JP2005187366A - 線維化を伴う炎症性腸疾患の治療剤及びそのスクリーニング方法 - Google Patents

線維化を伴う炎症性腸疾患の治療剤及びそのスクリーニング方法 Download PDF

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Abstract

【課題】 線維化を伴う炎症性腸疾患(inflammatory bowel disease; IBD)を反映する薬効評価系、該疾患の改善に有用な薬物を提供する。
【解決手段】 IL-1拮抗剤、抗IL-1抗体、IL-1遺伝子の発現の阻害剤、またはIL-1タンパク質の発現や機能(活性)の抑制剤を、線維化を伴うIBDの疾患治療剤として用いる。
【選択図】 なし

Description

本発明は、線維化を伴う炎症性腸疾患(inflammatory bowel disease; 以下IBDと略する)の改善薬または治療薬に関する。
また本発明は、線維化を伴うIBDの予防、改善または治療薬として有効な物質を見出すためのスクリーニング方法、線維化を伴うIBDモデル動物、及び線維化を伴うIBDを診断する方法に関する。
腸は、生体の生命活動に必須である栄養分・水分を消化吸収する器官である。一方で病原体などの異物を排除するための免疫防御機能も備えており相反する性質をバランスよく制御することで生命の維持を担っている器官でもある。しかしこれら機能バランスに異常が生じると、この動的平衡状態が破綻し様々な腸疾患が引き起こされることが知られている。特に近年患者数が増加してきているIBDは、スルファサラジン等の5−アミノサリチル酸製剤やステロイド等の薬物療法では満足できる治療効果が得られておらず、そのため腸切除手術、白血球除去等で治療している状態であり、よりよい薬物が必要とされている。
IBDは、その病態から潰瘍性大腸炎(ulcerative colitis; UCと略される)とクローン病(Crohn's disease; CDと略される)とに分類されている。近年、抗TNF抗体などのタンパク製剤がクローン病の治療剤として有効であることが知られている。しかしながら高価な薬剤であるためステロイド耐性の患者のみの適応であり、また潰瘍性大腸炎に対する効果が明らかでないことから、未だ満足できる医療状況に無いのが現状である。
IBDの発症機序としては免疫異常に伴う腸局所での過剰な免疫応答が病態に大きく関与していると考えられている。特に活性化マクロファージ等から産生されるIL-1、IL-6、TNF-αなどの炎症性サイトカインは、粘膜局所に炎症性細胞の浸潤を引き起こすことで腸炎症反応を増強していると考えられ、これらサイトカインを抑制する療法は有望な治療法と考えられている。
一方、これらサイトカインは炎症期における病態の改善に有効であるため、炎症の激しい時期に患者に投与されていくのが現状であり、一旦、炎症が治まり、炎症組織の修復が起こった後の、緩解期の安定化のためにはスルファサラジン等の5−アミノサリチル酸製剤が投与され続けている。
消化管機能障害の原因の1つとして線維症が考えられており(非特許文献1)、クローン病では線維症に基づく腸管狭窄が臨床上重要な問題となる。潰瘍性大腸炎では粘膜の潰瘍の治癒機転で線維化が生じる、腸管狭窄にまでは至らないが腸粘膜形成以上により腸管機能障害に関与している可能性がある。この腸管の線維化を引き起こす因子としては、これまでにTransforming growth factor-β、Connective tissue growth factorやInsulin-like growth factor-1(非特許文献2,3,4)が知られている。
現状では、腸管の線維化を伴うIBDモデル動物が報告されていないため、線維化を伴うIBDに関与する病原因子を研究すること、および線維化を伴うIBDに対する治療薬候補物質の効果を評価することは困難である。
Jiranek GC and Bredfelt JE. Organ involvement : Gut and hepatic manifestations : Clements PJ and Furst DE ed. Systemic Scleosis, p453 (Williams & Wilkins, Baltimore, 1996) Ann Surg 229, 67 (1999) International Journal of Biochemistry & Cell Biology. 30:909-22 (1998) Inflammatory Bowel Diseases. 7:16-26 (2001)
本発明は、線維化を伴うIBDの予防、改善または治療薬を提供することを目的とする。
さらに本発明は、線維化を伴うIBDの予防、改善または治療薬として有効な物質を見出すためのスクリーニング方法、線維化を伴うIBDモデル動物、及び線維化を伴うIBDを検出する方法を提供することを目的とする。
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究を行う過程において、線維化を伴うIBDモデル動物を新たに作製し、その評価方法を確立した。また、本発明の線維化を伴うIBDモデル動物において、IL-1が大腸に高発現していることを見出した。
更に本発明者は、線維化を伴わないIBDモデル動物に抗IL-1抗体を投与しても症状の改善は認められないが、線維化を伴うIBDモデル動物に抗IL-1抗体を投与すると結腸の線維化と腸炎症状(便状態の悪化)が改善されることを見出した。
これらのことから、本発明者は、IL-1が線維化を伴うIBDの線維化形成に関与して病態を慢性化させており、IL-1拮抗剤等が線維化を伴うIBDの優れた改善または治療薬となりえるとの知見を得た。さらにIL-1遺伝子の発現抑制や、IL-1の発現抑制や機能(活性)抑制としたスクリーニングは線維化を伴うIBDの予防、改善または治療薬の探索に有効であるとの知見を得、線維化を伴うIBDモデル動物の有用性も確認できた。
本発明はかかる知見を基礎にして完成するに至ったものである。
すなわち本発明は、下記に掲げるものである:
(1)IL-1拮抗薬を有効成分とする線維化を伴う炎症性腸疾患の予防、改善または治療剤、
(2)抗IL-1抗体を有効成分として含有する線維化を伴う炎症性腸疾患の予防、改善または治療剤、
(3)以下の(a)または(b)の核酸:
(a)IL-1をコードする塩基配列に相補的な塩基配列を含有する核酸、
(b)IL-1をコードする塩基配列からなる核酸もしくは転写後プロセッシングにより該塩基配列を生じる初期転写物と、治療対象動物の生理的条件下でハイブリダイズする塩基配列を含有し、且つハイブリダイズした状態でIL-1の転写または翻訳を抑制する核酸、
を有効成分として含有する線維化を伴う炎症性腸疾患の予防、改善または治療剤、
(4)下記の工程(a)、(b)及び(c)を含む、IL-1遺伝子の発現を減少させる物質のスクリーニング方法:
(a)被験物質とIL-1遺伝子を発現することが可能な細胞とを接触させる工程、
(b)被験物質を接触させた細胞におけるIL-1遺伝子の発現量を測定し、該発現量を被験物質を接触させない対照細胞における上記に対応する遺伝子の発現量と比較する工程、
(c)上記(b)の比較結果に基づいて、IL-1遺伝子の発現量を減少させる被験物質を選択する工程、
(5)下記の工程(a)、(b)および(c)を含むIL-1タンパク質の発現量を低下させる物質のスクリーニング方法:
(a)被験物質とIL-1タンパク質を発現することが可能な細胞または該細胞から調製した細胞画分とを接触させる工程、
(b)被験物質を接触させた細胞または細胞画分におけるIL-1タンパク質の発現量を測定し、該発現量を被験物質を接触させない対照細胞もしくは細胞画分における上記IL-1タンパク質の発現量と比較する工程、
(c)上記(b)の比較結果に基づいて、IL-1タンパク質の発現量を低下させる被験物質を選択する工程、
(6)下記の工程(a)、(b)および(c)を含むIL-1の機能(活性)を抑制する物質のスクリーニング方法:
(a)被験物質をIL-1に接触させる工程、
(b)上記(a)の工程に起因して生じるIL-1の機能(活性)を測定し、該機能または活性を被験物質を接触させない場合のIL-1の機能(活性)と比較する工程、
(c)上記(b)の比較結果に基づいて、IL-1タンパク質の機能(活性)を抑制する被験物質を選択する工程、
(7)線維化を伴う炎症性腸疾患の予防、改善または治療剤の有効成分を探索するための方法である、(4)〜(6)のいずれかに記載のスクリーニング方法、
(8)(7)記載のスクリーニング方法により得られる有効成分を含有する線維化を伴う炎症性腸疾患の予防、改善または治療剤、
(9)IL-1に特異的親和性を有する抗体またはIL-1をコードする核酸もしくは該核酸とストリンジェントな条件でハイブリダイズしえる核酸をもちいて、生体試料中のIL-1またはIL-1遺伝子の転写産物を測定することを含む、線維化を伴う炎症性腸疾患の診断方法、
(10)IL-1に特異的親和性を有する抗体またはIL-1をコードする核酸もしくは該核酸とストリンジェントな条件でハイブリダイズしえる核酸を含んでなる線維化を伴う炎症性腸疾患の診断薬、
(11)動物に2,4,6-Trinitrobenzene sulphonic acid(TNBS)を注入して作製される線維化を伴う炎症性腸疾患モデル動物、
(12)動物がげっ歯類動物である(11)の線維化を伴う炎症性腸疾患モデル動物、
(13)動物がSJL/Jマウスである(11)記載の線維化を伴う炎症性腸疾患モデル動物、
(14)下記の工程(a)、(b)および(c)を含む線維化抑制剤のスクリーニング方法:
(a)動物にTNBSを注入する工程、
(b)被検物質を投与する工程、
(c)線維化の程度を評価する工程、
(15)工程(a)における動物がげっ歯類動物である(14)記載のスクリーニング方法、
(16)工程(a)における動物がSJL/Jマウスである(14)記載のスクリーニング方法、
(17)動物にTNBSを注入することを特徴とする線維化を伴う炎症性腸疾患モデル動物の作製方法。
本発明によって、線維化を伴うIBDとIL-1との関連性が明らかとなった。そのため、IL-1拮抗剤および抗IL-1抗体等は、腸の線維化を伴ったIBDの患者に積極的に適用できる治療薬として用いることができる。また、IL-1遺伝子の発現、IL-1タンパク質発現あるいはIL-1の機能を抑制することを指標として線維化を伴うIBDの治療薬となりえる候補薬をスクリーニング選別すること、及びIL-1遺伝子またはIL-1タンパク質の発現を検査することにより線維化を伴うIBDを診断することも可能となった。
さらに本発明の線維化を伴うIBDモデル動物は、線維化を伴うIBDの研究及び治療薬のスクリーニングに有用である。本発明は、このような線維化を伴ったIBDの治療薬及びその開発技術を提供する。
以下、本明細書において、アミノ酸、(ポリ)ペプチド、(ポリ)ヌクレオチドなどの略号による表示は、IUPAC-IUBの規定〔IUPAC-IUB Communication on Biological Nomenclature, Eur. J. Biochem., 138: 9 (1984)〕、「塩基配列又はアミノ酸配列を含む明細書等の作成のためのガイドライン」(日本国特許庁編)および当該分野における慣用記号に従う。
本明細書における「IL-1」とは、天然型IL-1または遺伝子組換型IL-1であり、IL-1の型としては、IL-1αまたはIL-1β等を挙げることができる。IL-1は、ヒト由来IL-1または他の哺乳動物由来IL-1のいずれであってもよい。
本明細書において「遺伝子」または「DNA」とは、2本鎖DNAのみならず、それを構成するセンス鎖およびアンチセンス鎖という各1本鎖DNAを包含する趣旨で用いられる。またその長さによって特に制限されるものではない。従って、本明細書において遺伝子(DNA)とは、特に言及しない限り、ヒトゲノムDNAを含む2本鎖DNAおよびcDNAを含む1本鎖DNA(正鎖)並びに該正鎖と相補的な配列を有する1本鎖DNA(相補鎖)、およびこれらの断片のいずれもが含まれる。
また当該「遺伝子」または「DNA」には、特定の塩基配列(配列番号:1、3)で示される「遺伝子」または「DNA」だけでなく、これらによりコードされるタンパク質と生物学的機能が同等であることを限度として、その同族体(ホモログ)、誘導体および変異体をコードする「遺伝子」または「DNA」が包含される。これら同族体(ホモログ)、誘導体および変異体をコードする「遺伝子」または「DNA」とは、具体的には、後述の(1)項に記載のストリンジェントな条件下で、前記の配列番号:1、3で示される特定塩基配列とハイブリダイズする塩基配列を有する「遺伝子」または「DNA」を挙げることができる。また、前記同族体(ホモログ)をコードする遺伝子、例えばヒト遺伝子に対応するマウスやラットなどの他生物種の遺伝子は、HomoloGene(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/HomoloGene/)により同定することができる。具体的には、特定ヒト塩基配列をBLAST (Proc. Natl. Acad. Sci. USA., 90: 5873-5877, 1993、http://www.ncbi.nlm.nih.gov/BLAST/)にかけて一致する(Scoreが最も高く、E-valueが0でかつIdentityが100%を示す)配列のアクセッション番号を取得し、そのアクセッション番号をHomoloGeneに入力して得られた他生物種遺伝子とヒト遺伝子との遺伝子ホモログの相関を示したリストから、選抜することができる。なお、上記遺伝子またはDNAは機能領域の別を問うものではなく、例えば発現制御領域、コード領域、エキソンまたはイントロンを含むことができる。
本明細書において「IL-1遺伝子」または「IL-1のDNA」といった用語を用いる場合、特に言及しない限り、特定塩基配列で示されるヒトIL-1α遺伝子(DNA)(配列番号:1)、ヒトIL-1β遺伝子(DNA)(配列番号:3)、それらの同族体、変異体及び誘導体などをコードする遺伝子(DNA)を包含する趣旨で用いられる。具体的には、配列番号:1に記載のヒトIL-1α遺伝子(GenBank Accession No.NM_000575)、配列番号:3に記載のヒトIL-1β遺伝子(GenBank Accession No.NM_000576)、およびそれらのマウスホモログやラットホモログなどが包含される。
本明細書において「核酸」とは、RNAおよびDNAのいずれをも包含する趣旨で用いられる。なお、上記DNAには、cDNA、ゲノムDNAおよび合成DNAのいずれもが含まれる。また上記RNAには、total RNA、mRNA、rRNAおよび合成のRNAのいずれもが含まれる。
本明細書において「タンパク質」または「(ポリ)ペプチド」には、特定のアミノ酸配列(配列番号:2または配列番号:4)で示される「タンパク質」または「(ポリ)ペプチド」だけでなく、これらと生物学的機能が同等であることを限度として、その断片、同族体(ホモログやスプライスバリアント)、変異体、誘導体およびアミノ酸修飾体などが包含される。ここでホモログとしては、ヒトのタンパク質に対応するマウスやラットなど他生物種のタンパク質が例示でき、これらはHomoloGene(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/HomoloGene/)により同定された遺伝子の塩基配列から演繹的に同定することができる。また変異体には、天然に存在するアレル変異体、天然に存在しない変異体、および人為的に欠失、置換、付加および挿入されることによって改変されたアミノ酸配列を有する変異体が包含される。なお、上記変異体としては、変異のないタンパク質または(ポリ)ペプチドと、少なくとも70%、好ましくは80%、より好ましくは95%、さらにより好ましくは97%相同なものを挙げることができる。またアミノ酸修飾体には、天然に存在するアミノ酸修飾体、天然に存在しないアミノ酸修飾体が包含され、具体的にはアミノ酸のリン酸化体が挙げられる。
従って本明細書において「IL-1タンパク質」または単に「IL-1」といった用語を用いる場合、特に言及しない限り、特定アミノ酸配列(配列番号:2、4)で示されるヒトIL-1α、ヒトIL-1β、それらの同族体、変異体、誘導体及びアミノ酸修飾体などを包含する趣旨で用いられる。具体的には、配列番号:2に記載のアミノ酸配列を有するヒトIL-1α、配列番号:4に記載のアミノ酸配列を有するヒトIL-1β、およびそれらのマウスホモログやラットホモログなどが包含される。
本明細書でいう「抗体」には、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、キメラ抗体、一本鎖抗体、およびFabフラグメント、Fab発現ライブラリーなどによって生成されるフラグメントのような抗原結合性を有する上記抗体の一部が包含される。
さらに本明細書において「診断薬」とは、線維化を伴う炎症性腸疾患(IBD)の罹患の有無、罹患の程度若しくは改善の有無や改善の程度を診断するために、また線維化を伴う炎症性腸疾患(IBD)の予防、改善または治療に有用な候補物質をスクリーニングするために、直接または間接的に利用されるものをいう。これには、線維化を伴う炎症性腸疾患(IBD)の罹患に関連して生体内、特に大腸組織において、発現が変動する遺伝子またはタンパク質を特異的に認識し、また結合することのできる(ポリ)(オリゴ)ヌクレオチドまたは抗体が包含される。これらの(ポリ)(オリゴ)ヌクレオチドおよび抗体は、上記性質に基づいて、生体内、組織や細胞内などで発現したIL-1遺伝子及びタンパク質を検出するためのプローブとして、また(オリゴ)ヌクレオチドは生体内で発現した上記遺伝子を増幅するためのプライマーとして有効に利用することができる。
さらに本明細書において診断対象となる「生体組織」とは、線維化を伴う炎症性腸疾患(IBD)に伴い本発明のIL-1遺伝子の発現が上昇する組織を指す。具体的には大腸組織及びその周辺組織などを指す。
なお、本明細書において「線維化を伴う炎症性腸疾患」とは、病理組織学的に腸管に線維化像が認められる炎症性腸疾患のことである。「IBD」はinflammatory bowel diseaseの略であり、日本では炎症性腸疾患と呼ばれる。病態から潰瘍性大腸炎(ulcerative colitis:UCと略される)とクローン病(Crohn's disease:CDと略される)に分類されている。
以下、本発明の具体的な内容を説明する。
(1)線維化を伴う炎症性腸疾患の予防、改善または治療剤
本発明の第一の態様は、IL-1拮抗薬、抗IL-1抗体またはIL-1遺伝子に対するアンチセンスヌクレオチド等を含有する線維化を伴う炎症性腸疾患の予防、改善または治療剤である。
本明細書において「IL-1拮抗薬」とは、IL-1とIL-1受容体の結合を阻害する物質であればよく、好ましくは、IL-1βとIL-1β受容体の結合を阻害する物質内在性タンパク質あるいは合成化合物である。具体的には、IL-1受容体アンタゴニストおよび抗IL-1受容体抗体などを挙げることができる。IL-1拮抗薬としては、例えば、Amgen社の抗リウマチ剤Kineret(anakinra、IL-1受容体アンタゴニスト)、米国Regeneron Pharmaceuticals 社のIL-1 阻害剤「IL1 Trap 」などを挙げることができる。
本明細書において「抗IL-1抗体」とは、IL-1を特異的に認識する抗体であればよく、具体的には、IL-1α遺伝子の発現産物(タンパク質)(これを本明細書においては「IL-1α」ともいう)またはIL-1β遺伝子の発現産物(タンパク質)(これを本明細書においては「IL-1β」ともいう)を特異的に認識することのできる抗体であればよいが(以下、本発明の抗体と称する場合がある)、IL-1βを特異的に認識することのできる抗体が好ましい。例えば、市販の抗体である抗ヒトIL-1α抗体、抗ヒトIL-1β抗体、抗ヒトIL-1α抗体および抗ヒトIL-1β抗体(Genzyme TECHNE社製、大日本製薬社製あるいはシグマ社製等)を挙げることができる。
本発明の抗体は、その形態に特に制限はなく、IL-1タンパク質(具体的には配列番号:2または配列番号:4に記載のアミノ酸配列からなるIL-1タンパク質)を免疫抗原とするポリクローナル抗体であっても、またそのモノクローナル抗体であってもよい。さらにIL-1タンパク質のアミノ酸配列のうち少なくとも連続する、通常8アミノ酸、好ましくは15アミノ酸、より好ましくは20アミノ酸からなるポリペプチドに対して抗原結合性を有する抗体も、本発明の抗体に含まれる。
これらの抗体の製造方法は、すでに周知であり、本発明の抗体もこれらの常法に従って製造することができる(Current Protocol in Molecular Biology, Chapter 11.12〜11.13(2000))。具体的には、本発明の抗体がポリクローナル抗体の場合には、常法に従って大腸菌等で発現し精製したIL-1タンパク質を用いて、あるいは常法に従ってこれらタンパク質の部分アミノ酸配列を含有するオリゴペプチドを合成して、家兎等の非ヒト動物に免疫し、該免疫動物の血清から常法に従って得ることが可能である。一方、モノクローナル抗体の場合には、常法に従って大腸菌等で発現し精製したIL-1タンパク質、あるいはこれらタンパク質の部分アミノ酸配列を含有するオリゴペプチドをマウス等の非ヒト動物に免疫し、得られた脾臓細胞と骨髄腫細胞とを細胞融合させて調製したハイブリドーマ細胞の中から得ることができる(Current protocols in Molecular Biology edit. Ausubel et al. (1987) Publish. John Wiley and Sons. Section 11.4〜11.11)。
抗体の作製に免疫抗原として使用されるIL-1タンパク質(具体的には配列番号:2に記載のアミノ酸配列よりなるIL-1αタンパク質、または配列番号:4に記載のアミノ酸配列よりなるIL-1βタンパク質)は、本発明により提供される遺伝子の配列情報(配列番号:1、3)に基づいて、DNAクローニング、各プラスミドの構築、宿主へのトランスフェクション、形質転換体の培養および培養物からのタンパク質の回収の操作により得ることができる。これらの操作は、当業者に既知の方法、あるいは文献記載の方法(Molecular Cloning, T.Maniatis et al., CSH Laboratory (1983), DNA Cloning, DM. Glover, IRL PRESS (1985))などに準じて行うことができる。IL-1タンパク質の部分ペプチドは、アミノ酸配列の情報(配列番号:2または配列番号:4)に従って、一般的な化学合成法(ペプチド合成)によって製造することもできる。また、市販品のIL-1タンパク質を購入することもできる。
本発明の抗体は、また、IL-1タンパク質の部分アミノ酸配列を含有するオリゴペプチドを用いて調製されるものであればよい。かかる抗体の製造のために用いられるオリゴ(ポリ)ペプチドは、機能的な生物活性を有することは要しないが、本発明タンパク質と同様な免疫原特性を有するものであることが望ましい。好ましくはこの免疫原特性を有し、且つIL-1タンパク質のアミノ酸配列において少なくとも連続する8アミノ酸、好ましくは15アミノ酸、より好ましくは20アミノ酸からなるオリゴ(ポリ)ペプチドを例示することができる。
かかるオリゴ(ポリ)ペプチドに対する抗体の製造は、宿主に応じて種々のアジュバントを用いて免疫学的反応を高めることによって行うこともできる。限定はされないが、そのようなアジュバントには、フロイントアジュバント、水酸化アルミニウムのようなミネラルゲル、並びにリゾレシチン、プルロニックポリオル、ポリアニオン、ペプチド、油乳剤、キーホールリンペットヘモシアニン及びジニトロフェノールのような表面活性物質、BCG(カルメット−ゲラン桿菌)やコリネバクテリウム-パルヴムなどのヒトアジュバントが含まれる。
また、モノクローナル抗体は、細胞融合法(例えば、渡邊武、細胞融合法の原理とモノクローナル抗体の作成、谷内昭、高橋利忠編、「モノクローナル抗体とがん−基礎と臨床−」、第2-14頁、サイエンスフォーラム出版、1985年)により作成することができる。例えば、マウスに該因子を市販のアジュバントと共に2〜4回皮下あるいは腹腔内に投与し、最終投与の約3日後に脾臓あるいはリンパ節を採取し、白血球を採取する。この白血球と骨髄腫細胞(例えば、NS-1, P3X63Ag8など)を細胞融合して該因子に対するモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを得る。細胞融合はPEG法[J. Immunol. Methods, 81(2): 223-228 (1985)]でも電圧パルス法[Hybridoma, 7(6): 627-633 (1988)]であってもよい。所望のモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマは、周知のEIAまたはRIA法等を用いて抗原と特異的に結合する抗体を、培養上清中から検出することにより選択できる。モノクローナル抗体を産生するハイブリドーマの培養は、インビトロ、またはマウスもしくはラット、このましくはマウス腹水中等のインビボで行うことができ、抗体はそれぞれハイブリドーマの培養上清および動物の腹水から取得することができる。
また、当該抗体は、後述の(2)項に記載するスクリーニングにおけるIL-1の発現変動を検出するためのスクリーニングツール、または(3)項に記載の診断薬(疾患マーカー)としても用いることができる。
本発明は、IL-1が線維化を伴うIBDモデル動物の大腸に高発現しており、抗IL-1抗体が該モデル動物の腸管の線維化を治癒しIBDの症状を改善するという新たな知見から、IL-1拮抗薬、抗IL-1抗体、IL-1遺伝子発現を抑制する物質、またはIL-1の発現量もしくは機能(活性)を低下させる物質が、線維化を伴う炎症性腸疾患の改善または治療に有効であるという考えに基づくものである。
したがって、本発明が提供する線維化を伴うIBDの予防・改善・治療剤は、IL-1拮抗薬、抗IL-1抗体、IL-1発現抑制剤、IL-1の産生阻害剤、またはIL-1の機能(活性)抑制剤を主な成分とするものである。
IL-1拮抗薬、抗IL-1抗体、IL-1発現抑制剤、IL-1の産生阻害剤、またはIL-1の機能(活性)抑制剤は、後述の(4)項に記載する本発明の線維化を伴ったIBDモデル動物を用いた薬効試験、安全性試験、更に線維化を伴ったIBDに罹患した患者への臨床試験に供してもよく、これらの試験を実施することによって、より実用的な線維化を伴ったIBDの改善または治療薬を取得することができる。このようにして選別された物質は、さらにその構造解析結果に基づいて、化学的合成、生物学的合成(発酵)または遺伝子学的操作によって、工業的に製造することができる。
当該有効成分となるIL-1拮抗薬、抗IL-1抗体、IL-1遺伝子発現を抑制する物質、またはIL-1の発現量もしくは機能(活性)を低下させる物質は、既存の薬剤のみならず、これら物質に関する情報に基づいて常法に従って工業的に製造されたものであってもよい。
IL-1拮抗薬、抗IL-1抗体、IL-1遺伝子発現を抑制する物質、あるいはIL-1の発現量もしくは機能(活性)を低下させる物質は、そのままもしくは自体公知の薬学的に許容される担体(賦形剤、増量剤、結合剤、滑沢剤などが含まれる)や慣用の添加剤などと混合して医薬組成物として調製することができる。当該医薬組成物は、調製する形態(錠剤、丸剤、カプセル剤、散剤、顆粒剤、シロップ剤などの経口投与剤;注射剤、点滴剤、外用剤、坐剤などの非経口投与剤)等に応じて経口投与または非経口投与することができる。また投与量は、有効成分の種類、投与経路、投与対象または患者の年齢、体重、症状などによって異なり一概に規定できないが、通常、1日投与用量として、数mg〜2g程度、好ましくは数十mg程度を、1日1〜数回にわけて投与することができる。
また、上記の物質がDNAによりコードされるものであれば、該DNAを遺伝子治療用ベクターに組み込み、遺伝子治療を行うことも考えられる。更に、上記有効成分物質がIL-1遺伝子に対するアンチセンスヌクレオチドの場合は、そのままもしくは遺伝子治療用ベクターにこれを組込むことにより、遺伝子治療を行うこともできる。これらの場合も、遺伝子治療用組成物の投与量、投与方法は患者の体重、年齢、症状などにより変動し、当業者であれば適宜選択することが可能である。
上記アンチセンスヌクレオチドを利用する遺伝子治療につき詳述すれば、該遺伝子治療は、通常のこの種の遺伝子治療と同様にして、例えばアンチセンスオリゴヌクレオチドまたはその化学的修飾体を直接患者の体内に投与することにより目的遺伝子の発現を制御する方法、もしくはアンチセンスRNAを患者の標的細胞に導入することにより該細胞による目的遺伝子の発現を制御する方法により実施できる。
本発明のIL-1遺伝子に対するアンチセンスヌクレオチドには、以下の(a)または(b)の核酸が含まれる:
(a)IL-1をコードする塩基配列に相補的な塩基配列を含有する核酸、
(b)IL-1をコードする塩基配列からなる核酸もしくは転写後プロセッシングにより該塩基配列を生じる初期転写物と、治療対象動物の生理的条件下でハイブリダイズする塩基配列を含有し、且つハイブリダイズした状態でIL-1の転写または翻訳を抑制する核酸。
ここで相補的な塩基配列とは、IL-1遺伝子の塩基配列からなるポリヌクレオチドの全長配列、または該塩基配列において少なくとも連続した15塩基長の塩基配列を有するその部分配列(ここでは便宜上、これらを「正鎖」ともいう)に対して、A:TおよびG:Cといった塩基対関係に基づいて、塩基的に相補的な関係にある核酸を意味するものである。ただし、かかる相補鎖は、対象とする正鎖の塩基配列と完全に相補配列を形成する場合に限らず、対象とする正鎖とストリンジェントな条件でハイブリダイズすることができる程度の相補関係を有するものであってもよい。なお、ここでストリンジェントな条件は、Berger and Kimmel (1987, Guide to Molecular Cloning Techniques Methods in Enzymology, Vol. 152, Academic Press, San Diego CA) に教示されるように、複合体或いはプローブを結合する核酸の融解温度(Tm)に基づいて決定することができる。例えばハイブリダイズ後の洗浄条件として、通常「1×SSC、0.1%SDS、37℃」程度の条件を挙げることができる。相補鎖はかかる条件で洗浄しても対象とする正鎖とハイブリダイズ状態を維持するものであることが好ましい。特に制限されないが、より厳しいハイブリダイズ条件として「0.5×SSC、0.1%SDS、42℃」程度、さらに厳しいハイブリダイズ条件として「0.1×SSC、0.1%SDS、65℃」程度の洗浄条件を挙げることができる。具体的には、このような相補鎖として、対象の正鎖の塩基配列と完全に相補的な関係にある塩基配列からなる鎖、並びに該鎖と少なくとも90%、好ましくは95%の相同性を有する塩基配列からなる鎖を例示することができる。ここで、正鎖側のポリヌクレオチドには、IL-1遺伝子の塩基配列、またはその部分配列を有するものだけでなく、上記相補鎖の塩基配列に対して更に相補的な関係にある鎖を含めることができる。
治療対象動物とは、線維化を伴うIBDを発症している哺乳動物のことであり、例えば線維化を伴うIBDを発症しているヒト、ラット、マウス等を挙げることができる。
本発明のIL-1遺伝子に対するアンチセンスヌクレオチドは、具体的には、IL-1遺伝子(IL-1α遺伝子および/またはIL-1β遺伝子)の少なくとも8塩基以上の部分に対応するアンチセンスオリゴヌクレオチド、アンチセンスRNA、アンチセンスDNAなどが含まれ、IL-1β遺伝子の少なくとも8塩基以上の部分に対応するアンチセンスオリゴヌクレオチド、アンチセンスRNA、アンチセンスDNAなどが好ましい。また、その化学修飾体には、例えばホスホロチオエート、ホスホロジチオエート、アルキルホスホトリエステル、アルキルホスホナート、アルキルホスホアミデートなどの、細胞内への移行性または細胞内での安定性を高め得る誘導体("Antisense RNA and DNA" WILEY-LISS刊、1992年、pp.1-50、J. Med. Chem. 36, 1923-1937(1993))が含まれる。これらは常法に従い合成することができる。
アンチセンスヌクレオチドまたはその化学的修飾体は、細胞内でセンス鎖mRNAに結合して、目的遺伝子の発現、即ちIL-1の発現を阻害することができ、かくしてIL-1の機能(活性)を抑制することができる。これらの活性は、後述の(2)項記載のスクリーニング方法によっても活性の確認をすることができる。
アンチセンスオリゴヌクレオチドまたはその化学的修飾体を直接生体内に投与する方法において、用いられるアンチセンスオリゴヌクレオチドまたはその化学修飾体は、好ましくは5-200塩基、さらに好ましくは8-25塩基、最も好ましくは12-25塩基の長さを有するものとすればよい。その投与に当たり、アンチセンスオリゴヌクレオチドまたはその化学的修飾体は、通常慣用される安定化剤、緩衝液、溶媒などを用いて製剤化され得る。
アンチセンスRNAを患者の標的細胞に導入する方法において、用いられるアンチセンスRNAは、好ましくは100塩基以上、より好ましくは300塩基以上、さらに好ましくは500塩基以上の長さを有するものとすればよい。また、この方法は、生体内の細胞にアンチセンス遺伝子を導入するin vivo法および一旦体外に取り出した細胞にアンチセンス遺伝子を導入し、該細胞を体内に戻すex vivo法を包含する(日経サイエンス, 1994年4月号, 20-45頁、月刊薬事, 36 (1), 23-48 (1994)、実験医学増刊, 12 (15), 全頁 (1994)など参照)。この内ではin vivo法が好ましく、これには、ウイルス的導入法(組換えウイルスを用いる方法)と非ウイルス的導入法がある(前記各文献参照)。
上記組換えウイルスを用いる方法としては、例えばレトロウイルス、アデノウイルス、アデノ関連ウイルス、ヘルペスウイルス、ワクシニアウイルス、ポリオウイルス、シンビスウイルスなどのウイルスゲノムにアンチセンスヌクレオチドを組込んで生体内に導入する方法が挙げられる。この中では、レトロウイルス、アデノウイルス、アデノ関連ウイルスなどを用いる方法が特に好ましい。非ウイルス的導入法としては、リポソーム法、リポフェクチン法などが挙げられ、特にリポソーム法が好ましい。他の非ウイルス的導入法としては、例えばマイクロインジェクション法、リン酸カルシウム法、エレクトロポレーション法なども挙げられる。
遺伝子治療用製剤組成物は、上述したアンチセンスヌクレオチドまたはその化学修飾体、これらを含む組換えウイルスおよびこれらウイルスが導入された感染細胞などを有効成分とするものである。該組成物の患者への投与形態、投与経路などは、治療目的とする疾患、症状などに応じて適宜決定できる。例えば注射剤などの適当な投与形態で、静脈、動脈、皮下、筋肉内などに投与することができ、また患者の疾患対象部位に直接投与、導入することもできる。in vivo法を採用する場合、遺伝子治療用組成物は、IL-1遺伝子のアンチセンスヌクレオチドを含む注射剤などの投与形態の他に、例えばIL-1遺伝子のアンチセンスヌクレオチドを含有するウイルスベクターをリポソームまたは膜融合リポソームに包埋した形態(センダイウイルス(HVJ)-リポソームなど)とすることができる。これらのリポソーム製剤形態には、懸濁剤、凍結剤、遠心分離濃縮凍結剤などが含まれる。また、遺伝子治療用組成物は、上記IL-1遺伝子のアンチセンスヌクレオチドを含有するベクターを導入されたウイルスで感染された細胞培養液の形態とすることもできる。これら各種形態の製剤中の有効成分の投与量は、治療目的である疾患の程度、患者の年齢、体重などにより適宜調節することができる。通常、IL-1遺伝子に対するアンチセンスヌクレオチドの場合は、患者成人1人当たり約0.0001-100mg、好ましくは約0.001-10mgが数日ないし数カ月に1回投与される量とすればよい。アンチセンスヌクレオチドを含むレトロウイルスベクターの場合は、レトロウイルス力価として、1日患者体重1kg当たり約1×103pfu-1×1015pfuとなる量範囲から選ぶことができる。アンチセンスヌクレオチドを導入した細胞の場合は、1×104細胞/body-1×1015細胞/body程度を投与すればよい。
(2)候補薬のスクリーニング方法
本発明の第2の態様は、線維化を伴う炎症性腸疾患の予防、改善または治療剤のスクリーニング方法である。
(2-1) 遺伝子発現レベルを指標とするスクリーニング方法
本発明は、IL-1遺伝子の発現、具体的にはIL-1α遺伝子および/またはIL-1β遺伝子の発現を減少させる物質のスクリーニング方法を提供する。
本発明のスクリーニング方法は、次の工程(a)、(b)及び(c)を含む:
(a)被験物質とIL-1遺伝子を発現することが可能な細胞とを接触させる工程、
(b)被験物質を接触させた細胞におけるIL-1遺伝子の発現量を測定し、該発現量を被験物質を接触させない対照細胞における上記に対応する遺伝子の発現量と比較する工程、
(c)上記(b)の比較結果に基づいて、IL-1遺伝子の発現量を減少させる被験物質を選択する工程。
かかるスクリーニングに用いられる細胞としては、内在性および外来性を問わず、IL-1遺伝子を発現する細胞、具体的にはIL-1α遺伝子及び/またはIL-1β遺伝子を発現する細胞を挙げることができる。これらIL-1遺伝子の発現は、公知のノーザンブロット法やRT-PCR法にて遺伝子発現を検出することにより、容易に確認することができる。当該スクリーニングに用いられる細胞の具体例としては、例えば、(i)本発明の線維化を伴う炎症性腸疾患(IBD)モデル動物より単離、調製した腸管組織やリンパ系組織由来の細胞、(ii)種々の刺激剤で処理又は未処理の腸管組織やリンパ系組織由来の細胞、(iii)IL-1遺伝子を導入した細胞、等を挙げることができる。
ここで前記(i)の腸管組織由来の細胞としては、好ましくは大腸(結腸)由来の初代培養細胞などが挙げられる。
前記(ii)の腸管組織由来の細胞としては、好ましくは大腸(結腸)由来の株化細胞が挙げられ、具体的には Caco-2細胞(ヒト結腸腺癌由来、ATCC株番号HTB-37)、HT-29細胞(ヒト結腸腺癌由来、ATCC株番号HTB-38)またはCOLO 205 細胞(ヒト結腸腺癌由来、ATCC株番号CCL-222)等を挙げることができる。またリンパ系組織由来の細胞としては、好ましくはリンパ球、単球、マクロファージ、好中球または好酸球やそれらの株化細胞であり、具体的にはRAW 264.7細胞(マウス単球由来、ATCC株番号TIB-71)、U-937細胞(ヒト組織球性リンパ腫由来、ATCC株番号CRL-1593.2)、THP-1細胞(ヒト単球由来、ATCC株番号TIB-202)またはJurkat細胞(ヒトT細胞リンパ腫由来、ATCC株番号TIB-152)等を挙げることができる。刺激剤は、具体的にはリポポリサッカライド(Lipopolysaccharide :LPS)、ホルボールエステル(PMA等)、カルシウムイオノフォア、サイトカイン(IL-1、IL−6、IL-12、IL-18、TNFα、IFNγ等)等を挙げることができる。これら刺激剤で刺激することにより、細胞は炎症部位の環境により近い活性化状態になることが知られている。
前記(iii)の遺伝子導入細胞としては、前記(i)(ii)の細胞の他、通常遺伝子導入に用いられる宿主細胞、すなわちL-929(結合組織由来、ATCC株番号CCL-1)、C127I(乳癌組織由来、ATCC株番号CRL-1616)、Sp2/0-Ag14(骨髄腫由来、ATCC株番号CRL-1581)、NIH3T3(胎児組織由来、ATCC株番号CRL-1658)等のマウス由来細胞、ラット由来細胞、BHK-21(シリアンハムスター仔腎組織由来、ATCC株番号CCL-10)、CHO-K1(チャイニーズハムスター卵巣由来、ATCC株番号CCL-61)等のハムスター由来細胞、COS1(アフリカミドリザル腎組織由来、ATCC株番号CRL-1650)、CV1(アフリカミドリザル腎組織由来、ATCC株番号CCL-70)、Vero(アフリカミドリザル腎組織由来、大日本製薬株式会社)等のサル由来細胞、HeLa(子宮けい部癌由来、大日本製薬株式会社)、293(胎児腎由来、ATCC株番号CRL-1573)等のヒト由来細胞、およびSf9(Invitrogen Corporation)、Sf21(Invitrogen Corporation)等の昆虫由来細胞などを挙げることができる。
さらに、本発明のスクリーニング方法に用いられる細胞には、細胞の集合体である組織なども含まれる。
本発明スクリーニング方法によってスクリーニングされる被験物質(候補物質)は、制限されないが、核酸(IL-1遺伝子のアンチセンスヌクレオチドを含む)、ペプチド、タンパク質、有機化合物、無機化合物などであり、本発明スクリーニングは、具体的にはこれらの被験物質またはこれらを含む試料(被験試料)を上記細胞および/または組織と接触させることにより行われる。かかる被験試料としては、被験物質を含む細胞抽出液、遺伝子ライブラリーの発現産物、合成低分子化合物、合成ペプチド、天然化合物などが挙げられるが、これらに制限されない。
また本発明スクリーニングに際して、被験物質と細胞とを接触させる条件は、特に制限されないが、該細胞が死滅せず且つIL-1遺伝子を発現できる培養条件(温度、pH、培地組成など)を選択するのが好ましい。
実施例に示すように、線維化を伴う炎症性腸疾患(IBD)マウス腸管組織は、炎症性腸疾患非発症マウス腸管組織に比して、特異的にIL-1遺伝子が発現上昇している。また、線維化を伴うIBD疾患モデル動物に抗IL-1抗体を投与すると結腸の線維化と腸炎症状(便状態の悪化)が改善される。線維化を伴わないIBD疾患モデル動物に抗IL-1抗体を投与しても症状の改善が認められないことから、IL-1は線維化を伴うIBDと因果関係があると考えられる。よって本発明のスクリーニング方法には、このIL-1遺伝子の発現レベルを指標として、その発現を減少させる物質(発現レベルを正常レベルに戻す物質)を探索する方法が包含される。このスクリーニング方法によって、線維化を伴う炎症性腸疾患(IBD)の緩和/抑制作用を有する候補物質を提供することができる。
すなわち本発明のスクリーニング方法は、IL-1遺伝子の発現を抑制する物質を探索することによって、線維化を伴う炎症性腸疾患(IBD)の改善薬または治療薬の有効成分となる候補物質を提供するものである。
候補物質は、被験物質(候補物質)の存在下で培養した細胞におけるIL-1遺伝子の発現レベルが、被験物質(候補物質)の非存在下で培養した対照細胞におけるIL-1遺伝子の発現レベルに比して低くなる場合に選択することができる。IL-1β遺伝子の発現レベルを減少させる被検物質が好ましい。
より具体的には、IL-1遺伝子(IL-1α遺伝子および/またはIL-1β遺伝子)が発現している細胞を用いる場合は、被験物質(候補物質)を添加した細胞におけるIL-1遺伝子の発現レベルが、被験物質(候補物質)を添加しない細胞のそのレベルに比して低くなる場合に、選択することができる。また、IL-1遺伝子の発現に発現誘導物質を必要とする細胞を用いる場合は、発現誘導物質[例えばリポポリサッカライド(Lipopolysaccharide:LPS)、ホルボールエステル(PMA等)、カルシウムイオノフォア、サイトカイン(IL-1、IL−6、IL-12、IL-18、TNFα、IFNγ等)等]を刺激剤として用いることによって誘導されるIL-1遺伝子の発現が被験物質の存在によって抑制されること、すなわち発現誘導物質の存在下で被験物質を接触させた細胞の遺伝子発現が、発現誘導物質存在下で被験物質を接触させない対照細胞(正のコントロール)に比して低くなることを指標として、選別を行うことができる。
このような本発明のスクリーニング方法における遺伝子発現レベルの検出及び定量は、前記細胞から調製したRNAまたは該RNAから転写された相補的ポリヌクレオチドと本発明の診断薬とを用いて、後述(3-1)項に記載のノーザンブロット法、RT-PCR法など公知の方法、あるいはDNAチップなどを利用する方法に従って実施することができる。
指標とする遺伝子発現レベルの変動(抑制、減少)の程度は、被験物質(候補物質)を接触させた細胞におけるIL-1遺伝子の発現が、被験物質(候補物質)を接触させない対照細胞における発現量と比較して10%、好ましくは30%、特に好ましくは50%以上の低下(抑制、減少)を例示することができる。
IL-1遺伝子の発現レベルの検出及び定量は、IL-1遺伝子の発現を制御する遺伝子領域(発現制御領域)に、例えばルシフェラーゼ遺伝子などのマーカー遺伝子をつないだ融合遺伝子を導入した細胞株を用いて、マーカー遺伝子由来のタンパク質の活性を測定することによっても実施できる。本発明のIL-1遺伝子発現制御物質のスクリーニング方法には、かかるマーカー遺伝子の発現量を指標として標的物質を探索する方法も包含される。この意味において、請求項4に記載する「IL-1遺伝子」の概念には、IL-1遺伝子の発現制御領域とマーカー遺伝子との融合遺伝子が含まれる。
なお、上記マーカー遺伝子としては、発光反応や呈色反応を触媒する酵素の構造遺伝子が好ましい。具体的には、上記のルシフェラーゼ遺伝子のほか、分泌型アルカリフォスファターゼ遺伝子、クロラムフェニコール・アセチルトランスフェラーゼ遺伝子、βグルクロニダーゼ遺伝子、βガラクトシダーゼ遺伝子、及びエクオリン遺伝子などのレポーター遺伝子を例示できる。
また、ここでIL-1遺伝子の発現制御領域は、例えば該遺伝子の転写開始部位上流約1kb、好ましくは約2kbを用いることができる。本発明遺伝子の発現制御領域は、例えば(i)5'-RACE法(例えば、5'full Race Core Kit(宝酒造社製)等を用いて実施される)、オリゴキャップ法、S1プライマーマッピング等の通常の方法により、5'末端を決定するステップ;(ii)Genome Walker Kit(クローンテック社製)等を用いて5'-上流領域を取得し、得られた上流領域について、プロモーター活性を測定するステップ;を含む手法等により同定することができる。また融合遺伝子の作成、およびマーカー遺伝子由来の活性測定は公知の方法で行うことができる。
本発明のスクリーニング方法により選別される物質は、IL-1遺伝子の遺伝子発現抑制剤として位置づけることができる。これらの物質は、IL-1遺伝子の発現を抑制することによって、線維化を伴う炎症性腸疾患(IBD)を緩和、抑制(改善、治療)する薬物の有力な候補物質となる。
(2-2)タンパク質の発現量を指標とするスクリーニング方法
本発明は、IL-1(IL-1タンパク質)の発現、具体的にはIL-1α(IL-1αタンパク質)および/またはIL-1β(IL-1βタンパク質)の発現を減少させる物質をスクリーニングする方法を提供する。
本発明スクリーニング方法は、次の工程(a)、(b)および(c)を含む:
(a)被験物質とIL-1タンパク質を発現することが可能な細胞または該細胞から調製した細胞画分とを接触させる工程、
(b)被験物質を接触させた細胞または細胞画分におけるIL-1タンパク質の発現量を測定し、該発現量を被験物質を接触させない対照細胞もしくは細胞画分における上記IL-1タンパク質の発現量と比較する工程、
(c)上記(b)の比較結果に基づいて、IL-1タンパク質の発現量を低下させる被験物質を選択する工程。
本発明スクリーニングに用いられる細胞は、内在性および外来性を問わず、IL-1遺伝子(IL-1α遺伝子および/またはIL-1β遺伝子)を発現し、発現産物としてのIL-1(IL-1αおよび/またはIL-1β)を有する細胞を挙げることができる。IL-1の発現は、遺伝子産物であるタンパク質と公知のウエスタン法にて検出することにより、容易に確認することができる。該細胞としては、具体的には、前記(2−1)項に記載したような細胞などが挙げられる。また当該細胞には、その細胞膜画分、細胞質画分、細胞核画分なども含まれる。
実施例に示すように、IL-1遺伝子は、線維化を伴う炎症性腸疾患(IBD)マウスモデルの大腸において、正常マウスや線維化を伴わないIBDマウスの大腸と比較して有意に発現上昇している。更に、線維化を伴うIBD疾患モデル動物に抗IL-1抗体を投与すると結腸の線維化と腸炎症状(便状態の悪化)が改善される。これらの知見から、IL-1遺伝子の発現産物であるIL-1の発現量が、線維化を伴う炎症性腸疾患(IBD)と関連していると考えられる。よって本発明のスクリーニング方法は、IL-1のタンパク発現量を指標として、該発現量を減少させる物質(発現レベルを正常に戻す物質)を探索する方法を包含する。このスクリーニング方法によって、線維化を伴う炎症性腸疾患(IBD)の緩和/抑制作用を有する(線維化を伴うIBDに対して改善/治療効果を発揮する)候補物質を提供することができる。
すなわち本発明のスクリーニング方法は、IL-1の発現量を減少させる物質を探索することによって、線維化を伴う炎症性腸疾患(IBD)の改善薬または治療薬の有効成分となる候補物質を提供するものである。
候補物質の選別は、具体的にはIL-1(IL-1αおよび/またはIL-1β)を発現産生している細胞を用いる場合は、被験物質(候補物質)を添加した細胞におけるIL-1のタンパク量(レベル)が、被験物質(候補物質)を添加しない細胞のその量(レベル)に比して低くなることを指標として、行うことができる。また、IL-1の発現に発現誘導物質を必要とする細胞を用いる場合は、発現誘導物質[例えばリポポリサッカライド(Lipopolysaccharide:LPS)、ホルボールエステル(PMA等)、カルシウムイオノフォア、サイトカイン(IL-1、IL−6、IL-12、IL-18、TNFα、IFNγ等)等]によって誘導される当該タンパクの産生が被験物質の存在によって抑制されること、すなわち発現誘導物質の存在下で被験物質を接触させた細胞のIL-1の発現量が、発現誘導物質存在下で被験物質を接触させなかった対照細胞(正のコントロール)に比して低くなることを指標として、選別を行うことができる。線維化を伴う炎症性腸疾患(IBD)の改善薬または治療薬の有効成分となる候補物質は、IL-1βの発現レベルを減少させる被検物質が好ましい。
本発明のスクリーニング方法にかかるIL-1の産生量は、前述したように、例えば、抗IL-1抗体(例えばヒトIL-1αタンパク質、IL-1βタンパク質、もしくはそれらのホモログを認識する抗体)を用いたウエスタンブロット法などの公知方法に従って定量できる。抗IL-1抗体は、前述の(1)項に記載の方法に従って作製することができ、例えば、(1)項に記載の抗体、あるいは市販されている抗IL-1抗体などを用いることができる。ウエスタンブロット法は、一次抗体として抗IL-1抗体を用いた後、二次抗体として125Iなどの放射性同位元素、蛍光物質、ホースラディッシュペルオキシターゼ(HRP)などの酵素等で標識した一次抗体に結合する抗体を用いて標識し、これら標識物質由来のシグナルを放射線測定器(BAS-1800II:富士フィルム社製など)、蛍光検出器などで測定することによって実施できる。また、一次抗体として抗IL-1抗体を用いた後、ECL Plus Western Blotting Detction System (アマシャム ファルマシアバイオテク社製)を利用して、該プロトコールに従って検出し、マルチバイオイメージャーSTORM860(アマシャム ファルマシアバイオテク社製)で測定することもできる。
本発明スクリーニング方法によってスクリーニングされる被験物質(候補物質)は、制限されないが、核酸(本発明であるIL-1遺伝子のアンチセンスヌクレオチドを含む)、ペプチド、タンパク質、有機化合物、無機化合物などであり、本発明スクリーニングは、具体的にはこれらの被験物質またはこれらを含む試料(被験試料)を上記細胞または細胞膜画分と接触させることにより行われる。かかる被験試料としては、被験物質を含む細胞抽出液、遺伝子ライブラリーの発現産物、合成低分子化合物、合成ペプチド、天然化合物などが挙げられるが、これらに制限されない。
(2-3) タンパク質の機能(活性)を指標とするスクリーニング方法
本発明は、IL-1の機能(活性)、具体的にはIL-1αおよび/またはIL-1βの機能(活性)を抑制する物質をスクリーニングする方法を提供する。
本発明スクリーニング方法は、次の工程(a)、(b)及び(c)を含む:
(a)被験物質をIL-1に接触させる工程、
(b)上記(a)の工程に起因して生じるIL-1の機能(活性)を測定し、該機能または活性を被験物質を接触させない場合のIL-1の機能(活性)と比較する工程、
(c)上記(b)の比較結果に基づいて、IL-1の機能(活性)を抑制する被験物質を選択する工程。
本発明のスクリーニング方法においては、IL-1(IL-1αおよび/またはIL-1β)の公知の機能・活性に基づくいかなる機能/活性測定方法をも利用することができる。すなわち、IL-1の公知の機能・活性測定系に被験物質を添加し、当該IL-1の公知の機能・活性を抑制する被験物質を、線維化を伴う炎症性腸疾患(IBD)に対して改善/治療効果を有する候補物質として選択するスクリーニング方法であれば、本発明のスクリーニング方法の範疇に含まれる。
本発明のスクリーニングは、IL-1を含む水溶液、細胞または該細胞から調製した細胞画分と、被検物質を接触させることにより行うことができる。ここでIL-1を含む水溶液でとしては、例えばIL-1を含む通常の水溶液の他、IL-1を含む細胞溶解液、細胞破砕液、核抽出液あるいは細胞の培養上清などを例示することができる。
また、本発明のスクリーニング方法に用いられる細胞としては、内在性及び外来性を問わず、IL-1αおよび/またはIL-1βを発現し得る細胞を挙げることができる。該細胞としては、具体的には、前記(2−1)項に示されるような細胞などを用いることができる。また細胞画分とは、上記細胞に由来する各種の画分を意味し、これには、例えば細胞膜画分、細胞質画分、細胞核画分などが含まれる。
実施例に示すように、IL-1遺伝子は、線維化を伴う炎症性腸疾患(IBD)マウスの大腸病変組織において、大腸正常組織(正常の大腸組織)と比較して発現上昇している。更に、線維化を伴う炎症性腸疾患(IBD)マウスに抗IL-1抗体を投与することで腸管の線維化と腸炎症状を治癒している。これらの知見から、IL-1遺伝子の発現産物(タンパク質)の機能(活性)亢進は、線維化を伴う炎症性腸疾患(IBD)と関連していると考えられる。本発明スクリーニング方法は、IL-1タンパク質の機能(活性)を指標として、該タンパク質の機能(活性)を抑制する物質を探索する方法を包含する。本発明スクリーニング方法によれば、IL-1(IL-1αおよび/またはIL-1β)の機能または活性を抑制する物質を探索でき、かくして、線維化を伴う炎症性腸疾患(IBD)の緩和/抑制作用を有する(線維化を伴うIBDに対して改善/治療効果を発揮する)候補物質が提供される。
すなわち、本発明のスクリーニング方法は、IL-1の機能または活性を抑制する物質を探索することによって、線維化を伴う炎症性腸疾患(IBD)の予防薬、改善薬、または治療薬の有効成分となる候補物質を提供するものである。なお、線維化を伴う炎症性腸疾患(IBD)の予防薬、改善薬、または治療薬の有効成分となる候補物質は、IL-1βの機能または活性を抑制する物質がより好ましい。
本発明スクリーニング方法によってスクリーニングされる被験物質(候補物質)は、制限されないが、核酸、ペプチド、タンパク質(IL-1に対する抗体を含む)、有機化合物、無機化合物などであり、本発明スクリーニングは、具体的にはこれらの被験物質またはこれらを含む試料(被験試料)を上記水溶液、細胞または細胞画分と接触させることにより行われる。被験試料としては、被験物質を含む、細胞抽出液、遺伝子ライブラリーの発現産物、合成低分子化合物、合成ペプチド、天然化合物などが挙げられるが、これらに制限されない。
ところで、IL-1はリガンド(受容体結合物質)であり、受容体としてIL-1受容体が知られている。
従って、この公知の性質に基づいて、IL-1の機能または活性の変動をもたらす被験物質(候補物質)のスクリーニングは、IL-1とIL-1受容体との結合量の減少(低下)を指標として行うこともできる。この場合、候補物質は、具体的には、被検物質(候補物質)の存在下でのIL-1とIL-1受容体の結合量が、被験物質(候補物質)非存在下でのIL-1とIL-1受容体との結合量に比して少なくなる場合に、選択することができる。選択される候補物質は、IL-1βとIL-1受容体との結合量を減少させる候補物質が好ましい。
すなわち結合阻害活性に基づく本発明のスクリーニング方法は、次の工程(a)、(b)及び(c)を含むものが例示される:
(a) 被験物質の存在下で、IL-1とIL-1受容体とを接触させる工程、
(b) 上記反応の結果生じた結合量を測定し、当該結合量を、被験物質非存在下で上記(a)を行うことによって生じる結合量(対照結合量)と比較する工程、
(c) 上記(b)の結果に基づいて、対照結合量に比して結合量を減少させる被験物質を選択する工程。
本発明スクリーニングに用いる受容体は、精製物(単離物)であっても良いし、当該受容体を含有する細胞またはその細胞画分(細胞膜画分など)の形態等であっても良い。当該受容体を含有する細胞は、具体的には、当該受容体を天然に発現している細胞、または当該受容体をコードする遺伝子を細胞に導入して作製した形質転換細胞などが挙げられる。
当該形質転換細胞は、Molecular Cloning 2nd Edt., Cold Spring Harbor Laboratory Press (1989)等の基本書に従い、当業者にとって公知の方法で調製することができる。例えば、前記受容体のcDNAをpCAGGS(Gene 108, 193-199(1991))、pcDNA1.1、pcDNA3.1誘導体(インビトロジェン社)などの公知の発現ベクターに挿入する。その後、適当な宿主に導入し、培養することにより、導入した受容体のDNAに対応するタンパク質を発現させた形質転換細胞を作製することができる。宿主としては、一般的に広く普及している、CHO細胞、C127細胞、BHK21細胞、COS細胞などを用いることができるが、これに限定されることなく、酵母、細菌、昆虫細胞などを用いることもできる。
受容体タンパク質のcDNAを有する発現ベクターの宿主細胞への導入方法としては、公知の発現ベクターの宿主細胞への導入方法であれば、どのような方法でもよく、例えばリン酸カルシウム法(J. Virol., 52, 456-467(1973))、LT-1(Panvera社製)を用いる方法、遺伝子導入用リピッド(Lipofectamine、Lipofectin;Gibco−BRL社製)を用いる方法などが挙げられる。
細胞膜を用いる場合は、例えば、細胞に低張バッファーを添加し、細胞を低張破壊した後、ホモジナイズし、遠心分離することにより細胞膜画分の沈殿物を得る。そしてこの沈殿物をバッファーに懸濁することにより、受容体を含有する細胞膜画分を得ることができる。得られた細胞膜画分は、抗体を結合させたカラム等により常法で精製することもできる。
本発明スクリーニングで用いられるIL-1タンパク質、例えばIL-1αまたはIL-1βも、同様の手法で調製された形質転換細胞から、常法により組換えタンパクを回収することにより得ることができる。さらに、前記天然結合物質(本発明の結合物質)のかわりに、IL-1受容体にアゴニスト活性を有する結合物質を用いることもできる。
IL-1タンパク質は、そのままで用いても良いし、任意の標識物質で標識されたものを用いることもできる。ここで標識物質としては、放射性同位体(3H、14C、35S、125I等)、蛍光物質(Molecular Probes社Alexa Protein Labeling Kits等)、化学発光物質(Assay Designs社Chemiluminescence Labeling Kit等)、ビオチン(Pierce社EZ-Link Biotinylation Kits等)、マーカータンパク質、またはペプチドタグなどを例示することができる。マーカータンパク質としては、例えばアルカリフォスファターゼ(Cell, 63,185-194,1990)、抗体のFc領域(Genbank accession number M87789)、またはHRP(Horse radish peroxidase)などの従来公知のマーカータンパク質を挙げることができる。またペプチドタグとしては、例えばMycタグ、Hisタグ、FLAGタグなどの従来公知のペプチドタグを挙げることができる。
受容体結合阻害活性の測定は、公知の方法を用いることができる。
例えば、IL-1受容体を含有する水溶液(通常緩衝液が用いられる)、細胞若しくは細胞膜画分に、10-3〜10-10Mの適当な濃度に調製した被験化合物溶液(通常溶媒には水もしくは緩衝液が用いられるが、溶解度に応じてエタノールやDMSOを添加することもできる)を加えた後、標識IL-1を加え、一定時間(通常、10分〜2時間)反応させる。その後遠心分離等により上清を単離して放射活性を測定し、上清中に含まれる標識IL-1量を計測することができる。あるいは、形質転換細胞もしくは細胞膜画分を含む沈殿物を界面活性剤、塩基を含む溶液に溶解し、その放射活性を測定し、沈殿物に含まれる標識IL-1量を計測することもできる。
上記の数値を、被験化合物の代わりに溶媒をブランクとして用いて実施した場合の値(対照結合量)と比較することにより、被験化合物が、受容体と標識リガンドの結合を阻害するか否かを評価することができる。すなわち候補物質のスクリーニングは、被験物質存在下での結合量が、被験物質非存在下での結合量に比して、減少するか否かを指標にして行うことができる。
具体的な阻害率(%)については、例えば、以下の式:
{1-(被験物質を添加した場合に本発明タンパク質と結合した標識結合物質量)/(被験物質非添加時における本発明タンパク質と結合した標識アゴニスト活性を有する結合物質量)}X100
で算出することによって求めることができる。
なお、IL-1は、単球、マクロファージ、T細胞、B細胞、ケラチノサイト、血管内皮細胞由来のサイトカインであり、T細胞、B細胞の増殖、分化、細胞接着因子の発現、サイトカインあるいは炎症因子の産生、急性期タンパクの合成を促す作用がある。従って、これら公知のIL-1の作用を阻害する物質をスクリーニングすることによって、IL-1(IL-1αおよび/またはIL-1β)の機能を阻害する薬剤をスクリーニングすることができる。
T細胞増殖阻害活性を指標としてIL-1の機能を抑制する候補物質のスクリーニングをする場合は、候補物質は、被検物質(候補物質)の存在下でのT細胞増殖が、被検物質(候補物質)の非存在下におけるT細胞増殖と比して減少する(抑制される)場合に、選択することができる。マウスT細胞株(D10.G4.1等々)あるいはマウス初代培養CD4陽性T細胞は、IL-1(IL-1αおよび/またはIL-1β)依存的に細胞増殖するため、0.1ng/ml以上のIL-1で刺激した細胞増殖を指標として、IL-1活性を抑制または中和する物質及び又はIL-1による細胞増殖シグナル伝達を阻害する物質をスクリーニングすることが可能である。選択される候補物質は、IL-1βの活性を抑制または中和するものが好ましい。
IL-1の細胞増殖活性に基づくスクリーニング方法としては、次の工程(a)、(b)及び(c)を含むものが例示される:
(a) 被験物質の存在下で、IL-1受容体発現細胞とIL-1を接触させる工程、
(b) 上記(a)における細胞増殖活性を測定し、当該活性を、被験物質非存在下で前記細胞とIL-1を接触させることによって得られる細胞増殖活性(対照活性)と比較する工程、
(c) 上記(b)の結果に基づいて、対照活性あるいは産生量に比して活性あるいは産生量を減少させる被験物質を選択する工程。
かくして選抜取得される被験物質は、線維化を伴う炎症性腸疾患(IBD)を緩和、抑制(改善、治療)する薬物の有力な候補となる。
上記(2-1)〜(2-3)に記載する本発明のスクリーニング方法によって選別された候補物質は、さらに後述の(4)項の本発明の線維化を伴う炎症性腸疾患(IBD)のモデル動物を用いた薬効試験、安全性試験、さらに炎症性腸疾患(IBD)患者への臨床試験に供してもよく、これらの試験を実施することによって、より実用的な線維化を伴う炎症性腸疾患(IBD)の改善または治療薬を取得することができる。このようにして選別された物質は、さらにその構造解析結果に基づいて、化学的合成、生物学的合成(発酵)または遺伝子学的操作によって、工業的に製造することができる。
なお、上記(2-1)〜(2-3)に記載するスクリーニング方法は、線維化を伴う炎症性腸疾患(IBD)の改善または治療薬の候補物質を選別するのみならず、線維化を伴う炎症性腸疾患(IBD)の改善または治療薬(候補薬)が、IL-1遺伝子の発現を減少させるか否か、あるいはIL-1の発現若しくは機能・活性を抑制するか否かを評価、確認するためにも用いることができる。すなわち本発明のスクリーニング方法の範疇には、候補物質の探索のみならず、このような評価あるいは確認を目的とするものも含まれる。
なお、本発明は、線維化を伴う炎症性腸疾患(IBD)の改善・治療剤を提供するものである。
本発明はIL-1が線維化を伴う炎症性腸疾患(IBD)と関係しているという新たな知見から、IL-1遺伝子の発現を制御する物質、あるいは、IL-1の発現若しくは機能(活性)を制御する物質が、上記疾患の改善または治療に有効であるという考えに基づくものである。すなわち、本発明の線維化を伴う炎症性腸疾患(IBD)の改善・治療剤は、IL-1遺伝子の発現を抑制する物質、IL-1の発現若しくは機能(活性)を抑制する物質を有効成分とするものである。
当該有効成分となるIL-1遺伝子の発現を抑制する物質、IL-1の発現若しくは機能(活性)を抑制する物質は、上記のスクリーニング方法を利用して選別されたもののみならず、選別された物質に関する情報に基づいて常法に従って工業的に製造されたものであってもよい。当該有効成分となるIL-1遺伝子の発現を抑制する物質、IL-1の発現若しくは機能(活性)を抑制する物質は、前述の(1)項に記載に従って調製し、投与することができる。
(3)線維化を伴う炎症性腸疾患の診断方法および診断薬
本発明の第3の態様は、線維化を伴う炎症性腸疾患の診断方法および診断薬である。
本発明は、IL-1(IL-1αおよび/またはIL-1β)に特異的親和性を有する抗体又はIL-1をコードするDNAもしくは該DNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズし得るDNAを用いて、生体試料中のIL-1又はIL-1遺伝子の転写産物を測定することを含む、線維化を伴う炎症性腸疾患の診断方法を提供する。
(3-1)線維化を伴うIBDの診断薬
A.核酸に関する線維化を伴うIBDの診断薬
本発明においては、線維化を伴うIBDモデル動物の大腸組織においてIL-1遺伝子が高発現している知見を得た。よって、当該遺伝子発現の有無や発現の程度を検出することによって、線維化を伴うIBD罹患の有無や程度が特異的に検出でき、該疾患の診断を行うことができる。
本発明の核酸は、被験者におけるIL-1遺伝子の発現の有無またはその程度を検出することによって、該被験者が線維化を伴うIBDに罹患しているか否かまたはその罹患の程度を診断することのできる診断薬(線維化を伴うIBD疾患マーカー)として有用である。
本発明の線維化を伴うIBDの診断薬(疾患マーカー)は、前記本発明核酸(配列番号:2または配列番号:4に記載のアミノ酸配列と同一または実質的に同一のアミノ酸配列を含有するタンパク質をコードする核酸)の塩基配列において、連続する少なくとも15塩基を含有する核酸及び/またはそれに相補的な核酸からなることを特徴とするものである。
具体的には、本発明の核酸に関する線維化を伴うIBDの診断薬(疾患マーカー)は、配列番号:1または配列番号:3に記載の塩基配列において、連続する少なくとも15塩基を含有する核酸及び/またはそれに相補的な核酸からなるものを挙げることができる。
ここで相補的な核酸(相補鎖、逆鎖)とは、前記配列番号:1または配列番号:3に記載の塩基配列からなる核酸の全長配列、または該塩基配列において少なくとも連続した15塩基長の塩基配列を含有するその部分配列(ここでは便宜上、これらを「正鎖」ともいう)に対して、A:TおよびG:Cといった塩基対関係に基づいて、塩基的に相補的な関係にある核酸を意味するものである。ただし、かかる相補鎖は、対象とする正鎖の塩基配列と完全に相補配列を形成する場合に限らず、対象とする正鎖とストリンジェントな条件でハイブリダイズすることができる程度の相補関係を有するものであってもよい。なお、ここでストリンジェントな条件とは、前述の(1)項に記載の条件である。
正鎖側の核酸には、配列番号:1または配列番号:3に記載の塩基配列、またはその部分配列を含有するものだけでなく、上記相補鎖の塩基配列に対してさらに相補的な関係にある塩基配列からなる鎖を含めることができる。
さらに上記正鎖の核酸及び相補鎖(逆鎖)の核酸は、各々一本鎖の形態で線維化を伴うIBDマーカーとして使用されても、また二本鎖の形態で線維化を伴うIBDマーカーとして使用されてもよい。
本発明の線維化を伴うIBDの診断薬(疾患マーカー)は、具体的には、前記配列番号:1または配列番号:3に記載の塩基配列(全長配列)からなる核酸であってもよいし、その相補配列からなる核酸であってもよい。好ましくは、配列番号:3に記載の塩基配列(全長配列)からなる核酸、またはその相補配列からなる核酸である。またこれら本発明遺伝子もしくは該遺伝子に由来する核酸を選択的に(特異的に)認識するものであれば、上記全長配列またはその相補配列の部分配列からなる核酸であってもよい。この場合、部分配列としては、上記全長配列またはその相補配列の塩基配列から任意に選択される少なくとも15個の連続した塩基長を含有する核酸を挙げることができる。
なお、ここで「選択的に(特異的に)認識する」とは、例えばノーザンブロット法においては、本発明のIL-1遺伝子、またはこれらに由来する核酸が特異的に検出できること、またRT-PCR法においては、本発明のIL-1遺伝子、またはこれらに由来する核酸が特異的に生成されることを意味するが、それに限定されることなく、当業者が上記検出物または生成物がIL-1遺伝子に由来するものであると判断できるものであればよい。
本発明の線維化を伴うIBDの診断薬(疾患マーカー)は、例えば配列番号1又は配列番号:3に記載の塩基配列をもとに、例えばprimer 3( HYPERLINK http://www.genome.wi.mit.edu/cgi-bin/primer/primer3.cgi)あるいはベクターNTI(Infomax社製)を利用して設計することができる。具体的には前記本発明遺伝子の塩基配列を primer 3またはベクターNTIのソフトウエアにかけて得られる、プライマーまたはプローブの候補配列、若しくは少なくとも該配列を一部に含む配列をプライマーまたはプローブとして使用することができる。
本発明の線維化を伴うIBDの診断薬(疾患マーカー)は、上述するように連続する少なくとも15塩基の長さを含有するものであればよいが、具体的にはマーカーの用途に応じて、長さを適宜選択し設定することができる。
本発明において線維化を伴うIBDの検出(診断)は、被験者の生体組織、特に線維化を伴うIBDが疑われる被験組織におけるIL-1遺伝子の発現の有無または発現レベル(発現量)を評価することによって行われる。この場合、上記本発明の線維化を伴うIBDの診断薬(疾患マーカー)は、IL-1遺伝子の発現によって生じたRNAまたはそれに由来する核酸を特異的に認識し増幅するためのプライマーとして、または該RNAまたはそれに由来する核酸を特異的に検出するためのプローブとして利用することができる。
本発明線維化を伴うIBDの診断薬(疾患マーカー)を、線維化を伴うIBDの検出においてプライマーとして用いる場合には、通常15bp〜100bp、好ましくは15bp〜50bp、より好ましくは15bp〜35bpの塩基長を含有するものが例示できる。また検出プローブとして用いる場合には、通常15bp〜全配列の塩基数、好ましくは15bp〜1kb、より好ましくは100bp〜1kbの塩基長を含有するものが例示できる。
本発明の線維化を伴うIBD診断薬(疾患マーカー)は、ノーザンブロット法、RT-PCR法、in situハイブリダーゼーション法などといった、特定遺伝子を特異的に検出する公知の方法において、常法に従ってプライマーまたはプローブとして利用することができる。
本発明の線維化を伴うIBD診断薬(疾患マーカー)は、線維化を伴うIBDの診断、検出(罹患の有無や罹患の程度の診断)に有用である。具体的には、該線維化を伴うIBD診断薬(疾患マーカー)を利用した線維化を伴うIBDの診断は、被験者における生体組織(線維化を伴うIBDが疑われる組織)と正常者における同様の組織におけるIL-1遺伝子の遺伝子発現レベルの違いを判定することによって行うことができる。この場合、遺伝子発現レベルの違いには、発現のある/なしの違いだけでなく、被験者の組織と正常者の組織の両者ともに発現がある場合でも、両者間の発現量の格差が2倍以上、好ましくは3倍以上の場合が含まれる。具体的にはIL-1遺伝子は線維化を伴うIBDで発現誘導を示すので、被験者の組織で発現しており、該発現量が正常者の対応組織の発現量と比べて2倍以上、好ましくは3倍以上多ければ、被験者について線維化を伴うIBDの罹患が疑われる。
本発明の診断方法に用いられる生体試料としては、血液、血漿、血清、尿、血球細胞ホモジネートやバイオプシーにより採取した組織(例えば大腸組織や結腸組織)等が例示されるが、これらに限定されない。
B.抗体に関する線維化を伴うIBDの診断薬
本発明は線維化を伴うIBDの診断薬(マーカー)として、IL-1タンパク質又はその部分ペプチド(本発明のペプチドを含む)を特異的に認識することのできる抗体(以下、本発明の抗体と称する場合がある)を提供する。より具体的には、本発明は、配列番号:2または配列番号:4に記載のアミノ酸配列からなる本発明のタンパク質またはその部分ペプチド(本発明のペプチドを含む)を特異的に認識する抗体からなる線維化を伴うIBDの診断薬(マーカー)を提供する。
本発明においては、線維化を伴うIBDモデル動物の大腸において、IL-1遺伝子が特異的に高発現しているという知見を得た。よってこれらの遺伝子の発現産物(タンパク質)の有無やその発現の程度を検出することによって、上記線維化を伴うIBD発症の有無やその程度が特異的に検出でき、該疾患の診断を行うことができる。
上記抗体は、従って、被験者における上記タンパク質の発現の有無またはその程度を検出することによって、該被験者が線維化を伴うIBDに罹患しているか否かまたはその疾患の程度を診断することのできるツール(線維化を伴うIBDの診断薬/疾患マーカー)として有用である。
本発明の抗体は、その形態に特に制限はなく、IL-1(具体的には配列番号:2または配列番号:4に記載のアミノ酸配列からなるIL-1タンパク質)を免疫抗原とするポリクローナル抗体であっても、またそのモノクローナル抗体であってもよい。好ましくはIL-1βを認識する抗体である。さらにIL-1タンパク質のアミノ酸配列のうち少なくとも連続する、通常8アミノ酸、好ましくは15アミノ酸、より好ましくは20アミノ酸からなるポリペプチドに対して抗原結合性を有する抗体も、本発明の抗体に含まれる。抗IL-1抗体の製造は、前述の(1)項に記載の方法に従って作製することができ、前述の(1)項の抗体および一般に市販されている抗IL-1抗体も本発明の診断薬に含まれる。
本発明の抗体は、IL-1(IL-1α及び/またはIL-1β)に特異的に結合する性質を有することから、該抗体を利用することによって、被験者の組織内に発現した上記タンパク質を特異的に検出することができる。すなわち、当該抗体は被験者の組織内におけるIL-1発現の有無を検出するためのプローブとして有用である。
具体的には、線維化を伴うIBDが疑われる被験組織や血液をバイオプシ等で採取し、そこから常法に従ってタンパク質を調製して、例えばウェスタンブロット法、ELISA法など公知の検出方法において、上記抗体を常法に従ってプローブとして使用することによってIL-1を検出することができる。
線維化を伴うIBDの診断に際しては、被験者組織におけるIL-1タンパクの量と正常な対応組織におけるIL-1タンパク量の違いを判定すればよい。この場合、タンパク量の違いには、タンパクのある/なし、あるいはタンパク量の違いが2倍以上、好ましくは3倍以上の場合が含まれる。具体的にはIL-1遺伝子は線維化を伴うIBDで発現誘導を示すので、被験者組織で該遺伝子の発現産物(IL-1)が存在しており、該量が正常な組織の発現産物量と比べて2倍以上、好ましくは3倍以上多いことが判定されれば、線維化を伴うIBDの罹患が疑われる。
(3-2)線維化を伴うIBDの診断方法(検出方法)
A.線維化を伴うIBDの検出方法(診断方法)
本発明は、前述した本発明の線維化を伴うIBDの診断薬(疾患マーカー)を利用した線維化を伴うIBDの診断方法(検出方法)を提供するものである。
具体的には、本発明の診断方法(検出方法)は、被験者の大腸組織などの一部をバイオプシなどで採取し、そこに含まれるIL-1遺伝子の発現レベル(発現量)、または該遺伝子に由来するIL-1タンパク質を検出、測定することにより、線維化を伴うIBDの罹患の有無またはその程度を診断するものである。また、本発明の診断方法は、例えば線維化を伴うIBD患者において、該疾患の改善のために治療薬などを投与した場合における、該疾患の改善の有無またはその程度を診断することもできる。
本発明の診断方法は、次の(a)、(b)および(c)の工程を含む:
(a) 被験者の生体試料と本発明の診断薬を接触させる工程、
(b) 生体試料中のIL-1遺伝子の遺伝子発現レベルまたはIL-1タンパク質の量を、上記診断薬を指標として測定する工程、
(c) 上記(b)の結果をもとに、線維化を伴うIBDの罹患を判断する工程。
ここで用いられる生体試料は、被験者の大腸組織などのIL-1遺伝子を発現可能な細胞を含む組織、これの組織から調製されるRNAもしくはそれらからさらに調製されるポリヌクレオチドまたは上記組織から調製されるタンパク質である。これらのRNA、ポリヌクレオチドおよびタンパク質は、例えば被験者の大腸組織の一部をバイオプシなどで採取後、常法に従って調製することができる。
本発明の診断方法は、測定対象として用いる生体試料の種類に応じて、具体的には下記のようにして実施される。
A.測定対象の生体試料としてRNAを利用する場合
測定対象物としてRNAを利用する場合、線維化を伴うIBDの検出は、具体的に下記の工程(a)、(b)及び(c)を含む方法によって実施することができる:
(a)被験者の生体試料から調製されたRNAまたはそれから転写された相補的ポリヌクレオチドと、前記本発明の診断薬(IL-1遺伝子の塩基配列において連続する少なくとも15塩基を含有する核酸及び/又は該核酸に相補的な核酸)とを結合させる工程、
(b)該診断薬に結合した生体試料由来のRNAまたは該RNAから転写された相補的核酸を、上記診断薬を指標として測定する工程、
(c)上記(b)の測定結果に基づいて、線維化を伴うIBDの罹患を判断する工程。
生体試料としてRNAを利用する場合、本発明の診断方法(検出方法)は、該RNA中のIL-1遺伝子の発現レベルを検出し、測定することによって実施される。具体的には、前述の核酸からなる本発明診断薬(疾患マーカー)(IL-1遺伝子の塩基配列中の連続する少なくとも15塩基を有する核酸および/または該核酸に相補的な核酸)をプライマーまたはプローブとして用いて、ノーザンブロット法、RT-PCR法、DNAチップ解析法、in situハイブリダイゼーション解析法などの公知の方法を行うことにより実施できる。
ノーザンブロット法を利用する場合、本発明の診断薬(疾患マーカー)をプローブとして用いることによって、RNA中のIL-1遺伝子の発現の有無および発現レベルを検出、測定することができる。具体的には、まず本発明診断薬(疾患マーカー)(相補鎖)を放射性同位元素(32P、33Pなど:RI)、蛍光物質などで標識する。次いで、得られる標識診断薬を常法に従ってナイロンメンブレンなどにトランスファーした被験者の生体組織由来のRNAとハイブリダイズさせる。その後、形成された標識診断薬(DNA)とRNAとの二重鎖を、該標識診断薬の標識物(RI、蛍光物質など)に由来するシグナルを放射線検出器(BAS-1800II、富士フィルム社製)、蛍光検出器などで検出、測定する方法を例示することができる。また、AlkPhos Direct Labelling and Detection System (Amersham Pharamcia Biotech社製)を用いて、該プロトコールに従って本発明診断薬(プローブDNA)を標識し、被験者の生体組織由来のRNAとハイブリダイズさせた後、診断薬の標識物に由来するシグナルをマルチバイオイメージャーSTORM860 (Amersham Pharmacia Biotech社製)で検出、測定する方法を採用することもできる。
RT-PCR法を利用する場合、本発明の上記診断薬(疾患マーカー)をプライマーとして用いることによって、RNA中のIL-1遺伝子の発現の有無および発現レベルを検出、測定することができる。具体的には、まず被験者の生体組織由来のRNAから常法に従ってcDNAを調製し、これを鋳型として標的のIL-1遺伝子の領域が増幅できるように、本発明診断薬(疾患マーカー)から調製した一対のプライマー(上記cDNA(−鎖)に結合する正鎖、+鎖に結合する逆鎖)をこれとハイブリダイズさせ、常法に従ってPCR法を行い、得られた増幅二本鎖DNAを検出する方法を例示することができる。なお、増幅された二本鎖DNAの検出には、予めRI、蛍光物質などで標識しておいたプライマーを用いて上記PCRを行うことによって産生される標識二本鎖DNAを検出する方法、産生された二本鎖DNAを常法に従ってナイロンメンブレンなどにトランスファーさせて、標識した診断薬(疾患マーカー)をプローブとして使用してこれとハイブリダイズさせて検出する方法などを用いることができる。生成された標識二本鎖DNA産物はアジレント2100バイオアナライザ(横河アナリティカルシステムズ社製)などで測定することができる。また、SYBR Green RT-PCR Reagents (Applied Biosystems社製)で該プロトコールに従ってRT-PCR反応液を調製し、ABI PRIME 7700 Sequence Detection System (Applied Biosystems 社製)で反応させて、該反応物を検出することもできる。
DNAチップ解析を利用する場合、本発明診断薬(疾患マーカー)をDNAプローブ(1本鎖または2本鎖)として貼り付けたDNAチップを用意し、これに被験者の生体組織由来のRNAから常法によって調製されたcRNAをハイブリダイズさせ、形成されたDNAとcRNAとの二本鎖を、本発明診断薬(疾患マーカー)から調製される標識プローブと結合させてIL-1遺伝子の発現の有無および発現レベルを検出、測定することができる。また、上記DNAチップとして、IL-1遺伝子の遺伝子発現レベルを検出、測定可能なDNAチップを用いることもできる。該DNAチップとしては、例えばAffymetrix社のGene Chip Human Genome U95 A, B, C, D, Eを挙げることができる。
B.測定対象の生体試料としてタンパク質を用いる場合
測定対象としてタンパク質を用いる場合、本発明検出(診断)方法は、生体試料中のIL-1を検出し、その量(レベル)を測定することによって実施される。
具体的には下記の工程(a)、(b)及び(c)を含む方法によって実施することができる:
(a)被験者の生体試料から調製されたタンパク質と抗体に関する本発明の診断薬(IL-1を認識する抗体)とを結合させる工程、
(b)該診断薬に結合した生体試料由来のタンパク質を、上記診断薬を指標として測定する工程、
(c)上記(b)の測定結果に基づいて、線維化を伴うIBDの罹患を判断する工程。
より具体的には、本発明診断薬(疾患マーカー)として抗体(配列番号:2または配列番号:4で示されるアミノ酸配列からなるタンパク質を認識する抗体)を用いて、ウエスタンブロット法などの公知方法で、IL-1を検出、定量する方法を挙げることができる。
ウエスタンブロット法は、一次抗体として本発明診断薬(疾患マーカー)を用いた後、二次抗体として125Iなどの放射性同位元素、蛍光物質などで標識した標識抗体(一次抗体に結合する標識抗体)を用い、得られる標識結合物の放射性同位元素、蛍光物質などに由来するシグナルを放射線測定器(BAS-1800II:富士フィルム社製など)、蛍光検出器などで検出し、測定することによって実施できる。また、一次抗体として本発明診断薬(疾患マーカー)を用いた後、ECL Plus Western Blotting Detction System (Amersham Pharmacia Biotech 社製)を用いて、該プロトコールに従って検出し、マルチバイオイメージャーSTORM860 (Amersham Pharmacia Biotech 社製)で測定することもできる。
尚、上記において測定対象とするIL-1タンパク質の機能または活性は、既に知られており、該タンパク質の量と機能乃至活性とは一定の相関関係を有している。従って、上記タンパク質の量の測定に代えて、該タンパク質の機能または活性の測定を行うことによっても、本発明の線維化を伴うIBDの検出(診断)を実施することができる。すなわち、本発明は、IL-1タンパク質の機能または活性を指標として、これを公知の方法に従って測定、評価することからなる、線維化を伴うIBDの検出(診断)方法をも包含する。
C.線維化を伴うIBDの診断
線維化を伴うIBDの診断は、被験者の大腸組織などにおけるIL-1遺伝子の遺伝子発現レベルまたはIL-1タンパク質の量、機能もしくは活性(以下これらを合わせて「タンパク質レベル」ということがある)を、正常な大腸組織などにおける当該遺伝子発現レベルまたは当該タンパク質レベルと比較し、両者の違いを判定することによって行うことができる。
この場合、正常な大腸組織などから採取、調製した生体試料(RNAまたはタンパク質)が必要であるが、これは線維化を伴うIBDに罹患していない人の大腸組織などをバイオプシなどで採取することによって取得することができる。なお、ここで「線維化を伴うIBDに罹患していない人」とは、少なくとも線維化を伴うIBDの自覚症状がなく、線維化を伴うIBDでないと診断された人をいう。当該「線維化を伴うIBDに罹患していない人」を、本明細書では単に正常者という場合もある。
被験者の組織と正常組織(線維化を伴うIBDに罹患していない人の組織)との遺伝子発現レベルまたはタンパク質レベルの比較は、被験者の生体試料と正常者の生体試料を対象とした測定を並行して行うことで実施できる。また、並行して行わなくても、複数(少なくとも2、好ましくは3以上、より好ましくは5以上)の正常組織を用いて均一な測定条件で測定して得られたIL-1遺伝子の遺伝子発現レベルもしくは該遺伝子の発現産物であるIL-1タンパク質レベルの平均値または統計的中間値を予め求めておき、これを正常者の遺伝子発現レベルもしくはタンパク質レベル(正常値)として、被験者における測定値の比較に用いることができる。
被験者が、線維化を伴うIBDであるかどうかの判断は、該被験者の組織におけるIL-1遺伝子の遺伝子発現レベルまたはその発現産物であるIL-1タンパク質レベルが、正常者のそれらと比較して2倍以上、好ましくは3倍以上多いことを指標として行うことができる。IL-1β遺伝子の遺伝子発現レベルまたはIL-1βタンパク質レベルを指標とすることが好ましい。被験者の遺伝子発現レベルまたはタンパク質レベルが正常者のそれらのレベルに比べて多ければ、該被験者は線維化を伴うIBDであると判断できるか、該疾患の罹患が疑われる。
(4)線維化を伴う炎症性腸疾患モデル動物および該モデル動物を用いたスクリーニング方法
本発明の第4の態様は、線維化を伴う炎症性腸疾患モデル動物および該モデル動物を用いたスクリーニング方法である。
本発明の線維化を伴うIBDモデル動物は、動物にTNBSを注入することによって作製することができる。
「動物」としては、起炎剤を投与することが可能であれば、その種類、年齢、性別等、特に限定されないが、例えば、ウサギ、マウス、モルモット、ラット等の哺乳動物、好ましくはげっ歯類動物、特に好ましくはSJL/Jマウスが挙げられる。
「TNBSの注入」は、Gastroenterology、96巻、795-803頁(1989)等に記載の方法を参考に行うことができる。具体的には、動物をTNBS標識卵白アルブミンなどで全身感作処理6〜8日間後に、更にTNBSを直腸内に惹起投与して4日〜6日間炎症を進展させることによって、本発明の線維化を伴う炎症性腸疾患モデル動物を作製することができる。TNBS標識卵白アルブミンを注入する部位は、例えば、皮下、腹腔内、背部皮下などを挙げることができるが、好ましくは背部皮下であり、TNBSを注入する部位は直腸である。
ここで、TNBS標識卵白アルブミンあるいはTNBSを溶解する溶媒としては、例えばリン酸バッファーや生理食塩水などを挙げることができる。TNBS標識卵白アルブミンは、例えば0.1-10mg/ml、好ましくは1-4mg/mlの濃度で溶媒に懸濁すればよく、TNBSは、例えば1-100mg/ml、好ましくは5-20mg/mlの濃度で溶媒に懸濁すればよい。また、これらの投与量は、特に限定されないが、TNBS標識卵白アルブミンの投与量は、例えば0.05-0.4ml、好ましくは0.1-0.2mlであり、TNBSの投与量は、例えば0.01-0.2ml、好ましくは0.1-0.2mlである。
上記の処置を行った動物について、TNBSの投与から一定期間経過してから解剖を行えば、線維化を伴う炎症性腸疾患の発症が確認できる。具体的には、例えば、腸炎症状あるいは線維化の程度を評価することによって、線維化を伴うIBDの症状を確認(評価)することができる。線維化を伴うIBDの評価時期は、線維化が起っていればよく、特に限定されないが、例えばTNBSの投与から5日以上経過後、好ましくはTNBSの投与から5日〜6日間経過後に、線維化の評価を行うことができる。
腸炎症状は、便状態の観察、腸管長の測定、体重減少、腸管重量の秤量、あるいは腸組織標本観察などの評価方法を用いて評価することができる。
また、線維化の程度は、例えば、コラーゲン線維の沈着を定量するハイドロキシプロリン定量法あるいは腸管組織のコラーゲン線維染色法を用いて測定することができる(Arch. Biochem. Biophys. 93: 440-447(1961))。ハイドロキシリンプロリン定量法は、腸ホモジネートを加水分解によってアミノ酸に分解した後にコラーゲン線維に多く含まれるアミノ酸のハイドロキシプロリンと呈色反応を示す試薬で測定する方法である。コラーゲン線維染色法は腸管の組織切片をマッソントリクローム染色法等のコラーゲン線維を染色する試薬で染色後に、その染色面積を測定する方法である。
なお、本発明の線維化を伴った炎症性腸疾患モデル動物は、線維化の程度を評価することによって線維化抑制剤のスクリーニングを行うことができる。
本発明の線維化抑制剤のスクリーニング方法は、次の工程(a)、(b)および(c)を含む:
(a)動物にTNBSを注入する工程、
(b)被検物質を投与する工程、
(c)線維化の程度を評価する工程。
ここで、本発明のモデル動物の作製のためのTNBSを注入する工程、および線維化の程度の評価する工程は、前述の方法に従って行うことができる。
なお、被検物質の投与方法、および投与量は特に限定されない。具体的には、マウス用ゾンデを用いて被検物質の懸濁液を強制経口投与する方法、被検物質の生理食塩水溶液等を用いて静脈注射する方法、腹腔内投与する方法、腹腔内投与する方法、直腸内投与する方法、気道内投与する方法または皮下投与する方法などが挙げられる。溶媒は、疾患モデル動物系に影響を与えなければよく、有機溶媒に溶解後に水溶系溶液に希釈して投与しても良い。本スクリーニング方法においては、被検物質投与群と共にコントロール群を設けても良い。
また、被検物質の投与時間、投与回数についても、何ら限定されるものではないが、1日あたり1〜2回投与することが好ましい。被検物質の投与開始時期および投与期間も特に限定されない。
実施例に詳述するように、本発明の線維化を伴う炎症性腸疾患モデル動物を用いることによって、線維化を抑制する剤を評価することができる。本発明のモデル動物は、線維化を伴うIBDの研究や治療剤の選別等に非常に有用である。
次に、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によりなんら限定されるものではない。
線維化を伴うIBDモデル動物の作製
(1)感作液の作成
0.5g卵白アルブミン(Sigma)と0.5g K2CO3(ナカライテスク)を25ml注射用蒸留水に溶解した(卵白アルブミン溶液)。25mlの0.1M K2CO3に0.5g TNBS(ナカライテスク)を溶解した(TNBS溶液)。卵白アルブミン溶液とTNBS溶液を混合し、室温で一晩攪拌した。攪拌した溶液を透析膜(Spectra/Por Membrane MWCO:10,000、Spectrum Medical Industries Inc.)で0.01M NaHCO3(ナカライテスク)に透析した。透析した溶液をBCA Protein Assay Reagent(Pierce)でタンパク定量した。2mg/ml溶液を感作液とした。
(2)TNBS誘発炎症性腸疾患モデル動物
4−6週齢のSJL/Jマウス(チャールズリバー)背部に完全フロイントアジュバント(CFA:Difco)と2mg/ml感作液を乳化液として、0.1ml/headで皮下注射(感作)した。感作7日後に10mg/ml TNBS 50%エタノール(ナカライテスク)溶液をエーテル麻酔下で直腸内注入(0.2ml/headを肛門より3cmまでゾンデを挿入して注入:チャレンジ)した。チャレンジ6日後の体重変化率と症状スコア−で1群6匹、2群で群分けした。同年齢の未処置正常マウス6匹を陰性コントロール群とした。
大腸炎症状は便の状態(正常便(スコアー:0)、軟便(スコアー:1)、下痢(スコアー:2))でスコアー判定した。死亡個体は結果より除いた。統計処理は最終日のスコア―結果をSteelの検定で3群を比較した(*; 0.01<p<0.05、**;p<0.01)。TNBSチャレンジ11日後に3群のマウスを安楽死させた後、結腸を摘出した。
(3)線維化の測定
マウス結腸をホルムアルデヒド緩衝液(ナカライテスク)で固定後、パラフィン包埋した。5μmの切片を作成した後にマッソントリクローム染色し、線維化部分を青色に染色した。切片をデジタルカメラで画像を取り込み、青色部分をWinROOF software version 3.61(MITANI Co, Tokyo, Japan)で画像解析した。各マウス結腸粘膜層の線維化面積を測定した。3群の線維化の比較はBartlettの検定後にDunnetの検定で統計処理した(*; 0.01<p<0.05、**;p<0.01)。
通常用いられている公知のIBDモデル動物は、TNBSによる腸炎惹起3日以内の急性炎症モデルであり、線維化を伴わない。
しかし、IBDモデル動物について病態解析を鋭意研究することで、動物をSJL/Jマウスとし、TNBS標識卵白アルブミンで全身感作処理1週間後にTNBSで直腸内に惹起投与を施し、約5日間炎症を進展させることによって、線維化を伴ったIBDモデルを作製することができることが判明した。つまり、本発明の線維化を伴うIBDモデル動物は、公知の炎症性腸疾患モデル動物の炎症を持続的させることで線維化を伴う腸疾患症状へと移行させうることを見出したことに基づくものである。
本発明は、従来の炎症性腸疾患モデル動物の評価方法である炎症の程度を評価するのではなく、評価方法を変えて、線維化に伴う便状態の悪化や腸管線維化像を評価することに着目点を転じたことから確立出来たのであって、炎症を持続化させるマウスの系統にも種々の検討を加えた多くの基礎研究に支えられた成果である。
マウス大腸組織のIL-1遺伝子発現
IBDモデル動物の惹起方法は実施例1に記載の方法で作製した。IBD惹起操作を施さなかった正常マウス3匹と線維化を伴わないIBD惹起3日目のマウス3匹と線維化を伴うIBD惹起2週間目のマウス3匹から大腸を摘出した後にRNAzolB(TEL-TEST,Inc.)でRNA抽出を行った。First-Strand cDNA Synthesis Kit(Pharmacia)でRadom hexamer primerを用いてcDNA合成し、CytoXpress kit(Biosorce)とTakara Taq polymeraseでPolymerase chain reaction(PCR)を行い、2% AgaroseX(Stratagene)で電気泳動によりPCR productsを分離しビデオ写真を撮影した。PCRは6種類の遺伝子に対するPrimerが混合された状態で行われており、CytoXpress kitに備えられている6種類のPCR産物混合物も電気泳動した(図1)。
図1に示される結果から、正常マウス、大腸炎3日目のマウス、大腸炎2週間目のマウスの大腸RNAからPCRでハウスキーピング遺伝子であるGADPHが、同程度に増幅されていた。IL-6、TNF-αは正常マウスに比較して大腸炎マウス3日目と大腸炎マウス2週間目でPCR産物のバンドが濃く検出された。さらにIL-1βに関しては、正常マウスと大腸炎3日目では、検出されなかったが大腸炎2週間目で検出されていた。このことからIL-1βが正常マウス大腸と線維化を伴わない大腸炎マウス大腸には発現が認められなく、線維化を伴う大腸炎マウスの大腸でのみ検出されていることが見出された。
抗IL-1抗体の線維化を伴うIBDモデル動物に対する薬理効果
線維化を伴うIBDモデル動物は実施例1に記載の方法で作製した。
TNBSチャレンジ6日後のマウスを抗IL-1抗体投与群と陽性コントロール群に群分けした。抗IL-1抗体投与群にヒツジ抗マウスIL-1β抗体(Genzyme TECHNE)を、陽性コントロール群にコントロールヒツジ抗体(CHEMICON)をTNBS誘発炎症性腸疾患モデルマウスの腹腔内に0.1mg/匹で、投与した。TNBSチャレンジ9日後にも同様に投与し、TNBSチャレンジ11日後に3群のマウスを安楽死させた後、結腸を摘出した。
大腸炎症状スコア−結果を表1に、線維化免疫測定結果を表2に記載した。表に示されるように、線維化を伴った炎症性腸疾患発症マウスに抗IL-1抗体を投与することにより、症状スコア−が改善され、腸粘膜層の線維化が抑制された。IL-1は線維化を伴った炎症性腸疾患の病態に重要であることが示唆された。
Figure 2005187366
Figure 2005187366
抗IL-1抗体の線維化を伴わないIBDモデル動物に対する薬理効果
(1)感作液の作成
実施例1と同様に調製した。
(2)TNBS誘発炎症性腸疾患モデル
4−6週齢のSJL/Jマウス(チャールズリバー)背部に完全フロイントアジュバント(CFA:Difco)と2mg/ml感作液を乳化液として、0.1ml/headで皮下注射(感作)した。感作7日後に10mg/ml TNBS 50%エタノール(ナカライテスク)溶液をエーテル麻酔下で直腸内投与(0.2ml/headを肛門より3cmまでゾンデを挿入して注入:チャレンジ)した。チャレンジ前の体重で1群6匹、2群で群分けした。大腸炎症状は便の状態(正常便(スコアー:0)、軟便(スコアー:1)、下痢(スコアー:2))でスコアー判定した。死亡個体は結果より除いた。統計処理は最終日のスコア―結果をWilcoxonの順位和検定で2群を比較した(*; 0.01<p<0.05、**;p<0.01)。
(3)抗IL-1抗体の投薬
マウスをTNBSチャレンジ前の体重で、抗IL-1抗体投与群と陽性コントロール群に群分けした(1群6匹)。抗IL-1抗体投与群にヒツジ抗マウスIL-1β抗体(Genzyme TECHNE)を、陽性コントロール群にコントロールヒツジ抗体(CHEMICON)をTNBS誘発炎症性腸疾患モデルマウスの腹腔内に0.1mg/匹で、TNBSチャレンジ4時間前に投与した。TNBSチャレンジ後の3日間、大腸炎症状を観察した。
大腸炎症状スコア−結果を表3に記載した。抗IL-1抗体処理で線維化を伴わない炎症性腸疾患発症マウスの症状スコア−に影響しなかった。IL-1は線維化を伴わない炎症性腸疾患の病態には効果を示さなかった。
Figure 2005187366
本発明により、線維化を伴った炎症性腸疾患(IBD)にIL-1が関与することが明らかになったため、IL-1拮抗薬や抗IL-1抗体等は線維化を伴ったIBDの治療に有効である。また、IL-1と線維化を伴ったIBDとの関連性から、IL-1遺伝子の発現の抑制、またはIL-1タンパク質の発現や機能(活性)の抑制を指標とすることによって、線維化を伴ったIBDの治療薬となり得る候補薬をスクリーニングし選別することが可能である。
更に、本発明は線維化を伴ったIBDモデル動物および該モデル動物を用いたスクリーニング方法を提供する。
図1は、正常マウス(Normal)、線維化を伴わないマウス(Colitis, 3days)、線維化を伴うマウス(Colitis, 2weeks)各3匹の大腸組織より抽出したRNAをGADPH、IL-6、TNF-alpha、IL-1 beta、GMCSFのプライマー混合物(CytoXpress kit, Biosorce)でRT-PCRを行い、電気泳動で各PCR産物を分離した図である。線維化を伴うマウスでのみIL-1βのバンドが検出された。

Claims (17)

  1. IL-1拮抗薬を有効成分とする線維化を伴う炎症性腸疾患の予防、改善または治療剤。
  2. 抗IL-1抗体を有効成分として含有する線維化を伴う炎症性腸疾患の予防、改善または治療剤。
  3. 以下の(a)または(b)の核酸:
    (a)IL-1をコードする塩基配列に相補的な塩基配列を含有する核酸、
    (b)IL-1をコードする塩基配列からなる核酸もしくは転写後プロセッシングにより該塩基配列を生じる初期転写物と、治療対象動物の生理的条件下でハイブリダイズする塩基配列を含有し、且つハイブリダイズした状態でIL-1の転写または翻訳を抑制する核酸、
    を有効成分として含有する線維化を伴う炎症性腸疾患の予防、改善または治療剤。
  4. 下記の工程(a)、(b)及び(c)を含む、IL-1遺伝子の発現を減少させる物質のスクリーニング方法:
    (a)被験物質とIL-1遺伝子を発現することが可能な細胞とを接触させる工程、
    (b)被験物質を接触させた細胞におけるIL-1遺伝子の発現量を測定し、該発現量を被験物質を接触させない対照細胞における上記に対応する遺伝子の発現量と比較する工程、
    (c)上記(b)の比較結果に基づいて、IL-1遺伝子の発現量を減少させる被験物質を選択する工程。
  5. 下記の工程(a)、(b)および(c)を含むIL-1タンパク質の発現量を低下させる物質のスクリーニング方法:
    (a)被験物質とIL-1タンパク質を発現することが可能な細胞または該細胞から調製した細胞画分とを接触させる工程、
    (b)被験物質を接触させた細胞または細胞画分におけるIL-1タンパク質の発現量を測定し、該発現量を被験物質を接触させない対照細胞もしくは細胞画分における上記IL-1タンパク質の発現量と比較する工程、
    (c)上記(b)の比較結果に基づいて、IL-1タンパク質の発現量を低下させる被験物質を選択する工程。
  6. 下記の工程(a)、(b)および(c)を含むIL-1の機能(活性)を抑制する物質のスクリーニング方法:
    (a)被験物質をIL-1に接触させる工程、
    (b)上記(a)の工程に起因して生じるIL-1の機能(活性)を測定し、該機能または活性を被験物質を接触させない場合のIL-1の機能(活性)と比較する工程、
    (c)上記(b)の比較結果に基づいて、IL-1タンパク質の機能(活性)を抑制する被験物質を選択する工程。
  7. 線維化を伴う炎症性腸疾患の予防、改善または治療剤の有効成分を探索するための方法である、請求項4乃至6のいずれかに記載のスクリーニング方法。
  8. 請求項7記載のスクリーニング方法により得られる有効成分を含有する線維化を伴う炎症性腸疾患の予防、改善または治療剤。
  9. IL-1に特異的親和性を有する抗体またはIL-1をコードする核酸もしくは該核酸とストリンジェントな条件でハイブリダイズしえる核酸をもちいて、生体試料中のIL-1またはIL-1遺伝子の転写産物を測定することを含む、線維化を伴う炎症性腸疾患の診断方法。
  10. IL-1に特異的親和性を有する抗体またはIL-1をコードする核酸もしくは該核酸とストリンジェントな条件でハイブリダイズしえる核酸を含んでなる線維化を伴う炎症性腸疾患の診断薬。
  11. 動物に2,4,6-Trinitrobenzene sulphonic acid(TNBS)を注入して作製される線維化を伴う炎症性腸疾患モデル動物。
  12. 動物がげっ歯類動物である請求項11記載の線維化を伴う炎症性腸疾患モデル動物。
  13. 動物がSJL/Jマウスである請求項11記載の線維化を伴う炎症性腸疾患モデル動物。
  14. 下記の工程(a)、(b)および(c)を含む線維化抑制剤のスクリーニング方法:
    (a)動物にTNBSを注入する工程、
    (b)被検物質を投与する工程、
    (c)線維化の程度を評価する工程。
  15. 工程(a)における動物がげっ歯類動物である請求項14記載のスクリーニング方法。
  16. 工程(a)における動物がSJL/Jマウスである請求項14記載のスクリーニング方法。
  17. 動物にTNBSを注入することを特徴とする線維化を伴う炎症性腸疾患モデル動物の作製方法。
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