以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
−エンジン制御システムの概略構成−
図1及び図2は、本発明に係るエンジン始動装置を含むエンジン制御システムの実施形態を示し、このエンジンシステムEは、シリンダヘッド10及びシリンダブロック11を備えたエンジン1と、該エンジン1を制御するためのECU2(エンジンコントローラ)とを備えている。前記エンジン1には、図2に示すように4つの気筒12A〜12Dが設けられていて、該各気筒12A〜12Dの内部には、図1に示すように、クランク軸3に連結されるピストン13がそれぞれ嵌挿され、これにより、前記各気筒12A〜12D内部でピストン13の上方には燃焼室14が形成されている。
ここで、一般的に、多気筒4サイクルエンジンにおいては、各気筒が所定の位相差をもって吸気、圧縮、膨張、排気の各行程からなる燃焼サイクルを行うようになっており、この実施形態の4気筒エンジンの場合、気筒列方向一端側から1番気筒12A、2番気筒12B、3番気筒12C、4番気筒12Dと呼ぶと、図6(e)に示すように、1番気筒(#1)、3番気筒(#3)、4番気筒(#4)、2番気筒(#2)の順にクランク角で180度ずつの位相差をもって燃焼が行われるようになっている。
前記各気筒12A〜12Dのそれぞれの燃焼室14の頂部には、該燃焼室14内の混合気に点火して燃焼させるための点火プラグ15が設けられていて、それらの各点火プラグ15先端の電極が前記燃焼室14を臨むように配置されている。また、前記燃焼室14の側方(図1の右方向)には、先端の噴孔を燃焼室14に臨ませて燃料噴射弁16が配設されている。この燃料噴射弁16は、図示しないニードル弁及びソレノイドを内蔵し、前記ECU2からのパルス信号の入力によりそのパルス幅に対応する時間だけ開弁駆動されて、その駆動時間に応じた量の燃料を各気筒12A〜12D内に直接、噴射するように構成されている。そして、その燃料の噴射方向が前記点火プラグ15の電極付近に向かうように調整されている。
また、前記燃料噴射弁16には、図示しないが、燃料ポンプにより燃料供給通路等を介して燃料が供給されるようになっており、その燃料供給圧は、各気筒12A〜12Dの圧縮行程中期以降で高圧の気筒内燃焼室14に燃料を噴射できるように、その燃焼室14の圧力よりも高い値に設定されている。
前記各気筒12A〜12Dの燃焼室14の上部には、該燃焼室14に向かって開口する吸気ポート17及び排気ポート18が設けられていて、これらのポート17,18に吸気弁19及び排気弁20がそれぞれ配設されている。これらの吸気弁19及び排気弁20は、図示省略のカムシャフト等からなる動弁機構により駆動され、上述のとおり、各気筒12A〜12Dが所定の位相差をもって燃焼サイクルを行うように、該各気筒毎の吸・排気弁19,20の開閉タイミングが設定されている。
また、前記吸気ポート17及び排気ポート18にそれぞれ連通するように吸気通路21及び排気通路22が設けられており、図2に示すように、前記吸気ポート17に近い吸気通路21の下流側は各気筒12A〜12D毎に独立の分岐吸気通路21aとされ、この各分岐吸気通路21aの上流端がそれぞれサージタンク21bに連通している。このサージタンク21bよりも上流の吸気通路21は各気筒12A〜12Dに共通の共通吸気通路21cであり、この通路21cには例えばバタフライ弁により通路断面積を調節して吸気流を絞るスロットル弁23と、これを駆動するアクチュエータ24とが配設され、さらに、図2にのみ示すが、スロットル弁23の上流側及び下流側には、それぞれ、吸気量を検出するためのエアフローセンサ25と吸気圧力(負圧)を検出するための吸気圧センサ26とが配設されている。
一方、前記各気筒12A〜12Dからの排気が集合する排気通路22の集合部下流には、排気を浄化するための触媒29が配設されている。この触媒29は、例えば、排気の空燃比状態が理論空燃比近傍にあるときにHC、CO、NOxの浄化率が極めて高い、いわゆる三元触媒であり、これは排気中の酸素濃度が比較的高い酸素過剰雰囲気でこれを吸蔵する酸素吸蔵能を有し、酸素濃度の比較的低いときには吸蔵している酸素を放出して、HC、CO等と反応させるものである。なお、触媒29は、三元触媒に限らず、前記のような酸素吸蔵能を有するものであればよく、例えば、酸素過剰雰囲気でもNOxを浄化可能ないわゆるリーンNOx触媒であってもよい。
また、前記エンジン1には、ベルト等によりクランク軸3に駆動連結されたオルタネータ28が付設されている。このオルタネータ28には、詳細は図示しないが、フィールドコイルの電流を制御することによって出力電圧を変更し、これにより発電量を調整するレギュレータ回路28aが内蔵されており、このレギュレータ回路28aに前記ECU2からの制御指令(例えば電圧)が入力されることで、基本的には車両の電装品の電気負荷と車載バッテリ電圧とに応じて発電量が制御されるようになっている。このようにしてオルタネータ28の発電量が変更されるときには、これに伴いその駆動力、即ちエンジン1の外部負荷の大きさが変化することになる。
さらに、前記エンジンシステムEには、前記クランク軸3の回転角を検出する2つのクランク角センサ30,31が設けられており、主に一方のクランク角センサ30からの信号に基づいてエンジン回転速度を求めるとともに、詳しくは後述するが、それら2つのクランク角センサ30,31から出力される互いに位相のずれたクランク角信号によって、前記クランク軸3の回転方向及び回転角度を検出するようになっている。加えて、このエンジンシステムEには、カムシャフトの特定の回転位置を検出して気筒識別信号として出力するカム角センサ32、エンジン1の運転・停止を手動で切替えるオンオフ操作が行われる操作手段としてのイグニッションスイッチ33(IGスイッチ)、アクセル操作量を検出するアクセル開度センサ34等が配設されている。
前記ECU2は、前記各センサ及びスイッチ25,26,30〜34からの信号を受け、前記燃料噴射弁16に対して燃料噴射量及びその噴射時期を制御する信号を出力するとともに、点火プラグ15の点火装置27に対して点火時期を制御する信号を出力し、さらに、前記スロットル弁23のアクチュエータ24に対してスロットル開度を制御する信号を出力する。そして、以下に詳述するが、前記ECU2は、アイドル時において所定のエンジン停止条件が成立したときに、各気筒12A〜12Dへの燃料供給を停止して(燃料カット)自動的にエンジンを停止させるとともに、その後、運転者のアクセル操作等により所定のエンジン再始動条件が成立したときには、自動的にエンジン1を再始動させるようになっている。
すなわち、前記エンジン1を自動で再始動させるときには、始動モータの力を借りることなく、エンジン1を自力で始動させるのであるが、この実施形態では、図3に模式的に示すように、まず、ピストン13が圧縮行程の途中で停止している気筒12(図の例では#1気筒12Aであり、以下、停止時圧縮行程気筒ともいう)で最初の燃焼を行わせて、ピストン13を押し下げることにより、クランク軸3を少しだけ逆転させ(同図(a))、これにより、膨張行程にある気筒12(図の例では#2気筒12Bであり、以下、停止時膨張行程気筒ともいう)のピストン13を上昇させて、この気筒12B内の混合気を圧縮する(同図(b))。そして、そのようにして圧縮されて温度及び圧力の高くなった膨張行程気筒12B内の混合気に点火して、燃焼させることにより、クランク軸3に正転方向のトルクを与えて、エンジン1を始動するようにしている。
そのようにエンジン1を自力で始動させるためには、前記停止時膨張行程気筒12Bの燃焼によってクランク軸3にできるだけ大きな正転方向のトルクを与え、これにより、同図(c)に示すように続いて圧縮上死点(以下、TDCと略称)を迎える気筒12Aが、その圧縮反力(圧縮圧力)に打ち勝ってTDCを越えるようにしなければならない。従って、エンジン1の確実な始動のためには前記停止時膨張行程気筒12B内に燃焼のための空気を十分に確保しておく必要がある。
そのために、この実施形態では、アイドル時にエンジン1を自動で停止させるときに、まず、各気筒12A〜12Dの掃気が十分に行われるように、アイドル回転速度よりもやや高い所定回転速度で燃料カットを行うとともに、その後の所定期間、スロットル弁23を開いて、予め設定した開度になるように制御する。そして、そのスロットル弁23を予め設定した適切なタイミングで閉じることで、前記停止時膨張行程気筒12B及び停止時圧縮行程気筒12Aへそれぞれ吸入される空気量が十分に多くなり、且つ該膨張行程気筒12Bの空気量が圧縮行程気筒12Aよりもやや多くなるようにしている。
こうすることで、その2つの気筒12A,B内の空気の圧縮圧力のバランスによって、膨張行程気筒12Bのピストン13が行程中央部から多少、下死点(BDC)寄りの再始動に好適な所定範囲R(後述)内に停止するようになる。
−エンジンの自動停止制御−
次に、前記ECU2によりエンジン1を自動で停止する制御について、主に図4〜7を参照して説明する。なお、図4及び図5は停止制御の手順を示すフローチャート図であり、図6は、燃料カットから惰性で回転するエンジン1が停止するまでの間(以下、停止動作期間ともいう)におけるエンジン回転速度、クランク角及び各気筒12A〜12Dの行程の変化を互いに対応づけて示すとともに、その間に行われるスロットル開度の制御と、これによる吸気圧力(吸気管負圧)の変化とを模式的に示す説明図である。
また、図7は、前記停止動作期間において徐々に回転が低下するエンジン1のTDC回転速度(後述)と、停止後の膨張行程気筒12におけるピストン停止位置との相関関係を示す図である。
まず、前記図6(a)に示すように、エンジン1の運転中に所定の設定回転速度(図例では800rpm)で燃料カットが行われると(時刻t0)、そのときにクランク軸3やフライホイール等の運動部分が有する運動エネルギーが機械的な摩擦や各気筒12A〜12Dのポンプ仕事によって消費されることで、エンジン回転速度が徐々に低下し、エンジン1は惰性で数回転した後に停止することになる。詳しくは、そのようにエンジン1が惰性で回転する間、エンジン回転速度は、微視的には各気筒12A〜12Dの圧縮上死点(TDC)を迎える毎に一時的に大きく落ち込み、TDCを越えると再び上昇する、というようにアップダウンを繰り返しながら低下して行く。そして、例えば図示の如く約800rpmで燃料カットした場合には、通常はTDCを8、9回越えて、その最後のTDCを越えた後に(時刻t3)、その次のTDCを越えることができなくなって、停止に至る(時刻t4〜t6)。
すなわち、前記の如くTDCを越えることができずに圧縮行程に留まる気筒12(図の#1気筒12A)では、慣性力によるピストン13の上昇に伴い空気圧が高まり、その圧縮反力によってピストン13が一旦、停止(時刻t4)した後に、BDCに向かって押し返される。これによりクランク軸3は逆転し、同図(a)に示すようにエンジン回転速度が負値になるが、そうすると、今度は膨張行程にある気筒12(前記最後のTDCを越えて膨張行程に移行した気筒であり、図例では#2気筒12B)の空気圧が上昇して、ピストン13にBDC側への圧縮反力が作用し、この圧縮反力によって該膨張行程気筒12のピストン13が一旦、停止(時刻t5)した後に、BDCに向かって押し返される。こうしてクランク軸3は再び正転し、エンジン回転速度は正値に戻る。
そのように、圧縮行程気筒12及び膨張行程気筒12のピストン13にそれぞれ逆向きに作用する圧縮反力によって、各気筒12A〜12Dのピストン13はそれぞれ数回、往復作動した後に停止することになるが(時刻t6)、その停止位置は、前記圧縮及び膨張行程気筒12の圧縮反力のバランスによって概略決定されるとともに、エンジン1の摩擦等の影響を受けて、停止前に最後にTDCを越えるときのエンジン1の回転慣性、即ち最後にTDCを越えるときのエンジン回転速度の高低に応じて変化することになる。
従って、エンジン停止時に膨張行程にある気筒12のピストン13を再始動に適した所定範囲R内に停止させるためには、まず、その停止時膨張行程気筒12及び停止時圧縮行程気筒12の圧縮反力がいずれも十分に大きくなり、且つ膨張行程気筒12の圧縮反力が圧縮行程気筒12よりも所定以上、大きな適切なバランスとなるように、両方の気筒12への吸入空気量を調節する必要がある。このために、この実施形態では、図6(c)に示すように、燃料カット後に直ちに開いたスロットル弁23(時刻t1)を所定期間の経過後に閉じて(時刻t2)、同図(d)に示すように一時的に吸気管負圧を減少させる(吸気量は増大)ことで、停止時の圧縮及び膨張行程気筒12にそれぞれ所要量の空気が吸入されるようにしている。
但し、実際のエンジン1ではスロットル弁23自体や吸気ポート17、分岐吸気通路21a等の形状に個体ばらつきがあり、それらを流通する空気流の挙動が変化することもあって、エンジン1の停止動作期間に各気筒12A〜12Dに流入する空気の量には或る程度のばらつきを生じるから、上述のようなスロットル弁23の開閉制御を行ったとしても、それだけではエンジン停止時に圧縮行程や膨張行程になる気筒12のピストン停止位置を正確に目標とする範囲R内に収めるることは難しい。
この点につき、この実施形態では、図7に一例を示すように、停止動作期間においてエンジン回転速度が徐々に低下する過程で、各気筒12A〜12Dが順次、TDCを通過するときのエンジン回転速度(以下、TDC回転速度ともいう)と、エンジン停止後に膨張行程にある気筒12のピストン停止位置との間に明確な相関関係があることに着目して、前記図6(a)に示すようにエンジン回転速度が低下する過程で180°CA毎のTDC回転速度をそれぞれ検出し、この検出値に応じてオルタネータ28の発電量やスロットル弁23の開度を制御することにより、エンジン回転の落ち具合を調整するようにしている。
詳しくは、前記図7は、上述の如くエンジン回転速度が略800rpmのときに燃料カットを行い、その後の所定期間、スロットル弁23を開状態に維持するようにして、惰性で回転するエンジン1の各気筒12A〜12DがTDCを越える度に、そのときのエンジン回転速度(TDC回転速度)を計測するとともに、そうして停止した後の膨張行程気筒12のピストン位置を調べて、このピストン位置を縦軸に、また、前記TDC回転速度を横軸に取って、両者の関係を表したものである。このような作業を所定回数、繰り返すことで、エンジン停止動作期間におけるTDC回転速度と停止後の膨張行程気筒12におけるピストン停止位置との間の相関関係を表す分布図が得られる。
図の例では、エンジン停止前の最後のTDCを越えるときの回転速度は示されておらず、燃料カット直後のTDC回転速度(図例では最後から数えて9番目のもの)から最後の1つ前のTDC回転速度(最後から数えて2番目のもの)までのデータが示されている。この最後から9〜2番目のTDC回転速度は、それぞれ一塊りとなって分布しており、特に図示の6〜2番目のものにおいて明らかなように、TDC回転速度が或る特定の範囲(図に斜線を入れて示す範囲)にあれば、ピストン停止位置が再始動に好適な範囲R(図の例ではATDC100〜120°CA)に入ることが分かる。
前記の如く、膨張行程気筒12のピストン13がエンジン1の再始動に好適な所定範囲Rに停止することになるTDC回転速度の特定の範囲を以下、この明細書では適正回転速度範囲と呼ぶものとする。そして、この実施形態では、以下に詳述するが、前記図6(a)のようにエンジン回転速度がアップダウンを繰り返しながら低下するときに、各気筒12A〜12D毎のTDC回転速度をそれぞれ検出し、この検出値と前記適正回転速度範囲とを比較して、両者の速度偏差に応じてオルタネータ28の発電量やスロットル弁23の開度を制御するようにしている。
すなわち、まず、燃料カット直後の所定期間は、上述の如く、各気筒12A〜12Dの掃気等のためにスロットル弁23を比較的大きく開いており、このスロットルの開度をさらに調整しても気筒12のポンプ仕事量があまり変化しないから、これによるエンジン回転速度の調整は難しい。そこで、この間は意図的にオルタネータ28を発電作動させるとともに、その発電量を変更制御して、そのための発電駆動力の大きさを変化させることにより、エンジン回転速度の低下の度合い調整する。この際、TDC回転速度が適正回転速度範囲の下限寄りになるように、即ちエンジン回転がやや落ち気味になるように、オルタネータ28の発電量を大きめに制御する。
また、前記所定期間の経過後は、スロットル弁23の開度を制御してエンジン1のポンプ仕事量を調整することによって、エンジン回転速度の低下の度合いを調整する。但し、サージタンク21bの上流に配置したスロットル弁23の場合、これを閉じる側に制御しても各気筒12A〜12Dの吸気量の変化は鈍いから、前記のように予めオルタネータ28の制御によってエンジン回転速度を低めに誘導しておいて、TDC回転速度が適正回転速度範囲よりも低くなったときにのみ、エンジン回転速度の低下が緩やかになるようにスロットル開度を開き側に制御するようにしている。
そのように、オルタネータ28の発電制御とスロットル弁23の開度の制御とによってエンジン回転速度の低下の度合いを調整して、遅くとも最後のTDCを通過するまでにTDC回転速度が前記適正回転速度範囲に収まるようにすれば、この時点でクランク軸3やフライホイール、或いはピストン13、コネクティングロッド等の運動部分が有する運動エネルギーや圧縮行程気筒12の高圧空気が有する位置エネルギー等が、その後に作用する摩擦等と見合うものになって、エンジン1の停止時に膨張行程にある気筒12のピストン13を前記の再始動に適した所定範囲R内に停止させることができるのである。
次に、上述したエンジン自動停止制御の具体的な手順を図4及び図5のフローチャートに基づいて説明すると、このフローはエンジン運転中の所定のタイミングでスタートして(START)、ステップSA1ではアイドルストップの条件(IDL Stop条件)が成立したか否かの判定を行う。この判定は、車速、ブレーキの作動状況、エンジン水温等に基づいて行うもので、例えば車速が所定速度よりも小さく、ブレーキが作動していて、エンジン水温が所定範囲内にあり、さらにエンジン1を停止させることに特に不都合のない状況であれば、アイドルストップ条件が成立したものとする。
前記図4のステップSA1でアイドルストップ条件が成立したとき(YESの場合)には、続くステップSA2で、いずれか1つの気筒12(例えば1番気筒12A)を特定して、エンジンを停止させる所定の条件が成立したかどうかの判定を行う。すなわち、エンジン回転速度が燃料カットの設定回転速度(この実施形態では略800rpm)であるかどうか、前記特定した気筒12が予め設定した行程(例えば吸気行程)にあるかどうか等を判定する。
そして、全ての条件が成立してYESと判定されれば、ステップSA3に進んで、各気筒12A〜12Dへの燃料噴射を停止し(燃料cut)、続くステップSA4ではスロットル弁23を設定開度になるように開く(スロットルopen)。これにより、図6(c)(d)に示すように各気筒12A〜12Dへの吸気量が増大し、十分な掃気が行われるとともに、排気通路22に配設された触媒29にも多量の新気が供給されることになり、この触媒29に吸蔵される酸素の量が十分に多くなる。
続いて、ステップSA5において、クランク角センサ30からの信号により求められるTDC回転速度が適正回転速度範囲にあるかどうか判定する(TDC時の回転速度が所定範囲内?)。この判定がYESでTDC回転速度が適正回転速度範囲にあれば、ステップSA6に進み、今度はエンジン回転速度が所定回転速度以下かどうか判定する。この所定回転速度は、吸気の輸送遅れを考慮して、図6(c)(d)に示すように停止時膨張行程気筒12(図例では#2気筒12B)への吸気量が停止時圧縮行程気筒12(図例では#1気筒12A)よりも多くなるようなタイミングでスロットル弁23を閉じるためのものであって、同図の時刻t2に対応し、この実施形態では例えば約500〜600rpmの範囲に設定されている。そして、エンジン回転速度が前記所定回転速度以下になれば(ステップSA6でYES)、後述のステップSA9に進む一方、エンジン回転速度が所定回転速度よりも高ければ(NOの場合)、前記ステップSA5にリターンする。
前記ステップS5においてTDC回転速度が適正回転速度範囲にないと判定された場合(NOの場合)には、ステップSA7に進み、TDC回転速度と適正回転速度範囲との間の回転速度の偏差に基づいてオルタネータ28の発電量を算出する。この発電量は、例えばエンジン回転速度、適正回転速度範囲からの速度偏差及び現在の発電量に応じて予め設定されたマップから読み出され、例えばTDC回転速度が適正回転速度範囲の上限よりも高いときには、エンジン1の負荷が増えるようにオルタネータ28の発電量を増大させる一方、TDC回転速度が適正回転速度範囲の下限よりも低いときには、エンジン1の負荷が減るように発電量を減少させるものである。また、前記マップにおいて発電量の目標値は、TDC回転速度が適正回転速度範囲の下限付近になるよう大きめに設定されている。
そして、前記ステップSA7に続くステップSA8では、前記の算出結果に応じてオルタネータ28のレギュレータ回路28aに制御指令を出力する(オルタネータ発電)。このオルタネータ28の発電作動によってエンジン1の負荷が調整されることで、惰性で回転するエンジン1の回転速度の軌跡は高回転側又は低回転側のいずれかにシフトされて、徐々に目標とする軌跡に近づいて行く。そうして、エンジン回転速度が前記ステップSA6の所定回転速度以下になれば(YES)、ステップSA9に進んで、スロットル弁23を閉じて(スロットルclose)、図5のステップSA10に進む。
図5のフローのステップSA10では、前記ステップSA5と同様にTDC回転速度が適正回転速度範囲にあるかどうか判定し、判定がYESでTDC回転速度が適正回転速度範囲にあれば、ステップSA11に進む一方、TDC回転速度が適正回転速度範囲にないと判定された場合(NOの場合)には、ステップSA12に進み、TDC回転速度の適正回転速度範囲からの偏差に基づいてスロットル弁23の開度を算出する。このスロットル開度は、例えばエンジン回転速度、適正回転速度範囲からの速度偏差及び現在の開度に応じて予め設定されたマップから読み出され、TDC回転速度が適正回転速度範囲の下限よりも低いときには、エンジン1のポンプ仕事量が減少するようにスロットル開度を増大する(図6(c)のTVO)一方、TDC回転速度が適正回転速度範囲の上限よりも高いときには、スロットル制御を行わないように設定されている。
すなわち、サージタンク21b上流のスロットル弁23を用いる場合には、吸気を絞る側への応答遅れが大きくなり、十分な制御性が得られないから、上述の如く、予めオルタネータ28の発電作動による負荷を大きめにして、エンジン回転速度の低下度合いを大きく(回転速度を低めに)しておいて、TDC回転速度が適正回転速度範囲の下限よりも低いときにのみ、スロットル弁23を開く側に駆動してエンジン回転速度の低下の度合いを緩やかにするのである。そして、続くステップSA13でスロットル弁23のアクチュエータ24を駆動して(スロットル駆動)、前記ステップSA11に進む。
前記のようなオルタネータ28及びスロットル弁23の制御によって、燃料カット後のエンジン回転速度の低下度合いを調整することで、図6(a)に示すようにアップダウンを繰り返しながら徐々に低下するエンジン回転速度の軌跡を徐々に修正して、遅くとも最後のTDCまでには適正回転速度範囲に収めることが可能になる。
そして、ステップSA11では、検出したTDC回転速度が所定値A以下かどうか判定する。この所定値Aは、予め実験的に求めたエンジン停止前の最後のTDC回転速度に対応づけて設定したものであり、前記ステップSA10で求めたTDC回転速度が所定値Aよりも高ければ(判定がNOの場合)、エンジン1は最後のTDCを未だ通過していないので、上述のスロットル弁23の制御を継続すべく、ステップSA10にリターンする。
一方、TDC回転速度が所定値A以下ならば(判定がYESの場合)、エンジン1は最後のTDCを既に通過しているので、その後は、上述の如く、各々圧縮行程及び膨張行程にある2つの気筒12,12の圧縮反力によって正転側及び逆転側に数回、回転作動した後に、停止することになる。そこで、ステップSA14に進んで、クランク角センサ30,31からの信号に基づいてエンジン1の停止(完全な停止)を確認し、YESでエンジン1の停止が確認されれば、ステップSA22に進んで、後述のサブルーチン(図8,9参照)により、2つのクランク角センサ30,31から出力される互いに位相のずれたクランク角信号に基づいて、膨張行程にある気筒12のピストン停止位置を検出し、これをECU2のメモリに記憶して、エンジン停止制御を完了する(END)。
すなわち、前記のようにエンジン1の停止の直前には、クランク軸3が正逆両方に数回、回動するので、クランク角センサ30からの信号をカウントするのみではピストン停止位置を検出することはできない。そこで、この実施形態では、2つのクランク角センサ30,31から出力される互いに位相のずれたクランク角信号に基づいて、以下のようにクランク軸3の回転方向及び回転角度を検出し、これにより各気筒12A〜12DのTDC又はBDCに対するクランク角、即ちピストン停止位置を検出するようにしている。
具体的に図8は、ピストンの停止位置を検出するためのサブルーチンを示すフローチャートであり、このフローがスタートすると、ステップSC1で、第1クランク角信号CA1(第1クランク角センサ30からの出力信号)及び第2クランク角信号CA2(第2クランク角センサ31からの出力信号)に基づいて、ECU2が前記第1クランク角信号CA1の立ち上がり時に前記第2クランク角信号CA2がLow、Highのいずれであるか、或いは、前記第1クランク角信号CA1の立ち下がり時に前記第2クランク角信号CA2がHigh、Lowのいずれであるか、を判定する。つまり、これらの信号CA1,CA2の位相の関係が図9(a)のようになるか、又は図9(b)のようになるかを判別して、これによりエンジン1の正転、反転を判別する。
より詳しくは、エンジンの正転時には、図9(a)のように、第1クランク角信号CA1に対して第2クランク角信号CA2が半パルス幅程度の位相遅れを生じることになり、前記第1クランク角信号CA1の立ち上がり時に第2クランク角信号CA2がLowに、前記第1クランク角信号CA1の立ち下がり時に第2クランク角信号CA2がHighになる。一方、エンジンの逆転時には、図9(b)のように、前記第1クランク角信号CA1に対して第2クランク角信号CA2が半パルス幅程度の位相の進みを生じることになり、上述のエンジン正転時とは逆に、前記第1クランク角信号CA1の立ち上がり時に第2クランク角信号CA2がHighに、前記第1クランク各信号CA1の立ち下がり時に第2クランク角信号CA2がLowになるからである。
そして、前記フローのステップSC1でエンジン1が正転状態であると判定された場合(YESの場合)には、エンジン1の正転方向のクランク角変化を計測するためのCAカウンタのカウント数を増やし、反対に逆転状態であると判定された場合(NOの場合)には前記CAカウンタのカウント数を減らすようにする。ここで、第1クランク角信号CA1及び第2クランク角信号CA2の立ち上がり及び立ち下がりは、クランク軸3の回転により所定角度毎(この実施形態では、立ち上がり又は立ち下がりのそれぞれの間隔が略10度毎)に生じるように設定されているため、第1クランク角信号CA1の立ち上がり及び立ち下がり時の第2クランク角信号CA2の状態により、前記のようにしてエンジン1の正転・逆転を判定することができるとともに、前記第1クランク角信号CA1及び第2クランク角信号CA2の立ち上がり又は立ち下がりの回数によって、クランク軸3の回転角度を求めることができる。こうして、エンジン停止時に上述の如くクランク軸3が正逆、両方に回動しても、そのことに依らず正確にクランク角を検出して、ピストン停止位置を求めることができる。
前記図4及び図5に示すエンジン自動停止制御のフローのステップSA1〜SA3により、エンジン1の運転中に所定の停止条件が成立したとき、各気筒12A〜12Dへの燃料供給を停止して、エンジン1を自動で停止させる自動停止手段2aが構成されている。
以上、詳述したエンジン自動停止制御によると、アイドル時に燃料カットによりエンジン1を自動停止させるときに最初の所定期間、スロットル弁23を開いて、停止後に各々膨張行程及び吸気行程になる気筒12,12にそれぞれ所要量の空気が吸入されるようにするとともに、オルタネータ28及びスロットル弁23の制御によりエンジン回転速度の低下の度合いを調整することで、エンジン停止後の膨張行程気筒12においてピストン13を再始動に好適な所定範囲Rに停止させることができる。
また、前記の如くエンジン停止動作期間において所定期間、スロットル弁23が開かれることで、各気筒12A〜12D内の既燃ガスが殆ど全て筒外へ掃気されて、それぞれ新気で満たされるとともに、排気通路22の触媒29における酸素吸蔵量の多い状態になる。但し、エンジン1の停止後は吸排気弁19,20の閉じている膨張行程気筒12や圧縮行程気筒12であってもすぐに空気圧がリークすることから、各気筒12A〜12Dには、それぞれピストン停止位置に対応する容積内に略大気圧の新気(空気)が存在する状態になる。
−エンジンの自動始動制御−
次に、上述のようにアイドル時に自動で停止したエンジン1を自動で再始動する場合について、図3及び図10〜13に基づいて説明する。なお、図10及び図11は、始動制御の手順を示すフローチャートであり、図12は、始動時の各気筒12A〜12D毎の燃料噴射及び点火の時期を当該各気筒12A〜12Dの行程の変化と吸排気弁の開閉状態とに対応づけて示した行程図である。また、図13は、前記始動時の各気筒12A〜12D毎の燃料噴射及び点火によって、当該各気筒12A〜12Dの筒内圧やエンジン1の始動トルク及びエンジン回転速度が変化する様子を、そのときの吸気圧の低下と、これに応じて変更される点火時期の変化とともに示したタイムチャートである。
この実施形態のエンジン1の自動始動制御は、上述したようにエンジン1を自力で始動させるものであり、前記図3及び図12に一例を示すように、最初に停止時圧縮行程気筒12A(#1気筒)で燃焼を行わせてエンジン1を一旦、逆転作動させ(図3(a)、図12のa1,a2)、これにより停止時膨張行程気筒12B(#2気筒)内を圧縮して、温度及び圧力の上昇した当該膨張行程気筒12B内の混合気に点火して、燃焼させる(図3(b)、図12のa3,a4)。こうすることで、該膨張行程気筒12Bの燃焼圧が十分、高くなるとともに、有効なストロークが長くなって、大きな始動トルクが得られるようになる。
しかし、そのように最初に停止時圧縮行程気筒12Aで燃焼を行わせると、この燃焼による既燃ガスが気筒12A内に充満することから、この気筒12Aが図3(c)に示すように始動時の最初のTDCを迎えるときに、ピストン13に作用する圧縮反力がかなり大きなものとなって、そのTDCを越えることができずに始動に失敗する虞れがある。また、圧縮反力に打ち勝ってTDCを越えることができたとしても、そのときのエンジン回転速度の落ち込みが大きくなるし、既燃ガスの充満する気筒12Aでは燃焼により始動トルクを得ることができないから、エンジン回転をスムーズに上昇させることは難しい。
また、前記#1気筒12Aの次の点火順の#3気筒12Cは吸気行程で停止していたものであり(以下、停止時吸気行程気筒ともいう)、この気筒12C内の空気がエンジン停止中に気筒壁面からの放熱により暖められて、かなり温度の高い状態になっている上に、吸気通路21内で暖められた空気を吸入してフル充填状態になるので、圧縮行程では気筒12C内の温度及び圧力がかなり高くなって、圧縮反力によるエンジン回転の落ち込みが大きくなるとともに、非常に自着火の発生しやすい状態になる。そして、自着火が発生すれば、これによりエンジン1に大きな逆転トルクが作用して、始動に失敗してしまう。
そのような問題点に鑑みて、この実施形態の始動制御では、まず前記停止時圧縮行程気筒12Aを空燃比のリッチな状態で燃焼させて、エンジン1の逆転トルクを確保し、これにより停止時膨張行程気筒12Bを十分に圧縮して、この気筒12Bの燃焼による正転方向の始動トルクを大幅に増大させる。その上で、エンジン1の正転作動に伴い前記停止時圧縮行程気筒12Aが圧縮されるときに追加の燃料噴射を行い(図12のa5)、その気化潜熱による冷却効果で圧縮圧力を低下させることで、図3(c)に示すように、当該気筒12Aが始動時に最初に迎えるTDCを確実に越えて、エンジン1の正転方向の回転が持続するようにする。
また、前記停止時圧縮行程気筒12Aの次の点火順の停止時吸気行程気筒12C(#3気筒)に対しては、この気筒12Cが圧縮行程に移行して温度及び圧力が高くなった状態で燃料を噴射し(図12のa6)、その気化潜熱による冷却効果で圧縮圧力を低下させるとともに、自着火の発生を防止する。さらに、この気筒12Cの点火時期をTDC以降に遅角させることで(図12のa7)、TDC前の燃焼により気筒内圧が上昇すること回避して、エンジン回転の落ち込みを小さくし、図3(d)の如く始動時の2番目のTDCを通過した後に、点火、燃焼させることで、エンジン回転を立ち上げるようにしている。
次に、始動制御の具体的な手順について図10及び図11のフローチャートに基づいて説明すると、このフローはエンジン停止状態からスタートし(START)、まず、図10のステップSB1において所定のエンジン再始動条件が成立したか否かを判定する。この再始動条件とは、停車状態から発進するためにブレーキが解除された場合やアクセル操作等が行われた場合、エアコン等の動作のためにエンジンの運転が必要になった場合等であり、このような条件が成立していなければ、成立するまで待機する一方、再始動条件が成立すれば(ステップSB1でYES)、ステップSB2へ進む。
ステップSB2では、上述のサブルーチン(図8、9参照)により求められたピストン13の停止位置に基づいて、停止時圧縮行程気筒12(図3では#1気筒12A)及び停止時膨張行程気筒12(図3では#2気筒12B)内の空気量をそれぞれ算出する。すなわち、ピストン13の停止位置から前記停止時圧縮行程気筒12及び停止時膨張行程気筒12内の容積をそれぞれ求めるとともに、前記の如くエンジン1の各気筒12A〜12D内が殆ど大気圧状態の新気で満たされていると仮定して、前記両気筒12,12の空気量をそれぞれ算出する。
続いてステップSB3では、前記ステップSB2で算出した停止時圧縮行程気筒12の空気量に対して所定の空燃比(圧縮行程気筒1回目用A/F)となるような燃料噴射量を算出して、該圧縮行程気筒12に燃料を噴射する。具体的には、前記空燃比は、エンジン停止時のピストン停止位置等に対応付けて予め設定された空燃比マップから求められ、これにより、前記圧縮行程気筒12の空燃比は理論空燃比よりもリッチな値(A/Fで略11〜14の範囲が好ましく、略13がさらに好ましい)に設定される。
ここで、前記停止時圧縮行程気筒12内にはエンジン1の停止から再始動までの間に、燃料噴射弁16の噴孔から燃料が漏れ出しているので、その分は燃料噴射量を減少補正する必要がある。そこで、この実施形態では、詳しくは後述するが、エンジン1の停止後に各気筒12A〜12D内に漏れ出す燃料の量を停止後の時間経過に対応付けて学習し、該各気筒12A〜12D毎に燃料漏れ特性テーブル(燃料漏れ量の時間変化特性)として記憶しており、前記ステップSB13では、エンジン停止から前記圧縮行程気筒12への燃料噴射までの時間に対応する燃料漏れ量を前記のテーブルから読み出して、その分、燃料噴射量を減少補正するようにしている。
次に、ステップSB4において、停止時圧縮行程気筒12への燃料噴射から燃料の気化時間を考慮して設定される所定時間の経過後に、当該気筒12の点火プラグ15に通電して、混合気に点火する。そして、ステップSB5で、前記ステップSB4の点火から一定時間内にクランク角センサ30,31からの信号のエッジ(クランク角信号の立ち上がり又は立ち下がり)が検出されたか否かにより、ピストン13が動いたかどうかを判定し(クランク角信号の検出による判定は上述のサブルーチンによる)、失火等のためにピストン13が動かなかった場合(NOの場合)には、ステップSB6に戻って前記圧縮行程気筒12に対して繰り返し点火する。
一方、前記ステップSB5でクランク角信号のエッジが検出されて(YESの場合)、ピストン13が動いた、すなわちエンジン1が逆回転を始めたと判定された場合には、ステップSB7に進んで、前記ステップSB2で算出された停止時膨張行程気筒12の空気量に対して所定の空燃比(膨張行程気筒12用A/F)となるように該膨張行程気筒12に燃料を噴射する。この際、空燃比は前記停止時圧縮行程気筒12と同様に(ステップSB3参照)エンジン停止時のピストン停止位置等に対応付けて予め設定されたマップから求めて、略理論空燃比もしくはそれよりも若干リッチな値に設定し、さらに、エンジン停止中の燃料の漏れ量を考慮して、燃料噴射量を補正する。
そして、続くステップSB8では、前記エンジン1の逆転作動を検出してから所定時間(点火ディレイ)の経過後に膨張行程気筒12に点火して、燃焼させる。この点火ディレイ時間は、エンジン1の逆転作動により停止時膨張行程気筒12のピストン13が上昇して、この気筒12内の混合気が十分に圧縮され、且つその圧縮反力によってピストン13が殆ど停止するまでの時間に対応するものであり、エンジン停止時のピストン停止位置等に対応付けて予め設定されたマップから求められる。このように膨張行程気筒12内で十分に圧縮された混合気に点火して、燃焼させることで、エンジン1は十分に大きなトルクでもって正転方向に回転し始める。
続いてステップSB9では、前記エンジン1の正転作動に伴い最初のTDCを迎える前記停止時圧縮行程気筒12に対して、この気筒12に対する2回目の燃料噴射(追加の燃料噴射)を、燃料の気化時間を考慮した所定のタイミングで実行する。こうして噴射された燃料が気化するときに周囲のガスから熱を奪うことによって(気化潜熱)、圧縮行程気筒12内の温度が下がり、筒内圧力が低下するため、当該気筒12内に既燃ガスが充満していても、その圧縮反力を低下させることができ、ピストン13がTDCを確実に越えられるようになる。このことで、前記ステップSB8における停止時膨張行程気筒12の燃焼により開始されたエンジン1の正転作動が持続され、停止時圧縮行程気筒12がTDCを越えて、各気筒12A〜12Dがそれぞれ次の行程へと進むことになる。
前記ステップSB9に続いて、図11のステップSB10では、前記のように開始されたエンジン1の正転作動によって停止時の吸気行程気筒12(図3では#3気筒12C)内に充填される空気の量を算出する。すなわち、停止時吸気行程気筒12は、前記停止時圧縮行程気筒12に続いて始動時の2番目のTDCを迎えるものであるが、上述したように、その気筒12内には比較的高温の空気が略大気圧状態でフル充填されていて、非常に自着火の発生しやすい状態になっている。
そこで、前記ステップSB10では、エンジン水温、エンジン停止時間、吸気温度等から推定される筒内温度と大気圧とに基づいて、前記停止時吸気行程気筒12内の空気の密度を推定し、この推定値に基づいて当該気筒12内の空気充填量を算出する。そして、続くステップSB11では、主に前記筒内温度の推定値に基づいて、自着火を防止するための空燃比のリッチ側への補正値を算出し、続くステップSB12において、前記補正値を加味して決定した空燃比と、前記ステップSB10で算出された気筒12内の空気充填量とに基づいて、該停止時吸気行程気筒12への燃料噴射量を算出する。
続いて、ステップSB13において、前記停止時吸気行程気筒12が圧縮行程に移行した後に、その気筒12内に圧縮行程の中期以降で燃料を噴射する。こうすることで、燃料の気化潜熱により、前記停止時圧縮行程気筒12の場合と同様に気筒12内の温度及び圧力が低下するので、前記の如く当該気筒12内が比較的高温の空気により満たされていても、圧縮に伴う温度及び圧力の上昇を抑えて自着火の発生を防止することができる。また、気筒12の圧縮圧力も低下するので、その分、TDC通火時のエンジン回転の落ち込みが小さくなる。
そして、ステップSB14において、前記停止時吸気行程気筒12が圧縮行程からTDCを越えて、膨張行程に移行した後に点火プラグ15に通電して、当該気筒12内の混合気に点火する。この点火時期も通常の始動モータを用いたエンジン始動時であれば、TDCよりも進角側(例えばTDC前6°CAくらい)に設定するものであるが、この実施形態のように始動モータを用いず、自力で始動する場合には、TDC前の点火、燃焼による気筒内圧の上昇が逆転方向のトルクとなってエンジン始動の妨げとなる虞れがあるので、これを回避するために、点火時期をTDC後まで遅角させたものである。
続いて、ステップSB15では、吸気圧センサ26からの信号に基づいて、スロットル弁23よりも下流の吸気通路21の吸気圧(吸気管負圧)が予め設定した値よりも高いかどうか判定する。この設定値は、この値よりも吸気圧が低く(負圧が大きく)なれば、気筒12への吸気の充填量があまり多くはならず、エンジン1が大きく吹け上がらなくなるような値であり、具体的には実験等により求められ、エンジン1の暖機後のアイドル運転時における吸気圧状態よりも少し高圧側に設定されている。
そうして、吸気圧が前記設定値よりも高いとき(ステップSB15でYES)には、ステップSB16に進み、前記停止時吸気行程気筒12に続いてTDCを迎える気筒12(図3では#4気筒12D)、即ち停止時排気行程気筒12の点火時期もTDC以降に遅角させて、前記ステップSB15へリターンする。そして、吸気圧が前記設定値以下になるまでの間は、前記ステップSB15でYESと判定して、ステップSB16に進み、その後、順番に点火時期を迎える各気筒12B,12A,…の点火時期もそれぞれTDC以降に遅角させる。一方、吸気圧が前記設定値よりも低くなれば、ステップSB15でNOと判定してステップSB17に進み、点火時期をTDC前に設定する(通常制御に移行)。
すなわち、このフローでは、エンジン1の始動開始に伴い吸気行程に移行する前記停止時排気行程気筒12Dと、その後、順番に吸気行程を迎える各気筒12B,12A,…とにそれぞれ吸気通路21から大気圧に近い状態の空気が吸入されて、それらの気筒12の吸気充填量が多くなることを考慮して、吸気圧が比較的高い間は各気筒12A〜12Dの点火時期をTDC以降に遅角することで、燃焼トルクの増大を抑えて、エンジン1の急な吹け上がりを防止するようにしている。
前記図10に示す始動制御のフローのステップSB1〜SB8により、エンジン1の自動停止後に所定の再始動条件が成立したとき、停止時圧縮行程気筒12内に燃料を噴射して、点火することにより、エンジン1を一旦、逆転作動させるとともに、これに伴い圧縮される停止時膨張行程気筒12内にも燃料を噴射し、且つ逆転作動後に点火することにより、始動モータを用いずに自動で再始動する自動始動手段2bが構成されている。
特に、そのうちのステップSB3,SB7において、エンジン停止中の燃料漏れ量を考慮して、始動のための燃料噴射量を補正する、という制御手順が補正手段2cに対応しており、この補正手段2cは、エンジン1の停止から前記自動始動手段2bによる各気筒12への燃料供給までの時間と、該各気筒12毎に学習した燃料漏れ量の特性とに基づいて、燃料噴射量を補正するようになっている。
以上、詳述したエンジン自動始動制御によると、アイドル時に自動停止したエンジン1を再始動要求に応じて始動モータ等を用いることなく自力で再始動させることができる。すなわち、主に図13に示すように、エンジン1の停止中に再始動要求があったときには(時刻t0)、まず、図13(a)に符号a1として示すように、圧縮行程で停止している#1気筒12Aの燃料噴射弁16が作動されて、当該気筒12A内に燃料が噴射され、これにより当該気筒12内に空燃比のリッチな混合気が形成される。このリッチ混合気に点火プラグ17により点火されて(a2)燃焼すると、同図(e)にT1として示すようにマイナス方向のトルク(逆転トルク)が発生し、これによりクランク軸3が逆転方向(図12の左方向)に回動する(時刻t1)。このため、同図(f)の如くエンジン回転速度は一時的に負の値になる。
前記エンジン1の逆転作動がクランク角センサ30,31からの信号により検出されると、同図(b)の如く、停止時膨張行程気筒12(#2気筒12B)の燃料噴射弁16が作動されて(a3)、当該気筒12B内に混合気が形成され、逆転作動によるピストン13の上昇によって圧縮される。この際、前記の逆転トルクT1が十分に大きいことから、停止時膨張行程気筒12Bのピストン13はTDCの近傍まで上昇し、気筒12B内の混合気が十分に圧縮されて温度及び圧力の高い状態になる。そして、その圧縮圧力によりエンジン1の回転方向が逆転から正転に反転したとき、即ち、同図(f)に示すようにエンジン回転速度が負値から零に戻った直後に点火が行われると(同図(b)のa4)、これにより大きな燃焼圧が発生し、同図(e)にT2として示すように始動トルクが立ち上がって、同図(f)の如くエンジン回転速度が上昇する(時刻t2:正転開始)。
そして、その正転作動に伴い停止時圧縮行程気筒12A内が圧縮されるとき、同図(a)に示すように、その圧縮行程の中期以降で再び当該気筒12A内への燃料噴射(追加の燃料噴射)が行われて(a5)、燃料の気化潜熱により気筒12A内が冷却されることで、この追加の燃料噴射を行わない場合(図に破線で示す)に比べて気筒12A内の温度及び圧力の上昇が大幅に抑制される。これにより、エンジン1は始動時に最初に迎えるTDC(第1のTDC)を確実に越えることができるようになり、しかも、その際のエンジン回転の落ち込みが軽減される(同図(f))。また、前記圧縮行程気筒12Aの冷却のために噴射された燃料は、その後、排気通路22の触媒29において吸蔵されている酸素と反応し、無害化されることになるので、何ら問題は生じない。
前記のようにして停止時圧縮行程気筒12Aが始動時最初の第1TDCを越えた後に、これに伴い圧縮行程に移行した停止時吸気行程気筒12C(#3気筒)に対し、同図(c)に示すように圧縮行程中期以降に燃料の噴射が行われ(a6)、気化潜熱により気筒12内が冷却される。このことで、圧縮による温度及び圧力の上昇が抑制されて、自着火の発生が防止されるとともに、気筒12Cの圧縮反力が小さくなり、加えて、当該気筒12Cへの点火時期がTDC以降まで遅角されることで、TDC前の点火、燃焼による気筒内圧の上昇が回避される。これにより、エンジン回転の落ち込みが小さくなり、エンジン1は第2のTDCも確実に越えることができるようになる。
そして、その第2のTDCを越えて膨張行程に移行した停止時吸気行程気筒12Cに点火されて(a7:例えばTDC後20°CAくらい)、燃焼が行われると、エンジン1に正転方向のトルクが付加されて、同図(e)にT3として示すように始動トルクが立ち上がり、これにより、同図(f)の如くエンジン回転速度がアイドル回転速度(この例では650rpm)近くまで上昇する。続いて、同図(d)に示すように、停止時排気行程気筒12Dに対しその吸気行程で燃料が噴射されるとともに(a8)、TDC(第3のTDC)以降で点火が行われ(a9:例えばTDC後10°CAくらい)、さらに、前記停止時膨張行程12B及び停止時圧縮行程気筒12Aにもそれぞれ燃料噴射(a10,a12)及び点火(a11,a13)が行われて、同図(f)に示すようにエンジン回転が徐々にアイドル回転速度に収束してゆく。
−燃料漏れ量の学習−
上述したように、アイドルストップ等の後にエンジン1を自動で始動するときには、圧縮行程や膨張行程で停止している気筒12,12内に燃料を噴射供給し、これに点火して燃焼させることにより、始動モータを用いずに自力で始動させるのであるが、その際、該各気筒12A〜12D内ではエンジン1の停止中に燃料噴射弁16の噴孔から漏れ出した燃料が気化して、混合気が形成されている。そして、エンジン1を自力で始動させるときにはクランキングを行わないので、吸排気弁19,20の閉じている圧縮行程気筒12や膨張行程気筒12の内部には前記の如く混合気が存在しており、そこに始動のための燃料が噴射されると、気筒12内は空燃比の過度にリッチな状態になってしまい、燃焼状態の悪化によって始動性が損なわれる虞れがある。
この点を考慮して、この実施形態のエンジンシステムEでは、エンジン1が手動で停止された後に、時間の経過に応じて各気筒12A〜12D内に漏れ出す燃料の量を学習し、この学習結果に基づいて、自動始動の際に各気筒12A〜12D内に新たに噴射する燃料の量を補正できるようにしている。すなわち、IGスイッチ33の操作に応じてエンジン1が停止(手動停止)されたときに、膨張行程で停止している気筒12に予め設定した非常に短い時間間隔で繰り返し点火を行い、当該気筒12内に漏れ出した燃料の混合気に着火する迄の時間を計測して、これにより燃料漏れ量の時間変化の特性を推定する。
そのような燃料漏れ特性の推定は前記エンジン1の手動停止時に限らず、自動停止のときにも行うことができるが、その場合には、自動停止後のエンジン1の膨張行程気筒12内で混合気に着火することから、当該気筒12内の空気が消費されるとともに、既燃ガスが発生することになり、その後、該膨張行程気筒12で良好な燃焼を行うことができず、エンジン1を自力で始動できなくなる虞れがある。そこで、この実施形態では、前記燃料漏れ特性の推定はエンジン1が手動で停止されたときにのみ行い、この推定結果に基づいて各気筒12A〜12D毎の燃料漏れ特性テーブルを更新する(学習)ようにしている。
以下に、エンジン1の手動停止後に所定気筒12の燃料漏れ特性を学習する制御の手順を、主に図14のフローチャート図に基づいて説明する。このフローはエンジン1の運転状態からスタートし(START)、まず、ステップSD1でIGスイッチ33がオフ操作されたかどうか判定する(IG.オフ?)。そして、オフ操作されていなければ、操作されるまで待機する一方、オフ操作されれば(YES)ステップSD2へ進んで、上述の自動停止の場合と同様に(図4のフローを参照)各気筒12A〜12Dへの燃料噴射を停止し(燃料cut)、続くステップSD3においてスロットル弁23を所定期間、開く(スロットル開閉)。これにより前記自動停止の場合と同様に各気筒12A〜12Dの十分な掃気が行われ、また、排気通路22の触媒29に多量の新気が供給される。
続いて、ステップSD4においても前記自動停止の場合と同様に、クランク角センサ30,31からの信号に基づいてエンジン1の停止(完全な停止)を確認し、エンジン1が停止するまでは(NO)待機する一方、エンジン1の停止が確認されれば(YES)、ステップSD5に進んで、エンジン運転中の気筒識別の結果から膨張行程で停止する気筒12を検出するとともに、前記クランク角信号に基づいてその気筒12におけるピストンの停止位置を検出する。
続いて、ステップSD6では、前記膨張行程気筒12のピストン停止位置に基づいて、上述した自動始動のフローのステップSB2(図10参照)と同様にして、当該気筒12内の空気量を算出する。また、ステップSD7では、図15(a)に模式的に示すように、設定時間間隔(例えば25ミリ秒間隔)で前記膨張行程気筒12の点火プラグ17に通電し(点火)、続くステップSD8において、前記自動始動のフローのステップSB5と同様に、クランク角センサ30,31からの信号のエッジが検出されたか否かにより、ピストン13が動いたかどうか判定する。
すなわち、エンジン1の停止後は、各気筒12A〜12Dにおいてそれぞれ燃料噴射弁16の噴孔から少しずつ漏れ出す燃料が高温の気筒12内で気化して混合気を形成する。そして、吸気弁19及び排気弁20の閉じている圧縮行程気筒12や膨張行程気筒12においては、図15(b)に示すように燃料の漏れ量が増加するに従って、当該気筒12内の空燃比が徐々にリッチ側に変化してゆき、着火可能な状態になれば、前記の如く繰り返される点火によって混合気に着火し、燃焼することによりピストン13が動いて、クランク角信号が立ち上がることになる(同図(c)のエッジ検出)。
従って、前記膨張行程気筒12内に漏れ出した燃料の量が未だあまり多くなっておらず、当該気筒12内の空燃比が着火限界よりもリーンであれば、いくら点火しても混合気には着火せず、前記ステップSD8の判定はNOとなって、ステップSD7にリターンし、点火を継続する。そして、時間の経過とともに膨張行程気筒12内に漏れ出た燃料の量が多くなって、当該気筒12内の空燃比が着火限界よりもリッチになれば、混合気に着火してピストン13が動き、これによりクランク角信号のエッジが検出されると(ステップSD8でYES)、ステップSD9に進んで、エンジン1の停止からの経過時間を計測しているタイマの値を読み込む。
続いて、ステップSD10において、前記ステップSD6にて求めた気筒12内の空気量と、混合気のリーン側の着火限界に対応づけて予め設定された空燃比(例えばA/Fで40くらい)とに基づいて、気筒12内に漏れ出した燃料の量を算出し、この燃料の量と、前記ステップSD9にて読み込んだ計測時間とに基づいて、当該気筒12における燃料漏れ量の時間変化を推定する。続いて、ステップSD11において、前記膨張行程気筒12の燃料漏れ特性テーブルを前記の推定結果により修正して、更新し(該当気筒の燃料漏れ特性を学習)、しかる後に制御終了となる(END)。
ここで、前記の燃料漏れ特性テーブルというのは、前記図15(b)に示されるように、時間の経過に伴って燃料の漏れ量が増加する様子を、横軸に時間経過を取り、縦軸に燃料の漏れ量を取って直線乃至曲線のグラフとして表したものである。すなわち、時間当たりの燃料の漏れ量が略一定であると近似すれば、燃料漏れ特性は、図に実線で示すような直線のグラフで表され、そのグラフの傾きが前記推定結果に応じて変更されることになる。なお、時間当たりの燃料の漏れ量は燃圧の高いときほど多いと考えることもできるので、図に破線で示すような曲線のグラフで表してもよい。
そして、こうして各気筒12A〜12D毎に修正、更新される燃料漏れ特性テーブルからエンジン停止後の経過時間に対応する燃料漏れ量を読み出せば、該各気筒12内に漏れ出した燃料の量を正確に推定することができ、これにより、上述した自動始動制御のフロー(図4参照)のステッップSB3,SB7においてそれぞれ停止時圧縮行程気筒12、停止時膨張行程気筒12内に噴射する燃料の量を適切に補正することができる。
なお、前記のフローでは、エンジン1の停止後に膨張行程にある気筒12に繰り返し点火して、この気筒12における燃料漏れ特性を推定するようにしているが、この推定は、吸気弁19及び排気弁20が閉じている気筒12であれば行うことができるので、圧縮行程にある気筒12で行うようにしてもよい。
前記図14に示した学習制御のフローのステップSD2により、IGスイッチ33がオフ操作されたときに各気筒12A〜12Dへの燃料供給を停止して、エンジン1を停止させる手動停止手段2dが構成されている。
また、前記フローのステップSD6により、エンジン1の停止後に膨張行程にある気筒12内の空気量を検出する検出手段2eが構成され、ステップSD7により、エンジン1の停止後に膨張行程にある気筒12に繰り返し点火する停止後点火手段2fが構成され、さらに、ステップSD8により、前記の点火によって前記膨張行程気筒12内の混合気に着火したことを判別する判別手段2gが構成されている。
そして、前記フローのステップSD9〜SD11により、前記膨張行程気筒12内の空気量と、リーン側の着火限界に対応する設定空燃比とに基づいて、前記着火の判別時点における気筒12内の燃料漏れ量を算出するとともに、エンジン1の停止から前記着火判別時までの時間を計測して、その計測時間と前記燃料漏れ量とに基づいて当該気筒12の燃料漏れ特性(燃料漏れ量の時間変化特性)を推定し且つ記憶する学習手段2hが構成されている。
したがって、この実施形態のエンジンシステムEによると、エンジン1の運転中にIGスイッチ33がオフ操作され、これに応じてエンジン1が停止したときに前記の学習制御(図14,15)が実行されて、膨張行程にある気筒12に繰り返し点火が行われ、これにより混合気に着火するまでの経過時間から当該気筒12における燃料漏れ量の時間変化が推定される。この推定結果に基づいて当該気筒12の燃料漏れ特性テーブルが修正、更新される。
一方、アイドル時にエンジン1が自動で停止するときには、上述した停止制御(図4〜6等)により、燃料カット後の所定期間、スロットル弁23が開かれるとともに、その後、オルタネータ28及びスロットル弁23の制御によりエンジン回転速度の低下の度合いが調整されることにより、各気筒12A〜12Dの既燃ガスが掃気され、且つエンジン停止後の膨張行程気筒12においてピストン13を再始動に好適な所定範囲Rに停止させることができる。
そして、その後のエンジン1の再始動時には、上述の始動制御(図10〜12等)により、圧縮行程にある気筒12内に燃料が噴射されて点火され、これによりエンジン1が一旦、逆転作動するとともに、これに伴い圧縮される膨張行程気筒12内にも燃料が噴射され、且つ逆転作動後に点火されることによって、該膨張行程気筒12の燃焼による正転方向のトルクが十分に大きなものとなり、これにより始動モータを用いることなくエンジン1を自力で始動させることができる。
しかも、その際、前記圧縮行程気筒12及び膨張行程気筒12内への燃料噴射量がエンジン1の停止から再始動までの時間経過に応じて、前記燃料漏れ特性テーブルに基づいて補正されることで、該各気筒12内に燃料が漏れ出していても、その分、新たに噴射する燃料の量が適切に補正されて、各気筒12内の空燃比が所期の狙い通りの適切なものとなり、このことによって前記各気筒12の燃焼状態がいつも良好なものとなるので、前記エンジン1の自力始動をより確実なものとすることができる。
なお、この実施形態のエンジンシステムEでは、燃料漏れ特性の推定をエンジン1の手動停止時にのみ行うようにしているが、これに限らず、アイドルストップ等の自動停止のときにも燃料漏れ特性を推定することができる。但し、この場合には、上述したように、推定気筒12内の空気が消費され、既燃ガスが発生することで、その後の自力始動が困難になるから、アイドルストップ後の再始動時であっても始動モータによりクランキングを行い、これによりエンジン1を確実に始動することが好ましい。
また、そのようにエンジン1の自動始動時にクランキングを行うと、これに伴う振動や騒音が運転者に違和感を与える虞れがあるので、好ましくは、自動停止のときに燃料漏れ特性の推定を行うのは例えば50〜100回に1回(予め設定した回数に1回)程度の割合とすべきである。このように自動始動時に時折、燃料漏れ特性の推定を行うようにするだけでも、元々、その自動停止の回数が手動停止に比べて格段に多いことから、燃料漏れ量の学習頻度が大幅に高くなり、これにより、燃料噴射弁16の個体ばらつきやその経年変化を早期に学習して、自動始動時の燃料噴射制御に反映させることができる。
さらに、本願発明は、この実施形態のように最初にエンジン1を少しだけ逆転させて、停止時膨張行程気筒12の混合気を圧縮した後に点火するようにしたエンジンシステムEだけでなく、最初に停止時膨張行程気筒12に点火して、これによりエンジン1を再始動するようにしたものにも適用可能である。