JP2005008537A - 歯科用前処理材組成物 - Google Patents
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Abstract
【課題】フッ素の取り込みや歯垢付着のために、脱灰のされやすさが大きく異なり、よって、適切な前処理時間も異なるため、一定の処理時間を定めただけでは脱灰不足や過剰な脱灰の起きやすい未研削エナメル質に対する接着前処理に際し、歯科医療の臨床現場で、簡潔に、適切な前処理時間を把握できるようにする。
【解決手段】下記式
【化1】
(式中、Qn+は、K+、Na+等のn価のカチオンであり、nは1〜3の整数である。)
で示される色素を含む、30〜50質量%のリン酸水溶液を歯科用前処理材として用いる。上記色素を含む前処理材は、初め黄緑色〜緑色であるが、歯の脱灰が進むにつれ色調が変化し、必要なレベルの脱灰が進むとほぼ同じタイミングで水色になる。よって、このような色調になった時点で即座に水洗を行えば、過剰な脱灰を防止でき、それによって前処理された部分の齲蝕の危険性を低下させることができる。
【選択図】 なし
【解決手段】下記式
【化1】
(式中、Qn+は、K+、Na+等のn価のカチオンであり、nは1〜3の整数である。)
で示される色素を含む、30〜50質量%のリン酸水溶液を歯科用前処理材として用いる。上記色素を含む前処理材は、初め黄緑色〜緑色であるが、歯の脱灰が進むにつれ色調が変化し、必要なレベルの脱灰が進むとほぼ同じタイミングで水色になる。よって、このような色調になった時点で即座に水洗を行えば、過剰な脱灰を防止でき、それによって前処理された部分の齲蝕の危険性を低下させることができる。
【選択図】 なし
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は歯科医療分野において使用される前処理材組成物に関する。より詳しくは、研削等により歯質表面を機械的に除去していない歯に対して適用した場合、適度な処理時間を確実に判断することの可能な前処理材組成物に関する。
【0002】
【従来の技術】
歯科治療において、歯面と修復物等を各種接着材で接着する治療が行われている。従来、接着力を向上させるため、特にエナメル質に対する接着において、前処理としてリン酸と水を主成分とするエッチング材で20〜60秒処理して歯質を脱灰させ、微小な凹凸を形成させることがしばしば行われる(例えば、非特許文献1)。このようなエッチング材による処理は研削したエナメル質に対してだけでなく、矯正や動揺歯斬間固定などを目的とする接着の際には、被着体が未研削のエナメル質であることが多い。
【0003】
一方、歯科用材料に対して環境の変化に伴ない変色する色素を配合する技術としては、接着材に対して光照射によって退色する色素を配合し、塗布時には塗布した場所がはっきりわかり、光照射による硬化後には色がなくなって、審美的に優れた接着材とする技術(例えば、特許文献1、2)、硬化時にそのpHが変化するセメントに対してpH変化により変色する色素を配合して、操作余裕時間を目視で判断できるようにした技術(例えば、特許文献3)などがある。
【非特許文献1】
「新常用歯科辞典」、第3版、医歯薬出版株式会社、1999年4月30日、p.119
【特許文献1】
特開平11−139920号公報
【特許文献2】
特開平2−245003号公報
【特許文献3】
特開昭61−271203号公報
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
一般の工業的な接着と異なり、歯科医療における歯の接着では、接着を行う部分だけを前処理することは事実上不可能であり、よって、エッチング材処理(リン酸処理)後、接着剤を塗布・硬化させた部分の周囲に、エッチング材処理された歯が露出していることになる。通常の歯の表面は、フッ素の取り込み等により耐酸性が高いものとなっており、それによって齲蝕菌の産生する酸に対する抵抗性が上がっている。エッチング材で脱灰することにより、歯の表層部が溶解していくので、この耐酸性も低下していき、脱灰程度が強くなるほど、齲蝕になりやすくなる。従って、未研削エナメル質の脱灰では、過剰な脱灰は可能な限り避ける必要がある。
【0005】
他方、用いる接着剤にもよるが、一般的にはエナメル質においては、脱灰程度が足りないと充分な接着力が発現しない。通常、未研削エナメル質の接着を行う症例は、研削エナメル質を接着する必要のある症例よりも、マクロな機械的嵌合力を期待できない場合が多く、さらにより高い応力負荷がかかる場合が多い。従って、未研削エナメル質の接着では、研削エナメル質の接着よりも充分な脱灰がされている必要がある。
【0006】
即ち、未研削エナメル質の接着に際して行うエッチング材処理では、研削エナメル質が対象である場合以上に、脱灰の程度を過不足無く適度なものとする必要性が高い。
【0007】
ところが、未研削エナメル質は、歯の最表層部にあたるため、飲食物に含まれるフッ素等を取り込んで耐酸性が向上していたり、あるいは、表面に種々の有機・無機物が付着していたりして、研削エナメル質と比較すると脱灰されにくく、さらには、その脱灰され難さは、個々人で、あるいは同一人でも対象となる歯によっても異なる。そのため、研削エナメル質の場合のように予め決められた一定時間で処理しても脱灰の程度が大きく異なることが多い。また通常は、未研削エナメル質の接着を行う前には、機械的な清掃を行うが、この清掃も人間が行うため、未研削エナメル質の脱灰されにくさがばらつく要因となる。さらに歯の脱灰の程度は、肉眼ではほとんど識別できず、よって歯科臨床の現場において、個々人の各々の歯に合わせた脱灰程度を得られる処理時間を判断することは不可能である。
【0008】
従って、未研削エナメル質をエッチングするために用いる前処理材組成物として、各々の歯の耐酸性、汚染程度等の性状に係わらず、適度な脱灰時間を適切に判断できる材料の提供が求められていた。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究を行ってきた。その結果、脱灰力が強く、未研削エナメル質に対する前処理材(エッチング材)として汎用されている30〜50質量%のリン酸水溶液に、特定の色素を配合することにより、この溶液は適度な脱灰程度になった時点で色調が変わることを見出した。そして、それにより臨床的に、術者が目視で適切な処理時間を判別できることを見出し本発明を完成した。
【0010】
即ち、本発明は、30〜50質量%のリン酸水溶液からなる歯科用前処理材組成物において、下記式
【0011】
【化2】
【0012】
(式中、Qn+はn価のカチオンであり、nは1〜3である。)
で示される色素を含むことを特徴とする歯科用前処理材である。
【0013】
【発明の実施の形態】
本発明の歯科用前処理材組成物(以下、本発明の歯科用前処理材と称す)は、30〜50質量%のリン酸水溶液を主成分とし、前記式で示される色素を更に含むことを特徴とする。
【0014】
当該リン酸及び水は、歯質表面を脱灰するために必要である。そのいずれかが欠けても歯質の脱灰はほとんど起こらない。
【0015】
該リン酸濃度は30〜50質量%の範囲であり、より好ましくは35〜45質量%である。この範囲を外れた場合には、後述する色素を配合しても、色の変化が起こらなかったり、あるいは適切ではない脱灰程度で変色してしまったりする。また、歯科用として用いられているリン酸以外の酸、例えば、マレイン酸やクエン酸などでは、未研削エナメル質に対する脱灰能力が低く、さらには、適切ではない脱灰程度で色の変化が起こってしまう。
【0016】
用いるリン酸及び水としては、歯科用として生体に有害な不純物を含まない限り特に制限されることなく、公知のものを使用すればよい。
【0017】
本発明においては、上記のような30〜50質量%のリン酸水溶液に対して、下記式
【0018】
【化3】
【0019】
(式中、Qn+はn価のカチオンであり、nは1〜3の整数である。)
で示される色素を配合することを特徴とする。上記色素は、30〜50質量%リン酸水溶液に溶解させたとき時に発していた色調が、歯面に塗布して脱灰が進むにつれ変化する。例えば、メチン炭素に結合しているフェニル基上のスルホン酸残基がオルト位にある場合には、最初は黄緑色〜緑色であるが、脱灰が進むにつれ水色(濃度が濃い場合青色)に変色する。本発明者の検討によれば、この変色がおきた時点での未研削エナメル質の脱灰程度は、ちょうど良好な接着力が発現する程度となっている。
【0020】
他方、上記以外の色素を用いた場合には、適度な脱灰程度になる前に変色してしまったり、逆に、充分に脱灰が進行してもなお変色しなかったりして本発明の目的が達成できない。
【0021】
上記式において、Qn+はn価のカチオンであり、nは1〜3の整数である。当該n価のカチオンとしては、上記式で示される化合物の必要量が30〜50質量%リン酸水溶液に溶解するようなものであれば、公知の如何なるカチオンでもよい。良好な溶解性を得るためには、好ましくは1価のカチオンであり、また毒性等を考慮するとアルカリ金属イオンであることが特に好ましい。当該アルカリ金属イオンとしては、ナトリウムイオン、カリウムイオン等が挙げられる。
【0022】
上記式で示される化合物において、メチン炭素に結合しているフェニル基上のスルホン酸残基は、オルト、メタ、パラのどの位置に結合していても良いが、色調変化の明瞭さの点で、オルト位に結合していることが好ましい。なお、後述する比較例に示すように、このフェニル基にさらに他の置換基が結合している場合には、やはり変色域が異なることになり、本発明の目的を達成することができない。
【0023】
上記色素の配合量は本発明の効果を得られる限り特に制限されるものではないが、歯面に塗布した際の視認性の良さから、質量で10ppm〜1000ppmとすることが好ましく、より好適には50〜700ppmである。
【0024】
本発明の歯科用前処理材には、本発明の効果を損なわない限り、歯科用エッチング材の配合成分として公知の添加材を配合することができる。例えば、数%の無機微粒子や水溶性高分子を配合することにより増粘させても良いし、香料等を配合することも可能である。さらにリン酸以外の無機酸あるいは有機酸、また、有機溶媒を配合しても良い。ただし、これらを配合することにより変色域が変化する場合があり、できるだけ少量に留める方が好ましい。
【0025】
本発明の歯科用前処理材を製造する方法は特に限定されず、如何なる方法によっても良いが、一般的には、所定量のリン酸、水及び色素を計り取り均一になるまで混合すればよい。
【0026】
本発明の歯科用前処理材がその効果を特に発揮する使用方法は以下の通りである。即ち、矯正や動揺歯斬間固定などで接着を目的とする歯質(未研削エナメル質)表面を、ロータリーブラシ等で機械的に清掃し、歯垢、食物残渣等を除去する。ついで、該未研削エナメル質に本発明の歯科用前処理材を小筆等で直接塗布する。色変化して所定の色調(配合する色素により若干色調は異なる)になったら、直ちに水洗し、その後、エアーブロー等で乾燥した後、その症例に適した歯科用接着材で接着すればよい。所定の色になる時間は、対象となる歯の状態等に依存し一概には言えないが、一般的には10〜30秒程度である。他方、30秒程度以上経過しても色変化が起こらない場合には、機械的な清掃が不十分で、歯垢等が除去されきっていない場合が多いため、機械的清掃をやりなおしてから同様の処理を行えばよい。
【0027】
むろん、従来の歯科用前処理材(エッチング材)と同様、ダイヤモンドポイント等で齲蝕部を研削除去したエナメル質や象牙質に対しても特に問題なく使用でき、従来公知の方法に従って用いればよい。
【0028】
【実施例】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に示すが、本発明はこれら実施例によって何等制限されるものではない。尚、実施例および比較例で使用した化合物とその略称、及び一般的な評価方法を以下に示す。
【0029】
(1)用いた化合物と略称
色素1
【0030】
【化4】
【0031】
色素2
【0032】
【化5】
【0033】
色素3
【0034】
【化6】
【0035】
色素4
【0036】
【化7】
【0037】
(2)接着強度の試験方法
各参考例、実施例及び比較例に示した手順で調整した被着体(エナメル質)に対し、所定の前処理材を塗布、所定の時間経過後、水洗、圧縮空気を約10秒間吹き付けて乾燥した。この処理面に、歯科用レジンセメント、トクヤママルチボンド[(株)トクヤマデンタル製]付属のプライマーを塗布し30秒放置した後、圧縮空気を約10秒間吹き付けて乾燥した。さらにトクヤママルチボンドのペーストを厚さ2.5mm以上となるように盛り付け、37℃湿度100%の雰囲気下で1時間保った後、さらに37℃水中に24時間浸漬した。この試料をダイヤモンドカッターを用いて接着面と垂直に厚さ約0.8mmとなるよう切断し、更にダイヤモンドポイントを用いて接着面積が1mm2となるようにダンベル型に(接着面が一番細くなるように)トリミングし、試験片を得た。なお、1本の歯から4つの試験片を作成した。この試験片を接着材、モデルリペアーIIブルー[デンツプライ三金(株)製]を用いて専用ジグに貼り付け、引っ張り試験機(島津社製EZTEST)を用いて引っ張り試験を行った。
【0038】
(3)前処理材処理歯面の着色性評価試験方法
接着試験方法と同様にして清掃、乾燥させた人歯エナメル質表面部位に前処理材を塗布し、各実施例、比較例での所定の時間経過後、水洗して試料を作成し。この試料を20質量%カレー(バーモントカレー甘口[(株)ハウス食品製])水溶液に37℃で24時間浸漬した。この試料を30秒間水洗した後、圧縮空気を約10秒間吹き付けて乾燥し、処理面の着色を目視で確認した。黄色く着色しているものを、着色ありとした。
【0039】
参考例
抜歯後、エタノール中で保存した人歯を、注水下、#800のエメリーペーパーで唇面に平行になるようにエナメル質平面を削り出した。次にこれらの面に圧縮空気を約10秒間吹き付けて乾燥した。この研削面に、33質量%のリン酸水溶液に、100ppmの色素1を添加して調製した前処理材を塗布し、その色調の経時変化を目視で確認した。同じ試験を3本の異なる人歯に対して行った。また、同様にして前処理材による処理を行った人歯研削エナメル質に対して接着試験を行い、その接着強度を測定した。さらにリン酸濃度及び用いる色素の種類を代えて色調変化の観察及び接着強度の測定を行った。これらの結果を表1に示す。
【0040】
【表1】
【0041】
上記結果は研削されたエナメル質に対するものである。研削エナメル質は歯の表層部が研削により完全に除去されているため、歯による色素変化までの時間がほぼ一定である。さらに上記実験では、リン酸系のモノマーを配合したトクヤママルチボンドのプライマーを用いているが、このリン酸系モノマーの有する脱灰能により、研削したエナメル質に対しては3秒と短い前処理材処理時間でも高い接着強度が発現している。これは未研削エナメル質に比べて、遥かに脱灰されやすい研削エナメル質を対象としているためである。
【0042】
実施例1
抜歯後エタノール中で保存した人歯を研磨ペーストを用いて30秒間ロータリーブラシで清掃し、その後水洗した。次にこれらの面に圧縮空気を約10秒間吹き付けて乾燥した後、参考例1で用いたのと同じエッチング材を塗布し、水色に変色するまでの時間を観察した。異なる歯を用いて行ったところ、その変色までの時間は、7秒、11秒、16秒、24秒と大きくばらついていた。
【0043】
ついで、同様に清掃後、乾燥させた人歯の比較的平面に近いエナメル質表面部位に、エッチング材を塗布し、5秒経過した時点(但し、緑色のまま変色していないことを確認。これを変色前とする)、水色に変色した直後の時点(変色直後)、及び水色に変色した後、さらに30秒経過させた時点(+30秒)で水洗し、これを接着試験に供した。また、同様にしてエッチング材処理した試料にて着色試験を行った。これらの結果を表2にまとめて示す。
【0044】
【表2】
【0045】
実施例2、3及び比較例1,2
用いたエッチング材を、参考例2〜5のものに変えた以外は、実施例1と同様にして各種試験を行った。結果は表2に示した。
【0046】
実施例4
実施例1と同様の実験を、各々3本の歯に対して行った。その結果、いずれの場合においても、水色に変色する前のものは接着強度が14MPa以下で着色はなし、変色直後のものでは接着強度が19〜23MPaで着色はなし、+30秒後のものでは接着強度が19〜22MPaで着色があり、であった。なお、変色前に洗浄した6本の試験片(接着試験用3本、着色試験用3本)を除いた他の試験片(12本)における変色までの時間は6〜34秒であった。
【0047】
実施例5
前処理材を参考例2のものに変えた以外は、実施例4と同様の試験を行った。その結果、実施例4と同様、いずれの場合においても変色前のものは接着強度が13MPa以下で着色なし、変色直後のものでは接着強度が19〜22MPaで着色なし、+30秒後のものでは接着強度が21〜23MPaで着色があり、であった。なお、変色前に洗浄した6本の試験片(接着試験用3本、着色試験用3本)を除いた他の試験片(12本)における変色までの時間は8〜29秒であった。
【0048】
実施例6
前処理材を参考例3のものに変えた以外は、実施例4と同様の試験を行った。その結果、実施例4と同様、いずれの場合においても変色前のものは接着強度が14MPa以下で着色なし、変色直後のものでは接着強度が20〜23MPaで着色なし、+30秒後のものでは接着強度が20〜24MPaで着色あり、であった。なお、変色前に洗浄した6本の試験片(接着試験用3本、着色試験用3本)を除いた他の試験片(12本)における変色までの時間は7〜44秒であった。
【0049】
なお、上記各実施例、比較例において、前処理材を塗布して60秒経過しても前処理材の色が変化しなかった歯については、この前処理材を水洗除去後、再度ローターリーブラシによる清掃、乾燥をやり直して試験を行った。この場合の処理時間は、再度の前処理材塗布から経過した時間である。
【0050】
前記参考例1〜3と実施例1〜4との、塗布後変色までの時間を比較すると理解されるように、研削エナメル質では歯によらず、ほぼ一定の時間で変色するのに対し、未研削エナメル質では6〜41秒と大きくばらついている。これにより、未研削エナメル質の表面状態は歯によって大きく異なっていることがわかる。また上記参考例1〜3では、処理時間3秒でも20MPa程度の高い接着強度が発現しているのに対し、上記実施例1〜3では、処理時間5秒(変色前)では10〜13MPa程度であり、研削エナメル質に比較して、未研削エナメル質は遥かに脱灰され難いことがわかる。
【0051】
各実施例の結果から、本発明の歯科用前処理材は、歯によって異なる脱灰のされやすさにも係わらず、充分な接着性を発現すると同時に、着色が起こるほど過剰に脱灰されない処理時間が、色の変化により極めて簡潔に判断できる材料であることがわかる。
【0052】
一方、比較例1、2に示されているように、リン酸濃度が本発明の範囲からはずれた場合には、色の変化の時期が適切ではなくなり、よって、脱灰が不足したり、逆に過剰に脱灰されてしまう危険が大きい。
【0053】
比較例3〜5
用いた前処理材を、参考例6〜8のものに代えて、実施例1と同様にして変色までにかかる時間を測定したが、いずれのエッチング材においても、60秒経過しても色の変化はおきなかった。
【0054】
ついで、これら前処理材を用い、処理時間を、5秒、15秒及び30秒に固定して接着試験を行った。接着試験は、同じ処理時間で、3本の歯を用いて行った。また、同様にして3本の異なる歯を用いて着色試験を行った。これらの結果を表3に示す。
【0055】
【表3】
【0056】
上記比較例3〜5は、本発明で規定する以外の色素を用いた場合の結果である。これらの場合には、少なくとも60秒以内では変色しないため、一定の前処理時間を定めて試験を行ったものである。上記結果から理解されるように、歯によって脱灰されやすさが異なるため、一定の前処理時間を定めても充分な接着強度がでる場合とでない場合がある。前処理時間をより長くすることにより、高い接着強度が得られる傾向は大きくなるが、反面、脱灰が進みすぎて、着色も起こりやすくなる傾向があり、このような部分では齲蝕が起こりやすくなる可能性が高い。
【0057】
【発明の効果】
以上の説明から理解できるように、30〜50質量%のリン酸水溶液からなる歯科用前処理材組成物に、前記式で示される特定の色素を配合することにより、充分な接着性が得られる程度の脱灰が進行したのとほぼ同じタイミングで変色する。従って、この変色が起きた時点で前処理材を水洗、除去することにより、接着が不十分となって被着物が脱落等することを防止できると同時に、過剰な脱灰によって、接着部分の周縁部の耐酸性が大きく低下し、齲蝕になりやすくなるという現象を防止することが可能である。
【発明の属する技術分野】
本発明は歯科医療分野において使用される前処理材組成物に関する。より詳しくは、研削等により歯質表面を機械的に除去していない歯に対して適用した場合、適度な処理時間を確実に判断することの可能な前処理材組成物に関する。
【0002】
【従来の技術】
歯科治療において、歯面と修復物等を各種接着材で接着する治療が行われている。従来、接着力を向上させるため、特にエナメル質に対する接着において、前処理としてリン酸と水を主成分とするエッチング材で20〜60秒処理して歯質を脱灰させ、微小な凹凸を形成させることがしばしば行われる(例えば、非特許文献1)。このようなエッチング材による処理は研削したエナメル質に対してだけでなく、矯正や動揺歯斬間固定などを目的とする接着の際には、被着体が未研削のエナメル質であることが多い。
【0003】
一方、歯科用材料に対して環境の変化に伴ない変色する色素を配合する技術としては、接着材に対して光照射によって退色する色素を配合し、塗布時には塗布した場所がはっきりわかり、光照射による硬化後には色がなくなって、審美的に優れた接着材とする技術(例えば、特許文献1、2)、硬化時にそのpHが変化するセメントに対してpH変化により変色する色素を配合して、操作余裕時間を目視で判断できるようにした技術(例えば、特許文献3)などがある。
【非特許文献1】
「新常用歯科辞典」、第3版、医歯薬出版株式会社、1999年4月30日、p.119
【特許文献1】
特開平11−139920号公報
【特許文献2】
特開平2−245003号公報
【特許文献3】
特開昭61−271203号公報
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
一般の工業的な接着と異なり、歯科医療における歯の接着では、接着を行う部分だけを前処理することは事実上不可能であり、よって、エッチング材処理(リン酸処理)後、接着剤を塗布・硬化させた部分の周囲に、エッチング材処理された歯が露出していることになる。通常の歯の表面は、フッ素の取り込み等により耐酸性が高いものとなっており、それによって齲蝕菌の産生する酸に対する抵抗性が上がっている。エッチング材で脱灰することにより、歯の表層部が溶解していくので、この耐酸性も低下していき、脱灰程度が強くなるほど、齲蝕になりやすくなる。従って、未研削エナメル質の脱灰では、過剰な脱灰は可能な限り避ける必要がある。
【0005】
他方、用いる接着剤にもよるが、一般的にはエナメル質においては、脱灰程度が足りないと充分な接着力が発現しない。通常、未研削エナメル質の接着を行う症例は、研削エナメル質を接着する必要のある症例よりも、マクロな機械的嵌合力を期待できない場合が多く、さらにより高い応力負荷がかかる場合が多い。従って、未研削エナメル質の接着では、研削エナメル質の接着よりも充分な脱灰がされている必要がある。
【0006】
即ち、未研削エナメル質の接着に際して行うエッチング材処理では、研削エナメル質が対象である場合以上に、脱灰の程度を過不足無く適度なものとする必要性が高い。
【0007】
ところが、未研削エナメル質は、歯の最表層部にあたるため、飲食物に含まれるフッ素等を取り込んで耐酸性が向上していたり、あるいは、表面に種々の有機・無機物が付着していたりして、研削エナメル質と比較すると脱灰されにくく、さらには、その脱灰され難さは、個々人で、あるいは同一人でも対象となる歯によっても異なる。そのため、研削エナメル質の場合のように予め決められた一定時間で処理しても脱灰の程度が大きく異なることが多い。また通常は、未研削エナメル質の接着を行う前には、機械的な清掃を行うが、この清掃も人間が行うため、未研削エナメル質の脱灰されにくさがばらつく要因となる。さらに歯の脱灰の程度は、肉眼ではほとんど識別できず、よって歯科臨床の現場において、個々人の各々の歯に合わせた脱灰程度を得られる処理時間を判断することは不可能である。
【0008】
従って、未研削エナメル質をエッチングするために用いる前処理材組成物として、各々の歯の耐酸性、汚染程度等の性状に係わらず、適度な脱灰時間を適切に判断できる材料の提供が求められていた。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究を行ってきた。その結果、脱灰力が強く、未研削エナメル質に対する前処理材(エッチング材)として汎用されている30〜50質量%のリン酸水溶液に、特定の色素を配合することにより、この溶液は適度な脱灰程度になった時点で色調が変わることを見出した。そして、それにより臨床的に、術者が目視で適切な処理時間を判別できることを見出し本発明を完成した。
【0010】
即ち、本発明は、30〜50質量%のリン酸水溶液からなる歯科用前処理材組成物において、下記式
【0011】
【化2】
【0012】
(式中、Qn+はn価のカチオンであり、nは1〜3である。)
で示される色素を含むことを特徴とする歯科用前処理材である。
【0013】
【発明の実施の形態】
本発明の歯科用前処理材組成物(以下、本発明の歯科用前処理材と称す)は、30〜50質量%のリン酸水溶液を主成分とし、前記式で示される色素を更に含むことを特徴とする。
【0014】
当該リン酸及び水は、歯質表面を脱灰するために必要である。そのいずれかが欠けても歯質の脱灰はほとんど起こらない。
【0015】
該リン酸濃度は30〜50質量%の範囲であり、より好ましくは35〜45質量%である。この範囲を外れた場合には、後述する色素を配合しても、色の変化が起こらなかったり、あるいは適切ではない脱灰程度で変色してしまったりする。また、歯科用として用いられているリン酸以外の酸、例えば、マレイン酸やクエン酸などでは、未研削エナメル質に対する脱灰能力が低く、さらには、適切ではない脱灰程度で色の変化が起こってしまう。
【0016】
用いるリン酸及び水としては、歯科用として生体に有害な不純物を含まない限り特に制限されることなく、公知のものを使用すればよい。
【0017】
本発明においては、上記のような30〜50質量%のリン酸水溶液に対して、下記式
【0018】
【化3】
【0019】
(式中、Qn+はn価のカチオンであり、nは1〜3の整数である。)
で示される色素を配合することを特徴とする。上記色素は、30〜50質量%リン酸水溶液に溶解させたとき時に発していた色調が、歯面に塗布して脱灰が進むにつれ変化する。例えば、メチン炭素に結合しているフェニル基上のスルホン酸残基がオルト位にある場合には、最初は黄緑色〜緑色であるが、脱灰が進むにつれ水色(濃度が濃い場合青色)に変色する。本発明者の検討によれば、この変色がおきた時点での未研削エナメル質の脱灰程度は、ちょうど良好な接着力が発現する程度となっている。
【0020】
他方、上記以外の色素を用いた場合には、適度な脱灰程度になる前に変色してしまったり、逆に、充分に脱灰が進行してもなお変色しなかったりして本発明の目的が達成できない。
【0021】
上記式において、Qn+はn価のカチオンであり、nは1〜3の整数である。当該n価のカチオンとしては、上記式で示される化合物の必要量が30〜50質量%リン酸水溶液に溶解するようなものであれば、公知の如何なるカチオンでもよい。良好な溶解性を得るためには、好ましくは1価のカチオンであり、また毒性等を考慮するとアルカリ金属イオンであることが特に好ましい。当該アルカリ金属イオンとしては、ナトリウムイオン、カリウムイオン等が挙げられる。
【0022】
上記式で示される化合物において、メチン炭素に結合しているフェニル基上のスルホン酸残基は、オルト、メタ、パラのどの位置に結合していても良いが、色調変化の明瞭さの点で、オルト位に結合していることが好ましい。なお、後述する比較例に示すように、このフェニル基にさらに他の置換基が結合している場合には、やはり変色域が異なることになり、本発明の目的を達成することができない。
【0023】
上記色素の配合量は本発明の効果を得られる限り特に制限されるものではないが、歯面に塗布した際の視認性の良さから、質量で10ppm〜1000ppmとすることが好ましく、より好適には50〜700ppmである。
【0024】
本発明の歯科用前処理材には、本発明の効果を損なわない限り、歯科用エッチング材の配合成分として公知の添加材を配合することができる。例えば、数%の無機微粒子や水溶性高分子を配合することにより増粘させても良いし、香料等を配合することも可能である。さらにリン酸以外の無機酸あるいは有機酸、また、有機溶媒を配合しても良い。ただし、これらを配合することにより変色域が変化する場合があり、できるだけ少量に留める方が好ましい。
【0025】
本発明の歯科用前処理材を製造する方法は特に限定されず、如何なる方法によっても良いが、一般的には、所定量のリン酸、水及び色素を計り取り均一になるまで混合すればよい。
【0026】
本発明の歯科用前処理材がその効果を特に発揮する使用方法は以下の通りである。即ち、矯正や動揺歯斬間固定などで接着を目的とする歯質(未研削エナメル質)表面を、ロータリーブラシ等で機械的に清掃し、歯垢、食物残渣等を除去する。ついで、該未研削エナメル質に本発明の歯科用前処理材を小筆等で直接塗布する。色変化して所定の色調(配合する色素により若干色調は異なる)になったら、直ちに水洗し、その後、エアーブロー等で乾燥した後、その症例に適した歯科用接着材で接着すればよい。所定の色になる時間は、対象となる歯の状態等に依存し一概には言えないが、一般的には10〜30秒程度である。他方、30秒程度以上経過しても色変化が起こらない場合には、機械的な清掃が不十分で、歯垢等が除去されきっていない場合が多いため、機械的清掃をやりなおしてから同様の処理を行えばよい。
【0027】
むろん、従来の歯科用前処理材(エッチング材)と同様、ダイヤモンドポイント等で齲蝕部を研削除去したエナメル質や象牙質に対しても特に問題なく使用でき、従来公知の方法に従って用いればよい。
【0028】
【実施例】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に示すが、本発明はこれら実施例によって何等制限されるものではない。尚、実施例および比較例で使用した化合物とその略称、及び一般的な評価方法を以下に示す。
【0029】
(1)用いた化合物と略称
色素1
【0030】
【化4】
【0031】
色素2
【0032】
【化5】
【0033】
色素3
【0034】
【化6】
【0035】
色素4
【0036】
【化7】
【0037】
(2)接着強度の試験方法
各参考例、実施例及び比較例に示した手順で調整した被着体(エナメル質)に対し、所定の前処理材を塗布、所定の時間経過後、水洗、圧縮空気を約10秒間吹き付けて乾燥した。この処理面に、歯科用レジンセメント、トクヤママルチボンド[(株)トクヤマデンタル製]付属のプライマーを塗布し30秒放置した後、圧縮空気を約10秒間吹き付けて乾燥した。さらにトクヤママルチボンドのペーストを厚さ2.5mm以上となるように盛り付け、37℃湿度100%の雰囲気下で1時間保った後、さらに37℃水中に24時間浸漬した。この試料をダイヤモンドカッターを用いて接着面と垂直に厚さ約0.8mmとなるよう切断し、更にダイヤモンドポイントを用いて接着面積が1mm2となるようにダンベル型に(接着面が一番細くなるように)トリミングし、試験片を得た。なお、1本の歯から4つの試験片を作成した。この試験片を接着材、モデルリペアーIIブルー[デンツプライ三金(株)製]を用いて専用ジグに貼り付け、引っ張り試験機(島津社製EZTEST)を用いて引っ張り試験を行った。
【0038】
(3)前処理材処理歯面の着色性評価試験方法
接着試験方法と同様にして清掃、乾燥させた人歯エナメル質表面部位に前処理材を塗布し、各実施例、比較例での所定の時間経過後、水洗して試料を作成し。この試料を20質量%カレー(バーモントカレー甘口[(株)ハウス食品製])水溶液に37℃で24時間浸漬した。この試料を30秒間水洗した後、圧縮空気を約10秒間吹き付けて乾燥し、処理面の着色を目視で確認した。黄色く着色しているものを、着色ありとした。
【0039】
参考例
抜歯後、エタノール中で保存した人歯を、注水下、#800のエメリーペーパーで唇面に平行になるようにエナメル質平面を削り出した。次にこれらの面に圧縮空気を約10秒間吹き付けて乾燥した。この研削面に、33質量%のリン酸水溶液に、100ppmの色素1を添加して調製した前処理材を塗布し、その色調の経時変化を目視で確認した。同じ試験を3本の異なる人歯に対して行った。また、同様にして前処理材による処理を行った人歯研削エナメル質に対して接着試験を行い、その接着強度を測定した。さらにリン酸濃度及び用いる色素の種類を代えて色調変化の観察及び接着強度の測定を行った。これらの結果を表1に示す。
【0040】
【表1】
【0041】
上記結果は研削されたエナメル質に対するものである。研削エナメル質は歯の表層部が研削により完全に除去されているため、歯による色素変化までの時間がほぼ一定である。さらに上記実験では、リン酸系のモノマーを配合したトクヤママルチボンドのプライマーを用いているが、このリン酸系モノマーの有する脱灰能により、研削したエナメル質に対しては3秒と短い前処理材処理時間でも高い接着強度が発現している。これは未研削エナメル質に比べて、遥かに脱灰されやすい研削エナメル質を対象としているためである。
【0042】
実施例1
抜歯後エタノール中で保存した人歯を研磨ペーストを用いて30秒間ロータリーブラシで清掃し、その後水洗した。次にこれらの面に圧縮空気を約10秒間吹き付けて乾燥した後、参考例1で用いたのと同じエッチング材を塗布し、水色に変色するまでの時間を観察した。異なる歯を用いて行ったところ、その変色までの時間は、7秒、11秒、16秒、24秒と大きくばらついていた。
【0043】
ついで、同様に清掃後、乾燥させた人歯の比較的平面に近いエナメル質表面部位に、エッチング材を塗布し、5秒経過した時点(但し、緑色のまま変色していないことを確認。これを変色前とする)、水色に変色した直後の時点(変色直後)、及び水色に変色した後、さらに30秒経過させた時点(+30秒)で水洗し、これを接着試験に供した。また、同様にしてエッチング材処理した試料にて着色試験を行った。これらの結果を表2にまとめて示す。
【0044】
【表2】
【0045】
実施例2、3及び比較例1,2
用いたエッチング材を、参考例2〜5のものに変えた以外は、実施例1と同様にして各種試験を行った。結果は表2に示した。
【0046】
実施例4
実施例1と同様の実験を、各々3本の歯に対して行った。その結果、いずれの場合においても、水色に変色する前のものは接着強度が14MPa以下で着色はなし、変色直後のものでは接着強度が19〜23MPaで着色はなし、+30秒後のものでは接着強度が19〜22MPaで着色があり、であった。なお、変色前に洗浄した6本の試験片(接着試験用3本、着色試験用3本)を除いた他の試験片(12本)における変色までの時間は6〜34秒であった。
【0047】
実施例5
前処理材を参考例2のものに変えた以外は、実施例4と同様の試験を行った。その結果、実施例4と同様、いずれの場合においても変色前のものは接着強度が13MPa以下で着色なし、変色直後のものでは接着強度が19〜22MPaで着色なし、+30秒後のものでは接着強度が21〜23MPaで着色があり、であった。なお、変色前に洗浄した6本の試験片(接着試験用3本、着色試験用3本)を除いた他の試験片(12本)における変色までの時間は8〜29秒であった。
【0048】
実施例6
前処理材を参考例3のものに変えた以外は、実施例4と同様の試験を行った。その結果、実施例4と同様、いずれの場合においても変色前のものは接着強度が14MPa以下で着色なし、変色直後のものでは接着強度が20〜23MPaで着色なし、+30秒後のものでは接着強度が20〜24MPaで着色あり、であった。なお、変色前に洗浄した6本の試験片(接着試験用3本、着色試験用3本)を除いた他の試験片(12本)における変色までの時間は7〜44秒であった。
【0049】
なお、上記各実施例、比較例において、前処理材を塗布して60秒経過しても前処理材の色が変化しなかった歯については、この前処理材を水洗除去後、再度ローターリーブラシによる清掃、乾燥をやり直して試験を行った。この場合の処理時間は、再度の前処理材塗布から経過した時間である。
【0050】
前記参考例1〜3と実施例1〜4との、塗布後変色までの時間を比較すると理解されるように、研削エナメル質では歯によらず、ほぼ一定の時間で変色するのに対し、未研削エナメル質では6〜41秒と大きくばらついている。これにより、未研削エナメル質の表面状態は歯によって大きく異なっていることがわかる。また上記参考例1〜3では、処理時間3秒でも20MPa程度の高い接着強度が発現しているのに対し、上記実施例1〜3では、処理時間5秒(変色前)では10〜13MPa程度であり、研削エナメル質に比較して、未研削エナメル質は遥かに脱灰され難いことがわかる。
【0051】
各実施例の結果から、本発明の歯科用前処理材は、歯によって異なる脱灰のされやすさにも係わらず、充分な接着性を発現すると同時に、着色が起こるほど過剰に脱灰されない処理時間が、色の変化により極めて簡潔に判断できる材料であることがわかる。
【0052】
一方、比較例1、2に示されているように、リン酸濃度が本発明の範囲からはずれた場合には、色の変化の時期が適切ではなくなり、よって、脱灰が不足したり、逆に過剰に脱灰されてしまう危険が大きい。
【0053】
比較例3〜5
用いた前処理材を、参考例6〜8のものに代えて、実施例1と同様にして変色までにかかる時間を測定したが、いずれのエッチング材においても、60秒経過しても色の変化はおきなかった。
【0054】
ついで、これら前処理材を用い、処理時間を、5秒、15秒及び30秒に固定して接着試験を行った。接着試験は、同じ処理時間で、3本の歯を用いて行った。また、同様にして3本の異なる歯を用いて着色試験を行った。これらの結果を表3に示す。
【0055】
【表3】
【0056】
上記比較例3〜5は、本発明で規定する以外の色素を用いた場合の結果である。これらの場合には、少なくとも60秒以内では変色しないため、一定の前処理時間を定めて試験を行ったものである。上記結果から理解されるように、歯によって脱灰されやすさが異なるため、一定の前処理時間を定めても充分な接着強度がでる場合とでない場合がある。前処理時間をより長くすることにより、高い接着強度が得られる傾向は大きくなるが、反面、脱灰が進みすぎて、着色も起こりやすくなる傾向があり、このような部分では齲蝕が起こりやすくなる可能性が高い。
【0057】
【発明の効果】
以上の説明から理解できるように、30〜50質量%のリン酸水溶液からなる歯科用前処理材組成物に、前記式で示される特定の色素を配合することにより、充分な接着性が得られる程度の脱灰が進行したのとほぼ同じタイミングで変色する。従って、この変色が起きた時点で前処理材を水洗、除去することにより、接着が不十分となって被着物が脱落等することを防止できると同時に、過剰な脱灰によって、接着部分の周縁部の耐酸性が大きく低下し、齲蝕になりやすくなるという現象を防止することが可能である。
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-
2003
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