本発明にかかる実施の形態の情報提供システムにつき、図面を参照して説明する。図1は、本実施の形態の概要を示している。図において、被加熱物を所定の温度プロファイルに沿って加熱するための加熱条件設定を所望する利用者U1のコンピュータなどを利用する端末装置12(以下、「コンピュータ12」という。)は、コンピュータネットワークなどの通信手段13を介して情報提供者Sのサービス供給装置15(以下、「サーバ15」という。)にアクセス可能に結ばれている。同様にしてサーバ15は複数の利用者U2〜Unのコンピュータ12とも接続可能であり、各利用者U1〜Unは個別にサーバ15にアクセスしてそれぞれ必要な熱解析情報の入手が可能である。
利用者側のコンピュータ12は、利用者関連情報、加熱関連情報などの必要な情報を入力するための入力手段16と、被加熱物を加熱する加熱装置10を制御する加熱制御装置20(あるいは、被加熱物の温度を測定する測定装置であってもよい。)とが接続されている。入力手段16はサーバ15からの要求に応じて必要なデータ入力を行うことができ、加熱制御装置20は加熱装置10で被加熱物サンプルを加熱して得られる加熱データをコンピュータ12へ送信可能に構成されている。あるいは逆に、加熱制御装置20はサーバ15から受信する加熱条件に応じて加熱装置10を制御可能に構成することもできる。一方、提供者側のサーバ15には、メモリ手段24、データバンク27が接続され、メモリ手段24には加熱条件の設定に必要な加熱基本式などの演算処理情報など、またデータバンク27には利用者の利用状況などの管理データが蓄積される。なお、本明細書でいう加熱データには、加熱によって得られる被加熱物の温度プロファイル(もしくは到達温度)のほかに、当該加熱時における加熱温度、加熱時間などの加熱条件をも包含している。
以上のように構成された本実施の形態にかかる情報提供システムは、以下の手順にしたがって機能する。まず、被加熱物を要求条件に適合した温度プロファイルに沿って加熱するための加熱条件を所望する利用者Uは、利用者Uのコンピュータ12から通信手段13を介して提供者Sのサーバ15にアクセスし、熱解析にかかる情報提供要請の意思表示をする。これに対しサーバ15は、利用者UにあるCRTやLCD等の表示部14に図2に示す画像を送信する。利用者は入力手段16を利用してこれらの必要な入力をすることにより、サーバ15を利用して必要な熱解析情報の入手が可能となる。図2に示す画像の内、項目1は利用者Uを特定するもので、この内容に対してユーザIDが与えられ、2回目以降は項目2.のユーザIDのみ入力することによってサーバ15の利用が可能となる。項目3は、情報提供に対する対価の課金方法の選択肢を示している。利用者Uは当該情報提供システムの利用頻度に応じて期間固定額方式、もしくは利用時毎チャージ方式のいずれかを選択をすることができる。期間固定額方式には年額固定、半年額固定、四半年額固定など、また利用時毎チャージ方式には例えばアプリケーション別制、CPU利用時間従量制、一定時間毎の平均使用量従量制などを含めたより詳細な選択を可能にすることもできる。
利用者Uが特定されると、次にサーバ15は利用者Uの表示部14に図3に示す画像を表示し、利用者Uが使用する加熱装置に関する必要情報の入力を促す。この画像は、回路基板に電子部品を半田接合するためのリフロー加熱の場合を例にしたもので、加熱目的に応じて他の表示とすることもできる。図示の例において、項目1.は利用者が使用する加熱装置に関する情報を得るもの、項目2.は前記加熱装置に構成された複数の加熱区域のそれぞれの長さを確認するものである。特に項目1.は熱解析の前提、及び各利用者Uが使用する加熱装置の特性、傾向を分析する際、また項目2は、各加熱区域における加熱時間を求めてシミュレーションを行う際に利用される。
これらの入力された利用者関連情報、設備関連情報は、提供者Sのサーバ15に送られ、更にデータバンク27に蓄積される。また、同一利用者がサーバ15に2回目以降にアクセスした折には、このデータバンク27が検索され、記憶された内容を利用者Uの表示部14に表示することによって利用者は変更箇所のみを入力することで足りるようにし、重複入力の手間を回避する。また、データバンク27に蓄積された情報は、利用者別のシステム利用実績記録の把握や、費用請求などに当って提供者Sが利用可能である。
次に、サーバ15は利用者Uの表示部14に図4に示す要求条件関連情報の画像を表示し、被加熱物が加熱される際の利用者Uが所望する加熱要求条件の入力を促す。ここでもリフロー加熱の場合を例にして示しており、加熱目的に応じて他の要求条件を促すようにすることもできる。図示において、項目1.は、被加熱物を加熱する際、被加熱物の到達温度、及び当該温度での保持時間に関する加熱情報が含まれ、被加熱物はこれら全ての要求条件を満足するよう加熱装置の各加熱区域内で順次加熱されることが要求される。表示されたaからgまでの個々の内容に関しては後に詳述する。また、項目2.は、以上のような要求条件を満たす加熱条件が熱解析によっても見出せない場合に、近似解(もっとも要求条件に近い次善の加熱条件)を必要とするか否かを質すものである。
最後にサーバ15は利用者Uの表示部14に図5に示す画像を表示し、利用者Uが加熱装置を用いて実際に被加熱物サンプルを加熱した際の加熱データを入力するよう促す。この情報は提供者S側での熱解析に必要なデータであり、より具体的には被加熱物サンプルが加熱された際の各測定点の到達温度の推移を含んでいる。これら加熱温度データの内容に関しては事前に利用者Uと提供者Sの間で必要事項を含むフォーマットを同意しておくことができ、利用者側の測定装置が被加熱物サンプルを加熱する際に自動的にこのフォーマットに沿ったデータを取得するよう構成することが望ましい。
なお、図3、図5において、加熱区域数を予熱では5、リフローでは2としているが、この数は例示であって利用者の使用する加熱装置が持つ実際の加熱区域数に合わせて増減して表示することができる。
利用者Uから以上の関連情報の入力を得て、次に提供者Sのサーバ15が熱解析を実行する。以下、この熱解析の内容につき、回路基板に電子部品を半田接合する際のリフロー加熱を例にして詳細に説明する。このリフロー加熱は単なる例示であって、本発明は、これ以外の利用分野であっても所望の加熱プロファイルに沿って被加熱物を加熱するための加熱条件を見出す際に同様に適用が可能である。
図6は、利用者Uが使用するリフロー装置(上半分)と、このリフロー装置で加熱される被加熱物の温度プロファイル(下半分)の1例を対応して表示している。被加熱物である回路基板1は、搬送装置8によって図の右側からリフロー装置10内に搬入され、リフロー装置10を矢印2に示す図の左方向に搬送の後、左側からリフロー装置10外に搬出される。図6に示すリフロー装置の例では、装置内が加熱区域IからVIIまでの7つに区分され、各加熱区域I〜 VIIごとにそれぞれ設けられた加熱源7a、7bから温度管理された熱風を被加熱物の表裏両面に矢印5で示すように上下から吹き付け、これによって被加熱物である回路基板1を適切な温度まで加熱している。加熱制御装置20は、加熱装置10の制御が可能であり、また被加熱物1の各測定点の到達温度を測定可能に構成されている。
図6の下側に示すグラフは、リフロー装置10内で加熱される回路基板1の温度変化、すなわち温度プロファイルを上側のリフロー装置10の各加熱区域と対応させて示している。図の右側から室温Trでリフロー装置に搬入された回路基板1は、加熱区域I、IIにおける加熱によって徐々に温度が上昇し、加熱区域IIIで予熱温度T0に至り、加熱区域IV、Vの間でこの予熱温度T0にて時間t0の間保たれる。
その後、回路基板1は加熱区域VIに至って半田溶融に必要な加熱保持温度T2まで加熱され、加熱区域VIIと共にその温度T2が時間t2以上維持されて半田を確実に溶融させた後、加熱区域外へ搬出され、回路基板1は徐々に温度を下げて室温に至る。この温度下降の間に溶融した半田が凝固して電子部品が回路基板1に半田接合される。加熱区域VIIを出た後の温度下降を促進するため、エアもしくは冷風を吹き付ける冷却装置11が用いられることもある。なお、各加熱区域I〜VIIの加熱条件を変化させることで、必要に応じこれ以外の温度プロファイルとすることも勿論可能である。
ここで、電子部品の熱破壊を回避しつつ半田接合を確実に行うために要求される、リフロー装置10で加熱する際の加熱要求条件の例について説明する。図4に示す画像の項目1にもあるように、リフロー加熱の場合の加熱条件は例えば以下のaからgに示す要求条件が含まれるが、加熱目的が半田リフローでない場合には他の要求条件とすることもできる。
a.加熱保持温度及び同時間(T2、t2):被加熱物を一定目的のために所定の温度で所定の時間だけ維持する。半田リフローにおいては、半田を溶融点以上の温度に保持するための温度と時間。
b.必要到達温度(Treq):被加熱物の最高温度が到達すべき温度。半田リフローにおいては、半田を完全な液相にするために必要な到達温度。
c.耐熱限界温度(Tmax):被加熱物が耐えられる限界の温度。半田リフローにおいては、電子部品等の被加熱物の耐熱許容限界温度。
d.耐熱上限温度及び同時間(T1、t1):被加熱物が所定温度において耐えられる時間。半田リフローにおいては、電子部品等の被加熱物が所定の温度以上に曝されるときの限界時間。
e.予熱温度及び同時間(T0、t0):被加熱物が最終目的の加熱前に所定の温度で所定時間維持されるときの要求温度と時間。半田リフローにおいては、クリーム半田のフラックス活性化に適した温度と時間。
f.リフロー温度ばらつき(ΔTmax):被加熱物の複数の測定点間のピーク温度のばらつきの限界。半田リフローにおいては、各電子部品間で局部的な加熱偏差をなくす(図6には表示せず。)。
g.予熱温度ばらつき(ΔT0):予熱段階における測定点間の到達温度のばらつき(同じく、図6には表示せず。)。
所望の半田接合を得るには、被加熱物である回路基板1がリフロー装置10内を加熱されながら搬送される間に、回路基板1に設けられた1つもしくはそれ以上の測定点において、上述の要求条件が全て満足されるような各加熱区域I〜VIIにおける加熱源7a、7bの加熱条件が設定されねばならない。図6下側に示す温度プロファイルは、これらの要求条件を全て満たすことができるプロファイルといえる。なお、図6に示す温度プロファイルは1つの測定点のみの例を示しているため、項目f、gの複数測定点間の温度ばらつきは表示されない。
ここで、一般に、加熱源によって被加熱物が加熱される場合の両者の関係を表す温度変化式を導入する。図7は、被加熱物1上での測定点となる測定対象(ここでは電子部品)と、測定対象に加えられる熱量Qとを示している。このときの加熱方式は熱風を利用する対流式加熱であるとする。測定対象は、表面積S、厚みD、体積Vとし、測定対象の物性値が密度ρ、比熱C、対流加熱の熱伝達率h、また、加熱するための熱風の温度をTa、測定対象の温度をTsとすると、熱量Qは、
と表される。
Δt秒間における測定対象の表面温度Tsの温度変化量ΔTは一般に、
と表され、右辺の{ }をはずして変形すると、
となる。ここで右辺の後半部分は輻射加熱による要因を示しており、αは被加熱物の放射線吸収率、εは被加熱物の放射線放射率、Fは熱放射の加熱源と被加熱物との形状係数、Thは輻射加熱の加熱源温度(表面温度)をそれぞれ表わしている。
対流加熱においては輻射加熱による要因をほぼ無視できることから、式3の右辺後半部分を省略すると、対流加熱における前記関係式は、
で概略表わすことができる。
ここで、
とおき、式4を書き換えると、
となる。初期値t=0での表面温度TsをTintとして式6を書き換えると、
Ts=Ta−(Ta−Tint)e
−mt ・・・・・・・・式7
となる。ここで、TsとTintはいずれも被加熱物の表面温度で、Tintが加熱開始時の初期温度、Tsが加熱後の到達温度を示している。また、eは自然対数の底である。本明細書においてはこの加熱源の加熱温度Taと被加熱物の表面到達温度Tsとの関係を示す式7を「加熱基本式」と呼ぶものとする。
この式7を用いてmを逆算すると、
と表わすことができる。lnは自然対数である。この式8のうち、右辺の加熱時間t、加熱温度Ta、初期温度Tint、到達温度Tsはいずれも測定可能であり、これらの測定結果を用いればmの値が算出可能となる。すなわち、被加熱物を一旦加熱してこれらの値を測定すれば、式5に示すような密度ρ、比熱物性値C、熱伝達率hなどの物性値を使用することなく、式8を用いてmの値を算出可能であることが分かる。本明細書において、このmの値を「m値」と呼ぶものとする。式8を用いて求められるm値は、実際に加熱装置によって被加熱物を測定した結果に基く値であり、加熱装置と被加熱物上の測定対象との両物理的特性を反映した加熱特性を1つの定数として数値化した値となる。
上述した加熱する際における加熱装置と被加熱物に絡む物理的特性の例としては、以下のものが含まれ得る。
加熱装置:加熱装置の構造、加熱装置の容積、加熱源の種類、加熱区域の数及び配置 、加熱源の応答性、熱干渉、外乱、など。
被加熱物:物性値(表面積S、厚みD、密度ρ、比熱C、熱伝達率h、…)、形状、 初期温度、表面状態など、とくに回路基板にあっては実装密度、実装位置 、基板表面の回路配置など。
本明細書においては、これら加熱に関連する加熱装置及び被加熱物の両物理的特性を含めて「加熱特性」と呼ぶもので、したがって前記m値は、これらの加熱特性を数値化した「加熱特性値」であるということができる。式5からも分かる通り、この加熱特性値は、同一の加熱装置を用いて加熱する場合であっても、被加熱物が異なれば異なった値となる。
加熱装置で被加熱物を加熱する際、前記加熱特性に起因して同じ被加熱物であってもその場所によって加熱される状況が異なるのが常である。被加熱物の物性値のみを入力して利用する従来技術による熱解析では、被加熱物と加熱装置との間の物性値以外のこれら加熱特性が無視されるため、シミュレーション結果にばらつきを生じさせる原因となり得る。本願発明では、これらの加熱特性による影響因子を各測定点ごとに加味したm値を定めることになる。すなわち、このm値を使用することにより、単に被加熱物の物性値を使用してシミュレーションする場合に比べて加熱実態により即した精度の高い結果を得ることができる。
図8は、前記m値を求めるために加熱される被加熱物サンプル1(以下、「サンプル基板1」という。)の概要を示している。サンプル基板1には複数の電子部品3が装着され、この内、温度測定対象となる電子部品3a、3b、3cには温度測定用の熱電対4がそれぞれ取り付けられている。当該熱電対4は、その測定結果を記録する外部の記録装置6に接続される。この測定結果は、記録装置6から更に図示しないA/D変換器を介して加熱制御装置20に接続可能である。図8では電子部品3a、3b、3cの3つの測定点のみが測定対象となっているが、この数は任意に設定可能である。また、1つの部品に対して複数箇所(例えば背の高い部品の上端部と下部の接合部)を測定対象とすることもできる。
図9は、上述の構成にかかるサンプル基板1を実際にリフロー装置10に搬入して加熱し、リフロー装置10内の1つの加熱区域、図示の例では図6の加熱区域Iにおけるm値を算出する際の各温度測定位置を示している。図の縦軸が測定点の温度、横軸が時間を示す。なお、本明細書では、温度を測定する対象となる測定対象の被加熱物上における場所を「測定点」、温度を測定する加熱装置内の場所(すなわち、各測定点に対してm値を算出すべき場所)を「測定位置」と呼んで両者を区別するものとする。図示の横軸は時間で表されているが、搬送される被加熱物が時間tを経過するごとに測定位置を通過するものと見ることができる。図の例では加熱区域I内にn個に均等配分された各測定位置があり、被加熱物はこの各測定位置において時間tずつ加熱され、この加熱によって順次昇温する。この測定位置の分布は均等配分に限定されることなく、任意に定めることができる。
室温Trで搬入されたサンプル基板が、加熱区域I内の各測定位置において温度Taの熱風によって時間tずつ加熱され、Trから徐々に昇温する段階の各測定位置における測定対象部品(すなわち、測定点)3a、3b、3cの表面温度Tsをそれぞれ測定することにより、式8を使用して各測定点ごとに合計n個のm値(m1、m2、m3、…、mn)を求める。なお、式7、8において、1つの測定位置における初期温度Tintは、直前の測定位置における到達温度Tsである。
図9では電子部品3cに対するm値のみを代表して示しているが、他の電子部品3a、3bに対しても温度測定結果を基に各n個のm値を求める。本願発明者らの行った実験では1つの加熱区域においてn=100、すなわち100箇所の測定位置を定め、1つの測定点に対して100個のm値を求めている。このように多数のm値を求めるのは、同一加熱区域内においても熱風温度のばらつき、風速分布のばらつきがあり、またリフロー装置10の出入口付近や加熱区域の境界付近においては外気による影響や加熱区域間の熱干渉が考えられることから、より細かく測定位置を細分化して加熱特性値を求め、後のシミュレーションの精度を高めるようにするものである。
図9は加熱区域Iについて示しているが、他の加熱区域II〜VIIに対しても同様に測定位置を細分化してそれぞれの位置における表面温度を測定し、各測定位置におけるm値を求める。各加熱区域を同様に100に区分したとすれば、測定点3箇所について合計で100区分×7加熱区域×3測定点=2100個のm値が求まり、この各値がコンピュータや加熱制御装置に入力される。
ところで、図8に示すように、測定点(測定対象部品)3a、3b、3cは部品の種類に応じてその形状、高さが異なっている。特に、図8の測定点3cに示すような背の高い部品においては、加熱時にその上端部分が加熱源7aに接近することから、相対的にこの先端部分の温度上昇が激しくなる。このような温度上昇による部品の熱破壊を回避し、かつ、回路基板との間の確実な半田接合を得るため、上述したように、図6に示す上下方向に設けられた加熱源7a、7bの内、一般に下側(回路基板の裏側)にある加熱源7bの加熱温度を上側(同、表側)の加熱源7aのそれよりも高く設定し、温度差を設けて加熱することが行なわれている。
このように被加熱物の表裏にある加熱源7a、7b間で温度差を設けてサンプル基板1を加熱した場合、先の式8で求められたm値は、この表裏間の温度差をも包含した加熱特性値として算出される。本願発明者等の行った実験によれば、両加熱源7a、7bの加熱温度間の温度差が一定の限度内(たとえば約20℃以内)であれば、式8に示すm値の定義において、後述するように加熱温度Taを表裏いずれか一方の加熱源の加熱温度で代表して表しても大きな誤差は生じないことが分かった。また、両加熱源7a、7bの加熱温度間の温度差を同じ値に維持したままで加熱温度を変化させた場合、そのm値を使用して精度の高いシミュレーションができることが分かった。したがって本実施の形態において、被加熱物を加熱する表裏間の加熱温度に差がある場合においても、特記なき場合にはm値の定義にある加熱温度Taは、表側にある加熱源7aの加熱温度を指すものとする。裏側の加熱源7bの加熱温度をTb(Ta<Tb)、表裏間の温度差をDとすれば、裏側の加熱温度Tbは、Tb=Ta+Dで表される。但し、この裏側の加熱温度Tbの方を基準の加熱温度と定義することも勿論可能である。
次に、以上のようにして求まった各測定位置と測定点に対するm値を利用して、リフロー装置10の加熱条件を変化させた場合の被加熱物の温度プロファイルのシミュレーションを行う方法について説明する。上述したように、本実施の形態では、式5に示すような熱伝導率h、密度ρ、比熱Cなどの物性値を用いることなく、サンプル基板の加熱、実測に基いて加熱特性値であるm値を算出する。このようにして算出されたm値は、各加熱測定位置と各測定点に特有な加熱特性を反映された値となるため、m値を用いることで加熱条件の変化後の温度プロファイルを、従来技術のようなサンプル基板の加熱によって検証するまでもなく、効率的に、しかも高い精度でシミュレーションを行うことが可能となる。
図10(a)〜(e)は、リフロー装置を使用した本実施の形態によるシミュレーションの実験結果1を示している。図10(a)はサンプル基板1をリフロー装置10に搬入して加熱し、温度測定を行った際の各加熱区域における加熱温度を示している。このときの狙いの要求条件は以下の通りであった。
a.加熱保持温度及び同時間(T2、t2):220℃、20秒以上
b.必要到達温度(Treq) :230℃
c.耐熱限界温度(Tmax) :240℃
d.耐熱上限温度及び同時間(T1、t1):200℃、40秒以下
e.予熱温度及び同時間(T0、t0) :160℃〜190℃、60秒〜120秒
f.リフロー温度ばらつき(ΔTmax) :8℃以内
g.予熱温度ばらつき(ΔT0) :5℃以内
サンプル基板1は図10(a)の右側に示す加熱区域Iに搬入され、以下順に加熱区域II〜VIIを通過してリフロー装置10外へ搬出される。この内、加熱区域I〜Vまでの第1の加熱段階は予熱段階、加熱区域VI、VIIの第2の加熱段階はリフロー段階である。図10(a)に示す加熱例では、加熱装置に設けられた表裏の加熱源7a、7bによる加熱温度Ta、Tbの間に温度差はなく、予熱段階では予熱温度の上限値である190℃、リフロー領域では耐熱限界温度である240℃としている。又、このときのサンプル基板1を搬送する搬送装置8の搬送速度vは1.25m/分であった。なお、被加熱物が搬送装置8で搬送される場合には、このように加熱時間tの代わりに、搬送速度vを用いて管理することもできる。すなわち、該当する測定位置の長さをlとすれば、v=l/tで置換することができる。
サンプル基板1を前記加熱条件に設定されたリフロー装置10に搬入して加熱し、サンプル基板1のそれぞれの測定点についてリフロー装置10の各測定位置における表面到達温度Tsを測定する。その温度測定結果に基き、まず、前記要求条件の内、f、gに示すリフロー温度ばらつきΔTmax、及び予熱温度ばらつきΔT0がクリアされているか否かがチェックされる。ここでは、いずれの温度ばらつきも前記f、gに示す条件を満たしていたものとして、以下のシミュレーションのステップに進む。f、gの条件が満足されているということは、各測定点間における温度ばらつきが僅かであることを意味し、したがって加熱源7a、7bの間に温度差を設ける必要がないことを意味する。すなわち、Ta=Tbとして以下のシミュレーションを行なう。この際のm値は、加熱装置の加熱温度Ta、加熱時間t(ここでは搬送速度v)から式8を使用して算出される。
図10(b)は、搬送装置の搬送速度vを同一(1.25m/分)としたままで加熱区域I、II、VIの温度をそれぞれ変更させてシミュレーションを行う際の加熱条件を示している。上述の通り、表裏の加熱温度Ta、Tb間には温度差を設けていない。図10(c)は、この変更された加熱条件を基に行ったシミュレーションの結果を示している。このシミュレーションは、各測定位置において求められたそれぞれの測定点のm値を使用して、式7の加熱基本式により被加熱物の各測定点における表面温度Tsを算出することにより得られる。
図示の例では測定点が3箇所(測定点3a、3b、3c)で、シミュレーション結果の表示項目としてf.目標温度ばらつき(ΔTmax)、c.耐熱限界温度(Tmax、ここでは各測定点における「ピーク(最高)温度」)、a.加熱保持温度及び同時間(t2、ここでは「220℃以上の時間」)、d.耐熱上限温度及び同時間(t1、ここでは「200℃以上の時間」)の4項目を表している。シミュレーションでは被加熱物の1つの測定点に対してm値を測定した700箇所の測定位置における表面温度Tsが全て算出されているため、図示する項目以外にもデータ入手は勿論可能である。例えば、図示の例ではリフロー段階のデータのみを表示しているが、予熱段階のデータも必要に応じて入手可能である。
図10(d)は、図10(c)に示すものと同一測定点及び測定位置における同一項目について、検証目的で実際にサンプル基板1を加熱したときの測定結果を示している。また、図10(e)は、図10(c)のシミュレーション結果とこの図10(d)の実測結果との差を示している。図10(e)の結果からも分かるように、シミュレーションと実測との間において最大の温度差は測定点3bにおける2.4℃(228.1℃−225.7℃)、最大の時間差は測定点3aにおける2.4秒(28.0秒−25.6秒)と僅かな差しか認められない。リフロー装置や測定装置自身のばらつきがあることも考慮すれば、この差は極めて僅少であって、本実施の形態にかかるシミュレーションの精度の高さを示している。
なお、図10(c)、(d)中に丸印を付してある測定点3bのピーク(最高)温度が、必要到達温度(Treq)、すなわち半田を完全な液相とするに必要な温度(230℃)条件をクリアしておらず、したがって更なるリフロー温度の上昇、もしくは搬送速度の低減の検討が必要であることを示している。
図11は、図10(c)、(d)に示す測定点3aにおいて、本実施の形態によって得られるm値を使用したシミュレーション結果に基く温度プロファイルと、これと同一の条件でサンプル基板1をリフロー装置10で実際に加熱して得られた結果の温度プロファイルとを対比している。縦軸が温度、横軸が時間(右から左)で、シミュレーションにおいては各加熱区域ごとに100箇所(計700箇所)の測定位置において得られたm値を使用して測定点の温度を算出し、これをプロットして温度プロファイルを作成している。図からも明らかなように、計700箇所の温度シミュレーションを行うことでほぼ正確な温度プロファイルが求められることがわかる。また、本実施の形態にかかるm値を使用したシミュレーションが実測値に対して極めて近似した精度の高いものであることがわかる。
次に、図12(a)〜(e)は、本実施の形態にかかるシミュレーションの他の実験結果2を示している。先の図10(a)〜(e)に示す例では表裏の加熱温度Ta、Tb間で温度差は設けられなかった。ここでは、当初のサンプル基板1の加熱でリフロー温度ばらつきΔTmaxが8℃以内の要求条件を満たさなかったことから、図12(a)に示すようにリフロー加熱段階の加熱区域VI、VIIで表裏間に20℃の温度差(260℃−240℃)を設け、再度サンプル基板1の加熱を行なっている。図12(a)に示す加熱条件でサンプル基板1を加熱して各測定位置及び各測定点ごとの温度測定を行い、その結果に基いて各m値が算出される。
次に、図12(b)は、シミュレーションを行う場合の加熱条件を示している。図示のように、ここではリフロー段階の加熱区域VI、VIIの表裏の加熱温度Ta、Tbをそれぞれ20℃ずつ上げて260℃、280℃とし、また、予熱段階の加熱区域Vの表裏の加熱温度を10℃ずつ上げて200℃としている。上述したように、ここで重要なのは表裏にある各加熱源7a、7bの加熱温度Ta、Tb間の温度差は、m値を算出した時の温度差(予熱段階で0℃、リフロー段階で20℃)のままに維持されることである。すなわち、表裏間の温度差を設けて算出されたm値を用い、その温度差に基く加熱特性をそのまま利用してシミュレーションを行うものとしている。
図12(c)は、この上述したシミュレーションによって得られた結果であり、又図12(d)は検証目的でこれと同一の加熱条件で実際に回路基板1を加熱して測定した結果を、また図12(e)は、この両者間の差をそれぞれ示している。なお、この実験結果2では、測定点の数を3a〜3eの5点としている。図12(e)からも明らかなように、シミュレーションと実測の間の差異は、温度で最大1.2℃(234.8℃−233.6℃)、時間で最大2.0秒(32.0秒−30.0秒)と、先の図10(e)に示す差異と比べても遜色はなく、加熱源7a、7b間に温度差が設けられていても、当該温度差を維持したままでその温度差に基くm値を利用することにより、極めて精度の高いシミュレーション結果が得られることを示している。
本願発明者らが行なった実験によれば、リフロー段階での温度ばらつきΔTmaxが約8℃以上となった場合には、表裏の加熱源7a、7bの加熱温度Ta、Tb間に温度差を設けずに加熱条件を変化させると適切な加熱条件を見出すのが困難なケースが多かった。逆にΔTmaxが約8℃を越えた場合、表裏の加熱温度Ta、Tbに約20℃の温度差を設けることで適切な加熱条件を容易に見出せること、また、加熱温度を変化させる場合にもこの温度差(約20℃)を不変とすることでm値をそのまま利用して精度の高いシミュレーションができることを見出した。
温度ばらつきΔTmaxを約8℃にするのは、鉛フリー半田を用いる厳しい温度制約が設けられている場合であって、例えば従来の鉛系半田を用いるなどの温度制約が緩やかな場合には、ΔTmaxが10℃、あるいはそれ以上となっても被加熱物表裏の加熱温度Ta、Tb間に差を設ける必要がない場合もあり得る。また、表裏間の温度差を約20℃とする条件も、温度制約が緩やかである場合には更に温度差を大きくすることができる。但し、シミュレーションの加熱条件を変化させる場合にあっても表裏間の温度差はそのままの値に保つことが好ましい。
なお、図示されていないが、本願発明者らの行なった他の実験では、予熱段階における温度ばらつきΔT0が約5℃を越えた場合には、予熱段階の表裏の加熱温度Ta、Tb間にも温度差を設けることが好ましく、また、その時の温度差は約10℃とすることが好ましい。この場合においても、この約10℃の温度差でサンプル基板1を加熱して算出されたm値を使用してシミュレーションを行い、シミュレーションの加熱条件設定の際にはこの温度差(10℃)をそのままの値に保つことが好ましい。また、鉛系半田を用いるなどの温度制約が緩やかな場合には、温度ばらつきΔT0は8℃、あるいはそれ以上とすることもできる。
上述したように、本実施の形態にかかるm値を利用してシミュレーションを行う熱解析方法によれば、所望の温度プロフィールに沿って被加熱物を加熱するための加熱条件を極めて精度よく見出すことができる。しかもm値には利用者が実際に使用する加熱装置、実際に加熱する被加熱物の物理的特性を包含することができるため、利用者は通信手段を介して加熱データを提供者に送信することにより、利用者個々のニーズに応じた利用者に固有の熱解析情報を提供者から得ることができる。
図13は、提供者Sから利用者Uに対して通信手段を介して提供されるアウトプットの画像例を示している。項目1.は表裏にある加熱源の加熱温度と、被加熱物を搬送する搬送速度(あるいは加熱時間)との両加熱条件を示している。図1に示すように利用者Uのコンピュータ12が加熱制御装置20と接続されていれば、提供者Sから受信したこの入力をそのまま加熱制御装置20に送信して加熱装置10の加熱条件を制御することもできる。又、図13の項目2.は、項目1.の加熱条件に基くシミュレーションによって得られた結果を示しており、利用者の要求条件に対応させた達成状況を示している。項目3.には、使用したソフトウェアの更新状況などの関連情報、その他利用者Uにとって有益となる各種の情報を含めることができる。
利用者Uに提供されたこれら情報は、提供者Sのデータバンク27(図1参照)に蓄えることが可能である。同一利用者Uが同一の加熱装置に関して複数回にわたって熱解析を依頼すると、このデータバンクにある情報を利用して、例えば前回までの依頼時における結果と今回の結果とを比較することができ、特定の加熱区域の値に著しい変動が見られるような場合、あるいは経時的に何らかの傾向が見られるような場合などには、当該加熱区域の加熱源もしくは加熱装置に何らかの不具合が生じている可能性を見出すことができる。このような場合、情報を項目2.の関連情報欄に表示し、利用者に警告することもできる。
以上、利用者Uの要請に応じ提供者Sが熱解析の情報提供サービスを行なう本実施の形態にかかるシステムの概要を説明してきたが、提供者Sのサーバ15が実行する処理内容について、以下に更に詳細に説明する。これまでの説明により、まず被加熱物サンプルを一旦加熱して得られる加熱データからm値を求めることで、被加熱物サンプルの物性値の入力が無くとも熱解析が可能であることが分かった。次に、求められたm値を使用することで、加熱条件を与えれば被加熱物の到達温度が、あるいは逆に必要な到達温度を与えればそれを達成するための加熱条件が、それぞれ極めて高い精度で得られることが分かった。しかしながら熱解析のシミュレーションを行う場合、一度設定した加熱条件でのシミュレーション結果を検討した後、次のシミュレーションにおける加熱条件を検討結果に基いて新たに設定し直す必要がある。マニュアルでこれを設定することも可能であるが、これでは利用者Uへの短時間での情報提供が困難となり、何よりも熟練者の経験と勘が要求される。以下に示す処理手順では、この加熱条件の再設定をサーバ自身が自動的に行なうことを可能とするアルゴリズムを含んでいる。
図14は、リフロー加熱を例にしたサーバ15で行なう処理手順の概要を示している。フローチャートの内、右側には利用者Uが実施する手順を、左側には提供者Sが実施する手順を示す。利用者Uは、まずステップ#1で被加熱物と加熱装置の条件を設定する。ここでは表裏の加熱源7a、7bの加熱温度Ta、Tbの間には温度差は設けられていないものとする。次にステップ#2において、例えば上述の各要求条件a〜gに表示したT0、T1、T2、Tmax、Treq、ΔTmax、ΔT0、t0、t1、t2を含む利用者の所望する加熱要求条件が設定される。
次にステップ#3において、先にステップ#1で設定した加熱条件により、被加熱物サンプル1を実際に加熱し、被加熱物サンプル1の複数の測定点における表面温度Ts(初期温度Tint含む)を測定する。利用者Uは、以上の各ステップで得られた加熱データを含む加熱関連情報を通信手段を利用してステップ#4で提供者Sに送信する。情報提供を受けた提供者S側では、まずステップ#5で、前記の測定結果、測定点間の温度ばらつきが要求条件(閾値)を満たしているかをチェックする。前記例でいえば、予熱段階の温度のばらつきΔT0が5℃以内か、リフロー加熱段階のばらつきΔTmaxが8℃以内かがチェックされる。これらのばらつきが許容範囲にない場合、提供者Sは利用者Uに対し、ステップ#6で表裏にある加熱源7a、7bの加熱温度Ta、Tb間に温度差Dを設けて再加熱することを促す。この際、利用者Uに対し、提供者側で予め定められた適切な温度差Dを提示することが好ましい。例えば、予熱段階での温度ばらつきΔT0が許容範囲外であるとき、予熱段階にある裏側の加熱温度Tbをステップ#1で設定した温度に対して10℃引き上げること、あるいはリフロー段階でのばらつきΔTmaxが許容範囲外であるとき、リフロー段階にある裏側の加熱温度Tbをステップ#1で設定した温度に対して20℃引き上げること、などの対応を提示する。
この提示を得た利用者Uは、推奨された温度差Dを表裏間に設けた加熱条件をステップ#7で設定し直し、ステップ#8で再度被加熱物サンプル1を加熱して各測定点の表面温度Tsを測定し、ステップ#9で加熱データを提供者Sに送信する。なお、上に示す予熱段階の温度差10℃、リフロー段階の温度差20℃は1例であって、加熱目的に応じて他の温度差を設定しておくこともできる。ステップ#5で温度ばらつきが許容範囲内にない場合に、このように表裏の加熱源間に温度差Dを設けることを推奨するのは、その後のシミュレーションによってもこの温度ばらつきを解消することが困難な場合が予想されるため、シミュレーションの前に予め温度差を設けて適切な加熱条件を見出し易くするものである。
利用者Uの有する加熱装置が表裏間での温度差を設けることができない形式のものであれば、ステップ#5〜#9までは省略される。また、ステップ#5の温度ばらつきが許容範囲内か否かは温度測定結果に基いて利用者Uが単独で把握することができるため、ステップ#1〜#9までを通して利用者U側のみで進めることもできる。すなわち、温度ばらつきが許容範囲内にない場合には、利用者Uは予め提供者側が設定した表裏間の温度差を設けた加熱条件で被加熱物を加熱し直し、ステップ#9でその加熱データを含む加熱関連情報を提供者Sへ送信するものとしてもよい。
提供者Sは、ステップ#5で温度ばらつきが許容範囲内であったとき、もしくはステップ#9で利用者Uからのデータ入力があったとき、ステップ#10で利用者Uから得た加熱条件と測定結果とから各測定点及び各測定位置ごとの加熱特性値であるm値を算出する。m値を算出する演算方法は、式8に示した内容と同じである。但し、利用者が表裏間に温度差Dを設けた場合の式8における加熱温度Taは、表裏の加熱源7a、7bの内のいずれか一方を基準に定め、例えば表側にある加熱源7aの加熱温度Taを用いるものとする。繰り返しとなるが、表裏の加熱源の間に温度差がある場合、得られたm値は当該温度差をも包含した加熱特性値となる。
次にシミュレーション段階に移行し、ステップ#11でシミュレーション条件を設定する。この設定は後述するアルゴリズムにしたがって提供者Sのサーバ15が自動的に行なうことができる。ステップ#7で表裏面の加熱源間に温度差Dを設けた場合、当該温度差Dを同一に保ったままで平行移動させた加熱温度Ta、Tbが設定される。ステップ#12では、ステップ#10で算出されたm値を使用し、前記シミュレーション条件に基いてシミュレーションした結果の温度プロファイルを作成する。図11に示すシミュレーションプロファイルでは1つの測定点のみの結果を示しているが、同様な温度プロファイルが各測定点全てについて求められる。この全てのプロファイルを基に、まずステップ#13で第1の加熱段階、すなわち予熱段階での要求条件をクリアしているかがチェックされる。ここでは全ての測定点における温度が要求条件T0、t0(先の例で150〜190℃、60〜120秒)を満たしているかがチェックされる。
全ての測定点でこの要求条件が満たされていない場合には、ステップ#11に戻って加熱温度の変更など再度のシミュレーション条件の設定を行う。表裏の加熱温度Ta、Tb間に温度差Dがある場合には、この温度差Dはここでも同一に保たれる。次にステップ#14で、第2の加熱段階、すなわちリフロー段階での要求条件がクリアされているかがチェックされる。リフロー加熱の例では、この段階の加熱が電子部品などを高温破壊することなく確実に半田接合するよう全加熱行程を通して最も厳格な温度管理が要求される。なお、図示の例では第1と第2の2つの加熱段階をステップ#13、#14に示しているが、要求条件が別途定められた第3、第4以降の加熱段階があってもよい。また、要求条件が1つの加熱段階のみに設定されている場合には、ステップ#13又は#14のいずれかの加熱段階が省略されてもよい。
ステップ#14におけるチェックの結果、設定された要求条件が満たされていない場合には、ステップ#11に戻って再度シミュレーション条件の設定を行う。例えば、シミュレーションの結果が図10(c)に示すものとなれば、同図の丸印で囲った測定点3bの必要到達温度(Treq)が要求条件温度である230℃をクリアしていない。このような場合には要求条件をクリアさせるため、ステップ#11でリフロー段階における加熱区域の加熱温度を上げるか、もしくは加熱時間を長くする(搬送速度を遅くする)などの加熱条件の変更を行う。この加熱条件の変更をサーバ15が自動で行なうロジックに関しては後述する。表裏の加熱温度Ta、Tbの間に温度差Dを設けている場合には、当該温度差Dが維持されるのはこれまでと同様である。
ステップ#14でリフロー領域における要求条件が全てクリアされておれば、ステップ#15でシミュレーション結果に基いて加熱条件を確定する。提供者Sのサーバ15は、ステップ#16で設定された加熱条件を通信手段を介して利用者Uの表示部14(図1参照)に提供し、利用者Uはそのアウトプットを得てステップ#17で加熱装置の加熱条件を設定する。
提供者が行なったシミュレーションの結果、例えば測定点の1つにおいては被加熱物が耐熱限界温度(Tmax)240℃を越え、他の測定点の1つにおいては必要到達温度(Treq)230℃にも至らないような極端な状況(大きな温度ばらつき)も有り得る。本実施の形態の情報提供システムによれば、このような場合においてもその結果を早期に利用者へ提供し、必要な対応策を促すことができる。あるいは、後述するようにこの代替として利用者の所望する要求条件に最も近似する次善の近似解を提供することができる。
なお、上述した熱解析方法では、更に適用範囲を広げた態様が可能である。これまで述べてきた例では熱風を被加熱物に吹き付ける対流加熱方式を前提としてきたが、利用者の使用する加熱装置が遠赤外線放射などを利用する輻射加熱方式である場合においても、本実施の形態のシミュレーションを適用することができる。具体的には、式3で示したように、Δt時間で加熱される被加熱物の温度変化量ΔTは一般に、
で表される。右辺の前半部分は対流による要素を示し、後半部分は輻射による要素を示している。対流による加熱をベースとした式4では、輻射加熱による影響をほぼ無視できるとして右辺の輻射加熱要素の後半部分を省略しているが、これと同様に輻射による加熱の場合には、右辺の対流加熱要素の前半部分を省略して
と表すことができる。この式9を式4に置き換えて輻射による加熱をベースとした場合の加熱特性値を求め、あとは先の実施の形態で説明した内容と同じ手順により、この加熱特性値をもとにして輻射加熱の場合における各種のシミュレーションを行うことが可能である。
本発明に係る加熱特性値すなわちm値を適用したシミュレーションの更に異なる態様として、対象物を冷却する際への適用がある。図6に示す加熱装置において、装置出口側に前述した冷却装置11を示している。被加熱物である回路基板などを長く高温に放置することを避ける必要がある場合、エアもしくは冷風を被加熱物に吹き付けて冷却を促進させることができる。この冷却装置においても、全く同様に吹き付けるエアもしくは冷風の温度、冷却時間を定め、被加熱物(被冷却物)の測定点における温度を測定してm値を求め、あとは同様にしてこのm値を使用して温度シミュレーションを行うことができる。
さらに、図6では加熱装置内で被加熱物を搬送装置で搬送する形式の加熱装置としているが、本実施の形態は他の形式の加熱装置に対しても適用が可能である。例えば搬送装置を持たず、搬入された被加熱物を移動することなしに一定時間の加熱区分ごとに加熱装置の加熱温度を変化させることによって所定の温度プロファイルに沿った加熱を行う形式の加熱装置に対しても適用可能である。したがって、図6に示す加熱区域は必ずしも物理的に分離された異なる区域を意味せず、前記一定時間ごとに加熱温度が変化する加熱区分もそれぞれ図示の加熱区域に相当するものと解釈しなければならない。
また、上述した態様では利用者が所望する温度プロファイル(要求条件)を得るための適切な加熱条件を設定する熱解析について述べているが、これとは逆に、利用者が設定した加熱条件を与え、この加熱条件によって加熱される被加熱物がどのような温度プロファイルで加熱されるかを求める熱解析も勿論可能である。これは各測定位置に応じた加熱温度Ta、加熱時間tを加熱基本式(式7)に代入し、複数の測定位置(先の例では合計700箇所)ごとに到達温度Tsを算出することによって、例えば図11に示すような温度プロファイルのシミュレーション結果を得ることができる。表裏の加熱源7a、7bの間に温度差が設けられている場合にも、m値を求めた際の基準となる加熱温度(上述の例では表側の加熱温度Ta)に対応した加熱条件を与え、この温度差を維持したままで当該m値を使用することによって同様の温度プロファイルのシミュレーションが可能である。本態様を実施する場合、利用者Uから提示する条件の画像は図13の項目1.に示す内容となり、提供者から提供するアウトプットは図4の項目1.に示す内容、あるいは図11に示すような温度プロファイルとなる。
次に、表裏間の適切な温度差を見出す手順を含む代替の態様について図面を参照して説明する。これまでに示した態様では、各温度のばらつきΔT0、ΔTmaxが許容範囲を越えた場合、表裏の加熱源間に予め定められた一定の温度差(例えば、予熱段階で10℃、リフロー段階で20℃)を設け、この予め定められた温度差を維持したままで加熱温度を変化させて熱解析を行なっている。本態様ではこれを改め、表裏の加熱温度Ta、Tb間に設けるべき適切な温度差Dをシミュレーションによって求め、これを含めたアウトプットを利用者に提供する情報提供システムである。使用する加熱装置は、図6に示すものと同様であってよく、また、被加熱物の加熱要求条件は上述の実施の形態で示したものと同様とする。なお、以下の説明では鉛フリー半田を使用するリフロー加熱を例にしているが、他の熱解析においても同様に適用可能である。
図15は、本態様にかかる熱解析情報システムの手順を示すフローチャートである。図14と同様、右側に利用者Uの行なう手順、左側に提供者Sが行なう手順をそれぞれ示している。図において、ステップ#1からステップ#3までは、図14に示す先の態様と同様である。すなわち、利用者Uは、両加熱源7a、7bの加熱温度Ta、Tb間に温度差を設けない加熱条件下でサンプル基板1を加熱し、提供者Sに送信すべき第1の加熱データを取得する。
次に利用者Uは、ステップ#4で表裏にある加熱源の加熱温度Ta、Tbに温度差Dを設ける。例えば、予熱段階の各加熱温度Ta、Tb間の温度差Dpに10℃、リフロー段階の各加熱温度Ta、Tb間の温度差Drに20℃など、予め定められた温度差D(Dp、Dr)を設ける。先の例に基いてより具体的に示せば、予熱段階での表側の加熱温度Ta=180℃、裏側の加熱温度Tb=190℃、リフロー段階での表側の加熱温度Ta=240℃、下側の加熱温度Tb=260℃とする。次にステップ#5で、この温度差を設けた加熱条件によりサンプル基板1を再度加熱し、提供者Sに送信すべき第2の加熱データを取得する。利用者は、ステップ#1〜#5で得られる加熱データを含む関連情報一式を、ステップ#6で通信手段を介して提供者Sへ送信する。
加熱データほかを受け取った提供者Sのサーバ15は、まず、ステップ#3で得られる第1の加熱データに基き、ステップ#7で加熱特性値であるm値を求める。すなわち、このm値は、表裏の加熱源間に温度差が設けられていない条件でのm値となるが、ここで求められるm値は、以降の表裏の加熱源間に温度差を設けた場合にも適用される。上述した通り、本願発明者らは実験により、所定以内の温度差(例えば予熱段階で約10℃、リフロー段階で約20℃)であれば、温度差なしの条件で得られたm値を温度差を設けた条件に適用しても大きな誤差がないシミュレーション結果が得られることを見出している。
次に、ステップ#8以下に示す表裏の加熱源間の適切な温度差を見出すシミュレーションについて具体例を用いて説明する。ステップ#5における表裏間に温度差を設けた加熱条件下での被加熱物サンプル1の加熱により、被加熱サンプル1の各測定点及び加熱装置10の各測定位置ごとの初期温度Tint、到達温度Tsを測定することができる。例としてリフロー段階の特定の測定位置における1つの測定点3の初期温度Tintが232℃、到達温度Tsが238℃とそれぞれ測定されたとする。
ステップ#8では、この測定結果に基いて前記測定点3近傍の局部加熱温度Txを求める。この局部加熱温度Txとは、測定点3の温度Tsを上述の238℃まで加熱するに必要な測定点3の近傍に形成される局部的な仮想の加熱温度である。より具体的には、加熱基本式である式7:
Ts=Ta−(Ta−Tint)e
−mt
を変形して、到達温度Tsから逆に加熱温度Taを求める式に改めると、
となる。この式10に、上述のTs=238℃、Tint=232℃、またmにはステップ#7で算出したm値をそれぞれ代入すると、例えば加熱温度Ta=248℃と算出される。
このようにして算出された加熱温度Ta=248℃という温度は、表側の加熱温度Ta=240℃と裏側の加熱温度Tb=260℃という表裏両側にある加熱源からの異なる加熱温度によって、当該測定点3の近傍に形成される局部的な想定上の加熱温度であるといえる。これを局部加熱温度Txと定義する。すなわち、式10を改めると、
となる。
次に、ステップ#9で、表裏の各加熱温度Ta、Tb(Ta<Tbとする)が局部加熱温度Txに及ぼす影響度の指標となる温度差係数Rを求める。具体的に、表側の加熱温度Taに対応する温度差係数Raは:
また、裏側の加熱温度Tbに対応する温度差係数Rbは:
で表される。上述した例における具体的な数値を求めれば、
Ra=(248−240)/(260−240)=0.4
Rb=(260−248)/(260−240)=0.6
となる。すなわち、当該測定点3において、局部加熱温度Txに及ぼす影響度の指標は、表側の加熱源7aが0.4、裏側の加熱源7bが0.6(双方の合計で1.0)と想定される。このような温度差係数Rをそれぞれの測定点3及び測定位置において算出する。
次に、ステップ#10で、以上で求められた温度差係数Rを基に、予熱段階及びリフロー段階におけるそれぞれの表裏間の加熱源7a、7bの適切な温度差Dp、Drを求めるシミュレーションを行う。ここで、予熱段階の最大の温度差Dpは10℃、リフロー段階の最大の温度差Drは20℃とし、各10℃区切りの段差でのシミュレーションを行う場合を説明する。この際の温度差Dp、Drの組み合わせは以下の6通りとなる。
a.予熱段階の温度差Dp=0 ; リフロー段階の温度差Dr=0
b.予熱段階の温度差Dp=0 ; リフロー段階の温度差Dr=10℃
c.予熱段階の温度差Dp=0 ; リフロー段階の温度差Dr=20℃
d.予熱段階の温度差Dp=10℃; リフロー段階の温度差Dr=0
e.予熱段階の温度差Dp=10℃; リフロー段階の温度差Dr=10℃
f.予熱段階の温度差Dp=10℃; リフロー段階の温度差Dr=20℃
以上の各組み合わせにおける局部加熱温度Txを求めると、それぞれ以下の結果となる。なお、ここでは基準温度として表側の加熱温度Taを用いるものとし、具体的には予熱段階をTa=190℃、リフロー段階をTa=240℃とする。繰り返しになるが、裏側の加熱温度Tbの方を基準温度として用いることも同様に可能である。
<予熱段階:Tx=Ta+Dp×Ra>
a.Tx=190+0×0.4=190℃
b.Tx=190+0×0.4=190℃
c.Tx=190+0×0.4=190℃
d.Tx=190+10×0.4=194℃
e.Tx=190+10×0.4=194℃
f.Tx=190+10×0.4=194℃
<リフロー段階:Tx=Ta+Dr×Ra>
a.Tx=240+0×0.4=240℃
b.Tx=240+10×0.4=244℃
c.Tx=240+20×0.4=248℃
d.Tx=240+0×0.4=240℃
e.Tx=240+10×0.4=244℃
f.Tx=240+20×0.4=248℃
加熱温度Txとしたときの測定点3の到達温度Tsは、加熱基本式である式7の
Ts=Tx−(Tx−Tint)e−mt
にそれぞれのTx、Tintの値を代入することにより得られる。初期温度であるTintは、それぞれ直前の測定位置における到達温度により求められる。同様にして、全ての測定点、測定位置においてそれぞれの温度Tsを求めることにより、ステップ#10で各測定点3の温度プロファイルを作成することができる。
リフロー加熱の場合、各測定点のピーク温度のばらつきが最小となる温度差の組み合わせが最適な加熱条件となるため、ステップ#10で、上述のa〜fの局部加熱条件の内から各測定点のピーク温度間が最少の温度差となるものを選択することによって予熱段階、リフロー段階における各最適な表裏間の加熱温度差Dp、Drを特定することができる。ステップ#10では、全ての測定点における温度プロファイルを得ることができるため、ΔTmaxが最小となる条件以外にも、加熱目的に合わせて要求条件に最も適する温度差の組み合わせをシミュレーション結果から任意に選択することができる。
なお、上述の例では、予熱段階とリフロー段階の温度差係数Raを仮に同じとしているが、異なる場合であれば、それぞれの温度差係数を用いることによって同様に計算可能である。また、上記の例では温度差の組み合わせを10℃区切りの段差ごととしているが、これを5℃区切り、2℃区切りなど、任意の段差ごとで同様にシミュレーションを行なうことができる。区切りをより細かくすることによって、当然ながら計算処理は多くなるがより詳細な熱解析が可能となる。
図15において、ステップ#11で温度ばらつきΔTmaxを最小とする最適な温度差Dp、Drが求められれば、以下は、図14に示すフローチャートのステップ#11以下に示すフローを進めることによって、必要な加熱条件を求めるシミュレーションを行うことができる。すなわち、上述した図15に示すフローによって測定点3の温度ばらつきを最小とする表裏間での加熱温度差Dをシミュレーションによって見出し、以下はこの加熱温度差Dを維持したままで先の実施の形態と同様にして利用者の所望する要求条件を満足する最適な加熱条件を見出すことができる。
また、上述の説明では、予熱段階の表裏間の加熱温度差が10℃、リフロー段階の温度差が20℃で、これを各々10℃区切りの段差で組み合わせるという比較的シンプルなシミュレーション条件としているが、例えばリフロー段階の2つの加熱区域VI、VIIを個別に10℃区切りの段差で最大各20℃まで変動させ、これと予熱段階の10℃の加熱温度差を含む3つの加熱条件の組み合わせとしたシミュレーションにするなど、より複雑なシミュレーションを行うことも可能である。
また、これまでは裏側の加熱温度Tbが表側の加熱温度Taよりも高温である例のみを示しているが、加熱目的に応じ表側の加熱温度Taをより高温にする場合もあり得、この場合においても上述したロジックは同様に適用することが可能である。
以上のシミュレーションによって得られた表裏間の最も適切な加熱温度差を含む加熱条件は、提供者Sから通信手段によって利用者Uのスクリーンに表示される。表示される画像の一例は図13に示される。ここで提供される表裏間の温度差は、上述にようにシミュレーションによって得られた最適な温度差となる。
次に、利用者Uから提供される加熱データに基いて熱解析を行なう提供者Sのサーバ15に、シミュレーション条件を自動的に設定させるアルゴリズムを含む手順について説明する。ここでは、基本的に上述した情報提供システムの2つの態様の熱解析方法を実施する2つの異なる手順が含まれる。すなわち、1つは表裏にある加熱源間の温度差を予め定めた一定値とする態様と、表裏間の温度差をもシミュレーションにより見出す態様との2つの異なる手順である。例えばこれらの手順を含むプログラムを記録した記録媒体をサーバ15が読み込むことによって、サーバ15はシミュレーション条件を自動的に設定し、要求条件に適する加熱条件を見出すことができる。当該手順の第1の態様は、
表裏の加熱源間に加熱温度差を設けない一定の加熱条件下で被加熱物サンプルを加熱してその複数の測定点の各温度を測定した加熱データと、利用者Uが所望する被加熱物を加熱する際の要求条件との入力を利用者に促し、その入力を利用者Uから受ける手順と、
前記複数の測定点間の温度ばらつきの大きさを予め定められた閾値と比較する手順と、
前記温度ばらつきが予め定められた閾値よりも小さい場合、前記入力した加熱データから、式8に示す加熱特性値であるm値を求める手順と、
前記温度ばらつきが予め定められた閾値よりも大きい場合、表裏の加熱温度に予め定められた温度差を設けた加熱条件で被加熱物サンプルを再度加熱して加熱データを再獲得する旨を利用者Uに促す手順と、
前記表裏の加熱源間に加熱温度を設けた加熱条件下で再加熱した際の加熱データの入力を利用者Uから受ける手順と、
前記入力した再加熱の際の加熱データから、式8に示す加熱特性値であるm値を求める手順と、
被加熱物を加熱するためのシミュレーション条件を、前記表裏間の加熱温度差(0を含む)を維持したままで設定する手順と、
前記設定された加熱条件と前記求められた各m値とから、回路基板の各測定点ごとの温度を算出して温度プロファイルをシミュレーションにより求める手順と、
前記シミュレーション結果と前記要求条件とを比較して前記シミュレーション条件が要求条件をクリアできる加熱条件であるかを確認する手順と、
前記要求条件がクリアできない場合、前記確認結果に基く次の適切なシミュレーション条件を、前記表裏間の加熱温度差(0を含む)を維持したままで再設定してシミュレーションを繰り返す手順と、
前記要求条件がクリアできた場合、当該結果を適切な加熱条件として確定する手順と、
前記表裏の加熱温度に予め定められた温度差を設けて加熱しても、複数の測定点間の温度ばらつきの大きさが前記予め定められた閾値内に納まらない場合、または、オプションとして前記シミュレーションの繰り返しが一定回数を越えた場合、適切な加熱条件の設定は不能であると判断する手順と、
前記確定された加熱条件、もしくは前記不能であるとの判断結果のいずれかを利用者Uに通知する手順と、を含んでいる。
ここで、表裏の加熱温度に設けられる予め定められた温度差は、例えば鉛フリー半田をリフロー加熱する場合、予熱段階で約10℃、リフロー段階で約20℃、それぞれ下側加熱温度を上側加熱温度よりも高くする。また、前記複数の測定点間の温度ばらつきの大きさと比較される前記閾値は、例えば鉛フリー半田のリフロー加熱の場合、予熱段階で約5℃、リフロー段階で約8℃とすることができる。
以上の一連の基本手順において、適切なシミュレーション用加熱条件の選択と設定をサーバ15自身が行うアルゴリズムは以下のようである。なお、以下の手順では、第1の加熱段階(以下、予熱段階とする。)、第2の加熱段階(以下、リフロー段階とする。)を含むリフロー加熱を例として説明しているが、これ以外の熱解析においても同様のアルゴリズムを適用することが可能である。
また、参考として、この際の被加熱物の要求条件は、本実施の形態で示した下記の条件と同一であるものとし、以下、必要に応じて説明中のカッコ内に参考表示する。
a.加熱保持温度及び同時間(T2、t2):220℃、20秒以上。
b.必要到達温度(Treq) :230℃
c.耐熱限界温度(Tmax) :240℃
d.耐熱上限温度及び同時間(T1、t1):200℃、40秒以下。
e.予熱温度及び同時間(T0、t0) :160℃〜190℃、60秒〜120秒。
まず、図14に示す表裏間の温度差を一定に定める第1の態様のフローチャートにおいて、ステップ#11でのシミュレーション用加熱条件の設定をサーバ自身で行なうアルゴリズムの手順を図16に示す。図16において、まずステップ#21で加熱特性値(m値)を獲得する。これは図14に示すステップ#1〜ステップ#10で得られるもので、複数の測定点と複数の測定位置に対して求められている。表裏間の加熱源に温度差がある場合には、その温度差を設けた状態で得られたm値を取得する。次に、サンプル加熱時の測定結果又はシミュレーションによる算出結果から、ステップ#22で第1の加熱段階である予熱段階中で最も高い測定温度となった測定点(図9に示す例に基いてこれを3cとする)を抽出する。これは、ステップ#23において予熱段階における加熱で温度条件の許容される上限を超えてオーバシュートすることがないかをまず最も高い測定点3cで確認するものである(確認手順A)。ここでオーバシュートしておれば、予熱段階での加熱温度が前記予熱の許容される上限温度(190℃)を越えていることを意味している。この場合には、ステップ#24において予め定められた基準で加熱温度を下げる加熱条件の補正を加え、ステップ#25で改めてシミュレーションを行い、再度ステップ#22へ戻ってこれまでの手順を繰り返す。なお、表裏間の加熱源に予め温度差が設けられている場合には、加熱温度を下げる際に当該温度差がそのまま維持される。これは、以下に示す加熱温度の上昇・下降を行なう全ての操作においても同様である。また、以下、特記なき場合、加熱温度とは、基準となる表側の加熱温度(図6の上側の加熱源7aによる加熱温度)Taを指している。
予熱段階での加熱温度を下げる際の前記予め定められた基準の1つは、加熱温度を予熱段階の許容される上限温度(190℃)まで引き下げることである。その他の基準としては、測定結果又は算出結果による温度と前記許容される上限温度(190℃)との温度差を算出し、この温度差に一定の比率(1を含む)を乗じた温度分だけこれまでの加熱温度を引き下げることである。このような基準を予め定めておくことで、ステップ#24ではコンピュータ自身が加熱温度の補正を加えることができる。
なお、図示していないが、ステップ#22で抽出された最も高い測定温度となった測定点が予熱段階における加熱で許容される下限温度(160℃)まで達してない場合、逆にステップ#24において予め定められた基準で加熱温度を上げる加熱条件の補正を加える必要があり、その後、ステップ#25で改めてシミュレーションを行い、再度ステップ#22へ戻ってこれまでの手順を繰り返す。一般に被加熱物の温度は加熱温度と同一、もしくはこれよりも低くなるため、許容下限温度以下の加熱温度条件を予め設定することは一般には考え難い。したがって、これは万一の救済手段である。加熱温度を上げる際の前記予め定められた基準は、上述した加熱温度を引き下げる場合の基準に準ずるものとすることができる。
ステップ#23で測定点3cが予熱上限温度を越えていなければ、次にステップ#26で、予熱時間t0(60秒以上)に達しているかが確認される(確認手順B)。これがクリアされていない場合には、加熱装置に搬入された被加熱物が早めに予熱温度(190℃)まで昇温できるよう、ステップ#27で予め定められた基準で加熱温度を上げる補正、もしくは予め定められた基準で加熱時間を長くする(搬送速度を遅くする)補正を行う。
図17は、ステップ#27における加熱温度を上げるための予め定められた基準の1例を示している。図は被加熱物の温度プロファイルを示しており、縦軸は温度、横軸は時間(右から左)を示す。時間は加熱区域I〜VIIの経過で示している。加熱装置に温度Trで搬入された被加熱物は、加熱区域IからVの第1の加熱(予熱)段階で順次昇温され、図示の例では加熱区域IIIの途中で予熱温度T0(160〜190℃)に達し、その後時間tだけこの予熱温度で保持される。この保持時間tが要求条件t0(60秒)を満たしていない(t<t0)場合、前記の基準として、この予熱温度T0に到達した加熱区域(図示の例ではIII)よりも前の加熱区域(同、I、II)の加熱温度を例えば1℃上昇させる加熱条件の補正を行うものとする。この加熱温度の補正に基いて再度シミュレーションを行い、その結果にて未だ保持時間tがt0を満たしていない場合には、同様な操作で再度1℃上昇させ、これをt0がクリアできるまで繰り返す。なお、この上昇させる温度幅1℃は任意であり、これより大きくしても小さくしてもよい。
図16のステップ#27における加熱時間を長くするための予め定められた基準の例としては、要求時間t0に対する算出された時間tの比率(t/t0、<1)をこれまでの搬送速度に乗ずる、あるいは、この比率でこれまでの加熱時間を除するなどの基準とすることができる。加熱温度、加熱時間のどちらで加熱条件の補正を行うか、もしくはこの双方で補正を行うかは予め任意に選択して設定しておくことができる。
なお、図16、図17には示していないが、予熱温度の保持時間が逆に要求条件t0をオーバしている場合(>120秒)には、上述とは逆に、加熱温度T0(190℃)に達した加熱区域よりも前にある各加熱区域の加熱温度を予め定められた基準で下げる補正を加えること、もしくは予熱段階の加熱時間を予め定められた基準で短くする補正を加えることにより、同様に対応することができる。この際の加熱温度を下げる、もしくは加熱時間を短くするための予め定められた補正の基準は、上述した加熱温度を上げる、もしくは加熱時間を長くする際の基準に準じたものとすることができる。予熱段階の時間条件は緩やかであり、通常このような方向の補正を行う必要はなく、したがってこれは万一の場合の救済対策である。
図16に示すステップ#26で、最高温度測定点3cが予熱段階の要求条件をクリアできれば、次にステップ#28でその他の測定点が要求条件である予熱温度及び同時間を全てクリアできているかが確認される(確認手順C)。最高温度測定点3cが同条件をクリアしているため、クリアできていない測定点があればそれは加熱不足であることを意味している。この場合にはステップ#29で予め定められた基準で加熱時間を長くする(搬送速度を遅くする)、又は加熱温度を高くする補正を加え、ステップ#25に戻って補正後の新たな条件によりこれまでの手順を繰り返す。ステップ#29における補正の際の予め定められた基準としては、例えば時間未達である測定点の要求時間t0(60秒)に対する算出された時間tの比率(t/t0、<1)の内、最も1に近い値をこれまでの搬送速度に乗ずる、あるいは、この最も1に近い値でこれまでの加熱時間を除するなどの基準を予め定め、設定しておく。あるいは加熱温度を高くする場合には、前記要求下限温度(160℃)を満足しない測定結果又は算出結果の温度と当該許容下限温度との温度差を算出し、このうちの最も大きい温度差に一定の比率(1を含む)を乗じて得られる温度分だけこれまでの加熱温度を引き上げるなどの基準を予め定め、設定しておく。表裏間に温度差がある場合、当該温度差がそのまま維持されることは上述した通りである。
第1の加熱段階である予熱段階の要求条件が満たされたことが確認された後、次に、より厳格な温度管理が要求される第2の加熱段階のリフロー工程に至る。ステップ#28までの予熱段階における加熱条件が定まり、その結果に基いて行ったリフロー段階におけるシミュレーション結果が、図10(c)に示すようになったと仮定する。簡略化のため、ここでは測定点は3a〜3cの3点のみとしている。次のステップ#30では、リフロー段階における測定結果又はシミュレーションの結果の中から、最低温度を示す測定点を抽出する。半田接合を目的とするリフロー工程では、半田が完全な液相となる必要到達温度(230℃)まで加熱することが必要であり、最低温度の測定点であってもこの要求条件をクリアすべきことから、この最低温度を示す測定点にまず注目するものである。図10(c)に示す例では測定点3b(ピーク(最高)温度:228.1℃)がこれに相当し(以下、これを「第1の基準測定点3b」という。)、ここではこの第1の基準測定点3bが要求条件の1つである必要到達温度Treq(230℃)を満たしていないことを示している。
このように第1の基準測定点3bが必要到達温度条件をクリアしていない場合、温度を上昇させる方向の対応が必要となる。しかし、これに伴って一番高い温度を示すプロファイル(図10(c)に示す例では測定点3c)の温度も上昇することを意味し、これが耐熱限界温度Tmax(240℃)を越えないようにもしておかなければならない。このため、温度上昇の補正に際して、リフロー段階におけるシミュレーション結果の一番高い温度にある測定点(以下、これを「第2の基準測定点3c」という。)を次に注目する。第1と第2の基準測定点以外の測定点(同図の例では、測定点3a)のプロファイルは、以降に述べる加熱温度条件の補正操作を行う際にも、この最高温度結果と最低温度結果とを示した両基準測定点3bと3cとの間に挟まれているものと想定しておく。
図16のステップ#31において、まず最低温度となった第1の基準測定点3bが、第2の加熱段階であるリフロー段階の要求条件を満たすような加熱条件の少なくとも1つをシミュレーションにより検索する。その検索方法の1例として、要求条件の内、耐熱限界温度Tmax(240℃)と必要到達温度Treq(230℃)を使った以下のアルゴリズムを用いる。図18(a)はその概要を示しており、図の縦軸は温度、横軸は時間を表す。ここでは図6に示すようなリフロー段階で2つの加熱区域VI、VIIを備えた加熱装置を用いる場合を示おり、時間の経緯と共に被加熱物はこの両加熱区域を図の右から左へV、VI、VIIの順に搬送される。
図18(a)において、予熱段階の加熱区域I〜Vで予熱温度T0まで加熱された第1の基準測定点3bが、先行するリフロー加熱区域VIに入り、加熱区域VI、VIIを通過する間に加熱される際の狙いの温度範囲を斜線の領域Xで示している。この領域Xは、温度T0で加熱区域VIの開始点Hに搬入された測定点3bが、加熱区域VIの終了までの間に耐熱限界温度Tmaxまで加熱される温度勾配線に沿って点Eに至り、その後加熱区域VIIで点Gに至るまでTmaxに維持される上限と、同じく予熱温度T0で加熱区域VIの開始点Hに入った測定点3bが加熱区域VIIの終了までの間に必要到達温度Treqまで加熱される温度勾配線に沿って点Fに至る下限とに囲まれた領域となっている。
温度プロファイルがこの領域X内に含まれていれば、第1の基準測定点3bは、少なくとも耐熱限界温度Tmaxを越えることはなく、かつ必要到達温度Treqまで加熱されており、この両要求条件をクリアしていることとなる。なお、図示の例では点Hと点E、及び点Hと点Fとを直線で結んだ温度勾配線としているが、この線はいずれも上に凸、もしくは下に凸となった曲線であっても、あるいはその他の曲線/直線の組み合せであってもよい。但し、点Hから点E、点Fに至るまでの間にTmaxを越えてはならない。
第1の基準測定点3bがこのような領域Xに収まるよう、m値を用いたシミュレーションにより加熱区域VI、VIIの加熱条件を求める。具体的には、両加熱区域VI、VIIでは予熱温度(190℃)から設備許容温度(例えば、300℃)までの間で加熱温度を変動することが可能であり、この温度範囲において例えば2℃ステップごとに各加熱区域VI、VIIの加熱温度を変動させたときのすべての組み合わせにおける測定点3bの温度プロファイルを、m値を使用したシミュレーションにより求める。そして、そのシミュレーション結果の中から領域Xに入る加熱条件の組み合せのみを検索することにより行われる。前記2℃のステップは任意であり、より細かく区分したステップとしても、より粗く区分したステップとしてもよい。
表裏の加熱温度間に例えば20℃の温度差を設けている場合、上述した加熱温度の変動はこの温度差20℃を維持して、表側加熱源の加熱温度は170℃から280℃まで例えば2℃ステップごと変動させ、裏側加熱源の加熱温度はこれに対応してそれぞれ190℃から300℃まで2℃ステップごと変動させる55段階の温度変化となる。これを加熱区分VIとVIIとで変化させた場合の任意の組み合わせとなるため、合計の組み合わせ数は55×55通りとなる。また、前記代替の態様に示す表裏間の適切な温度差を求める際の手順では、被加熱物の到達温度Tsは、まず図15のステップ#9で求められた温度差係数Rを用いて局部加熱温度Txを求め、次に、この局部加熱温度Txを式7に示す加熱基本式のTaに代入することによって算出することができる。
なお、加熱装置によってはこの第2加熱段階では1つの加熱区域VIのみの場合もあり、3つ以上の加熱区域VI、VII、VIII、・・・を備えている場合もあり得る。図18(b)、(c)はこのような場合の領域Xの設定例を示している。加熱区域が1つの場合には、図18(b)に示す領域X内に入る加熱条件の検索を、当該加熱区域の加熱可能温度範囲で例えば2℃ステップでシミュレーションを行う。加熱区域が3つ(もしくは3つ以上)の場合には、例えば図18(c)に示すように先行する加熱区域VIの終了点で耐熱限界温度Tmaxに達する上限と、最終加熱区域VIIIの終了点で必要到達温度Treqに達する下限で囲まれる領域Xを設定しておき、各加熱区域の加熱可能温度範囲の全ての組み合せでシミュレーションを行う。但し、図18(a)〜(c)に示す領域Xの設定は1例を示したもので、勿論これ以外の領域設定も可能である。また、図の点Hと点E、点Hと点Fをそれぞれ結ぶ線が直線でなくてもよいことは上述と同様である。
図19は、このようにして検索された加熱温度の組み合せに対する第1の基準測定点3bの各温度プロファイルのシミュレーション結果を示している。図ではリフロー段階の部分のみの温度プロファイルを表している。図において、第1の基準測定点3bに対する全ての加熱温度の組み合せの中から図18(a)の領域Xを満たしている6本の加熱条件が見出された場合を示している。各プロファイルは、いずれもその最高温度がTmax以下、Treq以上となる要求条件を既に満たしており、また、加熱区域VI、VIIにおける加熱温度、表裏の加熱温度差、加熱時間が各プロファイルごとに一義的に対応して決まっている。
図16に戻って、次にステップ#32で、これらの見出された第1の基準測定点3bのプロファイルが、その他のリフロー段階の要求条件の1つである加熱保持温度及び同時間T2、t2(220℃、20秒以上)をクリアしているかがまず確認される(確認手順D)。この条件をクリアするものがなければ、それは加熱不足であることを意味し、その場合はステップ#33で予め定められた基準にしたがって加熱時間を長くする(搬送速度を遅くする)加熱条件の補正を加え、ステップ#25に戻ってこれまでの手順を繰り返す。
ステップ#33における前記加熱時間を長くする補正を行う際の予め定められた基準の1例としては、加熱保持温度及び同時間の時間要件t2(20秒)に対するこれに対応した測定結果又は算出結果の時間の比率(t/t2、<1)をこれまでの搬送速度に乗ずる、もしくはこの比率でこれまでの加熱時間を除するなどの基準を予め定め、設定しておくことにより対応する。
ステップ#32で第1の基準測定点3bのプロファイルが前記条件をクリアしているものがあれば、次にステップ#34で、リフロー段階の他の要求条件である耐熱上限温度及び同時間の時間条件t1(40秒以下)をクリアしているかが確認される(確認手順E)。この条件をクリアしているものがなければ、それは加熱オーバであることを意味しており、この場合にはステップ#35で予め定められた基準で加熱時間を短くする(搬送速度を早くする)加熱条件の補正を加え、ステップ#25に戻ってこれまでの手順を繰り返す。この場合の予め定められた基準としては、例えば前記耐熱上限温度及び同時間の時間要件t1に対するクリアしていない加熱条件におけるこれに対応した時間の比率(t/t1、>1)の内、最も1に近い値を元の搬送速度に乗ずること、あるいは前記最も1に近い値で元の加熱時間を除することなどを予め決めておく。
ステップ#34で第1の基準測定点3bのプロファイルが前記条件をクリアしているものがあれば、そのクリアしたものの中から加熱保持温度及び同時間の時間条件t2(20秒以上)を最も短い時間でクリアした第1基準測定点3bのプロファイルA(図19参照)を抽出する。第1の基準測定点3bはサンプル加熱時、もしくはシミュレーション時における最低温度であり、しかもこの抽出されたプロファイルAに対応する加熱条件は基準測定点3bの全ての要求条件をクリアしているものである。これ以外の測定点3a、3cは、いずれも当該プロファイルAよりも高温側(上側、すなわち耐熱上限温度及び同時間が長くなる側)にあるものと想定されている。したがって、測定点3bに対しては最も低温側の(すなわち、最も短い時間でクリアする)プロファイルAを抽出して、ステップ#36でこのプロファイルAに対応する加熱区域VI、VIIの加熱条件をリフロー加熱条件として仮設定する。
次に、図16のステップ#37において、前記仮設定された加熱条件によってその他全ての測定点を加熱したときの温度プロファイルを前記各m値を利用してシミュレーションする。ステップ#38でこのシミュレーション結果に基き、これら他の測定点についてもリフロー段階の各要求条件をクリアしているかが確認される(確認手順F)。この場合において、上述したサンプル加熱で最高温度を示した第2の基準測定点3cが耐熱限界温度Tmaxなど他の要求条件を全てクリアしているかの確認をまず行う。第2の基準測定点3cがこれをクリアしていなければ、他の測定点の確認を行うまでもなく当該温度条件は適用できないことが判断できるからである。
前記第2の基準測定点3cが前記の条件を満たしていることがシミュレーションで確認されれば、その他の測定点は第1と第2の両基準測定点3b、3cの温度プロファイルの間に位置すると想定され、これらもリフロー段階の要求条件をクリアするものと想定され得る。但し、これらその他の測定点に関しても、必要に応じて同様にシミュレーションを行い、要求条件を満たしていることを確認しておくことが好ましい。
このように、全ての測定点に関して全ての要求条件がクリアされているかがチェックされ、このクリアが確認できればステップ#39で加熱条件が確定される。逆に、ステップ#38で他の測定点に対するシミュレーションの結果、要求条件をクリア出来ない測定点が1つでも見つかった場合、再度加熱条件の補正が必要となる。この際、サンプル測定における最低温度の第1の基準測定点3bが要求条件をクリアしていることから、クリアできていない測定点は加熱オーバであることを意味している。したがってステップ#35で被加熱物の加熱時間を予め定められた基準で短くする(搬送速度を早くする)補正を加え、ステップ#25に戻って新たな条件設定により再度これまでの手順を繰り返す。
ステップ#35における加熱時間を短くする補正を行う際には、加熱保持温度及び同時間t2(20秒)に対するクリアしなかった測定点のこれに対応したシミュレーション結果の時間の比率(t/t2、>1)、耐熱上限温度及び同時間t1(40秒)に対するクリアしなかった測定点のこれに対応したシミュレーション結果の時間との比率(t/t1、>1)のいずれか一方、もしくこの双方の比率の内の最も1に近い比率をこれまでの搬送速度に乗ずる、もしくはこの最も1に近い比率でこれまでの加熱時間を除するなどの基準を予め定めておくことにより対応する。
以上の手順の結果、ステップ#38の要求条件のクリアが確認できれば、ステップ#39で最終的な加熱条件を確定することができる。この確定された加熱条件で被加熱物を加熱した場合、全ての測定点において第1および第2の両加熱段階の要求条件をクリアできることが、少なくともシミュレーションにおいて確認されたこととなる。本実施の形態のシミュレーションでは、上述した加熱条件の各設定ロジックを予め設定しておくことにより、サーバ自らが適切な加熱条件を確定するまでの手順を実施することができる。提供者Sは、このようにして確定された加熱条件を利用者Uに提供する。
なお、図16の各確認手順にそれぞれ加えられているステップ#50では、要求条件に適合できずに加熱条件が補正されてシミュレーションが繰り返される場合、同一のループでのシミュレーションの繰り返し回数nをカウントする。このnが予め定められた回数を越えた場合にはステップ#51で加熱条件設定不能であることを出力する。これはオプションの手順であり、与えられた要求条件を満たす加熱条件が見出せないことを短時間に結論付けることを可能にしている。従来技術による被加熱物サンプルを加熱して検証する手順においてはこのような判断を短時間に出すのは困難であった。ステップ#51の出力の際には、要求温度に対してどの要求条件が満足されていないかを含めた演算結果を出力することがその後の対応策を分析する上で好ましい。
なお利用者によっては、加熱条件設定不能との結論を出すことなく、要求条件を満たさないまでも最も要求条件に近い加熱条件の近似解をあくまでも欲しいとの要求があり得る。このような場合、以下のアルゴリズムにより対応可能である。図20(a)〜(c)は、図16に示す手順に従ってシミュレーションを重ねる過程で得られた加熱保持温度(T2)及び同時間(t2)と、耐熱上限温度(T1)及び同時間(t1)とに対応する各測定点3a〜3bの算出結果を示している。図20(a)に示す段階では、丸印で示す第2の基準測定点3cの42秒がt1(40秒以下)の要求条件を満たしておらず、図16のステップ#38がクリアされていない。このため、ステップ#35に進んで加熱時間を短くする加熱条件補正の後、再度シミュレーションが行われる。
図20(b)は、この再度のシミュレーションによって得られた同様内容の結果を示している。この結果を見ると、加熱時間が短く補正されたため先の第2の基準測定点3cは40秒となってt1要件をクリアしたものの、今度は第1の基準測定点3bの18秒がt2(20秒以上)の要求条件を満たさなくなっている。このため、図16のステップに従えばステップ#32がクリアされないこととなり、今度はステップ#33に進んで逆に加熱時間を長くする条件補正が加えられて、再度シミュレーションが行われることとなる。しかしながらこの手順によれば、加熱時間が長くなることによって第2の基準測定点3cが再びt1の要求条件(40秒以下)をクリアできなくなることは明白であり、以下閉ループで同じ手順が繰り返されることとなる。
このような場合の近似解の設定手順を図21に示す。図21は便宜的に図16の第2加熱(リフロー)段階のみを示しているが、図16と同様に第1加熱(予熱)段階を加えるものとしても良い。図21に示す手順では、図16の手順に対してステップ#52〜#54が追加されている。図21において、図20(b)の結果に至った場合、上述のようにステップ#32がクリアされないためにステップ#52に進み、第2の基準測定点3cが耐熱上限温度及び同時間の時間t1(40秒以内)の限界にあるかがチェックされる。ここでいう限界とは、t1の時間要件である40秒ギリギリであるか、あるいは既に40秒をオーバしていることをいう。第2の基準測定点3cが耐熱上限温度及び同時間の時間条件t1の限界にあれば、ステップ#33に進んで加熱時間を長くする補正をしたところで、第2の基準測定点3cがこのt1の条件をクリアできなくなることは明らかである。なお、ここで、事前に一旦ステップ#38まで進んで第2の基準測定点3cが耐熱上限温度及び同時間の時間条件(t1)をクリアできず、ステップ#35で加熱時間を短くする補正を加えた後に再度ステップ#25以降を繰り返した際にこのステップ#32がクリアできなかった場合には、既に第2の基準測定点3cはステップ#52でいう限界にあるといえる。
この場合にはステップ#53に進み、第1の基準測定点3b以外はその他の要求条件をクリアしているかがチェックされる。これは先の手順のステップ#38に相当する。但し、最も高い測定温度の第2の基準測定点3cが限界にあることから、その他の測定点はこの第1と第2の基準測定点3b、3cの間にあることが想定されており、したがって図の破線で示すように、このステップ#53はスキップすることとしてもよい。
ステップ#53がクリアされておれば、第1の基準測定点3bがt2の条件をクリアできるようステップ#54に進んで加熱時間を予め定められた基準で長くする補正を加え、この補正後の加熱条件をもってステップ#39で加熱条件設定の最終解を確定するものとする。図20(c)は、この確定された加熱条件によるシミュレーション結果を示している。加熱時間を長くしたことによって第1の基準測定点3bはt2(20秒以上)をクリアしている。しかしながら、今度は第2の基準測定点3cの41秒がt1(40秒以内)をクリアしていない状態となる。特にリフロー加熱の場合においては、半田を確実に溶融させることが主目的であるため、全ての測定点がt2をクリアすることを最優先した結果である。目的が異なる場合には、例えばt1を優先させる他のアルゴリズムとすることができる。ステップ#54における加熱時間を長くする前記予め定められた補正の基準として、例えばt2の要求時間と測定点3bの算出時間の比率(t/t2、<1、図20(b)に示す例では、18/20)をこれまでの搬送速度に乗ずる、あるいはこの比率でこれまでの加熱時間を除するなどを予め定めておく。
図21のステップ#53で他の測定点が要求条件をクリアしていない場合、ステップ#51で初めて加熱条件設定不能と判断する。但し、これは判断の問題であり、どんな形にせよ近似解が必要な場合には、先の破線で示すように、ステップ#53のチェック手順を加えることなく、ステップ#54、#39と進んで最終解を求めるようにしても良い。
図16を参照したこれまでの説明では、加熱要求条件として第1の加熱段階と第2の加熱段階とにおける熱解析を含めたプログラムを対象としているが、これ以外の場合にも同プログラムの適用は可能である。例えば利用者が所望する加熱が1つの加熱段階の要求条件のみを与えている場合においては、図16に示す第1の加熱段階、あるいは第2の加熱段階のいずれか一方を実施して加熱条件を確定してもよい。また、利用者が所望する加熱が3つ以上の加熱段階に対して異なる要求条件をそれぞれ与えている場合においては、この第1、第2の各加熱段階のいずれか一方もしくは双方の各ステップを選択的に繰り返し実施し、加熱条件を確定してもよい。
また、図16に示すフローでは第2の加熱段階で要求条件がクリアできず、ステップ#33又はステップ#35で加熱条件の変更を加えた場合、その後のプロセスはステップ#25まで戻って第1の加熱段階からのシミュレーションを繰り返すものとしている。これに対し、例えば利用者が使用する加熱装置が、第1の加熱段階と第2の加熱段階との間で、加熱時間(あるいは被加熱物の搬送速度)を含む加熱条件を独立して制御できる形式のものであれば、図16の破線で示すように、第1の加熱段階のステップ#25までフローを戻すことなく、ステップ#41で第2の加熱段階での加熱条件のみを変更させたシミュレーションを行い、あとステップ#30以下の第2の加熱段階のフローのみを繰り返すようにすることが可能である。
さらに、これまで述べた手順においては加熱される被加熱物の要求条件、例えば耐熱限界温度Tmax、耐熱上限温度及び同時間T1、t1などを被加熱物に対して全体で1つのみ設定するものとしている。これは、複数の電子部品が温度管理の対象であるとき、その電子部品の内の熱的に最も厳しい要求条件を回路基板がクリアすべき最低条件としておけば、その他の電子部品に対しては問題を生ずることはないとの前提による。これに対し、各測定点ごとに個別の要求条件を別途入力しておき、これを補助の判断基準として利用することができる。加熱条件が熱的に非常に厳しいときには、回路基板に設定された耐熱限界温度(例えば、240℃)を測定点(すなわち、電子部品)の1つにおいてこれをオーバする(例えば245℃)事態となった場合であっても、当該電子部品がこれを上回る固有の耐熱許容温度(例えば、250℃)を備えていれば、当該加熱条件は許容できるものと判断することもできる。特に要求条件を全て満たす加熱条件が見出せず、代わりに近似解を得た場合において、このような補助の判断基準による救済ロジックを設定しておくことは加熱条件設定上、極めて有利となる。
なお、上述の説明ではリフロー加熱を例にしており、ここでは被加熱物が加熱装置の搬送装置で搬送されるため、加熱時間の長い・短いと搬送速度の早い・遅いとを互換的に表現している。例えばバッチ処理装置などの搬送装置を持たない加熱装置においては、搬送速度は関係なく、したがってこの場合には当該加熱装置内で所定温度で保持される間の加熱時間が加熱条件の対象となる。
次に、提供者Sのサーバ15が表裏間の適切な加熱温度差をシミュレーションによって見出すロジックを含む手順を定めた第2の態様は、
表裏の加熱源間に加熱温度差を設けない一定の加熱条件下で被加熱物サンプルを加熱してその複数の測定点の各温度を測定した第1の加熱データと、次に第1及び第2の加熱段階の表裏間に予め個別に定められた温度差を設け、この温度差を含む加熱条件で前記被加熱物サンプルを再度加熱して複数の測定点の各温度を測定した第2の加熱データと、利用者Uが所望する被加熱物を加熱する際の要求条件との入力を利用者Uに促し、その入力を利用者から受ける手順と、
前記第1の加熱データを基に、式8に示す加熱特性値であるm値を求める手順と、
前記第2の加熱データを基に、改められた加熱基本式(式12)を用いて各測定点近傍の局部加熱温度を算出する手順と、
前記表裏の加熱源の内、いずれか一方の基準となる加熱源の加熱温度と前記算出された局部加熱温度との間で、当該基準となる加熱源の局部加熱温度に対する加熱影響度の指標である温度差係数を求める手順と、
第1の加熱段階(予熱段階)の温度差と第2の加熱段階(リフロー段階)の温度差とを、予め定められた一定の温度段差ごとに変化させた任意の組み合わせにかかるシミュレーション条件を設定する手順と、
前記シミュレーション条件と、前記温度差係数を基に算出される局部加熱温度から、加熱基本式(式7)を使用して各測定点の温度プロファイルを見出すシミュレーションを行う手順と、
前記シミュレーション結果から、加熱目的に最も適した表裏の加熱温度を見出す手順と、
前記見出された表裏の温度差を利用者Uに通知する手順と、を含んでいる。
ここで、例えば鉛フリー半田のリフロー加熱の場合には、前記表裏間に設けられる予め定められた温度差は、予熱段階で約10℃、リフロー段階で約20℃とすることができる。また、局部加熱温度、温度差係数を求める計算式は、上述した式12、13、14と同様である。また、シミュレーション条件を設定するための温度差に対する予め定められた一定の温度段差は、約10℃単位ごと、細かくても約5℃単位とすることで十分である。
以上のロジックに基いてシミュレーションを行うことにより、例えば測定点間の温度ばらつき(ΔTmax)を最小とするために最適な表裏間の温度差Dを見出すことができる。後はこの見出された表裏の加熱源の温度差Dを維持したままで加熱温度を変化させることによって、図16のステップ#22以降に示す手順を同様に実施することができる。すなわち、本プログラムと、先に説明した第1のプログラムとを組み合わせて使用することができる。
ここで上の説明では測定点間の温度ばらつきΔTmaxを最小とする最適な加熱温度差を求めるものとしているが、これはリフロー加熱の場合に適用されるものであって、加熱目的が異なる場合においては、シミュレーションによって得られた結果から他の所望する加熱温度差を選択することも可能である。例えば、シミュレーションの目的が予熱段階の温度ばらつきΔT0を最小にする加熱温度差を見出すこと、あるいは、極端には温度ばらつきΔTmaxを最大にする加熱温度差を見出すことであっても、これらの要求条件に最も適する表裏間の加熱温度差を選ぶことができる。
図22は、提供者Sの側に設けられるサーバ15(図1参照)の概略ブロック図を示している。サーバ20は入力手段28を含み、利用者SからユーザIDほか利用者を識別することが可能な利用者関連情報31と、利用者が使用する加熱装置に関する装置関連情報32と、利用者の所望する加熱要求条件、及び被加熱物サンプルを加熱して得られる加熱データなどの加熱関連情報33とを利用者から入力する。まず入力された利用者関連情報31がデータバンク27と検索され、すでに登録済みの利用者であれば出力手段26を介して加熱関連情報の入力を利用者に促す入力促進情報34を送信し、新規の利用者であれば課金方法の選択を含めて新規登録に必要な事前情報の入力を促す入力促進情報34を同じく出力手段26を介して利用者に送信する。
サーバ15はメモリ手段24を含み、このメモリ手段24には被加熱物の温度を算出する加熱基本式(式7)、加熱特性値であるm値の算出式(式8)などが予め記憶されている。演算手段25は、入力手段28から得た利用者の加熱関連情報33と、メモリ手段24にある各種算出式とを基に、まずm値を算出し、更にこの算出されたm値を利用してシミュレーションを実行する。表裏の加熱源間に加熱温度差が設けられている場合、演算手段25はこの温度差を含む加熱データを基にシミュレーションを行う。
サーバ15は記録媒体読み取り手段29を設け、記録媒体30に記録されたプログラムのアルゴリズムを利用して、前記シミュレーション結果に基いて要求条件に適合した加熱条件を見出す。この際、上述の第1及び第2の態様に記す一連の手順を定めたプログラムを記録した記録媒体30が利用可能である。表裏の加熱源の間に温度差が設けられている場合、温度差を設けて加熱して得られた被加熱物サンプルに関する加熱データに基づき、記録媒体30に記録されたプログラムのロジックを利用してシミュレーションを行い、測定点の許容温度ばらつきを満たす最適な表裏間の加熱温度差を求めることができる。求められた加熱条件、及び表裏間の加熱温度差情報を含む熱解析アウトプット35は、出力手段26を介して利用者Sに提供される。
1.被加熱物(回路基板)、 3.部品(測定点)、 4.温度測定装置(熱電対)、 6.記録装置、 7a、7b.加熱源、 8.搬送装置、 10.加熱装置(リフロー装置)、 11.冷却装置、 12.コンピュータ、 13.通信手段、 15.サービス提供装置、 24.メモリ手段、 27.データバンク、 20.加熱制御装置、 30.記録媒体、 31.利用者関連情報、 32.装置関連情報、 33.加熱関連情報、 35.熱解析アウトプット。