しかしながら、上記従来の手法による細胞の生死判別では、迅速かつ簡便な判別が不可能であるという点で問題が生じる。
具体的に説明すると、上述したようなコロニーの増殖を目視判定する方法やβ−ガラクトシダーゼ酵素で発色酵素を分解発色させて判読する方法は、日数を1日乃至2日要する。そのため、例えば食物中の微生物の判定などのように迅速な判定を必要とする場合には適さない方法である。しかも、この方法では、細胞、菌類の表面の反応特性は調べることができず、細胞の表面の反応特性を調べようとすると、さらに煩雑な手間を要する。
また蛍光染色を利用する方法では、判定に専門的知識と技術を必要とするとともに、細胞を蛍光標識することから、細胞自体に刺激あるいは性質変化をもたらす可能性があり、細胞を生きたままで観察することは不可能である。つまり、生きている細胞の本来の活動や特性を非損傷、非侵襲的に測定することができない。細胞を非破壊的な手法で判別する方法としては、現段階では顕微鏡観察に限られており、この手法は画像処理技術によって解決を模索する動きはあるものの、高度な技術を必要とする。
さらに、核酸定量を応用した判別方法では、DNAや核酸のサンプリング、定量分析には時間と手間を必要とするので、生きている細胞、菌類の連続モニタリングが出来ないという問題がある。
細胞の生死判別及び細胞の生化学反応の測定は、医療分野への応用が期待されているが、この場合判定及び測定対象となる細胞は、各々の患者から採取した細胞である可能性が高い。しかしながら、その判定・測定用の細胞サンプルは膨大な量であり、かつ患者の個人差により測定値の差が大きくなると予測されるものであるため、上述の迅速かつ簡便な判別・測定が困難な従来の手法では実用化は困難なのが現状である。
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、細胞に対して出来るだけ悪影響を与えずに、迅速かつ簡便に細胞の生存状態を確認することができる新規な光学顕微鏡、細胞の生死を判別する方法、および、細胞活動の様子を観察する方法を提供することにある。
本願発明者らは、上記の問題点に鑑みて鋭意検討した結果、観察対象となる細胞の近傍に光ビームを照射し、当該細胞の近傍を通過する光ビームの偏向を検出することによって、細胞の生存状態(細胞の生死、細胞の活動状態)を確認することができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明にかかる光学顕微鏡は、観察対象物の近傍に照射する光を発する光源と、上記観察対象物の近傍を通過した光の偏向を検出する偏向検出器とを備えることを特徴としている。ここで上記「観察対象物の近傍」とは、観察対象物内外における物質の濃度勾配の指標として光の偏向を用いる場合に、当該偏向が十分に測定できる距離(細胞膜と細胞培養液との境界から約1000μm以内の距離)のことである。
また、本発明にかかる光学顕微鏡は、上記光源から発せられた光を観察対象物の近傍で集光させる集光手段をさらに備えることが好ましい。
また、本発明の光学顕微鏡は、上記観察対象物の近傍を通過した光を偏向検出器の手前で集光させる集光手段をさらに備えることが好ましい。つまり、上記観察対象物の近傍を通過した光を集光するための集光手段をさらに備えることが好ましい。
また、本発明にかかる光学顕微鏡は、上記光が、光ビームであることが好ましい。
なお、本発明にかかる光学顕微鏡は、細胞を観察するために用いられることが好ましい。
また、本発明にかかる光学顕微鏡において、上記偏向検出器は、以下の(1)〜(3)のうちの何れかであることが好ましい。
(1)2分割フォトダイオード、(2)4分割フォトダイオード、(3)CCDのようなイメージングセンサー、(4)位置センサー、(5)フォトダイオードとナイフエッジとを組み合わせたもの。
さらに、本発明にかかる光学顕微鏡は、上記の構成に加えて、上記偏向検出器には、観察対象物の近傍を通過した光をチョッピングする光チョッパーと、チョッピングされた上記光を検出するロックインアンプとが備えられていることが好ましい。
またあるいは、本発明にかかる光学顕微鏡は、上記の構成に加えて、上記光源は、パルスレーザーあるいはパルス発光ダイオードであるとともに、上記偏向検出器には、上記光源から発せられる当該パルスの特定の周波数の成分のみを検出し、積算する検出積算手段が備えられていることが好ましい。
さらに、本発明にかかる光学顕微鏡には、上記の構成に加えて、上記観察対象物を載置し、上記観察対象物の光源から発する光に対する位置を精密に移動させる試料台がさらに設けられていることが好ましい。なお、ここで「上記観察対象物の光源から発する光に対する位置を「精密に」移動させる試料台」とは、偏向が充分に測定できるような目的の位置に対して確実に光を照射することができるように調節しながら位置を移動させることのできるもののことを指す。具体的には、1〜10μmの単位で位置を調節して移動させることができるものを意味する。
また、本発明にかかる細胞観察方法は、細胞を含む試料に光を照射する工程と、上記試料を通過した光の偏向を検出する工程とを含み、上記光の偏向信号を、細胞膜内外における物質の濃度勾配の変化の指標として用い、当該偏向信号の変化に基づいて細胞の生存状態を評価することを特徴とするものである。
上記細胞観察方法においては、上記細胞の生存状態の評価には、上記光の偏向信号の変化に基づく細胞の生死の判別が含まれる。同様に、上記細胞の生存状態の評価には、上記光の偏向信号の経時的な変化に基づく細胞の経時的な活動状態の変化が含まれる。
また、本発明にかかる毒性測定方法は、細胞および/あるいは生体組織を含む試料に物質を投入し、当該物質の細胞および/あるいは生体組織に対する毒性の有無を判定する毒性測定方法であって、上記細胞および/あるいは生体組織観察方法による細胞および/あるいは生体組織の生存状態の評価に基づいて、上記物質の毒性の有無を判定することを特徴とするものである。
上記毒性測定方法においては、上記細胞の経時的な活動状態の変化に基づいた光の偏向信号の経時的な変化に基づき、上記細胞および/あるいは生体組織に対する毒性の基準を測定することができる。
本発明に係る光学顕微鏡は、観察対象物の近傍に照射する光を発する光源と、上記観察対象物の近傍を通過した光の偏向を検出する偏向検出器とを備えた構成となっているので、光ビームの偏向を検出することによって観察対象物の状態を確認することが可能となる。また、上記の光学顕微鏡は、上記光源から発せられた光を観察対象物の近傍で集光させる集光手段をさらに備えることによって、あるいは、上記光が光ビームであることによって、観察対象物の近傍に光を確実に照射することができるため、当該観察対象物における光の偏向をより確実に検出することができる。また、上記の光学顕微鏡は、上記観察対象物の近傍を通過した光を集光するための集光手段をさらに備えることによって、当該観察対象物を通過した光を集光できるため、当該光を確実に偏向検出器に到達させることができる。したがって、光の偏向をより正確に検出することができる。
具体的な集光手段としては、レンズが挙げられるが、これに限定されるものではない。また、当該集光手段の数は必ずしも1つではなく、適宜複数個用いて行うこともできる。
なお、本発明にかかる光学顕微鏡は、細胞を観察するために用いられることが好ましい。これはつまり、本発明の光学顕微鏡において、上記観察対象物が細胞であるということを意味する。上記の光学顕微鏡によれば、観察される細胞表面に存在する溶液の濃度変化を検出することによって、細胞の生存状態(細胞の生死、細胞の活動状態)を確認することができる。
具体的には、細胞活動の過程において、様々な化学反応及び生化学反応が細胞内で行われ、様々な物質の細胞内への取り込み及び細胞外への放出現象を伴う。さらに、これらの物質の取り込み及び放出現象には、細胞膜近傍での濃度勾配の変化を伴う。ここで上記細胞膜近傍の濃度勾配とは、上記物質の細胞内への取り込み及び細胞外への放出(つまり、細胞膜内外の物質輸送)現象に起因するもので、細胞膜に近い領域と、当該近い領域よりも少し離れた領域(例えば、細胞膜から1μm離れたところと10μm離れたところ)での物質の濃度差のことである(数学的に厳密に言えば、その濃度差(ΔC)とその距離差(Δx)との比、つまりΔC/Δxが濃度勾配になる)。
該濃度勾配は屈折率勾配を誘起するため、細胞が生細胞であれば、該細胞は培地から栄養分等を取り込み、老廃物等を細胞外に排出するなど各種の細胞活動及び生化学反応に伴う物質の取り込み及び放出現象が起こっていることから、上記光ビームを細胞近傍、すなわち細胞膜近傍に集光させることによって上記細胞膜近傍での屈折率勾配により偏向が起こる。一方、細胞が死細胞であれば、上記濃度勾配はなくなる、もしくは緩慢になる。細胞膜近傍での濃度勾配の有無は、細胞近傍を通過する光ビームの偏向に影響を与える。従って、光ビームが偏向検出器によって偏向が検出されたか否かにより、該細胞の生死判別が可能となる。
また、本発明に係る光学顕微鏡は、上記光ビームを細胞近傍に集光させることによって、細胞近傍での偏向信号の大きさを測定することが可能となる。そして、この偏向信号の大きさによって濃度勾配の強弱、すなわち細胞活動の強弱が測定することができることから、細胞の生化学反応を測定することが可能となる。
本発明にかかる光学顕微鏡において、上記偏向検出器には、観察対象物の近傍を通過した光ビームをチョッピングする光チョッパーと、チョッピングされた上記光ビームを検出するロックインアンプとが備えられていることが好ましい。またあるいは、本発明にかかる光学顕微鏡において、上記光源は、パルスレーザーあるいはパルス発光ダイオードであるとともに、上記偏向検出器には、上記光源から発せられる当該パルスの特定の周波数の成分のみを検出し、積算する検出積算手段が備えられていることが好ましい。上記の構成によれば、偏向検出器において検出される光ビームの電気的なノイズを低下させ、測定感度を向上させることができる。
また本発明に係る細胞および/あるいは生体組織の生死の判別方法、および、細胞および/あるいは生体組織の観察方法は、細胞および/あるいは生体組織を含む試料に光ビームを照射し、上記試料を通過した光ビームの偏向を検出することを利用するものである。それゆえ、直接細胞および/あるいは生体組織に刺激を与えることなく、また細胞および/あるいは生体組織の性質変化を引き起こすことなく、光ビームの偏向を測定することにより、細胞表面での濃度勾配の変化情報がモニタリングでき、細胞および/あるいは生体組織の生死あるいは、細胞活動および/あるいは生体組織活動に伴う生化学反応を判別・測定することができる。本方法によれば、特に生きている細胞および/あるいは生体組織の本来の活動や特性を、細胞および/あるいは生体組織自体を影響することなくありのままの状態で観察することができるとともに、細胞および/あるいは生体組織の生死あるいは活動状態を迅速かつ簡便に観察することができるため、再生医療の分野などにおいて有効に利用することができる。
また本発明に係る毒性測定方法は、細胞および/あるいは生体組織観察方法による細胞および/あるいは生体組織の生存状態の評価に基づいて、上記細胞および/あるいは生体組織に対する毒性の有無及び毒性基準の測定に利用するものである。光ビームの偏向を測定することにより、細胞表面での濃度勾配の変化情報がモニタリングできることを利用して、細胞および/あるいは生体組織に対する毒性の有無及び毒性基準を光ビームの偏向に基づいて判別することができる。それゆえ、毒性が不明である特定物質の毒性判定および、光ビームの偏向を経時的にモニタリングすることにより細胞に対する毒性の程度を測定することができる。
本発明の一実施形態について図1〜図4に基づいて説明すると以下の通りである。なお、本発明はこれに限定されるものではない。
本実施の形態では、本発明の基本原理について説明し、その後、本発明にかかる光学顕微鏡と、本発明にかかる細胞観察方法とを詳細に説明する。
(1)本発明の基本原理
図2は、本発明におけるプローブ光を細胞近傍に絞った場合の光の偏向を模式的に示したものである。上述したように細胞は、生きた細胞である場合、細胞活動の過程において、様々な化学反応及び生化学反応が細胞内で行われ、様々な物質の細胞内への取り込み及び細胞外への放出現象が伴う。そのため、細胞では上記物質の細胞内への取り込み及び細胞外への放出現象に伴って細胞膜の内側と外側とで上記物質の濃度勾配が必ず存在する。
この一例をあげると、生体膜の現象として知られる能動輸送である。これはナトリウムポンプという生体膜に存在するタンパク質が、細胞の中のナトリウムイオンを細胞外に輸送し、反対にカリウムイオンを細胞内に輸送する働きをもつ。生きている細胞の場合、ナトリウムイオン及びカリウムイオンは細胞の内外で濃度が異なっている。それは上記ナトリウムポンプが働いている結果であって、細胞が生きている限りこの現象は継続される。従って細胞が生きている場合、細胞膜を介して細胞の内側と外側では活発に物質の輸送が行われているのである。
そのため、生きた細胞の近傍にプローブ光17(光ビーム)を絞ると、上述した現象と同じように、物質aが細胞膜1を介して細胞の内側または外側へ輸送されている現象によって濃度勾配が生じることから、図2(a)は、物質aが細胞内へ輸送されている場合に、プローブ光17が、角度θだけ偏向する様子を模式的に示している。同じく図2(b)も、物質aが細胞外へ輸送されている場合に、プローブ光17が、角度θだけ偏向する様子を模式的に示している。一方、図2(c)は、死細胞の近傍にプローブ光17を絞った場合を模式的に示しており、細胞は上述したような輸送をまったく行わないまたはほとんど行っていないため、細胞内と細胞外で物質aの濃度に差はない、あるいは濃度差があっても時間的に改変せず、従って図2(a)及び(b)に見られたようなプローブ光の偏向は見られない。
なお、ここで図2(a)及び(b)において物質aが細胞内へ輸送される場合と細胞外に輸送される場合でプローブ光の偏向方向に違いが見られるが、これは便宜上それぞれの方向に偏向する様子を示したものである。従って、必ずしもすべての場合において、物質aが細胞内へ輸送されているからプローブ光が細胞に近づく方向へ偏向し(図2(a)参照)、物質aが細胞外へ輸送されているからプローブ光が細胞から離れる方向へ偏向する(図2(b)参照)わけではなく、この偏向方向は物質の種類によって異なる。より詳しく言えば、プローブ光の偏向方向は屈折率の濃度依存係数dn/dc(n:屈折率、c:濃度)によるものである。つまり、濃度が増加するとき屈折率が大きくなるか、小さくなるかによって決まるものである。
また物質aについても、ここでは便宜上1種類で示しているが、実際は様々な物質が細胞膜1を介して細胞の内外を輸送される。従って本発明においてプローブ光を偏向させるものとは、上記様々な物質それぞれがもつ濃度勾配による偏向信号の総和によるものである。
従って、検体である細胞に対して、生死の判別を行うためには、該細胞の近傍にプローブ光を絞り、該プローブ光が偏向するか否かを検出することにより判別することが可能となる。
また、図2(a)及び(b)のように、プローブ光が偏向する場合、その偏向度、すなわち偏向した角度の大きさは細胞膜近傍の濃度勾配の差の大きさによって変化する。ここで細胞膜近傍の濃度勾配は、細胞膜内外の物質輸送に起因するものであり、当該物質輸送により、細胞膜近傍を通過させるプローブ光の細胞膜に近い光線側と離れた光線側での濃度勾配の変化をもたらすことによりプローブ光が偏向するということである。この偏向信号を測定することにより、細胞活動及び細胞死の過程における細胞膜近傍の濃度勾配の変化を経時的に測定することが可能である。
なお本発明は、上述したように細胞および/あるいは生体組織における細胞膜近傍の濃度勾配による偏向信号の測定以外に用いることができるが、本発明の変形例として、例えば細胞および/あるいは生体組織における生化学反応にともなう反応熱による細胞膜近傍の温度勾配による偏向信号の測定も可能である。以下の説明は、細胞膜近傍における濃度勾配による偏向信号の測定を行うことを目的とするものである。
(2)本発明にかかる光学顕微鏡
続いて、本発明にかかる光学顕微鏡について詳しく説明する。図1は、本発明にかかる光学顕微鏡の一例であって、単一細胞の生死及び細胞活動の判別・測定を行うために用いる光学顕微鏡3の基本構造を示した図である。図1に示す光学顕微鏡は、検体である細胞を用いて、その近傍にプローブ光となるレーザービーム(光ビーム)を絞り(集光させ)、細胞近傍を通過した上記プローブ光の偏向を測定する装置のことである。
光学顕微鏡3は、図1に示すように、プローブ光9(光ビーム)を発するダイオードレーザー2(光源)、プローブ光9を対物レンズへと導く照明口4、プローブ光9を観察対象物の近傍で絞り込む対物レンズ12(集光手段)、上記観察対象物の近傍を通過したプローブ光9の偏向を集光するレンズあるいはレンズ系18(集光手段)、偏向信号を検出する偏向検出器10を備えている。
また、上記光学顕微鏡3によって観察される観察対象物は、当該光学顕微鏡3に設けられた試料台8に載置される。上記観察対象物としては、通常の光学顕微鏡で観察される対象物であればどのようなものでも観察可能であるが、ここでは特に、細胞や生体組織を含むものであることが好ましい。なお、以下では観察対象物として細胞を挙げ、説明する。これによれば、上記観察対象物の近傍を通過したプローブ光9の偏向を検出する偏向検出器10によって、細胞の生存状態(細胞の生死、細胞の活動状態)および生体組織の生存状態(生体組織の生死、生体組織の活動状態)を確認することができる。図1では、観察対象物として、シャーレ5内に入れられた細胞7を含む細胞培養液6を示している。なお、試料台8は観察対象物の特定の位置にプローブ光を照射することができるように、観察対象物のプローブ光に対する位置を移動させる機能を有している。
つまり、上記光学顕微鏡3は、ダイオードレーザー2から発せられたプローブ光9を照明口4から導入し、対物レンズ12によってシャーレ5の中に、細胞培養液6に浸された状態で分散して存在する細胞のうちの一つの細胞7の近傍に絞り込む。細胞7を含むシャーレ5は試料台8に取り付け、偏向されたプローブ光9はレンズあるいはレンズ系18で集光したのち偏向検出器10によって検出する。
さらに、上記光学顕微鏡3には、細胞を肉眼で観察するための観察口11が備えられている。上記レーザービームを細胞膜に近接すると光は散乱してしまうため、レーザービームの位置を、ビームと細胞膜との距離が好適な距離になるように肉眼で観察し、試料台8に取り付けたシャーレ5内の細胞7を、上記レーザービームが細胞近傍の適切な位置に絞られるために細胞の位置を調節することが可能となる。
なお、上記プローブ光の光源は光を発することができるものであれば特に限定されないが、レーザー光を発するダイオードレーザーなどの光源の方が好ましい。また、ダイオードレーザー以外にも小型He−Neレーザーあるいは発光ダイオードLEDを用いることが可能である。そして、光源の波長は、短波長であった場合、細胞内の有機物が吸収してしまう可能性が考えられるため、長波長、例えば670nm前後の半導体LEDなど、であることが好ましい。
また、上記偏向検出器には、光ビームの偏向を検出可能な従来公知の検出器を用いることができる。この偏向検出器としては、光ビームの偏向を測定することができるものであれば特に限定されることはないが、好ましい偏向検出器の具体例としては、2分割フォトダイオード、位置センサー、フォトダイオードとナイフエッジとを組み合わせたものなどを挙げることができる。これらのうち2分割フォトダイオード及び相応する電気回路を偏向検出器として用いれば、偏向信号が容易に測定される。
また、上記細胞試料7の調製、すなわちシャーレ5の中に存在する細胞数の調整については、観察したい細胞と近隣の細胞との間であり、かつ観察したい細胞の近傍に、上記プローブ光を集光するための十分な隙間が与えられるように細胞数を調節すればよい。
また、細胞7を含む細胞培養液6の組成については、通常の状態で細胞の生存状態を評価する観察対象となる細胞を培養するのに適した培養液の組成であればよい。また、より具体的な細胞の活動状態(例えば、細胞の生死、細胞膜を介した物質輸送の様子)を観察するのであれば、その目的に応じて、上記細胞培養液7を選択すればよい。
なお、上記光学顕微鏡3には、位置を移動させることができる試料台8上に置かれているため、観察対象物である細胞7と、照射されるプローブ光9との距離を調整することができる。これによって、細胞の様々な位置における活動の様子を観察することができる。
続いて、上述の光学顕微鏡の変形例について説明する。図3は、図1に示す光学顕微鏡の変形例であって、低ノイズの光学顕微鏡の構造を示した図である。なお、説明の便宜上、図1に示す光学顕微鏡3と同様の機能を有する部材には同じ部材名および部材番号を付す。
図3(a)に示す光学顕微鏡3は、図1で示したような基本構造を備えた光学顕微鏡の偏向検出器10に、さらに、観察対象物の近傍を通過した光ビームをチョッピングする光チョッパー13と、チョッピングされた上記光ビームを検出するロックインアンプ14とが備えられている。
なお、ここでも図1と同様に、偏向検出器10に入る前のプローブ光9をレンズ・レンズ系18(集光手段)によって集光することが好ましい。
また、図3(b)に示す光学顕微鏡3は、図1に示す光学顕微鏡におけるダイオードレーザー2の代わりに、光源としてパルスレーザー15あるいはパルスLED15が備えられており、また、上記偏向検出器10には、光源から発せられる当該パルスの周波数の成分のみを検出するロックインアンプ15が備えられている。
さらに、ここでも図1と同様に、偏向検出器10に入る前のプローブ光9をレンズ・レンズ系18(集光手段)によって集光することが好ましい。
図3(a)および(b)に示す光学顕微鏡は、上述のような構成によって、細胞および/あるいは生体組織の近傍に絞られたプローブ光を、ノイズレベルの低い形で偏向信号が測定される。それゆえ、これらの光学顕微鏡によれば、高い測定感度で細胞および/あるいは生体組織の生死の判別、あるいは、細胞および/あるいは生体組織活動の様子を観察することができる。なお、以下の説明も、上記と同様、観察対象物として細胞を用いた場合について説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
より具体的には、図3(a)に示す光学顕微鏡は、プローブ光9が細胞の近傍を通過した後、上記光チョッパー13でチョッピングし、偏向されたプローブ光9は上記ロックインアンプ14を介して偏向検出器10で検出するという構成である。このチョッピングにより、チョッピングの周波数成分のみが上記ロックインアンプ14において、検出されるので、ノイズの低下が期待できる。
また、図3(b)に示す光学顕微鏡は、チョッピングの代わりにパルスレーザー15あるいはパルスLED15を用いている。パルスレーザー15あるいはパルスLED15を用いる場合は、そのパルスの周波数の成分のみを検出し、積算できる検出積算手段19を備えることが好ましい。上記検出積算手段19を備えることにより、ノイズの低下及び測定感度の向上が期待される。上記検出積算手段19としてはロックインアンプが挙げられる。しかしながら、これに限定されるものではない。
さらに、図3(a)および(b)に示す光学顕微鏡の試料台には、XYマイクロステージ16が備えられており、細胞7を含んだシャーレ5の位置を変化させることが出来る。そのため、照射されるプローブ光9と細胞近傍の距離とを調整できるような構成となっており、細胞活動の場所を特定してそこの変化情報を調べることが可能となる。
以上のような光学顕微鏡を用いれば、観察する細胞に出来るだけ悪影響を与えずに、迅速かつ簡便に細胞の生死の判別や、細胞活動の様子などといった細胞の生存状態を確認することができる。
また本発明にかかる光学顕微鏡は、上記の目的のほかに、細胞膜を介した物質輸送の様子を調べることにも利用することができる。
なお、上記光学顕微鏡3は、基本的に、照明口あるいは、片眼鏡、あるいはその他のところから上記プローブ光を導入して、細胞近傍に絞り、上記偏向検出器でプローブ光の偏向を測定する構成を有するものであればよい。このことは、本発明の光学顕微鏡は、既存の光学顕微鏡に改良を加えることで完成させることができることを意味している。つまり、本発明の光学顕微鏡は、倒立顕微鏡など様々なタイプの光学顕微鏡にプローブ光を照射する光源と、プローブ光の偏向を検出する偏向検出器とを組み込むことで容易に得られる。本発明の光学顕微鏡は、このようにして製造すれば、簡単に製造することができるとともに、製造コストを低くすることが可能である。
(3)本発明にかかる細胞および/あるいは生体組織観察方法
本発明の細胞および/あるいは生体組織観察方法を説明すると以下の通りである。しかし本発明にかかる細胞および/あるいは生体組織観察方法はこれに限定されるものではない。
本発明の細胞および/あるいは生体組織観察方法は、細胞および/あるいは生体組織を含む試料に光ビームを照射する工程と、上記試料を通過した光ビームの偏向を検出する工程とを含み、上記光ビームの偏向角度を、細胞膜近傍における物質の濃度勾配の指標として用い、当該濃度勾配の変化に基づいて細胞および/あるいは生体組織の生存状態を評価するというものである。
この細胞および/あるいは生体組織の観察方法は、上述の(1)の本発明の基本原理に基づいてなされたものである。本発明の観察方法を実施するにあたっては、細胞および/あるいは生体組織を含む試料に光ビームを照射することのできる光源と、試料を通過した光ビームの偏向を検出することができる偏向検出器とを少なくとも準備すればよい。本方法を実施するために利用される光源および偏向検出器としては、上述の本発明の光学顕微鏡に用いられるものを採用することが好ましい。
また、上記の細胞および/あるいは生体組織観察方法の光ビームの偏向を検出する工程には、さらに、光ビームの偏向を偏向信号として検出する偏向信号検出工程と、当該偏向信号の値の変化を経時的にモニタリングして評価する偏向信号評価工程とが含まれていてもよい。これによれば、細胞膜近傍における物質の濃度勾配を、経時的かつ、より詳細に調べることができる。従って、より詳細な細胞および/あるいは生体組織の活動状態を評価したり、細胞膜における物質輸送の状態を予測したりすることができる。
続いて、上記の細胞および/あるいは生体組織観察方法の具体的な利用方法について説明する。まず、細胞および/あるいは生体組織の生死を判別するための細胞および/あるいは生体組織観察方法について説明する。細胞は上述したように生きている状態ではその細胞活動の過程において、様々な化学反応及び生化学反応が細胞内で行われ、様々な物質の細胞内への取り込み、及び細胞外への放出現象が伴う。生体組織についても同様に、生体組織が生きている状態ではその生体組織活動の過程において、様々な化学反応及び生化学反応が組織内で行われ、様々な物質の組織内への取り込み、及び組織外への放出現象が伴う。したがって、細胞膜近傍で上記物質の濃度勾配が生ずる。上記濃度勾配は屈折率勾配を誘起することから、これを細胞および/あるいは生体組織の生死を判別するための細胞および/あるいは生体組織観察方法に用いるものである。つまり、この細胞および/あるいは生体組織の観察方法は、細胞および/あるいは生体組織を含む試料に照射した光ビームの偏向の有無に基づいて、細胞および/あるいは生体組織の生死を判別するというものである。
なお、以下により詳細な観察方法を説明する。ここでは観察対象物として細胞を挙げて説明するが、観察対象物が生体組織の場合であっても、その生死判別のための観察方法は同じである。
シャーレ5の中に調整済みの細胞試料7を入れ、該シャーレ5を試料台8に取り付ける。上記試料台8はその位置を移動させることができる機能を備えており、従って観察したい細胞の近傍にプローブ光が集光するように細胞の位置を調整する。細胞の近傍に集光したプローブ光は、偏向検出器10によって検出される。検出により上記プローブ光に偏向が確認された場合、細胞が濃度勾配を有していると判断できることから、すなわち細胞が生きていると判別することができる。一方、偏向が検出されない場合、観察した細胞は死んだ細胞であると判別することができる。
次に、細胞および/あるいは生体組織の活動状態を評価するための細胞および/あるいは生体組織観察方法について説明する。上述したように生きている状態の細胞は、該細胞の内外で濃度勾配を生じ、かつ該濃度勾配の差は変化する。上記濃度勾配の差の変化は、プローブ光の偏向した角度の大きさにより検出することができる。従って、上記と同様の方法で観察したい細胞および/あるいは生体組織の近傍にプローブ光を集光させ、偏向信号を測定することにより、細胞活動及び細胞死の過程、あるいは、生体組織の活動および生体組織が死んでいく過程における細胞膜近傍の濃度勾配の変化を経時的に測定することが可能となる。つまり、本観察方法は、細胞および/あるいは生体組織を含む試料に照射した光ビームの偏向角度の経時的な変化に基づいて、細胞および/あるいは生体組織の経時的な活動状態の変化を観察するというものである。この観察方法を実施する場合には、上述のように、光ビームの偏向を検出する工程に、上記偏向信号検出工程と、上記偏向信号評価工程とが含まれていることが好ましい。
これら2つの方法を実施するにあたっては、細胞を含む試料に光ビームを照射することのできる光源と、試料を通過した光ビームの偏向を検出することができる偏向検出器とを準備すればよい。本方法を実施するために利用される光源および偏向検出器としては、上述の本発明の光学顕微鏡に用いられるものを採用することが好ましい。これによれば、より確実で良好な細胞生死の判別あるいは細胞の観察を行うことができる。
以上の本発明の細胞および/あるいは生体組織観察方法によれば、生きている細胞および/あるいは生体組織の本来の活動や特性を、細胞および/あるいは生体組織自体に影響することなくありのままの状態を観察することができるとともに、細胞および/あるいは生体組織の生死あるいは細胞および/あるいは生体組織の活動状態を迅速かつ簡便に観察することができるため、再生医療の分野などにおいて有効に利用することができる。
(4)本発明にかかる毒性測定方法
本発明の毒性測定方法を説明すると以下の通りである。しかしながら、本発明にかかる毒性測定方法はこれに限定されるものではない。
本発明の毒性測定方法は、細胞および/あるいは生体組織を含む試料にある特定の物質(物質)を投入し、当該物質の細胞および/あるいは生体組織に対する毒性の有無を判定するというもの、あるいは、当該物質の細胞および/あるいは生体組織に対する毒性基準を測定するというものである。本発明の毒性測定方法は、細胞や生体組織などに対して毒性を有する可能性のある物質(以下、特定物質と呼ぶ)について、その物質が実際に細胞や生体組織に対して毒性を有しているかを判断することができる。さらに、本発明の毒性測定方法によれば、上記特定物質が、細胞や生体組織に対して毒性を有する場合に、どの程度の量(濃度)で細胞や生体組織が死に至るかという毒性基準を測定することもできる。
上記の毒性測定方法は、細胞および/あるいは生体組織を含む試料に光ビームを照射する工程と、上記試料を通過した光ビームの偏向を検出する工程とを含み、上記光ビームの偏向角度を、細胞膜近傍における物質の濃度勾配の指標として用い、当該濃度勾配の変化に基づいて細胞および/あるいは生体組織の生存状態を評価し、当該生存状態の評価に基づいて上記試料に含まれる特定物質の上記細胞および/あるいは生体組織に対する毒性を測定するというものである。つまり、本発明の毒性測定方法は、上述の(3)の細胞および/あるいは生体組織観察方法を利用したものである。
この毒性測定方法は、上述の(1)の本発明の基本原理に基づいてなされたものである。本発明の毒性測定方法を実施するにあたっては、細胞および/あるいは生体組織を含む試料に光ビームを照射することのできる光源と、試料を通過した光ビームの偏向を検出することができる偏向検出器とを少なくとも準備すればよい。本方法を実施するために利用される光源および偏向検出器としては、上述の本発明の光学顕微鏡に用いられるものを採用することが好ましい。
また、上記の毒性測定方法における毒性測定を行う工程には、上述の(3)の細胞および/あるいは生体組織観察方法と同様に、細胞および/あるいは生体組織近傍を通過した光ビームの偏向を偏向信号として検出する偏向信号検出工程と、当該偏向信号の値の変化を経時的にモニタリングして評価する偏向信号評価工程とが含まれている。そしてさらに、上記毒性測定方法には、上記偏向信号検出工程で検出した偏向信号から、試料に含まれる特定物質の毒性の有無を判断する毒性検出工程、あるいは、当該偏向信号の値の変化を経時的にモニタリングして得られる生存状態の評価信号から測定した細胞および/あるいは生体組織に対する毒性基準を検出する毒性基準評価工程が含まれていてもよい。これによれば、細胞および/あるいは生体組織の生存状態の評価から試料に含まれる特定物質の毒性の有無を判断したり、毒性基準を評価することができる。なお、毒性基準とは、観察した細胞および/あるいは生体組織に対する、上記特定物質の毒性の程度のことであり、上記特定物質がどの程度の量(濃度)であれば、細胞および/あるいは生体組織が死に至るかを判定する基準となるものである。
続いて、上記の毒性測定方法の具体的な利用方法について説明する。まず、細胞および/あるいは生体組織に対する特定物質の毒性の有無を検出する毒性測定方法について説明する。上述した(3)の細胞および/あるいは生体組織観察方法において説明したように、本発明では、細胞および/あるいは生体組織の生死を、細胞膜における物質の濃度勾配に伴う屈折率勾配によって、判別することができる。つまり、この毒性測定方法は、上述した細胞および/あるいは生体組織観察方法において検出される光ビームの偏向の有無に基づいて、細胞および/あるいは生体組織とともに試料中に含有させた特定物質の細胞および/あるいは生体組織に対する毒性の有無を判断するというものである。
なお、以下により詳細な毒性測定方法を説明する。ここでは毒性判定対象物として細胞を含む溶液に投入される物質を挙げて説明するが、当該溶液が生体組織を含む場合であっても、その毒性判別のための測定方法は同じである。
シャーレ5の中に調整済みの細胞試料7を入れ、該シャーレ5を試料台8に取り付ける。上記試料台8はその位置を移動させることができる機能を備えており、従って観察したい細胞の近傍にプローブ光が集光するように細胞の位置を調整する。細胞の近傍に集光したプローブ光は、偏向検出器10によって検出される。本方法では、試料中に含有した特定物質の細胞に対する毒性を判別するため、上記プローブ光の偏向が時間とともに変化しているもの、すなわち細胞は生きていると判別できるものを用いる。次に、細胞試料7に上記毒性を判別したい特定物質を添加し、上記プローブ光の偏向を引き続き検出する。この検出結果から上記細胞試料7に含有させた特定物質の毒性の有無を判別することができる。すなわち、偏向検出器10による検出により、特定物質添加後においても上記プローブ光に偏向の変化が引き続き確認された場合、細胞の濃度勾配は変化を有しているということであり、すなわち細胞が生きていると判断できることから、上記特定物質は細胞に対して無害であると判断することができる。一方、偏向の変化が検出されなくなった場合、あるいは偏向信号に生きている細胞の偏向信号よりはるかに大きな偏向信号が突然検出され、その後偏向信号が検出されなくなった場合、観察した細胞は死んだと判断できることから、上記特定物質は有害であると判断することができる。
次に、試料中に含有させた特定物質が、細胞および/あるいは生体組織に対して毒性を有する場合、その毒性基準を測定する毒性測定方法について説明する。上述したように「毒性基準」とは、細胞および/あるいは生体組織に対する毒性の程度を示す。
上述した(3)において説明したように、本発明では、プローブ光の偏向した角度の大きさを検出することによって、細胞および/あるいは生体組織の活動状態および、細胞および/あるいは生体組織の死んでいく過程を経時的に測定することができる。つまり、この毒性測定方法は、細胞および/あるいは生体組織を含む試料に照射した光ビームの偏向角度の経時的な変化に基づいて、細胞および/あるいは生体組織の経時的な活動状態の変化を観察できることを利用し、特定物質の毒性基準を測定するというものである。この毒性測定方法を実施する場合には、上述のように、光ビームの偏向を検出する工程に、上記偏向信号検出工程と、上記偏向信号評価工程と、毒性基準評価工程とが含まれていることが好ましい。
これら2つの方法を実施するにあたっては、細胞を含む試料に光ビームを照射することのできる光源と、試料を通過した光ビームの偏向を検出することができる偏向検出器とを準備すればよい。本方法を実施するために利用される光源および偏向検出器としては、上述の本発明の光学顕微鏡に用いられるものを採用することが好ましい。これによれば、より確実で良好な細胞生死の判別あるいは細胞の観察を可能にできることから、特定物質の毒性の有無および毒性基準を正確に測定することができる。
以上の本発明の毒性測定方法によれば、細胞および/あるいは生体組織に対して毒性の不明な特定物質の毒性の有無を迅速かつ簡便に判断することができる。そのため、物質毒性スクリーニングにおいて有効に利用することができる。また反対に、特定物質に対して耐性を有する細胞および/あるいは生体組織を探索するための細胞および/あるいは生体組織スクリーニングにも利用することができる。
つまり、本発明のスクリーニング方法は、細胞および/あるいは生体組織を含む試料に物質を投入し、当該物質(特性物質)に対して耐性を有する細胞および/あるいは生体組織をスクリーニングする方法であって、本発明の細胞および/あるいは生体組織観察方法によって得られる細胞および/あるいは生体組織の生存状態の評価を利用して、毒性物質に耐性を有する細胞や生体組織を選別するというものである。
以下、本発明を実施例に基づいて詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
〔実施例1〕
図1に示す光学顕微鏡を用いて、バイオ人工肝臓に用いられるヒト肝細胞株HepG2をモデル細胞として測定した。本実施例の手順を具体的に説明すると以下のとおりである。
上記ヒト肝細胞株HepG2の細胞は、10%(体積)のウシ胎児血清(FBS)を添加したDMEM培地において、温度37℃、5%炭酸ガス雰囲気下で培養したものを用いた。肝細胞は付着型の細胞で、培養皿の底面に付着した。死んだ細胞については、上記培養過程において死んだ細胞を用いた。
以上のようにして調製した細胞培養皿(生きている細胞を含む溶液)と、死んだ細胞を含む培養皿とを、図1に示す光学顕微鏡の試料台8にそれぞれセットし、プローブ光9を照射したときの偏光を検出した。
なお、上記光学顕微鏡を用いて実際に測定を行う時には、培地を生理的食塩水(0.9% NaCl)に交換して測定を行った。これは、ヘテロジーニアスな成分を含む培地が測定に悪影響を及ぼす可能性が考えられたためである。
測定の結果をグラフにしたものを図4に示した。図4のグラフでは、横軸に測定開始からの時間(秒)を、縦軸にプローブ光の偏向の度合いを示す偏向信号(A.U.)を表している。
本実施例では、細胞近傍にプローブ光を絞り始めてから3000秒間測定した。本実施例においては、プローブ光を細胞膜1から略5μm離れたところに絞って測定を行った。その結果、生きている細胞Aでは、図4に示すように、偏向検出器10で検出された偏向信号が低下し、細胞近傍に絞られたプローブ光が、大きく偏向していることが示された。この偏向は、細胞活動で物質の細胞への取り込み・放出現象に伴う濃度勾配によるものである。同じく、生きている細胞Bにおいても生きている細胞Aと同様にプローブ光は大きく偏向していることが示された。一方、死んだ細胞では、図4に示すように、偏向検出器10で検出されたプローブ光の偏向信号は殆ど変化せず、プローブ光の偏向は上記生きている細胞の偏向に比べると明らかに小さく、物質への取り込み・放出現象に伴う濃度勾配が小さいことを意味している。
従って、本発明における光学顕微鏡を用いることで、細胞の生死判別を、細胞に悪影響を及ぼすことなく実施できることが確認された。
なお、本実施例では、細胞の生死判別について説明したが、本発明はこれに限られるものではなく、上述したように、化学物質の細胞内外への取り込み及び放出を伴うような、種々の細胞の化学反応及び生化学反応、さらには細胞の活動能力などのモニタリングが可能である。
〔実施例2〕
本実施例では、実施例1に記載の生きている細胞を含む溶液を用いて測定をおこなった。すなわち、10%(体積)のウシ胎児血清(FBS)を添加したDMEM培地において、温度37℃、5%炭酸ガス雰囲気下で培養した上記ヒト肝細胞株HepG2の細胞を用い、偏向信号を測定している途中において、細胞に対して強い殺傷力を持つ過酸化水素(濃度0.3%)を5mLの培養液に50μL添加し、偏向信号の変化を測定した。具体的には、過酸化水素は、測定開始から1200秒後に添加した。なお、本実施例においては、細胞近傍にプローブ光を絞り始めてから2000秒間測定した。本実施例においても上述した実施例1と同様、プローブ光を細胞膜1から略5μm離れたところに絞って測定を行った。
測定の結果をグラフにしたものを図5(a)に示した。図5(a)のグラフでは、横軸に測定開始からの時間(秒)を、縦軸にプローブ光の偏向の度合いを示す偏向信号(A.U.)を表している。過酸化水素は、測定開始から1200秒後(グラフ中の矢印)に添加した。その結果、細胞は、測定開始時点から、偏向検出器10で検出された偏向信号が低下し、細胞近傍に絞られたプローブ光が、大きく偏向していることが示された。この偏向は、細胞活動で物質の細胞への取り込み・放出現象に伴う濃度勾配によるものである。すなわち、偏向信号が低下しているということは、細胞が生きていることを示すものである。しかしながら、測定開始1200秒で過酸化水素を培養液に添加すると、添加以降の偏向信号は、全体として、点線に示すようにほぼ一定になっている。つまり、偏向信号が低下しなくなったということは、細胞における濃度勾配に変化がなくなったということであり、細胞が過酸化水素を添加したことにより、細胞死したということがいえる。すなわち、過酸化水素はヒト肝細胞株HepG2の細胞にとって毒性を有することが示された。
次に、図5(b)は、生きている細胞に硫酸銅を添加した場合の偏向信号測定結果を示すグラフである。測定条件は図5(a)と同様であり、10%(体積)のウシ胎児血清(FBS)を添加したDMEM培地において、温度37℃、5%炭酸ガス雰囲気下で培養した上記ヒト肝細胞株HepG2の細胞を用い、測定開始1000秒において、硫酸銅(10−2M)を5mLの培養液に50μL添加した。硫酸銅を添加した結果、添加以降の偏向信号の減少傾向は緩やかになり、1500秒以降には偏向信号は点線で示すように変化がなくなった。この測定結果は、硫酸銅が、肝臓細胞に対して即効性はないものの、毒性効果を有していることを示している。硫酸銅は、細胞に対して、重金属イオンである銅イオンの毒性効果があるものと考えられる。したがって、本実施例の測定結果からも示されるように、細胞は硫酸銅添加直後に細胞死することはなかったが、中毒により物質輸送に変化が生じ、1500秒の時点で死んでしまったと考えられる。
さらに、本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。
例えば、本発明には、プローブ光一本で単一細胞の生、死を判断する方法も含まれる。
また、プローブ光一本で単一細胞の生、死を判断する光学顕微鏡(ビーム偏向顕微鏡)も本発明に含まれる。
また、プローブ光一本で単一細胞表面での反応をみる方法及び光学顕微鏡(ビーム偏向顕微鏡)も本発明に含まれる。