JP2005095138A - 多分化能を有する細胞の分化誘導方法 - Google Patents

多分化能を有する細胞の分化誘導方法 Download PDF

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孝広 落谷
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Abstract

【課題】多分化能を有する細胞の分化誘導に関与する因子を同定し、該因子の利用法を提供することを課題とする。
【解決手段】cDNAマイクロアレイ技術によって偽処置およびCCl4処置マウス肝臓の間で24時間後に可変の遺伝子を発現分析し、いくつかの増殖因子を選択した。次に、ES細胞の肝細胞分化率に及ぼすマトリクスおよび増殖因子の影響を調べた。その結果、本発明者らは、異なる2つのマトリクス培養皿において、いくつかの増殖因子含有培地での単純な接着単培養によって、EBsを介さずに、ES細胞から肝細胞の分化に成功した。
【選択図】なし

Description

本発明は、多分化能を有する細胞の分化誘導方法に関する。
再生治療に対する関心は増大しつつあり、過去数年のあいだに、骨髄および肝幹様細胞に生体材料を用いることによる肝細胞の形成に関していくつかの研究が行われている(非特許文献1および2参照)。当時本発明者らは、胚性幹(ES)細胞が分化能を有していることを認めていた。クローン化細胞株が、ミソジニック(misogynic)C不活化STO線維芽細胞を含むゼラチン前処置培養皿においてマウス胞胚の内細胞塊によるいくつかの分化活性を有していたことで(非特許文献3、4および5参照)、ES細胞が初めて確立された。ES細胞は、フィーダー細胞層または白血病阻害因子(LIF)の存在下で、その未分化状態を維持する条件では半永久的に増殖する(非特許文献6参照)。ES細胞を浮遊培養において分化させると、胚様体(EBs)と呼ばれる球状の多細胞集合体を形成し、このEBsは多様な細胞集団を含むことが示されている。実際に、ES細胞インビトロ分化系を利用して、ニューロン、心筋および造血細胞の分化プロセスが研究されている(非特許文献7〜10参照)。このように、ES細胞の分化は、臓器内胚葉形成を研究するための有用なモデルとなり、移植医学の新たな可能性を提供する。
最近、この生体材料は、数人のデイジー(daisies)患者の細胞療法における治療で用いられることが示された。例えば、肝細胞転写因子(HNF)-3βをトランスフェクトしたES細胞は、培地中にさらに線維芽細胞増殖因子(FGF-2)を4ヶ月間加えることによって培養したアルブミン誘導細胞と区別された(非特許文献11参照)。さらに、18日間培養してEBsを肝細胞へ分化させ、これをゼラチンコーティング培養皿に播種して、LIFおよび増殖因子を加えずに21〜30日間インキュベートして(非特許文献12および13参照)、EBsからの肝細胞の形成物をI型コラーゲンコーティング培養皿に播種して、増殖因子(酸性線維芽細胞増殖因子(aFGF)、肝細胞増殖因子(HGF)、およびオンコスタチンM(OsM))、デキサメタゾン、およびIST(インスリンとトランスフェリンの混合物)と共に18日間培養した。しかし、ES細胞から肝細胞を形成した全ての例がインビトロでのEBs形成を必要とした。EBsから形成された機能細胞は、奇形腫の形成等のいくつかの問題を有する。また、ES細胞からEBsを形成するには手間がかかる他、一般に分化の割合は低く、それ以外の多くの細胞の分化を起こさせてしまい、肝細胞の純化のステップが必要となる。EBsを介さずにES細胞から細胞分化を試みた研究は少なく、Aubertらの神経細胞分化の誘導が唯一の例である(非特許文献14参照)。
間葉系幹細胞(MSCs)は、ウシ胎児血清(FCS)存在下でプラスチック上に単純にプレーティングすることにより、Friedenstein (1982)によって初めて骨髄から単離された(非特許文献15参照)。骨髄(BM)吸引液から単離したヒトMSCs(hMSCs)は一般的な免疫表現型を共有し、SH2、SH3、CD29、CD44、CD71、CD90、CD106、CD120a、CD124は一律に陽性であるが、CD14、CD34、および白血球共通抗原CD45は陰性である(非特許文献15参照)。さらに、フローサイトメトリー解析により、hMSCsにおけるVCAM-1、LFA-3、およびHLA MHCクラスI分子の発現が示され、この細胞がT細胞と適切な相互作用を起こす能力が示唆された。
hMSCsは多分化能を有し、これまでの論文報告により明らかとなったインビトロの条件下にて培養した場合には、少なくとも3つの系統(骨形成、軟骨形成、および脂肪生成)に分化することが可能である(非特許文献15参照)。これまでに、hMSCsを含む成人BM(CD34陽性細胞画分)から成熟肝細胞を分化する試みが報告されている(非特許文献16〜18参照)。しかし、インビトロでの直接的な分化により、機能的な肝細胞を誘導した例はない。
尚、本出願の発明に関連する先行技術文献情報を以下に示す。
Schwartz RE, Reyer M, Koodie L, Jiang Y, Blackstad M, Lund T, Lenvik T, Johnson S, Hu WS, Verfaillie CM : Multipotent adult progenitor cells from bone marrow differentiate into functional hepatocyte-like cells. J Clin Invest. 109 : 1291-1302, 2002 Suzuki A, Zheng YW, Kaneko S, Onodera M, Fukao K, Nakauchi H, Taniguchi H : Clonal identification and characterization of self-renewing pluripotent stem cells in the developing liver. J Cell Biol. 156 : 173-184. 2002 Evans MJ, Kaufman MH : Establishment in culture of pluripotential cells from mouse embryos. Nature 292:154-156, 1981 Martin GR : Isolation of a pluripotent cell line from early mouse embryos cultured in medium conditioned by teratocarcinoma stem cells. Proc Natal Aced Sic USA. 78 : 7634-7638. 1981 Bradley A, Evans M, Kaufman MH, Robertson E : Formation of germ-line chimaeras from embryo-derived teratocarcinoma cell lines. Nature. 309 : 255-256. 1984 Williams RL, Hilton DJ, Pease S et al : Myeloid leukaemia inhibitory factor maintains the developmental potential of embryonic stem cells. Nature 336: 684-687, 1988 Schmitt RM, Bruyns E, Snodgrass HR : Hematopoietic development of embryonic stem cells in vitro: cytokine and receptor gene expression. Genes Dev. 5: 728-740. 1991 Keller GM : In vitro differentiation of embryonic stem cells. Cur Open Cell Boil. 7 : 862-869. 1995 Sanchez-Carpintero R, Narbona J : Executive system: a conceptual review and its study in children with attention deficit hyperactivity disorder. Rev Neurol. 33 : 47-53, 2001 Bain G, Kitchens D, Yao M, Huettner JE, Gottlieb DI : Embryonic stem cells express neuronal properties in vitro. Dev Boil. 196 : 342-357 : 1995 Ishizaka, S., Shiroi, A., et al. Development of hepatocytes from ES cells after transfection with the HNF-3β gene. FEBS J. 16: 1444-14465, 2002. Abe K, Niwa H, Iwase K, Takiguchi M, Mori M, Abe S, Abe K : Endoderm-specific gene expression in embryonic stem cells differentiated to embryoid bodies. Exp. Cell Res. 229 : 27-34. 1996 Miyashita H, Suzuki A, Fukao K, Nakauchi H Taniguchi : Evidence for hepatocyte differentiation from embryonic stem cells in vitro. Cell Transplantation. 11 : 429-434. 2002 Aubert J, Dunstan H, Chambers I, Smith A : Functional gene screening in embryonic stem cells implicates Wnt antagonism in neural differentiation. 20 :1240-1245. 2002 Pittenger F. M. et al. Science 284, 143-147 (1999) Camper S. A. & Tilghman S. M. Biotechnology 16, 81-87 (1991). Nahon J. L. Biochimie. 69, 445-459 (1987). Medvinsky A. & Smith A. Nature 422, 823-825 (2003).
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、多分化能を有する細胞の分化誘導に関与する因子を同定し、該因子を利用した効率のよい細胞の分化誘導法を提供することにある。
ES細胞は、成体動物の如何なる細胞タイプにも分化することができる。最近、ES細胞が肝細胞に分化することが判明した。しかし、その基礎となるメカニズムはよくわかっていない。本発明者らは、既に、ES細胞およびCCl4処置マウス系を用いて成熟肝細胞が形成されることを見出している(Yamamoto H, et al., Hepatology. 37 : 983-993. 2003)。本発明において、cDNAマイクロアレイ技術によって偽処置およびCCl4処置マウス肝臓の間で24時間後に発現が変化する遺伝子を分析し、いくつかの増殖因子を選択した。次に、ES細胞の肝細胞分化率に及ぼすマトリクスおよび増殖因子の影響を調べた。その結果、異なる2つのマトリクス培養皿において、いくつかの増殖因子含有培地での単純な接着単培養(adherent monoculture)によって、EBsを介さずに、マウスES細胞から肝細胞の分化に成功した。マウスES細胞由来分化細胞における肝臓の主要遺伝子の発現、ならびに肝特異的代謝活性を調べた結果、ES細胞由来分化細胞は肝細胞特有の特徴を有することが判明した。さらに、カニクイザルES細胞から肝細胞の分化に成功した。これらの結果は、ES細胞が機能的肝細胞に分化する際に、EBsの介在も同時培養系も必要ではないことを示唆している。さらに、本発明者らはES由来肝細胞の移植は肝硬変に対して治療的効果を示すことを見出した。
さらに、上記分化誘導方法を利用して、ヒト由来間葉系幹細胞を用いた成熟肝細胞への分化誘導を行なった。現在までに肝細胞へと分化誘導を行ったと論文報告されている骨髄細胞由来間葉系幹細胞の多くは、ラットやマウスの細胞や個体を用いた研究が中心的で、ヒト由来からの分化誘導を行った例は少ない。その数少ないヒト由来間葉系幹細胞を用いた報告例は、未分化マーカーの一つとして知られているCD34陽性画分を使用している。一方、今回本発明者らが用いた細胞はCD34が陰性であり、これまでに脱メチル化剤などを用いて心筋、骨格筋、骨、神経細胞や上皮細胞への分化誘導は確認されているが、肝細胞への分化誘導に関する報告例は無かった。しかしながら、本分化誘導システムを用いた結果より、CD34陰性画分にも肝細胞へと分化する能力を有している事が明らかとなった。また、本発明の方法により分化した細胞は、肝臓の主要遺伝子の発現が確認され、ヒト由来間葉系幹細胞由来分化細胞は肝細胞特有の特徴を有することが判明した。さらに、分化誘導の有無に関わらず、染色体異常を起こさないことも判明した。
このように本発明は、細胞の移植および組織の操作のような新しい治療戦略にとって新しい肝細胞源となる証拠を提供する。
即ち、本発明は、以下の〔1〕〜〔21〕を提供するものである。
〔1〕以下の(a)および(b)の工程を含む、多分化能を有する細胞の分化誘導方法。
(a)多分化能を有する細胞を以下の(i)〜(iii)のいずれかに記載の増殖因子を含む培地で培養する工程
(i)酸性線維芽細胞増殖因子、線維芽細胞増殖因子4および肝細胞増殖因子
(ii)アクチビンA、上皮細胞増殖因子およびβ-神経生長因子から選択される増殖因子および酸性線維芽細胞増殖因子
(iii)アクチビンAおよび肝細胞増殖因子から選択される増殖因子および線維芽細胞増殖因子4
(b)工程(a)で培養された細胞をオンコスタチンMを含む培地で培養する工程
〔2〕工程(a)でゼラチンコーティング培養皿を用い、工程(b)でI型コラーゲンコーティング培養皿またはラミニンコーティング培養皿を用いる、〔1〕に記載の方法。
〔3〕I型コラーゲンコート培養皿を用いる、〔1〕に記載の方法。
〔4〕以下の(a)および(b)の工程を含む、多分化能を有する細胞の分化誘導方法。
(a)多分化能を有する細胞をレチノイン酸、白血病阻害因子および肝細胞増殖因子から選択される少なくとも一つの増殖因子を含む培地で培養する工程
(b)工程(a)で培養された細胞を以下の(i)〜(iii)のいずれかに記載の増殖因子を含む培地で培養する工程
(i)酸性線維芽細胞増殖因子、線維芽細胞増殖因子4および肝細胞増殖因子
(ii)アクチビンA、上皮細胞増殖因子およびβ-神経生長因子から選択される増殖因子および酸性線維芽細胞増殖因子
(iii)アクチビンAおよび肝細胞増殖因子から選択される増殖因子および線維芽細胞増殖因子4
〔5〕工程(a)および(b)でゼラチンコーティング培養皿を用いる、〔3〕に記載の方法。
〔6〕以下の(a)〜(c)の工程を含む、多分化能を有する細胞の分化誘導方法。
(a)多分化能を有する細胞をレチノイン酸、白血病阻害因子および肝細胞増殖因子から選択される少なくとも一つの増殖因子を含む培地で培養する工程
(b)工程(a)で培養された細胞を以下の(i)〜(iii)のいずれかに記載の増殖因子を含む培地で培養する工程
(i)酸性線維芽細胞増殖因子、線維芽細胞増殖因子4および肝細胞増殖因子
(ii)アクチビンA、上皮細胞増殖因子およびβ-神経生長因子から選択される増殖因子および酸性線維芽細胞増殖因子
(iii)アクチビンAおよび肝細胞増殖因子から選択される増殖因子および線維芽細胞増殖因子4
(c)工程(b)で培養された細胞をオンコスタチンMを含む培地で培養する工程
〔7〕工程(a)および(b)でゼラチンコーティング培養皿を用い、工程(c)でI型コラーゲンコーティング培養皿またはラミニンコーティング培養皿を用いる、〔5〕に記載の方法。
〔8〕多分化能を有する細胞が哺乳動物由来である、〔1〕〜〔7〕のいずれかに記載の方法。
〔9〕哺乳動物が、ヒト、サル、マウス、ラット、またはブタである、〔8〕に記載の方法。
〔10〕多分化能を有する細胞が、胚性幹細胞、成人幹細胞、間葉系幹細胞、または臍帯血細胞である、〔1〕〜〔9〕のいずれかに記載の方法。
〔11〕〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載の(a)および(b)の工程、または〔6〕もしくは〔7〕に記載の(a)〜(c)の工程を含む、肝細胞の製造方法。
〔12〕肝細胞が成熟肝細胞である、〔11〕に記載の方法。
〔13〕多分化能を有する細胞が哺乳動物由来である、〔11〕または〔12〕に記載の方法。
〔14〕哺乳動物が、ヒト、サル、マウス、ラット、またはブタである、〔13〕に記載の方法。
〔15〕多分化能を有する細胞が、胚性幹細胞、成人幹細胞、間葉系幹細胞、または臍帯血細胞である、〔11〕〜〔14〕のいずれかに記載の方法。
〔16〕〔11〕〜〔15〕のいずれかに記載の方法により製造された肝細胞。
〔17〕〔16〕に記載の肝細胞を含む、肝疾患の治療剤。
〔18〕肝疾患が、肝硬変、劇症肝炎、胆道閉鎖症、肝癌、または肝炎である、〔17〕に記載の治療剤。
〔19〕以下の(a)〜(c)のいずれかを含むキット。
(a)酸性線維芽細胞増殖因子、線維芽細胞増殖因子4および肝細胞増殖因子
(b)アクチビンA、上皮細胞増殖因子およびβ-神経生長因子から選択される増殖因子および酸性線維芽細胞増殖因子
(c)アクチビンAおよび肝細胞増殖因子から選択される増殖因子および線維芽細胞増殖因子4
〔20〕さらに、オンコスタチンMを含む、〔19〕に記載のキット。
〔21〕さらに、レチノイン酸、白血病阻害因子および肝細胞増殖因子から選択される少なくとも一つの増殖因子を含む、〔20〕に記載のキット。
本発明によって、多分化能を有する細胞をより効率的に分化誘導できるようになった。特に、本発明には、EBsを介さずにES細胞を分化誘導できるという利点がある。
本発明者らの開発(発見)した細胞増殖因子の組み合わせは、ES細胞だけに留まらず、骨髄細胞由来間葉系幹細胞にも適用可能で有ることが確認された初めての例である。また、本発明者らが開発したHIFC(Hepatic Induction Factor Cocktail)分化誘導系は分化誘導効率も高く、また工業的に生産が可能である既知物質のみを用いており、さらにインビトロの系だけで成熟肝細胞へと分化誘導が可能であるため、未知ウィルスの感染予防や拒絶反応の問題、分化誘導後に体内に戻す事から、分化誘導に伴う宿主細胞との融合の懸念などが解消し、ヒトへの臨床応用化を目指した、非常に重要な技術である。
また、本発明のキットは、肝疾患の治療剤として利用可能な肝細胞の製造に利用できるだけでなく、多分化能を有する細胞の分化誘導の研究試薬としても利用できる。
本発明は、多分化能を有する細胞の分化誘導方法を提供する。本発明の方法を使用することで、人為的に疾患を誘発した動物個体の組織再生能力(マウス個体等)を用いることなくin vitroにおいて多分化能を有する細胞を分化誘導することが可能である。従来の方法では(Yamamoto H et. al., Hepatology 2003)、人為的に疾患を誘発した動物個体の組織再生能力を用いるため、動物愛護等を含む倫理的問題や未知の病原菌感染の可能性などの問題点があった。しかし、今回本発明者らが開発した分化誘導法は全工程が動物個体を用いること無く、無菌的かつ分化誘導の際に必要な材料は全て由来が明確である為、上述の問題点が無い。
さらに、本発明の方法を使用することで、胚様体(EBs)を介さずにES細胞を分化誘導できる。EBsを介した細胞分化法では、種々の分化が一挙に起こるため、内胚様性の分化集団は少なく、また肝細胞の分化に至っては更にその中の一部の細胞に限られることとなり、高い肝細胞誘導効率は望めない。本発明の方法によって、ES細胞から飛躍的に効率良く肝細胞を得ることができる。なお、EBsとは、「ES細胞由来かつ前記した現象および性質を有している細胞集塊」を指す。マウス線維芽細胞やLIF添加培地上にて培養した多分化能を維持しているES細胞を培養皿より回収し、マウス線維芽細胞やLIFを除き、さらにマトリクスコーティングしていない培養皿にて培養すると、ES細胞は培養液中に浮遊した状態で塊(細胞集塊)を形成し、細胞集塊内部では自発的かつ不規則に多様な細胞分化(三胚葉系に)が開始される。
本発明の方法は、多分化能を有する細胞を、以下の(i)〜(iii)のいずれかに記載の増殖因子を含む培地で培養する(工程(a))。
(i)酸性線維芽細胞増殖因子(aFGF)、線維芽細胞増殖因子4(FGF4)および肝細胞増殖因子(HGF)
(ii)アクチビンA、上皮細胞増殖因子(EGF)およびβ-神経生長因子(βNGF)から選択される増殖因子およびaFGF
(iii)アクチビンAおよびHGFから選択される増殖因子およびFGF4
本発明においては、(i)に記載の増殖因子を用いることで、より効率的に多分化能を有する細胞を分化誘導できる。なお、酸性線維芽細胞増殖因子(aFGF)は、線維芽細胞増殖因子1(FGF1)と称されることもある。
本発明において、多分化能を有する細胞としては、例えば胚性幹細胞(ES細胞)、成人幹細胞、間葉系幹細胞、または臍帯血細胞が挙げられるが、種々の種類の細胞に分化する能力を有している細胞であれば、本発明の多分化能を有する細胞に含まれる。
また、本発明の多分化能を有する細胞が由来する生物種としては、好ましくは哺乳動物、より好ましくは霊長類、げっ歯類、偶蹄類であり、例えばヒト、サル、マウス、ラット、またはブタが挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、細胞が由来する生物種と増殖因子が由来する生物種が異なっていても、多分化能を有する細胞を分化誘導させることが可能である。例えば、カニクイザルES細胞でも、マウスES細胞でも、ヒト由来の増殖因子を使用することで分化誘導可能である。
本発明の方法は、次いで、工程(a)で培養された細胞を、オンコスタチンMを含む培地で培養する(工程(b))。
工程(a)の前に、多分化能を有する細胞をレチノイン酸(RA)、白血病阻害因子(LIF)、およびHGFから選択される少なくとも一つの増殖因子を含む培地で前培養してもよい。この前培養工程を実施することで、多分化能を有する細胞を、より効率的に分化誘導できる。前培養工程では、RAに加えてLIFおよび/またはHGFを含む培地で培養することで、多分化能を有する細胞をより効率的に分化誘導できる。また、多分化能を有する細胞としてヒト由来の細胞を用いる場合は、前培養を行なくとも、より効率的に分化誘導できる。
本発明における細胞培養法は、マトリクスコーティングが異なる培養皿、またはマトリクスコーティングの有無が異なる培養皿を用いた二次元培養法、マトリジェル等のソフトゲルやコラーゲンスポンジ等を用いた三次元培養法、またはそれらを併用する方法が挙げられるが、好ましくは、マトリクスコーティングが異なる培養皿、またはマトリクスコーティングの有無が異なる培養皿を用いた二次元培養法であり、より好ましくは、前培養および工程(a)でゼラチンコーティング培養皿を用い、工程(b)でI型コラーゲンコーティング培養皿またはラミニンコーティング培養皿を用いる二次元培養法である。また、多分化能を有する細胞として、ヒト由来の細胞を用いる場合は、I型コラーゲンコーティング培養皿を用いるのが好ましい。
また、本発明の実施例において、工程(a)、(b)、前培養工程のより詳細な培養条件が開示されているが、本発明の方法の培養条件はこれら特定の条件に限定されるものではなく、一般的に許容される条件を取りうる。例えば、分化誘導開始時の細胞数としては、5.0 x 103〜5.0 x 106細胞 / 培養皿の範囲を例示できる。また、分化誘導期間としては、例えば、工程(a)では2〜10日間(好ましくは5日間)、工程(b)では1〜4日間(好ましくは2日間)、前培養工程では2〜5日間(好ましくは3日間)である。また、ヒト間葉系細胞の場合、分化誘導期間としては、12〜21日間(好ましくは14日間)である。
また、本発明における増殖因子としては、例えば、RA (all-trans-Retinoic Acid : 和光純薬株式会社)、LIF (ESGROTM (107 units) : フナコシ株式会社)、HGF (Human HGF : 株式会社ベリタス)、aFGF (Human FGF-acidic : 株式会社ベリタス)、FGF4 (Human FGF-4 : 株式会社ベリタス)、および、OsM (Human Oncostatin M : 株式会社ベリタス)を用いることができるが、これらに限定されるものではない。
また、本発明においては、前培養工程および工程(a)を実施することによっても細胞を分化誘導できる。その場合、前培養工程においてRAに加えてLIFおよび/またはHGFを含む培地で細胞を培養することが好ましいが、それ以外の培地、例えばLIFのみ、HGFのみ、またはLIFおよびHGFを含む培地で培養しても、細胞を分化誘導可能である。さらに、前培養工程においてHGFのみを含む培地で細胞を培養し、直接工程(b)に移行した場合も、細胞を分化誘導できる。本発明においてはこれらの方法もまた提供する。
本発明においては、上記分化誘導方法によって、肝細胞、特に成熟肝細胞を製造できる。ES細胞から最終分化細胞が得られることは、肝細胞の発生分化研究領域において、その分化途中経緯を研究・解明するのに非常に有効である。また、成熟肝細胞は細胞移植治療を前提とした目的で利用できる可能性がある。さらに、未成熟肝細胞はまだ分化途中段階にあるため異分化・異常増殖(癌化など)の潜在的可能性が成熟肝細胞よりも高いことが示唆され、この点からも、成熟肝細胞を獲得することによる利点は大きい。
分化細胞が肝細胞であることは、肝細胞マーカー、または肝細胞の機能を指標に確認できる。また、肝細胞の機能としては、例えば、グルコース産生能及びアンモニア代謝能等が挙げられる。グルコース生産能は、グルコースオキシダーゼ法によって培養上清中のグルコースレベルを分析することで確認できる。アンモニア代謝能は、改変インドフェノール法(Horn DB & Squire CR, Chim. Acta. 14: 185-194. 1966)によって、培養培地中のアンモニアレベルを分析することで確認できる。
また、本発明は、上記工程により製造された肝細胞を提供する。このような肝細胞を用いることで、肝疾患の治療ができる。例えば、該肝細胞を直接的に肝門脈を通して移植する方法やコラーゲン、ポリウレタン、その他公知の生体親和性材料に包埋した形で移植する方法により、肝疾患を治療できる。このように、本発明は上記工程により製造された肝細胞の用途もまた提供する。より具体的には、肝細胞を含む肝疾患の治療剤を提供する。また、該肝細胞を用いた肝疾患の治療方法を提供する。本発明の肝疾患としては、肝硬変、劇症肝炎、胆道閉鎖症、肝癌、肝炎(例えばウイルス性肝炎またはアルコール性肝炎)が挙げられるが、これらに限定されるものでない。
また、本発明は、(i)aFGF、FGF4およびHGF、(ii)アクチビンA、EGFおよびβNGFから選択される増殖因子およびaFGF、または、(iii)アクチビンAおよびHGFから選択される増殖因子およびFGF4を含むキットを提供する。さらに本発明は、(i)〜(iii)のいずれかの因子とOsMを含むキット、(i)〜(iii)のいずれかの因子とOsM、LIFおよびRAを含むキット、(i)〜(iii)のいずれかの因子とOsM、HGFおよびRAを含むキット、(i)〜(iii)のいずれかの因子とOsM、LIF、HGFおよびRAを含むキット、(i)〜(iii)のいずれかの因子とOsMおよびRAを含むキット、(i)〜(iii)のいずれかの因子とOsMおよびLIFを含むキット、(i)〜(iii)のいずれかの因子とOsMおよびHGFを含むキット、または(i)〜(iii)のいずれかの因子とOsM、LIFおよびHGFを含むキットも提供する。
これらキットは、本発明の方法に使用できる有用なキットである。また、本発明のキットは肝疾患の治療剤として利用可能な肝細胞の製造に利用できるだけでなく、多分化能を有する細胞の分化誘導の研究試薬としても利用できる。例えば、本発明の方法の各工程で使用する分化誘導因子を混合した物を、各々水溶性カプセルに包埋し、培養液量に比例した量のカプセルを添加する。キット使用者の研究目的に応じて、培養液中における分化誘導因子濃度を、混合カプセルの添加量にて調節することが、また必要細胞数により分化誘導培養液量を変化させることが、さらに各工程に対応した分化誘導因子混合カプセルを準備することにより、各工程における継続および停止が可能である。またマトリクスコーティングの異なる培養皿(非マトリクスコーティングも含む)を用いた二次元培養、マトリジェル等のソフトゲルやコラーゲンスポンジ等を用いた三次元培養を可能とする培養条件と併用することにより、平面的または立体的に多分化能を有する細胞の分化誘導状況(細胞形態・組織の再構築・遺伝子およびタンパク質の発現変化等)が時間に拘束されることなく自由にかつリアルタイムに観察および実験に用いることができる。本分化誘導システムのキット化は、現在市販されている商品を組み合わせることで可能である。以上のことから本分化誘導システムは産業上利用可能であり、研究試薬としてキット化することは有益である。
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に制限されるものではない。
(1) cDNAマイクロアレイによる偽処置およびCCl4処置マウスの遺伝子発現分析
129SVJ系のマウスにCCl4のオリーブ油液を処置し、一方、対照(偽)マウスにはオリーブ油のみを処置した。24時間後、肝臓からRNAを抽出し、cDNAクローン12,488個を含むDNAチップ上でマイクロアレイ分析を行った。アレイをアフィメトリクスジーンチップスキャナによって走査して、Microsoft Excelを用いて一次画像の分析を行った。
(2) ES細胞の培養
ES細胞株ESJ1(129SVJ系)は、ゼラチンコーティング培養皿(イワキ、東京、日本)において、20%ウシ胎仔血清、非必須アミノ酸5ml、100×ヌクレオシド保存液(アデノシン4mg、グアノシン4.25mg、シチジン3.65g、ウリジン3.65mg、チミジン1.2mg)5ml、抗生物質-抗菌物質溶液(ギブコBRL、フナコシ、東京、日本)5ml、β-メルカプトエタノール3.5μl、1000単位/ml組み換え型マウス白血病阻害因子(LIF)(エスグロ、フナコシ、東京、日本)および175μg/ml G418を含む400mlダルベッコ改変イーグル培地において5%CO2インキュベータ内で未分化で維持した。肝細胞におけるEGFPトランスジーンの発現を促進するために、アルブミンプロモータ−/エンハンサープラスミドを構築し、pALB-EGFPと命名した(Quinn G, et al., Res. Commun. 276 : 1089-1099. 2000)。アルブミンの発現は、GFP蛍光活性によって評価した。HepG2細胞(肝芽腫)のプロモーターに認められる強いシグナルは、pALB-EGFP(強化緑色蛍光蛋白質)構築物がES細胞の肝分化の指標として作用することを示す。G418抵抗性pALB-EGFP/ES細胞を調製して、文献に記述されているように培養した(Quinn G, et al., Res. Commun. 276 : 1089-1099. 2000)。該細胞は肝細胞のようなアルブミン産生細胞に分化した場合に、GFP発現細胞として検出可能である。該細胞を用いることによりフローサイトメトリーによるソーティング、またGFP量の測定による分化細胞の定量も行うことができる。
(3) インビトロES細胞の分化
分化を誘導するために、ES細胞5.0×105個を、ゼラチンコーティングした培養皿でLIFおよび1.0×10-8Mオールトランスレチノイン酸(RA)(ワコウ、東京、日本)と共に37℃で3日間培養した。次に、予め培養したES細胞5.0×104個をゼラチンコーティングした培養皿に播種して37℃で5日間インキュベートした後、剥離した細胞の一部をコーティング培養皿に移して、さらにOsM(Human Oncostatin M、ベリタス、東京、日本)と共に37℃で2日間培養した(図1)。培地は毎日交換した。実験によっては、増殖因子(100ng/ml 酸性線維芽細胞増殖因子(aFGF)、20ng/ml塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)、50ng/ml 肝細胞増殖因子(HGF)、20ng/ml線維芽細胞増殖因子-4(FGF4)、10ng/ml OsM、100ng/mlβ-神経生長因子(βNGF)、100ng/ml上皮細胞増殖因子(EGF)、および2ng/mlアクチビンA(ベリタス、東京、日本))を培養培地に加えた。
(4) アルカリホスファターゼ活性の分析
RA処置ES細胞を4%パラホルムアルデヒドにおいて10分間固定して、その後100%EtOHで10分間固定した。H2Oによって30分間洗浄した。アルカリホスファターゼ活性は、説明書に従って、ベクターレッドアルカリホスファターゼ基質キットI(フナコシ、東京、日本)によって検出した。
(5) RT-PCR分析
総RNAを、ISOGEN(ニッポンジーン、東京、日本)を用いて抽出した。一本鎖cDNAは、総RNA2μg、オリゴ(dT)18プライマー0.5μl、dNTPs10pmol、RAV-2 RTアーゼ5単位、および一本鎖合成緩衝液(タカラ、京都、日本)を含む全量20μlにおいて合成した。合成は、36℃で10分間、42℃で1時間、56℃で10分間、および99℃で5分間行った。また、以下のプライマーを合成した(オリゴヌクレオチド配列は、センス、アンチセンスプライマーの順に括弧内に記載し、その後にアニーリング温度、PCRに用いたサイクル、および増幅した断片の長さを示す):アルブミン(ALB)(5-GCTACGGCACAGTGCTTG-3(配列番号:1)、5-CAGGATTGCAGACAGATAGTC-3(配列番号:2);60℃;50サイクル;260bp)、トリプトファン2,3-ジオキシゲナーゼ(TO)(5-TGCGCAAGAACTTCAGAGTGA-3(配列番号:3)、5-AGCAACAGCTCATTGTAGTCT-3(配列番号:4);56℃;50サイクル;419bp)、トランチレチン(tranthyretin)(TTR)(5-CTCACCACAGATGAGAAG-3(配列番号:5)、5-GGCTGAGTCTCTCAATTC-3(配列番号:6);55℃;50サイクル;225bp)、チロシンアミノトランスフェラーゼ(TAT)(5-ACCTTCAATCCCATCCGA-3(配列番号:7);5-TCCCGACTGGAT AGGTAG-3(配列番号:8)、50℃;50サイクル;260bp)、α-フェトプロテイン(AFP)(5-TCGTATTCCAACAGGAGG-3(配列番号:9)、5-AGGCTTTTGCTTCACCAG-3(配列番号:10);55℃、25サイクル;173bp)、グルコース-6-ホスファターゼ(G6P)(5-TGATTGCTGACCTGAGGAAC-3(配列番号:11)、5-CAAACACCGGAATCCATACG-3(配列番号:12);62℃;50サイクル;352bp)、サイトケラチン18(CK18)(5-TGGTACTCTCCTCAATCTGCTG-3(配列番号:13)、5-CTCTGGATTGACTGTGGAAGTG-3(配列番号:14);60℃;50サイクル;382bp)、およびβ-アクチン(5-AGAGCAAGAGAGGTATCCTG-3(配列番号:15)、5-AGAGCATAGCCCTCGTAGAT-3(配列番号:16);55℃;25サイクル;339bp)。増幅は、鋳型cDNA4μl、100μM dNTPs、プライマー10pmol、Ex-Taq 1.0単位およびEx-Taq緩衝液(タカラ、京都、日本)を含む全量50μlにおいて行った。PCR後、少量を3.0%アガロースゲル上で泳動させて、エチジウムブロマイド(EtBr)によって染色した後、UV照射下で写真を撮影した。
(6) ES由来肝細胞の生化学的分析
培養上清中のグルコースレベルを調べるために、グルコースオキシダーゼ法を用いて、培養したGFP陽性細胞分画を分析した(Sistare FD, et al., J. Biol. Chem. 260: 12748-12753. 1985)。アンモニアの解毒に関する細胞活性を調べるため、GFP陽性細胞分画を、2.5mM NH4Clを含むDMEMにおいて培養して、さらに24時間インキュベートした。改変インドフェノール法(Horn DB & Squire CR, Chim. Acta. 14: 185-194. 1966)によって、培養培地のNH4Cl濃度を培養開始後0、6、12、18、および24時間後に調べた。
[実施例1] cDNAマイクロアレイの分析
本発明者らは、CCl4処置および偽処置のマウス肝臓において発現が異なる増殖因子の遺伝子を分析するためにcDNAマイクロアレイを用いた(表1)。
遺伝子はGenBank(寄託番号)に従って記載し、倍数における波線(〜)は、CCl4処置マウス肝臓における新しい発現遺伝子を示している。値の遺伝子発現が何倍であるかはアナライザソフトウェアによって測定した。
新しく発現した増殖因子遺伝子はCCl4処置マウス肝臓において10種類であった(線維芽細胞増殖因子-3(FGF-3)、線維芽細胞増殖因子-5(FGF-5)、線維芽細胞増殖因子-8(FGF-8)、線維芽細胞増殖因子-10(FGF-10)、線維芽細胞増殖因子-13(FGF-13)、線維芽細胞増殖因子-18(FGF-18)、HGF、βNGF、インスリン様増殖因子2(IGF-2)およびトランスフォーミング増殖因子α(TGFα)。5種類の増殖因子の発現は、CCl4処置の肝臓において約1.8〜5.2倍増加した(FGF4:2.4倍、肝腫由来増殖因子(HDGF):2.2倍、インスリン様増殖因子1(IGF-1):5.2倍、肥満細胞増殖因子(MCGF):2.1倍および線維芽細胞増殖因子-1(FGF-1):1.8倍)。これらのデータは、いくつかの増殖因子が肝臓の再生に必要であることを示唆した。
[実施例2] レチノイン酸の影響
本発明者らは、単一の増殖因子、LIFとRAによるES細胞における分化の影響を検討した(図2A)。ES細胞の分化前の増殖因子を加える前の段階では、GFP陽性細胞は検出されなかった。LIFおよびRA添加培地を用いたGFP陽性細胞の誘導における効率的な培地条件および培養期間は3日間であった(n=2)。例えば、HGF、LIF、およびRA含有培地におけるGFP陽性細胞率は、4.11%から9.72%に変化した。これらの結果は、RA処置ES細胞が、EGFPの発現およびアルカリホスファターゼの染色によって、正常なES細胞としていくつかの分化能を保持していることを明らかに示している(データは示していない)。RAの作用に関して、LIFを添加した培地において培養したES細胞は、LIFを添加しない培地より効率的に分化誘導された。
[実施例3] ES細胞の分化における増殖因子の影響
本発明者らは、ES細胞からの分化誘導に及ぼす増殖因子の影響を調べるためにEGFPの発現を5日間調べた(図2B〜E)。OsM単独またはOsMといくつかの増殖因子の組み合わせの場合、FGF4混合培地がなければGFP陽性細胞の形成が初期段階から阻害された。同様に、aFGFはbFGFによる肝細胞の増殖を阻害し、FGF4ならびにbFGF、EGF、およびβNGF混合物の組み合わせではGFP陽性細胞が検出されなかった。GFP陽性細胞の誘導は、aFGF、FGF4、およびHGF混合培地において3日以内に検出され、陽性率は28.72±5.81%(n=5)であった。また、アクチビンAおよびaFGF混合培地、EGFおよびaFGF混合培地、βNGFおよびaFGF混合培地、アクチビンAおよびFGF4混合培地、または、HGFおよびFGF4混合培地においても、それぞれの因子を単独で含む培地で培養したときより、GFP細胞陽性率が高かった。一方、GFP陽性細胞は、増殖因子培地で培養しなかった対照の培養皿では検出されなかった(データは示していない)。
これまでES細胞からの分化誘導法は、まず最初にEBsを形成させ、三胚葉系に分化させることにより様々な細胞へと分化する能力を獲得すると考えられてきた。しかし、本実施例の結果から、多分化能はEBs形成により獲得されるのでは無くES細胞が元来保有している能力であることが示唆され、また分化誘導効率はEBsを介した場合(Miyashita H, Suzuki A, Fukao K, Nakauchi H, Taniguchi H : Evidence for hepatocyte differentiation from embryonic stem cells in vitro. Cell Transplantation 11: 429-434. 2002)よりも約4〜8倍以上高いことが確認された。
以上より、培養液中に上記増殖因子を添加することにより、自発的かつ不規則に分化するEBsを介することなく、多分化能を有したES細胞をGFP陽性細胞へと約1/3の効率で分化誘導することが可能であることが示唆された。さらに、ES細胞を人為的操作により、直接分化および誘導できることが示唆された。
[実施例4] ES細胞の分化におけるマトリクスの影響
ES細胞の分化に対する培養皿のマトリクスの影響を検討するため(8日目)、本発明者らは、5種類のマトリクスコーティング培養皿におけるGFP陽性細胞の計数を行った(図3および4)。実験はRAおよびLIFを含有したゼラチンコーティング培養皿で3日間前培養を行い、次にHGF、aFGFおよびFGF4を含有したゼラチンコーティング培養皿で5日間培養後、その分化誘導細胞をOsMを含有した各コーティング培養皿で培養して行なった。その結果、GFP陽性細胞率は以下の通りであった:ゼラチン、2.26±0.36%;ラミニン(10μg/ml)、24.1±4.97%;フィブロネクチン(6μg/ml)、6.5±1.57%;およびビトロネクチン(1μg/ml)、0.9±0.47%。GFP陽性細胞はI型コラーゲンコーティング皿において、38.4%(34.17±4.91%)の最も発生率の高い分化したES細胞を含んだ(n=5)。ラミニンおよびI型コラーゲンコーティング皿におけるES細胞の分化において、OsMによりGFPが強く発現した。しかし、その他のコーティング皿では、GFP陽性細胞率は減少した。同様に、第一段階でI型コラーゲンコーティング皿を用いると、GFP陽性細胞率は減少して、GFP陰性細胞の増殖活性は、GFP陽性細胞の分化と比較して最も速かった(データは示していない)。このデータは、ES細胞からの分化においてマトリクスの役割が重要であることを示している。
[実施例5] GFP陽性細胞型の分析
位相差顕微鏡によってGFP陽性細胞分画を調べた(図5)。GFP陽性点は、分化細胞と同一であり、GFP陽性の位置は、成熟肝細胞マーカーであるALBの産生によって示された。しかし、得られた結果は、肝細胞型とは対照的であった。
[実施例6] GFP陽性細胞分画における肝遺伝子発現と機能の分析
肝臓の分化レベルを評価するために、本発明者らは、GFP陽性細胞分画の肝特異的遺伝子のmRNA発現を調べた(図6A)。ALB、TO、TTR、TAT、CK18、およびG6Pを含む成熟肝細胞のマーカーは、培養7日目に陽性であった。未成熟肝細胞の特異的マーカーであるAFPは検出されなかった。一方、培養5日目のHGF、aFGF、およびFGF4含有培地のGFP陽性細胞分画は、TAT、G6P、およびCK18を検出しなかった。さらに、ALBおよびTOの検出は低く、AFPは検出されなかった。偽処置のES細胞は、これらの肝細胞マーカー遺伝子を発現しなかった。これらの結果は、GFP陽性細胞が成熟肝細胞の特徴を有することを示唆している。成熟肝細胞は実質肝細胞における終末分化細胞であり、ES細胞から最終分化細胞が得られることは、肝細胞の発生分化研究領域において、その分化途中経緯を研究・解明するのに非常に有効である。また、成熟肝細胞は細胞移植治療を前提とした目的で利用できうる可能性が、肝疾患モデルマウスを用いたインビボ実験より確認されている(Yamamoto H, et al., Hepatology, 37: 983-993, 2003、Teratani T, et al., 2003. submission)。さらに、未成熟肝細胞はまだ分化途中段階にあるため異分化・異常増殖(癌化など)の潜在的可能性が成熟肝細胞よりも高いことが示唆され、この点からも、成熟肝細胞を獲得することによる利点は大きい。
GFP陽性細胞分画が肝細胞特異的機能を有するか否かをさらに解明するために、本発明者らは生化学分析を行った(n=2)。その結果、GFP陽性細胞分画がグルコース産生能を示しうること(図6B)、そして培養培地からアンモニアを消失させることが判明した(図6C)。これらの結果は、ES細胞から分化した肝細胞が、代謝活性を含む肝細胞特徴を保持しながらかなりの期間、インビトロで増殖しうることを示している。
[実施例7] 本発明によって誘導されたES細胞由来の肝細胞の移植による肝硬変モデルマウスの治療
ジメチルニトロソアミン(DMN)を雌マウス(週齢8週、129SV系統)の腹腔内に週3回連続投与し、これを4週連続で行なうことで、人為的に肝硬変を誘発した。DMNは、マウス体重1kgあたり1mlの生理食塩水に、1%相当量投与した。肝硬変誘発の有無は、組織切片(肝臓)の検鏡により繊維化の存在と血清中のGOTおよびGPT測定を行い得られた数値結果より確認した。DMN投与終了後の4週目に1.0 x 106個/マウス, i.v.の本分化誘導系を用いて作成したGFP陽性細胞(マウスES細胞由来肝細胞)を尾静脈から注入した。コントロール群には生食を投与し、各群はマウス8匹により行った。移植24時間後、肝臓切片を蛍光顕微鏡にて観察した結果、GFP-陽性細胞である肝細胞は、すでに肝臓の肝硬変部位近くに生着していることが示された(図7)。
また、生存率においても、GFP陽性細胞投与群と非投与群を比較した結果、極めて明瞭な差異が認められ、非投与群ではDMN投与4週後に全て致死であったのに対し、GFP陽性細胞投与群では75%が生存し、GFP陽性細胞投与群で有意に延命効果があることが確認された(図8)。
さらに、血中のフィブリノーゲン量およびアルブミン量の変動について調べたところ、移植後2週間で、フィブリノーゲン量およびアルブミン量ともに正常値近くまで回復していることが判明した(図9および10)。
また、DMN処理のマウスに対照のPBSを投与して3週間後の肝細胞を観察した結果、顕著な肝細胞の細胞死と線維化が確認できたが、同じくDMN処理のマウスに、GFP-陽性の肝細胞を移植して3週間後の肝細胞の組織染色像では、線維化の顕著な改善が認められた(図11)。
これらの結果は、本発明によって誘導されたES細胞由来の肝細胞を移植することで肝硬変を治療できることを示唆している。
[実施例8] カニクイザルES細胞から分化誘導された肝細胞の肝遺伝子発現と機能の分析
本発明者らは、マウスES細胞から得た知見を基に、霊長類であるカニクイザル(CM)ES細胞を用いた肝細胞への分化誘導を試みた。CMES細胞を、ゼラチンコーティング培養皿(イワキ)において、20%ウシ胎仔血清、非必須アミノ酸5ml、ヌクレオシド保存液5ml、β-メルカプトエタノール3.5μl、1000単位/ml LIFおよび50μg/ml G418を含む400mlダルベッコ改変イーグル培地において培養し、pALB-EGFPをエレクトロポレーション法により導入し、G418抵抗性pALB-EGFP/CMES細胞を調製した。得られたpALB-EGFP/CMES細胞はアルカリフォスファターゼ活性(図12A)および胚様体形成能を有していること(図12B)から、未分可能を保持していることが示された。
次に、マウスES細胞で確立した本発明のインビトロ分化誘導系を適用して、CMES細胞を肝細胞に分化誘導させた。具体的には上記条件で調整したpALB-EGFP/CMES細胞5.0×105個を、ゼラチンコーティングした培養皿で1000 単位/ml LIFおよび1.0×10-8M RAと共に37℃で3日間培養した。次に、予め培養したES細胞をゼラチンコーティングした培養皿に播種してHGF 50 ng/ml, FGF4 20 ng/mlおよび aFGF 100 ng/mlを加えて37℃で10日間インキュベートした。さらに剥離した細胞の一部をI型コラーゲンコーティング皿に移して、さらにOsM 10 ng/mlと共に37℃で3日間培養した。分化誘導開始時から16日後の分化細胞に対して、GFP陽性細胞分画を調べたところ、GFP陽性の位置が成熟肝細胞マーカーであるALBの産生によって示された(図13A)。さらに、肝臓の分化レベルを評価するために、GFP陽性細胞分画の肝特異的遺伝子のmRNA発現を調べた結果、ALB、TO、TAT、およびG6Pを含む成熟肝細胞のマーカーは陽性であった(図13B)。これらの結果から、本実施例で得られたCMES細胞から分化誘導された細胞は、肝特異的マーカー、代謝機能、形態学的に肝細胞であり、霊長類のES細胞からも肝細胞が作成可能であることが証明された。
本実施例によって、pALB-EGFPトランスフェクトES細胞をHGF、FGF4、aFGF、OsMを添加したDMEMにおいて培養して、マトリクスをゼラチンからI型コラーゲン系に変更すると、マウスES細胞が肝特異的機能を有する肝細胞に分化することが証明された(図1)。この系の最も重要な点は、分化前に、LIFおよびRAを含む培地によってES細胞を3日間培養したこと、およびインビトロでES細胞からGFP陽性細胞の効率的な分化が得られたことである。マウスES細胞は、インビトロで3つ全ての胚葉(中胚葉、外胚葉、および内胚葉)の派生物を生じることができることから、十分な発達能を有すると考えられる(Evans MJ, Kaufman MH, Nature 292:154-156, 1981、Martin GR, Proc. Natal. Aced. Sic. USA. 78 : 7634-7638. 1981)。P19およびF9胚癌細胞分化系を用いた発達生物学より、それらの細胞は、インビトロで分化することができ、3つの胚葉全ての派生物を、培養およびAFPの合成と共にRA濃度に応じて得ることができると報告されている(Sasahara Y, et al., J. Biol. Chem. 271 : 25950-25957. 1996、Grover A & Adamson DE, Dev. Biol. 114 : 492-503. 1986、Hogan BLM & Tilly R, J. Embryol. Exp. Morphol. 62 : 379-394. 1981、Hogan BLM, et al., Cancer Surveys. 2 : 115-140 1983、Grover A, et al., J. Cell Biol. 96 : 1690-1696. 1983)。このように、誘導的な3つの胚葉の点において、P19およびF9細胞は、培養培地にRAを添加しなくとも、ES細胞の特徴と全く類似である。これに関連して、本発明者らは、GFP陽性細胞の分化がLIFおよびRAを用いる有効な条件で決定されることを証明した(図2A)。したがって、肝細胞の分化は、LIFとRAとを培養培地に添加すると効率的に誘導される。しかし、ES細胞は前培養を行わなくとも、効率は落ちるが、肝細胞を誘導することは可能である(図2A)。次に重要な3つの増殖因子(aFGF、HGF、およびFGF4)をES細胞と共にゼラチンをコーティングした培養皿で5日間培養し、I型コラーゲンコーティング皿および増殖因子(OsM)に変更して2日間培養すると、ES細胞からの分化が得られた(図2B〜2E、図3および図4)。FGF-1としてのaFGFは、ヘパリン結合増殖因子であり、これは間葉細胞、神経外胚葉細胞、および内皮細胞を含む多様な細胞の増殖を刺激する(Dungan KM, et al., J Exp Zool. 292: 540-54. 2002)。HGFは、成熟肝細胞および胆管上皮細胞の強力なマイトゲンである(Nakamura T, et al., Nature. 342 : 440-443. 1989、Jopin R, et al., J. Clin. Invest. 90 : 1284-1289. 1992)。さらに、heparin binging secretory transforming factor-1(HST-1)としてのFGF4は、最初の内胚葉パターン形成において重要であり、内胚葉の特定化において何らかの役割を有する可能性がある(Wells JM & Melton DA, Development. 127 : 1563-1572. 2000)。OsMは、多様な腫瘍および正常細胞に多様な影響を及ぼす重要な増殖調節サイトカインであり、肝細胞代謝活性において機能をアップレギュレーションすることが同定された(Sakai Y, et al., Cell Transplant. 11: 435-441 2002)。
本発明者らは、CCl4処置および偽処置マウス肝臓において増殖因子のmRNAレベルの発現変化を調べるために、cDNAマイクロアレイを分析した(表1)。最近の研究から、肝腫由来増殖因子(HDGF)が発達途中の肝臓において非常に多く発現され、マウスにおける胎仔肝細胞の増殖を促進し、IGF-1およびIGF-2がラットの肝細胞の分化において誘導されることが示唆された(Enomoto H, et al., Hepatology. 36: 1519-1527. 2002、Streck RD & Pintar JE, Endocrinology. 131: 2030-2032. 1992)。HGFおよびTGFαは、肝細胞増殖の様々な段階に関係している(Fausto N, J. Hepatol. 32: 19-31. 2000、Michalopoulos GK & DeFrances MC, Science. 276: 60-66. 1997)。さらに、既に、本発明者らはウェスタンブロッティング分析によってマウス肝臓の再生時におけるHGFの発現を検出している。ゆえに、cDNAマイクロアレイデータは信頼できる。一方、本発明者らは、ES細胞からの肝細胞の分化作用がマトリクスに関連することを見出した(図4)。通常、肝細胞の培養には、コラーゲンおよびラミニンコーティング皿を用いる。それによって、EBsを介することなくES細胞から機能的な肝細胞の効率的な分化が得られた。メカニズムをより詳しく理解するには、いくつかの肝疾患の増殖因子発現のような肝再生が必要であった(Fausto N, J. Hepatol. 32: 19-31. 2000、Hoffman AL, et al., Seminars Liv. Dis. 14: 190-210. 1994)。
これまでの報告は、内胚葉特異的遺伝子発現がEBsにおける臓器の内胚葉に由来することを示唆したが(Abe K, et al., Exp. Cell Res. 229: 27-34. 1996)、本実施例では、成熟肝細胞マーカーの発現が検出された。例えば、TTRは、内胚葉または卵黄嚢様の分化を表し、肝臓の成熟のあいだ発現される(Makover A, et al., Differentiation. 40:17-25. 1989)。成熟肝細胞によって合成される最も豊富な蛋白質であるALBの発現は、初期胎児肝細胞(E12)に始まり、成人肝細胞において最高レベルに達する(Sellem CH, et al., Dev. Biol.102:51-60. 1984)。TATは周産期または生後の肝細胞特異的分化の優れた酵素マーカーである。この酵素は、出生前は有意な量で合成されないが、生後の発達期間の初期に急速に活性化される(Greengard O, Science. 163:891-895. 1969)。G6P発現は周産期の肝臓に認められ、その蛋白質は、糖新生において何らかの役割を有する(Burcelin R, et al., J Biol Chem. 275:10930-10936. 2000)。最近報告されたEBsの肝細胞への分化では、ゼラチンコーティング皿に播種して、LIFおよび増殖因子を含まずに数日間インキュベートした(Hamazaki T, Iiboshi Y, Oka M et al., FEBS Lett 497:15-19, 2001、Miyashita H, et al., Cell Transplantation. 11: 429-434. 2002)。同様に、本発明者らは、RT-PCRによって、肝細胞としての分化したGFP陽性細胞分画において肝細胞遺伝子を検出した(図6A)。その上、本発明者らが、インビトロでGFP陽性細胞分画における代謝活性を調べたところ、ES細胞における肝細胞は肝機能を発現した(図6BおよびC)。このことは、ES細胞からの機能的成熟肝細胞の分化がEBs細胞を介さないこと、そして形成期間がEBsを介した一般的な方法より短くなりうることを示唆する。
本発明者らは、ES細胞を肝損傷マウスレシピエントに移植し、定着すると、それらが肝細胞に分化することができることを既に示している。それによって、この系において発生した全奇形腫14〜28%に関して、ES細胞を機能的肝細胞に分化誘導することができた(Yamamoto H, et al., Hepatology. 37 : 983-993. 2003)。しかし、インビトロ系によって肝細胞の産生を得たものの、これは当初の肝細胞とES細胞との融合細胞である可能性が示唆されていた。しかし、本発明で、機能的肝細胞がインビトロでES細胞から直接誘導されうること、そしてGFP陽性細胞が正常な肝細胞とES細胞との融合産物ではなかったことを初めて明らかに証明するデータが示された。
本発明により、ES細胞のインビトロでの分化系が、肝臓の発達における特異的増殖因子および細胞内シグナル伝達分子の役割を解析するための有用なモデルであり、肝疾患を救うために適用可能な幹細胞治療の基礎となる可能性があることが証明された。
[実施例9] pALB-EGFP/hMSCsの樹立
三光純薬(東京、日本)よりヒト骨髄細胞由来正常間葉系幹細胞(hMSCs)(図14)を購入し、間葉系幹細胞培地キット(タカラ、京都、日本)と非コート培養皿(イワキ、東京、日本)を用いて培養を開始した。hMSCsが蛍光顕微鏡下にて肝細胞へと分化誘導した事を容易に検出可能なシステムを用いるために、ヒトのアルブミンプロモーター配列の下流にEGFP配列を連結したベクター(Quinn G., et al., BBRC. 276: 1089-1099. 2000)を、エレクトロポレーション法を用いて遺伝子導入を行った。エレクトロポレーションの条件はカニクイザルES細胞の条件を採用した(導入遺伝子濃度: 50μg、420V、25μF、1.0×107個 / 0.4ml opti MEM)。一方、薬剤選別を行うために、予め遺伝子導入を行っていないhMSCsのネオマイシン(G418;ギブコ BRL、フナコシ、東京、日本)に対する感受性について検討を行いネオマイシンの濃度を決定した(図15)。以後、このネオマイシンの濃度によりpALB/hMSCの維持および分化誘導を行った。
[実施例10] 分化誘導
遺伝子を導入し、ネオマイシンを用いて薬剤選別を行い、クローン化したhMSCs(以後pALB/hMSCsと表記する)の、ES細胞で確立したHIFC分化誘導システムを用いた肝細胞への分化誘導を開始した。培養液に添加する各細胞増殖因子の濃度はカニクイザルES細胞の条件を採用し(HGF: 200ng / ml、aFGF: 300ng / ml、FGF4: 60ng / ml;ベリタス、東京、日本)、さらに無血清肝細胞培養培地(HMC;三光純薬、東京、日本)とコラーゲンコート培養皿(イワキ、東京、日本)を用いて分化誘導(10日間)を行った。その後、オンコスタチンM(ベリタス、東京、日本)を10ng / mlの濃度で培養液(HMC)に添加し、さらに4日間の成熟期間を設けて培養を行った(図16)。14日目に蛍光顕微鏡下にてアルブミン産生能を獲得している事を示す、GFP陽性細胞の検出を行った(図17)。
[実施例11] GFP陽性pALB/hMSCsの特徴
総RNAを、ISOGEN(ニッポンジーン、東京、日本)を用いて抽出した。一本鎖cDNAは、総RNA 2μg、オリゴ(dT)18プライマー 0.5μl、dNTPs 10pmol、RAV-2 RT アーゼ5単位、および一本鎖合成緩衝液(タカラ、京都、日本)を含む全量20μlにおいて合成した。合成は、36℃で10分間、42℃で1時間、56℃で10分間、および99℃で5分間行った。また、以下のプライマーを合成した(オリゴヌクレオチド配列は、センス、アンチセンスプライマーの順に括弧内に記載し、その後にアニーリング温度、PCRに用いたサイクル、および増幅した断片の長さを示す):アルブミン(ALB)(5-GCAACACAAAGATGACAACCN-3 (配列番号:17)、5-TCCTTGGCCTCAGCATAGTTN-3 (配列番号:18);60℃;32サイクル;665bp)、トリプトファン 2, 3-ジオキシゲナーゼ(TO)(5-CTGAAGAAAAAGAGGAACAGN-3 (配列番号:19)、5-TCTGTGCACCATGCACACATN-3 (配列番号:20);58℃;34サイクル;265bp)、チロシンアミノトランスフェラーゼ(TAT)(5-CTGGTGAAGCTGAGTCAGCGN-3 (配列番号:21)、5-TCACAGAACTCCTGGATCCGN-3 (配列番号:22);58℃;34サイクル;394bp)、グルコース-6-ホスファターゼ(G6P)(5-TTGTGGTTGGGATTCTGGGCN-3 (配列番号:23)、5-GCTGGCAAAGGGTGTAGTGTN-3 (配列番号:24);55℃;42サイクル;320bp)、α-フェトプロテイン(AFP)(5-TCGTATTCCAACAGGAGG-3 (配列番号:25)、5-AGGCTTTTGCTTCACCAG-3 (配列番号:26);54℃;42サイクル; 173bp)、βアクチン (5-AGAGCAAGAGAGGTATCCTG-3 (配列番号:27)、5-AGAGCATAGCCCTCGTAGAT-3 (配列番号:28);55℃;25サイクル;339bp)。増幅は、鋳型cDNA 4μl、100μM dNTPs、プライマー 10pmol、Ex-Taq 1.0単位およびEx-Taq緩衝液(タカラ、京都、日本)を含む全量50μlにおいて行った。PCR後、少量を3.0%アガロースゲル上で泳動させて、エチジウムブロマイド(EtBr)によって染色した後、UV照射下で写真を撮影した(図18)。さらにGFP陽性pALB/hMSCs(分化誘導14日目)の染色体をG-バンド法を用いて分析を行った(図19)。
本分化誘導システムは細胞増殖因子の刺激により、自然に近い状態で分化誘導を行う系であり、その系を用いた結果より、CD34陰性画分にも肝細胞へと分化する能力を有している事が明らかとなった。さらに、本発明者らの開発(発見)した細胞増殖因子の組み合わせは、ES細胞だけに留まらず、骨髄細胞由来間葉系幹細胞にも適用可能で有ることが確認された初めての例である。
ES細胞のインビトロ分化誘導を示す図である。本発明において用いたインビトロ分化プロトコールは、実施例に説明した通りである。 GFP陽性細胞誘導能に及ぼす増殖因子の影響を示すグラフである。(A)単一の増殖因子(白い棒グラフ:RA無処置ES細胞、黒い棒グラフ:RA処置ES細胞)、(B)、(C)および(D)2つの増殖因子混合物、(E)3つの増殖因子混合物。増殖因子の最終濃度は実施例に記載した。(B)および(E)は、LIFの存在下でRAを含む培地において3日間前培養した。その割合は、平均スコアで示した(HGF、FGF4、およびaFGF:n=5、その他:n=2)。 GFP-陽性細胞を蛍光顕微鏡によって可視化した写真である。(A)および(B)、I型コラーゲンコーティング皿、(C)ゼラチンコーティング皿、(D)ラミニンコーティング皿、(E)フィブロネクチンコーティング皿、および(F)ビトロネクチンコーティング皿。I型コラーゲンおよびゼラチンコーティング皿はイワキ社(東京、日本)から得て、ラミニン、フィブロネクチン、およびビトロネクチンコーティング皿は、実施例に記載されているように細菌培養皿から作製した(ATG、東京、日本)。陽性細胞の割合はハイスコアを示したものもある(n=5)。オリジナルの倍率は20倍である。 いくつかのマトリクスにおけるGFP陽性細胞率を示すグラフである。データは平均値±S.D.を表す(*:P<0.0001;**:P<0.01)。 ES細胞の分化におけるGFPの発現を示す写真である。(A)蛍光顕微鏡を用いて細胞を可視化した。(B)位相差顕微鏡を用いて細胞を観察した。(C)フォトショップバージョン5.0(アドブ)を用いて(A)および(B)の写真をコンビネートした。 インビトロで培養した分化したES細胞の肝細胞特異的マーカー遺伝子と代謝活性の分析を示す写真およびグラフである。(A)分化した肝細胞特異的マーカー遺伝子の発現。レーン1:分化したES細胞分画(7日)、レーン2:分化したES細胞分画(5日)、レーン3:無処置ES細胞、レーン4:陽性対照(ALB、TO、TTR、TAT、CK18、G6P、およびβアクチンは、マウス肝臓であった;AFPはHepG2であった)、レーン5:鋳型なし、およびレーン6:無処置ES細胞のゲノムDNA。(B)播種後1日目、ES細胞の分化を、培養上清におけるグルコースレベルに関して分析した。(C)播種1日後、ES細胞の分化を培養からアンモニアの消失能に関して調べた(●)。対照として、pALB/EGFP細胞を用いた(○)。BおよびCは、平均スコアを示した(n=2)。 GFP陽性肝細胞が肝臓の肝硬変部位近くに配置していることを示す写真である。 GFP陽性細胞投与群と非投与群との生存率を比較したグラフである。 血中のフィブリノーゲン量の変動を示すグラフである。(*:P<0.009) 血中のアルブミン量の変動を示すグラフである。(**:P<0.003) DMN処理マウスの組織染色像を示す写真である。AはDMN処理のマウスに対照のPBSを投与して3週間後の肝臓の組織染色像である。BはDMN処理のマウスに、GFP陽性肝細胞を移植して3週間後の肝臓の組織染色像である。 pALB-EGFP/CMES細胞のアルカリフォスファターゼ活性(A)、および胚様体形成能(B)を示す写真である。 インビトロでCMES細胞から分化誘導されたGFP陽性細胞を分析した写真である。(A)左の写真は位相差顕微鏡、右の写真は蛍光顕微鏡を用いた細胞写真である。(B)肝細胞特異的マーカー遺伝子の発現を示す。レーン1:pALB-EGFP/CMES細胞のGFP陽性画分のcDNA、レーン2:未分化のpALB-EGFP/CMES細胞のcDNA、レーン3:CM肝細胞のcDNA、レーン4:pALB-EGFP/CMES細胞のcDNAのゲノムDNA。 今回使用したヒト間葉系幹細胞の特徴について示した写真である。対物レンズ20倍。 遺伝子導入を行っていない正常ヒト間葉系幹細胞のジェネスチンに対する薬剤感受性について検討した結果を示す写真である。ネオマイシンの濃度:(A) 0μg/ml、(B)50μg/ml、(C)100μg/ml、(D)200μg/ml。対物レンズ20倍。この実験結果よりネオマイシンの濃度を200μg/mlに決定した。 pALB/hMSCsのインビトロ分化誘導を示す図である。 HIFC添加有無によるpALB/hMSCsからGFP陽性細胞への分化誘導効果を蛍光顕微鏡によって可視化した写真である。(A)HIFC処理を行ったpALB/hMSCの位相差顕微鏡像、(B)HIFC処理を行ったpALB/hMSCの蛍光顕微鏡像、(C)HIFC処理を行っていないpALB/hMSCの位相差顕微鏡像、(D)HIFC処理を行っていないpALB/hMSCの蛍光顕微鏡像。HIFC処置を行った細胞にのみGFP陽性細胞が検出された(GFP陽性率:70%以上)。一方、HIFC処置を行っていない細胞ではGFP陽性細胞が検出されなかった。また形態的にもHIFC添加有無により変化している事が確認された(14日目)。対物レンズ20倍。 インビトロで培養し、分化したpALB/hMSCの肝細胞特異的マーカー遺伝子の発現結果を示す写真である。レーン1:無処置pALB/hMSCのcDNA、レーン2:分化したpALB/hMSC分画のcDNA(14日目)、レーン3:無処置pALB/hMSCのゲノムDNA、レーン4:陽性対照(ALB、TO、TAT、G6Pは正常ヒト培養肝細胞cDNA(三光純薬、東京、日本)、およびAFPはHepG2である)。ALB、TO、TAT、G6Pの4種類は全て分化誘導開始14日目に陽性であるが、未成熟肝細胞である事を示すAFP遺伝子は分化誘導14日間において増幅遺伝子断片は検出されなかった。 HIFC処置の有無におけるpALB/hMSCの染色体を示す写真である。(A)HIFC未処置pALB/hMSCの染色体、(B)HIFC処置を行い、分化誘導を行ったpALB/hMSCの染色体(14日目)。下記の数字は染色体番号を示している。分化誘導の有無に関わらず、染色体異常は確認されなかった(n=30)。

Claims (21)

  1. 以下の(a)および(b)の工程を含む、多分化能を有する細胞の分化誘導方法。
    (a)多分化能を有する細胞を以下の(i)〜(iii)のいずれかに記載の増殖因子を含む培地で培養する工程
    (i)酸性線維芽細胞増殖因子、線維芽細胞増殖因子4および肝細胞増殖因子
    (ii)アクチビンA、上皮細胞増殖因子およびβ-神経生長因子から選択される増殖因子および酸性線維芽細胞増殖因子
    (iii)アクチビンAおよび肝細胞増殖因子から選択される増殖因子および線維芽細胞増殖因子4
    (b)工程(a)で培養された細胞をオンコスタチンMを含む培地で培養する工程
  2. 工程(a)でゼラチンコーティング培養皿を用い、工程(b)でI型コラーゲンコーティング培養皿またはラミニンコーティング培養皿を用いる、請求項1に記載の方法。
  3. I型コラーゲンコート培養皿を用いる、請求項1に記載の方法。
  4. 以下の(a)および(b)の工程を含む、多分化能を有する細胞の分化誘導方法。
    (a)多分化能を有する細胞をレチノイン酸、白血病阻害因子および肝細胞増殖因子から選択される少なくとも一つの増殖因子を含む培地で培養する工程
    (b)工程(a)で培養された細胞を以下の(i)〜(iii)のいずれかに記載の増殖因子を含む培地で培養する工程
    (i)酸性線維芽細胞増殖因子、線維芽細胞増殖因子4および肝細胞増殖因子
    (ii)アクチビンA、上皮細胞増殖因子およびβ-神経生長因子から選択される増殖因子および酸性線維芽細胞増殖因子
    (iii)アクチビンAおよび肝細胞増殖因子から選択される増殖因子および線維芽細胞増殖因子4
  5. 工程(a)および(b)でゼラチンコーティング培養皿を用いる、請求項3に記載の方法。
  6. 以下の(a)〜(c)の工程を含む、多分化能を有する細胞の分化誘導方法。
    (a)多分化能を有する細胞をレチノイン酸、白血病阻害因子および肝細胞増殖因子から選択される少なくとも一つの増殖因子を含む培地で培養する工程
    (b)工程(a)で培養された細胞を以下の(i)〜(iii)のいずれかに記載の増殖因子を含む培地で培養する工程
    (i)酸性線維芽細胞増殖因子、線維芽細胞増殖因子4および肝細胞増殖因子
    (ii)アクチビンA、上皮細胞増殖因子およびβ-神経生長因子から選択される増殖因子および酸性線維芽細胞増殖因子
    (iii)アクチビンAおよび肝細胞増殖因子から選択される増殖因子および線維芽細胞増殖因子4
    (c)工程(b)で培養された細胞をオンコスタチンMを含む培地で培養する工程
  7. 工程(a)および(b)でゼラチンコーティング培養皿を用い、工程(c)でI型コラーゲンコーティング培養皿またはラミニンコーティング培養皿を用いる、請求項5に記載の方法。
  8. 多分化能を有する細胞が哺乳動物由来である、請求項1〜7のいずれかに記載の方法。
  9. 哺乳動物が、ヒト、サル、マウス、ラット、またはブタである、請求項8に記載の方法。
  10. 多分化能を有する細胞が、胚性幹細胞、成人幹細胞、間葉系幹細胞、または臍帯血細胞である、請求項1〜9のいずれかに記載の方法。
  11. 請求項1〜5のいずれかに記載の(a)および(b)の工程、または請求項6もしくは7に記載の(a)〜(c)の工程を含む、肝細胞の製造方法。
  12. 肝細胞が成熟肝細胞である、請求項11に記載の方法。
  13. 多分化能を有する細胞が哺乳動物由来である、請求項11または12に記載の方法。
  14. 哺乳動物が、ヒト、サル、マウス、ラット、またはブタである、請求項13に記載の方法。
  15. 多分化能を有する細胞が、胚性幹細胞、成人幹細胞、間葉系幹細胞、または臍帯血細胞である、請求項11〜14のいずれかに記載の方法。
  16. 請求項11〜15のいずれかに記載の方法により製造された肝細胞。
  17. 請求項16に記載の肝細胞を含む、肝疾患の治療剤。
  18. 肝疾患が、肝硬変、劇症肝炎、胆道閉鎖症、肝癌、または肝炎である、請求項17に記載の治療剤。
  19. 以下の(a)〜(c)のいずれかを含むキット。
    (a)酸性線維芽細胞増殖因子、線維芽細胞増殖因子4および肝細胞増殖因子
    (b)アクチビンA、上皮細胞増殖因子およびβ-神経生長因子から選択される増殖因子および酸性線維芽細胞増殖因子
    (c)アクチビンAおよび肝細胞増殖因子から選択される増殖因子および線維芽細胞増殖因子4
  20. さらに、オンコスタチンMを含む、請求項19に記載のキット。
  21. さらに、レチノイン酸、白血病阻害因子および肝細胞増殖因子から選択される少なくとも一つの増殖因子を含む、請求項20に記載のキット。
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