JP2005013199A - siRNAを用いたヒトbcl−2蛋白質の発現の強い抑制。 - Google Patents
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Abstract
【課題】ヒトbcl−2蛋白質の生合成を特異的に強く抑制する物質を提供する。
【解決手段】ヒトbcl−2蛋白質のメッセンジャーRNAの特定の塩基配列に対応するsmall interfering RNA(siRNA)配列を用いる。
【効果】本発明のsiRNAによってヒトbcl−2蛋白質の発現を強く抑制することが出来る。
【選択図】 なし
【解決手段】ヒトbcl−2蛋白質のメッセンジャーRNAの特定の塩基配列に対応するsmall interfering RNA(siRNA)配列を用いる。
【効果】本発明のsiRNAによってヒトbcl−2蛋白質の発現を強く抑制することが出来る。
【選択図】 なし
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、ヒトbcl−2蛋白質の発現を抑制するsiRNA配列に関する。
【0002】
【従来の技術】
bcl−2遺伝子はヒト濾胞性B細胞リンパ腫に付随するt(14;18)(q32;q21)転座点の解析から、辻本らによって単離された癌遺伝子である(Tsujimoto,Y.and Croce,C.M.:Proc.Natl.Acad.Sci.USA,83:5214−5218,1986)。その後、Korsmeyerのグループによって、bcl−2蛋白質の過剰発現がリンパ球系細胞に誘導されるアポトーシスを抑制することが示され(Hockenbery,D.et al.:Nature,348:334−336,1990)、bcl−2はアポトーシスのメカニズム研究の中心的存在となり、現在に至っている。現在までにbcl−2遺伝子の類似関連遺伝子として、bcl−x,bcl−w,mcl−1,bfl−1/A1,bax,bad,bikなどが同定・報告され、bcl−2ファミリーと呼ばれている。bcl−2蛋白質はC末端付近に膜貫通領域を有し、ミトコンドリア外膜、小胞体膜および核外膜などの核分画に局在する。bcl−2はアポトーシス誘導刺激によるミトコンドリアの膜電位低下とそれに伴うapoptosis−inducing factor(AIF)やシトクロムcの細胞質への流出を阻害することにより、抗アポトーシス作用を示す(Reed,J.C.:Nature,387,773−776,1997)。
細胞の癌化は増殖異常だけでなく、アポトーシス異常が関与する。多くの固形癌由来の癌細胞は抗癌剤によるアポトーシスに抵抗性を示し、こうしたアポトーシス耐性が化学療法に対する抵抗性に関連することも明らかとなってきた。bcl−2は抗癌剤によるアポトーシス作用に大きく影響している。実際に、アポトーシス抑制因子であるbcl−2遺伝子を癌細胞に導入すると、種々の抗癌剤に対するアポトーシス耐性が引き起こされる。臨床癌においても、bcl−2蛋白質の関与が指摘されている。非ホジキンリンパ腫ではbcl−2蛋白質の発現が高い場合には、予後が悪いことが示されている(Rassidakis,G.Z.et al.:Blood,100,3935−3941,2002)。以上のように、bcl−2は癌治療の戦略上、とても魅力的な標的遺伝子であるといえる。したがってbcl−2蛋白質の発現を抑える方法を考案することが癌の治療の確立に大きく寄与すると考えられる。
【0003】
bcl−2蛋白質はミトコンドリア外膜、小胞体膜および核外膜などに局在するので、抗体等で、その作用を阻害するなどの戦略が成立しないため、bcl−2蛋白質の生合成そのものを抑制することが必須となる。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、ヒトbcl−2蛋白質の生合成を特異的に強く抑制する物質を提供することを課題とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】
特定の蛋白質の生合成を阻害するためには、その蛋白質の生合成を指令するメッセンジャーRNA(mRNA)を標的とすることが考えられる。すなわち、標的遺伝子のmRNAの働きを抑制し、かつそのmRNA自体を分解に導く戦略、つまりRNA interferenceを基本原理とする遺伝子発現制御システムを選択した。RNA interferenceの現象は、1998年、Fireらによって報告された、C.elegansに2本鎖RNAを導入し、in vivoで特定遺伝子のノックダウンに成功したという発表(Fire,A.et al.:Nature:391,806−811,1998)により広く知られるようになった。使用された2本鎖RNAのターゲット遺伝子に対する特異性は、非常に高くターゲット配列に相補しない2本鎖RNAでは一切の発現制御効果を示さなかった。次いで、この実験系を哺乳動物に応用する試みがなされたが、2本鎖RNAの導入に伴う、インターフェロン作用が働くため、哺乳動物細胞の遺伝子をターゲットとした2本鎖RNAは使用できない事が大きな問題となった。その後、Tuschlの研究グループがもっとも効率よく遺伝子をノックダウンする2本鎖RNAの研究をすすめ、3’末端に2塩基のオーバーハングを持った21−merという短い2本鎖を用いると、哺乳類細胞で問題となっていたインターフェロン作用を引き起こさずにRNAiを機能させることができると報告した。このような短い2本鎖RNAをsmall interfering RNA(siRNA)と呼ぶ(Elbashir,S.M.et al.:Nature,411:494−498,2001,Bass,B.L.etal:Nature,411,428−429,2001)。申請者らは、ヒトbcl−2 mRNAに作用し、ヒトbcl−2蛋白質の生合成を阻害可能なsiRNAの塩基配列を見出した。
【0006】
すなわち、本発明は、(1)ヒトbcl−2蛋白質の生合成を強く抑制するsiRNA配列の決定からなる。
【0007】
【発明の実施の形態】
以下添付の図面に従ってこの発明を詳細に説明する。図1は検討した5種のbcl−2 siRNAと陰性コントロールとして使用した2種のsiRNAの構造を示す。図2は5種のbcl−2 siRNAをヒト腎癌細胞(ACHN)に投与し、細胞可溶化液中のbcl−2蛋白質発現の抑制を調べるウエスタンブロットとバンドの濃さを定量化したデンシトメーター解析のグラフ、図3は、bcl−2蛋白質の生合成阻害に最も有効であることが判明したbcl−2 siRNA #3とそのスクランブル配列bcl−2 siRNA #3−SCR等をACHN細胞に投与し、回収した細胞の可溶化液中のbcl−2蛋白質発現の抑制を図2と同様に検討した結果を示す。
【0008】
1.siRNAの分子設計について説明する。ヒトbcl−2のmRNA(Tsujimoto,Y.and Croce,C.M.:Proc.Natl.Acad.Sci.USA,83:5214−5218,1986)は既に報告されている。その翻訳領域の中で工夫をこらして選択を行った。まず、AAおよびCAから始まるターゲット配列よりGC含有量が45〜55%の21塩基の候補配列42種を選択し、「GCの偏り」が比較的少ない配列8種に候補を絞った。続いて、この8種について、BLASTサーチによる類似配列の検索を行い、類似配列の少ないターゲットを選択し、かつその近傍二次構造解析結果を参考に、比較的立体障害の影響の少ないと想定できる5種を最終的に選択した。なお、この配列から出発して、ターゲット配列との相補性に影響の少ない置換、付加を行った配列は請求に含まれる。また、siRNAの3’末端に付加するオーバーハングの選択において、dTdT以外の2塩基についても請求に含まれる。
【0009】
2.siRNAによるbcl−2蛋白質の生合成抑制の効果判定について説明する。siRNAをbcl−2蛋白質を発現している細胞に投与し、所定時間後、細胞を回収、これを可溶化し、可溶化液中に含まれるbcl−2蛋白質を免疫生化学的に定量する。すなわち、SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動後のウェスタンブロッティングそしてデンシトメーターによる定量が考えられる。抗bcl−2抗体は、市販品を使用する。
【0010】
【実施例】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0011】
(実施例1)siRNAの作成を行った。ヒトbcl−2のmRNA(GenBank Accession No.NM_000633:Tsujimoto,Y.and Croce,C.M.:Proc.Natl.Acad.Sci.USA,83:5214−5218,1986)の翻訳領域および3’末端非翻訳領域から前述の配列選定法に基づいて設計したsiRNA5種をDharmacon社に依託し合成した。合成したsiRNA duplexは図1に示す如くであり、各siRNAのmRNAの標的部位は下記の如くである。
bcl−2 siRNA #1(mRNA標的部位:塩基配列654番目から672番目;GACUCUGCUCAGUUUGGCC;GC含有量52%)、
bcl−2 siRNA #2(mRNA標的部位:塩基配列515番目から533番目;ACAUCGCCCUGUGGAUGAC;GC含有量52%)、
bcl−2 siRNA #3(mRNA標的部位:塩基配列614番目から632番目;GCAUGCGGCCUCUGUUUGA;GC含有量52%)、
bcl−2 siRNA #4(mRNA標的部位:塩基配列1443番目から1461番目;GCUACCAAUUGUGCCGAGA;GC含有量47%)bcl−2 siRNA #5(mRNA標的部位:塩基配列4081番目から4099番目;AGACGCCAACAUUCUCUCC;GC含有量47%)
【0012】
配列番号1 5’−(AA)GACUCUGCUCAGUUUGGCC−3’
配列番号2 5’−(CA)ACAUCGCCCUGUGGAUGAC−3’
配列番号3 5’−(CA)GCAUGCGGCCUCUGUUUGA−3’
配列番号4 5’−(AA)GCUACCAAUUGUGCCGAGA−3’
配列番号5 5’−(CA)AGACGCCAACAUUCUCUCC−3’
【0013】
(実施例2)siRNAによるbcl−2蛋白質生合成の抑制を検討した。bcl−2蛋白質を発現しているヒト腎癌細胞(ACHN,American Type Culture Collection;ATCC Number CRL−1611)を35mmディッシュ(FALCON,3001)に3×105個/ディッシュ[ウシ胎仔血清(FBS)10%/MEM培地(MEM)]の細胞密度で正確にまき、37℃、5%CO2存在下で1晩前培養した。あらかじめ、20μMに濃度調整したbcl−2 siRNA #1,#2,#3,#4,#5の各々をそれぞれ5μlとり、Opti−MEM 105μlと混合し、プラス試薬(インビトロジェン社)10μlを加え、よく混合し、室温で15分反応させた。さらに、リポフェクトアミン試薬(インビトロジェン社)4μlを加え、室温で15分反応させ、siRNA・リポソーム処理液の調製を完了した。なお、上記調製量は35mmディッシュで1枚に投与可能な量である。続いてACHN細胞に新鮮なMEM 0.8mlを満たし、前述のsiRNA・リポソーム処理液を0.2mlを加えた後、37℃、4時間トランスフェクションを行った。このとき、siRNAの投与濃度は100nMとなる。10%FBS/MEM 1mlを加え、6時間培養した。細胞をMEMで洗浄し、新鮮なMEM 2mlを加え、さらに48時間培養を続けた後、細胞を可溶化した。調製した各細胞可溶化液をSDSゲル電気泳動(SDS−PAGE)(12%ゲル,30μg protein/lane)した後、抗bcl−2抗体を用いたウエスタンブロットを行った。その結果を図2Aに示す。
レーン3および4に示す如く、bcl−2 siRNA #3およびbcl−2siRNA #4を投与することにより、bcl−2蛋白質に特異的なバンドの減弱を認めた。各バンドの濃度をデンシトメータで測定したところ、無処理細胞のバンドを100%とすると、bcl−2 siRNA #1では35%、bcl−2 siRNA #2では52%、bcl−2 siRNA #3とbcl−2 siRNA #4ではともに3%、bcl−2 siRNA #5では39%のバンドの濃さであることが明らかとなった(図2B)。抗β−actin抗体によるβ−actinのイムノブロットも合わせて行い、各細胞可溶化液中のβ−actin含量に差がないことを示した(図2A)。
【0014】
(実施例3)bcl−2 siRNAによるbcl−2蛋白質の生合成抑制の特異性を検討した。すなわち、実施例2において、強力なbcl−2蛋白質の生合成抑制を認めたbcl−2 siRNA #3のアンチセンス鎖をスクランブルにし、それに相補的な2本鎖RNA(bcl−2 siRNA #3−SCR)を新たに合成し、陰性コントロールとして用いた。また、葉緑体ゲノム配列から選択したsiRNAも新たに合成し、哺乳類細胞に対する陰性コントロールとして用いた。なお、bcl−2 siRNA #4もbcl−2 siRNA #3とほぼ同等のbcl−2蛋白質の生合成抑制を示したが、標的配列を3’末端非翻訳領域内から選出しているため、検討から除外した。すなわち、標的配列が翻訳領域内であるbcl−2 siRNA #3を最終選択した。
bcl−2蛋白質を発現しているヒト腎癌細胞(ACHN)を実施例2で示した如く、35mmディッシュ(FALCON,3001)にまき、37℃、5% CO2存在下で1晩前培養した。あらかじめ、20μMに濃度調整したbcl−2 siRNA #3等をそれぞれ5μlとり、Opti−MEM 105μlと混合し、プラス試薬(インビトロジェン社)10μlを加え、よく混合し、室温で15分反応させた。さらに、リポフェクトアミン試薬(インビトロジェン社)4μlを加え、室温で15分反応させ、siRNA・リポソーム処理液の調製を完了した。なお、上記調製量は35mmディッシュで1枚に投与可能な量である。続いてACHN細胞に新鮮なMEM 0.8mlを満たし、前述のsiRNA・リポソーム処理液を0.2mlを加えた後、37℃、4時間トランスフェクションを行った。このとき、siRNAの投与濃度は100nMとなる。10% FBS/MEM 1mlを加え、6時間培養した。細胞をMEMで洗浄し、新鮮なMEM 2mlを加え、さらに48時間培養を続けた後、細胞を可溶化した。調製した各細胞可溶化液をSDSゲル電気泳動(SDS−PAGE)(12%ゲル,30μg protein/lane)した後、抗bcl−2抗体を用いたウエスタンブロットを行った。その結果を図3に示す。レーン1のbcl−2 siRNA #3においてのみ、bcl−2蛋白質の特異バンドが減弱した。レーン2のbcl−2 siRNA #3−SCRやレーン3の葉緑体ゲノムに対するsiRNAを投与しても、bcl−2蛋白質の発現は無処理(レーン4)と比較してほとんど抑制されなかった。抗β−actin抗体によるβ−actinのイムノブロットも合わせて行い、各細胞可溶化液中のβ−actin含量に差がないことを示した(図3)。
【0015】
【発明の効果】
以上図示し説明したように本発明のsiRNAによってヒトbcl−2蛋白質の発現を強く抑制することが出来る。
【0016】
【配列表】
【0017】
【0018】
【0019】
【0020】
【0021】
【0022】
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明における、5種のbcl−2 siRNA duplexと2種のコントロールsiRNA duplexの構造である。
【図2】この発明の一実施例に関わる、siRNAなどを投与したACHN細胞のヒトbcl−2蛋白質の産生抑制を示し、Aはウエスタンブロットの図であり、BはAで検出したbcl−2に特異的なバンドの濃さをデンシトメータ解析によって数値化したグラフである。
【図3】この発明の一実施例に関わるsiRNAなどを投与したACHN細胞のヒトbcl−2蛋白質の産生抑制を示す。bcl−2 siRNA #3によるbcl−2蛋白質の産生抑制がその塩基配列に特異的であることを示す。
【発明の属する技術分野】
本発明は、ヒトbcl−2蛋白質の発現を抑制するsiRNA配列に関する。
【0002】
【従来の技術】
bcl−2遺伝子はヒト濾胞性B細胞リンパ腫に付随するt(14;18)(q32;q21)転座点の解析から、辻本らによって単離された癌遺伝子である(Tsujimoto,Y.and Croce,C.M.:Proc.Natl.Acad.Sci.USA,83:5214−5218,1986)。その後、Korsmeyerのグループによって、bcl−2蛋白質の過剰発現がリンパ球系細胞に誘導されるアポトーシスを抑制することが示され(Hockenbery,D.et al.:Nature,348:334−336,1990)、bcl−2はアポトーシスのメカニズム研究の中心的存在となり、現在に至っている。現在までにbcl−2遺伝子の類似関連遺伝子として、bcl−x,bcl−w,mcl−1,bfl−1/A1,bax,bad,bikなどが同定・報告され、bcl−2ファミリーと呼ばれている。bcl−2蛋白質はC末端付近に膜貫通領域を有し、ミトコンドリア外膜、小胞体膜および核外膜などの核分画に局在する。bcl−2はアポトーシス誘導刺激によるミトコンドリアの膜電位低下とそれに伴うapoptosis−inducing factor(AIF)やシトクロムcの細胞質への流出を阻害することにより、抗アポトーシス作用を示す(Reed,J.C.:Nature,387,773−776,1997)。
細胞の癌化は増殖異常だけでなく、アポトーシス異常が関与する。多くの固形癌由来の癌細胞は抗癌剤によるアポトーシスに抵抗性を示し、こうしたアポトーシス耐性が化学療法に対する抵抗性に関連することも明らかとなってきた。bcl−2は抗癌剤によるアポトーシス作用に大きく影響している。実際に、アポトーシス抑制因子であるbcl−2遺伝子を癌細胞に導入すると、種々の抗癌剤に対するアポトーシス耐性が引き起こされる。臨床癌においても、bcl−2蛋白質の関与が指摘されている。非ホジキンリンパ腫ではbcl−2蛋白質の発現が高い場合には、予後が悪いことが示されている(Rassidakis,G.Z.et al.:Blood,100,3935−3941,2002)。以上のように、bcl−2は癌治療の戦略上、とても魅力的な標的遺伝子であるといえる。したがってbcl−2蛋白質の発現を抑える方法を考案することが癌の治療の確立に大きく寄与すると考えられる。
【0003】
bcl−2蛋白質はミトコンドリア外膜、小胞体膜および核外膜などに局在するので、抗体等で、その作用を阻害するなどの戦略が成立しないため、bcl−2蛋白質の生合成そのものを抑制することが必須となる。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、ヒトbcl−2蛋白質の生合成を特異的に強く抑制する物質を提供することを課題とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】
特定の蛋白質の生合成を阻害するためには、その蛋白質の生合成を指令するメッセンジャーRNA(mRNA)を標的とすることが考えられる。すなわち、標的遺伝子のmRNAの働きを抑制し、かつそのmRNA自体を分解に導く戦略、つまりRNA interferenceを基本原理とする遺伝子発現制御システムを選択した。RNA interferenceの現象は、1998年、Fireらによって報告された、C.elegansに2本鎖RNAを導入し、in vivoで特定遺伝子のノックダウンに成功したという発表(Fire,A.et al.:Nature:391,806−811,1998)により広く知られるようになった。使用された2本鎖RNAのターゲット遺伝子に対する特異性は、非常に高くターゲット配列に相補しない2本鎖RNAでは一切の発現制御効果を示さなかった。次いで、この実験系を哺乳動物に応用する試みがなされたが、2本鎖RNAの導入に伴う、インターフェロン作用が働くため、哺乳動物細胞の遺伝子をターゲットとした2本鎖RNAは使用できない事が大きな問題となった。その後、Tuschlの研究グループがもっとも効率よく遺伝子をノックダウンする2本鎖RNAの研究をすすめ、3’末端に2塩基のオーバーハングを持った21−merという短い2本鎖を用いると、哺乳類細胞で問題となっていたインターフェロン作用を引き起こさずにRNAiを機能させることができると報告した。このような短い2本鎖RNAをsmall interfering RNA(siRNA)と呼ぶ(Elbashir,S.M.et al.:Nature,411:494−498,2001,Bass,B.L.etal:Nature,411,428−429,2001)。申請者らは、ヒトbcl−2 mRNAに作用し、ヒトbcl−2蛋白質の生合成を阻害可能なsiRNAの塩基配列を見出した。
【0006】
すなわち、本発明は、(1)ヒトbcl−2蛋白質の生合成を強く抑制するsiRNA配列の決定からなる。
【0007】
【発明の実施の形態】
以下添付の図面に従ってこの発明を詳細に説明する。図1は検討した5種のbcl−2 siRNAと陰性コントロールとして使用した2種のsiRNAの構造を示す。図2は5種のbcl−2 siRNAをヒト腎癌細胞(ACHN)に投与し、細胞可溶化液中のbcl−2蛋白質発現の抑制を調べるウエスタンブロットとバンドの濃さを定量化したデンシトメーター解析のグラフ、図3は、bcl−2蛋白質の生合成阻害に最も有効であることが判明したbcl−2 siRNA #3とそのスクランブル配列bcl−2 siRNA #3−SCR等をACHN細胞に投与し、回収した細胞の可溶化液中のbcl−2蛋白質発現の抑制を図2と同様に検討した結果を示す。
【0008】
1.siRNAの分子設計について説明する。ヒトbcl−2のmRNA(Tsujimoto,Y.and Croce,C.M.:Proc.Natl.Acad.Sci.USA,83:5214−5218,1986)は既に報告されている。その翻訳領域の中で工夫をこらして選択を行った。まず、AAおよびCAから始まるターゲット配列よりGC含有量が45〜55%の21塩基の候補配列42種を選択し、「GCの偏り」が比較的少ない配列8種に候補を絞った。続いて、この8種について、BLASTサーチによる類似配列の検索を行い、類似配列の少ないターゲットを選択し、かつその近傍二次構造解析結果を参考に、比較的立体障害の影響の少ないと想定できる5種を最終的に選択した。なお、この配列から出発して、ターゲット配列との相補性に影響の少ない置換、付加を行った配列は請求に含まれる。また、siRNAの3’末端に付加するオーバーハングの選択において、dTdT以外の2塩基についても請求に含まれる。
【0009】
2.siRNAによるbcl−2蛋白質の生合成抑制の効果判定について説明する。siRNAをbcl−2蛋白質を発現している細胞に投与し、所定時間後、細胞を回収、これを可溶化し、可溶化液中に含まれるbcl−2蛋白質を免疫生化学的に定量する。すなわち、SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動後のウェスタンブロッティングそしてデンシトメーターによる定量が考えられる。抗bcl−2抗体は、市販品を使用する。
【0010】
【実施例】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0011】
(実施例1)siRNAの作成を行った。ヒトbcl−2のmRNA(GenBank Accession No.NM_000633:Tsujimoto,Y.and Croce,C.M.:Proc.Natl.Acad.Sci.USA,83:5214−5218,1986)の翻訳領域および3’末端非翻訳領域から前述の配列選定法に基づいて設計したsiRNA5種をDharmacon社に依託し合成した。合成したsiRNA duplexは図1に示す如くであり、各siRNAのmRNAの標的部位は下記の如くである。
bcl−2 siRNA #1(mRNA標的部位:塩基配列654番目から672番目;GACUCUGCUCAGUUUGGCC;GC含有量52%)、
bcl−2 siRNA #2(mRNA標的部位:塩基配列515番目から533番目;ACAUCGCCCUGUGGAUGAC;GC含有量52%)、
bcl−2 siRNA #3(mRNA標的部位:塩基配列614番目から632番目;GCAUGCGGCCUCUGUUUGA;GC含有量52%)、
bcl−2 siRNA #4(mRNA標的部位:塩基配列1443番目から1461番目;GCUACCAAUUGUGCCGAGA;GC含有量47%)bcl−2 siRNA #5(mRNA標的部位:塩基配列4081番目から4099番目;AGACGCCAACAUUCUCUCC;GC含有量47%)
【0012】
配列番号1 5’−(AA)GACUCUGCUCAGUUUGGCC−3’
配列番号2 5’−(CA)ACAUCGCCCUGUGGAUGAC−3’
配列番号3 5’−(CA)GCAUGCGGCCUCUGUUUGA−3’
配列番号4 5’−(AA)GCUACCAAUUGUGCCGAGA−3’
配列番号5 5’−(CA)AGACGCCAACAUUCUCUCC−3’
【0013】
(実施例2)siRNAによるbcl−2蛋白質生合成の抑制を検討した。bcl−2蛋白質を発現しているヒト腎癌細胞(ACHN,American Type Culture Collection;ATCC Number CRL−1611)を35mmディッシュ(FALCON,3001)に3×105個/ディッシュ[ウシ胎仔血清(FBS)10%/MEM培地(MEM)]の細胞密度で正確にまき、37℃、5%CO2存在下で1晩前培養した。あらかじめ、20μMに濃度調整したbcl−2 siRNA #1,#2,#3,#4,#5の各々をそれぞれ5μlとり、Opti−MEM 105μlと混合し、プラス試薬(インビトロジェン社)10μlを加え、よく混合し、室温で15分反応させた。さらに、リポフェクトアミン試薬(インビトロジェン社)4μlを加え、室温で15分反応させ、siRNA・リポソーム処理液の調製を完了した。なお、上記調製量は35mmディッシュで1枚に投与可能な量である。続いてACHN細胞に新鮮なMEM 0.8mlを満たし、前述のsiRNA・リポソーム処理液を0.2mlを加えた後、37℃、4時間トランスフェクションを行った。このとき、siRNAの投与濃度は100nMとなる。10%FBS/MEM 1mlを加え、6時間培養した。細胞をMEMで洗浄し、新鮮なMEM 2mlを加え、さらに48時間培養を続けた後、細胞を可溶化した。調製した各細胞可溶化液をSDSゲル電気泳動(SDS−PAGE)(12%ゲル,30μg protein/lane)した後、抗bcl−2抗体を用いたウエスタンブロットを行った。その結果を図2Aに示す。
レーン3および4に示す如く、bcl−2 siRNA #3およびbcl−2siRNA #4を投与することにより、bcl−2蛋白質に特異的なバンドの減弱を認めた。各バンドの濃度をデンシトメータで測定したところ、無処理細胞のバンドを100%とすると、bcl−2 siRNA #1では35%、bcl−2 siRNA #2では52%、bcl−2 siRNA #3とbcl−2 siRNA #4ではともに3%、bcl−2 siRNA #5では39%のバンドの濃さであることが明らかとなった(図2B)。抗β−actin抗体によるβ−actinのイムノブロットも合わせて行い、各細胞可溶化液中のβ−actin含量に差がないことを示した(図2A)。
【0014】
(実施例3)bcl−2 siRNAによるbcl−2蛋白質の生合成抑制の特異性を検討した。すなわち、実施例2において、強力なbcl−2蛋白質の生合成抑制を認めたbcl−2 siRNA #3のアンチセンス鎖をスクランブルにし、それに相補的な2本鎖RNA(bcl−2 siRNA #3−SCR)を新たに合成し、陰性コントロールとして用いた。また、葉緑体ゲノム配列から選択したsiRNAも新たに合成し、哺乳類細胞に対する陰性コントロールとして用いた。なお、bcl−2 siRNA #4もbcl−2 siRNA #3とほぼ同等のbcl−2蛋白質の生合成抑制を示したが、標的配列を3’末端非翻訳領域内から選出しているため、検討から除外した。すなわち、標的配列が翻訳領域内であるbcl−2 siRNA #3を最終選択した。
bcl−2蛋白質を発現しているヒト腎癌細胞(ACHN)を実施例2で示した如く、35mmディッシュ(FALCON,3001)にまき、37℃、5% CO2存在下で1晩前培養した。あらかじめ、20μMに濃度調整したbcl−2 siRNA #3等をそれぞれ5μlとり、Opti−MEM 105μlと混合し、プラス試薬(インビトロジェン社)10μlを加え、よく混合し、室温で15分反応させた。さらに、リポフェクトアミン試薬(インビトロジェン社)4μlを加え、室温で15分反応させ、siRNA・リポソーム処理液の調製を完了した。なお、上記調製量は35mmディッシュで1枚に投与可能な量である。続いてACHN細胞に新鮮なMEM 0.8mlを満たし、前述のsiRNA・リポソーム処理液を0.2mlを加えた後、37℃、4時間トランスフェクションを行った。このとき、siRNAの投与濃度は100nMとなる。10% FBS/MEM 1mlを加え、6時間培養した。細胞をMEMで洗浄し、新鮮なMEM 2mlを加え、さらに48時間培養を続けた後、細胞を可溶化した。調製した各細胞可溶化液をSDSゲル電気泳動(SDS−PAGE)(12%ゲル,30μg protein/lane)した後、抗bcl−2抗体を用いたウエスタンブロットを行った。その結果を図3に示す。レーン1のbcl−2 siRNA #3においてのみ、bcl−2蛋白質の特異バンドが減弱した。レーン2のbcl−2 siRNA #3−SCRやレーン3の葉緑体ゲノムに対するsiRNAを投与しても、bcl−2蛋白質の発現は無処理(レーン4)と比較してほとんど抑制されなかった。抗β−actin抗体によるβ−actinのイムノブロットも合わせて行い、各細胞可溶化液中のβ−actin含量に差がないことを示した(図3)。
【0015】
【発明の効果】
以上図示し説明したように本発明のsiRNAによってヒトbcl−2蛋白質の発現を強く抑制することが出来る。
【0016】
【配列表】
【0017】
【0018】
【0019】
【0020】
【0021】
【0022】
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明における、5種のbcl−2 siRNA duplexと2種のコントロールsiRNA duplexの構造である。
【図2】この発明の一実施例に関わる、siRNAなどを投与したACHN細胞のヒトbcl−2蛋白質の産生抑制を示し、Aはウエスタンブロットの図であり、BはAで検出したbcl−2に特異的なバンドの濃さをデンシトメータ解析によって数値化したグラフである。
【図3】この発明の一実施例に関わるsiRNAなどを投与したACHN細胞のヒトbcl−2蛋白質の産生抑制を示す。bcl−2 siRNA #3によるbcl−2蛋白質の産生抑制がその塩基配列に特異的であることを示す。
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- ヒトbcl−2蛋白質の発現を抑えるsiRNA配列。
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