以下に、本発明の実施例について、図面を参照して詳細に説明する。
(実施例1)
図1に、本発明の動作原理を説明するために必要な最低限の構成要素を示したものである。電子源1より放出された電子ビームは、コンデンサレンズ2により収束されビームセパレータ3の周辺で、かつ対物レンズの前焦点面にクロスオーバを形成する。電子ビームは、ビームセパレータ3によりウェハ7に垂直な光軸に偏向される。ビームセパレータ3は上方からの電子ビームに対してのみ偏向作用を持つ。たとえば、電場と磁場を直行させたExB偏向器を用いる。ビームセパレータ3により偏向された電子ビームは、対物レンズ6により試料(ウェハ)表面に垂直な方向にそろった面状の電子ビームが形成される。
試料(ウェハ)7には、電子ビームの加速電圧とほぼ等しいか、わずかに高い負の電位が電源9によって印加されており、ウェハ7の表面には形成された半導体パターン形状や帯電の状態を反映した電界が形成されている。この電界によって面状電子ビームの大部分がウェハ7に衝突する直前で引き戻され、ウェハ7のパターン情報を反映した方向や強度を持って上がってくる。
引き戻された電子ビームは、対物レンズ6により収束作用を受け、ビームセパレータ3は下方から進行した電子ビームに対しては偏向作用を持たないのでそのまま垂直に上昇し、結像レンズ11により画像検出部103上にウェハ7表面の画像を結像させる。これにより、ウェハ7表面の局部的な帯電電位の変化や凹凸等の構造の違いが画像として形成される。この画像は電気信号に変換され画像処理部104に送られる。
ウェハ7に形成された半導体パターンの欠陥を検出するためには、画像処理部104により周辺の同一形状パターン部との画像比較や、あらかじめ取得された無欠陥部の画像との比較を行い、異なっている場所を欠陥として記憶する。ウェハ7はステージ(図示せず)に載置されており、ステージはステージ制御系30により連続的に移動される。ステージ制御系30とビーム制御系28は連動しており、ステージの移動に伴って電子ビームの位置を偏向器(図示せず)により微調整しながら画像取得領域を連続的に移動させていく。
ウェハ7の表面に絶縁物が存在する場合には、電源9だけではウェハ7の表面電位を決定できない。そのために、ウェハ表面の電位を所望の電位に帯電させるための機能として予備帯電制御装置32を備えている。ウェハ7表面に近接したグリッド電極へ電圧を印加しつつ電子ビームをウェハ7に照射することでウェハ7の表面の帯電電位を制御する装置である。その動作原理と構造については後述する。ウェハ7の表面を検査前にあらかじめ帯電させる場合には、この予備帯電制御装置32の下を通過させて検査領域を所望の帯電電圧に設定した後に対物レンズ6の直下を通過させて画像を取得するようにする。
次に、ウェハ7の表面で電子ビームが引き戻され条件において、ウェハ表面の欠陥を画像化する原理について説明する。
図2は、ウェハ7の最表面付近の等電位線205に垂直入射した電子ビーム201が引き戻される様子を模式的に示したものである。ウェハ7の表面に存在する欠陥202により等電位線205は欠陥の存在する場所で不均一な形状になる。そこへ垂直入射した電子ビームはこれにより垂直に引き戻されず、図示のような角度をもって引き戻されてレンズ204に入射する。レンズ204は対物レンズ6と結像レンズ11の動作を一枚の等価なレンズで示したものである。このレンズにより結像面203に像を形成すると、欠陥202の部分からの電子ビームが結像面の一箇所に集中し、その部分が周囲と比較して明るくなることが、図2からわかる。この画像から欠陥の存在と欠陥の位置を検出することが可能となる。
図3は、本発明におけるウェハの表面付近の等電位線305と、電子ビームの軌道306を数値シミュレーションした結果である。パターン断面部304には70nmの大きさの導電材料部302(白)と絶縁膜部301(斜線部)が存在し、中央の導電材料部(導通部)303のみ1Vでありその他の導電材料部は0Vであると仮定した。すなわち、中央の導電材料部のみ基板との導通が不充分であるために周囲と比べて1V正に帯電した場合を想定した。
電子ビームのエネルギーは、ウェハの電位を基準として−1eVとした。すなわち、ウェハに印加する電位が−5000Vである場合には電子ビームのエネルギーは4999eVであるとして計算した。この場合、中央の電位の異なるパターンが形成する等電位線の乱れの影響を電子ビームが強く受け、垂直に入射したビームが大きく角度を持って反射していくのが示されている。
ウェハ表面の電界により引き戻された電子ビームの密度を計算したのが、図4である。図中「構造」欄に示すように3×3に並んだ部分が導電物であり、中央の電位のみを周囲から1V異なる電位とした。下図は、この場合に電子ビームのエネルギー幅(ΔE)を2eVとして電子ビームの軌道計算を実施し、ウェハ表面から戻ってきた電子をプロットしたものである。点の密度が高いところが電子密度が高いところである。中央部に電子が集中し、電子密度が高い部分が存在することが示されており、図2で説明した原理により70nm微細パターンの1Vの変化を検出でき、すなわち導通不良欠陥が検出できることを示している。
ここでは、ポイントビームを走査する方式や二次電子を結像する方式と比較して、本発明により検査速度がけた違いに向上することを説明する。電子ビームを用いた画像形成装置の場合、画像取得の速度を制限するものは最終的に画像に必要とされるS/N比に帰着する。画像のS/N比はすなわち画像を形成するのに使われる電子の数で決定される。また必要とされるS/N比は、検出すべき欠陥が画像に生じさせるコントラストの大きさで決まる。すなわち、欠陥コントラストを信号Cとすればそれよりもノイズが小さい必要がある。ノイズNは信号の3σ値で定義される。σ値は照射電子数のショットノイズで決まり、1画素当たりに照射される電子数Sの平方根 (√S)となる。従って、ノイズNは3√Sとなる。
従来のように電子ビームをウェハ7に衝突させてそのとき発生する二次電子を検出する場合には、さらに試料からの二次電子放出という確率過程が存在するために、二次電子放出をポアソン過程であると仮定すれば、ノイズNはN=(3√2)√Sとなる。そして、たとえば、欠陥コントラストCが平均信号量Sの5%であるとすればC=0.05×Sとなり、ノイズNはN≦0.05×Sである必要があるため、S≧7200となる。この考え方に基づき1cm2あたりの検査時間Tを求めると、以下のようになる。
T=(0.01/x)2・t
=(1.6e-19・0.012・(3√2)2)/(I・η・C2・Pix2) ・・・(1)
なお、t=((1.6e-19・(3√2)2)/(I・η・C2))・(x2/Pix2)
ここで、tはノイズをコントラストCよりも小さくするために電子ビームが同一場所にとどまっていなければならない時間である。つまりSEM式の場合は電子ビームプローブが一画素を照射する時間である。また、面ビーム照射の場合はある一点にビームが向けられている必要がある時間でありこの時間をショット時間と呼ぶことにする。
Pixは必要な解像度、xは面積ビーム一辺の長さ(SEM式の場合は画素サイズすなわちPixと同一)、Iはビーム電流、ηは画像形成に使用できる電子の効率である。一方、本発明においては電子ビームはウェハ7の表面に衝突することはなく電界により散乱されるだけなので二次電子放出に伴う確率過程は存在しない。したがって(1)式の√2が不要となり(2)式のようになる。
T=(0.01/x)2・t
=(1.6e-19・0.012・(3)2)/(I・η・C2・Pix2) ・・・(2)
なお、t=((1.6e-19・(3)2)/(I・η・C2))・(x2/Pix2)
ここで、各方式におけるη、Cを見積もることにする。SEM式の場合は照射した電子ビームとほぼ同数の二次電子が放出し、そのほぼ100%を検出器に取り込むことができるためηはほぼ1である。
一方、面状の電子ビームをウェハ7に照射し、発生した二次電子を結像する二次電子プロジェクション方式においては、放出する二次電子のうちのごく限られた垂直方向成分の二次電子のみで結像しないと分解能が劣化してしまう。これを図5、図6により説明する。
図5は,結像に寄与する二次電子または反射電子の放出半角βに対する画像の分解能を求めたものである。すなわち、結像系に取り込む電子の半開角である。たとえば、放出角100mrad以下の二次電子により画像を形成した場合の分解能は約100nmであることを示している。計算条件として、ウェハに照射する電子のエネルギーは500eV、ウェハ表面は5kV/mmの強電界下にあり、二次電子のエネルギー幅は5eVである。二次電子のエネルギー分布は10eV以上に広がって分布しているが、放出エネルギー2eVを中心とした±2.5eVの成分のみを結像に利用することとした。これは全二次電子のおよそ1/2に相当する。
また、反射電子は弾性散乱電子のみを考慮することとして、エネルギー幅は1eVとした。これらの図から、二次電子において例えば分解能を40nmとするためには放出角25mradとする必要があり、この場合放出角β内に二次電子が散乱される確率は約0.1%である。二次電子の放出効率(照射電子数に対する二次電子数の割合)はおよそ1とすると、二次電子結像型の場合のηは1/2×0.001×1=0.0005となる。
一方、反射電子の場合に分解能を40nmとするためには、試料放出角(β)80mradで、その角度内に反射電子の存在する確率は、図6から0.2%である。反射電子の放出効率(照射電子数に対する反射電子数の割合)は、参考文献「Image Formation in Low-Voltage Scanning Electron microscopy、SPIE、Bellingham、p.43、p67、1993」によると、照射エネルギー500eVにおいて0.02〜0.03程度である。したがって、反射電子結像型におけるηは、0.002×0.025=5e-5とかなり小さい値となる。
一方、本発明においては、平坦なウェハ面において電子ビームがそのまま垂直上方に跳ね返されるためビームの開き角は照射ビームの角度ばらつきと同等で非常に小さい(数mrad)。図7は、これまでの説明をさらに理解するための説明図である。
図7中の左図に示すように、二次電子は試料から180度の広がりをもって真空中に放出されるのに対し、本発明においては、右図に示すようにすべての電子がほぼ真上に上ってくるため照射電子を有効に画像として利用することができる。一方、表面に凹凸や電位分布が存在する場合は垂直方向でなく、ある角度を持って上方に進むことになる。その場合は結像に直接寄与する電子の割合は減少するが、この角度の変化自体がウェハ表面の画像を形成する要因であるためコントラストが高くなる。すなわち、欠陥のコントラストCが大きくなることと等価で、欠陥検出には有利となる。
結局、本発明においては、ηとCは連動しており、ηを制限すればその分Cが増大することになる。厳密にはパターンの種類欠陥の種類によって異なるが、ここでは欠陥部において画像として検出できる信号は全電子の1/2とする。残りの1/2の信号はコントラストに寄与する分である。したがってη=0.5、C=0.5とする。
以上をまとめると、図8の(a)に示す表のようになる。この場合に、ビーム電流と検査時間の関係を表したものが、図8の(b)である。なお、この関係は、Pix=40nmで計算した。本発明が、他の方式と比較して圧倒的な短時間で検査可能であることがわかる。
次に、本発明の一実施例の構成について詳しく説明する。図9に、本発明の一実施例になる検査装置の構成を示す。本実施例による検査装置は、大別して、電子光学系101、試料室102、画像検出部103、画像処理部104および制御部105より構成されている。それぞれの部分について以下に説明する。
まず、電子光学系101について説明する。加速電源23により負の高電位が与えられている電子源1から放出された加速電子ビームは、コンデンサレンズ2によって収束され、矩形開口を有する絞り4を照射する。電子源1には、Zr/O/W型のショットキー電子源を用いた。大電流ビーム(例えば、1.5μA)で、かつエネルギー幅が1.5eVの均一な面状電子ビームを安定に形成できる。そして、ビームセパレータ3によってウェハ7の方向に偏向される。ビームセパレータ3は、電子源1からの入射電子ビームと試料からのミラー電子ビームの光路を分離するためのものである。コンデンサレンズ2は、クロスオーバを対物レンズ6の前焦点面に形成する。また、対物レンズ6によってウェハ7表面上に絞り4の像を形成するように絞りやレンズの配置を最適化してある。
これにより、ウェハ7表面に垂直な方向を向き、各電子同士の軌道がほぼ平行に揃ったビームで、かつ絞り4の開口形状に整形された面状の電子ビームが形成される。絞り4上での矩形絞り開口の大きさは、例えば100μm角であり、対物レンズ6によってこれを1/2に縮小し、ウェハ7表面上では50μm角の面状電子ビームが得られるようにした。この面状電子ビームは、照射系偏向器5によってウェハ7表面上の任意の位置に移動(または、走査)され得る。
対物レンズの前焦点面とクロスオーバ位置を完全に一致できなくてもある許容範囲内であれば問題ない。また、クロスオーバの大きさも理想的にはゼロであるが、実際は電子銃やコンデンサレンズの収差により有限の大きさを持っている。この大きさもある許容範囲であれば問題ない。このクロスオーバの位置を正確に制御し、しかも電子銃やコンデンサレンズの収差を十分に低減させた電子光学系では、試料入射角の広がりは0.5mrad以下に抑えることができた。この入射角広がりはミラー電子による試料表面の拡大像の分解能を決める要因のひとつであり以下の式で表される。
r0=β2・Zm ・・・(3)
ここで、r0は入射角の広がりで決まる分解能、βは最大入射半角、Zmは電子を引き戻す電界が生じている距離である。
本実施例では、βは0.25mrad、Zmは5mmである。これを(3)式に代入すると、r0は0.3nmとなり、本実施例では分解能に影響を与えないことがわかる。したがって、ビーム電流は必要に応じてもっと増やすことが可能である。
なお、分解能が30nm程度でも半導体の欠陥検出には十分であると考えられるので、Zmが5mmとすれば、βは2.4mradまで許容できることになる。この場合は、対物レンズの前焦点面とクロスオーバの位置のずれやクロスオーバの大きさにはかなり余裕が生じる。
前焦点面でのビーム開き半角をαとし、対物レンズの焦点距離をf、クロスオーバの位置ずれをΔf、面状電子ビームの半径をXとすれば、次の式が成り立つ
Δf=f・β/α ・・・(4)
α=X/(2f) ・・・(5)
式(4)(5)から、例えば対物レンズの焦点距離fが10mmで面状ビームの大きさXを40μmとしたときは、クロスオーバ位置のずれΔfが10mm程度ずれても問題ない。これを前焦点面でのビーム直径に換算すると約40μmとなる。いずれにしろ、電子ビームのクロスオーバを対物レンズの前焦点面の近傍に配置させることで十分な分解能を得られることがわかる。
ここで、ビームセパレータ3について簡単に説明する。ビームセパレータ3は、電子源1から放出された電子ビームをウェハ7の方向に電子ビームを偏向し、一方、ウェハ7から引き戻されたミラー電子は電子源1の方向ではなく結像レンズ11の方向に偏向する。このような作用の偏向器には磁場による偏向器が最適である。磁場による偏向作用は電子の入射方向によって偏向作用の方向が異なるからである。
また、実施例2として図10を用いて後述するが、結像レンズの光軸と対物レンズ6の光軸を一直線上に配置した光学系の場合は電場と磁場を直行させて、下からのミラー電子は直進させ、上からの電子ビームのみに偏向作用を持たせるExB偏向器を用いる。
ウェハ7、ウェハ(試料)移動ステージ8には、電源9により、電子源1よりも僅かに高い(絶対値の大きい)負電位を印加する。具体的には0.5〜5Vだけ負電位にするのが良い。あまり高い負電位にすると画像の分解能が劣化する。また、あまり小さい電位では表面の凹凸や電位等のわずかな変化を極端に強いコントラストとして画像化してしまい、真に必要な欠陥のみを検出することが困難となってしまう。
ウェハ7表面に垂直に向けられた電子ビームは、上記の負電位によってウェハ7の手前で減速されてウェハ7表面の電界によって上方に引き戻される。この電子はウェハ7の表面の情報を反映していることは既に説明した。このミラー電子は、対物レンズ6により焦点を結び、ビームセパレータにより結像系偏向器10および結像レンズ11の方向に偏向される。そして結像レンズ11によりウェハ7表面の状態を電子像として結像させる。この電子像を拡大レンズ13、14によって蛍光板15上に拡大投影させることによって、ウェハ7表面のパターンや帯電状態を反映した蛍光像(顕微鏡像)を得ることができる。
この電子像のコントラストと分解能を向上するために、クロスオーバ面にコントラストアパーチャ12を挿入できるようになっている。このコントラストアパーチャ12によって、ウェハ7表面電場で引き戻されたときに垂直方向から大きく外れた電子を取り除くことにより画像の分解能とコントラストが強調できる。
本発明の画像形成原理において、ウェハ表面の帯電の微妙な違いを検出するための感度や画像の分解能は面状電子ビームのエネルギー幅によって決まってくる。これをシミュレーションにより比較した結果が、図10である。図4と同様のパターンを仮定し、電子ビームのエネルギー幅(ΔE)を2eVと4eVの二通りの場合について得られる画像を比較した。
この結果によると、4eVのエネルギー幅を仮定した場合、パターン中央部の電位の異なる部分のコントラストが認められない。半導体の微細化の進展を考慮したとき、図10に示したような微細パターンにおいて1V程度の帯電電位の違いを欠陥として検出することが必要となってくる。したがって、本発明において用いる電子ビームのエネルギー幅は2eV以下であることが望ましいことがわかる。
前述のように、Zr/O/Wショットキー電子源を用いた本実施例においては、エネルギー幅が1.5eVであるので問題ない。たとえば、もっとエネルギー幅の大きい電子源を用いた場合には、電子ビームの光路上にエネルギーフィルタを設け、電子源から電子が放出されてから最終的に画像が形成されるまでの間に電子のエネルギー幅を2eV以下にする必要がある。エネルギーフィルタは電子源からウェハ7の間に設けることが望ましいが、ウェハ7からのミラー電子に対してエネルギーフィルタリングを実施しても同様の効果は得られる。
本発明では、電子ビームがウェハ7に衝突することがない。したがって、原則的にはウェハ7表面に絶縁膜が存在していても表面が帯電することはない。したがって、帯電させない状態で検査を実施すれば、検出できる欠陥は形状欠陥(形状が正常部と異なっているもの)のみである。
しかし、電子ビームを用いた半導体パターンの欠陥検査において、導通不良や、絶縁されるべきものがショートしている、またはリーク電流が正常部と比べて大きいというような、いわゆる電気的欠陥と呼ばれているものを電子ビームの照射によって帯電させ、その電位の違いによって発生するSEM画像の電位コントラストにより検出する方法が行われている。
このような欠陥を高感度に検出できるように、本発明では検査画像を取得する前にあらかじめ帯電制御専用の電子ビームを照射する予備帯電制御装置を備えている。この装置によりウェハ7をあらかじめ所定の電位に帯電させてから検査を実施すれば、形状欠陥だけでなく導通不良部のような電気的欠陥を検出できる。以下、この動作と構成について説明する。
図11は、予備帯電制御装置の動作原理を説明する図である。電子源41は、大電流の電子ビームをある程度の広さ(数百μm〜数十mm)を持った面から放出する電子源である。たとえば、カーボンナノチューブを束ねた電子源やタングステンフィラメント熱電子源、あるいはLaB6電子源等を用いることが可能である。引出グリッド42に引出電極48により電圧引出電圧を印加して電子源41から電子ビーム43を放出させる。電子ビームは、制御グリッド44を通過して絶縁膜46に照射される。これにより二次電子45が放出する。
この二次電子は、絶縁膜46の表面の電位を基準としておよそ2eVのエネルギーを持っている。絶縁膜表面が基板47の電位と同等であれば電子ビームの照射エネルギーは加速電源49の電圧であり、この電圧は二次電子放出効率が1以上となるような値に設定しておく。一般的な半導体デバイス用の絶縁膜材料では500Vで良い。このとき、二次電子放出効率が1より大きいため、絶縁膜表面は正に帯電していく。
制御グリッド44には制御電源50が接続されており任意の正または負の電圧を印加できるようになっているので、絶縁膜表面の電位が制御グリッド44の設定電位よりも正になり、二次電子が絶縁膜表面に引き戻されるようになると絶縁膜表面の正への帯電が止まる。このとき、絶縁膜表面の帯電電位は制御グリッドの電位よりやや低い(約2V)正の電位で安定することになる。制御グリッドの電位と等しくならないのは、二次電子がエネルギーを持っているためである。以上のような原理によって、絶縁膜46表面の電位を制御グリッド44の電位によって制御することが可能となる。
図12は、カーボンナノチューブ電子源を用いた予備帯電制御装置の構成である。電子源41は、碍子51により真空内に保たれた状態で保持され、電位を印加できるようになっている。制御グリッド44はウェハ7に面して配置され、引出グリッド42が電子源51から電子を引き出す。
図13は、LaB6電子源を利用した予備帯電制御装置の構成である。LaB6電子源を顕微鏡に用いる場合は、ウェーネルト電極を用いて電子放出直後にクロスオーバを形成させるが、この場合は光源が小さい必要がないので代わりに引出電極42’を設けている。
試料室102内では、2次元(X、Y)方向に移動可能な試料移動ステージ8上にウェハ7が載置され、ウェハ7には電源9により前述のように電子ビームの大部分がウェハ7に衝突しないような負電位が印加されている。試料移動ステージ8にはステージ位置測定器27が付設され、ステージ位置をリアルタイムで正確に計測している。これは、ステージ8を連続移動させながら画像を取得するためである。このステージ位置測定器27には、例えばレーザ干渉計が用いられる。
また、半導体試料(ウェハ)表面の高さを正確に計測するために、光学的な試料高さ測定器26も取りつけられている。これには、例えば、ウェハ表面上の検査すべき領域に斜め方向から光を入射させ、その反射光の位置変化からウェハ表面の高さを計測する方式のものを用いることができる。この他、試料室102には、検査領域の位置決め用に用いられる光学顕微鏡31も付設されている。
次に、試料移動ステージ8の整定時間について述べる。ステージ8の移動方法をステッフ゜・アンド・リピート方式とすると、ステージ8の整定時間は、msec
オーダが必要となるため、画像S/N比を向上させて画像取得時間を短縮してもステージ移動に時間がかかってしまい検査時間を短縮することができない。従って、ステージ8の移動方法は、ステージが常にほぼ等速で移動している連続移動方式とした。これによりステージの整定時間による検査時間の制約はなくなる。ただし、ステージ8が連続移動していると、同一場所の画像を形成するのに必要な時間である1ショットの間にもステージ8が移動して、試料表面上での照射位置が変化してしまう。そこで、1ショットの間に照射位置が変化しないように、照射系偏向器5により照射電子ビームをステージ8の移動に追従させるようにした。また、静止座標系である電子光学系から見ると、電子ビーム照射位置は移動するから結像レンズ11により作られる像12も移動してしまう。この移動が生じないようにするために、結像系偏向器10を照射系偏向器5と連動動作させるようにした。
次に、画像検出部103について説明する。画像検出には、散乱電子像12の拡大像を光学像に変換するための蛍光板15と光学画像検出素子(例えばCCD素子)17とを光ファイバー束16により光学結合させる。これにより蛍光板15上の光学像を光学画像検出素子17の受光面上に結像させる。光ファイバー束16は、細い光ファイバーを画素数と同じ本数束ねたものである。また、上記光ファイバー束16の代わりに光学レンズを用い、光学レンズによって蛍光板15上の光学像を光学画像検出素子(CCD)17の受光面上に結像させるようにしてもよい。蛍光板15の両面には電極300と透明電極301を設け、両電極間に透明電極301側が正の高電圧を印加して電子ビームの散乱を防いでいる。光学画像検出素子(CCD)17は、その受光面上に結像された光学像を電気的な画像信号に変換して出力する。出力された画像信号は、画像処理部104に送られ、そこで画像信号処理が行われる。
次に、画像検出素子(CCD)の読み取り時間について述べる。本実施例では、CCD17に蓄積された電荷を128チャンネルの読み出し口から8Mライン/秒の読出速度で多チャンネル並列読み出しできるようにした。1チャンネル1ライン当たりの画素数は8で、1ライン当たりの読み出所要時間は125nsecである。従って、1画素当たりの読み出所要時間は125nsec/8(画素)=16nsecとなる。これに対し、CCDからの画像データの読み出しが1チャンネル方式では、非常に高速での読み出しが必要となり、実現困難である。
本実施例では、CCDからの画像データの読み出し口を128チャンネルに分け、この128チャンネルで並列同時読み出しする方式とすることによって、1画素当たりの読み出し所要時間を16nsecとし、十分実現可能な読出速度としている。これを模式的に示したのが、図14である。
CCD17からの画像データの読出チャンネル数は128chであり、各チャンネル毎に8画素×1024ラインがあるから、このCCDから一枚の画像データを読み出すに必要な時間は約125μsecとなる。すなわち、1ショット領域の画像信号を125μsecで取り込めることになり、画素サイズ50nm、1ショット領域を50μm角とすれば試料表面積1cm2当たりの検査所要時間は5secとなる。
以上のように、画素サイズ50nmで検査した場合の従来方式による試料面積1cm2当たりの検査所要時間約400secに比べて、80倍もの高速化が達成できた。また、本実施例では、検査所要時間を決めているのはCCD素子からの信号読み出し速度であるので、将来CCD素子におけるより高速のデータ読み出し方式が実現されれば、さらなる検査の高速化が期待できる。
画像処理部104は、画像信号記憶部18及び19、演算部20、欠陥判定部21より構成されている。画像記憶部18と19は同一パターンの隣接部の画像を記憶するようになっており、両者の画像を演算部20で演算して両画像の異なる場所を検出する。この結果を欠陥判定部21により欠陥として判定しその座標を記憶する。なお、取り込まれた画像信号はモニタ22により画像表示される。
装置各部の動作命令および動作条件は、制御部105内の制御計算機29から入出力される。制御計算機29には、予め電子ビーム発生時の加速電圧、電子ビーム偏向幅・偏向速度、試料ステージ移動速度、画像検出素子からの画像信号取り込みタイミング等々の諸条件が入力されている。ビーム制御系28は、制御計算機29からの指令を受けて、ステージ位置測定器27、試料高さ測定器26からの信号を基にして補正信号を生成し、電子ビームが常に正しい位置に照射されるように対物レンズ電源25や走査信号発生器24に補正信号を送る。ステージ制御系30は、制御計算機29から指令を受けて試料移動ステージ8を制御する。
次に、実際の検査手順について説明する。まず、光学顕微鏡31と電子ビーム画像を用いてのアライメントの方法について説明する。ウェハ7をウェハ移動ステージ(X−Y-θステージ)8上に載置し、光学顕微鏡31の下へ移動する。モニタ22によりウェハ7表面の光学顕微鏡画像を観察し、画面内の例えば中央に現れた任意のパターンを記憶する。この際、選択するパターンは電子ビーム画像上でも観察可能なパターンである必要がある。
次に、上記の光学顕微鏡画像を用いてウェハ7表面上の回路パターンがステージ移動方向と平行あるいは直交となるように、ウェハ移動ステージ8により回転補正を行う。回転補正時には、あるステージ位置におけるウェハ7表面上の回路パターンの任意のチップ内の任意のパターン部分の光学画像を取り込んでモニタ22に表示させて、表示画面内の任意箇所にマーキングを付す。そして、その光学画像信号を記憶部18に記憶させる。
次に、ウェハ7表面上の回路パターンの数チップ分の距離だけステージ8をx方向またはy方向に移動させ、新たなチップ内の先と同一のパターン部分の光学画像を取り込んでモニタ22に表示させる。そして先のマーキング箇所に対応する箇所にやはりマーキングを付した後、その新たな光学画像信号を記憶部19に記憶させる。次いで、演算部20において、記憶部18、19に記憶された光学画像信号同士を比較演算して、両画像間でのマーキング箇所の位置ずれ量を算出する。このマーキング箇所の位置ずれ量と両画像間でのステージ移動量とから、ウェハ7の回転角度誤差を算出し、その分ステージ8を回転させて回転角度を補正する。以上の回転補正操作を数回繰り返して、回転角度誤差が所定値以下となるようにする。
さらに、光学顕微鏡画像を用いてウェハ7表面上の回路パターンを観察し、ウェハ上でのチップの位置やチップ間の距離(例えば、メモリセルのような繰り返しパターンの繰り返しピッチ)を予め測定し、その値を制御計算機29に入力する。そして、ウェハ7表面上の被検査チップおよびそのチップ内の被検査領域をモニタ22の光学顕微鏡画像上で設定する。光学顕微鏡画像は、比較的低倍率で観察が可能であり、また、ウェハ7表面の回路パターンが例えばシリコン酸化膜のような透明な膜で覆われている場合でもその下地まで観察可能である。したがって、チップ内回路パターンのレイアウト等が簡便に観察でき、検査領域の設定が簡便に行える。
次に、ウェハ7を電子光学系の下へ移動する。そこで、先に光学顕微鏡画像上で設定した被検査領域を含むと予想される領域の電子ビーム画像を取得する。この時、1ショット領域内に上記の被検査領域が入るようにする。この電子ビーム画像上においても、先の光学顕微鏡画像上においてマーキングしたのと同じ画面内に、先にマーキングした箇所のパターンが現れるようにステージ8を移動する。これにより、予め検査開始前に電子ビーム照射位置と光学顕微鏡観察位置との間の対応をつけ、かつ、画像取得位置を校正することができるようになる。そして、この電子ビーム画像上において、先に光学顕微鏡像上で行ったのと同様の操作を実施する。これにより、光学顕微鏡を用いての簡便な観察位置の確認や位置合わせ、および電子ビーム照射位置の調整が可能となる。
さらには、ある程度の回転補正も実施した後に、光学顕微鏡画像に比べて分解能が高く、高倍率画像を得ることのできる電子ビーム画像を用いてさらに高精度な回転補正ができるようになる。さらに、この電子ビーム画像を用いて、被検査領域または同一パターン領域を高倍率で高精度に観察確認・補正することができる。ただし、半導体ウェハ7の表面の全部(または一部)が絶縁物で覆われている場合には、絶縁物表面の帯電電位が基板電位と等しくなっていない可能性があるので画像取得前に呼び帯電制御装置32によって表面の帯電電圧を制御しておく必要がある。
上記した検査条件の設定が完了したら、半導体ウェハ7表面上の被検査領域の一部を実際の検査条件と全く同一の条件で電子ビーム画像化し、被検査領域の材質や形状に依存した画像の明るさの情報およびそのばらつき範囲を算出しテーブルにして記憶する。そして、後の検査工程において該記憶テーブルを参照して実際に画像化検出された被検査領域内のパターン部分が欠陥であるか否かを判定する際の判定条件を決定する。
上記の手順によって被検査領域および欠陥判定条件の設定が完了したら、実際に検査を開始する。検査時には、試料(半導体ウェハ)7を搭載したステージ8はx方向に一定速度で連続移動する。その間、電子ビームは各1ショットの間ウェハ7表面上の同一照射領域(面積領域)を一定のショット時間(本実施例では、50μsec以上)照射する。ステージ8は連続移動しているので、電子ビームは照射系偏向器5によってステージ8の移動に追従して偏向走査させる。
電子ビームの照射領域あるいは照射位置は、ステージ8に設けられたステージ位置測定器27、試料高さ測定器26等により常時モニタされる。これらのモニタ情報が制御計算機29に転送されて詳細に位置ずれ量が把握され、かつこの位置ずれ量はビーム制御系28によって正確に補正される。これにより、パターンの比較検査に必要な正確な位置合わせが高速・高精度で行われ得る。
また、半導体ウェハ7の表面高さを、電子ビーム以外の手段でリアルタイムに測定し、電子ビームを照射するための対物レンズ6や結像レンズ11の焦点距離をダイナミックに補正する。電子ビーム以外の手段としては例えば、レーザ干渉方式や反射光の位置変化を計測する方式等による光学式の高さ測定器26である。これにより、常に被検査領域の表面に焦点のあった電子ビーム像を形成することができる。また、予め検査前にウェハ7の反りを測定しておき、その測定データを基に上記の焦点距離補正をするようにして、実検査時にはウエハ7の表面高さ測定を行う必要がないようにしてもよい。
電子ビームをウェハ7表面に向け、ミラー電子によりウェハ7表面上の所望の被検査領域(面積領域)についての拡大光学像を蛍光板15上に形成する。この拡大光学像をCCD素子17により電気的な画像信号に変換し、この画像信号を画像処理部104に取り込む。そして、制御計算機29からの指令を受けて制御部28により与えられた電子ビーム照射位置に対応した面積領域についての電子ビーム画像信号として、記憶部18(または19)に格納する。
半導体ウェハ7表面上に形成された同一設計パターンを有する隣接チップA、B間でのパターンの比較検査をする場合には、先ず、チップA内の被検査領域についての電子ビーム画像信号を取り込んで、記憶部18内に記憶させる。次に、隣接するチップB内の上記と対応する被検査領域についての画像信号を取り込んで、記憶部19内に記憶させながら、それと同時に、記憶部18内の記憶画像信号と比較する。さらに、次のチップC内の対応する被検査領域についての画像信号を取得し、それを記憶部18に上書き記憶させながら、それと同時に、記憶部19内のチップB内の被検査領域についての記憶画像信号と比較する。このような動作を繰り返して、全ての被検査チップ内の互いに対応する被検査領域についての画像信号を順次記憶させながら、比較して行く。
上記の方法以外に、予め、標準となる良品(欠陥のない)試料についての所望の検査領域の電子ビーム画像信号を記憶部18内に記憶させておく方法を採ることも可能である。その場合には、予め制御計算機29に上記良品試料についての検査領域および検査条件を入力しておき、これらの入力データに基づき上記良品試料についての検査を実行し、所望の検査領域についての取得画像信号を記憶部18内に記憶する。次に、検査対象となるウェハ7をステージ8上にロードして、先と同様の手順で検査を実行する。
そして、上記と対応する検査領域についての取得画像信号を記憶部19内に取り込むと同時に、この検査対象試料についての画像信号と先に記憶部18内に記憶された上記良品試料についての画像信号とを比較する。これにより上記検査対象試料の上記所望の検査領域についてのパターン欠陥の有無を検出する。なお、上記標準(良品)試料としては、上記検査対象試料とは別の予めパターン欠陥が無いことが判っているウェハを用いても良いし、上記検査対象試料表面の予めパターン欠陥が無いことが判っている領域(チップ)を用いても良い。例えば、半導体試料(ウェハ)表面にパターンを形成する際、ウェハ全面にわたり下層パターンと上層パターン間での合わせずれ不良が発生することがある。このような場合には、比較対象が同一ウェハ内あるいは同一チップ内のパターン同士であると、上記のようなウェハ全面にわたり発生した不良(欠陥)は見落とされてしまう。
しかし、本実施例によれば、予め良品(無欠陥)であることが判っている領域の画像信号を記憶しておき、この記憶画像信号と検査対象領域の画像信号とを比較するので、上記したようなウェハ全面にわたり発生した不良をも精度良く検出することができる。
記憶部18、19内に記憶された両画像信号は、それぞれ演算部20内に取り込まれ、そこで、既に求めてある欠陥判定条件に基づき、各種統計量(具体的には、画像濃度の平均値、分散等の統計量)、周辺画素間での差分値等が算出される。これらの処理を施された両画像信号は、欠陥判定部21内に転送されて、そこで比較されて両画像信号間での差信号が抽出される。これらの差信号と、既に求めて記憶してある欠陥判定条件とを比較して欠陥判定がなされ、欠陥と判定されたパターン領域の画像信号とそれ以外の領域の画像信号とが分別される。
これまでに述べてきた検査方法および検査装置により、ウェハ7の表面の電位および形状の情報を反映した画像を形成し、対応するパターン領域についての画像信号を比較検査することによって、パターン欠陥の有無を検出することが可能となった。これにより、従来の電子ビームによる検査装置と比べ非常に高速な検査が可能になった。
(実施例2)
実施例1では、1ショットの電子ビーム照射領域の面積が50μm×50μmとかなり大きいため、半導体試料の拡大像の周辺部に歪みが生じると云う問題や照射領域内でのビーム電流密度の均一性に問題が生じる場合がある。画像歪みや電流密度の不均一性が固定的に生じている場合には、光ファイバー束16のファイバー素線配列に変化を付けることで補正可能である。また、画像信号の取得感度や画像処理に重みを付けることでも補正できるが、それらが時間的に変動する場合には、それらの方法では対応が困難となる。
本実施例では、1ショットの照射領域を5μm角として、1ショットの照射領域内では歪みや電流密度の不均一性の問題が生じないようにした。照射電子ビーム電流は1ショット当たり1μAである。この時、電子ビームの照射時間は電子の結像効率ηを0.5とすると、先の(1)式より、1ショット当たりの照射時間tは、0.18μsecとなる。ショット時間0.18μsecで一つの照射領域(5μm角)を照射した後、電子ビームは照射系偏向器5により隣接する次の照射領域(5μm角)上に移動される。このようにして、次々に照射位置を移動して、x方向100μm×y方向100μmの範囲全体を20×20=400ショットで照射する。
この時、CCD素子17上には、各1ショット毎に、その時の電子ビーム照射位置に対応した位置に拡大像が得られ、電子ビームの走査による電子ビーム照射位置の移動に応じてCCD素子に得られる拡大像位置も移動して行く。この様子を示したのが、図15である。
CCD素子17には1024×1024画素のものを用いた。CCD素子上での1画素はウェハ7表面上での50nm角の領域に相当し、従って、ウェハ7表面上での1ショットの照射領域(5μm角)は、CCD素子受光面上での100×100画素の領域(CCD素子受光面全体の1/100に相当する)となる。そして、CCD素子の受光面全体で試料表面上の50μm角の領域をカバーできるようにした。従って、試料表面上での50μm角の領域の拡大像を得るためには、0.18(μsec)×100(ショット)=18(μsec)を要することとなる。
上述のようにして、ウェハ7表面上の50μm角の領域の画像を18μsecでCCD上に形成させたら、CCDに蓄積された画像信号をデジタル信号として画像記憶部18に記憶させる。試料表面上の隣接する次の領域の画像信号を取得するためにはステージ8を50μm移動させる必要がある。このステージ移動には、先の実施例1の場合と同様、ステージ8を一定速度で連続移動させる方式を採った。その際、照射電子ビームに対してステージ8があたかも静止しているかの状態になる様、照射系偏向器5によって照射電子ビームをステージ8の移動に追従させて偏向走査するようにした。これにより、ステージ8を移動・停止させる際に生じる無駄時間をゼロにした。
このステージ8の連続移動への照射電子ビームの追従走査に当たっては、ビーム制御系28内で、ステージ位置測定器27からの信号を参照して偏向補正信号を計算し、この偏向補正信号を照射系偏向器5に送り照射電子ビームの偏向を制御させる。さらに、電子ビームによる試料拡大像の歪みや位置ドリフト等に関する補正分も上記の偏向補正信号に重畳させることにより、これらの補正も行うようにした。また、照射系偏向器5と連動して結像系偏向器10も動作させて、CCD上での試料拡大像の位置が上記のステージ追従によるビーム位置移動の影響を受けないようにした。これにより、ステージ移動による無駄時間を無くし、高速・高精度の検査を実現することができた。なお、上記以後の欠陥検査のための画像処理等については、先の実施例1の場合と同様である。
以上説明した手順により検査を進めていくと、試料表面1cm2当たりについての拡大像をCCD上に順次形成するに要する時間Tは0.72secとなる。一方、先の実施例1の場合と同様に、CCDから一枚の画像(試料表面50μm角についての画像)を読み出すのに125μsecが必要であるため、試料表面積1cm2当たり5secが必要となる。CCD素子における画像形成と画像信号の読み出しは並行して行われるから、検査に要する時間は、画像形成に要する時間と画像信号読み出しに要する時間との内何れか長い方の時間となる。本実施例では、画像形成所要時間より画像信号読み出し所要時間が長く、1cm2当たり5secとなっており、従って、本実施例における試料表面積1cm2当たりについての検査所要時間は5secとなる。
以上の説明では、1ショットの電子ビーム照射領域を5μm角の大きさに固定した場合について例示したが、半導体ウェハ7表面でのパターン繰り返しピッチに応じて、この電子ビーム照射領域の大きさを可変できるようにしても良い。上述したように、本実施例では、1ショットの電子ビーム照射領域をより小さく設定している。したがって、各照射領域間のつなぎ部分に多少の歪みが生じたとしても、常に同一箇所に同程度の歪みが生じることになり、相互比較すべき二つの画像上での歪みの現れ方も等しくなるため、歪みによる誤検出の問題が無くなる。これにより、信頼性の高いパターン欠陥検査が実現できる。
(実施例3)
本実施例では、試料表面画像を電気信号に変換する素子として、時間蓄積型のCCDセンサを用いた。この素子はTDIセンサと呼ばれるもので、光学式検査装置において一般的に使用されている。それ以外は、先の実施例2の場合と同様である。このTDIセンサの動作概念を、図16を参照して説明する。
TDIセンサでは、各受光領域で受光した光の強度に応じて生成された電荷をx方向のラインに移動させて行くと同時に、その移動先で受光した光の強度に応じて生成された電荷を順次足し合わせて行くように動作する。そして、受光面の最終ラインに達した時点で電気信号として外部に出力する。従って、x方向の電荷の移動速度と受光面上の画像のx方向の移動速度を同一にすることで、画像がセンサ上を移動する間の信号を積分して出力することになる。
本実施例では、先の実施例1から実施例4の場合のCCDセンサと同様に、信号読み出しを128チャンネルに分割しそれぞれ並行して読み出すことにより、読出速度を4Mライン/秒とした。また、受光領域の大きさは、x方向に64画素、y方向に2048画素のものを用いた。1ラインのx方向長さは、試料表面上の50nm、y方向長さは約100μmに相当する。このとき、縦50nm、横100μmの画像が4M/秒の速度で出力されることになるため、ステージの連続移動速度もこれと同じ速度(50nm/250nsec=200mm/sec)としている。このように、検査領域のx方向移動はステージ8を移動させることにより行う。
一方、1ショットの照射領域は5μm角であるので、図16のように、照射領域のy方向移動は電子ビームを走査して行う必要が生じる。すなわち、ステージ8がx方向に1ショット分(5μm)だけ移動する間に電子ビームをy方向に100μm走査する必要がある。1ショットの所要時間を1.25μsecとすると、y方向に100μm(20ショット分)を走査するには25μsec必要となる。一方、ステージ8のx方向移動速度は200mm/secであるから、ステージ8がx方向に丁度1ショット分(5μm)移動するに要する時間は25μsecとなる。このように、x方向に1ショット分(5μm)のステージ移動に要する時間とy方向に20ショット分(100μm)の電子ビーム走査に要する時間とを一致させ、無駄時間が生じるのを防いでいる。この方法によって試料表面積1cm2の画像を取得するには、上述の5μm×100μmの単位走査領域についての走査所要時間(25μsec)の2×105倍を要することになるので、試料表面積1cm2当たりの検査所要時間は5secとなる。
上述したように、本実施例では、TDIセンサの信号出力速度から決まるステージの移動速度が200mm/secであるから、十分ステージ移動による検査領域のx方向移動が可能である。しかもその間に電子ビームの検査領域上y方向走査のための十分な時間を確保できる。また、本実施例では、検査速度を決めているのはTDIセンサの信号出力速度であるため、この信号出力速度が改善されれば、さらに高速での検査が実現できる。
(実施例4)
本実施例は、SEM画像が取得可能な電子光学系を採用したものである。図17に、その構成を示す。
電子源201、コンデンサレンズ202およびSEM用対物レンズ233は、SEMの電子光学系を構成する要素をそのまま採用している。電子源201は、Zr/O/Wショットキー電子源を採用した。この電子源から引出した電子はビームセパレータ243により偏向を受け、静電セクタ型の電子偏向器205により代角度の変更を受けてビームセパレータ203に導かれ対物レンズ206に垂直入射する。電子ビームは対物レンズの前焦点面でクロスオーバを結んでおり対物レンズ206によりウェハ207の表面に垂直な方向にそろった面状電子ビームとなる。ウェハ207に印加する電圧や絞りの配置等に関しては実施例1と同等である。
本実施例では、ウェハ検査後に検出した欠陥の画像を詳細に観察したい場合に装置からウェハ7を取り出さずに高分解能なSEM画像を観察できることが特徴である。すなわち、ビームセパレータ243を動作させずに電子ビームを直進させるようにし、同時にウェハ移動ステージ208によりウェハ207をSEM用対物レンズ233の光軸下に移動すればウェハ207の任意の位置の観察が実行できる。なお、図中、211は結像レンズ、213、214は拡大レンズ、222はSEM用コンデンサレンズ、228はビーム制御系、232は予備帯電制御装置、252は試料室、263は画像検出部を示す。
この機能は、検出した欠陥の観察だけでなく検査前のウェハのパターン確認や検査条件設定、アライメント等でも活用できる。