しかしながら、非特許文献1の技術では、電子発生用の第1のレーザ装置101と、電子密度測定用の第2のレーザ装置102との2つのレーザ装置をターゲット103の周囲に配置しなければならず、またターゲット103の極近辺に第2のレーザ光線102Aを導く必要があるため、レーザ装置102および測定装置104をターゲット103の周囲に配置しなければならないので、装置構成が複雑なものとなってしまう。
また、非特許文献1の技術では、第1のレーザ光線101Aをターゲット103に照射した直後または同時に、第2のレーザ光線102Aを照射する必要がある。第1のレーザ装置101のパルス幅はfs(10−15秒)〜ps(10−12秒)と非常に短時間であるため、第2のレーザ光線102Aを照射する時間的な制御が極めて困難である。
さらに、第1のレーザ光線101Aをターゲット103に照射した際には、ターゲット103上では電子、イオン、分子、X線など様々な粒子がほぼ同時に発生しているが、非特許文献1の技術では、中性粒子および種類や価数が明らかでないイオンの分布を測定することができない。さらに、屈折率の変化を利用する非特許文献1の原理では、エネルギー別に分けて粒子の分布を測定することは極めて難しい。
そこで本発明は、粒子源における高エネルギー粒子の密度分布を簡便に測定する粒子分布の評価方法および装置、並びにこれを利用したレーザープロファイルの測定方法および装置、粒子採取方法および装置を提供することを目的とする。また本発明は、エネルギー別に又は粒子の種類別に、粒子源における粒子密度分布を測定する粒子分布の評価方法および装置を提供することを目的とする。
かかる目的を達成するため、請求項1記載の粒子分布の評価方法は、粒子が拡散する点源の集合である粒子源と、前記粒子が入射する検出面を有し当該検出面上において粒子が入射した位置と当該位置に入射した粒子数を測定する検出手段との間に、前記粒子の通過を遮る遮蔽材にピンホールが形成されて成るピンホール部を配置し、前記点源から前記粒子が拡散する条件と、前記点源から出発した前記粒子が前記ピンホールを通過して前記検出面に到達する条件とに基づいて、前記検出手段の測定結果から、前記粒子源における前記点源から拡散した粒子数を求めるようにしている。
また、請求項9記載の粒子分布評価装置は、粒子源より粒子を発生させる粒子発生手段と、前記粒子が入射する検出面を有し当該検出面上において粒子が入射した位置と当該位置に入射した粒子数を測定する検出手段と、前記粒子の通過を遮る遮蔽材にピンホールが形成されて成り前記粒子源と前記検出手段との間に配置されるピンホール部と、前記粒子源の粒子発生領域を構成する各点源から前記粒子が拡散する条件と、前記点源から出発した前記粒子が前記ピンホールを通過して前記検出面に到達する条件とに基づいて、前記検出手段の測定結果から、前記粒子源における前記点源から拡散した粒子数を算出する演算手段とを備えるようにしている。
粒子源上の各点源から拡散しピンホールを介して検出面上の各点に入射できる粒子は、各点源から粒子が拡散する条件と、点源から出発した粒子がピンホールを通過して検出面に到達する条件とにより絞られる。このため、あたかもピンホールカメラによって被写体としての粒子源が検出面上に写し出されるが如く、検出面上の各点に入射する粒子数すなわち検出面上の粒子密度分布は、粒子源における各点源から拡散した粒子数すなわち粒子源上の粒子密度分布を反映したものとなる。従って、各点源から粒子が拡散する条件と、点源から出発した粒子がピンホールを通過して検出面に到達する条件とから、粒子の保存則に基づいて、測定された検出面上の粒子密度分布から、粒子源上の粒子密度分布を導き出すことができる。
また、請求項2記載の発明は、請求項1記載の粒子分布の評価方法において、一定値以上のエネルギーを有する粒子のみ通過させるエネルギー分別手段または特定の種類の粒子のみ通過させる粒子分別手段を、前記粒子源と前記検出面との間に配置するようにしている。また、請求項10記載の発明は、請求項9記載の粒子分布評価装置において、一定値以上のエネルギーを有する粒子のみ通過させるエネルギー分別手段または特定の種類の粒子のみ通過させる粒子分別手段を、前記粒子源と前記検出面との間に配置するようにしている。
この場合、粒子源上の各点源から様々なエネルギーを有する粒子もしくは様々な種類の粒子が発生する場合でも、測定対象のエネルギーを有する粒子または測定対象の種類の粒子についての粒子源上の粒子密度分布を求めることができる。
また、請求項3記載の発明は、請求項1または2記載の粒子分布の評価方法において、電場または磁場の一方または双方を発生させて前記粒子を偏向させる偏向器を、前記ピンホール部と前記検出面との間に配置するようにしている。また、請求項11記載の発明は、請求項9または10記載の粒子分布評価装置において、電場または磁場の一方または双方を発生させて前記粒子を偏向させる偏向器を、前記ピンホール部と前記検出面との間に配置するようにしている。
この場合、各粒子が有するエネルギーや比電荷等の値によって、電場や磁場によって粒子が偏向する度合に差が生じ、エネルギー別に粒子を分離する、または粒子の種類別に粒子を分離することが可能となる。従って、エネルギー別に又は粒子の種類別に、粒子源上の粒子密度分布を求めることができる。
また、請求項4記載の発明は、請求項3記載の粒子分布の評価方法において、前記偏向器は、トムソン質量分析器であるものとしている。また、請求項12記載の発明は、請求項11記載の粒子分布評価装置において、前記偏向器は、トムソン質量分析器であるものとしている。
この場合、イオンの種類、イオンエネルギーに応じてイオンを空間的に分離することができ、イオンの種類別およびイオンエネルギー別に、粒子源上の粒子密度分布を求めることができる。
また、請求項5記載の発明は、請求項3記載の粒子分布の評価方法において、前記偏向器は、電子スペクトロメータであるものとしている。また、請求項13記載の発明は、請求項11記載の粒子分布評価装置において、前記偏向器は、電子スペクトロメータであるものとしている。
この場合、エネルギーに応じて電子および陽電子を空間的に分離することができ、エネルギー別に電子又は陽電子の粒子源上の密度分布を求めることができる。
また、請求項6記載の発明は、請求項1から5のいずれかに記載の粒子分布の評価方法において、前記粒子源は、レーザ光線が照射されることにより高エネルギー粒子を発生させるターゲットであるものとしている。また、請求項14記載の発明は、請求項9から13のいずれかに記載の粒子分布評価装置において、前記粒子発生手段は、ターゲットと、瞬間的な照射で前記ターゲットの電離が可能なエネルギーのレーザ光線を前記ターゲットに瞬間的に照射して高エネルギー粒子を発生させるレーザ光線照射手段を備えるものとしている。
この場合、レーザ光線が照射されることにより高エネルギー粒子を発生させるターゲット上の発生粒子の密度分布を求めることができる。
また、請求項7記載のレーザープロファイルの測定方法は、請求項6記載の粒子分布の評価方法により求められる前記ターゲット上での発生粒子の密度分布と、当該ターゲット上での発生粒子の密度とレーザー強度閾値との既知の相関に基づいて、前記ターゲットに照射したレーザ光線の集光強度分布を求めるようにしている。また、請求項15記載のレーザープロファイル測定装置は、請求項14記載の粒子分布評価装置から出力される前記ターゲット上での発生粒子の密度分布を表す情報と、当該ターゲット上での発生粒子の密度とレーザー強度閾値との既知の相関を表す情報に基づいて、前記ターゲットに照射したレーザ光線の集光強度分布を算出するようにしている。
本発明の粒子分布の評価方法または粒子分布評価装置によりターゲット上での発生粒子の密度分布を求めることができ、レーザ光線が照射されることにより高エネルギー粒子を発生させるターゲット上の発生粒子の密度とレーザー強度閾値との関係は実験等により予め調べることができる。ターゲット上での発生粒子の密度分布と、ターゲット上の発生粒子の密度とレーザー強度閾値との関係が既知であれば、ターゲットに照射したレーザ光線の集光強度分布すなわちレーザープロファイルを求めることができる。
また、請求項8記載の粒子採取方法は、請求項6記載の粒子分布の評価方法により求められた前記ターゲット上での発生粒子の密度分布に基づいて、目的の粒子が発生する前記ターゲット上の箇所が露出するマスキング材を前記ターゲットの粒子発生面に取り付けるようにしている。また、請求項16記載の粒子採取装置は、ターゲットと、瞬間的な照射で前記ターゲットの電離が可能なエネルギーのレーザ光線を前記ターゲットに瞬間的に照射して高エネルギー粒子を発生させるレーザ光線照射手段と、請求項6記載の粒子分布の評価方法または請求項14記載の粒子分布評価装置により求められた前記ターゲット上での発生粒子の密度分布に基づいて、前記ターゲットの粒子発生面に取り付けられて、目的の粒子が発生する前記ターゲット上の箇所を露出させるマスキング材とを備えるようにしている。
したがって、予め本発明の粒子分布の評価方法または粒子分布評価装置によりターゲット上での発生粒子の密度分布を求め、所望の粒子がターゲット上のどの箇所から多く発生しているか明らかにしておけば、当該箇所を露出させ他の粒子発生箇所を覆うマスキング材をターゲットの粒子発生面に取り付けて、先の粒子分布の評価と同条件の下でレーザ照射によるターゲットからの粒子発生を行うことで、必要とする粒子を効率良く取り出すことができる。
しかして請求項1記載の粒子分布の評価方法および請求項9記載の粒子分布評価装置によれば、粒子源と検出面との間にピンホール部を設置する構成、および各点源から粒子が拡散する条件と、点源から出発した粒子がピンホールを通過して検出面に到達する条件と、粒子の保存則に基づく計算処理によって、測定された検出面上の粒子密度分布から、粒子源上の粒子密度分布を導き出すことができる。本発明によれば、測定用のレーザーを用いる必要はないため、複雑な2レーザー間の同期制御を行うことはなく、装置構成も簡素化でき、粒子源における高エネルギー粒子の密度分布を簡便に測定することができる。
さらに、請求項2記載の粒子分布の評価方法および請求項10記載の粒子分布評価装置のように、エネルギー分別手段または粒子分別手段を用いることで、あるいは請求項3記載の粒子分布の評価方法および請求項11記載の粒子分布評価装置のように、電場または磁場の一方または双方を発生させて粒子を偏向させる偏向器を用いることで、エネルギー別や粒子の種類別に粒子源上の粒子密度分布を求めることができる。
請求項4記載の粒子分布の評価方法および請求項12記載の粒子分布評価装置のようにトムソン質量分析器を用いれば、イオンのエネルギー毎の粒子源上の粒子密度分布を高精度に求めることができる。また、請求項5記載の粒子分布の評価方法および請求項13記載の粒子分布評価装置のように電子スペクトロメータを用いれば、電子又は陽電子のエネルギー毎の粒子源上の粒子密度分布を高精度に求めることができる。
さらに、請求項6記載の粒子分布の評価方法および請求項14記載の粒子分布評価装置によれば、レーザ光線が照射されることにより高エネルギー粒子を発生させるターゲット上の発生粒子の密度分布を求めることができる。
さらに、請求項7記載のレーザープロファイルの測定方法および請求項15記載のレーザープロファイル測定装置によれば、請求項6記載の粒子分布の評価方法および請求項14記載の粒子分布評価装置の結果に基づいて、ターゲットに照射したレーザ光線の集光強度分布すなわちレーザープロファイルを求めることができる。
さらに、請求項8記載の粒子採取方法および請求項16記載の粒子採取装置によれば、請求項6記載の粒子分布の評価方法および請求項14記載の粒子分布評価装置の結果に基づいて、必要とする粒子を効率良く取り出すことができる。
以下、本発明の構成を図面に示す実施形態に基づいて詳細に説明する。
図1から図21に本発明の粒子分布の評価方法及び装置の実施の一形態を示す。この粒子分布の評価方法は、粒子が拡散する点源の集合である粒子源1と、粒子が入射する検出面2aを有し当該検出面2a上において粒子が入射した位置と当該位置に入射した粒子数を測定する検出手段2との間に、粒子の通過を遮る遮蔽材にピンホール3が形成されて成るピンホール部4を配置し、点源から粒子が拡散する条件と、点源から出発した粒子がピンホール3を通過して検出面2aに到達する条件とに基づいて、検出手段2の測定結果から、粒子源1における点源から拡散した粒子数を求めるようにしている。
例えば本実施形態における粒子源は、レーザ光線5aが照射されることにより高エネルギー粒子を発生させるターゲット1であるものとしている。瞬間的な照射でターゲット1の電離が可能なエネルギーのレーザ光線5aを、ターゲット1に瞬間的に照射することで、ターゲット1の照射面が電離して電子や正イオンが加速されて、高エネルギー粒子が発生する。
ターゲット1での粒子発生領域を構成する各点源から拡散した粒子数は、ターゲット1上での粒子密度分布を表す。ここで、ターゲット1上では、様々な種類の粒子がそれぞれ様々な大きさのエネルギーを有して発生し得る。ターゲット1上で発生した粒子の密度分布を、粒子の種類別やエネルギー別に測定するには、例えば以下に挙げる第1〜第4の方策のいずれか採用する、あるいはこれらの方策を組み合わせて採用することで可能である。
第1の方策として、発生させる高エネルギー粒子の種類を、ターゲット1の材料の選択やレーザ光線5aの照射条件等により定める。例えば、ターゲット1として固体ターゲットを用いればプロトン(水素イオン)とその固体の組成イオンを、厚い金属ターゲット1を用いれば電磁波を、ガスなどを用いれば電子とそのガスイオンを主な高エネルギー粒子として選択的に発生させることが可能である。
第2の方策として、特定の種類の粒子または特定の大きさのエネルギーを有する粒子に反応する検出手段2を採用する。例えば、測定対象の粒子がイオンであれば、イオンに対して感度の高いCR39(アリル・ジグリコール・カーボネート)を検出面2aとする飛跡検出器を検出手段2として利用できる。また、測定対象の粒子が電子または陽電子であれば、電子および陽電子に反応するイメージングプレート、マルチチャンネルプレート、レイネックススクリーンなどを検出面2aとする検出手段2を利用できる。勿論、検出手段2は上記に例示したものには限定されず、測定対象の粒子に応じて適宜選択して良い。
第3の方策として、一定値以上のエネルギーを有する粒子のみ通過させるエネルギー分別手段または特定の種類の粒子のみ通過させる粒子分別手段を、粒子源1としてのターゲット1と検出面2aとの間に配置する。例えば図14に示すように、エネルギーが一定値未満の粒子を遮断するエネルギーフィルタ6をターゲット1とピンホール部4との間もしくはピンホール部4と検出面2aとの間に設置する。エネルギーフィルタ6の厚みまたは密度、材質を変更することで、フィルタ6を透過可能なエネルギーの値を調整できる。このようなエネルギーフィルタ6として例えばMylarと呼ばれるフィルム(マイラーフィルタ)を利用できる。また、同じ材質のフィルタでも、電子とイオンではイオンの方が透過し難いので、フィルタの厚さを調整することで、イオンを遮断し電子のみを透過させる粒子分別手段としてのフィルタを構成することも可能である。
第4の方策として、電場または磁場の一方または双方を発生させて粒子を偏向させる偏向器を、ピンホール部4と前記検出面2aとの間に配置し、エネルギー別に粒子を分離する、または粒子の種類別に粒子を分離する。各粒子が有するエネルギーや比電荷等の値によって、電場や磁場によって粒子が偏向する度合に差が生じ、エネルギー別に粒子を分離する、または粒子の種類別に粒子を分離することが可能となる。例えば測定対象の粒子がイオンであれば、図1および図6に示すように、イオンビーム9の軌道と垂直に電界と磁界を同一方向にかけ、イオンの種類、イオンエネルギーに応じてイオンを偏向させ分離する既知のトムソン質量分析器7を偏向器として利用できる。また、測定対象の粒子が電子または陽電子であれば、図20および図21に示すように、電子または陽電子の軌道と垂直に磁界を発生させて粒子をエネルギーに応じた曲率半径で曲げて検出面2aに入射させる既知の電子スペクトロメータ8を偏向器として利用できる。
例えば本実施形態では、ターゲット1は固体であり、ターゲット1のレーザ照射面1aとは反対側へ高エネルギー粒子を射出するものとしている。ターゲット1が固体である場合、ターゲット1が気体である場合に比べて、光学的なアライメントの調整が容易であり、ガスバルブ開閉のタイミングを計る必要がないためレーザと同期がとり易い。また、ターゲット1のレーザ照射面1aとは反対側へ高エネルギー粒子を射出することで、ピンホール部4および検出手段2の配置が容易となる。また、計算条件および説明の簡単のために例えば本実施形態では、ターゲット1のレーザ照射面1aと粒子発生面1bおよび検出手段2の検出面2aは、平面且つ平行であるものとしている。
図2に示すようにターゲット1上の粒子発生面1b上に2次元の直交座標(x、y)をとり、x−y平面上の点(x、y)における単位面積あたりのエネルギーEの発生粒子数、即ち点(x、y)において発生したエネルギーEを有する粒子の密度をf(x,y,E)と表す。また、検出面2a上に2次元の直交座標(X、Y)をとり、X−Y平面上の点(X、Y)における単位面積あたりのエネルギーEの検出粒子数、即ち点(X、Y)において検出されたエネルギーEを有する粒子の密度をg(X,Y,E)と表す。f(x,y,E)は、ターゲット1上でのエネルギーEの粒子密度分布のプロファイルであり、g(X,Y,E)は、偏向器が無い場合の検出面2a上でのエネルギーEの粒子密度分布のプロファイルである。尚、本実施形態では、計算条件および説明の簡単のために、ターゲット1上におけるレーザ照射領域の中心と、x−y平面の原点と、ピンホール3の中心と、X−Y平面の原点とが、x−y平面に垂直な一直線上に並んでいるものとしている。また、ピンホール3の形状は半径rphの円形としている。
点源すなわちターゲット1上の点(x、y)から粒子が拡散する条件として、例えば本実施形態では、エネルギーEを有する粒子の群が、点(x、y)からコーン角度θc(出射角度θcまたは発散角度θcとも呼ぶ。)で拡散し、且つ当該コーン角度θcを頂点の角とする円錐の底面内で均一に分布していると、仮定する。ここで、図3に示すように、点(x、y)を頂点とし、コーン角度θcとする円錐についての、検出面2aすなわちX−Y平面上での底面の面積をAとする。
粒子数の保存則から、点(x、y)における粒子の数と、面積Aにおける粒子の数とは等しく、この粒子数の保存則に基き、f(x,y,E)とg(X,Y,E)とは次式の関係を有する。
但し、l1はターゲット1の粒子発生面1bすなわちx−y平面の原点とピンホール3の中心との距離であり、l2はピンホール3の中心と検出面2aすなわちX−Y平面の原点との距離である。π((l1+l2)tanθc)2は、図3に示す面積Aを表している。ここで、ピンホール3の中心を原点とする三次元座標をとると、粒子発生面1bにおける座標は(x,y,−l1)で表され、検出面2aにおける座標は(X,Y,l2)で表され、(x,y,−l1)点と(X,Y,l2)点との距離は、((l1+l2)2+(x−X)2+(y−Y)2)1/2となる。このため、数式1における(l1+l2)の部分は、本来は((l1+l2)2+(x−X)2+(y−Y)2)1/2となる。但し、x,y,X,Yは通常例えば100μm程度のオーダであるのに対し、l1,l2は通常例えば10cm〜20cm程度のオーダであり、(x−X)2+(y−Y)2は(l1+l2)2に比べて通常充分に小さく、((l1+l2)2+(x−X)2+(y−Y)2)1/2≒(l1+l2)の近似が成立する。
数式1中のh(x,y,X,Y)は、点(X,Y)に到達し得る粒子の出発点(x,y)を決める関数であり、ピンホール3の半径rphと、ピンホール3からターゲット1までの距離l1と、ピンホール3から検出面2aまでの距離l2と、粒子の出射角度θcとによって決まる。
点(X,Y)に到達し得る粒子の出発点(x,y)を決める第1の条件として、図4に示すように、x−y平面上の点とX−Y平面上の点を結んだ直線がピンホール3を通過する必要がある。すなわち、点(X,Y)に到達し得る粒子の出発点(x,y)は、x−y平面上において、(−(l1/l2)X,−(l1/l2)Y)を中心とし、かつ半径r’ph=rph・(l1+l2)/l2を有する円C1内の点に限られる。したがって、点(X,Y)に到達し得る粒子の出発点(x,y)は、次式を満たすx−y平面上の点に限られる。
<数2>
(x+(l1/l2)X)2+(y+(l1/l2)Y)2≦(rph・(l1+l2)/l2)2
さらに、点(X,Y)に到達し得る粒子の出発点(x,y)を決める第2の条件として、例えば本実施形態の粒子拡散条件の下では、粒子は点(x、y)からコーン角度θcの範囲を超えてX−Y平面へと飛んでくることはない。すなわち、点(X,Y)に到達し得る粒子の出発点(x,y)は、図5に示すように、x−y平面上において、(X,Y)を中心とし、かつ半径(l1+l2)tanθcを有する円C2内の点に限られる。したがって、点(X,Y)に到達し得る粒子の出発点(x,y)は、次式を満たすx−y平面上の点に限られる。
<数3>
(x−X)2+(y−Y)2≦((l1+l2)tanθc)2
上記第1及び第2の条件の双方が満たされる場合、すなわち数式2および数式3の双方が満たされる場合のみ、h(x,y,X,Y)=1となり、それ以外は、h(x,y,X,Y)=0となる。但し、(l1+l2)tanθcのオーダはx、y、X,Yのオーダに比べて通常充分に大きいので、第2の条件は常に満たされているとみなすことも可能である。
レーザのフォーカス直径は通常数μm程度であり、粒子は上記フォーカス直径の数倍程度のターゲット1上の領域から発生するため、ターゲット1上での粒子発生領域は微小であって当該領域よりも充分に小さい口径を有するピンホール3の作製は困難で、上記のようにピンホール3の半径rphの大きさを考慮する必要が生じる。但し、ピンホール3が、ターゲット1上での粒子発生範囲よりも充分に小さい場合には、ピンホール3を点とみなすこと、すなわちrph≒0とみなすことが可能であり、数式1を次式のように単純化できる。
<数4>
g(X,Y,E)=f(x,y,E)/[π((l1+l2)tanθc)2]
但し、x=−(l1/l2)X,y=−(l1/l2)Y
即ちピンホール3の半径rphが小さいほど、点(X,Y)に到達し得る粒子の出発点(x,y)が絞られて、g(X,Y,E)はf(x,y,E)をより鮮鋭に反映したものとなる。このため、ピンホール3の大きさはターゲット1上の粒子発生領域よりも小さいことが望ましい。但し、上記したように本実施形態ではピンホール3の半径rphの大きさを考慮してg(X,Y,E)とf(x,y,E)との関係を定めているため、ピンホール3の大きさはターゲット1上の粒子発生領域と同程度もしくは若干大きくても構わない。
ピンホール部4はピンホール3以外の部分では粒子が通過できない材質としている。粒子のエネルギーが高いほど透過できる遮蔽材の厚みが大きくなるため、ピンホール部4の厚みを単純に厚くすることで遮断性を向上できる。但し、ピンホール部4の厚みが大きくなると、ピンホール3を通過できる粒子の角度が制限され、ピンホール部4の厚みを考慮して上記のh(x,y,X,Y)を修正する必要が生じる。このため、ピンホール部4の厚みを大きくすることなく粒子を遮断できる高密度の材料、例えばタンタル、タングステン、鉛などを用いてピンホール部4を作製することが好ましい。尚、例えば1MeV(メガ電子ボルト)以下のプロトンであれば、厚さ25μmのステンレスを用いて遮断できる。
g(X,Y,E)は、検出面2a上の位置(X,Y)に入射した粒子数を測定する検出手段2を用いて測定することが可能である。尚、検出手段2は、粒子が衝突した検出面2aをエッチングして、検出面2aに形成されたエッチピットを解析者等が光学顕微鏡などを用いて観察し、点(X,Y)におけるエッチピットをカウントすることによりg(X,Y,E)を求めるものであっても良く、点(X,Y)に入射した粒子を自動検出し且つ自動カウントすることで自動的にg(X,Y,E)を求める装置であっても良い。尚、検出面2aは一度にg(X,Y,E)を測定できる大きさのものが好ましいが、一度にg(X,Y,E)を測定できない場合には、例えば検出面2aの位置を変えて同条件の下で複数回の測定を行うことでg(X,Y,E)を求めることも可能である。検出面2aはターゲット1の極近辺に設置する必要は無いので、ターゲット1周囲の装置構成を簡素化できる。尚、検出面2aにおける粒子分布の拡大率は、ターゲット1とピンホール3と検出面2aとの位置関係によって決まるので、ピンホール3をターゲット1の近くに置き、検出面2aをピンホール3から遠ざけることで、分解能を上げることができる。但し、検出面2aをピンホール3から遠ざけすぎると、粒子の拡散により粒子のカウントが困難となるので、適宜調整することが好ましい。
測定されたg(X,Y,E)から、数式1または数式4に基づいて、ターゲット1上での粒子密度分布f(x,y,E)を求めることが可能である。g(X,Y,E)の実測値をgexp(X,Y,E)と表記する。例えば本実施形態では、gexp(X,Y,E)に基づいて、f(x,y,E)を次のように求める。即ち、関数f(x,y,E)を予め仮定し、当該仮定したf(x,y,E)を数式1に代入してg(X,Y,E)を算出する。当該算出されたg(X,Y,E)の理論値をgth(X,Y,E)と表記する。そして、gth(X,Y,E)がgexp(X,Y,E)に最もフィットするように、仮定した関数f(x,y,E)を修正する。
具体的には、例えばf(x,y,E)として、次式で表される2次元のガウス分布を仮定する。レーザ光線5aが照射されることで高エネルギー粒子を発生するターゲット1を粒子源とする本実施形態においては、f(x,y,E)はレーザ光線5aの強度分布と強い相関関係があると考えられ、レーザ光線5aの強度分布は一般にガウス分布で表されるからである。
<数5>
f(x,y,E)=a(E)・exp(−(x2+y2)/b(E)2)
そして、数式1,数式5を用いてgth(X,Y,E)を求めるとともに、gexp(X,Y,E)を測定し、次式が最小となるように、数式5中の係数a(E),b(E)を決定する。これにより、f(x,y,E)を求める。
<数6>
Σ((gth(X,Y,E)−gexp(X,Y,E))2)1/2
但し、f(x,y,E)を導出する方法は、必ずしも上記例に限定されるものではない。例えばコンピュータを使用した数値解析によりデコンボリューション(deconvolution)を行い、測定されたgexp(X,Y,E)に基づいて数式1の積分方程式を解いてf(x,y,E)を直接求めても良い。
ここで、エネルギー分別手段を用いない場合、点(X,Y)で検出される粒子数は、全てのエネルギーの粒子を含み、g(X,Y,Eall)と表される。Eallは全てのエネルギーの粒子を含むことを意味している。測定されたg(X,Y,Eall)から上記原理に基づいてf(x,y,Eall)を求めることができる。
一方、エネルギー分別手段として、例えばエネルギーEc以下の低エネルギー粒子を透過させないエネルギーフィルタ6を用いる場合、点(X,Y)で検出される粒子数は、g(X,Y,E>Ec)と表される。測定されたg(X,Y,E>Ec)から上記原理に基づいてf(x,y,E>Ec)を求めることができる。
さらに、あるエネルギー幅の範囲でg(X,Y,E)を得るには、複数種のエネルギーフィルターを用いて測定されたg(X,Y,E)の差分を取ることで可能である。例えばエネルギーE1以下の粒子を透過させないエネルギーフィルタ6を用いてg(X,Y,E>E1)を測定する。また、エネルギーE2以下の粒子を透過させないエネルギーフィルタ6を用いてg(X,Y,E>E2)を測定する。但し、E1<E2とする。g(X,Y,E>E1)からg(X,Y,E>E2)を差し引くと、g(X,Y,E1<E<E2)を得ることができる。得られたg(X,Y,E1<E<E2)から上記原理に基づいてf(x,y,E1<E<E2)を求めることができる。
次に、測定対象の粒子をイオンとし、偏向器としてトムソン質量分析器7を用いて粒子を偏向させる場合について図6〜図9を用いて説明する。トムソン質量分析器7は、イオンが電場と磁場により偏向する性質を利用して、イオンの種類とエネルギーを計測するもので、イオンビーム9の軌道と垂直に電界と磁界を同一方向にかけ、イオンの種類、イオンエネルギーに応じてイオンを偏向させる。図6中の符号10が上記磁界を発生させる磁石を示し、符号11が上記電界を発生させる電極を示す。電荷eと質量mの比e/m、すなわち比電荷が同じイオンの飛跡は、検出面2a上で同一の放物曲線を描く。従って、比電荷が異なれば検出面2a上の放物曲線も異なり、比電荷の異なるイオンが分離される。理論放物曲線(トムソンパラボラ)は下記式で与えられる。
<数7>
Y=((K・mi・U)/(Zi・B2))・X2
ただし、Kは、図6に示す偏向長lおよび電極間のギャップ長dおよび電界および磁界の中心から検出面2aまでの距離Dで決まる幾何学的係数である。また、miはイオン質量、Ziはイオン価数、Uは電極間電圧、Bは磁場の強さである。
トムソン質量分析器7による粒子の転送先の座標は、粒子が有するエネルギーEによって決まる。例えば(X,Y)=(0,0)に到達すべきであった粒子は、トムソン質量分析器7によりX=kXE−1/2,Y=kY/Eに転送される。kX,kYはトムソン質量分析器7の条件によって決まる定数である。トムソン質量分析器7では、エネルギーEの高いイオンほど電場および磁場に偏向され難く、原点の近くに到達し、エネルギーの低いイオンほど原点から離れた点に到達する。点(kX・E−1/2,kY/E)を(XE,YE)とする。従って、(X,Y)=(0,0)を中心として分布するはずであったエネルギーEの粒子は、トムソン質量分析器7により、(X,Y)=(kX・E−1/2,kY/E)=(XE,YE)を中心とする分布に転送される。例えば(X1,Y1)にあったエネルギーEの粒子は、(X1+XE,Y1+YE)に転送される。測定対象のエネルギーEにより定まる点(XE,YE)=(kX・E−1/2,kY/E)を原点として直交座標(X’,Y’)をとる。
図7の符号30は、あるエネルギーEoを有する粒子密度分布g(X,Y,Eo)がトムソン質量分析器7により(XEo,YEo)を中心とする分布g(X’,Y’,Eo)に転送された様子を示す。一方、符号31はg(X,Y,Eo+dE)が(XEo+dE,YEo+dE)を中心とする分布に転送された様子を示し、符号32はg(X,Y,Eo+2dE)が(XEo+2dE,YEo+2dE)を中心とする分布に転送された様子を示し、符号33はg(X,Y,Eo−dE)が(XEo−dE,YEo−dE)を中心とする分布に転送された様子を示し、符号34はg(X,Y,Eo−2dE)が(XEo−2dE,YEo−2dE)を中心とする分布に転送された様子を示す。同図7に示すように、g(X’,Y’,Eo)に対して、エネルギー差が微小な粒子密度分布g(X’,Y’,Eo±ΔE)が重なる。検出面2a上の位置(X’、Y’)において実際に検出される粒子密度分布をg’(X’,Y’,E)とすると、このg’(X’,Y’,E)にはエネルギーEo±ΔEの粒子の影響も含まれている。
測定対象のエネルギーEoに基づいて、X=XEo=kXEo −1/2となる位置にX’=0をとり、X’=0に固定して測定されるg’(Y’,Eo)は、次式で表される。
<数8>
g’(Y’,Eo)=g(0,Y’−YEo,Eo)
+g(XEo−XEo+dE,Y’−YEo−YEo+dE,Eo+dE)
+g(XEo−XEo−dE,Y’−YEo−YEo−dE,Eo−dE)
+g(XEo−XEo+2dE,Y’−YEo−YEo+2dE,Eo+2dE)
+g(XEo−XEo−2dE,Y’−YEo−YEo−2dE,Eo−2dE)
・・・
エネルギーEo±ΔEの粒子からの影響を単純化するため、例えば本実施形態では、kYを小さく、kXを大きくする。kYを小さくするには、例えばトムソン質量分析器7に加える電圧を小さくすることで対応できる。kXを大きくするには、例えばトムソン質量分析器7に加える磁場を大きくすることで対応できる。
kYが充分に小さい場合、Y方向への粒子偏向は殆んど行われないため、YE≒0,Y’≒Yとなり、エネルギーEo±ΔEの粒子からの影響は、図8に示すように、X方向の重なりのみを考慮すれば良い。さらに、kXが充分に大きい場合、エネルギー分別が充分に行われているとみなすことができ、g(X,Y,E)のエネルギー依存性も緩やかとなって、g(X,Y,Eo)≒g(X,Y,Eo±ΔE)の近似が成り立つ。すると、図9に示すように、g(X,Y,Eo)がX方向に微小範囲ずつずれながら重なり合って並んでいると見なすことができ、数式8は次式で近似できる。
<数9>
g’(Y’,Eo)≒g(0,Y’,Eo)
+g(XEo−XEo+dE,Y’,Eo)
+g(XEo−XEo−dE,Y’,Eo)
+g(XEo−XEo+2dE,Y’,Eo)
+g(XEo−XEo−2dE,Y’,Eo) ・・・
≒g(0,Y’,Eo)dX
+g(±dX,Y’,Eo)dX
+g(±2dX,Y’,Eo)dX ・・・
つまり、g’(Y’,Eo)は、次式に示すように、g(X,Y’,Eo)をX方向に積分したものに相当する。但し、数式10中の積分範囲−ΔX,ΔXは、g(X,Y’,E)>0となるXの範囲である。
尚、測定しようとするエネルギーEのX方向の幅、即ちXEの間隔は通常数mm〜数cm程度のオーダであるのに対して、各測定対象のエネルギーEについてのg(X,Y’,E)>0となるXの範囲±ΔXは、200μm程度のオーダであり、−ΔX=−∞,ΔX=∞として良い。数式10により求められるg’(Y’,E)は、検出面上の点(X’,Y’)≒(XE,Y)における粒子の線密度を表す。
測定しようとするイオンの理論放物曲線に合致する或いは略一致する検出面2a上の軌跡に対し、測定しようとするエネルギーEに対応するX’=0の位置を定め、当該定めたX’=0の位置における各Y’の粒子数を求めることで、g’(Y’,E)の実測値を得ることができる。g’(Y’,E)の実測値をg’exp(Y’,E)と表記する。
例えば本実施形態では、g’exp(Y’,E)に基づいて、f(x,y,E)を次のように求める。即ち、関数f(x,y,E)を予め仮定し、当該仮定したf(x,y,E)を数式1に代入してg(X,Y,E)を求め、さらに当該求めたg(X,Y,E)を数式10に代入してg’(Y’,E)の理論値を算出する。g’(Y’,E)の理論値をg’th(Y’,E)と表記する。そして、g’th(Y’,E)がg’exp(Y’,E)に最もフィットするように、仮定した関数f(x,y,E)を修正する。
具体的には、例えばf(x,y,E)として、数式5で表される2次元のガウス分布を仮定する。そして、数式1,数式10,数式5を用いてg’th(Y’,E)を求めるとともに、g’exp(Y’,E)を測定し、次式が最小となるように、数式5中の係数a(E),b(E)を決定する。これにより、f(x,y,E)を求める。
<数11>
Σ((g’th(Y’,E)−g’exp(Y’,E))2)1/2
但し、f(x,y,E)を導出する方法は、必ずしも上記例に限定されるものではない。例えばコンピュータを使用した数値解析によりデコンボリューション(deconvolution)を行い、測定されたg’exp(Y’,E)に基づいて数式10の積分方程式を解いてg(X,Y,E)を求め、さらに当該求めたg(X,Y,E)に基づいて数式1の積分方程式を解いてf(x,y,E)を求めても良い。
ここで、ターゲット1から複数種のイオンが発生する場合、kYを小さくしてY方向への粒子偏向を小さくするにあたり、検出面2a上で異種のイオン軌跡が重なってしまうと、測定対象のイオンのg'(Y',E)に他種のイオンの影響が含まれてしまう。これを回避するために、ピンホール3をできるだけ小さくすることが好ましい。ピンホール3を小さくすることで、検出面2a上の各イオンの軌跡が細くなり、他のイオン軌跡と重ならないようにできる。また、トムソン質量分析器7から検出面2aまでの距離Dを長くすることが好ましい。距離Dを長くすることで、検出面2a上でのイオン軌跡が拡大され、各イオン間の軌跡の違いを明確にできる。これにより、kYを小さくしつつイオン分離を良好に行える。
尚、上記の例では、Eo±ΔEの影響を単純化するために、kYを小さく、kXを大きくしたが、逆に、kXを小さくし、kYを大きくしても良い。この場合は、Eo±ΔEの影響は、Y方向の重なりのみを考慮すれば良くなり、数式10の代わりに次式を用い、g'(X’,E)を測定し、上記と同様にf(x,y,E)を求める。−ΔY,ΔYは、g(X’,Y,E)>0となるYの範囲である。
次に、測定対象の粒子を電子とし、偏向器として電子スペクトロメータ8を用いて粒子を偏向させる場合について図20および図21を用いて説明する。電子スペクトロメータ8では、磁石13により電子ビーム21の軌道と垂直に磁場を発生させる。ピンホール3を通過した電子は磁石13によりエネルギーに応じた曲率半径で曲げられて、例えば検出面2aとしてのイメージングプレートに入射する。エネルギーEの高い電子ほど大きいカーブを描いて検出面2aに入射する。検出面2a上に2次元の直交座標(X,Y),(X’,Y’)をとり、電子の軌道および磁場の向きに直交する方向にX軸,X’軸をとる。この場合、測定しようとするエネルギーEの値に対応してX=XEすなわちX’=0の位置が定まる。イメージングプレートのY’方向の信号強度分布が先に述べたトムソン質量分析器7のイオン強度分布g’(Y’,E)に対応する。電子スペクトロメータ8ではY’方向への粒子偏向は行われないため、数式10をそのまま利用できる。即ち、測定しようとするエネルギーEの値に対応して定まるX’=0の位置における各Y’の粒子数を求めることで、g’(Y’,E)の実測値を得ることができる。得られたg’(Y’,E)に基づいて、トムソン質量分析器7の場合と同様にf(x,y,E)を求めることができる。尚、測定対象の粒子が陽電子の場合は、曲げられる方向が電子と逆向きになるだけなので、例えば磁場の向きを逆転させることにより、測定可能である。尚、図21中の矢印Bは、測定対象の粒子が電子の場合の磁場の向きを示している。
以上に説明した粒子分布の評価方法は、例えば図1や図20に示すように、粒子分布評価装置として装置化することが可能である。この粒子分布評価装置は、粒子源1より粒子を発生させる粒子発生手段14と、粒子が入射する検出面2aを有し当該検出面2a上において粒子が入射した位置と当該位置に入射した粒子数を測定する検出手段2と、粒子の通過を遮る遮蔽材にピンホール3が形成されて成り粒子源1と検出手段2との間に配置されるピンホール部4と、粒子源1の粒子発生領域を構成する各点源から粒子が拡散する条件と、点源から出発した粒子がピンホール3を通過して検出面2aに到達する条件とに基づいて、検出手段2の測定結果から、粒子源1における点源から拡散した粒子数を算出する図示しない演算手段とを備えている。当該演算手段には、例えば既存のコンピュータシステムを利用して良い。図1はトムソン質量分析器7を備えた例を示し、図20は電子スペクトロメータ8を備えた例を示す。
粒子発生手段14は、ターゲット1と、瞬間的な照射でターゲット1の電離が可能なエネルギーのレーザ光線5aをターゲット1に瞬間的に照射して高エネルギー粒子を発生させるレーザ光線照射手段5を備えている。例えば本実施形態では、反射ミラー15,16によりレーザ光線5aを放物面ミラー17に導き、放物面ミラー17によりレーザ光線5aをターゲット1に集光させるようにしている。
ここで、粒子源としてのターゲット1およびピンホール部4および検出手段2は、真空中に配置することが好ましい。真空でない場合、粒子の平均自由行程が短くなり、散乱の影響などにより粒子分布評価の精度が下がるおそれがあるからである。このため本実施形態では、ターゲット1およびピンホール部4および検出手段2を真空容器18の中に収容するようにしている。尚、図1および図20中の符号20はターゲット1を保持する支持台である。
レーザ光線照射手段5は、例えばピークパワーが1テラW以上のレーザ光線5aを照射でき、レーザ光線5aは短パルスのもの、例えばパルス幅が1ピコ秒以下のものが好ましい。パルス幅が長くなると、レーザ光線5aの瞬間的な照射時間が長くなることからレーザ光線5aによって電離された原子核の拡散が照射終了前に始まり、電荷分離領域の形成が不十分になって原子核を十分に加速するのが困難になるからである。また、同じエネルギーでもパルス幅を短くすることでピークパワーを高くすることができてレーザ光線5aによる電界を大きくすることができ、より電荷分離領域の正負の差を大きくして加速に適したものにすることができるからである。そのようなレーザ光線照射手段5として、例えば10TWの出力のハイブリッドチタン:サファイヤ/Nd:燐酸塩ガラスCPAレーザ装置を利用できる。
レーザ光線5aをターゲット1に瞬間的に照射すると、レーザ光線5aの非常に高い電界や光圧力、レーザパルスにより誘起されたプラズマ波により生じた進行電界などにより、極微少な照射領域から電子が追い出され加速される。レーザによる電界はターゲット面の垂直方向に急激に減衰するので、追い出された電子はターゲット面に垂直な方向に加速される。一方、発生した高エネルギー電子がターゲット1中で減速等されると、高エネルギー電子が進んでいた方向に向けて制動放射によるX線が発生する。なお、制動放射を起こさせるためにターゲット1とは別の部材を設けても良い。また、ターゲット1のレーザ照射領域において、電子が追い出されて電離された原子核(正イオン)は電子に比べて質量が大きいため、レーザ光線5aの照射後しばらくの間はほとんど動かない。このため、極微少な照射領域が正イオンの高密度領域となり、その静電気力で正イオンは爆発的に加速され、高エネルギーの正イオンが発生する。さらに、上述のようにして発生させた正イオン,電子,X線がターゲット1中で他の原子核に核反応を起こさせたり、他の物質との間で相互作用を起こすことで、高エネルギーの中性子、電子と陽電子、同位体、γ線、α粒子等を発生させることができる。つまり、ターゲット1の材料の選択やレーザ光線5aの照射条件等によって様々な種類の高エネルギー粒子を発生させることができる。
トムソン質量分析器7を図1および図6に示すようにピンホール部4と検出面2aの間に設置し、実施例1と同条件で、イオンビーム9の発生およびピンホール3を介してのイオン検出を行い、発生したイオンのエネルギースペクトルを測定した。尚、偏向長l=45mm,電極間のギャップ長d=3mm,電界および磁界の中心から検出面2aまでの距離D=100mmとし、電極間電圧U=1.0kV、磁場の強さB=5.1kGaussとし、3.3×105V/mの電場と5.1kGaussの磁場を平行に印加した。CR39はレーザーショット終了後、6.25N,70℃ の水酸化ナトリウム溶液に6時間漬けてエッチングし、CCDカメラと顕微鏡を用いてエッチピットを観察した。また、各スペクトルを得るためのレーザーショット数は50とした。
エッチング後のCR39の画像を図15(a)に示す。図15(a)中のエッチピット軌跡である黒線は、プロトンの理論放物曲線にほぼ一致し、本実施例のターゲット1及びレーザ照射の条件の下で主に発生したイオンはプロトンであることが分かる。尚、図15(a)中の符号0は原点(X,Y)=(0,0)を示す。
図15(b)は、図15(a)におけるエッチピット軌跡のE=400keV(キロ電子ボルト)に該当するX’の近傍を光学顕微鏡で拡大し、640×488ピクセルの画像としたものである。図15(b)中の黒点1つ1つがプロトンのエッチピットを表している。図15(b)のY’方向の粒子数を求めることで、g’exp(Y’,E)の実測値を得ることができる。
本実施例では、図15(b)に示す640×488ピクセルの画像を、X’方向に600μmの幅を持ち、Y’方向に8ピクセル(11.1μm)ごとに区切られた61個のボックスに分割し、各ボックスの中のピット総数をカウントして、g’exp(Y’,E)を得た。尚、ボックス幅を小さくすることでエネルギー分解能を上げることができるが、ボックス幅が小さすぎるとカウント数が少なくなり統計量として適当なカウント数が得られなくなる場合があるので、適宜調整することが好ましい。各ボックスの中のピット総数は、レーザーショット数50の平均値をとり、単位長さあたり(μm−1)およびdX’=(1/2)・kX・E−3/2dEの関係から単位エネルギーあたり(keV−1)の個数に平均化した。このようにして得られたg’exp(Y’,E)をプロットした結果を図16に示す。図16中の▲がE=400keVを示し、×がE=780eVを示し、●がE=1100keVを示す。
また、f(x,y,E)として、数式5で表される2次元のガウス分布を仮定し、数式1,数式10,数式5を用いてg’th(Y’,E)を求めるとともに、数式11が最小となるように、数式5中の係数a(E),b(E)を決定した。図16中に示す曲線がg’exp(Y’,E)にフィッティングされたg’th(Y’,E)を示し、図17中に示す曲線が導出されたf(x,y,E)を示す。計算結果は実験結果をよく再現していることが分かる。
尚、本実施例の条件の下で主に発生するイオンはプロトンであり、コーン角度θcは、プロトンのコーン角度θc≒20°を用いた。(l1+l2)tanθc≒30cm × 0.36 =10.8cmであり、数式3の条件は常に満たされているとみなすことができる。
また、図18の●で示すプロットは、求められた数式5中の係数a(E)とプロトンエネルギーEの関係を表し、■で示すプロットは、ターゲット1上で発生したエネルギーEを有するプロトンの総数NとプロトンエネルギーEの関係を表す。数式5中の係数a(E)は、ターゲット1の原点でのプロトン密度を表す。図18から、プロトン総数N、原点でのプロトン密度aともに、エネルギーEが小さいほど値が大きくなっているが、プロトン総数Nの方がエネルギーEの減少に対する値の増分が大きいことが分かる。
また、図19の●で示すプロットは、求められた数式5中の係数b(E)とプロトンエネルギーの関係を表し、■で示すプロットは、プロトン密度が1μm2あたり1個以上の領域を示す半径rcとプロトンエネルギーの関係を表す。数式5中の係数b(E)は、f(x,y,E)の指数減衰値を表す。図19からプロトンの生成領域を示す指数減衰値はプロトンエネルギーに依存し、E=400keVで110μm程度、E=1.1MeVで60μm程度であり、低いエネルギーのプロトンほど加速される領域が広範囲にわたっていることがわかる。また、この指数減衰値は、レーザビームの指数減衰値(6μm)に比べ大きな値であり、レーザ照射からイオン加速が行われる間に加速領域が10倍以上に広がったことを示している。
次に、本発明のレーザープロファイルの測定方法について説明する。上記のように本発明の粒子分布の評価方法によれば、ターゲット1上での発生粒子の密度分布を求めることができるが、ターゲット1上での発生粒子の密度とレーザー強度閾値との相関が既知であれば、求められたターゲット1上での発生粒子の密度分布から、ターゲット1に照射したレーザ光線5aの集光強度分布すなわちレーザープロファイルを導き出すことも可能である。例えばレーザー強度閾値と発生粒子のエネルギーとの関係を実験等により予め調べておくことで、本発明の粒子分布の評価方法により求められたターゲット1上での発生粒子のエネルギー別の密度分布から、ターゲット1に照射したレーザ光線5aの集光強度分布を求めることが可能である。測定されたターゲット1上での発生粒子のエネルギー別の密度分布と、レーザー強度閾値と発生粒子のエネルギーとの既知の相関とに基づいて、ターゲット1に照射したレーザ光線5aの集光強度分布を求める計算は、例えば既存のコンピュータシステムを利用でき、この場合、レーザープロファイルの測定装置を構成できる。
次に、本発明の粒子採取方法および装置について説明する。本発明の粒子分布の評価方法により、ターゲット1上の粒子分布が明らかになれば、必要とするエネルギー粒子が発生するターゲット1上の箇所を露出させ、他の粒子発生領域を覆うマスキング材19をターゲット1の粒子発生面1bに取り付けることで、必要とするエネルギー粒子を効率よく取り出すことが可能となる。例えば図18及び図19から、実施例3の条件においてターゲット1より発生するプロトンは、低いエネルギーのプロトンほど発生する領域が広範囲であることが分かる。このため、高いエネルギーのプロトンを効率よく取り出すには、例えば図22に示すように、粒子発生領域の中心近傍を露出させるマスキング材19を用いれば良い。逆に、低いエネルギーのプロトンを効率よく取り出すには、例えば図23に示すように、粒子発生領域の中心から離れた箇所を露出させるマスキング材19を用いれば良い。マスキング材19は粒子が通過できない材質とする。粒子のエネルギーが高いほど透過できる遮蔽材の厚みが大きくなるため、マスキング材19の厚みを単純に厚くすることで遮断性を向上できる。勿論、マスキング材19の厚みを大きくすることなく粒子を遮断できる高密度の材料、例えばタンタル、タングステン、鉛などを用いてマスキング材19を作製しても良い。
なお、上述の実施形態は本発明の好適な実施の一例ではあるがこれに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。例えば粒子源1は、レーザ光線5aが照射されることにより高エネルギー粒子を発生させるターゲットであるものには限定されない。例えば加速器で加速された電子が照射されることによりイオンを発生させるターゲットを粒子源1としても良い。
また、上述の実施形態では、計算条件および説明の簡単のために、ターゲット1のレーザ照射面1aと粒子発生面1bおよび検出手段2の検出面2aは平面且つ平行とし、ターゲット1上におけるレーザ照射領域の中心とx−y平面の原点とピンホール3の中心とX−Y平面の原点とがx−y平面に垂直な一直線上に並んでいるものとし、ピンホール3は円形としたが、必ずしもこれらの例には限られない。これらの形状や位置関係が既知であるか或いは一定のものに仮定できれば、解析の際に当該形状や位置関係を考慮して数式1等を修正すればよい。
また、上述の実施形態では、ターゲット1を固体としたが、場合によってはガス状又はクラスター状の物体をターゲット1としても良い。ガス状のターゲット1に高エネルギーのレーザ光線5aを照射すると、プラズマ波によって荷電粒子を加速するので、より高エネルギーの荷電粒子を発生させることができ、さらには、制動放射によってより高エネルギーの電磁波を発生させることができる。一方、クラスター状のターゲット1に高エネルギーのレーザ光線5aを照射すると、レーザ光線5aの吸収効率が高まり、より多くの高エネルギー粒子を発生させることができる。尚、気体のターゲット1を使用する場合には、レーザ光線5aの照射によってガスが発生して真空が劣化するため、ポンプ等の真空排気装置を設置することが好ましい。クラスター状のターゲット1を用いる場合には、ターゲット1となる気体を冷却して真空中に高速で噴射させる。この気体は断熱膨張による冷却で凝集が進み、原子や分子の集合体であるクラスターとなる。この凝集は非常に短時間で進むため、気体の噴出口の近くにレーザ光線5aを照射する。これにより、クラスター状のターゲット1にレーザ光線5aを照射することができる。