JP2005000052A - Adrp遺伝子の発現を抑制するオリゴヌクレオチド及び方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】RNA干渉法を用いてADRP(Adipocyte differentiation-related protein)の発現を阻害するために最適化されたオリゴヌクレオチドを提供する。これにより、従来の脂質エステルの合成と加水分解の過程によらずに、細胞内脂質滴の新規形成を阻害し、既存の細胞内脂質滴を減少又は消滅させることができる。
【解決手段】ヒトADRP遺伝子又はマウスADRP遺伝子の塩基配列の特定の領域において連続する21〜23塩基の塩基配列に相当するオリゴリボヌクレオチド、その相補的オリゴリボヌクレオチド、又はこれらから成る2本鎖RNAである。
【選択図】図2
【解決手段】ヒトADRP遺伝子又はマウスADRP遺伝子の塩基配列の特定の領域において連続する21〜23塩基の塩基配列に相当するオリゴリボヌクレオチド、その相補的オリゴリボヌクレオチド、又はこれらから成る2本鎖RNAである。
【選択図】図2
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明は、細胞内脂質滴の新規形成を阻害し、既存の細胞内脂質滴を減少又ア消滅させるための手段として、Adipocyte differentiation−related protein (以下「ADRP」という。)の発現をRNA干渉(RNA interference, RNAi)により阻害する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
動脈硬化症、脂肪肝、肥満症などの疾病は、細胞内脂質滴の過剰形成が原因となっていることが知られている(非特許文献1)。
この脂質滴の内容物である脂質エステルの合成酵素阻害剤については、動物個体に投与した場合に種々の副作用が生じることが明らかになり、実用化の目処が立っていない(非特許文献2)。
一方、脂質エステル加水分解酵素を過剰発現させた場合には、脂質エステル合成が高まり、予期された効果が得られないという実験結果が報告されている(非特許文献3)。
また、ADRPは、脂質エステルを貯蔵する機能を有し、脂質滴の構造形成及び維持に必要な分子であることが知られており(非特許文献4)、その発現が脂質滴の形成を促すことも知られている(非特許文献5)。そのため、ヒトADRPをコードするオリゴヌクレオチドに対するアンチセンス分子を用いて、ヒトADRPの発現を抑制し、その発現が関係する肥満症などの治療を行う方法が開示されている(特許文献1)。
【0003】
【非特許文献1】
D. J. Murphy, Progress in Lipid Research, 40: 325−438, 2001
【非特許文献2】
K. K. Buhman et al., The Journal of Biological Chemistry, 276: 40369−40372, 2001
【非特許文献3】
J.−L. Escary et al., Journal of Lipid Research, 40: 397−404, 1999
【非特許文献4】
D. L. Brasaemle et al., Journal of Lipid Research, 38: 2249−2263, 1997
【非特許文献5】
Imamura et al., American Journal of Physiology−Endocrinology and Metabolism, 283: E775−E783, 2002.
【特許文献1】
特表2001−506850 (WO98/26067)
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、ADRPの発現を効果的に阻害する手段を提供する。これにより、従来の脂質エステルの合成と加水分解の過程によらずに、細胞内脂質滴の新規形成を阻害し、既存の細胞内脂質滴を減少又は消滅させることができる。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、RNAiを用いてADRPの発現を阻害するために最適化されたオリゴヌクレオチドを見出し、本発明を完成させるに至った。
即ち、本発明は、配列番号1(ヒトADRP遺伝子)又は配列番号2(マウスADRP遺伝子)の塩基配列の347〜399又は1094〜1273において連続する21個の塩基配列を含む21〜23個の塩基配列に相当するオリゴリボヌクレオチド、その相補的オリゴリボヌクレオチド、又はこれらから成る2本鎖RNAである。
【0006】
この連続する21個の塩基配列として、好ましくは配列番号1(ヒトADRP遺伝子)又は配列番号2(マウスADRP遺伝子)の塩基配列の347〜367、379〜399、1094〜1114、又は1253〜1273の塩基配列であり、最も好ましくは379〜399の塩基配列である。
また本発明は、上記のいずれかのオリゴリボヌクレオチド、その相補的オリゴリボヌクレオチド、又はこれらから成る2本鎖RNAを、ヒト又はマウスの細胞へ導入することから成る、該細胞におけるADRP遺伝子の発現を抑制する方法である。
更に本発明は、上記のいずれかのオリゴリボヌクレオチド、その相補的オリゴリボヌクレオチド、又はこれらから成る2本鎖RNAを、ヒト又はマウスの生体細胞へ導入することから成る、動脈硬化症、脂肪肝、肥満症などの脂質滴が過剰に形成され、ADRP遺伝子の過剰発現が見られる疾病の治療又は予防方法である。
【0007】
【発明の実施の形態】
ADRP(Adipocyte differentiation−related protein、脂肪分化関連タンパク質)は、脂肪細胞の分化時にその発現が認められ、脂質滴に特異的に局在するタンパク質であり(非特許文献4)、その発現が脂質滴の形成を促す(非特許文献5)。
本発明はRNA干渉法により細胞内におけるADRPの発現を抑制しようとするものである。RNA干渉法は標的RNAに特異的な21〜23塩基のRNA断片(siRNA)を細胞、特に細胞質に導入すると、このRNA断片がmRNAに結合してmRNAの翻訳を阻害すると考えられている(N Engl J Med 2002; 347:1364)。この標的RNAは標的遺伝子の転写により生ずるmRNAである。
このRNA断片としては、標的RNAのセンス又はアンチセンスのものでもよいが、これらはRNaseで容易に分解され,また効果が劣ると考えられるため、これらから成る2本鎖RNAが好ましく用いられる。この2本鎖RNAは通常センスとアンチセンスの2本を別々に合成し,それをハイブリダイズさせて2本鎖にして用いられる。
【0008】
このRNA断片の長さは21〜23塩基が有効と考えられているが、一般には21塩基のものが好ましく使われ、後述の実施例においても21塩基のもので有効に機能している。但し、なぜこの範囲のものが有効であるかはまだ十分には解明されていない。
本発明においては対象とする細胞はヒトとマウスである。
これらのADRP遺伝子の特定の塩基配列に「相当する」オリゴリボヌクレオチドとは、この遺伝子が転写されて生成するmRNAの、ADRP遺伝子の特定の塩基配列に相当する部分に相補的なRNAという意味であり、具体的にはこのADRP遺伝子の特定のDNA配列のTをUに置き換えたもという意味である。
RNA断片を細胞に導入する方法については、特に制限はなく、リポソーム等に基づく市販のトランスフェクション試薬を用いるのが簡便である。この方法以外にも、エレクトロポレーション、マイクロインジェクション法などの方法を用いてもよい。最近、マウスの尾静脈から単にsiRNAだけを注入することによって、肝臓での遺伝子発現が低下したという報告がある(E. Song et al., Nature Medicine, 9: 347−351, 2003)。
【0009】
【実施例】
以下、実施例にて本発明を例証するが、本発明を限定することを意図するものではない。
本実施例においては以下の方法を用いた。
1.細胞の調整
ヒトHepG2、マウスBalb/c 3T3、及びマウスJ774.1を用いた。HepG2は通常の培養条件で脂質滴を有するため、既存の脂質滴に対する効果を調べる目的で用いた。またヒト肝臓由来の細胞であるHepG2は、本発明の応用の対象として想定される脂肪肝に対する効果を培養細胞レベルで確かめるモデル系としても重要である。Balb/cは培養条件により脂質滴をほとんど消滅させることができるため、脂質滴の新規形成を調べるために用いた。J774.1はマクロファージ由来であり、動脈硬化の初期に動脈壁で生ずる泡沫細胞形成のモデルとして用いた。
HepG2、 Balb/c 3T3はDulbecco’s modification of Eagles minimum essential medium (DME)に10% ウシ胎児血清(FCS)と抗生物質(ペニシリン、ストレプトマイシン)を添加した培地で培養した。J774.1はRPMI1640に10% FCSと抗生物質を添加した培地で培養した。
【0010】
2.siRNA (small interfering RNA) の作製
ヒトADRP(以下「hADRP」という。配列番号1)及びマウスADRP(以下「mADRP」という。配列番号2)の配列にあわせて設計したカスタムオリゴヌクレオチド(インビトロジェン社製)をテンプレートとし、Silencer siRNA construction kit(Ambion社)のマニュアルに従ってsiRNA(2本鎖RNA)を合成した。siRNAの濃度は吸光度で測定して 10μMになるように調整し、アクリルアミドゲルに泳動して長さのチェックを行った。
hADRPについて作製したsiRNA(2本鎖RNA)の対象配列は以下のとおりである。(なお、カッコ内はそれぞれhADRP(配列番号1)又はmADRP(配列番号2)の配列中の対応する位置を示す。)
【0011】
hADRP(130−150) AAGUCUGUGUGUGAGAUGGCA (配列番号3)
hADRP(211−231) AAGCUAGAGCCGCAAAUUGCA (配列番号4)
hADRP(347−367) AAGAUGCUGUGACGACUACUG (配列番号5)
hADRP(379−399) AAGGAUUCUGUGGCCAGCACG (配列番号6)
hADRP(451−471) AAGACCAAGUCUGUGGUCAGU (配列番号7)
hADRP(457−477) AAGUCUGUGGUCAGUGGCAGC (配列番号8)
hADRP(727−747) AAGCAAAAAAGCCAACAGACC (配列番号9)
hADRP(735−755) AAGCCAACAGACCAUUUCUCA (配列番号10)
hADRP(998−1018) AAGGUGUACCACAGAACAUCC (配列番号11)
hADRP(1019−1039) AAGAUCAAGCCAAGCACAUGG (配列番号12)
hADRP(1091−1111) AAGAAGUGUCUGACAGCCUCC (配列番号13)
hADRP(1094−1114) AAGUGUCUGACAGCCUCCUCA (配列番号14)
hADRP(1253−1273) AAGGUGCAGAGAUGGACAAGA (配列番号15)
mADRPについて作製したsiRNAの対象配列は以下のとおりである。
mADRP(379−399) AAGGAUUCUGUAGCCAGCACA (配列番号16)
この配列について、ヌクレオチド配列をランダムに並べ替え、データベースに登録された他の遺伝子の配列に一致しないものを用い、対照実験用のsiRNAを作製した。
Control (random) ACCAGCGAUUUCUAAGAGACG (配列番号17)
【0012】
3.細胞へのsiRNAの導入
(i) HepG2及びBalb/cについて
導入前日に抗生物質抜きの培地に継代した。導入はLipofectamine 2000 (Invitrogen社) にて行った。35 mm dishで2 mlの培地中に培養した細胞の場合、24 μl siRNA (10μM濃度)と4 μl Lipofectamine 2000をそれぞれ200 μlのOpti−MEM (Invitrogen社) に希釈し、両者を混合したのち培地に添加した。なおsiRNAの最適量については、予備実験にて比較を行い、上記の量で最大の効果が得られることを確認した。
(ii) J774.1について
トリプシン処理でディッシュから剥離し、血清を含まないRPMI1640に3 x 106/ mlの密度になるように浮遊させた。0.4 cm幅のキュベットに細胞浮遊液 400μl、siRNA 50μlを入れ、GenePulser (Bio−Rad) で960μF、 0.2 kVの条件でエレクトロポレーションを行った。室温で1分おいたのち、血清を含む培地を入れたディッシュに播種した。
【0013】
4.脂質滴形成・消滅を見るための実験スケジュール
(i) HepG2は通常の培養条件で多数の脂質滴を持つ。siRNAを導入して2−3日後に検索し、対照siRNAを導入した細胞との比較を行った。
(ii) Balb/cは通常の培養条件では小さい脂質滴があるが、10% FCSの替わりに2−5%リポ蛋白質欠如血清(LPDS)を添加した培地で3−4日間培養することにより、脂質滴はほぼ消滅する。これにsiRNAを導入し、その2日後に0.4 mM オレイン酸(ウシ血清アルブミンとの複合体)又は0.5 mM コレステロール(メチルβシクロデキストリンとの複合体)を添加し、それぞれトリグリセリド又はコレステロールエステルの合成を誘導し、1−2日後に検索した。
(iii) J774.1はsiRNAを導入したのち、10μg/ml lipopolysaccharide (LPS) と1日培養して活性化させ、さらに1日後に100μg/ml アセチル化LDLを添加して泡沫細胞化を誘導した。1−2日後に対照群との差を検索した。
【0014】
5.細胞標識と蛍光顕微鏡観察
カバーガラス上に培養した細胞を緩衝3%ホルムアルデヒド溶液又は3%ホルムアルデヒドと0.1% グルタルアルデヒド混合溶液で固定した。脂質滴をオイルレッドOで染色し、蛍光顕微鏡観察した。Oil red O染色では細胞全体が弱く染色され、脂質滴は特に強く光る丸い構造として認められた。結果はAxiophot2顕微鏡 (Carl Zeiss社)で観察し、CCDカメラ(AxioCam; Carl Zeiss社)で記録した。
【0015】
6.ウエスタンブロッティング
細胞をSDSを含むサンプルバッファーに溶解し、BCA法(Pierce Chemical社)で蛋白質量を定量した。等量の蛋白質をアクリルアミドゲルに泳動し、ニトロセルロース膜に転写したのち、マウス抗ADRP抗体(Progen社、クローンAP125)、ついでパーオキシダーゼ標識ヤギ抗マウス抗体と浸漬し、化学発光法で反応を検出した。
【0016】
7.脂質定量
細胞の全脂質をヘキサン・イソプロパノール(3:2)混合液にて抽出し、窒素気流で乾燥させたのち、適量のイソプロパノールに再溶解した。トリグリセリドはネスコートTGキット(アズウェル)を用いて定量した。フリーコレステロールと全コレステロールはそれぞれコレステロールとオレイン酸コレステロールを標準試料として用い、Heider and Boyettの方法(J. Lipid Res. 19: 514, 1978)により定量した。全コレステロールとフリーコレステロールの差をコレステロールエステル量とした。
【0017】
実施例1
HepG2にsiRNA((1) Control (random), (2) hADRP(130−150), (3) hADRP(211−231), (4) hADRP(347−367), (5) hADRP(379−399), (6) hADRP(451−471), (7) hADRP(457−477), (8) hADRP(727−747), (9) hADRP(735−755), (10) hADRP(998−1018), (11) hADRP(1019−1039), (12) hADRP(1091−1111), (13) hADRP(1094−1114),又は(14) hADRP(1253−1273))を導入し、3日後に細胞を固定し、Oil red Oで染色したサンプルを観察した。部位により染色強度に差異があるため、広い範囲を顕微鏡観察し、代表的な部位の画像を記録した。その画像の一部を図1に示す。細胞全体が赤く染まっているがその中にあって明るく染まっている丸い構造が脂質滴である。
【0018】
Control(random) siRNAを導入した細胞と比較して、Oil red O染色で検出される脂質滴の密度を顕微鏡観察により判定すると、以下の結果となった。
siRNAとして、hADRP(379−399)を用いた場合には、最も顕著に脂質滴が減少した。
siRNAとして、hADRP(1253−1273)を用いた場合には、hADRP(379−399)に次いで脂質滴が減少した。
siRNAとして、hADRP(347−367)又はhADRP(1094−1114)を用いた場合には、脂質滴の減少は認められたが、その程度は上記2点に比べかなり劣ると認められた。
siRNAとして、hADRP(130−150), hADRP(211−231), hADRP(451−471), hADRP(457−477), hADRP(727−747), hADRP(735−755), hADRP(998−1018), hADRP(1019−1039), 又はhADRP(1091−1111)を用いた場合には、脂質滴の減少は特に認められず、Control (random) siRNAと有意の差がなかった。
【0019】
実施例2
通常の培養条件で多数の脂質滴を持つHepG2に対するsiRNA導入の効果について検索した。実施例1で脂質滴の減少が確認されたhADRPの翻訳領域の379−399番目のヌクレオチドを対象とするsiRNA[hADRP(379−399)]を用いて以下の実験を行った。対照群の細胞はControl (random) siRNAを用いて同様に処理した。
siRNA導入後2日目の細胞について、等量の蛋白質を電気泳動し、ウェスタンブロッティングにより、hADRPの発現量を検索した。その結果を図2に示す。hADRP(379−399) siRNAを導入した細胞ではControl (random) siRNAを導入した細胞よりも明らかにhADRPの発現が減弱した。
【0020】
siRNA導入後2、3日目の細胞を固定し、Oil red O染色で脂質滴を染色した。その結果を図3に示す。領域による差異があるものの、hADRP(379−399) siRNA群ではControl (random) siRNA群に比較して有意に脂質滴が少ないことが明らかになった。
すなわち両群とも細胞全体が弱く染色されるが、脂質滴を示す明るく丸い蛍光はControl (random) siRNA群に比較してhADRP(379−399) siRNA群では顕著に少なかった。hADRP(379−399) siRNA群でも脂質滴が多く残る領域が存在したが、同様の領域間の差異はEGFP発現プラスミドなどのcDNAをLipofectamine 2000で導入し、蛋白質の発現を観察した時にも認められた。このことからsiRNAの導入効率を改善すれば更に高度に発現抑制が行えると考えられる。
siRNA導入による脂質エステル(トリグリセリド、コレステロールエステル)の量の変動について検索した。その結果を図4に示す。hADRP(379−399) siRNA群ではトリグリセリド、コレステロールエステルとも有意に減少している。
【0021】
実施例3
本実施例では、LPDSで培養して脂質滴をほぼ消滅させたBalb/cにmADRP(379−399) siRNAを導入した後にオレイン酸又はコレステロールを負荷し、それぞれトリグリセリド、コレステロールエステルを優位に含む脂質滴形成を誘導した。
オレイン酸負荷の結果を図5に、コレステロール負荷の結果を図6に示す。
いずれの場合でも、mADRP(379−399) siRNA群ではControl (random) siRNA群に比較してOil red O染色で強い蛍光を発する脂質滴は有意に少なかった。この方法は脂質滴の新規形成を抑制する効果があること、また脂質滴の内容に関わらず効果のあることが明らかになった。
【0022】
実施例4
本実施例では、マクロファージのモデル細胞であるJ774.1をLPSで活性化し、アセチル化LDLと培養することにより、泡沫細胞化を誘導した。その後、 siRNAを導入して脂質滴形成を誘導した。その結果を図7に示す。
Control (random) siRNA群では全ての細胞にOil red Oで強く染まる脂質滴が見られたが、mADRP(379−399) siRNA群では脂質滴のない細胞集団が認められた。J774.1細胞などマクロファージ系の細胞はLipofectamine 2000などのトランスフェクション試薬による遺伝子導入の効率が悪く、それらの試薬を用いた場合にはsiRNAによる効果も認められなかった。GenePulserによるelectroporationを用いることにより、初めて上記の効果が確認できた。この結果は、mADRP(379−399) siRNAが、動脈硬化の最初の段階に生じるマクロファージの泡沫細胞化を抑制するのに有効であることを示す。
【0023】
【配列表】
【図面の簡単な説明】
【図1】HepG2細胞に各siRNAを導入した代表的な部位の画像を示す図である。各画像の横幅は110μmである。各番号は、(1) Control (random), (2) hADRP(130−150), (3) hADRP(211−231), (4) hADRP(347−367), (5) hADRP(379−399), (6) hADRP(451−471), (7) hADRP(457−477), (8) hADRP(727−747), (10) hADRP(998−1018), (11) hADRP(1019−1039), (13) hADRP(1094−1114), (14) hADRP(1253−1273)を示す。
【図2】siRNA導入後2日目の細胞についてのウェスタンブロッティングを示す図である。右は、siRNA[hADRP(379−399)]、左はControl (random) siRNAを用いた場合を示す。
【図3】siRNA導入後2、3日目の細胞を固定し、Oil red O染色で脂質滴を染色した結果を示す図である。各画像の横幅は138μmである。右は、siRNA[hADRP(379−399)]、左はControl (random) siRNAを用いた場合を示す。
【図4】siRNA導入による脂質エステル(トリグリセリド、コレステロールエステル)の量の変動を示す図である。
【図5】Balb/cにsiRNAを導入した後にオレイン酸を負荷し、脂質滴形成を誘導した結果を示す図である。各画像の横幅は217μmである。右は、siRNA[mADRP(379−399)]、左はControl (random) siRNAを用いた場合を示す。
【図6】Balb/cにsiRNAを導入した後にコレステロールを負荷し、脂質滴形成を誘導した結果を示す図である。各画像の横幅は217μmである。右は、siRNA[mADRP(379−399)]、左はControl (random) siRNAを用いた場合を示す。
【図7】マクロファージのモデル細胞であるJ774.1にsiRNAを導入して脂質滴形成を誘導した結果を示す図である。各画像の横幅は217μmである。右は、siRNA[mADRP(379−399)]、左はControl (random) siRNAを用いた場合を示す。
【発明の属する技術分野】
この発明は、細胞内脂質滴の新規形成を阻害し、既存の細胞内脂質滴を減少又ア消滅させるための手段として、Adipocyte differentiation−related protein (以下「ADRP」という。)の発現をRNA干渉(RNA interference, RNAi)により阻害する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
動脈硬化症、脂肪肝、肥満症などの疾病は、細胞内脂質滴の過剰形成が原因となっていることが知られている(非特許文献1)。
この脂質滴の内容物である脂質エステルの合成酵素阻害剤については、動物個体に投与した場合に種々の副作用が生じることが明らかになり、実用化の目処が立っていない(非特許文献2)。
一方、脂質エステル加水分解酵素を過剰発現させた場合には、脂質エステル合成が高まり、予期された効果が得られないという実験結果が報告されている(非特許文献3)。
また、ADRPは、脂質エステルを貯蔵する機能を有し、脂質滴の構造形成及び維持に必要な分子であることが知られており(非特許文献4)、その発現が脂質滴の形成を促すことも知られている(非特許文献5)。そのため、ヒトADRPをコードするオリゴヌクレオチドに対するアンチセンス分子を用いて、ヒトADRPの発現を抑制し、その発現が関係する肥満症などの治療を行う方法が開示されている(特許文献1)。
【0003】
【非特許文献1】
D. J. Murphy, Progress in Lipid Research, 40: 325−438, 2001
【非特許文献2】
K. K. Buhman et al., The Journal of Biological Chemistry, 276: 40369−40372, 2001
【非特許文献3】
J.−L. Escary et al., Journal of Lipid Research, 40: 397−404, 1999
【非特許文献4】
D. L. Brasaemle et al., Journal of Lipid Research, 38: 2249−2263, 1997
【非特許文献5】
Imamura et al., American Journal of Physiology−Endocrinology and Metabolism, 283: E775−E783, 2002.
【特許文献1】
特表2001−506850 (WO98/26067)
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、ADRPの発現を効果的に阻害する手段を提供する。これにより、従来の脂質エステルの合成と加水分解の過程によらずに、細胞内脂質滴の新規形成を阻害し、既存の細胞内脂質滴を減少又は消滅させることができる。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、RNAiを用いてADRPの発現を阻害するために最適化されたオリゴヌクレオチドを見出し、本発明を完成させるに至った。
即ち、本発明は、配列番号1(ヒトADRP遺伝子)又は配列番号2(マウスADRP遺伝子)の塩基配列の347〜399又は1094〜1273において連続する21個の塩基配列を含む21〜23個の塩基配列に相当するオリゴリボヌクレオチド、その相補的オリゴリボヌクレオチド、又はこれらから成る2本鎖RNAである。
【0006】
この連続する21個の塩基配列として、好ましくは配列番号1(ヒトADRP遺伝子)又は配列番号2(マウスADRP遺伝子)の塩基配列の347〜367、379〜399、1094〜1114、又は1253〜1273の塩基配列であり、最も好ましくは379〜399の塩基配列である。
また本発明は、上記のいずれかのオリゴリボヌクレオチド、その相補的オリゴリボヌクレオチド、又はこれらから成る2本鎖RNAを、ヒト又はマウスの細胞へ導入することから成る、該細胞におけるADRP遺伝子の発現を抑制する方法である。
更に本発明は、上記のいずれかのオリゴリボヌクレオチド、その相補的オリゴリボヌクレオチド、又はこれらから成る2本鎖RNAを、ヒト又はマウスの生体細胞へ導入することから成る、動脈硬化症、脂肪肝、肥満症などの脂質滴が過剰に形成され、ADRP遺伝子の過剰発現が見られる疾病の治療又は予防方法である。
【0007】
【発明の実施の形態】
ADRP(Adipocyte differentiation−related protein、脂肪分化関連タンパク質)は、脂肪細胞の分化時にその発現が認められ、脂質滴に特異的に局在するタンパク質であり(非特許文献4)、その発現が脂質滴の形成を促す(非特許文献5)。
本発明はRNA干渉法により細胞内におけるADRPの発現を抑制しようとするものである。RNA干渉法は標的RNAに特異的な21〜23塩基のRNA断片(siRNA)を細胞、特に細胞質に導入すると、このRNA断片がmRNAに結合してmRNAの翻訳を阻害すると考えられている(N Engl J Med 2002; 347:1364)。この標的RNAは標的遺伝子の転写により生ずるmRNAである。
このRNA断片としては、標的RNAのセンス又はアンチセンスのものでもよいが、これらはRNaseで容易に分解され,また効果が劣ると考えられるため、これらから成る2本鎖RNAが好ましく用いられる。この2本鎖RNAは通常センスとアンチセンスの2本を別々に合成し,それをハイブリダイズさせて2本鎖にして用いられる。
【0008】
このRNA断片の長さは21〜23塩基が有効と考えられているが、一般には21塩基のものが好ましく使われ、後述の実施例においても21塩基のもので有効に機能している。但し、なぜこの範囲のものが有効であるかはまだ十分には解明されていない。
本発明においては対象とする細胞はヒトとマウスである。
これらのADRP遺伝子の特定の塩基配列に「相当する」オリゴリボヌクレオチドとは、この遺伝子が転写されて生成するmRNAの、ADRP遺伝子の特定の塩基配列に相当する部分に相補的なRNAという意味であり、具体的にはこのADRP遺伝子の特定のDNA配列のTをUに置き換えたもという意味である。
RNA断片を細胞に導入する方法については、特に制限はなく、リポソーム等に基づく市販のトランスフェクション試薬を用いるのが簡便である。この方法以外にも、エレクトロポレーション、マイクロインジェクション法などの方法を用いてもよい。最近、マウスの尾静脈から単にsiRNAだけを注入することによって、肝臓での遺伝子発現が低下したという報告がある(E. Song et al., Nature Medicine, 9: 347−351, 2003)。
【0009】
【実施例】
以下、実施例にて本発明を例証するが、本発明を限定することを意図するものではない。
本実施例においては以下の方法を用いた。
1.細胞の調整
ヒトHepG2、マウスBalb/c 3T3、及びマウスJ774.1を用いた。HepG2は通常の培養条件で脂質滴を有するため、既存の脂質滴に対する効果を調べる目的で用いた。またヒト肝臓由来の細胞であるHepG2は、本発明の応用の対象として想定される脂肪肝に対する効果を培養細胞レベルで確かめるモデル系としても重要である。Balb/cは培養条件により脂質滴をほとんど消滅させることができるため、脂質滴の新規形成を調べるために用いた。J774.1はマクロファージ由来であり、動脈硬化の初期に動脈壁で生ずる泡沫細胞形成のモデルとして用いた。
HepG2、 Balb/c 3T3はDulbecco’s modification of Eagles minimum essential medium (DME)に10% ウシ胎児血清(FCS)と抗生物質(ペニシリン、ストレプトマイシン)を添加した培地で培養した。J774.1はRPMI1640に10% FCSと抗生物質を添加した培地で培養した。
【0010】
2.siRNA (small interfering RNA) の作製
ヒトADRP(以下「hADRP」という。配列番号1)及びマウスADRP(以下「mADRP」という。配列番号2)の配列にあわせて設計したカスタムオリゴヌクレオチド(インビトロジェン社製)をテンプレートとし、Silencer siRNA construction kit(Ambion社)のマニュアルに従ってsiRNA(2本鎖RNA)を合成した。siRNAの濃度は吸光度で測定して 10μMになるように調整し、アクリルアミドゲルに泳動して長さのチェックを行った。
hADRPについて作製したsiRNA(2本鎖RNA)の対象配列は以下のとおりである。(なお、カッコ内はそれぞれhADRP(配列番号1)又はmADRP(配列番号2)の配列中の対応する位置を示す。)
【0011】
hADRP(130−150) AAGUCUGUGUGUGAGAUGGCA (配列番号3)
hADRP(211−231) AAGCUAGAGCCGCAAAUUGCA (配列番号4)
hADRP(347−367) AAGAUGCUGUGACGACUACUG (配列番号5)
hADRP(379−399) AAGGAUUCUGUGGCCAGCACG (配列番号6)
hADRP(451−471) AAGACCAAGUCUGUGGUCAGU (配列番号7)
hADRP(457−477) AAGUCUGUGGUCAGUGGCAGC (配列番号8)
hADRP(727−747) AAGCAAAAAAGCCAACAGACC (配列番号9)
hADRP(735−755) AAGCCAACAGACCAUUUCUCA (配列番号10)
hADRP(998−1018) AAGGUGUACCACAGAACAUCC (配列番号11)
hADRP(1019−1039) AAGAUCAAGCCAAGCACAUGG (配列番号12)
hADRP(1091−1111) AAGAAGUGUCUGACAGCCUCC (配列番号13)
hADRP(1094−1114) AAGUGUCUGACAGCCUCCUCA (配列番号14)
hADRP(1253−1273) AAGGUGCAGAGAUGGACAAGA (配列番号15)
mADRPについて作製したsiRNAの対象配列は以下のとおりである。
mADRP(379−399) AAGGAUUCUGUAGCCAGCACA (配列番号16)
この配列について、ヌクレオチド配列をランダムに並べ替え、データベースに登録された他の遺伝子の配列に一致しないものを用い、対照実験用のsiRNAを作製した。
Control (random) ACCAGCGAUUUCUAAGAGACG (配列番号17)
【0012】
3.細胞へのsiRNAの導入
(i) HepG2及びBalb/cについて
導入前日に抗生物質抜きの培地に継代した。導入はLipofectamine 2000 (Invitrogen社) にて行った。35 mm dishで2 mlの培地中に培養した細胞の場合、24 μl siRNA (10μM濃度)と4 μl Lipofectamine 2000をそれぞれ200 μlのOpti−MEM (Invitrogen社) に希釈し、両者を混合したのち培地に添加した。なおsiRNAの最適量については、予備実験にて比較を行い、上記の量で最大の効果が得られることを確認した。
(ii) J774.1について
トリプシン処理でディッシュから剥離し、血清を含まないRPMI1640に3 x 106/ mlの密度になるように浮遊させた。0.4 cm幅のキュベットに細胞浮遊液 400μl、siRNA 50μlを入れ、GenePulser (Bio−Rad) で960μF、 0.2 kVの条件でエレクトロポレーションを行った。室温で1分おいたのち、血清を含む培地を入れたディッシュに播種した。
【0013】
4.脂質滴形成・消滅を見るための実験スケジュール
(i) HepG2は通常の培養条件で多数の脂質滴を持つ。siRNAを導入して2−3日後に検索し、対照siRNAを導入した細胞との比較を行った。
(ii) Balb/cは通常の培養条件では小さい脂質滴があるが、10% FCSの替わりに2−5%リポ蛋白質欠如血清(LPDS)を添加した培地で3−4日間培養することにより、脂質滴はほぼ消滅する。これにsiRNAを導入し、その2日後に0.4 mM オレイン酸(ウシ血清アルブミンとの複合体)又は0.5 mM コレステロール(メチルβシクロデキストリンとの複合体)を添加し、それぞれトリグリセリド又はコレステロールエステルの合成を誘導し、1−2日後に検索した。
(iii) J774.1はsiRNAを導入したのち、10μg/ml lipopolysaccharide (LPS) と1日培養して活性化させ、さらに1日後に100μg/ml アセチル化LDLを添加して泡沫細胞化を誘導した。1−2日後に対照群との差を検索した。
【0014】
5.細胞標識と蛍光顕微鏡観察
カバーガラス上に培養した細胞を緩衝3%ホルムアルデヒド溶液又は3%ホルムアルデヒドと0.1% グルタルアルデヒド混合溶液で固定した。脂質滴をオイルレッドOで染色し、蛍光顕微鏡観察した。Oil red O染色では細胞全体が弱く染色され、脂質滴は特に強く光る丸い構造として認められた。結果はAxiophot2顕微鏡 (Carl Zeiss社)で観察し、CCDカメラ(AxioCam; Carl Zeiss社)で記録した。
【0015】
6.ウエスタンブロッティング
細胞をSDSを含むサンプルバッファーに溶解し、BCA法(Pierce Chemical社)で蛋白質量を定量した。等量の蛋白質をアクリルアミドゲルに泳動し、ニトロセルロース膜に転写したのち、マウス抗ADRP抗体(Progen社、クローンAP125)、ついでパーオキシダーゼ標識ヤギ抗マウス抗体と浸漬し、化学発光法で反応を検出した。
【0016】
7.脂質定量
細胞の全脂質をヘキサン・イソプロパノール(3:2)混合液にて抽出し、窒素気流で乾燥させたのち、適量のイソプロパノールに再溶解した。トリグリセリドはネスコートTGキット(アズウェル)を用いて定量した。フリーコレステロールと全コレステロールはそれぞれコレステロールとオレイン酸コレステロールを標準試料として用い、Heider and Boyettの方法(J. Lipid Res. 19: 514, 1978)により定量した。全コレステロールとフリーコレステロールの差をコレステロールエステル量とした。
【0017】
実施例1
HepG2にsiRNA((1) Control (random), (2) hADRP(130−150), (3) hADRP(211−231), (4) hADRP(347−367), (5) hADRP(379−399), (6) hADRP(451−471), (7) hADRP(457−477), (8) hADRP(727−747), (9) hADRP(735−755), (10) hADRP(998−1018), (11) hADRP(1019−1039), (12) hADRP(1091−1111), (13) hADRP(1094−1114),又は(14) hADRP(1253−1273))を導入し、3日後に細胞を固定し、Oil red Oで染色したサンプルを観察した。部位により染色強度に差異があるため、広い範囲を顕微鏡観察し、代表的な部位の画像を記録した。その画像の一部を図1に示す。細胞全体が赤く染まっているがその中にあって明るく染まっている丸い構造が脂質滴である。
【0018】
Control(random) siRNAを導入した細胞と比較して、Oil red O染色で検出される脂質滴の密度を顕微鏡観察により判定すると、以下の結果となった。
siRNAとして、hADRP(379−399)を用いた場合には、最も顕著に脂質滴が減少した。
siRNAとして、hADRP(1253−1273)を用いた場合には、hADRP(379−399)に次いで脂質滴が減少した。
siRNAとして、hADRP(347−367)又はhADRP(1094−1114)を用いた場合には、脂質滴の減少は認められたが、その程度は上記2点に比べかなり劣ると認められた。
siRNAとして、hADRP(130−150), hADRP(211−231), hADRP(451−471), hADRP(457−477), hADRP(727−747), hADRP(735−755), hADRP(998−1018), hADRP(1019−1039), 又はhADRP(1091−1111)を用いた場合には、脂質滴の減少は特に認められず、Control (random) siRNAと有意の差がなかった。
【0019】
実施例2
通常の培養条件で多数の脂質滴を持つHepG2に対するsiRNA導入の効果について検索した。実施例1で脂質滴の減少が確認されたhADRPの翻訳領域の379−399番目のヌクレオチドを対象とするsiRNA[hADRP(379−399)]を用いて以下の実験を行った。対照群の細胞はControl (random) siRNAを用いて同様に処理した。
siRNA導入後2日目の細胞について、等量の蛋白質を電気泳動し、ウェスタンブロッティングにより、hADRPの発現量を検索した。その結果を図2に示す。hADRP(379−399) siRNAを導入した細胞ではControl (random) siRNAを導入した細胞よりも明らかにhADRPの発現が減弱した。
【0020】
siRNA導入後2、3日目の細胞を固定し、Oil red O染色で脂質滴を染色した。その結果を図3に示す。領域による差異があるものの、hADRP(379−399) siRNA群ではControl (random) siRNA群に比較して有意に脂質滴が少ないことが明らかになった。
すなわち両群とも細胞全体が弱く染色されるが、脂質滴を示す明るく丸い蛍光はControl (random) siRNA群に比較してhADRP(379−399) siRNA群では顕著に少なかった。hADRP(379−399) siRNA群でも脂質滴が多く残る領域が存在したが、同様の領域間の差異はEGFP発現プラスミドなどのcDNAをLipofectamine 2000で導入し、蛋白質の発現を観察した時にも認められた。このことからsiRNAの導入効率を改善すれば更に高度に発現抑制が行えると考えられる。
siRNA導入による脂質エステル(トリグリセリド、コレステロールエステル)の量の変動について検索した。その結果を図4に示す。hADRP(379−399) siRNA群ではトリグリセリド、コレステロールエステルとも有意に減少している。
【0021】
実施例3
本実施例では、LPDSで培養して脂質滴をほぼ消滅させたBalb/cにmADRP(379−399) siRNAを導入した後にオレイン酸又はコレステロールを負荷し、それぞれトリグリセリド、コレステロールエステルを優位に含む脂質滴形成を誘導した。
オレイン酸負荷の結果を図5に、コレステロール負荷の結果を図6に示す。
いずれの場合でも、mADRP(379−399) siRNA群ではControl (random) siRNA群に比較してOil red O染色で強い蛍光を発する脂質滴は有意に少なかった。この方法は脂質滴の新規形成を抑制する効果があること、また脂質滴の内容に関わらず効果のあることが明らかになった。
【0022】
実施例4
本実施例では、マクロファージのモデル細胞であるJ774.1をLPSで活性化し、アセチル化LDLと培養することにより、泡沫細胞化を誘導した。その後、 siRNAを導入して脂質滴形成を誘導した。その結果を図7に示す。
Control (random) siRNA群では全ての細胞にOil red Oで強く染まる脂質滴が見られたが、mADRP(379−399) siRNA群では脂質滴のない細胞集団が認められた。J774.1細胞などマクロファージ系の細胞はLipofectamine 2000などのトランスフェクション試薬による遺伝子導入の効率が悪く、それらの試薬を用いた場合にはsiRNAによる効果も認められなかった。GenePulserによるelectroporationを用いることにより、初めて上記の効果が確認できた。この結果は、mADRP(379−399) siRNAが、動脈硬化の最初の段階に生じるマクロファージの泡沫細胞化を抑制するのに有効であることを示す。
【0023】
【配列表】
【図面の簡単な説明】
【図1】HepG2細胞に各siRNAを導入した代表的な部位の画像を示す図である。各画像の横幅は110μmである。各番号は、(1) Control (random), (2) hADRP(130−150), (3) hADRP(211−231), (4) hADRP(347−367), (5) hADRP(379−399), (6) hADRP(451−471), (7) hADRP(457−477), (8) hADRP(727−747), (10) hADRP(998−1018), (11) hADRP(1019−1039), (13) hADRP(1094−1114), (14) hADRP(1253−1273)を示す。
【図2】siRNA導入後2日目の細胞についてのウェスタンブロッティングを示す図である。右は、siRNA[hADRP(379−399)]、左はControl (random) siRNAを用いた場合を示す。
【図3】siRNA導入後2、3日目の細胞を固定し、Oil red O染色で脂質滴を染色した結果を示す図である。各画像の横幅は138μmである。右は、siRNA[hADRP(379−399)]、左はControl (random) siRNAを用いた場合を示す。
【図4】siRNA導入による脂質エステル(トリグリセリド、コレステロールエステル)の量の変動を示す図である。
【図5】Balb/cにsiRNAを導入した後にオレイン酸を負荷し、脂質滴形成を誘導した結果を示す図である。各画像の横幅は217μmである。右は、siRNA[mADRP(379−399)]、左はControl (random) siRNAを用いた場合を示す。
【図6】Balb/cにsiRNAを導入した後にコレステロールを負荷し、脂質滴形成を誘導した結果を示す図である。各画像の横幅は217μmである。右は、siRNA[mADRP(379−399)]、左はControl (random) siRNAを用いた場合を示す。
【図7】マクロファージのモデル細胞であるJ774.1にsiRNAを導入して脂質滴形成を誘導した結果を示す図である。各画像の横幅は217μmである。右は、siRNA[mADRP(379−399)]、左はControl (random) siRNAを用いた場合を示す。
Claims (4)
- 配列番号1(ヒトADRP遺伝子)又は配列番号2(マウスADRP遺伝子)の塩基配列の347〜399又は1094〜1273において連続する21個の塩基配列を含む21〜23個の塩基配列に相当するオリゴリボヌクレオチド、その相補的オリゴリボヌクレオチド、又はこれらから成る2本鎖RNA。
- 配列番号1(ヒトADRP遺伝子)又は配列番号2(マウスADRP遺伝子)の塩基配列の347〜367、379〜399、1094〜1114、又は1253〜1273の塩基配列を含む21〜23個の塩基配列に相当するオリゴリボヌクレオチド、その相補的オリゴリボヌクレオチド、又はこれらから成る2本鎖RNA。
- 配列番号1(ヒトADRP遺伝子)又は配列番号2(マウスADRP遺伝子)の塩基配列の379〜399の塩基配列に相当するオリゴリボヌクレオチド、その相補的オリゴリボヌクレオチド、又はこれらから成る2本鎖RNA。
- 請求項1〜3のいずれか一項に記載のオリゴリボヌクレオチド、その相補的オリゴリボヌクレオチド、又はこれらから成る2本鎖RNAを、ヒト又はマウスの細胞へ導入することから成る、該細胞におけるADRP遺伝子の発現を抑制する方法。
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JP2003166119A JP2005000052A (ja) | 2003-06-11 | 2003-06-11 | Adrp遺伝子の発現を抑制するオリゴヌクレオチド及び方法 |
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Cited By (1)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
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WO2008100627A3 (en) * | 2007-02-16 | 2008-10-09 | Wyeth Corp | The secreted protein ccdc80 regulates adipocyte differentiation |
-
2003
- 2003-06-11 JP JP2003166119A patent/JP2005000052A/ja not_active Withdrawn
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WO2008100627A3 (en) * | 2007-02-16 | 2008-10-09 | Wyeth Corp | The secreted protein ccdc80 regulates adipocyte differentiation |
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