JP2004346134A - 水性インキ組成物 - Google Patents

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Abstract

【目的】ボールペンやサインペンなどの筆記具等において、浸透しにくい紙面でも素速く乾燥固着ができ、キャップオフ時間も長くすることができ、かつ、長期安定性に優れた水性インキ組成物を提供する。
【構成】カチオン基を有する水不溶性ポリマーからなる粒子と、着色剤と、水と、pH調整剤とを少なくとも含有し、かつ、インキ組成物のpHを7〜10に調整してなることを特徴とする水性インキ組成物。
この水不溶性ポリマー粒子としては、(a)カルボン酸やアミノ基を有し水に相溶するビニルモノマー、(b)ビニル基を2個以上有する架橋モノマー、(c)カチオン基を有するビニルモノマーのそれぞれから選ばれた1種類以上のモノマーの共重合により得られ、かつ、プロトン濃度変化により体積変化のできる高分子ゲル粒子であり、インキ組成物中で収縮状態であるものが挙げられる。
【選択図】 なし

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、被記録媒体及び被写体である紙面にインキで記録及び筆記した時に、その印面である描線が、水不溶性ポリマー粒子の吸水膨潤体積変化によりインキを乾燥固着させる速乾型の水性インキ組成物に関する。
【0002】
【従来の技術】
これまでの水性インキ組成物による筆記描線の乾燥は、紙面に液体成分が浸透する紙面浸透乾燥と、揮発成分が気化する揮発乾燥とにより行われている。
【0003】
しかしながら、紙面浸透乾燥は、筆記描線の滲みにより鮮明性が劣ったり、コート紙等の浸透しにくい紙面では乾燥時間が非常に長くなるなどの課題を有している。
また、揮発乾燥は、インキ組成物自身が揮発し易い成分から構成されているため、ペン先部が乾燥しやすくキャップオフ時間が非常に短くなる等の課題を有している。
【0004】
一方、滲みのない筆跡、滑らかな筆記感を得るために、着色剤と水と水溶性有機溶剤と粘度調節剤と、粒径が0.05〜6.0μmの高分子球状微粒子とから少なくともなり、インキ粘度を50〜2000センチポイズ(25℃)の範囲とした水性ボールペン用インキ(例えば、特許文献1参照)などが知られている。
【0005】
【特許文献1】
特開昭61−60768号公報(特許請求の範囲、実施例等)
【0006】
しかしながら、上記特許文献1等に記載される水性ボールペン用インキに用いる高分子球状微粒子は、ポリエチレン、ポリメチルメタクリレート、ベンゾグアナミン、ナイロンなどの材質よりなるものであり、これらの高分子球状微粒子の筆跡においての機能は、該高分子球状微粒子間に毛細管力が働き、インキの拡散が抑えられ、その結果筆跡の滲みを防止できるという効果を発揮するものであり、本願発明の筆記描線を素速く乾燥せしめ、筆記性能を向上せしめる作用等を有するカチオン基を有する水不溶性ポリマーからなる粒子とは、その技術思想及び作用効果等は全く異なるものである。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記従来技術の課題等に鑑み、これを解消しようとするものであり、従来技術ではなしえなかった、ボールペンやサインペン等の筆記具において、浸透しにくい紙面でも素速く乾燥固着ができ、キャップオフ時間も長くすることができ、かつ、長期安定性に優れた水性インキ組成物を提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、上記従来技術の課題等に鑑み、鋭意検討した結果、少なくとも水と着色剤とよりなる水性インキ系に、特定の官能基を有する水不溶性ポリマーからなる粒子を含有せしめ、かつ、インキのpHを特定の領域に調整することにより、上記目的の水性インキ組成物が得られること、すなわち、インキ中のpH変化、具体的にはインキ中のプロトン濃度の変化による水不溶性ポリマー粒子の特性(体積相転移)を利用したものであり、筆記具のインキタンク中の保存状態ではアルカリ性領域にインキを調整し、このインキが筆記により筆記紙面に付着することで紙表面からのプロトン供与により酸性側にインキpHが変化することで、水不溶性ポリマー粒子が吸水膨張し、これにより、描線上でインキの液体成分が減少し、瞬時に滲みのない鮮明な描線状態でインキが乾燥固着していることなどを見い出し、本発明を完成するに至ったのである。
すなわち、本発明の水性インキ組成物は、次の(1)〜(7)に存する。
(1) カチオン基を有する水不溶性ポリマーからなる粒子と、着色剤と、水と、pH調整剤とを少なくとも含有し、かつ、インキ組成物のpHを7〜10に調整してなることを特徴とする水性インキ組成物。
(2) 水不溶性ポリマー粒子は、(a)カルボン酸やアミノ基を有し水に相溶するビニルモノマー、(b)ビニル基を2個以上有する架橋モノマー、(c)カチオン基を有するビニルモノマーのそれぞれから選ばれた1種類以上のモノマーの共重合により得られるものであり、かつ、プロトン濃度変化により体積変化のできる高分子ゲル粒子からなり、インキ組成物中で収縮状態である請求項1記載の水性インキ組成物。
(3) 水不溶性ポリマー粒子が、pHを7〜10の収縮状態の粒子径が0.05〜5μmの大きさを呈し、pHが6.5以下になったときに膨潤し収縮状態の5倍以上の粒子径を呈する請求項1又は2記載の水性インキ組成物。
(4) 水不溶性ポリマー粒子の含有量が、インキ組成物全量に対して、0.5〜30重量%である請求項1〜3の何れか一つに記載の水性インキ組成物。
(5) 更に、水溶性粘度調整剤が含有され、25℃の条件下において、BMD型粘度計で測定した100rpmの粘度値が、10〜200mP・sの範囲にある請求項1〜4の何れか一つに記載の水性インキ組成物。
(6) 更に、水溶性粘度調整剤が含有され、25℃の条件下において、BMD型粘度計で測定した1rpmの粘度値が、100〜4000の範囲にある請求項1〜4の何れか一つに記載の水性インキ組成物。
(7) 水不溶性ポリマー粒子が、(a)カルボン酸やアミノ基を有し水に相溶するビニルモノマーが40〜95重量%、(b)ビニル基を2個以上有する架橋モノマーが1〜25重量%、(c)カチオン基を有するビニルモノマー1〜35重量%の組成で共重合することにより得られる請求項1〜6の何れか一つに記載の水性インキ組成物。
なお、本発明で規定する「カチオン基を有する水不溶性ポリマーからなる粒子(水不溶性ポリマー粒子)」とは、分散している溶媒に不溶の三次元網目構造を持つ高分子の膨潤体のことをいい、ある一定の条件下で溶媒を吸収して膨潤したり、放出して収縮したりして体積変化する高分子ゲル状物質をいう。
【0009】
【発明の実施の形態】
以下に、本発明の実施の形態を詳しく説明する。
本発明の水性インキ組成物は、カチオン基を有する水不溶性ポリマーからなる粒子と、着色剤と、水と、pH調整剤とを少なくとも含有し、かつ、インキ組成物のpHを7〜10に調整してなることを特徴とするものである。
【0010】
本発明に用いる水不溶性ポリマー粒子は、pH変化により体積相転移変化を起こす水不溶ポリマー粒子(通常「高分子ゲル粒子」と称す)であり、例えば、(a)カルボン酸やアミノ基を有し水に相溶するビニルモノマー、(b)ビニル基を2個以上有する架橋モノマー、(c)カチオン基を有するビニルモノマー、のそれぞれから選ばれた1種類以上のモノマーを乳化重合法、逆相懸濁重合法、沈殿重合法、シード重合法、リビング重合法等の従来公知の粒子合成法により得ることができる。
用いる(a)成分のカルボン酸やアミノ基を有し水に相溶するビニルモノマーは、ポリマーの水和性を向上させる目的で使用するものである。このモノマー種としては、例えば、アクリルアミド、メチルアクリルアミド、ジメチルアクリルアミド、イソプロピルアクリルアミド、メチロールアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、ビニルピルリドン、ビニルピペリジン、ビニルアルコール、アクリレート、メチルアクリレート、ブチルアクリレート、メタクリレート、メチルメタクリレート、カーピトールアクリレート、エチルへキシルアクリレート、ヒドロキシアクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート、シクロへキシルアクリレート、べンジルアクリレート等の少なくとも1種(これらの単独又は2種以上、以下同様)が挙げられる。
この(a)成分の親水性モノマーは、共重合より得られる水不溶性ポリマー粒子自身の親水性を付与するために、好ましくは、共重合するモノマー全量に対して、40〜95重量%のモノマー構成比率が望ましい。
【0011】
用いる(b)成分のビニル基を2個以上有する架橋モノマーは、水和性を有するモノマーを架橋し三次元網目構造を作製し、分散溶媒である水に不溶にさせる目的で使用するものである。このモノマー種としては、例えば、メチレンビスアクリルアミド、エチレングリコールジアクリレート、プロピレングリコールジアクリレート、1,4−ブタンジオールジアクリレート、1,9−ノナンジオールアクリレート、グリセリントリアクリレート、ジべニルベンゼン等の少なくとも1種が挙げられる。
この(b)成分の架橋モノマーは、吸水膨張時に崩壊しない三次元網目構造形成のため、好ましくは、共重合するモノマー全量に対して、1〜25重量%のモノマー構成比率が望ましい。
【0012】
用いる(c)成分のカチオン基を有するビニルモノマーは、pHがアルカリ領域(pHが7以上)の場合、吸水膨張が起こらず収縮状態で存在し、酸性領域(pHが6.5以下)になった場合に、吸水膨張による体積相転移現象が発生させる目的で使用するものである。
この(c)成分のビニルモノマー種としては、例えば、N,N−ジメチルアミノエチルアクリレート、N,N−ジエチルアミノエチルアクリレート、N,N一ジメチルアミノエチルメタクリレート、N,N−ジエチルアミノエチルメタクリレート、エチル−3−ジメチルアミノアクリレート、N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、ジエチルアミノプロピルアクリルアミド等の少なくとも1種が挙げられる。
この(c)成分のビニルモノマーは、酸性領域のみで体積相転移変化を起こすために、好ましくは、共重合するモノマー全量に対して、1〜35重量%のモノマー構成比率が望ましい。
【0013】
本発明の水不溶性ポリマー粒子は、上記(a)成分のカルボン酸やアミノ基を有し水に相溶するビニルモノマー、上記(b)成分のビニル基を2個以上有する架橋モノマー、上記(c)成分のカチオン基を有するビニルモノマー、のそれぞれから選ばれた1種類以上のモノマーを上記重合法により共重合することなどにより得られるものであるが、その共重合する際には、重合時に重合開始剤を用いることにより容易に製造することができる。
用いる重合開始剤としては、ラジカルを発生させるものなら特に限定されず、例えば、無機系では、過流酸アンモニウム、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸第一鉄、過硝酸アンモニウム、過硝酸カリウム、過硫酸ナトリウム等が挙げられ、また、有機過酸化物系では、ベンゾイルパーオキサイド、アゾビスイソブチルニトリル、クメンヒドロベルオキシド、アゾビスシクロヘキサンカルボニトリル、2,2−アゾビス(2−アミデノプロパン)ジハイドロクロライド、ジメチルー2,2−アゾビスイソプチレイト、2,2−アゾビス〔N−(2−カルボキエチル)−2−メチルプロビオンアミディン〕テトラヒドレイト、2,2−アゾビス(2,4−ジメチル−4−メトキシバレロニトリル)、4,4−アゾビス−4−シアノバレリック酸等が挙げられる。
これらの重合開始剤から温度及び三級アミンなどによってラジカルを発生させ重合反応を容易に開始することができる。
【0014】
上記重合反応時のラジカル発生より反応液自身のpHが下がり酸性領域に入ると、生成中の重合体自身が吸水膨張による体積相転移現象を起こし、凝集により水不溶ポリマー粒子の作成が困難になってしまうことがある。従って、反応中の反応液のpHが7未満にならないような手段としては、例えば、反応液を事前に高いpHに設定するか、反応進行と共にpH調整剤を添加していく方法を用いることができる。用いることができるpH調整剤としては、例えば、アンモニア水、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、トリエタノールアミン、ジエタノールアミン、モノエタノールアミン、アミノメチルプロパノール等が挙げられる。
【0015】
本発明で用いる水不溶ポリマー粒子は、上述の如く、水や水溶性媒体との相溶性の目的で用いるカルボン酸やアミノ基を有し水に相溶するビニルモノマー〔(a)成分〕と、水や水溶性媒体に不溶な三次元網目構造分子形成の目的で用いるビニル基を2個以上有する架橋モノマー〔(b)成分〕と、体積相転移変化を起こす特定のpH領域を酸性領域とする目的で用いるカチオン基を有するビニルモノマー〔(c)成分〕となどから共重合により得られ、pH変化により体積相転移変化を起こす高分子ゲル粒子となるものである。
用いる水不溶ポリマー粒子は、好ましくは、本発明の効果を更に発揮せしめる点から、pH7〜10の収縮状態での平均粒子径が0.05〜5μmの大きさ、更に好ましくは、0.1〜2μmの大きさを呈し、pHが6.5以下になったときに膨潤し収縮状態の5倍以上の平均粒子径を呈するものとなることが望ましい。
上記収縮状態での平均粒子径が0.05μm未満では、体積相転移変化時の吸水量値が小さく、筆記描線の乾燥への影響は小さくなることがあり、また、5μm超過では、ペン先部からの流出時に目詰まりの原因となるため、好ましくない。
なお、用いる水不溶ポリマー粒子が上記収縮状態での平均粒子径の範囲とするためには、用いる(a)成分〜(c)成分の各モノマーの使用、重合時の温度、溶媒等により調整することができる。
【0016】
このような特性を有する本発明の水不溶性ポリマー粒子のインキ中への含有量は、収縮時の粒子径や体積相転移変化率にもよるが、インキ組成物全量に対して、好ましくは、0.5〜30重量%の範囲で、更に好ましくは、1〜10重量%の範囲で使用することが望ましい。
この水不溶性ポリマー粒子の含有量が、0.5重量%未満では、体積相転移変化時の吸水量値が小さく、筆記描線の乾燥への影響は小さくなるため、本発明の効果を発揮することができず、また、30重量%超過では、インキ中の固形分が多くなり、ペン先部での乾燥が早く、目詰まりやカスレなどの原因となり、好ましくない。
【0017】
本発明に用いる着色剤としては、水に溶解もしくは分散する全ての染料、酸化チタン等の従来公知の無機系および有機顔料系、顔料を含有した樹脂粒子顔料、樹脂エマルションを染料で着色した疑似顔料、白色系プラスチック顔料、シリカや雲母を基材とし表層に酸化鉄や酸化チタンなどを多層コーティングした顔料等を制限なく使用することが可能である。
染料としては、例えば、エオシン、フオキシン、ウオーターイエロー#6−C、アシッドレッド、ウオーターブルー#105、ブリリアントブルーFCF、ニグロシンNB等の酸性染料;、ダイレクトブラック154、ダイレクトスカイブルー5B、バイオレットBB等の直接染料;、ローダミン、メチルバイオレット等の塩基性染料を挙げることができる。
【0018】
また、無機系顔料としては、例えば、アゾレーキ、不溶性アゾ顔料、キレートアゾ顔料、フタロシアニン顔料、ペリレンおよびペリノン顔料、ニトロソ顔料などが挙げられる。より具体的には、カーボンブラック、チタンブラック、亜鉛華、べんがら、アルミニウム、酸化クロム、鉄黒、コバルトブルー、酸化鉄黄、ビリジアン、硫化亜鉛、リトポン、カドミウムエロー、朱、カドミウムレッド、黄鉛、モリブデードオレンジ、ジンククロメート、ストロンチウムクロメート、ホワイトカーボン、クレー、タルク、群青、沈降性硫酸バリウム、バライト粉、炭酸カルシウム、鉛白、紺白、紺青、マンガンバイオレット、アルミニウム粉、美鈴粉等の無機顔料、C.I.ピグメントブルー17、C.I.ピグメントブルー15、C.I.ピグメントブルー17、C.I.ピグメントブルー27、C.I.ピグメントレッド5、C.I.ピグメントレッド22、C.I.ピグメントレッド38、C.I.ピグメントレッド48、C.I.ピグメントレッド49、C.I.ピグメントレッド53、C.I.ピグメントレッド57、C.I.ピグメントレッド81、C.I.ピグメントレッド104、C.I.ピグメントレッド146、C.I.ピグメントレッド245、C.I.ピグメントイエロー1、C.I.ピグメントイエロー3、C.I.ピグメントイエロー12、C.I.ピグメントイエロー13、C.I.ピグメントイエロー14、C.I.ピグメントイエロー17、C.I.ピグメントイエロー34、C.I.ピグメントイエロー55、C.I.ピグメントイエロー74、C.I.ピグメントイエロー95、C.I.ピグメントイエロー166、C.I.ピグメントイエロー167、C.I.ピグメントオレンジ5、C.I.ピグメントオレンジ13、C.I.ピグメントオレンジ16、C.I.ピグメントバイオレット1、C.I.ピグメントバイオレット3、C.I.ピグメントバイオレット19、C.I.ピグメントバイオレット23、C.I.ピグメントバイオレット50、C.I.ピグメントグリーン7等が挙げられる。
これらの着色剤の含有量は、インキの描線濃度に応じて適宜増減することが可能であるが、インキ組成物全量に対して、好ましくは0.1〜40重量%程度とすることが望ましい。
【0019】
本発明の水性インキ組成物は、水(精製水、イオン交換水、純水、海洋深層水等)を主媒体として用いるが、更に溶媒として、保水性の付与、筆記感の向上などの点から、好ましくは水に相容性のある極性基を有する水溶性極性溶媒を使用することができる。
用いることができる水溶性極性溶媒としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、グリセリン、ピロリドンなどが挙げられ、これらは単独で又は2種以上混合して用いることができる。
これらの水溶性極性溶媒の含有量は、インキ組成物全量に対して、好ましくは、1〜30重量%、更に好ましくは、5〜25重量%とすることが望ましい。
【0020】
また、本発明では、更に保湿性や潤滑剤の付与剤(水溶性液体媒体)として、グリセリン若しくはジグリセリンのアルキレンオキサイド付加物を含有せしめることが好ましい。
グリセリン若しくはジグリセリンのアルキレンオキサイド付加物としては、例えば、グリセリンのエチレンオキサイド若しくはプロピレンオキサイド付加物、及びジグリセリンのエチレンオキサイド若しくはプロピレンオキサイド付加物の中から選ばれる少なくとも1種、好ましくは、ジグリセリンプロピレンオキサイド(4〜30)モル付加物、ジグリセリンエチレンオキサイド(5〜40)モル付加物が挙げられ、更に好ましくは、ポリオキシエチレン13モル付加ジグリセリルエーテル、ポリオキシプロピレン9モル付加ジグリセリルエーテル、ポリオキシエチレン10モル付加グリセリルエーテル、ポリオキシプロピレン9モル付加グリセリルエーテルを用いることが望ましい。
これらの水溶性液体媒体の含有量は、インキ組成物全量に対して、好ましくは、1〜20重量%、更に好ましくは、5〜15重量%とすることが望ましい。
これらの含有量が1重量%未満であると、更なる保湿性及び潤滑性の向上を発揮せしめることができず、また、20重量%を越えると、筆記描線の乾煉性が損なわれるため好ましくない。
【0021】
本発明の水性インキ組成物は、上記以外の成分として、本発明の効果を損なわない範囲で、水性インキ組成物に汎用されている添加物(任意成分)を用いることができる。
添加剤としては、防腐剤若しくは防錆剤として、例えば、フェノール、ナトリウムオマジン、ペンタクロロフェノールナトリウム、1,2−ベンズイソチアゾリン−3−オン、2,3,5,6−テトラクロロ−4(メチルスルフォニル)ピリジン、安息香酸ナトリウムなど、安息香酸やソルビタン酸やデヒドロ酢酸のアルカリ金属塩、ベンズイミダゾール系化合物などが挙げられる。
また、防錆剤として、例えば、ベンゾトリアゾール、ジシクロへキシルアンモニウムナイトライト、ジイソプロピルアンモニウムナイトライト、トリルトリアゾール、サポニン類などが挙げられる。更に、潤滑剤としては、例えば、ポリオキシエチレンラウリルエーテルなどのポリアルキレングリコール誘導体、脂肪酸アルカリ塩、ジメチレンポリシロキサンのポリエチレングリコール付加物などのポリエーテル変性シリコーン、フッ素系の界面活性剤、燐酸エステル系界面活性剤などが挙げられる。
更に、分散効果を付与する目的で各種の添加剤を添加することも可能である。例えば、ポリオキシエチレンのアルキルエーテルやアルキルエステル、グリセリン脂肪酸エステルなどのノニオン系界面活性剤、アクリル酸、アクリル酸エステルエマルション、スチレンアクリルエマルション、NBR、SBRなどが挙げられる。また、光沢付与剤の固着剤として水溶性及び水分散性の樹脂等を使用することができる。
【0022】
本発明の水性インキ組成物には、水溶性の粘度調整剤をせしめることにより、更に安定性のある水性インキ組成物を得ることができる。
用いることのできる粘度調整剤としては、例えば、合成高分子、セルロースおよび多糖類からなる群から選ばれる少なくとも一種(各単独又はこれらの2種以上の混合物)が挙げられる。
合成高分子としては、例えば、ポリアクリル酸類、ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキサイド、ポリビニルピロリドン、ポリビニルメチルエーテル、ポリアクリルアマイドなどを、セルロースとしては、エチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースなどが挙げられ、更に、多糖類としては、例えば、キサンタンガム、ラムザンガム、ウエランガム、レオザンガム、グアーガム、カゼイン、アラビアガム、ゼラチン、カラギーナン、アルギン酸、トラガカントガム、ローカストビーンガム、サイリュウムシュードなどが挙げられる。
【0023】
更に、本発明の水性インキ組成物には、上記粘度調整剤等を適宜含有せしめることにより、水性ボールペン用インキ組成物として利用できる。
この場合の粘度値としては、25℃の条件下においてEMD型粘度計で測定した1rpmの粘度値を、好ましくは、100〜4000mPa・sの範囲、更に好ましくは、150〜3000mPa・sの範囲とすることが望ましい。
この1rpmの粘度値を、100〜4000mPa・sの範囲にすることにより、経時的なインキの分離が発生せず、且つ筆記感が良好なインキとすることができる。
更に、25℃の条件下においてEMD型粘度計で測定した100rpmの粘度値を、好ましくは、10〜200mPa・s、更に好ましくは、10〜150mPa・sの範囲とすることが望ましい。
この100rpmの粘度値を、10〜200mPa・sの範囲にすることにより、カスレの発生しない、更に良好な描線を実現することができる。
【0024】
本発明において、水性インキのpHは、上記特性の水不溶性ポリマー粒子のインキ中での安定性の点、並びに、筆記紙面のpH値より高くする点から、pH調整剤などにより、PHを7〜10のアルカリ性にすることが必要であり、好ましくは、pHを7.5〜8.5とすることが望ましい。
上記インキのpHを7〜10とする理由を更に詳述すると、一般に筆記する際に用いる酸性紙のpHは3〜5の値を、中性紙のpHは5〜6.5の値を示すことが多く、本発明の水不溶性ポリマー粒子を吸水膨張させるには、本発明の水性インキのpHを7以上に設定することが必要となり、また、本発明の水性インキをあまりにも高いアルカリ性に設定すると、筆記紙面の低pHによるプロトンの供給のみでは、インキpH値が下がらず、水不溶性ポリマー粒子の吸水膨張による体積相転移現象が起こらず、好ましくないため、本発明のインキpHは10以下に設定されるものである。
【0025】
本発明の水性インキ組成物は、上記特性の水不溶性ポリマー粒子、着色剤、pH調整剤、水(及び水溶性極性溶媒、並びに、水溶性液体媒体)、好ましい添加剤成分等を公知の水性インキの製法と同様にして調製することにより製造することができる。
本発明の水性インキ組成物は、各用途の筆記具用インキ、特に、ボールペン用インキに好適に適用することができるものとなる。
【0026】
このように構成される本発明では、カチオン基を有する水不溶性ポリマーからなる粒子と、着色剤と、水と、pH調整剤とを少なくとも含有し、かつ、インキ組成物のpHを7〜10に調整してなるものであり、この構成により、従来技術ではなしえなかった、ボールペンやサインペン等の筆記具において、浸透しにくい紙面でも素速く乾燥固着ができ、キャップオフ時間も長くすることができ、かつ、長期安定性に優れた水性インキ組成物が得られるものとなる。
【0027】
【実施例】
次に、本発明を製造例、実施例及び比較例により、更に詳細に説明するが、本発明は下記実施例等に限定されるものではない。
【0028】
(水不溶性ポリマー粒子の製造例)
実施例等に用いる水不溶性ポリマー粒子の具体的な製造例を下記で説明するが、本発明は下記製造例等に限定されるものではない。
アクリルアミド 8重量%
N−(3−ジメチルアミノプロピル)アクリルアミド 1重量%
N,N−メチレンビスアクリルアミド 1重量%
トリエタノールアミン 0.5重量%
アゾビスイソブチルニトリル 0.5重量%
エチルアルコール 45重量%
精製水 44重量%
上記各配合成分を還流管付き容器に投入し、窒素ガスを流し、沈殿重合法により65℃で重合を開始し、6時間後に反応を終了した。容器中に沈降している粒子を洗浄乾燥し、レーザー回折法(以下の測定も同様)により粒子径を測定した結果、(収縮状態で)0.2μmの平均粒子径を有した水不溶性ポリマー粒子を得ることができた。
なお、この水不溶性ポリマー粒子は、pHを6.0とした水溶液中では膨潤し収縮状態の5倍以上の平均粒子径を呈するものであった。
【0029】
〔実施例1〜5及び比較例1〜5〕
下記表1に示される配合組成により各水性インキ組成物を調製した。
得られた各実施例及び比較例の水性インキ組成物の粘度、pHを下記方法により測定した。
【0030】
(粘度の測定方法)
得られた各実施例及び比較例の水性インキ組成物の25℃条件下におけるEMD型粘度計〔VISCOMETER RE110R(東機産業社製)〕で1rpm及び100rpmの粘度を測定した。
(pHの測定法)
得られた各実施例及び比較例の水性インキ組成物の25℃条件下におけるpH計(堀場製作所製:F−23)でpH値を測定した。
【0031】
また、得られた各実施例及び比較例の水性インキ組成物を下記構成の水性ボールペン体(三菱鉛筆社製、uni−ball Signo)のインキ収容管に充填した。
インキ収容管等の構成: 形状;円筒状、内径;4.0mm、ポリプロピレン製、長さ11mm、ボール径;1.0mm、ボール材質;超硬
【0032】
得られた各水性ボールペンを用いて下記各評価方法により、筆記描線の乾燥性、インキの経時安定性、描線品位、1週間キャップを外した後の筆記性について評価した。
これらの結果を下記表1に示す。
【0033】
(1)乾燥性試験−1(吸収紙)
JIS P 3201−1989に規定された筆記用紙を用い、温度23℃±2℃、湿度65±10%の環境下で、直径約2cmの円を螺旋状に5〜6周連続筆記し、30秒後に同質の用紙をのせ、底面積直径50mm、500gのおもりで両紙を圧着させ、1分放置した後両紙を離し、重ねた紙に筆記線が転写されているかどうかを確認し、転写の状態を下記評価基準で評価した。
評価基準:
◎:全く転写が認められない。
○:かすかに転写が認められる。
△:点の状態で明確に転写が認められる。
×:連続した線の状態で明確に転写が認められる。
【0034】
(2)乾燥試験−2(非吸収紙)
筆記面をオーバーコート処理した筆記試験紙(王子製紙社製:OK中質コート)を用い、温度23℃±2℃、湿度65±10%の環境下で、直径約2cmの円を螺旋状に5〜6周連続筆記し、30秒後に同質の用紙をのせ、底面積直径50mmm、質量500gのおもりで両紙を圧着させ、1分放置した後両紙を離し、重ねた紙に筆記線が転写されているかどうかを確認し、転写の状態を下記評価基準で評価した。
評価基準:
◎:全く転写が認められない。
○:かすかに転写が認められる。
△:点の状態で明確に転写が認められる。
×:連続した線の状態で明確に転写が認められる。
【0035】
(3)インキの経時安定性の評価方法
得られた各インキを15mlのガラス製蓋付き瓶に充填し、密封した後に、温度50℃の条件下で1ヶ月保存した。また、それぞれのインキについて、分離の状態を目視で確認し、初期と経時経過後の粘度値も上記条件と同様に測定を行い、下記評価基準で評価した。
評価基準:
◎:分離、凝集は発生していない。1rpm、100rpmの粘度値が初期と比較して±10%以内インキの経時安定性が良好。
○:分離、凝集は発生していない。1rpm、100rpmの粘度値が初期と比較して±15%以内インキの経時安定性が良好。
△:分離、凝集は発生していない。1rpm、100rpmの粘度値が初期と比較して±25%以内インキの経時安定性が良好。
△△:やや分離または凝集
×:分離又は凝集
【0036】
(4)キャップを外して1週間放置した後の筆記性の評価方法
各ペン体を、キャップを外したまま温度25℃、相対湿度60%RHの環境下で横向きに放置し、1週間後、JIS P 3201−1989に規定された筆記用紙に、直径約5cmの円を筆記し、下記評価基準で評価した。
評価基準:
◎:描線がカスレずに良好に筆記できる。
○:書き始めから円1つ以内で良好に筆記できる。
△:良好に筆記できるまで円5個要する。
△△:良好に筆記できるまで円10個要する。
×:良好に筆記できるまで円10個以上、若しくは筆記不能。
【0037】
【表1】
Figure 2004346134
【0038】
上記表1中の*1〜*7は、下記のとおりである。
*1:デクザ社製
*2:オリエント化学社製
*3:オリエント化学製
*4:ジョンションポリマー社製
*5:キサンタンガムRD(三晶社製)
*6:ハイビスワコー#105(和光純薬社製)
*7:ゲル化凝集のため測定不可
【0039】
上記表1の結果から明らかなように、本発明の範囲となる実施例1〜5は、本発明の範囲外となる比較例1〜5に比べて、筆記描線が著しく向上し、加えて経時安定性も優れたものであることが判明した。
具体的に見ると、比較例1、4、5は、実施例1等に対して、水不溶性ポリマー粒子を排除した配合である。浸透しにくいコート紙の評価で大きく異なった結果となっていることが判った。
比較例2と比較例3は、実施例1等に対して、インキpH領域が7〜10以外に調整したインキである。このインキpHが酸性側(pH6.5)にある場合は、水不溶性ポリマー粒子が吸水膨張しているため、インキが増粘し、筆記性、安定性、乾燥性全ての品質項目が劣る結果となる。また、インキが高アルカリ領域(pH10.5)にある場合は、紙面からのプロトン供給量では、pHが下がりきらず乾燥性が向上しない結果となっていることが判った。
【0040】
【発明の効果】
本発明によれば、カチオン基含有水不溶性ポリマー粒子を用い、インキpH値を7〜10の領域に調整することで、筆記描線が素速く乾燥し、安定性、筆記性能に優れた水性インキ組成物が提供される。

Claims (7)

  1. カチオン基を有する水不溶性ポリマーからなる粒子と、着色剤と、水と、pH調整剤とを少なくとも含有し、かつ、インキ組成物のpHを7〜10に調整してなることを特徴とする水性インキ組成物。
  2. 水不溶性ポリマー粒子は、(a)カルボン酸やアミノ基を有し水に相溶するビニルモノマー、(b)ビニル基を2個以上有する架橋モノマー、(c)カチオン基を有するビニルモノマーのそれぞれから選ばれた1種類以上のモノマーの共重合により得られるものであり、かつ、プロトン濃度変化により体積変化のできる高分子ゲル粒子からなり、インキ組成物中で収縮状態である請求項1記載の水性インキ組成物。
  3. 水不溶性ポリマー粒子は、pH7〜10の収縮状態での平均粒子径が0.05〜5μmの大きさを呈し、pHが6.5以下になったときに膨潤し収縮状態の5倍以上の平均粒子径を呈する請求項1又は2記載の水性インキ組成物。
  4. 水不溶性ポリマー粒子の含有量が、インキ組成物全量に対して、0.5〜30重量%である請求項1〜3の何れか一つに記載の水性インキ組成物。
  5. 更に、水溶性粘度調整剤が含有され、25℃の条件下において、BMD型粘度計で測定した100rpmの粘度値が、10〜200mP・sの範囲にある請求項1〜4の何れか一つに記載の水性インキ組成物。
  6. 更に、水溶性粘度調整剤が含有され、25℃の条件下において、BMD型粘度計で測定した1rpmの粘度値が、100〜4000の範囲にある請求項1〜4の何れか一つに記載の水性インキ組成物。
  7. 水不溶性ポリマー粒子は、(a)カルボン酸やアミノ基を有し水に相溶するビニルモノマーが40〜95重量%、(b)ビニル基を2個以上有する架橋モノマーが1〜25重量%、(c)カチオン基を有するビニルモノマー1〜35重量%の組成で共重合することにより得られる請求項1〜6の何れか一つに記載の水性インキ組成物。
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