JP2005133177A - 加工性に優れた熱間圧延鋼板の製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】 本発明は粗圧延した粗バーの全厚み方向の温度がα相が生成する温度以下になるように冷却した後に、粗バーをオーステナイト変態点温度以上に加熱昇温させて逆変態を生じさせる際に、粗バーの板厚方向及び幅方向の温度差を均一化させ、それにより、粗バー全体の結晶粒径の微細化を均一化させて、それを用いて加工性に優れた熱延鋼板を製造する方法を提供すること
【解決手段】鋼片を粗圧延機により粗圧延して粗バーにし、該粗バーを仕上圧延機により仕上圧延するに際し、粗圧延後の粗バーの全厚み方向の温度がAr3変態点温度未満になるように冷却した後に、トランスバース型誘導加熱装置で、該粗バーの全厚み方向の温度をAc3変態点温度以上の温度に加熱昇温して仕上圧延することを特徴とする加工性に優れた熱間圧延鋼板の製造方法。
【選択図】 図3

Description

本発明は、加工性に優れた熱延鋼板の製造方法に関し、特に熱間圧延工程においてα(フェライト)相からγ(オーステナイト)相への逆変態を生じさせ、組織を微細化させることによって、、強度、加工性を向上させた熱延鋼板の製造方法に関するものである。
熱延鋼板は、自動車用部材等に使用されている。自動車用部材は、その部品形状に応じてプレス加工されるため、熱延鋼板は、強度とともに加工性が要求される。
そこで、従来から、鋼板の、強度、加工性などの機械的性質を向上させるために、金属組織を微細化するのが有効であることが知られている。金属組織を微細化する手段としては低温圧延法や大圧下圧延法等が提案されている。
更に、鋼の逆変態を利用して、組織を微細化する方法が提案されている。
例えば、粒径5μm以下の等方的フェライト結晶粒を主体とした組織からなる加工性に富んだ微細粒フェライト鋼材を製造するのに、熱間加工の前段階で通常の熱間加工における如き熱履歴或いは加工履歴を経させ、しかる後に、一旦鋼組織の少なくとも一部がフェライト組織を呈するように温度管理を行ってから、加工の最終段階として塑性加工を加えながら温度を上げて変態点温度を超えさせ、フェライト組織をオーステナイト組織に逆変態させてオーステナイト組織を微細化し、その後冷却を行うことが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
また、優れた深絞り性を有する薄鋼板の製造方法として、炭素含有量が0.005%以下である極低炭素鋼をベースとしたTi添加鋼したIF鋼に対して、鋼中のC、N、S量を規定して、最終製品の集合組織の形成に重要な、仕上圧延時におけるα域圧延直前の組織の細粒化及び固溶C、Nの低減を図り、仕上圧延直前で粗バーを一旦γ域からAr3変態点温度以下のα域に保持してTi炭硫化物析出による固溶Cを低減させるとともにこの変態に伴う組織の細粒化を行い、再びAr3変態点温度以上のγ域に加熱することで全組織をより微細にすることにより鋼板の深絞り性を改善する方法が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
また、優れた加工性を示す面内異方性の小さい高r値冷延鋼板を製造する方法として、所定の成分の熱鋼片をAr3変態点温度を下回る温度域に冷却し、その温度域に1〜60分間保持する析出処理を行って、Ar3変態点温度〜(Ar3変態点温度+200℃)の温度域まで昇温しαからγへの逆変態を生じさせた後に冷却し、合計圧下率が50〜97%の冷間圧延を行い、次いで550〜900℃の温度で再結晶処理を行う方法が提案されている(例えば、特許文献3参照)。
さらに、前述した金属組織を微細化する方法においては、熱間圧延工程中で鋼板(粗バー)を加熱昇温させる必要がある。通常、鋼材の加熱装置としてはガス燃焼による加熱装置等が用いられるが、急速な加熱は困難であるので熱間圧延工程での加熱装置には適用できない。また、通電加熱を薄い鋼板の加熱に用いた例もあるが、粗バーの様に厚い鋼板に実際に用いられた例は無い。熱間圧延工程での加熱装置としては、高周波加熱と言われる、一般的には1000Hz以上の周波数を用いるソレノイド型誘導加熱装置が実際使われている。
ところで、粗圧延機で粗圧延し、冷却した粗バーをソレノイド型誘導加熱装置で加熱昇温すると、ソレノイド型誘導加熱装置は粗バーの表層の温度を昇温させるという特性があるので、粗バーの中心部を所定の温度に昇温しようとすると表面の温度は所定の温度以上に上昇して、板厚方向に温度差が生じる。
このため、熱間圧延工程でフェライト組織をオーステナイト組織に逆変態させても、鋼板の板厚方向で均一に金属組織を微細化することができないという問題が生じると考えられる。
また、従来の特許文献においても、「Ar3以上に加熱し」もしくは「Ac3以上に加熱し」という記載はあるが、その温度が結晶の微細化に影響するとの思想は述べられていない。
一方、IF鋼を冷間圧延した鋼材においても組織の微細化は強度や加工性を向上させるのに重要な課題である。
ところで、一般的に熱延再結晶板の結晶粒の不均一分布は、冷延、再結晶後にも伝承されると言われているので、IF鋼を冷延、焼鈍した鋼板においてもその結晶粒径の分布は、熱延板と同様の様相を呈することが予想させる。殊に、表面に粗大粒があると、プレス割れ時の肌あれ等の原因になる。
また、表面の粗大粒は亜鉛メッキ後の合金化の挙動にむらの原因となることも報告されている。表面の粗大粒は表面の結晶粒が微細に均一化していれば生じにくい。機械特性の向上と合わせて、この問題を解決するには、厚み方向の組織の微細均一化が必要になる。
特開平2−301540号公報 特開平9−165626号公報 特開平6−184645号公報
本発明は粗圧延した粗バーの全厚み方向の温度がα相が生成する温度以下になるように冷却した後に、粗バーをAc変態点温度以上に加熱昇温させて逆変態を生じさせる際に、粗バーの板厚方向及び幅方向の温度を均一化させ、それにより、粗バー全体の結晶粒径を均一化に微細化させ、加工性に優れた熱延鋼板を製造する方法を提供することを解決課題とするものである。
本発明者は、金属組織を微細化した熱延鋼板を製造しても、熱延鋼板の加工性等の機械的性質の均一性に問題があること知見し、その原因について鋭意究明した。
その結果、機械的性質の均一性が得られない原因は、板厚方向の組織が微細均一化されてないことに起因することを見出した。
更に、板厚方向の組織を微細均一化する為には、仕上げ圧延前のオーステナイト粒径を板厚方向に微細均一化することが重要であり、これは、粗圧延した粗バーの全厚み方向の温度がAr3変態点温度以下でα相がおよそ50%程度以上になるように冷却した後に、粗バーをAc3変態点温度以上に加熱昇温してα相からγ相に逆変態を生じさせることで得られるが、冷却後の粗バーを加熱昇温させた後に、特に、粗バーの板厚方向に温度差が生じていると、仕上げ圧延前の結晶粒径が板厚方向に均一で無くなることを見出した。
そこで、本発明者は、トランスバース型誘導加熱装置を用いて粗バーを加熱昇温させれば粗バーの板厚方向の温度差をなくすことができ、仕上圧延後の熱延鋼板の機械的性質が均一化することを知見し、本発明を完成した。
本発明の要旨は、以下の通りである。
(1) 鋼片を粗圧延機により粗圧延して粗バーにし、該粗バーを仕上圧延機により仕上圧延するに際し、粗圧延後の粗バーの全厚み方向の温度がAr3変態点温度未満になるように冷却した後に、トランスバース型誘導加熱装置で、該粗バーの全厚み方向の温度をAc3変態点温度以上の温度に加熱昇温して仕上圧延することを特徴とする加工性に優れた熱間圧延鋼板の製造方法。
(2) トランスバース型誘導加熱装置による加熱昇温後の粗バーの表面と板厚中心の温度差を10℃以下にすることを特徴とする上記(1)に記載の加工性に優れた熱延鋼板の製造方法。
(3) 粗圧延後の粗バーの全厚み方向の温度(T)を、鋼成分中の炭素濃度によって定まる下記(1)式を満足する温度以下にすることを特徴とする上記(1)又は(2)のいずれかに記載の加工性に優れた熱間圧延鋼板の製造方法。
温度(T)≦−1021.71×炭素濃度+912 ・ ・ ・(1)
(4) IF鋼成分の鋼片を粗圧延し、粗圧延後の粗バーの全厚み方向の温度をAr3−50℃以上及びAr3未満の温度に調整することを特徴とする上記(1)又は(2)のいずれかに記載の加工性に優れた熱間圧延鋼板の製造方法。
(5) 粗圧延が二相域での圧延であることを特徴とする上記(1)又は(2)のいずれかに記載の加工性に優れた熱間圧延鋼板の製造方法。
(6) 粗圧延終了時に粗バーの全厚み方向の温度(T)を、鋼成分中の炭素濃度によって定まる下記(1)式を満足する温度以下にすることを特徴とする上記(1)又は(2)のいずれかに記載の加工性に優れた熱間圧延鋼板の製造方法。
温度(T)≦−1021.71×炭素濃度+912 ・ ・ ・(1)
(7) IF鋼成分の鋼片を粗圧延し、粗圧延終了時に全厚み方向の温度をAr3−50℃以上及びAr3未満の温度に調整することを特徴とする上記(1)又は(2)のいずれかに記載の加工性に優れた熱間圧延鋼板の製造方法。
(8) Ac3変態点温度以上の温度に加熱昇温する際に、昇温速度を5〜50℃/sとすることを特徴とする上記(1)〜(7)のいずれかに記載の加工性に優れた熱間圧延鋼板の製造方法。
(9) トランスバース型誘導加熱装置による加熱昇温後の粗バー幅方向の温度偏差を20℃以内にすることを特徴とする上記(1)〜(8)のいずれかに記載の加工性に優れた熱間圧延鋼板の製造方法。
(10) トランスバース型誘導加熱装置による加熱昇温後、60秒以内に仕上圧延を開始することを特徴とする上記(1)〜(9)のいずれかに記載の加工性に優れた熱間圧延鋼板の製造方法。
(11) IF鋼成分の鋼片の場合には、30秒以内に仕上圧延を開始することを特徴とする上記(10)記載の加工性に優れた熱間圧延鋼板の製造方法。
本発明によれば、板厚方向及び幅方向の結晶粒を均一で微細にすることができ、その結果、鋼板全体の結晶粒を均一微細化できるので、鋼板全体の機械的特性が均一化され、優れた加工性を備えた熱間圧延鋼板を得ることができる。
以下、本発明について詳細に説明する。
上述したように、自動車用部材等に用いる加工性に優れた熱延鋼板は、コイル内で加工性等の機械的性質に変動が少なく均一化していることが望ましい。加工性等の機械的性質を向上させるためには、熱間仕上圧延前にα相からγ相への逆変態を利用してγ粒を微細化して、仕上圧延工程で微細なγ粒からの変態を安定して促進させ、板厚方向及び幅方向に均一で微細な結晶粒を持つ熱延鋼板とする必要がある。
ところで、これまで従来の(逆変態無しで)製造されている熱延鋼板はJIS G 0551記載の結晶粒度で8程度と仕上げ圧延後のオーステナイト結晶粒が微細化していないためにその特性が限られたものであった。
そこで、本発明では、組織を微細化するひとつの方法である、逆変態熱処理を試みたが、粗圧延された粗バーをα相が生成するAr3変態点温度以下に冷却後、Ac3以上に加熱する際に、粗バーの板厚方向及び幅方向の温度差が均一化していないことが微細な結晶粒の均一化を阻害していることを見出した。
図1は、二種類の鋼種について種々の加熱温度における加熱開始から圧延開始までの保持時間とオーステナイト結晶粒径との関係を示す一例を示した図である。
図1に示すように、圧延開始までの時間が長くなるに応じ、かつ鋼板の温度(℃)が高くなるに応じてオーステナイト結晶粒径(mm)が大きくなることが分る。
即ち、結晶粒径(R)と初期の結晶粒径(R0)との関係は、下記(2)式の2乗式に従うものとされている。
2=(kt)-0.5+R0 2 ・ ・ ・(2)
ここで、kは結晶粒成長の速度定数(mm2/s)、tは加熱開始から圧延開始までの時間(s)を意味する。
この計算では、例えば、初期の粒径が0.01mmの時で、加熱開始から圧延開始までの時間が50秒(約30mpmのラインスピードに相当する)では、粗バー温度が950℃の場合には結晶粒径は0.03mmに、そして、粗バー温度が1050℃の場合には結晶粒径は0.06mmになることが推定される。
また、加熱開始から圧延開始までの時間が100秒(約15mpmのラインスピードに相当する)では、粗バー温度が950℃の場合には結晶粒径は0.05mmに、粗バー温度が1050どの場合には、結晶粒径は0.1mmになる。
つまり、例えば、粗バーの表面と内部に時間で平均した温度差が約100℃あると、仕上圧延前の表面と内部の結晶粒径の差は約2倍になることとなる。
したがって、粗バーの板厚方向に温度差があれば、板厚方向の結晶粒径に差が生じ、板厚方向の結晶粒が均一化されない。
そこで、本発明では、板厚方向の結晶粒径の均一微細化を達成するために、粗バー冷却後、Ac3変態点温度以上に加熱してγ粒を生成させる際に、粗バーの板厚方向の温度差がないように加熱昇温するようにした。
本発明者は、加熱手段として熱間圧延に生産阻害を起こすことなく短時間で粗バーを加熱昇温できる誘導加熱装置に着目した。
誘導加熱装置には、熱延工程で鋼板の端部や鋼板の先端部、後端部の過冷却部を加熱するために使用されているソレノイド型誘導加熱装置と、鋼板の端部の温度低下部を加熱するために使用されているトランスバース型誘導加熱装置がある。
ソレノイド型は、高周波で鋼板表面の温度を上昇させる特性があるのに対して、トランスバース型は、鋼板を磁束が貫通し鋼板に反発磁束による渦電流が発生して鋼板を誘導加熱するものであるから板厚方向に均一に温度を上昇させる特性がある。
両者の板厚方向の発熱密度比分布を図2に示す。
図2に示すように、ソレノイド型誘導加熱では鋼板表面と中心部とで発熱密度比分布の値に大きな差がある。しかし、トランスバース型誘導加熱ではその差は殆ど生じない。
このため、板厚方向の温度差を生じさせないように昇温するには、トランスバース型誘導加熱装置を用いればよいことが分った。
また、U字鉄心タイプのトランスバース型誘導加熱装置が磁束を粗バーの板厚方向に均一に貫通しやすいことがわかった。更に、鉄心幅は300〜600mm程度、周波数は150〜300Hz程度が磁束の均一化にたいして適正であることもわかった。鉄心幅は600mm以上では幅方向の温度変更が難しくなる。300mm以下であると、幅方向のストロークが大きくなり非効率である。一方、周波数は低い方が効率上のメリットが有るが150Hz以下だと鉄心内に磁気飽和の危険性が生じる。300Hz以上であると効率の悪化が懸念される。
図3はソレノイド型及びトランスバース型誘導加熱装置で加熱した場合のそれぞれの板表面及び板中心の昇温値を示す図である。
図3に示すように、例えば、計算では目標平均昇温量20℃とした場合に、ソレノイド型誘導加熱では、板表面と板厚中心とでは最大55℃の温度差が生じるが、トランスバース型誘導加熱では最大5℃以下であり、両者の板厚方向の昇温量が大きく異なる。実施例にある昇温量は更に大きいので板表面と板厚中心との温度差は更に大きくなることが予想される。
即ち、トランスバース型誘導加熱では、板厚方向の昇温量の差が殆どない。
したがって、本発明では粗圧延した粗バーの全厚み方向の温度がα相が生成するAr3変態点温度以下になるように冷却した後に、粗バーの全厚み方向の温度をAc3変態点温度以上に加熱昇温させて逆変態を生じさせる際に、トランスバース型誘導加熱装置によって加熱昇温させ、粗バーの板厚方向に温度差が生じないようにした。つまり、板厚方向の温度差が10℃以下、好ましくは5℃以下であれば、板厚方向の結晶粒は均一に微細化されるからである。
ところが、トランスバース型誘導加熱装置は、図4に示すようにU型鉄心幅部分に対応する粗バー部分が昇温されるため、粗バーの板幅と一致する広幅鉄心の誘導加熱装置を用いれば、板幅方向の温度差なしに昇温可能であるが、粗バーの板幅は製品によって異なるので、種々の粗バー板幅と一致する広幅鉄心の誘導加熱装置を準備することが必要となり、コストアップとなって生産性を阻害する。
そこで、本発明では、図5に示すように複数台(図では3台を示している)のU字鉄心1とコイル2を備えたトランスバース型誘導加熱装置3を搬送ローラ4上を搬送される粗バー5の搬送方向に直列状に配置し、かつ、その配置は板幅方向の昇温量が均一化するように板幅方向全体を覆うように各々の位置をずらして配置した。各々のトランスバース型誘導加熱装置は矢印に示すように板幅方向に移動可能となっているので、粗バー板幅に応じて板幅方向に移動させて板幅全体を覆うように偏心して配置することができる。このように配置して昇温した結果、3台の誘導加熱装置の各々の昇温量の合計により板幅方向の温度偏差を20℃以内にすることができた。板幅方向の温度偏差が20℃を超えると板幅方向の結晶粒の大きさが不均一となり好ましくない。
図6は、図5に示す3台のトランスバース型誘導加熱装置No.1〜No.3の各々の昇温パターン及び合計昇温パターンを例示する図である。
図6に示すように、板幅中央に配置したNo.1の昇温パターンは板中央部を昇温させることができ、そして板幅方向の左右に偏心して配置したNo.2及びNo.3によって板幅の左右の部分を昇温させることができる。その結果、No.1〜No.3の3台の昇温合計の温度分布は略逆M字状の昇温パターンとなる。
したがって、粗バーの板幅方向についての加熱前の初期温度分布は、板幅中央部の温度と両端部の温度とが低くなっている略M字状の温度分布パターンとなっていたので、粗バーをNo.1〜No.3の誘導加熱装置で加熱すると、それらの昇温合計の略逆M字状の昇温パターンが得られ、結果として板幅方向温度分布が均一化される。
図7は、本発明の熱間圧延鋼板を製造する際の各工程と温度との関係を示す模式図である。
本発明では、図7に示すように、加熱炉でAr変態点温度以上に加熱した鋳片(鋼片)をAr変態点温度以上の温度域で粗圧延し、γ粒を再結晶させて微細化するとともに、γ粒に加工歪を導入して、冷却過程でのα粒の析出を微細化できるようにした。
また、粗圧延として(γ+α)の二相域での圧延であっても良い。二相域での圧延では、γ粒界に微細なα粒を圧延後短時間で析出させるとともに、加工歪によってα粒と未変態γ粒との境界に新しいα粒を析出させることによって、組織全体に微細なα粒を生成させる。
粗圧延後の冷却では粗バーの全厚み温度をα相が生成するAr3変態点温度以下にすることによってα相を生成させることができる。好ましい冷却温度はα相がおよそ50%となる温度であり、便宜的にC濃度によって下記(1)式で決められる温度T以下まで冷却することとした。
温度T≦−1021.71×(炭素濃度)+912 ・ ・ ・(1)
微細化のためには、上記温度以下まで冷却した後に、Ac3変態点温度以上に再び昇温することが必要である。尚、この温度は冷却速度が遅い時の冷却温度の上限であり、簡易式として提示するものである。可能であればフォーマスターを用いて冷却速度に応じた変態点温度を求めることが望ましい。
粗バーを冷却してα相を生成させた後、Ac3変態点温度以上に加熱昇温し、α相→γ相への逆変態によりγ粒を微細化する。粗バーを加熱昇温するには、トランスバース型誘導加熱装置を用いて板厚方向の温度差を5℃以下、好ましくは3℃以下となるように加熱昇温する。昇温温度の上限はAc3+150℃とすることが好ましい。この温度を超えると仕上げ圧延時に表面疵が発生する恐れがあるためである。また、γ粒の成長の観点からはAc3以上の温度であればなるべく低い温度にしたほうが良い。
また、トランスバース型誘導加熱によりAc3変態点温度以上に加熱昇温する際の加熱速度は5℃/s〜50℃/sとすることが好ましい。この加熱速度とすることによって、α相から多数のγ核を生じさせ、逆変態後のγ粒成長を抑制できるので、微細γ粒とすることができるからである。
γ相温度域に加熱昇温して逆変態を生じさせた粗バーを仕上圧延する。加熱後から仕上げ圧延開始までの時間は60秒以内とした。むろん、ただちに圧延を開始できれば好ましいが、60秒以内であれば仕上げ圧延後のオーステナイト粒を微細化出来たと言えることから上限を決めた。
仕上圧延によって、逆変態によって生じたγ粒に加工歪が蓄積され、仕上圧延の冷却工程で、微細な組織が得られる。
本発明で加熱温度の幅を100℃とした場合には、好適に製造することができる鋼板はCを0.08%以下を含有する加工性に優れた鋼板である。つまり、Fe−C状態図から明らかなように、α相を生成する温度はCが増加するに応じて低下する。
このため、C:0.08%を超える成分の鋼板のα相が50%以上となる温度以下に粗圧延後の粗バーを冷却して逆変態を生じさせた後に、仕上圧延温度であるAc3変態点温度以上に昇温させるためには、約100℃以上を通板速度に応じて短時間で昇温させなければならない。そして、30mpmの通板速度を確保するには、誘導加熱装置の昇温能力にもよるが、C:0.08%以下を含有する鋼成分とすることが適正である。
むろん、100℃以上の加熱温度を設定して、C:0.08%以上の鋼に本技術を適用することは可能である。この場合には通板速度を遅くして充分な昇温を与えるか、誘導加熱装置の能力を上げれば良い。
C:0.08%以下を含有する加工性に優れた鋼材としては、例えば、C:0.02〜0.08%以下、Si:2.5%以下、Mn:2.5%以下、P:0.010%以下、S:0.010%以下、Al:0.1%以下を含有し、必要に応じてNi,Cr,Mo,Cuの内1種又は2種を合計量で0.5〜4%含む。尚、Cは0.02〜0.16%の範囲でも良いが0.08%以上の時は通板速度を下げて昇温量を増やす必要が有る。
または、IF鋼の場合にはC≦0.008%、Si≦0.03%,Mn≦2%,Ti≦0.1%の成分を含有する。
さらに、IF鋼板を製造する場合には、粗圧延後の表面温度をAr3変態点温度以上とし、後の粗バーの全厚み温度をAr3変態点温度未満望ましくはAr3−50以上に調整することが好ましい。つまり、粗バーの冷却後の温度はα相が少なくとも50%生成するなるべく高温の領域とすると通板速度も確保出来、現実的な操業の面からすると有利であるので、粗バーの全厚み温度をAr変態点温度未満望ましくはAr3−50以上とした。
また、粗圧延中の表面温度をAr3以下にして、(α+γ)域での圧延を行いα再結晶を促進させても良いも良い。
さらに、IF鋼の場合、粗圧延後に冷却してα→γの逆変態を生じさせた後、トランスバース型誘導加熱装置でAc3以上の仕上圧延温度に加熱昇温させて、30秒の間に仕上圧延することが好ましい。即ち、仕上げ圧延は昇温加熱終了後出来るだけ早く行うことが望ましいが、30秒を超えると生成後のγ粒に異常成長が生じ、微細な結晶粒が得られない。したがって、IF鋼の場合には30秒以下とした。
以下に本発明の実施例および比較例を説明する。
表1に示す成分の鋼を溶製して得た鋼片を1250℃に加熱し、粗圧延して、板厚35mmの鋼帯とした後に、表2に示すように、粗圧延後の温度1000℃から830℃の温度に降下させた後に、トランスバース型誘導加熱装置を用いて900℃(表面温度)に昇温した。昇温速度は20℃/sで行った。板幅方向の温度差は20℃以下の範囲で、12℃が最大であった。昇温して55秒後に仕上圧延を行い、仕上げ圧延では板厚2.3mmまで圧延した後に450℃で巻き取った。
得られた熱延鋼板断面の旧γ粒度を光学顕微鏡で測定したところ、板幅方向を3分割した位置での旧γ粒度は何れも表層と内部とも10で有った。仕上圧延前と仕上圧延後のオーステナイト結晶粒度を表3に示す。なお、仕上圧延前のγ粒径はラボ実験とシミュレーション計算で推定したものである。
得られた熱延鋼板のTSは1030MPaであり、長手方向に複数箇所測定した値では幅方向の偏差も50MPa以下で良好であった。
熱延鋼板のミクロ組織は、組織内にマルテンサイトは観察されず、パーライトと残留オーステナイトも10μm以下に微細化していた。
鋼板の加工性の指標となる穴広げ率(日本鉄鋼連盟規格JFS T1001−1996記載の穴広げ試験方法)を調べたところ70〜75%の範囲内となっていて良好な加工性となっていた。
Figure 2005133177
Figure 2005133177
加熱後の鋼板の中心温度(シミュレーション計算)は955℃である。
Figure 2005133177
仕上げ圧延前のγ粒径はラボ実験とシミュレーション計算で推定したものである。
(比較例1)
実施例1の比較例であって、実施例1と同様に、表1に示す成分の鋼を溶製して得た鋼片を1250℃に加熱し、粗圧延して、板厚35mmの鋼帯とした後に、仕上圧延を行い、仕上げ圧延では板厚2.3mmまで圧延した後に450℃で巻き取った。なお、仕上圧延前における鋼板の幅方向の温度差は、約38℃となっていた。
得られた熱延鋼板断面の旧γ粒度を光学顕微鏡で測定したところ、表層が9で、内部が9.5で有った。仕上圧延前と仕上圧延後のオーステナイト結晶粒度を表4に示す。なお、仕上圧延前のγ粒径はラボ実験とシミュレーション計算で推定したところ、3〜4であった。
得られた熱延鋼板のTSの平均値は1000MPaであったが、長手方向に複数箇所測定した値では幅方向のバラツキは100MPa以上であった。
熱延鋼板のミクロ組織は、組織内にマルテンサイトが観察され、パーライトと残留オーステナイトも10μm以上であった。
鋼板の加工性の指標となる穴広げ率(日本鉄鋼連盟規格JFS T1001−1996記載の穴広げ試験方法)20〜40%の範囲内の低い値となっていて良好な加工性が得られなかった。
実施例1と比較すると、誘導加熱によって圧延前の温度制御を行わなかったことにより、機械的性質の良好な熱延鋼板が得られなかったことが分かった。
Figure 2005133177
表5に示す成分の鋼を溶製して得た鋼片を1250℃に加熱した後に、Ar3以下の温度で粗圧延して、板厚35mmの鋼帯とした後に、表6に示すように、加熱前温度840℃に降下させた後に、誘導加熱装置を用いて960℃に昇温した。昇温速度は20℃/sで行った。昇温して55秒後に仕上圧延を行い、板厚2.3mmまで圧延した後に450℃で巻き取った。なお、加熱昇温後の板幅方向の温度差は10℃であった。
得られた熱延鋼板断面の旧γ粒度を光学顕微鏡で測定したところ、板幅方向を3分割した位置での旧γ粒度は何れも表層と内部とも10であったが、実施例1に比べて若干細粒化していた。仕上圧延前と仕上圧延後のオーステナイト結晶粒度を表7に示す。なお、仕上圧延前のγ粒径はラボ実験とシミュレーション計算で推定したものである。
得られた熱延鋼板のTSは1090MPaであり幅方向の偏差も長手方向に複数箇所測定した値では50MPa以内であった。
熱延鋼板断面の旧γ粒度を光学顕微鏡で測定したところ、表層と内部とも10で有ったが、実施例1に比べて若干細粒化していた。
熱延鋼板のミクロ組織は、組織内にマルテンサイトは観察されず、パーライトと残留オーステナイトも10μm以下に微細化していた。
穴広げ率(日本鉄鋼連盟規格JFS T1001−1996記載の穴広げ試験方法)も70〜75%で良好で有った。
Figure 2005133177
Figure 2005133177
鋼板の中心温度(シミュレーション計算)は970℃
Figure 2005133177
表8に示す成分の鋼を溶製して得た鋼片を1250℃に加熱し、粗圧延して、板厚35mmの鋼帯とした後に、表9に示すように、粗圧延後の温度1000℃から900℃の温度に降下させた後に、トランスバース型誘導加熱装置を用いて960℃(表面温度)に昇温した。昇温速度は20℃/sで行った。板幅方向の温度差は20℃以下の範囲で、12℃が最大であった。また、板厚方向の温度差は、8℃以下であった。昇温して30秒後に仕上圧延を行い、仕上げ圧延で板厚2.3mmまで圧延し、冷却速度50℃/sで冷却し、巻き取り温度700℃で巻き取った。
表8に示す成分のIF鋼の場合には、旧γ粒界の検出が難しく、γ粒径の測定は出来ないので変態後のJIS G 0552に記載のα粒径の評価を実施した。その結果、熱延鋼板の表層と内部とも結晶粒度6の鋼板が得られていた。
幅方向の結晶粒度の偏差は3点の平均から求めた偏差の値で0.2で有った。
この鋼板を用いて製造した鋼板の品質は、鋼板の粒径が均質化したことにより熱延板と冷延板のプレス加工時の成形性向上、表層の結晶粒均質化による溶融メッキ板のむら低減による表面均質の効果が見られた。
Figure 2005133177
Figure 2005133177
鋼板の中心温度(シミュレーション計算)は955℃
(比較例2)
実施例3の比較例であって、実施例3と同様に試験を行ったが、この例ではAr3以下の温度で粗圧延した後、そのまま仕上圧延を行って、板厚2.3mmまで圧延した後に700℃で巻き取った。実施例3のように粗圧延後に温度を降下させ、誘導加熱装置で昇温させる温度制御を行わなかった例である。仕上圧延前の幅方向の温度差は32℃あった。
熱延鋼板のα結晶粒度は5程度。表層には結晶粒が大きい部分も見られた。また、幅方向の結晶粒度の偏差は0.5程度有った。
実施例3と比較すると、得られた熱延鋼板の機械的性質が劣っていた。
本方法を用いると現在の熱延鋼板を製造する設備に装置を付加することで、厚み方法と幅方向に均一な組織を有する鋼板を製造することが出来、品質向上が図れる。
種々の加熱温度における加熱開始から圧延開始までの保持時間と結晶粒径との関係を示す図である。 ソレノイド型誘導加熱とトランスバース型誘導加熱とによる板厚方向の発熱密度比分布を示す図である。 ソレノイド型及びトランスバース型誘導加熱装置で加熱した場合のそれぞれの板表面及び板中心の昇温値を示す図である。 トランスバース型誘導加熱装置の昇温特性を示す図である。 複数台のトランスバース型誘導加熱装置を用いて粗バーを加熱する例を示す図である。 図5に示す3台のトランスバース型誘導加熱装置No.1〜No.3の各々の昇温パターン及び合計昇温パターンを例示する図である。 本発明の熱間圧延鋼板を製造する際の各工程と温度との関係を示す模式図である。
符号の説明
1 U型鉄心
2 コイル
3 トランスバース型誘導加熱装置
4 搬送ローラ
5 粗バー

Claims (11)

  1. 鋼片を粗圧延機により粗圧延して粗バーにし、該粗バーを仕上圧延機により仕上圧延するに際し、粗圧延後の粗バーの全厚み方向の温度がAr3変態点温度未満になるように冷却した後に、トランスバース型誘導加熱装置で、該粗バーの全厚み方向の温度をAc3変態点温度以上の温度に加熱昇温して仕上圧延することを特徴とする加工性に優れた熱間圧延鋼板の製造方法。
  2. トランスバース型誘導加熱装置による加熱昇温後の粗バーの表面と板厚中心の温度差を10℃以下にすることを特徴とする請求項1に記載の加工性に優れた熱延鋼板の製造方法。
  3. 粗圧延後の粗バーの全厚み方向の温度(T)を、鋼成分中の炭素濃度によって定まる下記(1)式を満足する温度以下にすることを特徴とする請求項項1又は2のいずれかに記載の加工性に優れた熱間圧延鋼板の製造方法。
    温度(T)≦−1021.71×炭素濃度+912 ・ ・ ・(1)
  4. IF鋼成分の鋼片を粗圧延し、粗圧延後の粗バーの全厚み方向の温度をAr3−50℃以上及びAr3未満の温度に調整することを特徴とする請求項項1又は2のいずれかに記載の加工性に優れた熱間圧延鋼板の製造方法。
  5. 粗圧延が二相域での圧延であることを特徴とする請求項項1又は2のいずれかに記載の加工性に優れた熱間圧延鋼板の製造方法。
  6. 粗圧延終了時に粗バーの全厚み方向の温度(T)を、鋼成分中の炭素濃度によって定まる下記(1)式を満足する温度以下にすることを特徴とする請求項項1又は2のいずれかに記載の加工性に優れた熱間圧延鋼板の製造方法。
    温度(T)≦−1021.71×炭素濃度+912 ・ ・ ・(1)
  7. IF鋼成分の鋼片を粗圧延し、粗圧延終了時に全厚み方向の温度をAr3−50℃以上及びAr3未満の温度に調整することを特徴とする請求項項1又は2のいずれかに記載の加工性に優れた熱間圧延鋼板の製造方法。
  8. Ac3変態点温度以上の温度に加熱昇温する際に、昇温速度を5〜50℃/sとすることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の加工性に優れた熱間圧延鋼板の製造方法。
  9. トランスバース型誘導加熱装置による加熱昇温後の粗バー幅方向の温度偏差を20℃以内にすることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の加工性に優れた熱間圧延鋼板の製造方法。
  10. トランスバース型誘導加熱装置による加熱昇温後、60秒以内に仕上圧延を開始することを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の加工性に優れた熱間圧延鋼板の製造方法。
  11. IF鋼成分の鋼片の場合には、30秒以内に仕上圧延を開始することを特徴とする請求項10記載の加工性に優れた熱間圧延鋼板の製造方法。
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