本発明は、光学面同士の位置精度を向上させて良好な光学性能を有する光学素子等の成形体を提供することができ、又成形体の成形品質を安定化できる金型装置に関し、それにより製作される光学素子に関する。
従来、カメラあるいはヘッドマウンテントディスプレイ等に用いられるレンズ、プリズム等の光学素子は熱可塑化性樹脂を用いた射出成形等の技術により製作されるものが多い。これらの製作において、光学素子を形成する各光学面の位置関係を設計値どおりに再現するためには、該光学面を成形する金型のキャビティ面を形成する中子の加工や該中子の位置決めなどに非常に高精度な機械加工や組立て技術が要求される。
このような技術として、例えば特許文献1に記載の方法が提案されている。この方法では、金型に具備される固定側あるいは可動側の型板と該型板面の孔内に組み立てられてキャビティ面を形成する中子としての鏡面駒との間のクリアランスを消失させることにより、偏心が極めて少ない状態で光学素子を成形することができる射出成形用金型を提供している。
前記特許文献1では、クリアランスを有して型内に取り付けられた鏡面駒と型板の熱膨差を利用して、鏡面駒外周面と型板の孔内周面との間のクリアランスを消失させるとしている。
又、特許文献2に記載の方法が提案されている。特許文献2では、光学素子成形品の光学面を形成するピースと、光学素子成形品の外周面を形成するリング形状の外周形成スリーブとを、可動側の型板に具備されたスリーブ内に嵌合させて光学素子を成型する射出用金型であって、前記外周形成スリーブのリング内周とリング外周とが偏心した構成になっており、ピースの偏心方向に合わせて外周形成スリーブを回転調整して組み付けることで成形品の偏心を相殺するようになっている。
しかしながら、特許文献1に記載の方法では、射出成形用金型を用いて射出成形する際に、室温変化があると金型温度が変化してクリアランスが消失できなくなり、偏心が発生するとともに偏心量を光学素子ごとにばらついてしまうという課題があった。
特許文献2に記載の方法では、光学面を形成するピースを可動側の型板のスリーブ内に組み付けて外周形成スリーブを回転調整した際に、外周形成スリーブと光学面を形成するピースの接触する部分の面積が調整毎に異なる。そのため、接触部分が異なることにより、都度、光学面を形成するピースの温度分布が変化してしまい、その結果、光学素子の面形状が変化してしまうという課題を有している。更に、光学面を形成するピースの温度分布が変化することによって、光学素子内部の冷却過程に違いが発生し、光学素子内部の分子配向が異なってしまうという課題を有している。
特開平11−90964号公報
特開平7−195450号公報
本願の発明は、従来技術の上記課題に鑑み、光学素子等の成形体を成形する際に、雰囲気温度の影響を受けにくく、又、光学面等を形成するピース(鏡面コア)の温度分布が変化しにくい金型装置を提供すること、及びこの金型により光学素子内部の分子配向が良好な光学素子を提供することを目的とする。
上記目的を達成するため、本発明の金型装置は、熱可塑化性樹脂を用いて成形体を形成する金型装置において、固定側型板と可動側型板と、該各型板の型板ポケットにそれぞれ埋設されるとともに、少なくとも−方が型板ポケットの側面との間に空所を有してなる中子と、固定側型板に対する可動側型板の開閉方向に直交する方向に前記中子を移動可能とする中子位置調整手段と、を有し、前記中子が埋設される型板ポケットの全ての側面と前記中子のすべての側面は常に接せずに設けられていることを特徴とする。
又、本発明の金型装置は、複数の光学面を有する光学素子を成形する金型装置において、固定側型板と可動側型板と、該各型板の型板ポケットにそれぞれ埋設されるとともに、少なくとも−方が型板ポケットの側面との間に空所を有してなる中子と、固定側型板に対する可動側型板の開閉方向に直交する方向に前記中子を移動可能とする中子位置調整手段と、を有し、前記中子の側面のうち、前記中子位置調整手段と接しない部位は、前記中子位置調整手段と接する部位に対して、中子中心方向に凹であることを特徴とする。
更に又、本発明の金型装置は、複数の光学面を有する光学素子を、形成する金型装置において、固定側型板と可動側型板と、該各型板の型板ポケットにそれぞれ埋設されるとともに、少なくとも一方が型板ポケットの側面との間に空所を有してなる中子と、固定側型板に対す対する可動側型板の開閉方向に直交する方向に前記中子を移動可能とする中子位置調整手段と、を有し前記中子の少なくとも1側面部もしくは前記中子の側面と相対する型板ポケットの少なくとも1側面部には型板ポケットの側面と中子側面とを接せずに保つ為の少なくとも2つの微小凸部が設けられていることを特徴とする。
又、本発明の光学素子は、本発明の金型装置により成形されることを特徴とする。
本願の第1番目乃至第3番目の発明の構成によれば、型板の型板ポケットにそれぞれ埋設されている中子のうち、少なくとも一方の中子の側面と、中子の側面に相対する型板ポケットの型板側面とを常に接せずに保つため、型板と中子の間には常に空気の断熱層が形成されて中子が雰囲気温度の影響を受けにくくなり、又、型板から中子又は中子から型板への熱の移動が、略均一になり、中子を偏心調整した際にも、型板及び中子の温度分布を同じにすることができる。
又、上記第2番目の発明の構成のように、中子の側面のうち中子位置調整手段の接しない部位を、中子位置調整手段と接する部位に対して、中子中心方向に凹にすることで中子位置調整手段と接しない部位は常に空所を有するようになる。そのため、偏心調整を行った場合に対しても、中子及び型板の温度分布を−定に保つことができる。
又、本発明の光学素子は、上記第1番目乃至第3番目の発明の構成により、高い偏心精度と優れた光学特性を有する光学素子が得られ、光学素子の面形状及び光学素子内部の分子配向が安定した光学素子となる。
又、上記第3番目の発明の構成のように、中子の少なくとも1側面部もしくは中子側面と相対する型板ポケットの少なくとも1側面部に、型板ポケットの側面と中子側面とを接せずに保つ為の少なくとも2つの微小凸部を設けることにより、中子位置調整手段により中子をある一つの型板ポケット型板側面に押し付けた際に、前記微小凸部の先端が先に型板側面に当て付くので、中子と型板との間には微小凸部量分だけの空所を得ることができる。そのため、偏心調節を行った場合に対しても、中子と型板の温度分布を一定に保つことが出来る。
本願の発明によれば、各型板に埋設される中子のうち、少なくとも一方の中子の側面と相対する型板ポケットの型板側面とを常に接せずに保つため、型板の中子との間には断熱層が形成されることになるので、中子が金型装置の雰囲気温度の変化に伴う影響を受けにくくなり、又、型板から中子又は中子から型板への熱の移動が略均一となって型板及び中子の温度分布が安定し、変化しにくくすることができる。更に、固定側と可動側に埋設されている中子の位置関係を中子位置調整手段により固定側と可動側の相対的な位置ズレを調整することができる。
更に、本願発明の金型装置において、微小凸部のそれぞれの突出量がそれぞれ調整可能となるよう構成することにより、微小凸部の頂点を結ぶ線と、前記中子の側面と相対する型板側面とのなす角度が5分以下に調整することで、微小凸部が型板側面に当て付いた際に、回転挙動を5分以下に抑制することができる。
更に本願発明による金型装置を用いることにより、高い偏心精度と優れた光学性能を有する光学素子を提供することができ、又、偏心調整毎に金型温度分布が異ならないため、光学素子の面形状及び内部の分子配向が常に安定した光学素子を提供することができる。
以下、本願の発明の実施例について図面を用いて説明する。
図1〜図5を用いて、本願の発明の実施例1を説明をする。図1は本発明の実施例1における射出成形用金型装置の断面の概要図であり、図2は実施例1の金型装置の固定金型の型合わせ面を可動金型側から見た場合の固定金型の概要図である。図3において(a)は上記の実施例1の固定側中子の形状の拡大図であり、(b)はその外観斜視図である。図4は実施例1における金型装置のキャビティ付近の断面図であり、図5は実施例1における調整作業後の金型装置のキャビティ付近の断面図である。
図1に示すように、金型装置1は固定金型2と可動金型3により構成されている。固定金型2は固定側型板4と固定側取り付け板14により構成され、又可動金型3は可動側型板5、一対のスペーサ33、可動側取り付け板31及び一対のスペーサ33間に配置された突き出し板19、20により構成されるている。前記固定金型2の固定側型板4に穿設された型板ポケット40及び可動金型3の可動側型板5に穿設された型板ポケット40aには、それぞれ固定側中子6及び可動側中子7が埋設されている。更に、固定側中子6及び可動側中子7にはそれぞれ複数(図では各4個)の固定側鏡面コア8、可動側鏡面コア9が埋設されており、各鏡面コア8、9と各中子6、7とで光学素子としてのレンズを成形するキャビティ10を形成している。なお、固定側型板4と可動側型板5の型合わせ面11を境に、金型装置1の固定金型2と可動金型3は開閉する。ここで、型板ポケット40とは固定側型板4に固定側中子6が埋設される部分を示す。又型板ポケット40aは、可動側型板5に可動側中子7が埋設される部分を示す。
型板ポケット40の形状は、図1及び図2に示されるように、型合わせ面11側から略長方体形状に穿設されている。そして、図2の平面で示されるように型板ポケット40の上面に対応する略長方形部分において、その長辺及び短辺の各辺の中央部分に凹み、すなわち、凹溝40bがそれぞれ形成されている。この凹溝40bは、型板ポケット40の底面まで延びている。図2では、Lで示される部分が、型板4の内面側に凹まされ、凹溝40bが形成されている。又、型板ポケット40aの形状も長方形体である。
更に、図1及び図2に示されるように、固定側中子6の側面全周は固定側型板4に穿設されてた型板ポケット40の内壁面の全側面に空所12を介して埋設され、上記型板4とは接しない状態となっている。
一方、図1に示されるように可動側中子7は可動側型板7に穿設された型板ポケット40aの内壁面に嵌め合わされている。又、図1に示すように、固定側中子6に取り付けられたスプールブッシュ13の外周面とスプールブッシュ13を貫通させる孔を形成した固定側型板4及び固定側取付板14の孔内周面との間にも空所15が設けられている。このスプールブッシュ13は、固定側取付板14に対して、ボルト35(図4参照)により着脱自在に取り付けられている。
空所12の空所量tは0.02〜0.5mmの間が望ましく、好ましくは0.05〜0.2mmであり、更に好ましくは0.05〜0.1mmが望ましい。又、空所15の空所量rは0.5mm程度が適当であるが、前記空所量tよりも大であることが好ましい。
固定側中子6は、固定金型2と可動金型3の開閉方向に対して直交する方向へスライド可能なようにして、金型合わせ面11側より挿通したボルト16により固定側型板4に複数箇所(図1、2では4個所)でスライド可能に固定されている。可動側中子7は、可動側型板5の底面から挿入したボルト17により可動側型板5に複数箇所で固定されている。なお、可動側中子7は、可動側型板5と金型合わせ面11側より挿通したボルトで固定しても良い。
固定側中子6の外観形状は、図1乃至図3に示すように、略長方体形である。そして、図2の平面図で示されるように、その一面を形成する略長方形において、長辺及び短辺の各辺の中央部分に対し、両側が凹んだ状態で形成されている。この点については図3において更に詳細に示されている。
そして各辺の前記中央部分は、対面側(型板ポケット40の底面側)に向けて、型板ポケット40の内側面、すなわち固定側型板4の内側面との空所あるいは間隙が少なくなるように、それぞれテーパー面となっている。(図1、図3(b)参照)。各辺のの前記中央部分に対し、両側の凹んだ部分は、型板ポケット40の底面側に垂直になっている。(図1参照)又、可動側中子7の外観形状も長方体形状である。
固定側鏡面コア8は、固定側中子6の底面側から挿通したボルト18により固定側中子6に固定されている。可動側鏡面コア9は、キャビティ10とは反対側の形状がフランジ形状になっており、このフランジ部9aが突き出し板19、20に挟まれる形で突き出し板19、20と連結されている。
又、図2に示すように固定側型板4の型合わせ面11には、固定側中子6の天側側面とこれに垂直な側面に対向するようにしてそれぞれ2個所ずつ穿設された凹所にセンサー固定部21が形成されている。各センサー固定部21には、それぞれ非接触式の過電流式変位センサー22がその変位検出面22aと固定側中子6との距離を0.1〜0.5mmとなるように位置決めされて取り付けられている。又、渦電流式変位センサー22の変位検出面22aが対向する固定側中子6の部分には、渦電流式変位センサー22のインピーダンス出力を線形に保ち得る材質(SUS鋼)のプレート41が埋設されている。
これらの渦電流式変位センサー22は、増幅器23と導線等により電気的に接続されており、これを介して更に出力表示を行うカウンタ24にまで配線がなされている。なお、渦電流式変位センサー22と接続される増幅器23とカウンタ24は、ひとつだけを例示している。残り3つの増幅器23とカウンタ24は図示を省略している。
更に、固定側中子6と、型板ポケット40が穿設された固定側型板4との間、すなわち、固定側中子6の中央部分と、固定側型板4の凹んだ部分に形成された凹溝40bとの間には、固定側中子6の対向する側面にそれぞれ1個所づつにクサビブロック25、26が埋設されており、これと垂直な側面にそれぞれ1箇所づつにクサビブロック27、28が埋設されている。これらのクサビブロック25、26、27、28は、固定側中子側面のほぼ中心位置に埋設されている。これらのクサビブロックは、固定側中子6を型板ポケット40内で金型開閉方向とは直交する方向に移動させ、その位置を調整するための中子位置調整手段として作用する。
又、これらのクサビブロック25、26、27、28と固定側中子6との面当たりする長さLは、固定側中子6の側面長さHの1/4程度である。(図2参照)なお、これらのクサビブロック25、26、27、28の長さL’は同じでなくても良い。この、固定側中子6の前記面当たりする長さL’は、前記固定側型板4の内面側に凹んで形成された凹溝40bの幅寸法Lよりも小さい寸法である。
更に、図3aに示すように、固定側中子6の側面のうち、クサビブロック25、26、27、28と面当たりしない部位Sは、これらのクサビブロックと面当たりする部位L’よりも、固定側中子6の中心に向けて凹の段差Rになっている。この段差Rの段差量は、0.1〜0.5mmで仕上げられている。
更に、図2に示すように固定側型板4には金型温度を調節するための温調管34が配置されており(図1では図示していない)、固定側型板4は光学素子を形成するための樹脂に適した金型温度に保たれている。ここでは温調管を通る媒体には油を使用しているが、この媒体は熱水、水蒸気、ヒーターなどでもよい。なお、可動側型板5にも同様な温調管が配置されている。
更に、図4に示すように、クサビブロック25、26、27、28は、コイルバネ29を介してボルト30により上下方向に位置調整自在にして固定側型板4と連結されている。なお、図1において、31は可動側取付板であり、32は図示していない成形機と位置決めするためのロケートリングである。33は突き出し板18、19の可動エリアを確保するためのスペーサである。
次に上記構成による作用について説明する。
固定側型板4と可動側型板5の型板ポケット40、40aにそれぞれ埋設される固定側中子6と可動側中子7の相対的位置関係及び各中子6,7にそれぞれ埋設される固定側鏡面コア8と可動側鏡面コア9の相対的位置関係は、各部材の加工誤差により埋設時あるいは組立時における初期状態では、図4に示すように互いにズレている。そのためズレ量を有する金型装置1が組み立てられている。この状態の金型装置を用いてスプールブッシュ13を介してキャビティ10に樹脂を充填し、冷却固化してレンズ部品を製作し、レンズ面間の偏心をあらかじめ計測し、その偏心量を求めておく。
次に、固定側型板4と可動側型板5の型合わせ面11を離間して固定金型2と可動金型3を開き、図4に示す固定側中子6を固定側型板4に固定する各ボルト16を緩めて固定側中子6が金型開閉方向に対して直交する方向にスライド可能にする。更に、図4に示すスプールブッシュ13を固定側取付板14に固定する各ボルト35も緩める。
次にクサビブロック27のボルト30を緩めて、クサビブロック27を図4の紙面上、上方にスライドさせる。そして、クサビブロック28のボルト30をコイルバネ29に抗して締め付けてゆくとクサビブロック28は紙面上、下方にスライドしていく。同時に固定側中子6はクサビブロック28のテーパー面の作用により、紙面上、左方向にスライドする。固定側鏡面コア8も固定側中子6に支持されながら同時に同方向にスライドしていく。
この際、固定側中子6の挙動(スライド量)は図2に示す渦電流式変位センサー22により常に検出され、増幅器23を介してカウンタ24に表示されているため、作業者はこの表示があらかじめ求めておいた偏心量だけ変化したことを確認しながら固定側中子6の最適位置を効率的に設定することができる。
その後、クサビブロック28に相対するクサビブロック27のボルト30を押し込んで、固定側中子6を挟みこむことで、固定側中子6の位置を固定することができる。固定ボルト16を締め付けることで、固定側中子6を固定側型板4に完全に固定して調整作業が完了する。固定側中子6の位置調整後の状態を図5に示す。ここでは固定側鏡面コアと可動側鏡面コアの光軸Xがそろった状態を示している。
なお、調整作業において、クサビブロック28を動かして固定側中子6の位置が偏心量に対応した最適な位置を通り越した際には、クサビブロック28のボルト30を若干量だけ緩めてクサビブロック28を、紙面上、上側にスライドさせ固定側中子6の位置を微調整する。クサビブロック25,26,27、28のそれぞれのボルト30を使って押し込んだり、緩めたりすることで固定側型板4の内側面すなわち型板ポケット40の側面に対し、固定側中子6の金型開閉方向とは垂直方向の位置を高精度に調整することができる。
又、本実施例においては、固定側中子6の側面のうち、クサビブロック25、26、27、28と面当たりしない部位Sは、クサビブロック25、26、27、28と面当たりする部位L’よりも、固定側中子6の中心に向けて凹の段差Rになっている。よって、固定側中子6の側面のうち、クサビブロック25、26、27、28と面当たりしない部位Sには、固定側型板の内側面すなわち型板ポケット40の側面に対して常に空所12が設けられることになり、温度調節された固定側型板4から固定側中子6への熱の移動は、固定側中子6の底面と、クサビブロック25、26、27、28と面当たりする部位L’と、固定側型板4のクサビブロック25、26、27、28と面当たりしない部位Sからの輻射熱になる。そのため、固定側中子6を金型開閉方向とは垂直方向に移動させた場合においても常に、固定側中子6の温度分布は略等しくなり、金型装置1を配置した雰囲気温度の影響を受けにくくなる。
以上のように、本願の発明の実施例1によれば、金型装置を成形機に取り付けた状態であっても、固定金型側と可動金型側の相対的な位置ズレを作業者がリアルタイムで確認しながら最適な状態に調整することができる。
又、固定側中子を摺動させた場合においても、常に固定側中子の温度分布は略等しくなるため、固定側中子を摺動させた場合においても、面形状が安定した光学素子を得ることができる。
更に、固定側中子を摺動させた場合においても、常に固定側中子の温度分布は略等しくなるため、固定側中子を摺動させた場合においても、キャビティに充填された樹脂の冷却過程が略等しくなるため、光学素子内部の分子配向が安定した光学素子を得ることができる。
図6及び図7により本願の発明に係る実施例2を説明する。本実施例に関しては、実施例1と異なる部分のみを記載する。図6において(a)は実施例2の金型装置の固定金型の型合わせ面を可動金型側より見た場合の固定金型の概要図であり、(b)は図6(a)におけるA-A’断面の部分拡大図である。又、図7は実施例2における調整作業後の金型装置の固側金型の型合わせ面を可動金型側より見た場合の固定金型の概要図である。
図6に示すように、固定側中子50は固定側型板51に空所52を有するようにして穿設された型板ポケット40に埋設されており、4つの側面部をもつ略長方体形状を有している。図6(a)における右側の側面部を例にして説明すると、右側面部の略中心位置であるL”の範囲には、図6(a)のA−A’断面の拡大図である図6(b)に示されるように、型合わせ面11側から型板ポケット40の底面40c側に向かって、空所52の間隔が小さくなるようにしてテーパ面50cがそれぞれ形成されている。なお、固定側中子50の形状は長方体でなく正方体形状でもよい。
更に固定側中子50の各側面部の略中心位置に対応して、型板ポケット40の側面には凹溝体40bが型板ポケット40の底面40cまで達するように形成され、この4ヶ所の各凹溝40b内に中子位置調節手段であるクサビブロック53、54、55、56が上下方向に位置調整自在なようにバネ29とボルト30により支持されて、固定側中子50のテーパ面50cに当接されている。
更に、固定側中子50の各側面部には、クサビブロック53、54、55、56のそれぞれを中心にして対称位置に一対の微小凸部57が設けられている。ここで示す微小凸部57の各々は、回転により進退するネジを有するスクリュープラグで構成されている。微小凸部57であるスクリュープラグの各側面部からの突出量は前記空所52の間隔寸法よりも小さくなるように設定する。前記空所52から微小凸部57であるスクリュープラグの凸量すなわち突出量を引いた量が、光学面の偏心調整できる量になるが、偏心調整できる量は0.02〜0.1μmであることが望ましい。
スクリュープラグはネジを巻き込んだり、あるいは緩めたりすることで、その突出量をそれぞれ調整することが可能である。又、固定側中子50のそれぞれの側面部に設けられている一対のスクリュープラグをそれぞれ調整することで、スクリュープラグの突出量の頂点を結ぶ線と、固定側中子50の側面部と相対する固定側型板51の側面59とのなす角度θを調整することが可能である。上記側面59は、型板ポケット40の内側面と対応する面である。なお、前記角度θは5分以下であることが望ましく、好ましくは3分以下が望ましく、更に好ましくは1分以下が望ましい。
ここでは微小凸部57にスクリュープラグを用いたが、その他にボルトやノックピンなどを用いても良い。又、ここでは固定側中子50の4つの側面部に微小凸部57を設けたが、固定側中子50と相対する固定側型板51の側面59に同様な微小凸部を設けてもよい。
以上、実施例2の構成について説明したが、この他の構成は実施例1と同様である。
次に、上記実施例2の構成に基づく作用について説明する。
図7に示すように、例えば、固定側中子50を中子位置調整手段による偏心調整により、紙面上、上側、左側にそれぞれ摺動させた場合、固定側型板51の側面59と接触する部分はスクリュープラグの頂点になる。そのため、固定側中子50の側面と固定側型板側面59の間には、常にスクリュープラグの突出量分の空所を得ることになる。すなわち、固定側中子50を型板ポケット40内で金型開閉方向とは垂直方向に移動させた場合においても常に、固定側中子50の温度分布は略等しくなる。これは、固定側中子50を固定側型板51の側面59のどの面に当てついても、同様なことが言える。
又、スクリュープラグは突出量が調整可能であるため、スクリュープラグの突出量の頂点を結ぶ線と、固定側中子50の側面と相対する固定側型板51の側面59とのなす角度θを調整することが可能であり、各渦電流式変位センサー60の出力値をモニタリングしながら、その都度、適正な突出量にそれぞれを調整することが可能である。
以上のように本実施例2の構成により、実施例1と同様の効果を得られる。更に、本実施例2は固定側中子側面に設けられた微小凸部の突出量を調整することができるため、固定側中子側面と相対する固定側型板側面とのなす角度を5分以下にすることが可能であり、固定側中子側面が固定側型板側面に当て付いた際にも、固定側中子の微妙な回転挙動を調整し抑制することができる。
図8及び図9を用いて、本願発明の実施例3を説明する。本実施例に関しては、実施例1及び2と異なる部分のみ記載する。図8は本願の発明の実施例3の金型装置の固定金型の型合わせ面を可動金型側より見た場合の固定金型の概要図である。図9は実施例3における調整作業後の金型装置の固定金型の型合わせ面を可動側より見た場合の固定金型の概要図である。
図8に示すように、固定側中子80は固定側型板81に空所82を有するようにして穿設された型板ポケット40に埋設されており、この固定側中子80の外観形状は、実施例2と同様に形成されている。更に固定側中子80の各側面部の略中心位置に対応して、実施例2と同様に、型板ポケット40の側面には凹溝40bが型板ポケット40の底面まで達するように形成されている。この4ケ所の各溝40b内に中子位置調節手段であるクサビブロツク83、84、85、86が、上下方向に位置調節自在なようにバネ29とボルト30により支持されて、固定側中子50のテーパー面50cに当接されている。(図6(b)参照)更に、固定側中子80の各側面部には、クサビブロック83、84、85、86のそれぞれを中心にして対称位置に、一対の微小凸部87を有するボ−ルプランジャー88が埋設されている。
なお、微小凸部87を有するボールプランジャー88のボール先端部が固定側型板81の側面に対向する向きに埋設されている。更に、上記微小凸部87の各側面部からの突出量を前記空所82の間隔寸法よりも小さくし、前記突出量と前記空所82を引いた量が0.02〜0.1μmであることが望ましい。
更に、ボールプランジャー88を巻き込んだり緩めたりすることで、その突出量をそれぞれ調整することが可能である。又、ここでは固定側中子80の4つの側面部にボールプランジャーを設けたが固定側中子80と相対する固定側型板側面89に同様なボールプランジャーを設けてもかまわない。
以上の実施例3の構成について説明したが、この他の構成は実施例1、2と同様である。
次に、実施例3の上記構成に基づく作用について説明する。図9に示すように、例えば、固定側中子80を中子位置調整手段による偏心調整により、紙面上、上側、右側にそれぞれ摺動させた場合、固定側型板81の側面89と接触する部分はボールプランジャー88のボール先端部頂点になる。固定側中子80の摺動限界位置はボールプランジャーのボール先端と固定側型板81の側面89の接した位置になる。固定側中子80の前記摺動限界位置は、ポールプランジャーに埋蔵されているスプリングにより抵抗が発生するので容易に認識することができる。
固定側中子80の側面と固定側型板側面89の間には、常にボールプランジャー88の突出量分の空所を得ることになるので、固定側中子80を金型開閉方向とは垂直方向に移動させた場合においても常に、固定側中子80の温度分布は略等しくなる。
以上のように本実施例3の構成により、実施例2と同様の効果を得られる。更に、本願の発明の実施例3は、微小凸部と固定側型板側面と接する部位がボールプランジャーのボール先端の1点であるため、固定側型板から固定側中子への熱の移動も最小限に抑えることができる。又、固定側中子を固定側型板側面に押し付け過ぎた場合でも、ボールプランジャーのバネにより完全に齧っていないため、固定側中子が動かなくなることがない。
本願の発明は、特許請求の範囲に記載した発明の他に次のような特徴を有している。
(1)請求項1乃至3の何れかに記載の金型装置において前記中子位置調整手段は、クサビ状を呈したブロック部材であることを特徴とする。この構成により、中子の摺動をより円滑にすることができ、更には高精度に中子の位置を調整することができる。
(2)請求項3に記載の金型装置において前記1側面部に設けられた微小凸部の該1側面部からのそれぞれの突出量は調整可能であることを特徴とする。
(3)請求項3に記載の金型装置において、前記少なくとも2つの微小凸部の頂点を結ぶ線と、前記中子の側面と相対する型板ポケットの側面とのなす角度が5分以下であることを特徴とする。この構成により、前記微小凸部の頂点を結ぶ線と、前記中子の側面と相対する型板側面とのなす角度を5分以下にすることで、前記微小凸部が型板側面に当て付いた際に、回転挙動を5分以下に抑制することができる。又、前記微小凸部の突出量はそれぞれ調整が可能であるため、所望の突出量に調整することで、前記微小凸部の頂点を結ぶ線と、前記中子の側面と相対する型板側面とのなす角度を5分以下に調整することができる。
なお、本発明者による究明の結果、上記角度が5分を超えると偏心調整精度が悪化して微妙な偏心調整が困難になること、及び、そのため、前記微小凸部の頂点を結ぶ線と、前記中子の側面と相対する型板側面とのなす角度は5分以下が望ましく、好ましくは2分以下にすることが望ましく、更に好ましくは1分以下にすることが望ましいことが明らかになっている。
(4)前項(1)乃至(3)の何れかに記載の金型により成形したことを特徴とする光学素子。この構成によれば、高い偏心精度と優れた光学性能を有する光学素子を提供することができ、又、偏心調整毎に金型温度分布が異ならないため、光学素子の面形状及び内部の分子配向が常に安定した光学素子を提供することができる。
本願の発明の実施例1における射出成形用金型装置の断面の概要図である。
本願の発明の実施例1の金型装置の固定金型の型合わせ面を可動金型側から見た場合の固定金型の概要図である。
(a)は、本願の発明の実施例1の固定側中子の形状の拡大図、(b)は上記固定側中子の外観斜視図である。
本願の発明の実施例1における金型装置のキャビティ付近の断面図である。
本願の発明の実施例1における調整作業後の金型装置のキャビティ付近の断面図である。
(a)は本願の発明の実施例2の金型装置の固定金型の型合わせ面を可動金型側より見た場合の固定金型の概要図である。(b)は図6(a)におけるA-A’断面の概要図である。
本願の発明の実施例2における調整作業後の金型装置の固側金型の型合わせ面を可動金型側より見た場合の固定金型の概要図である。
本願の発明の実施例3の金型装置の固定金型の型合わせ面を可動金型側より見た場合の固定金型の概要図である。
本願の発明の実施例3における調整作業後の金型装置の固定金型の型合わせ面を可動側より見た場合の固定金型の概要図である。
符号の説明
1 金型装置
2 固定金型
3 可動金型
4、51、81 固定側型板
5 可動側型板
6、50、80 固定側中子
7 可動側中子
8 固定側鏡面コア
9 可動側鏡面コア
10 キャビテイ
11 型合せ面
12、15、52、82 空所
13 スプールブッシュ
14 固定側取付け板
16、17、18 ボルト
19、20 突出し板
21 センサー固定部
22、60、90 センサー
22a 変位検出面
23 増幅器
24 カウンター
25、53、83 クサビブロック
29 バネ
30 クサビブロック用ボルト
31 可動側取付板
32 ロケートリング
33 スペーサ
34 調温管
35 固定側取付板用ボルト
40、40a 型板ポケット
40b 凹溝
41 鋼製プレート
51 固定側取付板
57、87 微少凸部
59、89 固定側型板側面
88 ボールプランジャー