JP2004501784A - バイオエラストマーのナノマシンとバイオセンサー - Google Patents
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Abstract
ノナペプチド、ペンタペプチド及びテトラペプチド単量体単位からなる群より選択される繰返しペプチド単量体単位をもつバイオエラストマーが、ナノマシン及びナノセンサーの作製に使用される。
Description
【0001】
技術分野
本発明はナノマシン及びバイオセンサーとしての使用に好適なバイオエラストマーの設計に関する。
【0002】
背景
ここで「バイオエラストマー」と呼ぶ弾性タンパク質系高分子すなわち生体弾性高分子はしばしば、ノナペプチド、ペンタペプチド及びテトラペプチド単量体単位からなる群より選択される繰返しペプチド単量体単位を含み、該単量体単位は一連のβターンを形成し一連のβターンは該βターン間に吊り下がった動的架橋セグメントで仕切られると説明される。これらのバイオエラストマーは、天然ゴムや合成類縁体などのようなランダム鎖網エラストマーから調製される材料と違い、その構造要素が明確に定義されるため特定の物性をもつように設計、合成することが可能であり、制御性に劣る物性に依存する必要がないため多種多様な用途に好適である。
【0003】
バイオエラストマーはミリメートル・スケールではすでに6つの強度変数すなわち機械力、温度、圧力、化学ポテンシャル、電気化学ポテンシャル及び電磁放射線が絡む多様な形態のペアワイズ自由エネルギー変換の実行を目的に設計されてきた。バイオエラストマーは、機械仕事の実行を可能にするペアワイズ・エネルギー変換がナノメートル・スケールで行われうるように、原子間力顕微鏡(AFM)を使用して設計するのが望ましいであろう。
【0004】
こうした取り組みの狙いは一般的なマイクロ電気化学系(MEMS)のスケールを千分の一に縮小し、また既に開発されている目視観測可能なエネルギー変換型の架橋エラストマーマトリックスのスケールを百万分の一にすることである。その機は熟している。理由は次のとおりである: (1)今日では、DNA、多糖、タイチンなどのタンパク質及びポリエチレングリコールで既に立証済みの単一鎖F−E (張力−伸び)研究がAFMを使用して行える;(2)今日では、弾性タンパク質系高分子の2組成物について単一鎖F−E曲線が得られる;(3)今日では、マクロ(ミリメートル)スケールで既に立証済みの設計バイオエラストマーによる機械仕事の実行を伴う自由エネルギー変換がナノスケールでも現実味を帯びてきた;また(4)取り組みの成果はこれらの生体分子マシンの感度を著しく高め、その潜在用途分野を拡大することになろう。
【0005】
本発明はバイオエラストマーの使用により上記の課題に応えるための組成物と方法を提供する。開示の方法と組成物により応答時間はミリ秒レンジまで短縮しうるが、いっそうの短縮も可能であるし、また測定可能な長さの変化は1ナノメートル未満となり、測定可能な力の変化は10ピコニュートン(pN)レンジとなる。バイオセンサーによる一分子事象の検出も今日では現実味を帯びている。たとえば適当な弾性ポリペプチドと直列をなす疎水的にフォールディングした球状タンパク質上のある部位への一神経ガス分子又は他の重要な分析物の結合を、そうした弾性ナノフィラメント構築体に対応する張力−長さプロフィールの変化から検出することも夢ではない。
【0006】
発明の概要
本発明の一態様は、ナノマシンとして有用なバイオエラストマーの設計に関する。
本発明の別の態様はノナペプチド、ペンタペプチド及びテトラペプチド単量体単位からなる群より選択される繰返しペプチド単量体単位をもつバイオエラストマーを含むナノマシンであって、該単量体単位が一連のβ−ターンを形成し、一連のβ−ターンはβ−ターン間に吊り下がった動的架橋セグメントで仕切られているナノマシンに関する。
【0007】
本発明の更に別の態様は、ナノパーティクル又は多ストランド・ナノフィラメントという形のバイオエラストマーを含むナノマシンに関する。
本発明の更に別の態様は、バイオエラストマー鎖と直列をなし、結合部位をもつ単一球状ドメインであって、該結合部位への分析物の結合が疎水的にフォールディングした該球状ドメインを、同等の伸び率にも関わらず異なる(より高い又はより低い)レベルの力でアンフォールディングさせる単一球状ドメインに関する。
【0008】
個別実施態様の説明
本発明はナノマシン及びバイオセンサーとして有用な幅約5nm、長さ数百nmという寸法のバイオエラストマー並びにそうしたバイオエラストマーの設計方法に関する。一般に本発明のナノマシン及びバイオセンサーは、生体弾性ノナペプチド、ペンタペプチド及びテトラペプチド単量体単位からなる群より選択される繰返しペプチド単量体単位をもつバイオエラストマーを含む。該バイオエラストマーはナノパーティクル又は多ストランド・ナノフィラメントという形をとる。これらの多様な多ストランド・ナノフィラメントは設計次第でナノケモメカニカル系(NCMS)、ナノエレクトロメカニカル系(NEMS)、ナノバロメカニカル系、ナノサーモメカニカル系及びナノホトメカニカル系(いずれも第1図に記載)として、またナノ電磁放射線駆動機械系(NEMRDMS)として、さらに化学種たとえば神経ガス、TNT、DNTなどの存在を検出するためのバイオセンサーとして、機能させることができる。たとえば極性分析物が結合すると、疎水的フォールディングの転移温度Ttが使用温度の下から上へと上昇し、その結果としてアンフォールディングを招き、張力−長さプロフィールにAFMで測定可能な変化が、又は長さが固定されている場合には平行吸音成分に強度の変化が、もたらされる。さらに、多ストランド・ツイストナノフィラメントではなく、折り返した単一鎖でナノマシン又はバイオセンサーを形成し、第2C図に示すようなF−Eプロフィールの張力のピーク到達又は増大を強制的アンフォールディングでもたらすようにすることもできる。また球状タンパク質部分に酵素認識部位たとえばキナーゼ認識部位をもたせ、リン酸化により該部位が疎水的にフォールディングした球状ドメインを、第6図に示すように、より低レベルの力でアンフォールディングさせるようにすることも可能であろう。
【0009】
本発明は、いくつかのペアワイズ・エネルギー変換をナノスケールで実現しうるようなバイオエラストマーの、原子間力顕微鏡(AFM)の使用による設計に関する。これを実現するためにまず、長さが約10,000残基の、より一般的には約2000残基の、1以上の同じタンパク質系高分子ストランドを、その各末端に二酸、三酸及び四酸たとえばアジピン酸(ヘキサン二酸)、ケンプ三酸(第4A図に記載)及びエチレンジアミン四酢酸(EDTA)を導入して集成する。次に、得られた単ストランド又は多ストランドのツイストナノフィラメントをカンチレバーと基板の間に吊るが、その際の結合には多酸末端に導入したシステイン残基硫黄を用いる。一般にこの結合は、カンチレバー探針と基板表面(どちらも金などの好適材料で被覆するのが好ましい)に対して行う。カンチレバーと基板への結合手段としては、システイン残基のSH基の代わりに他の官能基たとえばアミノ基、カルボキシル基などを用いてもよい。
【0010】
本発明の一実施態様では、該カンチレバーはバイオエラストマーにより吸収される振動エネルギーを検知する。これを図解したのが第7図である。
バイオエラストマーだけのナノマシンを使用するときは、100残基ごとに官能基1個又は数個を変化させるだけで完全収縮状態の多ストランド・フィラメントを完全にほぐし、所定の力で長さを数百ナノメートルも変化させることができる。官能基の変化はたとえば30〜500アミノ酸残につき、基一般には約100残基につき1セリン残基のリン酸化; 20〜200アミノ酸残基につき、一般には約100残基につき2側鎖カルボキシル基のイオン化; 又は20〜200アミノ酸残基につき、一般には約100残基につき2結合レドックス官能基 (たとえばN−メチルニコチンアミド)の酸化などであろう。AFM実験に由来する単一鎖F−E曲線は、疎水的にフォールディングした個別球状タンパク質のアンフォールディングに関する張力−長さプロフィールを10pN及びnm感度で示すことができる。疎水的にフォールディングした単一球状タンパク質と直列をなすバイオエラストマーと組み合せてAFMを使用すると、該球状タンパク質上の特定部位への一分子の結合を、アンフォールディングに関する張力プロフィールの変化から、選択的に検出するという究極の可能性が開けてくる。
【0011】
これらの弾性タンパク質系高分子は、約1015Hz(サイクル毎秒)の高周波レンジから10Hzの低周波までの著しく広い周波数レンジの電磁スペクトルにわたるエネルギー入力の検知又はエネルギー出力の供給が可能である。一般的な周波数は10〜105Hz、より一般的には102〜104Hzのレンジ内であろう。高周波レンジでは、光の吸収に伴いその疎水性を変化させる多様な発色団が存在する。誘電緩和スペクトルの5GHz中周波レンジでは、疎水性水和の吸収が見られる。やはり誘電緩和スペクトルの5kHz中周波レンジでは、疎水的にフォールディングした集成状態の構造的共振が存在する。また1kHz近傍の誘電緩和、吸音両スペクトルの低周波レンジでは、機械的共振が存在する。なお第7図に示す1kHz近傍の機械的共振は機械力の強度変数を導入する手段として最良と考えられよう。これらの吸収過程はそれぞれ高分子系へのエネルギー入力手段として、系を変化させることが、又は別のエネルギー入力に由来する系の変化に起因するエネルギー出力の変化を表すことができる。たとえば伸びを固定したAFM単一鎖(又は単一ツイストフィラメント)実験では、フォールディング状態の変化に起因する張力の変化は、第7図に示す(強度変数は温度)ように、機械的共振の強度変化を伴うであろう。高分子の応答を誘発する(たとえば第1図に示すような)任意の自由エネルギー強度変数の導入に由来するツイストフィラメントのフォールディング状態の変化を検出するには、様々な方法がある。たとえば第7図の機械的共振の平行成分の強度変化は高分子のフォールディング状態を変化させた自由エネルギー入力の変化を検出する手段をもたらすので、該エネルギー入力と機械的共振の変化によるその検出とを組み合せれば自由エネルギー変換器が得られよう。
【0012】
本発明の方法と組成物をさらに詳述する前に、Urry, J. Phys. Chem. B, 101:11007−11028, 1997の検討主題であるマクロスコピックなバイオエラストマー分子マシンを理解しておくことが重要である。若干の重要領域すなわちΔTt機構(タンパク質などのような両親媒性高分子の疎水的フォールディング及び集成の温度制御)、ΔTt機構による自由エネルギー変換、及びΔTt機構の物理的な基本原理(水和の無極性−極性反発自由エネルギー)をここでまとめておこう。さらに、天然弾性タンパク質のAFM単一鎖F−E曲線もまた、本発明の範囲を理解するための有益な情報を提供してくれる。この立証済みのマクロスコピックな自由エネルギー変換はAFMを利用することによりナノスコピックな自由エネルギー変換となりうる。そのデータは単一ナノフィラメントF−E曲線の形をとるだろう。その成果はナノマシンたとえばナノエレクトロメカニカル系となる可能性がある。
【0013】
ΔTt機構(タンパク質やタンパク質系高分子などのような両親媒性高分子の疎水的フォールディング及び集成の温度制御)
A. Ttの定義と逆温度転移
目的のバイオエラストマーは極性(たとえば荷電)部分と無極性(疎水性)部分が均衡を保っている結果として、低温では可溶性であり温度が上昇すると疎水的に折りたたまれ集成する。この疎水的凝集の開始温度をTtとする。環状類縁体は温度の上昇に伴い結晶化し、温度の低下に伴い溶液中に再溶解して再びランダムに分散することが既に示されている。さらに巨視的には、分子量の大きい線状高分子は相分離を起こし、また分子レベルで集成して会合ツイストフィラメントを形成することがネガティブ染色顕微鏡写真などで確認されている。
【0014】
温度の上昇に伴い系のポリペプチド部分の秩序が明らかに増すことから、これは逆温度転移(inverse temperature transition)と呼ばれてきた。似た用語にタンパク質の低温変性や両親媒性石油系高分子の下部臨界共溶温度(LCST)があるが、他の用語よりも一般的、説明的であるため逆温度転移という用語を使用する。たとえばLCSTは個別球状タンパク質の疎水的フォールディングとは無関係だし、また低温変性にしても立体構造の著しい変化を伴わない結晶の溶解とは無関係である。それにもかかわらずどの場合にも同じ過程すなわち疎水性相互作用とその結果としての系の高分子成分のエントロピーの変化が見られ。タンパク質系高分子の逆温度転移と石油系高分子たとえばポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)[PNIPAM]のLCSTにはもう1つ大きな違いがある。PNIPAMでは34℃で相分離が起るが、転移は含水率約30重量%の無秩序状態に向かう。Grinberg, et al., “Studies of the Thermal Volume Transition of Poly(N−isopropylacrylamide) Hydrogels by High Sensitivity Differential Scanning Microcalorimetry. 1. Dynamic Effects(高感度示差走査マイクロ熱量測定によるポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)ヒドロゲルの熱体積相転移の研究。1. 動的効果)” [Macromolecules 32:1471−1475, 1999]を参照。他方、目的のタンパク質系高分子たとえばポリ(GVGVP) [SEQ ID NO:1]では25℃で相転移が始まり、含水率63重量%の構造化βスパイラル状態が形成される。このβスパイラル状態が含水率約30重量%の無秩序状態へと変性するのは温度が60℃超に達した後にすぎない。
【0015】
B. 多数のTt値制御手段
Tt値はいくつかの因子に依存する。たとえばi)高分子の濃度、ii)高分子の鎖長、iii)高分子のアミノ酸組成、iv)塩濃度たとえばHofmeister (離液)系列、v)有機の溶質及び溶媒、vi)高分子側鎖のイオン化、vii)高分子側鎖の化学修飾たとえばリン酸化、窒化、硫酸化及びグリコシル化、viii)圧力(芳香族残基の特殊な役割)、ix)高分子に結合した補欠分子族たとえばN−メチルニコチンアミド(NMeN)、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD)及びフラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)のレドックス状態、x)高分子に結合した補欠分子族たとえばアゾベンゼン及びシンナミドによる光の吸収、又は10Hz〜1015Hzレンジの他の任意適切な周波数の電磁スペクトルの吸収、及びxi)イオン対合による側鎖電荷の中性化、たとえば陰イオン側鎖の陽イオン中性化、陽イオン側鎖の陰イオン中性化及び鎖内又は鎖間のイオン対合。以上の因子リストはそのまま、種々の自由エネルギー変換の実現を可能にするTt値制御手段のリストとなる。逆温度転移点Ttのこうした依存関係はUrry, J. Phys. Chem. B, 101:11007−11028, 1997に記載されている。
【0016】
C. Ttを基礎とする疎水性尺度
前記の特に有用なTt値制御手段の1つにアミノ酸組成と側鎖の化学修飾の効果がある。このデータはタンパク質工学にとって特に重要なTtベース疎水性尺度としてまとめられており、第1A及び1B表に示すとおりである。これらの表はタンパク質工学向けの、ポリ{fv(GVGVP),fx(GX1GVP)}(SEQ ID NO:3; 式中X1は任意の天然アミノ酸又はその化学修飾体である)に関するTtベース疎水性尺度並びに逆温度転移に関するΔHt及びΔSt値を記載している。
【0017】
第1A表
天然アミノ酸残基に関するTtベース疎水性尺度
【表1】
【0018】
a Ttはリン酸緩衝食塩水(0.15N NaCl, 0.01Mリン酸塩)中での疎水的フォールディング及び集成転移に関する逆温度転移点であり、水中光散乱法及び示差走査熱量測定法(DSC)で求めた。試料はポリ{fv(GVGVP),fx(GX1GVP)}(SEQ ID NO:3)であり、Ttはfx=1へと線形に外挿し、5の倍数に丸めた。
b Proに関する計算値TtはVal及びGlyの実験値が使用されるときはポリ(GVGVP)[SEQ ID NO:1]に由来する。この−8℃という疎水性値は、Val1 iγCH3と隣接Pro2 iδCH2とらせん巻き間Pro2 i+3βCH2部分との間に疎水性接触がある場合のβスパイラル構造に特有である。
c ポリ{fv(GVGVP),fp(GVGPP)}(SEQ ID NO:19)から求めた実験値。
d ポリ{fv(GVGVP),fx(GX1GVP)}(SEQ ID NO:3)を使用しfx=1へと外挿して求めた、GX1GVP五量体(SEQ ID NO:4、式中X1は該五量体のゲスト・アミノ酸残基で、任意の天然アミノ酸又はその化学修飾体とすることができる)モルあたり計算値。
e ΔHとΔSはポリ{fv(GVGVP),fx(GX1GVP)}(SEQ ID NO:3)を使用しfx=1へと外挿して求めた、GX1GVP (SEQ ID NO:4)モルあたり計算値。ΔHとΔSは、高分子の水中転移に関するDSCで求めた吸熱的熱及びエントロピーの線形適合曲線上のfx=0.2に対応する値である。
【0019】
第1B表
タンパク質の化学修飾体及び補欠分子族に関する
Ttベース疎水性尺度
【表2】
【0020】
a 通常の条件は40mg/ml高分子、0.15N NaCl及び0.01Mリン酸塩(pH 7.4)である。
b NMeNはリシル側鎖上のN−メチルニコチンアミド側基、すなわちLysのε−NH2にアミド結合で結合したN−メチルニコチネートであり、最も疎水性の高い還元状態はN−メチル−1,6−ジヒドロニコチンアミド、それに次ぐ還元状態はN−メチル−6−OH,1,4,5,6−テトラヒドロニコチンアミドである。
c 酸化及び還元ニコチンアミド=アデニンジヌクレオチドでは、条件は2.5mg/ml高分子、0.2M重炭酸ナトリウム緩衝液(pH 9.2)である。
d 酸化及び還元N−メチルニコチンアミドでは、条件は5.0mg/ml高分子、0.1M炭酸カリウム緩衝液(pH 9.5)、0.1M塩化カリウムである。
e 高分子結合−O−SO3HのpKaは8.2である。
f Tyr(−O−NO2−)のpKaは7.2である。
【0021】
Tt機構による自由エネルギー変換
第1図に示すように、Tt値の制御により、機械力、温度、化学ポテンシャル、圧力、電気化学ポテンシャル及び電磁放射線の各強度変数が絡む15のペアワイズ自由エネルギー変換が可能となる。
【0022】
A. 第1種のTtベース分子マシン(分子エンジン)
分子エンジンは機械仕事の遂行を目的に設計される分子マシン、一般には高分子である。第1種のTtベース分子マシンは疎水的フォールディング及び集成転移を機械仕事の遂行に直接利用する。第1図のエネルギー入力はどれも頂点の機械仕事に帰着するが、様々なタイプの第1種Ttベース分子マシンの例となろう。これらの分子エンジンはγ線照射架橋タンパク質系高分子の立体配置において、適当なエネルギー入力があると荷重を持ち上げるような、設計バイオエラストマーからなる厚さ1mm、幅数mmの弾性バンドを形成することが既に立証されている。本発明はこの種の分子マシンのサイズをナノメートルレベルへと100万分の1も縮小して特定のナノマシンを作製するようにする。
【0023】
B. 第2種のTtベース分子マシン
第1図の異なるエネルギー入力に対して敏感な任意の2個の際立った官能基があり、各官能基が個別にTt値を変化させて疎水的フォールディング及び集成を促すことにより機械仕事を遂行しうるとすれば、両官能基を同じ疎水的フォールディング及び集成ドメインの一部とすることにより互いにカップリングすることが可能である。
【0024】
従って、第2種のTtベース分子マシンは、やはり疎水的フォールディング及び集成転移を利用することにより、機械仕事の遂行以外の自由エネルギー変換を実現する。これは第2表の原理4に該当する。第2表は、疎水的フォールディング及び集成の逆温度転移を起こしうるタンパク質系高分子に関するタンパク質工学向けの、様々な現象論的研究から導き出されたの5つの原理をまとめたものである。分子マシン機能設計への5原理の適用に関するUrry, Biopolymers (Peptide Science), 47:167−178, 1998の説明をも参照。現象論的観察からだけでも多大の成果が得られるものの、こうした特性を最大限に活用してバイオエラストマーの構造と機能を制御するには、その根本にある物理的原理の理解が求められる。
【0025】
第2表
原理1 ゲスト・アミノ酸残基又はその化学修飾体が疎水的フォールディング及び/又は集成の転移点Ttを変化させる仕方はその疎水性の関数的な指標である。Ttの低下は疎水性の上昇を、またTtの上昇は疎水性の低下を、それぞれ表わす。
原理2 温度をTtの上に上げると結果的に疎水的フォールディング及び集成が起る。この原理を利用すれば荷重の持ち上げといった有用な機械仕事の実現が可能になる。これは熱機械的変換である。
原理3 定温で、Tt値を使用温度の上から下へと引き下げても、すなわち第1A及び1B表の多数の変数のうちの任意の変数により疎水性を高めても、やはり結果的に疎水的フォールディング及び集成が起る。これを利用すれば構造物の構築たとえば荷重の持ち上げなど有用な機械仕事の実現が可能になる。
原理4 多数の変数[すなわちi)温度、ii)圧力、iii)化学種の濃度の変化、iv)生体補欠分子族のレドックス状態の変化、v)光(及び構造を変化させる他の電磁スペクトル)誘起型の化学構造変化、及びvi)吸音]のうちの異なる変数に敏感な任意の2個の際立った官能基があり、各官能基をTt値の変更に利用してフォールディング及び集成に由来する機械仕事を遂行させることができるとすれば、両官能基は同じ疎水的フォールディング及び集成ドメインの一部とすることにより互いに結合させることができる。
原理5 以上のエネルギー変換はより疎水的なドメインの影響下に行われるとより効率的であることが立証可能である。
【0026】
Tt機構の物理的原理
(水和の無極性−極性反発自由エネルギー)
A. Ttベース疎水性尺度
第1A及び1B表を調べると、CH2基又は芳香族基の付加などのように、より高い疎水性の導入はTt値が低下させることが明らかとなる。疎水性は疎水性水和と関連するため、疎水性水和の増大はTt値を低下させ、疎水性水和の減少はTt値を上昇させるということになる。また第1A及び1B表からは、電荷の形成がTt値を上昇させることも認められよう。ここから、高分子鎖沿いに存在するよう疎水基により強いられた荷電基は疎水性水和量を減少させるかもしれないとの洞察がまず得られる。
【0027】
B. 伸張誘起pKaシフト、(∂μ/∂f)n= α<0
無極性(疎水性)種と極性(たとえば荷電)種の間には水和をめぐる競合関係が存在するという最初の有無を言わさぬ主張は、実験的に立証された伸張誘起pKaシフトに由来した。何より興味深いことに、Glu含有タンパク質系高分子のゴム状弾性バンドを伸張すると、側鎖カルボキシル基のpKaはカルボキシラート(COO−状態のカルボキシル基)の自由エネルギーの増大を反映して大きくなる。μを化学ポテンシャル、fを印加力、αをイオン化度とすると、これは一定の温度及び組成での偏導関数(∂μ/∂f)T,n= α =0.5<0により、電荷−電荷反発の場合には(∂μ/∂f)T,n= α =0.5 >0により、それぞれ表わされる。
【0028】
伸張に伴い疎水的にフォールディングした高分子が強制的に解きほぐされ、またゴム状弾性バンドの水和が、疎水性水和であるにもかかわらず増大する。弾性バンド中の付加水にもかかわらず、カルボキシラートの自由エネルギーは、あたかも該カルボキシラートが十分な水和を実現するのに困難をきたしているかのように、増大する。これはイオン化過程におけるカルボキシル基による疎水性水和水の構造破壊とも符合するので、ここから高分子の無極性種と極性種の間には水和をめぐる競合関係が存在するという主張が起る。
【0029】
C. 疎水性誘起pKaシフト
もしそうした競合関係が存在するとすれば、Glu、Asp又はLys残基を含む高分子の疎水性を高めるだけで、pKaシフトを起こさせて、カルボキシラートのpKaを高くし、アミノ基のpKaを低くすることができるはずである。事実、そのとおりである。さらに、疎水性の段階ごとの上昇に比してpKaシフトのほうがより大きくなるという非線形性も存在する。これは高分子の疎水性を高める多様な方法を用いて既に立証されている。実際、ナノレベルでの設計によって、pKa値を制御したり、官能基を利用する諸々の自由エネルギー変換を実現したりすることはごく普通に可能である。
【0030】
D. イオン化度上昇に起因する逆温度転移熱の減少
示差操作熱量測定法(DSC)によれば、イオン化度の上昇は逆温度転移熱を著しく減少させることがわかる。100残基につき2個のカルボキシラートで転移熱を、すべてのGlu残基が非荷電カルボキシル基のままの場合の転移熱の4分の1に減少させることができる。ポリ(GVGVP)[SEQ ID NO:1]の逆温度転移に伴う二次構造の変化は全く見らず、また疎水性水和は発熱的である以上、この吸熱的転移熱は疎水性水和水を構造破壊する主役であると言える。この吸熱的転移熱が疎水性会合の前に存在していた量の疎水性水和を構造破壊するための所要熱である限りで、これは電荷が疎水性水和を実際に構造破壊することを示唆しよう。
【0031】
E. マイクロ波誘電緩和による疎水性水和の直接観察
無極性基と極性基という2種類の基が鎖状配列沿いに共存するよう強いられている高分子では無極性基と極性基の間に水和をめぐる競合関係が存在するという主張は、マイクロ波誘電緩和データを用いて既成事実化される。疎水性水和は5GHz付近で緩和を示すが、全水の百分率として定量化することができる。この水和は疎水性残基の増加に伴って増大し、疎水的フォールディング及び集成とともに消滅し、また物理的原理の検証にとって最も重要なことに、pHの上昇に伴いカルボキシル基のイオン化が始まると減少する。調べた一連のタンパク質系高分子では100残基あたり2個未満のカルボキシラートで3分の2の水和を失わせる。こうして、荷電種とVal及びPhe残基の疎水性側鎖の間の水和をめぐる競合関係が直接立証された。この種の競合関係は水和の無極性−極性反発自由エネルギーとして説明されよう。
【0032】
F. Tt値を決定する疎水性水和量
以上で明らかなのは疎水性水和の増大とTt値低下の関係である。(GVGIP)261[SEQ ID NO:2; n−261]の濃度を40mg/mlから1000mg/ mlへと高めながらTt値と水和量を比較すると、DSCで求められるTt値とマイクロ波領域の誘電緩和で測定される疎水性水和量の間に線形に近い関係が見い出された。従って、疎水的フォールディング及び集成転移と両親媒性高分子の機能とは疎水性水和量で制御されるとの見通しが強まる。
【0033】
天然弾性タンパク質と合成バイオエラストマーに関する、AFMで求めた単一鎖F−Eデータ
A. タイチン及びタイチン成分に関する単一鎖研究
単一鎖の300万Daタンパク質であるタイチン(コネクチン)について、AFMを用いて応力−ひずみ曲線を求めた。このタンパク質は大部分が90〜100残基の繰返し配列であるが、骨格筋の2000超残基配列に相当する22〜26残基の繰返し配列をも含む。要するにタイチンはタンパク質系高分子であり、既知結晶構造の繰返しペプチド配列からなる。タイチンは、リシーディングメニスカス(receding meniscus)で生じる張力を用いて分子コーミングすると、幅4nm、長さ1000nm超の線状分子を形成する(Tskhovreboa et al., J. Mol. Biol. 265:100−106, 1997を参照)。
【0034】
このAFM実験では、単一鎖の一端をカンチレバー探針(チップ)に、多端を基板表面に結合する。張力は鎖長の関数として測定するが、数pN/鎖の張力がすでにエントロピー弾性域にわたって求められている(Gaub et al., AvH−Magazin, 71:11−18, 1998を参照)。従って、今日ではエントロピー弾性はランダム鎖網や端間鎖長のランダム又はガウス分布を伴うことなく起りうることが立証されている。これは過去半世紀にわたってエントロピー弾性に関する教示を支配してきた古典的なゴム弾性理論を否定するものである。
【0035】
前記の90〜100残基配列には一般に2タイプがある。いわゆる免疫グロブリン(Ig)ドメインとフィブロネクチンIII (Fn3)ドメインであり、それぞれ疎水的にフォールディングした類似のβバレルを形成する。これらの類似βバレルは個別にアンフォールディングさせることができ、またこれらの相同球状タンパク質の組成の小さな差異に由来する異なる臨界アンフォールディング力を示す。Gaub et al.(AvH−Magazin, 71:11−18, 1998)及びRief et al.(Biophys. J. 75:3008−3014,1998)はそれぞれ一連のIG βバレル及びConFn βバレルのアンフォールディングを示す曲線を提供しているが、いずれの曲線でも長さとアンフォールディング力の特徴的な増大が見られる。これらの臨界アンフォールディング力は延伸速度と共に変化し、ごく低速の延伸では基本弾性力にまで低下する。重要なことに、ConIg構築体とTenFn (テネイシンフィブロネクチン)ドメインに関する同等実験条件下のアンフォールディング力は237pN (ConIg)〜113pN (TenFn)であり、ドメインのアンフォールディングに伴い長さの特徴的な増大が見られる。
【0036】
相同球状タンパク質のアンフォールディングに際してのアンフォールディング力の小さな差異と長さの変化に関するAFMの検出能は本発明に関わる。アンフォールディング力の検出感度は±10pNであるが、90残基球状ドメインの小さな組成差異はずっと大きなアンフォールディング力差異(±100pN)を招く。本発明は、結合部位を有する単一の疎水的にフォールディングした球状タンパク質を弾性タンパク質系高分子鎖と直列にして提供するが、該結合部位は結合相手に占有されるとアンフォールディング状態とフォールディング状態との均衡を、及び/又は適切な延伸速度で実施したときに長さの増大を伴うアンフォールディングが起る力を、変化させる。
【0037】
B. バイオエラストマーに関する予備的な単一鎖研究
バイオエラストマーの{(GVGVP)n}m[SEQ ID NO:1; n=251; m≧2]及び{(GVGIP)n}m[SEQ ID NO:2; n=320; m≧2]を次の要領で調製した。タンパク質系高分子の(GVGVP)251と(GVGIP)320を各形質転換E. coliの発酵で産生させ分離した。得られた遺伝子産物を高レベルに精製し、繰返し配列を1D及び2D NMRで、また鎖長をMALDI−TOF質量分析計で、それぞれ検証した。発現した251量体を、EDCIを用いて重合させ、生成物が251量体の多量体となるようにし、また320量体も同様に重合させた。実質的にすべての分子がさらに大きな高分子と化したことをSDS−PAGEで確認した。251量体と320量体に対応するバンドはもはや見られず、さらに大きな分子量の高分子が得られたが、それらの高分子は251量体と320量体の分離に使用されるゲルにはほとんど浸透できなかった。次に、こうして得られた多量体すなわち(GVGVP)n}m[SEQ ID NO:1; n=251; m≧2]及び{(GVGIP)n}m[SEQ ID NO:2; n=320; m≧2]の両端にシステイン残基を付加した。要するに、251量体又は320量体のランダム化学重合で得られた高分子鎖の両端にシステイン残基を付加した。
【0038】
第2A−2C図に関する実験条件は水溶液(1mg/ml)から金めっきガラススライド上への物理吸着とPBS中での金めっき標準窒化ケイ素カンチレバー探針の使用によるその測定であった。高分子は、複数の分子鎖がピックアップされるのを防ぐために、短鎖(≦5000MW)のチオール化ポリエチレングリコール(PEG)で希釈した。これによりバイオエラストマー鎖を表面に分散させ、単一鎖がカンチレバー探針でピックアップされる可能性を高めることができた。第2A及び2B図に示したのは、Cys(GVGVP)n}mCys [SEQ ID NO:1; n=251; m≧2]及びCys{(GVGIP)n}mCys [SEQ ID NO:2; n=320; m≧2]に関する単一鎖F−E曲線である。F−E曲線の「長さ」は高分子全体の外形の長さではなく延伸部分の長さを反映するものの、観測された700nm程度の破断長さはn値が2の場合なら適切であろう。
【0039】
第2A及び2B図の曲線は、Gaub et al.(AvH−Magazin, 71:11−18, 1998)及びRief et al.(Biophys. J. 75:3008−3014, 1998) でタイチン・ドメインの弾性挙動の適合に使用されたのと同様のワームライク鎖(worm−like chain, WLC)モデルに適合した。WLCモデルは数百nPまでの範囲でうまく機能した。その適合度はタイチンに関する先行研究結果とよく合致したが、適合した持続長はGVGVP (SEQ ID NO:1)では0.9nm、GVGIP (SEQ ID NO:2)では1.0nmであり、Ig又はタイチンの場合より長いので、単一鎖としてのバイオエラストマーはタイチンよりも「柔らかい」ことがうかがえる。
【0040】
より疎水性の高いCys{(GVGIP)n}mCys [SEQ ID NO:2; n=320; m≧2]に関する第2C図のデータはヒステリシスを示したが、これは超希釈条件下では観測されなかった。このヒステリシスは、一見延伸で強いられた疎水的なアンフォールディングに起因するが、一本鎖の折り返りよりもむしろ分子間凝集に起因していたのかもしれない。本発明では規則的な多ストランド・ツイストフィラメントの共有結合構築体を用いるが、そこでは延伸で強いられた疎水的アンフォールディングはもっと一様な、再現性の高いF−E曲線を示すものと見込まれる。本発明はまた、折り返り部分を好ましい長さに形成させるような溶媒中での(たとえば分子内イオン対合などを目的とした)配列周期性制御及び成分制御下に単一鎖の折り返りを制御して3−ストランドのセグメントを形成させることを見込む。
【0041】
本発明のナノマシンは、GVGVP(SEQ ID NO:1)タイプの五量体ファミリーを基礎にしたバイオエラストマーの分子構造を利用して設計される。この五量体ファミリーでは、第1A及び1B表に示したような分子構造と逆温度(相)転移の基本的性質を保持したままで2個のVal残基の置換が可能である。相分離の凝集及びその結果としての分子構造の形成は濃度に依存するため、分子内及び分子間疎水性相互作用を基礎に形成される基本的機能単位すなわちツイストナノフィラメント(後述)をナノレベルで実現することが課題となる。これを用いれば、ミリメートル・スケールで既に立証されている機械仕事の遂行を目的とした諸々のエネルギー変換をナノメートル・スケールで捕えることができる。従って、これを用いて鎖あたり一球状タンパク質をツイストナノフィラメント中に組み込めば、酵素並みの特異性と選択性をそっくり発揮させることができる。従ってナノフィラメント上の官能基の状態の変化又は分析物と球状タンパク質との選択的相互作用を基礎とする変化を伴うF−E曲線の変化から分子事象が検出されることになる。
【0042】
本発明の方法と組成物の説明に戻る前に、バイオエラストマーを一般的に理解しておくことが重要である。
【0043】
材料
バイオエラストマーは後述の多数の特許で既に特性記述され開示されている。バイオエラストマーを定義する1つの方法はペプチド配列群について説明することである。これらの材料はイオン性アミノ酸残基(後述の目的に使用)を含む場合も含まない場合もある。特にこれらの材料は式αPρΩG又はαPθδで示される繰返し単位を含むものとして説明されよう: 式中Pはペプチド形成L−プロリン残基である; Gはペプチド形成グリシン残基である; αはペプチド形成L−バリン、L−ロイシン、L−イソロイシン、L−フェニルアラニン、L−アラニン残基、又はイオン性ペプチド形成残基(L−Glu、L−Asp、L−His、L−Lys、L−Tyr残基及び他のイオン性ペプチド形成L−アミノ酸からなる群より選択される)である; ρはペプチド形成グリシン残基又はペプチド形成D−Ala、D−Glu、D−Asp、D−His、D−Lys、D−Tyr残基又は(随意に)弾性重合体繰返し単位用の他のイオン性ペプチド形成D−アミノ酸もしくは弾性形成繰返し単位用の任意のL−アミノ酸である; Ωはペプチド形成L−バリン、L−ロイシン、L−イソロイシン、L−フェニルアラニン残基又は(随意に)イオン性ペプチド形成L−アミノ酸もしくは他の任意の天然アミノ酸残基である; δはペプチド形成グリシン残基又はペプチド形成D−Glu、D−Asp、D−His、D−Lys、D−Tyr残基又は(随意に)別のイオン性ペプチド形成D−アミノ酸である; またdはペプチド形成グリシン残基又はペプチド形成L−Glu、L−Asp、L−His、L−Lys、L−Tyr残基又は(随意に)別のイオン性ペプチド形成L−アミノ酸もしくは他の任意の天然アミノ酸残基である。
【0044】
これらの人工又は合成バイオエラストマーの例はたとえば次の特許で開示されている:米国特許(Urry et al.)第4,132, 746号(VPGVG及び変異体)[SEQ ID NO:5];米国特許(Urry)第4,500,700号、4,898,926号、5,527,610号及び5,336,256号(いずれもテトラペプチド及びペタンペプチド繰返し単位を開示);米国特許(Urry)第4,589,882号(架橋);米国特許(Urry et al.)第4,783,523号(IPGVG及び変異体)[SEQ ID NO:6];米国特許(Urry et al.)第4,870,055号(六量体の包含); 米国特許 (Urry) 第5,064,430号(ノナペプチド繰返し単位); 米国特許(Urry)第5,250,516号(逆温度転移); 米国特許(Urry et al.) 第5,854,387号(精製); 及び米国特許(Urry)第5,900,405号。以上の特許はすべて参照指示により本書に組み込まれる。
【0045】
米国出願(Urry)No.09/746,371, “Acoustic Absorption Polymers and their Methods of Use”では、これらの人工又は合成バイオエラストマーの追加例が、ある種のナノマシン応用分野に関連する特殊な吸音特性を有するものとして開示されている。これも参照指示により本書に組み込まれる。
本書に組み込まれる前記特許では、多数のバイオエラストマーが開示されている。それらの特許はナノマシンに関するものではないが、本書で開示する使用にとって有益な構造的特徴を実現するうえで重要なバイオエラストマー製造に関する指針を与えてくれる。
【0046】
本発明の方法への使用に好適なバイオエラストマーを説明するもう1つの方法は、疎水性アミノ酸残基及びグリシン残基からなる群より選択されるアミノ酸残基を含む生体弾性テトラペプチド、ペンタペプチド及びノナペプチド単位からなる群より選択される繰返しエラストマーペプチド単量体単位を含む高分子としてバイオエラストマーを定義することである。これらの単量体単位は一連のβターンを形成し一連のβターンは該βターン間に吊り下がった動的架橋セグメントで仕切られる。すなわち該単量体は次の式で示されるβターンをもつコンフォメーションで存在する:
【0047】
【化1】
(式中R1−R5はアミノ酸残基1−5の側鎖であり、mは繰返し単位がテトラペプチドなら0、繰返し単位がペンタペプチドなら1である。)
ノナペプチド繰返し単位は一般に一連のテトラペプチド及びペンタペプチドからなり、しばしばテトラペプチドの位置がグリシンで置き換わる。好ましい疎水性アミノ酸残基は、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン及びメチオニンからなる群より選択される。多くの場合、繰返し単位の1番目のアミノ酸残基はバリン、ロイシン、イソロイシン又はフェニルアラニン残基であり、2番目のアミノ酸残基はプロリン残基であり、3番目のアミノ酸残基はグリシン残基であり、4番目のアミノ酸残基はグリシン又は疎水性がきわめて強い残基たとえばトリプトファン、フェニルアラン又はチロシン、もしくは他の任意の天然アミノ酸残基であり、また5番目のアミノ酸残基は最も一般的にはグリシンである。
【0048】
バイオエラストマーは、本発明の方法にふさわしい所望の性質を実現するよう、合理的に設計することができる。エラストマー単位及びその後のポリペプチドの合成原料となる個別アミノ酸の選択は次の条件が満たされる限りで無制限である。すなわち結果として得られる構造は、たとえば本書に組み込まれる米国特許第4,500,700及び5,064,430号で開示されている特徴を備えたエラストマー構造を、特に前述のβターン構成を含み、また結果として得られるバイオエラストマーは本発明の実施態様で意図されている目的に役立つ属性を維持しなければならない。さらに、βターンが折りたたまれてβヘリックスを形成すると、たとえば前掲米国出願(Urry) No.09/746,371で開示されている特徴を備えたアミノ酸組成に依存して吸音が増大し、結果として得られるバイオエラストマーが本発明の実施態様で意図されている目的に役立つ吸音属性を維持しなければならない。
【0049】
ポリ(GVGVP)[SEQ ID NO:1]の分子構造は第3図のように一連のβターンとして示される。このβターンは、Pro残基に先立つVal残基のC=O基と2個のGly残基にはさまれたVal残基のN−H基が絡む10原子水素結合環である(第3A及び3B図)。基本的な問題は逆温度転移点の下と上におけるβターンの相対的配向である。転移点の下では、βターン相互の関係は本質的にランダムである。転移点の上では、βターンは疎水的に折りたたまれ、一巻きあたり約3個の五量体からなるβスパイラルというらせん状配列を形成する(第3D及び3E図)。さて分子間疎水会合に由来するこの逆温度転移は濃度に依存するため、βスパイラルは従来しばしば単純化して大まかに示されてきたのとは異なり、単独では存在しないと思われる。βスパイラルは実際は、ネガティブ染色した初期集合体の電子顕微鏡写真に見られるように、また第3F図及び第4図に示すように、会合した状態で多ストランド・ツイストフィラメントを構成しているはずである。
【0050】
バイオエラストマーは多数の利点をもつように設計することができる。これは、それ自体が多様な構造や化学的性質を有し、修飾も容易である、容易に得られ結合される単量体単位たとえばアミノ酸などからなる高分子を用意することで実現しうる。従ってバイオエラストマーは、四量体、五量体又は他の単量体単位の混合物を含有する共重合体としても提供することができる。さらに、組換えペプチド工学的な手法を有利に用いて、個別ペプチド主鎖を生体弾性単位又は非弾性二官能セグメントとして生成することもできる。
【0051】
バイオエラストマーは単量体単位の様々な位置にふさわしい様々なアミノ酸を選択することにより、また最終産物の形成に用いる架橋法(化学法、酵素法、放射線法など)を変えることにより、多様な含水組成、広範囲の疎水性、ほぼ任意所望の弾性率、多彩な物理的形態(シート、ゲル、フォーム、パウダーなど)及び可変的な架橋度に調製することができる。ポリマー設計のこうした様々な側面を考慮した多様なバイオエラストマーの調製については既に、たとえば前記特許で開示されており、ここでは簡単に触れるにとどめる。
【0052】
本発明の方法に有用な好ましいバイオエラストマーは繰返しテトラペプチド、ペンタペプチド及び/又はノナペプチド単量体単位を含む高分子、すなわちポリテトラペプチド、ポリペンタペプチド及びポリノナペプチドである。本発明に有用なバイオエラストマーは一般に5以上、好ましくは10以上、より好ましくは20以上の単量体を、さらにもっと好ましくは100以上の単量体を含む。バイオエラストマーはまた随意に、単量体単位間へのたとえば単一アミノ酸の挿入、時折出現する単量体中の一アミノ酸の他アミノ酸への置換、又は弾性率の向上や他の所望特性の付与を目的として並列又は直列に付加することのできる異なる配列のテトラペプチド、ペンタペプチド又はノナペプチドの包含も可能である。米国特許第4,500,700及び5,046,430号参照。従って、得られるバイオエラストマーは異なる単量体単位から形成されるため当然にも共重合体と称される。代表的な共重合体は好ましくはテトラペプチド及びペンタペプチド単量体単位の混合物であろうが、それらの単位は同じでも異なってもよい、すなわちすべての四量体が同じでも異なってもよいし、またすべての五量体が同じでも異なってもよい。さらに、バイオエラストマーは前述の単量体単位のうちの1つと1〜100個のアミノ酸、より一般的には1〜20個のアミノ酸を含む第2のペプチド単位から形成される共重合体でもよい。その種の第2ペプチドはたとえば米国特許(Urry et al.)第4,870,055号で開示されている六量体の−APGVGV− [SEQ ID NO:7]であり、弾性率の変更を目的とした導入など多くの用途があろう。
【0053】
単一多ストランド・ナノフィラメントの設計
ナノスケールでの基本機能単位はツイストフィラメントである。相分離は濃度に依存するため、凝集段階でナノフィラメントを単離するのは、またすべての鎖を同時に開始、停止させて単離するのももちろん、困難である。ツイストフィラメントの形成方法はたくさんあり、その一例を次に示す。機能単位に関するF−E曲線が得られるようにするには機能単位を化学合成で調製する必要があり、システイン残基の−SH基を両末端に配して、カンチレバー探針と基板表の金めっき層にしっかりと固定するようにする。タンパク質系高分子のアミノ末端には2ストランド・フィラメントの場合にはアジピン酸を、3ストランド・フィラメントの場合にはケンプ三酸を、また4ストランド・フィラメントの場合にはEDTAを配する。バイオエラストマーのカルボキシル末端にはこれらのジアミン誘導体を使用し、また閉合固定は超希釈条件下で行う。これにより、側鎖官能基を使用しない熱駆動及び塩駆動ナノマシンが得られよう。使用される高分子は(GVGVP)n [SEQ ID NO:1; n=251]及び(GVGIP)n [SEQ ID NO:2; n=320]であろう。(GVGVP)251を使用して構築されることになる3ストランド・ナノフィラメントの略図を第4A及び4B図に示す。長さ約60nmのこの構築体は約5倍に伸びる力をもとう。
【0054】
単一ナノフィラメントからなる酸−塩基駆動及びレドックス駆動ナノマシンの設計
pH駆動及びレドックス駆動ナノマシンでは側鎖官能基が使用されよう。繰返し基本単量体配列中にカルボキシル基を含む高分子では、やはりアミノ末端に多酸を導入し、他末端の閉合は組換えDNA産生高分子のカルボキシル末端に過剰システイン残基を使用してジスルヒド結合を形成させることによって行う。アミノ基を含む高分子では、カルボキシル末端を使用して初期多量体を形成させ、また組換えDNA産生高分子のアミノ末端の閉合には過剰システイン残基を使用する。形成された多ストランド・フィラメントの側鎖アミノ基にレドックス官能基を付加すればナノエレクトロメカニカル系が作製されよう。酸−塩基駆動及びレドックス駆動ナノマシンの場合には、第4A又は4B図の構築体の各ストランドの外部は周期性繰返し官能基で装飾されよう。
【0055】
アミノ酸の選定
前述のように、本発明の方法に使用されるバイオエラストマーの性能にとって決定的に重要なある種の特性が存在する。しかし、当業者には自明であろうが、所望の特性を発揮させるように調整することができる他の物性も多数存在する。たとえば粘性、粘弾性、コンシステンシー、弾性率、安定性、靭性、含水組成、疎水性度、物理的形態、及び架橋度などであり、そのうちのいくつかについては後述する。従って、特定単量体単位中のアミノ酸の選定及び単量体単位の所望比率の選定は経験的な手続きで行うことができる。この手続きは、既知バイオエラストマーの物性測定(又は検索)に始まり、類似するが異なるバイオエラストマーの製造、及び本書でも前記特許でも述べているような物性の測定へと進む。そこから、選定手続きを合理的に修正して所望の物性を備えたバイオエラストマーを探し出すことができる。
【0056】
特に興味深い四量体又はテトラペプチド単量体単位はVPGG(SEQ ID NO:8)及びGGX2P [SEQ ID NO:9; 式中X2はバリン(V)、フェニルアラニン(F)又はアラニン(A)である]などである。
好適な五量体又はペンタペプチド単量体単位は、説明のため非限定的に例示すると、式GX3GX4P [SEQ ID NO:10; 式中X3はバリン(V)、グルタミン酸(E)、フェニルアラニン(F)、チロシン(Y)、リシン(K)、イソロイシン(I)及びアラニン(A)からなる群より選択され、またX4はV、E、F及びIからなる群より選択される]で示される単位、具体的にはGVGVP、GVGIP、GVGFP、GFGFP、GFGEP、GFGIP、GEGFP、GEGVP、GKGFP、GKGVP、GEGIP、GKGIP及びGYGIPなどである。他の特に好ましい個別単量体単位及びバイオエラストマーについてはSEQ ID NOS:12、16及び17、それに参照指示により本書に組み込まれる任意の特許を参照。
【0057】
特に好ましい生体弾性材料は、式GX3GX4P (SEQ ID NO:10)の繰返しペンタペプチドを少なくとも1個、より好ましくはGVGVP(SEQ ID NO:1)又はGVGIP(SEQ ID NO:2)のペンタペプチドを少なくとも1個含む材料であり、これはa−(GVGVP)n−b又はa−(GVGIP)n−bバイオエラストマーともいえる(式中nは1〜10,000好ましくは3〜700の整数であり、aとbはポリテトラペプチド、ポリペンタペプチド、ノナペプチド又はそれらの共重合体である)。
【0058】
特に、酸−塩基駆動及びレドックス駆動ナノマシンを含むバイオエラストマーの個別配列は、多ストランド・ナノフィラメントの形成を増進し鎖のいっそうの凝集を制限するように選択されよう。本発明の一実施態様では、基本単量体単位は(GFGFP GFGVP GAGVP GFGFP GIGVP GX5GVP)p [SEQ ID NO:11; 式中X5はグルタミン酸(E)又はリシン(K)であり、またpは1〜600の整数である]の形をとろう。第5図に示すように、この配列はより疎水性の高いPhe (F)残基をツイストフィラメントの内側に配する。他方、カルボキシル基又はアミノ基はレドクッス基が結合した又は結合しない状態でナノフィラメントの外側に位置するため、その荷電又は酸化状態により鎖のさらなる会合を制限することができる。
【0059】
弾性
バイオエラストマーの弾性率を制御する一手段は転移点(Tt)という特性に関連する。一部のバイオエラストマーに見られる独特の性質は、それらが逆温度転移を起こし、その際に典型的なゴムに見られるランダム網目構造とは異なる規則的な構造が発現することである。これは米国特許(Urry)第5,250,516号で詳しく説明している。バイオエラストマーはそのTtを超える温度では、可逆的に会合してコアセルベートと呼ばれる濃密な含水粘弾性相を形成し、またコアセルベートの上の溶液は平衡溶液と呼ばれる。ゴム弾性状態を形成するこの温度上昇過程は規則構造のβスパイラルを出現させる結果となる。これはゆるい含水らせん構造であり、らせん巻き間にはスペーサーとしてのβターンが存在し、この構造によりらせん巻き間の、及びβターン間に吊り下がったペプチドセグメントとの、疎水性接触が実現する。従って、これらのバイオエラストマーのゴム弾性力は規則構造の発現に伴って発現する。成分繰返し単位のモル量を種々変化させた生体弾性材料を合成することにより、またこの初期粘弾性相を支持するための特定の溶媒を選択することにより、得られるバイオエラストマーが弾性力を発現する温度を厳密に制御することが可能となる。極大弾性力は約75℃を上限とする比較的狭い温度帯で発現する。
【0060】
従って、特定単量体単位中のアミノ酸の選定及び単量体単位の所望比率の選定は、本書でも前記特許でも述べているように、既知バイオエラストマーの物性測定(又は検索)に始まり、類似するが異なるバイオエラストマーの製造、及びTt及び物性の測定へと進む経験的な手続きで行うことができる。たとえば転移点Ttの値に対するアミノ酸組成変更の効果は疎水性尺度を用いてバイオエラストマーの単量体単位中の個別アミノ酸残基の平均疎水性の総和を求め、その結果をTtが既に判明しているバイオエラストマーに関して得られた総和と比較することで、見込まれるTtの大まかな推定値が得られるようにして割り出すことができる。一般に、疎水性がより高い残基(Ile、Pheなど)はTtを低くし、疎水性がより低い残基(Asp、Lysなど)はTtを高くする。ほぼどの変数も、バイオエラストマーの適切な組成と共に、Tt値を変化させることができる。そうした変数の例は(1)高分子の濃度、(2)高分子の長さ、(3)アミノ酸組成、(4)塩濃度たとえばHofmeister (離液)系列、(5)有機の溶質及び溶媒、(6)高分子側鎖のイオン化、(7)高分子側鎖の化学修飾たとえばリン酸化、硫酸化及び窒化、(8)圧力(芳香族残基に及ぼすものなど)、(9)高分子に結合した化学基のレドックス状態、(10)高分子に結合した化学基による光の吸収、及び(11)イオン対合による側鎖電荷の中性化、たとえば陰イオン側鎖の陽イオン中性化、陽イオン側鎖の陰イオン中性化及び鎖内又は鎖間のイオン対合などである。
【0061】
主鎖の修飾
バイオエラストマーはマトリックスを形成するペプチド単位で構成されるが、多様な方法で修飾を加え追加の物性をもたせることができる。たとえば1以上のペプチド結合を随意に、還元又は脱離によって得られる置換結合で取って代えることができる。こうして、技術上周知の方法により1以上の−CONH−ペプチド結合を他タイプの結合たとえば−CH2NH−、−CH2S−、−CH2CH−、−CH=CH−(cis及びtrans)、−COCH2−、−CH(OH)CH2−及び−CH2SO−で取って代えることができる。そうした方法の概論としては、たとえば “Chemistry and Biochemistry of Amino Acids, Peptides and Proteins” (B. Weinstein, ed., Marcel Dekker, New York) p.267所収のSpatola, A.F. (1983) を参照。アミノ酸残はこれらの高分子主鎖の好ましい成分である。もちろん、エラストマー単位レベルで主鎖に修飾を加える場合には、高分子の弾性と逆温度転移が維持されるようにするのが好適な主鎖修飾である。
【0062】
架橋
架橋度は、単量体単位の異なる位置に対応した異なるアミノ酸を選定することで、また最終産物を形成するために用いる架橋法(化学法、酵素法、放射線法など)を変更することで、制御することができる。たとえばバイオエラストマーの特性は多様な架橋法のうちの任意の方法(化学法、酵素法、放射線法など)を用いる架橋により左右することができる。架橋はバイオエラストマーに機械的強度と剛性をもたらすが、要求剛性の増大に応じて架橋量を増大させるのが適切である。一般に許容されるのは200〜500繰返し単位につき1架橋結合を実現する架橋であるが、より低い粘性のバイオエラストマーでは架橋量をもっと多くすることやその逆も許容される。バイオエラストマーの架橋方法は、酵素的架橋性単位をもつブロック重合体を合成することによる酵素的架橋法を教示している米国特許(Urry)第4,589,882号などで公知である。たとえばバイオエラストマーにシステインを導入すれば、ジスルヒド架橋を介した表面との結合が可能になるし、またリシンを導入すればコラーゲンやエラスチンなどを架橋する酵素を用いて表面との酵素的結合を実現することができる。別の例はリシン(K)残基をもつ1以上の単量体たとえばGX3GX4P (SEQ ID NO:10)のX3がK、X4がVであるGKGVPなどを含むバイオエラストマーであり、これは既に架橋酵素リシルオキシダーゼの基質であることが示されている。
【0063】
水溶性カルボジイミドを使用して、ある鎖上のグルタミン酸(Glu, E)又はアスパラギン酸(Asp, D)のカルボキシル基を他鎖上のリシン残基(Lys, K)のアミノ基に架橋結合しアミドを形成させる架橋法もある。これはカルボキシル基又はGluを含む配列とアミノ基又はLysを含む配列との結合に関連する。水溶性カルボジイミドを使用するこの化学架橋法は次の要領で行う。Gluを含むバイオエラストマーの水溶液(40mg/mL, pH 7.5)とLysを含むバイオエラストマーの水溶液(40mg/mL, pH 7.5)とを混合する。この混合溶液をその転移点の2〜3℃上で平衡させる。計算量のEDClとHOBtを加える。N−メチルモルホリンでpHを7.5に調整し上記温度を維持しながら2日間振とうする。
【0064】
さらに放射線による架橋も本書で参照指示したほぼすべての特許に詳しく記載されている。たとえば(GVGVP)n [SEQ ID NO:1]はnをおよそ200として20Mradのγ線照射で架橋すると、弾性率105N/m2程度の弾性マトリックスを形成するが、この弾性率は組成と条件を変えることにより104〜108N/m2の範囲内で加減することができる。X20−ポリ(GVGVP) [Urry et al., J. Bioactive Compatible Polym. 6:263−282 (1991)]もまた放射線架橋バイオエラストマーの例である。放射線架橋法で調製されるバイオエラストマーは「X20−ポリGVGVP」などと表記して識別するが、それは線量20Mradのコバルト60照射で架橋し不溶性マトリックスとした、PGPGVペプチド単位からなるバイオエラストマーを表わす。架橋コアセルベートもまた、ずっと大きな及び小さな線量で、すなわち50Mradもの線量で、だが通常は20Mrad未満、しばしば10Mrad未満、さらには5Mrad未満の線量で得ることができる。
【0065】
総括アミノ酸組成
得られるバイオエラストマーの様々な位置に存在するアミノ酸を大幅に変化させることもまた、吊り下がった架橋セグメントを間に挟む多重βターンが維持されることにより弾性が保持される限り、可能である。この理由から、好ましくはポリペプチドの50%以上、より好ましくは70%以上、さらにもっと好ましくは90%以上が繰返し単量体単位で構成されるようにする。それにもかかわらず、他の目的のために設計されたペプチド・セグメントを含むより大きなポリペプチド全体にこれらの単量体単位を分散させたポリペプチドを調製することも可能である。そうした配列は所望の機能を実現するために共有的かつ直列的に又は側鎖として付加することができる。これら他配列の単量体残余に対する比は1:2〜1:5000の範囲としうるが、好ましくは1:10〜1:100である。置換基の数と種類に対する上限は、バイオエラストマーの、緩和状態でβスパイラルを形成するための適正なフォールディング/集成能にも左右される。
【0066】
総括疎水性
全バイオエラストマーの疎水性(従ってまたバイオエラストマー中の官能基の平均疎水性)は、種々の単量体単位の比率を変えることで加減することができる。これらは一官能基を含み転移を起こす単量体単位でも、バイオエラストマー中の他単量体単位でもよい。たとえば基本単量体単位がGVGVP (SEQ ID NO:1)であり、転移を起こす単位がGX6GVP (SEQ ID NO:12; 式X6中は電気応答性側鎖をもつよう修飾されたアミノ酸残基である)であるとすれば、適切な転移点が実現されるまで、GVGVP単位のGX6GVP単位に対する比を変化させていくか、又は異なる構造単位たとえばGVGIP (SEQ ID NO:2)を、量を変えながら加えていくことができる。さらに、バイオエラストマーの配列は厳密に指定しうるため、構造成分の最適配置が可能になる。たとえば、カップリングした残基を主鎖上に互いに隣接し合うように(すなわち一次配列に基づいて)配置することにより、さらにまたらせん巻き間近接性を持たせるよう配置することにより、最適の空間近接性を実現することができる。
【0067】
生体弾性ポリペプチドの大きな利点は、疎水性/極性度の微調整及びその結果として得られる逆温度転移シフトを実現しうる度合いにある。Ttを変化させるには、前述のアミノ酸組成の変化に加えて、バイオエラストマーの平均疎水性を変化させる任意の化学的手段たとえば脱リン酸とリン酸化、レドックス・カップルの酸化と還元、イオン化と脱イオン、プロトン化と脱プロトン、開裂とライゲーション、アミド化と脱アミド、立体構造又は構成の変化(cis−trans異性化など)、電気化学的変化(pKaシフトなど)、発光/吸光又は他の物理的変化(熱エネルギー放射/吸収など)、圧力(米国特許第5,226,292号を参照)、光応答又は電気応答効果、もしくはそれらの組み合わせ用いることができる。
【0068】
疎水性の設計はアミノ酸残基を適切に選定すれば容易である。この選定手続きについてはバイオエラストマー一般の疎水特性に関わるので、後で取り上げる。本発明の方法への具体的な使用には、バイオエラストマーを構成する1以上の単量体単位に現れる3つの好ましい残基すなわちフェニルアラン、チロシン及びイソロイシンが存在する。従って、本発明の好ましい一実施態様ではバイオエラストマーはフェニルアラニン又はイソロイシン残基をもつ1以上の単量体単位を含む。特に興味深い五量体はGVGVP(SEQ ID NO:1)及びGVGIP(SEQ ID NO:2)ペンタペプチドを基礎とするバイオエラストマーの、荷電した、かつ疎水的に多様な類縁体である。従って、本発明の一実施態様では、好ましいバイオエラストマーは式GX3GX4P (SEQ ID NO:10; 式中X3はV、E、F、Y又はKであり、X4はV、E、F又はIである)で示されるその種の五量体の類縁体を1以上含む。
【0069】
好ましいX3残基はF (五量体GFGFP、GFGEP、GFGVP及びGFGIPなどの場合)、A (五量体GAGVP及びGAGIPなどの場合)、Y (五量体GYGVP、GYGIPなどの場合)、E (五量体GEGIP、GEGVPなどの場合)及びK (五量体GKGIP、GKGVPなどの場合)などである。好ましいX4残基はF及びIからなる群より選択され、五量体はGAGIP、GAGFP、GVGIP、GFGIP、GVGFP、GFGFP、GEGFP及びGKGFPなどとなる。特に好ましい生体弾性材料は1以上のGVGIP単量体を含む材料である。というのは、その種の単量体が1以上存在するとマトリックスがより強靭になり、また疎水性度が高まると判明しているからである。
【0070】
これらの好ましい単量体単位を1以上含むバイオエラストマーの例を以下、説明を目的に、非限定的に列挙する:
(GFGFP GFGVP GAGVP GFGFP GIGVP GX5GVP)p [SEQ ID NO:11; 式中X5はEであり、pは1〜600の整数である。]
(GAGFP GFGVP GAGVP GIGFP GFGVP GKGVP)q [SEQ ID NO:13; 式中qは1〜600の整数である。]
上記の例では式中の整数p及びqの値を与えているが、その趣旨はあくまでも本発明のバイオエラストマーの例示であって限定ではない。
【0071】
合成
高分子量のバイオエラストマーを高収率で得るためのアプローチは多数ある。生体弾性繰返し単位の合成は簡単であり、ペプチド化学者にも、又は組換えDNA技術や微生物発酵の標準方法によっても、楽に行える。バイオエラストマーの有機合成はたとえば参照指示により本書に組み込まれる種々の特許に記載されている。具体的にはポリ(GVGVP)の合成と架橋は米国特許第4,783,523号に、ポリ(IPGG)の合成は米国特許第5,250,516号に、またポリ(GGAP)の合成は米国特許第5,527,610号に、それぞれ記載されている。従ってこれらの特許の教示は種々の単量体単位をもつバイオエラストマーの合成に応用することができる。バイオエラストマーを化学合成で生産するときは、不純物を避けるよう注意する必要がある。低濃度の不純物でも、重合過程を終了させたり、得られるバイオエラストマーの物性を変化させかねないラセミ化を招いたりするおそれがあるためだが、それ以外、格別の合成問題は存在しない。ペプチド単位の純度は好適な物性を備えた材料を得るうえで重要である。というのは、たとえばバイオエラストマー合成のわずかな変化でもTtを15℃も変化させる結果となりうるからである。この潜在的な問題への対策はペプチド合成に使用する単位成分の精製に尽きる。
【0072】
バイオエラストマーは単独重合体又は共重合体として合成することができる。2以上の単量体単位から合成されるランダム又はブロック共重合体は本発明の方法に有用であるが、同等の単独重合体が所望の物性を備えるときはあまり好ましくない。その訳は合成がより複雑であることに尽きる。バイオエラストマーはその合成方法とは無関係に、必要ならさらに誘導体化することができる。たとえば米国特許(Urry)第5,900,405号(電気的暴露)に記載されているように電気応答性側鎖をバイオエラストマーに組み込むこともできる。
【0073】
バイオエラストマーはまた遺伝子工学的手法で合成することもできる。このアプローチでは、所望のペプチド配列をコードする遺伝子を構築し、宿主生物に人工的に導入し、そこで発現させる。宿主生物は細菌などのような原核生物でも酵母や植物などのような真核生物でもよい。適切な宿主生物中で効果的に遺伝子を発現させるための遺伝子情報(DNA配列など)操作技術は分子生物学の世界では周知であり[たとえばSambrook et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Second Edition, Cold Spring Harbor, New York (1989)を参照]、ポリヌクレオチドの開裂、結合、複写又は他の組換えを行いうる酵素の使用などが含まれる。さらに、この情報を宿主細胞に、発現に好適な仕方で導入しうるようにするベクターも公知である。ポリVPGVGの詳しい合成例は本発明者の研究所に由来する出版物McPherson et al., Biotechnol. Prog. 8:347−352 (1992)及びMcPherson et al., Protein Expression and Purification 7:51−57 (1996)に記載されており、これらの出版物は本発明に使用される材料の遺伝子工学的調製のための手引きとして利用できる。既に2000ものアミノ酸残基をもつバイオエラストマーを適切なE. coli株で効率的に発現させている。たとえば(GVGVP)n [SEQ ID NO:1; n=121]の発現が既にE. coli細胞容積の80%のレベルで起きている。従って、本発明の方法への使用に好適なバイオエラストマーは、(GVGIP)n [SEQ ID NO:2; 式中n=260]を産生するよう形質転換したE. coli及び測定が容易な発現産物を同時発現するよう組み換えた発現ベクターの使用により低コストで合成しうるものも多い。
【0074】
一般に、所望エラストマーの特定部分をコードする一本鎖オリゴヌクレオチドは商業的供給元により化学合成される。これらのオリゴヌクレオチドを次にその3’末端相補領域全体にわたってアニールし、ハイフィデリティ熱安定性DNAポリメラーゼで完全長の二本鎖基本遺伝子断片へと伸張する。得られた遺伝子断片を制限酵素BamHIで消化し、クローニングベクターpUC118へとライゲーションにより挿入する。クローニング用宿主E. coli DH5aF’の形質転換後、選択プレートからポジティブクローンを回収し、各クローンからプラスミドDNAを単離しスクリーニングにかける。得られたプラスミドをBamHIで消化し、アガロースゲル上で分離する。次の配列確認に回す候補クローンを選別する。配列が確認されクローンを、後続の遺伝子構築のための所望バイオエラストマー供給源として使用する。コンカテマー(多量体)遺伝子を構築するために、単量体遺伝子を含むプラスミドを前記制限酵素で消化し大量の単量体遺伝子断片を調製する。得られた単量体遺伝子断片を次に、後続操作のためのクローニング部位を種々のベクターにもたらすN−及びC−末端アダプターの存在下に、鎖状に連結(ライゲート)する。得られた鎖状連結産物は多様な鎖長の多量体遺伝子からなるが、それらをpUC118中にライゲートし、ベクターごとE. coliに導入する。選択プレート上の有力クローンをスクリーニングし、種々の酵素による一連の消化を経てポジティブクローンを特定する。
【0075】
組換えDNA技術の使用によるバイオエラストマーは生産コスト面で合成有機高分子やかなりの精製を必要とする天然材料に対し競争力をもちうる。工業用タンパク質メーカーはバイオ工学で生産されるタンパク質のコストを大幅に低減しうることを既に立証している。吸音体用のバイオエラストマーは大量に必要とされるため、その生産コストは特に重要である。
【0076】
生体弾性ポリペプチドはたとえば発酵槽で増殖させた菌株から、又は有機合成から、その逆温度転移能を利用して精製することができる。微生物系で発現させた遺伝子工学的高分子では、タンパク質系高分子の逆温度転移特性を利用した精製が好ましい。この方法を用いるとエンドトキシン濃度でさえも格別に引き下げられることが立証済みだからである。Urry et al., J. Biomater. Sci. Polymer Edn. 9:1015−1048 (1998)を参照。
【0077】
使用方法
以下の実施例では当業者向けの本発明の例示と説明を目的に、本発明の特定の態様を説明する。実施例は本発明の理解と実施にとって有益な特定の方法論を示すにすぎず、本発明を限定するものではない。
【0078】
実施例
バイオエラストマーの調製では、以下の個別実施例で説明するような遺伝子構築、発現系の開発、発酵及び精製を利用する。遺伝子構築に関しては、 (発現に使用されることになるベクターに存在する制限部位の考察など標準的な手法を用いて選択された)適切な制限部位配列を含む適切な付着端をもつように基本単量体遺伝子を設計した。基本遺伝子の合成は制限エンドヌクレアーゼによる消化による付着末端の生成、それに続くDNAリガーゼを使用したライゲーションによる基本遺伝子の多量体の形成によって行った。このプロトコールを使用して各単量体遺伝子配列を首尾よく生成した。次に単量体遺伝子をコンカテマー化(重合)して繰返し単位数が種々異なる多量体遺伝子を形成し、以下簡潔に報告するように数多くの多量体遺伝子を高レベルで発現させた。
【0079】
実施例1
ナノマシンの調製
A. 組換えDNA技術によるバイオエラストマーの調製
組換えDNA技術を用いて、基本単量体遺伝子の調製、そのコンカテマー化による多量体遺伝子の調製、E. coliへの導入、高レベルでの発現によりバイオエラストマーを調製する。一般的なアプローチはMcPherson et al., Protein Expression and Purification 7:51−57, 1996に記載されている。
【0080】
B. 遺伝子配列
(GFGFP GFGVP GAGVP GFGFP GIGVP GX5GVP)p [SEQ ID NO:11; 式中X5はE、pは50である]及び(GAGFP GFGVP GAGVP GIGFP GFGVP GKGVP)q [SEQ ID NO:13; 式中qは45である]に対応する個別遺伝子の設計が必要である。
(GFGFP GFGVP GAGVP GFGFP GIGVP GEGVP)p [SEQ ID NO:11; 式中pは2である]に対応するヌクレオチド配列(SEQ ID NO:14)を一例として次に掲げる。
【0081】
【化2】
【0082】
C. 一連の長いバイオエラストマーの間への球状モジュールの挿入
GRGDSPを含むFn3球状ドメイン(SEQ ID NO:15)を用いて一連の長いバイオエラストマーの間に球状ドメインを挿入することができるが、その目的はGRGDSP細胞接着部位をRGYSLG(SEQ ID NO:16)などのようなキナーゼ認識部位に置き換えることに尽きる。あるいは、RGYSLGキナーゼ認識部位をもつ小さな球状タンパク質のリゾチームを用いることもできる。RGYSLGキナーゼ認識部位をもつFn3ドメインすなわちFn3:RGYSLGのアミノ酸配列は次のとおりである。
【0083】
【化3】
【0084】
この球状Fn3ドメインをコードする遺伝子は、バイオエラストマーたとえば(GVGIP)n [SEQ ID NO:2; n=10]をコードする遺伝子との鎖状連結が可能なように構築した。さらに、該遺伝子はそれ自体との鎖状連結によりFn3:RGYSLGの多量体の生成も可能なようにした。単量体Fn3:RGYSLG遺伝子は次に示す合成ヌクレオチドを用いて2個の「半」遺伝子として構築した(Nはアミノ末端側の半分を示し、Cはカルボキシル末端側の半分を示す)。
【0085】
【化4】
【0086】
具体的には、各「半」遺伝子について2個のオリゴヌクレオチドをその3’末端相同領域にわたってアニールした。これらの末端をサーマルサイクラー中で熱安定DNAポリメラーゼと遊離デオキシヌクレオチドにより伸張して、二本鎖DNA断片を得た。この反応生成物を分取して、最初の2オリゴヌクレオチドの二本鎖断片の3’末端と相同の3’末端をもつ別の2オリゴヌクレオチドを含む類似の反応混合液と混ぜた。これらの反応の二本鎖生成物を次に、それらがコードするアミノ酸配列と併せて示す。Fn3:RGYSLGをコードするDNA配列は大文字で示す。
【0087】
【化5】
【0088】
【化6】
【0089】
これらFn3:RGYSLG「半」遺伝子を各々、末端BamHI部位を利用して多目的クローニングベクターたとえばpCU118中にクローニングし、DNA配列解析で確認した。次いでそれらを各々Pf1MIでの開裂によりクローニングベクターから遊離させることで、各々独立にPf1MI消化単量体バイオエラストマー遺伝子と鎖状連結することができた。各「半」遺伝子はリガーゼと共にバイオエラストマー遺伝子と、半遺伝子繰返し配列数あたりの所望バイオエラストマー繰返し配列数に有利となる比率で混合することができた。
【0090】
たとえばFn3Dom−N単量体遺伝子と(GVGIP)10単量体遺伝子とを含む鎖状連結ライゲーション反応液から、両端を1以上のFn3Dom−N遺伝子繰返し配列にはさまれた1以上の(GVGIP)10遺伝子繰返し配列からなるコンカテマーを生成することができる。このコンカテマー遺伝子(Fn3Dom−N)x{(GVGVIP)10}y(Fn3Dom−N)z [式中x、y及びzは1以上である]をNcoIとEcoRIで消化すると、yコピーの(GVGVP)10遺伝子を5’末端に付加されたFn3Dom−N半遺伝子が得られよう。同様にFn3Dom−C半分遺伝子と(GVGIP)10単量体遺伝子の鎖状連結ライゲーション反応により(Fn3Dom−C)q{(GVGVIP)10}r(Fn3Dom−C)s [式中q、r及びsは1以上である]が得られ、この生成物をEcoRIとHindIII で消化すると、rコピーの(GVGIP)10遺伝子を3’末端に付加されたFn3Dom−C半遺伝子が得られよう。これら2つの鎖状連結生成物をそれらのEcoRI末端を介してライゲートすると、その5’末端、3’末端にそれぞれyコピー、rコピーの(GVGIP)10を付加された完全なFn3:RGYSLG遺伝子配列が得られよう。さらに、Fn3Dom−N、Fn3Dom−Cの各「半」遺伝子はそれぞれ、NcoI及びHindIII 末端のGVGIPコード配列並びにこれらの末端の開始及び終止コドンに寄与する。得られる遺伝子はGVGIP{(GVGIP)10}yFn3: RGYSLG{(GVGIP)10}rGVGIPをコードしており、またNcoI及びHindIII 末端を介してたとえば発現ベクター中にクローニングすることができる。
【0091】
D. 多ストランド・ツイストフィラメントの化学的調製
以下は可能なアプローチの1つである。側鎖カルボキシル基をもつバイオエラストマーでは、たとえばトリシステイン誘導体化ケンプ三酸をアミノ基によるストランドの結合に使用する。バイオエラストマー鎖の他末端は、鎖状連結に際して使用したアダプター・オリゴヌクレオチドにより付加されたシステイン残基に由来するジスルフィド結合により架橋する。このカルボキシル末端のシステイン残基の数と位置は、未反応−SH基をもたせて分子間ジスルフィド架橋と金表面への結合の両方を実現するように選択する。同様に、側鎖アミノ基をもつバイオエラストマーでは、たとえばトリエチレンジアミンすなわちケンプ三酸のトリシステイン誘導体をカルボキシル基によるストランドの固定に使用する。同様に、アミノ末端で求められる鎖間ジスルフィド架橋のためのシステイン残基の挿入にはアダプター・オリゴヌクレオチド配列を使用し、残ったシステイン残基は保持し、その−SH基を金めっき表面への結合に当てる。
【0092】
実施例2
ナノマシンのAFMによる特性決定
原子間力顕微鏡(AFM)は、液体環境で使用することができる高解像度の走査型プローブ顕微鏡である。AFMは最も一般的な画像化装置としての用途に次いで、単一分子鎖による機械的実験の実施に使用できるnm、pNスケールのフォースセンサーとして浮上してきた。ツイストフィラメント・ナノマシンの特性決定にはこうした最新AFM技術の両面を使用する。
【0093】
A. 単一フィラメント張力−伸び(F−E)曲線
単一フィラメントの弾性特性の決定では、AFMを基礎とした単一分子力分光法を用いてそのF−E曲線を調べる。これには、AFM探針/基板表面間の個別高分子鎖の最適スパニング及び伸張を可能にするような専門の装置が使用される。試料の左右走査をやめるときのピエゾ変換器のz軸レンジは8(mであり、ピエゾ伸張は内蔵ひずみ計で制御する。この装置を用いると、数Åの精密さでカンチレバー位置の制御が可能であり、その場合の力分解能はpNオーダーである(カンチレバー振動に起因する熱雑音は10pN未満であり、フィルター処理により
【数1】
へとさらに改善することができる)。ポリペプチドの弾性試験に使用したカンチレバーの公称ばね定数は約10nM/mであり、液体環境でのカンチレバー共振周波数は一般に1kHz程度であった。基板表面へのAFM探針の最初の接近に先立って、各レバーのばね定数を個別に、その熱振動振幅を測定することにより校正した。単一伸張トレースを記録するための一般的なタイムスケールは1ミリ秒〜100秒である。
【0094】
一般に、実験は室温で、液体環境たとえば純MilliQ水又は水性電解質緩衝液中で行う。装置の試料セルは液体交換を可能にして、高分子鎖をAFM探針と基板の間に保持した状態で塩又はpH条件を変えられようにしてある。さらに、金めっきした探針と基板は導電性であり、従って分子レベルで起るレドックス過程を刺激するための電極として使用することができる。最後に、外部光刺激(レーザー光)の系へのカップリングを可能にするようにして実験を行うこともできる。実験のさらなる詳細はOesterhelt et al., New Journal of Physics 1:6.1−6.11, 1999及びClausen−Schaumann et al. Biophys. J. 78:1997−2007, 2000に記載されている。
【0095】
バイオエラストマー試料のAFM探針と基板への結合には特異的リガンド−レセプター結合、共有結合、金表面へのチオールの特異的吸着、又は非特異的吸着などを用いることができる。予備作業としてバイオエラストマーCys{(GVGVP)n}mCys [SEQ ID NO:1; n=251; m≧2]及びCys{(GVGIP)n}mCys [SEQ ID NO:1; n=320; m ≧2]の個別ストランドを4℃(バイオエラストマーの転移点Ttを下回る温度)の希釈水溶液から金めっきガラススライド上に吸着させた。表面でのバイオエラストマーの希釈分散を実現するために、低平均分子量(MW が約5000g/molすなわち平均外形長30nm)のチオールを末端基とするポリエチレングリコール(PEG, Polyscience)を共吸着剤を使用した。
【0096】
AFM実験では、手動制御で金めっきSi3N4カンチレバー探針(Microlever, Park Scientific Instruments, Sunnyvale, CA)を界面高分子層と10〜30秒間、密接触させた。カンチレバーを戻すと、1本又は数本の高分子ストランドが探針に接着したので、光てこ検出法を用いてカンチレバーばねのたわみから、得られる張力−距離プロフィールを測定した。共吸着PEGの使用により、AFM探針と金めっき基板の間の非特異的接着は界面高分子層に由来する立体反発のために完全に抑制される。さらに、共吸着PEGの平均外形長は試料バイオエラストマー・ストランド長よりも桁違いに短いため、この戦略は実験で単一バイオエラストマー・ストランドをピックアップする公算を大きくしてくれる。このずっと短いPEG鎖はその特徴的なF−E曲線からすぐに判別される。最後に、バイオエラストマーのチオール末端基と金めっき探針の間の特異的結合は1本の個別バイオエラストマー・ストランドの弾性特性をナノニュートン張力まで繰返し測定することを可能にする。
【0097】
第2図に示すような個別バイオエラストマー・ストランドの予備試験は、単一多ストランド・ツイストフィラメントの制御された機械的操作の基礎となるAFMによるバイオエラストマー特性決定計画の実現性を証明している。
B. ツイストフィラメント・ナノマシンの画像化
多ストランド・ツイストフィラメントの弾性特性決定はAFMによる画像化で補足されよう。これは基板表面でのバイオエラストマー・ナノマシン構造の研究と制御の改善とを可能にしよう。
【0098】
ツイストフィラメント・ナノマシンの画像化は室温(25℃)で、市販装置(Nanoscope III a, Digital Instruments)を使用して行われよう。試料の画像化は空気中でも適当な緩衝液中でも可能である。緩衝液中で画像化では、長時間の研究に際して緩衝液が蒸発するのを防ぐために密封性の液体セルに試料をセットすることになろう。最大レンジ15(mのピエゾスキャナーと酸化物探針を一体化した窒化ケイ素カンチレバー(やはりDigital Instrumets製で、公称ばね定数は30mN/m)を使用することになろう。タッピングモードは探針/基板間横力の最小化を可能にしよう(Hansma et al., Applied Physics Letters 64:1738, 1994及びPutman et al., Applied Physics Letters 64:2454, 1994を参照)。
【0099】
C. これら生体弾性高分子の吸音特性の利用
タッピングモードの顕著な進歩は、これら生体弾性高分子の吸音周波数レンジにわたって振動するようにAFMカンチレバーを製作することが可能になったことである(Tamayo et al., Applied Physics Letters 77 (4) :582−584, 2000を参照)。基板に平行な振動のAFM走査モードで使用すると、これは貯蔵剪断弾性率G’と損失剪断弾性率G”の周波数依存(第7図の単位体積あたり吸音に相当)をもたらす(Antognozzi et al., Ultramicroscopy 86:223−232, 2001を参照)。これは疎水的フォールディング及び集成の逆温度転移を通過することに由来する構造的変化をモニターする手段をもたらす。もし振動が基板に対して垂直であって、かつAFMが張力−伸びモードで作動するとしたら、これはツイストフィラメント軸に平行な機械的共振成分の特性決定を可能にしよう。本発明の一実施態様では、エネルギー入力の導入に伴う検出対象の構造状態の変化が機械的共振の強度と周波数の変化によって検知しうるように生体弾性ツイストフィラメントを設計する。
【0100】
米国出願 (Urry) No. 09/746,371(前掲)で開示されている以下の生体弾性高分子は周波数レンジと吸音強度の制御を実現するうえで特に好適である。
【0101】
【化7】
【0102】
このリストでは整数nの値を与えているが、それは本発明の高分子を例示するのが目的であって、限定するものではない。1〜5000の範囲内のn値で、高分子I〜XVに関して記載したような繰返し単位をもつ高分子を設計することができる。以下の高分子もまた有用である(nは約1〜5000の整数)。
【0103】
【化8】
【0104】
実施例3
多ストランド・ナノフィラメント及びナノケモメカニカル系の構築及び特性決定
2ストランド、3ストランド及び4ストランドのツイストフィラメントを調製し、その特性決定をAFMで行うことができる。さらに、Phe及びGlu残基配列を利用して凝集を制御しながらナノフィラメント形成へと導くようにし、ナノケモメカニカル系(NCMS)を調製することも可能である。第5A−5C図に模式的に示すような配列すなわち(GEGVP GFGFP GFGVP GAGVP GFGFP GIGVP)r [SEQ ID NO:17; 式中rは1〜500の整数]にし、収縮/緩和の駆動にはカルボキシル基を用いることになろう。
【0105】
発生力と長さ変化のpH依存を決定する際には、一般的な特性決定に加えてAFM研究からも(∂f/∂μ)l及び(∂l/∂μ)fを評価し、ナノフィラメントによるケモメカニカル変換を可能にする最も好適な実験条件を求めることができる。
【0106】
実施例4
ナノケモメカニカル系用多ストランド・ナノフィラメントの構築と特性決定
第5A−5C図に示したものと類似の、ただしより極性の高い(酢様)残基Lysをもつ配列 (GKGVP GAGFP GFGVP GAGVP GIGFP GFGVP)s [SEQ ID NO:18; 式中sは1〜500の整数]を用い、収縮/緩和の駆動にはアミノ基と付加レドックス基を結合させて用いることができる。発生力と長さ変化のpH依存はLys含有官能基で決定し、また発生力と長さ変化に対するレドックス官能基の酸化体の効果はレドックス含有官能基で決定することになろう。第1B表に示す任意のレドックス・カップルたとえばN−メチルニコチンアミド(NMeN)を使用することができる。
【0107】
実施例5
疎水的にフォールディングした球状タンパク質の組み込み
疎水的にフォールディングした球状タンパク質をバイオエラストマーに直列に組み込むための遺伝子を作る。疎水的にフォールディングした球状タンパク質を直列に組み込んだバイオエラストマーはたとえば疎水的にフォールディングした球状タンパク質の緩和(アンフォールディング)を促す駆動力となる毒ガス、DNT及びTNTとの相互作用を検知する機能的センサーのモデルとなる。このアプローチの物理的原理は水和の無極性−極性反発自由エネルギーであり、これは高分子鎖に沿って共存するよう強いられた極性部分と疎水性部分の水和をめぐる競合関係にほかならない。疎水的にフォールディングした球状タンパク質モジュールに極性種が結合すると、フォールディングした状態に対応する疎水性水和の一部が構造破壊され、それによってアンフォールディング状態の側へ平衡がシフトする。一般に、この原理を用いれば球状タンパク質の全体又は一部のアンフォールディングを検出することができる。ナノフィラメントを含む球状モジュールの外形長さはF−E曲線で測定すると、アンフォールディング鎖の追加長さ分だけ増大することになるからである。
【0108】
たとえば、正確な使用温度範囲に合わせて設計した場合、GVGIP (SEQ ID NO:2)の300残基につき1個のリン酸基が結合するだけで完全な疎水性アンフォールディングを起こすことが既に示されている。タイチン様βバレル中の正しく配置されたキナーゼ認識部位はリン酸化に伴い、βバレルのアンフォールディングとタイチンの球状単位に見られるような球状単位に特有の幅だけ外形長さの増大をもたらす。そこに、疎水的にフォールディングした球状タンパク質上のある部位に位置する極性種の相互作用を、又は疎水性ドメインの強度変数を変化させるような分子の付加を検出する見通しが生まれる。さらに、AFMの利用によるその種の観測もまた、そうした見通しから開けてくる諸々の可能性を秘めた自由エネルギー変換機構を立証することになる。
【0109】
チロシン残基の窒化はTt値を著しく高める(第1B表を参照)。従って、球状単位たとえばタイチン様βバレルの好適部位にDNTが結合すれば、疎水的にフォールディングした球状単位が不安定化し、それに伴いナノフィラメントF−E曲線に変化が生じると見込まれる。あるいは、DNTを還元する酵素すなわち球状タンパク質はそのレドックス補欠分子族を酸化させよう。補欠分子族の酸化はTt値を変化させるので、この効果を利用すれば目的の分析物をAFMで検出することが可能になる。
【0110】
最も単純な試験構築体にバイオエラストマー(BE)−球状タンパク質(GP)−バイオエラストマー(BE)がある。2個の同じバイオエラストマー部分は第2A及び2B図のような単純単調な曲線を示し、1個の球状タンパク質は特有の鋸歯パターンを示すであろうが、この鋸歯パターンは歯が1個だけの場合も、もっと複雑なパターンを示す(1以上のドメインが別々に折りたたまれている)場合もあろう。この種の構築体がセンサーとして使用できるのは、分析物の結合により遊離球状タンパク質の特徴として認められるパターンが変化するからである。最初に立証されそうなのはキナーゼ認識部位である。
【0111】
2つのアプローチが考えられよう。1つは本来的にキナーゼ認識部位を含む小さな球状タンパク質たとえば配列RGYSLG (SEQ ID NO:16)をもつリゾチームの使用であろう。別のアプローチは細胞接着部位たとえばGRGDSP (SEQ ID NO:15)細胞接着部位をキナーゼ認識部位たとえばRGYSLGに置き換えることであろう。前述のように、ポリ(GVGIP) [SEQ ID NO:2]配列中のRGYSLG配列はTt値を劇的にシフトさせ、疎水的アンフォールディングを促すが、その除去は疎水的フォールディングを促す(Pattanaik et al. Biochem. Biophys. Res. Comm. 178:539−545, 1991)。
【0112】
第6図はF−E曲線の模式図であり、曲線Aは第2A及び2B図のバイオエラストマー(BE)の単一ストランドに対応する。第6図の曲線BはBE−GP−BEのF−E曲線であり、GPは小アンフォールディング力と大アンフォールディング力の2個のフォールディングドメインをもつリゾチームなどのような球状タンパク質である。曲線Cは仮想例であり、分析物の結合たとえばリゾチームの場合にはリン酸化により、弱いドメインは完全にアンフォールディングし、また強いドメインのアンフォールディング力は低下する。
【0113】
本書で言及した諸々の公報及び特許出願は参照指示により本書に組み込まれ、その効果は各個別公報又は出願が引用の場に明確かつ個別に参照指示により組み込まれる旨を記したのと同じとする。本発明を説明し尽くした今、その精神又は範囲から逸脱することなく数多くの変更や修正を加えうることが当業者には明白であろう。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のTtベースの分子マシンがなしうる種々のペアワイズ・エネルギー変換の図解である。これはタンパク質のフォールディングと機能のためのTt疎水性変化系列を表わす。
【図2】第2A−2C図は単一鎖F−E曲線である。第2A図は251ステップの(最も合理的な特定鎖長は502ステップ)の希釈及び超希釈C(GVGVP)nCに関するF−E曲線である。(GVGVP)nはSEQ ID NO:1であり、式中nは251〜1004の整数、Cは単一鎖両末端のシステイン残基である。第2B図は超希釈(GVGIP)n (SEQ ID NO:2; 式中nは260〜1280の整数)に関するF−E曲線であり、第2C図は疎水性鎖間相互作用が存在する場合の希釈(GVGIP)nに関するF−E曲線である。
【図3】第3A−3G図はNMR、電子顕微鏡、計算処理及び結晶構造データを基礎とするポリ(GVGVP) [SEQ ID NO:1]の分子構造を示す。その基本単位は第3G図に示すβスパイラルのツイストフィラメントであると考えられる。第3A図はPro−Gly挿入βターンをもつ延伸鎖の略図である。第3B図は、環状類縁体のシクロ(GVGVP)3 [SEQ ID NO:1; n=3]の結晶構造によって確認されたβターンの詳細である。第3C図は、ポリペンタペプチド・バイオエラストマーβスパイラルと同じ大きさのらせんの模式図である。第3D図は該βスパイラルの帯模式図であり、βターンがらせん巻き間のスペーサーとなっている。第3E及び3F図は結合の詳細を示すステレオ図であり、βターンとβターン間に吊り下がったセグメント、それにβスパイラル内の水占有空間とを示す。第3E図は側面ステレオ図であり、第3F図は軸ステレオ図である。
【図4】第4A及び4B図は(GVGVP)n [SEQ ID NO:1; n=251]の3ストランド・ツイストフィラメントの模式図である。第4A図: フィラメントの各末端でケンプ三酸が3本のストランドを保持しており、また各ストランドの両末端にはシステイン残基を付加し原子間力顕微鏡(AFM)実験で用いる金めっき表面に結合しうるようにしてある。第4B図: Rは一連のリシン残基などに見られるアミノ基又は一連のグルタミン酸残基などなどに見られるカルボキシル基を表わす。
【図5】第5A−5C図はアミノ酸配列の制御が3ストランド・ツイストフィラメントの形成を導く仕組みを示す。第5A及び5B図は、油様R基を酢様R基から分け隔てるフォールディングβスパイラル構造を示す。第5A図は両側に分かれた油様残基と酢様残基を示し、また第5B図はツイストフィラメントの油様側を示す。第5C図は油様残基を疎水的に埋め込んでいる会合フォールディング鎖の軸方向断面であり、中央の油様R基がその周辺の酢様残基と水から隔離されている。
【図6】第6図は、分析物と単一球状タンパク質(GP)の相互作用の効果を示す仮想F−Hプロフィールである。曲線Aはバイオエラストマー(BE)の単一ストランドに対応する。曲線Bは、間に2個の疎水的にフォールディングしたドメインからなる球状タンパク質を挟んだBE−GP−BEに対応する。曲線Cは、「曲線B」プラス「GPの2個の疎水的にフォールディングしたドメインのうちの1個をアンフォールディングさせる結果となる、該ドメインと既に結合し分析物」に対応する。
【図7】第7図は20Mrad γ線架橋(GVGIP)260[SEQ ID NO:2; n=260]の吸音データであり、疎水的フォールディング及び集成の逆温度転移の始点の下から上へと温度が上昇すると周波数レンジに限定された機械的共振が増大することを示す。2つの重なりピークが観察されるが、それらはらせん構造の光吸収から類推すると、らせん(βスパイラル)軸に平行及び垂直な、機械的共振の分解成分であるかもしれない。この機械的共振は、高分子の別の機能性に作用する別の自由エネルギー強度変数により誘発された(フォールディング、又はアンフォールディング)状態の変化をモニターする手段をもたらす。
技術分野
本発明はナノマシン及びバイオセンサーとしての使用に好適なバイオエラストマーの設計に関する。
【0002】
背景
ここで「バイオエラストマー」と呼ぶ弾性タンパク質系高分子すなわち生体弾性高分子はしばしば、ノナペプチド、ペンタペプチド及びテトラペプチド単量体単位からなる群より選択される繰返しペプチド単量体単位を含み、該単量体単位は一連のβターンを形成し一連のβターンは該βターン間に吊り下がった動的架橋セグメントで仕切られると説明される。これらのバイオエラストマーは、天然ゴムや合成類縁体などのようなランダム鎖網エラストマーから調製される材料と違い、その構造要素が明確に定義されるため特定の物性をもつように設計、合成することが可能であり、制御性に劣る物性に依存する必要がないため多種多様な用途に好適である。
【0003】
バイオエラストマーはミリメートル・スケールではすでに6つの強度変数すなわち機械力、温度、圧力、化学ポテンシャル、電気化学ポテンシャル及び電磁放射線が絡む多様な形態のペアワイズ自由エネルギー変換の実行を目的に設計されてきた。バイオエラストマーは、機械仕事の実行を可能にするペアワイズ・エネルギー変換がナノメートル・スケールで行われうるように、原子間力顕微鏡(AFM)を使用して設計するのが望ましいであろう。
【0004】
こうした取り組みの狙いは一般的なマイクロ電気化学系(MEMS)のスケールを千分の一に縮小し、また既に開発されている目視観測可能なエネルギー変換型の架橋エラストマーマトリックスのスケールを百万分の一にすることである。その機は熟している。理由は次のとおりである: (1)今日では、DNA、多糖、タイチンなどのタンパク質及びポリエチレングリコールで既に立証済みの単一鎖F−E (張力−伸び)研究がAFMを使用して行える;(2)今日では、弾性タンパク質系高分子の2組成物について単一鎖F−E曲線が得られる;(3)今日では、マクロ(ミリメートル)スケールで既に立証済みの設計バイオエラストマーによる機械仕事の実行を伴う自由エネルギー変換がナノスケールでも現実味を帯びてきた;また(4)取り組みの成果はこれらの生体分子マシンの感度を著しく高め、その潜在用途分野を拡大することになろう。
【0005】
本発明はバイオエラストマーの使用により上記の課題に応えるための組成物と方法を提供する。開示の方法と組成物により応答時間はミリ秒レンジまで短縮しうるが、いっそうの短縮も可能であるし、また測定可能な長さの変化は1ナノメートル未満となり、測定可能な力の変化は10ピコニュートン(pN)レンジとなる。バイオセンサーによる一分子事象の検出も今日では現実味を帯びている。たとえば適当な弾性ポリペプチドと直列をなす疎水的にフォールディングした球状タンパク質上のある部位への一神経ガス分子又は他の重要な分析物の結合を、そうした弾性ナノフィラメント構築体に対応する張力−長さプロフィールの変化から検出することも夢ではない。
【0006】
発明の概要
本発明の一態様は、ナノマシンとして有用なバイオエラストマーの設計に関する。
本発明の別の態様はノナペプチド、ペンタペプチド及びテトラペプチド単量体単位からなる群より選択される繰返しペプチド単量体単位をもつバイオエラストマーを含むナノマシンであって、該単量体単位が一連のβ−ターンを形成し、一連のβ−ターンはβ−ターン間に吊り下がった動的架橋セグメントで仕切られているナノマシンに関する。
【0007】
本発明の更に別の態様は、ナノパーティクル又は多ストランド・ナノフィラメントという形のバイオエラストマーを含むナノマシンに関する。
本発明の更に別の態様は、バイオエラストマー鎖と直列をなし、結合部位をもつ単一球状ドメインであって、該結合部位への分析物の結合が疎水的にフォールディングした該球状ドメインを、同等の伸び率にも関わらず異なる(より高い又はより低い)レベルの力でアンフォールディングさせる単一球状ドメインに関する。
【0008】
個別実施態様の説明
本発明はナノマシン及びバイオセンサーとして有用な幅約5nm、長さ数百nmという寸法のバイオエラストマー並びにそうしたバイオエラストマーの設計方法に関する。一般に本発明のナノマシン及びバイオセンサーは、生体弾性ノナペプチド、ペンタペプチド及びテトラペプチド単量体単位からなる群より選択される繰返しペプチド単量体単位をもつバイオエラストマーを含む。該バイオエラストマーはナノパーティクル又は多ストランド・ナノフィラメントという形をとる。これらの多様な多ストランド・ナノフィラメントは設計次第でナノケモメカニカル系(NCMS)、ナノエレクトロメカニカル系(NEMS)、ナノバロメカニカル系、ナノサーモメカニカル系及びナノホトメカニカル系(いずれも第1図に記載)として、またナノ電磁放射線駆動機械系(NEMRDMS)として、さらに化学種たとえば神経ガス、TNT、DNTなどの存在を検出するためのバイオセンサーとして、機能させることができる。たとえば極性分析物が結合すると、疎水的フォールディングの転移温度Ttが使用温度の下から上へと上昇し、その結果としてアンフォールディングを招き、張力−長さプロフィールにAFMで測定可能な変化が、又は長さが固定されている場合には平行吸音成分に強度の変化が、もたらされる。さらに、多ストランド・ツイストナノフィラメントではなく、折り返した単一鎖でナノマシン又はバイオセンサーを形成し、第2C図に示すようなF−Eプロフィールの張力のピーク到達又は増大を強制的アンフォールディングでもたらすようにすることもできる。また球状タンパク質部分に酵素認識部位たとえばキナーゼ認識部位をもたせ、リン酸化により該部位が疎水的にフォールディングした球状ドメインを、第6図に示すように、より低レベルの力でアンフォールディングさせるようにすることも可能であろう。
【0009】
本発明は、いくつかのペアワイズ・エネルギー変換をナノスケールで実現しうるようなバイオエラストマーの、原子間力顕微鏡(AFM)の使用による設計に関する。これを実現するためにまず、長さが約10,000残基の、より一般的には約2000残基の、1以上の同じタンパク質系高分子ストランドを、その各末端に二酸、三酸及び四酸たとえばアジピン酸(ヘキサン二酸)、ケンプ三酸(第4A図に記載)及びエチレンジアミン四酢酸(EDTA)を導入して集成する。次に、得られた単ストランド又は多ストランドのツイストナノフィラメントをカンチレバーと基板の間に吊るが、その際の結合には多酸末端に導入したシステイン残基硫黄を用いる。一般にこの結合は、カンチレバー探針と基板表面(どちらも金などの好適材料で被覆するのが好ましい)に対して行う。カンチレバーと基板への結合手段としては、システイン残基のSH基の代わりに他の官能基たとえばアミノ基、カルボキシル基などを用いてもよい。
【0010】
本発明の一実施態様では、該カンチレバーはバイオエラストマーにより吸収される振動エネルギーを検知する。これを図解したのが第7図である。
バイオエラストマーだけのナノマシンを使用するときは、100残基ごとに官能基1個又は数個を変化させるだけで完全収縮状態の多ストランド・フィラメントを完全にほぐし、所定の力で長さを数百ナノメートルも変化させることができる。官能基の変化はたとえば30〜500アミノ酸残につき、基一般には約100残基につき1セリン残基のリン酸化; 20〜200アミノ酸残基につき、一般には約100残基につき2側鎖カルボキシル基のイオン化; 又は20〜200アミノ酸残基につき、一般には約100残基につき2結合レドックス官能基 (たとえばN−メチルニコチンアミド)の酸化などであろう。AFM実験に由来する単一鎖F−E曲線は、疎水的にフォールディングした個別球状タンパク質のアンフォールディングに関する張力−長さプロフィールを10pN及びnm感度で示すことができる。疎水的にフォールディングした単一球状タンパク質と直列をなすバイオエラストマーと組み合せてAFMを使用すると、該球状タンパク質上の特定部位への一分子の結合を、アンフォールディングに関する張力プロフィールの変化から、選択的に検出するという究極の可能性が開けてくる。
【0011】
これらの弾性タンパク質系高分子は、約1015Hz(サイクル毎秒)の高周波レンジから10Hzの低周波までの著しく広い周波数レンジの電磁スペクトルにわたるエネルギー入力の検知又はエネルギー出力の供給が可能である。一般的な周波数は10〜105Hz、より一般的には102〜104Hzのレンジ内であろう。高周波レンジでは、光の吸収に伴いその疎水性を変化させる多様な発色団が存在する。誘電緩和スペクトルの5GHz中周波レンジでは、疎水性水和の吸収が見られる。やはり誘電緩和スペクトルの5kHz中周波レンジでは、疎水的にフォールディングした集成状態の構造的共振が存在する。また1kHz近傍の誘電緩和、吸音両スペクトルの低周波レンジでは、機械的共振が存在する。なお第7図に示す1kHz近傍の機械的共振は機械力の強度変数を導入する手段として最良と考えられよう。これらの吸収過程はそれぞれ高分子系へのエネルギー入力手段として、系を変化させることが、又は別のエネルギー入力に由来する系の変化に起因するエネルギー出力の変化を表すことができる。たとえば伸びを固定したAFM単一鎖(又は単一ツイストフィラメント)実験では、フォールディング状態の変化に起因する張力の変化は、第7図に示す(強度変数は温度)ように、機械的共振の強度変化を伴うであろう。高分子の応答を誘発する(たとえば第1図に示すような)任意の自由エネルギー強度変数の導入に由来するツイストフィラメントのフォールディング状態の変化を検出するには、様々な方法がある。たとえば第7図の機械的共振の平行成分の強度変化は高分子のフォールディング状態を変化させた自由エネルギー入力の変化を検出する手段をもたらすので、該エネルギー入力と機械的共振の変化によるその検出とを組み合せれば自由エネルギー変換器が得られよう。
【0012】
本発明の方法と組成物をさらに詳述する前に、Urry, J. Phys. Chem. B, 101:11007−11028, 1997の検討主題であるマクロスコピックなバイオエラストマー分子マシンを理解しておくことが重要である。若干の重要領域すなわちΔTt機構(タンパク質などのような両親媒性高分子の疎水的フォールディング及び集成の温度制御)、ΔTt機構による自由エネルギー変換、及びΔTt機構の物理的な基本原理(水和の無極性−極性反発自由エネルギー)をここでまとめておこう。さらに、天然弾性タンパク質のAFM単一鎖F−E曲線もまた、本発明の範囲を理解するための有益な情報を提供してくれる。この立証済みのマクロスコピックな自由エネルギー変換はAFMを利用することによりナノスコピックな自由エネルギー変換となりうる。そのデータは単一ナノフィラメントF−E曲線の形をとるだろう。その成果はナノマシンたとえばナノエレクトロメカニカル系となる可能性がある。
【0013】
ΔTt機構(タンパク質やタンパク質系高分子などのような両親媒性高分子の疎水的フォールディング及び集成の温度制御)
A. Ttの定義と逆温度転移
目的のバイオエラストマーは極性(たとえば荷電)部分と無極性(疎水性)部分が均衡を保っている結果として、低温では可溶性であり温度が上昇すると疎水的に折りたたまれ集成する。この疎水的凝集の開始温度をTtとする。環状類縁体は温度の上昇に伴い結晶化し、温度の低下に伴い溶液中に再溶解して再びランダムに分散することが既に示されている。さらに巨視的には、分子量の大きい線状高分子は相分離を起こし、また分子レベルで集成して会合ツイストフィラメントを形成することがネガティブ染色顕微鏡写真などで確認されている。
【0014】
温度の上昇に伴い系のポリペプチド部分の秩序が明らかに増すことから、これは逆温度転移(inverse temperature transition)と呼ばれてきた。似た用語にタンパク質の低温変性や両親媒性石油系高分子の下部臨界共溶温度(LCST)があるが、他の用語よりも一般的、説明的であるため逆温度転移という用語を使用する。たとえばLCSTは個別球状タンパク質の疎水的フォールディングとは無関係だし、また低温変性にしても立体構造の著しい変化を伴わない結晶の溶解とは無関係である。それにもかかわらずどの場合にも同じ過程すなわち疎水性相互作用とその結果としての系の高分子成分のエントロピーの変化が見られ。タンパク質系高分子の逆温度転移と石油系高分子たとえばポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)[PNIPAM]のLCSTにはもう1つ大きな違いがある。PNIPAMでは34℃で相分離が起るが、転移は含水率約30重量%の無秩序状態に向かう。Grinberg, et al., “Studies of the Thermal Volume Transition of Poly(N−isopropylacrylamide) Hydrogels by High Sensitivity Differential Scanning Microcalorimetry. 1. Dynamic Effects(高感度示差走査マイクロ熱量測定によるポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)ヒドロゲルの熱体積相転移の研究。1. 動的効果)” [Macromolecules 32:1471−1475, 1999]を参照。他方、目的のタンパク質系高分子たとえばポリ(GVGVP) [SEQ ID NO:1]では25℃で相転移が始まり、含水率63重量%の構造化βスパイラル状態が形成される。このβスパイラル状態が含水率約30重量%の無秩序状態へと変性するのは温度が60℃超に達した後にすぎない。
【0015】
B. 多数のTt値制御手段
Tt値はいくつかの因子に依存する。たとえばi)高分子の濃度、ii)高分子の鎖長、iii)高分子のアミノ酸組成、iv)塩濃度たとえばHofmeister (離液)系列、v)有機の溶質及び溶媒、vi)高分子側鎖のイオン化、vii)高分子側鎖の化学修飾たとえばリン酸化、窒化、硫酸化及びグリコシル化、viii)圧力(芳香族残基の特殊な役割)、ix)高分子に結合した補欠分子族たとえばN−メチルニコチンアミド(NMeN)、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD)及びフラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)のレドックス状態、x)高分子に結合した補欠分子族たとえばアゾベンゼン及びシンナミドによる光の吸収、又は10Hz〜1015Hzレンジの他の任意適切な周波数の電磁スペクトルの吸収、及びxi)イオン対合による側鎖電荷の中性化、たとえば陰イオン側鎖の陽イオン中性化、陽イオン側鎖の陰イオン中性化及び鎖内又は鎖間のイオン対合。以上の因子リストはそのまま、種々の自由エネルギー変換の実現を可能にするTt値制御手段のリストとなる。逆温度転移点Ttのこうした依存関係はUrry, J. Phys. Chem. B, 101:11007−11028, 1997に記載されている。
【0016】
C. Ttを基礎とする疎水性尺度
前記の特に有用なTt値制御手段の1つにアミノ酸組成と側鎖の化学修飾の効果がある。このデータはタンパク質工学にとって特に重要なTtベース疎水性尺度としてまとめられており、第1A及び1B表に示すとおりである。これらの表はタンパク質工学向けの、ポリ{fv(GVGVP),fx(GX1GVP)}(SEQ ID NO:3; 式中X1は任意の天然アミノ酸又はその化学修飾体である)に関するTtベース疎水性尺度並びに逆温度転移に関するΔHt及びΔSt値を記載している。
【0017】
第1A表
天然アミノ酸残基に関するTtベース疎水性尺度
【表1】
【0018】
a Ttはリン酸緩衝食塩水(0.15N NaCl, 0.01Mリン酸塩)中での疎水的フォールディング及び集成転移に関する逆温度転移点であり、水中光散乱法及び示差走査熱量測定法(DSC)で求めた。試料はポリ{fv(GVGVP),fx(GX1GVP)}(SEQ ID NO:3)であり、Ttはfx=1へと線形に外挿し、5の倍数に丸めた。
b Proに関する計算値TtはVal及びGlyの実験値が使用されるときはポリ(GVGVP)[SEQ ID NO:1]に由来する。この−8℃という疎水性値は、Val1 iγCH3と隣接Pro2 iδCH2とらせん巻き間Pro2 i+3βCH2部分との間に疎水性接触がある場合のβスパイラル構造に特有である。
c ポリ{fv(GVGVP),fp(GVGPP)}(SEQ ID NO:19)から求めた実験値。
d ポリ{fv(GVGVP),fx(GX1GVP)}(SEQ ID NO:3)を使用しfx=1へと外挿して求めた、GX1GVP五量体(SEQ ID NO:4、式中X1は該五量体のゲスト・アミノ酸残基で、任意の天然アミノ酸又はその化学修飾体とすることができる)モルあたり計算値。
e ΔHとΔSはポリ{fv(GVGVP),fx(GX1GVP)}(SEQ ID NO:3)を使用しfx=1へと外挿して求めた、GX1GVP (SEQ ID NO:4)モルあたり計算値。ΔHとΔSは、高分子の水中転移に関するDSCで求めた吸熱的熱及びエントロピーの線形適合曲線上のfx=0.2に対応する値である。
【0019】
第1B表
タンパク質の化学修飾体及び補欠分子族に関する
Ttベース疎水性尺度
【表2】
【0020】
a 通常の条件は40mg/ml高分子、0.15N NaCl及び0.01Mリン酸塩(pH 7.4)である。
b NMeNはリシル側鎖上のN−メチルニコチンアミド側基、すなわちLysのε−NH2にアミド結合で結合したN−メチルニコチネートであり、最も疎水性の高い還元状態はN−メチル−1,6−ジヒドロニコチンアミド、それに次ぐ還元状態はN−メチル−6−OH,1,4,5,6−テトラヒドロニコチンアミドである。
c 酸化及び還元ニコチンアミド=アデニンジヌクレオチドでは、条件は2.5mg/ml高分子、0.2M重炭酸ナトリウム緩衝液(pH 9.2)である。
d 酸化及び還元N−メチルニコチンアミドでは、条件は5.0mg/ml高分子、0.1M炭酸カリウム緩衝液(pH 9.5)、0.1M塩化カリウムである。
e 高分子結合−O−SO3HのpKaは8.2である。
f Tyr(−O−NO2−)のpKaは7.2である。
【0021】
Tt機構による自由エネルギー変換
第1図に示すように、Tt値の制御により、機械力、温度、化学ポテンシャル、圧力、電気化学ポテンシャル及び電磁放射線の各強度変数が絡む15のペアワイズ自由エネルギー変換が可能となる。
【0022】
A. 第1種のTtベース分子マシン(分子エンジン)
分子エンジンは機械仕事の遂行を目的に設計される分子マシン、一般には高分子である。第1種のTtベース分子マシンは疎水的フォールディング及び集成転移を機械仕事の遂行に直接利用する。第1図のエネルギー入力はどれも頂点の機械仕事に帰着するが、様々なタイプの第1種Ttベース分子マシンの例となろう。これらの分子エンジンはγ線照射架橋タンパク質系高分子の立体配置において、適当なエネルギー入力があると荷重を持ち上げるような、設計バイオエラストマーからなる厚さ1mm、幅数mmの弾性バンドを形成することが既に立証されている。本発明はこの種の分子マシンのサイズをナノメートルレベルへと100万分の1も縮小して特定のナノマシンを作製するようにする。
【0023】
B. 第2種のTtベース分子マシン
第1図の異なるエネルギー入力に対して敏感な任意の2個の際立った官能基があり、各官能基が個別にTt値を変化させて疎水的フォールディング及び集成を促すことにより機械仕事を遂行しうるとすれば、両官能基を同じ疎水的フォールディング及び集成ドメインの一部とすることにより互いにカップリングすることが可能である。
【0024】
従って、第2種のTtベース分子マシンは、やはり疎水的フォールディング及び集成転移を利用することにより、機械仕事の遂行以外の自由エネルギー変換を実現する。これは第2表の原理4に該当する。第2表は、疎水的フォールディング及び集成の逆温度転移を起こしうるタンパク質系高分子に関するタンパク質工学向けの、様々な現象論的研究から導き出されたの5つの原理をまとめたものである。分子マシン機能設計への5原理の適用に関するUrry, Biopolymers (Peptide Science), 47:167−178, 1998の説明をも参照。現象論的観察からだけでも多大の成果が得られるものの、こうした特性を最大限に活用してバイオエラストマーの構造と機能を制御するには、その根本にある物理的原理の理解が求められる。
【0025】
第2表
原理1 ゲスト・アミノ酸残基又はその化学修飾体が疎水的フォールディング及び/又は集成の転移点Ttを変化させる仕方はその疎水性の関数的な指標である。Ttの低下は疎水性の上昇を、またTtの上昇は疎水性の低下を、それぞれ表わす。
原理2 温度をTtの上に上げると結果的に疎水的フォールディング及び集成が起る。この原理を利用すれば荷重の持ち上げといった有用な機械仕事の実現が可能になる。これは熱機械的変換である。
原理3 定温で、Tt値を使用温度の上から下へと引き下げても、すなわち第1A及び1B表の多数の変数のうちの任意の変数により疎水性を高めても、やはり結果的に疎水的フォールディング及び集成が起る。これを利用すれば構造物の構築たとえば荷重の持ち上げなど有用な機械仕事の実現が可能になる。
原理4 多数の変数[すなわちi)温度、ii)圧力、iii)化学種の濃度の変化、iv)生体補欠分子族のレドックス状態の変化、v)光(及び構造を変化させる他の電磁スペクトル)誘起型の化学構造変化、及びvi)吸音]のうちの異なる変数に敏感な任意の2個の際立った官能基があり、各官能基をTt値の変更に利用してフォールディング及び集成に由来する機械仕事を遂行させることができるとすれば、両官能基は同じ疎水的フォールディング及び集成ドメインの一部とすることにより互いに結合させることができる。
原理5 以上のエネルギー変換はより疎水的なドメインの影響下に行われるとより効率的であることが立証可能である。
【0026】
Tt機構の物理的原理
(水和の無極性−極性反発自由エネルギー)
A. Ttベース疎水性尺度
第1A及び1B表を調べると、CH2基又は芳香族基の付加などのように、より高い疎水性の導入はTt値が低下させることが明らかとなる。疎水性は疎水性水和と関連するため、疎水性水和の増大はTt値を低下させ、疎水性水和の減少はTt値を上昇させるということになる。また第1A及び1B表からは、電荷の形成がTt値を上昇させることも認められよう。ここから、高分子鎖沿いに存在するよう疎水基により強いられた荷電基は疎水性水和量を減少させるかもしれないとの洞察がまず得られる。
【0027】
B. 伸張誘起pKaシフト、(∂μ/∂f)n= α<0
無極性(疎水性)種と極性(たとえば荷電)種の間には水和をめぐる競合関係が存在するという最初の有無を言わさぬ主張は、実験的に立証された伸張誘起pKaシフトに由来した。何より興味深いことに、Glu含有タンパク質系高分子のゴム状弾性バンドを伸張すると、側鎖カルボキシル基のpKaはカルボキシラート(COO−状態のカルボキシル基)の自由エネルギーの増大を反映して大きくなる。μを化学ポテンシャル、fを印加力、αをイオン化度とすると、これは一定の温度及び組成での偏導関数(∂μ/∂f)T,n= α =0.5<0により、電荷−電荷反発の場合には(∂μ/∂f)T,n= α =0.5 >0により、それぞれ表わされる。
【0028】
伸張に伴い疎水的にフォールディングした高分子が強制的に解きほぐされ、またゴム状弾性バンドの水和が、疎水性水和であるにもかかわらず増大する。弾性バンド中の付加水にもかかわらず、カルボキシラートの自由エネルギーは、あたかも該カルボキシラートが十分な水和を実現するのに困難をきたしているかのように、増大する。これはイオン化過程におけるカルボキシル基による疎水性水和水の構造破壊とも符合するので、ここから高分子の無極性種と極性種の間には水和をめぐる競合関係が存在するという主張が起る。
【0029】
C. 疎水性誘起pKaシフト
もしそうした競合関係が存在するとすれば、Glu、Asp又はLys残基を含む高分子の疎水性を高めるだけで、pKaシフトを起こさせて、カルボキシラートのpKaを高くし、アミノ基のpKaを低くすることができるはずである。事実、そのとおりである。さらに、疎水性の段階ごとの上昇に比してpKaシフトのほうがより大きくなるという非線形性も存在する。これは高分子の疎水性を高める多様な方法を用いて既に立証されている。実際、ナノレベルでの設計によって、pKa値を制御したり、官能基を利用する諸々の自由エネルギー変換を実現したりすることはごく普通に可能である。
【0030】
D. イオン化度上昇に起因する逆温度転移熱の減少
示差操作熱量測定法(DSC)によれば、イオン化度の上昇は逆温度転移熱を著しく減少させることがわかる。100残基につき2個のカルボキシラートで転移熱を、すべてのGlu残基が非荷電カルボキシル基のままの場合の転移熱の4分の1に減少させることができる。ポリ(GVGVP)[SEQ ID NO:1]の逆温度転移に伴う二次構造の変化は全く見らず、また疎水性水和は発熱的である以上、この吸熱的転移熱は疎水性水和水を構造破壊する主役であると言える。この吸熱的転移熱が疎水性会合の前に存在していた量の疎水性水和を構造破壊するための所要熱である限りで、これは電荷が疎水性水和を実際に構造破壊することを示唆しよう。
【0031】
E. マイクロ波誘電緩和による疎水性水和の直接観察
無極性基と極性基という2種類の基が鎖状配列沿いに共存するよう強いられている高分子では無極性基と極性基の間に水和をめぐる競合関係が存在するという主張は、マイクロ波誘電緩和データを用いて既成事実化される。疎水性水和は5GHz付近で緩和を示すが、全水の百分率として定量化することができる。この水和は疎水性残基の増加に伴って増大し、疎水的フォールディング及び集成とともに消滅し、また物理的原理の検証にとって最も重要なことに、pHの上昇に伴いカルボキシル基のイオン化が始まると減少する。調べた一連のタンパク質系高分子では100残基あたり2個未満のカルボキシラートで3分の2の水和を失わせる。こうして、荷電種とVal及びPhe残基の疎水性側鎖の間の水和をめぐる競合関係が直接立証された。この種の競合関係は水和の無極性−極性反発自由エネルギーとして説明されよう。
【0032】
F. Tt値を決定する疎水性水和量
以上で明らかなのは疎水性水和の増大とTt値低下の関係である。(GVGIP)261[SEQ ID NO:2; n−261]の濃度を40mg/mlから1000mg/ mlへと高めながらTt値と水和量を比較すると、DSCで求められるTt値とマイクロ波領域の誘電緩和で測定される疎水性水和量の間に線形に近い関係が見い出された。従って、疎水的フォールディング及び集成転移と両親媒性高分子の機能とは疎水性水和量で制御されるとの見通しが強まる。
【0033】
天然弾性タンパク質と合成バイオエラストマーに関する、AFMで求めた単一鎖F−Eデータ
A. タイチン及びタイチン成分に関する単一鎖研究
単一鎖の300万Daタンパク質であるタイチン(コネクチン)について、AFMを用いて応力−ひずみ曲線を求めた。このタンパク質は大部分が90〜100残基の繰返し配列であるが、骨格筋の2000超残基配列に相当する22〜26残基の繰返し配列をも含む。要するにタイチンはタンパク質系高分子であり、既知結晶構造の繰返しペプチド配列からなる。タイチンは、リシーディングメニスカス(receding meniscus)で生じる張力を用いて分子コーミングすると、幅4nm、長さ1000nm超の線状分子を形成する(Tskhovreboa et al., J. Mol. Biol. 265:100−106, 1997を参照)。
【0034】
このAFM実験では、単一鎖の一端をカンチレバー探針(チップ)に、多端を基板表面に結合する。張力は鎖長の関数として測定するが、数pN/鎖の張力がすでにエントロピー弾性域にわたって求められている(Gaub et al., AvH−Magazin, 71:11−18, 1998を参照)。従って、今日ではエントロピー弾性はランダム鎖網や端間鎖長のランダム又はガウス分布を伴うことなく起りうることが立証されている。これは過去半世紀にわたってエントロピー弾性に関する教示を支配してきた古典的なゴム弾性理論を否定するものである。
【0035】
前記の90〜100残基配列には一般に2タイプがある。いわゆる免疫グロブリン(Ig)ドメインとフィブロネクチンIII (Fn3)ドメインであり、それぞれ疎水的にフォールディングした類似のβバレルを形成する。これらの類似βバレルは個別にアンフォールディングさせることができ、またこれらの相同球状タンパク質の組成の小さな差異に由来する異なる臨界アンフォールディング力を示す。Gaub et al.(AvH−Magazin, 71:11−18, 1998)及びRief et al.(Biophys. J. 75:3008−3014,1998)はそれぞれ一連のIG βバレル及びConFn βバレルのアンフォールディングを示す曲線を提供しているが、いずれの曲線でも長さとアンフォールディング力の特徴的な増大が見られる。これらの臨界アンフォールディング力は延伸速度と共に変化し、ごく低速の延伸では基本弾性力にまで低下する。重要なことに、ConIg構築体とTenFn (テネイシンフィブロネクチン)ドメインに関する同等実験条件下のアンフォールディング力は237pN (ConIg)〜113pN (TenFn)であり、ドメインのアンフォールディングに伴い長さの特徴的な増大が見られる。
【0036】
相同球状タンパク質のアンフォールディングに際してのアンフォールディング力の小さな差異と長さの変化に関するAFMの検出能は本発明に関わる。アンフォールディング力の検出感度は±10pNであるが、90残基球状ドメインの小さな組成差異はずっと大きなアンフォールディング力差異(±100pN)を招く。本発明は、結合部位を有する単一の疎水的にフォールディングした球状タンパク質を弾性タンパク質系高分子鎖と直列にして提供するが、該結合部位は結合相手に占有されるとアンフォールディング状態とフォールディング状態との均衡を、及び/又は適切な延伸速度で実施したときに長さの増大を伴うアンフォールディングが起る力を、変化させる。
【0037】
B. バイオエラストマーに関する予備的な単一鎖研究
バイオエラストマーの{(GVGVP)n}m[SEQ ID NO:1; n=251; m≧2]及び{(GVGIP)n}m[SEQ ID NO:2; n=320; m≧2]を次の要領で調製した。タンパク質系高分子の(GVGVP)251と(GVGIP)320を各形質転換E. coliの発酵で産生させ分離した。得られた遺伝子産物を高レベルに精製し、繰返し配列を1D及び2D NMRで、また鎖長をMALDI−TOF質量分析計で、それぞれ検証した。発現した251量体を、EDCIを用いて重合させ、生成物が251量体の多量体となるようにし、また320量体も同様に重合させた。実質的にすべての分子がさらに大きな高分子と化したことをSDS−PAGEで確認した。251量体と320量体に対応するバンドはもはや見られず、さらに大きな分子量の高分子が得られたが、それらの高分子は251量体と320量体の分離に使用されるゲルにはほとんど浸透できなかった。次に、こうして得られた多量体すなわち(GVGVP)n}m[SEQ ID NO:1; n=251; m≧2]及び{(GVGIP)n}m[SEQ ID NO:2; n=320; m≧2]の両端にシステイン残基を付加した。要するに、251量体又は320量体のランダム化学重合で得られた高分子鎖の両端にシステイン残基を付加した。
【0038】
第2A−2C図に関する実験条件は水溶液(1mg/ml)から金めっきガラススライド上への物理吸着とPBS中での金めっき標準窒化ケイ素カンチレバー探針の使用によるその測定であった。高分子は、複数の分子鎖がピックアップされるのを防ぐために、短鎖(≦5000MW)のチオール化ポリエチレングリコール(PEG)で希釈した。これによりバイオエラストマー鎖を表面に分散させ、単一鎖がカンチレバー探針でピックアップされる可能性を高めることができた。第2A及び2B図に示したのは、Cys(GVGVP)n}mCys [SEQ ID NO:1; n=251; m≧2]及びCys{(GVGIP)n}mCys [SEQ ID NO:2; n=320; m≧2]に関する単一鎖F−E曲線である。F−E曲線の「長さ」は高分子全体の外形の長さではなく延伸部分の長さを反映するものの、観測された700nm程度の破断長さはn値が2の場合なら適切であろう。
【0039】
第2A及び2B図の曲線は、Gaub et al.(AvH−Magazin, 71:11−18, 1998)及びRief et al.(Biophys. J. 75:3008−3014, 1998) でタイチン・ドメインの弾性挙動の適合に使用されたのと同様のワームライク鎖(worm−like chain, WLC)モデルに適合した。WLCモデルは数百nPまでの範囲でうまく機能した。その適合度はタイチンに関する先行研究結果とよく合致したが、適合した持続長はGVGVP (SEQ ID NO:1)では0.9nm、GVGIP (SEQ ID NO:2)では1.0nmであり、Ig又はタイチンの場合より長いので、単一鎖としてのバイオエラストマーはタイチンよりも「柔らかい」ことがうかがえる。
【0040】
より疎水性の高いCys{(GVGIP)n}mCys [SEQ ID NO:2; n=320; m≧2]に関する第2C図のデータはヒステリシスを示したが、これは超希釈条件下では観測されなかった。このヒステリシスは、一見延伸で強いられた疎水的なアンフォールディングに起因するが、一本鎖の折り返りよりもむしろ分子間凝集に起因していたのかもしれない。本発明では規則的な多ストランド・ツイストフィラメントの共有結合構築体を用いるが、そこでは延伸で強いられた疎水的アンフォールディングはもっと一様な、再現性の高いF−E曲線を示すものと見込まれる。本発明はまた、折り返り部分を好ましい長さに形成させるような溶媒中での(たとえば分子内イオン対合などを目的とした)配列周期性制御及び成分制御下に単一鎖の折り返りを制御して3−ストランドのセグメントを形成させることを見込む。
【0041】
本発明のナノマシンは、GVGVP(SEQ ID NO:1)タイプの五量体ファミリーを基礎にしたバイオエラストマーの分子構造を利用して設計される。この五量体ファミリーでは、第1A及び1B表に示したような分子構造と逆温度(相)転移の基本的性質を保持したままで2個のVal残基の置換が可能である。相分離の凝集及びその結果としての分子構造の形成は濃度に依存するため、分子内及び分子間疎水性相互作用を基礎に形成される基本的機能単位すなわちツイストナノフィラメント(後述)をナノレベルで実現することが課題となる。これを用いれば、ミリメートル・スケールで既に立証されている機械仕事の遂行を目的とした諸々のエネルギー変換をナノメートル・スケールで捕えることができる。従って、これを用いて鎖あたり一球状タンパク質をツイストナノフィラメント中に組み込めば、酵素並みの特異性と選択性をそっくり発揮させることができる。従ってナノフィラメント上の官能基の状態の変化又は分析物と球状タンパク質との選択的相互作用を基礎とする変化を伴うF−E曲線の変化から分子事象が検出されることになる。
【0042】
本発明の方法と組成物の説明に戻る前に、バイオエラストマーを一般的に理解しておくことが重要である。
【0043】
材料
バイオエラストマーは後述の多数の特許で既に特性記述され開示されている。バイオエラストマーを定義する1つの方法はペプチド配列群について説明することである。これらの材料はイオン性アミノ酸残基(後述の目的に使用)を含む場合も含まない場合もある。特にこれらの材料は式αPρΩG又はαPθδで示される繰返し単位を含むものとして説明されよう: 式中Pはペプチド形成L−プロリン残基である; Gはペプチド形成グリシン残基である; αはペプチド形成L−バリン、L−ロイシン、L−イソロイシン、L−フェニルアラニン、L−アラニン残基、又はイオン性ペプチド形成残基(L−Glu、L−Asp、L−His、L−Lys、L−Tyr残基及び他のイオン性ペプチド形成L−アミノ酸からなる群より選択される)である; ρはペプチド形成グリシン残基又はペプチド形成D−Ala、D−Glu、D−Asp、D−His、D−Lys、D−Tyr残基又は(随意に)弾性重合体繰返し単位用の他のイオン性ペプチド形成D−アミノ酸もしくは弾性形成繰返し単位用の任意のL−アミノ酸である; Ωはペプチド形成L−バリン、L−ロイシン、L−イソロイシン、L−フェニルアラニン残基又は(随意に)イオン性ペプチド形成L−アミノ酸もしくは他の任意の天然アミノ酸残基である; δはペプチド形成グリシン残基又はペプチド形成D−Glu、D−Asp、D−His、D−Lys、D−Tyr残基又は(随意に)別のイオン性ペプチド形成D−アミノ酸である; またdはペプチド形成グリシン残基又はペプチド形成L−Glu、L−Asp、L−His、L−Lys、L−Tyr残基又は(随意に)別のイオン性ペプチド形成L−アミノ酸もしくは他の任意の天然アミノ酸残基である。
【0044】
これらの人工又は合成バイオエラストマーの例はたとえば次の特許で開示されている:米国特許(Urry et al.)第4,132, 746号(VPGVG及び変異体)[SEQ ID NO:5];米国特許(Urry)第4,500,700号、4,898,926号、5,527,610号及び5,336,256号(いずれもテトラペプチド及びペタンペプチド繰返し単位を開示);米国特許(Urry)第4,589,882号(架橋);米国特許(Urry et al.)第4,783,523号(IPGVG及び変異体)[SEQ ID NO:6];米国特許(Urry et al.)第4,870,055号(六量体の包含); 米国特許 (Urry) 第5,064,430号(ノナペプチド繰返し単位); 米国特許(Urry)第5,250,516号(逆温度転移); 米国特許(Urry et al.) 第5,854,387号(精製); 及び米国特許(Urry)第5,900,405号。以上の特許はすべて参照指示により本書に組み込まれる。
【0045】
米国出願(Urry)No.09/746,371, “Acoustic Absorption Polymers and their Methods of Use”では、これらの人工又は合成バイオエラストマーの追加例が、ある種のナノマシン応用分野に関連する特殊な吸音特性を有するものとして開示されている。これも参照指示により本書に組み込まれる。
本書に組み込まれる前記特許では、多数のバイオエラストマーが開示されている。それらの特許はナノマシンに関するものではないが、本書で開示する使用にとって有益な構造的特徴を実現するうえで重要なバイオエラストマー製造に関する指針を与えてくれる。
【0046】
本発明の方法への使用に好適なバイオエラストマーを説明するもう1つの方法は、疎水性アミノ酸残基及びグリシン残基からなる群より選択されるアミノ酸残基を含む生体弾性テトラペプチド、ペンタペプチド及びノナペプチド単位からなる群より選択される繰返しエラストマーペプチド単量体単位を含む高分子としてバイオエラストマーを定義することである。これらの単量体単位は一連のβターンを形成し一連のβターンは該βターン間に吊り下がった動的架橋セグメントで仕切られる。すなわち該単量体は次の式で示されるβターンをもつコンフォメーションで存在する:
【0047】
【化1】
(式中R1−R5はアミノ酸残基1−5の側鎖であり、mは繰返し単位がテトラペプチドなら0、繰返し単位がペンタペプチドなら1である。)
ノナペプチド繰返し単位は一般に一連のテトラペプチド及びペンタペプチドからなり、しばしばテトラペプチドの位置がグリシンで置き換わる。好ましい疎水性アミノ酸残基は、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン及びメチオニンからなる群より選択される。多くの場合、繰返し単位の1番目のアミノ酸残基はバリン、ロイシン、イソロイシン又はフェニルアラニン残基であり、2番目のアミノ酸残基はプロリン残基であり、3番目のアミノ酸残基はグリシン残基であり、4番目のアミノ酸残基はグリシン又は疎水性がきわめて強い残基たとえばトリプトファン、フェニルアラン又はチロシン、もしくは他の任意の天然アミノ酸残基であり、また5番目のアミノ酸残基は最も一般的にはグリシンである。
【0048】
バイオエラストマーは、本発明の方法にふさわしい所望の性質を実現するよう、合理的に設計することができる。エラストマー単位及びその後のポリペプチドの合成原料となる個別アミノ酸の選択は次の条件が満たされる限りで無制限である。すなわち結果として得られる構造は、たとえば本書に組み込まれる米国特許第4,500,700及び5,064,430号で開示されている特徴を備えたエラストマー構造を、特に前述のβターン構成を含み、また結果として得られるバイオエラストマーは本発明の実施態様で意図されている目的に役立つ属性を維持しなければならない。さらに、βターンが折りたたまれてβヘリックスを形成すると、たとえば前掲米国出願(Urry) No.09/746,371で開示されている特徴を備えたアミノ酸組成に依存して吸音が増大し、結果として得られるバイオエラストマーが本発明の実施態様で意図されている目的に役立つ吸音属性を維持しなければならない。
【0049】
ポリ(GVGVP)[SEQ ID NO:1]の分子構造は第3図のように一連のβターンとして示される。このβターンは、Pro残基に先立つVal残基のC=O基と2個のGly残基にはさまれたVal残基のN−H基が絡む10原子水素結合環である(第3A及び3B図)。基本的な問題は逆温度転移点の下と上におけるβターンの相対的配向である。転移点の下では、βターン相互の関係は本質的にランダムである。転移点の上では、βターンは疎水的に折りたたまれ、一巻きあたり約3個の五量体からなるβスパイラルというらせん状配列を形成する(第3D及び3E図)。さて分子間疎水会合に由来するこの逆温度転移は濃度に依存するため、βスパイラルは従来しばしば単純化して大まかに示されてきたのとは異なり、単独では存在しないと思われる。βスパイラルは実際は、ネガティブ染色した初期集合体の電子顕微鏡写真に見られるように、また第3F図及び第4図に示すように、会合した状態で多ストランド・ツイストフィラメントを構成しているはずである。
【0050】
バイオエラストマーは多数の利点をもつように設計することができる。これは、それ自体が多様な構造や化学的性質を有し、修飾も容易である、容易に得られ結合される単量体単位たとえばアミノ酸などからなる高分子を用意することで実現しうる。従ってバイオエラストマーは、四量体、五量体又は他の単量体単位の混合物を含有する共重合体としても提供することができる。さらに、組換えペプチド工学的な手法を有利に用いて、個別ペプチド主鎖を生体弾性単位又は非弾性二官能セグメントとして生成することもできる。
【0051】
バイオエラストマーは単量体単位の様々な位置にふさわしい様々なアミノ酸を選択することにより、また最終産物の形成に用いる架橋法(化学法、酵素法、放射線法など)を変えることにより、多様な含水組成、広範囲の疎水性、ほぼ任意所望の弾性率、多彩な物理的形態(シート、ゲル、フォーム、パウダーなど)及び可変的な架橋度に調製することができる。ポリマー設計のこうした様々な側面を考慮した多様なバイオエラストマーの調製については既に、たとえば前記特許で開示されており、ここでは簡単に触れるにとどめる。
【0052】
本発明の方法に有用な好ましいバイオエラストマーは繰返しテトラペプチド、ペンタペプチド及び/又はノナペプチド単量体単位を含む高分子、すなわちポリテトラペプチド、ポリペンタペプチド及びポリノナペプチドである。本発明に有用なバイオエラストマーは一般に5以上、好ましくは10以上、より好ましくは20以上の単量体を、さらにもっと好ましくは100以上の単量体を含む。バイオエラストマーはまた随意に、単量体単位間へのたとえば単一アミノ酸の挿入、時折出現する単量体中の一アミノ酸の他アミノ酸への置換、又は弾性率の向上や他の所望特性の付与を目的として並列又は直列に付加することのできる異なる配列のテトラペプチド、ペンタペプチド又はノナペプチドの包含も可能である。米国特許第4,500,700及び5,046,430号参照。従って、得られるバイオエラストマーは異なる単量体単位から形成されるため当然にも共重合体と称される。代表的な共重合体は好ましくはテトラペプチド及びペンタペプチド単量体単位の混合物であろうが、それらの単位は同じでも異なってもよい、すなわちすべての四量体が同じでも異なってもよいし、またすべての五量体が同じでも異なってもよい。さらに、バイオエラストマーは前述の単量体単位のうちの1つと1〜100個のアミノ酸、より一般的には1〜20個のアミノ酸を含む第2のペプチド単位から形成される共重合体でもよい。その種の第2ペプチドはたとえば米国特許(Urry et al.)第4,870,055号で開示されている六量体の−APGVGV− [SEQ ID NO:7]であり、弾性率の変更を目的とした導入など多くの用途があろう。
【0053】
単一多ストランド・ナノフィラメントの設計
ナノスケールでの基本機能単位はツイストフィラメントである。相分離は濃度に依存するため、凝集段階でナノフィラメントを単離するのは、またすべての鎖を同時に開始、停止させて単離するのももちろん、困難である。ツイストフィラメントの形成方法はたくさんあり、その一例を次に示す。機能単位に関するF−E曲線が得られるようにするには機能単位を化学合成で調製する必要があり、システイン残基の−SH基を両末端に配して、カンチレバー探針と基板表の金めっき層にしっかりと固定するようにする。タンパク質系高分子のアミノ末端には2ストランド・フィラメントの場合にはアジピン酸を、3ストランド・フィラメントの場合にはケンプ三酸を、また4ストランド・フィラメントの場合にはEDTAを配する。バイオエラストマーのカルボキシル末端にはこれらのジアミン誘導体を使用し、また閉合固定は超希釈条件下で行う。これにより、側鎖官能基を使用しない熱駆動及び塩駆動ナノマシンが得られよう。使用される高分子は(GVGVP)n [SEQ ID NO:1; n=251]及び(GVGIP)n [SEQ ID NO:2; n=320]であろう。(GVGVP)251を使用して構築されることになる3ストランド・ナノフィラメントの略図を第4A及び4B図に示す。長さ約60nmのこの構築体は約5倍に伸びる力をもとう。
【0054】
単一ナノフィラメントからなる酸−塩基駆動及びレドックス駆動ナノマシンの設計
pH駆動及びレドックス駆動ナノマシンでは側鎖官能基が使用されよう。繰返し基本単量体配列中にカルボキシル基を含む高分子では、やはりアミノ末端に多酸を導入し、他末端の閉合は組換えDNA産生高分子のカルボキシル末端に過剰システイン残基を使用してジスルヒド結合を形成させることによって行う。アミノ基を含む高分子では、カルボキシル末端を使用して初期多量体を形成させ、また組換えDNA産生高分子のアミノ末端の閉合には過剰システイン残基を使用する。形成された多ストランド・フィラメントの側鎖アミノ基にレドックス官能基を付加すればナノエレクトロメカニカル系が作製されよう。酸−塩基駆動及びレドックス駆動ナノマシンの場合には、第4A又は4B図の構築体の各ストランドの外部は周期性繰返し官能基で装飾されよう。
【0055】
アミノ酸の選定
前述のように、本発明の方法に使用されるバイオエラストマーの性能にとって決定的に重要なある種の特性が存在する。しかし、当業者には自明であろうが、所望の特性を発揮させるように調整することができる他の物性も多数存在する。たとえば粘性、粘弾性、コンシステンシー、弾性率、安定性、靭性、含水組成、疎水性度、物理的形態、及び架橋度などであり、そのうちのいくつかについては後述する。従って、特定単量体単位中のアミノ酸の選定及び単量体単位の所望比率の選定は経験的な手続きで行うことができる。この手続きは、既知バイオエラストマーの物性測定(又は検索)に始まり、類似するが異なるバイオエラストマーの製造、及び本書でも前記特許でも述べているような物性の測定へと進む。そこから、選定手続きを合理的に修正して所望の物性を備えたバイオエラストマーを探し出すことができる。
【0056】
特に興味深い四量体又はテトラペプチド単量体単位はVPGG(SEQ ID NO:8)及びGGX2P [SEQ ID NO:9; 式中X2はバリン(V)、フェニルアラニン(F)又はアラニン(A)である]などである。
好適な五量体又はペンタペプチド単量体単位は、説明のため非限定的に例示すると、式GX3GX4P [SEQ ID NO:10; 式中X3はバリン(V)、グルタミン酸(E)、フェニルアラニン(F)、チロシン(Y)、リシン(K)、イソロイシン(I)及びアラニン(A)からなる群より選択され、またX4はV、E、F及びIからなる群より選択される]で示される単位、具体的にはGVGVP、GVGIP、GVGFP、GFGFP、GFGEP、GFGIP、GEGFP、GEGVP、GKGFP、GKGVP、GEGIP、GKGIP及びGYGIPなどである。他の特に好ましい個別単量体単位及びバイオエラストマーについてはSEQ ID NOS:12、16及び17、それに参照指示により本書に組み込まれる任意の特許を参照。
【0057】
特に好ましい生体弾性材料は、式GX3GX4P (SEQ ID NO:10)の繰返しペンタペプチドを少なくとも1個、より好ましくはGVGVP(SEQ ID NO:1)又はGVGIP(SEQ ID NO:2)のペンタペプチドを少なくとも1個含む材料であり、これはa−(GVGVP)n−b又はa−(GVGIP)n−bバイオエラストマーともいえる(式中nは1〜10,000好ましくは3〜700の整数であり、aとbはポリテトラペプチド、ポリペンタペプチド、ノナペプチド又はそれらの共重合体である)。
【0058】
特に、酸−塩基駆動及びレドックス駆動ナノマシンを含むバイオエラストマーの個別配列は、多ストランド・ナノフィラメントの形成を増進し鎖のいっそうの凝集を制限するように選択されよう。本発明の一実施態様では、基本単量体単位は(GFGFP GFGVP GAGVP GFGFP GIGVP GX5GVP)p [SEQ ID NO:11; 式中X5はグルタミン酸(E)又はリシン(K)であり、またpは1〜600の整数である]の形をとろう。第5図に示すように、この配列はより疎水性の高いPhe (F)残基をツイストフィラメントの内側に配する。他方、カルボキシル基又はアミノ基はレドクッス基が結合した又は結合しない状態でナノフィラメントの外側に位置するため、その荷電又は酸化状態により鎖のさらなる会合を制限することができる。
【0059】
弾性
バイオエラストマーの弾性率を制御する一手段は転移点(Tt)という特性に関連する。一部のバイオエラストマーに見られる独特の性質は、それらが逆温度転移を起こし、その際に典型的なゴムに見られるランダム網目構造とは異なる規則的な構造が発現することである。これは米国特許(Urry)第5,250,516号で詳しく説明している。バイオエラストマーはそのTtを超える温度では、可逆的に会合してコアセルベートと呼ばれる濃密な含水粘弾性相を形成し、またコアセルベートの上の溶液は平衡溶液と呼ばれる。ゴム弾性状態を形成するこの温度上昇過程は規則構造のβスパイラルを出現させる結果となる。これはゆるい含水らせん構造であり、らせん巻き間にはスペーサーとしてのβターンが存在し、この構造によりらせん巻き間の、及びβターン間に吊り下がったペプチドセグメントとの、疎水性接触が実現する。従って、これらのバイオエラストマーのゴム弾性力は規則構造の発現に伴って発現する。成分繰返し単位のモル量を種々変化させた生体弾性材料を合成することにより、またこの初期粘弾性相を支持するための特定の溶媒を選択することにより、得られるバイオエラストマーが弾性力を発現する温度を厳密に制御することが可能となる。極大弾性力は約75℃を上限とする比較的狭い温度帯で発現する。
【0060】
従って、特定単量体単位中のアミノ酸の選定及び単量体単位の所望比率の選定は、本書でも前記特許でも述べているように、既知バイオエラストマーの物性測定(又は検索)に始まり、類似するが異なるバイオエラストマーの製造、及びTt及び物性の測定へと進む経験的な手続きで行うことができる。たとえば転移点Ttの値に対するアミノ酸組成変更の効果は疎水性尺度を用いてバイオエラストマーの単量体単位中の個別アミノ酸残基の平均疎水性の総和を求め、その結果をTtが既に判明しているバイオエラストマーに関して得られた総和と比較することで、見込まれるTtの大まかな推定値が得られるようにして割り出すことができる。一般に、疎水性がより高い残基(Ile、Pheなど)はTtを低くし、疎水性がより低い残基(Asp、Lysなど)はTtを高くする。ほぼどの変数も、バイオエラストマーの適切な組成と共に、Tt値を変化させることができる。そうした変数の例は(1)高分子の濃度、(2)高分子の長さ、(3)アミノ酸組成、(4)塩濃度たとえばHofmeister (離液)系列、(5)有機の溶質及び溶媒、(6)高分子側鎖のイオン化、(7)高分子側鎖の化学修飾たとえばリン酸化、硫酸化及び窒化、(8)圧力(芳香族残基に及ぼすものなど)、(9)高分子に結合した化学基のレドックス状態、(10)高分子に結合した化学基による光の吸収、及び(11)イオン対合による側鎖電荷の中性化、たとえば陰イオン側鎖の陽イオン中性化、陽イオン側鎖の陰イオン中性化及び鎖内又は鎖間のイオン対合などである。
【0061】
主鎖の修飾
バイオエラストマーはマトリックスを形成するペプチド単位で構成されるが、多様な方法で修飾を加え追加の物性をもたせることができる。たとえば1以上のペプチド結合を随意に、還元又は脱離によって得られる置換結合で取って代えることができる。こうして、技術上周知の方法により1以上の−CONH−ペプチド結合を他タイプの結合たとえば−CH2NH−、−CH2S−、−CH2CH−、−CH=CH−(cis及びtrans)、−COCH2−、−CH(OH)CH2−及び−CH2SO−で取って代えることができる。そうした方法の概論としては、たとえば “Chemistry and Biochemistry of Amino Acids, Peptides and Proteins” (B. Weinstein, ed., Marcel Dekker, New York) p.267所収のSpatola, A.F. (1983) を参照。アミノ酸残はこれらの高分子主鎖の好ましい成分である。もちろん、エラストマー単位レベルで主鎖に修飾を加える場合には、高分子の弾性と逆温度転移が維持されるようにするのが好適な主鎖修飾である。
【0062】
架橋
架橋度は、単量体単位の異なる位置に対応した異なるアミノ酸を選定することで、また最終産物を形成するために用いる架橋法(化学法、酵素法、放射線法など)を変更することで、制御することができる。たとえばバイオエラストマーの特性は多様な架橋法のうちの任意の方法(化学法、酵素法、放射線法など)を用いる架橋により左右することができる。架橋はバイオエラストマーに機械的強度と剛性をもたらすが、要求剛性の増大に応じて架橋量を増大させるのが適切である。一般に許容されるのは200〜500繰返し単位につき1架橋結合を実現する架橋であるが、より低い粘性のバイオエラストマーでは架橋量をもっと多くすることやその逆も許容される。バイオエラストマーの架橋方法は、酵素的架橋性単位をもつブロック重合体を合成することによる酵素的架橋法を教示している米国特許(Urry)第4,589,882号などで公知である。たとえばバイオエラストマーにシステインを導入すれば、ジスルヒド架橋を介した表面との結合が可能になるし、またリシンを導入すればコラーゲンやエラスチンなどを架橋する酵素を用いて表面との酵素的結合を実現することができる。別の例はリシン(K)残基をもつ1以上の単量体たとえばGX3GX4P (SEQ ID NO:10)のX3がK、X4がVであるGKGVPなどを含むバイオエラストマーであり、これは既に架橋酵素リシルオキシダーゼの基質であることが示されている。
【0063】
水溶性カルボジイミドを使用して、ある鎖上のグルタミン酸(Glu, E)又はアスパラギン酸(Asp, D)のカルボキシル基を他鎖上のリシン残基(Lys, K)のアミノ基に架橋結合しアミドを形成させる架橋法もある。これはカルボキシル基又はGluを含む配列とアミノ基又はLysを含む配列との結合に関連する。水溶性カルボジイミドを使用するこの化学架橋法は次の要領で行う。Gluを含むバイオエラストマーの水溶液(40mg/mL, pH 7.5)とLysを含むバイオエラストマーの水溶液(40mg/mL, pH 7.5)とを混合する。この混合溶液をその転移点の2〜3℃上で平衡させる。計算量のEDClとHOBtを加える。N−メチルモルホリンでpHを7.5に調整し上記温度を維持しながら2日間振とうする。
【0064】
さらに放射線による架橋も本書で参照指示したほぼすべての特許に詳しく記載されている。たとえば(GVGVP)n [SEQ ID NO:1]はnをおよそ200として20Mradのγ線照射で架橋すると、弾性率105N/m2程度の弾性マトリックスを形成するが、この弾性率は組成と条件を変えることにより104〜108N/m2の範囲内で加減することができる。X20−ポリ(GVGVP) [Urry et al., J. Bioactive Compatible Polym. 6:263−282 (1991)]もまた放射線架橋バイオエラストマーの例である。放射線架橋法で調製されるバイオエラストマーは「X20−ポリGVGVP」などと表記して識別するが、それは線量20Mradのコバルト60照射で架橋し不溶性マトリックスとした、PGPGVペプチド単位からなるバイオエラストマーを表わす。架橋コアセルベートもまた、ずっと大きな及び小さな線量で、すなわち50Mradもの線量で、だが通常は20Mrad未満、しばしば10Mrad未満、さらには5Mrad未満の線量で得ることができる。
【0065】
総括アミノ酸組成
得られるバイオエラストマーの様々な位置に存在するアミノ酸を大幅に変化させることもまた、吊り下がった架橋セグメントを間に挟む多重βターンが維持されることにより弾性が保持される限り、可能である。この理由から、好ましくはポリペプチドの50%以上、より好ましくは70%以上、さらにもっと好ましくは90%以上が繰返し単量体単位で構成されるようにする。それにもかかわらず、他の目的のために設計されたペプチド・セグメントを含むより大きなポリペプチド全体にこれらの単量体単位を分散させたポリペプチドを調製することも可能である。そうした配列は所望の機能を実現するために共有的かつ直列的に又は側鎖として付加することができる。これら他配列の単量体残余に対する比は1:2〜1:5000の範囲としうるが、好ましくは1:10〜1:100である。置換基の数と種類に対する上限は、バイオエラストマーの、緩和状態でβスパイラルを形成するための適正なフォールディング/集成能にも左右される。
【0066】
総括疎水性
全バイオエラストマーの疎水性(従ってまたバイオエラストマー中の官能基の平均疎水性)は、種々の単量体単位の比率を変えることで加減することができる。これらは一官能基を含み転移を起こす単量体単位でも、バイオエラストマー中の他単量体単位でもよい。たとえば基本単量体単位がGVGVP (SEQ ID NO:1)であり、転移を起こす単位がGX6GVP (SEQ ID NO:12; 式X6中は電気応答性側鎖をもつよう修飾されたアミノ酸残基である)であるとすれば、適切な転移点が実現されるまで、GVGVP単位のGX6GVP単位に対する比を変化させていくか、又は異なる構造単位たとえばGVGIP (SEQ ID NO:2)を、量を変えながら加えていくことができる。さらに、バイオエラストマーの配列は厳密に指定しうるため、構造成分の最適配置が可能になる。たとえば、カップリングした残基を主鎖上に互いに隣接し合うように(すなわち一次配列に基づいて)配置することにより、さらにまたらせん巻き間近接性を持たせるよう配置することにより、最適の空間近接性を実現することができる。
【0067】
生体弾性ポリペプチドの大きな利点は、疎水性/極性度の微調整及びその結果として得られる逆温度転移シフトを実現しうる度合いにある。Ttを変化させるには、前述のアミノ酸組成の変化に加えて、バイオエラストマーの平均疎水性を変化させる任意の化学的手段たとえば脱リン酸とリン酸化、レドックス・カップルの酸化と還元、イオン化と脱イオン、プロトン化と脱プロトン、開裂とライゲーション、アミド化と脱アミド、立体構造又は構成の変化(cis−trans異性化など)、電気化学的変化(pKaシフトなど)、発光/吸光又は他の物理的変化(熱エネルギー放射/吸収など)、圧力(米国特許第5,226,292号を参照)、光応答又は電気応答効果、もしくはそれらの組み合わせ用いることができる。
【0068】
疎水性の設計はアミノ酸残基を適切に選定すれば容易である。この選定手続きについてはバイオエラストマー一般の疎水特性に関わるので、後で取り上げる。本発明の方法への具体的な使用には、バイオエラストマーを構成する1以上の単量体単位に現れる3つの好ましい残基すなわちフェニルアラン、チロシン及びイソロイシンが存在する。従って、本発明の好ましい一実施態様ではバイオエラストマーはフェニルアラニン又はイソロイシン残基をもつ1以上の単量体単位を含む。特に興味深い五量体はGVGVP(SEQ ID NO:1)及びGVGIP(SEQ ID NO:2)ペンタペプチドを基礎とするバイオエラストマーの、荷電した、かつ疎水的に多様な類縁体である。従って、本発明の一実施態様では、好ましいバイオエラストマーは式GX3GX4P (SEQ ID NO:10; 式中X3はV、E、F、Y又はKであり、X4はV、E、F又はIである)で示されるその種の五量体の類縁体を1以上含む。
【0069】
好ましいX3残基はF (五量体GFGFP、GFGEP、GFGVP及びGFGIPなどの場合)、A (五量体GAGVP及びGAGIPなどの場合)、Y (五量体GYGVP、GYGIPなどの場合)、E (五量体GEGIP、GEGVPなどの場合)及びK (五量体GKGIP、GKGVPなどの場合)などである。好ましいX4残基はF及びIからなる群より選択され、五量体はGAGIP、GAGFP、GVGIP、GFGIP、GVGFP、GFGFP、GEGFP及びGKGFPなどとなる。特に好ましい生体弾性材料は1以上のGVGIP単量体を含む材料である。というのは、その種の単量体が1以上存在するとマトリックスがより強靭になり、また疎水性度が高まると判明しているからである。
【0070】
これらの好ましい単量体単位を1以上含むバイオエラストマーの例を以下、説明を目的に、非限定的に列挙する:
(GFGFP GFGVP GAGVP GFGFP GIGVP GX5GVP)p [SEQ ID NO:11; 式中X5はEであり、pは1〜600の整数である。]
(GAGFP GFGVP GAGVP GIGFP GFGVP GKGVP)q [SEQ ID NO:13; 式中qは1〜600の整数である。]
上記の例では式中の整数p及びqの値を与えているが、その趣旨はあくまでも本発明のバイオエラストマーの例示であって限定ではない。
【0071】
合成
高分子量のバイオエラストマーを高収率で得るためのアプローチは多数ある。生体弾性繰返し単位の合成は簡単であり、ペプチド化学者にも、又は組換えDNA技術や微生物発酵の標準方法によっても、楽に行える。バイオエラストマーの有機合成はたとえば参照指示により本書に組み込まれる種々の特許に記載されている。具体的にはポリ(GVGVP)の合成と架橋は米国特許第4,783,523号に、ポリ(IPGG)の合成は米国特許第5,250,516号に、またポリ(GGAP)の合成は米国特許第5,527,610号に、それぞれ記載されている。従ってこれらの特許の教示は種々の単量体単位をもつバイオエラストマーの合成に応用することができる。バイオエラストマーを化学合成で生産するときは、不純物を避けるよう注意する必要がある。低濃度の不純物でも、重合過程を終了させたり、得られるバイオエラストマーの物性を変化させかねないラセミ化を招いたりするおそれがあるためだが、それ以外、格別の合成問題は存在しない。ペプチド単位の純度は好適な物性を備えた材料を得るうえで重要である。というのは、たとえばバイオエラストマー合成のわずかな変化でもTtを15℃も変化させる結果となりうるからである。この潜在的な問題への対策はペプチド合成に使用する単位成分の精製に尽きる。
【0072】
バイオエラストマーは単独重合体又は共重合体として合成することができる。2以上の単量体単位から合成されるランダム又はブロック共重合体は本発明の方法に有用であるが、同等の単独重合体が所望の物性を備えるときはあまり好ましくない。その訳は合成がより複雑であることに尽きる。バイオエラストマーはその合成方法とは無関係に、必要ならさらに誘導体化することができる。たとえば米国特許(Urry)第5,900,405号(電気的暴露)に記載されているように電気応答性側鎖をバイオエラストマーに組み込むこともできる。
【0073】
バイオエラストマーはまた遺伝子工学的手法で合成することもできる。このアプローチでは、所望のペプチド配列をコードする遺伝子を構築し、宿主生物に人工的に導入し、そこで発現させる。宿主生物は細菌などのような原核生物でも酵母や植物などのような真核生物でもよい。適切な宿主生物中で効果的に遺伝子を発現させるための遺伝子情報(DNA配列など)操作技術は分子生物学の世界では周知であり[たとえばSambrook et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Second Edition, Cold Spring Harbor, New York (1989)を参照]、ポリヌクレオチドの開裂、結合、複写又は他の組換えを行いうる酵素の使用などが含まれる。さらに、この情報を宿主細胞に、発現に好適な仕方で導入しうるようにするベクターも公知である。ポリVPGVGの詳しい合成例は本発明者の研究所に由来する出版物McPherson et al., Biotechnol. Prog. 8:347−352 (1992)及びMcPherson et al., Protein Expression and Purification 7:51−57 (1996)に記載されており、これらの出版物は本発明に使用される材料の遺伝子工学的調製のための手引きとして利用できる。既に2000ものアミノ酸残基をもつバイオエラストマーを適切なE. coli株で効率的に発現させている。たとえば(GVGVP)n [SEQ ID NO:1; n=121]の発現が既にE. coli細胞容積の80%のレベルで起きている。従って、本発明の方法への使用に好適なバイオエラストマーは、(GVGIP)n [SEQ ID NO:2; 式中n=260]を産生するよう形質転換したE. coli及び測定が容易な発現産物を同時発現するよう組み換えた発現ベクターの使用により低コストで合成しうるものも多い。
【0074】
一般に、所望エラストマーの特定部分をコードする一本鎖オリゴヌクレオチドは商業的供給元により化学合成される。これらのオリゴヌクレオチドを次にその3’末端相補領域全体にわたってアニールし、ハイフィデリティ熱安定性DNAポリメラーゼで完全長の二本鎖基本遺伝子断片へと伸張する。得られた遺伝子断片を制限酵素BamHIで消化し、クローニングベクターpUC118へとライゲーションにより挿入する。クローニング用宿主E. coli DH5aF’の形質転換後、選択プレートからポジティブクローンを回収し、各クローンからプラスミドDNAを単離しスクリーニングにかける。得られたプラスミドをBamHIで消化し、アガロースゲル上で分離する。次の配列確認に回す候補クローンを選別する。配列が確認されクローンを、後続の遺伝子構築のための所望バイオエラストマー供給源として使用する。コンカテマー(多量体)遺伝子を構築するために、単量体遺伝子を含むプラスミドを前記制限酵素で消化し大量の単量体遺伝子断片を調製する。得られた単量体遺伝子断片を次に、後続操作のためのクローニング部位を種々のベクターにもたらすN−及びC−末端アダプターの存在下に、鎖状に連結(ライゲート)する。得られた鎖状連結産物は多様な鎖長の多量体遺伝子からなるが、それらをpUC118中にライゲートし、ベクターごとE. coliに導入する。選択プレート上の有力クローンをスクリーニングし、種々の酵素による一連の消化を経てポジティブクローンを特定する。
【0075】
組換えDNA技術の使用によるバイオエラストマーは生産コスト面で合成有機高分子やかなりの精製を必要とする天然材料に対し競争力をもちうる。工業用タンパク質メーカーはバイオ工学で生産されるタンパク質のコストを大幅に低減しうることを既に立証している。吸音体用のバイオエラストマーは大量に必要とされるため、その生産コストは特に重要である。
【0076】
生体弾性ポリペプチドはたとえば発酵槽で増殖させた菌株から、又は有機合成から、その逆温度転移能を利用して精製することができる。微生物系で発現させた遺伝子工学的高分子では、タンパク質系高分子の逆温度転移特性を利用した精製が好ましい。この方法を用いるとエンドトキシン濃度でさえも格別に引き下げられることが立証済みだからである。Urry et al., J. Biomater. Sci. Polymer Edn. 9:1015−1048 (1998)を参照。
【0077】
使用方法
以下の実施例では当業者向けの本発明の例示と説明を目的に、本発明の特定の態様を説明する。実施例は本発明の理解と実施にとって有益な特定の方法論を示すにすぎず、本発明を限定するものではない。
【0078】
実施例
バイオエラストマーの調製では、以下の個別実施例で説明するような遺伝子構築、発現系の開発、発酵及び精製を利用する。遺伝子構築に関しては、 (発現に使用されることになるベクターに存在する制限部位の考察など標準的な手法を用いて選択された)適切な制限部位配列を含む適切な付着端をもつように基本単量体遺伝子を設計した。基本遺伝子の合成は制限エンドヌクレアーゼによる消化による付着末端の生成、それに続くDNAリガーゼを使用したライゲーションによる基本遺伝子の多量体の形成によって行った。このプロトコールを使用して各単量体遺伝子配列を首尾よく生成した。次に単量体遺伝子をコンカテマー化(重合)して繰返し単位数が種々異なる多量体遺伝子を形成し、以下簡潔に報告するように数多くの多量体遺伝子を高レベルで発現させた。
【0079】
実施例1
ナノマシンの調製
A. 組換えDNA技術によるバイオエラストマーの調製
組換えDNA技術を用いて、基本単量体遺伝子の調製、そのコンカテマー化による多量体遺伝子の調製、E. coliへの導入、高レベルでの発現によりバイオエラストマーを調製する。一般的なアプローチはMcPherson et al., Protein Expression and Purification 7:51−57, 1996に記載されている。
【0080】
B. 遺伝子配列
(GFGFP GFGVP GAGVP GFGFP GIGVP GX5GVP)p [SEQ ID NO:11; 式中X5はE、pは50である]及び(GAGFP GFGVP GAGVP GIGFP GFGVP GKGVP)q [SEQ ID NO:13; 式中qは45である]に対応する個別遺伝子の設計が必要である。
(GFGFP GFGVP GAGVP GFGFP GIGVP GEGVP)p [SEQ ID NO:11; 式中pは2である]に対応するヌクレオチド配列(SEQ ID NO:14)を一例として次に掲げる。
【0081】
【化2】
【0082】
C. 一連の長いバイオエラストマーの間への球状モジュールの挿入
GRGDSPを含むFn3球状ドメイン(SEQ ID NO:15)を用いて一連の長いバイオエラストマーの間に球状ドメインを挿入することができるが、その目的はGRGDSP細胞接着部位をRGYSLG(SEQ ID NO:16)などのようなキナーゼ認識部位に置き換えることに尽きる。あるいは、RGYSLGキナーゼ認識部位をもつ小さな球状タンパク質のリゾチームを用いることもできる。RGYSLGキナーゼ認識部位をもつFn3ドメインすなわちFn3:RGYSLGのアミノ酸配列は次のとおりである。
【0083】
【化3】
【0084】
この球状Fn3ドメインをコードする遺伝子は、バイオエラストマーたとえば(GVGIP)n [SEQ ID NO:2; n=10]をコードする遺伝子との鎖状連結が可能なように構築した。さらに、該遺伝子はそれ自体との鎖状連結によりFn3:RGYSLGの多量体の生成も可能なようにした。単量体Fn3:RGYSLG遺伝子は次に示す合成ヌクレオチドを用いて2個の「半」遺伝子として構築した(Nはアミノ末端側の半分を示し、Cはカルボキシル末端側の半分を示す)。
【0085】
【化4】
【0086】
具体的には、各「半」遺伝子について2個のオリゴヌクレオチドをその3’末端相同領域にわたってアニールした。これらの末端をサーマルサイクラー中で熱安定DNAポリメラーゼと遊離デオキシヌクレオチドにより伸張して、二本鎖DNA断片を得た。この反応生成物を分取して、最初の2オリゴヌクレオチドの二本鎖断片の3’末端と相同の3’末端をもつ別の2オリゴヌクレオチドを含む類似の反応混合液と混ぜた。これらの反応の二本鎖生成物を次に、それらがコードするアミノ酸配列と併せて示す。Fn3:RGYSLGをコードするDNA配列は大文字で示す。
【0087】
【化5】
【0088】
【化6】
【0089】
これらFn3:RGYSLG「半」遺伝子を各々、末端BamHI部位を利用して多目的クローニングベクターたとえばpCU118中にクローニングし、DNA配列解析で確認した。次いでそれらを各々Pf1MIでの開裂によりクローニングベクターから遊離させることで、各々独立にPf1MI消化単量体バイオエラストマー遺伝子と鎖状連結することができた。各「半」遺伝子はリガーゼと共にバイオエラストマー遺伝子と、半遺伝子繰返し配列数あたりの所望バイオエラストマー繰返し配列数に有利となる比率で混合することができた。
【0090】
たとえばFn3Dom−N単量体遺伝子と(GVGIP)10単量体遺伝子とを含む鎖状連結ライゲーション反応液から、両端を1以上のFn3Dom−N遺伝子繰返し配列にはさまれた1以上の(GVGIP)10遺伝子繰返し配列からなるコンカテマーを生成することができる。このコンカテマー遺伝子(Fn3Dom−N)x{(GVGVIP)10}y(Fn3Dom−N)z [式中x、y及びzは1以上である]をNcoIとEcoRIで消化すると、yコピーの(GVGVP)10遺伝子を5’末端に付加されたFn3Dom−N半遺伝子が得られよう。同様にFn3Dom−C半分遺伝子と(GVGIP)10単量体遺伝子の鎖状連結ライゲーション反応により(Fn3Dom−C)q{(GVGVIP)10}r(Fn3Dom−C)s [式中q、r及びsは1以上である]が得られ、この生成物をEcoRIとHindIII で消化すると、rコピーの(GVGIP)10遺伝子を3’末端に付加されたFn3Dom−C半遺伝子が得られよう。これら2つの鎖状連結生成物をそれらのEcoRI末端を介してライゲートすると、その5’末端、3’末端にそれぞれyコピー、rコピーの(GVGIP)10を付加された完全なFn3:RGYSLG遺伝子配列が得られよう。さらに、Fn3Dom−N、Fn3Dom−Cの各「半」遺伝子はそれぞれ、NcoI及びHindIII 末端のGVGIPコード配列並びにこれらの末端の開始及び終止コドンに寄与する。得られる遺伝子はGVGIP{(GVGIP)10}yFn3: RGYSLG{(GVGIP)10}rGVGIPをコードしており、またNcoI及びHindIII 末端を介してたとえば発現ベクター中にクローニングすることができる。
【0091】
D. 多ストランド・ツイストフィラメントの化学的調製
以下は可能なアプローチの1つである。側鎖カルボキシル基をもつバイオエラストマーでは、たとえばトリシステイン誘導体化ケンプ三酸をアミノ基によるストランドの結合に使用する。バイオエラストマー鎖の他末端は、鎖状連結に際して使用したアダプター・オリゴヌクレオチドにより付加されたシステイン残基に由来するジスルフィド結合により架橋する。このカルボキシル末端のシステイン残基の数と位置は、未反応−SH基をもたせて分子間ジスルフィド架橋と金表面への結合の両方を実現するように選択する。同様に、側鎖アミノ基をもつバイオエラストマーでは、たとえばトリエチレンジアミンすなわちケンプ三酸のトリシステイン誘導体をカルボキシル基によるストランドの固定に使用する。同様に、アミノ末端で求められる鎖間ジスルフィド架橋のためのシステイン残基の挿入にはアダプター・オリゴヌクレオチド配列を使用し、残ったシステイン残基は保持し、その−SH基を金めっき表面への結合に当てる。
【0092】
実施例2
ナノマシンのAFMによる特性決定
原子間力顕微鏡(AFM)は、液体環境で使用することができる高解像度の走査型プローブ顕微鏡である。AFMは最も一般的な画像化装置としての用途に次いで、単一分子鎖による機械的実験の実施に使用できるnm、pNスケールのフォースセンサーとして浮上してきた。ツイストフィラメント・ナノマシンの特性決定にはこうした最新AFM技術の両面を使用する。
【0093】
A. 単一フィラメント張力−伸び(F−E)曲線
単一フィラメントの弾性特性の決定では、AFMを基礎とした単一分子力分光法を用いてそのF−E曲線を調べる。これには、AFM探針/基板表面間の個別高分子鎖の最適スパニング及び伸張を可能にするような専門の装置が使用される。試料の左右走査をやめるときのピエゾ変換器のz軸レンジは8(mであり、ピエゾ伸張は内蔵ひずみ計で制御する。この装置を用いると、数Åの精密さでカンチレバー位置の制御が可能であり、その場合の力分解能はpNオーダーである(カンチレバー振動に起因する熱雑音は10pN未満であり、フィルター処理により
【数1】
へとさらに改善することができる)。ポリペプチドの弾性試験に使用したカンチレバーの公称ばね定数は約10nM/mであり、液体環境でのカンチレバー共振周波数は一般に1kHz程度であった。基板表面へのAFM探針の最初の接近に先立って、各レバーのばね定数を個別に、その熱振動振幅を測定することにより校正した。単一伸張トレースを記録するための一般的なタイムスケールは1ミリ秒〜100秒である。
【0094】
一般に、実験は室温で、液体環境たとえば純MilliQ水又は水性電解質緩衝液中で行う。装置の試料セルは液体交換を可能にして、高分子鎖をAFM探針と基板の間に保持した状態で塩又はpH条件を変えられようにしてある。さらに、金めっきした探針と基板は導電性であり、従って分子レベルで起るレドックス過程を刺激するための電極として使用することができる。最後に、外部光刺激(レーザー光)の系へのカップリングを可能にするようにして実験を行うこともできる。実験のさらなる詳細はOesterhelt et al., New Journal of Physics 1:6.1−6.11, 1999及びClausen−Schaumann et al. Biophys. J. 78:1997−2007, 2000に記載されている。
【0095】
バイオエラストマー試料のAFM探針と基板への結合には特異的リガンド−レセプター結合、共有結合、金表面へのチオールの特異的吸着、又は非特異的吸着などを用いることができる。予備作業としてバイオエラストマーCys{(GVGVP)n}mCys [SEQ ID NO:1; n=251; m≧2]及びCys{(GVGIP)n}mCys [SEQ ID NO:1; n=320; m ≧2]の個別ストランドを4℃(バイオエラストマーの転移点Ttを下回る温度)の希釈水溶液から金めっきガラススライド上に吸着させた。表面でのバイオエラストマーの希釈分散を実現するために、低平均分子量(MW が約5000g/molすなわち平均外形長30nm)のチオールを末端基とするポリエチレングリコール(PEG, Polyscience)を共吸着剤を使用した。
【0096】
AFM実験では、手動制御で金めっきSi3N4カンチレバー探針(Microlever, Park Scientific Instruments, Sunnyvale, CA)を界面高分子層と10〜30秒間、密接触させた。カンチレバーを戻すと、1本又は数本の高分子ストランドが探針に接着したので、光てこ検出法を用いてカンチレバーばねのたわみから、得られる張力−距離プロフィールを測定した。共吸着PEGの使用により、AFM探針と金めっき基板の間の非特異的接着は界面高分子層に由来する立体反発のために完全に抑制される。さらに、共吸着PEGの平均外形長は試料バイオエラストマー・ストランド長よりも桁違いに短いため、この戦略は実験で単一バイオエラストマー・ストランドをピックアップする公算を大きくしてくれる。このずっと短いPEG鎖はその特徴的なF−E曲線からすぐに判別される。最後に、バイオエラストマーのチオール末端基と金めっき探針の間の特異的結合は1本の個別バイオエラストマー・ストランドの弾性特性をナノニュートン張力まで繰返し測定することを可能にする。
【0097】
第2図に示すような個別バイオエラストマー・ストランドの予備試験は、単一多ストランド・ツイストフィラメントの制御された機械的操作の基礎となるAFMによるバイオエラストマー特性決定計画の実現性を証明している。
B. ツイストフィラメント・ナノマシンの画像化
多ストランド・ツイストフィラメントの弾性特性決定はAFMによる画像化で補足されよう。これは基板表面でのバイオエラストマー・ナノマシン構造の研究と制御の改善とを可能にしよう。
【0098】
ツイストフィラメント・ナノマシンの画像化は室温(25℃)で、市販装置(Nanoscope III a, Digital Instruments)を使用して行われよう。試料の画像化は空気中でも適当な緩衝液中でも可能である。緩衝液中で画像化では、長時間の研究に際して緩衝液が蒸発するのを防ぐために密封性の液体セルに試料をセットすることになろう。最大レンジ15(mのピエゾスキャナーと酸化物探針を一体化した窒化ケイ素カンチレバー(やはりDigital Instrumets製で、公称ばね定数は30mN/m)を使用することになろう。タッピングモードは探針/基板間横力の最小化を可能にしよう(Hansma et al., Applied Physics Letters 64:1738, 1994及びPutman et al., Applied Physics Letters 64:2454, 1994を参照)。
【0099】
C. これら生体弾性高分子の吸音特性の利用
タッピングモードの顕著な進歩は、これら生体弾性高分子の吸音周波数レンジにわたって振動するようにAFMカンチレバーを製作することが可能になったことである(Tamayo et al., Applied Physics Letters 77 (4) :582−584, 2000を参照)。基板に平行な振動のAFM走査モードで使用すると、これは貯蔵剪断弾性率G’と損失剪断弾性率G”の周波数依存(第7図の単位体積あたり吸音に相当)をもたらす(Antognozzi et al., Ultramicroscopy 86:223−232, 2001を参照)。これは疎水的フォールディング及び集成の逆温度転移を通過することに由来する構造的変化をモニターする手段をもたらす。もし振動が基板に対して垂直であって、かつAFMが張力−伸びモードで作動するとしたら、これはツイストフィラメント軸に平行な機械的共振成分の特性決定を可能にしよう。本発明の一実施態様では、エネルギー入力の導入に伴う検出対象の構造状態の変化が機械的共振の強度と周波数の変化によって検知しうるように生体弾性ツイストフィラメントを設計する。
【0100】
米国出願 (Urry) No. 09/746,371(前掲)で開示されている以下の生体弾性高分子は周波数レンジと吸音強度の制御を実現するうえで特に好適である。
【0101】
【化7】
【0102】
このリストでは整数nの値を与えているが、それは本発明の高分子を例示するのが目的であって、限定するものではない。1〜5000の範囲内のn値で、高分子I〜XVに関して記載したような繰返し単位をもつ高分子を設計することができる。以下の高分子もまた有用である(nは約1〜5000の整数)。
【0103】
【化8】
【0104】
実施例3
多ストランド・ナノフィラメント及びナノケモメカニカル系の構築及び特性決定
2ストランド、3ストランド及び4ストランドのツイストフィラメントを調製し、その特性決定をAFMで行うことができる。さらに、Phe及びGlu残基配列を利用して凝集を制御しながらナノフィラメント形成へと導くようにし、ナノケモメカニカル系(NCMS)を調製することも可能である。第5A−5C図に模式的に示すような配列すなわち(GEGVP GFGFP GFGVP GAGVP GFGFP GIGVP)r [SEQ ID NO:17; 式中rは1〜500の整数]にし、収縮/緩和の駆動にはカルボキシル基を用いることになろう。
【0105】
発生力と長さ変化のpH依存を決定する際には、一般的な特性決定に加えてAFM研究からも(∂f/∂μ)l及び(∂l/∂μ)fを評価し、ナノフィラメントによるケモメカニカル変換を可能にする最も好適な実験条件を求めることができる。
【0106】
実施例4
ナノケモメカニカル系用多ストランド・ナノフィラメントの構築と特性決定
第5A−5C図に示したものと類似の、ただしより極性の高い(酢様)残基Lysをもつ配列 (GKGVP GAGFP GFGVP GAGVP GIGFP GFGVP)s [SEQ ID NO:18; 式中sは1〜500の整数]を用い、収縮/緩和の駆動にはアミノ基と付加レドックス基を結合させて用いることができる。発生力と長さ変化のpH依存はLys含有官能基で決定し、また発生力と長さ変化に対するレドックス官能基の酸化体の効果はレドックス含有官能基で決定することになろう。第1B表に示す任意のレドックス・カップルたとえばN−メチルニコチンアミド(NMeN)を使用することができる。
【0107】
実施例5
疎水的にフォールディングした球状タンパク質の組み込み
疎水的にフォールディングした球状タンパク質をバイオエラストマーに直列に組み込むための遺伝子を作る。疎水的にフォールディングした球状タンパク質を直列に組み込んだバイオエラストマーはたとえば疎水的にフォールディングした球状タンパク質の緩和(アンフォールディング)を促す駆動力となる毒ガス、DNT及びTNTとの相互作用を検知する機能的センサーのモデルとなる。このアプローチの物理的原理は水和の無極性−極性反発自由エネルギーであり、これは高分子鎖に沿って共存するよう強いられた極性部分と疎水性部分の水和をめぐる競合関係にほかならない。疎水的にフォールディングした球状タンパク質モジュールに極性種が結合すると、フォールディングした状態に対応する疎水性水和の一部が構造破壊され、それによってアンフォールディング状態の側へ平衡がシフトする。一般に、この原理を用いれば球状タンパク質の全体又は一部のアンフォールディングを検出することができる。ナノフィラメントを含む球状モジュールの外形長さはF−E曲線で測定すると、アンフォールディング鎖の追加長さ分だけ増大することになるからである。
【0108】
たとえば、正確な使用温度範囲に合わせて設計した場合、GVGIP (SEQ ID NO:2)の300残基につき1個のリン酸基が結合するだけで完全な疎水性アンフォールディングを起こすことが既に示されている。タイチン様βバレル中の正しく配置されたキナーゼ認識部位はリン酸化に伴い、βバレルのアンフォールディングとタイチンの球状単位に見られるような球状単位に特有の幅だけ外形長さの増大をもたらす。そこに、疎水的にフォールディングした球状タンパク質上のある部位に位置する極性種の相互作用を、又は疎水性ドメインの強度変数を変化させるような分子の付加を検出する見通しが生まれる。さらに、AFMの利用によるその種の観測もまた、そうした見通しから開けてくる諸々の可能性を秘めた自由エネルギー変換機構を立証することになる。
【0109】
チロシン残基の窒化はTt値を著しく高める(第1B表を参照)。従って、球状単位たとえばタイチン様βバレルの好適部位にDNTが結合すれば、疎水的にフォールディングした球状単位が不安定化し、それに伴いナノフィラメントF−E曲線に変化が生じると見込まれる。あるいは、DNTを還元する酵素すなわち球状タンパク質はそのレドックス補欠分子族を酸化させよう。補欠分子族の酸化はTt値を変化させるので、この効果を利用すれば目的の分析物をAFMで検出することが可能になる。
【0110】
最も単純な試験構築体にバイオエラストマー(BE)−球状タンパク質(GP)−バイオエラストマー(BE)がある。2個の同じバイオエラストマー部分は第2A及び2B図のような単純単調な曲線を示し、1個の球状タンパク質は特有の鋸歯パターンを示すであろうが、この鋸歯パターンは歯が1個だけの場合も、もっと複雑なパターンを示す(1以上のドメインが別々に折りたたまれている)場合もあろう。この種の構築体がセンサーとして使用できるのは、分析物の結合により遊離球状タンパク質の特徴として認められるパターンが変化するからである。最初に立証されそうなのはキナーゼ認識部位である。
【0111】
2つのアプローチが考えられよう。1つは本来的にキナーゼ認識部位を含む小さな球状タンパク質たとえば配列RGYSLG (SEQ ID NO:16)をもつリゾチームの使用であろう。別のアプローチは細胞接着部位たとえばGRGDSP (SEQ ID NO:15)細胞接着部位をキナーゼ認識部位たとえばRGYSLGに置き換えることであろう。前述のように、ポリ(GVGIP) [SEQ ID NO:2]配列中のRGYSLG配列はTt値を劇的にシフトさせ、疎水的アンフォールディングを促すが、その除去は疎水的フォールディングを促す(Pattanaik et al. Biochem. Biophys. Res. Comm. 178:539−545, 1991)。
【0112】
第6図はF−E曲線の模式図であり、曲線Aは第2A及び2B図のバイオエラストマー(BE)の単一ストランドに対応する。第6図の曲線BはBE−GP−BEのF−E曲線であり、GPは小アンフォールディング力と大アンフォールディング力の2個のフォールディングドメインをもつリゾチームなどのような球状タンパク質である。曲線Cは仮想例であり、分析物の結合たとえばリゾチームの場合にはリン酸化により、弱いドメインは完全にアンフォールディングし、また強いドメインのアンフォールディング力は低下する。
【0113】
本書で言及した諸々の公報及び特許出願は参照指示により本書に組み込まれ、その効果は各個別公報又は出願が引用の場に明確かつ個別に参照指示により組み込まれる旨を記したのと同じとする。本発明を説明し尽くした今、その精神又は範囲から逸脱することなく数多くの変更や修正を加えうることが当業者には明白であろう。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のTtベースの分子マシンがなしうる種々のペアワイズ・エネルギー変換の図解である。これはタンパク質のフォールディングと機能のためのTt疎水性変化系列を表わす。
【図2】第2A−2C図は単一鎖F−E曲線である。第2A図は251ステップの(最も合理的な特定鎖長は502ステップ)の希釈及び超希釈C(GVGVP)nCに関するF−E曲線である。(GVGVP)nはSEQ ID NO:1であり、式中nは251〜1004の整数、Cは単一鎖両末端のシステイン残基である。第2B図は超希釈(GVGIP)n (SEQ ID NO:2; 式中nは260〜1280の整数)に関するF−E曲線であり、第2C図は疎水性鎖間相互作用が存在する場合の希釈(GVGIP)nに関するF−E曲線である。
【図3】第3A−3G図はNMR、電子顕微鏡、計算処理及び結晶構造データを基礎とするポリ(GVGVP) [SEQ ID NO:1]の分子構造を示す。その基本単位は第3G図に示すβスパイラルのツイストフィラメントであると考えられる。第3A図はPro−Gly挿入βターンをもつ延伸鎖の略図である。第3B図は、環状類縁体のシクロ(GVGVP)3 [SEQ ID NO:1; n=3]の結晶構造によって確認されたβターンの詳細である。第3C図は、ポリペンタペプチド・バイオエラストマーβスパイラルと同じ大きさのらせんの模式図である。第3D図は該βスパイラルの帯模式図であり、βターンがらせん巻き間のスペーサーとなっている。第3E及び3F図は結合の詳細を示すステレオ図であり、βターンとβターン間に吊り下がったセグメント、それにβスパイラル内の水占有空間とを示す。第3E図は側面ステレオ図であり、第3F図は軸ステレオ図である。
【図4】第4A及び4B図は(GVGVP)n [SEQ ID NO:1; n=251]の3ストランド・ツイストフィラメントの模式図である。第4A図: フィラメントの各末端でケンプ三酸が3本のストランドを保持しており、また各ストランドの両末端にはシステイン残基を付加し原子間力顕微鏡(AFM)実験で用いる金めっき表面に結合しうるようにしてある。第4B図: Rは一連のリシン残基などに見られるアミノ基又は一連のグルタミン酸残基などなどに見られるカルボキシル基を表わす。
【図5】第5A−5C図はアミノ酸配列の制御が3ストランド・ツイストフィラメントの形成を導く仕組みを示す。第5A及び5B図は、油様R基を酢様R基から分け隔てるフォールディングβスパイラル構造を示す。第5A図は両側に分かれた油様残基と酢様残基を示し、また第5B図はツイストフィラメントの油様側を示す。第5C図は油様残基を疎水的に埋め込んでいる会合フォールディング鎖の軸方向断面であり、中央の油様R基がその周辺の酢様残基と水から隔離されている。
【図6】第6図は、分析物と単一球状タンパク質(GP)の相互作用の効果を示す仮想F−Hプロフィールである。曲線Aはバイオエラストマー(BE)の単一ストランドに対応する。曲線Bは、間に2個の疎水的にフォールディングしたドメインからなる球状タンパク質を挟んだBE−GP−BEに対応する。曲線Cは、「曲線B」プラス「GPの2個の疎水的にフォールディングしたドメインのうちの1個をアンフォールディングさせる結果となる、該ドメインと既に結合し分析物」に対応する。
【図7】第7図は20Mrad γ線架橋(GVGIP)260[SEQ ID NO:2; n=260]の吸音データであり、疎水的フォールディング及び集成の逆温度転移の始点の下から上へと温度が上昇すると周波数レンジに限定された機械的共振が増大することを示す。2つの重なりピークが観察されるが、それらはらせん構造の光吸収から類推すると、らせん(βスパイラル)軸に平行及び垂直な、機械的共振の分解成分であるかもしれない。この機械的共振は、高分子の別の機能性に作用する別の自由エネルギー強度変数により誘発された(フォールディング、又はアンフォールディング)状態の変化をモニターする手段をもたらす。
Claims (56)
- ノナペプチド、ペンタペプチド及びテトラペプチド単量体単位からなる群より選択される繰返しペプチド単量体単位をもつバイオエラストマーを含むナノマシンであって、該単量体単位が一連のβ−ターンを形成し、一連のβ−ターンはβ−ターン間に吊り下がった動的架橋セグメントで仕切られるナノマシン。
- バイオエラストマーがナノパーティクルの形をとる請求項1のナノマシン。
- バイオエラストマーが多ストランド・ナノフィラメントの形をとる請求項1のナノマシン。
- 各ナノフィラメントが各末端に二酸、三酸又は四酸をもつ請求項3のナノマシン。
- 酸がアジピン酸、ケンプ三酸及びエチレンジアミン四酢酸からなる群より選択される請求項4のナノマシン。
- 折り返した単一バイオエラストマー鎖で形成されるナノマシンであって、強制的なアンフォールディングで張力−伸びプロフィールの張力のピーク到達又は増大をもたらすようにした請求項1のナノマシン。
- 単一鎖が各末端に二酸、三酸又は四酸をもつ請求項6のナノマシン。
- 酸がアジピン酸、ケンプ三酸及びエチレンジアミン四酢酸からなる群より選択される請求項7のナノマシン。
- ナノケモメカニカル系である請求項1のナノマシン。
- ナノエレクトロメカニカル系である請求項1のナノマシン。
- ナノバロメカニカル系である請求項1のナノマシン。
- ナノサーモメカニカル系である請求項1のナノマシン。
- ナノホトメカニカル系である請求項1のナノマシン。
- バイオセンサーである請求項1のナノマシン。
- バイオエラストマーの長さが10,000アミノ酸残基未満である請求項1のナノマシン。
- バイオエラストマーが各末端に二酸、三酸又は四酸をもち、かつカンチレバーと基板の間に吊られる請求項1のナノマシン。
- カンチレバーの探針と基板の表面にシステインの硫黄が酸末端において結合する請求項16のナノマシン。
- カンチレバーの探針と基板の表面に、酸末端のシステイン残基硫黄に取って代わったアミノ基又はカルボキシル基が結合する請求項16のナノマシン。
- カンチレバーがバイオエラストマーによって吸収される振動エネルギーを検知する請求項16のナノマシン。
- バイオエラストマー中の30〜500アミノ酸残基につきセリン残基1個がリン酸化される請求項1のナノマシン。
- バイオエラストマー中の20〜200アミノ酸残基につき2アミノ酸残基の側鎖カルボキシル基がイオン化される請求項1のナノマシン。
- バイオエラストマー中の20〜200アミノ酸残基につき2アミノ酸残基にレドックス官能基が結合している請求項1のナノマシン。
- バイオエラストマーがゴム弾性ポリペンタペプチドを含む請求項1のナノマシン。
- バイオエラストマーが式GX3GX4P [SEQ ID NO:10; 式中X3はバリン(V)、グルタミン酸(E)、フェニルアラニン(F)、チロシン(Y)、リシン(K)、イソロイシン(I)及びアラニン(A)からなる群より選択され、またX4はV、E、F及びイソロイシン(I)からなる群より選択される]で示される1以上のペンタペプチドを含む請求項23のナノマシン。
- 1以上のペンタペプチド単量体単位がGVGVP (SEQ ID NO:1)又はGVGIP (SEQ ID NO:2)である請求項24のナノマシン。
- バイオエラストマーが架橋結合体である請求項1のナノマシン。
- バイオエラストマーが2以上の単量体単位を含むブロック又はランダム共重合体を含む請求項1のナノマシン。
- バイオエラストマーが1以上の細胞接着部位を更に含む請求項1のバイオセンサー。
- 細胞接着部位が式GRGDSP (SEQ ID NO:15)で示される請求項28のバイオセンサー。
- バイオエラストマーが1以上のキナーゼ認識部位を更に含む請求項1のバイオセンサー。
- キナーゼ認識部位が式RGYSLG (SEQ ID NO:16)で示される請求項30のバイオセンサー。
- バイオエラストマーがSEQ ID NO:1; SEQ ID NO:2; SEQ ID NO:20; SEQ ID NO:21; SEQ ID NO:22; SEQ ID NO:23; SEQ ID NO:24; SEQ ID NO:25; SEQ ID NO:26; SEQ ID NO:27; SEQ ID NO:28; SEQ ID NO:29; SEQ ID NO:30; SEQ ID NO:31; SEQ ID NO:32; SEQ ID NO:33; SEQ ID NO:34; SEQ ID NO:35; SEQ ID NO:36; SEQ ID NO:37; SEQ ID NO:38; SEQ ID NO:39; SEQ ID NO:40; SEQ ID NO:41; SEQ ID NO:42; SEQ ID NO:43; SEQ ID NO:44; SEQ ID NO:45; SEQ ID NO:46; SEQ ID NO:47; SEQ ID NO:48からなる群より選択される請求項1のナノマシン。
- 約10〜1015サイクル毎秒の周波数レンジにわたるエネルギー入力の検知又はエネルギー出力の供給が可能である請求項1のナノマシン。
- 周波数レンジが約10〜105サイクル毎秒である請求項33のナノマシン。
- バイオエラストマーがSEQ ID NO:49; SEQ ID NO:50; SEQ ID NO:51; SEQ ID NO:52; SEQ ID NO:53; SEQ ID NO:54; SEQ ID NO:55; SEQ ID NO:56からなる群より選択されるヌクレオチド配列によりコードされる請求項34のナノマシン。
- 周波数レンジが約102〜104サイクル毎秒である請求項33のナノマシン。
- ノナペプチド、ペンタペプチド及びテトラペプチド単量体単位からなる群より選択される繰返しペプチド単量体単位をもつバイオエラストマーを含むバイオセンサーであって、該単量体単位が一連のβ−ターンを形成し、一連のβ−ターンはβ−ターン間に吊り下がった動的架橋セグメントで仕切られるバイオセンサー。
- バイオエラストマーがナノパーティクルの形をとる請求項37のバイオセンサー。
- バイオエラストマーが多ストランド・ナノフィラメントの形をとる請求項37のバイオセンサー。
- 折り返した単一バイオエラストマー鎖でナノマシンが形成され、強制的アンフォールディングで張力−伸びプロフィールの張力のピーク到達又は増大をもたらすようにした請求項37のナノマシン。
- 化学種の存在の検出に有効である請求項37のバイオセンサー。
- バイオエラストマー中の30〜500アミノ酸残基につきセリン残基1個がリン酸化される請求項37のバイオセンサー。
- バイオエラストマー中の20〜200アミノ酸残基につき2アミノ酸残基の側鎖カルボキシル基がイオン化される請求項37のバイオセンサー。
- バイオエラストマー中の20〜200アミノ酸残基につき2アミノ酸残基にレドックス官能基が結合している請求項37のバイオセンサー。
- バイオエラストマーが弾性ポリペンタペプチドを含む請求項37のバイオセンサー。
- バイオエラストマーが式GX3GX4P [SEQ ID NO:10; 式中X3はバリン(V)、グルタミン酸(E)、フェニルアラニン(F)、チロシン(Y)、リシン(K)、イソロイシン(I)及びアラニン(A)からなる群より選択され、またX4はV、E、F及びイソロイシン(I)からなる群より選択される]で示される1以上のペンタペプチドを含む請求項45のバイオセンサー。
- 1以上のペンタペプチド単量体単位がGVGVP (SEQ ID NO:1)又はGVGIP (SEQ ID NO:2)である請求項46のバイオセンサー。
- バイオエラストマーが架橋結合体である請求項37のバイオセンサー。
- バイオエラストマーが2以上の単量体単位を含むブロック又はランダム共重合体を含む請求項37のバイオセンサー。
- バイオエラストマーが1以上の細胞接着部位を更に含む請求項37のバイオセンサー。
- 細胞接着部位が式GRGDSP (SEQ ID NO:15)で示される請求項50のバイオセンサー。
- バイオエラストマーが1以上のキナーゼ認識部位を更に含む請求項37のバイオセンサー。
- キナーゼ認識部位が式RGYSLG (SEQ ID NO:16)で示される請求項30のバイオセンサー。
- バイオエラストマー鎖と直列をなし、結合部位をもつ単一球状ドメインであって、該結合部位への分析物の結合が疎水的にフォールディングした該球状ドメインを異なるレベルの力でアンフォールディングさせる単一球状ドメインを更に含む請求項37のバイオセンサー。
- 球状ドメインが酵素認識部位を含み、該酵素認識部位がリン酸化に伴い、疎水的にフォールディングした該球状ドメインをより低レベルの力でアンフォールディングさせる請求項54のバイオセンサー。
- バイオエラストマーがSEQ ID NO:1; SEQ ID NO:2; SEQ ID NO:20; SEQ ID NO:21; SEQ ID NO:22; SEQ ID NO:23; SEQ ID NO:24; SEQ ID NO:25; SEQ ID NO:26; SEQ ID NO:27; SEQ ID NO:28; SEQ ID NO:29; SEQ ID NO:30; SEQ ID NO:31; SEQ ID NO:32; SEQ ID NO:33; SEQ ID NO:34; SEQ ID NO:35; SEQ ID NO:36; SEQ ID NO:37; SEQ ID NO:38; SEQ ID NO:39; SEQ ID NO:40; SEQ ID NO:41; SEQ ID NO:42; SEQ ID NO:43; SEQ ID NO:44; SEQ ID NO:45; SEQ ID NO:46; SEQ ID NO:47; SEQ ID NO:48からなる群より選択される請求項37のバイオマシン。
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