JP2005097118A - Hgf遺伝子からなる細胞移植定着促進剤 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】HGF遺伝子を有効成分とする心筋細胞定着促進剤。更に、HGF遺伝子と移植細胞(特に心筋細胞)を有効成分とする心筋細胞定着促進剤。またHGF遺伝子の導入方法としてはHVJリポソーム法を用いる。
【効果】損傷を受けた心筋患部に心筋細胞を移植しHGF遺伝子を投与して、移植心筋細胞の定着化と線維化抑制を図り、心機能を回復させるという効果を有する。
【選択図】なし
【効果】損傷を受けた心筋患部に心筋細胞を移植しHGF遺伝子を投与して、移植心筋細胞の定着化と線維化抑制を図り、心機能を回復させるという効果を有する。
【選択図】なし
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、HGF遺伝子を有効成分とする移植細胞の細胞定着促進剤、あるいは移植細胞のアポトーシス抑制剤に関する。詳しくは、HGF遺伝子を有効成分とする移植心筋細胞の定着促進剤、あるいは移植心筋細胞のアポトーシス抑制剤に関する。また、移植細胞とHGF遺伝子を障害部位に注入することからなる虚血性あるいは糖尿病性の臓器疾患治療用の遺伝子治療剤に関する。さらに詳しくは、心筋細胞とHGF遺伝子を障害心筋部位に注入することからなる虚血性あるいは糖尿病性の心臓疾患治療用の遺伝子治療剤に関する。特に、心筋梗塞による心虚血部位、あるいは心筋症による障害心筋部位に投与することを特徴とする、心筋梗塞あるいは心筋症治療用の遺伝子治療剤に関する。
【0002】
【従来の技術】
循環器領域においては、近年のめざましい医療技術の向上に関わらず、心臓移植以外に道のない疾患が残されている。例えば、重症心不全、重度心筋梗塞あるいは心筋症がそのような疾患として挙げられる。
心筋梗塞とは、冠状動脈の種々の病変による高度狭窄、閉塞によってその灌流領域に虚血性壊死が生じる疾患である。心筋梗塞の重症度判定にはいくつかの分類があり、これらを併用することで個々の病態をより明確に把握することができる。例えば、時間的経過による分類、心筋層内範囲・部位・壊死の大きさなどによる形態学的分類、心筋の壊死形態や梗塞後の心室再構築・治療や予後と関連した血行動態的分類、臨床的重症度による分類などが挙げられる。これらの分類により重症度が高いと判断されるものが本発明で言うところの重度心筋梗塞である。重度心筋梗塞の治療方法としては、現在に至るも的確な治療方法がなく、心臓移植が残されているに過ぎない状況である。
心筋症とは心筋の器質的および機能的異常に起因する疾患の総称であり、高血圧、代謝異常症、虚血等の基礎疾患に続発する二次性心筋症と、明らかな基礎疾患なしに発症する突発性心筋症(ICM)に分類される。病理的変化としては心筋肥大・線維化、変性などが認められる。
【0003】
以上のように、心筋症に関しては、原因の比較的明らかなものから、原因が全く不明なものまで、かなり広範な広がりを持っている。現在の状況は、その原因の特定と発症機構の解明についての研究が行われている状況であり、確実な治療方法というものは未だ見出されていない。
心不全とは、心機能不全、循環機能不全、収縮力減退など心臓自体に障害があって、全身の臓器へ必要な量と質の血液を循環し得なくなった状態を心不全といい、心筋梗塞、心筋症等の心臓疾患の末期の症状である。重症心不全とは、その程度が重いものを言い、末期心不全とも言われる。
重症心不全患者の治療には、心移植以外に道はなく、また移植が行われても、拒絶反応等の種々の問題があり、多くの点でいまだ完全なものではなかった。
そこで、現在、新しい試みとして重症心不全、重度心筋梗塞や心筋症の治療に、自己の心房細胞や右心室細胞を心臓障害患部に移植することが検討され始めている(細胞工学、19、860-863(2000))。
しかしながら、このような心筋細胞移植においては、移植心筋細胞の定着の良否が治療の成否を決めることになる。現在のところでは、移植心筋細胞の定着率は精々2〜3割程度のものでしかなかった。
【0004】
【発明が解決しようとする課題及び課題を解決するための手段】
本発明の目的は、虚血性あるいは糖尿病性の臓器疾患治療に対して細胞移植の細胞定着促進剤を提供することである。さらに詳しく言えば、これら促進剤に基づき、これまで有効な治療法が見出せていない重症心筋梗塞や心筋症の治療に好適な心筋細胞移植治療剤を提供することにある。
本発明者は上記の課題を解決すべく鋭意検討した結果、HGF遺伝子を併用して細胞移植を行うことにより、移植細胞の定着化が促進されることを見出した。即ち、心筋細胞の細胞移植においてHGF遺伝子を併用すれば、心筋細胞の定着化が促進され、移植心筋のアポトーシスが抑制されることを見出した。そして、心機能が大幅に改善され、細胞所見を比較しても、明らかに心筋細胞が成熟していることが示された。
【0005】
本発明者は、このように、HGF遺伝子と心筋細胞を直接患部心筋層に注入することにより、移植心筋細胞の定着と心筋細胞の再生が可能となり、心移植を行うことなく、この心筋細胞移植治療方法により、重症心不全、重度心筋梗塞と心筋症の治療が行えることを見出した。
更に本発明者等は、虚血性の臓器疾患に対する細胞移植療法にも、本発明のHGF遺伝子の使用が有効であることを見出した。例えば、上記の心筋梗塞部位への心筋細胞移植だけではなく、脳虚血・脳梗塞部位への神経前駆細胞または、神経細胞に分化可能な細胞の移植、心筋梗塞部位・骨格筋虚血部位への血管内皮細胞または血管内皮細胞に分化可能な細胞の移植なども可能となった。
また、糖尿病性の臓器疾患に対する細胞移植法にも、本発明のHGF遺伝子の使用が有効であることを見出した。即ち、糖尿病患者では腎臓、膵臓、末梢神経、眼、四肢の血行障害など種々の臓器障害が高率で起こる事が知られている。現在、これらの疾患に対して、細胞移植による治療法が種々検討されている。例えば、インスリン分泌能が低下した膵臓にインスリン分泌細胞を移植する試みや、四肢の血行障害に対する骨髄由来細胞の移植などが検討されているが、細胞の生着率の低さが問題となっていた。しかし、本発明のHGF遺伝子を使用することにより、糖尿病の患者に対する細胞移植において、その生着を促進し、効果を高める事ができる。
【0006】
すなわち本発明の要旨は、
(1)HGF遺伝子を有効成分とする細胞移植の細胞定着促進剤、
(2)移植細胞が心筋細胞である上記(1)の細胞定着促進剤、
(3)障害心筋部位に心筋細胞とHGF遺伝子を投与することを特徴とする、上記(1)または(2)記載の細胞定着促進剤、
(4)心筋梗塞による心虚血部位、あるいは心筋症による障害心筋部位に心筋細胞とHGF遺伝子を投与することを特徴とする、上記(1)、(2)または(3)記載の細胞定着促進剤、
(5)HGF遺伝子と移植細胞を有効成分とする虚血性あるいは糖尿病性の臓器疾患治療剤、
(6)移植細胞が心筋細胞である、上記(5)記載の虚血性あるいは糖尿病性の心臓疾患治療剤、
(7)障害心筋部位に投与することを特徴とする、上記(6)記載の心臓疾患治療剤、
(8)心筋梗塞による心虚血部位、あるいは心筋症による障害心筋部位に投与することを特徴とする、上記(6)記載の心筋梗塞あるいは心筋症治療剤、
(9)HGF遺伝子と移植細胞を投与することを特徴とする虚血性あるいは糖尿病性の臓器疾患治療方法、
(10)移植細胞が心筋細胞である上記(9)記載の虚血性あるいは糖尿病性の心臓疾患治療方法、
(11)障害心筋部位にHGF遺伝子と心筋細胞を投与することを特徴とする、上記(10)記載の心臓疾患治療方法、
(12)心筋梗塞による心虚血部位、あるいは心筋症による障害心筋部位に移植心筋細胞とHGF遺伝子を投与することからなる心筋梗塞または心筋症治療方法、
(13)HGF遺伝子の導入方法として、HVJリポソーム法を使用する、上記(9)、(10)、(11)あるいは(12)記載の治療方法、
(14)HGF遺伝子として、HVJリポソームHGF遺伝子製剤を使用する、上記(1)、(2)、(3)または(4)記載の細胞定着促進剤、
(15)HGF遺伝子として、HVJリポソームHGF遺伝子製剤を使用する、上記(5)、(6)、(7)または(8)記載の治療剤、
(16)HGF遺伝子を有効成分とする移植細胞のアポトーシス抑制剤、
(17)移植細胞が心筋細胞である、上記(16)記載のアポトーシス抑制剤、である。
【0007】
【発明の実施の形態】
本発明で使用されるHGF遺伝子とは、HGFを発現し得る遺伝子を言い、当該遺伝子には、発現されるポリペプチドがHGFと実質的に同効である限り、その遺伝子配列の一部が欠失又は他の塩基により置換されていたり、他の塩基配列が一部挿入されていたり、5’末端及び/又は3’末端に塩基が結合したような遺伝子も包含される。かかる遺伝子としては、例えば、Nature,342,440 (1989)、特開平5-111383号公報、Biochem.Biophys.Res.Commun. 163, 967 (1989)などに記載のHGF遺伝子が例示され、これらの遺伝子を本発明で使用することが出来る。
【0008】
次に、本発明の治療において用いられる遺伝子導入方法、導入形態および導入量等について記述する。
前記HGF遺伝子を有効成分とする遺伝子治療剤を患者に投与する場合、その投与形態としては非ウイルスベクターを用いた場合と、ウイルスベクターを用いた場合の二つに大別され、実験手引書などにその調製法、投与法が詳しく解説されている(別冊実験医学,遺伝子治療の基礎技術,羊土社,1996、別冊実験医学,遺伝子導入&発現解析実験法,羊土社,1997)。以下、具体的に説明する。
【0009】
A.非ウイルスベクターを用いる場合
遺伝子発現ベクターに本発明のDNAを組み込み、リポソームを用いてDNA分子を導入する方法(リポソーム法、HVJ−リポソーム法、カチオニックリポソーム法、リポフェクチン法、リポフェクトアミン法)、DNA直接注射法(naked DNA法)、マイクロインジェクション法、遺伝子銃(Gene Gun)で坦体(金属粒子)とともにDNA分子を細胞に移入する方法等の何れかの方法により組換え発現ベクターを細胞内に取り込ませることが可能である。ここで用いられる発現ベクターとしては、例えばpCAGGS(Gene 108,193-200(1991))や、pBK−CMV、pcDNA3.1、pZeoSV(インビトロゲン社、ストラタジーン社)などの発現ベクターが挙げられる。
【0010】
このうちHVJ−リポソームは、脂質二重膜で作られたリポソーム中にDNAを封入し、さらにこのリポソームと不活化したセンダイウイルス(Hemagglutinating virus of Japan : HVJ)とを融合させたものである。当該HVJ−リポソーム法は従来のリポソーム法と比較して、細胞膜との融合活性が非常に高いことを特徴とするものであり、好ましい導入形態である。HVJ−リポソームの調製法については文献(実験医学別冊,遺伝子治療の基礎技術,羊土社,1996、遺伝子導入&発現解析実験法,羊土社,1997、J.Clin.Invest.93,1458-1464(1994)、Am.J.Physiol.271,R1212-1220(1996))などに詳しく述べられており、また後述の実施例にも詳しく記載されているため、それらを参照されたい。なおHVJとしてはZ株(ATCCより入手可能)が好ましいが、基本的には他のHVJ株(例えば ATCC VR-907や ATCC VR-105など)も用いることができる。
【0011】
B.ウイルスベクターを用いる場合
ウイルスベクターとしては、組換えアデノウイルス、レトロウイルス等のウイルスベクターを用いた方法が代表的なものである。より具体的には、例えば、無毒化したレトロウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、ヘルペスウイルス、ワクシニアウイルス、ポックスウイルス、ポリオウイルス、シンビスウイルス、センダイウイルス、SV40、免疫不全症ウイルス(HIV)等のDNAウイルスまたはRNAウイルスに本発明のDNAを導入し、細胞に組換えウイルスを感染させることによって、細胞内に遺伝子を導入することが可能である。
前記ウイルスベクターの内、アデノウイルスの感染効率が他のウイルスベクターを用いた場合よりもはるかに高いことが知られており、この観点からは、アデノウイルスベクター系を用いることが好ましい。
【0012】
C.DNA直接注射法( naked DNA法)
DNA直接注射法とは、例えば、Circulation,96(Suppl.II),382-388(1997)に記載の方法であり、骨格筋、心筋、皮下、肝臓、甲状腺等の組織に直接注入することができる。
製剤形態としては、上記の各投与形態に合った種々の製剤形態(例えば液剤など)をとり得る。例えば有効成分である遺伝子を含有する注射剤とされた場合、当該注射剤は常法により調製することができ、例えば適切な溶剤(PBS等の緩衝液、生理食塩水、滅菌水等)に溶解した後、フィルター等で濾過滅菌し、次いで無菌的な容器に充填することにより調製することができる。当該注射剤には必要に応じて慣用の担体等を加えても良い。また、HVJ−リポソーム等のリポソームにおいては、懸濁剤、凍結剤、遠心分離濃縮凍結剤などのリポソーム製剤の形態とすることができる。
また、疾患部位の周囲に遺伝子を存在し易くするために、徐放性の製剤(ミニペレット製剤等)を調製し患部近くに埋め込むことも可能であり、あるいはオスモチックポンプなどを用いて患部に連続的に徐々に投与することも可能である。
【0013】
本発明製剤の遺伝子含量は、治療目的の疾患、患者の年齢、体重等により適宜調節することができるが、通常、本発明のDNAとして0.0001−100mg、好ましくは0.001−10mgであり、これを数日ないし数ヶ月に1回投与するのが好ましい。例えば、HGF遺伝子を使用する場合には、成人患者当たり約1〜約4000μgの範囲、好ましくは約10〜約400μgの範囲から投与量が選択される。
本発明で使用される移植細胞としては、虚血性および糖尿病性の臓器疾患に伴う障害組織部位に細胞移植を行えるものであれば、適宜利用することができる。例えば、重症心不全、重度心筋梗塞等の心臓疾患においては、自家および他家から摘出した心筋細胞、平滑筋細胞、線維芽細胞、骨格筋由来細胞(特にサテライト細胞)、骨髄細胞(特に心筋様細胞に分化させた骨髄細胞)などが使用できる移植細胞として挙げられる。更に、他の臓器においても、適宜移植細胞を選択することができる。例えば、脳虚血・脳梗塞部位への神経前駆細胞または、神経細胞に分化可能な細胞の移植、心筋梗塞部位・骨格筋虚血部位への血管内皮細胞または血管内皮細胞に分化可能な細胞の移植などが移植細胞として挙げられる。
さらには、糖尿病性の臓器障害に対する細胞移植に使用される細胞が挙げられる。例えば、腎臓、膵臓、末梢神経、眼、四肢の血行障害などの疾患に対して、種々検討されている細胞移植治療法用の細胞が挙げられる。即ち、インスリン分泌能が低下した膵臓にインスリン分泌細胞を移植する試みや、四肢の血行障害に対する骨髄由来細胞の移植などが検討されており、このような細胞を使用することができる。
【0014】
また、移植細胞の投与量としては、治療目的の疾患、患者の年齢、対象となる移植細胞等により適宜調節することができるが、通常、本発明の移植細胞として1×104〜1011個の範囲であり、HGF遺伝子と同時に、これを数日ないし数ヶ月に1回投与するのが好ましい。例えば心筋細胞を使用する場合には、1×104〜1011個の範囲、好ましくは1×106〜109個の範囲から投与量が選択される。
本発明で導入されるHGF遺伝子以外に、内因性の心筋保護因子や心筋細胞における再生因子を併用することが可能である。例えば、心筋細胞障害時に高度に発現されるTGF−βや熱ショック蛋白(HSP)等の因子は心筋障害を軽減し心筋修復に関与することが報告されており、これらの遺伝子を使用することが出来る。又、EGF等の増殖因子は、組織の種々の細胞障害を修復することが報告されており、これらの遺伝子を用いることも可能である。更には、これらの心筋保護因子や再生因子以外にも、心筋保護や再生に関与する因子が考えられる。
本発明では、このようにHGF遺伝子を単独に或いは組み合わせて心臓の心筋細胞に導入し、高度に発現させて、損傷を受けた心筋細胞等に必要な目的蛋白を合成させることができる。そしてこれにより、損傷を受けた心筋細胞等の賦活化を図って心筋細胞等を修復再生させ、心筋症に陥った心機能の回復正常化が出来ることになる。それ故、重症の心筋症患者だけでなく、進行中の軽度の患者にも使用することができる。
【0015】
本発明の一態様であるHVJリポソーム製剤は、上記HVJリポソーム法で投与されるために調整された遺伝子製剤であり、非経口的に投与することが好ましい。例えば、非侵襲的なカテーテルあるいは非侵襲的な注射器等による投与方法を挙げることができる。非侵襲的なカテーテルを用いる投与方法としては、例えば、心室内腔より心筋内に直接HGF遺伝子を注入することが挙げられる。
【0016】
本発明の製剤、治療方法を適用することにより、重症心不全、重度心筋梗塞、心筋症等を持った心臓疾患患者に対して積極的な心筋移植治療を行うことができるだけでなく、虚血性あるいは糖尿病性に起因する臓器疾患に対しても、細胞移植による手段で有効な治療ができることを見出した。例えば、虚血性あるいは糖尿病性に起因する骨格筋障害、あるいは虚血性あるいは糖尿病性に起因する膵臓障害、肝臓障害に対しても、それぞれ臓器移植ではなく細胞移植で障害臓器の障害部位の治療が可能になったのである。
本発明は、特に心臓疾患において有効であり、本発明により、心不全に陥った障害心筋の修復が可能となり、心機能の向上が図れることとなったのである。それ故、心臓移植以外には治療の手段がなかった、重症心不全や重度心筋梗塞、心筋症等の患者に対して新しい救済の道を可能にしたのである。
【0017】
【実施例】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によりなんら限定されるものではない。
【0018】
【実施例1】
実施例
ラット虚血心への培養心筋細胞移植における HGF 遺伝子の投与効果
Lewisラット(3週齢、雄)の左前下行枝を結紮して、ラット心筋梗塞モデルを作製した。その2週間後、梗塞エリア周辺の虚血部位内に培地のみを注入し、control群(n=5)とした。心筋細胞移植群(n=7)では、培地と共に1×107個の培養心筋細胞を注入し、心筋細胞移植+HGF遺伝子投与群(n=5)では、同量の培養心筋細胞を注入すると共に同一の注入部位に4μgのHGF遺伝子をHVJ-liposome法により投与した。
使用するHGF遺伝子は、以下のようにして調製した。まず、200μgのHGFcDNAプラスミドから2mlのHVJ-liposome製剤を作成した。リポソーム製剤中のHGFcDNAプラスミド含量は、使用プラスミドの20%であった(プラスミド40μgを製剤中に含有)。この2mlのHVJ-liposome製剤を0.2ml分取し投与した。
投与は障害心筋部位の3カ所に、それぞれ心筋細胞とHGF遺伝子を注入、投与した。
【0019】
心筋細胞の移植後、4週間後と8週間後の心機能の向上や心筋血流量等の改善を以下の方法で評価した。
▲1▼心機能の向上:
超音波(dimensional echocardiography)を用いてejection fraction(EF)を測定した。心機能向上の評価は、1固体の移植前の値を1として、向上度を表した。コントロール群では心機能は全く向上しなかったが、図1に示す様に心筋細胞移植群(cellTx)では軽度の心機能改善が見られた。さらに、心筋細胞移植+HGF遺伝子投与群(cellTx+HGF)では著明な改善が見られた。
▲2▼障害心筋部位(梗塞巣)の心筋血流量の改善:
contrast echocardiographyにより評価した。図2に結果の1例を示す。コントロール(Ligation model)と心筋細胞移植+HGF遺伝子投与例(cellTx+HGF)とを比較したところ、障害心筋部位(梗塞巣)において心筋血流量の改善が見られた。
▲3▼移植心筋細胞の定着性:
投与部位の切片を作成し、顕微鏡による組織学的評価により確認した。HF染色後の図3に示すように、心筋細胞移植+HGF遺伝子投与群(cellTx+HGF)で、移植した心筋細胞が障害心筋部位(梗塞巣)において定着し、移植心筋細胞のサルコメアが良く発達し、細胞径が増大している事が組織学的に見られた。
また、図4に示すように心筋細胞間にconnexin43やDesminと言った細胞接着因子が確認され、Gap junctionの形成が見られた。
▲4▼移植心筋細胞の生存度:
TUNEL染色によりapoptosis細胞を検索した。染色像を図5に示す。これによると、移植心筋細胞のアポトーシスは、心筋細胞移植群(cellTx)では見られたが、心筋細胞移植+HGF遺伝子投与群(cellTx+HGF)では見られなかった。
▲5▼HGF遺伝子の併用による心筋細胞の線維化抑制効果:
障害心筋部位(梗塞巣)の細胞切片をマッソン・トリクローム染色し、繊維化を評価した。心筋細胞は赤に染色され、線維芽細胞および繊維化した領域は青に染色されるので、これをコンピューター処理し、全面積に対する青の領域の占める割合で算出し評価した。図6に示すように、心筋細胞移植群(cellTx)と比較し、心筋細胞移植+HGF遺伝子投与群(cellTx+HGF)では線維化が有意に抑制されていた。
【0020】
【発明の効果】
本発明のHGF遺伝子を有効成分とする移植心筋細胞の定着促進剤は、障害心筋患部に移植した心筋の定着を促進すると共に、障害部位の心筋細胞の繊維化抑制と移植心筋細胞の抗アポトーシス作用を果たすことができる。その結果、心機能が向上し、本発明の促進剤は重症心筋梗塞や心筋症の有効な心筋移植治療剤として使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は心機能向上の比較データを示すグラフである。
【図2】図2は障害心筋部位(梗塞巣)の心筋血流量の改善度を示すグラフである
【図3】図3はHF染色した投与部位の移植心筋細胞の定着性を示す組織断片顕微鏡写真である。
【図4】図4は心筋細胞間に細胞接着因子(connexin43、Desmin)が確認され、Gap junctionの形成が見られたことを示す組織断片顕微鏡写真である。
【図5】図5は移植心筋細胞の生存度を示す組織断片顕微鏡写真である。
【図6】図6はHGF遺伝子の併用による心筋細胞の線維化抑制効果を表すグラフである。
【発明の属する技術分野】
本発明は、HGF遺伝子を有効成分とする移植細胞の細胞定着促進剤、あるいは移植細胞のアポトーシス抑制剤に関する。詳しくは、HGF遺伝子を有効成分とする移植心筋細胞の定着促進剤、あるいは移植心筋細胞のアポトーシス抑制剤に関する。また、移植細胞とHGF遺伝子を障害部位に注入することからなる虚血性あるいは糖尿病性の臓器疾患治療用の遺伝子治療剤に関する。さらに詳しくは、心筋細胞とHGF遺伝子を障害心筋部位に注入することからなる虚血性あるいは糖尿病性の心臓疾患治療用の遺伝子治療剤に関する。特に、心筋梗塞による心虚血部位、あるいは心筋症による障害心筋部位に投与することを特徴とする、心筋梗塞あるいは心筋症治療用の遺伝子治療剤に関する。
【0002】
【従来の技術】
循環器領域においては、近年のめざましい医療技術の向上に関わらず、心臓移植以外に道のない疾患が残されている。例えば、重症心不全、重度心筋梗塞あるいは心筋症がそのような疾患として挙げられる。
心筋梗塞とは、冠状動脈の種々の病変による高度狭窄、閉塞によってその灌流領域に虚血性壊死が生じる疾患である。心筋梗塞の重症度判定にはいくつかの分類があり、これらを併用することで個々の病態をより明確に把握することができる。例えば、時間的経過による分類、心筋層内範囲・部位・壊死の大きさなどによる形態学的分類、心筋の壊死形態や梗塞後の心室再構築・治療や予後と関連した血行動態的分類、臨床的重症度による分類などが挙げられる。これらの分類により重症度が高いと判断されるものが本発明で言うところの重度心筋梗塞である。重度心筋梗塞の治療方法としては、現在に至るも的確な治療方法がなく、心臓移植が残されているに過ぎない状況である。
心筋症とは心筋の器質的および機能的異常に起因する疾患の総称であり、高血圧、代謝異常症、虚血等の基礎疾患に続発する二次性心筋症と、明らかな基礎疾患なしに発症する突発性心筋症(ICM)に分類される。病理的変化としては心筋肥大・線維化、変性などが認められる。
【0003】
以上のように、心筋症に関しては、原因の比較的明らかなものから、原因が全く不明なものまで、かなり広範な広がりを持っている。現在の状況は、その原因の特定と発症機構の解明についての研究が行われている状況であり、確実な治療方法というものは未だ見出されていない。
心不全とは、心機能不全、循環機能不全、収縮力減退など心臓自体に障害があって、全身の臓器へ必要な量と質の血液を循環し得なくなった状態を心不全といい、心筋梗塞、心筋症等の心臓疾患の末期の症状である。重症心不全とは、その程度が重いものを言い、末期心不全とも言われる。
重症心不全患者の治療には、心移植以外に道はなく、また移植が行われても、拒絶反応等の種々の問題があり、多くの点でいまだ完全なものではなかった。
そこで、現在、新しい試みとして重症心不全、重度心筋梗塞や心筋症の治療に、自己の心房細胞や右心室細胞を心臓障害患部に移植することが検討され始めている(細胞工学、19、860-863(2000))。
しかしながら、このような心筋細胞移植においては、移植心筋細胞の定着の良否が治療の成否を決めることになる。現在のところでは、移植心筋細胞の定着率は精々2〜3割程度のものでしかなかった。
【0004】
【発明が解決しようとする課題及び課題を解決するための手段】
本発明の目的は、虚血性あるいは糖尿病性の臓器疾患治療に対して細胞移植の細胞定着促進剤を提供することである。さらに詳しく言えば、これら促進剤に基づき、これまで有効な治療法が見出せていない重症心筋梗塞や心筋症の治療に好適な心筋細胞移植治療剤を提供することにある。
本発明者は上記の課題を解決すべく鋭意検討した結果、HGF遺伝子を併用して細胞移植を行うことにより、移植細胞の定着化が促進されることを見出した。即ち、心筋細胞の細胞移植においてHGF遺伝子を併用すれば、心筋細胞の定着化が促進され、移植心筋のアポトーシスが抑制されることを見出した。そして、心機能が大幅に改善され、細胞所見を比較しても、明らかに心筋細胞が成熟していることが示された。
【0005】
本発明者は、このように、HGF遺伝子と心筋細胞を直接患部心筋層に注入することにより、移植心筋細胞の定着と心筋細胞の再生が可能となり、心移植を行うことなく、この心筋細胞移植治療方法により、重症心不全、重度心筋梗塞と心筋症の治療が行えることを見出した。
更に本発明者等は、虚血性の臓器疾患に対する細胞移植療法にも、本発明のHGF遺伝子の使用が有効であることを見出した。例えば、上記の心筋梗塞部位への心筋細胞移植だけではなく、脳虚血・脳梗塞部位への神経前駆細胞または、神経細胞に分化可能な細胞の移植、心筋梗塞部位・骨格筋虚血部位への血管内皮細胞または血管内皮細胞に分化可能な細胞の移植なども可能となった。
また、糖尿病性の臓器疾患に対する細胞移植法にも、本発明のHGF遺伝子の使用が有効であることを見出した。即ち、糖尿病患者では腎臓、膵臓、末梢神経、眼、四肢の血行障害など種々の臓器障害が高率で起こる事が知られている。現在、これらの疾患に対して、細胞移植による治療法が種々検討されている。例えば、インスリン分泌能が低下した膵臓にインスリン分泌細胞を移植する試みや、四肢の血行障害に対する骨髄由来細胞の移植などが検討されているが、細胞の生着率の低さが問題となっていた。しかし、本発明のHGF遺伝子を使用することにより、糖尿病の患者に対する細胞移植において、その生着を促進し、効果を高める事ができる。
【0006】
すなわち本発明の要旨は、
(1)HGF遺伝子を有効成分とする細胞移植の細胞定着促進剤、
(2)移植細胞が心筋細胞である上記(1)の細胞定着促進剤、
(3)障害心筋部位に心筋細胞とHGF遺伝子を投与することを特徴とする、上記(1)または(2)記載の細胞定着促進剤、
(4)心筋梗塞による心虚血部位、あるいは心筋症による障害心筋部位に心筋細胞とHGF遺伝子を投与することを特徴とする、上記(1)、(2)または(3)記載の細胞定着促進剤、
(5)HGF遺伝子と移植細胞を有効成分とする虚血性あるいは糖尿病性の臓器疾患治療剤、
(6)移植細胞が心筋細胞である、上記(5)記載の虚血性あるいは糖尿病性の心臓疾患治療剤、
(7)障害心筋部位に投与することを特徴とする、上記(6)記載の心臓疾患治療剤、
(8)心筋梗塞による心虚血部位、あるいは心筋症による障害心筋部位に投与することを特徴とする、上記(6)記載の心筋梗塞あるいは心筋症治療剤、
(9)HGF遺伝子と移植細胞を投与することを特徴とする虚血性あるいは糖尿病性の臓器疾患治療方法、
(10)移植細胞が心筋細胞である上記(9)記載の虚血性あるいは糖尿病性の心臓疾患治療方法、
(11)障害心筋部位にHGF遺伝子と心筋細胞を投与することを特徴とする、上記(10)記載の心臓疾患治療方法、
(12)心筋梗塞による心虚血部位、あるいは心筋症による障害心筋部位に移植心筋細胞とHGF遺伝子を投与することからなる心筋梗塞または心筋症治療方法、
(13)HGF遺伝子の導入方法として、HVJリポソーム法を使用する、上記(9)、(10)、(11)あるいは(12)記載の治療方法、
(14)HGF遺伝子として、HVJリポソームHGF遺伝子製剤を使用する、上記(1)、(2)、(3)または(4)記載の細胞定着促進剤、
(15)HGF遺伝子として、HVJリポソームHGF遺伝子製剤を使用する、上記(5)、(6)、(7)または(8)記載の治療剤、
(16)HGF遺伝子を有効成分とする移植細胞のアポトーシス抑制剤、
(17)移植細胞が心筋細胞である、上記(16)記載のアポトーシス抑制剤、である。
【0007】
【発明の実施の形態】
本発明で使用されるHGF遺伝子とは、HGFを発現し得る遺伝子を言い、当該遺伝子には、発現されるポリペプチドがHGFと実質的に同効である限り、その遺伝子配列の一部が欠失又は他の塩基により置換されていたり、他の塩基配列が一部挿入されていたり、5’末端及び/又は3’末端に塩基が結合したような遺伝子も包含される。かかる遺伝子としては、例えば、Nature,342,440 (1989)、特開平5-111383号公報、Biochem.Biophys.Res.Commun. 163, 967 (1989)などに記載のHGF遺伝子が例示され、これらの遺伝子を本発明で使用することが出来る。
【0008】
次に、本発明の治療において用いられる遺伝子導入方法、導入形態および導入量等について記述する。
前記HGF遺伝子を有効成分とする遺伝子治療剤を患者に投与する場合、その投与形態としては非ウイルスベクターを用いた場合と、ウイルスベクターを用いた場合の二つに大別され、実験手引書などにその調製法、投与法が詳しく解説されている(別冊実験医学,遺伝子治療の基礎技術,羊土社,1996、別冊実験医学,遺伝子導入&発現解析実験法,羊土社,1997)。以下、具体的に説明する。
【0009】
A.非ウイルスベクターを用いる場合
遺伝子発現ベクターに本発明のDNAを組み込み、リポソームを用いてDNA分子を導入する方法(リポソーム法、HVJ−リポソーム法、カチオニックリポソーム法、リポフェクチン法、リポフェクトアミン法)、DNA直接注射法(naked DNA法)、マイクロインジェクション法、遺伝子銃(Gene Gun)で坦体(金属粒子)とともにDNA分子を細胞に移入する方法等の何れかの方法により組換え発現ベクターを細胞内に取り込ませることが可能である。ここで用いられる発現ベクターとしては、例えばpCAGGS(Gene 108,193-200(1991))や、pBK−CMV、pcDNA3.1、pZeoSV(インビトロゲン社、ストラタジーン社)などの発現ベクターが挙げられる。
【0010】
このうちHVJ−リポソームは、脂質二重膜で作られたリポソーム中にDNAを封入し、さらにこのリポソームと不活化したセンダイウイルス(Hemagglutinating virus of Japan : HVJ)とを融合させたものである。当該HVJ−リポソーム法は従来のリポソーム法と比較して、細胞膜との融合活性が非常に高いことを特徴とするものであり、好ましい導入形態である。HVJ−リポソームの調製法については文献(実験医学別冊,遺伝子治療の基礎技術,羊土社,1996、遺伝子導入&発現解析実験法,羊土社,1997、J.Clin.Invest.93,1458-1464(1994)、Am.J.Physiol.271,R1212-1220(1996))などに詳しく述べられており、また後述の実施例にも詳しく記載されているため、それらを参照されたい。なおHVJとしてはZ株(ATCCより入手可能)が好ましいが、基本的には他のHVJ株(例えば ATCC VR-907や ATCC VR-105など)も用いることができる。
【0011】
B.ウイルスベクターを用いる場合
ウイルスベクターとしては、組換えアデノウイルス、レトロウイルス等のウイルスベクターを用いた方法が代表的なものである。より具体的には、例えば、無毒化したレトロウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、ヘルペスウイルス、ワクシニアウイルス、ポックスウイルス、ポリオウイルス、シンビスウイルス、センダイウイルス、SV40、免疫不全症ウイルス(HIV)等のDNAウイルスまたはRNAウイルスに本発明のDNAを導入し、細胞に組換えウイルスを感染させることによって、細胞内に遺伝子を導入することが可能である。
前記ウイルスベクターの内、アデノウイルスの感染効率が他のウイルスベクターを用いた場合よりもはるかに高いことが知られており、この観点からは、アデノウイルスベクター系を用いることが好ましい。
【0012】
C.DNA直接注射法( naked DNA法)
DNA直接注射法とは、例えば、Circulation,96(Suppl.II),382-388(1997)に記載の方法であり、骨格筋、心筋、皮下、肝臓、甲状腺等の組織に直接注入することができる。
製剤形態としては、上記の各投与形態に合った種々の製剤形態(例えば液剤など)をとり得る。例えば有効成分である遺伝子を含有する注射剤とされた場合、当該注射剤は常法により調製することができ、例えば適切な溶剤(PBS等の緩衝液、生理食塩水、滅菌水等)に溶解した後、フィルター等で濾過滅菌し、次いで無菌的な容器に充填することにより調製することができる。当該注射剤には必要に応じて慣用の担体等を加えても良い。また、HVJ−リポソーム等のリポソームにおいては、懸濁剤、凍結剤、遠心分離濃縮凍結剤などのリポソーム製剤の形態とすることができる。
また、疾患部位の周囲に遺伝子を存在し易くするために、徐放性の製剤(ミニペレット製剤等)を調製し患部近くに埋め込むことも可能であり、あるいはオスモチックポンプなどを用いて患部に連続的に徐々に投与することも可能である。
【0013】
本発明製剤の遺伝子含量は、治療目的の疾患、患者の年齢、体重等により適宜調節することができるが、通常、本発明のDNAとして0.0001−100mg、好ましくは0.001−10mgであり、これを数日ないし数ヶ月に1回投与するのが好ましい。例えば、HGF遺伝子を使用する場合には、成人患者当たり約1〜約4000μgの範囲、好ましくは約10〜約400μgの範囲から投与量が選択される。
本発明で使用される移植細胞としては、虚血性および糖尿病性の臓器疾患に伴う障害組織部位に細胞移植を行えるものであれば、適宜利用することができる。例えば、重症心不全、重度心筋梗塞等の心臓疾患においては、自家および他家から摘出した心筋細胞、平滑筋細胞、線維芽細胞、骨格筋由来細胞(特にサテライト細胞)、骨髄細胞(特に心筋様細胞に分化させた骨髄細胞)などが使用できる移植細胞として挙げられる。更に、他の臓器においても、適宜移植細胞を選択することができる。例えば、脳虚血・脳梗塞部位への神経前駆細胞または、神経細胞に分化可能な細胞の移植、心筋梗塞部位・骨格筋虚血部位への血管内皮細胞または血管内皮細胞に分化可能な細胞の移植などが移植細胞として挙げられる。
さらには、糖尿病性の臓器障害に対する細胞移植に使用される細胞が挙げられる。例えば、腎臓、膵臓、末梢神経、眼、四肢の血行障害などの疾患に対して、種々検討されている細胞移植治療法用の細胞が挙げられる。即ち、インスリン分泌能が低下した膵臓にインスリン分泌細胞を移植する試みや、四肢の血行障害に対する骨髄由来細胞の移植などが検討されており、このような細胞を使用することができる。
【0014】
また、移植細胞の投与量としては、治療目的の疾患、患者の年齢、対象となる移植細胞等により適宜調節することができるが、通常、本発明の移植細胞として1×104〜1011個の範囲であり、HGF遺伝子と同時に、これを数日ないし数ヶ月に1回投与するのが好ましい。例えば心筋細胞を使用する場合には、1×104〜1011個の範囲、好ましくは1×106〜109個の範囲から投与量が選択される。
本発明で導入されるHGF遺伝子以外に、内因性の心筋保護因子や心筋細胞における再生因子を併用することが可能である。例えば、心筋細胞障害時に高度に発現されるTGF−βや熱ショック蛋白(HSP)等の因子は心筋障害を軽減し心筋修復に関与することが報告されており、これらの遺伝子を使用することが出来る。又、EGF等の増殖因子は、組織の種々の細胞障害を修復することが報告されており、これらの遺伝子を用いることも可能である。更には、これらの心筋保護因子や再生因子以外にも、心筋保護や再生に関与する因子が考えられる。
本発明では、このようにHGF遺伝子を単独に或いは組み合わせて心臓の心筋細胞に導入し、高度に発現させて、損傷を受けた心筋細胞等に必要な目的蛋白を合成させることができる。そしてこれにより、損傷を受けた心筋細胞等の賦活化を図って心筋細胞等を修復再生させ、心筋症に陥った心機能の回復正常化が出来ることになる。それ故、重症の心筋症患者だけでなく、進行中の軽度の患者にも使用することができる。
【0015】
本発明の一態様であるHVJリポソーム製剤は、上記HVJリポソーム法で投与されるために調整された遺伝子製剤であり、非経口的に投与することが好ましい。例えば、非侵襲的なカテーテルあるいは非侵襲的な注射器等による投与方法を挙げることができる。非侵襲的なカテーテルを用いる投与方法としては、例えば、心室内腔より心筋内に直接HGF遺伝子を注入することが挙げられる。
【0016】
本発明の製剤、治療方法を適用することにより、重症心不全、重度心筋梗塞、心筋症等を持った心臓疾患患者に対して積極的な心筋移植治療を行うことができるだけでなく、虚血性あるいは糖尿病性に起因する臓器疾患に対しても、細胞移植による手段で有効な治療ができることを見出した。例えば、虚血性あるいは糖尿病性に起因する骨格筋障害、あるいは虚血性あるいは糖尿病性に起因する膵臓障害、肝臓障害に対しても、それぞれ臓器移植ではなく細胞移植で障害臓器の障害部位の治療が可能になったのである。
本発明は、特に心臓疾患において有効であり、本発明により、心不全に陥った障害心筋の修復が可能となり、心機能の向上が図れることとなったのである。それ故、心臓移植以外には治療の手段がなかった、重症心不全や重度心筋梗塞、心筋症等の患者に対して新しい救済の道を可能にしたのである。
【0017】
【実施例】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によりなんら限定されるものではない。
【0018】
【実施例1】
実施例
ラット虚血心への培養心筋細胞移植における HGF 遺伝子の投与効果
Lewisラット(3週齢、雄)の左前下行枝を結紮して、ラット心筋梗塞モデルを作製した。その2週間後、梗塞エリア周辺の虚血部位内に培地のみを注入し、control群(n=5)とした。心筋細胞移植群(n=7)では、培地と共に1×107個の培養心筋細胞を注入し、心筋細胞移植+HGF遺伝子投与群(n=5)では、同量の培養心筋細胞を注入すると共に同一の注入部位に4μgのHGF遺伝子をHVJ-liposome法により投与した。
使用するHGF遺伝子は、以下のようにして調製した。まず、200μgのHGFcDNAプラスミドから2mlのHVJ-liposome製剤を作成した。リポソーム製剤中のHGFcDNAプラスミド含量は、使用プラスミドの20%であった(プラスミド40μgを製剤中に含有)。この2mlのHVJ-liposome製剤を0.2ml分取し投与した。
投与は障害心筋部位の3カ所に、それぞれ心筋細胞とHGF遺伝子を注入、投与した。
【0019】
心筋細胞の移植後、4週間後と8週間後の心機能の向上や心筋血流量等の改善を以下の方法で評価した。
▲1▼心機能の向上:
超音波(dimensional echocardiography)を用いてejection fraction(EF)を測定した。心機能向上の評価は、1固体の移植前の値を1として、向上度を表した。コントロール群では心機能は全く向上しなかったが、図1に示す様に心筋細胞移植群(cellTx)では軽度の心機能改善が見られた。さらに、心筋細胞移植+HGF遺伝子投与群(cellTx+HGF)では著明な改善が見られた。
▲2▼障害心筋部位(梗塞巣)の心筋血流量の改善:
contrast echocardiographyにより評価した。図2に結果の1例を示す。コントロール(Ligation model)と心筋細胞移植+HGF遺伝子投与例(cellTx+HGF)とを比較したところ、障害心筋部位(梗塞巣)において心筋血流量の改善が見られた。
▲3▼移植心筋細胞の定着性:
投与部位の切片を作成し、顕微鏡による組織学的評価により確認した。HF染色後の図3に示すように、心筋細胞移植+HGF遺伝子投与群(cellTx+HGF)で、移植した心筋細胞が障害心筋部位(梗塞巣)において定着し、移植心筋細胞のサルコメアが良く発達し、細胞径が増大している事が組織学的に見られた。
また、図4に示すように心筋細胞間にconnexin43やDesminと言った細胞接着因子が確認され、Gap junctionの形成が見られた。
▲4▼移植心筋細胞の生存度:
TUNEL染色によりapoptosis細胞を検索した。染色像を図5に示す。これによると、移植心筋細胞のアポトーシスは、心筋細胞移植群(cellTx)では見られたが、心筋細胞移植+HGF遺伝子投与群(cellTx+HGF)では見られなかった。
▲5▼HGF遺伝子の併用による心筋細胞の線維化抑制効果:
障害心筋部位(梗塞巣)の細胞切片をマッソン・トリクローム染色し、繊維化を評価した。心筋細胞は赤に染色され、線維芽細胞および繊維化した領域は青に染色されるので、これをコンピューター処理し、全面積に対する青の領域の占める割合で算出し評価した。図6に示すように、心筋細胞移植群(cellTx)と比較し、心筋細胞移植+HGF遺伝子投与群(cellTx+HGF)では線維化が有意に抑制されていた。
【0020】
【発明の効果】
本発明のHGF遺伝子を有効成分とする移植心筋細胞の定着促進剤は、障害心筋患部に移植した心筋の定着を促進すると共に、障害部位の心筋細胞の繊維化抑制と移植心筋細胞の抗アポトーシス作用を果たすことができる。その結果、心機能が向上し、本発明の促進剤は重症心筋梗塞や心筋症の有効な心筋移植治療剤として使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は心機能向上の比較データを示すグラフである。
【図2】図2は障害心筋部位(梗塞巣)の心筋血流量の改善度を示すグラフである
【図3】図3はHF染色した投与部位の移植心筋細胞の定着性を示す組織断片顕微鏡写真である。
【図4】図4は心筋細胞間に細胞接着因子(connexin43、Desmin)が確認され、Gap junctionの形成が見られたことを示す組織断片顕微鏡写真である。
【図5】図5は移植心筋細胞の生存度を示す組織断片顕微鏡写真である。
【図6】図6はHGF遺伝子の併用による心筋細胞の線維化抑制効果を表すグラフである。
Claims (17)
- 肝実質細胞増殖因子(HGF)遺伝子を有効成分とする細胞移植の細胞定着促進剤。
- 移植細胞が心筋細胞である請求項1の細胞定着促進剤。
- 障害心筋部位に心筋細胞とHGF遺伝子を投与することを特徴とする、請求項1または2記載の細胞定着促進剤。
- 心筋梗塞による心虚血部位、あるいは心筋症による障害心筋部位に心筋細胞とHGF遺伝子を投与することを特徴とする、請求項1、2または3記載の細胞定着促進剤。
- HGF遺伝子と移植細胞を有効成分とする虚血性あるいは糖尿病性の臓器疾患治療剤。
- 移植細胞が心筋細胞である、請求項5記載の虚血性あるいは糖尿病性の心臓疾患治療剤。
- 障害心筋部位に投与することを特徴とする、請求項6記載の心臓疾患治療剤。
- 心筋梗塞による心虚血部位、あるいは心筋症による障害心筋部位に投与することを特徴とする、請求項6記載の心筋梗塞あるいは心筋症治療剤。
- HGF遺伝子と移植細胞を投与することを特徴とする虚血性あるいは糖尿病性の臓器疾患治療方法。
- 移植細胞が心筋細胞である請求項9記載の虚血性あるいは糖尿病性の心臓疾患治療方法。
- 障害心筋部位にHGF遺伝子と心筋細胞を投与することを特徴とする、請求項10記載の心臓疾患治療方法。
- 心筋梗塞による心虚血部位、あるいは心筋症による障害心筋部位に移植心筋細胞とHGF遺伝子を投与することからなる心筋梗塞または心筋症治療方法。
- HGF遺伝子の導入方法として、HVJリポソーム法を使用する、請求項9、10、11あるいは12項記載の治療方法。
- HGF遺伝子として、HVJリポソームHGF遺伝子製剤を使用する、請求項1、2、3または4記載の細胞定着促進剤。
- HGF遺伝子として、HVJリポソームHGF遺伝子製剤を使用する、請求項5、6、7または8項記載の治療剤。
- HGF遺伝子を有効成分とする移植細胞のアポトーシス抑制剤。
- 移植細胞が心筋細胞である、請求項16記載のアポトーシス抑制剤。
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