JP2005024041A - 同期変速機構の潤滑装置 - Google Patents
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Abstract
【課題】シンクロメッシュ機構の摩擦係合部に潤滑油を供給する潤滑装置の構造を簡略化する。
【解決手段】変速軸11にクラッチハブ21を一体的に設けるとともにギヤピース22が一体的に設けられた変速歯車13を回転自在に支持し、クラッチハブとギヤピースの間にシンクロナイザリング25を回転自在に支持し、内歯スプライン24bを有するハブスリーブ24を、シフトフォーク30により、クラッチハブのみと係合する中立位置とクラッチハブ、シンクロナイザリング及びギヤピースと噛合するシフト位置の間で移動させる。シフトフォークの円弧状部31には変速歯車側に突出する庇状部32を設け、変速歯車から庇状部に飛散される潤滑油を庇状部により受け止めて、その内面32aに形成した内向き突条33の案内面33aを介して、ギヤピースとシンクロナイザリングの間の隙間G,H内に導入する。
【選択図】 図3
【解決手段】変速軸11にクラッチハブ21を一体的に設けるとともにギヤピース22が一体的に設けられた変速歯車13を回転自在に支持し、クラッチハブとギヤピースの間にシンクロナイザリング25を回転自在に支持し、内歯スプライン24bを有するハブスリーブ24を、シフトフォーク30により、クラッチハブのみと係合する中立位置とクラッチハブ、シンクロナイザリング及びギヤピースと噛合するシフト位置の間で移動させる。シフトフォークの円弧状部31には変速歯車側に突出する庇状部32を設け、変速歯車から庇状部に飛散される潤滑油を庇状部により受け止めて、その内面32aに形成した内向き突条33の案内面33aを介して、ギヤピースとシンクロナイザリングの間の隙間G,H内に導入する。
【選択図】 図3
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、変速軸に変速歯車を回転自在に支持し、変速歯車に一体的に設けたギヤピースにシンクロナイザリングを押し付けて摩擦係合させ、この変速軸と変速歯車の回転速度が一致したときに変速軸と変速歯車を連結するようにした同期変速機構の潤滑装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
この種の同期変速機構では、シンクロメッシュ機構の摩擦係合部に潤滑油を供給することにより、その耐久性を高めることが行われている。このためにギヤピースとシンクロナイザリングの摩擦係合部を円錐状のシンクロテーパ部とし、シンクロテーパ部に内外に連通する油路を形成し、変速軸(伝導軸)にスプライン連結したカップリング(ハブスリーブ)とギヤ(変速歯車)との間に形成された環状空間に油路を連結させ、かつ、この環状空間に変速軸内に形成した軸内油路を介して潤滑油を供給するよう構成したものがある(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】
特開平5−10346号公報(段落〔0004〕、図1)。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
上述した特許文献1の技術では、変速軸内に孔明け加工により軸内油路を形成する必要があり、またこの軸内油路に潤滑油を供給するために、ケーシング内に飛散される潤滑油を集めて軸内油路に送り込むレシーバあるいはケーシング下部に溜まる潤滑油を吸入して軸内油路に送り込むポンプなどを必要とするので構造が複雑化し、実施に必要なコストが増大するという問題がある。
【0005】
本発明は、変速機構のシフトフォークに一体的に形成した部材により、変速歯車から半径方向外向きに飛散される潤滑油を集めて、半径方向外側からギヤピースとシンクロナイザリングの間の隙間内に導入して、ギヤピースとシンクロナイザリングの間の摩擦係合部を潤滑することにより、上述したような各問題を解決することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段および発明の作用・効果】
このために、本発明による同期変速機構の潤滑装置は、変速軸と一体的に回転されるクラッチハブと、このクラッチハブの外周に形成された外歯スプラインと軸線方向摺動可能に噛合される内歯スプラインが形成されたハブスリーブと、クラッチハブの軸線方向一側に位置して変速軸に回転自在に支持された変速歯車と、この変速歯車のクラッチハブ側となる一側に一体的に設けられて内歯スプラインと噛合可能な外歯スプラインが外周に形成されたギヤピースと、クラッチハブとギヤピースの間に位置してクラッチハブに回転自在に支持され内歯スプラインと噛合可能な外歯スプラインが外周に形成されハブスリーブの軸線方向のシフトによりギヤピースに摩擦係合されて変速歯車の回転をハブスリーブの回転に同期させるシンクロナイザリングと、ハブスリーブの外周部に沿って設けられてこれと円周方向摺動可能に係合する円弧状部を有し同ハブスリーブを内歯スプラインがクラッチハブの外歯スプラインとのみ係合する中立位置とクラッチハブ、シンクロナイザリング及びギヤピースの各外歯スプラインと噛合するシフト位置の間で移動させるシフトフォークを備えてなる同期変速機構において、シフトフォークの円弧状部から変速歯車側に突出しその上側の少なくとも一部を覆って同変速歯車から半径方向外向きに飛散される潤滑油を受け止める円弧状の庇状部と、この庇状部の内面に円周方向に沿って形成されて同庇状部により受け止められた潤滑油を半径方向内向きに案内する案内面を有する内向き突条を備えてなり、内向き突条の軸線方向位置はシフトフォークが中立位置にある状態において案内面に沿って半径方向内向きに案内されて内向き突条の変速軸側となる内端縁から離れる潤滑油がギヤピースとシンクロナイザリングの間の隙間内に導入されるような位置としたことを特徴とするものである。
【0007】
シフトフォークが中立位置にある状態において、変速歯車から半径方向外向きに飛散される潤滑油はシフトフォークの円弧状の庇状部により受け止められ、内向き突条の案内面に沿って半径方向内向きに案内され、内向き突条の内端縁から離れてギヤピースとシンクロナイザリングの間の隙間内に導入され、ギヤピースとシンクロナイザリングの間の摩擦係合部に供給される。これによりこの摩擦係合部が潤滑されるので、同期変速機構の耐久性を高めることができる。しかも変速機構が本来備えているシフトフォークの形状を変更するだけで足り、別個の部材を必要とせず、また変速軸に孔明け加工を行う必要もないので構造が簡略化され、実施に必要なコストを低下させることができる。
【0008】
前項に記載の同期変速機構の潤滑装置は、案内面を凹曲面とすることが好ましい。このようにすれば、凹曲面の案内面により案内されて内向き突条の内端縁から離れて隙間内に導入される潤滑油の向きは、ギヤピースとシンクロナイザリングの軸線方向に対し直角方向に近づくので、潤滑油が隙間内に入り易くなる。従って、ギヤピースとシンクロナイザリングの間の摩擦係合部に供給される潤滑油量が増大し、この摩擦係合部の潤滑は向上されるので、同期変速機構の耐久性を一層高めることができる。
【0009】
前2項に記載の同期変速機構の潤滑装置は、内端縁の幅を前述した隙間と同程度またはそれより狭くして、シフトフォークが中立位置にある状態において前述した隙間と対向する位置とすることが好ましい。このようにすれば、内向き突条の内端縁から内向きに離れて隙間内に導入される潤滑油の切れがよくなってこの潤滑油の幅が狭くなるので、ギヤピースとシンクロナイザリングの間の隙間内に入る潤滑油の比率が増大する。従って、ギヤピースとシンクロナイザリングの間の摩擦係合部に供給される潤滑油量が増大し、この摩擦係合部の潤滑は向上されるので、同期変速機構の耐久性をさらに一層高めることができる。
【0010】
前各項に記載の同期変速機構の潤滑装置は、庇状部の軸線方向となる端縁には変速歯車側に折曲された側部フランジを形成することが好ましい。このようにすれば、変速歯車から半径方向外向きに飛散されて庇状部により受け止められた潤滑油は、庇状部の軸線方向の端縁から側方に逃げることが防止され、大部分が内向き突条の案内面を通ってその内端縁からギヤピースとシンクロナイザリングの間の隙間に入り、ギヤピースとシンクロナイザリングの間の摩擦係合部に供給される潤滑油量が増大し、この摩擦係合部の潤滑は向上されるので、同期変速機構の耐久性をさらに一層高めることができる。
【0011】
前各項に記載の同期変速機構の潤滑装置は、変速歯車の回転方向側となる庇状部の円周方向端縁には変速歯車側に折曲された先端フランジを形成しすることが好ましい。このようにすれば、変速歯車から半径方向外向きに飛散されて庇状部により受け止められた潤滑油は、変速歯車の回転方向側となる庇状部の円周方向端縁から円周方向に逃げることが防止され、大部分が内向き突条の案内面を通ってその内端縁からギヤピースとシンクロナイザリングの間の隙間に入る。従って、ギヤピースとシンクロナイザリングの間の摩擦係合部に供給される潤滑油量が増大し、この摩擦係合部の潤滑は向上されるので、同期変速機構の耐久性をさらに一層高めることができる。
【0012】
【発明の実施の形態】
以下に、図1〜図3に示す実施の形態により、本発明による同期変速機構の潤滑装置の説明をする。この同期変速機構の潤滑装置が適用される変速装置は、図1及び図2に示すように、軸受(図示省略)を介してケーシング10に互いに平行に回転自在に支持された第1及び第2変速軸11,12と、一定の間をおいて軸線方向移動が拘束されて第1変速軸11に回転自在に支持された第1及び第2変速歯車(変速歯車)13,14と、一定の間をおいて第2変速軸12に固定されて第1及び第2変速歯車13,14と常時噛合される第3及び第4変速歯車15,16よりなり、第1及び第2変速歯車13,14の間にはこの各変速歯車13,14を選択的に第1変速軸11に連結するシンクロメッシュ機構20が設けられ、またこのシンクロメッシュ機構20を作動させるシフトフォーク30が設けられている。
【0013】
シンクロメッシュ機構20は、図1〜図3に示すように、第1及び第2変速歯車13,14の間に設けられて軸線方向移動が拘束され、かつ第1変速軸(変速軸)11と一体的に回転されるようにスプライン結合されたクラッチハブ21と、第1及び第2変速歯車13,14のクラッチハブ21側となる一側にそれぞれ圧入等により同軸的に一体結合された第1及び第2ギヤピース(ギヤピース)22,23と、クラッチハブ21と第1及び第2ギヤピース22,23の間に位置してそれぞれクラッチハブ21の両側に回転自在に支持された第1及び第2シンクロナイザリング(シンクロナイザリング)25,26を備えている。シンクロメッシュ機構20はさらに、クラッチハブ21の外周に形成された外歯スプライン21aと軸線方向摺動可能に噛合される内歯スプライン24bが形成されたハブスリーブ24を備えており、第1及び第2ギヤピース22,23と第1及び第2シンクロナイザリング25,26の外周部には、ハブスリーブ24の内歯スプライン24bと噛合可能な外歯スプライン22a,23a,25d,26aが形成されている。
【0014】
また図1及び図3に示すように、クラッチハブ21の外周部には、円周方向の3箇所に、軸線方向摺動自在にシフティングキー27が設けられている。このシフティングキー27は、外力が加わらない状態では、半径方向に設けた貫通孔27aに挿入したボール28aと、ハブスリーブ24の内歯スプライン24bの歯の1つの内先端の中央部に形成した浅いV形の凹部28cと、クラッチハブ21との間に介装されてボール28aを凹部28cに押圧するスプリング28bよりなるデテント機構28により、図示のようにハブスリーブ24の中央位置に弾性的に保持されている。
【0015】
ハブスリーブ24は、外周にシフトフォーク30のシュー部31aが摺動自在に係合される円周溝24aが形成されている。内歯スプライン24bは、図1及び図3に示す中立位置ではクラッチハブ21の外歯スプライン21aとのみ係合されているが、第1変速歯車13側にシフトされた状態ではクラッチハブ21と第1シンクロナイザリング25と第1ギヤピース22の各外歯スプライン21a,25d,22aと同時に噛合され、第2変速歯車14側にシフトされた状態ではクラッチハブ21と第2シンクロナイザリング26と第2ギヤピース23の各外歯スプライン21a,26a,23aと同時に噛合されるようになっている。
【0016】
この実施の形態の第1シンクロナイザリング25は、図1及び図3に示すように、外側コーンリング25aと中間コーンリング25bと内側コーンリング25cの3部材よりなっており、外側コーンリング25aの内周コーン面25a1と中間コーンリング25bの外周コーン面25b2、中間コーンリング25bの内周コーン面25b3と内側コーンリング25cの外周コーン面25c2、内側コーンリング25cの内周コーン面25c3と第1ギヤピース22の外周コーン面22bはそれぞれ互いに摩擦係合可能である。中間コーンリング25bは突起部25b1により第1ギヤピース22と係合されてこれ共に回転され、内側コーンリング25cは突起部25c1によりクラッチハブ21と係合されてこれ共に回転される。第1シンクロナイザリング25の外歯スプライン25dは外側コーンリング25aの外周部に設けられている。
【0017】
図示の中立状態では、各コーン面25a1と25b2、25b3と25c2、25c3と22bの間には多少の隙間があって摩擦係合されず、各コーンリング25a,25b,25cの外側面と第1ギヤピース22の内側面との間の隙間Gも大きい。ハブスリーブ24が第1変速歯車13側にシフトされれば、その初期にはシフティングキー27はデテント機構28によりハブスリーブ24とともに移動されて外側コーンリング25aを第1ギヤピース22側に押して、各コーン面25a1と25b2、25b3と25c2、25c3と22bは摩擦係合され、第1変速歯車13はクラッチハブ21と同期して回転される。この同期がなされた後はデテント機構28が外れて、ハブスリーブ24は内歯スプライン24bが、クラッチハブ21、第1シンクロナイザリング25及び第1ギヤピース22の各外歯スプライン21a,25d,22aと噛合するシフト位置までシフトされ、各コーン面を摩擦係合させる押圧力はなくなる。各コーン面が係合された状態では、各コーンリング25a,25b,25cの外側面と第1ギヤピース22の内側面との間の隙間Gも減少はするが当接されることはない。
【0018】
またこの実施の形態の第2シンクロナイザリング26は、図1及び図3に示すように、第1シンクロナイザリング25と異なり単一部材であり、第2シンクロナイザリング26の内周コーン面26bが第2ギヤピース23の外周コーン面23bと互いに摩擦係合可能である。図示の中立状態では、内周コーン面26bと外周コーン面23bの間には多少の隙間があり、第2シンクロナイザリング26の外端面と第2ギヤピース23の内端面の間の隙間Hも大きい。ハブスリーブ24が第2変速歯車14側にシフトされれば、その初期にはシフティングキー27はデテント機構28によりハブスリーブ24とともに移動されて第2シンクロナイザリング26を第2ギヤピース23側に押して、内周コーン面26bと外周コーン面23bは摩擦係合され、第2変速歯車14はクラッチハブ21と同期して回転される。この同期がなされた後はデテント機構28が外れて、ハブスリーブ24は内歯スプライン24bが、クラッチハブ21、第2シンクロナイザリング26及び第2ギヤピース23の各外歯スプライン21a,26d,23aと噛合するシフト位置までシフトされる。内周コーン面26bと外周コーン面23bが係合された状態では、第2シンクロナイザリング26の外側面と第1ギヤピース22の内側面との間の隙間Hも減少はするが当接されることはない。
【0019】
シフトフォーク30は、図1〜図3に示すように、第1及び第2変速軸11,12と平行に軸線方向移動可能にケーシング10に案内支持されたフォークシャフト35に支持されて作動され、前述した中立位置と、第1及び第2変速歯車13,14側の各シフト位置の間でハブスリーブ24を往復移動させるものである。シフトフォーク30はハブスリーブ24の外周部の約半分に沿って設けられた円弧状部31を有し、円弧状部31の両端部にはハブスリーブ24の円周溝24aと円周方向摺動自在に係合されるシュー部31aが形成されている。円弧状部31には、第1変速軸11のほゞ真上からその回転方向後側の下部にかけて、第1変速歯車13から半径方向外向きに飛散される潤滑油の一部を受け止める円弧状の庇状部32が第1変速歯車13の幅方向中間部近くまで突出して形成されている。この庇状部32には、内面32aに円周方向に沿って内向き突条33が形成され、軸線方向となる端縁に沿っては第1変速歯車13側に折曲された側部フランジ32bが形成され、また第1変速歯車13の回転方向側となる庇状部32の円周方向端縁には第1変速歯車13側に折曲された先端フランジ32cが形成されている。上側のシュー部31aの先端部は先端フランジ32cより前側に突出している。
【0020】
第1変速軸11側となる内向き突条33の内端縁33bは、図1及び図3に示す中立位置において、第1シンクロナイザリング25の外側コーンリング25aの外側面と第1ギヤピース22の内側面との間の隙間Gと対向するように軸線方向位置が配置され、先端が小さい半円弧により丸められた内端縁33bの幅は隙間Gと同程度またはそれより狭くなるように形成されている。側部フランジ32b側となる庇状部32の内面32aと内向き突条33の内端縁33bを結ぶ案内面33aは凹円弧状の曲面とし、シュー部31a側となる庇状部32の内面32aと内端縁33bを結ぶ面は第1変速軸11と直交する略平面状である。
【0021】
次に上述した実施の形態の作動の説明をする。図1〜図3に示す中立位置において第1変速歯車13及びこれに噛合された第3変速歯車15が回転されれば、第3変速歯車15により掻き上げられたケーシング10内下部の潤滑油は第1変速歯車13に付着され、この第1変速歯車13の主として両側の全周から半径方向に飛散される。第1ギヤピース22が設けられた第1変速歯車13の一側から飛散される潤滑油は、図の矢印に示すようにシフトフォーク30の円弧状の庇状部32の内面により受け止められて内向きに反転され、内向き突条33の案内面33aに沿って半径方向内向きに案内され、反転された勢い及び重力により、内向き突条33の内端縁33bから内向きに離れる。図に示す中立位置では、各コーンリング25a,25b,25cの外側面と第1ギヤピース22の内側面との間の隙間Gは大きく、各コーン面25a1と25b2、25b3と25c2、25c3と22bの間には多少の隙間があるので、内向き突条33の内端縁33bから内向きに離れた潤滑油は隙間G内に入り、各コーン面25a1と25b2、25b3と25c2、25c3と22bよりなる摩擦係合部の間に導入される。
【0022】
ハブスリーブ24が第1変速歯車13側にシフトされれば、前述のように、その初期にはシフティングキー27はハブスリーブ24とともに移動されて外側コーンリング25aを第1ギヤピース22側に押して、シンクロメッシュ機構20の摩擦係合部である各コーン面25a1と25b2、25b3と25c2、25c3と22bは摩擦係合されるが、この各コーン面の間には潤滑油が導入されているのでこの摩擦係合による摩耗は少なく、シンクロメッシュ機構20の耐久性は保証される。この摩擦係合と前後して内歯スプライン24bと外歯スプライン25dの先端が係合してクラッチハブ21と外側コーンリング25aは一体的に回転されるので、第1変速歯車13はクラッチハブ21と同期して回転されるようになる。この同期がなされた後はデテント機構28が外れて、ハブスリーブ24は内歯スプライン24bが、クラッチハブ21、第1シンクロナイザリング25及び第1ギヤピース22の各外歯スプライン21a,25d,22aと噛合するシフト位置までシフトされ、第1変速歯車13は第1変速軸11に連結されて一体的に回転される。
【0023】
ハブスリーブ24が第2変速歯車14側にシフトされた場合も、前述と同様、その初期には第2シンクロナイザリング26はシフティングキー27を介して第2ギヤピース23側に押されて、内周コーン面26bと外周コーン面23bが摩擦係合される。この摩擦係合と前後して内歯スプライン24bと外歯スプライン26aの先端が係合してクラッチハブ21と第2シンクロナイザリング26は一体的に回転されるので、第2変速歯車14はクラッチハブ21と同期して回転されるようになる。この同期がなされた後に、ハブスリーブ24は内歯スプライン24bが、クラッチハブ21、第2シンクロナイザリング26及び第2ギヤピース23の各外歯スプライン21a,26a,23aと噛合するシフト位置までシフトされ、第2変速歯車14は第1変速軸11に連結されて一体的に回転される。
【0024】
上述した実施の形態では、潤滑油を庇状部32の内面32aから内向き突条33の内端縁33bに案内する案内面33aを凹円弧状の曲面としたので、案内面33aにより案内されて内向き突条33の内端縁33bから離れる潤滑油の向きは、ギヤピース22とシンクロナイザリング25の回転軸線方向に対し直角方向に近づくので、潤滑油が隙間G内に入り易くなる。従って、シンクロメッシュ機構20の各コーン面25a1と25b2、25b3と25c2、25c3と22bよりなる摩擦係合部の間に導入される潤滑油量が増大し、この部分の潤滑が向上されるので、同期変速機構の耐久性は一層向上する。しかしながら本発明はこれに限られるものではなく、案内面33aを円錐状として実施てもよく、その場合は円錐の頂角を適当な大きい値とすればよい。
【0025】
また上述した実施の形態では、内向き突条33の内端縁33bの幅を隙間Gと同程度またはそれより狭くして、シフトフォーク30が中立位置にある状態において隙間Gと対向させるようにしており、このようにすれば、内向き突条33の内端縁33bから隙間Gに向かって内向きに離れる潤滑油の切れがよくなり、この潤滑油の幅が狭くなるので、ギヤピース22とシンクロナイザリング25の間の隙間G内に入る潤滑油の比率が増大する。従って、シンクロメッシュ機構20の摩擦係合部に供給される潤滑油量が増大し、この摩擦係合部の潤滑は向上されるので、同期変速機構の耐久性はさらに一層向上する。しかしながら本発明はこれに限られるものではなく、内向き突条33の内端縁の幅が広い場合でもこの内端縁と案内面33aとの間に角を立てて案内面33aを伝ってきた潤滑油が内端縁側に引き込まれないようにすれば、案内面33aを伝ってきた潤滑油の大部分を隙間G内に導入することができる。
【0026】
さらに上述した実施の形態では、庇状部32の軸線方向となる端縁には第1変速歯車13側に折曲された側部フランジ32bを形成しており、このようにすれば、第1変速歯車13から飛散されて庇状部32により受け止められた潤滑油は、庇状部32の軸線方向の端縁から側方に逃げることが防止され、大部分が内向き突条33の案内面33aを通ってギヤピース22とシンクロナイザリング25の間の隙間Gに入る。これによりシンクロメッシュ機構20の摩擦係合部に供給される潤滑油量が増大し、この摩擦係合部の潤滑は向上されるので、同期変速機構の耐久性はさらに一層向上する。しかしながら本発明はこれに限られるものではなく、側部フランジ32bを省略して実施してもよく、その場合でも庇状部32の軸線方向幅を適当に選択すれば相当な量の潤滑油を隙間G内に導入することができる。
【0027】
また上述した実施の形態では、第1変速歯車13の回転方向側となる庇状部32の円周方向端縁に第1変速歯車13側に折曲された先端フランジ32cを形成しており、このようにすれば、第1変速歯車13から飛散されて庇状部32により受け止められた潤滑油は、図2に示すように、第1変速歯車13の回転方向側となる庇状部32の円周方向端縁から円周方向に逃げることが防止され、大部分が内向き突条33の案内面33aを通ってギヤピース22とシンクロナイザリング25の間の隙間Gに入るので、ギヤピース22とシンクロナイザリング25の間の摩擦係合部に供給される潤滑油量が増大し、この摩擦係合部の潤滑は向上されるので、同期変速機構の耐久性をさらに一層高めることができる。しかしながら本発明はこれに限られるものではなく、側部フランジ32bを省略して実施することもできる。
【0028】
なお上述した実施の形態では、円弧状部31には、複数のコーンリング25a,25b,25cよりなる第1シンクロナイザリング25側のみに庇状部32を設けてその内面に案内面33aを有する内向き突条33を形成したが、本発明は単一部材の第2シンクロナイザリング26側にも庇状部と内向き突条と案内面を設けるようにして実施してもよい。あるいはまた、第1シンクロナイザリング25を第2シンクロナイザリング26と同様の単一部材よりなるものとして実施してもよい。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明による同期変速機構の潤滑装置の一実施形態の全体構造を示す断面図である。
【図2】図1の2−2断面図である。
【図3】図1に示す実施形態の要部を示す部分拡大断面図である。
【符号の説明】
11…変速軸(第1変速軸)、13,14…変速歯車(第1変速歯車、第2変速歯車)、21…クラッチハブ、21a…外歯スプライン、22,23…ギヤピース(第1ギヤピース、第2ギヤピース)、22a,23a…外歯スプライン、24…ハブスリーブ、24b内歯スプライン、25,26…シンクロナイザリング(第1シンクロナイザリング、第2シンクロナイザリング)、25d,26a…外歯スプライン、30…シフトフォーク、31…円弧状部、32…庇状部、32a…内面、32b…側部フランジ、32c…先端フランジ、33…内向き突条、33a…案内面、33b…内端縁、G,H…隙間。
【発明の属する技術分野】
本発明は、変速軸に変速歯車を回転自在に支持し、変速歯車に一体的に設けたギヤピースにシンクロナイザリングを押し付けて摩擦係合させ、この変速軸と変速歯車の回転速度が一致したときに変速軸と変速歯車を連結するようにした同期変速機構の潤滑装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
この種の同期変速機構では、シンクロメッシュ機構の摩擦係合部に潤滑油を供給することにより、その耐久性を高めることが行われている。このためにギヤピースとシンクロナイザリングの摩擦係合部を円錐状のシンクロテーパ部とし、シンクロテーパ部に内外に連通する油路を形成し、変速軸(伝導軸)にスプライン連結したカップリング(ハブスリーブ)とギヤ(変速歯車)との間に形成された環状空間に油路を連結させ、かつ、この環状空間に変速軸内に形成した軸内油路を介して潤滑油を供給するよう構成したものがある(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】
特開平5−10346号公報(段落〔0004〕、図1)。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
上述した特許文献1の技術では、変速軸内に孔明け加工により軸内油路を形成する必要があり、またこの軸内油路に潤滑油を供給するために、ケーシング内に飛散される潤滑油を集めて軸内油路に送り込むレシーバあるいはケーシング下部に溜まる潤滑油を吸入して軸内油路に送り込むポンプなどを必要とするので構造が複雑化し、実施に必要なコストが増大するという問題がある。
【0005】
本発明は、変速機構のシフトフォークに一体的に形成した部材により、変速歯車から半径方向外向きに飛散される潤滑油を集めて、半径方向外側からギヤピースとシンクロナイザリングの間の隙間内に導入して、ギヤピースとシンクロナイザリングの間の摩擦係合部を潤滑することにより、上述したような各問題を解決することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段および発明の作用・効果】
このために、本発明による同期変速機構の潤滑装置は、変速軸と一体的に回転されるクラッチハブと、このクラッチハブの外周に形成された外歯スプラインと軸線方向摺動可能に噛合される内歯スプラインが形成されたハブスリーブと、クラッチハブの軸線方向一側に位置して変速軸に回転自在に支持された変速歯車と、この変速歯車のクラッチハブ側となる一側に一体的に設けられて内歯スプラインと噛合可能な外歯スプラインが外周に形成されたギヤピースと、クラッチハブとギヤピースの間に位置してクラッチハブに回転自在に支持され内歯スプラインと噛合可能な外歯スプラインが外周に形成されハブスリーブの軸線方向のシフトによりギヤピースに摩擦係合されて変速歯車の回転をハブスリーブの回転に同期させるシンクロナイザリングと、ハブスリーブの外周部に沿って設けられてこれと円周方向摺動可能に係合する円弧状部を有し同ハブスリーブを内歯スプラインがクラッチハブの外歯スプラインとのみ係合する中立位置とクラッチハブ、シンクロナイザリング及びギヤピースの各外歯スプラインと噛合するシフト位置の間で移動させるシフトフォークを備えてなる同期変速機構において、シフトフォークの円弧状部から変速歯車側に突出しその上側の少なくとも一部を覆って同変速歯車から半径方向外向きに飛散される潤滑油を受け止める円弧状の庇状部と、この庇状部の内面に円周方向に沿って形成されて同庇状部により受け止められた潤滑油を半径方向内向きに案内する案内面を有する内向き突条を備えてなり、内向き突条の軸線方向位置はシフトフォークが中立位置にある状態において案内面に沿って半径方向内向きに案内されて内向き突条の変速軸側となる内端縁から離れる潤滑油がギヤピースとシンクロナイザリングの間の隙間内に導入されるような位置としたことを特徴とするものである。
【0007】
シフトフォークが中立位置にある状態において、変速歯車から半径方向外向きに飛散される潤滑油はシフトフォークの円弧状の庇状部により受け止められ、内向き突条の案内面に沿って半径方向内向きに案内され、内向き突条の内端縁から離れてギヤピースとシンクロナイザリングの間の隙間内に導入され、ギヤピースとシンクロナイザリングの間の摩擦係合部に供給される。これによりこの摩擦係合部が潤滑されるので、同期変速機構の耐久性を高めることができる。しかも変速機構が本来備えているシフトフォークの形状を変更するだけで足り、別個の部材を必要とせず、また変速軸に孔明け加工を行う必要もないので構造が簡略化され、実施に必要なコストを低下させることができる。
【0008】
前項に記載の同期変速機構の潤滑装置は、案内面を凹曲面とすることが好ましい。このようにすれば、凹曲面の案内面により案内されて内向き突条の内端縁から離れて隙間内に導入される潤滑油の向きは、ギヤピースとシンクロナイザリングの軸線方向に対し直角方向に近づくので、潤滑油が隙間内に入り易くなる。従って、ギヤピースとシンクロナイザリングの間の摩擦係合部に供給される潤滑油量が増大し、この摩擦係合部の潤滑は向上されるので、同期変速機構の耐久性を一層高めることができる。
【0009】
前2項に記載の同期変速機構の潤滑装置は、内端縁の幅を前述した隙間と同程度またはそれより狭くして、シフトフォークが中立位置にある状態において前述した隙間と対向する位置とすることが好ましい。このようにすれば、内向き突条の内端縁から内向きに離れて隙間内に導入される潤滑油の切れがよくなってこの潤滑油の幅が狭くなるので、ギヤピースとシンクロナイザリングの間の隙間内に入る潤滑油の比率が増大する。従って、ギヤピースとシンクロナイザリングの間の摩擦係合部に供給される潤滑油量が増大し、この摩擦係合部の潤滑は向上されるので、同期変速機構の耐久性をさらに一層高めることができる。
【0010】
前各項に記載の同期変速機構の潤滑装置は、庇状部の軸線方向となる端縁には変速歯車側に折曲された側部フランジを形成することが好ましい。このようにすれば、変速歯車から半径方向外向きに飛散されて庇状部により受け止められた潤滑油は、庇状部の軸線方向の端縁から側方に逃げることが防止され、大部分が内向き突条の案内面を通ってその内端縁からギヤピースとシンクロナイザリングの間の隙間に入り、ギヤピースとシンクロナイザリングの間の摩擦係合部に供給される潤滑油量が増大し、この摩擦係合部の潤滑は向上されるので、同期変速機構の耐久性をさらに一層高めることができる。
【0011】
前各項に記載の同期変速機構の潤滑装置は、変速歯車の回転方向側となる庇状部の円周方向端縁には変速歯車側に折曲された先端フランジを形成しすることが好ましい。このようにすれば、変速歯車から半径方向外向きに飛散されて庇状部により受け止められた潤滑油は、変速歯車の回転方向側となる庇状部の円周方向端縁から円周方向に逃げることが防止され、大部分が内向き突条の案内面を通ってその内端縁からギヤピースとシンクロナイザリングの間の隙間に入る。従って、ギヤピースとシンクロナイザリングの間の摩擦係合部に供給される潤滑油量が増大し、この摩擦係合部の潤滑は向上されるので、同期変速機構の耐久性をさらに一層高めることができる。
【0012】
【発明の実施の形態】
以下に、図1〜図3に示す実施の形態により、本発明による同期変速機構の潤滑装置の説明をする。この同期変速機構の潤滑装置が適用される変速装置は、図1及び図2に示すように、軸受(図示省略)を介してケーシング10に互いに平行に回転自在に支持された第1及び第2変速軸11,12と、一定の間をおいて軸線方向移動が拘束されて第1変速軸11に回転自在に支持された第1及び第2変速歯車(変速歯車)13,14と、一定の間をおいて第2変速軸12に固定されて第1及び第2変速歯車13,14と常時噛合される第3及び第4変速歯車15,16よりなり、第1及び第2変速歯車13,14の間にはこの各変速歯車13,14を選択的に第1変速軸11に連結するシンクロメッシュ機構20が設けられ、またこのシンクロメッシュ機構20を作動させるシフトフォーク30が設けられている。
【0013】
シンクロメッシュ機構20は、図1〜図3に示すように、第1及び第2変速歯車13,14の間に設けられて軸線方向移動が拘束され、かつ第1変速軸(変速軸)11と一体的に回転されるようにスプライン結合されたクラッチハブ21と、第1及び第2変速歯車13,14のクラッチハブ21側となる一側にそれぞれ圧入等により同軸的に一体結合された第1及び第2ギヤピース(ギヤピース)22,23と、クラッチハブ21と第1及び第2ギヤピース22,23の間に位置してそれぞれクラッチハブ21の両側に回転自在に支持された第1及び第2シンクロナイザリング(シンクロナイザリング)25,26を備えている。シンクロメッシュ機構20はさらに、クラッチハブ21の外周に形成された外歯スプライン21aと軸線方向摺動可能に噛合される内歯スプライン24bが形成されたハブスリーブ24を備えており、第1及び第2ギヤピース22,23と第1及び第2シンクロナイザリング25,26の外周部には、ハブスリーブ24の内歯スプライン24bと噛合可能な外歯スプライン22a,23a,25d,26aが形成されている。
【0014】
また図1及び図3に示すように、クラッチハブ21の外周部には、円周方向の3箇所に、軸線方向摺動自在にシフティングキー27が設けられている。このシフティングキー27は、外力が加わらない状態では、半径方向に設けた貫通孔27aに挿入したボール28aと、ハブスリーブ24の内歯スプライン24bの歯の1つの内先端の中央部に形成した浅いV形の凹部28cと、クラッチハブ21との間に介装されてボール28aを凹部28cに押圧するスプリング28bよりなるデテント機構28により、図示のようにハブスリーブ24の中央位置に弾性的に保持されている。
【0015】
ハブスリーブ24は、外周にシフトフォーク30のシュー部31aが摺動自在に係合される円周溝24aが形成されている。内歯スプライン24bは、図1及び図3に示す中立位置ではクラッチハブ21の外歯スプライン21aとのみ係合されているが、第1変速歯車13側にシフトされた状態ではクラッチハブ21と第1シンクロナイザリング25と第1ギヤピース22の各外歯スプライン21a,25d,22aと同時に噛合され、第2変速歯車14側にシフトされた状態ではクラッチハブ21と第2シンクロナイザリング26と第2ギヤピース23の各外歯スプライン21a,26a,23aと同時に噛合されるようになっている。
【0016】
この実施の形態の第1シンクロナイザリング25は、図1及び図3に示すように、外側コーンリング25aと中間コーンリング25bと内側コーンリング25cの3部材よりなっており、外側コーンリング25aの内周コーン面25a1と中間コーンリング25bの外周コーン面25b2、中間コーンリング25bの内周コーン面25b3と内側コーンリング25cの外周コーン面25c2、内側コーンリング25cの内周コーン面25c3と第1ギヤピース22の外周コーン面22bはそれぞれ互いに摩擦係合可能である。中間コーンリング25bは突起部25b1により第1ギヤピース22と係合されてこれ共に回転され、内側コーンリング25cは突起部25c1によりクラッチハブ21と係合されてこれ共に回転される。第1シンクロナイザリング25の外歯スプライン25dは外側コーンリング25aの外周部に設けられている。
【0017】
図示の中立状態では、各コーン面25a1と25b2、25b3と25c2、25c3と22bの間には多少の隙間があって摩擦係合されず、各コーンリング25a,25b,25cの外側面と第1ギヤピース22の内側面との間の隙間Gも大きい。ハブスリーブ24が第1変速歯車13側にシフトされれば、その初期にはシフティングキー27はデテント機構28によりハブスリーブ24とともに移動されて外側コーンリング25aを第1ギヤピース22側に押して、各コーン面25a1と25b2、25b3と25c2、25c3と22bは摩擦係合され、第1変速歯車13はクラッチハブ21と同期して回転される。この同期がなされた後はデテント機構28が外れて、ハブスリーブ24は内歯スプライン24bが、クラッチハブ21、第1シンクロナイザリング25及び第1ギヤピース22の各外歯スプライン21a,25d,22aと噛合するシフト位置までシフトされ、各コーン面を摩擦係合させる押圧力はなくなる。各コーン面が係合された状態では、各コーンリング25a,25b,25cの外側面と第1ギヤピース22の内側面との間の隙間Gも減少はするが当接されることはない。
【0018】
またこの実施の形態の第2シンクロナイザリング26は、図1及び図3に示すように、第1シンクロナイザリング25と異なり単一部材であり、第2シンクロナイザリング26の内周コーン面26bが第2ギヤピース23の外周コーン面23bと互いに摩擦係合可能である。図示の中立状態では、内周コーン面26bと外周コーン面23bの間には多少の隙間があり、第2シンクロナイザリング26の外端面と第2ギヤピース23の内端面の間の隙間Hも大きい。ハブスリーブ24が第2変速歯車14側にシフトされれば、その初期にはシフティングキー27はデテント機構28によりハブスリーブ24とともに移動されて第2シンクロナイザリング26を第2ギヤピース23側に押して、内周コーン面26bと外周コーン面23bは摩擦係合され、第2変速歯車14はクラッチハブ21と同期して回転される。この同期がなされた後はデテント機構28が外れて、ハブスリーブ24は内歯スプライン24bが、クラッチハブ21、第2シンクロナイザリング26及び第2ギヤピース23の各外歯スプライン21a,26d,23aと噛合するシフト位置までシフトされる。内周コーン面26bと外周コーン面23bが係合された状態では、第2シンクロナイザリング26の外側面と第1ギヤピース22の内側面との間の隙間Hも減少はするが当接されることはない。
【0019】
シフトフォーク30は、図1〜図3に示すように、第1及び第2変速軸11,12と平行に軸線方向移動可能にケーシング10に案内支持されたフォークシャフト35に支持されて作動され、前述した中立位置と、第1及び第2変速歯車13,14側の各シフト位置の間でハブスリーブ24を往復移動させるものである。シフトフォーク30はハブスリーブ24の外周部の約半分に沿って設けられた円弧状部31を有し、円弧状部31の両端部にはハブスリーブ24の円周溝24aと円周方向摺動自在に係合されるシュー部31aが形成されている。円弧状部31には、第1変速軸11のほゞ真上からその回転方向後側の下部にかけて、第1変速歯車13から半径方向外向きに飛散される潤滑油の一部を受け止める円弧状の庇状部32が第1変速歯車13の幅方向中間部近くまで突出して形成されている。この庇状部32には、内面32aに円周方向に沿って内向き突条33が形成され、軸線方向となる端縁に沿っては第1変速歯車13側に折曲された側部フランジ32bが形成され、また第1変速歯車13の回転方向側となる庇状部32の円周方向端縁には第1変速歯車13側に折曲された先端フランジ32cが形成されている。上側のシュー部31aの先端部は先端フランジ32cより前側に突出している。
【0020】
第1変速軸11側となる内向き突条33の内端縁33bは、図1及び図3に示す中立位置において、第1シンクロナイザリング25の外側コーンリング25aの外側面と第1ギヤピース22の内側面との間の隙間Gと対向するように軸線方向位置が配置され、先端が小さい半円弧により丸められた内端縁33bの幅は隙間Gと同程度またはそれより狭くなるように形成されている。側部フランジ32b側となる庇状部32の内面32aと内向き突条33の内端縁33bを結ぶ案内面33aは凹円弧状の曲面とし、シュー部31a側となる庇状部32の内面32aと内端縁33bを結ぶ面は第1変速軸11と直交する略平面状である。
【0021】
次に上述した実施の形態の作動の説明をする。図1〜図3に示す中立位置において第1変速歯車13及びこれに噛合された第3変速歯車15が回転されれば、第3変速歯車15により掻き上げられたケーシング10内下部の潤滑油は第1変速歯車13に付着され、この第1変速歯車13の主として両側の全周から半径方向に飛散される。第1ギヤピース22が設けられた第1変速歯車13の一側から飛散される潤滑油は、図の矢印に示すようにシフトフォーク30の円弧状の庇状部32の内面により受け止められて内向きに反転され、内向き突条33の案内面33aに沿って半径方向内向きに案内され、反転された勢い及び重力により、内向き突条33の内端縁33bから内向きに離れる。図に示す中立位置では、各コーンリング25a,25b,25cの外側面と第1ギヤピース22の内側面との間の隙間Gは大きく、各コーン面25a1と25b2、25b3と25c2、25c3と22bの間には多少の隙間があるので、内向き突条33の内端縁33bから内向きに離れた潤滑油は隙間G内に入り、各コーン面25a1と25b2、25b3と25c2、25c3と22bよりなる摩擦係合部の間に導入される。
【0022】
ハブスリーブ24が第1変速歯車13側にシフトされれば、前述のように、その初期にはシフティングキー27はハブスリーブ24とともに移動されて外側コーンリング25aを第1ギヤピース22側に押して、シンクロメッシュ機構20の摩擦係合部である各コーン面25a1と25b2、25b3と25c2、25c3と22bは摩擦係合されるが、この各コーン面の間には潤滑油が導入されているのでこの摩擦係合による摩耗は少なく、シンクロメッシュ機構20の耐久性は保証される。この摩擦係合と前後して内歯スプライン24bと外歯スプライン25dの先端が係合してクラッチハブ21と外側コーンリング25aは一体的に回転されるので、第1変速歯車13はクラッチハブ21と同期して回転されるようになる。この同期がなされた後はデテント機構28が外れて、ハブスリーブ24は内歯スプライン24bが、クラッチハブ21、第1シンクロナイザリング25及び第1ギヤピース22の各外歯スプライン21a,25d,22aと噛合するシフト位置までシフトされ、第1変速歯車13は第1変速軸11に連結されて一体的に回転される。
【0023】
ハブスリーブ24が第2変速歯車14側にシフトされた場合も、前述と同様、その初期には第2シンクロナイザリング26はシフティングキー27を介して第2ギヤピース23側に押されて、内周コーン面26bと外周コーン面23bが摩擦係合される。この摩擦係合と前後して内歯スプライン24bと外歯スプライン26aの先端が係合してクラッチハブ21と第2シンクロナイザリング26は一体的に回転されるので、第2変速歯車14はクラッチハブ21と同期して回転されるようになる。この同期がなされた後に、ハブスリーブ24は内歯スプライン24bが、クラッチハブ21、第2シンクロナイザリング26及び第2ギヤピース23の各外歯スプライン21a,26a,23aと噛合するシフト位置までシフトされ、第2変速歯車14は第1変速軸11に連結されて一体的に回転される。
【0024】
上述した実施の形態では、潤滑油を庇状部32の内面32aから内向き突条33の内端縁33bに案内する案内面33aを凹円弧状の曲面としたので、案内面33aにより案内されて内向き突条33の内端縁33bから離れる潤滑油の向きは、ギヤピース22とシンクロナイザリング25の回転軸線方向に対し直角方向に近づくので、潤滑油が隙間G内に入り易くなる。従って、シンクロメッシュ機構20の各コーン面25a1と25b2、25b3と25c2、25c3と22bよりなる摩擦係合部の間に導入される潤滑油量が増大し、この部分の潤滑が向上されるので、同期変速機構の耐久性は一層向上する。しかしながら本発明はこれに限られるものではなく、案内面33aを円錐状として実施てもよく、その場合は円錐の頂角を適当な大きい値とすればよい。
【0025】
また上述した実施の形態では、内向き突条33の内端縁33bの幅を隙間Gと同程度またはそれより狭くして、シフトフォーク30が中立位置にある状態において隙間Gと対向させるようにしており、このようにすれば、内向き突条33の内端縁33bから隙間Gに向かって内向きに離れる潤滑油の切れがよくなり、この潤滑油の幅が狭くなるので、ギヤピース22とシンクロナイザリング25の間の隙間G内に入る潤滑油の比率が増大する。従って、シンクロメッシュ機構20の摩擦係合部に供給される潤滑油量が増大し、この摩擦係合部の潤滑は向上されるので、同期変速機構の耐久性はさらに一層向上する。しかしながら本発明はこれに限られるものではなく、内向き突条33の内端縁の幅が広い場合でもこの内端縁と案内面33aとの間に角を立てて案内面33aを伝ってきた潤滑油が内端縁側に引き込まれないようにすれば、案内面33aを伝ってきた潤滑油の大部分を隙間G内に導入することができる。
【0026】
さらに上述した実施の形態では、庇状部32の軸線方向となる端縁には第1変速歯車13側に折曲された側部フランジ32bを形成しており、このようにすれば、第1変速歯車13から飛散されて庇状部32により受け止められた潤滑油は、庇状部32の軸線方向の端縁から側方に逃げることが防止され、大部分が内向き突条33の案内面33aを通ってギヤピース22とシンクロナイザリング25の間の隙間Gに入る。これによりシンクロメッシュ機構20の摩擦係合部に供給される潤滑油量が増大し、この摩擦係合部の潤滑は向上されるので、同期変速機構の耐久性はさらに一層向上する。しかしながら本発明はこれに限られるものではなく、側部フランジ32bを省略して実施してもよく、その場合でも庇状部32の軸線方向幅を適当に選択すれば相当な量の潤滑油を隙間G内に導入することができる。
【0027】
また上述した実施の形態では、第1変速歯車13の回転方向側となる庇状部32の円周方向端縁に第1変速歯車13側に折曲された先端フランジ32cを形成しており、このようにすれば、第1変速歯車13から飛散されて庇状部32により受け止められた潤滑油は、図2に示すように、第1変速歯車13の回転方向側となる庇状部32の円周方向端縁から円周方向に逃げることが防止され、大部分が内向き突条33の案内面33aを通ってギヤピース22とシンクロナイザリング25の間の隙間Gに入るので、ギヤピース22とシンクロナイザリング25の間の摩擦係合部に供給される潤滑油量が増大し、この摩擦係合部の潤滑は向上されるので、同期変速機構の耐久性をさらに一層高めることができる。しかしながら本発明はこれに限られるものではなく、側部フランジ32bを省略して実施することもできる。
【0028】
なお上述した実施の形態では、円弧状部31には、複数のコーンリング25a,25b,25cよりなる第1シンクロナイザリング25側のみに庇状部32を設けてその内面に案内面33aを有する内向き突条33を形成したが、本発明は単一部材の第2シンクロナイザリング26側にも庇状部と内向き突条と案内面を設けるようにして実施してもよい。あるいはまた、第1シンクロナイザリング25を第2シンクロナイザリング26と同様の単一部材よりなるものとして実施してもよい。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明による同期変速機構の潤滑装置の一実施形態の全体構造を示す断面図である。
【図2】図1の2−2断面図である。
【図3】図1に示す実施形態の要部を示す部分拡大断面図である。
【符号の説明】
11…変速軸(第1変速軸)、13,14…変速歯車(第1変速歯車、第2変速歯車)、21…クラッチハブ、21a…外歯スプライン、22,23…ギヤピース(第1ギヤピース、第2ギヤピース)、22a,23a…外歯スプライン、24…ハブスリーブ、24b内歯スプライン、25,26…シンクロナイザリング(第1シンクロナイザリング、第2シンクロナイザリング)、25d,26a…外歯スプライン、30…シフトフォーク、31…円弧状部、32…庇状部、32a…内面、32b…側部フランジ、32c…先端フランジ、33…内向き突条、33a…案内面、33b…内端縁、G,H…隙間。
Claims (5)
- 変速軸と一体的に回転されるクラッチハブと、このクラッチハブの外周に形成された外歯スプラインと軸線方向摺動可能に噛合される内歯スプラインが形成されたハブスリーブと、前記クラッチハブの軸線方向一側に位置して前記変速軸に回転自在に支持された変速歯車と、この変速歯車の前記クラッチハブ側となる一側に一体的に設けられて前記内歯スプラインと噛合可能な外歯スプラインが外周に形成されたギヤピースと、前記クラッチハブとギヤピースの間に位置して前記クラッチハブに回転自在に支持され前記内歯スプラインと噛合可能な外歯スプラインが外周に形成され前記ハブスリーブの軸線方向のシフトにより前記ギヤピースに摩擦係合されて前記変速歯車の回転を前記ハブスリーブの回転に同期させるシンクロナイザリングと、前記ハブスリーブの外周部に沿って設けられてこれと円周方向摺動可能に係合する円弧状部を有し同ハブスリーブを前記内歯スプラインが前記クラッチハブの外歯スプラインとのみ係合する中立位置と前記クラッチハブ、シンクロナイザリング及びギヤピースの各外歯スプラインと噛合するシフト位置の間で移動させるシフトフォークを備えてなる同期変速機構において、前記シフトフォークの円弧状部から前記変速歯車側に突出しその上側の少なくとも一部を覆って同変速歯車から半径方向外向きに飛散される潤滑油を受け止める円弧状の庇状部と、この庇状部の内面に円周方向に沿って形成されて同庇状部により受け止められた前記潤滑油を半径方向内向きに案内する案内面を有する内向き突条を備えてなり、前記内向き突条の軸線方向位置は前記シフトフォークが中立位置にある状態において前記案内面に沿って半径方向内向きに案内されて前記内向き突条の前記変速軸側となる内端縁から離れる潤滑油が前記ギヤピースとシンクロナイザリングの間の隙間内に導入されるような位置としたことを特徴とする同期変速機構の潤滑装置。
- 請求項1に記載の同期変速機構の潤滑装置において、前記案内面は凹曲面としたことを特徴とする同期変速機構の潤滑装置。
- 請求項1または請求項2に記載の同期変速機構の潤滑装置において、前記内端縁は幅を前記隙間と同程度またはそれより狭くして、前記シフトフォークが中立位置にある状態において前記隙間と対向する位置としたことを特徴とする同期変速機構の潤滑装置。
- 請求項1〜請求項3の何れか1項に記載の同期変速機構の潤滑装置において、前記庇状部の軸線方向となる端縁には前記変速歯車側に折曲された側部フランジを形成したことを特徴とする同期変速機構の潤滑装置。
- 請求項1〜請求項4の何れか1項に記載の同期変速機構の潤滑装置において、前記変速歯車の回転方向側となる前記庇状部の円周方向端縁には前記変速歯車側に折曲された先端フランジを形成したことを特徴とする同期変速機構の潤滑装置。
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2003
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