JP2005060492A - α−オレフィン重合体の製造方法 - Google Patents

α−オレフィン重合体の製造方法 Download PDF

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Abstract

【解決手段】
α−オレフィンをスラリー重合又はバルク重合してα−オレフィン重合体を製造するにあたり、フルゾーン翼を備えた攪拌槽中で固体触媒成分1g当たり1gを超える量のα−オレフィンを重合することを特徴とするα−オレフィン重合体の製造方法。
【効果】
撹拌所要動力を大きく上げることなく、重合反応槽のスラリー中の固体粒子の沈降分離を防ぎ、スラリーの均一混合性能を改善することができる。また、蒸発により発生する気体のスラリー中の含有率を低下させ、該反応槽内における固体粒子の滞留量を実質的に高めることができる。従って、オレフィン重合用触媒の効率を高めることができ、工業的有利にα−オレフィン重合体を製造することができる。
【選択図】 図1

Description

本発明は、生産性に優れたα−オレフィン重合体のスラリー重合又はバルク重合における製造方法に関する。
詳しくは、その反応で発生する反応熱の全部又は一部を該重合に供されるα−オレフィン又は炭化水素系溶媒(分散媒)の蒸発により除熱する気体−液体−固体の3相状態でのα−オレフィン重合体の連続重合に関するものである。
スラリー重合又はバルク重合におけるα−オレフィン重合体の製造方法は、反応器の型式としてループ型反応器の様な二重管方式のもの、竪型円筒状の攪拌槽型のものに大別される。当該反応器の生産性を向上させる方法としては、
(1)反応器内部スラリー中の固体粒子をより高濃度で運転することで反応器の容積を相対的に削減する方法、あるいは
(2)立体規則性オレフィン重合用触媒の滞留時間を下げて反応器容積を相対的に削滅する方法
があるが、触媒活性の向上には限度があるので、同一触媒を使用する限りは、反応器内部スラリー中の固体粒子をより高濃度で運転する事で反応器容積を削減する(1)の方法が現実的であり望ましい。
スラリー中の固体粒子を高濃度で運転するためには、反応器の全域に渡って触媒濃度を可及的均一に保持できるように、特に反応器の上下方向において濃度差が出ないように、攪拌効率を高める必要がある。そのためこれまで種々の構造を有する攪拌翼が提案されてきた。
例えば、大型ボトムパドル翼、複数段のタービン型攪拌翼、3枚パドル翼あるいはこれらの組合せが提案されている(特許文献1参照)。大型ボトムパドル翼としては、ボトムパドル翼12、アームパドル14及びストリップ13から構成される格子翼が好ましいとされている。具体的な市販品として、住友重機械工業社製のマックスブレンド翼が開示されている。しかし本発明らの更なる検討結果によれば、撹拌効果が相対的に不充分な点があった。
また、マックスブレンド翼、フルゾーン翼、パドル翼、ファウドラー翼などを有する撹拌槽を用いてオレフィンを予備重合処理する方法が提案されている(特許文献2参照)。同文献は、ボトムパドル翼とそれより上部に位置する上部翼から構成される撹拌翼を用いて特定の方法で液面制御する技術を開示している。しかしながら、この公報の開示は触媒を少量のα−オレフィンにて重合する、いわゆる予備重合処理に限られている(請求項1等参照)。予備重合とは、ポリオレフィンの本重合に供する触媒を製造する予備的工程であり、使用する固体触媒の重量に対して生成する重合体の量が極めて少ないものである。それ故に、発生する重合熱も少なく撹拌槽内の流動状態は、本重合の場合とは大幅に異なる。そして、比較的に低温・低圧下といった穏和な重合条件で行われるものである。本重合のような高温・高圧下の厳しい重合条件下で行われる重合について攪拌に関する課題とその解決方法を示唆するものではない。
特開2002−3505号公報 特開平5−1114号公報
本発明は、α−オレフィンのスラリー重合又はバルク重合において、α−オレフィンモノマーまたは炭化水素系溶媒(分散媒)の蒸発潜熱を利用した重合反応熱の除熱方式を採用する場合に、当該蒸発により発生する気体が反応器内気相部へ通気する状態(以下「通気状態」と略称することがある)で発生する弊害をできるだけ抑制し、効率よくα−オレフィンを重合または共重合することを目的とする。
更に詳しく述べると、α−オレフィンモノマーまたは炭化水素系溶媒(分散媒)の蒸発により気体を発生させる場合、発生したその気体は、攪拌槽のスラリー部分を通過し、攪拌槽上部の実質的にスラリーを保有しない気相部へ上昇して行く。上昇する気体の影響で攪拌翼がスラリーに与える力(即ち攪拌動力)が低下し、その結果スラリーの均一混合性能を低下させる。上記の現象は攪拌回転数を上げることにより、解消される傾向となるが、攪拌所要動力(Pgv)が上がり、又スラリー中の気体の含有率(εg)が上昇するという点で好ましくない。
また、商業的規模での攪拌機付き反応器は、経済的観点から攪拌機動力を極力小さくする設計がなされるのが普通であり、実際の商業運転では攪拌回転数を上げることができない場合が多い。そこで、攪拌所要動力(Pgv)およびスラリー中の気体の含有率(εg)を小さくした場合であっても、攪拌機の回転数を変化させることなく、反応器中のスラリー濃度が不均一になることを防止する技術が望まれている。
よって、本発明が解決しようとする課題は、より具体的には、下記の諸点である。
(1)反応槽のスラリー中の固体粒子の沈降分離を防ぎスラリーの均一混合性能を改善すること、
(2)蒸発物質(α−オレフィン又は炭化水素系溶媒(分散媒))の蒸発により発生する気体のスラリー中の含有率を低下させ、該反応器内における固体粒子の滞留量を実質的に高めること
(3)オレフィン重合用触媒の効率を高めること
(4)撹拌所要動力を大きく上げないこと
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、特定構造を有する攪拌翼を備えた攪拌槽を用いることで、上記課題を解決してα−オレフィン重合体を効率よく、しかも安定的に製造することが可能になることを見出した。
すなわち本発明の要旨は、
(第1の発明)
α−オレフィンをスラリー重合又はバルク重合してα−オレフィン重合体を製造するにあたり、フルゾーン翼を備えた攪拌槽中で固体触媒成分1g当たり1gを超える量のα−オレフィンを重合することを特徴とするα−オレフィン重合体の製造方法。
(第2の発明)
重合槽内の攪拌による単位容積当たりの攪拌所要動力(Pgv)が0.5〜3.0kW/m3である条件の攪拌回転数で運転する請求項1に記載のα−オレフィン重合体の製造方法。
(第3の発明)
α−オレフィンの重合をガス通気状態下でおこなう請求項1または2に記載のα−オレフィン重合体の製造方法。
(第4の発明)
α−オレフィンがプロピレンを含むものであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のα−オレフィン重合体の製造方法。
(第5の発明)
α−オレフィンの重合をチーグラーナッタ触媒を用いておこなう請求項1〜4のいずれか1項に記載のα−オレフィン重合体の製造方法。
(第6の発明)
α−オレフィンの重合量が固体触媒成分1g当たり1000g以上である請求項1〜5のいずれか1項に記載のα−オレフィン重合体の製造方法。
本発明によれば、撹拌所要動力を大きく上げることなく、重合反応槽のスラリー中の固体粒子の沈降分離を防ぎ、スラリーの均一混合性能を改善することができる。また、蒸発により発生する気体のスラリー中の含有率を低下させ、該反応槽内における固体粒子の滞留量を実質的に高めることができる。従って、オレフィン重合用触媒の効率を高めることができ、工業的有利にα−オレフィン重合体を製造することができる。
本発明を以下に各項目毎に詳細に説明する。
(1)フルゾーン翼
フルゾーン翼とは、複数のパドル翼を上下多段に配置すると共に、最下段のパドル翼を攪拌槽の底面に近接させて配置し、かつ上段に位置する各パドル翼を隣接する下段のパドル翼に対して90度未満の交差角度で回転方向に先行させて配置させた構造を有する翼である。このフルゾーン翼そのものは公知であり、その特徴については、例えば特開平5−49890号公報、化工便覧等に記載されている。
上記の交差角度は45〜75度がより好ましく、最下段のパドル翼の外端部を後退翼に形成することもできる。複数のパドル翼は同一形状、同一寸法でもよいが、最下段のパドル翼をその上段に位置する他のパドル翼より大きくすることもできる。また、上下に位置する各パドル翼は隣接していてもよく、撹拌槽の内径の20%以下の寸法で離れていてもよい。上下で隣接するパドル翼をそれぞれ少なくとも外端部において互いにオーバーラップさせた形状も好ましい。パドル翼の枚数は2枚以上であれば特に制限はない。実用的には図7〜9に示すように、2〜3枚のものが多く用いられる。
攪拌槽底壁面からボトムパドル翼(最下段パドル翼)下端部迄の距離(C)と攪拌槽の直径(D)の比(C/D)は通常0.10以下になる位置に配設される。
図1は、フルゾーン翼を有する重合槽及びその主要付帯設備を示す。
図2〜4、及び図7〜9に各種のフルゾーン翼の態様を示す。
図2(a)は、2段パドル翼を有する撹拌槽の上面図であり、図2(b)は2段パドル翼の正面斜視図である。図中、1は撹拌槽、2は撹拌軸、11は下段パドル翼、12は上段パドル翼、θは交差角度を表す。
図3(a)は、2段パドル翼を有する撹拌槽の正面図であり、図3(b)は底面図である。図中、31は撹拌槽、32は撹拌軸、33は攪拌翼[上下2段のパドル翼]、34は邪魔板、35はガス吹き込み管、36はサンプリング管を示す。
図4は、図3(a)の2段パドル翼について上下パドル翼の主要な寸法関係及び交差角度を説明する図である。
図7(a)は、2段パドル翼を有する他の撹拌槽の一部断面斜視図、図7(b)は、撹拌槽胴部断面図である。
図8は、3段パドル翼を有する撹拌槽の一部断面斜視図である。
図9(a)は、2段パドル翼を有する他の撹拌槽の一部断面図であり、図9(b)は、撹拌槽胴部断面図である。
なお、図5は、マックスブレンド翼を示し、図6は、3段翼(タービン翼2段+ファウドラー翼1段)を示す。これらはフルゾーン翼とは異なる。
(2)重合槽
本発明で用いる重合槽は、α−オレフィンの重合に一般的に用いられる竪型円筒状の攪拌槽であり、重合反応熱の除去方法としては、α−オレフィンモノマー又は炭化水素系溶媒(分散媒)の蒸発による蒸発潜熱を利用する方法を用いる。このような反応器の場合は、反応器の容積を変更しないで当該反応器の生産性を向上させることが可能であり、当該除熱系に付設する多管式熱交換器に用いられるチューブは外部循環方式のスラリークーラーに比べて付着・閉塞の危険性が極めて少ない。このため、多管式熱交換器に用いられるチューブの管径は、15〜25mmと小口径のものが利用でき、伝熱係数も400〜600kcal/m2/℃/hrとスラリークーラーと比較して高く、該熱交換器の伝熱面積を増大させる場合、該熱交換器の容積が過大になることはなく、反応器の生産性の向上に最も適した除熱方法と言える。
前記のα−オレフィンモノマー又は炭化水素系溶媒(分散媒)の蒸発を利用して除熱を行う攪拌槽は、一般的に、気−液−固3相通気型攪拌槽と呼ばれている。
次に、本発明のα−オレフィン重合体の製造工程の一例を図面を用いて説明する。
図1は、重合槽及びその主要付帯設備を示すフロー図である。図中、1は重合槽(攪拌槽)、2は撹拌軸、4は邪魔板、5は多管式熱交換器、6は回収液ドラム、7は回収液ポンプ、8は加熱器、10は電動機、11は下段パドル翼(ボトムパドル翼)、12は上段パドル翼、21はトルクメーター、22は光電式回転計、23は差圧流量計、36はサンプリング管を示す。
竪型円筒状攪拌槽1の中心部に電動機10により、回転可能な攪拌軸2に、フルゾーン攪拌翼(11、12)を有し、オレフィン重合用触媒の存在下に、α−オレフィンのスラリー重合またはバルク重合を行う。この際、発生する反応熱により蒸発するα−オレフィンモノマーまたは炭化水素系溶媒の蒸気は、多管式熱交換器(還流コンデンサー)5で冷却され、その凝縮液は回収液ドラム6及び回収液ポンプ7を経て加熱器8で予熱され、重合槽1に再循環される。
さらに、攪拌槽側壁面に下部から上部迄、側壁面に沿って邪魔板4が配設されていてもよい。邪魔板の数としては単数でも複数でも良く、複数の場合は4〜12本であることが好ましい。配設される邪魔板4の幅は、攪拌槽の直径(D)に対して、0.05D〜0.12Dの範囲で、邪魔板の長さは攪拌槽の直胴部下端(下部Tangential Line)から液面位置までを包含する長さのものが一般的に用いられるが、邪魔板の下端部が直胴部下端よりも上部にあっても良い。又、邪魔板の形状としては板状、円柱状、楕円柱状のものが好んで用いられる。攪拌翼及び邪魔板の寸法・形状は上述の範囲に規定される必要は無い。
(3)重合
(i)原料および溶媒
本発明は、少なくとも1槽以上の重合槽を用いて、オレフィン重合用触媒の存在下に、α−オレフィンをスラリー重合、又はバルク重合し、該重合で発生する重合熱の全部又は一部をα−オレフィンモノマーまたは炭化水素系溶媒(分散媒)の蒸発による潜熱を利用して除熱する方法に関する。
原料として用いるα−オレフィンとしては、炭素数は2〜8のもの、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテンなどを挙げることができる。これらの中ではプロピレンが特に好ましい。
スラリー重合の場合に用いられる分散媒としての不活性溶媒としては、炭素数3〜20程度の炭化水素化合物が用いられる。これらの化合物は直鎖状、分岐状あるいは環状炭化水素化合物であってもよく、あるいは芳香族環を有していてもよい。バルク重合する場合には、例えば、液体プロピレン白身を媒体とする重合方法が用いられる。
(ii)触媒
本発明で用いるオレフィン重合用触媒は、公知のものであれば特に制限なく使用できる。例えばチーグラーナッタ触媒やメタロセン触媒が例示でき、ファウリングや粒子同士の凝集防止の観点から、担持型触媒であることが好ましい。いわゆる予備重合がなされていればさらに好ましい。チーグラーナッタ触媒としては固体触媒成分と有機アルミニウム化合物、および必要に応じて電子供与性化合物からなるものが挙げられる。「からなる」とは、上記主成分以外に合目的な各種成分が含まれてなるものをも包含するものである。固体触媒成分は、マグネシウム、チタン、ハロゲン、ならびに電子供与性化合物を含むものである。固体触媒成分、有機アルミニウム化合物、および必要に応じて用いられる電子供与性化合物の各触媒成分は、重合槽中であるいは重合槽外で、重合させるべきモノマーの存在下あるいは不存在下で互いに接触し、この接触によって、本発明の重合に供する立体規則性触媒が形成される。
(iii)重合温度および圧力
本発明において、重合槽の重合温度に特に制限はないが、通常、40〜120℃、好ましくは50〜90℃で行われる。圧力にも特に制限はないが、通常1〜100atm、好ましくは、5〜50atmの圧力で行われる。重合は必要に応じて、分子量調節剤としての水素の存在下で行われる。重合槽への水素の供給量に特に制限はなく、所望のメルトフローレート(MFR)を得るために必要な水素を供給することができる。
(iv)重合量
本発明においては、上述したポリオレフィン重合用触媒を用いて、固体触媒成分1gあたり1gを超える量のα−オレフィンを重合することを特徴とする。本発明の方法を使用するにあたっては100g以上、より好ましくは1000g以上の重合量になるような運転条件を採用した場合に効果がより顕著である。
重合量の制御方法については、上述した公知触媒であれば固体触媒成分1g当たり1gを超えるポリマーを製造できる重合能を有しており、触媒をフィードしてから重合停止剤の投入あるいはポリマーの抜き出しまでの時間(いわゆる重合時間)を調節することで重合量の調節が可能である。重合量の監視は供給する触媒量および消費される原料モノマーの量から計算できる。
(v)粒子径
本発明においては、上記した形状の攪拌翼及び必要に応じて付設する邪魔板を用いて、攪拌槽中でα−オレフィンをスラリー重合又はバルク重合し、該重合で生成するポリオレフィン粒子の粒子径が300〜2,000μm、好ましくは500〜1,500μmの範囲で運転する。
上記した生成する固体粒子の粒子径が300μm未満では、生成ポリマー粒子の重量による沈降力よりも攪拌による浮遊力が勝り、フルゾーン翼を使用しなくとも、本発明の課題である粒子濃度の均一性が達成されてしまう。固体触媒1g当たりのα−オレフィン重合量が1000gを超えた場合、得られるポリマーの平均粒径は300μmを超えるため、本発明の主題であるフルゾーン翼を使用する効果が顕著に発現するのである。
また、固体粒子の粒子径が300μm未満では、α−オレフィンの重合で得られた製品の品質を向上させることが困難である。
逆に、生成する固体粒子の粒子径が2000μmを超えると上記スラリー中の固体粒子濃度が一定になるために必要な最小攪拌回転数(粒子濃度平衝攪拌回転数)が過大となり、その結果、過大な攪拌動力を必要とし、経済的に不利である。また、液相中の気体の占める割合も増大し、反応槽の攪拌回転数が高い状態ではスラリー界面における泡立ち(Foaming)現象が発生し、該蒸発物質を液化・凝縮させるための還流コンデンサーの性能を著しく低下させることがあり不都合である。ポリオレフィン粒子径の制御は触媒活性および滞留時間に依存するため、これらのファクターを適切に制御する。
(vi)固体粒子濃度
重合スラリー中の固体粒子濃度が20〜60重量%、好ましくは30〜50重量%の範囲で運転する。スラリー中の固体粒子濃度が20重量%未満では攪拌槽内の固体粒子の滞留量が減少し、触媒の実質的な滞留時間の減少により、触媒の効率が低下する。スラリー中の固体粒子濃度が60重量%を超えると固体粒子濃度の増加による急激なスラリー粘度の増大を起こし、攪拌動力の増大や混合性能の悪化現象を起こし、好ましくない。スラリー中の固体濃度は重合反応量と該重合槽に供給するオレフィンモノマーまたは炭化水素溶媒(分散媒)の供給量に依存するため、これらのファクターを適切に制御する。
(vii)粒子濃度平衡攪拌回転数(Nus)
粒子濃度平衡攪拌回転数とは、攪拌機の翼の形態や攪拌モーターの能力等を設計する際に指標となるパラメータであり、スラリー中の固体粒子濃度が、槽内の上部濃度と下部(底部)濃度の比が一定になるために必要な最小攪拌回転数であると定義される。ここで「一定になる」とは、これ以上攪拌回転数を上げても、槽内のスラリー濃度が上部、中間部、下部で均一化された方向に変化しない、いわば飽和(頭打ち)の状態になることをいう。
反応器内のスラリー濃度(上中下)が均一に近づいたことは、反応槽の上中下の各点における体積分率の測定値が接近したことで確認できる。このような終点に相当する攪拌回転数が、先に説明した粒子濃度平衡撹拌回転数(Nus)となる。
攪拌槽の均一混合性能はスラリー層を通過する気体量を攪拌槽の断面積で除した空塔ベ−スの通気ガス線速(Ug)、スラリー中の重量基準固体粒子濃度(Ws)、固体粒子の平均粒子径(dp)、スラリー中の固体、液体の密度(ρs及びρl)、液体の動粘度(νl)、更には攪拌槽の底部に配設した攪拌翼の取り付け位置、寸法比(攪拌翼径/攪拌槽径)などのファクターの影響を受ける。特開2002−3505号公報の[0049]には、下記の通り、粒子濃度平衡攪拌回転数(Nus)の推算式が示されており、本発明においてもこれが適用可能である。
Nus=K・ν-0.25・[g・(ρs−ρl)/ρl]0.4・dp0.47
Ws0.22/di0.8
但し、上記の式において、各記号は以下の通りである。
K:配設した攪拌翼の形状で決まる定数
ν:液体の動粘度[m2/sec]
ρs:固体の密度[kg/m3
ρl:液体の密度[kg/m3
Ws:固体粒子の重量基準濃度[重量%]
dp:固体粒子の粒子径[m]
di:配設した翼の径;多段翼の場合は配設した複数段の翼の平均径[m]
g:重力加速度定数[m/sec2]。
攪拌槽の均一混合性能が不十分な場合、攪拌槽内部に保有するスラリーの上部と下部に固体粒子の濃度差が発生し、上部の固体粒子濃度が低下するために実質的な触媒の滞留時間の減少となり、触媒効率を低下させる問題が生じるので好ましくない。
また通気状態での運転をする場合、粒子には浮力が働くが攪拌翼が通気によるエアレーション現象を起こし攪拌負荷動力が低下するために粒子の浮遊のために与える力が低下する。このため、スラリー濃度が飽和する(頭打ちになる)ために必要とされる粒子濃度平衡攪拌回転数の値に対して、通気状態の有無は大きな影響を与える。
しかし、本発明のフルゾーン翼を使用した場合、上述した不都合を極力抑えることが可能である。
(viii)通気ガス線速(Ug
通気ガス線速とは、スラリー層を通過する気体量を攪拌槽の断面積で除したものをいう。一般に、α−オレフィンをスラリー重合、又はバルク重合し、該重合で発生する重合熱の全部又は一部をα−オレフィンモノマーまたは炭化水素系溶媒(分散媒)の蒸発による潜熱を利用して除熱する方法においては、攪拌槽は通気状態となる。すなわちα−オレフィンモノマーまたは炭化水素系溶媒(分散媒)の蒸発により発生したその気体は、攪拌槽のスラリー部分を通過し、攪拌槽上部の実質的にスラリーを保有しない気相部へ上昇して行く。上昇する気体の影響でスラリー中の気泡含有率が上昇すると攪拌翼がスラリーに与える力(即ち攪拌動力)が低下し、その結果スラリーの均一混合性能を低下させ、スラリー層の下部に固体粒子濃度の濃い層が形成され、上部には固体粒子濃度の薄い層が形成される。
上記のように均一混合性能の低下や固体粒子の浮遊を阻害する現象は、スラリー層を通過する気体量を攪拌槽の断面積で除した空塔ベ−スの通気ガス線速の増加により顕著に現れるが、空塔ベースガス線速は1.0〜6.0cm/sec、好ましくは2.0〜5.0cm/secの範囲で運転する。
空塔ベースガス線速が1.0cm/sec未満であると、同一容量の攪拌槽を用いる場合、α−オレフィンモノマーの重合量を減少させる必要があり、経済的に不利である。一方、生産性を向上させる目的で重合反応量を増大させて、空塔ベースガス線速が6.0cm/secを超えると、気液の界面における泡立ち現象を起こしたり、液面から出て上昇するガスに同伴した液滴中の触媒粒子が蒸発物質を凝縮・液化させる為の還流コンデンサーにエントレインして、付着・閉塞することにより該還流コンデンサーの能力を低下させる原因となる。
(ix)気泡含有率(εg
気泡含有率とは、攪拌槽内のスラリー中の気泡含有率をいい、
気泡の容積/(気泡の容積+スラリーの容積)×100
で定義される。実測することも可能であり、反応器の静止液面レベルと通気状態で重合中の液面レベルとの比からも算出できる。
気泡含有率は、同一の空塔ベースガス線速においても攪拌効率を上げる目的で攪拌回転数を上げ攪拌負荷動力を増大させると液相部分の内、気体の占める割合が増加する傾向となる。また、いわゆる重合レートの違いによっても重合反応熱量の大小が異なり、蒸発気体量も異なってくるため、気泡含有率の値も変わってくる。
攪拌槽内のスラリー中の気泡含有率は40容積%以下、好ましくは5〜35容積%の範囲で運転する。重合槽内のスラリー中の当該蒸発物質の気泡含有率が40容積%を超えると、含有する気泡部分には触媒粒子を保有しないので実質的な触媒の滞留時間の減少となり、触媒の実質的な効率を低下させる問題が生じるので好ましくない。
(x)攪拌所要動力(Pgv
攪拌所要動力とは、通気状態または無通気状態下の重合における攪拌機が必要な動力をいう。
特開2002−3505号公報の[0062]には、下記の通り、ガス通気状態における攪拌所要動力推算式が示してあるが、これは本発明においても適用可能である。攪拌所要動力は、攪拌機のトルクメーターによる実測からも算出が可能である。

gv=K・ρav・Ug (1-β)/[Fr1.2・D0.5

但し、上記の式において、各記号は以下の通りである。
gv:単位容積当たりの通気下の攪拌所要動力[W/m3
K:攪拌翼の形状・組み合わせによる定数
ρav:スラリーの平均密度[kg/m3
g:攪拌槽における通気ガスの空塔ベースガス速度[m/sec]
D:攪拌槽の直径[m]
β:定数[−]
Fr:攪拌フルード数;Fr=n2・di/g
n:攪拌回転数[sec-1
i:配設した攪拌翼の径(多段翼の場合は配設した複数段の翼の平均径)[m]
g:重力加速度定数[m/sec2]。
以下に実施例及び比較例により本発明を説明するが、本発明はこれらに限定されるものでは無い。以下に示す実施例及び比較例は、以下に示す実験装置及び計測装置を用いて行った。
(1)実験装置
(i)実施例用の実験装置
撹拌装置の全体図を図3に、撹拌翼の概要を図4に示した。
攪拌槽(31)内に空気を吹き込む為の吹き込み管(35)、サンプリング管(36)及び4枚の板バッフル(34)を付属設備として配設する竪型円筒攪拌槽の中心位置に攪拌軸(32)を配設し、該攪拌軸には、撹拌翼として、上段パドル翼と下段パドル翼との交差角θが45度のフルゾーン翼を配設した。
攪拌軸は、槽外上方(図示せず)に設置した1〜600rpmの範囲で回転数を変更可能な無段変速機を接続した電動機で回転した。
(ii)比較例1、2用の実験装置
撹拌翼としては、図5に示すマックスブレンド翼を配設した。
撹拌翼以外の付属設備、撹拌槽、電動機は、実施例で使用するものと同様である。
(iii)比較例3、4用の実験装置
撹拌翼としては、図6に示す3段翼(タービン翼2段+ファウドラー翼1段)を配設した。撹拌翼以外の付属設備、撹拌槽、電動機は、実施例で使用するものと同様である。
(2)計測装置及び方法
攪拌軸の槽外部分には回転数および攪拌所要動力を計測するためにトルクメーターを付設した。攪拌槽内部の空塔ベースのガス線速を計測するために該攪拌槽へのガス吹き込みラインにフロ―ト式流量計を配設した。
攪拌槽内部のスラリー中の固体粒子濃度を計測する手段として、図3に示す如く、攪拌槽の上部、中部及び下部の3箇所の、攪拌槽側壁位置にサンプリング管(36)及び弁を設けてサンプリングして、固体粒子濃度を求めた。攪拌槽内部のスラリー中の気泡の含有率(εg)は通気前後の液面上昇からスラリー体積増加率を求め、仕込み中のスラリー中の固体粒子濃度を用いて以下の式で気泡含有率を算出した。

ρsl=100/{Ws/ρs+(100−Ws)/ρl
εg=(ρsl−ρav)/(ρsl−ρg)×100

但し、上記の式において、各記号は以下の通りである。
εg:スラリー中の気泡の含有率[容量%]
ρsl:気泡を含まないスラリー(液体と固体)の平均密度[kg/m3
s:気泡を含まないスラリー中の固体粒子濃度[重量%]
ρs:固体の密度[kg/m3
ρl:液体の密度[kg/m3
ρav:気泡を含む平均密度[kg/m3
ρg:吹き込みガスのガス密度[kg/m3]。
<実施例1に対応する撹拌実験>
[ベース実験1]
図3に示す攪拌槽(31)に図4に示すフルゾーン翼を取付けた状態で、水量0.509m3(L/D=1.1)、平均粒径800μmのガラスビーズ(密度2,500kg/m3)を濃度25容量%で投入し、ガスを通気しない条件で、攪拌回転数を80〜130rpmの範囲で変化させて攪拌を行った。この運転条件における粒子濃度平衝攪拌回転数は120rpmであり、攪拌槽の上中下のサンプリングによるガラスビーズ粒子濃度は、上部、中部、下部共に24〜26容量%とほぼ均一であった。このときのスラリー体積当たりの攪拌所要動力(Pgv)は2.6kW/m3であり、気泡の含有率(εg)は2.7容量%であった。
図10は、ベース実験1について、Nusを作図で求めた一例を示すものである。
[実験1−a]
ベース実験1において、空塔ベースガス線速3.0cm/secの空気を通気した以外は同様の運転条件でおこなった。攪拌回転数を90〜140rpmの範囲で変化させて攪拌を行った。この運転条件における粒子濃度平衝攪拌回転数は130rpmであり、攪拌槽の上中下のサンプリングによるガラスビーズ粒子濃度は、上部、中部、下部共に25〜27容量%とほぼ均一であった。このときの気泡の含有率は8.5容量%であった。また、スラリー体積当たりの攪拌所要動力(Pgv)は3.3kW/m3であった。
[実験1−b]
ベース実験1において、攪拌数を実験1−aで求めたNusの値(130rpm)を使用した以外は同じ条件でおこなった。すなわち、無通気の条件でおこなった。このときのスラリー体積当たりの攪拌所要動力(Pgv)は3.2kW/m3であった。また気泡含有率は8.5容量%であった。
<比較例1に対応する撹拌実験>
[ベース実験2]
攪拌翼を図5に示すマックスブレンド翼に変更し、ベース実験1と同じく平均粒径800μmのガラスビーズを濃度25容量%で投入した条件で、ガスを通気せず、攪拌回転数を80〜160rpmの範囲で変化させて攪拌を行った。この運転条件における粒子濃度平衝攪拌回転数は110rpmであり、攪拌槽の上中下のサンプリングによるガラスビーズ粒子濃度は上部、中部、下部共に27容量%とほぼ均一であった。このときのスラリー体積当たりの攪拌所要動力(Pgv)は1.7kW/m3であり、気泡の含有率は1.0容量%であった。
[実験2−a]
ベース実験2において、空塔ベースガス線速3.0cm/secの空気を通気した以外は同様の運転条件でおこなった。攪拌回転数を100〜170rpmの範囲で変化させて攪拌を行った。この運転条件における粒子濃度平衝攪拌回転数は150rpmであり、攪拌槽の上中下のサンプリングによるガラスビーズ粒子濃度は上部、中部、下部共に28〜29容量%とほぼ均一であった。このときのスラリー体積当たりの攪拌所要動力(Pgv)は3.4kW/m3、気泡の含有率は11.7容量%であった。
[実験2−b]
ベース実験2において、攪拌数を実験2−aで求めたNusの値(150rpm)を使用した以外は同じ条件でおこなった。すなわち、無通気の条件でおこなった。このときのスラリー体積当たりの攪拌所要動力(Pgv)は3.4kW/m3、気泡の含有率は11.7容量%であった。
[撹拌実験の比較考察]
上記各実験の運転条件および結果概略を表1にまとめた。
実験1−aと実験1−bを対比すると、攪拌所要動力(Pgv)の変化はベース2.6に対して3.3あるいは3.2であり、比較してわずかな変化幅しかないことが分かる。一方、比較例1の対応実験である実験2−aと実験2−bを対比すると、Pgvの変化はベース1.7に対して3.4あるいは4.0であり、その変化幅は実験1の対応実験の方が小さいことが確認できた。同様の傾向が気泡含有率εgについても言える。
<比較例2に対応する撹拌実験>
[ベース実験3]
攪拌翼を図6に示す3段翼に変更し、ベース実験1と同じく平均粒径800μmのガラスビーズを濃度25容量%で投入し、ガスを通気しない条件で、攪拌回転数を150〜230rpmの範囲で変化させて攪拌を行った。この運転条件における粒子濃度平衝攪拌回転数は200rpmであり、攪拌槽の上中下のサンプリングによるガラスビーズ粒子濃度は上部、中部、下部共に24〜25容量%とほぼ均一であった。このときのスラリー体積当たりの攪拌所要動力(Pgv)は4.6kW/m3であった。3段翼はフルゾーン翼(ベース実験1)に比べてNusが大きく、Pgvも大きいことが分かる。これらの値が大きいことは商業的規模で装置設計をおこなう場合に経済的に不利であることは上述した通りである。
[実験3−a]
ベース実験3において、空塔ベースガス線速3.0cm/secの空気を通気した以外は同様の運転条件でおこなった。攪拌回転数を190〜290rpmの範囲で変化させて攪拌を行った。この運転条件における最大回転数(290rpm)においても攪拌槽の上中下のサンプリングによるガラスビーズ粒子濃度は均一になることはなく、上部20容量%、中部29容量%、下部32容量%であった。このときのスラリー体積当たりの攪拌所要動力(Pgv)は7.6kW/m3であり、ベース実験1と比較して大きな差があることが分かる。
gvがこのように大きな値で運転をした場合であっても、スラリー濃度は均一にならなかった。このように3段翼は通気条件下では工業的に不利であることがわかる。上記各実験の運転条件および結果概略を表1にまとめた。
Figure 2005060492
本発明によれば、α−オレフィンのバルク重合又はスラリー重合において、スラリーの均一混合性能を改善することができ、オレフィン重合用触媒の利用効率が増大する。従って、α−オレフィン重合体を製造工程に有利に適用することができる。
重合槽及びその主要付帯設備を示す。 2段パドル翼を有する撹拌槽の一例を示す。 2段パドル翼を有する撹拌槽の一例を示す。 2段パドル翼について上下パドル翼の主要な寸法関係及び交差角度を説明する図である。 マックスブレンド翼の一例を示す。 タービン翼(2段)及びファウドラー翼(1段)からなる3段翼の一例を示す。 2段パドル翼を有する撹拌槽の一例を示す。 3段パドル翼を有する撹拌槽の一例を示す。 2段パドル翼を有する撹拌槽の一例を示す。 粒子濃度平衡撹拌回転数(Nus)を作図で求めた一例を示す。
符号の説明
1:重合槽(攪拌槽)
2:撹拌軸
4:邪魔板
5:多管式熱交換器
6:回収液ドラム
7:回収液ポンプ
8:加熱器
10:電動機
11:下段パドル翼(ボトムパドル翼)
12:上段パドル翼
21:トルクメーター
22:光電式回転計
23:差圧流量計
31:重合槽(攪拌槽)
32:撹拌軸
33:攪拌翼[上段パドル翼+上段パドル翼]
34:邪魔板
35:ガス吹き込み管
36:サンプリング管
θ :交差角度(上段パドル翼と上段パドル翼の交差角度)
b、h、d、r、w:撹拌翼の各部寸法
α :タービン翼の傾斜角度
β :ファウドラー翼の傾斜角度
D :重合槽(直胴部)直径
L :直胴部液深

Claims (6)

  1. α−オレフィンをスラリー重合又はバルク重合してα−オレフィン重合体を製造するにあたり、フルゾーン翼を備えた攪拌槽中で固体触媒成分1g当たり1gを超える量のα−オレフィンを重合することを特徴とするα−オレフィン重合体の製造方法。
  2. 重合槽内の攪拌による単位容積当たりの攪拌所要動力(Pgv)が0.5〜3.0kW/m3である条件の攪拌回転数で運転する請求項1に記載のα−オレフィン重合体の製造方法。
  3. α−オレフィンの重合をガス通気状態下でおこなう請求項1または2に記載のα−オレフィン重合体の製造方法。
  4. α−オレフィンがプロピレンを含むものであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のα−オレフィン重合体の製造方法。
  5. α−オレフィンの重合をチーグラーナッタ触媒を用いておこなう請求項1〜4のいずれか1項に記載のα−オレフィン重合体の製造方法。
  6. α−オレフィンの重合量が固体触媒成分1g当たり1000g以上である請求項1〜5のいずれか1項に記載のα−オレフィン重合体の製造方法。
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