はない。しかも、この場合には、取り外したカバー部分(250C、250D)の装着部位とマイクロフォン1に設置する板材7として、音特性の変化をできるだけ揃える観点からすると、同じものを併用することが好ましい。
次に、外装カバーの取り外しかつ板材7を設置した収音を行うことによる効果を確認するため、実施の形態1の場合とほぼ同様の試験を行った。
実施形態1の場合と同様に、上記複写機200の4つの位置(P1〜P4)にスピーカ6をそれぞれ設置し(図12参照)、その各スピーカ6から前記3つの音(金属片打撃音、用紙先端衝突音および用紙後端跳ね音)を各音について20回ずつ再生するようにした。外装カバー250については、その全部を取り外した。
一方、マイクロフォン1は、取り外された各カバー部分の装着位置(250Ap,250Bp,250Cp,250Dp)にむけて同じ条件でそれぞれ設置した。また、その取り外した各カバー部分の装着部位の近傍には、プラスチック板71、72をそれぞれ配置した。この実施形態では、開口部が形成されていない左側面カバー250B(平均の厚さ約2mm)を板材7として使用し、この1つの左側面カバー250Bを上記各装着位置にそれぞれ設置して使いまわすようにした。
そして、このような収音した各音データに基づいて前記したような音源判別のプロセスを実行し、最終的に距離測度演算部40において各音(20個分)ごとの基準空間との距離測度(マハラノビス距離)をそれぞれ求めるとともに、その各距離測度の平均値(平均距離測度)を求めた。このときの結果を図13に示す。
図13の結果から、特に排紙口260や排気口265のある右側面カバー250Cや背面カバー250Dを含む外装カバー250の全部を取り外し、その取り外した各カバー部分の装着部位にマイクロフォン1をむけて収音する際に、取り外した各カバー部分の代わりに上記左側面カバー250Bを共通の板材7として設置して収音することにより、上記4つの位置(P1〜P4)の違いにかかわらず、各音ごとの平均距離測度がほぼ同レベルの値として(ほぼ揃った状態で)得られることがわかる。
また、この場合には、実施の形態1の試験結果(図10)とは異なり、排紙口等の開口部のないカバー部分(250B,250A)の装着部位で収音した場合(P3,P4)の平均距離測度も互いにほぼ近似した値として得られるようになる。これは、特にその各カバー部分250B,250Aの代わりに同じ左側面カバー250Bを設置して収音したことにより、かかるカバー部分250B,250Aの構成(種類、厚さ、構造など)が異なることによる収音した音の特性変化の発生を排除できたためであると考えられる。しがたって、実施形態2ではこの分、実施の形態1の場合よりも、より正確な音源判別を行うことが可能となり有利である。
また、図13に示される結果が得られることにより、次のような閾値に基づく音源判別を行うことができる。
この場合における閾値は、金属打撃音と用紙先端衝突音との平均距離測度が隣り合う関係にあるため、その両者の差分(ここではP4の位置における平均距離速度どうしの差分)に0.7倍を乗じた値を金属打撃音の平均距離測度に加えて得た値を第一の閾値THa(具体的には1100)とした。また、用紙先端衝突音と用紙後端跳ね音との平均距離測度が隣り合う関係にあるため、その両者の差分(ここではP4の位置における平均距離速度どうしの差分)に0.7倍を乗じた値を用紙先端衝突音の平均距離測度に加えて得た値を第二の閾値THb(具体的には2700)とした。
このような閾値THa、THbに基づいて上記各位置(P1〜P3)における平均距離測度の判別を行うと、その判別対象の音の平均距離測度が第一の閾値THaよりも小さい値になったときには「金属打撃音である」と判断し、その判別対象の平均距離測度が第二の閾値THbよりも大きい値になったときには「用紙後端跳ね音である」と判断し、その判別対象の平均距離測度が第一の閾値THaから第二の閾値THbの間の値になったときには「用紙先端衝突音である」と判断される。
以上のことから上記各位置(P1〜P4)で発生する音を収音して得られる平均距離測度は、その位置の違いにかかわらず、上記2つの閾値THa、THbに基づいて正確に判別することができる。
そして、この音源判別システム100およびその判別方法により、複写機200による複写動作したときに実際に発せられる騒音について上記のように収音して音源判別を行ったところ、その外装カバーの条件(特に開口部の有無)等が異なることがあっても、収音される音の特性である平均距離測度がほぼ揃った値になり、この結果、その騒音に含まれる各音源のうち上記発生原因が明らかな3つの音のいずれかであるかを正確に判別することができるようになる。特に、この場合は、前述したように排紙口等の開口部のないカバー部分(250B,250A)の装着部位で収音した場合(P3,P4)の平均距離測度が、実施形態1の場合に比べてほぼ近似した値として得られるため、上記各位置のいずれにおいても上記の音源判別をより一層正確に行うことができるようになる。
1…マイクロフォン、7…板材(板状部材)、10…収音部、30…音切り出し部、40…距離測度演算部、50…判断部、71〜73…プラスチック板(板状部材)、100…音源判別システム(音源判別装置)、200…複写機(機械装置)、250…外装カバー、250C…右側面カバー(開口部が存在するカバー部分)、250D…背面カバー(開口部が存在するカバー部分)、260…排紙口(開口部)、265…排気口(開口部)。