JP2004512528A - 音波を用いる流体サンプルのためのセンシング装置および方法 - Google Patents
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Abstract
流体または流体と接触している表面の化学的特性および/または生物学的特性を検出する方法であって、容器内にセンシング表面を配置するステップと;このセンシング表面の近傍に、このセンシング表面のごく近傍にある流体内に発生する電気信号または磁気信号を測定する検出器を配置するステップと;容器内に流体を配置するステップと;音源を用いて音波を発生させてその音波をセンシング表面に向けるステップと;その音波がセンシング表面のごく近傍にある流体にぶつかったとき、センシング表面のごく近傍にある流体内に発生する電気信号または磁気信号を上記検出器で測定するステップとを含む方法。
Description
【0001】
発明が属する技術分野
本発明は、センサー、更に詳細には、液体または表面コーティングとして調製することのできるサンプル材料の化学的特性と生物学的特性を検出するためのセンサーに関する。
【0002】
背景となる技術
公知のセンサーは、流体サンプルと検出状態になった表面の間の相互作用を調べることによって作動する。典型的な方法として、以下のものが挙げられる。
・表面に付着する層の重量変化を検出する(例えば表面音波装置)。
・表面に付着する層の光学的特性の変化を検出する(例えば表面プラズモン共鳴装置)。
・化学的に活性な表面に付着する層の酸性度の変化を検出し、表面の電位をサンプルに対して変化させる(例えばグルコースオキシダーゼで修飾したEISFET pHプローブ)。
・サンプル内を横断する制御された流体流から発生する定常“流動”電流を検出する。この電流の大きさが、サンプル表面の化学的特性に依存している。
【0003】
一般に、センシング表面は、検出する種と特異的に相互作用する化学物質または生物物質でコーティングすることによって選択性を付与される(しかしセンシング表面を未知のサンプルでコーティングし、既知の液体との相互作用から必要な情報が得られるようにもできることに注意する必要がある)。あるいは、適切な表面が固有の化学的性質を備えていれば、望む化学的感度を得るのに十分であろう(pH EISFET)(例えばPowner, E.T.およびYalcinkaya,F.、Sensor Review、第17巻、第2号、107〜116ページ、1997年、「チュートリアル − インテリジェントなバイオセンサー」を参照のこと)。これらの方法では、検出を行なうのに特別な成分を利用せねばならないことがしばしばある。その成分は汚染を理由に使用後に廃棄する必要があるため、この成分の単位コストがしばしば大きな金額になる。
【0004】
液体サンプルの化学的特性と物理的特性を調べるのに従来技術による他の方法も提案されている。例えば、バルク状のそのようなサンプルに超音波を当てたときにそのサンプルを横断して発生する電気信号を検出するという方法である。これらの方法の基礎は、アメリカ合衆国特許第4,497,208号の「溶液の動電学的特性の測定」にまとめられている。これらの方法は、バルク液体内に発生する電気信号に依存していることに注意する必要がある。
【0005】
細い繊維群に囲まれた電極を液体に浸してその電極に超音波を当てたとき、電気信号が検出できることも観測されている(Yeager, E,およびHovorka, F.、The Journal of the Acoustical Society of America、第25巻、第3号、443〜469ページ、1953年5月、「超音波と電気化学」を参照のこと)。これは、アメリカ合衆国特許第4,497,208号に記載されているコロイド振動電位法を発展させた方法である。イェーガーは、溶液に浸した電流運搬電極の電位が変動することも観測した。その原因は、泡を含む層の電気抵抗が電極の前で変動することに帰された。この結論の基礎となる現象は、電極表面に泡や電気分解電流がなくても発生する。
【0006】
発明の開示
本発明によれば、流体または流体と接触している表面の化学的特性および/または生物学的特性を検出する方法であって、
検出器を備えた容器内に液体を配置し、この検出器は、この検出器の表面のごく近傍にある液体内に発生する電気信号または磁気信号を測定するためのものであり;
音源を用いて音波を発生させてその音波を検出器の表面に向け;
その音波が検出器表面のごく近傍にある流体にぶつかったとき、検出器表面のごく近傍にあるその流体内に発生する電気信号または磁気信号を上記検出器で測定する操作を含む方法が提供される。
【0007】
2つあるモードの一方(モードA)では、音波を所定のセンシング表面に向けるとき、その音波の圧力振幅と位相の両方がそのセンシング表面全体で一様となるようする。そのため、センシング表面に平行な大きな振動性流体運動は起こらない。受信器は、一般に、それぞれのセンシング表面に付随した電極からなり、音波がその1つ以上のセンシング表面にぶつかったとき、
1つのセンシング表面と別のセンシング表面の電位差、または
そのような2つの電極間を流れる電流のいずれかを検出する。
【0008】
他方のモード(モードB)では、音波を所定のセンシング表面に向けるとき、そのセンシング表面上で音波の位相および/または振幅が不均一に分布しているようにし、そのことによってそのセンシング表面に平行な振動性流体運動を誘起する。
【0009】
受信器は、一般に、
それぞれのセンシング表面に付随した一対の電極、または
センシング表面の近傍に位置する磁気ピックアップ(例えばコイル)で構成し、
音波がその1つ以上のセンシング表面にぶつかったとき、一対の電極の場合には、電極間の電位差または電極間を流れる電流を検出し、磁気ピックアップの場合には、電流が局所的に流れることによって発生する磁場を検出する。
【0010】
本発明には、流体または流体と接触している表面の化学的特性および/または生物学的特性を検出するためのセンシング装置であって、
流体を収容する容器と;
この容器内のセンシング表面と;
容器内でこのセンシング表面のごく近傍で発生する電気信号または磁気信号を測定する検出器と;
音波を発生させてその音波を上記センシング表面に向ける音源と;
上記検出器に接続されていて、音波が上記センシング表面のごく近傍にある流体にぶつかったとき、このセンシング表面のごく近傍にある流体内に発生する電気信号または磁気信号を測定する構成になった電気回路とを備える装置も含まれる。
【0011】
本発明の最も基本的な形態では、容器が、介在表面(例えば絶縁体)のそれぞれの側に位置する2つの電極だけを備えるようにすることができる。好ましいモードAでは、各電極がセンシング表面を1つずつ備えており、音波がその一方だけに均一にぶつかる。モードBでは、一対の電極が受信器を備えており、介在表面がセンシング表面として機能し、音波はこの介在表面に不均一にぶつかる。
【0012】
わかりやすくするため、以下の説明では一般にこの実施態様を仮定する。しかし以下の説明から明らかなように、多くの変形例を用いることが可能である。例えばモードAでは、互いに離した2枚の同等な電極に同じ音波を当て、それぞれの表面での圧力波形に時間差または位相差が生まれるようにすることができる。別の方法として、異なる処理をした2枚の電極に同じ圧力波形を当て、観測される信号が、それぞれの電極表面に発生する個々の信号間の違いを表わすようにすることもできる。モードBに関しては、受信器を構成する一対の電極の代わりに単一の磁気コイルにすることができる。これらのどの実施態様でも、基本となる方法は同じである。そこで今後は、“電極”という用語は、流体と接触する導電性表面、または絶縁層でコーティングされている導体を指し、したがって絶縁層(センシング表面)の表面に発生する信号は導体と容量性結合をしているものと理解する。
【0013】
本発明の装置と方法では、表面に付随する荷電または分極した種に対して音波が及ぼす作用によってセンシング表面のごく近傍で発生する電流または電位を検出する。表面は音響媒体内の不連続部になっているため、性質がよくわかった条件を与えるのに役立つ。信号は、この条件下で発生することになる。本発明の方法は、自由に伝わる音波とともに電場が流体内を伝播するイオン振動電位などの従来法と混同してはならない。
【0014】
モードAでは、センシング表面のごく近傍に位置する荷電流体層の密度が振動性の変動をすることで電気信号が発生する現象を検出することが好ましい。この方法は、コロイド振動電位や同様のメカニズムとは無関係である。というのも、この方法は、圧力勾配によって誘起される荷電粒子の相対運動には依存していないからである。
【0015】
モードBでは、表面に接する流体が運ぶ荷電粒子の振動運動によって誘起される電流を検出することが好ましい。これら粒子は、通常は、その下にある表面に付随しており、その数と種類は表面の性質に応じて変化する。これは、流体が処理済み表面を横断して安定に流れる結果として観測される流動電流を利用することと基本的に関係があると言えよう(例えば、Norde, W.およびRouwendal, E.、The Journal of Colloid and Interface Science、第139巻、第1号、169〜176ページ、1990年10月、「タンパク質吸着の動力学を研究するツールとしての流動電位測定」を参照のこと)。しかし音波を用いて性質がよくわかっていて局在した振動性流体運動を平坦な表面に誘起する方法は明らかではない。本発明の方法は、既存の方法と比べて多くの利点がある。
・定常流動電流の検出は、通常は、(センシング表面を有する)チャネルにおける定常電位の低下を検出することによって行なわれる。そのためには化合物からなる電気分解用電極(例えば銀/塩化銀電極)が必要とされる。この明細書に記載したモードBでは、このような電極の代わりに、性能損失のないはるかに簡単な導電性コンタクト(例えば蒸着した金)を用いることができる。
・定常流動電流の検出を行なうには、通常は、センシング表面の上を性質のよくわかった流体が流れるようにするために複雑な流体流制御システムが必要とされる。しかしここでは、音波が性質のよくわかった運動を誘起するのでこのシステムは不要である。
・効果が局所的であるため、多数のセンシング表面を1つの流体サンプル中に設置し、モードBを利用してそれぞれのセンシング表面を別々にモニターすることができる。
・信号が高周波数であるために感度が非常に大きい。そのため低周波数のドリフトが除去され、電気分解用電極と電子回路に一般に付随するノイズが除かれる。
【0016】
表面および/またはサンプルの化学的特性または生物学的特性は、こうしたメカニズムによって発生する電気信号の性質から直接知ることができる。あるいは、付加的な刺激(例えば付加的な化学物質または生物物質、印加した電位、磁場、光など)の作用によって発生する電気信号の変化から知ることができる。
【0017】
トランスデューサは一般にパルスにし、検出回路を、トランスデューサが稼働していないときに受信器に発生する電気信号に応答するようにセットする。すると、音波パルスの発信と到着の時間差に基づき、トランスデューサ駆動回路から発生する漂遊電気信号から信号を分離して検出することができる。パルスは、観測される信号の時間領域解釈ができるよう狭くし、空間的に離れたメカニズムからの寄与または供給源からの寄与を分離する。あるいはパルスをサイン曲線型のバーストにして信号対雑音比を改善する。
【0018】
本発明の方法と装置では、望む情報を生み出す信号は、音波がセンシング表面にぶつかったときにその音波がセンシング表面そのものに付随する荷電層に及ぼす作用によって発生する。したがって、センシング表面から離れた位置で発生するこの方法では無意味な他の信号は、時間領域の識別に使用するために別に評価するか、あるいはその信号の寄与が無意味であることを、サンプルのパルス信号の時間領域解釈を利用して確認する。後者の場合、観測される電圧または電流の大部分がセンシング表面で発生するという知識をもとに、(例えば)より長いサイン曲線型の波形を利用して信号を大きくすることができる。波形と電極の幾何学的配置を適切に選択することにより、バルク流体内、または予定したセンシング表面に近接した表面に発生する望ましからぬ信号の寄与を最小にすることが可能なはずである。
【0019】
上記の簡単な実施態様に適用したモードAとモードBを用いると、電気信号を、1つの電極(モードAではこの電極に音波がぶつかる。したがって“標的電極”と呼ばれる)が高インピーダンスの増幅器に接続されている場合には変化する電位の形態で検出することができ、この電極が電流−電圧変換器によって実質的にアース電位に維持されている場合には電流として検出することができる。他方の電極(補助電極と呼ばれる)は、流体に対する第2の電気的接続を提供し、回路を閉じさせる。
【0020】
センシング表面に対しては、流体が運ぶ検出すべき種と特異的に相互作用する化学物質または生物物質(例えば抗体)を付着させるという特別な処理を行なう。こうすることでセンシング表面を流体サンプルの分析手段にすることができる。別の方法として、流体を既知の因子にして、センシング表面が(調べるべき物質層を付着させた後、あるいはそのままの形態で)調べるべき未知因子となるようにすることもできる(後者は、例えば金属表面における腐食の進行を研究するのに有効である可能性がある)。
【0021】
流体に対する標的電極の平均電位の測定を可能にするため、第3の電気化学的電極(例えば飽和カロメル電極)を(例えば)塩橋によってサンプル流体と電気化学的に接触するように配置することができる。
【0022】
基本的な装置に対する多数の効果的な変形例が存在しているが、その基礎になっている方法は同じである。変形例としては、例えば以下のようなものが挙げられる。
・センシング表面を(受信器が付随したアドレス可能な)複数のセンシング表面からなるアレイで置き換えることができる。この場合、各部位が異なる化学物質または生物物質に対する感受性を有するようにする。そのため、1つのサンプルまたは流体で同時に多数のテストを行なう手段が提供される。
・センシング表面を、サンプル流体を入れる廃棄可能なキュベットと一体化することができる。あるいは、センシング表面を取り換えなくともセンシング表面の上をさまざまな流体が通過するように設計した流体通過セルに、独立したセンシング表面を挿入することもできる。
・すべての電極への電気的接続を、絶縁体を通じた密な容量性カップリングの形態にすることができる。すると、薄い壁面を有するプラスチック・セル内に電極を密封してもセルの壁を貫通する導電接続が不要になる。同様に、プラスチック・セルの壁の選択した一部をセンシング表面にし、付随する電極をセルの外側に出すこともできる。
・音源が生み出す音場の形を整えることができる。例えばレンズを音源に取り付けて音波が特定の領域に収束するようにすることができる。
・音波がサンプル流体に侵入してセンシング表面にぶつかる前に通過する媒体(音波の発信と到着の間に有効な時間差を作り出す)を固体または液体の形態にすることができる。固体の場合には、音波をサンプル容器に効果的にカップリングさせるにはゲル層が好ましい。液体の場合には、以下に詳しく説明する元のプロトタイプと同様、サンプル容器を単に液体浴に浸すだけでよい。
・音源をセンシング表面の裏側に配置すること、あるいはセンシング表面そのものと物理的に一体化することができる。
【0023】
センシング表面に付加的な刺激を与え、基本信号に対するその効果をモニターすることができる。例えば以下のような例が挙げられる。
・電極間にステップ状の電気的バイアスを印加すると、電極表面のイオンの平衡を破ることができる。電極の平均電位が突然変化することに対する応答信号(モードAを利用するとより強い信号が得られる)は、電極表面に意図的に付着させた感受性分子と流体内に存在している種の間の反応の程度を示している可能性がある。
・より強力な音波パルスを用いて表面に結合している種を意図的にはがすことができる。この場合、信号変化の程度が、種の量を示している。あるいは、剥離を起こすのに必要な音波刺激の振幅が、表面への結合強度を示している。
【0024】
本発明は、流体に浸した表面の性質、センシング表面に特異的に付随する層の性質、(電極の挙動からわかる)流体そのものの性質のいずれかを調べるための新規で低コストな手段を提供することができる。また本発明は、化学的または生物学的なプロセス、あるいは化学的または生物学的な刺激に応答してこれら性質がどのように変化するかを調べる新規で低コストな手段ともなる。
【0025】
応用範囲は、電気化学的界面そのものの分析(腐食のモニターを含む)から、付随する層または流体サンプルの生物学的活性または化学的活性のモニターまでにわたる。
【0026】
例えばセンシング表面が特定の抗体であらかじめコーティングされている場合には、対応する抗原が(流体サンプル内に存在しているのであれば)センシング表面に付着し、その表面を変化させることになる。この変化は、所定の音波刺激に対する電気信号の変化として検出することができる。そのため、病原体を迅速に、かつ測定1回ごとの材料のコストを最少にして検出する手段となる。この場合に音波を利用することの別の利点は、モニターしている結合反応とは関係しない非特異的に吸着したタンパク質を選択的にはがせることである。このようなタンパク質がはがせないと、従来のバイオ検出法では偽の信号を発生させる可能性がある。
【0027】
設計上の重要な特徴は、流体サンプルと接触させる装置の部品を簡単化できることである。というのも、実験を行なうごとに部品を交換せねばならないことがしばしばあるからである。(例えば、この装置を使用して血液サンプルから病気の存在を検出する場合には、サンプルと接触するすべての部品が病原体によって汚染される可能性があるため、この装置を再使用することはできない。)
【0028】
したがって、本発明は、例えば以下のようなことに応用できる。
・血液テスト(血液タンパク質、病気、抗原の検出)
・水質汚染のモニター
・金属表面の腐食のモニター
・薬物のテスト
・遺伝子スクリーニング
・生物物質または化学物質の検出
・表面コーティングまたは電気メッキ・プロセスの評価
【0029】
システム内での電極の相対位置は、機能面からすると本質的に重要ではない。流体サンプルは、感度が低下しない限りは非常に小さくてもよい。起こる現象は、電極表面でのガスの発生に依存しない。センシング表面に層を固定化することで、調べている生物学的プロセスまたは化学的プロセスを局在させ集中させることができる。
【0030】
音響媒体中に性質のよくわかった不連続部としてセンシング表面が存在することが、本発明の方法と装置の1つの重要な特徴である。というのも、センシング表面が、音波に応答して発生する性質のよくわかった流体運動と圧縮に対する界面となるからである。電極表面も(特に電位/電場に関して)非常によく制御でき、固定化したタンパク質を調べるための特別な環境を提供する。(例えば、ステップ状のDCバイアスを使用し、吸着されたタンパク質層内をイオンを前後に移動させ、その時間応答をモニターすることにより、この層のイオン透過率に関する情報を得る。周波数混合法は、この考え方を別の方法で実現したものである。)適切に処理したタンパク質は、表面上で同じ方向に向けることができるため、調べてその構造に関する統一性のあるデータを得ることが容易になる。
【0031】
電流プローブ・モード(すなわち電極が電流−電圧変換器に接続されているモード)では、両方の電極がアース電位に維持されている。したがって感度が異なる複数の電極からなるアレイは、互いに電気的に接続し、1本の共通した接続線によって増幅器に接続することができる。このアレイにアドレスするには、単に音波を選択したセンシング表面に向けるだけでよい。発生した信号は電流として共通の端子に流れ込むが、アレイ全体はアース電位に維持されているため、信号が刺激されていない領域を通じて溶液中に大量に“漏れ”て戻ることはない。そのため複雑なアドレス回路が不要であり、多数の電極を接続する必要もなく、複雑さが有意に少なくなり、実現のコストも大きく低下する。
【0032】
アドレス操作は、音波を、複数の列からなるアレイを横断する1本のストライプ状に集束させることによっても実現できる。このとき、1つの列内の標的スポットに対する電極が互いに接続されているようにする。したがって、音波を集束させることによって行が選択され、外部接続によって列が選択される。このようにするとアレイの走査をより速く行なうことができる。
【0033】
センシング表面を音波で刺激するというのは、吸着の制御手段を提供することでもある。音波刺激は、特に、受信器に非特異的に吸着する関係のないタンパク質を減らす上で有効であることがわかるであろう。こうするとシステムの感度と選択性が向上する。音波の強度を所定の方法で変化させるというのは、結合強度を測定する手段を提供することでもある。また、音波刺激は、受信器と分析分子の相互作用を促進し、装置の応答時間を短くするのに役立つ可能性がある。
【0034】
あいまいさなくデータを解釈するために十分な情報を引き出すには、音波刺激に加えて付加的な刺激(例えば標的電極に印加するステップ状のDCバイアス)を利用する必要があろう。このような柔軟性は、すべての方法に備わっていなければならないわけではないが、本発明による方法の重要な特徴をなしている(すなわち電極の二重刺激)。
【0035】
モードAに関して:
音波刺激を利用して電気的インピーダンス・タイプのデータが得られるという意味で、得られたデータは、音情報と電気情報の組み合わせが大半を占めているようである。この方法は、従来の電気的インピーダンス測定法と比べて大きな利点を有する。時間遅延を十分に大きくすると、電極で信号が発生するときに音源が電気的にサイレントな状態になる。したがってインピーダンス・タイプのデータが、通常はインピーダンス測定法の邪魔になる漂遊カップリングなしに得られる。
【0036】
音波パルスは電極の前にある材料を均等に圧縮する必要があるため、隣接するイオンが相対運動する必要はまったくない。したがってイオン分布は、測定後も比較的変化がない状態に留まっていなくてはならない。これは、測定プロセスにおいてイオン分布が直接壊される従来の電気インピーダンス法との大きな違いである。この意味で、上に説明した方法は侵襲性がより小さい。
【0037】
モードBに関して:
得られたデータは、従来の定常流流動法で得られたデータと性質が非常に似ているように見えるが、実験が大いに簡単化されている。
【0038】
適切なトリガー回路でパルスを発生させると、位相データと分極データを測定信号からあいまいさなく再現することができる。単一の連続的サイン波を用いるのであれば、電極表面での音波の位相に対するこの表面電気音響信号の位相を導き出すことは非常に困難であろう。この相対位相角は、信号の振幅とは別であり、システムから有用なデータを引き出す上で本質的であることがわかる。
【0039】
パルスにより、信号のさまざまな成分を分離することも可能になる。例えばイオン振動電位によって大きな“漂遊”信号がバルクのサンプル流体中に発生した場合、時間分離を利用して表面電気音響信号を分離することがやはり可能であろう。というのも、前者は後者よりも数マイクロ秒前に発生するだろうからである。信号は、センシング表面に付随する層内あるいはその層のいずれかの側のごく近傍における電荷と双極子の相対運動によって発生する。この層は、検出する特別な種に対する感受性を示す、特別に選択した物質を含むようにすることができる。あるいはこの層は、流体との界面に通常存在している荷電粒子層を含むようにすることができる(“電気的二重層”)。
【0040】
信号の性質は、以下のような事柄に依存する。
・荷電層の物理的性質と化学的性質(例えば、厚さや圧縮性)。
・層の電気的性質(例えば、荷電量や分極)。
・センシング表面の性質(例えば、実効表面積や比電荷量)。
・層内または層の構成成分間での電荷の移動させやすさ(例えば、荷電粒子または分極粒子間の結合強度、または化合物粒子の各部分間の結合強度)。
【0041】
これらの性質が変化すると、信号変化となって現われる。この信号変化は音波の波形と強度に依存しており、その依存性が、層から情報を引き出す更に別のパラメータとなる。例えば、特定のタンパク質の構造特性は、ある周波数依存性または時間依存性を生み出す可能性がある。この依存性は、そのタンパク質の“フィンガープリント”、または他のタンパク質との相互作用状態の“フィンガープリント”と見なすことができる。
【0042】
上記の信号が電気信号の個々の周波数成分を含むように変更することが考えられる。この個々の周波数成分は、付加的な電気的刺激による励起の間、センシング表面の近傍にある層の受動的電気特性が変化する結果として発生する。例えば、周波数f1の交流電気信号が電極に印加されると、周波数f1の交流電流が電極間に流れる。この交流電流の大きさは、電極に付随する層の電気的特性に一部が依存する。次にこれらの層に対して周波数f2の音波を当てると、その電気的特性が変化して周波数混合が起こり、その結果として周波数(f1+f2)と(f1−f2)の位置に電気信号成分が発生する。
【0043】
電気信号が付加的な電気的刺激なしに音源によって直接発生するという上記の基本現象は、f1がゼロという条件になった極限のケースであると見なすことができる。
【0044】
更に別の一般的な特徴として、本発明により、流体/固体の界面の化学的特性および/または生物学的特性をキャラクテリゼーションする方法であって、
センシング表面を有する固体を用意し、
このセンシング表面を流体の中に浸し、
音波がこの流体内を通過してセンシング表面にぶつかるようにし、
音波が上記固体にぶつかったときにこの流体内でセンシング表面に発生する電気信号または磁気信号を測定する操作を含み、この信号が、センシング表面における流体/固体の界面の化学的特性および/または生物学的特性を特徴づけている方法が提供される。一般に、音波はセンシング表面でほぼ完全に反射される。
【0045】
モードAに合致したケースでは、測定した電気信号または磁気信号の少なくとも一部は、界面において流体内の密度振動によって発生する可能性がある。モードBに合致したケースでは、測定した電気信号または磁気信号の少なくとも一部は、界面において振動性の横方向変位によって発生する、すなわち界面に接する振動運動によって発生する可能性がある。
【0046】
モードAとモードBの信号は、例えば界面において大きな密度振動と振動性横方向変位が起こった場合に同時に発生する可能性があるが、モードBの信号強度がモードAの信号強度よりも大きいことが好ましい。モードAの信号よりもモードBの信号についての測定可能性を最適化するためには、センシング表面における固体の電気抵抗を流体の電気抵抗よりも大きくして、界面における振動性横方向変位によって発生する変位電流の大部分(好ましくは実質的にすべて)が戻る経路が流体内を通過するようにする。戻る電流は、流体内に設置した電極で検出することができる。センシング表面における固体の抵抗を大きくすると、発生するモードAの信号の絶対強度が小さくなる傾向もある。
【0047】
電気信号は、センシング表面に付随する一対の電極で測定することができる。例えば一実施態様では、モードBの信号を測定するため、電極をセンシング表面のいずれかの側に配置し、界面において流体の振動性横方向変位によって発生する流体内の変位電流を検出する。しかし(モードAの信号を主に測定するための)別の実施態様では、電極の1つがセンシング表面を形成することになる。より一般に、1つの電極は、例えば電極の第1の部分がセンシング表面の一方の側に位置し、第2の部分がこのセンシング表面の少なくとも一部を形成する、あるいはその一部と重なる場合と同様、モードAとモードBの信号の両方を検出することができる。
【0048】
上記のいずれかの特徴を持つ(流体内に浸された一対の電極を一般に有する)検出器および/またはセンシング表面は、流体に対して安定した界面電位を維持している表面を有することが好ましい。このようにすると、表面を流体に曝露したり表面に音波を当てたりするとき、この表面がない場合に発生する可能性のあるドリフトを避けるのに役立つ。安定した界面電位は、表面を保護膜で覆うことによって得られる。一実施態様では、検出器および/またはセンシング表面は、チオール化した金表面を有する。すなわち、金表面をチオール基を含む有機化合物で不動態化する。このような化合物の具体例としては、メルカプト−ウンデカノールやメルカプト−ウンデカン酸が挙げられる。チオール化は、ベイン C.D.ら(J. Am. Chem. Soc.、第111巻、321〜335ページ、1989年)が報告しているように、蒸着した金表面にチオールの“自己集合単分子膜”を形成する方法によって実現することができる。要するに、有機化合物分子の一端に位置するチオール基のイオウ原子が金の表面と共有結合するため、流体に曝露される実効表面は、この有機化合物分子の他端に位置する基によって形成される。メルカプト−ウンデカノールの場合には、そのような基は−OH基であり、メルカプト−ウンデカン酸の場合には、そのような基は−COOH基である。このような表面の界面電位は、流体のpHを適切に調節することによって安定化させることができる。
【0049】
簡単なシステムの例を添付の図面を参照しつつ、以下に説明する。
【0050】
詳細な説明
図1は、音波を用いた励起によって流体の振動性横方向変位(したがって変位電流)が流体/固体の界面においていかにして発生するかを示す概略図である。この変位電流によって今度はモードBの信号を発生させることができる。超音波のバーストが、液体に浸した標的表面の選択した領域(すなわちセンシング表面)に斜め方向からぶつかる。固体表面の音響インピーダンスは液体の音響インピーダンスと大きく異なっているため、入射音波の大部分が反射される。流体中の長手方向の圧力波のみを考慮すると、表面に垂直な変位ベクトルの成分は消え、表面に平行な成分が足し合わされることがわかる。したがって理想的な非粘性流体では、界面における流体分子は、界面平面内において固体に対して振動運動をすることになる。すると小さなイオン変位電流が発生し、流体内で音波スポットのいずれかの端部に位置する2つの点において振動電位が生まれる。実際のシステムは(例えば流体の動的粘性のために)これよりは複雑になる傾向があるとはいえ、このような電位が実際のシステムで検出できるはずである。
【0051】
流体に浸した表面に存在するイオン二重層の概略図が図2に示してある。これは平行板コンデンサと電気的に等価であり、固体表面が一方の“プレート”として機能し、水和したイオンが表面に静電力で引き寄せられた層が他方のプレートとして機能する。表面に最も引き寄せられる水和イオンは絡まり合って密で動かないネットワークになり、残りのイオンが流体内を自由に動き回ると見なされることがしばしばある。動き回れる外側のイオンを二重層の残りのイオンと区別する仮想的な平面はスリップ平面と呼ばれ、流体に対して静電電位を有する(ゼータ電位(ζ))。スリップ平面の外側にあるイオンは流体内を比較的自由に動き回れるため、これらイオンが変位電流のほとんどを担うことが予想される。
【0052】
図3は、モードBのメカニズムに関する等価回路の概略図である。各コンデンサは、小さな音波スポットのどちらか半分に対する二重層の容量を表わし、抵抗R1は(変位電流の戻り経路となる)上に載っている流体のインピーダンスを表わす。R2は、固体の抵抗である。もしR2>>R1であるならば、変位電流の大部分は電解流体内の戻り経路を流れる。しかし固体が導電体であってR2がほぼ0である場合には、変位電流の大部分は二重層の容量(典型的な値は10μF/cm2)を通じて固体内の戻り経路を流れる。この場合、R1における電圧低下は無視できるため、モードBの有意な信号が検出可能になることはなかろう。
【0053】
モードAのメカニズムに話を転ずると、界面で音波が反射されることによって圧力の腹が発生し、表面に位置する分子は、振幅が入射波の大まかに2倍になった圧力振動を感じる。したがって界面に存在する分子は振動し、それに対応して二重層の容量と固体表面の電位が振動する。
【0054】
図4は、モードAのメカニズムに関する等価回路の概略図である。この回路は、信号が小さいという条件では、電流源と並列に接続した固定二重層コンデンサと等価である。超音波がぶつかる表面領域の導電率が電解流体の導電率よりもはるかに小さい場合には、ループ(a)−(d)に流れる変位電流は小さすぎるため、流体内で(a)と(b)の間に発生する電位低下は測定不能である。逆に、固体の導電率が流体と比べて非常に大きい場合には、大きな電流がループを流れるため、電極間に測定可能な電位が生まれる。
【0055】
これから本発明による簡単なシステムを説明することにする。図5には、壁面の薄いプラスチック容器17の中にサンプル流体1(一般に導電性電解液)が収容された状態が示してある。この流体は入口171から入って容器内を通過し、出口172から出ていく。簡単な金属電極2(標的電極、モードA用)が容器17の内部に流体と接するように設置されている。この電極の表面は処理しておくことができる。別の簡単な金属電極3(補助電極)が流体と第2の電気的接触をしている。モードB用に絶縁性センシング表面173をこれら電極間に設けることが可能である。電気化学的電極4(参照電極)が流体と接触しており、標的電極の平均電位をモニターできるようになっている。音波源5を用い、媒体5a(一般には音響カップリング流体である水)を通じて標的電極2またはセンシング表面173に既知の音波波形を当てる。媒体は、標的の位置において音波6の発信と到着の間に時間差を導入するのに役立つ。
【0056】
容器は、音波が伝わる方向に約3mmの幅があるパースペックス・サンプル・セルの形態をしている。対応するウインドウの厚さは1.5mmになっている。パースペックスがこのような厚さになっているため、音波波形の減衰/歪みが無視できる。セルは、一般に、幅が5〜10mm、(鉛直方向の)長さが30mmである。
【0057】
サンプル流体1は、一般に、0.1M〜1MのKNO3溶液であるが、他の塩(例えばNaCl、KI)にしたり、他の(より低い)濃度にしたりしても似たような結果が得られた。流体の温度は一般に18〜25℃である。サンプル・セルを取り囲む水浴の熱容量が大きいため、実験中は流体の温度が一定に留まる(サーモスタットを用いて温度を安定させることもできる)。
【0058】
この例の標的電極2は、金メッキした真鍮製ネジ(8BA)からなる。音波を当てる端部は、金メッキする前に平坦にして研磨した。8BAネジというのは直径が約2mmである。使用したネジは長さが約10mmである。この電極をパースペックス・プレートに設けたネジ穴にねじ込み、研磨してメッキした端部が、サンプル・セル(と面173)の背面を形成するパースペックスの表面すれすれの位置か、あるいはわずかに引っ込んだ位置に来るようにする。ネジがこのような長さになっているため、数マイクロ秒という時間窓に対し、ネジの遠いほうの端部からの内部反射がネジの表面に戻ってくる前にこのシステムが“理想的な”流体−金属界面として振る舞う。このようになっていると得られる信号の分析と解釈が簡単になるが、実際の最終製品において不可欠な性質というわけではない。補助電極3は、標的電極2と同様の金メッキされたネジであり、サンプル・セルの更に奥までねじ込まれている。そのため、流体内に約3mm突起している(そのことによって流体とはるかに広い面積で接触する)。この補助電極は、標的電極から一般に6〜8mm離れた位置にある。金属板でサンプル・セルの前面を覆うことにより、屈折するあらゆる音波から補助電極をシールドすることができる。しかし実際にはこの金属板が必要であることは見いだされていない。絶縁されたワイヤーによって電極2と3に対して電気的接続2aと3aがなされることで、それぞれ接点CとBが提供される。以下により詳しく説明するように、接点Cは、抵抗器および/またはチョーク・コイルを介して増幅器/電流−電圧変換器やDCバイアスに接続することができ、接点Bは、DCバイアス、グラウンドへの高周波数デカップリング、電極3への交流電圧/電流の印加を可能にする。
【0059】
参照電極4は飽和カロメル電極であり、一般に1MのKNO3を含む塩橋によってサンプル流体1に接続されている(多孔性焼結ガラスによるサンプル・セルの流体への接続)。このように二重接続の構成になっているため、サンプル中のある種のイオンが参照電極4を傷めることはない。電極4は、点Aを介して高インピーダンス(>0.5MΩ)の電圧増幅器に接続され、必要なときに最少電流が電極から流れるようにされている。
【0060】
音響トランスデューサ5はカスタム製品であり、真鍮製レンズ(水中での焦点距離80mm)と真鍮をベースとした吸収体の間に挟まれた厚さ10mm×直径38mmのPC5H PZTセラミック(モルガン・マトロック社)製の円板である。レンズは、音波を水中で標的電極に集束させる(周波数によって異なるが、径が約2〜3mmのスポットを形成する)。吸収体は、トランスデューサの背面から出現する音波を消すことによってこのシステムの望ましからぬ長い共鳴を阻止する。トランスデューサを急にステップ状の電圧で駆動するときの最も単純な音波波形は、極性が互いに逆で2.25マイクロ秒(PZT円板を音波が伝達する時間)離れた2つのパルスからなる。パルスの典型的な幅は約200ナノ秒である。しかしさまざまな波形を使用することができる。音波は一般に10〜100ミリ秒の間隔で発信され、標的電極の表面で100kPaに達するピーク圧力を発生させると推定され(しかし発生するのがこれよりも小さな圧力ピークであってもよい)、同時に測定可能な信号を生み出す。パルスが水中を通ってレンズの焦点まで到達するのにかかる時間は、約55マイクロ秒である。
【0061】
図6は、簡単化した電気回路のブロックダイヤグラムに、簡単化した図5の容器付き装置を合わせて示した図である。パルス発生器14が、コンピュータ13の制御により、中央制御インターフェイス・ユニット9を介して音波源5を電気で駆動する。パルス発生器は、切り換え可能で立ち上がり時間が25ナノ秒〜300ナノ秒のステップ状の350Vまでの任意の電圧を発生させる。付加回路15が挿入されていて、音波源5を駆動する電圧波形を変化させる。この付加回路は、サイン波形のリンギングまたはこれ以外の電波(従って音波)を誘起するため、(電気的に約1nFのコンデンサと等価な)トランスデューサと直列に接続することのできるさまざまな回路素子(例えば一連のインダクター)を備えることができる。例えば一実施態様では、付加回路はL−Cリンギング操作のためのインダクターを備えている。パルス発生器14からのパルスは、トランスデューサ駆動用の外部信号源をトリガーするのに用いることもできる。
【0062】
標的電極の表面またはそのごく近傍で発生する信号は、この回路により、(増幅器7を用いて)電圧波形として、あるいは(電流−電圧変換器8を用いて)電流波形として捕捉される。どちらの波形にするかの選択は、コンピュータの制御により、中央制御インターフェイス・ユニット9を介してなされる。この中央制御インターフェイス・ユニットは、信号が適切な(例えば低域通過)フィルタ12を介してコンピュータ制御の(ディジタル)オシロスコープ11に送られる前にその信号を次の増幅器10において増幅する量も決定する。なおフィルタ12は、この例では、50Ωでカップリングする6極ベッセル・フィルタ(12MHzまたは3MHz、切り換え可能)である。
【0063】
ディジタル化された波形がコンピュータ13に送られ、その波形がこのコンピュータに記憶されて処理される。このコンピュータは450MHzのペンティナムIII PC(インテル社)であり、128MのRAMと16Gバイトのハードディスクを備え、MATLABと、MATLABプログラムに組み込まれたC++で書かれたカスタム製作のソフトウエアが走っている。平均化を行なって信号対雑音比を向上させることが好ましい。平均化には、ランダム雑音と電圧レベル・サンプリング機能の相互作用(“ディザリング”)に基づいてオシロスコープの電圧レベルの解像度を効果的に改善する効果もある。処理された波形は、表示されるか、あるいは結果を解釈するためにコンピュータによって更に分析される。
【0064】
電圧増幅器7は利得が+10であり、入力インピーダンスは1MΩ||3pFである。しかし図6に示したようにオプションの10kΩの抵抗器(Rバイアス)を挿入することにより、ある種のテスト中にバイアス電流が流れるようにすることができる。Rバイアスは、中央制御インターフェイス・ユニット9でリモート・コントロールすることにより、接続したり接続を切り離したりできる。増幅器7は、帯域幅が25MHzの低雑音増幅器(6nV/√Hz)である。電流−電圧変換器8は利得が50V/Aでやはり低雑音(2.2pA/√Hz)になっており、増幅器7と同様の帯域幅を有する。後ろに続く増幅器10は、100〜1000の間で切り換え可能な利得を持ち、25NHzの帯域幅で低雑音になっている。
【0065】
中央制御インターフェイス・ユニット9は、プログラム可能な遅延手段18も備えている。この遅延手段18は、音波源5に印加される駆動波形に対してプログラム可能な一定の時間遅延を有するディジタル信号をパルス発生器14から発生させる。この遅延したディジタル信号を用いてオシロスコープ11をトリガーし、音波パルスが標的電極2に到着する予想時刻の少し前にデータ収集を開始させ、コンピュータが厳密なタイミング機能を持たなくてもよいようにしている。この遅延したディジタル信号は、点“B”を通じて音波刺激が到着したとき、信号発生器(図示せず)をトリガーして電気的波形を電極に印加するのに用いることもできる。後者の機能を利用すると、単一の音波バーストの時間スケールで電位が急に変化したときの電極表面の応答を調べることができる(例えばすでに述べたように、吸着されたタンパク質層内をイオンを移動させる)。
【0066】
中央制御インターフェイス・ユニット9は、カスタム設計された製品であり、PIC17C43マイクロコントローラをベースとしている。このユニットは、コンピュータからのさまざまな命令をシリアル・リンク(RS232)を通じて受け取り、装置の他の部分を制御する。
【0067】
オシロスコープ11は、100Mサンプル/秒の速度でサンプリングを行なっており、中央制御インターフェイス・ユニット9によってトリガーされて、音波パルスが標的電極に到達したと考えられるときにデータ収集を行なう。このオシロスコープで選択可能な電圧幅は、8ビットの解像度で、フルレンジが50mVまでである。
【0068】
別の回路16がやはりコンピュータ13によって中央制御インターフェイス・ユニット9を介して制御されている。この回路16により、DCバイアスを電極対に印加することができる。回路16は、電極に当てるラジオ周波数の信号を点“B”への外部接続端子(図示せず)を介して制御できるように構成することも可能である。すると高周波数の励起(例えば周波数混合)による効果が調べられる。プログラム可能なバイアス源は、切り換え可能なDC電圧源(現在取り付けられているのは8ビットDAC、−1.25〜+1.25V)であり、補助電極3にオプションのデカップリング・コンデンサが設けられているため、必要に応じてアースに対して低インピーダンスのA.C.接続をすることが保証される。
【0069】
参照電極4は、回路の共通アース電位に対するサンプル流体1の電位をモニターする。この読み取り値から、(平衡時の、あるいは回路16によって印加されたバイアスの影響下での)標的電極の電位をモニターすることができる。参照電極4との接続を遮断することにより、オシロスコープの同じチャネルを用い、標的電極2を流れる平均電流を、10kΩのバイアス抵抗を介してモニターすることができる。この値は、(特にバイアス電圧の影響下での)標的電極の電気化学的活性の指標となる。
【0070】
中央制御インターフェイス・ユニット9は、コンピュータによって制御される別の出力を有する。この出力により、磁場を標的電極2に印加する磁気コイル(図示せず)などの(すでに指摘した)更に別の刺激を制御することができる。
【0071】
コンピュータはプログラム可能であるため、実験を制御するための柔軟な手段となる。
【0072】
上記の装置は典型的な実施態様であり、図11〜図16に示した結果を得るために製造して使用した。
【0073】
本発明による装置の別の例を図7に示す。これは、音波源アレイA1を備えた装置である。この音波源アレイを駆動すると、音波は材料ブロックA2を伝わる間に重ね合わさるため、標的となる処理済みのセンシング表面アレイA3の表面に到着したとき、集束したスポットになる。信号の検出と処理は、図6に詳しく示したのと同様の電気装置を用いて実現することができよう。ただし、アレイA3を含む電極に対して別々にアドレスできるようにするという変更が必要である。
【0074】
本発明による装置の更に別の例を図8aと図8bにそれぞれ側面断面図および上面断面図として示す。これは、音波源B1と、音波遅延線として機能する固体ブロックB2と、廃棄可能なプラスチック・セルB3とを備えた装置である。プラスチック・セルB3は、向かい合った壁面B5に配置した薄い金属電極を有する複数のセルからなるアレイB4の一部を含むことができる。また、図6に詳しく示したのと同様の電気装置を用いて電極に発生する信号を検出することもできる。(滑らかにした)音響カップリング層B6のおかげで、音波源と遅延線によってセル・アレイのセルを順番に走査することが可能になる。
【0075】
本発明による装置の更に別の例を図9に示す。これはゲル・カラムC1からなる装置であり、電気泳動などの手段によってC2の位置に導入または挿入された種を分離するのに用いる。標的電極2と補助電極3がカラムを挟んで音波源C4とは反対側に位置しており、この音波源が一方の電極を刺激して上記の信号を発生させる。信号の強度が、所定の時刻に電極の近傍に存在する種の濃度を示す。図6に詳しく示したのと同様の電気装置を用いて電極に発生する信号を検出することができよう。
【0076】
図10は、図5に示したのと同様の装置であるが、付随回路が付加されている。周波数f1の交流電気信号を電源D1から標的電極2と補助電極3に対して印加すると同時に、標的電極を、周波数f2で駆動される音波源D2で(できれば連続的に)刺激する。標的電極2に接続されている電流−電圧変換器D6は、周波数がf1、f2、(f1+f2)、(f1−f2)などの電気信号を発生させる。(f1とf2を遮断する)フィルタD3は、電極の表面に発生する混合効果に起因する成分以外は捨てて、D4に存在する電気信号の成分を分離する機能を有する。検出回路D5は、電極表面で起こる相互作用を定量化する手段として、これらの残った成分の振幅と位相を測定する。
【0077】
実験
図5と図6に示した装置を用いて図11〜図16に示した結果を得た。
【0078】
電圧波形と電流波形を電極位置で観測したところ、印加した音波波形と強い相関があった。
【0079】
音波パルスの発信と電極での電気パルスの発生の間の時間差は、電極が通常位置する地点に設置された音響プローブで測定された発信と受信の時間差に等しい。したがって、バルクの液体中ではなく電極表面の近傍で現象が起こっていることは明らかである。最近の実験では、深さが3mmのサンプル・セル内で空間解像度が約200μmになった。
【0080】
集束した音波スポットを標的電極に当てるとき、観測される電圧信号は以下の2つの成分を含んでいることが一般的である。
(i)溶液に対する標的電極の平均電位に強く依存した成分。モードAで検出されることが好ましい信号発生メカニズムにおいて予想される。
(ii)標的電極の平均電位とは独立で、流体サンプルの導電率に強く依存する成分。モードBで検出されることが好ましい信号発生メカニズムにおいて予想される。
【0081】
見やすくするため、これら2つの成分は、バイアスをかけ、コンピュータ処理することで分離した。これら2つの成分を図11の上半分に示してある。
【0082】
信号成分の大きさは、説明した発生メカニズムの簡単なモデルと完全に一致している。
【0083】
成分(i)の振幅が標的電極の平均電位にどのように依存するかは重要である。というのも、この依存性が、観測された信号がバルク流体内に発生するイオン振動電位によるものではないことを示しているからである。
【0084】
バイアスを印加して除去した後の信号振幅の変化が流体サンプルを実験中に変更した場合でも持続していると、モードAの裏にある物理現象が(印加したバイアスによって変化する)電極表面の条件に対して敏感であることがわかる。バイアスを印加している間に電極の電気インピーダンスに実質的な変化が観測され(ず、オプションの電圧プローブを用いたときにもシステムからは無視できる電流しか発生し)なかったため、成分(i)の変化は発生した現象が変化したことの直接的な結果であると結論づけられるはずである(そうでないとすれば、信号が電極から離れた位置で発生し、信号の振幅において観測された変化は単に電気的感度が低下したことの結果であることが示唆されることになろう)。
【0085】
上記の持続は、信号の変化が、流体内で電極表面の前に電流密度が存在していることとは関係ないことも示している。
【0086】
図12に示したように、観測された信号成分(i)の極性は、印加された音波波形の極性と比較した場合、印加されたバイアスに応答して反転することが見られた。この現象は、電極表面で二重層内に信号が発生しない限りは起こるはずがなく、イオン振動電位の結果としてバルクの流体内に信号が発生する場合には確かに起こるはずがない(これは、信号の発生に関係する層を横断したときの正味の電位差が符号を変えたことを示している)。
【0087】
一連の電極を異なったさまざまな溶液で洗浄すると、信号が変化し、しかも印加するバイアスに応じ、信号が変化する程度が変化した。このことから、本発明を利用して電極の状態をモニターできることがわかる。例えば図13は、真鍮表面がNaOHによって腐食した結果を示している。
【0088】
図15と図16は、本発明をモードBで利用すると生物種を検出できることを示している。音響レンズを用いて標的電極に音波スポットを集束させる。信号は、電極を覆う二重層の圧縮度に対応して検出されることになる。しかしそれに加え、そのスポットが標的電極のごく近傍を取り囲むパースペックスと重なる場合には、流体の運動によってやはり信号が発生することになる(空間的に減衰する音波スポットは、流体が径方向に運動する領域をパースペックスの表面に発生させて径方向の電流を誘起し、したがって標的電極における流体の電位を変化させる)。
【0089】
周波数1(1.11MHz)では、音波スポットの減衰端がパースペックスと2〜3mmほど重なる。その結果、パースペックスの上方で径方向の流体運動が誘起される。周波数2(1.998MHz)では、スポットがほぼ完全に金属電極に集束され、二重層の圧縮によって発生する信号だけが残る。
【0090】
(リン酸緩衝液、pH7.4の中に)約50mg/lの濃度にしたヒトIgGを、NaOH/イソプロパノールで完全にきれいにしたパースペックスの上に流した。IgGを含む溶液を導入したことは、処理した表面にこのタンパク質が吸着したことに対応する周波数1での指数曲線によってはっきりとわかる。流体によって運ばれるIgGを除去した後にも信号の変化が持続していることから、観測された変化がセンシング表面の変化に付随していることが確認される。吸着されたIgGを(水酸化ナトリウムとイソプロパノールを用いて)その後除去すると、感受性表面が再生され、信号が元のレベルに戻る。対照溶液(きれいなリン酸緩衝液)を用いて別の実験を行なうと、観測された変化がIgGの存在にのみよるものであることが確認される。
【0091】
周波数1での信号がIgGの存在によるものであることは明らかだが、周波数2では、応答がほとんど見られない。これは、システムの感度がモードBによって検出されることが好ましいメカニズムによって決まり、このモードBは周波数1においてのみ優勢であることを示唆している(同じ実験を含め、2つの周波数での測定を交互に行なった)。
【0092】
ここで、本発明による別のシステムの説明に移ることにする。図17aと図17bは、貯水タンク(図示せず)に入れたサンプル・セル200の正面断面図と側面断面図である。セルは、パースペックス製ブロック202の中に形成された円筒形キャビティ201を備えている。このブロックは、薄いパースペックス製の前面窓203と、背面のヴィトン・O−リング204を備えており、標的表面205がリング形の背面プレート210によってこのO−リングに対して押し付けられてキャビティを密封する。ステンレス鋼製の2つのピックアップ電極206がキャビティのそれぞれの側に取り付けられている。これら電極は、できるだけ短いリード線によって図6に示したのと同様の電気回路に接続される。
【0093】
流体は、タイゴン・チューブ207を通じて流体の入口208と出口209からキャビティ201に供給される。その結果、集束した超音波を、標的表面に垂直な方向から一般に15°傾いた角度で前面窓を通じて標的表面に向ける超音波トランスデューサ(図示せず)を用い、セルの方向を乱すことなくセルの中身を変化させることができる。超音波は前面窓から標的表面までの距離を約4マイクロ秒で横断し、標的表面上に径が約4mmの音波スポットを生み出す。
【0094】
音波ビームのごく近傍にある貯水タンク内の水の温度は、電子温度計でモニターする。水の温度を知ることが重要である可能性がある。というのも、温度のわずかなドリフトが、測定される電気信号の位相を送信された超音波と比べて顕著にシフトさせる可能性があり(水中における音波の速度は温度によって異なるため、水の温度が変化すると音波がトランスデューサから標的表面まで伝わるのに要する時間も変化する)、(以下に説明するように)信号の位相の回復がモードBの大きな信号を獲得する上で重要である可能性があるからである。
【0095】
図18aと図18bに示したように、ピックアップ電極206は、音波スポット211のサイズよりも大きな距離離して配置されている。しかし標的表面は、使用する前に変更する。その変更は、その表面に金を薄いパターン212に蒸着し、そのパターンを蒸着直後にチオール化することによって行なう。音波スポットは、標的のセンシング表面を効果的に規定している。
【0096】
金のそれぞれのパターンは、1つの電極と関係している。金は、図18bに示したように、振動電流が流体を通過するはるかに大きなループを流れるようにする。したがってピックアップははるかに改善され、電極は、メッキされた領域相互間の電圧の40%を検出する。実際、金のパターンは、ピックアップ電極と標的電極を隔てている流体の(比較的小さな)ギャップを通じてピックアップ電極に間接的にカップリングしているため、金のそれぞれのパターンを対応するピックアップ電極の延長と見なすことができる。しかし音波スポットが金のパターンと重なっているため、金のそれぞれのパターンは、センシング表面の一部を形成していると見なすこともできる。
【0097】
間接的カップリングというこの方法の1つの利点は、金の表面で発生する変位電流信号が、鋼鉄製電極が音波スポットにより近い位置に配置されている場合にその鋼鉄製電極の表面において発生する変位電流信号よりもはるかにうまく制御されることである。金をチオール単分子膜で覆うと、チオール分子の端部にある解離可能な基により、キャビティ201内の(適切にpHが緩衝された)流体との間で、性質がよくわかった安定な電気化学的平衡状態が維持される。保護膜で覆っていない電極に音波を当てると、測定された電気信号にドリフトが混入する危険性がある。また、異なる形にパターニングした標的表面もセルに容易に組み込むことができる。例えば、モードAの信号を測定するには、(以下に説明するように)メッキした領域が音波スポットを完全に覆っているようにすることが好ましい。
【0098】
図17と図18のシステムを用いて行なった実験について以下に説明する。
【0099】
標的のメッキ
メッキする前に、まず最初にドデシル硫酸ナトリウム溶液とUHP水を交互に用い、次いでイソプロパノールを、その次にアルコールを用いて繰り返し超音波処理することにより、標的の表面を完全にきれいにした。蒸着装置の中で標的を5分間にわたって酸素プラズマに曝露して更にきれいにした後、(付着用に)クロムを0.5nmの厚さに堆積させ、次いで高純度の金を50nm堆積させた。標的を蒸着装置から取り出し、エタノールにメルカプト−ウンデカノールまたはメルカプト−ウンデカン酸を約200mg/lの割合で溶かした溶液の中に入れ、使用するまで暗所に保管した(標的を実験に使用した後でさえ、堆積させた金属膜がはがれたり泡を出したりした箇所はどこにも観察されなかった)。
【0100】
溶液
特に断わらない限り、すべての溶液は、(UHP水の中に調製した)0.01M、pH7.6のリン酸緩衝液をベースとしたものであった。
【0101】
きれいな緩衝液(最低で10cm3)を用いてセルの適切な領域を洗浄した。タンパク質を除去してセルをきれいにするため、3段階のステップを利用した。まず最初に、セルを0.5MのNaOH、イソプロパノール、2%ヘルマネックス(容積比が2:1:1)からなる溶離緩衝液で5分間にわたって洗浄した。UHP水で完全に洗浄した後、セルにプロテアーゼ(シグマP5147)の200mg/l溶液を5分間かけて満たし、変性したタンパク質残基を消化させた。セルを更にUHP水で洗浄し、溶離緩衝液で更に5分間にわたってフラッシュし、UHP水とリン酸緩衝液で完全に洗浄した。
【0102】
ヒト免疫グロブリン(IgG、シグマ14506)とウシ血清アルブミン(BSA、シグマB4287)を用いてタンパク質溶液を作った。タンパク質溶液をサンプル・セルに充填する前にセルから流体を排出させ、入ってくる溶液が、残っている何らかの流体で希釈されることのないようにした。
【0103】
脱ガス
泡がタンク内に形成されて集束した音波が散乱されることのないよう、まず最初に大気圧で加熱し、次いでわずかに減圧した密閉容器内で一晩冷却した水を用いてすべての実験を行なった。
【0104】
モードAの信号のキャラクテリゼーション
パターニングされた標的を用いてタンパク質の吸着を検出する前に、メッキされた領域の上方に発生するモードAの信号が予想通り一定のままであることを確認する必要があった。
【0105】
システムは主としてモードBの信号を検出するように設計されているとはいえ、図19aと図19bに示したようにモードAの信号を分離して検出するのに使用することもできる。モードAの信号は、音波が完全にメッキされた領域(すなわちチオール化された金の層が音波スポットを完全に覆っている領域)に対して垂直な入射角でサンプル・セルの対称軸の一方の側にぶつかることによって発生する。動電源は、導体の像と組み合わさり、拡張された双極子として振る舞う。流体内の振動電位は双極子の軸から径方向に向かって遠ざかるにつれて小さくなるため、より近くの電極がより強い信号を拾うことになる。したがって差し引きの信号はゼロではない(メッキ領域はヴィトン・O−リングの内側にぴったり合った円板部分に限られているため、サンプル・セルの外側にある水からは電気的に絶縁されている)。
【0106】
このようにして検出された信号が実際に表面で発生したものであることを明らかにするため、標的をタンパク質に曝露する前に1つの実験を行なった。図20には、メッキした16個のガラス標的を0.01Mのリン酸緩衝液(pH7.6)に浸し、約30kPaの振幅を有する音波バーストに曝露して得られた動電学的軌跡を8つ重ねたものを2組示してある。スポットの焦点は、サンプル・セルの中心から3mmずれていた。比較のため、(ダミーの標的に取り付けてサンプル・セルの中に設置した薄膜水中聴音器によって検出した)音波波形も示してある。8つの標的はメルカプト−ウンデカノールを用いてチオール化し、残りの8つはメルカプト−ウンデカン酸を用いてチオール化した。測定は、2つのタイプのチオールに対して交互に行なった。それぞれの軌跡を分離してはっきりわかるようにするため、±3μVだけずらした。酸形態のチオールを用いて処理した標的は、はるかに強い信号を出す。というのも、解離した−COOH基がpH7.6で実質的に負電荷を与えるからである(溶液とチオール表面の電圧差は、酸に関してのほうが電荷密度が大きいためにはるかに大きい。そのためモードAの信号が比例して大きくなる)。これとは逆に、アルコールを末端に有するチオールでコーティングした表面は正味の電荷をほとんど持たないため、信号が弱くなる。動電信号がチオールのタイプにどのように依存するかから、標的表面からその信号の一部が発生するのか全部が発生するのかが、あいまいさなくわかる。この依存性から、スリップ平面内の表面電荷密度をモニターするのにモードAの信号をどのように用いたらよいかもわかる。
【0107】
モードBの信号のキャラクテリゼーション
図21には、(図18aに示したような)パターニングされた標的を0.01Mのリン酸緩衝液(pH7.6)に浸し、音波が法線に対して15°の角度で表面にぶつかるように配置することによって検出した動電学的軌跡を示してある。検出された圧力波形も示してある。主要な信号の4マイクロ秒前にほんのわずかに見られる弱い信号は、パースペックス窓の内側に発生したモードBの信号である。これは、標的の代わりに空にしたセルを用いて検出した信号(図21の下方の軌跡)を記録し、この信号をあとで引き算することによって打ち消すことができる。しかし61〜69マイクロ秒の時間スロットにわたって平均するのであれば、窓信号には最大でわずかに3%ほどの誤差しか含まれない。
【0108】
検出された信号は、望むモードBの成分が優勢であるが、メッキ領域の上方で発生するモードAの信号からの寄与もかなり含んでいる。検出されたこの信号には、流体内に発生する小さなイオン振動電位も存在するであろう。(溶液のpHが緩衝液によって維持されるのであれば)モードAの成分とイオン振動電位の成分が一定に留まるとはいえ、これらの成分は測定された信号に対してマイナスの効果を持っているため、タンパク質吸着の動力学を研究する前に除去する必要がある。これは、実験後に生のデータを処理し、信号変化がタンパク質吸着の間に最大になる位相角を選択することによって最も容易に実現される。そのため、信号の位相は他のどのようなドリフトとも無関係でなくてはならず、したがって水浴の温度の読み取り値から熱による位相シフトを評価できることが望ましい。
【0109】
吸着等温式
タンパク質吸着の動力学を調べるためのシステムが有効であることを示すため、メッキした(図18aに示したタイプの)さまざまな標的を、さまざまなタンパク質をさまざまな濃度で含む溶液に曝露した(標的は、使用前はメルカプト−ウンデカノール溶液の中に保管した)。
【0110】
IgGとBSAに対する典型的な吸着等温式をそれぞれ図22と図23に示してある。モードBの信号の振幅は、すでに説明したように、位相検波を利用して復元される。
【0111】
それぞれの場合において、表面がタンパク質で覆われていくにつれて信号が小さくなる。これは、タンパク質が、pH7.6において元の表面よりも少ない電荷を持っていることを示している。これは、個々のpI値(ガラス、IgG、BSAに対してそれぞれ3.5、7.5、4.7。図23のスケールに注意すること)と合致している。信号の減少は、対イオンの密度が低下したためだけでなく、その移動度が低下したためでもある可能性がある。タンパク質で覆われた表面は、元のガラス表面やプラスチック表面よりも水和したイオンを絡み合った状態にする傾向がおそらく大きいであろうゆえ、動き回るイオンの割合が減る。吸着されたタンパク質が流体とともに限られた音波運動をすることも可能であり、その場合には正味の電流が更に少なくなる。図22において50mg/lのIgGに関して見られる飽和は、タンパク質で完全に覆われた表面に対応すると考えられる。
【0112】
このシステムは、タンパク質間の相互作用を研究するのに用いることもできる。図24は、結晶ポリスチレン標的に吸着させた後、リン酸緩衝液中のプロテアーゼ(シグマPS147)溶液で消化させたBSAに対する吸着等温式を示している(モードBの信号の振幅は、位相検波を利用して復元される)。初期の消化速度はプロテアーゼの濃度とともに増加するが、15分ほど経過した後には勾配が非常に似通った値になることが観測されるのは興味深い。
【0113】
本発明を上記の具体的な実施態様について説明してきたが、この明細書が与えられた当業者には、多くの同等な変更例や変形例が明らかであろう。したがって、本発明による上記の具体的な実施態様は例示と見なされるものであり、本発明がこれら実施態様に限定されることはない。本発明の精神ならびに範囲を超えることなく、上記の実施態様に対するさまざまな変更をなすことができる。
【0114】
グラウザー A.R.他、Sensors and Actuators B 4039巻、1〜15ページ、2001年および上記した全ての刊行物を、参照することによりここに取り込む。
【図面の簡単な説明】
【図1】
図1は、音波を用いた励起によって流体の振動性横方向変位がいかにして発生するかを示す概略図である。
【図2】
図2は、流体に浸した表面に存在するイオン二重層の概略図である。
【図3】
図3は、モードBのメカニズムに関する等価回路の概略図である。
【図4】
図4は、モードAのメカニズムに関する等価回路の概略図である。
【図5】
図5は、容器装置とそれに付属する部品を簡単化して示した図である。
【図6】
図6は、簡単化した電気回路のブロックダイヤグラムに、簡単化した図5の容器付き装置を合わせて示した図である。
【図7】
図7は、第2の装置の断面図である。
【図8】
図8aと図8bは、それぞれ、第3の装置の側面断面図と平面断面図である。
【図9】
図9は、第4の装置の断面図である。
【図10】
図10は、第5の装置の概略図である。
【図11】
図11は、図5および図6の装置を用いて得られた典型的な波形をプロットしたグラフであり、電極にバイアスを与えるDCを用いて検出された波形を含む成分を分けて示してある。
【図12】
図12は、図5および図6の装置を用いて得られた典型的な波形をプロットした別のグラフである。
【図13】
図13は、図5および図6の装置によってモードAで検出された電圧をプロットしたグラフであり、金メッキした多孔性真鍮電極を腐食させる効果を示している。
【図14】
図14は、図5および図6の装置を用いて得られた典型的な波形をプロットしたグラフであり、IgGが電極間に位置するパースペックス検出面に結合した効果を示している。
【図15】
図15は、図5および図6の装置によってモードBで検出された電圧をプロットしたグラフであり、ヒトIgGがパースペックスに吸着された効果を示している。
【図16】
図16は、図15に示した結果を生み出した実験からの波形をプロットしたグラフである。
【図17】
図17aと図17bは、本発明による別の装置のサンプル・セルに関する正面概略断面図と側面概略断面図である。
【図18】
図18aと図18bは、図17aと図17bに示したサンプル・セルの標的表面とピックアップ電極の概略図である。
【図19】
図19aと図19bは、図17aと図17bに示したサンプル・セルをどのように変更してモデルAの信号を分離するかの概略図である。図19aはセルの断面図であり、図19bは、対応する大まかな電気的等価物を示している。
【図20】
図20は、メッキした16個のガラス標的を用いて得られた動電学的軌跡を8つ重ねたもの2組と、対応する音波の波形を示している。
【図21】
図21は、パターニングされた標的を用いて検出された動電学的軌跡と、対応する音波の波形と、標的が存在していないときに得られた動電学的軌跡を示している。
【図22】
図22は、ガラス標的上のIgGに対する吸着等温式を示している。
【図23】
図23は、結晶ポリスチレン標的上のBSAに対する吸着等温式を示している。
【図24】
図24は、結晶ポリスチレン標的に吸着させた後、リン酸緩衝液中のプロテアーゼ(シグマPS147)溶液で消化させたBSAに対する吸着等温式を示している。
発明が属する技術分野
本発明は、センサー、更に詳細には、液体または表面コーティングとして調製することのできるサンプル材料の化学的特性と生物学的特性を検出するためのセンサーに関する。
【0002】
背景となる技術
公知のセンサーは、流体サンプルと検出状態になった表面の間の相互作用を調べることによって作動する。典型的な方法として、以下のものが挙げられる。
・表面に付着する層の重量変化を検出する(例えば表面音波装置)。
・表面に付着する層の光学的特性の変化を検出する(例えば表面プラズモン共鳴装置)。
・化学的に活性な表面に付着する層の酸性度の変化を検出し、表面の電位をサンプルに対して変化させる(例えばグルコースオキシダーゼで修飾したEISFET pHプローブ)。
・サンプル内を横断する制御された流体流から発生する定常“流動”電流を検出する。この電流の大きさが、サンプル表面の化学的特性に依存している。
【0003】
一般に、センシング表面は、検出する種と特異的に相互作用する化学物質または生物物質でコーティングすることによって選択性を付与される(しかしセンシング表面を未知のサンプルでコーティングし、既知の液体との相互作用から必要な情報が得られるようにもできることに注意する必要がある)。あるいは、適切な表面が固有の化学的性質を備えていれば、望む化学的感度を得るのに十分であろう(pH EISFET)(例えばPowner, E.T.およびYalcinkaya,F.、Sensor Review、第17巻、第2号、107〜116ページ、1997年、「チュートリアル − インテリジェントなバイオセンサー」を参照のこと)。これらの方法では、検出を行なうのに特別な成分を利用せねばならないことがしばしばある。その成分は汚染を理由に使用後に廃棄する必要があるため、この成分の単位コストがしばしば大きな金額になる。
【0004】
液体サンプルの化学的特性と物理的特性を調べるのに従来技術による他の方法も提案されている。例えば、バルク状のそのようなサンプルに超音波を当てたときにそのサンプルを横断して発生する電気信号を検出するという方法である。これらの方法の基礎は、アメリカ合衆国特許第4,497,208号の「溶液の動電学的特性の測定」にまとめられている。これらの方法は、バルク液体内に発生する電気信号に依存していることに注意する必要がある。
【0005】
細い繊維群に囲まれた電極を液体に浸してその電極に超音波を当てたとき、電気信号が検出できることも観測されている(Yeager, E,およびHovorka, F.、The Journal of the Acoustical Society of America、第25巻、第3号、443〜469ページ、1953年5月、「超音波と電気化学」を参照のこと)。これは、アメリカ合衆国特許第4,497,208号に記載されているコロイド振動電位法を発展させた方法である。イェーガーは、溶液に浸した電流運搬電極の電位が変動することも観測した。その原因は、泡を含む層の電気抵抗が電極の前で変動することに帰された。この結論の基礎となる現象は、電極表面に泡や電気分解電流がなくても発生する。
【0006】
発明の開示
本発明によれば、流体または流体と接触している表面の化学的特性および/または生物学的特性を検出する方法であって、
検出器を備えた容器内に液体を配置し、この検出器は、この検出器の表面のごく近傍にある液体内に発生する電気信号または磁気信号を測定するためのものであり;
音源を用いて音波を発生させてその音波を検出器の表面に向け;
その音波が検出器表面のごく近傍にある流体にぶつかったとき、検出器表面のごく近傍にあるその流体内に発生する電気信号または磁気信号を上記検出器で測定する操作を含む方法が提供される。
【0007】
2つあるモードの一方(モードA)では、音波を所定のセンシング表面に向けるとき、その音波の圧力振幅と位相の両方がそのセンシング表面全体で一様となるようする。そのため、センシング表面に平行な大きな振動性流体運動は起こらない。受信器は、一般に、それぞれのセンシング表面に付随した電極からなり、音波がその1つ以上のセンシング表面にぶつかったとき、
1つのセンシング表面と別のセンシング表面の電位差、または
そのような2つの電極間を流れる電流のいずれかを検出する。
【0008】
他方のモード(モードB)では、音波を所定のセンシング表面に向けるとき、そのセンシング表面上で音波の位相および/または振幅が不均一に分布しているようにし、そのことによってそのセンシング表面に平行な振動性流体運動を誘起する。
【0009】
受信器は、一般に、
それぞれのセンシング表面に付随した一対の電極、または
センシング表面の近傍に位置する磁気ピックアップ(例えばコイル)で構成し、
音波がその1つ以上のセンシング表面にぶつかったとき、一対の電極の場合には、電極間の電位差または電極間を流れる電流を検出し、磁気ピックアップの場合には、電流が局所的に流れることによって発生する磁場を検出する。
【0010】
本発明には、流体または流体と接触している表面の化学的特性および/または生物学的特性を検出するためのセンシング装置であって、
流体を収容する容器と;
この容器内のセンシング表面と;
容器内でこのセンシング表面のごく近傍で発生する電気信号または磁気信号を測定する検出器と;
音波を発生させてその音波を上記センシング表面に向ける音源と;
上記検出器に接続されていて、音波が上記センシング表面のごく近傍にある流体にぶつかったとき、このセンシング表面のごく近傍にある流体内に発生する電気信号または磁気信号を測定する構成になった電気回路とを備える装置も含まれる。
【0011】
本発明の最も基本的な形態では、容器が、介在表面(例えば絶縁体)のそれぞれの側に位置する2つの電極だけを備えるようにすることができる。好ましいモードAでは、各電極がセンシング表面を1つずつ備えており、音波がその一方だけに均一にぶつかる。モードBでは、一対の電極が受信器を備えており、介在表面がセンシング表面として機能し、音波はこの介在表面に不均一にぶつかる。
【0012】
わかりやすくするため、以下の説明では一般にこの実施態様を仮定する。しかし以下の説明から明らかなように、多くの変形例を用いることが可能である。例えばモードAでは、互いに離した2枚の同等な電極に同じ音波を当て、それぞれの表面での圧力波形に時間差または位相差が生まれるようにすることができる。別の方法として、異なる処理をした2枚の電極に同じ圧力波形を当て、観測される信号が、それぞれの電極表面に発生する個々の信号間の違いを表わすようにすることもできる。モードBに関しては、受信器を構成する一対の電極の代わりに単一の磁気コイルにすることができる。これらのどの実施態様でも、基本となる方法は同じである。そこで今後は、“電極”という用語は、流体と接触する導電性表面、または絶縁層でコーティングされている導体を指し、したがって絶縁層(センシング表面)の表面に発生する信号は導体と容量性結合をしているものと理解する。
【0013】
本発明の装置と方法では、表面に付随する荷電または分極した種に対して音波が及ぼす作用によってセンシング表面のごく近傍で発生する電流または電位を検出する。表面は音響媒体内の不連続部になっているため、性質がよくわかった条件を与えるのに役立つ。信号は、この条件下で発生することになる。本発明の方法は、自由に伝わる音波とともに電場が流体内を伝播するイオン振動電位などの従来法と混同してはならない。
【0014】
モードAでは、センシング表面のごく近傍に位置する荷電流体層の密度が振動性の変動をすることで電気信号が発生する現象を検出することが好ましい。この方法は、コロイド振動電位や同様のメカニズムとは無関係である。というのも、この方法は、圧力勾配によって誘起される荷電粒子の相対運動には依存していないからである。
【0015】
モードBでは、表面に接する流体が運ぶ荷電粒子の振動運動によって誘起される電流を検出することが好ましい。これら粒子は、通常は、その下にある表面に付随しており、その数と種類は表面の性質に応じて変化する。これは、流体が処理済み表面を横断して安定に流れる結果として観測される流動電流を利用することと基本的に関係があると言えよう(例えば、Norde, W.およびRouwendal, E.、The Journal of Colloid and Interface Science、第139巻、第1号、169〜176ページ、1990年10月、「タンパク質吸着の動力学を研究するツールとしての流動電位測定」を参照のこと)。しかし音波を用いて性質がよくわかっていて局在した振動性流体運動を平坦な表面に誘起する方法は明らかではない。本発明の方法は、既存の方法と比べて多くの利点がある。
・定常流動電流の検出は、通常は、(センシング表面を有する)チャネルにおける定常電位の低下を検出することによって行なわれる。そのためには化合物からなる電気分解用電極(例えば銀/塩化銀電極)が必要とされる。この明細書に記載したモードBでは、このような電極の代わりに、性能損失のないはるかに簡単な導電性コンタクト(例えば蒸着した金)を用いることができる。
・定常流動電流の検出を行なうには、通常は、センシング表面の上を性質のよくわかった流体が流れるようにするために複雑な流体流制御システムが必要とされる。しかしここでは、音波が性質のよくわかった運動を誘起するのでこのシステムは不要である。
・効果が局所的であるため、多数のセンシング表面を1つの流体サンプル中に設置し、モードBを利用してそれぞれのセンシング表面を別々にモニターすることができる。
・信号が高周波数であるために感度が非常に大きい。そのため低周波数のドリフトが除去され、電気分解用電極と電子回路に一般に付随するノイズが除かれる。
【0016】
表面および/またはサンプルの化学的特性または生物学的特性は、こうしたメカニズムによって発生する電気信号の性質から直接知ることができる。あるいは、付加的な刺激(例えば付加的な化学物質または生物物質、印加した電位、磁場、光など)の作用によって発生する電気信号の変化から知ることができる。
【0017】
トランスデューサは一般にパルスにし、検出回路を、トランスデューサが稼働していないときに受信器に発生する電気信号に応答するようにセットする。すると、音波パルスの発信と到着の時間差に基づき、トランスデューサ駆動回路から発生する漂遊電気信号から信号を分離して検出することができる。パルスは、観測される信号の時間領域解釈ができるよう狭くし、空間的に離れたメカニズムからの寄与または供給源からの寄与を分離する。あるいはパルスをサイン曲線型のバーストにして信号対雑音比を改善する。
【0018】
本発明の方法と装置では、望む情報を生み出す信号は、音波がセンシング表面にぶつかったときにその音波がセンシング表面そのものに付随する荷電層に及ぼす作用によって発生する。したがって、センシング表面から離れた位置で発生するこの方法では無意味な他の信号は、時間領域の識別に使用するために別に評価するか、あるいはその信号の寄与が無意味であることを、サンプルのパルス信号の時間領域解釈を利用して確認する。後者の場合、観測される電圧または電流の大部分がセンシング表面で発生するという知識をもとに、(例えば)より長いサイン曲線型の波形を利用して信号を大きくすることができる。波形と電極の幾何学的配置を適切に選択することにより、バルク流体内、または予定したセンシング表面に近接した表面に発生する望ましからぬ信号の寄与を最小にすることが可能なはずである。
【0019】
上記の簡単な実施態様に適用したモードAとモードBを用いると、電気信号を、1つの電極(モードAではこの電極に音波がぶつかる。したがって“標的電極”と呼ばれる)が高インピーダンスの増幅器に接続されている場合には変化する電位の形態で検出することができ、この電極が電流−電圧変換器によって実質的にアース電位に維持されている場合には電流として検出することができる。他方の電極(補助電極と呼ばれる)は、流体に対する第2の電気的接続を提供し、回路を閉じさせる。
【0020】
センシング表面に対しては、流体が運ぶ検出すべき種と特異的に相互作用する化学物質または生物物質(例えば抗体)を付着させるという特別な処理を行なう。こうすることでセンシング表面を流体サンプルの分析手段にすることができる。別の方法として、流体を既知の因子にして、センシング表面が(調べるべき物質層を付着させた後、あるいはそのままの形態で)調べるべき未知因子となるようにすることもできる(後者は、例えば金属表面における腐食の進行を研究するのに有効である可能性がある)。
【0021】
流体に対する標的電極の平均電位の測定を可能にするため、第3の電気化学的電極(例えば飽和カロメル電極)を(例えば)塩橋によってサンプル流体と電気化学的に接触するように配置することができる。
【0022】
基本的な装置に対する多数の効果的な変形例が存在しているが、その基礎になっている方法は同じである。変形例としては、例えば以下のようなものが挙げられる。
・センシング表面を(受信器が付随したアドレス可能な)複数のセンシング表面からなるアレイで置き換えることができる。この場合、各部位が異なる化学物質または生物物質に対する感受性を有するようにする。そのため、1つのサンプルまたは流体で同時に多数のテストを行なう手段が提供される。
・センシング表面を、サンプル流体を入れる廃棄可能なキュベットと一体化することができる。あるいは、センシング表面を取り換えなくともセンシング表面の上をさまざまな流体が通過するように設計した流体通過セルに、独立したセンシング表面を挿入することもできる。
・すべての電極への電気的接続を、絶縁体を通じた密な容量性カップリングの形態にすることができる。すると、薄い壁面を有するプラスチック・セル内に電極を密封してもセルの壁を貫通する導電接続が不要になる。同様に、プラスチック・セルの壁の選択した一部をセンシング表面にし、付随する電極をセルの外側に出すこともできる。
・音源が生み出す音場の形を整えることができる。例えばレンズを音源に取り付けて音波が特定の領域に収束するようにすることができる。
・音波がサンプル流体に侵入してセンシング表面にぶつかる前に通過する媒体(音波の発信と到着の間に有効な時間差を作り出す)を固体または液体の形態にすることができる。固体の場合には、音波をサンプル容器に効果的にカップリングさせるにはゲル層が好ましい。液体の場合には、以下に詳しく説明する元のプロトタイプと同様、サンプル容器を単に液体浴に浸すだけでよい。
・音源をセンシング表面の裏側に配置すること、あるいはセンシング表面そのものと物理的に一体化することができる。
【0023】
センシング表面に付加的な刺激を与え、基本信号に対するその効果をモニターすることができる。例えば以下のような例が挙げられる。
・電極間にステップ状の電気的バイアスを印加すると、電極表面のイオンの平衡を破ることができる。電極の平均電位が突然変化することに対する応答信号(モードAを利用するとより強い信号が得られる)は、電極表面に意図的に付着させた感受性分子と流体内に存在している種の間の反応の程度を示している可能性がある。
・より強力な音波パルスを用いて表面に結合している種を意図的にはがすことができる。この場合、信号変化の程度が、種の量を示している。あるいは、剥離を起こすのに必要な音波刺激の振幅が、表面への結合強度を示している。
【0024】
本発明は、流体に浸した表面の性質、センシング表面に特異的に付随する層の性質、(電極の挙動からわかる)流体そのものの性質のいずれかを調べるための新規で低コストな手段を提供することができる。また本発明は、化学的または生物学的なプロセス、あるいは化学的または生物学的な刺激に応答してこれら性質がどのように変化するかを調べる新規で低コストな手段ともなる。
【0025】
応用範囲は、電気化学的界面そのものの分析(腐食のモニターを含む)から、付随する層または流体サンプルの生物学的活性または化学的活性のモニターまでにわたる。
【0026】
例えばセンシング表面が特定の抗体であらかじめコーティングされている場合には、対応する抗原が(流体サンプル内に存在しているのであれば)センシング表面に付着し、その表面を変化させることになる。この変化は、所定の音波刺激に対する電気信号の変化として検出することができる。そのため、病原体を迅速に、かつ測定1回ごとの材料のコストを最少にして検出する手段となる。この場合に音波を利用することの別の利点は、モニターしている結合反応とは関係しない非特異的に吸着したタンパク質を選択的にはがせることである。このようなタンパク質がはがせないと、従来のバイオ検出法では偽の信号を発生させる可能性がある。
【0027】
設計上の重要な特徴は、流体サンプルと接触させる装置の部品を簡単化できることである。というのも、実験を行なうごとに部品を交換せねばならないことがしばしばあるからである。(例えば、この装置を使用して血液サンプルから病気の存在を検出する場合には、サンプルと接触するすべての部品が病原体によって汚染される可能性があるため、この装置を再使用することはできない。)
【0028】
したがって、本発明は、例えば以下のようなことに応用できる。
・血液テスト(血液タンパク質、病気、抗原の検出)
・水質汚染のモニター
・金属表面の腐食のモニター
・薬物のテスト
・遺伝子スクリーニング
・生物物質または化学物質の検出
・表面コーティングまたは電気メッキ・プロセスの評価
【0029】
システム内での電極の相対位置は、機能面からすると本質的に重要ではない。流体サンプルは、感度が低下しない限りは非常に小さくてもよい。起こる現象は、電極表面でのガスの発生に依存しない。センシング表面に層を固定化することで、調べている生物学的プロセスまたは化学的プロセスを局在させ集中させることができる。
【0030】
音響媒体中に性質のよくわかった不連続部としてセンシング表面が存在することが、本発明の方法と装置の1つの重要な特徴である。というのも、センシング表面が、音波に応答して発生する性質のよくわかった流体運動と圧縮に対する界面となるからである。電極表面も(特に電位/電場に関して)非常によく制御でき、固定化したタンパク質を調べるための特別な環境を提供する。(例えば、ステップ状のDCバイアスを使用し、吸着されたタンパク質層内をイオンを前後に移動させ、その時間応答をモニターすることにより、この層のイオン透過率に関する情報を得る。周波数混合法は、この考え方を別の方法で実現したものである。)適切に処理したタンパク質は、表面上で同じ方向に向けることができるため、調べてその構造に関する統一性のあるデータを得ることが容易になる。
【0031】
電流プローブ・モード(すなわち電極が電流−電圧変換器に接続されているモード)では、両方の電極がアース電位に維持されている。したがって感度が異なる複数の電極からなるアレイは、互いに電気的に接続し、1本の共通した接続線によって増幅器に接続することができる。このアレイにアドレスするには、単に音波を選択したセンシング表面に向けるだけでよい。発生した信号は電流として共通の端子に流れ込むが、アレイ全体はアース電位に維持されているため、信号が刺激されていない領域を通じて溶液中に大量に“漏れ”て戻ることはない。そのため複雑なアドレス回路が不要であり、多数の電極を接続する必要もなく、複雑さが有意に少なくなり、実現のコストも大きく低下する。
【0032】
アドレス操作は、音波を、複数の列からなるアレイを横断する1本のストライプ状に集束させることによっても実現できる。このとき、1つの列内の標的スポットに対する電極が互いに接続されているようにする。したがって、音波を集束させることによって行が選択され、外部接続によって列が選択される。このようにするとアレイの走査をより速く行なうことができる。
【0033】
センシング表面を音波で刺激するというのは、吸着の制御手段を提供することでもある。音波刺激は、特に、受信器に非特異的に吸着する関係のないタンパク質を減らす上で有効であることがわかるであろう。こうするとシステムの感度と選択性が向上する。音波の強度を所定の方法で変化させるというのは、結合強度を測定する手段を提供することでもある。また、音波刺激は、受信器と分析分子の相互作用を促進し、装置の応答時間を短くするのに役立つ可能性がある。
【0034】
あいまいさなくデータを解釈するために十分な情報を引き出すには、音波刺激に加えて付加的な刺激(例えば標的電極に印加するステップ状のDCバイアス)を利用する必要があろう。このような柔軟性は、すべての方法に備わっていなければならないわけではないが、本発明による方法の重要な特徴をなしている(すなわち電極の二重刺激)。
【0035】
モードAに関して:
音波刺激を利用して電気的インピーダンス・タイプのデータが得られるという意味で、得られたデータは、音情報と電気情報の組み合わせが大半を占めているようである。この方法は、従来の電気的インピーダンス測定法と比べて大きな利点を有する。時間遅延を十分に大きくすると、電極で信号が発生するときに音源が電気的にサイレントな状態になる。したがってインピーダンス・タイプのデータが、通常はインピーダンス測定法の邪魔になる漂遊カップリングなしに得られる。
【0036】
音波パルスは電極の前にある材料を均等に圧縮する必要があるため、隣接するイオンが相対運動する必要はまったくない。したがってイオン分布は、測定後も比較的変化がない状態に留まっていなくてはならない。これは、測定プロセスにおいてイオン分布が直接壊される従来の電気インピーダンス法との大きな違いである。この意味で、上に説明した方法は侵襲性がより小さい。
【0037】
モードBに関して:
得られたデータは、従来の定常流流動法で得られたデータと性質が非常に似ているように見えるが、実験が大いに簡単化されている。
【0038】
適切なトリガー回路でパルスを発生させると、位相データと分極データを測定信号からあいまいさなく再現することができる。単一の連続的サイン波を用いるのであれば、電極表面での音波の位相に対するこの表面電気音響信号の位相を導き出すことは非常に困難であろう。この相対位相角は、信号の振幅とは別であり、システムから有用なデータを引き出す上で本質的であることがわかる。
【0039】
パルスにより、信号のさまざまな成分を分離することも可能になる。例えばイオン振動電位によって大きな“漂遊”信号がバルクのサンプル流体中に発生した場合、時間分離を利用して表面電気音響信号を分離することがやはり可能であろう。というのも、前者は後者よりも数マイクロ秒前に発生するだろうからである。信号は、センシング表面に付随する層内あるいはその層のいずれかの側のごく近傍における電荷と双極子の相対運動によって発生する。この層は、検出する特別な種に対する感受性を示す、特別に選択した物質を含むようにすることができる。あるいはこの層は、流体との界面に通常存在している荷電粒子層を含むようにすることができる(“電気的二重層”)。
【0040】
信号の性質は、以下のような事柄に依存する。
・荷電層の物理的性質と化学的性質(例えば、厚さや圧縮性)。
・層の電気的性質(例えば、荷電量や分極)。
・センシング表面の性質(例えば、実効表面積や比電荷量)。
・層内または層の構成成分間での電荷の移動させやすさ(例えば、荷電粒子または分極粒子間の結合強度、または化合物粒子の各部分間の結合強度)。
【0041】
これらの性質が変化すると、信号変化となって現われる。この信号変化は音波の波形と強度に依存しており、その依存性が、層から情報を引き出す更に別のパラメータとなる。例えば、特定のタンパク質の構造特性は、ある周波数依存性または時間依存性を生み出す可能性がある。この依存性は、そのタンパク質の“フィンガープリント”、または他のタンパク質との相互作用状態の“フィンガープリント”と見なすことができる。
【0042】
上記の信号が電気信号の個々の周波数成分を含むように変更することが考えられる。この個々の周波数成分は、付加的な電気的刺激による励起の間、センシング表面の近傍にある層の受動的電気特性が変化する結果として発生する。例えば、周波数f1の交流電気信号が電極に印加されると、周波数f1の交流電流が電極間に流れる。この交流電流の大きさは、電極に付随する層の電気的特性に一部が依存する。次にこれらの層に対して周波数f2の音波を当てると、その電気的特性が変化して周波数混合が起こり、その結果として周波数(f1+f2)と(f1−f2)の位置に電気信号成分が発生する。
【0043】
電気信号が付加的な電気的刺激なしに音源によって直接発生するという上記の基本現象は、f1がゼロという条件になった極限のケースであると見なすことができる。
【0044】
更に別の一般的な特徴として、本発明により、流体/固体の界面の化学的特性および/または生物学的特性をキャラクテリゼーションする方法であって、
センシング表面を有する固体を用意し、
このセンシング表面を流体の中に浸し、
音波がこの流体内を通過してセンシング表面にぶつかるようにし、
音波が上記固体にぶつかったときにこの流体内でセンシング表面に発生する電気信号または磁気信号を測定する操作を含み、この信号が、センシング表面における流体/固体の界面の化学的特性および/または生物学的特性を特徴づけている方法が提供される。一般に、音波はセンシング表面でほぼ完全に反射される。
【0045】
モードAに合致したケースでは、測定した電気信号または磁気信号の少なくとも一部は、界面において流体内の密度振動によって発生する可能性がある。モードBに合致したケースでは、測定した電気信号または磁気信号の少なくとも一部は、界面において振動性の横方向変位によって発生する、すなわち界面に接する振動運動によって発生する可能性がある。
【0046】
モードAとモードBの信号は、例えば界面において大きな密度振動と振動性横方向変位が起こった場合に同時に発生する可能性があるが、モードBの信号強度がモードAの信号強度よりも大きいことが好ましい。モードAの信号よりもモードBの信号についての測定可能性を最適化するためには、センシング表面における固体の電気抵抗を流体の電気抵抗よりも大きくして、界面における振動性横方向変位によって発生する変位電流の大部分(好ましくは実質的にすべて)が戻る経路が流体内を通過するようにする。戻る電流は、流体内に設置した電極で検出することができる。センシング表面における固体の抵抗を大きくすると、発生するモードAの信号の絶対強度が小さくなる傾向もある。
【0047】
電気信号は、センシング表面に付随する一対の電極で測定することができる。例えば一実施態様では、モードBの信号を測定するため、電極をセンシング表面のいずれかの側に配置し、界面において流体の振動性横方向変位によって発生する流体内の変位電流を検出する。しかし(モードAの信号を主に測定するための)別の実施態様では、電極の1つがセンシング表面を形成することになる。より一般に、1つの電極は、例えば電極の第1の部分がセンシング表面の一方の側に位置し、第2の部分がこのセンシング表面の少なくとも一部を形成する、あるいはその一部と重なる場合と同様、モードAとモードBの信号の両方を検出することができる。
【0048】
上記のいずれかの特徴を持つ(流体内に浸された一対の電極を一般に有する)検出器および/またはセンシング表面は、流体に対して安定した界面電位を維持している表面を有することが好ましい。このようにすると、表面を流体に曝露したり表面に音波を当てたりするとき、この表面がない場合に発生する可能性のあるドリフトを避けるのに役立つ。安定した界面電位は、表面を保護膜で覆うことによって得られる。一実施態様では、検出器および/またはセンシング表面は、チオール化した金表面を有する。すなわち、金表面をチオール基を含む有機化合物で不動態化する。このような化合物の具体例としては、メルカプト−ウンデカノールやメルカプト−ウンデカン酸が挙げられる。チオール化は、ベイン C.D.ら(J. Am. Chem. Soc.、第111巻、321〜335ページ、1989年)が報告しているように、蒸着した金表面にチオールの“自己集合単分子膜”を形成する方法によって実現することができる。要するに、有機化合物分子の一端に位置するチオール基のイオウ原子が金の表面と共有結合するため、流体に曝露される実効表面は、この有機化合物分子の他端に位置する基によって形成される。メルカプト−ウンデカノールの場合には、そのような基は−OH基であり、メルカプト−ウンデカン酸の場合には、そのような基は−COOH基である。このような表面の界面電位は、流体のpHを適切に調節することによって安定化させることができる。
【0049】
簡単なシステムの例を添付の図面を参照しつつ、以下に説明する。
【0050】
詳細な説明
図1は、音波を用いた励起によって流体の振動性横方向変位(したがって変位電流)が流体/固体の界面においていかにして発生するかを示す概略図である。この変位電流によって今度はモードBの信号を発生させることができる。超音波のバーストが、液体に浸した標的表面の選択した領域(すなわちセンシング表面)に斜め方向からぶつかる。固体表面の音響インピーダンスは液体の音響インピーダンスと大きく異なっているため、入射音波の大部分が反射される。流体中の長手方向の圧力波のみを考慮すると、表面に垂直な変位ベクトルの成分は消え、表面に平行な成分が足し合わされることがわかる。したがって理想的な非粘性流体では、界面における流体分子は、界面平面内において固体に対して振動運動をすることになる。すると小さなイオン変位電流が発生し、流体内で音波スポットのいずれかの端部に位置する2つの点において振動電位が生まれる。実際のシステムは(例えば流体の動的粘性のために)これよりは複雑になる傾向があるとはいえ、このような電位が実際のシステムで検出できるはずである。
【0051】
流体に浸した表面に存在するイオン二重層の概略図が図2に示してある。これは平行板コンデンサと電気的に等価であり、固体表面が一方の“プレート”として機能し、水和したイオンが表面に静電力で引き寄せられた層が他方のプレートとして機能する。表面に最も引き寄せられる水和イオンは絡まり合って密で動かないネットワークになり、残りのイオンが流体内を自由に動き回ると見なされることがしばしばある。動き回れる外側のイオンを二重層の残りのイオンと区別する仮想的な平面はスリップ平面と呼ばれ、流体に対して静電電位を有する(ゼータ電位(ζ))。スリップ平面の外側にあるイオンは流体内を比較的自由に動き回れるため、これらイオンが変位電流のほとんどを担うことが予想される。
【0052】
図3は、モードBのメカニズムに関する等価回路の概略図である。各コンデンサは、小さな音波スポットのどちらか半分に対する二重層の容量を表わし、抵抗R1は(変位電流の戻り経路となる)上に載っている流体のインピーダンスを表わす。R2は、固体の抵抗である。もしR2>>R1であるならば、変位電流の大部分は電解流体内の戻り経路を流れる。しかし固体が導電体であってR2がほぼ0である場合には、変位電流の大部分は二重層の容量(典型的な値は10μF/cm2)を通じて固体内の戻り経路を流れる。この場合、R1における電圧低下は無視できるため、モードBの有意な信号が検出可能になることはなかろう。
【0053】
モードAのメカニズムに話を転ずると、界面で音波が反射されることによって圧力の腹が発生し、表面に位置する分子は、振幅が入射波の大まかに2倍になった圧力振動を感じる。したがって界面に存在する分子は振動し、それに対応して二重層の容量と固体表面の電位が振動する。
【0054】
図4は、モードAのメカニズムに関する等価回路の概略図である。この回路は、信号が小さいという条件では、電流源と並列に接続した固定二重層コンデンサと等価である。超音波がぶつかる表面領域の導電率が電解流体の導電率よりもはるかに小さい場合には、ループ(a)−(d)に流れる変位電流は小さすぎるため、流体内で(a)と(b)の間に発生する電位低下は測定不能である。逆に、固体の導電率が流体と比べて非常に大きい場合には、大きな電流がループを流れるため、電極間に測定可能な電位が生まれる。
【0055】
これから本発明による簡単なシステムを説明することにする。図5には、壁面の薄いプラスチック容器17の中にサンプル流体1(一般に導電性電解液)が収容された状態が示してある。この流体は入口171から入って容器内を通過し、出口172から出ていく。簡単な金属電極2(標的電極、モードA用)が容器17の内部に流体と接するように設置されている。この電極の表面は処理しておくことができる。別の簡単な金属電極3(補助電極)が流体と第2の電気的接触をしている。モードB用に絶縁性センシング表面173をこれら電極間に設けることが可能である。電気化学的電極4(参照電極)が流体と接触しており、標的電極の平均電位をモニターできるようになっている。音波源5を用い、媒体5a(一般には音響カップリング流体である水)を通じて標的電極2またはセンシング表面173に既知の音波波形を当てる。媒体は、標的の位置において音波6の発信と到着の間に時間差を導入するのに役立つ。
【0056】
容器は、音波が伝わる方向に約3mmの幅があるパースペックス・サンプル・セルの形態をしている。対応するウインドウの厚さは1.5mmになっている。パースペックスがこのような厚さになっているため、音波波形の減衰/歪みが無視できる。セルは、一般に、幅が5〜10mm、(鉛直方向の)長さが30mmである。
【0057】
サンプル流体1は、一般に、0.1M〜1MのKNO3溶液であるが、他の塩(例えばNaCl、KI)にしたり、他の(より低い)濃度にしたりしても似たような結果が得られた。流体の温度は一般に18〜25℃である。サンプル・セルを取り囲む水浴の熱容量が大きいため、実験中は流体の温度が一定に留まる(サーモスタットを用いて温度を安定させることもできる)。
【0058】
この例の標的電極2は、金メッキした真鍮製ネジ(8BA)からなる。音波を当てる端部は、金メッキする前に平坦にして研磨した。8BAネジというのは直径が約2mmである。使用したネジは長さが約10mmである。この電極をパースペックス・プレートに設けたネジ穴にねじ込み、研磨してメッキした端部が、サンプル・セル(と面173)の背面を形成するパースペックスの表面すれすれの位置か、あるいはわずかに引っ込んだ位置に来るようにする。ネジがこのような長さになっているため、数マイクロ秒という時間窓に対し、ネジの遠いほうの端部からの内部反射がネジの表面に戻ってくる前にこのシステムが“理想的な”流体−金属界面として振る舞う。このようになっていると得られる信号の分析と解釈が簡単になるが、実際の最終製品において不可欠な性質というわけではない。補助電極3は、標的電極2と同様の金メッキされたネジであり、サンプル・セルの更に奥までねじ込まれている。そのため、流体内に約3mm突起している(そのことによって流体とはるかに広い面積で接触する)。この補助電極は、標的電極から一般に6〜8mm離れた位置にある。金属板でサンプル・セルの前面を覆うことにより、屈折するあらゆる音波から補助電極をシールドすることができる。しかし実際にはこの金属板が必要であることは見いだされていない。絶縁されたワイヤーによって電極2と3に対して電気的接続2aと3aがなされることで、それぞれ接点CとBが提供される。以下により詳しく説明するように、接点Cは、抵抗器および/またはチョーク・コイルを介して増幅器/電流−電圧変換器やDCバイアスに接続することができ、接点Bは、DCバイアス、グラウンドへの高周波数デカップリング、電極3への交流電圧/電流の印加を可能にする。
【0059】
参照電極4は飽和カロメル電極であり、一般に1MのKNO3を含む塩橋によってサンプル流体1に接続されている(多孔性焼結ガラスによるサンプル・セルの流体への接続)。このように二重接続の構成になっているため、サンプル中のある種のイオンが参照電極4を傷めることはない。電極4は、点Aを介して高インピーダンス(>0.5MΩ)の電圧増幅器に接続され、必要なときに最少電流が電極から流れるようにされている。
【0060】
音響トランスデューサ5はカスタム製品であり、真鍮製レンズ(水中での焦点距離80mm)と真鍮をベースとした吸収体の間に挟まれた厚さ10mm×直径38mmのPC5H PZTセラミック(モルガン・マトロック社)製の円板である。レンズは、音波を水中で標的電極に集束させる(周波数によって異なるが、径が約2〜3mmのスポットを形成する)。吸収体は、トランスデューサの背面から出現する音波を消すことによってこのシステムの望ましからぬ長い共鳴を阻止する。トランスデューサを急にステップ状の電圧で駆動するときの最も単純な音波波形は、極性が互いに逆で2.25マイクロ秒(PZT円板を音波が伝達する時間)離れた2つのパルスからなる。パルスの典型的な幅は約200ナノ秒である。しかしさまざまな波形を使用することができる。音波は一般に10〜100ミリ秒の間隔で発信され、標的電極の表面で100kPaに達するピーク圧力を発生させると推定され(しかし発生するのがこれよりも小さな圧力ピークであってもよい)、同時に測定可能な信号を生み出す。パルスが水中を通ってレンズの焦点まで到達するのにかかる時間は、約55マイクロ秒である。
【0061】
図6は、簡単化した電気回路のブロックダイヤグラムに、簡単化した図5の容器付き装置を合わせて示した図である。パルス発生器14が、コンピュータ13の制御により、中央制御インターフェイス・ユニット9を介して音波源5を電気で駆動する。パルス発生器は、切り換え可能で立ち上がり時間が25ナノ秒〜300ナノ秒のステップ状の350Vまでの任意の電圧を発生させる。付加回路15が挿入されていて、音波源5を駆動する電圧波形を変化させる。この付加回路は、サイン波形のリンギングまたはこれ以外の電波(従って音波)を誘起するため、(電気的に約1nFのコンデンサと等価な)トランスデューサと直列に接続することのできるさまざまな回路素子(例えば一連のインダクター)を備えることができる。例えば一実施態様では、付加回路はL−Cリンギング操作のためのインダクターを備えている。パルス発生器14からのパルスは、トランスデューサ駆動用の外部信号源をトリガーするのに用いることもできる。
【0062】
標的電極の表面またはそのごく近傍で発生する信号は、この回路により、(増幅器7を用いて)電圧波形として、あるいは(電流−電圧変換器8を用いて)電流波形として捕捉される。どちらの波形にするかの選択は、コンピュータの制御により、中央制御インターフェイス・ユニット9を介してなされる。この中央制御インターフェイス・ユニットは、信号が適切な(例えば低域通過)フィルタ12を介してコンピュータ制御の(ディジタル)オシロスコープ11に送られる前にその信号を次の増幅器10において増幅する量も決定する。なおフィルタ12は、この例では、50Ωでカップリングする6極ベッセル・フィルタ(12MHzまたは3MHz、切り換え可能)である。
【0063】
ディジタル化された波形がコンピュータ13に送られ、その波形がこのコンピュータに記憶されて処理される。このコンピュータは450MHzのペンティナムIII PC(インテル社)であり、128MのRAMと16Gバイトのハードディスクを備え、MATLABと、MATLABプログラムに組み込まれたC++で書かれたカスタム製作のソフトウエアが走っている。平均化を行なって信号対雑音比を向上させることが好ましい。平均化には、ランダム雑音と電圧レベル・サンプリング機能の相互作用(“ディザリング”)に基づいてオシロスコープの電圧レベルの解像度を効果的に改善する効果もある。処理された波形は、表示されるか、あるいは結果を解釈するためにコンピュータによって更に分析される。
【0064】
電圧増幅器7は利得が+10であり、入力インピーダンスは1MΩ||3pFである。しかし図6に示したようにオプションの10kΩの抵抗器(Rバイアス)を挿入することにより、ある種のテスト中にバイアス電流が流れるようにすることができる。Rバイアスは、中央制御インターフェイス・ユニット9でリモート・コントロールすることにより、接続したり接続を切り離したりできる。増幅器7は、帯域幅が25MHzの低雑音増幅器(6nV/√Hz)である。電流−電圧変換器8は利得が50V/Aでやはり低雑音(2.2pA/√Hz)になっており、増幅器7と同様の帯域幅を有する。後ろに続く増幅器10は、100〜1000の間で切り換え可能な利得を持ち、25NHzの帯域幅で低雑音になっている。
【0065】
中央制御インターフェイス・ユニット9は、プログラム可能な遅延手段18も備えている。この遅延手段18は、音波源5に印加される駆動波形に対してプログラム可能な一定の時間遅延を有するディジタル信号をパルス発生器14から発生させる。この遅延したディジタル信号を用いてオシロスコープ11をトリガーし、音波パルスが標的電極2に到着する予想時刻の少し前にデータ収集を開始させ、コンピュータが厳密なタイミング機能を持たなくてもよいようにしている。この遅延したディジタル信号は、点“B”を通じて音波刺激が到着したとき、信号発生器(図示せず)をトリガーして電気的波形を電極に印加するのに用いることもできる。後者の機能を利用すると、単一の音波バーストの時間スケールで電位が急に変化したときの電極表面の応答を調べることができる(例えばすでに述べたように、吸着されたタンパク質層内をイオンを移動させる)。
【0066】
中央制御インターフェイス・ユニット9は、カスタム設計された製品であり、PIC17C43マイクロコントローラをベースとしている。このユニットは、コンピュータからのさまざまな命令をシリアル・リンク(RS232)を通じて受け取り、装置の他の部分を制御する。
【0067】
オシロスコープ11は、100Mサンプル/秒の速度でサンプリングを行なっており、中央制御インターフェイス・ユニット9によってトリガーされて、音波パルスが標的電極に到達したと考えられるときにデータ収集を行なう。このオシロスコープで選択可能な電圧幅は、8ビットの解像度で、フルレンジが50mVまでである。
【0068】
別の回路16がやはりコンピュータ13によって中央制御インターフェイス・ユニット9を介して制御されている。この回路16により、DCバイアスを電極対に印加することができる。回路16は、電極に当てるラジオ周波数の信号を点“B”への外部接続端子(図示せず)を介して制御できるように構成することも可能である。すると高周波数の励起(例えば周波数混合)による効果が調べられる。プログラム可能なバイアス源は、切り換え可能なDC電圧源(現在取り付けられているのは8ビットDAC、−1.25〜+1.25V)であり、補助電極3にオプションのデカップリング・コンデンサが設けられているため、必要に応じてアースに対して低インピーダンスのA.C.接続をすることが保証される。
【0069】
参照電極4は、回路の共通アース電位に対するサンプル流体1の電位をモニターする。この読み取り値から、(平衡時の、あるいは回路16によって印加されたバイアスの影響下での)標的電極の電位をモニターすることができる。参照電極4との接続を遮断することにより、オシロスコープの同じチャネルを用い、標的電極2を流れる平均電流を、10kΩのバイアス抵抗を介してモニターすることができる。この値は、(特にバイアス電圧の影響下での)標的電極の電気化学的活性の指標となる。
【0070】
中央制御インターフェイス・ユニット9は、コンピュータによって制御される別の出力を有する。この出力により、磁場を標的電極2に印加する磁気コイル(図示せず)などの(すでに指摘した)更に別の刺激を制御することができる。
【0071】
コンピュータはプログラム可能であるため、実験を制御するための柔軟な手段となる。
【0072】
上記の装置は典型的な実施態様であり、図11〜図16に示した結果を得るために製造して使用した。
【0073】
本発明による装置の別の例を図7に示す。これは、音波源アレイA1を備えた装置である。この音波源アレイを駆動すると、音波は材料ブロックA2を伝わる間に重ね合わさるため、標的となる処理済みのセンシング表面アレイA3の表面に到着したとき、集束したスポットになる。信号の検出と処理は、図6に詳しく示したのと同様の電気装置を用いて実現することができよう。ただし、アレイA3を含む電極に対して別々にアドレスできるようにするという変更が必要である。
【0074】
本発明による装置の更に別の例を図8aと図8bにそれぞれ側面断面図および上面断面図として示す。これは、音波源B1と、音波遅延線として機能する固体ブロックB2と、廃棄可能なプラスチック・セルB3とを備えた装置である。プラスチック・セルB3は、向かい合った壁面B5に配置した薄い金属電極を有する複数のセルからなるアレイB4の一部を含むことができる。また、図6に詳しく示したのと同様の電気装置を用いて電極に発生する信号を検出することもできる。(滑らかにした)音響カップリング層B6のおかげで、音波源と遅延線によってセル・アレイのセルを順番に走査することが可能になる。
【0075】
本発明による装置の更に別の例を図9に示す。これはゲル・カラムC1からなる装置であり、電気泳動などの手段によってC2の位置に導入または挿入された種を分離するのに用いる。標的電極2と補助電極3がカラムを挟んで音波源C4とは反対側に位置しており、この音波源が一方の電極を刺激して上記の信号を発生させる。信号の強度が、所定の時刻に電極の近傍に存在する種の濃度を示す。図6に詳しく示したのと同様の電気装置を用いて電極に発生する信号を検出することができよう。
【0076】
図10は、図5に示したのと同様の装置であるが、付随回路が付加されている。周波数f1の交流電気信号を電源D1から標的電極2と補助電極3に対して印加すると同時に、標的電極を、周波数f2で駆動される音波源D2で(できれば連続的に)刺激する。標的電極2に接続されている電流−電圧変換器D6は、周波数がf1、f2、(f1+f2)、(f1−f2)などの電気信号を発生させる。(f1とf2を遮断する)フィルタD3は、電極の表面に発生する混合効果に起因する成分以外は捨てて、D4に存在する電気信号の成分を分離する機能を有する。検出回路D5は、電極表面で起こる相互作用を定量化する手段として、これらの残った成分の振幅と位相を測定する。
【0077】
実験
図5と図6に示した装置を用いて図11〜図16に示した結果を得た。
【0078】
電圧波形と電流波形を電極位置で観測したところ、印加した音波波形と強い相関があった。
【0079】
音波パルスの発信と電極での電気パルスの発生の間の時間差は、電極が通常位置する地点に設置された音響プローブで測定された発信と受信の時間差に等しい。したがって、バルクの液体中ではなく電極表面の近傍で現象が起こっていることは明らかである。最近の実験では、深さが3mmのサンプル・セル内で空間解像度が約200μmになった。
【0080】
集束した音波スポットを標的電極に当てるとき、観測される電圧信号は以下の2つの成分を含んでいることが一般的である。
(i)溶液に対する標的電極の平均電位に強く依存した成分。モードAで検出されることが好ましい信号発生メカニズムにおいて予想される。
(ii)標的電極の平均電位とは独立で、流体サンプルの導電率に強く依存する成分。モードBで検出されることが好ましい信号発生メカニズムにおいて予想される。
【0081】
見やすくするため、これら2つの成分は、バイアスをかけ、コンピュータ処理することで分離した。これら2つの成分を図11の上半分に示してある。
【0082】
信号成分の大きさは、説明した発生メカニズムの簡単なモデルと完全に一致している。
【0083】
成分(i)の振幅が標的電極の平均電位にどのように依存するかは重要である。というのも、この依存性が、観測された信号がバルク流体内に発生するイオン振動電位によるものではないことを示しているからである。
【0084】
バイアスを印加して除去した後の信号振幅の変化が流体サンプルを実験中に変更した場合でも持続していると、モードAの裏にある物理現象が(印加したバイアスによって変化する)電極表面の条件に対して敏感であることがわかる。バイアスを印加している間に電極の電気インピーダンスに実質的な変化が観測され(ず、オプションの電圧プローブを用いたときにもシステムからは無視できる電流しか発生し)なかったため、成分(i)の変化は発生した現象が変化したことの直接的な結果であると結論づけられるはずである(そうでないとすれば、信号が電極から離れた位置で発生し、信号の振幅において観測された変化は単に電気的感度が低下したことの結果であることが示唆されることになろう)。
【0085】
上記の持続は、信号の変化が、流体内で電極表面の前に電流密度が存在していることとは関係ないことも示している。
【0086】
図12に示したように、観測された信号成分(i)の極性は、印加された音波波形の極性と比較した場合、印加されたバイアスに応答して反転することが見られた。この現象は、電極表面で二重層内に信号が発生しない限りは起こるはずがなく、イオン振動電位の結果としてバルクの流体内に信号が発生する場合には確かに起こるはずがない(これは、信号の発生に関係する層を横断したときの正味の電位差が符号を変えたことを示している)。
【0087】
一連の電極を異なったさまざまな溶液で洗浄すると、信号が変化し、しかも印加するバイアスに応じ、信号が変化する程度が変化した。このことから、本発明を利用して電極の状態をモニターできることがわかる。例えば図13は、真鍮表面がNaOHによって腐食した結果を示している。
【0088】
図15と図16は、本発明をモードBで利用すると生物種を検出できることを示している。音響レンズを用いて標的電極に音波スポットを集束させる。信号は、電極を覆う二重層の圧縮度に対応して検出されることになる。しかしそれに加え、そのスポットが標的電極のごく近傍を取り囲むパースペックスと重なる場合には、流体の運動によってやはり信号が発生することになる(空間的に減衰する音波スポットは、流体が径方向に運動する領域をパースペックスの表面に発生させて径方向の電流を誘起し、したがって標的電極における流体の電位を変化させる)。
【0089】
周波数1(1.11MHz)では、音波スポットの減衰端がパースペックスと2〜3mmほど重なる。その結果、パースペックスの上方で径方向の流体運動が誘起される。周波数2(1.998MHz)では、スポットがほぼ完全に金属電極に集束され、二重層の圧縮によって発生する信号だけが残る。
【0090】
(リン酸緩衝液、pH7.4の中に)約50mg/lの濃度にしたヒトIgGを、NaOH/イソプロパノールで完全にきれいにしたパースペックスの上に流した。IgGを含む溶液を導入したことは、処理した表面にこのタンパク質が吸着したことに対応する周波数1での指数曲線によってはっきりとわかる。流体によって運ばれるIgGを除去した後にも信号の変化が持続していることから、観測された変化がセンシング表面の変化に付随していることが確認される。吸着されたIgGを(水酸化ナトリウムとイソプロパノールを用いて)その後除去すると、感受性表面が再生され、信号が元のレベルに戻る。対照溶液(きれいなリン酸緩衝液)を用いて別の実験を行なうと、観測された変化がIgGの存在にのみよるものであることが確認される。
【0091】
周波数1での信号がIgGの存在によるものであることは明らかだが、周波数2では、応答がほとんど見られない。これは、システムの感度がモードBによって検出されることが好ましいメカニズムによって決まり、このモードBは周波数1においてのみ優勢であることを示唆している(同じ実験を含め、2つの周波数での測定を交互に行なった)。
【0092】
ここで、本発明による別のシステムの説明に移ることにする。図17aと図17bは、貯水タンク(図示せず)に入れたサンプル・セル200の正面断面図と側面断面図である。セルは、パースペックス製ブロック202の中に形成された円筒形キャビティ201を備えている。このブロックは、薄いパースペックス製の前面窓203と、背面のヴィトン・O−リング204を備えており、標的表面205がリング形の背面プレート210によってこのO−リングに対して押し付けられてキャビティを密封する。ステンレス鋼製の2つのピックアップ電極206がキャビティのそれぞれの側に取り付けられている。これら電極は、できるだけ短いリード線によって図6に示したのと同様の電気回路に接続される。
【0093】
流体は、タイゴン・チューブ207を通じて流体の入口208と出口209からキャビティ201に供給される。その結果、集束した超音波を、標的表面に垂直な方向から一般に15°傾いた角度で前面窓を通じて標的表面に向ける超音波トランスデューサ(図示せず)を用い、セルの方向を乱すことなくセルの中身を変化させることができる。超音波は前面窓から標的表面までの距離を約4マイクロ秒で横断し、標的表面上に径が約4mmの音波スポットを生み出す。
【0094】
音波ビームのごく近傍にある貯水タンク内の水の温度は、電子温度計でモニターする。水の温度を知ることが重要である可能性がある。というのも、温度のわずかなドリフトが、測定される電気信号の位相を送信された超音波と比べて顕著にシフトさせる可能性があり(水中における音波の速度は温度によって異なるため、水の温度が変化すると音波がトランスデューサから標的表面まで伝わるのに要する時間も変化する)、(以下に説明するように)信号の位相の回復がモードBの大きな信号を獲得する上で重要である可能性があるからである。
【0095】
図18aと図18bに示したように、ピックアップ電極206は、音波スポット211のサイズよりも大きな距離離して配置されている。しかし標的表面は、使用する前に変更する。その変更は、その表面に金を薄いパターン212に蒸着し、そのパターンを蒸着直後にチオール化することによって行なう。音波スポットは、標的のセンシング表面を効果的に規定している。
【0096】
金のそれぞれのパターンは、1つの電極と関係している。金は、図18bに示したように、振動電流が流体を通過するはるかに大きなループを流れるようにする。したがってピックアップははるかに改善され、電極は、メッキされた領域相互間の電圧の40%を検出する。実際、金のパターンは、ピックアップ電極と標的電極を隔てている流体の(比較的小さな)ギャップを通じてピックアップ電極に間接的にカップリングしているため、金のそれぞれのパターンを対応するピックアップ電極の延長と見なすことができる。しかし音波スポットが金のパターンと重なっているため、金のそれぞれのパターンは、センシング表面の一部を形成していると見なすこともできる。
【0097】
間接的カップリングというこの方法の1つの利点は、金の表面で発生する変位電流信号が、鋼鉄製電極が音波スポットにより近い位置に配置されている場合にその鋼鉄製電極の表面において発生する変位電流信号よりもはるかにうまく制御されることである。金をチオール単分子膜で覆うと、チオール分子の端部にある解離可能な基により、キャビティ201内の(適切にpHが緩衝された)流体との間で、性質がよくわかった安定な電気化学的平衡状態が維持される。保護膜で覆っていない電極に音波を当てると、測定された電気信号にドリフトが混入する危険性がある。また、異なる形にパターニングした標的表面もセルに容易に組み込むことができる。例えば、モードAの信号を測定するには、(以下に説明するように)メッキした領域が音波スポットを完全に覆っているようにすることが好ましい。
【0098】
図17と図18のシステムを用いて行なった実験について以下に説明する。
【0099】
標的のメッキ
メッキする前に、まず最初にドデシル硫酸ナトリウム溶液とUHP水を交互に用い、次いでイソプロパノールを、その次にアルコールを用いて繰り返し超音波処理することにより、標的の表面を完全にきれいにした。蒸着装置の中で標的を5分間にわたって酸素プラズマに曝露して更にきれいにした後、(付着用に)クロムを0.5nmの厚さに堆積させ、次いで高純度の金を50nm堆積させた。標的を蒸着装置から取り出し、エタノールにメルカプト−ウンデカノールまたはメルカプト−ウンデカン酸を約200mg/lの割合で溶かした溶液の中に入れ、使用するまで暗所に保管した(標的を実験に使用した後でさえ、堆積させた金属膜がはがれたり泡を出したりした箇所はどこにも観察されなかった)。
【0100】
溶液
特に断わらない限り、すべての溶液は、(UHP水の中に調製した)0.01M、pH7.6のリン酸緩衝液をベースとしたものであった。
【0101】
きれいな緩衝液(最低で10cm3)を用いてセルの適切な領域を洗浄した。タンパク質を除去してセルをきれいにするため、3段階のステップを利用した。まず最初に、セルを0.5MのNaOH、イソプロパノール、2%ヘルマネックス(容積比が2:1:1)からなる溶離緩衝液で5分間にわたって洗浄した。UHP水で完全に洗浄した後、セルにプロテアーゼ(シグマP5147)の200mg/l溶液を5分間かけて満たし、変性したタンパク質残基を消化させた。セルを更にUHP水で洗浄し、溶離緩衝液で更に5分間にわたってフラッシュし、UHP水とリン酸緩衝液で完全に洗浄した。
【0102】
ヒト免疫グロブリン(IgG、シグマ14506)とウシ血清アルブミン(BSA、シグマB4287)を用いてタンパク質溶液を作った。タンパク質溶液をサンプル・セルに充填する前にセルから流体を排出させ、入ってくる溶液が、残っている何らかの流体で希釈されることのないようにした。
【0103】
脱ガス
泡がタンク内に形成されて集束した音波が散乱されることのないよう、まず最初に大気圧で加熱し、次いでわずかに減圧した密閉容器内で一晩冷却した水を用いてすべての実験を行なった。
【0104】
モードAの信号のキャラクテリゼーション
パターニングされた標的を用いてタンパク質の吸着を検出する前に、メッキされた領域の上方に発生するモードAの信号が予想通り一定のままであることを確認する必要があった。
【0105】
システムは主としてモードBの信号を検出するように設計されているとはいえ、図19aと図19bに示したようにモードAの信号を分離して検出するのに使用することもできる。モードAの信号は、音波が完全にメッキされた領域(すなわちチオール化された金の層が音波スポットを完全に覆っている領域)に対して垂直な入射角でサンプル・セルの対称軸の一方の側にぶつかることによって発生する。動電源は、導体の像と組み合わさり、拡張された双極子として振る舞う。流体内の振動電位は双極子の軸から径方向に向かって遠ざかるにつれて小さくなるため、より近くの電極がより強い信号を拾うことになる。したがって差し引きの信号はゼロではない(メッキ領域はヴィトン・O−リングの内側にぴったり合った円板部分に限られているため、サンプル・セルの外側にある水からは電気的に絶縁されている)。
【0106】
このようにして検出された信号が実際に表面で発生したものであることを明らかにするため、標的をタンパク質に曝露する前に1つの実験を行なった。図20には、メッキした16個のガラス標的を0.01Mのリン酸緩衝液(pH7.6)に浸し、約30kPaの振幅を有する音波バーストに曝露して得られた動電学的軌跡を8つ重ねたものを2組示してある。スポットの焦点は、サンプル・セルの中心から3mmずれていた。比較のため、(ダミーの標的に取り付けてサンプル・セルの中に設置した薄膜水中聴音器によって検出した)音波波形も示してある。8つの標的はメルカプト−ウンデカノールを用いてチオール化し、残りの8つはメルカプト−ウンデカン酸を用いてチオール化した。測定は、2つのタイプのチオールに対して交互に行なった。それぞれの軌跡を分離してはっきりわかるようにするため、±3μVだけずらした。酸形態のチオールを用いて処理した標的は、はるかに強い信号を出す。というのも、解離した−COOH基がpH7.6で実質的に負電荷を与えるからである(溶液とチオール表面の電圧差は、酸に関してのほうが電荷密度が大きいためにはるかに大きい。そのためモードAの信号が比例して大きくなる)。これとは逆に、アルコールを末端に有するチオールでコーティングした表面は正味の電荷をほとんど持たないため、信号が弱くなる。動電信号がチオールのタイプにどのように依存するかから、標的表面からその信号の一部が発生するのか全部が発生するのかが、あいまいさなくわかる。この依存性から、スリップ平面内の表面電荷密度をモニターするのにモードAの信号をどのように用いたらよいかもわかる。
【0107】
モードBの信号のキャラクテリゼーション
図21には、(図18aに示したような)パターニングされた標的を0.01Mのリン酸緩衝液(pH7.6)に浸し、音波が法線に対して15°の角度で表面にぶつかるように配置することによって検出した動電学的軌跡を示してある。検出された圧力波形も示してある。主要な信号の4マイクロ秒前にほんのわずかに見られる弱い信号は、パースペックス窓の内側に発生したモードBの信号である。これは、標的の代わりに空にしたセルを用いて検出した信号(図21の下方の軌跡)を記録し、この信号をあとで引き算することによって打ち消すことができる。しかし61〜69マイクロ秒の時間スロットにわたって平均するのであれば、窓信号には最大でわずかに3%ほどの誤差しか含まれない。
【0108】
検出された信号は、望むモードBの成分が優勢であるが、メッキ領域の上方で発生するモードAの信号からの寄与もかなり含んでいる。検出されたこの信号には、流体内に発生する小さなイオン振動電位も存在するであろう。(溶液のpHが緩衝液によって維持されるのであれば)モードAの成分とイオン振動電位の成分が一定に留まるとはいえ、これらの成分は測定された信号に対してマイナスの効果を持っているため、タンパク質吸着の動力学を研究する前に除去する必要がある。これは、実験後に生のデータを処理し、信号変化がタンパク質吸着の間に最大になる位相角を選択することによって最も容易に実現される。そのため、信号の位相は他のどのようなドリフトとも無関係でなくてはならず、したがって水浴の温度の読み取り値から熱による位相シフトを評価できることが望ましい。
【0109】
吸着等温式
タンパク質吸着の動力学を調べるためのシステムが有効であることを示すため、メッキした(図18aに示したタイプの)さまざまな標的を、さまざまなタンパク質をさまざまな濃度で含む溶液に曝露した(標的は、使用前はメルカプト−ウンデカノール溶液の中に保管した)。
【0110】
IgGとBSAに対する典型的な吸着等温式をそれぞれ図22と図23に示してある。モードBの信号の振幅は、すでに説明したように、位相検波を利用して復元される。
【0111】
それぞれの場合において、表面がタンパク質で覆われていくにつれて信号が小さくなる。これは、タンパク質が、pH7.6において元の表面よりも少ない電荷を持っていることを示している。これは、個々のpI値(ガラス、IgG、BSAに対してそれぞれ3.5、7.5、4.7。図23のスケールに注意すること)と合致している。信号の減少は、対イオンの密度が低下したためだけでなく、その移動度が低下したためでもある可能性がある。タンパク質で覆われた表面は、元のガラス表面やプラスチック表面よりも水和したイオンを絡み合った状態にする傾向がおそらく大きいであろうゆえ、動き回るイオンの割合が減る。吸着されたタンパク質が流体とともに限られた音波運動をすることも可能であり、その場合には正味の電流が更に少なくなる。図22において50mg/lのIgGに関して見られる飽和は、タンパク質で完全に覆われた表面に対応すると考えられる。
【0112】
このシステムは、タンパク質間の相互作用を研究するのに用いることもできる。図24は、結晶ポリスチレン標的に吸着させた後、リン酸緩衝液中のプロテアーゼ(シグマPS147)溶液で消化させたBSAに対する吸着等温式を示している(モードBの信号の振幅は、位相検波を利用して復元される)。初期の消化速度はプロテアーゼの濃度とともに増加するが、15分ほど経過した後には勾配が非常に似通った値になることが観測されるのは興味深い。
【0113】
本発明を上記の具体的な実施態様について説明してきたが、この明細書が与えられた当業者には、多くの同等な変更例や変形例が明らかであろう。したがって、本発明による上記の具体的な実施態様は例示と見なされるものであり、本発明がこれら実施態様に限定されることはない。本発明の精神ならびに範囲を超えることなく、上記の実施態様に対するさまざまな変更をなすことができる。
【0114】
グラウザー A.R.他、Sensors and Actuators B 4039巻、1〜15ページ、2001年および上記した全ての刊行物を、参照することによりここに取り込む。
【図面の簡単な説明】
【図1】
図1は、音波を用いた励起によって流体の振動性横方向変位がいかにして発生するかを示す概略図である。
【図2】
図2は、流体に浸した表面に存在するイオン二重層の概略図である。
【図3】
図3は、モードBのメカニズムに関する等価回路の概略図である。
【図4】
図4は、モードAのメカニズムに関する等価回路の概略図である。
【図5】
図5は、容器装置とそれに付属する部品を簡単化して示した図である。
【図6】
図6は、簡単化した電気回路のブロックダイヤグラムに、簡単化した図5の容器付き装置を合わせて示した図である。
【図7】
図7は、第2の装置の断面図である。
【図8】
図8aと図8bは、それぞれ、第3の装置の側面断面図と平面断面図である。
【図9】
図9は、第4の装置の断面図である。
【図10】
図10は、第5の装置の概略図である。
【図11】
図11は、図5および図6の装置を用いて得られた典型的な波形をプロットしたグラフであり、電極にバイアスを与えるDCを用いて検出された波形を含む成分を分けて示してある。
【図12】
図12は、図5および図6の装置を用いて得られた典型的な波形をプロットした別のグラフである。
【図13】
図13は、図5および図6の装置によってモードAで検出された電圧をプロットしたグラフであり、金メッキした多孔性真鍮電極を腐食させる効果を示している。
【図14】
図14は、図5および図6の装置を用いて得られた典型的な波形をプロットしたグラフであり、IgGが電極間に位置するパースペックス検出面に結合した効果を示している。
【図15】
図15は、図5および図6の装置によってモードBで検出された電圧をプロットしたグラフであり、ヒトIgGがパースペックスに吸着された効果を示している。
【図16】
図16は、図15に示した結果を生み出した実験からの波形をプロットしたグラフである。
【図17】
図17aと図17bは、本発明による別の装置のサンプル・セルに関する正面概略断面図と側面概略断面図である。
【図18】
図18aと図18bは、図17aと図17bに示したサンプル・セルの標的表面とピックアップ電極の概略図である。
【図19】
図19aと図19bは、図17aと図17bに示したサンプル・セルをどのように変更してモデルAの信号を分離するかの概略図である。図19aはセルの断面図であり、図19bは、対応する大まかな電気的等価物を示している。
【図20】
図20は、メッキした16個のガラス標的を用いて得られた動電学的軌跡を8つ重ねたもの2組と、対応する音波の波形を示している。
【図21】
図21は、パターニングされた標的を用いて検出された動電学的軌跡と、対応する音波の波形と、標的が存在していないときに得られた動電学的軌跡を示している。
【図22】
図22は、ガラス標的上のIgGに対する吸着等温式を示している。
【図23】
図23は、結晶ポリスチレン標的上のBSAに対する吸着等温式を示している。
【図24】
図24は、結晶ポリスチレン標的に吸着させた後、リン酸緩衝液中のプロテアーゼ(シグマPS147)溶液で消化させたBSAに対する吸着等温式を示している。
Claims (26)
- 流体または流体と接触している表面の化学的特性および/または生物学的特性を検出する方法であって、
容器内にセンシング表面を配置するステップと;
このセンシング表面の近傍に、このセンシング表面のごく近傍にある(immediately adjacent)流体内に発生する電気信号または磁気信号を測定する検出器を配置するステップと;
容器内に流体を配置するステップと;
音源を用いて音波を発生させてその音波をセンシング表面に向けるステップと;
その音波がセンシング表面のごく近傍にある流体にぶつかったとき、センシング表面のごく近傍にある流体内に発生する電気信号または磁気信号を上記検出器で測定するステップとを含む方法。 - 音波が上記1つ以上のセンシング表面に互いに位相がずれた状態でぶつかるが、その1つ以上のセンシング表面の配置を、音波が1つのセンシング表面に到着するとき別のセンシング表面に到着する音波とは位相がずれているように行なう、請求項1に記載の方法。
- 音波が上記1つ以上のセンシング表面に同じようにぶつかるが、その1つ以上のセンシング表面が異なる組成を有する、請求項1に記載の方法。
- 上記センシング表面となる電極表面を用意するステップを含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
- 特定の種に対して装置の感度が変化する電極を用意するステップを含み、そのことにより装置の選択性を向上させる、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
- 電極で観測される信号を変化させるために流体サンプルを変化させる、または置換するステップを更に含み、そのことにより、
電極表面またはそれに付随する層の電気的特性、化学的特性、生物学特性のいずれか、あるいは
その電極が以前に曝露されていた流体の特性を導出する、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。 - 元の流体サンプルを変化させる、あるいは元の流体サンプルを置換することによって別の流体サンプルにし、上記1つ以上の電極で観測される信号に対する効果をモニターすることによってその別の流体サンプルの化学的特性または生物学的特性を導出するステップを含む、請求項2に記載の方法。
- センシング表面を媒体と接触させ、その媒体自身が、検出する種を同定または単離する手段を提供し、電極で検出される信号の変化がその種の定量手段を提供する、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
- (a)2つの電極間に電流が流れていないときの両電極の電位差の測定と、(b)その同じ電極を固定電位に維持したときに両電極間を流れる電流の測定を同じ媒体中で別々に実施するステップを含み、そのことにより、電極および/またはそれに付随した帯電層/分極層に関する独立した追加情報を得る、請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
- 固体または第2の流体を通じて音源と音的に接触している容器内に音源を収容することにより、流体サンプルを音源から隔離するステップを更に含む、請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法。
- 音源と流体サンプルの間または音源と容器の間に物質片を挿入して意図的に音波の伝播遅延を大きくするステップを更に含み、そのことにより、励起中に音源の位置に存在する漂遊電場と、電荷測定のために電極表面の近傍に発生する信号の間の時間的分離をより大きくする、請求項1〜10のいずれか1項に記載の方法。
- 音源に対する電気的駆動を変化させて音源から電極近傍まで音波信号が伝播する時間を遅延させることにより、電極近傍で発生した電気信号を、音源で音波信号を発生させている間に装置に存在している電磁信号から分離するステップを更に含み、そのことにより、音波発信器と電極受信器の間の漂遊電磁カップリングによる望ましからぬ影響を除去する、請求項1〜11のいずれか1項に記載の方法。
- 多数の音源を配置してそれらを駆動することにより、発生した音波がアレイ内の特定の電極位置で重なり合うようにするステップを含み、そのことにより、電極アレイまたは音源を物理的に再配置することなく、選択した異なる電極の近傍にある層を調べることを可能にする、請求項1〜12のいずれか1項に記載の方法。
- 発生した音波信号を印加電位から分離することを可能にする適切な電気的カップリングを通じ、変化する電位を2つ以上の電極間に同時に印加し、発生した音波信号に対する効果をモニターするステップを含む、請求項1〜13のいずれか1項に記載の方法。
- 別の刺激、例えば熱、光、磁場、イオン化放射線などを与え、この別の刺激が測定する変化に与える効果をモニターすることによって電極表面またはそれに付随する層の特性を導出するステップを含む、請求項1〜14のいずれか1項に記載の方法。
- 印加する音波の波形の性質を変化させながら電気信号の測定を繰り返し、電極表面またはそれに付随する層に関する追加情報を得るステップを更に含む、請求項1〜15のいずれか1項に記載の方法。
- 化学的に受動的な変形可能層を1つ以上の電極表面に取り付けた後、調べる粒子層を付着させ、次いで印加する音波信号の周波数を切り換えることにより変形可能層を運動させ、元の粒子および/または後から付加される粒子の吸着と脱着を交互に促進するステップを含む、請求項15に記載の方法。
- 流体または流体と接触している表面の化学的特性および/または生物学的特性を検出するためのセンシング装置であって、
流体を収容する容器と;
この容器内のセンシング表面と;
この容器内の流体中で上記センシング表面のごく近傍において発生する電気信号または磁気信号を測定する検出器と;
音波を発生させてその音波を上記センシング表面に向ける音源と;
上記検出器に接続されていて、音波がセンシング表面のごく近傍にある流体にぶつかったとき、センシング表面のごく近傍にある流体内に発生する電気信号または磁気信号を測定する構成になった電気回路とを備える装置。 - 上記音源が、選択した1つ以上の電極に音波を集束させるための音波レンズを更に備える、請求項18に記載の装置。
- 上記流体と接触する別の電気化学的電極手段により、その流体を基準とした場合の上記1つ以上の電極の電位を更に導出する、請求項18または19に記載の装置。
- 上記電極が、各電極に付随するさまざまな材料または化合物に対して単一のサンプル流体が及ぼす効果に関する情報を同時に得られるようにした個別のアレイを更に含む、請求項18〜20のいずれか1項に記載の装置。
- 上記電極が、音波感受性材料を組み込んだ基板上の導電性コーティングを備え、その電極に存在する音波刺激による変化の測定値をほぼ同時に比較することが可能である、請求項18〜21のいずれか1項に記載の装置。
- 上記変化測定手段が電極に取り付けた受信器を備え、その電極に電気信号を印加できるようにされている、請求項18〜22のいずれか1項に記載の装置。
- 上記受信器が増幅器を備える、請求項23に記載の装置。
- 電極に存在する信号の成分を選択的に検出し、その信号から得られる情報を表示または記憶する、請求項18〜24のいずれか1項に記載の装置。
- 上記増幅器が、電流〜電圧変換器を含む第1の増幅器である、請求項24に記載の装置。
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