JP2004537310A - インスリン遺伝子の5’隣接領域のアリル異型に基づく肥満の危険性を評価する方法 - Google Patents
インスリン遺伝子の5’隣接領域のアリル異型に基づく肥満の危険性を評価する方法 Download PDFInfo
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Abstract
本発明は父系のインスリンVNTRクラスを調べることによって、被験者の糖尿病発症危険性を決定する方法を特徴とする。さらに本発明は、肥満患者の合理的な治療および維持を促進する方法を提供する。
Description
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は肥満の診断および治療方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
理由はほぼ不明であるが、就学前児童の肥満は急速に増加している(1)。人生のごく初期に過剰な脂肪が蓄積するのは、代謝およびホルモン現象が脂肪細胞の分化、増殖、および脂肪蓄積に影響を与えるためである。インスリンは、出生後の初期における、脂肪癒着およびグルコースからの中性脂肪合成の強力な調節物質である(2) 。インスリン遺伝子(INS)の調節領域内の配列の変化は、小児においてインスリン分泌に影響を与えることが最近示された(3)。具体的には、INSの5’領域の多型ミニサテライトは、INSおよび付近のインスリン様成長因子2 (IGF2)遺伝子の発現に影響する(4、5)。胎児期には、ゲノム刷り込みがこれらの2つのヒト遺伝子に影響を与え、父系アリルに限定された発現がある。したがって、父系と母系のタンデム反復数のVNTR-INS-IGF2ハロタイプの役割は、この時期には同等ではない(6)。
【0003】
白人のINS VNTRアリルは、主に2つの長さのグループに分類される:クラスI (26〜63反復)およびクラスIII (141〜209反復)である。クラスIアリルは、胎児の膵臓でのINS (7、8)、胎盤でのIGF2遺伝子(9)の発現の上昇を伴う。異なる対照および糖尿病群を用いたいくつかの研究で、この遺伝子座で親子間のメンデル遺伝の確率からの逸脱が観察された。いくつかの白人群において、EavesらはI/III異型接合の両親から健康な小児に対してクラスIアリルが、わずかではあるが有意に過剰に伝えられることを示した(10)。この遺伝のひずみは、親の特定の性別に特異的ではなく、過剰な伝達に対して由来する親の証拠は示されなかった。しかし、2つの研究で、1型(T1D)または2型(T2D)糖尿病の小児に対してVNTRアリルが由来する親に依存して歪んで遺伝することが示された。Bennettらは、自己免疫性T1Dの患者へ、父親からクラスIアリルが過剰に伝達されることを示した(11)。これとは対照的に、最近Huxtableらは、T2D患者に対して父親からクラスIIIアリルが過剰に伝達されることを報告した(12)。III/IIIの同型接合の個体のT2Dの発症危険性が上昇していることを考えると、この所見は特に興味深い(11)。
【0004】
肥満と糖尿病は、工業化社会で最も広く見られる健康問題である。工業化諸国では、人口の3分の1が少なくとも20%過体重である。米国では、肥満人口は70年代末の25%から90年代初期の33%までに増加した。肥満はNIDDMの最も重要な危険因子の1つである。肥満の定義には色々あるが、一般に、身長と体格を考慮した推奨体重よりも少なくとも20%超過すると肥満と考えられる。30%体重超過するとNIDDMの発症危険性は3倍になり、NIDDM患者の4分の3は過体重である。
【0005】
摂取カロリーとエネルギー消費の間の不均衡の結果である肥満は、実験動物およびヒトにおいて、インスリン抵抗性および糖尿病と高い相関がある。しかし、肥満・糖尿病症候群に関与する分子機構は明らかではない。肥満の初期段階では、インスリン分泌の上昇がインスリン抵抗性とつり合い、患者の高血糖を予防する(Le Stunffら、Diabetes. 43、696-702 (1994))。しかし、数十年すると、β細胞の機能が低下し、肥満人口の約20%でインスリン非依存型糖尿病が発症する(Pedersen, P.、Diab. Metab. Rev. 5、505-509 (1989))および(Brancati, F.L.ら、Arch Intern Med. 159、957-963 (1999))。現代社会に肥満が多いことを考慮すると、肥満はNIDDMの最大の危険性になっている(Hill, J.O.ら、Science. 280、1371-1374 (1998))。しかし、患者の一部が、脂肪の蓄積に応答してインスリン分泌の変化を生じることの素因になる要素は不明である。
【0006】
肥満は心血管疾患の発症危険性も上昇させる。冠不全、アテローム疾患、および心不全は、肥満によって誘導される心血管合併症の中心である。全人口が理想体重を保っていたら、冠不全の危険性は25%低下し、心不全と脳血管発作の危険性は35%低下すると見られている。30%過体重の50歳未満の被験者では、冠動脈疾患の発症率は、倍になる。糖尿病患者の寿命は30%低下している。45歳以降では、糖尿病患者は非糖尿病患者よりも、重大な心疾患を持つ可能性が約3倍、脳卒中の可能性が5倍までになる可能性がある。これらの所見は、NIDDMと冠動脈性心疾患の危険因子の間の相関、および肥満予防に基づいてこのような状態を予防する統合的な手法の潜在的価値を強調するものである(Perry, I.J.ら、BMJ. 310、560-564 (1995))。
【0007】
肥満に関連する変異および遺伝子の検出が進んでいるにもかかわらず、肥満はヒトの健康に対して有害な影響を与え続けている。
【0008】
文献
【発明の開示】
【0009】
発明の概要
本発明は、個体のインスリンVNTRアリル、特に父系のVNTRアリルを決定することによって、肥満の発症危険性を決定する方法を特徴とする。関連する局面では、本発明は肥満になりやすい個人の合理的な治療および維持を促進する方法を特徴とする。
【0010】
本発明の特徴
本発明は、個人の肥満発症危険性を決定する方法を特徴とする。本方法では、一般に個人において父系のインスリンVNTRアリルを決定することを含む。父系のインスリンVNTRクラスIアリルが存在すれば、父系のインスリンVNTRクラスIIIアリルを持つ個体と比較して、その個体が肥満を発症する危険性が約2倍に上昇していることを示す。任意の方法を用いて個体においてインスリンVNTRの遺伝子型同定を行い、それによって父系のインスリンVNTRアリルを決定することができる。いくつかの態様では、決定は個体のインスリンVNTRと連鎖不平衡にある少なくとも1つのマーカーの多型塩基のアイデンティティを決定することによって、行われる。特定の態様では、マーカーは-23 HphIである。
【0011】
さらに本発明は、個体の肥満および関連する疾患を治療する方法も特徴とする。本方法では一般に、本発明に係る方法によって肥満を発症する危険性があると同定された個体において、減量または体重制限療法を行なうことによって、個体の肥満を治療することが含まれる。いくつかの態様では、減量療法は、食事制限、カロリー消費の増加、胃腸管手術、薬物療法、および食物脂質の吸収低下からなる群より選択される。
【0012】
さらに本発明は、個体が肥満関連疾患を発症する危険性を低下させる方法も特徴とする。本方法では一般に、本発明に係る方法によって肥満を発症する危険性があると同定された個体において、減量または体重制限療法を行なうことによって、個体が肥満関連疾患を発症する危険性を低下させることを含む。
【0013】
定義
本発明を詳細に説明する前に、本発明を説明するために使用する用語の意味および範囲を説明および定義するために、以下の定義を定める。
【0014】
本明細書で使用される「インスリン遺伝子」という用語は、ゲノムDNAの非翻訳調節領域を含め、ポリペプチドホルモンインスリンをコードするゲノム、mRNA、およびcDNA配列を含む。
【0015】
「単離された」という用語は、その物質が元の環境(例えば、天然に存在するもの場合には、天然の環境)から除去されていることを必要とする。例えば、生きている動物中に存在する天然のポリヌクレオチドまたはポリペプチドは単離されていないが、同じポリヌクレオチドまたはDNAまたはポリペプチドが天然系において共存する物質の一部または全てから分離されている場合には、単離されている。そのようなポリヌクレオチドはベクターの一部、および/またはそのようなポリヌクレオチドまたはポリペプチドは組成物の一部であっても、ベクターまたは組成物がその天然環境の一部ではないという点で、やはり単離されているといえる。
【0016】
「単離された」という用語は、さらにその物質が元の環境(例えば、天然に存在するもの場合には、天然の環境)から除去されていることを必要とする。例えば、生きている動物中に存在する天然のポリヌクレオチドは単離されていないが、同じポリヌクレオチドが天然系において共存する物質の一部または全てから分離されている場合には、単離されている。インビトロ核酸調製物またはトランスフェクト/形質転換された宿主細胞調製物として存在する、天然に存在する染色体(染色体スプレッド(spread)など)、人工染色体ライブラリー、ゲノムライブラリー、およびcDNAライブラリーで、宿主細胞がインビトロの不均一調製物であるか、単一コロニーの不均一集団として播種されたものは、「単離された」という定義から特に除外される。また、本発明の特定のポリヌクレオチドが、ベクター分子中の核酸挿入断片の数の5%未満である上述ライブラリーも特に除外される。さらに全細胞ゲノムDNAまたは全細胞RNA調製物(機械的剪断または酵素消化した全細胞調製物を含む)も、除外される。さらに、インビトロ調製物または電気泳動(そのブロットトランスファーを含む)によって分離された不均一混合物としての上述の全細胞調製物で、本発明のポリヌクレオチドが電気泳動媒体中の不均一ポリヌクレオチドからさらに分離(例えば、アガロースゲルまたはナイロンブロット中の不均一バンド群から単一のバンドを切り出すことによるさらなる分離)されていないものも、除外される。
【0017】
「精製された」という用語は、絶対的純度を必要とはせず、むしろ、相対的な定義である。開始物質または天然物質の、少なくとも1桁、好ましくは2〜3桁、およびさらに好ましくは4桁または5桁の精製が、予期されている。例えば、濃度0.1%から濃度10%への精製は、2桁の精製である。本明細書では「精製ポリヌクレオチド」という用語は、他の核酸、炭化水素、脂質、および蛋白質(ポリヌクレオチドの合成に使用された酵素など)を含むがこれらに限定されない他の化合物から分離された、本発明のポリヌクレオチドまたはポリヌクレオチドベクター、または線状ポリヌクレオチドからの共有結合で閉じたポリヌクレオチドの分離を指す。試料の少なくとも50%、好ましくは60〜75%が単一のポリヌクレオチド配列および構造(線状か共有結合で閉じているか)を示す場合に、ポリヌクレオチドは実質的に純粋である。実質的に純粋なポリヌクレオチドは、典型的には核酸試料の約50%w/w、好ましくは60〜90%w/w、より普通には約95%、および好ましくは約99%超、純粋である。ポリヌクレオチドの純度および均一性は、試料のアガロースまたはポリアクリルアミドゲル電気泳動後にゲル染色で単一ポリヌクレオチドバンドを可視化することなど、当技術分野で周知のいくつもの手段により、示される。特定の目的のためには、HPLCまたは当技術分野で周知の他の手段を用いて、より高い解像度が提供できる。
【0018】
「ポリペプチド」という用語は、ポリマーの長さには関わらず、アミノ酸のポリマーを指す。したがって、ペプチド、オリゴペプチド、および蛋白質がポリペプチドの定義には含まれる。この用語は、ポリペプチドの発現後修飾を指定または排除しない。例えば、グリコシル基、アセチル基、リン酸基、脂質基等の共有結合を含むポリペプチドは、ポリペプチドという用語に明らかに含まれる。また、アミノ酸類似体(例えば、非天然アミノ酸、無関係の生物系にのみ存在するアミノ酸、哺乳類系由来の修飾アミノ酸等を含む)、結合が置換されたポリペプチド、ならびに天然および非天然の当技術分野で周知の他の修飾を1つまたは複数含むポリペプチドも、この定義に含まれる。
【0019】
本明細書で使用される「組換えポリペプチド」という用語は、もとの天然環境では隣接するポリペプチド配列としては見られない、少なくとも2つのポリペプチド配列を含む、人工的に設計されたポリペプチドを指すか、組換えポリヌクレオチドから発現されたポリペプチドを指す。
【0020】
本明細書で使用される「精製ポリペプチド」という用語は、核酸、脂質、炭化水素、および他の蛋白質を含むがこれらに限定されない他の成分から分離された本発明のポリペプチドを指す。ポリペプチドは、試料の少なくとも約50%、好ましくは60〜75%が単一のポリペプチド配列を示す場合に、実質的に純粋である。実質的に純粋なポリペプチドは、典型的には蛋白質試料の約50%w/w、好ましくは60〜90%w/w、より普通には約95%、および好ましくは約99%を超える割合で、純粋である。ポリペプチドの純度および均一性は、試料のポリアクリルアミドゲル電気泳動後にゲル染色で単一ポリペプチドバンドを可視化することなど、当技術分野で周知のいくつもの手段により、示される。特定の目的のためには、HPLCまたは当技術分野で周知の他の手段を用いて、より高い解像度が提供できる。
【0021】
本明細書全体を通して「ヌクレオチド配列」という表現は、ポリヌクレオチドまたは核酸を指すために区別なく使用される。より正確には、「ヌクレオチド配列」という表現は、核酸物質自身を含み、特定のDNAまたはRNA分子を生化学的に特徴づける配列情報(4つの塩基文字から選択された文字の並び)に限定されない。
【0022】
本明細書では互換的に使用される「核酸」、「オリゴヌクレオチド」、および「ポリヌクレオチド」という用語は、一本鎖または二本鎖の形の、1ヌクレオチドを超えるRNA、DNA、またはRNA/DNAハイブリッド配列を含む。本明細書で使用される「ヌクレオチド」という用語は、一本鎖または二本鎖の形の任意の長さのRNA、DNA、またはRNA/DNAハイブリッド配列を含む分子を記述する形容詞である。本明細書では「ヌクレオチド」という用語は、個々のヌクレオチドまたはヌクレオチド変種を指す名詞としても使用され、プリンまたはピリミジン、リボースまたはデオキシリボース糖部分、およびリン酸基、またはオリゴヌクレオチドもしくはポリヌクレオチド内のヌクレオチドの場合にはリン酸ジエステル結合を含む、より大きな核酸分子中の個々のユニット、または1つの分子を意味する。しかしながら「ヌクレオチド」という用語は本明細書では、少なくとも1つの修飾、(a) 別の結合基、(b) プリンの類似型、(c) ピリミジンの類似型、または (d) 糖類似体を含む「修飾ヌクレオチド」を含む。結合基、プリン、ピリミジン、および糖の類似体の例は、国際公開公報第95/04064号参照。本発明のポリヌクレオチド配列は、合成、組換え、エクスビボ生成、またはその組み合せを含む任意の既知の方法、ならびに当技術分野で周知の任意の精製方法を用いて調製できる。
【0023】
「プロモーター」は遺伝子の特異的転写を開始するために必要な、細胞の合成機構によって認識されるDNA配列を指す。
【0024】
プローモーターのような調節配列に「機能的に連結した」配列は、調節配列がRNAポリメラーゼ開始および対象核酸の発現を制御するために、核酸に対して正しい位置および方向にあることを意味する。
【0025】
本明細書で使用される場合、「機能的に連結した」という用語は、機能的な関係にあるポリヌクレオチド要素の連結を指す。例えば、プロモーターまたはエンハンサーは、それがコード配列の転写に影響を与える場合に、そのコード配列に機能的に連結している。より正確には、2つのDNA分子(プロモーター領域を含むポリヌクレオチドおよび所望のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドまたはポリヌクレオチド)は、2つのポリヌクレオチドの連結の性質が、(1) フレームシフト変異を導入しない、または (2) プロモーターを含むポリヌクレオチドの、コードしているポリヌクレオチドの転写を指示する能力に干渉しない場合に、「機能的に連結している」と言われる。
【0026】
「プライマー」という用語は、標的ヌクレオチド配列に相補的で、標的ヌクレオチド配列にハイブリダイズするために使用される、特異的なオリゴヌクレオチド配列を指す。プライマーは、DNAポリメラーゼ、RNAポリメラーゼ、または逆転写酵素によって触媒されるヌクレオチド重合の開始点となる。
【0027】
「プローブ」という用語は、試料中に存在する特異的なポリヌクレオチド配列を同定するために使用できる定義された核酸セグメント(またはヌクレオチド類似体セグメント、例えば、本明細書で定義されるポリヌクレオチド)で、同定され特異的なポリヌクレオチド配列に相補的なヌクレオチド配列を持つ核酸セグメントを指す。
【0028】
「形質」および「表現型」という用語は本明細書では互換的に使用され、例えば疾病の症状または感受性のような、生物体の任意の可視的、検出可能、または測定可能な性質を指す。本明細書では「形質」または「表現型」という用語は、疾病の症状またはその感受性、治療に対する有益な応答またはその副作用を指す。好ましくは、形質は、肥満関連の疾病および/または真性糖尿病であるが、これらに限定されない。
【0029】
本明細書では「アリル」という用語は、ヌクレオチド配列の変種を指す。2アリル性の多型には、2つの形がある。二倍体生物は、アリルの形について、同型接合または異型接合であり得る。
【0030】
本明細書では「異型接合率」という用語は、集団中で、特定のアリルが異型接合である個体の出現率を指す。2アリル系では、異型接合率は平均で2Pa(1-Pa)に等しく、ここでPaは少ない方の共通のアリルの頻度である。遺伝子マーカーは、遺伝学研究に有用であるために、適当な確率を可能にするために無作為に選択された個体が異型接合であるような、適切な異型接合率を持つ必要がある。
【0031】
本明細書で使用される「遺伝子型」という用語は、個体または試料中に存在するアリルのアイデンティティを指す。本発明の状況では、遺伝子型は好ましくは個体または試料中に存在する遺伝子マーカーアリルの記述を指す。遺伝子マーカーに関する試料または個体の「遺伝子型同定」には、遺伝子マーカーにおいて、個体が持っている特定のアリルまたは特定のヌクレオチドを決定することが含まれる。
【0032】
本明細書で使用される「変異」という用語は、異なるゲノムまたは個体の間における、DNA配列の差で、頻度が1%未満のものを指す。
【0033】
「ハプロタイプ」という用語は、個体または試料中に存在するアリルの組み合せを指す。本発明の状況では、ハプロタイプは好ましくは特定の個体中に見られる遺伝子マーカーの組み合せで、表現型と関連する可能性のあるものを指す。
【0034】
本明細書で使用される「多型」という用語は、異なるゲノムまたは個体の間で、2つまたはそれ以上の別のゲノム配列またはアリルが存在することを指す。「多型」とは、1つの集団に見出される特定のゲノム配列の2つまたはそれ以上の変種が見られる状態を指す。「多型部位」とは、変種が起こる座位である。一塩基多型は、多型部位において、1つのヌクレオチドを別のヌクレオチドによって置換することである。一塩基の欠失または一塩基の挿入も、一塩基多型を生じる。本発明の状況では、「一塩基多型」は好ましくは一塩基の置換を指す。通常は、異なる個体の間で、多型部位は2つの異なるヌクレオチドが占める可能性がある。
【0035】
「2アリル多型」および「遺伝子マーカー」は本明細書では互換的に使用され、集団中でかなりの高頻度で2つのアリルを持つ一塩基多型を指す。「遺伝子マーカーアリル」とは、遺伝子マーカー部位に存在するヌクレオチド変種を指す。通常は、本発明の遺伝子マーカーの頻度の低い方のアリルの頻度は、1%を超え、好ましくは10%を超え、より好ましくは少なくとも20%(少なくとも0.32の異型接合率)、さらに好ましくは少なくとも30%(少なくとも0.42の異型接合率)であると確認されている。頻度の低いほうのアリルの頻度が30%またはそれ以上の遺伝子マーカーは、「高品質遺伝子マーカー」と呼ばれる。
【0036】
本発明は、インスリンHphI座と連鎖不平衡にあるマーカーにも関する。「インスリンHphI座と連鎖不平衡にあるマーカー」という用語は、表Aに提供される遺伝子マーカー、好ましくはマーカー-4217 PstI、-2221 MspI、-23 HphI、+1428 FokI、+11000 AluI、および+32000 ApaI、またはより好ましくは-23 HphIに関する。「インスリンHphI座と連鎖不平衡にあるマーカー」という用語は、当技術分野で周知のインスリンHphI座と連鎖不平衡にある任意の他のマーカー、および本明細書に記述される方法によってインスリンHphI座と連鎖不平衡にあることが決定される任意のマーカーを含み得る。
【0037】
ポリヌクレオチドの中央に関するポリヌクレオチドのヌクレオチド位置は、本明細書では以下の様に記載される。ポリヌクレオチドが奇数のヌクレオチドを持つ場合には、ポリヌクレオチドの3’末端および5’末端から等距離にあるヌクレオチドが、ポリヌクレオチドの「中央に」あると考えられ、中央にあるヌクレオチドに直接隣接する任意のヌクレオチド、または中央にあるヌクレオチド自身が「中央から1ヌクレオチド以内」である等と考えられる。ポリヌクレオチド中のヌクレオチドが奇数であれば、ポリヌクレオチドの中央にある任意の5つのヌクレオチド位置は、中央から2ヌクレオチド以内である等と考えられる。ポリヌクレオチドが偶数のヌクレオチドを持つ場合には、ポリヌクレオチドの中央にはヌクレオチドではなく結合がある。したがって、2つの中央のヌクレオチドのいずれもが、「中央から1ヌクレオチド以内」と考えられ、ポリヌクレオチドの中央の4つのヌクレオチドのいずれかが「中央から2ヌクレオチド以内」である等と考えられる。1つまたは複数のヌクレオチドの置換、挿入、または欠失を含む多型の場合は、多型の置換、挿入、または欠失したポリヌクレオチドからポリヌクレオチドの3’末端までの距離、および多型の置換、挿入、または欠失したポリヌクレオチドからポリヌクレオチドの5’末端までの距離の差がゼロまたは1ヌクレオチドの場合に、多型、アリル、または遺伝子マーカーはポリヌクレオチドの「中央に」ある。この差が0〜3の場合には、多型は「中央から1ヌクレオチド以内」にあると考えられる。この差が0〜5の場合には、多型は「中央から2ヌクレオチド以内」にあると考えられる。この差が0〜7の場合には、多型は「中央から3ヌクレオチド以内」にある等と考えられる。
【0038】
本明細書では「上流」という用語は、特定の参照点から、ポリヌクレオチドの5’末端方向の場所を指す。
【0039】
本明細書では「塩基対」および「ワトソン・クリック塩基対」は互換的に使用され、チミン残基またはウラシル残基が2つの水素結合でアデニン残基に結合し、シトシン残基が3つの水素結合でグアニン残基に結合している二重らせんDNA中と同様に、配列のアイデンティティのために互いに水素結合し得るヌクレオチドを指す(Stryer, L.、Biochemistry、第4版、1995参照)。
【0040】
本明細書では「相補的」または「その相補鎖」という用語は、相補的な領域全体を通して、別の特定のポリヌクレオチドとワトソン・クリック塩基対を形成する能力のある、ポリヌクレオチド配列を指す。本発明では、第1のポリヌクレオチド中の各塩基が、その相補的な塩基と対を作れば、第1のポリヌクレオチドは第2のポリヌクレオチドに相補的であると考えられる。一般的に、相補的な塩基は、AとT(またはAとU)、またはCとGである。本明細書で使用される「相補鎖」は、「相補的ポリヌクレオチド」、「相補的核酸」および「相補的ヌクレオチド配列」と同義である。これらの用語は、2つのポリヌクレオチドが実際に結合するような特定の条件ではなく、その配列のみに基づいてポリヌクレオチドの対に対して使用される。
【0041】
本明細書で使用される「肥満に関連する状態」という用語は、肥満の直接的および間接的な結果である状態(本明細書では「疾病」または「疾患」とも呼ぶ)を指す。肥満の徴候を示す状態でもある。肥満の結果として起きる状態でもある。特に、肥満でない個体と比較して、肥満個体に高頻度で起こる状態である。肥満に関連する状態には、高血圧;アテローム性動脈硬化;II型糖尿病;変形性関節症;乳癌;子宮癌;大腸癌;および冠動脈疾患が含まれるがこれらに限定されない。
【0042】
本明細書で使用される「肥満」という用語は、エネルギー消費に比較して過剰なカロリー摂取のために過剰な体脂肪が蓄積する状態を指す。肥満の標準的な尺度は、肥満指数(BMI)であり、これはキログラムで表した体重をメートルで表した身長の二乗で割って計算される。約18.5〜24.9のBMIはヒトの正常範囲と見なされる。25.0を超えるBMIは過体重とみなされる。世界保健機構は「体重過多」をさらにいくつかのグレードに分類している:グレード1、BMI=25.0〜29.9(一般的には「過体重」と呼ばれる);グレード2、BMI=30.0〜39.9(一般的には「肥満」と呼ばれる);およびグレード3、BMI≧40.0(一般的には「病的肥満」と呼ばれる)である。したがって、本明細書では「肥満個体」はBMIが30.0またはそれ以上、「非肥満個体」はBMIが29.9またはそれ以下である。「肥満」という用語は、早発性肥満および遅発性肥満を含む。
【0043】
本明細書で使用される「早発性肥満」という用語は、初発年齢が12〜15歳、10〜12歳、8〜10歳、6〜8歳、4〜6歳、2〜4歳、または誕生から2歳までの間である肥満を指す。遅発性肥満は、一般に約15歳以後に発症する肥満を指す。
【0044】
本明細書で使用される「高血圧」という用語は、収縮期血圧が約140 mm Hgまたはそれ以上、拡張期血圧が約90 mm Hgまたはそれ以上、またはその両方によって同定される状態を指す。
【0045】
「インスリン関連疾患」という用語は、個体においてインスリンの生産、分泌、または機能(インスリン抵抗性)が変化している、当技術分野で周知の任意の疾病を指す。「インスリン関連疾患」という用語は、特にインスリン依存型真性糖尿病(IDDMまたはI型糖尿病)、またはインスリン非依存型糖尿病(NIDDMまたはII型糖尿病)、妊娠性糖尿病、自己免疫性糖尿病、高インスリン血症、高血糖、低血糖、β細胞障害、インスリン抵抗性、異常脂質血症、アテローマ、およびインスリノーマを指す。「インスリン関連疾患」という用語は、さらに肥満関連NIDDM,肥満関連アテローム性動脈硬化、心疾患、肥満関連インスリン抵抗性、肥満関連高血圧、肥満関連NIDDMに起因する微小血管障害病変、肥満関連NIDDMの肥満患者における微小血管障害に起因する眼病変、および肥満関連NIDDMの肥満患者における微小血管障害に起因する腎病変のような、肥満関連疾患および肥満も指す。
【0046】
「インスリン関連疾患に作用する薬剤」という用語は、インスリン生産、インスリン分泌、インスリン機能の活性を調節する、肥満個体の体重を減少させる、またはIDDM、NIDDM、妊娠性糖尿病、自己免疫性糖尿病、高インスリン血症、高血糖、低血糖、β細胞障害、インスリン抵抗性、異常脂質血症、アテローマ、インスリノーマ、肥満、および本明細書で定義される肥満関連疾患からなる群より選択される、インスリン関連の疾病を治療する、薬剤または化合物を指す。
【0047】
「インスリン関連疾患に作用する薬剤への応答」という用語は、個体における、化合物を代謝する能力、プロドラッグを活性のある薬剤に変換する能力、および薬剤の薬物動態(吸収、分布、排出)および薬力学(受容体関連)を含むがこれらに限定されない、薬効を指す。
【0048】
「インスリン関連疾患に作用する薬剤の副作用」という用語は、薬剤の主な薬理学的作用の延長に起因する治療の有害効果、または特有の宿主要素と薬剤の間の相互作用に起因する特異体質性有害反応を指す。
【0049】
本明細書で使用される「NIDDM」という用語は、インスリン非依存型糖尿病またはII型糖尿病(本明細書全体で、この2つの用語は互換的に使用される)を指す。NIDDMは内因性インスリン生産と、インスリン必要量との間に相対的な差があるために、血糖値が上昇する状態を指す。
【0050】
本明細書で使用される「減量療法」は、体重を減少させることを目的とした、当技術分野で周知の任意の治療法を指す。減量療法には、食事制限、カロリー消費の増加、胃腸管手術、薬物療法、および食物脂質の吸収低下が含まれる。
【0051】
「生体試料」は、個体から得られる様々な種類の試料を含み、診断またはモニタリングアッセイ法に使用できる。本定義は、血液および生物供給源に由来する他の液体試料、生検検体のような個体組織試料、または組織培養もしくはそれから得られる細胞およびその子孫を含む。本定義はさらに、試薬による処理、可溶化、またはポリヌクレオチドのような特定の成分の濃縮のように、調達後に、何らかの操作を受けた試料も含む。「生体試料」という用語は、臨床検体を含み、さらに培養細胞、細胞上清、細胞溶解物、血清、血漿、羊水、絨毛膜絨毛、体液、および組織検体も含む。
【0052】
本明細書で使用される「患者」という用語は、哺乳類を、好ましくは霊長類、最も好ましくは治療を必要とするヒトを指す。本明細書では「そのような治療を必要とする」という用語は、ヒトの場合には、この患者が治療を必要とするという、医師による判断を指す。この判断は、医師の専門知識の範囲内の種々の要素に基づいて行われるが、それには、本発明の化合物によって治療可能な状態の結果として患者が病気であるまたは病気になると思われるという知識が含まれる。
【0053】
本明細書で使用される「個体」という用語も、哺乳類を、特に霊長類、好ましくは減量の必要性を認識している(または誰かがその人には減量の必要性があると認識する)ヒトを指す。「必要性を認識する」というのは、典型的には臨床的肥満の基準未満の体重の変化(増加)を指すが、臨床的肥満も含んでも良い。「体重の変化」は上記に定義されている。
【0054】
本発明をさらに説明する前に、本発明が記述された特定の態様に制限されず、当然変わり得ることを理解する必要がある。本発明の範囲は添付する特許請求の範囲によってのみ限定されるので、本明細書で使用される用語は、特定の態様を説明する目的のためのみであり、制限する意図はないことも理解する必要がある。
【0055】
値の範囲が提供されている場合は、文脈が明らかにそうでないことを示す場合以外は、その範囲の上限および下限の間の、下限の単位の10分の1までの間の各値、および述べられた範囲の中の任意の他の述べられたまたはその間の値が、本発明に含まれる。これらのより小さな範囲の上限および下限は、より小さな範囲中に独立して含まれる可能性があり、述べられた範囲で特に除外された任意の限界値次第で、やはり本発明に含まれる。述べられた範囲が1つまたは両方の限界値を含む場合には、それらの含まれた限界値の両方とも除外した範囲も、本発明に含まれる。
【0056】
他に記載がないかぎり、本明細書中のすべての専門用語および科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって共通に理解されているものと同じ意味を持つ。本発明の実施または試験には、本明細書に記載したものと類似または同等の任意の方法および材料も使用できるが、本明細書中には好ましい方法および材料が記載されている。本明細書中に引用される全ての刊行物は、その刊行物が引用され関連する特定の方法および/または材料を開示および説明するために、参照として本明細書に組み入れられる。
【0057】
本明細書および添付の特許請求の範囲で使用される単数形「1つの(a)」、「1つの(an)」および「その(the)」は、文脈が明らかにそうでないことを示す場合以外は、指示対象の複数形も含むことに注意しなければならない。したがって、例えば、「ハプロタイプ」は複数のこのようなハプロタイプを含み、「その方法」は当業者に周知の1つまたは複数の方法および同等な方法を含む。
【0058】
本明細書で開示される刊行物は、本出願の出願日以前のその開示のためのみに提供される。本明細書において、本発明が先行発明のためにこのような刊行物に先行する資格がないと認めるものであると、解釈すべきではない。さらに、提供される刊行物の日付は、実際の出版日とは異なる可能性があり、これは独立して確認する必要がある。
【0059】
発明の詳細な説明
本発明は、個体のインスリン遺伝子VNTRアリル、特に父系インスリン遺伝子のVNTRアリルを決定することにより、肥満の発症危険性を決定する方法を提供する。さらに本発明は、父系のクラスI VNTRアリルを持つ個体の合理的な治療および維持を促進する方法も提供する。
【0060】
本発明は、父親からインスリン(INS) VNTRクラスIアリルを受け継いだ個体は、早発性肥満を発症する危険性が2倍近いという発見の結果である。この過剰な伝達は、母親のクラスIアリルでは観察されなかった。本発明者らは、若年肥満患者、可能な場合は痩せた兄弟、および両親のINS VNTR遺伝子型を決定した。発明者らは、思いがけずも、肥満の小児にクラスIII INS VNTRアリルと比較してクラスIが父親から過剰に伝達されていることを発見した。INS VNTR多型は、隣接するインスリンおよびインスリン様成長因子2(IGF2)遺伝子の発現の変化と関連している。これらの遺伝子の胎児での発現は、ゲノム刷り込みの結果として、父系染色体に限定されている。クラスI VNTRアリルの存在のために、父親のインスリンまたはIGF2遺伝子の子宮内での発現が上昇すると、生後、脂肪の沈着が起きやすくなる。肥満小児の痩せた兄弟には、いずれの親からも伝達のひずみは観察されなかった。クラスIインスリンアリルの頻度が高いために、白人の胎児の約65〜70%は父親からクラスI VNTRアリルを受け取る。これは一般的な多因子性疾患の重要な危険性に伴う広範な多型の例である。
【0061】
いくつかの態様では、本発明はa) 個体のインスリン遺伝子のVNTRクラスを決定する段階;およびb) 前記の遺伝子型に基づいて、肥満を発症する危険値を割り当てる段階を含む、個体における肥満発症危険性の決定方法を特徴とする。別の局面では、本発明はa) 個体のインスリン遺伝子のVNTRクラスを決定する段階;b) 個体の親のインスリン遺伝子のVNTRクラスを決定する段階;およびc) 前記のVNTRクラスに基づいて、肥満発症危険値を割り当てる段階を含む、個体における肥満発症危険性の決定方法を特徴とする。別の局面では、本発明はa) 個体のインスリン遺伝子のVNTRクラスを決定する段階;b) 個体の父親のインスリン遺伝子のVNTRクラスを決定する段階;およびc) 前記のVNTRクラスに基づいて、肥満発症危険値を割り当てる段階を含む、個体における肥満発症危険性の決定方法を特徴とする。
【0062】
別の態様では、本発明は本発明の予後診断方法および減量または体重制限療法の投与を含む、個体の肥満の治療または予防の方法を特徴とし、前記の減量療法は、食事制限、カロリー消費の増加、胃腸管手術、薬物療法、および食物脂質の吸収低下からなる群より選択される。
【0063】
肥満発症危険性の評価方法
本発明は個体が肥満を発症する危険性を決定する方法を提供する。本方法は一般に、個体のインスリン(INS) VNTRアリルの遺伝子型の決定を含む。個体に父系VNTRクラスIアリルが存在すると、その個体の肥満発症の確率が約2倍に上昇していることを示す。
【0064】
遺伝子型同定の対象となる個体には、出生前胎児、新生児、乳児、および幼児、例えば、出生前から約2歳まで、約2歳から約4歳まで、約4歳から約6歳まで、約6歳から約8歳まで、約8歳から約10歳まで、約10歳から約12歳まで、約12歳から約15歳までの個体が含まれる。個体から、個体のゲノムDNAを含む生体試料を採取し、試料に含まれるDNAを遺伝子型同定に使用する。DNAの供給源は、胎児細胞(例えば、羊水または絨毛膜絨毛);または新生児、乳児、または幼児から得られる、個体のゲノムDNAを含む任意の生体試料であることができる。
【0065】
一般に、個体の遺伝子型同定に加え、少なくとも個体の母親の遺伝子型同定が行われる。個体の遺伝子型がINS VNTRクラスI/INS VNTRクラスIIIを示し、個体の母親がINS VNTRクラスIIIの同型接合であれば、個体の生物学的父親の遺伝子型同定の必要はない。場合によっては、個体の生物学的父親のINS VNTR遺伝子型を決定する必要のある場合もある。両親がVNTRクラスIアリルを持つ場合には、第2のマーカーを用いて個体が父系か母系のいずれのVNTRクラスIアリルを持つのかを決定することができる。従って、ハプロタイプ解析を用いて、VNTRクラスIアリルが父系か母系かを決定できる。例えば、MVR-PCRによるアリルマッピングを含む様々な方法が以下に記述されており、個体のINS VNTRアリルの遺伝子型同定、およびVNTRクラスIアリルが父系か母系かの決定に使用できる。
【0066】
INS VNTR アリルに関する個体の遺伝子型同定の方法
インスリンVNTRアリルに関して、生体試料の遺伝子型同定には様々な方法が使用でき、その全てがインビトロで実施できる。遺伝子型同定のそのような方法には、当技術分野で周知の任意の方法による、インスリン関連遺伝子マーカーにおけるヌクレオチドの同定が含まれる。インスリン関連遺伝子マーカーは、インスリンHphI座と連鎖不平衡にある任意のマーカーである。これには、インスリン遺伝子のVNTRの代理となる、当技術分野で周知の任意のマーカーが含まれる。インスリンHphI座と連鎖不平衡にあるマーカーのリストは、以下の表Aに提供されている。例えば、-23 HphI(+)アリルは、隣接するVNTRのクラスIアリルと完全な連鎖不平衡にある。INS VNTRは、-23 HphIを代理マーカーとして用いて、検定できる。-23 HphI(+)一塩基多型(SNP)遺伝子型は、実施例1に記述されるように、例えばINS04およびINS05プライマーを用いて、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)産物の解析を行なうことによって、決定できる。
【0067】
これらの遺伝子型同定方法は、単一の個体またはプールされたDNA試料から得られた核酸試料で実施できる。通常は、遺伝子型同定は個体から得られたDNA試料で行われる。
【0068】
遺伝子型同定のためのDNA供給源
所望の特異的核酸を含んでいるまたは含んでいると考えられる場合には、精製または非精製の任意供給源の核酸が、開始核酸として使用できる。DNAまたはRNAは、上述のような細胞、組織、体液等から抽出できる。本発明の遺伝子型同定で使用される核酸は、任意の霊長類供給源から得られるが、核酸試料を抽出する試験対象または個体は、通常はヒトだと理解される。
【0069】
遺伝子マーカーを含むDNA断片の増幅
全てではないが多くの遺伝子型同定方法では、関心のある遺伝子マーカーを持つDNA領域を予め増幅する必要がある。そのような方法は、遺伝子マーカーに広がるまたはその部位を含む配列およびその遠位または近位のいずれかに位置する配列の濃度または総数を特異的に増加させる。診断アッセイ法も、本発明の遺伝子マーカーを持つDNA部分の増幅にも依存する可能性がある。DNAの増幅は、当技術分野で周知の任意の方法で行なうことができる。増幅技術は、上記のインスリン遺伝子の増幅というタイトルの項で説明されている。
【0070】
これらの増幅方法の中には、一塩基多型の検出に特に適しており、下記のように、標的配列の増幅と多型ヌクレオチドの同定を同時に行なえるものがある。
【0071】
上述のようにして遺伝子マーカーにより、適当なオリゴヌクレオチドの設計が可能になり、これを本明細書で開示の遺伝子マーカーを含むDNA断片の増幅のためのプライマーとして使用できる。増幅は、本明細書に記述されるプライマー、またはINS遺伝子に関連するの遺伝子マーカーを含むDNA断片の増幅を可能にする任意のプライマーセットを用いて実施できる。
【0072】
一部の態様では、遺伝子型同定はINS遺伝子に関連する1つまたは複数の遺伝子マーカーを含むDNA断片を増幅するためのプライマーを用いて行なう。増幅プライマーの例は、表Aおよび表Bに示されている。列挙されたプライマーは、単なる例であり、任意の他のプライマーセットにより本発明の遺伝子マーカーを1つまたは複数含む増幅産物を生成することがわかっている。
【0073】
プライマーの間隔が、増幅するセグメントの長さを決定する。本発明の状況では、遺伝子マーカーを持つ増幅されたセグメントのサイズは、少なくとも約25 bpから35 kbpの範囲であり得る。25〜3000 bpの増幅断片が典型的であり、50〜1000 bpの断片が好ましく、100〜600 bpが非常に好ましい。遺伝子マーカーのための増幅プライマーは、マーカーを含む任意のDNA断片の特異的増幅を可能にする任意の配列で良いことがわかる。
【0074】
表A
(Lucassen, A.M.ら、Nature Genet. 4、305-310(1993))
【0075】
表B
【0076】
遺伝子マーカーに関する DNA 試料の遺伝子型同定法
当技術分野で周知の任意の方法を使用して、INS遺伝子のHphI遺伝子座と連鎖不均衡のマーカーにおける多型を同定することによって、肥満に関連する多型についてDNA試料を遺伝子型同定できる。検出する遺伝子マーカーアリルは本発明で同定および指定されているので、当業者はいくつかの手法の任意のものを使用して容易に検出を行なえると考えられる。多くの遺伝子型同定方法は、対象遺伝子マーカーを持つDNA領域をあらかじめ増幅することを必要とする。標的またはシグナルの増幅が現在ではしばしば好まれるが、増幅または配列決定を必要としない超高感度検出法も本発明の遺伝子型同定法の範囲内である。遺伝子多型を検出するために使用できる当業者に周知の方法には、通常のドットブロット分析、オリタ(Orita)ら(1989) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 86:2776-2779に記述された一本鎖立体配座多型(SSCP)、変性勾配ゲル電気泳動(DGGE)、ヘテロ二本鎖分析、ミスマッチ開裂検出、およびシェフィールド(Sheffield, V.C.)ら(1991) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 49:699-706、ホワイト(White, M.B..)ら(1992) Genomics. 12:301-306、グロンプ(Grompe, M. )(1993) Nature Genetics. 5:111-117に記述されたような他の通常の手法が含まれる。特定の多型部位に存在するヌクレオチドのもう1つの同定方法は、米国特許第4,656,127号に記述されるように、特殊なエクソヌクレアーゼ抵抗性ヌクレオチド誘導体を用いる。
【0077】
例示的な方法は、配列決定アッセイ法、アリル特異的増幅アッセイ法、またはハイブリダイゼーションアッセイ法により、遺伝子マーカー部位に存在するヌクレオチドを直接同定することを含む。以下にいくつかの例示的な方法を説明する。1つの方法は、微量配列決定手法である。本明細書で使用される「配列決定」という用語は、二本鎖プライマー/鋳型複合体のポリメラーゼ伸長反応に関するもので、従来型の配列決定および微量配列決定の両方を含む。
【0078】
1) 配列決定アッセイ法
多型部位に存在するヌクレオチドは、配列決定法により決定できる。好ましい態様では、上述のように、配列決定の前にDNA試料をPCR増幅する。
【0079】
好ましくは、増幅されたDNAはダイプライマーサイクル配列決定プロトコールを用いて、自動化ジデオキシターミネーター配列決定反応にかける。配列分析により、遺伝子マーカー部位に存在する塩基が同定できる。
【0080】
2) 微量配列決定アッセイ法
微量配列決定法では、標的DNAの多型部位のヌクレオチドは、一塩基プライマー伸長反応によって検出される。この方法では、標的核酸中の関心のある多型塩基のすぐ上流にハイブリダイズする、適当な微量配列決定プライマーを使用する。多型部位のヌクレオチドに相補的な1つの単一ddNTP(チェーンターミネーター)を用いて、プライマーの3’末端を特異的に伸長するために、ポリメラーゼが使用される。次に、取り込まれたヌクレオチドが、任意の適当な方法で決定される。
【0081】
通常、微量配列決定反応は蛍光ddNTPを用いて行い、欧州特許第412 883号に記述されるように、伸長した微量配列決定プライマーはABI377配列決定装置上の電気泳動によって分析し、取り込まれたヌクレオチドを同定する。または、キャピラリー電気泳動法を用いて、同時により多数のアッセイ法を処理することもできる。
【0082】
ddNTPの標識および検出には、様々な手法が使用できる。蛍光共鳴エネルギー移動に基づく均一相検出法は、チェン(Chen)およびクォック(Kwok) (1997) Nucleic Acids Research. 25:347-353およびチェンら(1997) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 94(29):10756-10761に記述されており、この開示はその全体が参照として本明細書に組み入れられる。この方法では、多型部位を含む増幅したゲノムDNA断片を、アリル性色素標識ジデオキシリボヌクレオシド3リン酸および修飾Taqポリメラーゼの存在下で、5’フルオレセイン標識プライマーとインキュベートする。色素標識プライマーは、鋳型に存在するアリルに特異的な色素ターミネーターによって、1塩基伸長される。遺伝子型同定反応の最後に、反応混合液の2つの色素の蛍光強度を、分離または精製なしに直接分析した。これらの段階は全て、同じチューブの中で行い、蛍光の変化はリアルタイムでモニターできる。または、伸長したプライマーはMALDI-TOF質量分析法によって分析しても良い。多型部位における塩基は、微量配列決定プライマーに付加された質量によって同定できる(Haff L.A.およびSmirnov I.P (1997) Genome Research、7:378-388参照)、この開示はその全体が参照として本明細書に組み入れられる。
【0083】
微量配列決定は、確立された微量配列決定法またはそれを発展または派生させた方法によって行なえる。別の方法には、いくつかの固相微量配列決定手法が含まれる。基本的な微量配列決定プロトコールは、上述のものと同じであるが、プライマーまたは標的分子が固相支持体上に固定または捕獲されている、不均一相アッセイ法として行われるという違いがある。プライマーの分離および末端のヌクレオチド付加分析を簡略化するために、オリゴヌクレオチドは固相支持体に結合されるか、ポリメラーゼ伸長と共に親和性による分離も可能なように修飾されている。合成オリゴヌクレオチドの5’末端および内部のヌクレオチドは、例えばビオチン化のような親和性による異なる分離法を可能にするように、いくつかの異なる方法によって修飾できる。オリゴヌクレオチド上に単一の親和性基が使用される場合には、オリゴヌクレオチドは組み込まれたターミネーター試薬から分離できる。これにより、物理的またはサイズによる分離が不要になる。複数の親和性基が使用されれば、ターミネーター試薬からは複数のオリゴヌクレオチドが分離でき、同時に分析できる。これにより、1回の伸長反応あたり、いくつかの核酸種またはより多くの核酸配列情報が分析できる。親和性基はプライミングするオリゴヌクレオチド上である必要はないが、その代わり鋳型上にあることができる。例えば、固定化は、ビオチン化DNAおよびストレプトアビジンコートのマイクロタイトレーションウェルまたはアビジンコートのポリスチレン粒子の間の相互作用によって行なえる。同様に、オリゴヌクレオチドまたは鋳型は、高密度フォーマットで固相支持体に結合できる。そのような固相微量配列決定反応では、取り込まれたddNTPは放射標識(Syvanen、Clinica Chimica Acta 226:225-236、1994)、またはフルオレセインへの結合(LivakおよびHainer、Human Mutation 3:379-385、1994)されていても良い。放射標識されたddNTPの検出は、シンチレーションに基づく手法によって行なえる。フルオレセイン結合ddNTPの検出は、アルカリ性フォスファターゼ結合抗フルオレセイン抗体の結合に基づき、発色性基質(p-ニトロフェニルフォスフェートなど)とインキュベーションすることによって行なえる。他に可能なレポーター検出の組み合せには、ジニトロフェニル(DNP)に結合したddNTPおよび抗DNPアルカリ性フォスファターゼ結合体(Harjuら、Clin. Chem. 39/11 2282-2287 (1993))、またはビオチン化ddNTPならびに西洋ワサビペルオキシダーゼ結合ストレプトアビジンおよび基質としてのo-フェニレンジアミン(国際公開公報第92/15712号)が含まれる。さらに別の固相微量配列決定手法として、Nyrenら(Analytical Biochemistry 208:171-175 (1993))は、酵素発光測定無機ピロリン酸検出アッセイ法(ELIDA)によるDNAポリメラーゼ活性の検出に依存する方法を記述した。
【0084】
パステシン(Pastinen)ら(Genome Research 7:606-614、1997)は、固相ミニ配列決定原理がオリゴヌクレオチドアレイの形に応用された、一塩基多型の多重検出法を記述している。固相支持体(DNAチップ)に結合したDNAプローブの高密度アレイを、下記にさらに説明する。
【0085】
3) アリル特異的増幅アッセイ法
本発明の1つの局面では、アリル特異的増幅アッセイ法により、生体試料中で本発明の1つまたは複数の遺伝子マーカーのアリルを決定するポリヌクレオチドおよび方法が提供される。本発明の遺伝子マーカーを含むDNA断片を増幅する方法、プライマー、および種々のパラメーターは、上記「遺伝子マーカーを含むDNA断片の増幅」にさらに記述されている。
【0086】
アリル特異的増幅プライマー
遺伝子マーカーの2つのアリルの区別は、選択的な戦略であるアリル特異的増幅によっても実施でき、これによって片方のアリルを増幅せずに、もう一方のアリルのみを増幅する。これは1つの増幅プライマーの3’末端に多型塩基を配置することによって行なう。プライマーの3’末端から伸長が行われるので、この位置またはその近くにミスマッチがあると、増幅が阻害的影響が与えられる。したがって、適当な増幅条件下では、これらのプライマーは相補的アリルでの増幅のみを指示する。ミスマッチの正確な位置および対応するアッセイ条件の決定は、当技術分野に周知である。
【0087】
連結/増幅に基づく方法
「オリゴヌクレオチド連結アッセイ法」(OLA)は、標的分子の単一の鎖の隣接する配列にハイブリダイズする能力を持つように設計された、2つのオリゴヌクレオチドを使用する。オリゴヌクレオチドの1つはビオチン化され、他方は検出可能なように標識されている。標的分子中に、完全に相補的な配列が見つかれば、オリゴヌクレオチドは、その末端が隣接するようにハイブリダイズし、捕獲および検出できるような連結基質を形成する。OLAは一塩基多型を検出可能で、ニッカーソン(Nickerson D.A.)ら(1990) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 87:8923-8927に記述されるように、都合よくPCRと組み合せることができる。この方法では、PCRを使用して、標的DNAの指数的増幅を行い、これをOLAを用いて検出する。
【0088】
一塩基多型の検出に特に適している他の増幅方法には、上記「インスリン遺伝子の増幅」に説明されているLCR(リガーゼ連鎖反応)、ギャップLCR (GLCR)が含まれる。LCRは特定の標的を指数関数的に増幅するために、2対のプローブを使用する。各オリゴヌクレオチド対の配列は、対が標的の同一の鎖の隣接配列にハイブリダイズするように選択される。そのようなハイブリダイゼーションにより、鋳型に依存したリガーゼの基質が形成される。本発明により、遺伝子マーカー部位の同一の鎖の近位および遠位配列を持つオリゴヌクレオチドを用いてLCRを実施できる。1つの態様では、いずれのオリゴヌクレオチドも遺伝子マーカー部位を含むように設計される。そのような態様では、オリゴヌクレオチド上の遺伝子マーカーに相補的な特異的なヌクレオチドを、標的分子が含むか含まないかのどちらかの場合にのみ、オリゴヌクレオチドが共に連結できるような反応条件が選択される。別の態様では、オリゴヌクレオチドは遺伝子マーカーを含まず、国際公開公報第90/01069号に記述されるように、これらが標的分子にハイブリダイズすると「ギャップ」が形成される。このギャップは、その後、相補的dNTP(DNAポリメラーゼを介するように)を用いて、または別のオリゴヌクレオチド対により「充填」される。このようにして、各サイクルの終わりには、各一本鎖は、次のサイクルで標的となり得る相補鎖を持ち、所望の配列のアリル特異的な指数関数的増幅が行われる。
【0089】
リガーゼ/ポリメラーゼを介した遺伝子ビット解析(Genetic Bit Analysis)(商標)は、核酸分子中のあらかじめ選択された部位におけるヌクレオチドを同定するためのもう1つの方法である(国際公開公報第95/21271号)。この方法では、あらかじめ選択された部位に存在するヌクレオチドに相補的なヌクレオシド3リン酸を、プライマー分子の末端に組み込み、その後、これは第2のオリゴヌクレオチドに連結することを含む。この反応は反応の固相に結合された特異的標識の検出、または溶液中での検出によってモニターされる。
【0090】
4) ハイブリダイゼーションアッセイ法
遺伝子マーカー部位に存在するヌクレオチドの同定のための1つの好ましい方法は、核酸ハイブリダイゼーションを使用する。そのような反応で都合良く使用できるハイブリダイゼーションプローブは、好ましくは本明細書に定義されるプローブを含む。サザンハイブリダイゼーション、ノーザンハイブリダイゼーション、ドットブロットハイブリダイゼーションおよび固相ハイブリダイゼーションを含む、任意のハイブリダイゼーションアッセイ法が使用できる(Sambrook, J.、Fritsch, E.F.およびT. Maniatis (1989) 「分子クローニング:実験室マニュアル(Molecular Cloning: A Laboratory Manual)」第2版、Cold Spring Harbor Laborator、Cold Spring Harbor、NY参照)。
【0091】
ハイブリダイゼーションは、相補的な塩基対のために2本の一本鎖核酸が二本鎖構造を形成することである。ハイブリダイゼーションは、完全に相補的な核酸鎖、またはミスマッチ領域をわずかに含む核酸鎖の間で起こり得る。遺伝子マーカーの1つの形にはハイブリダイズするが、別の形にはハイブリダイズせず、したがって異なるアリルの形を区別できるような、特異的なプローブが設計できる。アリル特異的プローブは、しばしば対で使用され、その片方が元のアリルを含む標的配列に完全な一致をし、もう一方が別のアリルを含む標的配列に完全な一致をする。ハイブリダイゼーション条件は、アリル間でハイブリダイゼーション強度にかなりの差があり、好ましくは本質的には2つの反応で、これによりプローブがアリルの片方のみにハイブリダイズするために十分なストリンジェントな条件で必要がある。プローブが厳密に相補的な標的配列のみにハイブリダイズするような、ストリンジェントな配列特異的ハイブリダイゼーション条件は、当技術分野で周知である(Sambrookら、1989)。ストリンジェントな条件は配列に依存し、異なる状況では異なる条件になる。一般に、決められたイオン強度およびpHにおいて、その特定の配列の融点(Tm)よりも約5℃低い温度のストリンジェントな条件が選択される。そのようなハイブリダイゼーションは溶液中でも可能だが、固相ハイブリダイゼーションアッセイ法を使用するのが好ましい。本発明の遺伝子マーカーを含む標的DNAは、ハイブリダイゼーション反応の前に増幅できる。試料中の特異的アリルの存在は、プローブと標的DNAとの間に形成される安定なハイブリッド二本鎖の存在または欠如を検出することで、決定される。ハイブリッド二本鎖の検出は、いくつかの方法で行われる。ハイブリッド二本鎖の検出を可能にするために、標的またはプローブのいずれかに結合した検出可能な標識を使用した、種々の検出アッセイ法が周知である。通常は、ハイブリダイゼーション二本鎖を、ハイブリダイズしなかった核酸から分離し、その後、二本鎖に結合した標識を検出する。当業者は、過剰の標的DNAまたはプローブ、ならびに結合しなかった結合体を洗い流すために、洗浄段階も行なうことができることを認識すると思われる。さらに、プライマーおよびプローブに存在する標識を用いたハイブリッドの検出のためには、標準的な不均一アッセイ形式が適当である。
【0092】
最近開発された2つのアッセイ法では、分離または洗浄なしにハイブリダイゼーションに基づくアリルの区別が可能である(Landegren U.ら、Genome Research、8:769-776、1998参照)。タックマン(TaqMan)アッセイ法は、Taq DNAポリメラーゼの5’ヌクレアーゼ活性を使用して、蓄積する増幅産物に特異的にアニーリングするDNAプローブを消化する。タックマンプローブは蛍光エネルギー移動を介して相互作用をするドナー-アクセプター色素対によって標識される。増幅の際に進んでくるポリメラーゼによってタックマンプローブが切断されると、消光するアクセプター色素から、ドナー色素が解離し、ドナーの蛍光が大きく上昇する。2つのアリル変種を検出するために必要な全ての試薬は、反応の最初に集め、結果はリアルタイムでモニターできる(Livakら、Nature Genetics、9:341-342、1995参照)。別の均一ハイブリダイゼーションに基づく手法では、分子ビーコンを用いてアリルの区別をする。分子ビーコンは、均質溶液中で、特異的核酸の存在を報告するヘアピン型のオリゴヌクレオチドプローブである。標的に結合すると、立体配座が再編成して、内部で消光された蛍光体の蛍光が回復する(Tyagiら、Nature Biotechnology、16:49-53、1998)。
【0093】
本明細書に提供されるポリヌクレオチドは、生物試料中の遺伝子マーカーアリルの検出のためのハイブリダイゼーションアッセイ法に使用できる。これらのプローブは、好ましくは8〜50ヌクレオチドを含み、本発明の遺伝子マーカーを含む配列にハイブリダイズするために十分な相補性を持ち、好ましくは1ヌクレオチドのみの差の標的配列を区別できるほど十分に特異的であるという特徴を持つ。本発明のプローブのGC含有量は、通常10〜75%の間で、好ましくは35〜60%、およびさらに好ましくは40〜55%の間である。これらのプローブの長さは、10ヌクレオチド、15ヌクレオチド、20ヌクレオチド、または30ヌクレオチドから少なくとも100ヌクレオチド、好ましくは10ヌクレオチドから50ヌクレオチド、より好ましくは18ヌクレオチドから35ヌクレオチドである。特に好ましいプローブの長さは25ヌクレオチドである。好ましくは、遺伝子マーカーは、ポリヌクレオチドプローブの中央から4ヌクレオチドの範囲にある。特に好ましいプローブでは、遺伝子マーカーはポリヌクレオチドの中央にある。より短いプローブは標的核酸に対する特異性を欠如する可能性があり、一般に鋳型と十分に安定なハイブリッド複合体を形成するためには、より低い温度を必要とする。より長いプローブは、生産するのが高価であり、自己ハイブリダイズしてヘアピン構造を形成する場合がある。オリゴヌクレオチドプローブの合成方法は、上記にあり、本発明のプローブに適用できる。
【0094】
アリル特異的プローブへのハイブリダイゼーションを分析することにより、所定の試料中で遺伝子マーカーアリルの存在または欠如を検出できる。アレイ形式の、ハイスループットのパラレルハイブリダイゼーションは、「ハイブリダイゼーションアッセイ法」に明確に含まれ、以下に説明されている。
【0095】
5) オリゴヌクレオチドのアドレス指定可能なアレイへのハイブリダイゼーション
オリゴヌクレオチドアレイに基づくハイブリダイゼーションアッセイ法は、完全にマッチした標的配列と、ミスマッチした標的配列への、短いオリゴヌクレオチドのハイブリダイゼーションの安定性の差に依存する。選択された位置で固相支持体(例えば、チップ)に結合したオリゴヌクレオチドプローブの高密度アレイを含む基本的構造から、多型情報が効率良く得られる。各DNAチップは、格子型のパターンに配列され、10セント硬貨の大きさに縮小した、個々の合成DNAプローブを数千から数百万含み得る。
【0096】
チップ技術は、すでに数多くの場合に応用されている。例えば、出芽酵母(S. cerevisiae)変異株におけるBRCA1遺伝子、およびHIV-1ウイルスのプロテアーゼ遺伝子の変異のスクリーニングが行われている(Haciaら、Nature Genetics、14(4):441-447、1996; Shoemakerら、Nature Genetics、14(4):450-456、1996、Kozalら、Nature Medicine、2:753-759、1996)。遺伝子多型を検出するために使用する種々の形式のチップは、アフィメトリックス(Affymetrix) (ジーンチップ(GeneChip)(商標))、ハイシーク(Hyseq) (HyChipおよびHyGnostics)、およびプロトジーンラボラトリース(Protogene Laboratories)により、特注生産できる。
【0097】
一般に、これらの方法は、個体の標的核酸配列セグメントに相補的なオリゴヌクレオチドプローブのアレイを使用し、標的配列には多型マーカーが含まれている。欧州特許第785280号は、一塩基多型の検出のためのタイリング(tiling)戦略を記述している。簡単に述べると、アレイは、通常、多数の特定の多型に関してタイリングが可能である。「タイリング」というのは、関心のある標的配列およびその配列のあらかじめ選択された変種、例えば、1つまたは複数の所定の位置における1つまたは複数のモノマーの基本セット、すなわち、ヌクレオチドによる置換の、相補的な配列から構成される規定のオリゴヌクレオチドプローブセットの合成を意味する。タイリング戦略は、国際公開公報第95/11995号にさらに説明されている。特定の局面では、いくつかの特異的な同定された遺伝子マーカー配列に関して、アレイはタイリングされる。特に、アレイは、それぞれ特定の遺伝子マーカーまたは遺伝子マーカーセットに特異的な検出ブロックをいくつか含むようにタイリングされる。例えば、ある検出ブロックは、ある特定の多型を含む配列セグメントを含む、いくつかのプローブを含むようにタイリングされ得る。プローブが各アリルに確実に相補的であるように、プローブは遺伝子マーカーのところが異なる対として合成される。多型塩基においてプローブに加えて、通常は1置換プローブも検出ブロック内にタイリングされる。これらの1置換プローブは、多型部分からいずれの方向にも、ある数までの塩基が残りのヌクレオチド(A、T、G、CおよびUから選択する)で置換された塩基を持つ。典型的には、タイリングされた検出ブロック中のプローブは、遺伝子マーカーから5塩基までの配列位置の置換を含む。1置換プローブは、実際のハイブリダイゼーションを人工的な交差ハイブリダイゼーションから区別するための、タイリングされたアリルについての内部対照となる。標的配列とのハイブリダイゼーションおよびアレイの洗浄後、アレイをスキャンして、標的配列がハイブリダイズしたアレイの位置を決定する。そしてスキャンされたアレイのハイブリダイゼーションデータを分析し、試料中に遺伝子マーカーのどのアリルが存在するかを同定する。ハイブリダイゼーションおよびスキャンは、国際公開公報第92/10092号および国際公開公報第95/11995号ならびに米国特許第5,424,186号に記述されるようにして実施できる。
【0098】
したがって、いくつかの態様では、チップは長さ約15ヌクレオチドの断片の核酸配列のアレイを含む。別の態様では、チップは、9-27、99-14387、9-12、9-13、99-14405、および9-16からなる群より選択される配列、ならびにその相補配列またはその断片を少なくとも1つ含むアレイを含むが、断片は少なくとも約8つの連続するヌクレオチド、好ましくは10個、15個、20個、より好ましくは25個、30個、40個、47個、または50個の連続するヌクレオチドを含み、かつ多型塩基を含む。好ましい態様では、多型塩基はポリヌクレオチドの中央から5ヌクレオチド、4ヌクレオチド、3ヌクレオチド、2ヌクレオチド、1ヌクレオチドの範囲であり、より好ましくはポリヌクレオチドの中央にある。いくつかの態様では、チップは本発明のこれらのポリヌクレオチドのうち少なくとも2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個またはそれ以上のアレイを含む。
【0099】
6) 一体型システム
多型の分析に使用できる別の手法は、複数の成分の一体化システムであり、PCRおよびキャピラリー電気泳動反応のようなプロセスを微小化し、単一の機能的装置中で区画化するものである。そのような手法の例は、PCR増幅とキャピラリー電気泳動のチップ上での一体化を記述する米国特許第5,589,136号に開示されている。
【0100】
一体化システムは、主にマイクロ流体システムが使用される場合に考えられる。これらのシステムは、ガラス、シリコン、石英、またはプラスチックウェーハ上に設計されたマイクロチャネルのパターンがマイクロチップに含まれるシステムである。試料の移動は、マイクロチップの種々の部分に適用された電子的、電気浸透的、または静水力学的な力によって制御され、動く部分のない機能的な微小バルブおよびポンプが形成される。電圧を変化させると、微細加工されたチャネルの交差点での流体の流れが制御され、マイクロチップの異なる部分に対する流体輸送の流速が変化する。
【0101】
マイクロ流体システムは、遺伝子マーカーの遺伝子型同定のために、核酸増幅、微量配列決定、キャピラリー電気泳動、およびレーザー誘発蛍光検出のような検出方法を一体化したものである。
【0102】
最初の段階では、好ましくはPCRによりDNA試料が増幅される。その後、増幅産物をddNTP(各ddNTPに特異的な蛍光)および標的多型塩基のすぐ上流にハイブリダイズする適切なオリゴヌクレオチド微量配列決定プライマーを用いた自動微量配列決定反応にかける。3’末端の伸長が完了したら、キャピラリー電気泳動によって取り込まれなかった蛍光ddNTPからプライマーを分離する。キャピラリー電気泳動に使用される分離媒体は、例えばポリアクリルアミド、ポリエチレングリコール、またはデキストランで良い。一塩基プライマー伸長産物に取り込まれたddNTPは、蛍光検出により同定される。このマイクロチップは少なくとも96検体から384検体を平行して処理するために使用される。ddNTPに通常使用される4色のレーザー誘発蛍光検出が使用できる。
【0103】
7) MVR-PCRによるアリルマッピング
ミニサテライト(VNTR)は長さ10〜100 bpの縦列反復からなり、全体のアレイのサイズは通常0.5〜50 kbである。縦列反復の間に多型が存在し、異型反復タイプが生じている。アリル内の異型反復の散在パターンは、反復アレイの外側にアニールするユニバーサルプライマーと、アレイ内の特異的な異型配列に結合するプライマーの間のPCR増幅によって、解析できる。この技術は、PCRによるミニサテライト異型反復マッピング、すなわちMVR-PCRと呼ばれる。SteadおよびJeffreys (2000) Hum. Mol. Genet. 9:713-723。インスリンミニサテライトアリル中の異型反復の分布は、14 bpのコンセンサス
に基づいて11個の異型反復(A〜Jと命名)があることを示す。
【0104】
MVR-PCRを行なうためには、まずインスリンミニサテライトアリルDNAを調製する。その後、MVR-PCR解析を行なって、アリルの細かい構造を決定する。クラスIIIアリルが存在する場合は、E反復から3’隣接部位への増幅産物(アンプリコン)群を生成する逆MVR-PCRを行なう必要がある場合がある。この微細構造の解析によって、父系インスリンVNTRアリルを決定することができる。詳細な手順は以下の段落に説明されている。
【0105】
MVR-PCRによって、インスリンミニサテライトの6つの異なる異型反復が検出されるが、その配列は、A型の反復コンセンサスと異なるヌクレオチドに下線をつけて以下に示されている。
【0106】
最初にインスリンミニサテライトアリルDNAを調製する。任意の既知の方法が使用できる。一般に、インスリンミニサテライトDNAは、ミニサテライトに隣接するPCRプライマーとアリル特異的プライマーとを用いて増幅され、通常はゲルで、サイズに基づいてアリルを分離し、ゲルからアリルDNAを抽出する。以下に限定はしない実施例を示す。ゲノムDNAは以下のプライマーを用いてPCRで増幅する:(1) クラスIアリルには、隣接部位に相補的な順方向プライマーはINS-1296
;およびクラスIアリルに特異的な逆方向プライマーはINS-23+
であり;および(2) クラスIIIアリルには隣接部位に相補的な順方向プライマーはINS-1296(配列番号:21);およびクラスIIIアリルに特異的な逆方向プライマーはINS-23-
である。増幅後、PCR産物をゲル電気泳動(例えば、1%アガロースゲル)によって分離し;エチジウムブロマイド染色で可視化し、ゲルから切り出す。クラスIアリルDNAは、希釈緩衝液を添加し、ゲルの凍結/解凍/ボルテックスを3サイクル行なうことによってゲルから分離できる。クラスIIIアリルDNAは、Qiaex IIゲル精製キット(Qiagen)を用いてゲルから抽出できる。
【0107】
インスリンミニサテライトアリルDNAでMVR-PCRを行なう。異型に特異的なプライマーと隣接プライマーとを用いて、アリルDNAの増幅を行なう。異型に特異的な任意のプライマーが使用できる。増幅したDNAをゲル電気泳動にかけ、分離した産物をメンブレンに移し(ブロットする)、クラスIアリルに特異的な標識プローブを用いたサザンハイブリダイゼーションによってブロットを解析する。以下は適切なプロトコールの限定はしない例である。MVR-PCR異型特異的プライマーを以下に示すが、5’ TAG伸長部分は大文字で示されている:
【0108】
これらのプライマーは上記A〜Hの異型特異的配列に相補的である。5つのMVRプライマーは、隣接部位プライマー(例えば、INS-1296)およびTAGプライマーと合わせて使用する。上記のように増幅産物を電気泳動し、サザンブロットハイブリダイゼーションによって検出する。
【0109】
クラスIIIアリルのMVR-PCRは、アレイ中の最初の約100反復配列を正確に分類できる。クラスIIIアリルの残りの部分は、アレイの3’末端をカバーする欠失アンプリコンを作製することによって分類できる。そのためには、プライマーINS-23-および3’配列がE型の反復配列に特異的で5’配列がINS-1296と同一である複合プライマーであるINS-MERを用いて、逆MVR-PCRを行なう。INS-MERの配列は
であり、5’INS-1296配列は小文字で示されている。このようにして作製したアンプリコンは、上述のようにゲルによって電気泳動で分離し、DNAゲルを精製し、MVR-PCRをマッピングする。アリル全体および各欠失アンプリコンから生成された重複するコードから、全体のアリルコードを組み立てる。
【0110】
INS HphI 遺伝子座の遺伝子マーカーを使用した遺伝子分析方法
複雑な形質の遺伝子分析のために、種々の方法が使用できる(LanderおよびSchork、Science、265、2037-2048、1994参照)。疾病感受性遺伝子の探索には、主に2つの方法が使用される:家系調査を用いたある遺伝子座と推定形質の遺伝子座の間の共分離の証拠を探す連鎖手法、およびアリルと形質または形質の原因となるアリルとの間の統計的に有意な相関の証拠を探る相関解析(Khoury J.ら、「遺伝疫学の基礎(Fundamentals of Genetic Epidemiology)」、Oxford University Press、NY、1993)。一般に、本発明の遺伝子マーカーは遺伝子型および表現型の間に統計的に有意な相関を示す当技術分野で周知の任意の方法に使用できる。遺伝子マーカーは、パラメトリックおよびノンパラメトリックの連鎖分析法に使用できる。好ましくは、本発明の遺伝子マーカーは、相関解析を用いて検出可能な形質に関連した遺伝子の同定に使用されるが、この手法では罹患家系を使用する必要がなく、複雑および散発性の形質に関連した遺伝子の同定も可能である。
【0111】
INS HphI遺伝子座の遺伝子マーカーを使用した遺伝子分析は、任意のスケールで実施できる。本発明の遺伝子マーカーセット全体、または候補遺伝子に対応する本発明の遺伝子マーカーの任意のサブセットが使用できる。さらに、本発明の遺伝子マーカーを含む、任意の遺伝子マーカーセットが使用できる。本発明の遺伝子マーカーと組み合せて遺伝子マーカーとして使用できる遺伝子多型セットは、国際公開公報第98/20165号に記述されている。上述のように、本発明の遺伝子マーカーはヒトゲノムの任意の完全なまたは部分的な遺伝子マップに含まれることができる。これらの異なる使用法は、本発明および請求の範囲で特に考慮されている。
【0112】
連鎖分析
連鎖分析は、家系の中の世代を通した、遺伝子マーカーの伝達と特定の形質の伝達の間の相関の確率に基づく。したがって、連鎖分析の目的は、家系の中で、関心のある形質と共分離するマーカー遺伝子座を検出することである。
【0113】
パラメトリック法
継続的な世代のデータがある場合は、遺伝子座の対の間の連鎖の程度を調べる機会がある。組換え割合を見積もると、遺伝子座を遺伝子地図上に並べて置くことが可能になる。遺伝子マーカーである遺伝子座があると、遺伝子地図を確立し、マーカーと形質の間の連鎖強度を計算し、それを用いてマーカーおよびそれに影響を与える遺伝子の間の相対的位置を示すことができる(Weir, B.S.、「遺伝子データ解析II:離散的集団遺伝学データの方法(Genetic data Analyais II: Methods for Discrete population genetic Data)」 Sinauer Assoc., Inc.、Sunderland、MA、USA、1996)。連鎖分析の古典的方法は、オッズ対数(lod)スコア法である(Morton N.E.、Am. J. Hum. Genet.、7:277-318、1995; Ott J.、「ヒト遺伝子連鎖の分析(Analysis of Human Genetic Linkage)」 John Hopkins University Press、Baltimore、1991)。lod値の計算には、疾病の遺伝様式を指定する必要がある(パラメトリック法)。一般に、連鎖分析を用いて同定する候補領域の長さは、2〜20 Mbである。候補領域が上述のように同定されれば、別のマーカーを用いた組換え個体の分析により、候補領域のさらなる解析ができる。連鎖分析研究は、一般に最高5,000のマイクロサテライトマーカーを使用してきたため、最大の理論的に実現可能な連鎖分析の解像度は、平均約600 kbに限定される。
【0114】
連鎖分析は、明らかなメンデルの遺伝パターンを持ち、高い浸透度(すなわち、集団中でアリルaのキャリアの総数に対する、形質陽性のaのキャリアの数の比)の、簡単な遺伝形質のマッピングに適用されてきた。しかし、パラメトリック連鎖分析法には、種々の短所がある。まず、研究する形質に適した遺伝モデルの選択に依存するために限定される。さらに、既に述べたように、連鎖分析を用いて実現できる解像度には限界があり、連鎖分析でまず同定した通常2 Mb〜20 Mbの領域の分析をさらに正確にするために、補完的研究が必要である。さらに、パラメトリック連鎖分析法は、複数の遺伝子および/または環境要因の作用の組み合せに起因するような、複雑な遺伝形質に適用するのは困難なことが分かっている。lod値分析においてこれらの要素を適切にモデル化するのは、非常に困難である。最近リッシュ(Risch, N.)およびメリカンガス(Merikangas K.) (Science、273:1516-1517、1996)によって記述されたように、そのような場合に、連鎖分析を行なうために必要な適切な数の罹患家系を採用するためには、労力と費用がかかりすぎる。
【0115】
ノンパラメトリック法
連鎖分析のためのいわゆるノンパラメトリック法の利点は、疾病の遺伝様式を指定する必要がないことで、複雑な形質の分析により有用である場合が多い。ノンパラメトリック法では、罹患した親族が、確率によって期待される以上の頻度で、その領域の同一のコピーを受け継ぐことを示すことにより、染色体領域の遺伝パターンは、無作為なメンデル分離とは一致しないことを証明する。罹患した親族は、不完全な浸透および多遺伝子の遺伝の存在下でも、過剰な「アリル共有」を示すはずである。ノンパラメトリック連鎖分析では、2人の個体のマーカー遺伝子座における一致の度合いは、同質(IBS)アリルの数、または同祖(IBD)アリルの数によって、測定できる。罹患同胞対分析は、周知の特別な場合であり、これらの方法の中で最も単純な形である。
【0116】
本発明の遺伝子マーカーは、パラメトリックおよびノンパラメトリック連鎖分析の両方に使用できる。好ましくは、遺伝子マーカーは複雑な形質に関与している遺伝子のマッピングの可能なノンパラメトリック法で使用できる。本発明の遺伝子マーカーは、複雑な形質に関与している遺伝子のマッピングのために、IBDおよびIBSの両方の方法に使用できる。そのような研究では、遺伝子マーカーの密度が高いことを使用して、いくつかの隣接する遺伝子マーカー座をプールして、複数アリルマーカーによって得られる効率を実現することができる(Zhaoら、Am. J. Hum. Genet.、63:225-240 (1998))。
【0117】
集団相関解析
本発明は、本発明の遺伝子マーカーを用いて、インスリン遺伝子またはその特定のアリル変異体が、検出可能な形質と関連しているかどうかを決定する方法を含む。1つの態様では、本発明は遺伝子マーカーアリルまたは遺伝子マーカーハプロタイプと、形質との関連を検出する方法を含む。さらに、本発明は本発明の任意の遺伝子マーカーアリルと連鎖不均衡にある形質の原因となるアリルを同定する方法を含む。
【0118】
上述のように、相関解析を行なうためには、種々の手法が使用できる:ゲノム全体の相関解析、候補領域の相関解析、および候補遺伝子の相関解析。好ましい態様では、本発明の遺伝子マーカーは、候補遺伝子の相関解析に使用される。候補遺伝子の解析は、形質の生物学に関していくらかの情報を利用できる場合に、明らかに、特定の形質に関連する遺伝子または遺伝子多型の同定への近道を提供する。さらに、本発明の遺伝子マーカーは、ゲノム全体の相関解析を行なうために、ヒトゲノムの遺伝子マーカーの任意の地図に組み入れることができる。高密度の遺伝子マーカー地図を作製する方法は、国際公開公報第00/28080号に記述されている。本発明の遺伝子マーカーは、さらにゲノムの特定の候補領域(例えば、特定の染色体または特定の染色体セグメント)の任意のマップに組み入れることができる。
【0119】
上述のように、相関解析は一般の母集団の中で行なうことができ、罹患家系の血縁個体について行われるの解析に限定されない。相関解析は、散発的または多因子的形質の解析も可能なので、非常に価値がある。さらに、相関解析は、連鎖解析よりも、形質の原因となるアリルのはるかに細かいマッピングを可能にする、微細マッピングの強力な方法である。家系に基づく解析は、しばしば形質の原因となるアリルの場所を狭く絞り込むのみである。本発明の遺伝子マーカーを用いた相関解析は、連鎖解析法によって同定された候補領域中の、形質の原因となるアリルの位置を、詳細に決めるために使用され得る。さらに、関心のある染色体セグメントが同定されたら、関心のある領域中の、本発明の候補遺伝子のような候補遺伝子の存在は、形質の原因となるアリルの同定への近道を提供し得る。本発明の遺伝子マーカーは、候補遺伝子が形質と相関していることを示すために使用できる。そのような使用法は、本発明で特に考慮されている。
【0120】
集団中の遺伝子マーカーアリルまたは遺伝子マーカーハプロタイプの頻度の決定
相関解析は、遺伝子座の間で、アリルのセットの頻度の関係を探る。
【0121】
集団中のアリル頻度の決定
集団中の遺伝子マーカーのアリル頻度は、上記「遺伝子マーカーに関する個体の遺伝子型同定法」の項、またはこの意図された目的に適した任意の遺伝子型同定手順の方法を用いて、決定できる。プールされた試料または個体の試料の遺伝子型同定は、集団中の遺伝子マーカーアリルの頻度を決定できる。必要な遺伝子型同定の数を減らす1つの方法は、プールされた試料を使用することである。プールされた試料を使うための1つの大きな障害は、プールの作製時に正確なDNA濃度を決定するための精度および再現性の点である。個体試料の遺伝子型同定は、感度、再現性、精度がより高く、本発明での好ましい方法である。好ましくは、各個体は別々に遺伝子型同定し、遺伝子マーカーのアリル頻度または特定の集団における遺伝子型の頻度の決定には、単純な遺伝子計数が用いられる。
【0122】
集団中のハプロタイプの頻度の決定
ハプロタイプの配偶子相は、二倍体個体が複数の遺伝子座で異型接合の場合には、不明である。家族の家系情報を用いて、配偶子相が推測される場合がある(Perlinら、Am. J. Hum. Genet.、55:777-787、1994)。家系情報が利用できない場合、異なる戦略が使用され得る。1つの可能性は、複数部位の異型接合二倍体を分析から除去し、同型接合および1つの部位の異型接合個体のみを保持するものであるが、この手法は試料組成に潜在的な偏向ができ、低頻度のハプロタイプを過小評価する可能性がある。もう1つの可能性は、例えば、非対称PCR増幅(Newtonら、Nucleic Acids Res.、17:2503-2516、1989; Wuら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 86:2757、1989参照)、または限界希釈後のPCR増幅(Ruanoら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 87:6296-6300、1990参照)によって1つの染色体を単離することにより、単一の染色体を独立して解析することである。さらに、特定のアリルの二重PCR増幅によって、十分に近い遺伝子マーカーに関して、試料のハプロタイピングを行なうことができる(Sarkar, G.およびSommer S.S.、Biotechniques、1991)。これらの手法は、技術的に複雑で、費用がかかり、大規模に一般化できず、偏りを導入する可能性があるため、完全に満足できるものではない。これらの困難を克服するために、クラーク(Clark A.G.) (Mol. Biol. Evol.、7:111-122、1990)によって導入されたPCR増幅DNA遺伝子型の相を推定するためのアルゴリズムが使用できる。簡単に述べると、原理は、明白な個体、すなわち、完全な同型接合および単一部位の異型接合体を調べることによって、試料中に存在するハプロタイプの予備リストを作成し始める。その後、同一試料中の他の個体について、以前に認識されたハプロタイプのある出現についてを持つ可能性をスクリーニングする。陽性が同定されるごとに、すべての個体に関する相の情報が分析または未分析として同定されるまで、認識されたハプロタイプのリストに、相補的なハプロタイプが追加される。この方法は、各複数部位での異型接合個体に対して、単一のハプロタイプを割り付けるが、複数の異型接合部位が存在すると、いくつかのハプロタイプが可能である。または、各個体にハプロタイプを割り付けることなく、集団中のハプロタイプ頻度を見積もる方法を使用できる。好ましくは、期待値最大化(EM)アルゴリズム(Dempsterら、J.R. Stat. Soc.、39B: 1-38、1977)に基づく方法が使用され、ハーディ‐ワインベルク平衡(無作為接合)の仮定を用いて、ハプロタイプ頻度の最大尤度の見積もりが得られる(Excoffier L.およびSlatkin M.、Mol. Biol. Evol.、12(5):921-927、1995参照)。EMアルゴリズムは、データが不明瞭および/または不完全の場合に有用な、一般化された反復性の最大尤度アプローチである。EMアルゴリズムは、異型接合体をハプロタイプに分離するために使用される。ハプロタイプの見積もりは、「統計的方法」という項にさらに詳述されている。集団中のハプロタイプ頻度を決定または見積もるための、当技術分野で周知の任意の他の方法も、使用できる。
【0123】
連鎖不均衡分析
連鎖不均衡は、2つまたはそれ以上の遺伝子座のアリルの非無作為的な関連で、疾病形質に関与する遺伝子のマッピングの強力な道具となる(Ajioka R.S.ら、Am. J. Hum. Genet.、60:1439-1447、1997)。遺伝子マーカーはヒトゲノム中で密な間隔にあり、他の種類の遺伝子マーカー(RFLPまたはVNTRマーカーなど)よりも多数遺伝子型同定できるので、連鎖不均衡に基づく遺伝子解析に特に有用である。
【0124】
疾病の変異が最初に集団に導入された場合(新しい変異または変異の保有者の移入による)には、変異は必ず単一の染色体上にあり、したがって、連鎖したマーカーの単一の「バックグラウンド」または「先祖の」ハプロタイプ上にある。したがって、これらのマーカーと疾病変異の間には、完全な不均衡が存在する。疾病変異は、マーカーアリルの特定のセットの存在下にのみ見つかる。後代の世代で疾病変異およびこれらの多型マーカーの間の組み換えが起こり、不均衡は次第に消失する。この消失の速度は、組換え頻度の関数であるので、疾病遺伝子に最も近いマーカーは、遠いマーカーよりも高いレベルの不均衡を示す。組み換えで破られなければ、「先祖の」ハプロタイプおよび異なる遺伝子座にあるマーカーアリル間の連鎖不均衡は、家系のみならず、集団を通して追跡できる。通常、連鎖不均衡は1つの遺伝子座の1つの特定のアリルと、第2の遺伝子座の別の特定のアリルの間の関連として観察される。
【0125】
疾病とマーカー遺伝子座の間の不均衡のパターンまたは曲線は、これらの遺伝子座で起こる最大値を示すと期待される。したがって、疾病アリルと密接に連鎖した遺伝子マーカーの間の連鎖不均衡は、疾病遺伝子の位置に関して貴重な情報を与える。疾病遺伝子座の詳細なマッピングには、対象領域にあるマーカー間に存在する連鎖不均衡のパターンに関する知識があると役立つ。上述のように、連鎖不均衡分析によるマッピングの解像度は、連鎖解析よりもはるかに高い。連鎖不均衡分析と組み合せた高密度の遺伝子マーカーは、詳細なマッピングの強力な道具となる。連鎖不均衡を計算するための種々の方法は下記の「統計的方法」という項で説明されている。
【0126】
形質-マーカー関連の集団を用いた患者-対照研究
上述のように、同一の染色体上の異なる遺伝子座において特定のアリルの対が発生する頻度は無作為ではなく、無作為との差は連鎖不均衡と呼ばれる。相関解析は集団頻度に注目し、連鎖不均衡の現象に依存する。所定の遺伝子の特定のアリルが特定の形質の原因に直接関与していれば、その頻度は、形質陰性集団または無作為の対照集団における頻度と比較して、罹患(形質陽性)集団で、統計的に上昇していると思われる。連鎖不均衡の存在の結果、形質の原因となるアリルを持つハプロタイプにおける他の全てのアリルの頻度も、形質陰性個体または無作為対照と比較して、形質陽性個体では上昇していると思われる。したがって、形質の原因となるアリルとの連鎖不均衡における、形質および任意のアリル(特に遺伝子マーカーアリル)の間に相関は、特定の領域において形質関連遺伝子が存在することを示唆するのに十分であると思われる。形質の原因となるアリルの位置を狭く絞り込む相関を同定するために、遺伝子マーカーに関して患者-対照集団の遺伝子型同定が行なえる。形質と関連する1つの所定のマーカーと連鎖不均衡にある任意のマーカーは、形質と関連していると思われる。連鎖不均衡があると、形質の原因となるアリルを見つけるために、限定された数の遺伝子多型(特に遺伝子マーカー)の患者-対照集団における相対的頻度を分析して、全ての可能な機能的多型のスクリーニングをするための代わりとする事ができる。相関解析は、無関係の患者-対照集団におけるマーカーアリルの頻度を比較するもので、複雑な形質の解析に強力な道具となる。
【0127】
患者-対照集団(含有基準)
集団を用いる相関解析は、家族性の遺伝を検討しないが、患者-対照集団において、特定の遺伝子マーカーまたはそのセットの頻度を比較する。これは無関係の患者(罹患または形質陽性)個体と、無関係の対照(非罹患、形質陰性、または無作為)個体の比較に基づく、患者-対照研究である。好ましくは、対照群は非罹患または形質陰性個体からなる。さらに、対照群は患者群と民族的に一致している。さらに、対照群は好ましくは研究する形質に関して、主たる既知の混乱要素に関して、患者群と一致している(例えば、年齢依存的な形質に関して年齢が一致)。理想的には、2つの試料の個体は、その疾病状態のみが異なるように対を形成する。「形質陽性集団」「患者集団」および「罹患集団」という用語は、本明細書では互換的に使用される。
【0128】
相関解析を用いて複雑な形質を解析するための重要な段階は、患者-対照集団の選択である(LanderおよびSchork、Science、265、2037-2048、1994参照)。患者-対照集団の選択における大きな段階は、与えられた形質または表現型の臨床的な定義である。形質陽性および形質陰性表現型群に含まれる個体を注意深く選択することによって、本明細書で提案される相関方法によって、任意の遺伝形質が解析できる。4つの基準がしばしば重要である:臨床的表現型、発病年齢、家族歴、および重症度。連続的または定量的形質(例えば血圧など)の選択手順は、非重複表現型を持つこれらの形質陽性および形質陰性集団に含めるように、解析する形質の表現型の分布の両端にある個体を選択することを含む。好ましくは、患者-対照集団は、表現型の均一な集団である。形質陽性および形質陰性集団は、各々研究する集団全体の、および好ましくは非重複表現型を示す個体から選択された集団全体の1〜98%、好ましくは1〜80%、より好ましくは1〜50%、およびより好ましくは1〜30%、最も好ましくは1〜20%の間を代表する、表現型が均一な個体集団からなる。2つの形質の表現型の差が明確であればあるほど、遺伝子マーカーの相関を検出する可能性が高くなる。研究する集団の試料サイズが十分に大きければ、大きな差があるが比較的均一な表現型を選択すると、相関解析において効率良く比較ができ、遺伝子レベルでの著しい差の可能性のある検出が可能である。
【0129】
好ましい態様では、50〜300個、好ましくは約100個の形質陽性個体群を、表現型にしたがって採用する。そのような研究には、同様な数の形質陰性個体も含まれる。
【0130】
本発明では、含有基準の典型的な例には、肥満、糖尿病、人種、単調な体重増加、年齢、性別、および思春期が含まれる。
【0131】
本発明の遺伝子マーカーを含めた遺伝子マーカーを用いた相関解析の適切な例は、以下の集団を用いた研究である:(1)若年性肥満の患者集団および痩せた対照集団、および(2)肥満患者および年齢に対応して痩せた対照集団。
【0132】
1つの態様では、インスリンHphI座と連鎖不平衡のマーカーを用いて肥満になりやすい個体を同定できる。これには、肥満の素因となる要素を持つ個体を同定するための診断および予後診断アッセイ法、ならびにこれらのアッセイ法を用いた臨床試験および治療方法が含まれる。薬物治療は、肥満の治療または肥満の対照、および肥満関連疾患に使用されると当技術分野で考えられるまたは周知の任意の薬剤を含む。
【0133】
相関解析
候補遺伝子を持つ領域に由来する遺伝子マーカーを用いた相関解析を行なう一般的な戦略は、両方の群で本発明の遺伝子マーカーのアリル頻度を測定し統計的に比較するために、2つの個体群(患者-対照集団)をスキャンすることである。
【0134】
分析された遺伝子マーカーのうち1つまたは複数で形質と統計的に有意な相関を持つものが同定されれば、相関のあるアリルが形質の直接の原因となっている(すなわち、相関のあるアリルが形質の原因となるアリル)か、より可能性が高い相関のあるアリルが形質の原因となるアリルと連鎖不平衡にあると考えられる。候補遺伝子機能に関しての相関のあるアリルの特異的な性質は、通常、相関のあるアリルと形質の間の関係について、さらに情報を与える(因果関係、または連鎖不平衡)。候補遺伝子の中の相関のあるアリルが、おそらく形質の原因となるアリルではなく、真の形質の原因となるアリルと連鎖不平衡にあることを証拠が示していれば、相関のあるマーカーの近隣の配列を決定し、繰り返し明らかになる多型との相関解析をさらに行なうことによって、形質の原因となるアリルが見つかる。
【0135】
相関解析は、通常、2つの連続的な段階で行われる。最初の段階では、形質陽性および形質陰性集団において、候補遺伝子からの減少した数の遺伝子マーカーの頻度を決定する。解析の第2段階では、関連する領域から得られるさらに高密度のマーカーを用いて、所定の形質を担う遺伝子座の位置をさらに正確に知る。
【0136】
ハプロタイプ解析
上述のように、疾病アリルを持つ染色体が変異または移入の結果、初めてある集団に現れる場合には、変異アリルは必ず連鎖マーカーセットを持つ染色体上に存在する:先祖ハプロタイプ 。このハプロタイプは、集団を通して追跡し、特定の形質との統計的相関を解析することができる。ハプロタイプ解析とも呼ばれる多点相関解析によって一点(アリル)相関解析を補うと、相関解析の統計力が増加する。したがって、ハプロタイプ相関解析によって、先祖のキャリアハプロタイプの頻度および種類を決定できる。ハプロタイプ解析は、個々のマーカーに関する分析の統計力を増加させるという点で、重要である。
【0137】
ハプロタイプ頻度解析の最初の段階では、本発明の同定された遺伝子マーカーの種々の組み合せに基づいて、可能性のあるハプロタイプの頻度を決定する。その後、形質陽性および対照個体の別個の集団について、ハプロタイプ頻度を比較する。統計的に有意な結果を得るためにこの解析を行うべき形質陽性個体の数は、通常30〜300個の範囲で、好ましい個体数は50〜150個の範囲である。この解析で使用する非罹患個体(または無作為対照)の数も、同じである。この最初の解析結果は、患者-対照集団におけるハプロタイプ頻度を提供し、評価されたハプロタイプ頻度ごとに、p-値およびオッズ比が計算される。統計的に有意な相関が見つかれば、研究している形質に影響されている所定のハプロタイプを持つ個体の相対危険性を見積もることができる。
【0138】
相互作用解析
上述の遺伝子マーカーは、多遺伝子性相互作用の結果である検出可能な形質と関連する遺伝子マーカーのパターンを同定するためにも使用できる。連鎖していない遺伝子座におけるアリル間の遺伝子相互作用の解析には、本発明に記述される技術を用いた個々の遺伝子型同定が必要である。適切なレベルの統計的有意性を持つ選択された遺伝子マーカーセットの間のアリル相互作用の解析は、ハプロタイプ解析であると考えられうる。相互作用解析は、第1の遺伝子座の所定のハプロタイプに関しての患者-対照集団の層別化、および各亜集団で第2の遺伝子座のハプロタイプ解析の実施である。
【0139】
相関の存在における連鎖の検定
上述の遺伝子マーカーは、さらにTDT(伝達/不平衡試験)に使用できる場合がある。TDTは、連鎖および相関の両方を検定するもので、集団の層別化には影響を受けない。TDTには罹患個体およびその両親のデータ、または両親の代わりに非罹患同胞のデータが必要である(Spielmann S.ら、1993; Schaid D.J.ら、1996、Spielmann S.およびEwens W.J.、1998参照)。そのような組み合せた試験は、一般に別々の分析によって生じる偽陽性エラーを減少させる。
【0140】
統計的方法
一般に、ある形質と遺伝子型が統計的に有意な相関を示すかどうかを検定するための、当技術分野で周知の任意の方法が使用できる。
【0141】
1) 連鎖解析における方法
連鎖解析に有用な統計的方法およびコンピュータプログラムは、当技術分野で周知である(Terwilliger J.D.およびOtt J.、「ヒトの遺伝子連鎖ハンドブック(Handbook of Human Genetic Linkage)」John Hopkins University Press、London、1994; Ott J.、「ヒトの遺伝子連鎖の解析(Analysis of Human Genetic Linkage)」、John Hopkins University Press、Baltimore、1991参照)。
【0142】
2) 集団におけるハプロタイプ頻度の推定方法
上述のように、遺伝子型を評価する場合には、しばしば、異型接合体を区別することが不可能なので、ハプロタイプ頻度は簡単に推測できない。配偶子相が未知の場合には、ハプロタイプ頻度は多遺伝子座の遺伝子型データから見積もることができる。ハプロタイプ頻度の推定には、当業者に周知の任意の方法が使用できる(Lange K.「遺伝解析のための数学的および統計的方法(Mathematical and Statistical Methods for Genetic Analysis)」Springer、New York、1997; Weir, B.S.「遺伝データ解析II:不連続集団遺伝データの方法(Genetic data Analysis II: Methods for Discrete population genetic Data)」Sinauer Assoc., Inc.、Sunderland、MA、USA、1996参照)。好ましくは、ハプロタイプ頻度の最大尤度は期待値最大化(EM)アルゴリズムを用いて計算される(Dempsterら、J.R. Stat. Soc.、39B:1-38、1977; Excoffier L.およびSlatkin M.、Mol. Biol. Evol.、12(5):921-927、1995参照)。この手順は、配偶子相が未知の場合に、多遺伝子座の遺伝子型データから、ハプロタイプ頻度の最尤推定値を得るための、反復過程である。ハプロタイプの推定は、通常、たとえばイーエム-ハプロ(EM-HAPLO)プログラム(Hawley M.E.ら、Am. J. Phys. Anthropol.、18:104、1994)またはアーレクイン(Arlequin)プログラム(Schneiderら、「アーレクイン:集団の遺伝子データ解析用のソフトウェア(Arlequin: a software for population genetics data analysis)」、University of Geneva、1997)を用いてEMアルゴリズムを適用することによって行われる。EMアルゴリズムは、推定のための、一般化された反復の最大尤度手法であるが、以下に簡単に説明する。
【0143】
以下では、表現型は未知のハプロタイプ相を持つ多遺伝子座の遺伝子型を指す。遺伝子型は、既知のハプロタイプ相を持つ多遺伝子座の遺伝子型を指す。
【0144】
K個のマーカーに関して同定したN人の無関係な個体試料があるとする。観察されるデータは、F個の異なる表現型に分類され得る、未知相K遺伝子座の表現型である。さらに、H個の可能なハプロタイプがあるとする(K個の遺伝子マーカーの場合には、最大数H=2Kの可能なハプロタイプが考えられる)。
【0145】
cj個の可能な遺伝子型が考えられる表現型jについては:
【0146】
ここで、Pjはj番目の表現型の確率、P(hk, hl)は、ハプロタイプhkおよびhlからなるi番目の遺伝子型の確率(すなわちハーディ・ワインバーグ平衡)で、P(hk, hl)は次のように示される:
【0147】
EMアルゴリズムは、以下の段階からなる。まず、ハプロタイプ頻度の最初の値のセットから、遺伝子型頻度が推定される。これらのハプロタイプ頻度は、Pl (0)、P2 (0)、P3 (0)、...PH (0)と表される。ハプロタイプ頻度の最初の値は、乱数発生または当技術分野で周知のある他の方法で得られる。この段階は、期待段階と呼ばれる。この方法の次の段階は最大化段階と呼ばれ、遺伝子型頻度の推定値を用いて、ハプロタイプ頻度を再計算する。最初の繰り返しのハプロタイプ頻度の推定値は、Pl (1)、P2 (1)、P3 (1)、...、PH (1) と表される。一般に、s番目の繰り返しにおける期待段階は、前回の繰り返し
のハプロタイプ頻度に基づいて各表現型を、異なる可能な遺伝子型とおく確率を計算することからなり、njはj番目の表現型を持つ個体数、Pj(hk, hl)(s)は表現型jにおける遺伝子型hk, hlの確率である。遺伝子計数法(Smith、Ann. Hum. Genet.、21:254-276、1957)と同等な最大化段階では、ハプロタイプ頻度は遺伝子型頻度
に基づいて、再推定される。
【0148】
ここでは、δitはハプロタイプtがi番目の遺伝子型に存在する発生数を数える指標変数であり、0、1、および2の値をとる。
【0149】
E-M繰り返しは、以下の基準が満たされると終了する。最尤推定法(MLE)理論を用いて、表現型jは多項分布していると仮定する。各繰り返しsにおいて、尤度関数Lが計算できる。2つの連続する繰り返しの間のログ尤度の差が、ある小さな数、好ましくは10-7未満になった場合、収束は達成される。
【0150】
3) マーカー間の連鎖不平衡を計算する方法
任意の2つの遺伝子位置の間の連鎖不平衡を計算するために、いくつかの方法が使用できる。現実には、連鎖不平衡は集団から得られたハプロタイプデータに統計的相関検定を適用して、測定される。
【0151】
マーカーMiでアリル(ai/bi)、マーカーMjでアリル(aj/bj)を持つ、本発明の遺伝子マーカーを少なくとも1つ含む任意の遺伝子マーカー対(Mi, Mj)の間の連鎖不平衡は、全てのアリルの組み合せ(ai, aj; ai, bj; bi, ajおよびbi, bj)について、ピアザの公式
にしたがって、計算できる。ここで、
θ4=- -=Miにアリルaiを持たず、Mjにアリルajを持たない遺伝子型の頻度
θ3=-+=Miにアリルaiを持たず、Mjにアリルajを持つ遺伝子型の頻度
θ2=+-=Miにアリルaiを持ち、Mjにアリルajを持たない遺伝子型の頻度である。
【0152】
遺伝子マーカー対(Mi, Mj)間の連鎖不平衡(LD)は、全てのアリルの組み合せ(ai, aj; ai, bj; bi, ajおよびbi, bj)について、ワイア(Weir) (Weir B.S.、1996)に記述されるように、デルタ(複合遺伝子型不平衡係数)についても、最尤推定法(MLE)にしたがって計算できる。複合連鎖不平衡のMLEは:
Daiaj=(2n1 + n2 + n3 + n4/2)/N - 2(pr(ai). pr(aj))であり、ここで
、およびNは試料中の個体数である。
【0153】
この公式により、遺伝子型のデータのみがありハプロタイプのデータはない場合に、アリル間の連鎖不平衡が計算できる。
【0154】
マーカー間の連鎖不平衡を計算する別の方法は、次の通りである。2つの遺伝子マーカーMi(ai / bi)およびMj(aj / bj)について、ハーディ-ワインバーグ平衡を当てはめて、上述の手法によって所定の1つの集団において可能性のある4つのハロタイプ頻度を推定できる。
【0155】
aiとajの配偶子不平衡の推定は、単に:
Daiaj = pr(ハプロタイプ(ai, aj)) - pr(ai).pr(aj)である。
【0156】
ここで、pr(ai)はアリルaiの確率、pr(aj)はアリルajの確率で、pr(ハプロタイプ(ai, aj))は上記等式 3での推定値である。
【0157】
2つの遺伝子マーカーについて、MiとMjの相関を記述するためには、1つの不平衡の測定のみが必要である。
【0158】
また、上記の正規化された値は、次のように計算される
D’aiaj = Daiaj / max (-pr(ai). pr(aj), -pr(bi). pr(bj))、Daiaj <0
D’aiaj = Daiaj / max (pr(bi). pr(aj), pr(ai). pr(bj))、Daiaj >0
【0159】
当業者は、他のLDの計算方法も使用できることを容易に理解すると思われる。
【0160】
適切な異型接合率を持つ遺伝子マーカーのセットでの連鎖不平衡は、50〜1000人、好ましくは75〜200人、より好ましくは約100人の無関係の個体を遺伝子型同定して決定できる。
【0161】
4) 相関の検定
表現型と遺伝子型、この場合は遺伝子マーカーにおけるアリルまたはそのようなアリルからなるハプロタイプの間の相関の統計的有意性を決定する方法は、当技術分野で周知の任意の統計的検定、および必要な統計的有意性の受け入れられている閾値を用いて、決定できる。特定の方法の適用と有意性の閾値は、当技術分野の範囲内で周知である。
【0162】
相関の検定は、患者および対照集団における遺伝子マーカーアリルの頻度を決定し、これらの頻度を統計的検定と比較して、研究している遺伝子マーカーアリルと形質との間の相関を示すような頻度の統計的に有意な差があるかどうかを決定することによって行われる。同様に、ハプロタイプ解析は、患者および対照集団において、所定の遺伝子マーカーセットの全ての可能なハプロタイプの頻度を推定し、これらの頻度を統計的検定と比較して、研究している表現型(形質)とハプロタイプとの間の統計的に有意な相関があるかどうかを決定することによって行われる。遺伝子型と形質の間の統計的に有意な相関を検定するために有用な任意の統計的なツールが使用できる。好ましくは、使用される統計的検定は、1度の自由度を持ったχ2検定である。P値が計算される(P値は、観察されたものと同じまたはこれより大きい統計値が偶然発生する確率である)。
【0163】
統計的有意性
好ましい態様では、さらなる診断検査を行なうための正バイアスまたは初期の予防的治療を開始するための予備的開始点としての診断のための有意性である、遺伝子マーカーの相関に関するP値は、単一の遺伝子マーカー解析で、好ましくは約1 x 10-2またはそれ未満、より好ましくは約1 x 10-4またはそれ未満、2つまたはそれ以上のマーカーを含むハプロタイプ解析で、約1 x 10-3またはそれ未満、さらに好ましくは1 x 10-6またはそれ未満、および最も好ましくは約1 x 10-8またはそれ未満である。これらの値は、単一または複数のマーカーの組み合せに関する任意の相関解析に適用できると考えられる。
【0164】
当業者は、上述の値の範囲を、本発明の遺伝子マーカーを用いた相関解析を行なうための、開始点として使用できる。それにより、本発明の遺伝子マーカーと、肥満または肥満関連の疾患の間の有意な相関が明らかになり、診断および薬剤のスクリーニングに使用できる。
【0165】
表現型の置換
上述の第1段階のハプロタイプ解析の統計的有意性を確認するために、患者-対照個体の遺伝子型同定データをプールし、形質の表現型に関して無作為化し、さらなる解析を実行することが適切な可能性がある。各個体の遺伝子型同定データは、無作為に2つの群に割り付け、2つの群が、第1段階で得られたデータを収集するために使用した患者-対照集団と同じ数の個体数を持つようにする。第2段階のハプロタイプ解析は、好ましくはこれらの人工的な群で、好ましくは最大の相対危険性係数を示した、第1段階の解析のハプロタイプに含まれるマーカーについて、行われる。この実験は、好ましくは少なくとも100〜10000回繰り返される。繰り返しによって、有意性のP値が約1 x 10-3未満で、得られたハプロタイプの割合を決定できる。
【0166】
統計的相関の評価
偽陽性の問題に対処するために、無作為なゲノム領域において、同じ患者-対照集団を用いて、同様な分析を行なうことができる。無作為な領域および候補領域における結果は、国際公開公報第00/28080号に記述されるようにして比較する。
【0167】
5) 危険性因子の評価
危険性因子(遺伝疫学では、危険性因子はマーカー遺伝子座における特定のアリルまたはハプロタイプの存在または欠如である)と疾患の相関は、オッズ比(OR)および相対危険性(RR)によって測定される。P(R+)がRを持つ個体の疾患の発症確率で、P(R-)が危険性因子を持たない個体の確率だとすると、相対危険性は、2つの確率の比、すなわち
RR = P(R+)/(PR-) である。
【0168】
患者-対照研究では、試料抽出法の設計のために、相対危険性は直接測定できない。しかし、オッズ比によって発病率の低い疾患に関しては相対危険性の良い近似ができ、これは
OR = (F+/(1-F+))/(F-/1-F-))で計算できる。
【0169】
F+は患者における危険性因子への曝露の頻度、F-は対照における危険性因子への曝露の頻度である。F+およびF-は、研究におけるアリル頻度またはハプロタイプ頻度を用いて計算でき、基礎となる遺伝モデル(優性、劣性、相加的)に依存する。
【0170】
さらに、集団において所定の危険性因子のためにある形質を示す集団個体の割合を表す寄与危険度(AR)を推定することができる。この尺度は、疾病の原因における特定の因子の役割を定量する上で、および危険性因子の公衆衛生への影響という点で、重要である。対照の曝露がなかった場合に、集団中で予防できる症例の割合を見積もるという点で、この尺度は公衆衛生に関連している。ARは
AR = PE(RR-1) / (PE (RR-1)+1)として計算される。
【0171】
ARは遺伝子マーカーアリルまたは遺伝子マーカーハプロタイプが寄与する危険性である。PEは集団全体で、アリルまたはハプロタイプに曝露した頻度、およびRRは一般の集団において研究している形質の発生率が比較的低い場合に、オッズ比を用いて近似される相対危険性である。
【0172】
本発明の遺伝子マーカーと連鎖不均衡にある遺伝子マーカーの同定
関心のあるゲノム領域で最初の遺伝子マーカーが同定されたら、当業者は本発明の教示を用いて、この最初のマーカーと連鎖不均衡にある別の遺伝子マーカーを容易に同定できる。上述のように、形質と関連する第1のマーカーと連鎖不均衡にある任意のマーカーは、形質と関連する。したがって、所定の遺伝子マーカーおよび形質の間に関連が示されれば、この形質と関連する別の遺伝子マーカーの発見は、この特定の領域において遺伝子マーカーの密度を上昇させるために非常に興味深い。原因となる遺伝子または変異は、形質と最も高い相関を示すマーカーまたはマーカーのセットの近隣に見つかると思われる。
【0173】
所定のマーカーと連鎖不均衡にある別のマーカーの同定には、(a) 複数の個体から第1の遺伝子マーカーを含むゲノム断片を増幅する段階;(b) 第1の遺伝子マーカーを持つゲノム領域中で第2の遺伝子マーカーを同定する段階;(c) 第1の遺伝子マーカーと第2の遺伝子マーカーの間の連鎖不均衡解析を行なう段階;および(d) 第1のマーカーと連鎖不均衡にあるとして第2の遺伝子マーカーを選択する段階が含まれる。段階(b)と(c)を含む組み合せも、考慮される。
【0174】
遺伝子マーカーの同定方法および連鎖不均衡解析の方法は、本明細書に記述され、当業者は過度の実験なしに実施できる。インスリンHphI座と連鎖不均衡にある遺伝子マーカーは、所定の形質、例えば肥満とのそれぞれの関連という点で、類似した特性を示すと期待され、使用することができる。HphI座は近隣のインスリンVNTRと強い連鎖不均衡を示す。HphI座の「+」アリル(T)は、近隣のインスリンVNTRのクラスIアリルと、「-」アリル(A)はクラスIIIアリルと、完全な連鎖不均衡にある。したがって、連鎖不均衡解析は、-23 HphI多型を代理マーカーとして、インスリンVNTRも試験する。選択的に、インスリンHphI座と連鎖不均衡にあるマーカーは、表Cに記載されるマーカー、好ましくはマーカー-4217 PstI、-2221 MspI、-23 HphI、+1428 FokI、+11000 AluI、および+32000 ApaI、またはより好ましくは-23 HphIからなる群より選択される。選択的に、インスリンHphI座と連鎖不平衡のマーカーは、さらに当技術分野で周知のインスリンHphI座と連鎖不平衡にある任意の他のマーカー、および本明細書に記述される方法によってインスリンHphI座と連鎖不平衡にあることが決定される任意のマーカーを含み得る。
【0175】
マッピング試験:機能的変異の同定
本発明の遺伝子マーカーを用いて正の関係が確認されたら、関連する候補領域(インスリン遺伝子の連鎖不平衡の中)の配列について、いくつかの形質陽性および形質陰性個体の配列を比較することによって、変異のスキャンができる。好ましい態様では、インスリン遺伝子のエクソンおよびスプライス部位のような機能的領域、プロモーター、ならびに他の調節領域で、変異のスキャンをする。好ましくは、形質陽性個体は、その形質と関連することが示されたハプロタイプを持ち、形質陰性個体は、その形質と関連するハプロタイプまたはアリルを持たない。変異検出手順は、2アリル部位の同定に用いられるものと本質的に同じである。
【0176】
そのような変異の検出に使用する方法は、一般的に以下ので段階を含む:(a) 形質陽性患者および形質陰性対照のDNA試料から、形質と関連する遺伝子マーカーまたは遺伝子マーカー群を含む候補遺伝子の領域を増幅する段階;(b) 増幅された領域の配列を決定する段階;(c) 形質陽性患者と形質陰性対照のDNA配列を比較する段階;および(d) 形質陽性患者に特異的な変異を決定する段階。段階(b)と(c)を含む組み合せも、特に考慮される。
【0177】
好ましくは、その後、本明細書に開示されるような任意の遺伝子型同定手順、好ましくは個々の試験形式で微量配列決定手順を用いて、患者と対照のより大きな集団をスクリーニングすることによって、候補多型を確認する。多型は、期待される関連の結果と一致する頻度で患者および対照に存在すれば、候補変異と見なされる。
【0178】
遺伝子診断法における本発明の遺伝子マーカー
本発明の遺伝子マーカーは、特定の遺伝子型の結果として検出可能な形質を発現する個体、または後にその遺伝子型のために検出可能な形質を発生する危険性を持つ個体を、同定することのできる診断検査を開発するためにも使用できる。
【0179】
本発明が、誰が肥満を含む特定の疾患及び肥満関連疾患を発症する危険性を持つかという個体の絶対的な同定をするのではなく、疾患を発症するある程度または可能性を示すものであることは、肥満および肥満関連疾患の治療または診断を実施する当業者には当然理解されると思われる。しかし、この情報は、予防的治療を開始したり、重要なハプロタイプを持つ個体が小さな症状のような前兆となる徴候を予知することができるので、特定の状況では非常に貴重である。非常に強く攻撃し適時に治療しないと致死的になる場合があるような疾病では、絶対的なものではなくても潜在的な素因に関する知識は、有効な治療に非常に重要な貢献をする可能性がある。
【0180】
本発明の診断技術は、家系研究、単一精子のDNA解析、または体細胞ハイブリッドのような、個々の染色体のハプロタイプの解析を可能にする方法を含め、種々の方法を使用して、被験者が検出可能な形質の発症危険性の上昇と関連した遺伝子マーカーパターンを持つかどうか、または個体が特定の変異の結果として検出可能な形質に侵されているかどうかを決定できる可能性がある。本発明の診断法で解析される形質は、肥満および肥満関連疾患を含む、任意の検出可能な形質であることができる。
【0181】
本発明の別の局面は、個体が形質を発症する危険性を持つかどうか、または個体が形質の原因となる特定のアリルを持つ結果として形質を発現するかどうかを決定する方法に関する。本発明は、個体が複数の形質を発症する危険性を持つかどうか、または個体が形質の原因となる特定のアリルを持つ結果として、複数の形質を発現するかどうかを決定する方法にも関する。これらの方法には、個体から核酸試料を得て、核酸試料に形質の発症危険性を示す、または形質の原因となる特定のアリルを持つ結果として個体が形質を発現することを示す、1つまたは複数の遺伝子マーカーの1つまたは複数のアリルを含むかどうかを決定することが含まれる。これらの方法は、個体から核酸試料を得て、核酸試料が形質の発現の危険性を示す、または個体が特定のインスリン多型または変異(形質の原因となるアリル)を持つ結果として形質を発現することを示す、少なくとも1つのアリルまたは少なくとも1つの遺伝子マーカーハプロタイプを含むかどうかを決定することも含む。
【0182】
好ましくは、そのような診断方法では、個体から核酸試料を得て、この試料を上記の「遺伝子マーカーに関するDNA試料の遺伝子型同定法」に記述される方法を用いて、遺伝子型同定する。診断法は、単一の遺伝子マーカー、または遺伝子マーカー群に基づくもので良い。これらの各々の方法では、被験者から核酸試料を得て、インスリンHphI座と連鎖不均衡にある1つまたは複数のマーカーの遺伝子マーカーパターンを決定する。または、1つまたは複数の遺伝子マーカーは、表Cに提供されるマーカー、好ましくはマーカー-4217 PstI、-2221 MspI、-23 HphI、+1428 FokI、+11000 AluI、および+32000 ApaI、またはより好ましくは-23 HphIからなる群より選択される。選択的に、インスリンHphI座と連鎖不平衡のマーカーは、さらに当技術分野で周知のインスリンHphI座と連鎖不平衡にある任意の他のマーカー、および本明細書に記述される方法によってインスリンHphI座と連鎖不平衡にあることが決定される任意のマーカーを含み得る。
【0183】
1つの態様では、核酸試料のPCR増幅を行ない、検出可能な表現型と関連する多型が同定された領域を増幅する。増幅産物の配列を決定し、個体が検出可能な表現型に関連したインスリン多型を1つまたは複数持つかどうかを決定する。増幅産物の作製に使用されるプライマーは、表Cおよび表・増幅プライマーに列挙されるプライマーを含む可能性がある。または、核酸試料に上述のような微量配列決定反応を行ない、個体がインスリン遺伝子の変異または多型の結果として検出可能な表現型と関連するインスリン多型を1つまたは複数持つかどうかを決定する。
【0184】
別の態様では、検出可能な表現型と関連する1つまたは複数のインスリンアリルに特異的にハイブリダイズする1つまたは複数のアリル特異的オリゴヌクレオチドプローブを核酸試料に接触させる。別の態様では、増幅反応でアリル特異的オリゴヌクレオチドとともに使用すると増幅産物を生産する能力のある第2のインスリンオリゴヌクレオチドを核酸試料に接触させる。増幅反応中に増幅産物が存在すると、個体が検出可能な表現型と関連する1つまたは複数のインスリン関連アリルを持つことを示す。
【0185】
上述のように、診断方法は単一の遺伝子マーカーまたは遺伝子マーカー群に基づく可能性がある。好ましくは、遺伝子マーカーまたは遺伝子マーカーの組み合せは、表Aに記述されるインスリンHphI座と連鎖不平衡にあるマーカー、好ましくはマーカー-4217 PstI、-2221 MspI、-23 HphI、+1428 FokI、+11000 AluI、および+32000 ApaI、またはより好ましくは-23 HphIからなる群より選択される。選択的に、インスリンHphI座と連鎖不平衡のマーカーは、さらに当技術分野で周知のインスリンHphI座と連鎖不平衡にある任意の他のマーカー、および本明細書に記述される方法によってインスリンHphI座と連鎖不平衡にあることが決定される任意のマーカーを含み得る。診断キットは、本発明の任意のポリヌクレオチドを含み得る。
【0186】
これらの診断方法は、予防的治療を開始したり、重要な遺伝子型またはハプロタイプを持つ個体が小さな症状のような前兆となる徴候を予知することができるので、特定の状況では非常に貴重である。例えば、実施例1に記述される研究では、被験者はすべて肥満の少年少女である。しかし、父系のVNTRクラス1アリルを有する幼児またはよちよち歩きの幼児、肥満になる危険性のある幼児およびよちよち歩きの幼児を同定することによって、このような個体がここで食事療法によるカロリー摂取を調節することに的をしぼって、後の重篤な疾患の発生を予防することができる。
【0187】
薬剤への応答または薬剤の副作用を分析および予測する診断法は、個体を特定の薬剤で治療するべきかどうかを決定するために使用できる。例えば、診断法により、個体が特定の薬剤による治療にプラスの応答をする可能性が示されれば、その個体にその薬剤を投与できる。逆に、診断法により、個体が特定の薬剤による治療にマイナスの応答をする可能性が高ければ、別の治療方法を処方できる。マイナスの応答とは、有効な応答がないこと、または有毒な副作用があることとして定義される。インスリンHphI座およびインスリン関連疾患に関連する他の形質と連鎖不平衡にあるマーカーの間の他の関連も、過度な実験なしに本発明の方法を用いて決定でき、これらの形質を標的とする薬剤に感受性(または非感受性)の可能性の高い人々の亜集団を同定するために有用な他のマーカーが示される。さらに、薬剤の転帰(治療/副作用)に注目して特異的な関連付けを行い、危険性/治療の成功を予測する他の有用なマーカーが同定できる。
【0188】
臨床薬剤試験は、本発明のマーカーのもう1つの応用法である。上述の方法を用いて、インスリン関連疾患に作用する薬剤への応答、またはインスリン関連疾患に作用する薬剤への副作用を示す1つまたは複数のマーカーが同定され得る。その後、そのような薬剤の臨床試験の参加候補者をスクリーニングして、薬剤に好都合な反応をする可能性の高い個体を同定したり、および/または副作用を経験しそうな個体を除外したりできる。そのようにして、プラスの反応をする可能性の低い個体を試験に含める結果として測定値が低下することもなく、および/または望ましくない安全性の問題の危険性なしに、薬剤にプラスの反応をする可能性のある個体において、薬剤の有効性を評価できる。
【0189】
肥満の治療
さらに本発明は、例えば肥満治療の予防方法のような、肥満の治療方法を提供する。さらに本発明は肥満に関する疾患の治療方法、例えば、予防方法、も提供する。本方法は一般に、上述のように個体のINS VNTR遺伝子型の決定を含み、さらに個体が父系VNTRクラスIアリルを持つ場合には、個体に体重制限療法を施すことを含む。いくつかの態様では、本発明は個体が肥満を発症する危険性を低下させる方法を提供する。これらの態様のいくつかでは、肥満は早発性肥満である。他の態様では、本発明は、個体が肥満に関連する疾患を発症する危険性を低下させる方法を提供する。
【0190】
減量(体重の調節)のために提案されている治療法には5つの種類がある。(1) 食事制限は最も頻繁に使用される。肥満個体は食事習慣を変えて摂取カロリーを低下させる、すなわち、超低カロリー(VLC)ダイエット(400および800 kcal/日)にするように助言される。この種の治療法は短期的には有効であるが、再発率は非常に高い。(2) 身体の運動による消費カロリーの増加も提案されている。この治療法は単独では有効ではないが、低カロリーダイエットの患者の減量を促進する。合わせると、食事制限および消費カロリーの増加は、単一の行動修正療法と考えられることがある。(3) 摂取カロリーの吸収を低下させる胃腸管手術は有効であるが、その副作用のためにほとんど廃止されている。(4) 消化管の内腔に食物脂質を隔離することによって、その吸収を低下させる手法も用いられる。しかしこれは、脂溶性ビタミンの吸収不良、鼓脹、および脂肪便を含む忍容しがたい生理的不均衡を誘導する。どのような治療法を考えて、肥満の治療には非常に高い再発率という特徴がある。(5) かなりの減量を可能にする薬物戦略が5つある:
食欲不振誘発性のシグナルまたは因子(食物摂取を抑制するもの)の阻害効果を増幅する、または食欲促進シグナルまたは因子(食物摂取を刺激するもの)を阻止することにより、食物摂取を減少させる、すなわちシブトラミン;
消化管における栄養の吸収(特に脂質)を阻害する、すなわちオルリスタット;
ATPの生成から燃料代謝を脱共役させることにより、熱発生を増加させ、それにより食物エネルギーを熱として消費する、すなわちエフェドリンおよびカフェイン;
脂肪合成/脂肪分解または脂肪分化/アポトーシスを調節することにより、脂肪または蛋白質の代謝または貯蔵を変化させる;および
コントローラーが調べる内部標準値を変化させるか、コントローラーが分析する脂肪貯蔵に関する1次求心性シグナルを調節することにより、体重を調節する中枢コントローラーを変化させる(Bray G.A.ら、Nature. 404:672-674 (2000)およびHealtheon/WebMD (1999))。
【0191】
身体の運動および摂取カロリーの減少によって糖尿病の症状は劇的に改善するが、座業的なライフスタイルや食物の過剰摂取、特に高脂肪食物が定着しているため、この治療法のコンプライアンスは非常に悪い。膵臓β細胞のインスリン分泌を上昇させるスルホニル尿素(例えば、トルブタミド、グリピジド)の投与により、またはスルホニル尿素へ応答できなくなった後にはインスリン注射により、インスリンの血漿濃度を上昇させると、インスリン抵抗性組織を刺激するために十分高いインスリン濃度が得られる。しかし、これらの2つの治療法によると、血漿ブドウ糖レベルが危険なほど低くなる可能性があり、またより高い血漿インスリン濃度のおかげでインスリン抵抗性が高まる可能性も理論的にはある。ビグアニドはインスリン感受性を高めるために、高血糖がある程度矯正される。しかし、フェンホルミンとメトホルミンの2つのビグアニドは、それぞれ乳酸性アシドーシスおよび悪心/下痢を誘導し得る。
【0192】
体脂肪値の決定方法
肥満は健康を維持するために必要な量以上の過剰な脂肪として大まかに定義されるが、正式には、寿命を最大にすると定義される理想体重を大きく上回ることとして定義される(Friedman, J.M. Nature. 404:633 (2000))。脂肪過多の簡便な臨床および疫学的尺度は、肥満指数(BMI)であり、これは体重を身長の二乗で割って計算される(kg/m2)。BMIは本明細書で説明されるような、より複雑な体脂肪の尺度と高い相関を示すが、極端な身長分布の場合には正確さは低下する(Healtheon/WebMD 1999)。
【0193】
肥満指数
臨床の場では、体脂肪は体重と身長を組み合せた公式を用いて、最も一般的かつ簡便に見積もられる。その根底にある前提は、身長が同一の人間の体重の変動の大部分は、体脂肪によるというもので、研究に最も頻繁に使用される公式は、肥満指数(BMI)である。BMI値を用いた肥満度の分類は、体脂肪の増加に関して、貴重な情報を与える。集団内部および集団間で体重に関して意味のある比較をしたり、疾病や死亡の危険性のある個体や集団を同定したりできる。また、個体または地域社会レベルで介入の優先順位を決定したり、そのような介入の有効性の評価ができる。しかし、BMIは異なる集団間では、肥満の度合いに同じように相関しない場合がある。また異なる個体および集団間での肥満の性質の大きな違いも説明できない(Kopelman P.G. Nature. 404:635 (2000))。
【0194】
世界保健機構は以下のようなBMIを用いた過体重の分類を提供している。
表C
【0195】
体脂肪値を測定する他の方法
BMIの他にも、胴囲、胴囲対腰回りの比、皮下脂肪厚、およびバイオインピーダンスを含めた、いくつかの脂肪測定方法がある(Heymsfield S.B.ら、Am J Clin Nutr. 64:478-84 (1996))および(Calle E.C.ら、New Engl J Med. 341:1097-1104 (1999))および(Gallagher D.ら、Am J Epidemiol. 143:228-39 (1996))。本明細書の表Dにこれらの方法を示す。
【0196】
表D
(Kopelman P.G. Nature. 404:635 (2000))
【0197】
参照文献
【0198】
実施例
以下の実施例は、当業者に本発明をどのようにして生産および使用するかの完全な開示および記述を提供するためのものであり、本発明と見なされるものの範囲を制限する意図はなく、また以下の実験例が実施される全てまたは唯一の実験であると示す意図はない。使用する数字(例えば、量、温度等)に関して正確さを保証するよう努力はされているが、実験誤差および逸脱があり得る。特に記述されないかぎり、割合は重量による割合であり、分子量は平均分子量、温度は摂氏;および圧力は大気圧またはその付近である
【0199】
実施例 1
非常に一般的なクラス I INS VNTR アリルが父親から伝達されると、白人の小児が早発性多因子性肥満に罹患しやすくなる
方法
被験者
試験した肥満患者の大部分は、地中海および中央ヨーロッパ諸国の家系で以前に記述されたコホート(3)に由来した。患者の地理的な出身地は、家族歴、父系の名前の解析、および祖父母の生誕地によって評価した(26)。地中海および中央ヨーロッパの人達は、同等な複数部位のインスリン領域ハロタイプを持ち(6つの近接するSNPから、ハロタイプの推定およびハロタイププロファイル間の同等の尤度比検定から決定)、これは遺伝的起源が近いこと反映していた(3)。前回の報告以来進行している採用から、さらなる発端者のサブセットが得られた。このコホートから、小児肥満の発症の重要な時期である6歳前に肥満が発症し(27)、親がサンプリングに同意した(表1) 402人の白人小児が選ばれた。
【0200】
本発明者らは肥満の発症を、急速で単調な体重増加のために体脂肪値が同年齢・性別の85パーセンタイルを超えた時点として自由裁量によって定義した(3)。これらの402人の肥満小児のうち、140人はVNTRクラスIおよびIIIアリルのヘテロ接合の父親を持ち、125人はヘテロ接合の母親を持っていた(27人は両親ともヘテロ接合、ヘテロ接合の親および子供を含む情報を与えないトリオを除いて、238人の適当な発端者)。これらのトリオは、すべて異なる家族だった。これらの肥満発端者の121人のやせた兄弟も、集められた(表1および2)。本発明者らは、確実に誰も早発性肥満を発症しないことを確認するために、6歳を超えた兄弟を選択した。痩せの定義は、相対体重が、身長、年齢、および性別を考慮した標準体重の100%として定義した(28)。
【0201】
遺伝子型同定
以前に報告されたように(3)、これらの肥満および痩せた小児およびその両親のVNTR座の遺伝子型同定を行なった。-23 Hph1 SNP遺伝子型は、PCR産物の解析によって決定された。白人では、Hph1 「+」アリル(A)は隣接するVNTRのクラスIアリルと完全な連鎖不平衡にあり、「-」アリル(T)はクラスIIIアリルと完全な連鎖不平衡にある(11)。ハプロタイプのわずか0.23%のみが、Hph1 「+」とVNTRクラスIアリル間で一致しない(11)。したがって、本発明者らは代理マーカーとして-23 Hph1を用いてインスリンVNTRを調べた。
【0202】
遺伝子型同定は以下のようにして実施された。以下のプライマー、
および
を用いて、ゲノムDNAをPCRにかけた。典型的なPCRの条件は:96ウェルのマイクロタイタープレート(Perkin)で、200 ng DNA、1.5 mM MgCl2、5μl 10X反応緩衝液(Perkin Elmer)、10% DMSO (Pst1)、0.2 mMの各dNTP、1μMの各プライマー、および1.25 UのTaqポリメラーゼ(Perkin Elmer)を含む各50μlの反応液。9700 Perkin Elmerサーモサイクラーを用いて、30〜35サイクル行われた。INS04およびINS05プライマーを用いて、65℃のアニーリング温度で、441 bpのPCR産物が得られる。10μlのPCR産物を2.5 UのHphIで消化し、電気泳動して遺伝子型を同定した。[+]アリルは制限酵素が配列を切断することを示し、[-]は切断しないことを示す。+/+の個体は232bp、161bp、および39 bpのバンドを生成し、+/-の個体は271bp、232bp、161bp、および39 bpのバンドを生成し、-/-の個体は271および161 bpのバンドを生成する。
【0203】
TDTおよび由来する親の効果
伝達不均衡は、まず伝達するアリルおよび伝達しないアリルならびに不調和性の伝達の比較の単純な表を作成して評価された(19)。特にクラスIアリルの推定遺伝確率(π)は、χ2検定によってヘテロ接合の母子のペアおよびヘテロ接合の父子のペアの間で比較した。親子のペアで一致したVNTRアリル伝達の条件的ロジスティック回帰(conditional logistic regression)は、以下のように表された:
[ここでP(t)=アリルが罹患した小児に伝達した確率;アリルがクラスIアリルであればA=1、そうでなければA=0;伝達したアリルが父親由来であればF=1]。この分析の対象となる唯一のペアは、ヘテロ接合の両親が含まれるペアである(不調和性遺伝)。その後、尤度比検定を用いて、全体のモデルとβが0に制限されたものを比較することによって、由来する親の重要性を評価した。
【0204】
由来する親のワインバーグの尤度比検定(PO-LRT)では、データは、由来する親および母親の遺伝子型効果の情報を与える5つのトリオクラスに分類された(Weinberg、1999の表3参照)。特定のトリオのカテゴリー中では、由来する親の効果の推定は、遺伝したアリルの父親由来と母親由来の正の対数オッズとして観察されうる。この条件的シナリオは、これらの5種類の家族の各々が、以下の(無条件)ロジスティック回帰に非類なく貢献するように指標変数を用いて設定できる:
ここでM=母親の遺伝子型におけるクラスIアリルの数;F=父親の遺伝子型におけるクラスIアリルの数; 子供がヘテロ接合ならC=1、そうでなければc=0;P=M+F;I=親のクラスIアリルの合計;下付きの記述が正しければI=指標、1=Y、O=N。この回帰の係数は、α=ln (IF)、ここでIF=母親由来と比較した父親由来のクラスIアリルの上昇した危険性;βS1=ln(S1)、ここでS1は母親がIII/IIIの子供と比較して母親がクラスIアリルを1コピー持つ子供の相対危険性と解釈できる。由来する親(PO)の効果または母親の遺伝子型の影響の検定は、尤度比検定を用いて入れ子モデルで実施できる。
【0205】
別の対数線形アプローチでは、15個の予想される合同の母親、父親、子供の遺伝子型カテゴリーのうちの1つにおける期待されるトリオの数を、遺伝子型危険性(発端者における)、母親の遺伝子型危険性、および由来する親の効果の対数線形関数として表す:
ln[E(nMPC)] = β1C1 +β2C2 + y1M1 + y2M2 +αF + ln(η)IMPC
ここでnMPCは特定の「MPC」カテゴリーにおけるトリオの数を表し、M、P、Cはそれぞれ母親、父親、および子供が持つクラスIアリルの数を表す。C=1ならばC1=1;C=2ならばC2=1;M=1ならばM1=1;M=2ならばM2=1;C-1で父親由来ならばF=1;M=P=C=1ならばIMPC=1。係数は、α=ln(IF)でIF=母親由来と比較した父親由来のクラスIアリルの上昇した危険性;β1=ln(R1)でR1はIII/IIIの小児と比較したアリルIを1コピーもつ子供の相対危険性;β2=ln(R2)でR2はIII/III型と比較したI/I遺伝子型の子供の相対危険性;γ1=ln(S1)でS1はIII/IIIの母親と比較したクラスIアリルを1コピーもつ母親の子供の相対危険性;およびγ2=ln(S2)でS2はIII/IIIの母親と比較したI/I遺伝子型を持つ母親の相対危険性であると解釈できる。由来する親および母親の遺伝子型の効果の検定には、入れ子モデルの尤度比検定を使用した。
【0206】
全ての解析は、SASバージョン10.0.で行なった。条件的ロジスティック解析は、切片(intercept)オプションなしでproc logisticで行い、結果および従属変数を適宜調節した。対数線形モデルは、proc genmodで行なった。
【0207】
結果
本発明者らは最近、肥満小児と痩せた対照の間でインスリンVNTR遺伝子型の分布に差がないという所見に基づいて、これらのVNTRアリルと小児肥満の間には直接の関連がないと報告した(3)。本報告では、本発明者らは患者-親トリオデザインを用いて、肥満の子供に対するVNTRアリルクラスの伝達における由来する親の差の可能性を調べた。以前の患者-対照法では、貢献しない母系の減数分裂によって父系のクラスI効果が希釈したために、クラスIアリル効果を検出できなかった。
【0208】
父系および/または母系のアリルとの関連を区別するために、(若年)肥満小児、可能な場合はその痩せた兄弟(表1)、および両親からなる核家族の遺伝子型同定を行なった。
【0209】
(表1)肥満小児およびその痩せた兄弟の特徴(平均±SD)
【0210】
表2はヘテロ接合の母親および父親の分布、肥満小児に伝達したクラスIアリルの数、および全体および由来する親のサブセットについてのクラスIアリルの推定遺伝比率(π)を示す。驚いたことに、クラスIIIアリルに対してクラスIアリルが父親から大きく過剰に伝達していることが分かった(表2)。父親からクラスIアリルを受け継いだ小児の早発性肥満の推定される相対危険性は、r1/f=1.8である。しかし、同じデータセットにおいて、痩せた兄弟に対するいずれの親のタイプからの伝達のひずみは観察されなかった(表2、右)。
【0211】
(表2)性別ごとのヘテロ接合の親の数および肥満小児と痩せた兄弟へ伝達したインスリンVNTRクラスIアリルの数
* ヘテロ接合の親の数には、トリオの3人ともヘテロ接合の場合の親は情報を与えないので、含めていない。
** T=伝達したインスリンVNTRクラスIアリル;π=子供へのクラスIアリルの伝達の推定確率;π2=πM=πFの検定
【0212】
最近の論文でWeinbergらはπmとπfの間の均質性の検定は、両方がヘテロ接合の親のトリオはπの計算に2回貢献するが、片方がヘテロ接合の親のトリオは1回しか貢献しないため、偏りがある可能性があると提案した(表2上、TDT MvF)(13,14)。別の方法として、同氏は分析に片方がヘテロ接合の親のトリオのみを使うことを提案した(遺伝非対称性検定、TAT)。本発明者らのデータは、この方法を用いても、父親からの過剰な伝達がある証拠を示す(表2、下)。
【0213】
TDTシナリオは、尤度の枠組み中でも表現でき、尤度比検定を用いて父親と母親の危険性アリルの伝達の効果の差を検定できる(13〜15)。本発明者らは、尤度を用いた由来する親の検定の3つの手法を提案する、表3。まず、共変量としてアリルの由来する親を含めるまたは含めないモデルを用いて、TDTは条件的ロジスティック回帰(親子ペアでグループ化)(16)として検討することができる。肥満小児トリオのこれらのモデル間の尤度比検定(表3、A)は、由来する親の項の算入の有意な効果を示す。
【0214】
(表3)肥満小児・親のトリオおよび痩せた兄弟・親のトリオに関する、由来する親(PO)および(非伝達性)母親の遺伝子型効果についての試験
* 危険性パラメータとしての係数の解釈は方法を参照;** PO=由来する親の効果
【0215】
Weinberg (13) およびWeinbergら(14)による2つの最近の論文では、子宮内効果のような非伝達性の母親の遺伝子型効果は、影響を受けた発端者中の母親のアリルの分布を有意に変化させ、表2および表3,Aに示すように、伝達に対する由来する親の効果について誤った解釈を導き得ることが指摘された。別の手法として、同氏は伝達効果および由来する親の効果とは別に、母親の遺伝子型効果をモデル化する2つの手法を提案した。これを考慮すると、本発明者らの第2の尤度に基づく手法は、条件的ロジスティック回帰法であり、これは、交配の種類および子供の遺伝子型が左右する、結果として影響を受けた子供に父親(母親に対して)のクラスIアリルが伝達される確率をモデル化するものである(13)。この手法も、有意な由来する親の効果(父親のアリルから過剰な遺伝)、および(非遺伝性)母親の遺伝子型効果の証拠を示す(表3,B)。
【0216】
尤度に基づく第3の手法は、15項式としてデータセット中のトリオタイプ(母親、父親、および子供の遺伝子型により規定される)の分布を検討するものである。カテゴリーごとに期待されるトリオの数は、子供に遺伝された危険性アリルの数、母親が持つ数、および伝達したアリルの由来する親の対数線形関数として表現される。この枠組みでの尤度比検定も、父親の遺伝および(遺伝しない)母親の遺伝子型の効果の証拠を示した。要約すると、各方法はクラスIアリルの父系の遺伝効果の証拠を示した。この効果は、痩せた兄弟に関する同様なモデルのセットを用いた場合には観察されず、さらに小児肥満の危険性におけるクラスIインスリンアリルの過剰な父系の伝達を示した(表3)。さらに、伝達および非伝達群間で、発端者の性別の分布は有意差を示さず(p=0.12)、ヘテロ接合の父子ペアで伝達群間で父親の年齢には差が見られず(p=0.66)、これは発端者の性別および父親の年齢がこれらの結果に影響を与えないことを示唆した。
【0217】
本発明者らは、本発明者らの所見が母親からインプリントされることが知られている、胎児成長の2つの主な調節因子であるインスリンおよびIGF2遺伝子の、子宮内発現の調節に関連していると考える(17、18)。本発明者らは以前に、インスリン遺伝子発現が2アリル性である年齢において、クラスI VNTRアリルが肥満小児ではインスリン分泌の上昇に関連していることを示した(3)。インビトロ試験より、おそらく特異的なGに富むDNA構造を形成することにより(19)、クラスIアリルがインスリン遺伝子の転写の上昇に関連していることが知られている(4)。胎児の膵臓では、クラスI VNTRアリルはインスリン遺伝子の転写の上昇を伴う(7、8)。本結果は、早発性肥満の素因における、刷り込みされたVNTR-INS-IGF2領域の役割を示唆する。インスリンとIGF2のどちらも、ヒトの妊娠末期に脂質生成および/または脂質貯蔵を促進する可能性がある(20)。インスリン分泌を遺伝的に改変すると、出生前および出生後の成長に影響がある(21、22)。
【0218】
親の効果に加えて、本発明者らの解析はより小さな母親のVNTR遺伝子型効果の存在を示す。母親のクラスIII VNTRアリルが子孫において肥満の危険性上昇と関連していることが分かった。この効果は、母親のアリル伝達とは関連しておらず、子供の遺伝子型とは独立している(表3)。妊婦において、そのVNTR遺伝子型、高度のインスリン抵抗性を特徴とするインスリン分泌の調節、および妊娠の代謝制約(metabolic constraint)の間に、相互作用がある可能性が高い。以前の研究で、クラスIII VNTRアリルを持つ女性において、インスリン分泌の低下(3)およびインスリン非依存性糖尿病の危険性の上昇(11)が、報告された。さらに、本発明者らの標本中の母親の約32%は、妊娠前から肥満であった。母親のVNTRによっては、母親の環境および母親-胎児グルコースホメオスタシスに変化があり得る(23、24)。この仮説は、今後の研究で検証する予定である。文献でも、妊娠三半期は出生後の肥満の同調化の重要な時期である可能性があると報告されている(25)。
【0219】
結論として、本発明者らの所見は、主に父親のVNTRおよび隣接遺伝子の発現に関連する機構によるヒトの胎児のプログラミングが、一般の早発性肥満にかかりやすくする一般的な機構である可能性を示唆する。母親の代謝および栄養状態を含む他の遺伝的および非遺伝的因子は、これらの機構に干渉する可能性がある。
【0220】
本発明は、その特定の態様に関して説明されているが、本発明の精神または範囲から逸脱せずに、様々な変更を加えたり同等なもので置換したりするのは当業者には明らかである。さらに、特定の状況、材料、物質の組成、過程、過程の段階を、目的、精神、および本発明の範囲に適合させるために、多くの修正が施すことができる。そのような修正は全て、添付の特許請求の範囲に含まれることを意図する。
【0001】
発明の分野
本発明は肥満の診断および治療方法に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
理由はほぼ不明であるが、就学前児童の肥満は急速に増加している(1)。人生のごく初期に過剰な脂肪が蓄積するのは、代謝およびホルモン現象が脂肪細胞の分化、増殖、および脂肪蓄積に影響を与えるためである。インスリンは、出生後の初期における、脂肪癒着およびグルコースからの中性脂肪合成の強力な調節物質である(2) 。インスリン遺伝子(INS)の調節領域内の配列の変化は、小児においてインスリン分泌に影響を与えることが最近示された(3)。具体的には、INSの5’領域の多型ミニサテライトは、INSおよび付近のインスリン様成長因子2 (IGF2)遺伝子の発現に影響する(4、5)。胎児期には、ゲノム刷り込みがこれらの2つのヒト遺伝子に影響を与え、父系アリルに限定された発現がある。したがって、父系と母系のタンデム反復数のVNTR-INS-IGF2ハロタイプの役割は、この時期には同等ではない(6)。
【0003】
白人のINS VNTRアリルは、主に2つの長さのグループに分類される:クラスI (26〜63反復)およびクラスIII (141〜209反復)である。クラスIアリルは、胎児の膵臓でのINS (7、8)、胎盤でのIGF2遺伝子(9)の発現の上昇を伴う。異なる対照および糖尿病群を用いたいくつかの研究で、この遺伝子座で親子間のメンデル遺伝の確率からの逸脱が観察された。いくつかの白人群において、EavesらはI/III異型接合の両親から健康な小児に対してクラスIアリルが、わずかではあるが有意に過剰に伝えられることを示した(10)。この遺伝のひずみは、親の特定の性別に特異的ではなく、過剰な伝達に対して由来する親の証拠は示されなかった。しかし、2つの研究で、1型(T1D)または2型(T2D)糖尿病の小児に対してVNTRアリルが由来する親に依存して歪んで遺伝することが示された。Bennettらは、自己免疫性T1Dの患者へ、父親からクラスIアリルが過剰に伝達されることを示した(11)。これとは対照的に、最近Huxtableらは、T2D患者に対して父親からクラスIIIアリルが過剰に伝達されることを報告した(12)。III/IIIの同型接合の個体のT2Dの発症危険性が上昇していることを考えると、この所見は特に興味深い(11)。
【0004】
肥満と糖尿病は、工業化社会で最も広く見られる健康問題である。工業化諸国では、人口の3分の1が少なくとも20%過体重である。米国では、肥満人口は70年代末の25%から90年代初期の33%までに増加した。肥満はNIDDMの最も重要な危険因子の1つである。肥満の定義には色々あるが、一般に、身長と体格を考慮した推奨体重よりも少なくとも20%超過すると肥満と考えられる。30%体重超過するとNIDDMの発症危険性は3倍になり、NIDDM患者の4分の3は過体重である。
【0005】
摂取カロリーとエネルギー消費の間の不均衡の結果である肥満は、実験動物およびヒトにおいて、インスリン抵抗性および糖尿病と高い相関がある。しかし、肥満・糖尿病症候群に関与する分子機構は明らかではない。肥満の初期段階では、インスリン分泌の上昇がインスリン抵抗性とつり合い、患者の高血糖を予防する(Le Stunffら、Diabetes. 43、696-702 (1994))。しかし、数十年すると、β細胞の機能が低下し、肥満人口の約20%でインスリン非依存型糖尿病が発症する(Pedersen, P.、Diab. Metab. Rev. 5、505-509 (1989))および(Brancati, F.L.ら、Arch Intern Med. 159、957-963 (1999))。現代社会に肥満が多いことを考慮すると、肥満はNIDDMの最大の危険性になっている(Hill, J.O.ら、Science. 280、1371-1374 (1998))。しかし、患者の一部が、脂肪の蓄積に応答してインスリン分泌の変化を生じることの素因になる要素は不明である。
【0006】
肥満は心血管疾患の発症危険性も上昇させる。冠不全、アテローム疾患、および心不全は、肥満によって誘導される心血管合併症の中心である。全人口が理想体重を保っていたら、冠不全の危険性は25%低下し、心不全と脳血管発作の危険性は35%低下すると見られている。30%過体重の50歳未満の被験者では、冠動脈疾患の発症率は、倍になる。糖尿病患者の寿命は30%低下している。45歳以降では、糖尿病患者は非糖尿病患者よりも、重大な心疾患を持つ可能性が約3倍、脳卒中の可能性が5倍までになる可能性がある。これらの所見は、NIDDMと冠動脈性心疾患の危険因子の間の相関、および肥満予防に基づいてこのような状態を予防する統合的な手法の潜在的価値を強調するものである(Perry, I.J.ら、BMJ. 310、560-564 (1995))。
【0007】
肥満に関連する変異および遺伝子の検出が進んでいるにもかかわらず、肥満はヒトの健康に対して有害な影響を与え続けている。
【0008】
文献
【発明の開示】
【0009】
発明の概要
本発明は、個体のインスリンVNTRアリル、特に父系のVNTRアリルを決定することによって、肥満の発症危険性を決定する方法を特徴とする。関連する局面では、本発明は肥満になりやすい個人の合理的な治療および維持を促進する方法を特徴とする。
【0010】
本発明の特徴
本発明は、個人の肥満発症危険性を決定する方法を特徴とする。本方法では、一般に個人において父系のインスリンVNTRアリルを決定することを含む。父系のインスリンVNTRクラスIアリルが存在すれば、父系のインスリンVNTRクラスIIIアリルを持つ個体と比較して、その個体が肥満を発症する危険性が約2倍に上昇していることを示す。任意の方法を用いて個体においてインスリンVNTRの遺伝子型同定を行い、それによって父系のインスリンVNTRアリルを決定することができる。いくつかの態様では、決定は個体のインスリンVNTRと連鎖不平衡にある少なくとも1つのマーカーの多型塩基のアイデンティティを決定することによって、行われる。特定の態様では、マーカーは-23 HphIである。
【0011】
さらに本発明は、個体の肥満および関連する疾患を治療する方法も特徴とする。本方法では一般に、本発明に係る方法によって肥満を発症する危険性があると同定された個体において、減量または体重制限療法を行なうことによって、個体の肥満を治療することが含まれる。いくつかの態様では、減量療法は、食事制限、カロリー消費の増加、胃腸管手術、薬物療法、および食物脂質の吸収低下からなる群より選択される。
【0012】
さらに本発明は、個体が肥満関連疾患を発症する危険性を低下させる方法も特徴とする。本方法では一般に、本発明に係る方法によって肥満を発症する危険性があると同定された個体において、減量または体重制限療法を行なうことによって、個体が肥満関連疾患を発症する危険性を低下させることを含む。
【0013】
定義
本発明を詳細に説明する前に、本発明を説明するために使用する用語の意味および範囲を説明および定義するために、以下の定義を定める。
【0014】
本明細書で使用される「インスリン遺伝子」という用語は、ゲノムDNAの非翻訳調節領域を含め、ポリペプチドホルモンインスリンをコードするゲノム、mRNA、およびcDNA配列を含む。
【0015】
「単離された」という用語は、その物質が元の環境(例えば、天然に存在するもの場合には、天然の環境)から除去されていることを必要とする。例えば、生きている動物中に存在する天然のポリヌクレオチドまたはポリペプチドは単離されていないが、同じポリヌクレオチドまたはDNAまたはポリペプチドが天然系において共存する物質の一部または全てから分離されている場合には、単離されている。そのようなポリヌクレオチドはベクターの一部、および/またはそのようなポリヌクレオチドまたはポリペプチドは組成物の一部であっても、ベクターまたは組成物がその天然環境の一部ではないという点で、やはり単離されているといえる。
【0016】
「単離された」という用語は、さらにその物質が元の環境(例えば、天然に存在するもの場合には、天然の環境)から除去されていることを必要とする。例えば、生きている動物中に存在する天然のポリヌクレオチドは単離されていないが、同じポリヌクレオチドが天然系において共存する物質の一部または全てから分離されている場合には、単離されている。インビトロ核酸調製物またはトランスフェクト/形質転換された宿主細胞調製物として存在する、天然に存在する染色体(染色体スプレッド(spread)など)、人工染色体ライブラリー、ゲノムライブラリー、およびcDNAライブラリーで、宿主細胞がインビトロの不均一調製物であるか、単一コロニーの不均一集団として播種されたものは、「単離された」という定義から特に除外される。また、本発明の特定のポリヌクレオチドが、ベクター分子中の核酸挿入断片の数の5%未満である上述ライブラリーも特に除外される。さらに全細胞ゲノムDNAまたは全細胞RNA調製物(機械的剪断または酵素消化した全細胞調製物を含む)も、除外される。さらに、インビトロ調製物または電気泳動(そのブロットトランスファーを含む)によって分離された不均一混合物としての上述の全細胞調製物で、本発明のポリヌクレオチドが電気泳動媒体中の不均一ポリヌクレオチドからさらに分離(例えば、アガロースゲルまたはナイロンブロット中の不均一バンド群から単一のバンドを切り出すことによるさらなる分離)されていないものも、除外される。
【0017】
「精製された」という用語は、絶対的純度を必要とはせず、むしろ、相対的な定義である。開始物質または天然物質の、少なくとも1桁、好ましくは2〜3桁、およびさらに好ましくは4桁または5桁の精製が、予期されている。例えば、濃度0.1%から濃度10%への精製は、2桁の精製である。本明細書では「精製ポリヌクレオチド」という用語は、他の核酸、炭化水素、脂質、および蛋白質(ポリヌクレオチドの合成に使用された酵素など)を含むがこれらに限定されない他の化合物から分離された、本発明のポリヌクレオチドまたはポリヌクレオチドベクター、または線状ポリヌクレオチドからの共有結合で閉じたポリヌクレオチドの分離を指す。試料の少なくとも50%、好ましくは60〜75%が単一のポリヌクレオチド配列および構造(線状か共有結合で閉じているか)を示す場合に、ポリヌクレオチドは実質的に純粋である。実質的に純粋なポリヌクレオチドは、典型的には核酸試料の約50%w/w、好ましくは60〜90%w/w、より普通には約95%、および好ましくは約99%超、純粋である。ポリヌクレオチドの純度および均一性は、試料のアガロースまたはポリアクリルアミドゲル電気泳動後にゲル染色で単一ポリヌクレオチドバンドを可視化することなど、当技術分野で周知のいくつもの手段により、示される。特定の目的のためには、HPLCまたは当技術分野で周知の他の手段を用いて、より高い解像度が提供できる。
【0018】
「ポリペプチド」という用語は、ポリマーの長さには関わらず、アミノ酸のポリマーを指す。したがって、ペプチド、オリゴペプチド、および蛋白質がポリペプチドの定義には含まれる。この用語は、ポリペプチドの発現後修飾を指定または排除しない。例えば、グリコシル基、アセチル基、リン酸基、脂質基等の共有結合を含むポリペプチドは、ポリペプチドという用語に明らかに含まれる。また、アミノ酸類似体(例えば、非天然アミノ酸、無関係の生物系にのみ存在するアミノ酸、哺乳類系由来の修飾アミノ酸等を含む)、結合が置換されたポリペプチド、ならびに天然および非天然の当技術分野で周知の他の修飾を1つまたは複数含むポリペプチドも、この定義に含まれる。
【0019】
本明細書で使用される「組換えポリペプチド」という用語は、もとの天然環境では隣接するポリペプチド配列としては見られない、少なくとも2つのポリペプチド配列を含む、人工的に設計されたポリペプチドを指すか、組換えポリヌクレオチドから発現されたポリペプチドを指す。
【0020】
本明細書で使用される「精製ポリペプチド」という用語は、核酸、脂質、炭化水素、および他の蛋白質を含むがこれらに限定されない他の成分から分離された本発明のポリペプチドを指す。ポリペプチドは、試料の少なくとも約50%、好ましくは60〜75%が単一のポリペプチド配列を示す場合に、実質的に純粋である。実質的に純粋なポリペプチドは、典型的には蛋白質試料の約50%w/w、好ましくは60〜90%w/w、より普通には約95%、および好ましくは約99%を超える割合で、純粋である。ポリペプチドの純度および均一性は、試料のポリアクリルアミドゲル電気泳動後にゲル染色で単一ポリペプチドバンドを可視化することなど、当技術分野で周知のいくつもの手段により、示される。特定の目的のためには、HPLCまたは当技術分野で周知の他の手段を用いて、より高い解像度が提供できる。
【0021】
本明細書全体を通して「ヌクレオチド配列」という表現は、ポリヌクレオチドまたは核酸を指すために区別なく使用される。より正確には、「ヌクレオチド配列」という表現は、核酸物質自身を含み、特定のDNAまたはRNA分子を生化学的に特徴づける配列情報(4つの塩基文字から選択された文字の並び)に限定されない。
【0022】
本明細書では互換的に使用される「核酸」、「オリゴヌクレオチド」、および「ポリヌクレオチド」という用語は、一本鎖または二本鎖の形の、1ヌクレオチドを超えるRNA、DNA、またはRNA/DNAハイブリッド配列を含む。本明細書で使用される「ヌクレオチド」という用語は、一本鎖または二本鎖の形の任意の長さのRNA、DNA、またはRNA/DNAハイブリッド配列を含む分子を記述する形容詞である。本明細書では「ヌクレオチド」という用語は、個々のヌクレオチドまたはヌクレオチド変種を指す名詞としても使用され、プリンまたはピリミジン、リボースまたはデオキシリボース糖部分、およびリン酸基、またはオリゴヌクレオチドもしくはポリヌクレオチド内のヌクレオチドの場合にはリン酸ジエステル結合を含む、より大きな核酸分子中の個々のユニット、または1つの分子を意味する。しかしながら「ヌクレオチド」という用語は本明細書では、少なくとも1つの修飾、(a) 別の結合基、(b) プリンの類似型、(c) ピリミジンの類似型、または (d) 糖類似体を含む「修飾ヌクレオチド」を含む。結合基、プリン、ピリミジン、および糖の類似体の例は、国際公開公報第95/04064号参照。本発明のポリヌクレオチド配列は、合成、組換え、エクスビボ生成、またはその組み合せを含む任意の既知の方法、ならびに当技術分野で周知の任意の精製方法を用いて調製できる。
【0023】
「プロモーター」は遺伝子の特異的転写を開始するために必要な、細胞の合成機構によって認識されるDNA配列を指す。
【0024】
プローモーターのような調節配列に「機能的に連結した」配列は、調節配列がRNAポリメラーゼ開始および対象核酸の発現を制御するために、核酸に対して正しい位置および方向にあることを意味する。
【0025】
本明細書で使用される場合、「機能的に連結した」という用語は、機能的な関係にあるポリヌクレオチド要素の連結を指す。例えば、プロモーターまたはエンハンサーは、それがコード配列の転写に影響を与える場合に、そのコード配列に機能的に連結している。より正確には、2つのDNA分子(プロモーター領域を含むポリヌクレオチドおよび所望のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドまたはポリヌクレオチド)は、2つのポリヌクレオチドの連結の性質が、(1) フレームシフト変異を導入しない、または (2) プロモーターを含むポリヌクレオチドの、コードしているポリヌクレオチドの転写を指示する能力に干渉しない場合に、「機能的に連結している」と言われる。
【0026】
「プライマー」という用語は、標的ヌクレオチド配列に相補的で、標的ヌクレオチド配列にハイブリダイズするために使用される、特異的なオリゴヌクレオチド配列を指す。プライマーは、DNAポリメラーゼ、RNAポリメラーゼ、または逆転写酵素によって触媒されるヌクレオチド重合の開始点となる。
【0027】
「プローブ」という用語は、試料中に存在する特異的なポリヌクレオチド配列を同定するために使用できる定義された核酸セグメント(またはヌクレオチド類似体セグメント、例えば、本明細書で定義されるポリヌクレオチド)で、同定され特異的なポリヌクレオチド配列に相補的なヌクレオチド配列を持つ核酸セグメントを指す。
【0028】
「形質」および「表現型」という用語は本明細書では互換的に使用され、例えば疾病の症状または感受性のような、生物体の任意の可視的、検出可能、または測定可能な性質を指す。本明細書では「形質」または「表現型」という用語は、疾病の症状またはその感受性、治療に対する有益な応答またはその副作用を指す。好ましくは、形質は、肥満関連の疾病および/または真性糖尿病であるが、これらに限定されない。
【0029】
本明細書では「アリル」という用語は、ヌクレオチド配列の変種を指す。2アリル性の多型には、2つの形がある。二倍体生物は、アリルの形について、同型接合または異型接合であり得る。
【0030】
本明細書では「異型接合率」という用語は、集団中で、特定のアリルが異型接合である個体の出現率を指す。2アリル系では、異型接合率は平均で2Pa(1-Pa)に等しく、ここでPaは少ない方の共通のアリルの頻度である。遺伝子マーカーは、遺伝学研究に有用であるために、適当な確率を可能にするために無作為に選択された個体が異型接合であるような、適切な異型接合率を持つ必要がある。
【0031】
本明細書で使用される「遺伝子型」という用語は、個体または試料中に存在するアリルのアイデンティティを指す。本発明の状況では、遺伝子型は好ましくは個体または試料中に存在する遺伝子マーカーアリルの記述を指す。遺伝子マーカーに関する試料または個体の「遺伝子型同定」には、遺伝子マーカーにおいて、個体が持っている特定のアリルまたは特定のヌクレオチドを決定することが含まれる。
【0032】
本明細書で使用される「変異」という用語は、異なるゲノムまたは個体の間における、DNA配列の差で、頻度が1%未満のものを指す。
【0033】
「ハプロタイプ」という用語は、個体または試料中に存在するアリルの組み合せを指す。本発明の状況では、ハプロタイプは好ましくは特定の個体中に見られる遺伝子マーカーの組み合せで、表現型と関連する可能性のあるものを指す。
【0034】
本明細書で使用される「多型」という用語は、異なるゲノムまたは個体の間で、2つまたはそれ以上の別のゲノム配列またはアリルが存在することを指す。「多型」とは、1つの集団に見出される特定のゲノム配列の2つまたはそれ以上の変種が見られる状態を指す。「多型部位」とは、変種が起こる座位である。一塩基多型は、多型部位において、1つのヌクレオチドを別のヌクレオチドによって置換することである。一塩基の欠失または一塩基の挿入も、一塩基多型を生じる。本発明の状況では、「一塩基多型」は好ましくは一塩基の置換を指す。通常は、異なる個体の間で、多型部位は2つの異なるヌクレオチドが占める可能性がある。
【0035】
「2アリル多型」および「遺伝子マーカー」は本明細書では互換的に使用され、集団中でかなりの高頻度で2つのアリルを持つ一塩基多型を指す。「遺伝子マーカーアリル」とは、遺伝子マーカー部位に存在するヌクレオチド変種を指す。通常は、本発明の遺伝子マーカーの頻度の低い方のアリルの頻度は、1%を超え、好ましくは10%を超え、より好ましくは少なくとも20%(少なくとも0.32の異型接合率)、さらに好ましくは少なくとも30%(少なくとも0.42の異型接合率)であると確認されている。頻度の低いほうのアリルの頻度が30%またはそれ以上の遺伝子マーカーは、「高品質遺伝子マーカー」と呼ばれる。
【0036】
本発明は、インスリンHphI座と連鎖不平衡にあるマーカーにも関する。「インスリンHphI座と連鎖不平衡にあるマーカー」という用語は、表Aに提供される遺伝子マーカー、好ましくはマーカー-4217 PstI、-2221 MspI、-23 HphI、+1428 FokI、+11000 AluI、および+32000 ApaI、またはより好ましくは-23 HphIに関する。「インスリンHphI座と連鎖不平衡にあるマーカー」という用語は、当技術分野で周知のインスリンHphI座と連鎖不平衡にある任意の他のマーカー、および本明細書に記述される方法によってインスリンHphI座と連鎖不平衡にあることが決定される任意のマーカーを含み得る。
【0037】
ポリヌクレオチドの中央に関するポリヌクレオチドのヌクレオチド位置は、本明細書では以下の様に記載される。ポリヌクレオチドが奇数のヌクレオチドを持つ場合には、ポリヌクレオチドの3’末端および5’末端から等距離にあるヌクレオチドが、ポリヌクレオチドの「中央に」あると考えられ、中央にあるヌクレオチドに直接隣接する任意のヌクレオチド、または中央にあるヌクレオチド自身が「中央から1ヌクレオチド以内」である等と考えられる。ポリヌクレオチド中のヌクレオチドが奇数であれば、ポリヌクレオチドの中央にある任意の5つのヌクレオチド位置は、中央から2ヌクレオチド以内である等と考えられる。ポリヌクレオチドが偶数のヌクレオチドを持つ場合には、ポリヌクレオチドの中央にはヌクレオチドではなく結合がある。したがって、2つの中央のヌクレオチドのいずれもが、「中央から1ヌクレオチド以内」と考えられ、ポリヌクレオチドの中央の4つのヌクレオチドのいずれかが「中央から2ヌクレオチド以内」である等と考えられる。1つまたは複数のヌクレオチドの置換、挿入、または欠失を含む多型の場合は、多型の置換、挿入、または欠失したポリヌクレオチドからポリヌクレオチドの3’末端までの距離、および多型の置換、挿入、または欠失したポリヌクレオチドからポリヌクレオチドの5’末端までの距離の差がゼロまたは1ヌクレオチドの場合に、多型、アリル、または遺伝子マーカーはポリヌクレオチドの「中央に」ある。この差が0〜3の場合には、多型は「中央から1ヌクレオチド以内」にあると考えられる。この差が0〜5の場合には、多型は「中央から2ヌクレオチド以内」にあると考えられる。この差が0〜7の場合には、多型は「中央から3ヌクレオチド以内」にある等と考えられる。
【0038】
本明細書では「上流」という用語は、特定の参照点から、ポリヌクレオチドの5’末端方向の場所を指す。
【0039】
本明細書では「塩基対」および「ワトソン・クリック塩基対」は互換的に使用され、チミン残基またはウラシル残基が2つの水素結合でアデニン残基に結合し、シトシン残基が3つの水素結合でグアニン残基に結合している二重らせんDNA中と同様に、配列のアイデンティティのために互いに水素結合し得るヌクレオチドを指す(Stryer, L.、Biochemistry、第4版、1995参照)。
【0040】
本明細書では「相補的」または「その相補鎖」という用語は、相補的な領域全体を通して、別の特定のポリヌクレオチドとワトソン・クリック塩基対を形成する能力のある、ポリヌクレオチド配列を指す。本発明では、第1のポリヌクレオチド中の各塩基が、その相補的な塩基と対を作れば、第1のポリヌクレオチドは第2のポリヌクレオチドに相補的であると考えられる。一般的に、相補的な塩基は、AとT(またはAとU)、またはCとGである。本明細書で使用される「相補鎖」は、「相補的ポリヌクレオチド」、「相補的核酸」および「相補的ヌクレオチド配列」と同義である。これらの用語は、2つのポリヌクレオチドが実際に結合するような特定の条件ではなく、その配列のみに基づいてポリヌクレオチドの対に対して使用される。
【0041】
本明細書で使用される「肥満に関連する状態」という用語は、肥満の直接的および間接的な結果である状態(本明細書では「疾病」または「疾患」とも呼ぶ)を指す。肥満の徴候を示す状態でもある。肥満の結果として起きる状態でもある。特に、肥満でない個体と比較して、肥満個体に高頻度で起こる状態である。肥満に関連する状態には、高血圧;アテローム性動脈硬化;II型糖尿病;変形性関節症;乳癌;子宮癌;大腸癌;および冠動脈疾患が含まれるがこれらに限定されない。
【0042】
本明細書で使用される「肥満」という用語は、エネルギー消費に比較して過剰なカロリー摂取のために過剰な体脂肪が蓄積する状態を指す。肥満の標準的な尺度は、肥満指数(BMI)であり、これはキログラムで表した体重をメートルで表した身長の二乗で割って計算される。約18.5〜24.9のBMIはヒトの正常範囲と見なされる。25.0を超えるBMIは過体重とみなされる。世界保健機構は「体重過多」をさらにいくつかのグレードに分類している:グレード1、BMI=25.0〜29.9(一般的には「過体重」と呼ばれる);グレード2、BMI=30.0〜39.9(一般的には「肥満」と呼ばれる);およびグレード3、BMI≧40.0(一般的には「病的肥満」と呼ばれる)である。したがって、本明細書では「肥満個体」はBMIが30.0またはそれ以上、「非肥満個体」はBMIが29.9またはそれ以下である。「肥満」という用語は、早発性肥満および遅発性肥満を含む。
【0043】
本明細書で使用される「早発性肥満」という用語は、初発年齢が12〜15歳、10〜12歳、8〜10歳、6〜8歳、4〜6歳、2〜4歳、または誕生から2歳までの間である肥満を指す。遅発性肥満は、一般に約15歳以後に発症する肥満を指す。
【0044】
本明細書で使用される「高血圧」という用語は、収縮期血圧が約140 mm Hgまたはそれ以上、拡張期血圧が約90 mm Hgまたはそれ以上、またはその両方によって同定される状態を指す。
【0045】
「インスリン関連疾患」という用語は、個体においてインスリンの生産、分泌、または機能(インスリン抵抗性)が変化している、当技術分野で周知の任意の疾病を指す。「インスリン関連疾患」という用語は、特にインスリン依存型真性糖尿病(IDDMまたはI型糖尿病)、またはインスリン非依存型糖尿病(NIDDMまたはII型糖尿病)、妊娠性糖尿病、自己免疫性糖尿病、高インスリン血症、高血糖、低血糖、β細胞障害、インスリン抵抗性、異常脂質血症、アテローマ、およびインスリノーマを指す。「インスリン関連疾患」という用語は、さらに肥満関連NIDDM,肥満関連アテローム性動脈硬化、心疾患、肥満関連インスリン抵抗性、肥満関連高血圧、肥満関連NIDDMに起因する微小血管障害病変、肥満関連NIDDMの肥満患者における微小血管障害に起因する眼病変、および肥満関連NIDDMの肥満患者における微小血管障害に起因する腎病変のような、肥満関連疾患および肥満も指す。
【0046】
「インスリン関連疾患に作用する薬剤」という用語は、インスリン生産、インスリン分泌、インスリン機能の活性を調節する、肥満個体の体重を減少させる、またはIDDM、NIDDM、妊娠性糖尿病、自己免疫性糖尿病、高インスリン血症、高血糖、低血糖、β細胞障害、インスリン抵抗性、異常脂質血症、アテローマ、インスリノーマ、肥満、および本明細書で定義される肥満関連疾患からなる群より選択される、インスリン関連の疾病を治療する、薬剤または化合物を指す。
【0047】
「インスリン関連疾患に作用する薬剤への応答」という用語は、個体における、化合物を代謝する能力、プロドラッグを活性のある薬剤に変換する能力、および薬剤の薬物動態(吸収、分布、排出)および薬力学(受容体関連)を含むがこれらに限定されない、薬効を指す。
【0048】
「インスリン関連疾患に作用する薬剤の副作用」という用語は、薬剤の主な薬理学的作用の延長に起因する治療の有害効果、または特有の宿主要素と薬剤の間の相互作用に起因する特異体質性有害反応を指す。
【0049】
本明細書で使用される「NIDDM」という用語は、インスリン非依存型糖尿病またはII型糖尿病(本明細書全体で、この2つの用語は互換的に使用される)を指す。NIDDMは内因性インスリン生産と、インスリン必要量との間に相対的な差があるために、血糖値が上昇する状態を指す。
【0050】
本明細書で使用される「減量療法」は、体重を減少させることを目的とした、当技術分野で周知の任意の治療法を指す。減量療法には、食事制限、カロリー消費の増加、胃腸管手術、薬物療法、および食物脂質の吸収低下が含まれる。
【0051】
「生体試料」は、個体から得られる様々な種類の試料を含み、診断またはモニタリングアッセイ法に使用できる。本定義は、血液および生物供給源に由来する他の液体試料、生検検体のような個体組織試料、または組織培養もしくはそれから得られる細胞およびその子孫を含む。本定義はさらに、試薬による処理、可溶化、またはポリヌクレオチドのような特定の成分の濃縮のように、調達後に、何らかの操作を受けた試料も含む。「生体試料」という用語は、臨床検体を含み、さらに培養細胞、細胞上清、細胞溶解物、血清、血漿、羊水、絨毛膜絨毛、体液、および組織検体も含む。
【0052】
本明細書で使用される「患者」という用語は、哺乳類を、好ましくは霊長類、最も好ましくは治療を必要とするヒトを指す。本明細書では「そのような治療を必要とする」という用語は、ヒトの場合には、この患者が治療を必要とするという、医師による判断を指す。この判断は、医師の専門知識の範囲内の種々の要素に基づいて行われるが、それには、本発明の化合物によって治療可能な状態の結果として患者が病気であるまたは病気になると思われるという知識が含まれる。
【0053】
本明細書で使用される「個体」という用語も、哺乳類を、特に霊長類、好ましくは減量の必要性を認識している(または誰かがその人には減量の必要性があると認識する)ヒトを指す。「必要性を認識する」というのは、典型的には臨床的肥満の基準未満の体重の変化(増加)を指すが、臨床的肥満も含んでも良い。「体重の変化」は上記に定義されている。
【0054】
本発明をさらに説明する前に、本発明が記述された特定の態様に制限されず、当然変わり得ることを理解する必要がある。本発明の範囲は添付する特許請求の範囲によってのみ限定されるので、本明細書で使用される用語は、特定の態様を説明する目的のためのみであり、制限する意図はないことも理解する必要がある。
【0055】
値の範囲が提供されている場合は、文脈が明らかにそうでないことを示す場合以外は、その範囲の上限および下限の間の、下限の単位の10分の1までの間の各値、および述べられた範囲の中の任意の他の述べられたまたはその間の値が、本発明に含まれる。これらのより小さな範囲の上限および下限は、より小さな範囲中に独立して含まれる可能性があり、述べられた範囲で特に除外された任意の限界値次第で、やはり本発明に含まれる。述べられた範囲が1つまたは両方の限界値を含む場合には、それらの含まれた限界値の両方とも除外した範囲も、本発明に含まれる。
【0056】
他に記載がないかぎり、本明細書中のすべての専門用語および科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって共通に理解されているものと同じ意味を持つ。本発明の実施または試験には、本明細書に記載したものと類似または同等の任意の方法および材料も使用できるが、本明細書中には好ましい方法および材料が記載されている。本明細書中に引用される全ての刊行物は、その刊行物が引用され関連する特定の方法および/または材料を開示および説明するために、参照として本明細書に組み入れられる。
【0057】
本明細書および添付の特許請求の範囲で使用される単数形「1つの(a)」、「1つの(an)」および「その(the)」は、文脈が明らかにそうでないことを示す場合以外は、指示対象の複数形も含むことに注意しなければならない。したがって、例えば、「ハプロタイプ」は複数のこのようなハプロタイプを含み、「その方法」は当業者に周知の1つまたは複数の方法および同等な方法を含む。
【0058】
本明細書で開示される刊行物は、本出願の出願日以前のその開示のためのみに提供される。本明細書において、本発明が先行発明のためにこのような刊行物に先行する資格がないと認めるものであると、解釈すべきではない。さらに、提供される刊行物の日付は、実際の出版日とは異なる可能性があり、これは独立して確認する必要がある。
【0059】
発明の詳細な説明
本発明は、個体のインスリン遺伝子VNTRアリル、特に父系インスリン遺伝子のVNTRアリルを決定することにより、肥満の発症危険性を決定する方法を提供する。さらに本発明は、父系のクラスI VNTRアリルを持つ個体の合理的な治療および維持を促進する方法も提供する。
【0060】
本発明は、父親からインスリン(INS) VNTRクラスIアリルを受け継いだ個体は、早発性肥満を発症する危険性が2倍近いという発見の結果である。この過剰な伝達は、母親のクラスIアリルでは観察されなかった。本発明者らは、若年肥満患者、可能な場合は痩せた兄弟、および両親のINS VNTR遺伝子型を決定した。発明者らは、思いがけずも、肥満の小児にクラスIII INS VNTRアリルと比較してクラスIが父親から過剰に伝達されていることを発見した。INS VNTR多型は、隣接するインスリンおよびインスリン様成長因子2(IGF2)遺伝子の発現の変化と関連している。これらの遺伝子の胎児での発現は、ゲノム刷り込みの結果として、父系染色体に限定されている。クラスI VNTRアリルの存在のために、父親のインスリンまたはIGF2遺伝子の子宮内での発現が上昇すると、生後、脂肪の沈着が起きやすくなる。肥満小児の痩せた兄弟には、いずれの親からも伝達のひずみは観察されなかった。クラスIインスリンアリルの頻度が高いために、白人の胎児の約65〜70%は父親からクラスI VNTRアリルを受け取る。これは一般的な多因子性疾患の重要な危険性に伴う広範な多型の例である。
【0061】
いくつかの態様では、本発明はa) 個体のインスリン遺伝子のVNTRクラスを決定する段階;およびb) 前記の遺伝子型に基づいて、肥満を発症する危険値を割り当てる段階を含む、個体における肥満発症危険性の決定方法を特徴とする。別の局面では、本発明はa) 個体のインスリン遺伝子のVNTRクラスを決定する段階;b) 個体の親のインスリン遺伝子のVNTRクラスを決定する段階;およびc) 前記のVNTRクラスに基づいて、肥満発症危険値を割り当てる段階を含む、個体における肥満発症危険性の決定方法を特徴とする。別の局面では、本発明はa) 個体のインスリン遺伝子のVNTRクラスを決定する段階;b) 個体の父親のインスリン遺伝子のVNTRクラスを決定する段階;およびc) 前記のVNTRクラスに基づいて、肥満発症危険値を割り当てる段階を含む、個体における肥満発症危険性の決定方法を特徴とする。
【0062】
別の態様では、本発明は本発明の予後診断方法および減量または体重制限療法の投与を含む、個体の肥満の治療または予防の方法を特徴とし、前記の減量療法は、食事制限、カロリー消費の増加、胃腸管手術、薬物療法、および食物脂質の吸収低下からなる群より選択される。
【0063】
肥満発症危険性の評価方法
本発明は個体が肥満を発症する危険性を決定する方法を提供する。本方法は一般に、個体のインスリン(INS) VNTRアリルの遺伝子型の決定を含む。個体に父系VNTRクラスIアリルが存在すると、その個体の肥満発症の確率が約2倍に上昇していることを示す。
【0064】
遺伝子型同定の対象となる個体には、出生前胎児、新生児、乳児、および幼児、例えば、出生前から約2歳まで、約2歳から約4歳まで、約4歳から約6歳まで、約6歳から約8歳まで、約8歳から約10歳まで、約10歳から約12歳まで、約12歳から約15歳までの個体が含まれる。個体から、個体のゲノムDNAを含む生体試料を採取し、試料に含まれるDNAを遺伝子型同定に使用する。DNAの供給源は、胎児細胞(例えば、羊水または絨毛膜絨毛);または新生児、乳児、または幼児から得られる、個体のゲノムDNAを含む任意の生体試料であることができる。
【0065】
一般に、個体の遺伝子型同定に加え、少なくとも個体の母親の遺伝子型同定が行われる。個体の遺伝子型がINS VNTRクラスI/INS VNTRクラスIIIを示し、個体の母親がINS VNTRクラスIIIの同型接合であれば、個体の生物学的父親の遺伝子型同定の必要はない。場合によっては、個体の生物学的父親のINS VNTR遺伝子型を決定する必要のある場合もある。両親がVNTRクラスIアリルを持つ場合には、第2のマーカーを用いて個体が父系か母系のいずれのVNTRクラスIアリルを持つのかを決定することができる。従って、ハプロタイプ解析を用いて、VNTRクラスIアリルが父系か母系かを決定できる。例えば、MVR-PCRによるアリルマッピングを含む様々な方法が以下に記述されており、個体のINS VNTRアリルの遺伝子型同定、およびVNTRクラスIアリルが父系か母系かの決定に使用できる。
【0066】
INS VNTR アリルに関する個体の遺伝子型同定の方法
インスリンVNTRアリルに関して、生体試料の遺伝子型同定には様々な方法が使用でき、その全てがインビトロで実施できる。遺伝子型同定のそのような方法には、当技術分野で周知の任意の方法による、インスリン関連遺伝子マーカーにおけるヌクレオチドの同定が含まれる。インスリン関連遺伝子マーカーは、インスリンHphI座と連鎖不平衡にある任意のマーカーである。これには、インスリン遺伝子のVNTRの代理となる、当技術分野で周知の任意のマーカーが含まれる。インスリンHphI座と連鎖不平衡にあるマーカーのリストは、以下の表Aに提供されている。例えば、-23 HphI(+)アリルは、隣接するVNTRのクラスIアリルと完全な連鎖不平衡にある。INS VNTRは、-23 HphIを代理マーカーとして用いて、検定できる。-23 HphI(+)一塩基多型(SNP)遺伝子型は、実施例1に記述されるように、例えばINS04およびINS05プライマーを用いて、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)産物の解析を行なうことによって、決定できる。
【0067】
これらの遺伝子型同定方法は、単一の個体またはプールされたDNA試料から得られた核酸試料で実施できる。通常は、遺伝子型同定は個体から得られたDNA試料で行われる。
【0068】
遺伝子型同定のためのDNA供給源
所望の特異的核酸を含んでいるまたは含んでいると考えられる場合には、精製または非精製の任意供給源の核酸が、開始核酸として使用できる。DNAまたはRNAは、上述のような細胞、組織、体液等から抽出できる。本発明の遺伝子型同定で使用される核酸は、任意の霊長類供給源から得られるが、核酸試料を抽出する試験対象または個体は、通常はヒトだと理解される。
【0069】
遺伝子マーカーを含むDNA断片の増幅
全てではないが多くの遺伝子型同定方法では、関心のある遺伝子マーカーを持つDNA領域を予め増幅する必要がある。そのような方法は、遺伝子マーカーに広がるまたはその部位を含む配列およびその遠位または近位のいずれかに位置する配列の濃度または総数を特異的に増加させる。診断アッセイ法も、本発明の遺伝子マーカーを持つDNA部分の増幅にも依存する可能性がある。DNAの増幅は、当技術分野で周知の任意の方法で行なうことができる。増幅技術は、上記のインスリン遺伝子の増幅というタイトルの項で説明されている。
【0070】
これらの増幅方法の中には、一塩基多型の検出に特に適しており、下記のように、標的配列の増幅と多型ヌクレオチドの同定を同時に行なえるものがある。
【0071】
上述のようにして遺伝子マーカーにより、適当なオリゴヌクレオチドの設計が可能になり、これを本明細書で開示の遺伝子マーカーを含むDNA断片の増幅のためのプライマーとして使用できる。増幅は、本明細書に記述されるプライマー、またはINS遺伝子に関連するの遺伝子マーカーを含むDNA断片の増幅を可能にする任意のプライマーセットを用いて実施できる。
【0072】
一部の態様では、遺伝子型同定はINS遺伝子に関連する1つまたは複数の遺伝子マーカーを含むDNA断片を増幅するためのプライマーを用いて行なう。増幅プライマーの例は、表Aおよび表Bに示されている。列挙されたプライマーは、単なる例であり、任意の他のプライマーセットにより本発明の遺伝子マーカーを1つまたは複数含む増幅産物を生成することがわかっている。
【0073】
プライマーの間隔が、増幅するセグメントの長さを決定する。本発明の状況では、遺伝子マーカーを持つ増幅されたセグメントのサイズは、少なくとも約25 bpから35 kbpの範囲であり得る。25〜3000 bpの増幅断片が典型的であり、50〜1000 bpの断片が好ましく、100〜600 bpが非常に好ましい。遺伝子マーカーのための増幅プライマーは、マーカーを含む任意のDNA断片の特異的増幅を可能にする任意の配列で良いことがわかる。
【0074】
表A
(Lucassen, A.M.ら、Nature Genet. 4、305-310(1993))
【0075】
表B
【0076】
遺伝子マーカーに関する DNA 試料の遺伝子型同定法
当技術分野で周知の任意の方法を使用して、INS遺伝子のHphI遺伝子座と連鎖不均衡のマーカーにおける多型を同定することによって、肥満に関連する多型についてDNA試料を遺伝子型同定できる。検出する遺伝子マーカーアリルは本発明で同定および指定されているので、当業者はいくつかの手法の任意のものを使用して容易に検出を行なえると考えられる。多くの遺伝子型同定方法は、対象遺伝子マーカーを持つDNA領域をあらかじめ増幅することを必要とする。標的またはシグナルの増幅が現在ではしばしば好まれるが、増幅または配列決定を必要としない超高感度検出法も本発明の遺伝子型同定法の範囲内である。遺伝子多型を検出するために使用できる当業者に周知の方法には、通常のドットブロット分析、オリタ(Orita)ら(1989) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 86:2776-2779に記述された一本鎖立体配座多型(SSCP)、変性勾配ゲル電気泳動(DGGE)、ヘテロ二本鎖分析、ミスマッチ開裂検出、およびシェフィールド(Sheffield, V.C.)ら(1991) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 49:699-706、ホワイト(White, M.B..)ら(1992) Genomics. 12:301-306、グロンプ(Grompe, M. )(1993) Nature Genetics. 5:111-117に記述されたような他の通常の手法が含まれる。特定の多型部位に存在するヌクレオチドのもう1つの同定方法は、米国特許第4,656,127号に記述されるように、特殊なエクソヌクレアーゼ抵抗性ヌクレオチド誘導体を用いる。
【0077】
例示的な方法は、配列決定アッセイ法、アリル特異的増幅アッセイ法、またはハイブリダイゼーションアッセイ法により、遺伝子マーカー部位に存在するヌクレオチドを直接同定することを含む。以下にいくつかの例示的な方法を説明する。1つの方法は、微量配列決定手法である。本明細書で使用される「配列決定」という用語は、二本鎖プライマー/鋳型複合体のポリメラーゼ伸長反応に関するもので、従来型の配列決定および微量配列決定の両方を含む。
【0078】
1) 配列決定アッセイ法
多型部位に存在するヌクレオチドは、配列決定法により決定できる。好ましい態様では、上述のように、配列決定の前にDNA試料をPCR増幅する。
【0079】
好ましくは、増幅されたDNAはダイプライマーサイクル配列決定プロトコールを用いて、自動化ジデオキシターミネーター配列決定反応にかける。配列分析により、遺伝子マーカー部位に存在する塩基が同定できる。
【0080】
2) 微量配列決定アッセイ法
微量配列決定法では、標的DNAの多型部位のヌクレオチドは、一塩基プライマー伸長反応によって検出される。この方法では、標的核酸中の関心のある多型塩基のすぐ上流にハイブリダイズする、適当な微量配列決定プライマーを使用する。多型部位のヌクレオチドに相補的な1つの単一ddNTP(チェーンターミネーター)を用いて、プライマーの3’末端を特異的に伸長するために、ポリメラーゼが使用される。次に、取り込まれたヌクレオチドが、任意の適当な方法で決定される。
【0081】
通常、微量配列決定反応は蛍光ddNTPを用いて行い、欧州特許第412 883号に記述されるように、伸長した微量配列決定プライマーはABI377配列決定装置上の電気泳動によって分析し、取り込まれたヌクレオチドを同定する。または、キャピラリー電気泳動法を用いて、同時により多数のアッセイ法を処理することもできる。
【0082】
ddNTPの標識および検出には、様々な手法が使用できる。蛍光共鳴エネルギー移動に基づく均一相検出法は、チェン(Chen)およびクォック(Kwok) (1997) Nucleic Acids Research. 25:347-353およびチェンら(1997) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 94(29):10756-10761に記述されており、この開示はその全体が参照として本明細書に組み入れられる。この方法では、多型部位を含む増幅したゲノムDNA断片を、アリル性色素標識ジデオキシリボヌクレオシド3リン酸および修飾Taqポリメラーゼの存在下で、5’フルオレセイン標識プライマーとインキュベートする。色素標識プライマーは、鋳型に存在するアリルに特異的な色素ターミネーターによって、1塩基伸長される。遺伝子型同定反応の最後に、反応混合液の2つの色素の蛍光強度を、分離または精製なしに直接分析した。これらの段階は全て、同じチューブの中で行い、蛍光の変化はリアルタイムでモニターできる。または、伸長したプライマーはMALDI-TOF質量分析法によって分析しても良い。多型部位における塩基は、微量配列決定プライマーに付加された質量によって同定できる(Haff L.A.およびSmirnov I.P (1997) Genome Research、7:378-388参照)、この開示はその全体が参照として本明細書に組み入れられる。
【0083】
微量配列決定は、確立された微量配列決定法またはそれを発展または派生させた方法によって行なえる。別の方法には、いくつかの固相微量配列決定手法が含まれる。基本的な微量配列決定プロトコールは、上述のものと同じであるが、プライマーまたは標的分子が固相支持体上に固定または捕獲されている、不均一相アッセイ法として行われるという違いがある。プライマーの分離および末端のヌクレオチド付加分析を簡略化するために、オリゴヌクレオチドは固相支持体に結合されるか、ポリメラーゼ伸長と共に親和性による分離も可能なように修飾されている。合成オリゴヌクレオチドの5’末端および内部のヌクレオチドは、例えばビオチン化のような親和性による異なる分離法を可能にするように、いくつかの異なる方法によって修飾できる。オリゴヌクレオチド上に単一の親和性基が使用される場合には、オリゴヌクレオチドは組み込まれたターミネーター試薬から分離できる。これにより、物理的またはサイズによる分離が不要になる。複数の親和性基が使用されれば、ターミネーター試薬からは複数のオリゴヌクレオチドが分離でき、同時に分析できる。これにより、1回の伸長反応あたり、いくつかの核酸種またはより多くの核酸配列情報が分析できる。親和性基はプライミングするオリゴヌクレオチド上である必要はないが、その代わり鋳型上にあることができる。例えば、固定化は、ビオチン化DNAおよびストレプトアビジンコートのマイクロタイトレーションウェルまたはアビジンコートのポリスチレン粒子の間の相互作用によって行なえる。同様に、オリゴヌクレオチドまたは鋳型は、高密度フォーマットで固相支持体に結合できる。そのような固相微量配列決定反応では、取り込まれたddNTPは放射標識(Syvanen、Clinica Chimica Acta 226:225-236、1994)、またはフルオレセインへの結合(LivakおよびHainer、Human Mutation 3:379-385、1994)されていても良い。放射標識されたddNTPの検出は、シンチレーションに基づく手法によって行なえる。フルオレセイン結合ddNTPの検出は、アルカリ性フォスファターゼ結合抗フルオレセイン抗体の結合に基づき、発色性基質(p-ニトロフェニルフォスフェートなど)とインキュベーションすることによって行なえる。他に可能なレポーター検出の組み合せには、ジニトロフェニル(DNP)に結合したddNTPおよび抗DNPアルカリ性フォスファターゼ結合体(Harjuら、Clin. Chem. 39/11 2282-2287 (1993))、またはビオチン化ddNTPならびに西洋ワサビペルオキシダーゼ結合ストレプトアビジンおよび基質としてのo-フェニレンジアミン(国際公開公報第92/15712号)が含まれる。さらに別の固相微量配列決定手法として、Nyrenら(Analytical Biochemistry 208:171-175 (1993))は、酵素発光測定無機ピロリン酸検出アッセイ法(ELIDA)によるDNAポリメラーゼ活性の検出に依存する方法を記述した。
【0084】
パステシン(Pastinen)ら(Genome Research 7:606-614、1997)は、固相ミニ配列決定原理がオリゴヌクレオチドアレイの形に応用された、一塩基多型の多重検出法を記述している。固相支持体(DNAチップ)に結合したDNAプローブの高密度アレイを、下記にさらに説明する。
【0085】
3) アリル特異的増幅アッセイ法
本発明の1つの局面では、アリル特異的増幅アッセイ法により、生体試料中で本発明の1つまたは複数の遺伝子マーカーのアリルを決定するポリヌクレオチドおよび方法が提供される。本発明の遺伝子マーカーを含むDNA断片を増幅する方法、プライマー、および種々のパラメーターは、上記「遺伝子マーカーを含むDNA断片の増幅」にさらに記述されている。
【0086】
アリル特異的増幅プライマー
遺伝子マーカーの2つのアリルの区別は、選択的な戦略であるアリル特異的増幅によっても実施でき、これによって片方のアリルを増幅せずに、もう一方のアリルのみを増幅する。これは1つの増幅プライマーの3’末端に多型塩基を配置することによって行なう。プライマーの3’末端から伸長が行われるので、この位置またはその近くにミスマッチがあると、増幅が阻害的影響が与えられる。したがって、適当な増幅条件下では、これらのプライマーは相補的アリルでの増幅のみを指示する。ミスマッチの正確な位置および対応するアッセイ条件の決定は、当技術分野に周知である。
【0087】
連結/増幅に基づく方法
「オリゴヌクレオチド連結アッセイ法」(OLA)は、標的分子の単一の鎖の隣接する配列にハイブリダイズする能力を持つように設計された、2つのオリゴヌクレオチドを使用する。オリゴヌクレオチドの1つはビオチン化され、他方は検出可能なように標識されている。標的分子中に、完全に相補的な配列が見つかれば、オリゴヌクレオチドは、その末端が隣接するようにハイブリダイズし、捕獲および検出できるような連結基質を形成する。OLAは一塩基多型を検出可能で、ニッカーソン(Nickerson D.A.)ら(1990) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 87:8923-8927に記述されるように、都合よくPCRと組み合せることができる。この方法では、PCRを使用して、標的DNAの指数的増幅を行い、これをOLAを用いて検出する。
【0088】
一塩基多型の検出に特に適している他の増幅方法には、上記「インスリン遺伝子の増幅」に説明されているLCR(リガーゼ連鎖反応)、ギャップLCR (GLCR)が含まれる。LCRは特定の標的を指数関数的に増幅するために、2対のプローブを使用する。各オリゴヌクレオチド対の配列は、対が標的の同一の鎖の隣接配列にハイブリダイズするように選択される。そのようなハイブリダイゼーションにより、鋳型に依存したリガーゼの基質が形成される。本発明により、遺伝子マーカー部位の同一の鎖の近位および遠位配列を持つオリゴヌクレオチドを用いてLCRを実施できる。1つの態様では、いずれのオリゴヌクレオチドも遺伝子マーカー部位を含むように設計される。そのような態様では、オリゴヌクレオチド上の遺伝子マーカーに相補的な特異的なヌクレオチドを、標的分子が含むか含まないかのどちらかの場合にのみ、オリゴヌクレオチドが共に連結できるような反応条件が選択される。別の態様では、オリゴヌクレオチドは遺伝子マーカーを含まず、国際公開公報第90/01069号に記述されるように、これらが標的分子にハイブリダイズすると「ギャップ」が形成される。このギャップは、その後、相補的dNTP(DNAポリメラーゼを介するように)を用いて、または別のオリゴヌクレオチド対により「充填」される。このようにして、各サイクルの終わりには、各一本鎖は、次のサイクルで標的となり得る相補鎖を持ち、所望の配列のアリル特異的な指数関数的増幅が行われる。
【0089】
リガーゼ/ポリメラーゼを介した遺伝子ビット解析(Genetic Bit Analysis)(商標)は、核酸分子中のあらかじめ選択された部位におけるヌクレオチドを同定するためのもう1つの方法である(国際公開公報第95/21271号)。この方法では、あらかじめ選択された部位に存在するヌクレオチドに相補的なヌクレオシド3リン酸を、プライマー分子の末端に組み込み、その後、これは第2のオリゴヌクレオチドに連結することを含む。この反応は反応の固相に結合された特異的標識の検出、または溶液中での検出によってモニターされる。
【0090】
4) ハイブリダイゼーションアッセイ法
遺伝子マーカー部位に存在するヌクレオチドの同定のための1つの好ましい方法は、核酸ハイブリダイゼーションを使用する。そのような反応で都合良く使用できるハイブリダイゼーションプローブは、好ましくは本明細書に定義されるプローブを含む。サザンハイブリダイゼーション、ノーザンハイブリダイゼーション、ドットブロットハイブリダイゼーションおよび固相ハイブリダイゼーションを含む、任意のハイブリダイゼーションアッセイ法が使用できる(Sambrook, J.、Fritsch, E.F.およびT. Maniatis (1989) 「分子クローニング:実験室マニュアル(Molecular Cloning: A Laboratory Manual)」第2版、Cold Spring Harbor Laborator、Cold Spring Harbor、NY参照)。
【0091】
ハイブリダイゼーションは、相補的な塩基対のために2本の一本鎖核酸が二本鎖構造を形成することである。ハイブリダイゼーションは、完全に相補的な核酸鎖、またはミスマッチ領域をわずかに含む核酸鎖の間で起こり得る。遺伝子マーカーの1つの形にはハイブリダイズするが、別の形にはハイブリダイズせず、したがって異なるアリルの形を区別できるような、特異的なプローブが設計できる。アリル特異的プローブは、しばしば対で使用され、その片方が元のアリルを含む標的配列に完全な一致をし、もう一方が別のアリルを含む標的配列に完全な一致をする。ハイブリダイゼーション条件は、アリル間でハイブリダイゼーション強度にかなりの差があり、好ましくは本質的には2つの反応で、これによりプローブがアリルの片方のみにハイブリダイズするために十分なストリンジェントな条件で必要がある。プローブが厳密に相補的な標的配列のみにハイブリダイズするような、ストリンジェントな配列特異的ハイブリダイゼーション条件は、当技術分野で周知である(Sambrookら、1989)。ストリンジェントな条件は配列に依存し、異なる状況では異なる条件になる。一般に、決められたイオン強度およびpHにおいて、その特定の配列の融点(Tm)よりも約5℃低い温度のストリンジェントな条件が選択される。そのようなハイブリダイゼーションは溶液中でも可能だが、固相ハイブリダイゼーションアッセイ法を使用するのが好ましい。本発明の遺伝子マーカーを含む標的DNAは、ハイブリダイゼーション反応の前に増幅できる。試料中の特異的アリルの存在は、プローブと標的DNAとの間に形成される安定なハイブリッド二本鎖の存在または欠如を検出することで、決定される。ハイブリッド二本鎖の検出は、いくつかの方法で行われる。ハイブリッド二本鎖の検出を可能にするために、標的またはプローブのいずれかに結合した検出可能な標識を使用した、種々の検出アッセイ法が周知である。通常は、ハイブリダイゼーション二本鎖を、ハイブリダイズしなかった核酸から分離し、その後、二本鎖に結合した標識を検出する。当業者は、過剰の標的DNAまたはプローブ、ならびに結合しなかった結合体を洗い流すために、洗浄段階も行なうことができることを認識すると思われる。さらに、プライマーおよびプローブに存在する標識を用いたハイブリッドの検出のためには、標準的な不均一アッセイ形式が適当である。
【0092】
最近開発された2つのアッセイ法では、分離または洗浄なしにハイブリダイゼーションに基づくアリルの区別が可能である(Landegren U.ら、Genome Research、8:769-776、1998参照)。タックマン(TaqMan)アッセイ法は、Taq DNAポリメラーゼの5’ヌクレアーゼ活性を使用して、蓄積する増幅産物に特異的にアニーリングするDNAプローブを消化する。タックマンプローブは蛍光エネルギー移動を介して相互作用をするドナー-アクセプター色素対によって標識される。増幅の際に進んでくるポリメラーゼによってタックマンプローブが切断されると、消光するアクセプター色素から、ドナー色素が解離し、ドナーの蛍光が大きく上昇する。2つのアリル変種を検出するために必要な全ての試薬は、反応の最初に集め、結果はリアルタイムでモニターできる(Livakら、Nature Genetics、9:341-342、1995参照)。別の均一ハイブリダイゼーションに基づく手法では、分子ビーコンを用いてアリルの区別をする。分子ビーコンは、均質溶液中で、特異的核酸の存在を報告するヘアピン型のオリゴヌクレオチドプローブである。標的に結合すると、立体配座が再編成して、内部で消光された蛍光体の蛍光が回復する(Tyagiら、Nature Biotechnology、16:49-53、1998)。
【0093】
本明細書に提供されるポリヌクレオチドは、生物試料中の遺伝子マーカーアリルの検出のためのハイブリダイゼーションアッセイ法に使用できる。これらのプローブは、好ましくは8〜50ヌクレオチドを含み、本発明の遺伝子マーカーを含む配列にハイブリダイズするために十分な相補性を持ち、好ましくは1ヌクレオチドのみの差の標的配列を区別できるほど十分に特異的であるという特徴を持つ。本発明のプローブのGC含有量は、通常10〜75%の間で、好ましくは35〜60%、およびさらに好ましくは40〜55%の間である。これらのプローブの長さは、10ヌクレオチド、15ヌクレオチド、20ヌクレオチド、または30ヌクレオチドから少なくとも100ヌクレオチド、好ましくは10ヌクレオチドから50ヌクレオチド、より好ましくは18ヌクレオチドから35ヌクレオチドである。特に好ましいプローブの長さは25ヌクレオチドである。好ましくは、遺伝子マーカーは、ポリヌクレオチドプローブの中央から4ヌクレオチドの範囲にある。特に好ましいプローブでは、遺伝子マーカーはポリヌクレオチドの中央にある。より短いプローブは標的核酸に対する特異性を欠如する可能性があり、一般に鋳型と十分に安定なハイブリッド複合体を形成するためには、より低い温度を必要とする。より長いプローブは、生産するのが高価であり、自己ハイブリダイズしてヘアピン構造を形成する場合がある。オリゴヌクレオチドプローブの合成方法は、上記にあり、本発明のプローブに適用できる。
【0094】
アリル特異的プローブへのハイブリダイゼーションを分析することにより、所定の試料中で遺伝子マーカーアリルの存在または欠如を検出できる。アレイ形式の、ハイスループットのパラレルハイブリダイゼーションは、「ハイブリダイゼーションアッセイ法」に明確に含まれ、以下に説明されている。
【0095】
5) オリゴヌクレオチドのアドレス指定可能なアレイへのハイブリダイゼーション
オリゴヌクレオチドアレイに基づくハイブリダイゼーションアッセイ法は、完全にマッチした標的配列と、ミスマッチした標的配列への、短いオリゴヌクレオチドのハイブリダイゼーションの安定性の差に依存する。選択された位置で固相支持体(例えば、チップ)に結合したオリゴヌクレオチドプローブの高密度アレイを含む基本的構造から、多型情報が効率良く得られる。各DNAチップは、格子型のパターンに配列され、10セント硬貨の大きさに縮小した、個々の合成DNAプローブを数千から数百万含み得る。
【0096】
チップ技術は、すでに数多くの場合に応用されている。例えば、出芽酵母(S. cerevisiae)変異株におけるBRCA1遺伝子、およびHIV-1ウイルスのプロテアーゼ遺伝子の変異のスクリーニングが行われている(Haciaら、Nature Genetics、14(4):441-447、1996; Shoemakerら、Nature Genetics、14(4):450-456、1996、Kozalら、Nature Medicine、2:753-759、1996)。遺伝子多型を検出するために使用する種々の形式のチップは、アフィメトリックス(Affymetrix) (ジーンチップ(GeneChip)(商標))、ハイシーク(Hyseq) (HyChipおよびHyGnostics)、およびプロトジーンラボラトリース(Protogene Laboratories)により、特注生産できる。
【0097】
一般に、これらの方法は、個体の標的核酸配列セグメントに相補的なオリゴヌクレオチドプローブのアレイを使用し、標的配列には多型マーカーが含まれている。欧州特許第785280号は、一塩基多型の検出のためのタイリング(tiling)戦略を記述している。簡単に述べると、アレイは、通常、多数の特定の多型に関してタイリングが可能である。「タイリング」というのは、関心のある標的配列およびその配列のあらかじめ選択された変種、例えば、1つまたは複数の所定の位置における1つまたは複数のモノマーの基本セット、すなわち、ヌクレオチドによる置換の、相補的な配列から構成される規定のオリゴヌクレオチドプローブセットの合成を意味する。タイリング戦略は、国際公開公報第95/11995号にさらに説明されている。特定の局面では、いくつかの特異的な同定された遺伝子マーカー配列に関して、アレイはタイリングされる。特に、アレイは、それぞれ特定の遺伝子マーカーまたは遺伝子マーカーセットに特異的な検出ブロックをいくつか含むようにタイリングされる。例えば、ある検出ブロックは、ある特定の多型を含む配列セグメントを含む、いくつかのプローブを含むようにタイリングされ得る。プローブが各アリルに確実に相補的であるように、プローブは遺伝子マーカーのところが異なる対として合成される。多型塩基においてプローブに加えて、通常は1置換プローブも検出ブロック内にタイリングされる。これらの1置換プローブは、多型部分からいずれの方向にも、ある数までの塩基が残りのヌクレオチド(A、T、G、CおよびUから選択する)で置換された塩基を持つ。典型的には、タイリングされた検出ブロック中のプローブは、遺伝子マーカーから5塩基までの配列位置の置換を含む。1置換プローブは、実際のハイブリダイゼーションを人工的な交差ハイブリダイゼーションから区別するための、タイリングされたアリルについての内部対照となる。標的配列とのハイブリダイゼーションおよびアレイの洗浄後、アレイをスキャンして、標的配列がハイブリダイズしたアレイの位置を決定する。そしてスキャンされたアレイのハイブリダイゼーションデータを分析し、試料中に遺伝子マーカーのどのアリルが存在するかを同定する。ハイブリダイゼーションおよびスキャンは、国際公開公報第92/10092号および国際公開公報第95/11995号ならびに米国特許第5,424,186号に記述されるようにして実施できる。
【0098】
したがって、いくつかの態様では、チップは長さ約15ヌクレオチドの断片の核酸配列のアレイを含む。別の態様では、チップは、9-27、99-14387、9-12、9-13、99-14405、および9-16からなる群より選択される配列、ならびにその相補配列またはその断片を少なくとも1つ含むアレイを含むが、断片は少なくとも約8つの連続するヌクレオチド、好ましくは10個、15個、20個、より好ましくは25個、30個、40個、47個、または50個の連続するヌクレオチドを含み、かつ多型塩基を含む。好ましい態様では、多型塩基はポリヌクレオチドの中央から5ヌクレオチド、4ヌクレオチド、3ヌクレオチド、2ヌクレオチド、1ヌクレオチドの範囲であり、より好ましくはポリヌクレオチドの中央にある。いくつかの態様では、チップは本発明のこれらのポリヌクレオチドのうち少なくとも2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個またはそれ以上のアレイを含む。
【0099】
6) 一体型システム
多型の分析に使用できる別の手法は、複数の成分の一体化システムであり、PCRおよびキャピラリー電気泳動反応のようなプロセスを微小化し、単一の機能的装置中で区画化するものである。そのような手法の例は、PCR増幅とキャピラリー電気泳動のチップ上での一体化を記述する米国特許第5,589,136号に開示されている。
【0100】
一体化システムは、主にマイクロ流体システムが使用される場合に考えられる。これらのシステムは、ガラス、シリコン、石英、またはプラスチックウェーハ上に設計されたマイクロチャネルのパターンがマイクロチップに含まれるシステムである。試料の移動は、マイクロチップの種々の部分に適用された電子的、電気浸透的、または静水力学的な力によって制御され、動く部分のない機能的な微小バルブおよびポンプが形成される。電圧を変化させると、微細加工されたチャネルの交差点での流体の流れが制御され、マイクロチップの異なる部分に対する流体輸送の流速が変化する。
【0101】
マイクロ流体システムは、遺伝子マーカーの遺伝子型同定のために、核酸増幅、微量配列決定、キャピラリー電気泳動、およびレーザー誘発蛍光検出のような検出方法を一体化したものである。
【0102】
最初の段階では、好ましくはPCRによりDNA試料が増幅される。その後、増幅産物をddNTP(各ddNTPに特異的な蛍光)および標的多型塩基のすぐ上流にハイブリダイズする適切なオリゴヌクレオチド微量配列決定プライマーを用いた自動微量配列決定反応にかける。3’末端の伸長が完了したら、キャピラリー電気泳動によって取り込まれなかった蛍光ddNTPからプライマーを分離する。キャピラリー電気泳動に使用される分離媒体は、例えばポリアクリルアミド、ポリエチレングリコール、またはデキストランで良い。一塩基プライマー伸長産物に取り込まれたddNTPは、蛍光検出により同定される。このマイクロチップは少なくとも96検体から384検体を平行して処理するために使用される。ddNTPに通常使用される4色のレーザー誘発蛍光検出が使用できる。
【0103】
7) MVR-PCRによるアリルマッピング
ミニサテライト(VNTR)は長さ10〜100 bpの縦列反復からなり、全体のアレイのサイズは通常0.5〜50 kbである。縦列反復の間に多型が存在し、異型反復タイプが生じている。アリル内の異型反復の散在パターンは、反復アレイの外側にアニールするユニバーサルプライマーと、アレイ内の特異的な異型配列に結合するプライマーの間のPCR増幅によって、解析できる。この技術は、PCRによるミニサテライト異型反復マッピング、すなわちMVR-PCRと呼ばれる。SteadおよびJeffreys (2000) Hum. Mol. Genet. 9:713-723。インスリンミニサテライトアリル中の異型反復の分布は、14 bpのコンセンサス
に基づいて11個の異型反復(A〜Jと命名)があることを示す。
【0104】
MVR-PCRを行なうためには、まずインスリンミニサテライトアリルDNAを調製する。その後、MVR-PCR解析を行なって、アリルの細かい構造を決定する。クラスIIIアリルが存在する場合は、E反復から3’隣接部位への増幅産物(アンプリコン)群を生成する逆MVR-PCRを行なう必要がある場合がある。この微細構造の解析によって、父系インスリンVNTRアリルを決定することができる。詳細な手順は以下の段落に説明されている。
【0105】
MVR-PCRによって、インスリンミニサテライトの6つの異なる異型反復が検出されるが、その配列は、A型の反復コンセンサスと異なるヌクレオチドに下線をつけて以下に示されている。
【0106】
最初にインスリンミニサテライトアリルDNAを調製する。任意の既知の方法が使用できる。一般に、インスリンミニサテライトDNAは、ミニサテライトに隣接するPCRプライマーとアリル特異的プライマーとを用いて増幅され、通常はゲルで、サイズに基づいてアリルを分離し、ゲルからアリルDNAを抽出する。以下に限定はしない実施例を示す。ゲノムDNAは以下のプライマーを用いてPCRで増幅する:(1) クラスIアリルには、隣接部位に相補的な順方向プライマーはINS-1296
;およびクラスIアリルに特異的な逆方向プライマーはINS-23+
であり;および(2) クラスIIIアリルには隣接部位に相補的な順方向プライマーはINS-1296(配列番号:21);およびクラスIIIアリルに特異的な逆方向プライマーはINS-23-
である。増幅後、PCR産物をゲル電気泳動(例えば、1%アガロースゲル)によって分離し;エチジウムブロマイド染色で可視化し、ゲルから切り出す。クラスIアリルDNAは、希釈緩衝液を添加し、ゲルの凍結/解凍/ボルテックスを3サイクル行なうことによってゲルから分離できる。クラスIIIアリルDNAは、Qiaex IIゲル精製キット(Qiagen)を用いてゲルから抽出できる。
【0107】
インスリンミニサテライトアリルDNAでMVR-PCRを行なう。異型に特異的なプライマーと隣接プライマーとを用いて、アリルDNAの増幅を行なう。異型に特異的な任意のプライマーが使用できる。増幅したDNAをゲル電気泳動にかけ、分離した産物をメンブレンに移し(ブロットする)、クラスIアリルに特異的な標識プローブを用いたサザンハイブリダイゼーションによってブロットを解析する。以下は適切なプロトコールの限定はしない例である。MVR-PCR異型特異的プライマーを以下に示すが、5’ TAG伸長部分は大文字で示されている:
【0108】
これらのプライマーは上記A〜Hの異型特異的配列に相補的である。5つのMVRプライマーは、隣接部位プライマー(例えば、INS-1296)およびTAGプライマーと合わせて使用する。上記のように増幅産物を電気泳動し、サザンブロットハイブリダイゼーションによって検出する。
【0109】
クラスIIIアリルのMVR-PCRは、アレイ中の最初の約100反復配列を正確に分類できる。クラスIIIアリルの残りの部分は、アレイの3’末端をカバーする欠失アンプリコンを作製することによって分類できる。そのためには、プライマーINS-23-および3’配列がE型の反復配列に特異的で5’配列がINS-1296と同一である複合プライマーであるINS-MERを用いて、逆MVR-PCRを行なう。INS-MERの配列は
であり、5’INS-1296配列は小文字で示されている。このようにして作製したアンプリコンは、上述のようにゲルによって電気泳動で分離し、DNAゲルを精製し、MVR-PCRをマッピングする。アリル全体および各欠失アンプリコンから生成された重複するコードから、全体のアリルコードを組み立てる。
【0110】
INS HphI 遺伝子座の遺伝子マーカーを使用した遺伝子分析方法
複雑な形質の遺伝子分析のために、種々の方法が使用できる(LanderおよびSchork、Science、265、2037-2048、1994参照)。疾病感受性遺伝子の探索には、主に2つの方法が使用される:家系調査を用いたある遺伝子座と推定形質の遺伝子座の間の共分離の証拠を探す連鎖手法、およびアリルと形質または形質の原因となるアリルとの間の統計的に有意な相関の証拠を探る相関解析(Khoury J.ら、「遺伝疫学の基礎(Fundamentals of Genetic Epidemiology)」、Oxford University Press、NY、1993)。一般に、本発明の遺伝子マーカーは遺伝子型および表現型の間に統計的に有意な相関を示す当技術分野で周知の任意の方法に使用できる。遺伝子マーカーは、パラメトリックおよびノンパラメトリックの連鎖分析法に使用できる。好ましくは、本発明の遺伝子マーカーは、相関解析を用いて検出可能な形質に関連した遺伝子の同定に使用されるが、この手法では罹患家系を使用する必要がなく、複雑および散発性の形質に関連した遺伝子の同定も可能である。
【0111】
INS HphI遺伝子座の遺伝子マーカーを使用した遺伝子分析は、任意のスケールで実施できる。本発明の遺伝子マーカーセット全体、または候補遺伝子に対応する本発明の遺伝子マーカーの任意のサブセットが使用できる。さらに、本発明の遺伝子マーカーを含む、任意の遺伝子マーカーセットが使用できる。本発明の遺伝子マーカーと組み合せて遺伝子マーカーとして使用できる遺伝子多型セットは、国際公開公報第98/20165号に記述されている。上述のように、本発明の遺伝子マーカーはヒトゲノムの任意の完全なまたは部分的な遺伝子マップに含まれることができる。これらの異なる使用法は、本発明および請求の範囲で特に考慮されている。
【0112】
連鎖分析
連鎖分析は、家系の中の世代を通した、遺伝子マーカーの伝達と特定の形質の伝達の間の相関の確率に基づく。したがって、連鎖分析の目的は、家系の中で、関心のある形質と共分離するマーカー遺伝子座を検出することである。
【0113】
パラメトリック法
継続的な世代のデータがある場合は、遺伝子座の対の間の連鎖の程度を調べる機会がある。組換え割合を見積もると、遺伝子座を遺伝子地図上に並べて置くことが可能になる。遺伝子マーカーである遺伝子座があると、遺伝子地図を確立し、マーカーと形質の間の連鎖強度を計算し、それを用いてマーカーおよびそれに影響を与える遺伝子の間の相対的位置を示すことができる(Weir, B.S.、「遺伝子データ解析II:離散的集団遺伝学データの方法(Genetic data Analyais II: Methods for Discrete population genetic Data)」 Sinauer Assoc., Inc.、Sunderland、MA、USA、1996)。連鎖分析の古典的方法は、オッズ対数(lod)スコア法である(Morton N.E.、Am. J. Hum. Genet.、7:277-318、1995; Ott J.、「ヒト遺伝子連鎖の分析(Analysis of Human Genetic Linkage)」 John Hopkins University Press、Baltimore、1991)。lod値の計算には、疾病の遺伝様式を指定する必要がある(パラメトリック法)。一般に、連鎖分析を用いて同定する候補領域の長さは、2〜20 Mbである。候補領域が上述のように同定されれば、別のマーカーを用いた組換え個体の分析により、候補領域のさらなる解析ができる。連鎖分析研究は、一般に最高5,000のマイクロサテライトマーカーを使用してきたため、最大の理論的に実現可能な連鎖分析の解像度は、平均約600 kbに限定される。
【0114】
連鎖分析は、明らかなメンデルの遺伝パターンを持ち、高い浸透度(すなわち、集団中でアリルaのキャリアの総数に対する、形質陽性のaのキャリアの数の比)の、簡単な遺伝形質のマッピングに適用されてきた。しかし、パラメトリック連鎖分析法には、種々の短所がある。まず、研究する形質に適した遺伝モデルの選択に依存するために限定される。さらに、既に述べたように、連鎖分析を用いて実現できる解像度には限界があり、連鎖分析でまず同定した通常2 Mb〜20 Mbの領域の分析をさらに正確にするために、補完的研究が必要である。さらに、パラメトリック連鎖分析法は、複数の遺伝子および/または環境要因の作用の組み合せに起因するような、複雑な遺伝形質に適用するのは困難なことが分かっている。lod値分析においてこれらの要素を適切にモデル化するのは、非常に困難である。最近リッシュ(Risch, N.)およびメリカンガス(Merikangas K.) (Science、273:1516-1517、1996)によって記述されたように、そのような場合に、連鎖分析を行なうために必要な適切な数の罹患家系を採用するためには、労力と費用がかかりすぎる。
【0115】
ノンパラメトリック法
連鎖分析のためのいわゆるノンパラメトリック法の利点は、疾病の遺伝様式を指定する必要がないことで、複雑な形質の分析により有用である場合が多い。ノンパラメトリック法では、罹患した親族が、確率によって期待される以上の頻度で、その領域の同一のコピーを受け継ぐことを示すことにより、染色体領域の遺伝パターンは、無作為なメンデル分離とは一致しないことを証明する。罹患した親族は、不完全な浸透および多遺伝子の遺伝の存在下でも、過剰な「アリル共有」を示すはずである。ノンパラメトリック連鎖分析では、2人の個体のマーカー遺伝子座における一致の度合いは、同質(IBS)アリルの数、または同祖(IBD)アリルの数によって、測定できる。罹患同胞対分析は、周知の特別な場合であり、これらの方法の中で最も単純な形である。
【0116】
本発明の遺伝子マーカーは、パラメトリックおよびノンパラメトリック連鎖分析の両方に使用できる。好ましくは、遺伝子マーカーは複雑な形質に関与している遺伝子のマッピングの可能なノンパラメトリック法で使用できる。本発明の遺伝子マーカーは、複雑な形質に関与している遺伝子のマッピングのために、IBDおよびIBSの両方の方法に使用できる。そのような研究では、遺伝子マーカーの密度が高いことを使用して、いくつかの隣接する遺伝子マーカー座をプールして、複数アリルマーカーによって得られる効率を実現することができる(Zhaoら、Am. J. Hum. Genet.、63:225-240 (1998))。
【0117】
集団相関解析
本発明は、本発明の遺伝子マーカーを用いて、インスリン遺伝子またはその特定のアリル変異体が、検出可能な形質と関連しているかどうかを決定する方法を含む。1つの態様では、本発明は遺伝子マーカーアリルまたは遺伝子マーカーハプロタイプと、形質との関連を検出する方法を含む。さらに、本発明は本発明の任意の遺伝子マーカーアリルと連鎖不均衡にある形質の原因となるアリルを同定する方法を含む。
【0118】
上述のように、相関解析を行なうためには、種々の手法が使用できる:ゲノム全体の相関解析、候補領域の相関解析、および候補遺伝子の相関解析。好ましい態様では、本発明の遺伝子マーカーは、候補遺伝子の相関解析に使用される。候補遺伝子の解析は、形質の生物学に関していくらかの情報を利用できる場合に、明らかに、特定の形質に関連する遺伝子または遺伝子多型の同定への近道を提供する。さらに、本発明の遺伝子マーカーは、ゲノム全体の相関解析を行なうために、ヒトゲノムの遺伝子マーカーの任意の地図に組み入れることができる。高密度の遺伝子マーカー地図を作製する方法は、国際公開公報第00/28080号に記述されている。本発明の遺伝子マーカーは、さらにゲノムの特定の候補領域(例えば、特定の染色体または特定の染色体セグメント)の任意のマップに組み入れることができる。
【0119】
上述のように、相関解析は一般の母集団の中で行なうことができ、罹患家系の血縁個体について行われるの解析に限定されない。相関解析は、散発的または多因子的形質の解析も可能なので、非常に価値がある。さらに、相関解析は、連鎖解析よりも、形質の原因となるアリルのはるかに細かいマッピングを可能にする、微細マッピングの強力な方法である。家系に基づく解析は、しばしば形質の原因となるアリルの場所を狭く絞り込むのみである。本発明の遺伝子マーカーを用いた相関解析は、連鎖解析法によって同定された候補領域中の、形質の原因となるアリルの位置を、詳細に決めるために使用され得る。さらに、関心のある染色体セグメントが同定されたら、関心のある領域中の、本発明の候補遺伝子のような候補遺伝子の存在は、形質の原因となるアリルの同定への近道を提供し得る。本発明の遺伝子マーカーは、候補遺伝子が形質と相関していることを示すために使用できる。そのような使用法は、本発明で特に考慮されている。
【0120】
集団中の遺伝子マーカーアリルまたは遺伝子マーカーハプロタイプの頻度の決定
相関解析は、遺伝子座の間で、アリルのセットの頻度の関係を探る。
【0121】
集団中のアリル頻度の決定
集団中の遺伝子マーカーのアリル頻度は、上記「遺伝子マーカーに関する個体の遺伝子型同定法」の項、またはこの意図された目的に適した任意の遺伝子型同定手順の方法を用いて、決定できる。プールされた試料または個体の試料の遺伝子型同定は、集団中の遺伝子マーカーアリルの頻度を決定できる。必要な遺伝子型同定の数を減らす1つの方法は、プールされた試料を使用することである。プールされた試料を使うための1つの大きな障害は、プールの作製時に正確なDNA濃度を決定するための精度および再現性の点である。個体試料の遺伝子型同定は、感度、再現性、精度がより高く、本発明での好ましい方法である。好ましくは、各個体は別々に遺伝子型同定し、遺伝子マーカーのアリル頻度または特定の集団における遺伝子型の頻度の決定には、単純な遺伝子計数が用いられる。
【0122】
集団中のハプロタイプの頻度の決定
ハプロタイプの配偶子相は、二倍体個体が複数の遺伝子座で異型接合の場合には、不明である。家族の家系情報を用いて、配偶子相が推測される場合がある(Perlinら、Am. J. Hum. Genet.、55:777-787、1994)。家系情報が利用できない場合、異なる戦略が使用され得る。1つの可能性は、複数部位の異型接合二倍体を分析から除去し、同型接合および1つの部位の異型接合個体のみを保持するものであるが、この手法は試料組成に潜在的な偏向ができ、低頻度のハプロタイプを過小評価する可能性がある。もう1つの可能性は、例えば、非対称PCR増幅(Newtonら、Nucleic Acids Res.、17:2503-2516、1989; Wuら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 86:2757、1989参照)、または限界希釈後のPCR増幅(Ruanoら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 87:6296-6300、1990参照)によって1つの染色体を単離することにより、単一の染色体を独立して解析することである。さらに、特定のアリルの二重PCR増幅によって、十分に近い遺伝子マーカーに関して、試料のハプロタイピングを行なうことができる(Sarkar, G.およびSommer S.S.、Biotechniques、1991)。これらの手法は、技術的に複雑で、費用がかかり、大規模に一般化できず、偏りを導入する可能性があるため、完全に満足できるものではない。これらの困難を克服するために、クラーク(Clark A.G.) (Mol. Biol. Evol.、7:111-122、1990)によって導入されたPCR増幅DNA遺伝子型の相を推定するためのアルゴリズムが使用できる。簡単に述べると、原理は、明白な個体、すなわち、完全な同型接合および単一部位の異型接合体を調べることによって、試料中に存在するハプロタイプの予備リストを作成し始める。その後、同一試料中の他の個体について、以前に認識されたハプロタイプのある出現についてを持つ可能性をスクリーニングする。陽性が同定されるごとに、すべての個体に関する相の情報が分析または未分析として同定されるまで、認識されたハプロタイプのリストに、相補的なハプロタイプが追加される。この方法は、各複数部位での異型接合個体に対して、単一のハプロタイプを割り付けるが、複数の異型接合部位が存在すると、いくつかのハプロタイプが可能である。または、各個体にハプロタイプを割り付けることなく、集団中のハプロタイプ頻度を見積もる方法を使用できる。好ましくは、期待値最大化(EM)アルゴリズム(Dempsterら、J.R. Stat. Soc.、39B: 1-38、1977)に基づく方法が使用され、ハーディ‐ワインベルク平衡(無作為接合)の仮定を用いて、ハプロタイプ頻度の最大尤度の見積もりが得られる(Excoffier L.およびSlatkin M.、Mol. Biol. Evol.、12(5):921-927、1995参照)。EMアルゴリズムは、データが不明瞭および/または不完全の場合に有用な、一般化された反復性の最大尤度アプローチである。EMアルゴリズムは、異型接合体をハプロタイプに分離するために使用される。ハプロタイプの見積もりは、「統計的方法」という項にさらに詳述されている。集団中のハプロタイプ頻度を決定または見積もるための、当技術分野で周知の任意の他の方法も、使用できる。
【0123】
連鎖不均衡分析
連鎖不均衡は、2つまたはそれ以上の遺伝子座のアリルの非無作為的な関連で、疾病形質に関与する遺伝子のマッピングの強力な道具となる(Ajioka R.S.ら、Am. J. Hum. Genet.、60:1439-1447、1997)。遺伝子マーカーはヒトゲノム中で密な間隔にあり、他の種類の遺伝子マーカー(RFLPまたはVNTRマーカーなど)よりも多数遺伝子型同定できるので、連鎖不均衡に基づく遺伝子解析に特に有用である。
【0124】
疾病の変異が最初に集団に導入された場合(新しい変異または変異の保有者の移入による)には、変異は必ず単一の染色体上にあり、したがって、連鎖したマーカーの単一の「バックグラウンド」または「先祖の」ハプロタイプ上にある。したがって、これらのマーカーと疾病変異の間には、完全な不均衡が存在する。疾病変異は、マーカーアリルの特定のセットの存在下にのみ見つかる。後代の世代で疾病変異およびこれらの多型マーカーの間の組み換えが起こり、不均衡は次第に消失する。この消失の速度は、組換え頻度の関数であるので、疾病遺伝子に最も近いマーカーは、遠いマーカーよりも高いレベルの不均衡を示す。組み換えで破られなければ、「先祖の」ハプロタイプおよび異なる遺伝子座にあるマーカーアリル間の連鎖不均衡は、家系のみならず、集団を通して追跡できる。通常、連鎖不均衡は1つの遺伝子座の1つの特定のアリルと、第2の遺伝子座の別の特定のアリルの間の関連として観察される。
【0125】
疾病とマーカー遺伝子座の間の不均衡のパターンまたは曲線は、これらの遺伝子座で起こる最大値を示すと期待される。したがって、疾病アリルと密接に連鎖した遺伝子マーカーの間の連鎖不均衡は、疾病遺伝子の位置に関して貴重な情報を与える。疾病遺伝子座の詳細なマッピングには、対象領域にあるマーカー間に存在する連鎖不均衡のパターンに関する知識があると役立つ。上述のように、連鎖不均衡分析によるマッピングの解像度は、連鎖解析よりもはるかに高い。連鎖不均衡分析と組み合せた高密度の遺伝子マーカーは、詳細なマッピングの強力な道具となる。連鎖不均衡を計算するための種々の方法は下記の「統計的方法」という項で説明されている。
【0126】
形質-マーカー関連の集団を用いた患者-対照研究
上述のように、同一の染色体上の異なる遺伝子座において特定のアリルの対が発生する頻度は無作為ではなく、無作為との差は連鎖不均衡と呼ばれる。相関解析は集団頻度に注目し、連鎖不均衡の現象に依存する。所定の遺伝子の特定のアリルが特定の形質の原因に直接関与していれば、その頻度は、形質陰性集団または無作為の対照集団における頻度と比較して、罹患(形質陽性)集団で、統計的に上昇していると思われる。連鎖不均衡の存在の結果、形質の原因となるアリルを持つハプロタイプにおける他の全てのアリルの頻度も、形質陰性個体または無作為対照と比較して、形質陽性個体では上昇していると思われる。したがって、形質の原因となるアリルとの連鎖不均衡における、形質および任意のアリル(特に遺伝子マーカーアリル)の間に相関は、特定の領域において形質関連遺伝子が存在することを示唆するのに十分であると思われる。形質の原因となるアリルの位置を狭く絞り込む相関を同定するために、遺伝子マーカーに関して患者-対照集団の遺伝子型同定が行なえる。形質と関連する1つの所定のマーカーと連鎖不均衡にある任意のマーカーは、形質と関連していると思われる。連鎖不均衡があると、形質の原因となるアリルを見つけるために、限定された数の遺伝子多型(特に遺伝子マーカー)の患者-対照集団における相対的頻度を分析して、全ての可能な機能的多型のスクリーニングをするための代わりとする事ができる。相関解析は、無関係の患者-対照集団におけるマーカーアリルの頻度を比較するもので、複雑な形質の解析に強力な道具となる。
【0127】
患者-対照集団(含有基準)
集団を用いる相関解析は、家族性の遺伝を検討しないが、患者-対照集団において、特定の遺伝子マーカーまたはそのセットの頻度を比較する。これは無関係の患者(罹患または形質陽性)個体と、無関係の対照(非罹患、形質陰性、または無作為)個体の比較に基づく、患者-対照研究である。好ましくは、対照群は非罹患または形質陰性個体からなる。さらに、対照群は患者群と民族的に一致している。さらに、対照群は好ましくは研究する形質に関して、主たる既知の混乱要素に関して、患者群と一致している(例えば、年齢依存的な形質に関して年齢が一致)。理想的には、2つの試料の個体は、その疾病状態のみが異なるように対を形成する。「形質陽性集団」「患者集団」および「罹患集団」という用語は、本明細書では互換的に使用される。
【0128】
相関解析を用いて複雑な形質を解析するための重要な段階は、患者-対照集団の選択である(LanderおよびSchork、Science、265、2037-2048、1994参照)。患者-対照集団の選択における大きな段階は、与えられた形質または表現型の臨床的な定義である。形質陽性および形質陰性表現型群に含まれる個体を注意深く選択することによって、本明細書で提案される相関方法によって、任意の遺伝形質が解析できる。4つの基準がしばしば重要である:臨床的表現型、発病年齢、家族歴、および重症度。連続的または定量的形質(例えば血圧など)の選択手順は、非重複表現型を持つこれらの形質陽性および形質陰性集団に含めるように、解析する形質の表現型の分布の両端にある個体を選択することを含む。好ましくは、患者-対照集団は、表現型の均一な集団である。形質陽性および形質陰性集団は、各々研究する集団全体の、および好ましくは非重複表現型を示す個体から選択された集団全体の1〜98%、好ましくは1〜80%、より好ましくは1〜50%、およびより好ましくは1〜30%、最も好ましくは1〜20%の間を代表する、表現型が均一な個体集団からなる。2つの形質の表現型の差が明確であればあるほど、遺伝子マーカーの相関を検出する可能性が高くなる。研究する集団の試料サイズが十分に大きければ、大きな差があるが比較的均一な表現型を選択すると、相関解析において効率良く比較ができ、遺伝子レベルでの著しい差の可能性のある検出が可能である。
【0129】
好ましい態様では、50〜300個、好ましくは約100個の形質陽性個体群を、表現型にしたがって採用する。そのような研究には、同様な数の形質陰性個体も含まれる。
【0130】
本発明では、含有基準の典型的な例には、肥満、糖尿病、人種、単調な体重増加、年齢、性別、および思春期が含まれる。
【0131】
本発明の遺伝子マーカーを含めた遺伝子マーカーを用いた相関解析の適切な例は、以下の集団を用いた研究である:(1)若年性肥満の患者集団および痩せた対照集団、および(2)肥満患者および年齢に対応して痩せた対照集団。
【0132】
1つの態様では、インスリンHphI座と連鎖不平衡のマーカーを用いて肥満になりやすい個体を同定できる。これには、肥満の素因となる要素を持つ個体を同定するための診断および予後診断アッセイ法、ならびにこれらのアッセイ法を用いた臨床試験および治療方法が含まれる。薬物治療は、肥満の治療または肥満の対照、および肥満関連疾患に使用されると当技術分野で考えられるまたは周知の任意の薬剤を含む。
【0133】
相関解析
候補遺伝子を持つ領域に由来する遺伝子マーカーを用いた相関解析を行なう一般的な戦略は、両方の群で本発明の遺伝子マーカーのアリル頻度を測定し統計的に比較するために、2つの個体群(患者-対照集団)をスキャンすることである。
【0134】
分析された遺伝子マーカーのうち1つまたは複数で形質と統計的に有意な相関を持つものが同定されれば、相関のあるアリルが形質の直接の原因となっている(すなわち、相関のあるアリルが形質の原因となるアリル)か、より可能性が高い相関のあるアリルが形質の原因となるアリルと連鎖不平衡にあると考えられる。候補遺伝子機能に関しての相関のあるアリルの特異的な性質は、通常、相関のあるアリルと形質の間の関係について、さらに情報を与える(因果関係、または連鎖不平衡)。候補遺伝子の中の相関のあるアリルが、おそらく形質の原因となるアリルではなく、真の形質の原因となるアリルと連鎖不平衡にあることを証拠が示していれば、相関のあるマーカーの近隣の配列を決定し、繰り返し明らかになる多型との相関解析をさらに行なうことによって、形質の原因となるアリルが見つかる。
【0135】
相関解析は、通常、2つの連続的な段階で行われる。最初の段階では、形質陽性および形質陰性集団において、候補遺伝子からの減少した数の遺伝子マーカーの頻度を決定する。解析の第2段階では、関連する領域から得られるさらに高密度のマーカーを用いて、所定の形質を担う遺伝子座の位置をさらに正確に知る。
【0136】
ハプロタイプ解析
上述のように、疾病アリルを持つ染色体が変異または移入の結果、初めてある集団に現れる場合には、変異アリルは必ず連鎖マーカーセットを持つ染色体上に存在する:先祖ハプロタイプ 。このハプロタイプは、集団を通して追跡し、特定の形質との統計的相関を解析することができる。ハプロタイプ解析とも呼ばれる多点相関解析によって一点(アリル)相関解析を補うと、相関解析の統計力が増加する。したがって、ハプロタイプ相関解析によって、先祖のキャリアハプロタイプの頻度および種類を決定できる。ハプロタイプ解析は、個々のマーカーに関する分析の統計力を増加させるという点で、重要である。
【0137】
ハプロタイプ頻度解析の最初の段階では、本発明の同定された遺伝子マーカーの種々の組み合せに基づいて、可能性のあるハプロタイプの頻度を決定する。その後、形質陽性および対照個体の別個の集団について、ハプロタイプ頻度を比較する。統計的に有意な結果を得るためにこの解析を行うべき形質陽性個体の数は、通常30〜300個の範囲で、好ましい個体数は50〜150個の範囲である。この解析で使用する非罹患個体(または無作為対照)の数も、同じである。この最初の解析結果は、患者-対照集団におけるハプロタイプ頻度を提供し、評価されたハプロタイプ頻度ごとに、p-値およびオッズ比が計算される。統計的に有意な相関が見つかれば、研究している形質に影響されている所定のハプロタイプを持つ個体の相対危険性を見積もることができる。
【0138】
相互作用解析
上述の遺伝子マーカーは、多遺伝子性相互作用の結果である検出可能な形質と関連する遺伝子マーカーのパターンを同定するためにも使用できる。連鎖していない遺伝子座におけるアリル間の遺伝子相互作用の解析には、本発明に記述される技術を用いた個々の遺伝子型同定が必要である。適切なレベルの統計的有意性を持つ選択された遺伝子マーカーセットの間のアリル相互作用の解析は、ハプロタイプ解析であると考えられうる。相互作用解析は、第1の遺伝子座の所定のハプロタイプに関しての患者-対照集団の層別化、および各亜集団で第2の遺伝子座のハプロタイプ解析の実施である。
【0139】
相関の存在における連鎖の検定
上述の遺伝子マーカーは、さらにTDT(伝達/不平衡試験)に使用できる場合がある。TDTは、連鎖および相関の両方を検定するもので、集団の層別化には影響を受けない。TDTには罹患個体およびその両親のデータ、または両親の代わりに非罹患同胞のデータが必要である(Spielmann S.ら、1993; Schaid D.J.ら、1996、Spielmann S.およびEwens W.J.、1998参照)。そのような組み合せた試験は、一般に別々の分析によって生じる偽陽性エラーを減少させる。
【0140】
統計的方法
一般に、ある形質と遺伝子型が統計的に有意な相関を示すかどうかを検定するための、当技術分野で周知の任意の方法が使用できる。
【0141】
1) 連鎖解析における方法
連鎖解析に有用な統計的方法およびコンピュータプログラムは、当技術分野で周知である(Terwilliger J.D.およびOtt J.、「ヒトの遺伝子連鎖ハンドブック(Handbook of Human Genetic Linkage)」John Hopkins University Press、London、1994; Ott J.、「ヒトの遺伝子連鎖の解析(Analysis of Human Genetic Linkage)」、John Hopkins University Press、Baltimore、1991参照)。
【0142】
2) 集団におけるハプロタイプ頻度の推定方法
上述のように、遺伝子型を評価する場合には、しばしば、異型接合体を区別することが不可能なので、ハプロタイプ頻度は簡単に推測できない。配偶子相が未知の場合には、ハプロタイプ頻度は多遺伝子座の遺伝子型データから見積もることができる。ハプロタイプ頻度の推定には、当業者に周知の任意の方法が使用できる(Lange K.「遺伝解析のための数学的および統計的方法(Mathematical and Statistical Methods for Genetic Analysis)」Springer、New York、1997; Weir, B.S.「遺伝データ解析II:不連続集団遺伝データの方法(Genetic data Analysis II: Methods for Discrete population genetic Data)」Sinauer Assoc., Inc.、Sunderland、MA、USA、1996参照)。好ましくは、ハプロタイプ頻度の最大尤度は期待値最大化(EM)アルゴリズムを用いて計算される(Dempsterら、J.R. Stat. Soc.、39B:1-38、1977; Excoffier L.およびSlatkin M.、Mol. Biol. Evol.、12(5):921-927、1995参照)。この手順は、配偶子相が未知の場合に、多遺伝子座の遺伝子型データから、ハプロタイプ頻度の最尤推定値を得るための、反復過程である。ハプロタイプの推定は、通常、たとえばイーエム-ハプロ(EM-HAPLO)プログラム(Hawley M.E.ら、Am. J. Phys. Anthropol.、18:104、1994)またはアーレクイン(Arlequin)プログラム(Schneiderら、「アーレクイン:集団の遺伝子データ解析用のソフトウェア(Arlequin: a software for population genetics data analysis)」、University of Geneva、1997)を用いてEMアルゴリズムを適用することによって行われる。EMアルゴリズムは、推定のための、一般化された反復の最大尤度手法であるが、以下に簡単に説明する。
【0143】
以下では、表現型は未知のハプロタイプ相を持つ多遺伝子座の遺伝子型を指す。遺伝子型は、既知のハプロタイプ相を持つ多遺伝子座の遺伝子型を指す。
【0144】
K個のマーカーに関して同定したN人の無関係な個体試料があるとする。観察されるデータは、F個の異なる表現型に分類され得る、未知相K遺伝子座の表現型である。さらに、H個の可能なハプロタイプがあるとする(K個の遺伝子マーカーの場合には、最大数H=2Kの可能なハプロタイプが考えられる)。
【0145】
cj個の可能な遺伝子型が考えられる表現型jについては:
【0146】
ここで、Pjはj番目の表現型の確率、P(hk, hl)は、ハプロタイプhkおよびhlからなるi番目の遺伝子型の確率(すなわちハーディ・ワインバーグ平衡)で、P(hk, hl)は次のように示される:
【0147】
EMアルゴリズムは、以下の段階からなる。まず、ハプロタイプ頻度の最初の値のセットから、遺伝子型頻度が推定される。これらのハプロタイプ頻度は、Pl (0)、P2 (0)、P3 (0)、...PH (0)と表される。ハプロタイプ頻度の最初の値は、乱数発生または当技術分野で周知のある他の方法で得られる。この段階は、期待段階と呼ばれる。この方法の次の段階は最大化段階と呼ばれ、遺伝子型頻度の推定値を用いて、ハプロタイプ頻度を再計算する。最初の繰り返しのハプロタイプ頻度の推定値は、Pl (1)、P2 (1)、P3 (1)、...、PH (1) と表される。一般に、s番目の繰り返しにおける期待段階は、前回の繰り返し
のハプロタイプ頻度に基づいて各表現型を、異なる可能な遺伝子型とおく確率を計算することからなり、njはj番目の表現型を持つ個体数、Pj(hk, hl)(s)は表現型jにおける遺伝子型hk, hlの確率である。遺伝子計数法(Smith、Ann. Hum. Genet.、21:254-276、1957)と同等な最大化段階では、ハプロタイプ頻度は遺伝子型頻度
に基づいて、再推定される。
【0148】
ここでは、δitはハプロタイプtがi番目の遺伝子型に存在する発生数を数える指標変数であり、0、1、および2の値をとる。
【0149】
E-M繰り返しは、以下の基準が満たされると終了する。最尤推定法(MLE)理論を用いて、表現型jは多項分布していると仮定する。各繰り返しsにおいて、尤度関数Lが計算できる。2つの連続する繰り返しの間のログ尤度の差が、ある小さな数、好ましくは10-7未満になった場合、収束は達成される。
【0150】
3) マーカー間の連鎖不平衡を計算する方法
任意の2つの遺伝子位置の間の連鎖不平衡を計算するために、いくつかの方法が使用できる。現実には、連鎖不平衡は集団から得られたハプロタイプデータに統計的相関検定を適用して、測定される。
【0151】
マーカーMiでアリル(ai/bi)、マーカーMjでアリル(aj/bj)を持つ、本発明の遺伝子マーカーを少なくとも1つ含む任意の遺伝子マーカー対(Mi, Mj)の間の連鎖不平衡は、全てのアリルの組み合せ(ai, aj; ai, bj; bi, ajおよびbi, bj)について、ピアザの公式
にしたがって、計算できる。ここで、
θ4=- -=Miにアリルaiを持たず、Mjにアリルajを持たない遺伝子型の頻度
θ3=-+=Miにアリルaiを持たず、Mjにアリルajを持つ遺伝子型の頻度
θ2=+-=Miにアリルaiを持ち、Mjにアリルajを持たない遺伝子型の頻度である。
【0152】
遺伝子マーカー対(Mi, Mj)間の連鎖不平衡(LD)は、全てのアリルの組み合せ(ai, aj; ai, bj; bi, ajおよびbi, bj)について、ワイア(Weir) (Weir B.S.、1996)に記述されるように、デルタ(複合遺伝子型不平衡係数)についても、最尤推定法(MLE)にしたがって計算できる。複合連鎖不平衡のMLEは:
Daiaj=(2n1 + n2 + n3 + n4/2)/N - 2(pr(ai). pr(aj))であり、ここで
、およびNは試料中の個体数である。
【0153】
この公式により、遺伝子型のデータのみがありハプロタイプのデータはない場合に、アリル間の連鎖不平衡が計算できる。
【0154】
マーカー間の連鎖不平衡を計算する別の方法は、次の通りである。2つの遺伝子マーカーMi(ai / bi)およびMj(aj / bj)について、ハーディ-ワインバーグ平衡を当てはめて、上述の手法によって所定の1つの集団において可能性のある4つのハロタイプ頻度を推定できる。
【0155】
aiとajの配偶子不平衡の推定は、単に:
Daiaj = pr(ハプロタイプ(ai, aj)) - pr(ai).pr(aj)である。
【0156】
ここで、pr(ai)はアリルaiの確率、pr(aj)はアリルajの確率で、pr(ハプロタイプ(ai, aj))は上記等式 3での推定値である。
【0157】
2つの遺伝子マーカーについて、MiとMjの相関を記述するためには、1つの不平衡の測定のみが必要である。
【0158】
また、上記の正規化された値は、次のように計算される
D’aiaj = Daiaj / max (-pr(ai). pr(aj), -pr(bi). pr(bj))、Daiaj <0
D’aiaj = Daiaj / max (pr(bi). pr(aj), pr(ai). pr(bj))、Daiaj >0
【0159】
当業者は、他のLDの計算方法も使用できることを容易に理解すると思われる。
【0160】
適切な異型接合率を持つ遺伝子マーカーのセットでの連鎖不平衡は、50〜1000人、好ましくは75〜200人、より好ましくは約100人の無関係の個体を遺伝子型同定して決定できる。
【0161】
4) 相関の検定
表現型と遺伝子型、この場合は遺伝子マーカーにおけるアリルまたはそのようなアリルからなるハプロタイプの間の相関の統計的有意性を決定する方法は、当技術分野で周知の任意の統計的検定、および必要な統計的有意性の受け入れられている閾値を用いて、決定できる。特定の方法の適用と有意性の閾値は、当技術分野の範囲内で周知である。
【0162】
相関の検定は、患者および対照集団における遺伝子マーカーアリルの頻度を決定し、これらの頻度を統計的検定と比較して、研究している遺伝子マーカーアリルと形質との間の相関を示すような頻度の統計的に有意な差があるかどうかを決定することによって行われる。同様に、ハプロタイプ解析は、患者および対照集団において、所定の遺伝子マーカーセットの全ての可能なハプロタイプの頻度を推定し、これらの頻度を統計的検定と比較して、研究している表現型(形質)とハプロタイプとの間の統計的に有意な相関があるかどうかを決定することによって行われる。遺伝子型と形質の間の統計的に有意な相関を検定するために有用な任意の統計的なツールが使用できる。好ましくは、使用される統計的検定は、1度の自由度を持ったχ2検定である。P値が計算される(P値は、観察されたものと同じまたはこれより大きい統計値が偶然発生する確率である)。
【0163】
統計的有意性
好ましい態様では、さらなる診断検査を行なうための正バイアスまたは初期の予防的治療を開始するための予備的開始点としての診断のための有意性である、遺伝子マーカーの相関に関するP値は、単一の遺伝子マーカー解析で、好ましくは約1 x 10-2またはそれ未満、より好ましくは約1 x 10-4またはそれ未満、2つまたはそれ以上のマーカーを含むハプロタイプ解析で、約1 x 10-3またはそれ未満、さらに好ましくは1 x 10-6またはそれ未満、および最も好ましくは約1 x 10-8またはそれ未満である。これらの値は、単一または複数のマーカーの組み合せに関する任意の相関解析に適用できると考えられる。
【0164】
当業者は、上述の値の範囲を、本発明の遺伝子マーカーを用いた相関解析を行なうための、開始点として使用できる。それにより、本発明の遺伝子マーカーと、肥満または肥満関連の疾患の間の有意な相関が明らかになり、診断および薬剤のスクリーニングに使用できる。
【0165】
表現型の置換
上述の第1段階のハプロタイプ解析の統計的有意性を確認するために、患者-対照個体の遺伝子型同定データをプールし、形質の表現型に関して無作為化し、さらなる解析を実行することが適切な可能性がある。各個体の遺伝子型同定データは、無作為に2つの群に割り付け、2つの群が、第1段階で得られたデータを収集するために使用した患者-対照集団と同じ数の個体数を持つようにする。第2段階のハプロタイプ解析は、好ましくはこれらの人工的な群で、好ましくは最大の相対危険性係数を示した、第1段階の解析のハプロタイプに含まれるマーカーについて、行われる。この実験は、好ましくは少なくとも100〜10000回繰り返される。繰り返しによって、有意性のP値が約1 x 10-3未満で、得られたハプロタイプの割合を決定できる。
【0166】
統計的相関の評価
偽陽性の問題に対処するために、無作為なゲノム領域において、同じ患者-対照集団を用いて、同様な分析を行なうことができる。無作為な領域および候補領域における結果は、国際公開公報第00/28080号に記述されるようにして比較する。
【0167】
5) 危険性因子の評価
危険性因子(遺伝疫学では、危険性因子はマーカー遺伝子座における特定のアリルまたはハプロタイプの存在または欠如である)と疾患の相関は、オッズ比(OR)および相対危険性(RR)によって測定される。P(R+)がRを持つ個体の疾患の発症確率で、P(R-)が危険性因子を持たない個体の確率だとすると、相対危険性は、2つの確率の比、すなわち
RR = P(R+)/(PR-) である。
【0168】
患者-対照研究では、試料抽出法の設計のために、相対危険性は直接測定できない。しかし、オッズ比によって発病率の低い疾患に関しては相対危険性の良い近似ができ、これは
OR = (F+/(1-F+))/(F-/1-F-))で計算できる。
【0169】
F+は患者における危険性因子への曝露の頻度、F-は対照における危険性因子への曝露の頻度である。F+およびF-は、研究におけるアリル頻度またはハプロタイプ頻度を用いて計算でき、基礎となる遺伝モデル(優性、劣性、相加的)に依存する。
【0170】
さらに、集団において所定の危険性因子のためにある形質を示す集団個体の割合を表す寄与危険度(AR)を推定することができる。この尺度は、疾病の原因における特定の因子の役割を定量する上で、および危険性因子の公衆衛生への影響という点で、重要である。対照の曝露がなかった場合に、集団中で予防できる症例の割合を見積もるという点で、この尺度は公衆衛生に関連している。ARは
AR = PE(RR-1) / (PE (RR-1)+1)として計算される。
【0171】
ARは遺伝子マーカーアリルまたは遺伝子マーカーハプロタイプが寄与する危険性である。PEは集団全体で、アリルまたはハプロタイプに曝露した頻度、およびRRは一般の集団において研究している形質の発生率が比較的低い場合に、オッズ比を用いて近似される相対危険性である。
【0172】
本発明の遺伝子マーカーと連鎖不均衡にある遺伝子マーカーの同定
関心のあるゲノム領域で最初の遺伝子マーカーが同定されたら、当業者は本発明の教示を用いて、この最初のマーカーと連鎖不均衡にある別の遺伝子マーカーを容易に同定できる。上述のように、形質と関連する第1のマーカーと連鎖不均衡にある任意のマーカーは、形質と関連する。したがって、所定の遺伝子マーカーおよび形質の間に関連が示されれば、この形質と関連する別の遺伝子マーカーの発見は、この特定の領域において遺伝子マーカーの密度を上昇させるために非常に興味深い。原因となる遺伝子または変異は、形質と最も高い相関を示すマーカーまたはマーカーのセットの近隣に見つかると思われる。
【0173】
所定のマーカーと連鎖不均衡にある別のマーカーの同定には、(a) 複数の個体から第1の遺伝子マーカーを含むゲノム断片を増幅する段階;(b) 第1の遺伝子マーカーを持つゲノム領域中で第2の遺伝子マーカーを同定する段階;(c) 第1の遺伝子マーカーと第2の遺伝子マーカーの間の連鎖不均衡解析を行なう段階;および(d) 第1のマーカーと連鎖不均衡にあるとして第2の遺伝子マーカーを選択する段階が含まれる。段階(b)と(c)を含む組み合せも、考慮される。
【0174】
遺伝子マーカーの同定方法および連鎖不均衡解析の方法は、本明細書に記述され、当業者は過度の実験なしに実施できる。インスリンHphI座と連鎖不均衡にある遺伝子マーカーは、所定の形質、例えば肥満とのそれぞれの関連という点で、類似した特性を示すと期待され、使用することができる。HphI座は近隣のインスリンVNTRと強い連鎖不均衡を示す。HphI座の「+」アリル(T)は、近隣のインスリンVNTRのクラスIアリルと、「-」アリル(A)はクラスIIIアリルと、完全な連鎖不均衡にある。したがって、連鎖不均衡解析は、-23 HphI多型を代理マーカーとして、インスリンVNTRも試験する。選択的に、インスリンHphI座と連鎖不均衡にあるマーカーは、表Cに記載されるマーカー、好ましくはマーカー-4217 PstI、-2221 MspI、-23 HphI、+1428 FokI、+11000 AluI、および+32000 ApaI、またはより好ましくは-23 HphIからなる群より選択される。選択的に、インスリンHphI座と連鎖不平衡のマーカーは、さらに当技術分野で周知のインスリンHphI座と連鎖不平衡にある任意の他のマーカー、および本明細書に記述される方法によってインスリンHphI座と連鎖不平衡にあることが決定される任意のマーカーを含み得る。
【0175】
マッピング試験:機能的変異の同定
本発明の遺伝子マーカーを用いて正の関係が確認されたら、関連する候補領域(インスリン遺伝子の連鎖不平衡の中)の配列について、いくつかの形質陽性および形質陰性個体の配列を比較することによって、変異のスキャンができる。好ましい態様では、インスリン遺伝子のエクソンおよびスプライス部位のような機能的領域、プロモーター、ならびに他の調節領域で、変異のスキャンをする。好ましくは、形質陽性個体は、その形質と関連することが示されたハプロタイプを持ち、形質陰性個体は、その形質と関連するハプロタイプまたはアリルを持たない。変異検出手順は、2アリル部位の同定に用いられるものと本質的に同じである。
【0176】
そのような変異の検出に使用する方法は、一般的に以下ので段階を含む:(a) 形質陽性患者および形質陰性対照のDNA試料から、形質と関連する遺伝子マーカーまたは遺伝子マーカー群を含む候補遺伝子の領域を増幅する段階;(b) 増幅された領域の配列を決定する段階;(c) 形質陽性患者と形質陰性対照のDNA配列を比較する段階;および(d) 形質陽性患者に特異的な変異を決定する段階。段階(b)と(c)を含む組み合せも、特に考慮される。
【0177】
好ましくは、その後、本明細書に開示されるような任意の遺伝子型同定手順、好ましくは個々の試験形式で微量配列決定手順を用いて、患者と対照のより大きな集団をスクリーニングすることによって、候補多型を確認する。多型は、期待される関連の結果と一致する頻度で患者および対照に存在すれば、候補変異と見なされる。
【0178】
遺伝子診断法における本発明の遺伝子マーカー
本発明の遺伝子マーカーは、特定の遺伝子型の結果として検出可能な形質を発現する個体、または後にその遺伝子型のために検出可能な形質を発生する危険性を持つ個体を、同定することのできる診断検査を開発するためにも使用できる。
【0179】
本発明が、誰が肥満を含む特定の疾患及び肥満関連疾患を発症する危険性を持つかという個体の絶対的な同定をするのではなく、疾患を発症するある程度または可能性を示すものであることは、肥満および肥満関連疾患の治療または診断を実施する当業者には当然理解されると思われる。しかし、この情報は、予防的治療を開始したり、重要なハプロタイプを持つ個体が小さな症状のような前兆となる徴候を予知することができるので、特定の状況では非常に貴重である。非常に強く攻撃し適時に治療しないと致死的になる場合があるような疾病では、絶対的なものではなくても潜在的な素因に関する知識は、有効な治療に非常に重要な貢献をする可能性がある。
【0180】
本発明の診断技術は、家系研究、単一精子のDNA解析、または体細胞ハイブリッドのような、個々の染色体のハプロタイプの解析を可能にする方法を含め、種々の方法を使用して、被験者が検出可能な形質の発症危険性の上昇と関連した遺伝子マーカーパターンを持つかどうか、または個体が特定の変異の結果として検出可能な形質に侵されているかどうかを決定できる可能性がある。本発明の診断法で解析される形質は、肥満および肥満関連疾患を含む、任意の検出可能な形質であることができる。
【0181】
本発明の別の局面は、個体が形質を発症する危険性を持つかどうか、または個体が形質の原因となる特定のアリルを持つ結果として形質を発現するかどうかを決定する方法に関する。本発明は、個体が複数の形質を発症する危険性を持つかどうか、または個体が形質の原因となる特定のアリルを持つ結果として、複数の形質を発現するかどうかを決定する方法にも関する。これらの方法には、個体から核酸試料を得て、核酸試料に形質の発症危険性を示す、または形質の原因となる特定のアリルを持つ結果として個体が形質を発現することを示す、1つまたは複数の遺伝子マーカーの1つまたは複数のアリルを含むかどうかを決定することが含まれる。これらの方法は、個体から核酸試料を得て、核酸試料が形質の発現の危険性を示す、または個体が特定のインスリン多型または変異(形質の原因となるアリル)を持つ結果として形質を発現することを示す、少なくとも1つのアリルまたは少なくとも1つの遺伝子マーカーハプロタイプを含むかどうかを決定することも含む。
【0182】
好ましくは、そのような診断方法では、個体から核酸試料を得て、この試料を上記の「遺伝子マーカーに関するDNA試料の遺伝子型同定法」に記述される方法を用いて、遺伝子型同定する。診断法は、単一の遺伝子マーカー、または遺伝子マーカー群に基づくもので良い。これらの各々の方法では、被験者から核酸試料を得て、インスリンHphI座と連鎖不均衡にある1つまたは複数のマーカーの遺伝子マーカーパターンを決定する。または、1つまたは複数の遺伝子マーカーは、表Cに提供されるマーカー、好ましくはマーカー-4217 PstI、-2221 MspI、-23 HphI、+1428 FokI、+11000 AluI、および+32000 ApaI、またはより好ましくは-23 HphIからなる群より選択される。選択的に、インスリンHphI座と連鎖不平衡のマーカーは、さらに当技術分野で周知のインスリンHphI座と連鎖不平衡にある任意の他のマーカー、および本明細書に記述される方法によってインスリンHphI座と連鎖不平衡にあることが決定される任意のマーカーを含み得る。
【0183】
1つの態様では、核酸試料のPCR増幅を行ない、検出可能な表現型と関連する多型が同定された領域を増幅する。増幅産物の配列を決定し、個体が検出可能な表現型に関連したインスリン多型を1つまたは複数持つかどうかを決定する。増幅産物の作製に使用されるプライマーは、表Cおよび表・増幅プライマーに列挙されるプライマーを含む可能性がある。または、核酸試料に上述のような微量配列決定反応を行ない、個体がインスリン遺伝子の変異または多型の結果として検出可能な表現型と関連するインスリン多型を1つまたは複数持つかどうかを決定する。
【0184】
別の態様では、検出可能な表現型と関連する1つまたは複数のインスリンアリルに特異的にハイブリダイズする1つまたは複数のアリル特異的オリゴヌクレオチドプローブを核酸試料に接触させる。別の態様では、増幅反応でアリル特異的オリゴヌクレオチドとともに使用すると増幅産物を生産する能力のある第2のインスリンオリゴヌクレオチドを核酸試料に接触させる。増幅反応中に増幅産物が存在すると、個体が検出可能な表現型と関連する1つまたは複数のインスリン関連アリルを持つことを示す。
【0185】
上述のように、診断方法は単一の遺伝子マーカーまたは遺伝子マーカー群に基づく可能性がある。好ましくは、遺伝子マーカーまたは遺伝子マーカーの組み合せは、表Aに記述されるインスリンHphI座と連鎖不平衡にあるマーカー、好ましくはマーカー-4217 PstI、-2221 MspI、-23 HphI、+1428 FokI、+11000 AluI、および+32000 ApaI、またはより好ましくは-23 HphIからなる群より選択される。選択的に、インスリンHphI座と連鎖不平衡のマーカーは、さらに当技術分野で周知のインスリンHphI座と連鎖不平衡にある任意の他のマーカー、および本明細書に記述される方法によってインスリンHphI座と連鎖不平衡にあることが決定される任意のマーカーを含み得る。診断キットは、本発明の任意のポリヌクレオチドを含み得る。
【0186】
これらの診断方法は、予防的治療を開始したり、重要な遺伝子型またはハプロタイプを持つ個体が小さな症状のような前兆となる徴候を予知することができるので、特定の状況では非常に貴重である。例えば、実施例1に記述される研究では、被験者はすべて肥満の少年少女である。しかし、父系のVNTRクラス1アリルを有する幼児またはよちよち歩きの幼児、肥満になる危険性のある幼児およびよちよち歩きの幼児を同定することによって、このような個体がここで食事療法によるカロリー摂取を調節することに的をしぼって、後の重篤な疾患の発生を予防することができる。
【0187】
薬剤への応答または薬剤の副作用を分析および予測する診断法は、個体を特定の薬剤で治療するべきかどうかを決定するために使用できる。例えば、診断法により、個体が特定の薬剤による治療にプラスの応答をする可能性が示されれば、その個体にその薬剤を投与できる。逆に、診断法により、個体が特定の薬剤による治療にマイナスの応答をする可能性が高ければ、別の治療方法を処方できる。マイナスの応答とは、有効な応答がないこと、または有毒な副作用があることとして定義される。インスリンHphI座およびインスリン関連疾患に関連する他の形質と連鎖不平衡にあるマーカーの間の他の関連も、過度な実験なしに本発明の方法を用いて決定でき、これらの形質を標的とする薬剤に感受性(または非感受性)の可能性の高い人々の亜集団を同定するために有用な他のマーカーが示される。さらに、薬剤の転帰(治療/副作用)に注目して特異的な関連付けを行い、危険性/治療の成功を予測する他の有用なマーカーが同定できる。
【0188】
臨床薬剤試験は、本発明のマーカーのもう1つの応用法である。上述の方法を用いて、インスリン関連疾患に作用する薬剤への応答、またはインスリン関連疾患に作用する薬剤への副作用を示す1つまたは複数のマーカーが同定され得る。その後、そのような薬剤の臨床試験の参加候補者をスクリーニングして、薬剤に好都合な反応をする可能性の高い個体を同定したり、および/または副作用を経験しそうな個体を除外したりできる。そのようにして、プラスの反応をする可能性の低い個体を試験に含める結果として測定値が低下することもなく、および/または望ましくない安全性の問題の危険性なしに、薬剤にプラスの反応をする可能性のある個体において、薬剤の有効性を評価できる。
【0189】
肥満の治療
さらに本発明は、例えば肥満治療の予防方法のような、肥満の治療方法を提供する。さらに本発明は肥満に関する疾患の治療方法、例えば、予防方法、も提供する。本方法は一般に、上述のように個体のINS VNTR遺伝子型の決定を含み、さらに個体が父系VNTRクラスIアリルを持つ場合には、個体に体重制限療法を施すことを含む。いくつかの態様では、本発明は個体が肥満を発症する危険性を低下させる方法を提供する。これらの態様のいくつかでは、肥満は早発性肥満である。他の態様では、本発明は、個体が肥満に関連する疾患を発症する危険性を低下させる方法を提供する。
【0190】
減量(体重の調節)のために提案されている治療法には5つの種類がある。(1) 食事制限は最も頻繁に使用される。肥満個体は食事習慣を変えて摂取カロリーを低下させる、すなわち、超低カロリー(VLC)ダイエット(400および800 kcal/日)にするように助言される。この種の治療法は短期的には有効であるが、再発率は非常に高い。(2) 身体の運動による消費カロリーの増加も提案されている。この治療法は単独では有効ではないが、低カロリーダイエットの患者の減量を促進する。合わせると、食事制限および消費カロリーの増加は、単一の行動修正療法と考えられることがある。(3) 摂取カロリーの吸収を低下させる胃腸管手術は有効であるが、その副作用のためにほとんど廃止されている。(4) 消化管の内腔に食物脂質を隔離することによって、その吸収を低下させる手法も用いられる。しかしこれは、脂溶性ビタミンの吸収不良、鼓脹、および脂肪便を含む忍容しがたい生理的不均衡を誘導する。どのような治療法を考えて、肥満の治療には非常に高い再発率という特徴がある。(5) かなりの減量を可能にする薬物戦略が5つある:
食欲不振誘発性のシグナルまたは因子(食物摂取を抑制するもの)の阻害効果を増幅する、または食欲促進シグナルまたは因子(食物摂取を刺激するもの)を阻止することにより、食物摂取を減少させる、すなわちシブトラミン;
消化管における栄養の吸収(特に脂質)を阻害する、すなわちオルリスタット;
ATPの生成から燃料代謝を脱共役させることにより、熱発生を増加させ、それにより食物エネルギーを熱として消費する、すなわちエフェドリンおよびカフェイン;
脂肪合成/脂肪分解または脂肪分化/アポトーシスを調節することにより、脂肪または蛋白質の代謝または貯蔵を変化させる;および
コントローラーが調べる内部標準値を変化させるか、コントローラーが分析する脂肪貯蔵に関する1次求心性シグナルを調節することにより、体重を調節する中枢コントローラーを変化させる(Bray G.A.ら、Nature. 404:672-674 (2000)およびHealtheon/WebMD (1999))。
【0191】
身体の運動および摂取カロリーの減少によって糖尿病の症状は劇的に改善するが、座業的なライフスタイルや食物の過剰摂取、特に高脂肪食物が定着しているため、この治療法のコンプライアンスは非常に悪い。膵臓β細胞のインスリン分泌を上昇させるスルホニル尿素(例えば、トルブタミド、グリピジド)の投与により、またはスルホニル尿素へ応答できなくなった後にはインスリン注射により、インスリンの血漿濃度を上昇させると、インスリン抵抗性組織を刺激するために十分高いインスリン濃度が得られる。しかし、これらの2つの治療法によると、血漿ブドウ糖レベルが危険なほど低くなる可能性があり、またより高い血漿インスリン濃度のおかげでインスリン抵抗性が高まる可能性も理論的にはある。ビグアニドはインスリン感受性を高めるために、高血糖がある程度矯正される。しかし、フェンホルミンとメトホルミンの2つのビグアニドは、それぞれ乳酸性アシドーシスおよび悪心/下痢を誘導し得る。
【0192】
体脂肪値の決定方法
肥満は健康を維持するために必要な量以上の過剰な脂肪として大まかに定義されるが、正式には、寿命を最大にすると定義される理想体重を大きく上回ることとして定義される(Friedman, J.M. Nature. 404:633 (2000))。脂肪過多の簡便な臨床および疫学的尺度は、肥満指数(BMI)であり、これは体重を身長の二乗で割って計算される(kg/m2)。BMIは本明細書で説明されるような、より複雑な体脂肪の尺度と高い相関を示すが、極端な身長分布の場合には正確さは低下する(Healtheon/WebMD 1999)。
【0193】
肥満指数
臨床の場では、体脂肪は体重と身長を組み合せた公式を用いて、最も一般的かつ簡便に見積もられる。その根底にある前提は、身長が同一の人間の体重の変動の大部分は、体脂肪によるというもので、研究に最も頻繁に使用される公式は、肥満指数(BMI)である。BMI値を用いた肥満度の分類は、体脂肪の増加に関して、貴重な情報を与える。集団内部および集団間で体重に関して意味のある比較をしたり、疾病や死亡の危険性のある個体や集団を同定したりできる。また、個体または地域社会レベルで介入の優先順位を決定したり、そのような介入の有効性の評価ができる。しかし、BMIは異なる集団間では、肥満の度合いに同じように相関しない場合がある。また異なる個体および集団間での肥満の性質の大きな違いも説明できない(Kopelman P.G. Nature. 404:635 (2000))。
【0194】
世界保健機構は以下のようなBMIを用いた過体重の分類を提供している。
表C
【0195】
体脂肪値を測定する他の方法
BMIの他にも、胴囲、胴囲対腰回りの比、皮下脂肪厚、およびバイオインピーダンスを含めた、いくつかの脂肪測定方法がある(Heymsfield S.B.ら、Am J Clin Nutr. 64:478-84 (1996))および(Calle E.C.ら、New Engl J Med. 341:1097-1104 (1999))および(Gallagher D.ら、Am J Epidemiol. 143:228-39 (1996))。本明細書の表Dにこれらの方法を示す。
【0196】
表D
(Kopelman P.G. Nature. 404:635 (2000))
【0197】
参照文献
【0198】
実施例
以下の実施例は、当業者に本発明をどのようにして生産および使用するかの完全な開示および記述を提供するためのものであり、本発明と見なされるものの範囲を制限する意図はなく、また以下の実験例が実施される全てまたは唯一の実験であると示す意図はない。使用する数字(例えば、量、温度等)に関して正確さを保証するよう努力はされているが、実験誤差および逸脱があり得る。特に記述されないかぎり、割合は重量による割合であり、分子量は平均分子量、温度は摂氏;および圧力は大気圧またはその付近である
【0199】
実施例 1
非常に一般的なクラス I INS VNTR アリルが父親から伝達されると、白人の小児が早発性多因子性肥満に罹患しやすくなる
方法
被験者
試験した肥満患者の大部分は、地中海および中央ヨーロッパ諸国の家系で以前に記述されたコホート(3)に由来した。患者の地理的な出身地は、家族歴、父系の名前の解析、および祖父母の生誕地によって評価した(26)。地中海および中央ヨーロッパの人達は、同等な複数部位のインスリン領域ハロタイプを持ち(6つの近接するSNPから、ハロタイプの推定およびハロタイププロファイル間の同等の尤度比検定から決定)、これは遺伝的起源が近いこと反映していた(3)。前回の報告以来進行している採用から、さらなる発端者のサブセットが得られた。このコホートから、小児肥満の発症の重要な時期である6歳前に肥満が発症し(27)、親がサンプリングに同意した(表1) 402人の白人小児が選ばれた。
【0200】
本発明者らは肥満の発症を、急速で単調な体重増加のために体脂肪値が同年齢・性別の85パーセンタイルを超えた時点として自由裁量によって定義した(3)。これらの402人の肥満小児のうち、140人はVNTRクラスIおよびIIIアリルのヘテロ接合の父親を持ち、125人はヘテロ接合の母親を持っていた(27人は両親ともヘテロ接合、ヘテロ接合の親および子供を含む情報を与えないトリオを除いて、238人の適当な発端者)。これらのトリオは、すべて異なる家族だった。これらの肥満発端者の121人のやせた兄弟も、集められた(表1および2)。本発明者らは、確実に誰も早発性肥満を発症しないことを確認するために、6歳を超えた兄弟を選択した。痩せの定義は、相対体重が、身長、年齢、および性別を考慮した標準体重の100%として定義した(28)。
【0201】
遺伝子型同定
以前に報告されたように(3)、これらの肥満および痩せた小児およびその両親のVNTR座の遺伝子型同定を行なった。-23 Hph1 SNP遺伝子型は、PCR産物の解析によって決定された。白人では、Hph1 「+」アリル(A)は隣接するVNTRのクラスIアリルと完全な連鎖不平衡にあり、「-」アリル(T)はクラスIIIアリルと完全な連鎖不平衡にある(11)。ハプロタイプのわずか0.23%のみが、Hph1 「+」とVNTRクラスIアリル間で一致しない(11)。したがって、本発明者らは代理マーカーとして-23 Hph1を用いてインスリンVNTRを調べた。
【0202】
遺伝子型同定は以下のようにして実施された。以下のプライマー、
および
を用いて、ゲノムDNAをPCRにかけた。典型的なPCRの条件は:96ウェルのマイクロタイタープレート(Perkin)で、200 ng DNA、1.5 mM MgCl2、5μl 10X反応緩衝液(Perkin Elmer)、10% DMSO (Pst1)、0.2 mMの各dNTP、1μMの各プライマー、および1.25 UのTaqポリメラーゼ(Perkin Elmer)を含む各50μlの反応液。9700 Perkin Elmerサーモサイクラーを用いて、30〜35サイクル行われた。INS04およびINS05プライマーを用いて、65℃のアニーリング温度で、441 bpのPCR産物が得られる。10μlのPCR産物を2.5 UのHphIで消化し、電気泳動して遺伝子型を同定した。[+]アリルは制限酵素が配列を切断することを示し、[-]は切断しないことを示す。+/+の個体は232bp、161bp、および39 bpのバンドを生成し、+/-の個体は271bp、232bp、161bp、および39 bpのバンドを生成し、-/-の個体は271および161 bpのバンドを生成する。
【0203】
TDTおよび由来する親の効果
伝達不均衡は、まず伝達するアリルおよび伝達しないアリルならびに不調和性の伝達の比較の単純な表を作成して評価された(19)。特にクラスIアリルの推定遺伝確率(π)は、χ2検定によってヘテロ接合の母子のペアおよびヘテロ接合の父子のペアの間で比較した。親子のペアで一致したVNTRアリル伝達の条件的ロジスティック回帰(conditional logistic regression)は、以下のように表された:
[ここでP(t)=アリルが罹患した小児に伝達した確率;アリルがクラスIアリルであればA=1、そうでなければA=0;伝達したアリルが父親由来であればF=1]。この分析の対象となる唯一のペアは、ヘテロ接合の両親が含まれるペアである(不調和性遺伝)。その後、尤度比検定を用いて、全体のモデルとβが0に制限されたものを比較することによって、由来する親の重要性を評価した。
【0204】
由来する親のワインバーグの尤度比検定(PO-LRT)では、データは、由来する親および母親の遺伝子型効果の情報を与える5つのトリオクラスに分類された(Weinberg、1999の表3参照)。特定のトリオのカテゴリー中では、由来する親の効果の推定は、遺伝したアリルの父親由来と母親由来の正の対数オッズとして観察されうる。この条件的シナリオは、これらの5種類の家族の各々が、以下の(無条件)ロジスティック回帰に非類なく貢献するように指標変数を用いて設定できる:
ここでM=母親の遺伝子型におけるクラスIアリルの数;F=父親の遺伝子型におけるクラスIアリルの数; 子供がヘテロ接合ならC=1、そうでなければc=0;P=M+F;I=親のクラスIアリルの合計;下付きの記述が正しければI=指標、1=Y、O=N。この回帰の係数は、α=ln (IF)、ここでIF=母親由来と比較した父親由来のクラスIアリルの上昇した危険性;βS1=ln(S1)、ここでS1は母親がIII/IIIの子供と比較して母親がクラスIアリルを1コピー持つ子供の相対危険性と解釈できる。由来する親(PO)の効果または母親の遺伝子型の影響の検定は、尤度比検定を用いて入れ子モデルで実施できる。
【0205】
別の対数線形アプローチでは、15個の予想される合同の母親、父親、子供の遺伝子型カテゴリーのうちの1つにおける期待されるトリオの数を、遺伝子型危険性(発端者における)、母親の遺伝子型危険性、および由来する親の効果の対数線形関数として表す:
ln[E(nMPC)] = β1C1 +β2C2 + y1M1 + y2M2 +αF + ln(η)IMPC
ここでnMPCは特定の「MPC」カテゴリーにおけるトリオの数を表し、M、P、Cはそれぞれ母親、父親、および子供が持つクラスIアリルの数を表す。C=1ならばC1=1;C=2ならばC2=1;M=1ならばM1=1;M=2ならばM2=1;C-1で父親由来ならばF=1;M=P=C=1ならばIMPC=1。係数は、α=ln(IF)でIF=母親由来と比較した父親由来のクラスIアリルの上昇した危険性;β1=ln(R1)でR1はIII/IIIの小児と比較したアリルIを1コピーもつ子供の相対危険性;β2=ln(R2)でR2はIII/III型と比較したI/I遺伝子型の子供の相対危険性;γ1=ln(S1)でS1はIII/IIIの母親と比較したクラスIアリルを1コピーもつ母親の子供の相対危険性;およびγ2=ln(S2)でS2はIII/IIIの母親と比較したI/I遺伝子型を持つ母親の相対危険性であると解釈できる。由来する親および母親の遺伝子型の効果の検定には、入れ子モデルの尤度比検定を使用した。
【0206】
全ての解析は、SASバージョン10.0.で行なった。条件的ロジスティック解析は、切片(intercept)オプションなしでproc logisticで行い、結果および従属変数を適宜調節した。対数線形モデルは、proc genmodで行なった。
【0207】
結果
本発明者らは最近、肥満小児と痩せた対照の間でインスリンVNTR遺伝子型の分布に差がないという所見に基づいて、これらのVNTRアリルと小児肥満の間には直接の関連がないと報告した(3)。本報告では、本発明者らは患者-親トリオデザインを用いて、肥満の子供に対するVNTRアリルクラスの伝達における由来する親の差の可能性を調べた。以前の患者-対照法では、貢献しない母系の減数分裂によって父系のクラスI効果が希釈したために、クラスIアリル効果を検出できなかった。
【0208】
父系および/または母系のアリルとの関連を区別するために、(若年)肥満小児、可能な場合はその痩せた兄弟(表1)、および両親からなる核家族の遺伝子型同定を行なった。
【0209】
(表1)肥満小児およびその痩せた兄弟の特徴(平均±SD)
【0210】
表2はヘテロ接合の母親および父親の分布、肥満小児に伝達したクラスIアリルの数、および全体および由来する親のサブセットについてのクラスIアリルの推定遺伝比率(π)を示す。驚いたことに、クラスIIIアリルに対してクラスIアリルが父親から大きく過剰に伝達していることが分かった(表2)。父親からクラスIアリルを受け継いだ小児の早発性肥満の推定される相対危険性は、r1/f=1.8である。しかし、同じデータセットにおいて、痩せた兄弟に対するいずれの親のタイプからの伝達のひずみは観察されなかった(表2、右)。
【0211】
(表2)性別ごとのヘテロ接合の親の数および肥満小児と痩せた兄弟へ伝達したインスリンVNTRクラスIアリルの数
* ヘテロ接合の親の数には、トリオの3人ともヘテロ接合の場合の親は情報を与えないので、含めていない。
** T=伝達したインスリンVNTRクラスIアリル;π=子供へのクラスIアリルの伝達の推定確率;π2=πM=πFの検定
【0212】
最近の論文でWeinbergらはπmとπfの間の均質性の検定は、両方がヘテロ接合の親のトリオはπの計算に2回貢献するが、片方がヘテロ接合の親のトリオは1回しか貢献しないため、偏りがある可能性があると提案した(表2上、TDT MvF)(13,14)。別の方法として、同氏は分析に片方がヘテロ接合の親のトリオのみを使うことを提案した(遺伝非対称性検定、TAT)。本発明者らのデータは、この方法を用いても、父親からの過剰な伝達がある証拠を示す(表2、下)。
【0213】
TDTシナリオは、尤度の枠組み中でも表現でき、尤度比検定を用いて父親と母親の危険性アリルの伝達の効果の差を検定できる(13〜15)。本発明者らは、尤度を用いた由来する親の検定の3つの手法を提案する、表3。まず、共変量としてアリルの由来する親を含めるまたは含めないモデルを用いて、TDTは条件的ロジスティック回帰(親子ペアでグループ化)(16)として検討することができる。肥満小児トリオのこれらのモデル間の尤度比検定(表3、A)は、由来する親の項の算入の有意な効果を示す。
【0214】
(表3)肥満小児・親のトリオおよび痩せた兄弟・親のトリオに関する、由来する親(PO)および(非伝達性)母親の遺伝子型効果についての試験
* 危険性パラメータとしての係数の解釈は方法を参照;** PO=由来する親の効果
【0215】
Weinberg (13) およびWeinbergら(14)による2つの最近の論文では、子宮内効果のような非伝達性の母親の遺伝子型効果は、影響を受けた発端者中の母親のアリルの分布を有意に変化させ、表2および表3,Aに示すように、伝達に対する由来する親の効果について誤った解釈を導き得ることが指摘された。別の手法として、同氏は伝達効果および由来する親の効果とは別に、母親の遺伝子型効果をモデル化する2つの手法を提案した。これを考慮すると、本発明者らの第2の尤度に基づく手法は、条件的ロジスティック回帰法であり、これは、交配の種類および子供の遺伝子型が左右する、結果として影響を受けた子供に父親(母親に対して)のクラスIアリルが伝達される確率をモデル化するものである(13)。この手法も、有意な由来する親の効果(父親のアリルから過剰な遺伝)、および(非遺伝性)母親の遺伝子型効果の証拠を示す(表3,B)。
【0216】
尤度に基づく第3の手法は、15項式としてデータセット中のトリオタイプ(母親、父親、および子供の遺伝子型により規定される)の分布を検討するものである。カテゴリーごとに期待されるトリオの数は、子供に遺伝された危険性アリルの数、母親が持つ数、および伝達したアリルの由来する親の対数線形関数として表現される。この枠組みでの尤度比検定も、父親の遺伝および(遺伝しない)母親の遺伝子型の効果の証拠を示した。要約すると、各方法はクラスIアリルの父系の遺伝効果の証拠を示した。この効果は、痩せた兄弟に関する同様なモデルのセットを用いた場合には観察されず、さらに小児肥満の危険性におけるクラスIインスリンアリルの過剰な父系の伝達を示した(表3)。さらに、伝達および非伝達群間で、発端者の性別の分布は有意差を示さず(p=0.12)、ヘテロ接合の父子ペアで伝達群間で父親の年齢には差が見られず(p=0.66)、これは発端者の性別および父親の年齢がこれらの結果に影響を与えないことを示唆した。
【0217】
本発明者らは、本発明者らの所見が母親からインプリントされることが知られている、胎児成長の2つの主な調節因子であるインスリンおよびIGF2遺伝子の、子宮内発現の調節に関連していると考える(17、18)。本発明者らは以前に、インスリン遺伝子発現が2アリル性である年齢において、クラスI VNTRアリルが肥満小児ではインスリン分泌の上昇に関連していることを示した(3)。インビトロ試験より、おそらく特異的なGに富むDNA構造を形成することにより(19)、クラスIアリルがインスリン遺伝子の転写の上昇に関連していることが知られている(4)。胎児の膵臓では、クラスI VNTRアリルはインスリン遺伝子の転写の上昇を伴う(7、8)。本結果は、早発性肥満の素因における、刷り込みされたVNTR-INS-IGF2領域の役割を示唆する。インスリンとIGF2のどちらも、ヒトの妊娠末期に脂質生成および/または脂質貯蔵を促進する可能性がある(20)。インスリン分泌を遺伝的に改変すると、出生前および出生後の成長に影響がある(21、22)。
【0218】
親の効果に加えて、本発明者らの解析はより小さな母親のVNTR遺伝子型効果の存在を示す。母親のクラスIII VNTRアリルが子孫において肥満の危険性上昇と関連していることが分かった。この効果は、母親のアリル伝達とは関連しておらず、子供の遺伝子型とは独立している(表3)。妊婦において、そのVNTR遺伝子型、高度のインスリン抵抗性を特徴とするインスリン分泌の調節、および妊娠の代謝制約(metabolic constraint)の間に、相互作用がある可能性が高い。以前の研究で、クラスIII VNTRアリルを持つ女性において、インスリン分泌の低下(3)およびインスリン非依存性糖尿病の危険性の上昇(11)が、報告された。さらに、本発明者らの標本中の母親の約32%は、妊娠前から肥満であった。母親のVNTRによっては、母親の環境および母親-胎児グルコースホメオスタシスに変化があり得る(23、24)。この仮説は、今後の研究で検証する予定である。文献でも、妊娠三半期は出生後の肥満の同調化の重要な時期である可能性があると報告されている(25)。
【0219】
結論として、本発明者らの所見は、主に父親のVNTRおよび隣接遺伝子の発現に関連する機構によるヒトの胎児のプログラミングが、一般の早発性肥満にかかりやすくする一般的な機構である可能性を示唆する。母親の代謝および栄養状態を含む他の遺伝的および非遺伝的因子は、これらの機構に干渉する可能性がある。
【0220】
本発明は、その特定の態様に関して説明されているが、本発明の精神または範囲から逸脱せずに、様々な変更を加えたり同等なもので置換したりするのは当業者には明らかである。さらに、特定の状況、材料、物質の組成、過程、過程の段階を、目的、精神、および本発明の範囲に適合させるために、多くの修正が施すことができる。そのような修正は全て、添付の特許請求の範囲に含まれることを意図する。
Claims (4)
- 個体のインスリンの様々な数の縦列反復 (VNTR)を用いて連鎖不平衡にある少なくとも1つのマーカーの多型塩基のアイデンティティを決定することにより、個体の父系のインスリンのVNTRアリルを決定する段階を含む、個体において肥満を発症する危険性を決定する方法であって、父系インスリンVNTRクラスIアリルが存在すれば、父系インスリンVNTRクラスIIIアリルを持つ個体と比較して、その個体が肥満を発症する危険性が約2倍である方法。
- 請求項1に記載の方法によって肥満を発症する危険性があるとされた個体において、減量または体重制限療法を実施することによって、個体の肥満を治療する段階を含む、個体の肥満の治療方法。
- 請求項1に記載の方法によって肥満を発症する危険性があるとされた個体において、減量または体重制限療法を実施することによって、個体が肥満関連疾患を発症する危険性を低減させる段階を含む、個体が肥満関連疾患を発症する危険性を低減する方法。
- マーカーが-23 HphIである、請求項1〜3のいずれか一項記載の方法。
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