JP2004511232A - エビのアルカリホスファターゼ - Google Patents
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Abstract
(a)配列番号2のアミノ酸配列の全部もしくは意義を有する部分
(b)配列番号2のアミノ酸配列と少なくとも60%の配列同一性を有するアミノ酸配列の全部もしくは意義を有する部分、
を含む遺伝子組換えの熱不安定性アルカリホスファターゼに関し、
さらにそれらを製造する方法に関する。
Description
【発明の技術分野】
本発明は、酵素アルカリホスファターゼに関し、より具体的には、ホッコクアカエビ(Pandalus borealis)から誘導されるこの酵素およびそれをコードする核酸分子に関する。
アルカリホスファターゼ(E.C.3.1.3.1)、別名としてアルカリホスホモノエステラーゼ、ホスホモノエステラーゼまたはグリセロホスファターゼを持ち、アルカリ条件下で酵素至適活性を有するオルソリン酸モノエステルホスホヒドロラーゼである。アルカリホスファターゼ(ALP)基質の例としては、DNA、RNA、リボ−およびデオキシリボヌクレオシド3リン酸がある。その加水分解は、アルコールおよびオルソリン酸を生成する。換言すれば、ALPは、DNA、RNA、rNTPおよび dNTPを脱リン酸する。種々のALPによるタン白質の脱リン酸(dephosphorylation)もまた、報告されている。ALPは、自然界で広範囲に存在し、細菌から人間にわたる生命体に発見されている。複雑な生物は、通常、組織特異的および非特異的なALPを含有している。そのポリペプチドは、大きさにおいて15から170kDaで相違している。これらのタン白質のうち数種は、細胞膜に結合されまたは「固定(anchor)」されている。最も一般的には、該酵素は、Mg2+またはZn2+などの2価金属カチオンへの要求性を有している。
【0002】
分子生物学ではALPの現在の利用は、DNA分析または調製における3つの主要な適用に焦点が当てられているが、しかしこれらに限定されているものではない:
1) 制限酵素による消化後、クローニングベクターの自己連結を最小化するため、ベクターDNAの脱リン酸であって、これにより好都合よくインサート(insert)をベクターに連結し、組換え体構造物を構築すること。
2) プライマーをdNTPに加水分解する一本鎖エクソヌクレアーゼを併用するPCR増幅後のdNTPの脱リン酸であって、PCR産物の直接的DNA配列決定の前に、さらに不要物を除く必要性を省くこと。
3) [Y−32P]NTPおよびT4ポリヌクレオチドキナーゼを用いる32Pによる次のラベリングのためにDNA末端の脱リン酸。記載されたALP酵素反応は、DNA分析プロセスにおける中間ステップである。当業界で公知である他の重要な応用として、酵素結合免疫吸着剤アッセイ(ELISA)、遺伝子融合または遺伝子送達システム、あるいはハイブリダイゼーションプローブとして使用されるオリゴヌクレオチドへの接合などにおいて、酵素活性がリポーターとして使用されることが挙げられる。
【0003】
主な3ALPが、商業的に入手できる製品に使用されている;
1) 仔ウシ小腸アルカリホスファターゼ(CIAP)
ii) 北極小エビ、Pandalus borealisからのアルカリホスファターゼ(SAP)
iii)細菌性アルカリホスファターゼ(BAP)。
動物CIAPおよび SAP酵素は、50 ユニット/mg BAPタン白質と比較して、2000−4000 ユニット/mgタン白質の類似した比活性を有しており、このことは前者の2酵素を効率的な酵素としてより魅力的なものとする。SAP酵素は、以下に論じるように中程度の熱で不活性化することから、諸方法において後のステップに先行してあらかじめ酵素活性の除去を必要とするいくつかの応用に好適である。
【0004】
遺伝子組換えの温度感受性BAP 変異体が、その技術を記載する詳細が与えられることなく、報告されていた[Shandilya, H. および Chatterjee, D. K., 1995. DNAを脱リン酸するための組換え熱感受性アルカリホスファターゼ,Focus, 17 (3):93−95]。この変異体酵素(TsAP)は、ライフテクノロジー(LifeTechnologies)社により販売され、これはEDTAのみの存在下に、熱(65℃で15分間)によって、不活性化(95%以上)される。該変異体および野生型酵素の推奨反応温度も、また65℃である。TsAPは、野生型BAPよりも少なくとも40倍より高い活性を有している。高い比活性に関しては、TsAPは、CIAPおよびSAPなどといった他のALPとほぼ匹敵している。
【0005】
好冷性の微生物からの2種の熱不安定 ALPが精製され、同定されている[de Prada, P.およびBrenchley, J. E., 1997, 好冷性のアルスロバクター(Arthrobacter)分離菌からの2種の細胞外アルカリホスファターゼの精製および同定。Appl. Env. Microbiol., 63 (7):2928−2931]。基質特異性および速度論的特性に関して相違する酵素は、異なる熱不安定性を示し、そのうち最も不安定なものは、SAP 酵素不安定性に類似していた。ユニット/mgタン白質単位の比活性および一次構造は何ら報告されなかった。
【0006】
大西洋のタラから低温適応性ALPが分離され、同定された[Asgeirsson, B., Hartemink, R.およびChlebowski, J. F., 1995, 大西洋タラ(Gadus morhua)からのアルカリホスファターゼ。低温への適応を示す速度論的および構造的特性。Comp. Biochem. Physiol., 110B(2): 315−329]。酵素はSAPと同様の熱安定性を示した。タン白質/遺伝子の一次構造オは何ら提供されていなかった。
【0007】
マスからのALPアイソザイムに関する研究 [Whitmore, D. H.およびGoldberg, E., 1972, マス腸内アルカリホスファターゼII。インビトロおよびインビボにおける酵素活性への温度効果。J. Exp. Zool., 182: 59−68] は、環境の温度がアイソザイムパターンに影響すること、およびあるイソ型は熱不安的性であることを示した。
【0008】
台湾外側の暖水域からの小エビ(shrimp)は、いくつかのALPsを含み [Lee, A.−C.およびChuang, N.−N., 1991, ウシエビPenaeus monodon(Crustacea:Depacoda)からの肝膵臓(hepatopancreas)におけるアルカリホスファターゼの異なる分子形態の同定。Comp. Biochem. Physiol., 99B (4): 845−850]、それらの酵素は熱安定であることが結論づけられていた。一次構造は提供されなかった。
【0009】
北極小エビ、ホッコクアカエビ(Pandalus borealis)肝膵臓からのアルカリホスファターゼ活性が、小エビ産業からの処理作業排水中に含まれていることを見出され[Olsen, R. L., Johansen, A.およびMyrnes, B., 1990, エビ廃棄物からの酵素回収。Process Biochem. 25: 67−68]、およびその酵素は、後に肝膵臓から精製された[Olsen, R. L., Onerbo, K.およびMyrnes, B., 1991, 小エビ肝膵臓からのアルカリホスファターゼ: 触媒活性のあるサブユニットを備えた二量体酵素。Comp. Biochem. Physiol. 99B (4): 755−761]。この精製タン白質は、65 kDa (各サブユニット)の見かけの分子量を有し、しかも触媒活性のあるサブユニットを備えた二量体酵素であったが、これに対し、大抵の他の動物ALPは、活性のために二量体化を要求する。上記の報告によれば、SAPは3.7の等電点を有している。小エビ酵素は、制限エンドヌクレアーゼによって生成する任意のDNA鎖末端(5’および3’オーバーハングまたは平滑末端)から、末端5’リン酸を効率的に除去する。もっとも5’突出末端は、平滑末端または5’後退末端よりもより反応的である。
【0010】
CIAPと比較して、SAP酵素は、活性にはより低温側に僅かなシフトを有するが、真に低温活性があるとは考えられない。約40℃(CIAPに対して45℃)での最大酵素活性について、10℃または50℃でほぼ40%もの活性が残っているが、これと比較してCIAPについてはそれぞれ10%および90%である。最大活性の温度は、40℃に近いが、SAP酵素は、37℃を越えて15分間、プレインキュベートすると活性を失い始める。65℃でのプレインキュベーション後、SAP活性は95%以上低下し、その活性は、70℃でのプレインキュべーション後は検出されない。対照的に、同じ熱処理の後、CIAPはその活性の40%および20%が残っている。
【0011】
したがって、その商業的競争相手に関して、SAP酵素は熱不安定かつ低温活性であり、したがって多段階の実験室プロトコルでの利用にSAP酵素をとりわけ好適なものとする。該プロトコルでは、簡単な熱処理工程で該酵素を失活させ、その先の方法ステップでは何ら役割を果たさないようになる。
BIOTEC ASA( Tromso, ノルウェー)は、小エビ産業排水から商業的にSAP酵素を製造している。トロール船上で、集められた新鮮な小エビ(shrimp)は、大きなブロックに冷凍される。陸揚げされて、それらの小エビは、注意深く再循環される冷水で解凍される。約1000 lの水が、4000kgの小エビに使用される。冷凍および解凍過程の間に、小エビ肝膵臓は破壊され、その内容物が水中に放出される。ついで、この排水は濃縮され、さらにいくつかのクロマトグラフィー工程が、SAP酵素の精製のために使用される。
【0012】
製造業者は、SAPを世界市場に、USB、Boehringer− Mannheim または Amersham Pharmacia Biotechなどの著名な会社を通じて供給する。
その高い比活性、DNA末端についてのその「汎用性」、ならびにその相対的な温度不安定性のために、SAPは、連結反応に先立つクローニングベクターの脱リン酸に、ならびにDNA配列決定に先立つPCR増幅産物の混合物処理に、米国特許第5,741,676号および 第5,756,285号に記載されているように、高い頻度で使用される。
【0013】
SAPの現在の生産は、生産能率にも影響を及ぼす排水の質の変化に苦慮している。二つの要因がこの変動を惹き起こしている;
i)小エビにおける酵素生産の自然な季節変動;および
ii)冷凍前または冷凍中の小エビ資源のハンドリング、および解凍過程の時またはその後の小エビまたは水のハンドリング。
【0014】
排水の将来的な利用についても懸念がある;
i)天然資源として、小エビが常に利用できるということは保証されない、および
ii)小エビ産業が、現在、可能な新しい小エビの冷凍法、すなわち単一の冷凍を調査しており、そこからの排水がSAPといった少量の酵素を含むのか、試験が行われている。
【0015】
これらの実用的な問題に加えて、マーケットには遺伝子組換えSAP製品への需要がある。遺伝子組換え製品が頻繁に分子生物学の諸技術において好まれているためである。特に、製品の純度が、たとえばDNAに基づく治療の提示または法廷科学において、問題となる。SAPは、極めて有利な酵素的および 物理化学特性を有しており、有用となる実験室プロトコルには好適な酵素である。このため、均一かつ純粋な態様で製造される、SAPの合成または組換え体の供給源に対し、顕著な必要性がある。しかしながら、SAPのDNAまたは アミノ酸配列は、未だに解明されていない。
【0016】
遺伝子を分離するため、続いてクローンを作り組換え体SAPを製造することを目的として、いくつかの計画が、精製タン白質のN末端配列を得るために企てられている。これまでこれらの計画はなにも成功していない。配列解析からは、それぞれ特定のN−末端位置で複数(4以上)の代替アミノ酸が明らかとなっている。したがって、SAP遺伝子を探すために、高度に縮重したオリゴヌクレオチドプローブをもってしても、利用に応えるタン白質の配列情報が得られていない。見かけ上均一である酵素標品における、非相同的なN末端の理由は、想像の域でしかない。SAPイソ型は、おそらく異なる遺伝子により、別個のスプライシングにより、またはタン白質の可変的な翻訳後修飾によって生成されるかも知れないし、あるいはSAPが分子量の検出できるほどの減少を伴うことなくプロテアーゼによってN末端で攻撃されることも可能である。
【0017】
また、本発明者らによって、北極小エビのホッコクアカエビの肝膵臓からのアルカリホスファターゼと、すでに配列決定された種からのアルカリホスファターゼとの間における限定的な相同性は、ホッコクアカエビからのアルカリホスファターゼをコードする核酸配列の定式的な分離を妨げていることも見出された。
SAPの一貫したコンセンサスアミノ酸配列を得ることは現実には困難であるにもかかわらず、本発明者らは、驚くべきことにホッコクアカエビ cDNAライブラリーからSAPをコードするcDNAを単離することができ、これによりSAPをコードする配列を解明することができた。本発明は、SAP cDNAを提供すること、ならびに該酵素の代替源を提供する際のその使用に関する。
【0018】
配列番号1(SEQ ID No.1)の配列は、5’末端での小部分を引いた酵素の全長cDNA配列に相当する。それにもかかわらず、この配列を含む核酸分子の発現産物は、天然(native)酵素の活性のすべてまたは少なくとも意義を有する部分(すなわち、少なくとも60%、70%、80%または通常少なくとも90%)を有すると信じられている。この配列から消失しているN末端のいくつかのアミノ酸は、基質または補欠因子への結合部位を含んでいない。
【0019】
以下、本明細書では、SAP または熱不安定アルカリホスファターゼの言及は、自然界にあるALPよりも小さいが、同一または実質的に同一活性を有する分子に及ぶものとする。有利なことには、本発明に係る発現産物および他の遺伝子組換えALP酵素は、単離された天然酵素よりも大きい活性を有している。好適には、比活性は、SAPについて公表された数値の1900Umg−1よりも高い。酵素活性に好適な試験は、本明細書に記載されている[Olsenら]。
【0020】
したがって、一つの態様として、本発明は、配列番号1で示されるヌクレオチド配列を含む(好ましくは実質的に構成される)か、または、該ヌクレオチド配列と少なくとも55%の配列同一性を有するヌクレオチド配列、および/または中程度のストリンジェンシー条件下で配列番号1の相補的配列とハイブリダイズすることが可能なヌクレオチド配列、または前記各配列の相補的配列を含む(単離された)核酸分子を提供することにあり、ここで前記ヌクレオチド配列は、熱不安性アルカリホスファターゼをコードしている配列をコードするか、またはその配列と相補的である。
【0021】
本発明に係る核酸分子は、単一鎖または二重鎖DNA、cDNAまたはRNAであってもよい。
本発明の核酸分子は、単離された核酸分子であってもよく(換言すれば、自然界で通常見つかる成分から単離または分離される)、または、遺伝子組換えまたは合成の核酸分子であってもよい。
【0022】
本明細書では、実質的に配列番号1の配列およびその変異体からなる配列に、言及がなされる。したがって、いずれか一方の末端におけるフランキング領域もまた存在していてもよい。特に、1から81 ヌクレオチドまたは 1から60 ヌクレオチド、とりわけ1から30ヌクレオチドの5’フランキング領域が存在していいてもよい。これらは、転写/翻訳の間において酵素の活性成熟形態のプロセッシングを指示するシグナル配列を組み込んでもよい。3’フランキング領域は通常、1〜60、たとえば1〜30の付加ヌクレオチドを含むであろう。
【0023】
所定配列の相補体(complement)は、塩基対形成の通常規則にもとづいて決定され得る単一の正確な配列となるであろう。
好ましくは、上記ヌクレオチド配列は、配列番号1もしくはその相補体と、少なくとも65%、より好ましくは少なくとも75%、たとえば少なくとも85%または少なくとも95%の配列同一性を、有するであろう。同様に、該ヌクレオチド配列は、高ストリンジェンシー条件下で配列番号1もしくはその相補体と好ましくはハイブリダイズするであろう。本発明はSAPに対するアミノ酸配列 およびcDNA配列の同定に基づく一方で、これらの配列の変異体、具体的にはアレル変異体、ならびに単一もしくは多重の塩基の置換、付加、または欠失により改変された関連配列が存在するか、または産生され得るものであり、これらの配列が、新たに同定される配列と機能的に等価であることは、当技術分野では、よく理解されている。
【0024】
本発明の特に好ましい態様は、熱不安定性の真核生物アルカリホスファターゼ、好ましくは小エビに由来する該酵素および該酵素誘導体をコードする、単離された核酸分子である。これらの誘導体は、自然界にある酵素のアミノ酸が、たとえば大きさ、親油性および極性について同様の機能的特徴を有するアミノ酸によって置換されてもよい意味においては、保存的なアミノ酸置換を含んでいてもよい。アミノ酸のこのような機能的に関連する基は、その分野の当業者によって理解される。さらには酵素の触媒活性に重大な影響を及ぼさなければ付加、欠失または置換もまた含まれていてもよい。天然の酵素と比較して、通常、酵素誘導体は1〜50、好ましくは1〜30、たとえば1〜15の非保存的な変更を有するであろう。
【0025】
「機能的等価」とは、アルカリホスファターゼ活性を有するもので、好適にはホッコクアカエビ処理排水から単離された天然酵素と比較して同等またはそれ以上の比活性のポリペプチドをコードする核酸配列(またはポリペプチド自体)を意味する。換言すれば、機能的に等価な核酸配列は、たとえば制限エンドヌクレアーゼによって産生されるDNA鎖末端(5’および3’オーバーハングまたは平滑末端)から、末端5’リン酸基の除去を触媒することができるポリペプチドをコードする。
【0026】
アルカリホスファターゼをコードするヌクレオチド配列における変化は、種内のホッコクアカエビの異なる集団の間、異なる地理的起源の同じ集団の間および同一の生物体内において生じることがある。かかる変化は、本発明の範囲に含まれている。
ストリンジェンシーのレベルを定義する目的で、中程度のストリンジェンシーは、0.2 x SSC〜2 x SSC緩衝液、0.1% (w/v) SDS、42℃〜65℃で行われたハイブリダイゼーションおよび/または洗浄を含み、その一方で、高ストリンジェンシーは、0.1 x SSC〜0.2 x SSC緩衝液、0.1% (w/v) SDS、少なくとも55℃の温度で行われたハイブリダイゼーションおよび/または洗浄を含む。ハイブリダイゼーションおよび洗浄の諸条件は、当業者には周知である。
【0027】
本発明の範囲には、高ストリンジェンシー条件下、配列番号1もしくはその相補体またはそれらの部分(すなわち配列番号1に由来するハイブリダイゼーションプローブ)にハイブリダイズするヌクレオチド配列、および好適にはアルカリホスファターゼ酵素またはその部分をコードする配列をコードするか、それに相補的であるヌクレオチド配列が含まれる。高ストリンジェンシーの条件は、当業界で周知の技術により、たとえばSambrookら、「分子クローニング、実験質マニュアル」(第2版)1989年に記載されているように簡単に決定することができる。本発明の範囲に含まれるハイブリダイズする配列とは、非ストリンジェントな条件(6 x SSC/50% ホルムアミド、室温)で結合し、および高ストリンジェンシーの条件下(たとえば0.1 x SSC, 68℃)で洗浄されるものである。なおSSCとは、0.15 M NaCl、0.015Mクエン酸ナトリウム、pH7.2を表す。
【0028】
ハイブリダイゼーションプローブは、配列番号1 配列(または相補的配列)の一部分であってもよく、高ストリンジェンシーの条件下においてハイブリダイゼーションが起こるかどうか決定するため、サンプルあるいは被験の核酸配列に対してハイブリダイズするのに充分な塩基の長さおよび組成となっている。したがって、プローブは、長さが少なくとも、15塩基、好ましくは長さが少なくとも30、40、50、75、100または200塩基である。代表的なプローブの長さとして、30〜500塩基、たとえば30〜300、50〜200、50〜150、75〜100が挙げられる。
【0029】
ヌクレオチド配列の同一性は、Wisconsin大学からのGenetics Computer group (GCG) バージョン10 ソフトウェア・パッケージのBestFitプログラムを用いて決定される。そのプログラムは、次のデフォルト値を有する、SmithおよびWatermanの局所相同性アルゴリズムを用いる:ギャップ 生成ペナルティ(penalty)=50、ギャップ 伸長ペナルティ(penalty)=3、平均マッチ=10,000、平均ミスマッチ=−9.000。
【0030】
本明細書に示される特定配列の変異体を作成する方法、たとえば部位特異的突然変異、ランダム突然変異、または酵素的開裂および/または核酸の連結は、よく知られた技術であり、同様に周知であるのは、こうして改変された核酸が、対象の配列に対し、著しい相同性を有するかどうかを決定するための方法、たとえばハイブリダイゼーションである。
【0031】
代わりの視点から、本発明は、熱不安定アルカリホスファターゼをコードする配列をコードするか、それに相補的である単離された核酸分子を提供し、前記アルカリホスファターゼは、配列番号2のアミノ酸配列、あるいはそれに対し少なくとも50%、好ましくは少なくとも60%、たとえば少なくとも70%または80%、同一である前記アミノ酸配列の変異体のアミノ酸配列を含む。
【0032】
また、本発明は、cDNA、好ましくはホッコクアカエビに由来するcDNAであり、図2のアミノ酸配列(配列番号2) を含む熱不安定アルカリホスファターゼをコードするか、あるいはそれの変異体またはフラグメントであって、熱不安定のアルカリホスファターゼ活性を有するものをコードするcDNAを提供する。
本発明は、さらにcDNA、好ましくはホッコクアカエビに由来するcDNAであり、配列番号2のアミノ酸配列に対して、1以上のアミノ酸残基が失欠されているか、置換されているか、または付加されているアミノ酸配列からなる熱不安定アルカリホスファターゼをコードするcDNAを提供する。
【0033】
本発明のさらなる態様は、本明細書で定義される核酸分子によってコードされるポリペプチドを提供することである。したがって、本発明による核酸分子の提供は、組換え体アルカリホスファターゼ酵素、特にSAPおよびその変異体を、これまで入手できなかった多量かつ純度で得ることを可能とし、これによって、全体として制御された条件下で製造できる、あるいは常に指定された保証可能な条件によって製造できる形態で、該酵素の持続的供給が可能となる。
【0034】
したがって、また、本発明は、図1(配列番号1)に示されるヌクレオチド配列または機能的に等価なその変異体によってコードされる熱不安定アルカリホスファターゼ酵素を構成するアミノ酸配列を含む(または実質的に該配列からなる)遺伝子組換えポリペプチドにも及ぶ。別の観点から、また本発明は、図1(配列番号1)に示されるヌクレオチド配列または機能的に等価なその変異体によってコードされた熱不安定アルカリホスファターゼ酵素を構成するアミノ酸を配列に含み、実質的に他のホッコクアカエビ成分を含まない組換えポリペプチドを提供する。
【0035】
本明細書で使用される用語「ポリペプチド」は、全長のタン白質およびこれより短いペプチド配列の両方を含む。
ポリペプチドアミノ酸配列に関連して上記で使用された「機能的に等価」とは、そのアミノ酸配列が単一のまたは多重のアミノ酸の置換、付加または失欠によって改変されている上記のポリペプチド配列、ならびにアミノ酸がまた化学的に改変されている(グリコシル化または脱グリコシル化を含む)配列、それにもかかわらず触媒活性が残っている配列に関係するものであるか、またはそれから誘導されるポリペプチドを定義するものである。かかる機能的に等価な変異体は、自然界の生物的変異として生じてもよく、あるいは公知の手法、たとえば機能的に等価な組換えポリペプチドは、位置特異的突然変異、ランダム突然変異、または酵素的開裂および/またはアミノ酸の連結といった公知の手法を用いて製造することができる。
【0036】
本発明のこの態様による合成ポリペプチドは、発現制御配列または組換えDNA分子を含む組換えDNAクローニングビヒクルもしくはベクター(たとえばプラスミド、コスミド、バクテリオファージ分子または酵母人工染色体)に作動的、すなわち作用可能であるように結合している、上記に広く記載されたヌクレオチド配列を含む組換えDNA分子を含む宿主細胞中での発現によって調製することが可能である。その代替法として該ポリペプチドは、本発明に係る裸のDNA分子を直接宿主細胞に注入することによって発現させてもよい。
【0037】
そのようにして発現された合成ポリペプチドは、アルカリホスファターゼ酵素の触媒として機能する部分ならびにそれに融合した組換え分子のDNAによりコードされる付加ポリペプチドとを含む融合ポリペプチドであってもよい。たとえば、β−ガラクトシダーゼ、ホスファターゼ、グルタチオン−S−トランスフェラーゼ、ウレアーゼなどといったタン白質に連結した、本発明の合成アルカリホスファターゼまたは他のポリペプチドを含む融合タン白質を製造することは望ましいかもしれない。大抵の融合タン白質は、同時に2個のコード配列が読み取り枠に一緒に加わっている組換え遺伝子の発現によって形成される。また、本発明の合成ペプチドを、リガンド結合機能を有するタン白質またはペプチド、たとえば抗体に融合して、当該技術分野で周知のように、たとえば酵素結合レポーター抗体(enzyme−linked reporter antibody)を産生することも望ましいであろう。アルカリホスファターゼをコードする核酸分子の融合またはハイブリッドの誘導体およびその各々のアミノ酸配列は、すべて本発明に包含される。そうした好適な組換えDNAおよびポリペプチドの発現手法は、たとえばSambrook ら(1989年)に記載されている。また代わりに、本発明のポリペプチドは、よく知られたメリフィールド固相合成製造法などの化学的手段で製造してもよい。
【0038】
より具体的には、本発明のこの態様は、以下を含む(または実質的に以下からなる)組換えポリペプチドを提供する:
(a)配列番号2に示されるアミノ酸配列のすべてまたは部分、または
(b)配列番号2のすべてまたは部分と少なくとも60%の配列同一性を有するアミノ酸配列のすべてまたは部分。
【0039】
用語「遺伝子組換え」は、天然ポリペプチドからこれらの分子を区別し、ならびにそれらの分子が「遺伝子組換えDNAテクノロジー」(当該技術分野で良く知られたフレーズ)を用いて産生されることを意味する。配列番号2のアミノ酸配列を有する酵素は、ホッコクアカエビにある天然型酵素の切断型(truncated version)であると信じられている。したがって、仮に対応する核酸が組換え体生産に使用されても、製造された組換え酵素は、いずれにせよ非組換えの自然に産生された分子と同一ではない。
【0040】
特に、アミノ酸配列は、配列番号2のポリペプチドと少なくとも65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%または98%の同一性を示してもよい。あるいはアミノ酸配列は、配列番号2のポリペプチドと少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%または98%の相似性を示してもよい。
特に、変異はN末端で起きてもよい。また、本発明のポリペプチドは、N末端で、さらに4〜20個、たとえば5〜10個のアミノ酸を含んでいてもよい。また、配列番号1の不完全なcDNA配列は、配列番号2のアミノ酸配列に相当するが、残基7、アスパラギン酸でのみ始まっていることにも注目されるべきである。組換えポリペプチドにおいて、アミノ酸の変動、特に、置換は、図2に示された配列と対比して、これら最初の6 アミノ酸において生起するかも知れない。さらに、図2のN末端であるリジン残基は、アルギニンにより置換されていてもよい。
【0041】
配列番号 2のアミノ酸配列に対応するcDNA配列は生成し得るが、これは5’末端で誘導されたヌクレオチド配列と配列番号1とから構成される。また、この領域もまた、大部分は、配列番号7の順方向プライマーによって提供され、それ自体は天然SAPの配列決定されたフラグメントから誘導される。遺伝コードの縮退のため、アミノ酸KAYWNKから、AArGCnTAyTGGAAyAAr [配列番号 19](式中、r=AまたはG、n=T、C、AまたはG、およびy=CまたはT)よりもさらに正確な配列を特定することはできない。配列番号 19および配列番号 1を含む配列番号 2に対応する完全長cDNA配列は、本明細書では配列番号 20として記載される。
【0042】
しかしながら、実施例4の一部として行われた配列決定作業は、ホッコクアカエビ・アルカリホスファターゼの完全長cDNA配列を確立させた。したがって、配列番号19に関して上記に論じた不確実さは解決され、KAYWNKをコードするcDNAは以下の通りである:AAAGCATATTGGAACAAA[配列番号 21]。
この配列は、配列番号15内において配列番号 19にとって代わり、アミノ酸配列、NPITEEDをコードする配列番号17の部分とともに、組換え酵素をコードする正確なcDNA配列を形成することができる。この完全配列は配列番号22として言及される。
【0043】
アミノ酸配列の同一性または類似性は、Wisconsin大学からのGenetics Computer group (GCG) バージョン10、ソフトウェア・パッケージのBestFitプログラムを用いて決定される。そのプログラムは、次のデフォルト値を有するSmith および Watermanの局所相同性アルゴリズムを用いる:ギャップ形成ペナルティ (penalty)=8、ギャップ伸長ペナルティ(penalty)=2、平均マッチ=2.912、平均ミスマッチ=−2.003。
【0044】
上記に定義されるように、配列番号2のアミノ酸配列の一つの「部分」もしくはその変異体は、少なくとも20個の隣接アミノ酸、好ましくは少なくとも30、40、50、70、100、150、200、300、400または450個の隣接アミノ酸を含んでもよい。200個を超えるアミノ酸を有する部分、特に300個を超えるアミノ酸を有する部分は、「意義を有する部分(significant parts)」であると考えられ、そうした部分は、通常、本明細書で同定されるような酵素活性部位、さらに好ましくは補助因子の結合部位を有している。
【0045】
組換えポリペプチドは、上記の定義によれば、好ましくは機能的に活性であり、具体的には酵素的活性がある。あるいは、それ自体は機能的に活性がなくてもよいが、全体のうち機能的特性を有する領域を提供すればよく、たとえば活性部位または酵素活性に要求される補助因子の結合部位を示せばよい。
先に論じたように、配列番号1 および 配列番号2は、天然SAPの完全なcDNAまたはアミノ酸配列に対応しない。天然SAPと同一または実質的に同一の酵素活性を示し、ならびにその酵素の熱不安定性を残した切断ポリペプチド(truncated polypeptides)が、本発明の別の態様を構成する。完全なcDNA分子、またはここで定義される切断配列または機能的に等価なその変異体を組み込んだ組換えポリペプチドは、本発明のさらなる好ましい態様を構成する。
【0046】
本発明の他の態様によれば、SAPと同じまたは実質的に同じ触媒活性および熱的特性を有すが、しかし、そのアミノ末端領域の部分を欠失しているポリペプチドが提供される。好ましくは、これらのペプチドは、N末端アミノ酸ならびに天然酵素においてそのアミノ酸に隣接する2〜50個、好ましくは5〜30個、具体的には5〜10個のアミノ酸を欠失している。「実質的に同じ触媒活性」とは、ポリペプチドが少なくとも75%、好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも 90%の天然SAPの活性を有していることを意味する。これらの欠失したN末端部分を除けば、ポリペプチドは、配列番号 2のポリペプチドと、好ましくは、少なくとも60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%または98%の同一性を有している。
【0047】
本発明によれば、触媒活性が65℃で15分間、好ましくは10分間プレインキュベーションした後に検出されなければ、アルカリホスファターゼは熱不安定であるとみなすことは可能である。
本発明の酵素の触媒活性に好適なアッセイは、Olsenらのアッセイに従う。[R. L. Olsen, K.overboおよびB. Myrnes(1991) 小エビ(ホッコクアカエビ)肝膵臓からのアルカリホスファターゼ: 触媒活性のあるサブユニットを有する二量体酵素、Comp. Biochem. Physiol., 998: 755−761]。アルカリホスファターゼ活性は、酵素を、全容量0.5 ml中、37℃で1 mM MgCl2および 1 mM ZnCl2 を有する0.1 M グリシン/NaOH緩衝液 pH 10.4中で、6 mM p−ニトロフェニルリン酸とともにインキュベートすることで決定される。15分後、反応は0.5mlの2M NAOHによって止め、次いで放出されたp−ニトロフェノール量を405nm(ε405=18.5mM−1cm−1)での吸収を測定することで決定される。酵素活性の1ユニットは、1分あたり1μモルのp−ニトロフェノールを生成する。SAPは、亜鉛によって悪影響を受けず、また最小濃度を越えてマグネシウムの著しい要求性はない。
【0048】
また、SAPの触媒特性を保持しているかまたは発揮するものの、熱安定であるタン白質、たとえば70℃で15分加熱した後に活性が完全に喪失することがないタン白質をコードするか、またはそれを含む配列番号 1または配列番号 2の変異体も、本発明の範囲であると考えられる。
また、本発明によれば、本発明のヌクレオチド配列を含む核酸分子を別の核酸分子、たとえばベクター核酸、具体的にはベクターDNAに挿入することを含む、遺伝子組換え核酸分子を調製する方法もまた提供される。
【0049】
したがって、本発明はさらに本発明のcDNAのいずれか1つを含むDNAフラグメントを有するベクターDNAである、組換えベクターを提供する。
組換えベクターでは、ベクターDNAは好ましくは発現ベクターであり、および大腸菌(Escherichia coli)、酵母(Saccharomyces cerevisiae)または Pichia pastorisなどの宿主細胞において増殖する能力がある。
【0050】
本発明の発現ベクターは、たとえば翻訳(具体的には開始および終結コドン、リボソーム結合部位)ならびに本発明の核酸分子と整合読み取り枠において連結した転写調節エレメント(たとえばプロモーター−オペレーター領域、ターミネーション停止配列)などの適切な調節配列を含んでいてもよい。
本発明に係るベクターは、公知であり文献に記載された手法により、プラスミドおよびウィルス(バクテリオファージおよび真核生物ウィルスの両方を含む)を含んでいてもよく、さらに公知であり技術分野で記載された手法により、多数の異なる発現系において発現されるものであってもよい。
【0051】
このようなベクターを、発現のために原核細胞もしくは真核細胞へ導入し、そしてトランスジェニック動物を得るために生殖細胞もしくは体細胞へ導入するための種々の技術が知られており、これらの技術を用いることができる。トランスフォーメーションもしくはトランスフェクションについての適切な技術は文献に詳細に記載されている。
【0052】
作動的に、すなわち作用可能であるようにプロモーター配列と結合した、ここに定義された本発明の核酸分子を含む遺伝子構築体は、本発明のさらなる側面を構成する。
また、本発明はトランスフォームもしくはトランスフェクトされた宿主の原核細胞もしくは宿主の真核細胞、または上記において定義した本発明の核酸分子を含有するトランスジェニック生物を包含する。本明細書において、便宜のためトランスフォーメーションとトランスフェクションとの区別はしないこととする。このような宿主細胞として、例えば大腸菌、ストレプトミセスおよび他の細菌といった原核細胞;酵母(例えば Pichia pastoris)もしくはバキュロウイルス−昆虫細胞系、トランスフォームされた哺乳類細胞およびトランスジェニック動物もしくはトランスジェニック植物のような真核細胞が挙げられる。このうち、宿主原核細胞が望ましい。
【0053】
このように、本発明は、本発明の組換えベクターでトランスフォームされた細胞である形質転換体を提供する。
さらなる側面において、本発明は、配列番号1もしくは配列番号20に示されるヌクレオチド配列、またはそれらと機能的に等価な変異体(本明細書に定義される)のヌクレオチド配列を含む核酸分子を有し、熱不安定性アルカリホスファターゼを発現する、あるいは発現することができる組換え細胞もしくは組換え生物を提供する。これらの細胞もしくは生物は、その生物が本来有していない遺伝物質(この場合では熱不安定性アルカリホスファターゼをコードする遺伝物質)を含むという点で「組換え体」である。したがって、小エビPandalus borealisの場合には、熱不安定性アルカリホスファターゼを発現するけれどもこの遺伝子がその種において天然に見出される理由から除外される。
【0054】
別の見方をすれば、熱不安定性アルカリホスファターゼを発現する細胞もしくは生物は、このような遺伝子型および表現型の細胞もしくは生物が天然には存在しないことから、「修飾されている」とみなすことができる。したがって、これらの細胞もしくは生物は、その中に本来有していない遺伝物質が存在することにより、そして天然由来のこれらの種もしくは細胞タイプからは生成されないタン白質(熱不安定性アルカリホスファターゼ)を生成する能力により、「非天然」的に生起する細胞もしくは生物と称することもできる。
【0055】
上記の細胞もしくは生物は、これらもしくはこれらの先祖が、本明細書に記載するこの熱不安定性アルカリホスファターゼをコードする遺伝物質を導入することによりトランスフォームされていることから、形質転換体と称することもできる。
また、本発明は他の形質転換体、すなわち組換えベクターでトランスフォームされた大腸菌もしくはサッカロミセスを提供する。細菌、酵母および他の培養細胞の好適な発現株は、当業界では公知である。
【0056】
また、本発明は、本発明の形質転換体を培地で培養し、培養された形質転換体からアルカリホスファターゼを単離することを含む、熱不安定性アルカリホスファターゼを産生する方法を提供する。さらに詳しくは、本発明は、配列番号1もしくは配列番号20のヌクレオチド配列、または該ヌクレオチド配列と少なくとも55%の配列同一性を有するヌクレオチド配列、および/または中程度のストリンジェンシー条件下で配列番号1もしくは配列番号20の相補的配列とハイブリダイズすることが可能なヌクレオチド配列、または前記各配列の相補的配列を含む発現ベクターで、宿主細胞をトランスフォームし、該細胞を培地で維持し、前記細胞で発現された熱不安定性アルカリホスファターゼを単離することを含む、熱不安定性アルカリホスファターゼを製造する方法を提供する。細胞培養の手法は従来からよく知られており、これらの手法によれば、通常は宿主細胞が増殖され、同時にまたはそれに続いてALP遺伝子が発現する。遺伝子生成物は細胞内部もしくは細胞外部に集積する。このようにして産生したタン白質を回収して精製する方法は、従来からよく知られている。
【0057】
また、さらなる研究が行われ、正確な配列情報を洗練した。この結果として改訂されたcDNAとタン白失配列における変更は僅かであった。改訂cDNA配列を図4に示し、この配列を配列番号15とする。図7で配列を比較して示したように、追加の5’配列が導入されるとともに(これと等価なアミノ酸配列、その配列は常に配列番号2に存在していた)、9個のヌクレオチドを欠いている。比較の結果、これらの配列は99.4%が同一であった。
【0058】
タン白質レベルでは、訂正の結果、タン白質の小さい部分で読み取り枠に変化を生じたために、やや大きい変更がある。改訂されたアミノ酸配列を図5に示し、この配列を配列番号16とする。元のアミノ酸配列との比較を図8に示した。比較の結果、これらの配列は約96%が同一であった。
かくして、上記の配列番号1および配列番号2へのすべての参照は、それぞれ配列番号15および配列番号16へと置き換えられる。本発明の好ましい態様を含んでいるこれらの配列は、すでに記述された。
【0059】
さらに、SAPの完全なcDNA配列が最近解明され、これにより全体の分子が配列番号17に相当しており(それに配列番号15が続く)、SAPの完全なアミノ酸配列(シグナル配列を足した)が配列番号18に相当する(それに配列番号2もしくは配列番号16が続く)。配列番号18の47個のアミノ酸のうち、最後の7個のアミノ酸(NPITEED)あるいはこれらのいくつか、例えばPITEEDもしくはTEEDは、成熟SAPタン白質のN末端に見出されると信じられている。残りのアミノ酸はシグナルポリペプチドであると考えられる。これらの配列を有する分子は、本発明のさらなる側面を構成する。本発明の好適な態様において、組換えアルカリホスファターゼは、それらのN末端にアミノ酸配列NPITEEDを有している。
【0060】
【実施例】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。
【0061】
【実施例1】
SAPタン白質の配列決定およびSAP遺伝子の単離
<タン白質の単離、フラグメンテーションおよび配列分析>
小エビアルカリ性ホスファターゼ(SAP)を、前記文献(R. Olsenら, 1991)に記載された方法により見かけ上均一性をもつまで精製した。0.1%のSDSを含む50mMの2−(N−モルホリノ)エタンスルホン酸の泳動緩衝液を用いて、10%NuPAGE Bis−Trisゲル・システム(Novex社)中で電気泳動を行った後、銀染色と同様にクーマシー(coomassie)でも約55kDaの単一のタン白質バンドが検出された。
【0062】
精製タン白質1mgを凍結乾燥して、商業的な配列分析サービス(Innovagen社、スウェーデン)へ委託した。このタン白質は委託先でトリプシン分解され、得られたフラグメントは逆相HPLCで分離された。30以上のフラグメントが生成し、このうち4つのフラグメントを選択してさらに分析を行った。選択したフラグメント(H23:18、H23:30、5ReRP6:26、5ReRP6:17)を、質量分析法により配列分析した結果、それぞれ12個、10個、8個および5個のアミノ酸からなる配列が得られた。
<タン白質フラグメントの配列から導かれるオリゴヌクレオチドの合成>
得られたアミノ酸配列に基づいて基準コドンを予測し、次いで順方向(forward)および逆方向(reverse)相補的配列の縮重したオリゴデオキシリボヌクレオチドを発注(Eurogentec社、ベルギー)して合成した。
<小エビcDNAの合成>
新たに捕集した小エビ、ホッコクアカエビ( P. borealis) を裁断して、個々の肝膵臓を使用時まで液体窒素上で貯蔵した。PolyATract(登録商標) SYSTEM 1000(Promega社)を用いて、mRNAを単一の肝膵臓から単離した。この単離mRNAを用いて1stストランドcDNAを合成し、次いで2ndストランド合成とcDNAの増幅を、Smart(登録商標) PCR cDNA 合成キット(Clontech社)およびAdvantage cDNA PCR キット(Clontech社)において与えられた指示に従って行った。
<SAP遺伝子内部フラグメントのPCR増幅および配列分析>
合成したcDNAの少量アリコート(aliquot)は、タン白質から導出されたオリゴヌクレオチドの一対の組合わせ(順方向および逆方向)によりプライムされるPCRのテンプレート(鋳型)として用いた。増幅反応は、標準的な混合の組成を有しており、Eppendolf gradient thermocycler で行われた。PCR産物は、アガロースゲル電気泳動の後に検出された。オリゴヌクレオチド17Fと26Rとを組み合わせたプライマーにより、約600bpの顕著な増幅産物が得られ、これはThermo Sequenase radiolabelled terminator cycle sequencing キット(Amersham社)を用いて、配列決定に同じPCRプライマーを利用して配列決定を行った。
<cDNA末端の高速増幅(RACE)>
Marathon(登録商標)cDNA 増幅キット(Clontech社)の、cDNAテンプレートからの増幅について記載された事項に従い、PCR産物に見出されたDNA配列に基づいて、5’および3’RACE反応に用いる新しい特別の順方向プライマーおよび逆方向プライマーを合成した。
【0063】
SAP遺伝子に特異的な順方向プライマーMalpFを、キットに含まれるAPlプライマー(連結されるアダプターと配列同一性を有する)とともに用いて、1.4kbの3’−RACEフラグメントを製造した。同様に、逆方向の遺伝子特異的プライマー、MalpRを用いて、0.5kbの5’−RACE産物を得た。3’−RACE産物のDNA配列分析を行った結果、RACE産物は600bpのPCR産物と重複することが確認された。600bpのPCR産物に含まれるcDNA遺伝子下流配列領域についてさらに配列決定を行う目的で、pMalpFプラスミドを生成するべく、3’−RACE産物をPCR−Scriptベクター(Stratagene社)にサブクローニングした。
【0064】
600bpのPCR産物とpMalpFインサート(insert)は、新しい遺伝子特異的プライマーを用いて、両方向から数回にわたり配列決定した。
<完全長cDNA遺伝子のハイフィディリティPCR増幅>
プライマーのSapFおよびSapRと、Pfuポリメラーゼ(Stratagene社)と、1.5kbのSAPcDNA遺伝子増幅産物のためのテンプレートとしてのcDNAとを用いて最終的なPCR反応を行った。1.5kbのPCR産物を、得られた配列を確認するために分析した。cDNA遺伝子は、478個のアミノ酸からなるポリペプチドをコードするオープンリーディングフレーム(open reading frame)と、転写体のポリアデニル化に対応すると推定されているシグナルを含む3’配列とを含んでいることが見出された(図1および図2を参照)。
<PCRに用いた加熱サイクルのプロファイル>
増幅反応は、以下のサイクル・プロファイルで行った。
【0065】
<結果>
SAPタン白質サブユニットは、もともと65kDaの分子量をもつと見積もられていた。USBプロダクトシートには、59kDaのSAPタン白質が記載されている。そして本発明者のSDS−PAGEシステムでは、SAPは分子量標準である55kDaのタン白質と同等に移動する。この相違は、おそらく用いた緩衝液系とゲルの質が異なるためと考えられる。
【0066】
単離cDNAは、分析されたSAPタン白質フラグメントと配列同一性を有するポリペプチドをコードしている(図2を参照)。
SAPタン白質の配列を、公的に利用可能なデータベースによる相同性検索のクエリー配列(query sequence)として用いた。相同性検索と多重配列アライメントには、ソフトウェアプログラムBLASTおよびClustalWをそれぞれ用いた。SAP配列は、マウス(Accession number P09242)、ヒト(A. n. P05186)、ニワトリ(A. n. Q92058)、およびカイコガBombyx mori (A. n. P29523))で見出された、組織非特異的なALPを最高のスコアとなる相同体群に並置した。このアライメントを図3に示す。利用可能な公共データベースによる相同性検索では、cDNAと等価な配列は見出されなかった。しかしながら、導出されたタン白質配列は、多くの知られているALPに対して、アミノ酸配列において44%の同一性と60%の類似性を有する比較的高い相同性を記録した。タン白質の相同性は、European Bioinfomatics Instituteのインターネットサーバーで、デフォルトパラメータを「blosum50 matrix, gap open penalty = −12 and gap extension penalty−2, and KTUP = 2」としてFasta 3プログラムを駆動し、SWALLデータベース(非−重複タン白質配列データベース;Swissplot+Trembl+TremblNew)で検索した(W. R. Pearson and D. J. Lipman (1988), ”生物学の配列解析用の改良ツール(Improved tools for biological sequence analysis)”, PNAS 85: 2444− 2448; W. R. Pearson, (1990), ”Rapid and sensitive sequence comparison with FASTP and FASTA”, Methods in Enzymology 183:63−98を参照)。
【0067】
また、cDNAでコードされたタン白質は、Prosite PSOO 123で定義された、ALP活性部位パターンに相当するモチーフ「VTDSAASAT」をその配列に含まれるように有している。したがって、小エビ肝膵臓から得たmRNA−転写体の単離cDNAは、P.borealis SAPの遺伝子を表している。
配列決定されたタン白質フラグメント5ReRP6:26と、これに相当するcDNAから導かれた配列との間で、一つのアミノ酸に食い違いがある。これは、SAP遺伝子におけるアレルの変動か、あるいはタン白質配列分析におけるエラーとして説明できる。
<実施例1で用いた配列>
タン白質フラグメント:
オリゴヌクレオチド:
実施例1の操作を繰り返し、配列情報を洗練した。図4および図5に反映されているように、cDNA遺伝子は475個のアミノ酸からなるタン白質をコードする1つのオープンリーディングフレームを含んでいることが見出された。図4のcDNAは、SDS−PAGEに基づく精製した天然のSAPで見積もられた分子量54〜55kDaと比較すると、53kDaの分子量理論値を有している。多重配列アライメントによれば、SAPはN末端に5〜10個の追加されたアミノ酸を含んでおり、これが分子量を54kDaに近づけると確信できる。上述したように、このN末端領域は、ヘプタペプチド「NPITEED」の一部またはすべてを含むと考えられる(実施例4も参照)。
【0068】
【実施例2】
天然SAPとの比較でcDNAから導出されたタン白質配列のアミノ酸組成
凍結乾燥したSAPタン白質を6Mの塩酸に溶解し、110℃で24時間加水分解した。塩酸を蒸発させた後、試料を0.2Mのクエン酸ナトリウム緩衝液(pH2.2)へ再懸濁し、加水分解生成物中のアミノ酸の同定と、そのモル%を決定するためHPLCクロマトグラフィーを行った。
(注):このシステムではアスパラギン酸塩とアスパラギンが区別されず、グルタミン酸塩とグルタミンが区別されない。したがって、天然SAPタン白質中のこれらのアミノ酸に関する数値は、これらが組み合わされたものである。また、該タン白質が酸化されていないため、システイン残基数はおそらく低く見積もっている。
【0069】
【表1】
【0070】
結論:
大半のアミノ酸において、cDNA導出(すなわち、cDNAから導出された)タン白質配列中の各アミノ酸のモル比は、精製した天然SAPで見出された比率とほぼ同一である。僅かに存在する見掛けの不一致については上述したとおりである。
【0071】
このように、SAPタン白質と比較して、単離cDNAは非常に類似した、あるいは同一のアミノ酸組成をもつタン白質をコードしている。
この実施例および分析を、改訂cDNA配列について再度行った。その結果を以下に示す。
【0072】
【表2】
【0073】
【実施例3】
Pichia pastoris 内でのSAPの組換え発現
SAPをコードするcDNAは、発酵により組換え酵素を産生するために、好適な微生物中でこの酵素を異種発現するために用いられる。いくつかの発現系を利用することができるが、自然な状態で適度なレベルに酵素を発現することから、真核細胞の発現系が望ましい。このような系としては、メチロトローフ酵母Pichia pastoris(Invitrogen)が挙げられ、この酵母は細胞内発現により12g/Lまでのレベルで組換えタン白質を発現することが報告され(Clare, J.J. Raiyment, F.B., Ballantine, S.P., Sreekrishna, K. and Romanos, M.A. (1991): High−level expression of tetanus toxin fragment c in Pichia pastoris strains containing multiple tandem integrations of the gene. Blo/Technology 9, 455−460を参照)、組換えタン白質は2.6g/Lまで培地中へ分泌される(Paifer, E., Margolles, P, Cremata, J., Montesino. R., Herrera, L. and Delgado, JM. (1994): Efficient expression and secretion of recombinant alpha amylase in Pichia pastoris using two different signal sequences. Yeast 10. 1416−1419を参照)。
【0074】
挿入された遺伝子はAOX1(アルコールオキシダーゼ)プロモーターで調節され、メタノールにより発現が誘導される。
SAP cDNAは市販のベクターpPIC9Kへ挿入される。組換えSAPは、その後、ベクター中に含まれるS. cerevisiae a−因子から導かれるシグナルペプチド配列と融合することにより分泌生成物として発現する。his−株(KM71もしくはGS115)に組み込まれる場合には、his遺伝子型はベクターインサートで補完されるため、株はヒスチジンフリーの媒地中でhis+クローンの選択により組換え体のため選別される。さらに、組換え体は、プラスミドが含有するカナマイシン耐性遺伝子により獲得されたジェネチシン(Geneticin、G418、Invitrogen社)の濃度増加に対する耐性により、多重遺伝子インサートのためにスクリーニングされる。
【0075】
詳細には、a因子シグナル配列とともにインフレームでpPIC9Kベクターへ組み込むための適当な制限部位を含む新しいPCR産物を得るべく、新しいPCR反応において、PCR産生SAP cDNAがテンプレートとして用いられる。PCR反応の新しい順方向プライマーとして、トリプシンにより切り離されたと推定されるリジン残基を再構築するために、修飾”17F”プライマー(配列番号13)が使用され、ATGコドン(Met)をリジンコドン(AAG)で置換する。逆方向プライマー(配列番号14)は、NotI制限サイト3’をSAP cDNA配列の終結コドンに取り付けるために構築される。
【0076】
得られたPCR産物はNotIで切断され、予めSnaBIとNotIで切断されたpPIC9Kベクターにライゲートされる(結果としてプラスミドpPIC9K−SAPを生成する)。該ベクターはSnaBIにより5’結合部位(joining site)で平滑末端となるため、そして両末端はリーディングフレーム内にあるため、この修飾cDNAの5’末端のさらなる修飾を必要としない。
【0077】
ベクターはこの後、TOP10F’(Invitrogen社)もしくはその等価物のようなコンピテントE. coli株のトランスフォーメーションにより増殖し、組換え体はそのアンピシリン耐性により選択される。単離pP109K−SAPプラスミドは、次いでPichia pastorisのAOXI遺伝子へ挿入されるベクターカセットを創生するために、SocIによる制限的切断で直線化される。Pichia pastoris細胞(株GS115もしくはKM71)を、直線化したpPIC9K−SAP構築物で型質転換した後、組換え体がhis+変異体から製造者のプロトコルに従って選択される。
【0078】
単離したコロニーは、製造者が推奨する方法に従い、メタノールの存在下で細胞を育成することにより、組換えSAPの媒地中への発現を試験するために供される。所望により、組換え遺伝子の多重コピーを含むクローンのために組換え株をスクリーニングすることにより、発現レベルのさらなる増大は達成される。これは、抗生物質G418(Invitrogen社)が存在しそのレベルが上昇していく条件下で、his+変異体を培養して行われる。高いG418レベルで成長するクローンは遺伝子の多重コピーを含みやすい。
【0079】
培養、トランスフォーメーションおよび選択のすべての方法は、Pichia pastorisシステムの供給元(Invitrogen社、オランダ)から入手できるプロトコルに詳細に記述されている。
修飾されたSAP構築物は、Pichia pastorisシグナルペプチダーゼKEX2の残りのシグナル認識配列から5個のアミノ酸(EAEAY)が追加された組換え生成物を与える。このN−末端配列は僅かに切り詰められた最終生成物を与えるが、他のアルカリホスファターゼと適度のコンセンサスにあり、Pichia pastorisシグナルペプチダーゼ用認識配列をなお含んでいる。
<実施例3に用いたプライマー>
順方向:
AAGGCITAYTGGAAYAAR (配列番号13)
ここで、
I = Inosine
R = A + G
Y = C + T
逆方向:
TACAGCGGCCGCCATCTCATTTTTCG (配列番号14)
【0080】
【実施例4】
Escherichia coli TOP10 中におけるSAPの発現
<SAPシグナル配列の決定>
SAPのN末端シグナル配列は、cDNAをテンプレートに用いて5’−RACEにより決定した。mRNAは、100mgの小エビ(Pandalus Borealis)の肝膵臓から、Oligotex Direct mRNA ミニキット(Qiagen社)を用いて製造者による記載に従い単離した。小エビ肝膵臓cDNAは、SMART PCR cDNA 合成キット(Clonetech社)を使用し、製造者が記載したプロトコルに従って作成した。40μgのプロテイナーゼ Kを50μlのcDNAへ加えて45℃で45分間および90℃で8分間インキュベートし、次いで15UのT4−DNAポリメラーゼ(Promega社)を加えて、16℃で30分間および72℃で10分間インキュベーションすることにより、cDNAの末端平滑化および精製を行った。最後にそのcDNAをフェノール/クロロホルムで2回抽出し、エタノールで沈殿させた。Marathon cDNA 増幅キット(Clontech社)の記載に従い、RACE−アダプターをcDNAへライゲートした。5’−RACE反応は、Advantage cDNA ポリメラーゼ mix (Clontech社)、AP1プライマー(Marathon cDNA 増幅キットとともに供給される)、SAP−特異的プライマー(5’−GCG TGG TGC ATA TGG TCA ATC CGT CC−3’)、およびテンプレートとして、5μlの50倍希釈のアダプター連結cDNAを用いて、最終容量50μl中で行った。RACE PCR反応は、Biometra TGradient thermocycler中で、94℃、30秒間の初期変性ステップ、それに続く94℃、5秒間および72℃、3分間の5サイクルと、94℃、5秒間および70℃、3分間の5サイクル、さらに94℃、5秒間および68℃、3分間の30サイクルで行った。生成した1200bpのSAPフラグメントをアガロースゲルから精製し、PCRで再増幅を行って配列決定した。
<SAPのpBAD/gIII A発現ベクターへのクローニング>
SAP遺伝子をpBAD/gIII Aベクターへクローニングするため、SAP遺伝子をSacIおよびHindIIIサイトをそれぞれ含む二つのプライマーとともにPCR増幅した(下線)。得られたSAP配列の全長(主要配列にシグナル配列を追加した)に基づき、プライマーを、N末端としてアミノ酸配列「NPITEEDKAYWNK」をもつSAP遺伝子を増幅するように設計した。加えて、N末端コドンの3つ(プライマー配列において小文字で表される)を最適化するために、プライマー1において3つの塩基が変更された(CからA、AからC、およびAからC)(プライマー1:5’−ATG GAG CTC AAC CCa ATc ACc GAA GAA GAC AA−3’ プライマー2:5’−ATG AAG CTT TCA TTT TTC GTC ACA GAA AGT G−3’)。
【0081】
PCRは、10μMの2つの各プライマー、1.5UのPfu−ポリメラーゼ(Promega社)、供給された緩衝液、0.2mMのdNTP、およびテンプレートとしての10ngの小エビ肝膵臓cDNAを含む、最終容量50μl中で行った。PCRは94℃、30秒間の初期変性ステップと、それに続く94℃、15秒間と、55℃、1分間と、72℃、3分間との30サイクルで行われた。PCR産物はQiaquick PCR 精製キット(Quiagen社)で精製された。
【0082】
pBAD/gIII A ベクターとSAP PCR産物は、5UのSacIおよびHindIII制限酵素でそれぞれ処理した。SAP PCR産物は、1UのT4−DNAリガーゼ(USB)、約1mgのプラスミドおよびPCR産物とを用いて10μlの反応で、該ベクターへライゲートした。反応混合物は16℃で16時間インキュベートした。次いで、ライゲーション混合物を40μlのエレクトロコンピテント(electrocompetent)E. coli TOP10細胞へ加えて、1800Vでエレクトロポレーションすることにより、ライゲーション混合物を用いてE. coli TOP10細胞をトランスフォームした。エレクトロポレーションの直後に、1mlのSOC媒地を加えて、37℃で1時間インキュベートした。次いで、細胞を100mg/mlのアンピシリンを含むLBプレートに載置し、トランスフォームされた細胞を選択した。
<E. coli TOP10中でのSAPの遺伝子発現>
SAP遺伝子を含む組換えpBAD/gIII Aベクターを含有している2つのE. coli TOP10コロニーを発現のために選択した。空のpBAD/gIII Aベクターを含有しているE. coli TOP10株を、ネガティブ・コントロールとして用いた。
【0083】
50mlのLB培地を含む3個の三角フラスコへ、100μg/mlのアンピシリンを供給したLB培地中で一晩培養した培養物2.5mlを接種した。30℃で、振とう下に細胞を成長させ、細胞の密度としてOD600が約0.5となるまで増殖させた。次いで、3つの培養物のそれぞれを、2つ(2×25ml)に分割して、2つの培養物のうち一つを、L−アラビノースを最終濃度、0.05%(w/v)となるまで加えることにより誘導した。すべての細胞培養物は、回収する前に30℃で3時間振とうしてさらに成長させた。
<発現培養物の分析>
それぞれの発現培養物から、200μlの試料を遠心分離して上澄みを除去した。細胞ペレットへ、100μlの1×SDS−PAGE試料緩衝液を加え、100℃で3分間インキュベートし、次いで18,000gで3分間遠心分離した。次いで、その細胞溶解物をSDS−PAGEゲルへ直接適用して分析した。追加のSDS−PAGEゲルは、タン白質をニトロセルロースブロッティング膜(0.45μm、Bio−Rad社)へ転写させるためにさらにエレクトロブロットして、小エビ処理水から精製したSAPに対して生起された抗体と、ヤギ・抗ウサギIgG (H + L) (ヒトIgG吸着)・西洋ワサビペルオキシダーゼコンジュゲート(Bio−Rad社)とを用いて免疫染色した。SDS−PAGE、エレクトロブロッティングおよび免疫染色については、それぞれ標準プロトコルに従った。
【0084】
図10および図11に示したように、pBAD/gIII Aベクターと、ホストとしてE. coli TOP10細胞を用いて、組換えSAPが発現された。組換えpBAD/gIII A−SAPベクターを含む、両組換えE. coli 株は、組換えSAPを産生した。一方、ネガティブ・コントロールはウエスタンブロットでシグナルを与えなかった(図11)。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、ホッコクアカエビ(Pandalus borealis) からのSAPをコードするcDNA配列(5’末端における小部分を差し引いている)を示す。終結コドンと、ポリAテール(tail)を含むcDNAの下流配列には下線を引いている。
【図2】図2は、図1のSAPcDNAによりコードされたアミノ酸配列を示す(追加のN末端領域を取り込んでいる)。配列決定されたタン白質フラグメントとの相同位置は、下線を引いて特定している。また、酵素の活性部位(Active site)の配列、すなわち(知られているアルカリホスファターゼに基づく)は太字で示している。
【図3】図3は、Swiss−Prot データベースで見出された、組織に特異的でないALP(マウス(mouse)(Accession number P09242)、ヒト(human)(A. n. P05186)、ニワトリ(chicken)(A. n. Q92058)、およびカイコガ(bommo) Bombyx mori (A.n. P29523))を、その最高スコアとなる相同体群に並置させたSAP配列である。
【図4】図4は、Pandalus borealis からのSAPをコードする改訂cDNA配列を示す。ポリAテールは(A)23で示している。5’配列の5つのヌクレオチド位置(小文字)は、増幅と配列決定に用いた縮重PCRプライマーでバイアスされているため、その位置を特定していない。
【図5】図5は、図4のSAP cDNAによりコードされたアミノ酸配列を示す。配列決定されたタン白質フラグメントへの相同位置は下線を引いて特定している。また、酵素の提案されている活性部位(Active site)の配列は太字で示されている。N末端リジン残基(小文字)は、上の図4について言及したように縮重PCRプライマーによるバイアスのため、アルギニンであってもよい。
【図6】図6は、図5の改訂アミノ酸配列を取りこんだ以外は、上の図3に相当する。
【図7】図7は、図4の改訂cDNA配列(上側)と、図1の元の配列(本来、図2の等価アミノ酸配列においてのみ表されていた5’末端をさらに含む)とのアライメントである。2つの配列の最適アライメント(ギャップを含む)を見出すために、Needleman−Wunsch グローバルアライメントアルゴリズム(global alignment algorithm)を利用するNeedleプログラムを用いて比較を行った(Needleman ら J. Mol. Biol. (1983) 48, pp 443−453を参照。matrix Blosum 62 with gap penalties of Gap open = 10.0 and Gap extend = 0.5. 全体の同一性(%)= 99.4 %)。
【図8】図8は、図5の改訂アミノ酸配列(上側)と、図2の元の配列とのアライメントである。上記のNeedleプログラムを用いて比較を行った(matrix Blosum 62 with gap penalties of Gap open = 10.0 and Gap extended = 0.5. 全体の同一性(%)= 96.03 %)。
【図9】図9は、ホッコクアカエビ(Pandalus borealis) からのアルカリホスファターゼの提案されたシグナル配列およびN末端領域の、cDNA配列(配列番号17)とアミノ酸配列 (配列番号18)を示す。SAPアミノ酸配列は、この後に、図2および図4に示したようにKAYWNK…と続く。
【図10】図10は、実施例4の発現培養物からの、全細胞タン白質抽出物のSDS−PAGEから得た写真である(第1レーンと第10レーン:広範囲の基準タン白質、第2レーンと第9レーン:SAP 1.5μg、第3レーン:ネガティブ・コントロール培養物(非誘導)、第4レーン:ネガティブ・コントロール培養物(誘導)、第5レーン:SAP−培養物1(非誘導)、第6レーン:SAP−培養物1(誘導)、第7レーン:SAP−培養物2(非誘導)、第8レーン:SAP−培養物2(誘導)。広範囲の基準タン白質中におけるタン白質は、ミオシン(200kD)、β−ガラクトシダーゼ(116kD)、ホスホリラーゼ b(97.4kD)、血清アルブミン(66kD)、オボアルブミン(45kD)、炭酸脱水酵素(31kD)、トリプシンインヒビター(21.5kD)、リゾチーム(14.4kD)およびアプロチニン(6.5kD)である)。
【図11】図11は、実施例4の発現培養物からの全細胞タン白質抽出物の、イムノブロットの写真である(第1レーンと第8レーン:SAP 50ng、第2レーン:ネガティブ・コントロール培養物(非誘導)、第3レーン:ネガティブ・コントロール培養物(誘導)、第4レーン:SAP−培養物1(非誘導)、第5レーン:SAP−培養物1(誘導)、第6レーン:SAP−培養物2(非誘導)、第7レーン:SAP−培養物2(誘導))。
Claims (24)
- 配列番号1もしくは配列番号20のヌクレオチド配列、または該ヌクレオチド配列と少なくとも55%の配列同一性を有するヌクレオチド配列、および/または中程度のストリンジェンシー条件下で配列番号1もしくは配列番号20の相補的配列とハイブリダイズすることが可能なヌクレオチド配列、または前記各配列の相補的配列を含み、
前記ヌクレオチド配列は、熱不安定性アルカリホスファターゼをコードしている配列をコードするか、またはその配列と相補的である核酸分子。 - 配列番号1もしくは配列番号20のヌクレオチド配列と、少なくとも75%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含む請求項1に記載の核酸分子。
- 配列番号1もしくは配列番号20のヌクレオチド配列と、少なくとも85%の配列同一性を有するヌクレオチド配列を含む請求項1または2に記載の核酸分子。
- 熱不安定性アルカリホスファターゼ(このものは、配列番号2のアミノ酸配列を含むか、またはそれと少なくとも50%が同一である該アミノ酸配列の変異体を含む)をコードしている配列をコードするか、またはその配列と相補的である単離核酸分子。
- 前記アルカリホスファターゼが、配列番号2のアミノ酸配列と、少なくとも70%が同一であるアミノ酸配列を有する請求項3に記載の核酸分子。
- 前記アルカリホスファターゼは、配列番号2のアミノ酸配列と、少なくとも80%が同一であるアミノ酸配列を有する請求項3に記載の核酸分子。
- 前記アルカリホスファターゼがPandalus borealisアルカリホスファターゼである請求項1〜6のいずれかに記載の核酸分子。
- 作動的にプロモーター配列へ結合した請求項1〜7のいずれかに記載の核酸分子を含む遺伝子構築体。
- 請求項1〜7のいずれかに記載の核酸分子を含み、宿主細胞中で増殖可能である組換え発現ベクター。
- 前記ベクターが、プラスミドベクターもしくはウイルスベクターである請求項9に記載の組換え発現ベクター。
- 請求項9〜11のいずれかに記載の構築体もしくはベクターによりトランスフォームされた細胞。
- 前記細胞は原核細胞である請求項11に記載の細胞。
- 前記細胞は真核細胞培養物の一部である請求項11に記載の細胞。
- 請求項1〜3のいずれかで定義されたヌクレオチド配列を含む核酸分子を有する組換え細胞または組換え生物。
- 以下の(a)もしくは(b)を含む、遺伝子組換え熱不安定性アルカリホスファターゼ:
(a)配列番号2のアミノ酸配列の全部もしくは意義を有する部分
(b)配列番号2のアミノ酸配列と少なくとも60%の配列同一性を有するアミノ酸配列の全部もしくは意義を有する部分。 - 配列番号2のアミノ酸配列または配列番号2の配列と少なくとも75%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有する、請求項15に記載の組換えアルカリホスファターゼ。
- 前記組換えアルカリホスファターゼがPandalus borealisアルカリホスファターゼである請求項15または16に記載の組換えアルカリホスファターゼ。
- 熱不安定性アルカリホスファターゼを発現可能であり、配列番号2のアミノ酸配列または配列番号2の配列と少なくとも60%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む組換え細胞または組換え生物。
- 熱不安定性アルカリホスファターゼを発現可能であり、配列番号2のアミノ酸配列または配列番号2の配列と少なくとも75%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む組換え細胞または組換え生物。
- 請求項9に記載の発現ベクターで宿主細胞をトランスフォームし、
培地で該細胞を維持し、
該細胞により発現された熱不安定性アルカリホスファターゼを単離することを含む、熱不安定性アルカリホスファターゼの製造方法。 - 配列番号15のヌクレオチド配列、または該ヌクレオチド配列と少なくとも55%の配列同一性を有するヌクレオチド配列、および/または中程度のストリンジェンシー条件下で配列番号15の相補的配列とハイブリダイズすることが可能なヌクレオチド配列、または前記各配列の相補的配列を含み、
前記ヌクレオチド配列は、熱不安定性アルカリホスファターゼをコードしている配列をコードするか、またはその配列と相補的である核酸分子。 - 以下の(a)もしくは(b)を含む、組換え熱不安定性アルカリホスファターゼ:
(a)配列番号16のアミノ酸配列の全部もしくは意義を有する部分
(b)配列番号16のアミノ酸配列と少なくとも60%の配列同一性を有するアミノ酸配列の全部もしくは意義を有する部分。 - 配列番号16のアミノ酸配列または配列番号16の配列と少なくとも75%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有する、請求項22に記載の組換えアルカリホスファターゼ。
- 請求項に記載の発現ベクターの製造方法。
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