JP2004350508A - 核領域認識における結合核領域の切断方法 - Google Patents

核領域認識における結合核領域の切断方法 Download PDF

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Abstract

【課題】複数の核を誤って一つの核として認識した核領域を検出し、誤認識された領域を別々の核の領域とする。
【解決手段】2以上の核領域が一つの核領域として認識された結合核領域を検出する第1工程と、検出された該結合核領域を切断する第2工程とを有する。第1工程は、真球に近い核領域をエリート核として選出する工程と、該エリート核から時間的に下流に辿った時に、複数のエリート核から複数の経路を通って辿り着くことができる核領域を結合核領域として検出する工程とを有する。第2工程では、前の時点で離れていた核領域に基づいてくびれ探索範囲を設定し、該くびれ探索範囲において核領域の断面積を最も小さくする時の平面で結合領域を切断する。
【選択図】図9

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は観察対象の4次元顕微鏡画像から細胞核を抽出するための画像処理に関するものである。好適には、本発明を用いて得られた細胞核領域は細胞系譜作成に用いられる。
【0002】
【従来の技術】
【特許文献1】特開2001−258599号公報
【特許文献2】特開2001−311730号公報
【特許文献3】国際公報番号WO02/45018
【特許文献4】国際公報番号WO02/45021
【0003】
線虫(C.elegans)は1965年にSidney Brennerによって見出された実験生物で、現在の分子生物学で特に詳しく解析されている実験生物(大腸菌、酵母、線虫、ハエ、アフリカツメガエル、セブラフィッシュ、ネズミ等)の一つである。線虫は、これらの実験生物の中では多細胞生物の最も単純な生物として位置付けられている。
【0004】
多細胞生物は基本的に一つの受精卵(単細胞)が秩序正しく分裂を繰り返して多数の細胞からなる成虫を形成する。受精卵からの分裂の秩序を樹形図的に記述したものを細胞系譜と呼ぶ。線虫は多細胞生物の中で唯一受精卵から成虫までの細胞系譜が明らかにされている。この細胞系譜は1983年にSulston等によって決定された。
【0005】
正常な線虫(wild type)は全ての個体でその受精卵から成虫になるまでの細胞系譜が一定である。特定の遺伝子に突然変異が起きるとその遺伝子の機能に変化が生じ、細胞分裂のパターン、すなわち細胞系譜がwild typeのものと比べて変化する。この細胞系譜の変化から突然変異した遺伝子の機能を推定し、その推定を出発点にした研究の進展により大量の遺伝子が急速に同定され、また、突然変異体動物が大量生産され始めてきている。これらの資源を有効活用することを考えると、遺伝子、突然変異体解析の出発点である細胞系譜解析の自動化は必要不可欠な技術である。
【0006】
通常、細胞系譜の作成には、ノマルスキー型透過型微分干渉顕微鏡(以下「ノマルスキー顕微鏡」という)が用いられる。ノマルスキー顕微鏡によれば、透明な観察対象の内容物の分布や外形状を明暗像で捉えることができる。最近では、ノマルスキー顕微鏡を用いた4D顕微鏡画像を用いて作成するのが一般的である。特定の焦点で観察される顕微鏡画像は観察対象を特定の位置で水平に切断して得られる2次元(x−y軸)断面像と考えられる。すなわち、焦点を上下に動かす(z軸方向に動かす)ことで観察対象をz軸方向の様々な位置で切断した断面像が得られる。これらの画像を統合すると観察対象の3次元の形を捉えることができる(3次元画像)。さらに、このような3次元画像の撮影を時間を追って撮影していくことで観察対象の時間変化を捉えることができる。このようにして撮影したものを4D(4次元)顕微鏡画像と呼ぶ。
【0007】
4D顕微鏡画像を用いる作業はSulston当時と比較して楽になったものと考えられるが、撮影した画像から細胞核、細胞膜を人間が判断しているため、やはりかなりの労力と時間を要する。受精卵から16細胞くらいまでの作成であっても、1日以上はかかる。
【0008】
そこで、本出願の発明者等は細胞系譜を計算機で構築することにより、細胞系譜を省力でかつ短時間で構築することを目的として細胞系譜構築法を提案している。しかしながら、細胞系譜構築法における核領域の認識の処理では、近傍の複数の核を、一つの核として認識してしまうことがある。このように複数の核領域が結合している箇所があると、細胞系譜構築の際に、そこから時間的に上流の細胞系譜は一つであると判断するため、正しく細胞系譜を構築することができない(図1参照)。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、かかる従来の細胞系譜の作成に係る課題を解決するべく創案されたものであって、複数の核を誤って一つの核として認識した核領域を検出し、誤認識された領域を別々の核の領域とすることを目的とするものである。
【0010】
【課題を解決するための手段】
かかる課題を解決するために本発明が採用した技術手段は、細胞の4次元顕微鏡画像から抽出した複数の核領域から、2以上の核領域が1つの核領域として認識された結合核領域を検出する第1工程と、検出された該結合核領域を切断する第2工程とを有する結合核領域の切断方法である。該4次元顕微鏡画像は、観察対象の細胞について焦点面を変化させて2次元画像を複数撮影し、かつ、該2次元画像を時系列に複数撮影することで焦点面、時点で異なる複数の2次元画像である。したがって、ある時点における核領域は、同時点においてz軸方向の座標が異なる複数の2次元核領域から構成されたユニットである。
【0011】
第1工程は、1つの核を正確に認識している核領域をエリート核として選出する工程と、該エリート核から時間的に下流に辿った時に、複数のエリート核から複数の経路を通って辿り着くことができる核領域を結合核領域として検出する工程とを有する。エリート核の選出工程は、好ましくは、真球に近い核領域をエリート核として選出する工程である。
【0012】
好ましくは、該エリート核の判定(あるユニットが真球に近いか否かの判定)は、ユニットを構成する複数の2次元核領域のz軸方向の中間の2次元核領域に基づいて理想核を想定し、該ユニットと該理想核との重なりの程度から判定するものである。より具体的には、理想核の中心は選択された中間の2次元核領域の重心であり、理想核の径は選択された中間の2次元核領域の最小包含円の半径から求める。
【0013】
好ましくは、該重なりの程度からの判定は、該理想核の体積と、該ユニットの体積とを比較することで行う。該ユニットを構成する複数の2次元核領域の各面積に各2次元核領域間のz軸方向の寸法(距離ないし高さ)を積算することで該ユニットの仮想体積を算出する。さらに好ましくは、該重なりの程度は、該ユニットと該理想核との重なり率(含有率)及びはみ出し率から判定する。
【0014】
エリート核に基づいて結合領域を特定する好適な方法について説明する。エリート核をeとし、最も大きい時間のエリート核から時間をさかのぼるように並べたときのx番目のエリート核をe(x)とする。あるエリート核e(k)から時間的に上流へ辿ることで到達することのできるエリート核の順列をP(e(k))とする。後述する式(2)が成立しない場合に、e(k+1)とe(k+2)から下流に辿って行く過程において、初めてe(k+1)とe(k+2)がともに辿り着くことができる核領域を結合核領域として検出する。
【0015】
第2工程は、前の時点(T=t−1)で離れていた核領域に基づいてくびれ探索範囲を設定し、該くびれ探索範囲において核領域の断面積を最も小さくする時の平面を切断面とし、該平面で該結合核領域を切断することを特徴とする。前の時点で離れていた核領域の重心を結ぶ線分が該平面の法線を構成する。該くびれ探索範囲は、該線分内で設定される。
【0016】
該切断面と該線分との交点を中心として遊び探索範囲を設定し、次の時点(T=t+1)の核領域において、該遊び探索範囲内に核領域ではない空間がある場合には切断作業を終了し、該遊び探索範囲内に空間がない場合には切断作業を行う。該遊び探索範囲内に空間がない場合には、該交点を中心としてくびれ検索範囲を設定し、該くびれ探索範囲において核領域の断面積を最も小さくする時の平面を切断面とし、該平面で該結合核領域を切断する。
【0017】
【発明の実施の形態】
本発明に係る結合した核領域の切断方法は好適には細胞系譜作成作業に用いられる。細胞系譜作成作業は、[1]線虫初期胚のノマルスキー型顕微鏡4D画像を撮影する工程、[2]個々の2次元画像において細胞核の位置を抽出する工程、[3]結合した核領域を切断する工程、[4]細胞系譜構築工程とを有する。結合核領域を切断する工程[3]は、[A]結合した核領域を検出する工程、[B]検出された結合核領域を切断する工程とを有する。
【0018】
[1]4次元顕微鏡画像の撮影
線虫初期胚のノマルスキー型顕微鏡による4D画像の撮影について説明する。4D画像が意味することころは、従来技術の欄に記載したとおりであって、焦点を異ならしめて撮影した複数の2次元画像と、該複数の2次元画像を時系列に撮影してなる複数の2次元画像を言う。すなわち、焦点面、時点が異なる複数の2次元画像を統合した画像を4D画像と言う。ある時点における焦点面の異なる複数の2次画像における2次元核領域を統合することである時点における核領域(z軸方向の座標が異なる複数の2次元核領域から構成されたユニット)が構成される。本実施の形態で処理対象とする線虫の初期胚の画像は、焦点面を上下に変えて30〜90枚の1セットとし、30秒〜5分毎に撮影する。実験では、89の焦点面、20の時系列点について、合計1780枚の2次元画像を撮影した。細胞の長尺方向の半径は約60μm、短尺方向の半径は約30μmである。撮影は90秒毎に行った。処理対象の顕微鏡画像の例を図2に示す。横軸が時間軸(時点)、縦軸が焦点軸(焦点面)である。4次元画像は、最も好ましくは、ノマルスキー型透過型微分干渉顕微鏡で撮影したものであるが、4次元画像はこれに限定されるものではない。
【0019】
[2]核候補の抽出
個々の2次元画像における細胞核の位置の抽出について説明する。個々の2次元画像における細胞核の位置の抽出について、エントロピーフィルタを用いた核領域の抽出に基づいて説明する。本発明が採用したエントロピーフィルタは、注目画素(x,y)を含む小区画のエントロピーを計算し、得られたエントロピー値を該注目画素(x,y)の新しい値とするものであり、画像から平坦な部分あるいは粗い部分を効率的に抽出するフィルタである。これは、細胞質の画質がザラザラしているのに対して、核領域の画質が比較的平坦であることを利用したものである。
【0020】
図3に示すように、大きさM×N画素の元画像の中に始点(x,y)を決定する。x:0〜(画像幅−ウィンドウ幅);y:0〜(画像の高さ−ウィンドウの高さ)である。
【0021】
次いで、始点として選択した注目画素から(幅、高さ)=(A,B)の大きさのウィンドウで画像を区画する。区画されたウィンドウのエントロピーを計算し、得られたエントロピー値を、新しい画素値として、処理画像の座標(x,y)に保存する。図示のものでは、x:0〜(M−1−A)、y:0〜(N−1−B)である。
【0022】
エントロピー計算は式(1)に基づいて行なわれる。
【数2】
Figure 2004350508
式(1)において、P(l)は、特徴を計測したい画像領域に対して、濃度ヒストグラムH(l)(濃度レベル数がLであれば、l=0,1,2,・・・,L−1である)を求め、頻度の総数(画像領域の画素数)で各濃度レベルの頻度を割って、総画素数が1.0になるように正規化した濃度ヒストグラムである。式(1)によって求められるエントロピーの値を基準にして核領域、細胞質領域の区別を行う。
【0023】
小区画のエントロピー計算を行いながら元画像を走査することで、効率良く核の位置を抽出することができる。エントロピーウィンドウサイズについては、顕微鏡の種類や倍率等に依存するものであるが、6[pixel]×6[pixel]〜20[pixel]×20[pixel](好ましくは、10[pixel]×10[pixel]、または、12[pixel]×12[pixel])の画像領域ウィンドウを用いることで良好な結果を得た。この場合、核領域のピクセルは細胞分裂等の要因によって幅があるが、だいたい1000ピクセルから10000ピクセルである。もちろん、前述したウィンドウサイズや核領域のピクセル数は単なる例に過ぎない。
【0024】
エントロピーフィルタによる処理画像について図4乃至図6に基づいて説明する。図4はある細胞の顕微鏡画像であり、図5は、図4の画像のエントロピーフィルタによる処理後の細胞の画像(フィルタリング画像)である。図6は、エントロピーフィルタによる処理後の画像(図5)を閾値を用いて2値化処理したものを、図4の顕微鏡画像に重ね合わせたものである。このようにして4D画像を構成する複数の2D画像から核候補が抽出される。好ましくは、計算されたエントロピー値がα〜β(α:最小値、β:最大値)を取る場合に、α〜βが255〜0となるようにエントロピー値を変換したものを濃度値として用いる。元来平坦な部分で値が小さくなるエントロピー値を変換することで、平坦な部分ほど濃度値が大きく出るようにした。一例を挙げると、10×10のウィンドウの場合、通常、エントロピー値に基づく核部分の画素値は100〜160であり、エントロピー値に基づく細胞質部分の画素値は20〜70である。閾値としては80を用いて、濃度値が80以上の領域を核領域として抽出する。
【0025】
上述のように、エントロピーフィルタを用いた細胞核領域の抽出は、エントロピーフィルタを用いて画像を変換し、変換された画像を2値化することで行なわれていたが、従来の手法では、2値化の際に単一の閾値を用いていた。しかしながら、細胞核の存在位置、大きさ、隣り合う細胞核との位置関係等に依存して、その細胞核の認識に適した閾値が大きく異なるため、存在する全ての細胞核を認識し得る単一の閾値を設定することはできなかった。そのため、単一の閾値だけによる2値化では、細胞核の認識に失敗する恐れがあるという不具合があった。従来は2値化の際に単一の閾値(好適な例では80)を用いていたが、この単一の閾値では、本来の核を核領域として認識しないことがあった。例えば、核領域が細胞の周縁に近接した部位に位置していると、細胞のバックグランドと核領域とを区別することが困難であった。
【0026】
そこで、核領域の認識に関して、複数の閾値を用いて核領域の抽出を段階的に行い、従来の手法だけでは認識できなかった核領域を他の閾値の処理結果を用いて補填することで、核領域の認識率を高めるようにした。
【0027】
ここで注意しなければならないことは、閾値を大きくしたような場合には、認識される核領域の面積が小さくなってしまうということである。例えば、閾値より大きい濃度値を有する領域を抽出する場合に、閾値80の時に認識された核領域は、閾値95では、閾値80で認識されたものよりも小さい領域として認識される場合が多いと考えられる。核領域として認識される面積が小さいと、細胞系譜作成作業の精度に影響を与えるおそれがある。したがって、複数の閾値を用いる場合にはその点も解決する必要がある。
【0028】
改良されたエントロピーフィルタを用いた認識法について説明する。一つの好適な具体例として、3種類(80(従来の値)、95,105)の閾値を用いる。3種類の閾値を用いて、核領域をそれぞれ抽出する(図7参照)。はじめに、80の値で取得された核領域と95の値で処理された核領域とを比較して、95の値のときに増えている核領域だけを80の核領域に追加する。閾値80と閾値95の両方で検出され、かつ閾値80の場合の方が大きい領域である場合には、その核領域としては閾値80のものが有効となる。次に、80と95の値で作成された核領域と105の値で処理された核領域とを比較して、105の値のときに増えている核領域だけをさらに追加する。閾値80と閾値95と閾値105と全てで検出され、かつ閾値80の場合の方が大きい領域である場合には、その核領域としては閾値80のものが有効となる。95の値のときに増えている核領域が同時に閾値105で検出され、かつ閾値95の場合の方が大きい領域である場合には、その核領域としては閾値95のものが有効となる。この結果、従来の手法(単一の閾値)で認識できる核領域に影響を与えることなく、従来の手法(単一の閾値)で認識できなかった核領域を追加することができ、核領域の認識率を高めることができる。複数の閾値を用いたエントロピーフィルタによる抽出法は、結合核領域の検出・切断とは独立して、核領域の認識全般に広く適用され得る手法である。
【0029】
核候補データを抽出する手段は、エントロピーフィルタに限定されるものではなく、他の手段であってもよい。細胞核を抽出する工程は、画像の明暗の細かい変化が少ない領域を核として検出する手法、あるいは、光の角度に沿って広い範囲で明暗の変化の大きい部分を核として抽出する手法を含む。前者の例としては、Kirschフィルタ、Prewittフィルタ、FFTフィルタを用いるものが挙げられる。Kirschフィルタは好ましくは、Kirschテンプレート型エッジ検出オペレータと移動平均法を組み合わせたフィルタである。Prewittフィルタは好ましくは、Prewittテンプレート型エッジ検出オペレータの出力を2値化し、さらに距離変換を適用するフィルタである。後者の例としては、見た目の光の角度に沿って上下所定ピクセル分の輝度値の合計の差分を取るフィルタが採用される。
【0030】
[3]結合している核領域の検出
細胞系譜構築法における核領域の認識の処理では、近傍の複数の核を、一つの核として認識してしまうことがある(図16A,a参照)。従来の細胞系譜構築法では、このように複数の核領域が結合している箇所があると、細胞系譜構築の際に、そこから時間的に上流の細胞系譜は一つであると判断するため、正しく細胞系譜を構築することができない(図1)。よって、結合している核領域を特定して、これを本来の核領域に修正することが必要となる。ここで、核領域が結合しているということは次のような場合を意味する。核領域は同時刻におけるz軸方向の座標が異なる複数の2次元画像の集合体である。複数の核領域がある場合に、それぞれの核領域を構成するいずれかの2次元核領域(z軸座標が異なる2次元画像同士も含む)がx−y平面視でオーバーラップしている場合には、核領域が結合していると判断される。
【0031】
[A]結合した核領域の検出
ある時間の1つの核領域は、3次元的に数個の切断面の核領域で構成される(以後、ある時間においてz軸座標が異なる複数の2次元核領域から構成される核領域をユニットと表現する)。あるユニット(3次元核領域)が真球に近い場合に、それを単一の核(エリート核)であると判定する(図8参照)。今、核は時間経過に沿って分裂することはあっても融合することがないと仮定すると、エリート核と判断された領域から時間的に下流へ辿っていき、複数のエリート核から辿り着くことのできる1つのユニットは複数の核が結合して認識された領域であることがわかる(図9参照)。
【0032】
エリート核の判定方法について説明する。エリート核は、各ユニットに対して判定されるものである。今あるユニットがN個の2次元核領域で構成されているとする。
【0033】
先ず基準核領域を決定する。基準核領域は以下の手順で決定する。ユニットを構成する各2次元の核領域のうち、z軸において中間にある核領域を選択する。z軸において中間にある核領域は次のように決定する。ユニットの高さが奇数枚で構成される場合には、中間の高さの核領域(複数個もあり得る)を候補とする。例えば、ユニットが5つの2次元核領域から構成される場合には、z軸方向に上方あるいは下方から3番目の2次元核領域が中間核領域候補として選択される。ユニットの高さが偶数枚で構成される場合には、ユニットの中間の高さを挟む2つの高さの核領域を候補とする。例えば、ユニットが4つの2次元核領域から構成される場合には、z軸方向に2番目と3番目の2次元核領域を候補とする。次いで、候補の核領域の最小包含円(A)を求める。最小包含円(A)の半径rが最大になる核領域を基準核領域(B)として選択する。
【0034】
基準核領域(B)の重心座標を中心として半径rの真球を理想核とする。ユニットと理想核とを比較することでエリート核の判定を行う。先ず、真球の体積Vを算出する。真球の体積は、V=4πr/3で求められる。
【0035】
次に、真球に対する含有率・はみ出し率の計算を行う。ユニットを構成するある2次元核領域kについて、真球に包含される部分の面積をSin(k)とする。今、核領域計測における高さの幅をH(4次元画像撮像時に予め決定されている。例えば、0.5μmである。)とすると含有率は以下の式で計算する。
【数3】
Figure 2004350508
【0036】
ユニットを構成するある2次元核領域kについて、真球に包含されない部分の面積をSout(k)とする。
【数4】
Figure 2004350508
【0037】
そして、(i)(含有率)>37%、(ii)(はみ出し率)<5%の両方の条件を共に満たすユニットをエリート核とする。エリート核の選出について、好適な実施形態に基づいて説明したが、他の方法を用いて真球に近いユニットをエリート核を選出してもよい。
【0038】
エリート核と判断された領域から時間的に下流へ辿っていき、複数の経路から辿り着くことのできる核領域が結合した核領域であると検出できる。この核領域を時間的に辿る作業には、国際公開WO02/45018に開示されているリンク判定を用いる。本明細書において、リンクするとは、リンク元とリンク対象の核候補が、特定の条件を満たす時に、リンクしていると判断する。リンクには、図10に示すように、z軸方向のリンクと、時間軸方向のリンクがある。
[z軸方向のリンク]
Z=zとZ=z+aとのリンクを有効とする(aは任意)
Z=zとZ=z−bとのリンクを有効とする(bは任意)
[時間軸方向のリンク]
T=tとT=t−cとのリンクを有効とする(cは任意)
T=tとT=t+dとのリンクを有効とする(dは任意)
一つの好ましい態様では、a,b,c,dは1(すなわち、z軸方向あるいは時間軸方向に隣位の画像)である。しかしながら、a,b,c,dはかならずしも1である必要はなく、z軸方向あるいは時間軸方向に隣位の画像を飛び越えて、他の画像にリンクしてもよい。
【0039】
リンクの条件について説明する。リンクするための条件は、好適な例では、図11中央に示すように、二つの核領域がx−y平面でオーバーラップしていることである。好ましくは、1ピクセルでも重なればリンクしていると判定する。もっとも、オーバーラップ領域に閾値を設けることも可能である。また、図11下方に示すように、リンク元とリンク対象の核領域の位置が指定した距離よりも小さいことを条件とすることも可能である。後者の条件における距離は、x―y−z空間における3次元空間における距離を意味している。したがって、図11下方におけるA−B間の距離は3次元距離である。距離を算出する際には、各核候補には設定されている重心座標(x、y)を用いる。また、4次元顕微鏡画像は、撮影時において、各々の画像がz軸において何マイクロメートルの高さの写真であるか厳密に決められている。
【0040】
結合した核領域の検出方法について説明する。エリート核と判断された領域から時間的に下流へ辿っていき、複数のエリート核から辿り着くことのできる1つのユニットは複数の核が結合して認識された領域であることは既に述べた。ここでは、結合した核領域を検出するより具体的な手段について説明する。
【0041】
エリート核をeとし、最も大きい時間のエリート核から時間をさかのぼるように並べたときのx番目のエリート核をe(x)とする(ただし、同じ時間に複数のエリートに到達する場合、画像のy座標においてより小さいものを若い順番にする。同じyの座標に複数存在する場合には、x座標においてより小さいものを若い順番にする。)。
【0042】
あるエリート核e(k)から時間的に上流へ辿ることで到達することのできるエリート核の順列をP(e(k))とする。 今、結合領域が存在しない場合、以下の等式が成り立つ。
【数5】
Figure 2004350508
図12は、結合箇所がない場合の結合箇所検出を示す図である。e1から時間的に上流へ辿るとe2を経てe3に到達する。e2から時間的に上流へ辿ってもe3に到達する。このものでは、式(2)が成立する。
【0043】
式(2)が成り立たない場合、e(k+1)とe(k+2)から下流に辿って行く過程において、初めてe(k+1)とe(k+2)がともに辿り着くことができる核領域が、e(k+1)とe(k+2)で検出することのできる最も時間的に若い結合領域である。図13は、結合箇所がある場合の結合箇所検出を示す図である。e1から時間的に上流へ辿るとe2、e3、e4を経てe5に到達する。e2から時間的に上流へ辿るとe3、e4を経てe5に到達する。e3から時間的に上流へ辿るとe4を経ずにe5に到達する。すなわち、k=2の時に、式(2)は成立しない。e(2+1)とe(2+2)から下流に辿っていく過程において、e3、e4が共に辿り着くことができる核領域が結合領域である。結合領域xはe2の上流、かつ、e3とe4の下流であることがわかる。
【0044】
[B]結合した核領域の切断
結合した核領域の切断とは、結合している核領域に対して切断面を決定し別々の核領域として再構築する処理である。図14、図15は、結合した核領域の切断を説明する図であって、T=t+0が検出された結合核領域であり、T=t−1が一つ前の時間で、核領域が離れているものを示している。先ず、結合していると検出された核領域に対して、そこに辿り着くことのできる核領域を時間的に一つ上流から取り出す。結合している核領域を切断するための切断面の位置を、取り出した一つ前の時間の領域によって決定する。一つ前の時間に離れていた核の領域が次の時間に結合したとみなして、離れていた核領域同士の間(くびれ探索範囲)から、結合している核領域のもっとも細いところを計算して切断面を決定する。そして、複数の核を誤って一つの核として認識した核領域を検出し、誤認識された領域を別々の核の領域とする(図16B,b参照)。
【0045】
T=t+1、T=t+2は、さらに切断を進めるか否かの判定を説明する図である。T=t+0における切断面に基づいて、さらに遊び探索範囲と、くびれ探索範囲を設定する。遊び探索範囲とは、その範囲内に空間があれば(図14参照)、もう結合していないと判断し、切断作業を終了させるための範囲である。遊び探索範囲に空間がない場合(図15)には、T=t+1の時間にもまだ結合が続いていると判断し、切断作業を行う。切断作業を行なう場合には、くびれ探索範囲内でもっとも細い部分を探索して、その部位を切断する。T=t+2は、切断作業の終了条件を満たしている状態を示している。このものでは、遊び探索範囲の中に空間を検出しているので、切断作業は行わず、ここまで続いていたある結合領域に対する切断処理を終了する。以降、結合した核領域がなくなるまで繰り返し切断処理を行うことで、データに含まれる結合した核領域の除去を行う。以下、結合領域の切断の具体的手法について詳細に説明する。
【0046】
[T=t−1]
まず、結合していると検出された核領域に対して、そこに辿り着くことのできる核領域を時間的に1つ上流から取り出す。そして、1つ前の時間の離れている核領域同士の間からくびれ探索範囲1(A)を決定する。くびれ探索範囲1(A)は以下のように求められる。図14、図15において、g1、g2は二つの核領域の重心であり、位置ベクトルで表される。くびれ探索範囲(A)を決定する二つの点P1、P2は位置ベクトルを用いて以下のとおり表される。
【数6】
Figure 2004350508
以下、本明細書において、P1、P2はベクトルを意味する。
【0047】
[T=t]
線分P1P2を法線とする平面を用いて、くびれ探索範囲(A)の範囲で核領域の断面積を最も小さくするときの平面と線分P1P2の交点をC1とする。くびれ検索範囲(A)の範囲で核領域の断面積を最も小さくするときの平面が切断面となり、該平面で結合領域を切断する。線分P1P2において、C1を中心として40pixelの範囲をあそび探索範囲(B)とする。
【0048】
[T=t+1]
線分P1P2を法線とする平面を用いてあそび探索範囲(B)の範囲で核領域ではないところが存在する場合、T=t+1では核領域は結合していないと判断し、この結合領域に関する処理を終了する(図14参照)。この場合には、改めて他の結合領域の検出を行う。
【0049】
線分P1P2を法線とする平面を用いてあそび探索範囲(B)の範囲すべてに核領域が存在する場合、T=t+1の時間も結合領域が存在していると判断し、この結合領域に関する処理を継続する(図15、T=t+1参照)。
【0050】
線分P1P2において、C1を中心として20pixelの範囲をくびれ探索範囲2(C)とする。線分P1P2を法線とする平面を用いてくびれ探索範囲2(C)の範囲で核領域の断面積を最も小さくするときの平面と線分P1P2の交点をC2とする。くびれ探索範囲(C)の範囲で核領域の断面積を最も小さくするときの平面で結合領域を切断する。
【0051】
[T=t+2]
次いで、C2をC1とみなしてあそび探索範囲を設定し、T=t+2における処理をT=t+1の時と同様に行う。図15、T=t+2の例は、T=t+2においてあそび探索範囲に核領域ではないところがあるので、T=t+2では核領域は結合していないと判断し、この結合領域に関する処理を終了する。この場合には、改めて他の結合領域の検出を行う。
【0052】
[4]細胞系譜構築
核領域の認識過程において、複数の核を一つであると誤認識した箇所を特定し、その箇所を正しく別々の領域になるように修正することにより、極めて精度の高い核領域データが得られる。したがって、より正確な細胞系譜を自動構築することができる。細胞系譜構築の具体的手法としては、好ましい例としては、特開2001−258599号公報、特開2001−311730号公報、国際公報番号WO02/45018に開示された手法が用いられる。尚、本発明に係る結合領域の特定・切断は、好適には細胞系譜構築に適用されるものであるが、必ずしも細胞系譜構築に限定されるものではなく、より正確な核領域の認識手段として、その他の用途にも用いられるものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】結合した核領域が存在する場合の従来手法による細胞系譜構築を示す図である。
【図2】処理対象の顕微鏡画像の例を示す図である。
【図3】エントロピーフィルタの説明図である。
【図4】細胞の顕微鏡画像である。
【図5】エントロピーフィルタによる処理後の画像である。
【図6】エントロピーフィルタによる処理後の画像を閾値処理したものを、顕微鏡画像に重ね合わせたものである。
【図7】3種類の閾値によって抽出された核領域を示す図であって、左から順に、閾値80、閾値95、閾値105を用いて2値化した画像を示している。
【図8】エリート核の判定の説明図である。
【図9】結合した核領域検出の概略図である。
【図10】z軸方向および時間軸方向のリンクを説明する図である。
【図11】リンク条件を説明する図である。
【図12】結合箇所がない場合の結合箇所検出を説明する図である。
【図13】結合箇所がある場合の結合箇所検出を説明する図である。
【図14】結合した核領域の切断を説明する図であって、結合領域が一つの時間だけ場合を示している。
【図15】結合した核領域の切断を説明する図であって、結合領域が連続する場合を示している。
【図16】切断前後の核領域を示す図であり、A、aは処理前、B、bは処理後、白線は認識された核領域、矢頭は結合領域、矢は切断箇所を示している。

Claims (13)

  1. 細胞の4次元顕微鏡画像から抽出した複数の核領域から、2以上の核領域が1つの核領域として認識された結合核領域を検出する第1工程と、検出された該結合核領域を切断する第2工程とを有する結合核領域の切断方法であって、該第1工程は、1つの核を正確に認識している核領域をエリート核として選出する工程と、該エリート核から時間的に下流に辿った時に、複数のエリート核から複数の経路を通って辿り着くことができる核領域を結合核領域として検出する工程とを有することを特徴とする結合核領域の切断方法。
  2. 請求項に1において、該エリート核を選出する工程は、真球に近い核領域をエリート核として選出するものであることを特徴とする結合核領域の切断方法。
  3. 請求項1,2いずれかにおいて、該核領域は、同時点においてz軸方向の座標が異なる複数の2次元核領域から構成されたユニットであることを特徴とする結合核領域の切断方法。
  4. 請求項3において、該エリート核の判定は、ユニットを構成する複数の2次元核領域のz軸方向の中間の2次元核領域に基づいて理想核を想定し、該ユニットと該理想核との重なりの程度から判定することを特徴とする結合核領域の切断方法。
  5. 請求項4において、該重なりの程度からの判定は、該理想核の体積と、該ユニットの体積とを比較することで行い、該ユニットを構成する複数の2次元核領域の各面積に各2次元核領域間のz軸方向の寸法を積算することで該ユニットの体積を算出することを特徴とする結合核領域の切断方法。
  6. 請求項4,5いずれかにおいて、該重なりの程度は、該ユニットと該理想核との重なり率及びはみ出し率から判定することを特徴とする結合核領域の切断方法。
  7. 請求項1乃至6いずれかにおいて、エリート核に基づいて結合領域を特定する方法は、エリート核をeとし、最も大きい時間のエリート核から時間をさかのぼるように並べたときのx番目のエリート核をe(x)とし、あるエリート核e(k)から時間的に上流へ辿ることで到達することのできるエリート核の順列をP(e(k))とし、式(2)が成立しない場合に、e(k+1)とe(k+2)から下流に辿って行く過程において、初めてe(k+1)とe(k+2)が共に辿り着くことができる核領域を結合核領域として検出することを特徴とする結合核領域の切断方法。
    Figure 2004350508
  8. 細胞の4次元顕微鏡画像から抽出した複数の核領域から、2以上の核領域が1つの核領域として認識された結合核領域を検出する第1工程と、検出された該結合核領域を切断する第2工程とを有する結合核領域の切断方法であって、該第2工程は、結合核領域が検出された時点の前の時点で離れていた核領域に基づいてくびれ探索範囲を設定し、該くびれ探索範囲において核領域の断面積を最も小さくする時の平面を切断面とし、該平面で該結合核領域を切断することを特徴とする結合核領域の切断方法。
  9. 請求項8において、前の時点で離れていた核領域の重心を結ぶ線分が該平面の法線を構成することを結合核領域の切断方法。
  10. 請求項9において、該切断面と該線分との交点を中心として遊び探索範囲を設定し、次の時点の核領域において、該遊び探索範囲内に核領域ではない空間がある場合には切断作業を終了し、該遊び探索範囲内に空間がない場合には切断作業を行うことを特徴とする結合核領域の切断方法。
  11. 請求項10において、該遊び探索範囲内に空間がない場合には、該交点を中心としてくびれ検索範囲を設定し、該くびれ探索範囲において核領域の断面積を最も小さくする時の平面を切断面とし、該平面で該結合核領域を切断することを特徴とする結合核領域の切断方法。
  12. エントロピーフィルタを用いて元画像を変換し、該変換画像を閾値を用いて2値化することで、元画像から画質が平坦な部分あるいは画質が粗い部分を抽出する領域抽出法であって、該エントロピーフィルタは、注目画素を含む小区画のエントロピーを計算し、得られたエントロピー値を該注目画素の新しい値とすることを特徴とするフィルタであって、該領域抽出法は2種類以上の閾値を用いるものであり、ある一つの閾値で抽出された領域ともう一つの閾値で抽出された領域とを比較し、もう一つの閾値の場合に増えている領域のみをある一つの閾値で抽出された領域に追加することを特徴とする領域抽出法。
  13. 請求項11において、該領域抽出法は、細胞画像から核領域を抽出するものであって、複数の閾値はα,β,γ(α<β<γ)であり、αで抽出された領域とβで抽出された領域とを比較して、βのときに増えている領域だけをαの領域に追加し、αとβの値で作成された領域とγの値で処理された領域とを比較して、γの値のときに増えている領域だけをさらにαとβの値で作成された領域に追加することを特徴とする領域抽出法。
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