JP2005190700A - 透明導電膜付き基板とその製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】透明性に優れ、薄い膜厚で低抵抗であり、抵抗値の膜面偏差が少なく、かつ耐熱性に優れる透明導電膜付き基板とその製造方法の提供。
【解決手段】基板上に、膜厚が5〜20nmの酸化スズ膜、および前記酸化スズ膜の基板側に下層膜を有する透明導電膜付き基板であって、前記酸化スズ膜において、下層膜との界面から1nmまでの距離の酸化スズ膜中の塩素イオン濃度の最大値が、酸化スズ膜全体の中の塩素イオン濃度の最大値以下であることを特徴とする透明導電膜付き基板。
【選択図】図2


Description

本発明はアナログ式タッチパネル(特に抵抗膜式アナログ式タッチパネル)の電極として好適な透明導電膜付き基板とその製造方法に関する。
従来、ガラスなどの透明絶縁基板に透明導電膜を成膜した透明導電膜付き基板は、液晶ディスプレィ、プラズマディスプレィ、タッチパネル、太陽電池などの電極として用いられている。これら透明導電膜つき基板をタッチパネルとして用いる場合は、その要求特性から、機械的強度、化学的耐久性、透明性、抵抗値の面内偏差が小さいこと等が望まれる。また、これらの基板をタッチパネルに加工するプロセス中での扱いやすさの点から、高温高湿の雰囲気下での処理によっても膜の抵抗値が変化しないことが望まれる。
タッチパネル用の電極に好適な透明導電膜材料は酸化スズである(例えば、特許文献1参照。)。特にフッ素を添加した酸化スズは、導電性、安定性の点で好適である。酸化スズ膜の製造方法は常圧CVD法である場合が多い。この方法は、常圧CVD装置を用いて、基板を200℃以上の高温に加熱した後、錫原料、フッ素原料などの膜形成成分を気化させ、窒素などの不活性ガスのキャリアガスに混合し基板上に吹き付け、基板上で化学反応させ酸化スズからなる透明導電膜を成膜する方法である。
タッチパネルの透過率は高いことが視認性の点で好ましい。このため透明導電膜の膜厚は20nm以下に限定されることが多い。例えば1.1mmソーダライムガラス基板上に60nmの酸化ケイ素膜と18nmの酸化スズ膜を順次積層した基板の可視光域の透過率のピーク値は89%であるが、酸化スズ膜厚を12nmとした場合は91.6%に増大する。しかし、透明導電膜の抵抗値も膜厚の低下に伴い増大する。タッチパネルとして妥当なシート抵抗値は例えば1000Ω/□程度以下であり、この抵抗値を実現すべく膜厚を調整する必要がある。しかし、膜厚の低下に伴い、透明性は向上するが、シート抵抗値は上昇するという問題があった。そのため、高透過率でかつ低抵抗という目的を両立させた透明導電膜を作成することは困難であった。
また、透明導電膜の膜厚を減少させることにより、シート抵抗値の規格の上限(例えば1500Ω/□)近くで生産した場合は、歩留まりが低下するという問題があった。また、膜厚が小さい領域では、わずかな膜厚変動に対しても抵抗値が敏感に増減するため、基板内に抵抗値のバラツキが発生しやすいという問題があった。さらには、抵抗値の雰囲気安定性(耐熱性)が劣る膜となりやすく、100℃以上の高温雰囲気中、または50℃以上で相対湿度90%以上の高温高湿の雰囲気中に酸化スズ膜を放置した場合、抵抗値が著しく上昇する問題があった。
上記問題点を解消するために、成膜温度をより高温とすることが通常行われている。これは酸化錫の比抵抗が成膜温度の上昇に伴い低下する傾向があり、この現象を利用した方法である。しかし、基板温度を560℃以上とした場合は成膜後のガラス基板に反りが発生するおそれがある。またガラス基板とガラス基板搬送用の無端ベルトとの接触点には温度と荷重が集中するため、ガラス基板の軟化によりガラス欠点が発生するおそれがある。
また、ガラス基板として化学強化ガラス基板を用いた場合は、通常のソーダライムガラスに比較して高抵抗となり易い傾向があるため、高透過で低抵抗な基板を得ることがより困難である場合が多い。また、化学強化ガラス基板の強度は再加熱により低下するため、520℃程度が成膜温度の限界となることが多く、成膜温度を上げにくい問題があった。
特開2003−183049号公報 Surface and Coatings Technology 169−170(2003)、p549−552
本発明は、透明性に優れ、薄い膜厚で低抵抗であり、抵抗値の膜面偏差が少なく、かつ耐熱性に優れる透明導電膜付き基板とその製造方法を提供する。
本発明は、(1)および(2)を提供する。
(1)基板上に、膜厚が5〜20nmの酸化スズ膜、および前記酸化スズ膜の基板側に下層膜を有する透明導電膜付き基板であって、前記酸化スズ膜において、下層膜との界面から1nmまでの距離の酸化スズ膜中の塩素イオン濃度の最大値が、酸化スズ膜全体の中の塩素イオン濃度の最大値以下であることを特徴とする透明導電膜付き基板。
(2)基板上に、下層膜を形成し、前記下層膜上にCVD法により酸化スズ膜の形成成分を吹き付けることにより膜厚が5〜20nmの酸化スズ膜を形成する透明導電膜付き基板の製造方法であって、前記酸化スズ膜の形成成分中にスズ化合物および炭素数が2〜4のアルコールを含むことを特徴とする透明導電膜付き基板の製造方法。
本発明の透明導電膜付き基板は、透明性に優れ、低膜厚で低抵抗であり、抵抗値の膜面偏差が少なく、かつ耐熱性に優れるため、タッチパネル用の透明導電膜として有用である。また、本発明の製造方法によれば、低温処理が可能であるため、基板の強度を下げることなく透明導電膜の抵抗値を下げることができ、特に基板として化学強化ガラス基板を用いた場合に有用である。
本発明者らは、基板上に、膜厚が5〜20nmの酸化スズ膜、および前記酸化スズ膜の基板側に下層膜を有する透明導電膜付き基板であって、前記酸化スズ膜において、下層膜との界面から1nmまでの距離の酸化スズ膜中の塩素イオン濃度の最大値が、酸化スズ膜全体の中の塩素イオン濃度の最大値以下とすることにより、透明性に優れ、低抵抗であり、抵抗値の膜面偏差が少なく均一性に優れ、かつ耐熱性に優れた透明導電膜を形成できることを見出した。また、基板として、化学強化ガラス基板を用いた場合であっても、通常のソーダライムガラス基板と同様の上述したような効果を発揮できることを見出した。
本発明における酸化スズ膜はCVD法により成膜されるが、CVD法で成膜された膜厚が20nm以下の酸化スズ膜は、膜厚と同等サイズの結晶粒から構成されている。それぞれの結晶粒は縮退したn型半導体の電子構造を有している。このような結晶性の膜全体の導電性は、結晶粒そのものの導電性および結晶粒同士の接触状態に影響を受ける。結晶粒界に発生する電位的な障壁は結晶粒間の電子移動を制限する。すなわち、粒界での結晶粒同士の接触が少ない場合は電子移動のパスが制限されて高抵抗化しやすく、逆に結晶粒が高密度に成長している場合が接触面積が増大し粒界での電子移動が容易となり抵抗の増大は起こりにくい。
結晶粒同士の接触状態は、膜厚および膜成長初期に形成される結晶粒の発生密度に大きく影響される。膜厚が増大するに従い結晶粒径も増大するため、ある膜厚以上では結晶粒同士の接触が十分確保される。このような膜厚範囲では膜の導電性は結晶粒そのものの電子的な性質に影響をうけやすくなる。
しかるに膜厚が薄い領域では、十分な導電性を要求される用途では結晶粒の発生密度をコントロールすることが重要となる。膜成長の初期段階では不連続な島状の成長点が基板面内に発生する。この成長点が高密度で発生する場合は初期の数nmの膜成長のあいだに結晶粒同士が接触した状態となる。これにより20nm程度の膜厚でも低抵抗な導電膜を実現しうる構造を形成できる。逆に成長点の発生密度が低い場合は結晶粒同士の接触が確保される膜厚が増大するため薄い膜厚で低抵抗の導電膜を得るには不利となる。本発明者らは原料に添加するアルコールの種類によって膜中に残留する塩素イオンの濃度をコントロールすることができ、好適な酸化スズ透明導電膜を成膜できることを見出した。
スズ原料の加水分解反応により酸化スズが生成する際に、副生成物として脱離する塩素イオンは下層膜である酸化ケイ素表面に吸着しやすい。これにより酸化ケイ素表面への新たな水吸着が阻害され酸化スズ成長核の密度が増大しにくい状態になるものと推測できる。塩素イオンがアルコールと反応することにより塩化アルキルを生成し、酸化ケイ素表面から脱離することでエネルギー的に新たに酸化スズ成長核が生成しやすい表面となる。これにより成長点の密度が増大し初期の数nmの膜成長のあいだに結晶粒同士が接触した状態となるものと解釈できる。
なお、アルコールと塩素イオンの反応により塩化アルキルが生成する反応においては、反応のしやすさがアルコールの種類に依存する。アルコールをC2n+1OHと略すと、nが1、2、3、4の順番で生成に必要なエネルギーが減少する。従来から一般的に使用されてきたメタノール(n=1)と比較して、エタノール(n=2)、プロピルアルコール(n=3)、t−ブチルアルコール(n=4)の順番で反応が容易になることを意味する。
酸化スズ膜は一般的に酸素の脱吸着に敏感である性質を有している。膜厚の低下とともに導電性の安定に対する界面へのガス吸着の導電性への影響が大きくなりやすい。ここで界面とは酸化スズ膜と表面空気層との界面および酸化スズ結晶粒同士の界面のことを意味する。これらの界面には大気中から酸素もしくは水分などが拡散しやすい。拡散した吸着種は表面に化学吸着し膜中に滞在する。これらの吸着種は自由電子を捕獲する作用を持つため界面は自由電子が欠乏した層が発生し結果として抵抗値の増大を招く。特に20nm以下の膜厚では、膜構造が初期成長の影響を残した状態にあるため、抵抗値を決めるファクターとして界面の影響が著しい。よってこのような薄い膜厚でも十分に結晶粒が接触した構造であれば吸着ガスの影響が低下し、使用雰囲気の温度や湿度にかかわらず抵抗値が安定な導電膜を実現することが期待できる。逆に結晶粒の接触が不十分な構造であれば抵抗値が不安定になりやすい。
本発明に用いられる基板としては、光学的、耐熱性、平面性、絶縁性やコストの関係から透明絶縁基板であることが好ましく、ソーダライムガラス基板、ホウケイ酸ガラス基板等のガラス基板が例示される。前記ガラス基板としては、強度の点からは化学強化ガラス基板が好ましい。成膜温度で熱変形の問題が無く、平面性に優れ、製造コストが低いという点で、ソーダライムガラス基板が好ましい。該基板の厚さは、特に限定されないが0.5〜4mmであることが強度の点で好ましい。
酸化スズ膜は、耐熱性の点から、フッ素をドープした酸化スズ膜やアンチモンをドープした酸化スズ膜などが好ましい。
酸化スズ膜をアナログ式タッチパネルに使用する場合は、酸化スズ膜の成膜前に、ゾルゲル法により酸化ケイ素などの絶縁性保護膜(例えば、ソーダライムガラス基板から酸化スズ膜に向かってアルカリ成分が拡散することを防止する膜)を形成することが多い。この場合、絶縁性保護膜を形成後、300℃程度の高温で焼結させるプロセスが必要となる場合が多い。この高温焼結のプロセスが必要である場合、酸化スズ膜中のフッ素およびアンチモンの含有量の合計はスズ原子に対して0.1〜1.5原子%、特に0.1〜1原子%であるのが耐熱性および絶縁性の点で好ましい。フッ素およびアンチモンの含有量の合計が1〜1.5原子%であると、ソーダライムガラス基板から透明導電膜に拡散するアルカリ(特に、ナトリウム。)に膜中の自由電子がトラップされるため、シート抵抗値が上昇することがあるが、アナログ式タッチパネル用には支障がない範囲である。
本発明においては、酸化スズ膜において、下層膜との界面から1nmまでの距離の酸化スズ膜中の塩素イオン濃度の最大値(以下、1nm中Cl最大値という。)が、酸化スズ全体の膜中の塩素イオン濃度の最大値(以下、全体中Cl最大値という。)である。ここで塩素イオン濃度のピーク値とは塩素の含有量を質量%で表した値である。1nm中Cl最大値が全体中Cl最大値を超えると、膜厚の低下に伴ってシート抵抗値が著しく増大し、かつ抵抗値の膜面偏差も増大する。また、酸化スズ膜の膜厚が5〜20nmという低膜厚である場合、シート抵抗値が3000Ω/□以上の高抵抗となることもある。基板として化学強化ガラス基板を用いた場合は、成膜温度が低くても低抵抗でかつ透明性が得られるため、本発明の効果がより顕著である。なお、全体中Cl最大値は0.01〜0.3質量%であることが導電性の点で好ましく、1nm中Cl最大値は0.005〜0.25質量%であることが導電性の点で好ましい。
酸化スズ膜の膜厚は、5〜20nmである。5nm未満であると高抵抗となり、20nm超であると透過率の低下が著しく、特にタッチパネル用途では暗く操作しにくい。なお、本発明のように膜厚が薄い場合は、下層膜の表面の凹凸が膜厚とほぼ同等のレベルとなるため、正確な幾何学的膜厚を測定することが困難となる。よって、本明細書においては、分光透過率スペクトルのシミュレーションから光学膜厚を推定し、測定した可視光域の透過率がシミュレーションの透過率と同等である場合に、シミュレーションで推定した膜厚を実際の膜厚としている。
酸化スズ膜の基板側に下層膜を有する。下層膜としては酸化ケイ素膜であることがアルカリ(特にナトリウム)拡散防止の点で好ましい。下層膜の膜厚は20〜100nm、特に20〜60nmであることが好ましい。20nm未満であるとアルカリが酸化スズ膜に拡散してくるのを十分阻止できず、100nm超であると酸化ケイ素膜による光学干渉が発生し、可視光透過率が低下する。下層膜の形成方法は特に限定されず、CVD法、スプレー法、ディップ法等が挙げられる。下層膜は、基板の片面にも両面にも形成可能である。なお、下層膜は1層であっても、複数の層であってもよい。
透明導電膜付き基板の可視光域の透過率の最大値は89%以上、特に90%以上であることが好ましく、さらにはガラスの吸収分1%のみを損失とする99%の場合が好ましい。なお、可視光域の透過率の最大値とは、400〜800nmの波長領域における最大の透過率を意味する。
透明導電膜のシート抵抗値は、200〜3000Ω/□であることが好ましい。200Ω/□未満であると、タッチパネル上で支持した地点と検出電極との間に発生する電位差が小さくなり、回路中の雑音信号に影響を受けやすくなるため好ましくなく、3000Ω/□超であると、タッチパネルのシート抵抗の基板面内のバラツキが拡大する傾向があり、タッチパネル上での指示点と検出された点が一致しなくなる傾向がある。特にシート抵抗値は500Ω/□以上であることが好ましく、また2000Ω/□以下であることが好ましい。特に500〜1400Ω/□であることが好ましい。
CVD法で酸化スズ膜を形成する場合、基板の進行方向と平行な方向では膜厚や抵抗値等のばらつきが少ないが、基板の進行方向と垂直の方向(幅方向)については各装置の特性により、膜厚等のばらつきが生じる場合が多い。よって、基板の進行方向と平行な方向にラインを複数設け、各ラインついてシート抵抗値の平均を測定して、各ライン毎のシート抵抗値の比較を行うことで膜面の抵抗値の膜面偏差を評価することが多い。本発明の透明導電膜付き基板は、どのラインであってもシート抵抗値が上述するような範囲に入っており、低抵抗であり、抵抗値の膜面偏差が少なく均一性に優れる。
得られた透明導電膜付き基板は、耐熱性に優れる。透明導電膜付き基板からタッチパネルを形成する場合、大気中で160℃180分間程度の加熱処理工程を必要とする場合が多い。本発明の透明導電膜付き基板は、上記のような加熱処理を施しても抵抗値が上昇せず、耐熱性に優れる点で好ましい。
さらに、本発明の透明導電膜は、特にCVD法によれば、表面粗さが小さく、最大突起高さが小さい膜を形成できる。タッチパネル用として透明導電膜を用いる場合、フィルムの種類にもよるが、フィルムとの接着性の点で表面粗さが小さく、最大突起高さが小さい方が好ましい場合が多く、本発明における透明導電膜はこの点で優れる。
透明導電膜付き基板の製造方法の一例を以下に述べる。ノズルを2個有する常圧CVD装置を用い、0.5〜2m/分の速度で移動する無端ベルト上にソーダライムガラス基板を載せる。基板を加熱し、第1ノズルから、下層膜である酸化ケイ素膜の形成成分(例えばモノシランと酸素)を窒素キャリアガスとともに吹き付け、アルカリ金属の拡散防止性を有する酸化ケイ素膜を基板上に形成する。ここで、酸素/モノシランのモル比は、高い成膜速度を得る点で2〜200、特には50〜100であることが好ましい。
次いで、第2ノズルから酸化スズ膜の形成成分を吹き付け、酸化スズ膜を形成する。酸化スズ膜の形成成分中にはスズ化合物を含む。前記スズ化合物としては塩素含有スズ化合物であることが好ましく、例えば、塩化第2スズ(SnCl)、モノブチルスズトリクロリド((C)SnCl)、ジメチルスズジクロライド((CHSnCl)、ジブチルスズジクロライド((CSnCl)、ジオクチルスズジクロライド((C17SnCl)、トリメチルスズクロライド((CHSnCl)、トリエチルスズクロライド((CSnCl)、トリプロピルスズクロライド((CSnCl)からなる群から選ばれる1種以上が挙げられる。
酸化スズ膜の形成成分中には、炭素数が2〜4であるアルコールを含む。炭素数が2〜4であるアルコールには、1価アルコールのみならず多価アルコールも含む。前記アルコールとしては、エタノール、i−プロパノール(IPA)、t−ブチルアルコールなどが例示される。アルコールとしてエタノール、IPAまたはt−ブチルアルコールを選択した場合、アルコール/水のモル比は0.05〜2.0、特に0.1〜1.5であることが好ましい。この範囲であれば、1nm中Cl最大値を、全体中Cl最大値以下とすることができ、低抵抗で、かつ抵抗値の膜面偏差が少ない酸化スズ膜を形成できる。炭素数が1であるアルコール、例えばメタノールを用いた場合は、抵抗値の膜面偏差が大きくなる。また、C(炭素)数が5以上であるアルコールは揮発に必要な温度が高く好ましくない。なお、アルコールは、直鎖であっても分岐していてもよい。
酸化スズ膜の形成成分中には、他に、酸素、水蒸気、空気などから選択できる酸化剤や、フッ化水素や塩化アンチモンを含んでいてもよい。フッ化水素を含む場合、フッ化水素/スズ化合物のモル比は0.01〜15、特に0.1〜6であることが好ましい。さらに、酸化スズ膜の形成成分として塩化第2スズ、酸化剤として水を選択した場合の水/塩化第2スズのモル比は4〜500、好ましくは10〜400である。上記のとおり、下層膜を形成し、酸化スズ膜の形成成分を吹き付けることで酸化スズ膜を形成し、炉内で徐冷された後、大気中に取り出され製品とされる。
基板の加熱温度は、400〜550℃、特には470〜550℃であることが好ましい。400℃未満では酸化スズ膜の比抵抗が上昇し、成膜速度が低下する傾向にあり、550℃超では、基板として化学強化ガラス基板を用いた場合に、化学強化の程度が低下する可能性がある。本発明の方法によれば、低温であっても、透明性に優れ、かつ低抵抗な膜を形成できる。
本発明の透明導電膜付き基板は、アナログ式タッチパネル、特に抵抗膜式アナログ式タッチパネルの電極として使用した場合に、指示点の分解能に優れており、表示素子の視認性を低下させることがなく、またタッチパネル組み立てプロセス中の熱処理工程を施しても特性を損なうことがない点で優れている。
本発明の透明導電膜付き基板とそれを用いたタッチパネルを図面に基づいて説明する。図1は基板2に下層膜3および酸化スズ膜4を設けた本発明の透明導電膜付き基板1の一例の断面構造を示すものである。図2は下層膜3および酸化スズ膜4を設けた透明導電膜付き基板からなる下部電極5と、下部電極5に対向した状態で配置された透明導電膜6を成膜した透明樹脂製フィルム7とからなる上部電極8で構成される、抵抗膜式アナログ式のタッチパネル10の一例の断面構造を示すものである。
下部電極5には酸化スズ膜4の2辺に電極(図示せず)が設けてあり、その上の上部電極8の2辺にも電極(図示せず)が設けてある。両電極間には電圧が印加されている。9はタッチパネル10(上部電極8)を押圧するペンである。ペン9で上部電極8と下部電極5を接触させた位置を電圧変化により検出する。
タッチパネルは、例えばLCDに搭載されて使用される。ペンで入力した場合、タッチパネルを通して加わった力がLCDの表示を滲ませることがあるので、タッチパネルはLCDと空隙を設けて取り付けられるのが好ましい。
次に実施例(例1〜4、7、8)、比較例(例5、6)を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
(例1)
吐出ノズルを2個有する常圧CVD装置において、無端ベルト上の基板2であるソーダライムガラス基板2を540℃に加熱し、第1ノズルからモノシランと酸素を吹き付け膜厚50nmの酸化ケイ素膜(下層膜3)を基板2上に成膜した。ソーダライムガラス基板2は厚さ0.7mmであり、装置内での進行方向と平行な辺の長さは300mm、幅方向と平行な辺の長さは350mmである。ついで第2ノズルから、塩化第2スズ(SnCl)、水(HO)、t−ブチルアルコールおよびフッ化水素(HF)を吹き付け、酸化ケイ素膜の上に、酸化スズ膜4を成膜し透明導電膜付き基板1を得た(図1)。原料のモル比は、HO/SnCl=300、t−ブチルアルコール/HO=1.0、HF/SnCl=4であった。透明導電膜付き基板の成膜条件を表1に示した。
透明導電膜付き基板1の可視光域(400〜800nm)における透過率の最大値は91.6%であった。透過率は、分光光度計(島津製作所製:UV3100PC)を用い、以下の例においても同様の装置を用いた。同じ基板および膜構成の2層積層タイプの分光透過スペクトルを計算機シミュレーションにより計算した。その結果、酸化スズ膜の膜厚を12nmとした場合、測定値はシミュレーション結果と良く一致した。このことから酸化スズ膜の光学的な膜厚は12nmと判断した。
またX線回折(Rigaku社製:Rint2000)により酸化スズ膜の結晶性を評価したところ(111)、(101)、(200)、(211)の回折ピークが確認され、結晶質であることが確認された。また、他の例でも同様に結晶質であることが確認された。
形成された透明導電膜付き基板を下記のとおり評価した。
(1)抵抗値の膜面偏差
(A)基板の進行方向と垂直な方向における抵抗値偏差(処理前)
形成された透明導電膜について、CVD装置内の基板の進行方向の辺に平行な直線上に、24.5mm間隔で12点のシート抵抗値を測定し平均値を計算した。この測定はガラス基板幅方向の両端から30mm内側の2ラインと基板幅方向中央の1ラインの合計3ラインで行った。これらのシート抵抗値測定は4探針測定法(三菱ケミカル社製:LorestaHP MCP−T410)により行った。3つのライン(それぞれCVD装置の入り口から見て、L(左)、C(中央)、R(右)という。)のシート抵抗値の平均値(R、R、R)は、R:970Ω/□、R:950Ω/□、R:980Ω/□であった。
(B)基板の進行方向と平行な方向における抵抗値偏差(処理前)
各ライン毎の成膜方向と平行な方向における抵抗値偏差(α、α、α)を、シート抵抗値の12点の測定値の標準偏差/シート抵抗値の平均値(R、R、R)×100と定義した。α、α、αの値が小さく、かつそれぞれの差が小さいほど、抵抗値が小さく、かつ抵抗値の膜面偏差が少なく均一性に優れていることを意味する。
本例において、(A)で得られたシート抵抗値を利用し計算すると、α:2.7、α:2.4、α:2.8であった。
(C)基板の進行方向と垂直な方向における抵抗値偏差(処理後)
形成された透明導電膜付き基板を温度160℃の恒温槽に3時間放置した後、相対湿度90%の雰囲気中に200時間放置した。放置後のシート抵抗値の平均値(R、R、R)は、それぞれR:920Ω/□、R:910Ω/□、R:925Ω/□であり±10%の変化に留まり、耐熱性に優れていた。
(D)基板の進行方向と平行な方向における抵抗値偏差(処理後)
形成された透明導電膜付き基板を温度160℃の恒温槽に3時間放置した後、相対湿度90%の雰囲気中に240時間放置した。(C)で得られたシート抵抗値を利用し計算すると、放置後の抵抗値偏差はα:2.5、α:2.2、α:2.6の値であり、処理前とほとんど変化がなく、耐熱性に優れていた。
(2)酸化スズ膜全体の中の塩素イオン濃度の最大値
酸化スズ膜中の塩素イオン濃度は、SIMS(Secondary Ion Mass Spectroscopy)(Physical Electronics社製:ADEPT1010)で測定した。一次イオンとして加速電圧500eV、電流値100nAのCsを用い、試料の角度を一次イオンビームの照射方向に対して試料面に垂直な方向から40°傾けて、400μmの領域に照射し、そのうち中央部6%部分から発生した二次イオンを検出した。二次イオンとしては、Clについては35Cl、Snについては136SnOを検出して136SnO−強度で規格化した35Clのプロファイルから評価を行った。
全体中Cl最大値、および1nm中Cl最大値の結果を表1に示した。定量方法については、イオン注入法により作成した標準サンプルをSIMS分析した場合のカウント強度を参照として行った。結果を表2に示す。
(3)酸化スズ膜の表面粗さ
酸化スズ膜の表面粗さ(平均的な表面粗さ:Ra、および最大突起高さ:MaxP−V)を、AFM(Atomic Force Microscope)(Seiko Instrument社製:SPI3800N)を用いてDFM方式により評価した。評価結果を表1に示した。Ra、MaxP−Vはそれぞれ1.32nm、12.5nmであり後述する比較例1に比べ低下した。
上記(1)〜(3)の評価結果を表2に示した。
(例2)
第2ノズルから吹き付けるt−ブチルアルコールを、i−プロパノール(IPA)に変更する以外は、例1と同様にして透明導電膜付き基板1を得た。成膜条件を表1に示す。
分光光度計を用いて透過率を測定したところ、透明導電膜付き基板1の可視光域の透過率の最大値は91.6%であった。同じ基板および膜構成の2層積層タイプの分光透過スペクトル計算機シミュレーションにより計算した。その結果、酸化スズ膜の膜厚は12nmとした場合、測定値はシミュレーション結果とよく一致した。このことから酸化スズ膜の光学的な膜厚は12nmと判断した。
形成された透明導電膜付き基板を、例1と同様に評価し、結果を表2に示した。
(例3)
第2ノズルから吹き付けるt−ブチルアルコールを、エタノールに変更する以外は、例1と同様にして透明導電膜付き基板1を得た。成膜条件を表1に示す。
分光光度計を用いて透過率を測定したところ、透明導電膜付き基板1の可視光域の透過率の最大値は91.6%であった。同じ基板および膜構成の2層積層タイプの分光透過スペクトル計算機シミュレーションにより計算した。その結果、酸化スズ膜の膜厚は13nmとした場合、測定値はシミュレーション結果とよく一致した。このことから酸化スズ膜の光学的な膜厚は13nmと判断した。
形成された透明導電膜付き基板を、例1と同様に評価し、結果を表2に示した。
(例4)
基板としてソーダライムガラス基板の代わりに化学強化されたソーダアルカリガラス基板を用い、IPA/HO=1.0を0.2とし、かつHF/SnCl=4を8とする以外は、例2と同様にして透明導電膜付き基板を形成した。成膜条件を表1に示す。
分光光度計を用いて透過率を測定したところ、透明導電膜付き基板1の可視光域の透過率の最大値は91.3%であった。同じ基板および膜構成の2層積層タイプの分光透過スペクトル計算機シミュレーションにより計算した。その結果、酸化スズ膜の膜厚は14nmとした場合、測定値はシミュレーション結果とよく一致した。このことから酸化スズ膜の光学的な膜厚は14nmと判断した。
形成された透明導電膜付き基板を、例1と同様に評価し、結果を表2に示した。なお、化学強化されたガラスの強化の程度は成膜前と同等であり、強度の低下は見られなかった。
(例5)(比較例)
第2ノズルから吹き付けるt−ブチルアルコールを、メタノールに変更する以外は、例1と同様にして透明導電膜付き基板を得た。成膜条件を表1に示す。
分光光度計を用いて透過率を測定したところ、透明導電膜付き基板1の可視光域の透過率の最大値は91.6%であった。同じ基板および膜構成の2層積層タイプの分光透過スペクトル計算機シミュレーションにより計算した。その結果、酸化スズ膜の膜厚は12nmとした場合、測定値はシミュレーション結果と良い一致を得た。このことから酸化スズ膜の光学的な膜厚は12nmと結論付けた。
形成された透明導電膜付き基板を、例1と同様に評価し、結果を表2に示した。
(例6)(比較例)
第2ノズルから吹き付けるIPAをメタノールに変更する以外は、例4と同様にして透明導電膜付き基板を得た。成膜条件を表1に示す。
分光光度計を用いて透過率を測定したところ、透明導電膜付き基板1の可視光域の透過率の最大値は91.3%であった。同じ基板および膜構成の2層積層タイプの分光透過スペクトル計算機シミュレーションにより計算した。その結果、酸化スズ膜の膜厚は14nmとした場合、測定値はシミュレーション結果とよく一致した。このことから酸化スズ膜の光学的な膜厚は14nmと判断した。
形成された透明導電膜付き基板を、例1と同様に評価し、結果を表2に示した。なお、化学強化されたガラスの強化の程度は成膜前と同等であり、強度の低下は見られなかった。
(例7)
例2で得られた透明導電膜付き基板を用いて、図2に示すような抵抗膜式アナログ式タッチパネル10を組み立てる。すなわち、図2における下部電極5としては例2で得られた透明導電膜付き基板1を用い、導電膜3の上2辺にAgペーストを印刷した後、一旦焼成し、検出用電極を形成する。その後、図示しない透明な絶縁用のスペーサーを透明導電膜4上に形成し、上部電極8と対向させた状態で加熱処理を行い、パネル化し、タッチパネル10を得る。
このパネルの可視光域の透過率のピーク値は88%と良好であり、可視光の散乱(ヘイズ)はない。得られたタッチパネルの抵抗値は、加熱処理を施していても抵抗値の膜面偏差が少なく均一性に優れている。これは例2の透明導電膜の抵抗値の膜面偏差が少なく均一性に優れているためと考えられる。
(例8)
例2で得られた透明導電膜付き基板の代わりに、例3で得られた透明導電膜付き基板を使用した以外は例7と同様にしてタッチパネルを得る。例7と同様、良好な結果が得られる。
Figure 2005190700
Figure 2005190700
本発明の透明導電膜付き基板は、透明性に優れ、薄い膜厚で低抵抗であり、抵抗値の膜面偏差が少なく、かつ耐熱性に優れるため、特にタッチパネル用の電極として有用である。
本発明の透明導電膜付き基板の一例の断面構造を示す説明図。 本発明の透明導電膜付き基板を用いた抵抗膜式アナログ式のタッチパネルの一例の断面構造を示す説明図。
符号の説明
1:透明導電膜付き基板
2:基板
3:下層膜
4:酸化スズ膜
5:下部電極
6:透明導電膜
7:透明樹脂フィルム
8:上部電極
9:ペン
10:タッチパネル

Claims (2)

  1. 基板上に、膜厚が5〜20nmの酸化スズ膜、および前記酸化スズ膜の基板側に下層膜を有する透明導電膜付き基板であって、前記酸化スズ膜において、下層膜との界面から1nmまでの距離の酸化スズ膜中の塩素イオン濃度の最大値が、酸化スズ膜全体の中の塩素イオン濃度の最大値以下であることを特徴とする透明導電膜付き基板。
  2. 基板上に、下層膜を形成し、前記下層膜上にCVD法により酸化スズ膜の形成成分を吹き付けることにより膜厚が5〜20nmの酸化スズ膜を形成する透明導電膜付き基板の製造方法であって、前記酸化スズ膜の形成成分中にスズ化合物および炭素数が2〜4のアルコールを含むことを特徴とする透明導電膜付き基板の製造方法。
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