JP2004263270A - 焼付け硬化性に優れる超高強度冷延鋼板およびその製造方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】質量%で、C:0.12〜0.18%、Si:0.2 〜0.8 %、Mn:2.2 〜3.0 %、P:0.018 %以下、S:0.0030%以下、Al:0.05%以下、N:0.0050%以下およびTi:0.001 〜0.030 %を、次式(1)
−100[C] + 15 ≦ [Mn] ≦−100[C] + 20 −−− (1)
ここで、 [C], [Mn] はそれぞれC,Mnの含有量(質量%)
を満足する範囲において含有し、残部はFeおよび不可避的不純物の組成とし、フェライト相の体積分率が10〜50 vol%、フェライト相の平均結晶粒径が 4.0μm以下、ベイナイト相の体積分率が50〜80 vol%の鋼組織とし、さらにベイナイト相とフェライト相のビッカース硬さの比(Hv(B)/Hv(F))を 4.0以下、かつフェライト相およびベイナイト相それぞれのビッカース硬さの平均値からのばらつき2σを15〜100 とする。
【選択図】 図1
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、主にプレス成形される自動車部品などに用いて好適な引張強さTSが 980 MPa以上という超高強度で、焼付け硬化性に優れ、さらには延性および伸びフランジ性にも優れる超高強度冷延鋼板およびその製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
種々の強化方法により、材料強度は、目標とする強度を達成することは可能であるが、高強度化に伴い加工性は低下するのが実情であった。特に従来の高強度鋼板では、組織的不均一や硬質相と軟質相の局所的な混在などのために、伸びフランジ性を評価する穴拡げ試験時に亀裂の起点となる箇所が多数存在することになり、これが伸びフランジ性の低下を招くと言われている。しかも、このような加工性は、高強度鋼板になればなるほど大きく低下するのが一般的であった。
このため、従来の鋼板製造技術では、高強度化と焼付け硬化性、延性、曲げ性および伸びフランジ性などの加工性との両立は極めて難しかった。
【0003】
上記の各種特性のうち、焼付け硬化性に優れる鋼板の技術としては、例えば特許文献1および特許文献2が知られている。
しかしながら、これらのいずれも、TSレベル自体が低いだけでなく、本発明とは対象分野が異なる熱延鋼板についての開示しかない。
この点、特許文献3には、冷延鋼板について開示されてはいるが、この冷延鋼板は上記した熱延鋼板と同様、TSレベルが低い。
また、これらの技術はいずれも、高いN含有量が技術思想のポイントであり、低いN量においても優れた焼付け硬化性が達成可能であることについて示唆するところはない。さらには、本発明の重要な特徴である、延性と伸びフランジ性との両立についての開示もない。
【0004】
次に、伸びフランジ性の指標の一つである穴拡げ率(λ)に優れる高強度冷延鋼板としては、例えば特許文献4および特許文献5が知られている。
しかしながら、上記の特許文献4には、引張強さTSが 690 MPa以下の低レベルの鋼板の高λ化についてしか開示がなく、延び(El)と両立させるという知見は一切ない。加えて、フェライトを固溶強化する反面、延性を低下させるPを多量に含有しているため、、TS×E1レベルは低い。さらに、肝心のTS×λバランスも十分なレベルとは言い難い。
また、特許文献5にも、高λ化については開示されているが、この特許文献5は、Mn含有量が少ないため、TSレベルが 690 MPa止まりであり、本発明に比べると2グレード以上低いレベルでしかない。従って、TS×E1レベルが低いのは勿論のこと、El−λバランスとの両立について示唆するところはない。
さらに、これらの技術はいずれも、結晶粒径の微細化効果について何ら考慮が払われてなく、また各々の体積分率の影響についても不明である。
【0005】
また、特許文献6には、微細なベイナイト組織を有するTS:980 MPa 級の冷延鋼板が開示されている。
しかしながら、この特許文献6では、降伏比、TSおよび弾性限について言及されているだけで、しかも本発明とは技術対象が異なるロール成形すなわち軽加工用途の薄鋼板についてしか開示がない。従って、特許文献6には、複雑なプレス部品形状を得るために極めて重要なElやλに関する記述は一切なく、プレス加工性についてなんら示唆するところもない。なお、TSが 980 MPa級レベルの実施例成分は低炭素鋼であり、またその製造方法は急冷のみ、等温保持処理なしであるため、鋼組織は連続冷却中に生成するベイナイト相であるが、このベイナイト相は一般に高転位密度であるため延性が悪いことが予想される。さらに、特許文献6では、結晶粒の均一微細化効果は、YSと弾性限との開きが小さくなると言及されているに止まっている。
【0006】
【特許文献1】
特開2000−297350号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】
特開2002−47536 号公報(特許請求の範囲)
【特許文献3】
特開2002−53935 号公報(特許請求の範囲)
【特許文献4】
特開平9−263838号公報(表4,表5)
【特許文献5】
特開平10−60593 号公報(表3,表6,表7)
【特許文献6】
特開2000−273576号公報(特許請求の範囲)
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
上述したとおり、強度と加工性は相反する傾向を示すのが一般的であり、現状では、良好な加工性と引張強さ:980 MPa 以上を兼備した超高強度冷延鋼板は知られていない。
本発明は、このような従来技術の問題を有利に解決するもので、超高強度で、焼付け硬化性に優れ、さらには延性および伸びフランジ性にも優れる超高強度冷延鋼板を、その有利な製造方法と共に提案することを目的とする。
ここに、本発明における板厚:0.8 〜2.5 mm程度の冷延鋼板についての強度および加工性の目標値は次のとおりである。
・引張強さ(TS)≧ 980 MPa
・焼付け硬化量
BHT(引張り強さTSの上昇量)≧ 70 MPa
BHY(降伏強さYSの上昇量)≧ 120 MPa
・強度−伸びバランス(TS×El)≧ 17000 MPa・%
・強度−伸びフランジ性バランス(TS×λ)≧ 65000 MPa・%
【0008】
【課題を解決するための手段】
さて、発明者らは、上記の目的を達成すべく、鋼成分、製造条件および金属組織などの面から鋭意実験を行い、かつ検討を重ねた。
その結果、成分組成を適正範囲に制御した上で、製造工程における加熱条件および冷却条件を適切に制御することによって、結晶粒径が制御された一定量のフェライト相と一定量のベイナイト相から構成される組織とし、かつフェライト相とベイナイト相の硬さおよびその分布を制御することによって初めて、優れた延性を有すると同時に局所的な変形能の差を解消してマクロ的に均一変形をさせることが可能となり、かくして非常に高い強度レベルの下で、従来にない優れた焼付け硬化性が得られ、また高い伸びおよび穴拡げ率、従って高い強度−伸びバランスおよび強度−伸びフランジ性バランスが得られ、ひいては優れたプレス成形性が得られることの知見を得た。
本発明は、上記の知見に立脚するものである。
【0009】
すなわち、本発明の要旨構成は次のとおりである。
1.質量%で
C:0.12〜0.18%、
Si:0.2 〜0.8 %、
Mn:2.2 〜3.0 %、
P:0.018 %以下、
S:0.0030%以下、
Al:0.05%以下、
N:0.0050%以下および
Ti:0.001 〜0.030 %
を、下記式(1) を満足する範囲において含有し、残部はFeおよび不可避的不純物の組成になり、フェライト相の体積分率が10〜50 vol%、フェライト相の平均結晶粒径が 4.0μm 以下、ベイナイト相の体積分率が50〜80 vol%の鋼組織を有し、さらにベイナイト相とフェライト相のビッカース硬さの比(Hv(B)/Hv(F))が 4.0以下で、かつフェライト相およびベイナイト相それぞれのビッカース硬さの平均値からのばらつき2σが15〜100 であることを特徴とする焼付け硬化性に優れる超高強度冷延鋼板。
記
−100[C] + 15 ≦ [Mn] ≦−100[C] + 20 −−− (1)
ここで、 [C], [Mn] はそれぞれC,Mnの含有量(質量%)
【0010】
2.上記1において、鋼板が、さらに質量%で
Cu:0.01〜0.50%、
Ni:0.01〜0.50%、
Mo:0.01〜0.50%および
Cr:0.01〜0.50%
のうちから選んだ1種または2種以上を含有する組成になることを特徴とする焼付け硬化性に優れる超高強度冷延鋼板。
【0011】
3.上記1または2において、鋼板が、さらに質量%で
Nb:0.001 〜0.050 %
を含有する組成になることを特徴とする焼付け硬化性に優れる超高強度冷延鋼板。
【0012】
4.上記1〜3のいずれかにおいて、鋼板が、さらに質量%で
V:0.001 〜0.300 %および
Zr:0.001 〜0.300 %
のうちから選んだ少なくとも1種を含有する組成になることを特徴とする焼付け硬化性に優れる超高強度冷延鋼板。
【0013】
5.上記1〜4のいずれかにおいて、鋼板が、さらに質量%で
B:0.0001〜0.0050%
を含有する組成になることを特徴とする焼付け硬化性に優れる超高強度冷延鋼板。
【0014】
6.上記1〜5のいずれかにおいて、鋼板が、さらに質量%で
Ca:0.0001〜0.0050%および
REM:0.0001〜0.0050%
のうちから選んだ少なくとも1種を含有する組成になることを特徴とする焼付け硬化性に優れる超高強度冷延鋼板。
【0015】
7.上記1〜6のいずれかに記載の成分組成になる鋼スラブを、鋳造後、直ちにまたは一旦冷却後、1100〜1300℃に加熱したのち、仕上げ圧延終了温度:850 〜950 ℃にて熱間圧延し、圧延終了後、 450〜650 ℃で巻き取ったのち、冷間圧延し、ついで連続焼鈍を施すに際し、(焼鈍温度−10℃)までの昇温速度:70〜300 ℃/分、(焼鈍温度−10℃)から焼鈍温度までの昇温速度:5〜20℃/分の昇温速度条件下で、下記式(2) を満足する焼鈍温度に加熱し、焼鈍温度に到達後、等温保持することなく直ちに冷却を開始し、その冷却過程において、冷却速度:10〜100 ℃/秒で焼鈍温度から(Ms点−100 ℃)〜(Ms点+50℃)の温度域まで冷却し、冷却終了後、鋼板温度を上昇させることなく(Ms点−100 ℃)〜(Ms点+50℃)の温度域に60〜240 秒間保温することを特徴とする焼付け硬化性に優れる超高強度冷延鋼板の製造方法。
記
T1 ± 50 ℃(但し、T1 = 950− 150 [C]1/2+50[Si]−30[Mn]) −−−(2)
ここで、 [C], [Si], [Mn] はそれぞれC, Si,Mnの含有量(質量%)
【0016】
【発明の実施の形態】
本発明で目的とする優れた焼付け硬化性、伸びおよび伸びフランジ性(穴拡げ率を評価指標とするので、穴拡げ性ともいう)を得るためには、焼鈍中の2相分離の適度な抑制およびオーステナイト中へのC濃化の抑制を図ると共に、局所的に高転位密度であるのではなく、鋼板全体が高転位密度であること、ひずみ付与時のひずみの導入が不均一ではなく均一であること、固溶元素が均一に存在していることが重要である。また、フェライト相とベイナイト相の硬度差については、最高、最低硬さに差があっても2極化していなければ構わず、鋼板中で平準化していれば良い。
そして、成分範囲および製造条件は基本的に上記の考え方に基づいて決定される。
【0017】
以下、本発明において、鋼の成分組成を前記の範囲に限定した理由について説明する。なお、成分に関する「%」表示は特に断らない限り質量%を意味するものとする。
C:0.12〜0.18%
Cは、低温変態相を利用して鋼を強化するための必須元素であって、980 MPa以上の引張強さを得るには少なくとも0.12%の含有が必要であるが、0.18%を超えて含有すると溶接性が著しく劣化する。また、C含有量が多くなると焼鈍中の2相分離が著しく促進され、オーステナイト中にCが著しく濃化して鋼板中のC濃度ムラが大きくなり、焼付け硬化性にも悪影響を及ぼし、さらにはオーステナイト中のC濃度が高くなりすぎる結果、マルテンサイト変態点(Ms )が低下し、加熱、冷却、保温工程後も硬質な残留オーステナイト相が存在して伸びフランジ性が低下するので、C量は0.12〜0.18%の範囲に限定した。
【0018】
Si:0.2 〜0.8 %
Siは、強度向上に寄与する有用元素であるが、その効果は含有量が0.2 %未満では発揮されない。一方、0.8 %を超えて含有させると、フェライト変態が促進され、低温変態相による強化が不十分となる。またSiは、オーステナイト中へのC濃化を促進する効果が大きい元素であり、2相分離が促進されて鋼板中にC濃度ムラが生成されるだけでなく、ベイナイト相そのものが硬化すると共に、最終的に得られる鋼板中に硬質な残留オーステナイト相が存在し易くなることにより、焼付け硬化性および伸びフランジ性を低下させる。そこで、本発明ではSi量は 0.2〜0.8 %の範囲に限定した。このように、本発明は、低Si含有量で高加工性を発揮させるものである。
【0019】
Mn:2.2 〜3.0 %
Mnは、フェライト変態を抑制し、転位密度の高いベイナイト組織を得るために重要な役割を担っている元素である。また、Ar3変態点を低下させる作用を通じて結晶粒の微細化に寄与し、強度−延性バランスを高める作用を有する。引張強さ確保の観点から安定して低温変態相であるベイナイト相を得るには2.2 %以上のMn量が必要であるが、3.0 %を超えて含有すると軟質なフェライト相の生成が過度に抑制され、またベイナイト相自身も硬質化するため、TS−E1バランスが著しく低下する。よって、Mn量は 2.2〜3.0 %の範囲に限定した。
【0020】
P:0.018 %以下
Pは、固溶強化能が高く、強度向上に有用な元素であるが、フェライト安定化元素であるPを過多に含有させると、焼鈍中の2相分離が促進され焼付け硬化性が低下するだけでなく、組織の不均一化をもたらし、鋳造時の凝固偏析が顕著になり、内部割れや加工性の劣化を招くことになるので、P量は 0.018%以下に制限した。
【0021】
S:0.0030%以下
Sは、鋼中で非金属介在物として存在し、伸びフランジ成形時の応力集中源となるため、その含有量は低いことが望まれる。とはいえ、S量が0.0030%以下の範囲では、高強度であっても、伸びフランジ性にさほどの悪影響を及ぼさないので、0.0030%を許容上限とした。より好ましくは0.0010%以下である。
【0022】
Al:0.05%以下
Alは、脱酸および炭化物形成元素の歩留りを向上させるために有効な元素であり、0.01%以上含有させることが好ましいが、0.05%を超えて含有させても効果が飽和するのみならず、加工性や表面性状の劣化を招くので、Al量は0.05%以下に限定した。
【0023】
N:0.0050%以下
Nは、AlN、固溶Nとして鋼中に存在し、多量に含有されるとフェライトの延性を低下させるため、その含有量は0.0050%以下に制限した。より好ましくは0.0030%以下である。
【0024】
Ti:0.001 〜0.030 %
Tiは、スラブ加熱段階でTiCとして存在して、昇温加熱中のオーステナイト粒成長を抑制するだけでなく、それ以降の熱間圧延工程での動的再結晶を誘起し、組織の微細均一化をもたらし、伸び、穴拡げ性を向上させるのに有効な元素であり、このためには少なくとも 0.001%の含有を必要とする。また、このTiを後述するNbと併用して含有させると、フェライト相が生成する臨界冷却速度が遅くなり、焼入れ性が向上するという効果がもたらされる。一方、0.030 %を超えるTiを含有させると、硬質な炭化物などを形成し、伸びフランジ性を低下させるため、Ti量は 0.001〜0.030 %の範囲に限定した。より好ましくは 0.005〜0.015 %の範囲である。
【0025】
さらに、本発明では、C量とMn量について次式(1) の範囲を満足させることが重要である。
−100[C] + 15 ≦ [Mn] ≦−100[C] + 20 −−− (1)
ここで、 [C], [Mn] はそれぞれC,Mnの含有量(質量%)
というのは、CやMnは、強度に及ぼす影響が極めて大きいため、両者をバランス良く含有させることが必要だからである。ここに、Mn量が−100[C] + 15 より少ないと十分な強度の確保が難しく、またフェライト生成により伸び(El)は大きくなるものの、穴拡げ率(λ)が低下する。一方、−100[C] + 20 を超えて含有すると、フェライト生成が抑制され、伸び(El)が低下し、強度レベルが高くなりすぎる。
【0026】
以上、基本成分について説明したが、本発明では、その他にも以下に述べる元素を適宜含有させることができる。
Cu:0.01〜0.50%、Ni:0.01〜0.50%、Mo:0.01〜0.50%およびCr:0.01〜0.50%のうちから選んだ1種または2種以上
Cu,Ni,MoおよびCrはいずれも、伸びを大きく低下させることなしに強度を向上させるのに有効な元素であるが、0.01%未満ではその効果に乏しく、一方0.50%を超えて多量に含有させてもさらなる効果はなく、むしろ経済的に不利となるので、これらは単独添加または複合添加いずれの場合も0.01〜0.50%の範囲で含有させるものとした。より好ましくは0.01〜0.25%の範囲である。
【0027】
Nb:0.001 〜0.050 %
Nbは、NbCなどの析出物の存在形態や再結晶温度に影響を及ぼす元素である。特に本発明では、Nbは、組織の微細均一化に有効に作用する他、フェライト−パーライトの生成を抑制し、低温変態相であるベイナイト主体の組織とすることにより、高強度にもかかわらず高い伸び、穴拡げ率をもたらすという効果を有している。このような効果は、Nbを 0.001%以上含有させることで発現するが、0.050 %を超えて含有させると鋼中に硬質な析出物が多量に形成され、伸びフランジ性を低下させるので、Nb量は 0.001〜0.050 %の範囲に限定した。より好ましくは 0.005〜0.020 %の範囲である。
【0028】
V:0.001 〜0.300 %および/またはZr:0.001 〜0.300 %
VおよびZrはそれぞれ、炭化物の形成による結晶粒径の粗大化抑制効果を通じて鋼板の強度を上昇させるのに有効な元素である。よって、V,Zrはそれぞれ、0.001 〜0.300 %の範囲で含有させるものとした。なお、これらは単独でも複合して含有させても同様の挙動を示す。
【0029】
B:0.0001〜0.0050%
Bも、強度上昇に有効な元素である。Bを含有させることにより、フェライトが生成する臨界冷却速度が遅くなるので、冷延後の焼鈍工程における連続冷却中に軟質なフェライト相の生成を抑制して低温変態相を形成させることが容易となる。このような効果を得るためには、0.0001%以上含有させることが必要であるが、0.0050%を超えて含有させてもさらなる効果は得られないので、B量は0.0001〜0.0050%の範囲に限定した。
【0030】
Ca:0.0001〜0.0050%および/または REM:0.0001〜0.0050%
CaおよびREM はいずれも、硫化物などの析出物、例えばMnSなどを球状化して鋭角的な析出物を減少させ、応力集中を減少させることによって伸びフランジ性の低下を抑制する効果を有している。しかしながら、含有量がそれぞれ0.0001%未満では効果が小さく、一方0.0050%を超えて含有させても、その効果は飽和し、むしろコストの上昇を招く。そこで、Ca, REM はそれぞれ0.0001〜0.0050%の範囲で含有させるものとした。
【0031】
次に、鋼組織を前記の範囲に限定した理由について説明する。
フェライト相の体積分率:10〜50 vol%
フェライト相の体積分率が10 vol%より少ないと、軟質相の絶対量が少なすぎて延性の低下を招き、一方50 vol%を超えて存在すると、軟質相が多くなりすぎて引張強さTSの確保が困難となる。さらに、鋼板中の硬度分布が2極化し、焼付け硬化性および伸びフランジ性が低下する。従って、フェライト相は体積分率で10〜50 vol%存在させるものとした。より好ましくは15〜35 vol%の範囲である。
【0032】
フェライト相の平均結晶粒径:4.0 μm 以下
フェライト相の平均結晶粒径を 4.0μm 以下に細かくすることにより、硬質な低温変態相であるベイナイト相の体積分率が少なくても高強度化が可能となり、またそれによって軟質相を多く含むようになる結果、延性が向上する。さらに、結晶粒の微細化により鋼板組織の均一化が進むため、伸びフランジ性の改善も達成される。従って、フェライト相の平均結晶粒径は 4.0μm 以下とした。
【0033】
ベイナイト相の体積分率:50〜80 vol%
ベイナイト相の体積分率が80 vol%を超えると高強度化し、またベイナイト相単相組織に近付き均一な組織となるため伸びフランジ性は向上する傾向にあるが、逆に延性は低下する。一方、50 vol%より少ないと引張強さTSの確保が困難となる。またこの場合、TSを確保するには、ベイナイト相自身を強化する必要があり、必然的に硬度分布が2極化するため、伸びフランジ性は低下する。従って、ベイナイト相は体積分率で50〜80 vol%の範囲に限定した。より好ましくは60〜75 vol%の範囲である。
さらに、これらフェライト相とベイナイト相の特性を有利に発揮させるためには、両者の合計を組織全体に対する体積分率で90 vol%以上とすることが好ましい。
【0034】
また、ここでいうベイナイト相とは、オーステナイトから所定の温度に冷却し、その後の保温工程において生成するフェライトと針状に析出した Fe3Cから構成される低温変態相であり、例えばオーステナイトから水冷のような急速冷却を受け、その後の再加熱工程において生成する同じくフェライトと Fe3Cから構成されてはいるが、棒状または楕円状の Fe3Cとフェライトとから構成される焼き戻しマルテンサイト相や高温保持で生成するいわゆる上部ベイナイト、さらには Fe3Cの析出を含まないベイニティックフェライトとは明瞭に区別される。
【0035】
そして、かかるベイナイトは、変態生成するときの温度によってその強度が決定されるため、高い穴拡げ率(λ)を得るためには、連続冷却中に生成するベイナイトではなく、組織的に均一なベイナイトが得られる等温変態で生成させたベイナイトが有利である。従って、組織的に均一なベイナイトを得るためには、等温変態温度の制御が極めて重要である。
【0036】
なお、上記したフェライト相およびベイナイト相以外にも、結晶粒界に沿って析出するセメンタイト、等温保持中にオーステナイトからベイナイトに変態する際に 100%変態せずに若干生成するマルテンサイトおよび残留オーステナイトなどが存在するが、フェライト相およびベイナイト相さえ、上記の範囲を満足していれば問題はなく、それぞれ数%程度存在しても構わない。
【0037】
ベイナイト相とフェライト相のビッカース硬さの比(Hv(B)/Hv(F))≦ 4.0
ベイナイト硬さの平均値であるHv(B)とフェライト硬さの平均値であるHv(F)の比が 4.0より大きいと、鋼板に硬度分布があっても、軟質相中に極度に硬質な部分が局所的に存在することになり、ひずみ導入時に変形能が異なり不均一な変形となるため、成形性が低下する。すなわち、ひずみの導入によりフェライトは変形するが、硬質なベイナイトの変形量は少ないため、両相の界面でボイドが容易に発生し、界面において亀裂の進展が容易に起こるため、穴拡げ率は低下する。従って、(Hv(B)/Hv(F))と 4.0以下とした。
【0038】
フェライト相および第2相それぞれのビッカース硬度の平均値からのばらつき2σ=15〜100
ここで、2σとは、n=20の硬さの度数分布における標準偏差(σ)の2倍を意味する。
この2σが15未満であると、フェライトとベイナイトの硬度分布が2極化、すなわちフェライト相とベイナイト相の界面の強度差が大きくなり、加熱時に旧オーステナイト組織であったところに固溶C、Nが偏在することとなり、低いBHY, BHT特性しか得られない。一方、2σが 100を超えた場合には、BHY, BHT特性が飽和するだけでなく、極度に硬いベイナイト相が存在することになり、加工性全般が悪化する。従って、フェライト相とベイナイト相の硬度比が同じであっても、所望のBHY, BHT特性を得るためには、フェライト相およびベイナイト相ともビッカース硬度の平均値からのばらつき2σは15〜100 とする必要がある。
【0039】
次に、本発明の製造方法において製造条件を前記の範囲に限定した理由について説明する。
なお、本発明では、前記した好適成分組成に調整した鋼スラブを、鋳造後、直ちにまたは一旦冷却後、後述するスラブ加熱温度に再加熱したのち、熱間圧延し、巻き取った後、冷間圧延し、ついで連続焼鈍を施す。
【0040】
再加熱時におけるスラブ加熱温度(SRT):1100〜1300℃
結晶粒の均一微細化のためには、スラブ加熱温度は1300℃以下のできるかぎり低温とすることが好ましい。というのは、スラブ加熱温度が低ければ低いほど加熱時の初期オーステナイト粒径が小さくなるため、最終的な製品粒径の微細化により、高い伸びフランジ性を得るのに有効であり、また細粒化効果により強度上昇を伴うため硬質なベイナイト相分率の低減が可能となり、延性も向上するからである。とはいえ、スラブ加熱温度が1100℃を下回ると、仕上げ圧延温度の確保が困難となるので、スラブ加熱温度は1100〜1300℃の範囲とした。好ましくは1200℃以下である。
【0041】
仕上げ圧延終了温度:850 〜950 ℃
熱間圧延時の仕上げ圧延終了温度が 850℃未満では、圧延時の変形抵抗が大きく、熱間圧延性が低下する。また組織の不均一化が起こり、フェライトとベイナイト相が層状すなわちバンド状の組織となり、冷延焼鈍後も不均一な組織が残存して、焼付け硬化性、伸びフランジ性および延性が共に低下する。一方 950℃より高温ではオーステナイトが粗大化し、均一微細な組織が得られなくなり、伸びフランジ性が低下する。よって、仕上げ圧延終了温度は 850〜950 ℃の範囲とした。
【0042】
巻取り温度:450 〜650 ℃
巻取り温度が 450℃を下回ると、硬質なマルテンサイト相が生成して冷間圧延時の圧延負荷が増大し、また幅方向での鋼板強度がバラツキ、熱延後の冷間圧延性が低下する。一方、650 ℃を上回るとTiCが粗大化し、均一な組織が得られなくなり、冷延焼鈍後の延性が不十分となる。また、フェライトとパーライト主体の層状組織となり、鋼板中にC濃度分布の高低が生じ、冷延、焼鈍後の組織も不均一となり、焼付け硬化性、伸びフランジ性および延性ともに悪影響を与える。よって、巻取り温度は 450〜650 ℃の範囲とする。
なお、巻取り後に行う冷間圧延は、通常どおりの条件で行えばよく、特にこの冷間圧延における圧下率は30〜70%程度とすることが好ましい。
【0043】
(焼鈍温度−10℃)までの昇温速度(昇温速度(1) ):70〜300 ℃/分
加熱時における昇温速度が70℃/分を下回ると、昇温加熱中にフェライトとオーステナイトヘの2相分離が促進され、Cはオーステナイト中に濃化してCの分配が起こり、鋼板中にムラが生じ、焼付け硬化性および穴拡げ率の低下を招く。一方、昇温速度が 300℃/分を超えて速くなると、その効果は飽和する傾向にある。従って、加熱時における(焼鈍温度−10℃)までの昇温速度は70〜300 ℃/分とする。
【0044】
なお、加熱時における昇温速度は、上記したように一定の範囲で急速加熱とすることが重要である一方、TSレベルを調整するためには加熱時の2相分率が重要であり、このため焼鈍温度近傍、特に(焼鈍温度−10℃)以上では、2相分率を制御するための調整が必要となる。そこで、上記した一定の範囲での急速加熱は(焼鈍温度−10℃)までとし、引き続く(焼鈍温度−10℃)から焼鈍温度までの昇温速度は、後述するように、別途制御するものとした。
【0045】
図1に、焼付け硬化性(BHY, BHT)、伸び(El)および穴拡げ率(λ)、ひいては強度−伸びバランス(TS×El)および強度−伸びフランジ性バランス(TS×λ)に及ぼす焼鈍時における昇温速度(1) の影響について調べた結果を示す。
実験条件は次のとおりである。
C:0.140 %,Si:0.45%,Mn:2.45%,P:0.015 %,S:0.0007%, Al:0.040 %, N:0.0028%およびTi:0.015 %(T1 =843 ℃、Ms=414 ℃)を含有し、残部はFeおよび不可避的不純物の組成になるスラブを、スラブ加熱温度:1185℃、仕上げ圧延温度:883 ℃、巻取り温度:610 ℃、冷延圧下率:50%、加熱時における昇温速度(1) : 40〜340 ℃/分、昇温速度(2) : 7℃/分、焼鈍温度:860 ℃、冷却速度:30℃/秒、冷却停止温度:355 ℃、保温温度:350 ℃、保温時間:130 秒の条件で処理した。
【0046】
同図から明らかなように、加熱時における昇温速度(1) を70〜300 ℃/分の範囲に制御した場合には、高い焼付け硬化性(BHY, BHT)が得られ、また延性および穴拡げ率も良好であり、その結果優れた強度−伸びバランス(TS×El)および強度−伸びフランジ性バランス(TS×λ)が得られた。
【0047】
(焼鈍温度−10℃)から焼鈍温度までの昇温速度(昇温速度(2) ):5〜20℃/分
上述したとおり、加熱に際し昇温速度は一定の範囲で急速に上げることが重要ではあるが、TSレベルを調整するためには加熱時の2相分率が重要であり、従って加熱時には目標とする温度に正確に制御する必要がある。ここに、焼鈍温度に到達する直前の昇温速度が20℃/分を超えると、目標温度に制御することが困難となり、一方5℃/分より遅いとC濃化が促進され、焼付け硬化性および伸びフランジ性が劣化する。従って、(焼鈍温度−10℃)から焼鈍温度までの昇温速度は5〜20℃/分とする。
【0048】
焼鈍温度:T1 ±50℃(但し、T1 = 950− 150 [C]1/2+50[Si]−30[Mn])
ここで、T1 は、A3 変態点の目安となる温度である。
さて、焼鈍温度がT1 −50℃より低いと、冷間圧延時の組織の影響を完全に除却することが困難なため、2相バンド状組織すなわち不均一な組織となって、穴拡げ率(λ)が低下する。一方、焼鈍温度がT1 +50℃より高くなると、昇温工程においてオーステナイト粒径が急激に粗大化し、炭化物も粗大化および局在化し、微細均一な組織が得られなくなって、やはりλが低下する。また、フェライト変態が遅延し、延性も低下する。
従って、焼付け硬化性、延性と穴拡げ率をバランスさせるためには、焼鈍温度はT1 ±50℃の範囲に制御する必要がある。
【0049】
図2に、焼付け硬化性(BHY, BHT)、伸び(El)および穴拡げ率(λ)、ひいては強度−伸びバランス(TS×El)および強度−伸びフランジ性バランス(TS×λ)に及ぼす焼鈍温度の影響について調べた結果を示す。
実験条件は次のとおりである。
C:0.150 %, Si:0.50%, Mn:2.81%, P:0.017 %, S:0.0007%, Al:0.035 %, N:0.0025%およびTi:0.015 %(T1 =833 ℃、Ms=397 ℃)を含有し、残部はFeおよび不可避的不純物の組成になるスラブを、スラブ加熱温度:1170℃、仕上げ圧延温度:905 ℃、熱延終了後の巻取り温度:520 ℃、冷延圧下率:50%、加熱時における昇温速度(1) : 150 ℃/分、昇温速度(2) : 7℃/分、焼鈍温度:(T1 −68℃)〜(T1 +65℃)、冷却速度:25℃/秒、冷却停止温度:370 ℃、保温温度:370 ℃、保温時間:180 秒の条件で処理した。
【0050】
同図から明らかなように、焼鈍温度をT1 ±50℃の範囲に制御した場合には、高い焼付け硬化性だけでなく、優れた強度−伸びバランスおよび強度−伸びフランジ性バランスが得られた。
【0051】
冷却処理:焼鈍温度に到達後、等温保持することなく直ちに冷却を開始し、この冷却過程における冷却速度:10〜100 ℃/秒
焼鈍温度に等温保持すると2相組織化が促進され、それに伴いオーステナイト中へのC濃化が進行して焼付け硬化性が低下する。また、冷却速度が10℃/秒より遅いと連続冷却中に過度にフェライトが生成してTSが低下し、またオーステナイト中へのC濃度が進行するため、焼付け硬化性が低下する。一方、100 ℃/秒を超える冷却速度で冷却してもその効果は飽和するため、冷却速度は10〜100℃/秒とする。好ましくは10〜50℃/秒程度である。
なお、加熱から冷却停止温度までの冷却速度は(冷却開始温度−冷却停止時の温度)/冷却時間(℃/秒)で定義される。
【0052】
図3に、焼付け硬化性(BHY, BHT)、伸び(El)および穴拡げ率(λ)、ひいては強度−伸びバランス(TS×El)および強度−伸びフランジ性バランス(TS×λ)に及ぼす冷却速度(冷却速度(1) )の影響について調べた結果を示す。
実験条件は次のとおりである。
C:0.155 %,Si:0.45%, Mn:2.61%, P:0.012 %, S:0.0008%, Al:0.037 %, N:0.0029%およびTi:0.012 %(T1 =835 ℃、Ms=401 ℃)を含有し、残部はFeおよび不可避的不純物の組成になるスラブを、スラブ加熱温度:1180℃、仕上げ圧延温度:900 ℃、巻取り温度:550 ℃、冷延圧下率:50%、加熱時における昇温速度(1) :180 ℃/分、昇温速度(2) :12℃/分、焼鈍温度:840 ℃、冷却速度:5〜130 ℃/秒、冷却停止温度:350 ℃、保温温度:350 ℃、保温時間:150 秒の条件で処理した。
【0053】
同図から明らかなように、冷却速度(1) を10〜100 ℃/秒の範囲に制御した場合には、高い焼付け硬化性は勿論のこと、優れた強度−伸びバランスおよび強度−伸びフランジ性バランスが得られている。
【0054】
冷却停止温度:(Ms点(鋼成分における平衡時のマルテンサイト変態点)−100℃)〜(Ms点+50℃)
(Ms点−100 ℃)より低い温度で冷却を停止すると、ベイナイト相自体が硬質化するだけでなく、オーステナイトの一部が硬質なマルテンサイトに変態し、引張り強さは高くなるものの、延びが低下する。また、フェライトとベイナイト相の硬度分布が2極化し、穴拡げ率が低下する。さらに、予ひずみ過程においても不均一にひずみが導入されるため、焼付け硬化性も劣化する。一方、(Ms点+50℃)を超える温度で冷却を停止すると、パーライトが生成したり、高温で生成したベイナイトが軟質化し、TS≧980 MPa を達成するのが困難となる。従って、冷却停止温度は(Ms点−100 ℃)〜(Ms点+50℃)の温度範囲とする必要がある。
なお、マルテンサイト変態点温度であるMs点は、例えば次式
Ms点= 561−474[C] −33[Mn]
によって算出することができる。
【0055】
図4に、焼付け硬化性(BHY, BHT)、伸び(El)および穴拡げ率(λ)、ひいては強度−伸びバランス(TS×El)および強度−伸びフランジ性バランス(TS×λ)に及ぼす冷却停止温度の影響について調べた結果を示す。
実験条件は次のとおりである。
C:0.171 %,Si:0.35%, Mn:2.78%,P:0.015 %, S:0.0007%, Al:0.045 %, N:0.0025%およびTi:0.011 %(T1 =822 ℃、Ms=388 ℃)を含有し、残部はFeおよび不可避的不純物の組成になるスラブを、スラブ加熱温度:1180℃、仕上げ圧延温度:900 ℃、巻取り温度:450 ℃、冷延圧下率:50%、加熱時における昇温速度(1) :200 ℃/分、昇温速度(2) :10℃/分、焼鈍温度:845 ℃、冷却速度:18℃/秒、冷却停止温度:(Ms−150 ℃)〜(Ms+70℃)、保温温度=冷却停止温度、保温時間:220 秒の条件で処理した。
【0056】
同図から明らかなように、冷却停止温度を(Ms点−100 ℃)〜(Ms点+50℃)の範囲に制御した場合には、高い焼付け硬化性は勿論のこと、優れた強度−伸びバランスおよび強度−伸びフランジ性バランスが得られている。
【0057】
保温温度:(Ms点−100 ℃)〜(Ms点+50℃)
冷却終了後、鋼板温度を上昇させることなく(Ms点−100 ℃)〜(Ms点+50℃)の範囲に保持して、オーステナイトからベイナイトヘの変態を十分に行うことが重要である。ここに、保温温度が(Ms点−100 ℃)を下回ると、保温中にベイナイト変態が十分に進行せず、マルテンサイトが多量に生成し、またベイナイト相自体が硬質化することにより、第2相が硬質化して、高TS化し、延性が低下する。加えて、フェライトと硬質なベイナイトまたはマルテンサイトとの界面でのクラックの発生、進展が容易になり、穴拡げ率が低下する。また、フェライト相とベイナイト相の硬度分布が2極化し、固溶C,Nが偏在し、低いBHY, BHT特性しか得られない。
また、(Ms点−100 ℃)以上で、冷却終了時点での鋼板温度以下であれば十分フェライトとの硬度差の小さい低温変態相であるベイナイトが生成するため、十分な穴拡げ率を達成可能である。さらに、マルテンサイトより硬質ではないベイナイトとフェライトの混合組織となり、延性との両立が可能となる。従って、保温温度は(Ms点−100 ℃)〜(Ms点+50℃)の範囲とする。
なお、本プロセスでは、急速冷却や冷却終了後の鋼板再加熱などの工程は不要であり、従って、高生産性かつ低い燃料原単位で、トータルエネルギーコストの低いレベルでの工業生産が可能となる。
【0058】
保温時間:60〜240 秒
保温温度と同様に、オーステナイトからベイナイトヘの変態を十分に行うために重要であり、60秒に満たないとベイナイト変態が十分に進行せず、その後の冷却過程において硬質なマルテンサイトが生成してフェライトとの硬度差が増大し、フェライトとマルテンサイトの界面でのクラックの発生、進展が容易になり、穴拡げ率が低下する。一方 240秒を超えて保温してもその効果は飽和するので、保温時間は60〜240 秒とした。
保温処理終了後は、放冷または冷却速度:10〜60℃/分程度の冷却で 200℃程度まで冷却することが好ましく、またその後の冷却については、水冷、ミスト冷却、放冷など冷却方法および冷却速度に関する制限はない。
【0059】
【実施例】
表1に示す種々の成分組成になる鋼スラブを、表2に示す条件で処理して、板厚:1.0 〜1.8 mmの冷延鋼板を製造した。
かくして得られた冷延鋼板の鋼組織および各種機械的性質について調べた結果を表3に示す。
【0060】
なお、各特性の評価方法および組織の測定方法は次のとおりである。
・引張特性:圧延方向と直交する方向を長手方向(引張り方向)とするJIS Z 2201の5号試験片を用い、JIS Z 2241に準拠した引張り試験を行って評価した。
・焼付け硬化性:引張りにて2%のひずみを付与した時の最高到達応力と、予ひずみに引き続き 170℃, 20分の熱処理後の降伏点との差を降伏点の上昇量(BHY)とし、また通常の引張試験時の最高到達応力と、引張りにて5%予ひずみを付与し、引き続き 170℃, 20分の熱処理後の再引張りにおける最高到達応力との差をTSの上昇量(BHT) とし、これらBHY, BHTの両者を焼付け硬化性の指標とした。
・穴拡げ率λ:日本鉄鋼連盟規格JFSTl001に基づき実施した。すなわち、初期直径do =10mmの穴を打ち抜いたのち、60°の円錘ポンチを上昇させて穴を拡げた際に、亀裂が板厚を貫通したところでポンチの上昇を止め、亀裂貫通後の打抜き穴径dを測定し、穴拡げ率λ=〔(d−do )/do ) × 100(%)として算出した。
・曲げ特性:圧延方向を長手方向とする40mm幅×200 mm長さのJIS Z 2204に規定する試験片を用い、JIS Z 2248に準拠した押し曲げ法による密着曲げ試験を行って、評価した。
【0061】
・フェライト相の結晶粒径
測定位置は板厚1/4 面近傍の3000倍の SEM像を基に画像解析にてフェライト相の面積およびフェライト相の個数を導出し、求積法にて算出した、n=3単純平均の値である。
・フェライト相体積分率およびベイナイト相体積分率:板厚1/4 面近傍の5000倍の SEM像を基に画像解析にて2階調化して面積率を求め、n=5 で単純平均した値である。この面積率をもって体積分率とした。
・ベイナイト相とフェライト相の平均硬さ:測定位置は板厚1/4 面近傍で、マイクロビッカース硬度計を用い、荷重:3gの試験値のn=20単純平均である。
・フェライト相およびベイナイト相の硬さのばらつき2σ:測定位置は板厚1/4面近傍、マイクロビッカース硬度計を用い、荷重:3gの試験をn=20で実施し、算出した値である。
【0062】
【表1】
【0063】
【表2】
【0064】
【表3】
【0065】
表3に示したとおり、発明例はいずれも、引張強さ(TS)≧ 980 MPa、強度−伸びバランス(TS×El)≧ 17000 MPa・%、強度−伸びフランジ性バランス(TS×λ)≧ 65000 MPa・%という目標値を満足し、機械的性質に優れるだけでなく、BHT ≧70 MPa、 BHY≧120 MPa という優れた焼付け硬化性も併せて得ることができた。
【0066】
【発明の効果】
かくして、本発明によれば、高強度と良好な加工性を兼備し、優れたプレス成形性を有するだけでなく、焼付け硬化性にも優れた冷延鋼板を、安定して得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】焼付け硬化性(BHY, BHT)、強度−伸びバランス(TS×El)および強度−伸びフランジ性バランス(TS×λ)に及ぼす焼鈍時における昇温速度(1)の影響を示した図である。
【図2】焼付け硬化性(BHY, BHT)、強度−伸びバランス(TS×El)および強度−伸びフランジ性バランス(TS×λ)に及ぼす焼鈍温度の影響を示した図である。
【図3】焼付け硬化性(BHY, BHT)、強度−伸びバランス(TS×El)および強度−伸びフランジ性バランス(TS×λ)に及ぼす冷却速度の影響を示した図である。
【図4】焼付け硬化性(BHY, BHT)、強度−伸びバランス(TS×El)および強度−伸びフランジ性バランス(TS×λ)に及ぼす冷却停止温度の影響を示した図である。
Claims (7)
- 質量%で
C:0.12〜0.18%、
Si:0.2 〜0.8 %、
Mn:2.2 〜3.0 %、
P:0.018 %以下、
S:0.0030%以下、
Al:0.05%以下、
N:0.0050%以下および
Ti:0.001 〜0.030 %
を、下記式(1) を満足する範囲において含有し、残部はFeおよび不可避的不純物の組成になり、フェライト相の体積分率が10〜50 vol%、フェライト相の平均結晶粒径が 4.0μm 以下、ベイナイト相の体積分率が50〜80 vol%の鋼組織を有し、さらにベイナイト相とフェライト相のビッカース硬さの比(Hv(B)/Hv(F))が 4.0以下で、かつフェライト相およびベイナイト相それぞれのビッカース硬さの平均値からのばらつき2σが15〜100 であることを特徴とする焼付け硬化性に優れる超高強度冷延鋼板。
記
−100[C] + 15 ≦ [Mn] ≦−100[C] + 20 −−− (1)
ここで、 [C], [Mn] はそれぞれC,Mnの含有量(質量%) - 請求項1において、鋼板が、さらに質量%で
Cu:0.01〜0.50%、
Ni:0.01〜0.50%、
Mo:0.01〜0.50%および
Cr:0.01〜0.50%
のうちから選んだ1種または2種以上を含有する組成になることを特徴とする焼付け硬化性に優れる超高強度冷延鋼板。 - 請求項1または2において、鋼板が、さらに質量%で
Nb:0.001 〜0.050 %
を含有する組成になることを特徴とする焼付け硬化性に優れる超高強度冷延鋼板。 - 請求項1〜3のいずれかにおいて、鋼板が、さらに質量%で
V:0.001 〜0.300 %および
Zr:0.001 〜0.300 %
のうちから選んだ少なくとも1種を含有する組成になることを特徴とする焼付け硬化性に優れる超高強度冷延鋼板。 - 請求項1〜4のいずれかにおいて、鋼板が、さらに質量%で
B:0.0001〜0.0050%
を含有する組成になることを特徴とする焼付け硬化性に優れる超高強度冷延鋼板。 - 請求項1〜5のいずれかにおいて、鋼板が、さらに質量%で
Ca:0.0001〜0.0050%および
REM:0.0001〜0.0050%
のうちから選んだ少なくとも1種を含有する組成になることを特徴とする焼付け硬化性に優れる超高強度冷延鋼板。 - 請求項1〜6のいずれかに記載の成分組成になる鋼スラブを、鋳造後、直ちにまたは一旦冷却後、1100〜1300℃に加熱したのち、仕上げ圧延終了温度:850 〜950 ℃にて熱間圧延し、圧延終了後、 450〜650 ℃で巻き取ったのち、冷間圧延し、ついで連続焼鈍を施すに際し、(焼鈍温度−10℃)までの昇温速度:70〜300 ℃/分、(焼鈍温度−10℃)から焼鈍温度までの昇温速度:5〜20℃/分の昇温速度条件下で、下記式(2) を満足する焼鈍温度に加熱し、焼鈍温度に到達後、等温保持することなく直ちに冷却を開始し、その冷却過程において、冷却速度:10〜100 ℃/秒で焼鈍温度から(Ms点−100 ℃)〜(Ms点+50℃)の温度域まで冷却し、冷却終了後、鋼板温度を上昇させることなく(Ms点−100℃)〜(Ms点+50℃)の温度域に60〜240 秒間保温することを特徴とする焼付け硬化性に優れる超高強度冷延鋼板の製造方法。
記
T1 ± 50 ℃(但し、T1 = 950− 150 [C]1/2+50[Si]−30[Mn]) −−−(2)
ここで、 [C], [Si], [Mn] はそれぞれC, Si,Mnの含有量(質量%)
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