以下、本発明における有機EL素子用の有機材料の保存方法について詳細に説明する。ここで、本発明における保存とは、この有機材料の製造後、または精製後から、この有機材料を用いて有機EL素子を形成するまでの状態を指し、静置された状態での保存だけでなく、例えば有機材料の製造場所から使用される場所までの運搬等の輸送の状態も含まれることとする。
そして、本発明では、有機EL素子用の有機材料を、空気よりも酸素ガス濃度を低下させた雰囲気下で保存する。具体的には、空気中の酸素ガス濃度は約20vol%であることから、酸素ガス濃度が20vol%よりも低い雰囲気下で有機材料を保存する。ここで、保存雰囲気中の酸素ガスは、有機材料の劣化を促進するため、酸素ガス濃度は低いほど好ましく、0.1vol%以下であれば、より好ましい。
また、保存雰囲気中の水分は、背景技術で説明したように、有機EL素子用の有機材料の変質を招くだけでなく、有機EL素子の形成においては、ダークスポットと呼ばれる非発光部位の形成に関与する。このため、保存雰囲気中の水分濃度は低いほど好ましく、0.1vol%以下であることが好ましい。
そして、さらに、この有機材料を不活性ガス雰囲気下で保存することが好ましい。ここで、不活性ガスとは、例えば保存される有機EL素子用の有機材料との反応性を有さないガスを示し、例えば、一般高圧ガス保安規則(昭和四十一年五月二十五日通商産業省令第五十三号)第二条第四項に記載されるガスが挙げられる。このようなガスとしては、ヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトン、キセノン、ラドン、窒素、二酸化炭素またはフルオロカーボンがある。これらの不活性ガスは、2種類以上混合して用いてもよい。また、上記の不活性ガスの中でも、工業的に入手が容易なヘリウム、アルゴン、窒素、または二酸化炭素が好ましい。
また、不活性ガス雰囲気下における不活性ガスの濃度は、100vol%に近い方が好ましいものの、不純物ガスが含まれていてもよい。不活性ガス中の不純物ガスの含有量は50vol%以下の範囲であり、さらには1vol%以下が好ましく、より好ましくは0.01vol%以下である。
ここで、不純物ガスとしては、アクリロニトリル、アクロレイン、アセチレン、アセトアルデヒド、アルシン、アンモニア、一酸化炭素、エタン、エチルアミン、エチルベンゼン、エチレン、塩化エチル、塩化ビニル、クロルメチル、酸化エチレン、酸化プロピレン、シアン化水素、シクロプロパン、ジシラン、ジボラン、ジメチルアミン、水素、セレン化水素、トリメチルアミン、二硫化炭素、ブタジエン、ブタン、ブチレン、プロパン、プロピレン、ブロムメチル、ベンゼン、ホスフィン、メタン、モノゲルマン、モノシラン、モノメチルアミン、メチルエーテルまたは硫化水素などの可燃性ガスが挙げられる。これらは、不活性ガスの製造工程において含まれ易いガスであり、また、工業的な配管の都合上で含まれる可能性のあるガスである。
ここで、有機EL素子用の有機材料の保存雰囲気を不活性ガス雰囲気とするには、幾つかの方法がある。この有機材料が容器からなる包装体に充填されている場合を例にとり説明すると、まず、製造後、または精製後の有機材料を、不活性ガス雰囲気下で容器内に充填する方法がある。また、有機材料が充填された容器内に、不活性ガスを長時間に渡って流入してもよい。この場合には、不活性ガスが容器内に流入した分だけ、容器内の空気が流出される。さらに、ポンプ(例えばロータリーポンプ)により容器内の空気を吸引し、減圧状態にした後、適切な不活性ガスを供給して容器の内部雰囲気を置換する方法もある。この方法によれば、内部雰囲気をより確実に不活性ガス雰囲気に置換することができるため、好ましい。なお、有機材料が保存される容器の内部雰囲気を不活性ガス雰囲気にする方法については、上述したような範囲の不活性ガスの濃度に調整可能であれば、上記の3例に限定されるものではない。
ここで、有機材料は粉末等の固体状態で保存するほかに、有機溶剤に溶解またはスラリー化させて保存してもよい。有機溶剤としては、メタノール、エタノール、プロパノールなどのアルコール類、ジエチルエーテルやテトラヒドロフランなどのエーテル類、酢酸メチル、酢酸エチルなどの酸エステル類、ヘキサン、ヘプタン、トルエン、シクロヘキサン等の脂肪族または芳香族炭化水素溶媒、あるいはクロロホルム、塩化−n−ブチル、1、2−ジクロロエチレン、四塩化炭素、クロルベンゼン等ハロゲン化炭化水素溶媒などが挙げられる。この際、有機溶剤を不活性ガスで十分にバブリングした後に、有機材料を溶解またはスラリー化すると、より確実に有機材料を不活性ガス雰囲気下で保存することができるため、好ましい。
そして、さらに、この有機EL素子用の有機材料を、空気よりも酸素ガス濃度を低下させた雰囲気下で保存するとともに、遮光状態で保存することが好ましい。ここで、本発明における遮光状態とは、必ずしも光が完全に遮断されている状態を意味するものではなく、減光状態や特定の波長、または特定の波長帯の光を遮る状態を包含する。
この遮光状態における光透過率が低くなるほど、保存される有機材料の劣化が防止される。具体的には、可視光域以下の波長域(約800nm以下)で光透過率が90%以下であればよい。有機EL素子用の有機材料をこのような遮光状態で保存することにより、例えば、光のエネルギーによる有機結合の切断が防止されるため、光照射による有機材料の劣化が防止される。
さらに、有機材料の保存雰囲気に酸素ガス(O2)が含まれる場合、約250nm以下の波長域の光が照射されると、下記式(1)に示すように、酸素原子(O)(一重項)とO(三重項)が生成される。例えば照射光(hν)の波長が175nmから242.4nmである場合には、O(三重項)が生成され、130nmから175nmの場合には、O(一重項)とO(三重項)とが生成される。
また、下記式(2)に示すように、O(三重項)からは、オゾン(O3)が生成される。
そして、O3が生成される場合には、下記式(3)に示すように、照射光(hν)の波長が310nmよりも短波長側(<310nm)、310nmよりも長波長側(>310nm)、600nmよりも短波長側(<600nm)の紫外光または可視光が照射されても、O(一重項)、O(三重項)または一重項酸素(O2(一重項))が生成される。
ここで、O(一重項)、O(三重項)は反応性が高く、有機材料の劣化を促進することから、式(1)に示すように、特に250nm以下の波長域の光は遮光されることが好ましい。250nm以下の波長域の光を遮光することで、式(1)で示すO(三重項)の生成が防止されるため、式(2)に示すO3の生成を防止でき、式(3)の反応が防止されることになる。
具体的には、250nm以下の波長域の光透過率が50%以下であれば、酸素ガスを含む保存雰囲気下で有機材料を保存しても、酸素ガスからの酸素原子の生成が抑制されることで、有機材料の劣化が抑制される。さらに、250nm以下の波長域の光を0%とすることで、酸素原子の生成が防止され、有機材料の劣化がさらに抑制されるため、好ましい。
また、特に、175nm以下の波長域の光を遮光することで、反応性の高いO(一重項)やO(三重項)の生成が防止されるだけでなく、短波長域の光はよりエネルギーが高いことから、光のエネルギーにより有機材料の結合が直接切断されることが抑制される。
(保存条件)
さらに、保存雰囲気および光以外の保存条件については、本発明の効果が認められる限りは任意であるものの、一般的には次の条件が好ましい。
まず、保存時の温度は、有機材料のガラス転移温度(以下、Tgと略記)以下が好ましく、−50℃〜50℃(ただし、Tg>50℃である場合)の範囲で保存されることがより好ましい。また、Tgが観測されない有機材料についても、−50℃〜50℃の範囲で保存されれば、保存温度により有機材料が劣化することなく、有機材料を保存することができる。
また、保存時の圧力は、一般高圧ガス保安規則で規定された圧力の範囲である1MPa以下であればよく、より好ましくは、10Pa〜0.2MPaの範囲であれば好ましい。上記圧力の範囲であって、さらにこの有機材料が減圧状態(約0.1MPa以下)で保存される場合には、保存雰囲気中の酸素ガスの量も少なくなり、酸素による有機材料の劣化が抑制されるため、好ましい。
さらに、有機材料の劣化を確実に防止するために、従来公知の種々の劣化防止剤を有機材料と共存させてもよい。このような劣化防止剤としては、主として、酸化防止剤と紫外線吸収剤とがある。酸化防止剤としては、ラジカル捕捉剤、熱安定剤、一重項クエンチャー等が挙げられ、紫外線吸収剤としては、光安定剤、ラジカル捕捉剤、一重項クエンチャー等が挙げられる。
酸化防止剤としては、ヒンダードフェノール、ヒンダードアミン、パラフェニレンジアミン等が挙げられ、例えば、フェノール系酸化防止剤としては、トリス−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−イソシアヌレイト、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−t−ブチルフェニル)ブタン、オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、ペンタエリスリチル−テトラキス〔3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、3,9−ビス[2−〔3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ〕−1,1−ジメチルエチル]−2,4,8,10テトラオキサスピロ〔5,5〕ウンデカン、1,3,5−トリス(4−t−ブチル−3−ヒドロキシ−2,6−ジメチルベンジル)イソシアヌル酸等を挙げることができる。
また、紫外線吸収剤としては、ヒンダードアミン系光安定剤として、コハク酸ジメチルと1−(2−ヒドロキシエチル)−4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジンとの重縮合物、ポリ〔[6−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)イミノ−1,3,5−トリアジン−2、4−ジイル][(2,2,6,6−テトラメチルー4−4ピペリジル)イミノ]ヘキサメチレン[(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ]〕、2−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−2−n−ブチルマロン酸のビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)エステル、テトラキス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)−1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシレート、ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバゲート、N,N’−ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)ヘキサメチレンジアミンと1,2−ジブロモエタンとの重縮合物、ポリ[(N,N’−ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)ヘキサメチレンジアミン)−(4−モルホリノ−1,3,5−トリアジン2,6−ジイル)]、1,1’−(1,2−エタンジイル)−ビス(3,3,5,5−テトラメチルピペラジノン)、トリス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)−ドデシル−1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシレート、トリス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)−ドデシル−1,2,3,4−ブタンテトラカルボキシレート、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)セバゲートなどが挙げられる。
これらの劣化防止剤は、1つの系内で有機材料と共存されていればよいが、より効果的に劣化防止剤を用いるには、有機材料と混合されていたほうが好ましい。例えば、粉末状の劣化防止剤が、粉末状の有機材料と混合されていてもよく、また、有機溶剤により溶解またはスラリー化された有機材料中に混合されていてもよい。ただし、この場合には、有機材料を有機EL素子に用いる前に、劣化防止剤を除去して有機材料を精製することとする。
(保存形態)
ここで、本発明の有機EL素子用の有機材料の保存方法における保存形態について説明する。上述したように、本発明では、有機EL素子用の有機材料を、空気よりも酸素ガス濃度を低下させた雰囲気下で保存し、さらに好ましくは、この有機材料を不活性ガス雰囲気下で保存する。このような雰囲気下でこの有機材料を保存するために、空気よりも酸素ガス濃度を低下させた内部雰囲気の包装体に有機材料を収納する。また、より好ましくは、内部雰囲気が不活性ガス雰囲気の包装体に有機材料を収納する。
ここで、有機材料が収納される包装体として、特に有機材料が直接充填される包装体は、有機材料自体、または有機材料が溶解もしくはスラリー化される有機溶剤との反応性を有さないものである。また、例えば不活性ガス雰囲気からなる包装体の内部雰囲気を維持するために、ガスバリア性を有する包装体であることが好ましい。ここで、ガスバリア性を有する包装体とは、外部からの酸素ガス、水分または不純物ガスの透過を防止するものであり、ガスバリア性が高いほど、密閉性に優れ、長期間の保存に適している。
さらに、この有機材料を空気よりも酸素ガス濃度を低下させた雰囲気下で保存するとともに、遮光状態で保存することで、酸素ガスまたは不純物ガスと光との反応を抑制するため、この有機材料が充填される包装体は、ガスバリア性を有するとともに遮光性を有することが好ましい。
この有機材料が収納されるガスバリア性および遮光性を有する包装体の形状としては、容器状または袋状がある。また、包装体は、有機材料が直接充填される内装体と、この内装体が収納される外装体とで構成される場合もある。
以下に、本発明の保存方法に用いられる包装体の例を列記する。ここでは、本発明の保存方法において好ましい形態であるガスバリア性および遮光性を有する包装体の例について説明するが、遮光性は必ずしも有していなくてもよい。
(1)容器形状の包装体
まず、ガスバリア性および遮光性を有する容器形状の包装体について説明する。ここで、容器の材質としては、ガラス製、ステンレス等の金属製、樹脂製などが挙げられる。この中でも、ガラス製、ステンレス製、または樹脂製の容器が、汎用性が高く、好ましい。
ここで、ガラス製容器の材質としては、硬質ガラス、石英ガラス、合成石英ガラス、硼珪酸ガラスなどが挙げられる。容器形状としてはビン、フラスコ、アンプルなどがある。ガラス製容器による遮光方法には種々の方法があり、例えば褐色または着色による方法、表面カッティングによる複屈折を利用する方法、曇りガラス化させる方法、カットオフ波長帯を有するガラスを用いる方法、ガラスの厚みによる光透過率の調整方法などが挙げられる。
また、ステンレス製容器の材質としては、日本工業規格で定められるステンレス鋼を用いることが好ましい。さらに、必要に応じて内壁は樹脂などでコーティング、ガラス保護層が設けられた二重構造など複数の材質から構成されても構わない。
さらに、樹脂製容器の材質としては、具体的には、ポリエチレン系樹脂またはポリプロピレン系樹脂等のポリオレフィン系樹脂、環状ポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、塩化ビニル樹脂、アクリロニトリル−スチレン共重合体(AS樹脂)、フッ素樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS樹脂)、ポリ(メタ)アクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル系樹脂、各種のナイロン等のポリアミド系樹脂、ポリウレタン系樹脂、アセタール系樹脂、セルロース系樹脂などが挙げられる。
ただし、保存容器として樹脂製容器を用いる場合には、特に、保存される有機材料自体、または有機材料の溶解もしくはスラリー化に用いる有機溶剤と反応する可能性があるため、これらと反応性を有さない材質のものを適宜選択する。
また、上述した容器のうち、特にガラス製容器、樹脂製容器には、ガラス中または樹脂中に紫外線吸収剤を含有させると、紫外線の透過率をさらに低くすることができ、好ましい。ここでの紫外線吸収剤の例としては、代表的なものとして、オキシベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、サリチル酸エステル系化合物、ベンゾフェノン系化合物、シアノアクリレート系化合物、ニッケル錯塩系化合物などが挙げられる。
(2)袋形状の包装体
また、有機EL素子用の有機材料が、ガスバリア性および遮光性を有する袋形状の包装体に収納されていてもよい。ここで、包装袋の材質としては、樹脂同士、もしくは樹脂とアルミニウムとのラミネートシート製や、アルミニウムまたは無機酸化物の蒸着フィルム(シート)製の包装袋が挙げられる。
ここで、上記に用いられる樹脂としては、具体的には、例えば、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂等のポリオレフィン系樹脂、環状ポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、AS樹脂、フッ素樹脂、ABS樹脂、ポリ(メタ)アクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル系樹脂、各種のナイロン等のポリアミド系樹脂、ポリウレタン系樹脂、アセタ−ル系樹脂、セルロ−ス系樹脂等の各種の樹脂のフィルムないしシートを使用することができる。本発明においては、上記の樹脂の中でも、特に、ポリエステル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、または、ポリアミド系樹脂のフィルムないしシートを使用することが、汎用性が高く、好ましい。上述した樹脂の中には、ガスバリア性の低い材質のものも含まれているが、他の樹脂とのラミネートシートとすることで、ガスバリア性を高くすることができる。また、これらの樹脂中には、容器形状の包装体と同様に、紫外線吸収剤を含有させて、紫外線の透過率をさらに低くしてもよい。
なお、包装袋として樹脂を有するものを用いる場合には、保存される有機材料自体、またはこの有機材料の溶解もしくはスラリー化に用いる有機溶剤と反応する可能性があるため、これらと反応性を有しない材質のものを適宜選択する。また、例えば樹脂とアルミニウムとのラミネートシートからなる包装袋を用いる場合には、アルミニウム層を有機材料と直接接する内側の層にすれば、有機材料や有機溶剤と反応性の高い樹脂を用いても、有機材料や有機溶剤との反応が防止されるため、好ましい。
また、上述した無機酸化物の蒸着フィルムとしては、基本的には、金属の酸化物を蒸着した薄膜であれば使用可能であり、例えば、ケイ素(Si)、アルミニウム(Al)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、カリウム(K)、スズ(Sn)、ナトリウム(Na)、ホウ素(B)、チタン(Ti)、鉛(Pb)、ジルコニウム(Zr)、イットリウム(Y)等の金属の酸化物の蒸着膜を使用することができる。好ましくは、ケイ素(Si)、アルミニウム(Al)等の金属の酸化物の蒸着フィルムを挙げることができる。上記の無機酸化物の蒸着フィルムは、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、イオンクラスタービーム法等の物理気相成長(Physical Vapor Deposition(PVD))法を用いて形成することができる。
(3)内装体と外装体とで構成される包装体
ここでは、包装体が、有機材料が直接充填される内装体と、この内装体が収納される外装体とで構成される例について説明する。
まず、有機材料が直接充填される内装体としては、上記の(1)、(2)で説明したようなガスバリア性および遮光性を有する容器形状または袋形状の包装体が挙げられる。そして、有機材料が充填された内装体の内部雰囲気は、空気よりも酸素濃度を低下させた雰囲気、例えば不活性ガス雰囲気となっている。
さらに、この有機材料が充填された内装体は、内部雰囲気が空気よりも酸素濃度を低下させた雰囲気、例えば不活性ガス雰囲気の外装体に収納される。この外装体もガスバリア性を有することとする。これにより、有機材料が、不活性ガス雰囲気下で保存される。
ここで、内装体は必ずしもガスバリア性を有していなくても、この内装体が収納される外装体がガスバリア性を有していればよい。ただし、内装体がガスバリア性を有していれば、内装体を外装体に収納することにより、より確実に、内部雰囲気を不活性ガス雰囲気に維持した状態で保存することができるため、好ましい。
また、内装体および外装体のどちらかが遮光性を有することで、有機材料が遮光状態で保存されることが好ましい。ただし、内装体および外装体の両方が遮光性を有していれば、有機材料をより確実に遮光状態で保存することができるため、さらに好ましい。また、内装体および外装体のどちらか一方がガスバリア性を有しており、他の一方が遮光性を有するといった形態でもよい。
また、外装体とは、後述するような物質、用具、機材もしくは設備を意味するものであり、特定の外装体に限定されるものではないが、その内部雰囲気を維持するために、ガスバリア性の高いものが好ましい。かかる外装体の材質としては、ガラス製、樹脂製、金属製などが挙げられる。
この外装体による包装形態としては、デシケータ、アルミ缶、スチール缶、ステンレス箱などに内装体を収納するものがある。また、上述した包装形態以外でも、暗室、ロッカー、グローブボックス、冷蔵庫、冷凍庫、倉庫、輸送車両などの機材、設備に内装体を収納し、内部雰囲気を例えば不活性ガス雰囲気としてもよい。かかる設備には、内部状態を観察するために窓枠や小窓などの部分的な付属設備を有していても構わない。
かかる外装体による不活性ガス雰囲気下の保存は、1つの手段によって限定されるものではなく、2つ以上の手段を取り入れることにより、より効果が発揮される。例えば、有機材料が充填されたガラス容器からなる内装体の内部雰囲気を窒素雰囲気とし、この内装体を、内部雰囲気が窒素雰囲気のアルミ缶からなる第1の外装体に収納する。さらに、この第1の外装体を、内部雰囲気が窒素雰囲気のグローブボックスからなる第2の外装体の中で保存するといった形態でもよい。
また、1つの外装体の中に有機材料が充填された1つの内装体が収納された状態で保存するだけでなく、1つの外装体の中に複数の内装体が収納された状態で保存する形態でもよい。
(有機EL素子)
次に、本発明の保存方法により保存された有機材料を用いて形成される有機EL素子を、図1(a)、(b)を用いて説明する。図1(a)に示す有機EL素子10は、透明基板11上に、例えば真空蒸着法により、陽極12、正孔輸送層13、発光層14、電子輸送層15および陰極16が、順次成膜されたものである。
ここで、本発明に用いられる有機EL素子10用の有機材料は、例えばここでの正孔輸送層13、発光層14、電子輸送層15に用いられる。正孔輸送層13は、陽極12から注入されるホール(正孔)を発光層14に輸送する領域であり、電子輸送層15は、陰極16から注入される電子を発光層14に輸送する領域である。そして、発光層14は、正孔輸送層13からの正孔および電子輸送層15からの電子が再結合する領域である。
この有機EL素子10において、陽極12と陰極16との間に直流電圧Vを印加すると、陽極12から注入されたキャリアとしての正孔が正孔輸送層13を経て、陰極16から注入された電子が電子輸送層15を経てそれぞれ移動する。そして、発光層14において、それら電子−正孔対の再結合により生じた所定波長の発光光hが、透明基板11側から取り出される。
ここでは、正孔輸送層13、発光層14、電子輸送層15を備えた有機EL素子10について説明するが、正孔輸送層13が2層で設けられており、正孔輸送層13の陽極12側に正孔注入層(図示省略)が設けられていてもよい。また、図1(b)に示すように、正孔輸送層13上に、発光層14(前記図1(a)参照)と電子輸送層15(前記図1(a)参照)とを兼ねた電子輸送性発光層14’が設けられる場合もある。一方、ここでの図示は省略するが、発光層14と正孔輸送層13とを兼ねた正孔輸送性発光層が設けられる場合もある。
ここで、図1(a)に示す正孔輸送層13の材料としては、例えば、ベンジン、スチリルアミン、トリフェニルアミン、ポルフィリン、トリアゾール、イミダゾール、オキサジアゾール、ポリアリールアルカン、フェニレンジアミン、アリールアミン、オキサゾール、アントラセン、フルオレノン、ヒドラゾン、スチルベン、またはこれらの誘導体、ポリシラン系化合物、ビニルカルバゾール系化合物、チオフェン系化合物あるいはアニリン系化合物等の複素環式共役系のモノマー、オリゴマーあるいはポリマーを用いることができる。具体的には、α−ナフチルフェニルジアミン、金属テトラフェニルポルフィリン、金属ナフタロシアニン、4,4,4−トリス(3−メチルフェニルフェニルアミノ)トリフェニルアミン(m-MTDATA)、N,N,N,N−テトラキス(p−トリル)p−フェニレンジアミン、N,N,N,N−テトラフェニル4,4−ジアミノビフェニル、N−フェニルカルバゾール,4−ジ−p−トリルアミノスチルベン、ポリ(パラフェニレンビニレン)、ポリ(チオフェンビニレン)、ポリ(2,2−チエニルピロール)、4,4’−ビス[N−(1−ナフチル)−N−フェニルアミノ]ビフェニル(α−NPD)等が挙げられる
また、発光層14は、発光効率の高い材料、例えば、低分子蛍光色素、蛍光性の高分子、金属錯体等の有機材料から構成されている。具体的には、例えば、アントラセン、ナフタレン、フェナントレン、ピレン、クリセン、ペリレン、ブタジエン、クマリン、アクリジン、スチルベン、トリス(8−キノリノラト)アルミニウム錯体、ビス(ベンゾキノリノラト)ベリリウム錯体、トリ(ジベンゾイルメチル)フェナントロリンユーロピウム錯体ジトルイルビニルビフェニル、ジスチリル化合物が挙げられる。
電子輸送層15の材料としては、例えば、キノリン、ペリレン、ビススチリル(ジスチリル)、ピラジン、またはこれらの誘導体が挙げられる。具体的には、トリス(8−ヒドロキシキノリン)アルミニウム(略称Alq3)、アントラセン、ナフタレン、フェナントレン、ピレン、クリセン、ブタジエン、クマリン、アクリジン、スチルベン、またはこれらの誘導体が挙げられる。
なお、上述した正孔輸送層13、発光層14、電子輸送層15に用いられる有機材料は上記に限定されるものではなく、素子構造における各層の有機材料の組み合わせにより、適宜選択されて用いられるものである。
この他、図1(a)および図1(b)に示す有機EL素子10において、支持体となる透明基板11は、例えば、石英、ガラス、金属箔、もしくは樹脂製のフィルムやシートなどが用いられる。この中でも石英やガラスが好ましく、樹脂製の場合には、その材質としてポリメチルメタクリレート(PMMA)に代表されるメタクリル系樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリブチレンナフタレート(PBN)などのポリエステル系樹脂、もしくはポリカーボネート系樹脂などが挙げられる。
また、透明基板11上に設けられる陽極12は、正孔輸送層13内へ正孔を注入する機能を持ち、一般には金属、金属酸化物、もしくは合金が用いられる。具体的にはアルミニウム、金、銀、クロム、ニッケル、パラジウム、白金等の金属類、酸化インジウム、酸化スズ、酸化インジウムスズ(ITO)、酸化亜鉛などの金属酸化物、またはガリウムなどを添加した金属酸化物、ヨウ化銅、硫化銅などの無機塩の導電性物質、ポリアニリン、ポリチオフェン、ポリピロールなどの高分子導電性材料などが挙げられる。この中でも、金属酸化物が好ましく、特に透明基板11側から発光光hを取り出す場合には、透明性に優れたITOが工業的観点からも好ましい。
さらに、陰極16は図1(a)に示す電子輸送層15または図1(b)に示す電子輸送性発行層14’へ電子を注入する機能を持ち、一般には金属、合金、金属ハロゲン化物、金属酸化物などを用いることができる。具体例には、リチウム、ナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属類、、フッ素などハロゲン化物アルカリ金属塩類、マグネシウム、カルシウムなどのアルカリ土類金属類、ハロゲン化物アルカリ土類金属塩類、またはアルミニウム、銀、インジウム等との合金(リチウム−アルミニウム合金、マグネシウム−銀合金)などが挙げられる。ここでは、透明基板11側から発光光hを取り出す有機EL素子10の例について説明したが、陰極16側から発光光を取り出す透過型の有機EL素子においては、陰極16の厚さを調節することにより、用途に合った光透過率を得ることができる。
上述した各有機EL素子に流す電流は通常、直流であるが、パルス電流や交流を用いてもよい。電流値、電圧値は、素子を破壊しない範囲内であれば特に制限はないが、有機EL素子の消費電力や寿命を考慮すると、なるべく小さい電気エネルギーで効率良く発光させることが望ましい。
以上、説明したような有機EL素子10用の有機材料の保存方法によれば、製造後、または精製後の有機材料が、空気よりも酸素ガス濃度を低下させた雰囲気下、例えば不活性ガス雰囲気下で保存されることにより、酸素による有機材料の劣化を防止することができる。
さらに、この有機材料を遮光状態で保存する場合には、酸素だけでなく、光照射による有機材料の劣化も抑制される。また、遮光される光の波長が250nm以下の場合には、酸素ガス(O2)からの反応性の高いO(一重項)やO(三重項)の生成が防止される。このため、酸素原子による有機材料の劣化を防止することができる。特に、175nm以下の波長域の光を遮光することで、反応性の高いO(一重項)やO(三重項)の生成が防止されるだけでなく、短波長域の光はよりエネルギーが高いことから、光のエネルギーにより有機材料の結合が直接切断されることが抑制される。
したがって、このような保存方法により保存された有機材料を用いて有機EL素子10を形成することで、高輝度で発光寿命の長い有機EL素子10を得ることができ、長時間の駆動が可能な有機EL素子10を提供することができる。
次に、実施形態で説明した有機EL素子用の有機材料の保存方法により、以下の有機材料を保存する例について説明する。ここでは、図2に示す有機EL素子20の、正孔注入層23a、正孔輸送層23b、電子輸送性発光層24に用いられる有機材料をそれぞれ精製する。
例えば、正孔注入層23aとして、下記式(4)に示す、4,4,4−トリス(3−メチルフェニルフェニルアミノ)トリフェニルアミン(以下、m−MTDATAと略)、正孔輸送層23bとして、下記式(5)に示す、4,4’−ビス[N−(1−ナフチル)−N−フェニルアミノ]ビフェニル(以下α−NPDと略)、電子輸送性発光層24として、下記式(6)に示す、トリス(8−ヒドロキシキノリン)アルミニウム(以下、Alq3と略)を昇華法により精製した。
次に、図3のグラフに示すような光透過特性、すなわち、可視光域以下の波長域(約800nm以下)で光透過率80%以下を示す褐色ガラス瓶を9本用意した。そして、9本の褐色ガラス瓶からなる内装体に、窒素からなる不活性ガス雰囲気(酸素濃度:0.01vol%以下、水分濃度0.01vol%以下)下で、上記3種類の有機材料をそれぞれ3本ずつ各1g分取した後、プラスチック製上蓋によって密閉した。これにより、有機材料が充填された内装体の内部雰囲気を不活性ガス雰囲気とした。
その後、これらの有機材料が充填された9本の褐色ガラス瓶を、内部雰囲気が窒素からなる不活性ガス雰囲気(酸素濃度:0.01vol%以下、水分濃度:0.01vol%以下)のグローブボックスからなる外装体に収納した。これにより、窒素雰囲気下(酸素濃度:0.01vol%以下、水分濃度:0.01vol%以下)で、かつ遮光状態とし、有機材料を静置した状態で保存した。保存期間は、各種類1本ずつ、30日間、60日間、90日間とした。
そして、例えば30日間保存した後のm−MTDATA、α−NPD、Alq3をそれぞれ用いて、次のような方法により、図2に示す有機EL素子20を製造した。
まず、例えばガラスからなる透明基板21上に、膜厚約100nmのITO透明電極からなる陽極22を形成した。次に、陽極22上に酸化シリコン(SiO2)を蒸着することで、2mm×2mmの発光領域以外をマスクした有機EL素子作製用のITO基板を形成した。
次に、このITO基板上、具体的には陽極22上に、m−MTDATAからなる正孔注入層23aを約50nmの膜厚に真空蒸着した。次に、正孔注入層23a上に、α−NPDからなる正孔輸送層23bを約50nmの膜厚に真空蒸着した後、Alq3からなる電子輸送性発光層24を約50nmの膜厚に真空蒸着した。
次に、電子輸送性発光層24上に、例えばフッ化リチウム・アルミニウム合金(LiF・Al)からなる陰極25を形成し、緑色を発光する有機EL素子20を製造した。また、同様の方法により、60日間した後の有機材料および90日間保存した後の有機材料を用いて、有機EL素子20をそれぞれ形成した。
以上のような方法により形成した有機EL素子20を、直流電圧駆動し、照射最高輝度を測定した。また、この有機EL素子20を初期輝度200cd/m2で定電流駆動して、発光寿命の指標となる輝度の半減時間を測定した。
その結果を表1に示す。表1に示すように、窒素雰囲気下で30日間および60日間保存した有機材料を用いて形成した有機EL素子20は、駆動電圧9.0Vで照射最高輝度は61000cd/m2、半減時間は12000時間であった。また、同条件で90日間保存した有機材料を用いて形成した有機EL素子は、駆動電圧9.0Vで照射最高輝度は60000cd/m2、半減時間は12000時間であった。
上述したように、不活性ガス雰囲気下で、かつ遮光状態で保存された有機材料を用いて形成された有機EL素子20は、保存期間に関わらず、照射最高輝度と半減時間はほとんど同じ値を示した。これにより、不活性ガス雰囲気下で、かつ遮光状態で保存された有機材料を保存することにより、有機材料の劣化が促進されず、上記有機EL材料を用いた有機EL素子20として、十分な輝度と発光寿命を呈することが確認された。
(比較例1)
実施例1で用いた3種の有機材料(m-MTDATA、α−NPD、Alq3)のうち、最も劣化の激しいα−NPDについて、精製後のα−NPDを空気(酸素ガス濃度:約20vol%)中で2本の褐色ガラス瓶からなる内装体に1gずつ分取した後、プラスチック製上蓋によってそれぞれ密閉した。これにより、有機材料が充填された内装体の内部雰囲気を空気雰囲気とした。
その後、この有機材料が充填された2本の褐色ガラス瓶を、内部雰囲気が空気雰囲気(酸素ガス濃度:約20vol%)のデシケータからなる外装体に静置させた状態で保存した。保存期間はそれぞれ1本ずつ60日間と120日間とした。
次に、図2に示すように、実施例1と同様の方法により、空気雰囲気下で保存した後のα−NPDを正孔輸送層23bに用いて、有機EL素子20をそれぞれ形成した。その後、この有機EL素子20を、直流電圧駆動し、照射最高輝度を測定した。また、この有機EL素子20を初期輝度200cd/m2で定電流駆動することで連続発光させて、輝度の半減時間を測定した。
その結果、表1に示すように、空気雰囲気下で60日間保存した後のα−NPDを用いた有機EL素子20は、駆動電圧9.0Vで照射最高輝度は54000cd/m2、半減時間は8000時間であった。また、空気雰囲気下で120日間保存した後のα−NPDを用いた有機EL素子20は、駆動電圧9.0Vで照射最高輝度は48000cd/m2、半減時間は6000時間であった。
これにより、空気雰囲気下で保存したα−NPDを正孔輸送層23bに用いて形成した有機EL素子20は、実施例1の不活性ガス雰囲気下で保存した有機材料を用いた場合と比較して、照射最高輝度が顕著に低くなるとともに、定電流駆動における輝度の半減時間も短くなることが確認された。したがって、不活性ガス雰囲気下で保存することで、空気雰囲気下で保存する場合と比較して、有機材料の劣化が顕著に抑制されることが示唆された。
また、実施形態で説明した有機EL素子用の有機材料の保存方法により、以下の有機材料を保存する例について説明する。ここでは、図4に示す有機EL素子30において正孔輸送層と発光層を兼ねた正孔輸送性発光層33を形成する有機材料として、下記式(7)に示すジスチリル化合物を昇華法によって精製した。
精製後のジスチリル化合物を2つの保存形態にて保存した。まず、アルゴンからなる不活性ガス雰囲気下(酸素濃度:0.01vol%以下、水分濃度:0.01vol%以下)で、密閉チャック付のラミネート製袋(ポリエステル・アルミニウム・ポリエチレンの3層ラミネート)からなる内装体に1gの上記有機材料を分取して密閉した。これにより、内装体の内部雰囲気を、不活性ガス雰囲気とした。その後、この有機材料が充填されたラミネート製袋を、内部雰囲気がアルゴンからなる不活性ガス雰囲気(酸素濃度:0.01vol%以下、水分濃度:0.01vol%以下)のデシケータからなる外装体の中に収納した。このようにして、この有機材料の保存雰囲気を不活性ガス雰囲気とし、かつ遮光状態で、60日間静置して保存した(A)。
もう一方の保存形態としては、褐色アンプルからなる内装体に、精製後の上記有機材料を、空気中で1g分取し、この褐色アンプルをロータリーポンプ付の真空ラインに接続させた。その後、ロータリーポンプを稼働させて1Paまで減圧させた後、アルゴンガス(酸素濃度:0.01vol%以下、水分濃度0.01vol%以下)を流入することで、内部雰囲気をアルゴンガスに置換し、0.01MPaの圧力となるように封管した。これにより内装体の内部雰囲気を不活性ガス雰囲気とした。その後、この有機材料が充填された褐色アンプルを、内部雰囲気が窒素からなる不活性ガス雰囲気(酸素濃度:0.01vol%以下、水分濃度0.01vol%以下)のデシケータからなる外装体の中に収納した。このようにして、この有機材料の保存雰囲気を不活性ガス雰囲気とし、かつ遮光状態で、60日間静置して保存した(B)。
次に、上記の2つの保存形態で保存した後のジスチリル化合物を用いて、次のような方法により、図4に示す有機EL素子30をそれぞれ作成した。まず、30mm×30mmの例えばガラスからなる透明基板31上に、膜厚約100nmのITO透明電極からなる陽極32を形成し、この陽極32が形成された後の透明基板31を、真空蒸着装置内に載置した。次に、蒸着マスクとして、複数の2.0mm×2.0mmの単位開口を有する金属マスクを透明基板31に近接して配置した。
その後、真空蒸着法により10Pa以下の減圧雰囲気下で、陽極32上に上述したジスチリル化合物からなる正孔輸送性発光層33を、例えば0.1nm/秒の蒸着レートで50nmの膜厚に成膜した。さらに、正孔輸送性発光層33上にAlq3からなる電子輸送層34を例えば0.2nm/秒の蒸着レートで50nmの膜厚に蒸着した。
続いて、電子輸送層34上に、例えばMgを50nmの膜厚で成膜した後、Agを150nmの厚さに成膜して、MgとAgとの積層膜からなる陰極35を形成した。ここでの蒸着レートは1nm/秒とした。以上のような方法で、赤色を発光する有機EL素子30を作製した。
そして、この有機EL素子30に、窒素雰囲気下で順バイアス直流電圧を加えて発光特性を評価した。発光色は赤色であり、650nmに発光ピークを有するスペクトルを得た。分光測定は、大塚電子社製のフォトダイオードアレイを検出器とした分光器を用いた。また、この有機EL素子30について、直流電圧駆動し、照射最高輝度を測定した。また、この有機EL素子30を初期輝度300cd/m2で定電流駆動することで連続発光させて、発光寿命の指標となる輝度の半減時間を測定した。
その結果を表2に示す。表2に示すように、保存形態AおよびBについては、駆動電圧8.0で照射最高輝度3000cd/m2、半減時間2100時間であり、ほぼ同等の値を示した。
これにより、60日間の保存期間では、有機材料がこの2つの保存形態で保存されたことによる照射最高輝度または半減時間の差はなく、不活性ガス雰囲気下で、かつ遮光状態でジスチリル化合物を保存することにより、ジスチリル化合物を正孔輸送性発光層33に用いた有機EL素子30としては、十分な輝度と発光寿命を呈することが確認された。
(比較例2)
実施例2で用いた精製後のジスチリル化合物を、アルゴンからなる不活性ガス雰囲気下で、密閉チャック付のポリエチレン製袋からなる内装体に1g分取し、密閉した。このポリエチレン製袋は、ガスバリア性が低く、酸素ガスの透過性を有する。続いて、ジスチリル化合物が充填されたこの内装体を、内部雰囲気が空気雰囲気のデシケータからなる外装体中に静置させた状態で60日間保存した。
次に、保存後のジスチリル化合物を正孔輸送性発光層33に用いて、実施例2と同様の方法により、図4に示す有機EL素子30を形成した。その後、この有機EL素子30を、直流電圧駆動し、照射最高輝度を測定した。また、この有機EL素子30を初期輝度300cd/m2で定電流駆動することで連続発光させて、輝度の半減時間を測定した。その結果を表2に示す。
表2に示すように、ガスバリア性の低いポリエチレン製袋に充填され、空気雰囲気下のデシケータに収納した状態で保存されたジスチリル化合物を正孔輸送性発光層33に用いた有機EL素子30は、駆動電圧8.0Vで照射最高輝度は2000cd/m2であり、半減時間は1500時間であった。
この結果から、実施例2の不活性ガス雰囲気下で保存した有機材料を用いた場合と比較して、照射最高輝度が顕著に低くなるとともに、定電流駆動における輝度の半減時間も短くなることが確認された。これにより、ポリエチレン製袋からなる内装体が、空気雰囲気のデシケータ内からの酸素ガスを透過することで、有機材料の劣化が促進されることが示唆された。したがって、不活性ガス雰囲気下でこの有機材料を保存することで、酸素ガスを含む雰囲気下で有機材料を保存する場合と比較して、有機材料の劣化が顕著に抑制されることが示唆された。