JP2005017328A - 光学補償フィルムの製造方法、光学補償フィルム、光学補償偏光板及び液晶表示装置 - Google Patents
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Abstract
【課題】本発明の目的は、優れた光学特性を有しかつ生産性に優れた視野角補償機能を有する光学補償フィルムの製造方法、該製造方法を用いた優れた視野角補償特性を持つ光学補償フィルム、該フィルムを用いた視野角補償一体型偏光板、及び該視野角補償一体型偏光板を有する液晶表示装置を提供することである。
【解決手段】フィルムの屈折率楕円体における屈折率の最小及び最大方向がフィルムの法線方向と平行でなく、かつ、該方向が長手及びフィルムに対する法線方向に含まれる面内にある光学補償フィルムの製造方法であって、高分子フィルムを延伸する際、高分子フィルムの一方の面からその対面にかけて厚み方向で応力が増加をする条件で長手方向に延伸することを特徴とする光学補償フィルムの製造方法。
【選択図】 なし
【解決手段】フィルムの屈折率楕円体における屈折率の最小及び最大方向がフィルムの法線方向と平行でなく、かつ、該方向が長手及びフィルムに対する法線方向に含まれる面内にある光学補償フィルムの製造方法であって、高分子フィルムを延伸する際、高分子フィルムの一方の面からその対面にかけて厚み方向で応力が増加をする条件で長手方向に延伸することを特徴とする光学補償フィルムの製造方法。
【選択図】 なし
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は光学補償フィルムの製造方法、光学補償フィルム、光学補償偏光板、及び液晶表示装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
現在、セルロースエステルフィルム(代表的にはセルローストリアセテートフィルム)は、その透明性や光学的欠点のない特性からハロゲン化銀写真感光材料や光学フィルムに好ましく使用されている。特に液晶表示装置の偏光板用保護フィルムとして好ましく用いられている。
【0003】
液晶表示装置は、正面から観察した画像に比較し斜め方向から観察した時に表示品位がさがる視野角特性があり、この問題点を改良するためには適当な位相差機能を持つ視野角補償フィルムをセルと偏光子との間に配置する方法が有効であることが知られている。
【0004】
例えば、特開平7−333433号に記載されている光学補償シートは高分子フィルム上に円盤状化合物を光軸がフィルム面に対して傾斜した状態に配向させることにより液晶表示装置の視野角性能を改善している。しかしながら、この方法では高分子フィルム上に配向膜を塗布し、更に配向のためのラビング処理を行い、更に液晶塗布及び配向さらに配向固定と非常に長い工程を要さなければ達成出来ず、工程の生産性や歩留まりを考慮すると非常に効率の悪いものであった。
【0005】
現在、一般的に液晶表示装置に使用されている偏光板はポリビニルアルコールにヨウ素を含有させた偏光子とその両側にある偏光板保護フィルムからなっている。偏光子の接着性や表面平滑性、高い透明性のためセルロースエステルフィルムが偏光板保護フィルムとして好ましく使用されている。この偏光板保護フィルムに光学補償機能を持たせた光学補償セルロースエステルフィルムは液晶表示装置の部材を減らし、低コスト化、薄型化、工程での歩留まり向上など非常に有効な手段である。例えば、特願2003−30686ではこの手法を用いて液晶表示装置の視野角の改善を行っている。しかしながら、この方法では光軸が傾斜しておらず視野角補償の性能においては上記の手法に比較し不十分なものであった。
【0006】
また、セルロースエステルフィルムを偏光板保護フィルムを使用した場合、セルロースエステルに起因する透湿度の問題から偏光子が劣化し易いという問題があった。この問題を解決するために、特開平11−1548号ではノルボルネン系重合体を用いた偏光板保護フィルムを提案している。しかしながら、この特許においても光学補償については触れられておらず、この問題を解決するためには新たな位相差機能を追加する必要があった。
【0007】
位相差フィルムとして、フィルムの光学軸をフィルム法線から傾斜させたフィルムの作成方法について開示されているが(例えば、特許文献1参照。)、この特許ではロールによりフィルム面方向に剪断力を与え光学軸を傾ける方法であるが、フィルムとロールとの間に強いストレスが働き面品質に問題を残すため、偏光板保護フィルムとしては実用に耐えない。また、斜め方向の磁場の作用により傾斜配向させる手法が開示されているが(例えば、特許文献2参照。)、配向には強い磁場と時間がかかり工業生産上には適さない。
【0008】
【特許文献1】
特開平7−333437号公報
【0009】
【特許文献2】
特開平6−214116号公報
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記課題に鑑み鋭意検討したものであり、その目的は優れた光学特性を有し、かつ生産性に優れた視野角補償機能を有する光学補償フィルムの製造方法を提供することにある。また、該製造方法を用いて作製された、優れた視野角補償特性を持つ光学補償フィルム、該フィルムを用いた視野角補償一体型偏光板、及び該視野角補償一体型偏光板を有する液晶表示装置を提供することである。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明の上記目的は下記の構成1〜14により達成された。
【0012】
1.高分子フィルムの屈折率楕円体における屈折率の最小及び最大方向がフィルムの法線方向と平行でなく、かつ、該屈折率の最小及び最大方向が長手及びフィルムに対する法線方向に含まれる面内にある光学補償フィルムの製造方法であって、該高分子フィルムを延伸する際、高分子フィルムの一方の面からその対面にかけて厚み方向で応力が増加をする条件で、長手方向に延伸することを特徴とする光学補償フィルムの製造方法。
【0013】
2.高分子フィルムの一方の面をA面、他方の面をB面とした時、A面の温度>B面の温度となるようにフィルム厚み方向において温度分布を持たせた状態で、長手方向に延伸することを特徴とする前記1項に記載の光学補償フィルムの製造方法。
【0014】
3.高分子フィルムの一方の面をA面、他方の面をB面とした時、A面における残留溶媒量>B面における残留溶媒量となるようにフィルム厚み方向において残留溶媒量分布を持たせた状態で長手方向に延伸することを特徴とする前記1または2項に記載の光学補償フィルムの製造方法。
【0015】
4.高分子フィルムの一方の面をA面、他方の面をB面とした時、A面における高分子フィルムの分子量<B面における高分子フィルムの分子量となるようにフィルム厚み方向において分子量分布を持たせた状態で、長手方向に延伸することを特徴とする前記1〜3項のいずれか1項に記載の光学補償フィルムの製造方法。
【0016】
5.高分子フィルムの一方の面をA面、他方の面をB面とした時、A面におけるシリカ含有量<B面におけるシリカ含有量となるようにフィルム厚み方向においてシリカ含有量の分布を持たせた状態で、長手方向に延伸することを特徴とする前記1〜4項のいずれか1項に記載の光学補償フィルムの製造方法。
【0017】
6.高分子フィルムの一方の面をA面、他方の面をB面とした時、A面における可塑剤含有量>B面における可塑剤含有量となるようにフィルム厚み方向において可塑剤含有量分布を持たせた状態で、長手方向に延伸することを特徴とする前記1〜5項のいずれか1項に記載の光学補償フィルムの製造方法。
【0018】
7.共流延によりA面、B面における厚み方向の分布を持たせることを特徴とする前記1〜6項のいずれか1項に記載の光学補償フィルムの製造方法。
【0019】
8.高分子フィルムがセルロースエステルであることを特徴とする前記1〜7項のいずれか1項に記載の光学補償フィルムの製造方法。
【0020】
9.前記1〜8項のいずれか1項に記載の方法で製造されたことを特徴とする光学補償フィルム。
【0021】
10.前記式(I)で定義されるR0が20〜70nmの範囲であり、前記式(II)で定義されるRtが70〜400nmの範囲であることを特徴とする前記9項に記載の光学補償フィルム。
【0022】
11.高分子フィルムが前記式(III)及び(IV)を同時に満たすセルロースエステルフィルムであることを特徴とする前記10項に記載の光学補償フィルム。
【0023】
12.前記9〜11項のいずれか1項に記載の光学補償フィルムを用いることを特徴とする光学補償偏光板。
【0024】
13.偏光子の透過軸と光学補償フィルムの屈折率楕円体における屈折率最大の方向が平行もしくは直交するように貼合されていることを特徴とする前記12項に記載の光学補償偏光板。
【0025】
14.前記12または13項に記載の光学補償偏光板を用いることを特徴とする液晶表示装置。
【0026】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明は、フィルムの屈折率楕円体における屈折率の最小及び最大方向がフィルムの法線方向と平行でなく、かつ、該方向が長手及びフィルムに対する法線方向に含まれる面内にある光学補償フィルムの製造方法であって、高分子フィルムを延伸する際、高分子フィルムの一方の面からその対面にかけて厚み方向で応力が増加をする条件で、長手方向に延伸することを特徴とする。
【0027】
上記屈折率の最小及び最大の方向がフィルム法線と平行でなく、長手及びフィルムの法線方向に含まれる面内にあるようにするには、機構については未だ明確ではないが、以下のような手段で達成されるものと推定される。
【0028】
即ち、通常ニップロール等を用いて長手方向に延伸する際、フィルムの厚み方向においてその硬さが変わらないため、延伸しても屈折率の最小及び最大の方向はフィルム法線と平行になる。一方、膜の厚み方向で硬さを変えるような因子を(温度、残留溶媒、可塑剤含有量、シリカ含有量等)意図的に制御してフィルムを作製することが出来れば、そのようなフィルムを延伸することで、屈折率楕円体における最小及び最大屈折率の方向がフィルム面の法線方向と平行でなく、長手及びフィルム面の法線方向から傾けることが出来ることになる。本発明者は、このようなフィルムの製造方法について、注意深く検討を重ねた結果、膜の厚み方向で硬さを変えるような因子を加えたフィルムにより、屈折率楕円体における最小及び最大屈折率の方向がフィルム面の法線方向と平行でなく、長手及びフィルム面の法線方向から傾いたフィルムを実際に製造することが出来ることを見出し、本発明を成すに至った。
【0029】
図1は従来の方法で延伸を行った場合のフィルムにかかる応力を、図2は本発明の方法でフィルムを延伸した場合のフィルムにかかる応力を、図3は従来の方法で延伸した場合の屈折率楕円体の変化を、図4は本発明の方法で延伸した場合の屈折率楕円体の変化をそれぞれ模式的に表している。図1から4はフィルム面の法線方向から観察した図を上に、フィルム幅手方向から観察した図を下に配して記載した。
【0030】
図1において、従来の方法で長手方向に延伸を行うと、延伸が進むに従って幅手方向及び厚み方向に、収縮がおこる。図3において、この時の屈折率楕円体は、フィルム法線方向から見ると長手方向に伸び、フィルム幅手方向からはフィルム面に平行な形となる。
一方、本発明では膜の厚み方向で膜の硬さに変化をつけるため、図3に示すように延伸に従い、応力の発生に厚み方向に分布が生じる。具体的には、フィルムの柔らかい部分は硬い部分に比べて長手、及び幅手方向に縮もうとする力は小さくなるため、フィルムの柔らかい方の面から硬い方の面に向かって厚み方向で応力が増大することになる。この時フィルムの屈折率楕円体の変形をフィルム幅手方向から観察すると、図4のように屈折率楕円体の最小及び最大方向がフィルム法線と平行でなく、フィルム長手及び法線の方向に含まれる面内にある光学補償フィルムが製造出来ると考えている。
【0031】
上記のように高分子フィルムの屈折率楕円体の最小及び最大方向をフィルム法線方向から傾ける具体的な手段としては、延伸時のフィルム温度、残留溶媒量、高分子フィルムの分子量、高分子フィルム中に含有される可塑剤、UV剤、マット剤(シリカ)、リタデーション上昇剤等、延伸時にフィルムのリタデーションに影響を与えるあらゆる因子についてフィルム厚み方向において分布を持たせることにより達成出来る。
【0032】
具体的方法については、後に関連する記載の部分で説明する。
光学補償用高分子フィルムとしては、セルロースエステル、ノルボルネン系ポリマー、環状オレフィンポリマーなどを使用することが好ましい。現在一般的に使用されているポリビニルアルコールを延伸した偏光子と一体化する観点からは、接着性の点で特にセルロースエステルが好ましい。
【0033】
先に触れた如く、液晶表示装置には一般的に視野角特性が存在し、液晶セルの法線方向から角度を持った位置から観察するとコントラストが低下する問題があった。この問題を解決するためには、液晶セルと偏光子の間に適当なリターデーションを持った位相差フィルム(光学補償フィルム)を配置すると効果的であることが知られている。
【0034】
本発明に係る光学補償フィルムは、下記式(I)で定義されるR0が20〜70nmの範囲であり、下記式(II)で定義されるRtが70〜400nmの範囲であることが好ましい。
【0035】
式(I)R0=(nx−ny)×d
式(II)Rt={(nx+ny)/2−nz}×d
(式中、nxはフィルム面内の遅相軸方向の屈折率であり、nyはフィルム面内での進相軸方向の屈折率であり、nzはフィルム厚み方向の屈折率であり、dはフィルムの厚みを表す。)
セルロースエステルフィルムのリターデーションを制御するには、用いるセルロースエステルの置換度及び置換基の種類が重要な因子となってくる。本発明ではセルロースエステルのアセチル置換度をX、プロピオニル基またはブチリル基の置換度をYとした時に、2.30≦X+Y≦2.85であり、かつ1.40≦X≦2.85にし、このフィルムを延伸することにより光学補償偏光板(視野角補償一体型偏光板)として好適なリターデーションを得ることが出来る。
【0036】
以下、本発明の構成要件、光学補償フィルムの製造方法等を詳細に説明する。
〔高分子フィルムの製膜〕
先ず、本発明に係わる高分子フィルムの製膜方法について説明する(代表例として、セルロースエステルフィルムの溶液流延製膜法を示した)。
【0037】
▲1▼溶解工程:
溶解釜中で、セルロースエステルに対する良溶媒を主とする有機溶媒にセルロースエステルを撹拌しながら溶解しドープを形成する工程である。溶解には、主溶媒の沸点以下の温度で常圧で行う、主溶媒の沸点以上で加圧して行う、零度以下に冷却して行う或いは高圧で行う等種々の溶解方法があり、本発明においていずれも好ましく行うことの出来る溶解方法であるが、主溶媒の沸点以上で加圧状態で溶解する高温溶解方法がより好ましく用いられる。溶解後ドープを濾材で濾過し、脱泡してポンプで次工程に送る。
【0038】
ドープ中には、可塑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、マット剤、リターデーション上昇剤等種々の機能性を有する添加剤を添加することが出来る。これらの添加剤は、ドープの調製の際に、セルロースエステルや溶媒と共に添加してもよいし、ドープ調製中や調製後に添加してもよい。更に、アルカリ土類金属の塩などの熱安定剤、帯電防止剤、難燃剤、滑り剤、油剤等も加える場合もある。
【0039】
▲2▼流延工程:ドープを加圧型定量ギヤポンプを通して加圧ダイに送液し、流延位置において、表面が鏡面になっていて、無限に移送する無端の金属ベルト或いは回転する金属ドラム(以降、単に金属支持体という)上に加圧ダイからドープを流延する工程である。ダイによる流延装置は、口金部分のスリット形状を調整出来、ウェブの膜厚を均一にし易い加圧ダイが好ましい。加圧ダイには、コートハンガーダイやTダイ等があるが、いずれも好ましく用いられる。製膜速度を上げるために加圧ダイを金属支持体上に2基以上設け、ドープ量を分割して重層してもよい。
【0040】
▲3▼溶媒蒸発工程:
ウェブを金属支持体上で加熱し有機溶媒を蒸発させる工程である。有機溶媒を蒸発させるには、ウェブ側から風を吹かせる方法及び/または金属支持体の裏面から液体により伝熱させる方法、輻射熱により表裏から伝熱する方法等があり、本発明において、いずれも好ましく用いられる。
【0041】
▲4▼剥離工程:
金属支持体上で有機溶媒が蒸発したウェブを、金属支持体から剥離する工程である。剥離されたウェブは次の乾燥工程に送られる。剥離する時点でのウェブの残留溶媒量(後述)があまり大き過ぎると剥離し難かったり、逆に金属支持体上で十分に乾燥させてから剥離すると、途中でウェブの一部が剥がれたりする。
【0042】
製膜速度を上げる方法として、残留溶媒が多くとも剥離出来るゲルキャスティングがある。それは、ドープ中にセルロースエステルに対する貧溶媒を加えて、ドープ流延後、ゲル化する方法、金属支持体の温度を低めてゲル化する方法等がある。金属支持体上でゲル化させると膜強度が大きく、残留溶媒量が多くとも剥離することが出来る。その結果、剥離を早め製膜速度を上げることが出来る。残留溶媒量がより多い時点で剥離する場合、ウェブが柔らか過ぎると剥離時平面性を損なったり、剥離張力によるツレや縦スジが発生し易く、経済速度と品質との兼ね合いで剥離残留溶媒量が決められる。本発明においては、10〜120質量%で剥離するのが好ましい。
【0043】
▲5▼乾燥工程:
ウェブを千鳥状に配置したガイドロールに交互に通して搬送する乾燥装置及び/またはクリップでウェブの両端をクリップして搬送するテンター乾燥装置を用いてウェブを乾燥する工程である。乾燥の手段はウェブの両面に熱風を吹かせるのが一般的であるが、風の代わりにマイクロウエーブを当てて加熱する手段もある。あまり急激な乾燥は出来上がりのフィルムの平面性を損ね易い。全体を通しての乾燥温度は、40〜250℃が好ましく、70〜180℃がより好ましい。使用する有機溶媒によって、乾燥温度、乾燥風量及び乾燥時間が異なり、使用溶媒の種類、組合せに応じて乾燥条件を適宜選べばよい。
【0044】
金属支持体面から剥離した後の乾燥工程では、溶媒の蒸発によってウェブは両方向に収縮しようとする。高温度で急激に乾燥するほど収縮が大きくなる。この収縮を可能な限り抑制しながら乾燥することが、出来上がったフィルムの平面性を良好にする上で好ましい。この観点から、例えば、特開昭62−46625号公報に示されているように乾燥全工程或いは一部の工程において、ウェブを幅方向にクリップしウェブの幅両端を幅保持しつつ乾燥させる方法(テンター方式)が好ましい。この時、ウェブの延伸倍率、残留溶媒量、温度を制御することによって前記リターデーションを制御することが出来る。
【0045】
本発明では、テンターをかけながら、延伸倍率1.1〜2.0倍の範囲でクリップ等により長手方向(ウェブの搬送方向)に延伸することにより、視野角補償に好適なリタデーションを付与することが出来る。
【0046】
本発明において、搬送方向への延伸倍率とは、ベルト上に流延したセルロースエステルフィルムの残留溶媒量を70〜160質量%で剥離時、搬送方向に付けた所定長さの印しに対し、乾燥終了後、巻き取ったセルロースエステルフィルムの前記所定長さの割合を示す。即ち、設定する延伸倍率により各搬送・乾燥工程の速度を調整した状態で乾燥することで目標とする延伸倍率に設定し、各搬送・乾燥工程の速度の設定はベルト上に流延した膜の剥離時の残留溶媒量により適宜決定される。即ち、ベルトの速度に対して乾燥工程の速度が大きいほどセルロースエステルフィルムに張力が掛かり、搬送方向の伸びが大きくなる。
【0047】
搬送・乾燥工程にテンターを使用する場合は、テンターの種類により搬送方向の延伸倍率の設定が異なる。テンターのクリップが固定式の場合は、ベルトから剥離したセルロースエステルフィルムをテンターに移す時、テンターの速度とベルトの搬送速度の差により搬送方向の伸ばし率を設定することができ、クリップが移動式の場合は、テンターの入り口から出口までの間でクリップ間の距離を変えることで搬送方向の延伸倍率を設定することができる。
【0048】
本発明では、フィルム(ウェブ)を延伸時に10〜200℃の温度に保つことにより視野角補償に好適なリタデーションを付与することが出来る。この際、高分子フィルムの一方の面をA面、他方の面をB面とした時、A面の温度>B面の温度となるようにフィルム厚み方向において温度分布を持たせた状態で、延伸することで、光学補償フィルムの屈折率楕円体における最小及び最大方向をフィルム法線方向から効果的に傾けることが出来る。延伸時のフィルム面A、Bの温度差は10℃以上が好ましく、20℃以上が更に好ましく、30℃以上が最も好ましい。
【0049】
温度差をつける方法としては、フィルムの上、下面への乾燥吹き付け温度を調整することで可能である。
【0050】
延伸時の適正なフィルム温度は、フィルムの物性により異なるがフィルムのガラス転移温度をTgとした時、Tg−100〜Tg(℃)の範囲で延伸するのが好ましい。
【0051】
本発明において、溶液流延法を用いてフィルムを作製した場合、延伸時のフィルム残留溶媒量は5〜50質量%の範囲で延伸することにより、好適なリターデーションを得ることが出来る。残留溶媒を含んだ状態での延伸は、フィルムの見かけ上のTgを下げる効果を有すると捉えており、上記の好ましい温度範囲と同様な範囲で延伸することが好ましい。
【0052】
残留溶媒量は下記の式で表せる。
残留溶媒量(質量%)={(M−N)/N}×100
ここで、Mはウェブの任意時点での質量、NはMのものを110℃で3時間乾燥させた時の質量である。
【0053】
本発明では、高分子フィルムの一方の面をA面、他方の面をB面とした時、A面における残留溶媒量>B面における残留溶媒量となるようにフィルム厚み方向において残留溶媒量分布を持たせた状態で長手方向に延伸することが好ましい。
【0054】
残留溶媒量に分布を持たせるには、例えば、剥離後、ベルト面に接触していた面には塩化メチレン蒸気を吹き付け、もう一方の面は塩化メチレン蒸気を含まない乾燥空気を吹き付け、フィルム厚み方向で塩化メチレンの濃度勾配をつけるように搬送を行うこと等で可能である。
【0055】
▲6▼巻き取り工程:
乾燥が終了したウェブをフィルムとして巻き取る工程である。乾燥を終了する残留溶媒量は、2質量%以下、好ましくは0.4質量%以下とすることにより寸法安定性の良好なフィルムを得ることが出来る。巻き取り方法は、一般に使用されているワインダーを用いればよく、定トルク法、定テンション法、テーパーテンション法、内部応力一定のプログラムテンションコントロール法等の張力をコントロールする方法があり、それらを使い分ければよい。
【0056】
セルロースエステルフィルムの膜厚は、使用目的によって異なるが、液晶表示装置の薄型化の観点から、仕上がりフィルムとして10〜120μmの範囲が好ましく、更に30〜100μmの範囲がより好ましく、特に60〜90μmの範囲が好ましい。薄過ぎると例えば偏光板用保護フィルムとしての必要な強度が得られない場合がある。厚過ぎると従来のセルロースエステルフィルムに対して薄膜化の優位性がなくなる。膜厚の調節には、所望の厚さになるように、ドープ濃度、ポンプの送液量、ダイの口金のスリット間隙、ダイの押し出し圧力、金属支持体の速度等をコントロールするのがよい。また、膜厚を均一にする手段として、膜厚検出手段を用いて、プログラムされたフィードバック情報を上記各装置にフィードバックさせて調節するのが好ましい。
【0057】
溶液流延製膜法を通しての流延直後からの乾燥までの工程において、乾燥装置内の雰囲気を、空気とするのもよいが、窒素ガスや炭酸ガス等の不活性ガス雰囲気で行ってもよい。ただ、乾燥雰囲気中の蒸発溶媒の爆発限界の危険性は常に考慮されなければならないことは勿論である。
【0058】
〔セルロースエステルフィルムとその組成〕
本発明の代表的な高分子フィルムに使用するセルロースエステルの原料としては、特に限定はないが、綿花リンター、木材パルプ、ケナフなどを挙げることが出来る。またそれらから得られたセルロースエステルはそれぞれ任意の割合で混合使用することが出来る。
【0059】
本発明に使用するセルロースエステルの数平均分子量は、60,000〜300,000の範囲のものが好ましく、80,000〜200,000の範囲がより好ましい。その範囲において、フィルムの機械的強度が強く安心して使用出来る。
【0060】
本発明では、光学補償フィルムの屈折率楕円体における最小及び最大方向をフィルム法線方向から効果的に傾けるため、高分子フィルムの一方の面をA面、他方の面をB面とした時、A面における高分子フィルムの分子量<B面における高分子フィルムの分子量となるようにフィルム厚み方向において分子量分布を持たせた状態で、長手方向に延伸することが好ましい。
【0061】
上記、高分子フィルムの分子量を、フィルム厚み方向において分布を持たせるようにするには、後述する共流延により、複数の種類の原料を用いたドープ液を、複数の層流延することで達成される。
【0062】
光学補償フィルムの屈折率楕円体における最小及び最大方向をフィルム法線方向から効果的に傾ける観点から、高分子フィルムの分子量はフィルムA、B面において、5000以上差をつけることが好ましく、10000以上差をつけることが更に好ましく、40000以上差をつけることが最も好ましい。
【0063】
セルロースエステルの数平均分子量の測定は以下のとおり、高速液体クロマトグラフィにより下記条件で測定する。
【0064】
溶媒:アセトン
カラム:MPW×1(東ソー社製)
試料濃度:0.2質量/容量%
流量:1.0ml/分
試料注入量:300μl
標準試料:ポリメタクリル酸メチル(Mw=188,200)
温度:23℃。
【0065】
本発明に使用するセルロースエステルは、セルロース原料をアシル化することによって得られる。アシル化剤が酸無水物(無水酢酸、無水プロピオン酸、無水酪酸)である場合には、酢酸のような有機酸やメチレンクロライド等の有機溶媒を用い、触媒として硫酸のようなプロトン性触媒を用いて反応させる。アシル化剤が酸クロライド(例えば、CH3COCl、C2H5COCl、C3H7COCl)の場合には、触媒としてアミンのような塩基性化合物を用いて反応させる。具体的には特開平10−45804号公報に記載の方法で合成することが出来る。
【0066】
セルロースエステルはアシル基がセルロース分子の水酸基に反応する。セルロース分子はグルコースユニットが多数連結したものからなっており、グルコースユニットに3個の水酸基がある。この3個の水酸基にアシル基が誘導された数を置換度という。
【0067】
本発明に使用するセルロースエステルはセルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート、またはセルロースアセテートプロピオネートブチレートのようなアセチル基の他にプロピオニル基或いはブチリル基が結合したセルロースエステルである。なお、ブチリル基は、n−の他にiso−も含む。プロピオニル基の置換度が大きいセルロースアセテートプロピオネートは耐水性が優れ、液晶表示装置用のフィルムとして有用である。
【0068】
本発明では、前記したように、セルロースエステルのアセチル置換度をX、プロピオニル基またはブチリル基の置換度をYとした時に、2.30≦X+Y≦2.85であり、かつ1.40≦X≦2.85にすることが好ましい。
【0069】
アシル基の置換度の測定方法はASTM−D817−96に準じて測定することが出来る。
【0070】
〔微粒子添加剤〕
本発明において、セルロースエステルフィルム中に微粒子(マット化剤)を含有しているのが好ましく、微粒子としては、例えば二酸化ケイ素(シリカ)、二酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、炭酸カルシウム、カオリン、タルク、焼成ケイ酸カルシウム、水和ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム、リン酸カルシウム等の無機微粒子や架橋高分子微粒子を含有させることが好ましい。中でも二酸化ケイ素がフィルムのヘイズを小さく出来るので好ましい。微粒子の2次粒子の平均粒径は0.01〜1.0μmの範囲で、その含有量はセルロースエステルに対して0.005〜0.3質量%が好ましい。
【0071】
二酸化ケイ素のような微粒子には有機物により表面処理されている場合が多いが、このようなものはフィルムのヘイズを低下出来るため好ましい。表面処理で好ましい有機物としては、ハロシラン類、アルコキシシラン類(特にメチル基を有するアルコキシシラン類)、シラザン、シロキサンなどが挙げられる。微粒子の平均粒径が大きい方がマット効果は大きく、反対に平均粒径の小さい方は透明性に優れるため、好ましい微粒子の一次粒子の平均粒径は5〜50nmで、より好ましくは7〜16nmである。これらの微粒子はセルロースエステルフィルム中では、通常、凝集体として存在しセルロースエステルフィルム表面に0.01〜1.0μmの凹凸を生成させることが好ましい。二酸化ケイ素の微粒子としてはアエロジル社製のAEROSIL(アエロジル)200、200V、300、R972、R972V、R974、R202、R812,OX50、TT600等を挙げることが出来、好ましくはAEROSIL(アエロジル)200V、R972、R972V、R974、R202、R812である。これらの微粒子は2種以上併用してもよい。2種以上併用する場合、任意の割合で混合して使用することが出来る。この場合、平均粒径や材質の異なる微粒子、例えばAEROSIL(アエロジル)200VとR972Vを質量比で0.1:99.9〜99.9〜0.1の範囲で使用出来る。
【0072】
本発明において、微粒子はドープ調製時、セルロースエステル、他の添加剤及び有機溶媒とともに含有させて分散してもよいが、セルロースエステル溶液とは、別に微粒子分散液のような十分に分散させた状態でドープを調製するのが好ましい。微粒子を分散させるために、前もって有機溶媒にひたしてから高剪断力を有する分散機(高圧分散装置)で細分散させておくのが好ましい。その後により多量の有機溶媒に分散して、セルロースエステル溶液と合流させ、インラインミキサーで混合してドープとすることが好ましい。この場合、微粒子分散液に紫外線吸収剤を加え紫外線吸収剤液としてもよい。
【0073】
本発明では、高分子フィルムの一方の面をA面、他方の面をB面とした時、A面におけるシリカ含有量<B面におけるシリカ含有量となるようにフィルム厚み方向においてシリカ含有量に分布を持たせた状態で長手方向に延伸することが好ましい。
【0074】
フィルムの厚み方向でシリカ含有量に分布を持たせるには、後述する共流延により、例えばシリカ含有量の異なるドープ液を、複数の層流延することで達成される。
【0075】
光学補償フィルムの屈折率楕円体における最小及び最大方向をフィルム法線方向から効果的に傾ける手段として、微粒子添加剤、特にシリカを用いる場合は、フィルム厚み方向で、延伸時のシリカ含有量比はフィルムA、B面において、10:6より差が大きい方が好ましく、10:5より差が大きい方が更に好ましく、10:4より差が大きい方が最も好ましい。
【0076】
シリカ含有量比については、フィルムの断面をTOF−Simsにより測定を行うことが出来る。
【0077】
〔可塑剤の添加〕
本発明に係わるドープには可塑剤を添加することが出来る。可塑剤としては、リン酸エステル系可塑剤、フタル酸エステル系可塑剤、グリコレート系可塑剤、クエン酸エステル系可塑剤などを好ましく用いることが出来る。リン酸エステル系可塑剤として、前記のトリフェニルホスフェート(TPP)、トリクレジルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、オクチルジフェニルホスフェート、ジフェニルビフェニルホスフェート、トリオクチルホスフェート、トリブチルホスフェート等、フタル酸エステル系可塑剤として、ジエチルフタレート、ジメトキシエチルフタレート、ジメチルフタレート、ジオクチルフタレート、ジブチルフタレート、ジ−2−エチルヘキシルフタレート、ブチルベンジルフタレート、ジベンジルフタレート、クエン酸エステルとして、クエン酸アセチルトリエチル、クエン酸アセチルトリブチル、グリコレート系可塑剤として、アルキルフタリルアルキルグリコレート、またその他、オレイン酸ブチル、リシノール酸メチルアセチル、セバチン酸ジブチル、トリアセチン等も挙げることが出来る。本発明においては、グリコレート系可塑剤を好ましく用いることが出来、アルキルフタリルアルキルグリコレートのアルキルは炭素原子数1〜8のアルキル基のものを挙げることが出来る。好ましいグリコレート系可塑剤としては、メチルフタリルメチルグリコレート、エチルフタリルエチルグリコレート(EPEG)、プロピルフタリルプロピルグリコレート、ブチルフタリルブチルグリコレート、オクチルフタリルオクチルグリコレート、メチルフタリルエチルグリコレート、エチルフタリルメチルグリコレート、エチルフタリルプロピルグリコレート、プロピルフタリルエチルグリコレート、メチルフタリルプロピルグリコレート、メチルフタリルブチルグリコレート、エチルフタリルブチルグリコレート、ブチルフタリルメチルグリコレート、ブチルフタリルエチルグリコレート、プロピルフタリルブチルグリコレート、ブチルフタリルプロピルグリコレート、メチルフタリルオクチルグリコレート、エチルフタリルオクチルグリコレート、オクチルフタリルメチルグリコレート、オクチルフタリルエチルグリコレート等を挙げることが出来、メチルフタリルメチルグリコレート、エチルフタリルエチルグリコレート、プロピルフタリルプロピルグリコレート、ブチルフタリルブチルグリコレート、オクチルフタリルオクチルグリコレートが好ましく、特にエチルフタリルエチルグリコレートが好ましく用いられる。またこれらアルキルフタリルアルキルグリコレートを2種以上混合して使用してもよい。
【0078】
アルキルフタリルアルキルグリコレートの添加量は密着力低減及びフィルムからのブリードアウト抑制などの観点から、セルロースエステルに対して1〜10質量%が好ましい。本発明においては、アルキルフタリルアルキルグリコレートと共に上記の他の可塑剤を混合してもよい。
【0079】
本発明では、高分子フィルムの一方の面をA面、他方の面をB面とした時、A面における可塑剤含有量>B面における可塑剤含有量となるようにフィルム厚み方向において可塑剤含有量に分布を持たせた状態で長手方向に延伸することが好ましい。
【0080】
可塑剤含有量に分布を持たせるには、後述する共流延により、例えば可塑剤含有量の異なるドープ液を、複数の層流延することで達成される。
【0081】
光学補償フィルムの屈折率楕円体における最小及び最大方向をフィルム法線方向から効果的に傾ける観点から、延伸時の可塑剤含有量比はフィルムA、B面において、10:6より差が大きい方が好ましく、10:5より差が大きい方が更に好ましく、10:4より差が大きい方が最も好ましい。
【0082】
可塑剤含有量比については、フィルムの断面をTOF−Simsにより測定を行うことが出来る。
【0083】
〔共流延によるフィルム作製〕
高分子フィルムの厚み方向において、一方の面から他方の面に応力を増加させてフィルムを作製するために、共流延法により2種類以上の異なるドープを積層することが好ましい。フィルムの屈折率楕円体における最小及び最大方向をフィルム法線方向から効果的に傾ける観点から、3層以上が好ましく、4層以上が更に好ましい。
【0084】
前記した高分子フィルムの分子量、シリカ含有量、可塑剤含有量をフィルムの厚み方向で分布を持たせるには、少なくとも2種類の各々の組成が異なったドープ液を準備し、共流延によって少なくとも2層以上の層に分けて流延することが好ましい態様である。
【0085】
本発明に用いる多層構造の高分子フィルムは、溶液流延製膜過程において、共流延法(変形例として逐次流延法という方式もあるが、本発明ではこれも含めて共流延法とする)によりドープを多層に積層して得られるものである。
【0086】
図5は共流延ダイ及び流延して多層構造ウェブ(流延直後はウェブをドープ膜ともいうことがある)を形成したところを表した図である。共流延は図5に示すように、共流延ダイ10の口金部分11に複数(図2では三つ)の表層用スリット13と15、基層用スリット14を有しており、金属支持体16の上に同時にそれぞれのスリットから表層用ドープ17、基層用ドープ18、及び表層用ドープ19を流延することにより、表層21/基層22/表層23の多層構造のウェブ20を形成する。
【0087】
図6は逐次流延ダイ及び流延された多層構造のウェブを表した図である。逐次流延は、図6に示すように、金属支持体16の上方に複数(図6では三つ)の表層用流延ダイ30、基層用ダイ31及び表層用流延ダイ32を異なった場所に順に設置し、最初に表層用ダイ30から片方の表層となる表層用ドープ33が流延されて表層ドープ膜36を金属支持体16上に形成し、次に基層用ドープ34が基層用ダイ31から表層ドープ膜36の上に基層ドープ膜37を形成し、更に次の表層用ダイ32から表層用ドープ35を流延して表層ドープ膜38を形成することにより、表層/基層/表層の多層構造ウェブ39を形成する。
【0088】
図7は別のタイプの共流延ダイの断面を示した図である。本体中で3層が合流する共流延ダイ50は、基層用のスリット52、表層用のスリット51と53中にそれぞれ、基層用ドープ56、表層用ドープ55と57が導入されており、それが合流スリット58で合流し、層流をなしてスリット54を通過し、金属支持体16の上に3層揃って流延する様式のものである。
【0089】
本発明の光学補償フィルムは、良好な透湿性、寸法安定性等から液晶表示用部材、詳しくは偏光板用保護フィルムに用いられるのが好ましい。特に、透湿度と寸法安定性に対してともに厳しい要求のある偏光板用保護フィルムにおいて、本発明の光学補償フィルムは好ましく用いられる。
【0090】
本発明に係る偏光板は、一般的な方法で作製することが出来る。例えば、光学補償フィルム或いはセルロースエステルフィルムをアルカリケン化処理し、ポリビニルアルコールフィルムをヨウ素溶液中に浸漬、延伸して作製した偏光膜の両面に、完全ケン化型ポリビニルアルコール水溶液を用いて貼り合わせる方法がある。アルカリケン化処理とは、水系接着剤の濡れを良くし、接着性を向上させるために、セルロースエステルフィルムを高温の強アルカリ液中に漬ける処理のことをいう。
【0091】
本発明の光学補償フィルムには、ハードコート層、防眩層、反射防止層、防汚層、帯電防止層、導電層、光学異方層、液晶層、配向層、粘着層、接着層、下引き層等の各種機能層を付与することが出来る。これらの機能層は塗布或いは蒸着、スバッタ、プラズマCVD、大気圧プラズマ処理等の方法で設けることが出来る。
【0092】
このようにして得られた偏光板が、液晶セルの片面または両面に設けられ、これを用いて、本発明の液晶表示装置が得られる。
【0093】
本発明の光学補償フィルムからなる偏光板用保護フィルムを用いることにより、薄膜化とともに、耐久性及び寸法安定性、光学的等方性に優れた偏光板を提供することが出来る。更に、本発明の偏光板或いは位相差フィルムを用いた液晶表示装置は、長期間に亘って安定した表示性能を維持することが出来る。
【0094】
本発明の光学補償フィルムは、反射防止用フィルム或いは光学補償フィルムの基材としても使用出来る。
【0095】
【実施例】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明の態様はこれらに限定されるものではない。
【0096】
各種物性の測定方法について、以下にまとめて記載する。
(セルロースエステルフィルム置換度、及び酢化度の測定)
アセチル及びプロピオニルの置換度の測定は、ASTM−D817−96に準じて測定する。酢化度についても、同様に測定を行い計算から算出を行った。
【0097】
置換度(DS):セルロース分子中、すべてのOHの個数がいくつ酢酸と反応して置換されたかをグルコピラノーズ単位で表す。従って、置換度は0から3の値をとる。
【0098】
酢化度:酢化度=(DS×(CH3COOH分子量))/((C6H10O5分子量)+DS×(CH2CO分子量))
(R0、Rt、遅相軸方向、屈折率最小方向の測定)
アッベの屈折率計により試料の平均屈折率を求めた。更に、自動複屈折計KOBRA−21ADH(王子計測機器(株)製)を用いて、23℃、55%RHの環境下で、波長が590nmにおいて、−50°から50°の範囲で複屈折率を測定し、得られた位相差の測定値と平均屈折率から計算により屈折率nx、ny、nzを求めR0及びRtを算出した。また、同時にアンパン型屈折率楕円体の傾き角βを算出した。
【0099】
(フィルムA、B面での温度の測定)
延伸時、フィルムの両面に熱電対を貼り付け搬送することによりフィルムの温度を測定した。
【0100】
(フィルムA、B面でのシリカ、可塑剤含有量の測定)
作製したフィルムについては以下の条件でTOF−Simsにより測定を行った。
【0101】
C2H3O+のピークの質量分解能M/ΔMが4000以上となる様に試料電位、帯電中和を行った。場合によっては装置付属の帯電補正用メッシュを用いた。
【0102】
(視野角特性)
視野角特性の評価にはELDIM社製EZ−contrastを用い黒表示及び白表示時の透過光量を測定した。視野角の評価はコントラスト=(白表示時の透過光量)/(黒表示時の透過光量)を算出し評価を行った。
【0103】
視野角の評価はコントラスト10の視野角を示す角度を指標に評価を行った。
実施例1
(ドープAの調製)
耐圧密閉容器に下記のセルロースエステル溶液組成物を導入し、高温溶解方法でセルロースエステル溶液を調製した。その後溶液を安曇濾紙(株)製の安曇濾紙NO.244を使用して濾過し、ドープAを調製した。
【0104】
但し、Xはアセチル基の置換度、Yはプロピオニル基の置換度である。
【0105】
(光学補償セルロースエステルフィルムBの作製;本発明)
前記ドープAを用いて、ドープ温度35℃、支持体温度35℃に調整して、ダイからステンレス製支持体ベルト上に流延した。支持体上での乾燥風温度は40℃とした。その後支持体温度を20℃として、残留溶媒量80質量%でウェブを支持体から剥離した。次いで、ニップロールを用いて長手方向に延伸倍率1.5倍に延伸を行った。延伸時、フィルム上面は100℃、フィルム下面は30℃となるようにフィルム上、下面の吹き付け温度を調整した。このようにして光学補償セルロースエステルフィルムBを得た。
【0106】
(光学補償偏光板Cの作製)
光学補償セルロースエステルフィルムBをそれぞれ、60℃の2モル/l濃度の水酸化ナトリウム水溶液中で2分間処理、水洗した後、100℃で10分間乾燥しアルカリ鹸化処理偏光板用保護フィルムCを作製した。
【0107】
一方、別に厚さ120μmのポリビニルアルコールフィルムをヨウ素1質量部、ホウ酸4質量部を含む水溶液100質量部に浸漬し、50℃で4倍に延伸して偏光子(偏光膜)を作製した。
【0108】
偏光子の両面に、完全鹸化型ポリビニルアルコール5%水溶液を接着剤として偏光板用保護フィルムを貼り合わせ光学補償偏光板Cを作製した。なお、この時偏光子の透過軸と光学補償セルロースエステルフィルムの遅相軸は平行になるように貼合を行った。
【0109】
(光学補償セルロースエステルフィルムD及び光学補償偏光板Eの作製;比較例)
実施例1において、フィルム延伸時にフィルム上面温度及び下面温度をともに100℃とする以外は同様にして、比較の光学補償セルロースエステルフィルムD、光学補償偏光板Eを作製した。
【0110】
本発明及び比較例で作製した光学補償セルロースエステルフィルムの物性及び光学補償偏光板の視野角特性について以下にまとめて記載する。
【0111】
上記のように、本発明の視野角補償フィルムはフィルムの屈折率楕円体の最小方向がフィルム法線方向から20度傾いており、これを用いた視野角補償偏光板は十分な視野角特性を得ることが出来た。また、得られたフィルムB、Dについて配向角の測定を行ったところ、両方のフィルム共にフィルム面内での遅相軸の方向はフィルム長手方向に平行であった。
【0112】
実施例2
実施例1と同様に、下表に記載の構成のドープB〜Fを調製した。下表の数字は、酢綿の数平均分子量、酢綿100質量部に対するTPP、EPEG、塩化メチレン、エタノール、アエロジルR972V(日本アエロジル(株)製)の質量比を表す。
【0113】
実施例1と同様の手法でドープBからFを用い、この積層順で共流延により光学補償セルロースエステルフィルムFを得た。また、ニップロールによる長手延伸時にドープF側フィルム表面温度を110℃に、ドープB側フィルム表面温度を40℃に調整を行った。
【0114】
得られた光学補償セルロースエステルフィルムFを実施例1と同様の手法で処理し、光学補償偏光板Gを得た。以下に本発明の視野角補償フィルム及び視野角補償偏光板の性能を示す。
【0115】
また、光学補償セルロースエステルフィルムFの断面についてTOF−Simsを用いてSi、TPP、EPEGについて分布を分析したところ、共流延したドープの組成とほぼ同様な分布を持っていたことが解った。
【0116】
上記のように、本発明の視野角補償フィルムはフィルムの屈折率楕円体の最小方向がフィルム法線方向から21度傾いており、これを用いた視野角補償偏光板は十分な視野角特性を得ることが出来た。また、得られたフィルムの配向角の測定を行ったところ、面内での遅相軸の方向はフィルム長手方向と平行であった。
【0117】
実施例3
実施例1と同様にドープAを調製した。前記ドープAを用いて実施例1と同様にドープを支持体上に流延、剥離した。剥離後、ベルト面に接触していた面には塩化メチレン蒸気を吹き付け、もう一方の面は塩化メチレン蒸気を含まない乾燥空気を吹き付け、フィルム厚み方向で塩化メチレンの濃度勾配をつけるように搬送を行った。このウェブをニップロールによりフィルム長手方向に延伸倍率1.42倍に延伸を行った。延伸時、フィルムの塩化メチレン濃度が低い面側は35℃、他方の塩化メチレン濃度が高い面側は150℃となるようにフィルム面の温度を調整した。このようにして、光学補償セルロースエステルフィルムHを得た。
【0118】
実施例1と同様にして、光学補償セルロースエステルフィルムHを用いて光学補償偏光板Iを作製した。
【0119】
以下に、本発明の視野角補償フィルム及び視野角補償偏光板の物性及び評価結果を示す。
【0120】
上記のように、本発明の視野角補償フィルムはフィルムの屈折率楕円体の最小及び最大方向がフィルム法線方向と平行でなく、これを用いた視野角補償偏光板は十分な視野角特性を得ることが出来た。また、フィルムHについて配向角を測定したところ、面内での屈折率最大方向はフィルム長手方向に平行であった。
【0121】
(比較例)
実施例3において、剥離したフィルムの両面で異なる条件で乾燥を行った点を、同じ条件で乾燥するという点に変更し、更にテンターによる延伸時の温度を両面とも150℃に変更し光学補償セルロースエステルフィルムJを得た。更に、実施例3と同様に光学補償セルロースエステルフィルムJを用いて光学補償偏光板Kを作製した。
【0122】
以下に、比較の視野角補償フィルム及び視野角補償偏光板の物性及び評価結果を示す。
【0123】
上記のように、比較の視野角補償フィルムはフィルムの屈折率楕円体の最小及び最大方向がフィルム法線方向と平行であり、これを用いた視野角補償偏光板は十分な視野角特性を得ることが出来なかった。
【0124】
【発明の効果】
本発明により、優れた光学特性を有し、かつ生産性に優れた視野角補償機能を有する光学補償フィルムの製造方法、優れた視野角補償特性を持つ光学補償フィルム、該フィルムを用いた視野角補償一体型偏光板、及び該視野角補償一体型偏光板を有する液晶表示装置を提供することが出来た。
【図面の簡単な説明】
【図1】従来の方法で延伸した場合のフィルムにかかる応力を示す概念図。
【図2】本発明の方法で延伸した場合のフィルムにかかる応力を示す概念図。
【図3】従来の方法で延伸した場合の屈折率楕円体の変化を模式的に表す図。
【図4】本発明の方法で延伸した場合の屈折率楕円体の変化を表す図。
【図5】共流延ダイ及び流延して多層構造ウェブを形成したところを表した図。
【図6】逐次流延ダイ及び流延された多層構造のウェブを表した図。
【図7】別のタイプの共流延ダイの断面を示した図。
【符号の説明】
10 共流延ダイ
11 口金部分
13、14 表層用スリット
15 基層用スリット
16 金属支持体
17、19、55、57 表層用ドープ
18、56 基層用ドープ
30、32 表層用流延ダイ
31 基層用ダイ
【発明の属する技術分野】
本発明は光学補償フィルムの製造方法、光学補償フィルム、光学補償偏光板、及び液晶表示装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
現在、セルロースエステルフィルム(代表的にはセルローストリアセテートフィルム)は、その透明性や光学的欠点のない特性からハロゲン化銀写真感光材料や光学フィルムに好ましく使用されている。特に液晶表示装置の偏光板用保護フィルムとして好ましく用いられている。
【0003】
液晶表示装置は、正面から観察した画像に比較し斜め方向から観察した時に表示品位がさがる視野角特性があり、この問題点を改良するためには適当な位相差機能を持つ視野角補償フィルムをセルと偏光子との間に配置する方法が有効であることが知られている。
【0004】
例えば、特開平7−333433号に記載されている光学補償シートは高分子フィルム上に円盤状化合物を光軸がフィルム面に対して傾斜した状態に配向させることにより液晶表示装置の視野角性能を改善している。しかしながら、この方法では高分子フィルム上に配向膜を塗布し、更に配向のためのラビング処理を行い、更に液晶塗布及び配向さらに配向固定と非常に長い工程を要さなければ達成出来ず、工程の生産性や歩留まりを考慮すると非常に効率の悪いものであった。
【0005】
現在、一般的に液晶表示装置に使用されている偏光板はポリビニルアルコールにヨウ素を含有させた偏光子とその両側にある偏光板保護フィルムからなっている。偏光子の接着性や表面平滑性、高い透明性のためセルロースエステルフィルムが偏光板保護フィルムとして好ましく使用されている。この偏光板保護フィルムに光学補償機能を持たせた光学補償セルロースエステルフィルムは液晶表示装置の部材を減らし、低コスト化、薄型化、工程での歩留まり向上など非常に有効な手段である。例えば、特願2003−30686ではこの手法を用いて液晶表示装置の視野角の改善を行っている。しかしながら、この方法では光軸が傾斜しておらず視野角補償の性能においては上記の手法に比較し不十分なものであった。
【0006】
また、セルロースエステルフィルムを偏光板保護フィルムを使用した場合、セルロースエステルに起因する透湿度の問題から偏光子が劣化し易いという問題があった。この問題を解決するために、特開平11−1548号ではノルボルネン系重合体を用いた偏光板保護フィルムを提案している。しかしながら、この特許においても光学補償については触れられておらず、この問題を解決するためには新たな位相差機能を追加する必要があった。
【0007】
位相差フィルムとして、フィルムの光学軸をフィルム法線から傾斜させたフィルムの作成方法について開示されているが(例えば、特許文献1参照。)、この特許ではロールによりフィルム面方向に剪断力を与え光学軸を傾ける方法であるが、フィルムとロールとの間に強いストレスが働き面品質に問題を残すため、偏光板保護フィルムとしては実用に耐えない。また、斜め方向の磁場の作用により傾斜配向させる手法が開示されているが(例えば、特許文献2参照。)、配向には強い磁場と時間がかかり工業生産上には適さない。
【0008】
【特許文献1】
特開平7−333437号公報
【0009】
【特許文献2】
特開平6−214116号公報
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記課題に鑑み鋭意検討したものであり、その目的は優れた光学特性を有し、かつ生産性に優れた視野角補償機能を有する光学補償フィルムの製造方法を提供することにある。また、該製造方法を用いて作製された、優れた視野角補償特性を持つ光学補償フィルム、該フィルムを用いた視野角補償一体型偏光板、及び該視野角補償一体型偏光板を有する液晶表示装置を提供することである。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明の上記目的は下記の構成1〜14により達成された。
【0012】
1.高分子フィルムの屈折率楕円体における屈折率の最小及び最大方向がフィルムの法線方向と平行でなく、かつ、該屈折率の最小及び最大方向が長手及びフィルムに対する法線方向に含まれる面内にある光学補償フィルムの製造方法であって、該高分子フィルムを延伸する際、高分子フィルムの一方の面からその対面にかけて厚み方向で応力が増加をする条件で、長手方向に延伸することを特徴とする光学補償フィルムの製造方法。
【0013】
2.高分子フィルムの一方の面をA面、他方の面をB面とした時、A面の温度>B面の温度となるようにフィルム厚み方向において温度分布を持たせた状態で、長手方向に延伸することを特徴とする前記1項に記載の光学補償フィルムの製造方法。
【0014】
3.高分子フィルムの一方の面をA面、他方の面をB面とした時、A面における残留溶媒量>B面における残留溶媒量となるようにフィルム厚み方向において残留溶媒量分布を持たせた状態で長手方向に延伸することを特徴とする前記1または2項に記載の光学補償フィルムの製造方法。
【0015】
4.高分子フィルムの一方の面をA面、他方の面をB面とした時、A面における高分子フィルムの分子量<B面における高分子フィルムの分子量となるようにフィルム厚み方向において分子量分布を持たせた状態で、長手方向に延伸することを特徴とする前記1〜3項のいずれか1項に記載の光学補償フィルムの製造方法。
【0016】
5.高分子フィルムの一方の面をA面、他方の面をB面とした時、A面におけるシリカ含有量<B面におけるシリカ含有量となるようにフィルム厚み方向においてシリカ含有量の分布を持たせた状態で、長手方向に延伸することを特徴とする前記1〜4項のいずれか1項に記載の光学補償フィルムの製造方法。
【0017】
6.高分子フィルムの一方の面をA面、他方の面をB面とした時、A面における可塑剤含有量>B面における可塑剤含有量となるようにフィルム厚み方向において可塑剤含有量分布を持たせた状態で、長手方向に延伸することを特徴とする前記1〜5項のいずれか1項に記載の光学補償フィルムの製造方法。
【0018】
7.共流延によりA面、B面における厚み方向の分布を持たせることを特徴とする前記1〜6項のいずれか1項に記載の光学補償フィルムの製造方法。
【0019】
8.高分子フィルムがセルロースエステルであることを特徴とする前記1〜7項のいずれか1項に記載の光学補償フィルムの製造方法。
【0020】
9.前記1〜8項のいずれか1項に記載の方法で製造されたことを特徴とする光学補償フィルム。
【0021】
10.前記式(I)で定義されるR0が20〜70nmの範囲であり、前記式(II)で定義されるRtが70〜400nmの範囲であることを特徴とする前記9項に記載の光学補償フィルム。
【0022】
11.高分子フィルムが前記式(III)及び(IV)を同時に満たすセルロースエステルフィルムであることを特徴とする前記10項に記載の光学補償フィルム。
【0023】
12.前記9〜11項のいずれか1項に記載の光学補償フィルムを用いることを特徴とする光学補償偏光板。
【0024】
13.偏光子の透過軸と光学補償フィルムの屈折率楕円体における屈折率最大の方向が平行もしくは直交するように貼合されていることを特徴とする前記12項に記載の光学補償偏光板。
【0025】
14.前記12または13項に記載の光学補償偏光板を用いることを特徴とする液晶表示装置。
【0026】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明は、フィルムの屈折率楕円体における屈折率の最小及び最大方向がフィルムの法線方向と平行でなく、かつ、該方向が長手及びフィルムに対する法線方向に含まれる面内にある光学補償フィルムの製造方法であって、高分子フィルムを延伸する際、高分子フィルムの一方の面からその対面にかけて厚み方向で応力が増加をする条件で、長手方向に延伸することを特徴とする。
【0027】
上記屈折率の最小及び最大の方向がフィルム法線と平行でなく、長手及びフィルムの法線方向に含まれる面内にあるようにするには、機構については未だ明確ではないが、以下のような手段で達成されるものと推定される。
【0028】
即ち、通常ニップロール等を用いて長手方向に延伸する際、フィルムの厚み方向においてその硬さが変わらないため、延伸しても屈折率の最小及び最大の方向はフィルム法線と平行になる。一方、膜の厚み方向で硬さを変えるような因子を(温度、残留溶媒、可塑剤含有量、シリカ含有量等)意図的に制御してフィルムを作製することが出来れば、そのようなフィルムを延伸することで、屈折率楕円体における最小及び最大屈折率の方向がフィルム面の法線方向と平行でなく、長手及びフィルム面の法線方向から傾けることが出来ることになる。本発明者は、このようなフィルムの製造方法について、注意深く検討を重ねた結果、膜の厚み方向で硬さを変えるような因子を加えたフィルムにより、屈折率楕円体における最小及び最大屈折率の方向がフィルム面の法線方向と平行でなく、長手及びフィルム面の法線方向から傾いたフィルムを実際に製造することが出来ることを見出し、本発明を成すに至った。
【0029】
図1は従来の方法で延伸を行った場合のフィルムにかかる応力を、図2は本発明の方法でフィルムを延伸した場合のフィルムにかかる応力を、図3は従来の方法で延伸した場合の屈折率楕円体の変化を、図4は本発明の方法で延伸した場合の屈折率楕円体の変化をそれぞれ模式的に表している。図1から4はフィルム面の法線方向から観察した図を上に、フィルム幅手方向から観察した図を下に配して記載した。
【0030】
図1において、従来の方法で長手方向に延伸を行うと、延伸が進むに従って幅手方向及び厚み方向に、収縮がおこる。図3において、この時の屈折率楕円体は、フィルム法線方向から見ると長手方向に伸び、フィルム幅手方向からはフィルム面に平行な形となる。
一方、本発明では膜の厚み方向で膜の硬さに変化をつけるため、図3に示すように延伸に従い、応力の発生に厚み方向に分布が生じる。具体的には、フィルムの柔らかい部分は硬い部分に比べて長手、及び幅手方向に縮もうとする力は小さくなるため、フィルムの柔らかい方の面から硬い方の面に向かって厚み方向で応力が増大することになる。この時フィルムの屈折率楕円体の変形をフィルム幅手方向から観察すると、図4のように屈折率楕円体の最小及び最大方向がフィルム法線と平行でなく、フィルム長手及び法線の方向に含まれる面内にある光学補償フィルムが製造出来ると考えている。
【0031】
上記のように高分子フィルムの屈折率楕円体の最小及び最大方向をフィルム法線方向から傾ける具体的な手段としては、延伸時のフィルム温度、残留溶媒量、高分子フィルムの分子量、高分子フィルム中に含有される可塑剤、UV剤、マット剤(シリカ)、リタデーション上昇剤等、延伸時にフィルムのリタデーションに影響を与えるあらゆる因子についてフィルム厚み方向において分布を持たせることにより達成出来る。
【0032】
具体的方法については、後に関連する記載の部分で説明する。
光学補償用高分子フィルムとしては、セルロースエステル、ノルボルネン系ポリマー、環状オレフィンポリマーなどを使用することが好ましい。現在一般的に使用されているポリビニルアルコールを延伸した偏光子と一体化する観点からは、接着性の点で特にセルロースエステルが好ましい。
【0033】
先に触れた如く、液晶表示装置には一般的に視野角特性が存在し、液晶セルの法線方向から角度を持った位置から観察するとコントラストが低下する問題があった。この問題を解決するためには、液晶セルと偏光子の間に適当なリターデーションを持った位相差フィルム(光学補償フィルム)を配置すると効果的であることが知られている。
【0034】
本発明に係る光学補償フィルムは、下記式(I)で定義されるR0が20〜70nmの範囲であり、下記式(II)で定義されるRtが70〜400nmの範囲であることが好ましい。
【0035】
式(I)R0=(nx−ny)×d
式(II)Rt={(nx+ny)/2−nz}×d
(式中、nxはフィルム面内の遅相軸方向の屈折率であり、nyはフィルム面内での進相軸方向の屈折率であり、nzはフィルム厚み方向の屈折率であり、dはフィルムの厚みを表す。)
セルロースエステルフィルムのリターデーションを制御するには、用いるセルロースエステルの置換度及び置換基の種類が重要な因子となってくる。本発明ではセルロースエステルのアセチル置換度をX、プロピオニル基またはブチリル基の置換度をYとした時に、2.30≦X+Y≦2.85であり、かつ1.40≦X≦2.85にし、このフィルムを延伸することにより光学補償偏光板(視野角補償一体型偏光板)として好適なリターデーションを得ることが出来る。
【0036】
以下、本発明の構成要件、光学補償フィルムの製造方法等を詳細に説明する。
〔高分子フィルムの製膜〕
先ず、本発明に係わる高分子フィルムの製膜方法について説明する(代表例として、セルロースエステルフィルムの溶液流延製膜法を示した)。
【0037】
▲1▼溶解工程:
溶解釜中で、セルロースエステルに対する良溶媒を主とする有機溶媒にセルロースエステルを撹拌しながら溶解しドープを形成する工程である。溶解には、主溶媒の沸点以下の温度で常圧で行う、主溶媒の沸点以上で加圧して行う、零度以下に冷却して行う或いは高圧で行う等種々の溶解方法があり、本発明においていずれも好ましく行うことの出来る溶解方法であるが、主溶媒の沸点以上で加圧状態で溶解する高温溶解方法がより好ましく用いられる。溶解後ドープを濾材で濾過し、脱泡してポンプで次工程に送る。
【0038】
ドープ中には、可塑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、マット剤、リターデーション上昇剤等種々の機能性を有する添加剤を添加することが出来る。これらの添加剤は、ドープの調製の際に、セルロースエステルや溶媒と共に添加してもよいし、ドープ調製中や調製後に添加してもよい。更に、アルカリ土類金属の塩などの熱安定剤、帯電防止剤、難燃剤、滑り剤、油剤等も加える場合もある。
【0039】
▲2▼流延工程:ドープを加圧型定量ギヤポンプを通して加圧ダイに送液し、流延位置において、表面が鏡面になっていて、無限に移送する無端の金属ベルト或いは回転する金属ドラム(以降、単に金属支持体という)上に加圧ダイからドープを流延する工程である。ダイによる流延装置は、口金部分のスリット形状を調整出来、ウェブの膜厚を均一にし易い加圧ダイが好ましい。加圧ダイには、コートハンガーダイやTダイ等があるが、いずれも好ましく用いられる。製膜速度を上げるために加圧ダイを金属支持体上に2基以上設け、ドープ量を分割して重層してもよい。
【0040】
▲3▼溶媒蒸発工程:
ウェブを金属支持体上で加熱し有機溶媒を蒸発させる工程である。有機溶媒を蒸発させるには、ウェブ側から風を吹かせる方法及び/または金属支持体の裏面から液体により伝熱させる方法、輻射熱により表裏から伝熱する方法等があり、本発明において、いずれも好ましく用いられる。
【0041】
▲4▼剥離工程:
金属支持体上で有機溶媒が蒸発したウェブを、金属支持体から剥離する工程である。剥離されたウェブは次の乾燥工程に送られる。剥離する時点でのウェブの残留溶媒量(後述)があまり大き過ぎると剥離し難かったり、逆に金属支持体上で十分に乾燥させてから剥離すると、途中でウェブの一部が剥がれたりする。
【0042】
製膜速度を上げる方法として、残留溶媒が多くとも剥離出来るゲルキャスティングがある。それは、ドープ中にセルロースエステルに対する貧溶媒を加えて、ドープ流延後、ゲル化する方法、金属支持体の温度を低めてゲル化する方法等がある。金属支持体上でゲル化させると膜強度が大きく、残留溶媒量が多くとも剥離することが出来る。その結果、剥離を早め製膜速度を上げることが出来る。残留溶媒量がより多い時点で剥離する場合、ウェブが柔らか過ぎると剥離時平面性を損なったり、剥離張力によるツレや縦スジが発生し易く、経済速度と品質との兼ね合いで剥離残留溶媒量が決められる。本発明においては、10〜120質量%で剥離するのが好ましい。
【0043】
▲5▼乾燥工程:
ウェブを千鳥状に配置したガイドロールに交互に通して搬送する乾燥装置及び/またはクリップでウェブの両端をクリップして搬送するテンター乾燥装置を用いてウェブを乾燥する工程である。乾燥の手段はウェブの両面に熱風を吹かせるのが一般的であるが、風の代わりにマイクロウエーブを当てて加熱する手段もある。あまり急激な乾燥は出来上がりのフィルムの平面性を損ね易い。全体を通しての乾燥温度は、40〜250℃が好ましく、70〜180℃がより好ましい。使用する有機溶媒によって、乾燥温度、乾燥風量及び乾燥時間が異なり、使用溶媒の種類、組合せに応じて乾燥条件を適宜選べばよい。
【0044】
金属支持体面から剥離した後の乾燥工程では、溶媒の蒸発によってウェブは両方向に収縮しようとする。高温度で急激に乾燥するほど収縮が大きくなる。この収縮を可能な限り抑制しながら乾燥することが、出来上がったフィルムの平面性を良好にする上で好ましい。この観点から、例えば、特開昭62−46625号公報に示されているように乾燥全工程或いは一部の工程において、ウェブを幅方向にクリップしウェブの幅両端を幅保持しつつ乾燥させる方法(テンター方式)が好ましい。この時、ウェブの延伸倍率、残留溶媒量、温度を制御することによって前記リターデーションを制御することが出来る。
【0045】
本発明では、テンターをかけながら、延伸倍率1.1〜2.0倍の範囲でクリップ等により長手方向(ウェブの搬送方向)に延伸することにより、視野角補償に好適なリタデーションを付与することが出来る。
【0046】
本発明において、搬送方向への延伸倍率とは、ベルト上に流延したセルロースエステルフィルムの残留溶媒量を70〜160質量%で剥離時、搬送方向に付けた所定長さの印しに対し、乾燥終了後、巻き取ったセルロースエステルフィルムの前記所定長さの割合を示す。即ち、設定する延伸倍率により各搬送・乾燥工程の速度を調整した状態で乾燥することで目標とする延伸倍率に設定し、各搬送・乾燥工程の速度の設定はベルト上に流延した膜の剥離時の残留溶媒量により適宜決定される。即ち、ベルトの速度に対して乾燥工程の速度が大きいほどセルロースエステルフィルムに張力が掛かり、搬送方向の伸びが大きくなる。
【0047】
搬送・乾燥工程にテンターを使用する場合は、テンターの種類により搬送方向の延伸倍率の設定が異なる。テンターのクリップが固定式の場合は、ベルトから剥離したセルロースエステルフィルムをテンターに移す時、テンターの速度とベルトの搬送速度の差により搬送方向の伸ばし率を設定することができ、クリップが移動式の場合は、テンターの入り口から出口までの間でクリップ間の距離を変えることで搬送方向の延伸倍率を設定することができる。
【0048】
本発明では、フィルム(ウェブ)を延伸時に10〜200℃の温度に保つことにより視野角補償に好適なリタデーションを付与することが出来る。この際、高分子フィルムの一方の面をA面、他方の面をB面とした時、A面の温度>B面の温度となるようにフィルム厚み方向において温度分布を持たせた状態で、延伸することで、光学補償フィルムの屈折率楕円体における最小及び最大方向をフィルム法線方向から効果的に傾けることが出来る。延伸時のフィルム面A、Bの温度差は10℃以上が好ましく、20℃以上が更に好ましく、30℃以上が最も好ましい。
【0049】
温度差をつける方法としては、フィルムの上、下面への乾燥吹き付け温度を調整することで可能である。
【0050】
延伸時の適正なフィルム温度は、フィルムの物性により異なるがフィルムのガラス転移温度をTgとした時、Tg−100〜Tg(℃)の範囲で延伸するのが好ましい。
【0051】
本発明において、溶液流延法を用いてフィルムを作製した場合、延伸時のフィルム残留溶媒量は5〜50質量%の範囲で延伸することにより、好適なリターデーションを得ることが出来る。残留溶媒を含んだ状態での延伸は、フィルムの見かけ上のTgを下げる効果を有すると捉えており、上記の好ましい温度範囲と同様な範囲で延伸することが好ましい。
【0052】
残留溶媒量は下記の式で表せる。
残留溶媒量(質量%)={(M−N)/N}×100
ここで、Mはウェブの任意時点での質量、NはMのものを110℃で3時間乾燥させた時の質量である。
【0053】
本発明では、高分子フィルムの一方の面をA面、他方の面をB面とした時、A面における残留溶媒量>B面における残留溶媒量となるようにフィルム厚み方向において残留溶媒量分布を持たせた状態で長手方向に延伸することが好ましい。
【0054】
残留溶媒量に分布を持たせるには、例えば、剥離後、ベルト面に接触していた面には塩化メチレン蒸気を吹き付け、もう一方の面は塩化メチレン蒸気を含まない乾燥空気を吹き付け、フィルム厚み方向で塩化メチレンの濃度勾配をつけるように搬送を行うこと等で可能である。
【0055】
▲6▼巻き取り工程:
乾燥が終了したウェブをフィルムとして巻き取る工程である。乾燥を終了する残留溶媒量は、2質量%以下、好ましくは0.4質量%以下とすることにより寸法安定性の良好なフィルムを得ることが出来る。巻き取り方法は、一般に使用されているワインダーを用いればよく、定トルク法、定テンション法、テーパーテンション法、内部応力一定のプログラムテンションコントロール法等の張力をコントロールする方法があり、それらを使い分ければよい。
【0056】
セルロースエステルフィルムの膜厚は、使用目的によって異なるが、液晶表示装置の薄型化の観点から、仕上がりフィルムとして10〜120μmの範囲が好ましく、更に30〜100μmの範囲がより好ましく、特に60〜90μmの範囲が好ましい。薄過ぎると例えば偏光板用保護フィルムとしての必要な強度が得られない場合がある。厚過ぎると従来のセルロースエステルフィルムに対して薄膜化の優位性がなくなる。膜厚の調節には、所望の厚さになるように、ドープ濃度、ポンプの送液量、ダイの口金のスリット間隙、ダイの押し出し圧力、金属支持体の速度等をコントロールするのがよい。また、膜厚を均一にする手段として、膜厚検出手段を用いて、プログラムされたフィードバック情報を上記各装置にフィードバックさせて調節するのが好ましい。
【0057】
溶液流延製膜法を通しての流延直後からの乾燥までの工程において、乾燥装置内の雰囲気を、空気とするのもよいが、窒素ガスや炭酸ガス等の不活性ガス雰囲気で行ってもよい。ただ、乾燥雰囲気中の蒸発溶媒の爆発限界の危険性は常に考慮されなければならないことは勿論である。
【0058】
〔セルロースエステルフィルムとその組成〕
本発明の代表的な高分子フィルムに使用するセルロースエステルの原料としては、特に限定はないが、綿花リンター、木材パルプ、ケナフなどを挙げることが出来る。またそれらから得られたセルロースエステルはそれぞれ任意の割合で混合使用することが出来る。
【0059】
本発明に使用するセルロースエステルの数平均分子量は、60,000〜300,000の範囲のものが好ましく、80,000〜200,000の範囲がより好ましい。その範囲において、フィルムの機械的強度が強く安心して使用出来る。
【0060】
本発明では、光学補償フィルムの屈折率楕円体における最小及び最大方向をフィルム法線方向から効果的に傾けるため、高分子フィルムの一方の面をA面、他方の面をB面とした時、A面における高分子フィルムの分子量<B面における高分子フィルムの分子量となるようにフィルム厚み方向において分子量分布を持たせた状態で、長手方向に延伸することが好ましい。
【0061】
上記、高分子フィルムの分子量を、フィルム厚み方向において分布を持たせるようにするには、後述する共流延により、複数の種類の原料を用いたドープ液を、複数の層流延することで達成される。
【0062】
光学補償フィルムの屈折率楕円体における最小及び最大方向をフィルム法線方向から効果的に傾ける観点から、高分子フィルムの分子量はフィルムA、B面において、5000以上差をつけることが好ましく、10000以上差をつけることが更に好ましく、40000以上差をつけることが最も好ましい。
【0063】
セルロースエステルの数平均分子量の測定は以下のとおり、高速液体クロマトグラフィにより下記条件で測定する。
【0064】
溶媒:アセトン
カラム:MPW×1(東ソー社製)
試料濃度:0.2質量/容量%
流量:1.0ml/分
試料注入量:300μl
標準試料:ポリメタクリル酸メチル(Mw=188,200)
温度:23℃。
【0065】
本発明に使用するセルロースエステルは、セルロース原料をアシル化することによって得られる。アシル化剤が酸無水物(無水酢酸、無水プロピオン酸、無水酪酸)である場合には、酢酸のような有機酸やメチレンクロライド等の有機溶媒を用い、触媒として硫酸のようなプロトン性触媒を用いて反応させる。アシル化剤が酸クロライド(例えば、CH3COCl、C2H5COCl、C3H7COCl)の場合には、触媒としてアミンのような塩基性化合物を用いて反応させる。具体的には特開平10−45804号公報に記載の方法で合成することが出来る。
【0066】
セルロースエステルはアシル基がセルロース分子の水酸基に反応する。セルロース分子はグルコースユニットが多数連結したものからなっており、グルコースユニットに3個の水酸基がある。この3個の水酸基にアシル基が誘導された数を置換度という。
【0067】
本発明に使用するセルロースエステルはセルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート、またはセルロースアセテートプロピオネートブチレートのようなアセチル基の他にプロピオニル基或いはブチリル基が結合したセルロースエステルである。なお、ブチリル基は、n−の他にiso−も含む。プロピオニル基の置換度が大きいセルロースアセテートプロピオネートは耐水性が優れ、液晶表示装置用のフィルムとして有用である。
【0068】
本発明では、前記したように、セルロースエステルのアセチル置換度をX、プロピオニル基またはブチリル基の置換度をYとした時に、2.30≦X+Y≦2.85であり、かつ1.40≦X≦2.85にすることが好ましい。
【0069】
アシル基の置換度の測定方法はASTM−D817−96に準じて測定することが出来る。
【0070】
〔微粒子添加剤〕
本発明において、セルロースエステルフィルム中に微粒子(マット化剤)を含有しているのが好ましく、微粒子としては、例えば二酸化ケイ素(シリカ)、二酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、炭酸カルシウム、カオリン、タルク、焼成ケイ酸カルシウム、水和ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム、リン酸カルシウム等の無機微粒子や架橋高分子微粒子を含有させることが好ましい。中でも二酸化ケイ素がフィルムのヘイズを小さく出来るので好ましい。微粒子の2次粒子の平均粒径は0.01〜1.0μmの範囲で、その含有量はセルロースエステルに対して0.005〜0.3質量%が好ましい。
【0071】
二酸化ケイ素のような微粒子には有機物により表面処理されている場合が多いが、このようなものはフィルムのヘイズを低下出来るため好ましい。表面処理で好ましい有機物としては、ハロシラン類、アルコキシシラン類(特にメチル基を有するアルコキシシラン類)、シラザン、シロキサンなどが挙げられる。微粒子の平均粒径が大きい方がマット効果は大きく、反対に平均粒径の小さい方は透明性に優れるため、好ましい微粒子の一次粒子の平均粒径は5〜50nmで、より好ましくは7〜16nmである。これらの微粒子はセルロースエステルフィルム中では、通常、凝集体として存在しセルロースエステルフィルム表面に0.01〜1.0μmの凹凸を生成させることが好ましい。二酸化ケイ素の微粒子としてはアエロジル社製のAEROSIL(アエロジル)200、200V、300、R972、R972V、R974、R202、R812,OX50、TT600等を挙げることが出来、好ましくはAEROSIL(アエロジル)200V、R972、R972V、R974、R202、R812である。これらの微粒子は2種以上併用してもよい。2種以上併用する場合、任意の割合で混合して使用することが出来る。この場合、平均粒径や材質の異なる微粒子、例えばAEROSIL(アエロジル)200VとR972Vを質量比で0.1:99.9〜99.9〜0.1の範囲で使用出来る。
【0072】
本発明において、微粒子はドープ調製時、セルロースエステル、他の添加剤及び有機溶媒とともに含有させて分散してもよいが、セルロースエステル溶液とは、別に微粒子分散液のような十分に分散させた状態でドープを調製するのが好ましい。微粒子を分散させるために、前もって有機溶媒にひたしてから高剪断力を有する分散機(高圧分散装置)で細分散させておくのが好ましい。その後により多量の有機溶媒に分散して、セルロースエステル溶液と合流させ、インラインミキサーで混合してドープとすることが好ましい。この場合、微粒子分散液に紫外線吸収剤を加え紫外線吸収剤液としてもよい。
【0073】
本発明では、高分子フィルムの一方の面をA面、他方の面をB面とした時、A面におけるシリカ含有量<B面におけるシリカ含有量となるようにフィルム厚み方向においてシリカ含有量に分布を持たせた状態で長手方向に延伸することが好ましい。
【0074】
フィルムの厚み方向でシリカ含有量に分布を持たせるには、後述する共流延により、例えばシリカ含有量の異なるドープ液を、複数の層流延することで達成される。
【0075】
光学補償フィルムの屈折率楕円体における最小及び最大方向をフィルム法線方向から効果的に傾ける手段として、微粒子添加剤、特にシリカを用いる場合は、フィルム厚み方向で、延伸時のシリカ含有量比はフィルムA、B面において、10:6より差が大きい方が好ましく、10:5より差が大きい方が更に好ましく、10:4より差が大きい方が最も好ましい。
【0076】
シリカ含有量比については、フィルムの断面をTOF−Simsにより測定を行うことが出来る。
【0077】
〔可塑剤の添加〕
本発明に係わるドープには可塑剤を添加することが出来る。可塑剤としては、リン酸エステル系可塑剤、フタル酸エステル系可塑剤、グリコレート系可塑剤、クエン酸エステル系可塑剤などを好ましく用いることが出来る。リン酸エステル系可塑剤として、前記のトリフェニルホスフェート(TPP)、トリクレジルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、オクチルジフェニルホスフェート、ジフェニルビフェニルホスフェート、トリオクチルホスフェート、トリブチルホスフェート等、フタル酸エステル系可塑剤として、ジエチルフタレート、ジメトキシエチルフタレート、ジメチルフタレート、ジオクチルフタレート、ジブチルフタレート、ジ−2−エチルヘキシルフタレート、ブチルベンジルフタレート、ジベンジルフタレート、クエン酸エステルとして、クエン酸アセチルトリエチル、クエン酸アセチルトリブチル、グリコレート系可塑剤として、アルキルフタリルアルキルグリコレート、またその他、オレイン酸ブチル、リシノール酸メチルアセチル、セバチン酸ジブチル、トリアセチン等も挙げることが出来る。本発明においては、グリコレート系可塑剤を好ましく用いることが出来、アルキルフタリルアルキルグリコレートのアルキルは炭素原子数1〜8のアルキル基のものを挙げることが出来る。好ましいグリコレート系可塑剤としては、メチルフタリルメチルグリコレート、エチルフタリルエチルグリコレート(EPEG)、プロピルフタリルプロピルグリコレート、ブチルフタリルブチルグリコレート、オクチルフタリルオクチルグリコレート、メチルフタリルエチルグリコレート、エチルフタリルメチルグリコレート、エチルフタリルプロピルグリコレート、プロピルフタリルエチルグリコレート、メチルフタリルプロピルグリコレート、メチルフタリルブチルグリコレート、エチルフタリルブチルグリコレート、ブチルフタリルメチルグリコレート、ブチルフタリルエチルグリコレート、プロピルフタリルブチルグリコレート、ブチルフタリルプロピルグリコレート、メチルフタリルオクチルグリコレート、エチルフタリルオクチルグリコレート、オクチルフタリルメチルグリコレート、オクチルフタリルエチルグリコレート等を挙げることが出来、メチルフタリルメチルグリコレート、エチルフタリルエチルグリコレート、プロピルフタリルプロピルグリコレート、ブチルフタリルブチルグリコレート、オクチルフタリルオクチルグリコレートが好ましく、特にエチルフタリルエチルグリコレートが好ましく用いられる。またこれらアルキルフタリルアルキルグリコレートを2種以上混合して使用してもよい。
【0078】
アルキルフタリルアルキルグリコレートの添加量は密着力低減及びフィルムからのブリードアウト抑制などの観点から、セルロースエステルに対して1〜10質量%が好ましい。本発明においては、アルキルフタリルアルキルグリコレートと共に上記の他の可塑剤を混合してもよい。
【0079】
本発明では、高分子フィルムの一方の面をA面、他方の面をB面とした時、A面における可塑剤含有量>B面における可塑剤含有量となるようにフィルム厚み方向において可塑剤含有量に分布を持たせた状態で長手方向に延伸することが好ましい。
【0080】
可塑剤含有量に分布を持たせるには、後述する共流延により、例えば可塑剤含有量の異なるドープ液を、複数の層流延することで達成される。
【0081】
光学補償フィルムの屈折率楕円体における最小及び最大方向をフィルム法線方向から効果的に傾ける観点から、延伸時の可塑剤含有量比はフィルムA、B面において、10:6より差が大きい方が好ましく、10:5より差が大きい方が更に好ましく、10:4より差が大きい方が最も好ましい。
【0082】
可塑剤含有量比については、フィルムの断面をTOF−Simsにより測定を行うことが出来る。
【0083】
〔共流延によるフィルム作製〕
高分子フィルムの厚み方向において、一方の面から他方の面に応力を増加させてフィルムを作製するために、共流延法により2種類以上の異なるドープを積層することが好ましい。フィルムの屈折率楕円体における最小及び最大方向をフィルム法線方向から効果的に傾ける観点から、3層以上が好ましく、4層以上が更に好ましい。
【0084】
前記した高分子フィルムの分子量、シリカ含有量、可塑剤含有量をフィルムの厚み方向で分布を持たせるには、少なくとも2種類の各々の組成が異なったドープ液を準備し、共流延によって少なくとも2層以上の層に分けて流延することが好ましい態様である。
【0085】
本発明に用いる多層構造の高分子フィルムは、溶液流延製膜過程において、共流延法(変形例として逐次流延法という方式もあるが、本発明ではこれも含めて共流延法とする)によりドープを多層に積層して得られるものである。
【0086】
図5は共流延ダイ及び流延して多層構造ウェブ(流延直後はウェブをドープ膜ともいうことがある)を形成したところを表した図である。共流延は図5に示すように、共流延ダイ10の口金部分11に複数(図2では三つ)の表層用スリット13と15、基層用スリット14を有しており、金属支持体16の上に同時にそれぞれのスリットから表層用ドープ17、基層用ドープ18、及び表層用ドープ19を流延することにより、表層21/基層22/表層23の多層構造のウェブ20を形成する。
【0087】
図6は逐次流延ダイ及び流延された多層構造のウェブを表した図である。逐次流延は、図6に示すように、金属支持体16の上方に複数(図6では三つ)の表層用流延ダイ30、基層用ダイ31及び表層用流延ダイ32を異なった場所に順に設置し、最初に表層用ダイ30から片方の表層となる表層用ドープ33が流延されて表層ドープ膜36を金属支持体16上に形成し、次に基層用ドープ34が基層用ダイ31から表層ドープ膜36の上に基層ドープ膜37を形成し、更に次の表層用ダイ32から表層用ドープ35を流延して表層ドープ膜38を形成することにより、表層/基層/表層の多層構造ウェブ39を形成する。
【0088】
図7は別のタイプの共流延ダイの断面を示した図である。本体中で3層が合流する共流延ダイ50は、基層用のスリット52、表層用のスリット51と53中にそれぞれ、基層用ドープ56、表層用ドープ55と57が導入されており、それが合流スリット58で合流し、層流をなしてスリット54を通過し、金属支持体16の上に3層揃って流延する様式のものである。
【0089】
本発明の光学補償フィルムは、良好な透湿性、寸法安定性等から液晶表示用部材、詳しくは偏光板用保護フィルムに用いられるのが好ましい。特に、透湿度と寸法安定性に対してともに厳しい要求のある偏光板用保護フィルムにおいて、本発明の光学補償フィルムは好ましく用いられる。
【0090】
本発明に係る偏光板は、一般的な方法で作製することが出来る。例えば、光学補償フィルム或いはセルロースエステルフィルムをアルカリケン化処理し、ポリビニルアルコールフィルムをヨウ素溶液中に浸漬、延伸して作製した偏光膜の両面に、完全ケン化型ポリビニルアルコール水溶液を用いて貼り合わせる方法がある。アルカリケン化処理とは、水系接着剤の濡れを良くし、接着性を向上させるために、セルロースエステルフィルムを高温の強アルカリ液中に漬ける処理のことをいう。
【0091】
本発明の光学補償フィルムには、ハードコート層、防眩層、反射防止層、防汚層、帯電防止層、導電層、光学異方層、液晶層、配向層、粘着層、接着層、下引き層等の各種機能層を付与することが出来る。これらの機能層は塗布或いは蒸着、スバッタ、プラズマCVD、大気圧プラズマ処理等の方法で設けることが出来る。
【0092】
このようにして得られた偏光板が、液晶セルの片面または両面に設けられ、これを用いて、本発明の液晶表示装置が得られる。
【0093】
本発明の光学補償フィルムからなる偏光板用保護フィルムを用いることにより、薄膜化とともに、耐久性及び寸法安定性、光学的等方性に優れた偏光板を提供することが出来る。更に、本発明の偏光板或いは位相差フィルムを用いた液晶表示装置は、長期間に亘って安定した表示性能を維持することが出来る。
【0094】
本発明の光学補償フィルムは、反射防止用フィルム或いは光学補償フィルムの基材としても使用出来る。
【0095】
【実施例】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明の態様はこれらに限定されるものではない。
【0096】
各種物性の測定方法について、以下にまとめて記載する。
(セルロースエステルフィルム置換度、及び酢化度の測定)
アセチル及びプロピオニルの置換度の測定は、ASTM−D817−96に準じて測定する。酢化度についても、同様に測定を行い計算から算出を行った。
【0097】
置換度(DS):セルロース分子中、すべてのOHの個数がいくつ酢酸と反応して置換されたかをグルコピラノーズ単位で表す。従って、置換度は0から3の値をとる。
【0098】
酢化度:酢化度=(DS×(CH3COOH分子量))/((C6H10O5分子量)+DS×(CH2CO分子量))
(R0、Rt、遅相軸方向、屈折率最小方向の測定)
アッベの屈折率計により試料の平均屈折率を求めた。更に、自動複屈折計KOBRA−21ADH(王子計測機器(株)製)を用いて、23℃、55%RHの環境下で、波長が590nmにおいて、−50°から50°の範囲で複屈折率を測定し、得られた位相差の測定値と平均屈折率から計算により屈折率nx、ny、nzを求めR0及びRtを算出した。また、同時にアンパン型屈折率楕円体の傾き角βを算出した。
【0099】
(フィルムA、B面での温度の測定)
延伸時、フィルムの両面に熱電対を貼り付け搬送することによりフィルムの温度を測定した。
【0100】
(フィルムA、B面でのシリカ、可塑剤含有量の測定)
作製したフィルムについては以下の条件でTOF−Simsにより測定を行った。
【0101】
C2H3O+のピークの質量分解能M/ΔMが4000以上となる様に試料電位、帯電中和を行った。場合によっては装置付属の帯電補正用メッシュを用いた。
【0102】
(視野角特性)
視野角特性の評価にはELDIM社製EZ−contrastを用い黒表示及び白表示時の透過光量を測定した。視野角の評価はコントラスト=(白表示時の透過光量)/(黒表示時の透過光量)を算出し評価を行った。
【0103】
視野角の評価はコントラスト10の視野角を示す角度を指標に評価を行った。
実施例1
(ドープAの調製)
耐圧密閉容器に下記のセルロースエステル溶液組成物を導入し、高温溶解方法でセルロースエステル溶液を調製した。その後溶液を安曇濾紙(株)製の安曇濾紙NO.244を使用して濾過し、ドープAを調製した。
【0104】
但し、Xはアセチル基の置換度、Yはプロピオニル基の置換度である。
【0105】
(光学補償セルロースエステルフィルムBの作製;本発明)
前記ドープAを用いて、ドープ温度35℃、支持体温度35℃に調整して、ダイからステンレス製支持体ベルト上に流延した。支持体上での乾燥風温度は40℃とした。その後支持体温度を20℃として、残留溶媒量80質量%でウェブを支持体から剥離した。次いで、ニップロールを用いて長手方向に延伸倍率1.5倍に延伸を行った。延伸時、フィルム上面は100℃、フィルム下面は30℃となるようにフィルム上、下面の吹き付け温度を調整した。このようにして光学補償セルロースエステルフィルムBを得た。
【0106】
(光学補償偏光板Cの作製)
光学補償セルロースエステルフィルムBをそれぞれ、60℃の2モル/l濃度の水酸化ナトリウム水溶液中で2分間処理、水洗した後、100℃で10分間乾燥しアルカリ鹸化処理偏光板用保護フィルムCを作製した。
【0107】
一方、別に厚さ120μmのポリビニルアルコールフィルムをヨウ素1質量部、ホウ酸4質量部を含む水溶液100質量部に浸漬し、50℃で4倍に延伸して偏光子(偏光膜)を作製した。
【0108】
偏光子の両面に、完全鹸化型ポリビニルアルコール5%水溶液を接着剤として偏光板用保護フィルムを貼り合わせ光学補償偏光板Cを作製した。なお、この時偏光子の透過軸と光学補償セルロースエステルフィルムの遅相軸は平行になるように貼合を行った。
【0109】
(光学補償セルロースエステルフィルムD及び光学補償偏光板Eの作製;比較例)
実施例1において、フィルム延伸時にフィルム上面温度及び下面温度をともに100℃とする以外は同様にして、比較の光学補償セルロースエステルフィルムD、光学補償偏光板Eを作製した。
【0110】
本発明及び比較例で作製した光学補償セルロースエステルフィルムの物性及び光学補償偏光板の視野角特性について以下にまとめて記載する。
【0111】
上記のように、本発明の視野角補償フィルムはフィルムの屈折率楕円体の最小方向がフィルム法線方向から20度傾いており、これを用いた視野角補償偏光板は十分な視野角特性を得ることが出来た。また、得られたフィルムB、Dについて配向角の測定を行ったところ、両方のフィルム共にフィルム面内での遅相軸の方向はフィルム長手方向に平行であった。
【0112】
実施例2
実施例1と同様に、下表に記載の構成のドープB〜Fを調製した。下表の数字は、酢綿の数平均分子量、酢綿100質量部に対するTPP、EPEG、塩化メチレン、エタノール、アエロジルR972V(日本アエロジル(株)製)の質量比を表す。
【0113】
実施例1と同様の手法でドープBからFを用い、この積層順で共流延により光学補償セルロースエステルフィルムFを得た。また、ニップロールによる長手延伸時にドープF側フィルム表面温度を110℃に、ドープB側フィルム表面温度を40℃に調整を行った。
【0114】
得られた光学補償セルロースエステルフィルムFを実施例1と同様の手法で処理し、光学補償偏光板Gを得た。以下に本発明の視野角補償フィルム及び視野角補償偏光板の性能を示す。
【0115】
また、光学補償セルロースエステルフィルムFの断面についてTOF−Simsを用いてSi、TPP、EPEGについて分布を分析したところ、共流延したドープの組成とほぼ同様な分布を持っていたことが解った。
【0116】
上記のように、本発明の視野角補償フィルムはフィルムの屈折率楕円体の最小方向がフィルム法線方向から21度傾いており、これを用いた視野角補償偏光板は十分な視野角特性を得ることが出来た。また、得られたフィルムの配向角の測定を行ったところ、面内での遅相軸の方向はフィルム長手方向と平行であった。
【0117】
実施例3
実施例1と同様にドープAを調製した。前記ドープAを用いて実施例1と同様にドープを支持体上に流延、剥離した。剥離後、ベルト面に接触していた面には塩化メチレン蒸気を吹き付け、もう一方の面は塩化メチレン蒸気を含まない乾燥空気を吹き付け、フィルム厚み方向で塩化メチレンの濃度勾配をつけるように搬送を行った。このウェブをニップロールによりフィルム長手方向に延伸倍率1.42倍に延伸を行った。延伸時、フィルムの塩化メチレン濃度が低い面側は35℃、他方の塩化メチレン濃度が高い面側は150℃となるようにフィルム面の温度を調整した。このようにして、光学補償セルロースエステルフィルムHを得た。
【0118】
実施例1と同様にして、光学補償セルロースエステルフィルムHを用いて光学補償偏光板Iを作製した。
【0119】
以下に、本発明の視野角補償フィルム及び視野角補償偏光板の物性及び評価結果を示す。
【0120】
上記のように、本発明の視野角補償フィルムはフィルムの屈折率楕円体の最小及び最大方向がフィルム法線方向と平行でなく、これを用いた視野角補償偏光板は十分な視野角特性を得ることが出来た。また、フィルムHについて配向角を測定したところ、面内での屈折率最大方向はフィルム長手方向に平行であった。
【0121】
(比較例)
実施例3において、剥離したフィルムの両面で異なる条件で乾燥を行った点を、同じ条件で乾燥するという点に変更し、更にテンターによる延伸時の温度を両面とも150℃に変更し光学補償セルロースエステルフィルムJを得た。更に、実施例3と同様に光学補償セルロースエステルフィルムJを用いて光学補償偏光板Kを作製した。
【0122】
以下に、比較の視野角補償フィルム及び視野角補償偏光板の物性及び評価結果を示す。
【0123】
上記のように、比較の視野角補償フィルムはフィルムの屈折率楕円体の最小及び最大方向がフィルム法線方向と平行であり、これを用いた視野角補償偏光板は十分な視野角特性を得ることが出来なかった。
【0124】
【発明の効果】
本発明により、優れた光学特性を有し、かつ生産性に優れた視野角補償機能を有する光学補償フィルムの製造方法、優れた視野角補償特性を持つ光学補償フィルム、該フィルムを用いた視野角補償一体型偏光板、及び該視野角補償一体型偏光板を有する液晶表示装置を提供することが出来た。
【図面の簡単な説明】
【図1】従来の方法で延伸した場合のフィルムにかかる応力を示す概念図。
【図2】本発明の方法で延伸した場合のフィルムにかかる応力を示す概念図。
【図3】従来の方法で延伸した場合の屈折率楕円体の変化を模式的に表す図。
【図4】本発明の方法で延伸した場合の屈折率楕円体の変化を表す図。
【図5】共流延ダイ及び流延して多層構造ウェブを形成したところを表した図。
【図6】逐次流延ダイ及び流延された多層構造のウェブを表した図。
【図7】別のタイプの共流延ダイの断面を示した図。
【符号の説明】
10 共流延ダイ
11 口金部分
13、14 表層用スリット
15 基層用スリット
16 金属支持体
17、19、55、57 表層用ドープ
18、56 基層用ドープ
30、32 表層用流延ダイ
31 基層用ダイ
Claims (14)
- 高分子フィルムの屈折率楕円体における屈折率の最小及び最大方向がフィルムの法線方向と平行でなく、かつ、該屈折率の最小及び最大方向が長手及びフィルムに対する法線方向に含まれる面内にある光学補償フィルムの製造方法であって、該高分子フィルムを延伸する際、高分子フィルムの一方の面からその対面にかけて厚み方向で応力が増加をする条件で、長手方向に延伸することを特徴とする光学補償フィルムの製造方法。
- 高分子フィルムの一方の面をA面、他方の面をB面とした時、A面の温度>B面の温度となるようにフィルム厚み方向において温度分布を持たせた状態で、長手方向に延伸することを特徴とする請求項1に記載の光学補償フィルムの製造方法。
- 高分子フィルムの一方の面をA面、他方の面をB面とした時、A面における残留溶媒量>B面における残留溶媒量となるようにフィルム厚み方向において残留溶媒量分布を持たせた状態で長手方向に延伸することを特徴とする請求項1または2に記載の光学補償フィルムの製造方法。
- 高分子フィルムの一方の面をA面、他方の面をB面とした時、A面における高分子フィルムの分子量<B面における高分子フィルムの分子量となるようにフィルム厚み方向において分子量分布を持たせた状態で、長手方向に延伸することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の光学補償フィルムの製造方法。
- 高分子フィルムの一方の面をA面、他方の面をB面とした時、A面におけるシリカ含有量<B面におけるシリカ含有量となるようにフィルム厚み方向においてシリカ含有量の分布を持たせた状態で、長手方向に延伸することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の光学補償フィルムの製造方法。
- 高分子フィルムの一方の面をA面、他方の面をB面とした時、A面における可塑剤含有量>B面における可塑剤含有量となるようにフィルム厚み方向において可塑剤含有量分布を持たせた状態で、長手方向に延伸することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の光学補償フィルムの製造方法。
- 共流延によりA面、B面における厚み方向の分布を持たせることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の光学補償フィルムの製造方法。
- 高分子フィルムがセルロースエステルであることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の光学補償フィルムの製造方法。
- 請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法で製造されたことを特徴とする光学補償フィルム。
- 下記式(I)で定義されるR0が20〜70nmの範囲であり、下記式(II)で定義されるRtが70〜400nmの範囲であることを特徴とする請求項9に記載の光学補償フィルム。
式(I)R0=(nx−ny)×d
式(II)Rt={(nx+ny)/2−nz}×d
(式中、nxはフィルム面内の遅相軸方向の屈折率であり、nyはフィルム面内での進相軸方向の屈折率であり、nzはフィルム厚み方向の屈折率であり、dはフィルムの厚みを表す。) - 高分子フィルムが下記式(III)及び(IV)を同時に満たすセルロースエステルフィルムであることを特徴とする請求項10に記載の光学補償フィルム。
式(III)2.3≦X+Y≦2.85
式(IV)1.4≦X≦2.85
(但し、Xはアセチル基の置換度、Yはプロピオニル基またはブチリル基の置換度である。) - 請求項9〜11のいずれか1項に記載の光学補償フィルムを用いることを特徴とする光学補償偏光板。
- 偏光子の透過軸と光学補償フィルムの屈折率楕円体における屈折率最大の方向が平行もしくは直交するように貼合されていることを特徴とする請求項12に記載の光学補償偏光板。
- 請求項12または13に記載の光学補償偏光板を用いることを特徴とする液晶表示装置。
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